まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

pivixさんに投稿していた話の区切りとは変えてあります。容量的に……

ようやく以前からきまってたとある名のお披露目、です。
あと、ようやくあるいみギャグでもあるイベントにはいります。
ここにくるまでなかがったなぁ。
必要のないイベントではありますが。
…なんで、シンフォニアの中に、あれないの?とおもったのが切実だったり。
あったらおもしろかったのに。
水着イベ…(あるにはあるが、やはり水着、といえばコンテストだろうに)
さらり、とエミルがとある世界の名をいってますが。
テルカ・リュミレース。
いうまでもなくヴェズペリアの世界です。
このラタ様、かつてあの世界に彗星通じておりたってます(マテ)
(まだ彗星にエルフ達が移住するより前。惑星カーラーンにいたころ。
   つまり世界が安定していたころですね)
ちなみにその事実しってるのは、
ラタに昔話というかいろんな世界の話をしつこくきいた相手。
つまり懇願した相手=ミトスだったりするのですが。
ちなみにその場にいたのはミトスだけ、なので。(マーテルもいなかった)
センチュリオン達以外にはそんな事実を当然誰もしりません。
なのに、エミル、さらっとその世界の名いったらだめでしょう!(笑
ちょっとした一言突っ込み回でもあります。
フォルス世界はいうまでもがなw
ラタ様、本当に(自分の正体を)隠す気あるんですかねえ(苦笑
さて、以前からいってたギャグ回さん。
そこでおこるイベント会場にて、エミルというかラタ様。
ついに本格始動開始?です。
が、会場さんは、あるいみ混沌(カオス)状態にv
ゼロスの臨機応変がないと、絶対に大混乱になってただろうに。
という突っ込み回でもあります。

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重なり合う協奏曲~精霊とイベント~

「何か、いろいろありすぎたよな~」
すでに日は暮れている。
ついさきほどエミルももどってきて、
今現在、いまだに戻ってこないリフィルは仕方ないとして。
ひとまず全員で食堂にでむき、夕食タイム。
彼らがいるエリアはバイキング形式、といわれている場所であり、
自分で好きな料理をお皿にのせ、好きなだけたべられる。
というのが売りとなっている場所。
普通にメニューを選ぶか、バイキングのほうを選ぶか、それは個人の自由。
これでもか、というほどにお皿に料理をもったのち、
席につきながらも、ぽつり、とつぶやいているロイド。
その中にどうみてもトマトが材料となっているものがないのは、
さすがというか何というべきか。
「でも、シルヴァラントじゃ、こんなの考えられないよね」
ジーニアスがそんなロイドをみて深く溜息をついたのち、
視線を並べられている料理にむけてぽつり、とつぶやく。
それこそ、誰がたべるかもわからない料理をここまで多種多様に。
デザートまでもしっかりとあるようなそれを用意するなど。
どうかんがえても廃棄する量のほうが多いようにおもえるのは、
少ない資源や材料でやりくりしているシルヴァラントならではの感想。
ここ、テセアラでは料理はあまれば捨てればいいじゃないか。
というような感覚が上層部、特に普通の身分のものにまで浸透しており、
ゆえに食材などにたいするもったいなさ。
そんな感性をもっているものはほぼいない。
ゆえに、貧民街などにすまいちものたちは、子供たちがよく残飯あさりなどをしており、
かつてそれを目にしたゼロスが子供たちにそんなことをさせるとは。
といって国王に進言し、必要最低限の保障が貧民街の人々にも施されるようにとなっている。
それらもありて、ゼロスは貧民街の民からも信頼が厚い。
「いろいろとみんなの話をきいてみたら。
  少しまえまで、ここに天使様たちがやってきていたのは事実みたい」
コレットがすこしばかり顔をふせてぽつり、とつぶやく。
以前はエミルの料理以外何を食べても味すらせず、砂をたべているような。
体がまったくうけつけなかったが。
自我を取り戻してからは、普通に料理もたべれている。
もっとも、味覚が多少まだ違うのか、
苦手であるはずのピーマンなども普通に食べることができている。
レザレノの社員たちにコレットが話をきいてみたところ、
あの騒ぎの中、
背中に翼をはやしたマーテル教の経典に描かれている姿のままの天使達。
彼らがあらわれ、異形のものたちを駆逐していった、という。
「クルシスも何を考えてるんだろうな?」
ロイドもその話をきき、意味が分からなかった。
「皆を助けるため、じゃないんですか?」
そんな彼らの会話をききつつ、首をかしげて少しばかりの野菜とデザート。
それらを手元にもってきているミトスがそんな彼らに話しかける。
「クルシスがそんなことをするかねぇ?」
「まがりなりにも天界、なんだ。するんじゃねえのか?」
しいながあむり、とおにぎりを口にしつつも疑問をさらす。
そんなしいなにと答えているゼロス。
クルシス、という立場上では、そのようにするであろう。
飴と鞭。
それを使い分けることにより、人心をクルシスは管理しているはずなのだから。
だからこそ、ゼロスはしいなの疑問にさらり、とこたえる。
そんな彼らの会話をききつつも、
「そういえば、僕。前からおもってたんですけど。
  天使、という言い方、何か違わなくないですか?
  あれって、精霊石を利用して、ただマナが展開できるようになっている”ただの人”たち、ですよね?」
翼があるから天の使い。
天がわれらにみかたすべくつかわせたものだ。
選ばれしものになりたくば、我が国、シルヴァラントへ集え。
かつて、シルヴァラントという国が国内外にむけて発したお触れ。
それをエミルは知っている。
すこしばかり首をちょこん、とかしげそんなことをいいだすエミル。
「そういえば。まあ、経典にもあるし。不思議にもおもわなかったけど」
ジーニアスがそこまでいって自分自身の言葉にふと黙り込む。
神子は天使の子。
だから羽があってあたりまえ。
イセリアでまことしやかにいわれていた噂。
コレットは天使の子でフランクの実の子供ではない、と。
そうおもっていたのに現実は違っていた。
村では暗黙の了解になっており、コレットは村人から表面上ではわからないが、
たしかに距離をおかれていた、とおもう。
皆が皆、神子様、とよび、コレットの名をよぶものは限られていた。
「でも、たしかに。悪いことをしてるやつらを天の使いみたいな言い方なんか嫌だな。
  ずっと、天使、という種族だとおもってたけどさ」
エミルとジーニアスの言葉に思うところがあったのか、ロイドも何やらそんなことをいってくるが。
「マーテル教の経典にもあるしね。女神は天使をつかわした、って」
ロイドのことばにジーニアスがこくり、とうなづく。
「でも、何でいきなり?」
そう、なぜいきなりエミルがそういってくるかがわからない。
ゆえにうなづいたのち、首をかしげつつもエミルにとと問いかけるジーニアス。
「ううん。ちよっとおもって。そういえば。
  もしも、あの翼がある人達を何らかの種族、としてたとえるとするなら。
  その種族の名を自分達で決められるとしたら。ミトスやみんなはどんな種族かしっくりくる?」
エミルからしてみれば、少しばかり参考になれば、とおもい聞いているのだが。
「?」
エミルの質問の意図がわからずに、ほとんどのものが首をかしげるが。
「――なるほどな。簡単にいってしまえば”有翼人種”でいいんじゃねえのか?」
ゼロスのみはその質問の意図を察知する。
あの封印の空間で、ゼロスはそれらしきことをテネブラエからきいている。
――精霊石を悪用し、力をえているものたちは、
  それこそあなたたちヒトのいう”狭間のもの”でしかありえない。
  どの種族にもあてはまらないがゆえ、完全に無期生命体化をはたしたとしても、
  彼らは一代限り、子孫を残すこともないでしょう。
それをきき、ならあのロイド君は?
と問いかけた記憶もあたらしい。
――ありえない、んですよね。
  よくもまあ、偶然が偶然としてかさなって、誕生しているものですよね。
  本来ならば、生まれるはずのない命ですよ、あのものは。
それをきき、ゼロスは何ともいえない思いにとらわれた。
生まなければよかった。
そういわれた母の言葉がよみがえったといってよい。
生まれるはずのない、とまでいわれていながら生まれてきたロイドと。
望まれて生まれてきてわけではない自分と。
どこか親近感をもったといっても過言ではない。
ずっとあえてその力を次世代にまでつなげないために、
彼らによくわからないが、【理】というものを持たせてはいない、という。
しかしこのタイミングでといかけてくる、ということは。
思うところがあるのか、それとも。
それはゼロスにもわからない。
そもそも、この精霊様が何を考えてるのか、いまだにゼロスにはつかめない。
――まあ、一行の中で一番エミル様はあなたを信頼しているようですけどね。
そういわれ、すこしうれしかったのはゼロスだけの秘密。
もっとも、そのあとにいわれたセリフ。
――だってあなたは余計なことを他にはいわないでしょう?
  だから、ミトス、ユアン達にも情報をあたえている。
知られていたか、という思いで苦笑せざるを得なかったが。
「?よくわからないけど、天使様の呼び方、ですか?」
そんな会話をききつつも、セレスが首をかしげ、きょとん、といってくる。
ちなみにセレスのお皿にも主に野菜サラダがのっており、
セレス曰く、野菜は美容にいい、ということらしい。
特にここ、レザレノで使われているドレッシングは肌にもいいし体脂肪の燃焼もいい。
というので女性たちには人気、とのこと。
「そういえば、コレットのように光る翼をもっている天使もいれば。
  普通に鳥のような翼をもってるやつらもいるんだよな。あいつら。
  ゼロスの翼もひかる翼、だよな?たしか」
「おう」
ゼロスが答えるとともに。
「あれは、体内のマナを放出することによっておこる現象だからな」
ここにはいないはずの第三者の声が、横のほうからきこえてくる。
その声をきき、一瞬、ミトスが顔をしかめたのに気付いたのは、
この場においてはエミルとゼロスのみ。
「あ、先生。リーガルも。ってクラトスもきたのかよ」
最後の言葉はかなり嫌そうではあるが。
みれば、どうやらこちらの席にむかってくる人影がみっつ。
リーガルはいつもの囚人服のようなそれではなく、きちんとした身なりに身をつつんでいる。
いつもつけているはずの手枷。
それがないのが多少きにはなれど。
この動乱ともいっていい混乱の中で、手枷をつけていたら、
余計に民に不安をあたえかねない、というジョルジュの意見もあり、
しぶしぶながらも、リーガルはいっとき手枷を外しているにすぎない。
自分のわがままともいえる理屈による手枷と民の不安と。
どちらを優先するかは、リーガルとて民をまもる立場にいるもの。
優先するべきものをはき違えることはない。
「エクスフィアの進化系。それによって無機生命体化したもの。
  それを総合して”天使化”と呼んでいるにすぎん」
淡々とつむぎつつも、腕をくみ、しばしその場にたちすくんでいるクラトスの姿。
そんなクラトスの言葉をきき、
「そもそもさ。エクスフィアって、結局なんなんだろうね」
ふとした疑問を誰にともなくつぶやくマルタ。
それは素朴なるマルタの疑問。
エミルはよく【エクスフィア】を【精霊石】だ、といっている。
そんなマルタのつぶやきがきこえた、のであろう。
「かつてわれらのいた時代でも、それが何のためにあるのか。
  どのようにつかうのか。そういった知識や技術は失われていたからな。
  …我らとて、真実をきくまで、ただの道具、としかおもっていなかった」
クラトスがふと当時のことを思い出すように虚空をみつめる。
当時。そして今も。
真実をしるのは、おそらく自分達だけ、なのだろう、とはおもっている。
が、エミルはそれをはじめからしっていた。
「かつての時代から、これはある種の高度な生命維持装置だろう。そう思われていた。
  それゆえに使用者をまもり、またその能力を最大限まで高めることができるのだ、とな」
クラトスの言葉をうけ、ふと目をつむるエミル。
真実はそうではない。
実際、かつての人は精霊石をもちはしても、
ここまで穢し狂わせ、強制的に利用したりはしていなかった。
それこそ石にやどりし微精霊達。
そんな彼ら精霊達と契約をかわしたものもいたりした。
下位微精霊達は自分達の自我、というものをもちはしないが。
中位以上の微精霊達は自我、というものをもっている。
そして、彼らはもともと、きにいったものと契約をかわし、
契約を交わした相手の一生、つまり生涯ともに過ごす。
という方法をかつてはよくとっていた。
そのものがきにいれば、子供たちにもその契約は引き継がれていたが、
それらはすべて精霊達の気分次第。
微精霊達や普通における精霊達。
それはこの惑星におりたち精霊達を生み出して。
精霊石の実体はかつての惑星からひきついでそのまま理をもたせてうみだした。
しかし、時とともにその真実が忘れられ、便利性。
ただそれだけ、をヒトは求めるようになっていき、微精霊達の声すらヒトはきけなくなっていった。
愚かにも直系の血筋であるエルフ達ですら、その声は今はとらえきれていない。
「そしてその特性は、カーラーン大戦において使用されることとなった。
  戦闘兵器として、な。今でこそ天使、と呼ばれてはいるが。
  別名は生体兵器、ともいわれていた。
  天使、というのはヒトの姿をたもったまま実用化を可能としたシルヴァラント側。
  彼らがいいだした言葉にすぎん。
  天の使いたるものが自分達の国に味方をするのだから、自分達こそただしい。
  テセアラの国を亡ぼせ、とな。
  もっとも、テセアラの国もすぐにその技術にたどり着いたが……」
「古代の話ね。興味深いわ。その天使化?は誰もがなったのかしら?」
そんなクラトスのセリフに思うところがあるのであろう。
リフィルが興味深そうにクラトスの話に耳をかたむけているのがみてとれる。
「いや。ほとんどものが、その力にたえきれず。
  その身を異形とかしていった。エクスフィギュア、とそれらは命名されたが」
そこまでいいかけ、ふとクラトスはおもう。
そういえば、あのとき。
ドア婦人のあの姿をみたとき。
エミルはあの姿をみて、ぽつり、とその名をよんでいた。
エクスフィギュア、と。
しかも、マナが乱れて狂わされている、とまでいいきっていた。
そして…エミルの手によりて元の姿にもどったドア夫人ことクララ。
クルシスのものですら、その名をしっているものはそうはいないというのに。
「異形……」
「…マーブルさん……」
「…アリシア……」
そんなクラトスの言葉にそれぞれの脳裏にうかびしは、
ロイドの中では、異形となったときかされた母とそして
自らが知らなかったとはいえ傷つけ攻撃したマーブルの姿。
ジーニアスも、マーブルのことを思い出す。
すでにマーブルの宿っていたであろうエクスフィアはジーニアスの手にはない。
あの封印の書物の中で、ジーニアスを助けるために、
その力をもってして自分を助けてくれたマーブル。
そこに石があったという痕跡を示す要の紋が残るのみで。
リーガルもまた、自らが手をかけた恋人アリシアを思い出す。
あのとき。
元にもどす方法をしっていれば。
あれを取り外そうとすればどうなるのかしっていれば。
後悔はいまだにリーガルの中でつきてはいない。
「かつては、兵器の部品、としてしか扱われていなかった。
  が、研究者たちがヒトにつけることを提案したらしい。
  すでに私が生まれたときは、それが主流となっていた。
  何でも争いにおもむく兵士たちにエクスフィアをつけることにより、
  より強力なエクスフィア…ハイエクスフィアが誕生し、
  聴覚、味覚、痛覚などという感覚を自らの意志で必要に応じて制御できるようとなる。
  もっとも、そこにたどりつくまで発狂したり、
  もしくは全身が煇石になったりとして完全になじむものは少なかったが。
  ゆえに完全に『天使体』とよばれしものになれたものは、重宝された。
  それこそ、ユアンのやつがハーフエルフでありながら、
  シルヴァラントで重要な役職についていたように、な」
武器につけているのならばまだ直接、微精霊達に血の穢れや魂の悲鳴。
そういった負における様々なものが直接伝わることもなかったであろうに。
もっともそれもほめられたものではないのだが。
しかし、人の身にむりやりに取り込むことにより、
より微精霊達が狂わされ、そして殺しつくされていった。
そしてあろうことか、精霊達の力を制御する品すらヒトはうみだした。
…そこにたしかに魔族の介入があったとしても、である。
「しかし、あれは本来、微精霊達…世界を構成するに必要な精霊達。
  彼らの卵である、ともいう。我らとてミトスが精霊と契約をかわし、
  そして…聞かされるまで知りえなかった事実だがな」
いいつつも、クラトスはちらり、とミトスに視線をむける。
ミトスは何を想っているのだろうか。
あのとき、あれほど、世界を構成している微精霊達を僕らは、
しらずに殺して、しかも狂わしていたの!?
かなり憤慨し、かの精霊に叫んでいたあの時のミトスの心に嘘はなかった。
そう思う。
それはクラトス、そしてエミル、否ラタトスクとて同じこと。
が、事実、今ミトスはかつて自分が嫌悪していたことを行っている。
それこそより嫌悪していた、方法で。
ヒトビトを苗床にし、精霊石を血と命で穢す、という方法で。
ある程度穢され、その力が利用可能となった精霊石の力。
それを利用するために、埋め込んでいたヒトをむりやりに殺すことにより、
そのものの断末魔の悲鳴とその体を構築していたマナごと石に吸収させ。
つまりは装備者を殺してまで、ミトスはエクスフィアと人がよぶそれを量産している。
ミトスがしている、とは信じたくなかったが。
実際、ディザイアンはミトスの…クルシスの下位組織だ、というのだから。
でも、ミトスはこうもいっていた。
間違っている、とはおもっている。と。
完全にそれが正しい、とおもっていないはず。
なのに。
「…ヒトは、いつも矛盾にみちた行動をします、からね」
あのときのミトスのまっすぐさにエミル、否ラタトスクが根負けしたのは事実。
そして、その結果、どうなっていたのかはわからないが。
結果としてミトスの魂はあらたな苗木となり、
ロイド達に名をつけられ、自らとのつながりを断ち切られたかつての記憶。
それらをおもい、ぽつり、とつぶやくエミルの言葉には、
そういったさまざまな思いが含まれていたりする。
ヒトはいつの世界も、時代も矛盾したことをおこなう。
それはこれまでの世界において、絶対的ともいえる心理。
「そう、だな。私とて巨大な過ちを…」
エミルがうつむき、ぽつり、とつぶやくのをみてクラトスも思わず呟かずにはいられない。
あのとき。
ミトスを何が何でも説得すべきだったのだろう。
自分がオリジンの封印を担う、と申し出るのではなく。
「でも。どうしてそんなことをいきなりきくんですか?」
セレスからしてみれば、なぜエミルがそんなことをいってくるのか。
それがわからない。
否、セレスだけではない。
おそらくこの場にいるほとんどのものが、
天使は天使でいいだろうに。
と間違いなくおもうであろう。
にもかかわらず、なぜエミルがそんなことをいってくるのかが理解不能。
セレスの言葉に、たしかに、とつぶやいているのは一人や二人、ではない。
「ただ、皆はどうおもってるのかな。っておもってね。
  それに、どうしても天使、といえば天の使い、みたいな感じで。
  それらがすることには間違いがない、とヒトって思うところがあるでしょ?実際問題として」
それが宗教という認識の怖いところだ、ともう。
自分達が信じているものの使いが間違ったことをするはずがない。
ヒトはかたくなにそう信じる傾向がある。
そして、それを間違っている、といえば異端者だ、といって迫害、そして殺害しようとする。
それこそ、周囲に知らしめるために公開処刑などという手段をもちい。
首をかしげつつもといかけるプレセアのセリフに苦笑しつつ、
「でも、天使、という言葉でそうおもうのなら。なら、屁理屈かもしれないけど。
  彼らはこういう種族なんだよ?
  みたいな感覚でおもったり、言葉にすれば少しは違うのかなって。
  それこそ君達ヒトが、エルフ、ハーフエルフ、ヒト、といって区別してるようにね。
  同じヒトでしかないけど。なんでかとにかくヒトって区別つけたがるし。
  いい例がここ、テセアラでの身分だよね?同じヒトなのに、差別がまかり通ってる」
それこそ、生まれながらその身分がきまっているように。
天地戦争、とかつてヒトがよんでいた時代もそうだった。
人々は首につけられたチョーカーの色でその身分を示されていた。
なぜヒトは序列をつけたがるのだろう。
たしかに群れ、という意味では必要なのかもしれないが。
動物や魔物達ですらヒトのように愚かなことはしでかさない。
たしかに生きるために群れの一部を切り捨てることもあるだろう。
が、ヒトはあえて自分達よりも能力があるようなものたち。
それらを迫害し、そしておいつめ排除しようとする傾向がある。
そのくせ、その力を利用しようともする。
共存共栄。
根本的な理はそのはず、だというのに。
ヒトはその理をそれぞれの欲のためだけ、に自らの意志でたがえている。
他者など思いやる必要はないのだ、とばかりに。
「たしかに。エミルのいいたいことは何となくわかるかも。
  天使だから仕方がない。天使にやられたら女神マーテル様の裁き。
  だからしょうがない。そうたしかにヒトはおもう、かな?」
ジーニアスがつぶやくが。
姉の視線がじっとエミルを探るようにみていることに気づいてはいない。
それこそどっぷりとマーテル教の教えにはまっているものならば。
まちがいなくそうおもう。
「エミル。それで、あなたはどうおもうのかしら?」
「そうですね。…まあ、僕はみんながどうおものかな?とおもっただけですし」
いい加減に、あれらもきちんとした理をもたすべき、なのだろう。
もっとも、その能力を次世代には制限させるような理をひくとして。
もしかしたら、あれらが消滅するまでほうっておけばいい。
と放置していたことにも原因があるのかもしれないのだから。
どうせヒトの精神は精霊達の力に耐えられるはずもない。
精霊達にとりこまれ、やがては消滅してしまうのに。
その力を悪用しようとするヒトをあえて擁護する気にもならなかったのも事実。
しかし、今おもっていることは、さすがに理をもたせる必要がある。
かつての悲劇を繰り返さないために。
絶対に彗星への移住。
さらには宇宙空間への精霊石…穢れたままの石の散布。
それらだけは防がなければ。
リフィルにじっとみつめられつつ、
薄い笑みをうかべつつ、リフィルの視線からそらすことなくいいきるエミル。
「ま、新種の名前をつけるような感じで。
  ミトスやロイド達ならどんな名前をつけるのかな?
  とふっとおもっただけだから、別に深く考えなくてもいいんだけどね」
どうせなら、当事者である彼らにその種族名、という理の候補を決めさせるのもいいか。
ただそうおもっただけのこと。
「名前、といえばコレット、行く先々で犬に勝手に名前つけてるよな?」
エミルのいう、名前。
それでなぜかふとコレットが行く先々で犬に名をつけているのを思い出し、
いきなりそんなことをいいだすロイド。
今思い出した、とぱかりにぽん、とかるく手をたたき、コレットに視線をむけてロイドはいいはなつ。
ちなみに、ロイドの手にはパンが握られており、
…なぜか口にパンをほうばりつついっていたりするのだが。
それをみて、リフィル、そしてクラトスが多少溜息をついているのにすら
どうやらロイドは気づいていないらしい。
「ふえ?」
いきなりロイドに話を振られ、きょとん、とした表情をうかべるコレット。
「うん。なんか、こうわんちゃんの名前ってそうだ!って感じがするの。
  みただけで皆もなんとなくわからない?」
それでも、ロイドに話しかけられたのは事実であり、
そんなロイドの質問にこたえているコレット。
「というか、名前ついてるこにまで勝手にコレット名前つけてるよね」
コレットやロイドの台詞をうけジーニアスは苦笑せざるをえない。
実際これまでの町や村、そして救いの小屋などで、
コレットはみる犬すべてに勝手に自ら名前をつけていたりする。
どうやら、名づけ、というのでエミルのそれから、
この調子では犬の名づけの話題にすり替わりかねない。
ゆえに、
「ミトスは、もしも天使っていわれているものたちに、
  種族、としての名をつけるとしたらどんな名にする?」
このままでは、まちがいなく、ロイドやコレットによって話題がかわる。
その前にミトスにとといかけるエミルであるが。
「…いきなりいわれても……でも、どうして僕に?」
「ミトス、そういうの考えるの得意でしょ?」
おそらく、まちがいなくマーテル教といわれている伝説もだが、ミトス物語や天使物語。
あれらも絶対にミトスが考え出したに違いない。
クラトスがそんなものをつくくれるとはおもえないし、
ユアンがつくったのであればどこかかならず抜けているはず。
だからこそ、きっぱりはっきりいいきるエミル。
ミトスからしてみれば断言されるようにいわれ困惑せざるを得ない。
たしかにそういった分野はミトスの得意とするところ。
今世界にある伝承のすべては、マーテル教に関してのすべてはミトスが考えだしたもの。
しかしそれはかつての仲間たちしかしらないはずの事実であり、
エミルがそれをしっているはずもない。
なのに。
どうしてそう確信をもったように言い切れるのだろうか。
困惑するミトスの様子をみて苦笑し、
「ロイドだったら変な名前つけそうだし」
ちらり、とロイドをみてさらりといいはなつエミル。
実際間違いなくロイドならばおかしな名をつけるであろう。
それはもう、エミルは確信をもっていえる。
「どういう意味だよ!」
さらり、と名をだされ、ロイドがおもわずそんなエミルにくってかかるが。
「なら、ロイドならどんな名をつける?」
「えっと。鳥人種?」
「ロイド。それならまだ有翼人種のほうがましだよ」
そんな彼らのやりとりをきき、おもいっきり溜息をつきつついっているジーニアス。
「たしかに。ロイド。名づけのセンス、ないもんなぁ」
溜息をつきつつも、とどめ、とばかりにそんなことをいっている。
ジーニアスはイセリアで、ロイドの名づけセンスのなさはみをもってしっている。
「リフィルさんならたとえばどんな名にします?言い方をかえるとしたら」
そんな彼らのやり取りをちらり、とみつつも、
椅子をひいて席についたリフィルにとといかけるエミルの姿。
クラトスはいまだにたっているまま、であるようだが。
「そうね。なぜいきなり、そういう考えがでるのかわからないけども。
  たしかに。天使、という言葉は経典にもあるもの。
  今後のこともあるわ。わたしたちが天使が、とかいって。
  他人に不信感を抱かれないためにも、擬音は必要かもしれないわね」
エミルがいわんとすることがよくわからないが。
しかし、たしかに天使だのクルシスだのといって非難するようなことをいっていれば。
マーテル教を信じ切っているものたちからしてみれば、
どちらが悪ととらえられるのかはいうまでもない。
ならば、自分達だけにわかる呼び名、というのがあってもいいかもしれない。
「天使の別名はたしかエンジェル、だったわね」
「エンジェル・フェザーっていう天使術も先生、ありますよ?」
リフィルがふとつぶやけば、コレットがなぜか脈略もない…
いや、少しはあるのかもしれないが。
にこやかにそんなことをいってくる。
「天使の羽を飛散させて攻撃するあの技、ね。
  天使の象徴はたしかに羽、でもあるから。フェザー、翼。
  という名をいれるのはいいかもしれないわね」
どうやら乗り気になったらしい。
そんなリフィルの様子をみて微笑みつつも、
「ミトスは?」
「え?僕…?そう、だね。たとえば、象徴ともいえる羽をもじって。フェザー・フォルク、とか?」
問いかけたエミルの言葉に一瞬目をぱちくりさせつつも、
ふと思いついた単語を無意識のうちにぽつりとつむぐミトスの姿。
「あら。ミトス。そのフォルク、というのは何の隠語なのかしら?」
フェザーならばわかる。
羽、という意味合いをもっているのだから。
「えっと。昔、聞いたことがあるんです。
  マナの別名、フォルスっていわれてたこともあるって。
  だから、それを少しもじって、フォルク、といったんですけど」
――ねえ。ラタトスク。君がいつも本来つくる世界はいつもマナが主体?
――いきなりだな。ミトス。
  まあ基本はそうだな。種子から。何もない空間にゼロからうみだすからな
――いつも、マナっていわれてるの?
――我らはマナとよんでいるが。ヒトはいろいろとよんではいるな。
  ある世界ではフォルスとよんでいたこともあったし。
  エアル、とよばれていたこともあったな。
  もっとも、エアルとよばれていたそれに関しては、マナがかなり穢された状態であったが
ミトスの台詞をきき、ふとある世界のことを思い出す。
それとともに、ミトスとかわした会話のことも。
あの地でもそうだった。
大樹を枯らし、穢し、穢されたマナにより破滅にちかづいていたあの惑星
穢れを取り払う種族すら最悪のものだ、といわれ狩りつくされ。
よりによって世界を構成すべきものたちですら、
その永きにわたる穢れによりて、その体が、その孵化手前の状態があたりまえ。
という認識をもつにいたっていたあの世界は
【聖石】とよばれていたあれこそが、精霊石の結晶体。
まだ惑星カーラーンが安定していたころ、彗星を通じて発見した死にかけていたあの星は。
「テルカ・リュミレース……」
「え?」
「ううん。別に。今いったミトスの名前どうおもう?」
思わずかの世界の名をふとつむぐ。
まああの世界に彗星からおりたち出向いていたときもいろいろとあったな。
そんなことをエミルはおもう。
正しくその力、そして役割。
それらすら失念していた彼らにきちんと理を新たにつたえたがゆえ、
あのような過ちはおこってはいない、であろう。
しばらくは彗星の軌道をあの周囲にあてていたが、
安定したのをうけ、軌道をかえ、そしてみつけたこの惑星。
おもわずぽつり、とつぶやいたエミルの言葉をとらえ、ミトスは思わず目を丸くする。
聞き間違いでなければ、エミルはたしかに。
”テルカリュミレース”といわなかったか?
それは、かつてラタトスクからきかされた世界の一つの名。
しかし決して誰もがしるはずのないその名。
「ミトスって、名づけのセンス、いいんだね。なんか響きが綺麗だよね。それ」
マルタがそんなミトスの言葉に感心したようにうなづきをみせる。
フェザー・フォルク。
たしかに、響きとしていいとおもう。
「隠語としてはいいかもしれないわね。
  他に意見がないようなら、今後天使達のことやクルシスのこと。
  それを人がいる場所ではそういうようにしましょう。
  懸念事項は一つでも減らしていたほうがいいもの」
フェザーフォルク。
ミトスの今の言い回しからするに、直訳すればマナの翼。
たしかにマナを展開し翼となしているという天使達にはふさわしいのであろう。
リフィルがざっと周囲をみても、
どうやら今のミトスよりもいい名が誰も思い浮かんでいない、らしい。
ゆえに、リフィルがそんなことをいっているのがみてとれるが。
「でも。意外。ミトスがその名にするなんて」
「?どうして?」
「何となく?」
まさか他の世界で同じような種族をつくったとき、
自らがつけた名と同じものをミトスがいってくるとは。
おもわずエミルは苦笑してしまう。
あの種族も今いる天使体、といわれているものとほぼ同じ。
鳥の翼をもちし種族であり、見た目は人とかわりはしない。
ただ、その背に翼があり、ヒトより魔術にたけている、という点を除けば。
もっともその能力ゆえに、その力をほっした人におわれ、
彼らは隠れ里のような場所に移り住んでいたというのに。
そこすらヒトは襲撃した。
そういえば、とおもう。
あの世界にあった、他者の体に自らの精神体をうつす術。
もっとも人に知られてしまったりした場合、消滅、というリスクはあるが。
あれをしればミトスはどうおもうだろうか?
しかし、あれは自らの意志において行う必要がある。
つまり、精神体を移動しようとする存在本人が行う必要が。
「じゃ、フェザーフォルクで決まりだね。
  ところで、リフィルさん。リーガルさんも。
  クラトスさんにしても、もうあっちはいいんですか?」
たしか、リフィルは調べものがある、といってレザレノの本社に残っていたはず。
クラトスにしても後始末があるとか何とかで、忙しいはずなのに。
聴覚、視覚、この二点のみは理として他の種族よりも自在に変化可能。
そうしても差しさわりはない。
それ以外の機能は不必要、といってよい。
あまりに強い力をそのまま継承させても、
世代とともにまた愚かなる考えを持つものが出てくる、とも限らない。
そう、かつて精霊達とヒトの間でも子供が設けられるようにしていたとき、
マナを扱える力がより人よりも多いからという理由で、
自分達がえらばれしものだ、といって愚かにも自分達がすべてを支配すべき。
といった傲慢なる考えに増長していったあのときのように。
だからこそ、ヒトと精霊との間に子供はできないように理をひいている。
我が子ともいえる子孫たちがそんな愚かなことをしでかし、
精霊達が自ら手をくだし、悲しむさまをみたくないがゆえに。
「私のほうは一通り目をとおしてみたけども」
リフィルとしては一応、それらしきものには目をとおしてみた。
が、目的となるようなものはみあたらなかった。
サイバックの学術資料室にあった人の精神体を他者に移す方法。
しかし、会社の資料の一角に、かつてそれを実験していたことがかかれていた。
そのけっか、かなりのものが命をおとした、とも。
つまりは、てっとりはやく他者の器にうつすのに、
わざわざころし、その精神体が移動できるかどうかを実験したことがあったらしい。
しかも隠されるようにしてあったその資料の年代からして、
この地においておこったハーフエルフ達の虐殺事件。
その年代にとぴたりとあてはまった。
しかし、興味深いこともかいてはあった。
人の魂はどちらかといえば雷のマナにより近く、
ゆえに、雷のマナを動力としている装置類には、
みえないはずの精神体が映り込むことが多々とあるのだ。
そのような記述もあったりした。
霊と雷のマナの関係。
そんな書物すらあったのがかなり興味深くはあった。
このあたりは、アステル達がもどってきたとき、一度確認してみるべきであろう、とも。
イガグリがいうには、彼もまたあの雷の神殿にずっと魂だけが残されていた、という。
かつてのしいながヴォルトと契約に挑んだとき、
ヴォルトの一撃をうけ、肉体と精神体がわかれたまま、
ずっと十年以上もイガグリはあの場にのこっていた、という。
精神体、として。
「やはり、簡単にはみつからないわね。
  何かの中にいる精神体を別の器に移動するような方法は。
  まあ、わかってはいたけどもね。
  おそらく可能にするにしても大量のマナが必要なのでしょう。
  そしてそれも成功するかどうかもわからない。
  …クラトス。そのあたりはどうなのかしら?
  たとえ、神子を器、としたとして。精神体を移動するような方法。
  それが確立されているの?」
調べてもわからないものはわからない。
ゆえにしっているであろうクラトスに話題をふる。
そんなリフィルの言葉をうけ。
「…理論上は可能だ。だが、これまで一度も器となったものが受け入れたことはない」
「でしょうね。本来、肉体と精神体…幽体とは融和性とかもあるはずだもの。
  異物、として拒絶反応がでてもおかしくないわ」
それこそいくら酷似していても、かならず副作用、というものがでるであろう。
たしかに同じマナからつくられているとはいえ、細かな違いは個別ごとに存在する。
完全に一致する、というのはめったとありえない。
だからこそ、ミトスはあえてよりその副作用がすくなくすむように、
血筋を管理し、マナを管理し、よりマーテルに近い器を作り上げてきた。
神託による婚姻、という方法をもってして。
「でもさ。アリシアみたいにできないのか?
  だって、彼女、プレセアの中にいるんだろ?
  そのマーテルってやつも、誰かの中に移動すれば…
  アリシアとプレセアはそれぞれ違うし。
  それこそその心と自我を壊してまで体を乗っ取ったりしてないし?」
「たしか、アリシアさんはプレセアの子供として生まれ変わりたい。そういってたっけ?」
ロイドが思うのは、プレセアが意識を失っていたり眠っていたりするときに、
表にでてきているアリシアのこと。
あのときのコレットのように心と記憶、自我を失っているわけでなく。
たしかに中にいるであろうに、
それぞれの人格はきちんと確保されている、いわば一つの体を共有している二つの人格。
たしか、そういうのを二重人格とかいうんだっけ?
ロイドはふとそんなことをおもうが。
あるいみで正しくもありそしてまた間違ってもいる。
「そもそもさ。今まで失敗?とかしたのも。
  相手の意識を無視したがゆえ、なのかもしれないね。
  中には神子として育っているんだもん。
  マーテル様を自ら受け入れてもいいよ、という人もいたかもしれない。
  けど、彼らは心を封じられていたがゆえに、受け入れ態勢ができず、
  体がもつ防衛本能でもある拒絶反応。それで受け入れができなかったのかも」」
ロイド、そしてコレットのことばに、ふとジーニアスがそんなことを思いついたのか、
ぽつりとそんなことをいいだすが。
事実、それもあったであろう。
マーテルの性格からして誰かの心を殺してまで蘇りたい。
とは絶対におもわないはず。
が、ともにいき、弟たちを見守りたい、という思いが一致すれば。
それこそありえたかもしれない。
そのあたりはエミルもマーテルに確認したわけでもなく、
またそのあたりのことをかつてのときもマーテルからきいたことはなかったので、
詳しくこうだ、といいきることはできないが。
「…姉様に不純物が混じってるなんて冗談じゃない」
ぽつり、とそんなジーニアスの言葉をきき、ミトスが小さく、本当に小さくぽつり、とつぶやく。
ミトスからしてみれば、マーテルが誰かの中にいる。
というのはあまり好ましいことではない、らしい。
しかし、不純物、といいきるとは。
かつてのミトスならばそんなことはいいはしないだろうに。
そのことにすこしばかりエミルとしては悲しくなってしまう。
ヒトは、すべての命は平等なんだから。
そうしつこくいってきたあのミトスの言葉、とはおもえない。
四千年。
じわじわと侵食されている負の穢れはミトスの考えかたそのものにすら、
どうやら影響を与えているらしい。
一気にその穢れを払えばミトスにどんな影響がでるかわからないので、ゆっくりと浄化はしているが。
かの地からミトスの魂の欠片を保護したがゆえ、
これ以上、魔界の瘴気によって、本体であるミトスの魂にまで影響はないはず。
おそらくは、かの分霊体でもある瘴気が本体であるミトスのほうに流れていってしまっていたのであろう。
あの地のミトスは絶望、というのを知らなかった。
が、本体であるミトスのほうはマーテルを殺されて、おそらくそういった感情に囚われてしまい。
結果としてはねのけていたであろうそれらが本体に流れていっていたがゆえに、
ミトスの考えが歪んでいってしまった可能性がかなり高い。
「まあ、とりあえず。いろいろと思うところもあるだろうが。
  ジョルジュからの伝言だ。例の健康診断はやはり行うそうだ」
「「え゛」」
そんな会話にわってはいるかのように、リーガルが何やらいってくる。
おもわず声をエミルがあげれば、同じくミトスも声をあげていたりする。
「健康診断って、あの身長と体重をはかるあれか?」
「そういえば。イセリアで体重測定のとき。
  コレットがこけてよく地面に穴あけてたよね~」
「・・・・・・・はい?」
なぜに体重測定で地面に穴?
ロイドとジーニアスの会話をきき、
おもわず問い返すエミルはおそらく間違ってはいないであろう。
ふとみれば、ミトスも目をぱちくりさせ、
それでいてどこか思い出すような表情をうかべているのがみてとれる。
…そういえば、マーテルもよくこけては、意味不明な穴を幾度かつくったことがあったような。
アクアが散々不思議がっていた。
なぜにあんな穴がつくれるのかが理解不能だ、と。
そんなミトスの態度をみて、エミルもまた当時のことを思い出す。
まあ、たしかに視ていてあきなかったがゆえに、
わざわざ分霊体でもある蝶をかれらにつけていた、のだが。
それにミトス達が気づいていたかどうかはともかくとして。
「まあ、この地にいた民のほうが優先なのでお前たちには数日後になるかと」
そんなエミルやミトスの態度に気づいているのかいないのか。
淡々とリーガルがそんなことをいってくる。
どうやらあのジョルジュという人物は、本気で健康診断を行う気満々らしい。
「数日後……」
なら、何とかなるであろう。
そのときまでこの地にいる、とは限らない。
それこそそれとなく方向性をかえて、彼らを異界の扉のあの地。
あの地の調査に出向かすのもわるくはない。
もっともあの中には決していれたりはしないが。
「たしか。満月になるのが四日後、ね。
  レアバードの空間移動ができないのならばあの地から移動する。という方法もあるわね」
いつ、マナが安定し、レアバードが使用できるようになるかはわからない。
それこそ魔族、という不可解なものがかかわっている以上。
楽観的な見通しよりも確実なる方法を模索しておくべきであろう。
それゆえに、リフィルがすこしばかり考え込みつつも、
今の月歴からすれば、たしかあと数日で満月のはず。
あのとき、異界の扉からシルヴァラントに移動したときのように。
あの地からあちら側に移動する、という方法も視野にいれておいたほうがいいだろう。
それゆえのリフィルの台詞。
「うむ。それも視野にいれておくのもたしかに正しいだろう。
  それと、お前たちに渡すものがある」
『渡すもの?』
リフィルにつづき、リーガルがそういうとともに、
リーガル背後からおそらくレザレノの社員、なのだろう。
みたことのない人物が何か箱のようなものをもってやってくる。
小さな箱がいくつか。
それぞれリボンがかけられており、色違いのそれらには、
小さく名らしきものが刺繍されているのがみてとれる。
それは一抱えほどの箱なれど、重さはほとんどない。
「何だ?これ?」
気になったのであろう。
リーガルからうけとったそれをみて首をかしげつつも、
しゅるり、とリボンをほどき、かぱりと箱をあけているロイドの姿。
そもそもここは食堂なので、そういったものを見る場ではない。
とはおもうのだが。
ロイドはそこにまで思い至っていないらしい。
「…何だ、これ?パンツ?」
ロイドの箱の中にはいっていたのは一枚の水着。
一瞬、半ズボンかとおもったがどうやらそうではないらしい。
「…ここは食堂だ。あとで部屋でみるほうがいいだろう」
こほん。
ロイドをとめるまもなく、開いてしまったがゆえに、リーガルがかるく急き込んだのち、
そんなロイドにやんわりと注意を促す。
「ロイドの性格からしてすぐにみるのはわかっていたでしょうに。
  ここで渡したあなたのほうが間違っているわね」
「…たしかに」
そんなリーガルに苦笑しつつもいっているリフィル。
そして。
「あら?私にもあるのかしら?ロイドのそれをみるかぎり、どうやら水着、のようだけども」
ちなみになぜか水中眼鏡とシュノーケルまでついている。
「まさか、リーガル。私のも水着、なのかしら?」
「うむ。ここは海の町でもあるからな。
  せっかくだから、明日にでもみんなで海水浴でもしたらよいだろう。
  ちなみに、サイズはきちんとそれぞれあっているはずだ」
「あっている、って?」
意味がわからないのであろう。
きょとん、と首をかしげてそんなリーガルにとといかけているコレット。
「うむ。以前神子からきいていたからな。それぞれのスリーサイ……」
「あんたは!何リーガルにいってるんだよ!」
ぼかり。
リーガルがいいかけるよりも先に、
すばやくしいながゼロスの椅子の横にまわりこみ、
おもいっきりゼロスの頭をたたいているのが目にはいる。
「俺様はスペクタクルズで得た情報を教えただけだぜ?」
「それが余計なことだっていうんだよっ!」
一度は素直に殴られているが、それらかさきは、
ひょいひょいとしいなのこぶしを座ったままでよけているゼロス。
そんなゼロスにさらにむきになりなぐりかかっているしいな。
はたからみればどうみても、じゃれあっているようにしかうつらない。
「何だかなぁ。あれ?僕のも?」
ふときづけば、なぜかその箱はエミルの元へも。
ゆえに、エミルが首をかしげてリーガルに問いかけるが。
みればどうやらミトスのものもある、らしい。
「うむ。ちなみにデザインは神子が選別している」
しごくまじめな表情でいうような内容ではないような気もするが。
リーガルの言い分から察するに、この箱の中の水着類はおそらくゼロスが選んだ、のであろう。
「…ゼロス、何やってるのさ」
リーガルの台詞にあきれたような言葉がジーニアスからゼロスにとむけられる。
「はいはい。あなたたち。ここは食堂なのだから。
  他にもお客がいるのだから迷惑をかけないの。
  とりあえず、私たちも食事にしましょう。
  今後のことは食事を終えてから一部屋にでもあつまって話し合いましょう」
異界の扉を調べるにしても、教皇たちの出方もきになるところ。
オゼットにいるはずのケイトをまた教皇が利用しない、とも限らない。
そんなことをおもいつつも、ロイド達をたしなめるリフィル。
実際、今現在ここにいるのは彼らだけではない。
ゆえにリフィルの言い分にも一理ある、といっても過言では…ない。


~スキット:真の平和って?~メルトキオ:夜食堂にて~
マルタ「ここ、テセアラって平和そうでいて。でも裏ではいろいろとあるんだね。
     現実のディザイアンとかいう脅威がないからおとぎ話の国。
     テセアラは平和なんだってずっとおもってたけど」
リフィルにたしなめられ、ひとまずそれぞれが素直に今は夕飯タイム。
窓の外にみえている景色は月のあかりにてらされて、
海原がきらきらときらめいている。
街並みもいくつもある街頭にいろどられ、
夜でもふつうに歩くのに不都合でないほどの明かりが確保されている。
彼らがついている席は窓際の席。
ゆえに外をみつつもマルタがぽそり、と誰にともなくつぶやきをみせる。
ゼロス「たしかに一見、平和にみえても。ここテセアラは金持ちと貧乏人の差も激しい。
     俺様がうまれたときから神子だったみたいに、みんな生まれたときから身分が決まってる」
かちゃり、とフォークとナイフを優雅にあつかいながらも、
ゼロスがそんなマルタのつぶやきに返事をかえす。
それが今のテセアラの現状であり、ヒトビトはそれを当たり前、として担っている。
ハーフエルフ法が施行されたときにすら、上がいうのだからそれが正しいのだ。
とあるいみ洗脳じみた状態で、表だって異論を唱えるものはいなかった。
当時のゼロスを除いて。
ハーフエルフもマーテル教でいう人は平等の一員なのだから、
そもそも、エルフとヒトが混じって生まれた彼らもまた、
自分達の一員なのだからそんな差別は間違っている。
神子、としてゼロスは声をあげたが、その声は黙殺された。
ゼロスが旅にでているあいだに教皇が強制的に法律を施行した。
セレス「そうですわね。だからこそ、親は子供をてばなし、
     すこしでも貴族の恩恵に、と貴族の屋敷の前にわが子をすてるものもいるとききますわ」
ロイド「何で子供を……」
前にもそんなことをきいたような。
それでもロイドにはそれが理解できない。
しいな「それはだね。うまくすれば、その家の養子。
     もしくはそこの奉公人として育ててもらえたりするからだよ。
     貧民街のものはどうしても就職にも差別されるからね。
     生まれたときから働ける場所も限られてしまっているのさ」
誰しも子供をつらい目にあわせたくはない。
だからこそ、親は生まれた子供をすこしでもよりよい生活のために。
と苦渋の決断をすることがある。
もしくは、生きながらえさせてつらい思いをさせるよりは、と生まれてすぐに殺す親すらも。
それらはすべて生活に貧窮している者たちが、生きてゆくために行うこと。
それがここ、テセアラではまかり通っているこの現実。
リフィル「この国にもいいところもあれば悪いところもある、ということなのでしょう。
      実際、この国の研究施設は素晴らしいと思うわ。
      でもその恩恵をさずかれるものも限られている」
ジーニアス「姉さんが素直に食事の場にやってきたのがすごいと僕はおもうけど」
リフィル「仕方ないでしょう?もう資料室は閉めるというのですもの」
でなければ、リフィルは徹夜してでもあの資料室にとこもっていた。
リーガル「だからこその我が社だ。わがレザレノ・カンパニーは。それこそ。
      そういった身分にとらわれることなく、
      だれでも豊かさの恩恵が手にはいるように尽力をつくしている。
      もし世界が統合されたのちも、わが社は全力で、互いの世界をサポートしてゆくつもりだ」
実際、リーガルはそれも視野にいれ、その旨を資料にとまとめている。
一度、あちらにいったからこそわかる。
シルヴァラント側に必要なのは何か、ということが。
リーガル「そのためにも。世界を統合しなければな」
リフィル「ええ。すくなくとも、あとひとつ。楔をぬけば、種子は目覚める、そのはずよ」
ユアン達が失敗しない限り。
そのはず、なのに。
何かを見落としているような。
漠然とした不安はいまだにリフィルの中にと根付いている。
それにミトスが何もいってこない、というのもきにかかる。
自分達が精霊と契約するのを彼は快くおもっていないはず、なのに。
まるで、好きにすればいい、というように止める気配がほとんどない。
コレット「…でも、そうしたら。マーテル様が死んでしまうんですよね」
一同(エミルを除く)『・・・・・・・・・・』
ロイド「…何かいい方法はないのかな。
     勇者ミトスの姉さんだっていうマーテルをも助けて、
     コレットも助けて、大樹をよみがえらせる。その方法が」
リーガル「そんなものがあれば、とっくにクルシスとやらがしていたのだろう」
しいな「だね。だからこそ、四千年もこんな世界になっちまってるんだろうし」
ロイド「俺。バカだからよくわかんないけど。
     でも誰かを犠牲にして助かった世界なんて……」
リフィル「ロイド。あなたの考えは尊いものよ。
      誰かが犠牲になるのはいやだ。犠牲にするのもいやだ。
      すべてをたすけたい。ヒトならばそうおもうでしょう。
      でも、かならず人は何かを選ばなければいけないの。
      そして選んだ道に責任をもたなければいけないのよ」
ロイド「・・・・・・・・・」
コレット「大樹の精霊さん、とかにたのんだらだめなのかなぁ?」
リフィル「難しいでしょうね。そもそも精霊達もいっていたでしょう?
      勇者ミトスは精霊との契約をたがえている、と。
      精霊の性格にもよるかもしれないけど、
      信頼していた相手に裏切られた、としったら逆に自暴自棄になる。
      その可能性すらあるわね。たとえば…
      地上にヒトなんて必要ない、といって死滅させたり、とか。
      真実、クラトス。精霊はそのようにいっていたのでしょう?
      あなたいっていたわよね?地上をかの精霊は浄化するつもりだった、と」
海に還しすべてを無から産みなおす。
その決定をとどめ置いたのは。
しつこいほどに懇願してきたミトスの心根にうたれたがゆえ。
エミル「たしかに。…ヒトなんて世界にとっての害虫でしかない。そうおもったでしょうね」
実際あのときにそうおもったがゆえに、エミルとしてもリフィルの物言いに同意せざるを得ない。
リフィル「あら?あなたはそうおもうのかしら?エミル?」
エミル「ええ。盟約すらをたがえた人はやはり救いようがなかったんだ。
     そう…おもうでしょうね。地上の存続は成し遂げられたとしても。
     ヒトが必要か、といえば、答えは否、でしょうし。
     努力するようなヒトもいますけど、それ以上に救いようがないものが多すぎる。
     リフィルさんたちだってそうおもいません?
     何かあれば、すぐにたよろうとしても、いざとなったら裏切られ。
     ・・・・・・信用していたら特にその絶望は大きい、とおもいますよ」
精霊、とわかっていても友達になろう、といって態度をかえることなく、
純粋に、自分をしたってくれていたあのときのミトス。
うるさい、といいつつもきづけば来訪を楽しみにしていた。
彼らの旅を視ているだけでも楽しかった。
それに。
――契約で縛ることはしたくない。
  だって僕、きみと友達になりたいんだもの!
  だから、約束だけで君をしばることはぜったいにしない!
――なら、盟約を交わす、というのでいいか?
あのとき交わしたあの約束。
結局あのとき、かつてのときは裏切られた。
それも最悪な形で。
大樹の名が書き換えられ、ミトスの魂は新たな苗木となり。
自らをコアにして扉に封印しようとしていたあのときのマーテル。
そして、彼ら人がそんな結果をもたらしたというのに、
自分にどうにかしてほしい、といってきたアステルとリヒターという人間たち。
クラトス「…なぜに地表の存続はなされる、といえるのだ?」
エミル「では逆にききますけど。ミトスが交わした盟約。クラトスさんは知ってるんですよね?」
クラトス「・・・・・・・それは・・・・・しかし、なぜにお前が……」
ミトス「・・・・・・・・エミル?」
本当にしっているのだろうか。
自分がラタトスクと交わした盟約、を。
地上の存続。
大樹の目覚め。
そして、そして……
これまでのエミルの言動。
だからこそミトスは戸惑わずにはいられない。
エミル「僕、ちょっと外の空気、すってきますね?」
考え込んだミトス達をそのままに、その場からかたん、とたちあがり、
そのまま食堂を後にしてゆくエミルの姿。
マルタ「…エミル?なんか、いつもと何かがちがってたような?」
リフィル「…で?クラトス?その盟約、というのは?」
クラトス「……地表の存続、だ。当時マナ不足でどんどんと大地が消滅していた。
      われら人がマナを大量に消費し、あげくは大樹を枯らしたせいで。
      大地の存続すら不可能になっていたのだ。
      だからこそ、ミトスは今のこされている大地を救うために。
      世界を二つわける、という提案をした。
      限られたマナで地上を救うために。大樹をよみがえらせる仮の手段として」
ロイド「でも、世界が二つわけられたからどっちがが苦しむ世界になってるんだぞ!」
クラトス「が、ミトスがそれをしなければ、大地はことごとく死滅し。
      世界は海にと還っていただろう。ロイド。お前はどうする?
      ではお前ならばどちらを選んだというのだ?
      世界を二つにわけ、次に飛来する彗星を利用すれば
      大樹をよみがえらせ、豊な自然をとりもどせる。が。
      当時ですら次の彗星が飛来するのに数十年もかかる時間があった。
      あのままでは確実に、大陸一つすら存続していたがとうかも怪しいな。
      二つの世界にわけたからこそ、大地はあるがままの姿でたもたれた」
ロイド「でも!どっちがが犠牲になる世界がそのときうまれたのは事実だろ!」
クラトス「が。そうしなければすべては滅んでいたのだ。
       おまえはならば、何もせずに。滅びをまてばいい。そういうのか?」
ロイド「そうはいって!」
そうはいってない。
ロイドがおもわずクラトスにくってかかろうとするが。
ロイドが全部言い終わるよりも先に、
クラトス「お前のいっているのはそういうことだ。
      相手を否定するのはかまわない。がもう少し物事をよく考えてからにしろ。
      当時、世界を救うには、たしかにミトスの提案。
      世界をわけてマナを交互に利用する、その提案は、
      大地を存続させるのにあたって画期的ともいえた。
      事実、マーテルが殺されるまでは精霊達との盟約のもと、
      一年ごとにマナを精霊達が循環させていたがゆえ、
      世界にマナが歪むようなこともありえなかった」
くるってしまったのはマーテルが殺されてから。
リフィル「地上の消滅する可能性。また世界を分けてでも世界を存続させる。
      選ぶとすれば間違いなく後者だわ。
      たしかに、地上を消滅させるわけにはいかないでしょうね。
      つまり大地がなければいきていけない命すべての消滅なのだから」
誰が、なぜ、どうして世界を二つにわけたのか。
当事者でもあるであろうクラトスの口からきくのと、想像するのとでは、わけが違う。
クラトス「あのとき。二つの陣営が攻撃さえしてこなければ。
     …大いなる実りを独占しようと争いをしかけてこなければ。
     マーテルは最後まで彼らに抵抗した。
     その命をもってして大いなる実りを守り切った。
     マーテルの犠牲で種子は失われずに済んだのだ。
     ……大切な仲間をよみがえらせたい。そう思って何が悪い?
     たしかに、あのときマーテルは死んだ。
     が、魂だけは生きながらえていた。
     精霊たちとの契約をたがえてでも、成し遂げたかったのは……」
ミトス「・・・・・・・・・・・・・」
ジーニアス「でも、何でそれで四千年も……」
クラトス「…それに関しては何も私からはいえぬ」
マルタ「一番の原因は、結局、種子を手にいれようとした当時の人々。
     彼らが大いなる実りっていうのを独占しようとしたからなんでしょう?」
クラトス「そうだな。…あのとき、ミトスは種子を芽吹かせる準備のために。
      彗星ネオ・デリス・カーラーンに赴いていたからな。
      その隙を二つの陣営はねらって戦いをしかけてきた。
      互いの国が種子をマナを独占しようとしてな」
その結果、世界がどうなるかすらかんがえることなく。
ただ、互いの国の欲のためだけ、に。
ロイド「それでも、どっちかが一年だけでも犠牲になるのは……」
マルタ「で、ロイドはじゃあ地上が消えて全員、死んでもよかった、と?」
ロイド「そうはいってないだろ!」
ジーニアス「いってるようなものだとおもうけどね。
       当時、どっちかを選ぶしかなかったっていうんだったら。
       …うん。僕も世界を存続させるほうをとるよ。絶対に。ロイドは?」
ロイド「・・・・・・・・おれは……でも、誰も、何も犠牲にしたくないんだ」
セレス「というか。優柔不断っていわれませんこと?ロイド?」
ロイド「うぐっ!」
ゼロス「そんなんじゃ。ロイドくん。いずれ大切なものを完全にうしなうぜ?」
しいな「そうだね。世の中、取り返しのつかないこともあるんだから」
ロイド「…そう、だけど……」
それは、ハイマにてしいな、そしてクラトスからいわれた台詞。
世の中には、取り返しのつかないこと、やりなおせない間違いがあるのだ、と。
マルタ「…エミル、もどってくるかな?」
セレス「さあ?でもいつもと違ってましたわよね。何となく」
マルタ「うん」
リフィル「・・・・・・・・・・・クラトス。
      あなたたちが精霊ラタトスクと交わした約束。
      そのあたりを詳しくおしえてくれないかしら?」
クラトス「それに関しては詳しくはいえぬ。…私の口からは、な」
リフィル「…そう」
ミトス「・・・・・・・・・・・エミル・・・(君は、いったい…)」


※ ※ ※ ※


「守備は?」
『滞りなく』
ミトス達をあの場にのこし、外にでてきたのはセンチュリオン達からの報告ゆえ。
念話をとばし確認をとれば、八柱すべてから問題ない、との返事がもどってくる。
「プルートもどうやらある程度力をつけたようだしな」
まあ、いらない知識まで覚えてしまったようなので多少問題があるような気もするが。
「さて、あのものたちはどちらを先にするか。
  ルナのもとに先にいくとなれば、大地の理の変更と活性化。
  それを同時に行うが、ソルム、ノーム達のほうへのつなぎは?」
「問題はありませぬ」
すでに力を失いかけているとはいえ種子は種子。
あのまま発芽すればそれこそ暗黒大樹、としてもなりたつほどに穢れにつつまれた大いなる実り。
それほどまでにかの種子にまとわりついている人の思念は果てしなく多く、強い。
理の変更とともに、二度とヒトが精霊石を悪用できないようにかきかえる。
それにより、ヒトは石を手にすることすらできなくなるであろう。
そしてそれは、かの地にあるすべての精霊石にもいえること。
あの地にもともとあったもの以外はすべて穢されている。
一度、自らがすべてとりこみ、穢れをとりはらい、そしてあるべき姿に孵化させる。
「彼らは文句をいうのだろうが、仕方がなかろう」
自分にはやるべきことがある。
彼女には未来の記憶もみせたがゆえ、力のとある使い道。
それも把握していることだろう。
彼女が来るのが先か。
それとも、リフィル達が異界の扉からあちらにいくのが先か。
おそらく、彼女の行動からするに、彼女がこの地にくるほうが先になるはず。
「…あのものが、ミトスの心をもとにもどしてくれれば一番いいのだがな」
すでに懸念となりしものは存在していない。
すべての鍵はあの女性が握っている。
唯一、今現在、ミトスが心の底から心を開けるあの人間が。



夏だ、海だ、砂浜だ!
どこからともなくそんなこえがきこえてきそうなほどの澄み切った青空。
結局、昨晩はそれぞれ考えさせられることが多すぎた。
それぞれ思うところもありつつも、用意された部屋にてそれぞれ一夜を過ごした。
結局、エミルは朝になるまで割り当てられた部屋にもどってくることはなかったが。
クラトスがいうには、エクスフィアとよばれているそれは、
世界を構成するに必要なる微精霊達の卵である、という改めての説明。
そして人がそれを使うにあたり、
微精霊達を狂わせて、強制的にその力をつかっていると。
つまり、エクスフィアをつかうかぎり、人は世界を壊しているといってよい。
知らなかった、ではすまされない。
が、古代大戦といわれていた時代でも、その真実はほとんど知られてはいなかった。
知らなかった、ではすまされない過ち。
人が精霊達を孵化させることなく穢し、殺すことにより、
世界によりマナはすくなくなっていき、世界は死滅していってた。
シルヴァラント側のマナが少ないのもあるいみ道理。
ディザイアン達の施設にて、マナを運ぶ微精霊達を穢し狂わせ、
そしてまた。
魔物達も害あるものとして殺しつくしていっていた。
魔物がいなければマナは紡げない。
魔物こそが本来、マナを安定させる役割をもつものだ、というのに。
さらにはシルヴァラント側には瘴気の影響もあり、魔物達が瘴気によって狂わされていた。
そこまでクラトスやロイド達は知る由もないが。
時には休息も必要でしょう。
いろいろあったもの。
そういうリフィルの意見もありて、今日一日はちょっとした休日タイム。
時間はないのもわかっている。
が、急いては事をし損じるのことわざにもあるように。
すこしばかり休息し、考えをまとめる日も必要だ、とはリフィルの言い分。
たしかに、考えるばかりで追い詰められた状態においては、
ヒトはろくなことを思いつかない。
それこそ、意味がないというのにかつて、世界に生贄をささげ、
自然の怒り…そう当時のヒトビトが認識していた出来事を収めようとしたように。
そんなことをしても意味がない、というのに。
それで喜ぶのは魔族達くらいなもの。
その魔族達が人々に余計なことを吹き込んだ結果、めんどくさい文化がヒトの中に浸透していった。
一時、あった生贄を普通におこなう文明が何よりの証拠、といえる。

先日騒ぎがあったばかり、だというのに。
昨日よりも海にでている人々の姿がかなりふえている。
ロイドの水着はどちらかといえば半ズボン。
額には水中眼鏡と、そこからシュノーケルがのびている。
紺色の生地にその横に白い線が二本はいっており、水着、というよりは普段着にもちかい代物。
プレセアは上下にわかれたビキニタイプの水着であったらしく、
足元のサンダルと、そして髪をまとめている白いシュシュ。
それらもどうやら一緒にはいっていたらしい。
いつもは二つにくくられている髪は一つにまとめられ、
白いシュシュには髪をまとめる小さな網がついており、
それによって完全に髪はまとめられているらしい。
「なんであたしだけこんなきわどい服なんだよ!!」
ふとみれば、しいなががくがくとゼロスを捕まえ、
何やら肩をつかんで文句をいっているのがみてとれるが。
しいなの水着はいわゆるハイレグ、といわれているものであり、
さらにはV字型につくられているそのつくりは、
しいなの胸元を異様に強調しているといってもよい。
赤い水着と足元に赤いサンダルはあわせているのであろう。
リフィルもやはりビキニタイプではあるが、腰にパレオがまかれており、
色彩も濃い紺色、どちらかといえば黒に近いがゆえに、かなり落ち着きをみせている。
ゼロスはきわどいハイレグの水着にて、その額に髪をたばねるバンダナが光っている。
セレスは体の弱さを配慮しているのか、
というか今のセレスはもはやもう健康体の何ものでもないのだが。
ぱっと見た目は普通の服にもみえる、
フリルのスカートのような上下つながっている水着、ちなみに色は淡い桃色。
マルタはぱっと見た目がわんピースのような水着ではあるが、
淡い紫色の花柄模様の水着にて、その下部分は完全にスカート状態となっている。
「というか、ゼロスさん。なんで僕、こんな服なんですか?」
どうやら水着と上着がセットのものであるらしいが。
なぜにそれはそうと、花柄、しかも桃色、なのだろうか。
「いや。それより。マフラーをとってないエミル君に俺さまびっくりだよ」
ちなみに、形的にはもともとの上着とあまり長さもかわらない。
髪はひとまず海、ということもあり、三つ編みにし左右に二つにわけてあり、
そこをシュシュでかるく束ねていたりする。
はたからみればどこからどうみても女の子。
しかもなぜか海だというのにマフラーをしている少しかわった女の子。
としか間違いなくみえないであろう。
「うわぁ。エミル。かわいいよね」
「ありがとう。ってこの場合いえばいい、のかなぁ?」
サイズはきちんとしたものがわからなかったらしく、一応市販のMサイズのそれだったらしく、
それでも一応体にあわせて多少マナを紡ぎなおして修正しており、
ゆえに、今現在のエミルがきている服は、
これまでもきていた服と同じくぴったりその体にフィットしているのがみてとれる。
マフラーを巻いているがゆえに、首筋と鎖骨のあたりが隠されており、
色白の肌に桃色の水着。
そして真っ白いまでの染み一つすらみあたらない素足。
細い腰もあいまって、どこからどうみても女の子、としかエミルの姿は映らない。
まあ、ロイドやジーニアス、そしてゼロスのような服装もまたこまりはしたが。
それならばまだ全身を包み込むようなタイツのような水着でもよかったような。
それこそ、クラトスがきているような。
クラトスはといえば、体にぴったりとフィットしている黒い服。
ちなみに手や足の部分には白い線がはいっており、
その見た目からはわからない筋肉質の部分も水着を通して体の構造がみてとれる。
きっちりと手首あたりまであるそれは、手の甲あたりにまでのびており、
服の前方、つまり服の中心にはファスナーがみてとれる。
ちなみにこの服はたしか、ホテルの中でも売られていたものとほぼ同じ。
クラトス用をつくっていたのか、それともこういうデザインのものがあったのか。
たしか、価格は一万ガルドそこそこといったあたりであったはず。
しかも、しっかりと首元にはなぜか笛がかけられており、
ぱっとみため、どこからどうみてもライフガードにやとわれている人物。
としかクラトスの格好は思えない。
コレットがエミルの服をみてほめたようにいってくるが、
それにエミルは苦笑するしかできない。
ちなみにミトスはゼロスの多少の抵抗なのか、もしくはいたずら心か。
横縞模様の白と青を基準としたワンピースタイプの水着に、
さらにはなぜかきっちりと同じような帽子まで。
全部きこなせばどこの囚人服?といったようなデザインのそれとなっていたりする。
どうやら、それだと胸元の石がめだたないから問題ないっしょ?
といったゼロスにミトスはしぶしぶ珍しく折れたらしいが。
というか、ミトスまで素直に水着に着替えている、というのが何ともいえない。
まあ、ジーニアスにせがまれて、という理由があったにしても。
ジーニアスいわく、こういうきちんとした場で泳いだりするのは初めて。
イセリアで食材をもとめ海にもぐったりすることはありはしたが、
完全に遊びで、というのは初めてだから、ミトスも一緒に遊ぼう!
そういって、ミトスを誘ったのはエミルもまたみていたが。
しかし、なぜジーニアスだけ麦わら帽子、なのだろうか?
あれに網でももてば、それこそ自然をかけまわる子供にしかみえはしない。
エミルがそんな素朴な疑問を抱いているそんな中。
「さ~て。みんな水着に着替えたのもあって。さあ、いくぞ!」
なぜか異様にはりきりをみせているゼロスが、
率先し、全員をビーチにむけて先導しようとしてくるが。
「?お兄様?何かありますの?」
そんな兄の姿に思うところがあるのか、首をかしげているセレス。
「なに。騒ぎがあったあとだから。
  ちょっとイベントでもおこして人々を和ませてはどうか?
  とリーガルの旦那にいったら、即座に採用されてな。
  ま、いってからのお楽しみ、お楽しみ~♪」
何やらさいごに音符記号がついているかのようににこやかにいいはなち、
そのまますたすたとビーチにむけて進みだす。


ざわざわ。
「さあ、アルタミラ恒例!突発イベントだよ!飛び入り参加、大歓迎~!」
ざわざわざわ。
何やらざわめきとともにそんな声がきこえてくる。
どうやらここは、常に何かのイベントをする会場、であるらしい。
「ここは…イベント会場じゃないかい」
しいなが周囲をみわたしながらそんなことをいってくる。
ビーチの一角。
視線の先にちょっとした舞台が設置されており、その手前にかなりの人が集まっている。
そんな舞台の上では、一人の男性がマイク片手に何やら叫んでいたりする。
「わふ~!」
その横には、何か…
「…何、あれ?」
熊のような、そうでないような?
全身着ぐるみをきている、何かが、舞台の上で手を振っている。
それをみて、子供たちが、
「クロノア、かわい~!」
マルタが横で目をぱちくりさせている中、子供たちのそんな声がきこえてくる。
そういえば、ここアルタミラにはマスコットキャラクターなるものがいたような。
エミルがそんなことをおもっている中。
「こっちだこっちだ」
いいつつ、ゼロスは何やら人の少ないほうにとあるいてゆく。
そこはどうみても、関係者以外立ち入り禁止。
そうかかれているエリア、のような気がするのだが。
やがてしばらく進んでゆくと、
「あ。神子様!まっていました。そのかたたちが?」
「おうよ!」
『?』
おそらく、レザレノの従業員、なのだろう。
手馴れているところをみる限り、イベントを開催決定する部署のもの。
そうみてほぼ間違いはないのだろうが。
意味がわからず思わず全員にて顔をみあわせ首をかしげる。
「さあさあ、皆様はこちらへ」
「セレス、お前は俺様ときな?」
「あ。は、はい。でも、一体?」
みれば、ほかのものは、何やらプレートのような小さな番号札。
そんなものを係員らしきものからてわたされ、
それぞれ首にかけられたり、腰につけたり、胸元につけたり、と。
人それぞれ位置をかえて番号らしきものがつけられる。
「あ、僕、自分でしますから」
ふと、係りのものがエミルのつけているマフラーに手をかけようとするのを、
やんわりととめて、ひとまずマフラーの手前に番号札をつけるエミル。
「エミルくんもそれ、はずせばいいのに」
「それはしたくないんですよね」
エミルからしてみれば、今きている服は自分が創造ったもの、ではない。
ゆえにヒトの姿に模したときにかならずある自分を示す紋章。
その気配を遮断するのは難しい。
それでなくても気配そのものは自らはかくしていても、紋章がもつ力もまた絶大。
紋章だけでも力を感じるものは感じてしまうであろう。
そのためのこのマフラー。
鎖骨の上付近にある蝶の紋章。
それを隠し気配を遮断するためにも外すわけにはいきはしない。
ゆえにゼロスの言葉に苦笑しながらもこたえるエミル。
「ま、いいけどよ。さ、セレス、いこうぜ!」
「あ、は、はい?」
「さあ、皆様はこちらへ。さすがは神子様ご推薦の方々。
  きっと今回のイベントはもりあがりますよ!」
にこやかにそんなことをいってくるが。
「あ、あの?いったい、何があるんですか?」
何の説明もうけていない。
ゆえに問いかけるエミルはあながち間違ってはいないはず。
「おや?神子様からおききしてませんか?」
「?」
神子、といわれ、コレットが首をかしげるが。
すぐにそれは自分のことではなくゼロスのことだ、と思い至ったらしく、
こてん、とさらに首をかしげていたりする。
「これですよ。今朝すりあがったばかりのものですけど」
いいつつも、ぴらり、と一枚の紙らしきものを手渡してくる。
そこには。
【アルタミラ恒例!突発的イベント!男女混合水着イベント!
  皆様、是非とも飛び入りでも参加ください!
  今回は何と神子ゼロス様が進行役としてゲスト参加いたします!】
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ!?』
それに目をとおし、思わず全員の声が一致する。
そこには、なぜかバラの花をもったゼロスのイラストがかかれており、
皆の参加をまってるぜv
とハートマークが飛ばされている絵とともに、会場の場所の案内と地図らしきもの。
それと時刻らしきものが記載されているのがみてとれる。
というか、ゼロスのイラストをかいたであろう人物は、かなり手を加えているというか何というか。
イラスト中のゼロスは片手に薔薇の花をもち、
それをゼロスの口元らしき場所にとあてており、
しかも、ゼロスの表情はウィンクしている、という徹底ぶり。
「…なぜ、私まで……」
ふとみれば、ここにつきあわされてきているクラトスが何やらいっているが。
「え、っと、クラトスさんはきかされてなかったんですか?」
てっきり、昨日リーガル達と会話をしていたがゆえに、知っているとばかり思っていたが。
「いや。開催はきいていた。が、私にまでなぜに番号札があるのだ!?」
案内された場所には看板が立てかけられており、
参加者控えの場。
そのような言葉がかかれているのがうかがえる。
そしておそらくは、このチラシをみてやってきた、のであろう。
ちらほらと他のものもこの場にやってきているのがうかがえる。
ほとんどが女性、なのがかなりきになるが。
「わ、私はこんなものには参加しなくてよ?」
リフィルが何やら抗議の声をあげているが。
「ゼロス様推薦なのですよ?辞退は認められません。神子様の沽券にかかわります」
「うっ」
「?こけん?ほけん?」
きっぱりいわれ、リフィルが言葉をつまらすと、
それをきき、ロイドが首をかしげ本気でそんなことをいってくる。
「沽券、です。品位や体面にさしつかえるという意味よ。
  まったく。今後はことわざなどの授業も増やしていくべきね。
  やはり、毎晩確実に授業を再開すべきべきよね……」
ぶつぶつとリフィルが何やらつぶやきはじめるが。
「げ。やぶさめっ」
「…ロイドさん。それをいうなら、やぶへび、です」
すこしゆったりとした、かなりシワが多くみられるビキニタイプの水着。
それは胸元を覆う布と、下半身の布。
プレセアのだけはほかのものより布が多めにつかわれているらしい。
エミルがみるかぎり、それらの材質は多少の伸縮が自在の材質になっているらしいが。
それに他のものがきづいているのかどうかまではわからない。


「皆、よくあつまってくれたな!」
『きゃぁ~!神子様よ!本物のゼロス様よ!きゃ~!ゼロス様ぁぁ!』
黄色い声が会場に響き渡る。
どこからききつけたものなのか。
会場内には女性の姿がかなり目立つ。
「神子様。今世界はいろいろとおこっていますが。
  噂では天界が神子様をないがしろにしているこの国に制裁を。
  と動いているのでは、というものもあるのですが、そのあたりは?」
「まあ、かつての教皇が原因、というのは確かだな。
  しかし、俺様はかつてのスピリチュアの悲劇を防ぐため。
  できうるかぎりのことをしているつもりだ。
  今もまた旅業をそのためにしているしな」
嘘も方便、というべきか。
旅をしているのは本当なれど、それは旅業、などではない。
進行役のものが、国民を代表したような質問をなげかけており、
それににこやかにこたえているゼロスの姿。
その姿は堂々としており、人々にちょっとした安心感をあたえるには十分すぎるもの。
「ま、今日はそんなことは忘れて。たのしもうぜ?
  さあ、今日、俺様をエスコートしてくれるのは。
  俺様のかわいい、かわいい妹セレスだ!」
「お…お兄…でなかった、神子様!?」
さすがに人前。
しかもかなりの人数。
ゆえに、他者の目もあるので言い直しているセレス。
闘技場はまだ離れていたからこそ、人前、という認識は薄かったが。
あちらはどちらかといえば高い位置から人々に見下ろされていた。
ゆえに、視線を上にむけないかぎり、人々の姿は視線にははいってこなかった。
が、今回は自分達が上におり、嫌でも人々の姿が目にとまる。
「しかし、神子様。神子様の妹御は修道院にいたのでは?」
神子の妹が南海の修道院にあるいみ、
教皇の手によって幽閉されている、というのはテセアラの民ならば、
大概のものならばしっている。
「それも天界の怒りに触れている原因だな。
  神子の血族をあんな場所に閉じ込めておくのは何事だ。
  というのが天の意向らしい。こうして俺様が共にいるのが何よりの証拠」
正確にいえばかの地が教皇の手のものに襲撃されてしまったからなのだが。
いまだにその事実をゼロスはセレスに伝えてはいない。
「なるほど。たしかに。元教皇の神子様にたいする態度はあからさまでしたからね。
  神子をないがしろにしている、と天界におもわれても不思議では。
  しかし、スピリチュアの再臨とは。
  噂ではすでに天界の使者である天使があらたにあらわれた、とか?」
「そっちの使者のほうは俺様の意見に賛同してくれて納得してくれたぜ?
  問題は天界そのもの、だな。どうもまだ怒りが収まっていないらしい。
  ゆえに、まだ世界には混乱がつづくかもしれねえが」
「まだ、ですか…。さて、神子様の口から今の現状を教えていただいたところで、
  では、今回の突発イベントを開催したいとおもいます!
  進行役は、この私と、アルタミラの誇るクロノア!」
『きゃ~!クロノア、かわいい~!』
「わふ~!!」
ぶんぶんときぐるみの熊のような小さな手をふりつつ、
人々の声援にこたえるクロノア、とよばれし熊もどきの着ぐるみの人物。
熊のような姿ではあるが、緑の服に緑の帽子をかぶり、
ぱっと見た目は二足歩行をしている毛の生えた何かが、人の服をきている。
というようにみえなくもない。
手触り重視、であるらしく、着ぐるみにつかわれている毛は、
実際の動物の毛をつかわれているらしく、ふわふわの感触と、
そしてその手にありし肉球もまたなぜかこだわりがあるらしく、
ひんやりとした冷たさの中にぷにぷに感がしっかりとあるらしい。
ちなみに肉球の中には人工的につくられたスライムの感触をもつものが使用されており、
それによって、独特な感触をかもしだしている。
「それでは、エントリーナンバー、一番!
  俺様が一番おすすめする、何ととある地方で教員をしている銀髪美女だぁ!」
ゼロスはどうも進行役、というのに手馴れているのか。
ぴしっと手をつきだして、そんなことをいいはなつ。
「まったく、どうして私が……」
しかも、一番はじめ。
しぶっていたリフィルだが、あなたが舞台にでてくれないと進みません。
と係り員たちからいわれ、しぶしぶながらも舞台にとあがるリフィルの姿。
たしかにリフィルの腰には一番、とかかれているプレートがつけられたが。
つまり、リフィルが一番手に初めからきめられていたらしい。
「うお!?なんという美人!さすが神子様おすすめ!
   銀髪美人教師、とは何ともおいしい!」
進行係りであろう人物が、会場内にむけて何やらそんなことをいっているが。
『うぉ~!!』
『ま、まけたわっ』
何やら男性陣からは雄叫びのようなものがきこえ、
女性陣からはくやしがるようなそんな声が会場内部からきこえてきているが。
「いやぁ。あなたのような美人に教鞭をとってもらえるとは。
  あなたの教え子たちは幸せものですね」
「あら。お世辞でもありがとう。というべきなのかしら?」
マイクらしきものをむけられ、リフィルもどうやら覚悟をきめたのかそんなことをいっているが。
「では、ご当人からお名前と、何か一言いってもらいましょう!」
「リフィル・セイジよ。イセリアという村で教鞭をとっているわ。
  神子ゼロスとはちょっとしたご縁で旅の同行をさせてもらっているわ」
「まさか、神子様の恋人ですか?」
「いやぁ。この俺様にもリフィル様は高値の花ってな」
係りのものの言葉にさらり、と否定の言葉をいっているゼロス。
「しかし、イセリア、とは聞いたことがない…もったいない。
  あなたのような人ならば、王都でも王立学術所でも引く手あまたでしょうに」
それは、彼らがリフィルをハーフエルフだ、とは認識していないがゆえ。
衰退世界と繁栄世界。
とある事情から今ではそういった世界なのだ。
というのは一応理解していても、衰退世界側の村や町の名まで知られているわけではない。
ゆえに、イセリア、というのはここテセアラの中のどこかにある、
小さな村か何かだろう、とほとんどのものが認識していたりする。
マイクをむけてそういいつつも、
「それで、ご趣味は?」
「趣味というか、私は学者をも兼用しているわ」
「ほう。それはどのような。美人学者とはまたすばらしいっ」
学者、といえばどうもむさくるしい男性達を連想してしまうが。
こんな美人が学者であるならば、それこそ講座の講習をうけるものも増えるであろう。
そんな思いを抱きつつ、あるいみ地雷でもある質問を投げかける。
まさかそれが地雷である、とも知らずに。
「うむ。それは考古学といって、様々な古代遺跡を……」
「…やばっ。リフィル様にはそれは禁句っ!」
ゼロスがはっと気づくがすでにおそし。
リフィルの口から考古学のすばらしさが延々とその場においてかたられてゆく。
会場内があまりのリフィルの饒舌ぶりと、
見た目とのギャップに思わずひいているのにもかまわずに、リフィルの講座はつづいてゆく。

「さ、さて。お話もまだつづくようですが。次が迫っていますので」
「あ、まだ話はおわっては!そもそもだな……」
「はいはい。リフィル様は控室にもどってな~。
  さあ、お次は熱血バカという言葉がふさわしい人物の登場だ!」
「って、誰が熱血バカなんだよっ!」
ゼロスの言葉に抗議の声をあげつつも、
まだよんでもいないのに、だっとかけだし、舞台の上にとあがっているロイドの姿。
ちなみにロイドの腰には二番、のプレートが。
「神子様に何て口を…さて。君の名は?」
「え?お、おれか?というか人に名前をきくときは、
  まず自分から名乗るのが礼儀ってもんじゃねえのか?」
自分の顔をゆびさしつつ、それでいて何かよくわからない、
筒の先にまるい何かがついているようなそれをつきつけている人物。
そんな彼にとむかって言い放つ。
「この野蛮でガサツなのはロイド・アーヴィングってな」
「だから、誰が野蛮だ!誰がっ!」
「そういうところを野蛮っていうんだよ。ロイド君。
  会場の皆様はこんな野蛮人になっちゃだめだぞ~!」
「あのなぁっ!」
「え、え~と?とりあえず、一言もらって次にすすみましょう。何か一言」
「え?」
いきなりそういわれても。
ゼロスにくってかかろうとしていたロイドだが。
いきなりその場にいるもうひとりの人物に話かけられ、一瞬とまどい、
「えっと。ドワーフの誓い第二番。困っているひとをみたら必ず力をかそう!」
「はい。ありがとうございました。ドワーフとは。
  伝説の生物をもってくるあたり、多少お茶目ですね。
  たしか生存が確認されているのはたったの一人、ということでしたが。
  しかし、ドワーフに誓いなんてものがあるんですかねぇ」
「あのな!ドワーフの誓いは絶対的なものなんだぞ!
  きちんといえないと、食事ももらえないんだからな!」
『・・・・・・・・・・・・』
そんな彼…ロイドの言葉に会場内だけでなく、
その場にいたゼロス、セレス、そして進行係りまでもが無言になりはてる。
ロイドの事情というか事情をしらないものがきけば、
何をあの子いっているの?という言葉でしかありえない。
「はいはい。ロイドくんはとっとと控室にもどりな~。よ~し次々~」
「あのなっ」
いまだに文句をいいかけるロイドをがしっとつかみ、
ずるずると後ろにひこずってゆくのは、
さすがにそれ以上、会場にて醜態をさらすのを懸念したのであろう。
奥からでてきたリフィルがそのままロイドを強くひっぱり、
その反動ですこしこけたロイドをそのままにずるずるとひこずりながら奥にと消えてゆく。


元々、参加するためにやってきていたものたちや、
飛び込みで参加していたものたち。
一行は数名づつ、区切られ、まとめて舞台にあがるようになっていたらしい。
エミルとミトスはなぜか一行の中では最後のほうにくみいられられており、
クラトスなどは呼ばれて一応前にはでるが、終始無言のまま、
しかなく次なるものがよばれた、という経緯があったりしたが。
いきなり始まった水着イベントというかコンテスト。
問答無用でゼロスにつれられ、そして強制参加となっている一行。
そんな中。
「では、次なるエントリーナンバー、三十番!」
「あ。次はエミルだよ」
「だね。というか僕もいかないとダメなのかなぁ」
あまり気がすすまない。
ないが、組み入れられてしまっている以上は仕方がない。
自分の手前にはミトスが呼ばれており、
ミトスの格好は全身が縞模様の水着でおおわれており、
ぱっとみためどこぞの囚人服なのではないか?というような水着のチョイス。
着こなすときにはしっかりと、という心情であるがゆえか、
しっかりと頭に縞模様の帽子までかぶったミトスは、
ぱっと見た目、それがミトスだ、とは知り合いですらわからないであろう。
実際、とある報告のためにこの場にやってきているユアンが実は会場内にいるのだが、
そんなミトスの姿を舞台の上にみとめ、頭をかかえていたりするのだが。
ユアンがこの場にきていることに、どうやらロイド達は気づいていないらしい。
溜息をつきつつも、舞台の上へ。
「おおっと、これは男の子とも女の子ともわからない人物だぁ!
  えっと、ぶしつけだけど、きみ、どっち?」
「どっちとおもいます?」
完全に今の姿は性別をこれ、といって固定しているわけではない。
一応、元としているアステルは男性なれど。
そもそも、どちらでもない、というのが正しいがゆえ、
少しいたずらっぽくも、そんな進行役にと逆にといかけるエミル。
「これは一本とられましたな。では、お名前を」
「えっと。エミル、です」
エミルがぺこり、と頭をさげるとともに、
『きゃ~!かわいい!もしかしてあれで男といったら、属にいう男の娘!?』
『も、もえる、ぺったんこの胸の女の子もまたいいっ』
「・・・・・・・・・・・・・」
何か会場内部からあまりよくないような声がきこえてきているような。
「君はどこからきたのかな?」
「え、えっと……」
どこから、といわれて答えに困ってしまう。
ここは秘密です、と逃げるべきなのだろうか?
エミルがそうおもっているそんな中。
「ずいぶんと楽しそうなイベントを開催しているのですわね。
  いやですわ。私もさそってくれなければ」
「・・・・・・・おい」
思わずその声をきき、低い声をだしてしまうエミルは間違っていない。
絶対に。
「おおっと!これは謎の美女の乱入だぁぁ!
  今回のイベントは飛び入り参加は大歓迎です!
  しかし、舞台に直接でてくるつわものがいた!色白の美人さんだぁ!」
その姿をみて、何やら興奮したように叫んでいる進行役の人物。
「・・・・・」
頭がいたい。
というかなぜにまたその姿なんだ?
と切実にいいたい。
ものすごく。
そんなことを思いつつ、
その場にてこめかみに手をあて深く溜息をつくエミルの姿が目につくが。
短めの黒髪に青いカーチュシャ。
へそ出しの服装に腰にまいている布のようなそれ。
胸元を覆う布と腰につけている布。
それ以外は肌を露出しており、ところどころ刺青にもみえる模様が肌に走っている。
腰につけている布はくるぶし付近にまであるが、
完全に腰の部分より下に大き目なスリッドがはいっており、
片足をあらわにしているのがみてとれる。
突如としてふわり、とその場に出現する一人の女性。
その姿をみて何やら進行係りのものが叫んでいるのがみてとれるが。
「あれ?セルシウス様…じゃねえよな?」
その姿はどこからどうみても、氷の精霊セルシウスのそれ。
ゆえに、ゼロスが一瞬目をぱちくりさせるが、しかし、何か、がちがう。
たしかに、スリーサイズはすべて同じ。
だが、何というか決定的な何か、が違う。
ゼロスの中の美人センサーが反応しない。
「え?セルシウス、さま?」
その姿をみて、ゼロスの傍で進行係りを手伝っていたセレスが、
戸惑い気味にそんな言葉をつむいでいるが。
「いやですわ。お嬢ちゃん。私の名はちがいましてよ。おほほほほ」
その口元に手をやりて、くねくねと体をくねらせて、何やらいっているソレ。
「・・・・・は~……」
そんな姿をみて思わずエミルはさらに盛大に溜息をついてしまう。
たしかに、ミトスにそれとなくセンチュリオン達が覚醒していることを知らしめろ。
とは命じはしたが。
だからといってこれはない、とおもう。
すでに、暗黒大樹を軸とした新たな世界も安定した。
センチュリオン達の力が満ちたことにより、少しづつ隔離し区切っていた魔界。
あの地を一気にあの【惑星】に移住する準備はすでに整った。
プルートがどうやらリリス達の協力もありて、
魔界の実力者たちをすべてどうやら説き伏せたらしく、
プルートが魔界の王、として君臨しても問題はなくなっている。
だからこそ、ミトスの動向を見極めるためにも、
それとなくいつか近いうちに直接会いに行くとかではなく、
間接的にセンチュリオン達が目覚めていることを知らしめるように。
という命令を下したのは昨日のこと。
昨日の今日でよもやテネブラエがこのように実行してくるとはおもわなかったが。
たしかに、こういった飛び入り参加も可能というイベントもどきならば、
いきなりこうして乱入しても不自然ではないだろう。
が、しかし。
いつも思うのだが、なぜに毎回、毎回テネブラエは、
ヒトの姿を模す…なぜか女性になるときは、いつも氷の精霊の姿を模すのだろうか。
…どうも幼きころにジェイドとかいっていた人間にいわれた台詞。
たしか、冷たい女性こそがヒトがいうところの美人なんですよ。
とか何とかディセンダーとして地上にでていたころ、
テネブラエ達を初めて地上につれていったときにそんなことをいわれたような。
…まさか、いまだにあれを信じている、とはおもえないのだが。
「さて。飛び込み美女さん。お名前は?」
「おほほ。謎の美女でいいではありませんか」

「…なあ、あれって……」
「え?あれ?あれって、セルシウス?けど、マナが……」
どこかでみたことのあるようなマナ。
舞台の裏というか控室。
そこにはモニターがあり、会場の様子が巨大なスクリーンにと映し出されている。
ロイド達が今案内されているのはテントの中であり、
一番初めに案内された場所は簡易的な控えの場であり、
完全なる出場者や、出番がおわったものはここでどうやら控えることになるらしい。
スクリーンに映し出されているのは、どこからどうみても、
ロイド達にとってはかなり見覚えのある姿。
困惑したような声をあげているロイドと、戸惑いの声をあげているジーニアス。
「僕、ちょっとでてみてくる」
「あ、俺も」
「あたしもいくよ」
ジーニアスがテントからでて、それにつづきロイドも外へ。
しいなもきになるらしく、それぞれが外にでて、会場の横手へと。

「おおっと!この美女、わかってる!悩殺ポーズだぁ!」
ロイド達が会場の横手について目にしたは、
足をかなり大きくひらき、つきだすようにし、その体をくねらせ、
腕を頭の後ろにまわし、会場内部にむけて、ばちん、とウィンクしているその姿。
どこからどうみてもセルシウス、なのだが。
「?氷の精霊、セルシウスの関係者、なのかしら?」
それにしては、精霊のマナ、というよりは、それには属していない。
どちらかといえば魔物より。
でも、魔物のマナともまた異なる。
このマナのありようはどこかでみたような気がリフィルはするのだが。
それがどこだったのか、リフィルはなかなか思い出せない。
「ここで気にしてもわからないものはわからないんだし。
  当人からきけばいいんじゃないのかな?ね?しいな?」
舞台の裾にてそんな会話をしている彼らであるが、
マルタが、名案を思い付いた、とばかりにかるく手をたたきつつ、
しいなのほうにくるり、とむきなおる。
今現在、ほとんどのものが舞台の裾から舞台上をのぞき込むような姿となっており、
ちょうど会場内部からは死角にはなっているが、
舞台の上にいるものからは、そこに彼ら…
ロイド、ジーニアス、コレット、リフィル、マルタ、プレセア、しいながいるのに気付いている。
クラトスは、少し離れた場所で珍しくなぜか固まっているようではあるが。
その理由はロイド達にはわからない。
小さく、
「まさか…そんな…」
などとぶつぶついっているのがよくよくみれば聞き取れる、のだが。
そしてそんなクラトスの少し後ろには、考え込むような表情をしているミトスの姿すらみてとれる。
その姿はクラトスもミトスも見覚えがありすぎるもの。
というか、考えられるのは一つ、しかない。
「やっぱり、目覚めて……」
ミトスもまた小さくつぶやき、ぎゅっとつよく手を握り締めているのがうかがえる。
が、そんな小さな変化に目ざとくきづいているのはリフィルのみで、
どうやらその場にいるほかのもの、ロイド達はまったくもって気づいていないらしい。
「それもそうだね。…あたしもきになるし。呼んでみるよ」
マルタの言い分も一理ある。
ゆえに、こくり、とうなづくしいな。
かといってここで呼べば騒ぎになる。
ゆえに舞台の裾から少しはなれ、そして。
「蒼ざめし永久氷結の使徒よ 契約者の名において命ず 出でよ セルシウス!」
舞台の裾からそっとひとまず立ち去り、
舞台の真裏。
周囲にほかの第三者がいないことを確認したのち、召喚の言葉を紡ぎだす。
「呼んだか?契約者よ。何ようか?」
それとともに、目の前に突如として吹雪が発生したかとおもうと、
それはまたたくまに収束し、ヒトの姿をつむぎだす。
「セルシウス。あんたの力を貸してほしいとかじゃないんだけどさ。少し確認したいことがあって」
「確認?」
「あれ、あんたの知り合いか関係者かい?」
いって、しいなが指さすは、視線の少し先にとみえる巨大なるスクリーン。
そこには、いまだに体をくねらせ、大衆にサービス、とばかりに、
ポーズをいろいろとかえている、どこからどうみても【セルシウス】の姿が。
「・・・・・・・・あ、あの御方はぁぁ!また私の姿で何をなさってるんだぁぁぁぁ!!」
「は?」
しいなが指さしたスクリーンのほうに視線をむけたとおもうと、
はたから誰がみてもわかるほどに大きく目を見開いたかとおもうと、
次の瞬間。
何やらいきなりそんなことを叫びだす。
そんな呼び出したセルシウスのあからさまなる反応に、
しいなはただ、間の抜けた声を出さざるを得ない。
というか理解がおいつかない。
そして。
「すぐに止めてくる!」
それとともに、
ビュルッッ。
ゴウッ。
突如、周囲に晴れているにもかかわらず、吹雪が吹き荒れる。

あまり調子ついてると、やってくるとおもうのだが。
いまだに舞台の上でこめかみに手をあてつつも、深いため息をついているエミル。
たしかにテネブラエの登場で、自分の質問がおざなりになっているのは助かるが。
『うわ!?』
『きゃ!?』
ゴウッ。
突如として一瞬、晴れ渡っているというのに雪が周囲に吹き付ける。
一瞬のことで思わず体をかばうようにして抱きしめている見物者たち。
それはほんの一瞬のことで、
舞台の真上に雪がまい、それは竜巻のように渦巻いたかとおもうと次の瞬間。
パッン!
何かがはじけるような音と。
「あなた様はまた私の姿で何をさらしてるんだぁぁぁぁぁぁああ!」
それまでこの場にはいなかった第三者らしき叫び声がこだまする。
それとともに、おもいっきりその雪の中より出現したその足が、
会場にむけてポーズをとっているものにむけて跳び蹴りのごとくに繰り出される。
「おっと。相変わらず短気ですわね。それではもてませんことよ?おほほほほ」
「ああもう!何でしかも!」
おほほほ、と口元に手をあてて笑い声をあげるその声も、
彼女にとってはいらつく以外の何もものでもない。
ちらり、とその視線を【王】にむけてみてみれば、
どうやらこめかみに手をあてて、険しい表情をしているのがみてとれる。
ということは、これは【王】が命じているのではなくあきらかに独断なのだろう。
ならば、すべきことはただ一つ。
ゆえに、その視線をひたり、と【王】にとむけ、
「ウス ウティ ギイド ウム クウルル?」
すっと視線を座らせて、殺っていいですか?とばかりに問いかける。
そんな突如として現れた…エミルからしてみれば、
まあこれを知ればまちがいなく止めにくるだろうな。
と予測していたのであまり驚いてはいないのだが。
ゆえに。
「ウティ バウルル エルリバ ウフ チドンディエティン」
ほどほどならば許す、と一応前置きをしたのち、
そして、盛大に再び溜息をついたのち、
「ウティ ワエム ブン ヂムン バアンティアンディ ウティ セヤス」
というか、やれ。
コアに戻さず、これからの仕事に支障がないのであれば問題はない。
「おおっと!これまたどこからあらわれたのか!
  これまた色白美人さん!しかもどうやら一卵性の双子姉妹だぁぁ!」
『うぉぉぉぉ!!』
何やら会場のほうからは、吹き付けている吹雪より、
どうやらその姿のほうに主に男性陣が釘づけ、であるらしい。
テネブラエにおもいっきり蹴りをつきだした影響で、
セルシウスの腰につけている布がおもいっきりはだけ、
その太ももあたりがおもいっきりあらわになっているのがみてとれる。
「(何だって、いつもあなた様は私の姿なんですか!?私の!?)」
「おほほほ。(いやだわ。セルシウスちゃんったら、やきもち?)」
「ウティ ウス ドウフフンディンムティ!!!!」
違う!と盛大に叫んでいるセルシウスの気持ちはエミルとしてはわからなくもない。
まあ、しっかりと、この世界でいうところの原初たる精霊言語で話しているのは、
さすがというよりほかにはないが。
何やら言い合いつつも、セルシウスが拳や蹴り。
それらを繰り出してゆくが、テネブラエはひょいひょいと、
なれたようにその攻撃をことごとくさけていたりする。
はたからみれば、演武にみえなくもなく。
「おおっと!これはまた予測できない展開だ!美人飛び入り姉妹による演武がはじまったぞ!」
「「おおおおおっ!!」」
どっとしたざわめきが会場内からまきおこる。
が、セルシウスが攻撃するとともに、周囲の気温がどんどんと下がっているのだが。
そもそも、体をすこしばかり震わせつつも、このイベントにつきあっている人々。
そんな人々はあるいみつわもの、なのかもしれない。

「…なあ、エミルくん、もしかして、あいつって……」
さきほどからのエミルの態度。
そして本物の氷の精霊セルシウスの態度。
ゆえに、こっそりとエミルの横に移動して、小さく小声でといかけているゼロス。
まさか、とはおもうが。
「……たぶん、ゼロスさんの思ってる通りかと……」
深いため息とともにいわれ、おもわずゼロスはひくついてしまう。
つまり、あのセルシウスのそっくりさんは。
センチュリオンのうちの誰か、否、おらそくは闇のセンチュリオン。
彼が結構乗りがいいのは、ゼロスはもはや把握済み。
「まさか、あれ……あいつ、か?」
おそらく、クラトス、そしてミトスはこの会話すらとらえているだろう。
が、特定の名をださないかぎり、めったと気づかれことはないはず。
そんなゼロスの問いかけに答えるでもなく、目をつむり返事をかえすエミルの姿。
それはあからさまに肯定の意。
ひくり。
無意識のうちにゼロスの口元がひきつってしまうが。
たしかに。
セルシウスの姿をしている女性が実は闇のセンチュリオンのテネブラエだ。
としればそういう反応もわからなくはない。
元を知っていればとくに。
ゼロスとエミルがそんな会話をしている一方、
いまだにセルシウスとテネブラエの攻防は続いている。
もっとも、セルシウスが攻撃を加えるたびに、周囲に氷というか風雪がきらきらとまっており、
それがさながら舞台効果の演出のようにみえなくもない。
それゆえか、
「何とも手のこんだ演出だぁ!これはもしかして、どうなんでしょうね?神子様?」
いきなり話をふられ、ゼロスがはっとし。
この事態を収めるにはどうすればいいのか。
瞬時に頭を働かせたらしく、
「会社のほうからはサプライズのイベントがあるときいていたから。
  おそらくこれがそうなんじゃねえのか?」
きらきらとセルシウスが放つ攻撃のたびにまう風雪はごまかしようがない。
ならば、イベント、ということでごまかしてしまうほうが手っ取り早い。
「おお!やはり!さすがはレザレノ・カンパニー!手がこんでますね!
  では、この乱入美女姉妹のこの演武はイベントの一環ということなのですね!
  みなさま、しばらくこの美人姉妹の演武劇をおたのしみください!
  しかし、この氷、どこから発生させてるんですかねぇ?
  手がこんでいるのはいいですが、だんだん寒くなってきてるんですけど……」
ゼロスのとっさ的な言い訳というか嘘により、
その嘘をいともあっさりと信じている様子がみてとれる。
そんな彼らのやり取りを、しいなもまた、舞台の裾にもどってきて眺めつつ、
「というか。あいつらのいいあっている言葉……」
「ええ。エミルがよくつかっていた言葉、ね」
エミルがこの場にいれば問い詰めたいが。
エミルはいまだに舞台の上。
ある意味、エミルの出番のときにこんなことになったのは、
偶然なのか、それとも何かしらの思惑があってのことなのか。
それはリフィルにもわからない。
わからないが、しいなの言葉にリフィルがこくり、とうなづきつつも同意を示す。
その旋律のような、記号の羅列のような、何かの言語。
あきらかに、精霊セルシウスとセルシウスによくにている何か、は会話をしている。
「でも、このままじゃ、凍えちゃうよ……」
さっきから風雪が舞いまくっている。
今のゼロスの機転でどうやらこれもイベントの一環、
と今のところ人々はおもっているらしいが。
さすがにほとんどのものが水着という薄着のまま。
そこに雪が降れば、体が冷えるのは必然。
かといって、氷の精霊がつくりだしている風雪を普通のものがどうにかできる。
ともおもえない。
「しいな。一応、イフリートを召喚してみてはどうかしら?」
少し考えたのち、リフィルがしいなにと提案する。
とりあえずは、会場に攻撃を繰り出すたびに舞い散る風雪。
どんどん激しさを増しているようにもおもえるそれをどうにかしなければ。
さきほどからみるに、エミルはおもいっきり額に手をあてており、
彼らを止めるような気配はない。
何となくだがエミルがいえば、彼らは問答無用でやめるような気がするというのに。
もっとも、エミルはただ黙っているわけではない。
よくよくみればわかるが、だんだんイライラが募り始めていたりする。
たしかに、許す、とはいったがものには限度、というものがある。
というか、やるならば他者を巻き込まずにやれ。
と切実にいいたいのがエミルが今おもっている心情であったりする。
そんな会話がきこえた、のだろう。
すこし驚愕したような、険しいような表情をして舞台上をみていたミトスだが、
ふと気が付いたように、すばやくその表情をあらためたのち、
少し困惑したような表情に変化させたのち、ゆっくりとリフィル達の横にと歩み寄り、
「あの?何となく、イフリートってたしか、火の精霊、ですよね?
  余計に混乱するような気がするんですけど…
  火って自分でその力をなんななくコントロールできないようなイメージが……」
ミトスの言い分は正しい。
それは自らがイフリートと契約していたからこそ確信をもってミトスはいえる。
実際、イフリートはそういう細かいことを得意としていない。
しかし、そんなことはいくら今現在契約しているしいなとて知るはずもない。
ただ、契約を交わしているというだけで、
イフリートの力を利用したことは皆無といってもいいのだから。
まともに使役したのは、封印の書物、禁書といわれていたあれを燃やし尽くすときくらい。
「たしかに。火っていきおいよく燃えるイメージだよね。何もかも燃やし尽くすイメージあるし」
「…そういえば、たしか、契約のとき、セルシウスってイフリート、きらってなかった?」
マルタがミトスの台詞に賛同するようにいえばジーニアスもふとそんなことをいってくる。
――傍によるな、ちかよるな。いらないことをいうな。暑苦しい
あからさまに、イフリートに対して、あらわれたセルシウスはそんなことをいっていた。
どうみても仲がいい、というイメージではなかったあのとき。
「ああ。そういえば、そうだったわね…余計にややこしいことになりかねないわね」
そんなジーニアスの言葉にリフィルもまたあのときのことを思い出す。
そういえば、あのときもエミルが今現在、セルシウスとセルシウスもどき?
が会話している旋律のそれと同じ言語らしきものを何かいっていた。
ちらり、と舞台上のエミルをみるが、
エミルはこめかみに手をあてじっと目をつむっているのがうかがえる。
よくよくみればだんだん表情が険しくなっているのに気づけるのだが。
それに気づけているのは、この場にいるクラトスとミトス、そしてゼロスとコレット。
つまり、視力を無意識で強化しているコレットと、
自力で少し意図して強化しているクラトス、ミトス、ゼロスの三人のみ。
というか、あのふたりを呼び出したとき、逆に暑さと冷たさが同時にやってきて、
体温調整をしていたというのに、自らの体に変調が起こったことをミトスは忘れていない。
あのときは、そんな彼らを確かルナがいさめ…なぜかその場に正座させ懇々と説教をしていたが。
ふと当時のことをミトスは思い出しつつ、
「とりあえず。会場内部に風雪が舞うのが問題なら、風、でもいいんじゃあ?」
ゆえに、セルシウスを喚ぶとき、範囲が怪しいな、とおもったときは、
ミトスは必ずシルフをともによぶようにしていた。
伊達に精霊達と契約をかわし、さらにはその性格も熟知しているわけではない。
熟知しているがゆえに、精霊炉に彼らを閉じ込めることもなしえてしまったのだが。
「それもそうね。しいな。呼ぶ精霊の変更よ。シルフをお願い」
「わかったよ。シルフならここで呼んでも問題ないか」
セルシウスのようなヒト型、さらにはイフリートのような巨大な巨体ならば目立つが、
シルフ達は小さな姿。
それゆえに、
「じゃあ、よぶよ」
そういいかけたしいなに対し、
「あ、僕、ちょっと……花畑にいってくる。クラトスさん。ついてきてもらえますか?」
「…あ、ああ」
いいつつも、その場にいるリフィル達に一言つげ、
舞台裾からはなれてゆくミトス。
そしてミトスにいわれ、そんなミトスの背後についていっているクラトスの姿。
「…さむいとどうしても近くなるよね……」
ジーニアスもおもわずぶるり、と体をふるわせる。
実際、ここ舞台裾にも風雪はまってきており、
水着しかきていない体に冷たい風がふきつけている。
ミトスについていこうかともおもったが、しかし今は舞台の上のほうがかなり気になる。
もっとも、ミトスからしてみれば、それはシルフ達にあわないがための方便にすぎないのだが。
あの姉妹、特に三女はよくぽろり、といらないことをいっていた。
ゆえに、自分、そしてクラトスの名をださないとも限らない。
だからこそミトスはあえて、厠にいくようないいまわしでこの場から少しはなれたに過ぎないのだが。
そんな事情をジーニアスが知るはずもない。
そしてたちさってゆくミトスをリフィルがじっとみていることにすら気づいていない。


舞台上ではひたすらに逃げられるテネブラエをおいかけて、
さらに逃げるたびにテネブラエがセルシウスをからかっており、
よけいにセルシウスがむきになって…という光景が繰り出されていたりする。
美人姉妹よる演武のイベントだ、と思い込んでいる見物者たちは、
やれ、姉ちゃんそこだ!だの、逆に興奮したようにさけんでいるが。
・・・まあ、中にはもっと足をけりあげろ!とかいうような声もきこえているが。
特に男性から。
「まずいわね。氷のマナがだんだんと強くなってきているわ」
おそらく、氷の精霊セルシウスが興奮している、のであろう。
ちらり、とみれば会場の一部がゆっくりとではあるが凍り付き始めている。
リフィルの言葉をうけ、
「とりあえず。シルフ達をよぶよ?
  山海を流浪する天の使者よ 契約者の名において命ず 出でよ シルフ!!」
しいなの掛け声とともに、その場に風がひゅるっとまったかとおもうと、
次の瞬間。
そこに翼をもった小さな少女たちの姿が突如として出現する。
セフィー、ユーティス、フィアレス、とそれぞれ名をもつこの三体にて、
シルフ、という風の精霊の役割をこなしているこの三姉妹。
鳥、蝶、花のイメージを彷彿させる羽をそれぞれはやした小さな人間。
以前、彼女たちの姿をみたときに、さらりと初対面にもかかわらず、
どの子が長女、次女、三女と言い当てたゼロスがいたりしたのだが。
そういえば、あのときもゼロスのやつ、このシルフ達をナンパしてたな。
ふとロイドはそんなどうでもいいようなことを思い出す。
それは少し前のことのはず、なのに。
かなり前のことのようにも感じてしまう。
鳥のような翼をもちしたしかエミルが長女だと…ついでにゼロスもいっていたが。
とにかく、長女だ、というシルフのたしかその名をセフィー、といったか。
そんな彼女がふわり、と三人の中から代表して前にと進み出て、
「契約者よ。何か御用ですか?」
やんわりとした口調で、召喚した理由をしいなにときいている。
「ああ~!!」
そんな中、ふと薄桃色の髪をしベレー帽をかぶっている
花の花弁を連想させるかのような翼をもちし少女。
その少女がふとその視線を舞台のほうにむけ、いきなり叫ぶ。
「もう。どうしたっていうのさ?フィアレス」
「みてよ!あれ!なんでセルシウスとテネブラエ様があそんでるの?」
「…いや、あれ、あそんでる、というか。
  まぁぁたテネブラエ様、セルシウスからかってない?あれ?」
指をさす妹の声に濃紫色の髪をした次女があきれたように何やらいっているが。
『え?』
さらり、といわれたその会話に、一瞬リフィル達の声が重なる。
「おもしろそう!姉様!私も参加してくる!」
「あ、こら、まちな!フィアレス!」
そうしているうちに、ふわり、と舞い上がり、そして。
「私もまぜて~!!」
とばかりに、いきなりテネブラエ、そしてセルシウスの中にわってはいっているフィアレスの姿。
「あ、あの子は……。怒られてもしならいよ。ったく」
盛大にそんな妹の姿をみて溜息をついているのは、
たしかシルフの次女だとかいうユーティスといったはず。
「…妹たちがすいません。ああ、でも呼び出した理由はわかりました。
  たしかに、セルシウスはむきになったらあたりかまわずに風雪まき散らしてしまいますものね。
  イフリートだと周囲ごと燃やし尽くしてしまいかねないのでわたくしたちをよんだのは正解かと」
そんな妹たちの姿をみて、盛大に溜息をつきつつも、長女であるセフィーがそんなことをいってくる。
「燃やし尽くしてって……」
セフィーの台詞にジーニアスが思わずひきつきながらもぽつり、とつぶやく。
「…ミトスの意見、ききいれて正解ってとこだね」
でも、なら、やっぱりあのミトスは?
そしてまた、しいなも溜息とともに、イフリートではなくシルフを召喚したのは間違っていない。
そんな確信を抱いてしまう。
周囲ごと燃やし尽くされてはたまったものではない。
一方。
「おおっと!?これはかわった乱入者だぁぁ!?
  というか姿は人なのに、どうみてもこんな小さなヒトはみたことない!
  それこそマーテル教の絵本にある妖精さんだぁぁ!」
動じない、というか何というべきなのだろうか。
進行役のものが、乱入してきたフィアレスの姿をみて、何やらそんなことを叫んでいるが。
「おおっと。ここでまたレザレノの仮開発中のお披露目だぁ!
  たしか、レザレノの開発部門の中では、立体映像もどきを開発しているときいていたから。
  おそらく、その関係の何かだろう。
  普通はあんな小さな人間、しかもかわいい女の子はいないっしょ?」
「たしかに。これはすごい!今回のイベントは、わが社…もとい、レザレノは力をいれてますねぇ」
「だねぇ」
「…え?あの、お兄様?」
どうみても、あれは映像、ではないような気がするのだが?
そんな兄と進行役の台詞をききつつ、困惑したような表情をうかべているセレス。
そんなセレスにこっそりと小声で、
「話をあわせな。セレス。あとはまあリーガルのやつが何とかするさ。
  まさか本物の精霊、とばれるわけにはいかないだろ?」
「・・・・・たしかに。そうですわね」
それこそ、精霊、などという存在はおとぎ話の中であり、
そもそも、精霊の祭壇とよばれし場所にいるはずの精霊がこんな場所にいること自体。
普通のヒトビトにとっては信じがたいであろう。
そもそも、精霊はそれぞれの祭壇で女神マーテルをまもりつつ、その場で眠ったり、
また覚醒を繰り返している、とされてるいのだからなおさらに。
もしもこれらが本物の精霊だ、と知られてしまえば人々が余計に混乱することは必然。

「フィアレス?」
「セルシウス。ずるい!」
「あら。フィアレスちゃんもきたのね」
「何でテネブラエ様。またその格好してるの?」
人に模す必要があったのだろうか?
それにしても、とおもう。
セルシウスに語りかければ逆にテネブラエから声をかけられ、
逆に首をかしげつつもといかけているフィアレスの姿。
「力をいれてるねぇ。立体映像にあわせて声までとばすなんて」
ゼロスのあるいみナイスフォーロー、とでもいうべきか。
それをうけ、観客たちからは、
「まあ。レザレノ社は面白いものを開発しているのね」
「今、神子様は立体映像、とかいっていたわね」
などといった声がちらほらときこえてくる。
どうやらいともあっさりと、ゼロスの嘘、を信じ込んだらしい。
たしかに、ここにいるのが本物の精霊だというよりは、
ここはテセアラの誇る大企業、レザレノ・カンパニーの総本部がある場所。
ゆえに、何かしらない技術とかを開発して、それの試作を試みていてもおかしくはない。
そんな摩訶不思議な心情が人々の間に働いており、
それがじつはよもや本物の精霊だ、など疑っているものは観客席の中ではごく一部しか存在していない。

「さて。では、フィアレスもやってきたことですし。
  今後はそちらの二人の演武劇をお楽しみくださいな。おほほほ。それでは、失礼」
ポッン。
そのまま黒き煙につつまれ、その場から姿を掻き消すテネブラエ。
あらわれかたも突然なれど、引き際も突然、というべきか。
それともこちらの気分がだんだんといらいらしてきたのを察知して逃げたのか。
そのあたりはわからないが。
「…というか、あいつは何をしにきたんだ。何を」
つぶやきつつも、盛大に溜息をつくエミルは間違っていない。
絶対に。
何のためにでてきたのか。
ミトスに彼らセンチュリオンのことを知らしめる、というのに、なぜにこれに参加する必要があったのか。
だがしかし、一応ミトスもセンチュリオン達が覚醒したのは自覚したのでいいとして。
別なる問題がそのせいで発生しているのもまた事実。
この場において観衆の目にセルシウス、そしてフィアレスの姿がさらされてしまったのが何ともいえない。
「(……しかたない。二人とも。この場にてしばし披露しろ)」
セルシウスとフィアレスは二人してよく稽古をしている。
それが人前で行うというのは天地戦争以後なかったことだが。
かつて、まだヒトが共存していたころには、
彼らはよくヒトがおこなう祭りにまじり互いの武芸を披露していたこともある。
ゼロスがイベント、で押し通すのならば、それに便乗するのが一番無難であろう。
しかし、術などをつかわれては厄介。
ゆえに。
「(そうだな。拳法演武、でいい。術はつかうな)」
念話にてこの場にいるセルシウスとフィアレスにその旨をつたえる。
ちらり、とみればどうやら舞台の裾にセフィーとユーティスの姿も目にとまる。
しかし二人が演武を舞うと必ず周囲に影響がでるのもまた事実で。
「(セフィーは念のために舞台上の周囲の、ユーティスはこの付近一帯に結界を)」
「「「「――ティイ ヤイオディ バウルル」」」」
御意に、という言葉がセルシウス、セフィー、ユーティス、フィアレスの口から発せられる。
それとともに、セフィーによって、舞台上周辺に風の結界が施され、
さらにこの場、すなわち会場周辺にわたり、ユーティスの力によって、
これまた風の結界がほどこされる。
二重の結界により、いくらセルシウスとフィアレスが演武を舞い、
風雪などがひどくなったとしても、町全体や海などにまで影響がでることはない。
しかし、それで凍死者などがでてもまた面倒。
ゆえに。
「――ティイ バエティンディ エムド フウディン」
目をつむり、小さく、火と水が必要だな、とつぶやきつつ、
それとともに、
「(セフィー。しいなに、イフリートとウンディーネをよぶようにそれとなく進言しろ)」
「(よろしいのですか?)」
少し困惑したような返事がセフィーより念話にて戻ってくる。
「(イフリートには我からいう。あいつにもいい訓練になるだろうしな)」
相変わらず、細かなことが苦手のイフリートだが。
苦手、というままでは困るのもまた事実。
イフリートの生み出す熱により、セルシウスが放つ風雪は溶かされ、
そして溶けた水はウンディーネの手によりて蒸気と化す。
いわば、風雪が舞うたびにちょっとしたサウナ風呂のような熱気が、
この結界内、すなわち会場内に広がることになりはするが、
そもそもこの場にいるほとんどのものは、薄着、もしくは水着姿のものが主。
ゆえに少々蒸し暑いくらいでも問題はないはず。
むしろ風雪がまいまくるよりは違和感がないであろう。
「(それに、せっかくそのものがこれはイベントなんだ。といっているんだ。
   のらない手はない。そうだろう?)」
そんな台詞にそれぞれ顔をみあわせている、シルフやセルシウスたち。

確かに、王のいうとおり。
あの人間の男が自分達のことをイベント、として扱うならば。
あまり騒ぎにならないためにも、それにのっかる、というのはこの場においては得策であろう。
それに、ともおもう。
ヒトが嘘とはいえいったこととはいえ、自分達が嘘をついた、とおもわれてもたまらない。
ゆえに。
「契約者よ」
「は、はい?」
いきなりセフィーに話しかけられ、困惑した声をあげるしいな。
いったい、舞台上で何があったというのだろうか。
あのいきなりあらわれていた、あのセルシウスそっくりな女性は、
いきなりまるでみずほの民の技のごとくにかききえた。
黒い煙とともに。
みずほの民もまたけむり玉によって姿をくらますことを得意としている。
「どうやら。妹とセルシウスはあの人間がいうように。
  今回の騒ぎはイベント…ですか?その一環、としてふるまうようです。
  これより、セルシウスと妹、フィアレスによって演武がなされるようなので。
  二人がそれぞれ組手をはじめたら、嫌でも周囲に風雪がまいますので。
  私とユーティスの手により簡単な結界は周囲にほどこしましたが。
  念のために、イフリートとウンディーネもよんでもらえますか?」
「あ。だから、さっき、いきなり風のマナがつよくなったんだ」
そんなセフィーの台詞をきき、納得した、とばかりにつぶやくジーニアス。
実際、突如として風のマナを強く感じてはいた。
が、別にどこもかわっていないので、シルフ達に関係しているのかな?
とおもっていたのだが。
「どうして、イフリートとウンディーネ、なのかしら?」
リフィルとしては、いきなりどうしてシルフの長女だという彼女がそういってくるのかがわからない。
さきほどのエミルのつぶやきのこともある。
よく聞き取れなかったが。
というか、会場のざわめきにかきけされ、エミルが何かをつぶやいたのはわかったが。
その言葉、まではきちんとここ、舞台裾まできこえていない。
それにきになることもある。
エミルにたいし、先ほど、シルフやセルシウスはかるく頭をさげていなかったか。
それも、まったく同じ言葉を紡ぎつつ。
たしか、ティヤイオ何とか、と。
その旋律はかつてもきいたことがある。
同じような旋律を。
「舞い散るであろう風雪をイフリートのもつ炎で溶かすためです。
  イフリートは細かな作業は苦手ですが。
  そのあたりは、ウンディーネをともによぶことにより、
  ある程度の火力を抑えることもできますので。
  もっとも、しばらくこの空間がサウナ?でしたか?そのような状態になりますが」
セフィーがしいなやリフィル達に説明をしているのをちらり、と横目でみつつ、
そっとゼロスの元にちかづき、
「と、いうわけなので。ゼロスさん。あとはお任せしてもいいですか?」
小さく、ほんとうに小さくゼロスの横でつぶやくエミル。
「こっちとしても助かるわ。問題はないんだな?エミルくん」
「ええ。あの子たちにはイベントの一環としてしばらく演武を舞ってもらいます」
これまた、ちいさく、それでいて視線をちらり、とエミルにむけただけで、
その視線を会場にむけたままで、小声でエミルにと話しかけているゼロス。
小声、なのでその場にいるセレス、そして進行役にもその会話は聞こえていない。
「演武、ねぇ」
「フィアレスとセルシウスの演武、けっこう評判いいんですよ?」
そのたびに周囲が凍り付くのはともかくとして。
「うっしゃ」
エミルの言葉をうけ、こくり、とうなづき、
そして一歩手前にでて、そして下にさげていた進行役の証ともいえるマイクを口元にもっていき、
「さあ!突発的イベントの開始だ!まさかこのような形で始まるとは俺様もびっくりの展開!
  映像による、風の精霊シルフの姿を模した少女と!
  謎の美女、氷の精霊セルシウス様のそっくりさんによる演武劇の開始だぁぁ!
  さぁて、会場の皆さま!しばし、二人による演武劇をご堪能あれ!」
高らかに、きっぱりといいきるゼロス。
「ほう。神子様。ではあの小さな羽のはえた少女は、風の精霊、と?」
「たぶんな。レザレノでは、精霊の立体映像をつかったアトラクションを開発してる。
  ってきいたことがあるからな。それの実験でもあるんだろうよ」
「なるほど。しかしそれはあらたなアトラクションができたら楽しみですね。
  というか、いったいどこから映像を投影しているのでしょうか?」
「ま、わかったら面白くないんでねえの?」
「あはは。たしかにいえてますね。それでは、皆さま、しばし演武劇をご堪能あれ!」
いともあっさりとゼロスの言葉を疑問におもうことなく、うなづいている進行係り。


ゼロスと進行役とのやりとり。
そんな光景みつつ。
「…あっさりと納得してるよ。あのひと」
あきれたようなつぶやくマルタ。
マルタは知らない。
ここ、テセアラでは神子の言葉であれば、黒を白、といえば白でまかりとおる。
というその事実を。
だからこそ、人々は神子であるゼロスの言葉を疑わない。
「いそいでくださいね?ふたりの演武で人々が凍り付いてしまうまえに」
「というか、なんて危険なことをしでかそうとしてるんだい!?」
今、さらり、ととてつもないことをいわれた。
絶対に。
人々が凍り付く、たしかにこのシルフの長女はそういった。
つまり、そういう可能性がある、ということ、なのだろう。
ゆえに。
「ああもう!わかったよ!
  清漣よりいでし水煙の乙女よ 灼熱の業火を纏う紅の巨人よ
  契約者の名において命ずる!それぞれいでよ!」
しいなの言葉とともに、舞台裾に、水と炎がはじける。
「よびましたか?契約者よ」
「我をよぶとは、またいかなる…」
ふわふわと上にうかびながらも、しいなにとといかけているウンディーネと。
そして腕を胸の前でくみつつも、彼らをみおろしながらいってくるイフリート。
そんな二人にむけ、
「ふたりとも。ひさしぶりにセルシウスとうちの妹が組手をするから。
  それであなたたちを呼んでもらったのですよ」
ふわり、とそんな彼らのもとにまで浮き上がり、
あらわれた二柱の精霊達に説明をしているシルフのセフィー。
ちらり、と舞台らしき上をみて、たしかにそこにセルシウスとフィアレスの姿をみとめる。
よくよくみれば、舞台の上には自分達の【王】の姿すら。
「「…許可は?」」
それはほぼ異口同音。
セフィーにむけて問いかけられた言葉には、許可がないと王の怒りが恐ろしい。
という感情が暗に含まれていたりする。
そんな二人の感情にきづいたのか苦笑しつつ、
「ご心配なく。…まあ、本格的なものではないようですから」
そこまで【王】は許可をだしてはいない。
「すくなくとも。人間たちに被害がでないように。かつてのように」
「ああ。ひさしぶりですね。たしかに。一万年はたちましたっけ?」
「あのころはよかったのだがな。
  まだヒトは、エルフ達は、すべての命と共存共栄をはたしていたからな」
ふとそれぞれがかつてのことを思い出し、しみじみとつぶやきをみせているが。
その意味はその場にいるしいな、そしてリフィルやロイド達といった面々には当然わからない。
「…なんだか、体が、熱い…っ」
どくん。
先ほどから、何だか胸の中が、熱い。
ゆえに、胸を片手でおさえるようにしてぽつり、とつぶやくプレセア。
「プレセア!?どうしたの?」
そんなプレセアの態度に気づいたのか、ジーニアスがあせった声をあげる。
それとともに。
――まだ、お姉ちゃんの体は、完全にマナが安定していないから。
ふと、虚空から、突如として聞きなれた声がジーニアス達の耳にと届く。
「その声、アリシア!?」
驚いたようなジーニアスの声と、そして。
「あ…あああああっっっっ」
どくっん。
それともに、プレセアの内部で熱が、はじける。
その場にそのままうずくまり、あわててかけよろうとするジーニアスだが。
『え?』
次の瞬間。
プレセアのマナが激しく揺らぐ。
それとともにその体が淡くひかり、ロイド、ジーニアス、コレット、マルタ、リフル、しいな。
そんな彼らの目前にて、うずくまったプレセアの体が、あわく、輝く。
そして、その輝きはプレセアの体全体にとおよび、
光とともに、その小さな手足、そして体がゆっくりと大きくなってゆく。
それはまるで、若葉が成長をとけるかのごとく、劇的に。
すらり、と伸びてゆく手足。
うずくまった体はひかりとともに、一気に成長を遂げてゆく。
「ぷ、プレセア!?」
困惑したような、驚愕したような声をあげるジーニアスに。
「その人間はたしか、歪マナが停止され成長速度をゆがめられていたものですね。
  私たち大精霊のマナに触発され、その成長速度が促進されたのでしょう。
  どうもそのものは体を構成するマナが今のところ不安定、のようですし」
ふわり、とそんなプレセアの真横におりたちつつも、
その淡い輝きが周囲にもれないように、であろう。
ちょっとした水の膜の結界をつくりだし、周囲にその光がもれないようしているウンディーネ。
そんなウンディーネの言葉をうけ、
「ええ。そのとおりよ」
驚かなかったといえばウソになる。
だがしかし、リフィルが今日、ここでゆっくりとしよう、と提案したもうひとつの事情。
それは、リーガルから相談をうけたがゆえ。
昨晩、アリシアから相談をうけた、という。
それは、ここ数日中にまたプレセアの体が急成長を遂げる傾向がある、と。
思念のみでそうリーガルに連絡がはいった、らしい。
移動中にそんなことになってしまえば、プレセアの体にも負担がかかるし、
何よりも何かおこっている最中、そんなことになれば危険極まりない。
ゆえに、リフィルとしては何らかの理由をつけて、ここ数日はここアルタミラに滞在させるつもりであった。
特にプレセアに関しては。
ちょうど、魔界の魔族の影響でレアバードの空間転移装置が利用できない、というのならば。
あと今日から三日後にせまっている満月。
それにあわせてそれまでは情報収集、という名目のもと、
ここにのこっても違和感をもたれないだろう。
そう相談したゆえに、たしかに資料室が時間なのでしめられる、
という事情もありはしたが、そんな相談をうけたからこそ、
リフィルは昨夜、ロイド達が夕飯をとっているあの時間にあの場に出向いた。
やがて、一気にさらに強く光がはじける。

「プ…プレセア?」
目の前にはさきほどまでの子供の姿であったプレセアはもう、いない。
そこには妙齢、ともいってもいい大人の女性がうづくまっており。
やがて、ゆっくりとその両手をついておきあがる。
「お姉ちゃんは、今は疲れて眠ってますわ。
  この体はお姉ちゃんのもの。だから急激な成長はお姉ちゃんの精神にも負担をかけるので」
おきあがり、ゆっくりと目をみひらいた【プレセア】がにっこりとほほ笑みをうかべ言い放つ。
「あれ?その水着……」
「…あいつ、これをみこしてた、のかねぇ?」
マルタがふと、プレセアがきていた水着にきづき、戸惑いの声をあげ、
それにきづいたしいなもまた、舞台上にいるゼロスと、そしてプレセアの体をまじまじとながめてしまう。
スタイル的には、あるいみ、しいなとタメをはるといってもよい。
かなりの布をふんだんにつかっていたのであろう皺にみえたその生地は
成長とともに皺がのばされ、むなもと、そして腰元を申し訳ない程度につつみこんでいる。
すこし食い込んだハイレグの下半身用の水着と、
胸元の中心部分から下のみにかろうじてかかっている布地。
それはまるで、プレセアが成長しても問題ないかのようにみつろくったように、
いともしっかりと、プレセアの成長した体におさまっている。
つまり、子供用であったはずの水着が大人の姿になってもそのまま敗れることなく、
そのままプレセアの体に纏われていたりする。
きゅっとひきしまった細い腰に、しっかりと胸の谷間が強調されているビキニタイプの水着は。
さきほどまでの水着のそれとは同じ、なのだろうが。
まったくもって見た目の印象が百八十度違ってくる。
もしここに、リーガルがいれば、あわててプレセアの体に上着をかけたであろう。
「…いいなぁ。プレセア。成長したらそんなに胸がおおきくなって……」
じっとその姿をみて、何やらぽそっといっているコレット。
「たしかに。プレセアの胸っておおきいよね。やっぱり男の人って、胸が大きいほうがいいのかなぁ?」
コレットの言葉をうけ、じっと自らの胸をみつつもこれまたつぶやいているマルタ。
気にするところが違う。
断じて。
そうジーニアスもロイドも叫びたいが、どうやらマルタやコレットからしてみれば、
プレセアの大人姿はみたことがあるがゆえ、あまり驚きはない、らしい。
たしかに、目の前で成長したのには驚いたが。
それよりも、その胸のほうがインパクトが強い、らしい。
「さって。じゃ、私は神子様の手伝いしてくるね」
『え?』
いきなりといえばいきなりのプレセア、こと表にでてきているアリシアの言葉。
「お姉ちゃん、しばらく疲れて眠ってるから。
  こういう突発イベントを考えるのって久しぶり!」
「久しぶりって…」
何がどうなっているのかわからずに、ぽつり、とつぶやくロイド。
目の前で、プレセアの体が急成長した。
その事実は、目の前でおこったというのに、なかなか現実、として受け入れがたい。
が、事実、プレセアは成長し、大人の女性、として目の前にいる。
さすがに目の前で成長してゆく過程を目の当たりにしてみれば、
同一人物なのだ、と認めざるをえない。
心のどこかで同じではあるが、何となく違う、とおもっていたのだ、とロイドは今さらながらに思い知る。
口ではプレセアには違いないんだから、といっていても、
心の底からそう信じ切れていなかったのだ、と思いしれされたといってもよい。
「私。生前はリーカル様といっしょにいろいろとこういうイベントも考えてたんですよ?
  何かおこったときの対処法とか。いろいろとマニュアルも考えたんですよ?
  リーガルさまはいたくきにいってくれましたけど」
ちなみにそれらは、アリシアが考えたもの、ではなくて、
リーガルが考えたものだ、とほとんどの社のものが認識しており、
ゆえに、リーガルの会社の中での株は様々な多方面にわたって才能がある、
というちょっとした認識がねずいていたりする原因にもなっていたりするのだが。
もしも、リーガルがはじめから、アリシアを全面にだしてさえいれば、
ジョルジュも会社の損失になると誰の目にもわかる彼女をヴァーリに引き渡そう、とはしなかったであろう。
ジョルジュすらもそれらがアリシアの提案によってもたらされていることをしらなかった。
アリシアが自分はあくまでもリーガルさま専属のメイドですから、私が目立つのは間違ってます。
といってゆずらなかったがゆえに。
いいつつも、慣れた手つきで舞台裾のとある一角にと近づいてゆくアリシア。
そこにある小さなパネルのようなものを幾度か操作するとともに。
シュン。
壁の一角が小さな音をたててかききえる。
そこにはいくつかの部品らしきものがずらり、とならんでおり、
その中から筒のような何かをとりだすアリシア。
「それは?」
リフィルが問いかけると。
「乱入イベントとかのために、常にこの舞台裾には必要な道具をいれてあるんです。
  さって、私も進行役として表にでますね!
  あ、精霊さんたちも、協力おねがいしますね?
  しめはタバサさんに登場願うことになってますので」
これもまたゼロスの提案、なれど。
いいつつも、すちゃり、と筒のようなものを手にし、
そして。
「お待たせいたしました。神子ゼロス様!」
いいつつも、すっと息をすいこみ、舞台の上にとかけだしてゆく。
「あ、プレセア…でなかった、アリシア!?」
ジーニアスが止めようとするが、すでにおそし。
「お。さあて。カンパニーからの増援だ!コンバティール嬢。今回のこの突発イベントの意図は?」
「はい。神子様。改めまして。皆さま、こんにちわ。
  カンパニーに所属しているコンバティールと申します。
  今回、皆様にはわが社がただいま開発中の精霊達の姿を模した立体映像。
  その出来具合を確かめてもらうためにも今回のイベントを利用させていただいております」
「?」
こんなきれいな人、社員にいたっけ?
ゼロスとアリシアのやりとりをみつつも、首をかしげている進行係り。
が、舞台裾からしかも、マイクを片手にやってきた、ということは。
どこに道具が隠されているのかしっている関係者以外にはありえない。
「え?え?」
セレスからしてみれば困惑を隠しきれない。
というか、いつのまに、またプレセアさんは、成長した、のでしょうか?
しかも、この口調は、またプレセア、ではなくてアリシアが表にでてきている模様。
「さあて!しばし、演武と映像のかもしだす美しい光景をご堪能ください!
  演出効果をもりあげしは、炎の精霊、イフリートと、水の精霊ウンディーネ!!」
「おお。さすがはレザレノ。大精霊の姿の立体映像を開発ってか」
「ええ。すこしでもマーテルさまのご加護をという意図で開発中のものですわ。
  まだ、きちんとした大衆に実用化、として利用はできませんけども。
  いろいろと問題もあるので。やはり女神マーテル様につかえている精霊を、
  遊びの一角として組み込んだものをつくるのはどうか、という論理面もありますしね。
  しかし、この試みは、マーテル様、しいては精霊達の威光を表現するのに、
  実際に立体的に目にできる、というのではすばらしいとおもうですよ。
  遊園地の遊具としてではなく、教会に設置でもすればそれこそ威厳はましますしね」
「なるほどねぇ」
何というか、もののみごとに一致したやり取り。
別にアリシアとゼロスははじめからこういったやり取りを事前に打ち合わせていたわけではない。
それでも、いともあっさりと、こうして会話があわせられる、というのは。
アリシアのもつ処世術、という才能と、そしてゼロスの才能があってこそ。
「そちらの女性はより氷の精霊セルシウス様に近いという理由でえらばれました!」
「「・・・・・・・・・・・・・え~と」」
この場合、どうすればいいのだろうか。
思わず、いきなりの展開に困惑した声をあげているセルシウスとフィアレス。
ちらり、とその視線を【王】にむければ、目線でもってしずかにうなづいているのがうかがえる。
つまり、話をあわせろ、ということ、なのだろう。
そして。
「あなたの参加中にイベントが始まってしまってごめんなさいね?」
それまでほとんど蚊帳の外であったエミルに突如としてはなしかけているアリシア。
「あ。いえ。賑やかでいいとおもいます。
  それに、僕も演武、というのは興味ありますし」
アリシアにマイクをむけられて、にっこりとほほ笑みつつもいうエミル。
どうやらウンディーネ、そしてイフリートもよばれているのをみるかぎり、
ここにいる観客たちが凍り付くというような事態にはならないであろう。
しかも、今、アリシアがいったように。
映像がうつしだす美しい光景、といっていた。
実際におこっていることなれど、それさえいわなければたしかに映像ともとらえられるであろう。
「さあ!では、ふたりによる、音と映像、
  そして様々な装置を組み合わせたすばらしき光景をご堪能あれ!
  おふたりとも、よろしくおねがいします!」
「え?あ、ああ」
「え、えっと、よろしく?」
この場合、どういえばいい、というのだろうか?
アリシアにいきなりいわれ、思わず戸惑いの声をあげるセルシウスに、
少しとまどったようにつぶやくフィアレス。
「では、本来ならば今のよばれているこの参加者に始まりの音頭をとっていただきましょう!
  よろしくおねがいしますね?」
「え?あ、はい。えっと。では、これより演武劇の開催、です!」
『わ~~!!』
アリシアにマイクをむけられ、その言葉どおりに開催の言葉をつむぐエミル。
つまりは、そういうこと。
アリシアはそれとなくエミルに許可をださせることにより、
精霊達に協力をさせよう、という気満々であったりする。
エミルからしてみても、自分が命令を下すのを自然とこういう形で提供してくれるのはありがたい。
つまり公然と、知られるこなく命じることができるのだから。
【王】の言葉は絶対。
ゆえに、顔をみあわせ。
「「よろしくおねがいします」」
合掌礼をその場にてかわすフィアレスとセルシウス。


「さすがはレザレノ・カンパニー。今回のは気合いが違うねぇ」
「昨日までのあれかイベントだといわれてもおどろかないよ。もう」
何やら会場内からはそんな声もちらほらときこえているが。
ふと人々が空をみやれば、そこにうかんでいる、炎の巨人や、
水をまとったような女性。
そしてさらには、同じような小さな翼をはやした少女らしき姿が、
ひらひらと上空をまっている。
合掌礼とともに始まったセルシウスとフィアレスの演武劇。
それとともにきらきらとまう風雪は、風にのりて周囲に飛散し、
さらにその氷の粒はイフリートの熱によってとかされ、
ウンディーネの力によりてさらにその水滴はより小さくなりて、
さらにはセルシウスの力にてより小さな氷の粒となりて、きらきらと周囲に振り落ちる。
フラノール地方でよくみられているダイヤモンドダスト。
そういわれている光景が、突如としてこの場にはできあがる。
それとともに、太陽の光がさしこみて、それらに反射しきらきらときらめき、
空中にいくつもの虹を生み出す、何とも幻想的な光景がしばしその場において見受けられてゆく――


~スキット:大混乱、水着コンテスト~

セルシウス「いい加減にお前はしつこいんだよ!いつもいつもなぜに私にかまう!」
イフリート「つれないなぁ。しかし、てれるな。お前のその強がりは、
       この私おもってくれている、というのはわかってるのだぞ?」
セルシウス「だ・れ・が・だぁぁ!よるな、ちかよるな、あつくるしいぃぃ!」
攻撃を繰り出すたびに、氷の塊がイフリートにむけられるが、
それらはまたたくまに、じゅっとイフリートの熱によって溶かされる。
観客A「まあ。ずいぶんと手のこんだイベントねぇ」
観客B「もしかして、あの赤の巨人の中の人、着ぐるみの姿をどこからか投影してるとか?」
観客C「なるほど。そしてあの声もどこからか、たしかそのあたりの木々の葉っぱの間に、
     カンパニーがステレオを隠しているはずだから、そのあたりからかな?」
そんな精霊二体のやりとりを、イベントの一環、としてのんびりとみている観客たち。
ちなみに、二人はいつのまにか舞台上から移動しており、
ほとんど空中戦となりはて、観客たちの頭上で争いを繰り広げていたりする。
観客D「じゃあ。さっきまで舞台にいた女性もそこに移動してるんだろうね。いきなり空にいるし」
どうやら観客たちは空に浮いて攻撃を繰り出している彼らをみて、
完全に映像そのものだ、と思い込んでいるらしい。
ゼロス「おおっと!イフリートの手から炎がでたとおもった、氷のかたまりでさえぎられたぁ!」
アリシア「しかし。面白い組み合わせですよね。これ。
      氷と火。相容れないもの同士が片方がいいよるイベントなんて。ね、神子様」
ゼロス「だねぇ」
アリシア「セレス様はどうおもわれます?」
セレス「…え、えっと。あれって本気で嫌がってる…とおもうのですけども?」
どこからどうみても、セルシウスは本気で嫌がっている。
というか、氷がとけるたびに、水蒸気が発生し、むわっとした温度が上昇する。
その都度、風がふき、それらはことごとく適温にかわっているが。
イフリート「何をいう。お前がつめたいことをいうのは、愛情の裏返しだときかされたぞ?」
セルシウス「誰がいった!誰が!」
イフリート「テネブラエ様だが?」
セルシウス「あ、あのおかたはぁぁ!どこまで私をからかえばきがすむんだぁぁぁ!!」
しっかりと、原初ともいえる精霊言語で話しているのはさすがというべきか。
それとも、やはりそれを吹き込んだのはテネブラエだったか。
とさらにエミルがこめかみをひくひくとそれをききさせているのを気にするべきか。
ユーティス「というかさ。セルシウスが過剰に反応するから、テネブラエ様も面白がるんだとおもう」
セフィー「ですわね。昔から、ですものね」
フィアレス「いいなぁ。セルシウスもイフリートも楽しそう。交じりたい」
セフィー「やめておきなさい。あなたの羽が燃やされしまうわ」
マクスウェル「ほっほっほっ。何やら楽しそうじゃのぉ」
セフィー「あら?マクスウェル?どうしてここに?」
マクスウェル「なぁに。どうやらイフリートのやつがまた
        セルシウスにちょっかいをかけているようだったからの」
ノーム「みんなばっかりずるいんだなぁ!」
ユーティス「うわ。ノームまできたよ」
空中ではなぜかいきなりしいなが召喚してもいないのに、
突如としてマクスウェル、そしてノームの姿があらわれていたりする。
ゼロス「おおっと!ここで新顔登場だぁぁ!
      ご老人の姿、ということはあれはおそらく四大精霊の主であるマクスウェルとみた!」
アリシア「では、あの巨大なもぐらさんは地の精霊ノームですわね。
       みなさん、かわいらしい地の精霊ノームに盛大な歓声を!!」
観客たち『きゃぁぁ!かわいい!』
観客たちその2『もふもふしたいぃぃ!』
観客たちその3『あれって、リボン?掘削機?』
何やらその声をきき、それぞれ感想をさけんでいる観客たち。
エミル「…ゼロスさんもアリシアさんも動じませんね……」
動じていないどころか打合せもしていないのに
会話をあわせている二人にエミルとしては苦笑してしまう。
ちなみにいまだにエミルは舞台上にといるままで、
いまだにエミルの出番がおわっている、というわけではない。
もっとも、すこし舞台の端によりはしているが。
しいな「え?あ、あたしはよんでないよ!?」
リフィル「…なぜにマクスウェルまででてきたのかしら?」
コレット「あ。あのかわいいノームまでいるよ?あいかわらずあのリボンかわいいよねぇ」
ジーニアス「…コレット、あれリーガルもいってたけど、リボンでなくて掘削機……」
ロイド「なんだか精霊達、楽しそうだな?」
ジーニアス「というか、収集つかなくなってきてない?これ……」
リフィル「・・・私としては、なぜに人々が本物だ、と気づかないのかが興味深いわ……」
エミル「…たしかに」
たしかに、なぜにみながみな、立体映像だ、と信じ込んでいるのだろうか。
マナを感じ取ればすくなくともわかるであろうに。
まあ、ごく一部、マナを感じ取れるものはそれにきづき、唖然としている姿も目にとまるが。
彼らがそんな会話をしている最中。
ゼロス「ここで、サプライズだぁぁ!ノームが小さくなって観客たちの周囲をとびまわるぞ!」
ノーム「…え?僕そんなこといってないよ!?」
ゼロス「できねえのか?」
ノーム「むぅ。バカにしたなぁぁ!え~い!!」
その言葉とともに、無数の小さな、小さなノームが出現し、わらわりらと人々の上空を飛び回る。
エミル「…なぜのせられてる……」
その姿をみて盛大にさらに溜息をつかざるをえないエミル。
というかいいように扱われているようにみえるのは、絶対にエミルの気のせいではないはず、である。
リフィル「ゼロス。ノームの扱いがうまいわね」
しいな「いや。リフィル。感心するのはそこじゃないとおもうよ?あたしゃ」
アリシア「かわいらしい小さなノーム達が皆さまの周囲をかけめぐるなか!
      おおっと!セルシウスがイフリートに攻撃をしかけましたわ!」
セレス「ものすごい巨大な氷の柱ですわね。あれ、危なくありませんこと?」
アリシア「問題はないでしょう」
いいつつ、ちらり、とエミルのほうをみるアリシア。
まあ、彼が止めるような言葉をいっていないのであれば問題はないだろう。
おそらく、たぶん、きっと。
セルシウス「いいかげんに、一度氷の中で反省してこ~い!!」
セルシウスが叫び、手を上空にかかげるとともに、
巨大な氷の柱というかつららもどきが出現し、
それらはイフリートをおしつぶさん、とイフリートめがけておちてゆく。
イフリート「おお!お前の愛、しかとうけとめてやるぞ!」
セルシウス「誰が愛だ!誰がぁぁぁ!!」
観客たち「これって、精霊達の姿をもってした痴話げんかのイベントなのかしら?」
観客D「精霊も本当にあんな性格してたら親しみもてるよね」
観客E「まさか。女神マーテル様につかえている精霊様があんなに人間くさいはずないじゃない」
観客F「レザレノ・カンパニー。思い切ったシナリオ考えたなぁ。
     これって、あるいみマーテル教会としては驚愕ものだろうに」
観客G「だから、神子様もいるんだから公認では?」
観客そのほか「なるほど」
観客たちからはそんな声もきこえてきているが。
やがて巨大な氷の柱をイフリートが受け止め、周囲にこれまで以上の水蒸気が、
一気に発生し、人々の視界を発生した水蒸気が一瞬、覆い尽くしてゆく。
エミル「……」
そろそろ、ころあい、か。
おもいっきり溜息をつきつつも。
ちらり、とその視線をその先にいるウンディーネにとむける。
その視線をうけ、こくり、とうなづき。
ウンディーネ「ふたりとも、いい加減になさいませ!!スプラッシュ!!!!!!!」
本来ならば、地面からふきあげるような水の柱なのだが、
それを上空から押しつぶす形とし、術を発動させるウンディーネ。
刹那、周囲を覆い尽くさん、といわんばかりの水の柱が、
全てを飲み込むかのごとく押しつぶしてゆく……


※ ※ ※ ※


すでに昼はすぎており、刻々と夕刻にと近づいている。
朝から始まったこの突発的水着イベントは途中、どうみても水着イベント、というよりは、
音と映像、そして演武の繰り出す幻想的な光景が繰り広げられたりもしたのだが。
きらきらと周囲にまう光る氷の粒。
そして空にかかるいくつもの虹。
マーテル教の女神物語の中にでてくる絵本から抜け出したような立体映像だ、という精霊達。
よもや人々はまさか、それらが本物の精霊である、などとは夢にもおもわない。
その後、普通の飛び入り参加自由のコンテストが改めて再会され、
そして飛び入り参加がなくなったのをみはからい、最後のしめが、進行役達からつげられた。
それは、会場内にいる人々による、投票式の今回のイベントの優勝者の決定。
用意されている場所にでむき、そこにそなえつけられている機械。
それに、それぞれが順位をきめたものの数値を打ち込みしてゆく。
一番、二番、三番・・・五番まであるそれは。
それぞれのブーストにわかれており、
自らが一番、とおもうひとの番号をおしてください、という簡易的な形式のもの。
そして投票に参加したものは、参加記念、としてアルタミラ特性グッズの詰め合わせが手渡された。
最後のしめとして、会場に参加していた観客たちから番号による投票を実地し、
そして今回の水着イベントの優勝者が決定された。
まあ、そのときにたまたま雲の隙間から
優勝者に商品を渡すためにとあらわれた少女の上から、
まるで後光がさすかのごとく、たまたま光が降り注いだのも、
また人々にとっては幻想的で、より会場をわかせはしたのだが。
せっかくだから、とすこしばかりラタトスクがルーメンに命じ、
それをおこなったことを知るのは、精霊達のみ。
優勝したのはなぜかセルシウスで、どうやら氷の精霊によく似ている、という理由と、
そして演武がかなり人々の心をとらえた、らしい。
次なる優勝者はリフィル。
そして、それぞれ水着に関して賞がいくつかおくられた。
すでに会場であったその場所からは観客たちはばらはらと帰路に、というか、
それぞれもどるべき場所、家であったりホテルであったり、とむかっている。
そんな中。
「…なんで、僕のこれ、男の娘でしょう、っていう賞?」
ひとまずひきつり笑いをうがべつつ、それをうけとりはしたが。
こんなトロフィーをどうしろ、というのだろうか?
目の前にある小さなトロフィーをみてぽつり、とつぶやくエミルの姿が目にはいる。
すでに精霊達はしいなが召喚をといたがゆえにこの場にはいない、が。
「僕なんか、夏の子供でしょう、なんていうふざけた賞だよ?
  これ、絶対にゼロスが考えたに違いないっ!」
まるではじめから用意されていたかのような賞。
エミルの言葉につづき、ジーニアスが憤慨したようにいってくる。
「それにしても、タバサ。ほんとうに絵本の中のマーテル様そっくり、だよね」
しみじみと、横にいるタバサをみていっているマルタ。
今のタバサの格好は、絵本の中にでてくるマーテルの服装そのもの。
つまり、どこからどうみても、マーテル、といっても過言でない。
黙っていれば、マーテルをしっているものがみれば、マーテル!?
と間違いなく叫ぶレベル。
その姿をみてから、ずっとこのかたミトスが黙り込んでいるのをみて
リフィルはとある確信を強めているが。
アルタミラにある時計によれば、今の時刻は四時前後。
簡単な昼食しかとれなかったこともあり、こうしてビーチの一角にとある、
バーベキュー専用エリアにとやってきて、少し早目の夕食を用意している今現在。
「私のこの体は、もともと、マーテル様の器とすべく、そっくりにつくられている。
  とマスターがいっていましたから。絵本の中のマーテル様がより詳しくかかれているのかと」
マルタの台詞にこてん、と少しばかり首をかしげつつも、タンタンといっているタバサ。
初めてあったときよりも、かなり人工知能が成長してきているらしく、
かつてのときより、片言であった言葉も流暢にとなっている。
それは、エミルのマナの影響もあって、なのだが。
タバサは自覚していないが、確実に新たな魂、として成長を遂げている。
絵本から抜け出したようなタバサの姿。
そして空から差し込んだ光。
光につつまれるように出現したようにみえた…正確にいえば、
演出、として舞台の下からタバサはせりあがってきたのだが。
そこにたまたま光が差し込み、より幻想的な光景をつくりあげたのがつい先ほどのこと。
はたからみれば、たまたま。
しかしそれはエミルの手によるあるいみ必然ともいえる演出。
この付近は岩場も近くにあり、海の幸を自分達でとれる、というのも売りにされているらしく、
少しはなれた小屋では様々なものをレンタルしていたする。
「…しかし、アリシア、その姿を人前にさらしたのか……」
がくり、となにやらうなだれているリーガル。
つい先ほどリーガルもまたこうしてこの場にやってきたのだが。
成長したプレセアことアリシアに抱き付かれ、一瞬硬直していたのは皆の記憶に新しい。
ちなみに今のプレセアはいまだに意識はアリシアであり、
リーガルに着せられた大き目の上着を水着の上に羽織っている格好になっていたりする。
なぜに神子がしつこく、プレセアの水着は伸縮素材で、といっていたのは気になっていたが。
まさかこういう可能性を示唆していたとは夢にもリーガルは思わなかった。
しかも、プレセアがきているときはかなりのシワのある特徴のある水着でしかなったのに、
今の成長したその姿ではかなりきわどいビキニタイプの水着になりかわっている。
こんな格好を人前にさらしたのか、とおもうとリーガルは何ともいえない気持ちになってしまう。
たとえその姿がプレセアのものだ、とわかっていても意識はアリシア。
リーガルとしてはアリシアの肌を人前にさらしたのか、とおもうと
何ともいえない思いに囚われていたりする。
あくまでもその体はプレセアのもの、なのだが。
そんなリーガルの落ち込み具合は何のその。
「でも、精霊さんたち、賑やかだったねぇ」
コレットがふと先ほどのことをおもいだしたのか、そんなことをいってくる。
ちなみにその手にはアイスクリームが握られており、
この先の小屋でうられているアイスバーともいわれているそれは、何でもあたりつき、であるらしい。
「あれは収集がつかなくなってきてたからねぇ」
しいなも溜息をつかざるをえない。
フィアレスとセルシウスの間にて繰り広げられた演武はたしかにみるものを圧倒させた。
そのほとんどは護身術にも近しいような技ではあるが、足や手、そして体術。
それらを繰り出しつつもおこなわれるそれは、まさに、武術、というよりは舞いというにふさわしかった。
一通り、一段落し、かるく会釈をしたセルシウスになぜか、よりによって、
イフリートが次は私との手をあせをもとむ!といいだし。
ことわる!と即座にいったセルシウスの言葉によって、問答無用のバトルが勃発。
それもアリシアの機転で、火と氷の今度は共闘だぁぁ!
などという言葉にいともあっさりとごまかされはしていたが。
だんだんとヒートアップしてくるそんな二人にウンディーネが水をぶちまけ、
その水は会場内部をことごとく満たした。
それでも、ちゃっかりと人々を保護しているのを忘れていなかったらしく、
人々の体には一滴もつかなかったことから、
観客たちは本当にこれが映像なのだ、とことごとく信じ込んでしまった。
まあ、なぜかセルシウスとイフリートとの攻防戦のその最中。
しいなが呼んでもいないのに、マクスウェルがあらわれたり、
また、小さなノームの群れがあらわれて、会場内部を沸かしていた、という事実があったにしろ。
精霊体となりて、しかしマナをより強くしているがゆえに姿はみえるが触れることができない。
という小さなもぐらたち。
それらを目の当たりにし、余計にこれは立体映像なのだ、と
人々が信じ込んだという理由がありはしたが。
ともあれ、水におしつぶされ、そのまま姿をけしたイフリート。
正確にいえば、ラタトスクが影の中にひっぱりこんだのだが。
ちなみにイフリートはしいなが召喚をとくよりも先にきえていたのだが。
それはラタトスクが影の中にひっぱりこみ、
精神世界面アストラルサイドによって、
やりすぎだ、といってイフリートにたいし、すこしばかりお灸を据えていたからに他ならない。
はたからみれば、
その場にエミルは額に手をあててつったっているようにしかみえなかったであろうが。
「ウンディーネが機転をきかしてくれてあの二人をとめてくれてたすかったよ」
しいなもそんなコレットの言葉に苦笑せざるをえない。
あのままだと、人々が立体映像ではなく本物の精霊だ、と気づきかねなかったのではないか。
というのがしいなとしての本音。
まあ、水に押しつぶされて姿をけしたイフリートのことは多少は気になってはいるが。
相手はまがりなりにも精霊。
何かがあるわけはないだろう。
それゆえにしいなはあまりイフリートのことは心配していない。
「…報告をうけて何ごとかとおもっていったときには私は唖然としたぞ。
  というか、神子。なぜにわが社が精霊達の立体映像を開発中、としたのだ?」
それが本物の精霊達であることはリーガルにはわかったが。
しかし、進行役をしていゼロスにしろ、成長してしまっていたプレセア…
どうやらその口調からまたアリシアの意識が表にでていたことに驚きはしたが。
ともかく、二人の機転というか進行具合で人々がそれが本物の精霊、ではなく、
立体映像だ、と信じ込んでいたのが不幸中の幸い、といえたのかもしれないが。
しかし、逆にレザレノ・カンパニーがそんな装置を開発しているのだ、
と人々が認識してしまったのもまた事実で。
今後、それらの問い合わせが増えるであろうことは必然事項。
すばやく、一度やってみて、問題がいろいろとみつかったので利用は見送っている、
ともしも問い合わせがあった場合はそのように答えておくように、と指示はだしておいたにしろ。
「そうはいうけどよ?そうでもしないと本物の精霊ってばれたら。
  それこそ騒ぎが大きくなるだろう?それでなくても昨日の今日、だぜ?」
昨日までの騒ぎ、いくら人々が眠りにつかされていた、といってもしっているものはしっている。
そしておそらく、あの観客たちの中には異形にさせられていたものすらもおそらくいるであろう。
どうやら被害はみずほの民…しかもくちなわたちについていったものたちだけ、ではなく。
このアルタミラにた人々にも及んでいたらしいのだから。
「それはわかるのだが」
ゼロスの言い分はわかる。
わかるが、もうすこしまともな言い訳がなかったのだろうか、ともおもう。
聞けば、きっかけは、氷の精霊セルシウスにそっくりな何かが現れたのがきっかけ、らしいが。
「お。海水がだいぶひいてきたな。なあなあ、リーガル。
  岩場に食材とりにいってきてもいいか?」
やはり、とれたての新鮮素材を炭火でやくのが一番おいしい。
肉料理は仕方ないとしても、何しろここテセアラではすでに加工されている肉が普通に売られている。
シルヴァラントでは自分達で捌くしかなかった、というのに。
ふとロイドが海のほうに視線をむければ、ほどよいほどに海水が引き始めていたりする。
時刻的にそろそろ、引き潮の時間になるらしく、
その時間のみ、この先にいわばが出現し、ちょっとした狩場となるらしい。
潮溜りに様々な生物などがのこされ、それらを探すのも楽しみの一つ、ともなっているらしいが。
この混乱の中、何でも保存していた食料などは、ことごとく腐ってしまっていたらしく、
それらは瘴気の影響ゆえ、なのだが。
つい先刻ついたという船にのっていた物資もあまり数もなく。
カンパニーに保管してあった臨時の食糧を町に配布している、とはリーガルの談。
それにせっかく海がそこにあるのである。
自給自足が当たり前でもあったロイドからしてみれば、
自分達で食材をとりにいく、という感覚は当たり前なもの。
「…脈略があいかわらずないようなことを突拍子もなくいってくるねぇ。ロイド君は」
そんなロイドの台詞にゼロスが苦笑ぎみにさらり、と言い放つ。
「ミトス。大丈夫?さっきからなんだかおかしいよ?」
さっきからミトスの様子がおかしい。
いや、戻ってきてからこのかたずっと。
さらにタバサの格好をみてからは、時折険しい表情でじっとタバサをミトスはにらんでいる。
だからこそ、心配になりといかけているジーニアス。
間違っていてほしい。
ミトスがあのミトスだというのは。
でも、タバサをみるその視線はあからさまに憎しみのようなものがみてとれる。
普通、そんな思いはいだかないだろう。
その姿が絵本にでてくる女神マーテルにうり二つである以上、
普通のものならば、よくできたコスプレだわ、とほめるか、
もしくは、マーテル様に失礼ではないのか?という思いを抱くかのどちらか、ではあろうが。
「…う、うん。ちょっと……」
黙っていれば、姉がよみがえったような感覚に陥ってしまい、
ミトスはさらに手を強くにぎりしめる。
たしかに、精霊達がでてきたのをイベント、しかも立体映像の一環だ。
そういってしまっていた以上、イベントのシメとしてふさわしい姿、なのだろうが。
それでも。
姉様の心を受け止められなかった失敗作。
それが姉そっくりの姿、そして服装をしていることに、ミトスとしては苛立ちを隠しきれない。
「そういえば。結局、騒ぎがおさまるまで、あんたもどってこなかったけど?」
結局、花畑にいくといって立ち去っていたミトスは、
精霊騒ぎがおさまるまで、彼らのもとにはもどってこなかった。
そんなミトスをみつつ、きになっていたらしく、しいながふとといかけているが。
「あ、あまり人がおおくて、ちょっと迷って……」
迷っていた、というのは嘘。
今後の方針をクラトス、そして通信を通じ、プロネーマ達にと伝えていた。
とある事実が確定した以上、残された時間は限りなく少ない。
「クラトスさんがいたのに?クラトスさんも方向音痴?」
マルタは封印の書物の中に一緒にいっていない。
ゆえに、勇者ミトスの魂の欠片だ、といった彼の姿にあっていない。
だからこそ、このミトスとあの救いの塔でみたユグドラシルが同一人物だ、などとは思っていない。
だからこそ、あのクラトスさんもいたのに迷ったの?
という純粋な意味合いをこめてといかけていたりする。
ちなみに、も、というのはときおりエミルの姿を見失うことがあるがゆえ。
マルタの中ではエミルもまた、方向音痴なのでは、とおもっていたりする。
でなければ、一瞬のうちに見失うようなこともないだろう、と。
それはまったくのマルタの勘違いもいいところ、なのだが。
よもや、その場から本当に掻き消えるようにいなくなっているなどと夢にもマルタは思わない。
「……ノーコメントといっておく」
そんなマルタの台詞に、クラトスは腕をくんだまま淡々と答える。
まさか、とはおもった。
おもっていた。
しかし、ミトスが…ユグドラシルが特定した以上、やはり、であったのだろう。
すでに目覚めているセンチュリオン・テネブラエ。
だとすれば、このマナの安定は彼らセンチュリオンがもたらしている。
そう考えればすべてのつじつまはあう。
しかし、自分達に何の接触もしてこない、というのが不気味でたまらない。
ミトスのいうように、ラタトスクが目覚めるまで彼らは指示をまっているのでは?
という可能性が強いのかもしれないが。
そうではないような気がひしひしとしてしまう。
クラトスにとっても、ミトスの決定は残された時間がない、と覚悟を促しているようなもの。
それでもまだクラトスの中で答えはでていない。
「なあ。先生。いいだろ?せっかくやりやらもりやらかりてきたんだし。
     それにこの水着、水中眼鏡とかいうやつやら、シュノーケルとかいうのがついてるし」
ダイクの手により、そういったものをつくってもらったことがあるがゆえ、
一応それらの名はしっかりといえているロイド。
ちなみに、シルヴァラントではこのようなものは売られてなどはいない。
そもそも、海にもぐったりするのも命がけで、
海は魔物の巣窟であり、海女もいるにはいるが、そうそう数はいない。
「まて。ロイド。この付近には毒のある生物もおおくいる。
      お前は珍しいから、といってすぐに手をだしかねないから一人でいくのは反対だ。
      お前のことだ。珍しい色のタコとかいたら、すぐに手をだしかねないからな」
そんなロイドの言葉にふと現実に思考の渦の中に囚われかけていたクラトスが引き戻される。
クラトスの脳裏にうかびしは、珍しい生物だ!
といって、昔、ロイドが手にしたクラゲ。
――おと~さん、かわったのがいるぅ。何これ、何これ?
――まて、ロイド!さわるな!
――うわぁぁん!いたぃぃぃ!
――おのれ!うちのロイドに何をする!ジャッジメント!!
それはまだ、アンナがいきていて、まだ逃げていた最中の記憶。
イセリアに向かうことにきめた少し前の出来事。
何にでも興味を示し、すぐに手をだす子供だった。
そしてその性格はどうも旅をしていておもったのだがほとんどかわっていない。
だとすれば、触れただけで致命的な毒をもつ生物はここテセアラにはいまだに存在している。
シルヴァラント側ではマナ不足でそういった生物などは絶滅していたりしたようだが。
特にロイドの場合だと、ヒョウモンダコとかを潮だまりでみつけ、
小さい変わったタコだ!といってすぐに手でつかむ。
そんな光景がみてもいないのにありありと予測ができてしまう。
だからこそ、クラトスがぴしゃり、としかもきっぱりと言い切っていたりする。
亜熱帯地方に広く分布している体長約十センチ程度しかない小さなタコ。
しかし、刺激をうければ青岩や線の模様のある明るい色にと変化する。
そんなものにロイドが興味を惹かれないはずがない。
「たしかに。この付近にはヒョウモンダコに代表されるような毒のある生物もいるからな」
クラトスの言い分に納得したようにしみじみとつぶやくリーガル。
どうやら多少は過ぎてしまった、というのもあって、
プレセアのその水着姿が大衆の目
…リーガルにとってはプレセア、というよりはアリシアの、なのだが。
とにかく、それらのダメージは多少軟化された、らしい。
そそれでも、つい先ほどまで視界の端では、
そんな姿を人前でおしげもなくさらすものではない、とか。
男は皆オオカミなのだから、とかいって
注意というか忠告をしていたリーガルの姿があったりしたのだが。
「というか。あんたはいつまでここにいるんだよ?クルシスにもどらなくてもいいのか?」
ロイドとしてはなぜに今まで彼がここにいるのかが理解できない。
まあ、ともにいてくれてなぜかうれしい、という思いもあるが。
それでも、やはりクラトスは敵なのだ、と思い知らされるようで。
敵ならば敵らしく、自分達のそばにいくなくてもいいだろうに、という思いもある。
「ここは、私も監視員を頼まれていたのもある。
  今日はイベントに強制参加されてできなかったからな。
  ロイド達を監視することで、その役割を果たすことにしよう」
「それっでとうかんがえても、こじつけ……」
ぽつり、とジーニアスがいうが、クラトスは素知らぬ顔。
「…おもってみれば、クラトスって……」
あのとき。
あの中で、勇者ミトスにいわれた言葉。
あのクラトスに子供がいるなんて。
どう考えてもあの中で子供、とよばれたのはロイド以外の誰でもなく。
改めてそれをしってクラトスの言動をみれば。
ああ、親ばかだったのね。
ストン、とリフィルの中でクラトスの言動にたいし、納得ができてしまう。
嫌、というほどに。
そういえば、戦闘とかになったりしても、ロイドが蚊にさされたりしても、
感染症もあるのだ、といって旅の最中も優先してファーストエイドをロイドにかけいてたような。
あからさまにロイドを優先的に。
「そっかぁ。クラトスさん。ロイドが心配なんだね。
   たしかに、ロイド、これたべられるかな?とかいって、かわったものとかあったら。
   すぐに口にふくんだりしてたもんね。それで先生がよく麻痺といてたりしたし」
ひくり。
「お前は、何をやっている!何を!そもそも、危険なものとかをすぐに口にするな!
  というか、何でもひろってたべるんじゃない!」
何だか昔もそんなことをいったような。
というかまだ治っていなかったのか!?
あの旅の中ではそんなことはなかったのでもうあれは子供のころのことなのだ、とおもっていたのだが。
コレットの言葉にぴくり、とクラトスが反応し、思わずその場にて叫びだす。
「……親ばか」
ぽつり、とちいさくミトスが呟いた言葉をとらえ、
「ま、今にはじまったことじゃねえけどな」
苦笑ぎみに、そんなミトスの言葉にこれまたぽそり、と小さい小声でいっているゼロス。
「あ。たしかに。前それでロイド、痛い目みたよね?
  姉さんにアンチドートかけてもらったの一度や二度じゃないし?」
「うっ!」
ぽん、とそんな彼らの会話をききつつも、
思い当たるところがおおすぎて、何かを思い出したらしく、
かるく手をたたきながら、とどめ、とばかりにいいはなっているジーニアス。
そんなジーニアスの言葉をきき、多少言葉につまっているロイド。
「あ、あのたこさん?びりびりきたよねぇ。あれ」
「だよなぁ。手足がびりびりしびれたよなぁ。あれ」
どうやらコレットも思い当たるところがあったらしい。
ジーニアスの言葉にしみじみとうなづき、
ロイドもなぜかしみじみとうなづいているが。
・・・どうやら、過去、すでにそのようなことが実際、一度か二度くらいはあった、らしい。
「・・・・・・・・・・・あなたたちだけだと不安だわ。ものすごく。
  ジーニアスがついていてもあなたたちをとめきれないでしょうし」
かといって、クラトスをともにいかせたとしても。
というかクラトスがこの場にいるのがリフィルとしては気にかかる。
ロイドのことを子供、とわかっているのならば。
どうにかして親ならば我が子を手元におこうとするのではないのか?
そして、クルシスにはそんな技が可能なものがある。
それこそ、魔物ですら操れる装置があるのだから、ヒトを操ることくらいわけはないであろう。
「なら、僕がついていきましょうか?簡単な回復術なら僕も使えますし。
  海の生物とかなら多少詳しい自信もありますし」
多少どころかしらない生物は絶対にいない。
そもそも、ラタトスクが新たに生み出していない以上、新種というものは存在していないのだから。
もっとも、ヒトの手により絶滅してしまった数多くの生物はいるにしても。
「じゃあ、僕、そろそろ薪がすくなくなってきてるから。それをとりにいってくる。
   ゼロスさん、てつだってもらえます?」
「おうよ。んじゃまあ、天使様やロイドくんたちは、いわばで食材確保ってな。
  エミルくん、ロイドくんが暴走しないようにみはってなよ~」
「何で俺限定なんだよ!」
「あ、ミトス。僕もなら薪を……」
「ううん。僕とゼロスさんで大丈夫だよ。この先でたしか薪は売ってたはずだし。
  だから、ジーニアスはロイド達と一緒についていってあげて?
  ジーニアスがいれば、マナの見分けで毒があるとかそれらはわかるでしょう?
事実、このさきの小屋で薪は普通に売りに出されている。
クラトスの言い分にも一理ある、とはおもう。
ハイエクスフィアとより融和性の高いロイドを調べることにより、
より無期生命体化がスムーズにいくのではないか。
もしくは、今問題でもある結晶化という症状自体もどうにかできるのではないか、と。
それに、たしかにクラトスは無意識にいったのであろうが。
クラトスの言い分にも一理ある、とはおもう。
これまで、天使化したものに子供ができた、などとは一度たりとてきいたことがなかった。
が、ロイドは実際に生まれている。
クラトスは必至で、これまで天使化しているものが子供をもうけたなどとはきいたことがない。
だからロイドの体は生きたまま調べる必要もあるのでは。
そこに無期生命体化における秘密が何かあるかもしれない、と。
それはロイドの命を助けたいばかりにクラトスが何も考えずにいった台詞なれど。
そこに深い意味がある、とはクラトス自身はおもっていない。
さきほど、精霊達に自分達のことを暴露されるのをさけ、移動していたときに話したとき。
しかし、前回はクラトスに任せる、とはいったが、今回はそうはいかない。
だからこそ、ならばその役目は今回は神子に任す。
そういって、クラトスに命じはした。
それとなく、神子ゼロスからは魔導注入の技術をいうように。
クラトスからは、エターナルソードはエルフの血をひくものでしかあつかえない。
そのような認識をもたせるように彼らに説明をしろ、と。
そして今。
ゼロスをともない、二人で移動するのは、その命令をゼロスに伝えるがため。
だからこそ、ミトスからしてみればほかのものについてきてほしくはない。
「ここ、アルタミラでそうへんなことにはならぬだろう。
  先ほどのイベントで神子のことを知らぬものもいないだろうしな」
神子である、というのを全面におしだしていたイベントでもあった。
ゆえに、神子ゼロスのその容姿は人々の脳裏に刻まれていることであろう。
「あ。そうだ。リーガル様。姉さんが起きてくる前にいっておきたいことが」
「何だ?アリシア?」
「おそらく、姉さんは今回の成長でマナが安定するとおもわれます。
  けど、今後は失われた時間というかその成長速度が急激になるかとおもわれます。
  まあそれは、成長期の一言で済ましてしまえばいいでしょうけど。
  姉さんがいきなり成長してゆくのをみて不審な目をむける輩もでてくるとおもうんです」
「プレセアは私が全力をもって守る。安心しろ」
「よかった。あ、あと。私と神子様が話をあわせてレザレノの開発中の技術っていってた、
  精霊達の立体映像なんですけど…」
「はいはいはい。仕事の話はともかくとして。
  というか、リーガル、あなた本当にアリシアを表にだして
  営業担当にでもしていたらよかったのではなくて?」
そうすれば、ジョルジュが無理やりに二人を引きはがすようなことはしなかったであろうに。
どうも仕事の話を始めそうな二人の会話にわってはいり、あきれつつもいいはなち、
そして。
「じゃあ、ゼロスとミトスは薪をお願いね。
  私たちは今後のことをここでしばらく話し合いましょう。
  しいな、明日にでも里のほうに出向いてみましょう」
たしかにマナは不安定。
が、水上移動ならば移動は可能であろう。
あまりリフィルとしてはその手段はとりたくないが、エレカーを使い、海をこえ、
みずほの里にでむいて、今後の話し合いはしておくべきであろう。
レアバードは利用できない。
どうも精霊達がきえたあと、よりマナが不安定になっており、
正確にいえば、いっきにマナが減っているような感覚がリフィルとしては感じられる。
常にヴォルトを召喚し、空を飛ぶことは可能であろうが。
これからさき、しいなにはアスカとルナとの契約、という大役がまっている。
それでなくても一体の精霊との契約だけでもかなりの精神力と体力をつかうのに。
二体同時、となれば、あまりしいなに負担はかけたくはない。
さきほど、しいなに精霊の召喚をお願いしたのは、このたびのことは戦闘とかではなかったがゆえ。
一番の理由は、セルシウスにそっくりな、魔物にちかいが、精霊でもないマナをもちしもの。
その正体を知りたかったから、なのだが。
あきらかに、精霊達はあの女性の正体をしっていた。
というか、テネブラエ。
たしかにそうよんでいた。
それは以前、エミルのもとにきたことのあるエイトリオンとかいうものの名ではなかったか?
エミルにきいても答えてはくれないだろう。
が、確実に何かが起こりかけている。
そしてミトスのこともある。
精霊達、そしてタバサのこの姿をみてから、ミトスはずっと何かを考え込んでいる。
今のタバサの姿はマーテル教の教えにある絵本の中にある女神マーテルそのものの、といってもよい。
異なるのは、その手にその特徴のある葉っぱのような杖をもっていないという点くらいで。
そういえば、とふとおもう。
ハイマにて、あの気絶するあの一瞬。
エミルの手にあの絵本や壁画にかかれている樹の葉のようなものが先端についている杖。
あれがもたれていたようにみえたのは。
ふとなぜか今さらではあるがリフィルはそのときのことを思い出す。
おそらく、直感的に思い出したのには意味がある。
あれこそが、大樹の杖なのだ、と学者たちの中ではいわれている。
大樹が消えても世界があったのは、勇者ミトスの命がマナになったのもあるが、
女神マーテルがその杖の力をもってしてマナを安定させていたからだ、と。
――世界樹の杖。
それは、いくつかの世界で実際にいわれていたかの杖の総称。
が、マーテルのもちしものは、あくまでも模造品ではなく、完全なる杖としての力は、ない。
そう。
エミルがもちしものこそが、それこそ世界すらをも構成できる唯一無二のもの。
エミル、否、ラタトスク以外にはあつかえない。
扱おうとすれば、手にした直後、その体を構築しているマナがその力にたえられず、
あっというまに消滅してしまうであろう。
それこそ、精霊石の力にたえられず、異形と化してしまう。
そんな程度ではなく、門徒無用であとかたもなく、光となりてその器ははじけきえる。
「満月の日まで、あと三日。そろそろ日もくれるわ。そしたら残りは二日。
  二日後までにマナが安定すればあちらに移動して契約するにしても。
  マナが安定せずともいそいで楔は解放したほうがいいとおもうわ」
マナが少なく感じてきている。
それは、もしかしたら。
大地の消滅。
かの精霊は地上を一度海に還す気であった。
そう、クラトスはいっていた。
大地の存続は成し遂げられるかもしれないが、その過程で一度すべてが海にと沈まない。
とは絶対にリフィルとしては言い切れない。
大地そのものはのこしても、たしかに一度更地にしてしまったほうが、
何かをやり直すのはてっとり早いのだから。



pixv投稿日:2014年10月26日某日(Hp編集:2018年5月6日(日)開始

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あとがきもどき:

フェザーフォルク
※スターオーシャンにでてきた、有翼人種
見た目、おもいっきり、天使化してる人々だし、
また、彼らはもと、地球人(マテ)なので、
この名にしました。

メルニクス語変換案内

ほどほどならば許す。
It will allow, if moderate.
ウティ バウルル エルリバ ウフ チドンディエティン

というかやれ
It can be done whether it says.
ウティ ワエム ブン ヂムン バアンティアンディ ウティ セヤス

殺っていいですか?
Is it good in kill
ウス ウティ ギイド ウム クウルル

違う
It is different
ウティ ウス ドウフフンディンムティ


※武道の参考にさせていただいたもの。~少林寺拳法~参考WIKIより~
術の体系であると同時に「人づくりの行」であり、
「護身錬鍛」「精神修養」「健康増進」の三徳を兼ね備える「身心一如」の修行法をとり、
「技」と「教え」と「教育システム」を3本の柱としている。
技の特徴は、護身を旨とする拳法
肉体の修練に加えて、脚下照顧・合掌礼・作務・服装等の行為・規定があり、
さらに精神修養の一環である鎮魂行にて聖句・誓願・道訓・信条などを唱和することで自己研鑽を行う。
これらの修練を通して社会を動かしていくのは人であり、
その人の「質」が問題であるとの認識に立ち、
社会に役立つ「真のリーダー」を目指す「人づくり」の教えであるとされている

~~~

アルタミラでの水着コンテスト。
これはあるいみ、別名、精霊達による動乱&共演(?)でもあったりします(笑
副題つけるとしたら。
”精霊パニック!水着コンテスト!”・・かな(笑
きっかけをつくったのはテネブラエv
ルナがいれば精霊達をやんわりとどめることができるけど、
今まだこの時点でしいなはルナとは契約していないので、
ルナは精霊炉さんから逃れることができてませんv
詳しくそのあたりの描写はせずに、さらっと流していますが。
一応、シーンはきちんと脳内描写はあるんですけどね。
シーン描写、として描き切れるかどうかが微妙なのでさらり、とながしてたり(自覚あり
あと、個人的ことですが。
ようやく禁書の記憶さんの完全動画発見v
すでに禁書イベ打ち込みは終わったあとなのに(苦笑
しかし、あの言葉さん。オリジンの台詞だったんだ。
忘れてるもんだなぁ。とおもったり(しみじみと
ああ、だから感謝する、とかいったのか。と納得したり。
ラタ様なら感謝するとかいわないしなぁ、とおもったからなぁ。
まあ、昔の事なので台詞いった相手の名を多少わすれていたのでしょう、たぶん…(言い訳
そもそも、この話では、まだオリジンの封印といてないので問題ないといえばないのですけどね。

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