まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

pivixさんに投稿していた話の区切りとは変えてあります。容量的に……

今回こそ、禁書イベをおわらせたい!(切実に・・・
といいつつ、打ち込みしてみたら、どうもそうはいかない模様…あはは。
どうやら禁書イベは次回ラストにまわりそう、です。
打ちこみしてみたら、けっこうの量があるこの罠…
しかし、ロイド達視点を主にやってるせいか、
エミル達視点のほうがないのが問題ですが
まあ、あっちは平和そのものですからねぇ。
あるいみ、アルタミラ&禁書に入ったものいがい。
つまり、みずほにのこったマルタとセレス。
彼女たちは平和にすごしていますのですよ(笑
魔族がこないの?王(ラタトスク様)に危険がせまってはいけない!
といって、
勝手にセンチュリオン&精霊が里の周囲のマナ強化してますが、何か?(マテv
というか、精霊達やセンチュリオンが危惧してるのは、
ラタ様が自らあの禁書の中にいくのでは、というものすごい心配です
やりかねませんし。ラタ様…
なので、とどめ置くためにもセンチュリオン達もまた必至なのですよ(苦笑
あと、ラタ様不足のせいか、ふと前にこれでもいった、
ラタ様視点のTOSものさんのうちこみやってたり…
突発元ネタさんシリーズさん。あれ、需要あるようなら、
まともにうちこみしておくか、他のやつみたいに、
大まかな流れだけでもあげとくべきですかねぇ?
アスカードからさくっと次にうちこみしてたのが、テセアラ移動シーンだけ。
というあのシリーズさん(笑
あと、あれはラスト、しかうちこみしてない、という(マテコラ

そういえば、ようやく鬱々シーンもあとわずか!
この禁書さえのりこえれば、あるいみギャグ回にいける!
でもそこをこえたらまた少し鬱シーンだ!と一人気合いを入れてはいるのですが。
なんなんですかねぇ?
前にこれでもいった、ふとおもいついたパターンさん。
それがどうしても誘惑にまけて打ち込みはじめてたり…
ラタ様逆行もので、精霊の一部も意識逆行さん。
ついでにセンチュリオン達も記憶ありで。
しょっぱなからロイド達の旅に合流するお話さん…あはは…
ラタ逆行もの、いくつメモ帳にかきためればきがすむんですかねぇ(苦笑

ちなみに、元ゲームにイベがある場合
そのシーンのひたすら会話のみを先にうちこみして、
(実際ゲーム会話&考えてるやつ)
それから周囲の光景とかをいれてつつも打ち込みやってます。
脳内にあるシーンがなかなか第三者にもつたわらない。
というのは文章力がないがゆえ・・と自覚有…
さて、そろそろみなさんも理解してきたかとおもいまずが。
TOP時間軸でラグラログのようなことがありましたよ~?
みたいな話がでてましたが、実は、それの伏線のような形にこれはなってます。
ここまでだせばもうわかってるとはおもいますけどね。
ロイド達がここでこの書物を浄化したがゆえ、
マナから切り離された器に魔族たちの一部が転生をはたし、(憑依したりもあり)
で、またまた同じような地上でラグナログを発生させ、
TOP時代にいわれてた一度瘴気に地上がおおわれた、という事件に結びついてたり。
つまり、ラタ様がもともとは彼らも地上のヒトでもあるし、
問題ないというかマーテルが干渉するな、といってきてしまったがゆえに、
とめられなかった実例の一つ、ですね。
よりによって、魔族ももとはこの地上のヒトなのだから、
彼らも適応にはいりますとか何とかいってた当時の精霊マーテルさん。
おひこら(汗)状態……
なのに、魔族に対する対処は何もせず、なげくばかりか、
逆にヒトに魔族の存在おしえて呼び込む原因つくってたりしたという・・・
当事者いわく、聞かれたから答えた程度でその危険性がわかってない。
というさすがにヒトの精神集合体だけあって、どこか歪でもあった。
そんな精霊マーテル設定となってます。
絶対に、あのマーテルだと、やりそうなきがするんですよね。
実際、樹をからさないで、というばかりでな~~にもしようとしてなかったし。
彼女。ダオスにすらきちんと絶対に彼女、ラタの存在いってないでしょ?
あれは。
あの時代も絶対にラタがいたはず。瘴気がとある場所で噴出してたのも、
あれってぜったいにヒトがあらたな窓をあけた証拠だとおもうんですよね。
…ヘルマスターに出会ったときはあれはしんだなぁ。
まさか、一撃で死ぬような敵があんな序盤にでてくるとは…(TOPさん)
さて、今回のミトスサイドでミトスがなぜに無機生命体化王国なんておもいついたか
それらをそろそちらり、とだしてます。
ミトスにも考えがあったんですよ~みたいな感じですね。ええ。

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重なり合う協奏曲~疑似空間~

「…う……」
ロイドがいまだに幻想たる空間の中でまどろんでいるそんな中。
一方。
「ここは?は!?プレセア…ブレセア!?」
はっと気づけばどこかの牢の中。
ふと横をみれば横になっているプレセアの姿が目にとまる。
ゆさゆさとゆすりつつも、
「…ここ、どこだろ?」
薄暗い。
周囲に他の人の気配はない。
たしかあのとき。
魔方陣に囚われ、どこかに飛ばされる感覚。
そこまでは覚えているが。
「…う…コレット…さん?」
ゆさゆさとゆさぶれら、ゆっくりと目をひらいたプレセアが目にしたは、
心配そうに自分自身をみつめているコレットの姿。
「ここは……」
頭をふりかぶりつつも、おきあがる。
どうやら自分は何かで気絶をしていた、らしい。
「わからないの。…とこかの牢、の中らしいけど……」
戸惑わずにはいられない。
「とにかく、ここから出ないと……」
どうして牢の中にいるのかわからない。
がちゃがちゃとコレットが牢の扉をあけようとするが、
頑丈なる扉はびくともしない。
「……。…その声…誰か、いるのか!?」
ふと、この場にはありえない声がきこえてきて、思わずコレットとプレセア。
二人同時に顔を見合わせる。

ここはいったいどこなのだろうか。
気づけばどこかの牢の中らしく。
自分はアルタミラで魔族たちとたたかいつつも、爆弾を解除していたはず、なのに。
気づけばまったく知らぬ場所。
しかし、いつまでもそこにいてもしかたがない。
ゆえに、牢を壊しとにかく先にすすんでいたそんな矢先。
聞き覚えのある声をきいた。
どうやらここはどこかの牢屋、であるらしい。
いくつもの牢がこの階にいくつもあるのがみてとれる。
が、階段らしきものは何もなく、
ひたすらにいくつもの牢がそこにあるのみ。
中には牢の中には死体のなれの果て、なのであろう。
完全に人骨となったようなものが、鎖につながれて、
倒れていたりするのもみてとれるが。

「「リーガルさん!?」」
二人の声はほぼ同時。
「な!?コレットにプレセア!?なぜ…
  お前たちは禁書をどうにかするために移動した、ときいたが……」
困惑した声はこちらも同じであったのか、目の前のありえない人物。
どこからどうみてもリーガルでしかありえない男性からも声が発せられる。
薄暗い牢の向こう側。
牢をはさむ形でありえない場所で再開している彼ら達。
「そういう、リーガルさんは、どうして……」
困惑した声がコレットの口から発せられる。
リーガルは確かに、アルタミラに残っているはず、なのに。
それに、何か、どういえばいいのかわからないが。
リーガルの気配が、こういつもよりも薄く感じるのはどういうことなのか。
「わからぬ。アルタミラで爆弾の解除をしていたのだが……
  しかし、とりあえず、どいていろ。扉を破壊する」
なぜに彼女達がここにいるかそれはわからない。
けども、コレットにしろプレセアにしろ、扉を破壊しようとおもえばできるであろう。
しかしそれをしていない、ということは、彼女たちにはどうにもできないのか。
それとも……
理由はわからない。
わからないが、しかしこれだけはリーガルは確信をもっていえる。
少なくとも、彼女たちを牢の中にいれたままにはしておけない、と。
自分が入れられていた牢が足で蹴っても何の反応も示さなかった。
ゆえに、そのまま手を構え、そのまま一気に”気”を放出する。
それとともに、
どごん!
という音とともに、おもいっきり、牢の扉が吹き飛ばされる。
「うわぁ。さすがリーガルさん。プレセア。あいたよ~」
「コレットさん。おかしいです。この人はアルタミラにいたはずです。
  だとすれば、偽物の可能性が……罠の可能性が高い、です」
コレットが無邪気に牢の扉が開かれたことを喜び、
プレセアは警戒の色をつよくし、そんなことをいっているが。
確かに牢の扉が開かれたのはいいことであろう。
が、ここにいない人物がいる時点でもう罠の可能性が果てしなく高い。
そもそも、ここにくるまで魔族はさまざまな姿にその身をかえられる。
それを身をもってしてプレセア達は身にしみている。
これまでやってきたエリアにおいて、
かわいらしい動物や、ふつうに飾られている花っぽいもの。
それらが実は姿を変えている魔族で突如としおそいかかってきたことも。
ゆえに警戒しないほうがどうかしている。
「でも、いつまでもここにいるのも。みんなが心配しちゃうだろうし」
プレセアの言い分はコレットもわからなくはない。
が、自分達だけがここにいるのか。
それともみんながここに囚われているのか、それもわからない。
ロイドは無事なのだろうか。
あの一瞬。
突き飛ばすことで、ロイドを巻き込むことは避けられたが。
でもその先にも危険な何かがない、ともかぎらない。
それに、同じ罠に巻き込まれたみんなのこともきにかかる。
なぜかこの場にいたのは、プレセアだけ、であることからも。
コレットとしては不安でたまらない。

「みんな?だと?私もきづいたら牢の中だったが。
  この近くの牢の中には他には誰もいなかったが……」
コレットのセリフにリーガルがすばやく反応する。
この言いようでは、どうやら他のものにも何かがあった、とみるべきであろう。
魔族によって囚われ、この地に幽閉されたのか。
それとも、何らかの罠にはまり、バラバラにされてしまったのか。
しかし、ともおもう。
リーガルが確認した限り、どうやらこの牢のある場所は、
四角い部屋のようなものになっているらしく。どこにも出口らしきものはみあたらなかった。
リーガルは一番左下の牢の中にいたのだが、
いくつかの壁などによって区切られているこの場所は、
牢の数は全部で確認したところどうやら全部で七つ。
コレット達がいる場所は壁に囲まれた少し内部に入り組んでいる場所であり、
牢の中からみるかぎり、他にも牢があったりするというのはわからない。
それほどまでに、ちょっとした他の牢とはつくりが異なっている。
そして、一応リーガルは確認できるすべての牢の中をのぞいてみてはいる。
しかし、その中にはそのほかのものたち。
つまり、ロイドや、それ以外の面々。
ゼロスたちやしいなたち、それにリフィル達の姿すらみあたらなかった。
…あの鎖につながれた骸骨もどきが彼らのなれの果てだのとは、絶対に信じない。
たとえ、どこか見覚えのあるような赤いような布をまとっていた骸骨があったとしても。
リーガルは信じていない。
とにかく、黒い何かに覆われたのは確かで。
ならばここは、魔族がみせている幻の空間、という可能性が高い。
ならば、仲間たちの死体をみせることで、こちらの動揺を誘おうとしている。
そう確信しているからこそ、その骸骨が、
いくら仲間のそれにちかくても、ありえない、といって思考から切り捨てている。
リーガルとて声がしたから、壁の先に牢があるとわかり、
そのほかの牢を確認したのち、用心しつつもこの場にやってきてみたに過ぎない。
リーガルとて敵の幻影か、と警戒してはいるが、
しかし、目の前にいる彼女たちからは、邪悪な気配が感じられない。
それどころか、相手もどうやら自分を敵かもしれない。
と警戒しているのがありありとみてとれる。
だからこそ、戸惑わずにはいられない。
彼女たちは魔王の禁書をどうにかするために、移動した。
そうみずほの民から報告をうけていただけなおさらに。

「とにかく。ここを出よう。とりあえず、怪しい場所はあった、のだが……」
この少し先に、なぜか何もない空間だというのに、
柱があり、そして床の色が違う場所が一か所だけあった。
そこに何か仕掛けがあるのかもしれないが。
しかも、その色の違う床を囲むようにして柱が四つ。
何もないにしては、あきらかに異常。
その異常な空間を詳しく調べるよりも先に、
まずはこの部屋全体の把握が先とばかり、
それより先にこの場所を詳しく調べていたがゆえ、
リーガルもここからどうすればでられるのかがわからない。
ここから出る方法を見つけ出すよりも前に、
コレットとプレセアの声をきき、この場にやってきたのだから。
リーガルがそういったその刹那。
「!まって。誰か、他に、きます」
ふと、コレットがその耳にこれまた異なる第三者の足音をききつける。
これまで、気配は自分達三人だけ、だったのに。
まるで唐突に気配が一つ、否、二つ増えた。
それにきづき、コレットが思わず叫ぶのと、それとほぼ同時。
「無事だったんですね。よかった!」
何やらとてつもなく聞き覚えのある声がきこえてくる。
それは、コレットのものでも、プレセアのものでも。
ましてやリーガルのものでもない。
その声は先ほどリーガルが現れた方向から。
暗闇の中よりあらわれたは、
メイド服をきこんだ、桃色の髪を頭の上のほうで左右に束ねている少女。
今はプレセアの中で眠っているはずの少女の姿がそこにはある。
「「アリシア!?」」
その姿をみて声をだすは、プレセアとリーガル、ほぼ同時。
そしてまた。
「あれ?何で?アリシアさんが、どうして……」
コレットとしては困惑を隠しきれない。
何しろ、プレセアの中にもきちんと、いまだにアリシアの気配がある、というのに。
でも、それに。
目の前にあらわれたアリシアの格好をしている少女は、何か、が違う。
それでもここがうすぐらく、何がどう、とはしっかりといえないが。
しかし、コレットが見知っているアリシアの気配とは全く異なる。
どちらかといえば、この気配は、邪悪な、といったほうがいいような。
コレットが表れた【アリシア】の姿をしている少女。
つまりは、目の前にいる【アリシア】は、
かつてレザレノ本社の空中庭園にて垣間見たあの姿そのもの。
異なるのは、あのとき姿が透けていたのに、
今はきちんとした実態があるようにみえる、ということと。
おもいっきりコレットからしてみれば違和感を感じてしまう、ということ。
どこかでこの感覚は覚えがあるのだが。
その感覚がどこであったのかが、コレットは思い出せない。
驚愕した表情をうかべているリーガルとプレセア。
そして戸惑いの表情を浮かべているコレットを気にすることもなく、
「今、みなさんのいるところへ案内しますね」
三人をみつつもそんなことをいってくる。
そんな彼女に対し、
「そんな馬鹿な…幻だ。アリシアは…死んだ!」
そして、今はプレセアの中にいるはず。
それに、アリシアの瞳はそんなに汚れてはいない。
それこそ透き通った、女神のごとくの瞳の輝きをもっていたというのに。
目の前のアリシアの姿をしている少女の瞳の輝きはものすごく濁っている。
だからこそ…リーガルの叫びは当然で。
だがしかし。
死んだ、という言葉にぴくり、とプレセアが反応する。
あなたが、アリシアを殺したあなたがそれをいうか、と。
「ええ。そのとおりです。殺されました。――あなたに」
「……そのとおり、だ」
いくら、リーガルは悪くない、とアリシアの口からきかされても。
でもやはり、
妹を手にかけた、という事実がプレセアの中から消えているわけではない。
プレセアは気づかない。
妹の姿をしている少女の姿をみたせいか。
その思考が悪いほうに、わるいほうに引っ張られていっているということに。
そんな二人の会話をききつ、まるで悲しむようにすこし顔をふせ、
しかし、その伏せた顔の下でその口元がにやり
と笑みをうかべたのにコレットが気づき、はっと口元にと手をあてる。
この表情の変化に二人はきづいていないの?
コレットはそうおもうが、事実二人は気づいていない。
二人の目には悲しみ、うつむいてしまったようにしかみえていない。
そしてそんな二人の思いをまるで肯定するかのごとく、
「……では、私は?お姉ちゃん、私は…何?
  私はこうしてここにいて息をしているのに……お姉ちゃんまで私を死んだっていうの!?」
途中までいいかけ、そしてその瞳を潤ませたように、
ばっと音がするではないか、というほどに顔をあげ、
その両手を胸の前でくんでまるで訴えるようにいってくる。
あからさまに、妹ならばこんな表情、訴え方はしない。
そう心のどこかで訴える気持ちもありはすれど。
しかし、妹の泣き顔。
それに昔からプレセアは弱い。
ゆえに。
「…私は………」
感じていた違和感も何もかも、妹の泣き顔をみれば、
プレセアの中ですべてはじけとんでしまう。
それが相手の思う壺である、ということにすらきづかずに。
プレセアがそう戸惑いの言葉をいうと、まるでそれをみはからったかのように、
つうっと一筋の涙らしきものが少女の瞳から零れ落ちる。
「確かに、私はリーガルさまに殺された
  でも今、こうしてここに生きている。それでいいじゃない」
それはまちがいなく、本人であればいわないであろう言葉。
アリシアは何でもかんでも知りたがった。
質問攻めにしてはよくプレセア、そしてリーガルを困らせていたことも。
だからこそ。
「…まやかしめ!立ち去れ!アリシアの姿でその姿を愚弄するなっ!」
強い口調で一歩、アリシア偽にちかづきつつも、
きっとそちらをにらみつけるリーガル。
いつでも攻撃できる態勢をとったまま。
「きゃっ!」
リーガルに眼前にまで迫られそうになり、悲鳴のようものをあげる。
刹那。
とっさ的にアリシアとリーガルの間に割ってはいるプレセアの姿。
「プレセア!どけ!」
「まだ…幻ときまってはいません」
ちょうど、プレセアが少女に背をむけているからか、
プレセアは気づかない。
自らの背後でアリシアの姿をしたものが、邪悪ともいえる笑みを
その口元に浮かべている、というその事実に。
「お姉ちゃん。お姉ちゃんは信じてくれるのね!ありがとう」
邪悪なる笑みをうかべながらほくそえみつつも、
その口調からはいかにもかよわい少女が信じてくれてうれしい、
といった口調でそんなことを言い放ってくる。
「きさまっ!」
これ以上、アリシアを侮辱するな!
そしてプレセアも。
彼女はその姿に惑わされている。
背をむけているからか背後の邪悪さにすらきづいていない。
というか、背をむけているプレセアがかなり危険といってよい。
プレセアを守るためにも、いくらアリシアの姿をしていようとも、
あのものはどうにかしなければ。
ゆえに、リーガルが戦う決意をしたの気づいた、のであろう。
「リーガルさま。私を殺そうとするなんて、ひどい」
殺す。
その言葉にプレセアの肩がぴくり、と動く。
「黙れ!偽物!プレセア!そこをどくのだ!」
「いやです。アリシアを殺すのならば私が相手です、覚悟!」
いいつつも、プレセアはその背にせおっていた斧をかまえる。
それこそが、相手の…アリシアの姿を騙っているもののおもうつぼ。
というのにプレセアはきづけない。
彼女の心の中に今あるのは、二度と妹を殺されてたまるか。
そういった感情のみで、あからさまに少し冷静になってみればわかる違和感に気づけない。
説得というか話し合いをするでもなく、
目の前のリーガルを殺さなければ。
アリシアを一度殺したリーガルを殺さなければ。
そんな思考に囚われてしまっていっているその違和感にすら気づくことができない。
それは、一種の偽物による魅了の効果。
魅了の術をうけていることにすら、今のプレセアは気づけない。
あまりにも生きているとしかみえないアリシアの姿を目の当たりにして。
ここまでの道で彼女の姿を模した敵でもでていれば、
プレセアももう少し冷静にものごとをみることができたであろう。
殺せ、殺せ。
妹を殺したやつを、殺せ。
プレセアの中でそんな声がどこからともなく大きくなりそして広がってゆく。
リーガルに攻撃をされるまえに、こちらから。
そのまま大きく斧をふりかぶる。
躊躇せずに、リーガルのその手枷をつけている両腕を、
かつてその妹の命をうばったという両腕を一気に両断するために。
そこにプレセアの迷いは一切ない。
背後で、殺せ、殺せ、と小さく口元を動かしている少女にあわすかのように、
プレセアの中で殺人衝動がどんどんと大きくなってゆく。
そして残虐性も高まってゆく。
「リーガルさん、アリシアの仇!しねぇぇ!」
そのまま、いっきにプレセアが斧を振りかぶる。
「っ!二人とも、やめてぇぇ!」
あまりの展開といえば展開。
だからこそ、あわててそんな二人の間にわってはいるコレット。
このまま、二人を戦わしてはいけない。
こんなのは間違っている。
それこそ、それこそクラトスさんがいっていたように。
相手のおもうつぼ。
ザッンっ。
しかし、プレセアの振り下ろされた刃がとまることはなく。
そのまま、いっきにコレットの肩から袈裟懸けにするかのように、その体を切り裂いてゆく。
鈍いおとと、その場にがくり、と崩れ落ちるような状態になるコレット。
切り裂かれた服からは、プレセアに一切の迷いがなかったのを裏つけるように、
おもいっきり肉がさけている。
とっさ的にその一部をコレットが結晶化した、のであろう。
無意識とはいえ、そのために、斬られそこからは、大量の血がながれだすところであるが、
それらの傷口は魚の鱗のような水晶の皮膚でびしびしとおおわれ、
赤黒い水晶の皮膚が傷そのものを一瞬のうちにとふさいでゆく。
しかし、これはあくまでも傷くちを一時ふさいだだけであり、
怪我をした、という事実が消えるわけでもない。
それでも、その斬られた反動により、
コレットの足元にはコレットの体から流れ出した血が、血だまりのごとくにたまっていたりする。
もしもコレットが傷口をふさぐことをしなければ、
まちがいなくコレットは失血死、していたであろうほどの致命傷。
「な!?」
「…え…あ…わた…し…」
短い叫びをあげるリーガルに、はっとし、茫然となるプレセア。
プレセアの手から、からんとその手にしていた斧が、おちる。
今、自分は何をした?何をしようとした?
戸惑わずに、そのままリーガルを殺そうとしていた。
その思考の違和感もさることながら。
そのせいで。
そのせいで、また自分のせいで、コレットを傷つけた。
一度目は自分のせいで敵に捕らえられてしまい、
そして今は…自分がコレットの命を脅かしている。
しっかりとその赤身すらみえるほどに切り刻まれたその傷が、
プレセアが今、躊躇なく攻撃をくりだした何よりの証拠。
じわじわと、結晶のようなもので傷口をふさいでいるにもかかわらず、
そこから血がにじみでて、コレットの服を赤くより赤く染めてゆく。
「ダメだよ。二人とも。迷わされちゃ、だめ。
  プレセア、よくみて。その子はアリシアさんなんかじゃない!
  もっと、邪悪な…」
息を、するのが苦しい。
けど、このままでは、取り返しのつかないことになる。
だからこそ、コレットは痛みをこらえ、じっとプレセアの瞳をみつつ、
伝えなければいけないことをタンタンとつむぐ。
少しでも気を抜いてしまえばいつでも自分は気を失ってしまう。
そんな自覚がある中でも、自分は倒れるわけにはいかない、とおもう。
おそらく、おそらくこの場にて相手を何とかできるのは。
できることができるのは。
「コ、コレットさん!?」
コレットの顔色が悪い。
無理をしている、というは一目瞭然で。
しかもそれが自分のせい。
プレセアは混乱せざるをえない。
が。
「コレットさんまでそんなことをいうの?
  お姉ちゃんは私の味方、だよね?
  コレットさんの流した血からは穢れを感じるわ。近づけないほどに。
  お姉ちゃん!コレットさんを殺して。コレットさんは敵よ!」
コレットを心配するどころか、逆に殺せ、とプレセアに言い放つ。
実際、アリシアの姿をしているそれは、コレットに近づけない。
コレットが流している血はマナがよりつよい。
しかもコレットは意識していないが、
エミルの、否、ラタトスクのマナをうけている料理を幾度たべているがゆえ、
その血に含まれているマナはより純粋に近い。
「プレセア。よく考えて。おかしいでしょう?
  本当のアリシアさんなら、リーガルさんとプレセアを争わすようなことは絶対にいわない
  それに、それにアリシアさんはそんなまがまがしい気配をしていない!」
「いかんっ!」
ふらり、とその場に倒れそうになるコレットをあわてて抱き留めるリーガル。
このままでは。
しかし、彼女を治すすべがない。
ここには、リフィルもいなければクラトスもいない。
治癒術をつかえるものが一人もいない。
治癒功。
それは他人にかけられる技ではない。
それどころかへたに回復術をかけて、傷口をふさいでいるものまで、もしもきえてしまったら。
それこそコレットはすぐにその命を落としてしまうであろう。
強くいいはなち、それにて気力が少し落ちてしまったのであろう。
がくり、と膝をついていたコレットがそのまま、
後ろに倒れこもうとしたところ、リーガルがだきしめており、
しかし、倒れながらも、コレットはしっかりと、
その手をプレセアの背後にいる少女にむけて指をさす。
よくみて。
といわんばかりに。
「まがまが…しい?……アリ…シア?」
アリシアの姿にだまされていたが。
いわれて、思わずはっとする。
そしてばっと勢いよく背後を振り向く。
そこには、忌々しそうな表情をうかべているアリシアの姿が。
コレットを心配している様子はない。
むしろ、邪悪にみちている。
アリシアは絶対にこんな表情はしない。
するはずがない。
アリシアの瞳はあんなに濁っては…いないっ。
つまるところは、だまされていたのだ。
コレットの命をかけたこの行為は、プレセアの目を覚まさせるのには十分すぎるほど。
その代償はあまりにもプレセアに衝撃をもたらすものでしかないが。
つまり、自分は妹の姿を騙るなにものかにだまされ、
リーガルを、そしてコレットを本気で殺そうとしたのだ。
と今さらながらに理解する。
理解してしまう。
おもわず自分の体をだきしめるように、がたがたと無意識に震えだす。
そんなプレセアの変化に気づかないのか、
「どうして…どうして攻撃をやめるの?
  お姉ちゃんは私を殺したあの人を憎んでいるんでしょう!?
  なら、殺してよ!私の仇をとってよ!
  それに、あなたは神子なんでしょう?
  なら、私を助けてくれるのがあたりまえなのに、どうして邪魔をするの!
  世界のために命をささげるのが神子でしょう?
  なら、あなたもここで死ねば世界はすくわれる、ちがう?」
冷徹なまでに冷めた目がコレットにとむけられる。
「……それは……」
自分が死ねば、世界は救われる。
コレット、お前はその命をマナとし、世界を救うために生まれてきたのだよ。
物心ついたころからずっといわれていたその言葉は。
今でもコレットの軸を形成しているといってもよい。
お前の命はお前のものではない。
他人の、世界の、シルヴァラトすべてのものたちのために、
その命はささげられるためにお前は選ばれて生まれてきたのだ。
いつも常にいわれていた祭司長達からの言葉。
アリシアが何かをいっている。
私の妹はそんなに冷酷なことをいう子だった?
ううん。ちがう。
小鳥さんがしんじゃったの。
といって泣いていた妹はそんな冷たいことはいいはしない。
誰かに、死んで、なんて絶対にいわない。
…リーガルには殺して、と懇願したらしいが。
しかし、それはアリシア自身をであったときいた。
アリシア自身から。
「リーガルさま。あなたもどうしておとなしく殺されないの?
  いつだって、今でも私を殺したことに罪悪感を抱いているくせに!」
支えているコレットの息はとても細い。
このままでは危険。
しかし、目の前のアリシアの姿をしているものの言葉は、
ぐさり、とリーガルにつきささる。
そう。
リーガルはずっとおもってはいた。
アリシアを殺した自分が生きていていいわけがない、と。
そしてプレセアのことをしり、すべてがおわったら、
彼女に仇、としてうたれ、アリシアのところにいきたい、と。
「・・・・・・・・・・」
だからこそ、その思いがあったからこそ、リーガルはその言葉に何ともいえない。
誰かにそれをいったわけ、ではない。
しかし、目の前の【何か】は確実に自分のそんな心のうちを見越しているらしい。
――魔族たちは、心の隙をつくことがうまい。
ふとユアンからきいた言葉がリーガルの中にとよみがえる。
それはアルタミラにてユアン達とともに魔族を撃退していたときに、
ユアンからそうきかされた。
――あいつらは、偽り、嘘だとわかっていても心をゆさぶる攻撃をかけてくる
ああ、たしかに。
その通りだ、とおもう。
あの場ではそういうことはなかったが。
まさに今。
彼らがいったような現象がこうしておこってしまった。
そしてそれに惑わされてしまった結果、コレットが今まさに死にかけている。
二人が黙ったのを肯定の意、ととったのか。
その口元ににやり、とした笑みを一瞬うかべ、
「さあ、二人とも、望みをはたしなさい!
  お姉ちゃんに殺されればリーガルさまは罪悪感から解放される。
  お姉ちゃんも仇をとれる。いいことずくめでしょう?
  そして、お姉ちゃんは、私といっしょにいこう?ね?
  殺してしまえば復讐はおわる。仇がそばにいるのにどうして手をかけないの?
  背負った罪は罰せられるべき、なんでしょう?
  そしてシルヴァラントの神子様。
  あなたも、本当は死にたかったんでしょう?
  死ぬためにうまれてきたんだものね?
  だから、ここでリーガルさまと一緒に死ねばいいんだよ。
  そうすれば、人々を苦しめている罪悪感からも解放されるんだから
  罪悪感にまみれていきるのはつらいでしょう?
  だから…死んで?」
たしかに。
そういわれて育ってきた。
救いの塔にいくのは死にいくための旅だ。と。
でも。
「……たしかに。私は死ぬために生まれてきた。そういわれて育った」
「!話すでない。今は体力を少しでも…」
その言葉に反応したのか、大きく息をはきながら、
どうやらその様子から息をするのもまた声をだすのもつらいらしい。
そう判断したリーガルがコレットの言葉を遮ろうとするが、
その華奢な手で、リーガルが差し出した手そっと腕の上からつかみ、
そして儚げにそれでいて優しくリーガル、そしてプレセアにむけて微笑んだのち、
「けど。今はそれはできない。今ここで死を選ぶのは逃げるのと同じだから。
  私はあきらめない。ロイドが、みんながそのために頑張ってくれてるかぎり。
  だから、リーガルさんもプレセアも、迷わされちゃだめ、だよっ。
  死んでも何の解決にもならない。相手を殺しても何ものこらない。
  あのときの私のような間違いをしたら、二人とも…だめ!」
そういっきに言い放つとともに、コレットは自らの力をより強く解放する。
今この状態でのマナの解放。
先ほど一度やったがゆえに、ある程度のこつはつかめた。
そしてマナの解放は、コレットの傷をも癒す効果をもち、
簡易的ではあるがコレットの傷を多少なりとも癒してゆく。
しかしそれは、コレットという体を構成しているマナを使用してのもの。
マナの展開とともに、コレットの体が先刻と同じく一瞬、透ける。
「…くっ、マナの展開かっ!!こざかしぃ!!
  なりそこないの生体兵器めっ!!!!!」
信じられない口調は、プレセアの背後にいるアリシアの口から。
その表情はさきほどのアリシアのもの、ではない。
どうしてそれがアリシアとおもっていたのかわからないほどに、
醜く、それでいて邪悪さにそまっているのがみてとれる。
「…コレット、お前は……」
ふらり、としつつも、どうにか傷はふさがった。
それに、ようやく冷静なる目で二人が意識してくれるようになった。
その気配にきづき、コレットはほっと息をつく。
リーガルが声をかけつつも、まだ立ってだめだ、と無言でいうが、
フルフルと首をよこにふりつつも、ふらつくからだでその場にと立ち上がり、
そして、その手を胸のまえにもっていき、
「…相手を殺せばまた次の復讐が始まる。
  それに死んだらそれで終わりって、ロイドがいってくれたの。
  私、ずっと心の中で私が死んでマーテル様になっていれば、
  世界は傷つくことはなかっんじゃないかってずっとおもってた。
  ずっと今でも後悔してる。でもそれをしたら世界が消滅するかもしれない。
  そうきかされて、その思いはずっと封じてた。
  ロイドはそんな私の思いにきづいてくれたのか、そういってくれたの。
  死んだら、終わりだって。必ず道があるからって。
  だから、私はあきらめない。ロイドがあきらめないかぎり。
  私も頑張るってきめたから」
心配しないで、というように、二人にむけて微笑みをたたえたままで、きっぱりといいきるコレット。
その背にはきらきらといまだに輝くマナの翼が展開しており、
その都度、ときおり完全にコレットの体がすけては、元にもどっては、を繰り返している。
まるで、そう。
最後の命の点滅を示しているのでは、というように。
――ありがとう。
「え?」
コレットがそういうとほぼ同時。
どこからともなく聞き覚えのある声がふと虚空から聞こえてくる。
その声にコレットがおもわずはっと天井をみあげたその直後。
パァッ。
プレセアの体が一瞬、輝きを増してゆく。
その輝きはやがて光の粒子となりて、プレセアの体外に放出されたかとおもうと、
それはやがて一つの形を成してゆく。
「まったく、ヒトの姿で好き放題いってくれて!
  というか、お姉ちゃんも私の姿をしている相手にあっさり騙されてどうするのよ!
  というか、この私!がリーガルさまに死んでなんていうとおもう!?」
ふわり、という表現がしっくりくるかのように、
空中に光かあつまり、一人の女性の姿を形作ったとおもうと、
そのまま、トッン、とその足をゆっくりと床につけてくるその人物。
桃色の髪に真っ白いワンピースのようなものをきているその姿。
「あ…アリ…シア?」
それはまぎれもなくアリシアで。
ふと、プレセアはこれまで自分の中にいくばくか感じていたアリシアの気配。
それが一瞬にしろ薄くなっていることにようやくきづく。
どうして自分は忘れていたのだろうか。
アリシア本人は自分の中にいた、というのに。
見かけがおなじアリシアの姿をしている輩にあっさりとだまされた。
そしてあろうことか、仲間でもあるコレットを傷つけてしまった。
躊躇なく振り下ろしたあの刃はあの場でコレットの命を奪っていても、
何らおかしくはなかったとプレセアは今だからこそ判断できる。
あのときは、どうして自分はリーガルさんを殺そうとしていたの?
それが正しい、とばかりに殺すしかない、とおもいこんでいた。
彼女を…アリシアの姿をしたものを傷つけようとするものは、一人残らず生かしておけない、と。
「コレットさんのマナの展開で一時的に
  こうして具現化がお姉ちゃんの体の外にでも展開できるようになってるだけ。
  あと、お姉ちゃん。復讐なんて考えないでよね?
  それをいえば、私が異形とかして殺してしまった町の人たち。
  その悲しみや怒り、それらがお姉ちゃんに向けられてしまうじゃない!
  その怒りや悲しみは私にむけられるべきもの。
  お姉ちゃんが背負うべきものなんかじゃない。
  リーガルさまをころせば、テセアラ中の人がお姉ちゃんを恨む。国もおそらくは。
  魔族はそれを望んでいるのよ!
  お姉ちゃんを利用しようだなんて、ゆるせない!
  何よりもリーガルさまを私の姿で誘惑しようだなんて!」
「ってまてぃ!なぜにそうなる!どこが誘惑だ!」
前半の言い分はまあわかる。
わかるが、後半部分をきき、おもわずプレセアは目を丸くする。
そしてまた、
アリシアの姿をもしている少女…その顔はにがにがしげにゆがみ、
ほとんどアリシアの面影をのこしていないそれが、
そんなアリシアの言葉に即座に突っ込みをいれてくる。
…彼女、からしてもそれはどうやら聞き捨てならなかったらしい。
「誘惑でしょ!私の姿を模した以上は!
  リーガルさまの心を私やお姉ちゃん以外にむけようとするなんて!
  誘惑いがいの何だっていうのよ!!
  たしかに私も罪をおかして、無関係な人を殺してる。
  それこそ小さい子供も。自分の意図ではなかったにしても。
  私が犯してしまった罪は罪。
  でも、その罪をお姉ちゃんに背負わせようとまでして!」
いや、基準がおかしい。
というか、前半分のアリシアの言葉があきらかにおかしい。
おかしすぎる。
「ふん。たかが精神体でしかない貴様に何ができる?
  この空間で、その実体を保つのはきつかろうに。
  そこのもののように、器が別の場所で保管されているのならばいざしらず」
「…何?」
あまりの展開に茫然としていたリーガルであるが、
いきなり指をさされ、指定されたことにたいし、思わず戸惑いの声をあげる。
今、目の前のおそらくは【敵】は何といった?
聞き間違いでなければ、今の自分はまるで実体ではないかのような。
そんな言い回しをしていなかったか?
しばし考え込むリーガルのそんな目の前において、
「はっ!?そうよ!あなたたち、リーガルさまに何したのよ!?
  リーガルさまはアルタミラにいたはずなのに!!
  まさか無理やりに器と精神体を分けてリーガルさまをこの世界に引きずり込んで。
  私の姿をしていることをいいことに、
  リーガルさまを誘惑し、あ~んなことやこ~んなことをするつもりだったんじゃぁぁ!」
それは、かつてみずほの統領イガグリが、雷の神殿において、
器、すなわち体と精神体が分離していたときと同じ現象。
「まて。アリシア!?お前まさかテセアラの神子に毒されてないか!?」
「あ、アリシア!?お姉ちゃんは許しませんよ!?
  ゼロス君と同じ思考にだけはならないで!!」
「?」
アリシアの言い分に即座に突っ込みをいれているリーガルとプレセア。
今の言い回しはあきらかにどうみてもゼロスの影響をうけた。
そうとしかおもえない。
一方コレットは意味がわからずに首をかしげていたりする。
あんなことやこんなことって、よくゼロスもいうけど、何だろう?
という認識でしかなかったりする。
「そももそ、お姉ちゃんとリーガルさまにちょっかいかけないでよね!
  二人は、私の次の両親、お母様とお父さまになるんだから!
  お姉ちゃんの貞操はリーガルさまのものなんだから!」
「ってまだその考え、アリシアあなた覆してないの!?」
ああ、これはこっちが本物だ。
この脱力感は。
というか、さらり、と貞操とかいう言葉をうら若き乙女がいうんじゃありません。
とものすごくいいたい。
いいたいのに、何だろう。
この緊張感のなさは。
「何いってるのよ。お姉ちゃん。お姉ちゃんに変な虫がつくより、
  それにリーガルさまにもへんな相手がひっつくより。
  よほどいいでしょ?私のためにもなるし。
  お姉ちゃんは私とまた家族に戻りたいって思ってるみたいだし。
  リーガルさまは私と家族になりたいっておもってたんだから。
  ほら、二人が結婚すれば万事すべてが丸く解決!」
「「ちょっとま(て)(ちなさい)!!」」
コレットの怪我を心配していたような雰囲気はどこにやら。
というか、先ほどまでの殺伐した雰囲気も、
本物であるアリシアの登場によっていともあっさりと覆されてたりする。
「そもそも、私の姿をしてリーガルさまを誘惑しようだなんて!」
「だから、なぜにそうなる!」
「それ以外何があるっていうのよ!」
ぎゃんぎゃん。
何か違うところでわめいているような気がするのは、彼らの気のせいだろうか。
否、おそらくそれはきのせい、ではないのだろう。
「!危ない!!」
二人のアリシア同士の言い合いでどこかあっけにとられていたそんな中。
コレットがはっとしたようにいきなり叫ぶ。
それとともに。
ドゴォン!
突如として、コレット達の目の前。
さらに詳しくいうなれば、いまだに言い合いをしているアリシア達。
そんな二人の間に突如として何ものかが攻撃を繰り出してきたらしく、
ぷすぷすと床が焦げているのがみてとれる。
それは黒い炎のような塊。
「ふん。様子をみにきてみれば。無様だな。
  誰だ?そのものたちは自分にまかせろ、とおおみえをきったのは」
「っ」
その声にコレットが息をのんだのに気付いたは、近くにいたリーガルのみ。
「どうし…て」
どうして。
どうして?
どうして……
「どうして、あなたは救いの塔で死んだはずでしょう!レミエル!!」
コレットにしては珍しく、それでいて狼狽したような声。
父だ、とおもっていた。
天使の子だ、といわれていて。
父がようやく自分にあいにきてくれたんだ、と。
でも、そうではなかった。
それは神託の日よりコレットを封印解放のたびに次の封印に導いていた天使。
その真っ白であった翼は今では黒くなっているが、
その姿をコレットが見間違えるはずがない。
あのとき、心を失いはしたけども、でもまだ周囲のことは視えていた。
クラトスによって殺されたはずのレミエル。
彼が、どうして。
記憶にあるがままの金の髪も、マーテル教の祭司のような服もかつてのまま。
「なげかわしい。天使の力をうけながら、私が幻か実体化か。
  それすらも見分けられないとはな。
  やはり、クルシス、というまやかしの天界の力ではそんなものか」
「「誰(ですか)(だ)?」」
この場で彼のことを知っているのはコレットのみ。
ゆえに、リーガルとプレセア、二人の戸惑った声が同時にコレットにむけられる。
しかし、コレットは油断なくきっとレミエルをみつめ、
すばやくその手にチャクラムを手にしいつでも攻撃ができる態勢となっている。
「お前はやはり出来損ないだったのだな。
  神子にふさわしくないものが神子として生まれてしまったばかりにな。
  まあ、ユグドラシルは天界の長の器ではなかったという何よりの証拠。
  やはり、天界はかつての主であるオーディーン様にこそふさわしい!
  偽りのデリス・カーラーンなどではなく、本当の天界こそ!」
いいつつも、ばっと大げさに両手を広げたのち、
「いつまで遊んでいる?ランスロッド様の命令を忘れたわけではあるまい?
  このものたちは、ユグドラシルを倒すのに利用できそうな駒であるがゆえ
  彼らの心を砕き、われらの傀儡にすること、それがわれらの使命」
ぎろり、とにらみをきかせつつ、アリシア偽にとそんなことを言い放つ。
「世界を滅ぼす哀れなる神子よ。かつては娘とよんだお前にチャンスをあたえよう。
  われらのもとにこい。お前がマーテルをひきはがせば、
  この世界はかつての姿をとりもどす。
  そうすれば、いまいましい封印の守護者もでてくるだろう。
  さすれば、地上は再び、今は魔族となのりし神々の手に再びもどる!」
どうして。
どうしてレミエルが?
わからない。
わからないが、たしかにコレットはかつて、彼を実の父親。
そう思い込んでいた。
彼曰く、人が勝手に自分のことをそういっていただけだ。
自分がしたのは、コレットにクルシスの煇石を授けただけだ、
といいきっていたが。
それで、幼きころから、お前は天使の子なのだよ。
といわれていたコレットにとっては、初めて父親があいにきてくれた。
そうおもうとうれしかった。
たとえそれが自分を殺すための旅にいざなうために現れたのだとしても。
「コレット。哀れなる神子よ。世界を滅ぼす疎まれし神子よ。
  しかし、嘘とはいえ娘とよんだことがある相手を殺すのもしのびない。
  お前がその気になれば、オーディーン様の神子として。
  真実、世界を救う神子としての役目をお前にあたえることができるだろう」
「あなたは…あなたは、ユグトラシルに、クルシスに使えていたはずでしょう!
  だから、クルシスの命令で私にクルシスの煇石を授けそして私を封印の旅にといざなった!」
コレットにしては珍しいまでの強い口調。
いつもは穏やかでしかないコレットしかしらないプレセア、そしてリーガルは、
そんなコレットの変化に驚かざるをえない。
その背に翼がはえている、ということは、
この天使もどきもクルシスの手先、なのだろうか。
それにしては。
何かがおかしい。
「さあ。コレット。再びこの言葉をなげかけよう。
  わが娘、コレットよ。私とともにくるがよい。
  今度こそ新なる天使となりて世界を救うために」
「いきません」
娘?
意味が分からずに戸惑いの表情をうかべるリーガルと。
そしてあきらかに何かの確執がありそうなコレットとレミエル、
とコレットがよびし天使もどきを交互にみつめているプレセア。
「何よ。あなた。その翼、あなたもクルシスの天使ってやつなの?」
その姿をみて、本物のアリシアがそんなことをいってくるが。
どうやら、偽物の自分と言い合うのはひとまずこの場においてはおいておく、
ことにしたらしい。
「クルシスの天使。か。たしかに私はそうだった。
  だが、こんな優秀な私をユグドラシルは切り捨てた!
  しかし、わかってくれる方がいたのだよ。
  私があのまま死んでしまうのはおしいといって、力を貸し与えてくれたものが。
  今の私はオーディンさま配下、ランスロッド様に使えし四天王が一人!
  黒のレミエルとは私のことだ。我らはオーディーン様を復活させ、
  この地上をいまいましい侵略者たるものたちの手からとりもどし、
  かつてのようなわれら神々の新なる支配においた世界にする使命をもっている。
  愚かなことに侵略者たちは我らを魔族、とよんでいるがな。
  そもそも、この地にはオーディンさま方がおられたち。
  そこにマナなんてものもちこんだエルフや精霊ラタトスク。
  忌々しい彼らの力によりてあのお方たちはニブルヘイムに閉じ込められてしまっている」
「あなたは…っ!今度は魔族に魂をうったの!?」
コレットの叫びはレミエルには届かない。
「私の力を理解しようとせずに殺そうとしたのはだれだ?
  四大天使の一人クラトス様。そしてそれを命じたはユグドラシル様。
  ならば、われの力をきちんと理解してくれるものに使えるのは当たり前だろう?
  さあ、神子よ。この父とともにくるがいい。
  お前にそっちに居場所はないぞ?
  現にみろ。お前が仲間とおもっていたものは、お前を今まさに殺そうとしただろう?」
「っ」
そういわれ、びくり、とプレセアの肩がゆれる。
そう、あのときあのままコレットを殺してしまっていたかもしれない。
そして、自分はあのとき、それでもいい、というか。
邪魔するものにはすべて死を、の思考になっていた。
そんな考えに陥っていた。
「神子、というだけでお前はいつも孤立していただろう?
  イセリアの地においても誰も近づいてはこなかっただろう?」
なぜに死んだはずのレミエルがここにいるのかわからない。
しかし、たしかにレミエルのいうとおり。
コレットはイセリアの村では孤立していた。
それをすくってくれたは。
「…ロイドは。ロイドはちがう。
  私を幾度もたすけてくれた。友達になってくれた。
  それに、プレセア達も……」
「ロイドがお前を助けたのは、それはお前が世界を救うはずだったからだ。
  失敗したがな。それにお前が仲間とよんでいたものは、
  躊躇なく、いつでもお前を殺そうとするぞ?その傷が何よりの証拠」
コレットの傷は完全にふさがっているわけではない。
それに切り裂かれた服がもとにもどるわけではない。
そして血にそまってしまった白い服が元にもどるわけですら。
「違います!彼女たちは悪くない!
  それに、ロイドは違う手段を見つけようとしてくれてる。
  それに、私は確かに孤立していたかもしれないけど。
  でも、今だからこそ私はこういえます。
  それは、私が神子だったから、じゃない。
  どうせ神子として死ぬからって、私がみんなに近づく強さをもっていなかっただけ
仲良くなればなるほど、別れがつらいから。
仲良くなった友達の悲しむ顔などはみたくなかったから。
神子なんだから、十六で死ぬんだから、そう自分に言い聞かせていた。
そしてまた、神子はヒトではない。
腫物のように村の中では扱われていた。
神子様の身に何か傷一つでもつけたらいけないよ?
と子供たちは親からもいわれ、コレットに近づこうともしていなかった。
「私。決めたんです。その弱さを捨てるって。捨てられるように頑張ろうって」
方法はないのかもしれない。
自分がマーテルの器になるしか。
でも、それをしたら世界が滅びる可能性が少しでもあるのならば。
ロイドが生きられる世界がなくなってしまうのならば。
ロイドが生きられる世界にしたい、から。
「たしかに。私はみんなから異端視されている神子かもしれない。
  でも、私はこのままでいいんです。
  神子として生きて、そして本当の意味で世界を、みんなを救いたいんです。
  そして、それは、レミエル。決してあなたの下で、ではありません」
「所詮、出来損ないの神子は神子。か。
  しかし、その体は我らがもらいうける。よりマーテルに酷似したマナの器。
  使い道はいろいろとあるからな」
「よくわからんが、コレットを好きにはさせん!」
どうやら、本当の父娘なのかどうかはわからない。
しかし、相手がどうやらコレットをどこかにつれていこうとしている。
というのは何となくだが理解する。
理解せざるを得ない。
剛・魔神剣ごう・まじんけん!!」
「何!?」
レミエルがまさに一歩、コレットに近づこうとしたその刹那。
道の先から強力なる衝撃波が発せられ、
そのまま、はっとその声に振り向いたレミエルにと直撃し、
「ぐわっ!?」
突如としてたたきつけられた技により、
その奥にとある壁におもいっきりその体をたたきつけているレミエルの姿。
「声がした、とおもえば。無様だな。レミエル。
  よもや死して魔族の手先になりさがっている、とはな」
ゆっくりと、そんな声とともに暗闇からあわられる一つの人影。
「「「クラトスさん」」」
「貴公!?」
その姿をみて驚愕の声をあげるコレット、ブレセア、アリシアの三人。
そしてまた、リーガルすらもありえない人物の登場に、
目をみひらき何やら叫んでいたりする。
「きさまは…クラトス・アウリオン!おのれ!劣悪種の分際で!」
「そういうきさまは魔族に成り下がったようだな。レミエルよ」
腕をくみ、目の前の天使もどきにいいはなっているクラトスの様子に。
「…知り合い、か?」
はっきりいって何が何だかリーガル達にはわからない。
わからないがゆえに、ちらり、とその視線をコレットにむける。
そしてその困惑はこの場にいるプレセアとて同じこと。
展開がいきなりすぎて、ついていけない、というのもまた本音。

「おのれ!レミエル様に何を!」
仲間が吹き飛ばされ、かっとなったのであろう。
かっとその口元をおおきく開き
…そのかわいらしいアリシアの顔であったそれは、その耳元まで口がさけ、
おもいっきりぱかり、と大きくその口をひらいており、
すでにさきほどまでそれが模していたアリシアの面影はとこにもない。
両手をつきだしたその五本の指は、いつのまにか六本となり、鋭い爪がにょきっとのび、
それらの爪一本一本が鋭い剣のようになっているのがうかかえる。
爪であることをかろうじておもわせるは、多少湾曲しているがゆえ。
すばやくそんなそれにむかい剣をかまえたのち、
風雷神剣ふうらいじんけん!!」
次なる技がなぜかこの場に現れたクラトスの口から発せられる。
この技は突きと同時に強力なる風圧とともに、敵に電撃を浴びせる技。
普通の雷神剣よりも格段に威力が強い一つ上の奥義のうちの一つ。
「が…がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
クラトスによる突きと、電撃がその体にと炸裂する。
何ともいえない叫びとも悲鳴ともいえない声を発っしつつ、
その場にてのけぞりだす元アリシアの姿をしていたもの。
すでにその姿はアリシアの姿を模していることすらきつい、のであろう。
その頭には羊のつののようなものがはえ、その背にはとげのようなしっぽのような何か。
顔立ちもアリシアのそれではなくなり、みたこともない何か、がそこにいる。
「とくとマナに還れ。イラプション!」
相手がのけぞった隙を逃さずに、すぐさま次なる術を展開させているクラトス。
その言葉とともに相手の真下に魔方陣が出現し、
その魔方陣から、つまりは足場となっている床から溶岩流の火柱が、
いきおいよく床から天井にむけてつきあげてゆく。
「あ…あ…ぎゃぁぁぁ!!レミエ…おたす…」
ジュッ。
まさに、ジュっとしたような音がしたかとおもうと。
アリシアの姿をしていたそれは、クラトスの放ったイラプションの溶岩流。
それにあっさりと巻き込まれ、そのままその姿を消滅させてゆく。
「おのれ!クラトス…一度ならず二度までもこの私の邪魔を!
  しかし、お前がきていることは、ランスロッド様には重宝!」
「まて!…ちっ。逃がしたか」
高らかな叫びとともに、その場からまるで闇にとけいるように、ふいっと姿をけしてゆく。
正確にいうならば、壁の中に溶けてきえていったようにみえるそれ。
しばし、じっとレミエルの姿がきえた壁をにらみつけていたクラトスだが、
やがて、もう襲ってこない、と判断したのであろう。
抜き放っていた剣をちん、と鞘にと納め。
「うん?ロイドはいないのか?」
コレット達のほうをちらりとむきなおり、
そしてきょろきょろと周囲をみたかとおもうと、
いきなりそんなことを前触れもなくいってくる。
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
開口一番。
いう言葉ではないとおもう。
絶対に。
ゆえにそんなクラトスの言葉に、
思わず顔をみあわせるプレセア、リーガル、アリシア、コレットの四人。
彼らのその行為は…おそらく間違っては…いない。

「というか。クラトスさん。ロイドと一緒じゃ、ないんですか?」
その沈黙を破ったはコレット。
そんなコレットの姿をみて、一瞬顔をしかめ、
「…やつらにはめらなたな。神子。こちらへ。とりあず、回復術をかける」
「え?あ、は。はい」
さすがに血まみれの服に、切り裂かれた服をみて怪我をおっているのは一目瞭然であるらしい。
その傷口には無意識なのであろうが、傷口を結晶化することにより、
大量出血と痛みを抑えているようではあるが。
「…無理はするな。ファーストエイド」
クラトスの言葉に従いて、淡い光がコレットの体を包み込む。
一気に回復をさせれば、どうやらこの神子はかなり無理をした模様。
ゆえに、ゆっくりと治していかなければ、体にも影響する。
実際、ときおり当人は気づいているのかいないのか。
体が透けていることもあり、マナが枯渇しはじめているのがいやでもわかる。
彼女の身の安全は最優先、としてミトスからもいわれている以上、
それに何よりもロイドが悲しむところをみたくないがゆえ、
クラトスは幾度にもわけてコレットにと回復術をほどこしてゆく。
「たすかった。我らは回復術はつかえぬからな」
どこかほっとしたようなリーガルのセリフ。
そしてまた、腰にさげている鞄の中からウィングパックをとりだして、そのまま虚空にとかざす。
それとともに、リーガルの目の前にスーツケースのようなものが出現する。
そのスーツケースのようなそれをひらき、その中からごそごそと、
何かをさがしていたかとおもうと、
「これをきていろ」
いいつつ、リーガルがそのケースの中よりとりだしたは、ちょっとした上着。
コレットの服はさきほどのプレセアの攻撃で、肩から斜めにばっさりと斬られており、
つまるところ、肌が丸見え、ついでにいえば傷口をおおっている水晶も丸見え。
そんな状態になっている今現在。
リーガルようの上着なので、コレットが羽織ってもかなりおおきく、
羽織ることでその痛々しい傷跡と、切り裂かれた服。
それらを隠すことも可能であろう。
「お姉ちゃん。私そろそろお姉ちゃんの中に戻るね。
  あまり外にでてたら、この力、コレットさんの力もかりてるから。
  コレットさんの体に負担がかかるから」
「え?あ、アリシア!?」
「それじゃ、リーガルさま!お姉ちゃんのことをお願いします!」
しゅた、とばかりに手をあげたのち、その体が一瞬輝いたかとおもうと、
現れたときと同様に光の粒子となりて、そのままアリシアの体は、
プレセアの中にと吸い込まれてゆく。
「あ、あいかわらず行動だけははやいんだから……」
昔からそう。
こちらが何かいう前に行動し、その後始末などをしていたのもまたプレセアであった。
「彼女らしいな」
そんなアリシアの姿に、リーガルは苦笑せざるをえない。
どんな形であれ、彼女に会えることは、今のリーガルにとって、
実はちょっとした楽しみにすらなっていたりする。
まあ、出てくるたびに、姉であるプレセアを伴侶に、といってくるのが何ともいえないが。
「どうやら、お前の中にいたあの娘の魂がお前を守ったようだな。
  何があったのかはしらぬが。しかし、ここにロイドは現れてはいないようだな」
クラトスからしてみれば、ロイドとはぐれたことをしり。
おそらく、どこかの空間に閉じ込めれるか、別の罠に取り込まれたか。
とにかく、ひたすらに怪しいような場所をさぐり、
何やら次元を隔てて空間が歪んでいる場所を発見し、
デリス・エンブレムの力をもってして、その空間の歪みに突入したのはつい先ほど。
まさか、あのレミエルが魔族側についていたとは。
あのとき、たしかに彼を消滅させた。
クラトスは確かに、彼が身につけていたエクスフィアごと消し去ったはずだった。
なのにこの場にいた、ということは、その消えかけた魂を拾い上げた何かがいた、ということ。
そしてそれは、あの言い回しからして、
魔族の王の一人たるオーディンの可能性が高い、ということ。
オーディン。
それはかつてこの惑星を支配し、そして自らが神々だ、と名乗っていたヒト。
それらが神々として君臨していたときの頂点にたっていた存在の名。
今でもたしか彼らは地上にいるものはすべて自分達のコマ、でしかなく。
世界は自分達の都合のいいようにどうこうしてかまわない。
というような思考をもっている。
それはヒトであったころも、魔族であったころから変わっていない彼らの本質。
もっともクラトスとてそこまで詳しくはない。
おそらくミトスですらそのあたりの古のことに関しては詳しくないであろう
何しろそれは、いまだにラタトスクがこの地に干渉する前のこと。
つまりは、彗星を通じ、マナを照射はじめるよりも前の事、なのだから。
「アリシアが……」
プレセアの言葉に返事を返しつつも、
幾度目かのクラトスにる回復術が、コットにむけてかけられてゆく。
何でもあの罠を回避したいいものの、
別々の場所へ次の転送陣から飛ばされてしまった、とはクラトスの談。
そして、お前たちに何があったかはわからなが、
レミエルを仲間にしているのならば、あまりゆっくりともしてはいられない。
クラトスは知らない。
ちょうどそのころ、ロイドがほぼ幻の空間から脱出でき、
リフィル達の姿を確認している、ということを。

ともあれ、いつまでもここにいてもしかたがない。
これらの空間は、敵の力で通路が隠されている場所が多いらしい。
しかし、クラトスがもちしエンブレムの前ではそれは無効となる。
クラトスがさきほどリーガルがあからさまに怪しい。
そういった場所にてエンブレムを掲げると、
がこん、と床に小さなボタンのようなものが出現する。
そのボタンを押すと、先にある壁の一部がすっときえ、
みえるは上の階に続いているであろう長い階段。
そのまま、クラトスに促され、コレット、プレセア、リーガルは、
ひととまずこの牢屋エリアともいえる区画を後にすることに。


  ~スキット:ロイドのみてた幻って?~ 
ロイド「しっかし、この階段…どこまでつづくんだ?」
ジーニアスとリフィルと再会できたのはうれしいが。
ひたすらにどこまでもつづく階段にうんざりしてしまう。
ジーニアス「そういえば。ロイドはどんな罠の空間だったの?
       僕らはあんなの、だったけど」
リフィル「そういえばそうね。あなたが精神的に成長できる罠なんて。
      とても興味深いわ。今後のあなたの勉強カリュキュラムにも
      参考にできるかもしれないもの」
ロイド「うげ!?というか、本物の先生までそんなこというのかよ!
     あっちの先生もいつもの俺なら簡単にこたえられてたのに!
     とかいいまくって、ひたすらに補習授業してきたのにっ!」
リフィル&ジーニアス「「補習授業?」」
ロイド「…あ、な、何でもない」
ジーニアス「ロイドって。もしかして幻の空間で平和にすごしてたとか?
       ロイドの事だから、今までのことが夢だよ。
       とかいわれたら何となくあっさりと信じそう?」
ロイド「って何でジーニアスが知ってるんだよ!…あ」
リフィル「…あなたがうけていた攻撃は、幻の日常、というわけね。    
      どんな世界だったのかしら?」
ロイド「…どんなって。ものすごく平和、だったよ」
ジーニアス「?平和?」
ロイド「ああ。世界再生の旅なんて制度のない、いや昔はあったっていってたな。
     けど、世界が一つになってて、誰もが差別されない平和な世界。
     俺の母さんもいきてて、先生もいて、ジーニアスもいて。
     コレットも天使になることなくつらい思いをしていない。
     そんな平和な世界…」
ジーニアス「誰も差別されてない、の?」
ロイド「おう。逆にハーフエルフは優遇されてた世界だったな。
     よくわかんねえけど、女神マーテルが生まれ変わる血筋になるかもしれないからって」
リフィル「ふむ。幻とはいえ興味深い。ロイド。
      その空間の中での伝承を覚えているだけあるきつつでいい。
      いや、時間のあるときにしっかりと資料にまとめて……」
ロイド「えええ!?何でそうなるのさ!?」
リフィル「今後の世界のために役立つかもしれないでしょう!?
      さあ、きりきりおもいだすのだ!」
ジーニアス「…あ。姉さんに変なスイッチがはいっちゃった。
       でも、その世界でロイドのお母さん、いきてたんだ」
ロイド「おう。ちなみに父さんもいきてたらしいぞ?
     ほぼ数日に一度は大量のプレゼント攻撃がどっさりと……」
リフィル「?うん?一緒にすんでいたのではないのか?」
ロイド「よくわかんないけど。あの世界の母さんがいうには。
     父さんが弟子の子をとめて今の世界になって。
     父さんはまじめだから聖都にて仕事詰めになってるとか何とか……」
リフィル「…聖都?」
ロイド「クルシスの奴らが地上におりてて、マーテル協会の総本部。
     それを大樹カーラーンの元にたちあげたらしくてさ。
     彼らの力でテセアラとシルヴァラントの間の差別もなくなったとか何とか」
ジーニアス「え?あいつらが?そんなことをしてたの?その世界?」
ロイド「俺もよくしらねえよ。というかその授業したの先生だし。その世界の」
リフィル「ふむ。たしかに。宗教によりて人をまとめる、というのは…
      しかし、聖都?」
ふと、リフィルの脳裏によぎるのは。
ねえ。聖地、つまりは聖都みたいによばれる場所ってどんなイメージもってる?
時折よくエミルが口にしているあの言葉。
まさか。
それに、ロイドの父は聖都につとめている?
弟子をとめたからそんな世界になった?
あの魔族がいった、いまいましきは狭間のもの。
あのセリフ。
まさか、でも、まさか。
でも、リフィルの予測が確か、ならば。
あの日、ロイドの家に出向いたとき、
クラトスはじっと、ロイドの母の墓の前にたっていなかったか?
まるで衝撃をうけたかのごとくに。
そして、かつてロイドが彼からきいた、という台詞。
妻と子はディザイアンに殺された、と。
でも、真実はロイドの妻はロイドの父が異形とかしてしまった妻を殺し。
そしてロイドは…その襲撃によって崖からおちた、という。
ロイドにむけているクラトスの視線。
そして、ユアンのあのセリフ。
貴様は家族ができてからかわったな、というあのセリフは。
まさか…でも、そうだとしたならば。
これは私がいうことではないのでしょうね。
そうおもいリフィルは首をかるく横にふる。
まさか、ロイドの実父がクラトスかもしれないなんてそんな可能性。
でも、もしもそうだとするならば。
クラトスがロイドにむけているあの視線も、ロイドにだけは甘い理由も。
ものすごくいろいろな意味で理解ができる。
できてしまう。
ついでにもうひとつの共通点。
二人ともそれは、トマト嫌いである、ということ。
ロイドもたしか、父親が嫌ってたようなことをいっていた。
よく覚えてないけど、父さんといっしょに母さんに抗議した記憶がある。
そんなことをかつてロイドが話していたのをリフィルは記憶している。
それは、給食でトマトをだしたときに、ロイドがいっていた台詞。
イセリアにおいてのとある日々一幕。
クラトスは、天使化している、という。
そして、エクスフィアを身につけていたというロイドの母。
――忌々しきは狭間のものよ。
ヒトと、天使との間にうまれたとするならば。
リフィルがそんな思考に陥っているそんな中。
ロイド「先生?お!ようやく階段がとぎれてる!出口だ!」
ふとロイドが首をかしげるが、それよりもようやく階段がとぎれ、
そこに扉らしきものがあるのみとめ嬉しそうな声をだす。
ひたすらにつづく階段にロイドからしてみれば飽き飽きしており、
はやくどこかに出たい、という本音がありありとみてとれる。
リフィル「そうね。いきましょう」
もし、もしもそうだとするならば。
…この子にはつらい、かもしれないわね。
もしもそうだとするならば。
実の父親と敵対しなければならない、のだから。

※ ※ ※ ※


「…行き止まり?」
リフィルとジーニアスを助け出し、階段をひたすらにのぼってゆくことしばし。
やがて、階段が上りついた先の部屋らしき場所にたどりつくが。
そこから先につづく階段も、どこかに続くであろう転送陣らしきもの。
さらにいえば、この部屋には何か仕掛けになっているであろう装飾品。
それらしきものはみあたらない。
あるのは、外が極彩色の空間に彩られている窓と、その窓を隠すようにしている真っ赤なカーテン。
「ここからどうやって先……」
ロイドがそういいかけたその刹那。
「みて、あれ!」
ふとジーニアスが部屋の隅。
カーテンとカーテンの間の床。
そこにまるで黒い渦のようなものが出現したのにきづき声をあげる。
「な、なんだぁ!?」
その渦はだんだんとおおきくなりて、
まるで周囲の床全体をのみこむかのごとく、渦をまいている。
実際、その渦にまきこまれたカーテンも、しゅるっという音とともに飲み込まれていき、
あわててその渦から逃れようとするロイド、ジーニアス、リフィルの三人だが、
渦はまるで黒い枝を伸ばすかのごとく、
あっというまに部屋の隅にもその黒き何かを伸ばしており、それらはうねうねとうごめいている。
「うわっ!?」
ふと、ロイドかその黒い、まるで菌類が胞子を伸ばしてゆくがごとく。
その触手のようにもみえるそれに気を付けていたにもかかわらず、
ふとそのハシを踏んだとたん、
あっというまにロイドの足にその黒き何かはからみつく。
そしてそれらは、いっきにロイドを黒い渦の中にひきこもうと、
いくつもの黒い手のようなのがつきだし、ロイドを引きずり込もうとする。
「うわ!?ロイド!手、手を!」
「ジーニアス!あなたもつかまりなさい!」
ジーニアスが必至にロイドに手をのばし、ぱしり、とロイドの手をつかむ、
とっさの判断でリフィルが壁にある燭台がわりの蝋燭台。
それをつかみ、支えとし、反対側の手にてジーニアスの手をつかむ。
「く。すごい力、このままじゃあ……」
このままでは、三人ともこの渦に飲み込まれてしまう。
「ジーニアス!手をはなせ!このままじゃ、お前まで!」
「絶対に、い・や・だ!」
ここで手を離したら絶対に後悔する。
しかし、引き込む力はだんだんとつよくなり、ジーニアスの手がふるえてくる。
バキンッ。
…バキン?
何か今、ものすごく聞きたくないような音がしたような。
「しまった!?」
リフィルがハッとした声をあげ、おもわずジーニアスもそちらをみるが。
リフィルが支え変わりにしていた燭台の蝋燭台。
どうやらそれが引きずりこもうとする力にたえられず、おもいっきり壁から折れてしまったらしい。
リフィルの手にはしっかりと握られたままの、壁からもがれた蝋燭台が一つ。
「「うわ!?」」
「くっ!みんな、絶対に手をはなさないのよ!!」
つまるところ、引きづりこまれる力をどうにかこらえていた品がなくなった。
ということで。
そのまま、一気に引きずり込む力はつよくなり、
黒い渦の中に三人の体はまたたくまにと飲み込まれてゆく。
最後まで、手をつないでいるそれを彼らは離すことなく、
やがて、彼らの姿がみえなくなるとともに、
はじめからそこに黒い渦などなかったかのように。
否、部屋などなかったかのように、ゆっくりと部屋そのものが崩壊し、
そこには右も左も上も下もわからない、ただ極彩色の空間が広がるのみ――



「こりゃまた、変な場所にとばされたなぁ」
思わず周囲をみわたし、ゼロスがぽつり、とつぶやく。
魔方陣の罠によって飛ばされた先。
「だね。というか、ここ、何もないよ?」
しいなもまた、周囲を探索しつつもいってくる。
あのとき、あの道から飛ばされ、どこにいくのかわからなかったが。
気づいてみればしいなとともにこの場にいて、
しかし、何もなさすぎる。
四角いような足場はたしかにありはすれど。
その四角い足場はまるで雲?のようなものがたちこめる、
霧?にもみえるそんな上にういているかのごとく、
二人がいる足場以外には何もない。
そんな場所。
壁も天井すらない、そんな場所にて、さて、ここからどうやって脱出するか。
そんな会話をかわしつつも、ひとまず隅々まで調べ終わった今現在。
四角い、といっても長方形、といったほうがいいかもしれないが、
足場の先はまるでその先に足場があったのに、崩れてしまったかのような。
そんな崩れ方をしていたりする。
一通り調べおわり、こうして再び向きなおり、情報交換をしあっているゼロスとしいな。
ゼロスが空をひとまずとんでみようとしてみたが、視えない壁、のようなものがあり、
どうやら上も下にも、ましてや左右にも進めない、というのはすでに把握ずみ。
と。
「うん?何だ?この音?」
何か音がしたような。
「…音?たしかに……」
音はゆっくりと、しかしだんだんと強くなってくる。
ゴゥゥゥ…
それは何かがうなるような音。
思わずゼロスがつぶやき、ゼロスのつぶやきにしいなもきづく。
思わず顔をみあわせ、そして申し合わせたわけでもないのに、
はっとしたようにおもわず、ばっと足場の先にいき下をのぞき込む。
そこには雲のような霧のようなものがたちこめているばかり、であったのに。
何やらその雲の中にどすぐろい渦巻きのようなのが発生している。
その渦巻きはすべての雲を飲み込むかのごとく大きくなっており、
しかも、それは意志をもっているかのように動き…
「まずい!しいな!」
「わかってるよ!」
うねうねと、そこからのびる竜巻?のようなぐるぐると渦巻く黒い何か。
それらは触手のようでいて、それでいて、無数の黒い手のようにもみえなくはない。
が、問題なのはそこではなく。
視界の先にみえたは、それらの手がゼロスたちのいる足場。
それに触れたとたん、ばきん、という音とともに、
その黒き渦中に巻き込まれていっている、ということ。
つまり、足場がだんだんと飲み込まれていっているということに他ならない。
「あれなんなんだよ!下手したらのみこまれるよ!」
「わあってるよ!しいな!とにかく、あれから逃げるぞ!」
「逃げるって、どこにさ!」
ある意味で逃げ場はない。
「なんだよ、あれ!?」
ふと、はっとしたようにしいなが叫ぶ。
黒き渦が発生したことにより、雲のようなものに覆われていたその下。
その下がくっきりと一部分ではあるが、
まるで雲の隙間のごとくにみえてくる。
どうやらそこはどこかの部屋、らしい。
こことは違い、きちんとした部屋のようなものがみてとれる。
何しろカーテンとかもみえるのだから、間違いはない。
ないのだが。
「ありゃ、巨大なクモたちだなぁ」
大、中、小。
さまざまな大きさの蜘蛛が三匹。
しかも気のせいか、ギチギチと蜘蛛の鳴き声?のようなものもきこえるような。
ゼロスの言葉に、
「巨大なクモが三匹!?冗談じゃないよ!」
ここから逃げ出す方法として、あの下にいけば助かるかもしれない。
が、あの蜘蛛はどうみても、お腹をすかせているようにみえる。
何しろよだれ?のようなものをぎちぎちとたらしている。
しかも、その無数にあるであろう蜘蛛の目らしきものが、
すべてヒトの顔なのはこれいかに。
あきらかにふつうではない、蜘蛛の姿がみっつ、たしかに下にある。
しかも、あ~とか、う~、とかそれらの顔から助けてくれ、とかきこえるのは、
しいなとゼロスの耳の錯覚か。
「…なあ、ゼロス。あの蜘蛛もどきたち。
  あれ、菜食主義者ってことは…ない、よね?」
「どうみても肉食だろ。ありゃ。
  もしかしてあの顔はこれまであれが喰ったやつらなんじゃないのか?」
「うげっ!」
さらり、といわれたゼロスのセリフにしいなは思わず顔をしかめてしまう。
ありえる、とおもってしまった自分の心情に一瞬驚くが。
しかし、ここは疑似的とはいえ魔界だ、という。
ありえないことはありえない。
「この空間はもしかしたら、あの蜘蛛のテリトリー。蜘蛛の巣、なのかもしれねぇな」
逃げ場のなくなった獲物がおちてくるのをあの空間で、
この真下でゆっくりとまっていれば、彼らは獲物にありつける。
何とまあ。
「ずいぶんと凝った場所に飛ばしてくれたもんだな。あの罠は」
おもわず舌打ちしたくなるゼロスの気持ちもまあわからなくはない。
そうこうしているうちに、すでに足場はほとんど消滅してしまっており、
ほぼひっつくような形でどうにか残っている足場に二人は取り残されていたりする。
上に飛んでしいなを抱えてにげようにも、周囲にはいくつもの黒い竜巻の小型版。
が発生しており、逆にそのほうが危険極まりない。
しいなを抱えていては、術、もしくは武器を扱うことすらままならない。
かといって、しいなは空を飛べない。
孤鈴がいたころは、
孤鈴がおおきくなりて、そんなしいなの足場を確保していたことをゼロスは知っているが。
しかしそれを今いっても仕方がない。


「うわ~。びっくりしたぁ」
「ほんと。あの渦に巻き込まれたときはどうなるかと」
渦に巻き込まれ、みなの手を離さないようにひっしでつかんでいた。
その効果なのかわからないが、ロイド、ジーニアス、リフィルは離れることなく、
こうしてこの場に移動しているようではあるが。
気が付いたらどこかの小さな部屋?らしき場所にいて、しかし、天井がみあたらない。
たしかに壁も、窓も、柱もそこにはあるが。
見上げる上には何もない。
なぜか空のごとくの雲がたちこめているような空間が少し上のあたり。
そこにあるのがみてとれるが。
そしてなぜか巨大な柱が二本。
しかも途中でどうみても折れている。
その間にカーテンのようなものがあるのだろうか。
念のために先ほどジーニアスが恐る恐るその中を確認したが、
そこには壁があるだけで、窓らしきものすらみあたらなかった。
「…あれ?」
何となく違和感を感じ、思わずその雲の隙間に目をこらす。
「なあ、ジーニアス、先生…あれ、何にみえる?」
「「え?」」
ロイドが指さした雲のようにたちこめている天井付近。
その隙間からみえるは、なぜかその上に足場?らしきものがあり。
その足場がすけて、その先に何やら見覚えのある人物が。
「「「ゼロスにしいな!?」」」
三人の声は、ほぼ同時。


「そら、どうした?急いで逃げないとつかまっちまうぜ?」
「ゼロスさま。無様な格好ですわね」
「「…なっ」」
足場がどんどん崩されていき、
今はぴったりと合わさるかのようにしてかろうじて残るほどの足元の足場しかのこされていない。
周囲には黒い竜巻がいくつも発生し、
しいなを抱きかかえ空中に逃げたとしても逃げ切れる、とはおもえない。
かなり狭い範囲まで足場が崩され、もうあとがない。
とおもった矢先、渦は周囲にいくつも発生しているものの、
今のところ二人のもとにやってくるような傾向はない。
もっとも、強い力でひっぱりこむような風の抵抗のようなもの。
それらは二人とも感じているがゆえ、どうにかその場に足を踏んじばっているものの。
引っ張り込まれてしまわないように、足をしっかりと踏みしめていた彼らの前に、
ありえない人影が表れる。
というか、何もない空間。
つまり空中上に魔方陣らしきものがうかび、そこに現れている二つの人影。
「な…くちなわ!?あんた、ここであったが百年目!!」
自分も今は大変ときではあるが。
今ここで、目の前の彼を逃がすほうがより問題。
ゆえにすかさず懐に手をいれて符をかまえるしいな。
そして符をかまえつつ、
「あんた、なんてことを!魔族の力をかりるだなんて!」
いいつつ、すばやく
蛇拘符じゃこうふ!!」
ばばっと手で印をくみ、相手に符を叩きつけようとするが、
そのまま、相手の体をすり抜けるかのごとくに符はそのまま素通りし、
そのままその先にとある黒き竜巻のような渦の中にと飲み込まれる。
「なっ」
確実に直撃した、とおもったのに。
今、攻撃は確実に目の前の男性、【くちなわ】とおもわれしその体を素通りした。
「…いがぐり流忍法、か」
ふときづけば、右にいたはずの【くちなわ】は左側にいる。
統領ほど上手ではないが、そういえば、くちなわもまた、あの術の使い手であったことを思い出す。
素通り、にみえたそれは、その場に丸太、らしきものがころがっており、
それらはまたたくまに背後の渦に吸い込まれるようにときえてゆく。
おそらく、何らかの忍法を目の前の彼は使用した、のであろう。
なぜに彼がここにいるのかはわからないが。
しいながきっとあらためて相手をにらみつけているそんな中。
「ゼロスさま、無様な格好ですわね」
【くちなわ】とともにあらわれた、これまた魔方陣の上にのるように、
ありえない少女の姿がこの場にとういている。
特徴のある大きなつばのある帽子にかつてゼロスがよく見慣れている服。
たしか今は違う服を好んできているはずなのに。
その服はかつて修道院にて幽閉されていたときにセレスがもっともよくきていた服。
「え?セレ…ス。いや、違うな。こいつは幻だ。
  というか、しいな。そっちのくちなわのやつま間違いなく幻だとおもうぞ?
  それに、今、セレスはエミル君とともにいるし。
  くちなわの奴自身がこんなところにいる意味が説明つかないしな」
それに、とおもう。
魔族があの精霊の元に近づけるのか?という思いもある。
それに、今のセレスはそんな口調ではゼロスにはなしかけてはこない。
おそらく、これは、くちなわの情報。
つまりは、まだゼロスに打ちとけて、というか修道院にいたころのセレスの情報。
それを元にしてつくられている幻、という可能性がはるかに高い。
それに、肝心なる品をこのセレスは身につけていない。
それに感じるマナがセレスのものとは異なっている。
くちなわは知らない、のだろうか。
この俺様がマナを感じることができる、ということを。
おそらく知らないのであろう。
表だっていったこともないし、マナを感じることができるのは、
世の中ではエルフ、そしてハーフエルフのみ、といわれている以上は。
何となくだが、エミル君とあの地にのこったセレスが。
今まで以上に強くなってるような気がしなくもないんだけどなぁ。
それはゼロスの直感。
というかそれでなくてもある程度セレスの力は強いのに。
そのあたりはコレットちゃと同じだったんだよな。セレスも。
今ならばそうおもえる。
そのセレスがもしもみずほの里のものが得意とする体術を身に着けたとするならば。
たしかにそれは身を守る手段としては喜ばしいこと。
へたな輩がセレスに危害を加えることができなくなる、という点においては。
が、ゼロスとしてはやはり妹は守ってやりたい、という思いもあるわけで。
たぶん、セレスにしろマルタちゃんしろ、絶対に習ってるんだうなぁ。
みずほに伝わりし、体術のあれこれ…
ふとそんなことをおもい、ゼロスは遠い目をしてしまう。
実際、ゼロスのその懸念というか予感はあたっており、
マルタとセレス、二人してひたすらに技をこの時間おいても磨いていたりする。
あるいみ、兄妹だからこそわかる”以心伝心”、というべきなのかもしれないが。
しかし、そんなゼロスの態度、というか見破られている。
ということにまったく気づいていないのか、
「馬鹿なヒト。現実から目を背けてばかりいるから何が真実かみえないんですわ」
セレスの…ゼロスの妹の姿をした【何か】はゼロスを見下すかのようにいってくる。
その言葉は冷たく、どこにも感情がこもっていない。
今ならばわかる。
セレスが修道院で自分にむけていっていたあのセリフと、
目の前のこの偽物のセリフとでは、まったく違う、ということが。
修道院においてセレスがゼロスにいうときには、どこか無理をしているような感じ受けていたな、
とセレスとあるいみで和解…というか、ゼロスが勝手に、
セレスが自分を恨んでいるにちがいない、と壁をつくっていた、のだが。
そしてセレスも。
わかってみれば、互いが互いに遠慮して、互いに嫌われている。
そう思い込んでいた。
ただそれだけのことであった。
セレスは自分と母がゼロスから、兄から父を、そして母を奪ったことを悔やみ。
ゼロスは自分を誕生させるためだけ、に、
父も母も恋人からひきはがされ、生まれた自分は天使の子といわれ。
母は不貞を疑われ。
――お前など産まなければよかった。
あの言葉にはいろいろと含まれていたんだろうな、とおもう。
しかし、コレット曰く、天使の子ではなく正真正銘のお父様の子供である。
というのがわかったから、といっていた以上、ゼロスもそうなのだろう。
しかし、父は母が不貞を働き、天使と通じた、とそうおもっていた節があった。
あの母にかぎり、それはありえない、というのもわかっていたであろうに。
偽物【セレス】が淡々と冷たい口調で言い放つとほぼ同時。
「みずほの里で育ちながら俺が実体か幻かすら見分けられないとはな。
  やはりお前はできそこないだな」
【セレス】の言葉に同調するかのように、
おそらくこれもまた偽物、なのだろう【くちなわ】らしき”何か”もそんなことをしいなにむけていってくる。
「かわいそう。神子にふさわしくないものが神子になどなってしまうから。
  だから仲間を裏切るようなろくでなしになってしまうのですわね」
その台詞にぴくり、とゼロスの眉がすこしばかり動く。
ということは、目の前のこれらは、ゼロスがいろいろな場所。
レネゲードやクルシスに情報を流していることをしっているということか。
いや、しっているのであろう。
あのくちなわが、それらを調べていないはずがない。
腐ってもあのものは、みずほの里の中では実力者の一人のはずだったのだから。
しかし、偽物、とわかっていてもくるものがあるなぁ。
そんなことをふと思う。
あからさまに冷たいまなざしを受けているのは慣れているとはいえ。
最近はお兄様といってちょこまかとついてきているセレスをしっているからこそ、
この偽物の視線はゼロスにはかなり堪える。
今のセレスのあの態度が嘘で、実はこっちが本心なのではないか?
というような感情すら芽生えそうになってしまう。
しかし本気でそう思わないのは、そばにエミルの存在があるのを知っているがゆえ。
だからこそ安心してあの地にセレスを置いてこの場にこれている。
でなければ心配でたまらない。
とくにクルシスなどはセレスを人質にする可能性が遥かに高い。
ゼロスがセレスを留守番にさせないのもそこに理由がある。
まちがいなく、セレスを留守番させれば、
クルシス側は、セレスの命をたてにいろいろといってくるであろう。
たとえば、ロイド達を殺せ、とか。
まあ、今はユグドラシル様が一緒にいるからそんなことはいってこないだろうけどな。
それがゼロスとしての本音。
そんなセレスの言葉に続くように、
「お前たちは間違ってうまれてきたんだよ。
  生まれてこなければ、みんなが幸せになれたんだ。そうだろう?
  しいな。お前はあの森で赤ん坊のときに魔物に喰われ命を落としているべきだっんだ」
しいながガオラキアの森で拾われた、というのは里のものならば誰でもしっていること。
もっともそれもイガグリのいった嘘であり。
真実はあの地で死んだしいなの両親から彼女を託されたに等しい。
しいなの血筋をごまかすために、あえてイガグリはそのように里のものに説明していた。
だからといって、くちなわからしてみれば、はいそうですか。
といって認められるものではない。
両親がしいなを里から追い出そうとしていたこともしっている。
そしてそのために、絶対に失敗するあの試練を選ばせたことも。
でも、それが何だというのだろう。
実際、しいなは失敗し、同行していたものを殺した事実にかわりはない。
それを人は逆恨み、という。
失敗するとわかっていて、そこにともなうリスクを考えなかったヒトの愚かさ。
それにくちなわは気づいていない。
否、気づいていても目を、耳をその思考をふさいでいる。
すべてはしいなが悪いのだ、と。
だからこそ、くちなわの思いの一部でもあるこの幻影もその通りに行動する。
この幻影はくちなわが授かった新たなる術。
自らの魂を投影する、というちょっとした術。
ここが精神世界面アストラルサイドに近しい空間だからこそできる技。
「お前の存在そのものが、里を、そして人々を惑わす。みずほの民を不幸にした疫病神」
淡々とくちなわの姿をしているそれから言葉が発せられ、ぴくり、としいなの肩が揺れる。
「あ…あたしは!あたしはみんなを不幸になんて……」
していない、といいたい。
けども、実際に里のものを殺してしまったという事実は覆らない。
いまだに里のものたちから恨まれていることもしっている。
実際、慰霊碑にしいながお参りにいっても、
身内のものは、しいなが備えた花すらをもけちらしていた。
イガグリが目覚め、そんな人々に喝をどうやらいれたようではあるが。
それでも表だってそれらを行動しないだけで、
きっと間違いなく恨まれている、というのはしいなとてわかっている。
失敗し、里のものを殺してしまった事実は覆らない。
過去は変えられないのだから。
そんなしいなの心を見通すかのごとく、
「してない、とでもいうつもりか?
  かつてヴォルトにおびえて仲間を見殺しにしたあげく、仲間を殺した臆病ものが」
その言葉はいくら幻かもしれない、とわかっていても、ぐさり、としいなの心に突き刺さる。
「自分の母親すら自分の命かわいさに見殺しにしたものと。
  里の仲間を殺してしまったもの。お似合いの末路ですわね。
  そのまま足場を崩されて、あの化け物の餌食になってしまいなさいな」
にっこりと冷たいまでの笑みをうかべ、くちなわにつづきいってくるセレス。
彼らは偽物であるというのはわかっている。
わかっていても、知り合いの姿でそのようにいわれると。
しかも、もしかして彼らが本当にそうおもっているかもしれない。
その可能性をしっている以上、何ともいえない気持ちになってしまう。
実の母親すら見殺しにした。
その言葉にぴくり、とゼロスの肩が一瞬はねる。
それはゼロスにとっては禁句。
あの日、自分が外にでよう、といわなければ。
ずっとゼロスはいまだにそのことをひきずっている。
真っ赤に染まった、白い雪。
自らに覆いかぶさった母に、ぬるり、とした回した手の感覚。
そして、取り押さえられてわめいているハーフエルフの男性。
その神子がわるいんだ!とわめいていたあの男性は。
そして、死の間際、ゼロスにむけられた母ミレーヌからの言葉。
――お前など産まなければよかった
あの言葉にはさまざまな意味が含まれていたんだろうな。
いまだにゼロスはそうおもっている。
それは彼女なりの愛情の裏返し。
ゼロスに自分に負い目を感じさせたくないからいったその台詞は、
逆にあれからずっとゼロスを追い詰めている。
それこそ、言葉のとおりに。
自分など生まれなければよかったのだ。
価値はない、とおもいこませるほどに。
「さあ。逃げられるものなら逃げてみろ。
  闇に喰われて命をおとせ。そうしてこの世界の糧となるがよい。
  安心しろ。お前たちの魂はこの地にいる魔族たちが有効利用してくれるはずだ」
その言葉のどこに安心できる要素がある、というのだろうか。
そうこうしているうちに、さらにがらり、と足場が崩れ。
「「うわ!?」」
改めて密着せざるをえないほどに足場が小さく、
かつがつあるかないか、というところまで追いつめられる。
周囲にある黒き竜巻のようなものはさらに激しさをまし、
眼下にみえている黒い渦もひたすらにどんどん勢いをましている。
あいかわらず下にみえている蜘蛛はよだれのようなものをたらし、
ギチギチ、としたようななぜか音らしきものがきこえてきているような気がするのは
おそらくゼロスの気のせい、ではないのであろう。
「くそ。このままじゃ、下にいる化け物蜘蛛の真上におちまう」
この調子では詠唱も、また剣もまともにとれるはずがない。
というか少しでも動けば足場はいまにも崩れ落ちかねない。
かといって、翼をだしてしいなを抱きかかえて空中に逃げた、としても。
それこそどうにもできはしない。
というか、誰かを背負って羽ってだせるのか?
やったことがないからわからない。
というか、あの翼はマナの展開だ、という。
ならば、他人の体にマナが直接入り込むような形になってしまいかねない。
マナがくるったときにどうなるのか。
ウィノナという人物がなっていたように、器のマナが乱され異形とかしてしまう可能性。
それがある以上、そんな挑戦はしたくない。
というか、しいながそんなあんな化け物のような姿になるところなんて見たくはない。
「冗談じゃないよ!あんなどうみても化け物蜘蛛に食べられるなんて
  まっぴらあたしはごめんだよ!」
あきらかに、その無数の目は人の顔。
しかも苦痛にみちてうめき声をあげているのがみてとれる。
眼下にみえている、というのにも。
それらの、苦痛にみちた声はなぜかこの空間に響くように聞こえてきている。
しいなもまたへたに動けない。
しいなとてわかっている。
ゼロス一人ならば空に逃げればどうにかなるかもしれない。と。
でも、ゼロスはそれをよしとはしないだろう、とも。
ここに、孤鈴がいれば。
そうおもいはするが、いつまでも孤鈴にたよるわけにはいかない。
もう、孤鈴はしいなのコリンではなく、
すべての心の象徴、ともいえる精霊に”戻った”のだから。
「助けてあげましょうか?ゼロスさま」
そんな彼らをあざ笑うかのごとく、邪悪、ともとれる冷笑にちかい笑みをうかべ、
いきなりそんなことをいってくる目の前の【セレス】。
そしてまた。
「俺たちに許しを請え」
【くちなわ】までもがいきなりそんなことをいってくる。
「魔王に、オーディーン様に忠誠を誓いなさい」
「奴に喰われれば生かさず殺さず。
  未来永劫、真の闇の中で孤独にさいなまれつつもその意識があるまま、
  魔族のためにその器は利用される。
  すばらしいとおもわないか?未来永劫、魔王のために働ける体になる。
  それは何と誇っていいことか」
「クルシスなんていうまやかしのものの手をかりることもなく。
  無期生命体化なんてものになる必要もなく。
  魔王様のお力があるかぎり生き続けられるからだを得られるのですわよ?
  とても素晴らしいでしょう?そして魂の悲鳴は魔王様の糧ともなる。
  恐怖や絶望、それに苦痛。それに満ちた世界になるのですわ」
それを人は生き地獄。
そしてそうなったものを【生きる屍】ともいう。
魔族によってそのようになったものは、
その意識があるままに、非道な限りを繰り返すことを強要される。
それによりて、魂が悲鳴をあげるその心こそが、魔族の糧となっていたりする。
それでも狂うことすら許されない。
完全に狂ったそのときこそ、捉えられた魂もまた完全なる魔族に変化するとき。
誇らしげに語る【くちなわ】に、これまたうっとりしたようにいう【セレス】。
「ランスロッド様がおっしゃるには。
  みずほの里のものすべてにその力を授けてくれるそうだ」
「あのお方たちは、クルシスに代わり、地上を支配し。
  そして私を新たな天界の神子にしてくれるそうですわ。
  新たる神子の力も、その地位も責任も。 
  すべてオーディーン様方は私にゆずってくれるそうですわ。
  ですから、ゼロス様。安心してくださいませ。
  オーディーン様の力をうければ、もう私は病弱に苦しむこともない。
  意味もなく寝込んだりすることはなくなりますのよ?」
その台詞にぴくり、とゼロスが反応する。
というか、この言い回しは。
この【セレス】は自らの体が健康体に生まれ変わっている。
ということにどうやら気づいていないらしい。
否、知られていない、というべきか。
しかし。
「…お前が、神子に?」
それはかつてゼロスが望んでいたこと。
神子というシステムが生贄だ、としる前には、自分の役割をセレスに。
そう本気でおもっていた。
しかし、女性の神子がたどりし末路。
それを今ではゼロスは知っている。
だからこそ、セレスをクルシスの神子になんてさせはしない。
そして、目の前の【セレス】がいっている魔族の神子、というものにも。
どう考えても明らかに胡散臭すぎる。
「ええ!私が一番望んでいた神子としての力ですわ!」
――私は、そのようなものは望んではいませんわ!
  私が望むのは、望むのは…っ
それは、ゼロスとセレスがお互いに腹を割って話し合ったときに、
涙まじりにいわれたセレスのセリフ。
彼女は神子としての地位、などとは望んではいない。
あの涙は嘘ではなかった。
それに、逃げようとしたんだと、今だからこそおもえる。
すべての責任から逃れ、死んでしまえばあとはおわり。
そうおもっていたのも事実。
自分は生きている価値などないのだからと。
でも、セレスは価値をいってくれた。
私にとってもう家族はお兄様だけなんですのよ!
そういって胸にすがられ泣かれた記憶は今でもゼロスは鮮明に覚えている。
たとえそれがロイド達のおせっかいによりセレスが吐き出した本音だとしても。
あれがあったからこそ、今の自分とセレスの関係があるとおもっている。
だから、本物のセレスはこんなことは言わない。
断じて。
ゼロスが顔をすこしばかりしかめたのを自分達の言い分を信じた、とおもったのか。
「ええ!そうですわ!クネシスのようなまがい物の力ではない、本物の!
  ゼロスさまはまがいものの神子でしたが、私は本物になるのですわ。
  そのためにはまがい物とはいえ神子が二人もいたらおかしいのですわよ。
  ですから安心してあの化け物の餌になってくださいませ。ゼロスさま。
  そうすればあなたにも生まれてきた価値ができるというものですわ。
  あの化け物蜘蛛のお腹をみたしたという価値が生まれるのですもの」
それは、価値、とはいわない。
まあある意味で弱肉強食。
その血肉が他者の血肉になる、という意味では確かに価値があるのかもしれないが。
しかしそれに関して突っ込みをする余裕は今はない。
少しでも気をぬけば、周囲の渦に巻き込まれそうなほどに、
黒い何かの引き込む力はどんどんと強くなっている。
「助かりたくば、魔王に忠誠を誓うがいい。
  そのとき、これらの影の触手は動きとめ、お前たちは助かるだろう」
淡々といってくる【くちなわ】。
どうやら周囲の【これ】は影の触手、というらしい。
しかし、よくよく注意深くみてみれば、触手、というよりは、
あからさまなる無数の黒く細い手、といったほうが正しいような。
黒い触手のようにのばされているそれらは、
よくよくみれば、細長く、それでいて伸びた人の手の形をなしている。
それらが無数に絡まりあい、きちんとした形にみえない、ただそれだけのこと。
「クルシスにいるというミトス。そしてユアン。クラトス。
  そしてこの地に入り込んだという忌々しきものたち。
  そんな彼らを排除してしまえばいいのですわ」
「ミトスをお前たちも倒したいのだろう?
  このような世界を作り上げたあのミトス・ユグドラシルを」
確かにその通りであるがゆえ、しいなは思わず言葉に詰まる。
そんなしいなの変化に気づいたのかにやり、と笑みを浮かべ、
「打倒クルシス。ミトスを倒すことにオーディーン様方が手をかしてくださる。
  というんだ。悪い話ではないだろう?」
それは、本当の意味での悪魔のささやき。
そう【くちなわ】がいったその刹那。
「「しまっ!!」」
バキッン。
最後にのこっていた二人の体を支えていた足場がもろくも崩れ去る。


さっきから聞こえてくる声は何とも言い難いもの。
――悪い話ではないだろう?   
そう何やらそんな声が聞こえたとともに、二人の体、なのだろう。
見上げた空中にぽっかりと、二人の下半身?らしきものがあらわれる。
上半身はみえないが、おそらくは区切りのようになっている、黒い何か、
その上に彼らの上半身があるのだろう。
じたばたともがき、そこから逃れようとしているのが下からでもいやでもわかる。
「よくわかんねえけど。とりあえず。
  お~い!ゼロス!それにしいな!二人ともよくわかんない状態みたいだけど!
  迎えにきたぞ!俺たちはこっちで、というかお前らの下でまってる!
  なんか下半身だけ天井付近の空中からみえてるけど。
  もしお前らがそこからここに落ちてきてもどうにか受け止めるから!」
とりあえず、何となく二人が下にいかないようにしている。
というのは何となくではあるがわかった。
完全なる声が聞こえていたのはロイドのみ。
リフィル達はそれらのやり取りが完全に聞こえているわけではない。
しかし、彼女たちの目にもたしかに、ゼロスとしいな。
彼らが上のほうにいる、というのは映り込んでいた。
何をいっているのかはまったく理解不能でも。
伊達にエルフの血が流れているわけではない。
ゆえに二人とも視力はいいほう。
だからこそ、二人の周囲にあらわれたその人影に気づかないはずもない。
そして、どうやら足場?らしきものが崩れ去ったのか。
必至でもがいているようにみえるゼロスとしいな。
そんな二人の体らしきものが、じたばたと空中に浮かんで出現している。
それこそ、二人の足というか下半身が、じたばたと、空中にうかんでおり、もがいているかのごとく。
彼らの体の半分は薄い何か黒いようなもので区切られており、
彼らが上でどんな表情をしているのかなどリフィル達は気づけないが。
「…もう。ロイド。何その根拠のない自信は!?
  というか、あの高さから落ちたらゼロスもしいなも危険でしょ!?」
「大丈夫だ。たぶん。前にしいながおっこちた、あの罠もどきよりは低い!」
きっぱりいいきるようなことではないとおもう。
「…たしかに、そうだけどさ」
その台詞にジーニアスはがくり、と肩を落としてしまう。
ロイドがいっていた罠云々というので思い出すは、
オサ山道にてしいながおっこちた、あの坑道の入口。
「ロイドらしいといえばらしいけども。
  クッションになるような術、何かあったかしら?」
リフィルもリフィルで何やらそんな少しずれたことをいっているが。
どうやらこの空間は何があってもおかしくない。
というあるいみ悟りを開いているらしい。
そもそも、いるはずのない両親やイセリアの村長。
彼らが出てきた時点でふつうではない、とわかっていたのに、
さらにいえばロイドは偽りの平常の空間。
つまり村に送られていた、というのだから。
何があっても罠の一つなんだ、と
割り切る考えというか自覚がリフィルには芽生えている。
手を伸ばしてもたいそにない。
しかし、まちがいなくマナからして彼らは当事者。
同行者でもある彼らのマナをリフィルが見間違えるはずもない。
伊達にこれまでともに旅をしているわけではない。
リフィル、ロイド、ジーニアスの目にうつりしは、
空中にいきなりあらわれた、じたばたともがくような、
しいていえば、海というか川などでその身をゆだね、
水面下で足をばたつかせているその様子を下から覗いたような格好がそこにはみえている。
つまり、天井にいたる途中に何かの膜?のようなものがあり、
そこに二人が飲み込まれというか下に沈みそうになっており、
それらを回避しようとしてじたばたともがいている。
そのようにしかロイド達の目には移らない。
というか、蜘蛛とか何とか聞こえてきたことから。
こっちの様子がどんなふうに相手にみえているのがかなり気になれはすれど。


聞こえてきた三人の声に思わず顔をみあわせる。
今のは確かに三人の声、だった。
「おいおい。下にはあの化け物たちしかいなえぞ?」
声はすれども姿はみえず。
しかし、たしかに今きこえたは、ロイド、ジーニアス、リフィルの声。
「まさか…ロイド。リフィル。ジーニアス。
  あんたたち、その三匹の蜘蛛の化け物にくわれちまったのかい?!」
ゼロスとしいなの叫びにも近い声が発せられる。

「くも?何いってんだよ。しいな。この空間に雲なんてでてないぞ?」
きょろきょろと周囲をみるが、そんなものはみあたらない。
みえるのは、じたばたともがくようにしている二人の下半身とその足。
まるで海の中で立ち泳ぎをしているかのごとく、二人の足はせわしなく動かされている。
しいて言うならば、足場がないがゆえにもがいているように見えなくもない。
そんなゼロスとしいなの声がきこえ、二人が飲み込まれかけていることもあり、
今度ははっきりと、ジーニアスにもリフィルにも、
二人の声は上にみえている穴?のような何かのほうから、しっかりと聞き取ることが可能。
その穴にすっぽりとはいりこみ、今にも二人が下に落ちてきそう、ではあるが。
「…ロイド。絶対にしいながいっている意味は違うと思うんだけど」
そんなロイドに思わずジーニアスがあきれた視線をむけつつ、
そう突っ込んでしまうのはおそらく仕方がないであろう。
それほどまでにロイドの今のセリフは今の状況にそぐわない。
「みずほの聖なる血を受けているというのも怪しいものだな。
  まやかしと現実の区別すらつかないとは。
  今お前たちにきこえているその声、その声こそ下にいる怪物が、
  お前たちの心に聞かせている幻聴にすきない」
そんなロイド達の耳に、そんなくちなわ?のような男性の声がきこえてくる。
「な!?俺は幻なんかじゃないぞ!というか、げんちょ~ってなんだよ!」
むっとしつつも、その声の主におもいっきりどなり返しているロイド。
「ロイド。幻聴だってば!というか今はそんな場合!?」
「あ、頭がいたいわ。というか。こんなときに授業をするわけにもいかないし。
  あとでここからでたらみっちりと補習授業を開かないと」
ジーニアスが横にいるロイドに思いっきり叫び、
リフィルがこめかみに手をあてながらもそんなことを言い放つ。
「げ!?何でだよ!?先生!」
ロイドにはその意味がわからない。
というか、なぜにここで補習授業という言葉ででてくるのだろうか。
その思いのほうが遥かに強い。
「先生もよくわかんねえことをいきなりいいだしてるし。
  というか聞こえてきてる声も意味わかんねぇことをいってるみたいだけど」
本当に、意味がわからない。
けども。
「けど。これだけはいえるぞ!二人とも!
  みずほの民は魔族とかいうやつらが支配する世界になってもいいのか!?
  ヒトがあんな異形になってくようなあんな世界に!
  それに魔族は約束なんて守らない!ユアン達もいってただろ!
  魔族いう神子とは生贄のことかもしれないんだぞ!?」
このあたり、直感とはいえロイドの勘はかなり的を得ているといっていい。
事実、魔族のいう神子とは生贄のことを指しており、
ゆえにこの件に関してのロイドの直感は正しい。
そして、
「いつ殺されるかもしれないようなものにセレスがなってもいいのか!?
  というか、そこにいるセレスっぽいやつにもいうぞ!
  というかなんでそんなゼロスを迷わすようなことをいうんだよ!」
どうやらその声からどうやらロイドもまた、セレス?もどきかもしれない。
というのはおもっているらしいが。
実際にその姿を直視しているわけではないので、
そこまで正確に叫んでいるわけでもない。
まあ、先の幻のこともあるがゆえに、おそらくはゼロスの前には、
妹であるセレスの幻が表れているんだろうな、という予測はついてはいるものの。  
「というかさ。今聞こえてきた内容を統合してみたら。
  まだ、それならクルシスがうたってるとかいう、
  無期生命体による千年王国。あっちのほうかまだ遥かにましのような気がするんだけど」
それにエクスフィアを生産、もしくは量産しなければならない。
という点さえのぞいてしまえば、魔族のいう世界よりはまし、といえる。
ゆえに、ぽそり、とつぶやくジーニアスの気持ちもわからなくはない。
「そういえば。クラトスがいっていたけども。
  魔族が好むのは穢れなき女子供の生きたままの生贄。
  とかそんなことをいっていたわね。
  女子供の生きたままの臓物は供物にふさわしいとか何とか」
生きたまま、腹をさき、ささげるのが彼らの好む手段。
そうクラトスがこの地にて移動するときにそんなことをいっていた。
リフィルもロイドの叫び、そしてジーニアスのセリフに思うところはあれど、
その言葉を思い出し、何やらぽつり、とそんなことを呟いていたりする。
「そっちの上のほうで何がおこってるのか。
  こっちの俺たちのほうからはよくわかんねぇ。
  ただ、しいなとゼロスがこっちに落ちてきそうだな?というのしかみえてないし。
  でも、下にいるのは化け物?とかいうのじゃない。
  俺たちだ!だから安心してこっちにこい!
  でも決めるのはお前たちだしな。俺たちはそっちにどうやってもいけそうにないし」
コレットでもいれば飛んでどうにかできるのかもしれないが。
いまだにコレット達は見つけていない。
「確かに。俺たちがやろうとしていることは大変かもしれない」
世界を一つにもどす。
四千年も隔てられていた世界。
そして大樹をよみがえらせるといったユアンの言葉。
世界が一つにさえなれば、衰退世界と繁栄世界。
そんな仕組みはなくなり、神子のような犠牲を生み出す世界は必要でなくなる。
そのための旅。
ロイドはいまだに漠然とではあるが、世界が一つにもどれば、
すべてが解決する、そう思っている節がある。
そのさきにどんなことがまっているか、までどうやらあまり思いついていないらしい。
その都度、その危惧を示唆されても、それを現実、として受け止めてはいない。
あるいみ、目の前のことしかみえていない。
先のことまで深くかんがえない、という障害の一つといってよい。
リフィル達はなぜロイドがそこまで深く考えることができないのか。
その理由はわからない。
よもや”種”として定まった理をもっていないから、など夢にもおもわない。
その考えにたどり着けるはずもない。
「でも、俺は信じてる!みんなと一緒ならばそれをやりとげられるって!
  誰もが犠牲にならない世界をうみだせるって!」
それはロイドとしての本音。
誰もが犠牲になることのない世界。
コレットが神子として命をおとさずに済む世界。
マナを奪い合い、どちらかが犠牲を強いる世界。
それを変えるための行動。
この書物をどうにかしたい、とおもうのも。
これがあればどんどん犠牲が生まれてしまう。
そうユアン達にもいわれたがゆえ。
「…ロイドって。たま~にいいことをいうよね。
  そのまじめさがいつもあればいいのに」
たしかにロイドの言っていることは正しい。
そこに深く考えた意図がない、というのが多少きにはなりはすれど。
というかこんな現状の場でいうような台詞でもない、とはおもうが。
おそらく聞こえてくる会話の内容からして、
二人もまた心を乱される言葉を投げかけられていたのであろう。
ゼロスはセレスに。
そしてしいなは、なぜかくちなわ、とおもわしき男性に。
さきほどの村長、そして母の姿のことがあるからこそジーニアスも理解ができる。
完全に状況を把握してないであろうロイドがいうよなことではないかもしれない。
が、今のロイドの言葉はあきらかに二人の心に響くものがあるだろう。
ジーニアスとてそれはわかる。
わかるからこそ、あきれつつも苦笑し、そうロイドに言わずにはいられない。
「あのなぁ!ジーニアス!どういう意味だよ!!」
むっとしつつも、横にいるジーニアスに叫ぶロイド。
「言葉通りだおもうわ。
  でも、ロイドの目には上でどんなことがおこっているのか。
  ある程度の現状は視えているようね。私たちの目にはうつっていないけど。
  二人の体がみえだして、声もはっきりと聞こえ出したくらいだし」
なぜかゼロスとしいなの下半身。
それらがぽっかりと浮かんでいるようにしか見えていない。
「もう!ジーニアスも先生もちゃかすなよ!
  とにかく!そんな奴らの言葉に耳をかしちゃだめだ!
  二人ともそこにいるだけで価値はあるんだからな!
  なんだよ!さっきからきいてれば、二人に価値がないとか。
  そんなわけのわからないことをそいつら二人に向かっていいやがって!」
殴れる位置にいるならば、とっくにロイドは殴り掛かりにいっている。
「いいか!お前らにもよ~くいっとくぞ!
  ヒトはな!生きているだけで、生きているってだけで!そこに価値はあるんだからな!
  生まれてきたことに意味がある!生きていることに意味が、価値があるんだ!
  誰もが生きる権利、価値をもってる!
  お前らなんかに価値がない、なんていわれる筋合いはまったくない!」
この場にラタトスクがいれば、それも時と場合による、というであろう。
たしかに生まれてきたことには意味があるが。
その命をきちんと使っていなのも、お前たちヒトではないか、と。
ヒトは命を正しく使用していない。
いつも他者をまきこみ、自分のよくのために、自らの住まう大地すら滅ぼそうとする。
巻き込んで死滅させようとするのは、いつの時代もヒト、という生き物。
そう。
いつも大地を滅ぼしていくのはヒト、という生き物。
間違った命の使い方をし、そこにいきるすべてを殺しつくし。
種族を絶滅にまでもおいやっても、自分達の利益だけ、を優先し。
あげく、この世界にいた元たるヒトは、魔族なんてものとなり、
惑星ごとまきこんで消滅の危機に陥っていた。
ラタトスクが干渉していなければ、彼らは星を巻き込んで、
完全にこの世界から、宇宙から消滅していたであろう。
それが自分達のせいだ、と気づくことなく、
精神生命体となっても、星を喰らいつくしていた魔族とよばれし存在、
つまりはこの星にいたもともとの先住者たち。
その事実はこの地にやってきた当時のエルフとラタトスク、
そしてセンチュリオン達しか知らないまでも。
今いるものたち、そして魔族たちですら忘れ去っているその事実。
「うわっ。根拠のないことをいいきったよ。ロイドって」
そんなロイドの叫びをきき、おもいっきり多少ひいているジーニアス。
そこまできっぱりといいきれるものはそうはいない。
というかそう言い切れるその根拠になるものは何なのか。
と切実にジーニアスからしても問いかけたい。
が、ロイドは当たり前だろう、といって深く考えもせずにいっているのだろう。
それだけは理解できる。
伊達に長い付き合いというわけではない。
「このまま、あの二人の足をどうにかしてからめとるか何かして。
  二人をこっちに引っ張り出すことはできないかしら?
  どこかにムチとかなかったかしら?」
リフィルはリフィルで何やら物騒なことをさらり、といっていたりする。
ムチも一応リフィルは扱える。
というか必要に応じて覚えたといってよい。
…まあ、ムチの使い方をより覚えたのはとある人物と付き合ってから、なれど。

「…なんか、リフィルとジーニアス達の声がとてつもないような気がするんだけどさ」
というか、幻でこんなやり取りができるだろうか。
否、できるはずがない。
というか、あのロイドのボケ具合とジーニアスの突っ込み具合。
それが幻聴、だとは思えない。
しかも、リフィルなどはさらり、と何やら物騒なことをいっている。
足といっていることは、自分達の足がみえている、ということなのか。
すでに体半分が渦に飲み込まれ、必至に飲み込まれないように抗っているのに。
聞こえてくる会話から判断するに、下にいるとおもわれる三人の目。
そんな彼らの目には足のみがじたばたしているようにどうやらみえている、らしい。
しかし、ともおもう。
「というか。生きているだけで価値がある、か。
  はは。ロイドのいいそうなことだね。うん」
おそらく何も考えずに言い放ったのだろう。
というか彼ならばいう。
中には例外はいたようではあるが。
あのクヴァルいう相手に対してはロイドは明らかに殺意をもっていた。
母の仇だ、という理由で。
「というかさ。リフィル様とがきんちょの緊張感のない声はなんなんだ?
  ロイドくんのあの空気をよまない声はいつものこととして。
  まあ、ロイドくんの熱血ぶりからあの言葉もわかるとしてさ」
「だねぇ。ロイドは熱血バカだからねぇ」
「おい!きこえてるぞ!しいなにゼロス!熱血バカってなんだよ!それ!」
そんな二人のやり取りがロイドにもきこえた、のであろう。
何やら下のほうからロイドの抗議の声が聞こえてくる。
実際、ロイドはおもいっきり上をみあげ、
声をはりあげるようにして二人に抗議の声をあげているのだが。
しかし、そんなやり取りをしているゼロスとしいな…
よくよくみれば、その視線は下にもむけられている、のがみてとれるが。
しかしそれは一瞬のことで、
「愚かな。あんな偽物の化け物の幻聴に耳をかすとは」
「やはり愚かですわね。ゼロスさま」
冷徹に、それでいて二人を見下すように交互に言い放ち、そして。
「ゼロスさまに価値などありませんわ」
「そうだ。ただ生きているだけで価値などあるはずがない」
そういっている、ということは。
ロイドとおもわれし声が二人にもきこえている証拠である。
ということにどうやらこの偽物の幻影たちは気づいていないらしい。
そもそも、さきほど、お前たちにだけ聞こえている幻聴だ。
というようなことをいっておきながら、会話の内容がわかっている。
というのはあきらかに彼らにも聞こえている、というのと同意語。
が、その矛盾にどうやら彼らは気づいていない。
それはこの空間を支配というか、この部屋を管理している魔族の知能のなさを示しているといってよい。
「そもそも、生きているだけで価値がある、というのならば。
  ならば、彼らはなぜあの場でしななければならなかった?
  ヴォルトの契約についていった里のものはなぜ死ぬ必要があった?
  エクスフィアとなったものたちはなぜに死ななければならなかった?」
「そうですわ。生きているだけで、生まれているだけで価値がある。というのであれば。
  ゼロスさまをかばってなくなったミレーヌおばさま。
  おばさまも、それに自殺したお父様も死ぬことなど、
  命を落とすことなどありえませんでしてよ?」
それらの言葉は、ぐさり、としいなとゼロス。
それぞれの心に突き刺さる。
しいながヴォルトとの契約に失敗し、そのときたくさんの里のものが死んだ。
その事実は覆らない事実であり、
ゼロスをかばい、ゼロスの実母が死に、そしてゼロスの実父が自殺した。
その現実も覆えりようのない事実。
だからこそ、ゼロスもしいなも言葉につまってしまう。

「だぁ!なんかこうごちゃごちゃうるさいな!
  というか、何で上のほうからセレスやくちなわっぽい声がしてるんだよ!?
  というか、くちなわ!おまえ、魔王の禁書とかいうのつかって、
  いったい何をする気なんだよ!というか何てことをしやがった!
  お前のせいで罪もない人たちが危険な目にあってるんだぞ!
  お前のしてることのほうこそとんでもないだろうが!
  あと、これだけはいっとくぞ!
  いいか!ヒトはな!さっきもいったが、生まれてきたことに意味があるんだよ!
  絶対に!それでも生まれてきたことに価値がない。
  なんていうやつがいるようなら、俺がいくらでもいってやる!
  ヒトは生まれたことに意味がある、価値があるんだって!  
  生きている限りかならず意味があり、価値もまたあるんだって!」
そのためにヒトは生まれてくる。
ロイドはそう思っている。
ある意味でロイドの生い立ちをしっていれば、納得してしまうであろう。
本来ならばありえるはずのない、命。
誕生するはずのなかった、あらたな、理をもたないこの地に育まれた、新たな【命】。
種、としての理をもっていないからこそロイドは何にも束縛されていない。
逆をいえば考えが定まらない、という副作用をももたらしているが。
「おまえら魔族とかいうやつにも必ず両親はいただろうが!
  両親が結婚したからお前らもうまれてきたんだろ!?
  それに、しいなもゼロスも俺にとっては大切な仲間だ!
  それだけでも俺にとっては二人はとても大事な価値がある!
  二人に価値がないなんて絶対にありえないんだからな!」
何やらごちゃごちゃときこえてくるそんな会話に苛立ちをふまえ、
ロイドが思いっきり上にむかって叫んでいるが。
「…ロイド。それ、絶対に答えになってないよ。たぶん。きっと」
そんなロイドにジーニアスはあきれ顔。
「そういえば。この場にエミルがいたら。何というのかしらね?」
「ま、ヒトは愚かでしかないみたいなことをいうんじゃない?
  エミル、いまだに人嫌い、治ってなさそうだし……」
本当にエミルは不思議だとおもう。
人嫌いだ、といっていながらも自分達に協力してくれている。
エミルのいうことはきついことも多いいが総じて間違ったことはいっていない。
「もしくは、自分に価値を見いだせないと何もできないの?情けない。とかいいそう」
たぶん、エミルがいたら、今の会話をきいても、あきれつつもそういうんだろうな。
そんなことをおもいつつも、リフィルのつぶやきにジーニアスが答える。

もっとも、実際にエミルがこの場にいれば、
価値、ねぇ。
といってあきれて苦笑する、というだけにとどまるであろう。
それほどまでにエミル、否、ラタトスクは人が愚かなことをしでかす事実。
それを目の当たりにしている。
かつての時間軸でも結局、人は約束を、盟約すらわすれ、
なぜにエルフ達がヒトと距離を置こうとしたのかすら気にも留めず。
ただ、ダオスだけを悪者としてあつかい、魔科学を発展させ、
そして結果としてユグドラシルを、世界樹をからした。
エルフ達には理を書き換えたことはいっていなかった。
つまるところ、エルフ達もわかっていたはずなのに。
ユグドラシルのマナによって扉が封印されている。
彼らはそう認識していたはず。
それをつたえることすらせずに、傍観に徹していた当時のエルフ達もある意味同罪。
だから、あの新たなる発芽のとき。
すべてを一度、海に還す気でもあった。
結果はなぜか惑星の意志によって過去に飛ばされてしまったわけだが。
あの惑星はあのままの生を望むより、可能性がある過去に未来を託した。
自分をこの地に飛ばすことによって。
その力すべてを自らの内にと還し。
ヒトはどこまでもおろかでしかない。
それを身にしみて理解しているのもまたラタトスクであり。
ゆえに、今、二人の幻がいっていることもラタトスクとしても共感できる部分もある。
もっとも、だからといって、魔族たちがならばそのまま、
この惑星ごと自殺するのを許容するか、といえば。
答えは否、でしかないのだが。

「生きているだけで意味がある、ねぇ」
あきらかにその場ののりでいっている、とわかっていても、
そんなロイドとおもわれる台詞にゼロスは苦笑せざるを得ない。
ま、ここで死ぬ気はさらさらない。
というよりは。
あの精霊がどんな決定をしているのか気になってしかたがない。
ゼロスの望みはセレスが平和に暮らせる世界。
世界を海になど還されでもすれば、それこそヒトは生きてはいかれない。
そして、これまでの言動とそして立ち振る舞い。
それらから予測されるのに、その可能性がある以上、
ゼロスとしてはそれを見届けるためにも死ぬわけにはいかない。
そういえば。
自らの内部にいるはずのアレが何もいってこないのもきにかかる。
まあ、予測はつくが。
こんな程度の精神動揺すら乗り越えられないのならば、あの御方の力にはなりえませんね。
とか何とかいわれそうな気がする。
それはもう果てしなく。
というか絶対にいう。
それはゼロスの直感。
あまりテネブラエと話したことがないのにそこまで見通せているのも、
あるいみこれまでの人生経験のたまもの、といえるであろう。
「しかし、エミルくん…ねぇ。うん。いうな。
  というか、ヒトなんて愚かでしかない、とかいいそうだからな。あいつは」
というか間違いなくいうであろう。
かつて彼がミトスと交わした約束、というのがとてつもなく気になっている。
おそらく、それに関係し、ミトス・ユグドラシルがともにいること。
それを許容している、のだろうが。
その約束の内容まではゼロスはわからない。
…よもや、かつて彼が、ラタトスクに、友達になろう。
一緒に地上世界を旅をしよう!
なんていったことがあるなど、ゼロスが知るはずもない。
そして、それに否定も肯定もしなかったがゆえに、
あるいみ約束となりえている以上、その約束を守るために、
エミルが彼がともにいることを許容している、ということを。
前後の理由。
大樹が復活したら、という約束は異なってはいれども、
旅をする、という約束はともにいることで果たされていることとなっている。
精霊としてラタトスクは約束をたがえることをとてつもなく嫌う。
また、嫌うどころかどんな形であれ約束を果たそうとする。
それは精霊、としての本質であり理。
それはラタトクス、だけ、ではない。
すべての精霊においていえること。
ラタトスクがそのようにしている【世界の理】。
「愚かな。我らの誘いをける、というのか?これだから出来損ないの神子は」
「ゼロスさま。健康な体を手にいれたい、という私の望みをしっていながら、
  ゼロスさまは邪魔をするの?この私の気持ちを踏みにじるのですか!?」
ゼロスの苦笑を相手の言葉に肯定した、とうけとったのであろう。
非難じみた言葉をなげかけてくる二人の姿。
しかし、それは余計にゼロスに彼らが、特にセレスが本人ではない。
と決定づける言葉に他ならない。
「…それが、そもそも違ってるっていうんだよ」
ぽそり、と思わずつぶやくゼロス。
その呟かれたゼロスの言葉の意味は、目の前にいる偽物のセレスにはわからない。
どうやら今の言葉からして、彼らは妹のセレスが、
実はもうとある事情おいて完全なる健康体になっている。
という情報とうか事実を知らないらしい。
おそらくは、くちなわ本人からの情報のみで構成されている幻なのだろう。
くちなわも真実は知らないはず。
というか一行の誰も、エミル以外には真実を知らないはずなので、
あるいみそれは仕方がないのかもしれないが。
エミルからもらったネルフィスとかいう癒しの力を秘めた石によりて、
セレスの体はすでに完全に健康体にとなっている。
その情報をどうやら目の前の敵達は知らない、らしい。
まあロイド達にも教えていない以上、
そんなありえない可能性にいきつくこともありえない。
そもそも、セレスの体の病弱はすべての医者などがさじをなげ、
生まれつきなのでどうにもならない。
といわれている病弱体質であったのだから。
よもや健康になっている、などいったいだれが想像つくであろう。
「おまえは妹のセレスじゃねえよ。
  ま、俺様の価値をみとめてくれるやつが下でまってるようだし?
  というか、今聞こえてきたやり取りからして、
  もしあれが幻聴、もしくは偽物だとしたら、無理っしょ、あれは」
そう、絶対に偽物たちではあのやり取りはありえない。
というかむしろ現実味を帯びてもっと上手にだまそうとしてくるはず。
というか、まちがっても、蜘蛛を空の雲とぼけたり、
もしくは、幻聴の言葉の意味がわからずに、それって何だよ、とかいわない。
絶対に。
「ぼけをかましまくるロイドくんにガキんちょの突っ込みがさく裂してるしなぁ。
  さ~てと。リフィルさまぁ。このゼロス様が今、まいりま~す」
下にみえている彼らは蜘蛛、なのではない。
おそらくは、その姿こそ幻。
蜘蛛に食べられる、という危機感をあおり、こちらの心を折ることが、おそらくこの幻達の思惑。
そういいつつ、ゼロスは抵抗をやめ、そのまま流れにまかせ、
下にひっぱられるような渦巻の流れに身をまかせる。
「ってこらまて!ゼロス!なんで俺が叫んでるのに先生指定なんだよ!!」
そんなゼロスの声が聞こえたらしく、ロイドがゼロスに向かい抗議の声をあげているが。
「うるせえ!誰が男の手の中にいきたいか!
  できればリフィルさまの豊満な体でやさし~い看病を……」
ゼロスらしい、ぶれないといえばぶれない台詞。
「あら?なら出迎え歓迎をするのにレイとかでもいいかしら?
  フォトンでもよくてよ?」
そんなゼロスにむかい、さらり、とこれまたいっているリフィル。
やさしさの欠片もない。
さすがはリフィルというべきか。
こういうときのゼロスの対処をよく心得ている。
というか本気なのか、杖をすちゃり、と構えているのがみてとれる。
それは蜘蛛の姿、としてでなく、あきらかにリフィルの姿としてゼロスの目にはうつっている。
相手が本物、と確信したとたん、蜘蛛の姿ではなくなった、ということは、
あきらかに心の迷いが相手の姿を違うものにみせる幻。
つまりは罠、であったのだろう。
「…勘弁してください」
そういいつつも、ゼロスの姿が完全に渦の中にときえてゆく。
「…たしかに、あのコントのようなやり取りは、本物でないと無理っぽいね。
  というか、よりによってゼロスの奴に先をこされちまうとはね」
しいなもいいつつ、あらがっていたからだの力をとく。
それにともない、そのまましいなの体も渦の中に一気に引き込まれてゆくが。
「また逃げるのか!」
【くちなわ】の姿をしているそれから、そんな言葉がしいなにと投げかけられる。
しかし、そんな彼にとむかい、
「あたしは逃げるんじゃない。
  あたしが世界を統合するのをみずほの仲間もまっている」
祖父からも、副統領からもそのようにいわれた。
そして、それは。
「それはまがりにも魔界にして世界を統合する、という意味じゃあない。
  二つの世界をあるべき姿にもどす。
  その約束を裏切ることこそ逃げるってことさ!
  それに精霊達とも約束したんだ。世界をあるべき姿に戻したいって。
  誰もが犠牲になることのない世界をつくるために、二つの世界を助けたいって」
ミトスはかつてその約束を裏切った、という。
精霊達を閉じ込めて。
精霊の祭壇、といわれていたそれは、精霊をとらえるための品。
精霊炉、というらしい。
ぽつり、とエミルがいっていたことをしいなはきいたことがある。
詳しくきこうとすればはぐらかされたが。
体をそのまま流れにと委ねる。
この行為が鬼がでるか蛇がでるか。
それはわからない。
けども、ゼロスが確信したように、下にいる彼らは幻、ではない。
化け物にみえる姿こそ幻であり。
おそらく、みえているこの二人もまた幻、なのだろう。
その証拠にゼロスの姿が見えなくなるとともに、セレスの姿も魔方陣とともに掻き消えた。
おそらくそれは、心がみせていた、弱さの象徴ともいえる幻。
おそらくはより強くおもっている相手をみせ、
心を折るようなことをいうことにより、自分達の心を折るのが目的だったのだろう。
しいなが今強くおもっているのはくちなわのこと。
なぜに周囲を巻き込むようなこんな行動をおこしたのか。
その思いがつよかったからこそ、くちなわの姿になったのではないか。
そうしいなは踏んでいる。
事実、ゼロスはもっとも大切にしているであろう妹の姿が出ていた。
もしもくちなわのことがなければ、しいながもっとも信頼している相手。
すなわち孤鈴の姿ででてきた可能性が高い。
そしてそうなれば、しいなはおそらくきっと、心が耐えられない。
孤鈴ではない、とわかっていたとしても。
その事実にしいなが気づいていないのはあるいみ幸い、といえるであろう。
二人の体が完全に黒い渦に飲み込まれたのち。
その場にいた二人の姿もすうっとかききえてゆく。
まるではじめからそこに何もなかったかのごとく。
それとともに、周囲にみちていた雲のような渦のようなものもかききえる。
それこそ、はじめからそこに何もなかった。
後にのこるは、部屋の一部がみえる空間、のみ。

ドサッ。
ドサドサッ。
何かが上からおもいっきり落ちてくる音。
「二人とも!よかった!無事で!」
「うわ。本当に二人が空中からおちてきたよ!というか、ゼロス、のけぇぇぇぇぇぇぇ!」
何というべきか。
しいなはそのしのびの特性からか、どうやら落ちたその瞬間。
受け身をとりてどうやら問題ないようではあるが。
ゼロスはといえば、おもいっきりジーニアスの上におちていたりする。
翼を展開することなくそのまま下に落ちているあたり、
あるいみ確信犯、と思えなくもない。
先ほどまでみえていた不可思議な天井付近にあったとおもわれる別の空間。
それらは二人の体が表れた直後に消えている。
「おっと。クッションがあったとおもったら、ガキんちょかぁ。残念」
へらへらとわらいつつも、いまだにジーニアスの上にのったまま、
どかっとすわりながらそんなことをいっているゼロスの姿がそこにある。
「わざとだろ!絶対にわざとだろっ!」
ぎゃんぎゃんと、そんなゼロスにジーニアスが何やらほえているようだが。
そんなやり取りをみつつ、リフィルが手をこめかみにあて、
盛大に溜息をついている様子がみてとれる。
「…はぁ。まったく。こんなところで騒がないの。
  私たちには上で何がおこっていたのか。理解できていないのだけど。
  説明してくれるかしら?私にもジーニアスにも断片的な声。
  そういったものしか聞こえなかったのよ。
  ロイドは聞こえていたようだけど、この子に説明をもとめるのは、ねぇ?」
「先生!?どういう意味だよ!それ!」
「あなたはきちんと説明ができて?なら?」
「…うっ」
あまりにも正論。
というかロイドはきちんとどんな情景をみて会話をきいたのか。
それをきちんとリフィル達が理解できるように説明できる気がまったくしない。
というかできない。
ロイドはそういった情景などの説明がものすごく不得意。
「なんていうか、二人の周囲ににせものっぽいやつらがでてきてて。
  こうあれこれいって、そしてふたりをさっきの先生達みたいにさ、こう」
「…はぁ。やっぱり無理ね。というわけで」
「ひでぇっ!先生、きいておいてそれかよ!?」
やはりというかロイドの説明は説明になっていない。
ゆえにあっさりと匙をなげ、当事者であるしいなたちに向きなおり、改めてといかけているリフィル。
そんなリフィルに抗議の声をあげているロイド。
あるいみ平和といえば平和な光景。
「しいな。あなたたちも何か無理難題、ともいえる選択を迫られていたようね」
その口調から、どうやらリフィル達もにたような目にあっていた、らしい。
それを察し、
「まあね。…生まれてきたことから逃げ出してもどうにもならないしね」
しいなは苦笑せざるを得ない。
「…生まれてきたことから逃げ出す。か。
  僕らのときも生まれてきた意味なんかないから死ねっていわれたな。
  そういえば……」
ジーニアスが偽物村長と、偽母にいわれた言葉をおもいだし、
すこし沈んだ声でぽつり、とつぶやく。
「なんだ。お前らも似たような罠にはまってたのか?
  ま、俺様としては。ロイドくんにせっかくしょぼい価値をいただいたんで、
  五十歩百歩で試練に立ち向かってやるさ。
  というか、ロイドくん。あの天使様はどうしたのさ?」
絶対にロイドのそばにいそうなのに。
あの親ばか天使は。
そうおもうがゆえのゼロスの問いかけ。


一方そのころ、
「む。ロイドの匂いがこっちのほうからする」
「「「(匂いって)」」」
とある場所にて、ひたすらに合流したのち、ロイド達をさがしつつも、
階段や部屋などを探していた一行。
ちょうどロイド達がゼロスたちと合流したまさにそのとき。
ゼロスがそういったその直後。
とある人物がそんなことをいい、じっといくつかある階段の一つ。
そちらに視線をむけていたりする。
そしてそんな彼の言葉をきき、思わず顔をみあわせている三人の姿。


「それがさ?みんなと別れ別れになったその先にあった部屋の転送陣?
  それにのったらクラトスのやつとは別れ別れにさせられちまって」
結局、あのときクラトスと別れてからいまだにロイドはクラトスと合流していない。
まあ、あのクラトスのことだから心配はいらない、というかむしろ負ける。
というイメージがロイドの中では浮かばない。
いくら敵の、クルシス側のものだ、としても。
ロイドにいろいろと忠告してくれ、さらには剣の稽古までつけてくれていた。
その事実がなくなるわけでもない。
ロイドは気づかない。
クラトスを憎み切れない、嫌いになりきれないのは、
無意識のうちに、クラトスが父だ、と気づいているからということに。
あの空間にてアンナや他のものがもしもロイドの父の名をよべば、
あの空間だからこそ、ロイドは昔の記憶がよみがえっていただろう。
父と母、そして自分で過ごしていた三歳ころの記憶が。
大概、ヒトというものはその記憶が確かになるのは三歳ごろから。
それ以前の記憶はあいまいで、覚えていないものも大多数。
基本、三歳ごろから自我がしっかりし、記憶もしっかりしているもの。
ゼロスの問いかけ、あの天使、というのがクラトスのことだ。
とすぐさまにおもいあたり、ロイドは溜息をつかざるをえない。
「というか。あんた。五十歩百歩って、それあまりかわらないってことじゃないか」
そんなゼロスにたいし、しいながあきれつつも言い放つ。
つまりは、これまでと変わらないというようなことをゼロス入っているに等しい。
決意とかそういうものではまったくない。
似たりよったり。
少しの違いはあるが、本質的には同じ。
つまり、これまでとかわらない行動でいきますよ。
とゼロスはいっているようなもの。
そんなしいなの台詞にきょとん、と首を傾げたのち、
「?なんだよ?しいな?五十数えたら次にはいずれ百になるだろ?
  ゼロスがいうのは歩く数のことだろ?歩(ぽ)っていってるんだし」
「「「ロイド(くん)~……」」」
まじめな顔をしてきっぱりいいきるロイドの言葉をきき、
ゼロス、しいな、ジーニアスのあきれた声が同時に重なる。
そして、あ、姉さんがまずい!
そう思ったジーニアスはすでに遅し。
「ろ~い~ど~?」
深く、それでいて低く響くような声がその場にと響き渡る。
「せ…先生?」
何となく嫌な予感と悪寒がし、ゆっくりと振り向いたロイドが目にするは、
座った目をし、腕を胸の前でくんでいるリフィルの姿。
「ここを出たらすぐに勉強よ!ええ、勉強ですもの!!」
仁王立ち。
という表現がまさにぴったりハマルようなリフィルの格好。
「うえ?!せ、先生、どうしたっていうのさ、いきなり!」
ロイドからしてみれば、なぜにいきなり勉強とかいわれるのかが理解不能。
「だまりなさい!まったくあなたときたらどうしてそうなの!?
  私が、私が何のためにこの五年間、必至に教えたとっ…っ
  きちんと国語の時間でも熟語とかも教えているわよね!?」
「ま、こりゃ、ロイド君がわるいな」
「だね」
さずかのゼロスもしいなも、リフィルの気持ちが痛いほど理解できてしまい、
ロイドを擁護するつもりはさらさらない。
というか、教師として、教えているものがまったくもって身についていない。
それを目の当たりにするということは、
教え方が悪かったのではないか、とある意味自己嫌悪にすら陥ってしまう。
もっとも、理解していないのはロイドだけ、であり。
ロイドよりも年下の村の子供たちはしっかりと理解している以上、
これはロイドに限って、というべき、なのだが。
それがわかっていてもリフィルは情けなくて仕方がない。
「そもそも、あなたは!十七にもなろうというのに!九九すらまだいえないなんて!
  こうなったら、きちんと九九が暗記できるまで、ごはんぬきですからね!」
「ええ!?そりゃないよ!先生!」
「だまりなさい!」
「…そんなことより、なんか、くるぞ?」
ロイドとリフィルのやりとりをあきれつつもみていたが。
はっとゼロスがその気配にきづき、思わず身構える。
「だね」
しいなも気配にきづき、はっと身構える。
「ね、姉さん!」
いまだにリフィルは懇々とロイドに説教じみたことをいっており、
どうやらこのまがまがしい気配にすら気づいていない、らしい。
はっと上みあげれば、さきほどゼロスたちが落ちてきたあたり。
そこに黒い渦のようなものがうずまき、いかにも何かあります。
といっているかのごとく。
やがて黒い霧は一つの形をなし空中に浮かびしは一人の男性。
その服は以前ロイド達が参加した晩餐会、そこにいた貴族たちの服装。
それに近しいものを着込んでおり、この場にはかなりふさわしくない。
黒くすこしばかり縮れたような髪の毛にその顎にも同じようなひげを生やしている。
「おかしいな?あの男がいうには、お前達を陥れるには、
  あのものたちを使えばよい、そうきいていたのだが?」
ふわふわと空中に浮かびつつもそんなことをいってくる。
「てめぇ、だれだ?」
ゼロスが警戒を含め、といかければ。
「笑止。愚かなるヒトは我をしらぬか。我はヴィリ」
またの名を、ヘニール、
もしくはその名からいつのまにかもじられてヴェーと呼ばれていたことも。
もっとも、今の地上のものたちがそんなかつての過去の事情を知るはずもない。
また、彼らがマナから切り離された器とし、
とある理由で転生をはたし、またかつてと同じような争いをおこしていた。
ということも、それはラタトスクのみがしる事実。
「やはり、愚かなるヒトの計画では失敗するのも道理か。
  ミーミル様さえこちらに出向かれることができていれば……」
何やら忌々し気にそんなことをいってくるが。
「まあ、所詮。英雄霊になれぬヒトが考える計画よ。失敗するのも道理か。
  ならば、お前たちの魂を砕き、その姿をわれらが有効利用させてもらうかの?」
あきらかにこちらにむけて敵意をもっているらしいその台詞。
すらり、とその腰にさげられているレイピアが抜き放たれる。
「どうやら。さっきの胸糞悪い空間は、こいつがつくってたようだな」
「なるほどね。なら、こいつを倒さなければ先すすめないってことかい!」
ゼロスがその姿をみて、しみじみつぶやき、
しいなも何かを納得したかのようにうなづきつつも符をかまえる。
「そういえば。さっきの部屋も敵をたおさなければ道が開けなかったよね。姉さん」
「そうね。つまり、これを倒さなければいけない、ということなのでしょうけど。
  でも、計画?どういうことなのかしら?」
今、目の前の男性もどき?がいったことがリフィルとしては気にかかる。
「今から死にゆく愚かなるものに冥府の土産に聞かせてやろう。
  ランスロッドと契約をかわしたヒトの計画に我はしたがっていたまで。
  やつがいうには、そのものが一番つよくおもっているもの。
  その姿でそれぞれが心におもっている傷をえぐれば心を折るのはたやすい。
  そういっていたからな」
まるでいい考えだろう、とばかりに胸を張っていってくる。
ちなみにこのヴィリ、となのりしこの魔族。
実は生前もこんな様子で常に他人のいうことばかりをきいており、
自分の意見をもたない優柔不断のもの、として認識されてもいた。
もっともその優柔不断であったがゆえ、
かつて一度は崩壊した地上においても生き残った、という理由があるのだが。
つまり、このものは、自分で計画をたて実行する、ということをせず。
ほとんどを人任せにする傾向がある、すこし困った性格をしているといってもよい。
それでもかつては腐ってもアース神族、といわれていたヒトの一族。
武器の扱いにはたけている。
もっとも、精神生命体化魔族化したのち、
こうして本格的に武器をとったことなどめったとない。
そんなヴィリ、となのりしそれは、すっとレイピアを構え。
それとともに、周囲に黒い先ほどまでゼロスたちの周囲に発生していた
いくつもの黒い竜巻のようなものが発生する。
「っ。くるわよ!」
リフィルの言葉が響き渡る。
そしてそれこそが、戦闘への前触れ。
この空間を支配しているであろう、ヴィリと名乗りし魔族との戦闘が今、始まってゆく。



「どうやら、魂を抜かれた、な」
倒れたリーガルをひとまず安全とおもわれしホテル・レザレノにまで運び終えた。
ここはより白き霧がつよく、他の客や従業員。
そういったものたちも霧にまかれてか、なぜかみな眠りについている。
今まさに外で魔族との戦いが起こっているこの状態で、
それはたしかにありがたいといえばありがたい。
事情がわからないものが乱入してくるほど厄介なものはない。
ユグドラシルが横にしたリーガルの体をみつつ、診断を下す。
この体には肝心なる魂が宿っていない。
かといって、魂とのつながりが途切れているわけでなく。
「先ほどきいた、イガグリどのと同じ形になっているとみて間違いないだろう」
みずほの里の統領、イガグリは十数年にわたり、魂と肉体とが離れていた。
イガグリの魂はヴォルトと契約をしいなが挑戦したとき、
その雷のマナをうけ、その肉体から精神体を離脱させてしまった。
そしてあの場にのこりし磁場によってその魂が囚われた。
だからこそ、魂がないがゆえにイガグリはずっと意識不明のまま目を覚まさなかった。
海の楽園、アルタミラ。
しかし、今では楽園、とよばれていた面影はない。
アルタミラすべては白い霧と黒い霧でおおわれ、
黒い霧に支配されているところでは異形のものが我が物顔で歩き回り、
また空をも飛びまわっていたりする。
外出禁止令をだした、とジョルジュはいっていたが、
それでも外にでたものは多少はいるらしく、
それらがあっさりと黒き霧にとつかまりて、そのまま器にさせられているこの現状。
「そんな、どうにかならないのですか?」
不安そうに、そんなリーガルに付き従うようにして
意識のない主の手を握り締め、震える声でといかけているジョルジュ。
ようやく爆弾はすべて解除しおわった、というのに。
「リーガルさまに何かあれば、ブライアン家は……」
彼には跡継ぎがいないどころか血縁者もいない。
否、遠縁のものはいるにはいるが。
しかし、ブライアン家を、カンパニーを背負っていけるような人材ではない。
ジョルジュは目の前の青年が誰か、なんてわからない。
まあ、あきらかに天使?ともわれるものたちが、彼に従っているのをみるかぎり、
おそらくは、天界クルシスの関係者なのだろう、という認識でしかない。
姿がみえなくなったというミトスはタバサ達が今探しているという。
よもや、目の前の青年とミトス少年が同一人物であるなど、いったい誰が想像できようか。
「気配はこのあたりにはない。時期から考えて…おそらくは。
  このものの魂は書物にひっぱられていった、と考えるのが妥当、であろうな。
  誰かが封印の中でこのものの魂をみつけ、ともに外につれだせば問題はないが」
しかし、とおもう。
ユアンとクラトスが向かったのに。
いまだにあれが消滅した気配はみうけられない。
あの二人の力をよりよくしっているのはミトス自身。
たしかに厄介な仕掛けは施してはいるし、
あの中にいるものたちを救済すべく、
ほとんど囚われている魂をかならず石に封じ込めるような仕組みをつくりだしたものまた彼自身。
時間がかかっている、ということは。
それほどまでにあの中にとりこまれてしまった魂が多い、という可能性が高い。
やはり自分もいくべきだったか、ともおもわなくもないが。
彼らにここを、信じている、任した、といわれた以上、
それをしなければお前はそれすらもできないのか?
といわれるのが何だか癪で結局ミトスはこの場にとどまり置いている。
彼らはミトスだからこそ一人でも大丈夫。
そう判断したであろうに、対処ができないであろう人々を放り出したのか?
とまるでいわれているようで。
たしかに関係ない、といってしまえばそれまで。
しかし今回かかわっているのは自分達が封じた書物によるもの。
あれの封印が解けかけたあげく、ヒトと契約を交わしてしまったがゆえに起こっていること。
封印のとけかける頻度が近すぎる。
それでなくても約八百年ばかりに封印強化をしたばかり。
それまでそんなことは一度もなかったのに。
それとも、エルフ達が保管しているあれの保管方法。
それに問題がおこっていたのだろうか。
何となくそんな気がしてならない。
あれは危険なものであるという認識をもっているはずなのに、
自分にかかわりがあるからおざなりでいい、みたいな感じになっていても、
あのエルフ達ならばありえてしまう。
その結果、どんなことになるか、彼らはわかっていながらも、
かつてのときのように傍観に徹するどころか、
自分達がきっかけをつくっておいて、自分達はわるくない。
といって他者に責任を押し付けかねない。
その現実をかつてミトスは目の当たりにしているがゆえに、ミトスはエルフ達も信じていない。
「あと、あの子供は……」
「今、確認させている。が、あのものは大丈夫だ」
「しかし」
大丈夫、といわれてもジョルジュは安心できない。
何しろ彼のことは主でもあるリーガルからも頼まれていた。
だというのに見失い、あろうことか主まで倒れてしまった今。
「クラトスやユアンならば必ずどうにかするはずだ。
  それまでの持ちこたえればいい」
そう。
力の源となっているあれを封印するなり、浄化するなりしてしまえば、
おそらくは、どこかに媒介となっている何かがいるのであろう。
しかもそれはひとつ、ではなかった。
忌々しいことにこの町を取り囲むようにして、
魔血玉デモンブラッドが六紡星の形で配置されていた。
それにきづき、それを破壊してはいるが。
その中央にはなかなか誰もはいれなくなっている。
何でもかつて開発しかけ、途中でとまっている遊戯場。
その施設の痕跡、らしいのだが。
王都にある闘技場。
それにちかしいものをここアルタミラにも、とおもってつくりかけ、
ちょっとした事故もあり、そのまま建設がストップしているらしきその場所。
何もかもてっとり早く、空の雷によりて薙ぎ払ってしまいたい。
さすれば、魔族の痕跡も何もかも関係なくなるであろうに。
しかし、今それをすることはできない。
黒い霧のことは、首都メルトキオでも把握されていたはず。
ここでクルシス、として手をだせば、クルシスが黒い霧にかかわっている。
下手をすればディザイアン達すら自分達の自作自演である。
ということが人々に伝わりかねない。
それだけは何としてでもさけなければ。
別に地上の人間たちがどうなろうと、どうでもいいが。
しかし、どうでもよくないものもいる。
無意識のうちに目をとじミトスが脳裏に思い浮かべるは、あのウィノナの姿。
ただの他人のそら似、なのか。それとも。
でも、空似、にしては。
どうしてあのウィノナ姉様とまったく同じマナを彼女はもっていたのか?
という疑問がある。
酷似しているマナならばまだわかる。
マナをにせるためだけ、にマナの神子、というマナの血族を作り上げたのだから。
しかし、まったくの他人なのにマナがまったく同一。
そんな気配、いまだミトスは一度たりとてみたことがない。
だからこそ、迷いがうまれる。
あの彼女は、もしかしたら、と。
もっともそのミトスの思いこそ真実である、のだが。
今のミトスはそれを知らない。
今はまだ。
「――ユグトラシル様。特定いたしました」
「わかった」
どうやら待ち望んでいた結果がデリス・カーラーンより届いた、らしい。
この地を徹底的に上空から探査させていた。
魔族がかかわっているのならば、まちがいなく瘴気もありえる。
そしてそこがマナの希薄区域、もしくはより濃い空間となっているはず。
「いかがなさいますか?機動部隊の準備はいつでもできております」
それは殲滅部隊、ともいう。
「…いやいい。我がでむく」
「は」
そのまま、いまだにリーガルの手をにぎっている初老の人間をそのままに、
部屋をあとにしてゆくユグドラシル。
「…たまには、自らが腕をふるう、のもわるくはない、か」
ここ最近、いろいろとありすぎている。
はっきりいって何かでストレスを解消したい。
ここまでうまくいっていたのに。
四千年、という思いのほか長い時間はかかってしまったが。
あのコレットという少女ならばきっと、姉様の心をうけとめるはずだったのに。
何もかもがくるってきている。
精霊達との契約もどんどんと奪われ解除されていっている今。
このままでは。
姉をよみがえらせても種子を発芽させるだけの力。
その力が精霊達から得られない。
彗星だけのマナでは確実になしえることはできない。
精霊達の協力と、そしてエターナルソードの力とがありて、
そして…そのときこそ。
そのときこそ、姉が目覚めた状態で、かのものを呼びにいく。
その予定、であったのに。
どうせここまで文明が隔たった世界ならば、ヒトはまちがいなくまた争いを繰り返す。
そのために大樹の周囲にバリアをはりて、マナを使用させなくさせてやればよい。
つまりは、マナを制限させてしまえば、ヒトはマナの使用ができなくなる。
無駄なマナを使用するのはヒトに限られている。
そうすることにより、選ばれなかったものたちは自然とマナ不足で消えてゆくはず。
その計画、であったのに。
わざわざ自分が手をかけるでもなく、ラタトスクが手をかけるまでもなく。
勝手にヒトは自滅してゆくはず。
そのはず、だった。
残りしは自分がえらびし無期生命体化したものたちと、自然における動植物と、
そして魔物たちのみ。
二度と争いなんか起こるはずもない世界がそこにまっていたはず、なのに。
地上を浄化しようとしていた彼ならば、マナを制限云々という自分の意見。
それにも絶対に賛同してくれる、そう確信をもっていたからこそ思いついたこの計画。
無機生命体による千年王国、というのはダテではない。
本当は精霊石だ、というそれにより近くなることで、
自分達も自然の一部により近くなることができ、
意図せずにマナを大地から受け取ることが可能となれば。
地上におけるマナを制限しても困りはしない。
そのはず、だったのに。
その計画の根底から、いまはどんどんと狂わされていっている。
結局あのとき、停戦を結ばせてもそれはかりそめのものでしかなかった。
ヒトは愚かなるもの。
今はシルヴァラント側には国といったような組織はないが、
どうも動きからして、あのマルタとかいう少女の父親が何かをしでかす気配がある。
そうなれば、過去の二の舞。
おそらく、そうなるだろう、とはおもっていた。
いくら王家の血筋を根絶やしにしたとしても。
そういう考えをもつものは生まれてくることがあるだろう、と。
そのたびにだからこそディザイアンなる組織をつかい、彼らを徹底的に飼いならした。
逆らうと命はない、と。
世界を一つにし、ヒトがまた争うかもしれないが、
そのときは使用できるマナをすでに制限してしまっていさえすれば、
許容範囲をこえたマナの使用は、その使用者のマナを使用することとなる。
つまりは、器の消滅。
これは勝手に各自が自滅してくれる、というのでミトスからしてみれば好都合でしかない。
姉をよみがえらせ、大樹を芽吹かせ、結界を張り、そしてヒトがほとんどいなくなった平和な世界。
選ばれし存在たちだけがいきる世界。
そんな平和な世界を四人とあの彼?といっていいのかわからないが、
とにかく、ラタトスクとともに旅をする。
その思いは今もまだミトスの中ではかわっていない。
きっと、彼は自分の決定をきき、しかたがないやつだな。
といい、あの口調で、それでも納得してくれる。
まあ、いったとおりだろう?すべてのヒトを救済するのは無理だ、とな。
と確実にいわれるではあろうけども。
あのとき、あのラタトスクの間、王の間、封印の間ともよばれている場所で。
ラタトスクと交わした口調のまま、ミトスの中ではありありと、
彼がそういうであろうことが予測できる。
それこそ鮮明なほどに。
最近、なぜかあのとき、あの時代。
ラタトスクと交わした言葉の数々が鮮明によみがえる。
睡眠機能を停止しているはず、なのに。
眠っている間にそれらの夢をみる。
ミトスは気づかない。
それはこっそりと、ヴェリウスがミトスの心に干渉しているからだ、ということに。
ヴェリウスもまた実はラタトスクがミトスも救いたがっている。
そう半ば確信をもったがゆえに、命じられてもいないが、
自分の判断にてそれらの干渉を行っているというその事実に。
「――ひさしぶりに剣をとるのも、わるくはない。か。
  わるいが、この地にいる核となっているものは、僕のストレス解消。
  それにつきあってもらう、からね?」
くすり。
いいつつも、ゆっくりと歩いてゆくミトスの体がゆらり、とぶれる。
光とともにぶれたそこにいるのは先ほどの青年、ではなく少年の姿。
「――ヤト。か。あれに従うという、元軍神と契約せしもの。敵に不足は、ないな」
かつて戦ったときより力はおそらく人を器としている以上。
まちがいなく少なくなっているであろう。
あのときほどこの地上は瘴気につつまれていない。
あの一騎打ちのとき、あのものはこうなのった。
我は魔界におけるオーディーン様の配下、軍神ティウだ、と。
あのくちなわ、というものが契約を交わしたのが、
オーディーンに使えていながら、その息子のバルドル。
かつてラタトスクの配下たるテネブラエからきいたところによれば、
まだ彼らがくる前の世界にて覇権をあらそっていたもの。
その中でも武具の扱いにおいては右にでるものはなし。
といわれていたものであったという。
それらが負にまけて、その負がにつまり、あのように変質してしまっているのだ、と。
それこそすべてを巻き込み消滅してしまうような輩に変質してしまった、と。
魔族を封じるときに、そのように説明をうけた。
転生したバルドルを見定めるためにオーディーンという輩が監視役としてつけていたが、
やはり意味はないとして、かのランスロッドは当時の地上世界においての彼、
すなわちかりそめの主君としていた彼を裏切った、という。
そのときの地表におけるバルドルという輩の名は、たしか。
それはミトス達もしらなかった過去の歴史。
魔族といわれているものももともとはヒトであった、というその衝撃。
そして、負とはそこまでヒトの魂すらをも変質させてしまうのだ。
というその衝撃は今でも覚えている。
マナがそれらを抑える役割をもっているがゆえに、
また、かつてうまれたそれの集合体たるものをテネブラエが配下にしているがゆえ、
負の暴走、という現象がここまで地表において戦乱がつづいていても起こらないのだ、とも。
「僕のストレス発散につきあってもらうよ。そっちから仕掛けてきたことだ」
あのときより手ごたえはないかもしれない。
が、今回器にしたのは、あのときの師団長、ではない。
みずほの里の中でも実力者の一人だというヤトという男性。
ならば、どんなてをつかってくるかわからない。
おそらくは、少しは楽しめる、であろう。
クラトスは一度裏切ってからのち、自分との手合せにも手をぬくようになっていた。
だからこそ、腕が鈍っている可能性もある。
それに気になっているのはもう一つ。
精霊との力をそがれていっているが、自分でどこまでできるのか。
というその力の見定め。
それをみきわめるのにちょうどいい獲物が現れた、といってもよい。
そのままふわり、と誰もいないのをみこしてか、
ミトスの背に虹色の羽が浮かび上がる。
エターナルソードを使いたいのはやまやまなれど。
あれはあの場から動かすことはできない。
そうすれば、それでなくても不安定になっている種子に影響がでてしまう。
「久しぶりに魔法剣、で戦うしかない、ね」
自分だけでいい、といったのは。
周囲に天使達がきても足手まといにるがゆえ。
もっとももしも命令を無視してわってはいっても、彼らの命など気にするつもりはさらさらない。
とにかく、ミトスとしてはおもいっきり体をうごかし、これまでたまっているさまざまなこと。
それらの鬱憤を少しでも晴らしたい、のだから。


「なんか、あいつ、うたれづよかったけど、なんというか……」
連続しての戦い。
それで疲れない、というわけではない。
むしろこの封印とかいうのにはいってから、連続しての戦いは当たり前、であった。
「…まずいわ。かなりの数値が今の戦いでも失われてしまったわ」
千以上あったはずのそれは、今や数値が八百一、となっている。
ここを出てこの数値を増やす場所があればいいが。
クラトスのいうように、数値がたりずに前の層などにもどされてはたまったものではない。
しかし、たしかに攻防一戦のようなきもしたが。
幾度か剣を交えてれば、その戦いぶりにパターンがあり、
即座にそれにジーニアスがきづき、それに対応した作戦を打ち立てた。
目の前では霧となりて周囲の景色に霧散するようにきえていっている、ヴィリとかなのったその魔族。
それとともに。
柱と柱のその中央。
そこにあったカーテンが手も触れていないのにふいっと消える。
そしてその先に出現するは、何もなかった壁のはずなのに、上にとつづいている階段が一つ。
「また、階段、かよ!?」
それをみて思わずロイドが愚痴をこぼす。
さきほどあれほど長い階段を上ったというのにまた階段。
いったいこの空間というか建物もどきはどれほどの階段があれば気がすむのだろうか。
まだ転送陣のほうがましのような気がする。
いや、それではまた同じに入ったはずなのに、
クラトスとのときのようにばらばらにどこかに飛ばされる可能性がある以上、
たしかに別れ別れにならない、という点ではいいのかもしれないが。
しかし、うんざりするのもまた事実。
「ま、何にしても。あとはコレットちゃんたちだけ、か」
あと残るはコレットとプレセアの二人。
彼女たちもどこかに捕らえられているのだろう。
「そ、そうだね!ロイド!いこう!プレセアを助けないと!」
「お、おう。しかし、いつまでこの階段つづくんだよ……」
「いつまでって。あんたたち、他にも階段とかがあったのかい?」
先ほどの長い階段を上っているときにはしいなはその場にいなかった。
ゆえに不思議に思いといかける。
「さっきまで。らせん階段のような階段をひたすら僕らのぼってたんだ」
そんなロイドにかわりて、これまた多少うんざりしたようにジーニアスがつぶやく。
そう、どこまでつづくかわからない階段がひたすらにつづいていた。
まるでどこぞの塔を連想するような。
そういえば、マナの守護塔もあんな感じだったなぁ、とふとジーニアスは思い出す。
あれもひたすらに階段、であった。
ひたすら最上階までひたすらにらせん階段を上ってゆく必要性があったのだから。
もっとも、途中の階などは仕掛けなどのエリアも確かにあったが。
そこにたどりつくまでの階段もまた長かったのもまた事実。


  ~スキット:また階段かよ?~ゼロス&しいな合流後~
ロイド「だぁぁ!この建物、どんだけ階段ばっかりなんだよ!」
リフィル「ふむ。この創造りはかわっているな?
      さきほどはじぐざくの階段であったのに。今度は完全なるらせん状といってよい。
      さっきまではふつうの建物のようだったのに、ここはどうもどこかの塔の中のようにもみえる」
しいな「リフィル。あんた、こんなときなのに何調べようとしてるのさ…」
ジーニアス「もう、姉さん。ここは魔族たちがつくりだしてる幻影空間なんだから。
       そこいらにおちてるがれきみたいなの拾わないの!
       って、いってるはしから何壁についてる取り外しかのうな石版っぽいのはずしてるのさ!」
リフィル「しかしだな?ジーニアス。時間のあるときにこれらを解読すれば、あらたな発見が……」
ゼロス「つうか。ここを出たとたんにきえるんじゃねえのか?
     たしかあの天使様がいってただろ?
     最下層で石をくべればこの内部のものはすべてマナにと還る、と」
リフィル「…む。しかしだな」
しいな「はいはい。しかしも何も。荷物をふやすんじゃないよ。ったく」
ロイド「だぁぁぁ!先がみえねえ!というか、この塔みたいな空間。
     いつまでつづくんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
しいな「しかし、本当にここの空間はかわってるねぇ」
ゼロス「ま、魔族がつくってるっていう空間なんだから何でもありなんだろうよ」
しいな「たしかに、ね」
見上げれど、みあげどもつづくは果てしなくつづくらせん階段と、
吹き抜けの、それこそ下も上もわからない塔のような壁がそこにあるのみ。



pixv投稿日:2014年9月20日某日(Hp編集:2018年5月6日(日)

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あとがきもどき:

さて、合流したところのあの部屋仕掛け。
TOP(ファンタジア)さんの過去ダオス城にあったあの仕掛け、です。
というか、アーチェ、ひたすらにうろうろとするな!
といらいらしまくって、実際50回以上失敗した記憶ある薫です。
も、十回こえたらね?こうもうどうでもよくなってきて。
も、どうにでもなるさー状態で。
もしかして、勝手にやってくれるかも、という期待もこめて(マテ
ひたすらにボタン連打で失敗連続した記憶が(笑
クラース&ミントがさくっとクリアしてくれましたが(笑
アーチェ、何であんなにあれ、うろうろとするんですかねぇ(しみじみ
PSP版さんは、そりゃもう、アーチェがのる瞬間にのりました(笑
覚えてるもんですよねぇ。結構(苦笑
ちなみに、ファンタジアさんのダンジョンなので、
ファンタジアのPSPさんとりだして、確認しつつ打ち込み中(笑
しかし、幾度きいても、ファンタジアの歌はいいですよねぇ。
ふっとおもったんですけどね。
…初期のころは歌とかいれてたのに(ゲームの中で)
…シンフォニアとか、歌手のライブとかなかったなぁ。
とふとおもったり。
ラタ騎士にもあったりしたらよかったんですけどね。
というか、ラタ騎士さんの場合は、フィールドほしかったような。
まだやってないのにそれいうな、といわれそうですが(笑
…パソかいかえたから、PS3がさらに遠くなるー遠くなる~……
しかし、やっぱりダオスの声は塩沢さんのほうがよかった。
とつくづくおもいますけど、仕方ありませんよね…
声優さんが死んでしまったから…くすん。