まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

pivixさんに投稿していた話の区切りとは変えてあります。容量的に……

そろそろクライマックス近しv
ようやくここまでこれたーvv
一年がかりって……
脳内反復するのに、ある程度時間かかるけど、ここまでかかるとは。
いや、私の打ち込みペースの問題ではあるんですけどね(苦笑

さて、因果応報。もしくは因果はめぐる。
それに近いイベントもどきが今回おこります。
いや、というか、いくら不可侵条約結んでるっていってもさ。
クルシスの下位組織と知られたくないディザイアンたちって、
絶対に裏で何らかの取引してるとおもうんですよね。
ドア総督のように。で、あの村長だし。
絶対にやってそうなきがします(自分本位だし
さて、村長にはあるいみ当て馬というか先駆者になってもらってます(こらこら
村長との戦い、脳内ではボス戦のBGMが流れていたりします(笑
でもその光景がきちんと文章としておこせない自覚がありまくるので(まて)
さらり、とながすつもりです。
物語がようやく終わりにちかづいてきましたv
かなりイベントが前倒しになってます。
本来ならば彗星が遠のくときに発生するもう一つの月が先につくられはじめたりとか。
ついでにいえば、魔導砲イベントやイセリア牧場イベントが消滅してます(苦笑
世界の(惑星の)次元がくるっている。
というのは、かつて、雷の神殿がそうであったような現象。
(ラタトスクの騎士で雷の神殿の次元がくるっていたような現象です。
  この話でもそのようになってましたけど)
それが惑星規模でおこっていたりします。
しかし、動物や魔物たちは、そんな中で互いの世界の行き来は可能、ではありますが、
ヒトに関してはラタさまが許可してないので幻、としては目にすることはできますが、
そのままその位相軸、つまりは次元をこえて隣り合う世界に移動する。
というのは特定の場所から以外はできなくなっております。
特定の場所とはいうまでもなく異界の扉、ですv
救いの塔は近づくに近づけない状態になってますしね(笑

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重なり合う協奏曲~負の具現化~

神託の村、イセリア。
しかし、しかし、何といえばいいのだろう。
「…何、これ?」
誰ともなく、思わずそんな声がふともれる。
何だこれは。
とはげしくいいたい。
身長よりも、大人の背丈よりも高い草花がなぜに生い茂っているのだろうか。
あの海岸より少し一歩外にでてみれば、
かろうじて獣などが通った、のであろう、踏みにじられた道らしきものができている場所。
それ以外は異様なまでに成長している草花により、前すらみえない状態。
それでも、ノイシュがぐいぐいと先頭をいくことにより、草花が踏みしめられ、
その後ろにつづくロイド達はどうにかある程度は踏まれ歩きやすい場所。
その場所をついていくことにより、わざわざ草花をかき分けてすすむ。
という方法をとらなくていいのは不幸中の幸いか。
周囲に生えている草花は本来ならばこんなに成長するものではなかったはず。
なのにこの異様なる成長は。
それだけ、ではない。
このあたりの森という森などは、マナの枯渇により、鬱蒼とした森。
ガオラキアの森などと比べればはるかに森の密度が薄かった。
にもかかわらず、ちらほらとどうにか草花の合間からみえている木々。
それらが緑豊かに枝を伸ばしているようにみえるのは、彼らの目の錯覚か。
それとともに、光の粒とともに降り積もってくる何かの灰。
その灰には火種が含まれているのか、大地に降り積もり、
そんな草花を一瞬して燃やしかけ、光の粒によってけしさられる。
そして燃えたはずの草花もまた光の粒となりて周囲にひろがり、
その光が地面に触れたとおもうとそこから草花が再び生える。
そのような光景が繰り広げられていたりする。
そんな状態の中。
ようやくたどりついた村の入り口。
村の中にはなぜかいくつもの樹…というか、なぜにこんなところに生えだしたのか。
属にいう【竹】といわれしものがなぜか村のいたるところにとはえている。
村全体がまるで竹林の中にある集落、というような形になっているのはこれいかに。
それだけ、ではない。
家々は無数の何かの蔦?のようなものがからまり、まるで緑の家、といって差し支えはない。
どうにか扉などの開閉などは確保しているらしく、
雨風を防ぐのには問題ないようにみえなくはないが。
しかし、内部がどのようになっているのかは、外からみただけではわからない。
町の入口にようやくたどり着いた、とわからなかったのは、
どこからどうみても、ここは竹林、としかみえなかったがゆえ。
が、ノイシュが進んでいくし、またダイクも進んでいくがゆえ、
不思議におもいつつもついてきてみれば、
彼らの記憶にある光景とはまったくかわってしまった村の姿。
困惑し、おもわず村の出入り口で立ち止まるロイド達は間違ってはいないであろう。
そもそも、村に住んでいた彼らとて。
突如としていきなり大地から筍がはえ、
あっという間に成長していった光景を目の当たりにしている以上、
あるいみ現実逃避をしても仕方がない。
いつもはいるはずの見張りの村人が村の出入り口にはいない。
それどころか、村全体がこころなしか騒がしいような。
村の奥のほうがかなり騒がしい。
「…?黒いのが出たって、どういうこと??」
ふと、コレットの耳に村人の声がとどきゆく。
「どういう、ことだ?」
ユアンも困惑せざるをえない。
ユアンとしては、確認をこめてファイドラに少しばかり話をしてみたかったのだが。
何しろ上空からみたとき。
あるはずの施設の場所から火が噴き出ていた。
自分たちの施設がある砂漠の方角からは、いたるところから火が噴きだしており、
施設の安否をいまだユアンは確認できていない。
定期的にボータと連絡をとろうと通信機を操作するのだが、
いまだにその機能は狂ったままで、使い物になりはしない。
「村長殿!どういうつもりですか!!」
ふと、そんな中、一際高い声がきこえてくる。
それはすこしばかり野太い男性の声。
そしてその声は、
「パパ!?」
マルタにとってはとてつもなく聞き覚えがあるもの。
そしてまた。
「くそ!こんどは村長からあの黒い人影がわきだしたぞ!!」
「またかっ!いったいどうなってる!?」
「あの声のいってたことと関係あるのか!?」
などといったそんな声も。
それとともに、奥のほうから数名の村人らしきものがかけてくるのがみてとれる。
「な、神子様!?いつお戻りに!?」
「何!?本当だ!!神子様だ!それにリフィル先生たちも!!」
後ろを振り返りつつ、入口のほうにかけてきた二人の男性。
そんな男性たちがふと入口の前で唖然とたっているままの彼らにきづき、
そんな声をなげかけてくる。
村人たちからしてみれば、こんな状況で神子がもどってきたのはいいことなのか悪いことなのか。
不思議な声がしてから、およそ一日。
つまるところ、彼ら一行は船にてほぼ一昼夜をすごしつつ、
ここイセリアにとたどりついている。
「…ずいぶんと、何か騒がしいようだけど、何かあったの?
  それに、この村の様子は…?」
リフィルとて信じられない。
いくら、竹が成長がはやい、とはいえ。
まさか村がすっぽりと覆われるほどに成長するほど、
筍等を村人が放置しているはずもない。
だとすれば考えられるのは、やはりこの【光】による影響。
そうおもってまず間違いないであろう。
しかし、なぜこんな状態になっているのに村では大混乱になっていないのか。
いや、何か騒ぎにはなっているらしいが、この竹林の発生とは違うような気がする。
それゆえに、見覚えのある村人の男性たちにとリフィルが問いかける。
リフィルに問いかけられ、一瞬、嬉しそうな表情をうかべるが、
はっと我にと戻ったかのように、
「リフィル先生。それに神子様、おかえりなさい!
  あと、ついでにロイド達も、他のひとたちはお連れ、ですか?」
「まあ、そんなところね」
「…ひでぇ。俺たち、おまけのような言い方だな」
そういってくる村人、カイルの言葉におもわずロイドが不満をもらすが。
「…しょうがないよ。このカイル、姉さんのファンクラブのひとりだもん…」
そんなロイドの言葉にジーニアスが溜息まじりにそんなことをいってくる。
ちなみに、余談ではあるが会員番号は十二番。
十番以内にはいれなかった、というのが彼なりの後悔、であるらしい。
「そういえば、リフィル殿にもファンクラブがあるそうだな。
  マーテルのファンクラブの規模にはまけるが」
何やらさらり、とマーテルのファンクラブと比べ、ユアンがぽつりとつぶやいているが。
そんなユアンのつぶやきを、さっくりと無視し、
「それで?いったい、これは?それに今、あなたたち、村長がどうとかいっていなかった?」
たしかに、今、彼らはこちらに走ってくるときに、村長に何かがあった。
そんなようなことをいっていた。
聞き間違いでなければ。
そんなリフィルの台詞に顔を見合わせ…どうやら彼らはユアンのマーテル云々、
というのは冗談だ、ととらえたらしい。
ともあれ、顔を見合わせたのち、
「リフィル先生たちはここにくるまで、異変を目の当たりにしていないのですか?」
少しばかり不思議そうにとといかけてくる。
「異変って、おもいっきり、この村そのものが異変に巻き込まれてるとおもうけど」
至極もっともなジーニアスの台詞。
久しぶりに村にもどってみれば、竹林の中の村に成り果てているなど。
これを異変といわずに何というのであろうか。
「いや、まあ、これに関しては、あの化け物のような樹が生えたのち。
  なんか、大地や空から光が湧き出すようになったとおもったら。
  いきなり近くの竹林が増殖を初めて、気が付いたらこのありさま、さ」
村の近くに小さな竹林はありはするが。
まさかそれが数刻もしないうちにあっというまに生い茂るなど。
というか、筍の成長スピードも異常の一言につきる。
そもそも、見る間に成長し、竹になってしまうのだから、手の付けようがない。
絶えず大地も揺れており、そんな筍や竹を伐採することもままならず。
気が付いたら、あっというまに村は竹林の中にと飲み込まれていた。
そのことで村人たちが混乱する暇もなく、絶えず振動する大地。
たっていられるのもやっとなほどに。
そして目にはいる救いの塔を覆い尽くす異形の何か。
それにともない、村人すべてにきこえてきた謎の声。
それだけならまだいい。
いや、よくはないが。
混乱し、わめき叫びはじめた村人たちの体より黒い霧のようなものがわきだして、
それらはあっというまに湧き出した村人たちの姿をもしたヒト型にと成り果てた。
そしてその黒い姿の村人たちは、発生源たる村人の本音ともいえる言葉を暴露しはじめた。
あげくは、本体を殺せば自分が本体に成り代われる、などといいだして。
不思議なことに当事者以外には傷一つおわせられない、謎の黒い人影。
大地の揺れ、そして謎の人影。
人は理不尽なこと、ましてや混乱しすぎれば逆に冷静にならざるをえないときもある。
黒い人影を生み出したそれぞれの村人の心に響く謎の声。
――それは影。あなたがたの心がうみだせし、負の影。
  それはあなたでもあり、またあなたの心自身。”ヒト”の試練。
  それは、”自らを省みる”それにつきます。
人は誰しもその心に裏表をもっている。
光と闇。
その両属性をもちし生み出されていることもあり、それがこの世界の【理】。
ふつう、生活していくうえで、裏の気持ちを押し殺し、そして生活しているにすぎない。
具現化した黒い影はそんな人々の不満が実体化しているようなもの。
彼らがそれを自らの一部だと、醜い部分を切り捨てるのではなく、
自分たちが受け入れる、そう判断しないかぎり、その姿はきえることはない。
また、影とはいえ当人の魂の一部。
その影の消滅は、当人の魂の一部もまた消滅してしまうこととなり、
魂の一部を負の具現化、という形で失ってしまったものは、
本来の魂の在り方に自らの意思で、つまりは自らの醜い部分を認め、そして受け入れないかぎり。
命はない、といってもよい
そしてその声は、ここ、イセリアの人々だけではなく、地上、否。
彗星内部にいる、この【特定の空間】にいるすべての”心ありしもの”にきこえている。
この現象は彗星内部、そして当然テセアラにおいてもおこっている。

リフィルの台詞からは、どうやら彼女たちはあの現象をしらない、らしい。
まあ、ロイドならわからなくはないが。
というか、彼はおもったことをすぐに口にしていたがゆえ、
心にとどめおいているようなことはまずないだろう。
そうあるいみ真実ではあるが、ロイドがその心のうちをきけば、
何だよ、それ!と半ば怒りそうなことを内心カイルは思いつつ、
「あの救いの塔をおおっている何かの影響なのか。
  ときおり、人の中から黒い影のようなものが湧き出して実体化してくるんです。
  それはまるで影のように、いや、実際に影、としかいいようがないんですけど」
「それは影を生み出したものにしか触れることができないが、
  影のほうからは他者にも触れられるという厄介なもので……」
それだけでもかなり厄介だ、というのに。
あの異形の何かが発生してからいったいどれくらいの時がたったのだろうか。
空を覆い尽くしている不気味な”何か”。
あの紫色の何かのせいで、今が昼間なのか夜なのかすらもわからない。
次元空間が歪み、くるっていることにより、
惑星の反対側にすら彗星の姿が認識できてしまっており、
今現在、惑星のどこにいてもその地表からは空という空がおがめなくなっている。
「さらに、あの巨大なる揺れのあと、とんでもないことがおこってて……」
そういうカイルの視線はどこかさまよっている。
もうひとりもまた視線をさまよわせていたりする。
『とんでもないこと?』
彼らがそう口にしたその直後。
「うん?君は…たしか、ジーニアスとかいう子じゃあ……」
ふと、第三者の声が彼らにと投げかけられる。
「え?」
おもわず声をかけられそちらをふりむいたジーニアスが目にしたは、
貫頭衣らしきものをきている男性。
どこかでみたことがあるようなきもしなくもないが。
しかし、問題なのはそこではなく。
その貫頭衣はジーニアス、そしてロイド達にとっても忘れようにもわすれられないもの。
あんな服をあの場所以外で来ていた人々を彼らはこれまで目にしたことはない。
一枚の布を丸くつなぎあわせ、その頭の部分のみに穴をあけた服の構成。
これまでも幾度も目にした。
そして、この村でも、この服をきていたのに、ジーニアス、そしてロイドも気づけなかった。
ふとロイドとジーニアスの脳裏にマーブルの姿が蘇る。
「あ、あの……」
戸惑いの声をあげるジーニアスとは対照的に、
しばし声をかけてきた人物を眺めたのち。
「…驚いたわ。もしかして、あなたは牧場から?」
リフィルもこれまで、牧場にてとらえられていた人々を解放するたびに、この服は目にしている。
見間違えるはずもない。
しかし、その手というか手の甲につけられているはずのエクスフィア。
それが見当たらない、というのがきにはなるが。
たしか、牧場につれていかれたものは、すぐに要の紋がないままのエクスフィア。
それを植え付けられる、かつてマーブルもそのようなことをロイド達にといっていた。
もっとも、マーブルが二人にいった内容は、リフィルはジーニアスからまたぎき、
でしかないのだが。
すこしばかり、すすをかぶったかのような、若干灰色の貫頭衣。
しかし、ジーニアスはその顔に見覚えがない。
いや、あるようなきはするが、それが誰、なのかはわからない。
「マーブルによくあいにきてた子だろ?マーブルからよく聞かされていたんだ。
  それに、あの日。神託の日。マーブルを助けてくれたのは君たちだろう?
  たしか、あの日はそこの子と一緒にめずらしくきていたようだけど」
いいつつ、そういって視線をロイドのほうにとむけてくる。
――マーブル!こっちだ!
あの日。
あのとき、そう声をかけたのがほかならぬ彼。
ジーニアスがロイドとともに、神託のあった日。
イセリアの人間牧場にむかったとき。
そして牧場にて柵ごしにマーブルと話していたとき、
たしか彼らは間接的とはいえこの男性とはあっている。
あの日、といわれ思い当たり、おもわずロイドとジーニアスは息をのむ。
では、あのとき。
マーブルを助けようとしたとき、マーブルを中で助けていたとらえられている人々。
あの中の目の前の彼はこの言い回しではひとりである、と予測がつく。
「ご、ごめんなさい。僕、僕、マーブルさんを……」
「ジーニアス。お前はわるくない。あのとき、悪いのは、俺がっ!」
二人の脳裏にあの日のことがまざまざとおもいだされる。
村がディザイアンたちに襲撃され、そして牧場の主だというフォシテスという男。
その男がつれてきた、…あのときは化け物、とよんでしまった、
変わり果てた姿となっていたマーブルのことを。
「奴らはあんたたちがマーブルを殺したとかいってたけど。
  それは誰もしんじちゃいないさ」
誰一人として、彼らがマーブルを殺した、などと信じるものはいはしない。
実際はロイドとジーニアスにかなりダメージを負わされたマーブルが自我を取り戻し、
フォシテスに抱き付き自爆し命を落とした、というかその魂をエクスフィアにと移動した。
というのが真実なれど。
ディザイアンたちは、囚人たちにロイド・アーヴィングという少年がマーブルを殺した。
とそう説明した。
誰一人としてその言葉を信じたものはいないにしろ。
「マーブルという人のことをしっている、ということは。
  あなたは、やはりイセリア牧場から?どうやって牧場から逃げ出せたのかしら?」
リフィルとしてはそれがきにかかる。
自分たちが解放していったこれまでのいくつかの牧場ならば、
自分たちが彼らの脱出にも手をかしたがゆえに理解できるが。
では、イセリアの牧場に捕えられていた彼らはいったい誰が救いだした。
というのだろうか。
そんなリフィルの素朴なる疑問に気づいた、のであろう。
「ああ。それはあの救いの塔を覆い尽くしているあれに関係してるんだけどな。
  牧場が突如としていくつもの木の根?のようなものに襲われた直後、
  いたるところから地下から火が吹き出して施設がくずれてしまって……」
それは、捕えられている人々にとっては恐怖でしかなかった。
周囲のいたるところから噴き出てくる火。
なぜか白い霧のようなものが発生し、彼らの体にまとわりつき、
その白い霧の影響か、火による被害はなかったのだが。
しかもそれだけ、ではない。
ディザイアンたちなどは、術を紡ごうとしていたらしいが、なぜか彼らは術を使うことはなかった。
その後、なぜかディザイアンたちがいなくなり、残されたのは彼ら捕えられていたものたちのみ。
彼らは知らない。
仲間の命を助けるために、フォシテスが捉えたヒトを置き去りにし、
魔道炉の力を転移装置に注ぎ込み、起動不能となっていたそれをうごかし、
すべての同士たちをそこから逃がした、ということを。
このままでは部下たちまで巻き込み、施設が崩壊してしまう。
そう判断しだかゆえの、フォシテスの独断。
何かそれで罰をうけるならば自らひとり受ける覚悟でその行為にと踏み切った。
ゆえに、あとにのこされしは捕えられていた人々のみ。
人々は牢に入れられてはいたが、その牢がまるで溶けるようにあけはなたれ、
それぞれ何がおこったのかわからないままにと協力して外にでた。
そんな彼らが目にしたは、救いの塔があった場所に異形の何かがはえている様子と、
周囲をうねうねとうごめく、何かの枝のような根っこのような何かたち。
このまま、ここにいては危険。
地面の揺れは続いてはいたが、木の根らしきものの上を移動する分には揺れは感じることはなく、
どうにか彼らはディザイアンたちのいなくなった施設より逃げ出すことにと成功した。
それでも追手のことを考え、しばらくそれぞれ森などにひそみはしたが。
彼らが全員、逃げ切った直後。
轟音とともに、施設全体が炎にと飲み込まれた。
大地より吹き出した溶岩によって。
ふときづば、彼らの体に埋め込まれていたはずの石。
それもいつのまにかなくなっており…事実は彼らの周囲を漂っていた霧。
その霧を通じ、精霊石の穢れが浄化され、すべての精霊石が孵化したにすぎないのだが。
彼らヒトはそんなことをしるはずもなく。
混乱しつつも、どうにか森をぬけ、そして捕えられていた人々はここ、イセリアの村にとたどり着いた。
当然、村長はディザイアンたちの報復、逃げ出した囚人をかくまえば、
自分たちにまた被害が及ぶ、とつっぱねようとしたのだが。
彼らの言葉、すなわち牧場が壊滅したらしい、という言葉をきき困惑せざるを得なかった。
牧場が本当に壊滅したのか否かを確認できたのはそれからしばらくのち。
さらに巨大な揺れとともに、周囲の景色がどことなく一変したのち。

牧場から逃げ出してきた、という人物の話をきき、
一行は唖然とせざるをえない。
あのとき、空からみえていた大地から吹き出すマグマらしきもの。
それらかよもや牧場そのものにも害を及ぼしていたとは。
しかも、とらえられていたものたちは無事。
そこに何者かの意思を感じずにはいられない。
それに、今の話を信じるとするならば、否、おそらくは真実、なのだろう。
今、この村には牧場から逃げ出してきた人々がかなりいることになる。
「あ、それで、なんか人の声がたくさんしてるんですね。
  なんか学校のほうからたくさんのきいたことのない人たちの声がしてますし」
ぽん、とかるく手をたたき、さらり、と何やら重要なことをいっているコレット。
そして。
「知らない人たちの声にまじって、村長の声もしてるけど…
  なんで、村長の声が二つ、きこえてきてるんだろう?」
それがコレットにはわからない。
「…とりあえず、村長のところにいってみましょう。話はそれから、ね」
「パパもママも村長さんのところにいるのかなぁ?」
さきほど聞こえてきた声は今はきこえない。
おそらく、さきほどはかなり大声を張り上げた、のであろう。
なぜ、そんな大声をだす必要があったのかはマルタにはわからないが。
「え?先生、あっちにいくのかい?やめといたほうが……」
カイルが少し戸惑ったような声をだしてくるが。
「どちらにしても。いく必要はあるもの」
「…?」
リフィル達がそんな会話をしている最中、しいながふと周囲を見渡す。
それは違和感というよりはなつかしさ。
懐かしい気配がこの付近に漂っているような。
そしてこの気配をしいなはよくしっている。
気配が変質していても、一度その姿を目の当たりにしているがゆえに間違えるはずがない。
「……孤鈴コリン?」
われしらず、ぽつり、とつぶやくしいな。
気配は村の奥のほうから。
たしかこの村の北の出入り口からは、マーテル教の聖堂とかいうのがあったはず。
そして気配はそちらの方向からしているようなきがする。
気のせい、といわれればそれまで、かもしれないが。
「ともあれ。一度村にもどってきたのだもの。ファイドラ様にも挨拶をしないとね」
しいなのそんなつぶやきは、リフィルの耳にはとどいていない。
ゆえに、そのまま一歩、足をふみだしてゆくリフィル。
目指すは、旅に出る前までは自らの職場でもあった、学びの小屋。


「これは……」
目の前の光景に思わず目を見開いてしまう。
いったい、何があったというのだろうか。
異界の扉からあちら側とこちら側。
移動できることを確認したのち、空からみえたこの場所がきになってやってきた。
目にはいりしは、かつて牧場があった周囲。
大地に亀裂がはいり、そこすらみえない大地の亀裂。
そして施設があった場所はもりあがり、今もなお大地からマグマを吹き出している。
火山活動。
誰がみてもそう答えるであろう。
しかし、このあたりは昔から火山帯ではなかったはず、なのに。
にもかかわらず、しかも牧場を狙ったかのように大地から噴火がおこるなど。
それだけ、ではない。
ユアンの提案はすでに意味のないものとかしている。
絶海牧場があったとおもわしき場所。
その海の中からも、噴火らしき現象がみてとれ、もくもくと水蒸気が空にと立ち上っていた。
いくら大地が位相がずれたままとはいえ融合をはたしかけているとはいえ、
ここ、シルヴァラントはもともと、クラトスが管理していた地。
ゆえにどのあたりに施設があったかなど予測するのはたやすいこと。
たしかにかなり地形がかわってしまってはいるが。
過去、世界中を旅していた経験は伊達ではない。
「これでは、あれをどうにかすることは…っ」
頼みの魔導砲はおそらくもうない、であろう。
念のためにその付近とおもわれし海域。
それらを探してみたが、人工の建造物らしきものはみあたらなかった。
いくら海の中にあるとはいえ、よくよく目をこらせばわからないことはない。
このままでは。
最悪の可能性。
位相軸がずれたままでの大陸の中途半端な融合。
次元軸が、位相軸がくるっているというのは、互いの世界において、
もう一つの世界が幻、として認識できることからも一目瞭然。
その幻はこのままでは、おそらく日に日に現実味をおびてくるであろう。
それこそ立体映像がそこにみえているかのごとく。
触れることはできないが、すぐそこにある光景、のように。
そして大地につなぎとめられている彗星。
次元が狂ったままこのまま彗星がこの惑星すべてに影響をあたえるとするならば。
それこそ、世界そのものが次元のゆがみに飲み込まれ消滅してしまいかねない。
これを解決するのはただ一つ。
いまだ位相軸がずれ、二つにわけられているままの世界を統合すること。
ミトスにその気があるのかがわからない。
一度、あちらに戻り指示をうけるか、それとも覚悟をきめるか。
「…ふ。愚問、だな」
自分はもう、覚悟を決めていたではないか。
そうおもうと思わずクラトスの口から嘲笑にもにた笑みがこぼれおちる。
そう、もう覚悟はきめていた。
だからこそ、神子であるゼロスにアイオニトスのことを話し、
そして彼がかの品を手にいれられるように、融通をはかった。
監視されている自分では動けないために。
自分ができなかったこと。
しかし、自分に精霊の楔の解放の阻止をいってきたあのときのミトス。
これまでのミトスとは何となくだが違ってみえた。
隣にいたウィノナという女性の影響かどうかはわからないが。
でも、今のミトスなら。
ロイド達による説得も受け入れるのではないか、という思いも捨てきれない。
自分では、ダメだ。
これまで、ずっとミトスのいうがままになっていた自分では。
でも、ロイドならば。
かつてのミトスの信念と同じように進んでいる息子、ならば。
そのためには。
ミトスを追い詰める必要がある。
そして、それができるのは。
「……最後までふがいない父親でしかなかったが…しかし、これしかあるまい」
かの封印は自らの命をかけてでなければとけない。
でも、甘すぎるロイドはおそらく許容しないだろう。
なら、自らにけじめをつけるためにも、息子の手にて相果てるのも…悪くは、ない。
「…おそらく、ロイド達はイセリアに向かうだろう。…イセリアにいく、か」
そこで魔導砲が使用不可能であることをいい、手段としては封印の解放しかない。
そのようなことをいうだけで、いい。
あとは、自分がかの地にて彼らが覚悟をきめてやってくるのをまつだけで。
今すぐに次元の狭間に大地が、世界が飲み込まれるようなことはない、とおもいたい。
少なくとも、センチュリオンたちが目覚めている以上。
少なからず、どこかに救いはあるであろう。
…そこに、ヒトに対する救いがあるかどうかは別として。


「…何?何がおこったの?」
地上にて、異変がおこるのと同時刻。
ここ、彗星ネオ・デリス・カーラーンにおいても異変が発生する。
「ウィノナ姉様?いったい……」
困惑したような声が、ここ管制室であり、メイン・コンピューターとおもわれし、
コア・システムのあるとある部屋。
この部屋に今いるのは、彼…ミトスと、そして目覚めたウィノナのみ。
この場を守っていたはずのクルシスの一員はなぜか突如として発生した濃い霧。
それにまかれると同時にことごとく気絶した。
それは警備のものだけ、ではない。
ざっと確認しだけで、目にはいったものたちはすべて気絶してしまっているこの現状。
ここ、彗星内部において、こんな霧が発生することなどありえない。
しかし、そのありえないことが実際におこっている。
通信システムを作動させても、どの部署からも返答はない。
それどころか、一瞬通じはするものの、通信すら不能にとなりはてる。
まるで妨害電波でもでているかのごとく。
触ってもいないのに、目の前のスクリーンには、地上の様子が映し出されており、
救いの塔を飲み込まんとする、どうみてもいびつな何かにしかみえない代物。
何かの樹…あれが大樹カーラーンとでもいうのだろうか。
しかしその内部に姉の姿をみて叫んだのはつい先ほどのこと。
ウィノナとミトス。
それぞれそこにあるコントロールパネルを操作してみるが、
装置はまったく彼らの意のままにはならず。
挙句は救いの塔の障壁すら破壊というか歪なる形で発芽した樹にさえぎられるように消滅し、
地上に完全にこの彗星の姿を映し出していることが、地上を映し出しているスクリーン。
その様子からうかがえる。
スクリーンには次元がくるっていることも示されており、そしてまた。
――発芽を確認しました。これより、ネオ・アルテミスを起動します。
スクリーンにと示されているとある文字。
その言葉を目にしミトスは目を見開かずにはいられない。
かつて、大樹をよみがえらせたのち、
ならば疑似的に小さなマナの月を上空に、一時的にしろとどめおいておいてやろう。
そういってきたのは、ほかならぬラタトスクであった。
その月に名前があったほうがいいよね!
といって、ミトスが提案した、もう一つの月の名前。
その名が画面スクリーン上にと記されている。
彗星ネオ・デリス・カーラーンのマナをもってして、
今ある惑星上の衛星でもある月と同じ大きさの衛星をつくりだし、
地上の安定を図る。
たしかにかつて、ラタトスクからようやく許可をえて種子を授かったとき。
約束した一つの形。
それが、今になりこうしてスクリーン上に現れた、ということは。
間違いなく、あの歪なる樹のようなアレは大樹、なのだろう。
制御するものがいなければ暴走し大地を滅ぼす。
かつて、ラタトスクがそう言っていた通りに。
「あの種子から発芽したかりそめの大樹の影響がこの彗星にも及んでいるようね。
  ……このままでは、この彗星も次元の狭間。
  テセアラとシルヴァラント。互いの位相軸の境界。
  その狭間に飲み込まれてしまう確立が高いわ」
ミトスが茫然としている最中、ウィノナはウィノナでぱちぱちとパネルを操作する。
この程度の機械は、かつて惑星デリス・カーラーンにおいて使用していたがゆえ、
これよりもさらに高度な機械類を扱っていたがゆえに、彼女にとって操作は簡単。
救いはかつて、この彗星のことをしったとき。
まだ世界が平和であったころ、ラタトスクに頼み、この地にやってきて、
自分のマナをこの彗星のメインシステムに覚えさせていたこと。
ゆえに優先的に彼女の操作をシステムが許可をだし、
こうして今の現状をどうにかスクリーン上に映し出すことができているのだが。
険しい表情でウィノナもまたスクリーンを睨まずにはいられない。
「ミトくん。このままでは、この彗星をもふくめ。
  下手をすれば次元の境界線。その影響で互いの大地が消滅するか。
  もしくはその手前で地上がすべてその反動によって盛り上がった海に沈むか。
  そのどちらかになる可能性がたかいわ。
  そのとき…あの樹に飲み込まれているマーちゃんが無事かどうかも……」
完全にマーテルはあの樹の中に取り込まれかけている。
「…クラトス…失敗したんだ……」
姉様が無事ならば、地上のことは捨て置いてもいい。
そうおもっていたが。
しかし。
「……この彗星も、あの大樹も無事ではすまない、というのは…本当?」
「ええ。まちがいなく、ね。世界が二つにわかれているままだと。
  この彗星をも巻き込んで、あの歪なる大樹も消えてしまう可能性が高いわ」
ミトスにはいろいろと聞きたいことも、いいたいこともある。
それでも、彼女にとって、ミトスは守るべき子供であることには違いない。
「ねえ。ミトくん?世界を統合することはできないの?このままでは……オリジンさまは?」
「それ…は……」
ウィノナには、まだオリジンをクラトスによって封じている。
というのをミトスはいっていない。
正確にいえば言い出せていない。
「少なくとも。この異変の解決には、オリジンさま、そしてゼクンドゥス様。
  できたらラタトスク様の力もほしいところだけども……」
この世界でも幾度も転生を果たしていた。
だからこそ、ウィノナは彼ら精霊のことをしっている。
しかし、この状態でかの【王】が何もしてこない、ということは。
これはやはり、人類の出方…否。
もしかしたらミトスの出方をまっているのかもしれない。
あのとき。
さいごの最後でみた彼女の未来の記憶は、ミトスたちがラタトスクより、
万能の加護たるデリスエンブレムをうけとった光景も含まれていた。
もっとも、そののちにここ最近みてしまった未来ともいえる光景。
その光景はまだ実現していない。
否、彼女とてあんな光景を現実にさせるつもりはない。
ミトスも、そしてマーテルも。
今度こそ自分が守ってみせる。
そう思うからこそ。
「システムに新たに追加させられている命令らしかものがあるわ。
  …移動によりて内部にある異物すべてをも放出する、と。
  もしも、異物、というのにここにいる人たちも含まれていたなら……」
ウィノナは知らない。
そのプログラムはかつてはなかったもの。
ラタトスクがこの彗星とともにクラトスが宇宙にでむいてしまい、
精霊石を宇宙に解き放った。
その記憶をもっていたがゆえ、それを阻止するためにと新たにくわえた新しいプログラム。
この彗星にもラタトスクによって生み出されている管理システム。
とミトスたちには勘違いされている実は精霊がいたりする。
その精霊は王であるラタトスクの命を忠実に実行するのみで、
王やセンチュリオン以外とはその言葉を交わすことはまずありえない。
「とりあえず、オリジンさまのもと…ユミルの森にはいく必要がありそうね」
「あ……」
ウィノナの言葉にミトスは何とこたえていいのかわからない。
大樹が歪なる形でよみがえっても、それでたとえ大地が消滅したとしても。
この彗星とそして姉が融合した大樹さえ無事ならばそれでいい。
そうおもっていた。
自分たちをないがしろにしていたヒトをこれ以上守ってやる必要はない、と。
そう、たしかにおもっていた、のに。
でも、それは間違いだ、という気持ちも今でははっきりと自覚ができる。
以前はその思いにいたるよりも、ヒトはおろかでしかないから考える必要もない。
ここ最近はそうおもっていたようなきさえするのに。
変わり始めたのは、地上におりて彼らとともに旅を初めてから。
そして……
【ピッ。システムの再構成が終了しました。
  これより、新たなる月の構築を始めます】
戸惑うミトスの耳に、無機質な音のような声がきこえてくる。
それは、新たなるもうひとつの月の作成を示す始まりの合図。


村の面影はかろうじてある、というところか。
家という家には植物の蔓のようなものがいたるところにまきついており、
どの家も緑の景観をしているのがうかがえる。
緑のカーテンなどというレベル、ではなく。
むしろ家が植物に襲われ覆われた、というほうがシックリくる状態。
村の中にとある少し高台になっている葡萄畑などにおいては、
もともと植えられていた葡萄の苗が急激に成長し、
葡萄棚すらをも飛び出して、ついでになぜか時期でないはずなのに、
しかも葡萄のフサが二倍以上、大きな形で実をつけていたりする。
もっとも、マナが枯渇しかけていた大地であったがゆえ、
それがその苗の本来の葡萄の房の大きさであることを村人たち。
そしてまた当然ロイド達もしるはずもない。
それはテセアラ側において、特大巨峰、といわれていた、
葡萄の中では最高級品。
かつて、まだ八百年前、シルヴァラント側が、
否、世界がこのように、きちんと正しく一年ごとにマナが循環されていた時期、
当時から神託の村としてあったこの村の特産品でもあったひとつ。
マナが枯渇し衰退世界になり八百年が経過し、
人々の記憶からその本来の姿の認識は失われてしまっていたが。
それでも、ほそぼそとかつては葡萄が特産品であった。
という事実はつたわっており、ゆえに村の中に葡萄畑がつくられていた。
それでも輸出する、というかつての最盛期までにはたどりついてなどはいないが。
「…うわっ。何、この人の多さ!?」
学校の近くにいくと、なぜかその付近に人だかりができており、
はっきりいって村人のほとんどが集まっているのではないか。
そんな連想すらしてしまう。
まあ、イセリアの村そのものが、村人全員を数えてもそう数はいないというのもあるが。
しかし、ジーニアスが叫んだのは村人たちがこの場に集まっているから。
というだけではない。
村人たちにまじり、見覚えのない人々が数十人以上みうけられる。
貫頭衣をきているものもいれば、どこかみたことがあるような服をきているものも。
見る限り、女性たちはどこかでみたことがあるような服をきているが、
見たことのない男性たちはほとんどが貫頭衣をきている。
そんなジーニアスの叫びに気づいた、のであろう。
数名の人物が一斉にと声のしたほう。
すなわち、一行のほうにと視線をむける。
あきらかにチグハグ、ともいえる一行。
しかし。
「神子様!それにリフィル先生!?いつおもどりに!?
  まさか、あれはこのたびの試練にかかわりがあるんですか!?」
イセリアの人々にとって、コレットやリフィル、ジーニアス、そしてロイドは見覚えがありすぎる。
そもそも、本来ならばこのようなことがおこりえるはずがない。
それに、先の【謎の声】のこともある。
あの声はたしかにこういっていた。
――かつて、ミトスとその仲間たちは王と盟約を交わしました。
  それは大樹を再び芽吹かせるというもの。その盟約は果たされました。
  が、大樹は人々の心の負の影響をうけ歪んで発芽しました。
  それは、他者を受け入れようとしない人の心が生み出せし障害
と。
大樹を芽吹かせる。
大樹とは御伽話の中にある、マナを無限に生み出す樹。
信じられないがおそらくはそういうこと、なのだろう。
神子達が救いの塔に向かったと連絡があったのち。
一行にディザイアンたちが消える気配はみあたらず。
しかし、それでも一時狂いに狂った天候も安定をみせていた。
世界の救いは近い。
そうおもっていたのに一向になかなか世界は再生されなかった。
しかし、あの謎の声はこういった。
【大樹を芽吹かせるという盟約は果たされた】と。
それは裏をかえせばもしかしたら、救いの塔にむかった神子。
その神子が何らかの新たな使命をうけていたのだ、と一部のものは予測した。
しかし、あの声はこうもいっていた。
【大樹は人々の心の負の影響をうけ歪んで発芽した】と。
神子だけにすべてを押し付けていた人々に直接届いたその言葉。
さらには現実として救いの塔を覆い尽くすかのような歪なる巨大な樹もどき。
あの声が示しているのは、救いの塔をおおいつくしているアレのことだ。
と人々がそう認識するのにそうは時間はかからなかった。
認めたくはないが。
神子を批難する声もいわれてはいる。
が、神子のみを責めるのは間違っているとこの地にきているブルートは一喝した。
神子はその使命をあの声がいうことを考えれば果たしたが、
あのような姿として伝説の大樹らしきものが復活したのは、
神子の責任ではなく、それはあの声もいっていた自分たち、人々の心である、と。
あの声は実際、他者を受け入れようとしない人の心が生み出せし障害。
そのようにといっていた。
それを信じるとするならば。
すべてを神子だけに押し付け、何かがあれば神子を糾弾するようなそんな人の心。
そんな人々の卑しい心があのような化けものの樹をうみだした。
そのようにどうしてもそこに思いが至った存在達はどうしても思えてしまう。
それでも、ヒトの心は複雑で。
どうしても誰かを悪者にし糾弾し、罪をかぶせなければ気が済まない。
そんな様々な心情もあいまって、コレットの姿を認知した村人のうちの一人。
否、ひとりではない。
どうやら思っていることはほとんど同じであるらしいが、たまたま声にだしたのがひとりだけ。
そのような現状となっている今現在。

精霊たちからしてみれば、そんな人々は愚か以外の何ものでもないのだが。
だからこその、試練。
――どうしようもない存在ものをのこしても、また同じことをしでかしてしまう。
それゆえの、いまだにヒトは気づいていないが、ヒト、という種族の選別。
本当に、世界にとって害になりえることはないか。
ミトスたちにかつて預けていた種子をもちいた、ラタトスクによる、
人類への最終確認ともいえる試練。

しかし、自分のことしか考えない人間もいるのもまた事実で。
この異変は神子が再生の旅から逃げ出したからおこったのだ。
そうあきれるほどにいいきっているものもいるのもまた事実。
そしてまた、テセアラ側においては、神子ゼロスが尽力したが、
やはり元教皇の天をも恐れぬ行いは、天の怒りをかったのだ。
そのように認識していたりする。
事実、すでにあるいみで教皇の支配下におかれてしまっている首都においても、
そうおもう存在もの達のほうが大多数。
すでに首都がある大陸はきりはなされ、あるいみ孤高の大陸、と化している。
かつてはグランテセアラブリッジでつながっていた橋はもはやない。
種子の発芽とともに、橋はマナにと還っている。
あまりにも地震が頻発しており、橋にいるのは危険、という理由から、
橋の中央付近にあった管制室からは人々は撤退していたあと。
のこっていたのは橋のふもとの管制室にいた人々のみ。
ゆえに、橋が消滅したがゆえにそれにまきこまれ、命をおとしたものは一応いない。

そしてそんな村人の声に気が付いた、のであろう。
「マルタ!?よかった、無事だったか」
ほっとしたような声が前のほうからなげかけられてくる。
そしてまた、
「おお、神子様、ご無事で……」
人がかなり集まっているその先。
人々がなにやらぐるり、と取り囲んでいるその中心らしき場所にいる人物。
「パパ!?」
「お婆様!?」
そんな彼らの姿を目にし、マルタとコレットがほぼ同時に重なる。
それとともに、
「…何、あれ?」
困惑したようなジーニアスの声が発せられる。
ブルート、そしてファイドラの目の前にいる男性。
学びの宿舎の前にたっているのはジーニアスも見知った相手。
しかし、その目の前にその人物と同じような姿かたちにて、
全身真っ黒としかいいようのないモノがそこにいればそういう言葉しかでてこない。
まるで、影、としかいいようがないそのモノ。
だがしかし、影が立体化ししかも服までもが真っ黒になっている、としかいいようがないソレ。
対峙するようにイセリア村の村長前にとたっているその【何か】。
それは、ゆっくりとそんな彼らのほう。
おそらくは、他のものたちの反応にて彼らに気づいた、のであろう。
『これはこれは、できそこないの神子ではありませんか』
全身真っ黒ではあるが、どこからどうみても村長以外には考えられない容姿をしているソレ。
それの首がほとんどぐるん、とまるで反転でもしたかのように真後ろにむけられ、
その黒い穴があいたような空洞のようにもみえる瞳がコレットの姿をひたりととらえる。
はっきりいって異常。
その一言につきる。
姿形は全身真っ黒で、しかもその姿はあきらかに村長でもあるヒトのもの。
まあ、そこに一切の色が黒しかない、というのはあるにしろ。
その黒い人影が真後ろ。
つまりは首をぐるん、と百八十度回転させ、あろうことかこの場にやってきた一行。
否、コレットをみつめて言い放つ。
「っ、きさま神子にむかって何を…っ」
この場にはファイドラ、そして村人たちやいまだに許していないが、
牧場から脱出してきたものたちの目線がある。
本音としては、今スグにでも神子に文句をたたきつけたい。
が、あの不思議な声は皆が皆、きいている。
それでなくても、忌々しいことにこの亡き王国の血を引くとかいう、
嘘か誠かの真偽はわからないにしろ。
ともかくブルート・ルアルディとかいう人物がこの場にいる以上、
また彼に何かをすれば確実にパルマコスタの町そのものと事をおこすことになる。
本音と建て前、つまりは本音を隠し表面上はゆえに、神子に暴言を吐くなど何事か。
というような態度を目の前の自分にそっくりな、
村人たちいわく、自分から抜け出た…たしかに自分の体から黒い何か。
が抜け出したのはみていたが、しかもその黒い霧のようなそれが、
まるで立体化した自分の影のごとくにあらわれて、口をきいたときの衝撃。
いまだにその衝撃は抜け切れてはいない。
そんな彼の心の動揺を朝笑うかのように、
『ああ、なげかわしい。なぜに私だというのにその心に素直にならない?
  おまえはずっとおもっていただろう?救いの塔に神子達がむかったのちも。
  一向に世界が再生されないことをうけ、神子は出来損ないの神子だ、と。
  真実、神子の行動により、このようにおかしなことになっているではないか』
いいつつ、その陰がすっと、救いの塔のある方向。
そして空をすっと指し示す。
いくら人々が相手が神子だから、という理由でその感情を押し殺し、
彼女を責めるのはそれこそ天に背くことなのではないか。
そんな不安からコレットに対し、面とむかい文句をいいだすものはまずいない。
しかし、現実としてこのように異変がおこっている。
すべてはおそらくは、神子による世界再生の旅の影響。
当人がいないところでは、旅に失敗した、もしくは実は旅から逃げ出しているのでは。
という様々な憶測が飛び交っていた、というのに。
誰しも神子にむかって文句、ましてやそんな口をきくのは、天の怒りをかいかねない。
その思いから本音を押し殺し、皆が皆、神子を敬っているようにと態度をとっている。
そしてそれは、目の前の男性の【負の心】から具現化した【彼】にとっては、
それがたとえ自らの本体のことでなくても手にとるようにと理解ができる。
その言葉は自らの本体と、そして周囲にいる人々すべてにむけたもの。
それに、
『それに、今さら何をいいつくろう?お前はさきほどこういっただろう?
  このような状態になったのはすべては出来損ないの神子を旅たたせ、
  またそんな神子を信じたわれわれがバカだったせいだ!と』
事実、先ほど目の前の男はそのようなことを叫んでいた。
ブルートに何がおこっているのかわらない以上、しっかりと人々による連携が必要だ。
そう説かれ。
そんな村長の怒りは神子の祖母でもあるファイドラにもむけられた。
やはり、前回失敗した神子の妹がみとめた神子など信じた自分たちがバカだった。
自分たちは何も悪くないのにきさまらマナの血族のせいで自分たちがこんなひどい目にあう。
と。
ヒトは理不尽な状況、ましてや理解したない現実に直面したとき、その本音がよくあらわれる。
「う、うるさい、うるさい、うるさい!その穢れた口をとじろ!」
なぜか全身真っ黒で、しかも自分と同じ声と容姿。
そんな相手から自身の内面を見透かしているかのような言葉を聞かされ、
イセリアの村長を務めている男性の顔が瞬く間に赤くなってゆく。
それは自らの内面をしっかりと言い当てられたがゆえの憤慨。
『そうやって、自分の心をいつまでごまかすつもりだ?
  そもそもおまえが牧場に決して近づくな、といっていたのは。
  何も条約だけのことがあったわけでは……』
「うるさい!だまれ!このばけものめ!!」
このままでは自分に不利なことを言われてしまう。
それは本能的な勘。
彼とて信じたくないが理解してしまっている。
なぜに理解できるのか、というのはわからないとしても。
目の前のこの黒い何かは自分なのだ、と。
それでもそれを認めたくはない。
自分は無害なただの人間なのだから、このような化け物を生み出すようなものではない。
でなければ、これまで散々自分たちのような無害の人間を蔑ろにして、
といって言い訳につかっていた言葉。
それらの言葉に意味がなくなってしまう。
自分と同じ顔…まあ、全身真っ黒であるが、とにかくそんな人物?にそういわれ、
頭に血がのぼったのか、そのまま思いっきりぎゅっと手を握り締め、
目の前の黒い影にむかって殴りかかるようにと手をつきだす村長の姿。
頭に血が上っている村長は気づかない。
自らにむかってむかってくるそんな彼の姿をみて、
黒いその人影がにやり、とその口元に笑みを浮かべたことを。
そしてまた。
「…姉さん、あれ…何なの?」
シーニアスの困惑したような声がそんな中、ぽつり、とつむがれる。
マナの在り方がヒト、ではない。
しかし魔物でも。
でも、ヒトに近い、何か。
しいていえば、人間達によって虐げられるとき、また迫害されるとき、
そんな人間たちの中から感じる感覚。
そんな感覚をまさに凝縮し煮詰めたかのような。
「わからないわ。けど、…村長!?」
そんな弟の台詞に答え、リフィルが言葉につまりかけるとともに、
彼の手が黒い人影の中にと吸い込まれる。
まるでその人影は物体のようにみえてもさわれないかのごとく、
そのまま村長の体はおもいっきり黒い人影の中にと吸い込まれるようにたおれゆく。
『本体の理性は理性ではないな。では自分が成り代わっても問題はなさそうだな』
むしろ、自分が自分に成り代わる。
そんな意味不明な、しかしどこか不吉さを感じる声が黒い影より発せられる。
それとともに。
ぶわっ。
「「「村長!?」」」
誰ともなく思わず叫ぶ。
その言葉とともに、村長の体をまとわりつくかのように、
今までそこにたしかにいた黒い影がまるで黒い霞のようになりて、
そのまま村長の体全体にとまとわりつく。
体全体をまるでいくつもの流れる【黒い何か】が村長の体全体を覆ってゆく。
そのまま、前のめりに一度、地面にそのままなぐろうとした対象者がいなくなり、
バランスをくずし、倒れそうになるが、どうにか体制をととのえ、
そのまま学校の壁に手をつくことで何とかこけるのを回避している姿が目にとまる。
一体、何がおこっているのか。
つい先ほどこの村にたどり着いたばかりのロイド達は当然のことながら、
なりゆきを見守っていた人々もまた何がどうなったのか困惑を隠しきれない。
そんな中。
「ふ……ふはははははははははははははっっっっっっっっ」
場違いな笑い声が突如として響き渡る。
一体誰が、と思ってしまうが、しかしその笑い声をあげている人物。
それを認識した刹那、この場にいた誰もが思わず目を丸くする。
ただ一人を除き。
「ああ、なんだかすがすがしい気分だ。何をわしはこれまで遠慮していたのだろう」
どこか晴れやかに、それでいて狂気すら感じられるほどに笑みを浮かべる。
「「そ、村長?」」
そんな彼をみてどこか戸惑ったような声をあげている村人たち。
何かが違う。
まあ、その体に黒い霧のようなもやのようなものが紐のごとくにまとわりつき、
ゆらゆらと体全体をまるで輪のようにして覆っていることから違うとしかいいようがないが。
しかし、それだけ、ではない。
何かが。
「…何、あれ?」
みているだけで、何か不快感を感じる。
マナが何かおかしい。
「あれは……っ。負に完全に取り込まれた、か」
ジーニアスのつぶやきと、それをみてつぶやくユアンの言葉はほぼ同時。
「どういうことかしら?ユアン?」
そんなユアンの言葉を聞き逃すリフィルではない。
ゆえに、少し背後にいるユアンにと問いかける。
しかし、そんなリフィルの言葉に答えるでもなく、
「…救いは常に空や地上からマナの光が解き放たれているということか」
ユアンのみわかるらしく、何やらそんなことをつぶやいてくる。
ユアンの脳裏にうかびしは、かつての出来事。
地上に魔海の扉が新たに開かれたあの惨劇の序幕。
その体も心も自らの心の闇にとらわれたものがおこした悲劇。
そして負は魔族にとって格好の餌であり漬け込みやすい状況を作り出す。
その悲劇をユアンはいまだに覚えている。
そしてあの当時。
このような状態になったものをよく目の当たりにもしていた。

「よくもまあ、おめおめとこんな状況になってもどってきたものだ。神子よ」
「…え?」
いきなり話しかけられ…つい先ほどの黒い村長と、そして村長自身の声が重なったかのような。
声が二重に重なっているかのような言葉が村長の口からコレットにむけて発せられる。
「救いの塔をあのような化け物まみまれしたはお前であろう。神子。
  なぜお前はいきている?失敗したならしたでこれまでの神子同様、
  命を落としていればよかったものを。
  お前がこうしていきているから、このような異変がおこっているのではないか?
  本当に、お前は生まれたときから出来損ないの神子であったのだな。
  お前の母がお前を生んで命を捨てたように」
コレットが石をもって生まれたがゆえに、天使の子。
つまりはフランクの子ではない、といわれ、不義を疑われ自ら命をたったコレットの母。
実際は、生まれながらにもっていた、のではない。
出産にたちあった、クルシスからの神託をうけていた祭司たちが生まれた子供の手の中。
それに石をつかませたにすぎない。
生まれる子供こそが次なる神子である。
そのように神託をうけたがゆえに。
「・・・・・・っ」
そんな村長の言葉にコレットは思わず言葉もなく顔をふせてしまう。
自分が石をもって生まれてきたせいで、母が自殺した。
くちさかない人のうわさ、というものは幼いコレットの耳にもはいっていた。
そんな村長の言葉に内心は神子のせいでこのようになった。
そう思っていた人々もまた、何ともいえない表情を浮かべてしまう。
口にしないだけでそうおもっているのは、何もひとりやふたり、ではない。
シルヴァラント全体でいえばかなりの数に及ぶであろう。
人は傷つき疲れたとき、誰かに責任を押し付けずにはいられない。
それはヒトの心の弱さ。
それこそ冤罪すらもおしつけて、罪をなすりつけようとする。
そして心の安定を図ろうとする。
そしてそういう押し付けられる人物に選ばれるのが対外特殊な力、
もしくは他人と違う容姿や思考、または財産などをもっているものが大多数。
その騒ぎに乗じてそのもものの財産を手にいれようとする輩は必ずでてくる。
そして、ここシルヴァラントでは。
ていのいい、生贄ともいえる神子、という存在を皆が皆、認識している。
テセアラ側で神子の責任が叫ばれていないのは、
神子を陥れようとした相手。
すなわち、元教皇の存在がほとんどのものに知らされているからに他ならない。
宗教にとらわれているものたちというものは、その考えにそった都合のいいとらえ方をする。
それがたとえ真実ではないにしても。
すべては天に認められていた天使の子、天の使いの神子を陥れようとし、
さらには暗殺や手配をかけたことにより、天が怒ったのだ。
このままでは、かつての悲劇。
スピリチュアの悲劇が必ずおこる。
そう心のどこかでおもっていたテセアラの人々にとってこの異変はその前触れ。
そのようにしかとらえない。
否、そうとしか彼らは考えようとしない。
無意識のうちに自分たちの責任ではない。
そう思い込むかのように。
そんな村長の言葉をうけ、
「確かに。…何が再生の神子だよ。全然世界は救われないよ。それどころか……」
誰ともなくぽつり、と村人のひとりがつぶやく。
彼女もまた村長の言い分を支持したい。
あの声がいうように自分たちのせい、だとはおもいたくはない。
すべては神子がわるいのだ、とすべて神子の責任でしかない。
ヒトは自らの非を認めようとはなかなかしようとしない。
ましてや、あの化け物が自分たちの心のありかたのせいなどと。
そんなことを信じられるはずがない。
神子が失敗したからあのようなことになっているのだ。
そう思い込むほうが遥かに楽。
自分たちは被害者だ。
ただ嘆いているだけならば何もせずにすむがゆえ。
「そう。まったくけしからん。追放したものまで勝手にまた村にもどってきておるし。
  さらには神子は盛大に失敗して。あれをみろ!
  神子、おまえたちがよけいなことをしたからあのようになったのだろうが!
  救いの塔の位置はかわるは、化け物に塔が壊されそうになっているわっ!」
コレットが何もいわないのをいいことに、村長がコレットに言葉をたたきつけるようにいってくる。
そう村長がいうたびに、彼の体にまとわりついている黒い霧状のようなものが、
よりその黒さをましていることに当人は気づいていない。
「何が再生の神子だ!お前は世界を破滅させる破滅の神子だ!」
「・・・・・・・・・・」
そういう村長の言葉にコレットは何もいいかえせない。
「何だ?こいつ?」
一方、そんな村長の言葉を冷めた目でみつめているゼロス。
「弱いものほどよくほえる、といいますけど、そのとおりですわね。お兄様」
「だな。そもそも、何もしないやつほど、よく文句をいうんだよな」
そんな村長の言葉をきき、あきれたような言葉をなげかけつつも、
兄であるゼロスにと話しかけているセレス。
そしてまた、そんなセレスにしみじみと同意しているゼロスの姿。
「まあ、この村長は昔からこういうところがあるしね」
そんな二人にジーニアスは溜息をつきつつもそういうしかない。
事実、弱いものほどよくほえる。
という諺の典型とおり、このイセリアの村長は意味不明なことをよく叫んでいた。
そのことをジーニアスは知っている。
あの禁書の中において村長の幻がでてきたが、
この村長ならばいいかねない。
そうジーニアスは認識している。
そんなジーニアスの言葉がきこえたのであろう。
その視線をコレットからジーニアスにとうつし、
「おまけにエルフだとおもっていた連中はハーフエルフときた。
  おおかたあのとき、ディザイアンを手引きしたのもお前たちだろう。
  だからわしは反対だったのだ。どこの馬の骨ともしらない輩を護衛につけるとは。
  神子の再生の旅が失敗したのもけがらわしいお前達が同行していたせいに違いない!」
ハーフエルフ、といきなりいわれ、おもわずぴくり、とジーニアスが反応をみせる。
どういう経緯なのかはわからないが、ハーフエルフであることがばれてしまったらしい。
「村長!こんな子供に……」
ヒトはなぜか他人が憤慨し興奮している様子をみていると、
自分のほうは冷静にとなることがある。
ゆえに、さきほどぽそり、と文句をいっていた女性が
今度は逆に村長をいさめるような言葉をいってくる。
この異変は神子のせい。
その思いはいまだにかえてはいないが。
いくら何でもあのときの出来事まで、しかもジーニアスのせいにするのは間違っている。
あのとき、ジーニアスはかなり実際におどろき、
また彼も村を守るためにたたかっていた。
彼の術がなければ彼女の家は完全にと燃えていた。
「だまれ!子供であろうが何であろうが、ハーフエルフであることにはかわりない!」
「ひどい、そんな言い方……なら、人間には悪いヒトはひとりもいないっていうの!?」
ふとマルタの脳裏に浮かびしは、エミルの言葉。
自分たちのことを棚にあげ、すべてハーフエルフを害とするその考え。
これまでの旅でもそのようなことを幾度もみてきた。
テセアラなどではハーフエルフは家畜以下の扱いで。
ここ、シルヴァラントによく出没している盗賊や夜盗などはハーフエルフでも何でもなく。
ふつうの【ヒト】でしかないというのに。
なのに、そんな自分たちの同胞のことを棚にあげ、すべての責任を押し付ける。
それがヒトの浅ましさ。
「これだから人はおろかだというのだ」
ユアンもまたそんな村長の言葉をきき吐き捨てるようといいはなつ。
こういう人間をみるたびに、やはりヒトを救う必要はないだろう。
その思いはどうしてもユアンの中からも拭い去りきれない。
否、どちらかといえば逆にヒトがいなくなってしまったほうが楽かもしれない。
あのとき、精霊の決定をきいたとき。
人類の救いはそこにしかもうない、そうおもったあのときのように。
この場にいるものたちは、一部を除きユアンの正体をしらない。
だからこそ、そんなユアンのつぶやきに気を留めるものはいない。
「あのなぁ!さっきから黙ってみてきいていれば、勝手なことばかりいいやがって!」
さすがにそんな村長の言い分はこれまで黙ってというか、
何が何だかわからずに見守るしかできていなかったロイドが口を挟む。
なぜこの村長はいつもこうなのだろうか。
これまでも何かがあれば、すぐにその罪を誰かになすりつけようとしていた。
それは旅にでる前から行われていた。
「先生もジーニアスも確かにハーフエルフだけど…だから、何なんだ!」
ざわり。
そんなロイドの言葉に一瞬人々がざわめきをます。
ほとんどの村人たちは、村長がまたわけのわからないことをいいだした。
そうとしかとらえていなかったのに。
そしてそれはこの場にいた牧場から逃げ出していた人々とて同じこと。
しかし、それを第三者が肯定してしまえば、わけのわからないこと、ではなく、
それが真実であることを暗に指し示しているといって過言でない。
ロイドはいろいろな意味で自らが失言したことにすら気付いていない。
村長の言い分に頭に血がのぼっているがゆえ、
自分の言動がどんな結果をもたらすのか、まったくもって考えてすらいない。
「ハーフエルフにだっていいやつがいれば人間だってわるいやつはいるだろ!
  トリエット付近にでてきた盗賊みんな、どうみてもふつうの人間だったぞ!!」
いきなり人が襲ってきたときのあの恐怖。
コレットたちを追いかけていたときのあのときのことをロイドは忘れてはいない。
そして、これまでの旅の中でも、いい人もいれば悪いヒトもいる。
エルフにしてもしかり。
十人十色の諺にあるように、種族がどうだから、という理屈は通用しないのだ。
それを実感としてロイドは本能的にと理解している。
それを口にして説明しろといえばロイドはまちがいなく言葉につまるであろうが。
「ふん!だまれ!そもそも子供が何をいうか!
  そもそも、お前のようなドワーフに育てられたよそものが
  神子の旅についていったのが失敗の原因だ!
  救いの塔は化け物にて覆いつくされるは。至るところから大地から火がふきだすわ!
  あげくに薄汚い収容人たちまでこのイセリアにやってきた、だと!?
  しかもそれがお前たちがついていったばかりに旅が失敗したせいで、だ!」
牧場が壊滅しているらしきことは喜ぶことなのかもしれないが。
彼にとって理由はそれだけ、ではない。
かつて、ロイド達に言い放った言葉。
牧場の人間などほうっておけば死ぬのだから助ける必要はない。
そういったあの言葉。
ロイド達が村を追放されたときに言い放った言葉はいまだに彼の中では健在。
「ああ、まったく。よくも善良なわしら人間をひどい目にあわせてくれるものだ!」
「はん。善良、ねぇ。いい加減にしなよ。あんた?何から何まで文句をつけて」
それまで黙って様子を学校の中からうかがっていた数名の人物。
貫頭衣をきている男性と女性。
その言葉にあきらかに侮蔑に近しい含みをもたせつつもゆっくりと建物の中からでてくる。
「き、きさまらは…」
「あんたが善良?わらわせてくれるな。旅業の一環でこの地によったわれわれ。
  それをディザイアンにひきわたしたのはどこのだれだ?」
「・・・・・な!何を根拠にっ!」
「言い逃れ?それとも村人たちには知らしたくはないのかしら?でしょうねぇ。
  イセリア村の不可侵条約。村人には手出ししない。
  そのかわり、牧場にも手出ししない。
  私たちからしてみればよくもそんな条約をとりつけられた、とおもってたけど。
  何のことはなかったわよね。私たちのような旅業のものを、
  定期的にディザイアンたちに引き渡していたんだから」
冷たい視線と言葉がそれまで叫んでいた村長にと投げかけられる。
「人間ひとりにつき、十万ガルド、たしかそうだったわね」
ざわり。
その言葉にその事実を知らなかった村人たちに動揺が広がる。
「そりゃあ、平和であったでしょうね。あなたのようなものが裏で通じているんだから」
「だ、黙れ黙れ!よりによって、行き場のないお前らをおかしてやっているこの私に!
  よくもまあそんな口がきけたものだな!」
「よくいうぜ。あんたは俺たちを着の身着のままほうりだせ!
  といまだにさけんでたじゃないか。
  ブルートさんがいなけりゃ、あんたはそれを実行していた。違わないだろう?」
事実、彼らがこの地にやってきたとき、ブルートがいたからこそ、
彼らはそのまま村で保護という扱いをうけていたが、
彼がいなければ間違いなく村長は放り出していただろう。
それこそ数日もしないうちに。
「何から何まで文句をつけて、その裏ではディザイアンに通じていた。
  あんたこそヒトではないんじゃないのか?」
「……それは、まことなのか?スカーレット?」
それまで黙っていたブルートが出てきた人物にと視線をむける。
その二人はブルートとて面識がある。
かつて、旅業にでたまま行方不明になっていた、パルマコスタの住人のうちの一人。
スカーレット夫妻。
彼らは冒険家、としても有名で、万が一にも何かがあることはありえない。
なら、そのまま冒険にでもいっているのだろうか。
そうおもわれていた彼らがよもや牧場にとらえられていたなど。
一体誰が想像したであろう。
実際、ブルートも牧場から逃げ出してきた彼らを誘導していた二人の姿をみて、
驚いたのはいうまでもなく。
「ああ。ご丁寧に俺たちが参加していた旅業のやつらに、
  ディザイアンの奴らが説明してくれたぜ?
  しかも、これまで村に避難してこようと連絡をとってきていたものたち。
  それらの情報もすべてディザイアンたちに渡して、
  この村にたどり着く前に彼らにとらえさせていたらしいじゃないか。
  そんなこいつが善良?はっ。笑わせてくれる」
しかも、ディザイアンのひとりがいっていたが。
あのドアがディザイアンと通じるきっかけになったのもこの男のせいだ、という。
イセリアの村長もわれらに協力しているのだから、
きさまもわれらに協力するのに何ら躊躇する必要はあるまい?
そういわれ、内々に調べそれが事実だとわかり、
ゆえに、神託の村として有名な村の村長ですらディザイアンに通じているのなら、
自分も通じても問題はない。
そのように自分自身に言い聞かせ、ディザイアンの一味になることを選択したドア。
彼らの話をきき、ブルートの脳裏にもドアのことがふとよぎる。
パルマコスタの総督であったドアもまた、ディザイアンにと通じていた。
よもやこの地までそのようなことになっていようとは。
ゆえにブルートは顔をしかめざるをえない。
そしてまた、初耳であったのかファイドラもまた顔をしかめているのがみてとれる。
村人たちなどは驚愕した表情をうかべ、
ブルートにスカーレット、とよばれし男女と村長とを幾度も見比べていたりする。
「このイセリアに避難して移住しようとした人々は皆、
  先にきちんと報告をしたものたちはすべてディザイアンの待ち伏せをうけ、
  すべてのものが捉えられているらしいわ。
  たしか、十数年前に一家族、取り逃がしたとかいっていたけども」
おそらくとらえたものたちをより絶望のふちに追い込むための彼らの会話なのだろうが。
「たしか、何でもアスカード牧場からかつて逃げ出していた女性とその子供。
  そしてその夫、だったか?きちんと移住許可証をもらって移動していたらしいが。
  その許可証こそ居場所を特定する印になっているとかいっていたな」
おそらく調子づいたのだ、とはおもう。
彼の質問にディザイアンたちは下卑た笑いを含ませつつも
ご丁寧にそんなことをいっていた。
そして、妻は死に、その息子は今は手配をかけている、と。
「たしか、そのとき取り逃がした息子も今は手配をかけているとかいっていたわね。
  十数年ぶりにその生存が確認できたからとかいっていたけど。
  たしか…その名前を……」
まさか。
思わずそれが誰を指示しているのか気づき、思わず顔を見合わせるリフィル達。
それ以上はいわせてはいけない。
十数年前。
そして、息子が手配をうけている。
どう考えてもたった一人しか思い浮かばない。
それも信じたくないが、コレットたちにとってとてつもなく知っている人物しか。
「そ、それより……」
どうにか話題をかえなければ。
そう思い、リフィルが声を出すのと。
「…なるほど。あのとき、なぜクヴァルのやつにわれらの居場所がわかったのか。
  あのときからずっと不思議でならなかったが。あなたの仕業か」
低い、とてつもなく低い声が、リフィル達の背後のほうから投げかけられる。
「く…クラトス殿!?」
そう叫んだのは村人のうちの誰か。
コレットの護衛として雇われていたクラトスを幾人かの村人たちは知っている。
「百万ガルド用意できれば、定住を許可する。そのようにつなぎのものが手紙を託してきた。
  そして私はきちんとあのとき、ネコニンギルドをつうじ、お金をはらった。
  が、村に向かう手前でクヴァル達にと彼女たちはとらえられた」
しかも、自らにはウソの情報までつかまされ。
ゆっくりと、村長のほうにあるいてくるクラトスの手は剣の柄にとそえられている。
その雰囲気はただごとではない。
自然とクラトスから放たれる雰囲気におされてか、
村長達を取り囲んでいた人々が、すっとまるで道をつくるかのように左右にとよける。
ロイド達はここにいるだろう。
そう思い、たちよった村でよもやこんな会話がきけるなど。
ずっとなぜ、とおもっていた。
どうして自分たちが進むルートがクヴァルにばれたのか。
念には念をいれ、見つからない道を選んでいた、というにもかかわらず。
「クラ…トス?え?クヴァルって…まさか……」
息子が手配をうけている。
今、目の前の学校からでてきた人物はディザイアンたちがそういっていた。
そう確かに今いった。
それは十数年前に取り逃がした家族のひとりのことだ、とも。
まさか、いや、そんな、まさか。
嘘だ、といってほしい。
そのことに気づいてしまったがゆえに、ロイドもまた思わずかすれた声をふと漏らす。
「あのとき。私はどうしても抜けられない用事ができ、
  あの手紙を彼女に託し、彼女たちだけでこの村にむかわせた。
  …まさか、そのようなからくりがあったなど、今の今まで知りもしなかったがな」
それは、クラトスがクルシスから抜け出してのち、
フォシテスの気まぐれで始まったことでもあり、クラトスは知らなかった。
クルシスにもどってからも、そんな末端のことまでクラトスの耳には入らなかった。
「彼女をうったのは、きさまか!」
それは、まぎれもない怒り。
すらり、とクラトスの剣がその鞘から解き放たれる。
「よせ。クラトス」
そんなクラトスを制するように、ユアンがクラトスの前にと移動するが。
「邪魔をするな。ユアン。こいつはクヴァルにつづき許してはおけん」
そんなユアンに対し、クラトスがきっぱりと言い放つ。
まさに一色触発といったような雰囲気が二人の間にわきおこる。
しばし、クラトスとユアンがにらみ合うそんな中。
「今の言葉はまことですかな?」
鋭い視線とともに、ブルートが村長にと問いかける。
疑惑と懸念。
様々な感情が入り混じった視線が自らに向けられているのに気付いたらしく、
「はんっ。わしはこの村を守る義務がある。村人を守る義務がな。
  いちいち亡命したいというものたちを受け入れていては、
  この村の平和が脅かされてしまう。そもそも神子がうまれたゆえに、
  ディザイアンに襲われないように、といってきたのは、
  そちらの町のマーテル教会であろう?ブルート殿。
  それにわしがしていることはかわいらしいものだ。
  村人たちには被害はだしていないのだからな。そちらと違って。
  それに、亡命しようとしているものは、一時にしろ夢がお金でかえるのだ。
  わしは何も間違ったことはしておらぬ。
  そちらの亡き総督がしていたことにくらべればなっ!」
あきらかに開き直っているともとらえられるその言葉。
しかしその言葉をきき真実を知っているものは何ともいえない表情を浮かべるしかない。
一方、
「パルマコスタの総督といえば、ドア総則のこと…だよね?」
「たしか、先の牧場襲撃にて命を落としたとか……」
村人たちから困惑したような声が誰ともなく発せられる。
彼らは旅業者、もしくは行商人たちからパルマコスタで起こった出来事。
表向きに信じられている出来事を一応はきいている。
ゆえに、自分たちの村長が何をいいたいのかまったくもって理解不能。
「わしらには力がない。しかしわしは村を守る義務がある。
  村人たちを守るには、誰かを犠牲にするしかあるまい?
  所詮は亡命してこようとしてくる奴らやよそにすむ旅業者達。
  牧場に連れていかれ命をおとしてもわしらの村はそれで平穏が保たれる」
「そんな…そんなの間違ってます!」
「黙れ!この出来損ないの神子め!そもそも神子とはいえ所詮は不義の子。
  お前が生まれたせいで、この村に被害を及ぼさぬようにしろ、といわれ、
  わしがどんな思いをしたかおまえはしるまい!」
不義の子。
ここイセリアでまことしやかに信じられていること。
神子は天使の子であるがゆえ、フランクの実の子ではない、という噂。
しかしそれはここイセリアでは噂ではなく真実として皆が皆信じ切っている。
「所詮はおろかな人間でしかないな。イセリアの村長よ。
  歴代、神子は人間から天使に生まれ変わりはすれど。
  はじめから天使の血などひとつもひいてはおらぬというのにな。
  神子に必要なのは、何よりもマーテルとの融和性。
  マーテルにもっとも近しいそのマナが必要不可欠。
  お前たちがなぜ神子をわれら天使との間の子と勘違いしているのかはしらぬがな」
そんな村長の台詞にちらり、と視線をむけ、冷めた口調で淡々といいきるユアン。
「…何をばかな」
「きでんは?」
そんなユアンの言葉を一笑に付したわごと、と吐き捨てるようにいう村長に、
ユアンの物言いに思うところがあったのか、逆にユアンにと問いかけているブルート。
クラトスは知っている。
たしか、神子の護衛として雇われた傭兵、であったはず。
しかしこの青い髪の人物にブルートは心当たりはない。
しかも、今の言い回しではありえない可能性がどうしても脳裏をよぎる。
「そういうそちらは、シルヴァラント王家の血筋をひくものか。
  わたしはユアン。クルシスの四大天使の一人であり、テセアラを見守りしもの」
管制官、とはいわないのはユアンなりの思惑ゆえ。
ばさり、とそういいきったユアンのその背に薄く輝く翼が展開される。
薄く輝くその翼は薄桃色であり、コレットのそれとよく似ている。
「「な!?」」
光り輝く翼は天使の証。
それを目の当たりにし、驚愕の声をあげている村人やこの場にいる大多数のものたち。

「クルシス…まさかそんな……」
クルシス。
それは女神マーテルにつかえし天使たちを指し示す言葉のはず。
ゆえにブルートも絶句せざるを得ない。
「このたび、永き衰退世界を再びよみがえらせるため。
  本来ならばわれらクルシスの天使は人界に直接かかわるようなことはないのだが。
  慈悲ぶかき天の采配により、我が同胞たる四大天使がひとり。
  このクラトスがシルヴァラントの神子コレットの護衛にあたっていた。
  このたびの神子はこれまでの神子がなしえなかった最後の試練。
  それらを乗り越え、大樹カーラーンの芽吹きの試練という大役をこなしていた。
  私がここにいるのは、そこのテセアラの神子の護衛のようなものだ。
  もっとも、二つの世界における二人の神子の尽力と、
  その仲間たちの努力もありてようやく芽吹いたはずの大樹は、
  あの声がいっていたようにお前たち地上の人間たちのおろかなる思考の集大成。
  それらの穢れによりてあのように歪に発芽してしまったようだがな。
  おまえたちが互いを互いに認め合い、マーテルの教えのとおりに、
  誰もを平等にあつかっていれば、世界は真の意味で再生されたであろうに。
  そこのこの村の村長のように自分たちだけがよければいい。
  そんな傲慢な考えをもつものが大多数であったがゆえに、
  今、この世界の異変は起こっているとしれ」
あの声とそして今の現状。
真実をいうよりは、どちらにしろ原因はおろかなる人間たちのヒトの心にあるのは事実。
ならば、それを突きつけるようにして話をねつ造し、
真実ではないが完全にウソではない説明をしたほうがてっとり早い。
ミトスほどではないにしろ、ユアンもそういった想像における創作物にはたけている。
そしてその背に天使の翼を展開させつつも、
「まさか、ヒトの中にありてマーテルと最も融和性の高いマナの血族。
  その血族が住まいし村の村長がこのような輩であったとはな。
  よもやわれら天使の身内をディザイアンに売り飛ばしていようとは」
ディザイアンとクルシスが同じ組織であることを人々に気取られるわけにはいかない。
唯一、それに対して突っ込みをしてきそうなロイドはといえば、
先ほどの言葉が脳内をかけめぐっていたりする。
さきほどの村長の言葉と、そしてクラトスの言葉。
それらを統合してみれば、そして。
信じたくはないが、わかってしまった事実。
あのとき、禁書の中でみたあの優しいまでの暖かな日常。
もしかしたら、この村長が自分たち家族のことをディザイアンに告げなければ、
無事にこの村にたどり着いていたとするならば。
あの幻における日常が真実になっていたかもしれない。
それに気づいてしまったがゆえに、ロイドは混乱せざるをえない。
混乱しているからこそ、ユアンのいっていることが嘘だ、といつもならば、
何も考えることもなく鋭く突っ込みを入れているところではあるが、
今のロイドにはそんなユアンの台詞はきちんと耳にはいっていない。
ユアンもあのときのことは疑問に思ってはいた。
が、ユアンが管理しているのはシルヴァラントではなくテセアラ。
ゆえに、強く調べることができなかった。
まあ、部下たちに命じ、自分なりに調べはしていたが、それでも詳しくはわからなかった。
そこまで手を回す余裕がなかったといってもよい。
何しろクルシスに戻ってきたクラトスは生きるしかばねのごとくに成り果てており、
そんなクラトスのフォローもすべてユアンの身に降りかかってきたのだから。
「何をバカな。その男はただの金目当ての傭へ……」
金目当ての傭兵。
そう言いかけた村長の目がはたから見てもわかるほどに見開かれる。
みれば、ユアンが翼を展開したのをうけ、クラトスもまた、
防御とばかりにその背に青い翼を展開していたりする。
そんなクラトスの姿をみてにやり、と内心笑みを浮かべつつも、
「クラトス。お前の気持ちはわからなくもないが。今はおさえておけ。
  今はあの歪んだ形で発芽してしまった大樹をどうにかするのが先、違うか?」
あえてユアンが翼をだしたのは、クラトスにもその背に翼をださせるため。
光り輝く透明な翼は天使の証でもあり、女神マーテルにより近い天使こそ、
このような透明な翼をもつ、とマーテル教の伝承ではいわれている。
なきにしもあらず。
真実、このような翼をもちし【天使】達は今をもってしても、
彼ら四人と歴代の幾人かの神子達しかいなかったというのもある。
もっとも、歴代の神子達はその力にまけてその身をほとんど輝石化させ命を落としていはするが。
村長の先ほどの驚愕ともいえる告白は、二人の天使たちの出現により、
人々はそちらのほうにきをとられそれぞれが目を見開いていたりする。
中にはその場にひざまづき、祈りをささげだしているものの姿すら。
そんなユアンの言葉をうけても、クラトスは剣の柄に手をかけたまま。
まさにすぐさま今にも剣を抜き放ちそうな勢いであるが。
「それに。われらが手をだす必要もあるまい?
  どうやらこのものいいでは、このものに陥れられたものたちもこの場にいるようだしな」
おそらくは彼らだけ、ではありえないであろう。
実際、意識をすれば
建物の内部より村長にむけて鋭い視線がいくつも向けられているのがうかがえる。
ざっと人数を把握するに数十人はいるであろう建物内部の人々。
その中の何人かはわからないが、すくなくともひとりや二人、ではないであろう。
ならば自分たちが手を下すまでもない。
この現状では人々は勝手にこの人間を弾糾し糾弾するであろう。
つまりは余計な手間をかける必要はない、ということに他ならない。
そんなユアンの言葉にクラトスも建物の内部より村長にむけて鋭いいくつもの視線。
それらをむけている人間たちに気づいたらしく、そちらをちらり、とみたのち。
「私としてはその男を生かしておきたくはないのだがな。
  その男が奴らに通じてさえいなければ、アンナは……」
自分がたとえミトスと刺し違えた形になっていたとしても。
二人が無事であるならばそれでいい。
そうおもっていたあの当時。
だからこそ、クラトスはユアンの言い分はわかりはすれど、納得できるものではない。
「われら天使の身内に危害を加えたのだ。
  そのあたりのことは、このたびの一件がおわってからでも追及はおそくはあるまい?
  今はまず、あの歪んだ形で発芽している大樹だ。
  私はこれより部下たちと連絡をとり、作業にとりかからねばならん」
ここからトリエットの施設までそうは離れてはいないはず。
大陸の位置などは変わってしまってはいるが、空から移動していけば、
シルヴァラントベースまでそう距離はない。
通信システムが使用不可能であるがゆえに直接でむいてゆくしか方法がない。
「いや。ユアン。先ほどまでわれらが計画していた案はどうやら使えそうにない。
  ここにくるまでに確認してみたが、魔導砲は海底火山の影響で消滅してしまっている」
「…何?」
今、優先すべきは何なのか。
ユアンにいわれ、たぎる思いを何とか押し殺し、
とりあえずこの場にきた目的。
すなわち、
魔導砲が海底火山にて消えてしまっていることをひとまず伝えるべく一呼吸し、
「つまり、アレにマナを叩き込んでどうにかする、という案は無理、ということだ」
  このままでは時間は残されていない。ロイド。
  トレントの森にてまつ。もっともこのまま指をくわえて世界が消滅するのをみる。
  というのもお前たちに残されている一つの手ではあるがな」
魔導砲が使用不可能である以上。
オリジンを解放するくらいしか方法がおもいつかない。
異界の扉からその内部に入ろうとエンブレムを握り締めてみたが、
内部にはいることはできなかった。
かつてできていたことができない、ということは、
つまりそれはかの地を管理するものにはじかれているということに他ならない。
センチュリオン達はそのようなことはできないはず。
だとすれば、確実に精霊ラタトスクは目覚めている。
目覚めた上で自分たちデリスエンブレムを授けているものが、
ギンヌンガ・ガップへの出入りを禁止したとしか思えない。
もう、時間は残されてはいない。
だとすれば、あの大樹もどきもかの精霊がかかわっている可能性が高い。
本気でかつていっていたように地上の浄化をしようとしているのかもしれない。
このままここにいれば、まちがいなく。
感情のままにイセリアの村長を手にかけてしまうであろう。
今現在、彼の手によりディザイアンたちにつかまっていた人々。
そんな彼らを差し置いて過去の恨みをこの場で晴らすというのは、
天使、という正体を知られてしまった今、それはあまり得策ではない。
いまだに村長はユアン、そしてクラトスの背にはえたままの翼をみたまま固まっており、
何かいおうとしてはいるのだろうが、口をぱくぱくとさせているが声になっていない。
「トレントの森?今この状態であちらに移動が可能なのかしら?」
リフィルとしてはそれが気にかかる。
ここにくるまでテセアラの大地は幻、としてたしかにそこにある。
幻として目の前にありはしても決して触れることのできないリアルな幻として。
「――救いの塔に近づくことはできぬであろうが。
  かの地は立体化した幻のようになっている。あの地から移動は可能だ。
  事実、ここにくるまであちらに移動して確認してきたらかな」
リフィルの問いかけにそれだけこたえ、そのまま背をむけ、
ばさり、ともう何もいうことはないとばかりに空にととびあがる。
「ま、まてよ!クラトス!今、いってたのは……」
クラトスが空に飛び上がったのをうけ、はっと我にともどったように、
おもわずロイドが呼び止めるが。
「…世界を救いたければオリジンを解放するのだな」
それだけいいはなち、そのまま一気に空高く飛び上がり、
あっという間にクラトスの姿はみえなくなってゆく。
「…魔導砲が使えない、だと?ひとまず私はその事実確認に赴くことにする」
いって、そのままくるり、とむきをかえ、ユアンもまた飛び上がろうとするが。
「お待ちくだされ。天使さま」
それまで黙っていたファイドラが一歩前にと進み出て、そんなユアンを押しとどめる。
「何だ?」
「これだけは確認させてくだされ。神子が天使の子だというあの伝承は……」
「いつのまにかそのように人々が誤解したにすぎん。
  神子とは人の中にありて、よりマーテルと融和性が高き人間。
  そんな融和性…相性がいいであろう人間たちを選び、われらは常に神託を下している。
  今回のシルヴァラントの神子の夫にそこのフランクを指定したようにな。
  フランクの血筋がはいることにより、
  より今回の神子は完成された神子として誕生にいたったまで」
そして、それはゼロスの誕生においてもいえること。
「――われら天使はいまだかつて子供をもうけたという話は聞いたことがない。
  ただ一人を除いてな。それは我ら天使が誕生してからこのかた、
  われらの血をひきし子供というものは誕生すらしていなかったが。
  唯一の例外というものがおこりえてはいるが。
  神子はヒトでありながらわれらが試練を乗り越えて天使として再生しているにすぎん」
いまだかつて子供をもうけたという話はきいたことがない。
ただ一人の例外。
思わずはっとしたようにロイドをみるジーニアス。
ユアンはさらり、とあるいみで爆弾発言をしていることに気づいてはいない。
さきほどのクラトスの反応からそのただ一人の例外。
まさか、と幾人かの人々もまた思わずロイドをみる。
クラトスが何気につぶやいた、村長に売られたらしき女性の名。
あの傭兵であるクラトスがよもやクルシスの天使だとは夢にもおもわなかったが。
だがしかし、たしかに彼はこういった。
アンナ、と。
それはたしか、ロイドのなくなった母親の名前ではなかったか。
幾人かの村人たち、特に女性の村人たちはロイドの母親の名を知っている。
いるからこそ戸惑わずにはいられない。
噂を利用し、神託の役割をうけていたレミエルは、
コレットに自分が父であるようなことをにおわし、意のままに扱おうとした。
それは神託の儀式のときあの場にいたものたちが知っている事実。

「――最悪な可能性としてクラトスのいっていたように、
  魔導砲が本当に失われてしまっているとすれば。
  あれをどうにかする方法は失われてしまったといってもよい。
  何か方法はないか私のほうはほうで探してみる。
  …もっとも、クラトスのいうように、オリジンの解放は避けてはとおれないがな」
そう、避けてはとおれない。
このような不安定のままでは地上がどうなってしまうかわからない。
それこそ次元の乱れにより大陸すべてがきえてしまったり、
もしくはかつてかの精霊がいっていたかのように、世界すべてが海にと還る。
その可能性もなくは…ない。


ばさり。
翼を展開し、ユアンもまた飛び去ってゆく。
やがて遠のいてゆく天使の姿を見送りつつ、やがてはっと我にともどったように。
「……天使さまがたが神子様とともにおられたということは。
  やはり、あの言葉は……」
あの謎の声は彼にも聞こえていた。
だからこそ、彼…ブルートはつぶやかざるをえない。
しかし、今はそれよりもまず先に。
「イセリアの村長よ。先ほどは天使さまたちのこともありきちんと問えなかったが。
  きでんは本当にこれまで、人々をディザイアンたちに売り渡していたのか?
  返答はいかに!」
さきほど、中断してしまったといかけを再び村長にむけて問いただすブルート。
これだけはしっかりときいておかなくてはならない。
だとすれば、パルマコスタにつづきここ、イセリアまで。
人々が知らなかっただけで実質ディザイアンたちの支配下におかれていた。
最悪ともいえる出来事が起こっていたということになる。
「…そういえば、ルインの町長は殺されたっていってたけど、まさか……」
それはディザイアン達の支配下を拒んだゆえに殺されたも同意語。
「よそものがしったような口をきくな!何が王家の末裔だ!
  つまるところは所詮、ブルート殿。あなたも私と同じだ!
  パルマコスタの民がディザイアンたちに引き渡されていたのを知らなかったわけではあるまい!
  わしは村人を守る義務がある!村人を守るためによそものを犠牲にして何がわるい!
  同じ町の人々を犠牲にしていたあんたたちにいわれたくはない!」
それはブルートにとってはある意味では禁句。
おかしい、とはおもっていた。
しかし確証がもてなかった。
もっと早くに自分が行動していれば何かが違ったのかもしれない。
ドアのことを見抜いたのは神子達一行。
毎日の日常と激務に追われ、ドアを追及することができなかった。
おかしい、とは感じていたというのに。
義勇兵を向かわせ奇襲のはず、なのにそこにディザイアンたちが待ち伏せしていたりとか。
とどめはなぜか遠方に兵士たちを演習という名目でドアが指定したときにかぎり、
町にディザイアンが入り込んでいたりとか。
カカオの処刑のときが決定的といってもよい。
結局は彼が行動を起こすよりも先に神子一行が解決してしまったのだが。
ドア総督の死、という結果をもって。
「わしはこの村の村長としてこの村を守る義務がある。
  ゆえに村をまもるためによそものを排除して何がわるい?」
自分は悪くない。
そもそも、
「どうせ牧場に連れていかれたものは死ぬ運命になるのだ。
  死ぬ前に夢をみさせてやっているやさしさに感謝してほしいほどだ」
本来のいつもの彼ならば何が何でも否定して、
あげくは怒鳴り散らし、自分はわるくない、と逆にその罪を他者に擦り付けていたであろう。
しかしそんなことにはなっておらず、実際はそのようなことを言い放っていたりする。
自分の心のうちを、本心を口にするたびに体がとてつもなく軽くなり、
またこれまでになかったような力がわいてくるような。
そんな感覚に村長自身は今現在陥っていたりする。
ある意味力に酔いかけているがゆえに、そのまま思ったことを口にしているといってよい。
彼の体にまとわりついている黒い靄のようなものがより鮮明になり、
その靄がだんだん再び体に吸い込まれていることに当人はいまだ気づいていない。
そんな村長の言い分にそれが事実だ、と理解してしまったのであろう。
先ほどの天使…クラトスとユアンの正体をしり一時固まっていた人々が、
ようやく再び起動しはじめる。
そんな人々がはじめにしたのは、自分はいかにもわるくない。
といわんばかりのものいいで、村を守るために他者をディザイアンに引き渡していた。
と完全に認める発言をしている村長にむけた何ともいえない表情。
それは間違っている。
そう理屈ではわかるが、しかしその犠牲の上で自分たちの命が守られていた、
というのならば。
村人たちの思いは複雑。
自分たちの命のかわりに牧場に連れていかれていた存在達も大多数いただろう。
が、彼らは心の底から牧場にいるものたちはどうせ死ぬのだからどうなっても関係ない。
そう思っていたのもまた事実で。
「…あのとき、村長がいっていたのは紛れもない事実だったってことなんだ……」
あのとき、ジーニアスは感情のまま、村長達に問いかけた。
――村を守るためなら人間牧場のヒトは死んでもいいの!?
と。
そんな村長の言葉をきき、目をそらすとある女性。
彼女はかつて、ジーニアスたちにいったことがある。
人間牧場のヒトは死んでもいいの!?といったジーニアスに対し、
――どうせ牧場の人間なんてあそこで朽ち果てる運命じゃないの、と。
まるで他人ごとのように、自分たちには関係ない、とばかりに。
しかしそんな牧場の人々が自分たちの命のかわりに連れていかれていたとするならば。
知らなかった、ではおそらく通用しない。
本当に知らなかったとはいえ彼らの命で村人たちが村長の今のいいまわしだと、
あのときまで蹴撃されることもなく平和であったのも事実なのだから。
「そもそも、よそもののあんたたちがいうから!
  厄介ごとでしかない牧場からの脱走者たちを今はおいてはいるが、
  こちらとしては今すぐにでも全員追い出したいところなんだからな!
  それにくわえ、出来損ないの神子までもどってきたとはな。
  そもそも、おまえが余計なことをしでかしたからこのようなことになったのだろう!
  最後の試練?それを乗り越えた?ばかばかしい。
  おとなしく、これまでの歴代の神子のように、
  その命をマナとしこの世界を救っておけばよかったものを。
  おおかた命おしさにおとぎ話の大樹とかいうのを復活させるという天使の誘惑。
  それにのっかったけっかがあれであろう!」
はじめの言葉はブルートにむけて、そしてなぜかその矛先はコレットにとむけられる。
「このできそこないが。わしはごまかされんぞ!
  そもそも、神子はその命と引き換えにして、その命をマナにとし世界を再生させるもの。
  そのために生まれてくる神子だというのに。おめおめと生き恥をさらしおって。
  おおかた今現在の異変も貴様が素直に命をささげなかったからこそ起こっているのだろう!?
  やはりドワーフに育てられたよそものや、エルフと偽っていたハーフエルフ。
  そんな輩とつるんでおった神子を信じていたわしらがおろかだった。
  世界を救いたいのなら、今からでも遅くはない、いますぐに死ね!
  そしてその命でもってしてこの世界をすくってみせろ!それが神子の役目だろうが!」
「……そ、それは……」
村長の言葉にコレットは言葉を詰まらせるしかできない。
「ひどい!そんないいかた!そもそも神子にばかりすべてを押し付けているのは、
  あんたたちでしょう!?何もかも、自分たちに都合が悪いことがあれば、
  すべて神子のせいにして!自分たちどうにかしようとはおもわないの!?」
マルタの言い分は至極もっとも。
そもそも神子が怪我をしようがどうしようが、人々はその血でもってして
自分たちの災いが取り除かれるのだから神子がどんな状態でも関係ない。
ほとんどの存在がここシルヴァラントにおいてはそのような考えに陥っている。
特に大人たちや少しでも権力に近しい何かをもつものたちは。
かつて、ルインにてコレットがかなり怪我をおっているのがまるわかりなのに、
神子の使命ばかりを優先させ休ませようとさせなかった人々のように。
「だまれ!よそものが!わしはこの村を守る義務がある!
  ありもしない血筋をかさにきているものらの話など誰もきくものかっ!
  おまえらのせいでわしら善良な人間はひどい目にあっているのだからな!」
「はんっ。あんたのどこが善良だっていうんだよ?
  あんたのせいで命をおとした奴らにもあんたはそんなことをいえるのか?」
冷たいまなざしがスカーレット、と呼ばれた男性から投げかけられる。
「ったく。ピーチクパーチク、うるせえなぁ。弱いものほどよくほえる。
  自分に非があるものほど口が達者になるとはよくいったものだな。
  何から何まで自分の責任すら他人におしつけて文句をいうとは。
  あんた、ろくでもない人でなしだな」
ふとみればロイド達とともにやってきていたはずのアイフリードもまた、
この場にとやってきていたらしく、腕をくみつつも、一歩その足を前にと踏みだしている。
ほぼ村長と向かい合うあたりにまで歩み出て、腕をくんだまま相手、
すなわち村長にむかい冷めた視線を投げかけつつ、
「あんた、口以外はまともにうごかないんじゃねえのか?」
「お~。意見があうねぇ。俺様もそれには同感。
  そろそろ俺様も我慢の限界がくるとこだったぜ」
「うるさい、うるさいうるさい!よそものが!しかも海賊風情がこのわしにむかって!
  このわしを誰だとおもっている!!」
「ただの口しかうごかない小汚い小物だろうが」
「違いない」
わめき叫ぶ村長の言葉にきっぱりといいきるアイフリード。
そしてそなアイフリードに追従するようにこれまたきっぱりいいきるゼロス。
「最低、ですね。生まれや育ち、その人にとってどうにもならないことを
  あげつらねて、傷つける…あなたこそ人では…ないです」
プレセアにしては珍しく相手をさめきった視線でひたりと見据える。
そんなプレセアの言葉に反応してか、それとも目の前における村長の態度に幻滅してか、
この場に集まっていた村人たちもまた、村長に対し蔑んだような視線を投げかける。
「うるさいうるさい!よそものが!ここはディザイアンとの協定を結んでいるのだ!
  わしには村を守る義務がある!よそものの命などしったことか!
  わしらの村さえ無事であればいいんだ!そうだろうがっ!」
『・・・・・・・・・・』
あきらかに自分勝手ともいえる村長の台詞。
自分たちの安全が他人の命で守られていたなど、村人たちは今の今まで知らなかった。
知ろうともしていなかった。
が、今は知ってしまった。
知ってしまったがゆえ、自分たちさえよければいい。
そのようなことはいえはしない。
また、思うこともできない。
ゆえに村長の言葉に村人の誰もが答えることはできはしない。
これまで確かに、彼らは牧場の人間などどうなってもいい。
自分たちとは関係ない、とばかりにおもっていた。
あのとき、村が襲われたのはロイドがディザイアンの牧場に、
その協定をやぶり関わってしまったからだと自分たちはわるくない。
そうずっとそれぞれ口にはださないが思っていた。
誰かに罪をきせて自分たちは悪くない、そう思っていたほうが楽でもあったがゆえに。
「ええい!何とかいわんか!誰がこれまでこの村を守っていたとおもっている!」
「ジーニアスは村で一番頭がいいんだよ。
  村長さんがしらない、いんすうぶんかいってのも知ってるんだよ」
大人たちが口を閉ざす中、小さな子供の声が静寂の中発せられる。
「リフィル先生はね。怒ると怖いけども、でも答えがわかると一緒に喜んでくれるの」
それは純粋であるがゆえの子供ながらの言葉。
子供ながらに村長が自分たちが慕っている人物。
すなわち、ジーニアスやコレットたちのことをよくいっていない、
というのは何となくだが理解ができている。
子供というものは大人が思っているよりも周囲をよくみて自分なりにと考えているもの。
「ロイドはお勉強はできないけど。村で一番つよいよ?
  僕、前魔物におそわれたとき助けてもらったもん」
大人たちにかわり答えているのは年端もいかない子供たち。
もっとも、魔物に襲われた、というのはそれなりに理由があり、
この子供が魔物たちの巣を荒らしてしまったからなのだが。
「コレットね~さまはねぇ。いつも転んでばかりなの。でもねなかないんだよ?
  いたくてもなかないんだよ?血がでててもなかないんだよ?
  だから、コレットね~さまはえらいの」
「「ね~」」
にっこりいいつつ、顔を見せ合う小さな子供たち。
この村に小さな子供たちはそう多くはない。
ゆえにこの村で生活する上で自然と子供たちは顔見知りとなる。
それに小さな子供からある程度の年齢に至るまで、
一つの学びの小屋にて皆が皆、勉学にと励んでいた。
年齢別にきちんと宿題や教え方を分けていたリフィルの敏腕さが
そのことだけでも証明されている。
「う、うるさいうるさい!子供が口をはさむんじゃない!」
「あんたよりよほど子供たちのほうがこいつらのことをみているな。
  子供の目は純粋だ。あんたの汚い思考なんか関係ないのさ。
  それに、ディザイアンとの協定だったか?
  すくなくとも、牧場がなくなった以上、そんなものがいまだに有効とでも?」
実際、アイフリードは知る由もないが、すでにこのシルヴァラントにおいて、
ディザイアンたちの拠点としていた施設は一つも残っていない。
残っていた絶海牧場、そしてイセリア牧場はこのたびの異変によって、
もののみごとに消滅してしまっている。
それも跡形もなく。
「そうよ!そもそも、村長だからって何だっていうのよ!そもそも、みんなだってそう!
  みんな神子やロイドやリフィルさんにばかり責任を押し付けて!
  みんな言いたいことばかりいって、何もしようとしてないしっ!」
ともに旅をしていたからこそいえること。
自分もパルマコスタにいたままだと、彼らだけに責任を押し付けようとしていたかもしれない。
純粋にドア総督を信じきっていたように。
だからこそマルタの言葉には実感がこもっている。
これまでの旅でも神子だから、という理由だけでコレットに難題がよくもちかけられていた。
ゼロスとコレット。
世界は違えどもそのおかれている立場は同じ。
「マルタ…成長したな…大人になった、ということか?」
ふとそんなマルタの言葉をうけ、
感慨深そうに何やらブルートがそっと、その目じりを押えている姿が目につくが。
娘がそのような考えにいたれるようになったのが親として誇らしくもあり、
またさみしくもあるがゆえに涙腺が少しばかりゆるんでいたりする。
「うるさいうるさい、うるさぁぁぃ!よそものが、しったような口を…きくなぁ!」
ブワリ。
マルタの言葉に呼応するかのように、村長の体にまとわりついていた黒い靄。
それが再びより一層より深く、村長の体の内部から湧き出すかのようにとまとわりつく。
『なっ!?』
そう短くもらした声は誰のものか。
黒い靄のようなものに体を覆いつくされた村長の体。
その体が見る間にと変化してゆく。
村長の胸元で何やら赤い光のようなものがほとばしるとともに、
「『わしに、わしに逆らうものは何ひとたりとてゆるさん!
   この村ではわしのいうこと、することがすべてただしいのだ!!』」
メキメキメキ。
村長のその背中に黒いコウモリのような、
否、骨のような何かがメキメキという音とともにつきだしてゆく。
その肩からは新たな首のようなものがはえ、そこに黒い顔のようなものが出現する。
中心にあるはずの村長の顔そのものはまるで黒に塗りつぶされたかのように一色に染まり、
右肩に突如として出現した首もどきのその先に村長の顔がいきなりぽつん、とあらわれる。
そしてその手は異様にのび、それとともに、バキバキバキッという音ともに、
一回りも二回りも一気に村長の体が膨れ上がる。


「うわ!?何がどうなってるんだ!?」
何がおこったのか理解不能。
理解不能でるがゆえ、思わず叫ぶロイドは間違ってはいない。
「何かまがまがしい気配を感じます」
「…何?あれ…わからない、けど、とてつもなくよくないものだよ!」
感じる気配はとてもまがまがしい。
どちらかといえば、あの禁書の中で感じていた気配によく似ている。
見ているたけで嫌悪感を抱くほどのまがまがしさ。
同じことを感じたらしく、プレセアがぽつりといい、
コレットも思わず目の前の変わり果ててゆく村長の姿をみて思わず叫ぶ。
「『わしに逆らうもの、また出来損ないの神子はわしが引導をわたしてやる!
   おまえさえころせば、世界はお前の命ですくわれるのだからな!』」
村長の口からくぐもったような声が発せられる。
しゃがれたような声と村長自身の声。
「な、なんだ!?」
「く。皆、ここから避難するんだ!!」
尋常、ではない。
いきなり姿がかわりその姿を目の当たりにし混乱する人々にたいし、
自身も一瞬あっけにとられてはいたが、すぐさまにとわれにともどり、
すばやく人々を守るべく指示をだしているブルートの姿。
「おいおい。その醜い内面のまま化け物になっちまったってか?」
そんな変わり果てた村長の姿をみて吐き捨てるようにいっているアイフリード。
村長が一歩足を踏み出すごとに周囲の草が一気にしおれたかとおもうと、
砂となり突如として大地にと崩れだす。
「これは…まさか、瘴気!?」
どこかで感じたことがあるような気がしていた。
あの書物の中でいやというほどに味わったいいようのない不快感。
どうしてそれがイセリアの村長から。
「先生!村長さんの胸元からより気配がつよくしています!」
黒い異形、形だけをいうならば、エクスフィギュアとよばれていたその姿と、
そしてあの書物の中でみたその背に翼を生やした異形のもの。
どちらにも似ていて、またどちらにも似ていない。
一つだけいえるのは、どうみてもヒトの姿ではありえない、ということ。
「このままでは被害が拡大してしまうわ!みんな、倒すわよ!」
「倒すって、だって先生、あれは村長…っ!」
「このままではこの村そのものがあの瘴気に侵されて、
  へたをすれば村人たちだけでなくここにいるすべてに影響がでてしまうわ!
  あなただってあの封印の中で変わり果てたものたちをみたでしょう!
  あれと同じような状態になるかもしれないのよ!」
「…で、でもっ!」
「『しねぇぇぇぇぇぇぇ!』」
リフィルにいわれてもロイドは決意がつかない。
そんな中、咆哮にもにた叫びとともに、いつのまにかその手に真っ黒い巨大なる大鎌。
それを手にした…どこからもってきたとかそういう問題、ではない。
村長の手そのものが大鎌にと変化しており、その変化はかつてのロディル。
絶海牧場にて対峙したロディルの姿を連想させる。
「くるわよ!」
「くそ…一体何がどうなってるんだよ!!!!!!!」
確かにさっきまでは何ともなかったのに。
いや、前兆はあったのかもしれない。
あの黒い人影が一時にしろ生まれ、
そしてそののちずっと彼の周囲を黒い何かがまとわりついていたのだから。
村長であったはずのそれが腕を振るうたび、その手から黒い霧のようなものが発生し、
それらは周囲の木々に触れるとともにあっというまに木々は枯れ果てる。
「くっ。フィールドバリアー!!」
あのくろい何かに直接ふれたら危険。
瞬時にそれを理解し、全体の防御力を高める治癒術を展開させる。
「防壁がいつまでもつかわからないわ!早急にどうにかしないと!」
「どうにかするって、どうしろっていうんだよ!先生!?」
たしかにほうってはおけない。
おけないが、どうしろ、というのだろうか。
何となくではあるが近づいたら思いっきり危険なような気がする。
でなければ、アレが手を振り回すたびにまき散らされた黒い何か。
それに触れた周囲にある竹という竹が瞬くまに黒く染まったとおもうと、
あっというまにぼろり、ともろくも崩れ去るような光景にはならないだろう。
どうかんがえてもあの黒い何かが関係しているとしかおもえない。
そんなものを生身の体でうければどうなるか。
考えたくもない。
「先生!あの胸元の石から強い黒い何かがわきだしてます!」
ロイドがリフィルの叫びに突っ込みをいれた直後。
ふとコレットがその視力でもってしてその事実にときづく。
よくよく目をこらさなければわからないが。
村長が胸元あたりらしき場所にもっている【何か】。
コレットの視線はそれが真っ赤な石であることをつかんでいる。
そしてそれはゼロスにもみえており、
「どうやらあれが原因っぽいな。ってことは、だ。
  あれを破壊すればどうにかなるんでねえの?あの赤い石もどきをどうにかするってな」
この場にクラトス、そしてユアンがいれば間違いなく口をそろえていったであろう。
村長がもちし石。
魔血玉デモンブラッド】と呼ばれる石である、と。
「とにかく。あいつをこれ以上動かさないように足止めする必要がある。
  しかし直接に触れるのも危険だ。とび技にて相手を足止めするしかない。
  ロイド、お前は魔神剣で相手を足止めして時間をかせげ!
  俺様の一撃で相手を一時的に封じるからそのすきに問題の胸元の赤い光をつらぬけ!」
おそらくこの黒い力のようなものは瘴気、なのだろう。
だとすれば、瘴気に対抗できるものはマナでしかない。
「よくわかんねえけど、わかった!」
いつもなら、どうしてゼロスが指揮をとるんだとか文句をいうところだが。
今はそんな余裕は一切ない。
「少しばかり時間をかせげ!」
ゼロスの言葉とともに、
「「「魔神剣!!」」」
「…え?」
自分ひとりが技を放ったつもり、だったのに。
なぜか声が二つ重ねて解き放たれる。
ふとロイドが背後をみてみれば、そこには剣を構えたアイフリードと、
たしかスカーレットとかいわれていた男性が。
「手を止めるんじゃありません!光よ!!フォトン!」
思わず背後をみて手をとめたロイドをぴしゃりと叱咤しつつも、
すばやく詠唱をすまし、術を解き放つリフィル。
リフィルの力ある言葉をうけ光の粒子がはじけ、村長の頭上において炸裂する。
この技の使い勝手のいいところは、一撃目は確実に相手をのけぞらせる効果。
すなわち強制仰け反りをおこし、敵をダウンさせる効果をもつところ。
もっとも相手がより強敵であればあまりその効果も期待できないが。
このようなとき、すなわち一瞬でもいいから相手の動きをとめたいときには重宝する技。
「さっすがリフィル様!いくぜ!またせたな!俺様の本気、みせてやんよ!」
ゼロスの言葉とともに、その背に光り輝く翼が突如とて展開される。
それはコレットと同じく神子である証。
天使の証ともいえる光るマナの翼。
避難していた人々は遠巻きではあるが赤い髪の男性の背にも天使の翼をみとめ、
誰もが絶句せざるをえない。
さきほどの天使の言葉。
テセアラの神子。
たしかあの青い髪の天使はそのようなことをいっていた。
でもまさか。
しかしその背に展開されているのはまぎれもない天使の証。
以前、その姿を認識していなかったものは絶句せざるを得ない。
金色に光る翼がより輝きをましたかとおもうと、
「くらいな!シャイニング・バインド!!!!!!」
ごうっ!!!!!
とてつもなくまばゆい光が周囲を覆い尽くす。
聖なる鎖が突如として村長の上空にと発生した魔法陣からいくつも展開し、
あっというまに村長の体を光る鎖のようなものが拘束するとともに、
まぶしいまでの光があたりにというか村長めがけて降り注ぐ。
裁きの雷。
まさにそう喚ぶにふさわし電光が光の帯となりて村長の体を直撃してゆく。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!?」
「いまだ!こわせぇぇ!」
マナの光の直撃をうけ村長の体にまとわりついていた黒い何か。
それらが一瞬、取り払われる。
村長の叫びをさらりと無視し、すかさずゼロスが叫ぶのと、
「うおおおおおお!!虎牙破斬こがはざん!!」
間合いをいっきにつめ、村長の胸元あたりにみえている赤い光。
その光をめがけロイドがそのまま剣をおおきくふりかぶる。
キィィッン。
たしかにコレットたちがいうようにそこには【何か】があったらしい。
固い何かにあたったかのような感覚と、まるで金属に剣が交わったような音。
そのような音が周囲にと響き渡る。
それとともに、ゆらりとした赤き光がより輝きをまし、
それはゆっくりとその場にて崩れるように倒れる村長の懐部分。
そんな彼の頭上にゆっくりとそれは勝手にうかびあがる。
それはまるで血の色をしているかのようなどくどくしい色をしている赤き石。
赤黒いようにみえ、どこまでも赤、としかいいようがない不気味な色。
「ロイド!」
「ああ!」
「ちっ。いくぜ!エミリオ!」
「しゃあない!しくじるなよ!アイフリード!」
ロイドとゼロス、そしてなぜかスカーレット、と呼ばれていた男性。
その男性をアイフリードがエミリオとよび、
そんな彼もまたアイフリードにむかって何やら叫ぶ。
「「「「いくぜ!衝破十文字しょうはじゅうもんじ!!」」」」
それぞれが繰り出せし技は瞬迅剣といわれし高速剣。
だがしかし、二人以上の剣士が同じ技を使用するとき、
それはユニゾンアタックとよばれし技を繰り出すことが可能となりて、
ゆえに、ロイドとゼロス。
そしてアイフリードとエミリオ・スカーレットの繰り出せし技が、
ふわりとうきあがり、今にもふたたび黒い霧もどきを発生させようとしていた石。
それにむけて二人一組による四人による十字切りの攻撃が
打ち合わせもしていないというのにその石にむけて解き放たれる。
『がぁぁっっ、おのれ、くちおしき人間めっ!!』
刹那。
石から何ともいえないしゃがれた声がしたとおもうと、
次の瞬間。
パキィィッンッ。
さすがに二組による十字切りはこたえた、のであろう。
石は音をたてて、一気にヒビがはいるとともに、
まるできらきらと光の粒子のごとくにその場からはじけるようにとこわれゆく。
キラキラと壊れた石の粒子は下に横たわる村長の体に降り注ぎ、
その光をうけ、異形とかしていた村長の姿がゆっくりと、
信じられないことに元の人間の姿にと戻ってゆく――


「先生……」
恐る恐るロイドがリフィルにと問いかける。
倒れた村長の横にとすわり、その手をとりて安否を確認しているリフィル。
そしてまた。
おそるおそる、戦いがおわったのをみてとりゆっくりと再び集まり始める人々の姿。
「大丈夫。…きをうしなっているだけだわ」
外傷などはみあたらない。
そんなリフィルの台詞にあきらかにほっとした表情をうかべるロイドとコレット。
いくらひどいことをいっていたとわかっていても、
知り合いは知り合い。
ロイドは二度とその手で知り合いを手にかけたくはない。
そんな思いゆえにどうしても確認せざるをえなかった。
もしも今の攻撃で村長を殺してしまっていたらどうしよう。
心の奥底ではそのように不安におもっていたのも事実で、
ゆえにリフィルの気を失っているだけ、という言葉に心底ほっとする。
そしてそれはコレットも同様で。
しかし気を失っているだけときき、それを快くおもっていないものもいるのもまた事実。
しかしそのことにコレットもロイドも気づいていない。
今はまだ。
念のためにかるい回復術をかけるかどうかリフィルは迷いはするが、
「とりあえず、このままここに放置というわけにはいかないわ。
  誰か!彼を彼の家にはこんでくださるかしら!?」
そんなリフィルの言葉にはっとなりて。
「あ。ああ。わかったよ。リフィルさん」
われに戻ったかのような村人数人が村長の元にとあつまりだす。
「ち。意識ないやつに報復しても意味がないしな」
「しかし、おぬし、腕はおちておらんな。エミリオ・スカーレットよ。
  てっきりリアの尻に敷かれて腕はおちているとおもったぜ」
「ほざけ!そういう貴様こそ!」
そんな最中、何やら気さくに語り合っているアイフリードとエミリオとよばれし男性。
どうやら彼の名前がエミリオ、であるらしく、スカーレットというのは家名なのだ、
と今さらながらにロイド達も理解する。
「こら!エミリオ!何いきなりつっぱしってるのよ!
  というか徹底的にトドメをするときにはしないと!」
「まてまて!リア!気絶している相手をしてもそれはどうにもならんだろう!
  こいつが今までしぼりとった資金。それらを含めてこいつにはつぐなわせないと!」
ふとそんな彼らのもとに同じくスカーレットと確か呼ばれていた女性がちかづき、
何やらかなり物騒なことを村長をみながらいっているのがきにかかるが。
「…とにかく。いつまでもこんなところにいてもなんじゃ。
  ひとまず家にてなぜに神子達がもどってきたのか。
  そのあたりのこともお話ねがえんかのぉ?今おこっていることもきになるしの」
のままではラチがあかない。
こういう場を収めるのも年長者である自分の役目とばかりに、
ファイドラがその場を代表しそのようなことを提案してくる。
「そうね。すくなくとも。私たちは報告をするために一度ここにきたのだから」
本来の目的とすこしばかりずれたことになってしまったが。
「でも、姉さん…いいの?だって、僕たち……」
「何をいっておる。おぬしらはこの村の一員じゃ。そうじゃろう?皆の衆」
先ほどの彼らがハーフエルフであるという言葉はファイドラもきいている。
きいてはいるが、伊達に数年にわたりこの姉弟とつきあっていたわけではない。
だからこそファイドラは何の裏もなくさらり、といいはなつ。
そしてまた。
「そうさ。何を今さら気にしたことをいってるんだい。
  …あんたたちを追放したあたしらがいうのはおかしいかもしれないけどさ。
  けど、あんたはこの村で育った。この村の一員であることには間違いないんだから。
  …あたしらの器量の狭さがあのようなものをよびさましたのかもしれないし、ね」
あの声はこうもいっていた。
他人を認めようとしない心が原因でもある、と。
すべてをあのとき子供たちだけにおしつけて、自分たちは関係ない。
そのように村長がいうがまま、彼らの追放に賛同した。
そんな自分たちが今さら何をいうのかとおもわれるかもしれない。
けど、知ってしまった。
これまでの自分たちの平和は他人の命の犠牲の上になりたっていた、と。
それを知った以上、自分勝手な思いは今後もてるはずも…ない。
「そうさ。誰がなんといおうが。ここはあんたらの故郷なんだからな」
「「・・・っ」」
口ぐちにリフィルとジーニアスにむけられる言葉は否定的なものではなく、
むしろ二人がハーフエルフとしってもそれを受け入れる内容のもの。
無意識のうちにリフィルは口元に手をあてて、声なき声を封じている。
「いいの?だって……」
さきほどのロイドの暴露によって自分たちがハーフエルフだとしったはずなのに。
どうして。
「まあ、ロイドのいうように、人間にも悪いやつはいるからな」
「…うちの村長のようにな」
うんうん。
誰ともなくうなづく言葉に嘘はない、らしい。
どちらが悪いかといわれれば、人道的に考えれば、
他人を生贄としてしかもウソをつき相手からお金を巻き上げておきながら、
地獄に突き落とすような行動をしていた村長のほうが悪いにきまっている。
そこにヒトとかハーフエルフ、とかいう問題はない。
何しろ村長は彼らがいうところのヒト、なのだから。


~スキット~

ゼロス「しかし、てっきりリフィル様なら村長に、
     もっときびしいこと、いうと思って期待してたんだけどなぁ。俺様」
リフィル「あら?豚に説教するバカがいて?
      それにしてもこの村も案外すてたものではなくてね」
ロイド「?村で豚なんてかいはじめてたっけ?」
リフィル&ジーニアス「「・・・・・・・・・・・・」」
比喩、という言葉がわからないのだろうか。
ゆえに思わず顔を見合わせ溜息ひとつ。
ゼロス「…ロイドく~ん……」
ロイド「?」
なぜに彼らが溜息をついているのかロイドには意味不能。
村長を先ほど彼の家にと村人たちの手をかり送り届け、
ひとまず先ほどのこともあり、相談のためにと集まっている今現在。
ゼロス「まあいいや。それはそうと。ロイド君に聞きたいことがあるんだけど。俺様」
ロイド「?俺に?」
改まって何を聞きたい、というのだろうか。
ロイドはその意図がわからずに思わずさらに首をかしげる。
村人たちはこちらを遠巻きにみており、声をかけていいものかどうか、
判断をつきかねているらしい。
ゼロス「おうよ。ロイド君もそろそろ旅に行き詰って、
     途方に暮れ始めてるんじゃないかっておもってな」
ロイド「どうしてだよ?」
ゼロス「よかれと思って大樹は暴走。
     世界各地で異変が相次ぎ、あろうことか位相軸まで歪みはじめたときた。
     あの天使様たちも好きかっていってたしな。
     どっちの天使、というのはいわなくてもわかるだろうが。
     あいつは自分で決められないからって絶対お前に決定権をゆだねたんだぜ?」
ミトスもロイドも選べない。
ならば、ロイド自身の手で自分をさばいてもらうことによって、
後悔の懺悔をしようとしている、としかゼロスにはおもえない。
というか実の息子によりによって親殺しを強制するなど。
親のすることではない。
絶対に。
ゼロス「それらもあって、そろそろ嫌になってくるってのが人情だろ?」
ジーニアス「…嫌に…か。ああいう村長みたいな人はたくさんいるんだろうね。きっと
       さっきの村長のあの言葉。
       封印の中できいた言葉とほとんど同じだった……」
使命を果たすために死ね。
そう言外に村長はいっていたようなもの。
でも、とおもう。
かつてジーニアスもそれをコレットに強要した。
ロイドが止めようとしていたのに、世界をシルヴァラントを救うために、と。
それまでエミルに散々それでは救われないようなことを言外に匂わされていたのに。
そのことをジーニアスは今さらながらに思い出す。
偽りの真実を信じ込まされているひとの思考。
おそらく、ヒトは村長に近い考えを抱くであろう。
もしくは……
リフィル「もしくは。今回の異変の原因を神子、でなくて、
      私たちの責任、にするような人間もいるかもしれなくてよ」
ジーニアス「姉さん!?」
ロイド「先生?」
コレット「?どういうことですか?先生?」
リフィル「簡単なことよ。この異変は神子の旅が失敗した。
      いえ、あの声は誰にも聞こえていたようだから、
      失敗とはとらえないとしても。このような異変になったのは。
      神子のせいにするのと同時に私たち…ハーフエルフがともに旅をしたから。
      そのようにいわれる可能性もあるということよ」
ロイド「そんな!?そんなの関係ないだろ!?」
リフィル「おおありよ。ロイド、あなただって。旅に出る以前、
      ハーフエルフのことをどう思っていて?」
ロイド「それは……」
ゼロス「テセアラでは物心ついたころからハーフエルフは百害あって一利なし。
     家畜以下の野蛮な生き物、と教えられてるからな。
     こっちではどうかはしらねえけど」
セレス「お兄様!?…でも、それでも、リフィルさんたちはいい人ですわ」
ゼロス「それは俺様達がこいつらをしっているから、だろう?
     ヒトはどうしても異質なものを排除する傾向があるからな」
セレス「…それは……」
リフィル「ゼロスのいうとおりよ。最悪、コレットだけでなく、
      いえ、コレットより私たちがいたから、と責任を追及する声。
      その声がでることも覚悟しなさい。ジーニアス」
最悪、あのとき、あの封印の中で村長の幻影がいったような台詞。
あのセリフを向けられることもあるであろう。
覚悟、というものはしておいたほうがいい。
たとえ、この村の人々が自分たちを受け入れてくれた、とはいっても。
すべての人がそうだ、とはいいきれないのだから。
ロイド「そんなの間違ってるだろ!?」
プレセア「…人は、傷つき疲れたとき、かならず誰かに責任を転嫁してしまいます。
      たしかに、リフィルさんのいうようなことが起こりえない、ともいえません」
ロイド「そんなの間違ってる。俺はあきらめない。必ずみんな分かり合えるはずだって」
それは、かつてミトスがいっていた台詞とまったく同じ。
それをロイドは知る由もないが。

※ ※ ※ ※


何だかいろいろとありすぎた。
昼間の一件もようやくおさまり…まあ完全におちついてはいないにしろ。
いまだに村長は目をさまさない。
リフィルいわく、体にもかなり負担がかかっていたからだろう、ということらしい。
ついでにいえば、ブルート達も村長の言葉の真偽。
それを問われこれまで隠していたパルマコスタの真実。
それを人々に伝えるハメとあいなっていたりする。
パルマコスタのドアといえばディザイアンに真っ向からたちむかっていた勇気あるもの。
そう誰もがおもっていたゆえに、そのドアが、
ディザイアンにとらえられていた妻を救うために通じていた、
というのは信じがたい事実でもあった。
もっとも、クララ夫人が異形の姿にさせられていたという事実は、
さすがにごまかし、とらえられていたという形にて人々に説明していたようだが。
「ロイド…僕、どんどん人間が嫌いになってくみたいだよ」
村は牧場から逃れてきた人々で手いっぱい。
食材などは今のところ問題はおこってはいないらしいが。
というのも外につくっている畑などにおいて麦などがほんの一日もたたないうちに、
あっというまに成長し収穫できるようになっているらしい。
しかも次から次えと生えては成長しているがゆえ、
そういった面では食料面に至っては今のところ問題はない、らしいが。
問題があるとすれば、今まで以上に魔物たちの姿が認識できるようになっている。
ということくらいか。
それでも魔物たちは少なくともこちらから何かをしないかぎり、
不思議と襲い掛かってはこない、らしい。
肉食、といわれている魔物たちですらそうらしく
言葉にはしないが人々は内心不思議がっていたりする。
実際は王であるラタトスクよりも不必要にヒトを襲ったりかかわったりするな。
という厳命がでているがゆえに魔物たちはそれに従っているだけなのだが。
当然、そんなことを人々が知るはずもなく、人々はただただ困惑するしかない。
「ジーニアス…ごめんな」
「ロイドが謝ることない。ロイドとかイセリアのみんなとか僕は好きだよ」
自分がハーフエルフだと知っても彼らは受け入れてくれた。
ただ一人を除いて。
なぜ姉がロイドも久しぶりにダイクの顔がみたいでしょうし、といって。
彼をこちらによこしたのかもジーニアスはうすうす気が付いている。
あのユアンの失言ともいえるあの言葉で幾人かの村人たちは気づいてしまっただろう。
ロイドがユアンのいっていた、唯一の真実天使の血を引く子供であることを。
半信半疑のところもあるかもしれないが。
しかし、息子が手配をうけているといわれ、今現在、
ディザイアンたちから手配書が手まわっているのはロイドしかいない。
それゆえに逆に人々はユアンの失言ともいえる言葉に信憑性をもっている。
ディザイアンと天使たちは伝承からしてみれば敵対関係となっている。
そこに宿敵ともいえる天使の血を引く子供がいるとしたならば。
神子同様に彼らが執拗に狙ってもおかしくはない。
それこそ手配書をばらまくほどに。
あの金額にも納得がいく、というもの。
あのままロイドが村にいれば、そういった問いかけがロイドに投げかけられるのは必須。
ゆえにそれとなく理由をつけてリフィルはファイドラ達と話がある、といい、
ジーニアスとロイド、そしてプレセアたちを含んだ数名がここ
イセリアの北東にとあるダイクの家にとやってきている今現在。
マルタは久しぶりにあった両親とともにおり、今はこの場にはいない。
コレット、そしてゼロスもイセリアにと残っており、自分がそばにいない場合、
妹がどんな扱いをうけるか心配という思いもありて、セレスもこの場にとやってきている。
「まあ人間の中にはどうしてもいけすかない奴もいるってことさ」
「そうなんだけどさ…」
今現在、全員でダイクの家に寝泊まりするには場所が場所。
ゆえにかつてのようにダイクの家の外の少し開けた場所。
そこにテントを張りキャンプの用意をしているロイド、ジーニアス、しいなの三人。
プレセアはタバサとともに薪を森にととりにいっており、
ケイトはケイトでダイクの案内で牧場があった。
といわれている場所をすこしばかりみにいっている。
ケイトは何でもここシルヴァラントにいるというドワーフのダイク。
彼に興味があったらしく、ともにこの場にとやってきている。
セレスはいろいろとあったせいか疲れている様子がみれたがゆえに、
ひとまずロイドは自分の部屋にて休むようにといっている。
ゆえに、今この場、外にいるのは三人のみ。
そんなしいなの言葉に納得はいくものの、しかし心としてはおいつかない。
「けど、村長みたいな人はたくさんいるんだろうな。そうおもうと…ね」
そういうジーニアスの顔は沈みがち。
事実、世の中にはああいった人間はたくさんいる。
それこそ少しでも何かを管理したり、守ったりという立場をもっているものに。
あくまでも与えられた役割でしかないのに自分の力であると勘違いし、
他者を見下すものたちが。
”ヒト”というものは少しでも権力に近しい力をもつとどうしても堕落してしまう。
そのただ管理を任されただけの力を自分の力だと勘違いし増長してしまう。
自分こそが正しいのだ、と。
それは”ヒト”という輩に必ず起こり得る現象。
中には清廉潔白のままに突き進むものはいはするが、
しかしそういったものの子孫ほどそういう傾向がつよくなる。
ここ、シルヴァラントではそういったものはあまり見たことがないゆえに、
どうしてもジーニアスはあからさまにああいった態度を取られたことにより、
多少沈んでいたりする。
もっとも、それはゼロスにいわせてみれば、あんな程度は赤ん坊の癇癪よりましだ。
ときっぱりと断言してしまえるほどのかわいらしいものでしかないのだが。
この場にそのゼロスはおらず、ゆえにそれをジーニアスに指摘もしてはいない。
「ヒト、とはあたしらの民の言葉でかくと、互いを支えあう、という意味合いで、
  【人】と漢字で書き示すけどね。つまりひとりでは生きてはいかれない。
  ヒトとは他者とささえあってこそはじめてヒトとして成り立つんだってね」
漢字、という文化が続いているのはミズホの里だけのようではあるが。
それもかつてあったミズホの前進となっているとある国のなごり、らしい。
そうしいなはきいている。
「よくわかんねぇけど。前に先生がいってたことに近いのかな?」
そんなしいなの言葉をきき、ロイドが首をかしげる。
「?リフィルが?何ていってたんだい?」
あのリフィルがいっていたこと。
ゆえにおもわずしいなが問いかける。
「たしか、ヒトはお互いを理解しあうために言葉を使ってるんだって。
  言葉にしなければ伝わらずにすれ違うこともあるんだって。
  言葉の選択一つでいろいろと問題もおこるから、言葉には気をつけなさいって」
そういわれても、いまだにロイドはその意味がよくわかっていないのだが。
そもそも、言葉の選択一つで、といわれてもいまいちピンとこない。
これまでに幾度も失言しているにもかからず、のど元すぎれば熱さを忘れる。
という諺ではないが、それらのこととその言葉を結びつけて考えていない。
「きちんと言葉にして誠心誠意言葉にしても理解してくれない人もいるっ!
  …って、ごめん。しいなやロイドにどなってもどうにもならないよね。
  でも、こう何か口にしないともやもやしちゃって……」
どこかで叫んででも発散しなければどんどん自分の胸の中で人嫌いが大きくなっていきそうで。
それがジーニアスとしては怖い。
いい人もいる、とわかっていながらもやはり人間は、とおもいそうになるその心。
ふと以前からエミルがよくいっていた台詞を思い出す。
――ヒトはどこまでも愚かでしかない。
  そうでないものもいるにはいるが。
旅の中、時折いっていたあの言葉がより深く身に染みる。
「よくわかんねぇけど。そういうときには、どんどん俺にぶつければいいさ」
「…は?」
いきなりロイドが意味不明というか摩訶不思議なことをいい、
思わずジーニアスは目を丸くしてしまう。
そして同じく、その言葉をきき、しいなまでも目を丸くしているが。
そんな二人に気付くことなく、
「少なくとも、俺とジーニアスは親友、だよな?」
「え?あ、うん」
いきなりそういわれ、ジーニアスは首を縦に振らざるをえない。
友達と親友、とでは少しばかり違う。
信頼度的な意味で。
「だからさ。そういうよくわかんないこととか。
  どうにもならない思いとか。どんどん俺にぶつけて、あたりちらせばいいさ。
  そりゃあまあ、頭にきたら俺もきれるかもしれないけど」
「あんたが切れる、ねぇ。あまり予想がつかないね」
というか相手丸め込まれる姿しかしいなは連想できない。
むしろ確実切れたとしても相手に丸め込まれる。
それっぽいことをいえばロイドはそうなのかな?とまちがいなく思ってしまうだろう。
そこに譲れない考えなどがない限り。
「何だよ。俺だってきれることはあるさ」
そういわれてもしいなは首をかしげざるを得ない。
ロイドが切れたような姿をみたことはあるが、ロイド自身のことをいわれ、
彼がきれた姿は今のところ記憶にない。
たとえばコレット、そしてロイドの両親。
そういった自分以外の誰かのことで相手に憤慨していたことはこれまてにもあったが。
「むちゃくちゃいうよね。あいかわらず。それって喧嘩になるでしょ?
  前、トマトに栄養があるから食べたほうがいい、っていったときのように」
「トマトはあれは有害だ!!あんな悪魔の食べ物!」
「「・・・・・・・・・・・・」」
なぜそこまでいうのだろうか。
まあ、物心つく前から父親がひたすらに避けてはそのようなことをいっていた姿。
それを目の当たりにしてしまっているからこそ、あるいみで刷り込み状態になっている。
といってもいいのだが。
小さな子供、というのはよく大人をみているものである。
それがたとえ自我か芽生える前だとしても、無意識のうちに刷り込まれている。
「とにかく。喧嘩になってもさ。そうして喧嘩して、一緒に悩んで、一緒に考えようぜ。
  ひとりで考えるよりも二人で考えたほうがいいって先生もいってたし」
確かにそれは一理ある。
あるが何かが違う、とおもうジーニアスとしいなはおそらく間違ってはいないであろう。
ゆえに。
「…ロイドってさ。ときどき冴えたことをいうこともある、とおもってたけど…
  やっぱり、脳みそまで筋肉なんじゃないの?」
それをヒトは脳キンとよぶ。
つまり後先を考えずに思ったことを口にし何も考えずに行動する。
それこそ周囲の迷惑なども考えることはなく。
実際、そんなロイドの尻ぬぐい、もしくはストッパー役になっていたのが、
これまでのジーニアスであったわけなのだが。
旅にでるまでは。
「でも、たぶん、ぼくと本気で喧嘩してくれるの、きっとロイドだけだね」
ゼロスは喧嘩というか何というか、常に正しいことをいわれているようで、
常にどうしてもジーニアスはつっかかっていってしまう。
ゼロスにだけは負けたくない、という思いがジーニアスの中にあるのも事実。
なぜそう思うのかどうかはわからないが。
おそらく、はじめの印象、というのが強いのであろう。
女性に対し、ああも軟派な態度をとっている人にまけたくない。
そう思うのは男性の心理ともいえるのかもしれない。
そこまで詳しくジーニアスは考えてはいないにしろ。
「そうかなぁ?でもゼロスもきっと本気で喧嘩してくれるとおもうぜ?」
「あいつの場合は途中で話を脱線してくるよ。絶対に」
さすがにある意味では幼馴染という間柄。
相手のことをよく知っている発現をとるしいな。
ゼロスは彼らに対してはよく本音をいっているようにおもう。
おそらく彼らはシルヴァラントという民であり、
ゼロスの立場というものを深く考えもしないから、ゼロスも半ば素での反応になるのだろうが。
はじめのころは確実に仮面をつけたように一線をおいていたのをしいなは知っている。
「ゼロスはいつも僕のこと子供扱いしてくるし。いまだに呼び方ガキンチョ、だもん。
  ロイドだけだよ。僕がハーフエルフだってことも。
  僕が子供だってことも何もかも忘れて本気で接してくれてるの」
姉は常に自分を弟、としかみていない。
コレットはおそらく深くそこまでは考えていないであろうが。
すくなくとも大切な友達とおもってくれているのはしっている。
いるが、コレットはおそらく確実本気で誰かと喧嘩をするようなことはしはしない。
何かあってもすぐに自分が折れて謝るであろう。
彼女が悪くないのにもかかわらず。
プレセアは悲しいかな、いまだに自身のことを子ども扱いしている節がある。
まあ実際問題、プレセアの実年齢というものを知った今、
たしかに彼女にとっては子供なのかもしれないが。
…まさか姉よりも年上だ、とはおもわなかったが。
それでも、第一印象というものは強烈で、あきらめたくはない。
心のどこかではわかっているのに自分もまたプレセアを子ども扱いしている。
それがジーニアスとしては歯がゆくもある。
それがどれほどプレセアにとってきついことかわかっている、というのに。
子供ではなく一人の男として認めてほしい。
が、彼女が早くに結婚し子供を産んでいれば自分くらいの子供がいたかもしれない。
それもまたわかっている。
本気で告白したとしても、プレセアは自分のことをそういう対象にはみないだろう。
それはわかっているけどもあきらめることもできない。
できはしない。
セレスは自分のことをどう思っているのかはわからないが、
まあ、大好きな兄の友人で自分の友人くらいにしか思っていないようなきがする。
ジーニアスは気づかない。
実はセレスにとって友人というのは彼らが初であり、
彼女の内心では彼らをとても大切に思っている、ということに。
「本気でって。みんな本気で接してるとおもうぞ?
  それに、ジーニアスはジーニアスなんだし。それ以外の何ものでもないだろ?
  俺が俺でしかないように。しいながしいなでしかないように。
  ゼロスや他のみんなだって、それぞれ、でしかないんだし」
誰もがそう割り切ってしまえればヒトは差別などしはしない。
どうしても他者と比べるがゆえに、差別、という弊害は発生してしまう。
まったく同じでも、隣の芝生はよく見える、という諺にもあるように。
自分がもっているものよりも他人がもっているもののほうがよりよくみえてしまう。
それこそよいところしか目にしていないがゆえに。
ヒトはどうしても外面のみで判断する節がある。
それが偽りだとしても、それが偽りとしらないままにそれを真実と信じ込む。
そう、永き時間をかけてクルシスが人々に偽りの歴史を真実だ、と思い込ませたように。
「皆がロイドみたいだったら、
  ハーフエルフはディザイアンや天使になんてならなかったのかもしれないね」

それはかつて、クラトスがミトスに投げかけた言葉。
皆がお前たちのような考えをしていればこの争いもなくなるのだがな。
どんなに傷つけられ、裏切られても決してあきらめることなく、
自分の理想を実現するために前にとむかっていたミトスに投げかけた言葉。
もっとも、天使にならなかった、という言葉だけは実現しないであろうが。
すくなくとも、古代戦争といわれているカーラーン戦争。
その時期から【天使】とよばれし【生体兵器】は国をあげて開発されていた。
あまたの人体実験を繰り返したのちに。
クラトスはその身分でありながら前線にむかうために、
国のために自らの体を【天使化】したように。
かつては【国】に所属していたものが、今は【クルシス】に所属している。
しかし彼らは知るはずもないが、あるいみで古よりもまし、といえる。
エクスフィア製造工場にしても、互いの国において合法的に行われていた。
それこそ人狩り、というのが日常化していたほどに。
だからこそラタトスクはヒトにたいし幻滅していた。
もはや救いようはない、と。
大樹を枯らしただけでもいざしらず、それを反省することもなく、
互いに争いをやめようとしない人、そして傍観を決め込むエルフたち。
そんな”ヒト”に幻滅していた。
そのまま好きにさせ、いっそのこと自滅させたのち世界を再生させればよい、と。
まちがいなくミトスがラタトスクに懇願することがなければ、
世界はヒトによるマナの使用と微精霊たちの悪用のしすぎで大地は海にと還っていた。
それこそ大地を支える基盤を構成する微精霊たち。
それすらをもヒトは使用しまくっていたのだから。
そして、さらに彼らは知る由もないがマナを切り離した世界においても。
結局ヒトは争いをやめようとはしなかった。
愚かにも精霊をとらえ、世界を一度瘴気に犯し、
ついには世界樹ユグドラシルを枯らすにいたった。
それも自分たちの私利私欲のために。
ダオスはその危険性を説いてた、というのに。
その彼の思いすらふみにじり、彼を悪役、という形で祭り上げ。
ダオスに対抗するためにあの魔導砲は新たに開発されていたのではない。
あのミッドガルドが自分たちの国が世界を制圧するために彼らは開発していた。
その開発スピードを早めてしまった理由の一つにたしかにダオスの存在はあったにしろ。
彼が未来へ未来へ時空移動をしているのはしっていた。
それでもマーテルとの盟約があったからこそ彼に接触することができなかった。
あのときのもどかしさは今だにラタトスクの中では健在。
それらの未来を変えるために、ラタトスクは様々な行動をおこしている。
かつての歴史を二度と繰り返さないために。

ジーニアスの言葉をきき、
「何いってんだよ。ジーニアス。
  皆が俺みたいになったら誰も学校なんかにいかなくなるとおもうぞ?
  あ、でも給食のときとかだけはいく、かな?自分で作らなくてすむし」
どうやらロイドの中の給食は
自分で作らずとも食べられるから、という項目に入っているらしい。
まあ、たしかに食べるだけの間隔でいえばただでたべさせてもらっている。
という認識をもってしまうのだろうが。
保護者がきちんと給食費として村に資金を収めている、というのをしらなければ
そうおもっても不思議ではないであろう。
何しろロイドにお金をもたしたら変なものを買いかねない。
という養父独自の感覚で、毎回毎回、ダイクは自らお金を支払いにいっている。
間違ってもロイドにはこずかい以外のお金を渡したことはない。
ロイドに余計なお金をもたせれば、あっというまに第三者にたかられてしまうだろう。
かつて、ロイドがあっさりとアイフリードにだまされ、
船の賃貸契約書にサインしてしまったように。
「まあ、自分で作らなくてすむ、という意見には賛成だけどさ。
  …姉さんの料理を食べなくてもすむし」
ちなみに、交代制で毎日の学校の給食は村人の女性でつくられていたのだが、
一部の女性たちはリフィルの壊滅的な腕をしり、
必至にリフィルに料理作成には携わらせないようにしていたという裏の努力があったりする。
表向きには先生は子供たちにしっかりと直前まで物事を教えてほしいですから。
という理由をこじつけて。
…まあ、料理を食べて昏睡状態になりかけたりするものがでれば、
そういう対処をするのは間違ってはいない…のだろう。
当時、バナシーアボトルが村の中で売り切れた、という逸話がのこっているほどなのだから。
ロイドのそんな意見に半ば納得しつつも、
「きっと、給食と体育と図工にしか参加しないね。きっと」
「…それは、学びの場とはいえないんじゃないのかい?」
ジーニアスの言葉至極もっともなつっこみがしいなの口から発せられる。
たしかにそれは学びの場、とはいわない。
むしろ遊びの延長としかいいようがない。
「うるせえ!ほっとけ!」
「ぷっ。あはは。ほんとうにいいコンビだよね。あんたたちって」
そんな二人のやり取りをきき、しいなは思わず吹き出してしまう。
ほんとうにいいコンビだとおもう。
というかロイドはジーニアスよりも年上のはずなのに。
どうみてもロイドのほうがジーニアスよりも精神年齢が低いような。
そう感じているのはおそらくしいなだけではないであろう。
「うらやましいよ。あたしは…あたしには、そこまで裏表関係なく。
  そう言い合える相手って…コリンしかいなかったからね」
ゼロスはあくまでもどこか彼のほうが一線をひいてきていたのをしいなは知っている。
儀式に失敗して後は腫物にさわるかのごとく、村の中で孤立していた。
ほとんどの村人たちからいないもの、として扱われていた。
「「しいな?」」
そんなしいなの様子に思わず顔を見合わせ同時に問いかけるジーニアスとロイド。
このあたり、同時に声を発するというあたりもいいコンビ、といわざるをえない。
「拾い子であったあたしをおじいちゃん…統領はよくしてくれたけどさ。村人たちも。
  でもそれもあたしが契約に失敗するまでは、だったしね。
  あれ以後、統領はいつ目覚めるかもしれない昏睡状態になっちまったし。
  今でこそ目覚めているけどさ。あたしの親友ともいえる孤鈴ですらあたしのせいで……」
あのとき、過去の光景がフラッシュバックし。
そこが戦いの最中だと忘れ、ひとり混乱してしまった。
そんなことをすればどうなるか、自分がよくしっていたはずなのに。
そんな自分をかばって孤鈴はヴォルトの攻撃をうけた。
しかも直撃で。
コリンが消えてゆくあのときの恐怖。
あのとき、本来の姿だという彼の姿をみることがなければ自分はどうしていたか。
考えてもそれはしいなにはわからない。
でもおそらくずっと喪失感はもっていただろう。
それこそついに今度は自分のせいで親友まで殺してしまった、と。
本来の姿に戻っただけ、とそう孤鈴コリンであった【ヴェリウス】はそういった。
そういえば、とふとおもう。
どうしてイセリアの村で、孤鈴の力を感じたのだろうか。
しかも村の北の出入り口という方向のほうから。
そんなしいなのつぶやきにロイドもジーニアスも何ともいえない。
あのときの光景は今でも二人の脳裏にこびりついている。
しいなをかばい、きえていったあの姿は。
そしてそののち、まったく別なる姿にてよみがえったその姿も。
そういえば、あのときあの【ヴェリウス】はエミルと何か話していなかったか?
あのよくわからない言語のようなもので。
ふとあのときのことを思い出し、それぞれ何ともいえない思いにととらわれる。
「あたしが未熟だったせいで、結局過去、ヴォルトを暴走させてしまった。
  その事実はかわりはしない。
  そのせいでくちやわやおろちの両親が死んでしまったことも。
  あたしの初めての友達だった孤鈴もあたしのせいで消えてしまった」
「「しいなのせいなんかじゃない(よ)!!」」
しいなの独白にもちかいつぶやきに二人同時に突っ込みをいれるロイドとジーニアス。
「ありがとう。でも。それが事実なんだよ。どんなにきれいごとをいっても、さ。
  今だってそうだろ?あたしがすべての精霊と契約をかわしたから、
  こんなことになっちまってる。…いつ世界がどうにかなるかもしれない。
  そんな不安定な状態にね」
それこそ大地を揺るがすような地震はなぜか感じなくなってはいるが。
今度は大気が震えているのが嫌でもわかる。
常に大気が嵐のごとくに荒れている。
空にみえている彗星だという【デリス・カーラーン】の影響なのか。
それとも救いの塔を覆い尽くさんばかりの【大樹】の影響なのか。
それとも互いの影響なのか。
でも、いえることはただ一つ。
【精霊の楔】と呼ばれるものをすべて解放してしまったからこそ、
今のような状態になっている、というのは紛れもない事実でしかない。
「あたしは…怖いよ。あたしの行動の結果。
  もしかしたらあんたに…実の父親と戦わせるようなことになりそうでさ」
おそらくは避けては通れない。
間違いなく。
ロイドとクラトス。
クラトスは先ほど、ユミルの森でまつ、というようなことをいっていた。
オリジンの解放、それはすなわちユアンの言葉を信じるなならば、
クラトスの命を奪うことを意味している。
オリジンの封印はクラトスのマナ…つまり命をもってしてでしか解くことができない。
クラトスのマナを檻として使用している以上、少なくとも無事ですむはずがない。
「どうやらそれしか方法がなくなってしまったようだがな」
ふと、そんな中、第三者の声がする。
「「「ユアン!?」」」
ふとみれば、いつのまに、としかいいようがないが。
なぜか彼らの元に歩いて近づいてくる三つの人影が。
一人はユアン、ユアンの背後にはボータとそして見覚えのない男性が一人。
「ダイク殿はご在宅か?」
「親父は今、でてるけど…あんた、一回戻ったんじゃなかったのか?」
たしかについ先ほど、どこかにとんでいったはず。
おそらくはトリエットの彼らの拠点にもどったのだろう。
そう思っていた、のだが。
だからこそまたまた現れた彼をみてロイドは戸惑わずにはいられない。
もっとも森を抜けた先にて彼らが移動してきた飛竜。
それをきちんと守っているレネゲードの一員達もいはするのだが。
レアバードはいまだに使用不可能。
それほどまでに大気中のマナが乱れている。
「施設にもどってみれば、信じられないことがおこっていてな……」
あれを信じろ、というほうがどうかしている。
まだ、例のカビもどきで施設が崩壊したというほうが納得がいくというもの。
まさか施設全体が木々に覆われ使い物にならなくなっているなどと、
一体だれが予測しようか。
おかげで施設内部の機械という機械は使い物にならなくなっており、
かろうじて手動に切り替えどうにか扉などは開いたりできるが、
魔科学における装置の数々はすべて使用不可能となっている。
内部にまで木々の根や草木の蔓が入り込み、すべての機械類を台無しにしている。
ユアンはしらないが、そこから機械類に腐食が進み始める、とは、
今の段階では彼らは知る由もない。

つまるところラタトスクは地上における魔科学による数々の品。
それらを残しておく気はさらさらない。
何しろ彗星の中にありしそれらすら、メインシステムを除き、
すべて浄化するつもりであるのだから。

どうにかたどりついた、というイセリアの牧場に侵入させていた配下。
そのものがいうには、イセリアの牧場もはじめは同じようであったらしい。
そののち、噴火のようなものがおこり、完全に牧場は壊滅してしまったようだが。
彼らが逃げ出せたのはフォシテスが同胞を逃がし始めたがゆえ、
このままでは上司に連絡がつけなくなる。
そうおもい、一部のものが服をあえて囚人たちのものに着替え、
こっそりと彼らの中に紛れ込んだからにすぎない。
ここまでマナがくるっているゆえに、いちいち囚人たちの中に同胞が紛れ込んでいても、
仲間を救うために動いているフォシテスは劣悪種、とよびしヒトに見向きもするはずもなく。
囚人たちを見殺しにし、まあ替えはいくでもきく、という認識のもと、
ともあれ、仲間たちを最優先にして逃がしていった結果。
あるいみ囚人たちにまぎれ、フォシテスの目から逃れるという目的は果たせたといってもよい。
が、そののち、どうにか取り残された人々を何とか言葉たくみに、
同じくとらえられていた人々と半ば協力しつつ、
トリエットの施設にもどれたのはユアンが施設にたどり着く少し前のこと。
ちょうどボータがんな彼らから説明をうけている最中、
ユアンも施設にとたどりついた。
そこでユアンは拠点としていた施設の変わりようを目の当たりにしたのだが。
どうにか被害を免れていた飛竜にのって、次なる計画。
すなわちこの状態になってしまっている以上、
各場所に散らばっている同士たちと連絡を密にとりあうこともできない。
つまりそれはマナの照射をとめられない、ということを意味している。
このままでは、より位相軸のゆがみがひどくなる一方。
そうなればそれこそ互いの世界が干渉しあい消えてしまう確率がかなり高い。
それも大樹の内部にいるマーテルすらのみこんで。
それを防ぐためには。
まずは位相軸の乱れをたださなければ。
そのためには世界を一つに戻す必要がある。
ミトスがそれをするのが一番早いが、今の段階で動いていない以上、
ミトスが動くかどうかはユアンにはわからない。
まあ、マーテルの生存にかかわっているので何らかの手はうってくるだろうが。
まさかマーテルの融合した大樹だけは残るだろう。
そんな楽天的な思いにてあのミトスに限り見守るという方向はありえない。
すくなくとも、このような現象に陥っている以上。
いまだきちんと位相軸による乱れが不安定ながらもしっかりしており、
なおかつ被害がこちら側だけならばまだそのようにおもったかもしれないが。
しかし、幻でみえているあちら側にも被害は及んでいる模様。
大樹の芽吹きの影響か、エターナルソードの力がおよばなくなっている。
それこそ力が拮抗しあい、今にも崩れてしまいそうなほどに。

…事実、ラタトスクはミトスが行動を起こさないのであれば、
それはそれでやもなし、とおもっている節があるにはあるのだが。
それをユアンはしらない。
知る由もない。
何の行動も誰もおこさなければ、
それこそ、かの救いの塔を中心にし、世界は海にと一度は還る。
そうラタトスクは決めている。
すでに新たな大樹はユミルの森にとうみだし、ニブルヘイムの魔族たちも、
主だったものは暗黒大樹の精霊でもありしプルートとともに新たな惑星へと移動した。
一部の魔族たちはいまだこの惑星に残ってはいるようだが。
それも時間の問題。
空と、そして大地より降り注ぎ、またたちのぼっている光は純粋なるマナの光。
地上にのこりし魔族たちがそれに耐えられるはずがない。
それこそ依代よりしろとして人々の中に、隠れてしまわない限りは。
人々の不安や恐怖といった感情は魔族たちが隠れるのにはうってつけ。
そして今現在、そんな”種”は世界中の人々にまかれているといってもよい。
少なくとも、人々の中に不安は積もっていっている。
常にみえていた救いの象徴といわれている救いの塔が
異形の何かに覆われてしまっている時点で。
さらには救いの塔がみえていた位置もいきなり大地震ののち、ゆっくりと移動しており、
今ではかつてみえていた位置に救いの塔は存在していない。
しかも、海沿いにいる存在達は目にしているが目の前に幻のごとく、
まったく異なる世界が常に視えているのだから、これを不安におもわずに何とする。
テセアラ側ではスピリチュアの悲劇の前触れだ、と誰しもがおびえており、
シルヴァラント側においては神子が再生の旅に失敗したのでは、
という噂がまことしやかにささやかれている。
そんな中でのあの【声】。
人々の不安はより日に日に増しているといっても過言でない。

「親父に?いったい……」
そんなユアンの台詞にロイドが困惑した声をあげるそんな中。
「うん?なんでい。ロイド、お客さんか?なんだい?あんたたちは?」
ふとみれば、どうやらダイクがちょうど戻ってきたらしい。
見慣れた養父の後ろには何やら考え込んでいるらしきケイトの姿がみてとれるが。
「ユアンさん?それにボータさんも、どうして?」
ふとケイトもまたそんなユアンの姿に気づいた、らしい。
ケイトもまた、ユアンが飛んでいった様子をみてたはずなので、
その戸惑いはわからなくはない。
事実、ロイドやジーニアス、しいなとて戸惑っている。
眼鏡を押し上げて少し首をかしげる様子からしてどうやら癖、であるらしい。
以前、ロイド達が地下室に連れていかれたときも
彼女はそのような動作をしていたことをふとロイドは思い出す。
そしてジーニアスとリフィルをつれて再び地下室にいったときも、
彼女はたしか、眼鏡を押し上げるような動作をしていなかったか?
そんなどうでもいいようなことがふとロイドの脳裏をよぎるが。
「なんでぃ。あんたの知り合いかい?ケイトさん?」
「え、ええ…まあ」
どうやら案内するにあたり、ある程度の会話は二人の間で交わされていたらしい。
この付近も異変はあからさまに発生しており、森の木々がいつもよりより密度が高くなっている。
本来あるはずのけものみちすら異様に成長した草花にて隠されており、
また木々もより茂りへたをすれば空すらみえないほど。
もっとも、今現在、空には彗星が覆い尽くすようにみえており、
空、という空はどこからもみえはしないが。
「あなたに仕事を頼みたい」
「…仕事?まあとりあえず、家の中にきな」
こんな世界の現状の中、仕事の依頼、とは。
しかしおそらくは、息子であるロイド達に関係していることなのだろう。
ユアンの言葉に一瞬怪訝そうな顔をするものの、仕事の依頼、といわれては、
ダイクも一概に無碍にすることはできはしない。


「…つまり、この俺に契約の指輪をつくれってんだな?」
家に案内し、ユアン、と名乗った人物…たしかその名は
ドワーフの中にもつたわっている四英雄の一人の名ではなかったか。
「地上暮らしで技術を失いつつある、この俺によ」
「あなたとタバサの中に組み入れられているアルテスタにと頼みたい。
  あなたとアルテスタならばそれも成し遂げられるであろう。
  アレはああみえてもクルシスで一番腕がたっていたドワーフだ」
事実、彼ほど腕がたつものはクルシスでもいなかった。
「…精霊の契約の指輪…ねぇ」
それが世界の意思に沿っているのか否か。
おそらくこの異変は確実に【世界の王】に関係しているはず。
それこそ【大いなる意思たる存在】に無関係であるとはいいがたい。
間違いなく精霊ラタトスク様がかかわっている。
そう半ば確信がもてているからこそ、おもわずダイクは唸ってしまう。
「クラトスからすべての道具は預かっている」
「…え?」
さらり、といわれた言葉に思わずロイドは目を丸くし思わずユアンを見つめてしまう。
今、ユアンは何といった?
クラトスから?
どうして…
いって、ユアンが懐より取り出したウィングパック。
それをかるくかざすとともに、机の上にいくつかの材料がぽん、と出現する。
研磨用のアダマンタイト…しかもかなり高純度な。
そして何やらいくつかの小さな薪のようなものにと束ねられている束もみてとれる。
それ以外にもいくつかの材料らしきものがあるにはあるが、
どれもこれもふつうではお目にかかれない品物ばかり。
「ん?この木の束は何だ?」
それはダイクもみたことがない品。
何やらふつうの木とはあきらかに違っているように感じるが。
実際問題、すでにこの木はここシルヴァラント側においては絶滅してしまっている。
ゆえにダイクが知らないのも無理はない。
「これ…もしかして、神木、か?」
オゼットの村の名産品の一つであり、
かつてこれをつかいロイドは願い札を掘ったことがある。
まさか願いがかなったら割って川に流すなんてしらなかったから、
ほぼ徹夜して細工をほどこして模様を彫ったというのに。
特徴あるその木の木目をロイドが忘れるはずがない。
そういう面というか興味があることだけ、はロイドは異様に記憶力はよい。
「火をおこすにはこれでなくては必要な熱量が確保できないからな」
もっとも、ミトスはそれをみこしてオゼットの神木をも絶滅させようとしたらしいが。
しかしそれはなぜか阻まれた。
異様に増えた魔物たちの手によって。
おそらくは、あれもまたセンチュリオンがかかわっていたのだろう。
今だからこそユアンはそう確証がもてる。
「…もしかして、テセアラでクラトスが俺たちの行く先々に現れてたのは…
  これを準備するために、まさか…テセアラ中を?」
フラノールやオゼット、そしてテセアラ。
ロイド達が出向く場所という場所にほとんどクラトスは現れていた。
「あいつは。ロイド。お前ならばエターナルソードを使いこなせるはずだ。
  そういっていたからな。自分に何かあればお前にこれで指輪をつくって託してくれ、と」
ユアンとしては自分がいえとものすごくいいたい。
おそらくこの場にゼロスがいたとしても、間違いなく同じことをいったであろう。
しかし、そのクラトスは覚悟をきめ、エルフの隠れ里に向かったはず。
オリジンの封印をとくべく、そしての前にロイドの力を試すために。
「…あいつは不器用だ。だが不器用なりに。ロイド。お前を認めている。
  そしてお前だからこそ、あいつはこれまでの優柔不断な自分の覚悟を決めた。
  かつてアンナが死んだのち、ただ生きているだけの人形のように成り果てていたあいつ。
  あいつをヒト、に戻したのは、ロイド、お前だ。
  だからこそ、それを知った私たちは、あのとき、お前をとらえることに作戦変更したのだがな」
それこそロイドの身を人質にし、クラトスにオリジンの解放を促すために。
「…もともと、あいつは家族でイセリアに向かう前に覚悟を決めていた。
  二人をイセリアに届けたのち、決着をつけるつもりだったようだからな」
――ミトスを、ユグドラシルを討つ。
そういったあの時の言葉をユアンは忘れてはいない。
クラトスに子供ができていたと知った衝撃もさめやらぬ中に聞かされたクラトスの決意。
ユアンですら義理の弟になりえるミトスを手にかけることは決意できなかったのに。
それはロイドが生まれ、夜泣きがひどいロイドをアンナがつれ、
外にでていたときユアンが彼らが隠れ住んでいた小屋にと出向いたときの記憶。
しかしその覚悟は打ち砕かれた。
クラトスらしいといえばらしいが、しっかりと下地を作っていたのが災いした。
きちんと移住許可証をとるためにネコニンギルドを通じ、
イセリアの村長にお金を払い込み、その許可証がとどき、これで家族は大丈夫。
そう思っていたが、それこそが罠。
その許可証そのものがよもやディザイアンたちに居場所を特定する鍵となるとは。
長い時間、シルヴァラントの管理を地上におりてこのかたしていなかったがゆえに
クラトスは気づくことができなかった。
イセリアの村長がディザイアンと通じている、というその事実に。
クラトスが地上におりたのは、何しろ当時からして数十年前であったのだから。
対してイセリアの村長が契約を結んだのはコレットが生まれてからのち。
これではクラトスが把握していたはずがない。
それでなくてもクラトスはクルシスから逃げていた立場であったのだから。
じゃあ、やっぱり…
そんなユアンの言葉をききロイドの脳裏によぎるのは、あの幻の空間。
あの平和な日常。
あのとき、母は何といっていたか。
もしも村長がいらないことをしていなければ、あの夢のような日常が、
もしかしたら過ごせていたのかもしれない。
それはもしも、でしかないとはわかっていても、どうしても思ってしまう。
「…そうかい。どうやら契約の指輪の作成に必要な材料。
  どうやらすべてそろえて準備してあるようだな。エターナルリング…ね。
  伝承としてはきいてたが……」
それはかつて、精霊ラタトスクが勇者ミトスに授けるために、
センチュリオンを通じ、ミトスの品は精霊自身がつくったといわれているが、
予備のもうひとつは、地のセンチュリオン・ソルムにいわれ、
当時のドワーフが作成した、と幼き日、親よりダイクはそのような話を寝物語。
として聞かされたことをふとおもいだす。
まさかそのおとぎ話の品物でしかなかったものを自分がつくることになろうとは。
おそらくテセアラのアルテスタも自分と同じ、なのだろう。
タバサの中に組み込まれている人格投射されたコアでしかない状態。
というのがもったいないようなきがするが。
まあ以前そのやり方も一応技術提供というか情報交換でしてはいるが。
もっとも、本人は自ら手をつぶした、というのだから、
今のままタバサの姿でその技術を使用したほうがいいのかもしれないが。
それは判断に困るところ。
もっとも、この短い期間、しかも一年どころか、
数か月もたたないうちにまた共同作業をすることになろうとは、
よもやダイクとて思いもしなかったが。
「ここまでされてちゃ、やらないわけにはいかねえな。
  ドワーフの誓い第一番。平和な世界が生まれるようにみんなで努力しよう…か。
  クラトスの旦那がここにいたら、同じ父親として力を合わせるのは悪くない。
  そういってやりたいとこだったがな」
どうもこの口調からしてロイドの実の父親は何かやらかすつもりらしい。
しかれそれにロイドがかかわっている。
それは直感。
「…親父?しって……」
そんなダイクの台詞にロイドは思わず目を見開く。
ダイクにはそのことを伝えてはいないのにさも当然、のように。
ダイクは今、ロイドの実の父親がクラトスである、と認める発言をした。
クラトスがダイクに話した、とはおもえない。
だとすれば。
そんなロイドの疑問を感じ取ったのか少しばかり苦笑し、
「あの騒ぎはわしもいたからな。ディザイアンのやつに手配をうけているのは、
  今現在、お前だけだしな。ついでに話はぴったりとあうしな」
手配をうけていたり、さらにはディザイアンに襲われた。
ここまでカッチリあてはまる家族はまずいない。
しかも、あの男性がくるたびに、アンナの墓にいつも同じ花がそえられていた
おそらくダイクもしらないが、それが彼女が好きだった花なのだろう
真実を理解したからこそダイクはそうおもう
それにあの日
旅立ちの前の日。
あの墓の前でじっと彼がたたずんでいたのをダイクは目にしている
あのときは少し不思議におもっただけであったが
「よし、やってやろう。ロイド。お前はジーニアスと一緒に、
  プレセアの嬢ちゃんと出かけているタバサをよんできてくれんか?
  彼女の中にいるアルテスタと共同作業でやったほうが能率はいいからの」
一人でやるより、そういう技術と知識をもっているものが複数でやるほうが、
失敗なくできる、というもの。
「そりゃ、かまわないけど。別に俺一人でも…」
「ロイド。今、この森はものすごく薄暗い状態になっちまってる。
  空もああ、だしな。ジーニアスなら薄暗闇でも目がきくだろう?
  お前はくらがりではよく迷子になる方向音痴だしな」
「うっ」
方向音痴、といわれてロイドは言葉につまるしかない。
実際、夜などに森にでたりすれば、幾度か迷ったことがあるゆえに…地元なのに。
はっきりいっていいかえせない。

「さて、と。それで?あいつの父親に何がおころうとしてるんだ?」
あえてこの場からロイドを退出させたのは、とある確認のため。
ジーニアスとともにロイドはプレセアたちを迎えにいっており、今この家にはいない。
「ユアン。クラトスのやつは本気でその……」
「ああ。奴は自分の中で区切りをつけたのちオリジンを解放するつもりだろう」
しいなの言葉にユアンも溜息をつかざるをえない。
「だって、あんた以前、オリジンの封印はクラトスの命をかけたものだって……」
だからこそしいなは言葉につまってしまう。
「そうだ。クラトスが体内のマナをすべて放出することでオリジンは解放される。
  …あのとき、マーテルを失ったあのとき。
  私もクラトスもミトスも未来に絶望した。
  ミトスのいったマーテルをよみがえらせる。
  それをして何がわるい、そうおもった。
  …クラトスなどは同じヒトがしでかした責任は自分にあるといって、
  あいつが自分から封印をかってでたのだからな」
あのとき、三日三晩、大いなる実りとともに一室に閉じこもっていたミトス。
出てきたミトスがいった言葉がすべての始まり。
「あいつは、前にこうもいっていた。
  『私は過去と決別しなければならない。そのためにミトスを…』とな」
それはあの小屋にてかつて交わされた会話。
その会話の内容をしっているのはクラトスとユアンだけ。
「…あいつも思うところがあるのだろう。
  この四千年の間、星の数ほどともいえる人々がエクスフィアの犠牲になった。
  われらはそれを止めるどころか容認していた立場ゆえに何ともいえないがな。
  ヒトであったクラトスは思うところがありはしたが、
  それらに目をつむっていたようでもあったからな。
  見ていながら見て見ぬふりをしていた、というのが正しいか。それは私もだが。
  ……アイトラの死をこの目でみるあのとき、まではな」
あれが決定的であった。
ミトスがかつてのミトスではない。
そうおもえてしまうのに。
「あいつがロイドに倒されたい、と思うのもわからなくはない。
  死ぬのならば息子の手で…とおもう気持ちも、な。
  しかし、それは逆をいえばロイドにミトスと同じ過ちを繰り返させてしまう可能性もある」
そう。
ミトスは姉であるマーテルを殺されてあのようになってしまった。
では、実の父親を自分の手で殺してしまったときロイドがどうなるのか。
ロイドとミトスはとてもよく似ている、とユアンもおもう。
そのまっすぐであきらめないところはかつてのミトスに得に。
まあミトスは彼ほど単純馬鹿ではなく、むしろ聡明、天才といえるほどだったが。
「あいつはそこまでわかっているのかどうかはわからないが、な」
でなければ、おそらくクラトスはこの機会にロイドに自らを倒してほしい。
そうおもっているようなきがする。
ミトスもロイドも選べない。
たしかに選べないのならば死んでしまえば選ぶ必要がないといえばないが。
それは、ユアンからいってしまえば逃げ、でしかない。
息子に父親殺しの罪を背負わすことになるその意味を、
クラトスが理解しているかどうかすら怪しい。
まあ、あの真面目なクラトスのこと。
ミトスの師匠、という立場とロイドの父親。
そしてミトスの同志でもあるという立場ゆえに自分で選べないのであろうが。
ユアンが一番優先するのは何よりもマーテル。
マーテルのためならばユアンは命も何もかも投げ出す覚悟がある。
しかしクラトスはミトスとロイド、どちらか一方を選ぶことができない。
否、おそらく息子のため、といってミトスと無理心中する気満々であったあの時の彼。
あの決意を見る限り、息子たちのためといいながら、
クラトス自身の自己満足、その一言につきる。
「…ちょっとまて。体内のマナをすべて、だと?それは……」
その言葉にダイクも絶句せざるを得ない。
精霊オリジンもまた封印されている、というのは知ってはいたが。
どのようにして、というのまでは伝わっていなかったにしろ。
「そんな…体内のマナを放出したら残されてるのは本当に死しかないじゃないか!
  何かないのかい!?クラトスを死なさずにオリジンを解放する、その方法が!」
「――さっきもいったが、この封印はミトスが提案したことを、
  クラトス自らが立候補して行われたものだ。
  オリジンの封印はクラトスのマナ、ヒトのマナの檻によってなされている。
  そして、今のこの世界のゆがみをどうにかするはオリジンの封印を解放する必要がある」
あきらかに二つの位相軸が狂い始めている。
それこそ無理やりに引き裂いていたその力が、よりちかづき、
今にもひきあい、互いに消滅してしまいかねいほどに。
それほどまでに今の状態は危うい。
それは目視できるほど、互いの世界の境界が完全に意味のないものとなっている。
「あたしたちもそれをきいて一応模索はしてたさ。
  けど、その別の道はまだみつかっては…」
「かつてのミトスも別の道、すべてが犠牲にならない方法をみつけようとしていた。
  結果、犠牲になってしまったのは、ヒトの裏切りによって殺されたマーテルだ」
しいなの言葉にきっぱりといいきるユアン。
裏切りをしてきたのはヒト。
二つの国の指導者たち。
きちんと種子の発芽の時期や彗星の飛来時。
それらは伝えていたというのに。
予兆はあった。
しつこくミトスを…自分たちをそれぞれの陣営に加えようとしていた時点で。
中には身分…すなわち地位をあたえる、と互いの国が申し出てきていた。
もっともミトスはそんなもののために自分たちは動いているのではない。
とけんもほろろに断っていたが。
「まあ、あいつの考えそうなことは大体わかる。
  大方われらは過去の人間。古代大戦において英雄、といわれているようにな。
  所詮は物語の中の過去の亡霊にすぎない。
  ゆえに、過去の亡霊はきちんと自分の役割を果たしたのち、
  今をいきるものたちに未来を預ける義務がある、こんなところだろう」
それは彼がまだテセアラの騎士団長であったころからの信念。
若い世代に未来を紡いでゆくのが自分たちの義務。
そのように彼は常々いっていた。
だからこそ…ミトスの理想、彼の決してあきらめないその姿勢を支持したのだろう。
それはユアンとてわかる。
わかるが、そんなことはきれいごとでしかない。
当時のユアンはそうおもっていた。
おもっていたからこそ、彼らの挫折がみたくてともに旅を始めたあの当時。
まあ、それは建て前でこいつら、ほうっておいたら餓死するんじゃないのか!?
というか持前の人の好さでついついほうっておけなかった、というのも正しいが。
それを決してユアンは自ら認めようとはしていないにしろ。
「あいつは一度決めたことは決して覆そうとはしないからな。
  たとえ誰が何をいおうとも。それに真実、オリジンを解放しなければ、
  この世界が、地上が消えてしまうかもしれない、という瀬戸際でもあるしな」
いつあの大樹に救いの塔がすべて飲み込まれてしまうか。
大樹とエターナルソードの力。
どちらが上か。
答えなどわかりきっている。
精霊はマナによっていかされている。
そして大樹こそそのマナの源。
その大樹が暴走しているとするならば、その近くにいる精霊がどうなっているのか。
ユアンにも予測がつかない。
むしろあまり人が住まいし場所にさほど被害がでていない。
このことのほうが驚愕してしまう。
村や町の一つや二つ、壊滅していてもおかしくない現状である、というのに。
まるで大地はそんな村や町を避けるかのように変動を繰り返したらしい。
ユアンは知るはずもないが、それもまたラタトスクの配慮。
かつての時間軸において、大樹の暴走にてマルタの母親達が死んだと知っていたゆえの配慮。
だからこそ村や町においては自然の植物の成長の影響だけ、にとどまっている。
もっとも、不必要、とおもえる技術力を使用せし品物は排除する方向性をもたせ。
「今からでもクラトスさんをとめることはできないんですか?
  そんなの間違ってます。…私がいえた義理ではない、とはわかっています。けどっ」
けども、今のユアンの言い回しだと、まるでクラトスは、
実の息子ロイドに殺してもらいたがっている、といっているようではないか。
実の父子で殺しあう。
そんな残酷なこと。
父にいわれ、残酷とわかっている研究をしていたケイトだからこそ、その残酷さがよくわかる。
ケイトは自分の父親に認めてもらいたかったがために他人の命を道具、とみなし、
そうすることにより研究にと没頭した。
父の役にたちたい、父に認めてもらいたい。
その一心で。
そのために大多数の命を蔑ろにし殺しているとわかっていながらも
彼女は研究をやめようとはしなかった。
心の奥底では自分たちを虐げるヒトに対し、自分が同じことをして何がわるい。
そういった思いがなかった、とはいえない。
彼女と全く関係のないものの命すら彼女は研究材料、として、
いくつも実験道具、として多数の人々を扱ってきた。
でも、そんな彼女をロイド達は助けてくれた。
自分が他人の命を道具とし、ハイエクスフィアを製造しようとしていた。
それをしってもなお。
そんな彼に父親殺しなどさせたくはない。
他人がきけばどの口がほざくか、といわれそうではあるが。
それがケイトの偽らざる本音。
「さきほどもいったが。私とてあいつをむざむざ死なせようとはおもわない。
  むしろあいつが先に死ねばミトスがどうなるか…より暴走しかねないしな。
  それに、ロイドまでミトスとおなじ方向にいきかねない。
  そのとき、おそらくロイドの仲間たちはロイドを止めることはできないだろう
  私やかつてのクラトスのように、な」
そうなれば、もうかの精霊はやはりヒトには救いがなかった。
と完全に見限るであろう。
センチュリオン達が覚醒しているのである。
下手をすればこの様子も認識しているかもしれない。
事実、彼らの様子はラタトスクはしっかりと視て把握していたりするのだが。
「死なせはしないって…
  でもオリジンはクラトスの体内のマナを放出することで解放されるんだろ?」
それは誰もが思う純粋なる疑問。
もっとも、この場にロイドがいればその意味をよく理解できず、
逆にそれのどこが危険なんだ?と場の空気をよまない発現をしそうだが。
否、間違いなくするであろう。
体内のマナ云々、といわれてもいまだに世界がマナで構成されている。
その事実すらよく呑み込めていないロイドである。
間違いなくその言葉がもつ意味はわからない。
マナを失ったヒトがどうなるか。
そんなのわかりきったこと。
王立研究員の実験でマナを取り出す研究にてその対象物がどうなっているか。
それをしいなはしっている。
死、どころか根こそぎマナを失ってしまえば、形すらのこらずにマナにと還る。
それをしっているからこそ、ユアンの死なせはしない、という言葉。
それに対し、しいなが怪訝そうにと問いかける。
「成功するかどうかはわからぬがな。私にも一応考えがある」
そんなユアンの言葉に思わず顔をみあわせるしいなとケイト。
ダイクはさきほどから腕をくみ、ユアンの言葉をじっと聞いている。
「クラトスが体内のマナを放出しおえた直後。
  私の体内のマナを分け与えるつもりだ。
  ハイエクスフィアの機能があれば体内の放出しきっても、
  細胞の崩壊を一時的に食い止めることができるはずだ。
  その間に私のマナを分け与えることができれば、あるいは……」
「しかし、それじゃあ、ユアン、あんたまで命をおとしかねないんじゃあ……」
ユアンのその提案にしいなは絶句せざるをえない。
つまりそれは、ユアンもまた命をかける、と暗にいっているようなもの。
「クラトスひとりにいい恰好をさせておくわけにもいかないしな。
  それに、あれでもあいつはミトスの師匠であり、あいつが唯一心を許している人間だ。
  マーテルだけでなくクラトスまでも、となったら、
  私とてミトスがどう行動するかもう予測できん。
  それこそへたをすればかつて自らが懇願して撤回した精霊の決定
  それを自らやり遂げるやもしれん。
  それは地上を海にと還し浄化すること」
「それは…たしかに。ハイエクスフィアの能力を考えると、
  理論的には可能です。けど、今は事情が異なっています
  世界各地でエクスフィアが使用不能になったり消えたりしている今では…」
実際世界規模でその現象はおきている。
ケイトがこっそりと隠し持っていたエクスフィアすら、気付けばいつの間にか消えてしまっていた
それこそ霞のごとくに。


「こんなものでいいですかね?」
ロイド達とは別行動というか、野営の…といっても近くにダイクの家はあるが。
しかし、薪が必要なことにはかわりがない。
「ええ、十分かと」
いいつつも、その手前には薪状にすでに割っている木々の数々。
タバサはこれまでアルテスタの家にてこういった分野を手掛けていた、
というのもあるだろうが、その知識と技能の中に樵などの分野の技術。
それも組み込まれていることがより強みとなっている。
「それにしても……」
木々を束ねる紐状なものに困らない、というのは確かに助かりはするが。
森のいたるところに蔓などがはびこっており、木々すらも蔦にとおおわれている今現在。
さらには以前、この森を訪れたときと森の様子がまったくもって変わってしまっている。
まるでこの鬱蒼とした森はガオラキアの森を連想させるものがある。
木々を手頃な大きさにきったのち、近くの蔓などをきりとり、
それらを編み込み簡単な紐としたのち、薪状にしたものをたばねつつ、
同じ作業をしているタバサにと問いかけているプレセア。
そんなプレセアに淡々とタバサは答えてはいるが、
しかしタバサとてきにはなる。
以前、ここにきたときとあきらかに森の様子がかわってしまっている。
しかも話によればこの先の牧場があったという場所は、
今ではかつての面影すら残っているのかどうかも怪しいという。
そこまでの劇的な環境の変化。
「…マスター、ご無事であればいいのですが……」
思わずぽつり、とそんな言葉をつむぐタバサ。
あのとき、ガオラキアの森にてマスター・アルテスタと離れたのち、
タバサはいまだにアルテスタ当人と出会っていない。
国の兵士たちに自ら投降したマスターの安否。
首都メルトキオで異変がおこっているというような話もきいた。
マスターが連れていかれたとすれば、首都、もしくはその技術を使用させるため、
王立研究所に連れていかれている可能性がかなり高い。
闘技場の罪人処刑に組み込まれている、とはいくら何でもありえない。
「・・・・・・・・・・」
そんなタバサの言葉にプレセアは何と答えていいのかわからない。
おもわず無言になるプレセアをみつつ、
「やはり、許せませんか?マスター・アルテスタのことを」
「それは……」
許した、というのはウソになる。
彼にも彼なりの事情があったことはわかった。
でも、とおもってしまう。
たしかに自分がエクスフィアを手にすることを望んだとはいえ、
彼の力がなければ自らの時が止められることもなかったのではないのか、と。
そして、アリシアも命を落とすことはなかったのではないか。
どうしてもそのように思えてしまう。
でも、心の奥底ではわかっている。
万が一、おそらく、アルテスタがいなくとも、ケイトは教皇に命じられるまま、
それこそ、ここシルヴァラントの人間牧場のように研究をしていたかもしれない、と。
ケイトが自分を選んだのはたまたま融和性が高かったから、という理由らしいが。
でも、いくら何でもおやに認められたいからという理由で人の命を何だとおもっているのか。
その思いがどうしても捨てきれない。
リーガルが苦しんでいるのもしっている。
一番悪いのは、実験を提案し実行したあの教皇であり、
おそらくはそれを示唆したのであろうロディルであることもわかっているが。
それでも理屈はわかるが、心がおいついていないのも事実で。
かといって、面とむかって彼らを責めるのも違うようなきがし、
ケイトととも、ともにいながらも、プレセアはほとんど口をきいてはいない。
「ヒトの心、とは複雑なのですね。私にはよくわかりません。
  でも、うらやましくもあります」
ふと顔をふせ、そうつぶやくタバサの言葉に思わずプレセアは逆に目をぱちくりさせてしまう。
「…うらやましい?どうして?」
どうしてそんなことをいうのだろうか。
このどうにもならない思いは浅ましい、そうプレセア自身が自覚しているのに。
許せない、けど憎みきることもできない。
事情をしってしまった以上、何もしらずに憎んでいるだけですむのならどれほど楽か。
リーガルが妹を殺したと知ったとき、妹の仇として相手を殺すことしかおもわなかった。
けど、妹は彼に助けられた、彼女自身がそういって。
しかも妹は死してもなお、彼のことをおもっている。
それが痛いほどわかってしまい、何ともいえない気持ちにであるのもまた事実で。
どうして、妹も自分も…いや、一番は自分、なのだろう。
どうしてエクスフィアとの融和性が高い、と検査結果がでてしまったのだろうか。
それさえなければ、きっと。
でも、とおもう。
それがなければ、今ともにいる彼らと出会うこともなかったのだろう。
そんなごちゃごちゃと様々に入り混じったこの吐き出すことすらない思い。
それらをわかって、うらやましい、というのだろうか。
「プレセアさんは、そうしていろいろと考えています。考えることができます。
  そして、プレセアさんたち、ヒトは死したのちもその思いを残すことができます。
  アリシアさんのように。けど、私は所詮、機械でしかないのです。
  マスターの手によりて人工知能、という形式をもった機械仕掛け。
  いくら学習し、見せかけの人格のようなものができていたとしても、
  私のメモリーが壊れてしまえばそれまで。あとには何ものこりません。
  私はあなたたちのように、死ぬ、というよりは壊れてしまい、それこそ何も…
  致命的なダメージをうけ、またバックアップシステムすら破壊されていたとすれば、
  私の今の考えも何もかも、これまで経験したこともすべて、ゼロにともどります。
  だから…とてもうらやましい、です。私には本当の意味で心というものがありませんから」
壊れてしまったり、また第三者よりプログラムが書き換えられたり、
また内部にハッキングでもされたらそれこそ終わり。
今でこそマスターの命令と、マスターが最後に命じた言葉。
すなわち、【彼の意見のままに】という言葉に従い、彼にいわれた言葉。
【タバサさんはタバサさんのおもうがままにしたらいいよ】。
その言葉のままに今は自由にさせてもらっている。
それは、マスターであるアルテスタが兵たちのもとに出向いていった日。
最後の最後、彼を見送ったときにいわれたマスターの言葉。
そしてまた、彼らと出発する前、マスターにこういわれましたので。
とまだ皆が起きるまえにエミルにいったときに言われた言葉。
その命令があったからこそ。
否、命令があったがゆえ、というべきか。。
自分の行動はそのように命令、という絶対的なものがあるからこそでしかない。
そうタバサは自覚している。
そして自分はそのように作られてもいる。
「…体を失っても、その心を保てるアリシアさん。
  そして…いろいろと考えることのできるプレセアさんたちがうらやましい、です」
そういうタバサであるが、気づいてはいない。
そのように思うこと自体、彼女に新たな【精神体】が宿っているということに。
たしかに始まりは、プログラム、というきっかけでしかなかったにしろ。
常にエミルの…ラタトスクのそばにてマナをうけとり、
また周囲の情報やプレセアたちとともに旅をするに従い、彼女の人工的でしかなかった【心】。
それは比較的成長している。
それこそ、その器がなくなっても、壊れてしまっても、その【精神】がのこるほどに。
「そんな…だって、あなたもそう考えて……」
「私の学習機能の中に、そのようにヒトとはすべきだ。
  そのように学習し新たにプログラムされているからにすぎません」
「ちが……っ」
「忘れないでください。プレセアさん。あなたがたはヒト。
  そして私はただの機械仕掛けの人形でしかない、ということを。
  私は優先命令があればそれをただ実行するだけの人形でしかない、ということを」
それでも、機械として生み出された以上、アルテスタがほどこしている絶対的なものがある。
そのように万が一、プログラムに強制干渉された場合、どのように行動すべきか。
それも組み込まれている。
それは彼女たちにいうことではないであろう。
いったとしてもどうにもなりはしない。
よもや、【ヒトを殺そうとした場合、自爆、もしくは自壊しろ】などというプログラムは。
「…?どうやら何かあった、のですかね?あちらから足音が。
  この足音からして、どうやらロイドさんとジーニアスさん、のようです」
まだ何か言いたげなプレセアの言葉を遮るように、ふと背後を振り向くタバサ。
タバサの高性能を備えた聴力は、近づいてくる足音を確実に特定している。
ある意味で、タバサの能力と天使たちの能力。
それはほぼ同一といってもよい。
それはあくまでもタバサがマーテルの器として創り出されているがゆえ、
天使化したときの性能と同じ機能をもたせつくられたからにすぎないのだが。
ヒト、のように数多の声や音、もしくは視界がみえたから、といって、
彼女が【心】を乱すことはない。
彼女は自分が【人形】であることを自覚している。
いるがゆえに、それがあたりまえ、という認識をもっている。
一応、制御機能もついてはいるが、旅の最中、それらの機能をオフにしてしまえば、
マスターにも頼まれた、彼らの安全、それが脅かされてしまうかもしれない。
だからこそ、あれからずっと、タバサはその機能をオフにはしていない。
「あ、いた!お~い!」
タバサがふりむき、そしてそちらを振り向いたその直後。
奥のほうからきこえてくる聞きなじんだ声。
「…ロイド、さん?」
そんなロイドの声をきき、プレセアは首をかしげてしまう。
たしか、彼らは外で野営の準備をしていたはず、ではなかったのか?
しかし、わさわざこうしてやってきた、ということは。
「…何かあった、のですか?」
何かあった、としかおもえない。
ゆえに、思わずそうつぶやくプレセアは…間違っては…いない。


スキット~厄介ごとは続く?~

ユアン「ともあれ、これでダイク殿達に指輪をつくってもらえるな」
しいな「それより。オリジンの封印があるのは……」
ケイト「噂では、エルフの隠れ里のある、そのさらに奥。
     トレントの森、とよばれている場所にオリジンがいる、とはききますが」
ユアン「そうだ。…うん?ロイド達がもどったようだが…だが、他にも……」
バタバタ…
何やら誰かが走ってくる音が森のほうからきこえてくる。
それとともに。
マルタ「みんな~!!いる!大変、大変なんだよっっ!!」
その声をきき思わず顔を見合わせる。
それとともに。
ロイド「あれ?マルタ?村に残ったんじゃあ……」
ジーニアス「今、大変っていってなかった?」
プレセア「…また、村で何かあった、のですか?」
先ほどの今である。
また何かあったのではないかとどうしても思えてしまう。
マルタ「ううん。村じゃなくて…パルマコスタが…っ」
一同(マルタを除く)『??』
マルタ「とにかく!ユアンさんがいるならちょうどいい!とにかく、きて!!」
いや、きて、といわれても。
ダイク「いってこい」
ロイド「親父!?」
どうやらこの騒ぎをきき、建物の中からダイクがでてきたらしい。
ダイク「セレスちゃんはまだ寝てるからな。こっちできちんと面倒はみておく。
     どうやら何かがあった、ようだしな」
わざわざ村から声にかけにきた、ということは少なくとも何かがあった、ということ。
ロイド「パルマコスタ?でも、ここから離れてるのに、どうして……」
マルタ「…さっき。パパ宛にネコニンギルドからニールさんから手紙がとどいて…
     ・・・・さっきの村長さんみたいな人がパルマコスタで増えてるって…」
一同(ユアンとマルタ、ダイクを除く)『!?』
どうやら、厄介ごとはまだまだ続く予定らしい……



pixv投稿日:2015年1月9日某日(Hp編集:2018年5月6日(日)開始

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あとがきもどき:

ちなみに、村長の家、ダイクが建て直しております。
つまりは、以前の村長のわがままがまかりとおったというか、
他の人達の家を建て替えさせる代金を村長がもつ、という理由によって、
村長権限で、ダイクを村にいれて家を再建してもらってます。
・・・それらもあり、村長に対する不満は村人の中では高まってる最中のあの騒動……