まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

pivixさんに投稿していた話の区切りとは変えてあります。容量的に……

さてさて、今回さらっとTOAさんのキャラがでてきます。
猪突猛進さんのとある女性。
回りが見えなくなっているかの女性です(笑
彼女がこの世界というかTOSさんの世界にいるとすれば、
まちがいなくパルマコスタの総督府だとおもうんですよね。
で、ドアをひたすらに盲信してる…と(笑
ちなみに彼女、本来ならば大樹暴走時に死亡してます←マテ
しかし、この話。あるいみでTOLさんとマイソロ2での負の具現化。
それを元にしてるのに、なぜにTOZの穢れと似たようにも感じられるのか(笑
あるいみで、TOZのあの変化ですよ、といっても過言でないような
何しろ、これヒトすら異形に成り果ててるしなぁ…
偶然って怖い(しみじみと
まあ、魔物が人々を襲わないかわりに脅威、として思いついてたのが、
この【幻魔】達ですしねぇ。この話……
いや、人間ってどうしても何かの脅威がなければ率先して、
まとまろうとしないじゃないですか。悲しいことに…
で、その脅威がさったら、その功労者に責任とか罪をねつ造しなすりつけ、
そのまま処刑しすべての責任を押し付けたり、とかね
ほんと、一番この世で怖いのはひとの心、そんな考え方。
でしかないんですよね…
TOPさんでもモスリンがいっていたように。
さて、今回あるパルマコスタイベント。
実は、裏設定的にラタ様がかつていた原作時間軸にもおこってたりします。
その場合は、世界が統合されてから後。
ロイドとコレットがエクスフィアを回収しに旅をしていた最中の出来事です。
なんでクララ夫人がゼロスにあっさりと依頼したりしてるのかな?
とかおもったりしたとき、このネタはふっとおもいついてたりします。
それでもって、その時のゼロスの対応、そしてそのゼロスの決意みたいなのをみて、
コレットもヒトの怒りを自分で償えるのなならば、とかいう考えにて、
大樹の暴走は自分が逃げ出したからだ、とか変な方向にみとめたり。
ついでに、自分を悪役にしてでも他者に生きる気力を与えようとしたゼロスや、
コレットの姿をみて、ロイドも思うところがあったらしく、
ゆえに、マーテルやユアンの依頼をうけ、二人がやってるなら自分もやらないと。
というか自分にしかできないというんだったらやってやる!状態で。
一人で勝手に突っ走っていった、ラタ騎士の時間軸の流れという裏設定があったりします
このパルマコスタの異変の状態、結構脳内では詳しくできてはいるんですけど、
人の愚かさというか醜さとかものすごくあらわしてたりするんですよね。
なので視点をロイド達視点のほうから書いてたりします。
ゼロスサイドからだと、あまりにも生々しいので……
ロイド達視点ほうだと、一応さらっとかるく(でもおもい?)流せるので……
まあ、何がいいたいか、といいますと。
絶対にやってた、人間牧場における、人々に苦痛を与える方法。
…いつの時代も戦争などで泣きをみたり、虐げられたりするのは女性、ですしね。
若い女性はとくに…そういう面でしかみない下卑た男性も多々といるわけで。
劣悪種と呼んでたディザイアンたちがそういうことをしていない。
とはおもえないんですよね…
さらに裏設定的には、偽キリアはその結果生まれてきた子供です。
(エクスフィアつけられたマナの歪んだ母体からうままれてるのでマナがくるってる)
そんな裏設定さんがあったりします。
穢れなき純粋ともいえる赤ん坊はより純粋たる力を求める輩には、
いい生贄となるんですよ(あうあうあう……
じゃあ、なんでショコラが無事だったの?という素朴な疑問がおこるかもですが。
ショコラがつれていかれてたのが、イセリア牧場であったことが幸いしてます。
フォシテス、騎士道精神にあふれてるらしいですから、
捕虜というか家畜扱いたる彼らにもそういう面での扱いにおける規約。
それらは厳しかったとおもうんですよね。というか絶対に認めてないとおもいます。
何しろハーフエルフの中においては英雄とよばれし男でもありますしね。
でも、残りの牧場は…ねぇ(汗
ちなみに、このパルマコスタイベさん。
ロイド、無知は罪、というのを知りましょう。という意味合いもあったりします。
いや、絶対にリフィル、かつてのユウマシ湖行の中で語られてた会話。
ロイドは”コウノトリがはこんでくる”云々、
コレットは”コウノトリがきゃべつもってきて、 その中から赤ん坊は誕生する”
といってたあれの誤解、絶対にといてない、とおもいます……
まさか、あんなま~~えのネタ?がここにかかわってくる、
とは思われてないだろうなぁ、とふと思ったり。
ゼロスは教えそうではあるが、しいな達が断固として阻止してるようなきがしますv
…何しろ、ポールの父親になるために結婚するとかいいだいたような、
そういう面をな~~んも考えてないロイドですしね(しみじみと←原作ゲーム設定
ちなみに、これまたパルマコスタイベでさらっとでてきている人物さんたち。
いうまでもなくTOAさんの登場人物です(笑
かつて、テネブラエにいらないことを吹き込んだジェイドがいたように(マテコラ
この時間軸、彼らも実はいたりします。
でもTOA主人公のレプリカルークはいませんよ?アッシュは生まれていますけど(マテ
彼らのことにさらっとふれるのは、一行がアルタミラに移動したときですけどね。
そこでゼロスの叔父がでてきます(初←笑
かつて、ゼロスがゲーム内でもいってましたが、
マナの血族は一か所にはいない、といってましたので。
実は一族のうちのひとつがアルタミラにいる、という裏設定となってます

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重なり合う協奏曲~ヒトと幻魔~

コケコッコー!!
コケー!コケッ、コケッ!
周囲にて鶏達が騒ぐ声がする。
空にかかりし紫色の巨大な彗星が常に大地そのものを紫色にと染めており、
正確な時間、すなわち今が夜なのか昼なのかすらもわからないそんな中。
鶏達による正確なる時告げはあるいみ、不幸中の幸い、といえる。
おそらくは、あれから一日、たった、のであろう。
あまりに色々ありすぎてあまり実感はないにしろ。
昨日…になるのであろう。
ユアンの報告もありて、ロイドがプレセアとタバサを迎えにいっていた同時刻。
たまたまロイドとジーニアスが二人をつれて、家にもどるとほぼ同時。
なぜか村のほうからマルタがやってきた。
何でもパルマコスタにて何かがおこったらしく、ネコニンギルドより、
パルマコスタのニールから手紙が届いた、らしい。
ロイドとしてはダイクと【アルテスタ】の共同作業を手伝いたかったのだが、
しかし、リフィルが呼んでいる。
そういわれて仕方なく、村にと出向いた。
ダイクいわく、指輪をつくるにあたり、精密な作業も必要であり、
確実に一昼夜はかかるであろう、といい、緊急の用事かもしれないから、
おまえたちは一度村にいってこい、そういって送り出された。
タバサはそのままダイクの元にとのこり、アルテスタの人格と交代し、
ロイド達が出かけた直後にどうやら指輪の制作にとりかかったらしいが。
セレスひとりをダイクの家に残しておく、というのも不安というのもあり、
ならあたしがセレスが起きるまでここにいて、一緒に村にもどるよ。
そうしいなが申し出て、先に村にともどったは、ロイドを含めた、
ジーニアス、ケイト、ユアン、プレセアの五人。
「…どうやら夜があけてしまったようね。…実感はないけども」
「だな。子供たちはいつのまにかどうやら眠っているようだしな」
たしかに話は長引いていた。
いつのままにか壁にもたれかかり、ロイドはそのまま座り込みその場でねており、
ジーニアスなどはいつのまにか机に突っ伏した形で眠っていた。
そんな眠りについているロイドとジーニアスをあきれてみつつリフィルがいうと、
リーガルもまた溜息をひとつつきつつもそんなことをいってくる。
そもそも長くなるかもしれないから先に寝ていてもいい、といったのに、きになるから。
といって残ったのは彼ら自身。
にもかかわらずやはりというか何というべきか。
「しかし…厄介ね。これは……」
パルマコスタから届いた、という手紙の内容。
それは、村長のような…あれより多少は違う、らしいが。
少なくとも町の人々が突如として黒い何かに覆われたのち、
異形の姿にと変化していっている、らしい。
当人が姿を変化させるものもいれば、黒い何かが体から湧き出したのち、
それらが異形の何かのような形をなし、周囲に被害を及ぼし始めた、という。
今はニール達の指示のもと、何とか混乱を防ごうとしているが。
こういう現状なので少しでもはやく、できればブルート達に戻ってほしい。
というのがニールからの手紙内容。
「…幻魔、といったか?ユアン」
「そうだ。かつて、古代対戦より前から見受けられていた現象だ。
  もしもその現象と同じであれば対処法も同じのはずだ。
  核となっているであろう当事者に”ホーリーボトル”をふりかければいい。
  あれは聖なる気をもっているからな。黒い靄のようなものは、穢れとみていいだろう。
  ほうっておけば、下手をすればそれを目安にして魔界の扉が開かれかねない」
ユアンは知らない。
すでにラタトスクの手によりて、【魔界ニブルヘイム】の主たるものたちは、
新たな暗黒大樹を主体とした新生ニブルヘイムともいえる惑星に移動したことを。
もっとも、瘴気は残っているゆえに、扉が万が一にも開かれた場合、
人にとって大打撃であることは間違えようのない事実なのだが。

幻魔。
それは文字通り、幻のごとくの魔。
はじめは幻のように実体のないものでありながら時間とともに実体化をし、
時としてそれを生み出したであろう人体にまでも影響を及ぼす異変。
それでも当時、すなわち四千年前からこのかたその話題があまりのぼらなかったのは、
基本、それらを生み出したとしても、それらの源となりしはマナ。
そして生み出した当事者のマナを使用するがため、当人が気絶、
もしくはマナを枯渇してしまえばそれは消滅してしまう。
そういった程度のものであった。
そこに低級魔族などが加わってくればより厄介極まりないことになりはするが。
負の具現化現象におけるひとつの呼び方。
しかし、今現在、それを具現化させているものたちは、自らのマナを消費することはない。
その場にいれば嫌でも理解せざるをえないが、空と大地。
そこからわきあがっているマナをそれらが吸収し、それらは自らの糧としている。
本来ならば、大樹から発生したマナはセンチュリオン、そして魔物を通じ、
世界にと還元され、そして精霊たちによって管理されている。
それが本来のあるべき姿。
だが、あるいみで穢れたままにて発芽した大樹より生み出されしマナ。
否、今回のこの場合はそれをもってして、ラタトスクがとある方法をとっているから。
としかいいようがない。
すなわち。
今回のこの発芽を利用して、世界にとって不要なものとそうでないもの。
――ヒトの見極め。
空と大地より湧き出すマナは、マナによって生み出されている器にと影響を与えている。
ただ、そこにラタトスクは、負を具現化させるものがいたらば、
その当事者が自ら浄化しない限り、それらがマナを取り込めるように。
そのようにすこしばかり理をつぎたしただけ。
負を具現化させるまでたまりにたまった人の負の思念。
本来ならば個人個人がどうにか対処し、自分の中で処理しなければいけないもの。
シルヴァラントにおいては、不満といっても些細なもの。
大概は今の状態における不安によって具現化させているものが大多数。
ゆえに力はそう強くはない。
が、テラアラ側においては話がまったく異なってくる。
これまで豊かさに慣れた人々にとって、今回の異変はまさに青天霹靂。
そしてさらに、権力や身分が高いものに限り、それらの不満はたまっている。
どうして自分たちは偉い立場なのに、こんな目にあわなければならないのだ。
目下の卑しきものたちとどうして対等にならなければならないのか。
そんな固まりまくったあるいみ貴族思想、というような代物。
それらが膨れに膨れ、より醜悪なものをうみだしていたりする。
欲や権力にすがりついているものほど、自らを省みようとしない。
結果、負の具現化もより強くあらわれ、自らの身をおいつめてゆく。
そしてそういった輩のものは周囲の関係なのいものにあたりちらし、
被害をまき散らす傾向をもっている。
そういった面においては、貴族街とよばれしエリア。
かの場所はそういったものたちや、亜魔族とよばれるレッサーデーモン。
そういったものが今現在、闊歩する空間となっている首都メルトキオ。
そしてまた、他者を見下す傾向のありしサイバックにおいても、
そのような現象はおこっていたりする。
あまりその現象が現れていない地区といえば、フラノールくらいといってよい。
かの地は常に豪雪に覆われているがゆえ、他人と協力する、
というのが当たり前のようにと身についている。
自分たちだけがよければいい。
そのように考えているものはほとんどいないといってよい。
口ではそのようにいっていても、大抵は協力することに慣れている人々が大多数。
そして貧民街、とよばれし場所にすみしものたちも、そのような異形のものを生みだしてはいない。
つまるところ、そういったものをうみだしている人間は、
すくなからず自分本位のところがあるゆえに、そういったものをうみだしている。
そういって過言ではない。
もっとも、当時からどうしてそのようなものが生み出されるのか。
謎ではあったが。
かつて、ミトスがラタトスクよりそのことを聞き出し、
ユアンも一応簡単なそういった事情だけは知っている。
しっているからといってどうこうできるような内容でもなかったが。
つまるところは、ヒトの欲望がうみだせし行き着く先。
そこにまつ一つの結末といえる現象。
それが【幻魔】の出現。
そして…当時からもいわれていたが、そのような強いものをうみだした人間は、
かならず命を落とす。
結びつきがつよいがゆえに、幻魔としてうみだされた獣が討伐されても、
それは生み出した当人にも影響をあたえる。
まさに一蓮托生としかいいようがない。
悪意のみを切り捨てるという起用なことをなしとげるか、はたまた当人を改心させるか。
それ以外にそんなモノをうみだしたものが助かる道はない。
だからこそ、ラタトスクは少しばかり、かの種子に手を加えた。
いくら新たな理をひきなおしても、どうにもならないものたちがいたままでは、
また必ず同じ過ちを引き起こしかねない、という理由にて。
だからこその試練。
ヒトはその心の中にあるそういった【欲】に打ち勝つことができるか否か。
それらを見極めるための試練でもあるこの現象。
もっとも、そんな事情を地上にいきる人間たちは誰一人知るはずもない。
そして、この現象は地上だけでなく、彗星内部にてもおこっていたりする。
あまりにも選民思考が強いものにはこの現象が発現していたりする。
連絡手段がいまだに回復していないがゆえに、
ユアン、そしてクラトスもその事実をいまだ、知らない。

「そんな現象、これまできいたこともないわ」
「まあ、そうだろうな。われらもこの四千年。
  この現象がおきたのは見たのは初めてといっていい。
  …対戦中はそこらかしこでみられていた、がな」
リフィルの言葉にユアンもまた溜息ひとつ。
「突如としてこのような現象がおこりだしたのも。おそらくは……」
「…あの、大樹とおもわしきあれかしら?」
「おそらく」
そうとしか考えられない。
「どうやらクラトスのいっていたこと。
  魔導砲が使用不可能、というのは事実らしい。
  絶海牧場があるであろうあたりは、海底火山の影響で跡形もなく、
  あの付近の小島そのものすらなくなっていた」
地形がかわったというだけではおそらくないであろう。
しかも。
「…ここに戻ってくるとき、イセリア牧場も確認してみたのだが…
  かの地も完全に牧場の痕跡すらなくなっているからな。
  これによって、シルヴァラントにあった牧場すべて。
  完全に跡形もなく消滅したといってもいいだろう」
自分の管轄ではないが、他人事ではないとおもい思わずユアンは溜息ひとつ。
おそらくクラトスもそのことを自らの目で確認したのであろう。
だからこそ、オリジンの解放をとおもったのかどうかはともかくとして。
ミトスが牧場がすべて消滅したと知りどう行動をおこしてくるか。
まあ、今はともかくあの大樹もどきにのみこまれ、
今にも取り込まれそうになっているマーテルをどうにかしようと考えるであろうが。
あのままでは、マーテルはあの樹にとりこまれ、確実にきえてしまう。
マーテルを本当の意味で眠りにつかせるという意味合いではほうっておく。
というのも一つの手なれど、だがしかし。
もしもあの大樹もどきが負によって穢れているとするならば。
下手をすればあの樹があるかぎり、マーテルの魂は成仏することなく、
エクスフィアのごとくにあの樹の中にとりこまれ安息日は訪れない。
その可能性が果てしなく高い。
そしてその穢れはいつしかマーテルの魂すらをも穢してしまうであろう。
そして…下手をすればマーテルの魂が魔族化してしまう可能性すら。
そんなことは認めない。
認められるはずがない。
では、どうすればいいか。
あの大樹もどきをどうにかし、マーテルをとにかくアレより助け出す。
一番いい方法はあの大樹もどきともども、
マーテルをも吹き飛ばし、両方を消してしまえればよかったのだが。
しかし、魔導砲がない今、それは不可能となった。
このままでは、次元空間のゆがみとともに、世界すら巻き込んで消滅しかねない。
あれをどうにかできないのであればならばせめて、
次元空間のゆがみ、これだけでもなくさなければ。
そのためにはオリジンの解放が必要不可欠。
オリジンに認められさえすれば、うまくすればエターナルソードの、
否、かの精霊との契約の上書きが可能になるかもしれない。
それはかけ。
ミトスが世界を統合するかどうかわからない以上、
マーテルの愛した世界を消滅させる可能性がある以上、ユアンは行動をおしまない。
今のユアンの言葉の裏にはマナの照射のきりかえ。
その作業が不可能となったということを示している。
いまだにマナが注がれているのかどうか、それはユアンにもわからない。
わからないが、世界に光の柱がいくつかのぼっているのをみるかぎり、
マナの照射はおそらく解除されてはいない、のであろう。
手足となるレネゲードの部下たちとも連絡がつかない。
ボータが指示をだし、精霊炉のある封印の地に幾人かむかったらしいが、
この現状では無事にたどり着けるかどうか。
「ともあれ、今までも説明したように。あちらの世界にわたるには、
  ここに、幻…といっても、ほぼ実体化しているリアルな幻のようだがな。
  この地…どうやら確認したかぎり、ここがアルタミラになっているらしいが。
  ともかく、ここ異界の扉のありし島、そこからテセアラにと移動できるはずだ」
地図の一点を指示し、ユアンがそういってくる。
「…ずいぶんと地形がかわってしまっている、のだな」
地図によれば、アルタミラのありし場所はほとんど孤島に近い。
「このマナの乱れでレアバードも長くはとべないであろうが。
  異界の扉のありし島からアルタミラにくらいは移動できるはずだ。
  お前たちが利用しているエレカーも利用できるかどうか怪しい以上、
  確実な足を手にいれたほうがいい。たしか、ブライアン侯爵。
  アルタミラには飛竜を飼い慣らしている貴殿のもちし施設があったはず、だな?」
「…たしかに、ありはするが。
  …この状態でアルタミラがきちんと機能しているかどうか」
なぜそれを知っているのか、という思いがふとよぎるが、
そういえば、このユアンはテセアラを管理する立場とか何とかいっていたような。
ならばそれくらいのことをしっていてもおかしくはないのかもしれない。
が、こちら側、すなわちシルヴァラントですらここまで異変が起こっているのである。
あちら側、テセアラ側ほうも少なからず異変がおこっているとみて間違いはないであろう。
しかも、ユアンが指し示した地図の位置。
あきらかに、これまであった場所とアルタミラのあった島。
その島の位置が異なりをみせている。
混乱がおこっていない、というほうがおかしい、とおもえるほどに。
あちら側にわたる手段。
レアバードが使用できない今、たしかに異界の扉とよばれし地。
そこからの移動、しかないのかもしれないが。
シルヴァラント側にはなかったはずの大陸。
それが今現在、幻のごとくとはいえきちんと上陸できる、というユアンの言い分。
そのことに戸惑わずにはいられない。
「でも、裏をかえせば、そこまで位相軸の隔たり。
  その境界線がなくなっている、ということね?」
「しかり。今のこの世界はエターナルソードによってわけられているもの。
  だが、精霊の力と大樹の力。その力は大樹にかなうものはない。
  おそらくは精霊の力を大樹の力が上回り、このようになっているのだろう。
  このままでは、あのマーテルを飲み込んだ歪んだ大樹とともに、
  二つの世界ともども消滅してしまう。魔導砲によって大樹を収める。
  という手段が消えた今、それを防ぐためにも世界を一つに戻す必要がある。
  ……そののち、あれについてはどうにかするしかあるまい」
かの大樹の精霊はどうおもっているのか。
まちがいなく覚醒しているであろうに。
それにあのエミルのこともある。
センチュリオンにしてもまたしかり。
このままでは、かつてかの精霊がいっていたように世界すべてが海にと還る。
その可能性が果てしなく高い。
そこに今の大地という大地は存在することなく。


「ここ、イセリアから、パルマコスタに戻るには、
  海をそのまま北上していくほうがこれを見る限りは早いが…
  しかし、今、海がどのようになっているのかわからない、というのもあるな」
この場にいるのは、主だったものたち。
ファイドラはいうまでもなく、パルマコスタのブルート、そしてリフィルやユアンといったものたち。
「メリアがアイフリード殿に交渉しているはずだが、どうなることか……」
まあ、あのアイフリードはきちんと筋を通す男ではある。
それをブルートはよく知っている。
今現在、アイフリードは船の様子をみにいっており、それにブルートの妻であり、
マルタの母でもあるメリアも同行してこの場にはいない。
これまでの世界地図がまったく通用しないといってもよい、今現在の大陸の現状。
テセアラ側の大陸はそこにあるようでいてそこにない。
幻のごとくそこに存在しているらしいが。
そういわれても実感がわかないのもまた事実。
しかしイセリアのあるこの地の付近の大地の状態。
それも劇的に変化を遂げている以上、ありえない、ということはありえない。
何よりも救い塔が見えていた方角。
その方角がまったく異なる位置になってしまっていることからもそれは明白。
さらに先刻のイセリアの村長の異変。
そして届いた手紙には、かの村長のような異変が町のものにおこっている。
といったしろもの。
これがあの謎の声のいっていた試練なのかどうかはわからない。
しかしすくなくとも、手をこまねいているだけ、というわけにはいかないであろう。
ゆえに、それらのことを考慮しつつも、おもわず手を胸の前で交差させ、
うなるようにしてつぶやくブルート。
「かといって、パルマコスタを後回し、にはできないわ。
  やはり、ここからこういって、そののちにここ、しかないでしょうね。
  この現状だとパルマコスタの船が利用できるかどうかも怪しいもの」
海賊船よりは、水蒸気船のほうがはるかにスピード、そして安全面。
それらを考慮してもそっちのほうがいいが。
かの船が無事であるかどうかもあやしい。
というより、この現状でそれらの船乗りなどの確保ができるかどうかも。
なら、アイフリードたちには迷惑をかけることになるだろうが、
ここからパルマコスタにいったのち、自分たちを異界の扉があるであろう。
幻のようにして存在しているというかの島にむかうより方法はない。
「それで?どうするおつもりかの?リフィル殿?」
最後の確認、とばかり、ファイドラがその手を机につきつつも、
リフィルをひたり、と見据えといかける。
「そう…ですわね」
鶏の声がした、ということはいつのまにか一日が経過してしまったということ。
おそらくこの地にいるゆえにわからないが、他では被害がより拡大しているのであろう。
時間は、あまり残されては…いない。


ザワザワザワ。
「積み残しはないか!?」
「例の品は!?」
ざわざわと周囲より様々な声が飛び交ってゆく。
真っ白い砂浜の上にいくつかの小舟が接岸し、
それらの中にいくつもの樽や木箱が積み上げられては、そのまま沖にとむかってゆく。
ここにくるまで変化していた海の現状をかえりみて、
パルマコスタがあるであろう、大陸にたどり着くまで、
何があるかわからない、というので念には念をいれた出港準備がなされているらしいが。
海岸沿いには村人たちが数名、見送りにとやってきている。
それぞれが深刻そうな表情をしているものもいれば、
アイフリード達海賊の手伝いをし荷物を運んでいるものも。
「では、ファイドラ殿」
「わかっておる。おそらくこれより、われらには試練が課せられるのじゃろう。
  これまでは神子にのみ試練がかけられておったが……
  真の意味でわれらヒトの試練が始まった、ということなのじゃろうて」
ユアンから聞かされた、幻魔、という存在。
それはヒトの心の悪ともいえる醜い部分が実体化する現象、であるらしい。
各自でそれを昇華することなく、外にすなわち八つ当たり気味に他者に責任を押しつける。
そういった傾向のものによく見受けられていた現象、であるらしい。
ファイドラやブルート達は聞いたこともない現象ではあるが、
クルシスの天使だというユアンがいうのだから、そうなのであろう。
そしてあの謎の声。
ヒトの試練が開始されたというようなことをあの声はいっていた。
だとすれば、この試練こそがヒトに対する最終試練ということか。
かつて、ヒトはおろかにも大樹を枯らした。
二つの世界の神子が協力し、大樹をよみがえらせることには成功したようではあるが、
芽吹かせてみればそれは歪なる異形なる姿で。
あの声がいうのを信じるとするならば、あれこそがヒトの醜さの象徴といえるのかもしれない。
これまで、すべてのことを神子にのみおしつけていた自分たちヒトへの。
ユアンという天使の会話の中でどうもあの異形なる大樹の中に女神マーテル。
その女神がどうやらとらわれているようなことをいっていた。
つまりマーテル様はその身をもってして、被害が地上にあまり及ばないようにしている。
そう考えられなくもない。
真実は確認してないがゆえにファイドラにもブルートにもわからないが。
しかし、心の中に去来する思いは口にせずとも思いは一致。
ブルート・ルアルディの言葉に力強くうなづきつつも、返事を返すファイドラ。
村長のような異変がまた起こるかもしれない。
あの変化をみていた村人たちにそれを説明するののもまたファイドラの役目。

人の心、というものは何か大事があればその本性をあらわにする。
自分のことだけ考え、他者を蔑ろにしてしまう。
そして欠片すら他者を思いやる心をもたないものは、完全なる幻魔と化し、
その身そのものを村長のように変化させてしまう。
村長はさらに、そこに魔血玉デモンブラッドをもっていたがゆえ、あのようになってしまったが。
普通の存在もまたそういった異形の存在にとなりえる種をもっている。
常にマナが降り注ぎ、また湧き上がっているがゆえ、魔族達の介入は最小限ですみはするが、
そういった【負】をまといし”ヒト”は魔族にとってかっこうの”餌”であり、また”器”でもある。
いまだこの世界にのこっている数多の移住を望まなかった悪意をもった魔族たち。
それらの消去をもこの現象にてラタトスクは一斉におこなうつもり。
まさにあるいみで一石二鳥といってよい。
反乱素質をもちし魔族をも駆逐でき、また愚かなる思考しかもたないヒトもまた、
それとともに消去、できるのだから。
もっとも、それをもしもロイド達がしったとするならば、
そんなのは間違っているだの何だのといってくるであろうが。
すくなくとも、このまますべてのヒトを生かしたまま、
世界を一つに統合させたとしてロクな結果にはなりはしない。
それをラタトスクはかつての時間軸おいて身をもってしっている。
なら、害となりうるものを選別し、振り分けてしまえばよい。
まだ少しでも救いがあるようなものは、すくなくとも、救いの道は残されているのだから。
それがこのたび、ラタトスクが人々に対して下した決定。
あくまでもラタトスクはそのきっかけを振りまいただけであり、
自ら異形と化すのはそれぞれの【心】次第、なのだから。

それぞれ向かい合う形でブルートとファイドラが話をしているそんな中。
「これが、エターナルリング……」
虹色の輝きをもちし指輪は不思議な感じを抱いてしまう。
「どうやら出発時間にまで間に合ったようだな」
「よかったです。ロイドさん。これを」
ロイドの前にいるは、見送りにくるとともに、またできあがった指輪。
それを届けにきているダイクと、そしてタバサ。
「クゥン……」
その背後にはすこしうなだれたようなノイシュの姿がみてとれる。
しかもすこし物悲しいような鳴き声つきで。
ここにノイシュの声がわかるものがいるとするならば、
またおいてくの?という悲しい言葉を理解したであろうが、
ノイシュの言葉を理解できるのは、ラタトスク、もしくはセンチュリオン達くらい。
当然ロイド達ヒトはその言葉を理解などできるはずもなく、
ただ、なんか悲しそうに泣いてるな、というくらいの認識、でしかない。
タバサより手渡されたのは、布に包まれているちょっとした長細いもの。
大きさ的におそらく剣らしきことがうかがえる。
「これは…親父!?」
ずっしりとした重みがまさに剣であることを示している。
おもわずはっとしてダイクをみれば、にやりと笑みを浮かべ、
「あのユアンとかいう人からきいたが。お前はこれから実の父親と戦うかもしれないそうだな」
そのことに何か思わなくはないにしろ。
「父親ってもんは、息子にどんな形であれ抜いてほしい。
  また、抜かれたくない、とおもうもんだ。
  それがたとえどんなに長い時間離れていたとしても、な」
ダイクとてロイドに細工物の腕を自分を抜いていってほしいと思っているひとり。
だからこそクラトスの気持ちがわからなくもない。
「そいつは、昔お前に約束したお前へのプレゼントだ。
  お前はまだまだ半人前ではあるし、一人前の男になってるとはいいがたい」
「…ひでぇ……」
さらり、と乏しめられ、おもわずそう小さくつぶやくロイド。
「まあ、そういうな。おやってもんはいつまでたっても子供は子供でしかないからな」
それこそどんなに年をとったとしても、おやにとっては子供は子供。
「そいつはまだお前は使いこなせないかもしれない。
  そいつに対になる剣を見つけるというのもわるかねぇだろ」
真実は実はユアンからちょっとしたことをきいてるがゆえ、この剣にとしたのだが。
「このダイク様、生涯最高の剣と自負できる品だ。選別だ、もってけ。
  これからつらい、それでいて厳しい戦いになるだろう。
  それでも、お前は前をむいていかなきゃらならない。
  始めたことは最後まで、わかるな?」
「…ああ。ありがとう。親父」
「マスターの協力もあって、その剣にはちょっとした付与がつけられています」
指輪をつくった後、剣の話となり、アルテスタが意見をだし、
ロイドにいつか渡そうとおもっていた剣にちょっとした追加の細工を施していた。
だからこそここまですこしばかり遅くなってしまったのだが。
出発前までに間に合って何とかほっとしたというのをロイドは知らない。
ロイドがあまりにも猪突猛進すぎて、ちょっとばかり頭を冷やす、
という意味合いをこめ、氷属性の武器をつくっていたのだが。
よもや実の父親が代々受け継いでいるという剣が炎の剣だなど。
ダイクとしては運命を感じざるをえない。
「…すげぇ」
そっと包んである布をとり、鞘を抜き放つ。
見ているだけで吸い込まれてしまいそうな水色をたたえた刃をもちしその剣は、
どこからどうみてもまさに氷の剣、という表現がふさわしい。
「そいつは、このダイク様にとっても最高傑作。魔剣ヴォーパルソードだ」
「魔剣…ヴォーパルソード……」
ダイクにいわれ、反復するようにおもわずつぶやくロイド。
もっているだけで力がわいてくるような。
「?親父…これは?」
ふと、剣の柄部分に模様らしきものをみとめ思わずといかける。
どこかでみたことがあるような文様。
「アルテスタ殿にいわれてな。たしかにというのもあって付与してみた。
  この世界をつかさどりしエイト・センチュリオン。
  氷属性をまもりし氷のセンチュリオン・グラキエス様を指し示す文様だ。
  グラキエス様の加護があるように、な」
「「!?」」
さらり、といわれた言葉に思わずロイドは目をみひらく。
そしてそんな会話をきいていたジーニアスもまた目をみひらかざるを得ない。
そういえば、とおもう。
あの海賊船にそなえけられている文様が入りし球体のオブジェは、
たしかダイクがそなえつけた、といっていなかったか。
まああの船自体、ダイクがつくった品なので当然といえば当然なれど。
ここでまたセンチュリオン。
やはり何かにつけてカギはセンチュリオンという存在が握っているとしかおもえない。
そんなことをおもいつつ、おもわず顔をみあわせるロイドとジーニアス。
ちらり、とジーニアスが姉のほうをみてみれば、姉であるリフィルはファイドラ達と話しており、
少し離れた場所にとたっていてこの会話はどうやら聞いてはいないらしい。
「親父、それって……」
ロイドがそんなダイクに問いかけようとしたその刹那。
「よ~し!準備はできた!出発するぞ!!」
甲高い、アイフリードの声が浜辺にと響き渡る。
「お、どうやら出発のようだな。頑張ってこい。ロイド」
「私はこちらでダイクさんとともにお待ちしています。
  今の状態では私自身がロイドさんたちの敵、となりかねませんので」
「伝承ではかの幻魔とかいうやつは、無機物を乗っ取るというからな。
  まあ、ここなら問題はないだろう。村人たちも、村長の変化。
  あれを目の当たりにしているゆえに、誰もあんな姿にはなりたくないだろうしな」
実際、あの姿をみた印象はかなり大きく、むやみやたらに周囲に八つ当たりをする。
というようなものはあれよりめっきりすくなくなっていたりする。
まあ今後どうなっていくかはわかりはしないが。
しかし、あれがヒトの様々なよくから生れ出ると知れ渡れば、少しは皆が皆、
自重とそして思いやりの心というものが芽生えるであろう。
タバサのそんな言い分に何ともいえない気持ちにロイドはなってしまう。
自動人形だ、というタバサ。
プレセアを迎えにいったときも、タバサが彼女にそんなことをいっていた、という。
だからこそ何ともやるせない気持ちになってしまう。
タバサはそこいらのヒトよりも人らしい、というのに。
「…ああ、いってくる。親父も気を付けてな。タバサも…」
「わしらのことは心配するな」
「きゅ~ん……」
「ノイシュはダメだぞ?何があるか本当にわからないんだからな。
  …エミルでもいれば小さくして云々ができるだろうけど」
今はその方法はとれはしない。
ロイドは自力でソーサラーリングの属性の変更などできはしない。


ザザザザァァッン。
船が波をかき分けてすすんでゆく。
やはり、というか不思議なことに、周囲の海面がかなり荒れているにもかかわらず、
この船はまるで何かに守られているかのように、周囲の荒れは微塵も感じさせない。
甲板にたちつつも、その手を空…あいかわらず紫色の巨大な何か。
がそこにある空に手をかざしつつ、そして海面をみつめる人影一つ。
「ロイド。ここにいたんだ」
ふと、そんな彼…ロイドにと声がかけられ、そちらをふりむけば、
船室にはいっていたはずのジーニアスがどうやら表にでてきた、らしい。
「ああ。…なんだかおちつかなくて、な」
結局、リフィルの意見もありて、一度、パルマコスタにむかったのち、
そのままロイド達はアイフリードの船にて異界の扉のある島のある位置。
そこに移動する、というので話がまとまり、
また、メリア・ルアルディがアイフリードに交渉した結果、
イセリアにいた牧場から逃げ出した数名の人物たち。
パルマコスタに向かいたいというもののみ、にはなるが。
パルマコスタ、もしくはかの地出身のものたちは、同じくこの船にとのっている。
彼らの今後はブルートが責任をもって面倒をみる、とはいっているが。
しかしパルマコスタで何が起こっているのか正確にまだ彼らも知るはずもなく。
「…ダイクおじさんのことが、心配?」
「心配、ではあるかなぁ?タバサも残ったことだし……」
タバサはダイクの元にと残っている。
というのも、これよりのち、少なからず大工の仕事などが増えてゆく。
さらにいうならば、ダイクひとりでは到底さばききれるものではない。
もっとも、もう一つの大きな要因がユアンの口から語られた、ということはあるが。
「…器…か」
――機械人形であるタバサは幻魔達にとってよりよい器となりえる。
かつての時代、古代対戦時代、そういったものが幅をきかせなかったのは、
それらにのっとられ、味方すら壊滅状態になったことがしばしばあったらしい。
だからこそ、機械人形、ではなく生身の人間が戦力、として使用されたという。
天使化、という技術をもってして。
そんなことはありえない、とロイドは当然反論したが、当のタバサが、
かつてマスターからそのような話をきいたことがあるので間違いはないとおもいます。
そうきっぱり断言され、絶句したのは昨日のこと。
昨夜、というべきなのかもしれないが、今現在、昼夜の区別がほぼつかない。
星空がみえるわけでなく、太陽がみえるわけでなく。
みえるは、上空に存在しているという彗星のみ。
ロイド達は知らない。
無垢でもありし機械の器であるがゆえ、かつての時間軸においても、
その人工知能が破壊されているのをみてとり、そこにマーテルが取り憑いた、ということを。
そしてその器を核として、新たな人工精霊
…あまたの少女たちの精神集合体の精霊として誕生したということを。
「…タバサまでそんなことがあるかもしれない、なんてね」
そういえば、とおもう。
もともと、タバサはマーテルの器、としてつくられた、という。
そしてそれは、マナの血族とておなじことがいえる。
ヒト、としてうまれたか、機械人形としてうみだされたか、ただそれだけの違い。
常にそばにいるがゆえ、タバサがヒトではない、ということを失念してしまうが。
「…ねえ、ロイド、ヒトの定義って、なんなんだろうね?」
本当につくづくおもう。
村長のような人間より、タバサのほうがあきらかに人間らしい、とジーニアスはおもう。
人を思いやる心、というのをタバサは確実にもっている。
そしてその思いやりの心はあの村長には…ない。
そうジーニアスは断言できる。
かなしいことに。
ゆえにぽつりとそうつぶやくジーニアスの言葉にロイドも何もいえなくなってしまう。
「タバサは親父と一緒なんだし。大丈夫さ。出発のとき、
  これを親父たちが届けてくれたように、な」
いいつつ、ロイドが空にとかざした指、中指にとはめられている指輪がひとつ。
常に左手の中指にロイドはソーサラーリングをはめてはいたが、
ダイクから手渡された、エターナルリング、とよばれし指輪。
たしか人間でもエターナルソードをつかえることができる指輪とか何とか、
表向きにはいわれているらしいが。
ユアンいわく、実際のところはその指輪そのものが契約の証のようなものであるらしい。
契約の形態がロイド達のしる他の精霊と多少異なっている、というだけらしいが。
その指輪はロイドの右手の中指にとはめられている。
ダイクと【アルテスタ】の共同作業によりて指輪が完成したは、
ロイドたちが出発する少しまえ。
出発の準備にロイド達が海岸にと出向いていたときに、ダイク達がとどけにきた。
「とりあえず。ロイド、船室に戻ろうよ。今後のことで姉さんが話があるって」
「わかった」
しばらくイセリアのある方面をみていたが、ジーニアスにいわれ、
ロイドもまた船室へともどってゆく。
世界の大陸のありようは完全にと様変わりをみせている。
実際、北上してゆくに従い、ゆらゆらとゆらめく、どこかでみたような小島。
しかも雪に覆われた…を目の当たりにした今、世界に異変がおこっているのは明白。
空、だけでなく、地上も。
そして頻発する小規模の地震。
世界を一つに戻すが先か、あの歪んだ形で発芽してしまっている大樹をどうにかするのが先か。
しかし、大樹をどうにかする方法は閉ざされたといってよい。
かの大樹に近寄る手段がまったくない。
たよりにしていた魔導砲も消滅してしまったらしいという今。
ならば世界が消滅しないように、二つの世界を元通りにする必要がある。
大樹のことはそれから、になってしまうが。
でも、そのためには…
「…オリジンの封印…か」
――オリジンの封印はクラトスの体内のマナをすべて放出することにより解放される
それが、クラトスがかつてオリジンにかけた人という器による封印のカギ。
…体内のマナをすべて照射し、生き残れるヒトなどいるはずがない。
そう、リフィルはいっていた。
違う手段がないか探す暇すらなく、このようなことになってしまった。
世界も、クラトスも選べない。
でも、クラトスはすでに自分の道を決めたようもみえた。
だからこそ、オリジンの封印の地で待つといったようなことをいったのではないか。
少なくともロイドはそう思う。
クラトスだってこの四千年、ずっとミトスとともにいたのである。
何も思わないはずがない。
でもどうして、ともおもう。
どうして、クラトスは自らの命をかけてまでオリジンの封印をなしたのか、と。
おそらくそれは、クラトス自身にしかわからない事情があるにしろ。
万が一、マーテルが復活したとしてオリジンを解放するとき、
クラトスが死んでしまえばそれは意味がないのでは、と少なくともロイドは思う。
そのあたりのことも、できればミトスにきいてみたい。
どうして、と。
今は目先のことをどうにかするしか手段はないが。
すくなくとも、ミトスもこのままにはしておかないであろう。
マーテルがかの大樹もどきに取り込まれている限り。

「ネコニンの里のあるあの島はどこにいったのやら」
誰ともなくつぶやく、海賊たちのそんな声がきこえてくる。
本来、イセリアから出発すれば、ネコニンたちの隠れ里のある島にとたどりつく。
が、今現在それらしき島の影すらみあたらない。
地図にもそれらしき島影が見当たらないが、
これまで見覚えのないいくつかの小島らしきもの。
それらのどこかにおそらくはあるのであろう。
それくらいのことしかわからない。
「しかし…周囲がすごい、な」
北上してゆくに従い、これまでにみたこともない光景。
海には幻でも何でもなく、氷の塊がいくつもういている。
それは流氷、とよばれし品。
これまでシルヴァラント地方においてこんな氷の塊をみたことは一度もない。
海に生きるといって過言でない海賊である彼らとてこんなものはみたことすらない。
ゆえに、氷山などの危険性。
そういったものもいまだ彼らはしりはしない。
このあたりはすでにセルシウスのというよりは、グラキエスの管轄地帯。
いくら位相軸がずれているとはいえすでにマナの管理はセンチュリオン達にともどっている。
そして世界を元の姿にするために魔物たちも常に互いの世界を移動している今現在。
ヒトはこの狂った次元の狭間を行き来することはできはしないが、
すでにセンチュリオン達と絆を取り戻している魔物たちは関係なく、
世界が二つわかれているままでもふつうに互いの世界を今現在は行き来していたりする。
それにいまだにヒトは気づいていないが。
これまでみたこともない魔物の姿がみえはじめたことすら、
いまだ救いの塔がいきなり別の場所に移動し、
さらには化け物ともいえる不気味さすら感じる巨大な樹。
それらしきものに救いの塔がおおわれている今、ヒトはそこにまで気づくことができない。
遠眼鏡、ともいわれているテセアラでは双眼鏡。
そういわれていたそれでみるかぎり、完全に氷に覆われた大陸すら目視できるほど。
それはシルヴァラント人にとって今までみたこともない新天地。
もっとも、その光景はロイド達にとっては見慣れたもの。
その氷に覆われた大陸はいうまでもなく、フラノール地方であったはず。
なぜイセリアから北上してゆくに従い、フラノール地方の、
あの氷に覆われた大小様々な小島がみえはじめているのか。
近づいて確認してみたいが、たしかあのあたりはエレカーですら座礁しかねなかった場所。
もしも本当にそこに島々があるとするなならば、こんな船などあっというまに座礁する。
ユアンのいった通りであるならば、
このまま北上してゆき地図をまたぐ形で惑星を一周すれば、
パルマコスタにたどり着けるはず、なのたが。
そもそも、世界がまるかったというのは、レアバードを手にいれ、よりロイドは実感した。
それまでリフィルの授業で教わってはいたが、実感していなかったといってよい。
それに何より、空からこの”世界”とよばれし”星”の姿。
それをかつて、ウィルガイアに出向いたときに目の当たりにした。
あのときの光景をロイドは忘れたわけではない。
「このまま、ここにたどり着くまでどれくらいかかるかしら?」
羅針盤でも今現在の位置はきちんと把握できない。
星空もみえない、また太陽の位置すらもわからない。
それらすべては空にと浮かびし巨大な彗星。
それらがすべて遮っている。
「それはわからんな。まあ、この地図を信用するとするならば。
  距離的にはルインからパルマコスタに移動する期間。
  おそらくそれくらいでたどりつける、とはおもうが。
  こうも周囲が氷の塊で覆われていてはな。
  氷を気を付けつつ進んでいく以上、少しばかり時間はかかるだろう」
確かに地図を見る限り、シルヴァラントの地図とかつての古代地図。
そこに書き加えられた地名と比べるかぎり、それに近いとしかいいようがない。
船内にとあるちょっとした会議室。
さきほどから船員たちが出入りを激しく繰り返してゆくそんな中、
この場にはブルートとそしてアイフリードが同席している。
マルタとメリアは厨房に出向いていっており、この場には今はいないが。
「…本当に、時間がない、というわけね。
  ユアンがいうには、位相軸の隔たりが怪しくなっているとはいっていたけども。
  こう周囲に流氷などがただよっているのをみるかぎり
  それはあながち間違っているとはいいがたいわね」
しかし、まちがいなくこの古代地図のような地形になってしまっているのだろう。
ユアンが書き加えた地名と大陸の位置。
双眼鏡でリフィルも確認しはしたが、確実にここより北西にとフラノール地方。
そうとしかおもえない雪におおわれた島がゆらゆらとゆらめきつつも目視できた。
これまで隣り合っていながらも決して目に触れることのなかった二つの世界。
その境界線があきらかにゆるんできている。
「しかし、話は以前、娘からきいてはいたが…本当に存在したのだな。
  おとぎ話のテセアラ、という国は」
ブルートもまたうなざるを得ない。
話はきいていたが、実際に目にするのとそうでないのとでは実感が違う。
大陸の大異変にともない、幻の大陸が目視できている今、
二つの世界が隣り合っていた、というのを実感せざるを得ない。
みえないだけで世界が隣り合っているときかされても、半信半疑ではあったが。
「ええ。そうですわね。実際にこうして幻影のごとくに目視できはじめた今。
  これらの現象で人々の不安もより強くなっているとおもわれますわ」
「うむ。リフィル殿のいうとおり。…パルマコスタでの異変、というのも、
  これらのことに関係あるのかもしれぬな」
地図を見る限り、パルマコスタ付近の地形もことごとも変化している模様。
そんな最中に指導者たるものがいなければ、人々の不安はいうまでもなく。
さらにはかつてのドアのこともある。
ニールやクララの尽力があったとしても、
いつ何どき、本当にあのドアがディザイアンとつるんでいた、と人々が知りかねない。
そうなれば、人々による暴動は必至。
リフィルの言葉にうなづきつつも、うなるようにつぶやくブルート。
「で。どうするよ?ブルートさんよ?俺たちに依頼をするのか?」
「いや。まずはこの異変をどうにかするためには、
  彼らを異界の扉…だったか?そこに送り届ける必要があるだろう。
  この状態ではパルマコスタの水蒸気船。
  それが使用できるかどうかもわからぬしな」
スピードからすれば、それを利用したほうが遥かにはやくたどりつける。
飛竜でもいればどうにかなりそうではあるが。
かといって、竜車というわけにはいかないだろう。
地図をみるかぎり、目的の場所は陸続きになっていない小島。
本来ならば、彼らのような荒事になれているものたちに依頼をし、
おそらくおこっているであろう町の荒事。
それらを収集するのに手伝ってもらいたい所なれど。
あの天使のいうようにこのまま手をこまねいていて、
本当に世界の危機になってしまってはもともこもない。
「神子様がたにばかり大変なことを押し付けてしまい申し訳ないが」
「いえ。ブルートさん。気にしないでください。そのお気持ちだで十分です」
本来ならば神子だからそれが当たり前、といわれそうなところなのに、
申し訳ない、といわれ、逆に恐縮しつつもこたえるコレット。
「まあ、パルマコスタにまでかるく一昼夜はかかるだろう。
  まずはあんたらもゆっくりと体をやすめな。
  あの村長の一件以来、まともに休んではないだろう?」
体を休ませる暇もなく、パルマコスタから手紙がとどき、そのまま話し合いの場を設けた。
自分たちは体力に自信はあるが、神子といえどもまだまだ子供。
体力にも限界があるであろう。
「どちらにしろ。船の上ではできることはかぎられている。
  まずはゆっくりと万全の状態にすることを心がけるんだな」
あせっても、事態がどうにかなるわけではない。
しかもここは船の上であり、海の上。
どうあがいてもどうしようもないのもまた事実。
そんなアイフリードの言葉をうけ、
「そうね。とりあえず、メリアさんたちが食事の用意をしてくれてるはずだから。
  私たちも私たちのできることをしていきましょう」
いいつつも、コレットたちをみわたすリフィル。
「そういえば、ケイトは?」
ふとケイトの姿がみあたらず、きょろきょろと周囲をみてつぶやくロイドだが。
「ケイトさんなら、さっき甲板で、紋章をいろいろと調べてたみたいだよ?」
それは、センチュリオン達の紋章が描かれているオブジェ。
ほんのりといくつかのオブジェが光っているのを目にし、
そこにこの船が周囲の荒波の被害をうけていない答えがあるのでは、
という予測のもとにケイトはそれらを調べていたりする。
もっとも調べたからといって答えがでるようなものでもないのだが。
リフィルも気になり調べはしたいが、そこは甲板。
つまり周囲は海なわけで。
水が苦手なリフィルは周囲の荒波のこともあり、調べるのを今回ばかりは断念していたりする。
「そういや、あの模様のはいったやつ。なんか輝いてたな?特に水色のやつが」
その意味はロイドにはわからない。
水色に淡く輝くその紋章こそ、センチュリオン・アクアを指し示す紋章なのだが。
「まあ、ここで話しててもどうにもならんだろ。
  とりあえず、パルマコスタにつくまでそれぞれ自由行動、でいいんでないの?」
「ゼロス…あんたねぇ」
「でも。たしかにお兄様のいう通りですわ。
  今、わたくしたちにできることは限られていますし」
そんなゼロスの言葉にしいながあきれたようにつぶやけば、
そんなゼロスを擁護するかのようにとセレスがいってくる。
今現在、それぞれ長机を取り囲むように座っている彼らの位置は、
その壁に背後に大きく描かれたシルヴァラントの地図。
それらを壁の背景にするように、その目の前にとアイフリードが座っており、
その両脇にそれぞれブルートやリフィル達がすわっている。
ブルートの横は本来、マルタやメリアが座る予定であるがゆえか、
席が二つほど空いたままにはなっているが。
二つ先の椅子にとリフィルが座り、そんなリフィルの横にはコレットが座っている。
そしてコレットと向かい合う形でロイドが座っており、
ブルートの正面にゼロス、そしてその横にセレス、ジーニアス。
といった形で今現在それぞれ席についていたりする。
しいなは席にはついておらず、そのまま壁にもたれかかるように、
アイフリードの斜め後ろにと壁にその身をもたれかけているが。
いくら海賊で協力してくれているとはいえ、しいなは油断はしていない。
警戒をしていないのは子供組、すなわちロイド達くらいであろう。
そもそも、かつてアイフリードにだまされたことがある、というのに、
ロイドはあまりにも緊張感がない。
これはリフィルも相違であるゆえに、常に彼らには目を配っているといってよい。
いくら何でも船の上で裏切り行為、というのをしてくるとは思いたくないが。
念には念を。
彼らが知らないだけで万が一、彼らがクルシスと通じていたりするならば
それこそ後戻りができない。
それゆえの警戒。
まあ、リフィル達のそんな懸念はただの杞憂にすぎないのだが。
このような現状だからこそ、警戒するにこしたことはない。

しばし、再び彼らによる今後の話し合いがこの場において繰り広げられてゆく――


~スキット:海賊船の中にて~

ロイド「しっかし、すげえ!さっすが親父だぜ!」
甲板にて、すらりと剣を抜き放ち、空にとむけて言い放つ。
きらきらと氷のごとくに輝く刀身がきらり、ときらめく。
どうでもいいが、近くにある空箱らしき木箱。
それに向かって嬉々として剣を振りかざしては、凍り付かせているのはこれいかに。
まだ魚釣りなどにて釣り上げた魚を凍り付かせたりするほうが実用的、というもの。
ジーニアス「それって、氷の粒が発生するみたいだね」
ロイド「おう!すごいぜ!これ!でも、これと一緒に別な剣とかつかったら。
     この冷気でもう一本が凍り付くのが難点だな。これ」
一緒に試しに使用してみたが、威力が強すぎるのか、
もう片方の剣が使い物にはならなかった。
ゼロス「ま、熱血バカのロイドくんにはちょうどいいんじゃないのかい?
     つっこんでいく過程で頭が冷えて」
ジーニアス「あ。だからダイクおじさん、氷属性の剣にしたんだ。納得」
ロイド「?何で頭がひえたらいいんだ?」
ジーニアス「…ダイクおじさん、ロイドのことよくみてるよね」
ゼロス「ま。猪突猛進。熱血バカのロイド君にはちょうどいいんでないの?」
ロイド「ちょと?…何だそれ?たべられるのか?」
ジーニアス「…僕、前にも説明したのに……」
セレス「…えっと、冗談、ですわよね?」
ゼロス「おそろしいことに、ロイド君のこれは本気だからな。セレス」
セレス「え、えっと……」
ジーニアス「ロイドの知能は三歳児波だからね」
ロイド「よくわかんねえけど、なんかすげえだろ!」
ゼロス&ジーニアス&セレス「「「・・・・・・・・・・・」」」
ブルート「…あのものは、いつもああ、なのか?」
リフィル「…私の教育って…頭がいたいわ……」
ブルート「…苦労しておられるな。貴殿も」
リフィル「………仕方ないですわ。今に始まったことではありませんから……」
ブルート「…そ、そうか。しかし、さすがはシルヴァラントにこのものあり。
      といわれしダイク殿の剣。すばらしいな」
リフィル「それに関しては同感ね。…炎の剣だとあの子、何しでかすかわからないし。
      ある意味、氷でよかったのでしょうね。さすがダイクだわ」
もしもロイドに炎の剣をもたせれば、面白半分で何をしでかすか…わかったものではない。
見る限り、今でも近くの小箱などを凍り付かせて遊んでいるのだからして。
リーガル「…とめなくてもいいのか?」
リフィル「あまりにひどかったら、お説教も考えないとね」
リーガル&ブルート「「・・・・・・・・・・・」」
リフィルのお仕置き。
ブルートはなぜか妻のお仕置きを思い出し。
リーガルはリーガルで旅の中、リフィルがほどこしていたお仕置きを思い出す。
それぞれ想像していることは違えども、無言で顔をみあわせ、
何ともいえない表情を浮かべるさまは、あるいみ同士、といえるであろう。

※ ※ ※ ※


「なんか時間の実感がないよな~」
思わず空を見上げてつぶやいてしまうロイドの気持ちはわからなくもない。
ずっと明るいまま、というのも何だかおちつかない。
船室にて部屋を暗くし休んだりしなければ完全に落ち着くことすらままならない。
ヒトは気づかないだけでどうしても休息は必要。
無意識のうちにヒトは闇によって安らぎをもたらされている。
どうにか海に漂う流氷地帯をぬけもうどれくらいたったのかもわからない。
太陽がみえていたりすればまだどれほどの時間が経過したかわかるというのに。
唯一、時間がわかる品といえばゼロスやセレスがもっていた【懐中時計】。
それらによってどれほどの時が刻まれたのかようやく理解できている。
できてはいるが実感がわかない、というのが正直なところ。
時計による時刻によれば、かるくすでに一日が経過してしまっているらしいが。
何でもずっと明るいがゆえ、いつもならば夜間の走行は危険、ということもあり、
錨をおろし一夜を過ごすところなれど、常に周囲も明るい。
ということもあり、交代制でひたすらに船は延々と進んでいた。
そのせいか、実はかなり早く運航していたりするのだが、
普段船にあまり乗りなれていないロイドにはその事実はわからない。
これまで幾度か船にのりはしているが、本来かかるであろう時間まできちんと把握していない。
「…ねえ。ロイド、あれ、何だろう?」
「ありゃぁ…煙…か?」
先ほどその視界の左端に小さな島がみえはしたが、その更に北。
もしもよくよく確認してみれば、それがソダ島であることがわかったであろう。
が、彼らはそこまで気づいてはいない。
うっすらとした大陸の影がみえはじめ、
完全に島影を右手に感じつつもすすんでゆくことしばし。
何やら煙らしきものが空にむかってたちのぼっているのがみてとれる。
「どうやら何かが燃えているみたいだな。ちょっくら俺様、確認してくるわ」
いいつつも、ふわり、とその背に輝く翼を展開し空にと浮かび上がるゼロス。
ユアンは昨日のうちに、先にいくといって空をとんでいっており今はこの船にはいない。
「あ。まって、ゼロス。私もいく」
コレットも目視できた以上、きにかかりはする。
それにあの煙がたちぼっているあたりに町影らしきものがみてとれている。
もう少し近くによればどこの町かわかるかもしれないが、
しかし、海沿いにある町といえばコレットは一つくらいしかおもいつかない。
「でも、コレット、危険だよ!?」
コレットたちのいう煙はジーニアスの目にははいらない。
が、ゼロスやコレットがいうなら何かがあるのであろう。
それにしても、とおもう。
先ほどから見えている島影はいったいどのあたりになるのだろうか。
羅針盤を元に進んでいっているといったのでそう進路はかわっていない、
とはおもうのだが。
でも、それだとすれば、この島はパルマコスタのある大陸なのだろうか。
「大丈夫。少し確認してくるだけだから」
「ま、俺様もついているしな」
「お兄様、おきをつけて」
「おうよ」
そのまま、ふわり、と二人して空にと飛びあがるゼロスとコレット。
そんな二人を心配そうに見送るロイドとジーニアス、そしてセレスを甲板にのこし、
そのまま空たかく飛び上がる。
きらきらとした二人の色違いの天使の証といわれている翼が、
空にうかびし彗星より発せられている薄紫色の光にと反射し
きらきらとした光を周囲にこぼす。

飛んでゆくことしばし。
やがて確実に大陸らしきものがみえてきて、それにともない山脈らしきものもみてとれる。
しかし、異様に眼下にみえる大陸に緑が多く感じるのはコレットやゼロスの気のせいか。
山脈を越えた先。
何やら見覚えのあるような道らしきものもきにはなるが、その先。
海岸沿いにとやがてみえてくるちょっとした町並み。
「あれは……」
煉瓦造りの少し大き目の建物を、いくら上空からといっても見間違えるはずもない。
しかしその町並みの至るところから炎があがっており、
空にいながらも人々の混乱している声がきこえてくる。
それとともに獣のような方向もそんな人々の悲鳴に交じり上空にまでとどいてくる。
よくよく目を凝らしてみてみれば、燃え盛る町並みの中、人々が逃げ惑っているのがみてとれる。
そしてそんな人々の中で必至に応戦らしきものをしている鎧を着込んだ人々の姿も。
そしてそんな彼らが応戦しているのは、真っ黒な”何か”。
ここ上空からではよくわからないが、ヒト型らしきものをしているものもいれば、
動物のような、そしてまた魔物のような異形のような姿をしているものの姿もあるような。
「こりゃ…ちょっとばかり洒落にならない事態になってるようだな。
  コレットちゃん。俺様は先にあの町におりてできればみなとに船がつけられるよう、
  手配を整えておくから、アイフリードやロイド君たちにそのことをいってくれるか?」
このまま二人して戻っても意味がない。
あの調子では港もきちんと機能しているかどうかも怪しい。
まずは町におりたちて、ニール達と連絡をとり、何とか船を港に入港。
その体制を整えなければ。
近くの海岸に接岸するという手もあるが、
それでは船から小舟に乗り換えての移動となる。
いちいち少人数に分かれて乗り込むよりは、一気に港に入港したほうがはるかにまし。
「でも、ゼロス、危ないよ?!」
コレットからしてみれば、ひとりで騒ぎになっている地にゼロスをひとりで。
というのはあまり好ましくない。
「大丈夫だって。俺様ひとりでも、港を解放、くらいはできるっしょ。
  ここから異界の扉にいくにしても。物資補給は必要だしな」
実際、イセリアである程度の物資は積み込みしているが、量的には完全ではない。
どちらにしろ一度、パルマコスタに立ち寄るつもりであったからか、
はたまたイセリアにも積み込みができるほどの保管がきく食料などが少なかったためか。
どちらにしろ、一度、船をパルマコスタにたちよらせるしかないのは決定事項。
「とりあえず、少しでも急いで町にきてくれ、とつたえてくれや。
  んじゃ、ま、俺様はちょっとばかりいきますかね」
「あ、ゼロス!!」
コレットがそんなゼロスに声をかけるよりもはやく、
そのまま翼をはためかせ、一気に眼下にとみえている町のほうにと降下してゆくゼロスの姿。
「…ゼロスひとりだといくら何でも…はやく、ロイド達にしらせなきゃっ!」
自分がゼロスを追いかけるより、よりはやくロイドたちにこのことを伝えたほうがいいだろう。
ゆえに、コレットもまたそのまま、元来た方向。
すなわち、ロイド達のまつ船にとむかって飛び立ってゆく。


「こりゃ、いったい……」
周囲に立ち上る数々の煙。
ついでにいうならば、なぜに建物のほとんどが水浸しのようになっているのだろうか。
ついでにいえば、やはりというか何というべきか。
家々は大地より突き出した木々によって取り囲まれており、
イセリアの家々の姿を連想させる。
それに何だろう。
多少、家々が何か巨大な力で押しつぶされたような、また流されたような。
そんな感じをうけるのは。
町並みを構成している石の畳。
それらがいくつもはがれては土台になりし土をさらけだしている。
「町のみなさんは、総督府に避難してください!家の中も危険です!
  そこのヒト!まだ避難を終えていないのですか!?」
ゼロスが周囲の様子を眺めつつ、自分なりに状況判断をしているそんな中。
ガチャガチャとした鎧がこすれるおととともに、そんな声が道の奥から投げかけられてくる。
「うん?」
そんな声をうけ振り向くのと、何やらヒトらしき人物が走ってくるのとほぼ同時。
そして、なぜかゼロスのほうをみて、
「あ、あなた様は…たしか神子様のっ!!」
驚愕したような顔をうかべ、そしてその頭にかぶっている兜をとりはずす。
声は兜によって多少くぐもっていたようにきこえていたが、
兜を取り外すとともに、まとめきれなかったのであろう、
すこしばかり背後で束ねていた髪がさらり、とこぼれおちる。
「うん?たしか、あんたは…ティアとかいったっけ?」
「は!パルマコスタ総督府所属、ティア・グランツであります!」
長い薄茶色の髪を後ろでたばね、軍服の上に鎧を着こんでいるのは、
かつてゼロスがこの地にやってきたとき声をかけたことのある、
パルマコスタの軍部に所属している女性ながらもたしか、
とある部隊の総長を収めているとかいう女性であったはず。
「私のようなものの名前まで憶えていてくださったとは感激です」
「そりゃあ、君のようなかわいい女の子の名前を忘れるわけはないからな」
「おたわむれを」
「いやいや。実際、かわいいでしょ?」
「…あの、グランツ総長。このおひとは?」
そんな彼らの会話をきき、背後にいる二名の武装兵らしき人物が声をかけてくるが。
「ああ。このおかたは、神子コレット様に同行なさっていたお方だ。
  あなたがここにいる、ということは、よもや神子様がたも?」
「彼女たちならば今ブルート殿達とともに、船でこちらにむかってきているぜ。
  この俺は先に様子をみにきたのと、船の受け入れの準備をするために、
  先行してちょっとした裏技をつかって先にやってきたんだけどな」
まああるいみ裏技、といえるであろう。
何しろ空を自らのマナの翼でとんできたのだから。
「そうですか。では、ブルート殿も戻られているのですね。
  ドア総督なき今、おはずかしいながら、民をまとめることができるのは、
  ブルート殿よりほかにはなかなかいなくて…
  ニールさんやクララ夫人も頑張ってはいるのですが」
そういう、ゼロスがティア、とよびし女性はその片手にてかぶっていた兜をもったまま、
すこしばかり顔をくもらせる。
しかし、その曇りも一瞬のうちにはらし、
「とりあえず。総督府においでください。そのことをニールさんたちにお話しいただけましたら」
「了解~。それはそうと、この石畳とかが壊れてるのは…一体?」
「それは……」
了解の意を唱えたのち、きになっていたことをといかけるゼロス。
その台詞に再び多少顔を伏せたのち、
「神子様たちは知らないかもしれませんが。この町は、
  少し前の巨大地震の折、津波に襲われたのです。
  すでに事前にトリエットの占い師より報告があったこともあり、
  万全の対策をとっていたので町の人々に死傷者はなかった、のですが…ですが…」
津波が収まり、町を復興させるよりも先に町の至るところから木々がはえてきた。
信じられないことに。
そして、目に見えて救いの塔がぐんぐんと移動していき…
じっさいは彼らの住まう大陸が移動していたのだが。
そんなことを彼女たちは知らない。
巨大な地震に襲ってきた津波。
さらには救いの象徴たる救いの塔の異変。
そこに、あの不可思議な声と、塔をおおいつくさんとするばかりの巨大な”何”か。
人々が不安に抱かれているそんな中、いきなり同じ町の人々に異変がおこった。
それこそ人々の目の前にて黒い何かがその体から吹き出したかとおもうと、
それは瞬く間に異形の”何ものか”に変化した。
人の言葉を話すもの、また獣のような咆哮をあげるもの。
それは様々なれど共通していたのはただひとつ。
それは人々に害意を与える存在でしかなかった、ということ。
しかもこの数日。
それらを討伐すれば、不可解な不審死が頻繁するという事態に見舞われている。
不思議なのはそういったものは、理不尽な八つ当たりにも近しいことや、
また自分が富があるのだから助けて当然。
そういった傲慢なる考えをもつものが大多数。
そしてまた、中には牧場から逃げ出していた人々の姿も見受けられ。
気のせいか、黒い異形の何かは日に日に増えてきているこの現状。
それをこの神子の一行の一員にいっていいもものか、一瞬迷いをみせてしまう。
いっていいものなのか悪いものなのか。
だがしかし、今ここで説明する、ということをひとまず棚にあげ、
「ひとまず。総督府にご案内いたしますね」
そのまますたすたと奥のほうにと歩き出す。
先の津波によりていくつかの橋は流れてしまい、かりそめの橋もどき。
それらをかける余裕すらなく。
それでも何とかなっているのは、不自然に突如としてはえはじめ、
あっという間に成長してゆく木々が橋替わりとなりて、
孤立した場所同士をつないでいる今現在。
あるいみでここもまた変わり果てたパルマコスタの町並み。
パルマコスタの外の付近すらも変わってしまっているようだが。
そんな彼女に連れられて、ゼロスはひとり、パルマコスタの総督府にむけ足を運んでゆく。


「「コレット!!」」
きらきらと輝く翼がふと目にはいる。
いつ戻ってくるかわからないので、大陸のほうをひたすら目を凝らしてみていた。
桃色に輝く翼をはためかせ、
「皆~!大変なことになってるよ!!」
その手をばたばたうごかしつつも、いかにも大変とばかりにそんなことを言い放ちながら
ふわり、と空より船の甲板にと降り立ってくるコレット。
そんなコレットを出迎えつつ、
「あら?ゼロスも偵察にむかった、ときいたのだけど?」
コレットとゼロスが先に偵察にむかったときき、リフィルもまた、
周囲の光景はきにはなりはするが、一応いやいやながらも甲板にと出てきていた。
ジーニアスとロイドが声をそろえてコレットの名を呼び、
そしてまた、降りてきたコレットにとといかけているリフィル。
「お兄様は?」
そしてまた、きょろきょと上空をみつつ、兄であるゼロスの姿を探しているセレス。
「あ。そうだった。先生。皆。パルマコスタがなんか大変なんです。
  街の中でいたるところで家とかが燃えてて、
  なんか黒い生き物っぽいものが町の中を闊歩してて。
  パルマコスタのたぶん総督府の人たちだろうけど。応戦してるのが空からみえたんです。
  ゼロスはそれをみて、先にいっておくっていって…
  あと、船を港に入港できるように手配もしておくって……」
手をばたばたと動かしつつも、甲板におりたち、その背の翼をしまうコレット。
「そんな、お兄様おひとりで!?危険ですわ!」
それをきき、セレスが思わず悲鳴に近い声をあげるが。
「まあ、ゼロスなら平気だよ。あいつの腕はあんたも知ってのとおりだしね」
「ですが……」
たしかにしいなのいう通り。
兄はかなりの腕なれど、しかし心配なものは心配であることにかわりはない。
「神子様。パルマコスタでそのような異変が…?」
コレットたちが偵察から戻ってきたときき、ブルートもまた甲板にでて、
そこにいるコレットにとといかける。
「はい。空からでしたが、間違いなく」
「…神子様がいうのでしたらそう、なのでしょうな……
  アイフリード殿。いそぐことはできるか?」
「これ以上は無理、といいたいが。まあ、俺たちの仕事でもあるしな。
  野郎ども!死ぬ気できばるぞ!!」
『おおうっ!!』
アイフリードの掛け声とともに、海賊たちが一斉に声をあげる。
そのままばたばたと船員でもある海賊たちがあわただしく動き回るそんな中。
「お、俺たちも手伝えることがあったら手伝うよ!」
「高い位置とかの用事があったら私に任せてくださいね~」
いちいちマストに上っては作業をするよりは、
それより飛んでいき、コレットが作業員を抱きかかえてそこまで連れて行ったほうが、
遥かに能率がいいがゆえのコレットの言葉。
しばし、海賊船カーラーン号の上においてもそれぞれあわただしく動き始めてゆく。


パルマコスタ。
それは海の入江を利用してつくられた、いわば海の町といってもよい。
土台となりし埋立地、そしてまたいくつもの橋によって町という形式をもっている。
「…それにしても……」
ぐるり、と大陸を回り込むようにして進んでゆくと、
やがて見覚えのある街並みらしきものがみえてくる。
以前、この地に船にてやってきたときと周囲の状態が変化しすぎており、
町並みをみて本当に大陸にも異変があったのだ、と改めて実感せざるを得ない。
これまではすこし丸めの大陸のその少し中ほどに入った先。
ついでにいえば、パルマコスタとイズールドの間にあった島らしきものすらみあたらない。
それでも町並みは幾度か海側からみたことのあるパルマコスタの町並みで。
だからこそそれを目の当たりにしロイド達は目をみはらずにはいられない。
本当に完全に大陸の形が変わってしまっている。
それをこのパルマコスタのある付近の地形がものの見事に物語っている。
この調子ではこれまで自分たちが旅をしてきた地形の把握。
それすらも今後は役にはたたないであろう。
救いは町並みそのものがあまりかわっていないようにみえることか。
もっとも、その町が異様なまでに緑に包まれている、という違和感を除けば。
そんな緑のカーテンのようになっている町並みの中、
ところどころからすこしくすんだような黒っぽい煙がたちのぼっている。
本来ならば海賊船をそのまま港につけるという行為はあまりしないのだが。
今回ばかりはブルートの依頼もあり、そのままパルマコスタの港へと入港する。

「これは……」
いったい何が起こったのだろうか。
いくつかの船らしきものがそのまま陸にとあがっている。
それも横に倒れるような形で。
それも一つやふたつ、ではなく、さらには港の接岸すべき桟橋もかなり壊れているのがみてとれる。
人為的に壊された、というような壊れ方ではない。
本来ならばこの港の少し奥付近には
いくつもの店が出店としてテントをはって商売しているはずなのだが、
そんな店らしき店すらみあたらない。
灯台なのだろう、
高い筒状の建造物の頂上にほのかに明かりらしきものがともされているのがみてとれる。
その明かりを便りにこの場所に迷うことなくたどり着けたといっても過言でない。
それほどまでに彼ら海の男たるアイフリード達が体で覚えていた海と大陸の様子。
それらがまったくあてはまらないというのをこれまでの航海にて嫌が応にも理解した。
「…町が……」
建物が至るところ壊れているのがみてとれる。
壊れかけた建物などに木の蔦がからみつき、形を保っているそのさまは、
イセリアの家々のそれを連想させる。
ゆっくりと、しかし周囲に注意しつつ港にはいってゆくと、
「ブルート殿!!」
ふと、港のほうから聞き覚えのある声が、船のほうにむけ投げかけられる。
その声をひろい、
「この声…ニールさん?」
おそらく声を張り上げたのであろうが、ジーニアスたちにはその声は聞こえていない。
というよりは、港にはいる準備にて船員たちが様々に声をかけあっており、
そんな声は船員たちの声にかき消され、ほとんどのものが気づいていない。
そんな中でコレットのみが気づいたのは、いまだに聴力が発達しているゆえ。
コレットはいまだに自らの意思で完全にそれらの力のコントロールができていない。
その声にきづき、コレットが身を乗り出すようにして港のほうに視線をむけてみれば、
そこに幾人かの人物とともに見慣れたニールの姿が。
どうやら出迎えにやってきているようであるが。
「どうやら出迎えのヒトが港にきてるみたいです」
そこにゼロスの姿がないのにコレットとしては心配になるが。
しかしあのゼロスのこと。
そうそう何かあるとはおもえない。
だとすれば、町の異変を収めるため、かけずりまわっているとみるべきであろう。
「やろうども!接岸するぞ!準備をおこたるな!」
船で一番気を付けなければいけないのは、港に接岸するその直前。
すこしでも舵を間違えれば大惨事を招きかねない。
アイフリードの言葉に従い、よりせわしく乗組員たちはあわただしさをましてゆく。


「神子様、皆さま、よくあの異変の中をご無事で…
  ブルート殿。それにメリア殿。ご無事の帰還、何よりでございます」
巨大な船が港にと接岸し、タラップをおろし、ひとまず船を下りたその直後。
出迎えにきていたらしきニールがそんな彼らに頭をさげてくる。
「ニール。いったい何があったのだ?あの手紙といい。
  神子様がいうには、町に異変が…まあみただけでたしかに異変に見舞われているが」
ざっとみただけで、ありえないほどに街中になぜに木々がみえるのだろうか。
ここからでもわかるほどに木々が覆いつくさんばかりに生えている。
イセリアの竹林ほどではないにしろ。
周囲をかるく見渡しつつも、その場にいるニールにとといかけているブルート。
「はい。それが私にもわかりかねるのですが……
  総督府に戻る道すがら事情をお話いたします。
  神子様方も一度、総督府におこしください。
  あと、アイフリード殿。今この町は不安定になっておりますので。
  船の見張りは十分にお気を付けください。
  とりあえずこの港には今現在、何ヒトたりともはいれぬよう、
  きちんと見張りを立てていますが、なかなか……」
今現在、パルマコスタの港は閉鎖状態とされている。
それは足場の石畳などが崩れまくり、危険という意味合いもあるが、
一番の理由は突如として異形のものを生み出すかもしれない人々。
そんな人々を別の場所に解き放つわけにはいかない、という思いもあったりする。
ニールに促されるように、その後ろにブルートとメリア。
そして二人の背後に続くように、二人の娘であるマルタ。
そして、その背後にリフィル、コレット、ジーニアスと続き、
「こんなに石畳が崩れるなんて。いったい何があったんだ?」
周囲をきょろきょろとみつつも、そんな疑問を誰にともなくつぶやいているロイド。
「この壊れ方は…高波よりも激しい波という可能性が考えられます」
そんなロイドに眼鏡をくいっとあげつつも、こたえているケイト。
「高波よりって…津波、ですか?」
「ツナミ…か。いつのまにかみずほのその過去の言語が共通言語になってるやつだね」
何でもかつてのミズホの民の元になった島国がそのように呼んでいたらしいが。
それらの歴史を詳しくしるものは今ではほとんど皆無といってよい。
かろうじて歴史書、そしてミズホの民の間にて伝承として受け継がれている程度。
当然のことながら、シルヴァラント側にはそのような話はまったくもって伝わっていない。
そんなケイトの言葉をきき、少し驚いたような表情を浮かべているセレス。
一行の一番後ろには迎えにきたのであろう総督府の兵士たちが二名ほどおり、
万が一のことがおこらないように、
彼らを後方から守りつつ総督府のある区画に進んでいたりする。
総督府に向かってゆく最中、何やら何ともいえない悲鳴のような、
また咆哮のようなものか幾度もきこえてきたのはかなりきになるが。
総督府のある区画あたりはかなりの武装兵らしき人物たちがたむろしており、
むしろピリピリとした空気が嫌というほどに伝わってくる。
いつ何どき発生するかわからない異形のものたち。
それらの対応に彼らはかなり神経をすり減らしていたりする。
総督府に向かうまでにニールから語られたのは、
やはりこの付近にも例の地震の影響はすさまじかったらしく、
津波が町にと押し寄せてきたらしい。
その地震の元はといえばいうまでもなく、ロイド達が最後の精霊と契約をした反動。
その一言につきるのだが。
そして歪な形にて発芽した大樹と、世界の異変。
空より降り注ぎ、そしてまた大地よりわきあがる不思議な光。
それに呼応するかのように、一部のものたちに異変が生じている。
そんな簡単な説明がニールの口よりもたらされる。
「・・・やはり、あれが原因、なのでしょうね」
そんな説明きき、誰にともなくぽつりとつぶやくリフィル。
リフィルが見つめる視線の先には、救いの塔を覆いつくさんばかりの異形の大樹。
リフィル達、マナの血族だからこそ、光に触れれば実感してしまう。
この光はより強いマナの塊の光である、ということを。
マナは適度なればたしかに恩恵をあたえはするが、
より濃すぎるマナは生態系にと悪影響をもたらすこともある。
…そう。
今現在発生している、人々の悪意を具現化するという最悪な形すら。


バタバタバタ。
何やら外が騒がしい。
総督府の会議室。
そこにて話し合いをしようとしていたその矢先。
バタバタと数名の足音らしきものがきこえてくる。
そして。
「し、失礼いたします!大変です!奥方様!ニールさん!
  民を避難させていた広間に例の異形が発生しました!!
  ただいま、神子様のお連れでもあった赤い髪の男性のかたが応戦中!
  しかし、何分数が多くて…っ」
ガタッ。
息を切らせ、扉をノックするよりも先に扉をあけ放ちそういいはなつ鎧を着こんでいる人物。
その声をきき、思わずガタっと座っていた椅子から立ちあがるニール。
そしてまた。
「赤い髪って…まさか、ゼロス!?」
神子、と彼らパルマコスタのものがいうのは、間違いなく神子であるコレットのこと。
ゼロスがテセアラの神子であるのをしっているのはほとんどいないはず。
というよりは、知られていないかもしれない。
そもそも、いまだにシルヴァラントにおいては、テセアラ、という国は、
おとぎ話の中にしか存在しない国、とされているお国柄。
もっとも、先の謎の声…あの声が二つの世界の神子、といっていたこともあり、
人々の間に動揺がひろがっているのもありはするが。
ともかく、赤い髪で、しかもコレットのつれ、といわれる人物で思いつくのはひとりしかいない。
「先生!!」
「ええ。とにかくいきましょう。その広間というのはどっちかしら?」
リフィルがそう問いかけるよりも早く。
「先生!あっちから多数の悲鳴が聞こえてきてます!たぶんあっちです!」
コレットの耳には少し先で発生している数々の悲鳴が聞こえてきており、
ゆえに顔色もわるくとある方向を指し示す。
広間というのはこの会議室より東よりにある、総督府の中でもより広い部屋を指し示す。
人々を避難させるにあたり、そこにある椅子や机などは一応倉庫にしまっており、
ゆえにただっ広い部屋がそこにあるのみで。
それでも人々を避難させるにあたり、余計なトラブルなどがおきないよう、
簡単な各自のスベースをついたてなどによりつくりだしているのだが。
よりによって、その広間で何かがおこったらしい。
そのことにニール、そしてクララ、さらにはブルートも顔色を変えざるをえない。
総督府の中の広間というのはロイド達は知らないが、
しかし、コレットがそういう、のなら間違いない。
ゆえに。
「コレット!案内してくれ!」
「うん!」
「お兄様……」
ガタッとロイドたちもまた席よりたちあがり、コレットが示す方角、
すなわち入り組んだ廊下を東側にむけて駆け出してゆく。
いくつか入り組んだ廊下をかけてゆく。
と。
『きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』
これまでにない甲高い声がロイド達の耳にすらきこえてくる。
どうやら女性の声、らしいが。
それにしても、悲鳴などに交じり、さきほどからゼロスの声がコレットには聞こえているのだが、
その会話の意味がコレットには理解できない。
否、したくない、というべきか。
どうして、実の子を母親が殺そうとしているのか、またいたのか、というのが。
どうやらそれをゼロスが阻止したらしいが…現場をみていないし、
声しか聞こえてこないので、コレットにも判断がつかない。
「いそごう!」
ロイドとコレット、そしてジーニアスとリフィル。
そしてその後ろにしいなや、ブルート、そしてニールやセレスといった姿も続いてゆく。

『…何、あれ?』
思わず茫然、といった声がでる。
二足歩行をしている、黒いヒト型にも獣…しかも狼のようにもみえる黒い”何か”。
それが全部で十数匹。
そのうちの数匹がゼロスに襲い掛かっており、
それ以外のものは、この場にいる兵士らしきものたちと応戦しているのがうかがえる。
もっとも、まったく相手に傷ヒトツつけられている様子もみられないのだが。
そして、周囲に満ちるは濃厚ともいえる血臭。
幾人もの男たち…よくよく観察してみれば、
怪我を負っているのはすべて男性ばかり、ということに気づくであろうが。
あまりの光景にそこまで冷静に分析できているものはまずいない。
唯一、冷静さを取り戻し周囲をざっとみまわしているリフィル、そしてしいなを除き。
しかし、おかしいというか何というべきか。
さらに理解不能なことに、
「よくも…よくも、よくも、メリルぉぉぉぉ!!」
なぜか短剣を振りかざし、髪を振り乱してゼロスにむかって剣を繰り出している金髪の女性がひとり。
そしてそんなゼロスの手の中にはなぜか小さな物体らしきものが抱かれているのが見て取れる。
「あなたたち、ここは危険…って、これは神子様!それにブルート殿!いつお戻りに!?」
扉からはいり、目にした光景にあっ気にとられ、思わず固まるロイド達に気づいたらしく、
事態の収集をはかっていた、のであろう。
武器をもっている兵らしき人物がひとり、彼らのほうにとかけよってくる。
ぴしっと伸びたその姿勢はいかにも軍人らしさをものがたっている。
おそらく走り回っていたのであろう。
背後でまとめていたのであろう長い髪がほつれ、すこしばかりぼさぼさにとなっている。
戦う女性。
そう言い示してもおかしくないような女性がひとり、駆け寄ってくるのをみて、
「ティアでないか。いったい、何がおこったというのだ?
  それに、あれはシルヴィア?いったい……」
なぜ彼女が武器を振り回し、テセアラの神子に切りかかろうとしているのだろうか。
しかも血走った眼をして。
それに、メリルとはたしか彼女の娘であったはず。
…堕胎することもかなわずに生まれてしまった彼女の娘。
救いは彼女にそっくりに生まれてきた、ということだろう。
パルマコスタ牧場にてかつて神子一行に救われた彼女であったが、
やはりかの地にとらわれていた女性たちは危惧していたようなことが行われていたらしく、
彼女もその犠牲者の一人。
犠牲者でしかないのに、そのことで彼女を責める男たちがいるのを、ブルートは知っている。
そのたびにいさめているのだが、中にはくちさがないことを言い触らすものたちすら。
彼女たちは被害者でしかありえない、というのに。
その結果、これまで幾人もの女性が自ら命をたったとおもっているのやら。
それを防げない自分の無力さにもブルートは何ともいえない思いを抱いていたりする。
「それが……申し訳ありません。私たちがついていながら……」

避難している住人達に食料品などを配布するときにそれは起こった。
シルヴィアとよばれし女性を男たちがおしのけて、彼女の分まで奪い取ったらしい。
彼らの言いぶんは、『ディザイアンと通じて子供まで生んだ奴に渡せるものはない』
という言い分であったらしく。
彼らも事情を知っているであろうにその言い分。
女性たちによる冷めた目がそんな男たちに向けられたらしい。
彼らはかつて、彼女シルヴィアに思いをよせていたもの。
しかし、牧場につれていかれ、あきらめていたが、もどってきてみれば、
憎悪の対象たるディザイアンの子供を身ごもっていた。
幾度か彼女は自殺を図ったが、死にきれず、結局出産にいたった。
周囲による子供には罪がない、というのとこのご時世。
子供を里親にだすような場所もあるはずもなく、まだ母親の元ならば母乳もでて、
すくなくとも子供を育てられるという理由もありて、
彼女のもとに子供を残すことにきめた、らしいが。
しかし、子供はどのディザイアンの子供かもわからない状態。
それほどまでに牧場での現状はひどかった。
それをとらえられていた女性たちは身をもってしてしっていた。
女性たちはいつ、自分たちがその部屋につれていかれてしまうか日々おびえていたほど。
不幸にも、メリルは金髪に緑瞳という整った顔立ちをしていたゆえか、
彼らに目をつけられてしまった。
結果は…いうまでもなく。
悪い夢だったと思いなさいといい、少しばかり前を向き始めた矢先に発覚した妊娠。
気付いたときには堕胎時期が過ぎており、無理をして堕胎をすれば命はない、といわれ。
選択は生んでからのち、殺すか、また死産を望むか、しかなかった。
生まれてきた子が自分に瓜二つでなければ彼女はとっくに壊れていたであろう。
金の髪に緑の瞳。生まれてきた子供は女の子。
まさに母親であるシルヴィアと瓜二つの容姿であり、
これならばディザイアンたちが父親だ、と思わずにすむ。
そう彼女自身もいいきかせ、また周囲すらも言い含めていた。
にもかかわらず、街の数名の男たちが余計なことをいいはじめ、
あっというまにシルヴィアを批難するような風潮が生まれてしまっていた。
そんな中、発生した今回の異変。
ディザイアンの子をうみ、通じた女性が生きているから、この町はこんなことになったのだ。
と誰が言い始めたのかしらないが、あっというまにその噂はひろまり、
中には事情を知るものですら彼女を迫害するような風潮になっていた。
それがこのパルマコスタの現実。
ブルートがいればまだ、そんな人々をいさめることはできたであろう。
が、ブルートがイセリアにでかけており、彼らをいさめることは、
クララ、そしてニールではできなかった。
そして、今回の食糧配布によって、人々の冷たい視線が彼女にむけられ、
彼女はその手にした短剣でまだ赤ん坊でしかない娘を刺し殺そうとしたらしい。
それを目撃したゼロスと名乗った青年が阻止してくれたのだが。
シルヴィアがその子は生きていてもしょうがない。
うみたくなかった、うまれてなんてこなければよかった!
そう言い放ったとたん、彼の雰囲気が一変した、という。
赤ん坊を保護していたゼロスは、唯一の味方になりえる母親にそういわれるのならば、
たしかにそうだな、といいつつ、彼のズボンのポケットから短剣らしきものを取り出し…
「ウソだ!!!!!」
そこまでいった彼女…ティアと呼ばれた女性の言葉に思わずロイドが反論する。
その言い方では、まるでまるでゼロスが赤ん坊に何かをした、ということではないか!
「ゼロスはそんなことしない!」
そうロイドはいうが。
「…あの人は、優しいひと、なんですね。
  あのままでは、シルヴィアさんが実の娘を殺してしまう。
  今この場をしのいだとしても必ず殺してしまうでしょう。
  だからこそ、赤ん坊を手にかけることを選んだ……」
「ウソだ、ウソだ嘘だ!ゼロスが…ゼロスが、そんな…っ」
逃げ回っているらしきゼロスはほとんど足をつかってさばいており、
しかし抱えている小さな物体はくたり、としているのか、ぴくりともしていない。
抱えている布らしきものは赤い色…にみえたが、よくよくみれば赤く染まっている、
というのがうかがえる。
実の娘を手にかけたという罪の意識はずっと母親に残ってしまうだろう。
だが、その娘を手にかけたのが第三者なれば、母親の怒りはそちらにむく。
すくなくとも…子殺し、という罪を母親が背負うことはない。
「あの人はきっと、自分を恨んでくれることで、
  シルヴィアさんが生きる道を選んでくれることを望んでいるのだとおもいます。
  だからこそ、ああしてシルヴィアさんの攻撃をひたすらさけられて……」
いつもシルヴィアが死を願っていたのを彼女、ティアは知っている。
でも復讐する相手がいたとするならば。
その怒りだけで生きながらえる気力が生まれることがあるのをティアは知っている。
ロイドが話を聞きたくない、とばかりに首を左右に振るそんな中。

「でもてもそれでも、メリルは…私のたった一人の娘だったのよ!!!!!!
  うみたくなんてなかった!うまれなければよかった!
  心の底からそうおもっていても、それでも!
  私の血をわけた、たったひとりの娘なのよ!メリルの仇っっっっっっ」
「その娘を殺そうとしといて何をいう。恨むなら俺様をうらみな。
  ここであんたに赤ん坊を返していたとしても、あんたは必ずこいつを殺してた。
  違うか?何しろ憎いディザイアンたちの血をひく子供だ。
  あんたが、今実際、殺そうとしたようにな」
まだ、幼いうちならいい。
が自我をもってしまった子供は、そんな母親の暴言に、周囲の目線に耐えられるか。
答えは…わかりきっている。
自分など生まれなければよかった。
そのようにかつて思い知ったゼロスだからこそ。
母親に、周囲に生まれなければよかったとおもわれることのつらさ。
それは身に染みてわかっている。
だからこそ、【殺した】。
彼女、シルヴィアという女性の子供、赤ん坊でもあるこの子【メリル】という存在を。

”生まれなければよかった”。
その言葉をきき、しいなが思わず顔をしかめる。
「…これは、ゼロスには禁句、だね。…あいつ……」
その言葉があったからこそ、おそらくゼロスは自分を悪とするのを選んだのだろう。
少なくとも、母親に子供を殺させない、そのためだけに。
その言葉は、かつてゼロスが母親に向けられた言葉とほとんど同じ。
それがわかってしまい、しいなは何ともいえない表情を浮かべてしまう。
あのときのゼロスの母親はゼロスを守りたいがゆえ、
あえて突き放すような言葉をいったのではないか、としいなはふんでいる。
でも、あの女性…シルヴィア、といわれているあの女性は。
心からの本音、なのだろう。
少なくとも、とらわれ、無理やりにはらまされた子供であるのは、
先ほどの説明からしても明白、なのだから。
ゆえに、子供を母親から離せばいい、というだけではない。
話を聞くに複雑な事象が絡んでいる。
たしかに、これは【殺す】必要がある、であろうが。
しかし、それにしても。
ひょいひょいと避けるそのさまはさすがというよりほかにはない。
というか手にしっかりと抱きかかえている赤ん坊…であろう布包み。
それを手放さないのもさすがというべきか。
相手は素人ゆえか、攻撃は単調。
しかし、それにあわせ、異形の狼もどきも攻撃を加えており
かなりゼロスにとっては不利にもみえるその状況。
「ち!あたしはゼロスに加勢にいくよ!
  リフィル!あんたは周囲のけが人を!マルタもね!」
「わかったわ」「わ、わかった!」
しいなの言葉にけが人がいる方向にと駆け出してゆくリフィルとマルタ。
そして、しいなもまた、
「蛇拘符!!」
その懐より符を取り出し、ゼロスの加勢をするために、
ひたすら攻撃をさけては黒い獣もどきには足蹴りをかましているゼロスのほうにかけてゆく。
一方。
「ウソだ…ゼロスが…無防備な…赤ん坊を…?」
いまだに茫然とした様子なロイド。
しかも、今の話からすれば実の母親が子供を殺そうとしていた?
それをゼロスが変わりに?
ロイドはひたすらに混乱してしまう。
混乱するしかできない。
「ロイド!危ない!!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ドッン!
茫然と突っ立ったロイドに突如として横より衝撃がはしり、
突っ立っていただけのロイドは一瞬よろけてしまう。
「きゃあっ!」
それとともに聞こえてきた悲鳴。
はっとみれば、今、ロイドがたっていたまさにその場所。
いつのまに近寄ってきていたのだろう。
十数匹もいるであろう黒い獣もどきがちかよってきており、
その黒く長いツメらしきものを振りかざし、
ロイドを突き飛ばしたコレットにその一撃が加えている様子が視界にうつる。
そう。
本来ならばロイドに向けられていたはずの一撃。
それがコレットに向けて振り下ろされている様子が飛び込んでくる。
「コレット!?く、くそっ!!」
自分が茫然としていたばっかりに。
敵とおもわしき相手が近づいてくることにすら気づかなかった。
そのせいで、また。
ロイドの脳裏によぎるは、これまでもロイドをかばって怪我を負ったコレットの姿。
コレットが悲鳴とともに、よろける。
「ロイド!呆けてないで!くるよ!!」
みればいつのままに。
数匹のけものもどきがいつのまにか付近に集まってきていたりする。
そんなロイドにむけ、ジーニアスの叱咤するような声が投げかけられる。
「く、くそぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
もう、何が何だかわからない。
いえることは、ゼロスが無防備な赤ん坊に手をかけたかもしれない、
ということと、
今目の前のこの黒い何かをどうにかしなければいけない、ということ。
自分が現実を受け入れることができなくて、またコレットに怪我を…
取り返しのつかないことをまたしでかすところだった。
それがロイド自身、許せない。
これまでも自分が油断していたりしたせいで、
いつもコレットが自分をかばって大怪我をしていればなおさらに。
今もそう。
下手をすれば今の一撃でコレットが死んでいてもおかしくはなかった。
ゆえに、その腰より剣を抜き放ちコレットに攻撃を加えたその黒い狼もどき。
それらにむけて武器を振りかざし突進してゆくロイドの姿。

ロイドは気づいていないが、相手が女性、
ということもあり、”うみだされた”それが一瞬振りかざす手を緩めたがゆえ、
コレットは致命傷を負わなかった。
”生み出されている”それらの思いはただひとつ。
――自身を凌辱しつくした男たちに裁きを。
ただその思いと、男性への怒り、
それらによって生み出されたといっても過言でない、【幻魔】達。
それはシルヴィアの心にたまっていた【男に対する復讐心】。
それにともない、ここしばらくの町の人々の彼女に対する排除的な思考。
それらがたまりにたまって生み出されてしまったのが、この場にいる獣もどきたち。
数が十数匹、というのにも意味がある。
この場にいるそれらの数こそ、彼女の心の根底にある恐怖の対象、なのだから。
しかし、今のロイド達にはそんな事実を知る由もない。

「くっ!このものたちを外にだしてはならぬ!」
「ブルート殿!私も加勢いたします!」
そんな”敵”達をみすえ、ブルートが手にしていた大きな杖を大きくかまえ、
そしてまた、ティアとよばれていた女性もまたその手にレイピア…
どうやらそれが彼女の武器、らしいが、ともあれそれぞれ構えをみせ、
そして。
「でやぁぁ!」
「はぁぁぁ!」
出入り口は一つのみ。
一応、窓はありはするが、この広間の窓には安全のために柵がつけられている。
ゆえに窓からの出入りはほぼ不可能。
壁をぶちやぶるか、もしくは唯一ある扉から移動するかしなければ外にはでられない。
ここを突破されてしまえば…彼らはいまだに出入り口である扉の目の前にいたりする。
ゆえに、突破されるわけには…いかない。


一体どれほどの時間が過ぎたであろう。
かなり長くも感じはするし、逆に短いのかもしれない。
必至に狼もどきと相対することしばし。
相手を切り裂いても手ごたえがないというか、
なぜ、それらを切り裂くたびにシルヴィアのほうから小さい悲鳴が聞こえるのか。
しかしそんな彼女のほうにかまっているひまはない。
相変わらずさすがというか、ゼロスはシルヴィアをかわしつつ、
またなぜか執拗にゼロスのみを狙ってくる狼もどき。
それらをかわしまくっているのがちらりとロイド達の視界にはいる。
そうこうすることしばし。
ふときづけば、いつのまにかシルヴィア達から逃げ回っていたゼロスと連携し、
しいながシルヴィアの背後にと回り込みその首筋にと手套をきめるさまが飛び込んでくる。

「メリ…ル……」
しいなの手套をうけ、その場に倒れこむシルヴィア。
そのまま前のめりにとシルヴィアが倒れこむ。
そしてその体をしいなが受け止めるとともに、
「な…何だ!?」
「これは…いったい……」
困惑したような兵士や町の人々の声が周囲にみちる。
それもそのはず。
十数匹はいたであろう黒い狼たちがそのままぴたり、と動きを止めたかとおもうと、
それらはまるで霞のごとくにかききえる。
兵たちはそれぞれ異形の狼もどきと対峙していて気づいてはいないが、
そのタイミングはあきらかに、シルヴィアが気絶した時と一致する。
いきなりあらわれ、そして消える。
それはこの異形の存在…姿形は毎回異なりはするが。
全身真っ黒で色彩も何もない、という点では最近頻発している異形のもの。
まさにそれであったのだろうことは誰が口にするでもなく理解しているが。
もっとも、ロイド達はこの現象をみたのはあるいみ初めてといってよい。
一度、イセリアでみたことはあるが、そのときはたしかに村長自身の姿をとっていた。
ゆえに獣のような姿をしている黒いものを彼らはみたことがない。
しかし、突如として発生し、突如として消える。
これもまた、この異形の化け物の現れ方の所以であるとはいえ、
今回ばかりは唐突すぎたといってよい。
「やっぱり、か」
その姿と周囲をざっとみて、ゼロスがぽつり、とつぶやくが。
その声にきづけたは、この場においては少し離れた位置、
すなわち扉付近にいまだにいたコレットのみ。
人々の困惑したような声に遮られ、小さなゼロスのつぶやきは、
他のものは誰一人として気づいていない。
シルヴィアの体にまとわりつくようにと常にあった黒い靄。
それはイセリアの村長のときにもまとわりついていた。
が、その感覚というか気配というかそれが周囲にいる狼もどきたち。
それらと同じであるのに気付いたは、
シルヴィアの叫びとともにかの狼もどきたちが出現したそのさまを
目の前で目の当たりにしたがゆえ。
ゼロスが赤ん坊が殺されそうになった直後、間一髪で助け出し、
ほぼ半狂乱になりかけていたシルヴィアが叫ぶとともに、
彼女の体より黒い霧が噴出したかとおもうと、
あっというまに十数匹という二足歩行であるく、
大きさ的には成人男性くらいの大きさをもつ黒い見た目は狼っぽい何か。
それらが一気に発生し、周囲の男たちにと襲い掛かった。
まず、はじめの被害者は、シルヴィアを批難していた男たち。
そして、ことごとく彼女をしいたげていたものたち。
それらにその狼もどきたちは向かっていき、その威力をふるっていった。
黒いそれらの攻撃は通用しているというのに、ヒトからの攻撃はまったく通用しない。
唯一、ゼロスの蹴りは直接その【幻魔】を蹴飛ばすことができていたが。
それはゼロスが体内のマナの扱いに慣れているがゆえ。
何となくではあるが、おそらくこいつらにはマナの攻撃しか通用しない。
そう直感的に判断し、足蹴りをするさい、その威力にマナを込めたにすぎない。
結果はいうまでもなく大成功で。
それはマナの翼を展開するのとほぼ同じ要領なれど、戦闘センスがあきらかに必要な技。

「いったい……」
いきなり戦っていた異形の黒い化け物もどき。
それらが掻き消えたことにより、困惑したような声があちらこちらから漏れ始める。
そしてそんな声の中にはロイドの声も含まれていたりするのだが。
「よっしゃ。とりあえず、俺様はこの子のこともあるし。
  すこしばかり外にでてくるわ」
「あ、ゼロス!まちなよ!あんた、このひとおねがいするよ!」
近くにいたおそらくパルマコスタ兵であろう。
その人物にシルヴィアを託し…まあ手套で気絶させているので問題はない。
とはおもうが。
そのまま相変わらず布包みにとくるまれた物体…
いうまでもなく赤ん坊をかるく抱えそのまますたすたとロイド達のいる扉のほうへとあるきだす。
そんなゼロスをあわてて追いかけるようにして、
シルヴィアを兵にと預け、あわてておいかけてゆくしいなの姿。
一方。
「いったい、何が…と、とにかく、けが人の手当てを!」
ブルートもまた困惑せざるを得ない。
自分も対峙していた狼もどき。
それらがまるで霞のごとくに消え去った。
しかし、そのことにたいし呆けている時間はない。
部屋のいたるところから、けが人たちの苦痛にみちたうめき声が聞こえているのだから。
リフィルはすでにけが人などの手当てにおわれ、回復術をかけまくっている。
一方、
「ゼロス殿。その子はどうなさるおつもりですか?」
「まあ、さっきの様子からこの子は町の人々にわからないように、
  しっかりとした【処分】をする必要があるだろうしな。
  へたをしたら、あいつら、墓まで暴いてまであたりちらしかねないな。
  母親のほうも、とりあえず、奴らの子を産んだ女、から、
  子供を殺された哀れな女、と町の人々の認識もかわるだろうしな」
「…やはり、その身で悪意をうけとめることで、彼女を救おうとしたのですね。
  たしかに、彼女はここ最近、いつ我が子を殺してしまってもおかしくない状態でした
  …今日、この場においてついにそのたまった反動が表れたのでしょう」
いまだ固まるロイドをまるでいないもの、として扱うかのごとく、
少しばかり礼をとり、ゼロスにと話しかけているティア。
「ま、まてよ!ゼロス、本当にその子を殺したのか!?」
「ああ、【殺した】よ」
「っ!何でそんなこと!!」
「ゼロス?違うよね。だって……」
ロイドがそんなゼロスにくってかかろうとするが、
コレットが困惑したような声をふとあげる。
「コレットちゃん、何もいうなよ。ロイド君。
  なら、この子をこのままあの母親のもとにおいていたとして。
  あの母親がこの子を殺すか、町の人が殺すか。そうしたほうがよかったと?」
「何でそんな必要があるんだよ!まだ赤ん坊だろ!?」
「…父親が問題なのです。その子はあのディザイアンたちの子供です。
  …かの地では女性をそのようにして扱っていたと聞き及びます。
  …事実、彼女もこれまで幾度も自殺を試みていましたが…
  結局、死にきれずにそのこを生むに至りました。
  神子様。あなたがたはたしかにパルマコスタ牧場からとらわれていた人々。
  彼らを救ってくださいました。けどその後は知らないでしょう。
  そのような扱いをされていた女性たちは絶望のあまり命を自ら閉じ、
  また、中にはもどってきても自ら死んだ身内をみて、
  こんなことならば牧場からもどってこなければよかった。
  といっているものたちすらいるほどです」
それは事実。
「っ」
その言葉にびくり、とコレットが体を震わせる。
「?何でだよ?牧場から逃げ出すことができたのに、どうして……」
「どうして?そんなのきまっているじゃないですか。
  けがらわしいディザイアンたちに体を穢され、正気を保てられるとでも?
  そしてその結果、子供を孕まされてしまった女たちが選ぶ行為はわかり切ってるでしょう?」
少し困惑したようにロイドがいえば、そんなロイドに冷めた口調でティアが言い放つ。
「?何いってるんだ?あんた?たしか、ティアとかいったっけ?
  子供っては、望んでいる夫婦のところにコウノトリが運んでくるんだろ?」
子供はコウノトリが運んでくる。
それはかつて、ロイドがユウマシ湖に向かうときに、本気で信じていたように、
そのようにいっていた言葉のまま。
結局、あれからリフィルはその手の授業しはしたが、
ロイドは眠ってしまっておりまともにきいてはいはしない。
ゆえにいまだにその間違った知識のまま。
「その台詞、冗談にしても趣味がわるすぎます。望んでいる?誰が?
  誰がすきこのんで無理やりに強制されたはてに孕んだ子をうみたいと?
  神子様、いっては何ですが、ご友人は選ぶべきかと。
  この人のいっていることは、女性を侮辱してしかも馬鹿にしていますわ」
本気で言っているなどとはおもわない。
すくなくとも、どうみても目の前の少年は十代後半。
ゆえにそういう知識があって当然。
にもかかわらず、コウノトリだの何だの、こどまだましのようなことを。
神子のつれ、がきいてあきれる。
冷たい視線がロイドに向けられ、そしてその視線はコレットにも。
こんな女性を見下しているようなつれがそばにいては神子の品位にかかわってくる。
「あんたこそ、何をいってるんだ?だって、子供ってのは…」
「まだいいますの?あなた、女性を何だとおもっていますの?」
ロイドにはティアと呼ばれていた女性のいいたいことがまったくわからない。
ティアも一応、神子のつれであるのをしっているので敬語を使うようにしているが、
あまりの相手を…しかも自分たち女性を見下しているような発言に、
ついつい素がでてしまいそうになるのをかろうじてこらえる。
本当ならば、おもいっきり相手を平手打ちでも何でもしてしまいたい。
それほどまでに、この少年がいっているのは、
収容されていた女性たちを侮辱している言葉と受け取れる。
「ロイド!」
まだそんなティアにさらにコウノトリが運んでくるのに、
何でディザイアンとかが関係あるんだよ、と言いかけるロイドの雰囲気。
というかロイドなら絶対にいう。
周囲の目が敵…つまりは異形のものが消えたことによりこちらにむいていることすら
ロイドは気づいていないのだろうか。
しかも、今のロイドの発言は幾人かの人々にも聞こえたらしく、
冷めきった視線がロイドにとむけられていたりする。
まがりなりにも冗談でもコウノトリだのという子供だましの言い訳もどき。
それをどうして言い出すのか。
収容されていた女性がどんな扱いをうけていたか、少なからずとも把握できるであろうに。
それは相手を、そしてその身内すらをも蔑ろにしている発現、といって過言でない。
そしてこの部屋の中には。
その結果、命を落としてしまった娘をもつ親もいる。
無事に命があり戻ってきた娘はディザイアンたちに穢されており、
それを苦にし命をたった娘をもつ親たちが。
しかしロイドはそんな彼らの視線に気づかない。
人々の視線にその生い立ちというか血筋もあって敏感であるジーニアスがそれにきづき、
おもわず強い口調でロイドをたしなめる。
それ以上いうな、といわんばかりに。
ジーニアスとしてはロイド、まだ本気でコウノトリをしんじてたんだ!?
という思いもなくはないが。
すくなくとも、今ここでいうようなことではない。
というかロイドがそれを信じている、どうやって子供がつくられ生まれるか。
それを知らない、といっても、ロイドの年齢が年齢。
何をバカなことを、冗談をいっている、としか絶対に周囲はうけとらない。
…ロイドのことをよく知っているものならば理解するだろうが。
普通、思えるはずがない。
よもや十七、八にもなろう男の子がそういった知識をまったくもっていない。
ということなど。
ゆえに、ロイドの言葉はタチの悪い冗談、としか周囲はうけとらない。
「何だよ、ジーニアス?」
むっとしたようにロイドがジーニアスをみるが、
ジーニアスはしっかりとロイドの服をつかみ、ふるふると首を横にふっている。
これ以上いうな、といわんばかりに。
「ここはお任せしてもいいかな?」
「…はい。わが身を悪にしてでも、彼女を救っていただきありがとうございます」
ティアからしてみれば、全身赤い色づくしの少年より、
こちらの赤い髪の男性、ゼロスと名乗った青年のほうがはるかに信用できる。
「ロイド君。無知は罪であり、他人を傷つけるってのを覚えときな」
「どういう意味だよ!というか、ゼロス、まだ話は!」
そういいかけ、ロイドは絶句する。
ゼロスがもっている小さな布の塊のようなもの。
そこにたしかに真っ赤な何かがみてとれる。
ゼロスがもっているのは、ちょうど人間の赤ん坊くらいの大きさで。
「…とりあえず。ロイド、あんたもここにいないほうがいいよ。
  あんた、余計なこといって、ここにいる人たちの怒りをかいそうだしね」
というか絶対にいう。
今ですらいらないことをいって、冷たい視線が注がれているのに、
このロイドは気づいてすらいない。
そのことにしいなは溜息をつかざるをえない。
「コレット。あんたもくるかい?」
「え?あ、うん。でも、私ここを離れてもいいのかな?」
神子として、皆に謝る必要があるのではないだろうか。
たしかに、牧場から人々を救い出した。
が、そのあとは自分たちはかかわっていない。
救い出したのだからそれでおわり、といわんばかりに。
その結果として、救われた人々が生きていたことを苦にして死を選んだとするならば。
それは神子である自分の責任。
そうコレットはおもわずにはいられない。
だからこそ、しいなの言葉に少し顔をふせて戸惑ったような返事を返す。
というか、なぜ、ゼロスは殺した、といっているのだろうか。
だって、”寝息がきこえている・・・・・・・・・”のに。
死んでいたらそんなものは聞こえるはずが…ない。
「余計に彼らの怒りを増長させかねないから、まずはクララ夫人のとこに戻ったほうがいい」
そんなコレットの困惑した表情の中にそれに気づかれていることをくみとり、
しいなが苦笑ぎみに、さらにコレットを促す言葉を紡ぎだす。
このまま、ここにコレットをのこしていたら、ゼロスの気遣いが無駄になる。
そしてそれは、この赤ん坊の未来にもかかわってくること。
それだけは避けなければ。
でなければ、ゼロスが自分を悪、として断言した演技をしたらしき意味はなくなってしまう。
「ま、俺様はいくわ」
「ま、まてよ!ゼロス!まだ、話は…っ!」
「あなた、どこまで最低なのですか?
  あの人は自分を悪として、彼女を生かし、また彼女が周囲から排除されない。
  そのようなことをあえてつくりだしましたのに。
  そんなあの人のことすらあなたは否定するんですか?
  最低。よくあなたのような人が神子様とともにいますわね。
  神子様はお優しいから、何もいわないのでしょうけど。
  あなたのような自己正義感ばかりを他人に押し付け、
  あげくは他者を見下すような人間は私は大っ嫌いです。失礼」
「なっ!!!!俺は…っ」
どうして見知らずの女性にそんなことをいわれなければなららないのか。
というか、正義感?
そんなの正義なんて言葉自分が一番嫌いなことば。
しかも他人を見下している?
いつ自分がそんな発現をした?してないのに。
しかし相手の冷めきったような目線はさすがにロイドにも理解でき、
思わず相手にくってかかろうとする。
「ロイド!いい加減にして!!」
そんなロイドに強い口調でジーニアスが叫ぶ。
「な、何だよ。ジーニアスまで。だって、失礼なことをいってるのは、あいつだろ!?」
「ロイド。とにかく、ここを出よう。これ以上、ロイドが馬鹿なこというまえに」
「な、どういう意味だよ!?」
「いいからっ!!」
これ以上、ロイドをこの場においてはいけない。
それはジーニアスにもよくわかった。
このままでは、ロイドがこの場にいる人々…兵士も含めどう思われてしまうやら。
知らない、というのは無知である、ということ。
そして、時として無知は他者をたやすく気づ付ける。
無知であるがゆえに、当人がしることもなく。
相手を絶望の淵にまで追い込むことがあるのだと、ロイドは知らない。
無知であるがゆえ、知ろうとしないがゆえに。
そして無知であるがゆえ、他者に容赦ない辛辣な言葉を投げつけることもある。
コウノトリが子供を運んでくる。
それは親がまず子供に、たわいのない説明として大概はじめに説明する言葉。
だが、ある一定の年齢に達すれば、おかしいと気づき、ふつうは興味をもつ。
…ロイドにはそれがなかったが。
あるいみで体ばかりが大きくなり、精神年齢はまさに十代以下。
そう幾人かに思われていることすらロイドは知らない。
このたびで成長したようにみえはしたが、まだまだロイドは精神的に子供、
ということなのだろう。
それを他者が知るのがふつうの時ならばまだいい。
が、今こんなときに。
しかも、先ほどの説明か察するのに、自分たちが解放した牧場にとらわれていた人々。
彼女たちの命もかかわるようなことなのに、ロイドがそんなバカな発言をすれば。
人々は、こぞってロイドを”血も涙もない相手を思いやる心もない”人間。
そう思いかねない。
事実、さきほどの言葉でティアはロイドのことをそう評価してしまっている。
ロイドのことを深くしらないがゆえに。
人というものははじめの印象で相手の印象を強くきめる傾向がある。
彼女はあのとき、ショコラの処刑のときにあの場にはいあわせてはいなかった。
実地訓練、というなのもと、町から離されていたゆえに。
ゆえに、ロイドが本気でいいかけた、コウノトリ云々、
その言葉をティアは誰もが思う結論にたどりついた。
すなわち。
この少年は女性たちがどんな目にあっていたかしっていながら、
そんな冗談めかしたことをいいはなち、相手を見下し侮辱している。
命を軽んじている、と。
誰だって、赤ん坊を殺したくなどはない。
ゆえに、その矛先はディザイアンの子である赤ん坊を生んだシルヴィアに向かっていた。
街の中で、ディザイアンの子を産んだような奴にうるものはない。
といって彼女にものすらうろうとしないものがいたことをティアは知っている。
――この子さえいなければ。
しかし、父親がどうあれ自分のおなかを痛めて産んだ子供。
このご時世、ディザイアンの子供だとしっていながらひきとってくれるような奇特な場所はない。
かつてハイマにあったという孤児院すらなき今。
シルヴィアは手詰まりにおちいっていた。
だからこそ、殺そうとした。
我が子である赤子…メリルを。
それをゼロスが阻止し、それをうけ、たまりにたまった鬱憤が表にでてしまい、
【幻魔】を生み出すに至ってしまってしまったのだが。
なぜジーニアスがどなっているのか。
ティアと呼ばれた人物に冷めた
しかも見下すような視線を投げつけられなければいけないのか。
意味がわからないまま、ロイドはぐいぐいとジーニアスに押されるように、
そのまま扉の外にと押し出されていってしまう。
「さてと。んじゃ、俺様もいきますか。コレットちゃん、いこうぜ?」
「ふえ?で、でも、ロイドは…」
「ほっとけ。そいつには何をいっても無駄だ」
ロイドまでくれば、せっかく、この子供を生かそう・・・・としてるのに、
それらの計画がすべてだいなしになってしまう。
それだけはゼロスとて断言できる。
それこそ、ロイドならば絶対にいうだろう。
母親から子供を引き離すなんて、そんなの間違ってる!
と。
その母親が子供を殺そうとした、ということすら棚にあげて。
まだ物心つく以前の赤ん坊だから救いがあるというのに、そのことにすら気付かずに。
ディザイアンの子である、というだけで、人々から忌諱の視線をむけられ、
また、迫害される、という可能性をまったく考えることもなく。
否、可能性、でなくて確実にされるであろう。
まだ赤ん坊であるがゆえにその迫害対象が母親にむかっていたらしいが、
この子が物心つけばその迫害対象は、母親と、そしてその子供にむけられる。
子供の父親が”ディザイアンたち”であると知られてしまっているゆえに。
そんな未来のことなどおかまいなしに、このロイドは、
持前の熱血漢と正義感だけで動き、物事をいうだろう。
それが相手を追い詰め、時として殺しかねない、ということにすら気づかずに。
だからこそ、ロイドは連れてはいかれない。
万が一にも、あの母親、そして町の人々にこの子供が生きており、
どうなったかなど知られてしまえば…意味は、ない。
そう、ゼロスはたしかに【殺した】。
ディザイアンの子供だ、という”シルヴィアの子メリル”を。
のこったのは、”どこの子かわからない赤ん坊”ただ、それだけ。
その事実さえ、あればよい。
それを絶対にこのロイドは理解しない。
理解しない、できない、しようとしないとわかっているがゆえ、
ゼロスは冷たくロイドを突き放す。
自分が赤ん坊を殺したと思われていたほうが、
あの母親の未来も、そしてこの赤ん坊の未来も守れるがゆえに。
「コレットちゃんなら、わかるだろう?この意味?」
「……うん」
どうして殺したと思われたままでいいのか。
コレットとて理解できないわけではない。
たしかに、この赤ん坊がディザイアンの子供である、というならば。
まちがいなく人々に迫害されてしまうだろう。
それこそ、ハーフエルフだ、というだけで迫害されてしまうかの種族のように。
それよりもひどい、かもしれない。
特にここシルヴァラントではディザイアンの被害をうけていないものはまずいない。
そんな中、その血を引くもの…当然、迫害対象、
もしくは憎悪をむける対象、下手をすれば生きたまま、
公開処刑とか何もしていないのにされかねない。
…かつて、あのマグニスが見せしめのためだけに道具屋のカカオを処刑しようとしたように。
そして人々はからなずそれを実践する。
人とは所詮そんなもの。
ここにラタトスクがいれば間違いなくきっぱりと断言するであろう。
いくら子供に罪はない、といってそれを聞き入れるものばかりではない。
むしろ聞き入れないもののほうが大多数であり、殺される未来しか残ってはいない。
そして、ゼロスが行うとしていること。
それも大まかではあるがコレットには理解できる。
ゼロスが殺した、と人々に思われることにより、
…あの母親もまたディザイアンの子を産んだ忌むべき女性、から、
子供を殺された哀れな女性。
そう人々の認識を変えるため、であるということも。
それにより、あの女性が町でうけていたという排除ともいえる迫害は、
なくなるだろう、ということも。
その結果、ゼロスひとりが恨まれることになりはするが。
「…ゼロス、無理、してない?」
「してないさ。俺様、神子だしな。コレットちゃんもわかるだろ?」
「…うん。そう、だね」
神子とは、他人の恨みをその身に背負い、その血でもってして、
他人の罪をその身にせおい、またはらうもの。
物心ついたころから、そのように教わってきていた。
衰退世界と繁栄世界。
違いはあれど、その教えに…違いは…ない。
ゆえに、コレットはゼロスの言葉の意味にきづき、うなづくしかない。
否、うなざかざるをえない。
自分ならばどうした、だろうか。
子供を見せかけとはいえ殺したようにみせられるだろうか。
答えは…コレットの中でもみつからない。
おそらく、ロイドがしようとしたことを実践しようとするだろう。
そして、その結果、まっているのは追い詰められた親子、という現実。
ゼロスのように自分が罪をかぶったようにみせかけてでも、
悪をよそおってでも他人を助けようとなど、自分は…できない。
「…すごいね。ゼロスは」
ゆえに、コレットは本気ですごい。とおもう。
自分より、ゼロスのほうがより神子らしい、と。
その責務をその行動できちんと示している本物だ、と。
「俺様からしたら、コレットちゃんのほうがすごいとおもうけどな」
しかし、それはゼロスとて同じこと。
ゼロスはコレットのように慈愛の心にて他人に接することができない。
どちらかといえば他人といえば常にうたがってかかるべし。
それがゼロスがこれまで生きていて得た教訓。
誰も彼も受け入れる、そんな、それこそ、
女神マーテルの伝説のごとく、女神のような行動などできはしない。
ゼロスのそんな思いというか行動はそもそも、その根底に、
ある意味で自殺願望というか自らの命などどうでもいい。
そうおもっている心があるからこそ。
他人に恨まれ、そして殺されるならそれでもいいかもしれない。
そう深層心理の奥深くでは思っている部分もあるがゆえ、
ゼロスは自分を悪、とするのを戸惑わない。
その先に妹が幸せに暮らせる世界があるのなならば、ゼロスは自らの命などどうでもいい。
そのような決意をかつてしとげてしまっているのだから。
もっとも、今はそうはいっていられないが。
すくなくとも、あの精霊様がどう行動するかわからない以上、
妹を守るためにも死ぬわけにはいかない。
そう思っているがゆえ、かつてのように命を蔑ろ、にはしていない。
そんなゼロスの心根に…ラタトスクの関係でゼロスが命を今は蔑ろにしていない、
というのは知らないにしても、根底部分はしいなも理解してしまっている。
せざるをえなかった。
伊達に幼いころから神子ゼロスとつきあっているわけではない。
一時期、しいなは神子ゼロスの護衛の立場として屋敷に遣わされたこともあるのだから。
ゆえに、しいなは赤ん坊が生きていることに気づいても、何もいわなかった。
ゼロスの真意を理解したからこそ、あえて死んでいるようにふるまった。
ただ、それだけ。


「ジーニアス!いったい、何だっていうんだよ!」
ぐいぐいとジーニアスに押される形で部屋から押し出された。
そのことに対し、ロイドは不満をもらす。
そもそも、ゼロスにまだきいていない。
ゼロスがもっていたあの包みのようなものはたしかに赤いしみのようなものがみえていた。
本当に子供を赤ん坊を殺したのか。
ゼロスは殺した、といったがロイドは信じてはいない。
というか信じたくはない。
「ロイド、ロイドがあれからまったく知ろうともしなかったんだ。
  というのはわかったけどさ」
そういえば、あのあと、ユウマシ湖の話をきいたとき、
リフィルが夜、植物の受粉をたとえに授業をしたはず、なのだが。
ロイドは始まってすぐに寝てしまっていた。
当然リフィルに怒られてはいたが、
ようはやはり聞こうとも、覚えようともしていなかったのだろう。
「ロイドがさっきいってたことは、
  下手をしたら町の人たちに喧嘩をうるようなものだよ?」
「何だよ…それ…さっきのティアとかいう人もわけわかんないことをいってたし」
ロイドにはジーニアスがいいたいことがわからない。
「ロイドって…図体ばかり大きくて本当に子供、なんだね。わかってたけど」
むっとした表情を浮かべるロイドにジーニアスは溜息をつくしかない。
町の人たちがいる部屋から離れるほどに、ロイドをぐいぐいと押してとにかく
あの場所から引き離すことには成功した。
「ロイド、前に姉さんが教えた授業内容、おぼえてる?
  植物の受粉と、そしてそれにともなう種ができるか否か」
「?何だよ?いきなり?そりゃ、覚えてるさ。あれ、不思議だったしな」
雄蕊と雌蕊がありしとある植物を使用し、
それぞれ教え子たちに二つの鉢をわたし、一つは雌蕊に雄蕊の花粉をつけ、
そしてもう一つは雄蕊をすべてとりのぞき、
昆虫などに花粉を媒介されないがため、花そのものにと袋をかぶせ、
そしてその経過を調べる、という授業。
ことごとく花粉をつけなかった花は実をつけることも、種をつけることもなく、
そのまま枯れ、そして花粉をつけた花もまた、
すべてが実をつけたわけでなく、実になりかけて途中で枯れてしまったものもあった。
同じことしかそれぞれの対となる鉢にはしていないのに、その差が不思議で。
ロイドとてその実験を加えた授業内容ことはよく覚えている。
たしか二、三年くらい前のことであったはず。
「あのときの、姉さんの言葉、覚えてる?」
「?だから、何がいいたいんだ?たしか、雌蕊とかいうのが、実のもとで、
  雄蕊とかいうのが種のもと、とかいってた…はず」
「そう。ロイドにしてはまあまあ、かな。
  そして、その実の元と種の元とがあわさって、初めて種を持った実となり、
  新たな次なる命を生み出す元である、【種子】となる。
  ここまではどうやらわかってる、よね?」
いったい、ジーニアスは何をいいたいのやら。
「一応は」
「その次日の授業…ロイド、寝てたからね。
  というか補習授業もきちんときいてなかったんでしょ?
  植物の雄蕊と雌蕊。それは動物やヒトにもいえることだって、わかってる?」
「…は?」
「つまり、まあ大まかにいえば、動物のメスには、実の元が。
  雄には種の元があって、その二つがあわさって初めて新しい命となりえる。
  いわば、赤ん坊の種子が初めて発生するわけ、だね。
  ロイド、いくら何でもロイドだって、動物たちが交尾してるとこ、
  みたことはあるでしょ?あれが二つの【もと】を一つにする行為なんだよ」
「?体のなかに?でも俺たちには花粉とかないぞ?」
「…植物とヒトが同じなわけないでしょ?形は違うけど、とにかくあるんだよ。
  その行為があってこそ、初めて、ロイドのいう、
  【コウノトリが赤ん坊をつれてくる】状態になるかもしれない、ということ。
  事実、僕らがやった実験でも、【もと】を合わせても実にならなかった花もあったでしょ?」
そんなジーニアスの言葉にしばし考える。
たしかにあった。
なってもそれは小さかったり、また途中で枯れてしまったりと。
同じように肥料をやり、同じように水をやっていたはず、なのに。
「よくわかんないけど。何となくわかった。で、それが何の意味があるんだよ?」
ロイドにはジーニアスが何をいいたいのかわからない。
その台詞に、
「…は~…ロイドって本当に子供、なんだね…全部説明しないとわからない…か」
というかここで察してほしかったのだが。
というかその手の知識がまったくない、ということなのだろうか。
というか、ロイドは体の機能的に【大人】になっていないのだろうか。
普通、もう十七、八となればそれらを経験しているはず、なのに。
他者との経験はともかくとして。
「これは、人間の男女にもいえるんだよ。
  その【もと】をあわせても、子供の種となるかならないか。
  でも、人間はね…問題は…その動物たちがするところの交尾。
  それを特に力づくで女性に強要するものがいる、ってことだよ。
  山賊とか盗賊とか、それこそそこいらにいろごろつき、とかね。
  ううん、ふつうの町や村人でもそういうことをするヒトはいるとおもうよ。
  で、その【行為】…まあ、はっきりいっちゃえば、
  【生殖行為】っていうんだけどね。力づくでの場合、
  だいっきらいな相手でも、力でおさえつけられて、
  女性はなすすべがない、ということ。ロイドだってきいたことがあるでしょ?
  …コレットのお母さんが、天使と不貞を働いた云々って…」
それはウソ、だと今ではわかっているが。
しかし真実をしるまで、ジーニアスもそうだ、とおもっていた。
相手が天使だからこそ、当たり前にうけいれていた。
「たしか、父親が天使だっていう、あれか?でもあれはウソだっただろ?」
そういい、ロイドはおもわず顔をしかめる。
コレットの心をふみにじったあのレミエルという男をおもいだし。
「まあ、そうなんだけどさ。とにかく、その不貞を働いた。という言葉の意味。
  ロイド、わかってる?」
「・・・・・・・・・え、えっと」
まったくわかっていない。
ゆえにどうこたえていいのかわからない。
「ふつうは家族…つまり、妻と夫、恋人同士。そういう関係のものたちが、
  【生殖行為】を行うんだけど、それ以外の相手とそういうことをした場合。
  ヒトはその相手を咎める意味合いもこめて、不貞を働いたっていうんだよ」
「でも、コレットの父親は本当にフランクおじさんだろ?」
「コレットのことはおいといて。たしかにそうだけど。
  でも、実際、ロイドだって、コレットが天使の子供だって信じてたでしょ?」
「そ、それは……」
ロイドもそれが当たり前、としんじきっていた。
だから、父親が二人いてもラッキーくらいにおもっておけ。
そのようにコレットにいった。
あの日、あのとき。
神託のあった日の夜、コレットが家に訪ねてきたあの時に。
「ともかく。問題なのは暴力で相手にそのような行為を強制するやつもいるってこと。
  で、それは女の人にとっては苦痛と屈辱、そして絶望、でしかない。
  で、ロイド、ディザイアンたちがどうして牧場で人を集めてたか。
  覚えてるよね?彼らはエクスフィアを覚醒させるために、
  とらえた人たちに何を味あわせるっていってた?」
「それは、苦痛とか、恐怖とか……それの何が関係あるっていうんだよ?」
「…ここまで説明してもわからないって」
もう、本当に溜息をつくしかない。
「つまり、ディザイアンたちは、とらえた女性たちにたいし、
  そういった面で苦痛を味あわせていた、ってことだよ。
  さっきの話をきいて僕も確信したよ。その結果、
  あのシルヴィアとかいう人は子供を身ごもてしまった…
  彼女自身が望むでもなく、
  【実と種のもと】が結びついて【子供の種】となってしまったから」
「・・・・・・・・・え?」
今のジーニアスの説明では、まるでそれじゃあ。
「僕らはたしかに、牧場からとらえられていた人たちを救出した。
  けど、その後はしらない、でしょう?そういう人たちがいたかどうか。
  あのときの僕はそこまで考えもつかなかった。けど、いたんだよ。
  そして牧場から逃げ出せたがゆえに、自分の身におこっていたこと。
  それを改めてふりかえり、ディザイアンに穢された自分は生きていても仕方ない。
  そのような思考になってた人もあのさっきの人の言い分だと、
  かなりの数がいた、んだとおもう…
  そんな中で、ロイドが子供はコウノトリが運んでくる。だの。
  望んでいる親のもとにやってくる、だのいってみなよ?
  どう思われるとおもうのさ?望んでなんかいない。むしろ子供なんて。
  そうおもっている人たちに対して、さ」
あのまま、ロイドをあの場にのこしていれば、まちがいなく。
ロイドはコウノトリは子供を望む親のもとにつれてくる。
そんな意味を持った言葉をいったであろう。
それが町の人々の不信感をあおる言葉だ、とおもいもせず。
知らないがゆえに、ロイドにとっての”知っている真実”を口にしたばかりに。
その”知っている真実”が”偽り”であることすら疑いもせずに。
「あのシルヴィアって人が自分の子を殺そうとしてた。そう聞かされたでしょ?」
それまでにもおそらく、自殺未遂を繰り返してはいた、のだろう。
子供を流す、もしくは自らも命をたとうとして。
が、それも果たせずに生まれてしまった赤ん坊。
憎いディザイアンの…おそらくは、父親が誰かすらわからない相手の。
ヒトを劣悪種だのといって、家畜同然にしかみていなかったディザイアンたち。
彼らがどんな扱いをしていたのか、ジーニアスとて考えなくともすぐわかる。
ヒトの歴史において、戦時中、女性をそのような扱いをするは、
のこっている文献においても証明されてしまっている。
…かなしい、ことに。
様々な意味での略奪行為は当たり前。
そしてディザイアンたちも間違いなくその思考のもとにうごいていた。
「憎むべき相手の赤ん坊をはからずも生んでしまった以上、
  たぶん、彼女も町の人たちに迫害をうけていたはず、だよ…間違いなく、ね。
  …僕らがハーフエルフと知られたとたん、迫害をうけるように。
  ヒトのことだから、たぶん、【裏切り者】とか、
  【ディザイアンの子を産みし愚かなりしもの】とか、
  【ディザイアンにつうじている女】とか。好き勝手なことをいって…ね」
「そんな……だって、今のジーニアスの説明では、
  だって、あの人に罪はないんじゃあ……」
「ないよ。でも、結果がすべて。ヒトは見えるものに対して
  自分たちと違うものをみつけてはすぐに排除しようとするでしょ?
  町の人たちが恨んでいたディザイアンの子を産んだ女。 
  それだけで町の人たちの扱いは…いわなくてもわかるでしょ?
  追い詰められたそんな人の思考は大体きまってる。
  ”この子さえいなければ”ってね」
「っ!でも、赤ん坊に罪は!」
「罪はないかもしれない。けど、親がディザイアンである以上。
  十分に迫害対象になる。そして…片親がハーフエルフである以上、
  あの子は成長したら、マナを紡げるかもしれない。
  そうしたら…その子もまたハーフエルフ。行き着く先は…きまってる。
  親にすら疎まれ、殺したいほど憎まれていた子供。
  成長してエルフの血をひいている、とわかったとき。
  人々はどう反応するとおもう?それまでも迫害対象にしていた子供が、だよ?」
「・・・・・・・・・そ、それは・・・・・」
一瞬、ロイドの脳裏によぎったは、なぜかショコラの母である、
カカオの公開処刑のあの光景。
なぜか無意識のうちに、処刑台にのぼっているのが年端もいかない子供と、
そしてその母親らしき女性にと脳内にてすり替えれる。
認めたくなんて、ない。
「ディザイアンの仲間だ、見せしめとして殺してディザイアンに一矢報いてやる。
  そうおもうヒトがでてこない、とでもおもうの?」
「おも…わない。思いたくなんて…ない…けど」
思いたくなんて、ない。
けど、テセアラにおいてもハーフエルフたちは迫害の対象であった。
そこに、ディザイアンとという要素が加われば。
認めたくない、けどありえるかもしれないという思いがどうしても捨てきれない。
否、実際にありえるというか起こる。
そんな妙な確信すら抱けるほどに。
「敵の子供を産んだものがわるい。
  まあ、例をあげると、たとえばだまされたり、傷つけられたりしたとしても、
  だまされるほうがわるい、傷つけられたほうがわるい。
  そういう認識になるってことだよ。実際、ヒトってそう、でしょう?
  そういうヒトばかりじゃないってはわかってるけど、でも……」
イセリアの村長。
そして…
「たとえば。ドアさん。奥さんを助けようとして、彼は何をしてた?
  信頼しきってる町の人々を裏切ってディザイアンと通じてた。
  この場合、たぶん彼の言い分だと、だまされているほうがわるいんだ。
  自分は悪くない、こう、だろうね。ロイドだっていってたでしょ?似たようなことを」
あのとき、感情のままにロイドはドアにと口走った。
あんたはただの裏切りものだ、と。
それは自分の身にふりかえて考えもしなかったからいえた言葉。
「あの偽物のキリアがドアさんを殺してしまったけど…
  でも、それをしった町の人たちがどう反応したとおもう?
  …間違いなく、自分たちを裏切っていたドアを処刑しよう、というような声。
  そんな声があがっていてもおかしくはなかった、とおもうよ?」
コレットはドアを許す、といった。
でもそれはコレットだからいえるわけで。
ドアのせいで家族を、身内を殺されまくった人々が、納得できるはずもない。
まちがいなく、そのやり場のない怒りをドアにぶつけていただろう。
「僕らだって似たようなことをしてしまってるでしょ?
  マーブルさんを助けた、それは間違ってなかったのかもしれない。
  けど、その結果…村は、どうなった?そのせいで何ヒトが死んだ?
  ロイド、忘れてない、でしょ?
  僕らはあのとき、知らなかった。先に契約を破ったの彼らだ。そうおもってた。
  けど、襲ってきてたのはレネゲードであって、彼らではなかった。
  ディザイアンたちからすれば、ディザイアンを害した僕ら。
  それが不可侵条約、その決まりを僕らが破ったに他ならない、んだよ。
  だから…村は、そのみせしめ、のために襲われた。
  …僕が、ロイドを牧場に誘ったばっかりに…
  ……マーブルさんに会いに行きたかったばっかりに」
少しでもはやく、救いの塔が現れたことを教えにいきたかった。
けど、今だからおもえる。
わざわざいいにいかなくても、牧場からも救いの塔はみえていたのだ。
なら、いかずともマーブルたちは救いの塔が現れた。
それを誰もが目撃していたはず。
なのに、自分で伝えたいから、というわがままのせいで。
不可侵条約を結んでいる、というのをしっていた、のに。
そもそもそれをしりながら好奇心で近づいたのはジーニアスが先。
牧場には近づくな、とあれほどいわれていた、というのに。
「…知らない、知ろうとしない、ということは、罪なんだよ。ロイド……」
君たちは知ろうとしないよね。いや、わかろうともしてないのかな。
ふと、よくエミルがいっていた言葉をジーニアスは思い出す。
「僕らは知らないから、マーテル教の教えが真実だ、と思い込んでいたから。
  だから、コレットを犠牲にすることをあのとき、選んだ。
  それで世界が救われる、コレットが犠牲にならないと世界は救われない
  そうおもってたから。けど、それじゃあ、世界は救われなかった、っていうのに。
  それは…僕らが知らなかった、知ろうともしなかった結果でしかないんだよ…
  あのとき、ロイドを止めた僕がいえることじゃないってわかってるけど……」
コレットを止めようとしたロイドを引き留めたのはジーニアス。
でも、それは間違いであった。
あのまま、コレットがマーテルの器となっていたとすれば。
本当の意味で世界は終わっていたかもしれない。
それが今ではわかっている。
知らない、ということは罪であり、またきちんと知ろうとすれば知り得たはずのこと。
それらを何の疑問もなく、しんじきっていた。
そして大多数の人々はそのことに対し疑問も思わずに日々いきている。
神子がどうにかしてくれる、自分たちは何もしなくていい。
そんな思考をもっているものすら。
コレットがけがをしても、逆にそれを喜んでいた人々。
神子が怪我、血を流すことは自分たちのつらさを神子が肩代わりし、
自分たちは救われるのだ、そう信じ切っていた人々。
ルインでその状況をジーニアスは目の当たりにした。
あんなにコレットは大怪我をしていたと見た目にもわかったはずだ、というのに。
怪我をおっているのに休ませることすらしなかったルインの人々。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ロイドもそんなジーニアスの言葉にあの時のことを思いだしだまりこむしかできない。
彼らはそう信じ切っていた。
コレットが怪我をすること、それすらが自分たちにには救いなのだ、といわんばかりに。
「まあ、話が少しばかり脱線しちゃったかもだけど。
  …ゼロスがあの赤ん坊を殺したというんなら、そうなんだとおもうよ。
  …この現状であの子供が生きていくのには難しすぎる。
  子供に罪はない。それはわかってる。けどあのままじゃあ
  実の母親、もしくは町の人々にいつかあの子は殺されてただろうね。まちがいなく。
  …ゼロスは、自らか悪、となることでそれを回避したんだよ。
  ゼロスが手にかけることにより、あの人は、
  ディザイアンの子を産んだ女、から、子供を殺された哀れな女にかわるからね。
  ヒトって自分たちより不幸のものがいたら、手のひらをかえしたように優しくなるからね」
自分よりも不幸なものがいるのを目にすることにより、
まるで自分はまだましなのだ、と優位を確認し自己満足にひたる。
かわいそう、だの何だのといいつつ、本当に心の底からそう思っているのか。
本気でそうおもっているものはほとんどいない。
常にヒトは自分よりも苦労しているヒトをみて、
自分はまだましだ、と思い込む傾向があるのだ、と。
ジーニアスは姉より聞かされわかっている。
またそのような経験をイセリアにたどり着く前にも経験した。
そして…この旅の中で、すら。
「…ゼロスは、そういう意味でも神子、なんだなって僕、おもったよ……
  自分が嫌われても他人のために。…ふつうはできない、よね」
それが無垢なる子供に手をかける、という意味合いでも。
でも、ゼロスはそれをやった。
自分が悪となるというのをわかっていて、なお。
「でも、何でそれで赤ん坊を殺す必要が…だって、赤ちゃんには罪は……」
「なら、ロイドは赤ん坊ひとりをどうするつもり?
  あの母親ってひとに赤ん坊をもどしたとして。実の親に子供をころさせるき?
  それとも、町の人たちにディザイアンの子だ、といって殺させる気?
  すでにあの赤ちゃんがディザイアンの子供だって誰もがしってたっぽいし。
  どちらにしろ…あの子が万が一、生きていくとしても。
  保護者は必要、実の親があてにならない以上、どうやって成長するの?
  ロイドだって…ダイクおじさんにみつけてもらわなかったら。
  そのまま、森の中でしんでいたのかもしれない、でしょ?」
まあ、ロイドの場合、ノイシュがどうにかしていたかもしれないが。
もしくは、もしかしたら、ノイシュがクラトスの気配を感じ取り、
クラトスがロイドをみつけたかもしれない。
それは、もしも、でしかない話。
もしそうだったとしたら、ロイドはきっと、クラトスとともにクルシスにもどり、
そして、クルシスのいい手ごまになっていただろう。
ロイドは疑うことを知らない。
言われたことを信じすぎる。
それは…彼らクルトスにとって、かなりのいい手ごま、でしかないであろう。
ジーニアスもゼロスが赤ん坊を殺した、としり驚愕した。
ゼロスはきっぱりと、殺した、といいきった。
しいなもわかっていたのだろう。
あの赤ん坊に未来がない、ということを。
本来ならば子供を守るべき母親が、子供を殺そうとしていた、という時点で。
赤ん坊を助けるには事情を知らない第三者。
その人物に託す、しかない。
しかし、ここパルマコスタの人々はおそらくだれもがしっている。
あの子供がディザイアンの子供であると。
ゆえに…後者の方法はとれはしない。
ましてやこの世界事情。
大陸すら不安定、海は荒れ交流手段といえば、ネコニンギルドを通すのみ。
こんな現状でたった一人の赤ん坊のためにどこかの町にと移動し
赤ん坊を託すことができるかといえば答えは…否・
それどころか、赤ん坊など手のかかる輩を受け入れてくれる場所があるはずもない。
「それは…そうだけど…けど、生まれてきた以上、意味がある、はず、だろ?
  なのに…どうして……」
「ロイドのその気持ちは、ヒトとしては正しいとおもうよ。
  けどね。ロイド、ヒトはやさしさだけではやっていけないんだよ。
  なら、逆にきくけど。ロイドはあの赤ん坊をどうしたかったの?
  生きたまま母親のもとにかえせば、赤ん坊は母親の元でくらすのが一番。
  とかいって、それで満足して、あとのことはほうりなげるの?
  まちがいなく、子供は親に殺される、とわかっているのに?」
「殺されるって…決まったわけじゃ…」
「実際。彼女は我が子を殺そうとした。それをゼロスが阻止した。
  それはきいたよね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺にはわかんないよ」
そう、わからない。
どうして実の親が子供を殺そうとするのか。
その子供の父親がだれであろうと、子供を殺すなんて間違っている。
そう、心ではおもうのに。
でも、ジーニアスのいうように、そうなる未来しか想像できないのもまた事実で。
「ロイドって、やっぱり頭の中まで筋肉だよね。
  ロイド、いっとくけど、あの子のことでゼロスを責めるのは間違ってるよ。
  …きっと、ゼロスだって間違っているのはわかってたはず。
  でも、ゼロスもまた、コレットと同じく、いい意味でも悪い意味でも神子、なんだよ。
  その行動はすべて、他人のため、人々のために。それが神子。
  コレットをみてて、ロイドだってわかってるでしょ?」
「それ…は…」
自分のことはいつも後回しでいつも他人のために。
ゼロスもテセアラの神子。
いつもおちゃらけてはいるが、いわれてみれば。
ゼロスの行動の影にはいつも彼自身のためというよりは、
他人のため、という行動の意味合いがかなり強いような気がする。
「…あの救いの塔のあの一件でも、ゼロスは自分が悪におもわれようと。
  僕らにその決意のありかた、を示してくれた、よね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう、だな」
あのときのことは忘れられない。
ゼロスを、きったの感触は。
ゼロスが生きていたときのあの衝撃。
ゼロスを殺してしまったとおもったときの喪失感。
そして、戦いのときにゼロスにいわれた数々の言葉。
すべては、ロイド達の自覚と決意を促すため、だけに。
「でも、それじゃあ、ゼロスは…」
「ゼロスは、自分が恨まれても彼女が暮せていける下地をつくったんだよ。
  間違いなく…ね。それでたとえゼロス自身が仇、とよばれようとも、ね」
あの冷たいまでの【殺した】といったゼロスの目。
おそらく、そういうこと、なのだろう。
そして彼女は死を願っていたようなことをいっていた。
が、仇を討つまでは死ねないという認識になる可能性が高い。
ゼロスは自分が悪となることで彼女の生きる気力を取り戻したといってもよい。
その方法にかなり問題があり、犠牲ありき、でありはするが。
ジーニアスは気づかない。
よもやゼロスが本当にあの【赤ん坊を殺してなどは、いない】ということに。
より近くによってみていれば、赤ん坊の胸が上下していたのがわかっただろうが、
赤ん坊は布にくるまれており、体の大部分は表にさらされてはいなかった。
ちかづけば寝息くらいは感じ取れた、かもしれないが。
ても、それこそがゼロスのもくろみ。
あくまでも、ディザイアンの子供である赤ん坊は死んだ、
ゼロスが殺した、という事実が必要、なのだから。
「…ねえ。ロイド。望まれない誕生をした子供。
  その子供がもつ末路って一つ、しかないんだよ。
  特にまだ小さい子供ならばなおさらに、ね」
「…人は生まれながらに、生まれたことに意味があるはず、なのに…
  こんなの…こんなの、絶対に間違ってる……」
間違ってる。
よりによって、殺すことが救いになるかもしれない、なんて。
そんなのは、認めない。
認めたくは…ない。
でも、言葉は弱くなってしまう。
完全に間違っているならば強い口調でいいきればいいだけ。
けど、その場をしのいだとしてもそのあとのことを考えていないのは事実で。
周囲がディザイアンの子供だとしっている状態で、
あの子供が本当に幸せになれるか…といわれれば、ロイドは答えにつまる。
答えは…でない。
一つだけいえることは、属にいう幸せには程遠い人生になるだろう。
それだけは悲しいことに断言できる。
できてしまう。
だからこそ、言葉も弱弱しくなってしまう。
間違っている、なんて強くいえないほどに。
【なせばなる】
ドワーフの誓い第十六番のように、本当にそうなればいいのに。
「…世の中って…難しいな。俺、本当にわからないよ………」
何が正しくて、何が正しくないのか。
それは、ロイドが毛嫌いする、正義、という言葉のごとくに。
正義はヒトによりては悪となる。
だからこそ、ロイドは正義という言葉が嫌い。
世間らしてみれば、あのとき、コレットを犠牲にして世界を救う。
それが正義、であったのだろう。
それこそ世界中の人々がそう信じていたように。
ロイドがした、コレットを助けたこと、それ事態は世間からしてみれば…悪。
そこに真実、などというものはひとかけらも存在しない。
何しろ世間の人々は真実を知りもしないのだから。
偽りの真実のみを信じ切っているのだから。
「わからないなら、わかろうとしないと。
  ロイドは言い方はわるいかもしれないけど、それって逃げてるだけじゃないの?」
「・・・・・・・・・・・」
わからない。
わかろうとしない。
「いっとくけど。僕はロイドが好きだから。
  ロイドが誤解されたり、またロイドはわかってくれる。そうおもうから。
  だからこうしてきついかもしれないけど説明してるんだよ?」
というか、男女間にありえること。
いくらロイドでもそれくらいはしっているだろう。
そうおもっていたのに、一から十といわず百まで説明しなければ理解しないなど。
健全なる一般的な青年ならばロイドの年頃ならば知っていて当然。
むしろそっち方面に興味心身であるものたちのほうが多いはず。
・・・・まさか、ロイド、体も精神年齢のまま、
体だけ大きくなって、本当の意味で【大人】になってない、
なんてことはいわない…よね?
ふとそんな怖い疑問がジーニアスの中をよぎるが。
ジーニアスは知らない。
今、ジーニアスが抱いた危惧はまさしくその通りである、ということを。

子孫を残すという行為は種族にとって最大限ともいえる行為であり理。
が、ロイドはどの種族にも属さない形として生まれてきている。
ゆえに、【種の繁栄と存続】というラタトスクがかけている、
絶対的な【理】の外に位置しているといってよい。
ヒトであってヒトにあらず。
無機生命体化していた人口精神生命体にも近しい、
人工的にいじられし、歪んだマナ同士よりうまれし命。
様々な偶然が重なったとはいえ、ロイドの父がクラトスでなければ。
そしてアンナのやどしていた精霊たちがふつうの微精霊でなく、
中級精霊として誕生するはずの精霊石であったこと。
そんな精霊たちが穢れに穢され、半ば狂った思考になってしまっていたこと。
そこに【王】の波動を感じ取り、本来ならばありえないこと。
異種族同士の結びつき、それを許してしまったこと。
それでも、アンナが子供を身ごもったとしても、
本来ならばそれは自身の分身体のようなものをつくりだす、
いわば無機物としての繁殖行為であり、新たな命になどはなりえなかった。
父親がクラトスでなければまちがいなく、アンナは自身の分身体として、
子供を生み落していたであろう。
その結果、彼女の魂は子供にうけつがれ、その体は霧散してしまうことになろうとも。
が、そんなことにはなりえなかった。
クラトスがラタトスクの加護…デリス・エンブレムを授かっていたこと。
ゆえにクラトスのマナにはラタトスクの加護がまとわりついていたこと。
そして、当時、クラトスがクラトス自身の精霊石…エクスフィアを外していたこと。
そして一番の要因は、アンナが器として体内にやどとしたそこに、
近くにて生まれてくることすらかなわなかった無垢なる魂。
それが宿ったゆえに、一つの【個体】として完成した。
完成してしまった。
ラタトスクのほどこしている【理】の外である【存在】として。
ロイドは自分をヒトだ、とおもっているが、ヒトにあらず。
かといって、ミトスたちのいう天使にもあらず。
ヒトでも天使でも、ましてや当然エルフでも精霊でもない。
どこにも所属しないもの。
それがロイド・アーヴィング、という存在、なのだから。
天使化したものたちは、それでも元はそれぞれの種としての個体をもっている。
人にしろ、ハーフエルフ、とよばれしものにしろ。
が、ロイドにはそれがない。
ないがゆえに、ロイドには子孫を残そう、という本能は存在していない。
ただ、地上においてラタトスクがほどこしている理。
【生存本能】とよばれしもの。
それは、各種族などにおいて環境などがことなれば、
より変化をしていくのに楽なようにほどこしている理のひとつ。
その理がロイドには影響している。
ゆえに、ロイドは無意識のうちに自身が生きる方法を模索していたりする。
否、ロイドにとって、生存本能といえるものこそ、彼の根底。




pixv投稿日:2015年1月9日某日(Hp編集:2018年5月6日(日)開始

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あとがきもどき:

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※豆知識※わかっているでしょうけど念のため
言葉:くちさがない
意味:他人のうわさや批評を無責任、無遠慮にするさま
つまりは、あることないこといいふらすさまのことです
しかも、悪い意味合いのほうに

~~~

今回はここまで。
ある程度、さらっとゼロスのシーンははぶきました。
まあ、ゼロスも神子ですよ。コレットとは違う覚悟をもった、という回と、
ロイドは本当の意味でお子様(でも種族の理ないからしかたなし)の暴露回でした(マテ
この調子だと次回で扉、アルタミラ…移動、までいけるかなぁ…うむむ
おかしいなぁ。脳内的にはあとすこし、なのに。
なかなかに物語がすすまない罠……


パルマコスタのイベントシーン。
実はしっかりくっきりと、内容的なは脳内にあります。
が、あまりにも鬱々シーンです。
ゼロスが赤ん坊を刺し殺す(でも演技)シーンもしっかりとありますし。
半狂乱になるシルヴィアのシーンも脳内にはきちんと映像としてあったりします
文字的にも一応あるにはありますけど、さらり、とながしました。
あれ?シルヴィア?メリル?あれ?あれれ?
とおもったひとはその通り。
この赤ん坊は、TOAさんのナタリア、ですv
将来的にメルトキオのルーク子爵と結ばれる予定です(まてこら
(ちなみにこのルークはアッシュのほうですよ?)
まあ、いってはなんですが、あるいみで政略結婚(ぽそり…
何しろ、クララ夫人、信頼できるところに赤ん坊を預けた。
と事情をしる周囲にはいってますが。
このご時世、そんなところがなかなかあるはずもなく。
時間をおいて、アイフリードに依頼をして、口裏をあわせてもらい、
旅の最中襲撃をうけて生き残っていた子供をどうにかできないか、
と相談をうけて自分の子供としてひきとりました。
といって別人、として自ら受け入れてたりします
いや、ラタ時間軸でおもったんですけど、娘もころされてる、
でもって夫は自分のせいで町の人々をうらぎってた様子をまのあたりにしてる。
そんな中で彼女が気丈にふるまえているのにも限界があるのでは?
むしろ、何か守るものがあってこそ、だからでは?
とおもったとき、もともと、裏ネタ的にルークの下りはすでにありましたから、
なら、ナタリアいれてやれv状態、となりました(こらこらこら
つまり、血の粛清のとき、すでにナタリア、クララ夫人の養女としています
シルヴィアについては、野蛮なテセアラ人に子供を殺された被害者。
として、これまでのディザイアンの子をうみし裏切り者
という認識から人々、うってかわってます。
いや、ひとって、ヒトの悲劇とかまのあたりにしたら、
あっさりと手のひらをかえすように認識かえますしね。へどがでるほどに…
かわいそうだの、何かあったら助けるからね、とかいいはじめ。
それまでさんざん無視とか、邪険とか、さらにはいじめてたりとかしても。
シルヴィアはヴァンガードに所属しており、
彼らに裁きを、神子を処刑しよう!というブルートの意見にのっかって、
そのままヴァンガードに所属してしまっていたがため、
血の粛清時、娘を殺した神子の仲間であるロイド(デクス)をみて、
きりかかり、あっさりと返り討ちにあってたりする、という裏設定さん。
すなわち、ラタが時間移動をする前の本来の時間軸。
すなわち原作ゲームの時間軸、の出来事ですね。
今回は、ラタ様がかかわっていたこともあり、それらが前倒しになってます。
本来ならば、このイベント、まえがきの一言にもかきましたが、
世界再生後、すなわちマーテルが精霊となったあと。
コレットと旅をしていた最中に発生するイベントでした。
ラタ様がかかわったがため、そしてゼロスの機転のため、
シルヴィアは死ぬことはありません。
というか、幻魔を生み出したものは、ふつうその前後の記憶を失います。
そもそも、幻魔を生み出す=死、でもありますしね。
普通は。
でも、彼女はしいなの手により強制的に意識を奪われてしまい、
彼女の男性と子供を殺した相手の憎悪、町の人々に対する敵意。
それらで構成されていた幻魔たちは彼女の中にもどってしまいました
もし、彼女が目覚め、町の人々の態度が前のとおりだと、あっさりと幻魔復活、なのですけど。
…彼女、子供殺されてますからねぇ。町の人々は手のひらかえしたように優しくします
なので、幻魔は再発しません(え゛
ブルートの一喝もあり、ゼロスが殺したという事実はうやむやになり、
(というか、お前たちが彼女をおいつめたのだろう!とブルート一喝)
もうその追いつめた原因に思い当たるふしがありまくりの人々は、
自分たちの非を覆い隠すために、ゼロスが殺したというのを隠し、
あらわれた化け物に子供はころされた。
シルヴィアは子供をかばって怪我をしたが、彼女は助かったが子供は。
みたいなウソをついてたりします(え゛
いや、そのあたりの裏設定さんは、か~~なり先でないと。
というかロイド達があの町にいかないかぎりわからないのちのことなので、
あえてここに表記をば(こらまてや
さてさて、さらっとユアンがいってた、飛竜云々~
ああ、アルタミラでかりるんだな、とおもってた人にえ!?
とおもわれたら一応成功!といえる移動方法、でした(笑
いや、だって、本筋にもさらり、とかきましたけど(かいた…よな?)
だって、彼ら、かつて【王】と一緒にいたの、飛竜たち、しってますしね(笑
なので協力しますよ。ええ。王様のお仲間だ~、ののりですね。
王様の手助けにもなるんだろうから、ならはりきろう!
の魔物さんたち。
…それでいいのか?!魔物たち?!
ラタ様、というかセンチュリオン、魔物たちに肝心なことを伝え忘れてない!?
みたいな突っ込みをしていただけたら幸いです(実際に書いてる当人も思ってますv

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