まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

pivixさんに投稿していた話の区切りとは変えてあります。容量的に……
今回は、主にほとんど、ルインと牧場回、かな?

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重なり合う協奏曲 ~ユニコーンとエクスフィア~

ユウマシ湖。
鬱蒼としげる森と緑にかこまれた静かな湖。
この地は冬虫夏草の生息地としても有名であるらしい。
出発する、という話しをどこからききつけたのか、
ならば、せっかくだからこれをお使いください、と差しだされたは、この地にやってきていた飛竜達。
エミルの姿を認識しことごとく飛竜達が頭を下げた事にエミルは思わず内心あわててしまったが。
どうやら、リフィル達は自分達を乗せるために頭をさげた、と認識してしまったらしくほっとする。
聞けば何でもハイマからこの地にと飛竜観光を利用してきたらしいが、
どうせこのままハイマに戻すのならば、その前に神子一行に使ってもらえば、という話しになったらしい。
本日の夜が祭り、ということもあり人々がだんだんアスカードにやってきている。
あまり混雑し、おおごとになる前に出発したほうがいいのでは。
というクラトスの意見のもと、挨拶もそこそこに飛竜達にと飛び乗ったのはつい先刻。
湖にとつづく森を抜け、たどり着いた先の湖の湖面に、優美な姿が映し出されているのがみてとれる。
「あれをみろ!」
「綺麗……」
めざとくそれにきづいたロイドが思わず叫び、
コレットはその姿をみて、ほうっとため息まじりにつぶやいているのがみてとれる。
あれは。
なぜにグラスがこんなところに?
たしか、かつてミトス達というかマーテルになついていたかのユニコーン。
ユアンを手ひどく嫌っていたのも記憶にあたらしい。
そのユニコーンのグラスがどうしてこんな所にいるのか理解不能。
『グラキエス、あれはどういうことなのかわかるか?』
『さあ?』
影の中に待機しているグラキエスにといかけると、グラキエスもどうやら判らない模様。
湖の湖底にゆらゆらと、純白の角を生やした馬…すなちわ、ユニコーンがみてとれる。
「ユニコーンだ、ユニコーンだよね。姉さん!」
「ええ。でもどうしてあんなところに……」
しばし、ユウマシ湖のほとりにたち、ユニコーンのグラスのほうをみているリフィル達。
ジーニアスの言葉に、リフィルが戸惑い気味に声を発する。
「まるで水の牢だな。これでは手がだせない。
  問題はあの水の牢の中のユニコーンにどうやって接触するか、だな。このままでは到底むりだろう」
見たところ強制というか何らかの形で眠らされているらしい。
何かのきっかけで覚醒させることはできそうではあるが。
まあ、今この場で下手に目覚めてこちらに気づかれても面倒かもしれないが。
今の時点では気配を再び隠しているがゆえに気づかれることはない、と思いたい。
もしも目覚めた時点で、何をなさっているのですか?ラタトスク様。
とかいきなり彼らにもわかる言葉でいわれでもしたら洒落にならない。
「あんな湖の奥底になら閉じ込められてるってこと?」
クラトスの言葉にジーニアスが反応し、
「じゃあ、あいにいくことができないんですか?」
コレットもユニコーンを心配してなのであろう、少しばかり声をふるわせつついっている。
「おどろいた!本当にこっちじゃあ、まだユニコーンは生き残ってたのか!」
その姿を認識し叫んでいるしいな。
どうやら無意識に思ったことをそのまま口にしてしまったらしい。
そういえば、しいなはたしかまだ、テセアラからきた、とロイド達にはいっていないはず。
ならば、こっちとかいかにも怪しいような単語をいえば、何かあります。
といっているようなものだ、と当人は気づいているのかいないのか。
「?」
「こっち?」
あんの上、コレットが首をかしげ、ロイドもまた首をかしげつつしいなにと問いかける。
「え?あ、ああ。何でもないよ」
何でもない、という言葉をうのみにしたらしく、そのまましいなの言葉をあまり深く考えることもなく、
「ジーニアスの魔術でどうにかできないのか?」
横にいるジーニアスにといかけているロイドであるが。
「無茶いわないでよ!精霊の力でもかりられれば何とかなるだろうけど。僕は召喚士じゃないし」
すかさずそんなロイドの提案にジーニアスが反論する。
「…精霊……」
その言葉にしいなが一瞬、顔を曇らせたことに気付いたのは、この場ではクラトスと、そしてリフィルのみ。
そういえば、かつてしいなはヴォルトとの契約に失敗したとか何とかいっていたような気がする。
だとすれば、訪れたときにいっていた資格をもつ言葉も通じなかった資格だけはもっていた子供。
というのはおそらくしいなのこと、なのだろう。
訪ねてきていたものの中に瘴気を纏いし存在がいたがゆえに、
そのまま問答無用で一応忠告をしたのちに攻撃をした、とはいっていたが。
たしかに契約の資格はもっている。
それは古の血の盟約による資格。
まだヒトが精霊達と心通わせていたころに交わした盟約のその血筋。
今ではなぜかエルフの血をひかなければ術が使えないとか変な認識がされているっぽいが。
まあそれは眠りにつくより前。
というか天地戦争以後なぜかそのような認識にたしか地上ではなっていたはず。
真実はまったく違う、というのに。
ただ、その心をヒトが忘れ去ってしまっただけのこと。
あのときそういえば、ヴォルトの神殿に捉えられていた人の精神体の人物もまた、
たしかみずほの里の者だとか何とかいっていたような気がするが。
もしかしてしいなの関係者であったのかもしれない、とふと思う。
まあ、おそらくは今ごろ肉体が無事ならば肉体に融合し目覚めているであろう。
ウェントスも起こしたことにより、これでセンチュリオン達全員は目覚めたといってよい。
近いうちに全員を招集し、あらためてかの扉の封印を強化しておく必要性もある。
まあそれは夜にでもこっそりと抜け出して移動すればさほど問題はないであろう。
エミルがそんな思いを抱いている最中、
「召喚術は失われて久しいのよ。とても無理だわ」
リフィルが頭をふりつつそういうが、しいなはぎゅっと手をにぎりしめるのみ。
どうやら自分にその資格がある、ということはまだいうつもりはないらしい。
飛竜達はこの地におりたち、気をつけてもどるように、とすでに解放している。
もっともなぜか飛竜達はしぶっていたが。
グラキエスやレティスが自分達がいるから、といえば
なぜか安心して飛び立っていったのも記憶にあたらしい。
なぜにそこまで心配されている要素があるのか、ということそのものが、
ラタトスクからしてみればあいかわらず理解不能。
特にセンチュリオン達などは自分がこうして人の姿で地上にでることなど、
今に始まったことではない、と知っているであろうに。


ユウマシ湖のある森と、ルインの街はさほど離れてはいない。
といっても小さな森二つ分は離れているのだが。
急いでいけば、何ごともなければ日が暮れるまでにはルインにとたどり着けるほどの距離。
「しかし、なんか変じゃないかい?」
ぽつり、としいなが休憩がてらに少しやすんでいると何やらいってくる。
「何がだ?」
「何で魔物がまったく襲ってこないのさ?」
大概、道をあるいていれば野生の魔物達が襲ってくるであろうに。
それはテセアラにおいてもいえていたこと。
そんなしいなの言葉をうけ、無言でエミルをおもわずみているリフィルの姿。
「?あの?リフィルさん?何か?」
食事の手をとめじっとみてくるリフィルにたいし、思わず首をかしげつつも問いかける。
今現在、魔物達はセンチュリオン達の命で狂ったマナの調整に忙しい。
ゆえに人にかまっている暇はないがゆえに襲ったりしていない、というだけのこと。
テセアラ側の過剰にありしマナとこちら側の薄いマナ。
自らもこっそりマナをセンチュリオン達に供給しては、
必要最低限の安定度にまでもっていこうとしている今現在。
センチュリオン達とは基本的に繋がっているがゆえ、意識するだけで彼らにその属性のマナを与えることは可能。
こうして旅をしつつも、周囲にみちている負の力を取り込みマナに変換しているがゆえ、
ラタトスクの力そのものははっきりいって使用していないといってもよい。
ゆえにリフィル達にもそのことはいまだに気取られてすらいない。
「いえ、何でもないわ。とにかく、まずはルインにいってそれからマナの守護塔にいきましょう。
  おそらくこの調子だと夕方近くにルインにつくはずだから。ルインで休憩したのちに、
  それからマナの守護塔にいきましょう。ボルトマンの書はたしかどこにしまったのか忘れた。
  とかいうほどですもの。きっと大量の本の中から探すことになるでしょうしね」
そろそろ昼もちかい、ということなので、川の近くに休憩所をもうけ、そこにて昼食と休憩をかねて休んでいる今現在。
「そういえば、そうだな。ま、いいんじゃないか?ここさいきん、魔物達の姿すくないし」
それですましているロイド。
と。
「?コレット。どうした?もうごちそうさまか?」
ふと、コレットの食事をする手がとまっているのにきづき、首をかしげてそのままといかける。
「え?あ、ち、ちがうの。ちょっと量がおおいかなぁって……」
そんなロイドの言葉にあわてて否定して手にしているスープのはいった木の皿をみて、何やらいっているコレットであるが。
「そうか?いつもより少ないくらいだぜ?」
いつもは昼でも数品あるのだが、本日はたったの二品。
もっともエミルがつくる様々な料理に慣れだしているからそう感じているのかもしれないが。
「あ。大丈夫。ちゃんと全部食べるから」
いいつつ、そのままスプーンを口にと運ぶ。
そんなコレットに対し、
「今日のお昼は僕がつくったんだけど、味つけ、失敗してた?」
心配そうにいっているジーニアス。
姉が手伝うといっていたのを何とかとどめ置いたはずだが、
まさか姉がいらないものをいれたのでは、という不安がぬぐいきれない。
それゆえのジーニアスの台詞。
恐る恐るジーニアスもまたスープに口をつけてみるが、塩が少し少ないかもしれないが、
味付けそのものはひどくない、とはおもう。
とはいえ、エミルがつくっていたこれまでの料理と比べれば格段にまだまだ腕がたりない、
というしかない味付けでしかないが。
「ううん。ちがうよ。おいしいよ。ジーニアス」
ジーニアスの言葉にあわてて否定しているコレット。
やはり口に含めば味がしない。
なぜ、という思いが先にくる。
エミルがつくったものはたしかに味がしていたのに、ジーニアスのつくったものはどうして。
それは宿における食事でもいえた。
まったくもって味がしなかった。
だけど、エミルがつくったものの味はしっかりと感じられ、しかも力がついてくるような、そんな感覚すらにおちいった。
それが何を意味しているのか、コレットにはわからない。
トリエット遺跡にて精霊を解放したのち、味がまったく感じられなくなっていた。
が、エミルが料理するようになり、それらはきのせいだったんだ、とあるいみ自分をごまかしていた、というのに。
「本当は僕がつくりたかったんだけどね~」
「いつもエミルにばかり、というわけにはいかないよ」
それでなくても、ルインからハイマにいくまでの間、
さらにはハイマからアスカードにいくまでエミルは率先して料理を行っていた。
彼らの分だけでなく旅の同行者となった馬車の乗客すべてにおける料理を作っていたのは事実。
エミルは好きでやっているから、というが、いつもつくってもらってばかりでは気がひける。
というより、ジーニアスからしてみれば、エミルに少しでも料理の腕でも近づきたい、という思いがある。
だが、料理はつくらなければその腕は向上しない。
しかも、聞けばエミルはあの料理の中でロイドが絶対に食べようとしなかったトマトを利用していたものもあるという。
それをきいたときには、なぜか食後に呑んでいた飲み物をロイド、そしてクラトスがおもいっきりふきだし、
もののみごとに二人して、
『「あんな血の色をした野菜とも果物ともつかないもの!
  第一トマトはあの青臭さと口の中にいれた瞬間のふにゃっとした妙な感触が不快を催すだろうが!
  そんなものをつかっていたのか!?」』
異口同音で同じことを言い放った。
それをきき、リフィルがにこやかな笑みをうかべ、
「まさかクラトスまでトマトが苦手。とは知らなかったわ」
などといい、ロイドなどは、
「俺、あんたと今よりも仲良くなれるような気がする」
などと目をきらきらさせていっていた。
それはつい先日のこと。
そういえば、あの旅の最中もトマトを嫌っていたクラトスに、
面白がってミトスとマーテルがよくトマト料理をクラトスに食べさそうとしていたような気がする。
滅多に狼狽しないクラトスがうろたえる姿が新鮮だとか何とかいっていたような。
なぜか傍にいた分身たる蝶の自分にただの蝶とわかっていても、トマトジュースを差し出してきたのは鮮明におぼえている。
「とりあえず。じゃあ、今晩はルインで休む、ということですか?」
「ええ。そうよ。書物を探すにしてもすぐにみつかるとは限らないからね。ルインに拠点をおいて探すか、
  それかマナの守護塔で数日過ごすことをも覚悟したほうがいいかもしれないわ」
どこまで書物があるのかわからないが、しかし古代大戦最中からの資料がある、という。
その膨大なる書物の中からどこにかたづけられているのかわからない一冊の本を探し出す。
おそらくは、付箋とか案内版などは一切つくっていないであろう。
つまりは、片づけられている大量の本の中から探し出さなければいけない、ということに他ならない。
エミルの言葉にうなづきつつも、いってくるリフィル。
「そういえば、この前きたときはこのあたりも闇に包まれてたんだったよな」
「真っ暗だったから何ともいえないけど。たぶんそうだね」
ロイドがふとおもいついたようにいえば、ジーニアスもそれにたいし同意を示す。
『――ラタトスク様』
そんな会話をしている最中、ふと心につたわってくる声。
「エミル?」
「あ。えっと。念のために周囲をみまわってくるね」
「あ。なら、俺も」
いいつつ、立ち上がるエミルをみてロイドも立ち上がろうとするが、
「大丈夫だよ。ちょっと周囲を散歩してくるだけだから」
そんなロイドにかるく笑みを浮かべ、そのままその場をあとにする。
そんなエミルの後ろ姿をみおくりつつ、
「どうしたのかな?エミル?」
「もう、ロイドはデリカシーないなー。離れたいといえば一つしかないでしょ?」
そんなジーニアスの言葉に、
「なんだよ。なら、俺だってつれ…」
ぼかっ。
「食事中に下品なことをいわないの!まったく、あなたは!」
「いて~…」
「ロイド、せめて花畑とかいいなよね」
リフィルがロイドの頭をはたき、ジーニアスがあきれたようにいい、
「…ああ。そういうことかい。なるほどね」
たしかにそれは少し離れなければどうにもならないであろう。
納得がいく理由があるがゆえにしいなもその予測に対し疑念を抱かない。
それよりもしいなにとって気になるのは、あれからずっとコリンが眠りっぱなし。
ということ。
それほどまでにマナがすくなくなっているのか、コリンが存在するにはマナが必要。
しいなにはそのマナの濃さなどわからない。
だからこそ不安になってしまう。
よもや、マナが満たされてゆくがゆえに眠りについている、などと想像できるはずもない。

「…なんか、勝手に勘違いしてるようだが…まあいいか」
そもそも今のエミルにはヒトがいうところの生理現象などあるはずもない。
そのような機能をこの姿においては設定すらしていない。
というかする必要がないといってよい。
ひとまず彼らの姿が完全に見えなくなる位置にまで移動し、
「どうした?ウェントス」
声をかけてきたセンチュリオンにと問いただす。
刹那、周囲の大気が一つの形をなしてゆく。
今はまだウェントスは配下の魔物達と完全に絆を取り戻していないはず、だが。
「この先の施設のことで。テネブラエとルーメンの協力をもとめてもいいですか?
  今の私の力ですと、かの地の負と瘴気にまけそうで……」
「・・・・・・・・あ~」
かの施設では人間はおろか、魔物達にも実験を繰り返している模様。
たしかにまだ完全に縁を取り戻していないウェントスには、あの地での契約の結び直しは難しいかもしれない。
下手をすればまたコアに逆戻り、ということもありえる。
「…まず、他の場所のものからやっておけ」
どちらにしてもあの施設はみのがせない。
そもそもあの地下にて魔血玉デモンブラッドの製造がなされていればなおさらに。
ちょうど今現在はイグニス達が火山活動を活性化させているゆえに、
かの地に囚われているものを全て解放したのちにそれを利用するのも一つの手。
おそらくは手近なところから、とおもったのだろうが。
そもそも他のセンチュリオン達はあの地はある程度力が満ちてから縁を強化しにいっていたはず。
「ネオ・デリスのほうはすでにかの地の魔物は我が把握しているから問題はない」
彗星そのものを通じ、かの地の魔物達とは全て自らが縁を強化した。
センチュリオン達全員が覚醒すれば、かの地の装置もおのずと停止する。
そのときに魔物達に何かされても面倒であったがゆえに、自ら強化していたのだが。
事実、みればいまだに起動できなくなったかの装置にかわり、
魔物達を使いどうにかできないか、という動きがあちらにてみてとれる。
あとは、魔物達の統制がとれなくなったというので混乱している部分もあるようだが。
ざっと視るかぎり、それらの報告はミトスのほうにまでまだあがってないらしい。
そういえば、そろそろルーメンの力も満ちるはず。
ならば、ルナとの繋ぎもまた楽になるはず、だが。
テネブラエとルーメンの力さえ満ちれば、ルナも自力であの場所からでることができるはず。
すでにルーメンがアスカと繋ぎをとっているがゆえにさほど問題はない。
「とりあえず、自分ができるとおもったところから初めてゆけ。が、またコアにもどされるようなことはするなよ?
  その前に我をよべ。さすればお前達を強制的に我の元に移動させることもできるからな」
「わかりました」
「ならば、ゆけ」
その言葉とともに、その姿は再び風にとかききえる。
まるでつむじ風が吹き抜けるかのごとくに、ひゅるっという音とともに。
「あいつは変なところでまじめというか融通がきかないのが何ともいえないな」
どうもあの性格はかわりそうがないというか、何というべきか。
どうも変なところで融通がきかないことが多々とある。
他者に関してのことならばかなり鋭い意見などもだしたり行動したりする、というのに。
「まあ、ウェントスですしね」
その思いが伝わったのか、姿を表してまでしみじみうなづいているグラキエスの姿。
「グラキエス。お前はひとまずかの施設を偵察してこい」
「私が、ですか?」
「イグニス達にあの場所を壊滅させる。その前にあの地にとらわれし微精霊達などの対処が必要だからな。
  …何より、我が僕たる魔物達を実験道具扱いしているものたちを許しておくことはできぬ」
よりによって魔物達からマナを取り出す実験があの地の地下で行われている模様。
本当に、これだからヒトは、とおもってしまう。
「ルーメンとともに出向いていけばさほど問題もなくゆけるだろう。
  …いっておくが、さきばしって施設全体をこおりづけにはするでないぞ?」
手っとり早くその方法がとれるがゆえの忠告。
「しかし、それではラタトスク様の護衛が…」
「これから我らはルインの街にいき、それからマナの守護塔とよばれし場所にいくだけだぞ?
  どこに護衛がいるというのだ?というか護衛はいらない、と幾度いえば」
「我らとてラタトスク様を信じてはいますが。裏切っているクラトスがともにいる以上。
  何をしでかしてくるか、それを心配しているのです」
「まあ、あのクラトスにはそこまでの根性はないとみたぞ?」
というか、いまだに実の息子に父親だ、とすら伝えることができていないようのに、
自分にたいし、決定的な行動をしてくる、とは到底思えない。
「まあ、たしかに、みるかぎりあのクラトスがヘタレになってるようにはみえましたが」
なにげにさらり、といっているグラキエス。
「とにかく、ゆけ。我が視て確認するのと実際にみたお前達の意見もききたいがゆえにな」
「は。判りました。レティス。あとはお願いいたしますね」
「おまかせを」
その言葉とともに、ふいっとグラキエスの姿がかききえる。
と。
「お~い、エミル~?そろそろ出発するってさ~、どこだ~?」
ロイドの声が木々の向こうよりきこえてくる。
「あ、うん。すぐにもどるよ」
とりあえずは、グラキエスの報告次第では、かの地にとらわれし魔物達を解放することを優先すべきであろう。
扉の封印強化は、まあ全ての縁の強化復活がすんでからでも遅くはない、のだから。



希望の街、ルイン。
別名、水の都ルイン。
先日訪れたときは、闇に覆われており、人々の姿もまばら、であったのだが。
「このあたりが無難か?」
町にはいれば何となく、また人々に囲まれるような予感がし、
あえてロイド達が街にいく、というがエミルのみは別行動を提案した。
ちなみに理由として、何となく町にいったらまたレシピを教えてほしいとかいわれ、
身動きができなくなりそうな気がするから。
といえばリフィル達ももののみごとに納得した。
しいなは意味がわからないらしく、首をかしげていはしたが。
まあ、守護塔の前のあたりでまっているといった手前、このあたりでまつのが無難であろう。
今、エミルがいるのは、守護塔につづく道から少しはなれた場所。
正確にいえば、ルーメンの祭壇にとつづく入口のある巨大な石扉のある前。
もっとも、その石は紋様が刻まれているだけでぱっとみため、
このあたりの山肌にある岩の一つとさほど変わり映えはしないのだが。
よくよくみなければ、石に紋様が刻まれていることすらわからないほどに、その石の表面にはコケがびっしりとはえている。
扉の封印を解除すれば本来の石の力がよみがえり、
それらのコケも全てなくすことは可能なれど、今はその必要性を感じない。
「それより、エミル様、どうなさるんですか~?」
グラキエスに偵察を命じた直後になぜかアクアが戻ってきており、
今はクラトスも傍にいないがゆえに姿をあらわしている今現在。
海などの様子は魔物達に調べるように命を出したらしく、あと少しすれば全貌が正確につかめる、とのことらしい。
位相がずれている海を元に戻したときに何らかの不都合がおこらないようにするために、
念のために今現在の海の様子を調べるように確かに命じてはいたが。
「とりあえず、クラトス達がくる前に、おそらく彼らは今晩はあの町でとまるだろうしな」
リフィルがかなりコレットを気にかけていたので、おそらく野宿よりは宿で休む、ということを選ぶであろう。
それでも夕刻までにこちらをきにかけてやってくる可能性もなくはないが。
コレット達だけを宿に残してやってくる、ということもまずないであろうと予測ができる。
「今回は、アクア。お前にも動いてもらうからな」
「まかせてください!というかいつでもおよびください!
  では、今晩にでもあの施設の地下研究所を破壊するのですか?」
首をかしげつつもといかけてくるアクアの瞳はきらきらと輝いている。
別にそこまで喜ぶようなことでもない、とおもうのだが。
「そうだな。かの地にとらわれし、魔物達を解き放つ。ついでにかの地で利用されている微精霊達もな」
あのままだと微精霊達すら瘴気にて狂わされる可能性がある。
それでなくても負の感情で無理やりに穢されているところに瘴気が加えられてしまえば。
それこそ存在そのものが変質しまう可能性すら。
浄化ではなく、下手をすれば昇華させなければ彼らを助けることができなくなってしまいかねない。
「ラタトスク様」
「もどったか」
そんな会話をしている最中、グラキエスがどうやら視察から戻ってきた、らしい。
「それで?」
「はい……」
ラタトスクの促しにより、グラキエスが視察してきたかの施設の内容が語られる。
「なるほど、な。動けるやつは全員よびよせろ。…少しお灸をすえる必要もありそうだしな」
かの地に魔族の気配がした、らしい。
しかもその波動はリビングアーマーのそれであったとのこと。
かの本体が閉じ込められている書物はまだあの里にある。
だとすればあの本に接触したものが種を植え付けられて媒体となっている可能性は遥かに高い。
仮契約までしているかまではどうやらつかめなかったようではあるが。
しかしあくまでも残滓だけで、その波動をもつものはかの地にはいない、らしい。
「テネブラエ達はいかがなさいますか?」
「ソルムとテネブラエはまだあの施設に潜入させているからな。
  …残りのやつだけでいいだろう。とりあえず、ここはこんなものか?」
とりあえず、野営をしていたような痕跡だけはつくりだしておく。
万が一、火もおこさなかったのか、とここにきたときにいわれないがための工夫。
「ゆくか」
そういい、すっと目をとじたエミルの姿は、またたくまに光とともにかききえる。
後にはきらきらとした光が周囲に降り注ぐのみ。



マナの守護塔。
「エミルも宿にとまればよかったのに」
マナの守護塔の近くでまってるよ、の言葉のままに、夜があけていってみれば、
どうやらマナの守護塔近くにて野宿をした模様。
すでに野営の後始末はきちんとされているらしく、近づいたコレット達を出迎えたは塔の扉の前。
「そうだよ。エミルがいないってわかって町のひと大変だったんだからね。
  またエミルの手料理をもらえるかも、と期待してた人がかなりいてね」
何でも一行が街にはいると、町の人々は彼らを覚えていたらしい。
そして、あの料理上手な子は?と開口一番聞かれた、とのこと。
そもそもそういってきたであろう町の人々のかつての反応。
それらを思い出しあの町の人々に対し、多少の不信感をもったといってもよい。
あまりあの町にいれば、どうしてもかつてのときの街の人々の態度と今の態度。
それの落差によって今以上に人間に対し幻滅してしまう自覚がある。
それはもうおもいっきりに。
だからあえてあの町にはよらなかった、のだが。
もっとも彼らからしてみれば、エミルを冷遇し差別し、さらには無視し虐待していたのは、
この時よりも二年後の彼ら、なので今の彼らはそんなことはしていない。
そうわかっていても、半年の間、そのような待遇であの町で生活していたゆえに、その思いはどうしても捨て切れない。
「あまり僕は人ごみは好きではないからね」
完全に真実でもないが、嘘でもないことを理由にあげてジーニアスの言葉にかえしておく。
「そういえばさ。しいなが…」
「わ~!ってあんた、何このエミルって子にいおうとしてるんだい!」
「別にいいじゃないか。お前が夕方、子供達と一緒に遊んでたっていっても…」
「あのねぇ!それは今は関係ないだろうがっ!」
ロイドがいいかけ、そんなロイドの台詞をしいながさえぎる。
「えっと?」
「しいな、町の子供達に人気なんだよ~?」
あれ?
いつのまに呼び捨てに?
どうやら夜の間に何らかの会話があったのか、
いつのまにかコレットのしいなの呼び方が、さんづけから普通の呼び方にとかわっている。
どうやら多少は打ち解けた、というところなのだろうか。
「とりあえず、中にはいらない?」
ここでいつまで話していても仕方がない。
「そうだな。ゆくぞ!」
「学術図書館や王立図書館よりも本が多いっていうオチじゃないだろうね」
「「??」」
リフィルがいい、かちゃり、と鍵穴にと鍵をつきさし、扉をひらく。
扉に手をかけたときにしいながぽつり、といい、
その言葉の意味がわからずに、ロイドとジーニアスが首をかしげているのがみてとれるが。
ぎぃ。
閉ざされていたマナの守護塔。
その扉が開かれる。


「うわ~!本がいっぱいあるね!」
扉をくぐれば、そこには壁全体に本棚が設置してあり、
びっしりと本が埋め尽くされているのがみてとれる。
円陣の部屋のところせましと本棚はあり、さらには本棚とは別に机の上にもかなりの本が無造作におかれている。
その部屋の中をみわたし、コレットが感激したようにいってくる。
「おお~!私の研究意欲をそそる本がこんなにたくさん!」
興奮気味にリフィルが語り、すばやく近くの本棚にちかづき、パラパラと本をめくり始める。
「うげ。この中からさがすのかよ……」
「これってみつかるの?」
心底うんざりしたようなロイドの台詞に、疲れたようなジーニアスの台詞。
「ええい、根性だしなよ!あたしは探すよ。でなきゃ、ピエトロが助けられないもの」
いってしいなもまた近くの本棚にとよってゆく。
『――ラタトスク様』
『どうした?』
昨夜のこともあり、かの地の監視はアクアにと任せていたのだが。
昨夜のうちに牧場内部にと潜入し、地下施設はことごとく壊滅させた。
正確にいえば消滅させた、といってよい。
地上の施設はかなりのヒトが捉えられていたがゆえに、まだ手をつけてはいないにしろ。
『あの場のものたちは、ルインにむかうようですが、いかがなさいますか?』
『――ルインに?』
なぜにルインに向かおうとしているのか。
『何でもいなくなった魔物のかわりをルインの街の人々でおぎなうとかいっているようですが』
その言葉をきき、本当にどこまでも愚かでしかない、とつくづくおもってしまう。
『直属の配下の魔物を呼寄せてもかまわん。…愚かなものには制裁を』
『はい』
扉からはいり、すぐに壁にもたれかけ、目をつむって指示をだしているエミルの様子は、
あるいみでは本の多さにめまいがした、ともとれなくはない。
「みろ。エミルだってあまりの本の多さにあきれてるじゃないか」
ロイドがエミルをみつつそんなことをいってくる。
実際はそんなことはまったくないのだが。
どうやらロイドはそのような勘違いをしているらしい。
「エミル、大丈夫?」
コレットに声をかけられ、ゆっくりと目をひらく。
「あ。うん。何でもないよ。この中から本を探すんだよね?」
「うん。あ、私、奥のほうの本棚からさがしてみるね。……きゃっ」
こけっ。
コレットがリフィル達が近くの本棚を探すのならば、ならば奥のほうから、
とおもったのか、そのまままっすぐに奥のほうにいこうとし、
部屋の中心にある何かにつまづきそのままその場にまえのめりにとたおりこむ。
ブゥンッ。
それとともに何かが光る音。
「って、ああ!?コレット、それ!?」
「ふえ?」
ちょうど目の前にあった何かの台座らしきものに手をつくかたちで何とか床には倒れこまなかったが、
何かの音と、そしてジーニアスの驚いたような声にきょとん、とした声をだす。
そんなコレットに対し、
「それ、コレットが手をつけたそれ、神託の石板じゃないの!?」
「え?あれ?…ほんとうだ」
ジーニアスにいわれて体制をととのえ改めてみてみれば、たしかにそれは神託の石板。
というかコレットの家の紋様がしっかりと刻まれている。
「おお!そうか、ここも精霊の封印だったのだな!?」
その言葉をきき、すばやく本を片手にもったまま、コレットの横にかけよっているリフィル。
「…え?」
ぴたり、とその言葉をきいて静止しているしいな。
「コレット。その石板に手を」
「はい。リフィル先生」
リフィルにいわれ、あらためてコレットがその石板に手をのすが、何の変化もあらわれない。
たしかに部屋の奥には二か所ほど扉にしきものがある、というのに。
向かって正面側と右側に一つづつ扉らしきものはみてとれる。
「「「・・・・・・・・・」」」
コレットが手をあてても何の変化もないことから、一瞬顔をみあわせている、
ロイド、ジーニアス、コレットの三人。
「扉、ひらかないね」
「いや、あの魔方陣のようなものをみろ」
いわれてみれば、部屋に不釣り合いな円陣が、石板の前にと設置されている。
「すばらしい!神託の石板によってこの装置が眠りから覚めたのだ」
クラトスの言葉に、その円陣に近づいていき、リフィルが周囲を調べて何やらいっているが。
ちらり、としいなをみれば苦痛に満ちた表情で何かを思案しているらしい。
「じゃあ、あの装置をどうにかすればいいんだね」
「そのようだな」
ジーニアスの台詞にクラトスがうなづき、その間もリフィルは装置をせわしなく調べている。
「しいなさん?」
「あ、あたしは…っ」
ここが封印の場だとすれば、これ以上、封印を解放させるわけにはいかない。
封印が一つ解放されるたびに、しいなの世界はマナが衰退してしまう。
それは、世界が滅びるのと同意語。
マナにあふれ、マナにたよりきった人々はおそらくそれにたえられない。
エミルが声をかけると、しいなはぎりっと歯を食いしばり、
そしてぎゅっとその手をつよく自ら握りしめる。
「ここがあやしいな」
そんな最中も、リフィルは淡々と装置を調べ、そして三点に不自然なほどにある青い円陣にと目をとめる。
「ロイド。その青い陣の上にのってみろ」
「え?あ、ああ」
「ジーニアスはそっちの上へ」
リフィルにいわれ、意味がわからないままに、ロイドとジーニアスが指定された円の上にたつ。
そして、リフィルは残りのもう一つの青い円陣の上へ。
「「おお~!」」
「わぁ~!」
三人が円陣の上にのるのと同時、右側の扉が左右にゆっくりとガガガ、という音を立てて開かれる。
扉が開かれたことをうけ、ロイド、ジーニアス、コレットの声が同時に重なる。
「すげ~、あいたぜ。先生!」
いってロイドが円陣の上から離れると、またまた音をたててしまってゆく扉の姿。
「へ?あれ?」
今、あいたとおもったのに、なんでまたしまるんだ?
そんなことをおもいつつ、ロイドが首をかしげるが、
「どうやら三人がその円の中にいないと動かないようだな」
リフィルがすばやくその結論にいたり、しばし思案にふけているもよう。
「ということは、三人がここに残らなければならないということか。危険だがやむをえんな」
クラトスのいい分は、三人が残らなければ扉が閉まってしまう。
ということを考えればたしかに無難、なのであろうが。
「たしかに。帰りのことを考えれば扉がしまっていてはこまるな」
リフィルがそういうのと同時。
どうやら決意が固まった、らしい。
「というか、させないよ!」
だっと前にでて、その今開かれた扉の前にとたちふさがるしいなの姿。
「どうしたの?しいな?」
そんなしいなに首をかしげてといかけているコレット。
「あんたたちに封印解放はさせない!」
そういえば、しいなはコレットの命を狙っていたはず。
今はピエトロを治すまでは共同戦線をはっていたはず、なのだが。
ジーニアスとリフィルが思わずそんなことをおもいつつ顔をみあわせるのと同時、
「またそれか。というか何だって邪魔するんだよ。お前。ディザイアンの仲間ってわけでもなさそうなのにさ」
やれやれ、といったように手をかるくあげてため息まじりにいっているロイド。
「う、うるさい!あんたたちに何がわかるっていうのさ!あんたたちが世界を再生するとき、あたしの国はほろびるんだ!
  そんなの、認められるはずないだろ!だから、あたしはあんたたちを阻止するっ!」
しいなからしてみれば、それは認められないこと。
この任務がたとえ自分の意にそぐわないものだ、としても、である。
「まって。どういうこと?しいな?私が世界を再生したらみんな助かるんでしょう?」
いきなり滅びる、といわれ驚き、コレットがその言葉の真意を確かめるべくといかける。
コレットからしてみれば、自分のせいで誰かが犠牲になる。
それは認められることではない。
犠牲になるのは自分だけでいい、そのように育てられおもっているがゆえなおさらといえる。
「っ。そりゃ、たすかるさ。この世界はね!」
いいつつ、懐から紙のようなものをとりだすしいな。
「どういうこと?」
その言葉にリフィルも思うところがあったのであろう。
脳裏に、幼きころの記憶がふとよぎる。
――ねえ、お母さん、この世界の名は何ていうの?
――それはね…
あれは、たしか……
「何いってんだよ。世界にこの世界も何もないだろうが」
――うわ~、お月さまがシルヴァラントで、この世界は…
「…月?」
今まで忘れていた過去の記憶。
おもわずぽつりとつぶやくリフィルとは裏腹に、ロイドが何いってんだ、しいなは、というような口調でしいなにと言い放つ。
「何もしらない無知のくせに!」
しかしそのことばにかちん、ときたのであろう。
しいなが吐き捨てるようにと叫んでくる。
「む。俺はムチなんてもってないぞ!」
しいなの言葉に反論しているロイド。
「ムチかぁ。先生、ムチの扱い上手ですよね」
ムチ、という言葉をきき、何か思うところがあったのか、リフィルにいっているコレット。
「え?リフィルさんってムチも扱うの?装備してるとこみたことないけど」
ムチ、ときき、なぜかエミルが思い出すはあのアリスとかいう少女。
たしかマルタいわく、サドとか何とかいっていたが。
まさかリフィルもあの類だ、というのだろうか。
そうはみえないが。
「うん。リフィル先生、ムチのあつかい上手なんだよ~?こう、えい、こら、ばしぃって」
身ぶり手ぶりでムチをふるうさまのリフィルの様子を表現しているコレット。
「そうそう。姉さんがムチをもったらそれこそ女王様…って。ねえ。なんか話しがずれてない?」
突っ込みをいれるだけいれて、ジーニアスがいってくるが。
ザワザワザワ。
バタバタ。
ふと外のほうから数名のかなりの人数の話し声と、そして足音がきこえてくる。
それはどうやらロイド達には聞こえていないらしい。
と。
そんな会話をしている最中、クラトスがすっと横にと手をのばし、
「まて。何か外がさわがしい」
いいつつ外を険しい表情でみつけたまま、その手を剣の柄にとかける。
「あれ?…何?この足音?」
コレットもそれにきづいた、のであろう。
戸惑いの声を発してくる。
「足音?何もきこえないけど」
そういえば。
さきほど、町が襲われていると連絡があったばかりだが。
こちら側には寄せ付けないようにいっているのであのものたちではないはず、なのだが。
すっと目をとじ、そちらに意識をむけてみれば、どうやら町の人々、らしい。
「何があるかわからん。ともかく、全員、かたまっておけ。しいな。お前も今は何かをいっているときではない。
  …下手をすればディザイアン達かもしれぬ」
「わ、わかったよ」
しいなもどうやら外の異常に気付いたらしく、クラトスの意見に素直に従ってくる。
やがて、誰の耳にもわかるほどに話し声と、そして足音がきこえてきて、
ぎぃっ。
そうこうしている最中、再びマナの守護塔の扉が開かれてゆく……

警戒している最中、塔の中にはいってきたのは、どうみても町の人々。

「「何だって」」
「何ですって!?」
みおぼえのある人物…教会の祭司の姿をみて、リフィルがといかけると。
いきなりディザイアン達が街に押し入ってきた、らしい。
彼らいわく、脱走した人物を匿った制裁を、とか叫んでいたというが。
が、問題はそれだけでなくそんなディザイアン達が突如としてあらわれた魔物達といきなり戦闘を始めたとのこと。
仲間われか、と町の人々はとまどったが、
ディザイアン達が、抵抗する人々は皆殺しにしろ!といっているのを聞き及び、
せめて女子供達だけでも逃がすことにしたらしく、かといってならばどこににげるか、といえば。
候補地がここ、マナの守護塔に決定したらしい。
マナの守護塔は中から鍵さえかけてしまえば、魔科学をもちいた鍵がないかぎり内部にはいることはできない。
ディザイアン達が魔物達と戦っている間に、何とか持ち出せるだけの携帯食料などを手にし、
ここまで彼らを誘導してきた、とはルインの祭司談。
「他の人達は……」
「わかりません。しかし、逃げ遅れた人々は、おそらくは……」
「っ!」
その言葉をきき、そのまま入口にとかけだしてゆくロイド。
「まちなさい!ロイド、どこにいくつもり!」
「きまってる!町の人達をたすけにいくんだよ!」
リフィルの制止の声もむなしく、そのまま扉をあけはなち、外にかけだしてゆくロイドの姿。
そんなロイドとともにしいなもまた駆けだしていっているのがみてとれるが。
「もう!あの子は!」
「先生。私も町の人達を助けてあげたいです」
「コレット…仕方ないわね。あなたがそういうのなら。皆さんは、安全が確認されるまでここで待機していてください」
「し、しかし」
戸惑いの声をあげる町の人々。
「あ、なら僕がここにのこりますよ。いざというときの戦力は必要でしょう?」
「エミル。そうね。お願いできるかしら」
「ついでに、この人達に書物を探してもらっときますから」
「え?あ、あの?」
エミルの言葉に戸惑い気味の声をあげてくる町のもの。
「それくらいは皆さんでもできますよね?この中にあるというボルトマンの書とかいうのを探すくらいは?ね?」
にっこりと笑みをうかべるエミルの笑みはあるいみ完全に笑っていない。
うむをいわさない何かがそこにはある。
「他にも誰かのこったほうがよくない?姉さん?」
「ううん。何があるかわかんないんでしょ? 
  ここは鍵がないと中にはいれないんだったら。リフィルさんが鍵をもっている限り。
  内部から鍵を開けない限りは問題ないでしょ?」
たしかにエミルのいうとおり。
「先生…」
「は~、しかたないわね。なら、エミル、あとのことはお願いね」
すでにロイドは外に駆けだしていってしまっている。
ディザイアンをほうっておいてリフィルからしてみれば封印の解放をなしとげたいが。
しかし、コレットのほうも町のことが気がかりでそれどころではないであろう。
結局、エミルの提案に折れた形となり、その場にエミルを残し、リフィル達もまた、塔を後にし町へと向かうことに。


瓦礫に埋もれた噴水。
ところどころにみえる火の手。
「撤収!」
誰かがそう叫ぶ声がする。
「おい。大丈夫か?」
「そういうあんたたちもね」
町にもどってみれば、ちょうどディザイアン達が攻撃してきており、
なぜかディザイアン達と魔物とが戦闘していたのには驚かざるを得なかったが。
それでもまだ逃げている人々はみえており、
そんな人々にマナの守護塔のほうに逃げるようにと指示をだし、
どうにかディザイン達から町の人々を助けてはいたが。
全員あるいみで満身創痍。
ディザイアン達の姿をおいかけるようにして魔物達もまた追っていっていたが。
「ディザイアン達、魔物達をおこらせるようなことでもしたのかな?」
その光景をみてジーニアスがぽつり、とつぶやく。
「それはわからないわ。でも……」
町の惨状がディザイアンの襲撃のすごさをものがたっている。
なぜかディザイアン達が燃やした家などは魔物達が消化しては燃やしたディザイアンを攻撃していたが。
おそらく魔物達の介入がなければ、この街はもっとひどいことになっていたであろう。
それこそ、町の原型すらとどめないほどに。
「他の人達は?」
「…つれていかれたそうだよ」
しいながぎゅっと手をつよく握りしめる。
その中には昨日、しいなになついていた子供達も。
多少は壊れてしまった町のシンボルだという噴水広場。
それでも魔物達の行動がなければ、この噴水も完膚なきまでに壊されていたであろう。
水を扱う魔物達がいたがゆえに火の被害があまりなかったといってもよい。
なぜ魔物達がディザイアンを攻撃していたのか、
はたまた町の人や自分達を攻撃してこなかったのか、という疑問はあれど。
もっともなぜかクラトスには攻撃をしていたようではあるが。
ジーニアスいわく、もしかして目つきの悪さからディザイアンの仲間とおもわれたんじゃない?
そういっていたが、クラトスは否定も肯定もせずただだまりこくっていた。
「これって、改めておもうとイセリアと同じ…だよね」
どうにか完全にディザイアン達の姿がいなくなったのを確認したのち、
壊された家などの片づけをしながら、ぽつり、とジーニアスがいってくる。
「だな。もしかしたらイセリアよりひどくなっていたかもしれない」
もしも魔物達という存在がなければ、もっとひどいことになっていただろう。
なぜ魔物がディザイアンを攻撃していたのか、というのはロイド達にはわからないが。
「逃げてきたひとがいうには、ディザイアン達に連れていかれた町の人達もいるらしいね」
「くそっ」
「まちなさい。あなたはどこにいくつもりなの?」
その場をはなれようとするしいなにリフィルが険しい表情にてといかける。
「きまってるだろ!つれてかれた人々をたすけにいくんだよ!」
「よしゃ!俺もいくぜ!」
「ロイド!あなたも何をいっているの!?」
しいなにつづき、ロイドがすかさずいうのをきき、リフィルが悲鳴に近い声をはりあげる。
「あんな思いはあのときだけで十分だ!」
あのとき、自分を名指しでイセリアに攻め込んできたディザイアン達。
殺されてゆく村の人々。
焼け落ちる家。
そんな思いは、もう。
「先生。私も町の人達を助けてあげたいです」
昨日まであんなに笑っていた人々が、今ではディザイアンの恐怖におののいている。
話しをしたことのある人もおそらくは、牧場につれていかれてしまっているだろう。
「コレット……」
「今、そこで困っている人を視過ごすことなんて。私にはできません。
  でなければ、私は何のための神子なんですか?リフィル先生」
「今ははやく封印を解放するのが先、ではないのか?」
コレットの言葉に淡々とした物言いでクラトスが言い放つ。
「封印解放はいつでもできます。けど、牧場につれていかれた人達は今は一刻も争うとおもうんです。
  今ならばまだ助けられるかもしれない」
たしかにコレットのいうとおりではあるにしろ。
「最悪、コレットがマナの守護塔の封印を解放したとしても、
  ディザイアンが街の人達の命をたてに、コレットをさしだせ、とかいいかねないよね?姉さん」
「…ありえるわね」
ジーニアスのいい分はあるいみ最も。
これまで幾度もコレットの命を…契約をないがしろにしてでもおそってきた彼らならそれくらいのことはしでかしかねない。
いくら町の人々だとしても、再生の神子だとしっても。
町の人々全員の命とはかりにかければ、神子の命をさしださない、ともいいきれない。
人はだれしも我が身がかわいい、とリフィルは身をもってしっている。
「仕方ないわ。…コレットがそういうのなら。クラトスもそれでいいわね?」
「…しかたなかろう」
リフィルの問いかけにクラトスとしてはうなづくしかできない。
それに気になることもある。
どうしてディザイアン達がこの地を…ルインを襲ったのか、ということに。
ここはマナの守護塔の鍵を管理しているので大々的におそわないように、
とクルシスのほうからも指示が下っているはず、なのに。
もっともここを管理しているのがあのクヴァルなので命令違反など気にもとめていないのであろう。
そうクラトスは自身の中で結論づける。
結局のところコレットの意思もかたく、またロイドも方っておけばまちがいなく一人ででも牧場に乗り込みにいきかねない。
ならばすることはひとつ。
今のクラトスがしなければならないことは、神子コレットの安全を確保すること、なのだから。


のど元すぎれば熱さを忘れる、という諺はまさにいいえて妙というべきか。
エミルに頼まれ、というかあるいみここにいても気が気ではない。
ならば別なることをして気をまぎらわしたい、という人々の思惑もあいまって、
今現在、この塔の中の書物は避難してきた町の人々によってきちんと整理がなされはじめている。
同じく避難してきていた祭司に、何できちんと分野別に並べていないんだ、
と女性陣がいきどおり、いつのまにやら付箋やらつくりだし、ならばきちんと分野別。
しかもわかりやすく並べてゆくべきだ、という意見がまかりとおってしまったらしく、
ただいま、ほとんど総出で本をきちんと分野別に棚ごとに分別しているこの現状。
「まあ、害はないだろうけど……」
この中にいる魔物達には彼らに攻撃しないように、一応は命じた。
命じたが。
それでも相手は子供で何をしでかすかわからない、ということもあり、距離は保つように、とも命じてもいる。

やはり一番先にあきたのは子供達。
どうでもいいが、かつて自分を率先していじめていた双子の兄弟。
ジダとモルが面白がって扉が開くことを発見し、この先にすすんでいったのは少し前。
まあたしかに、この奥は仕掛け等があり、子供からしてみれば面白いかもしれないが。
まあ少しは痛い目をみなければ彼らは反省しないのかもしれない。
みるかぎり、大人しい他の子供達を無理やりにいうことを聞かせて円陣の上に立たせていたことから、
自分があの街にいくよりも前に同じようなことをあの兄弟は町でも行っていたらしい。
ジダとモルにつれられ、他にもあと二人、扉の奥に進んで行ったのをうけ、
あわてた別の大人たちが今現在彼らをおいかけて扉の先へとすすんでいっている。
祭司などは、この教会にこんな仕掛けがあったとは、などと驚きを隠しきれないようではあったが。
聞けばこれまで三人以上でこの中にはいったことがなかったので、
あの円陣にのって何がおこるかとか調べたことすらなかったらしい。
まあ、コレットが石板に手を触れないかぎり、おそらく装置は起動していなかったのであろうが。
ざわり。
ふと人々のざわめきの声がする。
みれば、中央の部分に扉の向こうにいったジダとモルの姿が、
部屋の中央部分に、しかも姿をすけさせて浮かんでいれば驚かないほうがどうかしている。
特にここ、シルヴァラントの人々はこのような設備にまったくもってなれていないどころか、
そのような装置をつかいしはディザイアン達くらい、という認識でしかない。
ここもまさかディザイアンの?いやまさか。
そんな意見も出始めていた最中。
「もしや、ここが精霊の封印なのでは。ならばマーテル教の聖地としてこの塔が大切にされていた昔も納得できます」
ぽつり、とルインの祭司がそうもらし、はっとした表情になる人々の姿。
闇が取り払われ、そして現れている救いの塔。
再生の神子が旅にでているのは誰もが疑いようのない事実。
あらたに閉じられていたであろう扉が開かれるのをみてとまどう人々。
自分達はいま、精霊の封印の試練の中にいる可能性がある。
その可能性に気付いた、のであろう。
神子しか試練をうけることは認められていない。
では、まったく関係のないものがそれをこなしてしまえばどうなるのか。
神子の試練は異形との戦いだ、ともいう。
誰ともなくそうつぶやく言葉にさっと顔をあおざめる大人たちの姿。
みれば、二人に言い負かされて扉の解放を手伝った子供達ですら顔色が悪い。
このままあの子供達を放置していれば、天の怒りをかいかねない。
かといって魔物達がいるであろうこの先に進む勇気は誰にもない。
どうすべきか、という焦燥はあっというまにこの場にいる全員にと広がってゆく。


マナの守護塔にて、子供達が大人たちが止めるのもきかず、扉の奥に向かっていった同時刻。
「…見張りが大勢いるわね」
アスカード牧場。
そういわれている場所はものものしい雰囲気にと包まれている。
ルインの街から北東にいちするこの場所は鬱蒼とした森の中にとつくられている。
そしてその施設の手前にて、様子をうかがっている六人の姿。
「なんか異様に警備がすごくないか?」
「さっきの魔物のこともあるのかもしれないわね」
ロイドがいい、リフィルが思案しつつもいいはなつ。
ロイド達がしっているのはイセリアの牧場と、そしてパルマコスタの牧場。
後者のほうはロイド達が出向いたときには人の気配すらなかったといってよい。
二人、あるいは三人ひと組になっているディザイアン達らしきものたちが
ひっきりなしに周囲を巡廻しているのがリフィル達の目にとまる。
「エミル、大丈夫かなぁ?」
「まあ、エミルだし。あいつああみえてむちゃくちゃにつよいっぽいからなぁ」
コレットが心配そうにいい、ロイドがため息まじりにそんなことをいいはなつ。
「たしかに。あの風の精霊を名乗っていたあれを一撃で一刀両断したあの技は、並大抵ではできんな」
クラトスとしても信じがたいがエミルの腕は認めざるをえない。
「まさか、あの魔物達もエミルが何かいったから、だったりして」
「あはは。まさか…まさか、だよな?な?先生?」
「私にきくんじゃありません」
ジーニアスのそのいい分に、ロイドが思わず否定するものの、何となく否定もしきれない。
ゆえに不安におもいつつもリフィルにといかけるが、リフィルはぴしゃりと否定する。
もしもそうだとすれば、魔物達はエミルのいうことを素直にきく、ということに他ならない。
これまでの旅でもその兆候は幾度かみれていたが。
それはかなりあるいみで危険な能力といってよい。
当人にその自覚があるかどうかは別として。
「どうやって潜入するか、だよね」
「ディザイアンに扮して、という方法もあるけど……」
ジーニアスとリフィルのそんな会話に、
「隠し通路を」
「え?」
クラトスがぽそり、といった言葉にリフィルが反応する。
「いや。こういう施設には大概、隠し通路とかそういうものがあるのではないか?それを探せば……」
「なるほど。なら、コリン!」
ぽふん。
「よんだ?しいな?ふわ~」
盛大なあくびをしつつもでてくるふさふさとした尻尾があるリスのような動物の姿。
あろうことかその口から人の言葉がもれている。
「きゃ~、かわいい!」
その姿をみてかわいい、と声をあげているコレット。
「うわ。この変な動物、ヒトの言葉をはなせるの?」
驚愕したようなジーニアスの声。
ぼふん、とした煙のようなものの中からあらわれたのは、ロイド達がみたこともない動物。
「このあたりにあやしい場所があるか、調べてきておくれ」
「うん。わかった!」
ぽふんっ。
しいなの言葉とともに再びかききえるその動物。
「今のは…」
「コリン。さ、あたしの相棒だよ」
ロイドのつぶやきに簡単にこたえているしいな。
「あのマナの流れ、魔物、ではないわね」
魔物ではない、しかしあきらかにマナの塊ともいえる生命体。
「まさか…いえ、まさか、ね」
マナの塊といっておもいつくのは精霊達。
が、そんなはずはないとおもう。
精霊を召喚できるのは召喚士だけのはず。
召喚士は失われて久しいといわれている。
リフィルがそんなことを思っている最中。
「しいな!はいれるところあったよ!」
いきなり、再び煙とともにあらわれて、ふさふさの尻尾をふりつつもそんなことをいってくる。
リン、とその首につけている鈴が小さき音を奏でだす。
「ディザイアンに変装して中にはいる、じゃだめなのか?」
「それも一つの手だけども。隠し通路があるならば、そのほうがいいかもしれないわ。
   敵にしられずに町の人達を救出する道も確保できるもの」
ロイドの提案も確かに一つの手ではあるが、人々を安全に逃がすためにも、
隠し通路の道は確保しておいたほうがいいであろう。
それゆえのリフィルの台詞。
退路を確保できているのといないのとでは成功確立がかなり異なってくる。
コリン、となのりしものがみつけたのは、施設に通じているのであろう。
排水溝らしき場所にとつづく入口。
鉄格子はあれど、その鉄格子はもうしわけない程度にどうやらごまかしがてらはめてあるらしく、
少し力をいれればいともたやすく取り除かれる。
外は重々しいほどにディザイアン達がいた、というのに。
内部にはあまりディザイアン達の姿はみあたらない。
排水溝を抜けてたどりついたは、ディザイアン達の施設の中にある庭の一角。
そこから施設にはいるであろう入口をみつけはいったのはついさきほど。
外にあれだけいたはずのディザイアン達の姿がまったくもってみあたらない。
「つかまった人達、どこにいるんだろ?」
ジーニアスのつぶやきに、
「ディザイアンとかいう連中…何の目的があって町の人達をつれていったんだろう」
しいながぽつり、と疑問をもらす。
「わからねぇ。ただ、俺達は人間牧場に閉じ込めて痛めつけてるってことしかしらねぇんだ」
それとマーブルがいっていた、牧場にきてすぐにエクスフィアを埋め込まれた、と。
それに何の意味があるのかいまだロイドは判らない。
「何にしたって、あたしは奴らを許せないよ。町の人達には何の罪もないじゃないか」
「それは俺だって同じさ」
「必ずやつらをぶちのめしてやろう」
「ああ」
「二人とも。憤るのはいいけど、ここは敵の本拠地だ、というのをわすれないでよね」
そんなロイドとジーニアスにたいし、冷静にジーニアスが突っ込みをいれる。
そんな会話をしつつも用心深く進んでゆくことしばし。
やがて、一つの扉にとたどりつく。
その部屋には大きな窓らしきものがすえつけられており、おもわずその窓の前で足をとめてしまう。
「何だ?あれ?」
ロイドが窓の向こうの光景に思わず首をかしげる。
輝きをもつ物体が大量にケースらしきものに納められ、動く床…すなわちベルトコンベアーによって移動していっている。
そしてそれらを管理しているであろうディザイアン達の姿もみてとれる。
が、なぜだろう。
一つ一つのケースらしきものをあけては中身を確認し、その中身を別の場所にそのまま取り出している光景も。
もしもディザイアン達の顔が顔を覆う兜にて隠されていなければ、ロイド達も気付いた、であろう。
そのときのディザイアン達のその表情に。
が、当然、離れた位置で、しかも窓越しにみている彼らはそのことには気づかない。
「わかったわ。ここはおそらくエクスフィアの製造所なのね」
エクスフィアは本来、ディザイアン達がもつ道具だという。
ならば牧場の中で創られていても不思議はない。
「……そのようだな」
クラトスが短くいうが、しかし何かがおかしい。
あの容器からエクスフィアをあんな場所で取り出すことはしないはず。
それともまた何かの実験をあれはしている、とでもいうのだろうか。
「これが全部エクスフィフか。すげぇなぁ」
窓のようにみえるそれ、すなわちスクリーンをみつつ、ロイドが感心したような声をあげる。
「何?これ?」
ふと何かの装置らしきものが部屋の中にあるのをみつけ、ジーニアスが首をかしげるが。
「何かの装置、ね。おそらく……」
リフィルが前にでて、しばしその装置をじっと観察したのちに、
そこにあるボタンがならびしものを打ち込み始める。
と。ヴッン。
音とともに立体的な窓のようなものがいくつも浮かび上がる。
「どうやら、ここから施設内のメインコンピューターに侵入できそうよ」
「メイコン?」
「もう。ロイド、メインコンピューター。魔科学によってつくられている装置の内容などをまとめている場所に
  つまり姉さんは侵入できるかも。そういるんだよ」
首をかしげるロイドにあきれたようにジーニアスが説明する。
「おお。さすがは先生!」
「とりあえず、この牧場の全体図をだしましょう」
いいつつも、装置を操作し、施設の全体像をその場に映し出すリフィル。
「先生。すげ~」
それをみて感心したような声をあげるロイド。
「へえ。こっちの人間にもまともに機会をあつかえるやつがいたんだね」
こちらでは機械なんてものは一般的ではなさそうなのに。
扱えるものがいることにしいなとしては驚かざるをえない。
ゆえに素直な感想が思わず口から洩れいでる。
「こっちの人間・・・・?」
その言葉を聞き咎め、ジーニアスが首をかしげるが。
「あ。いや。こっちの話しさ」
あわてて首をよこにふっているしいな。
そんな中、どうやら施設の全体像が把握できた、らしく、
「今、私たちがいるのはここよ」
リフィルが装置に現れているそれをみつつもいってくる。
立体的に示された、施設全体の案内。
どうやら今、リフィル達がいるのは中心部、にいるらしい。
「指令室は、ここね。一番奥みたいだわ。そして、捉えられている人達は……
  指令室にいくにはガードシステムを解除する必要があるみたいだわ。
  指令室にいかないと、この施設を壊滅させることができないけど……」
「壊滅って。姉さん」
思い出すはパルマコスタの人間牧場。
もののみごとにあとかたもなく吹き飛んだ。
「ジーニアス。やるからには徹底的に、よ。施設がのこっていれば、応援がよばれ、また悲劇が繰り返されないわ」
たしかにいい分はわかる。
わかるが、ジーニアスは何ともいえない思いに囚われる。
「?ガードシステム、ですか?」
コレットが気になっていることを問いかけると、
「ここよ。このガードシステムを解除しないかぎり、指令室には近づけない」
いいつつも、リフィルが機械を操作するととある位置が点滅を開始する。
どうやらそこに解除する何か、があるらしい。
「どうすりゃいいんだよ」
「あわてるな。どこかにシステムを解除するスイッチがあるはずだ」
クラトスがそういうのとほぼ同時、
「あったわ。ここから右側の建物ね。
  この左右の奥の通路の先に二つのスイッチがあるでしょ。これが解除スイッチ、のようね」
みれば、たしかに隣の建物の奥。
そこの二か所が点滅しているのがみてとれる。
「んじゃ、さっそく解除なんたらを解除しにいこうぜ」
「少しまって。指令室にいく最短ルートを今探すから」
ロイドの言葉をさえぎり、しばしリフィルが機械を操作する。
「…ベルトコンベアによって立ち入りをできないようにしているようね」
「ベル?」
「簡単にいえば、動く床のようなものだよ」
「へ~。そんなものがあるんだ」
ジーニアスがあまりにあきれているのか、説明しないのをみてとり、簡単にかわりに説明しているしいなの姿。
「ともかく、ベルトコンベアの制御装置を止める必要があるのだけども。
  コンテナらしきものが運ばれている間は装置に近づけることができなくなっているみたい。
  えっと、コンテナの発生制御をいじるには……」
リフィルが装置をいじっているそんな中。
「し。隣の部屋から声がきこえる」
コレットがその声にきづき、小さく声をあげる。
「何もきこえないけど?」
ジーニアスが首をかしげるが、
「いや、皆、きをつけろ!」
クラトスまで警戒態勢をとるがゆえに、一気に緊張感がたかまってゆく。
それとともに。
び~、び~。
けたたましい音が鳴り響く。
「まずいわね。メインコンピューターにアクセスしたのがバレたようだわ」
けたたましい警報の音。
と。
ヴッン。
「ん?お前達は!」
直後、扉がひらき、はいってきた体格のいい男性が、ロイド達をみて何やらいいはなつ。
「やべぇ!こいつらトリエット砂漠で出会ったディザイアンだ!」
みれば、ロイドがトリエット砂漠であったディザイアンらしきものと、
そしてイセリアの聖堂で戦ったディザイアンのたしかボータとかよばれていたはず。
三人の男たちがロイド達のいる部屋の中へとはいってくる。
その男たちが部屋の中にとはいってきたらしい。
「まだ我らをディザイアンだと思っているのか」
そんなロイドの台詞をきき、意味深なことをいうディザイアンのしたっぱらしきもの。
「しかし、ボータ様。これは好機です!」
もう一人がいい、
「・・・・くるか?」
クラトスが剣の柄に手をかけ牽制するように言い放つ。
「まて。……クラトスがいる。ここはいったん退くのだ」
その言葉をうけ、この中ではどうやら上司、なのであろう。
ボータ、とよばれしが部下らしきディザイアン達を制し、
「?知り合いなのか?」
そのやりとりをみて、彼らとクラトスを交互にみやり首をかしげて問いかけているロイド。
「さあ?・・・・イセリアとトリェットで顔をあわせただけだが」
「ここはお互いのためにひきましょうぞ」
ボータとよばれた男はそれをきくと、薄笑いをあげ部下を従えて部屋からでていこうとする。
「ふ。かってにするがいい」
クラトスはそのままボータの動きをおっていたが、いきなり床をけるとコレットの盾になるように剣をかまえる。
と。
反対側のドアが音もなく開き、ディザイアン達がそこからあらわれ、光の球…おそらくは魔術、なのであろう、をはなってくる。
目もくらむような光りに包まれるが、一瞬早く、クラトスが防御する。
その隙をついたのか、ボータ達はそのまま姿をけしている。
「コレット!クラトス!」
ロイドがあせったような二人の名をよぶが、
「私なら大丈夫」
そんなロイドを安心させようとコレットがにっこりとほほ笑む。
「それより、後ろだ!」
それにつづき、クラトスの声。
その声にふりむけば、そこにはみたこともない…いや、どこかで?
ふとその姿をみてロイドが首をかしげる。
何だかどこかでみたような。
そんな馬鹿な、という思いがよぎる。
まるで、そう、クラトスに初めてあったとき、その背中にどこか親近感を感じた。
あのときのごとく。
そのときの安心感とは違い、こちらのほうは、どちらかといえば恐怖に近い。
ふと脳裏に響く、何かの叫び声。
それはロイドが失いし記憶の欠片。
細面の輪郭に鋭く細い目がきれあがり、酷薄そうな印象をうける男性。
「ほう。これは驚きました。ネズミというからてっきりレネゲードのボータかとおもいきや。
  手配書の劣悪種だとは……今の魔法をくらっていきているのはさすがといっておきましょう」
その男はいきなりそんなことをいってくる。
「くっ。お前は何ものだ!」
ロイドの叫びに
「人の牧場に侵入しておいて何をいうのだね」
やれやれ、といったように逆にいわれているロイド。
「いつもと逆だね。ロイド」
「おまえな~!こういうときにな~!」
そのやりとりをみて、ぽそっと突っ込みをいれているジーニアス。
たしかに今の突っ込みは場の空気にあってないかもしれないが、しかしジーニアスのいい分もあるいみ道理。
「奴はディザイアン五聖刃の……クヴァルだ」
そんな二人のやり取りをききつつも、クラトスが少しため息をついたのち、
その男の変わりに淡々とロイドの質問に答えるようにと説明する。
「はは。さすがに私の名前はごぞんじのようですな。なるほど。たしかに。フォシテスの連絡通りだ」
何か含みのあるいいかたをし、クヴァル、とよばれし男はロイドの左手をじっとみつめ、
「たしかにそのエクスフィアは私の開発したエンジェルス計画のエクスフィアのようですね!」
男がいい、あらたにやってきたディザイアン達が一気にロイド達をとりかこむ。
が。
「まて。何も殺すことはない。捉えてそのものたちも培養体にすればいい。
  まったく、昨夜の一件で天塩こにかけていた培養体達は使いものにならないわ……」
いきなりぶつぶついいはじめ、そして。
「まあいい。きさまがロイド・アーヴィングか。以前始末した培養体の息子だな」
”以前、始末した培養体の息子だな”
その言葉は、リフィル、ジーニアス、そしてコレットに多少の動揺をもたらすに十分。
クラトスはぐっと手を握り締めていたりする。
「どういう…」
しいながつぶやき、
「そうか。ふはは。これは傑作だ。何も聞かされていない。何も知らないのですね。
  いいでしょう。教えてさしあげましょう。そのエクスフィアは私が長い時間をかけた研究の成果。
  しかし、薄汚い培養体の女がそれをもって逃亡したのです。もっとも、その罪を死であがないましたが――」
まさか、という言葉がリフィルの口からぽつり、ともれる。
この話しの流れでいけば、おそらくは……
「それが培養体A012。人間名、アンナです」
クヴァルの口から語られる人の名。
「アンナって」
「それ、ロイドのお母さんの名じゃあ……」
ロイドの家にある墓の名。
アンナ・アーヴィング。
それは、ロイドの母親の名。
コレットとジーニアスの茫然とした声。
「培養…まさか、まさか、エクスフィアは人間の体でつくられているというの!?」
信じたくはなかったが、しかし今の言い回しでは。
どうして人間達を捕まえては牧場につれていってるのか。
そして牧場につれていかれた人間達は生きてもどることはできない。
それは誰しもしっていること。
どうして連れていくのか、という疑問は常に誰もがもってはいたが。
しかし、それがエクスフィアをつくるための苗床にされるため、というのならば。
それは……
「それは少しちがいますね。奴らは人の養分を吸い上げて成長し目覚めるのですよ。
  人間牧場はエクスフィア生産のための工場。そうでなければ、何が嬉しくて劣悪種を飼育しますか」
リフィルの叫びに答えるかのごとく、淡々といってくるクヴァルの言葉。
「ひ、ひどい」
詰まったような声をしぼりだすジーニアス。
人の養分云々、それはすなわち、エクスフィアとは。
最後まで説明されなくても理解できる。
理解できてしまったからこその台詞。
正確には、ヒトが石の中でまだ眠りについている微精霊達の力にたえられず、
そのマナそのものが微精霊達の力となり吸い上げられていってしまうのだが。
そこまでジーニアス達はしるよしもない。
石の状態の彼らは周囲のマナを取り込んで、やがては孵化し、世界に満ちる微精霊達の一員となる。
その石の本質をこの場にいる誰もが理解していない。
「ひどいだと?ひどいのは君たちだ。
  我々が大切に育てあげてきたエクスフィアを盗み使っている君たちこそ、罰せられるべきでしょう」
薄笑いを絶やさずにいってくるクヴァルの言葉一つ一つがロイドの神経を逆なでする。
「…まれ、黙れ!お前が…お前が母さんを!」
怒りにまかせて叫ぶロイド。
母はディザイアンに殺された。
それは義父であるダイクから聞かされていた。
その原因となったディザイアンが今目の前にいる。
母の、仇が。
「勘違いしてもらってはこまりますね。アンナを殺したのは私ではない。君の父親なのですよ」
「・・・・え?」
クヴァルの言葉にジーニアスが短い声をあげる。
「嘘をつくなっ!」
即座に否定の言葉を発しているロイド。
「要の紋がないままエクスフィアを取り上げられたアンナは化け物になり、それを父親が殺したのですよ。
  愚かだとはおもいませんか」
「嘘だ!」
「…まさか…マーブルさん……」
ロイドは否定するが、ジーニアスは思い当たってしまった。
マーブルの最後、そして…エミルが元にもどした、ドア夫人のあのかわりよう。
もしも、そうだとするならば、それは。
「嘘ではありませんよ。エクスフィアをはがされ怪物と化し。あげくは大切にしていた我が子を自分が食い殺そうとし…
  ああ、変な動物がまだ幼かった君をまもって怪我をしていましたけどね」
あのとき、クラトスは嘘の情報をつかまされ、別の場所に出向いていた。
ユアンの協力の元、家族の元にたどり着いたときには、すでに……
当時のことをおもいだし、ぎりっとクラトスが歯をかみしめる。
「変な動物…まさか、ノイシュ?」
ノイシュが異様に魔物を怖がる理由。
今の言い回しだと、怪物と化したロイドの母親からノイシュがロイドを護ったということ。
ノイシュがどうしてあそこまで魔物に敏感なのか、何となくだがリフィルとしても理解する。
理解できてしまう。
家族であったであろう人物が怪物となり、そして子供を手にかけようとする。
その光景は何と残酷なのだろう。
「そのせいか、自我を一時とりもどし、アンナは父親に懇願したのですよ。
  自分を殺して、とね。いやぁ、滑稽でしたよ。できない、と躊躇する君の父親も」
「…だまれ!死者を愚弄するのはやめろっ!!!」
クラトスが叫ぶように言い放つ。
それはクラトスにとっては、忘れることのできない罪の記憶。
「クク。所詮二人は薄汚い人間。生きている価値もない劣悪種よ。ロイド!
  そのエクスフィアはユグドラシル様への捧げもの!返してもらいますよ!そうすれば、昨夜の失態も帳消しになる!」
昨夜。
魔物達の襲撃にともない、培養体達の中に埋め込んでいたエクスフィアがことごとく消え去った。
地下の実験施設場はなぜか床が陥没し、そのままわいてきた地下水により使用は不可能。
完全に消滅してしまったといってよい。
そんな失態を上にしられる前に、クヴァルからしてみれば、ロイドのエクスフィアを手にいれたいという思惑もある。
「く!父さんと母さんを馬鹿にするな!」
そんなクヴァルにロイドが叫ぶように言い放つ。
「ユグドラシル…それがあなたたちディザイアンのボスなのね」
コレットもジーニアスも、そしてしいなすらも言葉を失っている最中、
一人冷静に状況を見極め、目の前のクヴァルの言葉の意味を計りといかけるリフィル。
「そう。偉大なる指導者。ユグドラシル様のため。そして我が功績を示すため。そのエクスフィアが必要なのですよ。
  これで昨夜の失態も…地下研究所は原因不明の事故で消滅してしまいましたしね。
  まさか、魔物がエクスフィアを…他のものは培養体にする。おそらくはいい培養体になるだろう、やれ!」
クヴァルが部下に指示をだすと、ロイド達は四方を完全にとふさがれてしまう。
どうやら警報音をききつけて、この場にかなりのディザイアン達が終結してきている模様。
「ここはあたしにまかせな!」
しいなが前におどりでて、懐から紙を一枚とりだし、そして叫ぶ。
「おじいちゃん。使わせてもらうよ。式神、二!青雷ソウライ()!!」
しいなの言葉とともに、異形の何か、がその場に出現する。
それは周囲に雷らしきものをまきちらし、周囲のディザイアン達をことごとくしずめてゆく。
「さあ、今のうちにここから!」
式神がディザイアン達を引きつけている間に体勢を整えたほうがいい。
戦術的撤退。
まさに今がその時。
しいながそういって促すが、
「…だめだ。逃げることなんてできないっ!母さんの仇が目の前にいるんだ!」
しいなのいい分もわかる。
多勢に無勢、ということも。
だからと言って、目の前に、仇がいる、というのにロイドは逃げることはしたくない。
「皆は先ににげてくれ!」
「そんな。あなただけ残していくだなんてできるはずないでしょう!」
ロイドの言葉にすかさずリフィルが反論する。
この子は今、頭に血がのぼっている。
気持ちはわからなくもないが、一人にすることなどできるはずもない。
それに、彼らの言い回しからすればロイドのエクスフィア。
あれがディザイアン達にわたってしまえば取り返しのつかないような気がする。
それはリフィルの勘。
「…私も共に戦わせてくれ」
「わ、私も」
ロイドのそんな言葉に反応するかのように、クラトスがいってきて、
それにあわせてコレットもまたロイドに賛同するかのようにいってくる。
「クラトス。コレット……」
クラトスがいってくるのは以外、とおもうが、ふとおもう。
旅の最中、まだオサ山道をぬけているとき。
クラトスからきいた、家族がディザイアンに殺された、という台詞。
クラトスが手にしていたロケットペンダント。
それをロイドが拾ったときに彼からきいた言葉。
妻と子と、ディザイアンに殺された、と。
それは真実と嘘をおりまぜたクラトスの言葉であったのだが。
あながち、嘘ではない。
あのとき、クラトスはロイドはアンナに喰い殺された、そうおもってしまったのだから。
もう少しあのとき、周囲を探していれば、ダイクがノイシュともども保護していたことに気づいたであろう。
あの場にノイシュがいなかったのもノイシュは自然に還った、そうおもってしまったがゆえ。
プロトゾーンの特性のひとつに、死すればその体はマナにと還る。
それこそ光の粒子となりて。
それをクラトスは知っていたからこそ、勘違いしてしまったといってよい。
「あのクヴァルの言い回し。おそらく昨夜、何かがあったのだろう。
  それで施設内の警備の数も少ないのだとすれば、今が好機だろう。
  それに、ディザイアンはこの場に集結しているようだ。
  あれによって壊滅させられている以上、行動するのなら今がよかろう。
  三人づつにわかれ行動するのが得策だろう。町のものの救出もあるしな」
何があったかまではクラトスはわからない。
が、あのスクリーンの向こうでみたあのエクスフィア。
が、あれはどうみてもエクスフィアの輝き、ではなかった。
どちらかといえば、ただの水晶にしかみえなかった。
違和感を感じ、視力を強化したからわかったこと。
「でも……」
いいよどむリフィルに対し、
「――先生。たのむ。ジーニアスとしいなも一緒にいってくれ。必ずもどるから!」
どうやらいってもきかない、らしい。
ロイドは昔からいいだしたら聞かないところがある。
ゆえに、しばし考え、そして。
「わかったわ。町の人達のことはまかせなさい!」
いいつつも、ジーニアス達と顔をみあわせ、そのままその部屋を後にする。
そんな中。
「まったく。こんな紙きれ一枚に全滅、とは、なさけない。しかし、培養体達を連れだされるのはこまりますね」
いつのまにか、しいながよびだせし式神にてディザイアン達は一掃された、らしい。
それをめにし、クヴァルが何やらつぶやきつつ、そして次の瞬間。
「あ、まて!」
いうなり、その姿が光となりてかききえる。
「消えた?!」
「転送だ。おそらくは、指令室にいったのだろう」
「くそ!」
その場からきえるクヴァルの姿に驚愕した声をだすロイド。
クラトスのいい分に、ロイドははがゆい思いをするしかない。
目の前に母の仇がいたのに、逃げられてしまったというくやしさ。
「指令室にいくぞ。そこにやつは…いる」
「ああ!」


「ロイド、どうしたのさ!?」
「クヴァルには逃げられた。おそらく奴は指令室にむかったはずだ」
「そう」
解除スイッチを操作しようとしていたリフィル達のもとにロイド達が合流し、
聞けば、クヴァルはあの場から転送しきえた、らしい。
どちらにしても指令室にいかなければどうにもならない、とも。
「手分けしてシステムを解除していきましょう。最終的に、指令室でおちあう。それでいいわね?」
こくり。
リフィルの言葉に誰もがうなづき、しばし別れてシステムを解除するために行動してゆくことに。
「あなたたち、大丈夫?」
捉えられててる人々はどうやら独房らしき場所に閉じ込められている、らしい。
見張りのディザイアン達を撃退し、リフィルがディザイアンからカードキー……
これは以前、パルマコスタでドアがもっていたそれに近いものを倒れた彼らから手にし、近くにある装置を操作する。
それとともにいくつもの独房の扉が開かれてゆく。
「あ、あんたたちは…っ!」
たしか、闇の中やってきて、そしてまたその後にやってきた旅業の一行。
記憶にあるのは、あの闇の中、ディザイアンの襲撃にあわずにやってきた旅人。
ということと、連れの少年の料理というかつくった手作りパンが異様においしかったがゆえ。
しかもあの少年は町の人全員分の、すなわち一件一件別々にバスケットごとにおすそ分けしてきた。
それをくばったのは宿の夫人ではあったにしろ。
ゆえに印象深く記憶に残っているがゆえに驚きを隠しきれない。
「ピエトロから話しはきいたわ。助けにきたの。さあ、とにかくしっかりして。さあ、皆、私についてきて、よろしい?」
マナの神子、という言葉をださなかったのは、あの闇の解除もコレットが何かをした。
そうおもわれ、あまりコレットに負担をかけないがためのリフィルなりの排除。
ここでマナの神子が助けにきた、といえば人々の不安はかなり取り払われるであろうが。
どちらにしてもマナの守護塔の封印を解放すれば彼らにもわかってしまうはず。
それまでは黙っていても問題ないだろう、とリフィルは判断してのこと。
「あんた!たしか、しいなさんっていったよな。あんたも助けにきてくれたのかい?」
ふと一人がしいなにきづき、声をあげる。
「ありがとう。かわったふくのメロンのお姉ちゃん」
囚われていた一人の子が、しいなにむかってぺこり、と頭をさげる。
「ありがとう」
「い、いいんだよ!そんなのきにしないでおくれよ!」
町の人々と子供からお礼をいわれ、顔を真っ赤にしながらもそんなことをいっているしいな。
「メロンって…たしかにしいなの胸…」
ぼかっ。
「~~~っ」
「なぐるよ!」
「なぐってからいわなくてもいいじゃないか!」
ぽそり、といったジーニアスにたいし、すかさずしいながおもいっきりジーニアスの頭をなぐり、
それをうけ、ジーニアスが抗議の声をあげていたりする。
ある意味でほのぼのとしている光景、といえなくもない。
「ありがとうね。あなた達にはなんかいろいと迷惑かけてるわね」
どうやらそのやり取りで、少しは気がまぎれた、のであろう。
先ほどまでの緊張した面持ちはどこかほぐれており、別の人物がそんなことをいってくる。
「あの料理上手なお兄ちゃんは?」
きょろきょろと周囲をみていっている小さな女の子。
「エミルは他の街の人達を護っているわ。さ、とにかく、ここから脱出しましょう。他に囚われている人は?」
ざっとみるかぎり、ここにいるのは十数人程度。
この施設の規模からして捉えられている人がこれだけ、とはおもいたくはない。
もっとも、先ほどのクヴァルの言葉を元にするならば、すでに殺された可能性もなくはないが。
「たしか、どこかの部屋にまとめられているとか…
  埋め込むべきものが用意できるまで。とか奴らがいっているのをききましたけど」
昨夜、突如としてこの施設内を魔物達が襲ってきたらしい。
もうだめだ、とおもい気をうしなったが、きづけば助かっており、
なぜかこの地につれてこられたときにうめこまれた石のようなものがなくなっていた。
とは捉えられていた人から彼らがきいた台詞。
もっともそんな出来事があったことなどリフィル達はしるよしも、ない。


「それより、プロネーマ。あなたに聞きたいことがあります」
指令室にもどり、その直後、通信がはいってきた。
それはクヴァルにとっては憎々しい相手。
もっともそれが逆恨み、もしくは自分自身の誤解だ、ということをクヴァルは認めようともしていない。
「何かえ?」
スキャニングカメラによって相手方に立体映像をともない通信できる装置。
立体映像として現れている女性が怪訝そうな声をあげてくる。
「先日、レネゲードどもがこの施設に潜入し、エクスフィアを盗んでいったのですよ」
潜入したのは事実なれど、盗まれてはいない。
しかし、潜入してきた、という事実があることから、
自分の失態をすべて彼らにおしつけることにしたらしい。
「それはまた…警備がザルであったのだな」
そういわず何という。
そもそも、エクスフィアを盗まれるということも、潜入される、ということも、警備が雑である証拠といってよい。
「ええ。たしかに。そこで牧場の全システムを見直したところ外部から不正なアクセスがあったのです。
  ディザイアンの上級技官しか使えない権限でエンジェルス計画のデータの一部をダウンロードし改竄していた。
  これはどういうことですかな?」
プロネーマ、とよばれし女性の眉がぴくり、とはねあがる。
ディザイアンの上級技官。
それは、ディザイアンの長たるプロネーマと、彼女の親衛隊。
そして他の五聖刃達しかつかえない権限に他ならない。
ハイエクスフィア製造にかかわるエンジェルス計画は、最重要機密としてアクセス制限がかけられている。
「誰か権限のあるものの仕業でないのかえ?」
「とぼけないでいただきたい。これはそちらのしわざではないのか」
「わらわはエンジェルス計画などには興味ない」
「ならば、なぜあなたの部下の端末から我が牧場にアクセスした形跡があるのです」
そのことばに、ぴくり、と再び女性の表情が反応する。
しばしの沈黙ののち、
「……わらわは五聖刃の長として人間牧場の監視を行っている。ただそれだけのこと」
自らに向けられているであろう疑惑を否定することも肯定することもなくそんなことをいってくる。
と。
「クヴァル様。神子の一団がこちらにむかっています」
管制室のモニターを管理しているらしきディザイアンの一人が声をあげる。
モニターにうつりしは、金髪の少女、そして赤い髪の少年、そして…クラトスの姿が映し出されている。
金髪の少女はその胸元にある輝石からして間違いなく神子コレット。
ならばあの少年が噂にきく少年、なのだろう。
そう解釈し、
「……どうやら警備はザルのままのようじゃのう」
呆れたような苦笑したようなプロネーマの言葉に、ぴくり、とクヴァルが眉をつりあげる。
と。
「クヴァル!みつけたぞ!」
それとともに、指令室にかけこんでくるロイド達。
指令室にたどりつくと、ロイド達に背をむけているクヴァルの姿が目にはいる。
どうやらそこにうかんでいる姿が透けている女性と何やら話しているらしい。
姿が透けている、ということにも驚かざるをえないが、
「あれは、魔科学の立体映像装置だ」
淡々というクラトスの言葉に、よくわからないけどそんなものなのか、とひとまず納得したのち
きっとその場にいるクヴァルを睨みつけているロイド。
「ほう。それがロイドかえ?なるほど、面影はあるのぉ」
姿がすけている女性がロイドをみて薄笑いを浮かべてくる。
「やはりきたか」
そんなロイド達をみて忌々しそうにつぶやき、
「話しをそらさないでほしいですね。プロネーマ!
  あなたが私の元からエンジェルス計画の研究データを盗み出したのは明白なのですよ」
「しつこいのぉ。わらわはしらぬ、といっているだろう」
「強情な。さすがは五聖刃の長の座をかすめ取っただけのことはある」
ロイド達をむしし、そんな会話をしている彼ら達。
プロネーマ。
その名にはたしか聞き覚えがある。
たしか、パルマコスタにてドアの娘キリアにばけていたのが、プロネーマのしもべ、といっていた。
ロイド達には目もくれず、何やら陰湿な口調で目の前の女性をなじっているクヴァル。
「プロネーマよ。この劣悪種からエクスフィアをとりかえせば、五聖刃の長は私となるでしょう。
  その時に後悔しても遅いのですよ」
「寝言はねてから……ともうすな。そなたこそ、ロディルの口車にのって何か企んでおるようじゃが。
  ユグドラシル様の目、そうそうごまかせると思うでないぞぇ」
プロネーマと呼ばれていた女性はふっと笑みをうかべると、それとともに、ぶつり、と女性の姿はその場からかききえる。
「魔導砲のことがもれたのか?…まあいい。そのエクスフィアを取り返せば嫌疑などはれるでしょう!」
クヴァルはくるり、とむきなおるとロイドの左手を指差し高々といってくる。
「皆、無事ににげたよ!」
それとほぼ同時。
捉えられていた人々を施設の外に逃がしたジーニアスもまた、指令室にととびこんでくる。
そして。
「クヴァル…ゆるさねぇ!」
ロイドの言葉が合図となり、クヴァルとの戦闘が開始されてゆく。


電撃を中心とした魔術攻撃。
前衛にいるはクラトスとロイド。
クヴァルに対し、激しく剣を振り回しているロイドは、怒りによって冷静であるとはいえない状態。
それほどまでに力まかせにクヴァルに意味もなくきりつけまくっているのがみてとれる。
それでもスピードがあることから、ゆっくりとではあるがクヴァルを追い詰めていっている。
直後。
「グレイブ!」
背後のほうからジーニアスの後方支援ともいえる術が炸裂し、クヴァルが放つ電撃が一瞬とぎれる。
その隙をのがさず、ロイドがクヴァルの脳裏をめがけて剣を振り下ろす。
「ふん。なかなかの力だな。大人しくエクスフィアを差し出せばいいものを!」
「誰がそんなことするかよ!」
電撃と、そしてロイドの一撃が同時にはなたれ、一瞬辺りが眩しい光にと包まれる。

バッン。

体が管制室のコンソールにと叩きつけられる音がする。
倒れ込むクヴァルの首に回転蹴りを喰らわせて、ロイドが蹴り飛ばした結果、
完全に脱力したクヴァルの体がその勢いのままに、近くの装置にと叩きつけられたらしい。
ぴくり、ともうごかないクヴァルの体。
「やったぞ。母さんの仇を…倒したんだ!」
「…ありがとう」
「え?あ、ああ。こっちこそ」
「しかし…お前の仇は父親、ではないのか?」
「いや。父さんにそんなことをさせるきっかけをつくったのはこいつだ。…父さんは悪くない。
  俺だって、あのとき、マーブルさんを……」
怪物、とおもって攻撃していた。
まさかマーブルが姿をかえている、など誰が想像できようか。
声だけでしかなかったが、
パルマコスタにて目の前であの怪物から人の姿にもどったのをまのあたりにし、はっきりと理解ができた。
理性を失った元、人間。
あのクヴァルの言い回しだとすれば、母が怪物になってしまったのは、もしかしたら。
その思いがロイドの中から捨て切れない。
もしかしたらまだ幼かった自分が傍にいたせいなのでは、ということに。
そういいつつも、左手につけているエクスフィアをそっとなでる。
失われてしまっている三歳以前の…あのときの記憶。
覚えているのは、母が死んだ、というダイクの言葉と、家族になろう、といってくれたダイクの言葉。
父と母を探し、森に一人でふみいった、というその事実のみ。
「!あぶない!」
ふとコレットの叫びがこだまする。
いつのまにかクヴァルがたちあがっており、その手にもっているロッドをふりあげる。
「!?コレット!?」
近くにいたコレットがすばやくロイドとクヴァルの間にわってはいり、
そのままロイドをかばうようにして、その背にクヴァルの攻撃をうけとめる。
何ともいえない、どすり、というにぶい音。
それとともに受け止めたロイドの手ににじんでくる、コレットの血。
「ロイド…大丈夫?」
「ああ。だけど、お前……っ」
「私なら…大丈夫……」
大丈夫、なわけはない。
抱きとめているロイドの手にはあきらかにべっとりとコレットの血がついている。
いつもそう。
コレットは怪我をしても大丈夫だよ、といって相手を安心させようとする。
たとえ自分が体調がわるくても、どんな状態であっても。
ぎりっ。
「クヴァルゥゥ!!!!!」
感情に、怒りにまかせたまま、ロイドがさけび剣を手にクヴァルにときりつける。
ぐらり、と倒れる男の心臓を今度はクラトスが深く突き刺す。
「クラトス…この…劣悪種がぁぁっ!」
クヴァルが苦痛にその顔をゆがませつつも、クラトスをにらみ返す。
「その劣悪種の痛み…存分にあじわえ!…地獄の業火でな」
一回、二回、三回。
それはあらゆる負の感情がこもった攻撃、といってもよい。
倒れ込む男に幾度も剣をあびせさせているロイドとクラトスの姿がそこにある。
そんな中。
「コレット!あなた、この傷!すぐに回復を!」
ロイドからコレットを手渡されていたリフィルはすかさずコレットをその場によこたえる。
コレットは大丈夫、というが顔色はとてつもなく悪い。
「先生!あんた癒しの術をつかえるんだろ!」
しいなが泣きそうな声をあげながらリフィルに回復を、とうながしている。
「大丈夫。私なら……」
「コレット!!!!!」
かくん、とコレットが意識を失う。
リフィルの淡い癒しの術の光りがコレットの体をつつみこみ、やがてどうにかコレットの背中の傷はふさがるものの、
だからといって失われてしまった血がもどるわけでも、また、傷によるショック症状がきえたわけでもない。
「ともかく。神子を休ませたほうがよかろう。出血がひどい」
コレットの白い服がべっとりと血に染まっている。
「え、ええ。そうね。…ここを破壊して、そして外にでましょう」
「俺が…俺が油断したからっ!護る、と誓ったのに…コレット…」
ロイドが気絶している、ぱっとみため眠ってるコレットの髪をそっとなでる。
ピッ、ピピ。
ふと、何かの音がする。
「今、自爆装置をセットしたわ。まずここから出ましょう。爆発まで時間がなくてよ」
リフィルが何とか平静をたもちながら、皆をうながしつついってくる。
この施設における自爆装置はセットした。
このままここにいれば自爆に巻き込まれてしまうがゆえの台詞。
誰ともなく、こくり、とうなづき。
「俺が」
「いや、お前にはむりだろう」
いいつつも、ひょいっとコレットを横抱きにだきかかえるクラトス。
「くそ。俺にもうちょい背があれば…」
自分がコレットを運びたいのに、
怪我をしたばかりのコレットを抱いてつれてゆくことも、そして背負っていくこともできないそのもどかしさ。
何ともいえない思いがロイドの心中をみたしてゆく。


クラトスがコレットを横抱きにし、コレットを皆が心配するようにして、指令室をあとにする。
リフィル達いわく、すでにこの施設内に捕らえられていた人々は全員解放、したらしい。
ならばあとは自分達がここから脱出するのみ。
び~、び~……
――自爆装置が起動しました。構成員は速やかに退去してください。くりかえします。自爆装置が起動しました。
けたたましい警報とともに、機会音が施設の中にと響き渡る。

そんな中。
どこからか通信装置をこの施設に繋げた、のであろう。
ぱっと通信システムが起動し、スクリーンが明るくなる。
「クヴァル殿。あなたのおかげで魔導砲はもうすぐ完成です。エンジェルス計画は私が引き継ぎますからご安心下されよ。
  ああ、もうきこえませんかな。ふぉ、ふぉ、ふぉっ。
  では、エンジェルス計画の残りのデータを頂いていきましょうかね。…何?なぜにデータが……」
そこからあらわれた、小太りの小柄な片眼鏡をつけた男性がそんなことをいっているが。
そこにあるはずのデータがすべて初期化、すなわち完全に消え去っている。
「何が……」
あのクヴァルがわざわざデータをどこかにうつして初期化した、とは考えられない。
だとすれば。
「プロネーマ、ですかね?どこまでも私の邪魔をする。まあいい。いずれは、私がクルシスにかわり世界を……」
ぶっ。
それとともに映像が途切れ、後にのこるは、ただ静寂。


「一端、町にもどろう。コレットをやすませないと」
施設を脱出し、コレットをみる。
いまだコレットは目覚めていない。
傷はふさがったが安静は必要、であろう。
そんなリフィルの台詞に、
「でも、ルインはいまめちゃめちゃだよ?コレットがやすめないんじゃないかい?」
しいなのいい分もわからなくはないが。
「いえ。たしか宿屋とかは無事だったはずよ。それに最悪、無事のどこかの家をかりましょう。エミルのこともあるしね」
たしかに襲撃はうけていだ、完全に町は壊滅していたわけではなかったことを思い出し、
少し思案したにちのリフィルがいってくる。
「皆、無事にもどれたかな?」
「あの人達を信じましょう」
自分達を逃がすより、牧場主を、といってきたのは、救出した人物のうちの一人。
きけば、パルマコスタにて以前遊戯兵として活躍していた人物、らしい。
何かしらの検査をうけたのちにこの地に送られてきていた、らしい。
何でも捕まった人間達は必ず何かの検査をうけたのち、
それぞれどこの牧場に送られるのか、がきまる、とのことらしいが。
その内容までリフィル達は詳しく知るよしもなければ、彼らもそこまで詳しくは知らなかった。
数名、腕に覚えのあるものがおり、またディザイアン達がもっていた武器が転がっているのをみて、
武器があれば自分達が人々を護れるから、そういってきたがゆえに、
彼らに他の囚われた人々をたくし、リフィル達は管制室にと出向いていった。
このあたりに人々の姿がない、ということは、ルイン、もしくはアスカードかハイマに向かったのであろう。


パチパチ。
火の音が周囲にと響き渡る。
夜になり、安全が確認されたからか、塔にいた町の人々も町にともどってきているらしい。
正確にいうならば、牧場のほうにて爆発があったがゆえ、というべきか。
いまだに少し先では自然活動、なのか、大地からマグマが多少吹きだしているのがみてとれる。
リフィルが自爆装置を起動させたのが原因であったのか、かの地の地下より小さな火山爆発が起こっている今現在。
それでも遠目にみるかぎりその活動はゆっくりとではあるが収束にむかっている模様。
血に濡れたコレットの服をみて、すぐさまに寝床を用意したのは宿の女主人。
夫のほうは壊された家々などの片づけなどに追われている。
正確にいうなれば、男手は今現在、後片付けに追われている、といってよい。
部屋の中に備え付けられている暖炉の火が、ぱちん、とはぜわれる。
「……エクスフィアが人間の体からできていたなんて……」
部屋の隅で、しいながうずくまり、その手にて足を抱え込むようにぽつり、とつぶやく。
今日は本当にいろいろとあった。
人を培養体にしている、ということはおそらくそういうこと、なのだろう。
なら、自分達の世界は?
数千個という単位のエクスフィアを…人の命であるそれを何につかっている?
自分達の世界はこちら側の人の命の犠牲の上に成り立っている。
それを今さらながらにつきつけられた、といってもよい。
マナだけでなく、命まで。
何ともやりきれない思いがしいなの中でうずまいている。
「これ、マーブルさんの命なんだ……」
ジーニアスが腕につけているエクスフィアを取り外し、ぽつり、とつぶやく。
「…っ!」
ばたん。 
「まちなさい!ロイド!」
耐えきれなくなったのであろう。
そのまま、ぎゅっと手を握り締めると同時、コレットが眠っている部屋からそのまま外にと駆けだしてゆくロイドの姿。
乱暴に開け放たれた扉の音が嫌に大きく響き渡る。
そんなロイドにリフィルが制止の言葉をかけるが、そのまま無言でクラトスがたちあがる。
「クラトス」
リフィルが声をかけるが、クラトスは無言で首を横にふる。
「神子の傍についていてやってくれ」
それだけいい、クラトスもまた、宿の部屋を後にする。

月の灯りと、いまだ活動しているらしき火山の轟音がここまでつたわってきている。
それでも完全なる大噴火ではなく小規模の噴火だ、とリフィルはいっていたが。
「くそ…こんなもの、こんなものっ!」
もう何もかんがえられなくて、ひたすらに走ってたどりついたのは、ルインの街にある噴水広場。
ところどころ壊れてはいるものの、完全にその原型を失っているわけではない。
手につけているエクスフィアを力まかせに取り外し、そのまま噴水の中に投げ捨てようとするが。
しかしそのままの姿勢でロイドは固まってしまう。
「あれ?ロイド?どうしたの?」
ふと、聞きなれた声がする。
たしか、町の人々の復興の手伝いをしていたはずのエミルの声。
「エミル……」
月灯りの中、エミルの姿がくっきりとみてとれる。
その金髪の髪は、今は倒れているコレットを連想させる。
しかも、いつもはみつあみにしているはずの髪を今はすこしウェーブがかかったかのように、
そのままたらり、と腰のあたりまでのばしている。
「その、髪……」
「え?ああ。これ?リボンがほしいっていう子がいたから、その子にあげたんだよ」
ふわっふわの金髪の髪に緑の瞳。
ローブをまとっているがゆえに、ぱっとみためどうみても女の子、にみえなくはない。
いつものローブなしの服装ならばかろうじて違う、といいきれなくもないのだが。
まあ、あの格好もまた肩をかなり露出しており、その肩にかるくマントを羽織っているという形。
「どうしたの?コレットが怪我して戻ってきただけでなく、なんか皆暗いよ?」
いまだ、エミルには何があったのか、ロイド達は話していない。
他人に話すには重すぎる。
だけど、誰かにその思いをぶちまけてしまいたい。
「俺。さ、エクスフィアって、ただ、便利なもの。
  人の力を向上させてくれる便利な品物、としか思っていなかったんだ。
  でも、これは人の命をもてあそんでつくられたものだった……」
「まあ、そんな認識されてるみたいだよね。おもいっきり違うけど」
「違う?何が違うっていうんだよ?エミル!」
違う、といわれおもわずカチン、ときてしまい、思わずエミルにくってかかる。
そんなロイドに対し、
「ロイド達はしっててそれを使ってたんじゃないの?
  君たちがエクスフィア、とよんでいるその子達は、本来は精霊石といって微精霊達のいうなれば卵。
  なのにそんな精霊達を人の負の心で穢し、犯すことによって、人はいつの時代もその子達を利用しようとする。
  人の器に精霊の力が耐えられるはずもないのに」
それは事実。
かろうじて耐えられるとすれば、人から石の精霊に転換しよう、という存在達でしかない。
彼らが…かつて、ヒトが開発した天使化という現象はその一歩手前、といってよい。
「精霊?」
そんな話しはきいたことがない。
が、エミルが嘘をいっているようにもみえない。
なぜか、エミルがいっていることは真実なのだ、と根拠もなしに思えてしまう。
「昔からそう。まだ孵化していないその子達を取り込んで自分達の力にしようとし。
  そしてあげくは、その力をつかって兵器なんて開発して……」
命を、精霊達を何だ、とおもっているのだ、といいたい。
あの当時、世界が疲弊していたのは、世界を構成する微精霊達の卵を人が無意味に穢していたがゆえ。
なのに、今また、あのミトスがそのようなことをしている。
それが…悲しい。
ミトスは絶対に精霊石達もなら助けないとね、そういっていた、というのに。
「ロイド達は、自然界の声がきこえないの?その子達も常に声を発しているよ?
  ロイドのそれからは、ロイドを心配する声が。ジーニアスのものからはジーニアスを。
  リフィルさんのからは悲しみの声しかないけども」
しいながつけているそれからは、常にいつも悲鳴がきこえてきてはいる。
いつまで自分達を、どこまでも利用するつもりだ、と。
「…これ、母さんの命そのもの。なんだって。
  俺の母さんを培養体にして、このエクスフィアは…こんなもののために、母さんは……」
要の紋がないままエクスフィアをはがされたアンナは怪物となったのですよ。
そして、その怪物を、君の父親が殺した。
クヴァルの声がいまだにロイドの耳にと残っている。
「そもそも、なんでモノをたよろうとするのか。それがわからないんだよね。僕は。
  …人は、その努力次第でその力を伸ばす力をあたえられている、というのに」
それこそ、そう、努力次第でその潜在能力を引き出すことが可能だというのに。
なぜ、微精霊達の、精霊達の力というまやかしの力にて引き出したつもりになるのか。
「君たちヒトがその子達のことをどう認識してもかまわないけど。
  それは君たち人がその子達をかってにそのように利用してる。それだけは忘れないで。
  その子達もまた被害者なんだから。愚かなヒトの、ね。力をもとめ、他者の力でどうにかしようという愚かな」
「お~い、坊主~」
「あ、呼んでるみたい。じゃあね。ロイド」
ふと遠くのほうからエミルを呼ぶ声がする。
いいつつも、手にもっていた水桶に噴水から水をくみ、
「何が真実なのか、何が偽りなのか。ロイド達はよく自分達で考えるべきだよ。
  他人の意見が正しい、知らされていることが真実、とは限らないんだからさ。
  ……君たちがいう、世界再生。それは本当に真実?それとも偽り?よく考えたほうがいいよ」
そう、ミトスがこの世界に偽りを普及しているように。
決めた時には再生の神子なんてものは利用するという話しはなかった。
一年ごとのマナの転換。
なのに、今、再生の神子なるものが現実に存在している。
しかも、天使化をさせる、という不明極まりない手段をとっている。
話しをきけば封印解放はまだ一か所、というのだから、この地にいる精霊達は残り三柱。
ウンディーネ、シルフ、そしてルナ。
そのどこかの精霊達の封印解放の儀式、というものでミトスが何をしているのか、大まかにつかむことはできるであろう。
ものすごくろくなことではないような気がひしひししているが。
セルシウスがいっていた、マーテルの器、という言葉も気にかかる。
別なる器をつくるくらいならば、生きている精神が入り込んでいない器を創ればいい、というのに。
かつての国でも人造人間ホムンクルスの製造は、秘密裏に研究されていたのだから。
それをミトスが知らない、とはおもえない。
それに、もしもそうだとすれば、どうしてそのときに自分をたよってくれなかったのだ。
という思いもある。
自分をそのとき、目覚めさせて、理由をいってくれれば、大樹を復活させてくれたお礼をかねて、
それくらいのことはたやすくできたであろうに。
死者の魂もまた、エミルの…ラタトスクの管轄内といってもいい、のだから。
本当ならば、ロイド達のもっているあの精霊石達も解放し、孵化させてしまいたい。
ならば力を失いしそれは、力をためることはなれど、精霊達の力が利用される。
ということは起こりえない。
穢され具合にもよるが、まちがいなく、石そのものは大気へと還りゆくであろう。
それこそマナの光りとなって。


精霊石。
エクスフィアのことをエミルは今、そういった。
そして、この石もまた被害者だ、と。
微精霊の卵?
その意味はロイドにはわからない。
だが、ただ一つ、わかることは。
「……母さん…こんなものに命を吸い取られて、つらくなかったのか?俺がこれを使ってそれが許されるのか?」
誰にともなく、ぽつり、とつぶやくロイドの声は静かにわきだす噴水の音にとかき消されてゆく。
と。
かさり。
ふとみれば、いつのまにかやってきていたらしいクラトスの姿が背後にみえる。
クラトスからしてみれば、今のエミルの会話がきこえ、驚かざるを得ないのだが。
このエクスフィアの本来の成り立ち。
精霊達からきかされていた石の真実。
今では知るものは、まちがいなくクルシスの四大天使、すなわち彼ら四人以外にはありえない。
それ以外で知っているとすれば精霊達くらい、であろう。
エルフ達ですらそのことをしっているのかどうかすらあやしい。
なのに、あのエミルはそれを始めからしっていた口ぶり。
魔物を使役でき、さらには石の本質をも知っているエミルという子供。
しかも、あの口ぶりは、この再生の旅そのものを疑問におもっている模様。
どこまで真実をつかんでいるのかはわからないが、
ミトスの耳にはいれば、危険、と判断されることは間違いない。
「クラトス……」
クラトスがそんな思いを抱きつつも、無言でロイドの横にたつ。
そして、ぽつりと、
「……お前ならどうなのだ?」
「え?」
いきなりいわれ、ロイドはとまどわずにはいられない。
「もしも、お前がエクスフィアに命を吸い取られたとしたら。お前はどうしてもらいたい?」
「俺は……」
いきなりといえばいきなりのクラトスの言葉。
しかし、クラトスのいいたいことはロイドも何となく理解ができる。
そう、ここでこの石を投げ捨てても何も解決しないのだ、と。
「……私なら、この世界の悲しい連鎖を断ち切る志をもつものに役立ててもらいたい。
  そうするこしで…私が犯した罪が少しでもあがらえるのならば……」
そこまでいってクラトスは口ごもる。
あのとき、ミトスを止めるどころか、賛成した。
オリジンの封印に自ら名乗り出た。
マーテルを蘇らせる。
それはたしかに可能であったのかもしれないが、そこで精霊達の協力を仰ぐべきだったのでは。
と今ならば思う。
問答無用で精霊達との契約を破り、オリジンを封印する、という方法を取らずに。
クラトスからみて、ロイドのまっすぐな所はアンナによくにている。
たしかドワーフに育てられた、というのに。
心根がまっすぐなところがよく彼女ににているといってよい。
嬉しければ喜び、楽しければ笑い、悲しければなく。
辺り前の感情を隠すこしなくはじるこなとなく、てらいもなくあらわにする。
かつてのミトスもそうであった。
マーテルとともにいたときのミトスも。
クラトスはどうしてもそれができない。
だからこそ、憧れる。
まぶしいほどに。
「あんたの…罪?それは?」
「…私のことはいい。要はお前がエクスフィアにどう接するかだ」
強引に話しをきりあげ、困惑するロイドをそのままに、そのままその場を後にする。
そのままそこにいれば、お前はアンナによくにているな、とそう口走ってしまいそうで。

今、クルシスにはあきらかに問題がおきている。
それはネオ・デリス・カーラーンのウィルガイアを離れているクラトスの目にも明らか。
クルシスとディザイアンにとって、神子は必ず守るべき存在。
そもそもマーテルの器ということは、マーテルそのものといってもよい。
神子を攻撃するのはあくまで負荷を与え、ハイエクスフィア
…クルシスの輝石と人に認識させているそれとの融合を促進させるための手段にすぎない。
だが、パルマコスタのマグニスはクルシスからの命令で神子を始末するのだと思いこんでいた。
レネゲードによる何かの裏工作があったのかもしれないが、そんな真似を彼がするはずもない。
正体をさらけ出してまでマグニスを動かそうとはしないであろう。
クルシスの内部にいる何ものかがマグニスをだまし扇動している。
そして、先刻のプロネーマとクヴァルの台詞。
エンジェルス計画の一部が何ものかに抜きだされた形跡がある、と。
まちがいなく、クルシス内部に何かがおきている。
かつて果たせなかった行動をするのならば、今、なのかもしれない。
ロイド達は、牧場で何が行われているか現実をしった。
人々が機械によって命を奪われ、エクスフィアのみ吐きだされる、
あの装置をみたわけではないにしろ。
あれは、クラトスがみたときですら吐き気をもよおした。
なのにミトスはそれをみて、これでエクスフィアが量産できる、そう笑っていた。
あのときから・・・ミトスは確実にかつてのミトスではなくなっている。
それをわかっていて、クラトスはただずっと、目をそらしていたに過ぎない。
そのつけが今…まさに、まとめてまわってきているということか。
しかも息子…ロイドを巻き込んで。
ユアンはその構想をきいたとき、完全にミトスと決別し、そして反乱分子を募っていった。
だけども、あのとき、クラトスは決意がつかなかった。
あるいみで逃げたといってもよい。
問題の先送りをし、クラトスは楽なほうへと逃げたのだ。
「これが、私の罪、というのか?…ロイド。強くなれ、そして、私を……」
ロイドにならば託せるかもしれない。
未来を。
そんなことをつぶやきつつも、クラトスは空をみあげる。
クラトスの目にも見えないが、そこには彗星ネオ・デリス・カーラーンがあるはず。
そのままそっと手をのばす。
そこにあるものをつかみとるように。


「こんなものですかね?」
噴水より水桶にくんできた水をその場にとおいてゆく。
この場にはいくつものおけがおいてあり、その中になみなみと水がはいっているのがみてとれる。
「おう。たすかったよ。君、細い体で力あるねぇ」
「あ、あはは……」
二年後においては、次代の町長にえらばれし男性。
今はまだ、一人の町の住人にすぎないが。
彼はずっとあのときも自分を気にかけてくれていたことをしっている。
ふとしたはずみで、町長さん、と呼んでしまい、あ、すいません。とあやまれば。
そういえば、次の町長がまだ決まっていなかったわよね。
などという話しにまで発展していっていた。
まあ、世話好きなので間違われても仕方ないわよ、と別の住人が笑って流していたが。
念のためにあのあたりはアクアに監視を続行させていた。
ゆえにリフィル達があの施設を爆破させる、という報告をうけ、
イグニスとイフリートに命じ、あの真下にてマグマを活性化させたのはつい先刻。

小規模でいい、といったためか、すでに噴火は沈着じょうたいになっている。
その前に火山を噴火させる、という旨はかのあたりの動植物には伝えたが故、あまり問題もおこっていないであろう。
少なくとも、火山活動とともに、大地を陥没させ、あまり周囲に被害が広がらないように、
という指示をだしたそのままに、周囲の自然にはほぼ被害は及んでいない。
「偶然にも火山活動によってディザイアン達の施設は壊滅、だろうしな」
もっとも、偵察にいったものがもどってこなければ、完全に安心、はできないが。
しかし、捉えられていた人々をにがした旅人達がいうには、
あの施設の自爆装置を作動させた、ということなので、施設はほぼ壊滅しているであろう。
それは疑いようのない事実。
まだ、闇が取り払われ数日しかたってはいないゆえに今の世界の現状はこの街にまでは届いていない。
おそらく、あと数日もすれば別なる旅人、
もしくは商人たちの手により詳しい話しが彼らにも届くであろう。
もっとも、あの火山活動は遠くからも確認できるがゆえに、
気になり飛竜達を使用しこの地にやってくるものがいない、とも限らないが。
エミルがいまだ町の人々の手伝いをしているそんな中。
「でも、たしかに。エクスフィアは誰かの命を犠牲にして、ここにある、んだね。僕の石はマーブルさんの、そして……」
コレットの顔色はようやく少しはよくなってきている。
眠っている状態でも、栄養は必要だよ、そういってエミルがコレットの口元に何かを注いでいたが。
それが功をそうしたのかもしれない。
怪我をしているときに大切なのは、何よりも栄養だから、とエミルはいっていたが。
そのエミルはそのまま、町の人々に乞われるまま、今はおそらく町の片づけにあたっているはずである。
あるいみで、半年この街ですごし、いわれるがままに雑用などを押し付けられていた。
ということもあいまって、断りきれなかったのはかつての記憶があるがゆえといえのかもしれない。
もっともこの街の人々は、当然、そんな未来において起こるかもしれなかった出来事の記憶などしるよしもないのだが。
そしてまたリフィル達も。
「ええ。私のこの石も誰かの命、なのでしょうね。……ジーニアス。
  人は、生きている限り、誰かの命を犠牲にして生きているのよ。私たちが日々、口にしている食料もまた命。
  命の犠牲の上に私たちの命は成り立っている。
  だから私たちは犠牲にしてしまっている命の分まで精一杯いきていく義務があるの。
  …もっとも、これに関しては、ヒトの欲のために犠牲になった命、といえるのでしょうね。
  でも、すくなくとも、これがなければ、私たちの旅は成功させることもできない。それもまた事実なのよ。ジーニアス」
ジーニアスの呟きに、淡々とリフィルが答える。
ヒトは誰かの命を犠牲にし、命をつむいでいる。
常に食べている食材もまた生きているもの。
その命を糧とし、ヒトは生きているといってよい。
…水と空気だけで生きられる、というのならば話しはまた違うであろうが、ヒトはそうではない。
「エクスフィア…人の潜在能力を限界まで高めてくれる奇跡の石…奇跡でも何でもない。
  ただ、他人の命の力をかりて、僕らは……」
マーブルさんの形見、そうおもってつかっていた。
この石がマーブルをあのような姿にし、マナを歪ませた。
たしかに意識してみればものすごいまでのマナの濃さを感じる。
こんなものを直接に身につければ、体内のマナが狂ってしかるべき。
それを抑えるための…要の紋、なのだろう。
だが、牧場の人々は、要の紋がないままに、石を埋め込まれた、埋め込まれる。
そういっていた。
気になるのは、パルマコスタにて助けだした人々が、どうやったのか石が綺麗に全員取り除かれていた、ということ。
魔物の襲撃があった、というがそこに関係しているのかどうかがいまだにジーニアスにはわからない。
「人は、業が深い生き物ね。命は命を犠牲にしなければいきていかれない。
  それなら、生きているかぎり業を背負っていくしかないの」
部屋を飛びだしたロイドはおそらく、クラトスがどうにかしてくれるだろう。
胡散臭いことには変わりはないが、少なくとも、クラトスがロイドにむけているあの視線。
あの慈愛のこもった視線は嘘ではない、とリフィルは認識している。
それこそ、まるで、そう我が子を慈しむ親のような慈愛のこもった瞳は。
「…命は、命を犠牲にする、か。
  …うまくいえないけど……エクスフィアを作るために犠牲になった人達はそれとは違う気がするよ。
  …だからこそ、余計にわたしは許せないんだ。何もしらずに、使っていた自分にも。
  そして、便利なもの、としてしかみていなかった自分達にも」
テセアラの人々は知らない。
自分達が利用している便利な道具の動力源としての石がどうやってつくられているのか。
すこし機能がわるい、というだけで捨てる、ということもしばしある、という。
知れば、彼らはその力を手放せるだろうか。
だが、ヒトは…便利さになれたその力をそう簡単には手放しはしないであろう。
それこそ、国をあげて生産に乗り出す可能性すらありえてしまう。
今は虐げているハーフエルフ達を苗床にすれば問題ない、と言い出しそうな人物もしいなは知っている。
あの法律を断行した彼のこと。
やりかねない。
「う…ん」
「コレット!」
「コレット。気がついたのかい?どこか痛いところは?体の具合はどうだい?」
ゆっくりと目をひらいたコレットにたいし、しいなが心配して声をかけるが。
「しいなって。ほんとうにコレットを狙ってる刺客なの?」
「う、うるさいね!そもそも、けが人とか、具合のわるい子なんかを攻撃できるはずないだろ!」
「…あなた、ぜったいに刺客にはむいてなくてよ」
ジーニアスのつっこみにしいながこたえ、呆れつつもリフィルが答える。
そんな中。
「…あれ?先生…ここは…!ロイド、ロイドは!?」
目を覚ましたコレットがロイドの姿がみえないことに気付き視線を不安気にさまよわせる。
「ロイドなら大丈夫よ。ここはルイン」
「ルイン…ロイドは、本当に無事、なんですか?先生」
今にも起き上がりそうなコレットをどうにかそのままおしとどめつつ、やさしくそんなコレットに説明しているリフィルの姿。
「ええ。だから安心しなさい」
「よかった…ロイド……」
ロイドが無事。
そのことだけがコレットの心を安心感で満たしゆく。
「よくないよ!それでコレットが死んだりしたらどうしてたのさ!
  コレットはもっと自分を大切にすべきだよ!いつもそうじゃないか!
  自分を犠牲にして他人を助けようとしてさ!前なんか子猫が木にのぼって降りられなくなったときも!」
あわてたロイドが下にもぐりこんで何とかなったといってよい。
コレットが自分からのぼったのに、ロイドがこっぴどく怒られたりしたのだが。
それは四年前のこと。
ジーニアスのそんな叫びはコレットの行動をしっているがゆえの心配によるもの。
彼女は、コレットは何というか他人のためならば自らの身を簡単に犠牲にしてしまいそうで。
だからこそ、怖い。
いつ、ふとしたことでコレットが自分達の為に命をかけてしまいそうで。
「私は…ロイドがいない世界は…意味がない、から」
ぽそり、と、本当にぽそりと独り言のようにつぶやいたコレットの台詞。
「あんた…まさか……」
その言葉でしいなはこのコレットという少女がロイドにむけている感情を理解する。
理解できてしまう。
恋する乙女は強い、とはしいなのよくしる腐れ縁の男性の言葉。
「え?あ。ええと。何でもない。ほら、皆が笑っている世界でないと。私が神子であるという意味がない、というか、その」
「とにかく。安心なさい。あたはもう少し横になっていなさいな。…かなりの怪我だったのよ?」
もしもあの傷がもっと深ければ、自分の癒しの術がまにあわなかったら。
力がほしい。
瀕死の状態からも、そしてまた死者をも蘇らせるほどの癒しの力が。
今にも起き上がろうとするコレットをそのままベットにとよこたえる。
そんなリフィルの姿をみつつも、
「あ。僕、ロイドよんでくる。コレットが目をさましたって」
おそらくロイドもまた心配しているであろう。
そんなジーニアスにつづき、
「なら、あたしは、そうだね。何かかるいもんでもたのんでくるよ」
「あら、毒をもるつもりかしら?」
しいなにたいし、さらり、とあるいみ毒舌をいっているリフィル。
「けが人にそんなムチうつようなことをするかいっ!」
そんなリフィルにすかさず反論しているしいな。
「私がコレットのためにスープでもつくってくるわ」
「姉さんはおとなしく、コレットをみてて!おねがい!」
「?だから、ジーニアス。なんかあんた必至でないかい?」
なぜだろう。
何となく、リフィルが料理云々、という台詞をだすと、必至になってそれを回避しようとしているのは。
それゆえに疑問におもわずにはいられないしいな。
「あ、なら。しいながロイドをよんできてよ。僕が何かスープか何かもらってくるから。
  エミルにいえば何かつくってくれるかもしれないし。
  エミルの料理だったらきっとコレットの回復、はやいような気がするし」
それはもう直感。
というかなぜか確信をもっていえる。
「なら、あたしはロイドを探して伝えてくるよ。コレット。あんたはまだ横になっときな」
「でも」
「でもも何もない!ったく。…ほんと、うちのあほ神子にツメの垢をのませたいよ」
「「「え?」」」
「何でもない」
ぽつり、といったしいなの言葉に、
リフィル、ジーニアス、コレットの三人が同時に首をかしげる。
いらないことを口走った、という認識はあったのであろう。
あえて追求を逃れるために、そのまま部屋をあとにする。
ぱたん、と部屋をでてゆくしいなの後ろ姿を見送りつつ、
「アホミコ、って、あだな?神子はコレットだし」
「わたし、あほな子なのかなぁ?」
「あの言い回しは違う人のことでしょう。まさか…でも…」
――ねえ、お母様、この世界の名前は何ていうの?
――それはね。
――この世界の名前は、『テセアラ』というのよ。
――じゃあ、お月さまは?
――それはね。
「…シルヴァラント……」
遠い昔の記憶がよみがえる。
あのとき、母は世界の名を、何といった?
テセアラ。
それは月の名前。
でも、母は、あのとき、世界の名は……
世界が二つある、とでもいうのだろうか。
わからない。
判らないが、もしかしたらあのしいなという女性は何かその手掛かりをもっているのかもしれない。
ずっと探している故郷がどこにあるのか、ということすら。


pixv投稿日:2014年1月7日某日(Hp編集:2018年4月22日(日)

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あとがきもどき:


ソルム&テネブラエ←海底神殿に潜入中
イグニス←ただいまイフリートとともに火山活動の真っただ中
ウェントス&ルーメン←まだまだ縁の結び直し中
アクア←ラタの命によって今のふたつにわけられている海などの様子を調べ中。
    世界統合後に魔物達などに不都合がでないために調べさせている。
    何しろ四千年も世界が分けられていたので不都合が生じているかもしれないので。
トニトルス←ラタに命じられていまだにテセアラ側にいるものの、
      空間を操る力ももっているので魔物達との縁はそれによって取り戻している。
      何やらテセアラのとある場所でめんどうな研究がなされているので、
      牽制をかねてただいまテセアラそのものに雷雨などといった現象を起こし中。