「おお!神子!そしてその共のものたちよ!よくもどってきた!
そしてよくこの異変を解決してくれた!」
城にもどると開口一番。
謁見の間にて国王が高らかに宣言する。
結局、闇の神殿を後にして、外にでてみれば闇は綺麗にとりはらわれており、
もともと、あの闇はシャドウの分霊体達が魔族の瘴気にあてられて、のこと。
シャドウさえ自由に行動ができるようになれば、その影響力を跳ねのけられる。
分霊達があっさりと瘴気に狂わされていたのは、
本体との力がうまく接続されていなかったがゆえ。
おそらくはユアン達の影響、なのだろう。
一足はやく先にもどったユアン達が異変解決を伝え、
その結果、今やあるいみ町の中はお祭りさわぎ。
異変を神子ゼロス様が解決してくださった!
と人々はものすごいまでの活気と熱気につつまれていたりする。
さすが神子様、ゼロス様!と。
何しろ神子ゼロスが戻ってきてすぐに異変解決。
さすがは天の神子様だ、我らがゼロス様だ。
と人々がそう口ぐちにいいだしたは自然の流れ。
というか、いつのまに用意していたのだろうか。
というか必要があるのだろうか。
国王の台詞にともない、
周囲に控えていたなぜかホルンなどといった楽器をもった兵士達が、
いっきに高らかに楽器を吹き鳴らす。
兵士達による音楽が鳴り響く中での謁見。
やりすぎでは?とおもうのはどうやらエミルだけではないらしく、
よくよくみなければわからないが、リーガルの眉がぴくぴくと動いている。
「うわぁ。すごいね。音楽すごいね~」
「おう!こんな音楽、きいたことないからなぁ」
「…シルヴァラントじゃむりだよ」
そしてまた。
国王の御前である、というのに。
その場に膝をついたままで、
ぽそぽそとそんな会話をしているコレット、ロイド、ジーニアスの三人。
シルヴァラントでこんな音をだしたら最後。
すぐにディザイアン達がやってくるにきまっている。
そうおもうがゆえにジーニアスはあきれてそういわずにはいられない。
「ありがとうございます。神子様。おかげで私の苦しみもとれましたわ」
国王の横の王座にはにこやかな笑みをうかべるヒルダの姿がみてとれる。
たしか気分が悪いといって自室にこもっていたはずなのだが。
どうやらその懸念も取り払われた、らしい。
ヒルダが部屋に閉じこもっていたのは、常に頭にとある声が響いてきていたがゆえ。
あなただけが正妃腹という理由だけで、
どうして私たちが人柱として、海に流されなければいけなかったの?
あなたでもよかったじゃない。
あなたのその立場は本当ならば、私たちのものだったのに!
どこからともなく聞こえてくるその声は、ヒルダによくにている二人の少女。
ちなみにその姿は魔族達があえてヒルダにもわかりやすくしているからであり、
実際のミラとミュゼの姿ではありえない。
そう、ヒルダがきいていたのは、本来ならば同い年であり、同じ日にうまれた姉妹の声。
にみせかけた偽物達によるヒルダを非難する声。
側室腹、というだけで海に流されてしまった、二人の姫。
ヒルダはしらなかったが、くちさかない噂、というものは。
いくらなんでもこの十数年ばかりのあいだ、ヒルダの耳にもとどいている。
自分には本当ならば同い年の姉妹がいたのだ、と。
そしてその姉妹は双子という理由で海に流された、と。
どこまで本当か嘘なのか。
それはヒルダにはわからない。
しかし、噂としてある以上、また双子の扱いをしっているがゆえに、
まさか、という思いはずっと捨て切れなかったのも事実。
そこに自分とそっくりな同年代の少女が自分をなじってくれば。
誰しも気分がめいってしまう、というもの。
もしもあと少し、遅ければ、ヒルダの心は完全に壊れてしまい、
それこそネビリムのいい玩具というか操り人形と化していたであろう。
「折りしも晩餐会の準備が整いかけたときにこのような事態になっておってな。
しかし、神子とその共のものたちの尽力にて、このたびの危機も救われた!
今夜、大々的に晩餐会は開くことになっておる!
以前にいったお前達の服もすでにできあがり、屋敷にとどけておるはずじゃ」
そういう国王の表情はどこか明るくもあり、すこしばかりくもってもいる。
娘であるヒルダから、自分によくにた二人の少女にずっと、
責めせられている夢をみていたのですが、お父様。
本当にわたくしには姉妹がいたのですか?
とといかけられ、国王は答えることができなかった。
ヒルダと同じ日にうまれた、双子の王女。
側室腹だから、という理由、そして双子だからという理由だけで海に流した――
そして、国王も。
なぜ、子供達を殺したのですか?
すでに死んでいるはずの側室である女性と、正妃からも責められる夢をみていた。
正妃が体調を崩したは、何も産後のひだちがわるかった、だけではない。
側室とはいえ正妃とその相手は仲がよく。
なのに、そちらの子供は産まれてすぐに海にと流され…
それを正妃はかなりたってからきかされた。
それを嘆き、気が狂うようになった側室の女性もまた死んでしまった、と。
互いに協力して子供を育てていこう、そういっていた、というのに。
それらをもちだし、日々国王を責めていた。
恨めしい表情で、あなたは自分の子供を見殺しにしたのですね、と。
それでも表面上は何でもないようにふるまっていたのは、あくまでも国王、という立場ゆえ。
いまだに目を覚まさないプレセアはゼロスの屋敷にと預けてある。
アステル達はアステル達で、この以上の原因を解明すべく、
リフィル達がひきつれてきたアビシオン。
彼の取り調べにとかかわるらしく、しばらく合流はできない、とのこと。
まあ、数日はこの王都に足止めになるだろうから、
問題はないだろうが。
しかし、最後の精霊との契約について、上を説得するのにも時間がかかる、とのこと。
最後の精霊と契約を交わせば何がおこるかわからない。
今でこそ精霊のマナの楔、とよばれしもので繋がっている二つの世界。
その楔がなくなれば、世界を行き来することができるかどうかもあやしい。
そしてアステルとリヒターそしてリリーナはいうまでもなく、
国が運営している研究所の所員。
つまるところ、国に所属している国家公務員のようなもの。
いくら興味があるから、という理由だけで二度と戻れないかもしれない。
というような場所に国が派遣を決めるかどうか、がかなり疑問。
もっとも、アステルは必要だが、かわりにリヒターのみを派遣しては。
という意見が上の一部にはあがっているらしい。
どちらにしろハーフエルフであるリヒターは、かけても何があっても問題がないから。
そんな理由にて。
そこに差別の根が深いことが嫌でもうかがえる内容、ではあるが。
王城にいくまえに、一応しいなが闇の精霊と契約したむねを、
メルトキオの精霊研究所に伝えにいったときに、そうアステルからきかされた。
タバサはプレセアの面倒をみるためにとゼロスの屋敷にとのこっている。
国としてはタバサを重宝したいのはやまやまなれど、
彼女の腕力などにかなうものがいないのだからどうにもならない。
そもそも、彼女がマスター・アルテスタからロイド達に協力をするように。
そういわれている以上、国に残る、という判断を下すはずもなく。
これまでタバサが別行動をしていたのも全てはロイド達の為になる、
と状況的に判断したがゆえ。
そうでなければタバサは常にロイド達と行動を共にしている。
それこそアルテスタの命令通り。
「今日はいろいろとあって疲れただろう。
まずはゆっくりと栄喜を養うといい。夕刻、迎えのものをむかわせよう」
それは、迎えの馬車をゼロスの屋敷によこす、といっているようなもの。
謁見はあくまでも形式的。
という話しであったのになぜか仰々しさにつつまれつつも、
しばし、国王との会話はつづいてゆく。
~スキット・闇の神殿からでて王都にむけてまで~ ~神殿からでたほぼ直後の街道中~
ミトス「・・・・・・・・」
ジーニアス「ミトス、どうかしたの?」
ミトス「う、ううん。大丈夫」
さっきから、ミトスの様子がどこかおかしい。
ジーニアスはしるよしもないが、またひとつ。
精霊との契約が断ち切られたことをミトスは感じ取っている。
それほどまでに契約者と精霊、という繋がりは当事者達には強くわかるもの。
つまりは、闇の精霊シャドウの契約がかきかえられた、という証拠。
そしてそれはつまるところ、あの精霊炉からシャドウが逃れた、ということに他ならない。
ロイド「ま。とりあえず。よくわかんないままにシャドウと契約できたことだし。
あとは光の精霊アスカ、かぁ」
ジーニアス「そういえば。何でアスカはマナの守護塔からいなくなったんだろ?」
マルタ「というか、もともとあそこにいたのかな?アスカっていう精霊も?」
ミトス「・・・・・・・」
そんな二人の台詞にミトスはおもわずうつむいてしまう。
本当は、アスカとルナ。
あの地に縛り付けるはずだった。
しかし、いざ、というときに逃げられてしまった。
ルナが機械の発動とともに、アスカを逃がした。
結果、あの精霊炉に封じることができたのはルナのみ。
ゼロス「さあな。家出でもしてたんじゃねえのか?それか遊びにいってるとか」
しいな「あんたじゃあるまいし!しかし、プレセア、大丈夫かねぇ」
リーガル「心身的負担、精神的負担。様々な要因が重なった、のであろう。
…あの、魔族となのったものに体を奪われていた副作用がでなければいいのだが」
コレット「でも、あのプレセア、ものすっごい美人さんだったね~。
先生と同じくらい」
ロイド「そうだな!きっとプレセアもそのうちにファンクラブとかできるんじゃないのか?」
ジーニアス「ぼ、僕、ならファンクラブ一号に立候補する!」
しいな「…それにしても。さ。ついつい失念しちまってるけど。
この子、本当はもう二十八…あたしらより大分年上、なんだよねぇ。
いつもの姿が子供、だから頭では理解していても、
つい子供扱いでみていた自分にあたしとしては…ね」
わかっていたつもりだった。
けど、見た目がこども。
ゆえに気が付いたら子供扱いをしていたのは一度や二度、ではない。
リフィル「そうね。…おそらくあの姿がプレセアの本来の年相応の姿なのでしょう。
…私よりも年上の。人はどうしてもみかけにだまされてしまうわ。
その結果、本質をみうしなってしまう。
…私もきづかないうちにこの子を子供扱いにしていて傷つけていた。
かもしれないとおもうと、申し訳ないわ」
ジーニアス「・・・・・・・・・・あ」
姉の台詞に思わずジーニアスはだまりこむ。
散々、きいていたはずなのに。
プレセアは自分よりも年下だの何だの、まだ子供でしょ?
だのといっていたのはどこのだれだったか。
今さらといえば今さらであるがジーニアスは自分の言動をおもいだし、
思わずその場にてうつむいてしまう。
セレス「…エクスフィア。本当におそろしいのですわね。
わたくしは体力増幅、健康のためにもっていましたけども」
リフィル「…エクスフィアを使いつづけていた障害。
いきなり身につけていたものがなくなってしまったことによる影響。
今後、プレセアからは目をはなさないほうがいいでしょうね。
ない、とはおもうのだけど、異形に変化しない、とも……」
リーガル「そんなことは、絶対にさせん!アリシアのような目には、決してっ!」
リフィル「可能性をいっているのよ。リーガル。でも安心して。
今は私がレイズ・デッドをつかえるもの。それにエミルもいるしね」
エミル「…はい?」
リフィル「あら?あなたがはじめに異形となっていたドア総督夫人、
クララさんを助けたのよ?」
エミル「それはそう、ですけど。でもあのとき、リフィルさんたち。
回復術使えないっていうから、あれは仕方なく、ですね」
そう、しかたなく使用した。
まあ、媒介として大樹の枝を使用したが。
ゼロス「しっかし。みたかったなぁ。プレセアちゃんの大人バージョン!
コレットちゃん。そんなにプレセアちゃんの大人バージョン。
リフィル様に匹敵するくらいだったのか?くう!おしいことをっ!」
コレット「うん!すっごい綺麗だった!女の私でもどきどきするほどに!」
リーガル「うむ。アリシアも成長していれば、おそらくあのような……」
しいな「…あんた、まさかアリシアのあの言葉うけいれるきかい?
さすがに、それは……」
リーガル「い、いや。私は、プレセアのことは、アリシアの姉、としてだな。
そもそも、プレセアには義姉の挨拶をと昔は思っていたわけで。
いや、今でもおもっているが、いやしかし……
アリシアのいうことも一理ある、とはおもうのだ。
義姉に悪い虫がつかないように、といったアリシアの意見には全面賛成だ」
しいな「・・・・・・あ、あんたねぇ」
リフィル「…というか。あの子の様子だと、幽霊になってまで。
どうも今後もプレセアの恋愛関係にはちょっかいかけてきそうよね」
あれは本気だったわ。
絶対に。
ふとリフィルがぽつり、とつぶやく。
あれはどこからどうみても本気だった。
本気でリーガルとプレセアをくっつけて、家族になろうとしているような気がする。
それはもう果てしなく。
ゼロス「ま、あんたも公爵なんだし。ブライアン家の血筋はあんたしかもういないし。
いずれは結婚もいわれるだろうしな。
俺様とちがい側室とかもいわれるとおもうしな」
神子の血族はかならず神託よって決定される。
それに異論は許されない。
神託がくだってしまえば、それは絶対的な決まり。
神託がない場合でも血筋はあらかじめきられている。
どこぞこの家系から、と。
個人の特定がない場合でも、かならず家系による神託は常に下される。
つまりは、自由恋愛は許されない。
それが神子の血族といわれしもの。
そしてそれは、シルヴァラントにおいてもかわらない。
セレス「…お兄様……」
ゼロス「しょうがないさ。でもセレス。お前は絶対に恋愛結婚させてやるからな?
しかぁぁし!俺様のセレスはへんな野郎には絶対にわたせん!」
リーガル「うむ。セレス嬢とプレセアという違いはあれど。
二人に変な輩が近づかないように、という意見には神子。私も協力するぞ」
ゼロス「お。ブライアン公爵様がてつだってくれれば百人力だな。
害虫よけの装置とかつくれないか?」
リーガル「うむ。検討してみよう」
しいな「このあほおとこ達がぁぁぁぁぁぁ!何変なところで意気投合してんだよ!」
ロイド「?害虫?蚊でもいるのか?それとかダニとか」
ジーニアス「うわ!?まさか、ロイド、またダニ大発生させたりしたの!?」
一同『また、って…』
リフィル「…そういえば、あなた。給食でだされるトマトをひたすらにかくしてて。
机の中にあれらをわかしたことがあったわねぇ?」
ロイド「や、やば!お、俺さきにいくな!」
リフィル「あ!まちなさぁぁい!」
エミル「ロ、ロイドって……」
ミトス「・・・・・・・・・・・・なんか頭がいたいの、気のせい、かなぁ?」
エミル「いや、気のせいじゃないよ。…どうしてああなってるんだろう?」
クラトスの子、のはずなのに。
何だかなぁ。
と思うエミルとミトスの気持ちはほぼ一致。
マルタ「でも、いいなぁ。プレセア、ならこれからあの姿になるってことだよね?
あの、ぼん、きゅっ、ボンのスタイルに!
しいなの胸と負けずおとらず、いやプレセアのほうがちよっと上だったかな?」
しいな「うっ!ま、マルタ?!あんたはどこをみていってるんだいっ!」
マルタ「うう。私も胸がほしぃぃぃ!」
コレット「だよね。だよね!マルタ!」
マルタ「そうだよ!しいなは胸があるからわかんないんだぁぁ!」
エミル「…女の子ってよくわかんない」
しいな「…あんた、ミエル。それ決してマルタの前ではいってやるんじゃないよ?」
ゼロス「おお。しいなに負けずおとらずの胸か。そりゃあ、今から…」
リーガル「神子といえど、プレセアにちょっかいをだすつもりならば黙っていないが?」
ゼロス「じ、じょうだんだよ。そんなわけないっしょ~?」
セレス「…胸。かぁ。わたくしもおおきくなる、のでしょぅか?」
しいな「だ、だから!なんで、マルタにしろ、コレットにしろセレスにしろ。
あたしのむねをじ~とみつめてくるんだい!」
セレス&コレット&マルタ「「「だってずるい(ですわ)(もん)」」」
しいな「あ、あのねぇ」
リフィル「気になるのなら、そんな胸元を強調するような服をきなければいいのよ。
まったく、あのこったら、逃げ足だけ、ははやいんだから」
エミル「・・・あ、ロイド本気で先にはしっていっちゃってるね」
ミトス「・・・だね」
視線の先。
そこには一人、ひたすらに街道沿いを走ってゆくロイドの後ろ姿がかろうじてみえるのみ。
※ ※ ※ ※
「・・・、・・で、…なんです。お願いします!」
はぁ。
思わずため息がでてしまう。
というか、別にどうでもいいだろうに。
そもそも。
「死んでまでそこまでする必要ってあるのか?
というか、記憶をもったまま転生するなど。たしかに可能ではあるが。
しかし、あのものは……」
今の彼女が子を成すとするならば、それはとある術によるものでしかありえない。
半精霊と半ばかしている彼女は、ヒトとの間に子をもうけることはできはしない。
ロイドが誕生したのは、アンナという女性とクラトスが、
たまたま共に半精霊化していたから、であろう。
そこに人の特性までくわわり、よりいっそうどの種族にも属さないもの。
としてあのものはのこ世に誕生してしまっているようだが。
「ジーク。お前もそれでいいのか?」
その場に現れている、元、彼らの父であり、今はテネブラエ配下のクルセイダー。
人の記憶をもちしまま、魔物に転生をはたしたかれは、名もかつてのままを使用させている。
そもそも、彼が死霊としてつねに傍にいたがゆえ、
微精霊達がその死の穢れの思念にもふれ、プレセアの精霊石はより歪みがひどくなっていた。
「はい。王。私も思わないところはなくはないのですが…
しかし、あの子はこれから、普通のヒト、ではなくなるのでしょう?」
「まあな。微精霊達の力で再構築されたあの体は。
よくもわるくも、アイオニトスを含みすぎた。
確実に、無機生命体化までとはいわないが。その一歩手前ではあるな。
…魂と肉体の誤差があるがゆえ、在る程度は器を成長させなければ、
彼女自身、命をおとしかねないが、な」
一時とはいえ魔族にその体を操られ、そして成長速度すら変化させられた。
その痕跡はいまだにあのもの、プレセアの体にはのこっている。
そのためには。
まず、本来あるべき姿にあらたな体にそのマナのありようをなじませ、
そして成長させてゆく必要がある。
ゆえに、しばし、ここしばらくは彼女の姿が不安定になってしまう。
そういった懸念があるにはある、のだが。
「確かに、早い方が都合はいいが。…まあ、何とかなるか?」
旅の最中にいきなり成長させたりしたら面倒なことになるかもしれないが。
ここ数日はここで足止めになる、という。
なら、この機会にいっきにやっておいたほうが都合がよい。
「…できれば、リフィル、ジーニアス、そしてロイドにしいな。
彼らの精霊石達も孵化させたいところ、なのだがな」
しかし、すでにマナは満ち、微精霊達もいつでも孵化できる状態だ、というのに。
なぜか【王が傍にいるから、まだこのままでいます!】
というあのコ達はどういうつもりなのだろうか?
ロイドとともにあるアノコ達は、まあわかる。
どうやら自分達の子供のような感覚をロイドに抱いているらしいがゆえ、
その成長が心配、なのだろう。
おもいっきりその心は母親であるというあのアンナという人の魂の思いと一致している。
ロイドの力が封じられているのは何もあの人間だけの思い、ではない。
その思いをうけた微精霊達が協力しているから、にすぎない。
そのことを、あのロイドはわかっているのかいないのか。
おそらくまったく気付いてすらないのだろう。
悲しいことに。
服を着替えるので一人でいいよ、といってこの部屋を借りている。
防音もしっかりしているのでこの会話が外にもれだす可能性はない。
王城からもどり、ゼロスの屋敷に再び身をよせている今現在。
なぜかあの【アリシア】という少女が【ジーク】を伴い現れたのはつい先ほど。
横ではテネブラエがなぜか恐縮しまくっているのがみてとれるが。
…この様子ではまちがいなく押し切られた、のであろう。
部屋にある椅子にとすわり、彼らのいい分をきくことしばし。
テネブラエをみれば、その耳をしゅん、とうなだれさせている。
「まあ、よかろう」
「ありがとうございます!ラタトスク様!」
「ありがとうございます!王!」
「…はぁ」
何だろう。
この父娘は。
「しかし、ヒトの想いとはあいかわらずわからんな。
そもそも、なんでつがいになろうとおもった相手の子になろうとするのやら?」
まったくもって理解不能。
「まったくです」
どうやらその思いはジークをつれてきたテネブラエも同じ、らしい。
「あと。くれぐれも。あのものたちには、我の名をそれでよぶでないぞ?アリシア」
「はい!わがままきいてもらえるんですから!それくらいは守ります!」
「……本当にわかっているんだか」
そもそも、開口一番、ラタトスク様にお願いがあります!
といってきた台詞ではないとおもう。
念のためにテネブラエ達を呼ぶつもりで防音を施していなかったらとおもうとぞっとする。
ミトスだけではない、この屋敷にはコレットもゼロスもいるのである。
まちがいなくミトスは常に聴力を強化している。
ゆえに台詞がきかれかねなかった。
「しかし。そのあたりはうまく説明する、とお前はいったが…」
「はい!そりゃぁもう!リーガル様を脅してでも協力してもらいますから!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まあ。わかった。許可はする。
ただし、やりすぎるなよ?いいな?」
無駄だろうが一応忠告。
そして。
「ジーク。お前の娘なんだからな。しばらくこのものについていることを命じる。
影の中にでも潜み、何かあれば手助けをしてやれ。
アリシアには実体をもたせてはいないが、彼女が今、
依代としているプレセアの影ならば問題なかろう」
そう。
本来、このアリシアはプレセアの体を依代、としいまだに現世にとどまることを許されている。
それはアリシアがプレセアを次なる生の母体、ときめているがゆえ。
どうやら子供として転生する、というあたりは譲るきはなくなった、らしい。
当初はリーガルの子、というのは可能性の一つ、としてしか視ていなかったと思うのだが。
いったいあれからどんな心境の変化がプレセアとともにいておこったのやら。
「…人の想いとはあいかわらずわからんな」
「御意に」
しみじみいう台詞に横でこくこくとうなづくテネブラエ。
「…まあいい。とりあえず、用はすんだなら。ゆけ。
さて、テネブラエ。こっちはこっちの用件を……」
何だかどっとつかれた。
そもそも、ネオ・デリス・カーラーンの様子にしろ。
魔界の様子にしろ。
言葉をうけてその場からかききえる、ジークとアリシア。
おそらくは、プレセアのところにいった、のであろう。
まあ、それはそれとして。
「テネブラエ。報告を」
命じていた報告をこの場にのこったテネブラエにと促す。
「…リリスが余計なことをやはりプルートに教えていたようですね。
一応、しっかりと忠告はしましたが。…懲りてるかどうかは」
「…懲りてない、だろうな。それで?あちらの精霊石の孵化に問題は?」
「問題ないか、と。
どうやら、ユアンは精霊達全ての契約をもってして、
彗星のマナを放射するために魔導炉などを利用するつもりのようです。
あの人間達が壊してしまった魔導炉の変わりに封印のとかれた、
精霊達を閉じ込めていた精霊炉の力を逆流してマナを種子にたたき込む。
それがどうやら彼の計画、のようですね」
「…なるほど、な」
おもわず自嘲じみた笑みがこぼれてしまう。
そういうこと、だったのか。
かつての時間軸で、なぜに種子が暴走したのか。
そしてなぜ魔導砲なんてものを使用したのか。
ずっと疑問におもっていたが。
まちがいなく、負に穢されたままの種子にマナを照射し、
しかも制御するものもなく、その結果、大樹の力が暴走した結果、なのだろう。
「…ミトスのやつは、マナを照射するとき。
我を呼びにくる、というのをユアン達につたえてなかったのか?」
種子から芽吹く力は強大。
ゆえに制御するものがいなければ比喩でなく大地が滅ぶ。
そのようにミトスとマーテルには伝えていた。
にもかかわらず、ミトスはかつてのときも自分を呼びにくる気配がなかった。
そして…今も。
彼がかの地に出向こうとしている気配は、まったくない。
「…おそらくは。たぶんあのミトスのことです。
ラタトスク様をいきなり呼びにいって、ユアン達を驚かそう。としたのかと」
「・・・・・・・・ありえるな」
たまに悪戯心を発揮していたミトスである。
十分にありえる。
しかし。
「なぜ、それをわかっていて、ミトスはユアンをとめない?気付いていないのか?」
「…それはわかりません。が、精霊との契約については。
楔が不安定になるから、という忠告を無視し、ほうっておけばいい。
という命令を下したようです」
「…馬鹿な。我に気づいているわけでもあるまいし…」
自分が地上にでている、と確信をもっているならば、その台詞もわかる。
たとえそうなっても、自分がどうにかするだろう。
そうおもっての言葉、ならばまだわかる。
わかるが。
「いえ。いっては何ですが。ラタトスク様。ご自重してくださいませ。
といいましたよね?というか気付かれかけてませんか?
そもそも、ラタトスク様は……」
ミトスも薄々感ずいているのでは、とテネブラエは睨んでいる。
それにしては、直接的な行動を起こしてきていないのが気にはなれど。
「ああ。わかったわかった。ったく。
まあ、いざとなれば直接ミトスに問い正すしかない、か。
しかし、マナを照射、ねぇ。ならばそれを利用する、か。
――『エイト・センチュリオンに命ず!今から伝えしことを精霊達につたえよ!』」
小言をいいかけるテネブラエの声をさえぎり、センチュリオン達全てに命令を下す。
おそらく、かの地では混乱がおこるだろう。
が、そんなことはどうでもいい。
そもそも、彼らを彗星とともにかつてのように移住させる気などまったくないのだから。
「レセプションセンターって、何?」
マルタが首をかしげてといかける。
なぜかロイドだけの服がとどいていない、といわれ、ロイドは服をとりに王城へ。
ゼロスはゼロスでプレセアとリーガルをつれて先に城にといっている。
残された面々のみが迎えの馬車に乗り込んでいる今現在。
各自の服と招待状。
今から向かう場所は、レセプションセンター、とよばれる場所、であるらしい。
「でも。パーティーなんてすごいね~。マーテル教主催の祭りみたいなものなのかなぁ?」
「そういえば。コレットは毎年マーテル教の祭りには参加、だもんね」
コレットが楽しみ、とばかりにいえば、ふとジーニアスが思いだしたようにいってくる。
「仕方ないわ。コレットは神子なのだもの。
マーテル教の象徴ともいえるコレットが呼ばれるのはあたりまえでなくて?」
「それは、そうなんだけど」
姉であるリフィルの正論をいわれ、ジーニアスは思わずだまりこむ。
というか、なぜゼロスがプレセアとリーガルとともに登城したのか。
プレセアに用事があるから、といってジーニアスの知らない間に連れだされていた。
タバサと姉が何か話していたのはしっていたが、その内容まではきかされていない。
むしろ、混乱するだろうから、というのでリフィルがいうことを止めている。
その事実すらジーニアスは知らない。
「レセプションセンターは本来、貴族の方々しか入れない場所です。
そちらのお嬢様方は国は違えど神子様と王女。我らとて案内のしがいがあります」
にっこりといってくる案内役の女性。
どうやら彼女はマルタとコレットのことはきかされているらしい。
まあ、国、という概念はなくてもマルタがその血筋であることは事実なので嘘ではない。
それに、ファイドラとの話しあいの末、パルマコスタでそのようなこと。
すなわち、どういう話しあいをしたのかは不明なれど、
世界が一つになる時期が近づいている。
ゆえに、神託によりて、王朝を再生せよ、と神子様に神託がくだったという。
このもの、ブルート・ルアルディは正統なるシルヴァラント王朝の継承者。
王家、そしてマナの血族、そしてマーテル教のもとに、人々よ団結せよ!
ファイドラの神託がくだった、という台詞と、パルマコスタのそ総督府から発せられたその発表。
ゆえに、実は今の段階でシルヴァラントは多いにわいていたりする。
マナの安定、そしてディザイアン達の牧場の壊滅。
そして、滅んだはずの王家の末裔の発表。
自分達の世界は救われるんだ、王家万歳!マナの神子様万歳!
などという空気が今現在、シルヴァラントの中に広まっていっていたりする。
しかし、まだ神子様の試練はおわったわけではない。
どのようなディザイアン達の悪あがきがあるかもしれぬ。
人々よ、いまだに慢心するなかれ。
これもまたパルマコスタより発せられた。
じわじわと、ではあるが、しかし確実に。
王家がよみがえった、という内容はシルヴァラント中に普及していっている。
そして、完全に消滅してしまった元ディザイアンの施設。
そこに拠点を構えてはどうか、という意見がでており、
その話しあいが今現在行われていたりする。
つまり、王家のものがすむ、それこそ王都、というものをつくってはどうか。
という意見のもとに。
小さくてもいい。
そういったものがあれば、すこしは人々の心に希望がともる。
そんな意見もあいまって、なぜかダイクにその工事の発注。
ブルート達の住まう建物の発注がなされていたりする今現在。
そこまでロイド達はあちらにあれから戻っていないので気付いてはいないようだが。
しかし、わざわざパルマコスタ牧場跡地につくらなくてもいいだろうに。
ともおもわなくもない。
かつての施設があった場所は確かに今では湖となりて水源には困りはしない、だろうが。
ヒトとはなぜか不幸があった場所などを祀る傾向がある。
特にかつてのとある島国ではそれが顕著、だったのだが。
「それにしてもさ。ミトス。なんかきこなしてるよね?」
ふとジーニアスが隣にすわっているジーニアスをみながらぽつり、とつぶやく。
白と青を基準にした騎士のような服装。
それがミトスに与えられた服。
「そ、そうかな?」
いきなり話しをふられ、ミトスはとまどわずにはいられない。
こういった正装はミトスはかつてよくしていた。
それこそ、なめられないために、といってクラトスが散々いろいろと手をかけていた。
今、馬車の中にいるのは、
ジーニアス、コレット、マルタ、リフィル。
エミル、ミトス、しいな、タバサ、セレスの九人。
どうやらこの馬車内は十人のり、であるらしく。
人数がちょうどぎりぎりなので、ならば別に分けるひつようもないだろう。
という理由から、本来は男女別にわかれて、のつもりだったらしいのだが。
一台の馬車のみで、晩餐会の会場となりし場所にむかっていっている今現在。
「僕よりみんなのほうが。しいなさん達の服、とても素敵だよ」
「あら。ありがとう。お世辞でもうれしいねぇ。
というか、あたしはこんな格好、なんか恥ずかしいんだけど……」
かろうじて服の上から上着をはおり、何とかごまかしているが。
布がすくなすぎる。
それがしいなの感想。
一枚の布をうまくつかい服にしているような、淡い青い色彩の服。
それらがドレスのように仕立ててある。
それがしいなの服装。
その服は太もものあたりでおわっており、そこからは太ももあたりまで覆うブーツ。
コレットは白いフリルのついたワンビースにアクセントとして橙色の生地がつかわれており、
膝のあたりまである服の少ししたに、橙色のブーツがあしらわれている。
リフィルは黒と白を基準としたどこか執事のようなイメージを起こす服。
タバサのほうはどこぞの誰かをイメージした、のであろう。
淡い緑色のワンピースのようなものにその体をつつんでいる。
さきほどからミトスの視線が泳いでいるのは、その姿はどこからどうみても、
マーテルの姿そのものであるがゆえなのだろう。
マルタはその頭につけていた白い髪飾り、それにあわしてなのか、
青いふわふわのゆとりをもったスカートと、上着。
セレスはさすがにこういう格好になれている、のであろう。
というか、どこからどうみても、どこかのお嬢様、
いや、お姫様でも十分につうじるほど、
ふわっふわのふんだんにフリルがつかいまくったドレスを着こなしていたりする。
セレス曰く、動きにくい、とのことらしいが。
「それにしても…なんでエミル、そんな服だったの?」
ふとマルタがうらみがましくエミルに視線をむけてそんなことをいってくるが。
「さあ?」
エミルの着ている服は何といったらいいものか。
男、とも女ともどちらにもみえるような服装。
真っ白な布に気持ち程度、緑色のタスキのようなものがかけられており、
それらの服に様々な装飾品がきかざられている。
足元まで覆うかのような白き布と、一度みつあみにしてとかれているやわらかなウェーブのはいった金の髪。
手前にたらしている一部の髪のみ小さくみつあみにされており、
ぱっとみため、一瞬見惚れてしまうのは間違いないが、
その雰囲気はまるで絵からでてきたそう、強いていうならば精霊や妖精のごとく。
まあ、実際に精霊、なわけなのではあるが。
先ほどからミトスはタバサ、そしてエミルにもあまり視線を合わそうとしていない。
もっとも、ちらちらときになるらしく、エミルのほうをみてきてはいるが。
まあ、この服は、ミトス達と出会ったときにきていた服に限りなく近いな。そういえば。
そんなことをふとエミルはおもいはするが。
せっかく用意したという服をきない、というのも悪いような気がしてこうしてきているわけだが。
ちなみに、額にもちょっとしたティアラというかサークレットのようなものがついており、
本気で女性なのか男性なのか見た目では判別不能。
はっきりいってこのままいつものラタトスクとしての雰囲気をだしても、
まったくもって違和感がない服装の仕上がり、となっていたりする。
動くたびにしつらえられている装飾品が、しゃらり、となるのも、何ともいえない。
ある意味、この中で一番手をかけられているもの。
それがエミルではないだろうか。
それがエミルがこの服をきたときの皆の共通の認識。
実際、テネブラエなどは、その服では正体が判明しかねません!
などと散々何やらいってきた、という理由もあったりするが。
まあ、せっかく用意された服なんだし、問題はないだろう。
というのでそれをきこなし、そして今に至る。
「さて、皆さまがた、つきましたよ」
そうこうしているうちに、馬車がどうやら目的地にとついたらしい。
そのまま、御者があけた扉から、一人一人降りてゆく。
~晩餐会・会場にて~
マルタ「ううっ。なんか緊張するよ~。エミル、何ともないの?」
エミル「別に?」
というか、この規模なら、いつもあった祀りやらああいうのより規模は小さいし。
このにぎやかさはかつての祀りを彷彿させる。
大樹をまつった人々の感謝の儀式。
ピアノに従い、声たからかに歌う人々の姿も、とてもエミルにとってはなつかしきもの。
ジーニアス「うわ。ミトス。ものすごい人のさばきが上手だよね」
リフィル「…そうね。まるで手慣れている、みたいね」
ミトスはジーニアス達とはちがい、まるで人々をあしらう方法がわかっているかのごとく、
話しかけてはよってくる人々をうまくあしらっている。
リフィル「それにしても、エミル。あなた、その姿、本当に似合いすぎてるわね」
エミル「あはは。どうも。なんでこんな服にしてきたのか不明ですけどね」
コレット「エミルの格好ってなんか妖精さんみたい、だよね!」
ジーニアス「妖精っていうよりは、何だろう?」
何となく漠然とわかりそうな気がするのに。
それが何なのかジーニアスにはわからない。
リフィル「神秘的、という意味では精霊達と同じ、じゃないかしら?」
ジーニアス「それだ!」
エミル「・・・・あ、あはは」
まあ、実際に精霊だしな。
そうはおもうが口にはださない。
コレット「それにしても、ロイド、おそいな~」
エミル「たぶん、城にいったら、城にいたゼロスさんたちと一緒になって。
ついでに一緒にくるんじゃないの?」
ジーニアス「そっか。それにしても、ミトスにしろセレスにしろすごい人だかりできてるなぁ」
ミトスやセレスの周りにはかなりの数の人だかりができている。
ミトスの人あたりのいい笑みがどうやら若い女性達をひきつけている、らしい。
もっとも、ミトスがハーフエルフだ、としればまちがいなくあの人間達も手の平をかえし、
ことごとく侮蔑の言葉をなげかけてくるんだろうな。
ふとジーニアスは漠然とそんなことをおもいつつも、ミトスをみやる。
エミル「…あ」
マルタ「?どうかしたの?エミル」
エミル「…待ち人、きたるってね」
一同『?』
エミルがいったその直後。
高らかにとある人々の来訪をつげる声が会場内にと響き渡る――
※ ※ ※ ※
見上げる建物はかなり広く、建造物としては三階建て。
門は馬車のままで抜けていたらしく、そのまま入口にと隣接している。
足元には絨毯が地面の上にしかれており、服を汚さないようにという配慮がされているらしい。
見あげる天井はドーム型となっており、そこには蝋燭をともしたシャンデリアの数々が。
このシャンデリアは移動可能らしく、蝋燭をともしたりする作業をするときには、
鎖でつながれているそれらを床におろしての作業になるのであろう。
すでに始まっているのか内部からは音楽が鳴り響いており、
ざわざわとした人々のざわめきがきこえてくる。
案内されるがままに、会場へ。
すでに音楽にあわせ、中央のホールではペアを組んで踊っているもの。
壁際には音楽隊であろう人々が、それぞれ様々な楽器を手にし、
バイオリンなどといったさまざまなもので音楽を紡ぎだしているのがみてとれる。
音楽にあわせ、かろやかなステップを踏んでいる男女の姿。
「シルヴァラント王女様。シルヴァラント神子コレット様。
みずほの頭領、孫娘殿。神子ゼロス様妹御セレス様。
そしてそのお連れの方々、おな~り~!」
彼らの姿を確認したのち、扉の前にたっていたものが、高らかに声をあげる。
ぎぃっと扉が開かれるとともに、
その声に人々の注目が一気にこちらにと注がれる。
どうやら、彼らにとって重要、なのは、しいな、セレス、コレット、マルタ、であるらしい。
もっとも、みずほのって、あの死神の?という囁きもきこえてきていたりもするのだが。
その台詞にしいながぴくり、と反応をし固くなっているのがみてとれる。
ほんとうに、これだからヒトは。
あからさまにきこえよがしにそういう人々には侮蔑の感情がありありとみてとれる。
こうした感情が負より強くしていく、というのにヒトは気づいてすらいない。
そしてそれが自らのマナをも歪めていくことにすら。
「しいなさん」
「え、あ。ああ」
そんなしいなの背にかるくとんっとふれつつも声をかけるエミル。
エミルに触れられ、ふっと何かが軽くなったような気がし、はっと我にともどるしいな。
「いきましょう。いつまでも扉の前で立ち止まっていたら。他の皆さまに迷惑、だわ」
リフィルの声をきっかけに、それぞれ会場の中にと足を踏み入れてゆく。
「ブライアン公爵様。国王様とヒルダ姫様。そして神子ゼロス様、おな~り~!」
ざわっ。
しばらくのち、会場中が一気にざわめきをます。
全員がそちらに注目すれば、先に入ってきたは国王と姫。
そしてその背後につらなるように。
「…まあ、あのご令嬢はどなた、かしら?」
「まあ、あれはブライアン公爵。公爵が女の方をつれている、ですって?」
さらり、とのびた桃色の髪。
すらり、とのびた手足にスリットの入ったイブニングドレスのようなもの。
耳元には瞳の色と揃えたのか青色の大きめのイヤリングがゆれており、
胸元には大きめの真珠のネックレス。
『・・・は?』
一瞬、その姿をみて目をぱちくりさせているしいな、マルタ、ジーニアスの三人。
そして。
「?あのかた、どこかであったような?」
セレスはセレスでひたすらその姿をみて首をかしげていたりする。
リフィルはリフィルで、
「あら。いいセンスしてたのね」
あまり驚いていないらしく、その姿をみて何やらそんなことをいっているが。
「ねねねねね姉さん!?ああああれって!?」
「というか、リフィルさん、あれって!」
見間違えるはず、がない。
あのときとは髪の色がことなれど。
つい先刻のこと、である。
それで見間違えていたらそれぞれ自分を殴りたくなってしまう。
「みたままよ。プレセアよ」
いや、それはみたらわかる。
わかるが、なぜにまた大人の姿になっているのか。
それをききたい。はてしなく。
エミルとリフィルをのぞいた皆の心はほぼ一致。
「そうね…どこから説明したらいいのかしら……」
いいつつ、リフィルがふと天井にと視線をむける。
それは、今から数時間前のこと――
「…リフィルさん、すこし、いいでしょうか?」
「何かしら?タバサ?」
プレセアの様子をみていたはずのタバサが別の部屋にいたリフィルをよびにくる。
「プレセアに、何か?」
「とにかく、きて、ください」
「わかったわ」
もしかしたら、魔族に乗り移られてたがために何らかの影響がでた、のかもしれない。
最悪の状況をも視野にいれ、表情もかたくプレセアが休んでいる部屋にと移動する。
バスローブのみをまとったかのような、二十歳を超えたころの女性が、
そのまま椅子にすわって部屋の中央にとすわっており、その目はきつく閉じられている。
「…え?」
なぜにまた大人の姿?をしているのだろうか。
しかし、瘴気の気配は感じない。
困惑するリフィルを前にし、
「――アリシアさん、リフィルさんを連れてきました」
アリシア?
リフィルが一瞬、怪訝におもうと。
「ありがとう。タバサさん。あと改めてはじめまして。というべきでしょうか?
いつもお姉ちゃんがお世話になってます。
あ、今お姉ちゃんの魂はあのおばあちゃん魔族にとりつかれてたせいで、
疲労がたまってて、昏睡状態なので、私がかわりに表にでてきているだけですから。
妹のアリシア、といいます」
すくっとリフィルの姿をみとめ、ぺこり、と頭をさげてくる。
あのときとはことなり、桃色の髪は桃色のまま。
瞳の色も空色のままで、どことなく幼さをも残した大人の女性。
いつものプレセアのどこか無表情、のそれではなく、
表情豊かにころころとその顔は変化している。
「いったい、どういう…」
「あの中できちんと理解できそうなの、考えたらリフィルさんくらいだったんです。
とりあえず、説明しますね」
困惑しつつも、それでもすぐに意識をきりかえる。
こうして客観的に物事をみることにより、リフィルはこれまで、ジーニアスを育て上げてきた。
その実績は生半可なものではない。
アリシア曰く、この体はまちがいなく姉、プレセアのもの。
魔族の瘴気によってむりやりに体を成長させられてしまったがゆえ、
マナの安定をはかるために、しばらくはこうして大人の姿になる必要がある、とのこと。
こうすることで、体にのこっている魔族の瘴気を追い払うことができる。
また、姉、プレセアはアストラル体そのものが魔族に侵されかけていたのもあり、
今は完全に昏睡状態である、ということ。
少しでも瘴気を発散させるために体を動かしておく必要がある、ということ。
そしておそらくは、短くて数時間、長くて数日。
この体は変化…すなわち、大人と子供の姿を繰り返す可能性がある、ということ。
「服がなかったので、クローゼットにはいっているバスローブを借りたのですけども」
「…プレセアの体に魔族の影響はない、のね?」
「はい。でもこれをしないと、どんな副作用がでるかわからないので。
まあ、これも私の感覚、でしかないんですけど。
私も魔族達とおなじ、あるいみで精神生命体みたいなものですし。
もっとも自力で彼らのように具現化なんてできはしませんけどね」
魔族とは精神生命体。
自分の力のみで具現化するものができるものが上位とよばれし存在であり、
それ以外のものは、何らかの依代をもってして世界に具現する。
「それで、今後のことなんですけど、服のこともありますし……」
たしかに、このまま、というわけにはいかないだろう。
「…ものすっごく不本意だけども。…ゼロスに相談するしかない、でしょうね」
しかし、さきほどの今、である。
他のものにはなせば動揺は広がる、であろう。
「わかったわ。私にまかせておいて」
「…で、ゼロスに相談したところ、ゼロスのお母様の服がある、というので。
でも、せっかくだから、なら晩餐会にも出席したら、といいだしてね。
一人であの子を屋敷に残すのも不安でもあったし。
そうしたら、中身がアリシアちゃんなら、リーガルにエスコートを押し付け…
もとい、頼めばいいんじゃないかってゼロスがいいだして…
アリシアがものすっごく喜んでね…断るに断れなかったのよね……」
――リーガル様と晩餐会!?いきたい、いきたい、いきたいです!?
――アリシア…なの…か?
部屋に呼び出され、困惑していたリーガルとひたすらに喜んでいたアリシアの姿。
頭がいたいが、どこかほほえましくもったあの光景。
「でも、晩餐会にきていく服がない、ということになって、しょげていたアリシアに。
なら、ゼロスがいい案がある、といって、
リーガルごとひきつれて、城にいっていたのよね」
ゼロス曰く、城にはこういう着せ替えが好きな女中達がたくさんいるから。
きっと歓迎されるしな、とのことだったが。
どうやらあの言葉に嘘はなかったらしい。
リーガルに手をひかれ、少しはじらうようにして進んでいるその姿は、
いかにも妙齢の女性らしき仕草、といえる。
絶対に今のプレセアではつくることのできない表情。
それをアリシアはプレセアの体で浮かべている。
「お、おしえてほしかったよ……」
それにしても、とおもう。
――お姉ちゃんとリーガル様は美男美女。うん、似合う!
そうあのとき、アリシアの魂がいっていたその意味。
ものすごく現実としてたたきつけられる。
あの中身はプレセアじゃない、ないとわかっていても、
はじらうようにしてリーガルをみつめているその表情はまさに恋する乙女のもの。
姿が大人なのでどことなく実感として現実差をもたないが。
何ともいえない気持ちがジーニアスの中に去来する。
リーガルと並んでいればまさに美男美女。
お似合い、という言葉がしっくりくる。
中身がアリシアだ、と理解しているからだろうか。
いつもとくらべ、リーガルの表情もやわらかい。
よくよく耳をこらせば、
まあ、ようやくブライアン公爵様にもお相手が?
こんな国王様主催の晩餐会につれてこられるおかたですもの。
婚約者候補かしら?
などといった囁きがあちこちからきこえてきていたりするのだが。
ジーニアスはそのことにまったくもって気付いてすらない、らしい。
視線の先ではつつがなく、人々と挨拶をかわしている【プレセア】と、
そんな【プレセア】をエスコートしているリーガルの姿がしばしみてとれるが。
そうこうしているうちに、
「さて、みなのもの。今宵はよくあつまってくれた!」
ざわっ。
国王の一言。
どうやら国王の挨拶が始まった、らしい。
「皆も知ってのとおり、このパーティーは神子の復権を祝ってのことじゃ。
我が情けないことに元教皇のいうがまま、神子をないがしろにし、
そしてその地位を脅かさんとした結果、何がおこったのか。
それはここにいる皆もすでにわかっているとおりだとおもう。
わしは下手をすればかつての悲劇、スピリチュアの再臨を呼び起こすところじゃった。
事実、神鳥シムルグ、そして天の雷、そのような兆候があったにもかかわらず、じゃ。
しかし、神子はこのわしを許してくださった。その寛大なるマーテル様のお心のままに。
そして、このたびの異変、漆黒の闇につつまれるという異変すら解決してくださった!」
わぁっ!
神子様、神子様、神子ゼロス様!
偉大なるマーテル様の御子!
国王の言葉とともに、集まっている人々が一斉にゼロスを称えだす。
「そして、このたびの異変はどうやら、わが国だけ、ではないらしい。
皆もしってのとおり、お伽噺で分かたれたもう一つの国。
シルヴァラントのものたちにもマーテル様の神託がくだっておる。
今、まさに神子達は二つの世界の二つの神子。互いが協力し、
世界はあらたな局面をむかえようとしておる!
マーテル様の最終試練が今、このとき、人々に下されておるのじゃ!」
ざわざわざわ。
試練?それは、いったい。
などという声はいたるとろころから。
「神子ゼロス。そしてシルヴァラントの神子、コレットよ。ここに」
「は。さってと、コレットちゃん」
「ふ、ふえ!?わ、私も!?」
「そうそう。陛下の御指名ってね」
いきなり指摘され、戸惑いの声をあげるコレット。
いつのまにか、ゼロスがちかよってきており、
ゼロスの歩調にあわせ、ざっと人々が道をあけており、
コレットの前まで人並みによる道がしっかりとできあがっていたりする。
「コレットちゃん。翼を。俺様もだすから」
小声でそうゼロスが呟くとともに、ゼロスの背にやわらかな光の翼が出現する。
おお!神子様が!天使の御姿に!何と神々しい!
そんな人々の感嘆たる声。
「う、うん」
よくわからないままに、でもゼロスが出して、というんなら。
それにゼロスも翼だしてるし。
ゼロスの翼のある姿はコレットはみるたびにどこかほっとする。
ずっと世界で一人だけ、とおもっていた。
クラトスさんたちも翼はあるけども。
クラトスさんたちはクルシスの天使で。
地上には自分だけだって。
でも、仲間がいた。
それはコレットにとって小さな救い、として胸に秘められた。
コレットもふわり、とその桃色の翼を展開する。
おお!?あちらの娘も翼をだしたぞ!?
では、噂にあったスピリチュアの再臨とは、まさかあの娘?!
「皆のもの!みてのとおり!
我が国、テセアラの神子ゼロスと同様、対となりしシルヴァラントの神子。
その名はコレット・ブルーネル!
ゼロス・ワイルダー同様に、天の神子、マーテル様の御子であり、
このたび、天界クルシスより、人類が最終試練を克服するためとして、
勇者ミトスのときと同様につかわされしものたちである!」
おおおっ!
どよめく声は会場中から。
「すでに、皆のものも気付いておるやもしれぬが。
女神マーテル様の復活が近づいておる。
そのため、伝説にあるディザイアンどもがここテセアラにも手をのばしておる。
ディザイアン共は伝説にある魔族と手をむすび、人々を闇にいざなおうとするであろう。
先の闇の異変もその証。女神マーテル様はそれをみこし、
この地に二人の神子をこうしてつかわされた。
このたびの騒動が全ておさまれば、世界はマーテル様の加護のもと、
平和で、そして誰も苦しむことのない世界が訪れるであろう!
そのような神託が神子達にくだったときく!」
おおおおお!
今度のどよめきは先ほどの非、ではない。
「…これは、ゼロスの入れ知恵、かしら?」
そんな台詞をききつつも、リフィルがぽつり、と小さくつぶやく。
あの国王にそこまで考えることができるか、といえばリフィルは否、とこたえる。
おそらくゼロスが何らかの入れ知恵を国王にした、のであろう。
「我がいえることは、心をつよくもて!けっして魔の誘惑にまけるでない!
それは、ディザイアンの思うつぼ!
かつてのような古代のような争いを人々に再びおこさせよう、とする。
愚かなるものたちの誘導、なのだから。
しかし、わしは信じておる。わが国の民はそんなに弱くはない、と!」
そこまで高らかにいいはなち、
やがて自分達の前にあゆみよってきた二人にすっと視線をむけ、
「我が、国を代表し、二人の神子にこうしてお願いたてまつる。
どうか、神子様がたの力をもってして世界を真の平和にっ!」
わっ!
陛下、陛下!国王陛下!
テセアラ十八世陛下!
国王が膝をつく。
それはありえない光景。
しかし、相手は天使。
天使の御子。
国王の言葉をかわきりに、何ともいえない熱気が会場中を埋め尽くしてゆく。
と。
バタバタ…バタァァン!
「た、大変でございます!国王陛下!!!!!!!!」
その声と。
「あ、あれは、何だ!?」
突如として天井付近。
そこに光がつどい、人々がそれにきづきざわめきをましてゆく。
それは部屋に兵士らしきものが駆けこんでくるのとほぼ同時。
「あれは…クラトス!?」
光からあられわしは、その背に淡き輝く翼を展開させているクラトスの姿。
「これは、天使様。このような場所にこのような降臨。何の御用でしょうか?」
さすがにゼロスも一瞬、顔をしかめるが、すぐさまに体裁をとりつくろう。
うやうやしく礼をとり、浮かんでいる天使体のクラトスに語りかけているゼロス。
ざわり、
その台詞に人々がざわめきをますが。
そこにあらわれ、たしかに空にういているのはあきらかに天使の翼をもちしもの。
「神子達につぐ。例の品の行方がわかった。詳しくは【アルタミラ】にくるがいい。
しかし、こころせよ。かの地は、今やあのものの支配下におかれている」
声はクラトスから。
しばし、茫然としていた人々だが、一時はやく我にもどったのか、
「へ、陛下!大変でございます!アルタミラが謎の覆面部隊に占領された、とのことです!」
ついさきほど、会場の中にかけてこんできた兵士が、
はっと我にもどったかのように高らかに言い放つ。
「何!?」
「何だと?!それはまことなのか?!」
「は、はい!ブライアン公爵様!アルタミラがある日、いきなり覆面…
まるで、みずほの民のような格好をしたものたちに!」
「な!?」
その報告にしいなが声をつまらせる。
そして、それとともに。
「陛下!至急でございますが、みずほの民の頭領、イガグリ殿が謁見を願っております!」
ばたばたと、何やら再び騒々しくなり、
別兵士が会場内にとかけこんでくる。
「アルタミラに?それは……」
「――我がクルシスの名のもと今は抑えている。神子達よ。選択はお前達にまかす」
それだけつたえ、何がいいたかったのかわからないが。
現れたときと同様に、その姿は光とともにかききえる。
それは実際にこの場にあらわれた、のではない。
あくまでも立体映像であったがゆえ、痕跡も何ものこしてはいない。
ただ、きらきらと異様に無駄にこった演出の光の粒が周囲に降り注ぐ。
混乱し、何が何だかわからない。
祝賀パーティーはいっときお開きになってしまうが、それはそれでしかたがない。
ざわめく人々を兵士達が誘導し、そして関係者だけが取り残された会場。
やがて人も少なくなった会場に、しいながとてつもなくみおぼえのある姿がとおされてくる。
案内されてきたは、頭領、そして服頭領、といったみずほの里の指導者達。
「お爺ちゃん!?それにタイガ様も!?」
まさか二人がこんな場所にでてくるとは。
ということは、かなり大事がおこった、とみて間違いないであろう。
「おお。しいな。ここにおったのか。陛下。
いきなりの何の前触れもない謁見を許可いただきありがとうございます」
うやうやしく礼をとるタイガ、そしてイガグリ。
滅多にみない彼らの正装。
きちんと紋つきハカマをきこなしているその姿に、
しいなは何ともいえない気持ちを抱いてしまう。
「うむ。息災であったか?イガグリ殿。そなたは回復したとは聞き及んではおったが」
「お恥ずかしいかぎりでございます。
実は、急遽陛下にお耳に入れねばならぬ事態が発生いたしまして。
我が里の不徳のするところ、なのですが、抜け忍が発生いたしました。
このもの、何やらあやしげな力を手にいれ里のわかいものをつれ、
里を出奔しまして…里をあげて調査していたところ、
何とアルタミラにたてこもっていることをつきとめた次第です。
ゆえに、陛下にぜひとも我らがアルタミラにて逆族たる彼らを裁く権利を受けたまりたく。
かの地はブライアン公爵家のいわば私有地。きちんと筋をとおさねばなりませんがゆえ」
国王の言葉に、イガグリがかるく挨拶をむけたのち、単刀直入、とばかりに用件をいってくる。
「…では、今、報告にあった、かのものの兵の言葉は…」
その台詞に国王は顔をしかめずらはいられない。
そんな国王の態度にきづいたのか、
「陛下。さきほど、クルシスの天使様がおっしゃっていたこともございます。
ここは、我らにお任せいただけないでしょうか?
どうも今回の出来事は再びマーテル様の天敵でもありし、
ディザイアン、そして魔族が絡んでいるとおもわれます。
我らが天より命じられて探索していたものの中に、
魔王を閉じ込めていた、という禁書が奪われたというものもございます。
かの品はヘイムダールにて保管されていたらしいのですが、
先日、何ものかに盗まれてしまったようでして」
ゼロスの言葉に嘘はない。
ただ、その瞬間に立ち会っていた、というのをいっていないだけ。
これだけきけば、まるで天からその捜索を命じられたように聞こえるであろう。
「天の試練は我らが神子にかせられた使命。何とぞ」
「…うむ。すまぬな。神子よ。お前達には次から次へと苦労をかけるようだな」
その台詞に国王としては顔をしかめるしかできない。
天がそのようにいっている、というのならば、下手に介入はできはしない。
「…みずほの民は、これより、神子の指導下にはいることを決定する。
異論は認めん。神子の指示に従いて、かの地でも行動をするように!」
おそらくは、こうして報告にきた、ということは。
里が国に含むところがない、というのを明確にするため、なのだろう。
いくら里から抜け出たものといっても、まさか公爵家の私有地ともいえる、
アルタミラ領。
そこを占領、襲撃するなど国という国家に対し喧嘩をうっているようなもの。
みずほの民全てが国に叛意あり、と疑われてもおかしくはない出来事なのだから。
「ありがとうございます。この一件がすみましたら、どうにでも処罰をうけますがゆえ」
そこまでいい、深く頭をさげ、いわば土下座のような格好をしたのち、
そして、くるり、とその視線をしいなにむけ、
「しいなよ。頭領として命ずる。
お前はまず、アルタミラに向かうまえに、まずは精霊マクスウェルとの契約を果たせ」
「おじ…じゃない。頭領、なぜ!?」
それはしいなにとっては信じられない命令。
今はともかく、アルタミラを救うのが先決、なのではないのだろうか。
「くちなわのやつは、どこで手にいれたのかわからぬ。
不可思議な装置を手にしておった。
それらがあやつの言葉に耳をかたむけたものの頭や首。
それにとりつけられたのをみたものがいる。
実際、それをどうにかしようとして攻撃をしかけた里のものもいたのだが……」
そこまでいって、イガグリは言葉をにごす。
「いたのだが…なんなんだよ?」
あまりに不自然に言葉を濁すがゆえに、ロイドが思わず問いかける。
あきらかにいいあぐねている。
「……衝撃をうけた直後、それを身につけたものもろとも…自爆した」
『なっ!?』
短い叫びはほぼ全員。
国王も含め、叫んでいないのはこの場においてはエミルとミトス、そしてタバサのみ。
「…エグイな」
それはゼロスとしての素直な感想。
「つまり。その装置を取り付けた相手を操ったあげく、
それをはずそうとしたら、自爆するってか?」
「――おそらくは」
そういうイガグリにかわり答えたタイガの表情も、暗い。
「そういうわけだ。しかし、マクスウェルならば」
そこまでいい、ようやくその意図に気付いたのであろう。
「なるほど。マクスウェルは原子を司る。といわれているわ。
物質をマナに還すことができる、と。それを利用したいのね?」
たしかに、その力をつかえば、衝撃をあたえることなく、
また自爆よりも先にその装置をどうにかできるかもしれない。
それはかけ、でしかないが。
しかし、何もしないよりはまし、であろう。
「あの地にいる民がどれほど巻き込まれているか、その報告はないがゆえにわからぬが。
関係ない民をも巻き込むことだけはさけねばならぬ。わかるな?しいな?
我が里の民がおこした不始末に、他者が巻き込まれることはあってはならぬのだ」
「……はい。頭領」
その台詞にしいなはぎゅっと力強く手を握り締めるしかできない。
くちなわのやつ、いったいどこまで…どこまで道を踏み外せばきがすむんだい!
あたしがにくいのならば、あたしにだけその怒りをぶつければいいのに!
関係ない人達までまきこんで!
下手にしいなに協力的であったくちなわをしっているだけに、
しいなの気持ちの揺れも半端ではない。
「アルタミラまでにいく道の状況は?」
「武装しているものたちがみはっている。
おそらく、海や陸路にも手のものがはいりこんでいるとみて間違いないかと」
リーガルの淡々とした問いかけにかわりにこたえるタイガ。
「――闇に乗じて入るしかない、かもしれないわね。リーガル。
隠し通路のようなものはあってかしら?」
「うむ。それは。町の外れにある。暗闇にまぎれ、地下から町の中への潜入は可能だ」
リフィルの問いかけにリーガルが淡々とこたえるが。
「では、リーガル様。私も彼らに協力いたしますわ」
「しかしっ」
「あら?リーガル様。あなたが私に地下のあれこれも教えてくださったのですよ?
ここで地下に詳しいのは、わたしとリーガル様だけ、ちがいますか?
あと詳しくしっているであろうジョルジュ様は今はどうなっているかわからないのですから」
地下の隠し通路に詳しいであろう人々が、どうなっているのか。
それはここ、王都メルトキオからではわからない。
【アリシア】のそんな台詞にリーガルが思わず顔をしかめる。
「では、ブライアン公爵の手助けはそこのものにたのもう」
「はい。お任せくださいませ。国王陛下」
いいつつも、すっと三つ指をついて頭をさげているアリシアであるが。
「…大丈夫、なの?」
リフィルからしてみれば、いつ姿がかわる、つまりは子供の姿にもどるかわからない。
そうきいているがゆえに不安でしかたがない。
「はい」
そんなリフィルの言葉にしっかりとこたえるアリシア。
もしも姿がもどり、姉の意識がもどったとしても。
状況を説明し、姉に説明して皆に道をおしえていけば、どうにかなるであろう。
それがアリシアの出している結論。
「なら、しいなの契約と、アルタミラにむかうものが必要、ね」
リフィルが少し考え込みつついえば、
「いや。リフィル達は先にアルタミラにいっておいてくれ。
…あたしもかならずあとからおいつくからさ。
…あたしはあたしでエグザイアにむかって契約を試みてくるよ」
「うむ。我らの中からも数名、しいなについていかそう」
しいなの言葉にイガグリがうなづく。
「あ、なら、僕、しいなさんについていきますね」
エミルの台詞に。
「…そうね。なら、エミル。それにマルタ。あなた達はしいなと一緒に」
「え?マルタも?」
「回復術を使えるマルタは必要、よ?」
たしかにリフィルのいい分はわかる。
わかるが。
「決まり、だな。しかし、しいな、大丈夫か?」
ロイドがそんなしいなにと心配そうに声をかけるが。
「あたしは大丈夫さ。それより心配なのはあんたただよ。
…下手をしたら、アルタミラがどんな状態になっているのかわかんないんだからね」
「…そうね。心しておいたほうがいいわ。…ヘイムダールでのあの光景。
あれが再現されている、可能性もあるのだから」
あれ。
その台詞にさっとロイド、そしてジーニアス達も顔を青ざめさせる。
死んでいるのか生きているのかわからない。
しかし、完全に操られていたエルフ達。
殺すしかない。
そうクラトスにいわれた彼ら。
もしも、アルタミラにいる人々がそんな目にあっていた、とするならば。
それは……
「…くそっ」
あのとき、あのグラ何とかという女性?の介入でロイドが手をかけることはなかった。
しかし、自分は罪もないかもしれない生きているかもしれない人を手にかけることができるのか。
その答えはいまだにロイドの中ではでていない。
ジーニアスは生きるためにそういう覚悟はともなっている。
この中で覚悟ができててないのは、あるいみでロイド、そしてマルタくらいであろう。
セレスもかつての経験から、そういうのは仕方がない、と身分的にも割り切っているところがある。
そしてゼロスはいわずもがな。
リーガルにしても然り。
彼らは上にたつもの、として何を切り捨てなければいけないのか。
何を優先すればいいのか、をつねに前にもってきて考えている。
考えていないなは、全てを助けよう、としているロイドやコレットくらいであろう。
たしかに、それはヒト、としては正しいのかもしれない。
しかしその正しさは時として全てをまきこみ、そして全滅に誘い込む。
つまり、取り返しのつかない結果をも招きかねない。
かつて、ロイドがヒトとして正しい、とおもいマーブルを助けたときのように。
「…しいな、本当に平気、か?」
「ああ。里の仲間もいるし、ね」
しいながそういうのらば、これ以上は強くはいえない。
しぶるロイドに対し、
「大丈夫だって!ロイド!私の回復術があるんだし。
それに、いっちゃなんだけど、エミルのほうがよほどロイド達より腕たつよ?」
「うっ!!」
マルタにそこをつかれればロイドとしても何もいえない。
たしかに、いまだにエミルにまったくおいついていないどころか、
その差は歴然としているのはロイドとて自覚している。
そもそも、戦闘にもなりはせずに、手合わせをねがってもあっさりと、
かるく足をひっかけられてはいおしまい。
これでははっきりいってかなしすぎる。
エミル曰く、ロイドの動きはわかりやすすぎる、
そもそも敵に真正面からぶつかっていくヒトがどこにいるのさ。
あ、ここにいたね。そういえば。
とにこやかな笑みであるいみ容赦ない言葉をいわれおちこんだのも一度や二度ではない。
邪気がなくさらり、と素でいっているのだから余計にたちがわるい。
そしてそれを目撃というか見守っていたコレットがいた場合、
さらにとどめ、とばかりに。
大丈夫!ロイドは素直だから動きがまっすぐになるだけなんだよ!
とこれまたトドメのような台詞をいってくれるのだから。
「それに、国の意向で僕らもしいなさんの契約に立ち会うことになったし。
たすかったぁ!あのまま研究所にまた缶詰とおもってたもん」
「…リリーナはとられた、がな」
どうやらリリーナはどうしても、いてくれたほうがいい、という研究所長の懇願で、
結局のところ、一行に同行することになったのは、今後アステルとリヒターのみ、
になってしまったらしい。
…まあ、それでもタバサやらセレスを含めればいまだに十五人、
という大所帯であることには変わりがないのだが。
「――リフィルさん。相手は魔族。油断しないでくださいね?」
「ええ。わかっているわ」
一応、テネブラエに影ながら彼らの護衛を、といってはいるが。
やはり魔物達をも呼んでおくべきだろうか。
そんな彼らの会話をききつつも、エミルはエミルで思案にくれる。
思案するからこそ、リフィルに忠告、とばかりに念を押さずにはいられない。
しかし、逆に魔物達が魔族に操られでもしたらそれこそ意味がない。
場所が場所なので念のためにアクア、そしてルーメンにも声をかけておくべきか。
というかアクアだけにしたら、テネブラエとアクアの二柱で、
何をしでかすかわかったものではない。
下手をしたら命令をすっぽかし、喧嘩勃発、という可能性もなくはない。
ミトスはミトスでエグザイア、そしてアルタミラ。
どちらにいくかしばし迷ったようではあるが、どうやら魔族の動向。
そちらのほうが気になるらしく、ロイド達についていくことを選んでいる。
ロイド達が傍にいるかぎり、ミトスが馬鹿なこと…魂を削って再び封印。
などしでかさない、とはおもうのだが。
一番いい方法はロイド達に封魔の石をもたせ、かの書物を消滅させること。
そのためには本の中に入り込む必要がある。
気になるのはそれぞれがそれぞれに心に闇というか魔族につけいる隙。
それらをもっている、ということ。
瘴気がみちている中、魔族達のささやきがきこえている様子が何よりの証拠。
約一名のみ、母親の懇親的なる努力と守りでその影響から逃れているものはいはするが。
それに、マルタにもあまり悪影響はでていないらしい。
だとすれば、マルタはこれまであまりヒトと接するにあたり、
決定的な何か、を経験したことがあまりない、のであろう。
リフィルやジーニアスの心にはまちがいなくヒトに対する拒絶、というものが存在している。
それは二人で生きていたがゆえに、いろいろとこれまであったのだろう。
ゼロスは母親の一件が、セレスもまた然り。
タバサはいまだに感情が育っていないがゆえにあれの影響はまったくもってうけていない。
気になるのはリヒター、なのだが。
彼はかつて、あっさりと魔族の誘惑にのって、魔族と契約をほどこした。
自身の…ラタトスクの死、を願い、一時弱まった扉の間からでてきた魔族の意志と契約をかわし。
彼らが死者を生き返らせる、というのは、文字通り彼らの手先、としてのもの。
そして、自分を…精霊ラタトスクのコアを壊す、ということは。
文字通り、この世界を構成しているマナを破壊する、という意味すらもっていた。
あのとき、アクアがそれをいわなかったのは…
まあ、今さらおもってもそれはそれでどうにもならないが。
アステルが魔族に万が一でも殺されれば、リヒターがまた同じような過ちをしでかさない。
とも限らない。
そのときにその怒りを自分にむけてこない、ともいいきれない。
ゆえにできれば、特にアステルには安全な場所にいてほしい、という思いがあるのだが。
おそらくいってもきかない、のだろう。
あのときですら、独自で自分のもとに
アクアに案内されて、ではあったがやってきたくらいなのだから。
「行きましょう」
夜の闇に、レアバードがふわり、と上昇してゆく。
彼らが目指すは、海の楽園、アルタミラ――
そんな彼らを見送るは、その場にのこりしエミル、マルタ、そしてしいなの三人。
リヒターとアステルは少し離れた場所から。
背後にはイガグリの姿が。
タイガはロイド達とともにアルタミラへとむかっていった。
「じゃあ、僕らも用意がすんだら、いきましょうか」
「そういえば。レアバードは全てあいつらにわたしちまったけど。
どうやって、飛行都市エグザイアにいくんだい?」
レアバードの数にも限りがある。
ゆえにアルタミラのほうが最優先であろうから、全ての機体、
八機とも彼らに手渡した。
それ以外はイガグリ達が使役している飛竜達。
みずほの里で育てているかれらを利用してとびたっていった。
「当然、空から、ですよ?空を飛べる子よべば簡単ですし、ね」
そんなしいなの素朴なる疑問にさらり、と答えるエミル。
『?』
その言葉がわかるものはわかるが、わからないものは意味がわからず首をかしげてしまう。
「…さて、どちらにしろ、どう、何を選ぶのか、な?あのものたちは」
それは小さくつむがれた独り言。
禁書の中にはいりこみ、原因を打破したとしても。
彼らはそこで真実をしるであろう。
ユアンとクラトス、そしてミトスの真実を。
ユアンとクラトスがいるのならば、ミトスをあれに近づけるようなことはしない。
とはおもう。
彼らとて危惧はしているはず。
ミトスがこれ以上、魂をけずってしまえば取り返しがつかなくなる、ということは。
そんなエミルの独り言のような呟きは、ただただ闇の中にととけきえてゆく――
海の楽園、アルタミラ。
つい先日までいたはずのその場所は、今では何だかものものしい。
「…なんか、マナが…重い?」
何というか、こう、マナがむりやりに抑えつけられているような。
何というか汚されているような、そんな感覚。
それらにあらがうようにして水のマナが拮抗している。
そんな感じ。
夜の闇だというのに、いつもはあったはずのアルタミラの街灯。
そういったものはまったくみえず、
ゆら~り、ゆら~りと、感情がないのかどうかわからない、
とにかくゆらゆらと揺れながら、黒き霧のような何かを吹きだしている人々。
そんな人々がいくつか道をあるいていのがみてとれる。
「あの人達・・・首やら頭に何かつけられてる…よ」
コレットがじっとそんな彼らをみてぽつり、とつぶやく。
今現在、彼らは門の横に隠れるようにしており、
周囲に人がいなくなったのを見計らい、近くの茂みの中にとある小さな石?のようなもの。
それをゆっくりとずらすリーガル。
がこん、と石をずらすと、そこには突如として階段があらわれ、それが地下につづいている。
というのがうかがえる。
「ここは、臨時用の脱出口だ。この通路はアルタミラの主要個所に全てつづいている」
「――副頭領」
そんな会話をしている中、ふと闇の中から声がする。
「カヨ、か」
「はっ」
闇とともにあらわれしは、しいなとにくにた服装の女性。
「奴らはこの街のいたるところに爆弾を仕掛けている模様です。
あと、拠点はカジノのようなのですが、いまだ首謀者は…」
「わかった。これからも探索をつづけてくれ。くれぐれも気をつけてな」
「はっ」
タイガの言葉をうけ、闇にときえるようにその場からかききえる、忍の女性。
「爆弾…いったい何を考えてるんだ?」
ロイドの呟きに。
「わからないわ。でも、リーガル?ここからどこに向かう気、なのかしら?
直接カジノに乗り込むつもり?」
リフィルの問いはあるいみ正論。
「いや。ここから…我が社。レザレノ・カンパニー本社に移動する。
本社にいるものならば、何かしらこの状況を詳しく説明できるであろうしな」
町の入口のいたるところに見張り、なのであろう。
あからさまに様子のおかしいものたちがたむろしており、そう簡単には町の中にははいれない。
しかし、地下から、ならば。
この地下の道は一部のものにしかしられていない。
それこそレザレノのごくごく一部の上層部、にしか。
そして、この通路は社員用の通路にも通じている。
ゆえに、一般的に知られている避難通路にも移動することが可能。
「地下に敵は?」
「やつらも忍。きづいているやもしれぬが。
いくら何でも地下に一般人は配置してはいないでしょう」
関係ないものをまきこむなかれ。
これは里の掟の一つ。
しかしその掟を完全に今、くちなわ、そしてくちなわについていった若いものたちは破っている。
「従業員専用の道はたしかにカードキーとコードナンバーさえあれば入ることが可能だが。
今から使用するこの道はよりセキュリティが高いゆえに、奴らも入り込んではいない、とはおもう」
いいつつも、リーガルに従いてそのまま階段を下りてゆく。
一人ほどその場にのこり、全員が入ったのを確認し、再び入り口を閉じるように、
とタイガが命令をしているがゆえ、入口が第三者に見つかることはまずないであろう。
階段を下りてゆくと、やがて頑丈な扉に行き当たる。
「まっていろ」
いいつつも、扉の横にある箱のような何か、
それをリーガルが操作すると、シュン、という音とともに、
その箱の内部にいくつかのボタンらしきものがみてとれる。
それらのボタンの数値をいくつかピピピ、とリーガルが操作するとともに、
『――コードを確認いたしました。本人確認のために、認証をお願いします』
機械音声のような無機質なる声が辺りにと響く。
しん、としている階段しかない空間。
ゆえにその声はしずまりかえっている空間にと異様に響く。
「うわ!?この声、なんだ!?」
ロイドがあわてて周囲をみているが。
「おちつきなさい。ロイド。おそらくは機械の音声よ」
それとともに、リーガルがその箱の上にあるガラスのような何か。
に左手の指を押し付ける。
それとともに、赤い光が一瞬、そのガラスに横切ったかとおもうと、
『――登録指紋と一致。コード、指紋とも一致しましたので扉を解放します』
ガコッン。
音声とともに、
目の前の重苦しい扉がゆっくりとごごご、とスライドするかのようにと開いてゆく。
「我が社の開発した、指紋認証により当人確認をするためのセキュリティ装置だ。
いまだ実験段階なので一般には普及していないがな。
かなりの電力をつかうがゆえに、普及対象になるまでは程遠い、がな」
リーガルがいいつつも、扉の奥に全員をいざなってくる。
「リーガル。ここの電力は何でまかなわれているの?」
きになるのかそんなリーガルにリフィルが問いかけているが。
「それはリフィルさん。私が説明いたしますね。
この奥に遊園地があるのはご存じですよね?
そこにアトラクション施設があるのですけど。
そこに巨大水車などが設置されています。
アルタミラというか本社の電力は、本社の横に備え付けられている水車と、
そして遊園地の水車。それらの水車より発生する水力発電。
それによって生じた雷のマナによって賄われています」
リーガルにかわり、いまだにプレセアの意識の表にでているアリシアが説明してくる。
ここにくる直前、アリシアの姿はいつものプレセアの姿。
すなわち十二歳の子供の姿にもどっており、
あのまま晩餐会が続いていれば、
うたげも盛り上がりかけていたころに姿が戻ってしまっていたであろう。
最も、いまだにプレセアの意識が戻らないらしく、こうしてアリシアが表にでて、
プレセアの体を動かしている、のではあるが。
壁には電力を通すため、なのであろう。
筒、のようなものがはりめぐらされており、
そこから淡い光が常に発光し、薄暗い通路をほのかに青白く照らし出している。
カツカツとした足音のみが、辺りにとひびく。
「ここは、町の地下を利用してつくられている通路だ。
このような通路がアルタミラの地下にははりめぐらされている。
緊急用の退避場所にもなるように耐震性にも一応すぐれてつくっている」
町の中で騒ぎがおこったとしても。
地下に逃げ込み、そこで扉さえとざせばどうにかなる。
ちなみに水圧に耐えられる扉も設置されており、
水から逃れるための避難通路、としても期待されているが、
しかし、水が押し寄せているのに地下に避難、というのは違うのではないか?
という意見もいまだにあるのもまた事実。
ともあれ、そんな会話をしつつ、一行は、
この通路の先にある、というレザレノの本社にむけて足をすすめてゆく――
~スキット・アルタミラ地下、本社にむけての途中の専用通路にて~
ロイド「暗闇ビーム!」
ジーニアス「うわ!?何だよ、ロイド、いきなり!」
ロイド「いや、あの灯りって、これできえるかなっておもってさ。きえないんだな」
ジーニアス「それできえてたらどうするのさ!少しは考えて行動してよね!」
闇の神殿で属性を変化させているまま、今にいたっているがゆえ、
ロイドのソーサラーリングの属性はいまだに闇の光を発射するものとなっている。
セレス「というか。緊張感がなさすぎではないのでして?」
ゼロス「セレス。これはな。何もかんがえていないっていう典型的な例なんだ。
お前はロイド君みたいになるんじゃねえぞ?」
セレス「わかりましたわ。お兄様。反面教師ということですわね!」
リフィル「…ロイド、…情けないわ……」
リーガル「ちなみに、一時はこの壁につかわれている材質が、
在る程度は光をたもちはするが、その一定期間をすぎれば、
灯りがなくなったこの通路は漆黒の闇につつまれる。
光源となりしものは今はもっていない、のだが」
リフィル「闇の神殿でつかったブルーキャンドルは残りすくなかったけども。
ほぼぎりぎり、だったものね」
実際、ブルーキャンドルの蝋ははかったかのように、洞窟からでるとなくなった。
ゆえに、今、キャンドルの台座はもってはいるが、
だからといってこんな狭い場所で炎をともせば下手をすれば息がつまる。
狭い場所で炎を閉ざすと息苦しくなる、というのは冒険をする上での常識、
として語り継がれている。
風のマナが涸渇してしまうがゆえ、というのがもっぱらの意見であるらしいが。
もっとも、風というよりは酸素、というべきものが涸渇してしまうゆえに、
酸素不足、というものが発生するにすぎない現象。
ゼロス「しかし。さすがのこの通路には忍ははいりこんでないってか?」
タイガ「おそらく。ここにはいる条件が条件だからでしょう。
ブライアン公爵殿。あのような指紋認証は登録しているもののみ、ですかな?」
リーガル「うむ」
アリシア「え?そうなんですか?リーガル様。
だって、昔、私にここを案内してくれたとき、従業員は登録するんだ。
って、私の指紋認証登録とコードをつくってくださいましたよね?」
リーガル「い、いや。それは…その……」
リフィル「…つまり、アリシアだけ、にそれをしたのね。あなたは」
リーガル「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うっ」
アリシア「ええ!?そうなの!?リーガル様!?
私てっきりみんなここのことしってるとばかりおもってたのに!
従業員専用通路に特殊通路のことも!お屋敷のひとはみな!」
リーガル「い、いや。屋敷でもしっていたのは、ジョルジュくらいで……」
リフィル「…あきれた、わね」
リーガル「いやしかし!リフィル殿。アリシアは我が伴侶候補として、だな!」
アリシア「でも、今のこの体、お姉ちゃんのものだから、登録はもう関係ないんですよね」
リーガル「何なら、アリシアのコード変更をしても……」
リフィル「はいはい。職権乱用はこの騒動が落ちついてからにしなさい。まったく」
ジーニアス「でも、アリシアって…プレセアが表に出てきている時より、饒舌、だよね?」
おなじ姿、なのに。
姿はまったくプレセア、なのに。
今は大人の姿ではないから余計に違和感がある。
プレセアはいつもどちらかといえば無表情に近い、のに。
今のアリシアは表情をころころとかえている。
アリシア「お姉ちゃんは…ずっと微精霊達の狂気に侵されていたようなものだから。
たぶん、感情をきちんと表現するようになるまで時間かかる、とおもう」
リフィル「それで、プレセアの様子は?」
アリシア「まだ目覚めません。かなり魔族に体を乗っ取られかけたのが負担になってるのかと」
リフィル「…そう」
ロイド「よくわかんないんだけどさ。魔族って、いったい何なんだ?
体をのっとったりとかなんかものすっごくやばいやつってのはわかったけど」
リフィル「ちょうどいいわ。魔界ニブルヘイムのお勉強をしましょうか。
いいこと?ロイド、魔族とは、魔界ニブルヘイムにすむ、という…」
ロイド「うわ!?やぶさめだった!?」
ジーニアス「…だから、ロイド、それをいうなら藪蛇だってば」
リフィル「ああ!こら!まだ授業ははじまったばかりだぞ!どこにいく!ロイド!」
ロイド「にげろ~!!」
リーガル「…道は入り組んでいるので迷わなければいいのだが。
まあ、要所要所には扉があるから大丈夫だとはおもうがな」
ゼロス「…リーガルさんよ。突っ込みするところが違うとおもうぜ?俺様は……」
アリシア「きっと、お姉ちゃんがおきてたらこういいますね。
【ロイドさんのこういうときの逃走確率はほぼ百%セントだって】」
ジーニアス「あ、いうね」
リフィル「いうでしょうね」
コレット「ロイド、鬼ごっこがしたいのかなぁ?」
一同『いや、違うから!!』
※ ※ ※ ※
「あいつら、大丈夫かねぇ」
「しかし、長生きはするもんじゃのぉ。まさか伝説の神鳥にのれるとは、ほっほっほっ」
「…だから。何だってヒトはこの子達をそんな呼び方にしてるんですか……」
いくら違う、といっても聞き入れてもらえない。
ゆえに、エミルとしては何だかつかれたような気がひしひしとしてしまう。
もう、それでいいんじゃないのか、というような気すら。
レティスなどももはや苦笑ぎみ。
ロイド達とわかれ、シムルグのレティスを呼び出し、空中にただよいし、
飛行都市エグザイアに向かっている今現在。
なぜか背後にいる他の忍の里のもたちも驚きを隠し切れていないようだが。
たしか、忍、とは感情を殺してこそ一人前とか何とかきいたような気がするのだが。
しいなにマルタ、そしてみずほの里のもの数名とアステルとリヒター。
そんな彼らをレティスの背にのせての空中飛行。
そんなことをエミルはおもいつつも、
「みえてきましたよ。エグザイア」
すっと指さすその先に、巨大なる雲の塊。
かつての人々は”積乱雲”とよんでいたが。
それらが目前にとみえてくる。
周囲には風がうずまき、雲の向こう側は逆に風がふいている。
この中に空中都市エグザイアが存在している。
この雲は地上の人々、またはクルシスとよばれしものたちから隠すための擬態のようなものだ。
とマクスウェルは以前、話したときにいっていた。
「このまま、いけば、前みたいにまた雷の中につっこむんじゃぁ……」
そういえば、以前この地から地上におりるとき、
あれらの雷にしいなたちは翻弄されていたような。
「問題ないですよ。レティスは伊達に風属性じゃないですよ?」
それに、気づいていないのだろうか。
レティスによる風の結界でこうして空中飛行をしていても、
彼らにほとんど風による衝撃という衝撃。
それがおそいかかっていない、ということに。
「――このまま、いきますよ。レティス。場所はわかるな?」
「――お任せを」
エミルの言葉に従い、その優美なる羽をヒト仰ぎし、
そのままレティス…ヒトの世界では女神マーテルの使い、といわれし神鳥シムルグ。
その巨体の雄々しき翼が上下にはばたくとともに、
その巨体はゆっくりと、積乱雲の中に吸い込まれるかのように、
すっぽりと雲の中へと突入する。
それは、ちょうど、別行動をしている一行が、地下につづく通路にて、
何やら会話をしているのとほぼ同時。
というか、ロイド達、何をやってるんだ?
そちらに意識をむけてあちらのほうも確認しているがゆえに、エミルとしては、
思わずそういわずにはいられない。
まあ、どうやら無事に彼らも町の中に潜入がはたせる模様。
ならば、あとはあちらにまかせておいても問題はない、であろう。
「…しかし、爆弾…ねぇ」
本当に、ヒトとはどこまでも愚かな。
「エミル?」
「ううん。何でもない。さ、いきましょうか。マクスウェル達もまってるでしょうしね」
まあ、あの子のことだから。
正体をおしえるときの驚愕を楽しみにしてるんだろうなぁ。
ともおもうが、いちいち今ここでしいなに説明することもないであろう。
ゆえにそのまま、エミルはレティスに指示をだし、
共につれてきているしいな、イガグリ、マルタ、そして数名のみずほの里の忍達。
そして精霊契約の同行を、といって国から指示をうけたらしきアステルとリヒター。
彼らをひきつれ、エグザイアにむけてシムルグの背にのったまま移動してゆく。
雲の内部にはいれば、周囲にはいたるところに雷というか稲妻が走っているのがみてとれるが、
こちらにはまったくその衝撃という衝撃はおそってこない。
むしろ、稲妻が幾重にもならび、ちょっとした一本の道をつくりだす。
そのまま、稲妻がつくりだせし道をそのまま統べるように飛んでいったさきにあるもの。
それこそが、【空中都市エグザイア】――
「私は営業部員なんだが、通販部の売上がのびてきていてホクホクだよ」
「通販開発部署は企業秘密がおおい部署だしな」
チッン。
通路をぬけ、その先にとある専用エレベーター。
それをのぼりきると、そこがレザレノの本社だという、レザレノ・カンパニー。
エレベーターからでるとそんな声がふときこえてくる。
「リーガル様!?」
ふと、こちらに気付いたのか、第三者の声が投げかけられてくるが。
アルタミラの地下にあった隠し通路。
そこをぬけ、無事にレザレノの本社らしき建物にたどり着いているロイド達一行。
「ジョルジュ。心配をかけたな」
目の前にかけてくる男性にたいし、リーガルが何やら話しかける。
「紹介しておこう。ジョルジュ、だ。私の右腕、でもある」
「もったいない。しかし、リーガル様。
このようなときにもどってこられるとは。やはり…」
ちらり、とそういいつつ、背後にいるタイガにきづいた、のであろう。
顔をしかめ、
「いったい、みずほで何がおこったというのですか?
奴らは我が社を自分達の支配下にしろ、といってきているのですが?
当然、つっぱねていますが。しかし、町のいたるところに爆弾がしかけられたらしく」
いいつつ、さらに顔をしかめ。
「奴らは、人質をも要求しています。
今晩零時までに誰か…特に地位があるものをよこさねば。
みせしめ、として居住区画を爆破する、と」
今、この建物は完全に包囲されている。
中でどうにか自給自足、つまりは籠城するのにこまらないほどの物資はそろっているが。
社員にも戸惑いが広がっている。
そして、おそらくは町のほうにも。
「くちなわ…どこまで里の信頼をおとしめればっ!」
その台詞をきき、背後でぎゅっとタイガが強く手をにぎりしめる。
気のせいでもなく、その手からぽたぽたと血がながれおちる。
「里のものが迷惑をかけてすまぬ」
「本当ですね」
「・・・・・・・・・・」
あやまるタイガにたいし、さらり、と肯定する、ジョルジュ、とよばれた人物。
いろいろな意味で言い返せないのは事実なので、
タイガとしても黙りこむしかない。
「?」
ふとみれば、プレセア…今はアリシア、か。
リフィルの背後に隠れるようにして、前にはでていない。
その姿にたいし、ロイドは少しばかり首をかしげざるをえないが。
「ジョルジュ。アルタミラ全体に非常事態宣言の発布は?」
「すでに発布しおえています。外出禁止は徹底させております。
観光客は全てホテルに避難させるように、指導はした、のですが…」
そこまでいって言葉を区切る。
「謎の霧。白き霧と黒き霧。二つがアルタミラ全体で発生していまして。
白き霧のほうはまあ視界を遮られ、きづけばホテルの前に移動している。
というくらいなので問題はない、のですが。
黒き霧のほうにおおわれたものは、
まるで人がかわったかのように暴れ始めておりまして……」
それも一人や二人、ではない。
まるで何かにとり憑かれてでもしたかのように騒ぎ始め、
手当たりしだいに何かを壊したり、もしくは傷つけようとしていたりする。
「なぜか奴らは白き霧に入ることをとまどうようでしてな。
その白き霧が居住区画と、ホテルの辺りにただよっていることから、
今のところ居住区やホテルのほうからそのような被害がでた。
という連絡はない、のですが……」
ここ、アルタミラは無線形式での連絡が行き届いている。
無線、といっても、モールス信号、とよばれしそれによるもの、ではあるが。
管制室の一角において、係りのものは、今は情報収集に追われているまっただ中。
「カジノのほうと連絡がとれなくなっているので。
カジノに何かがある、とはおもうのですが……」
しかし、情報が足りない。
いつもならば、みずほの里のものがいれば、依頼として頼むことができるが。
このたび、この事態をひきおこしているものが、どこからどうみてもみずほのもの。
恰好をまねて、彼らに罪をなすりつけるような輩、かともおもったが。
彼らが使用する独特の技術を簡単にそう真似できるはずもない。
誰が味方で、誰が敵なのか。
どうやら、みずほの里の内部で何かがおこっているらしい。
タイガとはジョルジュもその立場上面識がある。
あるがゆえ、副頭領たる彼がこうしてでてきている、ということは。
かなりの大事になっているのであろう。
まあ、実際、公爵領でもあるアルタミラをみずほの里のものが襲撃した。
それだけでもはや謀反を疑われてもおかしくない位置にきているのは事実なれど。
「ブライアン公爵殿。私はこの地にまぎれこませた部下達と連絡をとりあい。
情報をより詳しくさぐりだす。つなぎのものは一般人にまぎれこませ、
ホテルで連絡をとりあう、というのはどうだろうか?」
「…うむ。無難、ではあろうな」
「奴らは、一日猶予をあたえる、といっています。その間に首謀者をどうにかできれば」
しかし、一人の人間の指導でこんな真似ができるものなのだろうか。
まるで、人を人形のようにいきなり操りだす。
そのようなまねが。
たしかに、完全に操られているような輩は、何かの機械らしきものを強制的に身につけられている。
実際、社員にもそれをつけられたものもいる。
自爆する、という話しを聞き及んでいなければ、まちがいなく周囲のものたちすら、
まきこみかねなかった。
ゆえに厳重に眠りの薬をかがせ、とある一室にそういったものたちは隔離しているのだが。
「何とかならないのか?何とか町の人達や他の皆をたすける方法が。
絶対に何かあるはず、だろ?」
そんな彼らの会話をききつつ、ロイドが口をはさんでくる。
「そうだな。私は何とか町の人間を逃がす方法がないか、
社の者とタイガ殿達と最善策と善後策を練る。
お前達は人々の様子を確認してほしい。そうだな。連絡をいれておく。
ホテルの最上階のロイヤルスイートをとりあえずつかってくれ。
ホテルまでの連絡通路は…」
「はい。リーガル様。私がご案内しますわ」
「…たのめるか?」
「はい。じゃあ、いきましょう」
「あ、おい!?」
ジョルジュにいろいろと思うところがある、のであろう。
ちらり、と顔をみて一瞬顔をしかめるが、しかしそのまま首を横にふり、
そしてそのまますたすたと従業員、関係者以外立ち入り禁止。
とかかれている区画にとあるきだす。
そんなアリシアにロイドが思わず声をかけるが。
「?リーガル様?あのものは?」
たしか、アリシアの……
しかし、なぜ勝手しったる、とばかりに迷うことなく従業員専用区画にいっているのか。
彼女はアリシアが死んだことすらあのときまで知らなかったはず、なのに。
「ここにもみずほの民ははいりこんでいる。
私も彼らと繋ぎをとるために、一時はなれるが。くれぐれも無理はきんもつだ。
…しいながもどるまでは、な。しいなが契約をしてくれさえすれば。
自爆、という事態もさけられる」
いいつつも、天井付近をみあげるタイガ。
そう、下手に行動して、周囲をまきこむような自爆装置が起動したのでは意味がない。
「…あ」
ふと、ホテルに続く、というエレベーターの中でアリシアがふと声をあげる。
「?アリシア?」
「…お姉ちゃんが目覚める、みたいです。あとの説明はまかせました。
今のお姉ちゃんの体に二つの精神が目覚めているのはあまりよくないので」
いきなりくるり、と向き直り、そうつげたアリシアの体が、一瞬崩れ落ちそうになる。
「おっと」
そんなプレセアの体をすばやく支えているゼロス。
ふらり、と一瞬体をよろけさすが、しばらくするとすっとその瞳をひらき、
「?…私?ここは…??」
ゼロスに支えられているのにきづいたのか、きょろきょろと周囲をみはじめる。
「たしか、私は闇の神殿で……」
声がきこえた。
そして、そして。
ずきり、と頭がいたくなる。
「プレセア?体に何かおかしなところは?」
そんなプレセアの変化をすばやく察知し、リフィルが声をかける。
「何だか頭がいたい、です…あの、ここは?闇の神殿、ではないですが?いったい?」
その台詞に思わず顔をみあわせるロイドとジーニアス。
この様子からして、本当に覚えていない、らしい。
いや、覚えていない、といういいかたは正しくはない。
アリシアはこうもいっていた。
プレセアは眠っている、と。
つまり、眠っていて事情がわかっていない、のであろう。
「…まずは、部屋にいきましょう。そこで事情を説明するわ」
「…は、はい?それにしても、ここは、いったい?」
プレセアが戸惑いの声をあげるそんな中。
チッン。
やがて、エレベーターが
地下より建物の一階にたどり着いたことを示すかのごとくかるい音が響き渡る。
ホテル・レザレノ
アルタミラでホテル、といえばここ、というほどに有名なホテルであり。
海の水をうまく利用した、水のホテル、ともいわれているこの場所。
ちなみに普通に宿泊する場合も千ガルド、と比較的高め。
二階はラウンジになっており、七階がスイートルームというつくり。
七階に位置しているその部屋は、窓が広いつくりとなっており、
部屋の隅々から外の様子が高い位置から望める形となっている。
「…そう、ですか。そんなことが…たしかに、それはほうってはおけません」
プレセアにこれまでのことを簡単にリフィルが経緯を説明する。
あのときからプレセアの意識がなかった、ということ。
体に負担がかかる、という理由でその間はアリシアが表にでていた、ということ。
そして、魔族に体をのっとられていた影響もあり、
しばらくはプレセアの意識も眠りについてしまうこともあるだろうが、
そのときは代わりに自分が目覚め、姉の体をサポートする、と。
「…アリシア。死んでまでも、私のことを…」
あのときのアリシアの声と姿は幻覚などではなかった。
ということは、魔族にのっとられ、
姿がかわっていたらしい自分もおそらくきのせい、ではなかったのだろう。
母によくにた大人の女性。
「そう。ね。でも、プレセア。あなたはどうする?
あなたはあの魔将ネビリムの影響がのこっているかもしれない。
相手はそのネビリムすらを利用しようとしていた魔界の王達のはず」
リフィルの問いかけには意味がある。
再び、プレセアが魔に魅入られてしまいかねないか、という危惧。
だからこそ。
「プレセア。私としてはあなたに、ここで、町の人々を助けていてあげてほしいのよ。
いつ、彼らが町の人々に、ここにいる人々に危害を加えるかもわからないのだから」
「まずは、町のあちこちに仕掛けられている。という爆弾の位置、か?
まあ、それはみずほの奴らがどうにかするだろうけどさ」
そんなリフィルとプレセアの会話をききつつも、ゼロスが椅子にこしかけ、
足をぶらぶらさせながらいってくる。
「ただいま~」
「あら、おかえりなさい。どうだった?」
ふと、そんな中。
扉からはいってくる、コレット、セレス、そしてロイドとジーニアスとミトスの五人。
念のため、彼らには…余計なことをプレセアに説明しないため。
という理由もあるが、ものすごく正論ともいえる、
【今、ここにいる人達の様子を調べてきてほしい】
そんなリフィルの言葉をうけ、情報収集にホテルの中に繰り出していたロイド達。
「あのね。先生。なんか町の人って、これ、町全体でくりひろげられてるアトラクション。
レザレノがあらたにやってるイベントだって思ってる人が大半みたい」
実際、ほとんどのものが危機感がなかった。
イベントなのでしょう?
ときおり面白いイベントをここってよくするのよね。
というのが大半の意見。
さらに、外をうろうろとしているゾンビの格好をしている彼ら、演技がうまいわね。
などという声すらも。
それをきき、ジーニアスなどは顔をひきつらせることしかできなかったが。
ロイドが、あれ本物だぞ?といいかけたその口を何とかふさげたのが、
ジーニアスにとってはよほど疲れたといってよい。
夜になり、霧も深くなってきて、外にでるような輩はほとんどおらず、
また、ホテル側からも外にでないでください。
という要望があったがゆえに、わざわざ外にでるものは滅多といないらしい。
…まあ、でてしまったものたちは、ことごとく、霧に迷わされるかのように、
きづけばホテルの入口にもどってしまい、そのまますごすごともどってきている。
というのが実情、らしいのだが。
方向感覚を狂わす薬剤の実験も同時にしているのかしら?
とはとある観光客としてきていたであろうどこぞの貴族令嬢らしき人物の台詞。
町の外も完全に包囲されており、屋上からコレットが確認しただけで、
どうやら海、そして陸側。
すべてにおいて、入口という入口がすべて何者かの手により封鎖されているとのことらしい。
そんな説明が、状況を調べにいっていた彼らの口から発せられる。
「…そう」
それらの報告をうけ、リフィルがしばし考え込んでいるその最中。
「こっちにも進展があった」
いいつつも、どこかできいたような声がする。
ふとみれば、ぼふん、という煙とともに、あらわれる人影ひとつ。
「あなたは、たしか…」
「おろちだ。弟のしでかした不始末。兄である俺が決着をつけねばならんからな。
奴らはどうやらカジノを拠点としている。操られたふりをしている同胞がつかんだ。
カジノにあるとおもわれし起爆装置を破壊すれば、一時的にも奴らは無力になる」
あらわれたのは、みずほの里で幾度かあった、くちなわの兄だという、
みずほの里の【おろち】と名乗りし男性。
「そう。その隙に町の人達を助けだす、というのね?」
「いや。逆に外のほうが危険だ。外にもあの不思議な黒き霧が充満している。
それよりは、まずはその禁書?とかいうのを見つけ出したほうがいい。
タイガ様もおっしゃっていたが、おそらく全ての鍵はそこにあるはずだ」
「…魔王の禁書……」
その言葉をきき、ミトスがぎゅっと手をにぎりしめる。
「ミトス。あなたはプレセアとともに、ここで町の人達をまもってあげていてちょうだい」
「ぼ、僕もいきます!」
「プレセア一人は危険よ。あと、セレス、あなたもここにいなさい」
「でも!」
「町の人々は我らも守ろう」
『!!』
「ユアン!?あんた!!?」
ふとみれば、いつのまにあらわれたのか、扉の先にユアンとクラトスの姿が。
「やつらにレザレノの力がわたるほうが脅威だ。
お前達とはクラトスが同行する。ここの人々は我らにまかせよ。
わるいが、これは異論はみとめられないぞ?
いくら私とて、一人では手がたりぬ。あれの脅威はわかっているはずだ。ちがうか?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
ユアンの台詞はミトスにむけて。
それだけにミトスはぎゅっと手をにぎりしめるしかできない。
そう。
あれが力をつけてしまえばこんな町など、あっというまに瘴気にのまれる。
それだけは、何としても。
絶対にさけなければ。
「じゃあ、ここは、ミトス、プレセア、セレス、そしてユアンにお願いするわ。
私たちはまず、そのカジノに侵入しましょう」
「んじゃ、ここは俺様の出番ってな」
いって、ひょいっとゼロスが椅子から飛び上がるようにして立ち上がる。
「出番って…?」
その意味がわからずにロイドはひたすらに首をかしげるが。
「そうね。・・・ゼロス。お願いしてもいいかしら?」
「うひゃひゃ。まあ、まかせなって」
いいつつ、じゃらり、となぜかゼロスが取りだしたは
『…手錠?』
「リーガルさんならわかるけど、どうしてゼロスが?」
あるいみ、さらりと素できついことをいっているコレット。
「たしかに。リーガルに手枷ならわかるけどさ」
ロイドもロイドで何やらそれで納得していたりする。
「たしかに。リーガルさんならわかりますが」
そしてそんな二人につづき、プレセアまでが同意の言葉を示しているが。
「あいつらは人質を要求してるっていってたからな」
「ええ。そしてここで人質に値するのは」
「俺様、もしくはブライアン公爵ってな」
そんなリフィルとゼロスの言葉にようやく理解したのか、はっとなり。
「まさか、ゼロス、お前が人質としてでむくっていうのかよ!どうして!」
おもわずそんなゼロスにロイドが叫ぶ。
「あのな。ロイド君。これは俺様の役目なのよ。ここはテセアラ。
この意味、コレットちゃんならわかるだろ?」
「……うん。そうだね」
ゼロスのいいたいことが理解できてしまい、コレットもうつむくしかできない。
神子、とは人々をまもるもの。
命をかけてでも他者を守れ、その命は世界のために。
そのようにいわれ、ずっと育てられてきた。
――お前の命は、世界を守るために、マナとなってささげるために。
死ぬために産まれてきたのだ。
コレットはずっとそういわれ育ってきた。
この言い回しではおそらくゼロスもそう、なのだろう。
命をささげる云々、の差は衰退世界と繁栄世界。
その差はありはすれど。
その命は世界のために。
根本的な神子、としての本質は同じのはず。
だからこそコレットはうつむかずにはいられない。
「ゼロスがそんなことをするなら、俺が!」
「ロイドくんがいってどうなるのよ?
たしかに、ロイド君はクルシスやディザイアンといった輩から狙われてるかもしんねえけど。
あいつらに価値があるのは、神子、という地位にいる俺様か。
もしくは公爵の地位にあり、レザレノを自在に操ることができるリーガルしかいないわけよ?
つまり、ロイドくんが人質といったとしても、あっさりと門前払いってわけ」
「…けどっ!」
「聞き分けがないわよ。ロイド。
そうこうしているうちにも、町の人達に被害がひろがるのよ?」
なおもいいつのろうとするロイドの声をぴしゃり、とリフィルがたしなめる。
「・・・・・・・・・・・でも、ゼロス……」
「ロイドく~ん。俺様を何だとおもってるわけ?
いざとなれば天使術でも何でもござれってな」
「…お兄様……」
そんなゼロスを心配そうにみあげるセレス。
そんなセレスの頭にぽん、と手をのせ、
「心配すんな。セレス。
ちゃちゃっと奴らを混乱させて、禁書とかいうやつのありかをききだす。
これで解決ってな。お前は万が一、人々が気付いたときパニックにならないように。
ここはまかせたぞ?」
「はい!がんばりますわ!」
兄に頼られている。
まかせた、といわれ、セレスの顔がぱっと明るくなる。
今は、まだいい。
どうやら人々はこの一連の出来事は、レザレノが突発的におこなっているちょっとしたイベント。
そう思いこんでいるもよう。
しかし、これが現実だ、としったならば。
まちがいなくパニックにおちいってしまう。
一番怖いのは、人々が混乱し、パニックになり統率がとれなくなってしまうこと。
「それより。ゼロス。その手枷、ただの手枷、ではないのでしょう?」
「さっすがリフィル様。おうよ。
さっき、リーガルと別れたときに念のためにもらっておいたんだ。
手錠型の遠隔制御装置らしいぜ?…なんで手錠型にしたのかは。
まあ、そのあたりはリーガルにきいてくれや」
おそらくは、手枷を外すきがないがゆえ、そのようなものを開発させた、のだろうが。
おもいっきり職権乱用のような気もしなくもない。
ないが、ゼロスは使えるものは何でもつかえ、が心情ゆえに、
これが別に間違っている、とはおもっていない。
「……くそ。…俺って、無力、だな」
ゼロスを人質に、なんて。
あのときもそうだった。
ヒルダ姫とのときも。
ゼロスは自分が人質と交換、といわれてもそれをあっさりと受け入れていた。
コレットもそう。
世界のために命を捨てろ。そういわれ、それを納得していた。
神子、という立場の重み。
これまであまり考えたことがなかったが、二人はそれが当たり前のようにふるまっている。
間違ってる。
こんなの。
だからといって、リフィルのいうように、他にいい方法がおもいつかない。
「…くそっ」
だっん。
そのまま、近くにある椅子にと八つ当たり。
そのまま、ロイドのこぶしをうけ、椅子がみしっという音とともに、
もののみごとにハゼ割れる。
「おいおい。ロイド君。ここの備品は一つかるく百万ガルドはくだらないんだぜ?
あ~あ、こわしちゃった」
「…げ!?う、嘘だろぉぉ!?」
ゼロスの言葉に思わず目をまるくするロイド。
というか、こういう場所の備品を壊せば弁償。
それは当たり前。
その当たり前すらロイドの中にはどうやら完全に失念、というか、
おもってすらもいなかったらしい。
「こりゃ、弁償だなぁ。なぁ、リフィル様?」
弁償、という言葉をきき、さらにうろたえているロイド。
というか、宿屋の備品は壊さないように。
と常々旅にでてからも、リフィルは口をすっぱくしていっていたはずなのに。
だからこそ、リフィルはぎろり、とロイドを睨まずにはいられない。
「…ロイド?あなたは何をしたのかしら?今?」
「うっ」
八つ当たり、とはわかっていた。
しかも、エクスフィアを装備しているのである。
そんな自分が全力で何かをたたけばどうなるか。
少し考えればわかったはず。
否、考えなかった。
その結果、これを壊す可能性なんて。
「たしか、ここのスイートルームの家具類は特注品で。一つ、数百万する品も多いとか……」
「うわ。ロイド、犯罪者になるんだ」
さらり、とジーニアスがいつかやるとおもってた、とばかりにそんなことをいっているが。
「お、俺はそんなつもりじゃあっ!」
「じゃあ、どんなつもりだったのかしら?ロイド?
私は、あなたが旅についてきたとき。
宿とかの備品、そういったものの重要性はといたわよね?
わすれた、とはいわさないわよ?」
冷めたようなリフィルの視線がロイドをぬらぬく。
それが守れないのであればつれていかれない。
ロイド達が合流したあのときに、リフィルは口をすっぱくして説明した。
そんなことをすれば、路銀的にも、またはどこにもとめてもらえなくなる、と。
それをしっかりと言い聞かせたはず、なのに。
鋭い視線がリフィルからむけられ、ロイドとしては小さくなるしかできない。
さらにいえば、だらだらと冷や汗をながし、ロイドの視線はさまよっている。
そんなロイドの姿をみたのち、なぜかため息を一つつきつつ、
「…ブライアン公爵には私からあやまっておこう。こちらから資金はだしておく」
さらに先ほどよりも盛大なため息をつき、それまで黙っていたクラトスが口をひらく。
「本当か!?クラトス!」
「「…あま(くない)(いな)」」
ぱっと目をかがやかせるロイドに、異口同音でユアンとミトス。
二人の声がほぼ重なる。
「…予測がついていたのに止められなかった私の落ち度だ」
ロイドが手を握り締めた段階で何かにやつあたりをしそうな気はしていた。
が、それをとめなかったのは自分の責任。
とばかりにクラトスが淡々といってくるが。
「うっ。なんでお前にそんなことをいわれないといけないんだよ!」
「お前の行動はわかりやすすぎる、といっているのだ。
そしてそれを止めるのを失念していた私の、責任でもあるということだ」
「あんたは俺の保護者かぁぁ!」
「「「・・・・・・・・・・・」」」
実際に実の父親…保護者だし(な)。
ユアンとミトス、そしてゼロス。
彼らの思いはほぼ同時。
ちなみに思っていることもまったく同じ内容であったりする。
「心配するな。クルシスで無駄に増えた資金がある。使い道がなかったからな」
「だ・か・ら!何であんたが俺の借金肩代わりっていうのが前提なんだよ!」
「・・・・・・・・・・・はいはい。言い合いはあとにしなさい。
ともかく、決行よ」
そんな二人をあきれてみつつも、リフィルがため息まじりにいってくる。
この二人、おそらくほうっておけば延々と言い合いをしかねない。
「ところで、ゼロス。遠隔制御って、それで何を制御するの?」
「リーガルの旦那曰く、これでカジノの電源回路をコントロールできるらしいぜ?」
ほんとうに、何でこんなものをつくっていたんだか。
そう苦笑ぎみにつぶやきつつも、コレットの問いかけにこたえるゼロス。
「おそらく、テロリストなどの対策でつくっていた品なのでしょうね」
「だろうな。でもこれで、カジノに潜入すればどうにかなるってな。
問題は、まだこの装置はまだ開発中で。これも試作品らしいってことだな。
ゆえに、遠隔操作できる距離が短い。
だからこそ、カジノの中に入り込む必要があるらしいけど」
首をすくめ、ゼロスがそんな説明をしてくるが。
「あれ?でもそれだとゼロス。潜入してから手錠してもよくない?」
「何いってんだよ。コレットちゃん。
抵抗しません、という証にもなるだろ?これ」
「あ、なるほどぉ。で。こわしちゃうんだね!それくらいなら簡単にこわせるもんね!」
「まあ、俺様やコレットちゃん、あとリーガルなら簡単だろうなぁ。
しいなの場合だと、確実に手錠ぬけで壊す必要はないだろうけど」
いまだに、なぜか睨みあっている父と息子…息子のほうは知らないらしいが。
とにかくクラトスとロイドをちらり、とみつつもそんなコレットにゼロスが答える。
いまだにロイドは納得がいかないのか、クラトスをじっと睨みつけていたりする。
そんなロイドの視線にたいし、クラトスはそしらぬ顔。
ロイドがこれ以上文句をいっていないのは、鋭い視線がロイドにむけられているがゆえ。
これ以上、騒げばまちがいくリフィルの鉄槌がくだる。
それが理解できているがゆえに、ロイドはただクラトスを睨みつけるしかできない。
完全に子供扱い、というかそれこそ保護対象とばかりにみられている。
それがくやしい。
しかも、自分が壊したものすらも弁償する、と。
敵、のはずのクラトスにどうしてそこまでしてもらわなければいけないのか、という思い。
しかし、いくらロイドとて数百万ガルドは下らないかもしれない。
そんな大金、どうこうできるはずがない。
謝れば、たしかにリーガルならば仕方ないか、ですませるかもしれないが。
しかし、そういう問題でもない、とおもう。
八つ当たりをし、備品を壊してしまったのはほかならぬロイド自身、なのだから。
「ま、テセアラの神子であり、公爵の地位でもある俺様なら。
やつらも人質、として満足するんでないのかい?
利用価値はいろいろと多種多様ってな。
ま、奴らにこ~んな、美青年たる、麗しのゼロス様をプレゼントしてやるってんだ。
感謝こそされても否定はされないとおもうぜ?」
「うわ~。プレゼント、かぁ。なら、ゼロスにリボンかけたほうがいいのかなぁ?」
「お兄様の髪をでは、みつあみにしてりぼんかけましょうか?」
「あ!それいいね!」
「セ…セレス?それにコレットちゃん?もしも~し?」
何となく、コレットとセレスの言動に嫌な予感をおぼえ、ゼロスが二人に問いかけるが。
「お兄様、うごかないでくださいましね?」
「・・・・・・・うっ」
時すでにおそし。
どうやらコレットもセレスもその気になってしまっているらしい。
「…ゼロスも妹にかかってしまえばだいなし、ね」
そんなゼロスの姿をみてリフィルはため息をつかざるをえない。
にっこりとセレスにほほえまれ、
なぜかにこにことしつつ、しばしゼロスの髪をいじるセレスの姿が、
スイートルームの一角においてしばしみうけられてゆく――
さすがにもう深夜、ということもあり、
いつのまにかホテルの中はしん、と静まりかえっている。
どうやらいろいろと話しあいをしている間に完全に深夜をまわってしまったらしい。
実際、この地にやってきたのが夜であったのを考えれば、
時間の経過からしてそれも当たり前、といえば当たり前なのだが。
夜のアルタミラ。
いつもはひんやりとしている空気がよりひんやりとしている。
「…何かマナがおかしくない?」
ジーニアスが外にでて思わずつぶやく。
いくらここが海に近いから、というか隣接しているからといって。
異様に水のマナが濃く感じる。
そして少し先すらもみえないほどの霧。
ホテルの入口付近に漂うようにしてあるその霧は、
ホテルの入口付近をこえれば、今度は白き霧、ではなく、
いくつかところどころに黒き霧のような固まりがただよっているのがみてとれる。
そして、町の中を全身を隠すような黒づくめをしている恰好のものたち。
そんなものたちがであるいているのが、ホテル入口の階段の上からみてとれる。
町の入口たる出口もバリケードらしきものが築かれており、
そう簡単には外にでることもできない、らしい。
ところどころに血を流しているらしき、ゾンビ?のような輩の姿もみてとれるが。
問題なのは、頭がとれかけたような輩もそのまま、
ふらふらと町の中をで歩いている、ということ。
どうやら頭を吹き飛ばしたのちも、傀儡、として利用されている、らしい。
もっともそこまで詳しいことはロイド達にはわからない。
それを理解したのはこの場においてはクラトスのみ。
ゆえに、おもいっきり顔をしかめていたりする。
「ええ。マナがどうも狂っている、わね」
リフィルにもわかる。
あきらかに、マナが何かおかしい。
「…ヘイムダールのあれよりは薄い、けども。気をひきしめていきましょう」
頭がずきずきする。
声はきこえないが、この痛みは間違えようがない。
あのときと同じ痛みだ、とリフィルの直感が告げている。
「…血の匂いが……」
コレットはコレットですこしばかり顔をしかめていたりする。
「では、作戦を確認するぞ」
作戦、といっても至って簡単。
二手にわかれ、爆弾の起動装置をどうにかするはずの組みと、
くちなわがどこにいるのか調べる組み。
クラトス曰く、タイガやリーガルが調べているらしく、
くちなわとおもわれしものが、地下にいる、というところまではつきとめた、らしい。
今現在、この場にいるは、クラトスを始めとし、
ロイド、ジーニアス、コレット、リフィル、そしてゼロス。
この六人。
ホテルにのこっているのが、ユアン、ミトス、プレセア、セレス。
マクスウェルとの契約のために出向いているのが、
しいな、エミル、マルタ、リヒター、アステル、この五人。
タバサはその性能にそういった爆弾類を見分ける装置が含まれているらしく、
そのために、タイガが一緒につれだしているがゆえ、今この場にはいない。
リーガルはおそらく、このアルタミラの責任者として、いろいろとすることがあるのであろう。
おろちの口を通じて連絡をよこしてきたのが何よりの証拠。
「じゃあ、私とゼロスが注意をひきつけるから。
ロイド、あなた達はクラトスとともに、いいわね?」
相談してきめられたのは、リフィルとゼロスが組みとなり、
そしてそれ以外のメンバーが地下にむかう、ということ。
「何だ?お前は?」
今のリフィルの恰好は、おろちがもってきた、というレザレノ社の制服をき、
帽子を目深にかぶり、ぱっと見た目、リフィル、とはわからない。
ゆえに、見張りにいたまだ若い忍の男性もきづかない、のであろう。
ちらり、と背後にいるゼロスをみて、一瞬顔をしかめているのがみてとれる。
「ご希望の人質をつれてきました」
抑制のない、淡々とした声。
「ほぅ。さすがは神子。この現状をしり、自分から身をささげにきたか。よいだろう。とおれ」
にやり、と笑みをうかべ、道をあける。
エレメンタルレール乗り場。
カジノにいくには、ここを通るしか方法がない。
「操縦方法は…レザレノのものならわかっている、か」
いいつつ、リフィルとゼロス、二人のみでエレメンタルレールにのせ、
そのまま再び見張りにともどってゆく。
誰もいないエレメンタルレール。
リフィルがそのまま装置を起動すると、ゆっくりとその機体は動きだす。
やがて、ゆっくりと、橋の下にちかづくとともに、
リフィルがちらり、と橋の上をふりあおぐ。
「よし、いくぞ!」
その言葉とともに、橋の上に待機していたロイド達が、
眼下にみえているレールめがけて飛び降りる。
作戦はいたって単純。
リーガル曰く、エレメンタルレールは何かがあったときのため、
運航途中でも止めることが可能、とのこと。
ならば、橋の真下のあたりで一度機体をとめ、ロイド達が飛び移る。
そうすれば、夜の闇と霧の効果もあいまって、見張りのものたちに気づかれることもない。
そのまま、橋にある手すりをのりこえ、待機していたロイドたちが、
橋の下にある海めがけて一斉にと飛び降りる。
「よっと」
「うわ~。どきどきしたぁ」
パタパタパタ。
このくらいの高さから飛び降りるのはロイドにとっては朝飯前。
ジーニアスは失敗すれば海の中にまっさかさま。
それがわかっているせいか、多少緊張しているのがうかがえる。
コレットはコレットで飛び降りようとおもっていたのだが、
ロイドとジーニアスに説得され、無難に翼をだして乗り移っていたりする。
ロイドとジーニアスからしてみれば、コレットはどこかドジなので、
それにコレットが飛び降りて万が一にもエレメンタルレールが壊れては。
という思いがあったりしたがゆえに、羽でとんでいけばいいんでは。
と説得をした、という理由があったりするのだが。
コレットはそんな二人の気持ちにまったくもって気づいていない。
「いくわよ」
三人が無事に乗ってきたのを確認し、再びリフィルがエレメンタルレールの起動を開始する。
本来、橋のほうにむかうのは、レザレノ本社に向かうレールなれど、
途中でレールが合流している場所もあり、
それらのレールの切り替えをすることで、このルートが可能、とのことで。
この方法をとったまで。
エレメンタルレールによりカジノ区画へ。
この付近も霧がたちこめ、少し先すらもみえなくなっていたりする。
これらの霧が意味していることをロイド達はしらないまでも、
そのままレールをおりて、リフィルがゼロスをつれていくようにして、
先にとすすむ。
リフィル達が上下式エレベーターに乗り込むのをみつつ、ロイド達はそっとものかげへ。
「えいっ!」
「うっ!?」
いきなりぼこん、と何かの衝撃をうけ、その場にたおれる見張りの忍。
「へん。甘いね」
ジーニアスがみれば満足そうにしてケンダマをかまえており、
ちなみに鉄製。
どうやらケンダマの攻撃で、一瞬、忍の彼は気絶してしまった、らしい。
そのまま、目覚めて騒がれてもいけないから、というので、
これまたリフィルが用意周到、とばかりに用意していた紐で、
倒れた忍をぐるぐるにとしばり、そのあたりの柱にとむすびつける。
ちなみに騒がないようにさるぐつわもわすれない。
エレベーターをのぼると、ちらほらと見張りなのであろう。
忍らしき姿はみてとれるが、数はそうおおくはない。
「・・・・・・・・・・・」
カジノの手前にいる忍はどこか視線が虚無で、その焦点すらさだまっていない。
そしてまた、
「この街はわれらの占領下にくだった。我々にはむかうものは皆殺しにする」
どこか狂気をはらみ、そんなことをいっている別の男性。
その首元には何かの首輪らしきものがみてとれ、
その瞳にもやはり狂気のいろが見え隠れしているのがうかがえる。
彼らはその首につけられている装置で操られている忍達。
もしもその首輪を外部から取り外そうとしたりしたものならば、
問答無用で自爆装置が起動する。
そして、魔物すら操る効果をもっているこの装置は、ヒュプノス、といわれている魔科学の上位版。
すなわち、人すらをも操る効果が立証されている。
目の前の忍達がその実例、といってもよい。
いつもはにぎわっているこのカジノ付近も、今や忍達らしき姿しかみあたらず、
観光客らしき姿はひとりもみえない。
そのままカジノの中へとはいると、
「ほう。神子をつれてきた、か。私はくちなわ様に報告にいってくる。
そいつらを一応、牢屋にいれておけ!油断はするな!」
「は!みずち様!」
ちらり、と視線をむけたのは、ロイド、コレット、ジーニアスに対し。
ひとまず、わざとつかまり、そこで騒ぎをおこす。
そこから二手にわかれて行動する。
もっともそこにいくまで、ロイド達が共にいるのがわかれば警戒されかねない。
それゆえに、あえてロイド達三人もいることを隠してここまでやってきた。
みずち、とよばれた男性がそこいらにいる男性に声をかければ、
何やらそれに従うそぶりをみせている男たち。
この場にしいながいれば、彼らの力関係がわかるであろう。
みずち、といわれているものは、里の忍のとある隊の隊長であり、
そして今答えたものは、みずちの隊に所属しているもの。
隊全体でくちなわについてきている、という何よりの証拠、ともいえる。
しかし、この場にいるロイドやリフィル、そしてゼロスもそこまでは詳しくはない。
おそらく、そこにみえる忍の恰好をしているものよりも力があるものなんだろうな。
そんな認識、でしかない。
「ほら、おとなしくこい!」
「起爆装置の取り扱いはきをつけろよ」
「はっ!」
そんな声が地下にむかってゆくみずち、と呼ばれた男から発せられているが。
やはりというか、予測どおり、そういった品がここにはある、らしい。
連れてゆかれたのは、地下にあるちょっとした小さな部屋。
「おそらく、たまたま空いていた部屋に鍵をつけたのね」
いいつつも、リフィルが懐から小さな丸い何か、をとりだし。
「クラトス。こちらは準備よくてよ。無事にカジノにもぐりこめたわ」
淡々と、その丸い何か、にむけて声をかける。
『――位置を確認した。いまからそちらに移動する』
そういうが否や、きらきらとロイド達の目の前の空間が輝きをます。
その光りはだんだんと輝きをまし、やがてそれは一つの形をつくりだす。
「……便利よね。それ。魔科学による、転送、だったかしら?」
「そうだ。天使体となったもののみにしか危険であつかえないがな。
下手をすれば体を構築しているマナそのものが狂いかねない」
腕をくみ、光りの中からあらわれたのは、この場にともに一緒にこなかったはずのクラトス。
クラトス曰く、リフィル達がカジノに入り、そこで合流したほうがいい。
といい、そのために、リフィルの目印、としてこの装置を渡していたにすぎない。
それは目印となる品であり、それがあるかぎり、
それをもつものの近くに転移が可能。
もっとも、これらはデリス・カーラーンのシステムをつかってこそ、といえるのだが。
リフィルからしてみれば、目印があればどこにでも世界中のどこにいても、
その近くに転移が可能、といわれこれを渡されたときには呆れもしたものだが。
クルシスが所有しているという魔科学の技術。
それは通常では計りしれないもの、があるのだと改めて認識させられたといってもよい。
何でも、レミエル達を地上に転移していたのもこの応用、であるらしく。
あれらの祭壇にこの装置がくみこまれており、
とある条件をみたせば降臨したかのごとくにみせかけて、
あの場に転移するという方法がとられている、らしい。
はたからみれば天からいま、降臨したかのごとくみせかけるように、
光のオブジェクトというかそういった効果も併用し。
それをきき、納得せざるを得なかった、というのがリフィルとしての本音。
これまでの封印解放の儀式でそのたびに、
まるでレミエルが空からふってきたかのごとくの現場をみているものからすれば、
それはそういう仕掛けだったのか、とあらためて感心してしまう。
相手を、というか神子を、そしてその場にいるものたちをだましている。
という思いがなくもないが、しかしよく考えられている仕組みだ、と感心したのもまた事実。
「タイガ殿達からも報告があった。カガシ、とよばれし里のものが、
どうやら起爆装置を管理している、とのことらしい。
彼の服は上忍を示す明るい柿色の服をきているからわかるだろう、とのことだ」
その言葉に思わず顔をみあわせるリフィルとゼロス。
さきほど、たしか、ミズチ、とよばれていた彼も柿色の服をきていたことを思い出す。
そしてたしか、もう一人、その色の服をきていたものがいた。
「ってことは、あいつが首からさげていたあれが、起爆装置だろうな」
ふつりあいに何かを首からさげていた。
連行されているふりをして、ゼロスは注意深く周囲の人々を観察していた。
ちょっとした違和感をも見逃さないために。
ちなみに、余談ではあるが、だいたい忍達は三種類の色の服をきこなしている。
柿色のような渋く赤いような色の服をきているものもいれば、
クレ染め色に近き鉄分に近いような色をきているもの。
そして、ほとんどのものがよくきているのが濃紺色ともいえる藍染のような服。
だいたい、この三種類にと組みわけされている。
しいなの服は藍色ではあるが、少し明るめの青さがきわだっており、
その帯も桃色、とかなり目立った恰好であるにしろ。
「まあまあ。んじゃ、ま、やってやろうじゃねえか。ミッション、スタートってな」
にやり、と笑みをうかべ、ゼロスがかちり、と
その両手にはめてある手錠をあわせたのち、たかだかと天井にむけて掲げてゆく。
それとともに、カチリ、という音。
あわく手錠が輝くとともに、
ブ~……
何やらブザーのような音がしたかとおもうと、一気に全ての電源がおちたらしく、
そのまま周囲は真っ暗になりはてる。
「よし。いま、カジノ全体の電源がおちているはずだ。
牢の鍵もひらいているはず。この暗闇の乗じてタイガ殿達も活動をしてくるはずだ」
内部と外からの襲撃。
みずほの里のものいわく、自爆の可能性がある以上、手荒なことはできないが。
ならば、彼らを無力化させるしかしいながもどってくるまでにできることはない。
しかし、町にしかけられている爆弾の起爆装置。
それだけは回収する必要がある、とのこと。
すでに手のものたちが爆弾の解除にもまわっているらしいが、
どれほどの数が設置されているのか、わからなかった。
しかし、それはタバサに内臓されたとある装置により、
火薬類がどこにあるのか探査が可能、であったらしく。
ゆえに手はずよく隠されている爆弾類をタバサの協力のもと見つけ出し、
どうにかこうにか解除している、というのがいまの実情。
「んじゃま、いくとしますか」
いつのまか、ゼロスはゼロスで手錠から抜け出ていたらしい。
というか、壊した形跡もないことから、いわゆる、手錠ぬけ、というものをしたらしいが。
「なあ。ゼロス。それどうやったんだ?」
「うん?ただ、手の関節をこうちょいちょいっとかえてやれば、
簡単にこういうのはぬけるんだぜ?」
ちなみにこの技。
しいなの技術提供もあり、ゼロスもかなりの腕となっていたりする。
それこそ頑丈にしばられても縄抜けできるほどに。
「よし。いこう!」
ロイドの言葉とともに、一行は顔をみあわせたのち、閉じ込められた部屋。
すなわち、仮初めの牢屋から外にと踊りでる。
いきなり真っ暗になったことにより、カジノ内部はある程度騒然となってはいるが、
そこまで騒ぎは予想していたよりもひどくはない。
それもそのはず。
忍たちは基本、暗闇でも視力を確保できるようにと特訓している。
たしかにいきなり電源がおち、
そういった電源を使用する機械類は使用不可能となりはしたが、
だからといって、大混乱、というまでには至っていない、というのが実情。
「おまえたち!?」
ふと、部屋からでて、廊下にでた一行がみたのは、
背後に数名の忍をかかえている、柿色の服をきている忍の男性。
その首元にはあきらかに、不自然なものが首からかけられているのがみてとれる。
一行の姿をみとめ、すぐさまその首元のそれに手をかけ、
それをつかみ、いじろうとしはじめるが。
「させるかっ!」
すばやくロイドがそんな彼にときりかかる。
「っ!」
その反動でおおきくのぞける相手は、その筒のような何か。
それをもったまま、大きく一歩後ろにさがる。
が。
「はい。そこまで~」
トッン。
ロイドの行動を余地し、そして相手がどの方向に飛び下がるか。
そこまで計算していたゼロスがすばやくその先にとまわりこんでおり、
相手の手をがしっとつかみ、その手刀をつよくその首元にとあててゆく。
「っっっ」
ちなみにこの技。
これもまたしいなにかつてゼロスがおそわったものではあるが。
首のとある箇所に仮死状態にするツボのようなものがあるらしく。
そこを強く刺激することにより、誰でもこういった技が使用可能、になるらしい。
まあ、力加減をまちがえれば相手は死んでしまう、というリスクはあるにしろ。
ドサリ、とその場にたおれるその男。
「カガシ様!?おのれ!よくも班長を!」
そんな倒れた上司?をみて背後にいた忍達がいきりたつが。
「はいよ。これはわたしとくぜ」
ぽいっと無造作にゼロスがその起爆装置をクラトスにと投げ渡す。
「ここでの用はすんだ、いくぞ!ここには気配からしてあれはない!」
てっきりここにあるかとおもったのだが。
瘴気の具合がまったく異なる。
あれはもっと濃密なる気配をもっている。
ゆえに近くにくれば嫌でもわかる。
そのためにデリス・カーラーンから瘴気探索装置ももってきている。
ゆえにクラトスがロイド達にむかって大きく叫ぶ。
あれ、とは何だよ。とロイドが問いかけるよりもはやく。
「逃がすな!おえ!」
そんな声とともに、わらわらと、黒装束の男たちがちかよってくる。
中には武装しているいかにも忍ではないようなものたちの姿も。
彼らはすべて首元に何らかの機械らしきものがとりつけられており、
彼らのその瞳からは狂気、の色しかみえてこない。
――明かに操られている。
それをみてクラトスは一瞬顔をしかめるが、
そういった操られている人々を目の当たりにしたことのないロイド達からしてみれば、
まったくもって理解不能。
「奴らは、あの首の機械で操られているようだ。
…我らが魔物を機械で操っているように、な」
「ってことは、あの装置に衝撃とかもくわえられないってことね」
自爆する。
それも周囲をまきこんで。
そのように報告はうけている。
クラトスの台詞をきき、すばやくリフィルが現状を把握する。
「ロイド、特にあなたにいうわ!剣での攻撃は危険よ!
操られている人は、その衝撃で彼らの意志ではなく、あの装置が爆発しかねないわ!」
「ならどうしろっていうんだよ!先生!」
剣をつかうな、というのなら、どうしろ、というのだろうか。
ゆえに叫ぶロイドの気持ちはまあわからなくもない。
『ここは我らにまかせろ!』
ロイドが叫ぶのと、その場にいくつもの煙がたちのぼるとほぼ同時。
そこからまたまた同じような格好をしている忍達が出現する。
「我らタイガ様の指示のもと、助っ人にまいった!」
などといってくるが、はっきりいって、相手も忍装束。
誰が味方で誰が敵なのか。
まったくもって判別不能。
カン、キン、といった何やら短剣のようなものをまじえる音。
それとともに、それぞれ体術にて睨みあうもの。
「とにかく。一端外にでて……」
リフィルがそういいかけたその最中。
ぞくり。
底のしれない悪寒がいきなりおそいかかり、
おもわずばっとその場からとびのくリフィル。
リフィルが飛びのいたその直後。
そこに黒き固まりのような何か、が床にと直撃する。
「――ミズチの報告できてみれば。この騒ぎはなにごとだ?」
ゆっくりと、奥からでてくるその人影。
抑揚の少ない声、とでもいうべきか。
「っ、おまえはっ!」
その姿をみてロイドが思わず叫ぶ。
『くちなわ!この里の面汚しがっ!』
ロイドにかわり、その場にいたほとんどの…というかおそらくは味方側、なのだろう。
忍達からそんな彼にむけての声が発せられる。
ゆっくりと扉の奥よりあらわれしは、ロイド達がさがしていた、
みずほの里のくちなわ、その当人に違いない。
よりあのときよりもその身にまとわりつかせている黒き何か、が濃くなっており、
何ともいえない不気味さを湛えているが、まちがえようがない。
「――愚かな。かなり魔王達にとりこまれているな」
それをみて、クラトスが思わず眉をひそめそんなことをつぶやいているが。
「…こんな雑魚にてこずっている駒は必要ない。ミズチ」
「はっ」
くちなわにいわれ、背後にいた別の男性。
その男性が何か懐からとりだし、何かボタンのようなそれを高らかにあげてくる。
「いかん!あれはおそらく、首につけられている起爆装置のスイッチ!?」
誰が叫んだのかはわからない。
しかし、ミズチがたからかに掲げたそれをみて、何やら声をはっしているところからみると、
どうやらそれは間違い、ではないらしい。
囲まれている忍は誰が味方で誰が敵なのか、服装がにかよっているがゆえに判別不能。
「馬鹿な!仲間をまきこんで全てを爆破させるつもり!?」
リフィルがその意図に気づき叫ぶ。
「お前達のような雑魚に翻弄されるような駒は必要ないからな。やれ」
抑制のない、くちなわの声。
それとともに、ゆっくりと、ミズチ、とよばれた男の手が、
その起爆装置のスイッチらしきものにと指がおされ――
逃げ出す時間はない。
クラトスははっとなりて、ばっとロイドの前に移動する。
リフィルはリフィルでジーニアスをかばうようにと前にでる。
できることは、少しでも爆発の余波からもっとも大切な誰かをまもること。
ロイドはロイドでコレットの前にでて、コレットを抱きしめるような格好をしていたりする。
つまるところ、リフィルがジーニアスをだきしめ、
ロイドがコレットをだきしめ、クラトスがそんな二人の前でかばうようにして、
大きく手をひろげ、ゼロスはゼロスで一人防御の体勢をとっていたりする。
いま、まさに、その指がスイッチをゆっくりとおしてゆくか。
覚悟をそれぞれが決めたその刹那。
「――まかせな!!マクスウェル!頼んだよ!!」
凜、とした待ち望んだ声がその場にと響き渡る。
「ほいほいっと」
何とも間の抜けた老人のような声。
それとともに、
「それじゃあまあ、やるとするかのぉ」
そんな声とともに、ふわふわといくつもの光の球がいたるところにと出現する。
その玉はこの街全体にと一瞬のうちに出現しているのだが。
当然ロイド達にはそんなことはわかるはずもない。
光の球は小さくはじけ、そのまま、そのあたりにいるものたちの首元。
それらにふわふわとちかよっていき、ぱんっと音とともにはじけとぶ。
それとともに、光に浸食されたかのごとく、ぼろり、
とそれぞれ首元につけられている様々な装置がもののみごとに崩れさる。
それはほんの一瞬のことで、何がおこったのか、ほとんどのものには理解不能。
「…相変わらず、そういう演出、好きだな。お前は」
どこか呆れたような聞き覚えのあるような声。
「ほっほっほっ」
はっとして、カジノの入口付近をみてみれば、
そこに符をかまえているしいな。
そしてその背後にふよふよとうかんでいる…どうみても、
ロイド、ジーニアス、コレット、リフィル。
彼ら四人がみおぼえのある老人。
というか、なぜにエグザイアの長老という人物があのようにふよふよと、
座布団?のようなものにのってうかんでいるのだろうか。
いや、それよりも以前に。
「まさか…まさか、あの長老様が、マクスウェル!?」
リフィルからしてみればその衝撃のほうが大きい。
あのときは、ヒト、の気配でしかなかったような気がするのに。
あきらかに、いまそこにふよふよとうかんでいるその老人からは、
精霊特有のマナともいえる濃厚なるマナが感じられる。
そしてそんなマクスウェルを見あげるようにして、腕をくんでいるのは、
これまた見間違いようもない、金色の髪の少年の姿。
ドサ。
ドサドサッ。
操られていた装置が突如として解除、というか消滅したのをうけ、
装置で操られていたものたちは、その場にどさどさと気絶したのち倒れだす。
そして、それは装置で操られていた忍達とて例外、でもなく。
自らの意志でついてきていた忍達以外、ことごとくその場に倒れだし、
まさに形勢はほぼ逆転。
「しいな!」
ロイドがしいなきづき、コレットから手をはなし、そちらに叫ぶと。
そんなロイド達をちらり、とみて苦笑しつつ。
「――またせたね。藤林しいな。ここに見参ってね」
その場にあらわれた女性…藤林しいなの声が、カジノの中にと響き渡ってゆく――
少し前。
飛行都市エグザイア。
ここは、いつきても静かな空気にとつつまれているな、とふとおもう。
どうやらあちらはあちらで行動を開始しているようではあるが。
リフィル達が今後の作戦をホテルの中で話しあっているそんな中。
こちらはこちらでエグザイアにとたどり着く。
「ここが、伝説の」
きょろきょろしつつ、周囲をみているイガクリと、その他の里のものたち。
「ほっほっほっ。まっておったぞい?」
レティスの背からおりたってみれば、そこにはみおぼえのある姿がふたつ。
「マクスウェル」
その姿をみとめ、エミルが声をかけると、うやうやしくそんなエミルに頭をさげたのち、
「お待ちしておりましたじゃ。そこの娘はどうやら四大元素を司りし精霊。
それらとの契約を無事にはたせたようですじゃのぉ」
その白い髭をゆっくりとなでつつも、まじまじとしいなの目の前にあゆみより、
そんことをいっているのは、このエグザイアの長老だ、となのりしマクスウェル。
しいな、そしてマルタは彼らと面識がある。
それこそ、ここテセアラにやってきたとき、
不可抗力というか、なぜか竜巻にまきこまれ、まっさきにたどり着いたのがこの地。
空中都市エグザイアだったのだから。
「お待ちしておりました。長老様からお話しはきいております。
今から、あなたがたを石碑の場所までご案内いたしましょう」
「あ。モスリンさん。お久しぶりです」
そんなマクスウェルの背後にみおぼえのある人物をみとめ、マルタがぺこり、と頭をさげる。
前にここにきてからもうずいぶんとたったような気がしなくもない。
あれからいろいろとあり、かなり前のような気がするのに。
時間にしてみればそう数カ月もたっていないことに驚かずにはいられない。
という、むしろほぼ一月かそこら程度しかたっていない。
あいかわらず、というか、あれほどの荒れ狂う雲の中をつきぬけた、というのに。
ここはまったくそんな気配すら微塵もみせない。
周囲には青い空、そして眼下には海がひろがっており、
そこに雲がさえぎっているかなど、ぱっと見た目にはわからない。
それら全ても前回この地にやってきたとき、
全ては精霊マクスウェルの力によるものだ、とマルタ達はきかされているが。
改めてその力の大きさを認識せざるを得ない。
地上とのルートのために解放している、という開けた場所。
そこは以前、マルタ達がシルフの力で空気につつまれ、
そのまま飛ばされた場所でもあったりする。
「では、案内するとするかの」
ほっほっほっ。
と笑いつつも、その手を腰の後ろにあてて、そのままゆっくりと進みだす。
「判っておられるとはおもいますが」
「わかってる。そもそも俺が手だしするのは間違ってるだろ?」
「然り」
「「?」」
何やらマクスウェルと名乗りし老人とエミルがそんな会話をしているのがきになるが。
「ついてきなされ。――マクスウェルの石碑に案内しようぞい」
そういう長老の台詞に思わず顔をみあわせるしいなとイガグリ。
そしてそれぞれ顔をみあわせている、共に同行している里のもの。
そしてまた。
「そういえば、マルタ達はここをしってるの?」
首をかしげ、横にいるマルタにといかけているアステル。
アステルからしてみれば、ここエグザイアは伝説の地。
興味がわかないはずもなく、さきほどからきょろきょろと周囲を見回していたりする。
「あれ?いってなかったですっけ?私たち、シルヴァラントからここにくるまで。
竜巻にまきこまれて、ここに一度不時着したんですよ」
ちなみにここからでるときもまた、竜巻に巻き込まれて、というか。
おそらくはシルフがつくりだしたであろうそれにのって、であったが。
マルタがそのときのことを思い出し、すこし顔色もわるくアステルにと説明する。
「ほら、いくよ。おいてかれちまうよ」
そんな会話をしていると、どうやら先に長老達があるきだしたらしく、
そんな二人にとしいなが声をかけてくる。
たしかこの地はいろいろといりくんでいた。
様々な小さな島が橋のような何か、でつながっており、
見失ってしまえばそれこそどこにいったのかがわからなくなるであろう。
それゆえのしいなの台詞。
「会話はあるきながらでもできるだろ?」
いいつつ、視線をアステルとリヒターにむけ、
「興味はあるだろうけどさ。まずは用事をすませてから、だろ?」
「たしかに。マクスウェルの石碑、というのがきになるな。
アステル、そこにいってから、ここをゆっくりと調べるのでもいいだろう」
「う~。たしかに。仕方ないけど、いまは素直についていきます」
アステルからしてみれば、ここにいる様々な人々に話しをいろいろとききたいところ。
というかこんなチャンスは滅多に、ない。
長老に案内され、彼らは入り組んだ町の中をすすんでゆき、やがて、家の背後にあるとある道。
隠されているらしき通路、そのさきにつづく異様にながい、
細くつづく足場をぬけ、その先にあるひとつの浮島にむかって、足をすすめてゆく――
「さあ、くちなわ。形成逆転だよ!
あんたがあやしげな装置であやつってた人達は。
マクスウェルのいまの力で全て無にかえした!おとなしくお縄につきな!」
しいなの凜、とした声がひびく。
しいなの脳裏にうかびしは、エグザイアにたどりついたときのこと。
「そうじゃ。くちなわ。愚かなやつ」
そんなしいなにつづき、しいなの背後から一人の老人がゆっくりと歩み出る。
「くっ。ここはまかせたぞ!ミズチ!」
「はっ」
形勢不利、とでもさとったのか、そういうとともに、懐から何かをとりだし。
そのまま足元にとたたきつける。
ぼふん、という音とともに、くちなわの姿がその場からかききえる。
「逃がすな!おえ!何としてでも捕らえるのじゃ!」
「は!頭領!」
そんな様子をみて、すばやく手を前にとだし、指示をだすのは、
しいなの祖父であり、みずほの里の頭領でありしイガグリ。
彼らのいうところの忍の正装をしており、
一瞬誰かわからないが。
その声からしてそれは疑いようのない事実。
「くちなわ様の信念の邪魔はさせぬ!」
そういいつつも、邪魔をしようとしてくるそんな彼に対し、
「なぜじゃ?なぜじゃ。ミズチ。お主は、里でも屈強の…」
「頭領。あなたはまちがっている!
あなたが考えているのはそこのしいなを次なる頭領に、とのことらしいが!
我らはみとめられない!認めてなるものか!たとえその血筋がどうとでも!
そのものが、里のものを見殺しにした事実はかわらない!」
「っ!ミズチ、あんた……」
「我が母も、父もお前のあのときのせいで命をおとした!
わたしは、くちなわ様についてゆく!彼はこの国を、世界を支配するにふさわしい!
そのための力も得られた!」
どうやら操られている、とかではなく。
むしろ自分の考えで彼についていったことがうかがえるその台詞。
「馬鹿な。我らは忍。常に闇にいきるのが定め。世界を支配して何とする!」
「それがまちがっているのだ!我らがクルシスにかわり、世界を支配する!
すばらしいとおもわないか!?頭領!わが里が世界に君臨するのだ!」
「クルシスのものとしてそれは認められないな」
そんな彼の台詞にクラトスが一歩前にふみだして淡々とつむぐ。
その背にはいつのまにかマナの翼を展開しており、クラトスの青き翼がみてとれる。
「クルシスの天使か。クルシスの犬め。神子にしてもそうだ。
――この世界はまちがっている。クルシス、という偽りの神にだまされ。
ヤト様、そしてくちなわ様に力をおかしくださる、かれらこそ!
この世界の神々となるにふさわしい!
彼らは、私のようなものにもこのような圧倒的な力をあたえてくれた!」
そう叫ぶや否や、ミズチ、となのった男の体が黒い霧にとつつまれる。
やがて、めきめき、という音とともに、その体が変化してゆく。
その背からは黒き翼のようなものがはえ、頭からは角のようなものが数本。
その手もまた異様なほどにのび、その先の指先は鋭いかぎ爪のようにと変化する。
「ちっ。レッサーデーモン、か!!」
その姿はすでに人にあらず。
四本に増えた手に、その背中に伸びた一本の尾。
羊の角のようなものが頭よりはえ、その顔だけ、が元の面影をのこしている。
「な、何だよ!あれ!」
その姿をみて思わずロイドが叫ぶが。
「あれが、精神生命体たる魔族を取り込んだ人間の慣れの果てだ!
やつらは、精神生命体。ゆえに器がなければ活動はできん!
しかし、契約のもと、その当事者の魂をそのままに、奴らはその力を振るうことができる!」
古代大戦というヒトククリで忘れ去れているとある戦い。
魔族と、人との戦い。
それはミトス、そしてクラトス達の尽力により魔王を封じることで魔族の弱体化。
それを果たすことができ、何とか人類もかてた。
「こざかしい精霊、それに…」
「……エミル様。さがっていてくだされ」
その視線がエミルにむけられたことにきづいた、のであろう。
すっとマクスウェルがふよふよとうかんでいたそれから、ふわり、と地面にとおりたち、
まるでエミルをかばうようにしてその前にとたってくる。
「あのな。この俺があんな雑魚に遅れをとる、とでも?」
「念には念を、ですじゃ」
「?エミル?」
いつものエミルの口調とどこか違う。
しかし、その会話そのものの旋律もまたロイド達にはわからないもの。
「…古代、エルフ語?」
リフィルのみはその言葉を理解し、おもわず顔をしかめていたりする。
そう、いま、エミルとマクスウェルが語りし原語は、
かつてヴォルトとの契約のときに、雷の精霊ヴォルトが発していた言葉のまさにそれ。
レッサーデーモン。
それは大概、地上にでてくるときは、動物などの死骸。
もしくは小動物。
すなわち抵抗力があまりない輩を核とし、
精神生命体でしかない魔族達が、地上において活動するときの姿の名称。
力ある魔族はその自らの力でのみで具現化し、実体化することはできるが、
力のない魔族達は核とするものを必要とする。
この世界の生物すべてはマナによって構成されている。
そのマナを穢し、狂わすことにより、魔族はその体を核となす。
そして、時にはその魔族と契約をかわすことにより、
その力を我が身にすらとりこむことができもする。
しかし、魔族との契約は魂の契約。
魔族の消滅とともに、その魂も消滅するか、もしくは魂そのものが喰らわれてしまい、
存在そのものがきえてしまうか。
どちらにしても、魔族との契約、というのもにはろくな結果がまっていない。
ヒトからすれば魔族の力を利用してやろうとしているつもり、なのだろうが。
実際はヒトが魔族の手の平の上でころがされているにすぎない。
そして、完全に契約がすんだ後の魂は、魔族の一員、として組み込まれる。
契約をした魔族の
それが魔との契約。
完全に契約が完了していない場合は契約した魔族が消滅した場合でも、
その命を生きながらえさせることは可能なれど。
それでも、やはり魂そのものに痕跡はのこる。
魔族の特性のひとつでもある、残虐性、というその特性が。
当人が自覚しないままに。
「ぐるわぁぁぁぁぁぁぁ!」
つい先ほどまでヒトであったもの。
ミズチ、とよばれていたみずほの里の忍。
なのに、目の前のこれは、あきらかに異形。
目の前で人が変化した。
その事実にロイドは戸惑いを隠しきれない。
しかし、それだけ、ではない。
先ほど、マクスウェルの手により、気絶した他のものたち。
彼らの体もぼこぼこっという音がした刹那。
その背からめきめきと、黒き翼のようなものが出現しはじめる。
「…どうやら、種を植えこんでいたようですじゃの」
「…だな」
その様子に思わず眉をひそめるマクスウェルとエミル。
魔族の種子。
そう精霊達はよんでいるそれ。
それは、魔族の核となりし何かをその体内に埋め込むこと。
簡単にいえば、それを埋め込んでいるかぎり、
それを元にしその内部に魔族達が転移が可能となりし代物。
大概は、何かの動物などの骨とか、石とか。
そういったものを媒介にしていることが大多数、なのだが。
「…微精霊達が完全に死んでしまっている、な」
異形と化してゆく人々をみつつ、エミルは顔をしかめるしか、ない。
彼らがもともとつけていたであろう精霊石。
すでにそこに微精霊達の気配はない。
そこには、死した精霊石があるのみ。
ことごとく彼らは、彼らいわく、【エクスフィア】とよびし、
穢され狂わされた精霊石を利用していた輩達、であったらしい。
狂わされ微精霊達が卵の状態のまま死んだ石。
それを媒介にし、彼らはこうして地上への進行を果たした、らしい。
つまるところ、この忍達もまた、狂わされた微精霊達を利用していた。
ということに他ならない。
いくら微精霊達といえど、あまりに穢されれば、死に至る。
そういえば、タイガやイガグリと名乗りし面々も精霊石を利用している。
どこまで人は、精霊石を穢し、その力にしようとすれば気がすむのか。
ヒトが一人いなくなっても世界はまわるが、微精霊はそうはいかない。
微精霊達が誕生するまでどれほどの時間がかかる、とおもっているのやら。
それこそ一年やそこら、といった期間、ではない。
自然に誕生するまで、かるく百年単位を必要とする。
だというのに。
そんな精霊達の卵たる精霊石を穢し、利用している愚かなる【ヒト】。
真実から目をそむけ、その便利性だけに目をむけ、
世界をより疲弊さしているのは、ほかならぬヒト自身。
ヒトが”エクスフィア”とよびしそれを今のように大量に使用しなければ、
世界の疲弊もここまでにはなっていなかったであろうに。
――本当に、愚か、でしかない。
精霊石のことを知り、それでも手放そうとしないここにいる彼らとてあるいみ同じ穴のむじな。
――まあいい。
どちらにしろ、アスカとルナとしいなという人間が契約をかわし、ルナがミトスとの契約の楔。
それから解放されたときが、全ての始まり。
種子にマナを照射する、という。
なら、それを利用して、一気に地上にはびこっている精霊石達。
それを孵化、もしくは自らの内部に還す、のみ。
そして、まだ穢されていないものたちは、その理を少しばかり変更させてやればよい。
二度と、第三者たるヒトが触れぬことのできないように。
「なんなんだよ!これはっ!」
目の前の光景にロイドは叫ばずにはいられない。
たしかに、さっきまで人、であったのに。
たおれている人々すら、異形となりはててゆく。
その光景は、かつてドアの娘だ、と偽っていたプロネーマの
となのっていたあのものよりも劇的な変化。
「ロイド!外からも同じような声がきこえるよ!」
コレットがはっとしたように、その手を耳元にあて、思わず叫ぶ。
同じような叫びはここだけ、ではない。
外からも同じような声がきこえてくる。
「ふはは!首枷をつけただけ、とおもったか!我らはエクスフィアを身につけている。
あの御方達がいわれるには、石を殺し、そこに力を与えることができるという!
ああ、力があふれる!ここで頭領、あなた達をころし、
我らは我らであらたな忍…いや、我らの王国をつくってみせる!」
完全に異形とかしたミズチから、くぐもったような声が発せられる。
「く。人、としての誇りをうしなったか!ミズチよ!」
そんなミズチであったそれにむかい、イガグリが声をあらげるが。
「――闇にいきるが忍の掟。なぜ我らが闇にのみいきなければならない?
あんな力のない、判断力のない国王などにつかえなければならない?
なら、我らが全てを手にしても何ら問題はないはずだ!」
そう。
あのような優柔不断なものが、国を治めている。
それがそもそも間違っているのである。
身内だから、という理由だけで、断固とした処置もとれないような輩たち。
ただ、王家の血筋だ、というだけで、あぐらをかいている彼らや、
貴族だから、という理由だけでいばりちらしている権力者達。
そんな彼らより、【自分達ほうがよほど努力している】。
にもかからず、彼らは自分達、忍を見下し、いいように利用する。
身分が自分達が上だから、そんな理由だけで。
身分、それは国がかってにうみたした差別でしかない、というのに。
そして・・・しいな。
いくら、皇家の血筋と判明したとはいえ、それもまちがっている。
たしかにかつては主君だったのかもしれない。
が、それがどうした?
今はすでにかつての国など存在していない。
存在しない国の主君の血筋のものを助ける必要などまったくもって存在しない。
それに、当人にその自覚もなければ、逆に里のものを殺した実績をももっている。
なぜ、そんな輩を自分達の頭領、にむかえなければならない?
血筋のことをしり、手のひらをかえしている他の里のものたち。
彼らの目をさまさせるためにも、自分達が声をあげるべきではないのか。
くちなわ様は、そういった。
だからこそ、彼の考えに賛同し、こうしてついてきた。
それは何もミズチ、だけではない。
不満をもっていた里の大半のものがこうして反旗を翻している。
そのことが、何よりの真実であり、今の頭領の方針が間違っている何よりの証拠。
彼らの信念はそこにあるがゆえ、そのために魔族の力をかりている。
ということに何ら不都合を感じていない。
彼らの考えからしてみれば、力を借りているどころか、
【力を利用してやっている】という上から目線の考え、なのだから。
外からきこえる、異様な鳴き声。
「…こざかしい。マナ、か」
それにこたえるかのように、ミズチ、の顔がゆがむ。
ここ、アルタミラにはアクアによって霧、という形にて水のマナの結界が施されている。
ゆえに、魔族の力を使用する彼らにとってはそれは鬼門。
いうなれば、水と油。
反物質。
あいいれないもの同士。
力がよわきものが、その力におしつぶされ、そのまま消滅してしまう。
そして…アクアはいうまでもなく。
ラタトスクが力を取り戻している以上、そこいらの魔族にまけるはずがない。
しかも、ここはアクアの本領発揮ともいえる力が振るえる海の町。
海はアクアの領域。
下級魔族風情にまけるはずもない。
「ここは、我らにまかせ、しいな、お前達は外に!」
「あいよ!いくよ!皆!」
イガグリ、そしてタイガがミズチの前にと立ちふさがる。
祖父や副頭領が心配でないはずがない。
しかし、それ以上に二人の力を信じているがゆえ、
しいなはすぐさまうなづき、ロイド達を誘導するようにと声をかける。
『きしやぁぁぁぁぁ!』
「…うそ…だろ?」
カジノから外にでるとそこにみえる光景に、ロイドがおもわず茫然としたように声をはっする。
「…まさか、これ全部…もと、人間…嘘、でしょう?」
ジーニアスもとまどわずにはいられない。
マナが、歪められ、完全にどすぐろい。
みているだけでも吐き気がするほどの、嫌悪感。
あれは、マナ、ではない。
あきらかに、異形の姿をした、マナとはあいいれないもの。
カジノからでてみれば、空をおおいつくすようなまでの異形の何かたち。
それらはすべて、種、を埋め込まれた人間達の慣れの果て。
それでも、霧がより濃い場所にはちかよれず、
無理に霧に突入しようとしたものたちは、その体をまるで燃やしすくすかのごとく、
断末魔の叫びをあげつつも、ぼろり、とその体を崩れさせているのが目にはいる。
…その、核となりし人の体すらをも巻き込んで。
「お前達は先にいけ!」
しいなに先導され、エレメンタルレールにと乗り込むロイド達。
いたるところで、忍と異形のものたちが戦っているのが目にはいるが。
ロイドやコレット、そしてリフィルといった面々がレールに乗り込んだのを確認し、
リーガルが立ちふさがるようにして、そんなことをいってくる。
そしてまた。
「エミル様。エミル様も彼らとともに」
いつのまにか、ふわふわと浮かぶことをやめたらしいマクスウェルが、
ぱっとみため、普通の老人、にみえなくもない姿をしつつも、
横にいるエミルにそんなことをいってくるが。
「しかし、お前達は…」
エミルとしては精霊たちが魔界の瘴気に狂わされるのではないか。
それが心配でたまらない。
特にマクスウェルには前例がある。
まあ、この世界ではなかったとはいえ。
同じ特性をもたせている以上、同じようなことになりかねない。
「――我らを信用してくだされ。というか、あやつらもたまっている、ですからな。ほっほっほっ」
その言葉にふとみれば、いつのまにか周囲にただよいしいくつもの影。
「え?ノーム、ウンディーネ、イフリート、シルフ?あたしは召喚してないよ!?」
しいながその姿をみて戸惑いの声をあげているが。
召喚してもいないのに、なぜに精霊達がこの場に出現しているのか。
しいなには理解不能。
「わしがよびましたじゃ。契約者殿は、彼らを安全な場所に。
ここはわれらが足止めしますしの。というかあやつらをほうってはおけませんので」
マクスウェルは四柱たる精霊を管理、治める立場。
ゆえに、彼は自在に四柱たる精霊達をいつでも呼び出すことは可能。
そういいつつも、マクスウェルがすっと手をあげるとともに。
突如としていくつもの光の球が発生し、
それらは一体一体、そのあたりにいる異形の【何か】をつつみこんでゆく。
――ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!
辺りに悲鳴が響き渡る。
光の球に呑みこまれるようにして、きえてゆく異形のものたち。
その体はぼろり、とくずれさり、始めから何もなかったかのごとく。
耳につく、悲鳴は、あきらかに人のそれと重なっており、
おもわずロイド達は息をのんでしまう。
「い、今のは…っ」
「ああなった輩は助けることはできませんのでな。
できるのは、その体ごと消滅させ、精神体を自由にさせてやるしか」
「…それって、それって…っ!」
それって、殺す方法しかないってことかよっ!
言葉にならないロイドの悲鳴。
「そんなの、まちがってる!」
ロイドにかわり、おもわずジーニアスもくってかかるが。
「間違っているも何も。すでに手遅れ、なのですじゃ。
エクスフィギュアとは異なり、あれは魔族によって姿をかえられしもの。
あのままほうっておけば、その魂もまた魔族の手下として捕らえられてしまう。
お主はそれを望むのか?永遠に縛らりつけられるのをあやつらにしいるのかの?
救う方法はただ一つ。その器となりし体をマナによって消滅させる以外、他にない」
そう、この姿になってしまえばすでに手遅れ。
一時、元の姿に戻すことができたとしても、瘴気によってぼろぼろになったマナ。
それは二度と元にもどることなく、そのまま消滅してしまう。
それは、器の死、を意味している。
「…そんなっ!ほかにも、方法が絶対に!」
それでも、ロイドは食い下がらずにはいられない。
何か、何か方法があるはず。
異形となった人々を助ける方法が、何か。
だが。
「ない」
そんなロイドの言葉をきっぱりと否定するマクスウェル。
そう、方法はない。
ああなってしまえば、もう。
きっぱりといわれ、ロイドはぎゅっと手をつよく握りしめるしかできない。
きっぱりと精霊に、しかも四大精霊の王ともいわれているマクスウェルにそういわれ。
つまり、方法は絶対にないのだ。
あの姿になったものを助けるには、いってしまえば殺すしかないのだ。
そういわれているのに等しい。
それが判ってしまったからこそ…ロイドは何ともいえない気持ちになってしまう。
――世の中は、不条理なのよ。どちらかを選ばないといけないの。
くちおしいまでにね。
以前、ロイド自身がリフィルに、マーブルのことでイセリアの村がおそわれた。
それを話したときのリフィルの台詞がロイドの脳裏にふとよぎる。
世の中はかならず、何かを選ばなくてはいけないことがある。
そして、ひとはその一つしか選べないの。
ロイドは、かつてマーブルが痛めつけられているのをみのがせず、彼女をたすけた。
その結果、ディザイアン達にと手をかけた。
そして、それがもたらした結果は。
不干渉、という契約を交わしていたイセリアの村が、契約不履行。
という理由にて、襲われた。
――全ては、ロイドの行いのせい。
そして、ロイドにかかわったがために、異形にさせられてしまったマーブル。
ロイドは知らないが、エミルがショコラを助けていなければ、
ロイドはショコラによってさらに糾弾されていた。
――おばあちゃんを殺した相手なんかに助けてほしくはない!と。
それは、エミルが前にいた時間軸での出来事。
しかしエミル、否、ラタトスクもそのとき眠っていたので、そこまでは知らない。
「――まだ、姿をかえるまえならば、何とかなったんじゃがのぉ。
こうなれば、仕方なかろうて」
そう、まだ内部にひそんでいるだけ、ならばそれだけ消してしまえばいいだけのこと。
ヘイムダールにてグラキエスがおこなったように。
グラキエスがおこなったのは、氷に閉じ込める、という手段であったが、
方法そのものはかわらない。
「「……どうして」」
そこから先はロイドも、そしてジーニアスも言葉にならない。
その思いはロイドだけでなく、魔族の特性を理解していない全てのものにおいていえること。
「こっちだ!いそげ!」
ふとみれば、いつのまにかエレメンタルレールにのりこんでいる忍がひとり。
「おろち!?」
しいながその姿をみとめ思わず叫ぶ。
「頭領、副頭領の命令だ。まずはお前達を里につれてゆく。いそげ!」
「でも、他のみんながっ!」
「あっちにはユアンもついている!それに彼らも後から里に連れ出すめどはついている!
まずは、ここを切り抜けるのが先だ!」
強い口調のおろちの言葉に、ロイドは何かをいいかえしたいのに何もいいかえせない。
「ここは、私も手伝おう。奴らを野放し、にはできぬ。
ほうっておけば、それこそ無抵抗な赤子まで奴らは核としかねん。…かつてのように、な」
マクスウェルの横にたちつつ、淡々とクラトスが上空にいる、
数多のそれらをにらみつけながら、マクスウェルにそんなことをいっているが。
「ほっほっ。さすがはかつて、ミトス達とともにこれとは異なる大規模なる魔族の軍勢。
それを退けた男の言葉よのぉ。
しかし、再び我らが王を裏切るようなまねをするならば」
「…この件に限っては、それはない」
見定めるようなマクスウェルの視線がクラトスの瞳を射抜く。
逆に、ロイドやリフィル、そしてジーニアスは驚かずにはいられない。
今、マクスウェルは、かつてクラトス達が魔族の軍勢を退けた。
そういった。
それはつまり、かつてそういうことがあった、ということに他ならない。
そんな伝承、世界にはまったくもって残ってすらいない。
だからこそ、余計にロイド達は混乱せざるを得ない。
「(あなた様のことを奴らに感づかれては大変です。ここは、どうか)」
念話にてエミルにとどくは、精霊達の声。
「…仕方ないか。アクア。ここはまかせたぞ。ルーメンの力を利用しろ」
「――はいは~い!おまかせを!」
どこからともなく、そんな声がきこえてくるが、姿はみえず。
おもわずロイドやマルタがきょろきょろと周囲をみわたすが。
「いきましょう。リフィルさん。まず、ここから出ることが先決、です」
「いくぞ!」
彼らの答えをきくまでもなく、おろちがエレメンタルレールを発進させる。
エレメンタルレールが発射し、やがて、しばらくすると。
バチバチバィイッ。
『がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』
叫び、とも断末魔、ともいえない声が、カジノの方面から響いてくる。
それは、海をもわたり、エレメンタルレールで移動している一行の耳にも届いてくる。
いくつもの光が降り注ぐ。
おそらくは、クラトスがこのマナの感覚からして、
シャイニング・バウンドでも使用したのであろう。
確かにあれならば、無属性の鎖で相手を拘束したのちに、光りで貫く術ゆえに、
空をとびしものたちにはとてつもない有効なる術。
あの技は純粋なるマナを使用してのもの、であるがゆえ魔族にもまた有効。
pixv投稿日:2014年8月18日某日(Hp編集:2018年5月6日(日)
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あとがきもどき:
晩餐会のアリシアの行動の意味:
国王陛下達ともに会場入りすることで、あつまっている有力者。
もしくは身分あるものに、姉であるプレセアの姿を印象づける、というもの。
国王とともにいるので、国王も公認なんだろうな?と
そんな人々に誤解をあたえるのが一番の目的(笑
そうすることで、嫌味とかいってくる相手の牽制をもかねている。
反対することは国王の威光にそむきますよ~、的な意味で。
リーガルはその事実にきづいてません。
というか中身がアリシアとわかってるので、始めてともに晩餐会にでれることに、
多少うかれてたりします(それでいいのかvリーガルv
さあ、ジーニアス。ファイトですv(棒読み)
アリシアのたくらみによって(笑)周囲の外堀がうめられていってるぞーvv
それでもって、感謝をふくめたお披露目会の最中に、またまた大混乱にたたき落とされる、
さて、一番の苦労人は誰なんでしょうねぇ。うふふふふ……(超人事
ちなみに、アルタミラでのイベント。
ラタトスクの騎士であった、あれです。
本来ならばヴァンガードに占領されてしまうアルタミラ、あの回です。
ラタ騎士ではマルタを所望してますが、こちらではしいなを所望してます。
敵さんがくちなわ、ですしね(汗
ちなみに、あれ?魔族のこの定義設定って、あれ?
とおもったひとは。
はい、正解です。
スレイヤ○ズのあれを参考にしております。
いや、同じ精神生命体だし(マテコラ
あれでいうなら、これでは、L様=ラタ様。です。
違うのは当事者そのものがこう、世界に普通にいる、という時点で、
しかも力とかも抑えてたりしてる制約つけてたり、という点くらい、ですかねぇ(苦笑
その気になれば、あっさりと何でもできますからね。
うちのラタ様設定は……
ラタ様は一人というか、あるいみでこのラタ様もラタ様本体の分霊体の一つ。
みたいな感じですからねぇ。
センチュリオン達にしても然り
(分霊体に忠義にもそれぞれついていってる同じく分霊として)
まあ、それに触れることはまずない!ですけどね。
こっちはこっちで、ともかく、里と、あと禁書のとっかかりをやりきらねば!
ちなみに、文章でもふれてますが、
古代勇者組(笑)は、アルタミラにのこってますよ~v
でも、禁書のところにロイドがむかった(マテ)のをしり、
クラトスとユアンがそっちに合流しますけど。
ミトスはタバサ&タイガたちにつかまってるので身動きできませんv
あるいみ、エミルからしてみれば、ナイス判断!といいたくなる決断です(笑←こらこら
いや、ミトス、火薬類とかの知識にもたけてる、と絶対におもうんですよ。
伊達に長くクルシスで君臨してもなければ、
勇者、と呼ばれていたわけでもない、とおもいますしね。
精霊研究とかにもかかわってた、ということは、他の研究その他。
それらにも絶対にかかわってるだろうし。ミトス、頭いいし・・・
爆弾の解体には、知識あるものは必要不可欠、なのですよ。ええ。
さらり、としかその部分にはふれる予定はないですが(苦笑
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けんだま:シャドウダンサー(入手場所/闇の神殿/装備者:ジーニアス)
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