「うん?あんたたちは、たしか……」
気分転換というか、考えが入り混じり、外の空気をすって気持ちをおちつけてくる。
そういいい、外にでていたロイドであるが。
町の中にも先ほどの騒ぎの影響、なのだろう。
武装したパルマコスタ兵らしき人々が入りまわっているのがみてとれる。
「えっと…?」
どこかでみたような。
いきなり声をかけられて、しかし相手が誰かわからないがゆえ、
戸惑いの声をだすロイド。
実際、どこかでみたような感じがするのに、それがどこであったのか。
それがロイドには思い出せない。
「その説はあんたたちのつれのエミルっていう子にお世話になったね。
おかげであれからうちの飛竜たちは、なぜかそれまで以上に元気になってるよ」
エミル、そして飛竜。
その言葉をきき、思わず顔をみあわせるロイドとジーニアス。
「…ああ!?たしか、ハイマの飛竜観光の!?」
たしかハイマに【ザール商人】とか呼ばれている一行とともに向かっていたときに、
冬虫夏草をとりにいくとか何とかいっていた男たち。
そのうちの一人であったことをようやくジーニアスは思い出す。
もうあれもずいぶん前のような気もするが、あれから一年もたっていないのだ。
と改めて思えばあれからいろいろとありすぎた、と思わざるを得ない。
たしか、興奮している飛竜たちをおちつかせるため、
ユウマシ湖に冬虫夏草をとりにいくとか何とか。
そんなことをいっていたメンバーの一人であったはず。
あのときは、エミルが精神を落ち着ける効果のあるハーブをもっている、といい、
彼らとともに先にたしかハイマむかっていった。
一人、救いの塔の周辺を飛んで回るだけで一万ガルド。
その他の場所にもいく自由な行動をも含んだ一日利用料が十万ガルド。
たしかはっきりいってかなり高い金額であったことを思いだし、
ゆえにおもわず叫ぶジーニアス。
「まさか、あんたらが神子様ご一行だったとはな。
あのとき、俺は出かけていたからな。ところで、神子様一行がなぜここに?」
その口調からしてどうやらあのとき、
救いの塔に向かう過程でハイマにて飛竜をかりたとき、
この人物はその場にはいなかったらしきことがうかがえる。
もっとも、彼からしてみれば、神子一行が飛竜をかりて、
救いの塔にむかったが、その一行がかつて飛竜たちを静めてくれたあの子供。
あの子供といた一行だ、としり驚きもしたが、納得もしたという経緯があるのだが。
何をどうやったのかはわからないが、あの子供がひとりで宿舎に入ってから後、
飛竜たちはそれまで以上に元気になった。
それはもう客たちからも絶賛の言葉をむけられるほどに。
王の……ラタトスクの加護は伊達ではない。
あのとき、ラタトスクが飛竜たちに施した加護は飛竜たちをよりよい方向に導いている。
よもやあのときの子供が魔物たちの【王】であるなど、彼らは知らない。
ゆえに、神子一行のつれであったというのをしり、
ではあれ以後の飛竜たちの様子は女神マーテル様の加護だろう。
そう結論づけていたりする。
実際はラタトスクの加護、であるのだが、それを一般の人々がしるはずもない。
まして、クルシスにより偽りの歴史というか世界創世のありかた。
それらを信じ込まされている人々ならばなおさらに。
その台詞に再びさらに顔を見合わせるロイドとジーニアス。
「え、えっと……」
そう問われてもロイドは何と答えていいのかわからない。
まだ先ほどのゼロスの件で思考がこんがらがっており、
どう説明していいものか、また説明していいものか、判断がつかない。
「あ、あの。僕たち、ある事情でちょっとした島にいかないといけなくなりまして。
でも、アイフリードさんたちがこの現状だと……」
そこまでいい、
「そういう、あなたはどうしてここに?
たしかハイマで飛竜観光を運営してた人、ですよね?」
たしかそのうちの一人であったはず。
まあ、ウソはいっていない。ウソは。
「そういえば、旦那達がイセリアからブルートさんたちを連れてもどったらしいな。
戻ってきたときいてやってきたんだが……」
そこまでいって、顔をしかめ。
「あんたたちならわかるんじゃないのか?
いったい何がおこってやがる。あんたたちが救いの塔にむかってから、
大分時間がたつが…あの謎の声いわく、
あんたらはどうやらマーテル様の真の試練とかいうのに立ち向かってたらしいが…」」
あの声は彼にもきこえた。
よく理解はできないが、まあそういうような意味合いてあったはず。
そもそも、月の住人の神子とシルヴァラントの神子が云々、
という下りで不思議におもわなくもないが。
というかおとぎ話の住人は本当にいるのか、と思わざるを得ない。
まあ、でもしかし。
「…頻発する地震に加え突如として活性化したような植物。
まあ、これはマナとかいうやつがよみがえったせいでは。
と仲間の一人がいっていたけどな」
マナはすべての命の源。
神子が試練を果たしたゆえに、植物が急成長を遂げているのではないか。
そんなことをいっていたが。
それにしても急激すぎる。
たしかにここ、シルヴァラントはマナの枯渇が原因で、
作物などもおもうようにとれなかった。
が、今では季節とは関係なく、それらの食物があっというまに成長してしまっている。
もっとも、それだけ、ではなく草木までもが成長してしまい、
町まで飲み込むほどに成長してしまっていたりするのだが。
そういえば、とおもう。
ハイマでも神子達一行が訪れたあと、あの赤土色の風景でしかなかったあの大地が、
もののみごとに緑豊かな大地になっていたことを。
それこそ地面むき出しの山、でなく、木々生い茂る山にと変貌をとげている。
「…ハイマでの急激な草木の成長もすごかったが。
これは一か所だけ、ではないようだしな……」
そもそも町の外を移動するのでもせいいっぱいというか難しいところ。
普通に道にはえている雑草といわれし分野も成人男性の身長以上成長しており、
草をかき分けてではなければ先にすすめない。
それが今の現状。
そもそも、刈っても刈ってもすぐにはえるのである。
それこそ空からふってくる光にふれた途端に。
なぜか動物や魔物たちはそれらを気にせずにすすんでいる節がみうけられるが。
それらは草をかきわけ、踏みしめて、ちょっとしたけものみちもどきをつくりだしている。
ハイマでおこった現実がパルマコスタや外の光景をみるかぎり、
どうやら世界規模でおこっている、とみてほぼ間違いないであろう。
自然界における異常に関して、は。
あの声はこうもいっていた。
かつて、王が勇者ミトスと交わされた契約は果たされた、と。
そしてこうも。
伝説にあった、おとぎ話の大樹。
あの樹の化け物…救いの塔を覆いつくさんというか、
おもいっきりのみこんでいるあれが伝説にある大樹であるようなことを。
しかも、それはヒトの負の心…すなわち醜さの影響をうけて歪んだ形でよみがえった、と。
試練、とあの声はいっていた。
かつて勇者ミトスが王とかいうのに懇願したという、
ヒトという命が世界にとって必要か否か、その見極めのための試練だ、と。
――かつて、ミトスは王に懇願しました。ヒトも世界を構成する大切な命だと。
しかし、そんなミトス達の思いをいきているものたちはどれほど実感してるでしょうか?
自分たちのみが選ばれ、また他者をしいたげ、差別するのは当然だ。
テセアラ、そしてシルヴァラント。どちらの世界における今の人のありよう。
ヒトはかつておろかな争いを繰り広げた時とかわっていない。
大樹の種子が芽吹くまで四千年以上かかったのもそんな人の心の負によるもの。
本当にヒトが世界にとって大切な命か否か。
今、歪んだ形とはいえかつてミトスたちが王から授けられし種子が発芽したことにより、
これ以後、地上いきるすべての”ヒト”に試練が課せられます。
私は心の精霊。いきとしいける心ありしものを代表せし精霊。
私のこの声は心あるものすべてに届いていることでしょう
あなたがたヒトは自らが世界にとっての一部、世界を構成する一員である。
それを証明しなくてはなりません。
”力”の何たるかを完全に見誤っているものたちからは、その力が封じられます
そして”力”を悪用している様々な施設は今このとき、消滅するでしょう
あのときの言葉は直接なぜか頭に響いてきたようでもあったので、
一言一句、間違えようもなく覚えている。
まるで直接頭の中にその言葉を叩き込まれたかのごとくに。
実際に叩き込まれたようなもの、なのだろう。
様々な施設は消滅する。
あの声はそういっていた。
実際、イセリアからやってきた船員の一人をたまたまみかけ、
きいてみたところ、唯一残っていたイセリア牧場は消滅した、らしい。
そして確認していないが、海にあるといわれていた絶海牧場すら。
かつての神子達の手により、アスカード牧場、そしてパルマコスタ牧場。
それはすでに壊滅している。
確認されていた牧場は四つ。
つまり、あの声がいうようにディザイアンたちの人間牧場は、
地上からきえてしまった、とみてほぼ間違いはない。
人の試練、とはいったい何なのか。
町でみられはじめた黒い異形の生物もどき。
それが関係しているのだろうか。
「そういう、あんたは…?」
相手がほぼ独り言のようにいい、何やらつぶやいているのをきき、
ようやくロイドも混乱した思考の中からおちついたのか、あらためて目の前の男性にとといかける。
「ロイド。僕もいったけど、この人は…」
ジーニアスがそんなロイドに何かいいかけるが、
「ても、俺、この人の名前しらないぞ?あのときたしかにみたようなきもするけど」
たしか、エミルをつれていったひとりであったのは間違いない。
つれていったというかエミルがついていったというのが正しいが。
「「あ」」
言われてみればその通り。
ゆえに、男とジーニアスの声が重なる。
「そういえば自己紹介がまだだったな。あのときもしてなかったし。
”飛竜の館”に所属しているルー・フレッチ、という。
ちなみに、獲物はこの弓、だ」
いわれてみれば男はたしかに弓をもっているようだが。
その弓がどうして二本あるのだろうか。
ジーニアスやロイド達は知らない。
同じ”館”に所属しているものたちのみがしる真実。
それは彼の姉”ナナリー・フレッチ”の形見である、ということを。
数年前にあったハイマへの魔物の蹴撃。
それによってハイマにあった孤児院は壊滅した。
姉がある程度、どうやったのかはわからないが資金をえて、
姉弟二人でネコニンギルドの依頼にて生活できるようになり、
孤児院からでて生活していたのだが。
あのとき、襲撃をしり、二人もまた応援にかけつけた。
そのとき、彼の姉であるナナリーは彼をかばって怪我をおい、
その怪我が元なのかどうかはわからないが、結果として命を落としてしまった。
それは魔族の瘴気による影響。
それをふつうの人々が知るはずもない。
瘴気を含んだ一撃は、ふつうのヒト、否マナにて生み出された生物にとって毒となりえる。
精神が狂わされる場合もあれば、命を落とすことも。
かつてハイマの地にて保護されていたピエトロがあるいみよい例。
彼もまた瘴気によって病気に侵されていたうちの一人。
その症状が姉のそれとよくにていたがゆえ、彼は神子達のことをよく知っている。
というか、どうしてあのとき、と思わなかったといえばウソになる。
けど、それは仕方ないこと。
仕方ない、と割り切らないといけないのに簡単には納得できないが。
しかしそれをこの場にいる子供たちにいっても意味がないことを、
ルー、と名乗った男性はよくわかっている。
「弓?」
その台詞に一瞬ロイドは首をかしげる。
たしかに弓をつかうものはいるにはいる。
が、弓が自分の獲物だと公言しているものはあまりいない。
いっては何だが、弓は地味で、しかもあまり威力がない。
それが人々が弓を利用する際の共通の認識。
極めればいいとか、そういうのはないが。
そもそも、弓を主に使うといわれているのはエルフ族。
そのエルフ族…とおもっていたリフィルも、ジーニアスも弓はつかわなかった。
むしろ弓よりは魔法をつかったほうがてっとり早い、という理由もあったのだろうが。
しかし、ふつうのヒトで弓を主体にしている、というのは初めてみる。
「弓って、だって……」
だってあまり強くないし役に立つことすくないんじゃあ。
本心のままにそうロイドがいいかけたその矢先。
「あ。ルーさん!ちょうどよかった!今、野営地にいこうとおもってたんですよ!」
ふと、ロイド達も聞き覚えのある声がする。
「これは、ニールさん。
いや、ブルートさんたちがようやくイセリアから戻ったと、そうききましてね。
今後のこともあるので、夫人たちを交えて話し合いの必要があるのでは。
そうおもって訪ねるところだったのですが」
ロイド達に話す口調と現れた人物…総督府のニールに対する口調はかなり違う。
一応、【飛竜の館】の顔として接する以上、最低限の礼儀は必要。
ゆえに堅苦しくないまでも、一応きちんと敬語をつかいわけている。
その理由にすぐさまジーニアスは思い当たるが、ロイドはわかっていないらしく、
自分たちとニールに対する口調が違うことにすこしばかり首を傾げていたりする。
目上の人にたいしての言動。
それは常にリフィルにロイドは注意されていることではあるが、
いまだにロイドはそれをなしえたことはない。
相手が国王、という立場のものですらふつうの溜口をきくほどに。
不敬罪にあたる云々と説明してもまったく意味がわかっていない、
もしくはわかろうとしていないがゆえにどうしようもない。
ちらり、とそんなロイドの様子をみて溜息をかるくつき、
おもわずそんなことをおもうジーニアス。
ロイドの誰でも同じように接するというのは利点でもあり、
しかしそれは身分というのを重んじる場所では確実に欠点となりえる。
おそらくそれらの点を説明したとしても、何でだ?
というのが目にみえている。
万が一、世界が一つにもどったとすればそれでは問題がおこる、
というのをわかっていないかのように。
おそらくわかっていない、のだろう。
なぜ、目の前のルーという人物が口調をかえているのか気づいていない。
この様子を見る限り。
ゆえに無意識のうちにジーニアスは溜息をついてしまう。
ロイドもそろそろ十八になろうか、というのにこれでは先がおもいやられる。
やっぱり僕がずっとついていないとロイドをほうっておけないよね。
そんな思いすら湧き上がってくる。
第三者がそんなジーニアスの思いをきけば、
”ああ、馬鹿な子ほどかわいいというやつだね”といわれるであろう。
「まあ、たしかに、今後のことも話し合いは必要ですが。
そういえば、飛竜たちの様子はどうですか?
この町がこのようになってから、そちらの宿舎も同じようになり、
飛竜達の小屋が木々にてつかいものにならなくなった。
その報告はうけていますが……」
報告はうけたが、その確認まではしていない。
というか今現在、町の外にでてもまず進むことすら難しい。
よくよく旅などに慣れ、また未開の地とおもわれし場所ですら立ち入るような存在。
そんな存在達ならば背丈よりも伸びている草花を押し分けて旅をすることは可能であろうが。
ルーの台詞にニールが少し困惑気味にと返事を返す。
「ええ。せっかくの試みであったのですが…
われらが飛竜の館と、パルマコスタの旅業代理店。
それの連携のためにとひとつがい、つれてきていたのですがね」
いいつつ、ルーもまた溜息ひとつ。
パルマコスタとハイマ。
パルマコスタ牧場と、アスカード牧場。
いくら何でもかなり離れたイセリア牧場から陸伝いでディザイアンたちも移動しないだろう。
そもそも、通行証を発行しはじめたのは牧場関係者がまかりまちがって入り込み、
より被害をもたらさないがための処置、そうニールはかつてきかされた。
その金額を高めにしたのも、絶対にふつうならば払えない金額にしたのも、
何の後ろ暗いところがないものたちならば、ふつうに旅行代理店において、
旅業に参加すればいだけのことだ、とも。
実際、旅をする理由があるとすれば大概は旅業。
旅業をするにあたり、きちんと手続きさえとれば、
旅の行商人たちがうっているような金額の品を買う必要もない、とも。
それに、それでも手にいれたいとおもうものは、お金があるものか、
もしくはそれなりに事情があるもののはず。
ゆえにこの金額で問題ないのだ、そういわれ、はじめは百万ガルドでしかなかった金額は、
いつのまにか一億ガルドと何ともいえない金額にまでのしあがっていた。
通行証は基本、パルマコスタの総督府が発行しており、
ハコネシア峠を挟んで位置しているハイマやアスカード。
そこにいるものが旅をするとするならば、何らかの方法をもってして、
パルマコスタが発行しているという通行証を手にいれる必要があった。
もしくは、遠回りになるのを覚悟で海に出てからでむくか。
彼ら飛竜の館が飛竜による観光事業を始めた当初、
パルマコスタのドア総督から、パルマコスタにもしも飛竜で飛来するなならば、
パルマコスタに向かう通行料が別途必要となる、とわざわざ総督府から通達してきたほど。
それらの資金はすべてディザイアンに流れていたことを今ではニールは知っている。
いまだにその事実はニールを含め一部のものしかしらないが。
飛竜の館に所属するこのルーはそこまで事情に詳しくはない。
まだ若い夫婦の飛竜達なれど、子供たちも四匹生まれ、
若いゆえにこのたびの試験的な移動も耐えられるだろう。
そのために選ばれた家族、であったのだが。
その試験的な運用が始まる前にこの騒ぎ。
ようやく仮初とはいえ飛竜達の宿舎がパルマコスタの外れに建設しおわったというのに。
その建物もこのたびの草木の増殖によって意味をなさなくなっている。
ハイマのあの異常ともいえるほどの緑の復活。
それに近いものがあるかもしれないが、あのときですらここまでではなかった。
生活に差し支えるほど、あのときは周囲の草木は成長を遂げていない。
よい意味で影響をうけはしたが。
「たしかに。今は旅業どころ、ではなくなってしまいましたからね……」
ルーの言葉の意味を悟り、ニールも再び顔をふせる。
再生の神子の旅。
神子が救いの塔にむかい、それでおわり。
彼らのような一般人はそのようにおもっていた。
が、神子達が救いの塔にむかっても一向に世界が再生されたような気配もなく。
否、たしかに神子が旅立ってからそれまであった異常気象。
それらはウソのように穏やかになり、収穫も安定した、と話ではきいている。
実際、パルマコスタが誇る名物の葡萄も神子が旅立ってからのちは、
気候が安定したゆえか、よりよい品質のものがとれていたときく。
ある時から頻発しはじめた地震も、おそらく再生の神子により、
女神マーテルの力にてディザイアンたちが封じられる。
その予兆だろう、そのようにおもっていたものは大多数。
それらの地震すら、世界が再生される前の小さな予兆。
そうおもっていたのに。
しかし、現実はそうではなく。
遥か北東に見えていたはずの救いの塔。
それはなぜか北西にと位置をかえ、今では異形ともいえる化け物らしき樹もどき。
それに覆われ、塔の原型はもはやみえもしない。
救いの象徴といわれている塔は今やグロテスクともいえる巨大な何か。
それに覆われてしまい、姿も形もない。
かろうじて上空のほうに視線をむければ、
塔っぽい影らしきものがみえるようなきもしなくもないが。
しかし、それらにいきつくよりも先に空を覆い尽くす紫色の巨大なこれまた何か。
そこから紫色を帯びた雷のような稲妻もどきが常に地上にむけられている。
まるで、稲妻によって地上と空にあるそれ。
それを結びつけているかのごとくに。
事実、その通り、なのだが。
一般の人々はそんな裏事情をしるはずもなく。
ゆえに不安ばかりがつのってゆく。
本当に神子は再生の旅を成功させたのか、と。
あの頭に響いてきた謎の声を信用するとするならば…否、真実なのだろうが。
そもそも、女神マーテルの関係者でなければ、
普通、すべての生きとし生けるもの…老若男女問わずまったく同じ内容の言葉。
それが頭に響くようにきこえてくるはずもない。
あの声を信用するとするならば、神子の真なる試練というものは、
伝説にあったマナを無限に生み出す大樹カーラーン。
それを再生させることにあったらしい。
これまでの歴代の神子はそこにいたる最終試練をこなすことがなかったらしいが。
しかし、このたびの神子はそれをなしとげた。
が、その大樹があの声いわく、人々の負…とかいうよくわからない心。
それによって穢されてしまっており、そのまま発芽してしまった、と。
心が生み出せし負の影。
その意味はわからない。
が、この現状をかえりみるにあたり、あの黒い異形の化け物。
それがもしかしてそうなのではないか、という思いはある。
それ以外おもいつかない、という理由もあるにせよ。
何やら二人して通じ合うところがあるのか黙り込んでいるルーとニール。
そんな二人の様子にほぼ空気と化しているロイドとジーニアスは何ともいえない思いになる。
そんな中。
「あ、それはそうと。こんな話をしにきたんじゃなかったんです。
ルーさん、総督府にきていただけませんか?クララ様がお話があるそうで。
あと、たしかロイドさんにジーニアスさん、でしたよね。
神子様一行の皆さまも集めるといっていましたから、ご一緒に」
ふとようやく本筋たる用件を思い出したのか、ポン、と手をかるくうったのち、
あらためてルー、そしてロイドとジーニアスをみてニールがそんなことをいってくる。
「クララ夫人が?」
その言葉にルーはすこし考え込む。
自分に用事があるとするならば、それはまちがいなく飛竜に関することであろう。
ここ数日というかこの異変ののち、
飛竜達が周囲を飛び回っていることで何か町の人々にいわれたのかもしれない。
彼らが飼育している飛竜は比較的おとなしい種族のタイプだが、
魔物のことにふつう人々は詳しくない。
飛竜、といえば肉食で獰猛。
そんなイメージが果てしなく強い。
ゆえに、自分たちの住処である町の周囲をそんな飛竜がとびかっていれば、
しかもトンビが獲物を狙うかのごとくの行動に近い飛行方法。
すなわち、町の周囲を旋回するように上下して飛んでは離れてゆく。
それをくりかえしているここ数日。
たしかにこの異変が起こる前から飛竜達の様子はどこかおちつきはなかったが。
ルーは知らない。
飛竜達はその行動でもってしてこのあたりのマナを整えている、ということを。
いくら人に飼われているとはいえ、彼らも魔物。
世界における魔物の存在異議。
それはその身を通じ、マナを整えること、にあるのだから。
ひきっ。
おもわず顔が引きつってしまう。
何だ、これは。
まさに誰も口にはしていないが、まさに視線と表情が物語っている。
クララに呼ばれている、というので総督府にいってみたところ、
すでにロイドとジーニアス以外はその場にそろっており、
リフィルはけが人などの治療にあたっていたのだが、
人々が落ち着くに従い、リフィルが神子一行の一員だ、
と今さらながらにきづき、今回の異変の原因。
それが神子にあるのでは、と問い詰めたり、罵詈雑言を浴びせだすものも出始めたという。
そういう輩をいちいち相手にしていればきりがないゆえに、
リフィルは無視をしていたのだが、相手にされないのに調子にのってか、
一部の町の人々まで同じような態度になりはじめ、
だんだんとそういう言葉を浴びせる人々の体の周囲に黒い靄が発生しだし…
黒い霧はそんな人々から抜け出したかとおもうと、
あっというまにこれまたいくつもの黒い異形となりはてた。
それらを産んだのもリフィル達の責任だ、とわけのわからないことをいい、
人々を不安にあおるような扇動者すらでる始末。
兵たちがあおっているものを取り押さえてみれば、
彼らはかつてドアのおこぼれに預かっていたものたちらしく、
ドア、そしてディザイアンたちと通じていたものである、と判明した。
だからといって、人々の心に芽生えた不安と疑念。
そういったものがすぐに取り除かれるわけでなく。
神子達の安全のために、彼らにはすぐにでも出発してもらったほうがいいだろう。
そう、ブルート達を含め、クララもまた賛同した、らしい。
そして、ニールに案内され、町の外にやってきた、のだが。
海からはわからなかった陸の現実。
それが今まさにここにはある。
見渡すかぎり、大人の背丈よりも伸びた、どうみてもおかしいだろう!?
といいたくなるような、普段は地面にベッタリと生えているような植物類。
それらがなぜこれほどまでに巨大な成長を遂げているのか。
と切実にいいたい。
これでは視界がまったくあてにならない。
というか道らしき道すら覆われてしまっており、草をかったとしても、
空、そして地面より降り注いだり、湧き上がる光に触れるとともに、
あっという間に植物たちは成長している。
まさに異変。
そういわずして何とする、という現象がここにはある。
たしかに、なぜ町を出る以前に麻で編み込まれた手袋をあらたにつけなおし、
さらには腰にぶらさげていた筒のようなものの中から鎌らしきもの。
それを取り出したときには何ごとか、とおもいはしたが。
町の出口近くにまできてみれば、その行動も納得する以外の何ものでもなく。
「…すげ~…家の周囲もここまで成長してなかったぞ……」
おもわずロイドがぽつり、とつぶやきをもらす。
たしかにイセリアの周辺も草木はたしかに成長をとげてはいたが。
ここまで、左右をみわたしても、どこもかしこも草花です。
というような現状ではありえなかった。
その右手に鎌をつかみ、そのまますたすたと先にとすすみ、
むんず、とばかりに草をある程度の大きさのところで束ねてつかみ、
そのまま、ざくっと草刈鎌であったらしきそれを手にしてざくっとかりとるルーの姿。
「ここまですごいんだったら、逆に野焼きとかしたほうが楽なんじゃあ……」
おもわず、しいなもその光景を見てそう漏らさずにはいられないほどの自然界の異変。
そんなロイドやしいなのつぶやきがきこえたのであろう。
「火をつけても意味がないからな。あの空からふってくるあの光。
あれに触れたらいくら火をつけてもあっさりときえまう」
彼らとてその方法を考えなかったわけではない。
が、ある程度枯れている草花ならばいざしらず、いまだにふつうに…といっても、
異様に大きく成長してしまっている草花。
生の草などはなかなかに燃えにくい。
まして、空から定期的に降り注いでいる光にふれると、
せっかく火をつけてもすぐになぜかきえてしまう。
結果として、人力ではあるが、人の手より刈り取り道を切り開いていくという方法。
それしか今のところ方法はない。
もっとも、町の人々は町からでるどころではいのでいまだにまだ不都合を感じていないようだが。
この異変が起こり始め、はや数日。
そろそろ人々の不満もたまりはじめるころであろう。
「いえ、問題なのはそれではないわ。みてみなさい。ジーニアス」
ふとみれば、リフィルが険しい表情をしながらじっと地面をにらみつけている。
「え?」
姉にいわれ、リフィルが指差す方向にロイド達も無意識ながら視線をむける。
リフィルが指をさした場所。
そこには、今、ルーが刈り取った草花がそのまま無造作に地面に放り投げられているのだが。
普通、草花を引き抜いたり、もくしは刈り取ったとしても枯れてゆくのに時間はかかる。
しかし、今はどうだろう。
今、刈り取られたばかりのそれらは、なぜか一気にしおれていったかとおもうと、
見る間にと枯れていき、そして一気に時間が経過したかのごとく、
砂のごとくに崩れ去っている。
それは本来ならばありえない光景。
つまりは、刈り取られたばかりの草が地面に投げ捨てられると同時、
あっというまに時間が経過したかのごとく、枯れ朽ちたことを暗に示しているといってよい。
『なっ』
そう短い声をもらしたのは一体誰だったのか。
それすらわからないほどに、この場にいるほとんどのもの、
ルーを除くが…の声が一致する。
「興味深い現象ね。これは草花だけに通用しているのか、それとも……」
リフィルの学者、しての好奇心にどうやら火がついてしまったらしく、
リフィルは自らも近くの異様に成長している草をひきちぎっては足元にほうりなげ、
一気に枯れ朽ちてゆくさまを幾度も幾度も観察しはじめていたりする。
枯れ朽ちた草花はやがて大地と同化するように地面よりたちのぼった光。
それに同化するかのごくとに交じっていき、そのあとには痕跡も何ものこらない。
つまり、そこに刈られた草があった、という痕跡すらのこっていない。
これでは腐葉土などをつくろうとしても、つくれはしないであろう。
まあ、今のこの混乱ぶりのなか、そこまできづくものはほとんど皆無ではあるが。
「そういや、あんたはたしか、学者兼教師とかいっていたな。
興味があるのはわかるが、とにかく先をすすむぞ?
目的の飛竜の小屋といわれている宿舎がある場所にむけて、な」
いいつつ、むんず、と手前にある草花をつかんでは、草刈鎌でかりとってゆくのをわすれない。
そのまま、ぽいっと足元にかりとったそれを投げ捨てれば、
やはり先ほどと同じような現象が地面におちたそれらにおこっている。
「空からの光はそれこそ不規則にふってくるのでいまだ読み取ることは不可能なれど。
どうやら大地からわきあがってくる光。それらは一定の周期があるようだからな」
いいつつ、さらに進んでゆくたびに、ざくざくと草をかりとってゆきながら、
「これほどまでに草花が成長するのは、ここしばらく仲間たちとともに実験してみたが。
どうも大地からの光が関係しているらしい。
仲間のうちの一人は大地や空からの光はマナの塊ゆえに、
植物が異常なほどに成長しているのだ、とかいっていたけどな」
その仲間がハーフエルフであるがゆえ、信憑性は高い、そうルーとしてはおもっている。
もっとも、見た目は普通の人とかわりがないゆえに、
また彼も仲間たちまでもが迫害対象になるのをおそれ、率先して他者の前で術はつかわない。
ゆえに、飛竜の館のメンバーの中にハーフエルフがいるのをしっているのは、
飛竜の館に所属している彼らのみ。
「この時間帯ならば、大地から光が湧き出すよりも先に拠点にもどれるはずだ。
…もっとも、こんな状態なので正確な時間、というのもみただけではわからないかな」
かつて、ディザイアンの施設のあった付近から見つけたという懐中時計。
その時計というものがなければ、
まちがいなく今がいつごろかというのはわからなかった。
そもそも、今は昼も夜もないのである。
常に空には紫色の鈍くかがやく巨大ともいえる何かの球体っぽいもの。
それらがうかんでおり、太陽どころか星すらみえない。
それどころか、いくら起きていても訪れない夜。
はじめのころは、これこそが女神の祝福だといっていたものたちですら、
日を追うごとに不安にかられているのが今の世界の実情。
「と、ということは、この現象は、他でも?」
「確認していないが、おそらくそうなのではないか、とふんではいる」
実際確認のしようがない。
「簡単に飛竜で空を飛んでみてみたが、地形そのものまでもが変化しちまってて。
もう、何が何だか…神子様一行は何かご存じなんじゃないんですか?」
その視線はコレットにむけ。
「え、えっと……ごめんなさい……」
いきなりルーから話をふられ、コレットとしては謝ることしかできはしない。
そもそも、理由を説明してほしい、といわれても何といっていいものか。
地形そのものがかわる。
それこそ神の御業、としかいいようができないことが実際におこってしまっている。
二つの世界の境界があいまいになり、二つの世界同士がせめぎあうように、
それぞれの世界でそれぞれの世界が認識できるようになっている。
今はまだ、人々がそのこそに気づいているものはすくないだろうが。
時間とともに気づくものはふえてくるであろう。
「それより、総督府でいっていたこと、なのだけども。
本当にいいのかしら?こちらとしては助かるのだけども」
クララから、そしてニールから提案されたこと。
今、このように町の中がいつ人々が不安にかられ暴徒と化すかわからない現状の中。
いつまでも、神子を町の中にとどめ置いておくことは危険のほうが高い。
そうどうやらニールが判断したらしい。
ちょうどちょっとしたことでクララのもとを訪れていたゼロスとしいなに確認したところ、
彼らはとある島にむかって進む予定、であるらしく。
その島も海賊船でたどり着けるかどうかあやしい、ということであった。
そのとき、ふとニールとクララの脳裏にうかんだのは、
飛竜の館に所属している飛竜達のこと。
たしか、いまだ彼らはハイマに戻ったとはきいていない。
実際、ある程度の区切りがつけば、パルマコスタの旅行代理店と契約を結び、
低俗的にパルマコスタからでも飛竜観光を利用できる仕組みを整えかけていた。
しかし、この現状ではそうはいかないであろう。
少なくとも、観光事業どころではない。
まずは町の復興が第一。
この異変はいつおさまるともわからない。
「クララ夫人もおっしゃっていたとおもうが。
まあ、神子様たちの手助けになり、この異変が少しでもどうにかなれば。
どちらにしろ、俺たちのようなものにできること、といえばこれくらいだしな」
あの謎の声はヒトの試練だ、といっていた。
神子達がこの異変そのものをどうにか収めることこそが、神子の試練、というならば。
それによって地上でおこっているあまたの混乱。
それをヒトが乗り来られるか否か。
もしかして、真実、ヒトとは守るべき存在なのか否か。
そうもしかして女神マーテル様は見極めるために試練をくだしたのかもしれない。
あの声のいっていた”王”という言葉もきにはなる。
王、でおもいつくは、シルヴァラント王朝の血をひくというルアルディ一家か、
もしくは精霊王オリジンか。
何となくだが、その両方ともあの声のいっていた”王”とは違う気がする。
しかし、それを口にすることなく、
「今、こっちにつれてきている家族はまだ若い。
若いがそっちの人数的にもちょうどではあるだろう。
六体しかいないから、ひとり一体づつ、というわけにはいかないが……」
「十分よ」
そう。
十分すぎる。
すくなくとも、海賊船で向かうよりは確実に早くつくであろう。
リフィルとルーがそんな会話をしている最中。
「すげ~。本当にすぐに枯れていくんだな。なんかおもしれ~」
「もう、ロイド!何あそんでるのさ!!」
そんな二人の背後のほうでは、自分も近くにはえている草をむんずとつかみ、
そのまま力任せにひきちぎっては地面になげ、瞬く間に枯れてゆく様子。
それをみて何やらはしゃいでいるロイドの姿と。
そんなロイドをみて、窘めるように注意を促しているジーニアスの声がきこえてくる。
本来ならばありえるはずのない現象。
どうやらそれにロイドは心惹かれてしまったらしい。
「…あんた、そういう何にでもすぐに興味を抱くところはまだまだお子様だねぇ」
「もっとも、ロイドの場合はすぐに飽きるけどね」
そんなロイドをみてあきれたようにつぶやくしいなに、
思いっきり溜息をつきつつも、どこか悟ったようにいっているジーニアス。
「草花って、刈り取ったあと、こんなにすぐにかれるものなのですね」
「いや、違うからな。セレス。絶対に違うからっ!」
そんな光景を目の当たりにし、知らなかったとばかりにつぶやくセレスに、
妹の常識が間違った知識になってはたまらない、とばかりに必至に否定しているゼロス。
ある意味、何ともいえないカオスともいえない光景がその場において繰り広げられてゆくが。
「…ともかく、これをどうにかする手段がある、かもしれないのだろう?」
「ええ」
…どうやら、ルーもリフィルもそんな背後にいる彼らのやり取りは無視することにしたらしい。
というか、関わっていては時間がもったいない。
「ふむ。ひとりで刈り取るより、手伝ったほうがはやいだろう。私も手伝おう」
「わ、私も手伝います。草刈は…樵の仕事をする上でなれてます、から」
いいつつ、リーガルはなぜか彼の荷物袋の中よりも小さなサバイバルナイフらしきもの。
そしてプレセアはプレセアにて、その背に背負っている大鎌をかまえ、
ルーが進んでゆく方向。
ルーを挟んで周囲の草花をざくざくと刈り取り始める。
やはり、ルー一人が道を切り開くのと、三人が切り開いてゆくのとでは、
速さ、そして広さも断然の違いをみせ、またたくまに、三人の手より、
ざくざくと目の前に立ちふさがっている草花の類は地面に放り投げられてゆく――
スキット;パルマコスタから外にでたとき
ロイド「すげぇ!なあなあ!これ、おもしろいよな!」
ジーニアス「もう!ロイド!何やってるのさ!」
しいな「…あんた、何、ダイクからもらった剣で周囲の草凍り付かせて、
そのままばっきりおって地面に落としてるんだい……」
リフィル「ふむ。やはり急激に枯れる現象は、地面におちてから、か。
この現象はこの草花だけに応用されるのか、あるいは…
ああ!こういうときにかぎり、野生の動物でも魔物でもいいからでてこないか!?
ロイド達にでも仕留めさせてその死体がどうなるか!
草との違いを検証できるのに!」
ジーニアス「ね…姉さんまで…何で遺跡でもないのに遺跡モードになってるのさ…」
しいな「…まあ、こんな現象は、たしかに学者たちの興味をひくだろうねぇ。
あっちにのこってるアステル達の様子が目にうかぶよ……」
プレセア「…何だかみなさん、元気ですね」
リーガル「まったくだ。ロイド、どうせやるならば。
そっちの横手てなくて、進む方向、つまりわれらの目の前の草花をやれ。
すでに簡単な足場ができているところの横手の草花を刈り取っても意味はないだろう」
セレス「そういう問題でもないような気がするのですが……」
マルタ「うわ~。麻らしきものもみえるけど、二メートル以上は確実にあるよね…これ」
リフィル「興味深いのはまだ秋口でもないのに実がついているものもあるということだ。
この現象はどうやら季節を問わず、植物などを急成長させているらしい。
そしてその結果、当然、花や実をつけているようでもあるしな」
まっすぐに伸びた茎に、特徴のある掌状の複葉がついとなりて茂っているそのさまは、
まさに圧巻、としかいいようがない。
本来ならば夏ごろに黄緑色の小花を穂状につけ、秋に実が熟す、はず、なのだが。
みるかぎり、その花と実が同時になっている模様。
どうやら麻のみでもわかるように、今現在、生えている草花の季節。
それらを問わずにふつうに植物たちが活性化を果たしているらしい。
おそらく、それらもすべてはあの”大樹”に関係しているのであろう。
いくら歪んだ形で発芽したとはいえ、大樹は大樹。
伝説にある通りならば、あの大樹一つで世界中のマナを賄えることかできる、のだから。
ロイド「そういえば、ソーサラーリングって…あれ?リングがつかえない?」
ジーニアス「マナが乱れてるからだよ。実際僕も今、魔術がつかえないし」
いくら呪文を唱えても、マナがきちんと集まらない。
ジーニアスはそれは自分が未熟だからだ、とおもっているが、真実は異なる。
よもや、地上におけるすべてのエルフの血族たちが同じようなことになっている、などと。
このときのジーニアスは知る由も…ない。
※ ※ ※ ※
『クルワァッ!!』
バサバサと翼が上下する音がする。
やはり大きい、とおもう。
まだ若い個体、というのでそう大きくはない、のであろうが。
子供とおもわしき四体の体には特有ともいえる斑点模様がうきでており、
その姿はかつて、コレットを連れ去った飛竜の幼体をおもいおこさせる。
どうやら食事中、であったしく、両親…とおもわれし、
斑点模様がある飛竜とはことなる、ふつうの少しこげ茶色とも、
黒ともとれる皮膚をもちし飛竜のうちの一体が、
これまたどこからとってきたのかわからないが、おそらくは野生のうさぎ、なのだろう。
それらをくわえひきちぎり、子供たちにと分け与えている光景がそこにはある。
耐性を持たないものにとってはあきらかに目をそむけたくなる光景。
救いは周囲に生い茂る草花により、血臭はすれどその光景が完全に視界にははいらない。
その一点につきるであろう。
そんな周囲に血臭いが立ち込める中、ルーいわくの、
ハイマの飛竜観光こと、【飛竜の館】の支店となるうる宿舎。
草花を刈り取りつつも、どうにかこうにかたどりついた。
宿舎はパルマコスタから少し外れの森の近くにとあり、
ロイド達の記憶がたしかならばたしかこの付近には川が流れていたはず。
パルマコスタの南に位置しているカミシラ山地。
そんなカシミラ山地に続く道沿いにある森の外れ。
本来ならば街道筋から少し入った森の中に小屋はあり、
さらにもうすこし南に下るととある遺跡もあったりする。
かつて八百年ほと前にこの付近にあった王朝の名残ともいえる神殿跡。
この街道筋はその神殿跡にと旅業に訪れるものたちが主に使用する街道で、
ゆえにその街道に近く、さらには町からさほどはなれてもおらず、
かといって、完全に近くもない位置という理由でこの場所が選ばれた。
いくら人に飼われているといっても所詮魔物は魔物。
そしてさらに肉食、という認識も手伝って、あからさまに町の近くに宿舎をつくる。
というのは町の人にもうけいれられないだろう、という理由からこの場所につくられた。
そもそも、ハイマとて町並みから少しはなれた森の中に、
飛竜達の宿舎はつくられており、つまりヒトの安全面を確保したうえでの処置だといえる。
ともあれ、草を刈りつつどれほど進んだであろうか。
ようやく目的の場所にとたどり着いたころにはすでにロイドも草が突如として枯れる。
その現象になれたらしく、あきた、といって率先して草を刈らなくなったりもしたのだが。
マルタに男の子なのに情けない、プレセアですらやってるのに、
といわれ、しぶしぶ途中から草の刈り取りに再び協力を始めてはいたが。
森の中につくられている宿舎の雰囲気はハイマの宿舎のそれとよくにている。
が、その宿舎の中というか中央から木がばきばきと生え、
宿舎の屋根を突き破り、宿舎自体にもいくつもの蔓のようなものがまきついていなければ
という注釈がつきはするが。
しかし、しかしである。
「…なあ、先生……」
「…いわないで。ロイド。言いたいことはわかるから」
空を見上げて何かいいかけるロイドの言葉をさらり、とさえぎるリフィル。
ジーニアスたちも何か言いたそうではあるが、
それよりも何がどうなっているのかわからない、
というような表情をしているルーたちの様子のほうが気になっているらしい。
皆が皆、誰にいわれたわけでもなく、ひたすらに空を見上げている今現在。
見上げる空には十数匹にもおよぶ飛竜達がぐるぐると舞っている。
この場にやってきたとき、子供たちに餌を与えていたらしき成竜たち。
それはわかる。
わかるのだが。
なぜ、ルーが一言二言、この場にいた宿舎を管理しているおそらくは仲間、であろう。
その人物に何かをことづけ、そんな飛竜達に近づいていったところ、
なぜか
なぜか高らかに空にむかって鳴きはじめた。
しばらくすると、いくつものバサバサという羽音がし、
それを確認したかのように、この場にいた夫婦だという飛竜達も飛び上がった。
彼らの頭上には十数匹にも及ぶ飛竜達がなぜか円を描くようにして、
ぐるぐると彼らの上空を飛び回っていたるすのこの現状を何といっていいものか。
まだ若い…生まれてまだ数か月にも満たない、という斑点をもちし子供たちは、
きょとん、としたようにその場に居座っており、
小さなその首を必至にのばし、食後の身だしなみ、とばかり、
羽を大きくひろげ、翼をつんつんそのくちばしでつついている光景も目にはいる。
親らしき二匹の飛竜は上空の、どこからかとんできた仲間らしき飛竜達と飛び回り、
子供とおもわしきまだ幼さ特有の斑点ののこる体をもちし飛竜は、
そんな親の行動に気づいているのかいないのか。
ひたすらにそれぞれ体の毛づくろいをしているのがうかがえる。
この飛竜達、ぱっと見た目にはわからないが、一応は毛があり、
それらが滑らかに平均してあることから、ぱっとみためはただの皮のみ、
と人間たちに誤解されている節がある。
まあ、斑点とそして毛があるのはまだ若い飛竜の特徴といえば特徴なのだが。
比較的、若い飛竜達はその実において体温管理がへたであるがゆえ、
そのように一定の年齢になるまでは体毛、という形でその身の体温を保っている。
しかし、一般的にはそこまで詳しくは知られておらず、
当然のことながら、それをロイド達が知るはずもない。
リフィルとてそのような魔物に詳しい書物などみたことがあるはずもなく。
結果としてコレットを含む大多数のものがそんな魔物の生態にはまったくもって詳しくない。
ゆえに、飛竜達が仲間意識がつよく、あの空を飛び回り、
それぞれ意見交換をしつつ、相談しあっているなどと。
彼らは夢にも思わない。
というかおもえるはずもない。
リフィル達ができること、といえばなぜか増えて頭上を飛び回る、
まるでトンビが獲物を狙うときにくるくると旋回するようなあの飛び方。
それを十数匹もの飛竜達がぐるぐると交差するように飛び回っている、ということのみ。
自分たちの両親が人間に助けられ、ゆえに恩を返す意味合いもあり、
人間に協力をしていた。
その最中、本能に刻まれし大樹の波動を感じ取り、あろうことか【王】の気配すら。
人間たちの言葉を借りるとするならば、【王】は【神子】とよばれている
よりによって、王を裏切っているであろうもものの道具となりえるヒトの子。
そのもものとともにいる、とのことらしい。
王が初めて自分達のいた宿舎にやってきたときのあの感動と興奮を忘れたわけではない。
しかも自分たちに直接加護を施してくれるなどとは。
これほど誉れなことはない。
それこそ王が目覚めたのは奇跡にも等しい、ともおもう。
それほどまでに王はながらく眠りについていた。
そして、今。
その【王】とともに行動していたはずのヒトの子たちが、
自分たちの力を借りたい、といってやってきた。
しかし、そこに困惑がある。
今、かの地…もしも彼らが自分たちがよく利用されていた救いの塔にいくため。
そのための足として使おうとするならばかの塔にはヒトは今、ちかづけない。
正確にいえば、魔物たちといった自然界の動物などの力。
それを借りて、では絶対に。
万が一、移動したとしても、途中にかけられている障壁ではじかれる。
魔物たちは自在に内部に入ることは可能なれど、ヒトは許されてはいない。
【王】が魔物たちに命令しているのはいたって簡単。
かの地、救いの塔と呼ばれし場所に今後、ヒトがたどり着く協力をするなかれ。
目的地がどこなのか。
また、協力してもいいものなのか。
しかし、彼らはたしか王とともにいたヒトのはず。
ゆえにまだ年若い自分たちだけでは判断がつかず、こうして指示をあおぐべく、
群れの長達を呼び出した。
近況時における咆哮の叫びをもってして。
眼下にその王のつれであったというヒトの子たちがいる。
そのことも含めての話し合い。
どこまで協力していいものか。
王の意図に反することになるのではないか。
彼らの会話を聞く限り、彼らはもう一つの世界に移動したい、らしい。
彼ら魔物はこのような状態となり自由に位相軸、すなわち次元をこえられる。
が、ヒトはそうではない。
移動しようとすれば、それはかろうじて世界をつないでいるかの塔か、
もしくは王が守護せし【扉】以外から移動するしか方法はない。
王の加護をうけ、群れの長たる飛竜はすでにヒトの言葉を操ることが可能となっている。
が、ヒトとはどこまでも貪欲で、それをしれば飛竜達にどんな無理難題をおしつけるか。
ゆえに、それを知った彼らの直接の主ともいえるセンチュリオン・ウェントスからも、
ヒトの言語を操れるようになったことはヒトに知られないように。
そう王からも支持があった、と厳命がくだっている。
ゆえに、ヒトの言葉を駆使し、彼らの目的を直接聞き出すことはできはしない。
かといって、このような些細なことでセンチュリオン様がた、
ましてや【王】の手をわずらわしても、という思いがあるのも事実で。
ゆえにこそ、彼らはしばし、一族による話し合いをしているにすぎない。
まったく手をかさない、というのもおそらく王の意図に反するが、
手を貸しすぎるのもまた王の意図に反するであろうがゆえに。
「…まさか、エミルがいない状態でこんな形になるとはね……」
どこか疲れがみえる口調でぽつりとつぶやくリフィル。
ざっと周囲をみれば周囲には群れとなしてとんでいる飛竜の姿。
結局のところ、ルーたちいわく、
自分たちが飼育している飛竜が全部いる…と唖然としていたが。
その数、まだ子供の飛竜を含めればかるく二十を超えるほど。
この調子で増えていけば飼育環境が狭くなるのでは、
と危惧していたところに、パルマコスタからの申し出があり、
別の宿舎をつくり、分散させて
飛竜を飼育するつもりであったらしい飛竜の館のメンバーたち。
きちんと手綱を乗っている飛竜につけてはいるが、なぜだろう。
こうも囲まれていては、なぜか餌、として運ばれているような錯覚に陥ってしまうのは。
結局のところ、一行の目的地がさほど離れているというわけでもなく、
といっても、飛竜の翼にておよそ数時間もかからない距離だろう、とはリフィルの談。
海からの移動においてはかなり時間はかかったが、空においてはそれは適応されない。
そもそも、飛竜はその気になればかなりのスピードをだせる魔物、としても有名。
もっとも、それを実感したものはこれまで皆無、といってもよいが。
以前もたしか、こんな形で魔物の背にのったことを思い出す。
もっとも、まさかエミルがいない状態で同じようなことになるとは思いもしなかったが。
「すげ~、…なんか、本当に地図でみた地形がかわってるんだな……」
「ロイド!騒いだらおっこちるよ!?」
「「・・・・・・・は~……」」
ふと視線の先で飛竜のその背…それでなくても首元にまたがっている形なのに、
そんなに下を見下ろすように体をのりだしては危険、というのがわからないのだろうか。
我知らず、溜息をつくリフィルであるが、みれば同じ思いを抱いたのであろう。
横手を飛ぶリーガルもまた、飛竜の手綱を手にとりつつも、溜息をついているのがみてとれる。
「…ロイドひとりにしなくて正解だったわね」
「だね」
飛竜の数はたりるほどいるのだから、ひとりで乗りたい、
というロイドの意見を却下したリフィルの英断を再びほめたい。
そんな気持ちにかられつつも、背後のほうで何やら騒いでいるジーニアスとロイド。
そんな二人を首のみを背後にむけてちらり、とみてつぶやくリフィルとしいな。
リフィルと同じ飛竜にのっているコレットはといえば、
リフィルの背につかまりつつ、
「いいなぁ。ロイドもジーニアスも楽しそう」
「…たのしそう、というか。この距離から落ちれば、
ロイドさんたち、しにますよ?コレットさん……」
そんなコレットの言葉をきき、あきれたようにつぶやくケイト。
たしかにどう見ても無事ではすまないであろう。
ここが空の上、というのをわかっているのかいないのか。
わかっていながらも、そのあたりの危険性をわかっていない、としか思えない。
「でも、本当に地形…かわっちゃってるんだね……」
ぽそりと、幼生体の飛竜にまたがりて、そんなことをいっているマルタ。
ちなみに飛竜に慣れていないという理由にて、
マルタとケイトが幼生体でもあるいまだ斑点模様の消え去らない子供たちにまたがっており、
ジーニアスとロイドは比較的大きな、成体の飛竜にとのっており、
プレセアとリーガル、しいなはそれぞれ一体づつの飛竜にまたがっており、
ゼロスは妹のセレスとともにのっていたりする。
そして、リフィルとコレット。
子供を含めれば二十を超える飛竜の群れ、といっても過言でないその中に、
よもやその背にヒトが乗っているなど、地上からみるかぎり、
絶対に誰も予想すらしないであろう。
「たしかに、ね。ゆらゆらと揺らめいてはみえてるけど…
こっちにはあんな大陸なんてなかったしね」
マルタの言葉にしいなもうなづかざるを得ない。
しいなとて、シルヴァラントの地図は頭にいれている。
そもそも、パルマコスタから北上したというのに本来ならば、
そこにはひたすらに海がつづいてるはず、なのに。
海ではなくすぐに別の大陸らしき影が眼下にとみえている。
しかもかなりの標高をもちし山脈らしきものが連なっており、
そもそも、パルマコスタ付近にはここまでの山脈地帯。
それはオサ山脈くらいしかおもいつかないが、しかしどうみてもそうではない。
むしろ、どちらかといえば…
「あの山脈は何となくではあるが。モーリア坑道があるといわれている山脈地帯。
それに似ているような気がするのだが……」
もっと近くに下りて確認してみればはっきりするだろうが。
どうも地形的に、すくなくとも、トイズバレー鉱山付近のような気がするのは、
リーガルの目の錯覚か。
もしもそうだとするならば、どこまで地形が変わってしまっているのであろうか。
かつての古代地図といわれていた大陸のありようが、本来のありかた。
そういわれても、生まれ育った大陸位置がこうも簡単に変動してしまうなど。
ヒトからすれば信じられないとてつもない力がたしかに動いているのを実感せざるを得ない。
パルマコスタを北上し、海を隔ててすぐにみえてきた大陸。
上空からでもゆらゆらと蜃気楼のごとくにゆらめいているその大陸は、
こちら側、すなわちシルヴァラントに位置している大陸にあらず。
テセアラ側に位置している大陸が位相軸が歪んでいるゆえにみえているに過ぎない。
ヒトは目視することはできるが、その大陸に足を踏み入れることはできない。
もっとも、世界とつながりのありし魔物たちなどといった存在は除くが。
ヒトはあくまでも自らの目でみたものしか信用しようとしない。
また、理解しようとしない。
そこにあるはずのものすら、理解できない、というだけで否定しようとする。
それらすべてを受け入れ、あるがままに受け入れることができるのならば、
歪みし空間を渡り、互いの世界を行き来することも可能、だというのに。
まちがいなくヒトはその事実に気づかないであろう。
「まあ、地上の大陸云々はともかくとして。この上空も気をぬいたらやばいな。
セレス、しっかりつかまっとくんだぞ」
「はい。お兄様」
飛竜達の背にまたがっているとはいえ、周囲にいくつもの稲妻が発生しているのは間違いなく。
飛竜達はいくつも発生してはきえてゆく、
紫色の稲妻の間を割って縫うかのごとくに飛行している。
ゼロスはゼロスでそんな周囲をざっとみつつ、もしも自分の後ろで何かあっては一大事、
というよくわからない理屈にて、自らの前にセレスを移動させており、
セレスを抱き込むような形でゼロスは飛竜の手綱を握っていたりする。
何でもゼロスいわく、もしも後ろで万が一、セレスが落ちそうになったとしても、
すぐに対応がとれないが、自分の前だとそれも防げるから、
とかよくわからない理屈をつけていたが。
それをきき、誰もが口にはしないが、シスコンだとおもったのは、一人や二人、ではない。
「そろそろ、山脈地帯を抜けるみたい、です」
プレセアがふと前方の眼下のほうをみつつ、ぽそり、と何やらいってくる。
どこまで続いているかわからない標高がかなりある山脈地帯。
どうやら飛竜達はその上空をぬけきった、らしい。
遥か視界の先には青く広がる…本来ならばそうみえる、であろう
今では薄暗く、それでいてところどころ白い波がせめぎあうかのように
白銀色のように暗い視界の中に表れては消えてゆく、というのを繰り返している光景が。
それが、海だ、と気づくのにそうは時間はかからない。
太陽の光すら遮られているがためか、あるいは空を覆う彗星の影響か。
本来ならばきらきらと輝いてみえる海の青さは今はない。
もっとも、海の青さというのはそれこそ空の色…すなわち大気の影響で、
青くみえているその色が太陽の光に反射し、青くみえているだけ、なのだが。
と。
「くわぁぁ!」
「ぎゃっぎゃ!」
「クワ~!!」
突如として、周囲の飛竜達が一斉にと鳴きはじめる。
それは、それぞれまたがっている飛竜達をも含め、
せわしなく翼をはためかせ、頭を左右にふりつつも、様々な鳴き声が入り混じる。
首を左右にふったり、上下にふったりしつつ、様々な声が入り混じるそのさまは、
どこからどうみても会話をしているようにしかみえはしない。
が、リフィルを含め、ロイド達も当然のことながら魔物である飛竜達が何をいっているのか。
彼らの言葉は理解できない。
やがて、一番先頭をゆく、一際大きな飛竜がひときわ大きく声を張り上げ鳴き声を上げるとともに、
一気に飛竜達は先頭をゆく飛竜を筆頭にしていきなり一気により上空へと飛翔を開始する。
「うわ!?な、なんだ!?いったい?」
いきなりのことに、一瞬体制を崩しそうになったらしく、
ロイドが何やらわめいている声がリフィル達の耳にもきこえてくるが。
リフィル達もいきなりほぼ垂直の状態にその体をくねらせ上昇を始めた飛竜達。
そんな飛竜にひっしでしがみつくのに精一杯で、ロイドの様子に気づきはしても、
当然のことながらそこまで手はまわらない。
そもそも、乗っている飛竜が違う以上、どうにもならないというのもありはすれど。
ぐんぐんと、ひときわたかくどこまでも空高くのぼりはじめる飛竜達。
やがて、雲を突き抜けたあたりで、その上昇はぴたり、と静止する。
「…何か嫌な予感がするわ。皆、特に二人でのっているものは、
それぞれの体をしっかりと何でもいいからくくりつけておきなさい!」
「くわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
リフィルがそう叫ぶのと、一際甲高い飛竜の鳴き声が響くのはほぼ同時。
ガクン。
何かが一気にとまる感覚。
ふとみれば、なぜか飛竜達はその飛行をとめ、空中に一時停止状態となっている。
何(だろう)(かしら)ものすごく嫌な予感がするのは…
ほぼ皆の思考がはからずとも口にせずとも一致する。
その刹那。
『クワァァァァァ!!!!!!』
盛大な、この場にいるすべての飛竜達。
成体、幼体、すべてを含めた飛竜達の声が重なったとおもった次の瞬間。
すべての飛竜達がその翼をいきなり上空だ、というのにいきなり体にと閉じはじめる。
そして、そのまま翼を仕舞った飛竜達は遥か上空であるというのにもかかわらず、
そのまま一直線に地面めがけて急落下を開始する。
「みんな、しっかりつかまってるのよ!!」
なすすべもなく乗っているだけの自分たちにはどうしようもない。
落下における風の抵抗を感じつつも、その責任感からかろうじてリフィルが
周囲に聞こえているかもわからないというのにともかく叫ぶ。
リフィルの背後からは、リフィルをしっかりと抱き込むようにしてしがみついている
コレットの体の体温が伝わってくる。
『うわぁぁ!?』
『きゃぁぁぁ!?』
それとともに、それぞれの口から悲鳴っぽいような叫びのようなものもきこえてくるが。
周囲をそれぞれ確認しているような状況、ではない。
勢いよく急落下してゆく飛竜達。
雲をつきぬけ、だんだんと地面が近づいてくるのがみてとれる。
「先生!!あれ!」
ふと、コレットがそれにきづき思わず叫ぶ。
すでに真っ先に落下していった飛竜達。
それらが地面に近づき…どうやらこの真下がいつのまにか、
異界の扉、といわれていた場所、であったらしい。
らしい、というのはかろうじてその特徴あるサークル状の巨大な石柱。
それらが目視で確認できたがゆえ。
その巨大な石柱の中心にむかい、どうやら飛竜達は落下しているらしい。
飛竜達がそんな石の近くに近づくのと、淡い青白いような光があふれるのはほとんど同時。
飛竜達の背からふりおとされまいと必死の彼らは気づかないが、
地上、もしくは少し離れた視点からみてみれば、
飛竜達がこぞって空から急落下するかのごとく、頭からつっこんできては、
そのままサークル状の石柱の中心。
そこに常にかがやいて存在している魔法陣のような何か。
それに淡い光とともに吸い込まれ、姿をけしていってゆくさまがみてとれる。
ぐんぐんと飛竜達はスピードをあげ、より落下速度を増していっている。
こんな状態でもしも飛竜の背から振り落とされでもしたら。
考えるだけにおそろしい。
「うわ~!!地面、地面ぶつかるぅぅぅぅぅぅぅう!!」
切羽詰まったようなジーニアスの叫びと、
「な、なんだこれぇぇぇぇぇぇぇ!?」
何ともいないロイドの叫び。
彼らが叫ぶのとほぼ同時。
二人ののった幼生体である飛竜達もまた、
いきおいのまま、その身を魔法陣の中に投じてゆく。
シュッン。
どこか心に響くような澄み切った音が周囲にと響く。
音とともに、飛竜達は一体一体、魔法陣に吸い込まれるかのごとく、
はたからみれば地面に吸い込まれてゆくかのごとくにその場からきえうせる。
上空より落下してきたすべての飛竜達。
飛竜達はそのまま光に飲み込まれるかのごとくにきえてゆく。
当然、その背にのせていたヒトをも含め。
魔法陣らしきものから発せられていた光はすべての飛竜を飲み込んだのち、
やがてその輝きを落ち着いたものへとかえてゆく。
まるで、今、何ごともなかったかのごとくに。
『うわ~!!!!』
その叫びは誰のものだったのか。
それは誰にもわからない。
もしかしたらほぼ全員のものであったのかもしれない。
とにかく、飛竜の背から振り落とされないようにしがみつくのに必死で、
また、リフィルにいわれ、急遽とはいえ二人乗りしていたものたちは、
それぞれおもいのままに簡単ではあるが、同乗者と自らを結びつけていた。
ジーニアスの場合は、ロイドの服のマフラーもどきと自らの腰紐を。
ゼロスは自分のベルトとセレスのベルトをしっかりと、
なぜかその懐に隠し持っていたらしき紐で固定して。
コレットもリフィルがポケットにいれていた紐にて、
一応自分の腰紐と急いで結んで固定してはいる。
急落下の重力の影響で、飛竜の背から振り落とされないよう、
各自、手綱を握り締めたり、また同乗者の体をぎゅっと抱きしめたり。
その方法は様々なれど、飛竜達は迷いもなくそのまま地面にと突っ込んだ。
このままではぶつかる、とおもい一瞬目をつむりつつ、
叫んでしまった彼らはおそらくは間違ってはいない、であろう。
そもそも、事前に飛竜達が会話していた内容をきちんと聞き取れていれば、
彼らとてそこまで動揺することもなかったであろう。
そもそも、飛竜達は魔法陣というか転送陣を利用して世界を渡るにあたり、
そのまま突っ込んだほうが自分たちへの負担も少ないから、
という理由もありて、年長である飛竜が若い飛竜達にその説明をしていたのだから。
思わずぎゅっと目をつむって感じたのは、目を閉じているにもかかわらず、
視界を覆うかのごとくの柔らかな赤と緑、そして白が入り混じった光。
それはかつて、エミルがクララをヒトの姿に戻したときに感じた光とほぼ同じ。
「し…死ぬかとおもった……」
目を閉じていた中でも広がる光。
かつて、謎の暗闇に覆われた場所に突入したときに感じた、
何ともいいがたい浮遊感のようなもの。
そんなものをかんじつつ、恐る恐る衝撃がこないことに疑問を抱き目をひらけば、
その視界にはいったのは相変わらずの空を覆い尽くす薄紫色の巨大な彗星。
しばし、飛竜達はそんな空をぐるぐると旋回したかとおもうと、
今度はゆっくりと地上にむけておりたっていったのだが……
ふらふらと、足取りがしてしまうのは仕方ない。
「うわっ!?ちょっと、ロイド、もう少しじっとしててよね。
急いで結んだから、なかなかこれ、とれないんだから……」
どうやら飛竜達は翼休めをするつもり、らしい。
異界の扉から飛び立ち…どうやら、飛竜達は異界の扉らしき場所に突入するとともに、
そのままもう片方の世界の…
すなわちテセアラ側の異界の扉から飛び出す形で移動を果たしたらしい。
そもそも、以前彼らが異界の扉付近にいったときとは周囲の様子が一遍しており、
というか異界の扉のかなり近くに大きな大地があるなどありえない。
どこまでもつづくのではないか、とおもわれる砂浜地帯。
視界の先には高い山脈のようなものがみてとれている。
特徴とするならば、やはりこの砂浜においても、
びっしりと草花が生えそろい、砂、という砂を覆い尽くしている。
視界にはいる海はかなり荒れているのがうかがえて、
常に一メートル以上の波がせめぎあっているのがうかがえる。
そんな海から少しはいりこんだ場所にちょっとした入江のような場所ができており、
飛竜達はどうやらそこで翼を休めるつもりであったらしく、先ほど降り立ったばかり。
いきなりの急上昇に急降下。
頭がふらふらするのはおそらくロイド達の気のせいではないであろう。
周囲の様子をより詳しくみようとし、一歩踏み出そうとしたロイドであるが、
ロイドの首にまいているマフラーとジーニアスの腰のベルトはしっかりと結ばれている。
急いで結んだのと、それと重力による圧力がかかったせいかよりしっかりと結ばれており、
それを解きほぐすのにロイドの横にてジーニアスがひたすら手を動かしていたりする。
リフィルとコレットはといえば、固くにコレットが結んだらしき紐。
その途中をばっさりと、リフィルが小刀にてきっており、
それぞれに結ばれた片方の紐をときほぐすだけとなっており、行動するに支障はない。
それぞれが、多少ふらふらになりつつ…一部、しっかりとした足取りのものもいるが。
を含め、飛竜とともに大地に降り立つ一行。
そもそも飛竜達の数が数であるがゆえ、あまり目立たないといえばそれまでだが、
彼らのみであれば、その人数から何かの集団であるのは誰の目にも明らか。
そもそも、全員で十一人という大所帯。
これでもタバサがあちらにのこっているのでこの人数。
「とりあえず、全員無事のようで何よりだわ。それより、ここはどのあたりかしら?
どうも本当にどちらの地図もあてにはならないようね」
シルヴァラントの地図もテセアラの地図もあてにはならない。
ユアンにききて、古代地図に書き込んでいった地名でかろうじて、
大地がどのように変化しているのかつかめる程度。
吹き抜ける風は潮風を含み、すこしねっとりとしているが、
やはりというか何というか。
こちら…おそらくここはテセアラ、なのだろう。
それはリフィルの直感、でしかないが、間違いない、という認識が強い。
ともあれ、こちらも植物の異常繁殖はおこっているようで、
ざっとみるかぎり、大人の背丈よりも高い草花が生い茂っているのがみてとれる。
このあたりは大地に塩分が含まれているゆえか、
生い茂る草も特定の種類しかないのでそう背丈はないほう、ではあるが。
完全に海岸線沿いにまでゆけば、
波にさらわれているのか、それとも初めからはえなかっのか。
それはわからないが、その付近に草は生えていない。
かなり固く結ばれてしまっていた紐をざっくりとナイフで切れ目をいれ、
取り払ったのち、懐にしまっていた地図を取り出し周囲を見渡す。
「うむ。やはり、しかし降りて感じたのだが…
ここはどうも、トイズバレー鉱山の近くなのではないか、とおもわれるのだが…
あの山脈はどうもそんな気がしてならぬのだが」
そんなリフィルの言葉にうなづくようにして、
いつのまにかリフィルの横にたっているリーガルが周囲を見渡しつつもいってくる。
そんな彼らの少し背後では。
「ちょっと!ロイド!動かないでってば!って、ああ!よけいにこんがらがったぁぁ!
もう、こうなったら、きっちゃえ!」
「まてまて!ジーニアス!それ、俺のマフラー!!」
「「・・・・・・・・・・・・」」
何やらいまだに結び目と奮闘しているらしきロイドとジーニアスの会話が聞こえてくるが。
「よっと。ただいま~っと。お子様ズは何してんだか。
とりあえず、ちょっくら飛んで周囲をみてきたけど。
この付近には町らしきものはみあたらなかったぜ?
かわりに、あの山を越えた先、見覚えのある桟橋が。
この大陸はまちがいなく、モーリア坑道、そしてトイズバレー鉱山のある山脈地帯。
それで間違いないようだぜ?」
飛竜達が大地に足をつけたのち、周囲を確認してくるといって
空に飛び上がっていたゼロスがもどってくる。
素早い周辺の敵情視察とでもいうべきか、
とにかくその臨機応変さはさすがとしかいいようがない。
まあそれも、天使化を果たしているうえで、
視力もコントロールできるようになっているゼロスゆえ、というべきか。
コレットはいまだ、自分の意思でそれらを切り替えることができていない。
ちらりと、いまだにどうみてもじゃれあっている…実際にそう、にしかみえない。
何しろロイドのマフラーとジーニアスの腰のベルトはいまだに結ばれている。
それがロイドが結び目をほどくときに動いたせいでよけいにからまっており、
はたからみれば、二人が近くでくっつきあいつつじゃれあっているようにしか見えない。
そんな二人をみつつ首をすくめそうつぶやいたのち、
ひとまず上空から確認した周囲の現状をざっと伝えるゼロス。
飛竜の背からは、ほとんどまともに確認していない。
というよりは、急激に気候の変動をその体で直接うけたがゆえ、
天使化を果たしているコレットやゼロス、そして半ばほとんど天使化しかけていた、
しかし今ではヒトのそれに戻り始めているプレセア。
彼ら三人以外にとっては、その変化はあまりにも劇的で、
当然のことながら体にも負担がかかっている。
簡単にいえば体がふらつき、力がおもうようにはいらない状態。
もっともそう長くはその状態は続きはしないが。
飛竜達が翼を休めるためにこうして大地におりたってくれたのは、
リフィル達にとってもあるいみ救いであったのはいうまでもない。
飛竜達は思い思いにその体を入江につけ、どうやら水浴びをしているらしい。
彼らの出発時に遅れてしまえば、この場に取り残されるのは必須。
しかし、かといって。
「…このまま、飛竜達での移動、というのも考え物、でしょうね」
何しろ数が数。
飛竜が餌を求め襲ってきたと勘違いされても不思議ではない。
一体につき二人づつのったとしても、必要な飛竜の数は六体。
そもそも、本来ならば必要な数だけ借りる予定であったのに、
気付けばなぜか飛竜の館が保持している飛竜達全員でのこの大移動。
館に所属するものがいうことには、今のこの現状でもあるので、
使用するものもすぐにはいないだろうからかまわないようなことをいっていたが。
しかしそれでは彼らの生活が成り立たないであろうこともリフィルはよくわかっている。
「何とかして、レアバードが使用できればいいんだけど……」
「うむ。たしかにそれならば問題はないが。空があれ、ではな?
飛んでいる中、あの稲妻の直撃をうければ危険極まりない」
リフィルの言葉にうなづきつつも、リーガルが空をみあげる。
きのせいか、だんだんと空と大地をつなぐかのような紫色の光を帯びた稲妻の数。
それがあきらかに増えているような。
否、確実に増えている。
それにともない、山脈の上のほうなどは、あおられるかのように、木々が激しくゆれている。
まるでなぎ倒されるかのごとくに。
「…考えたくはありませんが。位相軸にゆがみが生じた結果。
上空に待機していたという彗星がこの地上にゆっくりと降りてきているのかもですね」
そんな二人の会話をききつつ、ケイトがすこし顔を伏せ気味にいってくる。
伊達にケイトも研究者、として活躍していたわけではない。
その専門はエクスフィアからハイエクスフィアに変化させる、というものであっても。
その過程において彼女なりに調べられることは調べているつもり。
しかも、先の一件もある。
それは、雷の神殿において次元が狂うという現象がおこっていた現象。
彼女自身は研究所からでることはできなかったが。
しかし、そこに調べに直接にいったというリリーナから話はきいている。
「…考えたくはないわね。それは」
その台詞に思わずリフィルが顔をしかめてしまう。
あんな巨大なものが大地に衝突すれば。
被害といえるような生やさしいものではないであろう。
それこそ今の世界は確実に滅ぶ。
「これまでの話やこの現象をかえりみるに。
おそらく、精霊の楔?というものを抜いたがゆえに、
位相軸…つまり次元がくるっているのだとはおもうのですが」
「それしかない、わね…それと、あれ、ね」
ここからでもかろうじてみえる、救いの塔がありし方向にある、巨大な歪なる木。
さらに成長をとげているのか、だだんその幅を広げているような。
遠目なので確実にそう、とはいいきれないが。
「とりあえず…今いるのが、ざっとここにおりるときにみた地形からして。このあたり、だろ?」
リフィルが手にしている地図を覗き込みつつも、一点を指し示すしいな。
今現在、リフィル、リーガル、ケイト、しいなが地図を覗き込むようにして、
一か所に固まっており、少し離れたところにて、ゼロスがそんな彼らをみまもっている。
プレセアはいまだにじゃれあっているロイドとジーニアス。
二人のもとにいき、こんがらがっている彼らの結び目をほどく手伝いをしており、
マルタとコレットは飛竜達がいつ出発するかわからないがゆえ、
かれらの水浴び光景をひたすらに見守っている。
もっとも、見守りつつもちょっとした会話をしているようではあるが。
しいなが指差したのは、地図の一点。
巨大な大陸の中心あたり、すこしでっぱりがみえる大陸のあたり。
その出っ張り部分の岬のような地形の先に小さな島のようなものが表記されており、
おそらくそこが、今現在の異界の扉といわれしかの島がある場所なのだろう。
「ユアンが示したことを信じるとするならば。この島と島の間にある大陸。
これがアルタミラがある大陸、だろ?
…なんかほんとにおもいっきり、大陸の位置がかわっちまってるんだな、
と実感せざるを得ないけどさ」
そもそも、本来ならば異界の扉も、アルタミラも、
テセアラの地図でいえば右端のほうに位置していた大陸。
にもかかわらず、今ではこの地図の中心あたりに移動しているらしい。
地図の中心がかわって書かれている、というような問題でもなさそうなほどの大陸の大移動。
もっとも、口にはださないが。
完全にかわってしまっているのは首都、であろう。
なぜに孤立した形でしかも地図の下のほうに切り離されて存在しているのやら。
もしも本当にそこに首都があるとして、
かつての大陸のおもかげは、まったくもってのこってなどいやしない。
この地図をみるかぎり、かわっていない、といいきれるのは、
フラノール地方くらいではないだろうか。
それほどまでに大陸の大異変は著しい。
「とりあえず、アルタミラによってみて。
そこでレアバードの調整をしてみるというのはどうだろうか?
あの地はわが社が様々な設備を整えているからな」
もっとも、リーガルは知らない。
アルタミラもそれらの施設が異常発生している木々により、
ほぼ使用不能となっている、ということを。
と。
――ギャ!ギャッギャ、ルヴァ!!
そんな会話をしているさなか。
入江のほうから飛竜達の騒がしい声がきこえてくる。
それとほぼ同時。
「先生~!みんな~!どうやら飛竜達がそろそろ出発するみたいです!」
そんなコレットの声がリフィル達の耳にと届いてくる。
「…まずは、飛竜達に通用するか否か、ね……」
最終目的地はユミルの森であることは、出発時にとつたえている。
いるが、きちんと飛竜達が把握しているのかどうか、
そこまでリフィルとしても確信はない。
アルタミラに立ち寄りたいというのは山々なれど、
飛竜達にこちらの意図がつたわらず、
また、手綱を制御し方向をかえ、降りるように指示をしてもいうことをきいてもらえるか。
こういうとき、魔物たちと言葉をかわせないのが痛い、とふとおもう。
これまでの旅でエミルが対外魔物たちと会話をはたしていたらしく、
あまり不都合を感じなかったというのが今さらながらに実感できる。
「とにかく、いきましょう。ここでおいていかれてもどうしようもないわ」
陸続きになっているのならば、いつかはたどり着けるかもしれない。
が、いつか、ではおそすぎる。
今の世界のありようをみるかぎり、本当時間は…残されては、いない。
そう感じ取れるがゆえ、なおさらに。
「うわぁ。先生、飛竜さんたち、かしこいですね」
「ヒトの言語を理解しているのかしら?
たしか、年を経た飛竜はヒトの言語を理解し操るとはいうけども…」
だめもとで、ユミルの森に立ち寄るまえにこの場所にいってほしい。
みえているか、理解してもらえるかわからないが。
とりあえず、群れを率いているらしき長っぽい飛竜の前に移動したのち、
リフィルが地図を片手に交渉を一応はしてみた。
ひととおりいったあと、ひと声いなないたのはたしかにきいたが。
よもや本当に理解していたとは。
バサリ、と飛び立ってしばらくし、眼下にと目的の大陸がみえてきた。
ぐるくると群れはその頭上で旋回していたかとおもうと、
一行がのった飛竜のみ、突如として下降を開始した。
リフィル達が飛竜の背からおりたつのと、
なぜかその周囲の草をむんず、とそのくちばしでつかんでは、
ほうりなげて遊んでいるらしい若い飛竜の姿がみてとれるが。
そんな飛竜たちに、他の飛竜が何やらいさめるようにして鳴いている様子がうかがえる。
しかし、よくよくみてみれば、子供の飛竜達は遊びで草をむしりとっているのではなく、
むしろ、
「…なあ、先生?あれって…」
「…巣、みたい…だね」
むしりとった草を敷き詰めて…というかなぜに飛竜達がむしった草は光となりて消えないのか。
そんな疑問がかなりありはするが。
しかし、むしられた草は瞬く間にと枯れて、枯草の状態となり、
またたくまにとその場にいくつも積み上げられていくのがみてとれる。
もっとも、その都度周囲にはえている草も成長しており、
周囲の視界が異様に成長している草花から遮られている状態。
それに変化があるわけではないにしろ。
この様子をみるかぎり、彼らの用事がすむまでここでまってくれるつもりなのかもしれない。
もっともそれとも結構長い時間飛んでいたゆえに、飛竜達も休む場所をつくっているだけ。
なのかもしれないが。
ロイドが困惑したようにいえば、リフィルのかわりにしいながこたえる。
「…ねえ。それより、…あれ、町のほう…だよね?」
そんな中。
コレットが海の方向を指し示し、ぽつり、とつぶやく。
「…こりゃ、アルタミラの方向でも何かおこってるっぽいな」
コレットにつづき、ゼロスも顔をしかめざるをえない。
おそらくは、アルタミラの町があるであろう海岸の方向。
そこからいくつもの黒っぽい煙らしきものがたちのぼっている。
それとともに、ゼロスやコレットの耳には人々の叫び声らしきものも。
何かが確実におこっている。
それはもう疑いようが…ない。
海の楽園、アルタミラ。
この地はリゾート地、としても有名で、常に人々の活気にみちた声がみちている。
そのはず…なのだが。
「…何だ、これは?」
町に近づくにつれおもわずリーガルがめずらしく声をうわずらせる。
たしかにアルタミラの町であることには違いない。
が、その町が緑に覆われている。
町全体がいくつもの木々に侵略されているような。
それだけではない、いたるところから遠目からもわかるほどに、
いくつもの煙らしきものがあがっている。
近づいていくにつれ、何やら何ともいえない叫びのような雄叫びのようなものも。
「しかし、この町も続けてこれじゃあ、あるいみ災難、だねぇ」
しいながそんな町の様子に気づき、何やらいっているが。
以前の魔族がくちなわたちのせいであふれたときは、
まだ人々は何かしらのイベントだとおもっていた節があったようだが。
さすがにこの異変はイベント、ではごまかしきれないであろう。
もっとも、大地の異変。
海に面している町だからこそわかっているとはおもうが。
そもそも周囲の光景があからさまに激変している。
かつてはアルタミラは海の孤島としての町をたもっており、
アルタミラに移動するには海路くらいしか方法はなかった。
いまだこの世界では一般的に空路という方法は確立されていない。
飛竜などをつかえば話は別であるが。
町から一歩でてみれば、あきらかに近くに大陸があるのがみてとれる。
ここまでの大陸の異変に人々が気づいていない、とはおもえない。
そもそもざっとみたかぎり、孤島であったはずの島なのに、
完全に砂浜状態であるとはいえ陸続きになっていたのは上空から確認ずみ。
もっとも、海があれており、その道を進むことができるか、といえば否ではあるが。
おそらく引き潮の時間帯などを利用すればふつうに歩いての移動も可能であろう。
無残ともいえる町の入口。
そこにあったはずの町の出入り口を守るための柵は壊れており、
さらに町の中にはいくつものヤシの木…これはまあわかる。
いくつか町の中に景観のために植えていたはず、なのだから。
が、それらのヤシの木が異様にふえており、
さらには通行手段とし町の中に張り巡らせていた水路。
そこになぜかマングローブがこれでもか、というほどにはえている。
その特徴のある太い根らしきものは、
タコの足のごとく絡み合い、斜め上にのびて生えている木々を支えている。
かろうじてそれらの木の根の間に隙間があることで、行き来は可能のようではあるが。
しかし、当然のことながらエレメンタルレールは使用不可能となっており、
そもそも、かの船を動かす線路自体が木々の根によって破壊されている。
「あの形状からして、おそらくはヤエヤマヒルギなのでしょうけど…それにしても大きい、わね」
遠目からみてもわかる。
平均して十メートルはあろうか、というような木々が町の中にとはえている。
位置からしておそらくは、水路であった場所にはえているのだろう。
町に足をふみいれると、ぴちゃり、と水音がする。
よくよくみれば大地も水である程度はひたされており、
気を抜くと足を滑らせてこけてしまいかねないほど。
もっとも水の層はそれほど、でもなく。
靴底がある程度隠れるか否か、それくらいの水しかない。
町にはいってすぐに感じたは、周囲にあったであろう細かな露店など。
それらがほとんどなくなっているということと、
景観を保つために植えていた木々が異常に育ち増殖しているということ。
ホテル・レザレノの外観もことごとくかわってしまっており、
壁一面にコケらしきものがびっしりとこびりつき、
そのコケの上からこれまた様々な植物らしきものがはえている。
つる植物らしきものもみうけられ、ホテルというよりは緑の塊にみえなくもない。
こんな状態で内部の施設が無事なのか、考えたくもないが。
「先生、ヤエなんとかって、何だ?」
そんなリフィルのつぶやきに首をかしげてといかけているロイド。
「もう。ロイド。授業で習ったでしょう?
海岸線沿いというか海でも植物の一環で。
簡単に言ったら海水の中でも育つ樹木のことだよ」
かなり大まかな説明ではあるが、間違ってはいない、間違っては。
あきれたようなジーニアスの説明に。
「ふうん。でも、前にきたときそんなのあったっけ?」
ロイドの記憶ではこの場にそんなものがあったという思いはない。
ゆえに首をすこしかしげつつそんなことをいっているが。
「本来ならば植えてなどはいない。いないが…これほど、まで、とは……」
イセリアにしろパルマコスタにしろ。
町がここまで植物にほぼ占領される形になっているとは。
ここはまちがいなくアルタミラ、で間違いはない。
リーガルがこの地を見間違えるはずもない。
人々の姿がみあたらないことに不安を覚える。
そんな中。
「そこのものたち!今は危険だから建物から出ぬように忠告されているはずだが!」
町に足を踏み入れた一行のもと、奥のほうから何やら声がとんでくる。
それとともに、
「でやぁぁ!」
「ギャッ!?」
ザッン。
何かが切り刻まれたのか短い悲鳴のようなものがきこえてくる。
建物の奥。
町の入口からはいってすぐに右手にあるのがホテル・レザレノ。
そしてその左手には海水浴が楽しめるビーチがひろがっている。
そのビーチは今や波がたかいがためか立ち入り禁止となっており、
白い砂浜も海面によって大多数うまってしまっているのがみてとれる。
それとともに、
黒いうねうねとした何かが海面の表面上をいったりきたりしているのもみてとれるが。
それはよくよく目をこらさねば、黒い靄のようなものが発生しているのだろう。
その程度、にしかうつらない。
しかしそれは、時間とともに形をなし、様々な姿となりて町の中にと移動している。
それは全身を真っ黒な姿で覆われた異形の輩。
魔物のような姿のものもいれば、完全にヒトの姿のようなものも。
動物の姿をしているようなものもいたりと形はそれぞれ。
共通するは、黒一色でそれ以外には何の色もない、ということ。
何やら短い悲鳴のようなものがするとともに、ゆっくりと先ほど声をかけてきたのであろう。
それらしき人物が木々の合間から現れてくるのを確認する。
そもそも道であったはずの通路にすら木々の根や木々が覆い尽くし、
今や町は完全にあるいみ一つの森林の中に飲み込まれてしまっているかのよう。
ピシャン、という誰かが歩いてくるであろう足音とともに、
その人影がゆっくりと誰の目にも明らかとなってくる。
「きこうは…っ」
「叔父上?!」
その姿をみて声をあげたのは、リーガルとゼロス、ほぼ同時。
目にも鮮やかなる赤い髪に青い瞳。
皮鎧であろうか、しかし異様にしっかりとしたその創造りは、鮮やかなる光沢を誇っている。
何だろう。
何となく誰ににているような。
おもわずその姿を認識し、ロイド達はゼロスとその人物を幾度も見直すように視線をさまよわせる。
何がどう、というのではないが、何となく似ている。
赤い髪が、というわけではない。
こう、何というか、根本的な何か、が。
それに、今、ゼロスは何といった?
たしか。
「叔父上って、ゼロス?」
ジーニアスの問いかけと、
「ファブレ伯爵ではないか。ご無事だったか。この町の様子は、いったい……」
「伯爵?って何だ?」
「はぁ。身分からして、国王の次といわれているのが公爵なのはわかっているわね?」
「お。おう」
本当はよくわかっていないが。
しかしたしかゼロスがその公爵とかいうのであったはず。
国王に近い権力をもっているとか何とか。
そう聞かされていたような。
そんなうろ覚えの知識ゆえに、溜息をついて説明するリフィルの言葉に素直にうなづく。
「つまりは、身分を表す階級を示す言葉よ。
階級は公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、一般的五爵にといわれている身分ね」
うなづくロイドをみつつも、リフィルが一応簡単にと説明する。
まあこの説明でロイドが理解できるかどうかはともかくとして。
「これは!ブライアン公爵、それに神子!?いったい、なぜ…
いや、神子様、この現状はやはり天が何らかの怒りを表しているものなのでしょうか?
神子に反旗を企てた元教皇フィリプはいまだに潜伏しており見つかっておりませんゆえ」
その場にてリーガル、そしてゼロスの姿を確認し、膝まづこうとした彼を手で制し、
「叔父上。この町であなたが知っていることを話してはいただけませんか?
この町のありようは、いったい……」
「お兄様、叔父上、とは、この方は、もしや……」
以前、父からきいたことがある。
それゆえに戸惑いを含み、ぎゅっとゼロスの服のすそをつかみつつ、
恐る恐るそちらの人物にと目をやりながら兄であるゼロスにといかけているセレス。
木と建物の影からあらわれしは、ゼロスやセレスと同じく、
燃えるような赤い髪をもっているある程度年をとっている男性がひとり。
「ああ、父上の実弟、クリムゾン・フォン・ファブレ。
現在は伯爵の地位を賜り、この地に滞在なされている方だ」
侯爵の立場も打診されたことがあったらしいが、
しかし結局、伯爵の地位でおちついた、とたしかゼロスは記憶している。
「そういえば。叔父上。シュザンヌ伯母上はお元気ですか?」
かなり年が離れているのはゼロスも知っている。
自分がクルシスに協力するようになってから、クルシスの神託により婚姻を結んだ叔父。
神託による結婚というのに難色を示していたが、しかし断れるはずもなく。
ゼロスが最後にあったのは、いつだったか。
「う。うむ…そうか、神子はまだご存じなかったのか。
たしかにいろいろとあったからな。実は…息子が生まれてな」
そういうクリムゾン、と呼ばれた男性はどこか無骨そうな表情をしていながら、
少し照れくさいのか心なしか顔が赤くなっている。
しかし、その表情も一瞬に消え失せ、
「しかし、兄?…そうか、その子が彼女の……」
びくっ。
じっとみつめられ、思わず兄であるゼロスの背後に隠れるセレス。
その表情は何ともいえない思いが含まれているようで、それがセレスにはわからない。
怒り、というのでもなく、悲しみ、というのでもなく。
かといって、これまで修道院で接していた騎士団たちともまた違う視線。
父が死ぬ前まで父に向けられていた視線ともまた異なりしもの。
「…兄は本当に……」
自分が望んでも手に届かなかった。
守りたかった大切な幼馴染たち。
見守るだけでよかったのに、なのに。
すべてが狂ったのはあの神託から。
あの神託さえなければふつうにこの娘も兄の子、として生まれていたであろう。
そのときに神子であるゼロスがどうなっていたかはそれは彼にもわからない。
「しかし、ファブレ伯爵。貴殿は、なぜ……」
このままではラチがあかないとおもったのであろう。
一歩前に進み出て、ゼロスが叔父だ、と説明した人物にとといかけているリーガル。
「しかし、ちょうどよかった。ブライアン公爵。
今はジョルジュ殿達が何とかしているが、貴殿と連絡がとれぬかどうか。
かなり苦労していたようだからな。今みての通り、この町は異常に襲われている。
海もここからみてわかるように荒れ狂っており、定期便もだせはしない。
空にもいつ落雷するかわからない不気味な稲妻が走っており、
また昼とも夜ともしれない得たいのしれない巨大な何かが空を覆い尽くしている。
とどめは…町の外の異常なまでの植物の増殖と、そして救いの塔の異変」
様々な思いが入交りつつも、それを口にすることなく、
自分がすべきことは目上にあたる彼らへの報告。
そう自らの思考を割り切り、報告に徹するクリムゾン、とよばれし男性。
「お父さまの…そういえば……」
そういえば、まだ父が生きていたころ、母と父からきいたことがある。
母とその姉の幼馴染でもあった、父の弟の存在のことを。
あったことは一度もなかったが。
じゃあ、この人が?
父親にはどことなく似ていなくもない。
赤い髪は、両親とももっていたので何ともいえない。
おもわずゼロスの背後に隠れつつも、まじまじとその人物をみつめるセレス。
「首都とも連絡が取れぬ今。神子やブライアン公爵とここであえたのも、
おそらくはマーテル様のお導きであろう。
とりあえずいつまでもここにいるのは危険ゆえに、まずは安全な場所に……」
クリムゾンがそういいかけたその刹那。
「グワァァ!!」
「ち、またかっ!」
突如として木々の上よりばさり、と飛び降りてくるかのごとく、
全身真っ黒なサルのようなものが突如として襲い掛かってくる。
すばやくそれに反応し、腰にさしていた剣をすらりと抜き放ち、
ザシュっという音とともに切り捨てる。
影のサルは一瞬切られ、ダメージを負ったようにみえるが、
それも瞬く間にその姿を再生させてゆく。
そしてそれが再生しているその隙をみて、
「
ゴウッ!
クリムゾンから放たれた、一つの技がそのまま体を再生しているそれにむかって直撃する。
いつのまに移動していたというべきか、いつのまにかクリムゾンは、
その黒いサルの横手に移動しており、その一撃はそのまま、
そのサルを海のある方角にむかって吹き飛ばす。
「ぎゃっ!?」
ザパァァッン!
短い悲鳴のようなものと、それとともにきこえてくる何かが海に落とされた音。
「ふぅ。御見苦しいところをおみせした。
あれはどうやっても致命傷をあたえることができませんのでな。
ああして海に落とせば時間がかせげるゆえ。
とりあえず、ジョルジュ殿達がおられる場所にご案内いたしましょう。
神子様もそれでよろしいか?」
「あ、ああ。何がおこっているのか。知る必要がどうやらありそうだし、な。
ってことで、皆もそれでいいな?」
クリムゾンの言葉にうなづいたのち、同意を求めるようにゼロスが全員を見渡し問いかけるが。
この現状で、否、といえるはずが…ない。
結局のところ、この場で立ち話も何だ、というので。
クリムゾン、とゼロスがいっていた人物にともなわれ、
一行は変わり果てたアルタミラの町の中に足を踏み入れてゆくことに。
「リーガルさま!このようなときによくご帰還を!!」
ざわり。
人々の間からざわめきが漏れる。
それとともに。
「神子様だ!」
「ゼロス様だ!」
そんな人々の声がそんな初老の男性…リーガルの右腕、
ともいわれている、現レザレノ社の社長代理であるジョルジュの声をかるくかき消してしまう。
こちらに、というよりはゼロスに気づいた人々が一斉に近寄ってきて、まるで拝むかのごとく。
「神子様。天は、マーテル様は我らにどのような試練を与えたというのでしょうか?」
「津波において死者はでませんでしたが、負傷者は…」
何やらそんな口ぐちにいってくる人々。
ちらりとみみれば、この場には風情を求めてつくっていた薪形式の暖炉。
その暖炉がパチパチと音をたてて暖をこの場にもたらせている。
アルタミラの変わりように驚きつつも、
クレムゾンに連れられてやってきたは、町の奥にと位置しているレザレノの本社。
その本社の一角でもある様々なイベントを行うためのとある会場施設。
このあたりも周囲の光景は一遍してしまっている。
まるでどこの森の中だ、といいたくなるような光景。
海の楽園、といわれていた町の光景は、
今や水と森の町、といっても過言でなくなってしまっている。
ここにくるまでにいくつかの建物を目にしたが、
そのほとんどが植物の蔓や木の根に絡まれてしまっており、
かろうじて風よけ程度の性能は保たれているようではあるが、
家の中までどうなっているのかはあまり想像したくない。
せめて家の中だけでもまともであってほしい、という思いはありはするが。
ここにくるまで、常に低い位置においては足元に水があり、
このたびの異変の一環なのだろう。
町の中だ、というのに水の中に生息する植物が、
当たり前のように道のいたるところにとはえている。
ところどころ水が深い場所があるらしく、いくつかの小舟らしきものがおかれており、
それによりどうやら人々は移動しているらしい。
もともと、この町はエレメンタルレールという海の上を走る乗り物によって、
それぞれの区画とをつないでいたこともあり、あまり違和感がないといえばないが。
しかし、これは劇的すぎるといってもよい。
イセリアといい、パルマコスタといい、そしてここ、アルタミラ。
大樹の影響。
シルヴァラントとテセアラ。
あの一つの樹は位相軸を隔てた互いの世界に思いっきり干渉しているのがうかがえる。
そして、世界を隔てているはずの位相軸、つまりは空間すら、
今や怪しいものになってしまっている。
シルヴァラントの地にはなかったはずの異界の扉のある島。
そもそもかの島が目視…実際に触れたりする暇などありはしなかったが。
しかし、あの特徴的な円柱群を輪状となっているかの地を見間違えるはずもない。
本来ならば、たしか魔剣…正確にいえば精霊の力によって二つの世界にわけられている。
というこの世界の現状。
しかし、歪なる形とはいえ大樹が発芽したことにより、その空間自体が壊れかけている。
このまま精霊の力がかけられたままの状態で空間のゆがみが続くようであれば。
最悪、二つの世界が干渉しあい、互いに消滅してもおかしくはない。
大樹に近づく方法は今は限りなく少ない。
飛竜にのっても無事にたどりつけるかどうか。
もっとも、たどり着けたからといってどうにかなるような代物でもない。
はじめに計画していた魔導砲とかいうものの使用はつかえはしない。
そもそもそれで本当にどうにかなったのかどうかも怪しいが。
たしか伝承によれば、魔導砲とかいうのは古代兵器、トールハンマーのことであったはず。
かの装置は周囲のマナを吸い尽くし、そして破壊の力となす。
そのようにたしかリーガルはかつて家庭教師から教わった。
「ジョルジュ。現状の報告を」
駆け寄ってきた自身の右腕ともいえ、そしてまた、
自分が牢に入っている間というか幼きころから苦労をかけている声をかけてきた人物。
そんな彼…ジョルジュにとそんなことを思いつつ、それを表情にだすことなく問いかける。
そんなリーガルの言葉に。
「ああ。このようなときに、お戻りくださるとは。これもマーテル様のお導き…」
マーテル、という言葉に一瞬ぴくり、とロイドが眉をひそめるが。
そんなロイド、つまりリーガルの連れたる少年の変化に気づくこともなく、
「はい。ご報告をさせていただきます。実は……」
リーガルの前でかしこまり、ほぼ垂直にたったまま、
相手に敬意を示すかのごとく、片手を胸の前にと折り曲げその場にて報告を開始する。
そんなジョルジュとは対照的に、
「神子様。私たちはいったいどうなってしまうのでしょうか……」
不安そうな人々がゼロスの周囲を囲むようにして集まってきているのがみてとれる。
そんな不安そうな人々を邪険にするでもなく、
「今、この現状の打破のためにすこしばかり動いている。
皆のものにはしばらく不都合をかけるかもしれないが……」
「神子様。この状態はどうにかなるのでございますね?」
「この俺様の名にかけて」
まあ現状をどうにかする、というよりはどうにかしなければいなけいだろう。
というか、この状況。
あの精霊様は何を考えているのやら。
そうゼロスは心でおもうが、それを口にすることなく、
集まった人々にきっぱりといいきっていたりする。
「神子様がそうおっしゃるのなら」
集まっている人々は断言するゼロスの言葉をきき
不安そうな表情から一変、希望に満ちたものにと変化する。
これまで、ゼロスが民に嘘をついたことがなかった。
また、民に被害を及ぼすようなことをしたことがなく、
逆に利益になるようにことしかしていない、というのも人々の安心を誘う理由の一つ。
もっとも身分に関係なく、誰かれかまわず声をかけ、
気遣うゼロスのその態度は、一部の権力者を除き、民からすれば人望は高い。
それこそ国王がゼロスを多少避けていたのもそれが原因。
何しろ民の中からは、神子様を時期国王に、という声すらある始末。
国王の子供はヒルダ王女ただ一人。
そう国民は思っている。
よもや空の上にその血筋をもったものが別にもいる、など思ってもいない。
そしてヒルダ姫は神子ゼロスを慕っている。
そうなれば、あがってくるのは、神子と王女の結婚。
マナの血族と王家がつながることにより、より絆が強固になる、というもの。
もっとも、マナの血族はクルシスからの、すなわち天界からの神託によってきまるものであり、
民にどうこうできるものでもない。
ないが、神託があったかどうかなど、ふつうの人々にはわかりはしない。
それどころか教皇の息のかかっていないものの中には、
これ以上、教皇フィリプの好き勝手にさせないために、
あえて神託があったとウソをつき、ヒルダ姫と婚姻まではいかずとも、
婚約という形を国民に発表してはどうか、という意見がでていたほど。
もっともそれらの意見はゼロスの耳にとはいり、
そんなことをして天界の怒りに触れるわけにはいかないから。
と、そう意見してきたものにも、再びスピリチュアの悲劇をこのような形で、
下手に再発させかねない行動はさけるべき、といって説得をし、
その話はひとまず棚上げされてはいたものの、
だからといって、そのような声、つまり民の望みがあるのもまた事実。
ゼロスを女好きで節操がないといって嫌っているのは、
神子に反発する気持ちを持つ存在がほとんど。
そもそも、神子がその血を広げることは、テセアラにとってもいいことだ。
そのようにとらえているものもいるのもまた事実で。
ゼロスのそのような行動をすべて計算された上でのものだ、
ときちんと理解しているものはそうそういない。
リーガルすらゼロスのその本質を、噂話だけで判断しており見誤っていた。
それほど、ゼロスのあるいみ演技力はすばらしきものであったということなのだが。
ゼロスのきっぱりとした台詞をきき、
不安そうではあるが、しかし話しかけてきたときとはうってかわり、
希望に満ちた人々の表情をみつつ、
「…ゼロスってすごいんだね。私はたったの一言で皆を安心なんてさせれないよ」
心の底からゼロスをすごい、とおもいぽつり、といっているコレット。
自分がそういったとしても、人々からいろいろと問い詰められるのは必須。
その光景がコレットの脳裏にもやけにくっきりと想像できる。
ゼロスのように、一言で人々の不安を取り除くようなことは自分にはできない。
やっぱりすごい、とおもう。
だからこそ、本気でおもわずつぶやくコレット。
「そうか?コレットちゃんだって同じようなものだとおもうけど」
それは、神子、という立場だからこそ、すべて言葉にしなくてもわかる言葉。
神子の言葉、というものはそれほどまでに人々の心に直接響く。
逆をいえばそれほどまでにクルシスの…
ミトスのねつ造した偽りの宗教と歴史は、人々の心に根付いてしまっている証拠。
しかしそのように生まれ育ち、また幼少時からそう教育をうけていれば、
疑う、ということすら考えもしないこと。
そしてゼロスとコレットは、そんな中でもマナの血族、といわれている、
天使の一族、女神マーテルの御使い、ともいわれている血族であり、
その頂点にたつ、【神子】として生まれてきたもの同士。
ゆえに、すべてを口にしなくても通じるものはある。
実際、コレットも同じように自信をもって断言すれば、
シルヴァラント側の人々ならば不安を取り除けるであろうが。
残念ながらコレットは自分にしっかりとした自信、というものがない。
ゆえにどうしても、あいまいな表現になってしまう。
それが逆に人々の不安を完全に拭い去れない原因の一つとなっていたりする。
実際、神子、といわれても、そういわれていますだの、
神子としての自覚があるのか、といわれてもおかしくない言動をしていたコレット。
そんなコレットが神子として自信をもって人々に断言できるはずもなく。
ゆえに、コレットはふつうにゼロスをすごい、とおもってしまう。
神子として、あるべき形とはこうなのだ、と。
もっともそうわかっても、コレットはどうしても自分に自信がもてないので
断言するような言い方はできはしない。
むしろ、コレットのほうか死ぬために生まれてきたのだ。
と物心ついたころから言われていたゆえに、
自分にそういった自信がない。
自己犠牲をしてこその神子。
そのように思い込んでしまっている節がある。
ゼロスのほうは繁栄世界の神子、としてその血筋を絶やすことなく、
また人々のマーテル教の信仰。
それらの発展などが常に物心ついたころからいわれており、
民を導いていくものだ、という教育をうけていたゆえに、自己犠牲、という思いはなかった。
実母が死ぬあのとき、までは。
まあ、今はその思いはないのだが。
そもそも、神子という存在がマーテルの器、という生贄としった今、
誰が好き好んで自分の命をかけて大切な妹の命を危険にさらせようか。
ゼロスの言葉一つで人々の顔に安堵の表情がもどりはするが、
だからといって今のこの現状が打破されるわけではない。
それは人々とてわかっているが。
しかし、神子であるゼロスがどうにかできるようなことをいっているのなら、
力なき一般人は神子様を信じることしかできはしない。
「神子様。これをお役にたててくださいませ」
「神子様。少しではありますが。旅のお役にたてばいいのですが」
ゼロスの言葉を聞くまでは不安そうに問いかけていた人々の態度が一変。
周囲に今度現れたのはほとんど女性である、という特徴がつくが、
集まった小さな女の子から年寄の女性まで。
それぞれがせめてお役にたてば、とばかり様々な品をゼロスにと差し出してくる。
ちなみにこの現象。
ゼロスが町などで女性に声をかければ大概、皆が皆、ゼロスに何らかの品を渡してくる。
ゼロスは自分の魅力ゆえ、といいきっているが。
神子であるというのを知らないシルヴァラントの民にすらそれが通用するのは、
さすが、ゼロス、とでもいうべきか。
ちらり、とゼロスが視線をリーガルのほうにむけてみれば、
ジョルジュから説明をうけているらしいリーガルの姿が目にとまる。
説明をうけるたび、リーガルの表情が珍しく険しく難しいものになっているが。
「…何と……」
小さく唸るしかできない、というのがこういうことをいうのだろう。
頻発していた地震。
異変に少しづつではあるが気が付いたのは、定期船の船長の一言。
フラノールからアルタミラにむかう海路がなぜかかわってきている、と。
はじめは小さな変化。
しかし、だんだんと大きくなってゆく地震。
そして時間通りというか海路通りに運航しているはずなのに、目的地にたどり着けない謎。
あからさまにおかしい、とわかったのは、
完全にフラノール大陸とここアルタミラ大陸が切り離されていっている、と。
飛竜をとばし、空から確認したときのこと。
――大陸が、移動している。
そんなこと、人間業でできるはずがない。
それまで以上の大地の揺れ。
それでなくても、ここしばらく地震によって、大なり小なり高波が押し寄せてきていた。
ゆえに、いつ何時、巨大な高波が押し寄せてもいいように、常に住人には警告をだしていた。
突如として感じた巨大な地震。
そしてそれにともない、一気に周囲の海水が干上がっていった。
動くことすらままならない。
そんな人々をあざわらうかのように、突如として足元から水がわきあがってきた。
それは海からというのではなく、むしろ地中からというほうが正しく、
それとともにいくつもの光の柱のようなものが空にみえたかとおもうと、次の瞬間。
空を覆い尽くすぶきみな紫色の巨大なる球体なるものに、
体そのものがひっぱられるような感覚とともに、
視界が突如としてくるぐると目まぐるしく変化していった。
それは、一気に大陸があるべき場所へもどるために移動していた証なのだが。
大地に足をつけているヒトはそんなこととは知るはずもなく。
空にあらわれた不気味な何か。
そして、突如として町の至るところから生え始めたいくつもの巨大な木々。
ようやく引っ張られるような感覚がなくなったとおもい一息ついた人々が目にしたは、
変わり果てた街の姿。
それにともない、危惧されていた高波…要するに津波が押し寄せてきた。
幸運、というべき、なのだろうか。
そんな高波でも死者や行方不明者などがでなかったのは、
突如としていきなり街中に生えていたたくさんの木々。
つまり、かろうじて木にのぼったりすることにより人々はその被害を免れた。
中には波にさらわれそうになりつつも、
生えている木々の根にからまり救われたものもいる。
ようやく一息つき、そして改めて人々が目にしたは、変わり果てた街の様子。
そして、あからさまに周囲の景色が変化していた、ということ。
救いの塔があった方向には何もなく、まったく違う方向に、
空にのびんばかりのいびつなる異形の木っぽい何か。
ついでに町から一歩外にでてみれば、異様にのびた草花に、
さらに唖然としたは、ここアルタミラ大陸は、
海に浮かぶあるいみ孤島のようなものであったのにもかかわらず、
近くにありえない大陸のようなものがみえ、
よくよくみれば波が高くて気付くのがおくれたが、
浅瀬によってどうやらそれらの大陸と陸続きになっている模様。
空にいくつもはしる紫色っぽい稲妻のようなもの。
トドメとばかりに聞こえてきた謎の声。
王家の発表にて、神子が世界を救うために行動していたのはしっている。
というか、テセアラでそれを知らないものはいない。
まあ元教皇がおこしたこともそれで公になっているのだが。
町の変わりよう、そして周囲の変化というか、取り巻く環境の変化。
いつもならば、アルタミラの誇る高速連絡船ででも使用するところだが、
アルタミラ大陸とよばれていた島の周囲の調査が済むまでは、
下手に船を海にだすわけにもいかず、かといって常にイチメートル以上はあるであろう、
波がひしめきあっている海のほうにくりだす、など自殺行為にも近い。
「リーガル様もご存じかとおもいますが、
原動力としていましたエクスフィアがことごとく消滅しておりますし……」
事実、世界中においてエクスフィアが光となりてはじけるようにと消えている。
この現象は特にエクスフィアなどを元にした機械類に頼っていた人々。
そんなヒトにかなりの打撃を与えている。
この町にしてもしかり。
リーガルの方針でエクスフィアに頼らない力に方向転換してはいたが、
八年前、リーガルが牢にはいってからのち、目先の手軽さに目を奪われた社の一部の重鎮たち。
そんなものたちが、再びそれらを手にし様々なものを手掛けているのもまた事実。
ヒトとは、いくら害があり副作用があるかもしれない、とわかっていても、
自分にその現象はふりかかるはずがない。
自分は大丈夫だ、などと信じ切り、あっさりと危険物にと手を加える。
そんなまさに典型的な例は当然のことながら、
レザレノ・カンパニーの内部においてもみうけられる。
組織が大きくなればなるほど、すべての部署に目がとどかなくなることもあり、
また裏で何をしていてもなかなか上層部のものが気づくことが難しくなってしまう。
実際、この騒ぎが起こるよりも前。
なかなか復興しないことに疑念を抱いた技術者たちが、
動力源となっているグランテセアラブリッジのエクスフィア。
それを確認したところ、きれいさっぱりと消滅していた。
いつ消失したのかはわからないが、すくなくともかなり前であったことはいうまでもなく。
可能性としてはやはりかの竜巻が影響しているのでは、という意見が今のところ最有力。
まあ当たらずとも遠からず、なのだが。
それを彼ら”ヒト”が知るはずもない。
「この地で研究の一環として飼育していた飛竜達は?」
海路がダメならば空路がある。
まあ、空を見る限り、安全地帯、とはいいきれないが。
この地がこのようになっているのならば、
偵察、として飛竜達を駆り出していないはずがない。
それゆえにジョルジュにリーガルが問いかける。
リーガルも認めるジョルジュのこと。
偵察部隊、として飛竜を飛ばしていない、とはおもえない。
このような状況になっていればこそ、確実に現状を把握しようと動いているはず。
それゆえの問いかけ。
この町に入った直後のあの黒い霧のこともある。
「それなのですが、今のところまだ偵察に向かってもらったものたちは、
もどってきておらぬのです…
この現状を知りえるために、飛竜に乗りなれているものを選び、
三人一組にて首都、そしてサイバックに向かわせた、のですが……」
そこまでいうジョルジュの口振りは悪い。
そもそも、すでに本来の距離からしてみれば、もどってくるなり、
また報告の連絡が何らかの形であっていいはず。
そのために彼らはハトをつれていった。
にもかかわらず、その鳩便にても連絡がない。
ジョルジュは知らない。
大地がことごとく変動してしまっており、彼らが飛竜の背にのりながら、
あるいみ迷子になっている、ということを。
そもそもこれまでの地理がまったく通用しなくなっているのである。
しかも彼らは知る由もないが、飛竜達は魔物であるがゆえ、
今現在、ヒトが行き来することのできない位相軸のゆがみ、
すなわち次元のゆがみを何なく突破することができる。
つまり、魔物たちがその歪みに突入した場合、
その魔物を利用していたものは、その場ではじかれてしまう。
実際幻の大陸に突入しようとし、飛竜の背から落とされたものも実はいる。
その事実を彼らはいまだもって知らないだけ。
言葉を濁したジョルジュの様子にすぐさまに察する。
つまり、飛竜にて偵察というか状況確認に向かったものたちと連絡がとれていない。
ということ。
それに、首都にも向かわせたようなことを今いっていた。
たしか首都では異変がおこっているようなことを少し前に聞いたばかり。
「今、この地のエネルギーはどうなっている?」
たしか、ジーニアスやリフィルいわく、マナが乱れており、
魔術がつかえないようなことをいっていた。
実際、レアバードもマナが乱れているせいか機能をはたすことなくとべもしない。
リフィルの使用している治癒術はマナを使用するというよりは、
どちらかといえば術者の精神力を使用するという面が強いらしく、
今のところ不都合はない、らしいが。
マナが紡げない状態であることには違いない。
しいなの符術もきちんと段階を踏まない限り、
つまりはいつもはとばせるはずの、印を結ぶ、という方法をとらないかぎり、
式神すら利用は不可能となっている。
そんな中でこのアルタミラが主要たる動力としていた水のマナが利用できているか。
といえばかなり怪しいところ。
そもそも、きちんと動力が機能しているのならば、
この地はもっと明るいはず。
にもかかわらず、周囲にある街頭という街頭は明かりがともっておらず、
臨時的な松明のようなものがいくつかみえているのみ。
つまりはそういうこと、なのであろう。
つまり、この町において、動力源としていたマナもまた、
今現在つかえない、ということに他ならない。
「今は人力による自家発電で何とか……」
その言葉に、
「ああ、あれか……」
そういえば、あれはたしか、設備を地下ではなく地上、しかも建物の二階、三階あたり。
そのあたりに設置していたはず。
かつて、アリシアからの提案で、せっかく体を動かすならば、
一石二鳥、いや三鳥でもいいんではないでしょうか?
という意見から採用されているちょっとした装置類。
たしか、それらから生み出された発電は、特殊な品にといれることにより、
予備電源、として使用できる品…アリシア命名、【電池】といわれる品にいれていたはず。
「…まてよ?もしかすれば……」
そんなジョルジュとの会話でふと、とある可能性に思い当たり、
「もしかすると、レアバードの燃料問題も何とかなる…か?」
そのためにはレアバードの仕組みを調べて、応用が可能か否か。
それらを調べる必要があるであろう。
うまく世界を一つに戻せたとしても、あの歪んだ大樹。
あれをどうにかできなければ意味がない。
こんな自然が異常繁殖するような世界ではヒトは生きにくい。
「リーガルさま?」
そんな主である主人の様子にジョルジュはただ首をかしげるのみ。
「…え?」
唖然としたロイドの声がぽつり、ともれる。
リーガルがジョルジュからきいたという、飛竜にて状況を確認にいった偵察部隊。
彼らがことごとく戻っていない、という実情…まあこれはまだ、
さほど日にちがたっていない…にしてもすでに数日経過しているのに、
何の音沙汰もないのはおかしい、ということらしいが。
ロイドの眼下に移るは、アルタミラ…のはずなのに、
海水がおそらくは満潮となったのであろう、町全体が完全に水没してしまっている。
道という道は完全に海水にて水没され、水深としてはイチメートルそこそこあるらしい。
町のいたるところにはえている木々の合間を縫って移動しているは、
小さなカヌーのような船。
エレメンタルレールは今現在、完全に使用不能となっているらしい。
そして、あまたのマナを利用した機械類も使用不能となっている、とのことらしい。
それでも、中には利用できている機械類があるらしく、
聞けばそれらは自家発電…といっても、これもまた自家発電装置が地下にあり、
それらも水没し故障してしまっているがゆえ、人力により発電しているたまものらしい。
アルタミラの町の変貌に唖然としつつも、ここで本来ならば様々な物資…特に食事類。
を確保しよう、とリフィルとしてもおもっていたのだが、
町がこの現状ではそれもままならない。
今やこの町はあるいみ孤立化しているといってもよい。
周囲に生えている木々、そして木々とともに異様に繁殖している生物たち。
それらを捕まえ何とか自給自足をしている…らしいのだが。
あるいみで、ヤシガニとか魚などを捕まえ、それを暖炉の前で木の枝をけずり、
串刺し状態にして食べている、というような光景はたくましい、としかいいようがない。
それでもほんの数日ならば人々も新鮮さもあり我慢できるであろうが、
この現状が続けば人々から不満の声がでてもおかしくはない。
しかも、一般の人々は自由がきかない。
外にでればあの黒き異形のものが確実に襲ってくる、という今の現状。
少しづつではあるが、人々の間に不満がたまっていっている…というのが、
今の実情、であるらしい。
それらのことをざっと説明したのち、全員の前にて、
少し話があるのだが、といって切り出したリーガルの言葉。
その言葉をきき、ロイドが間の抜けたような声をだしているのは
予測していたゼロスやリフィルと違い、かなり戸惑っているのがみてとれる。
「リーガル、今、何て……」
リーガルが今言った言葉が一瞬理解できずに思わずといかけるロイド。
「私はここに残ろうとおもうのだ。今このアルタミラは人手かたりぬ。
それに、飛竜にて偵察に赴いたものたちがもどってこない。
その実例がある以上、今外でまたせている飛竜にての移動も今後怪しい可能性もある。
幸いなことに、地下ではない研究施設などは無事のようだしな。
しいながヴォルトを召喚せずともレアバードを使用できる方法をこの地にて、
研究者たちとともに模索しようとおもう」
すでにロイドは知らないが、しいなの腕輪の中にいれていたレアバードのうちの一機。
その一機は研究ドック、といわれていた設備のあるとある場所にと移動していたりする。
まあ、出してすぐに他のウィングパックに入れ込んで持ち運んだゆえに、
その場面をみていなければよもやそんなことをしているなど夢にも思わないであろう。
いきなりそういわれ、ロイドとしてはとまとわずにはいられない。
「だって、たしか、ケイトも……」
ケイトもつい先ほど、このアルタミラで自分の専門分野。
それが役にたつのならば、といい残ることを伝えてきた。
今、このアルタミラにおいて様々な分野の人手は求められてはいるが、
少しでも戦えたり戦力になるものは異形の存在への対応に手をとられ時間が足りない。
研究者たちいわく、今、大気中のマナが乱れているらしく、
マナを利用した様々な機械類すら使用不能。
おそらくは、マナを利用した魔術などもつかえないだろう、と彼らはいっていた。
実際、ジーニアスがいうには、今現在、いまだに術が使えない、らしい。
リフィルの使用する治癒術のみはどうにか発動可能であるようではあるが。
「たしか、ケイトもここの研究者たちに協力するからって。
ここに残るってさっききいたけど……」
ロイドの言葉を継続するように、ジーニアスもまた戸惑いを含めリーガルにと問いかける。
「うむ。ケイトはその知能を少しでもこの異変の役にたてれば、と。
自ら申し出てくれたようだ。今は少しでも人手がほしい。
まあ、我がカンパニーのものはどちらかといえば、彼女たちの力。
いや、知識というべきか、それを重視しているがゆえあからさまなる差別。
そういったものはあまりないからな」
というか、そのような思想は商売をしていく上で危険なものとなる。
ゆえにいくら内面ではそうおもっていても
徹底して口にださないよう、社内教育は徹底される。
そもそも、教皇の娘であることは、ケイトがかつてとらえられたとき、
情報を特に重視しているカンパニーのものは、ほとんどのものが知っている。
そしてその彼女がハーフエルフ、ということも。
もっとも、今それを口にしてあからさまに彼女を批難するようなものはいはしないが。
というかこの現状の中、それをあからさまに口にすれば、
この異変はすべて元教皇の責任でもある、といい、人々のやり場のない怒りのよりどころ。
すなわち、人々による排除思考が触発されない、ともいいきれない。
否、まちがいなくそのようになってしまうであろう。
どうも、ここテセアラではこのような現状になっているのは、
元教皇が神子であるゼロスを害しようとしたがゆえ、
天がかつてのスピリチュアの悲劇のときのように怒っている。
そのように思い込んでいるものが大多数。
今の現状は、いまだにどこかに逃げているという、
教皇フィリプ、彼がいまだに裁かれていないからだ、とまことしやかに噂されている。
いまだ、この町にたどりつき、数時間程度しかたっていないが、
人々がそのように噂話をしているのは、嫌でも耳にとはいってくる。
そして当然、ケイトもそんな人々の噂話をきいており、
この現状が父のせいではない、とわかっていても、
父が世界を混乱に陥れかけていたのは明白で。
この現状を目の当たりにし、自分でもできることがあれば、と彼女からリーガルにと申し出た。
「私はこのアルタミラで私にしかできないことがある以上、
ここでロイド、お前たちの旅の後押しになるようにその道筋を確立するのも。
私に与えられている使命だ、とおもうのだ。
…私はかつて、アリシアを失ったことで自らの使命から目をそらし、
罪に服することで自分を納得させようとしていた。
…私にはカンパニーの従業員、そしてその家族。そして公爵家として。
人々を守る責務があったというのにもかかわらず…な」
このアルタミラはあるいみで、アリシアの提案によって発展していった町。
そういっても過言でない。
その町がこのようになっている。
まるでアリシアの思いですら踏みにじられたような、そんな感情がリーガルの中には芽生えている。
「お前たちと旅をすることも、たしかに世界のために必要かもしぬ。
が、私は今、この町で困っている人々、そして従業員。
彼らをおいてこの現状を知ってなお、お前たちとともにこのままともにいくことは…」
リーガルとて悩みはした。
が、リーガルひとりが抜けたとしても、ロイド達はおそらく困りはしない。
が、この町、アルタミラは確実に影響を及ぼすであろう。
特に一度、町に入った以上、ブライアン公爵は会長は、
町を見捨ててどこかにいった、そういわれてもおかしくはない。
実際、リーガルが牢からでたことをしり、
なぜ牢から出たのであればその責務を全うしないのだ、という声が以前からあった。
そんな声はジョルジュがどうにか抑えていたが、
すべてのものが、ジョルジュの説得に応じていたか、といえば答えは否。
「たしかに。リーガルにしかできないことは多いでしょうね。
そしていっては何だけども、
リーガルがともについてきたとしても利点どころか欠点しかないわ。
これから向かうはエルフの里、飛竜によって出かけたものが戻ってきていない。
というのであれば、飛竜以外の移動手段の確保。これも必要となってくるわ。
オリジンを解放できたとしても、あの大樹をどうにかするためは、
どうにかあの塔があった近くにおもむく必要があるのだから」
リーガルが言葉を言いよどむとともに、それに続くようにしてリフィルもまた言い放つ。
彼から提案がなければリフィルから提案しようとおもっていた。
おそらく鍵は彗星デリス・カーラーンにとある。
たしか、正式な名をネオ・デリス・カーラーンときいたようなきもするが。
とにかく、この地上の異変を解く鍵は間違いなくかの地にある。
鍵とまではいかなくとも、かの大樹をどうにかする方法。
それを調べるためにも今一度、かの地に向かう必要があるであろう。
飛竜であのあたりまでいけるかどうか、かなり怪しい。
魔物はたしか、マナの乱れに敏感のはず。
だとすればおそらく、かの地に飛竜で近づくというのはおそらくできない。
いや、これがもしもかの精霊の意図だというのであれば、間違いなく不可能であろう。
センチュリオンという存在がいる以上、まちがいなく精霊ラタトスクは目覚めている。
それにエミルのこともある。
間違いなく精霊ラタトスクとかかわりがあるであろうエミル。
いまだに戻ってこない、というのにもその予測を裏付けしているといってよい。
まあ、本当に戻ってくるのかどうかすら怪しいが。
一応、別れたとき、戻ってくるようなことはいってはいたが。
とにかく、ここでリーガルがこのまま一行とともに行動するよりは、
彼がここに残り、移動手段を完全に確立してもらったほうが遥かに効率がよい。
レザレノという会社の品々はここ、メルトキオでは利用していないものはいないという。
町がこのような現状になっている今、そこまでの期待はできないかもしれないが、
かといって、万が一というか可能性を含めた後ろ盾というものを残しておく。
これはかなり重要、といえる。
ゆえに、リーガルが一緒にきたとしても利点が一つもない。
彼がここに残ることで、もしかしたらレアバードもこんな状況ではあるが、
ヴォルトの力なくして使用できる方法がみつかるかもしれない。
しかしそれも、指揮をするものがいてこそ発揮できる、というもの。
「飛竜にて偵察に飛び立ったものが戻ってきたとすれば、
確実にお前たちに連絡がつくように、ネコニンたちを通じ連絡をとろう。
ロイド、お前たちは王都のことも気になっていたようだしな」
「!」
その言葉にロイドが思わず目を見開く。
つい失念してしまっていたが、たしか王都で異変がおこっているとか、
そんな話をきいていた。
いろいろとあってロイドとしてはすっかり忘れてしまっていたわけだが。
一つのことに集中すると、他のことが見えなくなる、という欠点は、
ロイドはいまだに完全に克服していない。
「まあ、ネコニンたちは神出鬼没だからなぁ」
そんなリーガルの台詞にゼロスが苦笑気味におちゃらけた様子で口をはさんでくる。
まああいつらも、あれでも魔物の一種。
もしもあの精霊様から何らかの指示がでているとするならば、
人間のすることに協力してくれるかどうかかなり怪しいけどな。
心の中でそんなことを思いつつも、それを表情にだすことなく言い放つ。
「わが社は様々な町などにも支店をおいている。
この地にいれば他の町と連絡がつくようになりしだいすぐに連絡がはいるであろう。
このような現状だ。正確なる情報は何ものにも代えがたいものだと私は思う」
そのためには、誰かがこの地にのこり、そういう役目をしなければならないであろう。
みずほの民もこの町にはいるにはいる。
が、今、彼らは町にはびこる黒い異形のものに手をとられ、そこまでの余裕がない。
「一緒に行動するだけが、この一件を解決するのに必要というわけでもないもの。
ロイド、わかるわね?私たちには今、情報がかなりかけている。
あれがどんな結果をもたらすのか、何もかも手探り状態なの。
私はここにリーガルが残って、情報を集めてくれることを期待しているわ。
ついでに、レアバードでの自由移動を可能にしてくれることも、ね」
レザレノの技術力はテセアラでも屈指のものだ、としいなもいっていた。
レアバードを一機、預けた以上、何らかの成果は確実に見込めるであろう。
戦力が一つ減るのは痛いが、しかし大人数だからいい、というわけでもない。
ヒトはそれぞれ、その身にあった戦いの場、というものが存在する。
そうリフィルは思っている。
おそらく、今のリーガルの戦いの場は、ここアルタミラなのだろう。
だからこそ、何やら不満を言い出しそうなロイドとジーニアスに前もって釘をさす。
「私としても、今から向かうであろう場所に同行しないのも心苦しいが…
この町の現状を知った以上…すまぬな。ロイド…
しかし、私はロイド。お前を信じている。息子はいずれは父親を越えねばならぬ。
いや、ほとんどの父親は皆それを望んでいる。
…あのものもそうおもってこの提案をしてきたのだろう」
実の息子との立ち合い。
クラトスがいっていた言葉の意味はそういうこと。
あのものは、自らの命を実の息子の手によって終わらせることを望んでいるのかもしれぬな。
そうはおもうが、それをロイドにいうのは酷、というもの。
まして、この町に残る、ときめたリーガルがとやかくいえるものではない。
「先生……」
「姉さん……」
そんなリフィルの言葉に何ともいえない声をだすロイドとジーニアス。
そしてまた。
「じゃあ、リーガルさんとはここでお別れ、なんですか?」
少し寂しそうに、リーガルをみつめつつつ問いかける。
そんなコレットの台詞に、
「別れ、ではないわ。コレット。リーガルはリーガルのできることをする。
そういっているのよ。別々に行動していても、私たちが仲間であることには違いないわ」
「そう…ですよね。私たち、仲間ですもんね。
離れていても心はつながってますよね」
「うむ。その通りだ」
「まあ、この現状だし、仕方ないんだろうね。
あたしらはあたしらで、さくっとクラトスともう一度話し合って。
何とかオリジンを解放してもらわないと」
「でも、そのためには、ロイドのお父様を……」
リフィルの言葉にうなづくしいなに、リーガルがこくり、とうなづく。
そんな彼らの台詞をききつつ、しいなが溜息とともに言い放つ。
たしかに。
リーガルの立場として、この町をほうってついていく、というのは無理であろう。
ゼロスのほうは、国王が発表したこともあり、神子同士でやりとげる必要がある。
そのようなことを国民にむけて発表しているがゆえ、
一行とともに行動していても問題はない。
しかし、リーガルは……
公爵という立場もさることながら、レザレノカンパニーの会長、という肩書もある。
裏をかえせばリーガルはカンパニーに所属する人々、またその家族。
そしてここアルタミラの人々の命を預かる立場、ともいえる。
そんな彼がアルタミラのこのかわりようをみて、
それでも自分の意地を通すため、一行の旅に同行できるか、といえば答えは否。
そんなことをすればまちがいなく後々禍根を残す。
それこそ暴動などがおきかねない。
「…なんか、さみしい、ね」
「…だな」
町の外。
町にはいる前、寝床らしきものをつくっていた飛竜達。
かれらがいるであろう場所にいってみれば、それぞれの飛竜達が、
巣もどきをつくり、それぞれ大地の上でくつろいでいるのがみてとれた。
結局、町にリーガルとケイトが残ることとなり、
これから移動するは、コレット、ロイド、ジーニアス、リフィル、マルタ。
そしてしいな、ゼロス、セレス、プレセア、この九人。
イセリアにてタバサとわかれ、そしてここアルタミラでリーガルとケイトまで。
特にリーガルとはかなり長い間ともに旅をしていたゆえに、
何となく寂しさを感じてしまう。
「…エミルももどってこない、しね……」
「…だな。エミルのやつ、今何してるんだろう?」
そもそも、このままエミルもまた戻ってこないのでは。
そんな思いもロイドの中にふとよぎる。
何だかエミルがいなくなってから、どんどんとヒトが少なくなっているような。
ミトスのこともあり、何となく気持ちが沈んでしまう。
バサリ、と飛竜の翼がはためく音がする。
今現在、次なる目的地であるエルフの里があるユミルの森はアルタミラからみてほぼ南。
地図でいうならばほぼ真下よりも少し西よりに位置しているらしい。
らしい、というのはそれを完全に目にしたわけではないので、断言はできないが。
ちらりと西のほうをみれば、そこにはあいかわらず異形とかした大樹もどき。
それらが不気味なほどに天高くいまだに成長しつづけているのがみてとれる。
正確にいえばいくつもの枝らしきものがどんどん救いの塔に絡みついていっている。
そしてそんな大樹の周囲にはこれまた傍からみてるわかるほど、
空に浮かびし彗星と大地から伸びた紫色の稲妻もどき。
それらが幾重にもかさなり覆いつくさんとしており、
それにまじり、いくつも大地から赤い何かが噴出している様子すら確認できてしまう。
間違いなく、飛竜などでこのままあの方向にむかっていっても稲妻の一撃をくらうか、
それかへたをすれば大地から吹きあげているマグマに巻き込まれてしまうであろう。
距離もさほどないからか、ユミルの森まで連れていってほしい。
そういうリフィルの言葉が通じたのか、それともはじめからそれを飛竜達が知っていたのか。
それは定かではないが、九人ということもあり、
今現在は少し大き目の個体が四匹。
その四匹は巣もどきにてくつろいでいる中彼らの前にとあゆみでてきた。
コレットとロイトが同じ飛竜にのっているのは、
少しでもロイドやコレットの不安を取り除ければというリフィルの配慮。
ゼロスはいうまでもなくセレスとのっており、
しいなとマルタ、そしてリフィルとプレセア、そしてジーニアス。
ジーニアスとプレセアはまだ小さい、ということもあり、
何とか一匹に三人がかろうじてのれてはいる。
もっとも、あまり自由はききはしないが。
そんな組み合わせにて今現在、飛竜にのっていたりする。
気のせいかどんどん空に浮かんでいる彗星が近づいてきているような気もしなくもない。
ざわざわと地上にある木々がことごとくゆれ、時折突風のようなものまで吹き荒れている。
しかし、それ以上に……
「…本当に何もかもがかわっちまってるんだな」
「そう…だね」
もともと、アルタミラの付近は完全に海にと囲まれていた。
たしかにその下にトイズバレー鉱山やユミルの森がある大陸がありはしたが。
まるでこう、大陸がぐるり、と半ば回転し、
さらにはくっついたかのごとく、かつてのテセアラの地図として大陸をみていた様子。
その地図と今の現状ではまったく異なるものにとかわっている。
そもそも、アルタミラとユミルの森は、どちらかといえば、
アルタミラから西に移動していった先にあったはずなのに、
なぜに南の位置にかわってしまっているのか。
断続的に続いていた地震はこの大陸の変化と関係があったのであろう。
精霊の楔というものを解き放った結果今のようになったのは明らか。
あのとき、クラトスのいうように契約をとめていればこのようなことにはならなかったのだろうか。
よかれ、とおもってしたことが世界中に混乱を招いている。
町があんな状態となっている以上、他の場所もそうなのだろう。
アルタミラでは死者はでていないようなことはいっていたが、
しかしそれは彼らがまだ把握していないだけなのかもしれない。
この現象が続いていけば、すくなからず被害はかなりのものとなるだろう。
精霊たちと契約をすることにより、マナの衰退と繁栄、それを取り除く。
それはどちらの世界も犠牲にすることのない最善の方法だ、そう信じていた。
しかし、その結果は今目の前にある通り。
飛竜の背にてより強くなってくる風に飛ばされないようにしっかりと手綱を握り締めつつも、
どうしてもロイドはそんなことをおもってしまう。
自分の行動は正しかったのか、と。
ちらりと眼下をみれば、緑に覆われた大地がみてとれる。
そして山脈、なのだろう、そこから赤い何かが噴出している様子すら。
噴出したマグマは流れ出でて、そのまま海に流れ込み海水にて固まっていっている。
海に流出したマグマは海水によって冷やされ、固まると同時、
とてつもない水蒸気を周囲全体にとまきちらしている。
本来ならばその影響でこのあたりは豪雨に見舞われるところであるが、
上空にある彗星の引力の影響で今のところそれは免れている。
もっともロイドはそこまで気づいていないが。
ロイドとコレットがそんな会話をしている中でも飛竜はひたすら目的地にむかい飛んでゆく。
世界のあまりの変わりよう、そして吹き荒れる突風に稲妻の発生。
何もしらないものがみれば、それこそ世界が終わる光景だと言い出すかもしれない。
そう思っても不思議ではない光景が今まさに世界中にておこっている。
テセアラとシルヴァラント、二つの隔てた世界に等しく降り注いでいるまさに天変地異。
「あ。もしかして、あれがそう、なのかな?」
そんな思考の渦にはまりかけていたロイドの耳に背後からコレットの声がふと響く。
コレットが指差す地上。
そこには周囲を緑の木々で覆われていながらも豊な水をたたえている。
緑の大地に異様に目立つそれはたしかに湖といって過言でない大きさ。
上空からもそれは目視てきるほどであり、その中央にこれでもか!
といえるほどの巨大な木々が生い茂った森らしきものがみてとれる。
遥か上空からでも確認できるあたり、その規模がどれだけ大きいか。
それを今さらながらに実感してしまう。
「?」
眼下に映し出される光景をみて、おもわず首をかしげるコレット。
何か、が違う。
何がといわれれば答えにこまるが。
前、この地にきたときと、あきらかに何かが。
「おりるわよ!」
コレットが何が違うのか首をかしげているそんな中、
前方を飛竜を操りとんでいたリフィルがそんな声をはりあげてくる。
リフィルの声とともに、降下を開始する飛竜たち。
ふときつけば、ロイドの体がこわばっていることにコレットは気づく。
「ロイド。大丈夫だよ。ロイドの信じたままに行動すればいいよ」
それは気休めでしかないかもしれない。
ロイドの体がこわばっている理由。
そんなの、コレットには一つしか思い当たらない。
あの森の中でまっているのは、ロイドの実の父親であるクラトスであり、
そして…オリジンの解放はクラトスの体内のマナの解放をもって果たされる。
それが示すことは、すなわち…クラトス・アウリオンという存在の…死。
ユミルの森。
そういわれているその場所は、大陸の中にあって、巨大な湖の中にと位置している。
入口は基本的に一か所しかなく、それ以外は湖をどうにかして超えればはいれるかもしれないが、
しかしこの湖には巨大な生物なども住んでいるといいそれを成し遂げられたものはいないという。
飛竜にて降り立つにつれ、違和感は一層つよくなってゆく。
やっぱり、おかしい。
以前のときは湖の周囲にある森はここまで、ではなかったとおもう。
湖の周囲にあったちょっとした森は完全に湖を取り囲むように広がっており、
ユミルの森にたどりつくまで、その森を抜けなければどうやらたどり着けなくなっている。
以前のときは、森と湖の手前に少しばかり開けた場所があり、
その場所にレアバードなどを着地させることも可能であったのだが。
「「「「くわぁぁぁぁっっっ!!」」」」
バサッ。
『あ』
湖を取り巻く森の外。
といってもこのあたりもやはり草花は異常繁殖しており、
背丈よりも巨大な草花が生えているらしいが。
そんな中に、バサバサとした羽音とともに飛竜が飛び降り、
そしてそれぞれの背にのっていた人間たちが降り立つのを確認するとともに、
何やら一斉にと鳴き声をあげ、それと同時に突如として飛び上がってしまう。
まるで、彼らをここに送り届けるまでが自分たちの役目、といわんばかりに。
視界が異様に成長している草にて遮られているがため、
飛竜達が飛び立ち、真上に移動したまではわかるが、
そこから飛竜達が移動してしまえば、一行の目には飛竜達かどこにむかったのか。
それを確認するすべはない。
ゼロス、もしくはコレットが翼をだして空に移動すれば確認は可能であろうが。
そんな暇すらあたえずに、飛竜達は突如として飛び立ってしまう。
もっとも、二人が空に飛び上がっても飛竜の姿を認識することは不可能であろう。
飛び上がった飛竜達はそのまま、湖の中にうかびし森の中にとつっこんでいっており、
そのままその姿をけしていたりする。
そもそも、飛竜達が素直に彼らをこの場までつれてきたはセンチュリオンの命令があったゆえ。
ロイド達がテセアラ側にきたのを視てとったラタトスクが、
彼らをつれてきた飛竜達にセンチュリオンを通じ命令したからに他ならない。
そうでなければまちがいなく、飛竜達は彼らをこの場まではつれてきはしなかったであろう。
何しろ今、この地は何ものにも代えがたい神聖なる地、といってもよい。
あの歪んだ形で発芽してしまった樹は大樹であって大樹であらず。
真なる大樹の存在、それを人々は知る由もないが
「…これで足がなくなってしまったわね。
…オリジンを解放したあと、レアバードが利用できればいいけど……」
空を見上げぽつりとつぶやくリフィルもそれは無理であることがわかっている。
ジーニアスだけでなく、リフィルもいまだにマナを紡ぐことができない。
唯一、治癒術をつかえているのは、ユニコーンホーンといわれている杖。
それの助力があるからだ、と何となくリフィルは自覚している。
魔術が使えない。
こんなことはこれまで一度たりとてなかった。
いくらマナが乱れているとはいえ、魔術が使用できないなど、本来ならばありえない。
が、もしもマナの管理をつかさどる存在の介入があったとするならば。
やはり、オリジンを解放したのち精霊ラタトスクの居場所をどうしても聞き出す必要があるわね。
そう心の中で決意しつつも、それを表にだすことなく、
ひとまず目先の問題である足がなくなったことを口にする。
「ひとまず、飛竜でとんでるときに地上をみてたけど。
陸続きになっていたから、アルタミラにまではどうにかなるとはおもうよ?
エレカーが利用できるかどうかもあやしいけど、
いざとなれば徒歩での移動しかないだろうけどね」
そんなリフィルの言葉に続くように、しいなが多少首をすくめつつもいってくる。
実際、アルタミラからこの地にくるまで、地上の様子をざっとみたが、
確実に陸続きになっていたように垣間見えた。
というのも飛竜達はそれほど高くはとんでおらず、
かろうじてふつうの目視でもその様子が見て取れた。
つまりは、最悪、陸伝いにいけばアルタミラまではたどり着けるということに他ならない。
「町とかがあんな状態になってたけど、もともとの森ってどうなってるんだろ?」
『・・・・・・・・・・・』
それは素朴なる疑問。
マルタのそんな疑問にそれぞれ思わず顔を見合わせる。
たしかに。
町や村があんな状態になっていたのである。
それでなくてもダイクの住んでいたイセリアの森ですらかなり変化していた。
あまり深くないはずの森ですら鬱蒼とした森にかわっていたほどである。
もともと鬱蒼とした完全なる森がどうなっているのか、考えたくもない。
ないが、これからそこにいかなければいけないのもまた事実で。
「ま、どっちにしてもいかなきゃいけないんだし。いくっきゃないでしょ」
「…ゼロスって軽いよね……」
そんな中、空気を読んでいるのかいないのか。
軽い口調のゼロスに思わずジーニアスが溜息とともにあきれたようにつぶやくが。
「でもさ。いつまでもここにいても意味がないだろ?」
ゼロスのいうことはたしかにもっとも。
「…とにかく、いきましょう。まずはこの森をぬけて、ユミルの森にたどり着かないと…」
目の前にある森…というかあるはずの森。
草花で覆われて目視できないが。
水のにおいからしてかろうじて方向は間違えようがない。
リフィルの言葉に促されるように、一行はそれぞれ顔をみあわせ、
草花をそれぞれの獲物である武器などで刈り取りつつも、
ひたすら道なき道をすすんでゆくことに。
~スキット:そのころアルタミラでは~アルタミラに残ったリーガルサイド~
リーガル「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
真剣な表情をして叫ぶリーガルの声が周囲に響きわたる。
走る、走る、ただひたすらに。
従業員A「さすがリーガルさま!普通の人よりも数倍もたまりましたよ!」
従業員B「私たちは基本、デスクワークなので、体力にはあまり自信がないですからねぇ」
さすがは会長だ、というような声が周囲から漏れ出でる。
とある建物の二階にある、通称、トレーニングルーム。
その部屋には様々な装置類が置かれており、
ルームランナーといわれている、設置式の別名”自宅にていつでも散歩を”。
といわれている品の一つにのりて、ひたすら、その場で足を動かしているリーガル。
リーガルがひたすらに走りこむのとともに、ヴッン、というような音が周囲に響く。
その装置の手前にはどこからどうみても、ドラム缶もどき?
というようなものがいくつもおいてあり、
そこにいくつもコードのようなものがのびている。
それは電気をためておく、蓄電器とはまた異なる品であり、
ドラム缶もどきの中には電気がしっかりと詰め込まれる形となっている。
プラス極とマイナス極の突起がそのドラム缶もどきにはあり、
これ事態がちょっとした電気をためおく品となっている。
八年前からこのかた、エクフィアに移行していた動力源は、
なるべくこういった別なる品をもちい、
エクスフィアを使わないように、という会社の意向があってこそ、
このような巨大なる電池もどきがここ最近は見直されている。
その電池は充電も可能となっており、空となりしそれらに人力で電気をためている今現在。
研究員A「会長!ドラム電池の一つが満タンになりました!次おねがいいたします!」
リーガル「うむ。まかせておけ!」
研究員B「われわれ十数人にて数時間かけてようやく一本満タンに充電できるのに。
さすがは会長ですね!」
リーガル「作業に必要な電気はこの私が責任をもって充電するゆえに、
おまえたちは、それぞれの役割をはたしてくれ!」
一同『はい!会長!!』
リーガル「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ケイト「…何か、はてしなく力の使い道が間違っているような気がするんだけど……」
ジョルジュ「気のせいでございますよ。
リーガルさまのおかげでヒトでがこの充電にとられずにすみますし。
ケイトさんは、このドラム電池をつかって、
神子様方から預かったレアバードの予備電源の開発をお願いしますよ」
ケイト「それはいいんですけど…でも、やっぱり力の使い道、間違ってる…絶対に…」
まさか、ロイドさんたちも、リーガルさんが充電人員のためにのこった。
なんておもってないでしょうね…
そうおもうと、どうしてもどこか遠くをみつめてしまいたくなる。
ケイトの目の前ではひたすらに、設置式の自転車もどきや、
ルームランナーといわれている装置をつかい、
その肉体をつかって自家発電をしていリーガルの姿がみてとれる。
レザレノの社員や研究者らしき人々は口ぐちにリーガルを誉めたて得ているが。
ジョルジュ「どちらにしても、電気がなければ動かせない品が多いですからねぇ」
ケイト「それはそう、でしょうけど……」
けど、これはない。
絶対に。
みずほの民C「しかし、ブライアン公爵殿が充電器をかねてくれたおかげで、
我らが町の見回りにいけるというのは強みですぞ?」
ケイト「……マナが紡げるのなら、私もお手伝いしたいところなんですが……
今はマナが乱れているせいか、まったく術が使える気配がないですしね…
みずほのみなさんは平気なんですか?」
みずほの民B「われらは基本、エルフの血族とは異なり、
自然界に乞い願い、そして力の行使をしますからな。
我らの民は常に自然に対して畏怖の念を忘れずにいること。
これがイガグリ様の教えの一つですので」
ケイト「…血の盟約の力でなく、自然とともに生きるものが生み出した術…
その力をおそれ、かつての古代大戦時期、そうそうに滅ぼされたという……」
みずほの民A「われらはその末裔ですからな」
ケイト「私たち、エルフの血族も今後は考える必要があるのかもしれませんね。
これまでは力が使えてあたりまえ、とおもっていましたけど…」
実際に力がつかえなくなり、そのありがたみがよくわかる。
目の前で困っている人がいても、力の行使ができない、のだから。
研究員A「ケイトさん!ドラム電池が二本満タンになりました!
研究所にもどりますので、ご同行ねがいます!」
ケイト「あ、はい。わかりました」
とにかく、今は、あのレアバードをいつでも利用できるようにする必要がある。
ドラム電池では大きすぎるので、ある程度の大きさのものを翼に取り付けることにより、
疑似的な動力源にできるかもしれない。
それには、研究者たちの頭脳、そして技術者たちの力の総力をあげなければ。
時間はまってはくれはしない。
※ ※ ※ ※
「姉さん……」
「あきらかに怪しい…わね。でもいくしかないわ」
飛竜が飛び去り、もうあとがない。
意を決してユミルの森に出向くべく、手前の森にと足を踏み入れた。
ちょっとした規模の森であったそこは、今や空すらおがめないほどに木々が茂っている。
普通の森でこうならば、ユミルの森やトレントの森といわれているかの地がどうなっているのか。
あまり想像したくない。
救いは開けた大地と異なり草花があまり成長しておらず、
といっても、かるく大人の腰くらいのものはかなりみられるが。
というか、本来ならば小さいはずの花々も異様に大きくなっているのはこれいかに。
手のひらサイズのはずの草花が巨大と化している。
かつて、氷の神殿で小さいはずの【セルシウスの涙】と呼ばれし氷の花が、
巨大化していたときのごとく。
森には異様なまでの魔物たちの姿がみてとれるが、彼らはまったく一行には目もくれない。
いや、どちらかといえば彼らの様子をうかがっているようにも見て取れる。
そもそも、見たことのないような魔物が闊歩している状態こそありえない。
トレントの森の奥深くに本来ならばいるであろう魔物たちが今この森には生息している。
それらの魔物はかるくヒトよりも一回り以上おおきく、嫌でも視界に飛び込んでくる。
鬱蒼とした森なのでユミルの森に抜ける方向が分からなくなりそうなのだが、
なぜか彼らの目の前にはしっかりとした、しかしどうみても獣道、であろう。
魔物や動物たちが通ったであろう道もどきらしきものが見て取れている。
それはまっすぐに一方の方向に伸びており、それ以外。
すなわち少しでもその道からそれれば、魔物の群れの中にはいってしまいかねない。
それほどまでに彼らの周囲、というか目視できる限りだというのに魔物の数が半端ない。
彼らは知らない。
【王】の手によりて大樹が真に復活したゆえ、魔物たちもまた興奮し活性化しているのだ。
というその事実を。
それでも興奮し、見境なく暴れたりしないのは、
一重に【王】からそれを自重するように、と厳重にセンチュリオンを通じお達しがあったゆえ。
そうでなければとっくに魔物たちは興奮のあまり、暴れまくっているであろう。
ほぼ一本道、ともとれるけものみちもどき。
少しでも道をそれればそこはもう魔物や動物たちが闊歩している。
というか動物たちや魔物たちが同時に存在し、
問題なくともにいる、ということに驚愕せざるを得ない。
「ま、道があるんなら、迷わずにすんでいいんじゃねえか?
わざわざ空とんで方向の確認しなくてもすむしな」
最悪の場合、翼を展開し木々の上まででむき方向を確認しつつ進む必要もありえた。
が、きちんと道らしきものはつくられている。
魔物たちや動物たちの様子をみるかぎり、おそらくエミル君が何かしてるんだろうな。
そう心の中ではおもいつつ、
それを口にすることなくいつものごとくおちゃらけたようにいいきるゼロス。
「でも道がきちんともうあるなら、剣で草花を刈り取る必要がないから楽…かな?」
実際、アルタミラから飛竜達がいるという場所にむかうまでの道筋。
ひたすらに草花を刈り取りつつ道を切り開いていたことを思えば、
きちんとした道があるというのはたしかに楽の部類にはいるであろう。
ゼロスの言葉に一理ある、とばかりにロイドが多少首を傾げているが。
「バカをいってないで。とにかく行きましょう。
こうしている間にも異変は収まってはくれないのですからね」
このままではラチがあかないとばかりにリフィルが溜息をつきつつ言い放つ。
たしかに、いつまでもここで立ち止まっていても仕方がない。
リフィルに促され、それぞれ周囲にみえる魔物や動物たちの姿に違和感を感じつつも、
ユミルの森のほうにつながっているであろうけものみちもどき。
それをひたすらにと進んでゆくことに。
「「神子様!!」」
どうにか森を抜けきり、ようやく開けた場所にとたどりついた。
目の前に広がるは記憶にあるよりもより生い茂っている森のありよう。
そもそもそこに湖があることすら生い茂る木々によりほとんど見えなくなっている。
その手前、なぜか煙が一筋空にとのぼっており、
近づいていくにつれ、赤い炎がたかれているのがみてとれる。
その火のそばには人影が二つ。
それぞれどこかでみたことがあるような甲冑鎧に身をつつんでいるその人影は、
がさり、という草を踏み分ける音をききわけた、のであろう。
はっとしたように、一行のほうにと振り向くとともに、
あきらかに驚いたように、それでいて歓喜したようにと声をかけてくる。
「ふえ?」
神子、とよばれ、コレットが一瞬きょとん、とした声をだすが。
「うん?何だ?こんなとこで何を・・お前たちはここの警備を担当している兵ではないのか?」
こんな場所で甲冑鎧に身をつつんでいる兵士など、何ものなのか問うまでもない。
本来ならば森を抜ける唯一の道…まああれを道、といっていいものかどうかわからないが。
とにかく、木々とそして湖の合間を縫うように湖の上にとおかれた板橋。
その橋の手前にて本来ならば出入りするものを管理しているであろう兵士たち。
そんな兵士たちがなぜに森の外。
しかもこんなところで火をたいて持ち場を離れているのやら。
そんな疑問を抱きつつ、声をかけてきた兵士二人にと話しかけているゼロスの姿。
「は。申し訳ありません。実は森のほうが安全とはいえなくなりまして…」
「神子様。ご無事のようで何よりです。
先日の大地震よりこのかた、王都からの鳩便も途絶えております。
例の謎の声のこともありますし。神子様。いったい世界で何が起こっているのでしょう?
これも、マーテル様が下したという神託の一つ、なのでしょうか?」
あの声はヒトの試練。そういっていた。
神子に問いかけるのは不敬かもしれない。
けど、神子ならば自分たちの問いかけを無碍にはしない。
そう理解しているがゆえの兵士の問いかけ。
それぞれがきちんと敬礼しつつ、ゼロスに敬意をもって接しつつそんなことをいってくる。
ざっとみるかぎり、どうやら彼らは最近はここで野宿をしているらしい。
少し離れた場所には彼らが使用しているであろうテントらしきものがみてとれ、
いくつも積み上げられた薪からは盛大に火の手があがっている。
これはここ最近、周囲に大型の魔物などがあらわれたこともあり、
常に自衛と警戒のために火の手を欠かさずにもやしているがゆえ。
ある程度の動物などは基本的に火を嫌う。
中にはそうでないものもいるにはいるが。
かといって、何もしないよりましといえばまし。
実際、彼らが休むときは彼らが野宿しているこの付近を取り囲むようにして、
いくつものたき火をうみだし、日々警戒にあたっている。
「神託というか試練の一つであることは確かだな。
しかし、森に何かあったのか?」
基本、彼らが持ち場を離れるようなことはしないはず。
まあ中には与えられた任務を人目がないことにさぼる輩もいるにはいるが。
しかしこうあからさま、というのはほぼありえない。
そんなゼロスの問いかけにほぼ同時に顔を見合わせたのち、
「そうですね。神子様がたなら問題ないかと。
説明するよりみてもらったほうがはやいとおもいます。
神子様たちはこの先のエルフの隠れ里に出向くおつもりなのですよね?」
神子であるゼロスやそのつれ…国王からの発表からすればこの中にシルヴァラントの神子。
そうよばれているものもいるのであろう。
以前、この地にて彼らにあっているものであればわかるであろうが。
幸運なのか不幸なのか。
彼らはちょうど、しいながすべての精霊と契約するその直前。
その前に交代したばかり。
まあ、配属された場所がかわったとたん、大異変に巻き込まれているわけなのだが。
しかし、もともとが王都付近の警備担当であったことを考えれば、
王都の異変に巻き込まれていないのは不幸中の幸い、ともいえるであろう。
何しろ彼らは知らないが、実質今現在。
王都であるメルトキオは完全孤立化した状態であり、
しかも実質そこを支配しているのはヒトあらざるもの、であるのだから。
エルフの差にというより、その先まっているであろうクラトスに用事があるのだが。
しかし、どちらにしてもエルフの里に出向かなければその先はない。
ちらりと無言でリフィルとしいなに視線を向けたのち、
「とりあえず、案内してくれるか?」
「は!わかりました!こちらです!」
「私どもも戸惑っておりまして……」
『?』
何か含みのあるその言い方に、何となく理解したリフィル、しいな、ジーニアスとは対照的に、
意味がまったくつかめないロイドやマルタはひたすらに首をかしげ、
「?なんか森のほうがにぎやか?」
ふと耳を澄ますような動作をし、ユミルの森といわれている方向をみて、
ひたすらに首をかしげているコレット。
三者三様。
今、この場の様子を言い表すのならばまさにその言葉がふさわしい。
ともあれ、いつまでもここにいてもしかたがない。
善意であるとおもわれる兵士たちにつれられ、
ロイド達八人は森の入口へと足を踏み入れてゆく――
pixv投稿日:2015年2月15日某日(Hp編集:2018年5月6日(日)開始
Home TOP BACK NEXT
##################################################
あとがきもどき:
~豆知識~Wikiより抜粋~
品名:ヤエヤマヒルギ
マングローブの一種。
比較的海水に晒される干潟に生えるマングローブの構成種の一つ。
他のヒルギ科植物と比較して塩分に対する耐性が強く、
マングローブの帯状分布では、より海側に生育する
樹高は8-10m程度となる常緑高木。
葉は厚い革質で滑らか、全体は楕円形で、先端にとがった突起があるのが特徴。
葉の裏側には無数の小さい黒点がある。
幹の根本近くから周囲に向かって、多数の弓なりの形状の呼吸根を伸ばす。
呼吸根は、幹の下部から斜め下に向かって出て枝分かれしながら泥に入り込む
幹を支えているようにも見えるので、支柱根と言うこともある。
花期は5-7月。
腋生の集散花序で花弁は4枚白
花の色から、別名シロバナヒルギと呼ばれることも。
萼片は4枚で、萼片の先は裂けており、形状は三角形。
花の後、果実は卵形で、萼片が付かないのが特徴。
果実の先端から長さ30cm以上にも及ぶ細長い褐色の胎生種子の根が伸びる。
成熟した胎生種子は、他のマングローブ植物と同様に
果実から抜け落ちて海流に乗って移動し、海流散布により分布を広げる
樹皮は染料として利用でき、また、木自体は材、木炭の原料ともなる
~~~~
世界におこりかけている現象。
エターニアにて、世界が隣接したときに発生していたあの現象。
まさにその現象が今現在のこの世界にはおこりかけてます。
まだあそこまで、はひどくはないですが、早くしないと時間の問題になってしまう。
という(苦笑
やはり、動力源って、根本をたどっていけば、
たどりつくは、原初?たる木炭ですよね(しみじみと
炭の力は偉大です。(断言
Home TOP BACK NEXT