まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

pivixさんに投稿していた話の区切りとは変えてあります。容量的に……

※テセアラベースの中のゲーム内部の自動販売機価格
オレンジグミ  :180
パイングミ   :1080
ミックスグミ  :450
ミラクルグミ  :2700
パナシーアボトル:135
ライフボトル  :270
スペクタクルズ :9
ちなみに、ファンタジアのトールさんの自動販売機は無料!です。

テセアラペース、パスコード
マナの 光は 命の輝き 
実りの 力は 世界の理(ことわり) 
星の  命は 大樹のささやき


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重なり合う協奏曲~テセアラ基地~

学園都市サイバック。
ここにはほとほと縁がある、のだろうか。
思わずそう思わずにはいられない。
魔族を封印していたという書物があったのもここサイバック。
ここ、テセアラにやってきて天使疾患のことをききにやってきたのもここサイバック。
ことごとく縁がある、としか思えない。
ここしばらく、この街にやってくる頻度が高いような気がする。
それはもう果てしなく。
ロイドはいまだに多少元気がないが、
それでもゼロスにいわれた台詞がきいているらしく、
昨日の夜ほど狼狽している様子はみうけられない。
事実、これまでロイドはコレット達に親が誰であろうと関係ない。
といいきっており、それが自分にかかわってくると狼狽し混乱する。
口先だけだったのか、とゼロスにいわれ、
ぐさり、と心にその事実がロイドに突き刺さった、というのもあるにしろ。
そんなつもりじゃない、といっても自分が狼狽し混乱しているのは事実で、
そう思われても不思議ではない態度を自分が取っている、
というのを嫌でも自覚させられた。
いくら考えなし、といわれているロイドでもいくら何でも理解できることもある。
まずは、クラトスにもきちんと話をきいてみなければ、ともおもう。
他人から聞かされただけ、でなくクラトスの口からきちんとききたい。
なぜずっと黙っていたのか、ということをも含めて。
そしてまた、なぜ母を異形と化した組織の親玉に仕えているのかも。
ユアンのあの言い分では、
マーテルが殺された、という事件にかかわりがありそうだが。
かつて、四千年前。
何があったのか、きちんと知る必要があるのだろう、
と、そう一晩たち思えるようになったのは、あるいみ進歩、というべきか。
そんなバザーも開かれている広場。
つい先日まで外出禁止令がでていたというのにもかかわらず、
すでに町は落ち着きを取り戻しており、
いたるところに白衣をきている人々の姿が目にとまる。
そしてまた学生服らしきものをきこんでいる人々の姿も。
この町も元の姿を取り戻しつつあるらしい。
そんな広場をぬけて奥に進んでゆくことしばし。
「あれ?あそこ……」
ふと、奥にとある王立研究院。
そちらにむかうその手前。
簡単な桟橋がつくられている海の袂に見慣れた金色の髪がうつりこむ。
サイバックの町は入口付近に様々な施設、
そしてはいってすぐの広場には様々なバザー。
それらが出展されている場所があり、さらに奥にいったところにあるのが王立研究院。
この少し奥にいけば、研究院の地下につながっている抜け道があり、
その手前の桟橋の一角に見覚えのある金の髪の姿が。
マルタがふと声をあげ、みながそちらをみてみれば、
何か海の中に箱っぽいような何か、を沈めて海中をのぞき込んでいるその姿が目にとまる。
その正面というか奥側。
そこに王立研究院の入口の正面玄関があるわけ、なのだが。
ふとその人物が一行にきづいたのか、顔をあげてくる。
そして。
「あれ?みんなどうしたんですか?」
きょとん、とした声をあげてきて、そしてざっと一行をみたのち、
「あれ?エミルは?」
首をかしげつつも、そんなことをきいてくる。
「エミルは今、ネコニンギルドで気になることがあったからといって別行動中だよ」
いいつつ。
「私もいきたかったのに……」
む~、とした口調でそんな彼の言葉に答えているマルタ。
「そうなんだ。それはそうと、昨日、アルタミラで面白い騒ぎがあったみたいだね。
  あれって、ブライアン公爵。立体映像なんかじゃないんでしょ?」
ズボンのポケットにいれていたらしきハンカチをとりだし、
手をかるくふき、一行にとちかづいてゆくは、
ここ、サイバックに戻っていたはずのアステル・レイカー、その当人。
「…情報が早いな」
その質問にリーガルが思わず顔をしかめているのがみてとれるが。
昨日の今日、なのにもう情報が知れ渡っているのか、とおもうと呆れざるをえない。
「いや、だってさ。そんな装置開発とかだったらとっくに僕らもしってるはずだし?
  研究所でしらないってことは、うまくごまかしたってあたりなんでしょ?」
大概、技術力に関しては研究所のものが少なからずかかわってくる。
レザレノの力だけ、で開発されたならわからないが。
それでも、あの地にいる共同研究、という名目でいっている研究者たちが、
何の報告もしていない、というのはありえない。
「まあいいや。ちょうどみんなに連絡をとろうとおもってたんだよね。
  とりあえず、ここで立ち話は何だから、中にどうぞ?」
いって、アステルが奥にある研究所のほうに歩き出すが。
「そういえば、あれ?リヒターさんは?」
ジーニアスがこの場にリヒターがいないのにきづき、首をかしげてといかける。
素朴なるそれはジーニアスの疑問。
「あ~。…本来はまだ、簡単にリヒター達って外にでられない立場だからね。
  僕と一緒に外にいたのは、護衛、という名目もかねてたわけで。
  ここにいる限りは、地下、だよ?…くやしいけど、ね」
いいつつもそっと顔をふせるアステル。
そう。
リヒターとともに旅ができていたのが奇跡ともいえる。
まあそのあたりはアステルがごねていろいろと画策した、というかアステル流の説得をした。
という事情がありはしたが。
いまだに、ハーフエルフ達は基本、地下の研究所から出入りすることは認められていない。
もっとも、それもまたすぐに変化するであろうが。
何しろ今の事情が事情、である。
『地下って……』
そこまでいい、はっとする。
そういえば、リヒターはハーフエルフ。
そしてここ、研究所ではハーフエルフ達を地下に閉じ込め研究をさせている。
それがもともとの姿であり、リヒターが外にいた、というのが、
あるいみでテセアラとしては珍しい光景、といえる。
「まあ、いいや。コーヒーくらいはだすよ?」
コーヒー、という言葉にリーガルが顔をしかめるが。
「あ。そういえばブライアン公爵は生粋の紅茶派でしたっけ?」
旅の最中では、リーガルさん、と呼んでいたのに、なぜか公爵呼び。
それにロイド達は違和感を感じざるをえないが。
しかし、リフィルだけはその事情をすばやく察する。
ここはアステルのいわば職場のおひざ元。
そういったことも気を付けなければいけない、というのは社会人、として常識中の常識。
身分が上のものにタメ口をきいていたなどみられれば、
どんなレッテルが張られるかわかったものではない。
下手すれば不敬罪、などと他者からいわれてしまう可能性もなくはない。
「紅茶もありますよ。ま、とりあえず、中にどうぞ。しいなに聞きたいこともありますし」
いいつつ、海に沈めている装置らしきものをひっぱりあげる。
鈍い銀色に輝く長方形の小さな箱らしきもの。
それが何なのか、ロイド達には理解不能。
「うん?それはソナー、か?」
それを目ざとくみてリーガルが問いかけるが。
「ええ。ここ数日、大気中のマナが異常に少なくなっている。
  という報告があがってくるとともに、逆に海のマナが異様に増えていっているんです。
  海中に何か原因があるのでは、という意見がもっばらで、
  沖でも確認作業が行われているんですけどね」
古代の文献の中に、かつてはよくこの付近でも海底火山が爆発していた。
というのようなことが、禁書コーナーの一角に残されていた。
古代の、それもカーラーン大戦よりも前のことなのか、そのころなのかはわからないが。
しかし、このマナの数値は異常すぎる。
ゆえに、ここ研究院でも今現在、その原因究明に乗り出している矢先といってよい。
「…たしかに。昨日よりもマナが少なく感じられるよね。……まるで、まるで……」
まるで、世界再生の旅の前のシルヴァラント側のごとくに。
そこまでまだ少なくはないが、昨日よりはるかにいっきにマナが減っている。
そんなアステルの言葉にぽつり、とジーニアスがつぶやきをみせる。
もしかして、コレットの再生の旅の結果が今ごろになって表れているんじゃあ。
そんな思いも否めない。
繁栄世界と衰退世界。
砂時計のごとくに交互にマナを利用している、という二つの世界。
コレットは完全に儀式を終えきってないにしろ。
しかし、儀式も終えたはず、なのに互いの世界にはマナかしっかりと満ちていた。
ユアン達レネゲードもいっていた。
そんなことは通常ならばありえない。
可能性があるとするならば、大いなる実りに限界が近づき、
最後の力を振り絞っているのではないか、と。
もしも、そう、だとするならば。
たしかに、昨夜、彼らがいっていたように時間はもう残されてはいないのだろう。

「どうぞ」
通されたのは、研究所の二階にある会議室らしき場所。
その手前の大きな黒板のようなものに、テセアラの地図がはりつけられているのがみてとれる。
そしてそこにいくつかの×印のようなものがかかれており、
いくつかのマグネットらしき赤い磁石がついたものがおかれているのがみてとれる。
この黒板は磁力をおびており、磁石をくっつける性質があり、
それらを利用して、このように何かを張り付けてくっつけることが可能となっているらしい。
アステル以外の女性研究員、なのだろう。
それぞれテーブルの席にとついたみなの前にと飲み物が運ばれてくる。
地図の横にはいくつかの方式にもみえる文字の羅列がかかれており、
ここで何かの発表と報告がされているのは一目瞭然。
「これは、ブライアン公爵。それにしいな、よくきてくれた」
がちゃり、と少し遅れ、部屋にとはいってくる人影が三つ。
みれば、手前にいる人物は彼らにとっても見覚えがありすぎる人物。
「シュナイダー院長?!」
その姿をみてしいなが驚きの声をあげる。
「あ、たしかそのおっさん、前、雷の神殿についてきた……」
ロイドがその姿をみて思わず声をあげるが。
ぼかりっ。
すばやくそんなロイドに横にすわっていたリフィルの鉄槌がくだる。
「いってぇ~!先生、何すんだよ!」
「この施設の責任者にたいして何ていう口の利き方ですかっ!まったく、あなたという子はっ」
「ほっほっ。あいかわらず元気なお子さんですのぉ」
頭をおさえ、テーブルに突っ伏すロイドに、リフィルが怒りの声をあげるが。
どうやらそんなロイドの態度は現れた人物、
ここ、王立研究院所長でもあるシュナイダーの気分を損ねることはなかったらしい。
「あたしをまってた…ってこと、ですか?」
「うむ。たしか、お前は火の精霊とも契約をかわしておったな?」
「あ、は、はい」
いきなりいわれ、しいなは戸惑わずにはいられない。
「とある付近で、ここ最近、火のマナと地のマナが高まりをみせている」
いって、シュナイダーが視線をアステルにむけると、
アステルが黒板の前にとたち、トン、トン、といくつかの×印らしき場所。
それを指揮棒っぼい何か、でしめしてくる。
「それとともに、微動ですが、海底地震も常に観測されはじめてます。
  地上においても、頻繁にここ最近地震の数度があがってきていますし」
シュナイダーの言葉につづけるように、アステルがいってくる。
その言葉に思わずしいなとリフィルは顔をみあわせる。
たしかに。
精霊の楔を抜くごとにその直後に巨大な地震が発生したかとおもうと、
定期的に地震が世界に起こっているのは紛れもない事実。
体にかるく感じるものから、完全に揺れを感じるものまで。
それが余計に人々に不安をあおっていたりする。
「精霊達にきけば、
  何か詳しいことがわかるんじゃないか。っていう意見がでていてね」
「…そういう、ことかい」
その言葉にしいなは溜息をつかざるをえない。
たしかに、しいなをまっていた、というのはうなづける。
彼らはしいなが精霊と契約をはたしていることを、
まちがいなくアステル達からきいて知っているはず。
ならば、たよってきても不思議ではない。
「じゃあ、呼び出してきいてみればいいのかい?」
「できたらお願いできないかの?不確定の要素よりは、
  確実なる精霊のお墨付きがあれば少しは目安になるしの」
シュナイダーの言い分も理解できないわけではない。
それに、しいなとしても気になってはいた。
マナが少なくなっている、ときかされてからこのかたずっと。
「呼び出すとしたら、ノーム、かしらね?
  イフリートではこの建物そのものが燃えてしまいかねないわ」
それならばまだノームのほうがかなりまし。
それに先日のことからあのノームは大きさを自由に変えられるっぽい。
ならばここで呼んでもそう問題ないであろう。
この会議室自体は吹き抜け構造になっているらしく、
天井付近に設置されている天窓からは外の明かりがさしこんでおり、
つまり高さ的には十分、といえる。
ちなみに大きな荷物などを運び込むときのために、
天井にある天窓は開閉自在となっており、
外からここに直接荷物を運び込むことができるようにとなっている。
「じゃあ、善は急げっていうし。よんでみるよ」
いいつつ、しいなが立ち上がり、そして。
「気高き母なる大地のしもべよ 契約者の名において命ず 出でよ ノーム!」
懐から契約の指輪、そして契約の証ともいえる符をとりだし、召喚の言葉を紡ぎだす。
「む~ん、よんだ~?」
しいなの言葉とともに、天井付近にと光がはじけ、
そこに見慣れた巨大なもぐらのような物体が突如として出現する。
「?」
それとともに、急激にがくり、としいなの中から何かが異常に抜けてゆく感覚。
これまで精霊を召喚してもこんな感覚は一切なかった、というのに。
いや、ここにくるときに召喚したヴォルトの時にも感じたこの感覚は。
気のせいか、とおもっていたが、そうではない、らしい。
そんなしいなを見下ろしつつも、ぽん、と何かに気づいたかのように、
ふわふわと浮いたままのノームがその短い手をかるくたたき、
「お~。契約者か~。そういえばいっておくぞ~?
  マナが少なくなっているから、俺ら精霊をよぶのは、
  お前自身のマナが使われるようになるからな~?
  今までは周囲のマナで俺たちも具現化してたけど~」
さらり、と何やらあるいみで重要なことを
空中にというか、天井付近にふわふわとうかんでいる巨大なるもぐらにみえる
ともあれ、地の精霊ノームが何やらいってくる。
というか、地の精霊ノームはかなり重要なことを今、さらりといわなかったか?
そんな疑問がロイド以外の全員の脳裏にふとよぎる。
ロイドは今、ノームがいったその意味をまったくもって理解できていないが。
「それは、どういういみ、かしら?」
リフィルが注意深く言葉を選び浮かんでいるノームにと問いかける。
が。
「今、世界は不安定なんだな~。まあ、それはそうと。
  あまり俺たち精霊をよべば、数日うごけなくなるかへたしたら死ぬぞ~?
  契約者にかなりの精神力があるならともかくとしてな~?
  で、呼び出した理由は何~?」
いやいやいや。
死ぬって。
今、さらり、と何やら重要なことがいわれたような。
そんなノームの台詞にその場にいた全員の思いが思わず一致する。

ノームとしてはこれ以上の説明をするつもりはまったくない。
というか口止めされている。
王直々に言われのに、へたにいってしまえばお仕置きがまっている。
ゆえにいえるはずもない。
契約に関する理が、契約者と自分達の間の理。
それらが多少書き換えられたのだ、ということを。
これまでは呼ばれた精霊は周囲のマナをもってして具現化していた。
が、今後は契約者のマナをもってしての具現化。
つまりは、あまりに意味もなく精霊達を契約したものが呼びだせないように、
ラタトスクが引き直した理の一つ。
それくらいの理の変更ならば、一日もたたずに事足りる。
今現在は微精霊達と契約をかわしているようなものもいないがゆえに、
大精霊達の理変更だけ、で足りるのだから。
それもあり、全員を呼び出され理を変更されたのはつい昨夜のこと。
精神世界面アストラル・サイドにおいての変更であったがゆえ、
いまだに封じられているオリジン、そしてルナもその理の変更を受け付けている。
もっともそんな事情をこの場にいる人間たちが知るはずもないが。

しいなの様子がさきほどからおかしい。
たしかに、何かがある、のだろう。
ノームを呼び出した後、びっしょりと汗をかき、息も何やら苦しそう。
そういえば、とおもう。
ここにくるまでヴォルトを呼び出していたときも、
しいなはなぜか息苦しそうにしていたような。
しいなのことも気になるが、ともあれ今はノームにといかけるのが先。
ゆえに。
「今、世界でマナが少なくなっているわね?
  あと海中で地と火のマナが増えている、ときいたのだけども?」
疑問点は多々とあれど、ひとまず気になっていることをといかけるリフィル。
「ああ、そのことか~?問題はないぞ~?
  世界の地表の存続のために必要なこと、だけだから~。
  ってそろそろ契約者の精神力が危険信号っぽいから、じゃ、またな~」
そんなリフィルの問いかけに、あっさりと答えるノーム。
そう、必要なこと。
というか、王の決定に逆らえるはずが、ない。
しかし、あまりノームとてこの場にいるつもりはない。
それでなくても今はとある役割を果たしているまっただ中。
ゆえに。
「あ、まっ……」
まって、といいかけるよりもはやく、
光とともに、姿を現したばかりのノームの姿ははじけ消える。
それとともに、ぐらり、としいなの体が前方にと崩れ落ちる。
『しいな(さん)!?』
そんなしいなをみてその場にいるほぼ全員の声が一致するが。
「あ…あはは…体に力がはいらない…よ。何だよ、これ…」
しいなは体に力をいれたいが、力がはいらない。
たちあがることすらままならず、そのばにペタン、と座り込む。
そんなしいなの様子をみて、ちかづき脈をとりつつも、
「…今、ノームがいったことに関係しているのでしょう。
  しいなにはここまでヴォルトを使役してもらっていたわ。
  やはりというかレアバードの燃料が
  普通に使用しても燃料不足で数値がゼロになっていたから」
だからこそ、常にヴォルトの力を補充する必要があった。
そして今、ノームがいったことが真実だ、とするならば。
精霊達をよぶにあたり、しいなの精神力がかなり削られている、とみて間違いない。
ノームだけ、ならば問題なかったのだろうが。
ここにくるまで、しいなはアルタミラからここサイバックまで、
ヴォルトを使役し、レアバードに常に雷のマナを注いでいた。
そしてほぼ休息なしでのノームの召喚。
「つまり、姉さん、それって……」
「世界のマナが少なくなっている以上。
  しいなの精霊召喚にもリスクが付きまとう、ということね。
  今の言い回しではおそらく、しいなの生命力。
  それを源、として精霊は具現化しているのでしょう。
  …今後、多用は禁物のようね」
だとすれば、レアバードの使用も控えたほうがいいであろう。
盛大に溜息をつくリフィルはおそらく間違ってはいない。
てっとり早い移動手段の方法が絶たれたといってよい。
だからこそ溜息をつかざるをえない。
「でも、精霊が嘘をついてる可能性も……」
ロイドがぽつりと何やらいってくるが。
ロイドも完全に理解しているわけではない。
が、しいなの命が危ない、ということだけは何となくだがわかった。
というか、さらり、と今、ノームが死ぬ、といっていたのは事実。
「ロイド。精霊は嘘をつけないのよ。本質的にね。そのようにいわれているわ。
  そして精霊は一度かわした契約、そして盟約を絶対にたがえることはない。
  ……人間、とは違ってね。彼らは交わした誓いには絶対なのよ」
だからこそ、あのエミルも…おそらくは、何もいわずにミトスとともにいただろう。
とリフィルはおもう。
ミトスがかつて、精霊と約束した言葉の通りに。
一緒に旅をしよう。
そう彼がいった、というその約束を果たすために。
「大地にとって必要…か。そこに意味がありそうですね。院長」
「うむ。しかしこの様子では、精霊召喚にたよれぬ、ということか。
  まずマナがどうして減少しているのか。
  そのあたりの原因究明が先ということじゃの。
  衰退世界に入ったとするならば、救いの塔がみえているというのがおかしいしの」
伝承にあるように、衰退世界にはいったのならば、
今現在もみえている救いの塔がみえなくなるはず。
にもかかわらず、今はまだ救いの塔はしっかりとみえている。
マナがすくなくなっている、というのは一般の人々には感じられないであろう。
が、近いうちに障害は確実に表面化する。
このままでは、エレメンタル・カーゴもマナ不足で使用不可能になってしまう。
大地のマナも地表においてはことごとく減ってきている。
が、地中は逆に増えてきており、その誤差がどんどんはげしくなっている。
それは日々、というか数時間おきにマナの測定をしているがゆえに、判明している事実。

どうにか気力で意識をたもっていたしいなだが。
しかし精神的疲労はやはりかなりなものであるらしく、
ひとまずあいた部屋を借りてしいなを横にしたのちに、
「そういえば、アステル。あなたに聞きたいことがあるのだけども」
かなり疲れた、のだろう。
そのあたりのことはさすがのリフィルにもわからないが。
しばらくすると、しいなの寝息が聞こえ始める。
体が休息をもとめ、眠りにつく、という事態が並大抵な精神力を使ったわけではない。
というのを物語っているといってよい。
「何ですか?」
しいなが寝入ったのを確認しつつ、みながみな、一つの部屋に集まってきている今現在。
否、ゼロスだけはちょっと、といってこの場にはいないが。
どこにいくのか、ときけば、やぼなことをきくな、といっており、
おそらくは、厠だろう、というのが暗黙の了解。
何しろゼロスがむかっていった先は厠…
ここテセアラではトイレ、といわれているらしいが、がある方向だったのだから。
「前、地の神殿で助けたウィノナ、っていう人のことなんだけども」
かの神殿において、異形となっていた人物。
「?彼女がどうかしたんですか?たしか神子様の屋敷て養生してるんですよね?
  一応シュナイダー院長には生きていたことは報告しましたけど。
  彼女の立場も微妙なんですよね…
  表向きには、研究院から逃げ出した、と認識されていますし…
  実験に利用されていた。というのは伏せられていますしね」
顔をふせつつそういうアステルの口調には何ともいえない思いが込められているように感じられる。
否、実際に様々な思いが込められているのであろう。
「彼女はここにいた、のよね?元々は?彼女の家族構成は?
  もしくは、彼女が外部と接触するようなこととかあったのかしら?」
「基本ないとおもいますよ?彼女はかなり貴重なサンプル扱いされてたようですし。
  僕も地下にいりびたらなければ出会うこともなかったですし…
  というか、ユアンさんと同じようなことをきいてくるんですね?」
そんなリフィルのといかけに、アステルがすこしばかり首をかしげてといかける。
「ユアン…ですって?!」
リフィルが叫び、ジーニアスやマルタ達も思わず顔を見合わせる。
「ええ。今朝早くでしたか。ユアンさんがやってきて。
  ウィノナ姉さんのことをききにきたんですよ。
  詳しくはケイトが知っているはずっていったら、ガオラキアの森にいくって」
実際、今朝早くにユアンがやってきて、リフィル達と同じようなこと。
つまりは、ウィノナについてきいてきた。
だからこそアステルは首をかしげざるをえない。
ユアンにしても、彼らにしてもどうして彼女のことを問いかけてくるのか、と。
「ケイト…って。あのケイト、か?」
アステルの言葉にロイドが反応する。
あの教皇の娘である、というケイト。
そしてまた、プレセアの実験に、母が携わっていたという実験を行っていた女性。
「ええ。おそらくみなさんが思っている彼女で間違いはないかと。
  彼女、前のときの教皇の騒ぎで娘だっていうのがばれて、
  この施設の中にはいたたまれなくなったらしくて。
  今はほとぼりがさめるまで、オゼットの村を再生させるとかいって。
  あそこにすんでいるはずですから、それをいったらユアンさん、
  いってみるっていってましたけど…あの、ウィノナ姉さんに、何か?」
ケイトが教皇の娘であったことは、知っているものはしっていたが。
知らないもののほうが大多数であった。
が、彼女が脱獄したのをうけ、教皇が自分の娘を逃がしたのでは?
というような意見が一部からあがりはじめ、
それゆえに、彼女の立場、すなわち教皇の実の娘であることが判明し、
王立研究院に所属しているハーフエルフ達も、彼女にたいし懸念を示していたりする。
何しろこれまで仲間だ、とおもっていた女性が、
自分達を虐げる原因ともいえる教皇の実の娘だ、というのである。
そもそも、ハーフエルフ達がこのような扱いになったのは、
教皇がハーフエルフ法を強制施行したから、というのは誰もがしる事実。
当然、娘であるケイトへの態度の変化も当然で。
アステルからしてみれば、
ユアンにつづき、彼らがウィノナのことを聞いてきたことに疑問を感じざるをえない。
彼女の身にまた何かあったのだろうか。
それとも、彼女がもつある意味での予知能力に関係してなのか。
「ウィノナ姉さん、まさかまた誰かの死でも預言しましたか?」
『!?』
さらり、といわれたアステルの言葉に今度こそその場にいた全員が絶句する。
「それは、いったい……」
「ウィノナ姉さん、ふとしたはずみで、他人の死期がわかるらしくて。
  ちなみに僕が昔きいたところによれば、その光景が映像のようにみえるらしいですよ?
  その力もあって実験生物扱いされていたようですけど…
  そもそも、ウィノナ姉さんの体にあるマナは通常のハーフエルフ達。
  彼らからよりもものすごい量だった、というのもあるらしいんですけど」
だからこそ、エンジェルス計画の被験者に選ばれてしまった。
そう、アステルはあのあと、ウィノナのことを報告したのち、
シュナイダーからそんなことを聞かされた。
昔、自分の世話をしてくれていたときにはそんなそぶりをまったくみせず、
いつもにこやかに笑っていたイメージしかなかった彼女が、
そんな扱いをうけていた、などアステルはあまり思ってもいなかった。
いつも常に人のことをきにかけ、誰にも好かれている女性。
それがウィノナ・ピックフォード、という女性であった。
それでも、彼女の預言というか死期予測は絶対で。
それを恐れていたものがいるのも知っていた。
「未来予知。その力を自在に操り、またものとすることができればかなりの力になる。
  それもあっていろいろと実験されていたようですけど。
  僕も伝え聞いただけ、なので詳しくはしりませんけどね。
  彼女の両親もどこにいるのか不明、ですし……」
その力をうとまれ、この研究院に売り飛ばされたのだ、と他者からきいたことがある。
ウィノナは常に笑っており、そんなそぶりをまったくみせなかったが。
「僕の予測では、彼女の力って、精霊に何かかかわりがあるんじゃないか。
  とおもえてるんですよね?」
アステルが精霊研究にのめり込んだのもそれが一つの原因。
少しでもいつも自分の世話をしてくれる彼女の憂いを取り除きたかったのもある。
リリーナもはじめはハーフエルフだ、というので戸惑っていたらしいが、
彼女だけは別であり、かなりなついていたことをアステルは知っている。
いつも温かい笑顔で誰もを包み込んでくれるハーフエルフの女性。
ハーフエルフ、というのがもったない、というのが彼女にかかわったほとんどのものの認識。
この地にやってきたとき、たしかに精霊にも興味はありはした。
が、精霊研究の一任者、とまでいわれるようになった所以は、
ひとえに、彼女の体質を少しでも解明すれば、彼女の境遇がどうにかなるのではないか。
子供ながらにおもって、アステルなりに必至に勉強、また調べた結果。
「でも、僕なりに調べてみても、ウィノナ姉さんと精霊とのかかわり。
  それはまったく繋がりがなくて…突拍子もないかもしれませんけど。
  もしかしたら、姉さんの前世に何かがあるんじゃ?という意見をいったこともあるんですけど」
その言葉に息をのんだのはリフィルだけ、ではない。
昨夜のあの言葉をきいていたロイド以外のほぼ全員、といってよい。
「そういえば、予想にお任せするわ、としか
  あのときもウィノナ姉さん、いわなかったんですよね」
それからすぐに、ウィノナは実験材料とさせられ、姿を消してしまったが。
結局、アステルはあのときの微笑みの意味を知らされないままに。
「ウィノナ姉さんの実験にかかわっていたのもケイトのはずですから。
  姉さんのことについてはケイトにきいたほうが詳しい、とおもいますよ?」
アステルとて知っていることは限られている。
が、研究を、実験を実行していたケイトならば。
まだ他にも何かをしっている可能性がなくもない。
そんなアステルの説明に思わず無言で顔を見合わせるリフィル達。
やはり、何か、があるのだろう。
間違いなく。
それに、今、アステルがいった言葉の中にたきになることが。
人の死でも預言しましたか?
いかにも、さらり、といわれたその言葉。
あのとき、彼女がいったあの言葉。
――間に合ってよかった。
たしかに、息も絶え絶えに、彼女はそんなことをいっていた。
つまり、彼女には何か、が視えていたのだろう。
確実に。
そして、そこに攻撃をうけそうになっていたタバサをかばった原因があるのだろう、
とも。
説明されなくても何となくだが理解する。
できてしまう。
そんなことがありえるのか、という常識的な見解でみればそう思うだろが。
しかし、あのミトスの態度。
そしてあの彼女の命をかけたあの行為。
何もない、とは絶対に言い切れない。
確実に、彼女とミトスとの間には、何か、がある。
生まれ変わり。
そうミトスは確かにあのときにそういっていた。
もしも、その言葉が真実であり、彼女もまたそれを覚えているとするならば。
ありえない。
が、あり得ないことはありえない。
それはこのたびの中でリフィルは嫌というほどに思い知っている。
あり得ないことはありえないのだ、と。
そしてその思いはジーニアスとて同じこと。
マルタにしてもまた然り。
「オゼットなら、私がくわしい、です。ケイトさんを探してみたいです」
それまで黙って話をきいていたタバサが口をはさんでくる。
これまで自らが考えて発現するようなことはめったとなかった彼女なれど、
旅の最中、人工知能が育っており、自分で考え発現することも可能となっている。
彼女は自覚していないが、すでに彼女の【心】というものも確実に芽生えている。
当のタバサににその自覚はないにしろ。
結局のところ、やはり実験にかかわっていたであろうケイトにきく、しかないのだろう。
問題なのは、元教皇がまたケイトに何かしらの繋がりをとろうとして、
接触している可能性があるかもしれないという懸念もある。
何しろ手足となるであろう者たちをも脱獄させたくらいである。
再びまた娘であるケイトを利用しようとしていても何ら不思議、ではない。
もっとも、そのあたりに関しては、イガグリ達からあのとき、
教皇があのケイトに接触をする可能性があるから、
常に見張りをつけている、という報告はうけているにしろ。
「時間がおしいわ。二手にわかれましょう。しいなのこともあるし」
いつ、しいなが気が付くかわからない。
それに、気が付いて行動したとして入れ違いになる可能性が遥かに高い。
「アステル、しばらくしいなを任せてもいいかしら?」
「問題はないとおもいますよ?ね、院長」
「うむ。しいなはもともとわれらの協力者の立場ゆえにな。
  しかし、二手にわかれる、とはこちらに他は誰がのこるのだ?」
残るにしても宿の確保の問題もある。
「オゼット付近なら、私もまた、詳しい、です」
朝になりてプレセアの意識も浮上してきて、アリシアは再びプレセアの中にと引っ込んでいる。
いまだに体が何だか熱っぽく感じる以外は体にあまり変調はない、らしいが。
「プレセアは一応、まだ安静にしておいたほうがいいでしょうね」
リフィルがいうが、
「…でも、リフィルさん、私、ここ、嫌い、です」
そっと顔をふせていうプレセアの気持ちはわからなくもない。
本当ならばプレセアはこの建物にすら入りたくはない。
何も知らずに誘惑にのってしまった自分が悪い、とはわかっていても。
失われた十六年、という年月が戻ってくるわけではない。
「まだ、動いていたほうが、気が紛れ、ます。
  それに…私もウィノナさんのことは他人事、ではない、ですから」
自分と同じ被験者でもあるというウィノナのことは、プレセアからしても他人事、ではない。
「そう。なら、とりあえずそれぞれの意見をきいてから決めましょう。
  ここ、サイバックに残る組と、そしてガオラキアの森にケイトを訪ねていく係りと」
リフィルを含め、ジーニアス、ロイド、コレット、マルタ。
そして、テセアラ組がしいな、プレセア、ゼロス、セレス、リーガル。
つまりは全部で今現在は十名。
「なら俺様はしいなが気になるしここに残るわ。セレスも残るだろ?」
「お兄様がここに残られるのであれば」
「マルタちゃんものこらねえか?」
「え?私も?」
「エミル君がもどってくるかもよ?ここはアステルくん達もいるからな」
「エミルが!?うん、私ものこる!」
戻ってはこないだろうな、とはおもうが、
マルタをここに残らすには、エミルのことを持ち出すのがてっとり早い。
「たしか、あなたはシルヴァラントのかたでしたな。
  では、待っている間、シルヴァラントのことを教えていただけますか?
  アステル達がいうには、いずれは世界が統合される、とのことですし」
それにアステル達いわく、マルタ、と呼ばれている少女は、
シルヴァラント側の王族の一人だ、ともきかされている。
ゆえにシュナイダーがそんなマルタにと提案してくる。
何の事前情報もない状態と、あるていど情報があってからではまったく異なる。
「そうね。エミルのこともあるし…まあ、今回はケイトのもとにいくだけ、だし。
  ここからケイトがいるであろうオゼットはすぐだしね」
「オゼットにいくのであれば馬を用意いたしましょう。
  そのほうが早くつけるでしょうし」
リフィルの台詞にシュナイダーが提案してくる。
「んじゃあ、俺はノイシュにのるよ。コレットものるだろ?」
「うんっ!」
最近はすっかりノイシュの背にのっての移動、とかないし、
何よりもほとんど町中などでは体を小さくしているがゆえ、
ノイシュも少しは動き回りたいであろう。
実際、今もノイシュは小さくなってロイドのポケットの中にとはいっている。
もしもそのままの姿で街中に移動していれば、
その特徴からプロトゾーンだ、ときづかれて、騒ぎになっていたであろう。
もっとも、そのことにロイド達はいまだに気づいてはいないのだが。
ノイシュの背中には大体三人ばかりがのることが可能。
こっそりとコレットをつれだして村をでたときなどは、
ジーニアス、ロイド、コレットでノイシュの背にのっては移動していた。
もっともあとから大概ばれて、こってりとロイドが主におこられていたのだが。
「私は、普通にあるく、ので平気です。わたしの重さに動物がまいってしまいます」
タバサの重量はかなりある。
それになによりも伊達に機械の体ではない。
そのあたりの機能もアルテスタはいれこんでおり、
タバサが全力で走れば、実はエレカー並、というスピードが出せたりする。
そんなタバサの言葉にしばし考え込み、
「いえ。タバサ。あなたはここに残ってちょうだい。
  ゼロス達だけではすこしばかり不安だわ」
「リフィル様ぁ。俺様、信用ないなぁ」
セレスとマルタとゼロス。
はっきりいってゼロスに二人があっさりと、
何かがあったとしたら丸め込まれる未来しか思い浮かばない。
誰か止めるものがのこっていなければ、何を短い間にしでかすか。
確実にお目付け役、は必要であろう。
「道案内はプレセアに頼むわ。たしかケイトはみずほの民曰く、
  アルテスタの家に今は住んでいるといっていたもの」
あの場はすでに人がすめるような場所はない。
ゆえに空き家に今はなっている…正確にいえば留守にしている、というべきか。
いまだにアルテスタは王都に捕らえられているままであり、
タバサも一行についてきている以上、あの地にすんでいるものはいない。
タバサもあのまま空き家にしておくよりは、そのことをきかされても、
それを別に咎めるようなことはいっていない。
むしろ、誰かがすんで家をいつもきれいにしてくれているほうがよほどまし。
「…シュナイダーどの。神子があまりハメを外しすぎないようにみはっておいてくれ」
「おいおい。どういう意味よ?リーガルさんよぉ」
リーガルがそんな会話をききつつも、溜息まじりにシュナイダーにと語り掛ける。
そんなリーガルにすばやくつっこみをいれているゼロス。
「じゃあ、森に向かうのは、私とロイド、ジーニアスとコレット
  そしてプレセアとリーガル。これでいいわね?」
別に話をききにいくだけ。
それに、ではあるが何となくリフィルの勘ではあるが、
会いに行ってもいないような。
もしもそうだとしたとしても、彼女の回りには、
教皇の動向を見張る、という名目でみずほの民が必ずどこかにいるはずで。
彼らにきけば彼女がどこにいったか、くらいはつかめるであろう。
六人での少ない移動、ということもあり。
馬はひとまず二頭のみを借りることに。
ノイシュにロイドとコレット。
リフィルとプレセア。
ジーニアスとリーガル、という組み合わせにて彼らは森にと向かうことに。


~スキット:ガオラキアの森にむけて~

ジーニアス「ほほぼくがプレセアとのる!」
リーガル「何をいう。まだ彼女の体は不安定なのだ。
      何かあったとき、お前では対処できまい?」
ジーニアス「そ、そんなことないよ!」
リーガル「体がふらついて、馬からおちそうになったとき。
      おまえはは彼女を支えることができるのか?」
ジーニアス「うっ!」
ロイド「?別に誰が誰とのっても関係ないんじゃないのか?」
コレット「うわぁ。ノイシュの背中、久しぶり~」
ロイド「こいつもここさいきん、ほとんど小さくしてるからなぁ。
     それにしても、なんかおまえ、元気ないぞ?」
ノイシュ「く~ん・・(王様…本気、なのかな…)」
リフィル「ああもう!喧嘩をするんじゃありません!
      リーガル!あなたまで!プレセアは私とのります」
ジーニアス「そ、そんなぁ!」
リーガル「しかし・・・」
リフィル「しかしも何もありません!」
リーガル&ジーニアス「「・・・はい」」
プレセア「?別に私がどちらとのっても問題ないのでは?」
リフィル「いいのよ。ほうっておいても。さ、プレセア。いきましょう。
      何か体に異変があったり、不自然を感じたらすぐにいうのよ?」
プレセア「…リフィルさん。わたし、子供じゃあありません……」
リフィル「でも、あなたの体はまだアリシア曰く不安定らしいからね。
      できたらあの場にのこっていてほしかったけど。
      あなたの気持ちもわかるものね」
誰しも、実験道具として利用されていた場所に長くいたい、とはおもわない。
プレセア「そういえば、昨夜もアリシア、出ていたんですよね?」
リフィル「そうね。今、彼女は?」
プレセア「…語りかけても眠ってます」
リフィル「そう……」
彼女なら何かしっていそうな気がしたのだが。
しかし、眠っているのであればどうにもならない。
ジーニアス「うう。何でリーガルと一緒の馬にのらないといけないのさ!」
リーガル「ふむ。まあ、たしかに。リフィル殿ならば、
      彼女の体に異変があってもすぐに治癒術で対処可能ではあるな」
ジーニアス「…ロイドのほうにのせてもらおうかなぁ」
リーガル「ノイシュにあまり負担をかけるのはどうか、ともおもうぞ?」
ジーニアス「あんたにだけ!はいわれたくないぃぃ!」
コレット「なんだか、ジーニアスとリーガルさん、仲良しだねぇ」
ロイド「だな」
リフィル「・・・・・・・・・はぁ。とにかく、いくわよ」


※ ※ ※ ※


ガオラキアの森。
サイバックから北東の位置にある鬱蒼としげる森。
魔の森、ともいわれており、森に関しては様々な逸話が飛び交っている。
たとえば森の中を死者が練り歩く、とかそういった部類の怪談話もきりがない。
そんな森にではあるが、
逆をいえばその森以外にはこの付近には何もない、といってもよい。
森の中にあった唯一の村は謎の雷によって壊滅した、という。
表向きには謎、といわれているが、今では誰もが知っている。
天使達によってかの村は粛清をうけたのだ、と。
それはつまり、神子を教皇騎士団に引き渡そうとしたのが原因だ。
と誰もが言葉にしないまでもそう理解していることを意味している。
真実は多少異なるのだが、内情を知らないものからしてみれば、
かつて、実際に古の王家が神子を蔑ろにしたあげく、
天界クルシスの粛清…スピリュチュアの悲劇とよばれし悲劇が実際にあったこともあり、
それを人々が疑うことはまずありえない。
しかも、それに伴うように神鳥シムルグとおもわれし鳥まで目撃されているのである。
誰しも天の怒りが自らにも及ぶのではないか、とびくびくしているといってよい。
だからこそ、ケイトは町に近づくことすらできない状態になりはてているのだろう。
そうリフィルは予測をたてている。
実際、リフィルとて神鳥といわれているシムルグをみている。
…正確にいえば、捕らえられていた自分達をエミルがかの鳥にのって、
助けにきたのが起因しているのだが。
街からでると北東にむかってきちんと道が整備されており、
簡単な石で塗装されている道がしばらくつづいている。
周囲にはある程度刈り取られた草原もひろがっており、視界は良好。
そんな整備された街道を北東にと進んでゆくことしばし。
やがて、目的の森の入口にとたどり着く。
以前、幾度か森にはいったときは、なぜか魔物が率先し、
道案内と明かりがわりになるつもりだったのかとある魔物が周囲を照らし出していたが。
この付近にはレンジャーやソーサリス、といわれているものたちがいるらしく、
彼らは魔物、ではないが、シルヴァラント側でいうシーフ…
つまりは山賊達に近しい行為をしてくるという。
道行く人々を襲い、物資や資金を奪うその行為は、国が目を光らせているらしいが、
彼らは術を使用するらしく、
おそらくはディザイアンの関係者だろう、というのがもっぱら人々の認識。
実際は国のハーフエルフ捕縛から逃れたものたちが、
生きていくために、犯罪に身を落としているのだが、
そんな事情を人々は理解すらしようとしていないのがここテセアラの現状。
魔物は襲ってこないが、そういったものたちの襲撃は当然あり、
もっとも馬にのっている以上、そんな輩をやり過ごすことは可能であり、
馬を走らすことによってそんな輩をかわしてゆくことしばし。
やがて、森の入口付近にと差し掛かる。
「先生、馬はどうするんだ?」
「とりあえず、馬からおりて、このまま馬をつれて進んでいきましょう」
ロイドの問いかけにしばし考えたのち、
「プレセア。馬が通れる道もきちんとある、のよね?」
でなければ、オゼットの人々がどう移動していたのか、という疑問がわく。
物資などはたしかに北にある桟橋から船で移動させればいいだろうが。
いつも船がある、というわけではないはずで。
ならば地上のルート、というのも確保されているはず。
前回この地にきたときは魔物達の先導もあってかおそらく一番の近道であったのだろう。
時折狭いようなけものみちらしき場所も通った記憶があるが。
馬が一緒な以上、きちんとした道を進んでゆくべき、であろう。

「あいかわらず、不気味なところだな…ここ」
森にはいり、鬱蒼とした木々をみつつつ、ぽつり、とロイドがつぶやく。
「すご~い。暗いねぇ」
そんな鬱蒼とした薄暗い森であるが、逆にコレットは嬉々としてそんなことをいってくる。
もっとも、かつてこの場にやってきたとき、
コレットはこの奥のオゼットの村においてロディルにさらわれてしまったのだが。
「コレット…あいかわらず緊張感がないよね……」
そんなコレットをみつつ、溜息まじりにつぶやくジーニアス。
コレットらしい、といえばそれまでなれど。
でも、この場にくるたびにジーニアスは思い出さずにはいられない。
このガオラキアの森ではいろいろと起こった。
そもそも、ここでリーガルが再び襲撃してきてからのち、
彼が同行するようになった、といっても過言でない。
そしてまた、襲ってこようとした襲撃者は、
なぜか突如として地面にあいた穴におちたりしたこともジーニアス忘れていない。
「えへへ。ごめんね」
そんなジーニアスにたいし、
ぺろり、とコレットが舌を出して何やらいっている様子が見て取れるが。
そんなコレット達を傍目にみつつも、
馬をおり、ゆっくりとリフィルとリーガルがそれぞれ馬をひきつつ
「いきましょう」
リフィルの言葉をうけ、そのまま森の中にと足を踏み入れる。
ロイドはロイドでその横にノイシュを連れ立ちて、リフィル達を追いかけるように、
あわてて森の中に足を踏み入れてゆくが。、
ロイドはロイドでその横にノイシュを連れ立ちて、森の中にとはいってゆく。

一応、森の中にもきちんとした道らしきものはあり、
馬を連れ立ち移動するのに困ることはないが。
それでも、時折道なりに木々の根が張り出していたりする以上、
進みやすい道である、とは言い難い。
「それにしても…魔物の姿がまったくみえないのがきになるわ……」
以前、この地にやってきたときは襲ってくる気配はなかったといえど、
かならずどこかみえる範囲に魔物達の姿はみうけられた、というのに。
こうして道なりにすすんでいても、魔物達の姿がまったくもってみうけられない。
そもそも、聞こえてくるであろう虫や鳥の声すらも今現在はほとんどきこえてこない。
しぃん、と静まり返っている様が逆に不気味さをより強調しているといってよい。
真実は、ラタトスクよりしばらくおとなしくしておくように、
追って命令を下す、という命令が直接下っているがゆえ、
魔物達はひっそりとそれぞれその身を隠し、また潜めているのだが。
そんな事情を当然、リフィル達が知るはずもなく。
ゆえに、この気配すら感じない森のあり方に違和感を感じざるをえない。
たしかに何かがおこりかけている、のだろう。
ユアン達がいっていたマナが少なくなっている、という現実。
実際、リフィルやジーニアスが感じ取れるマナも少なくなっている、
と肌身をもってして理解ができている。
マナが少ない。
それはまさに、衰退世界であったシルヴァラントのようではないか。
しいなやユアンがかつていっていた。
この世界は砂時計のようなもの。
限られたマナを互いの世界で使用しているがゆえ、
どちらかがマナが満ちていれば片方の世界はマナ不足になる、と。
だからこそ、繁栄と衰退を繰り返す、そんな世界になっている、と。
そしてしいなは、マナが少なくなる衰退世界になるのを防ぐため、
かつてはコレットをシルヴァラントに国の命令をうけて暗殺にやってきていた。
クラトス曰く、完全に衰退世界にテセアラがかわってしまったわけではない。
といっていたが、しかし本当にそう、なのだろうか、という思いが否めない。
それほどまでにこのマナの少なくなりようはあきらかに異常。
そんな思いも否めないが、かの地においてもここまで魔物達の姿がみえない。
ということはありえなかった。
マナがすくなくとも、弱い魔物達は必ずそこいらにいたし、
また鳥たちも必ず姿をみせていた。
ここまでしん、と静まり返る森はあるいみであり得ないといってよい。
「…とにかく、アルテスタの家にまで向かってみましょう」
まずは、そちらに向かってみなければ話にならない。
ケイトがいればケイトから事情をきき、もしいなければいなければで、
おそらくは必ず一人は残っているであろうみずほの民に事情をきく必要がある。
朝、サイバックを訪ねてきた、というユアンのこともきにかかる。
ユアンは、たしかクルシスに一度戻る、というようなことをいっていたのに。
ユアンもウィノナに対するミトスの態度をみて思うところがあった、ということなのだろうが。
「く~ん……」
戸惑いの声をあげていうリフィルを気遣っているのか、
ノイシュがつんつんとその鼻でかるく鳴きつつリフィルをつついているが。
ノイシュはノイシュなりにリフィルを気遣っている、らしい。
ノイシュは理由をしっている。
しかし、彼らはノイシュの言葉を理解できない。
直接にノイシュは【王】よりこれよりすることを伝えられている。
「まあ、ノイシュがおびえてない以上、魔物達が襲ってくる可能性は皆無っぽいけどさ」
それにしても、とおもう。
ノイシュがこんな場所でおびえない、というのもかなり珍しい。
そういえばいつも常にエミルが傍にいるか、エミルがノイシュを小さくしていたな。
そんなことをふとおもうが。
まあ、今は他の馬もいることでもあるし、別に小さくする必要もないであろう。
そんなノイシュの姿をみて、ロイドはロイドで首を多少かしげているが。
いつもならば、魔物の気配がしただけで、いつのまにか逃げ出すというのに。
もっとも、エミルが同行してからこのかた、
ノイシュがそのような行動をしたことはほぼ皆無になりかけていたが。
それでも、ノイシュの臆病がなおった、ともおもえない。
まあ、ノイシュが臆病になってしまった原因。
それは何となくだが予測はついてしまったが。
ユアンの説明にもあった過去の出来事。
ロイドが忘れてしまっているあのときの記憶。
ロイドの記憶にあるのは、それの前後の記憶でしかなく、
母親が異形に変化したときも、自分が攻撃をうけたことも。
まったくもって覚えてはいない。
それは幼い子供ながらに自らの心を守るために自己防衛本能が働いたのもあり、
また、ロイドの傍にいる、精霊石と同化したアンナが、
そんなロイドの心を守るためにそれらの記憶を全力で封じているからに過ぎない。
自らが…母親である自分が子供を殺そうとしたなど。
子供にとっていい記憶ではない、というアンナの考え。
そしてまた、父親が母親を殺した、という記憶すらも。
いくら異形となっていたとはいえ、子供の心を傷つけかねないがゆえ、
アンナがそれらの記憶を封じてしまっているといってもよい。
たしかに幼いころはそれでもよかったのかもしれないが。
しかしロイドももう十七。
そろそろきちんと現実を直視する必要性があるであろうに。
いまだにアンナはそれらの記憶の封印を解くつもりはまったくない。
そしてそのことにロイドはまったくもって気づいてすらいない。

樹の根などがところどころに張り出している森の中の道。
けものみちとは違い、ある程度の幅が確保されており、
定期的にヒトの手が加わっているのか、それとも別の何かの手がくわわっているのか。
そのあたりは一行にはわからないが。
足元にさえ注意していけば、
小さな馬車程度ならばこの森の中すら進むことが可能であろう。
「あ」
ふとロイドが前方に見慣れたものをみつけ思わず足をとめ、
「先生。力の場があるけど、どうする?」
たしかここの力の場は光を生み出す力であったはず。
ロイドの眼前には見慣れたともいえる【力の場】といわれている装置らしきもの。
たしか光の強弱は力の場で力を補充しなければいけなかったはず。
ところどころ光を補充できる場所らしきものがあったはずだが。
この道沿いにそれらがあるかどうかがわからない。
あのときゼロスが懐中電灯とかそんなことをいっていたが。
以前、この場にて変更したときのことを思い出しつつも、
一応リフィルにとといかけているロイド。
無意識なれどエミルがいない、ということもあり、
聞いたほうがいいんじゃないのかな?とおもいロイドは直感で、
リフィルに問いかけたまで、なのだが。
あるいみ、ロイドは何も考えずに直感で行動したほうが、
正しい判断を間違いなくこなせるという証拠でもあるのだが。
そこまでロイドは深く考えてすらいない。
「そうね。念のために属性を変更しておいたほうがいいかもしれないわ。
  以前のときはエミルになついていたというか、
  率先して手伝ってきていた魔物達がどうにかしていたようだけども」
そう、以前のときは魔物達が率先して何かしら行動をしていたように思う。
が、今ここにエミルはいないし、魔物達も存在していない。
ならば、万が一のことを考えてソーサラーリングの属性は、
念のために変えておいたほうがよいであろう。
そのまま進んでいって、先にすすめなくなった、というのでは洒落にならない。
ノイシュを小さくできない、というのが多少の難点としてあがってくるが。
そのあたりは、シルヴァラントにおいても問題は発生しなかったので、
ノイシュの逃げ足の速さに期待するしかない。
さらにいえば今は普通の馬をもつれている。
善意でかしてもらった馬にけがなど負わすわけにもいかないし、
また無理をさせるわけにもいきはしない。
いいつつも、
「本当に、あなたときたら…何も考えないほうがまともな判断をするのよね…」
そんなロイドに苦笑せざるをえないリフィル。
今、聞いてきたのもおそらく力の場が目にはいったがゆえ、
深く考えずに何となく問いかけてきたのだろう。
毎回思うが、この子は、ロイドは絶対に深く考えずに直感で行動したほうが、
はるかにましな行動をとれる気がする。
それはもうはてしなく。
「どういう意味だよ。先生」
そんなリフィルの台詞にむっとしたような声をだすロイドだが。
そもそも、何も考えていない、というわけではなく。
実際はロイドの心の中はいまだにクラトスが実の父親であった、という衝撃。
それが抜け切れておらず、いくつも難しいことを考えることが苦手なロイドが、
そこまで他のとを深く考える余裕がなくなっている、というほうが正しいのだが。
それで行動がまともになっているというか意見がまともになっている、という点からして、
普段がどれだけ猪突猛進で考えなしにすすんでいるか、
というのを暗に物語っているといってよい。
もっとも、ロイドはそんなことを考えている、とは表情には一切あらわしていない。
どうやらゼロスにいわれた、お前がいっていたのは口だけか?
というあの言葉がかなり堪えているから、であるのだが。
たしかにゼロスのいう通りでもある、というのはロイドとて自覚せざるを得なかった。
もっとも、そんなロイドの内心は当然この場においてはロイド以外知る由もない。

前回は明かり変わりとなっていたパンプキンツリーという魔物がいたが、
今回はそんな魔物達はいない。
ゆえに、本来ならばまだ昼間だというのにもかかわらず、
この森の中は鬱蒼と茂った森の木々によってかなり薄暗くなっている。
まだ昼前のはずだ、というのにこの暗さは何とも言い難い。
リフィルやジーニアスはその血筋がら、暗闇でも夜目がきくが、
またコレットも天使化をはたしているがゆえ、
無意識のうちに周囲が暗ければ視力を強化していたりする。
森をすすんでいくと、時折太陽の光がしっかりと入り込んでいる空間も多少はあり、
その場に移動することにより、力の場によって変更したソーサラーリングの属性。
すなわち、光のマナの補充ができるらしい。
「この森は昔から光に反射する植物が生えていますから。
  でもあれらは時折道すらふさぐので、
  たしかにリフィルさんのいうように、属性変更は必要、だとおもいます」
プレセアがまだ被験者にされる前もこの森にはそういった植物はあった。
ときおり、道をふさぐ、というので村人などが愚痴をいっていたのを思い出す。
事実、プレセアも父とともに町にでるときに、
それらの植物を幾度薙ぎ払ったことか。
それはまだ、父が生きて病気になる以前の幸せだったころの記憶。
火を近づけてはそれらの蔓はその光や炎からよけるその様は、
今でもプレセアははっきりと覚えている。
だからこそ、リフィルの提案は正しい、と言い切れる。
そんなプレセアの意見も相まって、属性変更を施し、
光に満ちている場にて力を補充しつつ進んでゆくことしばし。
かつては常に人の手などがはいっていた、のであろうが。
道らしき場所にもここ最近、人の出入りがないがゆえ、なのだろう。
踏み固められているはずの土もところどころ草花がはえており、
もう少しすれば道がそこにある、というのすらみえなくなってしまいそうなほど。
以前はオゼットの村のものたちが移動するにあたり、
常に何らかの人の手がはいっていた森の中につくられし道。
が、今ではヒトの手がはいらなくなったことにより、
元の自然の状態にともどりかけているといってよい。
そんな消えかけた道とはいえ、まだ進めない、というわけではなく。
さくさくと生い茂りかけはじめている草花を踏みしめて進んでゆくことしばし。
やがて開けた空間にとたどりつき、そこからは坂道になっているのがうかがえる。


しぃん、と静まり返っている様子からそこに誰かがいる、とはおもえない。
思わずその場にて立ち止まるプレセア。
その気持ちはわからなくもない。
本来ならばこの先はオゼットの村、であった。
だが、今は。
「…いきましょう。アルテスタのいえはこの先、のはずよ?」
すでにこの付近にもあった燃え尽きた家の残骸などは見当たらない。
おそらく、国の調査隊がやってくるのとともに、
それらの瓦礫なども片づけた、のであろう。
残っているのはかつてあったであろう家の土台らしきもの。
そう、ここはかつてのオゼットの村。
だが、落雷によって…正確にいえばクルシスが放った雷によって、壊滅した村。
この地のものはすべて捕らえられており、
シルヴァラント側の牧場に連れていかれていたことをリフィル達は知っている。
彼らがきちんとそんな凝り固まった選民思考を改めたかどうかまでは知るよしもないが。
すでにそこに村があった、という痕跡はほとんどみあたらず。
あるとすれば、とこどころにのこっている井戸くらい、であろう。
家があった形跡は土台のみがあるだけで、
しかもその土台も草花におおわれその痕跡すらみえなくなっている。
アルテスタの家にいくにしても、この村を…否、元村、というべきか。
ここに村があった、と示すのは、いくつかのこっている井戸のみで。
かつては燃え落ちた家々の残骸もありはしたが、もうその欠片すら残っていない。
よくもまあ、ここまで綺麗にかたづけたものだ、と思わずにはいられない。
それとも、天界の怒りをかった、とおもわれているこの村が、
少しでも形を残していればさらに怒りをかうのでは、とでもおもったのだろうか。
ふとリフィルはそんなことをおもってしまう。
そしてその考えはおそらくは間違っていないような気も。
ヒトとはそういうところがある。
自分達に後ろめたいところがあるならば、
それを率先して何が何でも隠そうとし、またそれらすべての罪を他人になすりつける。
そんな傾向があることをリフィルはよく知っている。
たとえその人物が何かをしでかしたのだとしても、
他者にその責任を擦り付ける。
自分は悪くない、そういって。
そして…それがハーフエルフという立場ゆえに擦り付けられる側となっていた。
何かがあれば、すぐにリフィル達姉弟のせいにとさせられていた。
たとえそれが理不尽極まりないようなちょっとした小さなことですら。
どう考えてもこじつけでしかない、というような些細なことまで。
イセリアにいつき、エルフと偽り、それらの減少はどうにか抑えることができたが。
ふと、エグザイアできいた、ハーフエルフにとってここは安住の地。
そのことばをリフィルは思い出す。
たしかに、あの地は安住の地、なのかもしれない。
外界と遮断され、閉じこもり。
でも、それではだめなのだ、ともおもう。
エルフ達のように自分達の世界を閉ざしていれば何もかわらない、のだと。
旅に出る前のリフィルならばそれも仕方がない、とおもったであろう。
が、すべてが死に絶えるかもしれないのに、何もしないという行動を選ぶわけにはいかない。
もっともそんな懸念をロイドにいえば面倒なことになりそうなので、
その懸念事項はいうつもりはさらさらないが。
このマナの少なさは、もしかしてかつてかの精霊が決定していたという地上の浄化。
それを行う前提なのでは、とリフィルとしてはどうしても思わずにはいられない。
エミルがいれば問いただせることもできるだろうが。
そのエミル自身が何かをしている、のだろう。
確実に。
確認をとったわけではないが、センチュリオンのことといい、これまでのこと、といい。
エミルはまちがいなく関係者、などではなく、精霊当事者だ、
とリフィルはほぼ確信をもっている。
確信はもちはしたが、それでも当人に面とむかって問いただしたわけではない。
もっとも問いただしても答えてくれるかどうか、という確証はリフィルにもない。
かつてこの場にやってきたとき、村人たちが集まっては噂話をしていた広場。
いたるところに草が生い茂り、人の生活がこの場からきえてしまった。
というのを嫌でも思い知らされる。
見上げる空は青空にぽっかり白い雲がうかんでおり、
やはり鳥の影すらみあたらない。
どう考えても異常。
と。
「おや?こんなところに旅業者かい?」
ふと、そんな中で第三者の声がする。
みてみれば、奥のほうにテントらしきものがあり、
どうやらそこに誰もいないはずのかつては村であった跡地に誰か、がいたらしい。
「ここにはめったと今は人がちかづかないのに、珍しいね。
  それとも、神木目当て、なのかな?あれは普通の人では手にいれるのは難しそうだよ?」
何やらそんなことをいいつつ、ざっと全員に目をくばり、
「いや、女子供がおおいってことはやっぱり普通の旅業、かな?
  ここは、元オゼットの村。天界の怒りに触れ、滅ぼされてしまった哀れなる村だよ」
背の高さはゼロスよりも下くらい、であろう。
ひょろり、と体全体はしており、太ってもおらず、かといって痩せすぎ、
というわけでもない目の前の男性。
「あなたは?」
「旅の商人さ。もっとも、商人兼、吟遊詩人をも兼ねているがね。
  話のネタを調べにこの村にたちよっているんだけども。
  天界の怒り、とはすざましいものだね。
  村があった痕跡すらみあたらず、聞けば人っ子一人いなくなったとか」
天の裁きの雷、といわれたものがおちたのは、けっこうな目撃者がいた。
それもあり、現場をこうしてみにきた、のだが。
ほとんどのものはこの場に近づこうとすらしていない。
近づくだけで自分達もまた天界の怒りに触れるのでは、と恐怖してしまっているがゆえに。
多少の警戒を含ませつつのリフィルの問いかけに、首をすくめていってくる目の前の男性。
歳のころは三十そこそこくらい、であろう。
よくよくみれば奥にあるテントのほうからは煙があがっており、
自炊をしていたらしいことがうかがえる。
「あ、あの。僕たち、このふきんにいる人を訪ねてきたんですけど……」
そんなかれをどうやら無害、と判断したのかジーニアスが恐る恐る、といった形で、
一歩まえにでつつといかけてくる。
ちなみに、馬二頭は手綱をもち、きちんと彼らのそばにいる状態のままであるが。
ノイシュは少し離れた場所でこちらをうかがっており、
完全に人見知りが治ったわけではないのだ、というのをうかがわせている。
つまるところ、木の影にかくれ、ロイド達のほうをうかがっている状態。
「ここにいる?ああ、あの彼女のことか。
  この奥にある洞窟の空き家ですごしてたとかいう?
  今朝方やってきた青い髪の人と何やら話したのち、彼と一緒にどこかにいったよ?」
その言葉に思わず顔をみあわせるロイドたち。
リフィルからしてみれば、やはり、という思いが否めない。
しかし、きになるのはユアンが彼女をどこにつれていったのか、ということ。
いないかもしれない、という予感が少しでもあったがゆえに、
完全にリフィルは落胆していないが、
予想していなかったロイドは盛大にがっくりきており、
「なんだよ。入れ違いか?」
何やらがっくりうなだれ、そんなことをいっているのがみてとれるが。
「何かいっていなかったかしら?その口調では、彼女と知り合いのようだけども」
「さあ?ただ聞こえていた会話の中で、ウィルガ何とかにつれてってとか何とか。
  クラなんとかって人が心配だとか、彼女がつれていかれたのは本当ですか。
  とかなんだかいろいろと青い髪の男性を問い詰めていたようではあるけどね」
人の会話なので詳しくはきいていないが。
それでも少し離れたところで会話をしていたがゆえ、
断片的にそんな会話は多少、彼の耳にははいっている。
何やら深刻そうな表情であったがゆえに個人的なことなのだろう、
とおもい詳しく聞き出そうとはおもわずに、ゆえに詳しく問いかけてはいない。
その言葉に思わず顔をみあわせるリフィルとリーガル。
ウィルガ何とか、というのはおそらくはウィルガイアのこと、であろう。
天使達の町。
以前、コレットの病気治療のためにマナの欠片をもとめ侵入したとき、
捕らわれたのち逃げ出してたちよったあの街のことを思い出す。
「しかたないわ。入れ違いになってしまったのは。
  でも、向かった先らしきものがわかっただけでも収穫よ」
なぜケイトまでもがクルシスにむかったのか。
それはリフィルにもわからない。
溜息をつくリフィルの様子に何かおもうところがあったのか。
「もしかして、あの子、何かあるのかい?
  ここ最近、この森の中で鎧着込んだ兵士っぽい姿がみえてるんだけど。
  彼らも誰かを探している雰囲気なんだよね。
  でも、あの鎧はたしか、マーテル教の教皇騎士団のもののような……
  でも、まだ新しい教皇様は選出されていないし。
  前の教皇はいまだに行方不明で手配されているままだ、というし」
そもそも、彼がこの地にいるのは、その真意を確かめるという目的もある。
この付近で教皇騎士団らしき姿をみかけた、という目撃情報。
それがあったがゆえに、なら自分がその目で確かめてみよう、と。
彼は口にだしていないが、彼もまた国に所属するものであり、
実は諜報員の役割を担っている軍部の一員であったりする。
表向きには行商人兼、吟遊詩人をよそおいつつも各地の情報をつかむのが彼の役割。
みずほの民、という専門の”草”がいるとしても一応組織的にそのようなものはいる。
そういうものがいる、というのをしっているのは国でも上層部のごくわずか、なれど。
だからこそ、彼はこの場所にやってきている。
いまだにみつからない元教皇。
その娘がこのあたりにいる、という情報をききつけて。
彼女をさぐれば教皇の位置もわかるのではないか、という軍の命令をうけ。
あの青い髪の男のことも、彼は口にしていないがしってはいる。
一応重要人物、という項目のうちのひとつに彼の姿もあった。
詳しくそこにはかかれていなかったが、天界の関係者のようなことが書かれていた。
彼のような末端のものにはどういうことなのか、そこまで詳しくは知らされていないが。
よもや、ここテセアラを管理する立場のクルシスの天使だ、などと知る由もない。
「「それって……」」
思わずその台詞をきき、ロイドとジーニアスの声が、かさなる。
まだあの人、自分の娘を利用する気なの!?
それにきづき、ジーニアスはおもわずぎゅっと手を握り締める。
自分の娘だ、というのに都合のいいように使いまわして、
挙句はいまだに逃亡者の身になっていながら、娘を探している、ということは。
そういうこと、なのだろう。
どこまで自分の娘を利用すればきがすむのだろうか。
あの人間は。
「まさか、教皇騎士団の連中か!?」
ジーニアスが無言で自らの手を強く握り締めている最中、
ロイドがそれをきき思わず叫ぶ。
「元、というべきだろうけどね。あ、君たちもそうおもうんだ」
いいつつ、ちらり、とこの場で唯一の成人男性にと目をむける。
その容姿からしておそらくあの彼は間違いなくブライアン公爵、のはず。
なぜ公爵がこんなところに、こんな子供達とともにいるのかわからないが。
しかしともおもう。
たしか、シルヴァラントからやってきている、という一行が、
金髪少女に銀髪少年、つんつん頭の少年に、美人教師。
そしてシルヴァラント王家の姫だ、という少女、であったはず。
五人ではないが、今この場にいるうちの四人はその特徴が一致している。
だとすればそういうこと、なのであろう。
しかしそれを表情にだすことなく、逆に溜息をつくようにと言い放つ。
「教皇騎士団…たしか、神子ゼロス様を陥れようとした、という相手ですわね」
リフィルがそんな彼にしれっと語り掛ける。
ゼロスのことはここテセアラのものでは知らないものがいないほど有名らしいが、
そんなゼロスと同行している自分達のことまで知られてはいないだろう。
また、万が一知られていたとしても、それをわざわざいって、
面倒なことに巻き込まれたり、もしくは神子の知り合いだ、という語りだ、
と思われてもまた面倒。
「先生?何いって……むぐぐぐっ」
そんなリフィルの台詞におもわず首をかしげ疑問を投げかけようとするロイドだが、
そんなロイドの口を素早くジーニアスがぐっとロイドのマフラーもどきをつかみ、
その体をぐいっとひきよせたかとおもうと、そのまま一気に口をふさぐ。
こういうとき、ジーニアスは自分にもう少し背がほしいとつくづくおもう。
せめてロイドが失言しそうになったとき、
すぐにその口を封じることができるくらいの背はほしい。
「この間、王都であったという謎の暗闇も、
  あの教皇がもっぱら、伝説のディザイアンを解放したんじゃないかって。
  そんな噂すらたっているからねぇ」
実際、神子を陥れようとしたり暗殺したりしていたことが明らかになり、
人々が疑心暗鬼になっており、そんな噂すらのぼっていたりする。
そしてここ最近、続けざまにおこっていた異常気象や、
断続的におこる地震も封じられているはずの彼らが目覚める兆候なのでは。
と人々は不安に陥っていたりする。
そして、そんな不安を払しょくするために、神子に封印の儀式、
すなわち精霊の巡礼の儀式を近いうちに、という声すらあがりはじめている。
そんな国の裏事情をロイドやリフィル達が知るはずもなが。
その噂はリーガルも、カンパニーに戻っていたときにきいている。
「…ディザイアン…ですか」
その台詞をきき、おもわずプレセアがぽつり、とつぶやく。
ここテセアラにはいない、とされているディザイアン。
が、シルヴァラントの地において、人々をとらえ、
そんな人々の体にエクスフィアをうめこみ、彼らを殺すことにより、
誰もがつかえるようなエクスフィアを生産している、という人間牧場。
しかし、あるいみでここ、テセアラ側もかわらない。
そんな牧場、という大々的な施設や設備がないだけで、
研究院などで行われているのは似たりよったり、といえる。
「それはゆゆしきことですわね」
「だねぇ。ま、噂、だけどね」
「ところで、ケイトのことなんですけど。いつごろここを出発しましたか?」
相手の話にあわせつつも、とりあえず気になることをといかける。
そんなリフィルの問いかけに、
「そんなに時間はたってないよ?数時間ほど前、くらいかな?
  馬があるなら、もしかしたらおいつけるかも、だけど。
  北側にむかっていったから、桟橋に船があったとするならば、
  陸路でおいつく、というのは難しいかもだね。
  いまだにグランテセアラブリッジの機能はもどらないし……」
あれから半日もまだ経過していないがゆえに、
彼にとってはまだそんなに時間が経過している、という認識ではない。
跳ね橋、としての機能を完全に今かの橋ははたしていない。
レザレノの技術者が調べたところ、動力源であるエクスフィア。
それがなぜかことごとく消えていたらしい。
それはもう跡形もなく。
そして、ここ最近おこっているエクスフィアの紛失事件。
あるとき、気づけばエクスフィアだけが綺麗に煙のように消えている、
という事件が世界各地で発生している。
それはほぼ、教皇が神子を手配した時期と一致していることから、
余計に人々に混乱をあたえていたりする。
もっとも、彼らはしらない。
消えている、のではなく穢れが取り除かれ、
エクスフィアといわれている精霊石は、本来の姿。
微精霊、として孵化し、石ごとマナと還っただけ、ということを。
石ごとのこしていてもヒトがどんな悪用をするかわからないがゆえ、
ラタトスクが少しばかり干渉し、石に利用されているマナすら、
微精霊達の糧となるように少しばかり手をくわえたにすぎないのだが。
当然、そんな事情をたかがヒト程度が知る由もない。
「そうですか。情報ありがとうございます」
ひとまず聞き出したいことは聞き出した。
みずほの民を探し出す手間が省けた、といえばそれまでなれど。
「で、どうするの?姉さん?」
「…しかたないわ。一度、サイバックに戻りましょう。
  しいなもそろそろ目覚めているかもしれないしね」
とりあえず、ここにケイトかいないのならばどうにもならない。
この付近でみうけられたという教皇騎士団のこともきになるが。
今は時間がおしい。
クルシスにもどったミトスが何をするかもわからない。
ミトスはこちらが何をしようとしていたのかを知っている。
ならば精霊との契約を邪魔してくる可能性が遥かに高い。
その前にすべての精霊との契約を済ませてしまいたいが、
シルヴァラントに向かう手段が閉ざされている今、
二日後に迫った満月が早いか、レネゲードの転移が可能となるのが先か。
ジーニアスの疑問にリフィルは溜息をつかざるをえない。
結局、ここまでやってきたがあるいみ無駄足であったことが否めない。
唯一の救いは元教皇が何かをたくらんでいるかもしれない、
という可能性をつかめた、ということくらいか。

せっかくオゼットまでやってきた、ということもあり、
プレセアが一度、家にもどりたい、といい。
ここまできているのだから、別に寄り道をしても問題はない。
というか、彼女の気持ちもわからなくもない。
ゆえに、プレセアとともに彼女の父の墓参りをすませたのち、
念のためにアルテスタの家にと立ち寄ってからサイバックにともどろう、
という話にまとまり、男と別れ、一行は村のはずれへいくことに。


「…と、いうわけだったわ」
何ごともなくプレセアの父親の墓参りをすまませ、サイバックにもどってきたのはつい先刻。
なぜかマルタが食堂にてウェイトレスというか配膳の手伝いをしている、
という点を除けばここ、サイバックに残ったゼロス達も何ごともなく過ごしていたらしい。
「しかし、わるかったね。まさか精霊を召喚しただけで魔力が空っぽになるなんて」
気絶するように眠ってしまったのは、精神力というか魔力が枯渇してしまったがゆえ。
休息などで魔力を回復させることもできるが、
世間一般的に使用されているのはやはりグミ、もしくは食事。
このどちらかに限られる。
一般的によく利用されるグミがオレンジグミ、といわれしもので、
魔力を使用者のもつ保有量の大体三十%回復させる、といわれている。
その上にはミラクルグミとかいわれる六十%回復させるグミや、
体力、魔力ともども回復させるグミなど、いろいろあるが。
それらのグミは生じて高い。
もっとも、かつてはそれ以上の効果をもつグミもあった、と文献にはのこっているが。
今ではその製造方法も忘れ去られ、本当にあったのかどうかすら疑わしい。
ここ、王立研究所ではそれらのグミも復活させようと、日々研究している部署もあるらしいが。
リフィルから森で何があったのかの報告をうけ、しいなが首をすくめつついってくる。
ケイトはあの場所にはおらず、今朝方ユアンとともにどこかに移動したこと。
そしてそれが可能性としてウィルガイア、つまりクルシスの可能性がある、ということ。
そしてまた、森にて再び教皇騎士団らしき人物が見受けられている、と。
それらの報告を交わしつつ、食事もかねて食堂にと今現在は赴いている。
すでにもう起き上がっても問題ないらしく、
彼らが今いるのは、ここ研究院の中にとあるとある食堂の一角。
ちなみにこの食堂、新メニューなども研究所の中で開発されており、
というかもっぱらその食事に対しておこる効能の研究、なのだが。
それらの効果を調べる役割もはたしており、
メニューの中には本日のメニュー、という項目があり、
実はそのメニューはあるいみ言葉を濁し、サンプル採取にご協力を、
という意味をもっていたりする。
時折、はずれ、ともいえるものもあり、知っているものはゆえにまずそれを頼まない。
大概、それらを食べさせられてしまうのは地下にいるハーフエルフ達、らしい。
つまり彼らはいくらメニューがあれど、そういった研究の一環の品がある場合、
メニューを選ぶ権利すらない。
「残りの精霊との契約はあとひとつ。アスカとルナとの同時契約になるけども。
  レアバードでの空間移動は直接、彼らの拠点にいって動力源を補充したほうがよさそうね」
たしか、彼らの拠点はフラノール地方のとある一角。
「地図でいえば、このあたり、だったわね」
フラノール地方、とよばれている場所。
その大陸の付近には氷に覆われたフィヨルドのような場所がいくつも存在し、
みずほの民曰く、その中に彼らレネゲードの拠点もまたあるらしい。
「いくとすれば、エレカーで海での移動になるであろうな。
  海のマナには問題ないらしいから、お前たちが使用しているあれならば、
  問題なく移動は可能、だろう」
リーガルが腕をくみつつもいってくるが。
たしかに、ウンディーネの力をもちい、地のマナから水のマナに変更しているあの乗り物。
ここ最近はめったと使わないままにウィングパックの中に入りっぱなしのそれ。
たしかにあれをつかえば問題なく移動できる、であろうが。
「…げ」
ふとあのとき、トイズバレー鉱山にむかったときのことを思い出してか、
おもわずジーニアスが短い声をあげる。
まあ、あれは急ぎたいといった自分達にも問題がある、とはおもうが。
あんなスピードでの移動は今後、ジーニアスとしては御免こうむりたい。
「…なあ、先生。みんな、すこし、いいか?」
ふと、ロイドが頼んでいたカレーライスを食べていた手をとめて、
すこし考える素振りをみせたのち、じっと斜め前にすわっているリフィル、
そしてざっと全員に視線をむけつついってくる。
「?どうしたのさ?ロイド?」
そんなロイドに首をかしげてジーニアスが問いかけるが。
「俺、ミトスときちんと話をしてみるべき、だとおもうんだ。それに……」
それに。
そこまでいい、ロイドは顔を伏せてしまう。
「…クラトス、ね?」
溜息とともにリフィルがいえば、はっとしたようにロイドが顔をあげる。
「…ああ。オリジンの封印。ユアンがいっていたのが事実なら…
  でも、他にも方法がないのか、そのあたりも聞きたいんだ」
それに、どうしても当人から確認したい。
本当にクラトスが自分の実の父親なのか、を。
「それに…ミトスがあのユグドラシルだったなんて…
  俺たちとでもいっしょにいたあのミトスのあの態度が、
  ずっと演技だだったなんてどうしても思えないんだ。
  きっときちんと話し合えば、マーテルも、種子も助かる方法。
  それが見つかるかもしれない、だろ?」
「理想論ね。たしかに、ユアン達がいうとおりなら。
  大樹を芽吹かせればマーテルは消滅してしまう。そういっていたけども。
  けど、ロイド、まちがわないで?種子が消滅してしまえば。
  世界そのものが消滅してしまう、ということを」
「わかってる。わかってるよ。けど、どっちかが犠牲になる、というのは…
  他にも方法はあるかもだろ?マーテルと種子を引きはがすとか」
もっともそれをしないのは、マーテルの精神体、すなわち魂を守るため。
しかし永い時にわたり融合していたがゆえ、
すでにマーテルと種子はほとんど融合を果たし終えていたりする。
そしてその事実をロイドは知らない。
そしてとある事情も。
「私としては、異界の扉を調べてシルヴァラントに戻れるのならばもどって。
  そうでないのならば、この付近にあるだろうレネゲードの拠点。
  ここで動力をきちんと補充したのち、空間移動が可能になった力が満ちた直後。
  シルヴァラントにわたってアスカとルナと契約を果たすべきだとおもうわ。
  このままで、マナ不足で、シルヴァラント側がどうなっているのかわからないけど。
  確実に世界は滅んでしまいかねないもの。
  それほどまでにマナの衰退が激しいわ」
そう、一刻、一刻とマナは減り続けている。
わが身で感じ取れるほどに。
「…多数決で決めましょう。シルヴァラントに戻るのを優先するか。
  それとも、またクルシスに潜入するのを選ぶか。
  クルシスにいくとするならば、ケイトのことを調べる必要があるわね。
  どうしてユアンが彼女をつれていったのか、もきになるわ」
もしも、ケイトにクルシスでハイエクスフィアとよばれしクルシスの輝石。
それを開発させるつもりなのだとするならば。
ユアンにかぎってそれはない、であろうが。
以前もそれでケイトがあの場所につれていかれていたっぽいことをリフィル達は知っている。
「どっにしても、レネゲードの施設にはいく必要があるんじゃねえのか?
  やっこさんたちのことだ。マナの少ない中でも移動方法は確立してるはず。
  だからこそ、シルヴァラントでもやつらは活動してたんだろ?
  エネルギーチャージをしている動力源みたいな何かかあるかもしれねえし」
リフィルの言葉にゼロスが腕をくみつつも意見してくる。
「それに、そのことについてはここにも意見してある。
  ウィングパックの応用で、動力源を別の何かに予備としてつくれないかとな」
ちなみにこの意見。
自分を陥れようとした教皇に手伝っていたのは、
これに協力すれば不問とする、というような内容のことをゼロスはいっており、
いわばほとんど脅しにちかく、それらもあって、
研究員たちは半ば強制的にその研究に取り組みだしていたりする。
「あとは、エミル君が万が一もどってきたとき。入れ違いになったりしないように。
  ここに数名はやっぱり残っていたほうがいいとおもうぜ?
  というわけで、俺様としては残るのにタバサ、マルタ、セレスを推薦する」
「お兄様!?」
「何かあったとき、俺様の名代を務められるは、セレス、お前くらいだしな。
  俺様の代理、として全権を任せられるのは俺様としてはお前しかおもいつかねえし」
というかセレス以外にはありえない。
他ではおもいっきり信用がならない。
そもそも、はじめのころは自らの代わりにセレスを神子に、とおもっていたほど。
今ではへたにセレスか神子になれば、
それこそコレットの代わりにマーテルの器に、とかいわれそうなので、
そんなことはみじんもおもっていないが。
健康体になった、とクルシスにしられれば、なかなか手にはいらない神子より、
すぐに手にはいる器を、といわれかねない。
「タバサはここにのこってもらったほうが、研究もはかどる、しな」
タバサの中にはアルタステの意識がある。
彼のドワーフとしての技術と知識。
それは様々な開発においても有効、といえる。
「お兄様……」
「俺様が留守の間は、セレス、お前が神子代理だ、できるな?」
「は、はいっ!お兄様の期待に絶対にこたえてみせますわ!」
セレスがぱっと目をかがやかせ、ゼロスの言葉にこたえるように声をあげる。
「なんでゼロス、私まで留守番組に推薦してくるの?」
マルタがそんなゼロスに不満そうな声をあげてくるが。
「俺様のかわいいセレスを一人のこすのは不安なのと。
  あとは、マルタちゃん、さっきいってたの忘れたのか?」
「…あ」
それはロイド達が知る由もないが。
実はここにいる研究所のとある女性研究員が、料理下手で彼氏に振られた、
と愚痴をいっており、聞けば相手は料理上手。
はじめのころはそれでもいい、といってくれていたのだが、
やっぱりもう耐えられない、きみ、料理を本当に覚える気ないでしょ?
といわれ、振られたといってやけ食いをしており
それをたまたまマルタがきいてしまった。
という現状があったりする。
料理上手な彼氏、でマルタの脳裏にうかびしは、当然エミルのこと。
まだ付き合ってもいないが、もしもそうなったとするならば。
その女性のことはわが身のように感じられてしまい、
ようやく本腰をあげて料理を勉強する!といったのはつい先刻のこと。
マルタが配膳係りをしてたのは、厨房にいた料理長に頼み込み、
料理を教えてもらうかわりにならば手伝ってくれ、と言われたため。
「つまりマルタちゃんはきちんと約束を果たす義務があるわけだ。
  まがりなりにもマルタちゃんのここ、テセアラの立場。
  それを考えても一度取り付けた約束を、しかも自分から頼み込んだ約束。
  それを反故にするなど、シルヴァラントの品位を貶めかねないぜ?」
「ううっ。…今回はあきらめる」
ゼロスの言い分は一理ある。
あるがゆえに、マルタはうなづかざるをえない。
リフィルが言い出したことではあるが、マルタの立場。
それは、名目上はマルタはシルヴァラントの王家の一員。
そういうことになっている。
実際はその血筋、であり、今シルヴァラントにはまだその王朝、
というものは再興すらされていないのだが。
そんな事実をここテセアラの人々がしるはずもなく。
ゆえに、国王ですらマルタをシルヴァラントの王女だ、と信じ込んでいたりする。
「?マルタさん、何があったんですか?」
そんなマルタとゼロスのやり取りを不思議に感じたらしく、
こてん、と首をかしげてそんなマルタにと問いかけているプレセア。
「なあに。マルタちゃん、ここで料理を教えてください。
  っていって、プレセアちゃんたちが出かけたあと、土下座してたのみこんで……」
「ぜ、ゼロス!余計なことはいわなくてもいいのっ!」
このままでは余計なことまでいいだしかねない。
ゆえにあわててマルタがゼロスのそんな会話を遮る。
「そうね。マルタには残っていてもらったほうがたしかにいいかもね。
  万が一、ということがあるもの」
もしもマルタの身に何かあれば。
それこそ、かつての古代大戦のときのように、世界を一つに戻したとしても、
テセアラとシルヴァラント、二つの世界が争いをしでかしかねない。
あの様子ではブルートという人物はかなりの人望があった。
もしマルタの身に何かがあれば、彼が一声かけて、
それこそそんな争いの発端になるようなことをしでかさない、とはいいきれない。
否、確実行動に起こすであろう。
それほどまでにどうもあの父親は娘に対してかなり甘い。
そうリフィルは踏んでいる。
「じゃあ、シルヴァラントにむかうめどがたったら迎えにくる。
  それでマルタ、あなたはいいかしら?」
リフィルの提案にマルタはうなづかざるをえない。
マルタ自身から頼み込んだことでもあるので一日もたたないうちに、
それを反故にする、というわけにはいかないであろう。
「じゃあ、多数決をとるわね。
  まず、ゼロスのいうように、レネゲードの施設に潜入し、
  できたらレアバードのエネルギーチャージをおこない、
  それが無理ならば、エネルギーが満ちている機体と、
  今私たちがあずかっている機体を取り換えてしまいましょう。
  そして、それらの移動手段を確保したのち、なのだけど。
  クルシスへの侵入、そしてミトスと会話をしてみる。
  もしくは、あと二日まって、異界の扉からシルヴァラントにむかう。
  みんなはどっちがいいかしら?」
そんなリフィルの問いかけに、それぞれがそれぞれに顔を見合わせる。


ザアア…
船が、進む。
海上を。
本来ならば用途的には地上の物資運搬にとつかわれているというエレメンタルカーゴ。
通称エレカー。
が、今ののっているこれは、とある理由にて水の精霊ウンディーネの力をかりて、
地のマナを利用していたところを水のマナに置き換えているがゆえ、
こうして海の上を滑るように移動が可能となっている。
サイバックからフラノール地方にむけていくには、
そのまま西へ、西へと船をはしらせる方法と、
大陸ぞいを北上してまわりこみそして雷の神殿がある大陸のある場所から、
南東にと下る、この二種類があげられる。
どちらかといえば、距離的には大陸を北上していったほうがはるかにちかいが、
その付近は座礁とかもおおくあり、
ゆえに普通の船はたいがい、西へと回り込むコースをとっているらしい。
水のマナを使用しているがゆえ、海の上を滑るように進んでいるがゆえ、
座礁、とかの心配もないという理由から、大陸を北上して回り込み、
そしてフラノール地方にとむかう、ということで話がまとまり、
サイバックの港からエレカーにと乗り込み、
今現在は、タバサ、セレス、マルタをサイバックにと残し、
それ以外の面々、つまり今だにもどってきていないエミルを除いた全員。
ロイド、ジーニアス、コレット、リフィル。
そしてしいな、ゼロス、プレセア、リーガル。
そしてついでにノイシュ。
この八人と一頭にてエレカーに乗り込んでいる今現在。
ノイシュをどうするか、という話になり、
人見知りをするノイシュをおいてはいけない、というコレットやロイドの意見もあいまって、
一緒につれていくことになっているのだが。
ある意味それは英断、といえるであろう。
もしもあの場所にノイシュを残してしまえば、
ノイシュがプロトゾーンだと気づいた研究者たちが何をしでかしていたか、
それは想像に難くない。
そしてもしもそんなことになったとするならば、
まちがいなくアクアもラタトスクも黙ってはおらず、
かの町は完全に水没してしまっていたであろう。
ある意味で、ロイド達はサイバックの水没、という危機を乗り越えた、といえるのだが。
当然、そんなことになるかもしれなかった、ということに彼らはまったく気づいていない。
「以前、これにのってトイズバレー鉱山ってところに向かったんだよね。
  あれがもうだいぶ前のことのような気がするよ……」
スピードは今回はあまり出してはいない。
というかあの速さは二度と経験したくない。
窓から外をながめつつ、ぽつり、とつぶやいているジーニアス。
本当に、あれからそうたっていないはずなのに。
もうずいぶんと前のことのような気がしてしまう。
それこそまだ一年も経過していない、というのに、である。
リフィルはひたすら窓の外をみないようにするためか、
さきほどから床の上に地図をひろげ、何やら考え込んでいる模様。
リーガル、ゼロス、しいなの三人は、
このエレカーを操縦できるのは彼ら三人しかいない、ということもあり、
操縦室のほうに出向いているがゆえ、今この場にはいない。
もっとも、リーガルが操縦をかってでており、
しいなとゼロスは地図を片手にいろいろと話し合っていたりするのだが。
そこまで詳しいことを、
あるいみで本来ならば貨物室であった場所にいるロイド達が知るはずもない。
「あ、雷の神殿の塔がみえた」
ふとジーニアスが窓の外の景色をみながらいってくる。
どうやら大陸沿いを北上しているのはわかっていたが、
しばらく進んでゆく最中、見覚えのある塔のようなものがみえてきて、
思わず声をあげているジーニアス。
海の上からみるかの神殿はあのときのままにそこにある。
そういえば、とおもう。
エミルはあるときも、精霊達と会話をしていた。
それどころか、ヴォルトはエミルに何かをいわれ態度を軟化させたような。
もっともそれは姿をかえた孤鈴にも何かをいわれてのことであったが。
ジーニアスもあのときのことを忘れたわけではない。
しいなをかばい、消滅していったコリン。
そして光がはじけ、コリンがコリンでなくなり、別の姿になったあのときのことを。
壁際において、エミルはそんな孤鈴…否、心の精霊ヴェリウスだ。
そう名乗っていた。
元々、心の精霊ヴェリウスであった精霊が、力をうしないかけ、
そして孤鈴としてかろうじて存続していたのだ、と。
あのときも、エミルはヴェリウスと何やら会話をしていた。
エミルが大樹の精霊ラタトスクの関係者かもしれない。
姉がいったその可能性はジーニアスの心にも複雑な影響をあたえている。
でも、そうだとするならば。
これまでの魔物達の態度。
そして精霊達の態度すら。
全てが理解できてしまう。
そして、あの封印の書物の中でいっていた過去のミトスの言葉。
ラタトスクにいっしょに地上を旅をしようっていってるんだ。
そう、ミトスはいっていた。
もしかしたら、エミルははじめから、ミトスのことを知っていたのかもしれない。
否、おそらく間違いなくしっていた、のであろう。
考えてみれば、エミルは言葉の端々に、
まるでミトスをよくしっているようなぞふりをみせていたような。
当時は何ともおもわなかったが。
魔界との境界をまもっている、といわれている精霊ラタトスク。
大樹カーラーンの精霊であり、世界のうみの親であり、そしてマナの生産者であり魔物の王。
魔物を使役し世界のマナを調停する。
全てはマナから生まれている命。
ならば、そのマナを生み出しているともいわれている大樹の精霊。
アステル曰く、予測でしかないけども、
大樹がマナを生成していたんじゃないんだとおもう。
そういっていた。
おそらく、精霊そのものがその力をもっていて、大樹はその依代のようなもの。
そう僕はとらえてる。
でないと、世界がきちんと存続していることに説明がつかない。
いくら少ないマナ、とはいえ、大地が、命が存続していくのに、
そこにマナは必ず必要不可欠なんだから。
と。
マナがなければ、すべては光となりて無に還る。
それはどんなものにでも、その対象者がヒトであってもいえること。
すでにそのあたりは研究所の実験によってもマナがなくなればどうなるのか。
証明されている、とも。
マナの剥離。
マナが結びつき個体となっているそれらが剥離すれば、マナは世界にと還る。
机上、理論上ではそう思われていても、実際にそんな実験をしているとは。
つまりは、実験体に選ばれた何かしらの【もの】はマナに還った、
つまりは死を意味しているといってもよい。
研究者は目的のためならば、またその結果を出すためならばどんな犠牲をも問わない傾向がある。
そう、心の奥底では認識していたが、さらり、といわれ、
絶句した思いをジーニアスは忘れているわけではない。
しかし、アステルのその理論でジーニアスは思い当たるところがありすぎた。
あれほどまでに赤茶色の土が丸出しであったはずのハイマは、
今では緑豊かなる大地へと変貌を遂げている。
そして、あの異界の扉、といわれているあの地。
かの地もはじめは巨大な岩がごろころしているだけの島であった。
そうきいた。
けど、実際は木々に覆われ、鬱蒼とした森は、ほんの少しまえまで、
そんな木々がなかった、とは信じがたい光景となっていた。
そんな雷の神殿もだんだんと遠くなってきて、やがていくつもの細かな島々がみえはじめる。
周囲の景色もいつのまにか雪景色、となっており、
海のいたるところに流氷らしきものもみてとれる。
海をながめながらいろいろなことをおもっている最中、
どうやら目的の場所付近に近づいてきている、らしい。
ジーニアス自身としてはそんなに考え込んでいたつもりはなかった、のだが。
実際はどうやらかなりの時間、考え込んでいたらしい。
中にいれば今は時刻がどのあたりかはわからないが。
すくなくとも、サイバックをでたのが昼少し過ぎ。
東に、東に移動しているせいか、太陽の位置はさほどかわっていないようではあるが、
距離からしてかなりのものであるはず。
実際、地図をみてもフラノール地方は地図の右端。
そしてサイバックは地図の中心あたり。
つまり世界をほぼ半周する距離、ともいえる。
あまり揺れがなく海の上を滑るように進んでいるがゆえに実感はないが。
時速的にはかるくみつもっても六十から八十キロ、はでているのであろう。
「そういえば、この多い島の中から目的の場所を見つけ出すにしても、
  むずかしいんじゃあ?」
目に見える範囲でもかなりの大小の島々がみてとれる。
この中の一つの島におそらく目的のレネゲード達の設備があるのだろうが。
「それに関しては問題ないよ」
「うわ!?しいな、びっくりしたぁ」
操縦室にいたはずのしいながいつのまにもどったのか、
そんなジーニアスのつぶやきに答えるように言ってくる。
「問題ない、とは?」
しいなの言葉の意味はプレセアにもわからない。
ゆえに首をかしげるプレセアであるが。
「ある一か所から式神の反応があってね。
  たぶん、昨日、ボータにこっそりと忍ばせておいたやつさ」
昨夜、ボータに念のためにしいなが式神、つまりは目印になるものを忍ばせておいた。
それがとある場所の海底付近から反応を示している。
「あいつらが、ロイドを襲ってきただろう?
  あのときにちょっと、細工をしてたのさ。
  この付近にまでくればさすがにわかるからね。
  反応があったのは、この付近」
いいつつも、いまだに地図を床に広げているリフィルのそばにより、
そのまま、とんっととある一点を指さすしいな。
「この海中付近から、式神の反応がしてるのさ。
  だとすれば、この付近の島々があの絶海牧場のときのように、
  施設への入口になってる可能性が高いってことさ」
あの絶海牧場においても、海の上にある島が海中にある施設への入口となっていた。
あれは入口、というよりはどちらかといえば滑走路に近しいもの、であったが。
「え…?しいな、まさか、海中ってことは…海に、もぐるのかしら…?」
「リフィル?いや、それはないとおもうよ?
  たぶん、今もいったけど、絶海牧場と同じような感じだとおもうよ?」
しいなの言葉にぴくり、と反応し、なぜか顔色をすこしかえ問いかけてくるリフィルに対し、
しいなは首をかしげつつも答えるが。
そういえば、とおもう。
リフィルって水が苦手だったっけ。
まあ、いくらレネゲード達とはいえ極寒の中。
常に水にもぐっては移動するような馬鹿な手段はとっていないであろう。
クルシスみつからないように、海中、もしくは地下に施設をつくっている。
そう考えたほうがはるかに無難。
「リーガルが今は操縦してくれている。
  たしか、里のものもレネゲードの中に入り込んでいるはずだから。
  うまくつなぎをとって侵入の手筈はととのえるよ」
彼らの中に里のものが入り込んでいることをしいなもまた知っている。
それは彼らと協力体制をひいたのち、より多く入り込んでいる、とも。
多い、といっても里の人数がさほどいないので数的にはそれほどでもないにしろ。


フラノール地方、とよばれているこの場所は。
いくつもの大小様々なる島々が入り組んだフィヨンド、ともよばれる地形を形成している。
しいなが反応があった、というのは地図からしてちょうどフラノール地方の大地。
そのほぼ南のあたりに位置している、大小様々なしまが入り組んでいる場所。
そのしいなが反応があった、という付近を探索してみれば、
本来ならばありえないであろうに、ちょっとした桟橋らしきものを発見した。
それはかなり入り組んだ場所にとあり、
わざわざ狭い海路を入り込まねばわからないような位置にとあり、
ゆえにテセアラの人間たちが気づいていなくてもおかしくはない。
というような位置にそれはあった。
その桟橋から島に上陸してみるが、そこは雪の大地と、
そして切り立った山しかなく。
その山の付近を探索してみれば、何らかの入口らしきものを発見し、
そして今にいたる。
「しいな。まっていたぞ」
「おろち!」
ふと、前方のほうから聞きなれた声がしたかとおもうと、
しいながそちらのほうにとかけよっていく。
「え?何でおろちさんがここ、に?」
戸惑いの声をあげるコレットだが。
「たまたまこの近くにいたからな。しいなの連絡をうけて手筈を整えていたのだ」
この付近、フラノール地方でくちなわらしき人物をみかけた。
という噂をきき、おろちはたまたまこの地方を探索していた。
そしてしいなの術の波動を探知し逆にその波動をもとにして、
しいなにつなぎをとったまで。
海面上でもつなぎをとれるのは、一重に彼ら上層に位置する忍たち。
彼らは以心伝心、ともいえるいわゆる【念話】
それに近しいものを習得しているからに他ならない。
もっともこれをつかえるものはごくごく限られており、
また、近くにいたり、目印となるものがなければそれは不可能、なのだが。
簡単にいえばそれぞれがもつ符、それを媒体とし声のやり取りが可能、という優れもの。
もっとも、範囲がかなり限定的であり、しいなもこの付近にくるまで、
おろちがこの付近にいることすら知らなかった。
山間の一角にカモフラージュはされているが、そこはあきらかに人の手が加わっており、
岩肌と同じ色なのでこれまたよくよくみないとわからないが、扉らしきものもみてとれる。
「…あんたの横にいるのは…レネゲードじゃない、のか?」
そんなおろちがどうしてここにいるのか。
というかどうやって連絡をとったのか。
とかいろいろとロイドも聞きたいこともあるが。
しかし、問題なのはそこではなく。
どうみてもおろちのよこに、レネゲードらしきものが立っているのがきにかかる。
何しろ約束を無視してロイドを狙ってきたような相手である。
いくらロイドとて多少は警戒しない、というほうがどうかしている。
「安心しろ。レネゲードに潜入、調査中の仲間だ」
おろちがそんなロイドの疑問にさらり、と答えつつ、
「衰退世界シルヴァラント調査するにはレネゲードに潜入するのが一番だからな。
  彼らはどちらの世界でも活動している。どちらの世界の情報もつまりは手にはいる」
そして、ざっと視線をめぐらせ、そこに目的の人物がいないことに、
やはりか、というような思いをいだきつつ、しかしそれを悟らせないようにといってくる。
おろちは口にはしていないが、統領の命令というよりは服統領の命令で、
エミルのことも調べてはいる。
いくら何でもあそこまで、アステルという王立研究院所属の研究者。
それにそっくり、というのも何か意味がありそうでもあるし。
それに重要なのは彼が魔物を使役できるらしい、という情報。
魔物を使役といえば真っ先におもいだすのが伝承にあるディザイアン。
が、しいなの報告によれば、ディザイアンはクルシスの下位組織であるらしい。
そしてレネゲードに潜入し調査した結果、それが嘘ではない。
という確証もえている。
が、彼らが魔物を使役しているのはあくまでも機械をつかってでのことであり、
それ以外で魔物を使役できるなど、普通は考えられるものではない。
そしてこの数日。
マナが極端に少なくなっている、という調査結果。
いや、正確にいえば異なっているというべきか。
地表で感じられるマナが衰退しているだけで、地下のマナはより濃く多くなっている。
それらがここレネゲードでの調査結果においてもたらされている。
エミルに何かかかわりが、と予測していただけに一行の中にいない、ということは、
その予測をあるいみで裏付けているといってもよい。
「すげ~。シルヴァラントのことまで調べてるのか」
そんなおろちの内心の思いなど知るはずもなく、
言葉通りにとらえ、素直に感心した声をあげているロイド。
「今は私が警備の担当時間です。今のうちにこの入口から潜入してください」
おろちにみずほの民の仲間だ、といわれた、どうみても恰好的にはディザイアン。
としか思えない人物が、入口らしき扉をさしていってくる。
どうやら彼らはディザイアン達の恰好というか動作も研究しているらしく、
仰々しいまての大げさなその態度もほとんどそっくりに表現しており、
彼らの隠密性の高さというか潜入における間者としての力量が垣間見れる。
正確にいえば、今は、というよりは、おろちからの連絡をうけ、
本来の警備の担当のものに一服もって、彼がかわりにこの場にたっているのだが。
そんな裏事情を当然、ロイド達に知らせるつもりはおろちたちにはない。
そしてしいなも何となく理解しているが、それを説明するつまりはまったくない。
リフィルも今は、という言葉で何となく察しはするが、それを口にはしない。
口にしたとたん、子供たち、とくにロイドとコレットが何をいいだすか。
余計なことは言わないに限る。
「じゃあ、今からいよいよレアバードを気にせずに自由に使えるようにするために。
  突入だな。エネルギーパック、もしくは充電。
  それらがみつからなければ機体をとっかえて、ここから外にでて、
  それから救いの塔、それでいいんだろ?」
結局、話し合いの末、ジーニアスもミトスと話がしてみたい、といい。
コレットもこれに合意。
もっともそのときに、コレットもやはりここにのこれ、とロイドがいいだして、
ロイドがいうなら、とコレットが賛同しかけたが、
やはりついていく、といって。
ゼロスがそんなロイドに守り切れる自信がないんだろ?とロイドにいい。
どこにいても結局コレットは狙われる。つれていってやりな。
というゼロスの意見にしいなが賛同し、結果としてコレットもふくめ、
再びクルシスに潜入することがきまったのだが。
ゼロスの改めての問いかけにそれぞれがこくり、とうなづく。
そんな彼らの様子を確認したのち、
潜入している、というどうみてもディザイアンの恰好をしている人物が、
扉らしきものにちかづき、何かを操作するとともに、
シュッンという音とともに扉が開く。
認識別の扉であるらしく、カードキーのようなものをとりだし、
それを認証させ、あまつさえ認証番号を打ち込みするという二重の鍵がかかっている。
たしかに普通にこの場にやってきても、
これではそう簡単に中に入ることはできないであろう。
「よし、いこう!」
いいつつも、開かれた扉から、それぞれ中にとはいってゆく。


周囲の岩壁と同化していたような色彩の扉。
その扉をくぐり、中にはいると内部はしっかりとしたつくりとなっており、
外の様子とはまったく違う有様をみせている。
おろちを先頭にしてはいった施設の中。
どうやら見回りの時間帯などもきちんと把握しているのか、
おろちにつれられはいった部屋は、ちょっとした何かの設備らしき部屋。
いくつかの筒のような機械類の中に、
電気をまとった球体のような何か、とコイルのようなもの。
それらがいくつも連なっている。
足場にも電光らしきものがはしっており、
どうやら床や壁を通じて埋め込まれた伝導体によって、
様々な場所に電気を供給しているらしいことがうかがえる。
もっとも、それらの用途にロイドやコレットはまったく気づいていないが。
こういう仕組みをロイドもコレットもよく理解していない。
ジーニアスは机上の論理で一応理解しているがゆえ、さほど驚きはない。
しいなやリーガル、そしてプレセアにいたっては、テセアラ人なので、
こういった技術的なことに今さらながらおどろくことはない。
周囲にある筒はどうやら発電機をも兼ねているらしく、常に電気を帯びている。
おそらくは、発電室、なのであろう。
ゆえに周囲にレネゲードらしき姿はまったくもって見当たらない。
その部屋の奥にはさらに扉らしきものがあり、おろちがその扉にむかっているそんな最中。
「あれ?ゼロスがいない?」
ふとロイドが背後からついてきていたはずのゼロスがいないことにきづき、
思わず背後をふりむきつつも周囲を見渡す。
いるはずのゼロスの姿がどこにも見当たらない。
たしかにこの部屋に入る直前までその目だつ赤い髪があったはず、なのに。
そんなロイドの言葉にプレセアも気づいたらしく、
「本当ですね。ゼロスくん、どうしたんでしょうか?」
周囲をざっとみつつも、プレセアも首をかしげてそんなことをいってくる。
そんなロイド、プレセアにつづき、
「ほんとだ。いない」
ジーニアスもきょろきょろと周囲をし始める。
今、レネゲードは敵なのか味方なのかわからないというのに。
一体どこにいったというのであろうか。
思わず足をとめ、ゼロスを探しに行くべきかどうか。
彼らが悩み始めたその直後。
「おまっとさ~ん」
軽い口調で何やらいいつつも、先ほど一行が入ってきた扉から、
遅れてこの発電室らしき場所にとはいってくるゼロスの姿。
「神子。何をしていたのだ?みなが心配する」
そんなゼロスの姿をみて、リーガルが溜息まじりに何やらいっているが。
そんなリーガルの台詞に首を竦めつつ、
「一応、あたりを確認してきたのよ。罠だとまずいっしょ?」
やれやれ、とばかりにゼロスがそんなことをいってくるが。
「せめて一言、いってからにして頂戴」
そんなゼロスの台詞にリフィルが溜息をつきつついえば、
「はいはいっと」
そんなリフィルの台詞にさらに首をすくめていうゼロス。
というか、俺様の体、一つしかないんだけどな。
ゼロスとしてはそう思わずにはいられない。
まさか、プロネーマからの指示を彼らの前でうけるわけにはいかないのだから。
ゼロスが合流したのをうけ、おろちもまた先にとすすみだす。
扉を抜けた先は廊下のようになっており、さらにそれを抜けたさき。
そのいくつかある扉の一つの部屋にとはいり、
しっかりと扉を閉めたのち、あらためて皆にとむきなおってくるおろちの姿。
「…とりあえず。時間もないことだから、簡単に説明するぞ?」
そこはどうやら簡易的なモニター室、であるらしく、
しかし、モニター室にしては見張りのものらしきものがみあたらない。
「今はほとんどが、マナの異常もあってここのものたちは出払っているらしい。
  一番の理由は大いなる実りにマナを供給するために。
  それぞれが役割をもって移動しているがゆえに、
  施設全体が手薄になっている」
モニターらしきものが壁にいくつもならんでおり、
いくつもの窓のようにもみえる画面には施設全体の様々な様子が映し出されている。
モニターの前にはコントロールパネルらしきものがあり、
どうやらそれらをいじることにより、
モニターの画像を切り替えることができるらしいが。
しかしここはあくまでもモニター室であり、機能の切り替え、とかはできはしない。
そんなことをいいつつも、
おろちがそこにあるコントロールパネルらしきものをすばやくいじる。
それとともに、ロイド達の目の前にとある薄いパネルのような何か。
そこに映像がぱっと映し出され、簡易的なこの施設全体の地図が映し出される。
「レアバードの格納庫、そして整備施設はこの施設のもっとも奥に位置している。
  少ないマナでも活動できるように改造されているレアバードも数機体ある。
  ということらしいが。てっとり早く、その機体を手にいれれば、
  この少なくなっているマナの中でも飛ぶことは可能だろう。
  しいながいうには、なぜか精霊の召喚にかなり精神力がもっていかれている。
  ということらしいから、ヴォルトの力を完全にあてにもできないだろうしな」
それをきいたときおろちは驚いたが。
やはり、世界で何かがおこりかけているのだろう。
それこそ世界規模で。
自分達、人間が知らないところで。
「なるほど。じゃあ、今もっている機体を充電、もしくは整備するよりも、
  改造されたレアバードを手にいれたほうが早い、ということね」
相手が何をいわんとするのかすぐさま察し、リフィルがうなづきつつも問いかける。
「そういうことだな。レアバード一機を完全に充電するにしても、
  かるく丸一日くらいはかかるらしいからな。
  ならば、新しい機体に、すでに力が補填されているものに取り換えるのが無難だろう」
レアバードの動力源を充電、補充するにしてもかるく丸一日はかかる。
もっとも雷の精霊ヴォルトの力を使えば一瞬で完了するが。
それでも直接、マナをそそぐゆえに消費も激しい。
一日かかるのは、よりその力を長く使用できるように、
動力部としている品に力をなじませ、また充電するがゆえ。
たしかに移動したりするだけならばヴォルトの力を使えばてっとりはやい。
が、力が失われるのもまた早く、マナが世界に満ちている状態ならば、
周囲のマナを取り込んでの飛行は可能だが、
ここまでマナが少ないとなれば、その方法は期待できない。
そして、彼らがもっている機体は数機。
当然、すべての機体にエネルギー補給をするとなれば、確実に時間がかかる。
ならば新しい、しかも完全に充電されている機体にとりかえたほうが、
すぐに行動するのであればそちらのほうが最善、といえる。
「改造レアバードも、本来のレアバードも格納されている格納庫は同じだ。 
  それらの場所に続く道は一本しかない」
伊達にこの地に潜入員がいたわけではない。
このあたりはおろちも報告をうけている。
おろちがパネルを操作しつつも、そこまでの道筋をモニターにと示す。
いくつかのエリアにわかれているらしき場所を通り抜け、
そこにいくまでたしかに道らしきものは一本、しかみあたらない。
途中、部屋を通り抜けたりしなければいけない箇所はあるにしても。
「じゃ、楽勝だな」
道が一本しかない、というのならば、あの砂漠の施設みたいに迷いそうになることもないだろう。
ひたすらにあの施設の中で迷ったロイドであるがゆえに、
思わずそんなことが口にと出てしまう。
それはリフィル達がロイドを救出するより前。
自力で牢から逃げ出し、脱出していたとき、
ロイドは散々あの施設の中で迷っていた。
さらに仕掛けを解除する方法がわからず、それでも手こずっていた、
という事情があったりしたのだが。
そんなロイドの言葉に首を横にふりつつ、
「いや。話はまだ終わっていない。
  格納庫にたどり着いたとしても扉は閉ざされているままだ」
いって、今度は壁にとつけられているモニターらしきもの。
それらを何やら別のコントロール装置らしきもの。
それらを操作するとともに、
ぱっと目の前の壁にとあるいくつかの窓の画像が切り替わる。
たしかこれらは、遠くのものを映し出す役割をはたしている。
かつてロイドはそうきかされた。
一番記憶にあるのは、絶海牧場において、
誰もいないモニターらしきものをみて、ロディルがよくわからないことをいっていた。
それがどうしても思い出されてしまうが。
そこには誰もうつりこんでもいなければ、囚われていた人々もいないのに。
しかし、ロディルはいかにもそこに人がうつりこんでいるように、そうふるまっていた。
彼の目にはいないはずの捕らえていた人々が映っていた、ということなのだろうが。
それはいまだにロイドにとっても意味不明。
映し出された映像には、しっかりと扉が閉ざされているとある一角が。
どうやらそこが、目的の格納庫の入口にあたる扉、らしい。
「つまり、ロックされているのね?」
そのモニターをじっと凝視したのち視線をおろちにむけるリフィル。
「ロ…?」
その言葉にロイドが思わず首を横にかしげるが。
「もう。ロイド。つまり鍵がかかっているってことだよ」
そんなロイドの様子にその言葉の意味を理解できなかったのだろう。
そう判断し、盛大に溜息をつくジーニアス。
ちなみにこれらの言語は天使言語から発生した言葉、ともいわれており、
ゆえに一部のものたちにはなじみがないもの、ともいえる。
特にシルヴァラントに住んでいれば、まずなじみのない言葉、であろう。
「そうだ。そのロックを解くにはパスコードを入力しなければならない」
ジーニアスにつづき、おろちが腕をくみつつも、
モニターから向きなおり、ロイド達をみながらもそんなことをいってくるが。
「んじゃあ、そのパス何とかってやつを教えてくれよ」
そういうものが必要ならば、先にもらっておけばいい。
それゆえにロイドの言い分はあるいみまとも。
だがしかし。
「すまん。最善をつくしたのだが、パスコードを手にするまではできなかった」
間者がこの地にはいりこんでそう時間はたっていない。
レネゲードに所属したばかりのものたちは、まずは見張りなどと、
という下っ端の仕事から割り当てられる。
そういう重要なことを任されることもなく、また知らされることもない。
だからこそ、ユアンがレネゲードを組織してこのかた、
クルシスに、否、ユグドラシルに気取られなかったといってもよい。
念には念を。
それはボータの親の代からつづいており、ユアン一人では、どこか抜けがあり、
確実にユアンがレネゲードの首領だ、ととっくにミトスにばれていたであろう。
「何だよ」
その台詞にロイドが口をとがらせるが。
「まあ、しかたないわ。それで?そのパスコードはどこにあるのか。
  それはわかっているのでしょう?」
文句をいいそうになるロイドをおしとどめ、リフィルが逆にと問いかける。
「ああ。パスコードは三つあり、それぞれ三人のレネゲードにより管理されているらし。
  つまりかの地にむかうには彼らの協力を仰ぎ、
  必ず同行して内部にはいるようにここではなっている。
  ということまでつきとめている。彼ら専用のカードキーなるものがあるらしいが」
しかし、それをまだみずほの民は手にいれてはいない。
内部をしっているのも同行して一緒に入り込んでいる間者がはいったがゆえ、
おろちも詳しく聞かされているだけのこと。
「つまり。そのパスコードを管理しているものたちを捕まえるなり何なりして、
  聞き出せばいい、ということね?」
自分達が仲間だ、とこの地にいるものたちが認識していれば話は楽なのだが。
ユアン達がどこまで部下たちに伝えているのかがきにかかる。
ロイドをとらえよ、と命令をしていたとするならば、
それはそれで面倒きわまりない。
「そうだ。俺はここに残ってお前たちの援護をする」
いいつつも、ボン、という煙とともに、おろちの姿が変化する。
それはどこからどうみても、レネゲードの一員というか、
いつのまに着替えたんだ、と突っ込みをすべきなのか。
ディザイアンによくにた鎧をまとった男性が一人、その場にたっていたりする。
本来、この場の見張りであったものはすでに身動きがとれなくしており、
そう簡単には目覚めることはないであろう。
おろちが変装したのは、本来この時間、この場をまもっているレネゲードの一員。
しいなの連絡をうけ、この場の見張りを昏倒させ、成り変わるつもりでここまでロイド達を連れてきた。
ここはモニター室。
内部の様子が手にとるようにわかるがゆえに、何かあればすぐに伝えられる。
「さっすが。みずほの民は早変わりだねぇ~」
そんな変装をみて、ゼロスがかるく口笛をならしているが。
「何かあったら声をかけてくれ」
「何かって……」
まるで、必ず何かあるかのようなその言い回し。
ゆえにロイドが思わずそのことについて問いかけようとしたその刹那。
「あれ?ねえねえ。ロイド。あれって力の場、じゃないのかな?」
ふとコレットが視線の先。
部屋の中の一角にある不釣り合いともいえる何かの装置らしきものに目をとめる。
それはこれまでの様々な場所でもよくみていたものとほぼ同じ。
それにちかづきつつ、首をかしげたのち、ロイドを振り返りながらいえば、
「うお!?本当だ。どうして、何でこんなところに…
  そういえば、砂漠の施設にもこれってあったっけ……」
つまり、こういう施設にもこれはあるんだろうか?
考えてみればクルシスの拠点にもこの力の場はあったような。
ロイドが思わず首をかしげているのをみてか、
ふと何か思いだしたかのように、かるくぽん、と手をたたき、
「ああ。言い忘れていた。この施設は機械で動いている場所もある。
  機能が停止している場所もあるだろう。
  装置を起動させなければ先に進めない場合もあるかもしれない」
この力の場は雷属性に変換させるための場。
ゆえに、ここで力の属性を雷属性に変換していれば、
しいながわざわざいちいちヴォルトを召喚することもない。
もっとも、ロイドのもっているソーサラーリングの力だけ、では、
レアバードの充電、にまでは確実いたりはしないが。
「じゃあ、ここで属性を変更させておくべきね。
  ガオラキアの森でソーサラーリングの属性を光属性に変更しているままだもの」
たしかに道の最中、蔓などが覆い尽くしていたりした場所もあったので、
あれはあれで便利であったが。
いって。
「ロイド。その力の場で属性を」
「お、おう」
まじめな顔をしてリフィルにいわれ、素直にソーサラーリングをかざすロイド。
力の場に指輪をかざすとともに指輪がほのかな光にとつつまれる。
そしてかるく指輪をヒトのいないほうこうにむけてみれば、
小さな電撃の塊らしきものが、指輪から発せられる。
それをみて。
「…これって、あの砂漠の施設と同じ、なのかなぁ……」
ぽつり、とつぶやきつつ、どこかうんざりしたようなロイドの台詞。
ろいどの脳裏に予後るの、シルヴァラントベースといわれていた、
あの場所から一人で逃げ出したときの記憶。
二度目はなぜかことごとく敵が眠っていたりして襲われることもなく、
格納庫にたどりつき、レアバードを入手しこうしてテセアラにくることができたのだが。
それよりも前。
つまり、ロイドがジーニアスとともにコレット達を追いかけていた最中、
つかまってしまったとき、牢からどうにか逃げ出したはいいものの、
散々施設の中で道まよっていたことをロイドは忘れてはいない。
さらに仕掛けを解除するにあたり、ジーニアス、たすけてくれぇ。
と一人ごとをつぶやいたことも。
「あと。そこにみえている機械で物資の補給ができる。
  自動販売機、というのだがな。もっとも有料だが」
何でも昔は無料であったらしいが、あまりに多用されすぎ、
また、無料をいいことにここで物資をとりだしてはよそに売りさばき、
私服をこやすものがでてきたがゆえ設定を有料にかえたらしい。
というのは、ここに潜入している忍がレネゲードの一人から聞き出したこと。
わざわざそこまでおろちも彼らに説明するつもりはないにしろ。
そんなことを想いつつも、
「グミやボトル。スペクタクルズといった簡単ものならば購入可能だ。
  ミラクルグミまであるのには驚いたがな。
  この物資補給の仕組みはどうなっているのやら」
いわれ、たしかにそこに箱のような何かがあり、興味をひかれてみてみれば、
その表面におそらくは、ディスプレイ、なのだろう。
見本のようなものがずらり、と一面に表示されており、
その下にボタンのようなものがあり、そこにて数を入力するような仕組みになっているらしい。
アイテム的にはTP回復を主としたグミが主流で、
それ以外には、気付け薬として使われる気絶回復用のライフボトル。
そして状態異常回復用のバナシーアボトル。
一応、簡単な取扱い説明のようなものが機械の上にかかれており、
それをみるかぎり、
数と品を選び画面に表示された価格をコイン投入口からいれることにより、
下の取り出し口から品物がでてくる仕組み、となっているらしい。
ちなみに通常、店などでミラクルグミを買う場合、
三千ガルドはくだらないのだが、ここは少しばかりやすいらしく、
それでも二千七百ガルド、とかなり高めといってよい。
なぜか一般的ともいえる体力回復のためのグミ。
アップルグミ系統はなく、グミはTP回復を含むものが主流、らしい。
オレンジグミ、パイングミ、ミックスグミ、ミラクルグミ。
と精神力、つまりは魔力をも回復させるもののみで、
みるかぎり体力のみを回復させるというグミ類はどうやら取り扱ってはいないらしい。


~スキット:自動販売機?~

ロイド「すげぇ!これおもしろい!前のときは先生に口ふさがれてたからなぁ」
クルシスのウィルガイアというところにも似たようなものがあったが。
あのときはリフィルのサイレンスをうけてロイドは口がきけなくなっていた。
リフィル「ミラクルグミがあるのには驚きだ。
      というかこれの物資補給はどうなってるのだ?おろち!」
おろち「わからぬ。が、これに物資を補給した、という話はきかぬ。
     内部のお金のみは取り出せるようになっているらしいがな」
リーガル「これもまた、古代文明の技術の一つだといわれている。
      昔は重要な設備にこのようなものが配置されていたらしい」
しいな「昔は、それらが無料で手にはいっていた時期もあったとかいうよ?
      嘘か本当かわからないけどね」
リフィル「それでは市場がくるうのではないのか?」
ジーニアス「…というか、姉さん、いつのまに遺跡モードに……」
ゼロス「はいはい。そんなことより。とっとと用事をすまそうぜ?
     時間がおしいんじゃなかったのか?」
ジーニアス「うわ。ゼロスがまともなこといってる…」
ロイド「そうだな。いこう。みんな。って、先生?」
リフィル「ああ、分解したい!解明したい!」
ジーニアス「もう、姉さんったら!いくよ!」
ロイド「……先生。しばらく遺跡モードみないとおもったら…はぁ……」
コレット「でも、これが一家にひとつあったら誰もこまらないね!すごいねぇ」
しいな「コレットらしい意見だねぇ。ま、いえてるけど。
     でもそれじゃあ、店がたちゆかなくなるんじゃないのかい?
     あとグミを販売しているような場所もさ」
コレット「そっか」
ロイド「でもほんと、これ、中の物資どう補充してるんだろ?」
一同(リフィル除く)「さあ?」
リフィル「だからこそ、分解してだな!」
おろち「…はぁ。とにかくいそげ。そろそろ次なる巡廻のものがくる時間になるぞ?
     無駄な戦闘はしたくないだろう?」
この人間たちは、何をやってるのだろうか?
ここが敵地、だというのを失念している、としかおもえない。
プレセア「…というか、私はノイシュがきになり、ます」
コレット「ノイシュ。アステルがくれたアメたべてちっちゃくなっちゃったもんねぇ」
しいな「まあ、大丈夫なんじゃないかい?
     あれって、そのうちに市販されるっていう話だし。
     限定数時間、あなたも小さくなってみませんか?という売り込みで」
リーガル「しかし、まだ市販にむけての販売には問題があるがな」
おろち「…だから、いそぐべきなのではないのか?」
どうも、彼らはほうっておけば話が脱線していくというか、
急ぐ素振りがないような。
そのアメのことはおろちも知っている。
たしか誰もが力の場の力をつかわなくても、
一時的に小さくなれる効能をもったアメ、であったはず。
おろち「とにかく、いそげ。ここの担当時間もそうはない。
     見回りのものがくれば、そんなに大人数で移動していることを、
     不審におもわれかねないぞ?」
実際、行動するにしても、三人から四人が限度。
彼らのように大人数でチームをくみ行動するようなレネゲード達は…いない。

※ ※ ※ ※


おろちにみおくられ、外にとでる。
廊下の周囲にはちらほらとレネゲードの一員らしき姿もみえている。
へたに騒ぎをおこせば面倒、という理由もあり、なぜか部屋の中にあった更衣室。
そこにと納められていたレネゲード達ようの服と鎧をきこみ、
今現在はそれぞれが簡単な変装をしていたりする。
もっとも数が足りずにゼロスやロイドはなぜかその顔に仮面っぽいのをつけており、
たしかに顔はみえないが、何とも言い難い容貌になっていたりする。
律儀、というべきか。
仮面をつけるのならばそれにふさわしい恰好をしないとな。
というゼロスは手持ちにあったらしい服まできがえ、
いつもの恰好とはまた違う恰好をしていたりするのだが。
ゼロス曰く、謎の美青年剣士、の恰好、であるらしい。
「しかし、こんなものまであるのね……」
リフィルとしては部屋を立ち去り際にてわたされたもの。
それをみて溜息をつかざるをえない。
「まあ、ハーフエルフのマナを測定する装置があるんだ。
  それに似通った感じのものをもたせる装置の開発もされてたからなぁ。
  主にぬれぎぬをきせるのに便利だとかいう胸糞悪い理由でな」
それは、見た感じをハーフエルフのマナにとごまかすというか、
雰囲気をそのように誤認させる、すこしばかりの幻惑の術が含まれている装置らしい。
ハーフエルフでもないものをハーフエルフ、として処刑するためだけに
かつて国の命令で数百年前にとつくられた、というそれは。
この時代になってまた再び使われていたりする。
リフィルの台詞にゼロスがそう吐き捨てる。
マナの測定までされれば、ハーフエルフではない、と気づかれはするが、
これをもっているかぎり、他者はそのマナをエルフの系統だと誤認する、らしい。
そしてそれはマナの血族であるハーエエルフ達すべての同族に通用する、とのこと。
下手に騒ぎをおこさないほうがいいだろう、といってオロチから手渡されたそれは、
ロイドにとってもあまりいい気分のものではない。
つまるところは、それをもつことにより、仲間だ、と誤認させ、
騒ぎをおこさずに目的の場所までたどり着けるように、というおろちの配慮。
それはわかっている。
いるのだが、そんなものがこの国にあったのか、という思いのほうがはるかに強い。
つまりは、冤罪を促すための装置、といっても過言でない品。
しかし、たしかにその効果、もあるのだろう。
すれ違うディザイアンの恰好によくにたレネゲード達は、
首をかしげながらも、彼らをみて、そのまま素通りしており、
中にはお疲れさま、と声をかけてくるものの姿すら。
また、
「ユアン様やボータ様がいないからって遊びも大概にしろよ?」
といって顔をかくしているロイドやゼロスにそんな声をなげかけてくるものすらいたりする。
どうやらロイドやゼロスが顔を仮面らしきものでかくしているのを、
彼らなりの戯れ、ととらえているらしく、今のところ騒ぎにはなっていない。
というかそれでいいのか?という思いもあるが。
おろちにいわれるように、たしかに道は一本。
が、しかし、途中にあるいくつかの仕掛けはそのままで、
まずはその仕掛けを解除しつつ先に進んでいく必要性があるらしい。
「というか。こんな仕掛けやってて、ここのやつらも邪魔なんじゃないのか?」
おもわず仕掛けを解除しながらもロイドが愚痴る。
というか進むたびにブロックのようなものを動かしたりするのは、
はっきりいって面倒なのではないだろうか。
廊下には侵入を阻むかのように時折電気が走っており、
まずはその電気の柵を解除しなければ先にとすすめない。
もっとも、そんな仕掛けの先にとある部屋。
しいなが先行し、この先をみてくる、といって先にすすんでしばらくのち。
その手にメモらしきものをもっており、
「この先の部屋にいたやつらがこんなものをもってたのを書き出してきたよ」
ロイド達が周囲を探索している間にどうやらしいなはしいなで、
怪しい、と思った場所を探索し終えた、らしい。
「こういうとき、しいなは隠密だって実感するんだけどなぁ。
  …普段のドジさえなけりゃあなぁ」
「わるかったね!」
そんなに時間もかからずに、ある程度のメモをとり戻ってきたしいなにゼロスがいえば、
そんなゼロスにくってかかっているしいな。
これでもしいなは一応は、隠密といわれしみずほの民。
血筋的にもその潜在能力はかなり高い、のだが。
いかんせん、彼女のドジとうんのなさがその能力をいつも下にとみせている。
一本道、とはいいつつも、道はかなり入り組んでおり、
おろちが道をさきに示していなければ間違いなく迷っていた、であろう。
「手にいれたパスコードらしきものは、”マナの””光は”なんだけど…」
「あら?それって、ウィルガイアでのパスコードに似ているわね。
  もしかして、マナの光は命の輝き、かしら?」
「おそらくそうじゃないかとおもうよ?
  あたしらの里につたわっている言葉もあるしね。
  こっちは、”星の命は大樹のささやき”ってね」
「あと、これがおそらくカードキー、だよ」
どうやらしいなは、鍵となるであろうカードのようなものもみつけてきた、らしい。
このあたりはさすが、というよりほかにはない。
「そう。とりあえずいってみましょう。…ユアン達がもどっていなければいいのだけど」
戻っていたとしたら邪魔される可能性が高い。
しいなの力がいる以上、命まではとってこないであろうが。
しかしこちらを人質にし、しいなに最後の契約を強いる、とも限らない。
「――いきましょう」
ともあれ、ここで立ち止まっていても仕方がない。
おろちに示されたのは、これよりも奥。
いくつかの部屋を抜けた先に目的地は、ある。


バチバチと通路をふさぐ電撃類は、それを防ぐためのブロックも廊下にとおいてあり、
というかこんなのを廊下に普通においている、
というだけでも邪魔以外の何ものでもない。
床からブロックはせり出すようになっており、
とある行動をすれば床からせりあがってくるようにとなっている。
ブロックをうまくつかい、ふさがれている道。
電気の発生源の装置の手前にブロックをおくことにより、
一時電気が遮られ、普通に横をすり抜けられるようにとなり、
奥にとつづく扉へと足をむける。
レネゲードの支部、といっているわりに、
以前、ロイドが捉えられていたシルヴァラントベースよりも、
人の姿は少なく感じなくもない。
廊下の端には電気が流れているのであろう、それ専用のケーブルが走っており、
うかつに触れたりすればまちがいなく感電してしまう。
しばらくすすんでゆくと、何かの作業場のような場所にと入り込み、
ここを抜けた先が目的の場所、すなわち格納庫につづくエリアに続いている。
奥に、奥に進んでゆくことしばし。
やがてエレベーターらしきものの場所にとたどり着く。
先ほど、おろちから聞かされたこの施設の地図によれば、
これにのって地下におりれば格納庫。
逆に右手にいき、セキュリティボードに暗号と認識番号、そしてカードキー。
それらを使用、また打ち込みすることにより、
その先にとある管制室にとたどり着けるらしい。
管制室と発着場は兼用、となっているらしく、
そこから地下にあるレアバードを機械によって移動させ、
そしてレアバードなどはしようされている。
エレベーターを利用するのにもカードキーを差し込んでください、
とアナウンスがながれ、しいながどこからか手にいれた、というカードキー。
それを差し込むとともに、認識しました、という声とともに、
エレベーター室の扉が開かれる。
浮遊するような感覚とともに、エレベーターにと乗り込み、地下室へ。

「ここが、格納庫、のようね」
「うん?何だ?お前たちは?」
ふと、エレベーターからおりてきた、彼らにきづいたのか、
レネゲードの一人が何やらそんなことをいってくるが。
ふとみれば、こくり、とうなづいているしいなの姿が。
「うむ。上にたのまれてな。様子をみにきた。
  マナが少なくなっているので整備具合はどうか、ということでな」
こほん、と咳払いし、いかにも、な言葉を紡ぎだす。
そんなリフィルの態度に、
「あ~。上のいいそうなことだな。いっとくが。
  まだ他の機体の改造はおわってないぞ?ったく。
  そもそも、マナがなくても飛べるようにしろとかわけのわからないことを…」
「言いたいことはわからなくもないがな。あと、われらはレアバードを預かってきた」
「うん?」
「外の状態がああのせいで、これをここにもっていけ、といわれてな。
  そのままここで手伝いをしろ、と命じられたのだ。ったく」
心底、心外、とばかりにリフィルがいえば。
「…お互い、下っ端はつらいな。しかし、めずらしいな。
  上が数名も手足をよこすなど。それだけはやく機体を改造しろ、ということか?」
どうやらこの口調から察するに、彼らはここにあるレアバードのいくつかの機体。
それらの機体の改造、を命じられているらしい。
たしかにみれば、行く人かのレネゲード、なのであろう。
鎧を着込んでおらず、どちらかといえば作業着のものたちが、
わらわらとレアバードの機体に幾人かづつむらがっているのがみてとれる。
中には機体を分解している箇所すらも。
「あと、使えるのはいつでも取り出せるようにしておけ、といっていたぞ?」
「…上のいいそうなことだな。それで、もってきたレアバードは?」
リフィルの物言いをすっかり信じ込んだらしく、相手が何やらいってくるが。
「この中にはいっている」
いいつつも、リフィルが手にしているウィングパックごと相手に手渡せば、
「わかった。確認するからお前たちはついてこい。
  ふむ。まだ子供みたいなやつもいるようだが。というか、おまえら。
  いつまでふざけてるつもりだ?とっとと服装を着替えてこい。
  そこの先に更衣室がある」
ウィングパックを受け取ったのとは別の人物がちかづいてきて、
ロイドとゼロスの恰好をみながら溜息まじりにいってくる。
「ボータ様が今はいないからいいものの。あまりふざけてると減給、
  もしくは降格させられるぞ?」
「まあ、時期的にそろそろハロウィンにもなるから遊び心も必要だがなぁ。
  しかし、今はそれどころではなくなっているしな」
ハロウィン。
それは収穫祭を祝う祭り、それらがすこしばかり変化したお祭りのこと。
あまりヒトにとっては一般的ではないものの、
大地とともにいき、自然とともにいきよう、という項目をかかげているエルフ達。
そしてまた、エルフの血族にとって、その意味はおおきい。
その祭りは世界の実りに感謝し、また祈りをささげるものだ、という認識がある。
あるがゆえ、普通ならばレネゲードの中でもちょっとしたお祭りイベントがある、のだが。
今年はどうやらそれどころではない、らしい。

「どうやらうまくいったようね……」
こちらの言い分はどうにか信じられた、らしい。
違和感がないように手伝うふりをしつつも、
改造されているという機体がきちんと運ばれていくのを確認する。
「先生、どうすんだよ?これ?」
「人がいなければ、そのまま、という手段を用いたかったけども。目を盗んでてにいれましょう」
さきほど、レネゲードにわたしたウィングパックには、実は機体は三機しかいれていない。
「しいな」
「あいよ」
それは暗黙の了承。
しばらく手伝うふりをしている中で改造されているのがどれであるのか。
一応把握はできた。
よほど忙しいのか新人というか手伝いによこされた、
と信じているロイド達に見張りを頼んでいる箇所もいくつか。
人数が人数ゆえに全員が同じ場所の配置にはならず、
いくつかの場所にとふりわけられていたりする。
ぱっと見た目はレアバードは改造済み、とはわからない。
が、たしかに改造はされている、のであろう。
例をあげるとするならば、機体の横に書かれている文字に、
さらに追加で文字がくわえられている。
しいなが周囲の視線をきにしつつ、一瞬、この場にいる者たちの視線がなくなった直後、
すばやく腕をかざし、すっかり忘れかけていたといってもよい、
腕輪をレアバードにむけてかざす。
刹那、目の前にあるレアバードはしいなの腕輪の中に吸い込まれるようにきえてゆくが。
それにたいし、すかさず、リフィルがウィングパックを発動させる。
つまりは、しいながそこにあるレアバードを腕輪の中に収納すると同時、
リフィルが、ウィングパックの中に収納していたレアバードを取り出し、
ぱっと見た目は何事もなかったかのようにみえるようにふるまっていたりする。
つまりは、機体の取り換え。
報告によれば、発着場にもなっている場所にも力の場、があり、
そこにメルトキオの地下にあったような力の場がある、らしい。
らしい、というのはさきほど、ここにくるまでの道のりをおろちからきかされたとき、
そのように説明されただけで、実際にみたわけではないので、
しっかりとしたことはいえないが。
「できたら全部変えてしまいたかったけど。…二機、もしくは三機ほどにしておきましょう」
できれば、改造澄みだというレアバードは六機くらいはほしいところだが。
それではあきらかに気づかれる。
まだ、一機や二機程度ならばなくなったことにきづかれたとしても、
多少の時間がかせげる、であろう。

ブィーン、ブィーン。
【警報、警報。
 総員はただちに部署につけ、くりかえす、総員はただちに部署につけ】
何とか二機目をごまかしつつも手にいれたその直後。
突如として警報らしきものが建物の中にと鳴り響く。
「くりかえす、総員、ただちに配置につけ。
  クルシスの巡廻がこの付近にあらわれるもよう。繰り返す!」
壁につけられているスピーカーらしきものから、ひたすらにそんな声がきこえてくる。
ばたばたと、それぞれに手にしている小さなまるい何かを、
目の前にあるレアバードにむけて、格納庫にあるそれらを素早く、
それぞれが収納しているレネゲード達。
「おい。おまえたち!」
いったい、何がおこったのか理解できず、またここに潜入し、
どうにか二機だけは確保できた、とおもっていたリフィル達にとって、
今、何がおこっているのか理解不能。
「ここの手伝いはもういい。元の部署にともどれ!」
「ああもう!この数日、マナが衰退しているのもあって、
  だから、節電が必要なんかじゃないかっていったのにぃぃ!」
何やらそんな声がちらほらときこえてくる中、
思わず何ごとか、とおもい集まっていたリフィル達にと声が投げかけられる。
実際、それぞれいくつかの組にわかれ、
機体の整備にあてられており、その中でロイドの手先の器用さで、
かなりロイドはレネゲードの技術者らしき人々に褒められていたが。
「いったい、何が……」
「何をねぼけている。
  ボータ様からも警戒するように、と忠告があったばかりだろう?
  ここ数日マナが異様に少なくなりつつある。
  ここ、施設がマナの保有量で発見される可能性があるゆえに、
  急いでレアバードの改造をおえ、それぞれ用心するように、とな」
戸惑いの声をあげるジーニアスに、一人がそういい。
「子供とてそのあたりはわかっているのだろう?」
「まあ、子供だからこそあまり重要ではないここの手伝いにまわされたのだろう」
そういいつつも、
「ともあれ、この格納庫、そしてこの施設は一度休眠状態にはいる。
  お前たちも部署にともどれ!」
まったくもって話がみえてこない。
が、どうやらレネゲード達にとっては、これは予測していたこと、であるらしい。
というか、クルシスの巡廻、とは。
聞きたいことは山とあるが、しかし問いかければ逆に不審に思われてしまうのがおち。
みればそれぞれ、ウィングパックにしまったレアバードをそれぞれがもち、
わらわらとそれぞれエレベーター、
もしくは非常階段のほうにむかっていっている人々の姿が。
なぜ一か所に数名が固まるように集まっているのか、という疑問を抱くものもいはするが、
今はそれよりも彼らは問いつめるよりも時間がおしい。
ゆえに、固まったロイド達一行。
たしかに、ほぼ指示をしているといっても過言でない、
今現在リーダー格、ともいえるリフィルを筆頭にして、
ジーニアス、ロイド、コレット、しいな、プレセア、ゼロス、リーガル。
この八人が固まっていればめだつ、としか言いようがない。
ノイシュはいまだにアステルが用途をいわずにわたしてきたアメをたべ、
小さくなっているまま、ではあるが。
属性変更にてノイシュを小さくできないのであれば、
ノイシュは外にまたせているつもりであったので、
あるいみこれはこれでたすかりはしているのだが。
「チャンスよ。この騒ぎに乗じててにいれた機体で外にでましょう」
けたたましくいまだに警報は鳴り響いており、
それとともに、バチン、パチンッ…だんだんと明かりが消されていっている。
どうやら電力を使用することによって発生するマナ。
それらの反応を防ぐためか、電源を落としていっているらしい。
何がおこっているのかはわからない。
が、騒ぎに乗じて外にとでる、というリフィルの意見にはうなづかざるをえない。
ゆえに、それぞれが顔を見渡しつつも、彼らは格納庫を後にすることに。

「いそいで!」
その声はいったい誰からもたらされたものなのか。
レアバードの発着設備があるというとある部屋。
その部屋自体にいくのはかまわない。
が、たどり着いたときには、すでにその場所を閉じる作業がおこなわれており、
すでにその場にいたものすら退避しかけ最後の二人しかのこっていなかった。
モニターに映し出されているのは、この施設の出入り口であるらしき岩肌の場所。
そこにはせり出した巨大な岩らしきものが完全に入り口をふさいでおり、
そこに入り口があるような痕跡を綺麗にと消していたりする。
そしてモニターの一部に映し出されているのは、
どこか姿が透けているようにもみえる、黒い翼をはやした天使達。
クルシスの巡廻。
そうレネゲード達はいっていた。
しかし、武器を手にしている以上、何か確信があっての行動、なのだろう。
「まさか…」
ふと最悪な形を想像し、そのモニターをみて立ち尽くしているリーガル。
「ロイド!いそぎなさい!いそいでそこの力の場で力の変更を!」
「お、おうっ!」
なぜかこの場所には力の場があり、どうやらここで体を小さくするあの機能。
メルトキオのなぜか地下下水道にとあったあの力の場とおなじものがあり、
それをもってしてそれぞれの体を小さくすることができる、らしい。
「全員、小さくなったらこの風呂敷の中に!いっきにぬけるよ!」
すでに、扉はモニターでみるかぎり閉ざされかけている。
ロイドがせかされるように全員を小さくしたその刹那。
しいなが叫び、全員が風呂敷の中にはいるとどうじ、
そのままばっとそれをまるめてひっつかむ。
それほどまでに時間が、おしい。
「間に合えぇぇぇぇぇぇぇ!」
そのまま、取り出したレアバード一機。
それのアクセルを思いっきりふみこみ、一気に加速する。
それはまさにぎりぎり、というべきか。
ドン、ドン。
背後のほうでいくつもの仕切り扉、になるのであろう。
いくつもの扉が大きな音をしながら、閉じられていくのがみてとれる。
それとともに、発着口となっているのであろう、
筒のような道に連なっていた電気がどんどん背後からきえていっている。
薄暗い、ということもあり明るさがなければあるいみ危険。
下手をすれば壁にぶつかり機体は大破、もしくは壊れてしまうであろう。
どうにか操縦桿を握り、薄明りの中必至にアクセル全開し外にとむかうしいな。
それは時間との勝負。
今にも閉まりかけていたそれらを何とかくぐりぬけ、
さらに空がみえていたそこすらもしぼむようにしまっている狭い隙間。
その隙間めがけ、いっきにアクセルをさらにふみこみ、操縦管を握るしいな。
下手をすれば閉じられていく扉に挟まれ、命はない。
もしくは閉じた扉にぶつかり怪我、もしくは死ぬ可能性すら。
が、ここでここから脱出しなければ、おそらく自分達が潜入していることもばれ、
レネゲードにつかまってしまうであろう。
混乱しているこの時こそが、脱出の好機であり、
また、管制室にかけつけてきたおろちが作業している今が絶好のチャンス。
この騒ぎにてモニター室から管制室にと移動してきたらしく、
しいなたちの手助けをするために、一人のこって作業をしており、
ゆえに閉まりかけているさまざまな仕切り扉のスピードが、
気持ち程度緩やかになっており、その好意をムダにすることはできはしない。

風が操縦桿をにぎるしいなの周囲を吹き付ける。
「抜けたっ!!!!!」
思わず声をあげるとともに、背後の扉が完全にと閉ざされる。
はっと振り向けば、そこには何か設備があるようにはみえず、
普通の山があるようにしかみられない。
どうやら脱出は施設が閉じられるよりも前に成し遂げられた、らしい。
そのことにしいながほっと息をつくが。
「しいな、気を抜くな!」
そんなしいなにゼロスの鋭い声がなぜか顔の下のほうから投げかけられる。
しいなが声がしたと思ったほうこうに思わず視線を下にむけてみれは、
しいなの胸の谷間の上になぜかしっかりとたっているゼロスの姿がみてとれる。
ふといつのまに風呂敷の中から抜け出してきたのかはわからないが、
というか、胸の上にかけあがってきているのだろうか。
この男は。
「前をみろ!」
おもわずしいながそんなゼロスになぜに胸元の上にいる、と文句をいいかけたその矢先。
その小さな手によって示されたそ先にみえるのは。
「げっ。クルシスの…天使!?」
ああもう、こんなときに!
こちらはしいな以外は小さくなっており、戦力、とは言い難い。
「っ。ふりきるよっ!!!!!!!!」
ゼロスに文句をものすごくいいたいが。
しかし、相手もどうやらこちらにきづいたらしく、
おもいっきり武器をかまえ突進してくるのがうかがえる。
エネルギーをかなり使用してしまうことになるであろうが、
今はそんなことはいってはいられない。
まずは、この目の前にいる数名の天使達を振り切るのが先――。



pixv投稿日:2014年10月26日某日(Hp編集:2018年5月6日(日)開始

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あとがきもどき:

きりのいいのでここまでー