遺跡の街、アスカード。
「うわ。すごい風」
歩くのもやっと、というほどの風。
風は一方から吹きつけるだけでなく、四方から吹きつけている模様。
馬車にのっているときもアスカードに近づくにつれ、
その風の強さは馬車がガタガタと揺れるたび、身をもってして判っていたが。
馬車から下りて徒歩になったとたん、その風が生身の体にそれぞれふきつける。
「ほらほら。しゃきっとしなさい」
馬車をおりれば、風の強さがよくわかる。
吹き飛ばされそうなほどの風をうけ、ジーニアスがぽつり、とつぶやき、
そんなジーニアスにリフィルがびしゃり、と言い含める。
「この先のハコネシア峠を抜けるには、通行証が必要だよ。一人、一億ガルド。旅をするなら必需品だよ~」
『・・・・・・・・・・・・・』
町にはいると、なぜか旅の商人らしき人物がそんなことをいっているのがみてとれる。
砂誇りが強風によって舞う最中、よくもまああるいみで商売熱心というか何というか。
が、それよりも気になるのは、
「一人、一億ガルドって……」
コレットがそれをきき、
「あれって、コットンってヒトもそんなこといってたよね?ね?」
ジーニアスがひきぎみにおもわずぽつり、とそんなつぶやきをもらす。
「…払える人、いないんじゃない?」
それは素直な感想。
ゆえにエミルの呟きはあながち間違ってはいないであろう。
まあ中にはいるかもしれないが、そういうヒトはおそらく何らかのツテなどをつかい、
絶対に通行証なるものを手にしている可能性がはるかに高い。
まあ、エミルはショコラを助けたときに、なぜかお礼、といって、彼女がもっていた予備の通行証をもらっているにしろ。
「かえるわけないだろ!」
おもわずそんな人物むかって叫んでいるロイド。
みれば、うんうんとうなづいている他の旅行客達。
まさか町にはいったとたん、そんな台詞をきくなどと夢にもおもっていなかったらしく中には苦笑しているものの姿すら。
道筋からしてやってきたのは峠とは逆の道であるがゆえ、どうやらそんなことを男はいっている、らしい。
「おや。かえないのかい?貧乏はかなしいねぇ。
だったら、イズールドから海を越えてパルマコスタにいくしかないね。
もっとも、ここ最近は巨大な魔物がでるからといって、船をだしてくれるかどうかもあやしいけどね」
そんな男の台詞に、
「そういえば、私たちが移動したときもそんなことをいっていたわね」
海に魔物がでるから船はだせない、港町イズールドでリフィル達はそういわれていた。
ある人物の依頼というか手紙を渡してほしい、という依頼をうけた結果、
どうにかパルマコスタにまではたどり着いていたリフィル達。
もっともそのあたりの事情はエミルは知らない。
町の入口にある木でつくられしアーケード。
それをくぐってすぐにあるのが、このアスカードにおける宿屋。
崖をくりぬいてつくられている宿は、表の一部のみが木でつくられている。
目安はくるくると回っている小さな風車、なのだが。
その風車らしきものはぽっきりと折れてしまっているのがみてとれる。
「まずは、今日の宿を確保しましょう。そこがたしか宿屋のはずよ」
リフィルがいいつつも、近くにある建物を指差す。
「うへ~。なんだ、あの建物?崖をくりぬいてたてられてるのか?」
「ハイマと同じような仕様だね」
それをみてロイドがいい、ジーニアスが至極もっともなことをいっていたりする。
「部屋がなかったら僕は外ででもいいですよ?」
「そういうわけにはいかないわ。あなた、ここにくるまでもよく眠っていたじゃないの。疲れているんじゃないの?
そもそも、ここにくるまで、あなたがずっと食事当番してたでしょ?」
リフィルがつくる、と言いだしたときには、ロイド達があわてまくったが。
エミルが自分が料理をつくりたい、と強くいわなければ、おそらく旅の一行は大惨事に陥っていたであろう。
特にリフィルの手料理によって。
「え?そういうわけではないんですけど」
眠っているようにみえたのは、センチュリオン達と会話をかわし、今後の指示をしていたがゆえ。
それ以外は世界に意識を同調させて、今の世界の様子を確認していただけのこと。
種子に意識を向けてみるが、やはり霞がかかったかのように完全にその位置が捉えきれない。
瘴気だけでなく、負の念などが邪魔をしている模様。
ちなみに馬車移動の最中、ノイシュは馬車によりそうようにして移動していたのだが。
皆が皆、この動物何?といい、そんな彼らにノイシュは犬だ、と言い張っていた。
どうみても犬にはみえない、というのが皆の認識であったが、
飼い主であろう当事者がそういうのならば、それ以上強くはいえなかったのであろう。
「申し訳ありません。この時期、この宿は満杯でして。村長の家など解放されているんですけどね。
あと、壁画のある場所が、休む場所として解放されていますので、そちらのほうに移動してください。
それかお金に余裕があるのなら町の奥にある宿をお勧めいたします」
この時期、祭りも近い、ということもあり、宿は満室、であるらしい。
そもそも小さい宿である。
部屋そのものもそう数があるわけではない。
この時期限定で、壁画がみつかったとある洞窟のある空間が解放されている、らしい。
もっとも、宿はここだけでなく、きけば町の奥にもあるらしい。
そちらはどうも料金が高いようではあるが。
ちらり、とみてみれば、建物などはいたを打ちつけて補強している箇所がかなり目立つ。
アスカードは山に抱かれた、遺跡を抱擁する町、として有名らしい。
かつてこの街はアスカード、という町の名ではなかったのだが。
未来においてこの辺りは『ラグナログ』とよばれし大戦の後、完全に砂漠化していた場所でもある。
「ここは、観光地という意味ではパルマコスタと同じなのですけど」
リフィルが風によって乱れた髪を抑えつつそんなことをいってくる。
「でも、なんか異様に壊れた家とかおおくないか?」
そんなロイドの呟きがきこえた、のであろう。
「ようこそ。遺跡の街、アスカードへ。以前はこんなに風がつよくなかったんだけどね。
救いの塔が出現してしばらくして、だんだん風がつよくなってきてね。
今では突風なんて珍しくも何ともなくなってしまってるんだよ。
気をつけないと小さい子くらいは吹き飛ばされるくらいの突風もあるからね。
壁画の間もそれだけに風よけとして解放もされてるんだけど。
町長達が風の精霊にかかわりがあるんじゃいかって、今現在、石舞台を調べてはいるんだけどね」
そういい、
「だけど、学者くずれのライナーが風の精霊が原因ではないんじゃいかとかいいだしてねぇ。
石舞台を調べるとかいってたけどどうなることやら。
ここ最近なんか、石舞台には原因不明の魔物すら現れるっていうし。
前から風の強い町ではあったけど、こんなに吹き続けることなんて今まで一度もかなったからねぇ」
町の入口付近にいた女性がロイドの質問にこたえるかのごとく、説明もしていないことまでいってくる。
「その石舞台っていうのはどこにあるんですか?」
コレットの問いかけに、
「ああ。北方向に町を抜けていけば、石舞台につづく長い階段が目につくとおもうよ。
もっとも、今は調査という名目で立ち入りが制限されているけどね。
ともかく、石舞台にちかづくと正体不明の何かが現れるのもあるし。
絶対にディザイアン達が再生の神子の邪魔をしようと何かをしでかしてるんだとおもうんだよね」
その言葉に思わず顔をみあわせるリフィル達。
ちらり、とみればそれぞれにおかしな角度で折れてしまっている木立も目立つ。
思わずわれ知らずため息がエミルの口から漏れ出してしまう。
マナの逆転作用は終了しているらしいが、ここまでマナを放出しまくっていれば、
外に何らかの影響が発生する、といくら何でもわかるであろうに。
それか、まだ寝ぼけているがゆえにそこまで意識がはっきりしていないのか。
どちらにしろ、一刻もはやくウェントスを覚醒させなければどうにもならないらしい。
山肌に横穴を掘ってつくられている家々はともかく、
比較的頑丈につくられているっぽい家々ですら補修のあとがかなりめだつ。
「町の外はかなり風が強いけど、町の中だからといって安心したらいけないよ?
外とちがって、町中ではいきなり突如として突風が…あ」
女性がいいつつ、思わず空をみあげて思わずつぶやく。
直後、何かが擦りぬけるような風が突発的にと発生し、
それは山肌にぶつかり、一気に上昇して発生していた風の痕跡はあっというまにかききえる。
「あれは……」
混乱し、我を失っているようにみえはしたが、まちがいなくあれは、まだ幼生体。
そういえば、かつて記憶を失っていたときここにマルタとやってきたときも、あの子はたしかにそこにいた。
気配からして同じ個体で間違いはないらしい。
キュイイイイイッ。
何ともいえない悲しいような悲鳴のような叫びが周囲にと響き渡る。
「いけない。あんたたちもすぐにどこか建物の中、もしくは洞窟の中に避難しなさいな!くるよ!突風が!」
女性が言うのと同時、ばたばたと町の人々が我先に、と建てものの中、
あるいはどこかの軒下らしき場所に駆けこんでゆくのがみてとれる。
「みて!あれ!」
コレットがそのまま空を指差す。
コレットに指をさされ空を見上げたロイド達の視界に、いくつものつむじ風が発生したのがうつりこむ。
ぽっかりと分厚い雲があいており、雲の上がのぞけ、稲光が閃いている。
それとともに。
ゴウッ。
何ともいえない唸り声にもちかしい風の音。
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
ひときわ強い風にとまかれ、コレットとジーニアスの体がふわり、と浮き上がる。
すぐ向こうはちょっとした崖になっており、落ちたら普通ではひとたまりもないであろう。
「ジーニアス!?」
「コレット!?」
リフィルの叫びとロイドの叫びはほぼ同時。
すばやくロイドがコレットの手をつかみ、リフィルがジーニアスの手をつかむ。
風はまるで彼らを呑みこむかのごとくに上空にともっていこうとしているのか、
ことごとく巻き上げようとしているらしく、手をつかむロイド達の手に力がこもる。
「ウティ ワエム ブンワイトゥン ヨオウンティ」
エミルがぽそりと静まれと呟くとともに、ぴたり、と風の動きが停止し、
何事もなかったかのように、一瞬びたり、と風の流れが停止する。
その言葉をとらえたのはクラトスのみ。
またあの旋律の言葉。
クラトスがそうおもうとともに、まるで今の言葉が合図であったかのように、
風がぴたり、と制しする。
まるで、今のエミルの言葉が合図であったかのごとくに。
事実、そのように命じた、のだが。
精霊原語、すなわち原初たる言葉をしらないクラトスはその意味はわからない。
「ふぇ~、びっくりしたぁ」
コレットが胸に手をあて、目をぱちくりさせつつそうつぶやき、
「ほんと。体がういちゃうなんて」
ジーニアスも驚いたらしく、べたん、と両手を地面につけてぜいぜいと息を切らしている模様。
「無事でよかったわ。あのまま風がとまらなかったら、下手をしたら崖の下に落ちていたかもしれないもの」
リフィルがほっとした表情でジーニアスの体をぱたばたさわりつつ、
何ともないことを確認しながら語りかけているのが目にはいる。
「二人とも、怪我はないわね?」
「「は~い」」
リフィルの問いに、ものの見事に同時にいっているコレットとジーニアス。
「とりあえず、ここは危険だ。どこかひとまず安全な場所に避難したほうがよくないか?」
「あ。それだったら、たしか壁画の間とかよばれてる洞窟のような場所があったはずだし。そこまで移動したらどうかな?」
かつてこれはテネブラエにいわれたこと。
そんなエミルの提案に、
「そうね。ひとまずそこに移動しましょう。さあ、いくぞ!いざゆかん!」
「…うわ。姉さんの遺跡モードがはじまっちゃったよ~」
きりっとした表情になり、きぴきびあるきだすリフィルをみて、がくり、と肩をおとしているジーニアス。
「壁画の間って、何なんだ?」
「たしか、アスカード三世より前にかかれたという遺跡だよ。
石舞台とあいまって、ここ、アスカードの遺跡の一部なんだ。
もっともまだ完全に発掘されていないらしく、まだみつかっていない遺跡もある。
という研究者たちの認識らしいけどね。でもディザイアン達のこともあって、
本格的に誰かが調べる、ということもできていないらしいよ」
ロイドの質問にジーニアスが淡々とした説明をしているが。
そういえば、かつてこのあたりは一つの国家があったはず。
もっともその後首都を変更していたにしろ。
地下帝国を築こうとしていたことをふと思い出す。
どうやらまだ知られていないようではあるが、このあたりからある場所にいたるまで、
地下にわたって道が整備されていたりする。
たしか、パラグラフ王廟とかいわれている場所にここから地下で続いていたはず、である。
かつての時間軸においてリヒターとともに移動したことがあるので間違いはないであろう。
「とにかく、いこ。リフィルさん、嬉々として先にいっちゃったみたいだし」
みれば、足取りもはやく、洞窟がある方向にリフィルが駆けだしていっているのがみてとれる。
「そうだね。また飛ばされたらたまんないもんね」
「次に風がでたら私翼だすね~」
「それはやめといたほうがいいとおもうよ。そのまま翼が風にあおられて上空に飛ばされたらどうするのさ」
にこやかにいうコレットに、すかさずジーニアスが突っ込みをいれているが。
壁画の間、と呼ばれし場所。
アスカード三世より前に書かれているというその壁画は、一節には古代大戦時期に書かれているのでは、という説と、
それより前の壁画もあるのでは、という説がいまだに入り乱れている、らしい。
「しかし、すごい風だったなぁ」
「パルマコスタで噂はきいていたが、本当のようだな」
洞窟の中にはいり、ロイドがしみじみと風の脅威が去ったからであろう。
ぽつり、とそんなことをつぶやくと、クラトスが腕をくみつついってくる。
「旅業にでたという者達がいっていたらしいが。
救いの塔が現れてこのかた、各地で異常気象が目立つようになっているらしい」
「それって、やっぱりディザイアンがコレットを邪魔しようとして何かしでかしているのかな」
「さあな。しかしあの闇にしろ、あの砂漠地帯の雪にしろ、その異常であったことは間違いないだろう」
砂漠に雪が降っていた。
ロイド達が出向いたときにはまださほど雪の被害は深刻なものにはなっていなかったようではあるが。
クラトスですら砂漠に雪が降っていたあの異常には驚きを隠しきれなかったが。
そんなロイドとクラトスの会話をききつつ、そういえば、かつてのときは完全に雪景色だったな。
ふとマルタとともに訪れたかつての記憶を思い出す。
あのときは、テナイドが入口にて冬眠していてふさいでいたが、ロイド達はどうだったのだろうか。
ともおもうが、かといってわざわざきく、というのはかなり不自然。
そもそも、イグニスは自分から目覚めてやってきているがゆえに、
ラタトスク自身としてはかの地にはいまだに出向いていないのだから。
話しを聞く限り、どうやらセンチュリオン・コアの暴走の影響でおこっている異常気象は、
ディザイアンとかいう輩のせいである、とロイド達は思いこんでいるらしい。
だからといってセンチュリオン達に原因がある、とはいうつもりはないが。
そもそもクラトスはセンチュリオンのことを知っている。
どうやら今のいいようからしてセンチュリオン達のことに気付いているわけではなさそうではあるが。
洞窟の中にはいってみれば、見物客というか風を逃れてやってきたのか、いるのはほんの数人ほど。
みれば、嬉々として壁をいったりきたりしつつ、観察しているリフィルの姿が目にとまる。
「風の精霊って本当にロマンを感じるのよね……」
壁をみていた一人の女性が何やらそんなことを呟いているのがききとれる。
「うちの妻はここの風の精霊マニアでね。暇さえあれば壁画をみにきてるんだ」
思わず顔をみあわせているロイド達に気付いた、のであろう。
横にいた男性が、苦笑まじりにそんなことをいってくる。
壁画は様々な色彩をもちい、ちょっとした物語らしき絵をつくりだしている。
「あ、これって天使言語、ですよね?」
そこにかかれているのはまぎれもなく、天使言語にちかしいもの。
「原型となった言葉、だな」
かつて公用語であった文字がこの壁には刻まれている。
その言葉が変化し、天使言語、とよばれしものに今現在はなっている。
「風車小屋の風車もこの風でとばされちゃったのよね……」
洞窟の入口付近をみつつ、別の女性がため息まじりにそんなことをつぶやいているのがみてとれるが。
と。
「う~、遺跡なんてつまんない」
どうやら先ほどの夫婦の子供なのか、それとも町の子供なのかはわからないが、
この場に唯一いる小さな子供がぷうっと頬を膨らまし、何やら文句をいっているのがみてとれる。
「うん?どうやら遺跡の素晴らしさがわかっていないようだな。
ちょうどいい、せっかくだからこの遺跡がどれほどすばらしいか解説してあげましょう。
そうすれば、遺跡なんてつまんない、ではなく遺跡ほどすばらしいものはない。
と認識ができるはずですからね。ロイド、あなたもちょうどいいからおさらいよ」
「うげ。なんでここにきてまで授業なんだよ~!」
その子供の台詞に気付いた、のであろう。
それまでいったりきたりして壁をじっくりみては、そこにかかれている文字を書きとっていた…
どこから取り出したのか手帳に書き留めていたリフィルがぴたり、ととまり、
子供の前に立ち止まり、そしてロイドをみつつもいきなり課外授業とばかりにいいだしてくる。
「今はそんな場合ではないだろう」
それをみて、クラトスがため息まじりにぽつり、といえば。
「何だと?きさまには、この遺跡の重要性がわからない、というのか!?
この重要性が皆が知ることにより、まだみつからないといわれている数々の……」
「はいはい。姉さん落ちついて。それより、風、どうやら収まったみたいだよ」
みれば、唸るような風はどうやらおちついたらしく、
洞窟の外からも人々の声が普通に聞こえだしている模様。
「お兄ちゃんのお姉ちゃんなの?…大変だね。銀髪のお兄ちゃんも」
そんなジーニアスにたいし、リフィルにあるいみ絡まれていた子供がぽつり、といってくる。
「うう。こんな子供にまでなぐさめられたよ……」
がくり、と再び肩をおとしているジーニアスであるが。
「まずは、宿を確保して、それから石舞台とかいうところにいってみてはどうだ?」
クラトスのいい分は、たしかにリフィルからしてみれば至極もっともで。
何しろ風の精霊を祀る祭りが毎年行われているという場所である。
封印の可能性、もしくは何かのヒントがあってもおかしくはない。
それゆえに。
「しかたないな。あとからじっくりと時間をとってこの遺跡の重要性を説くとするか」
「「「しなくていいから」」」
リフィルの台詞にもののみごとに、ジーニアス、ロイド、そして子供の声が一致する。
ひとまず、六人で泊まれる部屋、というものは大部屋ではあったが確保が可能であり、
宿をひとまず確保したのち、風の精霊を祀っていたという石舞台へ。
聞けば今は調査のために立ち入りが制限されているらしいが、リフィル曰く、
再生の旅なのだからそんなのは関係ない、ときっぱりいいきり、石舞台へと向かうことに。
北方向に町を進んでしばらくすると、やがて山の頂きに続くであろう長い石階段がみえてくる。
「先生、ちょっとおちつけよ」
階段を、二段、三段飛ばしで駆けあがってゆくリフィルに対し、
ロイドがあきれぎみに声をかけているが、どうやらリフィルには届いていない模様。
そのまま長い階段をいきおいのままに駆け上がる。
調査隊がいる、とのことらしいが、今現在は誰もこの場にみあたらない。
「おおお!これぞ、アスカード遺跡の石舞台だ!」
頂きにたどり着き、リフィルが感慨深い声をあげる。
四角い石舞台の上を風が吹き抜ける。
石舞台の中央には模様がはいった円陣が描かれており、四隅には、
風の精霊が空を飛ぶ様を現した、といわれる石のオブジェがたっているのがみてとれる。
石舞台に吹きつける風は、下、すなわち町よりは多少大きくきこえるが。
「みたところ変わった様子はないね」
ジーニアスが周囲をみわたしつつ、封印の石板らしきものがないかざっとみたのちいってくる。
「ロイド!この石舞台の歴史的価値をのべよ!」
リフィルが石舞台の前にたち、いきなりロイドにそんなことをいいはなつ。
「え?え、えっと……」
いきなりいわれ、とまどうロイドであるが、
「もう。ロイド、授業で習ったでしょ?
クレイオ三世が一週間続いた嵐を鎮めるため、風の精霊に生贄をささげる儀式を執り行った神殿」
「……です」
ジーニアスがかわりにこたえ、付け加えるようにロイドが語尾だけ言い放つ。
その結果、逆にフィアレスのやつがかなり癇癪おこしたんだよな、あの当時。
ふと当時のことを思い出し思わず遠い目をしてしまうエミル。
まだ大戦が続いている最中の出来事。
よりによってフィアレスと中のよかった子供を生贄に選び、結果としてシルフ三姉妹は、もののみごとに怒りまくった。
あれを納めるのに苦労した、とはウェントス談。
あまりにラチがあかないので、自らの分霊体でもある蝶をさしむけたのは記憶に新しい。
どうも過去の出来事はやはり記憶が上書きされているせいか鮮明に昨日の出来事のように思いだされる。
「ああ。なげかわしい!この五年間、きさまはいったい何を習ってきたのだ!」
「えっと、五年?」
目をぱちくりさせ、横にいるコレットにとといかけると、
「先生達がやってきたのが今から五年前なんだよ」
「そうなんだ。たしかえっと…」
「イセリア、だよ。とてもいいところなんだ。いつかエミルにもきてほしいな」
イセリア、で思い出すのはロイドのプロボーズ事件のことの顛末。
あれをきいたときは、当時の自分でもありえない、と呆れてしまったものである。
「体育と図工と……あと給食と」
「もういい!」
「・・・・・・・・・・・・・・ロイドって、きちんと学びの場にいってた、んだよね?」
何のための学びの場なのだろうか。
「エミルはそういえば、学校にいったことがないっていってたよね。
ロイド、いつも授業中、興味ないことだったら寝てて、いつも姉さんに立たされてるんだ」
「そ、そうなんだ」
それいがい何といえばいいのやら。
クラトスをちらり、とみれば、コメカミにかるく手をあてている模様。
どうやらそれは無意識の行動であるらしいが。
そんなやり取りをしている最中、
「すばらしいフォルムだ。この微妙な曲線は風の精霊が空を飛ぶ動きを現すとされている」
リフィルが嬉々として石舞台をみつつもそんなことをいっている姿が目にとまる。
「さらに、この石はマナを多分に含んでいるといわれ、夜になると淡き輝きを石舞台全体が輝くといわれている」
石舞台における解説を、淡々と説明していっているリフィル。
それはそうと、あの柱の陰に隠れているつもり、らしいのだが。
何をしているのだろうか。
あと、この石舞台の後ろにいる二人の男性がしていることもきにかかる。
「もっとも、現在ではマナ不足によってこの石に含まれていたマナも失われつつあるというが」
「ふ…ふ~ん」
そんなリフィルの説明に、どうみても形だけでうなづいているとしかみえないロイド。
確かにこの石舞台を創ったのはほかならぬラタトスク自身であるがゆえ、
マナの塊といえば塊、なのだが。
別にマナが失われる、というようなことは絶対にありえない。
何しろこの石舞台はウェントスの祭壇につづく道、としてかつて創ったのだから。
その後、ヒトがこの石の上に様々なものをつくり、今のような形になっているようではあるが。
元々は、ただの石、しかなかったのだから。
「石に含まれていたマナが大気中に気化するときに独特の香りを放つのだが。
これがフィラメント効果だ。すなわち、香りとともに火花が散るようなマナの輝きがあふれる。
ただでさえ、夜になるとマナを含んだ石は青白く輝くらしいというのに、だ。
この石舞台の神秘性が増した理由にこの二点が考えられるのは当然だが、加えて――」
みればリフィルの横で真顔で説明をうけているコレットの姿が目にはいる。
ヒトがどういった視点をもっているのか、というのは滅多にきけることではない。
ゆえにエミルもまた、リフィルの説明にききいっている。
かなり間違った解釈をされているのがきにはなるが、
ヒトがこの地においてどういう認識をしているのか、という目安にはなる。
どうやらやはり、ここが風の聖地云々、というのはすでに伝わってはいないらしい。
かつてシルフの神殿も人々はこの地につくっていた、というのに。
どうやら説明を聞くきはさらさらないらしい。
そのままそっと、真顔で聞きいっているコレットの後ろまでそっとさがると、こそこそとこの場をあとにしているロイドの姿。
聞くきがない、というか覚える気はまったくないらしい。
と、ふと石舞台の背後から何やらヒトの声がしてきているのにふときづき、そちらのほうにと回り込む。
誰かいるのか?
そんなことをおもいつつ、石舞台の後ろをそっとロイドが除きこんでみると、
二人の若い男性がその場にたっているのがみてとれる。
彼らの間には箱型の何かの装置らしきものが置かれているようではあるが。
一人はどこかおどおどしたような眼鏡をかけた黒髪の人物に、もう一人はこげ茶色の髪の色をしているのがみてとれる。
こげ茶色、といっても赤身がかかった茶色の髪は、バンダナでまかれ、
頭のてっぺん部分はきちんと確認はできないにしろ。
「いいか、ライナー!これが俺の発明品、『ブレイカー』だ。
この爆弾を使えばこんないまいましい石舞台など簡単に壊せる」
「し、しかし、ハーレイ…これは貴重なパラグラフ王廟の遺跡だ。この石舞台を破壊するなんて」
ライナー、と呼ばれた青年が、ハーレイ、と呼んだ青年の台詞に異議を唱えている模様。
「何をいうんだ!このままだとアイーシャは殺されるかもしれないんだぞ!
さっき、アイーシャが了解したのをみてなかったのか!?」
憤った男の台詞に、ライナー、と呼ばれた男性は何とも気まずそうな表情を浮かべてしまう。
「何やってんだ。お前ら」
破壊だの、殺されるだの、穏やかでない話しである。
それゆえに、そのまま隠れていた場所から一歩前にでて、男達の前にと姿をみせるロイド。
「って、あんたたち、何やってるのさ。って、あ、お前!?」
どうやら思ったことは同じであるらしく、柱の陰に隠れていた女性もまた、
ロイドとほぼ同時に彼らの前に姿をあらわし、もののみごとにぱったりと、その場にてロイドと女性…しいなははちあわす。
「あ、お前は」
壊すだの物騒極まりない台詞がでてきたがゆえに、柱の陰からでたものの、
ちょうどこちら側に回ってきたロイドとばったりと遭遇しているしいなの姿。
それぞれの姿をみとめ、思わず固まるロイドとしいな。
と。
「な、なんだ、お前達は!」
「ち、ちがいますよ。別に僕たちは遺跡を破壊するつもりでは」
何やら言い訳がましくいっている男二名。
どうやら第三者に、しかも二人に会話を聞かれたことを察知し、かなり驚いている模様。
性格にいうならば、この会話は奥にいるコレット、クラトス、そしてエミルにも聞こえていたりするのだが。
「…今、何といった!?」
どうやら破壊する云々、という台詞が聴こえた、のであろう。
そのまま、いきなり彼らの前に石舞台をかけあがってやってきたリフィルが飛び降りてくる。
「うわ。地獄耳だよ」
反対側にいたはず、なのに。
いきなりこの場に走ってやってきたリフィルをみてぽつり、とつぶやいているしいな。
「地獄耳で結構。なぜにあなたがここにいるのかきになるけど。
それより、そこの男ども!今、貴様らは何といった!?」
その姿をみて、ぽつり、としいながつぶやくと、しいなの言葉をさらり、とかわし、
ぴしっと男たちに指をつきつけていいはなつリフィルの姿。
いきなりのまたまた別の人物の登場にどうやら男たち二名はすっかり固まっている模様。
「先生。こいつらこの遺跡を破壊するんだってよ」
とりあえずリフィルの説明からここに逃げてきたことでお説教が始まってはたまらない。
ゆえに、その怒りの方向性をかえるべく、男達がしようとしていたことを告げ口しているロイドの姿。
「きさま!それでも人間かっ!」
片眉をつりあげつつも、そのまま。
どげしげしっ。
「うわ、…足蹴りしたよ」
「先生の足キック、きついんだよなぁ」
リフィルの片足蹴りが、二人の男たちのみぞおちを直撃する。
それをみておもわずひいているしいなに、自分もくらったときのことを思い出し、ぽつりとつぶやいているロイドであるが。
「お、俺はハーフエルフだ!人間じゃないっ!」
蹴られたお腹をおさえつつ、よろよろと立ちあがり、
そんな現れた女性…リフィルの抗議の声をあげているパンダナを巻いている男性。
だがしかし。
「それがどうした?お前達にはこの遺跡の重要性がまるでわかっていない!」
きにもとめない、とばかりにぴしゃり、といいきるリフィルはあるいみいさぎよい。
「…な、なあ?あのリフィルとかいってたっけ?あの人?なんかいつもとちがわなくないか?」
そんなに見ていたわけではないにしろ。
たしか、あの人物はエルフとかいっていたが、
神子達から先生、とよばれる立場でこんな口調ではなかったような気がするがゆえのしいなの台詞。
「…先生、遺跡をめにしたら思いっきり豹変するんだよ」
「ああ、学者気質ってやつか?よくいるんだよね。豹変する輩って」
ロイドのいい分に、どこか納得したように、しみじみと語るしいな。
どうならしいなも同じようなヒトを知っているらしい。
「そうなのか?」
いともあっさりと同意され、逆にロイドのほうが不思議になってしまう。
それゆえに、しいなに首をかしげつつも問いかける。
「ああ、あたしのしってるやつも…って、なんであたしは敵であるあんたとなれなれしく話してるんだい!?」
「お前から話しかけてきたんだろうが」
ロイドとしいながそんなあるいみ漫才のようなやり取りをしているそんな中においても、
リフィルによる二人の男性への説教に近い御小言はどうやら止まっていない模様。
「いいか、この遺跡の重要性を今からしっかりと説明してやるからよくきいておけっ!」
ばし。
いつもの癖なのであろう。
いつも、机をばし、と叩く容量で近くにあったもの…すなわちそこにある箱のような装置をばし、
とたたいているリフィル。
カチリ。
「「「「あ」」」」
リフィルが叩くとともに、かちり、という音がして、そのままカチコチと時を刻む音が、
その箱型の何かからきこえてくる。
それが何をするのか察知し、思わず異口同音で声をあげている、ロイド、しいな、そして男たち二名。
「この素晴らしい遺跡を破壊するだと!?いいか、この遺跡はパラグラフ王廟の最盛期に……」
「……先生」
ロイドがちらり、とハーレイとかいっていたバンダナの男性に視線でといかければ、
ハーレイという人物はこくこくとうなづいている模様。
どうやらまちがいなく、起爆のスイッチが今のではいってしまった、らしい。
「…ちょいまってよ。洒落になんないじゃないか。あ、またカウントが減ってってる!?
爆弾ってどれほどの規模なんだい!?」
それをうけ、あわててロイドがリフィルの服の袖をひくが、リフィルはまったく意に介さない。
しいなはしいなでどうしたらいいのかと戸惑い、半ばちょっとした混乱状態になりかけていたりする。
たしかに神子達の命を狙っているとはいえ、爆死、というのは何だかいただけない。
しかもその爆弾の規模もわからない。
下手をすればこの山ごと、という可能性も否めない。
特にしいながしっている爆発物の規模は大から小まである。
ここ、シルヴァラントでどれほどの威力をもった爆発物が創られているかはわからないにしろ。
しかし、パルマコスタの牧場のこともある。
あれほどの規模をおこせる爆弾があるのならば、一般に出回っていても不思議はないかもしれない。
それゆえの懸念。
「何だ?質問ならあとで受けつける」
あまりにロイドがしつこく、袖をひくがゆえ、ロイドをちらり、とみてリフィルが言い放つが、
「…爆弾のスイッチが入った」
いいつつも、ロイドがいまだカチコチと音をきざみし箱を指差す。
「あんたが自分でいれてたよ?あ、あたしはこれで……」
「にげるな!」
がしっ。
その場を離れようとするしいなをかろうじてつかまえているハーレイとかいう男性。
「ええい、はなせ!あたしは巻き込まれるわけにはいかないんだよ!」
「そうだよ。ここであったのもいちたくれんだ!」
しいながじたばたするが、そんなしいなにむかいロイドが何やら言い放ち、
「それをいうなら一蓮托生だよ!」
もののみごとにまたまた言い回しを間違えているロイドにたいし、思わずしいなが突っ込みがてら訂正をいれている。
「質問ならあとで、と……何?!」
そんな彼らのやり取りでようやく何かがおかしい、ときづいたらしく、
リフィルがそこにある装置から音がしていることにようやくきづく。
「女!お前のせいでスイッチが入ってしまったのだ!」
ハーレイがここぞとばかり、リフィルにとくってかかっているものの、
「ヒトのせいにするな!」
どげしっ。
再びそんなハーレイにたいし、リフィルのとび蹴りが炸裂する。
「いや、どうみてもあんたがスイッチいれてたじゃないか……」
それをうけようやくハーレイの腕から解放されたしいながつかれたように呟き、
「そんなことより。解除スイッチはないのかよ?」
ロイドが確認をこめて、これをつくったとかいっていたハーレイに問いかけるが、
「そんなものあるか!」
いともきっぱりと、ロイドの言葉にたいしてはなったのは否定の言葉。
「「いばるな!」」
その言葉をきき、もののみごとにしいなとロイドの声が同時に重なる。
まるで示し合わせたように、異口同音でしっかりと動作まで同じに言い放つ様は、かなり息があっているといってよい。。
「というか解除もできないようなもんをつくるな!うちの里のもんじゃあるまいし!」
そのまま、ハーレイにむけて、しいなが何やら文句のようなもをいっているが。
どうやら、彼女の知り合いもにたような何かをしでかしたことがあるらしきその言いよう。
「里?と、ともかく。しかたねぇ。時間もないみたいだし。俺が解体する」
確か、村とか里は同じ意味だったよな。
そうロイドは思うが、しかし今は一刻も時間がおしい。
このまま言い合っていて爆発しました、巻き込まれました、では洒落にならない。
そのままカチャカチャと何やらロイドが装置らしきものをいじりだしてしばらくのち、
カチカチ…カチ。
数字を刻んでおり、カウントが百から減っていった数値がどうにか十の手前でぴたり、ととまる。
「へぇ。すごいですねぇ」
その様子をみて、眼鏡をかけている男性…たしか、ライナーと呼ばれていた男性が、しきりに感心した声をあげているが。
「へえ。お前、器用だな。制御不能の『ブレイカー』を止めるとは」
カウントが停止したのをうけ、感心したようにしみじみといっているハーレイ。
「制御不能なんてもんをつかうんじゃないよ!下手したら暴発したりしたらどうするのさ!
あんたの大切な人達までまきこんだりしたらどうすんだよ!」
しいなが怒っているのはまさにそこ。
装置を誤爆させたりするのはそれは個人の勝手かもしれない。
しかし、関係ないもの、とくに仲間まで巻き込んでしまったり、
家族、しかも大切な人まで巻き込みかねない危険物の取り扱いには注意が必要のはず、なのに。
しかしこのハーレイとかいわれていた男にはその自覚がないらしい。
ゆえに口調もしいなとしても厳しくなってしまう。
「そ、それは……」
「それは、じゃないよ!だいたい、なんだって遺跡を壊そうだなんて……」
そのまま、ハーレイにたいし、懇々と説教を始めるしいなをみつつ、
「お前、ほんとうはいいやつだろ。やっぱり」
しみじみとそんなしいなをみてぽつり、といっているロイド。
どうみてもその声には他人を心配している有様がみてとれる。
コレットを狙っている、というがディザイアンの関係者にもみえないし。
しかも、あのピエトロとかいう人物も無償で助けていたっぽい。
そんな人物がどうしてコレットの命を狙ってくるのか、という疑問はロイドの中ではつきないが。
もしかしたら誰かが人質にされて、無理やりに命をねらえ、といわれているのかな。
そんなことまでふとロイドとしては思ってしまう。
あるいみそれは当たらずとも遠からず、なのだが。
そのことにロイドは気づかない。
「な、何をいきなりいうのさ」
いきなり、いい人よばわりされ、思わず真赤になってとまどうしいな。
と。
「何かあったの~?あ、しいなさんだ~。おひさしぶりです~。…きゃっ」
どうやら石舞台の後ろのほうで騒ぎがおこっている様は、
これだけ騒いでいればコレット達にも気づかれるというもの。
特に今のコレットは聴覚が発達しており、ゆえに心配になってやってきたはいいものの、
そこにしいなの姿をみつけ、そのままにこやかに握手とばかりにちかよってゆく。
こけっ。
石舞台を回り込み、そこにしいなの姿をみて、近づこうとしたコレットだが。
そのまま何もないところでそのままその場にとこけてしまう。
ちょうどしいなに近づこうとしていたがゆえに、そのまましいなのいる場所に倒れ込むようにして、
しいなすら巻き込んでこけてしまう。
「ちょ…」
何すんだよ!?
としいなが抗議の声をあげようとしたその刹那。
ぶわっ。
コレットとしいなの頭上すれすれを何かがかすめてとんでゆく。
「な、何だ!?」
「上だ!」
ロイドが思わず身構え、ハーレイとか呼ばれていた人物がはっと上空を振り仰ぐ。
「やばい、やつがもどってきたのか!?」
そういう言葉とともに、激しい羽の音とともに鳥ににた魔物が旋回しつつ降りてくるのがみてとれる。
その体はさほど大きくないものの、翼を広げた姿はゆうにイチメートルくらいはあるであろう。
炎にもにた皮膜のように覆われたその姿。
「魔物?!」
ロイドがあわてて剣をぬき、その魔物にたいし攻撃の姿勢を構えるが、
「まって!」
それとともに、エミルが石舞台をかけあがり、飛んでくる魔物にたいし手を伸ばす。
「エミル、危険だぞ!?」
「ちょ、あんた、ちっ」
ロイドがいい、しいなが舌打ちしつつ、懐から一枚の紙らしきものを取り出し身構える。
しいなからしてみれば、エミルの行動は無謀、その一言につきる。
が。
「大丈夫。落ちついて。そう、大丈夫」
『・・・・・・・・・・・・・・は?』
だがしかし、次の瞬間。
全員の目が点になってしまう。
その鳥は、あろうことかエミルの目の前までくると、その首をうなだれ、
エミルが伸ばした腕に頭をすりつけるようにし、そのままなされるがままに頭をなでられている。
「あ、あの狂暴な魔物がなついてる?」
「いままであいつによって吹き飛ばされたけが人がかなりいるのに?」
何やら茫然、とした男たちの台詞。
そして、いつのまにか大人しくなったその魔物は、
そのまますっぽりと、いつのまにかエミルの手の中になされるがままにおさまっている。
翼を収めたその大きさは、ちょうどちょっとした子供でいうなれば二歳か三歳児程度の大きさでしかなく。
「うわ~。近くでみたらかわいいね。このこ」
いつまにかエミルの手の中にすっぽりと、しかも大人しく収まっている魔物らしき鳥の子供。
その姿をみて、コレットが目をきらきらさせていってくる。
そのくりっとした黒き瞳がいかにも愛らしい。
「この子はインセインの子供だよ。ちょっと興奮してたみたいだね。どうやら迷子になってるみたい」
「そうなんだ~。この子の名前は何ていうの?」
「キュイ?」
コレットにいわれ、しかしよく意味がわからず、まだ子供であるがゆえに、
この魔物の子供はまだヒトの原語を理解することは不可能。
エミルの声がわかったのは、エミルの声に力が含まれていたがゆえ。
産まれてまもないとはいえ本能にその力の波動は刻まれているがゆえに大人しいといってもよい。
「キュイってなくから、ならこの子はきゅ~ちゃん!」
「キュ~?」
何かヒトらしきものがいってるんですけど?王様?
不安そうにエミルをみあげ、きゅ~となく様は、逆にかわいらしさをあおっている。
しかもご丁寧にちょこん、とそのその体よりも少し長き首をかしげつつ鳴いていればなおさらに。
「ちょっとまて。エミル。なんで野生の魔物らしきそれがまたなついてるんだよ!?」
ロイドからしてみれば至極もっともな疑問。
「誰だって迷子になって不安になってるとき、敵意をあからさまにむけてきたら興奮するでしょ?
それに、みれば混乱してるかどうかくらいわかるでしょ?しかもこの子まだ子供だし」
「「「「いや、わからないから」」」」
きょとん、としてきっぱり言い切るエミルの台詞に、
ハーレイ、ライナー、リフィル、ロイドとしいなの五人の声が同時に重なる。
そんな中、
「きゅ~ちゃん」
「きゅ、きゅ、きゅ~?」
コレットはどうやら、エミルの手の中にてなされるがままにすっぽりと抱かれている魔物の子が気にいったらしく、
ちょんちょんとつついては、その頭をなでなでしていたりする。
それにあわせ、魔物の子の声が響いているのがみてとれる。
緊張感の欠片もない。
そんな中。
「こらぁ!姿がみえんとおもったら!ハーレイ!ライナー!そこにいるんじゃろうがっ!
特にライナー!また余計なことをして風の精霊様のご不興を買ってるんじゃあるまいな!」
階段の下のほうより第三者のどなり声らしきものがきこえてくる。
その声をきき、
「いけない、町長だ!」
「まずい、にげるぞ!」
いうなり、そのまま走り出しているハーレイとライナー。
「よくわかんねぇけど。先生、なんかやばそうだぜ。とりあえずにげようぜ。お前も」
「しかし、まだこの石舞台の構造を……」
ロイドがいうと、リフィルがしぶりそんなことをいっているが。
「ああもう。そんなことをいってる場合かい!?とにかく、ここから逃げないと!」
たしかこの場は立ち入り禁止、といわれていたはずである。
まだ完全に閉鎖されてはいなかったにしろ、しかし立ち入っているのもまた事実。
「ふえ?」
「コレット、いくぞ!」
「あ、まってよ。ロイド~。しいなさんもいきましょ」
「だから、手をひくな、というかあんたは少しは警戒心というものをもてぃっ!」
いいつつも、しいなの手をいきなりつかみ、はしりだしているコレットに対し、
命を狙っているものとはおもえない台詞がしいなの口から飛び出していたりする。
たしかにしいなのいい分、警戒心をもて、といういい分もわからなくはないよな。
そんなことをふとエミルは思うが、
「…ヒトとは面倒だな」
「きゅい」
よくわかんないです。
なきごえとともに、その言葉が発せられ、苦笑せざるを得ない。
「まだお前はな。しかしこれからお前もヒトのことは覚えていかないとな。
お前達のその皮膚を目当てに狩りつくすのもまたヒトでしかないからな」
攻撃をよせつけない彼らインセインのヒフは防具としてはうってつけらしく、ヒトはこぞって彼らを狩ろうとする。
そのために、無意味にも彼らに有効な種の飛竜達まで狩りつくされている悪循環。
「え、えっと。何があったのさ?」
「とにかく、いくぞ!」
「あ、まってよ、ロイド!」
それとともに、霧が一瞬深くなる。
「ラッキー、今のうちに逃げるぞ!」
少し先ほどみえない深い霧は、この場から逃げるのにはうってつけ。
いまだ何が起こったのか理解していないジーニアスに声をかけ、
ため息をついているクラトスをちらり、とその視界の先にととらえ、そのままロイド達もまた、石階段を駆け下りてゆく。
「さっきの二人は何ものなんだ?」
「あ、あたしにきくなよ!というか、あんたはいつまであたしの手をにぎってるんだいっ!
と、とりあえず、さっきのことは礼はいっとくけど。あたしはあんたの命を狙ってるのをわすれるんじゃないよ!」
石階段を降り切り、ロイドが石階段の先をみあげつつ、そんなことをぽつり、とつぶやき。
いまだにコレットがしっかりとしいなの手を握っていたのをうけ、
しいなが真赤になりつつも、どうにかコレットの手を振り払いつついってくる。
「しいなさんも祭司様を探してるんですよね。またここで会うなんて偶然ですし。
せっかく目的が同じなんですから一緒に行動しましょうよ~、ね?」
「だ、か、ら、ヒトの話しをきけぇぇ!」
ぜいはぁ。
息を大きくすい、しいながおもいっきりコレットに叫んでいるが。
「でも、エミル。その子、かわいいね」
「本来、この子達はこのあたりにはいないはず、なんだけどね」
「そうなのかい?」
さらり、とコレットが話題を変えたのにもきづかずに、そういえば、とおもったように、
しいなもまたエミルの手の中の魔物をみて首をかしげる。
見たことのない魔物。
「へぇ。その特徴、王立研究院でもみたことがない種類だね。何か特徴があるのかい?」
「この子達の主な特徴は、攻撃をうけたとき、皮膜のようないうなれば、バリア、かな?
その膜によって全ての攻撃を無効化する特性があるんだ。
そのために、ヒトはこの子達を乱獲してたりしたから、もっと座標の高い山に生息してるはず、なんだけど」
「たしか、その魔物、インセイン、だったか?攻撃に有効なのは、ある種の飛竜のツメ、だったか?」
しいなの問いかけにエミルが魔物の頭をなでつつも答え、クラトスが何かを思い出しつついってくる。
「しかし。エミル、お前はどうしてそこまで魔物の生体に……」
クラトスが何やらいいかけるものの、
「そういえば、何でさっきの人達。遺跡を破壊しようとしてたのかな?」
さりげなくいうそんなエミルの台詞に、
「そう、遺跡よ!彼らに破壊を壊すなんて愚かな真似はやめさせなくては!!
この街の住人ならばヒトに聞けばどこに住んでいるのかわかるはず!いくわよ!ほら、あなたも!」
「って、なんであたしもなんだい!」
「あなたも当事者だからよ」
「あ、あたしは無関係だぁぁ!」
「わ~、しいなさん、これからもよろしくおねがいしますね。嬉しいな。旅の連れがまた一人ふえるんですね~」
リフィルの言葉をきき、にこにこと、すでに決定とばかりに言い放っているコレット。
「だ・れ・も!一緒にいくなんていってなぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
しいなのむなしいまでの叫びが辺りにと響き渡ってゆく……
結局のところ、先ほど偶然とはいえコレットに助けられたのは事実。
あのままたったままであれば、インセインの飛行の衝撃にまきこまれ、
そのまま崖から振り落とされていた可能性も否めない。
しかたなく、恩は恩なので彼らを探すのだけはつきあう、という分野で妥協したらしい。
ハーレイとライナーの意場所を探す、といってもそう簡単なことではないらしく。
何といってもこの街、アスカードの街並みそのものの家の造りにもかかわってきている。
山間につくられている集落なので、よくよくみれば、特別な公共の建物以外…
強いていえば宿屋等といった建物以外は、山肌に横穴をほっただけの住宅がかなり目立つ。
窓などといったものすらほとんどなく、木製の扉をしめてしまえば中の様子など伺いようがない。
もっとも、窓から他人の家の中をうかがっていれば、不審人物、としておもいっきり怪しまれてしまうであろうが。
「ライナーんとこならあそこだよ。ほら、あの風車の隣の。
アイーシャもかわいそうにねぇ。いくら兄さんの尻ぬぐいだといってもさ。
そもそも、ハーフエルフと一緒にいるからそんなことになるんだっていうのに」
しいながそのあたりにいる町の人らしき人物に話しかけると、
以外にもどうやらビンゴであったらしく、目的の人物の家はいともあっさりと判明する。
その言葉をきき、一瞬、リフィルとジーニアスが顔を見合わせる。
「…ここでも差別はひどいみたいだね」
ぽつり、といったしいなの言葉の意味は、リフィル達にはわからない。
「とりあえず、さっきの奴らの家がわかったよ」
その考えを振り払い、とっとと先ほどの助けてもらった恩をかえすべく、
そうしなければ神子の命を狙うことができない、とは、しいなのいい分。
「あの壊れた風車の横の家だってさ。とりあえず、あたしももう少しあいつに説教しとかないとね」
ぶつぶついうしいなの口からは、他人を巻き込むことの危険性などといった言葉が紡ぎだされていたりする。
どう考えても暗殺者というか刺客がいうような台詞ではない。
たしかにひときわめだつ風車があった、のであろう。
今はその風車は壊れてしまい、いまだに修理すらしていないらしい。
その横に石を積み上げてつくられている頑丈そうな家がたっているのがみてとれる。
ところどころ木々も使ってあるようではあるが、ちょっとやそっとの風ではびくともしないような家。
そのまま、受け取った情報をもとにその家へとひとまず向かってみることに。
家の中にはいると、ライナーとハーレイと名乗っていた男たち。
そして、ライナーと同じ色の髪、深い藍色の瞳をもった女性、その三人が何やら話している模様。
大きく切った窓のおかげなのか、家の中は以外なほど明るさが保たれている。
「あ!お前達、さっきの観光客だな!?」
家にはいってきた彼らにきづき、ハーレイと呼ばれていた人物が目ざとく叫ぶ。
「観光客ではない。私は学者です」
そんなハーレイの言葉にきっぱりと学者、といいきっているリフィル。
「何でもいい、でていってくれ!」
ハーレイの言葉をうけ、
「やめてよ。ハーレイ。ここは私の家なのよ」
ライナーの隣にいた娘が、ハーレイにいい、リフィルにまっすぐにと向き直る。
ちなみに、エミルはその手にまだ魔物を抱いていることもあり、
その身にマントをはおり、すっぽりとフードつきマントにてインセインの子供を人目から隠していたりする。
「さきほどは、兄とハーレイを止めてくださったという方ですね。ありがとうございました」
女性がぺこり、と頭をさげてくるものの、
「止めた…というのか、あれは」
おもわずぽそり、と突っ込みをいれているクラトス。
あれは止めた、というか何というべきか。
リフィルが起爆装置を作動させた、という点ではたしかに彼らがやったわけ、ではないのだが。
止めた、というには何か違うような気がしなくもない。
「あれは止められたというより邪魔されたんだ」
どうやらハーレイも同じ思いであるらしく、そんなことをいってくるが。
「どっちでも同じことでしょ!遺跡を壊したら困るのはこの街の人達なのよ」
「このごにおよんで、他人の心配かよ。このままだとお前が生贄になるんだぞ!そこにいるバカ兄貴のせいで!」
「仕方ないわ。兄さんがしでかしたのだもの。私にも責任があるわ」
何やら物騒極まりないそんな会話をしている彼ら達。
どうやら、女性とライナーという男性は兄妹、であるらしい。
「生贄?」
ロイドがその言葉をきき思わずオウム返しにつぶやくと、
「風邪の精霊をお祀りする儀式なんです。以前は石舞台で踊るだけだったのですけど。
それにたまたまこの時期、アイーシャが選ばれてしまったんです」
ライナー、と呼ばれし男性が頭をかきつつもどこか沈んだ声でいってくる。
「あれは選ばれたというか、こいつが立候補なんてしやがるからっ!」
ハーレイの言葉にはどこか怒りというか何ともいえない感情がこもっているのがみてとれる。
「こいつが、この馬鹿が!最近、異様に風がつよまって、さらには魔物が突発的にでるからって!
石舞台に原因があるんじゃないかって調べたあげく、
勝手に封印をときやがったんだよっ!おかげで風の精霊とやらがよみがえって。
こともあろうに生贄を要求してきやがったのさ!」
吐き捨てるようにいうハーレイの言葉には何ともいえない怒りがこもっているように感じられる。
「封印?封印、とはもしや……」
「え?封印って」
リフィルとコレットが同時に声をあげる。
ライナーがうなづき、
「そうなんです!あなたもバラグラフ遺跡を研究なさっているなら風の精霊をまつる祭壇のことを御存じでしょう。
伝説通り、封印は存在したんです!」
「バラグラフピラーの象形文字は神話ではなかったのか!」
「ええ、ええ、その通りです!」
ライナーとリフィルはどうら、一瞬にしてお互いが似た存在同士だ、と察したらしい。
同じ種類の興奮で頬を紅潮させ、そのままこの地方に伝わる神話について、
ロイド達をそのままさしおしていきなり話しだしていたりする。
「・・・?」
「なんか、俺達が探してる封印じゃないみたいだな」
「姉さん…旅の目的…忘れてない?」
そんな会話をききつつ、コレットが首をかしげ、ロイドが探している封印とは違うようだ、と認識し。
ジーニアスがあきれがてらに姉にたいし、声をかけているものの、
どうやら話しが合う者同士とあうことが滅多とないリフィルにとって、
話しが弾んでいるらしく、ジーニアスの忠告にもちかい言葉は聞こえていない模様。
「まあ、よかろう。…まんざら回り道、というわけでもない」
「?」
そんな様子をみて、クラトスがぽつり、とつぶやくが。
その言葉を耳にとらえ、逆にロイドは首をかしげていたりする。
クラトスからしてみれば、封印の鍵を預けているアレがさきに目覚めている、
というのがきになるが、それは些細なことでしかない。
アレが目覚めるか、さきに石板がみつかるか、そのどちらかでしかないのだから。
「ええ。祭壇の裏手に小さなくぼみがありまして……」
やがてどうやら話題は、どうやって封印を解いたのか、という話題にうつっているらしい。
と。
「いい加減にしろ!アイーシャが明後日の満月の夜、風の精霊の生贄になるんだぞ!いいから、でていけ!」
それまではたからみてもイライラを募らせていたらしいハーレイがついにどなる。
「あ、ごめんなさい。もう、姉さんったら」
ジーニアスがアイーシャ、とよばれた女性に頭をさげる。
「いいのよ。気にしないで。元はといえば兄のせいなのだから。覚悟はできているのよ」
そんなジーニアスにアイーシャは優しくほほ笑みかける。
「もう、姉さん、いくよ!」
「ああ、まだ話しはおわって……」
「お邪魔しました~」
ずるずるずる。
どうやらこのままだとラチがあかない。
そう判断したらしく、うん、とうなづきあい、がしっとしいながリフィルの右側を、
ロイドがリフィルの左側を、さらりはジーニアスがリフィルの背を。
それぞれぐいぐいとひっぱりつつも、家の出口にとひっぱってゆく。
「ああ、まだ、話しは…」
「お邪魔しました~」
パタン。
ぐいぐいと押し出す形でリフィルを何とか家の中から押し出し、最後にコレットがぺこり、と頭をさげてその家を後にする。
「お前達だな。石舞台に上がっていたのは」
封印、という言葉もあり、もう一度石舞台にいってみるべき。
そう強く主張するリフィルをなだめるどころか、クラトスまでも同意したがゆえ、ひとまず再び石舞台にとつづく階段へ。
その階段の麓には男性が三人おり、一行の姿をみるとそんなことをいってくる。
どうやら先ほど階段にてすれ違った人物であるらしい。
「私は学者です、この遺跡を調べさせてはもらえませんか」
その中心にいる人物がおそらくこの街の村長、なのであろう。
この街の村長の顔までエミルはよく覚えていないが。
たしかマルタとともにかつてこの街にやってきたときにあっていたはず、なのだが。
あまり周囲の他人に興味がなかったというかそれどころではなかったというか。
この地にて印象深かったのは、あのアリスという少女と、かなりの突風。
ついでにいえばいきなり手をつないできたマルタの行動、くらいだろうか。
この地…時間軸の世界ではおそらく自分はマルタと出会うことはないであろうが、それでもいいとおもう。
彼女は人間。
自分とかかわり、彼女の人生は狂ったといってもいいのだから。
「この街にもそういう馬鹿がいる。おかげで町の観光事業は崩壊寸前になっておる。断る」
エミルがふとかつてのことを思い出していると、どうやらリフィルが村長らしき人物に、
何かをいったらしく、もののみごとに石舞台に上がらせてほしい、という提案は却下されている模様。
「どういうことですか?」
なおも食い下がるリフィルにたいし、
「知りたければライナーにでもきけばいい」
吐き捨てるようにいってくるその表情は、どこか忌々しそうに顔をゆがめていたりする。
「生贄のことならききました」
今ここで諦めては石舞台のことも、封印のこともわからない。
ゆえにリフィルとしては一歩も譲る気持ちはさらさらない。
ゆえに断固とした姿勢できっぱりといいきっていたりする。
「ならわかるだろう。これ以上石舞台を調べられて、風の精霊様の御怒りを買うわけにはいかないのだ。
この石舞台に上がれるのは精霊の踊り手だけだ」
というより、あの姉妹達は生贄なんかささげたらそれこそ怒りまくるぞ。
かつてのときのように。
どうしてヒトは生贄などといったものでどうにかなる、とおもうのであろうか。
なぜか死して自分達の世界や、人間達がいうところの神の世界にいける、とおもっている節がある。
中にはあまりにも強き念を抱き、厄介な存在となったり、あげくは魔族に魂を売り渡すものすら。
なぜにすき好んで永遠ともいえる時間を得ようとするのか。
そこに何かしらの目的もない、というのに。
そう、世界を構成してゆく、という役割などがあるわけでもない、というのに。
「なら、私が踊り手になります。それなら石舞台にあがってもいいですよね」
「先生!?」
リフィルが何やらいいだした。
その言葉をきいてロイドが驚きの声をあげる。
「ここが封印かもしれないわ。風の精霊にあえばわかるはず。
精霊がもとめる生贄とはマナの神子のことかもしれなくてよ」
「姉さんは、絶対に石舞台を調べたいだけじゃ……」
ぼかっ。
「~~~~っ」
ぽつり、といったジーニアスの頭に、リフィルの鉄槌が炸裂する。
気持ちはわかるが、口にだすことではないような気がする。
まあおそらくは、ジーニアスのいうように、石舞台を調べたいだけ、なのであろうが。
そういえば、マルタのときは思い出していなかったが、
あの踊りはずいぶんと簡素化されて伝わっているんだな、とふともう。
かつて、彼女達に舞いを奉納するときは、それこそくるくると風が舞うがごとくに舞っていた。
たまには気分転換が必要ですし、見てください。
といって幾度か見せられた記憶もそれこそある。
面倒なのであの間から空間をいじり、その場に映し出して見物しはしたが。
一時あの舞いがそういえば、アクアの中でマイブームになっていたな。
とそんないらないことまで思いだしてしまう。
「そうかぁ。さすがリフィル先生」
しかしコレットはその言葉の裏をまったく気にしてないというか気付いていないらしく、
素直にリフィルのいい分に感心していたりする。
「…口は災いのもと、とはよくヒトはいったものだよね」
ぽつり、とつぶやいたエミルの言葉になぜか横のほうでしいながうなづいているのがみてとれるが。
どうやらしいなもあの石舞台に関しては何やら思うところがあるのか、
結局のところ、まだ助けてもらった恩がかえせていないとか何とかいいつつ、ここまでついてきているこの現状。
何だかんだ、といってもやはりこのしいなという人間は基本お人よしだからな。
そんなことをふとおもってしまう。
かつてのときですらそうだったのだから。
ヒトの本質、というものはそうそうはかわりはしない。
その心が負に負という感情にまけたりしないかぎり。
だからだろうか。
ミトス達のことの記憶も上書きされているからか、ミトスが本気で自分を裏切っている。
などとは信じたくない、という思いもある。
まあ、種子に勝手に宿ったあげく、姉とともに自分の役割を勝手に奪ったのは事実なれど。
あの彼のこと、負担を誰かにかけるくらいならば自分で、という思いが働いた、という可能性も否めない。
その結果、何がおこるか、ときおりよく彼は見落としてはポカをしていたことを思い出す。
それらを修正していたのが、ほかならぬクラトスやユアン、であったはずなのだが。
その当事者達がこぞって間違った道を肯定してこの現状が出来上がっている模様。
本当に、どうしていさめなかったのか、とつくづく思ってしまう。
ミトスは聡明でもあったので、きちんと説明、説得すれば納得したであろうに。
しかし、彗星の内部にいるミトスに意識をむけてみれば、
かつてのミトスがやどしていた輝きはその瞳には身受けられない。
他者を見下す、ミトスが一番きらっていたその瞳に成り果てている模様。
それこそ自分達以外、仲間以外はどうでもいい、といわんばかりに。
あのとき、そうでない人間がいる、というので気にかけていたというのに。
自分達人間がしでかしたことは自分達でケリをつけるべきだ、
といって魔界の住人を書物に閉じ込める提案をしてきたのもミトスだったのに。
彼のことを思えば何だか悲しくなってしまう。
ヒトはかわるもの。
それは永き時を経験しているがゆえに理解している。
いるが、その変わりようを毎回みるたびに同じ思いに捕われてしまう。
どうして、と。
幾度かあまりにかわらない彼らをみて、自ら手を下したこともある。
自然災害、という形をとって。
それは遥かなる過去の記憶。
「お願いです。町長」
はっと我にもどると、どうやらリフィルが町長に懇願している言葉がきこえてくる。
しばし目をとじ、いろいろと回想していたゆえに心配していたのであろう、
『王?大丈夫ですか?』
『王様?』
肩にのりしレティスと、いまだに抱きかかえているインセインの子が心配そうにいってくる。
どうやらすこしばかりの不安というか感情が彼らにも無意識のうちに伝わってしまっていた模様。
「ああ」
その言葉をうけても、どうやら二匹とも心配はぬぐい切れていないらしい。
特にまだ幼きインセインの子はかなり心配しているのがみてとれる。
まだ産まれて二カ月にもならないこの子供は、世の中をほとんど知らないといってよい。
ヒトにかかわらず生きていったほうが楽といえば楽なのだが。
よくもわるくも、彼らに影響を与えてしまうのは、ヒト以外にはありえない、のだから。
「・・・・・・・・・・好きにするがいい。命をおとしてもわしらは責任をとらないぞ」
リフィルのそのものいいにどうやら折れた、らしい。
もっとも折れた、というよりは、町の人を犠牲にするよりは、
みもしらない旅人を犠牲にしたほうが、町の被害は最小ですむ、という思いもあるようだが。
自分が生贄になって死にたい、というのならばおしつけてしまえばいい。
そんな思いがありありとみてとれる。
「しかし。村長。衣装一式は、すでにアイーシャの元に届けられているはずですが」
「おかまいなく。勝手にとりにいきますから。それで、本来の祭りは満月の日、ということですけども。
明日にでも練習、ということで石舞台にあがってもよろしいでしょうか?」
「しかし、舞いはそう簡単に覚えられるものでは」
「問題ありません」
きっぱりいいきるリフィルのいい分に、なぜか顔をみあわせる町長たち。
そういえば、かつてリフィルがここで舞ったとき、一晩で覚えたとか何とかいっていたような気がする。
マルタが一度で覚えた、という説明をきいて安心していたら、予想以上に難しい。と愚痴をいっていたことを思い出す。
「え…そんな、私の身代りなんて……」
服をうけとりに、アイーシャの家へ。
リフィルが変わりに踊る、ときき、アイーシャが驚愕の表情を浮かべているのがみてとれる。
「気にすることはなくてよ。これは私にとっても有意義なことなのですから」
そういわれても、アイーシャからしてみれば、他人に自分の兄がしでかした始末をおしつける。
というような形であるがゆえに灰そうですか、お願いします。
といえないのも事実。
直接、風の精霊とかいうのをみたわけではないが、きけば強そうであった、らしい。
…まあ、とんできた小さな魔物に攻撃されて姿を消していた、らしいが。
「姉さん、本当に大丈夫?」
「そうね。いざというときのために護衛を選んでおきましょう」
「あ、なら僕参加してもいいですか?この子の両親がやってくるかもしれませんし。きっと心配してるとおもうんですよね」
先刻、ひとまずこの子の両親と繋ぎをとるために、もどってきたセンチュリオン・ルーメンに命じてはおいた。
どうやらこのあたりの魔物と今現在、縁を取り戻している模様。
まあ、縁の強化のついでなので命じた任務に問題はないはずである。
「とりあえず、その踊りというものを教えてもらえるかしら?
あなたたちは、準備が整うまで、宿で待機していてちょうだい。明日には完全にこなしてみせるわ」
「本当に大丈夫なのかよ~」
ロイドがいい。
「そういえば、えっと。しいなさん、でしたよね。今日の宿はとれてるんですか?」
「え?え、あたしは……」
「そういえば、先生がこっちにいるんだったら、先生の布団があまるな。
ちょうどいいからお前も一緒にねようぜ。なあなあ、百物語でもしようぜ」
「あ、あたしは遠慮するよ」
「でも、ここ山だから風邪ひいたら大変ですよ~。
わたし、同姓の女の子と一緒にねたことないから、しいなさん、おねがいしますね?たのしみです~」
「あ…あんた…し、しかたないわね。こ、今回だけだからね!」
神子という立場でヒトから倦厭されていたのであろう。
その言葉で用意に予測がつく。
特にそのような人物が近くにいればなおさらに。
まあ彼の場合は女性にたいし、こう思うところがありすぎるといってもよいが。
それゆえにコレットにそういわれてしまえば、しいなとしても強く断ることができはしない。
一人、仲間がいないさみしさはしいなは身をもってしっている。
それに、同姓同士でなければいえないこともあるであろう。
しいな自身には今はコリンがいるからコリンに何でも相談しているが。
この子にはそういう相手がいたんだろうか、そんなことをしいなはふと思ってしまう。
コレットはすべてその身に様々な思いをためこんで、誰かに相談したことはほとんどないといってよい。
「…でれた」
「よっしゃ。先生がいないんだったらまくら投げしようぜ!」
それをみてジーニアスがぽそり、といい、ロイドに至ってはそんなことをいっていたりする。
「クラトス。よ~~~くこの子達をみはっててちょうだい。
宿に迷惑かけたらロイド、あなたにだしている課題を十倍にしますからね!」
監視していないときに何をしでかすかわからない。
リフィルの懸念はあるいみ最も。
「えええええ!?そりゃないよ!先生!せっかくおにがまにいないのに!」
「ロイド、また慣用句間違えてるよ……」
ロイドの言葉をきき、ジーニアスがため息まじりにぽつり、とこぼす。
「鬼窯?わ~、それってものすっごくおおきい窯なんだろうねぇ。
鬼さんがはいれるほどの大きさのものなのかな?」
「いや、あんた、あたしがいうことじゃないかもしれないけど、絶対にそれ違うだろ」
コレットののほんとしたものいいに、あきれたようにしいながつっこみをしてくる。
「しいなっていったよね!」
「え?あ、う、うん」
「ありがとう!いつも僕一人で突っ込み大変だったんだ!これからもよろしく!」
がしっと、しいなの手をつかみ、ジーニアスがなぜか瞳をきらきらさせて、
どこか期待をこめた様子で何やらいっているが。
「……もしかして、いつもこの子たちこうなのかい?」
「…最近は、エミルがくわわってどうにもならないことも」
なぜかそんな会話をしているしいなとジーニアスの姿。
「?」
どうにもならない、とはどういう意味なのか。
エミルも意味がわからず思わず首をかしげてしまう。
ぽん。
何か思うところがあったのであろう。
しいながぽん、とジーニアスの肩にと手をおき、
「あんたも苦労してるんだねぇ」
しみじみと何やらそんなことをいっていたりする。
「とにかく。今日は宿でゆっくりとやすむべきだろう。…明日にそなえて、な」
「しいなさん、いろいろと女の子のお話しきかせてくださいね。
村の女の子たちがいっていたけど、お泊まり会とかいうんでしょ?こういうの」
「あ、あたしは別に話すことなんてない、からね!」
「あ、しいな、てれてる」
ロイドがそんなしいなにたいし突っ込みをいれる。
「う、うるさいね!」
顔を真っ赤にしていっていれば説得力は…ない。
アスカードの街に朝が訪れる。
コケコッコー。
どこからともなくきこえてくる鶏の鳴き声。
朝靄がたちこめ、山々をすっぽりと包みこんでいる。
どうやらアクアがきちんと魔物達に命じていることもあり、
このあたりの大気中に含まれている水分のマナの調整もしっかりと整っているらしい。
ライナーの家から石舞台にと出発してゆく一行は、
練習なので朝でも問題ないですよね、というリフィルの半ば強引な意見もあいまって、
結果としてすでに舞いを覚えたというリフィルを伴い、
村長と、そして幾人かの見届け役の村人たちとともに石舞台へ。
なぜか昨夜はエミルが抱いていたインセインの子がコレットだけでなく、
しいなにも人気になっていたりしたのだが。
一つの部屋であったがゆえに、他の客がいなかったゆえにエミルが自由にさせていたといってもよい。
小さな体でちょこまか動く様はあいくるしさを誘った、らしい。
結局、リフィルに注意されていたというのに、いきなりロイドはまくら投げを初めてしまい、
クラトスにしばらく正座させられたりして、一晩過ごし今にいたる。
まくら投げって、何?といったエミルの言葉にロイドが驚き、実践した、という経緯があったにしろ。
アイーシャが心配そうにリフィルの後ろから歩いてゆく。
何でもたった一度、説明しただけで、儀式の手順も踊りもリフィルは完全に理解してしまったらしい。
ありえないです、とはアイーシャの談。
長い石舞台をあがってゆくことしばし。
朝靄も立ち込めているそんな中。
ゆっくりとリフィルが精霊の踊り手の衣装に身をつつみ、石舞台へとあがってゆく。
風がふわり、と周囲に舞う。
ほのかな柔らかな匂いがたちこめ、その匂いはエミルの体をつつみこむ。
昨日、この石にエミルが直接触れた形になっているがゆえに、
この石舞台そのものは、エミルが【王】であることを知っている。
ゆえにエミルを歓迎している、といってよい。
ロイド達はしるよしもないが、この石舞台となっているこの石にも意思はある。
その声をヒトがただ感じ取れないだけのこと。
リフィルが手にした杖をかかげ、儀式の始まりをつげる。
石舞台に描かれた円陣の数か所を杖で示す、というのが舞いの大まかな動作。
かつてはこれに踊るような舞いが加わっていたのに。
本当に簡素化したというか合理化したというべきか。
必要最低限の動作以外は綺麗さっぱり取り除かれてしまっているっぽい。
石舞台の上に描かれている円陣の中央から決められた方向、
まずは右にむかってあるいていき、その位置にあるとある模様の上にと杖をおいてひざまづく。
立ちあがっては中央にもどり、杖をおき、ひざまづく、それを上下左右、と同じような動作をともなってゆく。
杖をおくたびに、石舞台にかかれている円陣が淡い光を発してゆく。
輝きは光をまし、やがて円陣の中にもう一つの円陣が浮かび上がる。
「何?!」
「こんなことは、いままでに一度も…」
何やら町の人々がそんなことをいっているのがききとれるが。
赤と白い光が入り混じった光の中。
「あ、精霊があらわれたぞ!」
白き光の中からあらわれる一体の異形なるもの。
その姿をみておもわず眉をひそめるエミル。
気配はウェントスのそれ。
だがしかし、そこに含まれている魂はヒトのそれでしかない。
どうやら力の発生によって新たに誕生するべきはずの魔物の核となる器に、ヒトの精神体が入り込んでしまっている模様。
鋭い角をもち、こうもりに似た翼をもったそれは、石舞台の上にわざかにういている。
「我はツァドグ。娘をもらいうけにきた」
ツァドグ。
その名には覚えがある。
たしかあの子供達を生贄にささげようとした当時のヒトの神官の名。
長い腕に細い下半身。
だが、胸から下は体にまきつく乱気流のような風によってはっきり目視することができない。
大きくまがった足はするどい碇の形をなしている。
シルフ達の力を我がものにしようと画策していた当時のヒトの名。
「だめ!先生、違います。先生!それは邪悪なもの!精霊でも、封印の精霊でもない!」
コレットがそういうとほぼ同時。
ごうっ。
何ともいえない音が上空よりきこえてくる。
それにともなう、羽ばたきの音がふたつ。
バサバサとした音にきづき、みあげれば、そこに巨体ともいえる鳥が二体。
巨大な怪鳥ともいえるほどの魔物達は、そのまま石舞台をめがけておりてくる。
やはり、というか何というか。
無意識のうちに配下の魔物を呼寄せているらしい。
思わずため息がもれてしまう。
たしかに目覚めてすぐに配下の魔物と繋ぎをとるために、無意識のうちにそういう行動をすることはよくあるにしろ。
外の様子を確かめてからにしろ、といいたい。
切実に。
もっとも、かつてのときは自分の記憶がなかったがゆえにそこまでは気付かなかったのだが。
もっとも、どうやらあの彼らがやってきたのは別の理由、であるらしいが。
『ウェントス様の神殿の道が開かれた気配を感じてみれば…』
『ウェントス様の力によってうまれし器に異物がはいりこんでるみたいですね』
何やらそんな会話をしているその二体。
きゅ~!
『お父さん、お母さん!』
エミルの腕の中で、嬉しそうな声をあげているインセインの子供。
「気配にひかれてやってきたようだな。もう、迷子になるなよ?というかあまり人里におりてくるな」
人々は現れた三体の魔物らしきものたちに気をとられ、エミルのほうに気づいてはいない。
それゆえに、そっとローブの中に隠していたインセインの子を解放し、
『お前達の子がウェントスの波動でどうやら迷子になっていたらしいから戻しておくぞ』
そこにいる番のインセイン達にそういいつつも、ふわり、とその手をときはなつ。
バサッ。
「な、また魔物!?どこからあらわれた!?」
よもやエミルが抱いていた、とは知らなかった町長達が、
自分達の近くからあらわれた魔物にきづき、何やら叫んでいるのがみてとれるが。
『…え?なぜにヒトの子が我らの言葉を…』
どうやら彼らはこちらに気づいてはいない模様。
まあ今の時点は気配を隠しているがゆえにそれは仕方がないといえば仕方ないであろう。
もっとも気配を解放する気はさらさらないが。
『あのね。あのね。信じられないけど王様なの!王様が助けてくれたの!』
きゅいきゅいとなきつつも、両親にすりよっていっているインセインの子供の姿。
その姿をみて、
「もしかして、あの巨大な魔物って、あいつの両親なのかな?」
「みたいだね。なんとなくそんな気がするよ」
そんな会話をしているロイドとジーニアス。
「さて。と。愚かにもその力を利用しようとしたものよ。覚悟はできているんだろうな」
そもそもセンチュリオン達の力の波動は新たな魔物をたしかに生み出すことができるもの。
しかしそれを悪用という形で使われては面白くない。
「ツァドグ・カルミア。愚かなり」
「!?」
とっん。
大地をけって、そのまま腰より抜き放った刃をそのままそれにむけて振り下ろす。
それは、彼がヒトとして生きていたときの名。
その名をよばれ、ツァドグ、となのりしそれは驚愕な表情をうかべるが、それは一瞬のこと。
そのまま、
ざっん。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
エミルの攻撃は、問答無用でツァドグ、となのりしそれを真っ二つにきりさき、
やがて、その姿は周囲に霧散するかのごとくにきえてしまう。
神官、ツァドグ・カルミア。
かつての王国において神官長をとつめ、自分が王になりかわり、世界を手にしようとしたもの。
野望と野心に満ち溢れていた男は、死してもこの地にその魂をとどめおき、
どうやら力ある器…ウェントスの力によってうみだされしそれに憑依してしまっていたらしい。
器として利用されていたその力は、霧散するとともに、そのまま本来あるべき場所。
すなわちエミルの中に還りゆく。
マナの流れをつかんでいれば、その力がエミルの中に吸い込まれたことに気付いた、であろうが。
しかしそれは微々たるものであり、その微妙な変化にリフィルもジーニアスも、
そしてこの地にやってきていたハーレイ達ですら気づけない。
「もしかして、あの風の精霊とかなのってたやつって、かなり弱い?」
「いや、エミルの一撃がすごかったのだろう」
ロイドがぽそり、とつぶやく、クラトスが信じられない、とばかりに頭をふりつついってくる。
よもや一撃で撃退できるなど、一体誰が想像できようか。
しかしどうやら魔物達はマナの流れが理解できた、らしい。
センチュリオン・ウェントスの力がヒトの子の中に吸い込まれていけば、
そして、行方不明になっていた我が子がいっていた王、という言葉。
おのずと理解できてしまうというもの。
信じがたい事実、ではあるが。
『ま…まさか…』
『我のことは他言することなかれ。よいな?』
それを肯定するかのごとくに、彼らの脳裏にひびいてくる声。
その声の波動も、力も彼らにとっては産まれたときから識りえしもの。
ゆえに、おもわずびくり、と反応し、条件反射的に頭をたれて服従の姿勢を示すインセイン達。
「おおお!やはり、ここが封印に関係しているのか!?」
エミルが一撃で魔物とおもわしきそれを撃退したのに驚きはしたが。
しかし、リフィルが気になっているのはそこではない。
足元にあらわれし、新たな円陣。
リフィルがかがみ、そこを調べてみれば、どうやらそこから中にと入ることができるらしい。
「今まで祭りの儀式でもこんな模様が現れたことは一度も…」
町長らしき人物が戸惑いの声をあげているが。
「すばらしいです!石舞台の奥。地下に何らかの施設があるとは考えられていましたが!
そもそも、この巫女の儀式は扉を開くという意味があるといわれていたものですし。
何らかの要因でその扉が開かれたという可能性があります!」
それをみてライナーが目をきらきらさせて何やらいっているのがみてとれる。
「だとすれば、コレットに反応したのかな?今までなかったってことは」
ジーニアスもきになるらしく、石舞台にかけあがり、入口らしき円陣をみてリフィルをみていっている。
「可能性はあるかもしれないな。この奥に封印の石板があるのかもしれない。いくぞ!」
「あ、先生、まってください~」
「…馬鹿な」
小さくつぶやいた、クラトスの言葉にきづいたのは、クラトスの近くにいたロイドのみ。
クラトスからしてみれば、ここに収めていた石板を神子達がみつければよかっただけ、なのに。
予想外の出来事が今ここに発生しているといってよい。
「いくぞ!」
「あ、先生、まって~」
「とにかく、いこうぜ。どうもここが探してた封印かもしれないんだろ」
「あ、あんたたち、ちょっとまちなよ!」
しいなからしてみれば、これ以上、封印を解放させるわけにはいかない。
封印が解放されるたびにマナの逆転作用がおこり、彼女の故郷のマナが失われてしまう。
それゆえに、石舞台にあがったロイド達につづき、しいなもまたおいかけるように舞台へと。
しいなが加わったのとほぼ同時。
円陣の輝きが一気に輝きをましていき、その光りはやがて円陣の中にいた全員。
なぜか興奮してあがってきていたライナーすらをも巻き込んで、その場の全員を包み込んでゆく。
「すばらしい!ここが石舞台の地下にあるともくされていた地下遺跡ですね!」
「おお!あの遺跡の下にこんな遺跡が!」
ふっと辺りが薄暗くなる。
みればどうやら転送陣によって地下に移動してきたらしい。
周囲をすばやくみたのちに、何やらはしゃぎまくっているリフィルと、
「なんでライナーがここにいるんだ?」
「というか、無関係の人までまきこんだのかい……」
ロイドのつぶやきと、しいなのため息まじりの声。
「もう、姉さんも、ライナーさんも、いい加減にしてよ!」
この場は薄暗く、どうやら石でできた遺跡らしいが。
ところどころにある壁にある模様が青白くひかり、道全体をあわくほのかにてらしだしている。
移動してきたであろう転送陣の先には地下につづくであろう階段らしきものがあり、
壁には一定の距離をおいて模様らしき円陣が刻まれているのがみてとれる。
その円陣がほのかに灯りを伴っていることにより、唯一の光源、
としてどうにかロイド達も足元や周囲がかろうじて見回せる程度といってよい。
石舞台と円陣を模したような模様は一定間隔にて壁に刻まれている。
「ここに封印の石板があるのかな~?」
ジーニアスがそういえば、
「石板ですか?そういえば、あのツァなんとかとかいっていたやつがあらわれたとき。
魔物の攻撃でおとした石板のようなものがありますけど。まだ解読ができていないんですよね」
どうやらすでにクラトスがコレット達にみつけてほしかった品物は、
このライナーとかいう人物が先に手にしていたらしい。
その台詞をききクラトスが思わず顔をしかめていたりする。
「それより、リフィルさんとライナーさん、だったっけ?ほうっておいていいの?」
みれば二人して、壁をみつつは、何やら意見を取り交わしている模様。
「お~い、先生。おいてくぞ~」
「ライナーさんはもどったほうがよくない?」
「何をいうんですか!こんな遺跡の調査ができる機会なんてないんですよ!?
そもそも、なぜ今まで幾度も行われていた儀式でも開かなかった扉がひらいたか」
興奮ぎみに、何やらライナーがそんなことをいってくるが。
クラトスまでやってきたのは誤算というべきか。
まあどうにかして彼らと別れて行動するか、もしくはここにきた以上、
気配を感じ取り、ウェントスのほうから目覚めてくる可能性もなくはない。
ここはマナにあふれている地でもあるがゆえ、わざわざマナの擬態をする必要もあまりない。
エミルがあの転送陣によって移動したのをうけ、周囲の壁の紋様が、そのマナの灯りをともしている、のだから。
どうやらしばらくは一本道であるらしきそこを注意深くロイド達は進んでゆく。
たしかにほのかに灯りはあるとはいえ薄暗いことにはかわりがない。
長くつづく階段をおりきりしばらくすすんでゆくと、やがて石畳みの通路に突き当たりがみえてくる。
どうやらそこかに左右に分かれて移動できるらしい。
「あ、姉さん、力の場があるよ」
「うむ?本当だ。ロイド、そのソーサラーリングをここにかざせ」
めざとくジーニアスがそこにある力の場、風のマナがあつまりし装置をみつけ、
リフィルにといえば、リフィルがロイドに命令口調で言い放つ。
「ここって、風のマナがものすごいから。風の力だよ、きっと」
ジーニアスのいうように、ロイドがソーサラーリングをかざせば、どうやらリングに風の力が上書きされたらしい。
「うわ!?おもしれぇ、これ!風がでるぞ!」
それをうけ、ロイドか興奮し、意味もなくソーサラーリングで風をおこし、遊びまくっていたりする。
「そ、それは、ソーサラーリングでは!?マーテル教会が保存しているという聖具をどうしてあなた達が。
は!?よくよくみれば、そこにいる子の胸にあるのは、もしかして伝説のあの!
クルシスの輝石では!?では、まさかあなたが神子様なのですか!?」
さすがに学者、ということもあり、そのことに気付きライナーが驚愕の声をあげてくる。
「あ、はい。一応そういうことになってます~」
「一応じゃないだろ。一応じゃ」
「ま、コレットだしね~」
そんなコレットにロイドがあきれたようにいい、ジーニアスすらため息まじりにいっている。
「では、石舞台の閉ざされていた扉がひらいたのは、クルシスの輝石。
すなわち神子様に反応した可能性が高いですね!」
「おお。やはりそうおもうか!」
「ええ!しかし、神子様とはしらずご無礼の数々。申しあけありません。
しかし、ああ、今日はなんというすばらしき日なのでしょうか!
可能性としてあげられていた地下の遺跡をしらべられるだけでなく!
こうして神子様の一行と共に行動できるなんて!」
「…とにかく、先をすすまない?」
何か異様に興奮しているっぽいライナーに対し、
どうもほうっておいたらとまらないような気がひしひしするがゆえにひとまずうながしておく。
「エミルのいうとおりだよな。しかし、左右にわかれてるけど、どっちにいけばいいんだ?」
「たとえば、二手に分かれて調べる、というのはどうかな?」
ジーニアスの台詞に、
「いや、それは危険ではないか?ここには何があるかわからないのだしな」
クラトスのいい分。
「しかし、たしかに一理あるかもしれんな。みたところこの遺跡には文字らしきものはほとんどない。
おそらく何らかの仕掛けはあるであろうが、その仕掛けがわからない以上はな。
おそらく、力の場があったことから、ソーソラーリングが関係しているのだとはおもうが」
「研究では、風の力を利用した仕掛けが風の精霊の神殿ではみうけられていた。
という報告がされているようですし、ロイドさんがもっているそれ。
その力で仕掛けがとかれるかもしれませんね」
リフィルにつづいてライナーがそんなこととをいってくる。
「しかし、遺跡の下に遺跡があるなんて。なんか変な感じだよな~」
いいつつも、いまだに風が起こるのが面白いのか壁にソーサラーリングをむけてはそんなことをいっているロイドの姿。
「もう、ロイド、いい加減に……」
キンコンカンコン、キンコン……
どこからともなくきこえてくる鐘の音。
「うん?ロイド!」
「うわ。何だよ。先生」
いきなり声をかけられおもわず身構えながらも答えるロイド。
おこられる、とおもったのか、無意識に頭をかばっているようではあるが。
「もう一度、ソーソラーリングを天井のほうにむけてはなってみろ!」
「え?な、なんで・・・」
「いいから、するのだ!」
「わ、わかったよ」
強い口調でいわれ、逆らわないほうがいい、と判断したらしく、いわれるままにとリングをかざす。
キンコン……
先ほどと同じく、また鐘の音色のようなものがきこえてくる。
「リフィルさん」
「ああ。間違いないだろうな。音は風に通じる、紡ぐ風により道は開かれる。
さきほどの壁にかいてあったのはこういうことだろう」
入口近くに刻まれていた文字。
ライナーとリフィルが何やらうなづきながらもいってくる。
「あれ?天井付近に小さい鐘みたいなのがあります~」
コレットがそれにきづき、天井付近をみあげてそんなことをいってくる。
たしかにいくつかの小さな鐘が天井からつり下がっているのがみてとれる。
ロイドのおこした風に反応してどうやら鳴った、らしい。
「仕掛け、か。たしか以前に巨大な国があったときく。古代大戦よりも古き時代に。
もしかしたらここはその国の遺跡なのかもしれぬな」
クラトスもここの存在は把握していなかった。
まちがいなくクルシスとしても把握していない遺跡の一つ。
自分達もまだ把握できていなかった遺跡がこのっていることにクラトスからしてみれば、内心驚かずにはいられない。
特にこちら側の管理を任されていた立場上なおさらに。
クラトスがそんな驚きに包まれていることは、当然ロイド達、そしてエミルもまた気付いてはいない。
どこまでもつづく同じようなつくりの道。
一定間隔にとある紋様にリフィルとライナー曰く、必ず何か意味がある、と断言しているが。
いってはいきどまり。
部屋らしき場所とおもえし扉も硬く閉ざされており、内部にはいることなどできはしない。
壁に刻まれていた文字は始めの場所だけであったらしく、それ以外の壁には、
やはり紋様らしきものが刻まれているのみ。
もっとも、ロイドがそこにむけて風をはなてば、他の壁とはちがい、風は紋様に吸い込まれるようにきえてゆく。
リフィル曰く、この紋様はマナによってつねに輝きを保っているようである、とのことだが。
そういわれてもロイドにはよく意味がわからない。
「だ~、どこまで同じような道がつづくんだよ!」
いくつめの行き止まりなどを経験したであろうか。
ロイドがいきなりそんな声をあげてくる。
「ほんと、この遺跡のどこに封印の石板あるんだろ」
ジーニアスもため息まじりにいってくる。
と。
「きゃっ」
こけっ。
いきなり何もない場所でころんでいるコレット。
「「「あ」」」
ガラガラガラ……
まえのめりにこけたコレットのおもみでか、よりかかった壁がいっきに崩れてゆく。
「あ、ど、どうしよう。こわしちゃった~」
コレットがあせったようにいっているが。
「壁が劣化していたというか、おそらくこれも仕掛けの一つだったのね」
コレットがこけて何かしでかすのは今にはじまったことではない。
それゆえにリフィルが苦笑まじりにいっているが。
周囲の壁を丹念に調べることは怠ってはいないらしい。
壊れた壁の向こうには小さな部屋らしきものがあり、その天井部分には四つの小さな鐘らしきものがみてとれる。
「さっすがコレット」
「ふえ?」
ジーニアスがコレットをほめるが、コレットはきょとん、としているまま。
「ロイド。あの鐘を音楽になるようにならしてみろ」
「え、あ、ああ」
キンコンカンコン、コンカンキンコン~
ロイドのソーサラーリングの操りにより、鐘の音が遺跡内部にと響き渡る。
と。
がこっん。
どこかで何かが開く音がきこえてくる。
「ふはは。どこかの封印がとけたようだな!さあ、音がした場所をさがしにいくぞ!」
「あ、リフィルさん!ここの行き止まりのところに階段が!」
少し離れた場所にいたライナーが行き止まりであったであろう壁がとりはらわれ、
そこにあらわれた階段をみつけ何やらそんなことを叫んでくる。
階段の前の壁にはやはり紋様が描かれた壁があり、ほのかに青白い光を周囲にはなっている。
「おおおお!すばらしい!」
「はい!ですね!」
「ふむふむ。二つの門より真実を選び前にすすめ。
真実は常に己より遠く険しきものなり、か。この材質もまたすばらしい!」
「はい。これはどうみてもマナでつくられている石舞台と同じ材質ですね!」
階段をおりてゆくと、そこはまた別の空間となっており、さきほどの通路よりはすこしばかり広くかんじる場所。
階段をおりてすぐに石碑のようなものがあり、
すばやくそれにきづいたリフィルとライナーがその石碑にかけより、そこにかかれている文字を読んで何やら興奮気味。
「あ~あ、学者達があつまるとどこも同じだよ…ったく」
しいながその姿をみてぽつり、とつぶやく。
どうやら彼女も似たような光景を目撃したことがあるらしい。
部屋の中にある柱はいくつか折れている箇所もみうけられるが、
遺跡だというのに埃が一つもつもっていないのは、この地にすまいし魔物達が常に清掃をも手掛けているがゆえ。
この地は風の聖地であり、センチュリオンの祭壇がある地につながりし場所。
魔物達にとっても聖地といってよい場所。
そして、この遺跡はもともと、風の神殿、として使用されていた場所。
クラトス達がしらないのは、天地戦争…
すなわち、彼らがいうところの古代大戦よりも前の時代にこの遺跡は地下に埋もれてしまったからに他ならない。
しばらくすすんでゆくと、壁にいくつかの石板らしきものがはめられており、それぞれに異なる言葉が書かれている。
「それにしても、魔物の数がものすごいのに、なんだってよってこないんだい?」
「それより、ここのマナ、さっきよりものすごく濃くなってるよ」
ありえない。
マナが涸渇しているはずのシルヴァラントでこんな強いマナを感じるなど。
しいながきょろきょろと、この遺跡にはいったときより、
視界の端々に魔物はみてとれるが、まったく魔物達は襲ってはこないことを疑念におもい、
そんなことをいうが、ジーニアスからしてみれば気になるのは別のこと。
この地の風のマナの濃さは尋常ではない。
「このマナのありよう。風の神殿なのかもしれないわね。火の神殿でも火のマナが強かったもの」
ジーニアスの台詞にリフィルがトリエット遺跡のことを思いだしてそんなことをいってくる。
ひとまず、何かあるかもしれない、というのでひたすらに歩きまわり、情報をあつめてゆくと。
やがていくつかの石碑にかかれている文字がうかびあがってくる。
石碑は壁に埋め込まれており、そのうちの一つは石碑の前に矢らしきものまでおいてあった。
『女神のもつ弓で南南西に矢をはなて。さすればあたらしき道が開かれるであろう』
『さらなる富を求めるならば西南西に矢をはなつがよい』
『身をまもる術を手にいれたければ北北西に矢をはなつがよい』
『隠された秘密にちかづきたくば、南南東に矢をはなつがよい』
メモした言葉を確認しつつも周囲をくまなく探索しているリフィルとライナー。
ロイド達はといえば歩きつかれてきた、のであろう。
どこかぐったりしているようにもみえなくはない。
「スイッチのようなものがありますね。えっと今の設定は、西、北、東になってるようです。
どうやら、設定のしなおしが可能のようですね」
「おお。こっちには弓をかまえた石像があるぞ!弓は…もっていないようだな。
そして…この像の反対側の壁にはいくつかの石が壁にはめこまれているな。
おそらくこれが何かの鍵、なのだろう。ロイド!さきほどみつけた矢をその像に設置して、
ジーニアス!さきほどのスイッチのところにいき、隠された道、とかかれていた南南東にスイッチを設定しなおせ!」
この状態になっているリフィルに逆らうと危険、とはジーニアス談。
ゆえにリフィル達に指示されるままに周囲を調べていたのだが。
その言葉をうけ、肩をすくめつつ、スイッチらしきものがうめこまれていた壁があった場所にまで移動しているジーニアス。
がこん。
像に矢を設置し、ジーニアスがスイッチの位置を設定すると、
あらたな道が、それまで道がなかった場所に道がせりあがってきて先にすすめるように仕掛けが起動する。
第二の道しるべ。北北東に矢をはなて
第三の道しるべ。東南東に矢をはなて
四方にはりめぐらさせた交差点などには床に女神らしき姿が描かれている。
幾度か同じことを繰り返してみれば、行き止まりになっては次の指示。
さすがにいったりきたり、を繰り返すがゆえに疲れてきたのか、その足取りもだんだん遅くなっているロイド達。
もっともリフィルとライナーに関してはいまだにテンションが高いまま、なのではあるが。
幾どめかの仕掛けを解除したであろうか。
やがて、現れた道の先に、次なる隠された道。
すなわち再び地下にと続く階段が出現する。
「おお、ここは!?」
全ての仕掛けであろうものを解除した。
現れた道をすすんでいけば、ひとつの広い部屋にとたどりつく。
いくつもの石柱や壁には、石舞台に刻まれていた紋様がところせましとかかれており、そして部屋の中央には、
何らかの祭壇らしきものがあり、そこにもやはり紋様がきざまれているのがみてとれる。
部屋全体はいくつかの低い壁がところせましとつくられており、それらがどうやら風の通り道をいざなっている模様。
それらの祭壇はほのかに淡き光を常に湛えている。
特質すべきはこの部屋は地下だというのに四方から風がふきつけ、
ちょうどその祭壇の中央で風がかさなり、風が渦をまいているのがみてとれる。
そしてその祭壇らしきものの奥の壁にはどこかでみたことのあるような紋様。
「あれは…炎の神殿でもみた?」
リフィルがいいつつも、その壁にちかづくが、ただの壁でしかありえないそれ。
八つの紋様と、そして中央にかかれている蝶をかたどった紋様。
その意味はリフィルには理解不能。
「ロイド。念のためにここにソーサラーリングを」
「わかった。それより先生、はらへった~」
この遺跡の中にはいってどれくらい歩き通しなのかすでにわからない。
地下なので太陽の光りも届かない、さらには薄暗い中を歩き通しで疲れたといってもよい。
「ならあの階段の下あたりで休憩しませんか?風があるようですし。
火をつかっても風があるのなら煙にまかれる、ということもないでしょうし」
本来あるべき、風の聖殿。
それはこの地に他ならない。
この場所を知らないがゆえにおそらくミトスは他の場所を指定したのであろう。
もっとも、シルフ達も地下よりは地上がみえたほうがいい、という理由で、
あの場所を選んだことにも理由があるのであろうが。
そういえば、当時の王族達がこの神殿のことをしり、
転移陣をどこぞに組み込んだとかいう報告をうけていたような気がするが。
おそらくそれが、かつてリヒターとともに移動したあの像があったあの場所、なのであろう。
すでに遺跡におりて数時間以上は実に経過しており、実質昼すらも過ぎているこの現状。
いわれてみればお腹がすいていなくもない。
それにともない、ロイドのお腹が盛大にとなりひびく。
「仕方ないわね。ならここでしばらく休憩にしましょう。
なぜか魔物も襲ってこないようですし。ここはマナが濃いいですけど、違和感とかはないものね」
たしかに、マナがかなり濃いというのに違和感を感じない。
それがリフィルからしては気にはなりはする。
「食事のあと、この部屋をもっと探してみましょう。封印の石板がどこかにあるかもしれないわ」
「あ、なら僕、食事の用意しますね」
「あ、俺手伝うよ」
「あら、私もならてつだ……」
「ね、姉さんたちは、何かわかるかもしれないし、まだこのあたりしらべてて!ね!」
「お、おう!たよりにしてるぜ!先生!」
「仕方ないわね。そこまでいうのでしたら。そうしてみるわ」
リフィルが納得したのをうけ、あからさまにほっとしているロイドとジーニアス。
「?どうしたんだい?あんたたち?」
「あ…あはは」
「いや、死ぬのがまぬがれたというか」
「??」
から笑いをあげるジーニアスと、ロイドのいい分に、しいなはただ首をかしげるのみ。
「さて、と」
リフィル達はこの部屋をまだ調べている模様。
もっともいっている方向が逆のほう、
すなわち、様々な壁画が描かれているそれにきづき、それの解読に余念がないらしい。
ロイド達はお腹いっぱい食べたがゆえか、こくこくと半ば眠りかけている。
ちょうどこの位置は、あの入口とは死角になっている。
みれば疲れていたのであろう、コレットまですこし眠りかけているのがみてとれる。
クラトスはいまだに何か考え込んでいるらしく、ずっと腕をくみ考え込んでいる模様。
クラトスからしてみればこのような遺跡はきいたことすらないが。
しかし、かつてテセアラに仕えていたときにきいたことはある。
風の神殿とよばれし聖殿のことを。
もしかするとここがそうなのか?
などといった思いに捕われていたりするのだが。
今ならば少し離れても問題はないであろう。
そもそも入口をあけてすぐに閉じてしまえば問題はない。
さきほどリフィルがめざとくこの壁をみつけていたが。
そもそもこの壁は自分達、すなわち精霊、もしくはセンチュリオンにしか反応しない。
しかも眠っている状態においては精霊達ですら狂わす波動をだすがゆえ、
念のためにラタトスク、もしくは同胞たるセンチュリオン達以外は立ち入れないようになっている。
そのままそっとロイド達の元をはなれ、扉の前にたち、手をかざす。
刹那、淡い緑と赤の入り混じった光が扉を大い、そこに描かれている紋様が淡く輝きをます。
それとともに、がこん。
音とともにその扉が開かれる。
そのまま、するり、と扉の中へ。
「あ、あんた」
「え?」
みればどうやらしいなが気になったのかついてきてしまっていた模様。
「えっと、しいなさん、どうして?」
たしかこくり、こくりと眠りかけていたはずなのに。
「あんたが一人でどこかにいこうとしていたから、それに……」
それに、コリンがなぜかこの子供のことを気にかけていた。
まさか、とかありえない、とかそんなことをいっていたが、
どういうことか、ときいてもコリンは首をふるばかりで答えてはもらっていない。
それとともに、ごうごうとどこからともなく風が部屋全体を吹き抜ける。
「…ま、いっか」
『よくないのでは?』
簡単にそれですますラタトスクに対し、肩にのっているレティスが心配そうにいってくるが。
「あ、あれはなんだい?!」
しいながふと何かにきづいた、のであろう。
部屋の奥。
そこに木の根のようなものがはりめぐらされ、その中心に一つの祭壇が設置されている。
蓮の花のような淡くひかる緑の透き通った花弁のようなもの。
その上にうかびし、涙の形のような緑の光りをたたえし蕾のような何か。
「うそ!?…まさか、ここって……」
ぼふん。
それまで姿を隠していたらしき、リスのような狐にもにた小さな小動物。
ふさふさとした三本の尻尾。
リン、と首につけている鈴がかわいらしい音をたてている。
「ヴェリウス?」
ふと自然にエミルがいえば、
「違うよ。僕はコリンだよ。これでも精霊なんだよ!ねえ、あなた、何?」
気配は微弱ではあるが大樹の…間違えるはずもない。
大いなる力の源たる気配をこの人間からは感じ取られる。
おそらくは、精霊や魔物以外ではわからないほどの微弱なるもの。
きのせい、とおもっていたが、この遺跡の地下にきて、その気配はまた感じ取れ出した。
それゆえの問いかけ。
「僕は僕だよ。君が君であるようにね。そう、今の君はコリンっていうんだ」
どうやら自らの名も忘れてしまっているらしき心の精霊。
人工的に創られし器に囚われているとはいえ、その在り様まで忘れているとは。
「あんた、コリンみておどろかないのかい?」
それに逆に驚いたのはしいなのほう。
普通、大概の人間はコリンをみて驚く、というのに。
「え?えっと……なんでおどろくの?」
まあ、記憶を失っているっぽいことには驚かざるをえないが。
本当に、ヴェリウスにも何があったというのだろうか。
ラタトスクが知っているヴェリウスはそのありようをすでにあの当時は取り戻していた。
ゆえに余計に不思議に思う。
「しかし、この風は…それに、あれは……」
しいなが風のむこうにみえている祭壇に近寄ろうとするが。
「ダメ!しいな!それ以上ちかよったらだめ!」
すばやくそんなしいなのゆくてをコリンがさえぎる形で前にたつ。
「何だよ。コリン?」
コリンの必至な様子にしいなからしては戸惑わずにはいられない。
センチュリオンはコアの状態だと力の制御ができない。
ゆえに暴走し魔物を呼寄せたり自然の摂理をも狂わしてしまう。
いわばマナの逆転作用をおこさせるといってよい。
「あれは…ヒトがもったらダメ、ダメなの。あれを手にいたらしいな、心が壊れちゃうよ!あれは本来は……」
「そこまで。さて、と」
これ以上、いくら人工的な精霊とはいえ大体の自然の理くらいは覚えているはず。
今ここでセンチュリオンのことを彼女に説明されては多少面倒。
それゆえに、そのまま祭壇のほうへとあるいてゆく。
「あ」
コリンが何かいいかけるよりも先に、エミルは祭壇の前にとたつ。
そのまま、ふわり、とういているコアを救いあげるとともに、緑色の宝石のようなそれは、ゆっくりと上空へとのぼってゆく。
「バェクン オプ!」
目覚めろ、という言葉とともに、緑の光りが部屋全体をおおいつくしてゆく――
ゆっくりと蕾が花開くようにひらいていき、やがてまばゆき光ともともに
その後さらにまぶしい光がおさまり、そこには一つの模様を内包した丸い宝石のようなものが出現する。
「――ウェントス」
エミルが名を呼ぶとともに、その光りはさらに輝きをましてゆく。
「うわ!?」
「しいな!?」
そのあまりの力の奔流に、おもわずしいなはその意識を手放してしまう。
それほどまでのつよき力の奔流。
コリンのあせったような声をききつつも、しいなの意識はふと途切れてゆく……
緑の光りを纏い、それでいて白と緑の色が入り混じった猫のような、虎のような姿。
その尻尾は蛇のような形をしており、その先は二つにわかれているが、
その足元には緑の小さな羽のようなものがついており、足そのものをおおいつくしている。
その背中には緑と白の入り混じった鳥の翼らしきものが四枚ほどみてとれる。
「ようやくおきたか。ウェントス」
ぼんやりとする意識の中、何やら聞きなれない声がする。
しかし、今感じた波動はまちがいなく主のもの。
ゆっくりと目をひらくが、この場にいるのはどうみてもヒトの子が二人と、
なぜかヴェリウスの気配をまといし、それでいて何かがちがう人工的な精霊のようなもの。
しかし、なぜだろう。
目の前のどうみてもヒトの子でしかない子から大樹の気配がわずかばかり感じられるのは。
ウェントスとよばれしものがとまどっているそんな中、
「はぁ。まだねぼけているのか?いいかげんにとっとと目をさまして。
このあたりのマナを調整しろ。お前がねぼけていたせいで地上は面倒なことになってるぞ?」
あきれたような、それでいて何やらなつかしき口調のその台詞。
声はちがえど、しかしそのものいいは。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え・・・・・・・・・・・・えええええ!?
ら、ラタトスク様!?なぜにそのお姿、というかなぜに地上へぇぇ!?」
しばし、何ともいえない風のセンチュリオン・ウェントスの叫びが、部屋の中にと響き渡ってゆく……
「しいなさん、しいなさん?」
名をよばれ、はっと意識をとりもどす。
「あれ?」
「大丈夫ですか?」
はっと周囲をみてみるが、さきほどみていた部屋ではない。
たしかエミルが手をかざすとともに開いたはずの壁はそこにあり、
しかしあれほどつよく部屋の中をふきあれていた風がこころばかりかすくなくっている。
「あんた、さっきのあれは…」
しいなが何やらいいかけようとしたその刹那。
「わかったぞ!!」
興奮したようなリフィルの声が響き渡る。
「何かつかめたようですね。いってみましょ」
「え、あ、ああ」
さっきのあれは、白昼夢?
それにしては生々しかった。
壁をさわってみるが、そこには壁がひらいた気配は微塵も感じられない。
「コリン?あんた何かわかるかい?」
コリンにはなしかけてみるが、コリンはなぜか眠っている様子。
「コリン?」
「しいな?なんか、ごめん、ぼくすっごくねむい……く~……」
しいなの肩の上にてそのままねむってしまう。
こちらの世界にきてコリンはたしかにあまり実体化するマナがないとはいっていたが。
しかし、ねむい、というのは初めて見る気がする。
しいなが怪訝におもっているそんな中。
「先生、何がわかったんだ?」
リフィルの叫びにはっと目をさましたのであろう、
ロイドがリフィル達にとといかけている様子が目にはいる。
「うむ。この祭壇は、やはり風の祭壇として古代のものが使用していたらしい。
ここには、風の精霊シルフをまつり、儀式を執り行い、精霊の加護を得ていたらしい」
「先生。それってパラグラフ王廟のそれとはちがうんですか?」
コレットが首をかしげてといかけるが、
「うむ。それなのだがな。どうもここの壁画をみるにあたり、完全に解読してみないと何ともいえないが、
これはパラグラフ王廟よりも前の風の聖域らしい」
「で、肝心な封印の石板はどこなんだよ。先生」
「壁画には空をとんでいる何らかの飛行物体により地上が攻撃されている模様が描かれている。
おそらくは、古代大戦時の様子を描いたものだろう」
「古代大戦時もそのような、空を飛ぶような乗りものはあったときいたことはないが?それこそ神話の物語ではないのか」
かつてはあったときいている。
空中戦艦なるものが。
しかし、クラトスが現役であったあの時代においてもそれは神話とされていた。
「もうすこし詳しく調べてみなければわからないが。しかし、ここは古代から誰のヒトの手もくわわっていないらしい」
「どうしてそういいきれるのさ。先生」
ロイドのいい分はしごくもっとも。
だがしかし。
「それはしっかりと、これらの品で証明できる!」
いいつつも、じゃらり、といくつかの品らしきものをリフィルはロイド達の前にだす。
「みろ!これを!風の精霊の加護がこめられているというオパールという宝石だ!
すばらしい!これは取扱すら困難といわれる品。これにこめられている力は尋常ではないといわれている。
真実目にすることがあろうとは!さらに、これなどは…!」
「この場所の中に手つかずの宝箱がいくつも発見されたんです。
もしも誰かがたちいっていればこれらの宝はすでにとりつくされているはずです」
リフィルにかわりライナーがそんなことをいってくるが。
「さらに、これはウィンドマントといって……、そしてこれはシールチャームといい……」
リフィルがみつけたのは、防具とアクセサリーであるらしい。
ウィンドマントは、風の精霊の加護をうけたマントとよばれし品。
ちなみに反属性における地属性の体制も約二十%備わっている。
シールチャームは封印状態を約三十%の確率で防止するお守りで風邪属性にも若干の体制をもつアクセサリ。
今では一般的にうられている品は模造品でしかないが、
これらはどうやら本物であるらしく、若干のマナを感じる、とはリフィル談。
「それと、この階段をのぼった先まで少し調べてみたのだがな」
リフィルがいうには、何か他の場所とは違うところがあったらしい。
ライナーとともに違和感を感じる銅像を動かしてみれば、そこに新たな転送陣らしきものがでてきた、とのこと。
「で、私としてはそこに移動してみるのも手だとおもうのだが」
どうする、といわんばかりのリフィルの問いかけ。
しばし、ロイド達は顔を見合わせてゆく……
「「おおおおお!!」」
リフィル達がみつけたというその転送陣は、エミルの記憶にもある代物。
そこをぬければどこにつくのかはエミルはよく覚えている。
あのとき、リヒターとともに訪れた場所。
感極まった声がリフィルとライナーの口から同時に発せられる。
「ここは、まさかパルマコスタ王廟跡か!?」
「ええ。ええ、まちがいないですよ。リフィルさん。
ああ、なんてすばらしいんだ!アスカードの地下遺跡がここに繋がっているなんて!これは歴史的発見ですよ!」
「うむ!」
何やらもりあがっている二人とは対照的に、
「すげ~、でけ~」
「というか、ようやく外にでれたよ」
「うん。まぶしいね~」
疲れたようにいっているしいなに、空をみあげつつもいっているコレット。
結局さきほどのあれは何だったのか、しいなはエミルに聞けずじまい。
「これがパラクラフ王廟か。噂にたがわずに美しい建物だ」
「ですね」
そんな会話をしつつも、
「いいか。おまえたち!この建物は今からはるか五千年以上昔に神へ生贄をささげた神殿なのだ。
その後、パラクラフ王がなくなり……」
突如として歴史解釈をはじめているリフィル。
五千年以上というが、記憶にあれば、あれから四千年たっている、
というのであれば地上時間ではたしか六千三百ちょっと前であったような気がする。
それがあのときの生贄事件をさすのであれば、だが。
「…先生。もういいよ。そういうのは」
心底つかれたようなロイドの台詞。
「何がもういいのだ!」
「もう、無視無視」
いいつつも、その場からはなれ、王廟跡のほうにとあるいてゆくロイド。
「まったく。これだから探究心のないやつはいけない」
そんなリフィルの言葉にジーニアスががくり、と肩をおとし、
「もしかして、いつもこんな、なのかい?」
どこか遠くをみつめているジーニアスの様子から、このリフィルいう女性はいつもこう、であるらしい。
ゆえにおもわずぽん、とねぎらいをこめてジーニアスの肩に手をおいているしいな。
たしかに彼らはしいなにとっては敵ではあるが、何となく同情してしまうのは仕方ないであろう。
「そういえば、あの風の精霊をなのっていた怪物があらわれたとき、
落していた石板にもパラグラフ文字が刻まれていました。あと地図のようなものも」
ふと、王廟をみて思いだしたようにいってくるライナーに、
「そういえば、そんなことをいっていたな。その石板は今どこに」
「まだ解読がすんでいないので家にありますが」
そんな会話をしている二人の姿。
「お、これなんだ?」
そんな会話をしている最中にも、どうやらロイドが一人で行動し、中央にある階段を上っていったもよう。
「先生、ここに何かあるんだけど~」
いかにも何かあります、というような小さな台座。
そこにかかれている文字はロイドにはわからない。
ゆえに、何かあやしいような感じがし、リフィルをよびよせる。
「ええい。ヒトの話しをきかずにいったい何だと……」
いいつつも、リフィルもまた、ロイドののぼっていった階段をのぼってゆく。
パラクラフ王廟は、常に閉ざされており、内部には誰もはいれない。
といわれている遺跡であるらしい。
頑丈な石造りの建物は年月を得てもあまり風化はしていないらしく、いまだにそれなりの形を保っている。
エミルの記憶にあるこの遺跡にはいるには入口につづく道がこわれ、
さきほどの地下からの移動でなければはいることは不可能であったが、
何となく確認するために周囲を視てみれば、普通に陸続きでここにくることができる、らしい。
それを証明するかのように、幾人かの観光客らしき人物と、
そしてなぜか犬をつれてやってきている…おそらくは散歩につれてきているのであろう。
そんな人間達の姿が目にはいる。
不釣り合いというか、いかにも何かありますよ、といわんばかりのちいさな台座。
それを興味深くまじまじと観察しつつ、
「おお。ここにかかれている祭壇は天使言語だな。何々……」
リフィルがそこに書かれている言葉を翻訳し始める。
「導かれしものよ。導きの石板をここにおさめん。そのように書かれているな」
「石板?」
リフィルの台詞にロイドが首をかしげるが、
「もしかして、リフィルさん、あの怪物がもっていた、石板ではないでしょうか?」
ライナーが、はっとしたようにとリフィルにと提案する。
「ふむ。試してみる価値はありそうだな。よし、アスカードにもどり、その石板をもってここにくるぞ!」
「でぇぇ!?またあの地下をとおるのかよ!?先生!」
ロイドがうんざりしたような声をあげるが。
「しかし、ここから徒歩でアスカードまでもどるとなれば三、四日はかかるぞ?」
クラトスとしても、もってきていなかったのか、という感じが否めないゆえに
かるく溜息をつきつつもそんなことを言い放つ。
その台詞をきき、
「エミル、たのむ!またあの鳥でも何でもいいから、もうあの辛気臭いところをいくのは嫌だ!」
がしっとエミルの肩をつかみ、必至の言葉でエミルにいってくるロイドの表情はまさに必至。
「鳥?」
鳥、といえば、彼らが移動していた神鳥シムルグを思い出す。
それにどうしてエミルにという少年にいっているのかしいなには理解不能。
「まあ、いいけどね」
どちらにしても、すでにウェントスも目覚めさせた。
かの地の装置の停止も確認した。
なぜかかの地においてはいきなりそのシステムが停止したのをうけ、多少の混乱に陥ってはいるようではあるが。
「呼ぶのはいいけど。ここだと人目あるから。すこしはなれて呼ぶようになるけど。いい?」
エミルのことばにこくこくとロイドがうなづき、
「あまり、エミルの力を多様することはお勧めしないわよ。ロイド。でも、時間がおしいのも事実だものね……」
リフィルがため息まじりにそんなことをいってくる。
「「??」」
その意味がわからないしいなとライナーはただただ首をかしげるのみ。
周囲というか一寸先すらみえない深い霧。
一体何を、といいかけようとするしいなの目の前にて、
突如としてばさり、という翼の音がし、はっとみれば目の前に巨大な何かの影がみてとれる。
このあたりの霧を一時的に濃くしたのはラタトスク。
すこしばかりこのあたりに含まれる大気中の水のマナに干渉すればいともたやすいこと。
それとともに少し冷たい外気をまといし風が大地を吹き抜けるようにもしたので、
この霧の発生はあまり不思議に思われないであろう。
「なんかいみてもこの鳥、すごいよな~」
「この霧はあるいみで助かるわ。というかエミル。この鳥以外での移動はできないの?」
リフィルからしてみれば、どうみても神鳥シムルグでしかないこの鳥での移動は、
それこそ神子の一行です、といっているようなものなのでできうることならば避けたいのも事実。
「でもこの子達だといざとなったら光の幻影で自らの姿ごと消すことができますし」
それは嘘ではない。
もっともそれは以前はステルス機能、とかよばれしものではあったが。
今この時代にもその言葉があるかどうかはエミルはわからない。
あるいみ、センチュリオン達が姿を消すのと同意義なので、天使化している存在達。
すなわち無機生命化しているのも達にはあまり関係ないかもしれないが。
いうなれば、自然と一体化するかのごとくの擬態、なのだから。
目の前にいる巨鳥の全貌すら深い霧でよくみえない。
青と白の翼がみえることと、足元がかろうじてみえるていど。
それと、霧の中に巨大な鳥のシルエットがうかんでいるといったところか。
時刻はいつのまにか夕刻になっており夕焼けのひんやりとした空気と、
そしてオレンジ色の太陽の光りがよりその影を濃く示している。
リフィル達が遺跡において興奮している間にどうやら時間は過ぎていた、らしい。
もっとも外に出た時点ですでにヒトがつくりし時計の時刻でいうなれば三時を回っていたのだが。
まさか、この鳥は…
全体をみたわけではないが、この毛並みというかこの毛の色は。
絵本の中にでてくるかの鳥の特徴にかなり近い。
それに、彼らがかの鳥で空をとんでいたところをしいなは目撃していたりもする。
だが、この鳥を呼び出したのはエミルらしく、コレットはまったく何もしていない。
それはコレットの横を歩いていたしいなだから間違いなく断言できる。
エミルが何かつぶやくとともに、しばらくしてこの鳥はやってきた。
正確にいうならば、エミルの肩にのっていたレティスがそっと飛び上がり、
上空にてその大きさを変えて目の前におりたっただけ、なのだが。
その事実にエミル以外の誰も気づいてすらいない。
「とりあえず、夜になる前に移動してしまいましょう」
この鳥は一体、とライナーはおもうが、相手は再生の神子の一行。
女神マーテルの加護、そして天界クルシスからの何かの移動手段を授かったのかもしれない。
などと勝手に一人解釈しているライナー。
もしもレティスの容姿をしっかりとおがんでいればさらに騒いでいであろう。
それほどまでに、女神マーテルに使えし神鳥シムルグの話しはヒトの世にマーテル教の教えとともに普及している。
しらないのはエミルくらいといってもよい。
ちょうど石舞台の真横につけるようにしてレティスが空中にて制止する。
このあたりは上昇気流もあることから、すこしばかりの制御で停止することは難しくない。
「お疲れさま。レティス」
『では、私はまた姿を小さくしてきますね』
エミルにうながされ、レティスの背から横にある大地へと飛び移る。
もっとも幅的にはほんの数センチにもみたない距離なので、どちらかといえばその背より、
滑り降りる、といった表現のほうが正しい、であろう。
と。
「ああ、兄さん!?みなさん!?」
「無事だったのか、おまえら!」
ふと、どこからともなく聞き覚えのある声がする。
ばさばさと飛んでゆく音が遠くにゆくに従い、音がきこえなくなったとほぼ同時。
ゆっくりとではあるが霧がまるではかったかのごとくに晴れてゆく。
実際、もう用事がないので霧の発生をエミルが止めた、のだが。
その事実に誰も気づいてはいない。
霧が晴れてゆくと同時、彼らがおりたったのが先刻までいた、
というか今朝がたやってきていたアスカードの石舞台のある山の頂きだ、と理解ができる。
「本当に空を移動したんだ……」
霧があまりに深く、実感はなかったが。
山の頂に直接移動した、ということはそういうこと、なのだろう。
ぽつり、とつぶやいたしいなの心情がまさにその複雑な思いを伝えているといってよい。
「すばらしい!すばらしいです!あれ?アイーシャにハーレイ?きいてください!この地下には、何と!」
そこにいる人物が妹と親友であることにきづき、そちらにかけよっていっているライナー。
「もう、兄さん。いきなり姿をけすんだもの」
「というか、この石舞台、お前らがきえて中にはいろうとしたが、すでに道は閉ざされていたからな」
何でも彼らが中に消えたのち、町長達もあわてて石舞台の上にのぼってみたらしいが。
出現したもうひとつの円陣はもののみごとに消えていた、らしい。
まあ、移動とともに道はすぐさまに閉じられるようにしてはいるが。
ライナーが一緒にこれたのは、エミル達が移動するのと同じ時に円陣に入ったからに他ならない。
「それより。ライナー、例の石板、というものだが」
「はい。それは僕の家にあります。まだ解読途中なのですが。解読に必要な資料は家にそろっています」
「よし、さっそくいくとしよう!」
「ええ!」
こちらはこちらで何やら勝手に話しをすすめているリフィルとライナー。
リフィルとライナーがうなづきあい、石舞台のあるこの場から町におりようと移動したその矢先。
「神子様!?神子様ではありませぬか!」
ふと聞きなれない第三者の声が、石階段のあるほうからきこえてくる。
「旅業のものが、空に神鳥をみかけたとかいう噂をきき、もしや、とおもっていましたが」
石階段をのぼってきたのは、マーテル教の聖衣をまといし初老の男性。
眉や顎にはやしている髭すらも白くなつているが、緑と青を基調にしたその服は
マーテル教の祭司であることをうかがわしているといってよい。
「ピッカリング祭司長様!?お久しぶりです!」
その人物に気づき、コレットがその男性にと声をかける。
「再生の神子が旅だったとはきいていましたが、よもやここでお会いできるとは!神子様もお元気そうで」
「はい。ピッカリング祭司長様も」
何やらそんな会話を始めているコレットとピッカリングとかいう人物であるが。
「そういえば、このかた、四年前にみかけたことがあるわね」
四年前に半年ほど修業にきていたどこかの祭司。
リフィルが記憶をたぐりよせつついってくる。
「ここへは風の封印をもとめて、ですかな?」
風の精霊を祀る儀式があるという場所。
封印に関係していてもおかしくはない。
「あの。実は私たち、ピッカリング祭司長様を探していたんです」
「私をですか?神子様が?」
その言葉に怪訝そうな表情を一瞬うかべる祭司長。
一方。
「ええ!?このこって神子様だったの!?わ、わたし、失礼なこといってない…よね?ハーレイ」
「お、おう。だけど…」
ライナー達の家に彼らがやってきたとき、でていけ、と強くいった手前、
ハーレイからしてもそんな二人の会話をききつつ戸惑わずにはいられない。
マーテル教の祭司がいうのならば、まちがいなくあの金髪の少女は再生の神子、なのだろう。
そんな会話をしているハーレイとアイーシャの姿がみてとれる。
「実は、私たち、マナの守護塔の鍵を探しているんです」
「ボルトマンの治癒術が必要なんだ。なあ、あんたがもってるんだろ?その鍵ってやつ」
「何と無礼な口のものいいだ。みたところ神子様の連れのようだが、神子様?たしか、この子は」
「はい。ロイドです~。祭司長様もみたことありますよね?」
彼が記憶しているのは、神子が壊したという壁を修理している赤い服をきた少年。
そのときと服装がまったく同じ、ということは、同じデザインの服を着続けている、ということか。
「イセリアにいた子ですな。そして、そちらはたしか、エルフの」
「お久しぶりでございます」
「?このたびは祭司方はお供におられないのですかな?
恒例ですと祭司たちが神子様のおともにつくはず、ですが」
その言葉に、
「それは……」
「ディザイアンのやつらが不可侵条約を無視して攻め込んできやがったんだ」
ロイドが苦虫をつぶした表情でぎゅっと手を握り締めながらも説明する。
「神子様!?それはまことですか!?」
「はい。イセリアの祭司長様達も……」
驚きといかけるピッカリングに、俯き加減につぶやくコレット。
「何ということだ!」
憤慨した様子のピッカリング。
「たしか、イセリアってディザイアンと不可侵条約を結んでいるとかいう地じゃない?」
「ああ。そのディザイアンが条約を無視した、とは穏やかじゃねぇな。
おおかた、神子の儀式を邪魔しようってところか?」
アイーシャとハーレイがそんな会話をしているのがききとれるが。
「それで、私たちが祭司様がたの変わりに神子コレットの護衛をしているのですわ」
「なるほど。そういうことでしたか。…しかし、このたびの再生の旅は、
ディザイアンたちもなりふりかまわなくなってきた、ということですかな?
闇の出現といい……そういえば、神子様、ありがとうございます」
「ほえ?」
いきなりお礼をいわれ、コレットは首をかしげざるをえない。
「この地にやってきてここから見渡しておりましたら、闇が取り払われた模様。
神子様のご尽力のおかげですな。何でも火の封印を解放し、
あまつさえパルマコスタの人間牧場を壊滅させ、捉えられていた人々を救出した、とか。
人徳者として名高かったドア総督がそのときの戦いにて命をおとした、というのが残念でなりませぬが」
「あ、あの、私は何もしていません」
「御謙遜を。ですが神子様らしいですな。いつも謙虚でいらっしゃる」
コレットからしてみれば、闇云々といわれても意味がわからない。
ルインにてとまった翌日、目がさめたら闇は綺麗に取り除かれていたのだから。
「そんなことより。鍵はわたしてもらえるのか?鍵がないと塔にはいれないんだけど」
コレットがすこしばかりうつむいて沈み加減になったのに気づいたのであろう、
ロイドがここぞとばかりに話題を修正し、ピッカリングにと声をかける。
「おお。そうでしたな。他ならぬ神子様のおたのみ。誰がことわるものでしょうか。ささ、どうぞ」
リフィルが代表して前にでて、鍵をうけとる。
ちらりとコレット達を見渡したのち、
教鞭を振るうためにイセリアに滞在していた彼女に鍵を預けるに適任、と判断したらしい。
「神子様、くれぐれも道中、おきをつけて。またルインにもおたちよりください」
「はい。必ず」
「さて、では私はライナーの家にいってみつけたという石板の解読をしてきます。
あなた達は宿でまっていてちょうだい。いきましょう。ライナー」
「はい。リフィルさん!」
いいつつもさっさと石階段をおりてゆく二人の姿。
「あ、え、え~と。しかし、あんたらでなかった神子様達はどこにいかれてたんですか?」
いきなりの敬語におもわず一歩さがらずをえないジーニアス。
「えっと~」
コレットが説明しようとするが。
「そういえば。エミルに一撃で撃退されたあの魔物、なんだったんだろ?」
ジーニアスが石舞台をみつつ、ふと今朝のことを思い出す。
どうやらあれから一日もたっていることに驚かざるをえないが。
どうやらかなりのあいだ、あの地下遺跡を歩きまわっていた、らしいと今さらながらに実感してしまう。
たしかに、仕掛けをとくのにいったりきたりを幾度も繰り返していたので、
かなりの時間はかかっているだろう、とはおもっていたが。
よもや一日かかりに近いとは。
エミルが例の鳥を呼び出していなければ、それこそ地下遺跡の中で夜を迎えることになっていた。
「というか、あのときの町長達の顔、ざまぁなかったな。
子供の一撃で倒せるような弱い魔物に自分達はおびえていたのか、とかいってな」
ハーレイがそのときのことを思い出し、そんなことを一人つぶやいているのだが。
どうやらそんなことをあのあと、あの人間達はつぶやいていた、らしい。
「あ、あの。神子様一行とはしりませんで。その、ありがとうございました」
アイーシャがぺこり、と頭をさげてくる。
「で、結局、あの怪物の正体は何だったんだか。
あんたたちが遺跡にきえてからしばらくして、あれほどつよかった風もぴたり。
とやんだことだし。明日の祭りは通常通り開かれることになったらしい」
そういえば、ここにきたとき、明後日の祭りがどうの、とかいっていた。
あれから一日たっている以上、満月の日は明日。
「祭りかぁ。楽しみだよな。コレット」
「祭りに参加するより、先を急いだほうがよかろう。
祭りとなれば不特定多数のものがやってくる。神子の御身が大切だ」
ロイドがいうと、そんなロイドにかぶせるように、クラトスが淡々といってくる。
「まあ、あいつの正体ならきっと姉さんとライナーさんが調べてくれるんじゃないかな?
石板?とかいうのがあるんでしょ?それに書かれているかもしれないし」
ジーニアスはあのとき、エミルがつぶやいた、怪物の名を捉えていない。
「ああ。あのリフィルとかいう学者。ハーフエルフだしな。腕は確かだろう」
ハーレイの台詞に、ジーニアスがはっとした表情で思わず顔をあげ、
「ち、ちがいます!姉さんは…エルフです。僕もエルフです!」
否定するようにいきなり叫ぶ。
「おいおい。俺が同族を間違えるとでも……」
「まさか。神子様の連れにハーフエルフが?」
ハーレイがいいかけると、背後にいた祭司が何やら難しい顔をしはじめている。
「まさか、ディザイアンの…」
とか何やらいいだしている模様。
ハーレイがはっとしてみれば、必至の形相で自分をみている小さな子供、ジーニアスといったか。
その子供の表情がみてとれる。
顔の輪郭すらあやふやになるほどの長い髪。
それが何を意味するのか…彼、ハーレイにわからないはずもなく。
「いや。違った。あんたたちは生粋のエルフみたいだ。俺が勘違いしたみたいだな」
ハーレイの言葉にほっと息をつくジーニアス。
そしてまた、
「やれやれ。驚かさないでくだされ。
神子様の旅にハーフエルフがいるとなれば、ディザイアン達に情報が筒抜けではありませぬか」
祭司様の何とも種族差別しまくりのその台詞。
「その言葉、おかしくないですか?」
「何が、ですかな?」
「その言葉自体が差別してると僕は思うんですけど。
そもそも、ハーフエルフが、といいますけど。あななたちヒトのほうがひどいことをしてますよね。
実際、ここにくるまで、僕らは普通の人間が、子供を浚って牧場に売りさばいていた。
そんな人間を目にしています。人間の中にいい人もいれば悪いヒトもいる。
それは、ハーフエルフだとて同じでしょう?
今のあなたの台詞は、ヒトだから全て悪いことをしているのに違いない。そういってるのと同意語ですよ」
「な、何という無礼な!そもそも、ディザイアン達がハーフエルフであることは疑いのない事実であり……」
「でも、盗賊やら何やらやってるのって、あなた達と同じ人間が主ですよね?
人殺しとかを平気でするのも?ならやっぱりあなたのいうことの筋でいうなら。
あなたたちも悪人でしかない、ということにほかなりませんよ」
何やらいいかけるヒトの言葉をさらり、と訂正するエミル。
「~~~っ!」
エミルのいい分はまさに正論。
ゆえに顔を真っ赤にし、それでも言葉をつまらせているピッカリング。
そういわれると反撃のしようがない、というもの。
いえばいうほど、それは自分達ヒトも悪人だ、といっているようなもの。
「そう、だよな。人間の中にも悪いやつがいればいいやつもいるもんな。
人間の中でもそうなんだ。ハーフエルフだってそうなんだろうな」
彼のいう基準でいくのならば、エミルは…ラタトスクはもうとっくにヒトは見限っている。
それこそかつて命じたように、魔物達に命じ、ヒトを駆逐しろ、と命じている。
「そもそも、一部分だけをみて、全体がそうだ、といいきるのはどうかとおもいますけど。
ただ、それは、あなた達がしろうとしないから。理解しようとしないから。
ただ、嫌悪して、排除していれば、そして問答無用で攻撃しておけば自分達だけが正しい。
そんな間違った認識においての差別意識なんじゃないですか?根本的な。
そんな状態だと、たとえディザイアンとかいう輩がいなくなったとしても、
あなた達は本当の意味で世界に溶け込むことはできませんよ」
そもそも種子をみつけて、折り合いをつけた後はマナを制限するつもり。
それはもう確定事項。
しかもたしか、当時の時間軸ではテセアラ側はシルヴァラントの人々を蛮族人、
といってさげずんでいたときいた覚えがある。
マルタの説明にたしかそうあった。
さらにいえば、テセアラのマーテル教につかえしものは、
シルヴァラントの人間を、それこそ公衆の目の前で足蹴りし平気で怪我をさせていた。
もっともエミルはそこまでのヒトの世界の事情に介入するつもりはさらさらない。
良くも悪くも、それらはヒトがおこせしこと。
それらはヒトの手によって解決させていかなければ意味がない。
あまりにひどいようならば、やはり浄化、という手段をも視野にいれる必要があるであろうが。
世界に溶けこむ、その言葉の真の意味にこの場にて気付いたものはどうやらいない、らしい。
「アイーシャ。帰ろうぜ。ライナーのこともきになるしな」
「え、あ。はい。あの、ありがとうございました」
くるり、と向きをかえて石階段をおりてゆくハーレイの後ろ姿をみつつも、
しばらくその場にいるエミル達とハーレイを交互にみたのち、ぺこりと頭をさげてアイーシャもまた、石階段をおりてゆく。
「…俺達もやすもうぜ。なんだかつかれちまった。というか結局一日中、ほとんど俺達歩いてたってことだろ?
ここにきたのが朝だったのにもう夕方って…しんじらんねぇ」
「そういえば、結局、精霊さんにはあえなかったねぇ」
ロイドの言葉にコレットがのんびりといってくる。
「ふむ。宿をとるのがいいだろう。バラクラフ文字の解読は当分おわるまい」
「よっしゃ!今日こそまともな枕投げ……」
「ロイド、それより、お前は剣の腕訓練はいいのか?」
ロイドが何やらいいかけると、そんなロイドにクラトスが何やらいっているが。
「え?お、クラトス、特訓してくれるのか!?」
「…お前がそのきがあるのならな」
どうやらロイドのあしらい方を覚えたというか、クラトスは自分がロイドを教えたい、という気持ちがあるのであろう。
「するする!よっしゃ!絶対にエミルにおいついてみせる!」
「あ~…うん」
「それ、無理のような気がするなぁ」
ガッツポーズをし高らかにいうロイドに、エミルとしてはかるい笑みをうかべるしかない。
ぽつり、とつぶやくジーニアスに対し、
「エミルだって俺とそう歳はかわんねえんだし!ぜったいにおいついておいこしてやる!
そしてクラトスすらおいこしてやるからな!」
「そういえば、クラトスさんとエミルってどっちが強いのかな?」
「そりゃ、歳からしてクラトスだろ?」
ロイドがそんなことを強くいい、コレットが首をかしげつつそんなことをいってくる。
そんなコレットにロイドがすかさずきっぱりと言い切っていたりするが。
実際はすでに力を完全に取り戻した状態である以上、エミル…ラタトスクが負けるはずがない。
が、そのことをロイド達もまた知るよしもない。
「…まあ、何にしても、鍵は手にはいったわけかい。
いいか!あたしがあんたたちと行動するのは、ピエトロを治すまで、だからね!それをよぉくおぼえときなよ!」
「それより、宿舎にあづけてた、ノイシュの様子、みにいかなくていいの?」
「お、そうだった!ジーニアス、俺、ノイシュの様子みてくるな!」
今朝の舞いをするにあたり、ノイシュは石舞台は危険、ということで。
そのまま馬を預ける宿舎にと預けっぱなし。
エミルの言葉をうけ、そのまま階段を駆け下りていっているロイドの姿。
「ノイシュ…か。あれ、あの変な動物。どうみても犬じゃないだろ」
しいながぽつり、といい。
「でも、ロイドが犬って言い張るからねぇ。僕も絶対に犬じゃないとはおもってるけど」
そんなしいなにぽつりとこれまたジーニアスがこたえていたりする。
「とにかく、今日はもう宿をとって休むしかないだろう。時間も時間、だしな。
次に向かう目的地の話しあいも必要だしな」
石板は手にいれた。
鍵も手にいれた。
どちらから封印解放しても問題はない。
それゆえのクラトスの台詞。
「私、少しでもはやく、ピエトロさんを治してあげたいです」
「そうだね。姉さんがいうようにあの呪いが伝染するのなら、早いほうがいい、よね」
コレットの言葉に、ジーニアスがぽつり、とうなづく。
あのとき、結局何がおこったのか、いまだにジーニアスはわからない。
覚えているのは姉の体を黒き霧が覆い尽くし、その霧が自分にもむかってきたこと。
そして、これまで友達だ、とおもっていた人間達から非難中傷、中には暴言の数々をいわれたこと。
それらがなぜか今おこっているかのごとくに記憶によみがえったという事実。
そこにいるはずがないのに、そこに彼らがいるかのごとくにリアルにその記憶は蘇った。
なぜそうなのか、ジーニアスにはわからないが、
あの石らしきものが関係していたのであろうことは想像に難くない。
「とりあえず、宿にもどらない?部屋がなかったら野宿の準備もいるしさ」
エミルの意見は至極もっとも。
結局のところ、ひとまずロイド達は宿へとむかってゆくことに。
翌朝になってもリフィルは宿には戻ってきてはおらず、
どうやらそのまま徹夜して解読に当たっていたらしい。
「リフィル先生、かえってこなかったみたい」
コレットが再生の神子だ、という噂はあっという間にこのアスカードの街にと広まっている。
町長がわざわざ挨拶にきたりもしたのだが。
最も町長からしてみれば、再生の神子一行の仲間に生贄の変わりをさせた、
という話しが広まるのを恐れての行動であったらしいが。
コレットがあてがわれた三人部屋のうちの一つのベットがあいたままであったことにきづき、
朝になりそんなことをいってくる。
ちなみに、女性陣と男性陣が部屋を分けており、ロイド、エミル、ジーニアス、クラトスの四人は、
一部屋で、リフィル、コレット、しいなが一部屋、わりあてられた。
しいなは自分はいい、といったのだがコレットにあるいみ押しきれらた形となっている今の現状。
食堂にて朝食をとりながらいってくるそんなコレットの台詞に…
ちなみにコレットは食事にだされたパンには手をつけておらず、
エミルがいれたハーブティーのみ口に含んでいたりする。
なぜか味を感じず、砂を食べているような感覚におちいったがゆえに手をつけていないコレット。
エミルからしてみれば食事の用意をしようとしたのだが、
神子様の仲間にそんなことはさせられない、とかたくなに拒否をされてしまったがゆえに、
今回の食事はハーブティーくらいしか用意できていなかったりする。
「しょうがねぇなあ。先生。わざわざここにいるってライナーの家に知らせにいったのに」
宿がきまり、一応リフィルにはどの宿に泊まるか連絡はしておいた。
「まだきっとライナーさんのところで研究してるんだよ。しかたないよ。迎えにいこう」
パンを食べたのちにいってくるジーニアスの台詞にロイドが再びパンを口にとほうりこむ。
「あれ?コレット?」
さきほどからコレットが朝食のパンに手をつけていない。
それにきづき、ロイドが声をかける。
トリエットの遺跡からこのかた、ここ最近ようやく食べるようになっていたというのに。
「あ。私、ノイシュにごはんあげてくる。い~い?」
「いいけど、お前」
「ふふ。最近、ノイシュ、私の手からも食べてくれるんだよ~?
ずるいよね~。エミルになんて初見でもすぐにたべてたのにさ~」
もっとも思いっきり恐縮しまくっていたにしろ。
ノイシュが恐縮しまくっていたことにどうやら彼らは気づいていないらしい。
「まあ、エミルの手料理はね。あれ食べたら他がなんだろ、っていう感じだよね」
「え?そ、そうかな?」
「うん。エミルはきっといいお婿さんになれるよね」
「な、なんでムコ?」
かつても何かマルタにエミルはいいお婿さんというかおよめさんになれるよね。
といわれた記憶がふと蘇る。
「エミルって何というか、夫というよりお嫁さんって感じだし」
「あ、いえてる」
ジーニアスの言葉に、ロイドがなぜかすかさず同意を示す。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
クラトスまでうなづかないでほしい。
ちらりとみれば、なぜかみればクラトスまで無言で同意しているのがみてとれる。
センチュリオン達にもよく人の姿になっているときには我が子
…すなわち世界の子供達をかまいすぎだ。
とよくいわれていたが、第三者からみればそうみえるのであろうか。
自分の子でもある彼らを心配したりするのは至極当然であるような気もしなくもないのだが。
ついでにきちんと制裁というかお仕置きするのもまた義務のうち。
そんな会話をしている間に、コレットがそのままコレット用に用意されていた食事をもって外にとでてゆく様がみてとれる。
ある世界ではお母さんみたい、といわれ、たしかに当たらずとも遠からずだ。
とセンチュリオン達がうんうんうなづいていた記憶もある。
ある意味では世界の母、といっても過言でないから、という理由らしいが。
しかし、なぜ嫁だの婿だのという単語がでてくるのかエミルからしてみれば理解不能。
ひとまず朝食をおえ、リフィルを迎えにライナーの家へ。
出向いてみればちょうどひと段落ついたのであろう、リフィルがライナーのいれたお茶をうけとり、
椅子に座って呑んでいる光景が目にはいる。
「あら。ちょうどよかったわ。今、解読が終わったところなのよ」
「リフィルさんはすばらしいかたです!複雑なパラクラフ語をあっというまに解読されたんですから!」
興奮気味にいきなりライナーがいってくる。
その顔はきらきらとしており、まさにリフィルを尊敬しています、と表情全体で表している。
「…うわ。また姉さんのファンが増えたよ」
「…魔性の女だな」
「ね~」
ぽつり、とジーニアスがいえば、ロイドがいい、それに同意しているジーニアス。
ぼか、ぼごっ。
「「~~~っ」」
リフィルに頭をたたかれ、同時に頭をおさえてしゃがみこんでいるロイドとジーニアス。
「…こりないね。あんた達も。…気持ちはわかるけどさ」
そんな二人をみて、ぽそり、といっているしいな。
「ジーニアス達って、一言おおいとかときどきいわれない?」
指摘するものがいなかったのだろうか。
しいなとエミルのその物言いにたいし、こほん、と咳払いをひとつしたのち、
「ともかく。あの魔物は古代パラクラフ帝国を襲っていた厄災の原因だったようね」
何ごともなかったかのようにリフィルがいきなり説明しはじめる。
「それを当時の召喚士が風の精霊シルフを使役して封印し厄災を鎮めるために石舞台をつくったみたいです」
そんなリフィルに続きざまにライナーが追加説明をしてくるが。
どうやらかなり間違った歴史をその石板とやらには刻んでいる模様。
「後の世に厄災が復活したときには風の精霊が使役できるようにこの石板を安置していたのね」
エミルがまったく違う解釈でヒトの世には伝わっていることにたいし思わず眉をひそめている最中、
リフィルとライナーは自分達が解読した内容を、ここぞとばかりに説明してくる。
そもそもあの石舞台の上ではかつては常に風の精霊を祀るための奉納祭が執り行われており、
それこそ封印とか何の関わりもない。
ヒトは時とともに都合のいいように歴史を彎曲し当時の権力者たちの都合のいいようにその歴史を伝えていこうとする。
まさにこれはその典型といってもよいかもしれない。
石板を直接みればどの時代に創られたものかはわかるのだが。
おおかたこの四千年の合間につくられたものであろう、と何となくだが予測ができる。
でなければ、そこまで真実が彎曲し伝わっているなどありえないはず。
「そして、長居時間をえて厄災は風の精霊と混同された……」
そんなライナーの言葉をうけ、
「じゃあ、風の精霊がどこにいるかわかったんだ」
そういった後、スピリチュア書がみせてもらえない以上、どうなるかとおもったよ。
などと小さく呟いているジーニアス。
「もちろんです。精霊のいる場所が次の封印の場所よ」
きっぱりとしたリフィルの断言に、
「すげ~、風の精霊ってどんなだろうな。早くみて~!」
ロイドが興奮気味にといってくる。
「よかったです。封印の場所がわかって」
コレットがほっとしたような声をだし、
「さあ、いくべき場所がわかったなら、先をいそごう」
そんな彼らを促すかのごとくにクラトスがここぞとばかりにいってくる。
「そうね。この石版の地図によれば、次の封印はパラクラフ王廟跡にあるはずよ」
「って昨日いってきたのに、またいくのかよ。先生」
陸路を通るには通行証がいる。
もっとも、すでに昨夜、町長が通行証をお持ちですか、といい、
もっていない旨をつたえると全員分の通行証を用意してくれたがゆえに、
普通に関所も超えられる。
ゆえにわざわざ地下遺跡を通らずとも遺跡にたどり着くことはできはするが。
「神子様、頑張ってくださいね。神子様ならきっとこの旅の再生は成功されますから!
その石版は神子様達にさしあげます。きっとおやくにたつでしょうから」
「あ、ありがとうございます」
ライナーが目をきらきらさせつつコレットにいうものの、
コレットはそんなライナーに優しくほほ笑みをかえして短く答えるのみ。
「で、結局どうするの?ルインにいくの?それとも王廟とかいうところ?」
彼らがどちらを先にするのか、まあ何となくどちらにするか手にとるようにわかるが。
一応念のためにとといかける。
そんなエミルの問いかけに、
「鍵も手にはいりましたし。先生、マナの守護塔にいってみましょう」
「そうね。ついでにユウマシ湖に途中よってみましょう。あの噂を確かめてみたいし」
コレットの台詞にリフィルがうなづき、馬車の中できいた言葉を思い出しつついってくる。
「あの噂って、こっちではまだ生き残ってるのかい?」
「「?」」
あの馬車の中にしいなが乗っていたのに気付いていたのは、クラトスとエミル、そしてリフィルのみ。
ゆえにジーニアスとロイドはしいなが何をいっているのか理解不能。
かの地にもユニコーン達はいるにはいるが、どうやら人前には絶対に二度と姿を現していないらしい。
まあ、ヒトはいつの時代も彼らを乱獲しようとするのでそのほうがいい、とはおもうが。
彼らを住まわす新たな界の構想もしたほうがよさそうである。
いうなれば幻獣界、といったところか。
しいなの言葉に首をかしげるものの、
「では、きまりね。まずはマナの守護塔にいき、それから治癒術を手に入れ。
そのままハイマにもどってピエトロを治して、次にパラクラフ王廟跡ね」
「まあ、先にパラクラフにいってまたもどってくるのも何だしね。
それに、先に治癒術が向上したほうが今後のためにも助かるかもしれないし。でしょ。姉さん」
「ええ」
リフィルのいい分にジーニアスが少し考えてそんなことをいってくる。
「・・・まあ、妥当だろう」
クラトスもまた簡単にではあるがうなづいているのがみてとれる。
どうやら今後の旅順がきまったらしい。
「で、いつ出発するの?」
このままここで夜までまって祭りを経験してゆくのか。
それともこのまますすでゆくのか。
そんなエミルの問いかけに、
「それは……」
しばし顔をみあわせるリフィル達の姿がその場においてみうけられてゆく。
pixv投稿日:2014年1月7日某日(Hp編集:2018年4月22日(日)
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あとがきもどき:
※地下遺跡で手にはいるのは、シルククロークなのですが、
あえてマントに変更しています。風属性にも若干耐性がある