まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

pivixさんに投稿していた話の区切りとは変えてあります。容量的に……

さて、ようやく精霊との契約はオリジン(とラタトスク&ゼクンドゥス)以外完了です。
ある意味で、原作の大樹暴走よりもタチがわるいかもしれませんが、
しかし、一切の死者はそんな状態でも実はでてないんですよ(笑
何しろ一応、ラタさま、力なき動植物には加護あたえてますから、
たとえ津波とかにおそわれても、彼らにはその影響はありませんv(まて
まあ、ヒトはあるいみで自業自得なので自分らでどうにかしろ、
とあるいみ放任主義ではありますが(はげしくまて
ということで、ようやく終わりがみえてきます。
え?魔導砲?そんなものもありましたね(苦笑

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重なり合う協奏曲~新たなる試練の始まり~

マナの守護塔。
その最上階でもある屋上。
さすがに塔の屋上というだけのことはあり、そう幅は広くはない。
十二人もいれば、自由に動き回れる空間があるのかすらも怪しい。
そんな屋上にとある”精霊の祭壇”とよばれているその場所の上。
ゆらゆらと銀色に近い光が漂いながらういているのがみてとれる。
思わずそれぞれに顔を見合わせるジーニアスとロイド。
「…これで、大いなる実りの守護っていうのがとける、んだよね?」
どんどんと稀薄になってゆくマナ。
それに伴い、なぜか大地のほうはまるで沈黙をたもっているかのごとく。
ここまでマナが減り始めているならば、
自然にも何かしらの影響があってもおかしくはないのに。
その傾向はまったくみあたらない。
無意識のうちに、
ぎゅっと姉であるリフィルの服の裾をにぎりしめつつぽつりとつぶやくジーニアス。
「しいな」
「ああ、わかってるよ」
後ろにいるしいなにとロイドが声をかけるとともに、しいながゆっくりと足を一歩前にだす。
自然としいなに道を譲る形となりて、しいなが精霊の祭壇、と一般には信じられているそれ。
かつて、ロイドたちがコレットの護衛として祈りをささげたその位置。
その場所にしいなが一歩歩み出る。
「我がなはしいな!精霊との契約を望むもの!」
しいなが高らかに宣言するとともに、光が、はじける。
光がはじけ、その光が収束し、その場に一つの人影を形成する。
ふわふわとその場にうかんでいるのは、ひとりの女性。
ふわふわとその場にうかびし見た目は三日月のようなもの。
それに腰をかけているひとりの女性。
その手には身長ほどもあるこれまた三日月の形をしているような杖をもっており、
紫色の服は胸元、そして腰の下から巻きスカートのごとくにその下半身を覆っている。
胸元をかくしている布はどちらかといえば胸元のみを隠しており
それ以外は色白なまでのなめらかな肌を露出し、
その手首には銀色の腕輪がみっつ、それぞれつけられているのがみてとれる。
その腕部分の一部には何かの文様のようなものが刻まれており、
ぱっとみため、入れ墨のようにみえなくもない。
「我が名はしいな。精霊との契約を望むもの」
現れたその女性…月の精霊ルナに対し、しいなが契約の向上を紡ぎだす。
「……アスカは?」
一応、アスカにも確認しているが、
彼女たちは自分がここからとある方法によってうごけた。
というその真実を知らないはず。
だからこそ確認をこめてといかける。
彼女としてみれば、早めにこの契約の儀式を済ませてしまいたい。
こののち、かなり忙しくなるのは目にみえている。
ようやく時が動き出した、と実感できるほどに。
そんな心情もあいまって、はたからきけば、月の精霊ルナのその声は、
多少の戸惑いを含んでいる、というように感じられなくもない。
事実、しいなもまた、この場にアスカがいない、ということをきにしているのだろう。
そうおもい。
「くるはずさ。約束したかね」
相手を安心させるように、真実のみを言い放つ。
精霊との契約に関してはこちらがなめられてはダメ。
それをしいなは幼きあの日に身をもって知っている。
そして、混乱し現状から現実逃避をしようとして起こった結果も。
あのとき、コリンがしいなをかばわなければ、しいなはヴォルト攻撃に飲まれていたか。
もしくは他の誰かがしいなをかばって…おそらくはコレットかロイド。
そのどちらかを失ってしまっていたかもしれない。
幾度も精霊との契約を交わしていく中で、あらためてしいなはそのことを自覚している。
だからこそ契約に関してはしいなは警戒を解くことはない。
「そうですか。それならばいいでしょう」
相手からの了解の言葉をうけ。
そして背後にちらり、と視線をむけたのち、大きく深呼吸し、そして。
「我が名はしいな。ルナとアスカがミトスとの契約を破棄し
  わたしと新たな契約を交わすことを望んでいる」
すでにルナは姿を現している。
だからこそ、ヴォルトのときのようにつかった口上はあるいみで必要はない。
「……受け入れましょう。あなたに力を貸せるものか。その力を試させてもらいます」
といっても、彼女の契約をうけいれ、
せめて最低限ミトスとの契約の破棄は受け入れるように。
そう命じられている以上、ミトスとの契約の破棄。
それだけ、はうけいれるつもり、ではある。
それに、新たに設けられた理とかいうものにより、
自分たち精霊を呼び出すのにヒトにかなり負担がかかるという。
受け入れた、というのはミトスとの契約の破棄、の部分。
つまるところはこのままこの目の前の人間、契約の資格をもちしヒトの子供。
彼女にルナが力かさずとも、今の言葉をうけいれたことにより、
この地に縛り付けられていたルナの戒めは解き放たれた。
しいなが今放った、精霊の契約の言葉によりて。
「さあ。あなた方の覚悟のほどを。力を示してみせなさい」
その言葉とともに、空中より光がはじけ、そこより一つの影が舞い降りてくる。
その影はルナとしいな、その中間にまるで割り込むようにと割って入ってくる。
「あ、みて」
それにはじめに気づいたのはコレットで、おもわずゆびさし声をあげる。
「あれは…精霊、アスカ、ね」
契約の時にやってくるとは聞いていたが。
ここまでピッタシのタイミングで現れるというのはどこかで常にみていたのだろうか。
そんな思いがふとリフィルの中によぎる。
「さあ、力を示して見せなさい!」
月の精霊ルナの声と。
「われらにその決意のほどをみせてみよ」
燃える鳥のような姿をしている光の精霊アスカ、の声が重なる。


戦いは多勢に無勢、といっても、相手は精霊二柱。
しかも、それぞれが全体攻撃のような術をはなってきて、
なかなか連携がとれなかったといこともある。
一体どれくらい戦いつづけた、であろうか。
それでも、相手は二体。
数の上ではしいな達のほうが優っている。
なぜかセレスも魔術を駆使しており、また下手をすればその力とあいまって、
はっきりいってしまえばジーニアスよりもかなり戦力になっていたりする。
実際、簡単な魔術発動ならば問題ないが、少し上級技でも使用しようとするならば、
これまで以上に体に感じる疲労感が半端なく、
とどのつまり、戦闘中にそんな状態になるのははっきりいって死を意味するようなもの。
ゆえにどうしても魔術オンリーのジーニアスとして使用できるのは、
その手にしている武器でもあるけんだまをもちい、何とか相手の詠唱。
それをかろうじてくいとめる程度。
もっとも、どういう理屈なのかロイドにはわからないが。
相手の攻撃をしばらく観察していたタバサがそれぞれの特徴。
その攻撃の繰り出し方のパターンにきづき、そのことを指示し、
それをうけたリフィルがすぐさま新たな戦法を生み出したのか、
六対一、という一行の一部と精霊一体。
という形式にともっていった。
これにより、二体の精霊の同時撃破というよりは、一体づつ確実に。
しいなが参戦していなければ意味がないといわれそうなので、
時折しいながマルタと入れ替わりつつも何とかこなしていった。
どれくらい時間がたったであろうか。
時間にしてはかなりかかったように感じもするが、実際にかかった時間は数十分もたっていない。
それどころか六人づつにわかれて戦ってから後、精霊を床に伏せさすまでかかった所要時間。
およそ八分、という何とも言い難い数値をたたきだしていたりする。
伊達にどうやら禁書の中において戦いにおいては鍛えられてはいない、らしい。
床に触れ伏したルナとアスカの体が一瞬光につつまれ、
そしてその光は一度はじけたのち、次の瞬間。
ルナとアスカは空中にそれぞれ何ごともなかったかのように並んで浮かんでいたりする。
「あなた方の力を認めましょう。さあ、契約の資格をもつものよ。
  私との契約に何を誓うのです」
ふわふわとうかびしルナより、しいなにやわらかな視線が投げかけられる。
そんなルナからの問いかけに、
「おおいなる実りの発芽と、二つの世界の真の再生を誓う」
大樹が発芽したとしても、またヒトが大樹をからしては意味がない。
だからこその真の再生。
シルヴァラントにしろ、テセアラにしろ。
新たな歴史を歩むために。
あとは、世界を一つにもどしさえすれば、あとはヒトの領分といってもよい。
今のままでは、あのヒトを見下すのが当たり前、とおもっているテセアラ人などは、
確実にシルヴァラント人を見下しへたをすれば従属させようとするだろう。
それでは世界にとって真の再生、とは言い難い。
「…いいでしょう。私たちの力を契約者、しいなに。
  しかし、私たちの力をヒトの争いに利用しようとするならば、そのときは容赦はいたしません」
それを実行しようとしたその刹那。
その召喚における精神力の使用によって、しいなは確実に命を落とす。
それは、精霊たちにラタトスクが新たに設けた理。
ヒトの争いにその力を悪用されないように、
だからこそあえて彼らを召喚するのも召喚主の”精神力”にと完全に切り替えた。
いってみれば召喚主の力量に似合った分霊体のみが呼び出される形になった、といってよい。
これまでは完全なる精霊が呼び出されていたが、今後はそういうこともなくなるであろう。
あのとき、しいなはそれを知らず、マクスウェルそのものを呼び出してしまったがゆえ、
完全に体力も何もかももっていかれてしまったに等しい。
「…そんなことはしないさ」
「わかっているとはおもいますが、私たちの召喚にはあなたの力が今後は利用されます
  あなたの精神力によって私たちは召喚されることになります。
  精神力がつきれば死ぬこともあるでしょう。それを忘れないでください
  私たちの力を利用することなく、あなたがたが道を歩めることを期待しています」
「どういう……」
しいなか問いかけるよりも早く。
しいなの言葉をうけ、かるくうなづくとともに、
ルナとアスカの体が光となりて、その場からはじけきえる。
その光はやがて小さな点となりゆっくりとしいなの手の中にとおちてくる。
それはトパーズがあしらわれた指輪。
しいなが指輪を手にするとほぼ同時。
ゴゴゴゴゴッ…
何ともいえない音とともに、地響きと、そして巨大な揺れが襲い掛かる。
それはまるでシルヴァラント全体が揺れているかのような、そんな地響き。
それとほぼ同時。
「やったか!」
「しまった!」
背後より聞き覚えのある二つの声がしいなの耳にと飛び込んでくる。


この揺れは間違いなくしいな達が契約を完了させた証。
ゆえに転送陣に飛び込んだユアンにつづきあわててクラトスも転送陣にととびこんだ。
そして転送陣を抜けた先。
階段を駆け上がった彼らが目にしたは、
精霊の祭壇の前でかろうじて何とかたっているロイドたちの姿。
それでもマルタなどはかなり揺れがひどいせいもあり、かなりよろけており
まったく動じていないようにみえるタバサにおもいっきりしがみついていたりする。
ゼロスなどは揺れの影響がでないようにかすばやく翼を展開させ、
さくっとセレスのみを抱きかかえ、セレスに被害がでないようにしているが。
さすがに高い塔、というだけのことはあり、揺れの大きさは半端ではない。
これまで精霊の楔というか精霊を解放するたびに地震はおきていたが。
今回の揺れは半端ではない。
塔の上だからもわかるが、眼下にかろうじて見えている台地も、
こころなしか、というか確実に揺れている。
まるで地面が海の波のごとくに波打っているのが確認できるほど。
高い塔であるにもかかわらず、この塔がさほど影響をうけていないのは、
彼らは気づいてはいないが、ゆっくりとしかし確実に。
この塔を包み込むようにしてのびてきているちょっとした草の蔓の影響ゆえ。
歓喜にみちたユアンの声と、あせったようなクラトスの声。
「…何、これ…」
瞬間、ぞわり、と感じる意味不明な悪寒。
ふと自分の体を確認してみれば、腕といわず足にもびっしり鳥肌があらわれている。
思わず体を自ら抱きしめるようにしてつぶやくジーニアス。
「何なの!?これ!マナが…マナが嵐みたいにぐちゃぐちゃでっ」
言いかけたジーニアスの言葉は次なる現象にて遮られる。
今、まさに彼らが精霊との契約をすませた精霊の祭壇。
そこに光が集ったかとおもうと、それらはまるで空にのびるかのごとく、
光の柱、となりて一気にその光は収束し、そこに巨大な光の柱の帯を作り出す。
よくよく視線をこらしてみれば、その光の帯はここだけ、ではなく。
様々な方面から空に向かって伸びているのが確認できたであろう。
トリエットのトリエット遺跡から、バラクラフ王廟跡地から、ソダ島から。
そして彼らは知る由もないが、この光はテセアラ側においても同時におこっている。
そしての揺れも。
地、闇、雷、そして氷。
それぞれの神殿からのびる光の柱。
たっているのすらもあやしいまでの揺れと、そして何かの唸り声のような地響き。
そしてもたらされた謎の光の柱。
「!いかん!ここは危険だ!」
はっとクラトスが意識を精霊炉にむけてみれば、本来、その力は内部にとどめおくもの。
それを逆に噴出したことの影響なのか、祭壇にヒビが入り始めているのがみてとれる。
このままでは、ボウダイなるマナが解き放たれ、大爆発すらもありえる。
それだけでなく揺れは収まる気配をみせるどころかだんだんと左右の揺れが激しくなっている。


――わが意のままに。芽吹け!
『ウティ ウス フイルルイバド ティイ トゥヤ トゥウムド』
我が意に従え。
その意味をもった”力ある言葉”が世界にむけて解き放たれる。
それは世界に解き放たれた、声なき声であり、また力ありし言葉。


ふと、どこか聞き覚えのあるような旋律の声のような何か。
それらが彼らの耳にきこえたような感じをうけるが、
しかし今の彼らからしてみればこの揺れから逃れることのほうが重要で、
そこまでその言葉の意味を深くとらえてはいない。
「これは…まさか、この光は各封印の祭壇、から?だとすれば…」
一方、ひとりのみ、何やら考え込み始めているリフィル。
リフィルもこのマナのまるで嵐のような乱れは感じ取っている。
嵐のようでありながら、どこかきちんと方向性がもたれているそれ。
そのマナの本流はあきらかに、一点を目指してむかっている。
救いの塔、その方向にむかって。
もしもマナの流れをその目にてきちんと認識できるもの、視覚としてとらえるものがいたとするならば、
マナの本流のようないくつもの流れが救いの塔に流れていっているのがみてとれるであろう。
そしてその現象は、ここシルヴァラント、そしてテセアラ。
同じようにおこっている。
ドォォッンっ。
直後、より激しい揺れが襲い掛かる。
はっと下をみてみれば塔の下のほうから土煙のような何か、がみてとれる。
「まずい!塔が崩れるぞ!?逃げるんだ!」
どうやらこの揺れの耐久性はこの塔はもっていなかったのか。
それとも他にも要因があるのか。
わからないが、わかるのはこのままここにいれば崩れる塔にまきこまれ無事ではいられない。
ということ。
ゆえにあせったようなクラトスの声がこの場にと響き渡る。


すばやく翼を展開し、いまだに祭壇を調べようとしていたリフィルを背後からかっさらう。
そうでもしなければまちがいなくリフィルはあの場から動きはしない。
「ああ!?何をする!?まだ祭壇を調べている途中…」
そんなクラトスにリフィルがこのような場合だというのに抗議の声をあげているが。
こんな揺れの中でも調べようとしているリフィルの根性はさすがとしかいいようがない。
「そういっている場合か!神子たちよ!とにかく飛べぬものをつれて空ににげろ!
  塔がくずれるぞ!ユアンもとべぬものを抱きかかえろ!」
ユアン、クラトス、コレット、ゼロス。
彼らはまだいい、翼があり空を飛ぶ手段をもっている。
そして。
「タバサどの!たしかそのほうにも翼があったはずだ!ほかのものを!」
「了解しました」
クラトスの言葉をうけて、ばさり、とタバサのその背からまるでコウモリの羽根に、
いくつもの鳥の羽毛をくっつけたような何かのようなものか展開される。
「あれ?タバサにも翼があるんだ」
「はい。マーテル様の体なのだから空をとべなくてはいけない。
  という理由で内臓されています。もっとも鳥の翼のようなものをつくりたかったらしい。
  のですが、なかなかうまくいかなかった、とききおよんでおります」
というか、これまでの旅でもタバサがとべるというのをいっていれば、
どうにかなったような場所がいくつもあった、のだが。
タバサはそのことに気づけない。
きょとん、とした声をあげるコレットに淡々とこたえているタバサ。
「暴れていては他のものがつかめない。このままでは塔にまきこまれ、みなが死にかねないぞ!?」
いまだにじたばたと祭壇を調べたいがばかりにクラトスの腕の中でもがいていたリフィルではあるが、
そんなクラトスの言葉におもわずぴたり、と動きをとめる。
たしかに、塔はぐらぐらとゆれており、ある程度ういたことから、塔そのものが崩れだしている。
それはたしかにみてとれる。
実際、がれきのようなものがいくつもばらばらとおちていっているのがみてとれる。
自分がこのまま暴れていれば、クラトスはほかのものをつかめない。
そして、飛べないものはこの場には大勢いる。
ロイド、ジーニアス、しいな、プレセア、リーガル、マルタ。
セレスはちゃっかりとすでにゼロスが抱きかかえているからともかくとして。
タバサに翼があった、というのも驚きではあるが。
まあ、便利性を考えればたしかに内蔵、という形で組み込んでいてもおかしくはない。
そういう間にも揺れは強くなり、ロイドたちの足場もまた危うくなってくる。
「!ジーニアス!」
足場がくずれ、そのまま落下しそうになりかけた弟の姿を目の当たりにし、
ようやくはっと我にともどったようにあわてて手を差し伸べて、
そんなジーニアスを何とかだきとめる。
クラトスの協力があってこそ、といえなくもないが。
タバサはその片手でもってしてリーガルをつかみ、
もう片方の手でなぜかマルタをもかかえている。
ある意味光景としてはシュール以外の何でもない、が。
コレットはコレットですばやくロイドを抱きかかえており、
そんなロイドは背後からしいなに腕をまわし、しいなを抱きかかえる形となっている。
つまるところ、コレットがロイドとしいなを。
そしてゼロスがセレスを。
セレスが手をのばし、セレスとともにプレセアもまたゼロスのもとにいるが。
タバサがリーガルとマルタを。
そしてクラトスがリフィルとジーニアスを。
そして残りのひとりであるケイトはユアンが。
それぞれが抱きかかえ、一気に塔の最上階から飛び上がる。
それとともに、
ズズゥゥッン。
まるでそれを合図にしたかのように、一気にマナの守護塔が崩れだす。
「ああ!?マナの守護塔が!?貴重な文献がぁぁ!!」
何やらジーニアスをしっかりと抱きかかえつつも、
リフィルがクラトスの腕の何で何やら叫んでいるのがみてとれるが。
それとともに、より強い光がはじける。
「みて!!あれ!!!!」
コレットが空に浮かんでいるままで、思わず声をはりあげる。
コレットが視線をむけたその先。
そこには救いの塔がある方向、のはず、なのだが。
コレットの言葉にふりむけば、救いの塔が今まさに光に飲み込まれていっている。
それは塔を覆い尽くす巨大なる光の帯。
そして、次の瞬間。
これまでとはくらべものにならないほどの地響きが、世界各地において発生してゆく。


~~
ちょこっと補足:
それぞれ抱きかかえて空中に浮かんでいる状態案内:
ゼロス(セレス・プレセア)/タバサ(リーガル・マルタ)/クラトス(セイジ姉弟)
コレット(しいな・ロイド)/ユアン(ケイト)
この状態でそれぞれ、塔の崩壊からのがれ、空中に逃げてます。
ユアンだけがひとり(笑)
…えっと、抜けてる人はいない…よな?(びくびく

~~~


時は、きた。
空中に映像、として映し出している彼らの様子。
そして、かの中に入れ込んだ自らの力のかけら。
それを通じ、送られてくる彗星のマナ。
呼応するかのように、二つの花のような種子が淡く輝きを増してゆく。
小さな光は波紋となりて、やがてゆっくりと広がりをみみせる。
それは爆発的にと広がり、やがてそれはぴたり、と空中にと停止したかとおもうと、
その真下にいる人影が手を伸ばしたその刹那。
やがてその光はゆっくりとその姿を変貌させてゆく。
はじめちいさな塊でしかなかったそれがなぜか小さな苗木のようなものになり、
そしてそれらが水の上にゆっくりと移動し水に触れたその刹那。
まるで乾ききった砂が水を吸い込んでゆくかのごとく、いっきにその姿を変えてゆく。
「――目覚めよ。大樹カーラーン」
ただの一言。
それだけで、ただの新たにつくりだした小さな種子でしかなかったそれ。
それが今まさに、雄々しく茂りをみせる巨大なる大樹にと変化する。
もともとあった湖を失わないように、木々の根をすこしばかりうかせることにより、
大樹の幹と水面とには距離をおいた。
これにより、もともと湖の中で生活していた生物に影響がでることはない。
トレントの森、とよばれし場所の奥深く。
新たに芽吹いた大樹はその力を一気に生みの親の力をえて成長してゆく。
「さあ、世界再生の始まり、だ。…大地の活性化を開始せよ」
芽吹いたいまだわかわかしい雄大ともいえる樹をなでつつも、ちいさく次なる命を紡ぎだす。
『御意に』
それとともに、どこからともなく響いてくる声。
「さて、地上のヒトどもはどのような反応をしめす、か?」
もう、すでに審判の時は訪れた。



「な、なんだ、ありゃぁ……」
さすがのゼロスも唖然とした声をだすしかない。
いつもは雄大ともいえるほどに視線の先に必ずそびえたっている”救いの塔”。
その救いの塔が光につつまれるとともに、
なぜか内部、そして周囲からいくつもの何かの影?らしきものがまとわりついている。
よくよくみればそれは何かの蔓?のようにみえなくもなく、
それらがいっきに救いの塔の内部、そして周囲からあっという間に救いの塔を覆い隠してゆく。
塔をまるで軸というか核にしたかのように、その蔓もどきは左右にひろがっていったかとおもうと、
それらの蔓のようなものがからみあい、まるで木の枝のようになったかとおもうと、
それらはいっきに広がりをみせはじめてゆく。
すでに塔、という塔の原型はとどめていない。
まるで塔そのものが何か…蔦のような蔓のような。
ひたすらに絡みつく巨大な何かに覆われるかのごとく、その姿を完全にと変貌させている。
内と外、それぞれ急成長した樹の根によって、
救いの塔、といわれているそれは今まさに崩壊しかけているといってもよい。
それでも完全に崩壊しないのは、
今はまだ”エターナルソード”とよばれしかの精霊との契約が生きているがゆえ。
しかし、かの契約は塔をもってして障壁の維持、というものであり、
外部からの衝撃に関して防御しなければいけない、という盟約はない。
皆が塔の異変に目をとられているそんな中。
バチバチと何ともいえない音が周囲にと響き渡る。
みれば、空をいくつもの稲妻が走り出しやがて空が紫色にと染められてゆく。
「な…何だ!?あれ!?」
それまでまだ多少は明るかったはずの空。
その空から一気に明るさが失われ、思わず空をふり仰いだロイドが思わず叫ぶ。
バチバチと静電気のようにいくつも空には稲妻のようなものがはしっている。
そしてそれだけ、ではない。
空があっという間になぜか紫色にと彩られる。
「…なっ。あの影響で救いの塔の障壁まで消え去ったか!?」
それをみて、クラトスが驚愕したように何やら叫んでいるが。
塔が完全に崩れたというか破壊されたわけではないのだ、とはおもう。
まるで点滅するかのごとく、その紫いろの巨大な何か。
空を覆い尽くす何かは稲光の合間を縫うようにして空全体を時折覆っている。
先ほどまで晴れていたはすの空は一点して異変というか異常を示す空にとかわりゆいている。
それとともに突如として大気がざわめきをましてゆく。
大地の揺れは激しくなり、木々もまた倒れんばかりにとゆれてゆく。
ゴゴゴゴゴ…ビシ…バキバキバキッ…ドォォッン!!
それぞれがそれぞれに抱きかかえられるようにして空に浮いている彼らの目に飛び込んできたのは、
引き裂かれてゆく大地の姿。
そしてその引き裂かれ、大地に亀裂がはいったその場所から突如として巨大な木の根。
それらしきものがあらわれたとおもうと、その木の根は次にあらわれた、
大地の裂け目から突如としてこれまた噴出する赤い何か…どこからどうみても溶岩。
としかみえないそれ。
噴火だ、と誰に言われなくても理解できてしまう。
実際にみたことは皆無ではあったが、大地の至るところから噴き出る溶岩。
そして収まることのない大地の揺れ。
空中からみても、まるで地面が一つの海のごとく完全に波打っている。
そして異変はそれだけにはとどまらない。
空を覆いつくさんばかりの何か。
ロイドたちは知らない。
それはこの惑星のすぐ近くに存在している彗星である、ということを。
「何だ!?あれ!?」
巨大な空を覆い尽くす、何か。
そんなロイドの叫びはこの場にいる理由を知っているもの以外の心情を示しているといってもよい。
「…あれが、デリス・カーラーンだ。
  救いの塔から発せられる障壁でこれまで隠されていた彗星そのもの、だ」
塔があった位置にと視線をむければ、いまだに塔は何かに覆いつくされている。
よくよく目を凝らしてみればそれが木の根らしきものであるのがうかがえる。
内部、そして外からまるで塔を破壊しつくさんばかりに成長していっているそれは、
そのままその塔によってかろうじてひきとめている彗星にまで届く勢いにて成長を続けている。
「……止められなかったか」
これは、システムがはじき出した最悪な可能性。
その可能性が現実性を帯びてきたといってもよい。
だからこそ、後悔を含んだ声をもらしているクラトス。
地上においては相変わらず地震がつづいている、のであろう。
地面が完全に波打っているのがみてとれる。
そして大地が引き裂かれ、それとともに、空間がゆらぎ、もう一つの姿を映し出している。
それは重なり合うもう一つの世界、テセアラ側の大地のありよう。
はたから見ればこれはかなりの大惨事にみえるであろうが。
実際は、位相軸がずれているままで、かつての姿にもどすべく
地表そのものを調整しているだけ、にすぎない。
引き裂かれる大地も、噴火もすべては大地を活性化させるための手段にすぎない。
すでに、動植物や魔物たちには…ヒトを除きラタトスクが保護を施している。
だからこそ、彼らにこの異変による影響はまったくない。
あるとすれば、それはヒト、という種族のみ。
実際、動物や魔物たちも【王】に守られているのを本能的に理解しているゆえに、
このような現状になってもまったく動じている気配はない。
「まさか!あんなところに星が存在できるわけがないわっ!」
そんなクラトスの言葉にはっとし、クラトスに抱きかかえられている状態であるがゆえ、
思わずその顔をクラトスのほうにむけて叫ぶリフィル。
そう、ありえない。
あれが、この空にみえているアレが星だ、彗星だ、とするならば。
こんな近くに【星】が存在しうることは常識的に考えてそれはありえないこと。
それこそ重力の影響で互いの世界に影響がでて、必ずどちらか、
下手をすれば互いの【星】にも影響がでるはず、である。
空からのびる紫色の稲妻のようなものは、そのまま大地にと降り注ぎ、
いくつもの紫色の電撃を帯びたような光の筋が大地から彗星にむけて降り注ぐ。
否、この場合は上っている、というべきなのだろうか。
まるで、彗星と大地をつなぐ鎖のごとく、それらの光は世界各地においてみうけられていたりする。
そしてそれはここ、シルヴァラントに限ったことではなく、テセアラにおいても同様。
「その不可能を可能にしているのが、あのエターナルソードだ」
「そうだ。救いの塔から発せられている障壁で常に隠されていたが。
  かの彗星はこの四千年。常にあの場所に、この星の上空にと存在していた。
  アレの影響でどうやらその障壁が壊されたというか起動しなくなりその姿を現したようだがな」
はたからみれば、大地からのびている紫色の電撃を帯びたような光。
鎖のようなそれが彗星を上空におしとどめているようにもみえなくもない。
実際、レインは彗星を上空にとどめ置くにあたり、あまり力を利用しない方法。
つまり、マナの鎖にて彗星をこの地と上空にと押しとどめている。
そして、【大樹】が芽吹いたことと、ラタトスクの少しばかりの干渉。
それらもありて、その鎖が誰の目にもみてとれるようになっている。
ただそれだけのこと。
ロイドたちは知らない。
かの種子の芽吹きとともに、同時、ラタトスクが二つの種子を芽吹かせた、ということを。
一つはこの惑星よりも少し先の宇宙空間に。
そしてもう一つはユミルの森の奥深くに。
ユアンの言葉につづき、クラトスが空をふり仰ぎつつもいってくる。
空の異変…クラトス達いわく、もともとそこにあった、というが。
目に見えなかったものがみえるのとそうでないのとではわけが違う。
「しかし、どうなっている!?」
ユアンにも何がどうなったのかわからない。
ゆえに、ユアンもまたあせったような声を出しているが。
あれが大樹、だというのだろうか。
ありえない。
それに、救いの塔が壊れたわけでもないのに障壁が消え去るのも。
そして…眼下においてみられる地上の異変も。
「…みて!あれ!」
はっとしたようにコレットが何かをいってくる。
救いの塔を覆いつくさんばかりのいびつなる木のような何か。
その中央というか上空の中心部分。
青い光につつまれた球体のようなものにはいっている人影がみてとれる。
「あれが…大樹カーラーン……」
まちがいなく、あれはあの種子が芽吹いたもの、なのだろう。
蔦のようにみえるのはおそらくは大樹の根。
そして根は塔に絡みつくように、内部、そして外からも塔を破壊しかけている。
いまだにバキバキという音とともに根らしきそれはどんどんと上昇しておりとどまりをみせていない。
そしてそれにともない、塔を軸、としていびつなる樹のようにみえなくもないそれ。
おそらくどういう理由かクラトスにもわからないが、歪んだ形で大樹が芽吹いてしまったのだろう。

「まさか…あれが大樹カーラーン、なの?」
ぽつり、とつぶやかれるクラトスの言葉をきき目を見開きつぶやくジーニアス。
空を飛んでいるがゆえに地表の様子はわからないが、すくなくとも何かが起こっている。
それだけは間違いない。
空中からも大地が波打っているのが感覚的に理解できる。
地中より現れたいくつもの木の根らしきものが地表に出たかとおもうと、
次の瞬間。
その裂け目からは光の帯のようなものが突如として湧き出してくる。
そして、それだけ、ではない。
ドオオッン!
何かの爆発音のようなものがきこえ、はっとみてみれば、山間の至るところ。
山脈地帯において、赤い何か、がみてとれる。
「…ウソ…火山…活動?」
急激に減っていたマナが荒れ狂うようにして空中にと解き放たれる感覚。
だからこそ、ジーニアスは唖然とつぶやくしかできない。
「あの、樹の中にいるあの人は……」
青い髪の女性が今まさに、その樹の中に取り込まれようとしているような。
光につつまれた女性がまるで樹の蔓にからめとられるかのごとく、
塔のほぼ視界の先にみえるあたりで浮いているのがうかがえる。
「あの姿はマーテルさま、ですね」
淡々とその姿をみてさらり、といっているタバサ。
その台詞にはっとしたように、タバサと、そしてその女性らしき姿を見比べるコレット。
たしかに。
あの光につつまれたような状態にて樹の中にいるらしきあの女性は、
タバサの姿とよく似ている。
「マーテル?!なぜマーテルがあのようにグロテスクな大樹と復活するのだ!?」
空中からでは彼らは気づいていないが。
地中より湧き出した根は法則性をもっており、その根によって裂かれた場所。
淡い光につつまれたその場所からは、もう一つの世界。
すなわちテセアラ側の景色が見え隠れてしていたりする。
つまるところ位相軸の歪みが目にみえて形となりて、
互いの世界がゆがみによって、蜃気楼のごとくに認識できるような状態にとなっている。
本来の世界のありよう。
互いの世界を重なり合わせることにより、大地の移動や変化。
本来あるべく形へと大地が蜃気楼のごとくのその現象にあわせるかのごとく、
激しい揺れとともに移動を開始しはじめる。
世界を二つにわけていた力。
精霊たちの力によって二つの世界を安定させていた楔はもはや存在していない。
ゼクンドゥスとミトスが交わした約束は、世界を二つにわける。
といったものであり、外的要因においてもどうにかする、といった契約は交わされていない。
天使化をしているコレットやゼロス。
そして半ば天使化を果たしかけていたプレセアの視線にふとうつるは、
荒れ狂うまでの海の様子。
波はたかく、どこまでもあれ、まるで嵐のごとく。
その中でただ一つ。
ぼんやりと光の球体につつまれたかのような何かの物体が目にとまる。
荒れ狂う波の中、何の影響もうけていないような船が一つ。
まるで、淡い光の球体に守られているかのように、その船はびくともしていない。
困惑したようなユアンの声が周囲に響き渡る。
が、その声は様々な場所から発生している噴火の音によってかき消される。
かろうじて近くにういている彼らだからこそ会話が通じるのであり、
そうでなければ響き渡る轟音により、会話すらもままならないであろう。
地表が裂けるとともにそこから発生する光の帯。
まるで地中から光が湧き出すかのごとく。
ある意味それは揺れとかこの異変をおいておけば幻想的、といってもいいであろうが。
どこか安全な場所に降り立とうにも、みるかぎり地表はどこも安全とはいいがたい。
それどころか波打つような揺れは断続的にと続いている。
彼らは気づいていない。
その巨大なる揺れとともに町や村、といった場所にはなぜか突如として植物が成長し、
瞬く間に家々を飲み込んでいっている、ということを。
家を壊すというよりは、包み込むようにして成長したそれらは、
シルヴァラント側の家々にはあまり問題はないが、テセアラ側のほうはそうはいかない。
家々を飲み込むようにして急激に成長している草木は、
テセアラ側の施設や家、それらの様々な【機械】それらすべてを狂わしていたりする。
そしてそれとともに、テセアラ側にありしエクスフィア。
それらがことごとく地表からあらわれた樹の根によりて、
そこから発生される力の波動によって穢れが取り払われ、
そのままマナの中に還る、もしくはまだ力がのこっているものは微精霊として。
それぞれ孵化したり、またマナに還ったりし、揺れとともに異変が起こっていたりする。
今はまだ巨大な揺れに翻弄され、それらの現実にヒトが気づくことはない。
ないが、すくなくとも、すべてヒトが悪用していた精霊石。
それらすべてが解放されたといってよい。
そしてそれは、シルヴァラント側における牧場といわれている場所においても同じこと。
牧場内部に発生したいくつもの地中から飛び出した根は施設全体を包み込み、
そのまま不必要、と判断された様々な施設は草木によってその機能を停止させられていたりする。
マナが嵐のごとくに荒れているがゆえ、そんな木々を焼き払おうと力をふるおうにも、
彼らの放つ魔術はまったくもって威力を発揮しないどころか力の具現すらできない始末。
きちんとした法則性にのっとっとってそれらの影響は発揮されており、
ゆえに無駄に何かを破壊しつくしたり、ということはおこりえてない。
が、当然そのようなことを第三者である”ヒト”が知るはずもなく。
人々は巨大な揺れと、突如として噴煙をあげる山々。
そして、互いの世界の人々が目にしたは、
救いの象徴、といわれし”救いの塔”が今まさに、いびつなる”何か”。
それに覆われ今まさに破壊されかけようとしている、というその光景。
「やはり…こうなってしまったか」
止められなかった。
オリジン以外の精霊の楔の解放。
しかし、世界を二つにわけるのにオリジンそのものの力は使用していなかった。
オリジンを封じている限り、ゼクンドゥスの…エターナルソードとの契約。
それが上書きされることはない。
こうなった以上、あの大樹をどうにかするか、それともオリジンを解放するか。
どちらかをしなければ、世界に”明日”はない。
「どういうことなんだよ!クラトス!?」
コレットに抱きかかえられているまま、というのが何ともいえないが。
でも、ロイドでもわかる。
今、地上に戻るのは危険だ、ということくらいは。
ロイドの目にも断続的に大地が波打っているのがみてとれる。
おそらく、空中にいるがゆえにわからないが地表ではかなりの揺れが襲っているはず。
実際、人々はたっていることすらままならず、
それぞれがその場所にしゃがみ込んでおり、
時折揺れが収まったのを見計らい、それぞれが安全を求めて外にとでており、
そんな人々の目にとびこんできたは、見慣れていたはずの”塔”が今まさに。
異形の何か、に取り込まれ、壊れそうになっている光景。
「大いなる実りが精霊の守護という安定を失い暴走したのだ」
ロイドの疑問にこたえるかのように、ぽつり、とつぶやくクラトス。
ちなみにその手にはいまだにリフィルとジーニアスをつかんでいる。
ゼロス、タバサ、クラトス、コレット、ユアン。
彼ら五人によって他のものもまた抱きかかえられる形となっており、
あるいみ足場がないゆえに不安定な体制になっていたりする。
「そんなバカな!?精霊は大いなる実りを外部から遮断し
  成長させないための手段ではなかったのか?!」
そんなクラトスにユアンがおもわずつめよろうとするが。
「どうでもいいけどよ。このまま空に浮かんでるままってのも不安だし?
  どっかにひとまずおりねえか?みたところ大地は…危険っぽいが。
  あれなんてどうだ?」
そんなクラトスとユアンのやりとりをみつつ、かるく溜息をつき、
ちらり、とその視線を海のほうにむけ、そこにあるひとつの”モノ”にきづき、
その手にセレスとプレセアを抱きかかえたままそんなことをいってくるゼロス。
このまま、それぞれ二人づつ抱きかかえたままで飛び続けている。
というのもかなり問題。
自分たちはまだいいが、飛べないものはいつ落ちるかどうかもわからない。
そんな心理的な不安が常に付きまとっているはず。
ならば、どこか落ち着ける場所に着地して話し合ったほうが、はるかにいい。
そんなゼロスの意見に思わず顔を見合わせるクラトスとユアン。
たしかに。
ついうっかり手をはなし、抱きかかえているものたちを落としてしまった。
では洒落にならない。
実際かなり高めの位置にまで飛び上がっているがゆえ、
ここから落下すればまちがいなく無事ではすまない。
「あれ?でも、ゼロス。あれって…もしかして、カーラーン号?」
ゼロスが視線で示した先。
そこにあるものにコレットも気づき、思わす首をかしげつつもといかける。
「みたいだな。どういうわけかわからねえが。
  あの荒れ狂う波の中、あの船はまったく影響をうけてないっぽいし。
  足場の確保と状況整理にはうってつけじゃねえのか?」
まちがいなくセンチュリオンたちが何かしらでかかわっているのだろうが。
ゼロスは知らない。
よもやかの船にとりつけられている”精霊像”。
それをセンチュリオンたちが気に入っているがゆえに、かの船は守られている。
ということを。
ちなみにいえば、センチュリオンたちからそれをきき、
それを目にしたすべての精霊たちの加護までもがかの船にと加わっていたりする。
…すべては、かの船首に取り付けられている像の姿に彼らの【王】になってほしいがため。
というかなりどこか間違っているような精霊達の感情も含まれていたりするのだが。
本来ならばこの大樹の暴走によってかの船は大破するはず、であったのだが。
このあたりもまた、精霊とセンチュリオンの加護、という守りをえたがゆえ、
海賊船カーラーン号は大破することなく、また世界でより安全なる船へと変化を遂げている。
そんなゼロスの言葉にしばし思案したのち、
「…たしかに。そのほうがいいだろうな。ユアン。いろいろといいたいこともあるが。
  今はとりあえず、彼らをどこかにおろしてから、それでいいな?」
こうなってしまった以上、もう後戻りはきかない。
かといって、それぞれ誰かを抱きかかえている状態で話し合えるような状況でもない。

結局のところ、常に断続的に揺れがおそっているらしい大地よりは、
なぜか荒れ狂う海原の中で何の変化もみられていない一隻の船。
そちらの方向にむけ、彼らはそれぞれ約二名づつだきかかえたまま、
空中の風もこれでもか、と吹き荒れている嵐のような暴風の中、
視界にみえている船にむけその翼をむけてゆくことに。


世界はもともと、一つであった。
しかし、大地を存続させるため、ミトスが提案したは、
それぞれの勢力圏にあわせ、世界を二つにわけ、位相をずらしマナを調整し、
世界の存続に必要なマナをこれ以上ふやさせない、というものでもあった。
マナを調整することにより、それまで以上のマナの大量消費。
それも抑えられるという理由もあったようだが。
結局、ヒトは世界を二つにわけたからといってマナの消費をやめようともしなかった。
よりマナを使用し自分たちに有利になるように兵器の開発にといそしんだ。
その結果が自分たちの首を、自分たちが住める大地がなくなるかもしれない。
そんな可能性に目をつむり、みようともせず。
世界からマナを切り離し、惑星の本来のありかたにもどしたかつての時もそうであった。
結局、ヒトは資源をもとめ、地下深くにある瘴気にまで目をつけた。
自分たちならばそれを有効利用できる。
と。
扱えるはずもない、のに。
そして地上に解き放たれたあまたの魔族たち。
当時、すべての命はマナから切り離していたがゆえ彼らにとって、
肉の器は恰好の憑依体でしかなかったのであろう。
結果として世界は瘴気に覆われた。
欲にかられたヒトの行いで。
惑星外にまで進出しようとしていた人間たちも自分たちが生きる大地が瘴気に覆われ、
生活すら怪しくなってしまえば、文明という文明を成り立たせていくことはまず不可能。
さらには、トールとよばれし町などでは精霊アスカまでとらえる始末。
かの世界を海に沈めた結果、マーテルからかつてヒトの世界に干渉しないでほしい。
という何ともおろかな精霊の盟約を持ち出されてしまったのだが。
本当に、いつも見て嘆くばかりで自分は何もしようとせず。
それでいてヒトに不利になることがおこれば、それを排除しようとする。
その結果、何がおこるか考えようともせず。
時がたち、精霊としての力をある程度得てはいたが所詮は人工物。
あまたの人間たちの思念体が集合してうまれた人工精霊。
考え方は結局、ヒトのそれから彼女はかわることはなかった。
それは、彼女の依代ともいえる、ミトスの魂が宿りしユグドラシルが消滅するそのときまで。
彼女があのような盟約など持ち出してさえきていなければ、
かの国において開発されていた魔導砲。
それらを国をどうにかする、もしくはその力の暴走によってどうにかできたというのに。
そして、ダオス。
自らの元に先にくればどうとでもなったのに。
よりによってヒトの世界にかかわってしまったばかりに、精霊の盟約、
という厄介な約束がありて、行動に起こすことができなかった。
そもそも、彼が時間移動したのちもヒトはおろかにもマナの消費をやめず、
結果としてユグドラシルを枯らすに至ったあの当時。
つまるところ、マナを切り離すだけではだめであった、という前例があるといってもよい。
だからこその、新たなる理。
マナを切り離す、のではなく、認識できなくさせる。
つまりは誤認させることにより、マナから目をそらさせるために。


一体これは。
困惑。
ただ、その一言につきる。
神子一向を救いの塔のある大陸にと送り届け、
そのまま南西下をななめに大陸沿いに横断していたその刹那。
突如として周囲の波がざわめきたち、前兆もなくあっというまに大嵐。
さらに視線の先にみえる海原の先には
ゆらゆらとゆらめく見覚えのない大陸のようなもの、がみてとれる。
そこはただの海で大陸も何もないはず、なのに。
あるとすればネコニンたちの隠れ里がある大陸があるくらい。
にもかかわらず、確かに大陸の影らしきものがみえている。
ゆらゆらとゆらめくようにしてみえているそれは、
より激しく、高くなってゆく波の合間でもくっくりと理解ができる。
「お、お頭!?」
ふと、ひとりが何かを叫ぶ。
波が荒れ始め、船の安定が第一、とばかりに指示をだしていたが、
不思議なことにこれほどまで波が荒れ狂っている、というのにもかかわらず、
この船はまるでシャボン玉のごとくの淡い膜?のようなものにつつまれたかのように、
周囲の高波の影響をまったくもってうけていない。
視点を変えれば荒れ狂う波の中、淡い球体のようなものにすっぽりと、
船全体がつつまれ、荒れ狂う海の中浮いているのがみてとれるのだが。
しかし、彼らは船の上、もしくは中にいるゆえにそんなことにまで気づくことはできない。
「お頭!?あれ!」
ふと船員のひとり、海賊の一員のひとりが空をみあげ指をさしつつも何かを叫んでくる。
みれば、荒れ狂うような風の唸りの中。
そこにありえない人影らしきものがみてとれる。
淡い光につつまれた人影はおよそ五体。
「ちっ。こんなときに…っ」
確実にこちらにむかってきている。
空を飛んでいるヒト型など、魔物以外の何ものでもない。
「魔術をつかえるものは、戦闘準備をっ!」
「「はっ!!」」
この船の中には、一般でいうハーフエルフといわれているものたちもいる。
ある意味で、ヒトとハーフエルフが共存しているといってもよい。
この海賊のリーダーであるアイフリードは来る者をこばまず。
…まあ、強引ともいえる勧誘をしたりするときも多少はありはするのだが。
そうこうしているうちにも、その空に浮かびし人影はだんだんと近づいてくる。
桃色や青、といった淡い光につつまれたヒト型の何か。
その手に何かをつかんでいるようにみえるようなきもしなくもないが。
波にて舵をとられることはないようだが、しかし油断は禁物。
このように荒れた海では一瞬の油断が命取りになる。
彼らは知る由もないが、かつてこのとき制御を失った大樹の根は海にまで発生しており、
それによってこのカーラーン号は木の根に裂かれるようにして海上にて大破してしまった。
ということを。
そしてそれはラタトスクとて知らない事実。
空と海。
両方を警戒するのは、航海をする上で重要、とはいえ。
これはあきらかにおかしい。
おかしすぎる。
しかも、みえていた救いの塔があった場所。
塔に絡みつくかのごとくに何か、が生えている。
それはこの海上からでも認識ができるほどに巨大な【何か】。
「あれ…は…」
ふと誰かが空を見上げつつもぽつり、とつぶやく。
近づいてくる人影。
魔物による敵襲かもしれない、と身構えていた彼らにとって。
視界に入り始めた光景は信じがたいもの。
飛んでいるとおもわしき人影の背にあるのは、【光る羽根】。
それことマーテル教の教典にえがかれている【天使の証】のごとくのもの。
五つの人影のうち、ひとつはそんな光る翼ではないようだが。
しかも、それらの人影はそれぞれに二人づつ。
どうやら別なる【誰か】をつかんでいるらしい。
判断にこまり、困惑する彼らの目前に、ゆっくりと、
しかし確実に、ふわり、と上空よりその五つの空を舞ってきた人影は、
彼らの操りし船の甲板にと今まさにゆっくりとおりたってくる。
それとともに聞こえてくる第三者らしきものの声。
思わずその姿をみて唖然としてしまう。
その背にありし輝く翼。
それはまさしく【天使の証】とよばれているそれにと酷似している。
いや、まさにそのもの、というべきか。
男女それぞれの背にありし翼はそれぞれその翼の色は異なりはすれど、
マーテル教の教えを少しでもかじったことがあるものならば誰もがそのことをしっている。
輝く翼は天使の証。
そしてこの世界においては神子が天使の子、としてその翼をもっている。
…のはず、なのだが。
金髪の少女のほうはまあわかる。
彼らも幾度か少女たちをみたことがあるがゆえ。
だがしかし、青い髪の青年や、たしかそんな神子の護衛であったであろう男性。
さらには赤い髪の青年までその背に見間違えようのない【翼】があるのはこれいかに。
船員たち、つまりは海賊たちがその姿をみて困惑しているそんな中。
「なぜマーテルがあのようなグロテスクな大樹として復活してるいるのだ!?」
何やら上のほうからそんな声がきこえてくる。
彼らは知る由もないが、【天使化】とよばれしあるいみで半精霊のような体。
つまりは無機生命体化を果たしている彼らの視力はそれぞれの意識によって変化は可能。

遠く離れていてもその気になれば、視界に収めることすらできるほど。
そして、予想外なことでもあったがゆえ、何がおこっているのか。
確認するために、ユアンもクラトスも意識的に視力を強化しており、
ゆえに救い塔を覆いつくさんとしている【何か】。
その姿は手にとるように【みえて】いる。
樹っぽいようなものの中。
淡い光につつまれて今にもそれに取り込まれようとしているばかりの女性の姿。
それはまさに、つい先刻までたしかに大いなる実りの中にいたマーテルそのもの。
だからこそユアンは叫ばずにはいられない。
大地に亀裂がはいりそこから噴出しているあまたの溶岩。
そしてそれとともに亀裂より湧き出すように発生している淡い金色の光。
さらに目をこらせば空より降り注ぐ、否、地上より天に向かってのびているのか。
とにかく降り注いでいるのか、それとも上昇しているのかわからない【電撃を帯びた光】。
いくつもの電撃をまとったソレはまるで天と地上を結びつける鎖のごとく。
空を覆いつくさんとしている巨大な紫色の何か。
それにむかってのびている。
空を覆いつくさんとみえているそれこそ、この四千年。
常にミトスがゼクンドゥスとの契約によって、
そしてまた救いの塔によって上空にととどめ置いていた【彗星ネオ・デリス・カーラーン】
人々が認識していなかっただけで常に四千年の間その場にあった【彗星】そのもの。

どうみても天使。
ゆえに海賊たちは困惑せざるを得ない。
いくら彼らとて天使とおもわしきものたちに攻撃をしかけよう、とはおもわない。
困惑し、どうすればいいのかわからずに、
これまた唖然としている船長でもあり彼らの長でもあるアイフリードにとそれぞれ視線をむける。
アイフリードがそんな部下たちに指示をだすよりもはやく、
半ば混乱しかけている甲板に、それぞれ【誰か】をつかんだ【天使】達が、
問答無用とばかりにとふわり、とおりたってくる。
「「うわ!?」」
ふわり、と甲板におりたち、それぞれがそれぞれにもっていた人物たち。
それらの手を離したことにより、いきなりバランスを崩した数名が、
一瞬よろけるようにして船の甲板にと体をよろけさせたのち、
思わずその場にと尻餅をついたり、またよろけたりして手足を床につけていたりする。
そしてそんな彼らの反応とは裏腹に。
「いったい、何がおきたんだ!?」
本当に、何がどうなっているのか。
おもわず、がばり、と体制を立て直したのちあわてて船のはしにとかけより、
大陸のほう。
すなわち救いのほうがある方向をみて何かを叫んでいる赤い服の少年の姿。
「ロイド?それに神子様も、いったい……」
困惑したようなアイフリードの声は
まさに、海賊たち全員の心情を示しているといってよい。
しかし、ロイドたちにとって、アイフリード達もきになるが。
今ははっきりいってそれどころ、ではありえない。
アイフリードにとって、彼ら一行とはいろいろと縁がある。
といっても一番の理由は
アイフリードがロイドをはめた、というかつての事実があるにしろ。
「…なんか、大惨事じゃねえのか?」
あきらかに大陸に異変がおこっているのはみてとれている。
地上にいくつもはしる、空にのびている紫色のバチバチと音をたてている鎖もどき。
そして大地を覆いつくさんとしている木の根のような【何か】。
それらはよくくよく目をこらせば大地を這うようにしてひろがっていっている。
この付近には町などがないがゆえに彼らは知る由もないが。
町や村などにおいては、木の根が家々に絡まるようにして、
それでも一応【家】として破壊されることはなくきちんとその姿形は保っている。
もっとも、不必要、と判断された品々はそれらに覆いつくされる形でことごとく破壊されていっているのだが。
そしてその光景はシルヴァラント、そしてテセアラでも同様なことがおこっている。
が、そのような真実を今の彼らが知るはずもなく。
「…ねえ。もしかして…あれが大樹カーラーン、なの?」
戸惑ったような声がリフィルの手から解放されたジーニアスの口から紡がれる。
いくら遠い場所にあるとはいえ、遠目からでもはっきりとその異様な光景はみてとれる。
それこそ救いの塔を覆いつくさんとしているそれは。
救いの塔がみえる場所からはまず間違いなくどこからでもその姿を目撃しているであろう。
そしてまた。
「あの木に取り込まれようとしているようにみえる女性…
  あれは、やはり、マーテルさま…なの?」
クラトスの腕の中より甲板にと降ろされ、しかしロイドたちのように船のはし。
その近くによる勇気はなく、船のほぼ中央付近より塔のほうに視線をむけたのち、
タバサ、そして遠目にそれとなくぼんやりとみえている光る何か。
そちらにと視線をむけてそんなことをつぶやくリフィル。
リフィルの目には何がどうなっているのか。
くわしいことまではわからない。
だがしかし、尋常ではないことがおこった。
これだけは確信をもっていえる。
救いの塔の地下。
そこでリフィルもまた、大いなる実りの中にいたマーテルと思わしき女性。
その姿を目撃している。
しているがゆえに困惑せざるを得ない。
あのとき一時にしろコレットの体に宿り復活していたマーテル。
そのマーテルがどうして、という困惑した思い。
そしてまたあきらかに嵐のごとくに乱れているマナ。
大地、そして海すらをも巻き込んでいるこの異変は確実に【あれ】に関係している。
みえているあれが本当に大樹カーラーン、であるのかどうかすらもあやしい。
ついでにいえば淡い薄い膜ようなものにつつまれ、
薄い膜の球体につつまれるかのようにまったく海の荒れをものともしていないこの船のありよう。
もうどこからどう何を突っ込めばいいのか、考えればいいのか。
様々なことが重なりすぎてあるいみ思考はより冷静となり、
だからこそ混乱することなく困惑したような声のみが発せられていたりする。
それぞれの胸に去来するのは、困惑。
ただその一言につきる。
よかれ、とおもってやった精霊との契約の解除。
それがよもやこのような結果をもたらすなど。
船のマストよりも高い波が船の周囲には発生している。
なぜかこの船にはそういった波がかかっても、薄い膜のようなものにはじかれ、
まったくその影響はでていないようではあるが。
しかし、ふつうはこうはいかないであろう。
まちがいなく、海上に船にて地上から逃れたとしても、この荒れ狂った波の中。
そのまま海の藻屑として消え果てもおかしくはない。
何となくではあるが、これが精霊の楔とよばれるものを解除し、
大いなる実りを目覚めさせるべくマナを照射した結果なのだ。
それを理解している彼らとて困惑しているのである。
まったく事情を知らない第三者的な立場のものからすれば、
まさにこれは天変地異、といっても差し支えはない。
事実、天変地異、と表現するにふさわしいことが
惑星上のすべての個所において発生しているわけなのだが。
「……やはり、こうなってしまったか……」
塔のほうをみて苦々しそうにつぶやくように誰にともなく言葉を発する。
そんなクラトスの声をうけ、
「どういうことなんだよ!?クラトス!?」
その声にはっとしたように思わずクラトスにと声をかけるロイド。
クラトスが自分たちを止めに来た理由。
しかし、自分たちはクラトスの声には耳を傾けず、そのまま精霊の楔を解除した。
そうすることで世界は救われる。
そう、信じて。
なぜにあの場にクラトスが現れたのか。
それを聞くよりも前に契約に赴いたのは他ならない彼ら自身。
「…大いなる実りが精霊の守護という安定を失い暴走したのだ」
それは、デリス・カーラーンのコアシステムがはじき出している答えの中の一つ。
「そんな馬鹿な!精霊は大いなる実りを外部から遮断し
  成長させないための手段であったはずだ!」
だからこそ、ミトスは精霊たちを精霊炉にと閉じ込めた。
姉がよみがえるより先に実りが発芽してしまわないように。
そしてそのことを当時、ユアンもクラトスもミトスからきいてしっている。
それを提案、そして実行したのはほかならぬミトス自身。
そしてそれに賛同したのもユアンとクラトス自身に他ならない。
ゆえにユアンの言葉に嘘はない。
嘘はない、が。
「それだけ、ではない。お前もわかっているだろうが。
  二つの世界はユグドラシルによって強引に位相をずらされた。
  そこに精霊の力を用いてな。それはお前もしっていよう?」
クラトスの言葉にユアンもまたこくり、とうなづく。

この場にいる海賊でもある船員たちは何が何だかわからずにただただ見守ることしかできていない。
そもそも、なぜこの二名の男たちのその背に天使の証ともいえる光る翼があるのだろう。
ふとみれば、赤い髪の青年のほうの金色にも近しい光る翼はいつまにかきえており、
さきほどみえていたその背に翼をもっている、というのが嘘のよう。
しかし、彼らは実際に目撃している。
そんな赤い髪の青年の背にも天使の翼が確実に存在し、さらには空を飛んでいたことを。
いきなり空から舞いおりてきた天使?達と、神子の一行。
そして視界の先にうつるのは、見慣れたはずの救いの塔が異形の何かに覆われている光景。
どう考えても神子の再生の旅。
そこに原因があるようにと思えてしまうのは、真実を知らない第三者達にとって共通たる思い。
そんな困惑し、それでいて何と声をかけていいのかわからない海賊たちの存在。
そんな彼らに気づいているのかいないのか。
「約束にあった一年ごとのマナの循環。その状態のままだと問題はなかっただろうが。
  だがこの八百年。マナの状態はお前もよく知っている通りのはずだ」
いや、八百年というよりは、少しづつしかし確実に歪んでいた、のだろう。
それを認めたくなかった、いやみようとしていなかっただけで。
今のミトスはこれまで感じていた違和感を感じなかった。
それもあのウィノナという女性が影響しているのかどうかまではクラトスもわからない。
ふと、ロイドたちを止めてきてほしいといわれたときのミトスの言葉。
そのときのミトスの態度を思い出し、無意識のうちに軽く目を閉じたのち、
「…そのため、ぎりでりで何とか保たれていた二つの世界の位相軸。
  本来ならばそれらの歪みによって二つの世界は互いに分離し、
  いつでも次元の狭間へ飲み込まれてしまっていても不思議ではなかった。
  そんな状況の中にあっても二つの世界が保たれていたのは、
  その中心に、二つの世界の中心に大いなる実りが存在していたがゆえ。
  だからこそかろうじて時空の狭間へ世界が飲み込まれて消滅する。
  という最悪な状態は回避され、保たれていた」
それはユアンも知っているはず。
だが、ロイドたちはそんな事情はおそらくユアンから説明をうけていないであろう。
ゆえに、ロイドたちにもわかりやすいようにと説明をしているクラトスなのだが。
しかし、そんなクラトスの言葉の意味はロイドには理解不能。
というか、位相とか時空の狭間、といわれても、まったくもってロイドには意味不明。
まあ、この中でその説明をきき理解できていないのはロイドだけというのもあるが。
「そんなことはきさまの講釈をうけなくてもわかっている!」
いったい、何をいいたいのだろうか。
この男は。
空から降り立つと同時に何やら言い合いを初めている二人の男性。
そんな彼らの会話を海賊たちは声をかけるタイミングをうしない
ただ茫然、と眺めることしかできていない。
船員たちのそんな思いに気づいているのかいないのか。
いきなり大いなる実りと世界の構成の講座を始めたクラトスに対し、
イラダチを交えた声を発しているユアン。
そんな中においても相変わらず、周囲の海は荒れ狂っており、
この船のみが荒波にのまれることなく薄い光の膜のようなものにと守られている。
大陸と船の位置はかなり離れているとはいえ視界の先に噴出する赤い何か。
それにともない巻き起こっている噴煙らしきもの。
それだけでも地表で何がおこっているのか。
想像するに難くない。
「大いなる実りは離れようとする二つの世界に吸引され
  どちらかの位相に引きずりこまれる。
  そんないつ暴走してもおかしくない不安定な状態にあったのだ」
クラトスのそんな言葉に何かに気づいたらしく、はっとした表情を浮かべ、
「まて。それでは精霊の楔は
  大いなる実りを二つの世界の狭間にとどまらせるための檻として機能していた。
  つまりそういうことか」
ユアンからしてみれば、大いなる実りを目覚めさせないがための手段。
そう、としかおもっていなかったがゆえ、クラトスの言葉に目を見開かずにはいられない。
クラトスもそこまで、とはおもっていなかった。
あのとき、ミトスから、そしてシステムからその答えが出されるまでは。
ゆえに思わず無意識のうちに溜息を一つ吐き、
「その通りだ。そして安定を失った大いなる実りにお前たちがマナを照射した。
  そして、その結果…みてのとおり。あれは歪んだ形で発芽し暴走している」
しかし、システムがはじき出した答えの一つには大樹の根そのものが、
地表そのものを切り裂いていくはずでもあったのに。
あるいみで地表はたしかに切り裂かれているようではある。
が、何かが違う、というのはクラトスでも理解ができる。
さらにいうならばいまだにもっているエンブレムが心なしからぬくもりを感じるような。
「みてのとおり。融合しかかっていたマーテルをも飲み込んで、な。
  マナの状態によっては必ずどちらかの世界に引きずり込まれようとしただろう。
  が、お前も知っているとおり。今、二つの世界のマナは安定していた。
  おそらくは、彼らが目覚めたことにより、マナの制御が本来の姿にもどったゆえ。
  なのだろう。その結果、どちらの世界に吸い込まれる、というのではなく。
  むしろ精霊の楔という安定を失った大いなる実りはすべてを巻き込もうとしている」
そう、それこそすべて。
救いの塔を通じ、その影響は上空にとどめ置かれている彗星にも影響を及ぼすであろう。
救いの塔がまだ破壊されてもいないのに
”彗星”が上空に見えているのもその前兆といえなくもない。
「そんな理屈はどうでもいい!このままだと一体どうなるんだよ!?」
そんな二人のやり取りをきき、おもわず彼らのほうを振り返り、
思わず叫び問い返しているロイド。
いまだに船の端にと手をつけ体を乗り出すようにして救いの塔のほうを凝視していた。
しかし、背後から聞こえるユアンとクラトスの会話はほうってはおけないようなもの。
はっきりいって、彼らの会話の内容というか理解はほとんどできないが。
しかし、感覚というか直感的に何となくよくないことでありとは理解できる。
だからこそ、意味のわからない理屈より、何がどうなるのか
そのあたりのことについての説明をロイドとしては求めたい。
そんなロイドの叫びに思わずあきれたような視線をむけるユアン。
そしてその思いは意味もわからずにあるいみ巻き込まれている海賊たちとておなじこと。
彼らの今の会話の内容。
どう考えても、想像したくもないが、どこかに世界が吸い込まれる。
そんなことをいっていた。
しかし、ロイドは次元の狭間に吸い込まれる云々、といわれてもその意味がわからない。
「…クラトスの今の説明が事実ならば。
  シルヴァラントは暴走した大樹に飲み込まれ消滅する、というわけ、ね?」
漠然としたそれでいて根底にあった不安はこのことだったのだろうか。
ユアンが口に仕掛けたそれを補足するかのようにぽつりとつぶやくリフィル。
あれが大樹カーラーンなのかどうかはわからない。
が、ふつうではないのは明らか。
「そう。そしてシルヴァラントが消滅すれば、聖地カーラーン
  …かの救いの塔と異界の扉の二極で隣接しているテセアラもまた消滅する」
リフィルのつぶやきを補足するかのようにユアンがこたえる。
しかし、彼らは知らない。
クルシスのシステムがはじき出した答えはそれだけではない、ということを。
そんなユアンのぽそり、としたつぶやきをきき、
「…みんな…死ぬ、んですね……」
死、という現実が近くに迫っている。
でも、なぜか彼らのいっていることが事実になるとはおもえない。
それでもヒトは無事でいられるかどうかはわからない。
少なくも、これまでのようにはいかないであろう。
何となくではあるが漠然とそんなことをふと思いつつもぽつり、とつぶやくプレセア。
プレセアもまた甲板にと立ちすくんだまま、じっと塔の方向を眺めており、
彼女もまたどう反応していいのかわからない状態てもあったりする。
そしてその思いはこの場にいるほとんどの存在たちにいえること。
「…あの歪んだ大樹は、救いの塔をも巻き込んで。
  そして救いのとうによってつなぎとめられている彗星をも巻き込むだろう。
  あとにあの歪んだ大樹が残るかどうかすらも怪しいが、な」
「まて。どういうことだ?今の説明でいけば、大樹と彗星には影響はないのではないのか?」
「…クルシスのシステムが答えをはじき出した、と先ほど私はいったな?
  マナの調整はすでにクルシスの手から離れている。
  …ウィノナ殿いわく、これこそが地上の浄化の始まりかもしれない、ともいっていた」
「ウィノナ?そういえば、彼女は……」
あのとき、あの救いの塔の地下において、最後にみたのは。
彼女がはいっていたカプセルのような容器が淡く輝いていた光景。
ふとその名にひっかかり、おもわずリフィルがクラトスにと問いかける。
「今、彼女はユグドラシルとともにいる。彼女のおかげで完全に停止していた、
  なぜかわれらクルシスのものでは起動することもできなくなっていた
  【システム・コンピューター】それが再起動を果たせたからな。
  その結果、システムがはじき出した答え。
  それが地上における【世界の浄化】だ。
  そして、精霊との契約によって上空につなぎとめられている彗星。
  彗星ネオ・デリス・カーラーンもその項目にとあてはまる。
  すでにその前兆ともいえる前触れが彗星の地表にて確認されている」
それはクラトス達もしらなかったが。
というか、なぜ彼女がそのようなことをしっているのか。
彼女は彗星とどのような関係にあるのか。
それはクラトスにはわからない。
そしてミトスも。
でも、実際、彼女の生体反応というかマナの反応をうけ、
メインシステムが再起動したのは事実。
彗星の地表にある生命すべてが【水晶】に覆われしは彼らの命に影響がでないため。
彼女…ウィノナはそのようなことをいっていた。
何かしらの衝撃があるとき、そのようなシステムが自然に行われるよう、
かの彗星には理としてほどこされている、と。
それはかつてウィノナがラタトスクより自らきいていた真実。
まだ、ラタトクスがこの星に降り立つよりも前。
惑星デリスカーラーンにおいての出来事。
時間がない、というのもあり詳しくなぜにそんなことがわかるのか。
それを聞き出すよりも前に、クラトスはミトスにいわれ、地表に移動した。
何しろシステムがはじき出した答えでは、彗星もまた次元の狭間に吸い込まれ、
命あるものすべては生きてはいかれないような結果がモニターには示されていた。
そしてそれは無機生命体化というか天使化を果たしている彼らにもいえることで。
つまり、大樹の暴走とともに彼らの命も危険にさらされているといってよい。
本来ならば、大樹そのものと地表、そして彗星には影響がないはず、であったらしい。
マナの衰退と繁栄。
互いに陰陽の関係であった世界のその影響をうけ大樹の暴走は彗星には被害をおよぼさない。
が、今現在、マナの陰陽の関係はすべて失われているといってよい。
マナを陰陽にわけていた精霊たちとの契約はすべて破棄された。
オリジン達以外によって世界のマナは陰陽にとわけられていた。
彼らの契約が解除され、またセンチュリオンたちにその管轄がもどったことにより、
影響はこの星につなぎとめられている彗星にも及ぶであろう。
それがシステムがはじき出した最悪ともいえる答え。
だからこそ、クラトスは彼らを止めたかった。
結果として止めることはできず、こうして最悪ともいえる形が目の前で展開されている。
それらを知り覚悟していた被害ほどでは今はまだないようではあるが。
「そんなっ、な、何とかしないと!」
次元の狭間に吸い込まれて無事でいられるはずもない。
ゆえにその言葉の意味を理解し叫ぶジーニアス。
「何とかってどうするんだい!」
あれをどうこうできる、とはおもえない。
というか近づくことすらままならないのではないだろうか。
それどころか近づくよりも先に大地から吹き出しているマグマの餌食になるであろう。
もしもレアバードが使用できたとしても。
あの周囲に吹きあげているアレラをかいくぐってたどりつく。
それは不可能に近い。
可能性としてイフリートを召喚しその力を利用すればできるかもわからないが。
しかしそれには自らの精神力が続かない。
そんな確信がなぜかしいなの中にはある。
実際精霊の召喚の時間にあわせ、召喚主の精神力がそがれていくようになっており、
ゆえにそう長い時間召喚することはかなわなくなっていたりする。
それは彼らは知らないが真たる大樹をラタトスクが芽吹かせるため、
彼ら精霊たちと契約するにおいて新たな理を書き換えたゆえにおこっている変化。
「テセアラでもあの大樹もどきは同じように暴走している、のか?」
それはゼロスの素朴なる疑問。
何かをしでかすとはおもっていたが。
これは予想外。
ゼロスとてその役目が嫌いとはいえ神子、として世界を守る立場にある。
そしてそのように教育をうけている。
だからこそ気にならずにはいられない。
「精霊たちによってマナが陰陽の関係のままであるならば、それはなかっただろうが。
  今の状況では何ともいえないな。確実に何らかの影響はうけているはずだ」
まだセンチュリオンたちが目覚めていなく、マナもそのままで。
マナが少ない世界と多い世界。
その状態ならば、陰の世界に入りかけたかの【テセアラ】には影響はないはず、なのだが。
しかし今はその陰陽の隔たりがきれいさっぱりとなくなっている。
「…彼ら、センチュリオンたちが目覚める前、ならば。
  影響をうけて地震程度くらいは起こっていただろうが。
  今の状態では何ともいえぬ。これが彼らの影響だともいいきれないからな」
否、確実にかかわっている。
マナの調整を担うセンチュリオンたちがかかわっていないはずがない。
「…センチュリオン…ね」
クラトスのそんな台詞にぽつりとつぶやくリフィル。
ではこれは、この状態はエミルも何かしらかかわっているということなのだろうか。
よくよく思ってみれば、エミルは精霊との契約に積極的であった。
もしもそれが精霊たちをとらえていた契約という名の楔を解放させるためのものだとすれば。
アルタミラにて別行動をし、いまだに戻ってきていないエミル。
そして。
「…ここ、シルヴァラントでの影響が強いとするならば。
  それはおそらくコレットの世界再生の影響でシルヴァラントの精霊が活性化しているはず。
  それもある、のでしょうね」
ミトスによって衰退世界と繁栄世界。
その切り替え作業はとめられ、中途半端なままとはなっているが。
そんな事実をリフィルは知らない。
知る由もない。
そもそも精霊たちの契約が解除され、センチュリオンたちも目覚めている以上。
これまでのように彼らがマナを管理するいわれはなくなっている。
もしもラタトスクが目覚めていなければ、彼らは地表の存続にむけ、
ミトスとの契約が解除されたのちもマナを把握していなければならなかったであろうが。
それはラタトスクは知らないが、かつてのときに実際に起こりえた現象。
精霊たちはミトスとの契約が解除されたのちもマナを流しつづけていた。
大地を存続させるために。
「精霊が活性化しているがゆえに、シルヴァラントの精霊にひきずられ、
  こちらで大樹が暴走している、とおもって間違いないでしょうね…
  もしくはあの地が位相をつないでいるとするならば
  この光景もまたテセアラでも見られている可能性もなくはないでしょうけども」
おそらくはセンチュリオンといわれしものたちが目覚めていなければ、
まちがいなく、大樹はこちら側、シルヴァラント側にひきずられる形のはず。
が、大樹の精霊やその配下だというセンチュリオンという存在。
彼らの存在がその予測を予測不能にしているといってよい。
この場にエミルがついてこなかったのにそこに絶対に意味がある。
リフィルはそう思えて仕方がない。
事実、その通りなのだが。
エミル…ラタトスクはラタトスクで真なる大樹のかわりになる樹を同時に芽吹かせており、
また、とある真空空間に同じく種子を発芽させていたりする。
そして大量ともいえるマナの照射。
その影響に隠れるかのように、とある条件をみたした魔族たち。
それらもすべてとある地…暗黒大樹を主体として作成した【惑星】にと転移させている。
それにより、この星にのこっている魔族たちはごく一部のものたちだけとなっている。
もっとも、そのごく一部のものたちがヒトにとっては最悪以外の何ものでもないかもしれないが。
基本、プルートの力を認め、かの存在を【王】と認めた魔族たちは、
こぞって新天地にと移動している。
そしてその事実をリフィルたちは知る由もない。
今、万が一扉が解き放たれたとしても、そこにいる魔族たちはほとんどおらず、
魔族が解き放たれるというよりは瘴気のみに地表がおおわれる状態にとなっている。
「…ねえ、あれ…何?」
そんな中、茫然、としたマルタの声があたりにと響く。
マルタがみているのはとある一点。
そこにゆらゆらと揺らめく何かの影。
海の上。
そこに何やら真っ白い大陸の影のような何か。
それらがゆっくりと、しかし確実に移動しているようにみえるのは。
おそらく気のせい、ではないであろう。
それは種子の発芽とともに元の姿に世界がもどろうとしておこっている現象。
あるべき場所に大地が安定するために、この揺れとともに大陸そのものが、
互いの世界において大移動をしているがゆえの減少。
ここ、シルヴァラントとテセアラはいまだに位相はずれている、とはいえ、
救いの塔から発せられていた障壁がなくなり、
また精霊の楔も消滅したことにより、互いの世界の境界線。
それらがゆるくなっているがゆえ、まるで陽炎のごとく互いの世界が認識できるほど、
世界間における境界はかなりゆるくなっている。
しいていうならば、これまでみることのなかったもうひとつの世界
それが幻、として認識できるほどに視界にはいるようになっているといってよい。
そしてそのような現象は互いの世界においておこっている。
もっとも、首都メルトキオのある大陸は、魔族の支配下にある意味あることもあり、
よもやかれらは大陸ごと切り離されていることをしるよしもない。
大陸同士をつないでいた橋もこの揺れによりすでに海の藻屑と化してマナにとかえっている。
今、この船がいる位置はネコニンの里のありし島の少し下あたり。
つまるところそのまま北上していけば本来ならば絶海牧場。
そういわれていた施設のある場所にとたどり着く延長線上といってもよい。
もっともそのためにはかなりの海原を航海する必要がでてはきはするが。
海、そして大陸にいる存在達は気づくことができない。
大陸の向き、それらすべてがこの大地の変動によって変化していっているということを。
もっとも、トリエット砂漠とよばれし場所付近にいるものたちは、
より確実にその異変を目の当たりにはしているであろう。
何しろその先には海しかなかったはずのその場所。
そこに大陸の幻影が突如としていきなり、しかし確実に見え始めているのだから。
そして彼らは知らない。
この揺れにより、どちらの世界の海岸線沿いにすくなからず津波もまたおしよせている。
ということを。
マルタが指差した方角をみて、おもわずロイドもあんぐりと口をあけてしまう。
白く輝くようにみえるいくつもの小島らしきもの。
それらがゆっくりと、しかし確実に移動していっている様子が嫌でもわかる。
それはまるで海を横切るかのごとく。
しかし確実に。
ミトスがわけていた位相軸による大陸は、その影響をなるべく少なくさせるため、
あえて大樹のあった地。
それを中心にし、多少大地にもゆがみをあたえ、そして世界はわけられた。
彗星が飛来したのち、マーテルをよみがえらせるため、
ミトスが彗星の中にあったとある装置をもちい、塔を作り上げ
その結果、救いの塔が二つの世界の出入り口、という認識になってしまってはいたが。
「あれは…まさか…フラノール…か?」
あの雪に覆われた様々な小島。
しかも小島の向こうには大き目な大陸らしきものもみてとれる。
マルタの言葉にそれに気づき、大きく目を見開いているユアン。
「いったい、何が……」
「…まさか、とはおもっていたが。精霊たちが陰陽、二つのそれぞれの役割。
  それをうけて世界を二つに分けていたのはお前もしっていよう」
クラトスもまたあきらかに異常、ともいえる巨大な島の移動らしき光景。
いくらそれが幻影のような幻のようにゆらめいているものだとしても、
到底信じられるものではなく。
実際、それを目にした海賊たちのほとんどもあんぐりと口をあけて思わず固まっていたりする。
「それはわかっている。そして衰退世界と繁栄世界。
  それらの転換は神子の世界再生によって交代でうけもっている。
  今回の再生が終われば次はテセアラが衰退世界にはいる予定だったからな。
  プロネーマもクラトス、貴様との会議がおわったのち、あの日。
  私のもとにくる予定となっていたのだ。よもやお前がユグドラシルの命で、
  神子の護衛に地上に出向くなどとはおもってもいなかったがな」
それはボータからの報告であのとき知ってはいたが。
テセアラが衰退世界になる。
その言葉をきき、しいなが思わず息をのむ。
実際、しいなはそれを防ぐために、シルヴァラントの神子コレットを殺すため。
ここシルヴァラントにレネゲード達の協力のもとテセアラから移動してきていた。
「しかしあのセンチュリオンたちが目覚めている以上。
  精霊たちがかつての契約を解除というかそこの召喚士によって上書きされた以上。
  陰陽のマナの変換役割。それをこなしているとはおもえないのだが?」
ユアンの疑問は至極当然。
実際、すでに精霊たちはその役目を担ってはいない。
というかむしろセンチュリオンたちが目覚め、すべての縁を取り戻してからこのかた。
その契約がマナの循環においてあるいみ足枷のように邪魔となっていた。
「そんなことはどうでもいい!はやく何とかしないと!」
そうこうしている中においても、幻のごとくにみえていた雪の大陸のようなもの。
それらはゆっくりと、しかし確実に移動していっており、
そのまま船の前を横切るかのように、どんどん離れていっている。
ユアン、そしてクラトスの会話の内容はよくわからない。
だからこそロイドは叫ばずにはいられない。
「可能性の一つ、として活性化しているシルヴァラント側のマナ。
  そのマナの過摂取をうけ暴走している、ということか」
ロイドの叫びに答えるでもなく、ユアンがその場にて思案をはじめるそぶりをみせる。
たしかにこのまま、というわけにはいかないであろう。
マナがまるで嵐のごとくに荒れ狂っているのはユアンとて感じている。
「よくわかんねえけど。もしかしてなら、相反するもう一方の精霊の力をぶつければ、
  もしかしてあれはどうにかなって中和されるんじゃないのか?」
『ロイド!?ロイド(さん)がまともなことをいって(る)(ます)!?』
それは直感的に感じたこと。
しかしそんなロイドの台詞はその場にいるほとんどのものに驚愕をもたらしてしまう。
というかロイドがそんな難しいようなことを言い出すなど。
「…ああ、だから天変地異がおこってるのか」
なぜかジーニアスなどは唖然としたのち、そして塔のほうに視線をむけたのち、
しみじみと何やらそんなことをつぶやいているが。
「ロイドって、自分でいっていることの意味、わかってるの?」
そしてまた、目をぱちくりさせつつも、マルタまでもがそんなことをいってくる。
「む。何だよ。みんなして。バカにするな。
  前に先生が磁石のプラスとマイナスは中和される。
  そうたしかいってたぞ?よくわかんねえけど、陰陽とかってそういうことだろ?」
ロイドにしては珍しくそれを記憶していたのは、それは実験を伴った授業であったゆえ。
そうでなければロイドがそのようなことを覚えているはずもない。
「…はぁ。ロイド。ちょっと違うけどもあなたにしてはさえているわ。
  やはりあなたは何かを難しく考えるより直感で行動したり物事をいったりしたほうが、
  より真理に近い答えをはじき出すのでしょうね。
  それにしても、ロイドがきちんと授業内容を覚えていてくれるなんて!
  だからかしら?あれが暴走してるのは……」
「先生までひでぇぇ!!」
「「・・・・・・・・・・・・」」
こんな時にそんなことをいっている場合ではない、とおもうのだが。
そんな彼らのやり取りをみて、思わずクラトスはこめかみを押えてしまう。
いったい息子は授業をこれまでどんな態度できいていたのか。
改めてつきつけられたおもいがし、何となくだが頭が痛くなってくるような気すらする。
そしてユアンにしても、本当にこれがクラトスの息子なのか?
とおもわす頭が痛くなってくるような思いにかられ、
おもわず額に手をあてていたりする。
「ちょ、ちょっとまちなよ。仮にテセアラ側の精霊をぶつけるとしても。
 どうやってぶつけるんだい?
  この調子じゃあ、あの近くに近づくことすらままならない。
  あんなふうにあばれている大樹らしきものの足元までは絶対に近づけないよ」
「…たぶん、魔術でも無理、かな?マナが荒れ狂ってるから術も紡げそうにない」
こんな状況の中ではまともに魔術の発動すらも怪しいであろう。
しいなにつづき、ジーニアスも少し険しい表情を浮かべざるをえない。
「あの大樹らしき近くはここから遠目にもわかるけどさ。
  周囲は…どうみても噴火しまくってるようにしかみえないし…さ」
あきらかに、あれの周囲には火柱?のようなものがあがっている。
しいなの目には詳しくはうつらないが、コレットたちの目には、
大樹の周囲に火の粉のような溶岩の粒が降り注いでいる光景はみてとれている。
「たしかに。ありゃあ、地上からも、ましてや空からも近づいたとたん。
  火山活動に巻き込まれて一貫の終わり、になりかねねえな」
「たぶんあたしの力じゃあ、イフリートを召喚しそれを防げたとしても。
  そのあと、テセアラ側の精霊たちを呼び出すのは不可能に近いよ?」
前ならばいざしらず。
まちがいなく、召喚しようとして気絶する自信がある。
もしくは命をかければ何とかなるかもしれないが。
しかし、何となく精霊たちを召喚してもアレはどうこうなるような気がしない。
「…魔導砲、ならばいけるかもしれぬな。
  このままでは、マーテルだけ、ではない。
  クラトスのいう通りだとするならば、マーテルを含め、
  彗星、そして二つの世界。すべてを巻き込んでマーテルごと消滅してしまう。
  マーテルはそのようなことは望んでいないはず。ならば……」
「しかし、ユアンさん。それでは、種子すらも消滅してしまう、のではないですか?」
これまで黙っていたタバサが唐突に口を開く。
そう、その可能性はなくはない。
「彼女が捕えられている個所が淡く輝いているということは。
  あの部分の力が核となっている可能性があります。
  なら、あの中から彼女を救い出せば、すくなくともあの異変は収まるかもしれません」
「でも、どうやってあそこまでちかづくの?飛竜観光にでもお願いするにしても。
  それがうまくいくかどうかも」
タバサの台詞にマルタが口をはさむ。
よくわからないが、レアバードでの移動は無理ということらしい。
なら、他に空を飛ぶ手段とすれば、エミルに魔物を召喚してもらうか、
もしくは、ハイマにいる飛竜観光を利用する。
それしかマルタにはおもいつかない。
そして、今ここにエミルがいない以上、ハイマの飛竜観光、しかあてはない。
「?魔導砲…それは、ロディルが開発していたとかいう、機械ですか?」
プレセアはそれを目の当たりにしたことはない。
確か、絶海牧場といわれていたあの場所にそういった品がある、というのは知ってはいるが。
だからこそ、ユアンの言葉に首をかしげざるをえない。
「あれはもともと、われわれがロディルを利用して作らせていたものだ」
そういえば、あれを提案してきたのは誰だったか。
はじめはユアンも戸惑った。
マナを消費し、大地を殺しつくすあのような兵器をよみがえらせることを。
しかし、気が付けばそれを許可していた。
ユアンもまた無意識化とはいえ分霊体でもあった自らの分身。
その分身が受けていた瘴気の影響をうけていたがゆえ、その誤った決定を下した。
ユアンも詳しくその内容をしっていたわけではない。
かつて、ユアンはミトスたちとともに、シルヴァラントで開発されていた魔導砲。
その資料のすべてをことごとく破壊しつくした。
生命すら芽生えぬ大地を二度とつくらぬために。
ダメもとでもいいから開発をさせてみてはどうか。
そういってきたは、たしかレネゲードのひとりであったような。
ゆっくりと、しかし確実にレネゲードの中にも魔族の手は伸びていた。
たしか、そう提案してきた男の名はデミテル、であったはず。
やけに魔術やそういった分野にたけていた男であった。
いつのまにかレネゲードからいなくなってしまったが。
彼がいなければ、魔導砲の復活はありえなかったであろう。
なぜか破棄したはずの魔導砲の設計図もどき。
それを彼は知っていた、のだから。
「精霊の守護がとける前はあれが完成ししだい、
  ロディルに救いの塔を破壊させて、直接、種子に近づくつもりだった」
クルシスの四大天使としての立場ならばいつでも近づけたが。
それでは意味がなかった。
自分がクルシスに疑われてしまえば、クルシスの内情がわからなくなってしまうがゆえに。
「もっとも、塔を破壊させたのち、魔導砲は破棄するつもりではあったか、な」
どこまでマナを消費してしまうかわからない、あるいみ分の悪いかけ。
下手をすればその反動で再び新たな魔界との扉が開かれてしまうかもしれないかけ。
大いなる実りの間とクルシスの制御室。
同時に操作することにより、種子に直接マナを注ぎ込むつもりではいた。
それでも精霊の楔という守りがある以上、種子が目覚めるかどうかはわからなかった。
だからこそ、しいなが精霊との契約をかわし、楔を解除したのをうけ、共同をもちかけた。
運よく、というかシルヴァラントの神子がロディルに連れ去らわれたことも役立った。
「ユアン、この始末どうするつもりだ…といいたいが。
  つまり、魔導砲にテセアラの精霊のマナを込めて大樹に向かって放つ、ということか?
  しかし、それは可能、なのか?たしかにそれ以外に方法はなさそうだが」
しかしそれは確実に、しいな、というひとりの人間の命を危険にさらす。
クラトス達は知らない。
知る由もない。
彼らがしっている精霊の召喚。
そのときと、今とではラタトスクによってその根本たる理が上書き、書き換えられた。
その事実を。
「ともあれ、今の話の内容を聞く限り。現状も照射されているであろうマナの照射。
  それを止める必要性があるのでは?」
いまだに、光の帯のようなものがきえているわけではない。
それでもだんだんとその光の帯のような柱は補足なりいくつか消えている場所もあるが。
しかし、上空と地上をつなぐかのごとくの鎖のような紫色の電撃を帯びた柱は健在のまま。
何がおこったのか、またおこっているのかわからない。
わからないが、自分なりに考えをまとめたケイトがそんな彼らにと提案をしてくる。
実際、いまだにマナは注がれつづけており、それにともない大地もまた活性化を続けている。
マナが大量に照射されているがゆえ、急激なる大陸移動。
それらもあまり地表に負担をかけることなく執り行えているといってもよい。
ついでにいえばラタトスクにも負担はかかっていない。
あくまで利用しているのは、種子にと注がれている彗星のマナ。
そのマナがもともとはラタトスクのものだ、としても。
彼はその方向性をすこしばかり示すだけで、ラタトスク自身が力をふるう必要もない。
まあ、ラタトスクが力を解放したらしたで、あっというまに地上は一気に海にと還る。
その可能性もなくはない、のだが。
いちいち細かな調整をしなくてもいいように、
あえてラタトスクは彗星のマナを利用しているに過ぎない。
「たしかに。ケイトのいうとおりね。
  マナの照射がつづけばますますあの大樹とおもわしきものは成長して、
  中和することもできなくなるでしょう。いえ今でも中和できるかどうかもあやしいわ」
できないような気がする。
ものすごく。
しかし、今はそれしか手段はない。
どこにいるかわからないエミルをみつけだせばどうにかなるかもしれない。
確実にエミルならばあれをどうにかできるであろう。
それは勘であり、確信。
「ユアンよ。きさまがどこに所属し、何をしているのか、私はみなかったことにする。
  だから今すぐにレネゲードに指示をだし、マナの照射をとめろ」
「よかろう」
そんなリフィルの反応とは裏腹にクラトスとユアンのほうは話がついたのか。
勝手に話をまとめかけていたりする。
そしてユアンが懐から何かをとりだし、そしてとりだした何かをいじる様子をみせるが。
「…マナが乱れていて、通信を送ることが不可能、のようだな」
ユアンが手にしているのはボータとつながっている通信機。
だがしかし、このマナの乱れによって通信機能がまったくもって機能していない。
「一度、施設にもどる必要があるな」
おそらくボータもシルヴァラントベースと呼ばれている場所に戻っているはず。
指示を出すにしても、あちらに向かう必要性がある。
ユアンがつぶやいたその刹那。
ドオオオッンッ。
これまで以上の揺れと轟音が、あたり一帯にと響き渡る。
『な、なんだ!?』
『何!?』
その叫びは海賊、そしてロイド達を含めたユアンやクラトスとほぼ同時。
そして、
「あれは!?」
誰が発したのかもわからない、とある声。
ふとみれば、巨大なる波が突如としていくつも発生している。
それこそ今まで以上の。
「あれは……」
そしてまた、困惑したような声がコレットの口から発せられる。
コレットの視界にうつっているもの。
おそらくは大樹なのだろう、上下左右にどこまでも広がる枝のような何か。
そこに突如として淡い光のようなものが集ったかとおもうと、
それは淡いほのかな金色のような緑色を帯びた光とともに、
小さな何かの花…それこそ木蓮の花のような小さな何かがいくつも突如として枝につき、
それらが一斉にと開花する。
そしてその花は開ききると同時に光の粒となり、
まるで周囲に霧散するかのようにとちってゆく。
それに呼応するかのごとく、大地からも同じような光が湧き出しているのがみてとれる。
しかしそれは視力が強化されているコレットだからこそわかること。
その事実に気づいたは、そういう機能をも含まれているタバサ、
そして同じく天使化を果たしているユアンとクラトス、そしてゼロスのみ。
プレセアのほうはそこまで意識的に遠くをみることはできはしない。
いくら半ば天使化しかけているとはいえ、プレセアのそれは完全なるものではない。

巨大な揺れとともに、空から降り注ぐ光の雨のような、何か。
それに呼応するかのように大地からも湧き出る光。
それらの光はまじりあったかとおもうと次の瞬間。
ヒトにとっては信じられない光景がいたるところでみうけられていたりする。
それは彼ら”ヒト”の常識からはとても信じられない光景。

――かつて、王とミトスが交わした契約は果たされました。
一体何がおこったのか。
そんな中、地上にいきるすべてのものの心の中に突如として【何ものか】の声が響く。
――かつて、ミトスとその仲間たちは王と盟約を交わしました。
  それは大樹を再び芽吹かせるというもの。その盟約は果たされました。
  が、大樹は人々の心の負の影響をうけ歪んで発芽しました。
  それは、他者を受け入れようとしない人の心が生み出せし障害。
  かつては同じ種族でありながら、王との約束をまもり、
  力をよりそうそうに血の盟約ではなく自然とともに生きることを選びしものと、
  そしてそのまま約束を果たすことなく血の盟約に従いいきているもの
  そして元は同じであるがゆえに生まれ来る子供たちを受け入れようとしない人の心
  地上にいきる”ヒト”のそんな他者を認めようとせず差別し迫害しようとする負の心
  そんなあまたのヒトの想いが結晶となり、大樹を歪んだ形で発芽させました
  ヒトがかつてのミトスたちの願い通り、他者を認めるようになっていれば防げたこと
その声は唐突で、しかしすべての人…それこそ、人間やエルフ、
そしてハーフエルフと”ヒト”が区別し差別しているすべての命。
そんな”人々”の心の中に突如としてその声は響くようにして伝わってくる
そしてそれは船の上にいる彼らとて例外ではなく、
また、地上、そして彗星内部にいる存在達とて例外なくその”声”は響きわたる。

「この…声……」
忘れるはずがない。
でも、どうして。
どうして、どうしてこの声が。
おもわずはっとして周囲をみれば、皆にその声が聞こえている模様。
孤鈴コリン!!」
思わずしいなはその名を叫ぶ。
ずっと求めてやまない、そして本来の姿、たしか心の精霊にと戻ったヴェリウスの名を。

しいなの叫びにはっとする。
そう、この声はまちがいなく。
でも、どうして。
その思いはあのとき、雷の神殿にいたものたちすべての共通する思い。
どうしてヴェリウスの声が響くようにきこえてきているのか。
いや、それ以上に。
血の盟約に従い生きているだの、何やら自分たちが信じていた常識。
それらを覆すようなことを今、この声はいわなかったか?
ヒトもエルフも元は同じである、といったようなことをたしかにいっていた。
――かつて、ミトスは王に懇願しました。ヒトも世界を構成する大切な命だと。
  しかし、そんなミトス達の思いをいきているものたちはどれほど実感してるでしょうか?
  自分たちのみが選ばれ、また他者をしいたげ、差別するのは当然だ。
  テセアラ、そしてシルヴァラント。どちらの世界における今の人のありよう。
  ヒトはかつておろかな争いを繰り広げた時とかわっていない。
  大樹の種子が芽吹くまで四千年以上かかったのもそんな人の心の負によるもの。
  本当にヒトが世界にとって大切な命か否か。
  今、歪んだ形とはいえかつてミトスたちが王から授けられし種子が発芽したことにより、
  これ以後、地上いきるすべての”ヒト”に試練が課せられます。
  私は心の精霊。いきとしいける心ありしものを代表せし精霊。
  私のこの声は心あるものすべてに届いていることでしょう
  あなたがたヒトは自らが世界にとっての一部、世界を構成する一員である。
  それを証明しなくてはなりません。
  ”力”の何たるかを完全に見誤っているものたちからは、その力が封じられます
  そして”力”を悪用している様々な施設は今このとき、消滅するでしょう

声は一方的。
しかし、その声をきいたものは疑問に思うというよりは、困惑に近い。
そもそも、王、とは。
それにミトス、勇者ミトスの名がでてきたことも混乱する原因の一つ。
マーテル教の教えの中には【王】とこの声がいっていたものがでてきたことはない。
否、一つだけある。
それは、それが指し示すは。
「…大樹の精霊…ラタトスク……」
勇者ミトス物語の中で、なぜにあるのか不思議におもわれている精霊との謁見の光景。
そしてそれはマーテル教の教典の中においても、
勇者ミトスが精霊に認められた云々という言葉が描かれている。
心の精霊ヴェリウスが【王】とよびし存在。
精霊の王といっておもいつくのは精霊オリジン。
だが、まちがいなくこの【声】はオリジンのことをいっているのではない。
それはもう本能的な勘ともいえる確信。
我知らず、ぽつり、とその名をつぶやくリフィル。


すべての審判ともいえる異変は、今。
人は世界を構成する大切な命。
そういったのは、ラタトスクが知る限り、この地上において二人。
それはかつての時間軸のアステルと、そしてミトス。
ミトスと同じようなことをいってきたアステル。
しかしそのミトスは結果としてラタトスクを裏切った。
大樹を奪い、その名を書き換え、さらには精神融合体となりし姉であるマーテルなどは、
ラタトスクを封印すらしようとした。
自分の力でどうにかなる。
そう傲慢にもおもいこみ。
マナをまともに生み出すちからも調停する力もない彼女がそのようなことをしても、
まっているのは地表の消滅、しかありえなかった、というのに。
そしておろかなことをしつづける人を常に信じるばかりで行動しようとせず。
結果としてヒトの手により消滅してしまったかつての世界樹ユグドラシルとその精霊。
人工精霊となっていた世界樹の精霊マーテル。
今はまだ、マーテルは精神融合体として変化してはいない。
それどころか本来、マーテルに融合されるはずであった幾多もの念や魂は、
すでにラタトスクの手によって形は様々なれど浄化、もしくは転生を果たしている。
そして、今回、すでに力をうしないし子株のような大樹の芽吹き。
いくら力が失われていようとも、
それはラタトスクにとっての子でありまた分身体にほかならない。
だからこそ、ゼロスにかの品を種子の中にいれるように、と指示をだした。
テネブラエを通じ。
ヒトが本当にこの世界とともに生きるつもりがあるのか否か。
それを見極めるための、ラタトスクが決めた審判は今、開始された。
そして、ヴェリウスの声は、人々にその予兆を気付かせるきっかけにすぎない。
この声は彗星内部のミトスたちにも届いている。


――歪んだ形で発芽している大樹は人々の心が改善されぬかぎり、
  その歪んだ形をさらすことになるでしょう

声は始まるときも唐突で、しかし終わるときも唐突。
その声を最後にぷつり、とその声は途絶えてしまう。
唖然とする人々が目にしたは、異様に成長を続けてゆく植物の姿。
海上にいるロイド達は気づかない。
地上のいたるところにおいて、異様なほどに植物が急成長をなしとげている。
その事実に。
地上とそして空から降り注ぐ光はまさしくマナの光。
そして、理を書き換えるための布石。



巨大な波が船にと襲い掛かる。
だが、薄い膜のようなものにつつまれ、波はきれいに膜をさけるようにと分散する。
それまで激しく波打っていた周囲の海原。
幾度か高い波らしきものが発生したかとおもうと、やがてその波はゆっくりと落ち着きをみせてくる。
まるで空より降り注ぐ光の粒。
それによって収まっているかのごとく。
あれほど荒れ狂っていた海原がやがていつものように静かな海原にと変化していき、
幾度か波が船にかぶさったのち、何ごともなかったかのような静けさが訪れる。
「…で?いったい何がどうなってるんだ?なんであんたたちが天使さまの翼もってるんだ?」
何が何だかわからない。
というか、なぜ神子とそのつれが空からやってきたのかも。
というか聞きたいことは盛りだくさん。
さっきのあのいきなり心に響くようにきこえてきた【声】は何だったのか、とか。
あの救いの塔のところに生えているようにみえる巨大な樹らしきものは何なのか、とか。
さらには空を覆い尽くす紫色の何か巨大なとてつもなきもの。
海がようやく凪いだとはいえ、空にみえている巨大な何か、はまだ健在で。
いたるところに紫色の光を帯びた鎖のようないくつもの光の筋は地上と空を結ぶかのように
しっかりとみてとれている。
その光の筋の周囲の波はまるでその鎖に吸い込まれるかのごとく多少たちのぼっており、
軽い海水を巻き込んだ竜巻などもおこっている。
声ののち、海が凪いだ。
はっとしたように、しかし彼にもこの船を、そして乗組員たちを守る義務がある。
だからこそ、代表しそこにいる神子達にと話しかける。
いつの間にか青い髪の男性と見覚えのある男性の背の光る翼はきえているが。
だからといって、見間違いというはずもない。
先ほどの巨大な音、といい。
いったい何がおこったのか。
それは彼ら、にはわからない。
だがしかし、移動していたはずの幻のような大陸。
それらの姿はもうどこにもない。
が、いつも見慣れているはずの海、なのにどこか違和感がある。
空を覆い尽くしている紫色の何か、それだけが原因でないのは明らかで。
そんな不安を表情にだすことなく、たしかこの一行のあるいみ保護者的立場であり、
また信頼がおけるであろう銀髪の女性にとといかける。
あんたたち、といい、その視線をこの場にいる男性三人にむけてはいるが。
神子ならばわかる。
が、なぜ天使の証でもある光る翼を神子以外、しかも三人ももっているのか。
それが彼…アイフリードからしてみても理解不能。
そんなアイフリードの問いかけとは裏腹に。
「…ちょっと、リフィル様」
「何よ?ゼロス?」
しばしとある方向を険しい表情でじっとみていたゼロスがふとリフィルにと話しかける。
「いや、たしかリフィル様。シルヴァラントの地図、もってた…よな?」
その表情はどこか険しい。
ゼロスにしてはめずらしく真面目な表情を崩してはいない。
「ええ。それがどうかして?」
「…おい。そこの天使さまたち!あれはいったいどういうことなんだ!?」
リフィルがいいつつ、地図をとりだし、ゼロスにと手渡すと、
それを四つ折りにししばし眺めたのち、険しい表情を崩さぬまま、
ゼロスがとある方角を指さしつつも、その場にいる二人の男性にと問いかける。
天使さまたち、とよばれ反応したのは二人。
「いきなり何だ?テセアラの神子よ」
ユアンからしてみれば、さきほどから通信機をつかい、ボータと連絡を取ろうとするのだが、
なぜか通信障害がおこっているらしく、まったくもって通信機器が使い物にならない。
海が荒れ狂っている状況はどうにか収まったよう、ではあるが。
しかしだからといって、救いの塔を覆い尽くしているあの大樹もどき。
あれをほうっておくわけにはいかないであろう。
赤い髪の青年、たしかその名をゼロス、とかいったか。
とにかく、彼が指さす先にみえるは、アイフリード達の視野からはただ海原がつづくのみ。
そういえば、とふとおもう。
この少し先にはネコニンの里のある島があったはずなのだが。
なぜその島影がまったくみえなくなっているのであろうか。
先ほどの巨大な揺れは大陸の移動が完了した証。
かつて、彼らがエグザイアにて手にいれた古の地図。
大陸の姿が本来あるべく姿の位置にもどりゆいた証。
それでも位相軸はずれているままであるがゆえ、大陸そのものは本来の姿にもどりはしているが、
次元がずれていることにはかわりがなく。
しかし、上空にとどまっている彗星の影響もあり、
その次元の遮断はかなり不安定なものにと成り果てている。
続いていた大地の揺れは大陸が移動していた証。
しかし、大地の移動が完了したことにより、今後はこれまでのような大きな揺れ。
それは確実になくなることを示している。
そしてまた、これまで船乗りたちが利用していた航海図。
それらもほとんど利用不能となっていたりする。
いまだ位相軸はずれているとはいえ、本来の大陸のありよう。
より近くなった世界の姿は当然海流などもかつてのそれにともどっている。
幻のようにみえているとはいえ、海の上に幻のようにある大陸の上。
それを船でつっきるような勇気のあるものはまずいない。
そもそも、本来ならばこの船の航路においてもこのまま進んでいけば問題はないはず。
であったのだが、大陸の移動が完了したことにより、見た目にみえる海と陸のありよう。
それらがすべて変化していたりする。
今はまだ、アイフリード達はそのことに気づいてはいない、が。
「あれ、だよ!」
ゼロスの目の飛び込んできているのは。
それまでとまったくことなる大陸のありよう。
そもそも、大陸の上下左右の位置すらもかわっているようにみえなくもない。
かなり高く飛び上がり空から確認してみればより現状を把握することはできるであろうが。
あきらかに、先ほど空からみた大陸のあり方。
それがここ、海上からでもわかるほどに変化している。
さきほどみえていた蜃気楼のような大陸の移動。
それらを考えれば、もしかしたら、大陸そのものが移動したのかもしれない。
あの幾度も発生した揺れがその副作用であるとするならば、
理解したくないが理解できてしまう。
ゼロスにいわれ、ユアンもクラトスもそちらにと視線をうつす。
意識的に視力を強化しそちらをみた彼らは思わず大きく目を見開く。
ゼロスが指差した先にはありえない形。
そこにあるはずのない大陸がゆらゆらとゆらめいており、
またこの先にあったはずのイセリア地方といわれた大陸。
それすらみあたらなくなっている。
「まさか…」
思わず目を見開きつつも、その背に翼を展開し、
そのまま、ばっと空にと飛びあがるユアン。
そんなユアンにつづき、クラトスもまた飛び上がる。
ある程度の高さまで上昇すれば、地表の様子はある程度手に取るようにとみてとれる。
かつて、ミトスの手によりて分けられたはずの大地。
よくよく目をこらさなければわからないが、
互いの世界の大地がまるで重なり合うように、
それでいて本来の姿を取り戻している光景がそんな二人の目にと飛び込んでくる。
といっても、テセアラ側の大陸はゆらゆらとゆらめき、まぼろしのごとく、
実体、としてそこにはない、というのはみてとれるのだが。
しばし、上空にとどまり、そんな地表の姿を唖然としてみているクラトスとユアン。
一方。
「で?説明してくれねえか?神子様一行よ。何がどうなってるのか」
やはり、あの男たちの背に天使の翼があったのは見間違いではなかった。
なら、この場にのこっている神子達の一行にと問いかけるしかない。
ゆえに。
「たしか、リフィル、だったっけか?説明してくれるよな?
  あんたらはいきなり俺の船に空から舞いおりてきたんだ。
  その説明義務くらいはあってしかるべきだろう?」
アイフリードの問いかけは、船員たちすべての心情を現しているといってよい。
「…え。ええ、といっても、私たちに説明できることは限られているけども。
  あのクラトスは…あなたも前、私たちを乗せているから知っているでしょうけども。
  私たちの護衛をしていた、というのはしっているわね?」
「そりゃぁな。そこの坊主の見習い解除をかけて戦った口だしな」
以前、アイフリードの口車にのせられて、海賊見習い契約書にロイドがサインしてしまい、
その解除をかけてこの船の上にてクラトスとアイフリードは戦ったことがある。
リフィルのその台詞にゆえに、アイフリードはこくりとうなづく。
負けるつもりはなかったが、あの男には手も足もほとんどでなかった。
が、傭兵ときいたがそんな名すらきいたこともなく。
不思議におもっていたのもまた事実で。
「彼は私たちも知らなかったのだけども。クルシスから…
  天界から、神子であるこの子の護衛に使わされていた天使だったらしいのよ。
  だから、彼には天使の翼があるのよ」
嘘ではない、護衛というよりは監視、といったほうが正しかったのかもしれないが。
それをリフィルたちがしったのは、初めて救いの塔に足を踏み入れたとき。
「天界から?…そういや、今回の再生の旅ではマーテル様の加護がすごい。
  という噂だったな。神鳥も幾度か目撃されてたらしいし」
そんなリフィルの台詞に思うところがあったのか、ふむ、という形であごに手をやり、
しばしその場にて考え込み始めるアイフリード。
事実、じぶんたちが神子一行をのせたのち、この船にも女神の加護がかかったのか、
どんな荒れた海であっても船に傷がついたりすることがなくなった。
波がいつもは船にはいりこんだりするそれすら、まるで船をさけるかのように、
船にあれから波が入り込んだりしたことは一度たりとてない。
今回のようにあからさまに、何かに守られている、と感じたことはなかったが。
そんなバカな、といってしまえばそれまで。
だがしかし、アイフリードはあの傭兵の男性…クラトスの背に見間違いのない、
天使の翼があるのを目の当たりにしている。
「まあ、あの男のことはそれで納得するしかないんだろうが。
  じゃあ、そっちの美男子は?」
いいつつ、ちらり、と視線でアイフリードが示したはゼロスの姿。
この赤い髪の美青年というか美男子もたしかにその背に天使の翼をもっていた。
「ん?俺様か?俺様はテセアラの神子。ゼロス・ワイルダーだ。
  つまりはまあ、コレットちゃんと同じく神子ってことだな」
テセアラって…
ざわり、とした声が周囲の船員たち、すなわち海賊たちから誰ともなくはっせられる。
さきほどの【声】でもテセアラのことは触れていた。
しかし、なぜ月の名というか世界の名がでてくるのかが理解不能。
「俺様達神子は、今回、マーテル様の試練、として種子を発芽させ、
  本当の意味での世界再生の試練を受けていたんだが。
  まさか、種子そのものがヒトの心とかて歪んでいるとは夢にもおもわなかったがな」
ここは、あの【声】にそれとなく話をあわせておくべきであろう。
というかそのほうがてっとり早い。
ざわり。
そのマーテル様の試練、という言葉にさらに海賊たちがざわめきを増す。
アイフリードすらその台詞に思わず目を見開いていたりする。
「ま、とりあえず。それぞれ自己紹介とでもいかねえか?
  あの天使さまたちの今後の対応も気になるしな」
「というか、早いところあの大樹のようなアレをどうにかしないと、やばくないかい?」
魔導砲を利用すればいい、とユアンはいっていたが。
しかし、魔導砲を利用するならば、まずさきにマナの照射とかいうのを止める必要がある。
ユアンの態度から、でも通信機器が使い物にならず、ゆえにすぐにその指示をだす。
というのかできない、というのも理解している。
理解しているがゆえに、そんなゼロスの台詞に思わず突っ込みをいれているしいな。
しいなとて何が何だかわからない。
どうして、孤鈴の声が聞こえてきたのかも。

どうして月の世界の名前というかそんな名がでてくるのか。
マーテル教の教えというか勇者ミトスの物語の中で【テセアラ】とは月を指している。
争いをした勢力の一方が、二度と争いをしないために、あの救いの塔をつかい、
月に移住したのだ、と。
それは子供でもしっているおとぎ話。
だからこそ、アイフリードを含めた海賊たちは困惑するしかない。

「クラトスさんたち、どうしたんだろ?」
そんな会話をしている彼らとは対照的に、空をみあげ、
手をかざすようにして首を上にとあげていたコレットが首をすこしばかり傾げてぽつりとつぶやく。
コレットの視界にうつっている二人は、遥か上空をいったりきたりして、
なぜか地上をじっとみつめている姿がみてとれている。
まるで何かを確認するかのごとくに。
そんな中。
「お、お頭!!大変ですっ!!」
船のマストの上にとある見張り台。
そこにいた船員のひとりらしき人物が何やら突如として声を張り上げてくる。
荒れ狂う波の中でも見張り台には必ず一人はのぼっており、
常にどうやら周囲を確認、していたらしいが。
そこまでロイド達は気づいてはいない。
「どうした?」
これ以上、何が大変だ、というのか。
思わずそちらに視線をむけ、叫ぶアイフリードはおそらく間違ってはいない。
「そ、それが、イセリア大陸がみあたりませんっ!」
「…何?!」
今の船の進行状態からして、そろそろイセリアのある大陸がみえていたはず。
途中あのような疑似的?嵐に巻き込まれはしたが。
まさか、海流によってどこかに流されたとでもいうのだろうか。
しかし、ルインからイセリア地方にいく海流はそう入り組んではいなかったはず。
それともあの嵐の影響で船が目的地からかけ離れてしまったのだろうか。
とりあえず、神子一行達に問い詰めることはいつでもできる。
だがしかし、海の上での遭難はそれこそ生死にとかかわってくる。
おもわず、かけだし、船首の先へ。
そして懐より伸縮性の双眼鏡を取り出し、大陸があるであろう方向。
そちらにと視線をむける。
たしかにそこにあるべき大陸の影がみあたらない。
それどころか見たこともないような大陸の影が視界の端にとみてとれる。
そしてさらに信じられないことがもう一つ。
視界の先にあったはずの救いの塔があった場所。
よくわからない何かに覆いつくされそうとしている塔。
それが先ほどまで見えていた位置からみえなくなっている。
おもわず、ばっと前後左右、それこそ360度、首を回すかのように周囲を確認する。
本来ならば、斜め左下。
つまりは、南東の位置にみえていたはずのそれが、
なぜに今では西南の方角にみえているのであろうか。
ゆえに、困惑を隠しきれない。
「野郎ども!とにかく、この船がどこに流されたのか、確認が先だ!
  それぞれ、部署にもどれ!」
『はっ!』
あきらかに、どこかに船は流されている。
そう、としかおもえない。
実際は流されてはおらず、かわったのは周囲のありかた。
つまりは大陸のあり方、そしてその形が変化しただけにすぎないのだが。
当然、彼らがそんなことを知るはずもない。
まったく異なる大陸の変化。
それは空中に飛び上がったクラトスとユアン。
それぞれが目の当たりにしている。
それは二人にとって、懐かしき大陸の姿といってよい。
かつて、まだ世界が二つに分かれる以前。
あるべきすがたであった大陸が、次元が乱れているがゆえか、
まるで陽炎のごとく、今は切り離されているもう一つの世界。
その世界を重なり合うようにと映し出している。
そしてまた、二つの世界として分かれていた大陸は。
おもいっきりその姿を変えている。
本来ならば、このまますこし西南下していけばイセリア地方とよばれし大陸。
その場所にたどり着けたであろう。
が、イセリア地方、とよばれし大陸は今ではかなり南のほうにと南下してしまっている。
かつて、その大陸があったあたりにありしは、アルタミラ、とおもわしき大陸。
劇的までにここまで一気に大陸が移動していることに二人としては驚かずにはいられない。
それこそ、ミトスが世界を一つに戻したわけでもない、というのに。
なぜ大陸が本来の形に変化し移動したのか。
そしてそれを思えば可能性は一つ、しかない。
まちがいなくセンチュリオンたちだけ、ではない。
大樹の精霊たるラタトスクも目覚めている。
でなければ、こんな短期間でこのような現象がおこりえるはずもない。
それこそエターナルソードの力によって世界をわけていたそこに手をくくわえるなど。
いくら大精霊たちといえど不可能に近いはず。
が、かの精霊ならばいともあっさりとなしとげるであろう。
何しろあのオリジンにすら【王】とあがめられていたほどなのだから。


困惑。
幾度困惑すればいいのだろうか。
その心情の問いかけに答えるものは誰もいない。
そこにあったはずの大陸はなく、あるのは小さな大陸と、
その先にこれまたみたこともないような大陸の影。
それらがまるでゆらゆらと陽炎のごとくにゆれている。
幻。
すぐさまにその言葉が思い浮かぶのは、彼らもまた海の男であるがゆえ。
蜃気楼などにだまされ、漂流し船を座礁させたという話はざらにきく。
だからこそ、彼らは見知らぬ海流などに流されたときはより慎重にとなる。
航海図はあてにならない。
そもそも、羅針盤は起動しているが、今、どこにいるのか、がわからない。
これで太陽、もしくは星空でもみえていればある程度の位置が特定できるのに。
空には異様なほどに巨大な【何か】が覆い尽くしている。
この調子では夜になってもわからないかもしれない。
あれはいったい何だ、というのだろうか。
まるで空にある月が近くに落ちてきたかのごとくの巨大な何か。

「空から地上を確認してみて何かわかったかしら?」
どこか多少顔色を悪くしているかのようなユアンが甲板にとおりたってくる。
クラトスの姿はない。
気になることがあるらしく、クラトスはそのまま空をとび、
数か所、空から調べてみるつもり、であるらしいとはユアンの談。
それも、ロイドがユアンのみ戻ってきてきいたからわかった事実。
「ああ。少しきくが、お前たち、たしかエグザイアにいったことがあったはずだな?」
何しろあのマクスウェルともたしか彼らは契約を交わしているはず。
みずほの民やレネゲードによる情報網は伊達ではない。
とりあえず、甲板の上で話すよりは、というので船室にとはいり、
船室の中の広間、すなわち彼らの会議室もどきに使用しているという部屋にいき、
この場にはアイフリードと、海賊の副頭、そしてリフィル達とユアン。
計十六人がこの場にいたりする。
アイフリード達は、簡単にリフィルより神子の旅。
再生の旅といわれていたそれがすんだのち、
救いの塔てあらたに神子であるコレットに試練があたえられ、
そして信じられないことにテセアラとよばれし場所の神子と共同試練とあいなっていた。
それは、かつての旅では精霊の封印を解放する、といわれていたものだが、
このたびの試練は精霊たちを本当の意味で解放し、
そして大樹の種子、すなわち大樹カーラーンを目覚めさせる。
そのような試練をうけていた。
とあるいみで間違っていない説明をし、海賊たちはうなざるをえなかったが。
何しろ、神子であるというコレットの背だけではなく、
赤い髪の青年の背にも天使の翼が実際にあり、
ついでにいえば、あのクラトスとかいう男性もまた、天界よりそんな神子を助けるために、
女神マーテル様がつかわした、といわれれば信じざるをない。
ロイドが余計なことをいいそうになり、
そんなロイドの口をすばやくゼロスがその手でふさいだり、と。
多少少しは混乱はありはしたが。
そしておそらく、彼らはその試練をやりきった、のであろう。
あの声を信じるならば。
というか、ふつうではありえない。
何しろあの声はこの船にいたすべての存在に一言一句、間違いなくきこえていた。
アイフリードが念のために部下たちに確認したのでそれはまちがいない。
あの声は心あるものにこの声はきこえているようなことをいっていた。
つまりはそういうこと、なのであろう。
しかし、大樹はたしかに目覚めさせることはできはしたが。
あの声がいう通りだとするならば。
人々のあまりにも不毛ともいえる他者への排除思考。
それがかの神聖なる樹に影響し、あのように発芽した、としかどうしてもおもえない。
何しろこの船にいる海賊たちはほとんどといっていいほどに、
他者から迫害されたものが大多数。
だからこそ、ヒトの悪意が影響し大樹が変質して蘇った。
そういわれて、どことなくすとん、と納得してしまった、ということもある。
そしてそれはアイフリードとておなじこと。
彼は部下たちを迎えるにあたり、そういった人の悪意はいやというほどに経験している。
まあ、だからといって彼もまた相手をだますようなことをするな、と第三者がみればいうであろうが。
そもそも、彼がロイドに声をかつて声をかけたのは、ロイドがジーニアスとともにいたがゆえ。
アイフリードは部下がハーフエルフたちも多いこともあり、
ロイドとともにいた少年かハーフエルフだ、ときがついた。
まだ子供とはいえ世間の荒波。
それをしっかりと知らしめる必要があった。
賃貸契約としてはじめは交わしたあの契約書。
あれはあるいみおとりであり、本来の目的は次なる海賊見習い契約書にあったといってよい。
もっともそんなことはロイド達は知る由もないのだが。
海の上では地上がどうなっているのか、さすがのアイフリード達とてわからない。
そしてそれはロイド達にもいえること。
わかるのは、救いの塔の近くの山々からは、
あいかわらず赤い溶岩らしきものが、円を描くかのようにふきあげている。
そんな光景が塔のほうをみれば目にはいる、というこの一点のみ。
いまだに空からは、光の粒のようなものがふりそそぎ、それは海面に吸い込まれるようにときえている。
海が心なしかそのために、淡く光り輝いているのが今の現状。
いきなり、エグザイアにいったことがあったな、ととわれ、
怪訝そうに逆に問いかけるリフィルの気持ちもわからなくはない。
というか、なぜ今、エグザイアが関係してくるのか。
という思いのほうが遥かに強い。
「かの地では、古の世界地図を模型、もしくは壁画として保管していたはず。
  おまえたちはそれをみたことがあるか?」
いきなりといえばいきなりのユアンの問いかけ。
すでに、この世界において、ユアンが知る限り、かつてのそれらの情報はない、はず。
もっとも、彼らが入ることすらできなかった古の遺跡。
それらにはしっかりとそういう壁画や文章などが残されているのだが。
たとえば、そう、バラクラフ王廟のとある地下。
かつて、マルタがシヴァとであったあの地のように。
ユアンの言葉に一瞬、目を丸くしたのち、そして。
「あの地の町長より、古の地図の写し、というのもはもらっているわ」
あのとき。
レアバードを奪い、テセアラに移動しようとしたどり着いたあの地。
その地にて、町長でもある【モスリン】から、リフィル達はかつての【世界地図】
それをうけとっている。
しかし、なぜそれが今、この場で関係してくるのか。
リフィルにすら理解不能。
そして、リフィルに理解できないゆえに、その他のものたち。
当然といえば当然なれど、まったくもってロイド達にもわからない。
いいつつも、ごそごそと懐をまさぐり…どうやら常に地図は懐の中にとある、
内ポケットにと収容、しているらしい。
ともあれ、それを取り出し、机の上にと広げるリフィル。
「それは助かる。結論からいえば、いまだに位相軸が分かれているままとはいえ。
  今の大陸は、このかつての世界そのもの、にかわっているといってよい」
『・・・・・・・・・・・・・は?』
リフィルの広げた地図をかるくトンとかるく指で指し示したのち、
全員の顔をみつついきなり理解不能ともいえる言葉をいいだすユアン。
「そもそも、かつて、ユグドラシルが世界をわけたとき。
  大樹カーラーンのあった聖地そこを中心とし大陸を配置した。
  簡単にいえば、本来の勢力図。テセアラとシルヴァラント。
  それぞれの勢力圏にあわせて世界を分断したわけだが。
  そのとき、管理しやすいように、世界をこのようにまとめたわけ、だ」
いいつつ、ユアンもまたどこからともなく二つの地図らしきものを取り出し、
机の上にと突如とおく。
それはテセアラとシルヴァラントにおける世界地図。
簡単な地名、そして大陸などが記されたそれ。
そしてそれぞれの地図を重ねるようにして、
「これまでの世界は、この地図が重なり合った状態で、
  正確にいえば、裏と表。その表現からもわかるように世界の表側と裏側。
  そのように大陸を分断していたのだ。
  だからこそ、お前たちも異界の扉で移動したからこそわかるとおもうが、
  かの地からの移動は、このパルマコスタ付近にとつながっていた」
世界地図の上層部にあたる位置に多少ずれがあるがゆえ、
ぱっとみため、場所にずれがあるようにみられるが。
実際、これまでミトスがわけていた大陸のありようは、
ほぼ大陸同士が重なる形で位相軸をわけて存在していた。
大陸を小さくまとめることにより、よりマナの負担を少なくしていたといってもよい。
「…おそらく、歪んだ形とはいえ大樹が芽吹いたことと。
  救いの塔の障壁が途切れ、彗星が上空にみえていること。
  そして、その結果、彗星をつなぎとめている力が表面化したことにより、
  世界のものの次元が狂い始めている。…おそらくは、テセアラ側からは、
  こちらのシルヴァラントの姿が幻のごとく認識されているはずだ」
実際、それはクラトスが異界の扉のある島にときづき、
そこに上陸し…なぜか、その島だけは幻影ではなく、
ここ、シルヴァラントよりはいることが可能であった。
アルタミラ…すなわち、今この船がいるもう少し先にとあるとある島。
アルタミラのある大陸のある島だけ、がその場所にと移動する形になっている。
そしてその先にとある小さな島は、幻ではなく、
シルヴァラント側からもしっかりと認識することができ、
まぼろしのようにみえても、ちかづくことにより周囲がゆらゆらと揺らめいてはいるが、
しかし、確実に島、として認識できるほど。
そしてその島の中央には、なぜか満月ではないにもかからず、
常に魔法陣らしきものがあわく石柱の間に輝いており、
そこに足を踏み入れると同時、テセアラ側にと移動するとが可能、となっている。
「?どういうことなんだ?」
そんなユアンの言葉の意味はロイドにはわからない。
わからないことは素直にその場で思ったことを口にする。
それはロイドの美点であり、あるいみ欠点の一つ。
「つまり、今、世界のありようは、このかつての大陸のそれ。
  それにもどっているといってよい。もっとも、テセアラ側からはこちら側。
  こちら側からはテセアラ側。それぞれが幻、としてそこにあるようにみえているだろう。
  お前たちが外にて目にしたように、な」
実際、船室に入る前に彼らが目にしたは。
まるで陽炎のごとくゆらゆらとゆらめく大陸の影。
それまでは決してなかったはずの氷に覆われたような小さな島の数々。
この地図でいうなれば、この船はちょうど、フラノール地方、
とよばれし場所と、フウジ大陸、とよばれしその合間に今現在は漂っているのだが。
しかしそのようなことを、この場にいるアイフリード達がわかるはずもなく。
「上空から、私がおりてきたとき、この船は今、このあたりにいると認識した」
いって、ユアンがリフィルがおいているかつての古代地図。
その一点をとん、と指し示す。
アイフリード達からしてみれば理解不能。
というか、リフィルが取り出した地図。
すなわち世界地図、世界の大陸のありようなどきいたこともみたこともない。
それまでしっている世界地図とはまったくもってことなりしもの。
ユアンとて自らの目で確認したとはいえいまだ実感がわいていないのも事実。
世界を一つに戻したわけでもないのに、大陸がかつての姿にもどっているなどとは。
といっても位相軸がずれたまま、しかもおそらくこの調子では、
互いの次元がくるっており、いつ何かのはずみで互いの世界に迷い込むかわからない。
エターナルソードの力で分けられていたはずの二つの世界。
しかし、その障壁が取り除かれている要因。
それは、おそらくは。
「…あの歪んだ大樹の発芽によって、エターナルソードの力。
  それらがあるいみ抑えられている、とみて間違いないだろう」
互いが互いに次元がくるっている状態で、無事ですむか。
といえばユアンとて答えに窮する。
否、おそらくは無事にはすまない。
今はまだ、相手の位相がずれた場所が幻のようにみえている状態とはいえ、
いつ、なんどき。
その力がすべてを巻き込んで、次元の狭間に消えてしまうともかぎらない。
いや、クラトスがいうには、デリス・カーラーンの…
彗星のコアシステムは、そのような答えをもはじき出している、という。
だとすれば。
精霊の力で位相がずらされている世界。
その世界は元の姿に戻ろうとするであろう。
いくらどうみても歪に発芽しているとおもわしき大樹としかおもえないあれ。
あれがあるかぎり、大樹はマナを生み出す生命の源である、という。
精霊たちの力よりもより強大なマナの塊。
精霊と大樹の力が反発し、せめぎあい、すべてが消滅してしまう。
その可能性はなくはない。
大地の移動の過程で、本来あるべき町も別の大陸として取り込まれている今現在。
空から彼らが確認したは、かつての大陸。
すなわち本来あった大陸から町や村といったものまで移動しているのも確認がとれている。
信じがたい事実ではあるが。
そしてそれは、空にいまだに細いながらも伸びている光の柱。
それにても確認ができる。
あの大きな揺れより以前よりも異なる場所から空に伸びているかのような光の柱。
そして刻々と増えていっている紫色の電撃を帯びたかのような光の鎖。
今の世界のありようは、この四千年。
人々が常にあった世界の認識と大きく激しく変貌している。
今はまだ、大地から噴火の傾向がみられているがゆえ、
おそらく人々は気づいてはいないであろう。
が、確実に人々は気づくはず。
自分たちを取り巻く環境がことごとく変化してしまっている、ということを。
あまり周囲的に変わっていない、といえるのはフラノール付近、くらいであろう。
上空からその目で確認をしたユアンとクラトスはそのことをしっている。
が、地上にいる人々はおそらくまだそのことを知る由もない。
アルタミラのものたちとてどうか。
もっとも、彼らも異変にはすぐにきづくであろう。
何しろ周囲の光景が一変してしまっているのだから。
しかしそれもさることながら、地表に今おこっている異変はそれだけ、ではない。
それを彼らにいうべきかいわざるべきか。
それは今でもユアンは迷っている。
しかし、嫌でもそれを知ることになるだろう。
特に上陸してしまえばなおさらに。
「位相軸の次元が乱れているがゆえ、あちら側の大陸がみえている場所。
  そこはこちらではまだ一応形式上は海のはず、だが。
  いつ何どきその乱れに巻き込まれて不足の事態になるかわからない。
  ゆえに、この地図のとおり、海となっている海域を進んでいったほうがいいだろう。
  ちなみに、いくつかの町などもこれまでとは異なった形になっているようだ。
  かるく上空から視力を強化して、簡単に確認したが…これに書き込んでも問題ないか?」
一番てっとり早いのは、リフィルのもっている古代地図に今確認している町や村。
それらの位置を簡単にでも書き込み説明すること。


「…こりゃ、本当に今までの感覚、ではどうしようもなくなってるってことか」
海岸につき、思わずぽつり、というアイフリード。
そんなかれのつぶやきは、誰にとってもいえること。
「大陸の形からして、このあたりが大陸のはず、なのに。
  どういう大陸の移動がおこなわれた、というのかしら?それもあの一瞬で」
否、もしかしたら一瞬、ではないのかもしれない。
これまで幾度もおこっていた地震。
それが大陸がゆっくりとではあるが移動していた予兆、なのだとすれば。
ふつうに大陸を移動していた、のではそんな細かな変化は気づかない。
そしてあの巨大な揺れ。
その揺れこそが、大陸の移動が完了した証。
周囲の景色はみなれているはずのもの、なのに。
海岸からみえる景色が完全に一変してしまっている。
イセリアのある大陸と、トイズバレー鉱山やモーリア坑道。
そういわれている場所が大陸的に重なっているらしく、
もはや、かつての面影は地図が本当だ、とするならばみうけられないであろう。
そもそも、これまでは大陸沿いにてパルマコスタに行く場合、北上する必要があったのに。
それらが今度は南下しなければならないなど。
はっきりいって理解にくるしむ。
まるで、そう。
世界そのものが、大陸そのものが反転してしまったのかのごとくの変化。
実際、ユアンに説明されても実感はなかった。
が、幻のようなアルタミラの町や、さらには異界の扉のある島。
…こちらのほうは、幻、なのにくっきりとしており、
他の場所とはことなり、船のままその幻の中に突入する。
ということはできなかったが。
どういう原理なのか、まるでふわふわとしたような場所におりたったような。
そんな感覚。
時間がない、というのもあり内部にまでははいっていないが、
あの木々の様子…幻が半ば実体化しているかのような様子では、
まちがいなく、異界の扉、とよばれているあの石柱群もあるのであろう。
ユアンいわく、なぜかかの地に今現在、満月の日にのみひらかれる、という。
【扉】が常に発現しているらしい。
それはクラトスが確認ずみ、らしく。
それを使用すれば、あちら側、すなわちテセアラ側にも移動できた、とのことらしい。
それをきいたとき、おもわずリフィル達一行は唖然、としてしまったが。
満月の日でもなく、レアバードを利用するわけでもなく。
よもやシルヴァラント側から異界の扉にての移動が可能となるなど。
ありえない、としかいいようがない。
そもそも、こちら側、シルヴァラント側にはあの島はなかったはず。
にもかかわらず、である。
結局、ひとまず、かつての地図と古代地図。
地図を組み入れていた羅針盤もあまりあてにはならない、ということもあり、
そのままひとまずすすんでいってみたはいいが、そこにあったは、
幻のごとくにゆらゆらと常にゆらめく大陸の姿。
というかあきらかに、ガオラキアの森らしき幻がその大陸にはみてとれた。
海の上から、双眼鏡で確認しただけ、ではあるが。
世界に何か、完全なる異変がおこった、というのはあきらかで。
大陸の至るところから光の帯のような膜のようなものがわきでており、
そしていまだに空や地上からは光の粒は常にわきだしている。
空からは光の粒がふわふわとまいおりて、大地からは光の粒が舞い上がる。
それだけみれば幻想的で。
しかし、いくつかの山々らしき場所や、おもいっきり平地らしき場所。
そこからいくつもの噴煙…すなわち、溶岩のようなものがふきあがっている光景。
そんな光景が今現在、互いの世界においていたるところにみえている。
「俺様としては、首都のあれがきになったがな」
ユアン達が確認した結果。
なぜか、王都のある大陸が完全に孤立化、しているっぽい。
大地がさけ、ある一定の大きさとなったかの大陸は、
首都をその場にのこしたまま、東の先端。
東南の位置にとその大陸の位置を変えている。
それが真実なのかどうか、それはまだわからないが。
もしもユアンのいうように、この古代地図のような大地のありよう。
そうなっているとするならば。
これでは、ますます王都に近づけるものはいなくなる。
それに幻でみえたアルタミラ。
かの町はあるいみでは、海、水の町ともいってよかったのに。
なぜにあそこまで緑がみえていたのか。
それすらも疑問のひとつ。
まるで町そのものを覆い尽くすかのごとく、木々が生えている光景が幻としてそこにみえた。
見えてはいるが、そこにたちいることはできない。
実体のないそれを視野にはいれることはできるが、そこはたしかに海であり、
海の上にそんな光景がゆらゆらとゆらめいているようにしかみえなかった。
それが現実にテセアラ側のアルタミラでおこっていることなのかどうか。
それすらも判断不能。
そのまま移動していっても何があるかわからない。
ならば、だまされた、とおもってもときた海をもどってみよう。
そうおもい、ほとんど視野をたよりに、大陸沿いにと北上していったところ。
かつて、おそらくはルインのあったあたり。
そこになぜかイセリア付近の大陸の面影がみてとれ、
双眼鏡で確認してみれば、まちがいなくどうみても、とある場所には【聖堂】が。
小舟を用い、船をひとまず沖にと碇によって固定して、上陸してみれば。
やはり、周囲の景色にロイド達は心当たりがある場所で。
「ここ…イセリアのはずれの海岸じゃないのか!?」
おもわずロイドがそれに気づいて声をあげる。
上陸したその場所にはちょっとした区画に存在している砂浜があり、
小舟にのりて、皆がこの場所にとたどりついている。
といっても人数が人数であるがゆえ、三隻の小舟にわけて上陸しているのだが。。
幾度もジーニアスとともに、ここにきては海の食材を手にいれていた。
だからこそいくら同じような光景だとて見間違えるはずもない。
それに、ここはノイシュの散歩コースでもあったので、
さすがのロイドとていやでも記憶しているというのもある。
打ち寄せる波は、あれほど荒れ狂っていたそれが嘘のように、
しかし、それてもまだ波は高く、ひたすらに波は打ち付けてはひいている。
海辺近くにいれば、まちがいなく足を取られるほどには波はまだ高い。
見上げる空にはあいかわらず、紫色の彗星が常にみえており、
青空も、ましてや星空もみえはしない。
「イセリアの北の海岸?」
そんなロイドの言葉にジーニアスも茫然とつぶやかずにはいられない。
ユアンのいうように、本当に。
イセリアの位置がかわっている。
そうとしかおもえない。
そもそも、イセリアの大地があったはずの地形と、今、海からやってきた地形。
もののみごとにかわっている、としかいいようがない。
まるで、そう、大地が百八十度、回転してしまったかのごとく。
事実、大地がほぼ反転するような形で大地は統合しているのだが。
まさかその思いが真実などとは、ジーニアスは知る由もない。
海にはあいかわらず、空にむかってのびる紫色のバチバチと音をたてつつ、
ちょっとした竜巻を発生しつつ、空にむかっている小さな渦ができており、
何もしらないものからしてみれば、それは不安をさらにあおる光景、でしかありえない。
「…何だ?あれ?」
ふとロイドがとある方向をみて思わず顔をしかめる。
とある方向から小さな、それでいてありえない煙のようなものがたちのぼっている。
その煙の中にはいくつもの火の粉らしきものがみてとれ、
灰色のような色であるはずのその煙はどちらかといえば赤色に近い。
しかし、気になるのはそこ、ではなく。
「あっちの方角…まさか、親父の身に何か!?」
いくら大地の様子がかわっていても、家のある方向まで変わっているとはおもえない。
この海岸からみて、家のある方向。
そちらのほうからあきらかに、ありえない噴煙らしきものがたちのぼっている。
この場所にたどり着くまで、船の上からでも、大地が火をふいていたのを、
ロイドは目の当たりにしているがゆえ、おもわず顔色をかえてしまう。
「まって、誰か…くるよ?」
ふと、コレットが砂を踏みしめる音をききつけ、思わずそちらのほうにと視線をむける。
そして、
「…あれ?」
思わず戸惑った声をコレットがあげるとほぼ同時。
「なんだ?誰かいるとおもったら、ロイドたちじゃねえか」
「わおんっ!!」
足音のした方角から、何やら彼らにとってはとてつもなく聞きなれた声がする。
「?アルテスタ…ではないようだけど?」
どことなく、ふとアルテスタを連想させるような、ひげを生やしたひとりの男性。
しかし、ふつうの人間、とはおもえない。
ゆえに、ケイトがその姿をみて困惑したような声をあげ、
そしてまた。
「親父!?」
「「ダイク(どの)(さん)!?」」
「「ダイクおじさん!?」」
その姿をみて、驚きの声をあげるロイドに。
リーガルやしいなの声、そしてジーニアスとコレットの声が重なる。
少しばかり小柄、といっても差し支えのないその体。
茶色いあごひげは口元をしっかりと覆い隠し、服装はいたってシンプル。
その姿はロイド達にとっては見間違えるはずもない。
「うおん、うおんっ!」
そしてまた。
その横にいる動物も、何やら嬉しそうなこえをあげてくる。
「うわ!?ノイシュ、ち、ちょっとまっ!!」
そのまま、おもいっきり、その巨体なる体をロイドに押し付けて、
全身で喜びを表している、耳が威容に大きな青と白を基調とし、
その足元は紫色のけに覆われているいかにも特徴があります、といわんばかりのその姿。
ロイドがちょっとまて、といい終わるよりも先に、その体をロイドの体にこすりつけ、
ロイドの無事を体全体で喜びを表しているようにどうみてもみえる。
「そういえば。ノイシュはダイク殿に一応預けていたな」
その光景をみて、ふとユアンがそんなことをいっているが。
事実、ユアンはロイド達が救いの塔にむかうとき。
ノイシュをあずかったのち、このシルヴァラント側に移動し、
ノイシュをダイクの元にとつれていっていた。
「なんだかまたおまえら、大所帯になってやがるな。
  って、アイフリードの旦那までも一緒か。
  ブルート殿達はイセリアにいるが。お迎えかい?」
いいつつ、ロイドが親父、とよび、また他のものがダイク、とよんだその男性は、
そのあごひげをなでつつも、全員をざっとみたのちいきなりそんなことをいってくる。
「何で、親父がここに……じゃあ、やっぱり、ここはイセリアの……」
養父でもあるダイクがこの場にいる、ということは。
ならはまちがいなく、ここはイセリアの近くにある海岸沿い、なのだろうか。
海からこの場にやってきたことは一度もないので、ロイドも確証がまったくもてない。
が、養父であるダイクをロイドが見間違うはずもない。
しかも、ノイシュまで一緒にいれば、もうこれは疑いようもなく。
本当にここは、イセリアの近くなのだ、と実感せざるをえない。
「おうよ。久しぶりだな。ダイク殿」
「俺の力作のカーラーン号の調子はどうだ?」
「もう、これ以上ないほどに調子いいぜ?」
「そうか。それはよかった。この海の荒れ具合でどうにもならなかったのか?」
「まあな」
不思議なことに、という言葉を飲み込み、ダイクの問いかけに苦笑しつつ、
何やらこたえているアイフリード。
今現在、アイフリードとともにこの場所に上陸してきたのは、
アイフリードが率いる海賊たちはアイフリードを含め、およそ四名。
アイフリードの背後に常に海賊たちが三人、常に控えるようにとたっている。
「先生。うちのロイドがかなりご迷惑をかけてるんじゃねえのか?」
「そうね」
「…先生、そこは否定してくれてもいいじゃないかよ……」
ほぼ即答しダイクの問いかけにこたえたリフィルの台詞に、おもわずうなだれるロイド。
「あの?あなたは…もしかして、ドワーフ、なのですか?」
ロイドが父親、と呼んでいるということは。
たしか、以前、しいながこの少年は、ドワーフに育てられているかわりもの。
そういっていたことを思いだし、改めてといかけているケイト。
船でまつよりは、ケイトもまた状況をしりたいこともあり。
また、これからいく予定なのが、シルヴァラント側における、あるいみで聖地のような場所。
神子の生誕の地とよばれる場所だというので、ケイトも船に残ることなく同行している。
タバサはその重さから小舟に乗るのは無理であるというので、
簡単にその背に翼をだし、海の上をあるくようにして、
小舟に平行するようにしてともに同行してきている今現在。
「親父。親父はどうして……」
「なぁに。ちょっとばかり、な」
ロイドの問いかけにダイクは苦笑せざるをえない。
よもや、大地が移動したような気配を感じたから、といっても。
おそらくロイド達にはわからないであろう。
それに、とおもう。
感覚でわかる。
あれは大樹ではないが、どこかで大樹が本当に芽吹いている、ということが。
伊達に大地の加護をうけている種族というわけではない。


草木が異様に成長していっているのが何よりの証拠。
そしてこの光の粒は、まちがいなくマナの光。
枯渇していた大地がマナによって活性化していっているのが手にとるようにとわかる。
もっともその結果、草木までもが活性化しており、
人々の生活地までにもその成長の余波をみせている、という副作用もみられているが。
そしてそれ以上に。
確かに何かが起こっている、というのを物語るような事実がイセリアではおこっている。
「まあ、今、イセリアに行っても、混乱してるとはおもうがな」
「それは、どういう?」
どこか含んだ言い方をするダイクの台詞に思わずリフィルが顔をしかめる。
「まさか、村に、何か……」
心配した表情をうかべ、その手を胸の前でくみつつも、戸惑いの声をあげるコレット。
「パパもママもじゃあ、村にいるの?」
そしてまた、父であるブルートの名がでたがゆえに、逆に問いかけているマルタ。
今の彼らの会話から推察するに、まちがいなくマルタの父親は村にきている、のであろう。
だからこそマルタは聞かずにはいられない。
あの揺れで、両親がどうにかなるとはおもってはいないが、
それでも心の底では心配していたのは事実。
しかし、今のダイクの口調では、二人ともどうやら村、にいるらしい。
「マルタちゃんか。お前さんの両親は今は村にいるにはいるが。
  今はちょっと大変かもしれねぇなぁ」
そういい、どこか遠くをみつめるようにぽつり、とつぶやくダイク。
そう、ある意味で大変であろう。
「何があったの?」
ダイクのそんな様子にただならぬものを感じ、といかけるリフィル。
この様子ではどうやら村で何か、がおこっているらしい。
まあこの異変で何もおこっていない、というのがおかしいが。
「・・・そういえば、消滅するとか何とか孤鈴がいってたような……」
ふと、しいなの脳裏にうかびしは、あのとき聞こえた孤鈴の声。
この時をもって消滅するようなことをたしかにいっていた。
あの言葉がもしも、牧場などといった施設を指示しているのならば、
イセリア牧場といわれし場所が近くにあるこの場所でも何かがおこっているのかもしれない。
まあ、そもそも大地そのものの形が変貌していることを村人や、
ましてこのダイクが気づいているのかどうかはともかくとして。




pixv投稿日:2015年1月9日某日(Hp編集:2018年5月6日(日)開始

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あとがきもどき:

ついに大樹が発芽しました。ミトスに預けていた種子もさることながら
主体ともいえる大樹本体も同時に発芽していたりします。
そして新たな惑星を誕生させるための種子も宇宙空間において発芽中。
ちなみに世界における光景。
マイソロ1のエンディング。世界が光につつまれているあの光景。
それを連想していただけましたらありがたいです。
それに加え、世界各地で火山活動&地割れが起こってたりしますが(苦笑
そういえば、ファンタジア地図さんというか、ラタ騎士さんの世界地図。
前にもちょこっといいましたが幾度見直しても、町の位置とかが摩訶不思議。
な場所に移動しているところがかなりありますよね。
救いの塔の位置とか(笑
あれ?大陸の位置的にそこはおかしいのでは?という個所がいくつかv
救いの塔の位置・・あれれ?どちらの世界もとある大陸の中心のはずなんですが(あれ~?
世界移動さん、地表の位置とかまで変化しちゃってますよね。おもいっきり
さて、そろそろレジェンディア要素がでてきます(笑
使い勝手いいですよね。負の具現化(マテ)
一番怖いのはヒトの心。Byモスリン。
とあるように、ヒトの心ほど怖いものはないですからねぇ(しみじみ
というか、ヒトほど残虐なことを平気でする生き物っていませんしね……
ちなみに、一行が上陸した場所。
ラタトスクの騎士で、マルタとエミルがなかれされたどり着いたあの海岸、です(笑
ちなみに、ラタさまが目覚めて以降、死んだ人間が生き返る奇跡、
とかも思いついてましたが、あまりにもラタ様これまで人のおろかさめにしてますし、
そのルートは没にしましたv
…マイソロ1では全員復活!しましたけどね(苦笑
これでへたに蘇らせたりしたら、やれやはりヒトは選ばれしものだ~
とか、特にどの組織、とはいいませんけど、いいだしかねませんしね……