「…ここ、は?」
何がおこっているのだろうか。
目が覚めるとそこは見慣れた自分の執務室で。
ふと目覚めたクラトスが目にしたは見慣れた天井とそして部屋。
ああ、そういえば。
自分はロイドをかばったのだ。
しかし、ロイドはどうなったのだろうか。
ミトスは?
クラトスは戸惑いを隠しきれない。
と。
バタバタと何やら扉の外が騒がしい。
「クラトス様!お目覚めでございますか!?至急お知らせしたいことが!」
「クラトス様はまだ安静にしておられなければだめだ!」
外のほうから何やら言い合う声がする。
しかし、その声の様子から尋常ではない。
というか、おかしい。
あきらかに。
天使たちがそんなに感情豊かであるはずがないのに。
あきらかに、どちらの声にも感情がしっかりとこもっているのがうかがえる。
「…何ごとだ?」
とりあえず、それらのことが気になりはすれど、扉の向こうの騒ぎに向けて声をかける。
ゆっくりとベットから起き上がる。
体はまだすこし重いがある程度眠っていたことにより、
自己治癒能力が働き、怪我の状態は改善されているらしい。
「クラトス様!緊急事態です!」
切羽つまったような天使の声。
おそらく伝令兵か何か、なのだろうが。
ベットからおきあがり、扉をあければ、そこにいるのは二人の天使。
おらくひとりは自分の見張り、なのだろう。
かなり見覚えのある天使であるがゆえにそれは間違いない。
「クラトス様!緊急事態です!ディザイアン階級のケイトといわれしものからの伝達です!
大いなる実りの間に族が侵入したもよう!
また、何ものかによってアイオニトスが奪われ逃走中だということです!
さらに伝令によれば、実りの間でその族とユグドラシル様方が戦闘中だということです!」
びしっと敬礼をしつつも、あせったようにといってくる。
アイオニトスが奪われた。
たしかに、今目の前の天使はそういった。
ならば、神子ゼロスはうまくやった、のだろう。
「あの場にはディザイアン階級のプロネーマもいますが、賊は複数ということです!
報告のため、ケイトと申すものもそちらにむかったということですが。
ただいま、親衛隊を向かわせておりますが、
ここウィルガイアから実りの間までは時間がかかります!」
そう、ここは空の上。
そして実りの間があるのは地上における地下。
「ウィルガイアから地下の大いなる実りの間へつづく転送装置がつかえれば、
すぐにユグドラシル様をお助けにいけるのですが、
あそこは四大天使さま方しか使用が許可されておりません!
ユアン様も先刻地上にでむかれ、今はクラトス様にお願いをするしかっ。
どうか、われらよりも先にいき、ユグドラシルさまを賊の手よりお救いください!」
というか、なぜにケイトの名がでてくるのだろうか?
クラトスは知らない。
ケイトがまたまたユアンとともにこの場に、クルシスにやってきているそのことを。
「しかし、クラトス様を部屋からだすな、とはユグドラシルさまの命令だぞ?」
見張りの天使がそんな伝令をしてきた天使にそんなことをいっているが。
「しかし、こうしている間にもユグドラシル様の身に万が一のことがあれば!
賊は実りの間に押し入っているという。奴らの目的が大いなる実りであるならば、
よく深い人間がまた種子をわが物としようとしてせめてきたともかんがえられる!
かつて、マーテル様が命をかけてまもりしその種子をヒトに奪われるわけには!
ユグドラシル様に万が一のことがあれば・・っマーテル様とて、
多勢の無勢の中、あのようになられてしまったのだぞ!?」
彼ら天使は聞かされている。
マーテルが種子を守って、その刃に倒れたことを。
そして大いなる実りの恩恵により、魂がきえることもなく存続していることを。
だからこそ、そんなマーテルの精神を憑依させるために器が必要であるということを。
「いくらお強いユグドラシル様とて、種子を、そしてマーテル様を守りつつ、ではっ。
すぐにお助けできるとすれば、四大天使たるクラトス様かユアン様しか!」
そのユアンとの連絡がつかない。
なぜか、外、との連絡が今現在、マナの乱れより不可能になっている。
ユアンが再び地上にでるとき、地上のマナに乱れがある。
何があるかわからないからより注意をしておくように。
そうみなに伝令があったばかりだ、というのに。
ユアンが外にでてしばらくして、賊はどうやったのか地下に侵入したらしい。
見張りの兵たちは何をしている、という思いがないわけではない。
ケイトというものの報告によれば、ユグドラシルの命によりて、
その侵入者は一度はとらえられていたらしいが、
彼らはその場から逃げ出し、こともあろうに実りの間にむかっていってしまったらしい。
とらえている場所から捕虜たちが逃げ出した、とあわてたようにと連絡があった。
通信機器を通じて報告してきた。
通信室からもたらされた情報は、自分もこのままプロネーマ様のもとにむかう。
という言葉で締めくくられていたが。
「どうか…どうか、実りの間におもむき、ユグドラシル様をお助けください!」
どういう、ことだ?
あきらかに、この天使には自我が戻っている。
それも確実に。
見張りのこの天使もかつては機械的な反応しか示さなかったはず、なのに。
今ではその瞳にしっかりと自我がみてとれている。
しかし、実りの間に賊。
ロイドたちだろう。まちがいなく。
アイオニトスが奪われた、というのが何よりの証拠。
困惑するが、だがしかし。
頭をさげている天使達をみつつ、
「何があるかわからぬ。お前たちはいつでも不足の事態にそなえておけ。
私は侵入者のもとにいく」
「「はっ」」
その言葉にぴしり、と敬礼する天使たち。
やはり、おかしい。
あきらかに彼らには自我がもどっている。
これまで完全にほとんど自我がない状態であった、というのに。
自我、というよりは感情が完全に彼らには戻っている。
しかし、今はそれを詮索している時間はない。
ロイドたちがあの地にむかった、というのななら。
彼らの今の実力でもしミトスと戦うようなことになれば。
間違いなく勝てない。
ずっと後回しにしてきたツケが今まさにまわってきたというか、
覚悟をきめるときがきた、というべきなのか。
ロイドとミトス。
選べない。
しかし、選ぶとするならば。
ミトスひとりを死なせはしない。
すべてを託したのち、自分もミトスとともに。
それが、罪。
ミトスを止め切れなかった、これまで後回しにしていた自分自身の。
もうどれくらいこの部屋を使用していただろう。
しかし、もう戻ってくることはないだろう。
そうおもい、ざっと自らの執務室を見渡したのち、
自らの装備を見直して、ゆっくりと部屋をでる。
目指すは、大いなる実りの間にとつづく転送陣。
転送陣に向かう途中も天使たちがおり、クラトスの姿をみつけては、
それぞれ頭をさげてくる。
困惑したような表情を浮かべている天使も大多数みてとれる。
やはり、何かがおこっている。
あきらかに、何かが。
そんな天使たちの姿を確認しつつ、クラトスは幹部のみが使用できる転送陣。
それによって、今ミトスたちがいるであろう大いなる実りの間にと足をむけてゆく。
そこで何がまっているのか、知るはずもなく。
「これは!?」
クラトスの叫びと、より強い白き光が周囲を瞬く間に覆い尽くすのはほぼ同時。
それとともに、その場にいるすべてのものたちの体が金色にと光り、
次の瞬間。
その光は粒子となりて、彼らの体を覆い尽くす。
「何、これ!?」
「!ジーニアス!」
「っ!コレット!」
「まずいっ!プレセア!」
「しいなっ!」
あきらかに異常。
叫ぶジーニアスをはっとしつつ、無意識のうちにとだきしめるリフィル。
そしてはっとなりてコレットのもとにとかけだし、ぎゅっとコレットを抱きしめるロイド。
ここでコレットを手放せばもう二度と会えないような。
そんな予感がしたがゆえのロイドの行為。
ふと横をみればプレセアの体も光につつまれており、
自らの手を困惑したようにとみているプレセアの姿がみてとれる。
リーガルがプレセアに声をかけるのと、
ゼロスも異変を感じ、すばやくしいなのもとにとかけつけ、その体をぎゅっと抱きしめる。
「これは…まさか、転送の…っ!?」
その光の意味にきづき、ミトスが叫ぶが。
そんな彼らの叫びは何のその。
光はだんだんとつよくなりやがて彼らの体、否、部屋全体をも包み込んでゆく。
さわり。
吹き抜ける風が体をなでる。
「…う…な、こ、ここは?!」
はっと起き上がれば、空にかかる満点の星。
周囲には木々が生い茂り、そして自分たちの周囲にみえるのは、
不思議な文様がいくつもかかれているような、巨大な岩々。
この光景はかつてみたことがある。
「どうして…は!?コレット、それに、みんな!?」
どういうことだ?
そうおもうが、それ以上にコレットの、そしてみんなのことが気にかかる。
どうやらみな、大地に倒れており…というか、あきらかに大地。
つい先ほどまでいたあの不思議な文様が描かれていた床、ではない。
体に感じる冷たい風が、ここが地下ではないことを示している。
はっと起き上がれば、自らの下に見覚えのある金髪が。
「!?コレット!?」
「う……ロイ…ド?」
聞き覚えのある声に意識が浮上する。
ゆっくりと目を開いたその先にみえたのは、不安そうな大切な人の顔と。
そして。
「…ほし…空?」
さわり、と風が体をなでる。
ということは、ここは外、なのだろう。
でも、どうして。
頭をふりつつつぶやきながら、重い体をゆっくりと起こす。
「どこか怪我はないか!?おかしく感じるとことかはないか!?」
見た目にけがとかはみえないが、コレットはいつも無理をする。
だからこそ、ロイドは聞かずにはいられない。
「う、うん。…ここ、は?」
「俺にもわからないんだ。たてるか?」
いって、すっとロイドが困惑しているコレットにと手を伸ばす。
差し出された手をおずおずとつかみ、コレットが立ち上がる。
草木のにおいがここちよい。
周囲をざっとみれば、ここはどうやら木々に囲まれている場所、らしいが。
しかし、かなり見覚えがある。
しかもこの特徴的な岩の数々は。
「ここは…まさか、異界の扉…?」
かつて、この場にはきたことがある。
ふと空をみれば、生い茂る木々の向こうに満月がぽっかりと浮かんでいる。
どうやらまだ月は上空にはさしかかっておらず、
ほぼ木々の向こう側、つまり木々にかくれ半分程度しかみえていない。
この空気も景色もみたことがある。
何よりもこの特殊ともいえる岩の数々がこの場がどこか、というのを物語っている。
困惑したコレットの声をかわきりに。
『う…』
周囲から小さいうめき声がするとともに、ふとみれば、
それぞれが横たわっている状態からゆっくりと起き上っているのがみてとれる。
「ここ、は?」
頭をふりかぶりつつも、ざっと周囲を見渡しつぶやいているリフィルの姿が目にとまる。
ふとみれば、いつのまにというべきか。
ゼロスが近くにある石に手をつけて、
「…こりゃ、一本とられたか?」
などとつぶやいているのもみてとれるが。
あの名を呼ぶことで何がおこるかは聞かされてはいなかった。
が、よもや瞬間的に転移させられるとは。
あのとき光につつまれたのは自分たちだけではなかったので、
おそらく、ミトスやクラトスたちもあの光に巻き込まれている、とはおもうのだが。
しかし、彼らの姿はここにはない。
だとすれば、あのままあの場にのこっているのか。
それとも、自分たちと同じようにどこかに飛ばされた、のか。
ゼロスは知らない。
彼らは彗星の中でも、『楽園(ガーディン)』と呼ばれている一角に転移しているということを。
そして、そこで本来ならば自然豊かにあふれているはずのその場所が、
すべて水晶に閉じ込められるようになっているのをみて唖然としているということを。
ふとみれば、どうやらそれぞれ意識を取り戻しているらしい。
あの一瞬の光と、そして強制転移。
それによりそれぞれが気絶しており、そして今に至っているのだが。
そこまで彼らは気付けない。
よもや全員、一気にどこかに転移させられる、など思っていたはずもなく。
当然、それぞれが目を覚まし、これまでいた場所とは違う光景と景色に、
それぞれが困惑の表情を浮かべていたりする。
たしかにさきほどまで、別の場所にいたのに。
感じる空気はあきらかに外のもの。
さらにいえば、塔に向かう前よりもよりマナが少なく感じるのはどういうことなのか。
「いったい?」
困惑したようにジーニアスがつぶやいているが。
「よくわからないけども。どうやらなぜか私たちは外にはじき出されたようね。
というか飛ばされた、というべきなのかしら?」
あのままミトスが大いなる実りをどうにかした可能性も否めないが。
しかし、何となくそれはない、という予感がある。
おそらく、この場にはいないがミトスもまたどこかに飛ばされているような。
そんな予感がリフィルの中をよぎる。
「飛ばされたって…ゼロス、あんた、何かしってるんじゃないのかい?」
あきらかに、この場の中ではゼロスがしっていそうな気がする。
「いんや。俺様も何が何だか」
「でも、あんた、ウィノナの名前?っぽいのをいってたじゃないか?」
「あ~。あれは…っと。ところで。どうすんのよ?これから?
また、塔にむかのか、それとも、ここで月が上にくるまでまつのか?」
つい話の流れでうっかりいってしまいそうになり、それをとうにか押しとどめ、
空を指さしつつもその場にいる全員をみつつもといかける。
「いえ。ミトスが本当に大いなる実りをどこかにやってしまわないうちに。
せっかくここにきたのだから、ここからシルヴラァントに戻って、
最後の精霊との契約を済ますべきだとおもうわ」
なぜ、ここにいるのかはわからない。
が、さきほどのミトスの言葉を考えれば、時間はあまり残されてはいない。
「さっき、ミトスは大いなる実りをもって彗星ともども移動する。
そんなことをいっていたわ。ミトスがそれを実行するよりも前に、
精霊の楔を解放し、そしてレネゲードたちによって種子を発芽させてもらわないと。
おそらくこの地上に未来はない、わ。…朝よりもマナが少なくなっているもの」
塔に侵入したときよりも確実にマナがすくなくなっている。
体感として感じられるほどに。
「…何がおこったのかはわからぬが…たしかに」
意識を取り戻したリーガルもまた、そんなリフィルの台詞に困惑気味にと答えてくる。
実際、何がどうなったのかわからない。
たしか、大いなる実りの間、とよばれていた部屋にいたはず、なのに。
なぜにこうしてここ、異界の扉、と呼ばれし場所にきているのか。
「おそらくは…瞬間移動か何か、の力が働いたのだとはおもいますけど……」
ふとみれば、そこに困惑した表情を浮かべているケイトの姿も。
「…なあ、俺、何がどうなってるのかわからないんだけど……」
というか、ゼロスがどうして無事でいるのか。
どうしてケイトとともにいたのか。
さらには皆がどうやって助かったのか。
「そうね。まずはそれぞれにお互いに情報を整理しましょう。
その前、やらなければいけないことがあるけども」
「?」
そういうリフィルの表情はどこか据わっている。
「ああ。そういえばそうだね。さっきは時間がないこともあったけどさ」
いいつつ、リフィルにつづき、しいなもまた、表情を据わらせる。
「リ、リフィル様?しいな~?」
何だろう。
ものすごくいやな予感がする。
はてしなく。
ゆえに、おもわず一歩後ろにゆっくりと下がり始めるゼロスであるが。
「敵をだますにはまず味方から。その考えはわからなくもないけどね?
わざわざ死んだようにみせかけて、さらには血まで用意するなんて。
悪趣味にも程があるわよ?ゼロス?ずいぶんとえげつないとおもわない?
この子たちの課外授業にしても度がすぎているわよ?」
そういうリフィルの目はすわっており、なぜかばきぼきと手を鳴らしている。
「り、リフィル様ぁ?」
「しかも、オロチたちにそのことをつたえて、演技って気づかれないようにってか?
このあたしまで巻き込んでだますとはいい根性っ!
あたしが、あたしたちがどんな想いて…っ」
「い、いや、俺様もまさかあれがあんなもんだとは…」
「「問答無用!!」」
「んぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ~~!!」
『・・・・・・・・・・・・』
何だろう。
ゼロスにおもいっきり問いただしたかったのに。
リフィルとしいながなぜかゼロスに詰め寄っている。
みれば、リフィルの攻撃としいなの攻撃。
そんな彼らの攻撃をうけつつもかわしきっているゼロスはさすがというか何というべきか。
「…で、ゼロスは何でたすかったんだ?だって、俺、あのとき…」
あのとき、たしかに手ごたえを感じた。
「あ。それ、僕もしりたい。結局、詳しくきく時間がなかったんだよね…」
そんなロイドの素朴なる疑問にジーニアスがつぶやくが。
どうみても今、ゼロスにそれをきくだんではなさそうである。
「たしかに、たしかに俺、この手で、ゼロスを……」
肉をきる鈍い感触も、飛び散った血も。
すべてがそこにあったのに。
しかし、ゼロスの今の様子からはそんな感じがみあたらない。
誰かに癒してもらった、という可能性もなくはないが。
それでも。
ミズホの民の中に治癒術をつかえるものがいたのだろうか。
「ふっふっふっ。それは私が説明しましょう」
『誰(だ)!?』
突如としてどこからか第三者の声がして思わず身構える。
「誰がよんだかしらないが、エイトリオン・ブラック、ここに見参!!」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
ひゅ~…
何だろうか。
どこかむなしい風がその場を吹き抜ける。
ふとみれば、岩の上。
その上に闇が凝縮し、一つの何かの影を作り出す。
しかも、その顔部分にはもうしわけない程度にマスクっぽいようなもの。
それがつけられており、どうみても犬のような猫のような何か、なのに。
半ばその手?ともいえないそれを顔のあたりにおしあてて、ポーズをとっているそのさまは。
はっきりいって言葉に困る。
「おや?外してしまいましたか?やはり、これはひとりでは形になりませんねぇ。
やはり、八柱そろっていないと……」
何やらそんなぶつぶつつぶやく声がきこえてくるが。
「あ、テネブちゃんだ」
その姿が誰なのかを悟り、声をあげているコレット。
「テ・ネ・ブ・ラ・エ!です。まったく。
こほん。あなた方の疑問にお答えしましょう!
テセアラの神子には私特性の防弾チョッキもどきを手渡していたのですよ。
この私の力作ですので、その内部にはしっかりと人の臓器を模したものや、
よりヒトの血にちかしいものをつめこみ、さらにはきったときには、
人をきったときの感触と同じく感じるという何ともすぐれものっ!!」
コレットの言葉にやんわりと訂正し、どこかうっとりしたように、そしてほこらしげに、
どうや!といわんばかりにいってくる。
ちみに、そのしっぽ?のような五つにわかれているそれにて、
顔というか目の部分をふさいでいた蝶のような仮面もどき。
それをはずし、ひらひらと顔の横でしっぽにもってふっているのがみてとれる。
『・・・・・・・・・・・・・』
一瞬、目の前の黒い何か、が何をいっているのかわからない。
が、じわじわとその意味がゆっくりと、ではあるが実感できはじめる。
つまり、それが意味することは。
『おまえのせいかっ!!』
我知らず、思わず突っ込みをいれるロイドやジーニアスは間違っていない。
絶対に。
「へぇ。つまり、あんな状態になってたのは、あんたに関係してたんだ?」
「たしか、テネブラエ、だったわね?」
それまでゼロスを追いかけまわしていたしいなとリフィル。
そんな彼女たちの低い声が周囲にと響く。
「失礼な。むしろお礼をいってほしいものです。
私がテセアラの神子に品物をわたしていなければ。
そこの熱血おこさまは確実に本当に殺していましたよ?あいての真意すらみぬけずに」
「うっ」
そういわれ、ロイドは言葉に詰まってしまう。
というかいろいろとききたい。
ものすごく。
「感謝してほしいものです。私が渡していなければ。
あなたは確実にそこの人間を殺していた、のですからね」
「それ…は……」
ロイドの声がかすれる。
というか、なぜにこれ…というか、たしかテネ何とか、といったか。
がここにいるのか、という疑問はある。
あるが、いわれていることが事実なだけにロイドは言い返すことができない。
「そういや。テネブラエさまよぉ。これ、俺様、いいかげに取り外したいんだけど?
というか、この上にきた服とかは脱げるのにこれだけ脱げないってどうよ!?」
ゼロスとしては問題なのはこれをとっとと脱ぎ捨てたいというのに。
服はふつうに脱ぎきはできるのに、このチョッキもどきは、
服をすり抜けるようにして、絶対に脱ぐことができなくない。
役目を終えたのだから、とおもい脱ごうとしても、やはり脱ぐことはできなかった。
「そうでもしないと、あなたは、確実にそれを手放して。
自ら死を選びかねない、といわれましたしねぇ。
いいではありませんか。害はないでしょう?ふつうに服の脱ぎきにはかわりないのですから」
「いや、ある、おおあり!異議あり!!
これだと、俺様のナイスバディーな肉体美をさらすこともできないだろうがっ!」
おそらく、すべての服を脱ぎ去ってもこれだけは脱げない、というのなら。
それはゼロスにとってはあるいみ苦痛以外の何ものでもない。
ふつうに肌、とかはその服もどきの上から触ることができるので、
たしかに体を洗ったりとかそういう面では問題ない、のかもしれない。
しれないが。
これはゼロスの美学からしてみれば、デザイン的にもあまりよくはない。
そもそも、真っ黒なシンプルな飾り気もない…どうなっているのかはしらないが。
ロイドに切られたはずのその切り裂かれた場所もきれいさっぱりときえている。
そんな二人と一匹?のやり取りをしばし唖然、としてながめつつ、
「ね…ねこがしゃべってる?いえ、犬?」
困惑したような声をだしているケイト。
「あ。そういえば、ケイトさんはテネブちゃんをみたことなかったっけ?」
コレットは幾度かみたことがあるので今さら驚きはしないが。
「ですから、テネブラエです」
そんなコレットの小さなつぶやきを聞き逃さずに、
しっかりと言い直している黒い猫のような犬のような何か。
「…すこしまって。あなたは、ゼロスに何をわたした、というのかしら?」
しかし、今のゼロスと彼のやり取りをみて思うところがあったのであろう。
逆に冷静になりつつも、そんな彼…テネブラエにとといかける。
「属にいう、一般的な防弾チョッキ…鎧のようなもの、とてもいいましょうか?
それに傷つけられることによって、いかにも当事者の体が傷つけられたような感触。
反動もさることながら、たとえば剣などの場合はその肉をきる感触も。
すべてまったく同じに細工してある私の力作ですね。
防御力はかなりの制度を誇っておりますよ?
どんな刃とてそれを身に着けているかぎり、その下にある肉体には届きはしませんからね」
えっへん、といわんばかりに胸をそらしていっているようにみえるのは。
気のせいなのか、それとも本当に胸をそらしているのか。
ふわふわと空中にうかんでいるその犬のような猫のような、
黒い燕尾服のようなものをまとっているようにもみえるその姿からは想像がつかない。
いや、それよりも。
ゼロスとこのおそらくは、センチュリオンであろうものと接触をしていた。
その事実が見逃せない。
「それより、これ、もう用事はないとおもうんで。
というか、内臓系まできっちりと内部にしこんでるの、これどういう仕組みなわけ?」
切られたそこからみえたのは、ヒトの内臓ともいえるそれら。
実際は動物などの内臓を模した、のだが。
ゼロスとしてそれが不思議でたまらない。
自分の体にぱっりと穴があいたかのようにきられ、
さらにはその内部がみえているようにみえていた。
ちなみにそれを目撃しているのはゼロスたけではなく、
あの場にのこっていたオロチたちもそれを目撃していたりする。
なぜか時間とともにその切り裂かれた穴もどきは闇が浸食するようにふさがっていったが。
「それは闇の力を使用していますからね。闇はどこまでも深く神秘的なのですよ」
「いや、答えにそれなってねえから」
おもわずそんなテネブラエに突っ込みをいれるゼロスは間違っていない。
おそらくは。
「とりあえず、俺様は頼まれたことはきっちりとやったんだし。
これ、もう必要ないとおもうんだけど、そのあたりはどうよ?」
「何と?!この私の最高傑作を必要ない、というのですか!?
それはそのあたりでうられているへたな防具とかよりも高性能ですよ!
それには他にもいろいろとちょっとした仕掛けをしているのに!
それも利用せずに必要ない、とは!」
「まてこら!今のはききのがせないぞ!?何だその、仕掛けって!?仕掛けって!?」
「たとえば、装備者の体が闇と同化して霧となるとか…」
「んな物騒な呪われてるっぽいようなもんをわたしてたのかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
あきらかにおかしい。
というか、装備者の体が霧になる、など。
そんな武具はきいたことすらない。
ちなみに、その性能はとある世界においてかつてラタトスクがうみだした、
種族、吸血鬼という性能を参考にしてつくられていたりするのだが。
当然、この場にいる誰もがそんなことを知るはずもない。
ちなみに使いこなせば蝙蝠になったりするという技能も付け加えられていたりするが、
人の身でそれを使用しようとすればまちがいなく器がマナに耐えられず、
いともあっさりと器の消滅をもたらす、というちょっとした副作用がまっている。
…それをちょっとした、と言えるかどうかは別として。
「仕方ないですねぇ。わがままをいわれるとは」
「わがままじゃないだろ!それおもいっきり呪いだろうがっ!」
くくく、と笑みを浮かべていうテネブラエにゼロスが何やら叫んでいるが。
「闇のすばらしさを理解できないとは。まあ、仕方ありませんね」
いいつつ、そのゆらゆらとゆらしている五本にわかれている尾を、
まるで手の指を鳴らすかのごとくに、かるくパチン、と音を立てるとともに、
ゼロスの体から黒い霧、のようなものがわきあがり、
それはそのままテネブラエの中にと吸い込まれてゆく。
「今ので一応とりのぞきはしましたけど、くくくく」
「一応って何よ!?一応って!?」
「さあ、何でしょうねぇ?」
「俺様、きちんと言われた通りにしただろうがぁぁ!」
テネブラエ的にはゼロスの反応が面白いのでからかっているだけ、なのだが。
ゼロスからしてみればそれはたまったものではない。
珍しくも本気で何やら叫んでいたりする。
そんなあるいみ漫才、ともいえるやり取りをしている二人?をみつつ、
「どういうことなのか説明してくれるのかしら?ゼロス?」
「ああ、そうだね?」
いって、ゼロスににじりよっているリフィルとしいなの目は完全にさらに据わっている。
そもそも、言われたとおりにした。
ということは、まちまがいなく、ゼロスは彼らに何かをいわれていた、のだろう。
そしてその背後にいるのはおそらくはまちがいなくエミルのはず。
だからこそ、リフィルは問わずにはいられない。
そしてまたしいなも、あんな光景を間のあたりにし、
ゼロスが目の前で死んだ、と思い込んでいただけに、
声を低くして聞かずにはいられない。
「いや、俺様も不可抗力だってばよ!そもそも、断れねえし!
何しろ、こいつらには恩が…あ」
そこまでいって、はっと口を押えるゼロス。
「?恩?恩って?」
その言葉に反応し、ジーニアスがすかさず問いかける。
というか、なぜにこの動物?のようなものがいるのだろうか。
姉の推測が正しければ、たしかこのテネブラエとかいうのは、センチュリオン、
とかいうものではなかったのか。
しかも、ゼロスと漫才?のようなやり取りをしていたことから、
ゼロスは確実にこのテネブラエと幾度か面識がある、というのは一目瞭然。
「それについては私が説明いたしましょう。
以前、エミル様が彼に渡した品により、彼の妹さん、セレスさん、でしたか?
完全なる健康体になったゆえ、彼は我らに、というよりエミル様に恩義を感じているのですよ。
今回、エミルさまはほんとならばあなた方とともにかの地に出向きたかったそうですが。
エミル様は今は手が離せませんので。すこしばかり彼にお願いをしただけですよ?」
こほん、と咳払いのようなものをして、そういうテネブラエだが。
かつてエミルが手渡した、ネルフィス、かつてはそうよばれていた、癒しの力を秘めた石。
その石の力によりて、すでにセレスは完全に健康体になっている。
生まれつき、マナの構成が多少乱れていたがゆえ、病弱ではあったが、
あるべき姿にきちんと今現在はもどっているといって過言でない。
「われらとしては甘い、としかいえないのですけどねぇ。
そもそも、封魔の石をあなたたちに託した件にしても……」
何やらぶつぶつといっているが。
「…まさか」
封魔の石を託した。
その言葉にぴくり、とリフィルが反応する。
「え?ちょっとまってよ。イガグリさんたちがうけとったっていうのは、人間で…」
どこぞの執事のような青年だったはず。
そのことを思い出し、ジーニアスが声をあげようとするが。
すぅ。
突如として、いきなりそれまで満月の光で視界が良好であったものがさえぎられる。
「きましたね」
『え?』
いって空をふり仰ぐジーニアスや他のものたち。
思わずつられ、空をみてみれば、そこにみえるは巨大なとりの影。
そして。
「お兄様~!!」
何やら上のほうからそんな声が聞こえてくる。
しかも、かなり聞き覚えのある声が。
「ルーメン。遅かったじゃないですか?」
「そうですか?でもまだ時間にはなっていないとおもいますけど。
それより、テネブラエ。このものたちに余計なことをいっていないでしょうね?」
それとともに、ふわり、と何かがその巨大なる鳥の影より降り立ってくる。
それは、白き光を内包しているのではないか、とおもえるような、
白鳥のような、何か。
その体は白鳥のようでいて、とりのような羽毛はなく、
透明のような真っ白い布?みえなくもないものがその体を覆っており、
どこぞの里につたわる天女伝説のごとく、羽衣のようにみえなくもない。
翼らしきものを広げていないのにどうして空中でぴたり、と止まっているのか。
とか、何者だ、とか聞きたいことは山とある。
「私は光のエイトリオン・ルーメン、以後お見知りおきを」
「ルーメン、なぜにポーズをとらないのですか?」
「私ひとりでやっても形になりませんし」
え~と。
この場合、何といえばいいのだろうか。
テネブラエ、そしてルーメンと名乗った者たちが何やら会話をしているが。
というか、光?
突っ込みどころは多々とある。
「ああ。そうそう。あなた方のお仲間をエミル様の指示でお連れいたしました。
あなた方はこの地からシルヴァラントに戻られるのでしょう?
取り残された、としったらマルタさんやセレスさんがすねるだろうから、と。ラティス!」
『え?』
はっきりいってロイドたちからしてみれば展開についていかれない。
ルーメン、とよばれしまるで光を凝縮したようにもみえる白き鳥がそういうとともに、
バサリ。
巨大なとりの影がその場にと降り立ってくる――
「お兄様ぁぁぁ!」
「ぐふっ!?」
降り立った巨大なる鳥。
マーテル教の経典にかかれている聖なる鳥。
その巨体なる体がばさり、と空中にととどまるとともに、
その大きな翼がゆっくりと地上へとむけられる。
この場は岩がごろごろしており、シムルグが着地するには、
その大きさを変える必要がある。
が、どうやらそこまでするつもりはさらさらないらしく、
その翼を地面につけることにより、滑り台もどきにし、
背にのせている三人をどうやら地上に送り届けつもり、らしい。
ここに移動してくるまでに、そのあたりの説明はすでにうけていたがゆえ、
翼が大地に降ろされるとともに、すばやくすべりおり、
脇目も振らずにそのままゼロスにと突進していっている赤い髪の少女。
そのまま、どんっと勢いのまま抱きつかれ、思わず声をあげているゼロス。
「セレス、お前、何だってここに…」
昔からなぜか力だけは強かった妹だが、
健康になったここ最近、異様に力がより強くなっているような気がする。
かけてくるのをみてとり、体に力をいれていたがゆえに耐えられたが、
そうでなければ確実にその場にともにころがりおちるか、
また、ゼロスでなければかるく肋骨の一つやふたつ間違いなく折れているであろうほどに
ぎゅっとそのまま突進したままにゼロスにだきついている少女の姿。
そんな自らと同じ…といっても、少女ほうは少しばかりくすんだ髪の色なれど、
同じ赤い髪の少女がしっかりと自らに抱き付いているその体を、
やさしく同じくその片手を背中にまわし、そしてもう片方は少女の頭にのせ、
頭をなでつつも、自らに抱き付いている少女…実の異母妹であるセレスの頭をなでつつ、
ひとまずきになったことをといかけているゼロスの姿。
「ルーメンさんからお聞きしましたわ。お兄様たちがシルヴァラントに向かう、と。
それと、あと、これをお兄様に渡してほしいともいわれましたの」
いいつつ、セレスがその肩にかけていた大き目なる鞄から何やらとりだす。
それはゼロスにとってはかなり見覚えのあるもの。
「おお?!それは、俺様の服!?何で!?・・って、セレスさん?
何か目がすわってませんか?」
「お…お兄様の馬鹿ぁぁぁ!ルーメンさんからききましたわ!
お兄様、本当はこの人たちに殺されてもいいとおもっていたって本当ですか!?」
「げっ」
「ええ。私が品物を渡していなければ間違いなく死んでいましたねぇ。
そこのロイドさんの手によって」
そんな会話をきき面白がったのか、テネブラエがここぞとばかりに口を挟む。
というか、煽るな。
といいたい。
ものすごく。
「へぇ?つまり、あなたは、お兄様に剣をむけた?と?」
「い、いや、それはやむにやまれず……」
「問答無用です!お兄様を信じ切れていない時点で万死の罪に価します!」
どこかすっと目を細めたセレスの瞳がロイドを射抜く。
これはまずい。
本能的にロイドがそうおもい、あわてて弁解しようとするが。
「お兄様に剣を向けた罪。今この場でつぐなってもらいます!おかくごを!!」
「ちょっとまてぃぃぃ!」
いいつつも、ロイドにむかっていっているセレス。
セレスに追われ、その場を逃げ回るロイド。
そしてまた、
「あれ?エミル!?エミルは!?エミルの使いっていわれたからきたのに!
エミルはどこ!ねえ、どこ!?」
セレスにつづき、翼を滑り降りてきたマルタが近くにいたしいなの服をがしっとつかみ、
周囲をきょろきょみわたしつつも、しいなにたいして詰め寄っていたりする。
「ミナサン、ごぶじ、でしたか」
そしてまた。
一番最後にとてつもなく見覚えのある女性がゆっくりとおりてくる。
もっとも、彼女の場合は翼から滑り降りる、のではなくて。
おもいっきりその背から飛び降りており、
すこしばかりその足元にちょっとした足跡とという名のくぼみが発生しているが。
「タバサ。あなた、どうして、ここに…」
なぜにタバサまでここにいるのかがわからない。
「それが、ワタシも一緒にいったほうがいい、といわれましたので」
そもそも、サイバックの研究所で何かよくわからない実験?とかいうのにつきあっていたところ、
突如としてエミルの使い、という女性がやってきた。
「リフィルさんたちが異界の扉で移動する、とききまして」
その言葉にぴくり、とリフィルは反応する。
自分たちがここに移動してきたのはあきらかについ先ほどのこと。
リフィルたちですらこんなことになるとはおもいもしなかった。
なのに。
「それは、巫子姫であれば間違いなくここに転移させるだろう。
とわかっていましたからね。それより、テネブラエ。
あまりこのものたちにかかわってもいられませんよ?」
「わかっていますよ。それでは、私たちも忙しいのでこれで」
「ルナの解放をお願いしますね。では」
「あ、ちょっと!まちなさい!まだ、聞きたいことは話はおわって・・っ」
リフィルがそういうよりも早く。
テネブラエとルーメンは近くにある岩に近づいたかとおもうと。
次の瞬間。
ふたつの影はまるで岩の中に溶け込むようにときえさってゆく。
それとともに。
バサリ。
ふと強い風を感じたかとおもうと、上空にほぼホバリング状態というか、
その翼を広げたまま浮いていたシムルグが突如として翼をはばたかせ、
次の瞬間。
その巨体をそのまま大空にとはばたかせる。
それはほんの一瞬の出来事で、問いかける暇というか隙すらありはしない。
「エミル、エミルどこぉぉ!?」
「お兄様に剣を向けたなど、覚悟なさいませ!」
「何で俺だけがぁぁ!」
「あなたがお兄様に剣をおもいっきりつきたてたときいたからですわっ!」
『・・・・・・・・・・・・・・・・』
その場をかけわまり、岩という岩の後ろを探しまくっているマルタ。
そして、なぜかどこからとりだした?といわんばかりの巨大ハンマーもどき。
それを手にし、ロイドを追いかけまわしているセレス。
ある意味この場は混沌と化している、といっても過言でない。
「・・・・・・・・・・はぁ~」
おそらく状況を理解というか把握しているであろうテネブラエたちに逃げられ、
そしてまた、ロイドとセレス、そしてマルタの様子をみつつ、
リフィルは溜息をつかずにはいられない。
まずは、彼らを落ち着かせ、状況を整理する必要がある、のであろう。
しかし、確実にいえることがある。
それは。
「…私たちがここにきたのも、おそらくエミルがかかわっている…わね」
立ち去り際に、ルーメンとなのったものがいっていたあの言葉。
ルナの解放。
たしかに今の状態であちらに移動するのはここが何よりも確実、とはいえ。
それにしても、とおもう。
「…ほとんど丸一日、塔の中にいた、のね」
徹夜などは当たり前であったがゆえにあまり気に目ともなかったが。
塔にむかったのは朝。
そして今は完全によるになっている。
ということは、かの地で確実に十時間以上は経過していた、ということに他ならない。
~スキット:合流~異界の扉にて~
マルタ「む~!エミルがいなぃぃ!エミルの使いっていうからきたのにぃぃ!」
プレセア「…いいたいことだけいってきえてしまいましたね。かれら…」
リーガル「うむ。しかし…エミルはやはり……」
まるで、自分たちがここにくる、とわかっていたかのようなこの行動。
そもそも、ルーメン?なのったものにマルタ、セレス、タバサをこの場につれてきているとは。
コレット「でも、タバサさん、研究所のほうはいいの?」
タバサ「それがよくわかりません。あの人がきて、研究所の人々の態度が。
不思議なほどに変化しましたから」
まるで、魅了か何かでもされたかのごとく、彼らは彼女の言葉にしたがっていた。
タバサは知らない。
あのままあの地にのこしていれば、暴走した一部のものが、
タバサを解体しよう、とかいいだすのが目に見えていたがゆえ、
彼女もつれていけ、とエミルが指示をだした、ということを。
リフィル「光、といっていたわね。そしてあのテネブラエという彼が闇。
…間違いない、のでしょうね。彼らは光と闇のセンチュリオン。
これでエミルが大樹カーラーンの精霊にかかわりがある。
というのは確定、ね」
光のエイトリオン・ルーメン、と名乗っていた。
ロイド「エミルのやつ、何をしてるんだろ?手が離せないって……」
コレット「ネコニンギルドの依頼が長引いているのかなぁ?」
一同(コレット以外)『いや、それはない(かと)(だろ)(でしょう)(とおもいます)』
※ ※ ※ ※
「…とりあえず、今後のこともあるわ。今日は満月。
なぜここ、異界の扉にいるのかわからないけども。
月の位置からしてあと数時間もしたらおそらく月が真上にくるわ」
そうすれば、伝承の通りに異界の扉が開くはず。
あのときのように。
さんざんセレスにロイドは追いかけられ、
そしてまた、リフィルとしいなも気が済むまで一応ゼロスに説教を施した。
おそらくこの場に移動してかるく一時間はたっている。
それを物語るには月の位置がはじめのころは木々に隠れた位置であったのに、
すでにだいぶ真上に近くなっていることから、
意識していなかったが、かなりの時間、話をきちんとまとめることもなく、
ちょっとした話し合いもどきが行われていたのが見て取れる。
いつまでもゼロスをせめていても話が進まない、というのもあるし、
こちらから一方的にひたすらにいっていただけなので、
結局、ゼロスが何をしようとしていたのか、それは今だに聞いていない。
扉が開くであろう、満月が上空にと差し掛かるその時間帯。
それまでにはまだ少しばかり時間がある。
ゆえに、改めて全員をその場にあつめ、
「とりあえず、マルタ、セレス、タバサがどうしてここにきたのか。
その説明もきいてみたいしね」
どうやらあのルーメンとかいうセンチュリオンにかかわりがある。
というのはわかったが。
どういう内容でこの場に彼女たちがやってくることにしたのかまではまだ聞いていない。
それに、そもそもセレスはゼロスが神子の代理としてあの場に残していたはずだったのに。
どうしてセレスまでもこの場にやってきているのかも知る必要があるだろう。
それはリフィルの直感。
「あ、うん。私も皆がどうしてたのか気になるし…とりあえず。
こっちも伝えないといけないことがあるから、なら、情報交換。
ということでいいのかな?」
マルタからしてみれば、そういえば、という想いが強い。
今現在、サイバックも大騒動になっているが。
おそらく、リフィルたちは知らないはず。
それでなくても真実性を確認するために、みながみな、忙しくしていたことをふと思い出す。
しかしそれは、サイバックにいたからいえることであり、
いまだにその情報はまだあまり伝わってはいないであろう。
だからこそ、すこし言葉を濁しつつもそうリフィルたちにと問いかける。
そんなマルタの言葉をきき目を細め、
「…どうやら、何かがあった、ようね」
マルタが言いよどむような、何か。
おそらくそれが、彼女たちがここにやってきた理由の一つ、にもなるのだろう。
さわり、とした風がふきぬける。
とりあえず、立ち話も何だ、ということもあり、それぞれが近くにある、
ごろごろしている岩をそれぞれ選びつつ、地面に直接すわるものもいれば、
少し大き目の岩に寄りかかるようにしてたっているもの。
また、石を椅子かわりにしてこしかけるもの。
ジーニアスは不安そうな表情を浮かべ、リフィルはすこしばかり険しい表情をしているが。
この場においてこの大気の変化に気づいているのは自分たちだけ、なのだろう。
そう思うとリフィルは溜息をつかずにはいられない。
刻々とマナが少なくなっている。
おそらく、今現在、すべての場所においてこの調子であるならば、
初級程度の魔術の行使はどうなかなるであろうが、中級魔術を行うだけで、
かなりのマナを消費して間違いなく自らの体のマナにすら影響がでる。
上級魔術などもってのほか。
実際、どちらの世界においてもマナの数値が均等になっているまま、
そのマナの数値はことごとく下がっていたりする。
それはまあ、必要最低限、世界の維持に必要なだけの数に至るまで、
ラタトスクが制限、という理を設けている途中だから、なのだが。
当然、そんなことをリフィルたちが知るはずもない。
「そういえば。ロイド。ノイシュはどうしたの?」
いつもノイシュはロイドのそばにいるはず、なのに。
ふと素朴なる疑問、とばかり、コレットが横にいるロイドにと問いかける。
『あ』
その言葉に思わず声を重ねるロイドたち。
アステルからもらった飴は一つしかなくその効果でノイシュは小さくなっていたが、
ユアンにつれられ、かの場所に移動しているさなか、その効能が切れてしまった。
体の大きいノイシュをともに連れていくのは何があるかわからないからやめておいたほうがいい。
案内される途中でそういわれ、ユアンがノイシュをあずかろう。
そういわれ、ノイシュはユアンに預けた、のだが。
「そういえば。ユアンのやつ、ノイシュ、どこにつれてってるんだろう?」
それはロイドの素朴なる疑問。
すでにテセアラベースにユアンは移動しており、その場において月が上空にさしかかり、
彗星と重なったその時に発生するマナによりて、実はシルヴァラントに移動していたりする。
ロイドたちがこの地から移動しようとしているように、
ユアンたちも、マナ不足によりて世界移動が困難になっている今、
その月と彗星が重なることによって生じるマナを利用して、
かの地との移動を成し遂げたといってもよい。
もっとも、それをロイドたちが知るのはもう少し後のこと。
今、この場において、ロイドたちがそんな事情を知るはずもない。
「まずは、状況を整理していきましょう。まずは、マルタ達から、いいわね?」
改めてといかけるリフィルの言葉に全員がうなづき、
それぞれわかれてからのち、何があったのか。
おおまかな情報交換をこの場において行うことに。
月が重なり、扉が開くまで、あとわずか。
「…は?何ですか?それ?」
まず、思わず聞き返したマルタは間違ってはいないであろう。
料理を習いつつ、そのかわりにウェイトレスの仕事をこなしている今現在。
先刻、ロイドたちとわかれ、マルタ、タバサ、セレスがこの地、サイバックにと残った。
セレスとタバサはこの場にはおらず、研究所のほうにいっているようだが。
配膳をもっていった客のひとりがマルタに声をかけてきて、
何かきいてる?ときかれて思わず逆にマルタが問いかけている今現在。
「あれ?まだここにまでは話がつたわってないのかな?
よくわからないんだけど、なんか新生マーテル教とかいうのを、
前教皇が立ち上げたとかいう噂なんだけど」
そういわれても、マルタにとっては初耳もいいところ。
「何でもマーテル様自らが降臨なされてるとかという大義名分をたてているらしいけど」
「ありえないんじゃあ?」
「だよねぇ。そもそも、教皇が今の神子様をないがしろにしたせいで、
神罰が下りまくっているこの現状だし。ほんと、前教皇は何を考えてるのかねぇ」
人々の認識からしてみれば、神鳥シムルグの出現に、
さらにはオゼットの村すら雷によって壊滅した、という。
ついでにいえば、それより少し前の竜巻で起動不能となっているグランテセアラブリッジ。
それもまた、天界における神罰なのではないか、という認識がまかりとおっているというのに。
「機能が回復しないから、動力源となっているエクスフィアの収納容器。
それがすべてからになっていたことからも、神罰の可能性が高いのに。
これ以上、この国にどんな被害をもたらせばきがすむのかねぇ」
「は…はぁ」
「まあ、お嬢ちゃんにいってもどうにもなならないか。
でも、だまされないようにね?なんか甘いことをいって勧誘しはじめている。
という噂だから。王都なんかは今、ピリピリしているらしいよ?」
それこそしっかりと身分というか目的を告げなければ町への出入りも不可能なほどに。
もっとも、抜け道となっている下水道にも管理の手が伸びているらしく、
今や王都そのものがあるいみ孤立化しているといってもよい。
なぜか国そのものからは、それらの処置における対策の発表が何もなされないままで、
民が困惑している、というのがここ最近の王都の実情。
王都のものからしみればたまったものではない。
原因不明の闇につづき、今度はあるいみ内乱といってもいいようなことがおこれば。
そんな中で噂されはじめた新生マーテル教。
そもそも、教皇が神子に、天に逆らったから今の状態だ、というのに。
またあらたに別なる宗教を立ち上げるとはどういうことか。
そんな声もちらほらと聞かれはしているが、表だち口にだしたものは、
翌日には消えている、という何とも胡散臭いこときわまりない。
「おっと。引き留めてわるかったね」
「あ、いえ。ご注文は以上でよろしいですか?」
「ああ。ありがとうね。…しかし、世の中どうなっていくのかねぇ?」
不安そうにそうつぶやくその様子は何ともいえず、マルタも何といっていいのかわからない。
「…って、ことが、昼間あったんだよね」
「…新生、マーテル教、ですか」
夜。
シュナイダー院長が用意してくれた、とある部屋。
部屋、といっても、ここは家具がそろっている空き室であるらしく、
本来ならば研究員の住処となりし場所、であるらしい。
マルタからしてみれば、別に宿屋とかでもかまわなかったのであるが、
セレスの立場、つまりは現神子の妹、しかも公爵妹というのもあいまって、
何かあっては大変、というのでこの場を提供されたのはロイドたちと別れてすぐのこと。
タバサのつくりし料理をたべつつも、今日、何があったのかの報告会。
皆は今、どこにいるだろう、とかエミル、なかなかもどってこないな。
などという会話の最中、昼間、食堂にてきいた会話をセレスたちにと話しているのだが。
「わたくしは、直接あまり教皇自体にはお目にかかったことが限られていますから、
でも、噂だけではしっています。たしか国王陛下から今は捕縛の命が下っていたはず」
そう、たしかにそのはずである。
「たぶん、くちなわ、という人も絡んでいる、のでしょうね」
「…たぶん、ね」
このタイミングでこういう話、ということは。
おそらく、まちがいなく、あのみずほのくちなわも絡んでいる。
「おふたりとも、あまり深く考えてはせっかくの食事がおいしくなくなりますよ?」
そんな二人…マルタとセレスにと話しかけているタバサ。
「あ、うん。そういえば、タバサも初めてあったときより、言葉が流暢になってきたよね」
「自己習得ブログラムが常に起動しています。
これまで、私の周囲にいたのはマスターだけ、でしたが。
人と触れ合うことにより、言語所得の確立割合が上がっているためだ、とおもわれます」
事実、タバサがマルタ達とであったときには、カタコトの言葉、でしかなかったのだが。
彼らと旅をすることにより、言葉がより流暢にはなせるようにとなっている。
今のタバサをぱっとみため、もしくはその言葉で自動人形、
つまるところは機械の人形だ、と気づくものはまずいないであろう。
かつては、言葉がカタコトでどこか不自然な場所もあったがゆえに、
違和感を感じるものもいたであろうが。
旅はヒトを成長させる、とはよくいったもの。
その点でいえば、マーテル教の教えにある、”ヒトよ、旅をせよ”という内容。
それもあるいみで間違ってはいない、といえなくもない。
「そんなものなんだ。いまだにタバサが機械とかいうのって納得いかないけど…」
「なら、腕でもはずしましょうか?」
「やらなくていいから」
「あれは、さすがにわたくしもちょっと……」
タバサの体はメンテナンスのため、それぞれ関節ごとに取り外しが可能。
となっているらしく、タバサが自らの体が機械だ、というのを証明するのに、
かつて彼らの前でそれを実行したことがあったりする。
さすがに首を外したときにはみながドン引きしていたりしたのだが。
いくら相手が機械だ、としっていても、実際に体が分解?されるのをみるのとではわけが違う。
ゆえにすかさず、マルタとセレスの声が一致する。
「とりあえず、そのマーテル教のことは、お兄様に何とかして報告できないものかしら?」
おそらく、まだあの教皇は兄をどうにかするのをあきらめてはいないのだろう。
セレスとて兄をおしのけて神子になろうだなんておもってはいない。
いないが、教皇からしてみれば体のよわい自分はいい傀儡以外の何ものでもない、のだろう。
そう思っていたのは容易に予測がつく。
それに、彼らが知らないこともセレスにとって自身につながっている。
なぜか体が丈夫になってゆくにしたがって、
これまで使用できるはずがなかった術…ハーフエルフでしか使用ができない。
といわれていたはずの魔術の行使が使用可能になっていたりする。
このあたりは、気になったのでアステルに確認してみたところ、
ヒトの先祖はすべてはエルフにたどりつくので、
潜在的な能力は誰でも秘めているはず、とのことらしい。
おそらく、神子の血筋、という立場ゆえに、それがヒトよりより強く表れたのではないか。
というのがアステルの言い分、ではあったが。
今、アステル達は異常に減り始めたマナの観測のため、いろいろといそがしい、らしい。
「それでしたらご安心を。この地にいましたみずほのものに、
私もその噂をきいたので一応伝えられれば、と言づけてあります」
いつのまに。
としかいいようがない。
まあ、でもしかし。
「みずほの人がしってるのなら、大丈夫、かな?」
「そう、ですわね」
どちらにしても、留守番組の自分たちにできることは限られている、のだから。
「…なんてことが、みんなと別れてからあった、くらいかなぁ?」
その翌日、みずほの民よりあまりよくない情報。
すなわち、新生マーテル教とかなのっている、しかもその騎士団が、
今いる神子はマーテル様の御威光を語る偽物だ、とかいいだしているとか何とか。
それで、神子様の妹君であるセレス、また、シルヴァラントからやってきているマルタ。
月に移住したはずの人物がここにいる、というだけで大罪にあたる。
とかわけのわからないことをいいだして、しかも手配までかけだす雰囲気になりかけているらしい。
というか、何で首都がそんな横暴を許す結果になっているのか。
みずほの民の情報網によれば、ヒルダ姫が人質となっており、
国王は手がだせない状態で、しかも国王自身は地下室に幽閉されてしまい、
あろうことか、教皇自身が何らかの手段をもちい、国王になりすましている。
というのが今の実情、であるらしい。
「って、おいおいおい。さらっとマルタちゃん、いうけどさ。
そっちのほうがよほど重要じゃないか!?」
おもわず、さらり、と言葉を流すマルタに叫び返すゼロスは間違っていないであろう。
今や王都は完全に孤立化、してしまっているらしい。
しかもあろうことか、まだ様子見ではあるらしいが、
夜になると、アルタミラでみたような異形のものがあらわれた、という報告もあるらしく。
まだ今後はどうなるかはわからないらしいが、
そんな中で情報に追われていた彼らのもとに、エミルの使いという
ルーメン、となのりし女性がやってきて、いつここに教皇の魔の手が伸びるかもわからない。
というシュナイダー院長の判断もあいまって、マルタとセレス、
そしてタバサのその性能からしても相手にわたってしまえばどうなるかわからない。
という理由もあいまって、いまだ行儀みらない?というか、
料理見習いとして働いていたマルタもひとまずは、彼らと合流したほうがいいだろう。
という意見がまとまったのが、つい先刻であったらしい。
「…外にでたら、神鳥が舞い降りてきて、驚きましたけどもね」
セレスがいいつつ盛大に溜息をつく。
というか、女神マーテルにしかなつかない、とまで経典の中でいわれていた神鳥。
なのに、エミル、それにルーメンとなのったものの言い分はきっぱりきいていた。
…まあ、ルーメンという女性がヒトあらざるものの姿になったときにも驚きはしたが。
「…やはり、エミルが何らかにかかわっているのは間違いない、わね」
光の、といっていたことから、おそらくは、光のセンチュリオン、なのだろう。
精霊と同じくセンチュリオンも八つの属性をもつ、というのは、
アステルの報告でリフィルたちは理解している。
それに、かの地においてみたとある船の中においても。
すこしばかり手を顎にやり考え込み始めるリフィル。
いいつつも、周囲をざっと確認する。
ここは、異界の扉。
あの禁書の書物の中でであったミトスがいっていたが、
ここがやはり、ラタトスクがいる、という魔界の扉のある場所。
そこに通じる唯一の場所、であるらしい。
もっとも、自分たちもセンチュリオンたちの案内がなければ、
中にはいれたとしても、そこを守護している魔物たちに攻撃されただろうけども。
とあっけらかん、とあのとき、ミトスたちが消えるその前。
少しばかり話をしたときにそう、聞かされた。
かつてこの地にきたときに、タイミングよく、
シルヴァラントへの扉が開いたにも、もしかしてエミルが何かしたのではないのか。
というような疑問が今さらながらにわいてくる。
そして今。
あのセンチュリオン、とおもわしきものたちは消えるまえに、たしかにこういった。
”ルナの解放”と。
どちらにしても、ルナとアスカとの契約は必要不可欠。
よしんば契約できなかったとしても、最低限、
マナの…精霊の楔、とユアンがいっていた種子の守護。
それを取り除くために、しいなに前の契約者たるミトスとの契約を破棄してもらう必要がある。
かつて、ヴォルトとの契約のとき、
前の契約主との契約は破棄してほしいという願いはうけいれるが、
新たな契約は望まない、といわれたあのときのように。
契約できないまでも、最低限、契約破棄だけはしてもらう必要がある。
あとはユアン達がうまくやることにより、大いなる実りは発芽、するはず。
なのだが。
しこりのように、何か違和感を感じてしまう。
それをしてしまえば、もう二度と後戻りができなくなるような。
しかし、種子を発芽させないかぎり、世界のマナ不足は解消されない。
異常なまでに少なくなっていっているマナ。
ユアンの報告によれば、シルヴァラント側のマナもまた少なくなってきているらしい。
それこそ前よりもさらにひどく。
ここ、テセアラではこれまでマナが豊富であったがゆえの障害も出始めているらしい。
それも、今、マルタ達からの話の中で語られたことなのだが。
エレメンタルカーゴなどといった、マナを利用した乗り物が、
ことごとく使用不可能となっているらしい。
それもすべてはマナが少ないがために稼働するだけの量が確保できないゆえらしい。
おそらく、まだ表だっては表面化していない深刻な事態。
しかし人々が認識しはじめたころには後戻りもできないほどの悪化した状況になるのは、
少し考えれば誰でもわかること。
「…そこに、きっとくちなわのやつもいる、んだろうね」
マルタやセレスからの話を聞き終え、しいなの表情も暗い。
「…そういえば、あの場所にいたみずほの民たちはどうなったんだろう?」
ふと、今さらといえば今さらなれど。
あの地に入り込んでいたはずのみずほの民たちは今はこの場にはいない。
自分たちがこの場に移動させられた後、彼らはまだあの地に残されているのだとするならば。
それは素朴ともいえるジーニアスの疑問。
「ま、あいつらはまがりなりにもみずほの民なんだし。
問題はない、とおもうぜ?そもそも自力であの場所にやってこれてただろ?」
あのままあの場所にのこっているのか、それとも外にでたのか。
そこまではさすがのゼロスもわからないが。
「なあ、先生。一度王都にもどったほうが……」
「いいえ。今ここで移動しなければ、まちがいなくシルヴァラントに戻れなくなるかもしれなくてよ?
今、優先するべきことを間違えないで。ロイド。
次の満月になるまで、この調子でマナが衰退していけば。
…生物すべてが死に絶えてしまってもおかしくないのよ?」
それこそ確実に何かしらの影響はでるであろう。
ロイドのいいたいこともわからなくはない。
王都がわけのわからない状態になっているかもしれない、というのに。
「すくなくとも。種子が発芽をはたせばマナ不足、というこの現象は解消される、わ」
問題は、大樹が芽吹いたとしたとするならば
どちらの世界で芽吹いた形になるのか、ということか。
世界はいまだに二つにわかれているまま。
世界が二つにわかれているままで、大樹が復活すればどうなるのか。
自然と世界が一つにもどるか。
それとも。
しかし、この現状では、大樹を発芽させない限り、確実に世界は滅ぶ。
刻々とマナは少なくなってきていることからも、もう残り時間はすくないのかもしれない。
もしも大樹の種子に力がなくなり、そんな中でマナを注いでもきちんと発芽するか。
それはあるいみカケ、でしかないが。
しかし、大樹が芽吹かなければまちがいなく世界は滅ぶ。
そう、おもうのに。
何かしこりのような何かが捨てきれないのもまた事実。
「まあ、あのユグドラシルが本当に種子と彗星とをどっかにもっていくまえに、
何とかしないと、たしかにリフィル様のいうように、やばいだろうな。
あのときの言い回しだと、あの天使さまは彗星と種子をともなって、
そのままこの地から離れようといったようなことをいっていたしな」
それを実行するまえに、自らがいったの名前?が原因なのかはわからないが。
自分たちはここに飛ばされてしまったが。
首をすくめてそうつぶやくゼロスの言葉に、
「あのとき、あのミトスさんは、世界を一つにもどすけど、
種子と彗星ごとこの地を去るようなことをたしかにいっていました」
ぽつり、とつい先ほどのミトスの台詞をおもいだし、つぶやいているプレセア。
自分たちがこの場にいる以上。
あの場所であれからどうなったのかがわからない。
しかし、本当にミトスがあのことを実行する。とするならば。
「うむ。世界が一つにもどったとしても、彗星と種子が失われては意味がない」
プレセアに続き、リーガルも思わずうなづきつつもそんなことをふとつぶやく。
もしかしたら、大樹の精霊だ、というラタトスクに接触がとれれば違うかもしれない。
が、先ほどミトスがいっていたように。
やはり地上を浄化する、とかいわれてしまえばそれまでで。
エミルがこの場にいないことにもきにかかる。
そういいつつも、ちらり、と空をみる。
ゆっくり、とではあるが月は確実にのぼってきている。
あと少しすれば以前のように、扉が開く、のであろう。
おそらく今日は確実に開く、という不思議とした確信がある。
「マナ…か」
ロイドはいわれてもいまだにピン、とこない。
マナが命の源だ、といわれても。
それがなければすべてが滅ぶ、など。
だって自分たちはこうしていきている、のに。
たった一つのものがなくなっただけで、そんなことがおこりえるのだろうか。
それがロイドにとっての認識。
そこまでおもい、そういえば、とおもいつつ。
「なあ、リーガル。あのとき、どうやって、リーガルは助かったんだ?」
アリシアとともにあの場所に残ったリーガル。
いくらアリシアがいたから、とはいえあの天使たちを前にどうやって助かったのだろう。
ミトスが先ほどいっていたことはたしかに気にはなる。
だがしかし。
ひとまず今きになるには目先のこと。
どうやって皆が助かったのか。
その一言につきる。
そんなロイドの台詞に思うところがあったのか。
「そういえば、皆、救いの塔にむかってから、何があったの?
ゼロスのことは簡単にきいたけど、詳しくはないんだよね。
ルーメンってヒト?が簡単に説明してくれはしたけど」
そもそも、簡単な説明しかなされていない。
救いの塔にむかったみんなが捉えられ、そしてゼロスの尽力もあって、
ミトスのもとにまでたどりついたが、おそらく彼らはあの地からとばされるだろう。
彼らはまちがいなく、異界の扉からシルヴァラントに向かうはずなので、
そのときに皆と合流するかどうか、という問いかけをなされた。
世情というか、王都のほうの状況が怪しくなっていることもあり、
マルタの修行はひとまず小休止にし、まずは皆と合流してみてはどうか?
というシュナイダー院長や、ついでになぜか料理長までもそんなことをいってきた。
エミルの使いだ、というその言葉で迷っていたマルタにとって、
彼らの言葉はあとをおすには十分すぎたもの。
そんなロイドやマルタの台詞になぜかすっと顔をそらすしいな達。
「「「?」」」
その様子に思わずロイドやマルタ、そしてセレスは思わず首をかしげてしまう。
「うむ。そうだな。とりあえず説明しておいたほうがよかろう。
何よりも彼女のすばらしさがわかる話でもあるからな」
何げに地雷を踏んでしまったのではないだろうか?
うんうんうなづくリーガルの様子にどことなく不穏なものを感じ、
何かもしかして、私、余計なことをきいた!?
そうマルタがふと直感的に懸念するが、時遅し、とはまさにこういうことをいうのだろう。
「私たちが救いの塔にはいり、神子と対峙して移動した先でのことなのだがな……」
誰もがゼロスのこともあり、かなり沈んでいたといってもよい。
何ともいえない空気の中、鳴り響く、鐘の音。
この数の天使を相手にするのは不可能、そうすぐにと理解した。
昨夜、リフィルと交わした約束が思い出される。
優先すべき命。
彼らはよしとしないだろう。
特に子供たちは。
だからこそ、あえて一番最後に走り出し、彼らが扉をくぐった直後。
通路となるであろうその場所をふさいだ。
周囲に柱がいくつもあったのが幸いし、それらを崩すだけで出入り口はふさぐことができた。
それはざっとこの部屋の様子を確認したときにおもいついていたこと。
空中より相手が術を唱えているその隙。
詠唱最中はどうしてもその身は無防備になる。
アリシアの合図とともに、そのものに空中技をたたきこみ、
その反動を利用して相手を床にとたたきつけた。
それはほんの一瞬のことで。
何をしたのかはわからない。
が、アリシアの姿が一瞬、きえたとおもうと、床にたたきつけた女性が目をさまし、
なぜかリーガルの真後ろにとすっとたってきた。
「『ここはおとなしくとらえられてくださいませ』」
耳元でそっとそうささやかれるその声は、アリシアのものでありアリシアのものではない。
何がおこっているのか理解できないリーガルが一瞬無防備になったのをみて、
そのまま、とんっと、リーガルのその首元をたたいてくる。
「な!?アリ…」
「『気絶したふりを』」
おそらく、何か考えがあるのだろう。
というか、こんな敵の中、それはあるいみ自殺行為のような気もしなくもないが。
「マリア?」
ふと、おそらく、その天使、の名、なのだろう。
多少困惑したような声が上空からなげかけられてくる。
どういう原理なのかはわからないが、たしかにこの天使はアリシアで。
おそらくはプレセアの体をつかっているのと近い感じ、なのだろうと大まかに理解する。
何か意味があって気絶したふりを、というのならば。
自分はアリシアに従うのみ。
「『わざわざ疲労させる意味もないでしょう。
ユグドラシル様はなるべく無傷でとらえるように、とおっしゃったわ』」
この女性の体を乗っ取るにあたり、流れ込んできた女性の記憶。
どうやらこの天使たちは自分たちを殺すため、ではなくとらえるためにここにいる、らしい。
なぜか殺すな、という厳命がでていることにも驚きはしたが。
ついでに、偶然とはいえこの女性がその案内かかりに命じられている、ということも。
これは運がいい、というか何というべきなのか。
それは彼女、アリシアにもわからない。
しかし、この記憶はアリシアにとって重宝、ともいえる。
この体の持ち主であるというマリアは今は気絶している。
体を乗っ取り、その記憶をすこしさぐったところ、何かをおもわなくもないが。
天使になったものはなったなりに理由があるのだ。
というのが今さらながらに思い知らされる。
かつての悲劇。
テセアラでおこったというハーフエルフの虐殺。
目の前で両親を殺され、生きながら今まさに殺されそうになっていたらしきこの少女。
そんな彼女をすくったのが、フォシテスとそしてプロネーマであったらしい。
まだ幼かった少女をプロネーマが養女とし、育て、
そしてあるとき、彼女はプロネーマの推薦によって天使化を果たしたらしいが。
この少女の生い立ちに同情しないわけではないが。
アリシアにとっては敵以外の何ものでもない。
「しかし、マリア……」
敵の中のひとりであろう、人物が困惑したような声をあげてくる。
彼もまた、その手に大きな杖をもっているが、他の天使とことなるのは、
その頭に羊のつのらしきものをはやしていたりする。
「『アラン。ユグドラシル様のお考えに反対するき?』」
「・・・・・・・・・・・・」
アラン、とよばれた天使体の男性はそんなアリシアの言葉に黙り込んでしまう。
マリアの声にきちんとした自我がもどっているならば違和感を感じたであろう。
が、彼らはたしかに自我を今現在取り戻しかけているとはいえ、
そういった細かな違和感を感じるまで、自我を取り戻しているわけではない。
すこしばかり首をかしげる程度で、しかしその感じている違和感の正体に気づくことができない。
だからこそ、マリアとアリシアの声が重なっていることに、
誰もこの場にて今おこっている出来事。
マリアの体をアリシアが憑依し乗っ取った、という事実を理解できていない。
しばし、”マリア”とアランとがじっとにらみ合うように視線を混じあわせたのち、
「…そのものは気絶している、のか?」
「『ええ。今ならば例の場所に案内できる、でしょう?』」
「……わかった」
いいつつ、片手をすっとかかげるアラン、といわれた男性。
数名がアリシアの背後についたとおもうと、
そのまま壁の一角において何かの作業を開始する。
それとともに、それまで壁でしかなかったその一角にぽっかりとした道が開かれる。
気絶したふりをしているだけなので、リーガルもまたそんなやり取りをきちんときいている。
うっすらと開いた目にみえたは、新しい通路らしき場所がひらかれた、ということ。
ひょいっとアラン、とアリシアが呼んでいた天使にそのまま肩に担がれたのち、
その道の先にと進んでゆくことしばし。
そこはどうやららせん状の階段、になっているらしく。
どこかにこの階段は通じている、らしい。
周囲にはびっしりと木々の根らしきものがみてとれ階段はそんな木々の根。
それらを回り込むようにとつくられている。
どれくらい階段をひたすらにおりていったのかわからないが。
やがて、ぽっかりとしたどこかの空間らしき場所にとたどりつく。
この場はどちらかといえば人工物、というよりは自然にできているようにみえなくもなく。
壁という壁はすべて土でできており、さきほどまでの煉瓦のような何か。
そういったものは一切みあたらない。
足元の床も土でおおわれており、土のにおいが周囲にと充満している。
そんな部屋の奥。
そんな部屋というか空間の奥にたったひとつ。
唯一の人工物っぽい鉄の柵のようなものがみてとれる。
”マリア”が懐に手をいれ、その首に首飾りとしてかけていた何か。
それをとりだし、柵につけられている鍵穴にと差し込むとともに。
キィィッ。
すこし錆びたような金属音とともに、ゆっくりとその鉄の扉は開かれる。
「『アラン。ここは私ひとりでも大丈夫なので、他の侵入者を』」
この天使たちの役割はどうやら侵入者を囲み、そして抵抗できないようにしたうえで、
一応、この地に幽閉すること、にあったらしい。
本来ならば、このマリアという女性とこのアランという人物が、
捉えたものの見張りをすることになっていたらしいが。
しかし、それはアリシアにとって第三者の参入はあまり好ましくないといえる。
「しかし」
「『さきほど聞こえてきたこのものの仲間の台詞からするに。
ほかにも侵入者がいるみたいだもの。見張りはひとりで十分でしょう?
この柵はこのかぎがない限り、絶対に壊れない、のだから』」
そもそも、この檻はオリハルコン製。
ゆえにまず壊れたりはしない。
いくらリーガルの蹴りなどでも間違いなく壊されることはない。
この女性の体を選んだのはたまたまというか、
あの中では一番スタイルもよかったから、という理由はあったにしろ。
カギをもっていたのはアリシアにとって幸いしている。
もっとも、本音はリーガルと他のものがこの地にとらえられてくるまで、
二人っきりになれる、という想いがあったりするわけなのだが。
そんなアリシアこと、”マリア”の言葉にしばし思案したのち。
「わかった。しかし、くれぐれも逃がすなよ?」
「『ええ。もちろんよ』」
いいつつも、リーガルをその檻の向こうにいれたのち、
リーガルを抱えていた人物はそのまま元来た道をもどってゆく。
完全にその姿が遠ざかったのを見届けたのち。
「『さて。リーガルさま。説明いたしますね?』」
にっこりと微笑み、檻の向こうにいるリーガルにむけて、
アリシアが微笑み、今後のことをも含めて話し合いを初めてゆく――
「と、いうわけで、アリシアが憑依したマリアという女性。
その女性はどうやらかぎの管理をしていたものらしくてな。
アリシアの機転によって、私はあの場所。といっても、ロイドたちにはわからないか。
とにかく、みながその場所につれてこられるまで、いろいろとアリシアと話していたのだが」
あの場所の木々の根はどうやら大樹の根、らしく、
アリシアの霊体もそのマナの影響によりて力を失うこともなく、
そのままマリアという女性の体に憑依しつづけることができていた。
もっとも、マリアの意識はといえば、自らが一番恐れている人の魂。
それが自分の中にはいってきたことにきづき、
恐れ、その意識をより深い深層意識の奥底に閉じ込めてしまったがゆえ、
あるいみでアリシアにとってそれは都合がいい状態になっていたといってもよい。
つまるところ、マリアの体そのものは、心を失った状態のコレット。
その状態に近いものになっており、そこをアリシアが乗っ取ったといっても過言でない。
内容的にかなり気になることをいっているような気もしなくもないが。
だがしかし、その説明の最中、アリシアをほめたたえるような、
どう考えてもリーガルの惚れけとしかいいようのできない内容も含まれており、
話が幾度か脱線してはアリシアをリーガルがほめる、ということを繰り返し。
気付けばいつのまにかかなりの時間がたっていたりする。
というか、すでに月はほぼ真上にきており、どれほどの時間話を脱線させつつ、
リーガルが説明していたか、というのがうかがえるといってもよい。
「…捉えられてたところでもおもったけどさ。
リーガルにアリシアのことを語らせたらだめだね」
「だね」
なぜかあきれ半分、そして溜息とともにそんなことをいっているしいな。
そしてまた、同意、とばかりにジーニアスまでもがそんなことをいっていたりする。
リーガル、しいな、プレセア、リフィル、そしてジーニアス。
リーガルとアリシアが二人っきりの最中、次々ととらえられた彼らがその場にやってきて、
連行してきた天使たちがいなくなったとおもえば、二人の世界にはいりまくり。
そんな光景を目の当たりにしていたがゆえに、しいなのその表情はどこか悟りきっている。
プレセアなどは、そんな妹とリーガルのやり取りをみていて、
妹が…とかいってかなり落ち込んでいたりもしたのだが。
ちなみにいまだにあまりその衝撃は抜け切れてはいない、らしい。
「…とりあえず、そろそろ時間、のようね」
リフィルもまたあきれざるをえない。
まあ、リーガルから先に説明をした限りにおいて、その可能性がなくはなかったが。
地平線の少し上のあたり。
木々の合間に隠れていたはずの月はすでに上空にと差し掛かっており、
石柱のほぼ真上あたりにみえる月。
その月がやけに青く輝いているようにも垣間見える。
そうこうしている間にも、やがて月が上空にとかかり。
月が彗星の中央とほぼ、かさなる。
彗星から常に発せられているマナと、太陽の光をうけて輝いている月。
光と闇のマナが、重なり、その力はやがてやわらかな光となりて、
ゆっくりと青白く月が輝きをましてゆく。
サークル状、すなわち輪になっているいくつもの大きな岩が輝きはじめる。
岩に刻まれし細かな文様のようなものが青白く輝き、
やがて、呼応するかのように光がましていったかとおもうと
上空から光がゆっくりとこの場にむけておりてくる。
光はいくつもの筋にとわかれ、岩におりたったかとおもうと、
岩からいくつもの光が発生し、それらはやがて中央に一つの光の渦を作り出す。
「どうやら扉が開いたようね」
それは、異界の扉、といわれている光景。
かつて、この地からくちなわたちに襲われたとき、
しいな達はここからシルヴァラントにと移動した。
「いきましょう。最後の精霊との契約をすませに」
リフィルがそういえば。
「でも、先生…王都のほうは……」
ロイドからしてみれば、王都で何かがおこっている、というのに。
このまま自分たちがシルヴァラントにいってしまうのはどうしても納得できない。
「ロイド。間違えないで。今、私たちにできることは精霊の解放だ、ということを。
もし、ミトスがこのまま、種子と彗星とこの地から離れてしまえば。
この世界は滅ぶ、のよ?その前に精霊の楔を解除して、種子を芽吹かさなければ」
そう、あのとき、ミトスは世界を一つにしてもいいけども
そのまま彗星と種子をもってこの地をさるようなことをいっていた。
まだその気配はないにしろ。
彼がそれを実行してしまえばもうあとはない。
おそらく勘でしかないが、彗星をこの地から解放するにあたり、
救いの塔を壊すなり何なりするはず。
だとすれば、いまだ救いの塔がそのままあるということが唯一の救いといえば救い。
もっとも、メインコンピューターが停止してしまい、
それを実行しようにも何もできなくなっておりゆえにミトスが行動にうつれていない。
というだけのこと、なのだが。
そんな真実をリフィルたちがしるはずもなく。
「――いきましょう」
いいつつ、リフィルが一歩足をふみだし、そのまま異界の扉のほうにとむかってゆく。
リフィルが光の渦に足をのせるとともに、その体は淡く輝き、
そのままその姿をかきけしてゆく。
「いこ。ロイド。今はすることをしないと」
いまだに踏ん切りがついていないらしいロイドをみつつ、コレットが話しかける。
すでに、リフィルは向こう側にわたってしまった。
リフィルひとりを向こうにいかせて、自分たちがここにいても意味がない。
それはロイドとて理解している。
しているつもり、ではある。
だけども、どうしても王都メルトキオを、国王をほうっておいていいのだろうか。
そんな思いがすてきれないのもまた、事実。
光りの渦にと飛び込んだ先。
「「うわっ!?」」
「「きゃっ!?」」
ドスン。
ちょっとした鈍い音が周囲にと響き渡る。
それとともに、地面にとたたきつけられる感覚。
正確にいうならば、あの場の道は実はすこしばかり次元の関係で、空中に窓が開いており、
ゆえにどうしてもかの地からの移動は地面よりも上あたりに出現するようになり、
きちんと心構えをしていなければそのまま地面にとたたきつけられてしまう。
異界の扉、とよばれる場所より移動できるのは、パルマコスタの東のはずれ。
先ほどまでは夜であったのに、空には青空が広がっている。
それは、大陸の位置によるもの、なのではあるが。
「ここは…やっぱり、パルマコスタのはずれ、なのね」
周囲をざっとみわたし、リフィルがぽつり、とつぶやく。
感じるマナはテセアラと同様にやはり稀薄としかいいようがない。
むしろ、一時マナが増えて安定していたがゆえに、
そのマナの少なさ加減がより鮮明にわかるといってもよい。
空気がやけに静かすぎる、ということに疑問を抱かなくもないが。
「…どうやら、無事にシルヴァラントに移動できたよう、だな」
起き上がりつつもリーガルが周囲をみわたしそんなことをいってくる。
以前、あの場からここに移動したときとはまた人数が多少変動していることもあるが。
「…シルヴァラント……」
ジーニアスも起き上がりつつぽつり、とつぶやく。
以前、このようにして移動したときには、まだミトスがいた。
だからこそジーニアスの声は沈んでしまう。
あのときは、ミトスがユグドラシルだなんておもいもしなかった。
あのときいた、アステル達もこの場にはいない。
『うわっ!?』
それぞれが地面から手をつきおきあがろうとしているその刹那。
突如として地面が揺れる。
それは不意うちともいってもよく、おもわず体制をくずすものが数名ほど。
地面の揺れはしばらくつづき、やがてゆっくりとではあるがその揺れは収まってゆく。
といっても、いまだに多少揺れはしているが。
「…急ぎましょう。時間がないわ。まずパルマコスタにいって、船をだしてもらいましょう」
パルマコスタからルインまで、船で移動すれば一昼夜でたどりつける。
陸路をつかえばもっとかかるゆえに、船での移動が望ましい。
この大地の揺れが大地が消滅しようとしている前提でない、ともいいきれない。
前回、この地を訪れたときはこの周囲は小麦が金色の草原をなしていたが。
どうやらこの付近に生えていた小麦の類はすべて収穫されたらしく、
今はひたすらに広がる平原のみが視界の先には広がっている。
それぞれ思うところはありはするが、救いの塔からここまで。
特にロイドは一度も休んではいない。
リフィルたちは捉えられていた先で多少体を休めることができはしていたが。
次なる精霊との契約は、二体の精霊を相手にしなければならない。
これまでの経験からして、確実に力量を試される試練があるのは間違いはない。
かといって、なら数日休んで万全な状態にしてから挑む、という方法もとれない。
こうしている間にも、万が一、ということがありえる以上、時間はおしい。
先ほど、月が上空にかかるまでまっていた間ですらもしかして、
という思いを抱きつつ、はらはらしていたのは何もリフィルだけ、ではない。
その思いはしいなとて同じこと。
もっとも、ロイドはまったくそんなリフィルたちの心配に気づいてすらいないのだが。
今はまだ周囲は明るいがあと少しすればまちがいなく夕方になる。
大陸の位置の関係もあるのであろう。
つい先ほどまで夜であったのに、また昼間に逆戻り、というのは違和感があるが。
まあ、地図を見る限りにおいても、それぞれの地図を照らし合わせれば、
それくらいの時差はおこりえるだろう、というのは地理をおしえるときに、
一応、イセリアの村においても授業の一環において教えてはいる。
…もっとも、その授業中、昼寝をしてまともにきいていなかったロイドはともかくとして。
「マルタちゃん!?」
町にはいると、町の入口に見張りとしてたっていたであろう、とある人物が声をかけてくる。
「あ。ユーグさん」
簡単な武装をしているその人物はどうやらマルタと知り合い、ではあるらしい。
その人物をみてマルタが名を呼んでいるということは、まちがいなく知り合い。
ということなのだろうが。
「どうしたの?ユーグさん。そんな武装なんてしちゃって?」
困惑したようなそんなマルタの問いかけに。
「マルタちゃんこそ。神子様の旅に同行してるって…
あ、もしかして。そちらの方々が神子様、なのですか!?」
目をきらきらさせ、そこにいるコレットにと目をむけてくるその男性。
「え、えっと。一応そういうこと、になってます」
民というかこのパルマコスタの人々に伝わっている神子の特徴、といえば。
金髪の少女だ、というこの一点のみ。
そしてこの一行の中で金髪なのはひとりしかいない。
ここにエミルでもいれば、速攻エミルが勘違いをされていた、であろうが。
「おお!では、今現在のこの異変の解決に?
神子様。いったい何がおこっているのでしょうか?
神子様が救いの塔に向かわれた、ということをきいたのち。
一時期、気候が安定したかと思いましたが、ここ最近。
遺跡や元牧場のあった付近などでディザイアンたちの目撃情報があいついでいまして。
祭司さまたちがいうには、封印されるのをよしとしないディザイアンたちが、
今何かしらの最後のあがきをする前兆なのでは、といわれますし」
実際、今この異変はここ、シルヴァラントにおいてはそのようにとらえられている。
神子であるコレットが救いの塔にむかった、というのはもはや誰もがしっていること。
そして、その旅の最中、幾度か神鳥といわれている”シムルグ”の姿が目撃されている。
という事情もかなりおおきい。
よもや、まさか足にするためだけ、に呼び出されているなどと、
当然第三者である彼らがしるはずもなく。
ゆえに、今回の神子は女神マーテルに認められているのだ。
という認識のほうが遥かに強い。
ディザイアン、という言葉に思わず顔を見合わせるリフィルたち。
それは本当のディザイアンたちなのか、はたまたレネゲードたちなのか。
「そういえば、パパは?」
「ブルート様と奥方様はただいま、イセリアに御滞在中です。
今現在、この地はニールとクララ夫人の手によって保たれている、のですが…」
そういう、その口調にはどこか歯切れが悪い。
「?どうかしたの?」
「いえ」
いまだ、町の中ではドアが町の人々を裏切りディザイアンに通じていたのではないか。
という憶測…というかまあ真実なのだが。
その噂が根付よく残っているのもまた事実で。
しかしそれをわざわざマルタにいうこともないであろう。
ブルートの血筋もあり、ここパルマコスタを拠点とし、
シルヴァラント王朝の復活をかねてそ総督府ともどもこのあたりで
シルヴァラントそのものをまとめてはどうか。
という意見が出始めているのもまた事実。
それに追い打ちをかけているのがトリエットにいるという占い師からもたらされた情報。
半信半疑、ではあるが。
しかし、もしそれが本当におこったとするならば。
しかしその内容はあるいみ機密事項ともいえるもの。
彼、ユーグとてニールの部下をやっているがゆえにつかんでいる事実。
それゆえに、マルタの問いかけにかるく首を横にふりつつ、
「ともあれ。ようこそ。パルマコスタの町へ」
まずは、自らに与えられた役割を。
いいつつかるくぴしっと決まり文句をいったのち、ぴしりと敬礼をする。
ここ最近、盗賊…シーフなどといわれている輩の被害が半端なくなっている。
魔物たちの被害がなくなったとおもえば、今度は人による被害がふえるなど。
いや、これまでにも人の被害はあったが、それらの被害はほとんどが、
おろかなる人間たちが、それらすらも魔物の仕業、といって
その罪を魔物に擦り付けていただけのこと。
それがなぜか魔物が極端に人の目に触れる場所にみえなくなり、
目に見えて人による被害が目の当たりになっただけ。
そしてそれは、ここシルヴァラントだけでなくテラアラ側においても同じような現象がおきている。
目に見えて、ヒトによる、しかも魔術などを行使するヒトの被害がみえだしたことから、
ついに元教皇の行動は、天の怒りをかったのだ。
封印されていたディザイアンたちがよみがえる前兆なのではないのか。
という不安がまことしやかにささやかれはじめていたりする。
そんな中でおこった王都の異常。
王都には一切立ち入ることができなくなり、また情報も交わすことができない。
伝書鳩などを飛ばしてみるが、それらはすべて不発におわり、
唯一の手段はネコニンギルドを通じて、何らかのやりとりができるだけ。
ネコニンたちはまちがいなく、地上に残量している魔族達が活発化したとしても、
まちがいなく首をつっこむだろう、という予測のもとに、ラタトスクがマナの加護の強化。
それをネコニンたちの種というか魔物や動植物全体に及んですでにかけており、
ゆえに動植物や魔物たちが現れ始めている魔族たちによる瘴気の影響をうけることはない。
もっとも、その加護はヒトにかぎってラタトスクはかけていない。
そもそも、この地に降り立つ条件、として加護をうけなくても自分たちの力にて、
自然とともにヒトらしく生きるために、そういってきたのはほかならぬあのときのものたち。
今のものたちからしてみれば先祖にあたるそんな彼らの思いを今のヒトは覚えてすらいない。
それどころか、マナを搾取しつくし、あげくは微精霊たちをも悪用し、
そしてついには大樹すらをもからした。
そんなヒトになぜにわざわざそんな加護を与える必要があるはずもなく。
さらにいうなれは、マナなくしても生きていかれるように理をかきかえても、
一度は地上は瘴気におおわれ、ついには世界樹ユグドラシルを枯らすに至った。
どこまでも、目先の利益のみしか考えず、ろくなことをしないもの。
――ヒトは世界にとって害虫でしかない。
その思いは今もラタトスクの中ではあまりかわっていない。
中には害虫でも益虫になるものがいる、というくらいの認識にはかわりはしているが。
「そっか。パパたちいないんだ」
その言葉をうけマルタがかなり残念そうな声をだすものの、
しかし、もしもいたらいたで、引き留められるような気もしなくもなく。
マルタの心情は複雑、といってもよい。
「ニールかクララ夫人にとりつぎをお願いしたいのだけども。
とりいそぎ、マナの守護塔にいかなければならないのだけど。
船をどうにか融通してもらえることはできないかしら?」
ここから、エレカーを利用し移動する、というのは何となく無理のような気がする。
というか、これだけマナが少なくなっている中で、
再びしいなにウンディーネを召喚させる、というリスクはさけたい。
それでなくてもマナの守護塔でまっているのは二柱の精霊との戦い。
「…船。ですか?ここ最近、海に異様に魔物がおおくなってまして……
しかも、ルインまで、となれば簡単な船というわけにもいかないでしょうし。
わかりました。少しおまちを」
いいつつも少し小走りにはしっていき、その先にたっている小さな小屋のようなもの。
おそらくは即席の小屋、なのだろう。
簡単に木々を組み合わせ、雨風がしのげるだけ、のような形になっている。
どうやらそこに誰かがいた、らしくそこにかけより、一言、ふたこと何かを伝えたのち
「では、私がこれより案内させていただきます」
その小屋らしき場所からひとりの女性があらわれてくる。
「あれ?たしか、うちの……」
「はい。イリカ、です。マルタさまもお元気そうで何よりです」
「だから。そのさまっていうのはやめてよね」
その言葉におもわずむっと口をとがらせるマルタ。
「知り合いなの?マルタ?」
「うん。パパの部下のひとりなんだけど。なんでか私たちのことをさま付でよんでくるんだよね」
マルタからしてみれば年が近いのもあり、仲良くなってほしかったのだが。
お嬢様に気にかけてもらえるなどとんでもない
というよくわからない理由にて、いつも常に距離を取られていたりする。
リフィルの問いかけに多少不満そうにつぶやくマルタに対し、
「マルタさまがたは、世が世なら、王家に連なるお方です。
連なるというよりは、マルタさまは王女様なのですから、さまをつけるのは当然です」
「だから…もう、いっても無駄か。イリカが案内してくれるの?
パルマコスタの中は私にとっても庭のようなものだから案内は必要ないんだけど?」
マルタにとっては生まれ育った地。
ゆえに案内という案内はいらない。
むしろ、入口からまっすぐにいけば大広間にたどりつき、
総督府に迷ってつけない、ということはありえない。
もっとも、マルタ達は知りはしないが、大樹暴走ののち、
壊滅してしまったパルマコスタの町は町の出入り口。
その場所をかえて新たに町を建築しなおしていたりしたのだが。
「いえ。お願いされた以上は役目をはたします。では。マルタさま。
そして神子様のお連れ様がた、総督府にご案内いたしますね?」
王家というか国を復興させる。
その噂はゆっくりとではあるがひろまっている。
ブルート達がイセリアにいったのものそための話し合いであることをしるものはしっている。
そしてそれを快く思わないものもいるのもまた事実であり。
もっとも、神子とともにいるマルタを襲うようなおろかなものがいる。
と思いたくはないが、ヒトの心とは複雑きわまりない。
むしろ、一向に再生された、と目に見えてわからない…正確にいえばいなくならないディザイアン。
その脅威が取り除かれていない以上、神子は何をしている。
と理不尽な怒りをもっているものすらいる始末。
さらにいえば、もっと神子がはやく救いにきてくれていれば、
牧場において自分の家族が殺されることはなかっただの。
おもいっきり逆恨みともいえる感情をもっているものもここパルマコスタでは少なくない。
もっとも、あの施設を壊滅させたのはラタトスクであり、神子たちではない、のだが。
しかし、ヒトはより象徴にできるようなものがいたとすれば、
様々なことをたった一人、もしくは個人に押し付けようとする傾向がある。
そして自分はわるくない、悪いのはその責任を押し付けた相手なのだ。
とかってにひとりで自己満足する。
何かあればすぐにたより、そして何か不都合なことがあったら切り捨てる。
それが、ヒト、というもののありかた。
それは今も昔もこのかたずっとかわってはいない。
「まあ。これは神子様。それにマルタも」
パルマコスタ総督府。
ついこの間やってきたような気もするのに、それはかなり前のような気もしなくもない。
案内され、そして彼らを出迎えるように執務室においてあらわれたのは、
この地の元総督をつとめていたドアの妻であるクララの姿。
「あら?今回もあの子はいないないのかしら?…避けられてるのかしら?もしかして?」
ちらり、と一行をざっとみたのち、少し憂い気味にそうつぶやくのは、
すこしばかりおっとりしている雰囲気をもっている女性。
『あ』
その言葉が何を意味するのか悟り、何ともいえない表情を浮かべるロイドたち。
「避けている、というわけではないとおもいますわ。たまたまです。偶然ですわ。クララ夫人」
そんな女性にたいし、一歩前にでて、何ともいえない表情を浮かべているロイドたちとは対照的に、
そう言葉を発するリフィル。
リフィルとしても気持ちはわからなくもない。
彼女を元にもどした相手…エミルにかなりの恩義を感じているであろう。
というのはリフィルとてよくわかっている。
あのときのリフィルはその力をもっていなかった。
かつてのとき、この地でクララを元の姿に戻したのはリフィルではなくエミルだったのたから。
「お忙しい中、時間をとっていただき申し訳ありませんわ。
実は、私たち、急ぎマナの守護塔にいきたいのです。
船をお借りすることはできませんか?」
どうもここ総督府にはったときから感じているが、人々がやけにあわただしい。
おそらくは、ここにくるまでにきいた、ディザイアンたちの関係。
だとはおもうのだが。
それが前と同じく、レネゲードなのか。
それとも本当にディザイアンたちなのか、それはリフィルにもわからない。
レネゲードたちだとするならば、ユアンのいっていたように、
残り一つの楔を解放してすぐに大いなる実りを発芽させるために動き回っている。
その可能性がかなり高い。
しかし、ディザイアンだとするならば、ミトスが配下に命じている可能性もなくはない。
だからこそ時間がおしい。
ミトスが行動を本当に起こすより前に、精霊の楔の解除をしてしまいたい。
そこになぜか不安を感じなくもないが。
しかし、今はそれしか手がない、というのもまた事実。
少しでも時間をおいてしまえばそれこそ、ミトスは先刻いっていたように、
彗星ごと種子とともにこの地を去ってしまう可能性がある以上。
それだけは避けなければならない。
断じて。
「そう。それでここにきたのね?」
そんなリフィルの言葉にすこしばかり顔をふせるクララ。
確かに船を出すのはたやすい。
ここ、パルマコスタにはこのシルヴァラントを誇る水蒸気船もある。
しかし、今は時期がわるい。
悪すぎる。
常識的に考えれば神子の願いを無碍にすることなどとんでもない。
というのはわかる。
だがしかし、ヒトの命がかかっているのかもしれないときに、
そんなことはできるはずもない。
「ごめんなさいね。今、すぐに移動できるような船は見当たらないわ?
ここ最近、異様に海が荒れて、巨大な魔物がやけに目撃されているの」
そう簡単に海にでることはできはしない。
魔物たちが襲い掛かってくることはないが、巨大な波によって転覆するかもしれない。
というその危険性はつねに付きまとっている。
だからこそ、ここ最近、海にわざわざでるようなもの好きはいない。
それでなくてもみなと付近ですら高波で危険だから、という理由にて、
許可がない限りは立ち入りを禁じているほど。
「だから、船は……」
ここからマナの守護塔にいくにしても、船以外にもツテはある。
というよりは、せめてハイマまでいって飛竜でも借りてもらったほうが安全性は高い。
へたに船をだして、神子に、さらにはマルタに何かあったとしたらそれこそ大問題。
「今は、船での海路より、陸伝いでいったほうが安全性は高いとおもいますわ。
頻発する小さな地震のこともあるので、ハイマの飛竜観光。
それを利用すれば守護塔までそう時間はかからないとおもうのだけども」
だからこその妥協案。
「どうにかなりませんか?」
「神子様方を危険な目にあわすわけにはいかないわ。海は今はとても危険なの」
懇願するようにコレットがいうが、こればかりはクララも譲れない。
船を遠くにまでだせない、という理由もたしかにあるが。
沖にでるだけでも危険だというのに、ルインまでなどと。
ここからの距離を考えればその船旅の中で何があってもおかしくはない。
それほどまでに今は海の天候が読めない。
漁師たちがいっていたが、見慣れぬ岩礁がいきなりあらわれていたりする場所もあるという。
これまで把握していた海流が今ではまったくつかめなくなっている、という。
何かがおこっている。
確実に何かが。
そして、トドメとばかりのトリエットにいる占い師からの預言。
疑うわけではないが、彼女の占いはほぼ確実に当たる、と評判でもあるがゆえ無碍にはできない。
そして、ブルートがイセリアにいっているのもその占いのことについての話し合いもある。
もし、本当にあの占い通りのことがおこったとするならば。
それはあまりにも衝撃的で、だからこそ一部の者を除き戒厳令がひかれている。
この情報が周囲にもれればパニックは疑うまでもなく。
だからこその対策のための会議にブルートは代表としてイセリアにと赴いている。
「それでも、私達は時間がおしいのです」
「急がばまわれ、という諺もあるでしょう?」
リフィル、そしてクララがしばし無言のまま見つめ合う。
そんな二人の様子をはらはらしながら見守るジーニアス。
「レアバードはむりなのか?」
「無理よ。しいなにヴォルトを召喚つづけてもらえば可能かもしれないけども。
私たちが赴くのは何?しいながへばっていては意味がないわ」
それこそ急いでしいなが使い物にならなければ本末転倒。
素朴なるロイドの疑問にぴしゃり、といいきるリフィル。
まさに正論。
その意味に思い当たり、しいなは苦笑するしかないが。
「何でだよ?」
「まあ、あのときあたしが召喚して、どうなったのか。あんたも覚えてるだろ?
短い間ならともかく、リフィルのいうように以前のように、
続けて召喚しつづける、というのはたぶん体力的にも難しいかもだね」
そしてしいなが倒れている間にミトスが行動してしまえば。
それですべてはおわってしまう。
世界はたしかにのこる、かもしれないが。
そこに、人が生き残れるかどうか、というのはかなり怪しい。
それでなくても、エミルがこれまでヒトを信じていないというのは見知っている。
というか散々旅の中でもきいていた。
自分たちに対しては好意的な態度をもっている、とおもいたいが。
それでも、世界とヒトとを図りにかけたとき、エミルが選ぶとするならば。
おそらくは、世界であろう。
エミルが大樹の精霊の関係者ならばなおさらに。
不満そうな声をだすロイドに苦笑しながらもこたえるしいな。
あのとき、しいなはマクスウェルの召喚。
ただ呼び出しただけだというのに、意識を失いそうなほどに精神力を失った。
実際あのとき、ロイドたちの姿がみえなくなり触手もどきにつっこんでいき、
その直後に意識を失ったといってもよい。
気力だけではどうにもならないほどに体力もごっそりともっていかれていた。
かつて、コレットを救い出しにいったときのような手段はとれはしない。
あのときと、召喚の条件が根底から異なってしまった以上。
それがどうして、なのかはわからないが。
「どうしてもルインにいきたいっていうのなら、つれていってやってもいいぞ?」
リフィルとクララがしばし見つめ合い、よく理解していないロイドにしいなが説明をしていそんな中。
ガチャリ、という扉が開く音がしたかとおもうと、
何やら聞き覚えのある第三者の、しかも男性の声が彼らの耳にときこえてくる。
特徴がありすぎるほどのかわった服に大き目なツバのついた帽子。
みれば、扉の近くにたっている人物がひとり。
おもわずばっと声のしたほうを振り向いたのち、
『アイフリード(さん)!?』
思わず同時に叫ぶロイドたち。
扉からノックもせずにはいってきたのは、見間違いでない限りは、
彼らと幾度も面識がある、というかいろいろとかかわりがあるといってもよい、
海賊だ、と当人はいっているアイフリード。
「まったく。アイフリード。入るときにはノックくらいはしなさい」
「へいへい。あいかわらずドア夫人はお堅いこって。
よう。神子様ご一行。またあったな」
そんな人物をみてクララが盛大に溜息をつき、何やらいっているが。
そんなクララの言葉はどこふく風、というように、
その視線をコレットやロイドにむけて、かるく手をあげてくる男性…アイフリード。
「なんであんたがここにいるんだ?」
そんな人物にむけて、ロイドが疑問におもったのか問いかける。
「たしかに、ね。おおかた物資の輸送、というあたりかしら?」
「まあな。今、まともに動ける船は俺たちの船だけみたいだしな」
なぜか、彼の船は荒波の中でも波に襲われることはない。
以前はそんなことはなかったというのに。
そういえば、ともおもう。
そのようになったのは、彼ら神子一行をのせてからのちではなかったか、と。
まあ、当たらずとも遠からず。
実際はかの船の船首にとりつけられているとある像。
それをセンチュリオンたちが気に入って、
これを傷つけるのはもったいない!とばかり。
彼らの特権をいいことに、しかもかの船には自分たちの紋章を刻んでいる球体もある。
それもあり、それを通じ、実はかの船を保護しているからに他ならない。
ちなみにいまだにセンチュリオンたちは主であるラタトスクにあの姿になってもらう。
そのことをあきらめてはいない、という事情もあったりする。
もっとも、船の持ち主たるアイフリードはそんなことを知る由もないが。
「で?どうする?」
なぜアイフリードがここにいるのか。
問いかけたいことは山とある。
しかし。
「…お願いするわ」
「でも、アイフリード。神子様たちに万が一のことがあったら……」
「はん。俺たちは海賊だぜ?これまでだって魔物やディザイアン。
そういった輩と渡り合ってきたんだ。それにルインまで、なら問題ないだろ?
まあ、迎えが遅くなるかもしれないけどな」
彼がこの場によばれたのは、イセリアにおもむいているブルート達の送迎。
陸路よりも海路をつかったほうが遥かに早い、ということもあり。
どこからききつけたのかコットンにパルマコスタ発行の通行証。
それを売りつけたというのをしり、ブルートが罪に問わない代わりに手足となるように。
という交渉を持ち掛けているからにほからない。
クララの言い分をかるくさらり、とかわすアイフリード。
「ま、決めるのは神子達ってな。で、どうするよ?」
そんなアイフリードの台詞に思わずリフィル達はそれぞれ顔を見合わせてゆく――
リィィン…
すみきった鈴の音のようなものが周囲にと響く。
「…ふむ。こんなもの、か」
じっと見つめる視線の先に浮かびしは、小さな二つの何か。
二つのそれぞれは涙型をした銀色の輝きと、そして青白い輝きをもっている。
さらり、と銀色の残滓が視界をかすめる。
周囲は鬱蒼とした森につつまれたこの場所。
その森の中。
ぽっかりと開けている湖というか泉が地下から湧き出ている場所。
湖の周囲にはこの森に生息する様々な生物たち。
ブッシュベイビーなどといった小動物などの姿もみてとれる。
そして、あろうことか、その湖の中央。
そこにたたずんでいるひとつの人影。
長い、その身長よりも長い銀色の髪が水面にとこぼれおちており、
それらの髪はゆらゆらと、湖の中をただよっている。
足場も何もない湖の上、そこにたっているのは、
見ようによっては虹色や銀色にもみえなくもない、
どこにも継ぎ目のないような真っ白い布のようなもの。
それをまといしひとりの青年。
いや青年、というよりは女性、というか。
はっきりいって、男とも女ともつかない、何とも不思議な雰囲気をもっている。
いうまでもなく、この姿は基本としてラタトスクが好んで使用している精霊形態。
そしてこの姿を見知っているのは、ごくごくわずかしか存在していない。
「しかし。実際に目の当たりに初めてしましたが…さすがですな」
背後から投げかけられてくるそんな声に。
「そうか。そういえばお前たちにはこれらを作り出すところは見せたことはなかったか?」
うなづきつつも、その白いひげを手でいじりつつ、
いってきているのはマクスウェル。
いつも、彼が使用している空に浮かぶための乗り物もどき。
それにのっているわけでなく、むしろ老人の姿のマクスウェルもまた、
湖の上に何でもないようにとたっている。
よくよく考えてみればなかったような気がしなくもない。
今現在、この場においてわざわざ人の姿を模している必要もなく。
ゆえに、本来よくとる、精霊、としての姿にと戻しているラタトスク。
少し視界をひろげれば、その湖を取り囲むようにして、
というかその場所を取り囲むようにして、八色の球体がそれぞれ、
北・東北・東・東南・南・南西・西・北西、の方角に浮かんでいるのがみてとれる。
そしてそれぞれ、発色の色をともないて、光の帯となり、
それらの光はまるでそれぞれを結ぶかのように、
この場全体を光の陣を生み出すようにして取り囲んでいる。
かつて、みずほの民の先祖であり、またエルフたちの先祖。
カーラーンの民もよく利用していた聖なる破邪結界。
八方陣結界。
内よりも外よりもいかなる【魔】をよせつけず、またやぶれぬ聖なる陣。
この結界の内ならばどんな【気】すら、すなわち【マナ】も外にもれだすことはない。
ゆえに、内部で何がおこっているのか。
また、その術の特性をもってすれば、内部の状態すら外部に伝えることすらままならない。
「しかり。しかし、ではやはり、かの件を実行するのですかの?」
「お前たちを生み出したときにいっていたはずだがな。
こちらの種子はこの先のあの場所にと芽吹かせる」
すっとその手をかざすとともに、球体のような立体映像?のようなものがあらわれ、
そしてその中に青い星のようなものと暗い空間。
そして暗闇に浮かびし太陽、といったものがみてとれる。
「センチュリオン達から報告がいっているとおもうが。
彼らは種子が穢されている…まあ、今ではその穢れは取り払ってはいるが」
完全に暴走する要因はゼロスに事づけたあれで完全に取り除けた。
ゆえに方向性もなく暴走する、ということはありえない。
それでも、たまった負の力を解放するのに、またヒトに認識させるのに。
かの方法が一番確実であるがゆえに、その方法を選んだまでのこと。
「『しかし、甘いのではないのですか?』」
ゆらゆらと、映像のごとく姿がすけている男性が何やらそんなことをいってくる。
「そういうな。オリジン」
本来は、クラトスのマナによりて具現化する力を封じられているオリジン。
が、この結界の中ではそういったしがらみすべてを無効化させる効果がある。
この結界の内部はどちらかといえば、
「まあ、ヒトがおろかでしかない。ヒトに絶望しかしていない。
というのは同意見ではあるがな。しかしあがくものもいるにはいる。
それに何よりもミトスの口からかつての盟約の破棄。
それがなされていない以上、大地の存続という盟約は必然。
が、ヒトを試してはいけない、というような約束はしていないからな」
くくっとおもわず笑みをもらすそんな”王”の姿を、
この場に現れているすべての大精霊、とよばれしものたちは何ともいえない表情を浮かべてしまう。
「ミトス…か。王。彼をどうなさるおつもりなのですか?」
まるで水と一体化しているかのようなウンディーネが
すこし沈みがちにてそんなことを問いかけてくるが。
「瘴気の影響でその魂そのものに無意識のうちに影響をあたえていた原因。
それらはすべて取り除いた。あとはまあ、あいつ次第、ではあるな。
……ことをおこして、あいつが何もしないならば、それは……」
彗星に異物を抱え込ましたまま、この地を立ち去ることは許容できない。
重力圏を離れたその瞬間。
かの地にほどこしたある理が発生する。
しかし、その理はあくまでも世界が一つもどされない、
古の種子が芽吹かない、という前提のもとのもの。
すべてを消してしまおうか、ともおもいはしていた。
が、所詮はヒトがうみだした現状。
ならば、すべてを地上に移動させてしまえばいい。
そこでまた人がおろかなことを繰り返すようならばもう完全にヒトには救いがない。
そう確信がもて、それこそがヒトの命運をわける決定打になるといってもよい。
「――とにかく。千年。だ、千年後。
今から芽吹かせる大地も安定するだろう。
そのとき、すべての精霊たちをつれ、かの地にわれらは移住する。
この地は上空にかつての種子が芽吹いたときにつくるようにしている新たなる月。
そうだな…アルテミス、とでも名付けるか。
ともかく、アルテミスを通じ、われらは見守ることとなるな」
言いつつ、この場呼び出しているすべての精霊たちをざっとみわたし、
「必要以上にそれ以後は、この地に精霊、として干渉するのを禁ずる。
ヒトはとおろかなるもの。お前たちをとらえ自分たちの力に。
そうしないとも限らないからな。・・・・ミトスがそうしたように」
ミトスの場合、救いといえばその力を完全に自らのよくのために利用しないでいた。
ということがあげられる。
精霊炉に精霊たちをとらえたのちも、その力はすべて、マーテル復活。
そして世界の維持。
そのためだけ、に使用されていた。
悪用しようとおもえばいろいろとできたであろうに、そこまでミトスは堕ちてはいなかった。
いい例がかつての世界においてのトールであろう。
彼らは光の精霊アスカをとらえ、その力を動力源、として利用していた。
精霊炉の応用、クレーメルケージに近しい装置。
精霊を…大精霊をとらえることを目的として開発された装置によって。
だからこそ。
「とくに。アスカ。たまに様子をみにうろうろとするのはいいが。
せめて姿はかえておけ。ふつうのとりにでも何でもいいからな。
おろかなるものはお前の姿をみてその力をわがものに、とおもいかねない」
「…王。なぜに私だけ指名、なのですか?」
その言葉になぜかアスカから抗議の声らしきものがあがってくるが。
「お前だからだ。お前がヒトを好んでいるのはしっているからな。
かつてのように無邪気というかわれらに畏怖をもってして敬意を示してくるヒト。
それらはほぼ皆無に等しいだろう」
それこそ、かつてのように。
精霊もヒトも、魔物もすべてが平等でくらせていたあのころとは。
今のヒトの認識ではそれはもはや無理といえるもの。
それどころかヒトはかなならずその力を得ようとする。
かつて、その小さなよくから争いになり、天地戦争。
そしてカーラーン大戦、とよばれし戦いにまでその痕跡がなくならなかったように。
「ルナ。お前は解放された直後、いろいろと動くようになるが、わかっているな?
このことは、彼らには気取られないように」
「かしこまりました」
「アスカ。おまえもだ。…まあ、少しは手加減してやれよ?
あいつら、戦闘という戦闘をほとんど経験していなかったからな。
まあ、かの封印の中でかなりの力は得られているとはおもうが」
おそらく、かつてのときは自分が目覚めていなかったのもあり。
彼らは魔物達などの戦闘を通じて力をつけた、のであろう。
でなければ、あのとき。
いくら記憶を失い、力を思う存分震えなかったとはいえ自分がおしきられる。
というようなことはありえなかった、とおもう。
何しろあのとき。
かなり手加減をしなければ彼らを傷つけ本当に殺してしまいかねなかったほど。
まあ、あの演技はあっさりとマルタに見破られてしまったのではあるが。
「すでにあらたなる魔界となりし惑星は芽吹かせている。
暗黒大樹の精霊でもあり、かの地の王として理をひいたプルートもいるしな」
精霊でありながら魔王。
本来、世界を構成する【世界樹】の精霊はその世界一つを代表しているといってもよい。
そしてそれはラタトスクにもいえること。
もっとも、ラタトスクの場合は【幾多もの】というか【すべての世界】という注釈がつくが。
無意識のうちにかけているリミッター、つまりは枷を取り除いてしまえば、
ラタトスクにかなうものは誰一人とていなくなるといってもよい。
そして、ヒトからマナの認識をなくし、すべての命の源は【分子原子】だ。
そう誤解させ、認識させる。
そうすることで、ヒトはマナの多用をやめるであろう。
もっとも、その結果、分子や原子をつかった武器などが開発されるであろうが。
そうなったとしてもそれはヒトの自業自得というもの。
今現在の魔界そのものをすべてあちらに移す以上、無理に扉を閉ざす必要もなくなる。
あとは、彼らがいなくなったのちの魔界にのこりし瘴気。
あれらをゆっくりマナを注ぎ、すべてマグマにかえてしまえばいい。
そうすることで、この星は本来のこの【惑星】としてのありかたを取り戻す。
リリスたちの手により、プルートは今や完全に魔界を制覇している。
もっともそれを気に入らない輩もいるようではあるが。
不穏分子は移動させないほうが後々問題もおこらない。
だからこそ、プルートに従いしものを優先してかの地には転移させる。
おそらく、今回のことによって、ヒトは混乱し、
おろかにも自分たちの手で再び魔界との扉を開こうとするであろう。
すでに、あのくちやわ達がやっているように。
歪んだ姿で発芽する大樹、そして救いの塔とよばれしものの消滅。
ここまでミトスによって徹底的に洗脳されている人々にとって、
それらのことはより強い負の力を呼び起こすと簡単に想像がつく。
「――さて。ミトスのやつは、どう行動してくる、か?」
これは、ミトスにむけての最終確認。
そして、人類に対しても。
でも、あのミトスのこと。
まちがいなく、こちらの思惑通りに動くであろう。
もう、今までのようにミトスを穢し犯していた”力”は存在しない、のだから。
~スキット~精霊たちとセンチュリオン;ロイドたちは船で移動中~
マクスウェル「しかし、あの船の船首にあるあれ、すばらしいですなぁ」
ウンディーネ「ですわね。何でも王の姿を模したもの、とか」
彼らが目にしているのは、海賊船だ、という。
その船の船首にかかげられているとてつもなく美しい女性の像。
今現在、ロイドやミトスたちの様子は、
空中に映像、として簡単に誰もが目にみえるようにラタトスクが施している。
イフリート「そういえば、母上の女性形態など久しくみておりませぬな」
フィアレス「み・た・い!」
グラキエス「ラタトスク様、ここはぜひともあの姿で
このたびの一件をこなしてはいかがでしょうか?」
ラタトスク「おまえら…何、センチュリオンたちと同じようなことをいってやがる!?」
というか反応が同じなのはこれいかに。
かつて、あの船首につけられていたそれをみて、
同じようなことセンチュリオンたちがいってきていた。
ルナ「でも、たしかに、みてみたいですわね」
アスカ「右に同じく」
オリジン「…お前たち、ほどほどにしておけよ?気持ちはわかるが。われとてみたい」
ラタトスク「お・ま・え・らぁぁ!」
テネブラエ「おお!やはりわかりますよね!あのお姿のラタトスク様をみてみたいと!」
アクア「うんうん。ね。ラタトスク様。みんなもこういってるし」
ラタトスク「テネブラエ!アクア!おまえらもこういうときにのみつるむんじゃない!」
アクア&テネブラエ「「え~」」
ヴォルト「(では、どうしたらあの姿になってもらえるか話し合うのは?)」
一同『異議なし!』
ラタトスク「…ヴォルト…お前まで……」
なぜだろう。
ものすごく脱力するような気がするのは。
なぜにこの子供たちは自分の容姿、ただの見た目だけだ、というのに。
そこまでこだわるのだろうか。
はっきりいってラタトスクには理解不能……
ユフィー「ここはあきらめて、ラタトスクさま。別に姿なんてどうでもいいんでしょ?
なら、ここは私たち子供の意見を尊重して!」
ラタトスク「今はそれどころではないだろうがぁぁ!」
一同『いえ、大有りです』
ラタトスク「…お前ら……こういうときだけ一致団結するんじゃなぃぃぃ!
というか、そこ!お前らまで何を同意してる!?」
みれば、この地にあつまっているすべての動植物。
あげくは魔物たちまで賛同しているのは…これいかに。
~スキット:そういえば・・~海賊船にて食事中:眠る前~
ロイド「そういえば、結局きけてないんだけど。なんでケイトがあの場所にいたんだ?」
どうやらゼロスにかかわっている、というのはわかったが。
ゼロス「何でも、ケイトはユアンにつれられてウィルガイアにいってたらしいぜ?
ユアンのやつ、たしか、クヴァルの代わりとか何とかいってたってきいたけど」
ロイド「…何だって?」
ジーニアス「クヴァルって……」
リフィル「なるほど。たしかに。説明というか理由づけには問題ないでしょうね。
ケイトはテセアラで人工的にクルシスの輝石の研究していたようだし」
プレセア「…もしかして、そのクヴァル、というひとも、ですか?」
リフィル「ええ。もっとも、もうしんでいるけどね」
ゼロス「テセアラが次は衰退世界になるからその候補者だ。
といって説明したゆえか、かりそめとはいえ五聖刃候補になってるらしいぜ?
だからこそ、その権利でいろいろと行動できるようになってるらしいしな」
コレット「それ、ケイトさんも納得ずみ、なのかな?」
ゼロス「利用できるものは利用しないと損だろ?
まあ、ケイトのおかげですんなりとそのアイオニトスも手にいれられたしな」
いくらゼロスが天使化を果たしているとはいえ。
簡単にアイオニトスが手にはいるはずもない。
ユアンの口添えというか説明の五聖刃の候補者。
それもあり、簡単に保管庫への道が開けた。
ついでに手に入れた後は、プロネーマ様より連絡があり、侵入者云々。
という報告をあえて流したのち、ゼロスとともに救いの塔の地下にとむかった。
あえてアイオニトスが盗まれたとわからすため、
ゼロスが案内された保管庫より別の場所から一つのみこっそりと懐にいれた。
しかも、ケイトは保管庫よりでるときに。
きちんと数の在庫確認はしているのか、とといかけ。
数の出入りさえ把握していればいい、といわれ。
こんこんとそんなことでは職務怠慢といいだし、きちんと棚卸をし在庫と帳面。
その数が合うか否かを常に確認するように。
それをしていないのならばプロネーマ様を通じ、ユグドラシル様に報告する。
そこまでいわれ、天使たちがきちんと棚卸をし、
ようやく数があわないことにきづいて騒ぎだし、
その結果、クラトスのもとにも報告がいくという形になりはしたのだが。
ロイド「…ん?ゼロスは地下のほうにはいかなかったのか?」
ゼロス「前にもいったっしょっ?ちょっとした仕掛けをしているってな。
俺様達が前にいったのは、上空。ロイド君たちが今回向かったのは地下、ってな」
実際のところ、とある品をもっていたがゆえに。
ほぼゼロスはかの地においては自由にどこにでも出入りができるようになっており、
また任意に移動する場所も変更できた、というのが正しいのだが。
ゼロスはそこまで説明するつもりはまったくない。
ロイド「…ま、いっか。しかしこれで指輪をつくる…ねぇ」
ゼロス「ケイトもいっていたけどな。つくりかたはおそらく、タバサの中にある、
アルテスタの人格。それがしっているらしいぜ?」
あと、あの親ばか天使さまもだけどな。
その言葉をいいそうになりあえてのみこむ。
セレス「わたくしたちがいない間、なんだかいろいろとあったのですわね。お兄様」
ゼロス「まあ、俺様としてはセレスがあの場所にいって。
危険な目にあわなかった、だけでも重宝ってな」
マルタ「というか。ゼロス。もしかして、はじめからわざと死んだふりをしようとしてた、とか?」
ぎくり。
セレス「お・に・い・さ・ま?」
ゼロス「いや、あの?セレス~?」
セレス「お兄様はご自分を蔑ろにしすぎですわ!
お兄様に何かありましたら、わたくし、わたくし…自分をゆるせませんっ!」
リーガル「うむ。ほほえましい兄妹愛だな」
マルタ「…ゼロスって、セレスがからむとおろおろとするよね。
ゼロスがあわてるのみるのって、セレスがらみのときだけだし」
ジーニアス「ま、ゼロスはシスコンだからしかたないよ」
マルタ「納得」
ロイド「シスって何だ?」
一同(コレット・ロイド、セレス・ゼロスを除く)『・・・・・・・・・』
コレット「そういえば、私がつれていかれてから。みんなはどうしてたの?」
リフィル「そういえば。説明する、といっていたわね」
リーガル「しかし、子供たちはどうやらねむそうだぞ?」
たしかに。
みれば、いつのまにかロイドがスプーンをもったまま船をこいでいる。
…どうやら暖かいものをたべ、そして安心感からか眠気がおそってきているらしい。
リフィル「しかたないわ。ひとまずごはんののち、それぞれやすみましょう。
どちらにしても、船がルインにつくのは明日になるのだからね」
そう。
船ではどうしても時間はかかる。
本当にレアバードが利用できればすぐなのに。
ミトスが何か行動してこないか警戒しつつの船の旅。
しかし、何も行動をおこしてこない、ということは。
ミトスたちのほうにも何か、があったのだろう。
もしくは、めざめたっぽい彼女がミトスに何かをしているのか。
それはリフィルにはわからない。
※ ※ ※ ※
「よほど疲れていたのね」
「うむ。仕方がなかろう。特に子供たちにはいろいろとありすぎた」
特に誰のせい、とはいわないが。
結局、アイフリードの提案を受け入れ、アイフリードの所有する【海賊船カーラーン号】
海賊船にのりてルインの町まで送り届けてもらうように交渉したのはついさきほど。
食事ののち、部屋に案内された子供たちは、よほどつかれていた、のであろう。
まるで倒れるようにと眠り込んだ。
たしかにほぼ丸一日、精神面的にも緊張がつづいており、
気が抜けた、というのもあるのだろうが。
しいなもまた、疲れていたのか、ベットに横になるとともに睡魔がおそってきたらしく、
特にしいなにはゆっくりと休息してもらったほうがいい。
どうにかして起きていようとするしいなにリフィルがいって、
しいなもまた今現在は眠りの中にといざなわれている。
「しっかし。何というか……」
今、外にでてきているのは、リフィル、リーガル、ゼロスの三人。
タバサはみんなの健康管理を!とかいい、船の厨房にとはいっている。
ちなみに、ふるまわれた料理はタバサがつくったものであったりするのだが。
三人が今きているのは、船の甲板。
リフィルとしては海がみえる位置にあまりでたくはなかったのだが。
どうしても確認しておきたいことがあったがゆえに、こうして外にとでてきている。
他のものはみな船室で眠るなりしており、ちらほらと海賊の一員らしき乗組員たちが、
うごきまわっているのが視界にとはいりこむ。
たしかに、パルマコスタできいたように、周囲はかなり波がたかく、
本来ならばこの船もかなり揺れていなければおかしい、はずなのだが。
この船の回りだけ、ぴたり、と波がしずまりかえったようにないでおり、
ゆえに船が不必要にゆれることも感じられない。
その疑問をしらべるべくこうして甲板にでてきたわけ、なのだが。
「まあ、リフィル様の予測とおりってことじゃねえのか?」
あきれつつも、苦笑し指さすゼロスの先にあるのは、
本来ならば輝くことなどするはずもない、とある紋章が刻まれし球体。
八つある球体のうち、一つが青い輝きをほのかにはなっているのがみてとれる。
そして、赤い輝きを放つ球体からはほどよい暖かさが気のせいでもなく発せられており、
それゆえに海上だ、というのに寒さを感じることもない。
本来ならば海風などによって冷たさくらいは感じるはずのそれらもまったく感じられない。
このあたり、この船に何かあれば、あの像が壊れてしまう!
という無駄にはりきっているセンチュリオンたちの加護ゆえ、というものなのだが。
「この異変にきづいたのは、海が荒れ始めてからだ、といっていたわね」
それまでは、最近あまり航海するのに問題がおこらないな?
という程度であったという。
しかし、ここ最近、再び荒れ始めた海の様子でこの変化にアイフリード達もようやく気づいた、らしい。
遅すぎるといえば遅すぎるが、しかしよもやただの飾り。
そうおもっていたそれが何らかの効果をもっているなど誰も夢にもおもわない。
そもそも、これまで一度たりとてそのようなことがなかった以上、
いきなりそんな力が宿りました、といわれて、はいそうなんですか。
と納得できるものがいるか、といえば答えは否。
しばし考え込みはじめるリフィルに対し、
「ま、この紋章はセンチュリオンとかいうやつらの象徴、というし?
あのテネブラエたちが何かしたんじゃねえのか?
エミルくんもこの船にのこったことあるんでしょ?」
「…ええ。たしかにある、わね」
だとすれば、あのときにエミルが何かをした、のだろうか。
ゼロスのといかけにリフィルは答えるが、答えはでない。
「ま、とりあえず。これが原因っぽい、というのは確認したわけだし。
リフィル様もゆっくりと体を休めたほうがいいんでねえの?
次はルナとアスカとの契約、てことは二体の精霊を相手に戦うんだろうし」
「ええ。たしかにそう、ね」
いつのまにか日はしずみだし、周囲は夕焼け色にと染まっている。
見上げる空にうかびし満月は地平線のあたりに見え隠れしている。
このまま太陽がしずみきり、月が地表にのぼってくるのであろう。
どうも、異界の扉からの移動では時間差があるゆえにこう体内感覚がくるってしまう。
こころなしか、リフィルの顔色が悪い。
次で最後の精霊の解放、というのに。
回復役であるリフィルが体調不良というのはかなりまずい。
マルタだけではおそらく間に合わない。
というか、彼女はあの禁書の中にはいっていない。
それにこれまでの精霊との戦いにおいても、ほとんど彼女は参加していない。
相手の力にひるみ、回復が滞ってしまうということもありえなくはない。
そこまでおもい、ふとおもう。
「…そういや、エミルくん、なんでかマルタちゃんをよく戦闘から遠ざけてたような?」
ヴォルトの戦いにしても、ノームのときの戦いにおいてもまたしかり。
まあたしかにみていてどことなくあぶなっかしいというか、
思い込みが激しいがゆえに何をしでかすかわからない。
そういった不安があるのかもしれないが。
そんなゼロスのつぶやきがきこえたのか。
「そういう神子もそろそろ休んではどうだ?」
「そういうあんたもな」
どちらにしても、今ここでこれ以上、何かさぐる、ということはできないだろう。
ともあれ調べたいことは一応調べはした。
ゆえに、それぞれ割り当てられた部屋にとそれぞれもどることに。
ルインの町。
かつて、近くにあるパルマコスタ人間牧場の脅威にさらされていた町といってもよい。
そしてディザイアンたちの直接襲撃をうけた町でもある。
そしてそんなルインの町は水の町、としても名高い町でもあったりする。
実際、幾重にも張り巡らされた水路はまるで水上の町といっても過言でない。
かつて、人間がこの付近にまであった湖の一部をうめたて、町にした名残。
今はかつてあった湖の規模はかなり小さくなり、シノア湖、としての姿でしかないが。
大樹がかれるその前まではたしかにこのあたりいったいまで、湖にとおおわれていた。
町による、という案もでたが、前回が前回。
怪我をおったコレットに無理難題をいってきた村人たちの態度を見る限り、
逆に気力、そして体力をつかいかねない。
そういう理由もありて、マナの守護塔がある小島。
その小島の中にとある桟橋に案内してもらえるように交渉し、そして今にいたる。
ほどよい揺れはちょうど睡眠を促す効果をもたらしたらしく、
それぞれが爆睡し、疲弊していた体力も何とか万全なる状態にともどっている。
一応昼食をも船内ですましたのちに、上陸しあるいてゆくことしばし。
「やはり、いつみてもでっかいよなぁ」
やがて見慣れた塔がみえてきたのをうけ、ロイドがぽつり、とつぶやく。
救いの塔とくらべればはるかに小さい、とはわかっているが。
それでも、高いことは高い。
マナの守護塔そのものは、シルヴァラント世界の北西にと位置している。
古代言語で廃墟、という名を冠した”ルイン”の町。
その町の教会がマナの守護塔を管理しているのではあるが。
「おお!あいかわらずこの書物の量はすばらしい!」
塔にはかつてカギがかかっていた、のだが。
今ではかぎをかけていないのか、念のために先に扉に手をかけると、
きぃ、と扉がひらかれる。
そして目にとびこんできたは、壁にと設置されている幾多もの本。
かつてこの地に避難のためにやってきていた町の人々の姿は今はない。
まあ、すでにその避難の原因となった牧場も壊滅している以上、ここにくる理由。
といえばこの本の閲覧、くらいしかないだろうが。
「でも姉さん、おかしくない?ここは貴重な本もあるらという理由で。
常にかぎはかかっていたはずじゃあ?」
祭司からかぎをうけとっている彼らはともかくとして。
ちなみにこの救いの塔の合いかぎも一応あるらしく、だからこそすぐに戻そうとした彼らに、
まだ何かあるかもしれないからもっていてください。
そういわれ、ずっとカギはあれ以後リフィルがもっている。
たしかにジーニアスの言う通り。
実際、この塔にはかぎがかけられてはいた。
だがしかし、彼らより少し前にこの塔にやってきていたとある人物が、
いちいち鍵をあけるのは面倒だろう、というよくわからない理屈にて、
せっかく屋上におりたったというのに、再び階下におりて、
カギを内部からあけ、またその先にもどって彼らを待ち受けており、
だからこそ、彼らの目にははじめからかぎがかかっていなかったように見られていたりする。
「はいはい。先生。とりあえず、今は先をいそごうな?」
リフィルの豹変ぶりをみるのは久しぶりのような気がしなくもないが。
今、すべきことは、この塔の最上階にとおもむくこと。
ロイドとしては、さっさと契約をすませたのち、異変がおこっている。
という王都メルトキオにいきたい、というのもある。
ゆえに、そんなリフィルをさらり、とかわし、そのまま奥にみえている階段へと足をむける。
屋上にいくためには、前方の道と右側にみえている道があり、
右側のほうはひたすらにながくつづくらせん階段をのぼってゆく。
といっても過言ではない。
階段を上り切った先にあるのはちょっとした開けた部屋であり、
ガラスなのか水晶なのかわからない、とにかくそんな透明でできているブロック。
この道にある仕掛けはこのブロックを移動させ、光を誘導させて仕掛けを解除させる。
というもの。
「しかし、しかけが全部解除されているよう、だな」
おそらくは確実に仕掛け、なのだろう。
光の筋がブロックにあたり、起動をかえている光景。
そんな光の筋がいくつかある部屋を通り過ぎてゆく中でぽつり、とリーガルがつぶやいてくる。
「ここは、以前、私たちがついたときに仕掛けが解除されているのよ。
どうやらそのときのまま、になっているようね」
正確にいえば、調子にのった子供たちが仕掛けを解除した。
そのようにリフィルは聞かされている。
実際に仕掛けを解除したのは魔物たち、なのだが。
そこまでリフィルたちは教えられてはいない。
「でもさ。あのときもおもったけど。
仕掛けが解除されていても、いちいちのぼっていくのって面倒くさいよな~」
前のときも上にたどりつくまでかなりかかった。
というかひたすらに階段を上っていった記憶がある。
だからこそ、ロイドもまたそんな二人の会話に口を挟まずにはいられない。
「しょうがないでしょう?仮にレアバードが使える状態だとしても。
あの狭さではレアバードを乗り付けるわけにもいかないわ。
…エミルがいれば魔物を、ということもできたでしょうけども」
それこそ、塔の真横に魔物を移動させ、どうとでもしたであろう。
というか、この場にいないのにありありとその光景が目に浮かんでしまう。
しかも、脳内で展開された光景の鳥は神鳥シムルグ。
ありえる、とおもってしまうのはこれまでのエミルの行動ゆえ、であろう。
それをおもえば、旅の最中、エミルの行動で救われていた部分はだいぶある。
改めておもえば、であるが。
そのエミルは今ここにはいない。
「それにしてもさ。こう、なんというか。ぱっといく。
とかあってもいいんじゃないのか?」
ロイドからしてみれば、一度いった場所にまた面倒な道を通じすすむ。
というのが何とも苦痛でしかない。
「パッといく?」
「何だ?それは?」
しかし、ロイドのいっている意味がリフィルにもリーガルにもわからない。
ゆえに、疑問の声をあげるリフィルとリーガル。
そんな二人に対し、
「いや。こう一度いったことがある場所とか。
簡単にその目的地にまでいける方法、とかさ」
「そんな便利なものはありません。バカなことをいってないの」
「そんなものが開発されたりしたら、たしかに便利だろうけどねぇ」
「その前にそれを悪用されたらとんでもないことにならない?」
きっぱりと、それでなくてもいいきったロイドにあきれたような視線がむけられる。
たしかにそれは便利、ではあろうが。
裏を返せば悪用をしようとおもえばどうとでも利用ができる、ということでもある。
かつて似たような転送装置をつくりだし、人々が争いに利用したように。
「まあ、ロイドがおかしなことをいうのは今に始まったことじゃないし?」
「ひでえ!ジーニアス!」
「…元気だねぇ」
そんな彼らのやり取りをみつつ、首をすくめるしかないしいな。
「あの?いつもこう、なんですか?」
「いつもこうなんだよ」
「…大変ですね」
そんな彼らのやり取りをみて、心の底から同情したような声をあげているケイト。
彼らとは知り合いではあるが、いつもこんなやり取りをしている、というのは。
ここにくるまで、彼らの目的はこの塔にいるという月の精霊ルナ。
つまりは精霊との契約、にあるらしい。
その精霊との契約がすめば、二つの世界は衰退世界と繁栄世界。
つまりマナを搾取しあう世界のありようがかわる、とのことらしいが。
そこまでうまくいくのだろうか?
という素朴なる疑問が当然ケイトの中にもある。
これまで頻発している地震が精霊の楔とよばれるものを解除したからだ。
その理由もあいまって漠然とした不安がケイトの中にあるのもまた事実。
実際、ケイトはウィルガイアにて、メインコンピューターが原因不明のエラーをおこし、
停止していた、というのをきかされている。
いた、というよりはいるというべきか。
だからこそ簡単にケイトの偽りの身分であっさりと保管庫などにはいれた。
という理由もあるのだが。
そんなやり取りをしている中、やがて階段が軒並ぶ部屋にとたどりつく。
向こう側とは光の橋によってつながっており、
その向こう側に屋上につづく転送陣が存在している。
「まって、誰か、いる」
ふとその視線の先に人影をみとめ、おもわずコレットがつぶやくが。
コレットのつぶやきとほぼ同時。
その人影はゆっくりとたちあがる。
どうやら床に腰かけていたらしい。
「まて!」
ロイドたちが光の橋を渡ろうとしたその刹那。
反対側から投げかけられる声。
「クラトス!?邪魔をするな!というかあんた、体は平気なのかよ!?」
結局、あの時以後、クラトスとは出会えていなかった。
クラトスが無事であったことにどこかほっとしつつ、
それでもここで自分の邪魔をしてくる、というのはやはり敵でしかないのか。
という思い。
そんな感情が入りまじり、ロイドは何ともいえない気持ちになってしまう。
だからこそ無意識のうちにも声をあらげてしまう。
「人体における治癒能力を活性化させればあれしきの怪我は問題ない。
が、今はそんなことはどうでもいい」
「どうでもいいって……なんであんたがここにいるんだよ!?」
たしか、転送される直前。
クラトスがあの部屋にはいってきたのをみたはず。
そんなクラトスがどうしてこんな場所にいるのか。
否、考えなくてもわかる。
まちがいなく、クラトスはミトスにいわれ、自分たちをとめにきている。
捕えにきたのか、排除にきたのかはわからないが。
「お前たちに契約をやめさせるためだ」
そんなロイドの質問の答えになっているのかいないのか。
淡々と紡ぐくらとすのその手はいつでも剣を抜き放てるようにか、
片手が剣のツカにとそえられているのがみてとれる。
「それはできない相談ね」
そんなクラトスに警戒しつつもリフィルもた身構える。
そんなリフィル、そしてその場にいる全員。
ロイド、コレット、ジーニアス、リフィル、マルタ。
そしてゼロス、プレセア、しいな、リーガル、セレス、タバサ、ケイト。
計十二人をざっと見たのち、
「お前たちはわかっていない。
さきほど、デリス・カーラーンのコアシステムが答えをはじき出した」
それも最悪な形を。
あのミトスですら、止めてきて、といったほどに。
万が一、ということもあるから、という理由をいっていた。
それはとてつもなく最悪な可能性。
ウィノナの手により再起動を果たしたシステムがもたらしたのは、
それまで彼らが認識していた結果よりもより最悪の結果を招いていた。
だからこそ、何としても止める必要がある。
「精霊と契約をすれば大いなる実りの守護は完全に失われてしまう!」
「それこそわれらの願うところだ!」
クラトスの言葉が終わるとともに、突如として青い影がいきなり飛び降りてくる。
キィッン。
金属同士が交差する音がその場にとなりひびく。
クラトスの抜き放った剣と飛び降りてきた人物の獲物ダブルセイバーとが交差する。
「ユアンかっ!わからないのか!お前の望む結果はえられん!」
ユアンの望み。
それはマーテルの完全なる眠り。
それをクラトスは知っている。
「黙れ!この機会を逃すとおもうか!ここは私にまかせろ。こいつの相手は私がする。
お前たちは一刻もはやく光の精霊との契約をすますんだ!」
いいつつ、その背に翼を展開させ、手にしていた獲物、ダブルセイバーを構えなおす。
そんなユアンをちらり、とみて。
「いきましょう」
「まて!」
「させるか!」
リフィルの言葉に従い、それぞれがユアンがクラトスをどうにか誘導していた、らしい。
先ほどまで転送陣のほぼ前におり、転送陣を使用するためにはクラトスを退ける必要がある。
そんな位置にいたクラトスではあるが、ユアンの急襲により、
クラトスはいつまにか転送陣からはなされており、
ゆえにその隙を逃さず、またユアンのことばもありてリフィルが促し、
ロイドたちが転送陣にと足をのせてゆく。
それとともに、光につつまれ、その場からかききえてゆくロイドたち。
そんなロイドたちを追いかけようとするクラトスにユアンの武器がうなりをあげる。
クラトスがロイドたちを追いかけようとするが、
直後、ユアンから放たれた魔術の気配に気づき、その場を飛び退く。
ユアンの援護もあり、ロイドたち十二人が転送陣よりこの場からかききえる。
「ちっ。ユアン!そこをどけ!彼らが契約を成功させたら何がおこるかわからんぞ!」
今と前とでは現状が違う。
システムは二つの可能性をみちびきだした。
衰退世界と繁栄世界。
マナが陰陽の関係にある場合の結果と、マナの管理が本来のものにもどったとき。
それによっておこる可能性。
おそらく、今は確実に後者。
しかも、システムはマナの制御という分野ではセンチュリオンたちが覚醒しているゆえに
このシステムでは管理不能です、という言葉すらでてきていた。
つまるところは、センチュリオンが目覚めているということは、ラタトスクも目覚めている。
その可能性がかなり高い。
…よもや、エミルがそのラタトスクだ、とはクラトスもまだ気づいてはいないが。
しかし、エミルのこれまでの言動を考えればまちがいなく関係者。
それももうおもいっきりに。
かつてのことをラタトスクから、もしくはセンチュリオンからきかされるくらい、
彼は確実にかつてのことを…四千年前のことなどをしっている。
それが何よりの証拠。
もっとも、エミルがラタトスクだと知れば、これまでの疑問はすべて解消されるだろうが。
固定概念としてラタトスクは扉の間から動かない、動けない。
そう思い込んでいるかゆえに、エミルが精霊ラタトスクだとクラトスは気づけない。
そしてそれはユアンにしてもまたしかり。
「それはこちらの台詞だ!マーテルを永遠の眠りにつかせるためにここはひかぬ!」
これ以上、心優しい彼女が傷つくことがないように。
マーテルは決して他人の体でよみがえることをよしとしない。
それは悲しみしかうみはしない。
これまでは目をつむってきたが。
「大いなる実りが精霊の守護を失えば大地もまた失われるのだぞ!?」
それは、世界が陰陽のマナの関係であった場合、システムがはじきだした答え。
互いの世界を実りの力によって安定させていた次元そのものが安定を失い、
それぞれの次元が干渉しあい、実りを巻き込んで次元の狭間にと飲み込まれてしまう。
たしかに、クルシスの…彗星のメイン・コンピューターはその可能性をはじき出した。
それは、センチュリオンたちが目覚めていない場合、という注釈がついていたが。
しかし、そんなクラトスの言葉を一笑し、
「違うな。ロイドたちが精霊との契約を済ませたとき大いなる実りが目覚める。
救いの塔を中心に大樹が復活するのだ。そしてマーテルは樹の一部となって死ぬ」
クラトスにバルバードをつきつけたまま、きっぱりといいきるユアン。
いいつつも、じりじりと移動して、ユアンはいつのまにか転送陣の目の前。
その転送陣の行く手を遮る位置に移動しており、クラトスが近づいてこないようにと牽制してくる。
つまり、この先の精霊が封じられている場所にいくためには、
一度外にでて空からいくか、それともユアンを退けて転送陣にて移動するか。
そのどちらかしか方法がない、ということに他ならない。
「バカな!精霊の楔を抜いたところで大いなる実りが目覚めるはずもない!
……まさかデリス・カーラーンのマナを照射するつもり、か?」
――ねずみが動いているのは知っているよ。
どうもこのクルシスにも干渉しようとしていたこともね。
ミトスがそうたしか、クラトスがコレットの護衛に赴いたあのときそんなことをいっていた。
たしかに、常に上空にある彗星のマナを使えばそれは可能、なのかもしれない。
だが、本当にそんなことが可能なのか?
でもそんなことで発芽ができるならば、これまでマーテルに注ぎ込んでいたマナ。
その余波でそんな影響がみられてもおかしくなかったのに。
この四千年。
種子に変化があったようにはみられなかった。
しいていえば、年月とともに青白くひかっていたそれがなくなったということくらいか。
種子を授かったとき、これでもか、と青白く光り輝いていた種子は、
今ではよくよくみればほのかに光っているか否かという程度でしかない。
デリス・カーラーンのシステムからそんなことができるはずもない。
可能性としてあるのは、地上にありし人間牧場。
かの施設にはその施設を運営していくにあたり、それぞれ魔道炉が設置してある。
それこそ彗星からマナを地上に照射しそれを牧場の稼働にとあてている。
「しかし、牧場の魔導炉を利用しようにも、すでに牧場は…っ」
今、おそらくまともなのはイセリア、そして海にある牧場くらいのはず。
パルマコスタ人間牧場といわれていたそこは、なぜか湖と化しており、
また、アスカード人間牧場といわれていたそこももはや何もなくなっている。
リフィルが自爆装置を起動させたとはいえ、あそこまでの規模にはならないはず、なのに。
それこそ跡形もなく、その痕跡はなくなっている。
「たしかに。だが、他にも利用の方法はある。あいつらがやってくれたからな」
そう。
ロイドたちが精霊との契約をしてくれたおかげで、
これまで精霊を閉じ込めるために使っていた精霊炉。
その力を応用することができるといってよい。
まあ、マナを逆転させ照射させることにより精霊炉そのものは今後利用不可能。
そうなるかもしれないが。
…精霊を閉じ込めるようなものがあってもロクなことにはならない。
それどころか、ユアンとしてはそれを完全に消し去っておきたいところ。
あんなものをもしもラタトスクが目にすれば、やはりヒトは、とか言い出しかねない。
…実際にすでにそう思われていることをユアンは知る由もないが。
人間牧場は膨大なるマナを管理するための施設でもありはした。
かつて、まだミトスが牧場というものをつくるより前。
衰退世界になった世界において必要不可欠、としたのがマナの地上での管理。
一年ごとのマナの交換でも不測の事態がおこりかねないから、という理由にて。
もっとも、その施設をそのまま利用しそこに牧場という概念をミトスが組み入れてしまったのだが。
そんなクラトスの言葉に笑みを浮かべつつも言外に方法はある、といいきるユアン。
すでにすべての仕掛けは済んでいる。
あとは、実行するだけ。
テセアラ側では精霊の契約が失われたがゆえに、精霊炉の様子を調べる。
という名目でクルシスに所属しているとみせかけた配下のレネゲードたちを派遣し、
それぞれの精霊の神殿といわれし場所においてすでに作業をしおえているはず。
そしてここシルヴァラントにおいては、レネゲードたちが。
精霊の楔をすべて失いさえすれば、大いなる実りは簡単にマナをうけとるはず。
急激にマナをあたえられた種子は大樹として芽吹く。
種子を授けられたとき、この種子の発芽には膨大なるマナを注ぐことが必要。
それらがお前たちにできるか?
そういわれ、ミトスはやり遂げてみせる。
そういった。
それは種子を授かったかつてのときの記憶。
”この”という言葉をそのとき、どうしてラタトスクが使用していたのか。
その真意にいまだに誰もが気づくことをしていないが。
本来あるべき精霊との約束。
大樹の種子にマナを注ぎ、大樹を芽吹かせる。
それが精霊との約束であったはず。
しかし。
「……世界はいまだに二つにわかれているままだぞ!?
そんな中で大樹を発芽させたら、それこそどうなるかわからんっ!」
それこそ、下手をすればすべてが滅ぶ。
コア・システムから示されたもう一つの可能性。
「世界を一つに戻すのは大樹が芽吹いてからでも問題はない。
すでにセンチュリオンたちが目覚めているとわかった以上。猶予はない。
マーテル復活の目が完全に失われればミトスのやつも目を覚ますだろう。
あいつは、あれでもいまだに…いや、これは関係ないか」
おそらく、ミトスの心の中ではまだ確実にラタトスクと友達になる。
その言葉をたがえてはいない。
そうユアンは確信している。
だからこそ。
姉の復活が二度と無理なのだとわかれば、かつての約束通りに行動をおこしてほしい。
これ以上、かの精霊にヒトに絶望させてほしくはない。
ミトスにすら失望してしまえば本気でかの精霊は地上の浄化を始めるであろう。
すべてを無にし、再び再生…創世をするために。
「お前もオリジンの解放には同意してくれるのだろう?
わざわざエターナルリングの材料まですべてそろえておきながら。
たしかに、われらではオリジンは契約をしてくれぬであろうが、な」
精霊にも心がある。
ゆえに閉じ込め封印するという方法をとった自分たちには二度と力をかしてくれないだろう。
たしかにクラトスにかつていわれたように、その可能性はなくはない。
だが、あのロイドたちならば?
クラトスがその力をロイドに託そうとしているように。
たしかに彼らならばありえる、であろう。
あのヴォルトですらかれらとというか、しいなと新たに契約を交わしているのだから。
「たしかに。が、世界を二つにわけたままでの種子の発芽は危険すぎる!
へたをすれば二つの世界を巻き込んで世界ごと消滅しかねないぞ!」
しかも救いの塔を通じそれは彗星にもかかわってくる。
…コア・システムが、メインコンピューターがはじき出した最悪の可能性。
陰陽の関係がなくなっている世界において、位相がずれているままでの発芽。
その危険性。
「とにかく!邪魔はさせんぞ!クラトス!」
どうにか説得で納得してほしいところたが。
だがしかし、時間かおしい。
このまま、ここにてユアンと言い合っている間にも彼らは契約を済ませてしまうだろう。
ならば、転送陣をたよりにせずに一度外にでて彼らのもとにいくべきか。
しばし、無言によるにらみ合いが、クラトス、そしてユアンの間にて続いてゆく――
pixv投稿日:2014年10月26日某日(Hp編集:2018年5月6日(日)開始
Home TOP BACK NEXT
##################################################
あとがきもどき:
ゼロスの死亡シーン、あれはいつやっても泣けてしまう・・
だからこそ、クラトスルートにできないんですよねぇ…シンフォニア……
まあ、ラタ騎士でゼロスがでてくるので死亡ルートは正史、ではないんでしょうが……
もしくはアレをやって治癒術でたすかった、というのもありえる…のかなぁ?
いや、それはありえないか汗
みずほの民が使えてたらともかく…ねぇ……
テネブラエの力作、闇のチョッキは自分的にもお気に入りv