まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

pivixさんに投稿していた話の区切りとは変えてあります。容量的に……

トレントの森にいる魔物さん。
カットラスとかマンイーターとか。
あからさまにあれ、捕食系だよなぁと改めて打ち込みするのに見直してておもったり。
あのスライムの中にある骸骨…捕食した人間の骸骨なんじゃぁ…
そんな思いがどうしても捨てきれません。
カットラスはあの頭でぱっくりあけて相手を丸呑みにしそうだし。
あるいみ、バジリスク(TOP)よりもたちがわるい。
だって二足歩行で敏捷に動くし……
で、あるいみ癒しのピーマンヘッド。
あれはきっとピーマン嫌いのヒトにはうえ~とか思うんだろうな。とかおもったり。
あれがピーマンでなくトマトだったら絶対ロイドは全力で駆逐していたとおもいます(笑
あと、さらっとエミルの回想ででてくるディオス&メルティア。
いうまでもなくTOPなりきりダンジョンの登場人物です。
惑星デリス・カーラーンにおいて星を壊滅状態にまで追い込んだ原因の姉弟ですね。
魔科学という魔導砲を開発したメルティアと、それを起動したその弟ディオスと。
なりだんでは、ノルンの力にて”アセリア”の世界にとばされてきますが。
(つまりラタ様のいる惑星ですね)
あれは絶対にラタ様の協力があったからこそできた技、だとおもいます。
でないと何しろダオスの移動ですら多大なる民の犠牲の上になりたってましたしねぇ。
地上には干渉できなけど、ノルンのほうの世界ならば干渉できるし。
ノルンの意見をきいて、ラタ様がきっと手をかしたんだ、と信じてます。
でないと過去をかえてきえたはずの彼らが記憶喪失状態だとはいえもどってくる。
というのはありえない(マテこら)
そういえば、なりだんでは、ラタ様のことまったくもってふれてなかったよなぁ。
まあ、ラタ様の力が強力なので表向きには隠されていた、そう信じます。
…ノルンがでてくるあれも、リメイクされてきれいな画面にならないかな(マテこら
ノルン、きれいですよねぇ。マーテルよりもきれいだと思いますv

########################################

重なり合う協奏曲~エルフと古の盟約~

「「…何、これ?」」
「うわぁ。なんだかすごいねぇ」
「コレット。これ、すごいなんてもんじゃないとおもうんだけど……」
目の前の光景をみて唖然としたように同時にほとんど異口同音につぶやくロイドとジーニアス。
一方で目の前の景色をみて手をなぜか胸の前で小さくたたきつつ、
すごい、すごいといっているコレット。
そんなコレットに対し、すかさずマルタが何やらつっこみをしているのがみてとれるが。
「こりゃぁ…どうも湖の下にあったはずの根っこが地上にでてきてるってところか」
目の前にはこれでもか!というほどにせり出している大小様々なる木の根らしきもの。
そこにあったはずの板もどきの橋は水の中からせりあがってきた根っこにより、
今目の前には存在していない。
大小様々な根はかなり入り組んでおり、それらはまるで弧を描くかのごとく、
またアーチ状となりていくつも湖の上にとせりだしている。
根っこの間から湖そのものも無事であることがうかがえるが、
これまた湖の中においても大小様々な生物…あきらかにふつうの魚、
つまりは水生生物とおもわれしものと、水属性の魔物たちであろう。
そんな生き物の姿がみてとれる。
ときおり、ぱしゃん、とした水音がいたるところから響いており、
自らときおり水と大気中を行き来する翼をもちし生物たちが、
水中と大気中を行き来していたりする。
「これは……まるで、タバサさんに連れていかれたあの……」
それだけ、ではない。
森の至るところにこれまた大小様々な八色を伴った光があふれており、
それらはふわふわと周囲全体をほのかに明るく浮かび上がらせている。
それはかつて、タバサによって案内されたエクスフィアの採掘場の光景のごとく。
それを思い出し、ぽつり、とつぶやいているプレセア。
――クスクス。
――クスクスクス。
――本当にきたよ。
――人間がきたよ。
ふと、コレットとゼロスの耳にささやくような小さな声が響いてくる。
それは彼らの声ではない、別なる何かの声。
「…え?」
その声は一体どこから。
おもわずきょろきょろと周囲をみわたすコレット。
ふわふわと周囲を飛び交っている光はまるで意思をもっているかのごとく、
あからさまに不自然な形でとびかっている。
蛍の光とはまた異なる、少し大き目のその光は大小様々。
しかし、声の主を探そうとしていたコレットは、
そんな光の中におもわず人影らしきものをみとめ、おもわず目をまるくする。
たしかにそれは光、にしかみえはしなかったのに。
よくよくみれば、ヒト型のようにもみえる、
薄くて透明な蝶のようにもにたような、それでいてトンボの羽のような。
とにかくそんな薄くて透明ないくつもの翼をもちし小さな人影らしきもの。
それらが光の中…否、そうではない。
よくよく目をこらしてみれば、その人影もどきが発光しているのだ、とみてとれる。
その正体をコレットは知らない。
それはヒトがすでに認知を忘れてしまった、自然界における常に存在していたもの。
そして、ヒトが自分たちの利益のために穢し狂わせていっていたもの。
大樹が復活し、マナが満ちたことにより、またこの地の負の穢れはすべて浄化されている。
ゆえにあらためて孵化した微精霊たちが集合し、いくつか個体として形を成している。
――王様に連絡する?する?
――もう、王様はきっと気が付いているよ。
そんな声が小さく、ではあるがコレットの耳にととどいてくる。
その声は当然、念のためにと聴力を意識してあげているゼロスにも届いているが。
コレットとゼロス、二人以外の耳にはまったくもって聞こえてすらいない。
そしてその光の中にいる人影すらも認識できていない。
二人以外の目には光の塊がふわふわと不規則に飛び回っているようす。
それも周囲をうめつくさんばかりに。
それはまるで光の洪水、とでもいうべき光景。
王様?
その台詞にふとコレットの脳裏になぜかエミルの姿がふとよぎる。
なぜか、はわからないが。
しかし、漠然とエミル以外にはありえない、というような思いがコレットの中にふと浮かぶ。
それは、コレットとともにありし精霊石の微精霊たちの感情がコレットに伝わったゆえの結果。
おもわずロイドの顔をみるが、ロイドはその声、そして光の中の小さな人間もどき。
その姿にまったく気づいてすらいないらしい。
そして他のものたちも。
ゼロスはおそらく気づいているのであろう。
時折視線が光の内部にとむいている。
「…これはひどい、わね。魔物の数が半端、ではないわ」
以前にきたときとはあきらかに違う。
ここにいても聞こえてくる羽音。
ブブブ、という音のほうをみればドラゴンフライとよばれし魔物たちや、
キラーピーの一種、なのだろう、虫のような様々なる魔物たちが、
以前にきたときと比べるまでもなく、いたるところで光の球体の合間を飛び回っている。
そして、四足歩行の大きく口をあければ人間の子供くらいは一口で飲み込めるであろう、
トカゲのような魚のような魔物のようなもの…リフィルもみたことがないが。
それはリザード、とよばれし魔物の一種。
さらには木々の根っこがおもいっきりせり出しているがゆえリフィルは気づかないが、
カブトムシのような魔物たちもこの森には生息している。
それは本来ならば奥の森に生息しているはずの魔物たち。
そしてよくよくみてみれば、足場になるはずの木の根。
それらの上には植物の魔物っぽい触手をいくつももちし輩たちの姿すら。
ざっとみるかぎり、以前に使用されていた湖の上に浮かばせてあった木の板の橋もどき。
それは今ではみるかげもない。
おそらく、湖の底からせりあがってきた木の根によって壊されてしまったのであろう。
となれば奥に進んでいくためには、
これらの木の根をうまくつたい、進んでいかなければいけいわけ、なのだが…
目の前の現実ともいえる森の変化を目の当たりにし、思わずリフィルが溜息をもらす。
「みたとおり。いきなりこんな状態になってしまいまして…
  巨大な揺れとともに、あっというまに湖の底からこの木の根らしきものがせりあがってきて。
  あとはみたとおり、です。みたこともない魔物たちまで大量にあらわれて。
  この場で見張りをするのは危険、と判断しまして少し離れていた次第です」
二人いた兵士のうちの一人がリフィルの言葉に続くように、
神子であるゼロスにたいし頭をうなだれつつも説明してくる。
救いは魔物たちがこちらに気づいているのかいないのか。
襲い掛かってくる気配がない、ということくらいであろう。
もっとも、まさか襲うなかれ、という命令が下されている、とは当然彼らは知らない。
知らないがゆえに警戒せざるをえない。
「…奥にすすんでいくには、これらの木の根や木の枝。
  それをどうにか渡りつついくしかないんでしょうけど……」
しかし、ざっとみたかぎり、ほとんどの根の上には魔物の姿がみてとれる。
中には完全に道をふさぎ、うねうねとその幾多もの触手もどきをうねらせている魔物すら。
木の根の上を通るかぎり、当然逃げ場はなく、足場も狭い。
「うわ~。みてみて。先生。蝶がたくさんいます~」
そんな中、コレットがふと、横手の木の根がのびているその先。
その先にまるで塊のように蝶が木の根の上で飛んでいるのをその視界にとらえる。
よくよくみれば蝶が固まっている樹の根の上には一匹の魔物も見当たらない。
「もしかして…ロイド。蝶がいる木の根を足場にして進んでいくわよ」
この地に住まうものならば誰でもしっている。
迷ったとき、または困ったときは蝶が導いてくれる。
これはこの地で生まれ育ったものならば誰もがしっている。
森の中ならば蝶、もしくは森の動物たちが正しく導いてくれる。
これもエルフの血による世界の加護の一つなのだ、そのようにいわれていたが。
でも、それにしては、と昔リフィルは不思議におもったこともある。
大人たちはエルフの血族だから、といってはいたが、
ではなぜ、町からやってきた王家の許可を持ちし存在達もまた、
森の動物たちに導かれるように困ったときは助けられているのか、と。
母に捨てられた、と思い込んでいたときは思い出すことすらしなかったが。

「すごいすごい。お兄様、みてください。樹があるいてますわ!」
一方で、湖の中をまるでふつうの大地のように動きまわっているいくつもの木々。
それは木の姿をした魔物たち。
動いているゆえに魔物、とわかるがそうでなければふつうの木々と見分けはつかない。
「セレス、あれは魔物だからな?きをつけないとだめだぞ?」
そんなセレスにと注意を促しているゼロス。
セレスは興味本位で近づいていきかねない。
「奥にいかれるのでしたら、おきをつけて…神子様方。
  どうもこの湖の中にも肉食性の魔物の姿もみえましたので」
そもそも、レモラなどといったいるはずのない魔物の姿もみてとれた。
きらきらと異様にきれいな見慣れぬ魚のようなものがいるな、とおもえば、
それらが湖の中におちた巨大な熊に群がってくらいついているさまをみたときには、
さすがの彼らたちもおもわず顔をひきつらせたほど。
つまり、この湖の中には肉食性の魚もいるということに他ならない。
これまでもいたのかどうかもわからないが、しかしいまは確実にいる、といえる。
何しろ彼ら自身の目でそれを確かめてしまっているのだからして。
それが魔物かどうかまでは兵士たる彼らはわからない。
まあ、それは魔物でも何でもなくふつうの肉食性の魚、なのだが。
その事実を彼らは知らない。
彼らも本当ならば神子の護衛、としてついていきたいのは山々なれど、
しかしそれは逆に足でまといになりかねない。
さらにいえば、いくら完全なる湖のふもと。
そこにいないとはいえ、おもいっきり持ち場を離れることはゆるされない。
あの地に拠点というか野営の場を移しているのも、
あの場であれば森に近づくものがすぐにわかるから、という理由もあるがゆえ。
「私の勘がただしければ、目的地まであの蝶たちが導いてくれるはずよ」
蝶がいるその頭上には魔物の姿もみあたらない。
周囲にはこれでもか、というほどに魔物の姿がみてとれるが。
「でも、姉さん。あの木の根っぽいあれって…ぎりぎりヒトがひとり通れるかどうか。
  それくらいしかない、よね?」
どうみても足場、としては不安定。
でも足場にできないわけでもない。
が、万が一戦闘などになればあきらかに不利。
まあ、もともとこの地での戦闘は、
湖の上にとはりめぐらされた、かなり不安定な足場ともいえる板橋か、
もしくはかろうじて申し訳ない程度に木々の周囲にある小さな足場か。
それくらいしかなかったのだから、あまり変化はないといえばないのかもしれないが。
「先生。なら、私が空をとんで様子をみてみましょうか?」
ジーニアスの言葉をうけ、コレットが名案とばかりにリフィルをみるが。
「いえ。それは危険だわ。この森の木々の合間にはかなりの魔物が飛んでいるもの」
それこそ見たこともない巨大なる生物っぽいものもとんでいる。
トンボもどきにもみえるようなものも少し高めの上空にはとびかっている。
リフィルの記憶がたしかならばたしかあの魔物は雑食性。
ついでにいえばふつうにヒトも襲ったはず。
…かつて、エルフ族もその魔物に襲われたものもいた、という記憶がある。
伊達に十一の歳までエルフの里ヘイムダールにて過ごしていたわけではない。
そんな危険な空にコレットを偵察としていかせるわけにはいかない。
「…ゼロスとコレットは、万が一、足場から足を滑らせたりしたとき。
  皆が湖に落ちないようにそれを心がけていてちょうだい」
湖に落ちれば何があるかわからない。
「とにかく。周囲の警戒はおこたらないで。
   そして必ず蝶、もしくは森の動物達がいる足場を選ぶこと、いいわね?」
いくつも入り組んだ木の根たち。
その中から正解はもしかして一つしかないかもしれないし、複数あるのかもしれない。
が、蝶や動物たちが導く道ならばおそらく間違いなく、
確実にこの森を抜けエルフの里にたどりつけるだろう。
それはもう直感。
人ひとりがかろうじてわたるのがぎりぎりともいえる木の根らしきもの。
中には太い根らしきものもあり、足場がしっかりとしているものもあるにはあるが。
ひらひらと、数十単位で蝶たちがそんな木の根の上で飛び交っている。
まるで言い方は似合っていないかもしれないが蚊柱のごとくに。


かつて通ったことのあるユミルの森。
しかし今やその姿は完全にと様変わりしている。
湖の底に這うようにしてみえていた木の根のようなものたちは、
こぞって湖の上にとせりだしており、
それでいて湖にいる生物などには何の影響もあたえてはいないようにみえもする。
異様に増えているようにもみえる木の魔物。
それらのせいか森全体がより鬱蒼としたものにみえなくもないが、
しかし周囲を飛び交う様々な色をもちし光の球体。
大小様々なる球体の光によって森全体としてはほのかに明るく照らし出されている。
おそらく夜、この状態の森を上空からみてみれば、
森全体が淡く輝くように浮き上がっているようにみえるであろうほどに。
もっとも、今の世界の状態では夜というものは存在せず、
常に上空には薄紫色にとみえる巨大な彗星が青空も夜空もすべて塗りつぶしている。

「ロイド、もうすこし落ち着いてよね」
「わ、わるい……」
あきれたような叱咤の声がジーニアスの口からとびだす。
まあそれもあるいみ仕方がないといえば仕方がないであろう。
ようやく湖を抜け切るまで、ロイドが一人でつっぱしり、
そして蝶や動物などがいない場所にまぎれこみ、幾度も湖にロイドはおちかけた。
魔物たちはどちらかといえば襲ってくるどころか、ボアなどはそのまま突進してきて
植物系の魔物たちには蔓や枝で薙ぎ払われた。
そのたびに湖に落ちそうになり、ぎりぎりのところでゼロスやコレットが救出した。
まあ、落ちかけたロイドの真下。
すなわち湖から巨大な魚が口をおおきくあけ、
おちてくるであろうロイドを丸呑みにせん、と幾度か口をあけてまっていたこともあったが。
コレットやゼロスが機転をきかさなければまちがいなくロイドは魚に丸呑みされていた。
ゆえにジーニアスの叱咤する声もわからなくはない。
湖の中心にとある小さな島。
島、といっても湖自体が巨大なこともあり、その小島の大きさはかるく海に点在している、
様々な小島。
それらよりもはるかに大きい。
大きさの目安とすれば異界の扉のありし島。
それよりも数倍大きい、というところであろう。
かつてこの地に初めてやってきたとき、
そこにたどり着く手前にてエルフの子供に足止めされはしたが、今はそんな気配はない。
「このあたりは植物が異常繁殖はしていない…のね」
きょろきょろと周囲を見渡し、リフィルが誰にともなくぽつりといってくる。
ようやくどうにか湖の上に絡まりあうようにしてある木の根などをつたいここまでたどりついた。
しっかりとした足場のある大地に足を踏みしめ、周囲を警戒するようにと見回すリフィル。
このあたりはかつてきたときのまま。
他の場所のように背丈以上に成長している草花の姿がまったくみえない。
それこそふつうの森のまま。
「先生。村の入口に族長さんが……」
じっとコレットが村のあるほうをみて、その入り口になぜか見覚えのある人物。
エルフの族長、ブラムハルドの姿をみてとり、少し戸惑ったような声をだす。
「…いこう」
コレットがそういうのなならば、まちがいなく族長が入口にいる、のであろう。
そしてエルフの族長がそんなところに普通、待ち構えるようにいるはずがない。
一瞬、ロイドの体がぴくり、となり、そのまま村のほうにむけて歩き出す。


エルフの隠れ里【ヘイムダール】。
ここは他とは違い、これといった変化はみられない。
ここだけ時がとまっているかのように。
しかし村に漂っている雰囲気は以前とはまったく異なっているのだが。
いまだ村に入っていないロイド達がそのことに気づくはずもなく。
「…よくきたな。まっておったぞ」
村のほうにと近づいてくる一行に気が付いたのか、村の門のところにて、
族長であるブラムハルドが彼らの姿を…というよりは、
どちらかといえばロイドの姿をみとめ声をかけてくる。
どこかその姿がくたびれたようにみえるのは、ロイド達のきのせいか。
族長の横にはあいかわらず、村の入口を守る男たちがその手にやりをもちたっている。
その男たちもどこか浮かない表情をしていたりするのだが。
そのことに気づいたは、この場においてはコレットとゼロス、そしてリフィルのみ。
「ロイドよ。客人はすでにオリジンの眠るトレントの森にと出向いていっておる」
「っ…わかり、ました」
族長に名を呼ばれ、事実をつげられ、思わずロイドの声が固くなる。
客人、というのは間違いなくクラトスのこと、なのだろう。
これから実の父親であるというクラトスと戦わなければならない。
でもまだ、オリジンの解放についてはロイドも思うところがある。
クラトスの気持ちは何となくだがロイドも理解した。
クラトスはおそらく、何かきっかけがほしいのだろう。
自分のこれまでの行動、それを見直す意味でも。
もしくは断罪を望んでいるか。
…おそらくは後者。
だからといって、ロイドとてクラトスを殺したくはない。
「じゃあ、私たちはここでまっているわね」
本当ならばついていきたいが。
以前、村にはいったときは必要にかられていた。
村の人々の命を優先し、禁じられているにもかかわらずに村にと立ち入った。
しかし、今回はそういうわけにはいかないであろう。
「…ごめんね。ロイド。本当なら僕らもついていきたいんだけど……」
だけど、自分たちがいればロイド達も村の中にの立ち入り。
それを許可されないだろうから。
それはこの村にくるにあたり、ジーニアスもおもっていた。
村の奥に位置している森に出向くには空からでむけばいけるかもしれないが。
もしくは湖の上を移動していけば村を経由せずにたどり着くことはできるであろう。
しかし、空を飛ぶ手段も水の上を移動する手段をジーニアスとリフィルは持ち合わせてはいない。
実の親と戦うであろう教え子、そして親友のそばにいてあげたくても、
村の…エルフの掟がそれを許しはしない。
掟などしらない、ということはたやすい。
しかしそれでロイド達に迷惑がかかっては意味がない。
だからこそ、ここにくるにあたり、すでにリフィルとジーニアスは話あっている。
自分たちは村の入口でまつしかないのだ、と。
くるりと向きをかえ、村から離れようとした二人にむかい、
「まってくれ。先生。ジーニアス」
ロイドがそんな二人にと話しかける。
「族長。お願いだ。この二人を村にいれてくれ!
  今だけでいいんだ。二人は俺の大切な仲間だから。だから、見届けてほしいんだ。
  クラトスと決着をつけるところを二人にも見届けてほしいんだよ!」
それはロイドの偽らざる気持ち。
「何をいう!ハーフエルフが村にはいるなどもってのほかだ!このけがらわしい!」
そんなロイドの台詞に村の入口を守りし男があざけるようにいってくる。
「あんたたちのその態度がクルシスをうんだんじゃないのか!
  前、先生たちに助けられておいてよくそんなことがいえるな!」
以前、この村にきたとき、この村は壊滅状態に近づいていた。
それを間違いなく解決したといってもよいリフィルやジーニアス。
そんな二人にこの態度はないとおもう。
「何だと!」
そんなロイドの台詞にもう一人の男が憤慨したような声をあげてくるが。
「…つまり、結局。君たちはかわるつもりがない、ということだね」
ん?
何やら聞き覚えのある声が。
思わずその声をききロイド達は顔をみあわせる。
しかし、興奮しているらしき男たちは気が付いていない。
その声は目の前にいる彼らから発せられているものではない、ということに。
「なぜわれら選ばれた種族であるものがまじりものを受け入れなければならない!」
興奮しているエルフの男は気づかない。
気付かないがゆえに、高飛車に思ったままを口にする。
そんな男たちとは対照的に、その声に気が付いた、のであろう。
族長の顔が見る間に青くなっていくことに、コレットとリフィルは目ざとくきづく。
そんな族長の反応に、リフィルの中でとある予測が完全なる確信へと近づいてゆく。
 「選ばれた…ね。僕からしてみれば、先に裏切ったのは君たちのほうなんだけどね。
  さてと。久しぶり。皆。あと、ブラムハルドさん。
  たしか、あなたはいいましたよね?若いものたちも説得してみせる、と。
  猶予は与えていました。けどけっきく無駄だったようですね」
「ま、まってくだされ!」
その声をうけ、あせった声をあげるブラムハルド。
ゆっくりと、ロイド達の背後にある木々。
その木々の一つ、その真後ろより見慣れた姿があらわれる。
さらりと伸びた金の髪。
見覚えのあるチュートニックの服。
『エミル!?』
どうしてエミルがここにいるのか。
思わず同時に声をあげるロイド達。
その言語はロイド達には理解不能。
それは古代エルフ語といわれている言語。
その台詞をききあからさまにうろたえた表情をみせるエルフの族長ブラムハルド。
「猶予期間はすぎました。いいましたよね?
  はじめに盟約を…約束をたがえていたのはあなたたちのほうだ、と。
  なのに、選ばれたもの?どの口がいうんだか。
  ――いったはずだ。本来の約束。先に約束をたがえているのはあなたたちだと。
  これ以上はまたない、とも」
「まっ…まってくだされ!ディセンダー様!!」
「――バウティア ティアン プディンスンムティ,
  プルンドグン ウス ドンスティディオワティウイム スエディンディウ!!」
どこか冷たくも感じるエミルの視線がブラムハルドにむけられ、
この場においてエミルとブラムハルドの会話を理解できるのはリフィルとジーニアス。
そしてエルフの古代語が理解できるごくごく一部のもの。
若いエルフたちは族長とエミルのやりとりをききつつも意味がわからない。
そんな表情を浮かべていたりする。
しかし、族長のディセンダー、という台詞をきき、あからさまに顔色をかえざるをえない。
そしてそれは、リフィルとジーニアスとて同じこと。
はっとしたように、エミルの顔を驚愕の表情で見つめるジーニアスに、
「…そういう、ことだったのね……」
ぽつり、と族長の台詞をききつぶやいているリフィル。
そんな姉弟の反応をさらりと無視し、
ブラムハルドの制止の声もむなしく、高らかにエミルの口より決定の言葉が紡ぎだされる。

それは古の、エルフの血、否この地に降り立った一族にたいしてのかつての約束。
そもそも、この地に降り立つにあたり、彼らの一族は、
この大地とともに生きて死ぬことをえらび、
自分たちの仲間や先祖が争いをしたのも自由にマナが何の意識しなくても紡げるから。
ゆえに力に対しての畏怖の念がなくなったからとおもうから。
ゆえに、おちついたらその力をなくす、もしくはその力は懇願してこそ発揮するもの。
そのようにしてほしい、そういってきたというのに。
不必要にマナを悪用せず、また使用しない。
その約束をもってしてこの大地に降り立つ許可を与えた遥かなる過去の記憶。
にもかかわらず、力を放棄した仲間を差別し、自分たちのみが選ばれたのだ。
そんな傲慢な考えに陥りだしたは、世代を重ねてゆくうえで、
自分たちには都合のわるいことは封じ、つたえないようにエルフたちが意図的にた結果。
かつての天地戦争といわれていた時代にもセンチュリオンを通じ、
精霊たちを通じ忠告したというのにもかかわらず。
結局エルフたちはかわろうとすらしなかった。
甘い顔をしていては、彼らの一族はかわりはしない。
あのときもそうだった。
世界樹ユグドラシルが枯れそうになったときも。
かれらはダオスに協力するでもなく、一族のみでひきこもることを選んだ。
自分たちは何もすることなく。
逆にダオスをどうにかしようとするヒトにと手をかして。
本当に救われない。
――現時点をもって盟約は破棄されたり
それは世界の理ともいえる言語で紡がれし言葉。
かつての民、この地にのこっていた血筋に対する盟約の破棄。
それは血さえ引いていれば問答無用でマナが紡げる。
その盟約の破棄。
力が使えるからこそ自分たちが選ばれたものだ、といいはるのならば。
結局彼らの認識は時がうつってもかわることがなかった。
ラグナログとよばれ、あらたに地上に魔界との窓がひらき地上が一時瘴気におおわれたときですら。
彼らは何もしようとしなかった。
他者を批難し、傍観するばかりで。
その結果、あのとき世界樹ユグドラシルは消滅した。
ほかならぬ人の手で。
わかっていながら何もしなかった彼らもまた同罪。
しいなの先祖はその盟約を守った上で微精霊達の力を懇願し使用することを可能としていたのに。
そんな彼女たちをヒトはおそれ、彼らの拠点であった島国すらをも滅ぼした。
そのときにもエルフたちは何もしなかった。
しようとすらしなかった。
…本当に、救われない。
だからもう、地上すべてを浄化しようと、好きなようにやらせていたあのとき。
ミトスがこなければ間違いなく地上は一度すべて無とかしてゼロから再生させていた。
彼らはそんなミトスたちすらをも排除しようとした。
オリジンや自分と契約したとたん、態度をころっと変化させたのもしっている。
その根底にあるのは彼らが使える、生まれながらの力。
それすらも盟約をたがえているゆえに、かつての力がつかえているにすぎない。
というのにもかかわらず、それから目をそらし、他者だけを批難ばかりしてゆく彼ら一族。
猶予はあたえていた。
にもかかわらずのこの言動。
かつて、彼らの先祖がこの惑星におりたつときめたとき、
世代をこえてこの約束をたがえたとき、自分の判断で決定してもかまわない。
どちらにしろ、自分たちもまた世代とともに考えが愚かな思考にもどってしまうかもしれない。
この星を自分たちの故郷の二の舞にさせないために。
そのように申し出をうけていた。
だからあのとき…ミトスに裏切られたあのとき。
すべてのヒト…いうまでもなくエルフを含み、すべてを排除しようとしたのだから。
ヒトはやはりどこまでも愚かなことしかいわない。
自分たちの都合のいいようにしかとらえない。
そしてその先に待ち受けることを考えようともせず。
あのときだってそう。
世界の理をひきなおす。
そういったときも、自分たちの世代でなければ問題ない。
そう目の前の彼らはおもったのか、何の異論もいってこなかった。
必ず世界は滅ぶ、そういったにもかかわらず。
永きときの果てに必ず滅ぶことが来る、そう告げたにもかかわらず。
その時のことは自分たちには関係ない、といわんばかりに。
確かに、必ず滅ぶのは物質である限り、またこの惑星においては元の理。
それにもどしただけ、であったにしろ。
それでも、魔界ニブルヘイムはかつてはそのままであった。
だからこそ、このたびは新たな惑星をうみだした。
もともとが瘴気で覆われている惑星そのものを。

何がおこったのか理解不能としかいいようがない。
ごっそりと、彼らの中から何かが抜け落ちた。
ふとみれば、がくり、とその場にうなだれたように手を大地につけている族長の姿。
「エミル、あなた、今、何を……」
リフィルも困惑した声をかけざるをえない。
何かが体の中から抜けおちた。
それが何、なのかがわからない。
「もう!エミル!今まで何してたの!?なかなかもどってこないし!
  というか、何でこんなところにいるの!?」
困惑したような表情のリフィルやジーニアスとは対照的に、
む~と頬を膨らませ、多少すねたように現れたエミルにと文句をいっているマルタ。
マルタとしては、アルタミラでどこかにいったっきりなかなかもどってこないエミル。
それをずっと心配していたのに、何の予兆もなくあらわれ、
しかもまったく悪びれた様子すらみえないのに思わず不満が漏れ出してしまう。
もっとも、エミルが元気そうでいることに安心もするが。
それ以上に、今、エミルが族長と何をはなしていたのか。
それがかなり気にかかるが聞けば後戻りができないような気がして、
その不安を隠すようにあえて不満をエミルにぶつけていたりする。
「あはは。ごめんごめん。どうしても手がはなせない事案があってね。
  とりあえず、根本的なことはおわったし。それより皆はもしかしてオリジンのこと?
  改めてここにくる、ということはオリジンのことくらいしかないだろうし。
  石版の前にこの前からクラトスさんずっと毎日のようにあそこにいってるしね」
どうでもいいが、森の中で野宿をしそうとしていたので、
ある程度の時間になるとともに森の外にと放り出していた。
この奥に大樹を再生させたこともあり、一定時間以上かの森にいた場合、
強制的に森の外に排出されるようにそのように森の理を引き直している。
内心そんなことを思いつつも、それをまったく表情に表わすことなく、
いつものようににこやかな笑みを浮かべつつもかるくこれまでの不在を謝ったのち、
全員を見渡し、すこしばかり首をかしげつつといかける。
「「あそこ?」」
そんなエミルの言葉に意図したわけではないのだろうが同時に呟くしいなとマルタ。
「うん。トレントの森のある石版の前だよ。
  あの森ってとある条件を満たした場合、強制的に森の外に排出されるしね。
  クラトスさんもここにきてから、幾度も森の中にはいっては排出されて、を繰りかえしてるし」
まあ出された直後に懲りずにそのまま幾度も入ってゆく根性だけは呆れざるをえないが。
そんなことをするくらいならば、さくっとオリジンの解放をしてくれたほうが手っ取り早いのだが。
わざわざロイドと手合せをせずともそれくらいはできるであろうに。
それとも、ロイドに自分自身を殺してほしいとでもおもっているのだろうか。
あのクラトスは。
あいかわらず他力本願というか、後先を考えていないというか。
そもそも、あの穢れた精霊石たちが宇宙空間であのようなことになったのも、
元はといえばクラトスが何も考えず宇宙そらにて解き放ってしまったゆえ。
そのせいで別なる惑星にかの結びついた精霊石が彗星もどきとなり落下し、
あの惑星ではレンズといわれているものが動力源とされていた。
人の考えつくことは同じというか、記憶を主体としていたあの人物の系譜をつぐもの。
そのものがいたためか、かの世界でもかつてのように
人格投影という技術が開発されてしまっていたようだが。
今、この惑星上においてあの技術を継承しているのはアルテスタのみ。
技術を継承していたドワーフたちは視たかぎり、そこまの力はすでにない。
まああの技術も下手に継承するものがいたとすれば、
あの惑星のように兵器、として再びこの惑星にても使用しようとする輩がでてくるはず。
ならばこのまますたれさせてしまったほうが遥かにいい。
孵化できるまでに力が満ちた精霊石はすでに微精霊そのものへと成長している。
このあたり一帯のマナの濃度が高いため、普通のものでも微精霊たちの姿を認識できるであろう。
もっとも、視ることができないものは、ただの光の球体としかその目にうつらないだろうが。
あえて微精霊たちにはこの村には立ち入らないようにといってある。
エルフたちは自分たちの先祖が交わした約束すらわすれ、他者を見下すのがあたりまえ。
そんな彼らにわざわざ微精霊たちが復活していっていることを教えてやる必要もない。
そもそもこの地に大樹を復活させるために出向いたときも、
あえてセンチュリオン達の姿をみさせていたというのに、
彼らはこちらに攻撃をくわえてきた。
つまり彼らは自分に従うつもり、マナを大切にするつもりはない。
というのがよくわかった。
それでもブラムハルドが懇願してきたのもあり猶予期間を与えていたのだが。
年若いエルフの男性の様子をみるかぎり、エルフたちの認識はかわってはいない。
まあ、かわるとはおもってなかったが。
かつての時でも彼らは根本的にかわってなどいなかったのだから。
「それで?今からむかうの?森に?」
エミルのそんな言葉にようやくはっと我にと戻ったのか、
「あ。ああ。そのつもりで、そういえば、族長!
  先生とジーニアスを村にいれてくれ!頼む!
  今だけでいいんだ。二人は俺の大切な仲間だから。って…
  …そういえばなんでいきなり手を地面につけてうなだれてるんだ?」
ひとまずもう一度、懇願するように族長であるブラムハルドにと話しかけるロイドの姿。
しかし、そんなロイドの目の前でブラムハルドは相変わらず、
がくり、と両膝を地面につけ、そして両手も地面につけており、
どこからどうみてもおもいっきり落ち込んでいるようにしかみうけられない。
ロイドはなぜ彼がそんな行動をしているのかまったくもって理解不能。
「ほうっておけばいいよ。
  口先ばかりで何も行動もしようとせず、また、そのための努力すらしなかったんだから。
  とりあえず、いくならいくで急いだほうがいいかな?」
あちらではミトスが行動を始めている。
このまままっすぐ森にでむき、クラトスと対峙したあたりでかの行動をおこすであろう。
ミトスもさすがに種子が発芽したと認識されたと自覚したからか次なる行動を起こす気であるらしい。
ロイド達がたどり着くのが先か、それともミトスがクラトスのもとにやってくるのが先か。
常にミトスの同行は視つつ確認しているがゆえに次なる行動も把握可能。
もっとも、それを彼らに説明する気はエミルにはまったくない。
「そもそも前、この地が魔族達の影響をうけたときにもかわらないと。
  みたいなことをいっておきながら、変化はなかったしね。
  ともあれ、森にいくなら案内できるけど、どうする?」
「え?でも僕たちは村にはいれないんじゃあ……」
そんなエミルの問いかけに困惑したようなジーニアスがいってくる。
心なしか何がおこっているのか理解できない。
という感じが抜け切れてはいない。
たしかにジーニアスたちも例にもれず、血の盟約が取り除かれた状態ではあるが。
いきなりまったくマナを感じることができなくなったことに戸惑いを隠しきれないらしい。
「関係ないよ。それに村の設備を利用するとかじゃないんでしょ?
  それとも休んでからいくつもり?」
そうなればまちがいなくミトスのほうが先にクラトスの元にたどり着くであろう。
「それに、今の現状では彼らに何か文句をいえる余裕があるはずもないしね」
今現在、先ほどの血の盟約の破棄たる言葉にて、
地上におけるすべてのエルフの血族…約一部を除くが…をのぞき、
かの惑星よりつづいていた血の盟約、すなわちマナを紡ぎ感知する能力。
それがすべて破棄された。
これにより、マナを紡ぐ方法は一つにと限られる。
すなわち、微精霊たちに懇願し、その力の助力をえて力を発動させる。
みずほの民が使用しているのかまさにその方法。
「まさか、まだ彼らを村にいれない、とか馬鹿なことはさすかにいわないとおもうよ?」
そんなことをこの後に及んで行ってくるようならば、
彼らの里をこの森から外へと転移させる予定であるが。
「…われらが愚かであった、というのですな……」
「何を今さら。散々忠告はされていたはず。でも動かなかったのは君たちでしょ?」
かつての天地戦争といわれていた時代のときも、カーラーン大戦といわれていたときも。
彼らは結局何もしようとしなかった。
他者を非難するばかりで、自分たちはわれ関せずといわんばかりに。
「そもそも。君たちが勝手に差別を始めたわけでしょ?忘れたとはいわせないよ」
狭間のものと彼らがというかヒトが認識しているハーフエルフたち。
狭間でも何でもないというのに。
なのに彼らを差別しないがしろにしたのはほかならぬ彼らエルフ、そして人間たち。
彼らが認めようとしないがゆえに、かつてのハーフエルフたちはより意地になったといってもよい。
がくりとうなだれたままの状態で、それでもよろよろと起き上りつつも、
エミルをみつついってくるブラムハルド。
その表情は果てしなく暗い。
そんな彼にきっぱりといいきるエミル。
エミルがブラムハルドと話している言語は、古代エルフ語といわれている言語。
かつて、ヴォルトが使用していた言語であるゆえに、ロイド達には理解不能。
「……そう、なのでしょうな……」
エミルの言葉にうつむいたのち、そしてロイドに向き直り、
「我々とハーフエルフたちの溝は暗く深い。
  しかし、われらの態度がクルシスを…そしてハーフエルフたちを禁忌に追いやった。
  それは紛れもない事実。われらが自分たちのことを棚にあげ、
  彼ら、そしてヒトを非難していた結果が、これか……
  先の功労もある。二人の入村を認めよう」
「「族長!?」」
目をつむり、それでいてその言葉を紡ぎだしたブラムハルドに対し、
先ほどまでくってかかっていた見張りのエルフたちが抗議の声をあげてくる。
「ほんっと、救いようがないよね。とりあえず分からず屋のヒトたちはほっといて。
  森にいくんでしょ?」
そんな男たちに対し、冷めた視線をちらりとむけたのち、
改めてロイド達に向き直り問いかける。
「あ。ああ。ありがとう。族長!よっし、クラトスのところへ……」
エミルの言葉をうけ、ロイドがそのまま一歩前に進み出るが、
「ロイド。待って。少し落ち着いたほうがいいよ。
  これから戦うクラトスさんはロイドのお父さまなんだよ?」
そんなロイドのはやる気持ちに気づいたのか、コレットがそんなロイドにと語りかける。
「そうね。ロイド。あせってはだめよ。
  ある意味でクラトスとの戦いが世界の命運を握っているといってもいいのだから」
クラトスがオリジンを解放すればクラトスの命はないかもしれない。
しかし、ユアンの言葉を信じるとするならば、まだ望みはある。
それはかつてアルタミラにてユアンから聞かされていた内容。
「ま、でもあのミトスが何かしてくるまえに。急いだほうがいいとは俺様はおもうけど?」
かならず何かしらの行動があるはず。
リフィルの言葉をうけ、しかしながら首をすくめつつもいいはなつゼロス。
「まあ、石版のところまでは距離あるし。歩きつつ落ち着くのでもよくない?
  あ、一応、グミはしっかりともっといてね。それか精神力回復アイテムも」
「そういえば、かの森は入ったが最後。常に精神力を削られる聖域だったわね……」
エミルの言葉に今思い出したとばかりに、
リフィルが少し顎に手をあて何やらそんなことをいってくるが。
「一晩とまってロイドの気持ち落ち着かせたほうがよくない?」
「いや。ガキンチョ。それだとあのミトスが絶対に先に何かしてくるぜ?断言してやる。
  というかいまだに何の行動も起こしてきていないのがそもそも不気味だしな。
  あいつはクラトスがオリジンの解放をしようとしているのをわかっているはず。
  クラトスと決着をつける前にそれとも何か?
  あいつと戦うハメになってもいいっていうんなら。俺様はとめないけどな」
「・・・・・・・・」
ジーニアスからしてみれば、ロイドにつらい思いをしてほしくない。
考える時間があったほうがいいのでは、という思いで提案したのだが、
しかしゼロスの台詞に思わず黙り込んでしまう。
たしかに、ミトスがおとなしくしている、とはおもえない。
ミトスとロイド。
どちらを選べばいいのか、いまだにジーニアスの中では結論はでていない。
二人ともジーニアスにとってとても大切な友達であることには違いない。
だからこそ、ゼロスの言葉にジーニアスは黙り込むしかできない。
「ゼロスって何だかんだといいつつ、ミトスのことをよくみてるよね」
「ん?何だ?エミル君?少し考えればわかるだろ?これくらい」
「ま。確かにね」
こちらが教えたわけでもないのにミトスの行動を先読みしているゼロス。
このあたりの頭の回転はミトスによく似ている。
そんなことを思いつつも、ゼロスの言葉に同意を示すエミルであるが。
「で、ロイドはどうするの?一晩村でやすむ?それともこのままいく?」
「俺は……」
エミルに促されるように問われ、しばしロイドはその場にて目をつむる。
ここで決めるべきは自分である。
それがわかっているからこそ、後悔をしないように。


トレントの森といわれているエルフの聖域。
それは村の入口から入って、さらにその奥にと存在そんざいしている。
「ねえ。お父さん。どうしてマナがまったく感じられなくなったの?何がおこってるの?」
族長であるブラムハルドに連れられ、森の入口まで案内しよう。
そういわれ、彼を先頭に村にと入っているロイド達。
「われらはついに完全に見限られてしまったというのか……」
歩いてゆく間、そんなエルフたち親子であろう言葉がふと耳にと届いてくる。
「また誰かがバカをやったんじゃないの?いい加減にしてほしいわ。
  ひとりの行動が全体の責任とされるんだし。あのときだってそう。
  よりによってセンチュリオン様がたに攻撃を加えた結果、
  私たち全員がマナを紡げなくなってしまったのだもの」
結局のところ、ロイドはこのまま休むことなくそのままクラトスの元にいく。
そう決めたらしく、ならばというのでブラムハルドの案内にて村の中を進んでゆくことしばし。
村の出入り口でもある木でつくられた小さなアーチ状の門。
村のいたるところに小川というか湖の水の一部をつかった水路が流れており、
水のせせらぎと鳥の鳴き声が周囲にと響きわたる。
村にはいってすぐ左手に道具屋などがあり、水路にかけられた橋を渡って北側。
わたってすぐの場所に宿屋があり、
そこから左にわたり奥にいくと族長の家のある場所にとたどり着く。
そして、トレントの森の出入り口もまたそちら側にとあり、
族長の家の方向にむかってあるいてゆく途中でエルフたちのそんな会話がきこえてくる。
「でも、私たちにも原因はあるわよね。
  マナが全く感じられなくなってしまったのも、
  私たちがすべての責任を彼らに押し付けていた結果がこれ、なのでしょうね……」
彼らはミトスを、否ミトスたちを非難するばかりで何もしようとはしなかった。
そもそもかの一族をこの村から追放したこと自体、彼らが古の盟約を忘れていた何よりの証拠。
困惑したようなそんなエルフ達の会話。
そんな彼らの会話がきこえたらしく、ゼロスが何かいいたそうな視線をエミルにとむけてくる。
が、そんなゼロスに気づいているのかいないのか。
「あ。トレントの森はあの奥、だよ」
橋をわたり、すすんでゆくことしばし。
先導するブラムハルドは無言のままで一行を案内しており、
そんな彼にとかわり、エミルがとある方向を指さし言い放つ。
そこはちょっとした開けた場所となっており、
物見やぐらを兼ねた水車小屋もみてとれ、そこから杵をつく音が定期的にと響いてくる。
やがて前を進んでいたブラムハルドが足をとめ、
「さて。その御方がいわれたように。この奥がトレントの森となっておる。
  …これは私の独り言ではあるが。
  クラトス殿は伝説の鉱石アイオニトスを求めて世界中を探していた。
  もちろん、ここにもその過程できたことがある。
  しかし、結局地上でアイオニトスは見つからなかったらしい」
足をとめ、誰にいうでもなく…というかまちがいなくロイドに聞かせるためであろう。
いきなりそんなことを話し始める。
「そもそも、アイオニトスってヒトがよんでいるあれは。
  精霊石から微精霊が孵化したあとのあるいみ抜け殻だし。
  まったく、あいかわらずヒトはあの子たちを利用することしか考えてないというか…
  しかも、ヒトの血で穢して微精霊たちを狂わせるなんて。
  勝手にヒトがあの子たちを利用しておきながら、何かあればあの子たちのせいにして」
それこそまだ孵化する前の微精霊たちはあるいみ赤子同然。
なのに、すべてはヒトがいうところのエクスフィアが悪いのだ、というような認識が、
ヒトの世界にはまかりとおっていた。
かつてのときにしろ、今にしろ。
「…ほんとうに、どうしてあの子達を利用しようとおもいたったんだか……」
あれほどミトスはその真実をしったとき、憤慨し、彼らをも助けたい。
そういっていたというのに。
あのような設備施設までつくり精霊石たちを穢すような行為をしていたミトスの行動。
まちがいなく本体であるミトスの魂に瘴気の穢れがむかってしまっていたのであろう。
実際、ミトスの体にはかなりの穢れが蓄積されていた。
なぜ、エンブレムをミトスは自らの体から離してしまったのか。
あれさえ身に着けていればあれほどまでにはならなかったであろうに。
そんなことをおもいつつも、ぽつりと遠くをみつつ誰にいうでもなくつぶやくエミル。
「それをしっても、ここのヒトもやっぱり何もしようとしてなかったみたいだし…ねぇ?」
彼らは非難するばかりでわれ関せずとばかりに何もしようとはしなかった。
しようとすらしなかったことは、この地に生息している植物たちか証明している。
クラトスやユアンが止めることができなかったのならば。
せめて彼らから何かの干渉があればここまでのことにはならなかったはずなのに。
それを今さらいっても致し方がないとはわかっているがエミルとしては言わずにはいられない。
「…耳が痛いですな。たしかにわれらは嘆き、非難するばかりで何もしようとはしなかった。
  しようとすらしませんでしたからな。何もしないことこそが罪といわれれば。
  言い訳のしようもありませんですじゃ」
エミルの台詞にブラムハルドはただただ首をすくめるのみ。
「アイオニトス、ねぇ。で、結局。
  俺様にとってこい、とあの天使さまはいってきたわけだ。
  自分は監視されて動けないとか何とかで」
エミル君がこの地にいるのは何となくだが理解できるけど。
というか、もう隠す気まったくないだろ、この精霊様は。
エルフの族長とエミルとの会話をききつつ、内心あきれつつも
それでもひとまず話題をなるべくエミルのそれからそらそうと、
思い出したといわんばかりにさらり、といいだすゼロスであるが。
「そういえば、お兄様はクルシスでアイオニトスとかいうのを手にいれた。
  とかいっていましたわね?」
「……俺、もうあんな思いはウソでもしたくない……」
ふとそんなゼロスの言葉をきき、セレスが首をかしげ、
そしてまた、あのときの救いの塔での出来事を思い出したらしく
そんなことをいいだすロイドの姿。
「あれはこいつがやりすぎなんだよ!」
「そうね。あれはさすがにゼロス。あなたはやりすぎだったとおもうわ?
  またあんなことがあったら…わかっているわよね?」
「いや、あれは俺様の責任だけじゃないっしょ!?」
「……あ~。テネブラエがなんか凝った品を渡してたらしいよね…あれ……
  あの子、へんなところで凝り性なんだよねぇ……」
そんなロイドのつぶやきをうけ、しいながゼロスをぎろりとにらみ、
リフィルもリフィルでうなづきつつもゼロスをみながらいってくるが。
そんな二人に自分のせいだけではないとばかりに抗議の声をあげているゼロス。
テネブラエがどんな品を渡していたのか視て知っているがゆえ、
そんなゼロスの台詞に苦笑まじりにつぶやくしかないエミル。
「「?」」
当時、あの場所にいなかったセレスとマルタはそんな彼らの言葉の意味は理解不能。
ゆえに思わず二人して顔をみあわせ首をかしげ、
「そういえば、救いの塔にむかったとき、何があったのか詳しくきいてないよね?」
「そういえばそうですわね」
幾度かきこうとしてもはぐらかされていたのを今さらながら思い出し、
二人してうなづきあっているセレスとマルタ。
「と、とりあえず。あの天使様はこの奥にいるんだろ?
  とっとといこうぜ。邪魔がはいらないうちにな」
あのときのことをセレスに話されてはたまらないとばかり、
ゼロスがあえてわざとらしく話の軌道を元にと戻そうとしてくるが。
「何があったのかは知らぬが…
  しかし、ロイドよ。これだけは覚えておくがいい。
  あのクラトス殿もまぎれもなく、お前たちの仲間であったということを。
  クラトス殿は息子であるおぬしにエターナルソードを装備させるため、
  いろいろと動かれていたのはおぬしもおそらく知っておろう」
どうやら何かがあったらしい。
気にはなるがしかし今はそれを問いかけるよりも先にいっておくべきことがある。
ゆえに、どうしてもいいたかった言葉。
クラトスもまた彼らの仲間であるということを問うより先にといいきるブラムハルド。
「あ。ああ。…ユアンからきいてるよ。
  それに…それに親父達からエターナルリングは受け取ってるし」
クラトスが用意したという品を用い、
タバサの中に保管されているというアルテスタの人格とダイクの共同作業によって、
エターナルリング、すなわち契約の指輪は作成されており、
そしてすでにロイドは彼らよりエターナルリングを手渡されている。
ロイドの言葉をうけ、こくりとうなづき、
「戦いが避けられぬこととはいえ、忘れるでないぞ。
  クラトス殿は常にお前たちの仲間であり、またお前の父であるということを」
「…ああ」
いったいこの族長は何がいいたいのだろうか。
その意図はわからないが、何となくだが自分とクラトスを心配してくれている。
というのは何となくわかる。
わかるがゆえにロイドはうなづくしかできない。
「これをもっていくがよい。…われらにできるのはこれくらいしかできぬ。
  本当ならばついていってやりたいが……」
そんなロイドに懐よりとりだした皮袋を手渡すブラムハルド。
今、自分がすべきこと。
完全にマナを感じ取れなくなったことに気づき、村人たちは困惑しているであろう。
その説明義務も族長として放置はできない。
完全に自分たちエルフは精霊ラタトスクとの盟約が打ち切られてしまったのだ。
ということを一族に伝えなければならない。
それでなくてもあの大樹が芽吹いたのちマナが紡げなくなっていた。
それにつづき、完全にマナを感じることすらできなくなってしまった今。
里の混乱は目にみえている。
これもすべては何もしなかった自分たちへの罰なのだろう。
そう思うと何ともいえない気持ちになってしまう。
しかし、猶予を与えられてたのにその思いを裏切ってしまったのも自分たち。
ならば受け入れるしか…ない。


「そういえば。ロイドくん。族長から何もらったんだ?」
トレントの森の出入り口。
そこにいた見張りのものにブラムハルドが声をかけ、
そこから中にとはいり少しして、気になっていたらしくゼロスがロイドにと問いかける。
「えっと…グミとかハーブっぽいな。これ」
言われてみれば中身を確認していない。
ゆえに改めて渡されたそれの中身をみて答えるロイド。
「ここの森はこれまでの場所とは違って変化という変化はない、みたいですね」
一方で周囲をきょろきょろと見渡しつつ、
これまで幾度もみてきていた異常ともいえる植物たちの繁殖と成長。
足場となる地面に生えている草も通常とかわりがない。
この森の外では視界すら覆われてしまうほどに草花は成長していたというのに。
そんな森の様子を目ざとく観察しつつも、プレセアが誰にともなくいってくる。
「そういえば、エルフの村も何の変化もなかったよね。
  イセリアにしろアルタミラにしろ、おもいっきり異変おこってたのに」
プレセアの言葉に改めて少し考えるそぶりをみせているマルタ。
ちなみにマルタはエミルと再会してからのち、
ほぼべったりとエミルの横にはりついていたりする。
それとなく時折その手をエミルに絡ませようとしていたりするが。
そんなマルタにエミルはただ溜息をつくだけであまり強くはいっていない。
エミルが強くいわないのはしばらく彼らと離れていたという事実があるゆえに、
それでかな?という認識をしているがゆえ。
以前のときもマルタはたしか少し離れただけでべったりくっついてきていたような。
ゆえにマルタの癖なのだろう。
そうあるいみで間違った認識をしていたりする。
マルタからしてみれば長らくエミルがいなかったので寂しかったこともあり、
またエミルが文句をいってこないのをいいことに、まとわりついているだけなのだが。
そんなマルタの思いはまったくもって当然のごとくエミルには通じていない。
マルタが異様にエミルにくっつこうとするのは、
次に目をはなしたら今度こそエミルがどこかに消えてしまいそうで。
その思いが捨てきれないゆえにこれまで以上にくっつこうとしているのだが。
「村…かぁ。そういえば。ロイド。ありがとう」
先ほどエルフの族長が古代エルフ語で語っていた言葉。
族長であるブラムハルドはたしかにエミルのことをディセンダーだといってた。
そのことをエミルに聞きたいが聞くのが怖い。
でももしもそうだとするならば…否、間違いなくそうなのだろう。
エルフの語り部が語っていた伝説の大樹の御使い。
基本、ディセンダーは記憶も何ももたない、という。
それこそ何もない状態で地上にでることにより、より正しく世界を見極めるために。
幾度か、もしかして、というその思いがこみあげてはずっと考えないようにしていたこと。
エミルにそのことを聞きたいが、肯定されるのが何となく怖くてきくにきけない。
それでなくてもこれまでの旅でエミルはたびたびヒトは愚かでしかない。
そのようなことをいっていた。
マナがまったく先ほどから感じられなくなってしまったのも、もしかしたら…
そんな不安を拭い去るかのように、その思考を別なものにと無理やりにかえるべく、
横を歩くロイドにと話しかけるジーニアス。
「?何だ?俺、何かお礼いわれるようなことしたっけ?」
いきなりありがとうといわれ、おもわず目をぱちくりさせつつ首をかしげ問いかける。
そんなロイドの問いかけに、
「だって。エルフの長老を説得して僕と姉さんを村にいれてくれようとしたでしょ?
  だから、ありがとう」
「ただ中にはいっただけじゃないか。エルフたちがお前たちを受け入れたわけじゃない。
  それに俺というよりはエミルが絶対何かしたんだとおもうんだけど。
  というか、エミル、あのヒトと何はなしてたんだ?」
エミルがブラムハルドと会話していた内容はロイドには理解不能。
というかロイドは古代エルフ語といわれている言語はわからない。
「あれってたしか、ヴォルトが何かいってたわけのわからない言葉、だよな?
  たしか、先生が古代エルフ語とか何とかいってた……」
かつてのヴォルトとの契約のときを思い出したのか、
ロイドが思わず腕を胸の前で交差し考え始める。
「あ…うん。たしかに。エミルと村長さんが話していたのは古代エルフ語、だったね。
  けど、先に彼に僕らを村にいれてほしいといいだしたのはロイドでしょ?
  だから、ありがとう」
エミルはそんなロイドの会話の最中にあらわれた。
たしかにエミルとのやり取りにも原因があるのだろう。
それはわかっている。
わかっていても、ジーニアスとしてはロイドにどうしてもお礼がいいたいのも事実で。
「正面からいってくれたのが僕、すごくうれしかったんだ。
  理由はどうあれ僕らはヘイムダールに立ち入ることを許された。
  それって僕らのようなハーフエルフにとっては十分すぎることなんだ。
  ここから先はたぶん、ぼくたち自身でやらなきゃいけないんだとおもう。
  エルフたちに認めてもらえるように」
いいつつジーニアスはぎゅっと手を握り締める。
さきほど、たしかにエルフの族長はエミルのことをディセンダーといっていた。
かの地、ラーゼオン峡谷の語り部のいっていた大樹の分身ともいえる存在の名を。
「エルフもヒトもハーフエルフも。異なる種族同士が互いに共存できるように」
きっかけは小さなことかもしれないが、何もしないで嘆いていては始まらないとおもうから。
それに先ほどのエミルもいっていた。
エルフたちは何もしなかった、と。
しようともしなかった。
これまでのジーニアスであれば間違いなく、何もしないことを選択しただろう。
でも、それではだめなのだ、とおもうから。
「…ジーニアスのそういうところって似てるよね」
そんなジーニアスの台詞をきき、ふとエミルが思い出すはかつてのミトスの台詞。
ミトスもいつもそのようなことをいっていた。
ヒトもエルフもハーフエルフも、精霊も魔物たちも、すべてが共存できる世界。
かつてのミトスが心の底から望んでいた世界。
「?似てるって、誰にだ?そういえば、ジーニアスはここで生まれたんだよな?
  先生たちって昔はここ、ヘイムダールにすんでたんだろ?」
たしかそのようなことをいっていた。
エミルの似ている発言が誰を指しているのか気にはなるが、
しかしふと別のことがきになったらしく、
思い立ったがままにとリフィルにと話を振るロイド。
「え。ええ。十一の歳までね。この地のことはほとんど忘れてしまってたけども…
  思い返してみればいろいろとあったから少し複雑だけどもね」
母の一件がなければ幸せな記憶も思い出すことはなかったのかもしれない。
そう思うと何ともいえない気持ちになってしまう。
実際、母が自分たちを捨てたのだと思い込んでいたあのときまで、
この地のことを思い出す余裕ははっきりいってなかったといってよい。
ハーフエルフである、ということをかたくなに悟られないように。
ジーニアスを育てていくのに必死で。
それもすべては自分が国に…研究院に徴収されそうになったからだ。
その事実をしった今、何とも複雑な思いにリフィルはかられてしまう。
生きていくのに必死でハーフエルフとばれないように、ジーニアスを育て、
自分たちを捨てた母、そして父を恨んでいた日々。
しかし現実はそうではなく、両親は自分たちの活路を見出すためにあの地にむかった。
あの地…異界の扉へと。
シルヴァラント…黄泉の国といわれていた国ならばテセアラの追手もかからない。
そう信じ。
本音をいえば一緒に移動してほしかったというのもある。
けど、おそらく両親が追手の目をごまかしていたからこそ、
二人にあれ以上の追撃の手が加わらなかったのだろう。
テセアラという国がいつからレネゲードとかかわりがあったのかはわからない。
が、レネゲードは互いの世界を行き来するレアバードというものが存在していた。
もしも彼らに話が通されてしまえばリフィルもジーニアスも今は無事ではなかったはず。
それがわかるからこそ、複雑、としかリフィルはいえない。
「いつか誰もが自由にこの森にも訪れられるようになったらいいですね」
「ああ。そんな時代がいつかくるといいな」
そんなリフィルの独白にも近いつぶやきをきき、コレットがにこやかにといってくる。
そんなコレットの言葉にうなづくロイド。
「いつか…かぁ。ほんとうにそんな日がくればいいんだけどな。
  いや、俺たちがしなくちゃいけないんだろうな。それは」
それはかつてミトス達がめざし、そして挫折している現実。
「時間はかかる、とおもいます。…そういえばエルフは長命なんですよね?」
ロイドの言葉にうつむきつつも、プレセアが同意とばかりにぽつりとつぶやき、
ふと思い出したかのようにジーニアスとリフィルをみつつも何やらいってくる。
「ええ。そうね。一般的にエルフの平均寿命は約千年、といわれているわ。
  基本、成人してから老化速度がゆっくりとなり、
  ふつうの人間からみればまったく成長しないようにみえるでしょうね。
  大体十年に一つ、歳をとる感覚でとらえれば間違いないわ」
それでもヒトにとっては十年とはとてつもない年月。
ゆえに、普通の人からしてみればエルフたちはまったく歳をとらないようにみえてしまう。
「エルフの血がより強いものはその特徴がとても強くあらわれるわ。
  …私たちもお母様の血が強いようだから、おそらくそれくらいはいきるでしょうね」
プレセアの疑問にジーニアスにかわりリフィルが答えを返してくる。
「千年って、気が遠くなるねぇ……」
そんなリフィルの台詞をきき、なぜかしいなが目を半目にさせながらそんなことをいってくるが。
「ハーフエルフも寿命が長いんですか?」
「エルフの血の濃さ、そして個人差にもよるけどもね」
プレセアの素朴なる疑問にリフィルが苦笑まじりにと答えを返す。
「そっか…じゃあ、あんたたちはあたしたちが死んでも生き続けなくちゃいけないんだね」
「その前に何かがあって命を落とすとも限らないわね。あくまでも一般だもの。
  病気になって命を落とすかもしれないし他にもいろいろと可能性はあるわ。
  あくまでも平均的には、というだけだもの」
「…心の中で生き続ける…か」
「?エミル?」
そんな彼らの会話をききつつふとエミルが誰にともなくつぶやきをもらす。
「あ。ううん。前にね。いわれたことがあるんだ。
   自分たちが死んでも覚えている限り、それは別れではないんだって」
それはディセンダーとして表にでていたころのこと。
「前?それって……」
そんなエミルにマルタが言いかけようとしたその刹那。
がさり。
ふと前方の茂みががさり、とゆれ、そこから幾匹かのウルフたちが現れる。
『魔物?!』
その姿をみて思わず身構えるロイド達。
「あ。問題ないよ。この子たちが奥まで案内してくれる子たちだから。
  ちなみに先導するのはあの子たちだよ」
いいつつも、すっと手を前にとのばし指をさす。
エミルが指をさしたその方向。
そこには小さな木の切り株らしきものがあり、そこに小さな丸い穴があいている。
そこからひょっこりとブッシュベイビーとよばれし生物が顔をのぞかせており、
その長い尻尾をゆらゆらと左右にと揺らしているのがみてとれる。
エミルがそういうと同時、数匹のウルフたちはその場にて伏せ状態となり、
まるでエミルの命令を待っているかのごとくに襲ってもこなければ身動きすらもしてこない。
「あれは、ブッシュベイビー?ですか?」
「野生のブッシュベイビーが人前に姿を現すなんて……」
その姿をみてプレセアが少しばかり首をかしげ、
リフィルは逆に驚いたように何やらそんなことをいってくる。
人に飼われているブッシュベイビーならばいざしらず、
野生のブッシュベイビーは警戒心がとてもつよく、めったに人前には姿を現さない。
「ここから先ははぐれないようにね?へたしたら森の出口にもどされるよ?」
困惑した表情を浮かべる全員をざっと見渡し苦笑したのち、すっとその手を横にとかざす。
エミルがすっと手を横に伸ばすとともに、
一斉にと立ち上がり、そのまますくっと整列するウルフたち。
「――・・・・・」
それとともにエミルの口からロイド達のは理解不能の何かが発せられる。
何かの旋律にも近いが、音律にも近いような不思議な”何か”。
世界に通じているものならば通用する言葉なのだが、当然この場の誰も理解ができない。
エミルがいったのは、たったの一言。
――予定通りに。
それはすでにこの地の魔物たちすべてに発していた命令。
その言葉通りに彼らウルフたちは姿を現してきたに過ぎない。
もっともなぜか案内役を担うにあたり、
魔物たちのちょっとした騒動があったりもしたのだが。
小回りのきくウルフたちをセンチュリオン達がおしたがゆえ、
その他の魔物たちはしぶしぶながらも引き下がったという経緯があったりする。
「さ。あの子たちが案内してくれるから、引き離されないようにいきましょ?」
困惑した表情をうかべるロイド達を改めてみたのちにっこりとほほ笑みかけるエミル。
「エミル、あなたは……」
そんなエミルにリフィルが何かいいかけるが。
しかしそのままその首を横にふる。
今はそれをいうべきではない、のだろう。
そう。
…エミルの正体がディセンダーなのだとしても。


森の中をみるかぎり、魔物たちが徘徊しているのがいやでも目につく。
しかしそんな魔物たちは相変わらずというか何というべきか。
襲ってくるでもなくどちらかといえばある程度距離を保った場所で立ち止まっては、
それぞれどうみても頭をさげてきているようにみえるのはロイドの気のせいか。
「この奥にクラトスさんがいる…んだよね」
そんな魔物たちをちらりとみたのち、少し伏し目がちにコレットがぽつりとつぶやく。
「ああ。…なあ皆。俺、少しは強くなったかな?」
「ロイドは強いよ!」
そんなロイドの台詞にすかさずコレットが断言するが。
「まあ、少しは強くなってるんじゃないの?少しは」
「あのなぁ…でも。クラトスは強い。
  今まで幾度か戦ったけどあいつは本気じゃなかった」
茶化すようにいうジーニアスに思わず抗議の声をあげようとし、
しかしそれを思いとどまり、首を横にふりつつぽつりとつぶやく。
「まあ、腐ってもあの天使様は古代対戦の英雄様の一人だしな。
  しっかしほんとあいつは俺様どうも気に入らねぇ」
「お兄様?」
そんな彼らの会話をきき、ゼロスが茶化すようにいい、
それでいて少し真剣な表情でそんなことをいいだすが。
そんな兄の様子をみて少し戸惑い気味にとといかけているセレス。
ちなみに、前を先導しているのはウルフたちであり、
そのあとをエミルがつづき、その背後にロイド達が続くように今現在森の中を進んでいたりする。
ひんやりとした独特の森の空気がそんな彼らの体にとまとわりついており、
それでいてどこか何かに包まれているような、不可思議な感覚に皆が皆陥っていたりする。
事実、今現在この地、トレントの森はマナにあふれており、
マナを感じることができないものでも多少、本能で感じることが可能となっている。
天使化しているゼロスやコレットは完全に感じることはできていないが、
それでもマナをまったく感じられなくなったジーニアスやリフィル。
かれらよりは格段にその違和感にと気づいているが、
体に悪影響があるものでもないというのも何となくだが理解でき、
ゆえにそのことは口にはしていない。
というか今現在の空気そのものがそれを口にするのをはばかっているというべきか。
「えっと…ごめん……」
自分が謝ることではないとわかっていても、何となく謝らずにはいれない。
そんなロイドの態度をみて盛大に溜息をつき、
「ロイドくんが謝ることはないっしょ。…でもま、しかたないか。実の親子だもんな。
  でもよ。てめぇの決着を息子に託すっていうのはどうも俺様は気にいらねえんだよな」
そう。
ゼロスからしてみればそれがずっと気に入らない。
ロイドを散々振り回しているその行動も何もかもが。
「後ろ向きというか責任感がねぇつ~か」
重要な選択を誰かにまかせる、というその思想が気に入らない。
自分が決定してもその後始末を他人だけでなく実の息子に押し付けようとするなんて。
「ゼロスにかかるとクラトスも形無しね。でもたしかにゼロスの言う通りね」
「先生まで……」
そんなゼロスの言葉に思うところがあるらしく、リフィルが盛大にうなづきをみせる。
「でもあなたがいろいろと不安に思うのは仕方ないとおもうわ。
  クラトスを殺さなければオリジンは解放されない。
  よしんば戦いを回避できてもオリジンは解放しなければならない。
  オリジンを解放すれはクラトスは死ぬかもしれない。堂々巡りですもの」
ユアンがいっていたことが成功するかどうかも怪しい。
というかユアンは本当にくるのか、間に合うのか。
それともユアンもすでにクラトスとともにいるのだろうか。
わからない。
わからないこそ、今いえるのは。
「あなたがクラトスと話をしたい。別の方法はないのかときいてみたい。
  そうおもっているであろうことは容易に予測がつくわ。
  でも、別の道がないことを想定して決心しなければいけないのもまた事実よ」
「先生……」
リフィルの言葉は正論で、だからこそロイドはうなだれずにはいられない。
「実の親子が命をかけあうなんて…むごすぎるよ」
「そう、ですわね……」
「うん……」
リフィルのいっていることが正論であることはしいな、セレス、マルタもわかっている。
でもしいなとしてはむごい、としかいいようがない。
というかそれしかいえない。
「あなたを迷わすつもりではないのよ。
  でもそれをきちんと心にとめておきなさい。ロイド。
  …ごめんなさいね。冷たい言い方しかできなくて」
リフィルも酷なことをいっているというのはわかっている。
けどそれをきちんと言葉にしなければ間違いなくロイドには伝わらない。
というかロイドにはやんわりとした言い方では間違いなく通用しない。
だからこそ、冷たいとおもわれようが真実を突きつけるしかない。
ロイドの覚悟を迷いのないものとするために。
「いや。先生はいつもわざと俺たちに厳しいことをいってくれてるんだ。
  それはわかってる。わかってるけど…」
「前にね。ママがいってたことがあるんだ。迷ったときの行動。それはね。
  今やらなければならないことを選ぶか。それともやりたいことを選ぶか。
  どっちにしてもその二択しかないんだって。だから自分が後悔しないようにしなさいって」
それはマルタがエミルについていくといいだしたとき、母親がいった台詞。
気休めでしかないのかもしれない。
本当にクラトスが死ぬしか精霊オリジンが解放されることはないのか。
こう話している間にもどんどん森の奥であろう場所にと今現在進んでいっている。
「ロイド。二兎追うものは一兎も得ずっていうよね」
そんなマルタに続くように、ジーニアスがロイドにとそんなことをいいだすが。
「?ニト?ニトってやつをおいかけようとして、イットってやつが燃えるってことか?」
『・・・・・・・・・・』
どこをどうやったらそうとらえられるのか。
得ず、というところが燃えるときこえたのか。
というかどうすればそこまでの聞き間違いがおこるのか。
そんなロイドのありえない聞き間違いをしたであろう言葉をきき、
思わずエミルも含め一瞬その場に静寂が訪れる。
エミルからは盛大にこれでもか、という溜息が漏れているのが前のほうから聞こえてくるが。
一瞬、足をとめて溜息をついている様子から、おもいっきりあきれているのが見てとれる。
エミルからしてみてもどこをどうすればそんな間違いを思いつくのか。
まったくもって理解不能。
「……は~…いっそ、ロイドって天才なんじゃないかとおもうよ……」
そんな何ともいえな空気を破りしは、あきれたように溜息をつきつつ、
何やら力なくがっくりとうなだれそんなことをつぶやくジーニアスの姿。
「そっか?俺って天才なのかな?」
『いや。ほめてない(から)』
えへへ、と照れたようにいうロイドの声をうけ、
異口同音でその場にいた全員…エミルを含め、思わず突っ込みの声が同時に重なる。
どこをどうすればほめているようにきこえるのか。
本当に意味がわからないというのがこの場にいる全員の総意。
「要するにあれもこれも欲張ると失敗するってことを意味した諺だよ。
  僕はロイドともミトスとも仲良くしたい。この気持ちはかわっていない。
  でもミトスは…僕はそのときどうするのか。どうすればいいのか。
  いまだに自分でもわかなんいんだ。たってミトスは僕の友達で仲間だもん」
「そうだね。一緒にいたあのミトスの様子はウソじゃなかったもんね」
自分たちとおなじものをみて、笑って、ときには呆れ…これはほとんどロイド限定だったが。
あのミトスの様子は嘘ではなかったとおもう。
ジーニアスの言葉にマルタも思うところがあるらしくそんなことをいいだすが。
「そう。だな。あいつは俺たちの仲間で友達だ。その気持ちは俺もかわってない。
  だから、ミトスもクラトスも、俺は皆を助けたい。そしてオリジンも。
  …コレットの時みたいに中途半端に皆まとめて救いたいなんて。
  今度は許されない、とわかっている。わかっていてもそう思わずにはいれないんだ」
「「「ロイド……」」」
ぎゅっと手をにぎりしめ、自分に言い聞かすようにいうロイドに対し、
ジーニアス、マルタ、しいなの声がかさなる。
「クラトスとはたぶん、本気で戦ってあいつにかたなきゃいけないんだとおもう。
  あいつは自分にけじめをつけたいんだ、とおもうから」
それでもクラトスを殺す決心はいまだにロイドの中ではついていない。
否、殺したくない、というのが本音。
「ロイド。大丈夫だよ。あのね。私、運がいいの」
『は?』
唐突に意味がわからないとを言い始めたコレットの言葉に、
エミルを除いた全員が思わず一瞬目を丸くする。
「あのね。私は必ず死ぬはずの神子だったのに、でもロイドのおかげでこうして生きているもの」
そう、死ぬはずだった。
救いの塔で。
そのようにいわれ育ってきた。
死ぬために生かされている神子なのだ、そうずっといわれていた。
自分が死ぬのを今か今かと皆がまっているようでいやだった。
それを口にすることはできなかったが。
「私は再生の神子として本当ならば救いの塔で死ぬはずだった。
  でもこうして皆のおかげでいきているでしょ?
  あのね。私はロイドや皆がかなしいとかなしくなるの。
  だからね。きっと私が悲しくならないためにもロイドは悲しい目にはあわないよ。
  だって私、運がいいから」
「これっとの運はどっちかといえば悪運だよね」
「…まったくだよ」
そんなコレットの言葉に思うところがあるらしく、苦笑まじりにジーニアスがいえば、
しいなもこれまでのこと…というか初めてであったときのことを思い出し、
思わず苦虫をつぶした表情を浮かべていたりする。
まあ運はいい、のだろう。
ヒトはそれを悪運、というのかもしれないが。
しかし運がいいからといって周囲が…ロイドが悲しい目はあわない。
そういいきるコレットの言い分もロイドにつづいてよく意味がわからないというのが本音。
「おまえ、楽天的だなぁ…けど、ありがとな。心配してくれて」
「えへへ。ごめんね。でもね。心からそうおもうんだよ?
  私は運がいいから、だからロイドは悲しい目にはあわないって。
  ロイドだけじゃない。皆もそんな目にはあわないって」
信じるというのは力になるんだ。
この旅でコレットはそのことを強く思い知った。
信じて行動すれば必ず道はひらけるのだ、と。
そうでない場合もあるのかもしれない。
けど信じたい。
ミトスのことにしてもそう。
かならずわかりあえる、コレットはそう信じたい。
否、信じている。
「ヒトは必ず何かを選択しないといけないときがあります。
  きっとロイドさんは今、そのときなんだとおもいます。
  ヒトは生まれながらの使命をもっている。そうかつてパパがいってました。
  それは大切な人を守ることだったり、ヒトによって様々です。
  何が使命なのか、何が正しいのか、それはたぶん誰にもわからないんだとおもいます。
  だからこそ、自分が正しいと思うことを最後に選ぶしかないんだ。
  そう私は思います」
アルタミラに残ったリーガルも自分のすべきことを考えた結果残ったのだろう。
彼にしかできないことをするために。
「ま、ロイドくんは悩むよな。そんなロイドくんにとっておきの呪文を教えてやろう」
『とっておきの呪文?』
「なるようになる、だ」
「…ゼロス。それ、ロイドの口癖だよね?」
ゼロスの言葉にあきれたようにジーニアスが突っ込みをいれるが。
「なるようになる…か。そう、だよな。俺、クラトスと戦おうとおもう。
  本気で戦ってあいつに勝たないといけないとおもうから」
そんな彼らの会話をきき、どこか決意がついたのか吹っ切れたようにいいきるロイド。
「ロイド。そうだね。
  ロイドはお父さまに…クラトスさんに自分を認めてほしいんだよね」
「な!?そんなことはいってないだろ!?」
にっこりといいきるコレットの言葉にロイドが思わずあわてるが。
「大丈夫だよ。ロイドの気持ち、きっとクラトスさんに通じるよ。
  だから大丈夫。私や皆もついてるもん!」
「…根拠のない自信はどこからくるんだよ…といいたいんだけど……」
「ま、コレットちゃんだしねぇ」
「なんかコレットがいうと本当にどうにかなりそうな気がするよ」


「…ここは異変とか関係なく感じます…ね」
この森には変化がないのか、それともこれでも変化があったのか。
それはプレセアにはわからない。
あるくたびにどことなくふわふわとした感覚を体に感じるが。
しかしそれ以上に一定の時間とともに体の中から何かが抜け出す感覚が否めない。
「マナは感じられないけど、この感覚には覚えがあるよ。
  何もしてないのに体の中から魔力がというか精神力が抜け出してるような……」
それこそ魔術を多様したときのように、体の中から力が抜け出していっている。
今現在、周囲のマナを感じられなくなったとしても、
体で覚えている身に付いた感覚というものはどうやら失ってはいないらしい。
「仕方ないわ。トレントの森はエルフの聖域。
  この地は入るものを選ぶ地ともいわれていて、文字通り。
  長時間いることができない森、として昔からあるといわれているもの」
まだリフィルがヘイムダールに住んでいたとき。
村人たちがそのようなことをいっていた。
「あたしとしてはそれより、相変わらず、というか…ねぇ」
「ま、エミル君がいるしなぁ」
そんな彼らの反応とはうらはらに、周囲をみて苦笑まじりにつぶやくしいなに、
首をすくめつつもさらりといいはなつゼロスの姿。
久しぶりにみるような気もするのでそんな二人の台詞に何ともいえない気持ちになるロイド達。
何しろ先ほどから魔物たちの姿がみえたとおもえば、
あからさまに立ち止まり、一行が…というよりはエミルが立ち去るまで、その場にて、
魔物によっては頭をうなだれ、動物型の魔物などはあからさまに大地に頭をこすりつけ。
もう何というかあるいみ魔物たちによる道という道が左右にわかれるように出来上がっていたりする。
ジーニアスとリフィルはといえば先ほどの族長の言葉が頭からはなれず、
周囲の魔物をみわたしては、前をあるくエミルをみて何かいいたそうにするが、
しかし頭を横にふり、なかなかきっかけがつかみ切れていないらしい。
「そういえば、エミルはどうしてここにいたの?」
そんな彼らとは対照的にきになっていたらしく、あいかわらずエミルにまとわりつくように
その横を歩くマルタがエミルの顔を除きこむようにして少し前にまわりこみ、
少し上目づかいにてエミルを見上げるようにと問いかける。
「ちょっと用事があったからね」
理を引き換えたり大樹を再生させたりと。
そこまで詳しく説明する気はエミルにはないが、用事があったのは紛れもない事実。
「お兄様…あれ、どうみても骸骨、にみえるのですけども……」
そんな魔物たちの一角。
ゼリー状のスライムもどき、紫色をしたそんなスライムの中に人の骸骨のようなもの。
その姿をみとめ、ぎゅっとゼロスの服の裾をつかむようにしているセレス。
「あれはマンイーターとかいうやつだな。たしか」
「マンイーター。スライムによって捕食されたヒトの魂が怨念となり、
  さまよっているスライムの一種といわれているわね」
怨念云々はともかく、かれらスライム達は捕食の過程でたしかに人も喰らうことがある。
「…二足歩行であるいてる人っぽい何かみたいなのもいるし……」
首から下までならばその姿かたちに異常はあるがヒトのそれとあまりかわりない。
全身がけむくじゃらでなければ、という注釈もつくが。
しかし、同じくかわった見たこともない魔物も存在している。
どうみても巨大カタツムリの殻、それからいそぎんちゃくのごとくとげのようなものがつきでている。
それらの魔物もその足をまげて、両手を大地につけるようにうなだれているのがみてとれるが。
「かたつむりさんのからをひきずってる魔物さんもいます。あれは何ですか?先生?」
「あれはカットラスね。あれはたしか自らが移動してあの口もどきで、
  対象とした食事を丸呑みにする、とたしか以前文献でよんだわ」
ちなみにかるく大人一人は丸呑みにできるらしい。
話でしかきいたことがないが以前、村に賊が押し入ったとき、
かの魔物たちがその族たちを丸呑みにして退けたという逸話が村にはのこっていた。
もっとも村で飼育していた動物なども
時折、森に迷い込んだものはそんな魔物の被害にあっていたらしいが。
ロイドのつぶやきにつづき、コレットがきになったらしくリフィルに魔物のことをといかける。
ちなみにカットラスといわれし魔物は獲物に襲い掛かるときは、
その全身にちかい上半身を殻の中よりひきのばし、一気に獲物に襲い掛かる。
殻の中にこもっているのでロイド達は気づかないであろうが、
ヒトの手にあたる触手もどきも四本、それらはもっていたりする。
「巨大な魔物の姿もちらほらとみえているがな」
木々の間に垣間見えるは巨大なる魔物たちの数々の姿。
キョニバラスプラントなどといわれているプラント系の魔物たちもまた、
こちらの動向というかエミルが目の前を立ち去るまでうなだれているらしき姿が目にとまる。
大きさ的には建物の二階部分くくらいはあるであろう巨大な魔物。
しかしそんな魔物たちよりもこの地に生えている木々のほうが遥かに高い。
そんな魔物たちとともに森の動物たちの姿もみてとれ、
そんな動物たちも足をとめて頭をさげている光景が目に見える範囲のいたるところにみてとれる。
「体が重くなってきたな、とおもったら精神力は回復していってね。
  でないと強制的に森の外に排出されるから」
きょろきょろと周囲がきになるらしく視線をさまよわせている彼らは、
失っていっている精神力を回復しようとすらしていない。
とりあず、いまだに周囲をまとわりつくようにしてエミルを見上げてきているマルタにと、
腰につけている鞄からグミをとりだしその手のうえにぽんと置く。
「エミル…ありがとう!ふふふ。エミルからのプレゼント…ふふふ……」
「…とりあえず、皆もね。もう少しあの場所にいくのにはかかるから」
魔物たちや動植物達の態度は仕方がないといえば仕方がない。
彼らは大樹が復活したことにより、すこしばかりいまだに興奮気味。
どちらにしろ、さきほどのブラムハルドの言葉をうけ、
ジーニアスとリフィルのみは完全にある確信をもったであろうことは明白。
ならばわざわざ魔物たちを解散させることもない。
そんなことをおもいつつも、ひとまずくるりと首のみを背後にむけ、
背後をついてきている一行にと改めて注意を促すエミル。
目指すオリジンの石版がありし場所は森の奥のほうにとあるとある一角。
この地、まだ入り口にあたりし森の最深部。
そこより先は今現在、一般のものの出入りを封じている。
よりマナを世界に安定させるべく。


~スキット:森を進んでいる最中。マルタにグミを渡したあと~

ロイド「う~…口の中がはりつくような、あまったるい~……」
リフィル「文句をいわないの。この森は精神力がつきたら、
      森の入口に強制的に戻されるのですからね」
あるきつつ、常に精神力が尽きないように、定期的にグミを食べているのだが。
たまに食べるのならばまだいいが、連続して食べるにあたり、
一番先に根を上げ始めるロイド。
ジーニアス「はじめは面白がってたのにね。やっぱりすぐにあきた……」
まさかものを食べるのにもすぐにあきるとは。
そんなロイドをみてジーニアスは呆れた声を出さざるをえない。
プレセア「精神力…一般にはTPとか略していわれている回復方法には、
      他には料理を食べたり、ハーブを食べたりするのがあげられますが……」
リフィル「料理はしている間にどんどんと精神力が奪われてしまうわ。
      かつてあったフードサックというものが…エミル、貴方は持ってるでしょうけど。
      あなたが出すのは禁止ね」
エミル「?何でですか?」
リフィル「あなたがもってるのはいつのものかわからないからよっ!」
ジーニアス「…そういや、以前も一年以上前のものだしてきたっけ……」
しかも、エルフの族長の言葉を信じるとするならば…いや間違いなくそうなのだろう。
はっきりいっていつの時代のものかもかなり怪しい。
怪しすぎる。
ちなみにリフィルの懸念はかなり正しい。
何しろほとんどの品がこの世界に降り立つよりも前、
彗星で移動していたころや、もしくはいまだ惑星であったデリスカーラーンの時代。
その時代のものがエミルの荷物袋…フードサックの中には山とはいっている。
ついでにこれは古いというのか新しいというべきなのか。
…年月からしてみれば古いといわざるをえないのだろうが。
エミルが過去にさかのぼる前、かつてマルタ達とともに旅をしていたころにつくった品。
そんな品々も実は中にはいっていたりする。
それこそ年単位、どころではない。
確実に万年以上たっている。
もっともそんなことをリフィル達が知るはずもないが。
コレット「グミの食感、私はスキだけどな~」
ロイド「限度ってものがあるだろ。絶対に……う~、口の中がはりつく、水、水……」
ジーニアス「ロイド…今、水も貴重なんだからね?
       魔術が使えない今、魔術で水を出すのができないんだから……」
ロイド「お!小さな滝発見!のめるかな?」
リフィル「こら!ロイド!いきなり生の水をのむんじゃあありません!」
ロイド「くぅ!いきかえる!この水、なんだかあまいぞ?
     あのユミルの森とかの湖の水よりも」
コレット「ほんとう?あ、おいしい!あれ?ロイド、滝の後ろに何かあるよ?宝箱…?」
ロイド「お、ほんとだ!何でこんなとこに?あけてみようぜ!」
リフィル「こら!だからまちな…」
宝箱に擬態する魔物もいるのである。
マナが感じられない今、魔物かどうかリフィルにも判断がつかない。
しかしリフィルが止めるよりも先に、さっさと滝の裏に移動し宝箱をあけているロイド達。
ロイド「お。なんか武器がはいってるぞ!?」
コレット「うわ~。チャクラムがはいってる」
ロイド「なんか星型っぽいな。これ、せっかくだしもらっとけよ」
コレット「うん!」
ジーニアス「…何でこんなところにコレット専用ともいえる武器があるのさ……」
リフィル「そういえば、昔きいたことがあるわ。
      エルフの聖域であるトレントの森は、
      立ち入ったものにある程度ふさわしい武器が手にはいるとか何とか…」
エミル「本来ここは、精神力を鍛える修行場のようなものでしたからね」
というかそのように創造った。
ここの武器、防具、宝箱にある品々は立ち入ったもののマナを感じ取り、
そのものの力量にふさわしき武具防具、そして品々などが直接宝箱の中に生成される。
そのようにこの森には理を創造ったときにひいている。
ロイド「ってことは、探せば他の何かもあるってことか、よし、さがそうぜ!」
コレット「たのしそう!!」
リフィル「待ちなさい!そんな時間があるとおもって!?」
ジーニアス「・・・姉さん、もう遅いよ。二人とも走ってっちゃった……」
プレセア「ロイドさん、クラトスさんと戦う前に気晴らしでしょうか……」
ゼロス「いやぁ。プレセアちゃん。あのロイドくんは今現在。
     たぶん頭の中からきれいにあの天使様のことは忘れてるとおもうぞ?」
しいな「あ~…たしかにあの子はいくつものことを同時に考えること苦手っぽいしね…」
ロイド「お!あそこ宝箱発見!いくぞ!コレット!」
コレット「あ、まって~!ロイド!って、うわぁ。きれいな黄金なドラゴンさん~」
ロイド「すげぇ!ドラゴンだ!」
一同『・・・・・・・・・・・』
エミル「…今、ここにいる子たち、襲い掛からないからいいけどさ。
     普通ならロイド、とっくに殺されてててもおかしくない行動してるよね……」
ジーニアス「否定できない…というか、やっぱり魔物たち、襲い掛からないんだ……」
リフィル「頭がいたいわ……」

こののち、しばらくロイドがあきるまで宝箱の探索がつづいたという……

戦利品一覧:
エンジェルティア(二刀:ロイド武器)/不動(しいな武器)
クリスナイフ(短剣:ゼロス武器)/スターダストリング(チャクラム:コレット武器)

※ ※ ※ ※


森全体はそこそこの広さをもっており、森の中にも小高い丘のようなものもあり、
ところどころ湧き水とともに川が発生し、場所によっては大小様々な滝の姿すらみてとれる。
本来、このトレントの森をすすんでゆくにあたり蝶、もしくはブッシュベイビー。
森の動物たちを目安にすすまなければ、幾度も同じ道をぐるぐるとめぐることとなる。
すすんでゆくことしばし。
やがて森の雰囲気が一変しはじめる。
ふわふわと周囲に漂いし大小様々な光の球体。
歩くたびにふわふわと体にまとわりつくその光は
ロイド達には視えていないがあからさまに意思をもっているかのごとく。
実際にその光は微精霊達の姿そのものであり、当然のことながら意思をもっていたりする。
本来ならばこの付近は太陽の光がところどころ差し込む付近であるはずなのだが。
空にかかっている彗星の影響で今はこの森には太陽の光が届いていない。
やがてその光が視界全体を覆いつくさんとばかりに増えてゆくにつれ、
目的地が近いことをうかがわせてくる。
だんだんとふわふわと浮かんでいる微精霊達の姿がふえてゆくにつれ、
魔物たちの数もまた多くなっているのがみてとれる。
歩いていくことしばし。
そのけものみちの先にあろう場所から何ものかの声らしき会話がきこえてきて、
思わずそちらを凝視するゼロスと、そしてロイドと道の奥のほうを交互にみつめるコレット。
この道の先に目指す【オリジンの石版】といわれているものがあり、
声はそこから。
もっともいまだに距離があるゆえに、その声はゼロスとコレット、そしてエミルにしかきこえていない。
プレセアは何かヒトの声っぽいようなものがきこえているようなきもしなくもないが、
それが本当にヒトの声かどうか判断をつきかねねている。


「お前も本当に不器用だな」
目の前にてその近くにある岩によりかかっている人物にあきれた声をなげかける。
なげかけざるを得ないというべきか。
「われらは長く生きすぎた。違うか?お前もあの声をきいただろう?
  今、行動しなければ、地上は、世界は……」
エミルを含んだ一行が近づいているそんな中。
森の中のとある一角。
少し開けた場所にてそんな会話をしている人影二つ。
「お前は言い出したらきかないからな。いや、ミトスがお前に似たのか?
  師弟そろって、まったく…まあ私も何かをいえる立場ではないがな。
  あのとき、お前が封印のかなめになるといったあのとき。
  わたしは反対をしなかったのだから」
一度は反対したがクラトスの決意をうけ、それを受け入れた。
そんな自分が何をいっても仕方がない、という思いがどうしてもある。
「お前のいいたいこともわかる。結局、ロイドと戦いたいとおもうのは
  私の感傷にすぎないのだ、というのもわかっている。
  だが、私は、ロイドが私を超えることで未来が過去にかつ。そう信じたいのだ」
その瞳に迷いはない。
おそらくいっても無駄なのだろう。
それに。
「…私としてはお前がオリジンを解放してくれればそれでいい。
  お前がロイドにまけて死にオリジンを解放したとしても。自分からしたとしても。
  もっともあのオリジンが封印を解除されたからといって手助けを再びしてくれるか。
  それはわからぬがな」
問答無用で封印してしまったのは自分たち。
まちがいなく彼は自分たちを見限っているだろう。
かつて、クラトスがオリジンを解放しても自分たちには二度と手をかさないのでは。
そういっていた。
センチュリオンが目覚めている今、精霊ラタトスクも確実に目覚めている。
そしてあのエミルの存在。
「このままでは、大樹と彗星のマナが引き合い、地上は消滅してしまいかねない。
  あのとき、最後の精霊との封印を止めにいったのもその可能性がはじき出されたのもあるしな」
デリス・カーラーンのコアシステムはとある予測も打ち出していた。
たしかに種子は発芽するかもしれない。
しかし発芽した大樹は同じマナたる彗星と引き合い、
空にとどめ置かれているはずの彗星は地上に落下してきかねない、と。
その確立、九十%以上。
はっきりいって洒落にならない数値であった。
そして今の現状。
あきらかに、気のせいではなく彗星はゆっくりとだがどんどん上空から下がってきているような。
あまりに巨大すぎて理解できないが。
しかし日に日にまちがいなく彗星の影響であろう大気、そして地上の異変はおこっている。
そしてそれはだんだんとひどくなっている。
この森はさほど顕著ではないが、他の場所など木々がなぎ倒されるほどの風が吹き荒れている。
実際、エルフの里から入ってきたのではなく、湖のほうから飛んではいってきたユアン。
彼はその光景を目の当たりしているという。
「私は、かつて勇者と呼ばれたミトスの仲間として。
  そして彼の師匠として、そしてロイドの父親として。恥じない戦いをするつもりだ。
  私には何どもミトスを自らいさめ、或は討つ機会があった
  それをやらなかったのは私の怠慢だ。あの子が死んだものとおもい探さなかったのも。
  すべては私の責任……」
あのとき。
アンナを探しがけの下におりたとき大量の血痕と、片方だけのこされていた靴。
そこに死体がなかったというのに、ロイドもしんでしまった。
アンナに食い殺された、そうおもってしまった当時の自分。
それをクラトスはロイドのことに気づいたあと、ずっと日々後悔していた。
あのとき、もっと周囲を探すべきだったのではないか、と。
そしてエミルにもいわれていたのに結局選ぶことができなかった。
ミトスとロイド。
そして選ぶことができない、というのはそれは今でもかわらない。
「だからといって、実の息子に押し付けるのはあまりいいとはいえないぞ?」
「わかっている…」
「…どうやらきたよう、だな」
そんな会話をしている二人の耳に、待ち人の声が届き思わず顔をみあわせる。
「わたしは見守らせてもらおう。お前の決意を、な」
「…すまぬな。あとを…頼む」
どちらにしろ、オリジンを解放すれば自分の命はない。
あとを託せるのはもう、ユアンしかのこっていないのだからして。


「……きたか」
そこは開けた空間。
ぽっかりと開けた空間のその先に似つかわしくない石版がひとつ。
ひっそりと置かれているのがみてとれる。
木々に囲まれているが、まったく視界を遮るものもない開けた空間。
石版以外には少し大き目の岩がその横にとあり、
そんな石版の後ろには木々が生い茂っている。
そこからさらにこの森の奥にいく道が実際にはあるのだが。
今はその道はエミルの、否、ラタトスクの意思によって閉ざされている。
その岩にもたれかかるようにしている二人の人影。
そのうちの一人をみて、思わず目を見開くロイド。
一方で彼らもロイド達にきづいたらしく、
否、正確にいえばロイド達とともにいるエミルの姿をみて一時固まっていたりする。
なぜ彼が、という思いがクラトスとユアンの脳裏によぎるが。
そんな彼らの思いに気づいているのかいないのか。
「ユアン。あなたは先にきていたのね」
「ああ。村には入れぬからな。別の湖の方向からはいらせてもらった」
空を伝い、湖を歩くようにしてこの森へと立ち入った。
そんな青い髪をもつ人影…いうまでもなくユアンの姿をみとめ、
リフィルが納得したようにそんなことをいっているが、
そんなリフィルの言葉をうけ、さらりと何でもないかのようにとこたえているユアン。
ロイドとしてはユアンがすでにこの場にいたことは驚くことではあるが。
それ以上にクラトスの姿を改めてみとめ、何ともいえない思いにととらわれる。
「…クラトス…どうしても戦う、のか?」
それは最終確認。
戦わなければならない。
それはわかっている。
でも、わかっていても心のどこかで納得していない自分自身。
そんな自分の心に戸惑いをみせつつも、目の前にいるクラトスむかって言い放つ。
そんなロイドの心の葛藤に気づいたのか、
「今さら何をいう。……オリジンとの契約がほしければ私を倒すがいい。
  あれをどうにかするには、まぎれもなくオリジンの協力が必要だ」
あれ、といってクラトスが示した視線の先には、
森の遥か先にとみえている救いの塔と、そんな塔を覆い尽くす異形の大樹。
いや、大樹もどき、とでもいうべきか。
クラトス達はしらないが、真なる大樹はすでにこの森の奥深くに再生されている。
「…それが、あんたの答え…あんたの生き方、なんだな」
そんなクラトスの言葉をきき、しばし目を一時閉じたのち、
「皆、ここは俺にまかせてくれ。
  クラトスが過去に決別しようとするなら、それに引導を渡すのは息子である俺の役目だとおもうから。
  誰かの手をかりるというのは間違ってるとおもうんだ。
  わがままいってごめん。だけど……」
だけどここで皆の手をかりればロイドはきっと後悔する。
その自信がある。
クラトスに勝てるかどうかもわからない。
けど、クラトスの決意をその他大勢という立場で踏みにじりたくはない。
「ふっ。ひとりで大丈夫なのか?」
そんなロイドの言葉をうけ、クラトスが思わずかるい笑みをその場にうかべるが。
その笑みには少なからず、クラトス自身の自嘲にも近い思いが含まれている。
エミルがこの場にいる、ということはそう、なのだろう。
世界の異変。
そして心の精霊ヴェリウスによるすべてのいきとしいけるものへの宣言。
「クラトスさんって不器用ですよね。
  ま、僕としてはオリジンさえ解放してくれればどうでもいいんですけど」
そんなクラトスに対し、さらり、と何でもないように言い放つ。
「エミル……」
そんなエミルに思わず何ともいえない視線をしいなはむけるが。
しかしエミルの言いたいことも一理あるわけで。
「あんたも相変わらず人嫌いは治ってないねぇ。
  とにかくさ。クラトスあんた、覚悟しなよ。ロイドは案外つよいよ。
  あんたと旅をしていたとき…シルヴァラント側にいたころとは違う。
  あきらかにここが強くなってるからね」
エミルにちらりと視線をむけ少しばかり溜息をついたのち、
ひとまずこの場にて待ち構えていたであろうクラトスにと高らかに宣言するしいな。
ちなみに、ここ、といいつつしいな自身の胸をとんっとかるく自らの指でたたいていたりする。
「エミルく~ん。それをいったら身もふたもないっしょ。
  てもま、いいんじゃねえの?ロイド君ひとりでたちむかっても。
  ロイドくんは暑苦しくておまけにしつこくて単純で始末におえない」
「…おい」
何やらいきなり自分のことをどうみても乏し始めたゼロスの台詞に対し、
思わずロイドが抗議の声を上げようとするが、
「あんたが四千年分の後悔を息子で戦うことで癒そうとしている自己満足男だ。
  っていうのはこのロイド君もよくわかっているだろうによ。
  なのにそんなあんたにこいつはつきあってやろうとしてる。なかせるねぇ」
やれやれとばかり、ゼロスがその両手を大げさにひろげロイドの言葉を遮り言い放つ。
「そうね。自己満足男というのは私も同意だわ。
  とにかく、あなたはこれから目の当たりにするでしょう。
  自分の息子が自分をこえて成長するさまを、ね」
「ロイドをなめないでよね!ロイドは逃げなかった。あきらめなかった。
  それだけでもあなたには勝っている。僕はロイドを信じてる。
  逃げていたあなたとは違うって。ロイドは必ず勝つって」
リフィルの言葉にジーニアスも目の前にいるクラトスに向かって言い放つ。
でもロイドに実の父親を殺させたくない、とおもうのもまたジーニアスの本音。
「ロイドはまけません。クラトスさんやくるしすが犠牲にしてきたもの。
  そのすべてのものをきっとロイドは背負っているとおもうから。
  クラトスさんだって、本当はロイドに救われたいから。
  自分を倒せなんていうんでしょう?」
コレットからしてみても、クラトスをロイドが殺すというのは避けさせたい。
いくらそれをクラトス自身が望んでいたとしても。
まだ完全に敵と思い込んでいたままで相手を殺すのと、
中途半場に、しかも実の肉親だ、とわかった相手を殺すのは、殺してくれと頼まれるのは。
実の息子てあるクラトスにその役目をにおわせようとしているとが、
コレットとしては許せないことの一つであるが。
しかしロイドが決意しように見えるいま、コレットもロイドを信じている。
そんなとしか口にはてきない。
「どっちも死なないでください……」
コレットにつづき、改めてプレセアまでもがクラトスに対し何ならそんなことを言い出すが。
「まあ。いい。本気でこい。そうでなければ…死ぬぞ」
いいつつ、もたれかかっていた岩から一歩前にとすすみでて、
すらりとその腰の剣を抜き放つ。
クラトスが抜き放ちしはその刃の刀身をあかあかと炎のごとくに赤く照らし出された剣。
対して、そんなクラトスの態度にロイドもまた覚悟を決めたらしく、
すらりとその腰の剣を抜き放つ。
それはダイクより手わたされていた氷の剣と、そしてここにくるまで、
なぜか途中、滝の背後にあった宝箱の中にはいっていた一振りの剣。
二つの刀身を抜き放ち、そのままぴたり、とかまえをとるロイドの姿。
「エミル。とめてくれるよな」
「とめないよ。というか止めてきかないでしょ。絶対に」
すでにテネブラエには待機させてある。
ミトスがどう対応してくるかによって、クラトスに施す処置も決まってくる。


「いくぞ、クラトス!」
「本気を出させてもらうぞ。ロイドよ」
「ああ。俺も本気であんたと戦う」
二人の背後では向き合ったクラトスとロイド。
彼らを見守るようにして皆がそんな二人を見守っている。
いつのまにかエミルのみがユアンの横。
すなわち石版の横のほうに歩いていっており、
そんなエミルにあわててマルタもまたそんなエミルの横にまとわりついている様子がみてとれるが。
ぴたりと構えをとり、抜き放った二つの剣を構えるロイド。
ダイク達から渡された氷の剣と、つい先ほど手に入れたばかりの剣。
それはあきらかにつりあっていない。
でもこれまでもっていた剣よりは遥かにましともいえるその剣。
ならば対となっている剣をつかえばいいのではとおもうのだが。
クラトスと戦うにあたり、ダイクからもらった武器。
それがふさわしいとおもって、あえて対となる剣をかえているロイドであるが。
「いくぞ!虎牙連斬こがれんざん!」
クラトスに小技は通用しない。
ならばここは一気に間合いをつめるしかない。
クラトスには魔術もある。
詠唱をされればこちらが不利。
クラトスにむけて大きく息をすいこんだのち、間合いを一気につめ
その手にもった二ふりの剣をおおきくふりかぶる。
この技は相手を切り上げてそしてそのままさらに相手を斬りつけて降ろす剣技なれど、
「あまい!剛魔神剣ごう・まじんけん!」
そんま間合いをつめて大きく剣を振りかぶったロイドにむけ、
クラトスから繰り出された衝撃派がのままロイドにむかって直撃する。
そして、その衝撃波を耐えるようにロイドが剣を身構えるとほぼ同時。
だっと間合いをつめたクラトスもまた大きくロイドにむけて剣をふりかぶる。
キィィン。
ロイドの交差した剣がクラトスから振り下ろされた一撃を何とかくいとめる。
クラトスの一撃はとてもおもく、受け止めたロイドの手がびりびりとしびれてくるが。
「くっ。獅吼旋破しこうせんぱ!!」
とにかく体制を整えないと。
そうおもい、どうにか間合いを取ろうとロイドもまた技を繰り出す。
それは回転ぎりから獅子戦吼といわれし技を紡ぎだす技。
クラトスのうけた一撃から間合いをとるためにあえて回転する技を選択し、
クラトスの剣を振り切ったのち、ロイドも相手を吹き飛ばす技を紡ぎだす。
魔神剣まじんけん!」
ロイドの放った獅子の形をした衝撃波と、クラトスの放った衝撃派がものの見事に激突し、
周囲にごうっとしたちょっとした風を巻き起こす。
そのまま間合いをおかず、
岩砕剣がんさいけん!」
だんっと足元に突き立てたクラトスの剣の周囲。
そこからいくつもの岩片がロイドにむかってつきすすむ。
前方に飛んでゆく岩は当然ロイドの背後にいるゼロス達のほうにもむかっていくが。
しかしそれらの攻撃はみえない壁のようなものに遮られたのかのごとく、
ある一定の距離にまでくると、何かに遮られたかのごとく、
ぼとぼととそんな彼らの目の前で地面にとおちてゆく。
くそ。
このままじゃ、きりがない。
この技はロイドもつかえる。
前方においての攻撃で相手をひるますにはうってつけともいえるこの技。
だけど、方法がないわけじゃあ…ないっ!
飛天翔駆ひてんしょうく!」
そんな岩の攻撃から逃れる方法。
それはその間合いから離れてしまえばよい。
言葉とともに思いっきりたかく飛び上がり、そのままくるくると回転しつつ、
クラトスの頭上を飛び越えるかのように背後にと回り込むロイド。
「あまい!雷神剣!」
「秋沙雨…驟雨双破斬しゅううそうはざん!!」
クラトスの技をくりださせまいとばかり、連続した剣の付をくりだしつつ、
それでいてそのまま虎牙連斬の技をも併せ持った技を用いるロイド。

キィィッン!

先ほどよりも高らかな音がその場にとひびきわたってゆく――



「つよく…なったな……」
がくり、とその場にひざをつく。
それはほんの一瞬の隙であったのか、
それともロイドに一撃を加えようとしたクラトスの手が一瞬迷いをみせたがためか。
その隙をロイドは逃さず、そのままクラトスにと一撃を叩き込んだ。
クラトスに届いた一撃は確実にクラトスのその体をとらえたらしく、
がくり、とひざをその場についたクラトスの体からぽたりぽたりと血が流れ出す。
「あ、父さ…クラトス」
それでもロイドもこのまま斬りつければ父の命を奪ってしまう。
それがわかっていたがゆえか無意識のうちに手加減しており、
その一撃はさほど深くはない。
深くはないがクラトスに傷を負わせたという事実は間違いようがない事実。
ごぷり、とクラトスの口から盛大に血が噴き出す。
ロイドが手加減していたとはいえ
予測以上にロイドの一撃はクラトスの身を削っていたらしく、
クラトスもそんなロイドの一撃に戸惑いつつ、それでいて歓喜せずにはいられない。
先ほどのリフィルのいうように。
いつのまにかロイドは自分を追い越す剣技を身に着けていたのだとおもうと、
それが誇らしくもあり、またさみしくもある。
「…あんたのおかげだ。あんたがいろいろと俺に教えてくれたから。
  救いの旅の途中、あんたは俺にずっと剣のけいこをつけてくれてたから」
自己流であったロイドの技を完全に近づけたのはクラトスとの稽古があったから。
もっとも一番の原因はやはりあの禁書の中でひたすらに戦闘を重ねたことよるものだとしても。
それでもロイドからしてみれば、クラトスは剣の師匠である。
その認識はかわらない。
「トドメを…ささないのか?」
このままロイドにとどめをさされても本望だ。
そうおもっていたクラトスの目の前で、ロイドは無言でその剣を鞘にと納める。
そしてそんなクラトスの言葉に首をふるふると横にふり、
「俺は俺たちを裏切っていた天使クラトスを倒した。
  そして俺たちを助けてくれた古代対戦の勇者クラトスを許す。――それだけだ」
二度としたくないとおもっていても、また大切な人をこの手で傷つけた。
クラトスの体から湧き出している血はまぎれもなく自分が今つけてしまった傷。
あのときのゼロスとは違う、本当の…傷。
下手をすればいまの一撃で本当にクラトスを殺してしまっていたのかもしれない。
そう思うとロイドは自分が怖くなってしまう。
二度と大切な人を傷つけたくない、とおもっていたのに。
結局何かに集中すると、そんな思いも決意もなかったかのように、また同じことを。
クラトスは本気でくるといっていたが、あきらかに手加減してきていた、とおもう。
術の一つもつかってこなかったのが何よりの証拠。
もしかしたらクラトスもジーニアスたちと同じく術が今つかえないのかもしれないが。
そうおもってもどうしても手加減されていたとしかロイドにはおもえない。
あのクラトスが敵を前にして…隙をみせるなんてありえない。
そうおもうからこそ。
そして目の前で血をながし、がくりとひざをついているクラトスをみみれば
その考えは間違っていなかったように思えてしまう。
あきらかにクラトスは…死のうとしていた。
ほかならぬ自分の手で。
そのことが…果てしなく怖い。
自分が実の父親をクラトスを殺してしまっていたかもしれない。
あのときの後悔を今度はクラトスで感じることになるところであった。
あのときはゼロスの演技だったらしくゼロスは無事だったが。
今度はまぎれもなくそうはいかなかったであろう。

「ほんっと、ロイドくんはとことんお人よしだねぇ。
  どうよ。あんたの息子に敗れた感想は。ほとほとお人よしだろ?」
これが解決策ではないとわかっていても、ロイドはクラトスを殺すことはしなかった。
あるいみで自分の手を汚さずに後回しにしたともいえるその行動は、
お人よしともいえるし、あるいみで残酷ともいえるその決定。
「…ふ。私ではこのように育てられなかっただろうな」
二人の決着がついたのをみてゼロスがそんなクラトスに投げかけるようにいえば、
ふっと笑みをもらし、よろりとその場からたちあがるクラトスの姿。
ロイドの一撃は予測以上に深かったようで、
クラトス自身の超回復のハイエクスフィアの性能をもってしても傷はなかなかふさがらない。
否、ふさごうとしていない、というほうが正解か。
「だろうねぇ」
「何だよ。俺の育ち方が悪いとでもいいたいのか?」
そんな二人の会話をきき、おもわずむっとした声をあげるロイドに、
「先生、クラトスさんの回復を……」
「え、ええ」
コレットに促されるように、その手にぎゅっとユニコーンホーンを手にしたのち、
一歩前にとすすみでるリフィルの姿。
リフィルがクラトスのほうに歩み寄ろうとするが、
そんなリフィルを制するように、片手を前にとつきだし、
そのままいまだに傷がふさがり切っていない体にて、
エミルが横にといる石版の前にと歩み寄る。
「私のけじめは私自身の手で」
ちらり、とエミルをみつつもそうつぶやいたのち。
そのままその手を石版にとむけて目をつむる。
それとともにクラトスの背から輝くマナの翼が展開される。
クラトスが何をしようとしているのか。
傍目にもあきらか。
そんなクラトスにエミルは何もいわない。
目をずっとつむったのみで何をおもっているのかクラトスのは判断ができない。
エミルとしてはついにあれを切り離すか。
その思考をとある方向にむけており、今はクラトスのことを気にかけてもいないがゆえ
そんなクラトスの言葉に何の反応も示していないだけ、なのだが。
「まてよ!まさかクラトス、封印をこのまま解放する気か!?それじゃあ、あんたがっ!!」
あんな状態で封印を解放…体内のマナを照射したとするならば。
さすがのロイドとて理解できる。
理解せざるをえない。
確実にクラトスは…死ぬ。
それこそ問答無用で。
「それが望みだろう」
いって、クラトスがそのまま目をつむり精神を集中させはじめたその刹那。
ゴ…ゴゴゴゴ……
突如として激しい地響きが周囲にと鳴り響く。
それとともにたっているのもままならないほどの巨大な揺れがロイド達を含めたこの場の全員。
そんな彼らにと襲い掛かる。
「みて!あれを!!」
はっと気づいたようにコレットが指差したその視線の先。
そこには天を貫くほどの救いの塔と、そんな塔を覆わんとする歪なる大樹。
大樹に取り込まれかけていた救いの塔があきらかに発光しているのがみてとれる。
至るところにて獣の遠吠え、そして飛び立つ鳥の羽音が響き渡る。
それは遠目からみてもあきらかにわかる救いの塔の変化。

ビシッ。

いくつもの光とともに亀裂が救いの塔を構成している物質にとはいるとともに、
そこからまぶしいばかりの金色にも近しい光があふれでる。
その光は周囲を取り囲んでいる大樹もどきをより鮮明にと薄暗闇の中にと浮かび上がらせる。
それとともに離れていても聞こえてきそうなほどの轟音が周囲にと響き渡る。
光は一気に塔の下部方向から瞬く間に上に、上にとあがってゆく。
その光景は離れていても救いの塔がおがめる位置にいるものには誰の目にもあきらかで。
何がおこっているのか理解できない人々のそんな視線をうけつつも、
大地の揺れはとどまることを知らず、そして次の瞬間。
まばゆいばかりの閃光が救いの塔全体を包み込む。
それと同時、遥かなる上空より壊れた救いの塔を構成していたがれき。
それらが一気に地上にむけて降り注ぐ。
このままそのがれきの数々は燃え尽きることもなく、
そのまま地上に落下し被害をもたらすのか、とおもわれたその刹那。
救いの塔を覆っていた歪なる樹の枝がそんながれきの数々を、いともたやすくとらえてゆく。
否、よくよくみればそれは大樹の枝ではなく別なる何か。
いくつもの巨大なる植物の魔物のような何かの姿なのだ、
とその様子を認識できるものがいたならばわかったであろう。
が、遠目からみる人々の目には、救いの塔を覆っていた歪なるおおきな木らしきもの。
謎の声は大樹とよんでいたそれらの枝が救いの塔のがれきらしきもの。
それをうけとめているようにしかうつらない。
というかそのようにしかみえはしない。
そもそも救いの塔が壊れている、ということ自体が人々にとっては理解不能。
またそれは人々の心に恐怖を抱かせるには十分すぎる出来事。
救いの塔とは救いの象徴。
それが壊れる、ということは、すなわち……


「な、何だ、あれ!?」
「終末だ…ついに世界に終末が訪れるんだ!」
「落ち着け!落ち着くのだ!!」
アルタミラにて、そしてパルマコスタにて、また様々な村や町などで。
パニックに陥りかける人々と、そんな人々を何とかおちつかけようとする人々。
そんな光景が世界の各所で今現在見受けられていたりするのだが。
それを理解しているのはこの場においてはエミルのみ。


「みて!あれ!!」
救いの塔が壊れる。
その異常事態に唖然とした視線をむけていたマルタであるが、
はっとしたように空をふりあおぐ。
バチバチとした音とともにいくつもの稲妻が地上から空にむけてのびてゆく。
遠目からしてもその光景は異常、としかいいようがない。
ここトレントの森からはそのようなものは発生してないようではあるが、
視線の先にみえているそのさまはまぎれもなく異常を示している。

本来ならば救いの塔が壊れたそのとき、
そのがれきはその高度もあいまって地上にむけて隕石のごとくにふりそそぐはず、であった。
かつてのときはそのようにして地上に多大なる被害をもらたしていた。
しかし今はすべてのがれきは魔物たちによって確実に捕捉され、
地上にそれらのがれきは降り注ぐ気配はない。
が、その代りというべきか。
空全体を覆ってた彗星がこれまで以上にまばゆいばかりにと輝きだす。
そして次の瞬間。
救いの塔が壊れてゆくのとほとんど同時。
まるで彗星からいくつもの光の筋が地上めがけて降り注がれる。
――ミトスが行いしは彗星と地上との接続の解除。
あまりに接近していた彗星は本来ならばこのまま地上にと衝突するところなのだが、
そこはラタトスクが干渉していることもあり、彗星は本来の軌道上にもどるのみ。
ゆっくりとではあるが地上にむけて近づいていた彗星は、
接続が解除されたことにより、再びゆっくりと上空にとのぼってゆく。
そしてそれは、地上との関わりが断ち切られたことを意味しており、
そもそもかの地への立ち入りを許可していたのは加護を与えていた数名のみ。
あのような人数の立ち入りをラタトスクは許可していたわけではない。
あのまま彗星とともに彼らをこの地よりたちさられてもロクなことにはならない。
それはかつての経験にてラタトスクは嫌というほどに理解している。
そもそも再びあの魔科学を発展させたあの地の彼は、
かの彗星からの移住者の子孫であったこともそれに拍車をかけている。
ディオスとメルティア。
あの二人はかの地からの移住者の末裔であった。
そもそもなぜに姉であるメルティアが死亡したからといって、
あの地で魔導砲を使用したのか、本当にこれだからヒトは、とラタトスクは思わずにはいられない。
大切な人が目の前で命を落としたとき、ヒトはたやすく他者をまきこみ、
また星というか世界すら巻き込んで死に至らしめる。
かつてラタトスクがアステルというひとりの人を殺した結果、
リヒターが魔族と取引し自らのコアを壊し世界を瘴気に覆われた世界にしようとしたように。


「まさか…ミトスのやつがデリス・カーラーンへの道をふさいだのか?!
  なぜ……は。そうか。たしかクラトスはコアシステムがはじきだた答えの中に。
  互いのマナが引き合って互いに消滅する可能性が高いとも先ほどいっていたな。
  だとすれば…これはマーテルと融合しかかっている大樹を救うためか!?」
すでに大いなる実りは歪なる形とはいえ目覚めてしまっている。
彗星のマナと大樹のマナがひきあえば、対消滅をおこしてしまいかねない。
そして大樹が発芽している限り、その可能性は避けきれない。
ゆえに、ミトスは大樹の中に取り込まれているマーテルを救うため、
あえて救いの塔にてつなぎとめていた【彗星ネオ・デリス・カーラーン】を解放したのだろう。
その結果、救いの塔があのように壊れているというならば理解できる。
ということは。
「…ミトスがエターナルソードを使った、ということかっ」
本来ならば救いの塔に設置されているはずの剣。
しかし今の救いの塔にいくら彗星からとはいえ近づけるとはおもえない。
というかおそらく転移陣もきちんと起動しないのではないのだろうか。
その光景をみて、はっと我にともどったように自分の考えを誰にともつぶやくユアン。
クラトスもいきなりのことで、マナを解放する手がとまってしまっている。
「みて!いくつもの光が地上に降り注ぐよ!?」
はっとしたようにマルタがそらをふりあおぐ。
視界にうつりしそれは光の本流。
空にと浮かびし空を覆い尽くしていた彗星が光り輝いたかとおもうと、
そこからいくつもの光が地上にむけて降り注ぐ。
こういう事態でなければ神聖なるきれいな光景だ、幻想的だとでもいえるかもしれないが。
どこをどうみてもそんなきれいごとではすまされない。
しかし降り注ぐ光が地上にむけておちているのはわかるのだが、
それにともなう衝撃派にもちかしい音はまったくもってきこえてこない。
それもそのはず。
降り注ぐ光はかの地にのこっていたすべてのヒトであり、
ラタトスクがかの地からすべてのヒトを地上にむけて排除したからに他ならない。
新たにつくりだしたもう一つの月に移動させるかどうかしばらくまよっていたが、
やはりヒトを見極めるためにも彼らを地上にむけてあるいみ送り出したといってもよい。
それぞれのマナのゆかりのある場所に彼らは彗星からおとされており、
そこで彼らがどうするのかは、それは彼ら自身がきめること。
混乱はおこるであろう。
いきなり天使とおもわしき人々が現れるのだから。
そこにいるヒトを彼らが蔑ろにするか、それとも恐怖にかられ、
自らの負の心にて今現在もどんどんとヒトが増やしていっている【幻魔】達。
それらと対峙し彼らがどんな反応をするのか。
それにより、今後のヒトに対する判断もかわってくる。
救いがあるのか、そうではないのか。
一応、救いがある場合、そのきっかけをつくるようにと指示はだしている。
しかしそれは、オリジンが解放されるとともに実行するようにと命じてある。
いくつもの流れ星にもちかしい何かが地上にむけて空から降り注ぐ。


「よくわかんないけど、エルフたちを避難させたほうがよくないか!?」
光は確実にエルフの里の方向にも降り注いでいる。
あの光が何なのかはわからない。
けど、何もない、というわけではないだろう。
「まって、ロイド…何かが…くるっ!!」
はっとしたようにコレットがいうとともに。
一際大きな光の球体が、この場をめがけて空から一つおちてくる。
「光が!」
「ぶつかる!?」
その光はまたたくまにだんだんと近づいてきてあっという間に頭上にと。
周囲をまぶしい光が一瞬包み込む。


「……やっぱりここにいたんだね。クラトス。それにユアンも。
  二人がここにいる、ということはオリジンの解放…かな?それはさせないよ」
一瞬目をつむったロイド達ではあるが、
次の瞬間それぞれが驚愕した表情を浮かべざるをえない。
もっともエミルのみはそれを把握していたのでまったく驚いたそぶりをみせていないが。
そんなエミルの態度に驚愕した他のものたちはまったくもって気付いていない。
この場にいないはずの第三者。
しかも聞きなれた声がきこえてくるのはどうしてなのか。
光の球体は石版の上にて一度停止するとともに、まばゆい光のもと、
その光はやがて一人の人影を形成してゆく。
光の中からあらわれしはひとりの少年。
その手には虹色に輝く一振りの剣が握られており、
にこやかに笑みを浮かべていながらもその目は心の底から完全に笑えてはいない。
「「「ミト…ス……」」」
その姿をみて意図したわけではないのだろうが同時につぶやくクラトス、ジーニアス、ロイドの三人。
どうしてミトスがここにいるのか。
というか何がどうなっているのか。
ロイドには理解ができない。
「ミトスの手にあるあれ…もしかして救いの塔にあったエターナルソードじゃないかい!?」
しいなもまたいきなりあらわれたミトスに戸惑いをみせるものの、
ミトスがもちいている剣に見覚えがあり、はっとしたような声をはりあげる。
かつて救いの塔の祈りの間とよばれていた床にと突き刺さっていた一振りの剣。
世界を二つにわけている…根本的な原因ともいえし精霊の具現化形態。

「ほんとうに、やってくれたよね。
  …まさか、僕が救いの塔と彗星とのつながりを断つとともに。
  まさかあの地にいるすべてものが地上におくりかえされるなんて。
  おもってもみなかったよ。ねえ。ラタトスク?」
そんな彼らの態度をさらり、と無視しその場にいるエミルにと視線をむけて言い放つ。
その表情はどこか苦笑じみたものがまじっているのはおそらく気のせいではないだろう。
「――ほう。ようやく気づいか。ミトス・ユグドラシル。
  おおかた彗星との楔を解き放つのにあの間にはいったから、か」
かの彗星の最深部。
力を確実に振えるであろうあの場所の立ち入りはミトスたちのように、
自らが直接加護を与えているもの、もしくはセンチュリオン達しか立ち入りを許していない。
「え?天使…言語?」
突如としてミトスか語り始めたはこの世界では流通していない言葉。
しかしコレットにとってはなじみるあの言葉。
ミトスが紡ぎだせしは古代の言葉。
かつてラタトスクの元をよく訪れていたとき、その当時の世界で共通し使われていた言語。
今ではそれを天使言語、と人々は認識しているが。
「あの地はお前たち、われが加護を与えているものの立ち入りは許してはいる。
  が。ミトス。われはあの地に無意味なものの立ち入りを許してはいなかったぞ?
  あの地の力を悪用されぬためにも、元の場所に送り返すのは妥当であろう?」
くくっと笑みを含めつつも、そのまま石版にその背をもたれかけるように、
その腕をくみつつも、現れたミトスにたいしいつものエミルの雰囲気ではない。
それこそまるで別人のごとくの雰囲気となりて、そんなミトスにと語り掛ける。
「まさか、予想外だったよ。だってセンチュリオン達は、
  今のこの惑星上で君は外にでたことはないっていってたものね」
「そうはいうが。大樹がよみがえったら地上に一緒にいこう。旅をしよう。
  そう、しつこいほどにいってきたのはお前だろうがミトス。
  さすがに四千年も約束を反故にされているとは思いもしなかったがな」
まあ知ってはいたが信じたくなかったというのはかつての本音。
ゆえにエミル…否、ラタトスクはウソはいっていない。

「エミ…ル?」
いつものエミルと違う。
雰囲気も何もかわっている。
しかも
「…エミル…その目……どうして?」
そんなエミルをみて困惑したような声をあげているマルタ。
いつものエミルの瞳の色は緑。
しかし今のエミルの瞳の色は真紅。
まったく別人のようにしかみうけられない。
「何…だと?!」
そんな二人の会話をきき、驚いたような表情をエミルにむけ、
そしてミトスとエミルを交互にみつめ驚愕の表情をうかべるユアン。
今、ミトスはエミルのことを何とよんだ?
それに、この雰囲気は。
エミルから感じるまぎれもない間違えようのない雰囲気は。
圧倒されるほどの威圧感と息苦しさ。
一瞬でかわったエミルの変化。
クラトスもそんな彼らの言葉がわかるがゆえに目を見開かずにはいられない。
今、ミトスはエミルのことを何とよんだ?
それにこの雰囲気は。
「目覚めてみれば大いなる実りは発芽していない。
  彗星は上空にとどめ置かれているまま。
  とどめは微精霊達の卵たる精霊石がことごとく穢され地上に負が充満しはじめていたしな。
  実際、シルヴァラントの地においてはその影響で一部の魔族が活性化していたようだしな」
石版にもたれかかったまま、何でもないようにさらっといいきるエミルには、
まったくもってミトスに対し戸惑いも何も含んでいる様子がみられない。
そのことにマルタも困惑せざるをえない。
いつもどこか少しひいて少し控えめにみえたエミルの雰囲気は今のエミルからはみうけられない。

「あいつらを目覚めにむかってみれば、世界は面白いことになっていたしな。
  マーテル教、か。面白いものを考え出したものだな。ミトス。
  たしかに人心をまとめるには宗教はうってつけではあろうが。
  しかしそこに、微精霊達を悪用することは我は認めることはできないぞ?
  まあお前はかの封印の中にいた分霊体の影響をうけていたようではあるにしろ」
あの中にいたミトスに影響がない分、本体であるミトス自身に影響がでていたらしい。
まあ、あの書物は完全にマナにと還したので今のミトスに影響はみあたらない。
宗教というものをヒトがつくりだすのには別に文句をいうつもりはない。
というかヒトは勝手にそういったものをいつでもつくりだす。
そして他者を貶める内容の宗教や思考を他者に強制することすら。
「まさか、君自身だ、とはおもわなかったよ。
  あの場所で力をふるうにあたり、君の力の象徴たる紋章が刻まれし水晶。
  あれが完全に光を取り戻してるから目覚めている、というのはわかったけど。
  でも、それをしっていてどうして?どうして僕を旅に同行させてたの?」
「いっただろう?お前のほうから一方的にいってきていたとはいえ。
  約束は約束だ。地上を旅しよう、といってきたのは、お前のほうだぞ?
  まあ順番は逆にとなったがな。状態はどうあれお前たちに預けていた大いなる実り。
  その発芽はなしとげられた。かつてもいったはずだが?
  どうせ大樹を復活させてもヒトはかならず再び大樹を枯らすべく行動するにきまっている。
  ゆえにもしもお前たちがそれを成し遂げたとしても、
  ヒトには試練を化すとな。そのかわりあの当時の大地の存続は約束したはずだ。
  違うか?」
それはかつてミトスとかわした約束の一つ。
「われらは嘘をつくことはできない、そのように理をひいているからな。
  そしてまた、他の精霊達もそのように創造っている。
  その理を引いた当事者であるわれがその理を反故にするわけにはいかないからな」
まあ、どちらにしろ。
「大いなる実りの発芽はあのような形であれ見届けた。
  あとはミトス。お前が世界を元の世界に戻すだけ、だが。
  この地にやってきたということはそのつもりがあってなのだろう?」
地上を元の世界に戻すにあたり、一番力がふるえるのはこの地といってよい。
この石版そのものには”本来の元の姿に戻す”というオリジンの力が含まれている。
それは世界というか大地にとっても有効たるもの。
そんなエミルの言葉にミトスは苦笑をうかべざるをえない。
見透かされている、とおもう。
でも確かにその通りで。

そんな二人の会話…ロイドにとっては意味のわからない摩訶不思議な言葉。
そんな彼らのやり取りをしばらく唖然としてみていたが、はっと我にとかえり、
「ミトス!お前、どうして…まあちょうどいい。
  ミトス。お前にききたいことがあるんだ。
  オリジンの封印は本当にクラトスのマナとかいうのを解放しないとだめ、なのか?」
クラトスに聞いてもまちがいなく方法はない、といいきるだろう。
というか怪我をしていながら解放をしようとしたのが何よりの証拠。
でも、ミトスならば、何か知っているかもしれない。
「ロイド…ちょっとまっててね。ラタトスク。いろいろと聞きたいことあるから」
「まあ、かまわんが。こちらもお前に改めて聞きたいこともあるしな」
そこまでいい、そのままその場にて目をつむる。
それはこれからミトスが何をしてもラタトスクは干渉してこないのだろう。
そんなエミルの様子をみて、そうミトスは本能的に理解する。
そもそもあのラタトスクがここまでヒトに干渉していること自体が信じられないことで。
…まあその原因が自分のこれまでの行動にあったとしても、である。
完全にこれまでも非難をするよりは、よくよく考えれば自分の意見。
それをエミルは聞き出そうとしていたとおもう。
まさか本当にエミルがラタトスク自身だとは信じられなかったが。
しかし何となくあのラタトスクはこの世界において自らの代理人。
それをつくるようにはおもえなかった。
そもそも、彼はかつてこの世界は一時的に見守っているにすぎない。
そういっていたのをミトスは思い出していた。
そのやり取りはまるで霞が晴れたかのように、ある日突如として、
あの書物の封印がとかれたあの日。
自らの中にと返り咲くように記憶がよみがえってきた。
そのまま石版にもたれかかるように目をつむったラタトスクをそのままに、
あらためてロイドのほうにと向き直る。
二人の会話を理解できてしまったコレットは大きく目を見開いており、
クラトスもユアンも信じられないといわんばかりの表情を浮かべている。
そんな様子がそんなミトスの目にとまる。
そんな彼らに何かいうことなく、ミトスはエミルと会話していたときの
少し困ったような表情を一瞬のうちにと変化させ、
いつもごとく人形のような作り物の笑みをつくりだしロイド達のほうにと向き直る。
その手に剣を携えたまま。


どうしてミトスがここにいるのか。
ミトスは頭上にありしデリス・カーラーンにいたのではないのか。
というかあの救いの塔を壊したのはミトスなのか。
だとすれば、救いの塔が壊れた以上、かの地…ウィルガイアはどうなっているのか。
聞きたいことは山とある。
けど今何よりもミトスにロイドがききたいのは、
本当にクラトスの命をかけなければオリジンの封印はとかれれないのか、ということ。
とんで何とかというこういう場合に諺があったような気もするけども。
「そうさ。君たちがここにいる理由もわかるよ。
  この地でクラトスを殺してオリジンを解放する気だったんだろう?
  クラトスの様子をみるかぎり怪我をおってるってことは、
  クラトス自身にマナを解放させるどころか殺そうとしたってところかな?」
実際は違うだろうが。
あえてロイドを挑発するようにロイドに冷めた視線をむけるミトス。
あのクラトスのこと。
どうせ息子と決着をつけたいとか何とかいって、
それでも結局のところは手をぬいて大怪我をおってしまった。
そのあたりが妥当というか正解ではあろうが。
あのような状態とはいえ大いなる実りは発芽してしまった。
そしてそれをラタトスクが認めてしまっている。
このままではへたをすればあの大樹の中に姉が完全に取り込まれてしまう。
でも視る限り何となく姉自身はまるで何かに守られているようにみえなくもない。
ラタトスクが外に出ている以上、何かをしていても何らおかしくはないとおもう。
その何か、まではわからないが。
すくなくとも、種子と姉の精神体を分離させるくらいの手段は何かしていそうな気がする。
それはミトスの直感。
実際、ミトスの予測通り、ゼロスによってその媒介となるものは、
かつて、あのとき、コレットをとらえていたあのときにかの種子の中にといれられている。
その事実をミトスはまだ知らない。
「な、ちがっ……」
「結局、ロイド。君たちもよくわかったんじゃないの?
  犠牲なくして世界は救われることはない。
  君たちはオリジンを解放するためにクラトスを殺そうとした。
  クラトスのその怪我が何よりの証拠。
  本当は姉様と一緒にこんなけがらわしい地上からは離れてしまいたかったんだけど。
  そうもいかなくなってしまってるからね。
  ああ、あの塔のこと?あのままだと彗星とあの大樹がひきあって、
  姉様を取り込んだままの大樹が対消滅してしまいかねないから鎖を断ち切ったんだよ。
  デリス・カーラーンは塔の力でこの惑星上につなぎとめてた。
  そう遠くないうちにそのままあの彗星は元の軌道にもどってこの地から離れていくだろうけどね」
世界の異変。
安定したマナとそして増えていっているマナ。
異常繁殖している植物たちが何よりの証拠。
ラタトスクが自ら地上にでている以上、何らかの処置をほどこしているのだろう。
かつてセンチュリオン達がラタトスクは自らの身をもって、
時折大樹のかわりをしていた時期があったと、
この大地ではないが、他の世界ではあったと、おしゃべりのアクアが話していたことを思い出す。
この世界においては地上にでむくつもりはない。
とかつて彼はいっていたが。
しかしこうして外にでていることが、かつて自分がいった地上を旅をしよう。
そういった言葉に原因があるとするならば。
すくなくとも彼は裏切っていた自分の言葉、あの約束を守ろうとしてくれたということにほかならない。
そもそも旅をしていた期間もそう短いわけではなかった。
それでも自分を見守るように、何もいってこなかった。
否、ときおり思わせぶりのようなことはいっていたが。
かつて、彼にいわれたこと。
そして自分が絶対かえてみせる、といつもいっていたこと。
でも結局、ヒトの心はかわらなかった。
昔も、そして今も。
地上に戻された天使たち。
天使化しているものはその姿から天界…すなわちクルシスの使い。
そう人々は認識するであろう。
予定ではウィノナ姉様があの地にいるならば、彼らを任せても心配ない。
そうおもい自分はこうしてゼクンドゥスの力によりて地上に移動したのだが。
まさかかの地にいたすべてものが地上に送り返されるなど。
たしかにかの地はラタトスクのマナにて創造られている彗星だ、とはきいていた。
きいてはいたが、離れていてもたやすくそのようなことが可能なラタトスクのその力量。
さすがとしかいわざるをえない。
そしてまた、ヒトを完全に信用していないのは相変わらずなんだ。
そう思わざるをえないのもまた本音。
あの彗星にヒトがいることにより、おそらく軌道を離れた過程にてたどり着くであろう数多の世界。
それらの世界に彗星に移り住んでいるものたちが影響をあたえるのをよしとしないがゆえ、
彼はすべてものを地上に送り返したのだろうな、そう予測がついてしまう。
そもそも、ラタトスクを説得するのにかつてのときもだいぶ時間がかかった。
それほどまでに彼のヒトに対する認識は果てしなく低かった。

「?ちょっとまちなさい。ミトス。今、あなた何といったの?
  今、彗星を切り離したといったようだけども……」
いきなりあらわれたミトスに油断することなく警戒しつつも、
今ミトスがいった気になることを問いかける。
天使言語に近しい言語を今、エミルとミトスは話していた。
聞き間違いでなければ、エミルのことをミトスは”ラタトスク”といっていなかったか。
ディセンダー、というのならばまだわかる。
しかしエミルの雰囲気が一転したのもまた事実で。
ちらりとエミルをみれば石版にもたれかかりつつも目をつむっているままで、
ひとまず今現在はミトスに干渉するつもりはない、らしいことがうかがえる。
「ええ。デリス・カーラーンのコアシステムがはじき出した答えでは、
  種子が目覚めて大樹があのように歪んだ形で発芽した場合、
  生来のマナのありように戻るべく、純粋なるマナを取り込む可能性があるらしいんですよね。
  つまり、このまま彗星を地上に縛り付けていたら嫌でも彗星があの大樹に衝突、
  つまりは大地に彗星が衝突しかねない、と判断されたので切り離しただけですよ?
  だって、そんなことになったらあの中に取り込まれている姉様に何があるか。
  危険決まりないじゃないですか」

事実、ミトスが彗星と地上との楔を解放したのはこのままでは、
姉が取り込まれている大樹と彗星が衝突し
対消滅しかねないとコア・システムがはじき出したゆえ。
そのために契約にのっとり、救いの塔に設置していたエターナルソードを呼び寄せた。
ネオ・デリス・カーラーンの最深部。
玉座を置いているよりもその奥にあるエターナルソードをもっているもののみ、
が立ち入ることを許可された地。
そこにあるセフィロトツリーにはめ込まれた九色の水晶球。
その輝きからセンチュリオンだけでなくラタトスクも目覚めていることが理解できた。
その中心にありし魔法陣を利用し念のためにかつてアクアからきいたことのある地図。
それを展開してみれば、たしかに九つの光が点滅しているのがみてとれた。
本来ならばとある光のみは地上にはありえないはず、なのに。
赤い光がこのトレントの森にみてとれた。
赤き光が示すは精霊ラタトスクの位置。
何でもよくかつて黙っていつのまにか地上にでむく主の位置を特定するのに
【不思議な地図】としてセンチュオン達の力総動員でそれはかつてつくっていた品であるらしい。
まさかとおもいつつ、この場所にと移動してきてみてみれば、
この場にいるのはクラトス達と、そしてエミルの姿もみてとれた。
だからこそ、すとん、と納得してしまった。
エミルこそが精霊ラタトスクであった、ということが。
これまでの出来事、感じていた違和感、それらがすべてストンと腑に落ちた。
だからこそ、ラタトスク、と呼びかけてみれば、戻ってきた答えは肯定。
後ろめたいことをしているという自覚はあったのに。
それでも、彼は自分が一方的にいっていたことを守ってくれていたのだ。
という喜びのほうが今はつよい。
しかし彼の正体がヒトに知られてしまえば欲深い愚かな人は何をしでかすか。
そんなの考えなくてもわかりきったこと。

「楔を解き放つのには救いの塔を破壊する必要がありましたしね。
  まあ、がれきが地上に降り注ぐとおもってたけど全部瓦礫は樹に取り込まれてるようだし」
あちらのほうに視線をむけて視力を強化してみれば、
魔物たちによって塔の瓦礫のほとんどがそのまま取り込まれているのがうかがえる。
魔物たちが行動しているということは、これもまたラタトスクの指示なのだろう。
自分たちとの約束…それは地上の保護。
あれが落下してしまうと地上が壊滅的な被害がでてしまい、
約束をたがえることになってしまうとでもおもったのか。
それはわからない。
「まちなさい。じゃあ、彗星にいた…いえ、ウィルガイアなどにいた人々はどうしたというの!?」
まさか……
まさかミトスは彼らを見殺しにしたのでは。
たしか彼らはあのとき、救いの塔に何かがあれば、ウィルガイアも無事ではすまない。
そのようなことを話していたのをリフィルきいている。
だからこそ、救いの塔を崩壊させたということは、
彼らを見殺しにしたのではという思いが捨てきれない。
叫んだあと、小さくまさか、とつぶやいたリフィルの言葉は当然ミトスには聞こえている。
「だから、皆あのように移動してるのがリフィルさんにもみえるでしょう?」
いって、空をすっと指さす。
いまだに空からはいくつもの光の筋がほとばしり、
地上にむけて降り注いでいる光景が嫌でも目に付く。
本当はアレをしたのは自分ではないが、それを説明するつもりはミトスにはない。
先ほどの会話で理解してしまったクラトスやユアンはともかく。
おそらく二人の神子もかつての古代言語といわれている言葉は今でいう天使言語。
ゆえに多少理解してしまっているだろうが。
テセアラの神子ゼロスは絶対にそれを口にしないと確信がもてる。
いらないことを言い出しそうなのは姉の器とする予定であったシルヴァラントの神子であろう。
「あの光はかの地にいたすべてのものが地上に移動している証。
  まあ、地上におりた彼らが何をするか僕はそこまで関与しませんけどね」
いきなり地上に送り返された彼らがどう反応するのか。
天使化しているものたちは、マーテル教の影響もあり天の御使い、
として人々は畏怖するであろう。
用事がすめば彼らを取りまとめる必要があるかもしれないが、
今はまだ放置しておいても問題はないはず。
そうミトスはふんでいる。
「「…え?」」
さらりと今、ミトスは何といった?
つまり、それが意味することは。
それを理解し思わず同時につぶやくリフィルとしいな。
「ちょっとまちなよ!?じゃあ、何かい!?
  今、空からクルシスの天使たちが地上におりてきてるってことかい!?」
それでなくても混乱している世界。
そんなところに天使たちが下りてきたらどうなるのか。
答えはわかりきっている。
これ以上ないくらいに混乱すること間違いなし。
特にテセアラにおいてはいまだにスピリチュアの悲劇がおこるのではないか。
とまことしやかに貧民街の人々にまで思われているほど。
もっとも、かの地は今現在魔族の支配下に置かれているのでそんな余裕はないのだが。
ミトスの説明をききおもわずしいなが声を張り上げる。
「でしょうね。ぼくは別に彼らに何の命令もしてないですけど」
そこまでいい、
「しかし。まさかユアンもここにいるとはね。前いってたことを実行するつもりだったの?
  ユアンひとりで?」
「…仕方あるまい。こいつは言い出したらきかないのはお前もしってるだろう?」
話はそれまでとばかり、その視線をユアンにとむける。
話の最中もどうやらユアンはクラトスに軽く回復術をかけていたらしく、
先ほどまで血が滴っていたクラトスの体からは傷がふさがっているらしき様子がみてとれる。
ユアンとすれば、その言い回しからかつて、二人で決めた秘め事。
それをミトスがいっているのだ、と瞬時に理解する。
てっきりその決め事はミトスは忘れているものばかり、とおもっていたのだが。
どうやらそうではなかったらしい。
それはかつて、クラトスが自らの命を封印につかう、といいだしたその日の出来事。
二人にて大いなる実りの前で、クラトスを殺すわけにはいかない、ということで話し合ったこと。
それがあったからこそ、ユアンはマナを分け与えるという方法をすぐにとおもいついた。
そもそもあの方法を思いついたのはほかならぬミトスであったのだから。
「それはわかってるけど。…ふぅん。エターナルリング…完成させたんだ。
  壊したあれ、こっちで保管してたのに。
  エルフの里につたわりし作成方法で制作したってところかな?」
ユアンの溜息まじりにも似たつぶやきにあっさりと納得し、
ちらりとロイドの右手をみて少し落胆したようにといいはなつミトス。
クラトスがエターナルリングを作成しようとしていることは勘づいていた。
そのためにプロネーマにクラトスを見張らせていた。
実際、サイバックにて確認させてみれば、ある装置を修理していたことが判明した。
あれはハーフエルフ以外でも使用できるように、という意味合いで一般的に理解されているが。
もともとは異なる。
本来のエターナルリングは契約の指輪であり、
人の身では契約に関してその精霊のもつ巨大なる力がたえられない。
それはハーフエルフにしてもまたしかり。
そもそもハーフエルフにしか使えない云々というのは偽り。
愚かなるヒトがその力を欲しないようにと情報操作をした結果普及している内容。
「それを手にいれたから、オリジンを解放して認めてもらって。
  これを自分たちのものにしよう、という算段ってところかな?
  もっとも、君たちがオリジンを解放したとして認めてもらえるかどうかわからないけどね」
自分という前例がある以上、まちがいなくオリジンは自分たちヒトに絶望しているだろう。
そんな状態で封印を万が一にも解き放ったとして、
契約できる可能性は果てしなく低い。
まあそこにラタトスクの意見が加わり、もしくはオリジンが丸め込まれたり。
とした場合、何がおこるかさすがのミトスもわからないが。
これ、といいつつも、携えていた剣をすっとロイドのほうにと突き出すミトス。
そこに殺意も何もないが、抜き身の剣をつきつけられ、
思わずロイドを含めたほぼ全員が身構える。
クラトスにしてもいまだに慢心総意だというのに、あせった表情を浮かべているのがみてとれる。
そんなクラトスの表情をみて、ミトスの中に何ともいえない気持ちがこみ上げる。
目の前のこのロイドはクラトスにすべての材料などをそろえてもらっておいて、
それを手にするのがさも当たり前とばかりにその右手に指輪をはめているのも。
しかも、左手には本来ならば神子がもつべきはずのソーサラーリング。
それがいまだにはめられているのもみてとれる。
ソーサラーリングはかつてともに行動していたとき、
ジーニアスからそれとなくどうしてロイドがもっているのか聞き出しているので、
呆れつつも見逃していたが。
自分がつけて当たり前。
つまり、指輪をつけているということは、エターナルソードと…
すなわち、ゼクンドゥスと契約するつもりだ、ということに他ならない。
もっとも契約する対象はあのミズホの民のしいなであろうが。
「――オリジンはまだ解放させないよ。それにこの剣も。
  ロイド、君なんかに扱いきれるとでも本気でおもってるの?
  それとも何?手加減しただろうクラトスに勝ったから自分がもつのにふさわしいとでも?」
どうしてクラトスは、自分よりもロイドを選ぶのか。
ただ、血がつながっているというだけで。
自分のほうが、ロイドよりずっとクラトスのことを思っているというのに。
だからこそ、クラトスのあの変わりようをみて世界を一つに戻すと約束したのに。
なのに。
子供が生きていた、とわかっただけで、クラトスはまた自分を裏切ろうとした。
正確にいえばその命すらなげうって。
そんなのは…認められない。
認められるはずがない。
「エターナルソードは未熟なものがもてばその先には破滅がまってる。
  覚悟もないくせに。上げ膳、据え膳で自分が何もかも思い通りになる、なんて。
  何の自ら苦労もせずに手にはいるだなんておもわないでよね。
  ちょうどいい。…誰がクラトスの真なる弟子か。ここで教えてあげるよ」
ぽっとでの血がつながっているだけのクラトスの息子になんてまけたくない。
散々自分はクラトスの弟子だ、といっていたのに。
ようやく認めてもらえたのにどれほどの年月がかかったことか。
なのに、このロイドは。
実の子供、というだけで。
「何をいって……」
「いかん!よせ!やめろ!ミトス!」
困惑するロイドとはうらはらに、ミトスが何をしようとしているのか察したらしく、
クラトスが多少よろめきつつもミトスに対して思わず叫ぶ。
だが、そんなクラトスをちらりとみただけで、
高らかにその手にもった剣を地面にと突き立て、
「クラトスの息子だという理由だけで何もかも手にいれようとして。
  オリジンはまだ解放させない。それにエターナルソードも渡さない!!
  身の程というのを教えてあげるよ!」
キィッンッ。
ミトスがダンッと剣を地面に突き立てるとともに、鋭い金属音のようなものが剣より鳴り響く。


「な、何だ!?皆は…皆をどうしたんだ!?ミトス!?」
金属音のような、鈴の音のような。
思わず身構えたロイドの視界が一瞬真っ黒にとそまりゆく。
次にロイドが目にしたは、周囲にいたはずの仲間がひとりもいない石版のみがみえる空間。
しかも、周囲を見渡してみればどこか色がすこしばかり抜け落ちているような。
背後にいたはずのジーニアス、そして当然のことながらクラトスやユアン。
とにかくその場にいたはずの皆の姿がどこにもみえない。
この場にいるのはロイド自身とミトスのみ。
「本当に何もしらないで剣を利用しようとしてたんだ。笑わせてくれるよね。
  剣の力でもってして、すこしばかり位相軸をずらして異空間を作り出しただけだよ。
  皆は元の場所にいるよ。ここは僕が作り出した空間。
  この空間ならどんなに暴れても外の世界に影響はないからね」
そう、ここではどんな技を使おうが、術をつかおうが。
森そのものにはまったくもって影響はない。
「――さあ、はじめようか」
戸惑うロイドにむけて、ミトスが小さく笑みをこぼす。
クラトスが命をかけてまでこのロイドに見出す可能性というものがあるのか。
クラトスはかつて、ミトスのことを希望といった。
たしかにロイドはミトスからみてもかつての自分に何となく似ている、とはおもう。
けど、ロイドは後先を考えなさすぎる。
その結果、何がおこるのか。
自分の力量すらも考えずにつきすすみ周囲に被害をまちがいなくまき散らす。
そんなロイドにどうしてクラトスが希望を見出すのか。
それがわからない。
「ここから出るには僕を倒すしかないよ。ロイド・アーヴィング」
「ミトス!!」
ロイドとしてはミトスと戦いたくはない。
「問答無用、いくよ!!」
「…くそっ!やるしかないのかよ!」
キィッン。
一瞬のうちに間合いにと入り込んだミトスの剣をかろうじてうけとめる。
今、この場にはロイドを補佐してくれるような人物は誰もいない。
ミトスがいうように本当にミトスを倒さなければここから出られないのか。
皆は無事なのか。
それにクラトスの怪我はどうなったのか。
「僕は絶対に、みとめない!君なんかがクラトスの息子だというだけで、
  クラトスのすべてを引き継ぐことになるのはっ!!!!!!」
まちがいなくクラトスは自らの剣をロイドに託そうとするだろう。
あの剣はクラトスの家に代々伝わるものだ、といっていた。
あの剣こそ、テセアラにクラトス・アウリオンありといわれていた象徴であるもの。
そんなものを未熟なモノがもつなど。
断じてみとめない。
認められない。
それに何より…こんな、まともな知識や学術すらないロイドが、
クラトスの息子だなんて、そんなのは…
「僕は、僕は絶対にみとめないからっ!!!!!!」

ミトスは気づいていないが、それはあるいみ嫉妬。
ミトスにとってクラトスは父のような存在であり、そして兄のような存在でもあった。
幼いころに両親を亡くし姉に育てられていたミトスにとって、
クラトスはウィノナに続いて家族とよんでもおかしくない、誰よりも尊敬しているヒト。
なのに、そんな尊敬する相手の血を引いている、というだけで。
自分から何もかも奪おうとする。
自分が命を命とも思っていなかったのは今さらではあるが自覚している。
あの旅の中でそれは実感していた。
でもすべての命を犠牲にしないための世界のために、自分は進んできたつもりである。
ヒトは大なり小なり他者の命を犠牲にして生きている。
動植物だから問題ない、食料としているのだから問題ない、関係ないといわんばかりに。
動植物達だっていきているのに。
だからこその無機生命体。
基本、石の生命体になってしまえば他者の命を奪うことはなくなる。
半人口精霊状態になる以上、他者に対する差別なども無意味なものとなる。
それこそがミトスが望んだ千年王国。
誰もがどの命も犠牲にしないための。
そのために、どんな犠牲があってもその先に犠牲のない未来があるのなら。
すべてが終わったあと、微精霊達の穢れを取り除けばすべては終わりのはず、だったのに。
姉がよみがえり、そして世界を一つにもどし、もう少しで計画は完了の一歩手前だったのに。
彼らよりも先にエミルと合流し、会話をしていれば違ったのかもしれない。
けど、エミルに…否、ラタトスクには微精霊達を利用していることを知られてしまった。
あのとき、救いの塔で、どうして微精霊達を利用しようとしているのか。
そうきかれたあのときに、エミルの正体をもう少し突き詰めていればと今さらがらにおもう。
けど、もう、匙はなげられた。
自分たちに預けられていた”大いなる実り”は発芽された、と世界に認識された。
されてしまった。
おそらくあの”声”はラタトスクの命ですべてのヒトに伝えられたものなのだろう。
――必ず大いなる実りを発芽させ、大樹を復活させるから。
――樹を復活させても必ずお前たちヒトはまた枯らす。
  愚かな争いを同じヒト同士で繰り広げている限りは、な。
かつての会話がミトスの脳裏によみがえる。
――ヒトとは愚かでしかない。一部のものが努力したとしても、
  大多数のもの、特に権力などというものにおぼれた輩はいともたやすく約束を破る。
  たとえお前たちが大樹をよみがえらせたとしても、
  その力をもとめ、ヒトは簡単に裏切りをみせるであろうよ
あのとき、そんなことはない。
と自分はいった。
でも結局はラタトスクの言った通りで。
姉は大いなる実りを独占しようとした二つの国という勢力に殺されたも同然。
――それでもお前は人を信じるというのであれば。
  大樹が発芽したそのとき、お前たちヒトに試練をかそう
  それを突破できたのであれば、地上の浄化は見逃してやろう
試練とは何なのか。
それは言えば試練にならない。
そういわれ、それでも条件つきではあるが猶予はもらえたのがうれしくて。
おそらく、今地上に起こっているらしき異変は試練の前触れにすぎない。
彼が再びロイド達とともにいたのが何よりの証拠。
ラタトスクは自分を選ぶのか、ロイド達を選ぶのか。
おそらく中立、なのだろう。
彼にとって優先すべきは…世界そのもの、なのだから。
それは仕方がない、とはわかっている。
でも、それ以上に…自分が望んでいたすべてをロイドが奪っていくのが許せない。
ラタトスクと旅をしていたこともそう。
そしてクラトスに守られることすらも当たり前のように受け止めているロイドの存在が。
自分たちよりもより以上に狭間の…どこにも所属しないモノのはず、なのに。
それをこのロイドが自覚していない、というのもイライラする。
守られて当然とばかりの、この甘いことしかいわないロイドという人物には。
ロイドは間違いなく気づいていない。
なぜロイドが物心ついてすぐ、ダイクに拾われてすぐにエクスフィアを身に着けることになったのか。
ともに旅をしている中で、かの石の中にアンナという魂がいることには気づいていた。
死しても子供を石の中で彼女がまもっているのだ、と。
母親に守られていたのに、今度は父親であるクラトスにまで。
しかも守られていることにすら気づいていなく、甘いことしかいわない。
世の中はきれいごとだけではたちゆかない。
それでもかつてはつらいことをも受け止め、それでも前にと進んでいた。
その結果、信じたヒトに裏切られ姉は命を落としてしまった。
――大切なヒトを失ったことがないからいえるざれごと。
何しろクラトスが実の父親だと知ったときもいともあっさりとロイドは狼狽した。
その口で他のものにはきれいごとをいっていた、というのに。
「――次元斬じげんざん!!」
ミトスがすかさず振り上げた剣の周囲に強大ともいえる闘気が収束する。
そのまま勢いよく闘気をまとった巨大な剣をロイドめがけて、
少し間合いをとったのちにそのまま大きくふりかぶる。
「うわぁぁっ」
防御もむなしく、その一撃は完全にロイドの全身を直撃する。
「またまだ!ロイド、君の腕はこんなものなの!?
  魔神双破斬まじんそうはざん!!」
「く…粋護陣すいごじん!!」
このままではラチがあかない。
ゆえにあらゆる攻撃を防御できる構えの技をとるロイド。

が、ロイドは知らない。
ミトスが今使用している技、魔神双破斬のほうは防げはするが、
次元斬のほうは…空間すら切り裂いて攻撃される技であるがゆえ、
その防御はまったくもって意味をなさない、ということを。


「ロイド!?ミトス…嘘、二人がきえちゃった!?」
ミトスがこの場に現れたことに驚きを隠しきれなかったのに。
ミトスが剣を大地に突き立てるとともに目の前にいた二人がかききえた。
まるで初めから誰もいなかったかのごとくに。
二人が消えたのをうけ、ジーニアスが驚愕の声をあげる。
「くっ。しまった……」
そしてまた、消えた二人を確認し、ぐっと息を飲み込むかのごとくにつぶやいているクラトス。
「え?え?二人は?どこいっちゃったの?」
一方で状況が理解できていないらしく、マルタがきょろきょろと周囲を見渡す。
戸惑いの表情をそれぞれみせ、もしくは苦渋の表情を浮かべているそんな彼らとは対照的に、
石版にもたれかかるようにして腕をくんでいたエミルがすっと動きをみせる。
エミルがかるく、とっんと石版の後ろを軽くなでるとともに、
石版が一瞬淡い輝きをみせ、石版の頭上にまるで扇を開くかのごとく、
ちょっとした光の空間にも近しい何か、が浮かび上がる。
石版より扇状に上空に伸びたその光の中。
その光の中にみえるは二つの人影。
「ロイド!?」
その姿をみてジーニアスが思わず叫ぶ。
光の中に浮かび上がった光景は、ミトスの攻撃をなすすべもなく受け続けているロイドの姿。
おもわずその光景をみてジーニアスが石版のそばにかけよるが、
当然のごとく、ロイド達の姿は確かに見えてはいるが、そこにいるわけではない。
「こりゃ、いったい。何がどうなってるんだ?エミルくん?」
考えても意味がわからない。
ならば確実にわかっているものにきけばよい。
小さくつぶやいたのち、石版の横にいるエミルにと視線をむけゼロスが問いかける。
「石版の力で異空間の光景が見えているだけだとおもうよ。
  ま、ミトスは本気でロイドをどうこうしようとはおもってないとおもうよ。
  もしもそう思っていたとしたらロイド、初手の一撃でとっくに死んでるだろうし」
しかし、ミトスはロイドを追いつめることはしているが、殺すまでの攻撃は加えていない。
正確にいえばその境界線を見極めている。
少しその動きをみてみれば一目瞭然。
「エターナルソードだ。かの剣は時間と空間を操る力をもっている。
  おそらくミトスはその力をもちい、空間を切り取り異空間を作り出したのだろう。
  …かつて、ミトスが魔族とたたかうときによくその方法を用いていたように」
魔族との戦いはどうしても周囲に影響を及ぼしてしまう。
魔族との戦いのときのみ、ミトスは契約を済ませたのち、
エターナルソードを幾度か使用していた。
世界を二つわけるにしても地上にいる魔族達を先にどうにかしなければ、
世界を二つわけるにあたって不安要素が多すぎる、という意見からであったはずだが。
エミルがそんなことを思っている最中、そんなエミルに変わりクラトスが顔をしかめつついってくる。
「っ。いかん!ロイドがあのミトスにかなうはずが……」
エターナルソードをもったミトスはあるいみ無敵。
ミトスはあの剣の力を使いこなしていた。
それをクラトスは知っている。
いまだに完全に怪我が治りきっていない体をユアンを制してよろよろと立ち上がる。
「まて。クラトス。お前まさか今からオリジンを解放するつもりではないだろうな?
  そのまだ本調子ではない体でマナを解放すれば確実に死ぬぞ?
  本来、お前が解放するとき私とミトスとでお前にマナをわけあたえ、
  ハイエクスフィアがお前の生体機能を一時仮死状態にする隙にかけるつもりだったのだ。
  お前、さっきのロイドとの戦いでかなりのダメージをおっただろう。 
  …死ぬぞ。確実に」
そんなクラトスが何をしようとしているのか察し、ユアンがそんなクラトスにと言い放つ。
死ぬ、という言葉に小さく息をのむ気配が三つ。
それは、コレット、セレス、マルタの三人。
「まあ、僕としてはオリジンを解放してほしいのはたしかなんだけど。
  けど、どうしてミトスがあんなわざわざ面倒なことをしてるのか。
  二人ともきにならないの?」
オリジンが解放されるとともに、かの計画は実行される。
センチュリオン達に概要は任せたが、まあ問題はないであろう。
…おそらく。
何となく多少の不安はありはすれど、まあ彼らも鬱憤がたまっているのは知っている。
いるがゆえに彼らに任せた。
かの存在を利用する、というのはかつてのときから決めていたこと。
もっとも、それを目の前にいる彼らにいうつもりはさらさらないが。
「…たしかに。ミトスはロイドを攻撃はしているけども。
  致命傷になりえる攻撃はしているようにはみえないわね」
目の前に浮かんでいるロイドとミトスの戦いの映像。
実際には次元を少しずらしただけで、二人しこの場で戦っているのだが。
次元空間を渡るすべをもたない彼らはただ映し出されている映像で状況を判断するのみ。
「さすが、リフィルさん、あるいみ冷静ですね。
  たぶん、ミトスはいい加減にロイドに自覚させたいんじゃないのかな?」
『自覚?』
「そう。ロイド自身が何ものか、ということを、ね」
どこにも属さない、どの種族にもあてはまらない。
ずっと母親の力にてその力を封じられ、何もしらないままに生きてきたらしきロイド。
おそらく彼女も気づいているはず。
この新たにひきおえた理の元では、ずっと息子であるロイドの力を封じていることはできない、と。
ミトスに渡している石は自らが生み出したものなのでこの新たなる理には対応していない。
が、ロイドが身につけている、彼女がはいっている石は別。
生来の精霊石でしかないそれは、何もせずともヒトが手にすることは不可能となる。
「何ものかって…」
そんなエミルの台詞に困惑したような声をあげてくるジーニアス。
「ジーニアスたちは気づいてなかったの?
  まあ、あの精霊石の中から彼女がずっと封じていたみたいだから仕方ないとしても。
  気付こうとおもえば気付けたはず、なんだけどね。
  僕よりもずっと長く、ロイドのそばにいたんでしょ?ジーニアスたちは」
マナの流れの違和感を感じ取ることがなかったのだろうか。
ロイドが発していたようにみえたマナはあきらかにとある精神体が干渉し、
そのようにごまかしていたにすぎない。
「…ま、あのレミエルってヒトのことも気付かなかったくらいだから仕方ないのかな?」
エミルが指摘するまで、ジーニアスもリフィルも、
あのレミエルがハーフエルフ、すなわちエルフの血族であることを疑いすらしなかった。
「ロイドの手につけられている精霊石。
  あれってロイドが幼いころからずっとつけてるのはどうしてか。考えたことある?」
「「え……」」
いきなり言われ、思わず困惑した声を同時にあげるジーニアスとコレット。
「そういえば、ロイド、村に初めてきたときからずっとあれつけてたけど……」
幼いころから、ダイクがロイドを初めて村につれてきたのはロイドが三歳になって少ししてから。
つまりは、ダイクがロイドを拾ってから数日のちのこと。
「そういえば…あの子、気が付いたときからずっとつけていた、といっていたわね。
  エクスフィア…人の能力を最大限にまで発揮させるといわれていた石。
  その制作方法があれだったというのはあったとしても……」
「言われてみれば不自然ではあるな。エクスフィアの力は強大。
  ふつう、まだ幼い子供になどつけるはずがない。
  クルシスの輝石のように…クルシスから神子へ渡されたものならいざしらず。
  普通はその成長に悪影響がでるゆえに
  ある程度成長するまでは身に着けることすらさせないはず、なのだが」
エミルの言葉に改めておもってみれば、
リフィル達が村にたどり着いたときにはすでにロイドはエクスフィアを常にみにつけていた。
そんなリフィルの言葉に今さらながらに首をかしげはじめているユアン。
「…いえ。まってちょうだい。そもそもロイド。
  あのこはたしか、がけ下でノイシュにくるまっているところをダイクに救われた。
  そうたしかダイクがいっていたわ。
  そのとき、ロイドの母親…あなたの妻からあなたを頼まれた、とも。
  でもその時、彼女は瀕しだったとも。…そんな彼女がエクスフィアのこと。
  ディザイアンが狙っているとか詳しい話ができたのかしら?」
普通はできない。
可能性とすれば、それは…
「…アリシア、のようになっていた、ですか?あの封印の中でみたように」
あのとき、ロイドのつけていた石からたしかにロイドの母らしき人物が現れていた。
それを思い出したのか、プレセアがぽつりとつぶやく。
「おおかた、あのヒトがダイクさんに頼んだんじゃないのかな?
  理由はすぐにわかるとおもうよ。僕としては皆が気づいていなかった。
  というのが不思議なくらいだけど」
あれほどまでわかりやすく常にロイドの体に影響をあたえていたというのに。
ここまで彼らはまったく気づいてすらなかったらしい。
そのことにエミルとしては呆れてしまう。
まあ、旅の最中でエミル自身が指摘しなかったにしても、である。
「「どういう……」」
そんなエミルに対し、ユアンとクラトスの声が一瞬かさなる。
「あ、ロイドが動くみたいだよ」
しかし、エミルはそんな彼らをちらりと一瞥したのみで、
映像として映し出されているロイドとミトスに視線を戻しつつさらりと言い放つ。
「…ロイドってとことん追い詰めれないと本当に行動に移さない子だよね……」
それはエミルにとっての独り言。
これまでの旅でもよくわかった。
口先だけではいろいろというが、ロイドは基本、
何か追い詰められるようなことがなければなかなか本気をだそうとしない。
かの封印の中でもそうであったように。


くそっ。
なすすべもない。
どうしてミトスに攻撃されているのか。
しかしどうにかしようにも、
ロイドはミトスの攻撃をどうにかこうにか受け止めるのがやっと。
否、受け止められているとはいえない。
確実に傷がどんどんと増えていっている。
しかもミトスはまったく本気で挑んできているようにはみえない。
あきらかに手を抜いている。
そうでなければ一瞬で自分の息の根はとめられている。
それが自覚できてもロイドのほうから反撃する隙すら与えられない。
「その程度で僕を止めようだなんておもってたなんて。笑わせてくれるよね。
  あ、安心して?君を倒したあと、コレットはきちんと姉様として使ってあげるから。
  ジーニアスやリフィルさん、それにあの子、プレセア、だっけ?
  あの子もどうやら融和性が高いみたいだし。
  不本意だけど種子は発芽したと認識されてしまった。
  このままじゃあ姉様があの樹の中に取り込まれてしまう。
  その前に姉様をあの中から救い出すにしても邪魔はされたくないからね」
かつてラタトスクがいっていた試練がどんなことなのか、それはミトスもしらない。
でも一つだけ確信できたことがある。
たしかに歪んだ形で大樹は発芽してしまっている。
が、大樹が姉であるマーテルを飲み込んだまま発芽してしまった場合、
まちがいなく姉も大樹に飲み込まれ消えてしまうだろう。
そう思っていたのに、でも姉はまるで何かに守られているかのように、
いまだに大樹の中にいる。
ラタトスクが何かをしたのか、それともそれが自分たちにかつて授けられている加護の影響か。
それはわからない。
わからないけども、まだ姉を助ける手段は残されている。
そんなことを思いつつも、タンタンとロイドに向かって言い放つ。
「な、なんだと!そんなの…そんなのさせるかっっっ!」
「弱いものほどよく吠える、っていうけど、そのとおりだよね。
  君に何ができるのさ?ロイド?それと何?
  手を抜いてただろうクラトスに勝ったからって、自分が強いとでもおもってる?
  笑わせないでよね。僕としては君程度の腕でクラトスの教えを受けてたなんて。
  認められないから」
たしかにロイドの腕は旅をしていたときよりは上がっているのだろう。
が、ミトスからみればまだまだ。
まだまだロイドの剣の技には覚悟が足りない。
振う一撃に甘さが付きまとっている。
意図しているわけではなく無意識のうちに。
「――僕がどれだけクラトスに懇願して剣を教えてもらったとおもってるの?
  なのに、子供だというだけで…認められないからっ!
  時空蒼破斬じくうそうはざん!!」
「…おま…うわぁっ!」
蒼い衝撃波がロイドに襲いかかる。
たしかに自分はクラトスに剣の手ほどきをうけていた。
少し冷静になりミトスの言動を振り返ればあきらかにそれは嫉妬である。
とわかるであろうが、ロイドにはその余裕がない。
というかロイドは他人が嫉妬していたりしてもその鈍感さを発揮して気づくことがない。
特にロイド自身に向けられている感情に関しては。
おまえ、と言いかけたロイドの台詞は自らの叫びによって打ち消される。
このままでは負ける。
比喩でも何でもなく。
でももしもそうなったら。
先ほどミトスはコレットをまだマーテルの器にする、といっていた。
さらにはジーニアスやリフィル先生まで天使化するようなことをいっていた。
ロイドの脳裏によみがえるは、感情を失って人形のようになってしまったコレットの姿。
そしてまた天使たちが住まうウィルガイアに住みし天使たちの姿。
彼らは感情がほとんど抜け落ち、ただ生きているだけ、という感じをうけた。
ジーニアスや先生、それに皆があのような姿になるかもしれない。
ここで自分がまければ、ミトスは本当に実行してしまうかもしれない。
そんなの、そんなの…認められるかっ!!
「う…うわぁぁぁぁぁっっっっっっ!」
ロイドの感情が爆発する。
それとともに、ロイドの体全体がこれ以上にないほどに熱くなり、
ピシッ、という何かの音のようなものとともに、突如としてロイドの体が軽くなってゆく。


ピキッ…
ピシピシッ。
ミトスの耳にある音が聞こえてくる。
やはりというか想像していたとおりというべきか。
ロイドを追い詰め、また感情をも追い詰めることにより、ロイドは自分の力を引き出そうとする。
その結果、おそらくはロイドの力を封じているはずの【アンナの力】。
それを上回るのではないか、そうおもっての挑発行為。
もっとも、その行動の大多数は本気というかロイドをクラトスの息子、
と認めたくない、という思いはありはすれど。
パキィッンッ。
何かが割れる音。
それとともに、ふわり、と展開される青く輝く薄い翼。
パラパラとロイドの手より、精霊石…人がいうところのエクスフィア。
その周囲を覆っていたはずの要の紋。
その台座がロイドの手からぱらぱらと粉砕されこぼれおちる。
ロイドの心からの力を求めたその力に耐えきられず耐久性を突破してしまったがゆえ、
”石”の力をも凌駕した結果、押さえつけていた”要の紋”は当然のごとくに破壊される。


『うそ…(でしょ)(だろ)』
オリジンの石版ともいわれし石版の上空に展開されているロイドとミトスの戦いの様子。
ミトスの攻撃でロイドが満身創痍となり、その全身に傷を負う姿を、
ただ見守るしかできないこの状況。
が、ロイドが何か雄叫びっぽいようなものを叫んだようにみえた…
というのも姿はみえているが声までは彼らには聞こえていない。
ゆえにどんなやり取りが行われているのか、”視る”ことのできないものには理解不能。
「やっぱり、ね。生まれながらにしてマナをある程度操ることができる何にも属さないもの」
目の前に展開されている光景をみて、唯一まったく驚きをみせていないエミル。
「まさか…あいつが天使化を果たしている、というのか!?」
その姿をみて驚きの声をあげているユアン。
「少し違いますよ。ユアンさん。ロイドはおそらくまちがいなく。
  生まれつき、ある程度マナをあのように展開することができたはずですよ。
  あの子はヒトでも精霊でも、ましてあなたがたのようなエルフの血族の加護もない。
  本来ならば絶対に生まれることのなかった、微精霊達の影響のもとに生まれた命。
  この世界では絶対に精霊の力を受けて誕生するような存在はありえない。
  はずだったんですけどね。その唯一の例外が、あのロイド自身」
目の前にと映し出される光景に驚愕の表情を浮かべるユアンに、
一方で、クラトスもまた大きく目を見開いていたりする。
「うわぁ。ロイドのあの翼、きれいだねぇ。クラトスさん譲りかなぁ?あの色」
「…コレットちゃんは動じないねぇ……」
それぞれがほとんど驚きを隠しきれないそんな中。
唯一、コレットだけは目の前にみえている光景…
すなわち、ミトスと対峙しているロイドのその背に薄く輝く青き翼。
コレットやゼロス、そしてユアンやクラトス、そしてミトスたちと同じマナの翼。
薄く輝く翼、それは神子の証であり天使の証、ともいわれているソレ。
それが目の前のロイドの背に突如として出現している。
のほほんというコレットに、ゼロスがあきれたように、
それでいて苦笑まじりにそんなコレットにと語り掛けているが。
「え?でもロイドのお父様のクラトスさんが天使なら。
  ロイドももっててもおかしくないんじゃないの?」
「そ、そういう問題じゃないでしょ!?コレット、だってあのロイドの翼だよ!?」
きょとん、としていいきるコレットに思わず声をあらげてつめよるマルタ。
「あれを隠すために、たぶんダイクさんは、
  アンナさんに頼まれて、ロイドにずっとあの石をつけさせてたんだとおもうけど」
間違いなくそうであろう。
そもそも、幼い子供がマナを常時展開していて、そのコントロールができるはずもない。
よくてマナを使い切り、死ぬのが関の山。
「馬鹿な…ロイドに…翼が?
  では幼きころ気が付いたらいつのまにか寝相がわるくて木の上とかで寝ていたのは…
  あれはあの子がたんにねぼけていたから移動したのではなかったのか?」
唖然としたように、その光景をみてそんなことをぽそり、とつぶやいているクラトス。
「…お前、三歳児よりも下の子供がそんな行動をしていて。
  よく寝ぼけていただけだなどとおもえていたな」
そんなクラトスの言葉を捕え、呆れたようにクラトスをみてつぶやくユアン。
「いや。アンナがロイドは寝相が悪いから、といっていたから」
(それで納得した(の)(か)(かよ)(のかい)!?)
さらりといわれたクラトスの台詞に、その場にいるほとんどのものの心が一致する。
クラトスとしてみれば、母親であるアンナがいうのならそうなのだろう。
と当時ほとんど何も疑問に思わなかった。
まあ、にこやかな笑みで子供にはよくあることなのよ、といわれ。
そうなのか、と丸め込まれたという現実があったにせよ。
普通はおかしい、と思うであろう。
が、クラトスはそれを疑問に思うことはなかった。
思いもしなかった。
「…あ~…そういえば、クラトスってどこか抜けてるってよく聞かされてたな……」
そういえば、かつてあの地において、
ミトスがやってきてはクラトスがどんなところが抜けているか。
ミトスが勝手に聞いてもいないのにいろいろと話していたような。
それを思い出し、思わず素でぽそりとつぶやくエミル。
「つうか。ロイド君のあの手…要の紋がなくなってねえか?」
「あ。本当だ。要の紋がなくてロイド…大丈夫なのかな?」
そんなエミルの言葉に突っ込みをいれるではなく、
ふと映像としてみえているロイドの手元。
本来ならば手の甲にとあるはずのエクスフィアを取り囲んでいたはずのかなめの紋。
石はそのままロイドの手の甲に、なぜか直接埋め込まれているようにみえなくもないが。
ロイドの手の甲で精霊石がまばゆいばかりに輝きをみせている。
しかもその光は常時点滅を繰り返しており、何かを警告しているかのようにみえなくもない。


一行がそんなクラトスの過去の現状をきいて多少あきれているそんな中。
「……え?」
ロイドとしては困惑を隠しきれない。
体が一瞬軽くなったとおもうと、気が付いたらミトスを見下ろす形になっていた。
どう考えても自分が浮いているようにしか思えない。
なぜ、どうして。
困惑するロイドの目の前というか目下にて、ミトスがそんなロイドを見上げつつ、
その口元に少しばかりの笑みを浮かべ、
それとともに、その背にまばゆき虹色に輝く翼を出現させ、
ミトスもまたロイドと同じくふわり、と空中にと浮き上がる。
「――ようやく本性を現したよね。ロイド・アーヴィング。
  いや、ハーフ天使とでもいうべき、なのかな?
  どの種族にも属さない本当の意味で世界にたったヒトリっきりの【狭間なる存在】」
「…何を…いってるんだ?……え?」
困惑するロイドがなぜ自分が浮いているのか。
とおもい思わず周囲を見渡すように首をうごかしそして目にしたものは。
クラトスの天使の翼にもにた薄いマナの翼。
この場には自分とミトスしかいない。
じゃあ、この翼は、いったい誰の……
信じたくない。
信じらない。
おもわずおそるおそる、自らの背中にとその手を伸ばす。
ミトスが今いった台詞はロイドの頭にはすでにはいっていない。
コレットの翼を触らせてもらったときと同じ水をさわるような不可思議な感触。
まさか、とおもい意識してみれば、青い天使の翼はロイドの意思のままに動いてくる。
「な、なんで、俺に天使の翼が……」
「疑問に思わなかったの?
  僕らクルシスがそのエクスフィアを狙っているってしっていながら。
  どうして君なんかにそれをずっと身につけさせていたのか」
ミトスがそれを疑問におもったのは、クラトスがロイドの体から、要の紋を取り外してでも。
そういってきたとき。
そこまでして息子の命を助けたいのか、とあの時はおもったが。
しかしよくよく考えてみれば、
なぜロイドがあの石を狙われているとわかっていても、身に着けていたのか。
身に着けさせられていたのか。
時折、石の中に封じられたヒトの精神体が装備者に影響をあたえることがある。
それはクルシスにおける度重なる実験の果てに証明されていた。
「おそらく、ロイド。君がうまれてからは、あの忌々しいアンナっていう女が、
  君のその力をエクスフィアの力を使って封じていたんだろうね。
  そして死んでもなお、その石に宿って君のその力を封じていた。
  僕らとは違う。ロイド、君は生まれながらにして【天使】の力の欠片をもってたんだよ。
  その翼が何よりの証拠。だからクラトスはおまえの要の紋を取り外してもいい。
  そういったんだろうしね。――要の紋を取り外しても問題ない、とわかっていたから」
わかっていたというよりは、その可能性が高いという判断でしかなかったのだが。
しかし、ミトスはクラトスのあの言動をもってはじめから知っていたのでは。
という少し間違った認識をもっていたりする。
「エクスフィアの影響で無機生命体化とかしていたクラトスと、
  半ば無機生命体化になりかけていた被験者アンナ・アーヴィングとの間にうまれし子。
  そんな子供である君は、いったい【何】なんだろうね?
  ねえ?ロイド・アーヴィング?僕らとは別の意味でどこにも属さないその身は?」
「何を…いって……」
ロイドにはミトスが何をいっているのかわからない。
しかし、ミトスの言っていることは紛れもない事実。
ロイドはこの地上に存在しているどの種族にも属していない。
ヒトでもあらず、ましてや精霊でも。
ロイドの存在をそれでも表現するとするならば、半人工精霊、といったところであろう。
しかも、生まれながらの。
ミトスたちのように元たる種族があり変えられた、もしくは変えた、のではなく。
それこそ偶然が偶然をよび、絶対に誕生することのなかった【新たなる命】。
ロイドが気づかないだけでその片鱗はかつてから見え隠れはしていた。
実際、ロイドは故郷にて海によくもぐって海の生物を捕まえてはいた。
本人は長く息を止めていられているという認識でしかなかったが、
それは無意識のうちにロイドが周囲の海水からマナを摂取し力としていた結果。
人の生活をして不都合を一切感じなかったのは、一重に石の中にいたロイドの母親、
アンナの努力のたまものといってもよい。
そしてそれをロイドは知らない。
知りもしない。
疑問に思うことすらしていなかった。
ミトスはそこまで詳しくはわからないが、しかし確実にロイドの母であり、
クラトスをたぶらかしたあの女の影響が強いとミトスは確信をもっていえる。
「知ってる?ロイド?本来、この世界では異種族同士の間に絶対子供は生まれないんだよ?
  でも、それでも君は生まれてきてる。じゃあ、君は本当に何なんだろうね?
  僕らのようにエルフとヒトとの間に生まれた狭間なものといわれるハーフエルフでもない。
  天使化していたクラトスと半ば天使化していたアンナの間に生まれた君は?
  ねえ?ロイド・アーヴィング?君は一体、【何】?
  何ものでもない君のことをしれば、ヒトがどう反応するのか。あててみようか?
  僕らのように天使化を果たしたものはその死はエクスフィアの中にその魂が宿り、
  それが天使化したものの死といわれてた。
  でも、なら生まれながらにその力をもっているであろう君は?
  それに、成長速度もヒトとは違うかもだよ?考えたこともないでしょ?
  僕らはまだハーフエルフだから、という理屈がつくけど。
  外見はヒトでしかない君が僕らのように長生きしたり、老化しなかったりしたら。
  ヒトはそんな君を受け入れるとは思えない」
「何を…お前は何をいってるんだよ!ミトス!!」
ロイドはミトスが何をいっているのか理解できない。
否、理解したくない。
自分が、何なのか、なんて。
自分はクラトスと母さんの子で…
クラトスの子供だからこの背にある…おそらくは自分の翼、なのだろう。
それは受け入れてもまあいい。
でも、【何】といわれるほどではない、とおもう。
思いたい。
「まあいいや。そのままその力をつかっていれば嫌でもわかるはずだよ。
  互いに空を飛べるんだから互角だよね。さ、続き、やろうか」
このままロイドを追い詰め、その無意識下による本能を刺激すれば、
いくらロイドとて理解せざるを得ないであろう。
自分がヒトあらざるものの仲間なのだ、自分たちと同じく天使の仲間なのだ、ということが。




pixv投稿日:2015年2月15日某日(Hp編集:2018年5月6日(日)開始

Home    TOP     BACK    NEXT


##################################################

あとがきもどき:

~~メルニクス語変換案内~
現時点をもって盟約は破棄されたり→With the present,Pledge is destruction SARERI
バウティア ティアン プディンスンムティ,
プルンドグン ウス ドンスティディオワティウイム スエディンディウ

~~~

一言めも:
技コンボ
次元斬→魔神双破斬→次元斬→ループ・・・
恐ろしいことにTPの続くかぎり可能なコンボ技。
というか重宝します。切実に。
TOW2のクレスの技。
そもそも、次元斬自体が万能の技と自覚してます。
ひたすらに次元斬で敵はどうなかなるという、あるいみ凶悪技…
空間すら切り裂いて、相手の防御すら切り裂いて攻撃ヒットしますからね…

粋護陣
あらゆる攻撃を防御する奥義。ガードできない攻撃も存在する。
(例、上記の次元斬など・・・)

時空蒼破斬(じくうそうはざん)
次元斬と虚空蒼破斬を合わせた奥義。
周囲を回転しつつ上昇する光弾を出した後、
前方に射程約1/3画面の蒼い衝撃波状の闘気を放つ
周囲に光弾を発し、さらに前方45度ほどの範囲に衝撃波状の闘気を放出して切り刻む
次元斬の後、虚空蒼破斬の衝撃波部分で攻撃する

~~~~

さて。エルフの族長のいってる”ディセンダー”の台詞。
ラーゼオン峡谷。
かの地の語り部さんがロイド達に説明してます。
ラタトスクの関係者、でもまさか、とリフィルはかなり疑いまくってたので、
今回の族長の台詞で、確実に確信してたりします。
ちなみに、
世界が必ず滅ぶ、といったラタ騎士さんのふつうルートやハッピーエンド?さんのルート。
というか正規ルートですね。
遥かなる先に世界が滅ぶといっているのに、
なぜロイド達はあまんじてそれをうけいれたのか。
そのときにいきるものたちのことを考えてないな~
とおもったのはきっと私だけではないはずです。
まあ、たしかに。
マナの庇護(ラタトスクの庇護)がないかぎり、始まりもあれば終わりもあるわけで。
自分たち、そしてその次の世代でなければいい、という楽観的な思考だったのかなぁ。
まあ、億やら万やら年数をいわれてピンとこなかったのかもしれませんが。
たぶん、それをきいて、ラタ様おもうところはあったとおもうんですよね。
たぶん……
まだ記憶が完全でなかったであろうあのときはともかくとして……
記憶が完全に戻った状態になったときは…ねぇ(しみじみ


ロイドの正体、ミトスによって暴露です。
が、ロイド、理解してません(笑)
いや、ロイドですしね。
ミトスは自力でロイドがどの種族にも所属しない子供なのではないのか。
とたどり着いてます。
まあ、昔、センチュリオン達から異種族同士の子供が生まれることはない。
という理がひかれている、という内容を聞いていたがゆえ、でもありますが。
エミル?はじめっからロイドのその異常性には気づいてますよ。
この話でも幾度か触れてますしね。
気付いてないのはロイド自身と周囲の人々のみ、でしたし。
まあ、周囲の特にリフィルとかはうすうす感づいてはいますけどね。
それとなく第三者から匂わされてましたし。
まあ、ロイドに理解しろ、というのが無理でしょう。
というか自分のことに関してはロイド、絶対に認めようとしないでしょうしね。
というか理解を放棄するとおもわれます。
放棄して自分は自分なんだから、と自分に言い聞かせる。
それがロイドです。それは何の解決にもなってません。
でも、それがロイドなんですよね……
その時がよければ、その場がよければいいじゃないか!の精神っぽいですしね。
あとさきかんがえず、思ったままを口にし行動しまくりますし。
ようやくロイドも天使、しかも生まれながらにその力実はつかえてたかも?
という所にまでもってこれました。
キリが悪くなるのでひとまずここでくぎって、
次でロイドとミトス戦の決着&クラトスによるマナの解放、
ここより連続してイベントおこっていきます。
クラトスを治療(?)してからようやくメルトキオ~
ミラという要素がでていたので予測している人はしてるでしょう。
…かの作品で印象深いのは、やはり、アレ、ですよね…
人が消えてゆく…消されてゆく…る~る~る~……
ここより、テイルズ作品定番というか必ずどの作品にもあるといってもよい、
とあるテーマがでてきます。これまでにもでてきましたけど。
これ以後はかなりこれでもか!というほどにでてきます。
あるいみ鬱展開がまたつづく…
ちなみに、スキットにいれた宝箱の内容。
宝箱の位置というか中身少しかえてます。
滝の裏にある宝箱の中身違うのでは?とおもわれるでしょうが。
指輪とか防具より武器優先(コラマテ
トレントの森のゴールドドラゴン…地の神殿のドラゴンとあいまって(ラタキシとか)
金策には…いいですよね(にやり

連戦って…つらいですよね。いやまじで。
ゲームでも、回復する暇はぁぁ!?という連戦さんはきついです。
ボス戦とかなんて形態さんがどんどん変化していきますしね…
ちなみに、ロイドに選択(村で休むかそのまま森にいくか)
のシーンがありますが、ゲーム仕立て風味でいえばここで選択肢がでます(マテ)
この話ではそのまま森にいってますが、森にいかなければ、
村にいる中で塔の崩壊がまってます(笑
ちなみに、絶対にミトス・ユグドラシルはかつて、
古代大戦中、エターナルソードを使いこなしていたとおもいます。
クレス・アルベインのように絶対に時空戦士の称号もってたはずです(確信
というかクレスよりも絶対に使いこなしていたと思います。

Home    TOP     BACK    NEXT