まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

pivixさんに投稿していた話の区切りとは変えてあります。容量的に……

今回は、急転直下。ただその一言につきます…
今回の話は別の意味で鬱になるかもしれません。
衝撃イベント、あの原作の回、にあたります。
本来のゲーム原作ではアルテスタの家で、でしたが。
この話では、アルタミラで、となっております。

リフィルによる、エミルの正体についての指摘。
その回が前半(というか大部分?)にちらり、とはいりますが。
いい加減に、みなに(というか特にロイド)に理解させるための、
リフィルの説明回、ともいえるのですけどね・・・・・・
ついに、みながみな、エミルの正体に確証に迫ってます。
というかほぼばれてます(笑
というかほぼ真実?ミトスにしても、リフィルの指摘にて、
これまで無意識のうちに考えようとしていなかったというのに、理解してしまってたりします。
つまり、いろんな意味で急転直下、の回です。
というか、みなさん、不思議におもってても、
無意識のうちに考えようとしていなかったツケ(?)が、
今さらながらにようやく自覚した、というべきなのか。
そろそろラタトスクも率先して隠す気なくなってますからね。
センチュリオン達に命じたように……
ようやく、初期の初期ででてきてた、紋章伏線回収。
そこにまでたどりつけました……
カーラーン号の中で、なぜにわざわざ紋章があったのか。(だしてたのか)
それはここ(リフィル達が気づく)ところのあるいみ伏線であったという。
あと、しいなにも、ですね。
”エイトリオン”と”センチュリオン”。
ついでに、ミトスにもついにセンチュリオン達の覚醒は気づかれてますしね。
・・・セルシウス姿をしたテネブラエのために(笑
まあ、ラタトスクがそれとなく知らしめろ、とはいっていたにしろ。
あの感づかせ方はどうか、とおもうのはラタトスクだけではないはずですv
(きっと真実しったリフィル達も同じことを思うでしょうv)
あと、救いの塔にいったとき、
エミルが以前、ミトスにかばわれ、そんなミトスが怪我をしたのを治してますが。
リフィルの指摘にてミトスもそのときのことを改めて思い出します。
つまり、あるいみであの場でほとんどエミルの正体は…(苦笑
あと、テセアラという国の裏の実情をさらり、とゼロスがまたまた暴露。
いや、やってる、とおもうんですよ。テセアラ…
どうも、権力欲というか身分上の人たちって、力追い求めてそうですし。
それに、あれだけハーフエルフや貧民層のヒトビトをとらえてたりするわりに、
・・・幽閉施設というか牢屋が小さい、という理由も一つだったり。
・・・人体実験に使用してしまえば牢とかいりませんしね(ぽそり←マテ
あるいみで、ヒトのほうがより残酷で非道、という実情ですね。
ヒトって目的の為ならば手段えらびませんしね…本当に……
屁理屈や正当性をつけて、残虐非道なことをしでかしても正当化しますし。
そしてそんな残虐非道の光景をみて楽しむというような施設すら創り出しますし、ね

しかし、毎回、あのシーンみておもうんですけど。
ロイド、他人には自分は自分だろ?生まれや育ち、誰が親とか関係ないよ。
とかいいきっていたにもかかわらず。
自分のこととなったらおもいっきり取り乱しまくって
あなた、口先だけでいってたの?
とあるいみ冷めた視線でみてしまう、という思いがあったりします
初回プレイでは衝撃的すぎてそこまでは考えいたらなかったけど。
二週目、三週目、となるとねぇ?そこまで考える余裕もでてくるわけで。
他人のことだから、そんなにさらっと簡単にいえてたんだな。
とか逆からしてみればおもってしまってもおかしくはないとおもいます。
子供、といってももうロイドも17なわけで。
高校二年生の年齢ですよね?それって。責任感とかそういうのは?
みたいなことがどうしても。
しかも、俺は何をしんじたらいいんだ、とかいいきってますしね
ロイド、これまで自分が他の人に何といってたのか自覚してるの?
とものすごく突っ込み回、ではありましたね。
あのイベントは……
ゲームやってあのイベントみたみなさんは、あのロイドの態度。
どうとらえたんですかねぇ。
それがちょっとした素朴なる疑問。
しかも、コレットに自分は自分っていってくれたのはロイドあなただよ。
といわれるまで取り乱しまくってたままだ、という。
・・・精神面(メンタル)低すぎでしょう、といいたいです。切実に…
まあ、信じられなかったんでしょうけどね。
クラトスが自分の父親である、というその事実が。
それにしても、ねぇ?コレットにしても然り、ゼロスにしてもしかり。
ジーニアス達にも、自分は自分たろ?といいまくってた当人が、
自分のことに直面したら、となったのが、お~い?状態、ではありました。
私(薫)個人の感想、ではありますけどね。
まあ、クラトスの子、というので、半精霊化
(エクスフィアはきっと精霊石だと信じてる←エクスフィアにも意思あるし。)
とヒトのあいのこで、ヒトと、精霊と、しての感性の違い。
それが生まれながらの本質と反するもの、として。
あんなにロイドが不安定なまでになってるのかな?とおもってたり。
(考えなしに物事ロイド、いいそうだし。切実に/ロイドアンチ、とかではありませんので。あしからず。
  あくまでも、ロイドの生まれからして、そんな考えなんだろうな。みたいな?
  あるいみ、ロイドって、ハーフエルフよりも希少というかありえない子。
  だとおもうんですよね。だって天使の子って他にはいないよ?
  つまり、たぶん生まれるはずのない子供がロイド・・・・・・)
(天使はいたとしても、人為的にエクスフィアで天使化してるものたちばかりだし)
※投稿分内容的には117話、の回からです)

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重なり合う協奏曲~急転直下~

「しかし、本当に予測通りというかやるなんてさ……」
じと目でじっとロイドをみつめるジーニアスは間違っていない。
絶対に。
岩場にて一応、食材となるであろう魚やタコ、さらにはエビ。
ついでに貝類も。
それらをとってきている今現在。
食材をある程度確保したのち、こうしてこの場に戻ってきてはいるのだが。
牡蠣があったがゆえに、そのままカラのまま、
炭火の上の網におき、すこしみずほ特性、醤油をたらし、
殻つき牡蠣を炭火でやく、というあるいみ贅沢をしていたりする。
「パナシーアボトルをもっていっていてよかったよ」
かわった色のタコだ、といってジーニアスが危ない、というよりもはやく、
ロイドが手でつかんでしまい、案の定、とでもいうべきか。
すぐに解毒をしたからよかったものの、もうすこし落ち着きをもってほしい。
とおもうのは、ジーニアスだけではないであろう。
先刻までそれをきき、懇々とロイドはリフィルのお説教をうけていたのだが。
「だってさ。イセリアではみたことないやつだったし」
「だからといって、いきなり素手でつかむやつがいるか」
ぽそり、とつぶやくロイドにクラトスがあきれ半分にも言い放つ。
この子はよくここまで無事大きくなれたものだ。
きっとダイクどのが尽力してくれていたのだな。
そっと心の中でダイクに感謝をささげているクラトスの心情はいわずもがな。
「わるかったなぁ。そういえばさ。
  あの会場とかいう場所でゼロス、いやに人気だったよな?いつもああ、なのか?
  そういやいつもゼロス、話しかけたら何かしらのアイテムもらってるし」
それこそ女性限定、なれど。
ときおり、男性からもゼロスは話しかけるとともに品物をもらっていたりする。
自分の分が悪いというのを理解しているからか、
ロイドがふと気になっていたことをゼロスに問いかける。
「ま、この俺様はとても麗しいからねぇ。
  あふれんばかりの気品ってものがどうしても黙っていてもわきだしてるのさ」
「気品ねぇ。あんたはだまってさえいればたしかに美男子だからねぇ」
おちゃらけたようにいうゼロスに、しいながあきれつつもさらり、と言い放つ。
プレセアは早めの就寝をしており、ある程度食べたのち、
今日はこのまま、プレセアの体のこともあるのでホテルにともどらず、
ここコテージで泊まるのがいいだろう。
というリーガルの意見のもと、近くにあるコテージに泊まることにしており、
先に彼女はコテージにともどり、すでに休んでいたりする。
急激に成長をとげた体はやはり負担がかかるらしく、
また、これからしばらく体のマナをなじませる必要があるから、
このまま自分が体を動かしているのも体に負担がかかる。
というのがアリシアからもたらされた言い分。
すでに日はくれ、空には月がかかっている。
あと数日で満月であることを示すかのように、
ほぼ満月に近い月がゆっくりと空に顔をのぞかせていたりする。
「それにしても、よく見物者たち、あれが本物の精霊だってわからなかったよね……」
あれほど精霊達による術がとびかっていたのに。
なぜいともあっさりと、立体映像だと信じ込んでいたのかが、
ジーニアスからしてみれば信じられない。
マナを感じてみればそれが本物の術であることはすぐにわかるであろうに。
だからこそ、昼間のことを思い出すたびにジーニアスはそう思わずにはいられない。
「まあ、一番の原因はこいつが、そういったからだろうね」
いいつつ、ちらり、とゼロスを横目でみつつも溜息とともにいいはなつしいな。
一番の理由は、ゼロスが立体映像のイベントだ、と言い切ったためであろう。
「うむ。ここテセアラにおいては、神子の地位は国王につぐ。発言力にしても然り。
  とは一般的に言われてはいるが、実質的には国王よりも上の立場。
  ゆえに、神子の言葉は絶対、という風潮があるからな。
  神子が立体映像、といったがゆえに、大衆もそう信じ込んだのだろう」
だからこそ、教皇はゼロスがいないすきをねらい、かの法律すら強行したのだ。
と溜息とともにリーガルが最後の言葉はつぶやくようにして付け加える。
「…それ、わかる。私もよく『神子様がいわれるのなら』
  と相手が言葉を飲み込むことはよくあったから」
ふとそんな会話をきき、コレットが顔をふせる。
コレットも彼らの言い分はよくわかる。
小さいころは不思議でたまらなかったが。
神子だから。
神子様がいわれるのだから間違いはない。
たとえそれが間違っていることでも、白が黒でまかりとおるように。
それをコレットは身に染みて理解している。
「よくわかんねえけど。ゼロスはゼロス。コレットはコレットだろ?」
そういわれてもロイドにはピン、とこない。
ロイドにとって、コレットはコレットで、ゼロスはゼロス、でしかない。
「けど、ここテセアラじゃ、それが絶対なんだよ。
  生まれによって身分が決定してしまうようにね」
赤ん坊のころに捨てられて、いいところに拾われればまだ違う生き方もできるだろう。
そう、自らがガオラキアの森にて赤ん坊のころに捨てられており、
イガグリに拾われて、みすほの里の民としていきているように。
いまだに、しいなは自分の出生の秘密。
それをイガグリ達からきかされていない。
「生まれや育ち、か。関係ないとおもうけどな。
  どんな親をもってたって、だって自分は自分なんだから」
「ロイドのその考えは好きだとはおもうけど。
  でも、実際、僕らのような狭間のものは、それゆえに疎まれ、迫害されてるんだよ?」
「だから、堂々としてればいいじゃんか。自分は絶対にわるくないんだったら」
「…それができるのは心が強いヒトだけだよ。
  だれだって、周囲が疎み、そして蔑ろにして迫害されてくるのに。
  そんな中、堂々となんてできないよ」
ジーニアスがそんなロイドの台詞に顔をふせる。
――絶望するならば、ひっそりと暮らしましょう?
ふと、そんな会話をききつつもミトスの脳裏によみがえるは姉、マーテルの言葉。
「そう、だよね。僕らはどこにいっても疎まれる。ハーフエルフだ、というだけで」
それでもわかってもらえる。
そうおもっていた。
自分たちの意見をとりいれて、停戦もしてくれたとおもったあのときの喜び。
ても、それは見せかけだけで。
あのとき、停戦後、世界を分けていなければもっとはやくに争いが始まったかもしれない。
虎視眈々と二つの勢力陣が自分達の周囲をさぐっていたのはしっていた。
でも、いつかはわかってもらえる。
停戦協定がなされたのだから、大樹さえよみがえれば、平和な世界がやってくる、と。
自分達を疎んでいたエルフ達も、オリジンとの契約ののちに手のひらをかえし、
態度をがらり、とかえてきた。
なのに。
世界を二つにわけたとたん、それは世界に対する冒涜だとか何とかこじつけて。
そのまま、地上を浄化させればいいのに、とかわけのわからないことをいってきた。
どちらにしても自分達エルフ達は絶対に助かるのだから他は関係ない、
といわんばかりに。
そんなエルフ達にミトスは反発した。
それでは意味がないのだ、と。
全ての命がたすかり、あらたな世界でいきていく権利があるのだ、と。
だからこそ、精霊ラタトスクを説得した。
あのときの思いは、心は嘘ではなかった。
絶対にヒトはかわれる。
かわらなければいけない。
世界をくいものにし、蔑ろにするのが、するだけがヒトではないはず。
ヒトもまた世界を構成するための大切な命で、
世界を紡いでいく役割をもっているのだから、と。
でも。
「…ヒトは、汚いから」
そう、人間なんて、汚い。
全てがそうではない、とはわかってはいる。
特にこのロイド達とともに行動していてそれを身にしみた。
でも、結局、人は裏切る。
種族の違い、他者よりも違う力がある、というただのそれだけで。
自分達とは違う相手を受け入れようとはしないヒト。
だからこそ、ミトスはすべてを同じにしよう、とおもった。
誰もが二度と迫害をされて、そして悲しむことのない世界にするために。
その過程ででる犠牲は大事の前の小事だと目をつむり。
ぽつり、とつぶやくミトスの言葉がきこえた、のであろう。
「え?もしかして、臭うのか?よし、このままじゃあ、海に……」
「まちなさい!食べている最中、海に突進していこうとする人がいますかっ!」
ミトスの汚い、という言葉を、なぜか体が臭う、と曲解したらしく、
自らの手をくんくんとかぎ、そのまま夜の海に突進していこうとしているロイド。
そんなロイドをみて、あきれつつも、おもいっきり叫んでいるリフィル。
「というか。海で体をあらっても、逆にべたつくだけだよ?真水で体はあわらないと」
そんなロイドをあきれてみつつ、溜息とともにいっているジーニアス。
海で体をあらっても、それこそ塩分でまた体がべたつくにきまっている。
それならばまだ、コテージ、もしくは少し先にとある大衆用だというシャワー。
野外に普通に設置されているシャワーを利用したほうがましといえる。
ちなみに、それらのシャワーは普通にコンクリート製の壁にずらりと
一定間隔において一枚の板にそなえつけられており、
ざっと水をあびたりするだけのための設備、となっていたりする。
近くには小屋もあり、その中で簡単な着替えなどもできるようにはなっているらしいが。
「たしかに。人間は…汚い、よね。平気で誰かを裏切るし。
  そのときはいいことをいっても時間とともに平気で約束していたことすら忘れて」
コップをかたてに、そんなミトスの言葉にぽつり、とつぶやくエミル。
そう、人は裏切る。
約束を交わしたとしても、結局は。
約束を交わした時、そういう人間たちはたしかに心の底からおもっていたのだろう。
が、日がたつにつれ、年月がたつにつれ・・・世代を重ねてゆくにつれ。
世界と、自分達が約束したことすらヒトは目先の利益だけを優先し忘れてしまう。
そして自然をないがしろにする。
かつてはそのため、やはり人は世界樹ユグドラシルを枯らしてしまった。
エルフ達とてかわってはいなかった。
ヒトが、ハーフエルフがまた魔導砲を開発しはじめ、
でもそれを諌めるわけでもなく、森の中にとじこもり、ヒトとの干渉を一切閉じた。
ヒトと共存していたから、少しはかわったのだ、とおもっていたのに。
結局、エルフ達も根本的な日和見主義で、われ関せず、という性根はかわらなかった。
エルフ達がきちんと、マナがなくなればどうなるのか。
それを国にでも進言すれば少しはちがったであろうに。
が、彼らはかかわることをさけた。
そして、ダオスの意見をも結局ヒトは取り入れることもなく、
逆に彼の力を利用しようとし、彼が心許す人間をも利用した。
そしてそんなダオスに魔族がつけ入ったのは…それはかつての時間軸においての記憶。
「でも、それはヒトだけじゃない。エルフもヒトもハーフエルフも。
  結局は簡単に他者を、世界を裏切ってしまうからね」
『・・・・・・・・・』
そう。
結局、エルフ達も自分と交わした約束をたがえているといってよい。
そもそもこの世界におりたつときのあの約束はどうなったのか。
とものすごくラタトスクとしてはいいたい。
おそらく、それを覚えているものは今はいないのではないか、とすらおもう。
かつてのときすら、結局、エルフ達は、自分達の力を投げ出すことはしなかった。
最後の最後まで。
エミルがそんなことを思っているとは知る由もないが、
エミルの言葉に思わずその場にいる全員が黙り込む。
「エミル、おまえは……」
昼間のこと、といい。
目覚めていたセンチュリオン達。
そして精霊達とやはり会話をしていたとおもわれるエミル。
ゆえにクラトスとしては何ともいえない思いに囚われる。
精霊ラタトスクとかかわりがあるであろう、目の前のエミル。
しかし、そうならば自分達になぜ何もしてこないのか。
それがいまだにクラトスにもわからない。
「あ。そうだ。リフィルさん」
「?何かしら?」
彼らが黙り込んでいるそんな中。
ふといきなりリフィルにと話しかけているエミルの姿。
「さっき、ネコニンギルドでちょっときになることがあったから。
  僕、これ食べたらちょっとそっちにいってきますね」
「あら、あなた一人でも平気なのかしら?何ならみんなで……」
いきなりエミルにふと話しかけられ、リフィルがそういうが。
「大丈夫ですよ。それにみんなつかれてるでしょうし」
実際、ネコニン達が報告してきたのは事実。
ある場所に人が入り込んだ可能性があるがゆえに、ラタトスクの判断を仰ぎにきた。
「ごちそうさまでした。じゃ、僕ちょっといってきますね」
もっとも、あれはすぐに終わるだろうが。
しかし、嘘はいっていない。
本来すべきことがたとえ別にあろうとも。
「あ、エミル、私もいくっ!」
ふとマルタもそんなエミルをおいかけようとするが。
「大丈夫だよ。じゃ。またあとで」
というか、ついてきてもらってもどうしようもない。
かの入口を探す人間をどうにかしたのち、トレントの森に出向く上で、
他のものがいてはすべきことすらできはしない。
それゆえに、かるくやんわりとことわりつつも、
そのままかるく手をあげ、その場をあとにしてゆく。
そんなかるく手をあげつつも、
そのまますたすたとその場をたちさるエミルの姿を見送りつつ、
「んじゃ、俺様はタバサの手伝いしてくるな」
いいつつもぐつぐつと大きな鍋をにているタバサの元にむかうため、
かるく手をあげつつも、そちらのほうにとむかってゆくゼロス。
「お兄様、わたくしも手伝いますわ」
「おうよ。そろそろスープもできてるだろうしな」
海鮮類や肉類などによるバーベキューだけでは何かものたりない。
という理由もあって、今現在、タバサが全員分のシチューを鍋にてつくっていたりする。
ここ、バーベキュー専用エリアと、炊事場専用のエリアは少しはなれており、
ゆえにそちらのほうにとゼロスは足をむけてゆくが。
そんな彼らを見送りつつも、
「しかし、今日はいろいろとあったねぇ」
主に精神的に、何だかどっとつかれたような気がする。
それはもう果てしなく。
そんなしいなのつぶやきに、
「でも、しいな、本当にマクスウェルとかあのときよんでないの?」
「ないよ」
しかも、マクスウェルどころか、ノームもしいなはよんでいない。
にもかかわらず、あの二体は現れた。
よんでいないのに、あっさりと、その場をイベントの一環、
として収めたゼロスとアリシアの手腕をこのさいほめるべきなのだろうが。
「問題は、あの女性を精霊達が知っていた、ということよね。
  よくよく考えたのだけども、あのマナは。
  以前、エミルのもとにきた、あのテネブラエとかいうもののものだとおもうのよね」
どこかでみたような気がしていたが。
しかし、ゆっくりと落ち着いて考えてみれば、その特徴あるマナに一致するものがいた。
「テネ?ああ、あの黒い犬みたいなやつか」
リフィルの言葉に、しばしロイドが首をかしげたのち、
何かを思い出したらしく、ぽん、と手をうちながらもいってくる。
「そういや、コレットを救出にいったとき、いたね。あれ。
  エイトリオン・ブラック・・・だったっけ?」
ひくり。
そんなロイドやジーニアスの言葉をきき、一瞬、ミトスが顔をひきつらせる。
エイトリオン、というその響きはミトスはおもいっきり覚えがある。
それはもう嫌というほどに。
自分がラタトスクに旅をしよう、といったとき。
センチュリオン達が、では我らは戦隊としてラタトスク様のお供に。
とかいって、そんなセンチュリオン達をラタトスクが一喝していたのを、
ミトスは昨日のことのようにと覚えている。
あとでアクアにきいてみれば、以前、そういったことをしたことがあるらしく、
ラタトスクは乗り気ではないが、センチュリオン達は気に入っている、といっていた。
だからこそ、ミトスはその言葉に顔をひきつらせずにはいられない。
その言葉をきき、一瞬、ミトスが表情を変化させたのに気付いたは、
注意深くミトスのほうを視界の内部にて観察していたリフィルのみ。


「そういえば、あのアクアっていう子も同じマナだったような?」
それは、海賊船カーラーン号の中において、
たしかいた少女も、あのようなマナをもっていたような。
ゆえに、姉の言葉をきき、ふとジーニアスも思い出したらしく、
何やらそんなことをつぶやいていたりする。
「そうね。皆は覚えているかしら?
  といっても、あのとき、テセアラ組はほとんどいなかったから知らないでしょうけど。
  海賊船カーラーン号でみたあの紋様は覚えているかしら?」
ちらり、とリフィルがジーニアス、コレット、ロイド、そしてしいなに視線をむける。
「あったね。あれはたしか……」
ずいぶんと前のことのような。
それでも、しいなは忘れたわけではない。
あの紋章がもつ意味。
精霊ラタトスクにつかえている、という八つのしもべを示しているという紋章。
それをしいなはあのとき、孤鈴から説明をうけている。
「…エイト・センチュリオン。孤鈴コリンはあのとき。
  あの紋章をみてそう説明していたけど。
  エイトオリンと、センチュリオン、響きが似てるけど、まさか……」
まさか、とはおもう。
けどももしもそう、だとするのならば。
自らがそこまでいいつつも、おもわずはっと口元に手をあてるしいな。
「可能性は高いわ。だとしたら、精霊達が  ”様”をつけていた理由もわかるもの」
あきらかに、様づけでよんでいた。
精霊達は。
あの存在を。
それに、エミルに対しても精霊達はどこかこう、敬うような態度をとっていた。
今だからこそ、確信をもっていえること。
「まさか。でももしもそうだとしたら。
  そんな大樹の精霊につかえてるようなものが、どうしてエミルに従ってるの?
  …エミルが精霊の関係者、とでもいうの?」
困惑したようなジーニアスの台詞。
いくら何でもそんな。
エミルのマナは人のそれ。
とてもそうだとはおもえない。
思えないのに、なぜだろう。
ジーニアスの中にも否定しきれないナニか、があるのもまた事実で。
だからこそ、ジーニアスは困惑した声を出さざるをえない。
「関係者であるのは間違いないでしょう。
  何しろあの子は魔物を使役できるわ。あの神鳥といわれていたシムルグすらも。
  それはジーニアス。あなたもよくわかっているでしょう?」
本来、魔物はディザイアンが操っている。
そのようにいわれていたが。
しかし、アステルの研究成果によれば、
魔物こそが、世界のマナを安定させる役割をもっているのだ、という。
ディザイアン達が魔物をあやつっているのは、どうやら何かの装置らしきものて操られている。
そこまで一応リフィル達はつかんでいる。
そのための確証ともいえる資料もアステルからリフィル達はみせられている。
もっとも、それらの会話の最中、
難しい話になってしまい、ロイドなどは真っ先に寝てしまっていたが。
「それは、そう、だけど……」
姉の言葉にジーニアスは言葉をつまらせるしかできない。
たしかに姉のいうとおり。
あの鳥を初めてみたときの驚きをジーニアスは忘れたわけではない。
リフィルからしてみれば、エミルがこの場にいないからこそいえること。
当人の前でエミルの正体を突き詰めるような話はできはしない。
それこそ、普通はありえないのに、
エミルは当たり前のように、魔物を使役していた。
どちらかといえば、魔物達のほうが率先し、エミルの手伝いをこなしていた。
野営のとき、食事の用意を手伝っていた魔物達をみたのは、一度や二度、ではない。
そもそも、シルヴァラント側での野営時はほとんど魔物がいつのまにか手伝っていた。
食材を魔物達が勝手にもってきていたことも数知れず。
「よくわかんねえけど、エミルはエミルだろ?
  エミルが何かの関係者とか別に関係ないんじゃあ?」
ロイドはリフィルがいいたいことが理解できず、きょとん、とそんなことを言い放つ。
事実、ロイドはそれが意味する事実を理解していない。
いないからこそ、本気でロイドはそんなことをいっていたりする。
「あなたは…もう少し、物事を深く考える、ということが必要ね。ロイド」
そんなロイドをみて、溜息とともにつぶやくようにいうリフィル。
どうもロイドは難しいこと、というか深く物事を考えようとしない。
それがもたらす意味。
それを考えずに思ったままにと行動してしまう。
旅にでて少しましになっている、とリフィルとしては思いたいのだが。
しかし、今はそんなロイドにかまっている時ではない。
ゆえに。
「そして。あの子は精霊達とも会話をしていた。
  これまでの精霊との契約で、あの子が話していた言語。
  あれはさきほど精霊達が空中でかわしていた会話の旋律。
  あれそのものよ?関係者であるのは間違いないわ。
  古代エルフ語でもない。でも精霊達が使用できる言葉。
  そんなのは・・・エルフの古代の伝承にありし、聖なる精霊言語。
  といわれているものに近い、かもしれないわ」
完全にそう、とはいいきれないが。
それでも。
「エルフの里に古代から伝わる聖歌。その旋律にあれはよくにているのよ。
  あの歌の意味はすでにエルフの里のものですら理解していなかったけども」
一年に一度。
祭りの中で繰り広げられる旋律の歌。
しかし、その言葉がもつ力を発揮できるエルフは今やいない。
そして今いるエルフ達もまた、その歌が本来どんな効果をもたらすか、
それをしっているものもいない。
ゆえに、リフィルも当然知る由もない。
何しろかつて、ミトス達が生まれたときすら、
その意味を理解していたエルフはもはやいなかったのだから。
そこまでいい、エミルが立ち去っていった方向をみつつ、
「そもそも、世界のマナが安定していっていたことも。
  よくよく考えてみれば、あの子がかかわっているような気がするのよ」
ほとんどが、エミルが別行動をしたそのあとに、マナの異常が収まっていた。
当時は何ともおもわなかったが。
それに、今思えばあのときも不自然きわまりなかった。
敵が一人ものこっていなかった、パルマコスタ人間牧場。
残っていたのは捉えられていた人々のみで。
大勢いたであろうディザイアンの姿は皆無であった。
そして、ショコラの言葉。
ショコラはこういっていた。
魔物たちが襲撃してきて、自分達を護送していたディザイアンが蹴散らされた、と。
しかし、自分達には魔物達は目もくれなかった、と。
そしてエミルはこうもいっていた。
パルマコスタでショコラたちがさらわれた、ときいて、間に合うかもしれないから町をでたのだ、と。
魔物によるディザイアンへの襲撃。
まるで、エミルがショコラたちを助けにいくのを魔物達がしっていたような。
否、もしかしたら、エミルが何かをいったのかもしれない。
それはリフィルの勘。
事実、その通り、なのだが。
そして、エミルが合流してからこのかた、
一行はあれから一度も魔物に襲われる、という経験をしていない。
そもそも、精霊との契約のときも、エミルが何かをいったのち、
精霊達は契約をかわしていたような。
そこまでいい、その視線をクラトスにむけ、
「あなたはどうおもうのかしら?クラトス?」
改めて、じっとクラトスの顔をみつつもといかけるリフィル。
残りの楔はあとひとつ。
だからこそ、リフィルは聞かずにはいられない。
「・・・なぜに私にきく?」
「あなたは、昔、精霊ラタトスクとあっている、のでしょう?」
ミトスも間違いなくあっている。
が、ミトスにきいてもおそらくは、話をはぐらかそうとするだろう。
だからこそ、リフィルはクラトスにと問いかける。
ミトスはミトスでリフィルの言葉に黙り込むしかできない。
センチュリオンが覚醒している、のならば。
マナの安定はうなづける。
そして、各地において魔物を使役できなくなった、という報告は、
プロネーマがミトスの耳にはいれていないが、実際におこっている。
「・・・・・・・・・・」
そんなリフィルの言葉にクラトスは黙り込むしかできない。
たしかにクラトスもエミルが関係者だ、という確証をもちきれなかった。
が、ここまでくれば、確実関係者であることは疑いようのない事実。
「あっている、といっても我らは精霊形態のラタトスクにあっているだけだ」
クラトスが黙り込んでいる最中。
突如として第三者の声が響く。
『ユアン(さん)!?』
ふとその声に思わずふりむけば、そこにいるはずのないユアンの姿が。
「ユアン、お前は……」
おもわずクラトスが眉を顰めるが。
そんな彼らの態度をきにするでもなく、すたすたと彼らの元にちかよりつつ、
「クラトス。お前の仕事だ」
いって、溜息とともに、ぽっん、と何かをクラトスにと投げ渡しているユアン。
「これは…ウィング・パック、か?」
ふとそれを受け取り、クラトスが思わず顔をしかめるが。
「デリス・カーラーンにきになることがあってもどったのだがな。
  シルヴァラント側の資料がそれにはいっている。
  ここ、数日。…テセアラ、そしてシルヴァラント側において、マナが極端に少なくなっている」
『な!?』
その言葉にその場にいたほぼ全員の声が、かさなる。
そして驚愕に目をみひらくが、その目を見開いた中にミトスも含まれていたりする。
「大いなる実りに限界がきている可能性がある。
  なぜか精霊同士のラインが途切れているだけ、ではありえない」
「なぜかって……」
ロイドが疑問におもい思わず口にだそうとするが。
「たしか。精霊同士で楔として、マナを交互に利用している、だったっけ?」
「ええ。ウンディーネがそういっていたもの」
ロイドがユアンのほうがそれは詳しいだろ?
といいかけるよりも前に、ジーニアスがふとつぶやき、
そしてそれを肯定するようにリフィルがいいはなつ。
おそらく、ユアンはミトスに自分がレネゲードの首領だ、とはいっていないはず。
ロイドが余計なことをいうまえに、リフィルがそんなロイドの言葉を遮るが、
リフィルとしては、弟を悲しませたくはない。
なぜにユグドラシルが自分達とともにいて、何も行動してこないのか。
その疑問はありはすれど。
しかし、その疑問はエミルに関しても同じこと。
大樹の精霊の関係者ならば、なぜに何の行動もしてこないのか。
という疑問は、エミルにしろ、ミトスにしろ、リフィルとしては共通する懸念。
「そもそも。お前たちは、なぜに何がおこるかわからない、
  不確定なことを成し遂げようとしているのだ。精霊の楔を抜くなど…
  マナが交互に利用されなければ何がおこるかわからないというのに」
それこそ、大地が危険になりかねない。
それをこのものたちはわかっているのだろうか。
そんなリフィルの言葉をききつつも、盛大に溜息をつきながら、そんなことをいいだすクラトス。
そしてさらに溜息をつきつつも、続けざま
「マナを交互に利用できなくする。
  それはマナの流れを分断すること。そうなったときに何がおこるか。
  不確定の中でなぜお前たちは精霊との契約を実行しようとする?」
ざっとロイド達全員を見渡しつつも、きっぱりとクラトスは言い放つ。
それはクラトスからしてみれば前からおもっていたこと。
何がおこるかわからない。
そんな危険なことをなぜにロイド達はしているのだろうか。
それこそ、そんなことをすれば互い世界がマナ不足で滅ぶかもしれない。
まあ、一番の原因はユアンに何かを吹き込まれたからなのだろう。
とクラトスは理解しているが。
それでも、精霊の楔を抜くなど。
何かがあって、からでは遅すぎる。
それこそ大地が互いに干渉しあい、消滅しかねない。
「何だよ。でもこのままじゃあ、どっちの世界かが犠牲になるじゃないか。
  精霊によってマナが交互に利用されているのならそれをとめれば。
  マナがすくなくとも互いに搾取されなくなるんだろ?」
「ロイド・・・成長したのね。あなたが搾取だなんて言葉がいえるなんて!!」
ロイドの台詞にリフィルが多少瞳を潤ませて、違う意味で感動しているが。
「しかも、用法も間違ってないわ!」
「・・・というか、リフィル。気持ちはわかるけどさ。そもそも、今はそうじゃないだろ?」
しいなもリフィルの言いたいことは理解できる。
嫌、というほどに。
実際、しいなも口にはだしていないが、ロイドがまともにきちんといえてるよ。
と思っていたのは否めない。
しかし、ロイドのそれに関してふれると話が脱線する。
絶対に。
だからこそ、しいなはそういわざるをえない。
「今現在は。大いなる実りによって、二つの世界はつながれているといっていい。
  しかし、マナの流れがなくなれば、互いの世界のマナが減少し。
  かつていったように、互いの世界が滅びる可能性が高くなる。
  お前たちはそれをわかっていて、精霊と契約をまだするつもりなのか?
  今ならばまだ間に合う。何がおこるかわからない精霊との契約はやめるのだな」
そう。
何がおこるか予測不可能。
精霊の楔がなくなった大いなる実りがどうなるかすら。
下手をすれば大いなる実りにすべてが吸い込まれて消滅するかもしれない。
エターナルソードの力が加わっている、とはいえ。
ない、とは言い切れない。
「大いなる実り…か」
しいながぽつり、とその言葉をききつぶやく。
「でも。そういえば。
  勇者ミトスは世界を救うために、世界を二つにわけたんだよね?」
そんなクラトスの言葉をきき、ぽつり、とマルタが顔をふせつぶやく。
世界の存続、大地の存続のために世界をわけた。
本来は一年ごとにマナを循環させ、そして彗星の飛来とともに種子をめぶかせる。
が、それは裏切ったヒトの陣営によってとざされた。
種子を独占しようとした人々の争いによってマーテルが殺されたことによって。
そのあたりの事情はマルタ達も聞かされた。
聞いてしまったがゆえに、マルタも何ともいえない思いに囚われてしまう。
もっとも大切な人か、世界か。
大切な人をよみがえらせ、世界をも救える方法があるのだとするならば。
自分もおそらく、そちらを選んでいただろう。
ヒトは誰しも譲れないものがある。
それが勇者ミトスにとっては姉だったのだろうな。
というのはマルタとて何となくだが理解ができる。
できてしまう。
そしてそこまでおもい、ふと思う。
自分は、そこまで誰かのことを…エミルをおもっているのだろうか?
命をかけるほどに?
もしもきかれたら、マルタはこたえられない。
それに今リフィルのいったこともある。
エミルが精霊の関係者。
何も知らなければ、それって素敵。で間違いなくマルタはすませていただろう。
が、マルタはクラトスからかつての精霊の決定を聞かされた。
地上の浄化。
それはすなわち、海に還す、ということは、すべての命が一度は死に絶える。
といっても過言でない。
そんなことをエミルが許すはずがない!
ともおもうが。
が、ふと、エミルにいわれたマルタは自分の理想像を僕におしつけてない?
その言葉がふとよぎる。
二つの世界。
衰退世界と繁栄世界。
エクスフィアの真実。
神子の旅についてこなければ、絶対にわからなかった世界の真実。
マルタの脳裏に様々なことがよぎってゆくが。
「…そうだ。地上を存続させるには、それしか方法がなかったからな」
そんなマルタの思いを知ってか知らずか、
淡々とそんなマルタの言葉を肯定するようにクラトスが言い放つ。
事実、あのときはそれが最善とおもった。
しかし、ともおもう。
あのとき、精霊ラタトスクのいうがままに、世界を浄化してしまっていれば。
このような世界にもならなかったのではないか。
とも。
「そもそも、あの当時は、一夜で海に沈んだ島国など数しれずあったな」
クラトスの言葉に、ユアンがふと遠い目をしながらそんなことをつぶやく。
いつのまにか、ちゃっかりと、クラトスの横に移動し、
そしてなぜかちゃっかりと、これまたしっかりと焼かれている肉を片手に、
というかいつのまに、というべきか。
どこからそのお皿をもってきた?とつっこみどころは満載なれど。
しっかりとお皿を手にし、焼かれた食材をお皿にいれているユアンの姿がみてとれる。
「誰がやめるかよ!」
そんなクラトスの言葉にむっとしつつ、ロイドがすかさず反発するが。
ロイドとしては、危険だからやめろ、といわれて素直にいうことをきくきはない。
このままだと、二つの世界が犠牲にしあうままの世界なのだから、
なら、マナの流れを分断してしまえばその関係は改善される。
そうおもっての行動。
そこに、そうすればどうなるのか。
そういった深い考えはロイドの中には一切ない。
精霊の楔とかいうのをぬけば、大樹がよみがえるのだから、
レネゲードがよみがえせらるのだから、世界は平和になるはずだ。
そんな思いしか抱いていない。
そこに何かがおこるかもしれない、という懸念は一切考えてすらいないといってよい。
このあたりは、リフィルがロイドによく思慮がたりない、といっているが。
そんなロイドの態度をみて、リフィルはさらに盛大に溜息をつかざるをえない。
クラトスの言い分にも一理ある、とリフィルはおもう。
だからこそ、ロイドが考えもなしに反発しているのが何ともいえない。
「できたら、精霊との契約の楔を抜き切る前に世界を一つにできたらいいんだけど。
  世界を統合、二つにわけたのならば、一つに戻す方法もあるはずよね?
  大樹をうまくよみがえらせたとしても、
  位相軸でつながっている世界同士。それがどうなるかわからないもの」
マナの楔を抜いただけで、影響がなくなる、とはおもえない。
そもそも、二つの世界が切り離されて、互いの世界が消滅しないともいいきれない。
いくらマナの楔を抜いたとしても、救いの塔、そして異界の扉。
その二極にて二つの世界がつながっていることにはかわりがない。
ユアンは大樹をよみがえらせればいい。というが。
世界を二つにわけているままで大樹をよみがえらせてもいいものか。
そんな不安がリフィルの中にあるのもまた事実。
それに、とおもう。
「あの中で、勇者ミトスがいっていた言葉をみんな覚えているかしら?
  大樹カーラーンを再生できてる?そう彼はきいてきたわね?」
いいつつも、リフィルはちらり、とミトスをみる。
その言葉を聞き、ぎゅっとミトスが小さく手を強く握り締めているのがみてとれるが。
「大樹の再生。ということは、必ず方法がある、ということよね?
  たしか、世界は魔剣エターナルソード、とかいったかしら?
  その力で分断されている、のだったわね」
いいつつも、懐から手帳らしきものをとりだし、ぱらぱらとめくりだす。
リフィルの手元にある手帳には、これまでのことが事細かにとかかれている。
当然、クルシスの…ウィルガイアにでむいたときに、そこから得た情報も。
「これだわ。ウィルガイアにて手にいれた情報バンクに記されていた内容。読むわね?」
それは、以前、マナの欠片をもとめ、救いの塔からクルシスに潜入したとき、
リフィルが天使達の町でもあるウィルガイアという町の情報バンク、
つまりとある端末からひきだしたいくつかの情報のうちの一つ。
内容として、【デリス・カーラーン】【大地延命計画】【エターナルソード】。
この三点が情報バンクでもある端末から引き出すことができている。
「今、クラトス達が話していたのはこれのことね。
  あの端末から引き出した内容のうちの一つ。大地延命計画。
  【マナの消費量を最低限に抑え大樹の種子と世界を維持するためには、
   世界を二つわける必要があった】このあたりは多少湾曲がはいっていそうね」
そもそもどうも話をきくに、大地を維持するためだけだったはず。
が、あの端末からは、二つの維持をするため、という内容になっていた。
そのあたりもまた、クルシスによる情報操作、なのだろう。
そのあとに、精霊の力によって楔を諸語させ、
マナの流れを調整することで世界が必要以上に繁栄をすることも抑えられる。
とも書かれていたが。
「あれにかかれていた、
 【大きな繁栄は魔科学の発展と無意味な戦争を引き起こす可能性がある】
  これに関しては全力で私も同意するわ」
でもだからといって、今のせかいのありようが正しい、というわけでは、ない。
あれには、ユグドラシルによって提唱、実行された大地延命計画は、
世界を維持するシステムとして大変すぐれたものとなっている。
とかかれていたが。
たしかに、本来の流れのままであれば、何も問題はなかったのであろう。
一年ごとに、マナが衰退、増幅する。
今のようにあからさまに片方の世界だけが数百年、というのがおかしいともいえる。
しかし、ともおもう。
なぜにこんな数百年も滞るような世界になってしまったのだろうか、とも。
四千年の年月のうち、こんなに滞るような時期があったのかどうか。
それはリフィルにもわからない。
「えっと…魔剣に関しては、これ、ね。
  【オリジンが契約者である指導者ユグドラシルに与えた魔剣。
   その力は強大で時間と空間を操る力を有し
   指導者ユグドラシルの力の源といえる
   指導者ユグドラシルが世界を二つにわけることができたのも、
   エターナルソードの力によるものである。
   もしこの剣が失われれば指導者ユグドラシルの力は大きく低下し、
   ウィルガイアも崩落の危機を迎えることだろう】これがデータ端末。
  これが、あの端末から得た魔剣に関する記述」
手帳を開きつつも、そこに書かれていた言葉をよみあげ、そして。
「あのときのことを覚えているかしら?救いの塔で」
それは、コレットが自我をうしない、レミエルがクラトスによって殺されたあと。
目の前にユグドラシル、となのったものがあらわれたとき。
「あの場所にあったあの虹色に輝いていた剣。
  あれが間違いなくこのエターナルソードのはずよ。
  あのとき、皆もあの声をきいたでしょう?」
それは、マナの欠片をとりに救いの塔にいったとき。
クルシスから脱出するとき、救いの塔の封印の間にて、
たしかに、床につきささっている剣から、リフィル達は【声】をきいた。
「これには、オリジンがユグドラシルにあたえたとあるけども。
  あれはあきらかに意志をもっていたわ。
  そもそも、あのユグドラシルと【我の契約と違反している】といって、
  ユグドラシルの命令を拒否していたのもうなづけるわ」
――我の契約と違反している。つまりお前は自ら契約を破棄するというのか?
あのとき、たしかにユグドラシルと、あの剣はそんな会話を交わしていた。
もっとも、そのとき、ロイドは吹き飛ばされたコレットの体を支え、
逆に自らが柱にたたきつけられてしまい、気絶しており、それらの声をきいてはいなかったが。
そしてまた、レネゲードにつれられ、先に塔をでたリフィル達は、
そのあと、エミルとクラトスがかわした会話をしらない。
そしてまた、エミルと剣が何かしらの言葉で会話を交わしていたことも。
「あの剣の精霊の協力を得ることができれば」
そしてまた、マナの欠片をとりにいったとき、かの剣がしいなにと語り掛けてきた。
初めて救いの塔にいったときはきづかなかったが、
あの剣の姿をしているそれも、精霊のマナのそれであった。
「だね。あの救いの塔の一番奥というか最上階。
  あの床につきささっているあの剣。あれはたしかに、こういってたね。
  我はオリジンとの盟約に従い、ミトスと契約せしもの。
  召喚の資格をもちしものとえど、オリジンの盟約があるかぎり、
  あらたな契約の上書きはできないものとしれ、ってね」
しいなもそのときのことを思い出し、少し顔をしかめながらもいってくる。
そう、たしかにあの剣はそういっていた。
その直後、ユグドラシルがあの場に現れた。
「エターナルソード。ユグドラシルは、精霊ゼクンドゥス、とよんでたわね」
リフィルがつぶやけば。
「そういえば、あのとき。
  大樹がめぶかなければ、世界は魔界ニブルヘイムになるって……」
マルタがふとそのときのことを思い出し、ぽつり、とつぶやく。
それ以上に、エミルの言葉も。
エミルはあのとき、そういえば
すべてをしっているようなそぶりをみせていなかったか?
あのときは何ともおもわなかったが。
エクスフィア、精霊石。
エクスフィアとは微精霊を穢し、狂わせ悪用しているにすぎない、と。
そして。
――というか、大いなる実りの存在をしれば、
  自分達の力にしよう、とおもって武力行使でもするんじゃない?
エミルがあのときいった、ヒトの見解。
確実に、ヒトは同じようなことをするとおもう。
エミルはあのとき、きっぱりとそういいきった。
――僕はもともと、ヒトはあまり信用していないからね。
  だって、いつもヒトは裏切るから。信じたくても、ね。
  人は些細なことでかわってしまう。
「…でも、変わることもできる。
  たとえその道を踏み外して、当初の思いを歩みまちがえたとしても、…か」
エミルのあのときの言動を思い出し、ぽつり、とつぶやくマルタ。
あのときのエミルは何を示していったのだろうか。
そんなマルタの言葉に、
「…おそらく、エミルが精霊の関係者だとするならば。
  …目の前にいたユグドラシルを示していたのでしょう。
  きっと、あの子は知っているのよ。ミトス・ユグドラシルを。
  実際にしっているのか、それとも話できいているだけなのか。
  それはわからない、けどもね」
リフィルが少し顔をふせぽつり、とつぶやく。
あのとき。
もしかしなくてもすでに答えはでていたのであろう。
エミルはこうもいっていたのだから。
――精霊石の力は確かに強大。何しろ孵化前の微精霊達の集合体だもの。
  でも、微精霊達を穢す、その行為によって得られるものは何もない。
  そんなことをすれば…地表は、世界は……
そして、あの後。
エミルは精霊石に関して詳しい説明をしてきた。
本来はしるべきはずのない、その事実を。
そして、エミルのそばにいた、エイトリオン・ソルム、となのったあのアレは。
「なあ。リフィル。あんたは、エミルを何だ、とおもってるんだい?」
たしかに、リフィルに指摘され、思い返してみれば、
エミルの言動は、あからさまに普通ではないことが多々とあった。
特に、あのユグドラシルと面していたとき。
そして、さらには、エミル一人がのこっていた救いの塔で。
あの光につつまれた救いの塔。
しいなにすら感じた膨大なるあのマナは。
そして、とどめ、ともいえたあのとき。
ロイドがユグドラシルにつっかかっていきそうになったあのとき。
エミルはロイドを制してユグドラシルに問いかけた。
――ミトス。これだけは教えて。
  どうして、どうして微精霊達を穢す方法を選んだの?
と。
あのとき、何ともおもわなかったが、たしかにエミルは、
目の前のあの青年の姿をしていたユグドラシルをミトス、とたしかにいっていた。
そして。
――道はあったはず。いや、その道を探してたんじゃなかったの?
と。
その違和感に気づくよりも先に、プロネーマが乱入してきて、
さらにはコレットの症状が悪化して、その違和感を深く考える暇すらなくなってしまっていたが。
ミトスとしても、黙るしかできない。
あのとき。
あれは夢、だとおもっていたが。
今回の昼間の騒ぎであれが夢ではなかった。
と思い知らされたといってもよい。
センチュリオン・ソルム。
プロネーマの放った術の直撃をうけ、怪我をおったミトスを治したのは、
治療したのは……
無意識だった。
咄嗟にエミルにプロネーマの標的が絞られているのにきづき、
ミトスはエミルをかばった。
そしてあのとき、意識を失いかけたあのときに聞こえたあの声は。
あの暖かさは。
心の隅にずっと残っていた違和感は、
リフィルの改めての指摘により明確になったといってもよい。
あのとき、エミルの瞳の色が深紅にみえたのは。
そして、あのときその瞳の中にみえたあの紋章は。
「――おぼえていて?封印の書物の中で、
  勇者ミトスが精霊と交わした、という約束のことを」
――約束してるんだ。カーラーンを再生したら一緒に地上世界を旅をしようって。
リフィルの言葉にミトスの脳裏にも、あのとき、自らがラタトスクに投げかけた台詞。
その言葉がありありと思い出される。
精霊は、嘘をつけない。
交わした約束も盟約も、それは絶対的な理、として彼らはそれをたがえることはない。
ただの関係者だ、とリフィルもおもっていた。
が、エミルのこれまでの言動と。
そしてあのときの勇者ミトスの言葉。
それらを統合してみれば、信じがたい事が思いつく。
が、それを組み入れて考えてみれば、これまでのことのすべてが辻褄があってしまう。
でも、ともおもう。
エミルのマナは、確実にヒトのそれ。
でも、本当に?
エミルは、あのレミエルすらをも一目でハーフエルフだ、と見極めていた。
そして、異形と化していたクララすらも元にともどした。
そしてハイマ。
あの赤茶けた土があのように緑豊かな大地にと変化したのは…
それらをおもい、リフィルは言葉をとめつつ目をつむる。
この考えはあっていてほしくない。
が、自らの奥底で、今抱いている考えこそが、真実なのだ、
と何となくだが思えてしまう。
エミルのそばにいて感じる不思議な温かさ。
何か懐かしいようなその感覚も。
もしも、そう、だとするならば。


リフィルがそんな思いを抱いている一方。
「まさ…か」
我知らず、小さくぽつり、とつぶやくミトス。
その声はとても小声で、それを捉えたのは、コレットとクラトス、そしてユアンのみ。
まさか、とミトスは否定したい。
けど、否定もしきれない。
エミルのそばにいたセンチュリオン。
そして今回あらわれた、テネブラエ。
そして、安定している二つの世界の…マナ。
時間が、ない。
思わず無意識のうちにミトスはぎゅっと手を握り締める。
もしもそう、だとするのならば。
彼は自分の今の考えをどうおもう、だろうか。
やはりな、とあきれるだろうか。
もう、人間なんて知らない。
自分を裏切りつづける人間のためにどうして自分が動かなければいけない?
地上に降りる前にミトスがプロネーマにいったその言葉は、
まぎれもないミトスの中にある思いでもある。
「…あのとき、俺、あいつから、俺の追いかける道は幻想だっていわれたんだよな」
ふとロイドがあのときのことを思い出したのかぽつり、とつぶやく。
――覚えておけ。ロイド。すべてを救える道がいつもあるとは限らない。
  世界とは犠牲のうえにどうしても成り立つことが必要である、ということを。
あのとき、たしかにユグドラシルはそういった。
「…理想を抱くはいい。しかし、その理想にたどりつくまで。
  幾多の犠牲もありえることを忘れるな。
  お前はその理想ですべてを巻き込むだろう、ってか?」
ふと、そんなロイドのつぶやきに答えるかのように横手のほうから声がする。
「うん?ゼロス?」
そちらをみつつ、ふとつぶやいているしいな。
声のほうをみれば、その手に大き目なお盆をもってたっているゼロスの姿が。
どうやらスープをそれぞれにすでにお皿にともり、この場にまでもってきた、らしい。
その後ろのほうには、温めている、のであろう。
大き目な鍋ごと素手で運んでいるタバサの姿が目にとまる。
そんな姿を目にし思わず顔をしかめているユアンの姿もみてとれるが。
ユアンからしてみれば、いまだにタバサの恰好はマーテルそのもの。
ある意味で、女神物語としてミトスが普及した絵本。
それのリアル性というかマーテルのすばらしさを唱えるために、
服の細かなところまでしっかりと書き込んだ絵姿。
それを普及させてしまっていたせいか、どうやらそっくりな服が、
普通のヒトにですら作成が可能になってしまっていたらしい。
黙っていれば、まちがいなく、”女神マーテルのそっくりさん”で通用する。
それどころか、世界に降臨し具現化した女神だ、と彼女をもちあげ、
新たな新生マーテル教とかいうのを誰かが立ち上げかねない懸念もある。
そもそも、自動人形を作る上にて、マーテルのスタイルを指導していたのは、
ほかならぬユアンであるがゆえに、その思いは何ともいえない。
もっとも、タバサのほうはアルテスタがクルシスから逃れたあと、
その人工知能を起動させられているがゆえ、ユアン達のことは知る由もないが。
「おまっとさ~ん。というか、何を今さらあの救いの塔での話をしてるんだ?」
ちらり、とゼロスはミトスをみるが、ミトスは何やらうつむいている。
これまでの会話の内容はきになっていたので、ゼロスは聴力を少しばかり強化していたがゆえ、
ある程度のことは把握している。
どうも、天使様はエミル君の正体に感づいた可能性が高いな。
そんなことをふと思うが。
まあ、これまで感づかなかった、というのが摩訶不思議。
リフィル達のようにかの精霊と面識がなかったものならばともかくとして、
おそらくミトスは幾度も精霊ラタトスクとはあっている。
それこそ、あの精霊様がほだたされるくらいには。
問答無用で糾弾しないどころか、あのとき。
怪我をしたミトスを正体が露見するかもしれないのに、
センチュリオンを呼び、ミトスの怪我を治したあの行為で確信がもてたといってもよい。
つまりは、裏切っているとはいえ殺して終わりにする、という気はないのであろう。
それは、コレットの永続性天使性無機結晶病の扱いについてもいえたのかもしれない。
おそらく、確実にエミルが、あの精霊様が何かしらをしていたのだろう、と。
そしておそらくは、彼がいなければコレットの症状はもっとひどいことになっていたのだ。
そうゼロスは何となくだが確信がもてている。
そんなことをおもいつつ、その思いは口にすることなく、無難な質問を口にする。
「ちらっと話が聞こえたけどさ。
  あの剣の精霊はそう簡単には扱えないんじゃねえのか?
  俺様がウィルガイアで聞き違いでなかったら、たしか……」
そんなゼロスに対し、まるで初対面のようにふるまいつつ、
「テセアラの神子か」
淡々、とちらり、とゼロスをみて言葉を紡いでいるユアン。
いいつつ、精霊云々、といっているということは、
あれの真実に彼らはたどり着いた、のであろう。
そうゼロスにいいつつも、ユアンもまた確証せざるをえない。
どういう事情で真実にたどり着いたのかが激しくきになりはするが。
「精霊?といっている、ということは何かしらの理由でお前たちは気づいたのか?
  あれは表向きには、あれは精霊オリジンがユグドラシルのためにつくった剣、
  と情報は操作していたはずなのだが……」
あくまでも、ユアンはこの場においてはクルシスの一員、としてふるまうつもりでるらしく、
少し首をかしげつつ、ちらり、とミトスに視線をむけたのちに、
リフィル達一行をざっと見渡しつつもそんなことをいってくる。
「あれは、ハーフエルフ以外は触れることもかなわぬ。
  そこのハーフエルフの姉弟はみるかぎり、剣を扱えるようにもみえないしな。
  ただ、剣を持てればいい、というものではない。
  剣を使いこなしてこそあれは持ち主にとえらばれる」
いって、目の前にあるコップを手にし、くっと一飲み。
ここで、エターナルリングのこともいってしまいたいが。
そこまでいえば、ミトスに勘ぐられるであろう。
ゆえにユアンはこの場でそこまで説明する気はさらさらない。
エターナルリング。
ミトスが自らが傷つき倒れたときのとを想定し、
オリジン、そしてゼクンドゥスに発案した結果授かった品。
本来、その指輪はゼクンドゥスとの契約の証として使用されるらしく、
巨大な力を扱うのに契約者に負担がかかるがゆえ、
その負担を少しでも軽減する役割をもっているものだ、と。
そうかつてユアン達はきかされた。
表向きには、それはミトスが提案し、一時的にハーフエルフとマナの構成を、
同じにし、誰もが剣を扱えるようにする品だ、というように情報を操作しているが。
「精霊オリジンのこともあるし、ね」
そんなユアンの台詞をきき、溜息をつきつつつぶやくリフィル。
オリジンの封印は、クラトスが担っている。
ロイドはそれが意味することに気づいていないようではあるが。
オリジンとの契約をするためには、オリジンの封印を解く必要がある。
そしてそれは、ヒトのマナによって封じている以上、
封印をかしている当人のマナを解放しなければならない。
マナを解放すれば、普通いきてなどいられない。
おそらく、天使化というものを果たしている無機生命体化ですら無事ではすまないだろう。
つまり…オリジンの解放は、クラトスの死をも意味している。
その事実に。
できれば、ロイドにはこのまま、実の父親だ、としらずに、
その封印解放までいてほしい、とおもう心と。
実の親なのだから、知っていたほうがいいのではないか?
という思いがリフィルの中ではせめぎあっている。
「まあ、オリジンをどうにかするのはともかくとして。
  剣のことならば問題はねえんじゃねえのか?
  仮にハーフエルフと同じというか力が必要なんだとしたら。
  アステル君に中継してもらって、シュナイダー院長にでも話をつければな」
いいつつも、
「ほらよ」
ロイドの目の前にスープの入ったお皿をおく。
「?どういうことかしら?それは?」
そんなゼロスの言葉に首をかしげ、逆にとといかけているリフィル。
それぞれの目の前にスープをおいていっているゼロスと、
人数が増えていたのをみて、あらたにお皿にスープをよそい、
そのお皿をユアン前にともってきているタバサの姿がみてとれる。
その姿をみてユアンがかなり狼狽したように、視線をさまよわせているのが印象深い。
そんなゼロスの言葉にしいながはっとしたように口元を抑える。
まことしやかに噂されている、研究所での実験。
みずほの民だからこそ、それが真実であることをしいなはしっている。
「魔導注入ってしってっか?」
それぞれの横にいき、スープのお皿を配り終えたらしく、さりげなくユアンの横にと座るゼロス。
すばやく、座った直後、ユアンに口パクで”了解”といっているのに気付いたは、
この場においてはユアンのみ。
それは、ユアンの計画に神子ものってくる、という何よりの証拠。
「ま?何だ?それ?」
聞きなれない言葉に思わず顔をみあわせるロイド達。
「テセアラで開発されている技術の一つだな。
  人間でも魔術がつかえるようにするためにある物質を直接、
  人間の体内にと入れ込むことで、普通の人間も魔法が使えるようになるんだ」
「そんな技術があるの!?」
その言葉に思わずジーニアスが目を見開く。
「精霊研究院というか、マナを研究している研究者たちがいうには。
  ヒトは大なり小なり、必ず精神力、だったか?
  とにかく、マナを扱う力をもっているらしい。
  それを自力で扱えるようにすれば、誰でも素質さえあれば可能らしいぜ?
  実際、その影響もあって、あのアステル君は簡単な術ならばつかえただろ?」
そういえば、とおもう。
アステルがしていた指輪を媒介にしていた、とはきいたが。
アステルは簡単なファイアーボールならば使用可能となっていた。
回復術は彼がまだ幼いころに誰もが利用できるようにと、
研究を重ねていた最中、きづけば身に着けていたものであるらしいが。
「ここ、テセアラにきてしばらくたつけど、そんなことはきいたこともないわ」
リフィルが疑問の表情をうかべ、ゼロスをみるが。
「そりゃ、あれはエンジェルス計画…教皇のあれとは違い。
  これは国からの裏の命令ってやつだな。
  お偉いさんは、何が何でも自分達も力を欲したかったらしいぜ?
  だからこそ、教皇のあのむちゃぶりのハーフエルフ法がまかりとおっちまった。
  これまで捕らえられたハーフエルフが一人や二人だとおもうのか?
  そんなとはないぜ?
  でも、捉えられた者たちの姿はほとんど見当たらなかっただろ?
  それこそ、シルヴァラントの人間牧場だったか?
  おそらく規模からしてそれと同等、いやそれ以上かもしれねえけどな。
  …捕らえられたハーフエルフ達がどうなったとおもう?」
『・・・まさか……』
どうなった、とおもう。
といわれ、おもわずはっとして顔をみあわせるリフィル達。
人間牧場、という言葉がでてきた、ということは。
まぎれもなく、今それぞれの脳裏に浮かんだことが真実、なのだろうが。
信じたくない、という思いもあるのもまた事実。
「はじめは彼ら力をもつもののマナを吸出し、他人に注ぎ込む。
  そんな実験から始まったらしいぜ?
  他人から強制的にマナをひきだし、他者に注ぎ込めば、
  当然拒絶反応がでるにきまってる。が、ここテセアラでは……」
国が暗黙の了解、として認めてしまっているのだから余計にタチがわるい。
あまり力がない、とおもわれたものは、公開処刑にさらされてはいるが。
それ以外、一定のマナを保有しているとおもわれたものは、
これまでも秘密裏にひそかに国の手によりて、裏の実験の被験者とさせられていた。
それが意味することは、当然ながら、死。
かつての八百年ばかりの前の出来事で一時その実験は中止になっていたらしいが、
近年、否、今の教皇がマーテル教にはいってからしばらくして、その実験は再会されている。
そしてそのことをゼロスは知っている。
そのことをきき、ユアン、クラトス、ミトスが一瞬顔をしかめたのに気付いたは、
じっとミトスから目をそらさないようにしていたリフィルのみ。
かつて、テセアラではスピリチュアの悲劇、といわれてる出来事。
そして、フォシテスが英雄、といわれるゆえんとなった出来事。
再び、テセアラはかつての過ちを繰り返そうとしている。
否、すでにしているといってもよい。
ヒトは力をえて豊になるとロクなことを考え付かない。
それが何よりも論より証拠とばかりに同じことを繰り返している愚かなるヒト。
「アステル君がファイアーボールだけでも使えるようになってる。ってことは。
  おそらく媒介する何かは必要かもしれねえけど。
  普通のヒトも魔術を行使する段階までおそらく実験は進んでる。
  最近は、エクスフィアを利用した実験も行われていたようだしな。
  エクスフィア鉱山から発掘されたばかりの石。
  たしか、それを利用したら成功率が上がるとか何とか。
  石をとある方法で粉末状にしたり、また飲み込ませたりすることにより、
  普通のヒトも魔術をつかえるようにする技術。それが魔導注入、だ」
「石を、飲み込ませるって…」
「まあ、暴走する個体もいたらしい、がな。それこそ異形となって」
『!?』
今度こそ、ゼロスの息をのむ気配はロイドを含んだ、そしてミトス、ユアン、クラトス。
その三人を除いたほぼ全員。
それが示すことはすなわち、やはりここ、テセアラでも、
国がらみであるいみで目的はことなれど、人間牧場と同じようなことをしているのだ。
と暗にいわれたも同意語。
異なりしは、石を他人が使えるようにするため、ではなく。
誰もが力を扱る力を得るためにヒトをハーフエルフを実験に使用している、
という点くらいであろう。
本質はかわらない。
弱きものを利用し、命をもてあそんでいる、というその本質は。
その実験がより顕著になりはじめたのはここ数十年ばかり。
七十年ばかりまえ、テセアラにおいてその考えが再燃した。
そしてそれをより確実にともっていったのは、元教皇。
それはくしくもシルヴァラントにおいてアイトラの再生の旅が行われたころのこと。
「しいな…本当、なの?」
「…ああ。あんたたちもみただろ?
  国をあげて、ハーフエルフ達はつかまってる。が、数はすくなかっただろ?」
いくらハーフエルフの数が少ない、といっても。
あの地下室にいたハーフエルフ達の数はそうはいなかった。
「ハーフエルフは身分の最下層。だからどんな実験に使用しようが。
  それこそ、実験動物以下、なんだってさ。…それがこの国の現状さ」
そして、それはハーフエルフ、だけではない。
貧民街に、身分が低い人々にも適応される。
ましてや…身寄りのなくなったものほど、恰好な材料となるものはいない。
「ま、過程に関してはむなくそ悪いとおもうだろうがな。
  とにかく、その技術を応用すれば、人間でも魔術が扱えるようにはなるはずだ。
  今ではアイオニトスとかいうのを粉末にして注入する、というのが行われているはずだぜ?」
実際には行われていないが。
しかし、クルシスでそれが行われているのは紛れもない事実。
ゼロスはここ、テセアラで、とはいっていない。
テセアラでそのような実験が繰り返されているのは真実なれど。
「…人間って……どうして僕たちをそんなふうに扱うの?
  好きで、好きでハーフエルフに生まれたわけじゃないのに」
「ヒトは豊かさを求め、いつの時代もおろかなことを繰り返すからな。
  だからこそ、ミトスは世界を二つにわけマナを調整していた。
  今のこの状態が異常、なのだ。八百年も偏った状態はな」
かつてならば、テセアラ側がこのようになることもなかっただろう。
クラトスが溜息とともにぽつり、とつぶやく。
「八百年前までは、一年、もしくは数十年に一度づつ。
  互いの世界の情勢をみつつ、マナの調整。衰退と繁栄。
  それを繰り返していたからな。が、シルヴァラントは……
  隠れて魔科学の研究に力を再発させていた。
  彼らは魔科学の力によって、クルシスに反旗を翻そうとしていた。
  魔導砲をいくつもつくり、救いの塔にむけて発射しようとな」
「当然、我らクルシスの制裁がはいったがな」
そんなクラトスのつぶやきに当時のことをおもいだしたのか、
ユアンもうなづきつつも同意を示す。
「……天界とよばれているクルシスの粛清にも意味があった、というのね?」
そんな彼らの言葉をきき、リフィルが問いかければ、
それぞれにうなづいてみせるクラトスとユアン。
つまりはそういうこと。
「そうだ。あのまま放置していれば、あの国は。
  シルヴァラント王家はまちがいなく、地上、否すべての命をまきこんで、
  彼らの開発した兵器によって、死の大地に変化してしまっただろう。
  マナを大量に消費し…こともあろうことか周囲すべての生きるものから、
  マナを吸い上げ、そしてそれを兵器となす。
  そのようなものを開発していたからな」
そんなことをすればどうなるのか。
クラトスもあれをしったときにはあきれたものである。
「…二度と、馬鹿な考えをしないために、
  しばしシルヴラァントは衰退世界になったのだが……」
「今度は、こちら側、テセアラでも同じようなことがおこりかねんな」
クラトスの言葉につづき、ユアンも溜息とともにそんなことをいってくる。

本当に、人は愚か、でしかない。
そんなクラトス達の様子を離れた場所で実は視ているエミルとしてはそう思わざるをえない。
そんなことがかつてあった、とはエミルは、否ラタトスクは知らなかったが。
やはり、人とは愚かでしかない、ということなのだろう。

世界は、犠牲の上に成り立っているのだ。
ふと、ロイドの脳裏にユグドラシルからいわれた言葉がかけめぐる。
違う、といいたい。
いいたいが。
シルヴァラントにおいても、テセアラでも。
人は、ヒト同士にて互いに互いを傷つけあっている。
テセアラで便利におもった道具のすべてにはエクスフィアが使われている、という。
つまり、ヒトの命の犠牲の上に便利さがなりたっている。
そしてテセアラではエクスフィアに傷がつき、
使い物にならなくなった、としれば問答無用で破棄する、という。
タバサ曰く、エクスフィアにも心があるのに、といっていたが。
彼女いわく、エクスフィアも自分と同じ、無機物だから、といっていた。
「…くそっ」
自分の中に湧き上がるこの思いが何なのか。
この苛立ちの正体が何なのか。
それはロイドにはわからない。
わからないままに、とりあえず、ほかほかとゆげをたてている、
ゼロスによって目の前におかれたスープのお皿ひっつかみ、
とにかく、やつあたり、とばかりにいきなりそれを食べ始める。
「ヒトとは豊かさになれてしまうとロクなことを相変わらず考えはしないからな」
ユアン達の会話がそんなロイドの耳にとはいってくる。
本当に心の底からヒトに悪い奴などはいない。
それが常にロイドの中にあった、信念、であった。
でも、この旅でロイドは様々なことを自分の目で確認してしまった。
自分達の欲のためだけ、に人々をさらい、ディザイアンに売り飛ばしていたヒト。
劣悪種、とさげずみ、ヒトの命を命ともおもわずに、
エクスフィアを他者にも使えるようにするだけのために、
問答無用で殺していたディザイアン達。
そして妻を治すためだけ、にだまされているにもかからず、
街のヒトビトすべてを裏切っていたパルマコスタのドア総督。
そして、ここテセアラ。
身分、という意味のよくわからないもののために、ヒトが人を虐げている。
生まれや育ち、そういった当人ではどうにもならないものの為にヒトが人を虐げる。
そんなのは間違っている。
今でもそう思うが、それがここテセアラの現実。
心の底から悪いものはいない。
本当に?
これまで思ってもみなかった自らの中に芽生えたよくわからない感情。
心のどこかで、本当にそうか?
そう問いかける声が、ロイドにもここ最近は感じ取れ初めている。
そして、とどめともいえたのが。
あのユグドラシルの言葉と、そしてあの封印の書物の中での出来事。
無害な子供たちのような姿をしているものも多々といた。
でも、彼らは敵で、殺さなければ自分達が殺されてしまっていた。
皆にそうすることが彼らを救うことなのだ、といわれても。
ロイドはなかなか納得がいかなかった。
そのために、コレットの身を危険にさらし、さらには仲間の身を危険にさらしもした。
何が本当に大切なのか。
――本当に大切なものを失っちまうぜ?
そうゼロスにいわれた言葉がぐさり、とロイドの心の奥にと突き刺さっている。
「…ロイドって、都合がわるくなったり、考えることとかあったら。
  とりあえず結構やけ食いするよね」
そんなロイドをみつつ、あきれたようにぽつり、とつぶやくジーニアス。
ジーニアスもミトスの様子がきにかかる。
そしてまた、エミルのことも。
もしも、姉がいいたいことが、ジーニアスにも予測がついてしまったことと同じならば。
・・・エミルがこの場で一度離れたのにも意味がある、のかもしれない。
ネコニンギルドできいた気になること、というののもきにかかる。
いっきにかきこむように、がっとスープを飲みほしたのち、
これまたいつのまにかゼロスの手によっておかれていた、飲み物をもいっきに飲み干すロイド。
「…ん?あれ?」
一気にいきなりお腹に詰め込んだから、だろうか。
おもわずふっとロイドの瞼がおもくなる。
「あれ?なんか、眠く……」
「うん?お腹がいっぱいになったらおねむってか?ロイド君は子供だねぇ」
「というか。脳がキャパシティオーバーしてるんだとおもう。
  ロイドって難しい話とか、自分が考えることができたりしたら、
  いつもすぐに睡魔が襲ってるんだよね……」
おもわず目をごしごしするロイドをみて、
ゼロスがおちゃらけたように突っ込みをいれ、
そんなロイドをみて、さらにジーニアスが溜息を深くしてそんなことを言い放つ。
実際、イセリアにおいてもロイドはそうであった。
いつも難しいことを考えたりするときには、外ですら立ったまま眠りそうになったことも。
「この子、いつもそうなのよね。旅にでて少しは変わったとおもったのだけど」
ジーニアスにつづき、リフィルも盛大に溜息をつきつついってくる。
特にそれが授業中に発揮されていた、というのがリフィルとしては頭痛の種でもあるのだが。
「食べてすぐに寝たら牛になるぞ~」
「え?ロイドが牛さんになるの?みたいみたい!」
「…いや、コレットちゃん。今のは言葉のアヤ、というか。
  たんなることわざみたいなものだからな?」
ゼロスの言葉を真に受けて、目をきらきらとさせているコレット。
あるいみ反応するところがちがっているのではないか。
とその場にいる誰もが思わずそんなコレットをみて思わず思うが。
「あれ?…おかしいな?」
違う!といいたいが、睡魔はどんどんとひどくなる。
俺ってそんなに疲れていたのかな?
たしかにいつも、お腹いっぱいに食べたらすぐに眠くなっていたが。
それとも、いろいろと聞かされすぎて自分で考えようとしたせいか、
いつものように難しいことを考えていると眠くなる。
その癖がでた、とでもいうのだろうか?
ロイドはなぜ自分がここまで眠くなっているのかがわからない。
「ここで寝ないでよ?ロイド、寝るならコテージに向かってよね」
たしかにロイドは立ったまま寝るのは得意なれど。
しかし、みているほうはハラハラドキドキしてしまう。
いつか倒れるのではないのか、と。
「んじゃあまあ、俺様がロイド君をコテージにつれていくわ」
「悪いわね。ゼロス。ならお願いね?」
「神子がいくなら、私が……」
「クラトス。お前との話はまだおわっていない。
  ちょうどいい。シルヴァラントの管制官のお前にもいろいろと話があるからな。
  これは、テセアラの管制官としての私の意見なのたが……」
クラトスがそんなゼロスの言葉をきき、自分が連れていく。
というようなことをいいかけるが、そんなクラトスをユアンがひきとめる。
「あら?ここで話してしまってもいいようなことなのかしら?」
そんな二人の会話をきき、リフィルがすっと目を鋭くするが。
「いや。ここでするつもりはない。
  ということで、クラトス、つきあってもらうぞ?
  彼らにクルシスの内情をきかせるわけにもいかないから、な」
何か、が確実おこっている。
安定しているマナに、いきなり減り始めたような感じるマナ。
レネゲードのボータからは、世界にちらばっている部下たちから、
魔物や動物達がここ最近、何かおかしい、というようなこともきかされた。
何が、ともいえないが。
それぞれどこか落ち着きがないようにみうけられる、と。
立場上、ユアンはそれらを把握し、きちんと調査する必要がある。
そしてそれはクラトスにもいえること。
まがりなりにも、仮初めにも二人とも、クルシスの四大天使。
しかも、それぞれテセアラ、シルヴァラントを任されている立場なのだから。


今日はもう皆つかれているのだろう。
もう休んだほうがいいのではないか?
リーガルの言葉も一理ある。
というか今日はいろいろとありすぎて精神的にも疲れたといってもよい。
たしかに疲れていた、のであろう。
いつのまにかしっかりとベットメーキングがなされていたベット。
一応男女別に棟がわけられているそれぞれのコテージにはいり、
ベットに横になったとたん、それぞれ一気に疲れがたまっていたのか睡魔が襲い掛かった。
そしてそれは、リフィル達女性陣だけではない。
ジーニアス達においてもいえることで。
コレットは心地よい眠りの感覚がうれしくて、少しばかり興奮状態であるがゆえ、
すぐにリフィルやしいなと違って眠りにつくことはできてはいないが。
すぐに寝入ったジーニアスは、ミトスがそと部屋をでていったことにすら気づいていない。
そしてゼロスにも。

ほう、ほう。
外からはフクロウの声が静かに響いてくる。
いつ、眠りについたのかすら定かではない。
ゼロスにコテージにまでつれてこられたまではロイドは覚えているが。
そのままベットに倒れ込むようにしておそらくは眠ってしまった、のだろう。
そんなことを考えながらロイドは起き上がろうとして違和感を感じる。
体が、しびれているのか身動きがとれない。
なぜ?!
まさか、何かがあったのか?
それとも、変なまたねかたをしていて寝違えているのか。
実際ロイドはこれまでも寝違えて身動きがとれなくなったことがあるがゆえ、
一概に違う、とは言い難い。
と。
ふとそんなロイドの体がゆっくりとではあるが確実軽くなってくる感覚が感じ取れる。
体がしびれ、目もあけることすらままならなかったロイドであるが、
目をあければそこにはなぜかユアンの姿が。
そういえば、こいつここにきてたんだっけ?
ふとロイドはねむる前のことを思い出す。
何のためにきたのか、結局ロイドはよく理解ができないままであったにしろ。
ユアンの手からは暖かな光のような何かがでていること察するに、
おそらくは、自分にむけて何らかの術をほどこし、
感じていたからだのしびれを解いてくれているのだろう、とロイドは理解する。
異常を解除する術ならば、おそらく【ディスペル】なのだろう。
状態異常を解除する回復術の一つ。
「ユア…ン?」
困惑するロイドの問いかけに答えるでもなく、
「父親にあいたくないか?」
淡々とそんなことをいきなりいってくるユアンの姿。
ロイドはベットに横になっており、そんなベットの脇に今はユアンがたっている状況。
ちらり、とみれば奥のほうではジーニアス達が寝ているのがうかがえる。
しかし、気配にさといジーニアスが起きてくる気配がないことから、
ジーニアスも何かをされている可能性がかなり高い。
しかし、それよりも今、気になることをユアンはいっていた。
ちちおやにあいたくはないか、と。
つまり、それが意味することは。
「!?親父に…親父に何かしたのか!?」
今はまだ、テセアラとシルヴァラントの移動ができない、
といってきたのはレネゲードではなったのか。
が、しかしレネゲードのアジトはシルヴァラント側にもある。
通信機能さえつかえるのならば、ダイクに何か彼らがしていても不思議ではない。
「あいたければついてくるのだな」
いわれ、ようやく体が完全に自由になっているのにきづく。
このままユアンにつかみかかりたい。
が、ダイクの安否がきにかかる。
「くそっ」
ジーニアス達をおこしたいが、
すたすたとユアンは扉のほうへ歩いていってしまっている。
そんなユアンを追いかけるようにして、ロイドもまたベットから飛び降りる。
しん、と建物の中が静まり返っている。
他の誰も起きてくる気配がない、ということは。
何らかの術、もしくは薬か何かが盛られているのかもしれない。
そんなことをふとロイドはおもうが。
しかし、今はそれよりも。
扉の先にでていったユアンをおいかけ、ロイドもまたコテージの外へとむかってゆく。

「ユアン、こんな真夜中に何を……」
外にでてみれば、月の明かりがとてもまぶしい。
澄み切ったまでにみえる星空と、そしてしずまりかえっている夜の海辺。
ざぁん、と波が波辺に打ち付けてはひいてゆく音のみが周囲にと響いている。
「ユアン様。御協力感謝いたしますぞ」
ふと、第三者の声がして、はっとロイドがそちらのほうをみてみれば、
そこには見覚えのある鎧に身をつつんだ数名の武器を構えた人物と、
そして体格のいいこれまた見覚えのある人物が。
「ボータ!?それに、クラトス!?」
それは、ロイドにとっても見知った相手。
クラトスならばまあ、わかる。
わかるが、なぜクラトスがレネゲードのボータとともにいるのだろうか。
しかも、あきらかにレネゲード、とおもわれしものたちは、
クラトスにむけて武器を構えており、どうみても友好的な態度、とはおもえない。
「どういうことだ!?レネゲードはクルシスと敵対関係とはしってるけど。だけど、どうして……」
「それは我らがユアン様に、お願いしたのだ」
「?」
お願い、とはおかしなことを、とロイドは思う。
ボータから発せられた言葉に首をかしげざるをえない。
ユアンはたしかにボータ達の頭である、と彼自身が告白していた。
「もう、時間は残されていないゆえにな」
しかし、そんなロイドが疑問を口にするよりも先に、
クラトスに武器をつきつけるようにおそらくは指示をしているのであろう、
レネゲードのボータが腕をくみつつも、一歩前にでながら、そんなロイドの疑問に答えてくる。
今はこの場をはなれているであろうユグドラシルに、
ユアンが自分達の上司だ、と気取られないようにするためのボータの考えた作戦。
そしてそれはユアンにも伝えてある。
「どういうことなんだよ!」
ロイドが騒ごうとするが。
「静かにしろ。…もっとも、皆、薬がきいてよく眠っているだろうがな」
薬。
その言葉にロイドが思いっきり目を見開く。
「薬…だと?!」
何らかの形で薬を盛られた、のだろう。
夕飯の時か、それとも別の方法か、それはロイドにはわからないが。
しかしいつのまにかロイドの周囲にも武器構えているレネゲード達がおり、
というか、なぜに彼らはユアンにも武器をつきつけている、のだろうか?
それがロイドには理解不能。
それはあくまでも演技であるのだが。
そこまで今のロイドは考えが及ばない。
それに、優先的に気になることがある。
「…親父はどこだ。親父に何かしやがったらおまえら全員ただじゃすまさないぞ!」
きっと、その場にいるレネゲード、ユアン、そしてクラトスをにらみつけロイドが叫ぶ。
この場にダイクの姿は見当たらない。
そんなロイドの態度に対し、溜息をつきつつ、
「久々の親子の対面にそんな無粋はないだろう?」
ダイクの姿を探し、きょろきょろと周囲に視線をめぐらせているロイドに対し、
さらり、といいきるユアンに対し、
「…やはりそうか。ハイマで私を狙った暗殺者はお前だったのだな」
いいつつも、前のほうでぎゅっと手を握り締めながら、
何やらいっているクラトスの姿がロイドの視界にと映り込む。
「ハイマでって」
たしかにあのとき、クラトスは誰かに襲われかけていた。
それをロイドは目の当たりにしている。
あのとき、指輪らしきものを拾ったのもまた事実で。
戸惑う声をあげるロイドに対し、
すらり、とその腰にさしている剣を抜き放ち、
「クラトス。息子の命が少しでも惜しいとおもうのならば、オリジンを解放しろ」
その切っ先はロイドの首筋にとあてられている。
一瞬、ロイドは何をいわれたのかがわからない。
というか、なぜ自分に刃がむけられているのかすらまったくもって理解不能。
今、ユアンは何、といった?
「何を…いってるんだ?」
困惑したような言葉がロイドの口から発せられる。
今、ユアンは何といった?
息子の命が少しでもおしいとおもうのならば。
そういった。
そしてオリジンを解放しろ、と。
息子?クラトスの?どこに?
でも、今、命の危険にさらされているのは、
ユアンに剣の切っ先を向けられているのは。
「今一度いうぞ。クラトス。オリジンの封印を解放しろ。
  さもなければ、ロイドはここで死ぬことになる。
  お前とてせっかく生き別れになっていた息子を殺したくはなかろう?
  死んだ、とおもっていた息子がこうして生きていたのだからな」
「何を…いって…」
ロイドはユアンが何をいっているのかわからない。
しかし、その言葉とともにユアンの武器、だけではなく。
周囲にいたレネゲードらしきものたちの武器も、ロイドの背につきつけられる。
それがあきらかに、ユアンが冗談でいっているのではない。
と思い知らされる。
つまり、それが意味することは…
「う…嘘だろ?クラトスが…クラトスが、俺の…親父なわけないだろ?」
困惑したような、まるで迷子の子供のような、そんな言葉がロイドの口から紡がれる。
冗談だ、とユアンにはいってほしい。
クラトスにも。
しかし、この場の空気はあきらかに冗談をいっているような雰囲気、ではない。
「俺は、信じない…信じられないっ!」
冗談をいっているのではない、とはわかるが、信じたくない。
というか絶対に信じられない。
よりによって、クラトスが父親?実の?
自分達を散々裏切っていいように利用してくれたクラトスが?
――でも、本当にそれだけ、か?あのときクラトスは自分を身を挺してかばった。
否定しようとするロイドの心にふとうかぶ、あの飛竜の巣での出来事。
巨大な柱につぶされる、と覚悟したロイドを身を挺してかばったクラトス
――無事か?なら、いい。
それしかクラトスはいわなかった。
どうしてかばったのか、すら結局答えてはもらえなかった。
でも、そんなクラトスが、自分の?
「実の息子にここまで否定される気持ちはどんなものだ?」
そんなロイドの態度をみて、ユアンも嘲笑をうかべざるをえない。
ロイドのこれまでの言動はユアンとて把握している。
相手はどんな生まれであっても自分は自分だろうというようなことをいっていた。
という。
だが、現実はどうだ?
所詮、この子もヒトの子にはかわりがない、ということなのだろう。
現実をきちんととらえずに否定、という逃げに走っているのがうかがえる。
「…ふ」
そんなロイドの様子、そしてユアンの様子をみてクラトスもまた、
自嘲気味な笑みを浮かべざるをえない。
ボータについてきてもらいましょう。
といわれたときから覚悟はきめていた。
浜辺にてミトスから指示をうけ、ミトスが少し散歩してくる、といい。
一人になっていたクラトスのもとにボータがレネゲードの戦闘員を伴いやってきた。
そして先刻やってきたユアンの行動。
おそらく、ユアンは行動するのだろう。
時間がない、とおもったのはクラトスとミトスだけではなかった、ということ。
センチュリオンの存在が決定的になった以上、たしかに残されている時間は…ない。
「その様子ではオリジンの解放に同意するつもりはないようですな。
  クラトス様。あなた様がオリジンを解放しなければどうなるのか。
  わからないわけではないでしょう?
  あのイベントにて現れたのは、まぎれもなく。
  あのマナのありようは。精霊でも魔物でもない、というあれは。
  伝承にありし、精霊ラタトスクに使えしエイト・センチュリオン。
  だからこそわれらは名誉会員でもあらせられるユアン様と接触をとり、
  こうして協力を願っているのですから」
クラトスの斜め前にて腕をくみそういうボータの言葉に一瞬クラトスは顔をしかめるが。
しかしすぐさまに納得する。
おそらくはどこかにいるかもしれないミトス対策、なのだろう。
あくまでも、
彼らはユアンを自分達の上司であることをユグドラシルに知られたくはないらしい。
というか、名誉会員、とは。
「…そうか。お前たちはマーテル・ファンクラブの会員なのだな?」
思わずため息をつくクラトスは間違っていないだろう。
「然り。我らの目的。それはマーテル様の意志を尊重すること!
  地上世界を存続させる。これがマーテル様のご意志!
  だからこそわれらはこのたびの作戦において、
  たまたま、センチュリオン、そしてマーテル様の器としてつくられた、
  という自動人形の姿をみて固まっているユアン様に声をかけた。
  このままでは、精霊が目覚め、地上を浄化してしまいかねない。協力してくれるように、と」
嘘も方便なれど、何もしらなければそれが真実、とおもわれるであろう。
実際、あの光景をユアン、そしてボータ達がみていたのは事実。
そしてタバサの姿をみてユアンが固まっていたことも。
協力してくれるように頼んだのは、ユアンなれど、
それをボータはいかにも自分達がユアンにもちかけた、
というような言い回しにしているだけ。
いまだに混乱しているロイドは、今の【マーテル・ファンクラブ】。
そこに突っ込みをいれる心の余裕は全くない。
それどころか、少し考えればでてくるでてくる。
クラトスの自分に対する過保護ぶりが。
そういえば少し怪我をしただけで、というか蚊にかまれただけで、
クラトスはロイドにファーストエイドをかけてこなかったか?と。
否定したいのに、否定しきれない要素がつぎつぎつでてきてしまい、
さらにロイドは混乱せざるを得ない。
「しかし、クラトス様。残念です。協力してもらえないのであれば。
  いくらあなた様が、マーテル様の信頼のあつかった人物であり、
  古代大戦における英雄の一人といえど、ここで死んでもらいます」
ボータがいうとともに、
「ぐわっ…」
ロイドの背後から武器をつきつけていた人物がかるくロイドに剣を突き刺す。
それは深くはないが、しかし痛みは伴う程度。
じんわり、とロイドの服から血がにじむ。
薄皮一枚が剣によって切り裂かれる。
「!?」
それをみてかたまり、硬直するクラトス。
「動けば息子の命は、ない」
淡々とボータがそんなクラトスに言い募る。
そんなクラトスをじっと見つめ、そして溜息をひとつつき。
ちなみにいまだにユアンはロイドの横におり、
ロイドともども、いまだに武器をつきつけられていたりする。
はたからみれば、ユアンもまた人質になっているようにしか見えないであろう。
「お前は…家族ができてかわったな。あのときもいったが……
  クラトス。お前も、そして私も。
  あまりにも長い間、時間を無為に過ごしてきてしまった。
  ユグドラシル…ミトスという光が変質してしまったことを認めたくかったがゆえにな。
  お前とてそう、だったのだろう?決定的だったのはアイトラの一件。
  お前はあれをみてクルシスを出たな」
いいつつ、ユアンは目をつむる。
「神子アイトラ…今のシルヴァラントの神子コレットの祖母ファイドラの姉。
  彼女が助けたハーフエルフの子供が攻撃されるのをかばい、
  神子アイトラは命を落とした。あの光景はマーテルが、
  大いなる実りをかばい、人間たちの軍勢に殺されてしまった光景と同じだった。
  だと、いうのに、ミトスは…あいつは何の反応も示さなかった。
  それどころかあの光景をみて掃除が大変だな、とまで言い放ったそうじゃないか」
あれが決定打になったのだろう。
クラトスはそれからしばらくしてクルシスを出た。
地上に逃亡を図ったのである。
あのとき、あの光景をみてすぐに外にでたユアンは伝えきいただけ、ではあるが。
そこまでミトスは変わってしまったのか、と愕然とした思いは、ユアンは今でも覚えている。
「お前たち家族は、ディザイアンと不可侵契約を結んでいるというイセリアに向かう、といっていた。
  が、まだ幼かった息子を連れていくにしても、しばらくしてからいくのだとな。
  だが、イセリアに向かう途中でお前たちの行方がクヴァルに知られ、
  そしてアンナは息子を人質にとられ、エクスフィアを引きはがされた。
  そしてお前は…アンナをばけものにかえられて、
  ロイドを人質にとられ、抵抗のすべをうしなった。忘れたわけではあるまい?」
ユアンがあの場にかけつけたときにはすべてがおわっていた。
「アンナって…それって……」
ロイドの脳裏によみがえるのは、
人間牧場でクヴァルとよばれていたものからいわれた言葉。
――嘘ではありませんよ。エクスフィアをはがされ怪物と化し。
  あげくは大切にしていた我が子を自分が食い殺そうとし…
  ああ、変な動物がまだおさなかった君をまもって怪我をしていましたけどね。
あのとき、
アスカードの人間牧場の主だというクヴァルにいわれた言葉がロイドの脳裏にとよみがえる。
「クルシスから追われている立場だというのに、子供をもうけたとしったときには。
  この私とてあきれたものだぞ?クラトス?
  というか我ら天使体でも子供ができたのか?と疑問におもったほどだ。
  この四千年、いや天使化、という生体兵器がうまれてこのかた。
  そのような現象は報告すらもされていなかったのだからな。
  かつて国が子供に能力を引き継げないか、と実験していたときも。
  ことごとく失敗し、親にすべき素体がすべて輝石化していたようにな」
生体兵器、とよばれし【天使】とよばれしものがあらわれてからあのときまで。
天使化したものが子供をもうけた、などと報告もなければきいたこともなかった。
それはゆるぎない真実であり、実際そんなものをみたことすらなかった。
が、ロイドはうまれていた。
その身にハイエクスフィアを寄生されていたヒトとクラトスの間に。
「…アンナもお前についていかなければ。
  あのような姿に、エクスフィギュアに変えられることもなかっだろうに。
  ……哀れな女だ」
「っ。母さんを愚弄するなっ!」
横にて溜息とともにそういうユアンをきっとにらみつめつつもロイドが叫ぶ。
そんなロイドをちらり、とみて。
そのまま今にもユアンの胸倉をつかみそうになったロイドをひょいっとよけ、
逆にクラトスのほうに、どんっとつきとばすユアンの姿。
ユアンに突き飛ばされ、ふらふとロイドは一歩手前にでて、
目の前のほうにいるクラトスのほうへと足をすすめてゆく。
「クラトス。もう一度いう。オリジンを解放しろ。
  お前も昼間みただろう。センチュリオンが目覚めている以上、
  もう時間は残されていない!せめて精霊達だけでも解放していなければ。
  あの精霊は怒りにまかせ何をしでかすかわからんぞ!!」
そこまでいい。
「忘れたわけではなかろう?あの精霊は猶予はあたえるとはいったが。
  地上を浄化しない、とはいいきってないのだぞ!?
  私としてもマーテルが守ろうとした大地をみすみす海に還すわけにはいかん!」
そのためには、どうしてもクラトスのオリジンの封印。
それの解放が必要となってくる。
あの精霊が行動するよりも前に、盟約にともない大樹を発芽させ世界を一つに。
そうしなければ、もうあとがない。
「ユアン様の説得にもみみをかしませぬか。しかたありませんな。
  では、ここは息子ともどもここで命を落としてもらいましょう。
  残りの精霊の楔はあとひとつ。ここでお前を殺したとしても、
  それを隠し通してあと一つ楔をぬかせさえすれば」
「っ。ロイド、くるぞ!?」
「くそっ!」
もう、何を信じていいのかわからない。
協力を申し出てきていたはずのレネゲードがどうして自分を狙ってきているのか。
いや、それ以上にクラトスが自分の父親だ、という言葉がロイドの中をぐるぐるとかけめぐる。
が、今はそんなことを考えているときではないのだろう。
まずは、このむかってくる数多のレネゲードらしきものを蹴散らすのが先。

ドッン!
何がおこったのか理解できない。
何かに突き飛ばされたような感覚と、何かが焦げるような臭い。
ひたすらに攻撃をしかけてくるレネゲード達をけちらしつつ、
ちらり、とみればユアンはこちらに加わるきはないらしい。
それどころかユアンの両脇にはあいかわらず武器をつきつけているレネゲードらしきものが。
彼らはユアンを害するつもりはないが、万が一、
この場にやってきたり、またみているかもしれないユグドラシル対策といってよい。
こうすることにより、自分達の本当の上司がユアンである。
という真実をあくまでも隠し通す。
それがレネゲード達が考えている作戦。
当然ロイドはそんなレネゲード達の事情を知るはずもないが。
ロイドにむかってその場にいる幾人ものレネゲード達。
そんな彼らが武器を手にし攻撃を開始し、
そんな彼らはクラトスにもその刃をむけている。
先ほどの言葉の真意をクラトスにロイドとしては問いただしたい。
が、今はこの襲ってくるものたちをどうにかしなければ。
クラトス、そしてロイドとともに、互いに剣をくりだしつつも、
それぞれ相手をさばきだす。
さきほどのユアンやボータの言葉がロイドの中でぐるぐるとかけめぐり、
どうしてもロイドは戦闘に集中ができない。
そんなロイドの隙に気づいた、のであろう。
レネゲードの構成員たちはそれぞれに顔を見合わせ、
クラトスよりもまずはロイドを先にどうにかしよう、と集中的に攻撃を開始する。
心に迷いがあるがゆえ、ロイドの剣はいつもよりも鈍い。
それどころか、逆に相手に追い詰められていっていたりする。
戦いの最中、迷いがあればどうしても隙が発生する。
しかし、ロイドとてここまで旅をしていたわけではない。
そして、あの禁書の中で。
たしかに仲間の足を引っ張ることが多かったが、リーダー格さえどうにかすれば、
相手の戦力、もしくは陣形は一気に瓦解する、というのを学んでいる。
ゆえに。
「でやぁっ!」
彼らが協力を申し出てきていたのに。
でもこうして彼らは今、自分に刃をむけている。
その何ともいえない憤り。
そしてさきほどのユアンやボータのやりとり。
様々な思いの鬱憤を晴らすかのように、力まかせにボータに向けて、
秋沙雨あきさざめ!!」
おもいっきり、連続し突きを繰り出し、そして。
驟雨双破斬しゅううそうはざん!!」
秋沙雨と虎牙破斬を組み合わせた奥義。
とにかく、この群がってくる敵をけちらし、
そしてボータを地につけて、そしてユアンにまずは文句をいうっ!
「くっ!」
そんなロイドの攻撃をうけ、紙一重でかわし、まずはこの子供の動きを封じねば。
ゆえに、すばやく術を唱え始めロイドにむけててをつきだすボータの姿。
それにきづき、クラトスがハッとする。
今、ボータが唱えている術が直撃すれば、いくらロイドとて、
ハイエクスフィアもどきをつけているロイドとて無事では済まない。
その術の内容から、彼らはロイドの安否はほんとうにどうでもいい、らしい。
それはクラトスとて無意識の行為。
ボータの術が完成し、ロイドに解き放たれるまさにその一瞬。
ロイド、そしてボータの間、正確にはロイドの前に一気に踏み込む。
その瞬間。
まさにロイドに術が直撃するかとおもわれたまさにその一瞬。
踏み込んだクラトスが、ロイドに放たれるはずだったてあろう、
ボータの放った術、【ヴォルトアロー】。
それは対象となる敵の周囲に雷球をつくりだして攻撃する技。
火と雷の集中系複合魔術。
この雷球に囚われてしまえば、そこから抜け出すのは容易ではない。
というかむしろ抜け出すことが不可能、といってもよい。
クラトスが直前に割り込んだことからボータの認識が狂い、
そのターゲットはロイドであったはずなのに、攻撃はクラトスにと直撃する。

はっとロイドが術の展開に気づいたときには、
すでに術は繰り出された後で。
このままでは術が直撃する。
避けようもない、とおもい思わず目をつむりかけたその一瞬。
目の前に何かの影が割り込んできた。
その直後。
バチバチバチィ!
激しく、何かがさく裂するような音。
その光景はロイドには見覚えがある。
そう、それは雷の神殿で。
しいなに攻撃を放たれそうになったその瞬間。
あのとき、孤鈴コリンがしいなとヴォルトの間にわってはいり、
ヴォルトの攻撃をその身に直撃をうけた。
バチバチとした雷がクラトスの体を包み込む。
球体のような雷につつまれ、クラトスの体が痙攣する。
それとともに周囲に焦げ臭いにおいも。
それらすべてがあのときと同じ。
「・・・・・・・・・・・え?」
ロイドには、何がおこったのか理解不能。
そのまま、どさり、とその場に倒れるクラトスと、あのときのコリンの姿が重なって。
それとともに、飛竜の巣にて倒れてきた柱からかばったクラトスの姿も重ねって。
「…クラ…トス?」
ロイドを抱き込むようにしてかばうクラトスの体がぐらり、と揺れる。
「…無事か?…なら、いい」
そんなロイドの耳に届いてきたは、ロイドを案じるクラトスの声。

ロイドとともにいるときは、ヒトの身で。
無意識におもっていたがゆえに、体は天使化させていない。
それが不幸であったのか、それはクラトスにもわからない。
半無機化していればここまでのダメージはおわなかっただろう。
体に力がはいらない。
それどころか、今の術により、体のいたるところから血が噴き出している感覚。
このままでは、流れ出る血でロイドを穢してしまう。
が、体に力がはいらずに、おもうように天使化することすらままならない。
意識が、かすむ。

「あ…あ…う…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
ロイドにはもう、何が何だかわからない。
自分をかばったクラトス。
そして、目の前で血をふき倒れたクラトス。
その姿は、雷の神殿でしいなをかばったコリンと重なって。
嘘だ。
嘘に違いない。
クラトスが、これまで散々自分達をだましてきた、クラトスが。
自分の…自分の実の父親?

静かな夜の闇に。
ロイドの何とも言い難い絶叫が響き渡ってゆく。


「な、何?この声…ロイド!?」
はっとし、おもわず外をみる。
そのまま、だっと外にとかけだしてゆくコレット。
「まちなさい!コレット!」
この絶叫はただ事ではない。
しかも自分達はいつのまに爆睡していたのだろうか?
疑問点は多々とある。
が、今は。
このロイドの叫びをどうにかするのが先。
女性組がコテージを出てゆくその同時刻。


「この声…いそがないと」
ふと、海岸のほうに視線をむける女性がひとり。
なぜか騒ぎとかいうのに巻き込まれていなかったというのに、
健康診断をするようにいわれてしまい、時間がかかった。
時間がない、というのに。
「いそがないと……あの子たちが……」
せっかく、無理をいってここまでやってきた意味がなくなる。
絶対に。
そう、絶対に。
「……あなたたちは消させはしないわ。私の、大切な……」
フードを深くかぶり、決意を新たにしているその瞳にもう、迷いは、ない。
目指すは、今、声が聞こえてきた海岸沿い。


夜の闇に響き渡る絶叫にも近い叫び。
「ロイド!?」
「まちなさい!コレット!」
異変を感じたというタバサの手によりて、何とか自由がきくようになっている。
ベットの周囲には使用したとみられるパナシーアボトルの空瓶も。
目がさめたとき体がしびれているような感覚は
どうやら気のせい、てはなかったらしい。
今、外から聞こえてきた声はあきらかにロイドのもの。
しかも、こんな真夜中に、あのような叫びは尋常ではない。
いくらリフィルとてそれは理解している。
しかもあのロイドがこのように叫ぶ、とするならば、何かが確実にあったのだろう。
コテージを飛び出してゆくコレットをみて、あわててリフィルもあとを追いかける。
ほう、ほう、としたフクロウのなきごえと、浜辺にうちつけてはひいてゆく波の音。
あと二日で満月を示すかのように、
満月に近い月はあたりを明るくてらしだしており、視界にことかくことはない。
まるで今にも降ってきそうなほどの満点の星。
しかし、先刻、たしかにユアンのいうように、あれだけ安定していたはずのマナが少なく感じる。
こちら側はテセアラで、一応は繁栄世界のはず、なのに。
いや、衰退世界の世界再生の儀式を中途半端にしている以上、
こちらの世界が衰退世界に入りかけているのだろうか。
しかし、救いの塔はたしかにそこにいまだにみえている。
本来ならば、このマナの少なさこそが、コレットの儀式の後は
ここテセアラ側の実情になっているはずなのだが。
それはラタトスクが目覚め、センチュリオン達が魔物達と縁を強化していたがゆえに、
この世界においてはそんなことは起こり得てはいなかった。
ゆえに、リフィルとしてはいきなり少なく感じ始めたマナに戸惑わずにはいられない。
パナシーアボトルを利用した、ということは何か薬か何かを盛られたのだろう。
いつのまに、ともおもうが。
あの食事の中に、何かをもられた可能性がかなり高い。
あの場にやってきたユアンのこともある。
それに、昼間の出来事。
ユアンがいた、ということは、彼らレネゲードがどう動くか。
それはリフィルにもわからない。
が、彼らの一つの目的が、ロイドをとらえることにあったことを考えれば、
そして精霊オリジンの封印。
それがクラトスに関係しているとするなならば。
答えは確実に絞られる。
だとすれば、聞こえてくるロイドの絶叫にもちかいこの声は。
おそらくそのあたりに関係がある、のであろう。
「いったい、何が…?」
「わからないわ。というかその口調、あなた、アリシアね?」
「え、は、はい」
眠っている間にどうやらプレセアの体はいつのまにか子供の姿にもどったらしい。
が、今現在表にでてきているのはアリシア、であるらしい。
それに目ざとくきづき、リフィルが起きてきた【アリシア】にと問いかける。
「今のって、ロイドの声…ですよね?リフィルさん」
そしてまた、困惑したようなマルタの声。
「いったい、何が……」
同じく、おきてきたセレスもまた、困惑したような声をあげてくる。
ここ、コテージは女性陣がわりあてられており、
ゆえに、しいなたちを含む女性陣達がこの建物にて休んでいた、のだが。
「とにかく、いこう。コレットが先にいっちまった。
  あの子一人で外にだすのは危険だよ」
それでなくてもレネゲードが、クルシスがコレットをまだ狙っている可能性が高い。
否、クルシスだけは確実にコレットを狙っているであろう。
そんな中で彼女一人で行動させるわけにはいきはしない。
しいなもまた、とびおき、すでに外にいく準備はすませているらしく、
いいつつも、そのままコレットが飛び出していった扉から、
しいなもおなじみその身を外にと投じてゆく。

ロイド、ロイド、ロイド。
思うのはロイドのことばかり。
止めるリフィルの声はきこえたが、そんなのはコレットにとって関係なかった。
コレットにとってロイドがすべて。
ロイドがいるからこそ、神子、として生きよう。
また、そうおもえた、というのに。
この叫びは尋常、ではない。
夜の闇、だというのに、視界はわるくない。
それよりもきになるのは。
潮風にのってただよってくる鉄さびのような臭い。
それは、いまだにかすかにきこえてくるロイドの叫びがしている方向から。
ロイドのいる男性がとまっているコテージと女性たちがとまっているコテージ。
距離はそうははなれていない。
必至で夜の闇の中…といっても月明かりの下、海岸沿いにとはえている、
森をつっきるようにとかけてゆくコレット。
やがて。
「う…うわぁぁっっっっっつ」
だんだんとロイドの声が近づいてくる。
それとともに、間違えようのない鉄さびのような臭いも。
「ロイド!…って、これは、いったい?」
がさり。
コテージは一応、人工的に植林されているちょっとした森というか林。
海岸ぞいにとつくられているそんな中に建てられており、
がさり、と声のしたほうにたどりつけば、そこには。
なぜか武器をかまえている男たちと、
これまたなぜか武器をつきつけられているようにみえるユアン。
そして、頭をかかえ、絶叫をあげているロイドと。
そんなロイドの前に倒れているクラトスの姿。
そしてそんなクラトスの下では、じんわりとではあるが確実に、
どすぐろい何か、が地面にしみだしているのがコレットの強化された視覚に映り込む。
何があったかはわからない。
が、ロイドが頭をかかえ、叫んでおり、
ロイドの前には怪我をしているのはあきらかとみられるクラトスの姿が。
どうみても尋常では、ない。
「これは、一体…」
困惑したような声をあげるコレットとほぼ同時。
「こりゃ……」
かさり。
ふとみれば、コレットがやってきた茂みとは反対側。
つまりは、ロイド達がとまっていたであろうコテージのある方角から、
見覚えのある赤毛の人物がこの場に現れたのをコレットは目にとめる。
その人物もこれらの光景をみて何やら絶句しているのがうかがえるが。
そんな彼らに気づいているのかいないのか。
否、間違いなく気づいていない、のであろう。
「俺は…俺は何を信じたらいいんだ!?嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だぁぁ!  
  俺たちを裏切って、さざんコレットを苦しめてるこいつが…
  クラトスが…俺の父さん!?信じない、俺は信じない、信じられるかぁぁ!」
頭をかかえ、何やら絶叫をしぼりだしているロイドの姿が目にはいる。
そんなロイドの様子をみて、コレットは少しばかり顔を伏せてしまう。
ああ、そうか。
ロイド、きづいちゃったんだ。
クラトスさんが、ロイドのお父様だっていうことに。
そしておそらくこの現状は。
ロイドの前で倒れているクラトス。
ロイドが傷をつけた、とはおもえない。
では、この周囲にいるディザイアンっぽい…おそらくはレネゲード、なのだろう。
彼らが何らかをした、と考えるのが道理。
「…哀れだな。実の息子にそこまで否定されるとは」
そんなロイドの姿をみつつ、ぽそり、とつぶやいているユアン。
所詮、この子もヒトの子か。
他人には生まれなどは関係ない、といっておきながら。
自分に関してのことがわかったとたんこの取り乱しよう。
これだから、ヒトは、とユアンはおもう。
思わざるを得ない。
「嘘だぁぁ!ああああっっっっっ!」
ロイドの様子は尋常、ではない。

ちっ。
そんなロイドの様子をみて思いっきり顔をしかめ、舌打ちし、
「…ちっ!こら!ロイド!俺を失望させるなよ!
  お前が今までいってきたことはすべて嘘っぱちか!
  立場も人間も何も…関係ないんだろ。心は同じなんだろ?
  たかが、父親程度のことでぐらついてるんじゃねえ!」
このように取り乱している、ということはやはり、というべきか。
口ではいいことをいっておきながら、
本質的なことをこのロイドは理解していなかったという証拠なのだろう。
人には散々、関係ない、といっておきながら、
いざ自分の身にふりかかればこのありさま。
ロイドが心からそうおもっているのか、それともただのうわべだけの偽善者なのか。
何も考えていない熱血馬鹿としかいいようがないロイドだからこそ、
偽善者というのはありえないが。
考えていないからこそ、残酷な方向をとっている、という可能性もある。
それでなくてもゼロスは前々から、クラトスがロイドを利用していたことにいらだっていた。
親は子をまもるべきはず、なのに、クラトスは逆にロイドを利用していた。
だからこそ、いらいらしてしまう。
そんな中でゼロスが思わず叫んだ言葉はゼロスにとってあるいみ本音といえる。
誰も信じられなかったゼロスを信じる、といったロイド。
その台詞がうわべだけのものなのか、そうでないのか。
ただ、何もしらないだけの、綺麗ごとをいうだけの子供でしかないのか。
何もしらない無垢なる子供は時に残酷なことをも平気でおこなう。
それがヒトであるならばなおさらに。
書物の中でのロイドの態度。
そして、どうやらクラトスが自分の実の父親だ、とようやく理解したらしきこの態度。
が、ゼロスとしてはあきれざるをえない。
少し考えればとっくにその答えにたどりついていなければいけないはずなのに。
あのとき、書物の封印の中で、
あの勇者ミトスはロイドをみて、クラトスの息子、ときっぱりと言い切ったのだから。
それに気づいていないのは、きちんと物事をみて、そしてきいていない何よりの証拠。
「ロイド!自分を見失わないで!
  誰の血をひいていても、どんな産まれだったとしても、
  あなたはあなたでしょう!?
  どんな姿にっても、天使になっても私は私だっていってくれたのはロイドだよ!」
ゼロスの言葉と、そんなコレットの声はほぼ同時。
それは神子達の声。
世界を再生するための神子と、偽りの責務を与えられた神子達の声。
二人にとってはそれらの言葉は嘘偽りのない言葉。
ロイドが叫び、取り乱していることに関して何か言わずにはいられない。

「ロイド!…これは」
「うわ。すごい血の匂い、って何があったの!?」
そんなコレットの背後から、ばたばたとかけてくるリフィル達。
この場にきて嫌でも鼻につく血の臭い。
いくら月明かりのもと、でも、倒れたクラトスの周囲に、
どすぐろい何かの溜まりができていっているのはみてとれる。
そして何かが焦げたような臭いすら。
「これまでお前がいっていたすべてのことは全部やっぱりうそっぱちかよ!
  もう一度いってやる。お前は俺たちに何といった?
  ガキんちょ達に何といってた?
  立場も人種も何も関係ないっていってたのは、お前自身だろうが!ロイド!
  たかだか実の父親程度のことでぐらついてるんじゃねえ!」
ゼロスの叫びが夜の闇の中にこだまする。

「…そうだ。ロイド、お前は…お前だ…神子達のいうとおり…だ」
視界がぼやける。
が、これだけはロイドにいわなければ。
自分のことで傷つくロイドをみたかったわけではない。
伸ばしたクラトスの手は血で染まっており、皮膚も焼け爛れている。
どうやら今のボータの一撃は、クラトスの体全体にかなりの火傷を負わせたらしい。

「…俺は…俺?」
ぴくり。
コレット、そしてゼロスやクラトスに言われた台詞に
それまで狼狽し、頭をかかえ他人の声などきこえてはいない。
とばかりにわめき叫んでいたロイドがぴくり、と反応する。
そんなようやく少しばかり我にもどったロイドがみたは、
血にぬれ、そしてよわよわしく虚空に伸ばされた
…ロイドにむけて伸ばされている、クラトスの…手。
「お前が無事で…よかった……」
「……あ……」
クラトスの手が、ぱたん、と力なくその場に崩れ落ちる。
それをみてもロイドは何といっていいのかわからない。
「おいこら。いったい何があったんだ?あれは?」
ゼロスがふと彼の近くにいたレネゲードらしき人物。
そんな人物の胸倉をつかみ、状況を聞き出しているのも視界にはいるが。
今のロイドにはそんなゼロスの行動すら視界にはいりこんでいない。
「クラ…トス?」
クラトスの体がピクリ、とも反応しない。
まさか、いやでも。
あのクラトスが、天使であるクラトスが。
しかも、それが自分をかばって?
ごちゃごちゃとした思考がおおいつくし、
ロイドはその場に一瞬棒立ちになってしまう。

「ボータ様が攻撃をはなち、その直撃をうけるはずであった、
  クラトス様の息子、ロイドをかばったうけてクラトス様は……」
ゼロスに胸元をつかまれて、ゼロスにそんな説明をしているレネゲードの一員。
それは小さな言葉なれど、聴力も無意識に強化しているコレットにはそれで十分。
そしてそれをきいたゼロスも何がおこったのか瞬時に理解する。
どういうわけかはわからないが。
彼らと戦いになり、そしてクラトスはロイドをかばった、のだろう。
その身を挺して。
「…クラトスさん。ロイドを助けてくれたんでしょう?そんな怪我をおってまで」
コレットの目にはクラトスの体がとめどもなく血が流れているのがみてとれる。
月明かりの下でみえているとはいえ
クラトスの体を中心に、まぎれもなく血だまりができかけている。
そんな聞こえてきたコレットの言葉にロイドははっと現実にと引き戻される。
そうだ。
クラトスのこの怪我は、過程はどうあれ、本来はロイド自身がうけていたかもしれないもの。
が、現実に倒れているのはクラトスで。
コレットにいわれ、はっとする。
クラトスの周囲の地面が濡れている。
よくよく目をこらせば、そしてあきらかに感じるこの鉄さびの匂いは。
思わずその場に膝をつけ、地面に手をあてれば、
ぬるり、とした感触がロイドの手にと感じられる。
赤い手袋の上からでもはっきりとわかる、どすぐろいような何か。
それが何を意味するのか、わからないロイド、ではない。
「助けられたらきちんとお礼はいわないと」
ロイドの近くに立ち寄りたい。
ゆっくりと、ロイドのほうにと歩み寄る。
そんなコレットをみて戸惑った様子のレネゲート達。
神子を殺す、というのは彼らにとっても必要事項なれど。
今回はそんな命令を受けていないので戸惑いのほうが大きいらしい。
「…そう、だな。ありがとう。けど、やっぱり俺はあんたを父さん、とはよべない」
コレットにいわれ、ようやく少しは思考がはっきりとしてくるが、
どうやらまだロイドの思考は完全、ではないらしい。
血だまりの中に倒れているというのにもかかわらず、
治療を、という言葉がでないのは、いまだに心が混乱している何よりの証拠。
実の父親だ。
その言葉を言葉で散々否定していたが、でも、という思いのほうが強い。
クラトスに初めてあったときから感じていたあの安心感は。
どこかであったような、ずっとロイドはそんな思いを抱いていた。
クラトスが俺の父親だったらいいのに。
旅の中、そうおもったのも一度や二度、ではなかった。
まだクラトスがクルシスの天使だ、と知る前までは。
「ロイド……」
コレットはそんなロイドの言葉をきき、何ともいえない声をだす。
そしてその視線をふと立ち止まりつつも背後にむける。
みれば、こちらにかけてくるリフィル達の姿がみてとれる。
そのことにコレットはほっとする。
これでリフィル先生にクラトスさんを治療してもらえる。
ロイドの前でクラトスさんが、ロイドのお父様が命をおとす。
そんな最悪な形は防がれる。
そんなコレットの思いに気づいているのかいないのか。
「あんたの、クルシスのやり方はいやなんだ。
  今までたくさんの人が死んだ。シルヴァラントやテセアラの人も。
  レネゲードや…クルシスやディザイアンも。みんな犠牲になっている人たちだ。
  でも、俺はやっぱり目的のためには犠牲がでてもいいなんて思えないよ」
どうしても思いはそこにいきつく。
それが幻想だ、といわれていても。
心がそれを許容できない。
が、ロイドはその言葉に矛盾が含まれていることに気づいていない。
そんなことをいうよりも前に、まずクラトスの治療をしなければ、
クラトスの命はまさに風前の灯火となっている、というその事実に。
つまりは、無意識とはいえロイドがそんなことをいっている間にも、
クラトスの命は危険にさらされている、ということに。
それはつまり、ロイドのいう犠牲がでてもいいなんておもえない。
という言葉とあきらかに矛盾を含んでいる、というその事実に。
「死んでいい命なんてない。死ぬために生まれる命なんてあっちゃいけないんだ。
  俺はコレットを助けるために世界を見殺しにはしない。
  …最後の最後までみんながいきる道を探したい」
ロイドがクラトスの横に座り込み、何やらいっているのをきき、
「でもよ?ロイドくん?いっとくが。
  おまえが余計なことをいっているあいだにその天使様。
  あきらかに瀕死状態になっていってるんだけどな?
  ロイドくんはよけいなことをいっている間に天使様を殺したいんじゃねえの?」
「!?ち、ちがっ!せ、先生!?」
自分の言いたいことばかりをいっていて、思いを吐き出すようにつぶやいていて、
今のクラトスの現状を完全に失念、というか考えないようにしていた。
そのことにようやくロイドははっときづく。
クラトスの周囲にひろがってゆく染みは、あきらかにクラトスの体から流れ出る血。
体も焼け焦げており、肉がこげる臭いがあたりに充満している。
ゼロスの言葉にようやくハッとロイドも今の現状に引き戻される。
今は自分のいいたいことをいっているとき、ではない。
あきらかにクラトスは死にかけている。
なのに、自分は。
言いたいことをいうだけいって、クラトスを見殺しにしようとしていた。
その事実にようやくロイドは思い当たる。
回復術をつかえるのはリフィル、そしてエミルとマルタ。
はっとしたようにゼロス、そしてコレットのほうをふりむけば、
コレットの背後からロイドのほうにちかづいてきているリフィルの姿が目にはいり、
そんなリフィルをあわててよんでいるロイドの姿。

「まったく。そんな話はいつでもできるでしょうに。
  その状態は一刻を争う、とみて間違いないでしょう。
  その染みはあきらかにクラトスの血、ね?」
コレットの背後で何があったのかはわからないが。
しかし、クラトスの現状が普通でない、というのは瞬時に理解する。
リフィルの背後では、セレス、そしてマルタが息をのんでいる姿がみてとれる。
それほどまでに周囲には血の匂いが充満している。
ロイドの横にコレット達とともに移動し、ロイドの横にと膝をつきながら、
あきれたようにロイドにいうリフィルの言葉はおそらく間違ってはいない。
「――いい、私がこのまま死ねば、オリジンは……」
かすれる声で横にいるであろうリフィルにむけて語り掛ける。
もう、意識が失われかけ、力もはいらない。
が、今ここで死んでもいいのかもしれない。
心残りはあるにはある。
が、ユアンにあの場所のことは託してあるし、それに。
そんなことを思い、
クラトスがそのまま意識を飛ばしかけたそのまさにその刹那。

パチパチパチ…
どこからともなく、誰かが手をたたく音が、周囲にと響き渡る。

ぱちぱちと、誰かが手をたたく音と。
そして。
「すばらしくくさい演説だね。ご苦労さま」
そんな声が突如としてきこえてくる。
その声の主はいいつつも、続けざまに魔術をはなち、
いまだにユアンを拘束しているようにみえる、
というかはたからみればどうみても拘束。
ユアンに武器をそれぞれ左右、そして前後からつきつけていれば、
そう、としか誰がみてもおもえないであろう。
そんなレネゲード達にと魔術を続けざまにときはなち、
「うわっ!?」
「ぐっ!」
そんな術をうけ、ユアンの傍から吹き飛ばされてゆく武装しているレネゲード達。
「おのれ!ユグドラシル!」
その姿をみて、ボータが忌々し気に何やらいっているが。
「…え?ミト…ス?」
ロイドには何が何だかわからない。
あきらかに、奥のほうからでてきたのは、
自分達とともに行動しているミトス以外の何ものでもない。
なのに、今、ボータはその姿をみて、何といった?
ロイドの思考が瞬く間にさらに混乱してしまう。
「まったく。ユアン。無様だね。何、ねずみなんかにつかまってるのさ?」
ユアンを拘束していた…ようにみえるレネゲードをすべてふきとばし、
呆れたように、ユアンのそばにちかよりつつも、ユアンに語り掛けているミトスの姿。
その表情にはかなりのあきれの感情がみてとれる。
「そういうが。ミトス。彼らはファンクラブの同士だぞ?
  それに彼らに言い分にも一理ある。お前とて昼間、みただろう?
  それにこのマナの少なさは、あきらかにアレに関係があるとしかおもえん」
そんなミトスの視線をうけても、素知らぬ顔で、腕を胸の前にくみつつ、
きっぱりと何やらそんなミトスにいっているユアン。
内心では、どうやら首領であることに気づかれていない様子ほっとしているが。
そんなことはユアンは微塵も表情に表わしてはいない。
「だからって、まさか本当に姉様の復活の邪魔をする気?ユアン?
  レネゲードなんかに協力してさ?」
「何をいう!これをみろ!」
いいつつも、ユアンがすっと懐からとりだせしは、
「な!?それは、まさか、最新作の姉様フィギュア!?」
それは精密なる精度をほこりし、百分の一の精密度を誇るマーテルの模型。
ちなみに、きっちりと眉毛一つ一つまで精密につくられているというすぐれもの。
…それを優れもの、といえるのは、一部のものたちだけ、であろうが。
「うむ。協力すればこれを進呈する、といわれてな」
「ずるいよ!ユアンばっかり!
  そもそも、ボータ達がレネゲードの組織つくってるのを見逃してたのは、
  彼らの組織の中で姉様グッズをつくって販売してるから!」
取り出したそれを奪おうとしているミトスと、
とられまい、として高くかかげているユアンの姿が目にとまる。
『・・・・・・・・・・え~と?』
何だろう。
このミトスとユアンのやり取りは?
というか、彼らは何をいっているのだろうか。
この場にいる誰もが理解不能。
ゆえに思わず、レネゲード以外の全員の声が、我知らずとも一致する。
「最新版のこれを進呈するから手伝えといわれてことわれるか!否、できないにきまってる!」
「あ、うん。無理だね」
『って納得する(のか)(の)!?』
ユアンの高らかに言い放つ言葉にこれまたあっさりと認めたミトスにたいし、
おもわず、その場にやってきていたマルタ、ジーニアス、ゼロスの声が一致する。
「あとでそれは没収ね!ユアン!」
きっとユアンをみていいはなち、そして、
そのまま一歩前にでつつ、こほん、と咳払いをひとつして、
「僕が君たち、ねずみの動きに気づいていないとでもおもった?
  クラトスの動きにも?残念だったね。クラトスの動きがおかしいのは、
  以前からつかんでいたんだ。だからプロネーマを監視につけていたんだよ。
  どうもロイド達にいらない情報を流していたみたいだからね」
「ち。我らの動きは監視ずみ、ということか。さすがですな。
  ミトス・ユグドラシルどの?いや、ファンクラブ名誉会長殿?」
ミトスの攻撃を何とか腕を交差することにより耐えきったのであろう。
いまいましそうにそちらのほう…茂みの奥からでてきたミトスをみて、
いまいましそうにいうボータの言葉はあきらかにミトスにむけられている。
「まったく。姉様のファンクラブの一員だからって見逃してたけどさ?」
いや、かなりまて。
ものすごくまて。
突っ込みどころか満載すぎる。
「っていうか、ファンクラブって……」
ぽつり、とつぶやくジーニアスの気持ちはわからなくもない。
「ユグドラシルって……な……」
ロイドはもう何が何だか理解不能。
目の前で倒れているクラトスが実の父親だ、と知らされた衝撃に加え、
今、まさに。
ずっとともに旅をしてきていたミトスが、
あのミトスが。
ボータ達のこの態度からして、あのユグドラシル?
たしかに、禁書の中であった勇者ミトスとこのミトスはうり二つ。
でも、ゼロスもいっていた。
世の中にはにたものが三人はいる、というのだから、
単なるそっくりさん、じゃなかったのか?!、と。
「なかなか面白い趣向だったよ。
  ってことは、これまでも絶対、姉様限定グッズ目当てに、ユアン。
  うすぎたないねずみに情報流してたんじゃないの?」
「ふ。情報とマーテルグッズ、どっちが大事だとおもう!」
「きっぱりいいきらないでよ!気持ちはわかるけどさ!」
わかるんだ。
その思いはこんな場合だ、というのにその場にいる誰もが心の中で一致する。
「ミトス…お前、いったい……」
いまだに、クラトスはその場に横たわっているまま。
ちらり、とリフィルが隙をみつけたらしく、かけよってきて、クラトスに回復術を施しているが。
出血が、ひどい。
回復がままならない。
リフィルが回復術をかけはじめたのをみて、ほっとしつつも、
それよりもきになっていることをミトスにむけてといかける。
そんなロイドの問いかけとほぼ同時。
「ミトス…君は…やっぱり……っ」
ジーニアスが何ともいえない切ないような声をだす。
違っていてほしかった。
けど、やっぱり。
無意識のうちに自らの胸をおさえ、目の前にみえるミトスにむけて言葉を紡ぐ。
そんなジーニアスの言葉をきき、
ちらり、とジーニアスにと視線むける。
ジーニアスはそれ以上言葉にできないらしく、その手も無意識なのだろう。
握り締めたその手からはぽたり、と血がしたたりおち、その体も小さくかるく震えている。
「やっぱり?…やっぱり信用できなかった?
  正解だね。ジーニアス。僕もお前なんて信じてなかったよ」
いいつつも、すっとその手をジーニアスにかざす。
しかし、その言葉とはうらはらに、ミトスの視線に迷いがみえている。
が、唯一気づくであろうリフィルはクラトスの回復をしており、
他のものは衝撃すぎるこの現状にそんなミトスの表情の変化に気づいていない。
「ミトスさんはそんなことをするヒトじゃあ、ありません」
すっと、そんなミトスの前に進み出ているタバサ。
どうやらタバサもまた、この場に遅れて、ではあるがやってきたらしい。
「うるさい…うるさい、うるさい、うるさい!
  僕はおまえをずっときにいらなかった!
  タバサ、不気味なほどに僕の姉様に生き写しの人形!
  おまえさえ姉様の心をうけとめていればっ。
  君たちはしらないだろう?その人形が姉様の器となっていれば、
  シルヴァラントの神子もそんなに苦しむこともなかった。
  すでに世界は一つにもどっていた。責任はタバサ、お前にもあるっ。
  失敗作、として破棄を命じたのに!
  よりによって人工知能を掲載されて起動させられているなんてっ!
  …姉様のその姿をみるのも不愉快だ、きえろっ!」
『!?』
皆が反応するよりも早く。
ミトスの手より、術が、繰り出される。
「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」
刹那。
この場にいないはずの第三者の女性のような声が響き渡る。


『…え?』
ふわり、とその顔を覆っていたフードが外れる。
茂みの中から飛び出してきたのは、小柄な女性。
ドッン、と何ものかにタバサが突き飛ばされたらしき音と。
そして、ドッン!と大きく響く、術の炸裂した音。
術の衝撃で外れたフードから、さらりとちらばる金の髪。
「どう…して」
その姿をみて、一瞬、ミトスがひるむ。
ぐらり、とゆらぎ地面に倒れかけたその姿をみてはっとしたようにかけより、
そのまま倒れそうになったその姿をあわてて抱きしめているミトスの姿。
そこには先ほどまでボータ達にむけていた冷徹な表情は見当たらない。
「あれは…何で…」
「あれは、ウィノナ…さん?」
どうして、彼女が?
彼女はゼロスの屋敷で養生していたのではなかったのか?
困惑したようなロイドの台詞と、
その姿をみて、クラトスの治療を行いつつもこれまた困惑したような声をあげているリフィル。
そう、この場にいるはずのない人物がなぜかこの場にいるのは。
しかも、今、あきらかに、タバサが無事だ、ということは。
彼女がタバサを突き飛ばし、ミトスの術をその身にうけた、のであろう。
なぜ?
どうして?
わからない。
ウィノナ・ピックフォード。
プレセアと同じく、エンジェルス計画の被験者である被害者。
リフィルの術をうけ、地の神殿にいた彼女は異形の姿から元にともどり、
ゼロスの屋敷にて養生していたはず、なのに。
この場にいる全員、何がおこったのか理解できず、
思わずその場に硬直したようにと固まってしまう。

「っ姉様!?」
無意識のうちに、倒れそうになる彼女を抱きかかえた。
どうして自分がこんな行動にでているのか。
それすらミトスにはわからない。
しかし、そのぬくもりは、抱きしめられている当事者だからこそ、わかる。
「ミトくん?…よかった。生きて……」
そっと、苦しい息の中、その手をのばし、自分をのぞき込んでいるミトスの顔にそっと触れる。
ミトスの体は温かい。
でも、よかった、とおもう。
間に合った、と。
だからこそ、そういわざるをえない。
ミトくん。
それは、その呼び方は……
その呼び方にミトスの体がぴくり、と揺れる。
「私が、この時代にまた生まれたのは、きっと……
  ねえ、ミトくん?まーちゃんとやりとげられたんだね。
  あのとき、私がみた未来のままに。二つの世界の戦争を終結させて……
  伝承をみたときに、おもったの。マーちゃんと、ミトくんのことじゃ…」
「しゃべらないで!」
自分が放った術は生半可なものではない。
彼女の体からどんどんとぬくもりが失われている。
抱きしめているからこそ、ミトスにはそれがわかる。
「ねえ。だめだよ。ミトくん。あの彼女を…あの子を殺したら…攻撃したら…だめ。
  マーちゃんが、本当の意味でマーちゃんでなくなっちゃう。
  まにあって……よかっ…私の、大切な……」
そう。
マーテルがマーテルでなくなる。
そして、その結果、ミトスすらも。
そんなことは認められない。
断じて。
そしてそんな未来を自分の命で覆すことができるのならば。
あのときのように。
だからこそ、それを口にすることなく、無理をいってここまできた。
まだ動くのは危険だ、といわれても。
どうにかセバスチャンとかいう人物を説得して。
「……ウィノナ…姉…さ…ま?」
ミトスの声が無意識のうちに震える。
そんな呼びかたをしてきたのは、古今東西、
これまでにも一人、しかいない。
「おおきく、なったね?ミトくん。最後にまたあなたにあえ…マーちゃんにもあいたかった…な」
パタリ。
ミトスにむけて虚空に伸ばした手がその場にぱたり、とおちる。
伸ばされていた手がぱたり、とおちたのをみて、ふるふると首を横にふる。
それは、ミトスも無意識の行為。
嫌だ。
こんなのは、絶対に、嫌にきまっているっ。
そんなミトスの心の叫び、また口にするよりも先に、
「っ!先生!?」
悲鳴に近いコレットの叫びが周囲にこだまする。
クラトスか女性か。
しかし、クラトスはたしか天使化とかいうのをはたしているはず。
なら、今どちらを優先すべきなのか。
すばやくリフィルは状況を判断する。
ゆえに、クラトスから離れ、
「どきなさい!」
いまだに茫然としているミトスの腕の中、
力を失い、ぐったりとしている女性にと回復術を施しはじめる。
そして。
「ユアン!あなたはクラトスのほうをお願い!」
ユアンもおそらくは回復術がつかえるはず。
だからこそ、ユアンにクラトスを託し、
リフィルはより命の危険があるであろう女性のほうにと駆け寄った。

必至で倒れたウィノナという女性の横で、回復術をかけていたリフィル。
だが。
「…姉様!?」
そんな女性の手を無意識のうちに握り締めていたミトスが驚愕の声をあげる。
その手からどんどんとぬくもりが失われている。
力すらも。
茫然とするミトスの手から、するり、と女性の手が地面にとおちる。
血の毛を失い、そしてぐったりとしているその様は、
あきらかに生きている、とは言い難い。
「嘘、どうして?どうして、なんで、クラトスさんだけじゃなくて。
  どうして、ウィノナさんが…どうして彼女がここにいるの!?」
それはコレットだけ、ではない。
この場にいる誰もが同じ思いといってもよい。
それはレネゲード達とて同じこと。
リフィルによる復術すらまったくおいつかない。
悲鳴にちかいマルタの叫びが周囲にとこだまする。
なぜか、マナの回復術をこの女性はあまりうけつけない。
まるで、そう。
外部の力を遮断してくるかのごとくに。
どんどんと、ミトスの腕の中で低くなってゆく鼓動。
そしてその鼓動が、パタリ、とやんで……
「あ…あ…や、いやだ、いやだ、いやだ、嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
何がおこったのか理解できない。
否、したくなかった。
けど、これは。
この現実は。
頭に手をあて、頭を抱きかかえるように絶叫にも近い叫びをあげだすミトス。
それは、さきほど、ロイドか混乱し叫んでいた行動とほとんど同じ。
が、その絶叫具合が半端、ではない。
「「ミトス!?」」
こんな狼狽するようなミトスはみたことがない。
姉であるマーテルが死んだとき以来。
ゆえに、その姿をみて逆に驚きの声をあげているユアン。
そして困惑気味に同時に叫ぶロイド達。
ミトスがここまで狼狽したのは。
マーテルが死んだあの時以来といってもよい。
他人のために、ここまで狼狽したミトスをみたのはユアンは初。

ミトくん。そしてまーちゃん。
その呼び方をしてくるのは。
世界で、たった一人、しかいない。
――記憶をずっとなんでか覚えてるんだよね。いくらうまれかわっても。
  だから、私も里できみわるがれてるんだよ?
  ハーフエルフ?そんなのかわいらしいものだよ。
  そして、私がみてしまう未来は、かならずヒトの死に関するもの。
  でもね?私の命をかけたら、その未来がかえれるの。
  命をかけたら、いい方向に、未来がかわるんだよ?
儚げに微笑み、そういっていたあのとき。
あのときは、意味がわからなかった。
でも、最後、自分たちをかばい、死んだ彼女のあの姿は。
死とともに、光の粒子となりて、その姿すらのこらなかった。
のこったのは…彼女がつかっていた弓と、
ミトスやマーテルが彼女にあげた細工物、のみで。
「しなさ…ない。死なさない、しなさない。死なせてなるか!プロネーマ!!」
二度と、あんな思いは、もう、たくさんっ!
だからこそ、きっと虚空をにらみつけ、ミトスは言葉を叫ぶ。
『な!?』
「およびでございますか?ユグドラシル様?」
「ユ…グ…ドラ…シル?」
すっと礼をとりつつも、その場にあらわれしは、
まちがいなく、ディザイアンの長だとか名乗っていた女性そのもの。
「彼女をデリス・カーラーンにつれていく。
  そこの最先端技術で何としても彼女を殺すな!かえるぞ!
  起動部隊はクラトスもつれてもどれ!クラトスをしなすわけにはいかない!」
その言葉とともに、すっと目をとじ、ミトスの体が一瞬、ぶれる。
光につつまれ、そして次にミトスが目をひらいたその姿は。
ロイド達が救いの塔でみた成人そのもの、その姿。
そして、ミトスが指を鳴らすとともに、その場に幾人もの天使らしき姿が出現する。
真っ黒い翼をもちし、天使達が。
「ミト…ス?」
ジーニアスは信じられない。
信じたくはない。
さっきのことといい、今のことといい。
「まて!ミトス!」
そんなミトスにユアンが声をかけるが。
「お前にいいたいことはいろいろとある。
  けど、今は、このウィノナ姉様の生まれ変わりであり、
  当人でもあるこの人を…僕のたったひとりの母様を死なすわけにはいかない!」
そう。
血のつながりはなくても。
ミトス、そしてマーテルにとって、彼女は母、だった。
あのときもそう。
自分たちをかばって死んだ、ウィノナ。
そして今。
自分の攻撃から、なぜかあの自動人形をかばい、瀕死の重傷をおってしまった…
まだ、大丈夫。
彼女の本当の死をまのあたりにしているからこそ、まだ間に合う。
唖然としているリフィルのもとから、彼女をそっと抱きかかえる。
子供のままの姿では、どうしても不可能、であった。
だからこそ、この姿になった。
大人の姿に。
ジーニアス達に正体が完全にばれる、とわかっていても。
何よりも優先したい順位というものはある。
それに、自分のせいで、また彼女を失いたくはない。
今、彼女が息もたえだえにいったあの言葉。
あの言葉に意味がある。
――私の命をかけたらね?運命がいい方向にかえられるのよ?
そんなの、いやだ!
前も、そして今も。
彼女の、たった一人の母親の命を犠牲にしてまで、いい未来なんて、ほしくない!
あのタバサと名づけられた、姉の器としてうみだされた自動人形。
彼女をかばったその意味。
――マーちゃんが、マーちゃんでなくなる。
その意味はわからない。
未来は、彼女にしかまちがいなく視えていない。
けど、そうする意味があるのだ、と判断したのだろう。
あのとき、命がけで自分たち姉弟をまもったあのときのように。
――お母さん、とよんでくれるのはうれしいけど。けどね?
  それは、あなたちの本当のお母さんに対してわるいでしょ?
  気持ちだけうけとっとくね?ね。ミトくん。マーちゃん。
  それに、私の年齢からしたら、お母さん、というより…あはは…
  これもあるんだよね。私が里から気味悪がれている理由……
  でも、わかったような気がする。
――?
――きっと、私はあなたたち姉弟にあうために。
  あなたたちの力になるために、こうして今もここにいる、んだとおもうの
それは遥かなる過去の、ミトスの記憶。


ねえ?ミトくん?
私にはみえちゃったんだよ。
このままだと、ミトくんが、しんでしまって。
王様からあずかった、種子にその魂を宿した結果。
マーちゃんまで、犠牲になった少女たちと融合して、
マーちゃんがマーちゃんでなくなっちゃったの。
そして、マーちゃんも、ミトくんも…そのときのミトくんは、
ミトくんだったっていう記憶も思い出も何もなかったけど。
ミトくんでもある、ユグドラシルってつけられた樹がね?
またヒトの手によって消滅してしまう様が。
そんなの、ゆるせないよね?
そして…私の愛する人が、やっと転生をしてきたあの人が。
そのせいで苦しんでいるその姿が。
だから…私は、私の命をかけて。
その未来をよりいい方向にかえる。
私はきっと、そのために。
今の時代に、こうして生まれてきた、とおもうから。
――ねえ。惑星デリス・カーラーンで、また国王の立場にうまれたあなた。
ううん。
これから遥かなる先の未来でうまれてくるあなた。
私は、惑星がことなり、転生してきたことに戸惑いを覚えていたけども。
すべては、このため、だったんだよね?
あなたも、そしてこの子たちも、守るために。
――私の、かつての惑星で死んだときの願い。
  それは、今度こそ、大切な人たちを守り抜く力がほしい。
強い思いは奇跡をよびおこす。
そう、教えてくれたのは、あなた…だから。
ねえ、ダオス?
わたしの愛しいあなた。
私は、こんどはあなたを本当の意味で、たすけることができる、かな?
そして、愛する私の子供たちも。
ねえ、ミトス、マーテル?
あなたたちはおぼえていなくても、あなたたちは、私にとって、大切な……


「ま、まって!ミトス!」
「――誰も犠牲にしたくない?死ぬための命なんてあっちゃいけないだと?
  自分がつけているエクスフィアが何なのか、冷静に考えてみるといい。
  すでにプレセア、ジーニアスはエクスフィアを手放している。
  が、お前はどうなんだ?力をもとめ、その力を放棄しようともしていない」
ジーニアスの言葉に答えるでもなく、
そっとそのまま横抱きにウィノナを抱きかかえ、
この場にあらわれたプロネーマとともに光につつまれ消えてゆくミトス。
去り際に、ちらり、とロイドに視線をむけてロイドにむけて言葉を投げかける。
そう。
すでにジーニアスとプレセアが使用していたエクスフィアは、ない。
が、ロイドはいまだにそれを使用している。
それがどういう意味をもっているのかわかっているにもかかわらず、である。
つまり、使用していること自体が、誰も犠牲にしたくない。
という行動に矛盾している行為であるといってもよい。
使えば使うほど、本来ならば内部に閉じ込められている魂は、
完全に自我を失い、またそれにより微精霊もその魂の叫びによって穢されるのだから。
ミトスに呼ばれたのであろう。
幾人もの天使達もまた、クラトスの体をだきかかえたのち、
その場から光につつままれきえてゆく。
後に残されたは、何ごともなかったかのような静寂と、
しかし、これまでの出来事が嘘ではなかったことを示す、
ロイドの手前の地面にとのこる血溜まり。
何ともいえない静寂が、しばしその場にと訪れる。
「…何がどうなった、のさ?」
茫然、とし、真っ先にはっと我にもどりしはしいな。
しいなの言葉がまさに今の現状のすべてを物語っているといってよい。
ロイドの叫びをきき、この場にやってきて。
なぜかレネゲード達が武器を構えており、
そして。
「は!?そうだ。どういうことなのか説明してもらうよ!ボータ!ことと次第によったら……」
彼らから協力を申し出てきていた、というのに。
しかし、これはいったい。
ロイドに何かをした、とみるのが間違いないのだろうが。
「まさか、ユグドラシルの介入がはいる、とはな」
ちらり、とその視線をボータはゼロスにむけるが、ゼロスはそしらぬ顔。
そもそも、この一件がおわるまでそれとなくミトスをこの場から離しておく。
それが彼らからゼロスにむけて命令というか頼んでいたこと。
ちらり、とボータがユアンに視線をむければ、ユアンはこくり、とうなづいてみせる。
まだどこにミトスの、ユグドラシルの耳がのこっている、ともかぎらない。
ゆえに、自分がレネゲードと完全に通じている、という素振りは完全にみせないほうがいい。
それゆえに、視線のみでボータに促すユアン。
視線だけにて言いたいことを察することができるボータがいるがゆえにできる技。
「しくじったか。我らの目的。
  昼間、どうやら完全に大樹の精霊が目覚めている可能性。
  その可能性が捨てきれなくなったがゆえな。
  当初の目的通り。大樹を芽吹かすよりもまずさきに、
  クラトスにオリジンの封印を解かすつもりだったのだ」
いいつつ。
「あのまま放置していれば、クラトスは死に、オリジンは死をもって解放される。
  が、クルシスに連れていかれてしまえば死にはしないだろう」
「…何を、いって…どうして、クラトスの死が……」
ロイドはいまだに理解が追い付いていない。
否、それよりも。
「…なあ、本当に、本当にクラトスが、俺の?」
そんなロイドの視線はまるで迷子の子供のようで。
そんなロイドをみてゼロスは盛大に溜息を尽きざるを得ない。
「つまり、やっぱりロイド君は口先ばっかりだったってことかよ。
  ま、そうだよな。自分の身に置き換えて親身になって物事をいうようなやつなんて。
  そうはいないだろうしな」
「そうはいってないたろ!」
「なら、お前がどうしてそこまで狼狽してる?
  お前がいったんだぜ?生まれや育ち、ましてや親が誰なんかなんて関係ないってな。
  それはコレットちゃんにもいったってきいたぜ?」
「・・・・・・・・それは・・・・・・・・・」
たしかにいった。
「それは、お前にもあてはまるんじゃねえのか?どうなんだよ?ロイド・アーウィング?」
いつもは、ロイド君だの、ハニーだのといってくるゼロスがじっと見つめつつもいってくる。
「…俺は……」
そんなゼロスのじっとみつめてくる視線にロイドはたじろぐしかできない。
たしかにそういったのは自分。
しかし、ゼロスがいいたいことも理解できてしまう。
嫌というほどに。
他人にはそんなことをいっていて、いざ自分のことになったら、
自分はそんな言葉はしらないとばかりにふるまうのか。
暗にそういわれているようなもの。
実際、自分のこの戸惑いはそうおもわれてもおかしくは、ない。
それがわかるからこそ、ロイドは視線をそらすしかできない。
「ま、ロイドに深い考えをしろっていうのが無理だとおもう」
そんなロイドに救いの手、とばかりに溜息とともにつぶやくマルタ。
マルタも現状が理解できない。
ゆえに。
「あの、ユアンさん。本当に、ロイドの父親ってあのクラトスさん、なんですか?」
おそらく、この場では唯一、そのことをしっかりと知っているであろうユアンにと問いかける。
「――そうだ。もう隠していても仕方がなかろう。
  クラトス・アウリオンとアンナ・アーヴィング。
  クルシスの手によってエンジェルス計画の被験者となっていたアンナ。
  彼女とクラトスの間に生まれたのが、ロイド、お前だ」
「クラトスは七十年前、ある出来事をきっかけとして地上に降りた。
  そこで実験材料にされていたアンナと出会った。
  彼女は子供ながらにハイエクスフィアの融和性にたけていて、
  当時、ルインの町にてその融和性の影響を調べられていた」
ずっと閉じ込められていたわけ、ではない。
もっとも監視付、ではあったが。
「ルイン……」
おもわずロイドがぽつり、とつぶやく。
「そうか。クラトスに聞いてはいないのか。ルインはアンナの生まれ故郷だ」
「!?」
そんなユアンの言葉に息をのむロイド。
では、クラトスがルインのことを知っていたのは。
「われらがクラトスに情報を渡したのは、よかったのか、悪かったのか……」
ユアンはいいつつ、ふと空を見上げる。
月はそろそろおちかけ、空はいつのまにか白み始めている。
もう少しで夜があける。
長かったようで短かった、夜が。


クルシスに反抗する反レジスタンス組織、レネゲード。
クルシス側は、ネズミ、とよんでいたが。
その統領がよもや四大天使の一人である人物だ、と知っているものは
レネゲードの中でもごくごくわずか。
それこそ幹部、とよばれしものの中でもごくごくわずか、といってもよい。
「アンナとの出会いは我らにもわからないが。
  おそらく、ルインにいたときに接点があったのだろう。
  人間牧場に収容されたアンナはクラトスの手引きで抜け出した。
  その身に宿したハイエクスフィアともどもと、な」
「・・・・・・・・っ」
その言葉をきき、ロイドは思わず自らの手の甲を逆の手で握り締める。
ロイドの手の甲につけられているエクスフィア。
母が命をかけて守っていた、といい、ディザイアン達が狙っているこの石は。
ロイドにとってははの形見、でもあり、
またかの書物の中で理解してしまった、母、そのもの。
母の魂はいまだにこの石の中にと囚われ、ずっと自分とともにいる。
「クルシスがクラトス達を見つけたのはクラトスがクルシスを離反して、
  それからだいたい数十年後、くらいだったか。
  そのときはすでにクラトスはアンナをつれていた。
  人間牧場から助け出したアンナとともに、世界を放浪していた。
  そして…その放浪の最中。生まれたのが、ロイド、お前だ」
そんなロイドの行動にきづきつつも、ユアンがぽつり、ぽつりと語り始める。

ユアンがクラトスに接触を図ったのは、クルシスの天使、としてではない。
レネゲードの指導者、として密にクラトスと接触を図ろうとしたがゆえ。
「…私が訪ねたとき、お前たち家族は海沿いの打ち捨てられた漁師小屋にいた。
  …お前たちもしっているだろう。イズールドのはずれ、だ」
その言葉に思わず顔をみあわせるリフィル達。
――アンナはどうした。こんな夜中に女性一人では危険だ。
クラトスともあろうものが、こんなところに住んでいるとは。
その衝撃をユアンは忘れたわけではない。
あのときのことは、ユアンとてありありと思い出せる。
「私が訪ねたとき、ロイド、お前は生まれて三か月、だった。
  アンナは夜泣きがひどいというお前をつれ、海岸にでていた」
当時を思い出しつつもぽつり、ぽつり、とユアンが紡ぐ。
「自分の立場がわかっているのかととえば、わかっているつもりだ、といい。
  本当にわかっているのかとあきれたものだ。
  よりによって子供だぞ?そもそもわれら天使化したものが子供をもうけたなど。
  そんなことはこれまでこの四千年、いや、国同士が生体兵器としての、われら。
  無期生物化を発見してからこのかたそんなことは一度も聞いたことすらなったのに。
  が、実際お前は生まれていた。…が、お前の誕生があいつに決意を促したのだろう。
  あいつは、こういっていた。ミトスの千年王国を阻止する、とな」
『!?』
その言葉に息をのみしは、ゼロスやレネゲード以外の全員。
「あいつは切り札をもっていた。いや、いるというべきか。
  が、そのきりふだはあいつ自身の、クラトスの命と引き換えの切り札だ。
  クラトスの命と引き換えに、精霊オリジンの封印は、解かれる」
「そんなっ!?じゃあ、オリジンと契約をするには……」
コレットが悲鳴に近い声をあげるが。
「クラトスの死が必要不可欠、だ」
「何だよ…何だよ、それっ!」
その言葉にロイドは思わずかっとなってしまう。
何だよ。
それ、ふざけている。
そう、ふざけて。
じゃあ、世界を一つに戻すためには、クラトスを殺す必要がある、というのか?
誰かが犠牲になる世界は間違っている。
なのに、そんな世界にするためには、クラトスを犠牲に?
だからこそ、ロイドはそう叫ばずにはいられない。
そして、理解してしまった。
あのとき、クラトスが自分の回復はしなくてもいい、というようなことを、
かすれるような意識の中でいったのは。
つまりは…死ぬつもりであった、ということに他ならない。
「あいつは、自分の命をかけて、ミトスを討つつもりだったのだ。
  ロイド、お前たち、家族を…アンナとお前を守るために、な。
  お前がある程度おちついて成長したのち、クラトスはイセリアに向かうといっていた。
  シルヴァラントはクラトスの管理地。
  ゆえにシルヴァラントの地理はクラトスがより詳しい。
  イセリアはディザイアンと不可侵契約を当時も結んでいた。
  だから、アンナとお前を預け、クラトスはミトスと決着をつけるつもりだったのだ」
説得がもはや不可能ならば、弟子の最後はせめて自分の手で。
そうクラトスはあのとき確かに決意していた。
「…十五年前。お前がそろそろ三歳になるのをうけ、
  ゆえにクラトスは行動をすることにした。が、遅すぎたのだろう。
  長らくお前のためをおもってか同じところにとどまっていたクラトス達。
  彼らの所在をクヴァル達が知ってしまった。
  クヴァルは狡猾な男だ。クラトスに偽の情報をつかませた。
  つまり、レネゲード達が一足先にミトスを討つために救いの塔に突入した、とな。
  クラトスはその情報を信じた。
  …あいつは、アンナとお前をノイシュにのせ、イセリアにと向かわせたのだ。
  そして救いの塔へとむかった。
  すべてはクラトスとアンナ達を引き離すためのクヴァルの罠とも知らずにな」
クラトスがそれが嘘だ、ときづいたのは。
ユアン達が加勢にかけつけたとき。
クルシスからクラトスをとらえるための捕獲舞台と格闘していたとき、レネゲードが参戦した。
そこで初めてクラトスはその嘘をしった。
クラトスも必至だったのだろう、とおもう。
おそらく、天使としての力を最大限に発揮してイセリアにむかったであろう。
そして、クラトスはイセリアの森にアンナ達が無事に逃げ延びたことをしった。
そんな家族を探したが、夜の森は鬱蒼としておりなかなか見つけ出せなかった。
そしてクラトスが家族をみつけたのは、ロイドの鳴き声。
それまで散々と困らされてきたロイドの鳴き声。
尋常ではないその鳴き声が、クラトスにアンナ達の居場所を知らしめた。
「…クラトスが駆け付けたとき、すでにアンナはエクスフィアをはがされ…」
「……異形のもの、と化していたのね」
異形とかした妻を夫が手にかけた。
クヴァルはあのとき、リフィル達にそういった。
つまりはそういうこと、なのだろう。
「…私がかけつけたとき。クラトスは苦悩していた。
  異形と化してしまったアンナを目の当たりにして、な。
  そのとき、アンナが自我を取り戻したのだ。
  そして、こういった。『あなた、私を殺して、と』」
「っっっっっっっっっ」
そんなユアンの言葉に息をのみしは、あまりに尋常でない叫びをきき、
この場に少しおくれて駆けつけていたリーガル。
それはまさに、あのとき、リーガルがアリシアにいわれた言葉のまま。
リーガル様、私を殺してください。
そういわれたあのときの衝撃。
異形とかした愛する人からいわれた言葉はいまだにリーガルの脳裏にこびりついている。
「…リーガル様……」
「……アリシア…お前、なのか?」
そんなリーガルの様子に気づいたのか、
そっとちかづき、震えるリーガルの手をそっとにぎりしめるプレセア。
否、今はアリシア、というべきか。
肉体はプレセアなれど、今表にでているのはアリシアの意識、なのだから。
「私は後悔はしていません。だってあのままでは、
  私は無関係な人々をよりたくさん殺してしまっていた。
  リーガル様が愛する、そして私も大好きなこのアルタミラを悲劇の町にするところだった」
すでに犠牲者はでていたが。
それでも、あのままではもっと被害がおおきくなっただろう。
リーガルに殺されたからこそ、被害はあれだけですんだ。
そうでなかったとおもうとアリシアはぞっとする。
自分が大好きだった町のヒトビトを手にかける様子を、
なすすべもなく自由のきかない体にて傷つけてゆくさまをみるしかないなど。
そんな残酷なことがあってはならない、とそうおもう。
「そうか。お前もそういえばそうだった、らしいな。
  ともあれ、アンナは続けざまにこういったのだ。
  『どんなに自分を抑えようとしても私は大事なロイドを殺そうとしてしまう
    だから、ロイドを助けるために』と。
  当然、やつは否定したよ。『アンナ、それはダメだ』とな。
  誰だって、愛するものを手にかけたい、と誰がおもうものかっ!
  が、あの場で回復術を…レイズテッドをつかえるものはいなかった。
  そもそも、私とてそこまでの力はもっていなかった。
  マナを媒介する何かがあれば違ったのだろうが…そんなものは当時もっていなかった」
私の意識は、もう。
そういって、完全に自我を失ったアンナ。
「…自我を失い、ロイドに手をかけ、殺そうとした変わり果てた妻をみて…
  やつは、アンナに手をかけた。ロイド、お前を救うために」
「もう、やめてくれっ!!!!!」
もう、聞きたくない。
とばかりにロイドが自らの両手で耳をふさぐ。
「アンナのエクスフィアはロイドがもっていた。
  それに気づいたクヴァルがロイドに手をかけようとして…
  私もクラトスも、お前を殺されるかもしれない、とおもうとうごけなかった。
  そんな中、彼らの攻撃をうけて虫の息とみえたノイシュが力を振り絞った。
  クヴァルの肩にかみついたのだ。
  クヴァルの手から離れたロイド、お前をノイシュは咥え、
  その場から逃げ出そうとした。だが、そんなノイシュに攻撃の手が加わり…
  お前たちは崖下へと転がり落ちた」
「…そこで、ロイドはダイクおじさんと出会ったんだ」
その言葉にジーニアスが顔を伏せる。
ロイドは崖下でみつかった、という。
大けがをしたノイシュとともに、ノイシュに守られそれほど大きなけがをしていなかった子供。
そしてその傍らに、母親らしき姿がいた、と。
村を追われ、そしてコレットを追いかけるために、一度ロイドの家にたちよったとき。
ダイクからジーニアスはそのことをきかされた。
昨夜、きたときにそれとなくききかじったからしってるだろうけどな、と。
「…そういうこと、だったのね。クラトスの過去にそんなことが……。
  それより、きになるのは、オリジンの封印、のことなのだけど」
「…あれは、クラトス自らが申し出て実行されたことだ。
  マーテルをよみがえらせるため、精霊達に口出しされないため。
  ミトスが考え出した精霊の檻。ほかの精霊達は精霊炉に閉じ込めた。
  が、オリジンはすべての精霊を束ねしもの。…ラタトスクほどではないがな。
  ヒトのマナをもってして封じてしまえば永劫的な封印となる。
  …クラトスは、マーテルを殺した同胞…ヒトの愚かさに罪悪感を抱いていた。
  …正確にいえば、マーテルに手をかけたのが、
  かつてのクラトスの配下であったもの、というのもあったのやもしれぬ」
あのとき、部隊を指揮していたのもまた、天使化していたものたちだった。
そしてそれは、クラトスにも見覚えがあるものであった。
クラトスの後に親衛隊長の地位についた、というかつてのクラトスの…部下。
「クラトスの全ての体内のマナの放出によってオリジンの封印は解かれる。
  クラトスは天使化している。ゆえに未来永劫。
  オリジンの封印が説かれることはない。クラトスが死なぬ限りは、な」
それは命の檻。
ヒトの器、というマナの檻。
その言葉をきき、がくり、とその場に膝をつくロイド。
聞きたくない、といっても嫌でも聞こえてきてしまう。
「ミトスにとって…ユグドラシルにとって。オリジンからもたらされた、エターナルソード。
  それを失うことはマーテルを失うにも等しいことであるからな」
「われらはお前のことをしり、実行に移すことをした。
  本来は魔導砲で救いの塔を壊したのち、大いなる実りをどうにかする。
  というのが考えだったが、お前、という存在で、オリジンの解放にもめどがたった。
  だからこそ、ロイド・アーヴィング。
  お前をわれらは執拗に狙った。もっともディザイアン達は、お前のもつその石。
  それを目当てにであったらしいがな。我らの目的はお前自身にあった。
  お前を人質にし、その命を盾とし、クラトス殿にオリジンの解放をせまる――」
クルシスとしてはロイドが手にしているアンナが育てた石を。
レネゲードとしてはロイド自身を。
どちらにしてもロイドが狙われていたのは疑いようのない事実。
「じゃあ、オリジンと契約を、とおもったら、クラトスさんは……」
困惑したように、コレットがつぶやけば、
「死ぬ、だろうな。間違いなく」
『っ』
きっぱりといわれたボータの台詞に、その場にいる全員の声が絶句する。
オリジンの解放のためにはクラトスの死が必要。
それをきかされ、はいそうですか。
と納得できるか、といえば答えは否。
それでなくても、つい今、あのクラトスがロイドの実の生き別れの父親だ、
とわかったばかりで素直に認められるような事柄ではない。
「クラトスについてはわかったわ。じゃあ、彼女は?
  ミトスは、彼女を、ウィノナを姉様、とよんでいたわ?これは、いったい?
  そもそも、彼女はもともとは王立研究院に所属していたはず、よね?」
ハーフエルフ、という理由で捕らえられていたとしても。
一応彼女の所属はそのようになっていたはず。
そんな彼女がミトスと面識があった、とはおもえない。
特にミトスに…おそらくはユグドラシルにすら黙って実験されていたであろう、
元教皇たちの手によるエンジェルス計画。
その被験者にされていた、というのならばなおさらに。
「彼女については我らもわからぬ」
そう、それがユアンにもわからない。
どうして、彼女が死にかけ、ミトスがあんなに取り乱したのかも。
それに、気になることをいっていた。
「…あのとき、ミトスさん。ウィノナさんをみて、こう、いっていました」
自分をかばって攻撃をうけた、という自覚がある、のだろう。
それまでじっと黙っていたタバサが口を開く。
どうして自分をかばったのか、それはタバサは理解不能。
そもそも自分は機械。
攻撃をうけても人工知能が壊されない限り、ヒトがいう死はありえない。
または、もしも壊れたとしても新たに修理しなおせば、
新しいタバサ、として起動することができるのに。
なのにどうして機械でしかない自分を彼女が突き飛ばしかばったのか。
それがどうしてもタバサにはわからない。
――ウィノナ姉様の生まれ変わりであり、
  当人でもあるこの人を…僕のたったひとりの母様を死なすわけにはいかない
その言葉の意味はわからない。
何もかも。
「生まれ変わり…本当にある、のかしら?何をでも根拠に?」
たしかにあの言葉はリフィルも聞いた。
それに、母様、ミトスは確かにそういっていた。
ジーニアスはいまだに顔を伏せている。
やはりミトスがユグドラシルであった、という現実を突きつけられた衝撃。
それはかなりのものであったらしい。
「…ウィノナのことは、アステル達にきいてみるしかないでしょう」
彼らならばおそらく何かをしっているかもしれない。
それに。
「ユアン。マナが少なくなっている、というのはここテセアラだけなのかしら?」
「いや、先刻クラトスにいっていたように。シルヴァラント側もだ。
  お前たちが精霊の楔を抜いているのが原因、とはおもえない」
リフィルの問いかけにユアンは首をふりつつも溜息とともに答えを返す。
「今、レネゲードではともかく、空間転移だけでも使用できないか。
  そのためにマナの力を蓄えている。
  このままマナが少なくなってしまえばレアバードでの移動は困難になる。
  その前に何としてでも世界を統合し、そして大樹を目覚めさせる必要がある。
  そして大樹を目覚めさせるためにも」
「…精霊ルナ、そしてアスカとの契約が必要、というわけね」
大樹は衰退世界の精霊による、マナの楔、というものによって守られている、という。
その楔を取り除くことにより、マナを大量に照射することによって、
種子の発芽を促す。
それがユアンがリフィル達にといっている計画。
大樹カーラーンの復活。
「マナがあまりに少なくなれば、精霊達も具現化することもままならなくなる。
  お前たちには急いで残りの精霊との契約を交わしてもらいたい。
  このままでは、マナ不足によっていろいろと支障がでるだろう」
これまで安定していたのが嘘のように、マナが急激に減っている。
まるで、まるでそう。
大津波の前に一気海水が引くかのごとくに。
それほどまでにマナの減り具合は激しい。
これまでへたに安定したマナが互いの世界においてもたらされていだかゆえ、
余計にその現象は目にとまる。
特にシルヴァラント側は困惑しているであろう。
マナが満ちて安定していたのに、再びマナが少なくなるという現象に。
いや、あちら側はたしかマナの測定装置なるもがないがゆえ、
それにきづくはディザイアン達のような測定装置を持ちしものたちだけであろうが。
しかし、テセアラ側はそうはいかない。
これまで豊かなマナに支えられてきた世界においてマナの衰退は、
人々に困惑と、そして混乱をもたらすには十分すぎる。
それでなくても不安材料は有り余るほどにそろっているのである。
教皇が神子ゼロスを陥れようとしたこと。
全国にむけて教皇が発布した神子ゼロスの手配書。
そして、それに伴うようにあらわれた、神鳥シムルグ。
雷によって壊滅したオゼット。
そして、首都などにおける現不明の闇の襲撃。
全ては神子を蔑ろにしているがゆえ、天界クルシスがおこっているのだ。
と、近いうちにスピリチュアの悲劇が再来するのではないか。
と疑心暗鬼になりつつ、人々は常におびえている毎日の中で。
豊かであったマナすらもすくなくなれば。
人々の不満の矛先がどこにむくのか、それは一目瞭然で。
一応はテセアラの管制官であるユアンとしてはそれは好ましくない事実。
地上で暴動、など冗談ではない。
それこそ面倒極まりない。
それこそ今度は王都ごと裁きの雷でかつてのシルヴァラントのように、
滅ぼすという決定がユグドラシルから下されかねない。
まあ、所詮は愚かなヒトたちが住まう場所。
別にそれでもユアンはかまわない、とはおもうが。
かの地に捕らえられている同胞達がいるのもまた事実で。
「…あ」
ふと、マルタが海のほうをみて小さくつぶやく。
そんな話の最中、だんだんと周囲はしらみがかってきており、
やがて、
コケコッコー!!
どこからともなく一番どりの声がする。
「…夜が、明ける、わね」
長く、それでいて短かった夜が、あける。


~スキット:ミトス離脱後;残された人々:夜明け最中~

ロイド「・・・・・・・・・・・・・・」
ジーニアス「・・・・・・・・・・・・・・」
ゼロス「だあ!もう!くらいな!おまえら!」
ロイドもジーニアスもうつむいたまま、一言もしゃべらない。
セレス「ミトスさんがいきなり成長した姿になったのには驚きました」
しいな「あ~、あんたたちは書物の中でミトスの姿みてなかったからねぇ。
     もしかして、という思いがあったから、あたしもあまり衝撃は……」
リフィル「それより、また問題が増えたわね。
      エミルの事だけではないわ。ミトス、そしてウィノナ。
      どうしてゼロスの屋敷にいたはずの彼女がここにいるのか。
      どうしてタバサをミトスの攻撃からかばったのか。
      わからないことばかり、だわ」
マルタ「…そっか。クラトスさんが本当にロイドの実のお父さんだったんだ。
     でも、なんだか納得。クラトスさん、野営のときでもロイドの布団をこっそりなおしてたし。
     ロイドが蚊にさされただけですばやく回復術唱えてたし」
しいな「あ~、まあ、今おもえば過保護全開だったんだろうねぇ。あいつは」
ゼロス「ついでに、ストーカーしてたしな」
しいな「ストーカー?」
ゼロス「きづいてなかったのか?あいつよく俺たちのあとつけてきてたぜ?
     夜になってはロイドくんがけとばした布団なおしにきたりとか」
しいな「…何やってたんだい。あいつは。というかあんたしってたのかい!?」
ゼロス「そうにらむなよ。いうなっていわれてたんだぜ?
     いったらジャッジメントっていわれたら、俺様だっていやだしな」
ユアン「…ミトスの今後も気にかる。私はあちらに戻ってミトスの動向を探る。
     隙をみて連絡はボータにいれる。ボータからの連絡をまつがいい。
     救いの塔から我らは直接、クルシスに戻れるからな」
それは四大天使がもつ特権。
しいな「あんた、大丈夫なのかい?」
ユアン「問題はないだろう。ミトスのやつは、私が品物目当てだ、と信じたはずだしな」
マルタ「そういえば、ファンクラブって…何?」
ボータ「あ、馬鹿者!ユアン様にそれをいっては…っ」
ユアン「よくきいてくれた!これは、マーテルのすばらしさを世界に伝えるため、
     いや、世界どころか宇宙にひろめてもいいのだが!
     そもそも、マーテルのあのすばらしさは言葉にいいつくせずに、
     誰にしも自愛をふりそそぎ、何もないところで転ぶあのしぐさもかわいらしく…」
ボータ「…始まった。ユアン様のマーテル様自慢…
     始まったら、数時間は硬いぞ……」
マルタ「…げ」
リフィル「・・・ユアンはほうっておいて。
      とりあえず、いつまでにここにいてもしかたないわ。
      ひとまず、コテージにもどりましょう。
      今度は男女とかわかれずに、一つの建物に、ね」
セレス「…ユアンさん、ずっと一人で話してますけど、いいんですの?」
リフィル「いいのよ」
セレス「?」
ゼロス「あいつは、独り言が趣味なんだよ」
セレス「そうなんですか?お兄様。わかりました」
いまだにマーテルのすばらしさを誰にともなく延々と語っているユアンをそのままに、
リフィル達はひとまず、ロイド達がとまっていたコテージ。
一番近いほうのコテージにむけて足をむけることに。

※ ※ ※ ※


「ふむ」
意識を向けて様子を一応視てはいた。
「いかがなさいましたか?ラタトスク様?」
横にいるアクアが首をかしげ何やらいってくるが。
「何。どうやらロイドがようやくクラトスのことをしった、らしい」
本当に今さら、といえるが。
というかあの狼狽ぶりはない、とおもう。
これまで散々、ロイドはコレットやゼロスに生まれや育ちは関係ない。
誰が親だって自分は自分だろう、というようなことをいっていたのに。
「所詮は、ヒト、か。口先だけでしかなかった、ということなのだろうな。
  他人には誰が親であろうと関係ないといっておきながら、
  自分のこととなれば狼狽し取り乱す。ヒトとは愚かなものだな」
思わずため息をついてしまう。
ソダ島、とよばれている場所。
今現在やってきているのはその一角にありし部分。
「しかし、入口をヒトがみつけた、というのは厄介だな」
ネコニンギルドでききしは、この場所を人がみつけたらしく、
とある冒険者が中に入り込んだ形跡がある、ということだったが。
きてみれば案の定。
まあ入口付近で倒れている冒険者たちをみつけ、
先ほどこの先にとある小屋にまで運んでおいたが。
「さて、どうするか……」
別にヒトが入り込んではいけない、というわけではないが。
今のこの地上におけるものたちでは、この地にいる魔物達。
彼らに太刀打ちはできないであろう。
本来、ここは”試練の迷宮”をクリアしたものが力を試すための場所。
かつて、ヴェリウスが管理していた、人の力を伸ばし、
その潜在能力を引き出す心の迷宮。
それをクリアしたものが挑む場所だったのだが。
その迷宮の存在すら忘れ去られて久しい。
おそらくエルフ達ですら覚えてすらいないであろう。
そもそも、ヴェリウスの存在自体、人々は忘れている。
「まあ、一応、仕掛けを作り直しておく、か」
どうやら永きにわたり、アクアが眠っていた影響もあり、
ここの仕掛けが多少くるっていたのも原因、であるらしい。
周囲に本来あったであろう、石柱を再び再生し、それらに紋を刻み込む。
これである仕掛けをクリアしないかぎり、この地下につづく空間。
【グラズヘイム】に移動することはまずできない。
「こんなもの、か」
まだあちらには戻るつもりはない。
というかしばらくあちらに戻るつもりはまったくない。
「アクア。お前はネコニン達にいちおう、この場所のことをいっておけ。
  俺はこのままトレントの森にでむく」
ウィノナという女性はどうやら間に合った、らしい。
ミトスもまた彗星に戻っていったのがうかがえた。
「わかりました」
「ソルム。ウェントス」
「「ここに」」
名をよべば、その場に出現する、カメのような姿をもちしものと、白き虎のような姿をせしもの。
「お前たちはついてこい」
「「御意に」」
そのまますっと手をかざすとともに、瞬間。
周囲を闇がおおいつくし、またたくまにすべてを包み込んでゆく。

闇につつまれるとともに、その場にいたはずの彼らの姿はかききえる。
まるではじめからそこにいなかったかのごとくに。


疲れているであろうに、誰もが眠りにつく気配はない。
コテージにもどっても、誰もが黙り込み、しんみりとした雰囲気が漂っている。
あまりにいろいろなことがありすぎて目がさえた、とでもいうべきか。
それでも、いまだに情緒不安定にみえるロイドに対し、
しいながおもいっきり首筋に手套を加え、気絶させ眠らせてはいるが。
それほどまでにロイドの狼狽ぶりはみてとれた。
どうにか必至に自制心を働かそうとしていたのであろうが、
心ここにあらず、というのは一目瞭然で。
「というかさ。ロイドくん、あの勇者ミトスにいわれたことば。
  きちんときいてなかったのかねぇ?」
あのとき、たしかにあのミトスは、クラトスの子、と。
ロイドに視線をむけたのち、きっぱりはっきりといいきっていた、のに。
「聞いてなかったんでしょうね…」
リフィルとしても溜息をつかざるをえない。
コテージの中にある憩いの場。
テーブルにある椅子にそれぞれ腰をかけ、
中には壁によりかかり、それぞれ話し合っている今現在。
すでに一番鳥が時を告げたのをうけ、外はだんだん明るくなってきている。
もう少しすれば、賑やかな人々の声もどこからともなくきこえてくるであろう。
「ともあれ。クルシスにもどったミトスが今後どう行動してくるか。その予測がつかないわ」
びくり。
そんなリフィルの言葉にジーニアスが体を震わせる。
やっぱり、あのミトスがユグドラシルだったんだ。
その衝撃は、ジーニアスに重くのしかかっている。
でも、これまで自分達とともにいたミトスのあの姿が嘘だともおもえない。
「もう夜があけたから、昨日、になるわね。
  あれが精霊ラタトスクに仕えているというセンチュリオンだ、とするならば。
  精霊も確実目覚めている可能性が高いわ」
その精霊がもしかしたらエミルかもしれない。
という言葉を暗に含ませつつも、溜息とともにいいはなつリフィル。
精霊が人の姿になれるのか、といえば答えに戸惑うが。
というか相手は精霊。
どんな姿にでもなれるであろう。
特に大樹の精霊、とは世界を生み出すほどの力をもちしもの。
創世主、とすらかつてエルフの里の中できいたことがある。
「精霊のことも含めて。今一度、精霊研究所にいるであろう。
  アステル達の話をきく必要がありそうね。ウィノナさんのことも」
そう。
おそらく、彼女がいろいろな鍵を握っているはず。
ミトスのあの態度、といい。
アステル達が何かをしっているかもしれない、という可能性は限りなく低いが。
しかし、何の情報も得られない、というわけではない、であろう。
「ここまでマナが少ないと、レアバードの使用も危険ね」
「あたしが常にヴォルトを使役して燃料を補給する必要があるってことかい?」
しいなには、リフィル達のいうマナが少なくなっている。
その感覚はよくわからないが。
しかし、本当にそうだとするならば。
周囲のマナをとりこみ、燃料とするレアバード。
確実に燃料不足で使い物にはならない。
「しいな。あなたには負担をかけることになるけども。お願いできるかしら?」
「うむ。わが社の高速艇をだすにしても、たしかに。
  今は時間がおしい。レアバードのほうが確実性が高いからな」
そんなリフィルの言葉をきき、こくり、とうなづくリーガル。
そんなリーガルのそばにはそっとプレセア…もとい、アリシアが寄り添っている。
アリシアとしては先ほどのユアンの言葉がリーガルに自分を殺させた。
その光景を思い出させてしまったことがわかっているがゆえ、
リーガルを気遣わずにはいられない。
「わかったよ。あたしだってきになってるんだ。
  …たしか、アステルが今いるのはサイバックのはず、だよ」
メルトキオではなくサイバック。
一応、情報の交換の最中、みずほの民からしいなはそのことをきいている。
「里のほうにも使いをだしておくよ。何かわかるかもしれないし、ね」
とにかく今は情報がほしい。
少しでもおおくの情報が。
「きまりね。なら、少しそれぞれ休みましょう。
  精神的にもいろいろとあって疲れているでしょうし。
  数時間後、出発しましょう。異論はあって?」
リフィルがいいつつ全員の顔を見渡す。
どうやら誰も異論はない、らしい。
ともあれ、何かが確実に動き出した。
それだけは誰も口にしないがいえること。
ミトスの正体の発覚。
オリジンの封印の実情。
そして…精霊、ラタトスクの存在とその配下だというセンチュリオン。
何かが、おこりかけている。
その何か、まではリフィルにはわからない。
しかし、精霊の楔といわれしものは、あとひとつ。
大樹の種子を芽吹かせる。
レネゲード達のいっているその計画に、精霊達がかかわっていない、
とどうして言い切れるであろう。
いいつつも、窓の外をじっとみつめる。
「エミル…あなたは、何を……」
いったい、何をするつもり、なの?
そういいかけたリフィルの言葉はリフィルの心の中でのみ呟かれる。
おそらく、エミルが今この場にいないのにも意味がある。
何か、をするつもりなのだろう。
マルタの同行を断った、ということは。
自分達にはあまり知られたくない、何か、を。
そしておそらくそれは…精霊、としての何か。



pixv投稿日:2014年10月26日某日(Hp編集:2018年5月6日(日)開始

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あとがきもどき:

さて、シリアスの中にちょこまか?というかおもいっきりはいっているギャグ。
いや、なんでミトスがレネゲードを放置してたのかなぁ?
とふと疑問におもったときに、真っ先思い浮かんでいたのが、
ファンクラブ、といえば限定グッズ!
もう、ファンを引く手あまたにお金をださそうとする、企業の罠!(マテ
これ(テイルズシリーズ)でもいえますけど。
リメイク版が出た直後にデレクターズカット版がでたり、フルボイス版がでたり…とか、ねぇ?
つまり、何がいいたいのか、といいますと。
うん。かれらはユアンが指揮してたんだから、
とうぜん組織あげてそんな品々をつくっててもおかしくないよね?
それもあって、ミトスが限定グッズ目当てもあって(まて)
あるいみで見逃してたんじゃないのかな?というのが根底にあったりします(マテ
ミトス、つかってそうだし。
姉の絵姿がプリントされてるコップとか…筆記用具とか(こらこらv
当然、ユアンは愛用者です。


~しってなくてもいい、ウィノナ・ピックフォードについて~裏設定もどき
この時代、実はウィノナが転生していましたが。
もともとの時間軸においては、ウィノナ。
実はパターンが二つあったりします。
救われることなく、死んでたり、また命を落としてます。
つまり、リフィルたちの救助の手がまにあわず、
冒険者たちによって、怪物、として殺されてしまっているパターンと。
助かっているパターンと。
どちらにしても、助かってる場合でも、ラタ騎士の時間軸以降だったりするので、
なので、ミトスを止めたり、するものがいなくなってました。
遥かなる未来で、ウィノナが記憶ないままに転生してるのは、
そのとき、死したときに、ミトス達をたすけられなかった。
という絶望から、無意識のうちにそのときの記憶を思い出さないように、
その精神がストッパーかけていたせい、です。
だから、ダオスに出会ったときも、おもいだせませんでした。
その時のウィノナは記憶保持、ではなく、
時折未来がみえるだけ、の状態になっていたので。(マナ不足の結果そうなってた)
ちなみに、助かっていた場合:
遠い子孫にモスリン&クレスがはいり、
ダオスのときに時空転移が成功しクレス達は過去にとばされます
助かっていなかった場合:
モスリンによる時空転移が失敗し、
あのまま、地下遺跡にてモスリンたちごと、地下遺跡でクレス&チェスター達は死亡します。
※この話の時間軸
一応は、たすかってはいたけど、クレス達が過去にとばされても、
そこからあらたな分岐点発生なので、
ラタさんはそちらの世界には意識のみはとばしてますが(マテ)
マーテルの盟約上、かかわってはおりませんv
あげくは時空転移という過程で過去に飛ばされてますしね。ラタ様……
でも、TOP時間軸においては、時空転移してきたという理屈をもとに、
クレス達とあるいみで同行してこちらもまた未来かわってたりします。
で、もともとの時間軸においては、
クレスとミントがいないままに、チェスター達は死亡して、
ダオスによって、人々の粛清はいりました。
そのさなか、完全にユグドラシルの消滅、となったわけです。

ウィノナの転生時間軸の裏設定をば。
かつての惑星デリス・カーラーン。
巫子、として王子である「ダオス」を助けていた。
相思相愛でもあったけども、戦争の悪化により、
世界が疲弊してゆく中で、彼女は彼を世界をたすけるために、自分の命をかけることを決意。
(ちなみにダオスとの間に子供、います。男の子と女の子)
その結果、彼女は死亡するが、その犠牲のうえにて、世界でおこっていた争いは終結。
時の神子とまでいわれていた彼女の力は絶大だったので。
ちなみに、このときの彼女は、精霊ラタトスクとも面識があります。
精霊とつなぎがとれる、魔物の王と面識がある存在、としても。
かなり、世界からして貴重価値が高い存在でした。
エルフ達の一部、彗星ネオ・デリス・カーラーンへと移住。
世界のフシメとなるときに、彼女は移住した先の惑星。
つまり、この惑星においてエルフ、として転生を果たしていきます。
そして、いくどめかの転生において、
成人した姿からまったく年すらとらずに、ずっといきつづけてます。
(ミトス達にであったときすでに千年こえてた)
※ある程度たったら、2~40年くらい姿をけしては、
子供、もしくは孫、といってごまかして生活はしてました。
で、両親をうしなったミトスとマーテルをわが子のように大切にしてました。
(理由は、いうまでもがな。転生してきた自分の子、でもありますし)
妹、とおもわれていたのは、実は本来のウィノナの妹の子孫にあたります。
つまりは姉の子の、そのまた子供のまた子供。
千年、という時間はダテではないのです。ええ。
あれ?エルフの寿命千年なんじゃあ?
とおもうかもしれませんが、へたにウィノナが近くにいるせいか、マナが器よりも多く
(おそらく母体となった母親がウィノナを一度やどしたせい)
千年、という寿命にもかかわらず、ピックフォード一族は、
エルフの里の中ではかなりの短命、でした。
そんな中で、千年以上いきているウィノナがエルフ達にどんな扱いをうけるか、
しかも、まったく年すらとらない。
他のものは、年をとっていくのに。
このあたり、プレセアによくにてます。
周囲は年をとるのに、彼女は年頃の少女のまま。という点で。
ともかく、親をうしなったその子の面倒。
その子の面倒はウィノナはみていました。
あくまでも、対面的には妹、として。
(子供まで差別されないように)
その子供はウィノナによくにていたので、
ミトス達はそれを妹、と認識してたりしました。
(ウィノナの真実をしらないひとはすべてそうおもってた)
で、ミトスとマーテルが里のものにころされそうになったとき。
その命をかけて、二人をたすけました。
ウィノナの犠牲をうけ、ミトスは絶対にこの争いを、
こんな戦いばかりの世界をかえてみせる、と決意を固めます。マーテルにしても同じく。
で、里をでた二人は、やがてシルヴァラントの進行計画をしり、テセアラへ。
そこで親衛隊長をもつとめていたクラトスと知り合い、
結果、クラトスとともに、戦争を終結させるために旅にでます。
マーテル死亡。
そのとき、ウィノナはやはり転生していた、のですが。
争いをしようとする勢力をミトス達にきづかれることなくとめようとして、
逆にその器のマナの多さに目をつけられ、
実験体としてマナを抜き取られて死亡していたりします。
結果として、ミトスとマーテルを助けられなかったことをかなり悔いています。
で、現代。
ハーフエルフとしてうまれた彼女は。
物心ついたある程度の年齢のときから、そういった夢をみています。
それが前世の記憶であり、ときおりみるのは、未来視だ。
と理解し、それをすべて自らの中にしまいこみ、
他者にそれをいうことはめったにありませんでした。
か、死がみえたときにはどうしても回避したくて。
それをいってしまい。
死神、といわれ、結果として研究員に売りはらわれます。
研究所としても、死がみえる能力、というのは興味があったので。
もはや完全に実験材料扱い、です。
さらに、その能力を教皇に目をつけられ。
ハーフエルフ、ということもあり、実験材料にされてしまい、
この小説でもちらりとでましたが、エクスフィギュアと化していました。
本来ならば、そのまま殺されるところ、だったのですが。
この時間軸はもうラタトスク様が干渉しまくっているがゆえ、
彼女にとってはラッキーな方向に物事がすすみました。
助け出され、ゼロスの屋敷にて安静にしていた彼女ですが。
寝ているときに、ミトスの最後たちがみえてしまい。
そのすべての始まりが、ミトスがタバサとなづられた少女。
自動人形だという彼女を壊してしまったことからすべてが始まった、としります。
それは彼女がみた未来視。
ちなみに、これ見せたのラタトスク様です(笑)
(つまりは、彼らが消滅する未来の映像をみせたのはラタトスク。
  干渉してみて、あ、思い出してるんだ。なら未来だけでいいか。ののりで←マテ)
なので、それをふせぐため、無理をいってミトス達がいるてあろう、アルタミラに移動してきました。
ぎりぎり、でしたが、何とかミトスがタバサを破壊(殺す)のを防いだ。
そんな形の裏設定、となっています。

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