まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

pivixさんに投稿していた話の区切りとは変えてあります。容量的に……

さてさて、前回、ついにラタ様、リフィルにもばれました。
違う意味合いでv
ゼロスは精霊ラタトスク=エミルともはや認識してるんですけどね。
リフィルは語り部の台詞から、エミル=ディセンダー
そう確信しちゃってます。いや、まちがってない。
ないんですけどね。
ディセンダー=精霊。とはまさかおもってもいないのですよv
ついでに、アステルもその説明きいてるので、エミルに興味津々です。
でも、それを直接にたずねないのは、きえる、という言葉をきいているがゆえ。
あと、ついにウィノナの説明が語り部さんからも語られました。
前世の記憶をとりもどしている。
ここが鍵、となってます。
ええ。切実に。ものすごく。
前、ウィノナがあらわれたときにもいいましたけど、ね。
ともあれ、ようやくミトス達と合流、ついでにサブイベ突入、です。
アルタミラでのあるいみ休息?ギャグ?さんをしばしお楽しみくださいな。
嵐の前の静けさイベント……
あと、遊園地の入口あたり。
普通の、とある某巨大テーマバーク。
そんな形のイメージで変更してあります。
ゲームのあれは、ちょっと簡単にはいれすぎるんじゃないかな?
とおもったがゆえの変更です。
いや、安全面からどうなのよ、それ。
とおもったので。さすがにあっさりと入れるのは…ねぇ(苦笑
パスもってないと乗り物にはのれないけど、施設にははいれるってどうよw
ありえないから。うん。
そういったテーマパークとかに慣れている身、としましてはね。
日本人なら誰でもあれはおもったはず。
でもまあ、ゲームだから、そこまで詳しく考えた人もまずいないでしょうけどね。
…でもさ、スタオー3とかはきちんとゲートとかあったよな?
テーマパーク施設でも……

か、書き上げると宣言したが、ここまで脳内話がまともにうちこみしたら長かったなんて。
そういや、延々と脳内反復してたらかるーく一時間はかかるなぁ。これ。
と改めて戦慄しております・・・あはは…

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重なり合う協奏曲~ひと時の安らぎ~

海の楽園、アルタミラ。
あいかわらず、というべきか。
砂浜であるビーチのほうからにぎやかな声が街の入口付近にまできこえてくる。
街の入口にはしっかりと係り員の姿がみえる。
しかし、それ以上に。
「・・・もどったか」
「クラトス!?」
なぜに街の入口で待ち構えているようなクラトスがいるのであろうか。
そちらのほうがロイド達からしてみれば不思議でたまらない。
「――ユアンからの報告がある」
クラトスからしてみれば、さんざん念のためにユミルの森の水の中を探してみたが、
肝心なる封魔の石はみつからなかった。
ユアンも一度、デリス・カーラーンにもどり、念のために探させはしたらしいが。
そのときに、ユアンが妙なことをいっていた。
なぜか天使達が自我を取り戻しかけているように感じる、と。
これも大いなる実りのマナが涸渇しかけている影響ではないのか、と。
もう、猶予はない、のかもしれない。
このマナの異様…本来ならば衰退世界と繁栄世界。
少ないマナを搾取しあい、取り合う関係であったはずの二つの世界。
その二つの世界のマナが同じように安定している。
ありえないことがおこりゆいている。
ユアンのいうように、種子の力が枯れる寸前の影響なのか。
それとも。
目覚めているセンチュリオン達の影響なのか。
しかしいくらセンチュリオン達が目覚めているとはいえ、
大樹がない状態でマナをどうにかできるもの、なのだろうか。
いや、もしかしたらかの精霊も…だとすれば。
大樹の精霊だ、というあのラタトスクならば何とかできる、のかもしれない。
しかし沈黙を守っているのがクラトスからしてみれば焦ってしまう。
早く自分がどうすればいいのか決めるように、とせかされているようで。
「それと、例のウィノナという女性だが、意識を取り戻したそうだ。
  しかしまだ絶対安静、らしいがな。どうもまだ完全に自我を取り戻していないらしい」
時折、不思議なことをいっている、という。
あの女性は。
ゆえに情緒不安定になっているのかもしれない、とはセバスチャンの談。
クラトスは知らない。
過去と現在、そして夢でみた未来の様子。
それらが今のところごっちゃになり、彼女の思考を混乱させている、ということを。
ミトスの声をききつつも、助けられた彼女は、
あれがきっかけとなり、過去の記憶を完全にと取り戻しかけている。
その事実をクラトスは知らない。
そして、彼女こそ、かつてミトスとマーテルを命がけで助けたエルフの女性。
その【ウィノナ・ピックフォード】の生まれ変わりである、ということを。
生前の容姿のまま、この時代に再び生をうけている、というその事実を。
クラトスがミトス達にあったとき、すでに彼女はこの世の人ではなかった。
だからこそクラトスは知らない。
そしてユアンも。
彼女のことを見知っていたのはミトスとマーテルのみ。
過去の記憶を一気にとりもどし、それでも今の自分の記憶もある。
いつものこと、とはいえ覚醒時は記憶が混乱してしまうがゆえに、
第三者からみれば情緒不安定、それ以外の何者にもみえない。
「神子の治療道具はすでにそろった、のだな?もどってきた、ということは」
「あ。ああ。って、あんたは始めからしってたなら何で教えてくれなかったんだよ!」
そんなクラトスにむかい、ロイドがかっとなりつつも思わず叫ぶ。
「?何をいう。私は以前いったはずだ。
  死にたくなければ、その不完全な要の紋を取り外せ、とな。
  その忠告を守らなかったのは。ロイド。お前達だろう?」
「いってないだろ!」
「そうだったか?いや、いった…いや、…いわなかったか?…まあいい」
『よくないっ!』
もののみごとにロイド、ジーニアス、マルタ、しいなの声が同時に重なる。
クラトスからしてみればいったつもり、であったのだが。
どうやら言い忘れていたことにいまさらながらに気付き、それですまそうとしていたりする。
本来ならば、あのとき。
ロイド達がサイバックにてコレットに要の紋をとりつけようとしたあのとき。
それをいうつもりだったのだが。
エミルの言葉にすっかり心を惑わされそれをいうことを失念していた。
エミルが呟いた、あのミトスの口癖のあの台詞。
あれをきき、クラトスはそのことをいい忘れていたといってもよい。
そのことにきづくが、すでにそれは過ぎ去ったこと。
ゆえにまあ仕方がないか、で自らの中では気持ちに整理をつけたのだが、
どうやらそれはクラトスのみに通用することで、
いきなり聞いてもいないことをいわれたロイド達からしてみれば、納得できるものではない。
「…それと、お前達の仲間だ、というミトスという少年なのだが…」
「ミトス?ミトスがどうかしたの?!」
はっとしたような表情をうかべ、ジーニアスがぎゅっとその胸を無意識にとつかむ。
そこにはあのとき拾ったミトスの笛がいれられている。
「何でもタバサ殿やリリーナ殿がいうには。
  このビーチで冷たくなりかけていたのを保護されたらしい。
  いくら海とはいえ、濡れた体で木陰で休んでいたがゆえに体が冷えてしまったようだ、とな。
  タチの悪い風邪が最近、流行りだしていることもあり、安静をとらせているらしい」
どうやって眠らせたのかがものすごくきになったのでといかければ、
もしものときのために、ここって興奮とかして寝られなくなる人がいるらしいから、
これわたしときますね。
といって、エミルから手渡された安眠用のポプリ。
中にはエミル曰くラベンダーとエミルがブレンドしたいくつかのハーブがはいっている。
というそれ。
それをミトスの枕元においたところ、ミトスはぐっすりと眠った、とのことらしいが。
それこそありえない。
ミトスは確実に自らの睡眠機能などをそれこそクラトスよりも上手にコントロールができた。
それはおそらく、ミトスが精霊達と契約をしているからなのでは。
というのがユアンの認識であったが。
自分達がつけているハイエクスフィアも元は微精霊の集合体。
ならば微精霊達の主ともいえる精霊と契約しているミトスだからこそ、
石の力をうまくつかいこなせているのではないか、と。
もしくは、ミトスとマーテルがつかっている石が、
かの精霊から直接に預かったという違いのせいか、それはわからないがな、と。
かつてユアンはそういっていた。
なのに、あのミトスですら眠りにつかせたというエミルから手渡されたそれ。
そしてそれは、クラトスもシルヴァラントにおける再生の旅の中で身にしみた。
味覚を閉じている自分に味覚を感じさせ、あろうことか眠らされたことすらもあった。
そんなことが普通の人間にできるはずがない。
できるとすれば、すくなからずマナをどうにかできるものでなければ。
そして、エミルの傍にはマナを司るセンチュリオンがいる。
ユアンがいっていた。
あのとき現れたものは、まちがいなくセンチュリオンのマナをもっていた。と。
ならば、これまで幾度か現れていたものたちもまた、センチュリオン、という可能性が高い。
パズルのピースがはまるかのごとく。
ならば、なぜ。
なぜ精霊を裏切っているとわかっているであろうに、あのミトスとともにいる?
それがクラトスにはわからない。
そして、ロイド達とどうして共に行動しているのか、も。
たしかにきっかけは、シルヴァラントの神子達の言葉、であっただろう。
でも、ここまで旅についてきている意味がいまだにクラトスにはわからない。
何かをたくらんでいるのか。
それとも。
それに何よりもきになるのは、ゼロスの妹の存在。
彼女はたしか、ものすごく体が弱かったはず。
それこそ、あの子は成人まで生きられない、とミトスですらいっていた。
そこまでマナが濃いゆえに、体がもちそうにない、と。
あの子は姉様のマナに似てはいるけどあのテセアラの神子ほど融和性をもっていなかったね。
と。
テセアラの神子のいい分、自分のかわりにセレスを神子に。
それを許可したのは、彼女が長くいきられない。
そうわかっていたからこそ、ミトスは許可をだした。
一時的にしろ彼女を神子にしても、どちらにしろ。
完全にほぼ天使化しかけているゼロスをまた神子にもどしてしまえばいい、と。
そしてゼロスに子をなさせれば、もしシルヴァラントの神子が失敗したとしても、
それはコレットよりもより融和性の高い確率をもった器ができるだろう、とも。
それでも、そうならない可能性もある。
だからこそ、コレットの護衛をかねてクラトスをデリス・カーラーンからおろした。
あの日、あのとき。
クラトスはそう、ミトスから聞かされている。
シルヴァラントの神子を護衛のために、地上におりて、とたのまれたあのときに。
「ミトスは、どこに?」
ジーニアスの瞳がゆらいでいる。
「ブライアン公爵殿の口添えで彼らはスイートルームの一室にとまっている。
  本来ならば男女がともに過ごすというのはほめられたものではないが……」
しかし、タバサが一人にするのは心配です。といいきり。
実際に、別の部屋、スイートルームでなくてもいい。
といって一人別の部屋にいたミトスがほぼ仮死状態に近しい形でみつかったのをうけ、
リリーナにしろタバサにしろミトスにたいして過保護全開になっていたりする。
もっとも、その仮死状態はグラキエスによる力の影響。
ミトスがあのまま一人でつっぱしらないがために、
主の命をうけ、ちょっぴしグラキエスがミトスをこおりづけにしたにすぎない。
そもそもミトスが身につけている石は、かつてラタトスクが授けたもの。
ゆえに、石を凍結してしまえば、ミトスの精神ごと凍結させることが可能。
つまり、強制的に眠らせることなどあるいみたやすい。


海の楽園と呼ばれているこの地、アルタミラでは、
一時はこのあたりの海水までことごとく枯れていたことすらあったらしいという。
まあそれらもアクアの影響であったのだろうが。
そういえば、あのコは自力で目覚めてきていたな。
そんなことをきき、ふと思い出す。
おそらくは、世界の水のマナを片っ端からあつめて自力で強制的に目覚めたのであろう。
まあ、姿を完全に変えて、しかも気配すら隠していた自分に気付いたアクアの勘。
それには感心せざるを得ないところがあるにはあるが。
何しろイグニス達ですら気づかなかったというのに。
よくもまあ、すぐさまに気付いたものである。
エミルがそんなことを思っているその前においては、
「そう。ならば、ミトスの状態は問題はない、のね?」
「ええ。かなり体が濡れていたから、もしかしたら波にさらわれたのではないか。
  という意見もあるんですよね。目撃者がいないからわかりませんけど」
もしかしたら、自力でどうにかのがれ、木陰にまで移動して疲れ果てて気絶したのかもしれない。
それがリリーナの予測。
まったくもって当て外れもいいところの予測ではあるが、
真実を知らない以上、そう思われても不思議ではない。
何しろグラキエスがミトスを横にしていたのは、ビーチのとある一角。
一通りはたしかにあるものの、ちょっとした死角になっており、
注意深くみてみなければわからない位置。
「それにしても、これがフリーパス?」
クラトスからきかされたのは、あのくちなわ、という人物がフラノールにむかった、ということ。
ユアンもその場にいき情報収集をしている、という。
どうやらいまだ、彼らはメルトキオ付近の異変は知らないらしい。
リーガルはタバサとともに、研究所があるという場所にと出向いていっている。
本当はロイドも一緒にいきたかったが、本来は立ち入り禁止、の場所らしく。
タバサを同行できるのも、タバサが機械人形であるがゆえ。
ここは嘘も方便とばかりに、リーガルが性能を確かめるために利用したい。
といってあるいみ嘘でもなく真実でもないことをいい、許可をもぎとったらしい。
そういわれてしまえば、研究院というか会社のものたちは、
自動人形を試験的に開発したのか、とおもってしまったほど。
実際にタバサが機械だというのをいい、さらには首をはずす。
という行為をしてしまったがゆえに納得せざるをえなかったのだが。
というか、なぜに首の取り外しができるようにしたのだろうか。
あのアルテスタは。
おそらくはメンテナンスをするときに便利だから、という理由なのだろうが。
…よくもまあ、あのミトスが許可をしたとつくづくおもう。
マーテルの姿をしたものが、首をかぱっとはずしたりする様は、
あらゆる意味でミトス達に衝撃をあたえそうな気がするのに。
いろいろな意味で。
「えっと。迷惑をかけてすいません」
とりあえず、気がついたというミトスを交えての話しあい。
禁書の話しがでたときに、ミトスが思わずぎゅっと手をつよく握りしめたのにきづいたは、
この場においてはエミルとゼロスのみ。
クラトスは本当はミトスの前では話したくなかったのだが、
彼も起きだしてしまい、共にいる以上、ある意味仕方ないといえば仕方なきこと。
ちらり、とクラトスにミトスが視線をむけたのをみるに、
あとでクラトスと話しがある、ということなのだろう。
…ミトスのやつ、また自らの魂をわけてでもあれを封印する、とかいいださなければいいが。
それは懸念。
それでなくてもあの場にミトスの魂は四分の一も削り封じているのである。
それはユアン、そしてクラトスにおいてもいえること。
彼らは記憶、だけでなく自らの魂を削り、かの書物を封印することを選んだ。
散々反対した、のだが。
ミトスの決意、そしてミトスに付随するようにクラトス達の意見もかわらなかった。
無理やりに切り離された魂を守るためにもあたえたデリス・エンブレム。
ミトスが所有している感覚はあれど、しかし常に身につけている気配がない。
クラトスにしろユアンにしても然り。
あれほど常に身につけているように、と念をおしていた、というのに。
「じゃあ、皆はその書物に封じられている魔王の禁書?とかいうのをどうにかしにいくの?」
ミトスの問いかけに思わず顔をみあわせるロイド達。
ちなみに今現在、一行がいるのはホテルの中にある食堂の一角。
ざわざわとした人々の楽しそうな会話がところどころからきこえてくる。
リーガルとタバサ以外の全員はこの場にそろっており、
ゆえに十四人、というあるいみ団体といえる人数ではあるが。
この地、アルタミラはそういった団体旅行、すなわち旅業者たちもうけいれているがゆえ、
席がそう簡単に足りなくなる、ということはありえない。
ミトスからしてみれば、クラトスにどういうことなのかといかけたい。
そもそも、クラトスを監視してたプロネーマからの報告で、例の品に異常があった、としったほど。
プロネーマ曰く、ユアンがその場にいたらしいが。
まあ、ユアンからは何となく禁書の動きがあやしいかもしれないので、
一応部下をかの地に派遣しておくのを許可してもらおう。
などという報告がこの二十年ばかり前にあったので、それはわかる。
もしかしたら、またあのときのように封印を強化しなければいけないかどうか。
それを確認する必要がある、といわれればミトスとて断ることはできなかった。
あれからあれに関しての報告はないからすっかり失念していたが。
どうやら愚かなる人間はあれを利用しようとするのを諦めていなかった。
ということなのだろう。
そしてユアンがそれにきづき、まずは視察にでむいたかそのあたり。
クラトスまでも巻き込んだのはたまたま近くにいたからか。
それともクラトスもまた当事者だからか。
…まあ、一番の理由はクラトスが最も、エルフの里でうけがいいから、であろう。
自分達ハーフエルフにエルフの里のものはあまりいい顔をむけてこない。
特例、としてあの地にのみはいるのが許されている、という程度。
クラトスのみは自由に行き来が許されていることからも、それがうかがえる。
それは長老の決定、らしいが。
かつてクラトスがかの地にでむいたときにかの族長がまだ子供であったころ、
助けたその名残ともいえる。
「ほうってはおけないわ」
「でも、古代文書ではヒトは魔族にはかなわない、とありますよ?
  逆にとりこまれて力にされるのがオチかと。
  ここは、そのクラトスさんとかユアンさん?でしたか?彼らにまかせては……」
ミトスの台詞は案に、自分達がかつてしたことは自分達の手で。
そういっているに過ぎない。
そしてその言葉の意味を正確に捕らえているのは、この場においてはクラトスとエミルのみ。
「ダメだ!あんなはほうっておけない!
  ミトスはあの場にいなかっただろうけど。
  あいつら…生きているのか、死んでいるのかもわからなかったけど。
  何のツミもないひとを操ってっ!」
生気のない瞳で攻撃をうけた。
たっているのに、歩いているのに。
それでも、魔族にこうして操られたものを救う方法はなきに等しい。
そうクラトスにいわれ、クラトスは問答無用でジャッジメントを放とうとしていた。
無きに等しい、ということは、それでも救える方法が多少なりともある、ということ。
それを試さずに攻撃しようとしたクラトスにいまだにロイドは深い憤りを覚えている。
もっとも、あのとき、グラキエスが彼らをこおりづけにしなければ、
エミルが呆れたのち、その力を少しばかり解放してしまっていたであろうが。
…その結果、ユミルの森やトレントの森が盛大に成長する。
という副作用をともなって、エルフの里が森に埋もれてしまうようなことになっていた。
そんな可能性もなくはないのだが。
「じゃあ。ロイドは、何か対策があってそんなこといってるの?」
「そ、それは、けど、ほっとけない!」
エミルの淡々とした台詞にロイドは一瞬言葉につまらせるが、
しかし、声をたからかに言い放つ。
「で、ロイドについてきた人達をもまきこむの?
  瘴気をロイド、なめてない?あれはあっさりと大地を殺すものなんだよ?
  ヒトの体なんてものも」
あれらの体が保たれていたのはまだ完全ではなかったが。
そしてあれがあの地であったがゆえ。
マナが濃く、ゆえに瘴気もほとんど中和されていた。
「僕、昔、お伽噺できいたことがあります。
  瘴気に侵された大地は生命全てが死に絶え、草木も一つものこらないって。
  そこに入り込んだものすらもの体のマナを全て穢し、
  そして入り込んだものを糧として、そのものの魂すらをものみこんで、
  入り込んだものごと永遠に縛り付けるものだって」
お伽噺、ではなく、それはミトスが実際にかつて経験したこと。
ゆえに、それをおもいだし、ミトスが顔をふせつつも、ぽつり、とつぶやく。
そして、当時ほとんどがエクスフィアを利用していた人々は、いともあっさりと瘴気にのみこまれた。
穢された微精霊達はあっというまに魔族達の餌食となりはてていた。
それをエミル、そしてミトスも知っている。
「ロイドは、もしもリフィルさんやジーニアス達。
  彼らをつれていって、他の皆が瘴気にのまれ、
  敵対してきても、何とかできるっていいきれるの?守りきれるの?無理でしょ?」
だからこそ、あのとき、ミトス達は自分達のみで行動をする、といい、
そしてそれを成し遂げた。
他のものをつれていけばまちがいなく巻き込まれてしまうから、という理由で。
「…魔族は、時としてその心に影、すなわち闇の部分をもつものを利用する。
  その声に一時でも耳をかたむけてしまえば、それこそ問答無用で操り人形と化してしまう。
  お前達もきいたはずだ。あのとき、あの場所で。
  魔族がもたらす、甘きそれこそ悪魔のささやき、というものをな」
そこまでいってクラトスも苦笑せざるをえない。
あのときのユアンのいい分はユアンらしい、とはおもった。
どうやらユアンにはマーテルの声できこえてきたらしいが。
ユアンにマーテルの声での囁きはある意味では間違っている。
下手をすれば彼らが苦手とする延々とした惚れ気。
すなわち、生なる気にといってもよいそれをひたすらにユアンは語るであろう。
だからあのとき、ユアンは甘き囁きをはねのけられた。
エミルの言葉につづき、クラトスも同意せざるをえない。
ロイドがいいたいことはわかる。
わかるが、それは自殺行為の何ものでもない、と。
「ヒトの欲により、力を取り戻しかけている魔王の禁書。
  今、ユアンが彼の部下を総動員して、また自らもうごき、
  それをなしえられる品を探しているはずだ。
  あと、かれがどこにいって、何をしようしているかも、な。
  ユアンはあれでもここ、テセアラの管制官。
  すなわち、テセアラのことはユアンにまかせておいて問題はないだろう。
  問題は…もし、あのものがシルヴァラントにいった場合、
  マナが疲弊しているかの地では、あっさりと人々は、
  魔族のささやきに呑みこまれてしまうだろうがな」
それこそ、数年前。
ハイマの地にて、とある少女が魔族グエンドの声に耳をかたむけてしまったように。
「じゃあ、また誰かが犠牲になるかもしれないっていうのにほうっておけっていうのかよ!」
そんなの間違っている。
誰かがどこかで犠牲になっているかもしれない。
というのに。
自分達が危険だからほうっておく、というのは。
ロイドがガタン、と席をたちあがりつつ叫べば、
「おちつきなさい。ロイド。――あなたの悪い癖よ」
そんなロイドにぴしゃり、といいきるリフィル。
「たしかにあなたのいい分は人、として正しいわ。
  でも、あなたのそのいい分は、時として危険を呼びこむこともあるの。
  今、私たちがしなければけないことは、何?」
「でも、先生!」
「ロイド。問題を履き違えないで。私たちがいますべきこと。
  それは、コレットをまず治療して、そして、精霊達と契約すること、違って?」
「そうそう。どこにもっていかれたかわからないものを心配するより。
  まずはやるべきことをってな。ロイドくん?
  ……目先のことばかりにとらわれていたら、守れるものすら守れなくなるぜ?」
リフィルの言葉につづくように、ゼロスがおちゃらけていったのち、
そしてすぐさま真剣な表情をうかべ、そんなロイドにと言い放つ。
「ロイド。あなたのそのまっすぐさはたしかにいいこと、かもしれないわ。
  けど、よく考えて行動なさい。
  あなたの言葉によって、誰かが行動し、時として命をおとすことにもなりえるのよ?
  …あなたは、それを身にしみてわかっていたのではないかしら?」
「……それは……」
マーブルを人間牧場で助けたのはヒトとして間違っていない。
そうおもっていた。
そのために人間牧場の見張りを倒したことも。
でも、それは結果として村の掟にそむくことで、
ロイドがその行動をおこしたことにより、村は襲撃をうけ、そしてかなりの村人が死んだ。
間違いなくロイド達があの日、マーブルを助けようとしなければ、
彼女は強制的にマナを狂わされることもなく、まだ牧場で、
普通に苗床、として暮らしていたかもしれない。
それは、あくまでももしも、の話し。
そして、その可能性をロイドはクラトスにすこしばかり泣き言をいったときに、
そういう可能性もあったかもしれないな、といわれている。
言われているからこそ、ロイドは何もいえなくなる。
エミルはしるよしもないのだが。
今回はエミルがショコラを助けていたがゆえ、
ロイドがショコラとわだかまりを残すことはなかった。
本来ならば、あの場、あの時、あの場所で。
マグニスがショコラに、ロイドがマーブルを殺したのだ。
と本来ならばいうべきであったであろう歴史。
それをエミルは意図せずに変えている。
それは連れ浚われたショコラをすぐに助けだしたことによる些細な変化。
そして、エミルはそういったことがかつての時間軸であったことを知らない。
無意識のうちに変えられた出来事。
――おばあちゃんを殺した相手に助けてほしくなんてない!
助けようとした相手、すなわちショコラにロイドはそのように本来ならば叫ばれていた。
そしてそれは今の世界においてはおこっては、いない。
「俺には、何もできない…のかよ」
ロイドが力なく、そのまま椅子にすわりなおし、ぎゅっと手を握り締める。
「以前にもいったが、中途半端な善意は悲劇をうむだけだ」
「何だと!」
淡々というクラトスにおもわずロイドがきっとにらみつける。
「中途半端な善意は悲劇をうむだけだ、といったのだ。
  そして正しいことをしようとおもうのならば、それに伴う力が必要なのだ。
  お前にはその覚悟、その力があるのか?」
その点、ミトスには覚悟があった、とおもう。
だからこそ、クラトスはミトスに託していた。
希望を。
そしてミトスはやりとげた。
誰もが無理とおもっていた戦争の終結、そんな大事業を。
なのに、今のミトスは、ヒトの命を命ともおもわずに、
かつてのミトスをしっているからこそ、そしてマーテルの言葉があるからこそ。
クラトスは選べない。
いつか、ミトスが目をさましてくれるのでは。
という甘い期待のまま、ずっと、これまでも。
「ああ、もう、くらぁい!どこにいったかわからない本のことはともかく。
  私たちがいくらここで言い合って手もどうにもならないんだし」
「たしかにそうだね。一応、コトがコトだから、
  あたしもツテをつうじて里に伝言はとばしはしたけどさ」
コトがコト。
ゆえに、しいなはみずほの里のものにみわかる暗号文で、伝書鳩を飛ばしている。
それは精霊術の応用の、鳩を呼び出す召喚陣で、運んでくれる鳩を呼び出す。
という形で。
「ま。ここは、一度、何もかもわすれ、頭をからっぽにしたほうがいい案はでるんじゃねえのか?
  ちょうどいいことに、リーガルのやつからもらったもんがあることだしな。
  遊園地でぱ~と遊んで体もつかれて精神も体もリフレッシュすれば。
  もしかしていい案がうかぶかもしれねえぜ?」
何やら場の空気が暗くなりかけだしたのを見かねた、のであろう。
パンパンとかるく手をたたきつつも、ゼロスが立ち上がり、
全員をざっとみわたしつつも、かるくウィンク。
「そうね。なら、ミトス、あなたも一緒にいってきなさいな」
「え?リリーナ、さん?」
「あなたもおそらく遊具とかであそんだことはないのでしょう?
  せっかくなのだもの。ジーニアス達と遊んでいらっしゃい。
  ここは、あきらかにあなたたちハーフエルフを差別するようなものはいないはずだから」
カンパニーの方針で、それは禁止されている。
ここにくるものは全てひとしく、お客様。
そういう認識が社員にも徹底されている。
まあ観光客の中にはそういう感情をもつものもいるであろうが。
わざわざ騒ぎをおこして、レザレノ・カンパニーに、
ひいては公爵家に目をつけられたいような奇特なものはまずいない。
カンパニーの会長、すなわち最高権力者が、ブライアン公爵である、ということは。
ほとんどのものがしっている事実。
まあさすがに小さな子供とかはそこまで詳しくないにしろ。
まさかのまさかのリリーナの言葉にミトスはとまどわずにはいられない。
それでなくても、目がさめてからこのかた、
必ずだれかが傍にいるがゆえに、抜け出そうにも抜け出せない。
まさか、トイレにいくふりをして消えるわけにもいかないだろう。
何しろ入口まで心配してついてこられる徹底ぶり、だったのだから。


ホテルをでて、そしてエレメンタルレール乗り場へ。
かつてこの地にきたときは、この乗り場につづく橋で、
ロイド達はある女性と出会い、そこでしいながとある指輪を拾うことにより、
二人の男女にかかることになりはしたが。
あの二人はリーガルの口添えもあり、レザレノ社で就職、がきまったらしい。
彼女のほうもまた、彼の屋敷で手がたりないゆえに、即採用が決まった、とのことらしいが。
一番の理由は、主であるリーガルが連れてきたから、という理由が一番なのであろう。
そして、ある種の同情。
子爵家に恋人を取り戻そう乗り込んでいった、というヨシュアの行動は、
あるいみで、会社や屋敷につとめる女性たちの心をがっちりとつかんだといってもよい。
その辺りの感覚がいまだによくエミルには理解不能、だが。
「これはゼロス様。さすが海の楽園、アルタミラといわれるところ。
  始めてきたけど、いいところですね。ゼロス様も慰安、ですか?」
「いや。ちょっくらレザレノに用事があってな。
  俺様はこいつらを案内して今から遊園地なのよ」
「うわぁ。ゼロス様も遊園地なの?あのね。私もなんだよ!」
「こら!メイ!申し訳ありません。ゼロス様」
ふとみれば、乗り場でまっているであろうとある家族とゼロスがそんな会話をしているのがみてとれる。
ゼロスをしっているものがことごとくゼロスに頭をさげては声をかけ、
そんな一人一人にゼロスは丁寧に声をかけては対応している様子がみてとれる。
「ああいうところはあいつ、マメなんだよねぇ。
  だから民からも人気が高いんだけどね。…あんなのでも」
そんなゼロスの様子をみて苦笑まじりにしいながこそっと耳打ちするように説明してくるが。
「ゼロスさんはいい人だとおもいますよ?」
それこそ、妹のためならば命をかける、とそういいきれるほどに。
今、あのような純粋な願いをもつものは滅多といないであろう。
それこそかつてのミトスとゼロスは通じているところがある。
まあ、ミトスは命なんか惜しくはないよ、死んだらおわりだから。
といっていた…これは散々マーテルが言い聞かせたがゆえ、らしいが。
まあ、マーテルもウィノナにいわれていたから、というのがあったのだが。
そこまでエミルは詳しくはない。
ともかく、そういわれていたがゆえに、命を粗末にするようなことはしなかったのだが。
エレメンタルレール乗り場につづく簡易エレベーターを降りていき、そこから乗り場へ。
エレメンタルレールは水の力を利用して運航されている船の一種。
前方から吸い込んだ水を後半からより強く噴射することにより運航する船。
それはかつてこの地にやってきたときにロイド達は説明をうけているが、
ロイドはそんな仕組みなどはすでに綺麗さっぱり忘れてしまっていたりする。
つまりは、あるいみで環境面にもやさしいエコ対策の乗り物、といってよい。
作り的にはさほどエレメンタルカーゴとかわりがない。
エレメンタルカーゴとよばれし品は、通常、空気中にと漂う地のマナを取り込み、
それを大地に吹きだすことによって反発の力を利用して推進力にしている。
この乗り物はこの場に満ちる水のマナを利用し、それを噴射することにより、
推進力にしているという違いはあれど。
もっとも、エレメンタルカーゴが誕生した理由の一つに、
地上にもこのようにレールをつくれないか、という案から、
魔物の関係もあり挫折して、ならば機体そのものに噴射機能をもたせればいいのではないか。
という理由で開発されたのが、エレメンタルカーゴ。
通称、エレカー、といわれし品。
遊園地行き、とかかれている看板のものにのりこめば、
どうやらざっと人数をみただけで、一つの機体が用意されたらしい。
ちなみにこちらはどうやら団体専用、の乗り場であるらしく、
家族連れ、もしくは旅業のものなのであろう姿がちらほらとみえている。
今現在いるのは十四人。
ちなみに、エレメンタルレールの総定員数は十五人。
運転手は除くとしても、定員いっぱい。
前回は二手にわかれてのりこみはしたが、
神子ゼロスの姿をもみとめ、どうやら混乱をさけるために、
一機をほぼ貸し切り状態にすることを決定したらしく、まさかの貸し切りにての移動。
「エレメンタルレール、発車いたしま~す。
   本日は、御乗車ありがとうございます。
   当エレメンタルレールはこれより、皆さまを夢の楽園。
   遊園地エリアにご案内いたしま~す。
   子供から大人まで、だれもが楽しめる娯楽施設をぜひともご堪能ください」
エレメンタルレールを運転する係りのものが、向きをかえ、
出発の前向上を述べたのちにと、そのまま運転席にと腰をおろす。
そして、全員が乗り込み、ゆっくりと水面上をすべりだしてゆく。


「うお!?もしかして、あれ、空からみた…」
「うわぁ。地上からみたら、おっきいねぇ」
水の上を統べるように進んでゆくことしばし。
やがて、ロイドが思わずみえてきた巨大観覧車に目をみひらき何やら叫んでいるが。
目の前に突如としてはいってきたは、空からでも視覚できた巨大な観覧車。
そして、いくつも響いてくる悲鳴のような、それでいて、ご~というような音。
ときおり、バシャァン!というような盛大な音すらもきこえてくる。
そのたびに、きゃ~きゃ~という、どこか黄色い、
それでいて恐怖感がまったく感じられない叫びのようなものすらも。
ロイドにつづき、コレットも感心したようにいえば。
「そうか。コレットちゃんたちはこんな施設、あれ、なんだよなぁ」
ゼロスが何ともいえない表情で、コレット、ロイド、ジーニアス、そしてマルタをみやる。
彼らはこういった場をみたこともないはずだ。
まあ、リフィル様は十一までここで過ごしていたから、
何らかの形で目撃していてもおかしくないから省くとして。
そんなことをおもいつつ。
そうこうしつつも、やがてレールの発着場にとたどりつき、
そこから陸続きになっている遊園地へは一本道であるがゆえに迷いようがない。
行く手にはいるまで、様々な屋台、そしてお店らしきものがみてとれる。
ビーチバラソルを構え、その下にて売られている品々は、
ロイド達シルヴァラント人にとっては珍しいものばかりといってよい。
何しろロイド達が住んでいたイセリアなどでは結構貴重品といわれていた、ちょっとした果物など。
それらがかなり安く売られているのもみてとれる。
ついでにいえば、ココナツジュース!とかかれている、ココナツの絵がかかれている看板も。
どうやらココナツの実にそのまま穴をあけ、
それにストローをつっこみ、中の汁をのむ形式のものから、
普通に加工してジュース状にしてうっているもの。
また、中の果肉を冷やして売っているもの…どうみても冷やしているのは、
あきらかにハーフエルフだとわかるほどに、魔術でそれらを冷やしているが。
ここでは、ハーフエルフだからといって差別はされない。
むしろ、こういった生の生鮮品などを冷気で保管するのに重宝されているといってよい。
まあ、その重宝理由が、暖房対策であったり、冷蔵庫扱いであったり、
とちょっと何だかな、と思わないところはないにしても。
ここには、ハーフエルフ法というものが適応されていない。
かつて、リーガルが幼きころ、その法律が適応されたとき、
我が街の生産をストップさせるつもりなのか!それは損失以外でもない!
とまだ若いながらにもかみついて、あるいみで特例地帯、と免除された。
という経緯があったりするのだが。
ゆえに、テセアラのものはそれを知っているものは、ここ、アルタミラをめざす。
うまくすればここにて職がえられ、そして生活することができるがゆえに。
リフィルの両親がそれをしなかったのは、
国が率先してリフィルをほしがっているがゆえ、
ここ、アルタミラでも逃れることはできないだろう、とふんだがゆえ。
何しろアルタミラの実質的支配者は公爵家。
つまりは国王につづく権力者。
あっさりとリフィルを国に引き渡すのが目にみえていた。
当人の人柄をしらないがゆえの判断。
まあそれは仕方ないであろう。
そして、たとえ公爵そのものが反対しても、国がつよくいえば、
いずれは、という思いから、定住の地もなくさまよっていた。
そして結果としてジーニアスとリフィルをシルヴァラントに逃した。
子供達だけ、で。
「うわ!?何だ!?ここ、ここからみえるだけでなんか変なのりものがいっぱいあるぞ!?」
入口は門、すなわちゲートのようになっており、いくつかの柵がほどこされ、
それぞれの柵の中心付近に人がおり、何やらみせては素通りするもの、
もしくは何かのチケット?のような紙らしきものをみせているもの、など人それぞれ。
横をみてみれば、建物の中がガラスで遮られているらしく、
そこから人が顔をだしては、何かをチェックしては人を通しているのがみてとれる。
ずらり、とならんでいる人々にも驚愕せざるをえないが。
この人の多さはロイドにとっては驚愕する以外の何ものでもない。
パルマコスタで処刑がおこなわれるとき、広場に人があつまっていた。
それくらいの人がここ、入口付近?と思われし場所だけでもみてとれる。
辺りには、ここちよい、何らかの音楽が、誰もうたっていないのにきこえており、
よくよくみれば、木々の間に隠されるようにしてあるスピーカー。
それぞれから音楽が流れているのがみてとれるが。
ロイド達シルヴァラントのものは、スピーカーの存在がよくわからず、
ゆえに、それぞれ歌い手もいないのにこの歌はどこから?
とマルタを始めとしたロイドもジーニアスも首をかしげていたりする。
「魔科学の装置、かしら?」
リフィルがいえば。
「いや、これは魔科学よりも手前の技術でつくられるらしいよ」
さらり、としいながそんなリフィルの疑問にこたえ、
「さてと。フリーパスもってるのはこっちだぜ~」
ゼロスがひらひらと手をふりつつも招くのは、はっきりいって並び手がまったくいない、
とある建物の横にある道の場所。
そこには入口になっているであろうに誰も並んでおらず、
そこからならば待ち時間もなくするり、と内部にはいれるのがみてとれる。
「いらっしゃいませ。神子ゼロス様。
  しかし、ゼロス様。ゼロス様のおもちの特殊フリーパスはお連れ様は一人のみ。
  となっている限定、なのですが。そちらの方々は……」
受付らしき女性がゼロスの姿をみとめた、のであろう、そういえば。
「俺様の連れ扱いはこいつで。他のやつらはそれぞれフリーパスをもってるぜ?
  お~い。ロイドくん。さっきリーガルからもらったあれをここにみせな?」
「え?あ、ああ。えっと、これ、か?」
それは人数制限などが記された、れっきとした団体用の特殊フリーパス券。
一応試用期間制限が一年、という限定がされてはいるが。
その間ならばいくらでもこの内部にはいることが許されている証。
念のためにいくら人数が増えても二十人までは増えないだろう。
というリーガルの判断のもと、最高人数制限、として二十人、と記されていたりする。
「はい。たしかに。それでは、皆さま、こちらのバッチをおつけください」
いいつつも、青い色の何かの花をあしらったかのようなバッチのようなものが手渡されてくる。
「これは?」
ロイドが思わずといかければ。
「それは、フリーパスにてはいってきている人々の証です。
  それを身につけていることで今後は自在にこことの出入りが可能になります。
  無くした場合は、申し出てくださいね。
  フリーパス券の定時とともに新たにお渡ししますので」
ちなみに、青き色のこのパッチは、その花の形でフリーパスの状態を区別していたりする。
すなわち、乗り物などにのる優先順位がついているもの、なのか。
それとも入場料だけ、のものなのか。
青に金の花があしらわれたそれは、乗り物すらも優先順位がついている、
フリーパス券の中ではもっとも高価な品といわれているもの。
ロイド達はその希少性に気づかない。
買うとすれば、それこそ何十万単位とそしてそれなりの信用が必要となりえる品。
しかも人数が人数。
悪用されたりした場合は、その持ち主と申請したものに並々ならぬ賠償請求がむけられる。
もっともこの場合、申請したのがリーガルである以上、
ロイド達が悪用する、とはおもっておらず、またした場合も、
きちんとそれなりの対処をとるであろうが。
そして。
「かならず、外部からよく見える位置にみにつけてくださいね」
「まあ、無難なのが、ここ、胸だな。大概みんなここにつけてるぜ?」
いいつつも慣れた手つきでセレスに薔薇のような形をしているそれ。
ちなみにこの薔薇、神子の特権をもってしてゼロスがこの形にバッチをつくらせた特注品。
ゼロスがここを利用するときには必ずこのバッチを身につける。
連れとともに。
結構これがつれてきたお嬢様がたには大人気で。
ゼロス様とおそろいですわ!といって、もってかえられるほうが大多数。
大概は、一日フリーパスなので、記念に、ともってかえるのも通常なれど。
ちなみに、また再び悪用されないがために、
きちんと期間もまたパッチには記載されており、
これを手渡されるときに特殊なインクで使用期間がバッチに刻まれており、
それを過ぎれば悪用ができない、という仕組みになっている。
また、一年ごとにバッチの絵柄もかえる、という徹底ぶり。
一日の場合は、念のため、これとは別にもう一つのバッチ。
すなわち、帰るときには回収するといって渡すバッチも存在しており、
二つなければ中に自在にゆききできない、という仕組みとなっている。
つまり、いくらバッチを記念としてもちかえって、
ごまかして中にはいろうとしても、もう一つの品がないがゆえに、
それは不可能、となり、詐欺を働こうとした、という理由でお縄になる。
ゼロスにいわれ、それぞれが服の胸のあたりにとそのバッチを取り付けてゆく。
「よっしゃ。全員つけたな?んじゃ、ま、中にはいろうぜ。
  きっと、コレットちゃんもマルタちゃんもびっくりするとおもうぜ~」
「…あれ、乗り物、なんだよね?中になんか人がみえてるし」
巨大な水車のようなものは、どうやらそこにみえているカプセルのようなものに、
人、がはいっているのがみてとれる。
ゆっくりと回転しているそれは、あきらかにどうやら景色を楽しむもの、
なのであろうが。
シルヴァラントで育ったジーニアスからしてみれば、
こんな巨大な建造物みたこともなく、ただひたすらに目を丸くしていたりする。
管理はどうなっているんだろう?
魔科学じゃない?これで?
そんな思いがひしめきあっていたりもするのだが。
ちなみに余談ではあるが、この施設もかつてはエクスフィアを利用していたが、
今では少しづつ、水力発電からえられる動力源に切り替えているらしい。
それは八年前。
リーガルの提案で採用されたこと。
万が一、エクスフィアを利用していることにより、
利用者までもがエクスフィアの影響をうけて異形に変化しては、という懸念から、
その案はあっさりと受けいられた。
アリシアの事件はそれほどまでにここ、アルタミラにとっては衝撃であった。
少女が民衆の目の前で異形と化して、そして人々に襲いかかったのだから。
しかもその原因がエクスフィア、となれば。
いくら便利な力とて、そんな異形になるようなとばっちりを誰もがうけたくも…ない。


~スキット・遊園地、って?~

リフィル「遊園地。一般的には子供のための乗り物がたくさんある場所、といわれているわね」
ロイド「こ、子供…お、俺はいいや」
ゼロス「子供だけとは限らないけどなぁ。
     デートに使うものもいれば仲間や家族で遊びにくるものまで多種多様。
     ちなみに、ここアルタミラは子供から老人まで。
     夢のある空間を、が売りだからな。
     何しろアルタミラ専用のマスコットキャラまでいるくらいなんだから」
セレス「そういえば、今日はみえないのでしょうか?かわいいのに……」
ロイド・ジーニアス、マルタ「「「??」」」
ゼロス「ま、マスコットキャラのことはひとまずおいとくとして。だ。
     つまり、大人でも同心にかえり、楽しめる場所、がコンセプトなんだぜ」
ロイド「コン????何だ、そりゃ」
リフィル&ジーニアス「「ロイド……」」
マルタ「…リフィルさん。ロイドって、学校、いってるんですよね?」
リフィル「私のこの数年の教え方、どこか間違っていたというの?」
エミル「…何となく。ロイドって興味あることいがい、
     教えてもあっさりと忘れていそうですし。というか事実忘れてるみたいですし。
     そのせいでは?」
ジーニアス「うわ。ロイド。ついにエミルにまでみとおされてるよ。
       ほんと、ロイドって興味あることだけ、しかおぼえないもんね。
       …いまだに九九もいえないし」
ロイド「わ、わるかったなぁぁ!」
しいな&マルタ&ミトス&アステル&リヒター『…そ、それは…』
アステル「冗談。ですよね?リフィルさん?」
リフィル「冗談。ならいいのだけどね。ものすごく」
リヒター「…苦労しているのだな」
リフィル「わかってくれて?ほんと、村の子供達もここまでものを覚えない。
      というのは、いないのに。ロイドだけなのよね。
      この子、その気になればぜったいに頭がいい、とおもうのだけど」
ジーニアス「ロイドの興味は、興味あることだけにしかそそがれないもんね。
       たとえば、食べることとか、細工とか、あとは狩りとか」
ロイド「何だよ。狩りは大切なんだぞ?日々の食糧確保のために」
セレス「…狩りで日々の食糧確保って。
     シルヴァラントの食事事情はお手伝いさんがつくってくれるのではないのですか?」
コレット「うわぁ。それいいねぇ。でもそれだと、おばあ様達も楽ができるね。
       いつも、今日の献立は何にしようか~っていってたもん。
       献立といえば、今夜は何かなぁ」
ロイド「そういや。あのホテルってとこでたべるんだよな?
      あそこの料理ってどう、なんだろ?何かあまりおいしいって感じないんだけど」
ゼロス「おいおい。あのホテルは結構有名なシェフがつくってるんだぜ?
    まあ、エミルくんの料理になれちまったおまえさんたちなら仕方ないかもしれないがな」
セレス「たしかに。王宮でもあそこまでの料理は食べたことありませんわ」
しいな「あ~。たしかに。エミルの料理とくらべればねぇ。月とすっぽんだよ」
ロイド「え?スッポンがいるのか!?どこに?
     あいつの生き血はじようしゅにいいっていうしな」
プレセア「…ロイドさん。それをいう、なら、滋養供給、です」
リフィル「…ほんと、頭がいたいわ」
リヒター「…というか、話題がずれてないか?」


※ ※ ※ ※


入ってすぐに目につくのは、中央でくるくるとまわっている馬のようなものが、
なぜか延々とまわっているとある装置。
その馬は上下にゆれ、子供から大人まで…どうやら大人は男女が一緒に。
というのが多いようだが。
それらがその馬の背にのり、くるくるとまわっているのがみてとれる。
「あれはメリーゴーランドっていうんだぜ?」
それを指差し、理解していないだろうロイド達にご丁寧にも説明役を買って出ているゼロス。
このあたり、ゼロスはかなり律義な性格といえるであろう。
「…つくりものの馬にのって、何がたのしいんだ?あれ?」
「…さあ?」
何が楽しいのかがわからない。
ただ、あまりはやくないしかも、どうみてもつくりものの馬の背にまたがりて、
くるくるとまわるだけで何がいったい楽しいのだろうか。
しかも上下に揺られる、ただそれだけで。
それをみてひたすらに首をかしげているロイドとジーニアス。
「あんなのより、ノイシュの背のほうがよほどいいよな!」
「それはわかる」
「ノイシュといえば、そろそろどこかで思いっきり走らせてやりたいんだけどなぁ」
「くぉん?」
そういえば、ここ最近、普通の移動のときにはノイシュは大きさを元に戻しているが。
最近は小さくしているのがほとんどで。
ゆっくりとのびのび散歩すらさせていないことにいまさらながらにふときづく。
そんなロイドの言葉がきこえた、のであろう。
エミルの相変わらず…なぜかついに定位置がエミルのポシェットになってしまった…
ノイシュがちょこん、と首だけだして、
首をかしげている様子がロイドの目にみてとれるが。
ちなみに、エミルに触れていることで、常にノイシュにはマナが注がれている。
それこそいつでも次なる形態に進化できるほどに。
ノイシュはそれでもまだ進化するつもりがないようなのでエミルも何もいわないが。
まあ、あせって進化をさせても意味がない。
よくもまあ、あのマナが涸渇しかけていた世界で今までいきていてくれた。
という思いのほうがエミルとしては強いがゆえに、ノイシュにあまり無理はいっていない。
そもそも、地表にのこったプロトゾーンで無事にのこっている個体は、何しろノイシュだけ。
ギンヌンガ・ガップで保護をした個体を除いてしまえば。
それ以外は全て海にと一度、その進化の過程を遡ることを選択し、海へと還っている。
ヒトのうみだす戦乱に巻き込まれないように、と。
それでも地表にのこったプロトゾーン達はヒトに利用され、そして絶滅した。
といわれている。
ノイシュはそんな中で唯一残った貴重なる一体。
「それより、さっきからこの周囲の上をはしりまわってる、何かはなんなんだ?」
さっきから、ご~!という音とともに、何かの乗り物らしきものが、
これまた何かのレール?のようなものの上を統べるように移動して、
そのたびにそれにのっている人々の悲鳴のような歓喜のような声がしていたりする。
どうやらそれは急激な上下の変化が著しい場所にいくたびに発せられているらしく、
よくよくみれば、斜めになって移動している箇所すらも。
そんな乗り物、ロイド達は当然のことながらみたこともきいたことすらない。
「あれはジェットコースターっていう乗り物だな。
   ま、遊園地の定番、だな。定番、といえば、あれもそう、だな」
いいつつ、ゼロスが指をさしたのは、その奥にある、
なぜか紅茶カップがいくつも設置され、
そしてそれらの紅茶カップがゆっくりと回転している何かの乗り物。
「…毎回おもうんだが。なんでこれ、ティーカップなんだろうなぁ」
「「「?」」」
ぽつり、とつぶやかれたゼロスの言葉の意味は、ロイド、ジーニアス、マルタにはわからない。
「そういや、そうだね」
しいなも不思議そうに首をかしげている、ということは。
何かこの形に不自然な点でもあるのだろうか。
そういえば、とおもう。
こういった品は大概コーヒーカップとよばれしものを模しているのが一般的だったはずだが。
ふと昔をおもいだし、エミルもおもわず首をかしげざるをえない。
そういえば、前にきこうとしたときは、アルタミラがあんなことになっており、
結局聞きそびれていたんだよな。
と今さらながらにその呟きをききふとエミルも思い出す。
「まあ、ここは広いから。全員で行動していたらいつまでも乗り物にものれるかわかんねえしな。
  皆好きな乗り物のところにいけばいいさ。
  胸につけているバッチをみて係り員が案内してくれるしな」
たしかに、みれば並んでいるものたちに係り員らしきものが声をかけ、
それぞれの場所に誘導していっているのがみてとれる。
一応、それぞれの乗り物の前にチケット売り場のようなものがあり、
そこで購入することにより、乗り物にのることもできるらしい。
回数券らしきものも販売されているのか、
価格表らしきものが受付であろう小さな建物の手前に書きだされている。
おそらくは、特定の品のみにのりたい人のためにこういうシステムにしてるのであろう。
全体的にどれをのるのかきめてなく、またいろいろとのってみたいヒトなどは、
フリーパス券がお得なのだろうが、
そうでない場合は単体の回数券などを購入したほうが、それぞれの用途にあっている。
それらもあり、このような仕組みをここではとっているのであろうが。
いいつつも。
「ちなみに、この奥はこんな設備でなくて、
  もうちょいこったような施設になってるぜ?
  たとえば、海を利用したマウンテンコースターとか」
「何だ?それ?」
ロイドが首をかしげてそんなゼロスにといかければ。
ジーニアスやマルタ達も同じく首をかしげていたりする。
「さっきのエレルンタルレールと同じ仕組みなんだがな。
  あれをちょっと、あのジェットコースターみたいにしてるやつなんだ。
  で、途中から級な滑り台を滑り落ちて、下の湖にどぼんっ!
  スリルが楽しいってけっこう評判なんだぜ?」
その台詞にさぁっとリフィルが顔を青ざめさせる。
「あたしは断然ジェットコースターだね。あの風が気持ちいいんだよね」
「俺様のお勧めは観覧車だけどなぁ。じっくりとテセアラの風景が望めるし。
  何より狭い空間でふたりっきり。あ~んなことやこ~んなことも、
  二人っきりだからしたいほうだい、やりたいほうだいv」
「あ、あんたってやつはぁぁ!」
「ってぇ!しいな、なぐることねえだろ!」
「このあほ神子がぁぁ!」
ここまで騒いでいても周囲の悲鳴というか歓喜?にうちけされ、
ほとんど注目されていないのがあるいみですごい。
「海を利用したアトラクションものもあるぜ?
  船にのって、冒険気分をあじわえるっていうのがうりなのがな」
いいつつも、とんっと、とある一点に設置されている、巨大な看板を指差すゼロス。
「あそこに、この遊園地の全体像がかかれてる地図がある。
  どこに何があるか、わかりやすくかかれてるから。
  どこにいってみたいっていうのをみつけていってみるのも一つの手だぜ?」
「いや。そういわれても、どうすればいいのかすらよくわかんねぇんだけど」
「右に同じく」
ゼロスにそういわれても、どうしろ、というのだろうか。
こういう場所すら知らなかったロイド達はどうしていいのかがわからない。
「でも、面白そう。何でものれるんだよね?ね。エミル、一緒にいこ!」
「え?別にいいけど…コレット達はどうするの?リリーナさんは?」
「私はこういう場所はあまり好きではないの。
   そのあたりの休憩所で休んでついでに研究でもまとめるわ」
「私も休憩所でやすんでいます。いろいろと見てまわってきなさいな」
そういうリフィルの顔色は多少悪い。
どうやら先ほどのゼロスの水に関するアトラクション。
それをきき、どうやら絶対にいくものか、という思いにかられているらしい。
「ちなみに、お化け屋敷ってやつもあるぜ?」
「「お化け!?」」
にやっと笑みをうかべていうゼロスの台詞にマルタとジーニアスの声が同時にかさなる。
「そんな場所なら、エミルに抱きつくチャンス、いやでも」
「・・・・・・えっと。ミトス、一緒にいかない?」
「え?ぼ、僕?」
「うん。何ならジーニアスもさ。ロイドはコレットといっしょにいてあげなよ」
「え?何でだ?」
エミルの言葉にロイドはひたすらに首をかしげていたりする。
「…もう、ロイドの鈍感!」
そんなロイドにジーニアスが思わず叫んでいるが。
「だって、コレット。今不安になってるとおもうんだ。
  ロイドが傍にいたら少しは違うでしょ?
  それとも僕らと一緒に行動する?でもロイドの場合。
  面白そうなものがあったら一人で走り出しそうな気がするんだよね」
「たしかに、な」
腕をくみつつ、不本意全開、とばかりにクラトスがいってくる。
結局、なぜかクラトスもいるのならば一緒にいきましょう。
というリフィルの意見もあいまって、今現在この場にいたりする。
リフィル曰く、問題児ばかりの子供達を一人で管理するのは無理です!
なら、あなたも手伝いなさい!ということ、らしい。
言外にロイド達が暴走しそうになったら止めてほしい。
という願いが切実に込められているのを感じ取り、クラトスは断るに断れなかった。
「リリーナが研究結果まとめるっていうんなら、僕残ろっかな。
  いろいろとまとめたいこともあるし」
「俺も今さら遊ぶような歳でも…な」
「ああもう!何だい、何だい!研究者組みは!」
どうもせっかくこんな場にきた、というのにのりがわるい。
しいなが思わずそんな研究者組み達…どうやらリフィルも同じ穴のむじな、
とばかりに組みこんでひとくくりにしているらしい…に声をはりあげる。
「ひぃ、ふぅ、みぃ…今は、リーガルとタバサがいないけど、
  クラトスがはいって、十五人、か。よし。なら五人ずつにわかれな!
  そうすれば、三組でそんなに迷惑もかからないし。
  何よりそれぞれが迷子にならないように管理もできるだろうしね」
「…何しいな、お前、はりきってんだよ」
そんなしいなにあきれたようにゼロスがいえば…どうやら追いかけゴッコはおわったらしい。
「同じテセアラ人として、またシルヴァラントのやつらにも、
   ここの楽しさを純粋にしってほしいからね。あんたもそうおもうだろ?」
「それは、そうだけどなぁ」
「今いるのは、リフィルにジーニアス、ロイドにコレット、それにマルタにエミル。
  それとプレセアにセレスにミトス。あとアステル、リリーナ、リヒターにクラトス、か」
ざっとしいなが周囲を見渡し、確認をこめてそんなことをいってくる。
「おいおい。しいな、お前、あえて俺様をいれてないな?」
「あんたはいわなくてもいるのが嫌でもわかってるからね」
「ひでぇ!は!?いや、これは、空気のような存在で、
  いつも俺様がしいなの傍にいても問題ない、という親愛のあらわ…」
「んなわけあるかっ!ったく。さあ、それぞれ五人組をつくりな!
  つくらないのならあたしが勝手に組み分けするよ!」
「…しいなさんって、なんかこういうとき、はりきるタイプ、です?」
そんなしいなに思わず目をぱちくりしてといかけるエミルは間違っていない。
たしか、前のときにもしいながこうして組み分けをしたことがあるような…
それは今の時間軸ではないにしろ。
そういえば、あのときはみずほの頭領とかいっていたから、
そのあたりの采配するのに抵抗がなく育てられているのかもしれない。
エミルのそんな台詞に、
「まあ、お爺ちゃん…副頭領達が格好よく指示だしているのを見てそだったからさ。
  …あたしもああありたいっておもってたんだよ。
  コリンにそれをいったことがあってさ。そしたら、あの子。
  願うのなら、常に頭の中でそんな格好いい自分を想像していたら、
  いつかその姿に自分がたどりつけるんじゃないかっていってさ。
  …頭の中では指示を飛ばす自分を夢想してたんだよ」
いいつつも、そっぽをむくしいな。
コリンにいわれ、でも、と躊躇したしいなに、考えるのは誰も自由なんだよ。
そう後押しをされ、しいなは自分がこうありたい、という姿をつねに思い描いていた。
あのヴォルトの試練の後も、このかたずっと。
「そっか。…ヴェリウスらしいや」
おもわずエミルは苦笑してしまう。
ほんとうにあの子らしい、と。
ヴェリウスは人の希望というか思いを結構後押しするようなところがある。
心を司りし精霊だから、という理由もあるであろうが。
自信の本質を忘れていたころもどうやらその本質は健在、であったらしい。
そのことにエミルはほっとする。
「ああ。そうだね。本当にあの子はあのこらしいよ……」
そこまでいって、ふとおもう。
そういえば、この子は、エミルは…孤鈴と始めてあったときから、
孤鈴のことをヴェリウス、そう呼んでいた。
当時、コリンはその記憶がなかった、というのに。
そのことを今さらながらふとしいなは孤鈴の話題があがったことで思いだす。
「でも、五人はともかく、わるくないかも。なら、慣れている組み分けでいきます?
  リフィルさんをはじめとして、ジーニアスにロイド、コレット、そしてミトス」
「え?エミル、何で僕もそっち、なの?」
「ミトスはもっと遊ぶことを覚えたほうがいいとおもうし。
  ロイド達と一緒なら嫌でもひっぱりまわされて自由にあそべるでしょ?
  …もっと、肩の力を抜くことを覚えたほうがいいからだよ。
  ということで、ロイド、ジーニアス。しっかりミトスから目をはなさないでね?」
「おう!まかせとけ!」
「うわぁ!ミトスと一緒に行動か!うん。僕とってもうれしい!」
目をきらきらさせ、すっかりその気の二人をみて、ミトスはがくり、と肩をおとしてしまう。
これでは、抜け出すことなどまたまた不可能になった、といってもよい。
絶対にロイドにしろジーニアスにしろ、とくにリフィルは目を離しはしないであろう。

結局のところ、組みわけ、として。
リフィル、ジーニアス、コレット、ロイド、ミトスが一組。
ゼロス、セレス、アステル、リヒター、リリーナが一組。
エミル、マルタ、プレセア、しいな、クラトスが一組。
この三組にと別れることに。


  ~しいな組の場合・組み分けして別れた後~

しいな「よっしゃ!あたしにまかしときな!って、あんたも一緒とはねぇ」
エミル「クラトスさん、きになるならロイド達のほうにいってもいいですよ?」
クラトス「な、なぜそうなるのだ!?」
エミル「いや。クラトスさんが夜のたんびに野宿してるところにきて。
      ロイドが寝相わるくて毛布とかはねのけてるの直してるの、
      リフィルさんも僕も、リヒターさんもゼロスもしってますけど?」
クラトス「うっ!」
しいな「…そういや、あんた、シルヴァラントにいたころ、から。
     ロイドにだけはなんか特別視してたねぇ」
クラトス「……」
マルタ「そういえば」
エミル「ま、クラトスさんだし。相変わらず不器用だよね。勘違いされるところも。
     でも、クラトスさん、面倒見がいいから好かれるんだよね」
だからクラトスはミトスの世話もかいがいしくし、なつかれた。
げんなりしつつも、以前クラトスがテネブラエに愚痴ったことがあるらしい。
テネブラエが面白そうに報告してきたのをよく覚えている。
というか、アクアと一緒になって彼らを散々からかっていたテネブラエである。
もっとも、その結果、アクアとテネブラエの言い合いに発展していっていた、
というのがあるにしろ。
あまりにラチがあかない、と判断した場合、蝶の分霊体より、
彼らに直接念話をとばし黙らせたのは何も一度や二度ではない。
しいな「そういや。あんた、テセアラにきても…それって、ストーカーっていわないかい?
     というか、あんた何がしたいんだよ。いったい」
クラトス「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
まさか、気づかれていたとは。
そうおもい、ゆえにクラトスは無言をつらぬく。
今度からはアワーグラスを使用するべきか?
などととてつもなくちょこっと間違った思考に陥りかけていたりする。
しいな「だんまり。かい。まあいいさ。天使様には天使様の考えがあるってな。
    でも、コレットやロイドに危害をくわえようとしたらだまっちゃいないよ」
クラトス「…あの書物の件がおさまるまでは、神子のことは手だしするつもりはない」
しいな「収まるまでは、ね」
エミル「そもそも、どうして、コレットをマーテルさんの器になんて……」
マルタ「だよねぇ。伝承にある女神マーテル様ならそんなこと望まないとおもうんだけど」
クラトス「そ、それは……」
エミル「うん。僕もそうおもう。絶対にそんなことはのぞまないよ。
     いくらかの石に意識が残っているっていってもさ。…諌めることもできないのかな?」
クラトス「…魂はある。が、彼女の意識が浮上したことは一度も、ない」
エミル「・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうして」
クラトス「?」
エミル「…いえ。…エンブレムをもっていなかったのかなぁ。と」
それがききたかった。
あれをもっていれば物理攻撃とかも防げた、のに。
クラトス「…あのとき、マーテルはミトスを案じて自分のエンブレムをも渡していたからな。
      しかし、デリス・エンブレムのことがどうしてでてくる?エミル。
      お前は……」
エミル「だって、あれは万能の加護、だもの」
クラトス「っ」
マルタ「そういえば。エミル。デリス・エンブレムって、何なの?
     あの語り部さんもいってたけど。エミル、そういうのに詳しいよね。不思議と」
魔物のことにしてもそうだが。
いいつつ、
マルタ「博識のエミルもとっても素敵だけどね!」
エミル「あ、あはは。ありがとう。マルタ。
     デリス・エンブレムは別名、世界の加護、ともいわれているものだよ。
     装備しているだけで状態異常などといった全てのものを防ぐ効果があるんだ」
ついでにいえば、ミトス達にわたしていたのは、物理攻撃すらはじく効果までくわえていた。
当時、過保護すぎます、と精霊達やセンチュリオン達にいわれたのをよく覚えている。
ゆえに、完全に殺意がある場合、という概念をあれ、にはもたせていたのだが。
しいな「んな便利なものがあるのかい。それいいなぁ」
エミル「試練を乗り越えないと手にはいりませんけどね」
マルタ「試練?」
エミル「うん。その力を悪用しないかどうか確かめる。心の試練。
     ヴェリウスの試練と同じようなもの、とおもえばいいかな?」
マルタ「コリンの試練って?」
エミル「…あれ?え?えっと、マルタ達、しらなかったっけ?しいなさん?」
しいな「…あたしも初耳、なんだけど?エミル?」
エミル「そう、なんですか?ま、いっか」
マルタ&しいな「「いや、よくないかと」」
クラトス「・・・・・・・・・・・・・・(やはり、このエミルは…)」


  ~リフィル組の場合・組み分け後、別れた後~

ジーニアス「ミトスと一緒!うれしいな!」
ロイド「ジーニアス。お前元気だな」
コレット「でも、たしかに。ミトスとこうして何かをして遊ぶようなこと。
      これまで旅してたけどなかったもんね」
ロイド「しいていえば、フラノールの雪まつりでの雪像つくり、くらいか?」
ミトス「う、うん。そう、だね。僕も遊ぶってこと同年代とかの子としたことないから」
ロイド「よっしゃ!よくわからないのりものおおいけど。
     とにかく、気分転換をかねて今日はミトスをひっぱって遊びつくすぞ!」
リフィル「すばらしいわ!」
ロイド「・・・・ん?どうしたんだよ。先生?それにジーニアスまで?」
みれば、リフィルが目をかがやかし、ジーニアスなどは目を見開いていたりする。
ジーニアス「ロ…ロロロイドが、気分転換なんて言葉を間違えずにいえた!?
       うわぁ!いきなり嵐とかくるよ!絶対に!」
リフィル「今の用途的にもまちがっていなかったわ!あなたはできる子なのよ!」
ミトス「え、えっと…このくらいで感動されるロイドって……」
コレット「嵐かぁ。なら、ロイド、あの乗り物さんのってみない?
      なんか、案内版に疑似嵐の中を冒険しているような気分があじわえます!
      ただし、濡れるのを覚悟してください。とかかれてるのがあるよ?」
ロイド「お。船でコースをめぐるのか。おもしろそうだな」
リフィル「・・・ふ、ふね?わ、私は出口でまっています。たのしんできなさいね?」
ロイド「先生?」
ミトス「リフィルさん?」
リフィル「ほら。周囲にはお父さんがたみたいな人たもみてるようだし」
たしかにみれば、柵のある先の湖っぽい人工的な湖もどき。
そちらのほうをみながらくつろいでいる男性達の姿がちらほらと。
ロイド「よっしゃ!ならきまりだな!なんかわくわくするな!」
コレット「うわぁ。船って、海賊船おもいだすねぇ。アイフリードさんたち元気かなぁ」
ロイド「元気だろ。あいつらは」
ジーニアス「右に同じく」
ミトス「…かいぞく…せん?(いったい、ロイド達はどんな旅をしてきんだか)」


  ~ゼロス組の場合・組み分け後、別れた後~

ゼロス「なんでこんな組み分けになっちまったのかなぁ。
     ってことで、俺様は家族サービスってことでセレスと行動するから」
リヒター「まあ、かまわんだろ」
アステル「右に同じ」
リリーナ「ですわね」
セレス「だ、だめですわ!お兄様!せっかくの組み分けなんですもの!
     やはりここは全員での行動を!」
ゼロス「何でだ?」
セレス「そ、それはその…同姓もいたほうが心強い、というか。
     こんな人ごみは初めて、なんですもの」
リリーナ「そういえば、セレス様はずっと南の修道院に……」
アステル「よく外出許可がでてるよねぇ。今おもえば」
リヒター「だな」
ゼロス「まあ、セレスがそういうなら。たしかに。女性もいたほうが花がある。か。
     …まあ、俺様はエミルくんがへんなことになってなきゃいいがな。
     とおもうんだけどなぁ。あっちのほうは」
セレス「お兄様?」
ゼロス「いや、何でもないさ。エミル君ああみえておもいっきり天然だからな」
天然、というか精霊だから、というべきか。
どうも思考がヒトとずれている。
さらり、と正体を暴露というか気付かせるようなことをいっているのでは。
という多少の懸念。
事実、ゼロスの懸念はそのほぼ直後、的中していることをゼロスはしらない。
アステル「でも、資料ではみてたけど、実際に実地調査も大事。か。
       コースターの仕組みとか、企業秘密で詳しくみせてもらえなかったんだよね」
ゼロス「まてまてまてぃ!アステルくん!?
     そのどっかからとりだした、工具セットで何するつもりだよ!?」
すちゃり、といつのまにかアステルの手には工具セットが。
アステル「え?きになるから、ちよこっと分解を…」
ゼロス「するなぁぁ!」
リリーナ「もう。アステル。こんなところをしても意味がないでしょう?
      するなら管制室らしきあの小屋でしょ?」
ゼロス「リリーナちゃんもあおるな!」
リヒター「…リリーナもアステルも少しおちつけ。…捕まるぞ」
セレス「?なぜにつかまるのですか?リヒターさん?」
リヒター「…わからないのならいい。が、神子。いったい妹御にどんな教育を…」
ゼロス「セレスはこれでいいんだよ。変なことをおしえるんじゃねえぞ?」
リヒター「…過保護、だな」
ゼロス「うっさい!って、アステルくん!ちょいまてぃ!
     とめたのに分解しようとするなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
セレス「?お兄様、なんか楽しそうですわ」
リヒター「…あれはたのしそう、でなくて焦っている、というのだ。神子の妹よ……」


※ ※ ※ ※


カァ、カァ…
どこからともなくカラスの鳴き声がきこえてくる。
周囲の空は夕焼け色にとそまり、今日の昼の時間がおわったことを示している。
あと少しすれば夜の時間が訪れる。
海は夕焼け色にとそまり、大きくみえる橙色の太陽が、
ゆっくりと地平線の向こうに沈んでゆく様子が海の地平線。
その先にとみてとれる。
ゆらゆらとゆらめく波間にその色をおおきくうつしだし、
長いきらきらときらめくもう一つの太陽をうみだしている。
たしかにいろいろな乗り物があり、大人から子供までたのしめる。
といううたい文句はどうやら間違ってはいなかったらしい。
時間によってはイベントがおこり、それらを興奮しながらも閲覧し。
全員がそれぞれ別れていたメンバーが再びそろったのは夕刻近く。
ゼロス曰く、もう少しで夜のパレード、が始まるらしい。
「んで、しめはやはり観覧車だとおもうんだよな。俺様としては。
  夕焼けのアルタミラを空中から眺めるのは絶景だぜ?」
この時間帯、観覧車は結構すいている。
ほとんどのものがパレードをみにいっているからであり、
通称、この時間帯の観覧車は恋人たちの憩い、とまでいわれていたりする。
「?なんでいくつかのあれが風もないのに揺れてるんだ?」
ふとロイドが見あげたその先では不自然まなでにゆれている観覧車の乗り物が。
「こ、細かいことはいいんだよ。どうするよ?
  俺様はセレスに夕焼けみせてやりたいのもあるからな」
「私は地上でまっていてよ。もうつかれたわ」
「ちっちっ。リフィル様。絶景をみて心をおちつかせるっていうのもいいぜ?」
「なら、リフィルさんは僕らとのりませんか?ちょうど四人のりみたいですし」
どうやらこれは一つにき四人づつ、であるらしい。
「エミル!一緒にのろうね!」
「え?あ。うん。なら、ジーニアス、ミトス、僕らと一緒にのる?」
「え?えっと…」
ジーニアスがその台詞に戸惑いをみせる。
ジーニアスからしてみれば、ミトスと二人っきり、になりたかったのだが。
渡したいものがあったがゆえに。
でも、ともおもう。
エミルとマルタならば?
姉さんがいなければどうにかなる、か?
そうおもい。
「う、うん。そうだね。ミトス。一緒にいいかな?」
「え、あ、うん」
結局、一度も目を話してもらえずにやはり抜け出すことはかなわなかったか。
そうおもいつつも、それでも楽しかったのもまた事実。
使命を忘れ、自分がしようとしていることすらをもわすれ、
それこそ心の底から楽しめたような気が、する。
かつてですらこんなに遊んだことはなかった。
おもいっきり疲れるまで。
どこかここちよい倦怠感。
肉体的機能のそういう機能は停止させているはず、なのに。
感じるこの感覚はどうやら間違いではないらしい。
「では、私はここにのこる。そろそろ定期報告がユアンからあるはずだ」
その台詞にはっとした表情をうかべるロイド達。
定期報告。
つまり、それは。
「くちなわの行方がわかるかもしれないってことかい?」
「お前達がこれからおりてくるころには報告があるだろう。いってくるがいい。
  報告待ち、だけなのだからな」
クラトスのいうとおり。
いつ報告がくるかわからない状態でここでまっていても。
「いこ!ミトス!」
「え、あ、ジーニアス、まってよ!」
「エミル、私たちもいこ!」
「え、あ。うん」
クラトスの台詞をうけ、ジーニアスががしっとミトスの手をつかみ、
観覧車乗り場にとはしっていき、マルタもマルタでエミルの手をつかみ、
エミルを先導するかのようにぐいぐいとひっぱってくる。
そんな四人の姿をながめつつ、
「ま、じゃ、俺達もいこっか。コレットとしいなとプレセア、でいいよな」
「あたしゃお邪魔じゃないかねぇ」
「右に同じく」
「?四人乗りなんだから、これでいいだろ?な、コレット」
「…う、うん。そう、だね」
ロイドと二人っきりになれる、とおもったんだけどなぁ。
それにしても、上のほうからきこえてくる何かの声。
…気分でも乗ってる人わるいのかな?
コレットの耳に届いてくるそれらの声にコレットは首をかしげざるをえない。
その手の知識がないコレットには何がおこっているのか理解不能。
ロイドの言葉に多少がっかりしつつも、それを表情にあらわすことなく、
こくり、とうなづくコレット。
そんな会話をしつつも、ロイド達もまた、観覧車乗り場へとむかってゆく。


「うわぁ。すごい綺麗だね。エミル」
「う。うん。そうだね」
眼下に広がるは、夕焼け色に染まった海原。
ほんとうに。
よくここまでこの星も再生したな。
と、ふと感慨深くなってしまう。
悲鳴をきき、手助けをはじめたとき、この惑星はもはや死にかけていた。
あのままでは、確実に超新星爆発を起こしていたであろう。
ヒトの手によりて死滅しかけていた惑星。
かつての青き星、といわれていた面影はまったくなくなっていたあの当時。
自らが直接、かかわらない惑星であったのに、
生命が発展し、そして成長をとげていたのをそっと見守っていたのに。
マナを主体としない惑星。
そういった箇所はいくども試み的に試してはいる。
しかし、ほとんどの世界はその場に誕生した知的生命体達の手により、
その星の寿命をちじめさせ、中には我が子ともいえるうみだしたそのものたち、
ヒトの手によりて惑星を破壊、もじどおり兵器による破壊をうけているものもいる。
空中戦艦が誕生したとき、これはまずい、とおもい、彼らが宇宙空間では、生きられないように理をひいた。
マナが届かない場所では彼らが生きていかれないように、と。
やはりそれは正解であったようで。
宇宙にでて攻撃を、という輩はたしかに存在した。
だが、そういったものたちは、マナが届かなくった直後。
ことごとくマナ不足で死に絶え、また戦艦そのものも、遥か上空から地上にむけて墜落していった。
ゆえに、宇宙空間まで巻き込んだ戦争、というものはかつてはどうにか防げたのだが。
今はあるいみ最悪なことに上空にネオ・デリス・カーラーンが位置している。
救いはあれを使い地上をすべてせん滅しよう、という気がないということだろう。
それでも…本来ならば別の用途としてうみだしたものを、地上にむけて使っていることは否めない。
世界にのこっている天の雷の伝承。
それはまぎれもなく、あれをヒトに、大地にむけている、という何よりの証拠。
軌道上の小惑星群をどうにかするためのかの装置をそんなことに利用しているとは。
そうおもうとやるせない。
「…まだ……」
まだ、ここから立ち退くわけにはいかない。
まだこの惑星は自分の手から離すわけにはいかない。
自分が手を引けば、それこそ再び消滅まで一直線。
この惑星の願い、その願いを聞き遂げたのは、他ならぬラタトスク自身。
あのとき、ミトス達のような心あるものだけをのこし、
海に還してしまえばよかったのかもしれない。
ミトスがあまりに懇願してくるから折れたしまったあのとき。
でも、その結果、ミトス達にもつらい思いをさせ、
さらにはこの後、再びミトス達はヒトに裏切られた。
マナを切り離し、いくらマナがなくても生活できるようになったという、
元の理にもどしていたとはいえ、地下に封じた瘴気がなくなっていたわけではないのに。
なのに、ヒトは…
盟約すらわすれ、大樹をからした。
それもまた力にとりつかれたヒトのせいで。
再び発展させた魔科学の結果によって。
「エミル?」
何となくエミルに声をかけられない。
もう、せっかくこんな綺麗な景色をみているのに。
エミルとこう、ラブラブの空気になるのを期待してたのに。
まあふたりっきりじゃないけどさ。
そんなことをおもいつつも、むぅ、とエミルの傍でむくれるマルタ。
「あ、え、えっと。ミトス…これ」
それまで、いくどもちらちらとミトスをみては、そして思いとどまり、
その行動をひたすらに繰り返していたジーニアスが、意を決したように、
そっと懐かとある一つの品をとりだし、ミトスの目の前にと差し出し、
そのまま、すとん、とミトスの膝の上にそれをおく。
「え?あ、これ!…ずっと探してたんだ。姉様の笛。
  ありがとう。ジーニアスが拾っていてくれたの?…どこでおとしてた?」
「え、えっと……」
それをみてぱっと目をかがやかすミトスにジーニアスは何もいえない。
救いの塔。
とはいえない。
ほんとうに、あのユグドラシルが目の前のミトスだ、などと信じたくはない。
けど、彼がこの笛を落としたのはまぎれもない真実で。
「ジーニアス?…でも、ありがとう。…なくしちゃって。どうしようか。とおもってたんだ」
いいつつ、愛おしそうにぎゅっとそれをだきしめる。
そんなミトスの姿をみてジーニアスは何ともいえない思いに囚われる。
ミトスに姉さんに気づかれることなくこの笛をかえすことができてよかった。
という安堵感と。
どうして、という思い。
もしもユグドラシルとミトスが同一人物なら。
どうして自分達の傍にいて、こうして友達、としてつきあってくれているの?
ききたい。
「…ねえ。ミトス。僕ら、友達、だよね?」
「え?う、うん。そうだね。ジーニアスがそういってくれたから。違うの?」
「う、ううん!絶対、絶対に友達、なんだからね!いい!?ミトス!」
「…う、うん。変なジーニアス……」
ぎっと力説するようにそういわれ、思わずミトスは首をかしげてしまう。
いったいどうした、というのだろうか。
でも、友達、といっておきながら。
自分のことをしれば、きっとジーニアスも離れていくにきまっている。
でも。
ジーニアスとリフィルには傍にいてほしい。
自分達と、よくにている境遇の二人だからこそ。
「…自然の光景は今も昔もかわらない、のに。
  どうしてヒトはかわってしまうんだろうね……かわってほしくないのに……」
「エミル?…うん。そうだね。自然は…かわらない、よね」
ぽつり、とつむがれたエミルのほうをみつつ、思わずジーニアスも同意してしまう。
そう、かわってほしくない。
いつもと同じような毎日はやってくるのに、昨日と今日、とではまったく違う。
「ヒトの心は移ろいやすいもの。けど、やり直すことだってできる」
「エミル、なんか詩人、だね。そうだね。生きているかぎり、何度でもやり直せるんだよね」
ぽつり、とつむがれたエミルの台詞はなぜかマルタの心にも染み込んでくる。
「…?マルタ?どうかしたの?」
いきなりぎゅっとエミルの手をにぎってきたマルタにきづき、ふとエミルがといかけるが。
「う、ううん。ただ…エミルが何となくきえちゃうような気がして……」
今の一瞬。
マルタにはエミルが眼下にみえている自然にとけこみ、
まるで溶け込むようにして消えてしまうような錯覚に陥った。
それこそ、はじめからそこに誰もいなかったかのように。
ゆえに思わずぎゅっとエミルの手を握ったにすぎない。
「世界が一つにもどったら、どうなる、のかな」
「どうにも。ただあるべき姿にもどるだけだとおもうよ。
  …そこで、ヒトがどんな選択をするにしても、ね。
  どうもシルヴァラントの人々は全部コレットに任せておけばいい。
  そんな感じをうけたから、自分達で努力しなければいけない。
  というのを失念しているっぽいけどね」
おそらく、大地が一つになりてすぐに豊かになれる、とでもおもっているのだろう。
そんなことはないのに。
それこそかつてのように。
人々は全ての責任をコレットにおしつけていた。
特にシルヴァラントの人々は。
テセアラのものに迫害されるのも全ては神子のせいだ、と。
「発展の違い…かぁ。たしかに。世界が一つっていうのになったとしても。
  ここまで文明がちがってたらなぁ。だってこっちの普段着って。
  シルヴァラントではかなり高いよそいきのふくだし」
服一つとってもそんな違いがある。
「全員が同じになってしまえばそんな差別もなくなるんじゃぁ」
ミトスがぽつり、といえば。
「甘いよ。ミトス。なら、どうしてテセアラでは身分制度ってものがあるの?
  彼らは同じ、ヒト、なのに。それに……」
それに微精霊達を利用させるわけにはいかない。
それだけは、何としても。
確かにミトスのいい分はわからなくもない。
が、ヒトは同じ一族の間でも勝手に身分というものをつくりだす。
統率するもの、そして従うもの…そして、見下すもの、を。
力なきものを力あるものがまもっている、というあたりはいい。
そのあたりは自然界の掟なのだから。
が、力なきものを自分の欲のためだけに虐げる。
これはいつもおもうのだが、ヒトの欠陥ともいえるだろう。
そのストレスを発散するため、自分の気をまぎらわすためだけ、に他者を傷つける。
そんなことをするのは、あとにも先にも、
ヒト、という知的生命体…光と闇の狭間のもの、としてうみだした彼ら以外にはありえない。
「器が有機生命体でも、無機生命体、でもそれはかわらないよ。
  知能があるかぎり、かならずそれは発生する。
  それをきちんと制御する力があるのに、それを手放したものの手によって、ね」
精霊達の間にも小さな差別のようなものはたしかにある。
あるが、それは嫌いだの好きだの、そういった些細なこと。
ヒトのように迫害、という極端な場所にまではたどりつくことはない。
「…自分達の都合のわるいことはすべて他者におしつけてなかったことにしようとする。
  それが、ヒト、だからね。…ほんとうに、いつも……
  でも、そんな中でも違うヒトもいる。絶望に満ちた世界の中でもどうにかしよう。
  と努力する人達が……」
「?それって、ロイド達のこと?エミル?」
どこか遠くをみつつぽつり、とつぶやくエミルの台詞にマルタが首をかしげて問いかける。
「ロイドは…どっちかといえば、流されるまま、の感覚がつよいからね。
  …あの子、きっと、覚悟、ってものがまだよくわかってないよ。きっと」
「それって、どういう……」
口ではいいようなことをいっているが。
しかし感情のままに流されすぎる傾向がありすぎる。
おそらく、それが直接自分にかかってくれば、彼はまちがいなく自分を見失う。
傍で誰かが支えてくれなければ、そのまま混乱した思考の中に囚われかねない。
まあ、傍で見守っているあの人間の女性の魂がある限り、
そこまでひどいことにはならない、とはおもうが。
もしくは…ヒトとしての特性を捨て、完全なるその身に宿る精霊、としての本質に変化するか。
それは今はわからない。
かつてのロイドはヒトと精霊、その狭間のような存在で確立していた。
人工精霊と、そしてヒト。
互いの本質と属性をもちしもの、として。
天使達よりも精霊に近く、それでいてより人間にも近い。
それこそ本当の新たなる狭間なる種族、として。
今のロイドはあのアンナという女性が封じているがゆえに完全にヒトではあるが。
もしも少しでも精霊的外的要因がくわわれば、そのバランスはあっさりと崩れさる。
たとえば…そう、外部からアイオニトスをその身に宿したりした場合。
ロイドの体はまたたくまに産まれながらのそれにともどりゆく。
今はアンナが精霊石にやどりし微精霊達に協力をねがい、
その特性をどうやら抑えているよう、ではあるが。
「?ロイド達じゃないって、じゃぁ…?」
マルタにはエミルが何をいっているのかわからない。
ロイドじゃない?
なら、エミルは誰のことをいっているのだろうか。
「覚悟…ね」
たしかにあの甘いロイドは覚悟がともなっていないであろう。
それはミトスも思っていること。
ゆえにぽつり、とミトスも思わずつぶやいてしまう。
あのまっすぐさはかつてのミトスの自分の姿をおもいおこさせるが。
しかし、ロイドは考えが足りなすぎる。
ミトスとてこの旅の最中、そうおもえざることが多々とおこっている。
それは口では何とでもいっているが本質的に理解していないからなのだろう。
そうミトスは踏んでいる。
自分達、クルシスが悪?なら、そのクルシスが、ディザイアンがつくったエクスフィア。
それを利用しているものは、何なんだ?
ミトスからしてみればそういいたい。
散々エクスフィアについて罵倒しておきながら、自分達はそれを使用している。
それを手放すことなく。
その矛盾にすらロイドは気づいていないらしい。
その話題になったときは思いだしたように神妙になりはするが、
どうも普段の様子からはまったく考えているそぶり、すらみえないのだから。
ジーニアスやリフィルならばまだいい。
常にエクスフィアを手にとり、じっとそれに祈りをささげているのを、ミトスは知っている。
しかし、ロイドはそれをしていない。
母親の形見。
その一言ですましてしまっている。
リーガルという輩はどうやら八年前の事件より、エクスフィアを手放しているらしく、
彼の攻撃力というか身体能力は素。
彼はエクスフィアを使用していない。
その点、ミトスはリーガルという輩には共感がもてる。
千年王国設立時には彼の力をかりるのもいいかもしれない。
彼の会社のもつ技術力はたしかに脅威ではあるが、方法によっては益となる。
王立研究院。
あれは害、でしかない。
そもそも研究機関など、ろくなことをしでかさない。
人工精霊などといったものを開発していた、ということからしても。
マナがありあまる世界はほんとうにひとはろくなことをしでかさない。
とミトスはおもう。
その思いはエミルと共通。
エミルもヒトとは豊かさになれてしまえばロクなことをしでかさない。
という認識を常にもっている。
もっとも、そんなものたちばかりではない、というのは。
…かつてのミトス達の行動があったがゆえ。
あのとき、人に見切りをつけ、あらたに地表を再生しなおそう。
そうしようとしていたラタトスクが思いとどまったのは、
ミトスが必死にラタトスクを説得したからに過ぎない。
ミトスはそれに気づいてはいないが、自分の意見を聞き入れてくれたのがうれしくて、
だから、それもあり用もないのにギンヌンガ・ガップによくいりびたっていた。
もっと、ラタトスクと話しをしてみたくて。
いつもそっけない態度ではあったが、それでも時折みせる笑みが好きだった。
ラタトスクの精霊形態。
それはとても綺麗で、女性でも男性でもない。
まさに世界を産みだした、というほどにすばらしいその姿は、
今でもミトスの脳裏にしっかりとこびりついている。
その流れるまでの銀色の髪、も。
あまりにしつこく尋ねていくがゆえに、あるときを境に精霊形態、として、
姿をみせてくれるようになってくれたあのとき。
あのときほどミトスは嬉しかったことはない。
――やっと君に直接あえたね!
あのときの気持ちをミトスは失っていない。
失えるはずがない。
世界を助けたい、とおもったのは、姉のこともあった。
でも、それ以上に…ラタトスクの手助けをしたかった。
彼がずっとあんな場所で人々にわすれさられようとも世界を守っている。
それをしったからこそ。
この地におりたち、ずっと魔界の力が地上におよばないようにあの場にいる、という。
自分が育んで育てている世界をここからただ見守っているだけ、なんて。
センチュリオン達もいっていた。
かつては自分のつくられた世界によくおりたっておられたのですよ、と。
でも、今は…
それをきいたからこそ、彼を外につれだしたかった。
世界は、君がつくってまもっている世界はこんなに綺麗なんだよ。と。
そのために、戦争を終結させる必要があった。
そして彼をあそこから連れ出すには大樹の目覚め、それが必要不可欠だった。
あのときの思いを忘れたわけではない。
でも、それには、姉がいなければ。
姉様がいて、クラトスがいて、そして…ユアンも本意ではないがいて。
四人とラタトスクとででなければ意味がない。
あまりにヒトがかわらないがゆえに、エクスフィアを利用することをおもいついた。
かつて自分が忌み嫌っていた…微精霊達を利用する方法。
でも、少しでもはやく夢を実現させるために。
大事の前の小事だ、と。
それに、利用するのは自分達を虐げているヒト。
自分達ハーフエルフを利用しようとしたのだから、
カレラ人も…そうおもいはじめたのはいつだったか。
ふとミトスは自分の過去をふりかえる。
間違っている。
そう、間違っているのはわかっている。
これまで考えようにしていなかったことが、ずっとめぐっている。
めぐっているからこそ、このままでは自分が折れてしまう。
それを確信してしまったからこそ、ここから離れることを選んだ。
自分を慕ってついてきてくれている彼らを今さら放り出すことなどできない。
もう、後戻りはできない。
だからこそ。
「…ハーフエルフは、どこにいけばいいのかな」
「どこでもいいよ。どこでも。ヒトはかわれる。かわらないと。
  ……かわれないのならば、そのときは……」
そのときは。
いくら懇願してきたとしても、きっかけをあたえるのもやぶさかではない。
人は共通の脅威、というものがあれば一致団結する。
地上を洗い流すか、もしくはそれとも、魔物達を動員し、
人々の危機感をあおり、一致団結させるか。
あまり後者の方法はしたくない。
魔物達に被害がでて、マナが乱れてしまうがゆえに。
しかし、まちがいなくそうなれば、人々は種族とか関係なく一致団結するであろう。
それこそ、手をとりあって。
一度、そうして協力してしまえば、しがらみなどけっこうたやすくほぐれてしまう。
それはこれまでの経験上、エミルは、否、ラタトスクはよく知っている。
ぽつり、とつむがれたミトスの台詞にエミルがこたえ、
「…そう。だね。かわらないといけないんだよね。
  …そもそも、ものごころついたころからの教え。あれがまちがっているんだし」
ハーフエルフは害でしかない。
それは産まれたときから周囲からいわれること。
マルタとて両親がそういっていれば、そう思いこんでいただろう。
かつてのマルタがハーフエルフに嫌悪感を抱いていたのは、
父を変えてしまったのが彼らハーフエルフだからなのでは。
という思いがあったがゆえ。
まあ、あるいみでリヒターがソルムのコアを渡してしまったがゆえなので、
間違ってはいない、いなかったのだが。
「そもそも、おかしいんだよね。
  ハーフエルフとかヒトとか差別してるけどさ。
  はっきりいって、ハーフエルフ達よりヒトのほうがひどいことを平気でしてるわけだし」
ハーフエルフ達は同族意識がつよく、同族を虐げたりするようなことはない。
にもかかわらず、ヒトは同じ同族同士で平気で傷つけあい、時には忙殺しようとする。
さらには団体で弱者をよってたかって責め殺す。
ただ、きにいらなかったから、なまいきだから。
そして…身分が低いから、といったろくでもない理由において。
中には誰でもよかったから殺したかった、というものすらいる。
それはヒト以外ではありえない思考。
光と闇の狭間の思考をもたせているがゆえか、さだまらないヒトの思考。
きちんとその思考を彼らが制御するすべをも理としてもたせている、というのに。
「…奴隷狩りや魔女狩りなんてするのは、ヒトくらいだよ。ほんと……」
「シルヴァラントではそれはディザイアンがしてたけど…人狩り。
  でも、こっちにきて文献でこっちは国が率先しておこなってたってあったね」
マルタもそれを目にしている。
目にしているからこそ、エミルの台詞に何ともいえない思いを抱いてしまう。
悪いのは、ヒトか、ハーフエルフか。
しかし、同じヒトをヒトともおもわずに平気で使い捨てにしようとするヒトと、
同族を守ろうとするハーフエルフ達と、どちらが悪なのか。
そう改めてとわれれば、答えに窮してしまう。
いや、わかっている。
すでに答えは。
悪いのは…ヒト。
ハーフエルフ達がディザイアンなんて組織をつくりあげたのも、
クルシス、という組織をつくりあげたのも。
それはヒトがあまりにも彼らを迫害しすぎた結果。
誰しもおいつめられれば牙をむく。
窮鼠、猫をかむ、という諺にもあるように。
ハーフエルフ法の設立により、それは必要がないもの、とされたらしい。
奴隷の変わりはハーフエルフでなりたつから、と。
本当にエミルとしては呆れざるをえない。
それまでは平気でそれがまかりとおっていた国のありようにも。
そしてそれを何とも諌めようとしなかった周囲のものたちにも。
昔ならばあまりの圧政にたえかね、民衆が決起をするようなこともあっただろうに。
しかし、今はマーテル教、というものがあるがゆえ、
人々はおそらくそこまでの思考にはならなかったのであろう。
嫌なことがあれば、旅業にでてマーテル様の力をかしてもらう。
人々の思考はあるいみ逃げ、にまわってしまっている。
旅にでれば、マーテルの加護がかならずあたられる。
そんな間違った…認識のもと。
マーテルの加護、などありえるはずもない、というのに。
彼女がまともにいきていたとしても、そののほほんとした口ぶりで、
逆に人々を困惑させるにきまっている。
かつてユアンが散々翻弄されていたように。
「…かわらないといけないのは、僕たちハーフエルフだけじゃない。
  きっと、ヒトもエルフも、全てが認識をかえないと。
  きっと、世界が一つになっても平和にはならないんだろうね」
「だね。まあ、マーテル教が存続しているかぎり、
  かつてのような二代勢力による争い、はどうにかなるとはおもうけどね。
  そんなことをしそうになれば、マーテル教の教えにさからうの?とでもいえば。
  今のヒトはほとんど、戦争するのに躊躇しそうだし」
その点では同じ宗教である、というのはかなり助かるといってよい。
かつてのように、自分達が信じている宗教の神が絶対なのだ。
と盲信していないだけまだまし。
宗教戦争、とよばれるものほど悲惨なものはない。
それらに参加する人々はそれこそ自分達が正しい。
そう思いこんでどんなことでもしでかしてしまう、のだから。
神に逆らうものは全て悪。
その判断のもと。
しばし、何ともいたたまれない空気につつまれたまま、ゆっくりと観覧車は動いてゆく……


「さて、ユアンから報告があった」
『!?』
その言葉に息をのむ。
どうやらそれぞれ観覧車の中で思うところがあったのか、神妙な顔もちをしているものが大多数。
リフィルにおいては、アステル達とエミルのこと。
そしてミトスのことなどを話しあい、それゆえに神妙な顔になっていたりするのだが。
ロイドはのほうは、これでようやくコレットを助けだせることができる、
という安堵の思いと、それでもきになっているくちなわの行動。
しいなやプレセア、コレットになぐさめられても
なかなか判断がついていなかったりするのだが。
とりあえず、たしかにゼロスの言うとおりいい気分転換、にはなった。
最後にのった観覧車でそれぞれ意見を交わす機会があり、
今の自分達の状態を見直すきっかけにもなっている。
そんな中での、観覧車からおりたったところ、クラトスからの台詞。
ゆえに思わず息をのんだのち、自然、全員の顔を見渡してしまうロイドは間違っていないであろう。
「くちなわは、やつは……」
しいなが何やら声をかけようとするが。
「あいつは、ビーチでまっているそうだ。 
  ビーチの奥にあるテント村、のあたりでな。そこの一角を借りたらしい」
手際がいい、というか何というか。
かの地と、ホテル両方、借りるものは少なくない。
ゆえに、ホテルに泊まっている宿泊客がそちらにとまる、ということもしばしば。
その場合、ホテル割引、としていくばくかの値引きがほどこされているようだが。
このあたりは、客の心理をよくみている経営形式、といえなくもない。
テント村には、野営用というか、簡単なバーベキュー場も用意されており、
使用料金さえ払えば、海をみつつバーベキューを楽しむことができたりする。
ユアンが用意したのはどうやらそんなうちの一つ、であるらしい。
おそらく、わざわざ団体用のテントというかコテージ
…それこそ見晴らしのいい砂浜付近にたてられている。
を借りたのも、今からする話しを他のものに聞かれないための配慮、なのだろう。


「…きたか」
ちらり、とミトスに視線をむけ、一瞬驚愕の表情をうかべるものの、
すぐさまいつものような視線にむきなおる。
クラトスがうまくいってくれていればいいが、ともおもうが。
まさか自分がレネゲードの党首だ、とばれていないよな?
というようなそんな不安。
彼らのもとにミトスがいるかも、という予測はたてていたが。
ここまではっきりと確信がもてるとは。
ミトスもこちらをみて一瞬顔をしかめ・・・よくよくみないとわからないが。
ミトスが顔をしかめるときは、その表情が一瞬、
ぴくり、と眉がうごく、という些細な変化しかみうけられない。
そしてその変化は長い付き合いであるがゆえ、ユアンはよく知っている。
「改めてお前達には紹介しておこう。
  ヘイムダールで知ったとはおもうが。ここテセアラの管制官の立場をまかされている。
  クルシスの四大天使の一人。ユアン・カーフェイ。…私の同僚、だ」
クラトスが案内してきたロイド達にとむきなおり、そんな説明をしていたりする。
どうやらクラトスからしてみれば、ミトスの前ではあくまでも、
ユアンはテセアラの管理者であるがゆえに、この場にいる。
という態度を貫き通すきでいるらしい。
「え…?」
ロイドがその台詞に余計なことをいいかけたその直後。
「あのくちなわ、というものの行方がわかった」
「本当かい!?」
ロイドが、あんた、レネゲードでもいってたけど、本当に。
そういいかけたロイドの声をさえぎるようにして
おもわずがばっとしいなが前のめりになるようにして叫ぶ。
ロイド達が案内されたのは、団体用のコテージがある、といういくつかの静かなエリア。
この辺りは、家族、または旅業者むけの宿泊施設であるらしく、
レザレノ・カンパニーのホテルの別館扱いとなっている場所。
つめよろうとするしいなにむけ、
「ほら」
「・・・?」
なぜか、どすん、としいなに手渡されたのはひとつの風呂敷包み。
どことなくずしり、と重い。
「え、えっと、これって?」
「まずはそれに着換えろ。クラトス。お前のも預かってきているぞ」
「・・・・・・・・・・は?まて。ユアン。どういうことだ?」
意味がわからない。
ユアンの台詞には脈略がない。
ゆえに、思わずといかけるクラトスは間違っていない。
絶対に。
「念のためにみずほの里によったのだがな。
  彼らは情報提供のかわりに、頭領がこれをしいなたちに、といってきてな。
  渡された、ということはお前達がそれを着ないことには、たぶん報告しないほうがいい、とみた」
『・・・・・・・・は?』
ため息とともにいうユアンの台詞の意味がわかったものはこの場にはいない。
というか、ユアンは冗談でイガグリがいった言葉。
しいなにこれらを伝えるにしても、これをしいなたちに着せてやってくれんかのぉ。
といった言葉をうのみにしているがゆえの行動、なのだが。
ユアンはそれを冗談、とはとらえておらず、ゆえに真面目にいっているに過ぎない。
「この奥にも部屋はある。女達はそっちできがえるがいい」
「着替えって…って、これって浴衣じゃないかいっ!!!!」
しいなが不振におもいつつ、ぱらり、とその風呂敷つつみをひらけば、
そこにはいくつかの、男女ようの浴衣、らしきものがみてとれる。
「あと、それをきたしいなの姿見をうつしてきてくれ、ともいわれたな」
「お、お爺ちゃぁぁぁぁぁぁん!!!」
ここにはいない祖父、イガグリに思わずしいなは叫んでしまう。
というか叫ばずにはいられない。
というか、ユアンにいったい何をたくしている!?あの祖父は!?
尊敬はしている。
いるにはいるが、脈略がなさすぎる。
そもそも、なぜに浴衣?!
突っ込みどころが満載すぎるそれら。
「うわぁ。なつかしい。これって浴衣だよね」
エミルはエミルでしいなが手にしているそれをみて、
ひょいっとのぞきこむようにしてにこやかにそんなことをいっていたりする。
「…そういえば、昔、そういったのを僕も着せられたことがあったなぁ。
  …似合うからって、なんでか女ものを……」
『・・・・・・・・・・・』
ぽそり、といったエミルの言葉を思わずきいてしまったロイド達は、
何ともいえない同情の視線をエミルにむけてしまう。
そういえば、ともおもう。
以前にもエミルはたしか、女ものの服をもっていて、
血でぬれまくったコレットにその服を貸しだしていたことがあったはず。
たしかそのときに、着せ替え人形のごとくに女ものを着せられたことがあったとか。
そんなことをいっていたような気がするが。
「クラトスと私のはなぜか別にくれたぞ?
  何でも是非ともお前や俺にはこれだ!といってみずほの里の女におしつけられたが」
「……な、何やってんだよ。里の皆は……」
がくり。
おもわずしいなはその場にがくり、と膝をついてしまう。
というかつかずにはいられない。
里の皆、何をしてるんだい!?
と。
クラトスもロイド達をあるいみでストーカー…もとい、
彼らを監視して付きまとっていたときに里にたちよったことがあり、
彼の容姿をみしっていた里の女性が、頭領のオチャメをしり、
ならば、ぜひとも!といっておしつけてきた、というのが実は真実だったりするのだが。
絶対にこんな浴衣が似合うはず!といって、渡す予定もないのに、
なぜかつくっていた、というそれをわたしてきた、らしい。
もっとも、そこまで詳しくは当然、ユアンも、そしてエミルも知るよしもない。
ちなみに、それをつくっているのをみたとき、
その彼女の夫は自分用にてっきり縫っているとばかりにおもっており、
別に気にもとめてなかったらしい、のだが。
それは当事者達のみが知りえること。
「えっと、あれ?でも数がたりない…かな?」
どうやらアステル達のことは知られていない、らしいのか、数がたりない。
「ん~。なら、仕方ない。僕は自分のもってるの着るとして。
  ロイド達はせっかくだから、これきなよ。きつけは…クラトスさん。
  当然、できるよね?ロイド達、男性分を任せてもいいかな?」
「なぜに私に……」
「できるでしょ?ミトスは、僕の分をわたすから、ミトスもきてね。せっかくなんだし」
にっこりというエミルの笑みに邪気はない。
「というか、エミル、あんたはつっこまないのかい!?」
「え?でも海に浴衣ってあうでしょ?」
「そこじゃないぃぃ!」
さらり、というエミルの台詞に思わずしいなが叫ぶが。
「浴衣、ねぇ。みずほの民の民族衣装だな。甚平ではないだけましか」
「いや。甚平もすてがたいとおもうぞ?あれは楽だ。手にいれたときは。
  あれほど通気性のいい着物はないとおもったぞ?」
ゼロスがいえば、リヒターがなぜかうなづきつつもそんなことをいっている。
どうやら甚平、という服について多少の思い入れ、があるらしい。
「どうかん!あれ楽だよね~」
そんなリヒターの台詞に同意、とばかりにアステルがそんなことをいっているが。
「…だからといって、一時こいつは、甚平きこんでその上に白衣きてうろうろとして、
  …怒られていたことがあったがな」
ふと過去のことを思い出したのか、
アステルをみてぽつり、とリヒターがそんなことをいっていたりする。
…どうやら過去にそのようなことが実際にこの言動からあった、らしい。
「…この子、ほんとうはステテコで移動しようとしてたのよ…必死でとめたんだから…」
そういうリリーナの表情もどこか疲れ切っている。
…どうやら過去にちょこっといろいろとあったらしい。
ステテコやら甚平やら、ロイド達には意味がわからない。
その名が示すものがどんなものなのかが不明ゆえに、理解がおよんでいないといってよい。
一方で、
「ステテコでって……」
どうやら過去から呼び方はかわっていないことから、予測がつき、
おもわずエミルもぽつり、とつぶやいてしまう。
いや、それはちょっとないんじゃないかなぁ。
そう思うエミルの心は、おそらく服の形式をしれば誰もが同意するであろう。
「じゃあ、僕外のものかげでちょっと着替えてくるね。
  皆も着替えてくればいいよ。せっかくなんだし」
「あ、エミル!?」
いいつつも、パタン、と何でもないように外にでてゆくエミル。
一着ももってでなかった、ということは。
「…あの子、本当にこういった服…もってる、みたいね」
外にでてゆくエミルをみつつ、リフィルがその手をあごにあて、
何やらそんなことをいってくるが。
「そういえば、前私が怪我したときも、エミル、アリオンの外套とかいうのかしてくれたっけ」
それは、コレット達がゆうまし湖のユニコーンの元にたずねたときに、
まだそのときにはきていたエミルからかりていたコレットの服のこと。
その前にきていたコレットの服はちょっとした怪我で血まみれになっており、
その着替えとしてエミルが貸し出してくれていた服の名。
その名のことをふとおもいだし、コレットがにこやかにそんなことをいってくる。
そういえば、とふとおもう。
あのときからすでに答えはあったのだ。
ユニコーンはたしかに、マーテルの弟、そういっていた。
そして弟のことで心を痛めているはずだから。
そういってユニコーンはきえていった。
世界再生の旅を信じ切っていたがゆえに、あまり不審にもおもわなかったが。
しいなは思わずそのことをおもいだし、顔をしかめてしまう。
あのときにもうすこし、もっとくわしく考えておけば。
そうおもってしまう。
それは、もしも、でしかないはなし。
「まあ、仕方がないか。せっかくだし。しかし、浴衣って…
  お爺ちゃん、何かんがえてるんだろ?」
しいなとしては首をかしげざるをえない。
しかも、あのときいた一行分全員の服。
…というか、アステル達の分がない、ということは。
フラノールにはいるまでの人数を把握していてあれから用意していた、
ということなのだろうか。
わからない。
わからないが、しかし、ユアンはこれを着なければ報告をしてくる様子はないらしい。
というか、たぶんおじいちゃんのおちゃめな冗談なんだとおもうんだけど。
そうはおもうが、しいなとて幼き日に幾度か冗談をいわれた思い出しかないゆえに、
いちがいに、そうだ、と確信をもってもいえない。
もしかしたら、このアルタミラにも里のものがはいりこんでおり、
あえて着物の一種である浴衣をきることで何らかの暗号、になっているのかも。
そんなことをおもいつつ、しいなはその場にゆっくりと、
ひととひとつ、手渡された浴衣を広げてゆく。


「――それで?テネブラエ」
「はい。一応、かのものには伝えました。
  ちょうど、ユアンが訪ねてきたので、ユアンが彼からの伝言をうけとったようです」
「そうか」
外にでたのは、テネブラエの念話がきこえたゆえ。
あのタイミングでは自然に外にでても不思議にはおもわれなかったであろう。
「だとすれば。次はシャドウとの楔を解放させる。シャドウにも伝えておけ。
  …本体のほうはまだ狂わされてはいない、んだな?」
「どうにか。私のほうで抑えていますので」
その台詞にため息をつかざるをえない。
テネブラエの力が戻っていなければ、確実にシャドウまでも瘴気によって狂わされていたであろう。
ほんとうに、ヒトはろくなことをしでかさない。
力におぼれ、その結果…自らの魂まで贄、として提供するその心根は、
いつまでたっても理解不能。
「お前はシャドウの元に。万が一、があるからな。
  あと、あの地の闇属性の魔物達までが影響がでないように、な」
「御意に」
それだけいうと、忽然と現れたときと同様に闇にととけきえてゆくテネブラエの姿。
「さて。と。浴衣、か…さて、どれをきるか?」
星まつりのときに渡された、ギルドの依頼の一環の舞いの衣装もそういえばある。
「うん。これでいいか」
しばしどんな品があったか思いだしつつも、そのまますっと目をとじる。
刹那、エミルの体は淡い輝きにと包み込まれてゆく――


「…エミル、似合いすぎてない?それ?」
開口一番にいわれたのはそれ。
「これ、きにいってるんですよね。結構」
濃紺地の布に淡い白に近しい桃色の桜の花。
ちなみにこの桜の花、大樹の花によくにていることから
別名、世界樹の子、ともいわれていたりもしたが。
そこに真赤なまでの蝶が飛び交っている模様が刻まれている反物。
それでつくられているのが今きているこの浴衣。
以前の世界においては、この桜と蝶をセットにした柄ものがものすごく人気であった。
蝶は世界樹の精霊の特徴、ともいわれており…まあ実際にそうなのだが。
紋章すらも蝶、といわれていたことから、こぞって人々はこの柄を好んで取り入れていた。
帯はシンブルざベスト。
少し淡目の赤い布地に、桔梗の花をあしらった模様が白くえがかれており、
その中央をこれまた真っ白い紐でかるく結んでおり、
その中央部分をとめている金具もこれまた蝶の細工。
オビにちょこんとつけている蝶のアクセサリは、
本来ならばこの先に貴重品をくくりつける仕様になれるようになっている。
ひとまず長い髪は完全にアップし、一つにまとめ、
くるり、とまとめた髪には大きめな蝶の模様をあしらった髪飾りをつけている。
いつもはマフラーで隠されているうなじが露になっていることもあり、
そのうなじぶぶんが男女とわず、とてつもなく色っぽく感じるのは、
おそらく気のせいではないであろう。
手にもっている巾着もこれまた蝶の紋様があしらわれた布でつくられており、
浴衣の柄とおそろいであることがうかがえる。
ちょろっと耳のあたりに少しばかり残っている金色の髪が、
よけいにその色っぽさを強調しているようにみえるのは、
エミルが意識してやっているのかいないのか。
否、おそらくは後者だな。
思わずその姿をみて全員の心の内が一致する。
どこからどうみても女の子。
というかそうとしかみえない。
「ま、まけたっ」
がくり、とその場に膝をついているマルタ。
マルタはかわいらしい金魚の模様をあしらった浴衣を選んだらしく、
髪もおそらくしいなが手入れした、のであろう。
いつものツインテールのそれではなく、両脇にくるり、とまとめた形になっている。
いわば、お団子頭とよばれしもの。
「エミルく~ん。その格好だとナンパされまくるんじゃねえのか?」
それでなくても、いつもの姿でも、男?女?
という視線がむけられていたのをゼロスはよく知っている。
ゆえにおもわずゼロスはそういわずにいられない。
その台詞に同意、とばかりにうんうんうなづいているジーニアス達。
ゼロスはシンプルざ、ベスト、とばかりに。
濃い紺色の無地に近しい浴衣をきており、
すそぶぶんにちょこっとばかり薔薇の刺繍がほどこされている浴衣をきこなしており、
セレスなどはあわい桃色の生地に梅のような細工がほどこされたものをきており、
クラトスなどはどうみても女性用に仕立てたのでは?
というようなこまかな花々がほどこされた刺繍の布地のそれをきているというのに、
まったくもって違和感がない。
ユアンのほうは、男性用、というのを強調するかのごとく、真っ黒な黒字に、
胸のあたりにぽつん、と強調するかのようになぜか龍の刺繍が銀の糸で施されていたりする。
それ以外のものたちも、それぞれ選んだ浴衣、なのだろう。
おそらくしいなや、クラトスの着付け効果もあいまって、
変な着崩しをおこしているものはみあたらない。
それ以外にも桔梗の模様、大牡丹の花の模様。
スミレの模様、と様々な柄の浴衣をそれぞれがそれぞれにきこなしている様がみてとれる。
「お。エミル、なんか綺麗だなぁ」
「あはは。ありがとう」
「ね。ねえねえ。ロイド、私はどう、かな?おかしい?」
「うん?コレットはかわいいぞ?先生はより美人度がましてるし。
  しいなは何というかいつもとあまりかわりばえしてない?
  プレセアなんかはなんかどこかの店でみたケースの中にはいってた人形みたいだし。
  マルタは……」
「もういい!ロイドの馬鹿ぁぁ!」
コレットとしては意を決してきいたのに。
ロイドからきこえてきたは、全員をほめるこえ。
これではゼロスとかわらない。
「ほんと、ロイドもやっぱりゼロスと同じ、なのかなぁ」
「ちょいまて。コレットちゃん、どういう意味よ?」
そんなぽそり、とつぶやくコレットの台詞にゼロスが何やら抗議らしき声をあげているが。
すでに全員が着替え終わり外にでてみれば、太陽は完全に沈んでしまったらしく、
これより先はあっというまに闇が広がってゆくであろう。
しずかな波の音と、ざわめきをもってきこえてくる観光客?たちであろう人々の声。
それがこの付近の全てといってもよい。
このコテージがある付近は団体客がいないのか、
あまり人はおおくなく、外にでてみても彼ら以外には人影はみあたらない。
少し先にはけっこういまだ多くの人々が海岸沿いにいるのがみてとれるが。
コレットに一応そんな突っ込みをしたのち、
「おいおい。ロイド君よぉ。しいなも綺麗だぜ~?」
しいなに関してはほめていないようなので、一応ゼロスが注意を促す。
「?でもしいなの服、いつもとかわってないぞ?」
かわってないどころかしいなのきている着物はかなり短い。
ゆえにほとんど今までの服とほとんどかわらない。
かわったのは色くらい。紺色のそれから桃色になっている程度か。
「こういうときにはほめるもんなんだよ。女の子は得に、な」
「ふぅん?」
ゼロスにいわれてもロイドはよくわからない。
「それに、おしいっ!しいなのやつ、着物の下にズボンさえはいてなければ、
   そのあらわになった太ももあたりからっ!」
「あんたはあんたで何をいいだしてるんだい!このあほみこがっ!!!!」
何やら横では騒がしい。
そんな彼らをちらり、とみやりつつ、
「ところで。ユアンさん」
「何だ?」
「…何でしっかりと、バーベキューの用意がしてある、んでしょうか?」
ふとみれば、コテージとほぼセットといっても過言でない…
どうやら団体用のコテージには必ず外にこういった設備が備わっているらしい…
とにかく、そこのテーブルの上にはすでにいくつもの切られた野菜。
ついでに海鮮類。
さらには肉、といったものがでんっとおかれているのが目にはいる。
ゆえにユアンに首をちょこん、とかしげてといかけるエミルは間違っていないであろう。
その首をかしげた様がよりそのうなじを鮮明に相手にみせて、
よからぬ思いをいだくものは、いっしゅんツバを飲み込みそうになってしまいそうになる。
という概念を除けば、エミルの行動はごく自然のもの。
「バーベキューセットをお前達に連絡をとったあと、頼んでおいた。
  お前達は遊園地にいっていたそうだしな。お腹はすいているだろう。
  話しは食べながらでもできるしな。幸い、この付近には人はちかよらないしな」
わざわざ団体の場所にはいってくるような物好きはいない。
それに夜の海に近づくのもごくわずかしか存在しない。
中には夜の海にはいりたい、というものもいるにはいるが。
馬鹿なものが沖のほうにまででていかないように、
そのあたりは、しっかりと。
係りのものが遊泳できる区域をしっかりと管理、運営しているらしい。
本当は夜は立ち入り禁止、としたかったのだが。
それだとコテージにいるものたちや、また夜の海を見て楽しみたい、
という主に恋人たちによる懇願によりそれは緩和されている。
「バーベキュー用に浴衣を汚さぬよう。前掛けも用意してある」
みればたしかに。
紙でつくられた前掛けらしきものがしっかりと。
それぞれの椅子の手前におかれている。
用意がいい、というか何というか。
「お。バーベキューか。うお!?サザエがあるぞ!」
「こっちはあわびまで!ロイド、これらとるの得意だったよね」
「おう。あとでとりにはいるかなぁ」
ゴッン。
何とも鈍い音が周囲にひびく。
「やめときなさい!まったく。夜の海は危険なのよ」
ロイドがその食材にちらり、と目をやり目をかがやかせていえば、
コレットがそういえば、とばかりにいってくる。
そんなコレットにロイドがなら自分もあとにとりにいくか、といいだし、
そんなロイドにごんっとロイドの頭に鉄槌を下しているリフィルの姿が。
「ってぇ。先生、なぐるこたぁないだろっ。ててて……」
「夜の海は危険だよ。ロイド。とくにこの時期だとそろそろクラゲとかでてるだろうし。
  下手したらさされたら死ぬ子もいるよ?」
この時期はたしかに昼間は泳ぐのにはまだいいが。
おそらくアクアの影響もあり海の魔物達や生態系も活発になっているはず。
半ば興奮している海のコたちが何をするか、それはエミルでも把握不能。
自分が傍にいれば言い聞かせることもできるが、そうもいかない。
だからこその台詞。
「とにかく。着替え終わったようだし。これらをやきつつ、今の状況を説明するぞ」
「あ、ああ」
何だろう。
これから重要な会話をするであろう、というのに。
この緊張感のなさは。
ゆえにしいながおもわず間のぬけた返事をしてしまうのは…仕方ない、のかもしれない。


辺りに香ばしい匂いがたちこめる。
ほうほう、としたフクロウの鳴き声がどこからともなくきこえてきている。
「我が部下達の調査と、そしてみずほの里にでむいてわかったことをいうぞ?」
それはいいが、その手にくしざしにした…エミルがちょっと手をくわえたがゆえ、
野菜などがかなり豪華な細工物と変化しているそれらの野菜の混合串刺しを手にし、
いう内容ではないとおもう。
しかも、それらを焼き肉プレートというか網の上にならべつつ。
そういえば、このユアン。
こういうマメなところが、ユアン、いい奥さんになれるわね。
とマーテルにいわれ、私は男だ!とよくマーテルにいっていたな。
ふと過去の彼らのやり取りを思い出し、エミルとしては懐かしくなってしまう。
それにのっかるようにして、ミトスが、
――ユアン、女性になればいいよ。うん。そうしなよ。
   そうすればユアンに姉様がとられることもないし。
などといって追い打ちをかけていた。
それはマーテルとユアンが婚約したあとにもつづいていたやり取り。
というかむしろミトスが突っ込みをしはじめたのは、あの二人が婚約してから後。
料理の支度を準備するのも、かたずけるのも大概ユアンで、
マーテルがぎこちない包丁をもつとともに、ユアンがあわてて取り上げていた。
まあ、それはユアンだけでなくミトスも、なのだが。
何しろマーテルは包丁を握っただけで、かるく一度や二度以上。
簡単に自らの手をきってしまうほど。
なぜにそんな場所をきる!?というようなこともざらで。
ゆえにマーテルには包丁をもたすな!が彼ら三人の中では一致団結した決まり事。
になっていたりしたかつて。
彼らのそんなやり取りを蝶を通じて視ていてあきないな。こいつらは。
とおもい、けっこう楽しませてもらっていたのは、ラタトスクの心の中だけの本音。
視ていて何よりもあきなかったのは、けっこうおもしろかったのはいうまでもなく。
あんなに仲がよかったのに、今のクラトス、そしてユアンともども、ミトスはどこかぎこちない。
先のクラトスとのやり取りでも感じたこと、ではあるが。
クラトスはミトスにたいし、かつての親しみやすさ。
そんな雰囲気をもっていない。
どちらかといえば、盲目的につき従う存在、としてミトスに接している。
それがミトスをより孤独にさせてしまっている要員の一つなのではないだろうか。
そうエミルは踏んでいる。
ミトスがあれだけクラトスになついていたのは、クラトスもよくわかっているであろうに。
わからない、のだろうか。
あのクラトスは。
ミトスがクラトスをみるその目の中にさみしさをたたえている、ということが。
それともミトスならばそんなことはない、と盲信しきっているのだろうか。
それとも、それらを考えることを放棄してしまっているのか…
それはいまだにエミルにもわからない。
わからないが、ミトスがこのような世界をつくってしまっている原因。
そこには確実にクラトスのあの態度も絶対にかかわっている。
と強くおもうのもまた事実。
口調と視線は深刻な表情をしながらも、串を網にならべてゆく様は何ともいえない。
どこかかみあっていない、というのがしっくりくるであろう。
そんな視線をいくつかむけられているのに気付いているはず、なのに。
もくもくとそれらを並び終えたのち、
「まず、あのものだが。ヘイムダールをでて、まずはフラノールへむかったらしい。
  そこで、とある人物と接触をとった、までは裏付けがとれた」
腕をくみつつも、全員をみわたし、特にクラトスに視線をあわしながら、
言葉を選ぶようにして説明してくるユアン。
「フラノール?何だって、そんなところに……」
戸惑いの声をあげるしいな。
なぜくちなわがそんなところにいったのかが理解不能。
「あのくちなわ?とかいうみずほの民は、そこにいる男性。
  町のひとへの聞き込みの結果、そのものの名はアビシオン、というらしいが…」
「「アビシオンだって!?」」
叫び声はロイドとジーニアス、ほぼ同時。
「まって。その名前はたしか、フラノールで…」
リフィルもはっと何かにきづいたらしく、あわてて片手をあげて、
ユアンの言葉をおもわずおしとどめる。
「そして、そのものがいなくなったあと、アビシオンとかいう輩は。
  自分を訪ねてきたものがいたならば、闇の神殿でまっている。
  そう伝言をのこして旅だってしまった、らしい。
  おそらく、闇の神殿にむかったのだろう。くちなわもおそらくそこにいるのではないか。
  もしくは、そのアビシオンというものと何らかの接触をもともともっていて……」
ユアンがリフィルの制止もきかずに淡々と言葉をつむいでゆけば、
「ちょ、ちょっとまってくれよ。なんだって、アビシオンとあのくちなわが?」
ロイドは意味がわからず戸惑い気味。
アビシオン、といえばフラノールで闇のそう備品、といわれるものをそろえてほしい。
ネビリムの呪いにかかっているといっていた人物のはず。
同名、という可能性もなくはないが。
「アビシオンっていえば、たしか。フラノールで闇の装備品がどうとか。
  そういっていたあのアビシオン…かい?」
しいなのといかけに。
「そのようだな。まさかあの一族がまだいた、とは。
  しかも、勇者の子孫だだのといっているようだが、あれは…いや、これはいうまい」
どうやら対外的には自分が倒した勇者の子孫、そのために呪いがかかっている。
などといっているが。
ユアンはそのあたりが違っていることを知っている。
「奴とリビングアーマー達がまた手をくんだら厄介、だな。
  ネビリムは元々、リビングアーマーの部下の一人でもあった。
  人でありながら、魔族に魂をうった女性。それがネビリムなのだからな」
「リビングアーマー?それは…」
「かの書物の中に封じている魔王の一人だ。
  というかあの書物の中に封じている大元の魔族だな」
リフィルの問いに淡々とユアンが答える。
どうでもいいが、やけかけた串をていねいにひっくりかえしつつ、
答えるような内容ではないような気もするのだが。
「もしも、闇の精霊を狂わせて力としてとりこもうとしているのやもしれぬ。
  まあ、今、闇の精霊はあの場所から動くことはできはしないが、な」
精霊炉に囚われているがゆえ、かの精霊はあの場から動くことはできない。
「闇は魔の力をもます。ゆえにかの地に書物をもっていき、
  封印をより弱めるつもりなのなもしれん。
  そのせいか、すでに王都メルトキオは漆黒の闇に包まれてしまっている」
『な!?』
さらり、というユアンの台詞に思わず異口同音で叫ぶロイド達。
ちなみにこの場で叫んでいないのは、エミルとミトス、
そしてクラトスとユアンのみ。
「漆黒の闇…かつてのルインのように、ということね」
あの闇は、いつのまにか取り払われていたが。
あのとき、あの場所にいった翌日には。
今ならばわかる。
おそらく、あのときコレットは何もしていないのに闇が取り払われたのは。
おそらくは、エミルが何かをした、のであろう。
それに、おそらくクルシスの下位組織であるディザイアン達も、
あのような天変地異をおこせる、とはおもえない。
だとすれば、別の要員。
そもそも、そんな力をディザイアン達ももっているのならば、
もっとたやすく自然に手をくわえ、人々を家畜同然として、
一部のものだけでなくシルヴァラント全体をそのようにみなしていても不思議ではない。
ユアンの台詞にしばしその手をあごにあて、考えるそぶりをしながらつぶやき、
そして、
「これは、急いで闇の精霊がいる、という神殿にいったほうがよさそうね。
  ユアン。あそこにいくのには手段は?」
「レアバードも危険だ。マナが狂っている。
   レアバードの動力源はマナだからな。
   どうやら瘴気がうっすらと漂いはじめ、それゆえにマナが薄くなりかけているらしい。
   いや、相殺されている、というべきか?私は自らの翼で飛んでいったからな」
レアバードのコントロール装置が狂ったのをうけ、すぐさまに、
レアバードを使用することをやめ、部下達には待機させ、
ユアンは一人、かの町の中へとむかっていった。
さすがにレネゲードのものたちでは、瘴気に狂わされてしまう可能性が高い。
それにきづき、しっかりと、執務室においておいたエンブレムをとりにいったが。
念には念を。
ゆえに、今現在、ユアンはデリス・エンブレムを実はもっていたりする。
そして、クラトスの執務室からクラトスのももってきており、さきほどクラトスにそれを手渡している。
この場でゆえに、もっていないのはミトスのみ。
ミトスはデリス・エンブレムの力そのものを別の用途につかっているがゆえ、
今現在は完全なる形のそれをもっていない。
「あのままあの場をほうっておくわけにはいかない。
  下手をすれば、王都そのものが、
  かつてのように、魔界の窓をひらく鍵としてつかわれかねない」
かつてのときも一つのちょっとした大きな街が使用された。
それこそ大量虐殺、という名でもってして、窓は開かれてしまった。
そして召喚されたが、二体の魔族。
人がその欲のために呼びだした、魔界の実力者達。

 

 

  ~スキット・夕食後・夜のビーチにて~

ロイド「うわ!?またおっこちたぁぁ!」
ジーニアス「もう。ロイド、ゆっくりもたないからだよ」
リフィル「というか。なつかしいわ。この花火」
エミル「あはは。服とりだしたら、この袋の中にいれたままにしてたんですよね」
ふとみれば、袋の中にかつて使用した線香花火がのこっていたまま。
せっかくなので皆を誘い、夜のビーチにてやっている今現在。
ユアン「しかし、これはたしか、ヘイムダールでしかうれらていなかったのでは?」
しいな「いんや。うちの里にもこれはあるよ?線香花火だろ?
     集中力を持続させるのにいいんだよね。これ」
ロイド「くそ~!エミル!次もらうぞ!」
エミル「どうぞどうぞ。…なんかごっそりと束いれたままわすれてたんだよね……」
そもそも、これはたしか。
せっかくあまった火薬でつくってみたからあんたもってなさい。
とギルドのメンバーにかつておしつけられたもの。
すっかりきっぱり失念していたが。
皆のそれぞれの手ににぎられているのは、俗にいう線香花火、とよばれしもの。
ちなみに、これは手作りも可能。
ミトス「・・・(なんで、エミルは……)」
エミルのその台詞にふとミトスの脳裏によぎりしは。
幾度か目にたちよったギンヌンガ・ガップでのこと。
同じようなことをいわれた記憶がある。
おもいきり。
四人で線香花火をした話しをし、君にもやってほしい。
といったら、そういえば、以前におしつけ…もとい、もらったのがあったはず。
とかいって、ごっそりと束をだしてきた。
そのまま使い道がないから、お前達が使うのならばやる、といってもらったあの当時。
なぜあの線香花火とこれが、まったく同じ質感なのだろうか。
ちなみに、エミルはそういえば、ミトスにもこれ以前にあげたなぁ。
という認識でしかなく、この袋にいれていたのを忘れていた、というのは嘘ではない。
他にも大量にもらっていたそれをほとんどミトスにおしつけていた、
というか、使用するものがいるなら渡したほうが問題なはい、とばかりに、
かつて手渡したにすぎない。
リフィル「ふむ。ロイド、お前はたしか、ダイクのところでこれもつくっていたな。
      さあ、この花火の特徴をあげよ!」
ロイド「うわ!?なんで先生、いきなり遺跡モードなんだよ!」
コレット「はい、先生!始めに先端に玉ができるのを、牡丹、といいます」
しいな「へぇ。いい方は同じなんだねぇ。次に玉が激しく火花を発するのを松葉」
ジーニアス「火花が低調になるのを、柳」
マルタ「えっと、たしか。消える直前が散り菊、だったっけ?」
コレットにつづき、もののみごとに意気投合したかのように、
しいな、ジーニアス、マルタが続けざまにいってくる。
リフィル「その通り。そもそも、この線香花火、といわれているものは。
      そもそも、昔、香炉に線香をたてて遊んでいたことから所以しているという。
      この玉は融合した硫黄や各種不純物が表面張力で球場になったもので…」
ロイド「うわ~!何でこんな遊びなのに勉強しないといけないんだよっ!」
エミル「あ。ミトス、上手だね。ミトスが一番長く始めの花火をけさずにいられたよ。
     あいかわらず上手だね」
ミトス「え?」
クラトス&ユアン「「ん?」」
エミル「?」
あいかわらず、というのはどういう意味なのか。
おもわずエミルをみるがエミルはちょこん、と首をかしげるのみ。
まるで今のいいまわしは、ミトスがこれを上手にできる、としっていたかのような言い回し。
たしかに何でも精霊ラタトスクがくれた!といって、
かつて大量に線香花火をもらってきたことはたしかにあったが。
というか、あの当時、なぜに精霊が線香花火?
とものすごく強く違和感をもったがゆえにいまだにクラトスもユアンも強く覚えている。
エミルとしては視ていたがゆえに、つい素でいっただけなので、
無意識のうちに自分がおかしなことをいった、という自覚は皆無。
ゆえに首をかしげざるをえない。
リフィル「これは精神集中にも役立つからな。うむ。
      落ちつきをとりなす修業にもやくだつかもしれないな」
ジーニアス「…姉さん、教育者の立場はいいからさ。もう少したのしめば?」
マルタ「でも。シルヴァラントではこれ、一般的だよね。
     イセリア方面からでまわる花火、かなり手にはいりにくいんだよねぇ」
ロイド「あ。たぶん、それ、親父がつくってるやつだな。
     手作りだからあまり数がつくれないっぽいし。俺も手伝ってたし」
実際、ダイクの収入源の一つに線香花火作成、というものがある。
在る程度まとまっては、旅業の行商人にそれを売り、家計を助けてもいた。
ゼロス「そうだ!誰が一番長く消さずにいられるか競争しようぜ!競争!
     今みるかぎり、エミルくんとミトスがほぼ同点っぽいし。
     一番早くけしてしまったものには罰ゲームってのはどうだ?
     たとえば、女装、とか」
ロイド「って、ゼロス!お前ぜったい俺が最下位みたいなことおもったな!
     って皆まで!皆の視線が、今ほとんど俺にむいたぞ!」
事実、ゼロスの言葉に皆が皆、クラトスまでもロイドにむいている。
クラトス「ロイドの…女装?いや、いかん!もしそれでナンパでもされたらっ」
ロイド「あんたはあんたで何で変なところで反応してるんだ!
      というか、俺おとこ!ナンパなんてされるかよ!」
ゼロス「いんや。エミルくんみろよ。つねにナンパされかけてるぞ?
     というか、俺様のつぎによく品物もらってるのエミルくんだろうが」
マルタ「…エミルって、格好によっては完全に女の子、だもんね。
     髪の長さもわたしくらいにあるし。というか私より髪綺麗だし、肌きれいだし。
     もちもちだし……」
コレット「うん。女の子としての自信なくすよね」
ユアン「…私はその競争には断固として全力で遠慮する」
クラトス「…そういえば。お前、昔マーテルに女装させられたことがあったな。
       このかけでまけて」
ユアン「う、うるさい!マーテルに化粧ほどこされて、
     これでユアン、あなたもきっといいお嫁さんになれるわ!
     といわれた気持ちがお前にわかるか!?」
クラトス「まあ、あれがマーテルだったからな」
ミトス「・・・・・・・・・・・」
それはなつかしき日々の記憶。
まだ姉がいきていたころの。
ゆえにミトスは黙り込むしかできない。
懐かしい記憶、あのころにはもどれない。
もう。
プレセア「女神マーテル様…ですか」
ユアン「あいつはものすごく天然だったからな。というか。
     女装したときなんか、ユアンも子供うめそうよね。とかいわれたんだぞ!」
一同(ミトス、エミル、クラトスを除く)
『・・・・・・・・(マーテル(様)って…)』
ユアン「そもそもあいつは!料理をさせたらなぜか変なところをいつのまにか怪我してるわ!
     砂糖と塩をまちがえてはいれるわっ!
     さらにはなんでか十秒ルールがあるから問題ないわよね!
     とかいって、そこいらにおちているものをたべようとするわっ!」
クラトス「…あれは、以前、きいたことがあるのだが。
      ほぼヘイムダールの中でサバイバル状態でつちかった感覚らしいぞ……」
一同(ミトス、エミル、クラトスを除く)
『・・・・・・(だから、マーテル(様)って・・・)』
どうも彼らの会話をきいていれば、女神マーテルのイメージが崩れてくる。
というか確実に崩れた。
ゆえに思わず何ともいえない表情をうかべるマルタ達は間違っていないのかもしれない。
女神、という偽りの認識をもたされている彼らからしてみれば、
そんなあるいみで人間臭いマーテルの行動などおもいつきもしない。
ユアン「でも、そんなほうっておけないところが。マーテルらしい、というか。
     ごめんね。ユアン。とちょん、と首をかしげてほほ笑むあの様子がかわいいというか。
     そうだ、マーテルはあの動作がとてもにあっていたから、
     あえてやってほしい、いや、身の危険は感じはしたが、しかしあのかわい…」
クラトス「そこまでにしておけ。というか。ユアン。
      きさまは相変わらずマーテルのことになると話しがとまらなくなるな……」
ユアン「当たり前だ!私の命はマーテルのもの!これは誰にもゆずらんぞ!」
ロイド「…えっと、ユアンとマーテルって…」
ゼロス「はいはい。ってことで、競争しようぜ。競争。
     天使様たちもロイドくんの女装姿みたいんじゃねえのか?」
ロイド「だ・か・ら!何で俺が負けるの前提なんだよ!!」
ジーニアス「ロイドだしね」
しいな「そうだね。あんただし」
ロイド「ひでえ!ジーニアスにしいなまでも!プレセア、コレット何とかいってくれよ!」
コレット「うん!ロイド。女の子の格好したらおそろいしようね。おそろい!
      私、ロイドと同じ服きたいなぁ」
プレセア「そこまで否定しようとするロイドさんの気持ちがよくわかりません」
ロイド「って、コレットにプレセアまでもかよ!」
クラトス「いかん!それでもしもロイドが…」
リフィル「前からおもっていたのだけど。クラトス。
      あなた、ロイドのことになるとやけにつっかかるわね?」
クラトス「うっ」
エミル「で、勝負するの、しないの?」
ロイド「する。やってやる!俺だっておちついたら長く火をけさずに、
     というか玉をおとさずにできるってみせてやるぅぅ!
     玉が消えるまでおとさずにやってやるぅぅ!」
ジーニアス「無理だとおもうな。それ。ロイドあきっぽいもん」
クラトス「まったくだ。嘆かわしいことにな」
ユアン「誰ににたのだろうな?」
クラトス「…何がいいたい?」
ユアン「さあ?」
意味ありげにクラトスをみつつ笑みをうかべているユアンにたいし、
クラトスがぎろり、と睨むがユアンはかるくスルーする。
ミトス「うん。それには僕も全力で同感」
というか、本当にクラトスの子、なのだろうか。
マナからして間違いないのはわかる。
わかるが。
このこらえしょうのなさ、といい。
あっさりと周囲にながされる負けず嫌いの性格、といい。
…あのとき、クラトスに徹底して探させるべきだったのかもしれないな。
とふとおもう。
この性格ならば、クラトスが彼をつれてかえっていたとしたら。
それこそクラトスと一緒に自分によりよく仕えてくれるものになっていただろう。
もしかしたら、クラトス達とは別のそれこそ何でもいいあえる…
いや、そんなことはない、か。
そんなことをおもいつつ、ミトスはその考えを切り捨てる。
そう。
ありえない。
ありえたかもしれないが、それはもしも、でしかもうない、のだから。
アステル「というか。この材質、みたことないものなんだけど、何だろ?
      かなり上質のこよりがつかってあるよね。これ」
リヒター「うむ。いくつかサンプルにもらっておくとしよう。数はかなりあるようだしな」
みたこともないほどの上質なこよりでこの線香花火はつくられている。
ゆえにサンプル、として別の意味で興味をいだいているこの二人。
リリーナ「もう。二人とも。せっかくの遊びなんだから。もう少したのしみなさいよね」
そんな二人をみて呆れたようにいっているリリーナ。
あるいみこちらはこちらでいいコンピ、といえるのであろう。
しばし、静かな波の音が響くなか、
彼らの騒ぎと、パチパチとひびく線香花火の小さな音のみが、
周囲にとひびきわたってゆく光景がみうけられてゆく――

(リーガル&タバサ以外で海岸にて線香花火に興じる一行でしたv
   ちなみに、全員浴衣着用、ですv脳内想像してくれたらたすかりますv
   さらにいうなら、エミルとミトス、ならんでたら何となく兄弟?
   といっても通じるような似通った雰囲気もってます。あしからず)

※ ※ ※ ※

翌朝。


まあ、昨夜はいろいろとあったが。
結果してやはり線香花火の勝負の結果、ロイドが最下位となったことには、
どうやら全員が納得の結果、であったらしい。
ロイドだけがなぜだぁ!と叫んでいたが。
リフィルにあなたは落ちつきがないからよ。といわれ。
しいなに座禅をあんたにおしえてやるよ、といわれ。
まあとにかくいろいろと昨夜はあったが、そんな騒動は嘘のような翌朝。
「コレットさん、これを」
「あ、ありがとうございます!」
朝になり、食堂にでむくのその前に出かけていたタバサ達がもどってきた。
その手にはおそらくは、症状を抑える、というものなのだろう。
それはブレスレットのような形になっており、
そのままタバサがコレットの手をとりコレットの右手につける。
すると、しゅるり、という音とともに始めからコレットの体にあわせたかのように、
その大きさが変化する。
色合い的には金とも銀ともいえない中間のあたりの腕輪。
「私はマスターと意識を共有していないのでわかりませんが。
  くわしくはリーガルさんにマスターが説明しているとおもいますので。
  詳しいことはリーガルさんからきいて、ください」
「コレット、体の調子はどんな感じかしら?」
「はい。何だかとても楽、です」
ふわり、とした感覚を感じる。
何となくではあるが、力そのものが体そのものにゆっくりと染み込んでゆくような。
そんな感覚。
「うむ。ほぼ徹夜で頑張ってくれたからな。しかし、こういうときの自動人形。
  というものはたしかに便利ではあるな。睡眠も休憩も食事も必要としない、か」
リーガルからしてみれば感心せざるをえない。
一度も休憩することなく、タバサはこの品を作り上げた。
傍で念のために、と管理していた研究者達が驚くほどに、疲れもまったくみせなかった。
当たり前といえば当たり前、なのだが。
彼女、タバサにはヒトが感じる疲労感、というものは存在しない。
まだ、そういう心が芽生える段階にまですら発展もしていない。
ゆえに、彼女は精神的に疲れる、ということもしらず、
結果として、もくもくと作業をこなしたにすぎない。
部屋は男女わかれての振り分けとなっており、
一度、食堂にいく手前のエレベーターの前。
そこで全員が集まることをきめている。
ユアンとクラトス、そしてエミルはコテージのほうで寝るといって、
このホテルのほうにはもどってきてはいないが。
ミトスもコテージで、といったのだが。
ジーニアスがせっかく一緒の部屋になったんだからいこう!
といってほぽ強制的に引っ張っていった。
部屋割そのものが、二人づつの部屋などが振り分けられており、
その結果、ジーニアスとミトスが同室になっていた結果ともいえる。
くつろいだ空間であるがゆえ、エミルもノイシュを元の大きさにもどし、
好きなだけ夜の海岸線を走りまわさせたり、
あとはいい加減に水になれさせるために、あえて水面上を走らせたりもしたのだが。
ともあれ、ひとまずリーガルとタバサももどってきたこともあり。
エミル達と待ち合わせをしている食堂に一行は足をむけてゆく。


   ~スキット・翌朝、リーガルとタバサがもどってきてから、朝食中~

アステル「そういえば。前から思ってたんですけど。リーガルさん」
リーガル「何だ?というか、改めてどうした。アステル殿」
始めのころは公爵呼びであったが、それだと旅をするのに不都合がある、といわれ、
アステル達はリーガルのことのよびなはさんづけで一応は統一している。
といっても時と場合にきちんと使い分けてはいるようだが。
アステル「何であの遊園地のあれ、コーヒーカップじゃないんですか?
      普通、ぱっとおもいつくのはコーヒーカップのような気がするんですけど」
大概、パンと共に出てくるのはコーヒー。
なのにあえてこそなぜに紅茶なのか。
リーガル「それは私が紅茶の方がすきだからだが?」
リヒター「ふん。貴族様らしい思考、だな。
      お茶会というものをよくしているものたちらしい」
リーガルの台詞にリヒターが何やら自嘲気味にいっているが。
どうやらその言葉からして何やら含むところがあるらしい。
リーガル「わかっていないな。紅茶とは上質をしるもののたしなみなのだ。
      コーヒーなどただの泥水のようなものだ」
アステル「それは聞き捨てなりませんよ?リーガルさん。
      コーヒーの効果はとてつもないんですよ!
      そもそも、コーヒーにつかわれている豆の効果がもたらす様々な便利性。
      レザレノの会長ともあろうあなたが知らないとはいわせませんよ!
      そもそも、コーヒーの原料となっているあの樹になる果実は食べられますし!
      常緑低木でジャスミンにも似た白い花を咲かせるあの木は観賞用してもいいですし!
      さらに、コーヒー豆のだしがらは脱臭剤にも使用できますし!
      形成木炭としても再利用できます!
      これほど用途がより大きくとられるようなものをないがしろにする発言は、
      断じて僕は抗議します!」
エミル「コーヒー豆を利用してつくれる料理もありますしね。
     カカオと同じくいろいろと用途はありますよね。たしかにあれは。
     コーヒー豆から抽出したエキスは香りつけや味付けにも利用できますしね。
     ういろう、ビスケット、パン、ケーキ。ガム、チョコレート、
     コーヒーゼリーにコウヒー牛乳。あとカルーアもありますね」
しいな「染料にもつかえるよ。紅茶はいろんな種類があるけどさ。
     コーヒー豆はたしかそもそも一種類から品種改良でそこまでになった品だろ?
     紅茶はそれこそハーブから何でもござれ。
     あたしとしてはコーヒーの方が好きだけどね」
アステル「しいなさん、わかってますね!そもそも、コーヒーとチョコレートは、
      僕たち研究者にとってはなくてはならないものなんですよ!
      特に連続した徹夜の研究や実地調査!それにはなくてはならぬものですっ!」
ジーニアス「でも、ロイドはおいしいコーヒーを自分ではいれられないんだよねぇ」
リフィル「その点、エミルのいれたコーヒーはおいしいわね」
ジーニアス「エミルのいれたものは何でもおいしいよ。姉さん」
ロイド「先生達もアステルもリーガルも…朝から何やってんだよ…」
コレット「うわぁ。エミル。今度今いったの全部つくってね!」
エミル「え?たべたいの?なら時間があるときにでも」
マルタ&コレット「「やったぁ!」」
コレット「エミルの料理はおやつもおいしいよね」
マルタ「うん。外れがない、とはよくいったものだよね」
リーガル「うむ。それはたしかに認めざるをえないが……
     というか、いつのまにかまた話題がかわっていないか?」


pixv投稿日:2014年8月18日某日(Hp編集:2018年5月6日(日)

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あとがきもどき:

さて、ロイドの天使化における複線でてきましたーv
この設定さん、子供のころ(赤ん坊のころ)はロイド、実は翼はえてましたからねぇ。
物ごころつくころにはそれなくなりましたが(マテ
なぜかクラトスの前ではロイドみせていなかったから、クラトスはそれを知りませんv
きづいたらなんでそんなところにのぼってるんだ!?
というような子育て奮闘記があったりするのですよ(クラトスパパガンバv
しっていたのはアンナのみ。おどろかそうとおもって伝えておらず、
そして今にまでいたっているという裏設定v
あと、ミトスが散々過去をおもいだしまくってます。
これもまた複線になってます。一応は。
というか、エミルと一緒にいたらラタトスクのことおもいだしまくってて、
自分が本当は誰をすくいたかったのか。
という思いがよりつよく表にでてきてしまってます。
…実は、こっそりと、ラタトスクの精霊形態って、
ミトスにとっての本当の意味での初恋だったり(笑)
(裏設定なのでださないけど、だからミトスはラタトスクにこだわってる。
  好き、という感情は理解してないミトスですけど、ねw)
それほどまでにラタ様の精霊形態は神秘的ですからねぇ。
自分の中では(まて
設定的にはIFと同じく。
きらきらとかがやく銀色の髪は光の加減にて虹色に変化し、
深紅の瞳の瞳孔ここれまた神秘的な凄烈までの金、です。
みるものをだれしも圧倒するような容姿。
それが精霊形態のラタトスクなのですよ。ええ。
絶対にラタトスク様の精霊形態って神秘的だとおもうんですよねぇ。
大樹の精霊だし。
マナを産みだす大本だから、瘴気の影響もあっさりとはねのけそうだし。
で、精霊だから、男でも女でもない、と。
ついでにどっちでも実体化するときにはなれる、と。