まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

pivixさんに投稿していた話の区切りとは変えてあります。容量的に……

ついに、またまた突入する鬱回…
つまりは、心折れる救いの塔、でのイベントです。
というか、でもそこまで容量的にいくかがどうかが摩訶不思議。
何となくその手前の決意イベントでまた三万か四万文字あたりにいくような…汗
ちなみに、回想ででてくる会話。
アスカード牧場攻略回にでてきたものです。
というか、あれがここにかかわってくる、とは誰も思ってもなかったでしょう
というかあの話題をだすのがこんな話数のあたりになる、
とは自分でもびっくり(しみじみ)
前回が、このテセアラベース完了までくらい、と脳内ではおもっていただけに(実話
さてさて、テセアラベースからの脱出の回ですが。
きちんと表現でききれているか(文章で表現がきちんとできてるか)、が不安です。
映像として脳裏にはあるんですけどねぇ。
よくあるSFアクションもので、ぎりぎりの脱出劇。
あんな感じです、あしからず。
さて、今回、ゲームにはない、オリジナルの村がでてきます。
その村は、あるいみでフラノールさんの代わりみたいなものです。
あしからず。
ちなみに、出てくる台詞。
たとえ体を失っても心は常にそばに~という台詞。
それがでてくるとあるアニメが昔ありました。
というか、「ボスコアドベンチャー」・・あれ、ものすごくみたいのに。
歌もすきだったのに。
レンタルにもどこにもないんですよねぇ。
昔ですから、全部みれてたわけでもないから、
できたらDVDとかにならないかな~、とかひそかに思ってたり。
…みな、知らないでしょうねぇ。あのアニメ。
ヒロインさんがラスト、死にます(え゛)
正確には命の泉(世界の命ともいえる水)と同化して、世界の大気となります(マテ)
それで世界が救われる、という内容なんですけどね。
消えた彼女のことをおもった主人公たちに最後に聞こえた言葉が。
「たとえ体は失っても、心はいつもあなたたちとともにいるわ。そう、いつまでもね」
という内容。
その言葉がいように好きで、数十年以上たってもやけに覚えてます。
あれって、ふっとおもったんですけど、
コレットやマーテルに通じるところがあるなぁ、とかおもったり。
なのでその台詞をこれにも組み入れてたりします。
【心の隙間みたしてくれる、好きです、あなたが】
あの歌詞さん、コレットにぴったり、とおもってたり(エンディングの一部)
というか、あのエンディングって、あるいみコレットの生き方。
といってもおもいっきりぴったしあてはまる、という。
涙が枯れそうなときもくもり空のときも、笑顔でむかえてくれるあなた~
みたいな内容だったので。
ふと、これかいてて、でてないよなー、と気安い気分で調べてみたら。
…うえ!?でてたの!?びっくりです。しかもでてるの去年…限定生産って・・
検索してみたら・・いつのまにでてたの!?ボックスさん状態・・・
た、高い・・でもほしい・・ても高い…あうあうあうっ。

あと、塔のとあるシーン、
打ち込みするにあたり、さて、ゼロスのフォローいれとくべきか。
それとも、回想シーンとして合流地点でいれるべきか。
いまだに悩んでいたりします
まあ、打ち込み気分でいれるかいれないか、
そこまでうちこみしてるときの気分次第になる…かな?

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重なり合う協奏曲~名もなき村にて~

「ったく…どうなるかとおもったよ」
「うう、気持ちわるい……」
ほぼぐったりしているようにみえるのは、おそらく気のせいではないであろう。
というか、元の大きさにもどったとたん、ふらふらとし、中には胃液をはいているものすらも。
誰、とはいわないが。
「俺様いっちば~ん、ってね」
「…まあ、あんたがあの天使達に攻撃してくれたから助かったんだけどさ……」
けど、けど!
「だからって、あんたは何、ヒトの胸谷間にちゃっかりはいって、
  しかも何であんな方法で体を安定させてたんだいぃぃ!」
そう、そう叫ばずにはいられない。
たしかに全力で天使達から離脱していたがゆえ、小さくなっているゼロスが吹き飛ばされる。
その可能性もたしかにあった。
が、だからといって、術を唱えるのにちょっと体を固定させてもらうな。
といって、何も胸の谷間に体をもぐりこませなくてもいいとおもう。
断じて、何かが違う。
絶対に。
「おこるなおこるな。しいなのそのムダにおおきな胸も役にたったってことで」
「うるさ~いっ!!」
ちゃかすようにいってくるゼロスに対し、
思わずこぶしをふりあげるしいなは間違っていない。
絶対に。
もっとも、ゼロスのおかげで助かった、というのも事実なれど。
おってくる天使達にむかい、しいなの胸の谷間にて体を安定させ…
そのことにかなりしいなとしては文句をかなりいいたいが、
ともかく、それにて体制を整えた小さなゼロスが放った術。
ジャッジメントは追手たる天使達の翼をこがし、彼らを飛行不能におちいらせた。
落下してゆく天使たち。
そのまま海の中に落ちていく様が上空からもみてとれたので、
生きているのかしんでいるのかまではしいなにもわからないが。
ともかく、そんな攻撃もあいまって、何とか追手をふりはらい、
たどり着いたはフウジ大陸、とよばれし救いの塔もある大陸。
この大陸にはサイバック、そしてガオラキアの森などもあり、
ほとんどが森と山脈で構成されているといってもよい。
一行が降り立ったのは森が開けた場所であり、
そこからすぐに森の中にはいり身を潜めている今現在。
先ほどまで上空を天使が飛んでいた様子がみてとれたが、
あきらめたのか、彼らの姿は今やない。
それもあり、ほっと一息をついたところでいろいろと反動があらわれたのか、
しいなはゼロスを殴ろうとし、ジーニアスはジーニアスで近くの木に手をあてて、
ふらふらする頭を何とかおちつけようとしていたりする。
そもそも、天使達から逃げるのにしいなはかなり、
あるいみレアバードにてアクロバット飛行のようなことをしでかしており、
ひっしにはいっていた風呂敷につかまっていなければ、
まちがいなく上空から振り落とされてしまっていたであろう。
それもあり、多少乗り物酔いのような症状をおこしていたりするジーニアス。
「とにかく。追手はもういないようだけども……」
リフィルとしても頭を抱えずにはいられない。
予定がだいぶくるってしまった。
「先生、あれ、何でしょうか?」
ふと、コレットが視線の先。
よくよくみなければわからないような、かすかな煙らしきものをとらえ、
首を横にかしげつつもリフィルにと問いかける。
ここはどちらかといえば鬱蒼とした山々の間であり森の中。
あのような細い煙のようなものがでる、ということは、
山火事、もしくは何らかの火が加わっていることは否定できない。
着地したのは自然にできた森の中のちょっとした空地のような場所であり、
ゆえに、この付近に人の気配、というものは感じられない。
「たしかに、なんか煙がたってるな。よし、俺様、ちょっとみてくるわ」
いいつつも、ひょいひょいとしいなの攻撃をさけていたゼロスがコレットの言葉をうけ、
そちらに視線をむけたのち、その背に淡い輝きをもつ金色の羽を出現させる。
「…つい忘れがちになるけど、ゼロスもコレットと同じく、翼でるんだよな」
それをみてロイドがぽつり、といい、
「そういえば、ゼロスはコレットみたいに何かなかったの?」
「うん?前のコレットちゃんの症状か?俺様は別に…
  まあ、ゆっくりと時間をかけたんじゃねえの?コレットちゃんは一気っぽいけど」
事実、ゼロスは幼いころからクルシスの輝石とよばれしハイエクスフィア、
ともいわれている精霊石。
それになじんでいる。
セレスにその石を手渡すまでずっとゼロスは物心ついたころからそれとともにあった。
コレットのように石を聖殿に預けていたのとはわけが違う。
いわば、時間をかけてその力がゼロスの体に浸透していったといってもよい。
「たぶん、コレットちゃんのあれは、一気に天使化を果たそうとしたのと。
  あと、強制的ってのもあったんじゃねえのか?」
たしかにゼロスも一時期、食事の味がしなくなったりしたこともあったが。
それは幼いころのことであり、すぐにそれは感じなくなった。
それは幼いゆえに柔軟に本能がその力をコントロールしたがゆえ。
もっともそれらにゼロスが気づいたのは、コレットの事を知ってから、ではあるが。
「あ、ゼロス。私も…」
いいつつ、コレットもその背に淡い桃色の翼を展開するが。
「いんや。コレットちゃんはここにいな?
  ここは救いの塔が近い。天使達にみつかったら面倒っしょ?」
実際、クルシスはコレットをマーテルの器、として欲している。
そんな人物がほいほいと、目立つように翼をはやし空をとんでいれば。
ここにいますよ、捕まえてください、といっているようなもの。
そのまま、ふわり、とぶん、と振り上げられたしいなの拳をひょいっとよけ、
「んじゃま、俺様周囲を見回ってくるわ~」
「あ!こら!ゼロス!空をとんで逃げるなんて卑怯ものぉぉ!」
その下では拳をにぎりしめ、わなわなと、しかも顔を真っ赤にしているしいなの姿が。
「?なあ、なんでしいなはそんなにムキになってるんだ?
  ゼロスのおかげでたすかったのに?」
ロイドにはどうしてしいながそんなにムキになっておこっているのかわからない。
「そりゃ、たしかにそう、そうだけど!」
あのあとが問題だった。
抜け出すふりをしてしでかしたゼロスの行動。
それをしいなは忘れていない。
体が滑った、とは絶対にあれは嘘だ。
そう確信しているがゆえに、しいなは怒らずにはいられない。
小さい体が自らの胸の谷間でじたばたしていたなどと、
口がさけてもロイド達にはいえはしない。
ロイド達はおそらくそこまではみていない。
だからこそ、しいなの怒りはゼロスにのみむけられる。
そんなしいなの怒りをみて、何となく察した、のであろう。
「…まあ、ゼロスだからねぇ」
「…うむ。神子だからな」
思いっきり溜息をついているリフィルとリーガル。
言われなくてもしいなのこの怒り具合から、何となく嫌でも予測がつく。
ゼロスが何をしでかしたのか、ということは。
「(ゼロスさん、もしかして小さいのをいいことに、パフパフ?)」
ふと、プレセアの脳裏にときこえるアリシアの声。
「アリシア?おきたの?」
ふとプレセアが首をかしげ、どこともなく視線をむけて自らのうちにと問いかけるが。
「(うん。どうにか。でも姿を現すのは難しい…かなぁ?)」
頭の中に聞こえてくるその声に、それでもアリシアの妹の声がしたのうけ、
プレセアもすこしほっとする。
「?それにしても、パフパフって、何?」
ごっん!
ずるっ。
今、アリシアの台詞で意味が分からない言葉があり、
口にだして首をかしげるプレセアの台詞をうけ、
近くにあった木におもいっきり頭を打ち付けているリーガルと…
まじめで冷静なリーガルにしては珍しい、としかいいようがないが。
そしてまた、するっと地面を滑ってその場にこけかけているリフィル。
「パフ?」
「今、アリシアがゼロスくんが、パフパ…」
「アリシア!聞こえているのでしょぅ!?プレセアに余計なことはいわなくてもいいの!」
「…アリシア…そういえば、そういう点ではアリシアはませていたな……」
がしっとプレセアの肩をつかみ真剣な表情をうかべ、
しっかりとプレセアの瞳をみつつもいいきるリフィルに、
どこか遠くをみつつもぽつり、とつぶやいているリーガル。
「パフ何とかって何だ?」
「子供はしらなくてもいいことです」
首をかしげ、そんな彼らの態度を疑問におもいといかけるロイドにたいし、
これまたきっぱりといいきっているリフィル。
「子供って、先生、俺ももう十七…もうすぐ十八になるんだぜ?」
実際、あと数か月もたたないうちに十八になる。
世界再生の旅は、気づけばすでに半年ばかりかるく経過していたりする。
「あ、ゼロス、もどってきた」
ふとみれば、つい今しがたとんでいったはずのゼロスがふわり、
といつのまにかもどってきたのか、ふわふわと上空にと浮かんでいる。
「リフィル様ぁ。この先にどうも小さな村っぽいのがあるんだけど。どうする?」
「こんな場所に?」
ゼロスの言葉に思わず顔をしかめるリフィル。
こんな場所に村、などとは。
周囲をみわたしても山と森、そればかり。
道という道らしきものもない中で、辺境の地ともいえるこんな場所に村などがあるのだろうか?
と。
グ~……
『・・・・・・・・・・・・・・』
あきらかに場違いな音が鳴り響き、視線がいっせいに音の主。
つまりはロイドにとむけられる。
「そういや、なんか腹へったなぁ」
何だかいろいろとあって、そういえばまともにたべていない。
まともに食べたのはサイバックをでる直前。
あれからかるくどうみても数時間は経過している。
ゆえに、お腹がすいてもおかしくはない。
ないが。
「…しかたないわ。一度休息にしましょう。村、というのもきになるしね」
こんな場所にある村である。
閉鎖的な村という可能性もなくはないが。
それでも、食糧や薪などは手に入るかもしれない。
もしくは、村の中で宿、とはいわないが、
こんな得たいの知れない森の中で休息するよりは、あきらかに安心できる、というもの。
クルシスの拠点の一つかもしれない、という疑惑もあるが。
しかし、それは調べてみなければ何ともいえない。


深い、深い森の奥。
道、という道すらなく、周囲にあるのは険しい山々。
そして見上げたその先には近くに救いの塔があることがうかがえる。
首都などからは遠くにみえていたそれが、より近くにあることによって、
見上げればそこに巨大な塔がたっているのがうかがえる。
この付近は山脈の合間に位置している巨大な森の一角、であるらしく。
鬱蒼と茂ったもりに、さらには狂暴ともいえる魔物達が生息している、
ともっぱらの評判。
そんな場所だというのに村。
それがにわかにはリーガルとて信じられない。
というかこの場所にそんなものがあるなどと、きいたことすらない。
が、空から確認したという神子ゼロスがいうのならばそうなのだろう。
おそらくは隠れ里といった代物で、みずほの里のようなものなのかもしれない。
否、みずほはその認知が世界になされている以上、
それよりも隠れた里、というべきか。
「?」
ゼロスにいわれ、たどり着いたその場所は、どこからみても、
森の中にあるちょっとした開けた空間、でしかありえない。
「うわぁ。こんなところに村があったんだ~」
それをみて、感心したような声をあげているコレットに。
「でも、何か、違います」
周囲をきょろきょろとみてぽつり、とつぶやいているプレセア。
そんな彼らの台詞に思わず顔をみあわせる、
リフィル、ジーニアス、ロイド、リーガル、しいなの五人。
ゼロスやコレット、そしてプレセアが村がある、というが。
彼らの目にはそこにはちょっとした開けた空き地、のようなものしかみあたらない。
ゼロスがすたすたとその空地、らしきものに足を踏み入れたその刹那。
「え?」
瞬時にゼロスの姿がリフィル達の視界からかききえる。
「結界、のようだね」
つまりは、おそらくそういうこと、なのだろう。
ゼロスがどこかにいった、とはおもえない。
だとすれば、そのゼロスがある、といった村には、
何らかの結界のようなものがかかっており、通常ではわからないようになっている。
とみたほうがはるかに納得がゆく。
しいなもまた、ゼロスに続いて一歩、その場に足を踏み入れるとともに、
ぐにゃり、と何か空気の膜のようなものをくぐったような感覚うける。
思わず目をとじ、そして見開いたその視線の先。
さきほどまでまったくそこにはなかったはずなのに。
開けたちょっとした空地のようなその場所に、いくつかの家々が立っているのがうかがえる。
それだけではなく、ちょっとした畑のようなものもあり、
地面の周囲をなぜかどうみても魔物の一緒のような鳥が走り回っているのがみてとれる。
「…驚いたわ。本当に村が……」
しいなにつづき、この場に足を踏み入れたリフィルも驚きを隠しきれない。
と。
「めずらしい。こんなところに人間のお客、ですかな?」
ふと、前方より、突如として第三者の声がなげかけられる。
みれば近づいてくる男性が一人。
豊かに伸ばした真っ白いひげが、かなりの年齢であることをうかがわせる。
いや、それ以上に。
「…エルフ?」
その特徴あるとがった耳、そしてその独特なるマナをリフィルが見間違えるはずもない。
「ほう。これはめずらしい。人間、そして天使化しているもの、
  さらにはハーフエルフ、との連れ立ちとは……」
その視線をちらり、とコレット、ゼロス、プレセアにむけ、
そしてその視線をリフィルにむけて、ちかづいてきた白いひげを豊にたくわえている男性。
その人物が何やらそんなことをいってくる。
よくよくみればこちらをうかがっている、のであろう。
数すくない家々の中からこっそりとこちらをうかがっている人影がいくつか垣間見える。
「この結界にはじかれることなくはいれた、ということは。
  危害を加えようとするものたちではないのでしょう。ようこそ。大樹の麓へ」
大樹の麓。
その言葉に思わず顔をみあわせるリフィル達。
「あ、あの、あなたは、エルフ・・・ですわよね?」
だけど、何かが違う。
何が、といえばわからないが。
ヘイムダールにいたエルフ達とは根本的に、何か、が違う。
「あなた方のいうエルフが、われらの先祖で、一族をそういうのならそうでしょうな。
  が、われらはどちらかといえば、エルフというよりは、
  あなた方がそのくくりでいうならば、ヒトにちかいかもしれませぬな。
  われらは力の加護を捨て、大地と自然とともにいきることを望んだものたちの末裔ですので」
末裔。
そういわれてもリフィル達には意味がわからない。
永き時をえて、すでに忘れ去れて久しいが、ヒトもエルフも元は同じ。
かつて、彗星から移住したエルフの末裔。
その力をすて、自らの力で生きることを望んだのが、今の人の先祖たるエルフ。
大樹のふもとにとひっそりと位置していたこの村は、
いわば大樹の加護に守られていた村といっても過言ではない。
もっとも、かつての戦いの折、人間たちにみつかり、壊滅的な被害をうけてしまったが。
天使化しているものにはこの地をみることができたのが一番の要因。
そもそも、この村はもともとソルムの幻影という結界がかかっており、
普通、めったに見つかるものではなかったというのに。
しかし、センチュリオン・ソルムが眠りについていたことも災いし、
この村も壊滅的な被害をこうむった。
ばらばらに逃げたものたちが何とか村を再生させ、
ほそぼそと生きている、といってもよい。
彼らは私利私欲にては力を振るわない。
かならず、微精霊達に伺いをたて、力を借りる、ということを基本としている。
それすらも滅多とせず、基本、自分達でどうにかしている。
火を起こすのも摩擦熱や太陽熱を利用し使用しており、
ゆえに常に村の一角には絶えず何かあったときのために、火種が保管されている。
いざ、というときにすぐに火が扱えるように。
「このような、かつての大樹のふもとのはずれまでこられるとは。
  道にまよいましたかな?目的地はあの塔、ですかな?」
言いつ指さしたその先には、雲をつきぬける巨大な塔。
「こんな村があるとはわれらは知らなかったのだが……」
困惑したように周囲をみつもぽつり、とつぶやくリーガル。
こんな場所にこんな村があるのならば、
これまで話題にあがっていなければおかしい。
それに救いの塔周辺はテセアラ、という国はひたすらに研究していたはず。
なのにこれまで見つかってさえいない、というのが不思議でたまらない。
村の様子からして、ここ最近できた、というようにはみあたらない。
家々は木造建築が主らしく、どこからどうみても古い面影を感じさせている。
それこそおとぎ話の中ででくるかのような、茅葺屋根の家、という表現がまさにふさわしい。
二階建ての建物は一切なく、すべてが一階建てのつくりとなっている。
そんなリーガルのつぶやきにきづいた、のであろう。
「万が一、迷い込んできた方々もいましても。
  ある程度の場所にまで送り届ける前に記憶を消させていただいていますからな。
  この場のことをあまり知られるのは好ましくないですから」
リーガル達はまだ気づいていないが、この村の周囲にはマンドラゴラ達も自生しており、
そんな彼らが人々の記憶を消すのに役立っていたりする。
彼らも、この村のものに協力するように、しかし害となりえる、
と判断したばあいは問答無用で排除してもよい、という命令をもともとうけている以上、
魔物達も率先して村人たちのそういうお願いはきいていた。
たとえそれが王が眠っている最中であったとしても。
「あ、あのさ…」
グ~…キュルルル……
『・・・・・・・・・・・・・』
彼らがそんな会話をしている最中、さらに盛大に音を鳴らしているロイドのお腹。
「どうやらそちらのお子さんはお腹がすかれてるようですな。
  まあ、せっかく訪ねてくださったのだ。
  じゃが、ここからでるときは、この場のことをいおうとしたときに、
  この地のことを忘れてもらう薬はのんでいただきますぞ?
  ヒトがこの地をしれば、ここをめざしろくなことをかんがえませぬからな」
この地を拠点にする、というのはかなりの利益があるといってよい。
この地がみつかってしまったがゆえに、あのとき。
四千年前に二つの陣営がこんな山合いの、しかも森の奥に位置していた、大樹が元あった場所。
そこに大群、として押しかけた。
よりによってこの地を大樹の麓の村を拠点、とし。
限外に、薬をのまねば、記憶をこのまま消して森の中に放り出す。
とでもいうかのような、真剣なまなざし。
聞きたいことは山とある。
けど、今は。
「…そうね。ここは郷に入っては郷に従え、なのでしょうね」
彼らが警戒している理由もリフィルは何となくだが察知する。
人にこの地のことをしられたくはない、のであろう。
それにここは救いの塔のほぼ真下といっても過言でないほどに近い。
よくもまあ、これまでクルシスのものに何かされなかった、とおもわなくもないが。
実際は本来ならば常に魔物達が吐き出す霧にこの村は覆われており、
クルシスの目でもこの地は認識ができていなかった。
今こうして霧が晴れているのは何のことはない。
ソルムが目覚め、そして魔物達と縁を元通りにしているがゆえ、
結界と幻影を強化することによって、見つかる確率が少なくなっており、
ゆえにそこまでする必要がなくなっている、ともいってよい。
もっとも、今こうして霧が晴れているのは別の理由もあるのだが。
「そろそろ日もくれます。この森は夜は危険ですからな。
  何の用事かはわかりませぬが。塔にいくならば明日にしたほうがよろしいでしょう。
  今日のところはわが村でよければ、休んでいかれますかな?」
その言葉に思わず顔をみあわせる。
たしかに、今から救いの塔に突入したとして、確実に夜になる。
そして敵地の最中、眠って移動していく、というのはかなり危険。
それこそ以前のように、絶海牧場を攻略したときのように、
徹夜で行動するハメになりかねない。
あくまでも敵の本拠地で体力にも思考力的にも不安が残る。
どうやら、サイバックをでて、テセアラベース、とでもいうべきか。
レネゲードの設備に潜入していた時間は思ったよりも長かったらしい。
たしかにいつのまにか太陽はもう真上をこえており、
今から塔に潜入しても、確実に夜になる。
それはもう断言できる。
それよりは、体を休め、朝早くに出発したほうがどう考えても都合がよい。
それに、朝早くならば、万が一塔の見回りのものがいたとしても、
そう数はいないであろう。
「あの、あなたは?」
そういってくる人物問いかけるプレセア。
「申し遅れましたな。わしはハワード、というものじゃて。ハワード・K・モスリンと申す」
『!?』
その苗字は。
思わず顔みあわせる、リフィルとしいな。
モスリン、でおもいだすは、エグザイアの町長、といっていた人物と同じ名前ではないか。
「あの?もしかして、エグザイアの町長の親戚か何か、で?」
村長、ともいえるかもしれないが。
恐る恐る、というようにリフィルが問いかければ、
「うん?おお、孫をしっておるのか。あれはわしの孫でな。
  そういえば、かの地の長老様はお元気かの?
  十数年前、長老様が人の赤子を海からひろいあげた、とはきいてはいるが」
その白いひげをゆっくりとさわりつつ、
「モスリンの名は、エグザイア、そしてここの村長に代々受け継がれる名前でな。
  元々は守り人の家系を示す言葉であったんじゃが…
  しかし、そうか。孫の知り合いか」
守り人。
その言葉が示すその意味をリフィル達は知らない。
「でも、あなたはハーフエルフのマナにはみえないんだけど……」
戸惑ったようなジーニアスの台詞に。
「あやつはヒトの血がより濃くでているからの。
  わしはどちらかといえばエルフの血がより濃くでているが。
  まあそんなことは関係はない。ともあれ、ようこそ。名もなき村へ」
孫の知り合いであるならば、問題はないであろう。
あの地は精霊マクスウェルの加護がかかりし場所。
あの場所に入ることを許可された人間だというのならば、信頼性はある。
しかも、彼らは『モスリン』の名をもしっていた。
それに。
「それに、そっちのお嬢さんからは、召喚士の力を感じるしのぉ」
そしてもうひとつ。
ちらり、と赤い髪の男性にと目をむける。
が、これはおそらくいわないほうがいいのであろう。
ちらり、とみたときにかるく相手が首を横にふったのをみるかぎり、
どうやらこれは口出しというか口にしてはいけないことなのであろう。
とすかさず理解する。
伊達に直接センチュリオン達からいまのマナの減少の説明を聞いているわけではない。


森に囲まれている隠れ里。
エルフのヘイムダールとも、またみずほの里ともまた違う。
村の中にはいたるところに魔物らしき姿がみうけられ、
しかしどうみてもここにいる人々はそんな魔物達を恐れるでもなく、
完全に共存しているのがうかがえる。
畑に普通にクロウラーなどもおり、またチョンチュンなども普通に道をあるいている。
この村の近くには小川が流れているらしく、そこから魚や小さな川蟹なども手にはいり、
しかし、基本的、この村にいる人々は森のめぐみともいえる山菜を主に主食にしている。
いきなり現れた彼に対しても、この村の人々は忌諱するでもなく、
あたたく迎えられ、もっとも、そのかわりに特殊な薬という液体。
それを飲まされはしたが。
何でもそれは、この村のことを第三者に口にしようとしたとたん、
効能を発揮するとかで、この村のことを綺麗さっぱり忘れる効果をもつ、という。
さすがに八人全員が眠れるような建物はなく、
それでも、村の中のほうが森で野宿をするよりは比較的安全。
ということもあり、村の広場の一角にて本日は休む許可をえた一行。
何でもこの村は、かつての古代対戦よりも前からあり、
伝承ではそれこそ大樹が初めてこの地に移住され、
そしてエルフ達が初めて降り立った地、ともいわれているらしい。
らしい、というのはそれに関して詳しく資料が残っている、でもなく、
口伝として伝わっているだけなので、確証にせまる資料などはないにしろ。
そしてこの森は太古の森、ともいわれ、
大樹が枯れてしまったことにより、ある程度規模は小さくなったものの、
昔ながらの生体をもつ木々もいまだにいくつかはのこっている、らしい。
もっとも、そのかわりより強いといわれる魔物もまた多々といるらしいが。
らしい、というのもこの四千年の間にそういった魔物たちもなりをひそめ、
一時みなくなっていたがゆえに、一概にはいえない、というのがモスリン村長の意見。
すでにこのモスリンは齢千年を超えているらしく、
エグザイアにいたモスリンを孫、といってはいたが、正確には曾孫にあたるらしい。

ふっと、横になっていたが目を覚ます。
パチパチと目の前では燃えている焚き火がみてとれるが。
「…あれ?コレットは?」
ふと、焚き火の近くで寝ているはずのコレットの姿が見当たらない。
まさか、とおもう。
まさか、また眠ることができなくなっているのではないか。
そんなロイドの不安にこたえるかのように、
「コレットなら、少し月をみてくる、といってその先にいっているぞ?
   神子は周囲を見回ってくる、といって今はいないがな」
リーガルが神子、とよぶのは大概ゼロス。
たしか、リーガルとゼロスがはじめは火の番をすることになっていたはず。
ロイドが自分もする、といったが、なぜかきっぱりと、
絶対にねて見張りにもならない、とジーニアスにもいわれ、
また、ゼロスが別に徹夜くらい何でもない、といい。
リーガルにしても然り。
しいなも自分がならば、と申し出たが、しいなにはこれからもしかしたら、
精霊をよんでもらう可能性がある以上、しっかり体を休めてもらったほうがいい。
というリフィルの意見もあいまって、結局のところ、
リーガルとゼロス、二人で火の番をする、というので話がまとまっていたのだが。
「…眠れぬのか?」
珍しい、とおもう。
こうしてロイドが爆睡せずにおきてくるなど。
それゆえのリーガルの問いかけに。
「あ、うん。…ちょっと、コレットのところにいってくる」
「なら、これをもっていってやるがよかろう。ちょうど温まったころだ」
いって、リーガルがコップに注ぐは、この地でもらったミルク。
それをヤカンにいれ、どうやら温めていたらしい。
もっとも、このミルクは野生のヤギがこの付近にはいるらしく、
それからとった天然もの、であるらしいが。
いいつつも、その場からたちあがる。
ひんやり、とした空気がロイドを包み込む。
やはり森、というのもあって、夜は夜で冷え込む、らしい。
それぞれ、眠るにたり、村人から毛布が貸し出されており、
一応、簡単に体にかけて眠ることはできてはいるが。
場所が場所、というのもありて、テントを張る、というのも、
場所柄的にいくつも張れるものでもなく。
結局、テントをはっても場所をとるのであれば、普通に外にねたほうが、
いざ、というときにすぐに動ける、という意見もあいまって、
それぞれ毛布をかけただけで眠る状況となっている。
「さんきゅ~」
暖かなミルクをうけとり、コレットがいる、という方向にと進んでゆく。
しばらくいくと、じっと空を見上げている見慣れた金色の髪がみてとれる。
その視線はじっと救いの塔にむけられており、身動き一つすらしていない。
「コレット?」
ふと、そんなコレットが今にも救いの塔に飲み込まれそうな錯覚におちいり、
思わず声をかけるロイド。
そんなロイドに気づいた、のであろう。
「あ、ロイド。…ごめん、もしかしておこしちゃったかな?」
申し訳なさそうに、首をすくめていうコレットに対し、
「いや、たまたま目がさめただけだ。これ、リーガルから」
「ありがとう。うわぁ、温かい」
コップをうけとり、思わず満面の笑みをうかべるコレットだが。
「これ、温かいというより熱くないか?」
おそらくこのままではまちがいなくやけどする。
コップを通じて手袋をしているロイドですら熱く感じるのだから、
これは温かい、という部類よりは確実に熱い、という分野にはいるはず。
「えへへ。そうだね。熱いね」
「…何だかうれしそうだな」
熱い、というのならばまだしも、なぜにコレットは受け取って嬉しそうなのだろうか。
「だって、まだ何だか信じられないんだもん。熱いってわかるって。…うれしいんだもん」
そう、一度失っていた感覚だからこそ、よけいにうれしい。
いつもは当たり前、とおもっていたものが、そうではない。
それこそが生きている証なのだ、と強く思える。
「…そっか」
コレットがどうしてそんな些細なことを喜ぶのか、一瞬不思議におもうが。
しかしすぐさまに思い出す。
コレットは感覚すべてを失っていたのだ、と。
もしも、コレットの体の治療ができていなければぞっとする。
コレット体は石に…クルシスの輝石、すなわちハイエクスフィア、
とよばれし石に変わり果ててしまっていただろう。
あのとき、すでに肩のあたりが輝石化してしまっていたように。
「うん。熱いとか、寒いとか、そういうのを感じるたびに。
  ああ、私、今生きてるんだって、そうおもえるの」
二度と感じるととはなかっただろう感覚は、ロイドによって自分の内にと戻された。
それだけでもコレットはうれしい。
「救いの塔をみていたのか?」
「うん。それとあれ。みて、きれいな星空。すこいでしょう?今にも降ってきそう」
たしかに見上げたそらは満面の星空で、
今にも星が降り注いでくるかのような錯覚に陥ってしまう。
コレットが手をのばせば、今にも手がとどきそうで。
そしてそれはロイドとて同じこと。
でもそれは錯覚にすぎない。
それはわかっていても、おもわず手を伸ばさずにはいられないほどの満面の星。
「ああ、そうだな」
だからこそ、ロイドも思わず空をみあげ、片手を空にかざしつつ、
そうつぶやかずにはいられない。
空は星空はこんなにも綺麗なのに。
しかし世界は綺麗なだけ、ではない。
「…ロイド、覚えてる?クラトスさんが言ったっていうこと」
コトン、とその横にある木の切り株にコップをおき、
そして改めてロイドに向きなおり、ふとそんなことをいってくる。
そんなコレットの言葉に。
「…あいつが、何かいってたか?」
クラトスが何をいっていただろうか?
思い出すのは自分をかばって、目の前で電撃をうけ痙攣し、
血を流し、どさり、と自らの前の地面に横たわったクラトスの姿。
そして語り掛けられた言葉。
――無事か?なら、いい。
ただ、それだけ。
クラトスが自分の父親であるとを肯定する言葉をいうでもなく、
それに対して言い訳をするわけでもなく。
ただ、それだけ。
おもわず手にしているコップをぎゅっとにぎりしめるロイド。
「…前、まだシルヴァラントで旅をしてたとき。
  私たちがエクスフィアがどうやってできるのかしったとき。
 『エクスフィアを捨てることはいつでもできる。
  今は犠牲になった人々の分まで彼らの思いを背負って戦う必要があるはずだ』
  って。そんなことをクラトスさん、いったんでしょう?」
それは、アスカードの人間牧場にて、エクスフィアがどうやってつくられているのか。
しったときのこと。
エクスフィアは人間の体でつくられている。
そう、アスカード人間牧場の主だという五聖刃の一人だという、クヴァルから聞かされた。
そして、ロイドの母、アンナが実験体であったことも。
そしてしった、エクスフィアをはがされたときの変化。
異形と化した母を父が手にかけた、という事実。
あのとき、コレットを休ませたのち、いてもたってもいられなくなり、
コレットが眠る部屋からロイドは部屋を飛び出した。
そんなロイドをクラトスが追いかけてきていった言葉。
コレットが知っている、ということは、誰からか聞いた、のであろう。
あのとき、コレットは意識を失っていたはずなのだから。
聞いたとするならば、おそらくはあの時近くにいたてあろうエミルあたりか。
そういえば、とおもう。
あのとき、エミルは何といっていた?
今さらながらにふと思う。
――ロイド達はしっててそれを使ってたんじゃないの?
  君たちがエクスフィア、とよんでいるその子達は、本来は精霊石といって、
  微精霊達のいうなれば卵。なのにそんな精霊達を人の負の心で穢し、犯すことによって、
  人はいつの時代もその子達を利用しようとする。
  人の器に精霊の力が耐えられるはずもないのに
あのとき、たしかにエミルはそういっていた。
そして。
――何が真実なのか、何が偽りなのか。ロイド達はよく自分達で考えるべきだよ。
  他人の意見が正しい、知らされていることが真実、とは限らないんだからさ。
  ……君たちがいう、世界再生。それは本当に真実?それとも偽り?
  よく考えたほうがいいよ
とも。
あのときは、そんなに深く考えていなかったが。
エミルはあのときから真実を知っていた、のだろう。
今思えばそういう素振りはかなりあった。
それに耳をかさなかったのはロイド自身。
たしかにエミルは、世界再生が真実か偽りか。
そう常に問いかけていたのに。
でも、ロイドはそれに耳をふさいでいた。
コレットが天使になって世界をすくってくれる。
そう思い込んでいた。
クラトスに指摘されてきづいたが、それはコレットにすべてをなすりつけている、
コレットすべてに責任を押し付けているにすぎないのだ、と気づくこともなく。
クラトスがあのとき、ロイドに投げかけた言葉。
それは。
――もしも、お前がエクスフィアに命を吸い取られたとしたら。お前はどうしてもらいたい?
答えにつまったロイドに、クラトスはこういった。
――……私なら、この世界の悲しい連鎖を断ち切る志をもつものに役立ててもらいたい。
  そうするこしで…私が犯した罪が少しでも贖えるのならば……
確かにそういっていた。
あの時は、意味がわからなかったが、今ならば、わかる。
ロイドは部屋からでていてきいていなかったが、
同時刻、リフィルもジーニアスに同じようなことをいっていた。
――……ジーニアス。
  人は、生きている限り、誰かの命を犠牲にして生きているのよ。
  私たちが日々、口にしている食料もまた命。
  命の犠牲の上に私たちの命は成り立っている。
  だから私たちは犠牲にしてしまっている命の分まで精一杯いきていく義務があるの。
と。
それはヒトがいきていく上で絶対に避けてはとおれないことわり
人は、何かの命を糧にその命をつないでいる。
それをヒトは忘れてしまい、自分達だけの力でいきている。
そう傲慢にもおもいこみ、すべてを蔑ろにしてしまっている。
――人は、業が深い生き物ね。命は命を犠牲にしなければいきていかれない。
  それなら、生きているかぎり業を背負っていくしかないの
そのリフィルの言葉がまさにヒトの生き様を示している、といってもよい。
「…シルヴァラントのアスカード人間牧場で、
  エクスフィアができる真実をしったときだな」
あときは、あまりの衝撃にエミルの言葉をあまり重要視していなかった。
それに、クラトスの言葉も。
ただ、クラトスもエクスフィアに何かの思い入れがあるのだ、
ということだけはわかったあのとき。
「…きっと、それって、ロイドのお母様のことだったんだね」
「…ああ。そうだな。
  でも、あいつは…母さんを怪物したユグドラシルにへこへこ仕えてやがる」
リーガルとクラトス。
似たような境遇のこの二人。
リーガルは愛するアリシアを、クラトスは母を。
互いに異形となってしまった相手を手にかけた、という点では同じといえる。
だが、リーガルはその罪の意識から自首をし、自らに戒めの手枷をかけ、
クラトスは…その原因となったクルシスにともどっていった。
この差は、大きい。
どうしてクラトスがミトスに、ユグドラシルに仕えているのか。
そういえば、ともおもう。
水の神殿にて、クラトスがぽつりといったこと。
大きな過ちをおかしている。
たしかあのとき、クラトスはそんなことをいったような。
その過ち、とは何なのだろうか。
母を手にかけたこと、なのだろうか。
それとも。
それはロイドにはわからない。
というかクラトスの考えていることがロイドにはまったくわからない。
ユアンのいうことを信じるとするならば。
自分が生まれたことにより、クラトスはミトスを討つ覚悟をきめていた、というのに。
母にその真実をつげずに、イセリアに自分達を預け。
そこまでおもい、ふとおもう。
そういえば、あのとき。
あの書物の中で、幸せともいえる空間で過ごしていたあのとき。
母は何といっていた?
父が説得をし今のような世界になった、そんなことをたしかにいっていた。
なら、あの幸せともいえる泣きたくなるほどにおぼれてしまいたい空間は、
母の願望の表れ、であったのだろうか。
クラトスがミトスを説得し、世界が平和になっていった未来の姿。
ありえたかもしれない、もしも、の世界。
あの世界は平和だった、とそうおもう。
コレットも苦しむことなく、誰もが苦しむことのない平和な世界。
「ううん。違うとおもうな。クラトスさん、私たちのこと何ども助けてくれたよ?
  そして、ロイドのことも。ロイドのことを護ってくれてたよ?そうでしょう?」
飛竜の巣にてコレットを助けてにいったときも。
崩れ、今にも柱の下敷きになりかけたロイドをクラトスはかばった。
そして、クラトスの正体をしらなかった旅の中でも、
クラトスはよく自分に小さな傷だ、というのに今おもえば異様に回復術をかけてきていた。
「それは……わかってる、わかってるんだ。けど……」
けど、とおもう。
しかし、それを口にはできない。
お前がいっていたのは口先だけかよ。
そういわれたゼロスの言葉をロイドは忘れているわけではない。
でも、いまだに心がおいついていない。
俺ってダメだな。
コレット達に誰が父親でも関係ない、生まれや育ちとか関係ない、
ジーニアスたちにすらそういいきっていたのに、
自分のこととなると、どうしても踏ん切りがつかない。
そんな自分に嫌気がさしてしまう。
そんなロイドの気持ちはわかっている、とばかりに少し微笑み、
「だから、きっとクラトスさんは。
  ロイドのことも、ロイドのお母様のことも大切におもってるんだよ。
  そして、きっとミトスやユアンさんのことも」
過去の仲間だ、という。
古代大戦、カーラーン大戦、といわれていた
世界が滅びかねない戦争を締結させた、古代の英雄。
勇者ミトス、とよばれている人物があのミトス、そしてクルシスのユグドラシルだ。
という実感はあまりないが。
でも、目の前でミトスがユグドラシルの姿に変わったのを目の当たりにした。
でも、ともおもう。
旅の最中、ミトスがみせていた態度、自分達とともに過ごしていた時間。
それが嘘だったとはどうしてもコレットには思えない。
コレットもミトスの気持ちがわからなくもない。
自分の命を犠牲にしてでも、大切な人が生きる世界を守りたい。
そう思っていたコレットだからこそ、ミトスの気持ちが痛いほどにわかる。
姉と世界、両方をたすけられるかもしれない、というのならば、だれだってそっちを選ぶ。
不確定要素がある、といわれても、それに目をむけようとはしないだろう、とも。
そして行動を起こしてしまった以上、とまれなくなってしまう。
それもコレットには理解できる。
できてしまう。
ゆえに、ロイドにはいえないが、それで世界が助かるのならば、
自分の体はマーテル様に受け渡してもいい、と実は心の奥底ではおもっている。
たとえ体を失ったとしても、心は常にロイド達の、ロイドのそばにいるから、と。
そう、心は自由。
たとえその体がなくても、ずっとロイドとともにいられる。
たとえロイドにその存在を認識してもらえなくても、そばにいられる、それだけで。
もしも、そうなってしまったときに、ロイドに投げかける言葉。
それももう、実はコレットの中では決定している。
――たとえ、体を失ってしまったとしても、心はいつもロイドと共にいるから。
  そう、いつまでも。
それは、かつてコレットが完全にロイドに言えなかった言葉。
救いの塔で自我を封じられる直前に言い切れなかったその言葉。
「…私ね。今でも不思議なんだ」
しかし、それを今ロイドにいっても、何をいってるんだ、といわれるにきまってる。
明日、救いの塔から再びデリス・カーラーンにと赴く。
その前に。
「?何がだ?」
なかなかこうしてロイドと二人っきりで話すようなことがなかった。
今いわなければ絶対に後悔する。
「こうして、ロイドとお話しているのが」
首をかしげ、意味がわからない、とばかりに問いかけてくるロイドに、
空を見上げつつもぽつり、とつぶやくコレット。
「コレット?」
いきなり、コレットは何をいいだすのだろうか。
というかいつも自分とコレットは話していただろうに。
それが不思議、とはどういうことなのか。
さすがのロイドとて理解ができず首をかしげざるを得ない。
「…あのね。世界再生の旅にでたら、もう二度と村に戻れないって。
  お婆様にも祭司様にもいわれていたから」
世界再生の旅は死への旅。
物心ついたころからずっとそう聞かされてきた。
「だからね。…イセリアをでる前の夜。ロイドと二人でお話したとき、
  これでもうロイドと話せるのも最後なんだ。って、そうおもってた」
でも、自分達が旅にでてから、イセリアはディザイアンの襲撃をうけ、
ロイドは村を追放され、そしてレネゲードにつかまった。
ロイドが捕まった、ときいたときの恐怖を今でもコレットは覚えている。
ロイドが幸せに暮らせる世界の為に命をかける覚悟ができたというのに、
ロイドがいない世界ならば何の意味もない。
そう、おもった。
あのときの恐怖があるからこそ、ミトスの気持ちが何となくでもわかってしまう。
ミトスも、自分と同じだ、と。
何よりもかけがえのない大切な人。
しかも信じていた人に裏切られ、その人が殺された、とするならば。
それはどんな絶望、なのだろうか。
そんなことをおもいつつ、すっと目をとじ、そして、ロイドのほうにとふりむき、
「でも、今はこうしてロイドの横にいるでしょう?」
明日、塔にむかってしまえば、自分はどうなるかわからない。
だからこそ、今この瞬間を大切にしたい。
「これからもずっとそうだよ」
コレットがいいたいことはよくわからない。
けど、二度とコレットを失いたくない、という思いはかわらない。
だからこそ、素直な気持ちを言葉にする。
「え?」
そんなロイドの台詞にきょとん、とした言葉をはっするコレット。
「お前は俺が絶対に守る。マーテルの器になんてさせない。
  それに…ミトスも。きと、お前を犠牲にしていい、なんて、
  絶対に思ってないとおもうんだ」
コレットがかすり傷とかおったとき、ミトスは本当に心配していた。
あれが演技だ、とはおもえない。
姉の体になるかもしれないから、という心配ではない、と思いたい。
「ずっと一緒に旅をしていたミトスの態度が演技だとはどうしてもおもえない。
  …それに、クラトスも。何だかんだといいながら、俺たちを助けてくれただろ?」
それにミトスにも助けられた。
そこに裏のようなものはなかった、そう思いたい。
「そう、だね。クラトスさん、命をかけてまでもロイドを助けてくれたもの。
  やっぱり、ロイドのお父様、なんだね」
「…ああ、まだ実感はあまりわかないけどな。
  それに、このままじゃあ、俺、納得がいかないんだ。
  ミトスのことも、クラトスのことも」
それに、ジーニアスのこともある。
初めてのハーフエルフの、同族の友達だ。
といってジーニアスがミトスを大切に思っていたことをロイドは知っている。
ミトスを倒す、といってしまえばそれまでかもしれないが。
でも、これまでともに旅をしていたミトスが偽りだった、ともおもえない。
だからこそ、クラトス、そしてミトスと話したい。
「このままじゃ、俺、納得がいかないんだ。
  だから、そんな俺自身の心にけじめをつけるためにも。心の底から納得するためにも。
  クルシスにいってミトス、そしてクラトスと話したいんだ」
「けじめ?それってどんな?」
コレットだからこそいえる。
笑わずにきいてくれる、とそれこそ無条件の信頼がある。
「……俺はずっとお前にたよってきた。
  世界再生はお前にしかできないって、それを疑問にもおもわなかった。
  幾度もエミルやしいなにそれっぽいことをいわれていても。
  それを疑問にすら思わなかった。それにあのとき、救いの塔でも……」
コレットと世界。
再生というのは偽りでしかない、と散々エミルにいわれていなかったか?
なのに、あのとき自分は世界を選んだ。
コレットを見捨てて。
その事実はいまだにロイドの心に重くのしかかっている。
「それは…しかたないことだよ。
   それに、約束通り、ロイドは私を助けてくれてよ?今も、ずっと」
それこそ、世界再生の旅、マーテル教の教えにどっぷりとはまった教育をうけているのである。
それが普通、だとそれこそ小さな子供から大人まで、そう信じている中で。
それが違う、と声をあげるものはまずいないであろう。
そんなことをいったとしても何をいっている、といわれ、
逆に排除、もしくは迫害されるにきまってる。
「きっと、クラトスさんも。影ながらロイドを助けてくれてたんだよ。
  …あの救いの塔でわかれてからもずっと。素敵なお父様だよね」
ある意味でたしかに助けていた、ともいえるであろう。
たとえば野宿のときなどにロイドの寝相によって蹴り飛ばされた毛布をかけなおしたり、
そういったことをクラトスは多々としていたのだから。
そんなコレットの言葉に苦笑せざるをえない。
おそらく、コレットなりに自分を励ましてくれている、のだろう。
自分はあのとき、レミエルがコレットの実の父親ではない。
そう聞かされたとき、コレットに気の利いた言葉の一つもかけられなかったのに。
「…ありがとうな。コレット。大丈夫だよ。
  あいつが実は本当の父親だったっていうこと。
  …今では、もうそんなにショックじゃないんだ」
あのときは狼狽し、いまだに心の中では納得しきれてはいないが。
でも、クラトスから感じたあの懐かしさ。
あれは嘘ではなかったのだ、とすとん、と納得しているのもまた事実。
ただ、その気持ちに心が、感情がおいついていないだけ。
わかっているのだ。
本当は。
けど、認めたくない、という思いがあるのもまた事実で。
「うん。でも……」
ロイドのその言葉に嘘ではないのだろう、とはおもう。
ロイドは基本、嘘が苦手というか、嘘をついていればすぐにわかる。
くせ、なのだろう。
確実視線が泳いでいたりする。
だけども、覆せない事実もある。
だからこそ、コレットは言葉がふさぎがちになってしまう。
「オリジンの…封印、のことか?」
ユアンから聞かされた。
オリジンはクラトスの体内のマナを放出することにより、その封印がとかれる。
体内のマナを放出して生きていられるものなど、いるとはおもえない。
たとえ、それが天使化していたとしても。
ロイドはそのあたりはよくわからない。
むしろ、マナで体が構成されているといわれても、ピン、ときていない。
「嫌なことをいってごめんね?
  でも、体内のマナを照射したらいくら天使化したクラトスさんでも…」
よくわかっていないが、けどもこれだけはいえる。
それは無事ではすまない、ということくらいは。
「わかってる。いきていられるのか…それもわからないよな」
マナが枯渇すればどうなるのか。
そういった減少を一度でも目の当たりにしていれば予測はつくだろうが、
ロイドはそういった現象を目の当たりにしたことは、ない。
もっとも、アステル達にきけば、おそらく確実に目をそらすであろう。
幾度かテセアラ、という国は他者からマナを吸い出す実験をしているのだから。
「だからね!私のことを助けてくれたみたいに。
  クラトスさんの命を失わなくてもオリジンを解放できる方法をさがそうよ!」
「…コレット」
コレットのいいたいことはわかる。
せっかくあえたロイドの実の父親だというクラトスを死なせたくないのだろう。
それもすべてはロイド自身のために。
「みんなもわかってくれるよ、ね?そうしよ?」
そしてできれば、ミトスとも話をしたい。
クラトスが生き残る方法がないのか、と。
必至にいってくるコレットの姿に苦笑してしまう。
こいつ自分のことはいつもおざなりにするくせに、
いつも他人のことになると必至になるよな、と。
もっともここまで必至になっているのは相手がロイドに絡んでいることだから。
なのだが。
ロイドはその事実にまったくもって気づいてすらいない。
「ありがとな。でも、俺、おもうんだ。
  クラトスにはクラトスの考えがあって、ミトスについたんだって」
過去に何があったのかはわからない。
それでも、彼らは古代の英雄、とよばれる立場のものたち。
書物の中で、ユアン、ミトス、クラトスと出会った。
彼らは戦争を食い止めるために行動し、そして永きにわたる争いを停止させた。
それは、ものすごいことだ、とおもう。
小規模の争い、ではなく国同士の争いを食い止めるなど。
国、という概念はよくわからない。
が、ディザイアンにすら手も足もでずに蹂躙されていたシルヴラント。
それをおもえば、ミトスやクラトス、そしてユアン達がどれだけすごいことをしたのか。
それはよくわかる。
だからこそ、子供たちは勇者ミトスにあこがれる。
誰もが不可能、とおもっていた争いを停止させた、紛れもない勇者の物語、として。
しかも、その最後は自らの命をマナとし世界を救った、とまでいわれている。
もっとも実際はいきていたわけ、なのだが。
そういえば、とおもう。
勇者ミトス物語の中で、
勇者ミトスと大樹の精霊がであったというようなシーンがあったが。
大樹の精霊ラタトスク。
そして勇者ミトス。
そして…エミルにセンチュリオン。
先生に指摘されるまで、気づきもしなかったな。
そんなことをふとおもう。
彼らは必ずどこかでつながっている、というか面識があるのだろう。
エミルほうは面識があるのか、それとも口伝だけ、なのかわからないが。
でも、面識があるとしたら、エミルもまたものすごい年齢なわけで。
それはないな、とふとおもう。
どうみてもエミルの年齢は十六かそこいら。
でも、ともおもう。
クラトスもあの外見であれで四千歳以上だ、というのだし、ミトスにしてもまた然り。
「クラトスにも、ミトスにも…きいてみたいんだ。
  どうして、こんな世界をつくりあげたのか、そこから」
いくらミトスの姉だというマーテルをよみがえらせたい。
そうおもったとしても、どうしてこんな世界を作り上げたのか。
マナが少なく、交互に利用する。
どちらかが犠牲になるその仕組み。
それをしなければ大地が消滅していた、という。
でも、どちらかが犠牲なるのはまちがっている、ともおもう。
が、それをしなければ大地が滅んでいた、といわれれば。
本来は一年ごとにマナを交互に利用する、という約束だった、という。
精霊達がいっていたのはそのこと、だったのだろう、とも今だからこそ思うが。
「話し合いの結果、どうなるかもわからない。
  話をきいてもらえるかどうかも。でも、行動しなければわからないままだ。
  だから…俺はきいてみたい。すべてはそれからだ。
  そしてできたらミトスを説得して千年王国なんて馬鹿げたものはやめてもらう。
  あの空間であった勇者ミトスと今のミトス。もともとは同じ人間なんだ。
  だから、きっと話し合えばわかっもらえるはず」
あの中のミトスはまっすぐで、何があってもくじけそうにはみえなかった。
それに、あの中で約束をした。
一緒に大樹カーラーンを復活させるのを手伝う、と。
「……こんなにきれいな景色、シルヴァラントみたいに荒らされてほしくないな。
  衰退世界にこのテセアラがはいったらやっぱりディザイアンがでてくるのかな」
どちらの世界にも同じような伝承が伝わっている以上、
そのようにしているのだろう。
でもそれは、この国がシルヴァラントのように壊滅的なダメージをうける、
ということ。
八百年、という永き年月にわたり、衰退していた世界。
そして逆に発展していた世界。
まだ、シルヴァラントのほうならばあるいみで救いがあるとはいえる。
もともと衰退していたがゆえ、人々は自ら努力し、
日々の糧を自力でどうにかしたり、またそれなりの工夫をほとんどのものがしている。
が、ここテセアラではお金さえだせば恵まれた物資がいつでも手にはいる。
そんな人々がいきなり衰退世界に放り出されたりでもすれば。
それこそ、勇者物語の中にあった、暴動、とかいうものがおきかねない。
「荒らさせないさ。ディザイアンはクルシスの下っ端組織っていってた。
  ミトスを説得できたら、そんなことはなくなるさ」
ミトスを説得したい。
ジーニアスの為にも。
そして自分ためにも。
ロイドもミトスを友達、とおもっていた。
友達を傷つけたりするようなことをしたくない。
話し合えばきちんとわかってもらえる。
そう信じたいというか信じている。
心の奥底で、本当に?という声がしているような気もするが、
ロイドはそれには耳をふさいでいる。
絶対に大丈夫だ、そう自分に言い聞かせていたりする。
「そうだね」
コレットは話して説得できるのなら、
ミトスはもうとっくに、クラトスさんやユアンさんが説得してたんじゃあ。
とふとおもうがロイドの顔をみていればそんなことはいえはしない。
それに、当事者でない第三者にいわれたほうがより客観的に捉えるかもしれない。
コレット自身が自分が犠牲になる以外に方法はない。
そう思い込んでいた最中、エミルにいわれ、すこしばかり疑問に思い出したように。
「ああ。しってるか?ドワーフの誓い、第七番」
そんなコレットをみつつ、空を再びみあげ、ふと思い出したようにいうロイド。
それはロイドが一番嫌いな言葉。
正義、という言葉をふりかざし、理不尽なことでも許されてしまう。
それが…ロイドが嫌いになった理由。
正義、とは人それぞれ、だとおもう。
自分が信じた道がたとえ正義でも、それが結果として悲劇をもたらすこともある。
そう、マーブルを助けたのは悪いことだとはおもわなかった。
みつかってしまったから、ディザイアンを倒した。
ディザイアンは敵。
でも、その結果、イセリアは…
もし、エミルがショコラを助けていなければどうなっていただろう。
そんなことをふと思う。
マーブルに続き、ショコラまで。
自分達にかかわったせいで命をおとしていたかもしれない。
「それ、ロイドが一番嫌いなやつでしょう?」
それでも、
「「正義と愛は必ずかつ!」」
二人の声が申し合わせたわけでもないのに一致する。
そして。
「…本当に、そうだといいんだけどな」
どっちが正義か、なんてわからない。
けど、ロイドが信じている正義、とは誰もが犠牲になることもない世界。
そしてそれはミトスにもいえる。
死んでいい命なんてない。
間違えたらやりなおせばいい。
ミトスも間違った、まちがっている。
だからこそ、やり直す権利がある、とおもう。
「心配?じゃあ、これ」
いいつつも、コレットがそっと懐から取り出すひとつの塊。
「これは?」
それは小さな兎の置物。
「えへへ。プレセアや先生、しいなにも手伝ってもらって、
  協力してもらってこっそりつくってたの。
  木彫りの雪うさぎ。ほら、フラノールにあったでしょう?」
フラノールで売られていた。
ミトスもいて、無邪気にも雪祭りに参加して楽しめた。
ついこの前のことのようなのに、ずいぶん前のような。
宿屋などで女性だけになったとき、
こっそり皆に協力してもらい仕上げていた。
ロイドに渡そうとおもって。
なかなかこれまで、出来上がっていたのだが渡そうにも渡せずにいた。
思いついたのは、プレセアが自分の為に願い札、
とかいうものをつくってくれていた。
それをきいたとき。
ロイドも徹夜して協力していた、という。
その話をきいたがゆえに二人にお礼がしたかった。
すでにプレセアにはお礼を兼ねて渡しているのだが、
なかなかロイドに手渡す勇気がなかったがゆえに、
今までこうしてずっとほぼ肌身離さずもっていたに過ぎないる
「前にね?ロイドやプレセアが私のために願い札をつくってくれたらしいでしょう?」
細かな細工の天使の絵が掘られたそれは、コレット救出の後、
その札は割られ、川に流された。
「そのときの神木の残りがるってきいたから。
  それでつくったからきっとご利益はあるよ?えへへ」
コレットらしい、というべきか。
多少不器用ながらも頑張ってつくった、のであろう。
ところどころごつごつしているが、それが逆に手作りであるぬくもりを感じる。
本来、見本にしていたフラノールの雪うさぎは幸運を呼ぶお守り、といわれている。
ラビットシンボルとともに運を呼び込むお守りとして定番、ともきいた。
コレットは兎には思い入れがある。
幼き日ロイドは覚えていないかもしれない。
けど、泣いていたコレットにロイドがその場で簡単に、
そのあたりにあった薪を削ってつくってくれた小さな兎の人形。
コレットにとって昔からだから、兎は幸せのお守り、でもあった。
ないていたら幸せが逃げるって親父がいってた。
それはそのとき、ロイドがいった台詞。
…ロイドはコレットの予想通りそれをすっかりきっぱり忘れてしまっているが。
「ね。お守りもあるし、もう大丈夫だよ。みんなもついてるし。
  …ね。ジーニアス、しいな」
「え?」
いきなりコレットが後ろをふりむき名をよんだのにおどろき、
おもわず振り返ってみれば。
罰のわるそうにそっと木々の影からでてくる人影が三つ。
「ジーニアス、しいな、それにプレセアも」
いったい、いつのまに。
おもわず驚きの声をあげるロイドに。
「なんだか目がさえちまってね」
「えへへ。ごめん。立ち聞きするつもりはなかったんたけど」
「…お邪魔、だったでしょうか?」
そんな彼らの言葉にロイドは苦笑するしかない。
「いや。せっかくだ、皆で星をみようか」
「だね。姉さんはなんかリーガルと明日のことで話があるっていってたし」
どうやらジーニアスの言い分、では先生もおきてるみたい。
結局どうやらみながみな、目をさましてしまった、らしい。


見上げる空は満点の星。
それでも、マナが刻々と少なくなっていることを感じるものは肌で感じてしまう。
そして視線の先にあるのは、みあげるばかりの巨大なる塔。
星空をつきぬけある様は、夜空というのにくっきりと、満月にちかしい夜ということもあり、
その漆黒の筒のようなものが視界の一部をふさいでいる。
「…で、この俺にそれをいうのかよ」
「ええ。あなただからこそ、可能でしょう?」
どうやら他のものたちも目覚めたらしい。
まあ、気持ちはわからなくもないが。
「というか。俺様の体は一つなんだけどな。クルシスといい。あんたら、といい」
「おや?不満ですか?しかし、これはあなたに悪いことではないとおもいますよ?
  あの子は昔から、けっこう念には念を、の子でしたからねぇ。
  我らとしては甘い、としかいいようがないのですが……
  ああみえて、われらが主は……」
「ま、どうみても、邪険にはしそうにないわな」
「…まあ、気持ちはわからなくもないんですけどね。
  というわけで、ひとまず、これらを渡しておきますね?
  ちなみに、それ、私の力作ですので!」
「…おまえ、たのしんでないか?」
「ええ」
そこにある闇にむかって話しかける人影一つ。
「今なら、コレットさんは、ロイドと話してこっちに意識むけてませんしね」
「へいへい。っと。んで、俺様は?」
「彼女の行動によって考えてもらえばいいかと。だからこそのそれです」
「…おいこら。これ、なんかとれなくなってないか?」
「ご安心ください。主の配慮です。あなたはそれを受け取っても
  そのままどこかに取り外してそのままにしそうだから、ということでした」
「・・・・・・・・・・」
見透かされてる。
さすがというか何というべきか。
「わあったよ。ったく、あの親ばか天使様、といい…
  俺様を何だとおもってるんだか。アイオニトス…か」
「まあ、しかしそれをあのものがその体に入れれば、
  今はどうやらあの子の母親の魂が封じているあの子の特性。
  それも解放されてしまうでしょうけとね。では、私はこれで」
「んで?あいつはもどってくるのか?その点はどうなのよ?」
「今は大切な時期ですから。まあ、いずれはもどられるのでは?
  もどる、と離れたときにいった以上、約束をたがえられるわけには、
  いくらあの御方とてできませんから」
それこそ理の変更をしない限りは、いくら当事者としても不可能というもの。
世界を乱す原因となってしまう。
「へいへい。っと、まあ、期待にそえられるかわからねぇけど、やってみるさ」
「ええ、ぜひともそうしてください。
  ちなみに、それの意見も後にきかせてくださいね?」
それとともに、闇が、はじける。


「リフィル、そなたも目がさめたのか」
「ええ。どうやら子供たちも、みたいね」
ふとみれば、全員がロイドとコレットのほうにとむかっている。
ぱちぱちと、たき火の火花が周囲にはぜ、
赤い火の粉が周囲にとまっているのがうかがえる。
どうやらみながみな、明日を控え、目が覚めた、らしい。
横になっていたからだをおこしつつも、リーガルのそば、
すなわち、火のそばにと移動し周囲をざっとみわたしつつ、
「ゼロスは?」
この場にゼロスの姿がみえないのをうけ、リーガルにとといかける。
そんなリフィルに対し、
「神子は周囲の見回りにいくといっていた」
淡々とこたえつつも、温めていた紅茶をそっとリフィルに差し出しているリーガルの姿。
コレットが少し離れて風にあたってくる、といったとき、
ゼロスもリーガルとともにおきており、
なら周囲に異変などがないか調べてくる、といっていまだにもどってきていない。
「…そう。ゼロスとも話しておきたかったのだけども…明日のことで」
顔をふせ、そうつぶやくリフィルの台詞に、
「…子供たちにはきかせられぬこと、か」
リフィルのその物言いだけで瞬時するリーガルはさすが、というべきか。
「ええ。反発されるのは目にみえているもの」
そして、しいなも。
彼女の立場からして理解しそうではあるが、彼女は優しすぎる。
それに何より今後のことに彼女は必要。
彼女にいえば、自分が、と言い出しかねない。
「明日、出向く塔は危険だわ。
  前回すんなりと侵入できたのは、彼らに捕らえられたから、だもの」
そう。
前回、あの地に入り込めたのは、彼らクルシスにつかまったがゆえ。
しかし、前回牢に無傷でいれて、脱出した以上、
また今回も同じ手は相手もしてこないであろう。
「どんな危険がまっているかわからないわ。
  命の優先順位を決めておかなくては」
「…なるほど。ロイドが怒り、コレットが反対してきそうな話だな」
あきらかに、子供たちが怒りだしそうな話である。
かといって、敵地に乗り込む以上、必要であることには違いない。
「しいなとロイドは死守しなければ。
  しいながいなければ、精霊との契約ができないわ。
  もしオリジンを解放できたとしても、契約が必要になってくる。
  アスカとルナとの契約もまだすんでいないもの。
  そしておそらく、本の封印の中でもわかったことだけど、
  ミトスは…つよいわ。そんなミトスと対峙するため、には……」
そんな考えをする自分が嫌になる。
けど、それにたよるしかない、ともおもう。
彼らはコレットを傷つけることだけはしないだろう。
それだけがあるいみで救いといえば救い。
命の危険があるとすれば、ロイド、もしくはしいなであろう。
「ロイドの…特別だ、というエクスフィアか。
  人工的につくられしクルシスの輝石…ハイエクスフィア、か」
「ええ。おそらく、あの石にはロイドの母親が閉じ込められているのでしょう。
  ロイドを石の中で見守っているのだとおもうの。
  これまでもどうも彼女の力でロイドはあの力を使っていたようでもあるし」
それに、とおもう。
あのマーブルとかいう人物ですら、その命をかけることで、
ジーニアスを守り抜いた。
実際にあったことはないが、あの光景はリフィルも目の当たりにした。
書物の封印の中において、ジーニアスを護り、消えていったマーブルという女性。
こんな話し、ロイドやコレットの前でできるものではない。
それに、疑問におもっていることもある。
ロイドの石にロイドの母親が閉じ込められているとするならば、
神子だ、というコレット、そしてゼロスの石には、
いったいどれだけの人の魂が閉じ込められているのだろうか。
コレットはそのことに気づいているのだろうか。
あの石もまたもしかしたら、誰かの命を犠牲にしてつくられたのかもしれない。
ということを。
もしかしたら違うのかもしれないし、そうかもしれない。
はじめから、力ある特殊な石、だったのかもしれない。
そこまでさすがのリフィルとてわからない。
「それがどんな力なのかはわからないけれど。
  勝算のあるほうへかけるべきだわ。
  今の状況でしいなに精霊を召喚して戦ってもらうのは危険極まりないもの」
ヴォルト、そしてノームを召喚しただけで倒れてしまったしいな。
ノームの言い分からして、今後の召喚は術者の精神力。
すなわち、魔力を糧として精霊は実体化というか具現化する、という。
つまりこれまで以上に召喚主の負担がかかる、ということを暗に示している。
召喚術に詳しくないリフィルでもそれくいのことは理解できる。
理解せざるをえない。
「承知した。ロイド、そしてしいなを護ろう。全力で。そしてコレットも」
「そうね。コレットがつかまってしまえば、今度こそマーテルの器にさせられるでしょう」
ミトスが自分達に正体を発覚させた以上、彼はもう躊躇するとはおもえない。
そうなれば、すべてはおわる。
マナが極端に少なくなっているこの現状は、
大いなる実りの限界を示しているのかもしれない。
そんな中でマーテルを復活させてしまえば。
大いなる実りは永遠に失われてしまう。
「…本当は先に精霊との契約を済ませてしまいたいのが本音なのだけどもね」
「うむ。しかしそれは子供たちが、特にロイドが納得しないだろうな。それに…」
それに、リフィルに面とむかってはいえないが、ジーニアスも。
「世の中、話し合いだけでは解決しないこともあるのだが。
  …それが成し遂げられる、とおもうあの姿勢は好ましくあるがな」
「…ええ、そうね」
おそらく、塔にいきたい、というのはミトスとクラトス。
二人と会話し、そして話し合いの果てに説得できる、とおもっているのだろう。
そんな説得ができるくらいならば、四千年も世界は停滞していない、とおもう。
そこに思い至らないのは若さゆえか、それとも何も考えてないがゆえか。
その思想はすばらしい、とはおもうが、世の中そんなに甘くない。
というより世の中は理不尽がまかり通っている。
それに、とおもう。
もしも説得に成功したとして、ミトスがそれに耐えられるか。
彼がこれままでに殺してしまった、蔑ろにしてしまった命は果てしなく多い。
そして世界の歴史においても。
真実を覆い隠し、偽りの歴史を人に信じ込ませているというその罪の重さ。
あるいみ死んでしまったほうが、それらから逃れられる。
ロイドがいっているのは、いきながら地獄をみろ、といっているようなもの。
生きて、その罪をずっと背負っていけ、といっているようなものなのだから。
たしかに、死はにげかもしれない。
けど、死でしか救われないこともあるのだ、とリフィルはそうおもっている。
ロイドやコレットには絶対そんなことは口にはだしていえないが。
何かを守るためには、切り捨てることも必要であることを、
リフィルは身をもってしてわかっている。
そうしてずっとジーニアスを育て、シルヴァラントで生きてきた。
「…明日、ね」
「そう、だな」
どちらにしても、明日。
明日をこえればおそらく自分は生きていないだろう。
ミトスが本気になっていれば、まちがいなく命は…ない。
リフィルのそんな思いに気づいているのかいないのか。
リーガルもまた無言でそのままたき火をいじる。
しばし、無言がおとずれ、ぱちぱちと火がはぜる音のみが周囲にと響き渡ってゆく。

この世界には決してかえられない運命がある。
ずっとそうおもっていた。
けど、可能性を信じるのも悪くはない、とおもう。
そうでなければ…ロイドの意見を却下して、
まっさきに精霊との契約に明日までまちいくべきだ、といっている。
自分でもこの心の変化に驚いてはいる。
心のどこかで可能性を信じてみたい、という自分自身に。
あのバカなほどにまっすぐな教え子に感化されたみたいね。
そうリフィルは思わずにはいられない。


「うわぁ。まるで星がふっているみたい」
ロイドに誘われ、コレット達とともに空をみあげる。
雲一つない晴れ渡った空にみえるは満点の星空。
とある方向にはまっすぐ空をつきやぶる長い筒のような暗闇もみてとれる。
それらは月明かりにてシルエット、としてうかびあがっており、
今にも降ってきそうな星空の中に線を描くかのごとくに漆黒の暗闇をうみだしている。
「…星降りの夜ってか?しっかりと天の川までみえてるしね」
たしかにしいなの指摘通り、星の川といわれている、天の川。
それが空にと見て取れる。
夜だ、というのに明かりにこまらないのは、明日が満月だ、というからなのだろう。
もっとも、異界の扉の付近が満月なだけで、この付近はまた多少違うだろうが。
それでも、満月に近い月であることには違いない。
やわらかに降り注ぐ月明かりが、夜だというのに彼らの視界を良好に保っている。
おもわず空をみあげつつ、そうつぶやいたのち。
「ね。すごいよね。ロイドの家で星空観察したときのことを思い出すよね?」
コレットもそんなジーニアスの言葉をうけてそんなことをいっているが。
かつて、彼らがまだイセリアにいたころ。
ロイドのいえでよく星空観察をしていた。
コレットはなかなか村からだしてもらえる許可はもらえなかったが、
課外授業、という名目のもと、幾度かコレットもリフィル達とともに観測にと赴いたこともある。
それに、とコレットはおもう。
この星空はまるで、自分がロイドに最後のあいさつにいったときを思い出す。
あのときもこんなに満点の星であった。
これがロイドと話す最後なんだ、そうおもっていたあのとき。
こうしてまた、ロイドとともに夜空を幾度もみれるとは、
あのときは夢にも思わなかった。
そんなコレットの台詞に、
「そういえばそうだね」
「そうだな」
ジーニアスがうなづき、ロイドもまたそんなことをいってくる。
星空はどちらの世界もかわらない。
シルヴァラントもテセアラも。
だからこそ思わずにはいられない。
四千年前の星空と今の星空。
そんなにかわっている、ともおもえない。
事実は多少の変化はありはするが、そんなことをジーニアス達が知るはずもない。
「…空は、こんなにきれいなのに。
  ミトスはぜったいにこんなにきれいな世界だってわかっているはず、なのに
  なのに、どうして……」
勇者ミトスの物語。
世界をたったの四人で平和に導き、最後にはその命で世界を救ったという伝説の勇者。
もっとも、女神マーテルの下りあたりから、捏造であることが判明しているが。
それでも、彼らがかつてのカーラーン大戦、とよばれる古代大戦。
それを終局にもっていき、停戦させたのは紛れもない事実。
まあ、世界を二つに分けたのもあり、国同士の争いがなくなったというか、
わざわざ世界を移動してまで戦う意味がなくなった、ともいえるかもしれないが。
いつ、世界を分けたのか。
おそらくは、停戦後だ、そうジーニアスは踏んでいる。
でなければ、大樹のあった場所で停戦を結んだ、とはならないはず。
そのころにはまだ救いの塔はなかったはず、なのだから。
勇者ミトス物語にもそのころにすでに救いの塔があった、とは明記されていない。
大戦が終了し、しかしマナが枯渇しているがゆえに、
ミトスはその命でもってして自らの命をマナにした。
そう、勇者物語ではなっている。
そして勇者が死んだことを嘆いた女神マーテルが天に消えた、と。
どこまでが真実で、どこからが捏造なのか。
そのあたりはわからない。
が、ユアン達の言い回しでは、あの物語の中にでてきた大樹の精霊との出会い。
あのシーンにおそらく嘘はない、のだろう。
多少の違いはあれはすれど。
世界を、地上を救うために、精霊と約束を交わした、というミトス。
誰よりも、同じハーフエルフならば迫害される立場というもの。
他者から虐げられることのつらさをわかっていたはず、なのに。
どうしてディザイアンなんてものをつくりだし、
あげくは伝承でもハーフエルフが悪、というようなものをつくりあげたのか。
確かに、人同士は醜いかもしれない。
でも、そうでないものたちもいるんだ、とジーニアスはこのたびでしった。
それと同時に、わかってもらえそうにないかたくなな人間もいることを。
でも、自分から動かなければ何もかわらない。
それをこのたびでジーニアスは実感した。
ミトスもそう、だったのだろう、とおもう。
勇者、といわれていたミトスは。
姉を殺されたことですべてが狂ったというのなら。
なぜ、誰も停戦までこじつけた彼らを襲撃しようというものたちを止めようとしなかったのか。
それが、悲しい。
欲にかられた人間たちのしそうなこと。
人は欲が絡むとろくでもないことをしでかす。
それはジーニアスとてよくしっている。
だからこそ、こんな世界を作り上げてしまったミトスにたいして思うところはありはすれど、
心のどこかで理解できる部分があるのもまた事実。
欲にかられた人が愚かなことをしでかすのならば、
自らがそんな人を管理、コントロールしてしまえばいい。
たしかに、それも一つの手、ではあろう。
それにより大多数の命が蔑ろにされなければ。
「…天使、か。もしかしたらあの子もあるいみで被害者なのかもしれないね。
  天使化したら感情とか感覚がなくなるっていう現象があったし。
  それは、コレットであたしたちは目の当たりにしただろう?」
事実、しいな達は変化してゆくコレットの姿を目の当たりにした。
そして、心を失ったその直後すら。
はじめはおそらく、ただ、姉をよみがえらせる。
マーテルを本当に死なさないために。
その気持ちはわからなくもない。
だが、なぜ人間牧場などというものをつくりだしたのか。
そしてクルシス、という組織も。
しかし、もしも心がだんだんと狂わされていっていたとするならば。
「…クルシスの輝石による副作用的なものがでたのかもしれないね」

しいな達はしらない。
ミトス達のもっている石がそういったものがでない品であることを。
ラタトスクが干渉しており、本来ならばありえない、ということを。
ミトスがあのようになってしまったのは、
あるいみで、分けた魂の欠片が受けていた瘴気が、
分霊体を通じ、より深い悲しみに囚われてしまったミトスに流れていってしまったがゆえ。
無意識ながら、ミトスはその身にて瘴気をひたすらにうけとめてきた。
それこそ四千年という間。
それはミトス自身ですら気づいていない。
そしてそれが悪化したのは、ミトスが手にしていたはずのデリスエンブレム。
それを手放し、とある場所への封印の鍵としてしまったがゆえ、
抑えていたはずの力、つまりは抑制力が取り除かれ、
だんだんミトスの心がミトス自身も気づかないうちに穢されていっていたということを。
それらの穢れはエミルとともにいることにより、
エミルがゆっくりとではあるがそれらの穢れは取り除いた。
だからこそ、ミトスはかつての自らの意志と心を取り戻しかけている。
自分の行いに疑問を持ち出すほどには。

「ほら。エクスフィアってながく身につけていたら、体に毒、ともいうだろ?
  あたしはそう、これをつけられた精霊研究所できいたけど」
要の紋のないエクスフィアが人体に害を及ぼすように。
常に身につけていれば何らかの副作用がでる可能性がある。
そのようにしいなは研究所にて聞かされた。
「四千年もずっと肌身はださずに身につけていたとするならば。
  何らかの副作用があってもおかしくない、とおもうしね」
ミトスはみるかぎり、自らの胸のあたりにエクスフィアをつけていた。
それこそコレットやゼロスとおなじく。
クラトスは手の甲に。
ユアンはどこにつけているのかしっかりとみたことはないが。
「でも、それだとクラトスさんやユアンさんは?」
「さあねぇ」
自分でいっておきながら、コレットのといかけにしいなはきちんと答えられない。
たしかに、ミトスだけ、というのはおかしいかもしれない。
けど、エクスフィアは人の心の闇というか恐怖や絶望。
そういったものを糧とする、そうあのクヴァルから聞かされた。
それが真実だ、とするならば。
たった一人の姉を傷つけられ殺されたミトスの心の傷は生半可なものではなかったはず。
その悲しみにクルシスの輝石が反応したとして何の不思議があるだろうか。
恐怖や絶望といった負の心を促すことにより、石は装備者と融合を果たすという。
しいなやコレット、そんな二人のやり取りをききつつも、じっと空をみあげつつ、
「…天使となっているミトスは、ユグドラシルの立場をとっているミトスは…
  こんなに星空が綺麗だってことも忘れてしまってる、のかな。
  …忘れちゃった、のかな?」
この星空を守っていたのはミトスであったはず、なのに。
ミトス達が過去、尽力をつくしていなければ、今こうして地上があったかすらもわからない。
指導者としての立場、というのもあるのかもしれない。
でも、一緒に旅をしていたときのミトスは年相応にみえたし、冗談などもいいあっていた。
野宿をしたときに一緒の毛布にくるまったことすら。
だからどうしても、ジーニアスはミトスを嫌いになれない。
嫌いになれるはずがない。
どんな立場、どんな人物であろうとも、友達になったミトスには違いないのだから。
「…あんたの言いたいことは何となくだけどわかるよ。
  人間の中にもいい人間もいれば悪い人間もいる」
「…テセアラでは、ハーフエルフは悪、そう物心ついたころから教育がなされます。
  けど、それは相手を知らないから、知らないがゆえに人は恐怖、します。
  未知なるものをおそれる。それが人間、ですから」
しいなの言葉に思うところがあるのだろう。
プレセアもまた、ぽつり、とそんなことをいってくる。
そう、ハーフエルフだから悪、というわけではない。
むしろ、人間たちのほうがより悪事とよばれるものを働くものが多いであろう。
彼らのいう人間、という部類は自分の楽しみ、そして娯楽。
欲のためだけ、に悪事に手をそめたりするものが多くいる。
ハーフエルフの中にもそういうものがいない、というわけではないが、
ほとんどのものは、やむにやまれず、いきてゆくために、
どこにも受け入れてもらえずにその道にはまり込んでゆくものが大多数。
ここ、テセアラにおいて旅人などをおそい物資を奪い生活しているものたちのように。
何しろつかまれば死がまつか、幽閉生活がまっている。
しかも、幽閉されるものはごくわずか。
まことしやかに水面下で、国が彼らをつかい実験しているのではないか?
という噂は静かに広まっている。
それを人々は口にしないだけ。
したら最後、ハーフエルフにかかわった、とでも難癖をつけられ捕らえられ、
下手をすれば処刑されてしまうのだから、触らぬ神にたたりなし、
ということわざにもあるように、人々はみてみぬふり、しらんぷりを決め込んでいる。
それがここテセアラの実情。
「…そう、だな」
ロイドの脳裏に浮かんだのは、パルマコスタのドア。
そして、魔物の卵を盗み、魔物達においかけられていた男たち。
そういえばあのときも、エミルが何かをつぶやいたとたん。
男たちはその心のうちをなぜか暴露していなかったか?
とふと思う。
彼らもまた、ドアとつるんで人々をつかまえて牧場にうっていた、という。
彼らはハーフエルフとかではなく、普通の人間、であったにもかかわらず。
ハーフエルフだけが、悪、ではない。
が、ディザイアンがハーフエルフならば、ハーフエルフすべてが悪だ。
たしかにロイドもかつてはそう、思い込んでいた。
シルヴァラントですらそう、なのである。
物心ついたころから、ハーフエルフは害虫以外の何ものでもない。
というような教育を施されているテセアラの民はおしてしるべし。
「…かわらないと、な。俺たち、いや全部の人間も、そしてハーフエルフも。
  かわらなければ同じようなことが幾度でもおこってしまうかもしれない」
そう、誰かを迫害し、拒絶するからこそ、拒絶されないがしろにされた存在たちは……
かわらなければいけない。
まずは、意識から。
知らないから、しろうとしないままに相手を拒絶する、のではなく。
まずは、互いに互いを知ることから。
旅に出る前まではこんなことは思いもしなかった。
でも、今は素直にそうおもえる。
そんなロイドのつぶやきに苦笑しつつ、
「そう、だね。かわらないと。
  …きっとミトスはエルフであることも、ハーフエルフであることも。
  嫌になっちゃって、許せなくなっちまってちまってるんだろうね。
  否定したいんだとおもう。あたしは…少し、気持ちがわかるよ」
そう、しいなには何となくではあるが気持ちがわかる。
「何でだ?」
そんなしいなの言葉に首をかしげるロイド。
みれば、おもわずジーニアスとコレット、そしてプレセアまでもしいなをみて、
かるく首をかしげているのがみてとれる。
そんな彼らの姿をみて苦笑し、
「なあ、あんたたちは無機生命体とかいうのになったとしたら。差別はなくなるとおもうかい?」
それは問いかけ。
「いや、なくならない…だろうな」
これまでの旅でそれは実感してしまった。
シルヴァラントですら、ライナーがいるから悪いことがおこっている。
みたいなことをアスカードの住人がいっていた。
彼の人柄をしろうともせずに、ただ種族がハーフエルフ、というだけで。
「それは、ない、とおもいます」
しいなの言葉に、ロイド、プレセアがほぼ同時に即座に答える。
「私も…ない、とおもうな。悲しいけど。差別は小さなところにもあるもの」
コレットもそんなしいなの言葉に顔をふせる。
そうでない、といいきれればどんなにいいか。
でも、世の中そんなに甘くない。
「うん。…僕もみんなと同じ。なくならない、とおもう。
  ちょっとしたことでも差別ってあるし」
周囲より頭がいい、というだけで、ジーニアスはこれまでも差別をうけていた。
子供のくせに、といわれ、種族がハーフエルフだ、とわかれば、
ハーフエルフだから何か悪いことをしているにちがいない、といわれ。
どうみても言いがかりだ、というようなことまでも、
自分達の責任にされていた。
「…人間は、力の弱い者に罪を擦り付けたりする、から。
  ううん、人間だけ、じゃない。エミルじゃないけど。
  エミルの基準でいうヒト、というほとんどの人が」
エミルは、ハーフエルフも人間も、おなじ人でしかない、といいきっていた。
それが、今ならばジーニアスもその意味が何となくだがわかる。

ジーニアス達はしらないが、かつてハイマにて、
孤児院の一角においてその院長なとが孤児院の子供にとある罪をなすりつけ、
周囲すらまきこんでたった一人の子供を殺そうとしたように。
人は自分よりもよわいものを見下し、そして罪をなすりつけ、
または自らの鬱憤を晴らそうとする。
本来ならば守るべき弱者にその力を振るう。
そしてそれかあたりまえ、とばかりに正当性を主張する。
どこに弱者をしいたげるのに正当性があるものか。
動物や魔物達ですら弱いものを守る、というきちんと理にそった本能に従っているのに。
人は根本的な基本ともいえる理にすらさからっている。

「…そう、だね。あたしもそうおもう。
  あたしは人間だ。だけど、テセアラではミズホの民とそれ以外の人間は、
  お互いに溝がある。…あたしの先祖にもはるか昔にエルフがいたらしいしね」
空をみあげつつも、しいながぽつり、とつぶやくようにいってくる。
ミズホの民はことあるごとにテセアラの民から、
これだから蛮民は、といわれ蔑まれている。
裏にいきるものたちは、けがらわしい、とまでいわれることも。
「そう、なのか?」
「でも、たしか、この世界の人間は元はエルフっていうんだし。
  それ、当たり前なんじゃないの?」
そう、エルフととももに大樹がこの世界におりたち、世界をつくった。
本来の歴史は、マーテル教の教えとともにねじまげられている。
だからこそジーニアスの疑問は至極当然、ともいえる。
つまるところ元をただせば、人類の、否、ヒトの先祖はエルフにいきつくのだから。
「…マーテル教の教えではそれらも捏造、されていますから。
  アステルくん達がいっていた、本来の史実をしっているものはあまりいないかと」
そのことは、これまでの旅でジーニアス達はアステルから説明された。
それこそ延々と、途中でねてしまうほどに。
嬉々としてその話しに加わっていたリフィルはともかくとして。
プレセアの台詞にこくり、とうなづきつつ、
「でも。そんなのはほとんどの人というか一般の人はしらないしね。
  現にあたしもしらなかった。精霊を呼ぶのにもエルフの血が必要だ。
  そう、研究所ではきかされたよ。
  魔法はもちろんのこと、自然界のマナを扱う技術は、
  大なり小なりエルフの血が流れていないとダメなんだって」
アステル曰く、きっとしいなさんは、先祖返りでその血がつよくでてるんですね。
といっていたが。
だからこそ、アステル達は、先祖がもともとはエルフである以上、
エルフ、ハーフエルフだけではなくすべての人間が力を扱えるはず。
その推測のもとに、それらの研究、実験も推し進めていた。
「…あたしがコリンと契約した瞬間、周囲の人間の目はかわったからね。
  そしてそういわれたよ。化け物を視るような視線にみんながなったし。
  ああ、ハーフエルフっていうのは年中こんな視線を浴びているのか、
  とはおもったよ。…幾度もハーフエルフ検索装置で調べられもしたしね」
それこそ、何度でも。
そして、結果がでないたびに、研究員たちが、舌打ちしていたことをしいなはしっている。
そしてそれがひどくなったのは、ヴォルトとの契約失敗よりのち。
ほぼ、実験体の扱いになりかけていた。
契約を失敗し、民を殺したのだから、これくらいは協力するのがあたりまえだろう。
国からたけでなく、そう…ほとんどのみずほの民からもそういわれ。
そのまま実験体となってしんでしまえばいいのに。
という声があったことをしいなはしっている。
それをどうにか副統領であるタイガや半蔵たちが食い止めていたことも。
生まれが違う、育ちが違う。
ましてや人にない力をもっている。
それらだけでも人はあっさりとそのものを攻撃し、差別し迫害する。
そんなしいなの独白をうけ、顔をふせつつ、
「……僕、しいなのいいたいこと、何となくだけどわかるな」
「……ジーニアス……」
ジーニアス言いたいことを何となく察してコレットが沈んだような声をだす。
コレットもまたずっと腫物を触るような扱いで育ってきた立場。
でも、邪険にされていた、というわけではない。
が、ジーニアスやしいな、そしておらくプレセアも…
それを思うと、コレットは心が痛い。
「…僕とロイドがディザイアン達の襲撃の責任を問われ、
  イセリアを追い出されたときは、くやしくって、なさけなくって」
マーブルを助けたことが悪い、とはおもっていない。
マーブルさんをたすけて、とロイドに頼んだのはほかならぬジーニアス自身。
そして、近づくな、といわれていた牧場に近づいていたのも。
なのに、ロイドだけを村人は、特に村長はせめたてていた。
何人もの村人がしんだ。
つい昨日まで話していた人たちも、そして同じ学びの場で学んでいた子供たちも。
それらはすべてジーニアスが近づくな、といわれていたにもかかわらず、
牧場にかかわり、そしてマーブルと交流をもってしまったがゆえ。
それが悪かったのか、正しかったのか。
今でもジーニアスはわからない。
死んでまでもずっと自分を守ってくれていたマーブルのことをおもえばなおさらに。
「…村人たちに糾弾されて、僕、
  そんな人間たちの血をひいていることが嫌で嫌でしかたがなかった」
牧場にいるものは、いずれは死ぬのだから、かかわるほうがまちがっている。
そういわれた。
そんなの、そんなのは間違っている。
でも、かかわった結果が村の悲劇につながった。
「…ヘイムダールで拒絶されたときは、くやしくって、なさけなくって」
あんな状態だというのに、ハーフエルフだからという理由だけで、
かたくなに協力すらしようとしなかったエルフ達。
あげくは自分達がきたからこんなことになったのでは。
というような声があったことを、ジーニアス偶然とはいえ、
村人たちが話しているのを目の当たりにした。
エルフも、ヒトもかわりはしない。
そう、あのとき、たしかにジーニアスは心に刻み込んだのだ。
「僕は、僕らハーフエルフは人間でも、エルフでもないんだ。
  そのせいでどっちにもいれてもらえない。
  そのくせどっちかに所属していないと生きていることすら認めてもらえない。
  人は、一人じゃ生きては…いけないよ。そんなの…さみしすぎる」
それこそ世捨て人のような生活をするか、
それともかつての自分達のように種族を偽って生活するか。
また、すべてをあきらめ暴徒に走るか。
選択は限られている。
今の世界のヒトビトの認識の世界の中では。
元は同じであるはず、なのに。
どうして自分達だけ、とおもうハーフエルフ達の気持ちは、
だからこそジーニアスは痛いほどにわかる。
元々の先祖がエルフしかいない、と知らされたときの衝撃。
なら、自分達を迫害し差別してくる人たちも、エルフの血がはいってるのに、
どうして自分達ばかり、とおもったことは否めない。
「テセアラでは、ハーフエルフ判別装置なんてものもあるしね。
  …ハーフエルフ法なんてもんがまかりとおっているからさ。
  本当、あたしも幾度も幾度も調べられている口だよ。
  召喚の資格をもっている以上、絶対にハーフエルフに違いないってね。
  種族を偽っているのならば、それは極刑に値する、とまでいわれてたよ」
実験の最中、やはりこのままハーフエルフ、ということにして、
完全なる実験動物扱いにしたほうかいいのでは?
そんな声があったこともしいなはしっている。
そんな中で心の慰めとなっていたのがコリンの存在。
そして、しいなはしらないが。
もしも、しいなをそのように扱うのならば、
みずほの民は今後、国に一切協力をしない、
とタイガが国にたいし言い切っていた。
それらもあり、しいなは非道なる扱いを免れていたといってもよい。
タイガの切り札はしいなの出自の秘密。
その血筋。
当時はしいなを邪険にしていた民たちだが、それを公開することにより、
民の認識を改めることができる、そうおもっていたがゆえの強気の進言。
実際、それをしり、
民たちの心はしいなを責めるものからあっさりと手のひらをかえしている。
だからこそ、それをしり、余計にくちなわが怒りを覚えた。
覚えてしまった。
しいなが、自分達のつかえるべき主君の血を引く姫などと、
絶対に許せるものではなかったがゆえに。
「…しいなは、嫌じゃなかったの?」
そんなしいなの独白に思わずといかえしているジーニアス。
しいなもつらかったんだ、とおもう。
雷の精霊ヴォルトとの契約を失敗し、仲間をかなり失って。
そして、くちなわには、手をぬいていたから失敗したのだ、とまでいわれ。
「何度も嫌だとおもったさ。それこそ死を意識したことだってある。
  村の皆を死なせてしまったし、ね。
  だけど、この力があるからあたしはコリンにであったし、
  あんたたちにもあったわけだろ?」
「そうだな。しいなが召喚術を会得していなかったら。
  もしかしたら違うやつがコレットを暗殺しにきてたのかもな」
しいなの言葉にロイドもまたうなづかざるを得ない。
「ま、初めてあったときがあったときだったからねぇ。
  …どんなどじな暗殺者だっておもったよ」
「う。それはいわないでおくれよ」
まさか、しいなもあんな穴に落とされるとはおもってもみなかった。
「…オサ山道、か」
もうずいぶん前のことのような気がする。
おもわずゆえにぽつり、とつぶやくロイド。
しいなとの出会いはオサ山道。
この中にマナの神子はいるか、といきなりとわれた。
まあそのちょくご、襲い掛かってこようとしたしいなは、
コレットがこけたはずみでスイッチがはいってしまった扉。
その扉の真下におちてしまったわけ、だが。
「それらをおもうとね。
  人にはいらないものは何ひとつないんだなっておもうんだよ。
  あたしの中の召喚術も必要だからはじめから備わっていたんじゃないかって。
  あたしの力も、コレットも力も、リフィルやジーニアス、あんたたちの血も。
  両親から受け継いでいるロイド、あんた自身も、すべて、さ。
  みんな、必要だからそこにいる。必要だから生きてるんじゃないのかなって」
それがしいながこれまでの旅でたどり着いた結論。
生きるとは旅をすることだ、とはよくいったものだ、とはおもう。
そしてみずほの民につたわりし格言。
生きること、それそのものが人生の修行であり、魂の修行である、と。
本当にそう、だとおもう。
今では心のそこからそう、おもえる。
「そう。だな。俺、すべての命は生まれてきたことに意味があるって思うんだ」
そんなしいなの言葉にロイドもまたうなづく。
たとえ何かを間違えたとしても、生きているかぎり訂正はきく。
世の中には訂正がきかないこともある。
たしかに過去はかえられない、のかもしれない。
それでも、やり直すことは、それらを教訓にし前にすすんでいくことはできるはず。
以前の自分ならば、それは口先だけで、本当に実感していなかったんだろうな。
と強く思う。
しかし、それらが自分自身の身にふりかかり、ようやくそれを実感できはじめている。
クラトスのことにしろ、ミトスのことにしろ。
周囲に流され、周囲の言葉のみをうのみにするだけでは、だめなのだ、と。
そのためにコレットを犠牲にしかけた。
そんなのは、間違っている。
少なくとも、今のロイトはそう思える。
再生の旅の最終地点、救いの塔でコレットを見捨て世界を選んだあのとき。
散々、エミルに何が真実かを見極めたほうがいいといわれていたのに。
そう自分に置き換えてものごとを考えれるようになっているだけ、
ロイドとしても少しは進歩したのかな?とおもう。
これまでは、口にはしても、自分のことのように置き換えて発言していなかった。
ただ、思ったことを口にするだけで。
自分がそうなった場合どうするか、など考えすらもせず、まったくの他人事で。
「生まれてきたことに、意味がある…か」
そんなロイドの台詞にぽつり、とつぶやくジーニアス。
「そう、だね。あたしも最近はそうおもえるようになってね。
  そうしたら、なんだかものすごく気が楽になってきた。
  くちなわも…あいつもきっと、道を間違えてるだけなんだ。そう、思いたいよ」
きっかけが自分がかつてヴォルトとの契約を失敗したこと、ならば。
でも、あの里の民が冷たい視線をむける中で、おろち、くちなわ。
彼らの存在は、幼なじみとして接してくれていた彼らに救われていたのも事実で。
だからこそ、とめなければとおもう。
彼がこれ以上、道をたがえることのないように。
そしてその気持ちは…おそらく、クラトスやユアンも、なのではないだろうか?
かつてのミトスをしっているからこそ、いつかは改心してくれる。
そう、願いつつも、ずるずると時間ばかりがすぎていき、
気づけば四千年という年月が経過していたのではないか、と。
「死んでしまったらすべてがおわる。死は逃げることと同意語だって。
  だから、生きているだけでいいんだ、そうおもったら。
  なんだかすごく楽になったのは事実だね。
  昔のあたしは任務に失敗して契約から逃げている、
  ただのお荷物なんだって、そこにいるだけで皆を不幸にする疫病神。
  そう、おもっていたから」
実際にそのようにいわれていた。
死神。
それがしいなにつけられていたあだ名。
ミズホの民を半数以上、死なせてしまったという事実は覆らない。
しいなも、すこし調べればわかったはずなのだ。
あのときは、何ともおもわなかったが。
精霊ヴォルトが特殊な言葉を用いる、というのは。
その事前調査をすることなく、周囲にながされるまま、うなづいたのは。
まだ幼かったから、という言い訳はおそらくきかない。
精霊研究所に出入りしていた自分は知る機会がより多くあったはず、なのだから。
「特に、ロイド。あんたをみているとね。
  当たり前のことをへいきで当たり前のようにいう。
  なんだかそんなあんたをみていたらばかばかしくなってきてね……」
もっとも、クラトスとのことでロイドが本気で自分のこと、
としてこれまでの様々なこともとらえておらず、
だからこそ、何も考えずにいっていたんだな、と思い知らされたわけでもあるが。
「たしかに。ロイドさんは、単純、ですから……悪い意味、ではありませんが」
「どういうことだよっ!」
「うん。ロイドは単純バカだからね」
「違うよ。しいなもプレセアもジーニアスも。ロイドは単純だから純粋なんだよ」
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
「…コレット、それ、とどめっていわないか?」
さらり、と邪気もなくいわれたコレットの言葉が一番ぐさり、と心にこたえる。
「……ミトスにも、ロイドの悪いところはともかくとして。
  伝わればいいのにな。ううん、きっと伝わっていた、とおもうんだ」
このたびの中で、ミトスは本当によく笑い、そしてあきれていた。
ロイドと掛け合い漫才のようなことしていたことも幾度かあった。
半ば、ほとんどミトスにロイドがあきれられていたが。
「…どうして、ミトスはディザイアン、なんていう下位組織をつくったんだろう」
マーテル教を捏造、広めていく上で明確な敵、というものが必要だったのだろうか。
それにしても。
どうして同じように生きているであろう命を簡単に押しつぶし、
利用するような施設、しくみを作り上げたのか。
ジーニアスは知らない。
その疑問は、ミトスが牧場をつくりあげる、といったとき。
クラトス、ユアンが初めに感じたミトスの変化の一端であった、ということを。
『・・・・・・・・・・・・』  
ジーニアスのつぶやきに誰も何もこたえられない。
ふと。
「……星空は、かわりませんね。今も、昔も……」
しばらく沈黙したまま、それぞれが降り注いできそうなまでの満点の星空。
そんな星空を見上げていたが、プレセアがぽつり、とそんなことをいってくる。
「プレセア?」
沈黙の中、いきなりつぶやいたプレセアに思わずジーニアスがプレセアを振り返る。
「いつか、何にでも終わりはきます。そこにあるかぎり。
  木も花も草も、いつかはかれます。そして人も必ず死がまっています。
  建物もいつかは壊れます。天使化というものをはたしていたとしても、
  石を壊せばそれはその人の”死”です。
  …石を壊さない限り、永遠に石の中に魂が捉えられる。
  でも、石を壊せば解放され、そしてそれは死、でもあります」
どこをどういう定義で死、となすのかはわからない、とおもう。
器を失ったとき?
それとも、自分、という自我、意識を失ったとき?
それは感じることは人それぞれ、であろう。
中には誰にも認識されなくなったときこそが、そのものの本当の死だ。
というものもいるであろう。
「いつか、必ず形あるものに訪れる。
  形あるものには、死、もしくは滅びがまっている。というのは、
  それは絶対的な理、です。いつかは、どんな形であるものでも、消えてしまうんですから」
遺跡、とよばれている建造物なども、時ともにやがては大地に還るであろう。
形あるものは、死、もしくは滅びが必ずしもつきまとう。
行き着くさきはマナに還る、この一言につきる。
全てのものは、マナからうまれ、そしてマナにと還る。
それがこの世界における絶対的なことわり
そして、ふたたびマナから生まれ出でる。
「…そう、たね。命あるものはいつかは必ず死ぬ。
  たとえそれが千年語でも、数千後でも…そしてね今すぐに、でも」
世の中、何がおこるかわからない。
昨日まで元気にいたひとが翌日にはしんでしまう。
そんな出来事が世界中からみればいたるところにておこっている。
「…マナがあるかぎり、命は続いていくんだ。これは絶対的にいえること」
しいなの言葉にジーニアスもつぶやかずにはいられない。
逆をいえば、マナがなくなれば、すべてのものには死、つまりは消滅がまっている。
「たとえ、その命が失われたとしても、その命は受け継がれ、
  そしてその思想などは次なる世代に受け継がれていく。
  親から子へ、そして孫へ、世代を受け継いでゆくように、ね。
  子がいなくても、生きている間に影響をあたえたものが、
  より次の命の世代へとうけついでゆく」
そう、これまでそうして命は紡がれてきている。
だからこそ。
「…ミトスのいう千年王国。そこに未来はないよ。
  ユアンのやつもいってたじゃないか。
  天使化したものにこれまででロイド、
  あんた以外に子供が生まれたことはないって」
そこまでいい、じっとロイドをみつめるしいな。
ずっと疑問におもっていた。
一度もない、というの言葉に。
だからこそ、おもわずはっとしたような表情をうかべるジーニアス、コレット、
そしてプレセアの気持ちはわからなくもない。
あえてそのことに触れないように、考えないようにしていただけ。
でも、今だからこそしいなは言わずにはいられない。
明日、塔に突入し、何があるかわからないからこそ。
疑問におもっていることは、みなにちきんち伝えていたほうがいい、とおもうから。
「少なくとも。四千年よりも前から天使化、という技術はあったわけだろう?」
エミルの言い回しでは、それらのことを記した文献というか遺跡のようなものがある。
かつてエミルはそのような言い回しをしていたことがあった。
天使レミエルをみて、生体兵器だ、とたしかにエミルはいいきっていたのだから。
「でも、そんな中で天使達の子、という、または末裔、という言葉は一切きかない」
そしてあのウィルガイアでも。
子供の姿はまったくみうけられなかった
「……長寿生命体は総じて基本的に生殖能力が低い、といわれています。
  それも仕方のないこと、なのかもしれません」
しいなの言葉にプレセアがうなづきつつも、正論を言い放つ。
そう、長寿生命体といわれているものは、総じて生殖能力が低い。
中には一生に一度しか子供をもうけられない種族もいる、と聞き及ぶ。
それはヒトやエルフ、という括りでのことではなく、魔物、
もしくは動物、といった例をあげてのこと、なのだが。
それに、エルフもまた子供の数が圧倒的に少ない。
それらは総じて、生殖能力が低い、ということを暗に証明しているといってもよい。
「でも、一人もいなかった、ということもない、とおもいます。
  ユアンさんたちが知らなかっただけ…なのではないのではないでしょうか?
  知らないとろで誰かが生まれていたのかもしれません。
  確率は…すいません。わかりませんが。
  でも、百%なかった、とはいいきれれない、とおもいます」
プレセアはそういうが、彼女は知らない。
事実、ロイド以外、天使が子供をもうけたことはこれまで一度もなかった。
というその事実を。
百%の確率でありえない存在。
偶然が偶然に重なって生まれたどの種族にも所属していない存在もの
それが、ロイド・アーヴィング、という個体である、というその事実を。
「綺麗な星空…この星空はずっと、地上の世界をみてきたんだよね。
  地上でおこったさまざまな争いも何もかも。
  それこそ、四千年前から…ううん、それよりもずっと前から」
コレットもしいなの言いたいことはわかる。
でも、それはロイドにとっては酷なことだ、とおもうがゆえに、
あえて、話題をさらり、とずらすように、ぽつりとつぶやくコレット。
「…そう、だね」
世界からみれば些細なこと、なのかもしれない。
自分達のような小さなヒトの葛藤など。
コレットの言葉にジーニアスもぽつり、とつぶやく。
しいなが今言った言葉。
たしかに、ユアンはそのようにいっていた。
天使化したものが子供をもうけたという話はきいたことがない、と。
でも、ならば、ロイドは?
思いついてしまった可能性をすばやく頭をふり、その考えをふり捨てる。
もしかして、ロイドは自分達ハーフエルフ達以上に、どこにも所属しないものなのではないか。
そんなこと、あるはずがない。
そう…きっと、たぶん。
もしかして、それが真実なのかもしれない、とおもってしまうのは、
先日のエミルのあの会話にあるのだろう。
――もしも、天使に名をつけるとすれば何てつける?
そのような意味合いなことを問われたあのとき。
――彼らはこういう種族なんだよ?
  みたいな感覚でおもったり、言葉にすれば少しは違うのかなって。
種族名。
ミトスがつけた、”フェザー・フォルク”という、
姉であるリフィルがいうところの、他者に気取られないように呼び方をかえる為の名。
という天使の名称。
なぜに、種族名のようなものが必要なのか。
そこにあのときから幾ばくの不自然さを感じているのもまた事実。
そんなジーニアスの心の内の葛藤に気づくことなく、
ただ、永き時、ということのにみ反応し、
「……四千年、か。どれだけの時間なのか。俺には想像がつかないよ」
そう、ぽつり、とつぶやくロイドの姿。
エルフやハーフエルフでも千年、だというのに。
その倍以上。
マナが充実していれば、木々もそれくらい樹齢をむかえるものもいる、
とたしか以前先生が授業でいっていたけども。
シルヴァラントではそんな樹齢をむかえていた木などひとつもなかった。
あらためて、コレットがつぶやいたのをうけ、その年月の果てしない膨大さ。
それをロイドは思わずにはいられない。
そして、改めて考えてしまう。
「…クラトスも、ユアンも、そして…ミトスも。そんなに長い時間いきている…んだよな」
それは、ヒトという短い時でしかいきていない彼らにとっては、途方もない時間、であろう。
精霊達からしてみれば、さほど永い時ではないにしろ。
それでも、その途方もない時間、というものは理解がおいつかない。

おそらくミトスが世界を裏から操作していなければ、
世界は今よりも違う方向に発展していっていたであろう。
かつての世界が、エミルが…否、ラタトスクが理を変更し、
人が新たな力、科学などに目をつけ、
古代の文献や魔族達にそそのかされ、再び魔科学を発展させてしまったように。
魔科学と科学。
それらが下手に組み合わさった結果、トールという国も誕生し、
そして地上が一度、瘴気に覆われる、という【ラグナログ】とよばれし争いが再び勃発した。
それによって文明という文明をことごとく失った人類は、
新たに時を刻み始め、そしてその先に結果として世界樹ユグドラシルを枯らした。
そんな未来にあったであろう出来事をロイド達が知るはずもないが。

「…そう、ですね。種族の限界を超えて存在しつづけることは…きっと…つらい、です」
心を失っていたからこそ何ともおもわなかったが。
心を取り戻している今だからこそ、そうプレセアは思える。
子供だった自分が面倒をみてた村の子供たちは成長していた。
赤ん坊ほどの小さな子供も成長し、サイバックにはホレスもいた。
仕事で家を空けがちだった両親のかわりに、自分達の面倒をみてくれていた人がいた。
それにプレセアがよくにているから声をかけた、そういわれた。
それはロイド達と離れていたときのこと。
がつん、と衝撃をうけたようだった。
あの子供が成長し、大人になっているその姿は。
メルトキオに一歳になるかならないか、であったジャネットもいる、という。
彼女に会いに行く勇気はプレセアには、ない。
それこそ取り残された年月を突きつけられてしまうようで。
自分ですら、時の流れに取り残されたことで、どうしようもない思いにとらわれるのである。
それが、四千年…十六年よりもはるかに長い、
そんな年月を、ずっと周囲かかわっていく中で生き続けてゆく。
そのつらさは、何と表現していいのかわからない。
「…四千年、か。それだけの時間があったら、俺はどうするんだろ?
  コレット。それにしいなやジーニアスは?」
自分がどう過ごしているのか、まったく予想がつかない。
ゆえに思わず近くにいる三人にと何となくといかける。
そんなロイドの言葉にしばし考え込んだのち、
「そう、だね。僕は世界をまわってみたい…かな?」
ぽつり、とつぶやくジーニアス。
それは、姉とともにこっそりと話していること。
このたびがおわったらどうするの?という会話の中で交わされている一つの可能性。
「?今でもまわってるじゃないか?」
それこそ二つの世界をまたにかけて。
ゆえに、ロイドは首をかしげてしまう。
「ううん。そうじゃなくて。種族における偏見をなくすために、さ。
  知らないなら、しっていけばいい。誤解をといていけばいい」
それは、かつてのミトス達がそう信じて実践していたこと。
そうとはしらず、ジーニアスはかつてのミトスと同じ選択をしている。
世界をめぐることによりきっとわかってもらえる。
というのはミトスのかつての信念であり理想であり、そして譲れない思いであった。
根気よく、話していけばきっといつかはわかってもらえる。
人も、エルフも、すべての命がわかりあえる。
かつてのミトスは、そう心の底からそうおもっていた。
その思いをラタトスクにむけて懇々と語れるほどに。
ラタトスクが根負けし、ならばやってみろ、といってみるほどに。
「あたしは…わからないよ。途方もない時間だし、ね」
ロイドの問いかけに、しいなはこれ、といった答えをかえせない。
コレットもまた答えられない。
そもそも、死ぬ、とおもっていた命。
今こうして生きていることが奇跡と思えている中で、
明日、明後日、一年先とかではなく四千年後、などと。
予想すらできない。
「…きっと、いつか私は生きていることにあきてしまう。…そう、おもいます」
きちんとした明確な答えがかえせないしいなやコレットとはかわり、
プレセアがぽつりとつぶやく。
少し離れた場所ではリフィル達が会話をしている気配を感じる、ということは。
彼女たちも目覚めている、のではあろう。
村の中であるがゆえ危険はない、とおもいこうして離れて夜空をみつつ、
会話をしていても呼びに来る気配は、ない。
「あきる?生きることに飽きる、なんてあるのか?」
あきる、といわれてもロイドにはよくわからない。
そんなことがありえるのだろうか?
ゆえに首を盛大に傾げ始めるロイドとは対蹠的に、
「ああ。そうかもしれないね。…何か目標とか生きる意味とかもってないと」
それこそ、生きることにあきて、自ら死を望んでしまうであろう。
それか、もしかしたら自分から死ねないのならば誰かに殺してもらえるように、
そう仕向けてしまうかもしれない。
そこまで思い、ふとおもう。
ミトスも本当は命をかけてでも止めてほしかったのではないのか、と。
でも、誰もとめることもなく、引き返すことすらできなくなってしまった。
彼をしたい、集まってくるものが増えていくにしたがって。
でも、それを口にすることはできない。
それをいってしまえば、ロイドやジーニアス、
ましてや心優しいコレットが心を痛めるのはわかりきっている。
だからこそ、
「あきる、んだろうね。きっと。生きていることに。生きることに。
  もっとも、こんな考え万が一にも精霊達にでもきかれたら、
  何をバカなことを、とか贅沢なことを、とかいわれそうだけど。
  精霊達は世界にマナがある限り、生き続けるからね。
  その存在が消滅したりしない限りは」
コリン…否、ヴェリウスもかつては消滅しかけていた、という。
そしてヒトビトの心がつなぎとめ、新たに再構築されたのが、孤鈴という存在。
再構築されたからか、孤鈴は自分が心の精霊であったことすら、覚えていなかったらしい。
それでも、エミルやウンディーネ達は、孤鈴を一目みて、
まちがいなく、こう呼んでいた。
『ヴェリウス』と。
本質はかわらない、ということ、なのだろう。
精霊達は再構築され生まれ変わったとしても。
でも、人は基本生まれ変わってしまえばまったくの別人となる。
前世の記憶も何もかも綺麗に忘れ、新たな生をむかえる。
中には前世のことを覚えているものもいるだろう。
が、前世は前世、今世は今世、と別々、としてとらえている。
それをおもえば、あのウィノナはどうなのだろうか?
あの言い回しでは、彼女は前世のことを覚えているような口ぶりでもあったし、
アステル達もそんなことをほのめかしていた。
それは、今の自分、という存在を過去の自分に塗り替えられてしまう。
そういうことなのではないのだろうか?
それとも、自分は自分、そうつよい思いがあって、それは防がれているのか。
考えてもおそらくそこに答えはみつからない。
「…精霊さんたちは、世界にマナがあるかぎり生き続ける、んだよね」
「ああ。それこそ永遠にね。マナが枯渇し、世界が終るそのとき、まで」
コレットのつぶやきに、しいながこくり、とうなづく。
「…精霊、かぁ。精霊のこととかはよくわかんねえけど。
  けどさ。長生きできればやれることもたくさんあるんじゃないのか?」
生きることにあきる、というその言葉の意味がロイドにはよくわからない。
長く自由になる時間があるのだから様々なことに手をだせる。
それはそれですばらしいことなのではないか、とすら思えてしまう。
「ロイドにもわかりやすくいうとね。
  毎日、毎日、それこそ一年以上、ずっと勉強しろっていわれたら、どう?」
そんなロイドをみてかるく溜息をついたのち、
ロイドにもわかりやすく、どうして生きることにあきるのか、
という結論になるのか説明しているジーニアス。
ロイドを理解させるのには、勉強を持ち出すのが一番手っ取りはやい。
…悲しいことにジーニアスはそれを理解してしまっている。
そんなジーニアスの台詞にあからさまに、顔をひくつかせ、
ずざっと一歩後ろに後退したのち、
「そ、それは、たしかに。逃げ出したくなるな。飽きる、とかいう以前に」
というか確実逃げ出す。
それはもう絶対に。
「あと、夏休みがずっとつづいていたとしたら?
  ロイドは夏休み中の宿題だっていわれて渡されている課題。
  それらの宿題、絶対にやる気なくなるでしょ?
  というか、今姉さんから出されてる課題、やった?」
「夏休みがずっとつづいていたら、宿題なんてやる必要ないだろ?
  提出することがないんだし。か、課題?なんかでてたか?」
「・・・・・・・・・はぁ」
案の定、というべきなロイドの反応にさらにジーニアスは溜息をついてしまう。
わかっていたが、忘れていた、ということは。
それにしても、とおもう。
毎回毎回よくもまあ、ここまで綺麗さっぱり忘れることができるものだ。
とあるいみ感心してしまう。
「ロイドには特別、九九の暗記の課題でてたよね?たしか?」
「く…九九?というかあんなもんなんて、生活に必要とはおもえ……」
「「「おもえるよ」」」
「…ロイドさん、九九、いえない、んですか?もう、そろそろ十八…になる、んですよね?
  テセアラの子供は十にならないうちに誰もが暗記しています……」
「ううっ」
「まあ、言葉に詰まったロイドはともかくとして。
  とにかく、そういうことだよ。何もかも放り出してしまいかねない。ってことさ。
  ロイドがいつもいつも姉さんからだされた課題を忘れてるように、ね」
「…先生、旅の間くらい課題だすのやめてくれればいいのになぁ」
「先生、私たちの教育カリュキュラムがおわっていないって気にしてるもの」
「カリ?何だ?それ?くえるのか?」
「「「「・・・・・・・・・・・・・・・はぁ~」」」」
本気で理解していないロイドに珍しく、
プレセアまでも盛大に溜息をその場にてついていたりする。
「なんだよ。みんなして。でもまあ、よくわかんねえけど。何となくわかったような?」
「…ロイドさん……」
いまだによく理解してないっぽいロイドを思わずあきれてみるプレセアは間違っていない。
プレセアの脳内に、
『このロイドってひと、…ほんとうにあのリフィルさんの教え子?』
とかいう何とも返事にこまるようなアリシアの声が響いていたりもするがゆえ、
プレセアも思わずため息をつかざるをえない。
「ジーニアス…あんた、ロイドの扱いがうまいねぇ」
ロイドの苦手なものを持ち出して、何となくだが理解させている。
それが扱いがうまい、以外の何だ、というのだろう。
「伊達にいっつもロイドの尻拭いをしていたわけじゃないからね」
ものすごく、いつも、という言葉に強調がはいっていたのは、
おそらくその場にいる誰もの気のせい、ではない。
「……きっと、人はいつか死ぬことがわかっているから。
  だから一生懸命いきるんじゃないのかな?」
人は、いつか死ぬ。
それは絶対的なる定義。
必ず訪れるもの、それか死、なのだから。
「「「コレット(さん)?」」」
ロイド、ジーニアス、しいな、そしてプレセアがそんなコレットの声に反応し名をよぶが。
「私もそうだったもん。十六年しかいきられない命。
  私の命がマナになって、世界を、シルヴァラントを救う。
  ずっとそう物心ついたころからそういわれて育ってきたから…
  だから、短い命を精いっぱいいきようっておもえてたもの」
それもロイドと出会ったから、だから前向きにそう思えた。
ロイドがいきる世界を救えるのならば、自分の命はおしくはない、と。
短い命でもそれまでは精いっぱい、みなに心配をかけることなく生きよう、と。
「私にとって、死は終わりでもあったけど、始まりでもあったの。
  シルヴァラントが私の死で、命がマナとなって世界が再生され、
  その平和になった世界で人々が笑ってくらせる。そんな世界が訪れる。
  そのための旅、だったんだもの。死ぬための…世界再生の、旅」
「「・・・・・・・・・・」」
コレットのそんな言葉にジーニアスもロイドも何もいえない。
あのとき、レミエルの前で世界とコレットを天秤にかけ、
世界を選んだ彼らには何もいえる言葉はない。
それがうすうすおかしい、と感じていたのにもかかわらず、
あのときたしかに、二人ともコレットよりも世界を選んだのだから。
「コレットさん。…でも、そう、ですね。
  死ねば何もかもがおわってしまう。でもそれは人による、のかもしれません。
  人によってはそれが始まり、なのかもしれません」
大切な人が死んで、そうして新たな視点に目をむけたりするものもいるだろう。
それは遅きに値する、と誰もがいうだろうが。
「でも、基本的には死ねば何もかもがおわってしまいます。
  だから、そのときまでにほとんどの人は、自分がなすべきことを探している。
  それが…生きる、ということの旅。なんだとおもいます」
マーテル教の教えにある、【旅をせよ】という教義。
あれを文字通り、普通の旅、ととらえているものが大多数だとはおもうが。
実際は文字通りの旅、ではないとおもう。
それこそ自らの生き方をきちんとみつめるように。
そういう意味をもっているんだ。
そうかつてプレセアはマーテル教の絵本をよんでもらうとき、
そう死んだ母からきかされていた。
ほとんどの人が直接、目に見えた形で旅業、といって世界を旅をするのは、
自分自身の生き方というものを見つけ出すのが簡単ではないから、
自分をいつもと違う状況に追い込んで、それを探そうとしているのだ、と。
「……私は、村のみんなが私を追い越して成長してゆくのをずっとみていました。
  心を失っている中も、ずっと。おぼろげではありますが、大体覚えています。
  心を失っていた状態の中、ずっと。
  心がないから、考える心がないから、何とおもわずに、
  ただみているだけ、でしたけど。でもきちんと心を取り戻した今ならば、
  それがどんなに異常なことだったのか…私でもわかります」
その言葉に何ともいえない表情を浮かべるロイド達。
プレセアが心を失っているあの状況は、ロイド達も目にしている。
ただ、人にいわれるまま、タンタンと物事をこなしていたあの様は。
そして、死んでいる父親にきづくことなく、そのままベットに放置していたことも。
「だからこそ…だからこそ、村の人は私を恐れ、忌諱していた。
  妹だったアリシアも私よりずっと大人になっていた。
  私がこの体で…十二歳の体で時が止められていたとしても。
  周囲の時間は間違いなく動いていたんです。
  …自分が面倒をみていた幼かった子供たちも大人になっています。
  時間においていかけるのをずっと意識しているのは…
  …意識できてしまうのは、きっと、つらい、です。
  私は…私も彼らと同様、ずっと時間に取り残されているまま、だから……」
心を取り戻せたとしても、失われた時間がもどってくるわけではない。
たかが十六年あまりですらそうおもう、のである。
四千年、それはどれほど長い年月なのだろうか。
今おもえば、自分が時を止められたのと同時にコレットは生まれたのだろう。
年齢からして、おそらくそのはず。
それをおもうと、プレセアは何ともやるせない。
「でも、もうプレセアの時は動き出した、そうだろ?」
それは何となく、ではあるが、そうなんだ、とおもう。
アリシアもいっていたではないか。
プレセアの体は今後成長していく、というようなことを。
プレセアの複雑な思いをくみ取ったのであろう。
ロイドのほうはそんな深いかんがえもなくいっている素振りがみうけられるが。
「もしかしたら、時が動き出したのをうけ、
  あんたの体は急激な成長期を迎えるかも、だねぇ。
  アリシアもいってたけど。成長したあんたのあの姿が本来あるべき姿だって。
  そんなことをいってたし」
成長したプレセアは誰もが振り返る、美人の類、にはいる、とおもう。
しいなはそう断言できる。
「でも、私は、普通に歳をとっていきたかった、です。
  そうしたら、ジーニアスくらいの十代の子供も、もしかしたらいたかもしれないですし」
「プレセア……」
それはジーニアスにとってはあるいみ痛い。
つまり、プレセアは自分をそういう対象でみているのだ、
と暗にいわれたようなもの。
「あんたねぇ。たしか、あんたの実年齢は…まあ、いわないでおくけどさ」
というか、プレセアの誕生日次第ではおそらく、
プレセアは二十九歳にとっくになっている。
否、下手をすれば三十歳に踏み入ったかもしれない。
だからこそ、女性にたいし年齢を明言しないのは、しいななりの配慮
「たしかに。結婚したり、子供を産んだりするのは、早いやつはとことんはやいけどさ。
  けど、あたしみたいに十九になってもまだ相手もいない場合もあるんだし。
  あはは……」
しいなももうすぐ二十歳になる。
自嘲気味にそうかるくから笑いをあげたのち、
「…はぁ。なんだか自分でいっててむなしくなってくるよ。
  あたしにもいるのかねぇ。運命の相手っていうやつが、さ」
ミズホの民である自分にそんな相手がいるのかどうかはわからない。
気になっている相手はいるにはいるが、この思いはずっということはないだろう。
この二人の間に割り込むことなど、しいなの性格からしてできはしない。
「結婚、かぁ。いいなぁ。花嫁さん。
  私は絶対に無理だってあきらめてたからな。
  でも、私の家は…私は結婚できたとしても、
  クルシスからの神託で結婚相手は決定されてただろうけど」
それこそ、父と母、そしてファイドラとその夫、コレットにとっては祖父のように。
自由恋愛、なんて決してゆるされない。
それがマナの血族だ、そういわれていた。
また、それが当たり前だ、とも。
だからこそ、ロイドへの想いをコレットは口にしない。
決して立場上、血筋柄かなわない、とわかっているがゆえに。
「そういえば。先生は結婚しないのか?」
結婚、という話題がでて、ふとロイドがぽろり、とつぶやく。
それはロイドにとってふと思いついた疑問。
村でもかなりリフィルは言い寄られていたはずなのだが。
リフィルはそんな若者をもののみごとにあしらっていた。
「…ロイド。それ、姉さんの前では絶対に禁句だよ?」
ロイドのこだから、ぽろり、といいかねない。
というかこうして注意をしても言い出しかねない危惧がある。
リフィルにその手の話は禁物だ、というのは、
ジーニアス弟であるからこそよくわかっている。
…いまだにかつての恋人のことをひきずっていることも。
当時はわからなかったが、今ならばわかる。
自分がこうしてプレセアにひかれ、どうしてもあきらめきれないように。
きっと、姉も。
いまだに大切にあの男性からもらったとある品をもっているのが何よりの証拠。
まあ、あれがアスカードの遺跡からでた、神官の冠の一つといわれている品。
地の冠、といわれているものだから。
古代の遺跡品だ、という可能性がある、としても、である。
五年ほど前からずっと、姉はそれを大切にしていることをジーニアスは知っている。
あのときまだ自分は子供だったんだな、とつくづくそうおもう。
姉に自分を置いていくのか、とすがったのが昨日のことのようにおもいだせる。
弟も、自分も一緒でもいい、といってくれていたのもしっていたのに。
でも、ジーニアスはそれを認められなかった。
そして、結果として姉とあの男性はアスカードで別れた。
その別れ際、リフィルに一つの品を手渡して。
ジーニアスがおきたとき、横のベットでそれを抱きしめて、
しずかに涙していた姉の姿をジーニアスは忘れたわけではない。
彼はディザイアン達に興味があり、調べてみたい、みたいなことをいっていた。
ならば、もうきっとおそらくは生きてはいない、であろう。
「…でも、精霊、か」
ロイドがこれ以上、姉にいらないことを言わない可能性を防ぐため、
「…ねえ。エミルって、やっぱり精霊の関係者…なのかな?」
あえて気になることをぽつり、とつぶやくジーニアス。
それは、ずっと気になっていたこと。
エミルに従う魔物達。
そして今おもえば、精霊の封印の獣だといわれていた試練の魔物達も、
エミルを敬うような行動をとっていなかったか?
エミルが同行するようになって、ぱったりとやんだ魔物の襲撃。
エミルが同行するまでは、パルマコスタに向かうまでは、
かなりの確率で魔物達に襲われていた、というのに。
そして、気づけばいつのまにか収まっていた、という異常気象。
そして安定していったマナ。
コレットが精霊の封印を解放しているからだ、とばかりおもっていたが。
でも、ともおもう。
完全にマナが安定したのは、コレットが最後の封印を解くよりも前だったはず。
「だろうねぇ。思い返してみても、精霊達はエミルにかしこまってたし。
  ウンディーネとの契約のときのことを忘れたわけじゃないだろ?
  エミルが何かをいってウンディーネは契約を了解してきたじゃないか」
それこそ、手のひらを反すかの如くに。
「…エミルさん、ネコニンギルドで用事がある、といってましたが。
  今、どこにいる、んでしょうか?」
「マルタやセレス達を残しているから入れ違い、にはならない、とはおもうよ。
  もしも、エミルが関係者だ、とするならば。
  エミルもきっと、精霊達と同じように嘘をつくのを毛嫌いするだろうしね」
そういえば、これまでエミルは嘘をついたことは一度もなかった、とおもう。
完全に真実をいっていたわけではないのではあろうが。
それでも、何か答えにこまるような質問には、いつも笑顔を浮かべるだけ、
もしくは苦笑するだけで、明確な答えをいってはこなかった。
「…マナが少なくなっている、というのがあの子に関係してるんじゃない。
  …あたしは、そう、おもいたいよ」
もしも、ユアンがあの時言った言葉。
かつての精霊ラタトスクはミトスに説得され地上の浄化を見送った。
けど、今のミトスの実状をしればどう思うか。
かつて、保留にしていたことを再び実行しよう、とおもっていてもおかしくは…ない。
「人がかわらない以上、地上の浄化ってやつが行われちまうかもしれない」
それこそ世界を守るという精霊にとっては些細なことなのだろう。
そこに生きているもの、特に人間にとっては納得できないが。
「…かわれるのかな、本当に」
人も、エルフもハーフエルフも。
かわらなければいけないんだ、とそうおもう。
今のようにいがみ合い、互いに互いを牽制し排除しあうそんな世界は。
かつて精霊が嫌気がさしてすべてを無に海にと還そう。
そうおもってしまったのもうなづけるほどに、世界は汚い、とおもう。
でも、それ以上に綺麗な部分もある、とおもう。
知らないままに嫌悪し拒否するのならば、しっていけばいい。
それこそ些細なことなのかもしれない。
けど、水の一滴岩をも砕く、ということわざにもあるように。
小さな積み重ねが何よりも必要だ。
ミトスもかつてはそうだった、のだろう。
が、その決意は折れてしまった。
…姉を殺されてしまったことで、優先順位が姉の復活になってしまったがゆえに。
「わかんねぇ。でも、あきらめたらそこで終わりだろ?
  だから、俺はあきらめない。絶対に道はあるはずだから。
  ミトスも絶対に心の中ではわかってるはずなんだ。
  だから、俺はミトスとしっかりと話し合いたい。…俺、甘いかな?」
「ロイドのそのあきらめのなさは昔からだからねぇ」
「たしかに。甘いかも、だね。でもその甘さは…あたしはいい、とおもうよ」
「…あきらめたらおわり。たしかに、そう、ですね」
僕はあきらめない。絶対に道はあるはずだもの。
それは図らずもミトスがかつていっていた口癖と同じであることをロイドは知らない。
「ま、ロイドのしつこさは今に始まったことじゃないし。
  うん、皆でミトスと話し合いにいこう」
「しつこいはよけいだ!でも、ああ。明日。塔にでむいて。
  クルシスに突入し、ミトスと話し合おうぜ」
そううまくいくとはおもえないけど。
心の底では互いに思うことは同じゆえに、思わず顔みあわすプレセアとしいな。
だが、それを口にはせず。
「明日…か」
「…もう、遅いです。そろそろ戻りませんか?」
気が付いたらずいぶんここで時間をつぶしてしまっている。
「きっと、リフィルさんたちも、心配して、います」
いまだにたき火のもとに残っている二人のもとへ、そろそろ戻るころ、だろう。
「ああ、そう、だな」
「ねえ。もう少し、皆で星をみようよ。あ!流れ星!」
コレットがそういったその直後。
空にひとすじの星が、流れてゆく――


甘いな。
そう思わずにはいられない。
けど、甘いのは俺様か。
そう苦笑してしまう。
あちらの言い分を聞く代わりにとあることをお願いした自分が、
昨日のロイド達の会話に口をはさむ筋合いはない。
それゆえに、彼らの会話はきこえてはいたが、
あえて彼らのもとには参加しなかった。
空に流れた流れ星。
あれの本当の意味をロイドは知っている。
というか、エミル君も本気ってか。
というか、よくもまあ、あんなことをおもいつくな。
と苦笑せざるをえないが。
でも、たしかにそれならば、誰も傷つくことはないだろう。
あのミトスが納得するかどうかはともかくとして。
というか自分を裏切っている相手にずいぶんと寛大だ、と思わずにはいられない。
四千年前、精霊とミトスとの間でどんなやり取りがあったのか。
それはゼロスにはわからない。
けど、あきらかにエミルは…ラタトスクはミトスを特別視しているのだろう。
それだけは断言できる。
でも、その提案をうけ、これを決めたのはほかならぬ自分自身。
どうするか決めかねていたところに、テネブラエに背を押されたに等しい。
今の彼らはあきらかに、覚悟が足りない。
それは、以前から、あの封印の書物の中でゼロスは思い知らされた。
でも、それではだめだ、というのもわかっている。
ならば、自分が彼らの自覚を…特にロイドの自覚を促してやればよい。
それに、それはユグドラシルから命じられていることにも一致している。
ロイドのような輩には、絶望から少し救いをみせてやればすぐにこっちにくだってくるよ。
ロイドの存在自体はクラトスの子、というので忌々しいけども。
けど、クラトスのいっていたことにも一理あるから、と。
ユグドラシルが…ミトスが知っている中でも、
天使化したものが子供をもうけた、なんてことは一度もなかった、という。
ハイエクスフィアを普通の要の紋で抑え切れていることにも、
そこに意味があるかもしれない、というクラトスの意見は。
たしかにミトスにとっては捨てがたいものであったらしい。
もっとも、それは言い訳だろうな、とゼロスは直感で感じているが。
ロイドはよくも悪くもまっすぐで、よくいえは熱血バカ。
人を疑うことすらせずに、だますなら騙されろ、を素で実践するような馬鹿。
そろそろ十八にもなろうか、というのに世間事情に疎いその様は、
平和に育っていたからか、それともドワーフに育てられたがゆえの障害か。
まあ、あの親ばか天使がやけに過保護になるのがうなづけるほど、
ロイドは危機感が足りない。
それだけはゼロスは断言をもっていえる。
危機感のなさ。
そして覚悟。
それらを自覚するために。
あえて彼らにはその自覚を促してもらいましょうか。
「…というか、あの精霊様は俺様のことをおみとおしってか?」
どうにか隠せたからいいものを。
外れないようにするなんて、いったいどんないやがらせだ、といいたい。
ものすごく。
何しろ一応試してみたがどんな手をつかっても取り外すことはできなかったのだから。
親は子供を守るもの。
なるほど、な。
ふとそんな言葉が脳裏に浮かび、苦笑してしまう。
そうだった。
あの精霊様にとっては自分達は子供。
自らのマナから生まれ出ている子供の一人。
親が子供に甘くなるのは、あの天使様で十分に証明されている。


コケコッコ~!
一番どりの声がする。
うっすらと空もしらみがかかり、夜があけたことを示している。
とはいえいまだに薄暗いが。
「あら。ゼロス。早いのね」
ふと、空をというか救いの塔をみていたゼロスにかけられる背後からの声。
「そういうリフィル様こそ」
どうやら先ほどの独り言は聞かれていなかった、らしい。
背後を振り向きつついえば。
「どうも目がさえてしまってね。…できれば、精霊の楔を先に解除したいのだけども」
「ま、ロイド君はその気になってるようだし、無理だろうな」
「…でしょうね」
ゼロスの台詞にリフィルは肩をすくめるしかない。
「ゼロス」
「ん?」
「……いえ、何でもないわ」
昨日、なかなかゼロスは戻ってこなかった。
ロイド達のようにいろいろと思うところがあるのかもしれないが。
でも、なぜだろう。
一抹の不安のようなものを感じてしまうのは。
今のゼロスは何かを覚悟したような、決意したような。
そんな感覚をうけてしまう。
どこがどう、というわけではないが。
それはリフィルの直感。
「そろそろみんなも起きるころっしょ」
「…ええ、そうね」
夜が明ける前に出発する。
それは昨日きめていたこと。
ゼロスの声にうながされ、リフィルはうなづくよりほかにない。

「んじゃ、改めていうけど。
  このままクルシスの出方をまっていても世界はかわらない」
それは、ここにくるまで、サイバックで一度ロイドがいった言葉。
改めてそれをロイドは口にする。
それはロイドは無意識ではあるが、自分自身に言い聞かすためのものでもあったりする。
「目的は二つ。ミトスを説得して千年王国の阻止と。それと、オリジンの解放、だ」
あのミトスを説得できるかどうかなんてわからない。
けど、できない、ときまったわけではない。
ミトスはたしかに戸惑いをみせている、とロイドはそう思う。
何しろあのノイシュがなついているのである。
そういえば、とおもう。
ノイシュはもともとユアンの話からすればクラトスが飼っていたのだろう。
クラトスが昔、動物を飼っていたことがある、というのは。
それはノイシュのことだったのだろう。
だからこそ、ノイシュははじめからクラトスになついていた。
あれほど人見知りをするノイシュが、である。
まあ、それをいうならばエミルにもノイシュはおもいっきりなついているのだが。
もっとも、ロイドはいまだに気づいていない。
ノイシュにとって、エミルことラタトスクは親。
子供が親を慕うのに意味はいらない。
「でも、オリジンを解放したら、クラトスの命は……」
ユアンもいっていた。
オリジンの封印はクラトスのマナを、つまり命をかけたものである、と。
そしてクラトスはロイドの実の父親である、という。
だからこそ、ジーニアスは何ともいえない声をだしてしまう。
「…まだ、よくわからない。でも…まだ、死ぬときまったわけじゃないし。
  そのあたりも含めて、ミトス、そしてクラトスとしっかりと話してみたいんだ」
彼らと話すことにより、そこに希望が見いだせる。
きっと、必ず。
これまで共に旅をしてきていたミトスと、あの書物の中でであったミトス。
世界を平和にするために、その身をなげうって尽力し、
今の世代にまで勇者、とあがめられているミトス。
人はそう簡単にかわってしまうとはおもえない。
だから、ロイドはあきらめない。
ミトスにもやり直すチャンスはあるはず、なのだから。
それは誰のために、といえばもしかしたら自分のわがままなのかもしれない。
友達を殺したくない、倒したくない、という。
でも、可能性が一%でもあるのなら。
ロイドはそれにかけたい。
「ミトスやクラトスがこっちの話をきいてくれるのか。味方をしてくれるのかもわからない。
  でも、わからないことを悩んでいるより、砕けてあたれ!の精神でぶつかったほうがいい」
「…ロイドさん。せっかくいいことをいっているのに台無し、です」
「…あたって砕けろ、でしょ?そのことわざ……」
『……はぁ~』
そんなロイド言い間違いにすかさずプレセアが突っ込みをいれ、
ジーニアスがあきれたようにいい、ロイドとコレットを除く、
その場全員の溜息が一致する。
「エターナルソードのことはロイド、考えているのかしら?
  たしか、ロイドでは装備できないのでしょう?」
確か、ハーフエルフにしか装備できない、というようなことを言われたような。
「でも、あれも精霊だったんだし。何か方法があるんじゃないのかい?」
たしかにあれは精霊だった。
ゆえにリフィルの台詞にしいなが答える。
が、アレはこうもいっていた。
オリジンとの盟約だ、とも。
つまるところ、オリジンを解放しなければ、あの剣の精霊の協力。
それが取り付けられるとはおもえない。
「私もジーニアスも剣はあつかえなくてよ?」
持つだけ、ならばできるかもしれない。
けど、わさわざ剣の形態しているような精霊が、
使い手にもなりえない輩に手をかしてくれるとはおもえない。
そんなリフィルの疑問に対し、
「それなら、心配にはおよばねぇ。アステル君が魔術を使ってたのはみただろ?
  あの研究の先に開発されている技術がある。
  魔導注入ってやつさ。人でありながら魔法をつかえるようになる技術。
  テセアラが開発した新技術さ。これの概念は昔からあったようだけどな。
  ここ最近、新たに技術が発達したらしいしな。
  それに、レネゲードからその技術はきちんともたらされたってきいたぜ?
  まだおそらく実験段階だろうけど。それを応用すれば。
  ま、つまり、その新技術の提供をうければ、
  人間でありながら、誰もがエルフの血がもてて力がふるえるってわけさ。
  ってわけで。どうだ?これなら何とかなりそうだろ?」
ゼロスの言葉に思わず思案する。
確かに、このテセアラではそんな研究をしていてもおかしくはないであろう。
あのアステルですら普通の人なのに簡単な魔術が使用できるようになっていたように。
何しろ人工的にクルシスの輝石を創ろうと実験までしていたお国柄。
たとえそれが教皇の独断、という方法だったとしても。
しかし、国が支援している組織において、国が、国王が知らなかったはずもない。
つまりはそういうこと。
国は力をもとめ、暗黙の了解において実験は実地されていたとみるべきである。
アルタミラで一度、聞いてはいたが、その後いろいろとあってすっかり忘れていたその内容。
改めて、そうリフィルは自らの中で考えをまとめたのち、
「そう。それなら何とかなりそうね。すっかり失念していたけども。
  おそらく、これがさいごの決戦、になるわね。
  よくもわるくも。精霊の楔もあと一つ。
  こちらも追い詰められているけど、あちらも追い詰められているはずよ?」
最後の”要”をかけて争うようなもの。
「…いきましょう」
「…そうだな。世界のために」
「だね。逃げていても始まらないし。条件はこっちもあっちも同じはず」
プレセアがつぶやき、リーガルがいい、しいなもまたこくり、とうなづく。
そしてまた。
「私も頑張るね」
コレットもその手を胸の前でくみ、決意をあらたにいってくる。
「…本当は、コレットには残ってほしいけど、散々サイバックでもいわれたしな…
  コレット。お前は俺が守るから」
ゼロスに守り切れる自信がないから待っていろ、というんだろう。
そういわれたことをロイドは忘れたわけではない。
ミズホの民やレネゲードにかくまってもらったとしても、
逆に本気になったクルシスに彼らのいる場所が襲われかねない。
ロイド君はコレットちゃんを危険にさらすだけでなく、
彼らもオゼットの村人のように危険にさらす気なのか。
そういわれ、言葉につまった。
ならば、自分達が常にそばにいて守ってやればいい。
どこにいてもコレットちゃんは常に危険なんだから、と。
たしかにそれはゼロスのいう通りで。
だからこそ、守らないと、とおもう。
二度と、コレットをつらい目にあわせないように。
「大丈夫だよ。ミトスも、クラトスさんもきっとわかってくれる。
  だって、ミトスもクラトスさんもとってもやさしかったよ?」
これまで、ともに旅をしてきたのだ。
クラトスはシルヴァラントにおいて。
ミトスはここ、テセアラにおいて。
二人のあの態度が、自分達にむけていた行動がすべて偽りだったなんておもえない。
だからこそ、コレットは信じられる。
否、信じたい。
「それはそうと、そんな技術、前にもきいたけど本当にテセアラにあったのかい?」
「あったのよ。ま、かなりトップシークレット扱いみたいだけどな」
実際その研究はなされている。
ただ、いまだに成果がでていないだけ、で。
「お前もかなり人体実験が行われてるのをしってるだろうがよ。
  この技術もそれらの犠牲の上で完成したって話だぜ?」
「・・・・・・・・・」
「「「人体実験って……」」」
それじゃあ、それじゃあ、まったくディザイアン達が、
牧場でエクスフィアを量産してるのと、何もかわらないじゃないかっ!
心の叫びはロイドたけではなく、ジーニアスとて同じこと。
さらり、とゼロスから飛び出した人体実験。
つまりは、そういうこと、なのだろう。
幾多もの犠牲の上に開発された、人が魔術を扱う…技術。
アルタミラで聞いたときにもおもったが。
やはり絶対に間違っている。
そしてしいなも。
ここで改めてゼロスがいう、ということは。
間違いなくそういう技術があるのだろう、と確信する。
してしまう。
「…ロイド。気持ちはわかるけども。人は必ず犠牲の上に生きているのよ。
  私たちがいつも食べている料理も他者の命であることを忘れないで」
ロイドのこと。
そんな犠牲の上に開発されたものなんて受け付けたくない。
そういうのは目にみえている。
でも、
「…ま、ミトスさえ説得できたら、その必要性もないとおもうけどな」
顔を伏せたロイドにさらり、というゼロスの言葉にロイドははっと顔をあげる。
そう。
全てはあの剣をミトス以外が扱うとするならば、という前提のもとの過程。
でも、今の契約者であろうミトスが行うのならば、何ら問題は、ない。
「うん。そうだね。ロイド。そのためにもミトスを説得しようね」
「…ああ。親父もいってた。わからずやには拳で語り合えば必ず通じるものがあるって」
何ごとも、全力で。
力を互いに出し合えば、必ず分かり合える。
それがダイクがロイドに教えている一つの教育方針。
間違っている、と突っ込みどころは多々とありはすれど、
何しろダイクはドワーフ。
その本質がそのように、基本は拳と技術力にてたがいを認め合う。
そんな理という性質をもっている種族。
ゆえに、その教えはダイクからしてみれば間違っては、いない。
ヒトの視点からみれば、間違っている、と盛大にいわれそうではあるが。
「…野蛮だねぇ」
そんなロイドの言葉に苦笑せざるをえない。
ああ、本当に。
こいつは人を疑うことをしらなさすぎる。
覚悟が、たりない。
なら、俺様がそのきっかけを促す、というのも悪くはない。
自らを一個人、とみてくれた彼に対し、自分ができる精いっぱいのこと。
きっとそれは、今後のロイド、そして彼らの思いにも影響をあたえるはず、だから。


「いよいよだな。ばっちりきめようぜ。ロイドくん!」
村を出て、しばらくけものみちを進んだ先に救いの塔はある、らしい。
ここからは徒歩でいってもそうは時間はかからない。
それほどまでにこの村は救いの塔と目先の位置にとある。
「……ゼロス、信じていいのね?」
「な、何いってんのよ。リフィル様ぁ。ばっちり信じてくれって」
「そうだよ。先生。それにみんなも。俺、信じてるから」
道なき道をすすみつつ、ゼロスがそんなことをいいだし、
そんなゼロスをじっとみつめながらも何やらといかけているリフィル。
リフィルが何をいいたいのか、ロイドには理解不能。
だからこそ、首をかしげさらり、といいきっていたりする。
「俺様、ヒトの信頼にはばっちり答えるタイプなのよ。
  ま、俺様を頼るロイド君の気持ちはわかるけどな。
  泥舟にのったつもりで、ど~んとまかせとけって!」
自らの胸をかるくたたくゼロスに対し、
「…ゼロスくん。泥の船は沈みます」
ぽつり、とちいさく、それでいて鋭く突っ込みをいれているプレセア。
「?それをいうなら木の船だろ?」
そしてまた、そんなゼロスの言葉に首をかしげつつもいっているロイド。
「もう。ゼロス。それにロイドも。それをいうなら大船でしょ?
  ゼロスまでロイドみたいなボケをかまさないでよね」
ロイドだけでも格言のぼけというか言い間違いに手をやいているのに。
ゼロスまで言い間違えるとはどういうことなのか。
ジーニアスとしては激しくいいたい。
ものすごく。
「…これから決戦にいく、というのに緊張感はないわね」
「まったくだ。だが、いいのではないのか?」
そう。
緊張をずっとしていればみえるものもみえなくなってしまう。
「ま、こいつなりに緊張感をほぐそうとしてるんだろうけど…
  けど、ゼロスの今のものいいじゃ、敵地にいったとたん、罠にはまってどぼん。
  ってふうに逆に緊張しかねないよね」
そんな彼らのやり取りをききつつ、しいなとしては苦笑してしまう。
ゼロスらしいというか何というか。
まちがいなく緊張をほぐそうといったのだろう。
そう理解できるからこそ、苦笑せざるをえない。
「可能性はあるわ。とにかく。心していきましょう」
「だな」

目指す先は、もう目と鼻の先。



pixv投稿日:2014年10月26日某日(Hp編集:2018年5月6日(日)開始

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あとがきもどき:

今おもえば、いくども周回やってておもうのですが。
フラノールイベって、あるいみでその後の展開のフラグ、
でしたよねぇ。(あるいみで死亡フラグをたてていたともいえる・・)
…あのまま一人だったら本気でどうしようかとおもいましたわ
いや、テイルズ系統って必ず何かしらの犠牲でてますしね
TOPさんでは詳しくふれてなかったけど、
あの魔導砲の暴走…町、消滅してたし(汗
ある作品の落日においてもまたしかり。
クラトスルートはやるにはやったけど、ゼロスが切な過ぎて…あうっ
幾度もやろう、という気にはならない、という罠
いいんですけどねぇ。父息子共闘……
さて、救いの塔にいき、物語もそろそろ終盤に!
あれ?精霊さんとまだ契約のこってるよ?という疑問は。
この塔のあとになりますよー?そこでエミルがなぜにいないのか。
それらがようやくだせる、という
エミルサイドもあるんですけどそれやったら完全に展開ネタバレなので、
あえてゲーム展開サイドを打ち込み、です(笑
(しいて言えばIFさんの展開と同じようなことをしています。
  ただいまそのシーンをIFさんは打ち込み中…)
しかし、あのシーンは皆無事だ(クラトスルート以外)
とわかっていても、別れてゆくシーンさん、幾度みても感情移入してしまう…
それって私だけなんですかね(苦笑
しかも、わかっててもなぜか涙は自然とでます。
そういや、小説版ではあえて、あのシーン、はぶかれてましたねぇ。
…全員が離脱してゆくあのシーンさん……
四巻しかないから、といえばそれまでですけど、何だかなぁ……
あれってロイドにきちんと自覚促すのに必要、と私はおもってるのですけど(しみじみ
(ぽそり、前ネタ、として投稿した別バージョンをただいま打ち込み中v
  そっちは逆光ものさんで、今イセリアあたりを打ち込み中~
  …しょっぱなから原作展開崩れまくってますけどね←牧場壊滅するし・・え゛)
さて、ひとまずスキットというよりまともに打ち込み決定さんの、
あるいみ決戦前イベントさん。
やはり、フラグはたてておかなければ(マテ)
ちなみに、魔物の卵?そんなのあった?というひとは、初期の初期~
オリジナルイベントです(マテ)
しかし、まともに打ち込みしてみたら、
夜中のこどもたちの話し合い。
あれが結構な容量になってきてます…あはははは(汗
シーン的にはただ、、会話をかわしまくってるだけ、なんですけどねぇ
その背景にある心境とか情景とかいれてたら。
けっこうな量になってくるという摩訶不思議。
ちなみに、すでに会話はもう決定してるので、
先に会話をざざっと打ち込みし、
それからきちんと肉つけする、という形で仕上げていっているこの話。


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