まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

pivixさんに投稿していた話の区切りとは変えてあります。容量的に……

そういえば、コメント(投稿回のとき)で、ゴールドドラゴン云々、というのがありましたが、
トレントの森がでてきたから、エミルの足になるのが予測されたんですかねぇ。
何となく予測されていたような気がひしひしと……
いや、だって今現在、レアバードの機体、数がたりないし(マテ
でもって、あの場所でエミルがリフィルにあきれられるような魔物を使役する。
というので消去法でいえば、しかも空をとべる。
ふとゴールドドラゴンがおもいついてたんですよね。
ちなみに、大きさを変えられる、というねつ造設定でv(マテ
それで物語脳内でつくってたんだし。これ……
さてさて。今回ようやくラーゼオン渓谷、ですv
※渓谷のフルーツ、樹からとれる所得数、ねつ造してあります。
そういえば、渓谷のあの仕掛け。
面倒きわまりないけど、当時やったとき。
これってリングでなくて何でシルフにたのめないの!?
とおもったのはきっと私だけではないはずです。絶対に……
※投稿分では98からの回です。

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重なり合う協奏曲~ラーゼオン渓谷~

ラーゼオン渓谷。
それはエルフの里のあるユミルの森から東南に位置しているとある渓谷。
エルフの里をでて、ユミルの森をぬけ、レアバードにて移動する。
それにしても。
「…エミル、なぜ今度はドラゴン、なの?」
かなり目立つ。
目立ちすぎる。
「え?何か問題ありますか?この子まだ子供なんですけど」
ちらり、と横をみれば、黄金色にと輝く鱗をもちしドラゴンにまたがっているエミルの姿。
どうやらエミルが一人外にでていたときに、エミル曰く、森からでてきた、ということらしい。
ついでだから、ならば足代わりに、とエミルがお願い、したらしいが。
大きさはかつてリフィル達が利用したことのある飛竜より一回りほど大きく、
ドラゴン、というわりにはさほど大きくはない。
エミル曰く、まだこのドラゴンは幼生体なのでそこまでの大きさはない、らしい。
基本的にこの種族の魔物はトレントの森に生息、しているらしいが。
ちなみに種族名は金色の体を指し示すがごとく、そのままのゴールドドラゴン。
というらしい。
このドラゴンの特性はある程度体の大きさを小さくすることができるらしく、
子供のドラゴンだと、それこそ手乗りドラゴン。
そこまで小さくなることが可能、とのこと。
だから、この子が一緒でも問題ないですよね。
とにこやかにいわれたのはつい先刻のこと。
「…まあ、いいわ。いっても無駄なのは今に始まったことではないしね」
それに、エミルの傍にいたあのものたち。
あれを知っているのか、とエルフ達にといかけたが。
エルフ達はそれに関しては口をとざした。
知らないのなら、知らされていないのならば自分達からいうことはできはしない、と。
つまるところ、あのエイトリオンとかなのっていたかれら。
彼らに何かがある、ということに他ならない。
それに、あの教皇の台詞。
センチュリオンコアにラタトスクコア。
そんなとてつもないものがある、とでもいうのだろうか。
名からして、センチュリオン、そして精霊ラタトスクにかかわりがあるもの、
なのであろうが。
よもやリフィルは文字通り、それが彼らの核となりしコアそのものだ。
ということにまではたどり着いていない。
精霊、とは基本実体がないもの、といわれている。
そんな精霊がコアを、つまりは核をもっているなど
そんな考えに普通たどりつくはずもない。
「じゃあ、僕は先にあっちに降り立ってますから。皆もあとからきてくださいね?」
何でも渓谷の入口には見張りのものがいるらしい。
リフィル達はレアバードの関係上、どうしても外から入る必要があるが。
ドラゴンにまたがっているエミルはといえば、そのまま山の中に降り立つことが可能。
どうしてもレアバードが六機しかない以上、
十三人、という人数は一人どうしてもあぶれてしまう。
かといって、三人もレアバードにのれるか、といえば、
それこそ機体のバランスを崩しかねない危険な行為。
いいつつも、その場におりようとするリフィル達にそういいつつも、
山のほうにむかってぱさぱさとゴールドドラゴンの背にまたがり飛んでゆくエミル。
やがてエミルとドラゴンの姿が山の中にときえてゆく。
「…私たちもいきましょう」
そんなエミルの姿をみおくりつつも、レアバードが着地できる平地をさがし、
その場に降り立つリフィル達。
目指すは視界の先にみえているラーゼオン渓谷、とよばれし地。


さすがに渓谷、といわれているだけのことはあり。
きりたつ山々の断崖絶壁。
山々に囲まれし渓谷。
それがラーゼオン渓谷。
それでも一応人の出入りがある、のであろう。
あきらかに人の手がくわわりし、けもの道らしきものをすすんでゆくと、
やがて、道の中心に一人のエルフの姿がみてとれる。
「まて。この先は立ち入り禁止だ」
どうやらこの人物はこの場の番人、もしくは警備員、といったところなのであろう。
「族長の許可はえていてよ」
いいつつも、リフィルがコレットにと視線をむける。
はっとして、あわててコレットが腰にさしていた杖を両手にもちつつ、
目の前にいるエルフの男性にみせるようにとつきだして、
「え、えっと。これ、ブラムハルド族長さんからもらった、んですけど」
「まちがいない。族長の杖だな。…まあいい。よし。
  杖をもっているのならば、ここを通れ」
なぜにハーフエルフが三人もいるのに許可をだしたのかはわからない。
わからないが、許可がでている、というのならば問題はないであろう。
ハーフエルフだからといって全てが悪いわけではない。
そのように彼はおもっているがゆえ、すんなりとリフィル達をとおすべく、
そっと道の橋にとよけながら、
「この山は険しい。そこに力の場がある。
  この山には少しかわった花々が生息しているから、その力を利用して進むのがベスト、だな。
  何の用かはしらないが、まあ、頑張っていくがいい」
杖をもっているのは、この上の小屋に用事があるのか。
それともこの山に生息している別のものに用事があるのか。
ここはマナリーフだけの生息場ではない。
むしろ魔術などに必要な草花もよく生えている。
そして特殊なる果実すら。
そういってきた見張り役のエルフにぺこり、と頭をさげ、その先にとつづいている道にと歩みいる。
周囲は崖になっており、
「…なんか、ここ、オサ山道を思い出す、な」
ロイドがぽつり、と周囲をみつつもそんなことをいってくる。
「そういえば。しいなもあんな崖の上からいきなりあらわれたんだよね。始めのとき」
「そのまま落とし穴におちたけどね~」
コレットがロイドの台詞にそのとき、のことを思い出したのてあろう。
にこやかにそんなことをいえば、ジーニアスが苦笑ぎみにそんなことをいってくる。
そんな彼らの台詞をきき、
「落とし穴?」
おもわずゼロスがじっとしいなをみつめるが。
「な、何でもないよ!あ、あのときは。あたしは神子の暗殺依頼をうけてたんだし!」
もっとも、結局流されるがままに後々仲間扱いになってしまったのも事実なれど。
「まさか…しいな、まだ古典的な罠にひっかかる癖…なおってない、のか?」
あきれたようなゼロスの問いかけに、
「だ、だから!何でもないっていってんだろ!
  あ、なんかあの崖の上に何かあるね。
  あたしちょっくら飛び上がってみてくるよ」
「あ、お、おい」
ゼロスにこれ以上追及されるわけにはいかない。
というかあの初邂逅はしいなにとってははずかしすぎる。
ゆえに深く問いかけられるよりもはやく、何だかちらり、と垣間見えた崖の上。
そちらにむかって、タッン、と地面をけって飛び上がる。
そんなしいなをみつつ、
「しいなって。みえないけど、飛翔力、すごいよねぇ」
「エミルもだよね」
ジーニアスがそんなしいなをみあげつついえば、
コレットがそういえば、とばかりに首をかしげていってくる。
「まあ、しいな達、みずほの民はそのような特訓を日々してるらしいからな。
  何でも成長速度の早い麻をうえて、
  それを日々飛び越えることによって、その飛翔力を培ってるらしいぜ?
  あっという間に三、四メートルは成長しきっちまうから。
  それらを飛び越えられなくなったら忍者失格、みずほの里の民失格。
  とまでいわれるらしく、誰もが必死、らしいぜ?」
そんな彼らの素朴な疑問にこたえるかのごとく、
ゼロスが何かをおもいついたようににやっと笑みをうかべ、
みずほの里に伝わりし伝統の一つ、修業方法を暴露する。
「へぇ。そんな訓練であんなに高くとべるようになるんだ」
「麻、かぁ。おもしろそうだな」
コレットが素直に感心し、ロイドが何か面白そう、とばかりにいってくる。
「昼夜とわず、一日に数度は必ずとびこえて、
  一日もかかさず、雨の日も風の日もやすまずにこなしてこそみずほの里の忍者、
  として一人前とみなされるらしいぜ?
  もっとも、それらをこなしてこそ、一人前というよりは見習い、
  として認められるってところらしいが」
「え?一日もかかさずに!?わ、私にはむりだ」
ゼロスの言葉にマルタが驚愕にみちた表情をうかべ即答する。
そんな、雨の日も風の強い日もなんて絶対にむり。
というか濡れるのが嫌だから家にとじこもっていたいのが本音。
「ロイドにも無理だね。あきっぽいし」
「ど、どういう意味だ!俺だってなぁ!」
「できるっていう自信あるの?断言するよ。ロイドは絶対に無理だって」
「無理でしょうね。ロイドには」
「ひでえ!ジーニアスに先生まで!」
ロイドがそんなジーニアスとリフィルにおもわずくってかかるとほぼどうじ。
「お~い。なんかここ、かわった花がくたっとなってるんだけど」
さきほど崖の上にとびあがったしいなが、
崖上からロイド達のいる場所を見下ろしつつも何やらいってくる。
どうやらそこに、何か、があるらしい。
「うん?どうやら、たしかに花…のよう、だな」
道にいる自分の目からもわかる。
何か巨大なる花がくたっと萎れている様が。
ゆえにリーガルがぽつり、としいなのほうをみあげつつ思わずつぶやく。
くたり、と巨大な花が地面にぺたり、とはいつくばるようにして萎れている。
ここからみえるということはどれだけ大きな花だというのだろう。
ロイド達がいる場所と崖とではかるく二、三メートルの高さの隔たりがある。
にもかかわず、こうして下からもその花が萎れているのがみえるのは、
かなり巨大な花である、という何よりの証拠。
「うわ!?なんだ?あれ?」
「うわぁ。萎れてるけど、大きくて綺麗な花だねぇ」
それをみてロイドが思わず一歩後ろにと退き、
コレットはコレットでにこやかにそんなことをいっていたりする。
「…たしかに大きい、けどさ。これは綺麗じゃない、とおもうんだけど」
しいなもそんなコレットの声がきこえた、のであろう。
困惑したように、それでいて顔をひきつらせつつ、
背後にある花をみながらもぽつり、とつぶやく。
どうみても綺麗、という分野ではない。
むしろこの大きさからして、ひとくい花でもおかしくはない、とおもえるほど。
萎れている、といっても花の形をたもったまま、地面によこたわっており、
何ともいえない違和感をその花はかもしだしている。
「あれ?ねえ。ロイド。みて。反対側に同じような花があるよ?
  でも、あっちのお花さんは、そっちのお花さんとは違うみたい」
コレットの指摘をうけ反対側の崖の上をみてみれば、たしかに、同じような花がみてとれる。
しかし、そちらのほうの花は、その大きな葉をぱたぱたとさせ、
さらには、巨大なる花弁の花を幾度も幾度も上下にふるかのごとく、
その花弁の中より何やら息のようなものを吹きだしているのがみてとれる。
まるで、ヒトがいうところの大きく息をすいこんでは吐き出しているかのごとくに。
「たしかに。でも、何だか様子が…違います」
何だか必死に息?らしきものを吹きだしているようにみえる。
そして、その息はどうやら反対側の萎れた花のほうにむかっているのはこれいかに。
「本当だ。なんだかあっちのやつは、必死で空気をだしてるみたいだな。
  あ、あっちにもにたような花があるけど、あっちは色違い、だな」
よくよくみれば、崖の上にそういうような巨大な花がいくつかみてとれる。
それらの花々は萎れているもの以外は、なぜか空気らしきものを吐き出している。
もっとも、しいながいる反対側の崖の上にいるものほど空気を必死に…
どうみてもそのようにみえるのは彼らの気のせいか…を吐き出しているようなものは、
まずこの付近にはみあたらないが。
「……」
しばらく無言でそれらの花を交互にみていたリフィルだが、
何かを考えるように、その手を顎にあてたのち、
「前に、何かの書物で読んだことがあるわ。
  エサを供給すると空気を放出し続ける植物があるって」
それはまだリフィルが幼きころ、エルフの里にいたころの記憶。
「さっすがリフィル様~。俺様、ほれなおしちゃいましたよ」
「え?お兄様と、リフィルさん、が?あ、でも。いいかも。リフィルお姉様…か」
いずれは兄も結婚をしなければならないのならば。
話しにきく政略結婚にもちかしい、
クルシスのいいなりでの結婚、よりは好きな人と結ばれてほしい。
それがセレスの願い。
だからといって、兄が誰かにとられる、というのは許せないが。
「ちょ、ちょいまて。セレス、これは社交辞令、というものでな」
そんなセレスの台詞にあわてたようにセレスにいいわけをしているゼロス。
女性に対する社交辞令をいうたびに本気にされてはたまらない。
「あら。そうなのね。まあいいわ」
「セレスの前だと下手に女性に社交辞令の一つもいえないってか?」
「あはは。いいんじゃないかい?あんたは女性に声をかけすぎ、なんだから」
「あのな。でも俺様が声をかけるからいろんなアイテムやお金がもらえてるだろ?」
「そ、それは…」
実際、ゼロスが女性達に社交辞令をいうたびに、女性達もわるくない、とおもうのであろう。
ちょっとしたお金や品々をゼロスにわたしてきているのをしっているがゆえ、
タッンと崖から軽やかなる身を翻し飛び降りてきてまた皆に合流してきたしいなが、
ゼロスにいうと、逆にそんなことをいわれ、しいなは言葉を濁してしまう。
実際助かっているのは事実であり、ゆえに何ともいえない、というのが本音。
「ふむ。あちらの花が空気をだしている、ということは、
  その”エサ”たるものが、この谷にあるということか?」
そんなしいなやゼロス、そしてリフィルのやりとりをさくっと無視し、
リフィルにとといかけているリーガル。
神子が女性に声をかけまくり、そのような言葉をかけているのは
テセアラのものならばほとんどのものがしっている。
ゆえに今さらそれに突っ込みをする気はさらさらない。
まあ、すこしいきすぎだ、という思いは否めないのだが。
「ええ。そう考えられるわね」
「そうだとしたら。あの花、何のか役にたつかもしれないな」
「そうですね」
リーガルの問いかけにリフィルがうなづき、そしてまた、
そんなリフィルの言葉にロイドがそんなことをいってくる。
「ここ、僕らも始めてくるんですよね。許可がおりなくて」
アステルが申し訳なさそうにそんなことをいってくるが。
エルフ達いわく、かつてここに国の研究者達をいれたとき、
貴重な薬草がことごとく乱獲されてしまい、絶滅しかかったことがある、という。
それをきいたとき、アステルは何をかんがえてたの!?そのときの研究者達は!?
と。
おもわず、すでに生きてはいない研究者達に怒りを覚えたのはいうまでもない。
何しろそれはアステルが産まれるよりも前のことだった、らしく、
そのこともあり、研究者達はこの地にはいるのを制限というか、ほとんど却下された、という。
今回、なぜに同行がみとめられたのかはアステルはわからないが。
何となくだが、エミルの存在があるような気がしてはいる。
エルフ達はいわなかったが、それはアステルの勘。
そんな会話をしつつ、進んでゆくことしばし。
道は時折いくつかにわかれており、場所によっては行き止まり。
緩やかであったり、急激であったりする坂をあがってゆくと、
やがて花の生えている場所にとたどりつく。

「うわぁ。近くでみれば変な花~」
先ほど下からみたのとはまたことなる。
というか、大人よりも一回りも二回りもおおきな、原色にもちかしい花が目の前にある。
その鋭くとがった濃い緑色の幾枚もの葉はかさなりて、
生きているのをしめすかのごとく、うねうねとうごいている。
「…これって、魔物、なんじゃぁ」
ぽつり、とそれをみてロイドがつぶやけば。
「いえ。植物よ。魔物のマナではないわ」
きっぱりはっきりといいきっているリフィル。
この目の前の花から感じるマナは魔物のものではない。
周囲をみわたせど崖にかこまれた道がつづいているらしく、道、という道がみあたらない。
否、あるにはある。
しかしそこにいくためには、時折どうやら崖同士を飛び越えていかなければならないらしい。
そして、よくよくみれば、それらの崖の上には花々があり、
それらの花が空気をまるで送り合っているかのようにみえなくもない。
時折しおれている花のほうには、必死で空気を送り続けているような花の姿も、
先ほどと同じような状態ではあるがみてとれる。
しかし、崖を飛び越える手段といってすぐにはおもいつかない。
ならば、奥にとさらに続いている道をすすむのが無難であろう。
しかし、その奥につづいている道もどうやら行き止まり。
「あ、先生。あそこ!」
ふと、コレットが周囲をきょろきょろしつつ、
やがて何かをみつけたのか、すっと前方…花が風を吹きだしているとは逆方向。
つまり、山の麓があった方向をみつつ、
「あそこに、力の場みたいなのがありますよ!」
「本当だわ」
さきほどはきづかなかったが。
どうやら茂みに隠れたその先に、力の場らしきものがみてとれる。
高い位置だからこそみえているが、あのままでは確実に茂みにうもれ見落していただろう。
「おそらく。あれでどうにかするんでしょうね」
アステルの台詞に全員が思わず同時にうなづきをみせる。
この高い位置からみわたせど、やはり崖同士の先に道がつながっている。
道が奥につづいているかもしれない、とおもってもよくよくみれば行き止まり。
「かなり強い空気をこの花がはきだしているから。
  もしかしたら、体を空気の膜か何かでおおえば、
  この吐きだされた空気によって反対側に移動できる、のかもね」
それは以前、エミルにというかシルフ達にやられたことがあるがゆえおもいついたこと。
何しろエグザイアからおりたつとき、実際にそのようなことをされた記憶がある。
説明も何もないままに。
「あ、あれかぁ」
「…あ、あのときよりまし、だよね?姉さん…」
あのときはおもいっきり竜巻に巻き込まれる形で翻弄されてしまった。
それを思い出し、マルタが乾いた笑みをうかべ、
ジーニアスが多少ひきつりながらもそんなことをいってくる。
「「?」」
そのときいなかったテセアラ組の数名は意味がわからずにただ首をかしげるのみ。


ソーサラーリングの属性変更。
ここにある力の場はやはり風属性、であったらしく。
使用してみれば、体をすっぽりと風の膜がおおってくる。
それこそあのとき、エグザイアから地上におりたあのときのごとくに。
ふわふわとその体が地面よりうかぶ。
自力での移動はむりっぽいが、うまく風にのれば、崖同士を移動することはできるであろう。
しかし、シルフの力を使用したときより持続時間はさほど長くないらしい。
よくて数秒程度でその風の膜はかききえる。
「…なあ。先生。エミルに頼んで俺達もあのドラゴンで移動したほうがよくなかったか?」
エミルは今、どこにいるのだろうか。
おそらくさくっと先に、すでに頂上におりたっているに違いない。
ロイドがうんざりしたようにそういえば。
「…過ぎたことをいってもしかたないわ。とにかく、いきましょう」
たしかにリフィルも思いはしたが。
しかし、あのドラゴンを数匹も使役というか使用しているのを誰かにみられれば、
それこそ大騒ぎになってしまう。
あんな金色に輝くドラゴンなど目立たないはずがないのだから。

ふわり、と体がうきあがる。
タイミングを見計らい、花が空気を吐き出すその寸前。
ソーサラーリングを起動する。
それとともに体がうきあがり、花が吐きだした空気の勢いにより、
そのまま体はふわふわと風にのるように反対側の崖の上へ。
花々を利用しつつ、崖から崖へと移動する。
やがて、ようやく先にすすむ道につづいているであろう花の場所にとたどりつく。
渓谷、というだけのことはあり、ここには川もながれている。
そんな川をわたしてある橋を渡り切りすすんでいけば、
やはりこれまた同じような花々の姿。
周囲にある木々をよくよくみてみれば、
いくつかの樹に見慣れない果実らしきものがなっているものも。
上に、上に花を利用し進んでゆくと、さらに大きな花もみてとれる。
それはあきらかに大人の数倍はあるであろう、おそらく普通の民家一階分。
それくらいの高さをもちし桃色の花弁をもった花の姿。
キルマフルーツやアマンゴ、といった果物が木々になっており、
花によってそれらの果物をあたえることで、花が萎れた状態から元気になり、
他の花同様に空気を吐き出すほどに回復するらしい。
そこに気付くまですこしばかりの時間を要したが。
ともあれ、そんな動作を幾度も繰り返してゆくことしばし。
途中、数体の花を元気にさせなければ先にすすめない道もありはしたが。
とにかくひたすら、萎れた花をみつけては餌になるであろう果物をあたえ。
ちなみにこの果物。
花によって効果があるものとないもの、があるらしく。
まちがった品をあたえれば花は元気になる気配をみせず、
花によって正しき餌というか、肥料?というか。
とにかく、まあ餌、というのが正しいのであろうが。
何しろ花に花の好物であろうそれをちかづければ、
その葉をぴくぴくとうごかして、からめとるようにし花弁の中にもっていき、
おもいっきりぱくり、とのみこむようにしている花々。
その光景はよくある食虫植物のまさにそれ。
いたるところに魔物の姿が見て取れるが、襲ってはこず、
それにロイド達はほっとしてしまう。
花をみつけては、果物をさがしにいく。
さらにタイミングをみはからい、ソーサラーリングを起動する。
そんな行動をしている中、魔物におそいかかれれば、集中力がかけてしまう、というもの。
どうもここまで魔物がおそってこないのをみれば、
魔物ってこんなに人をもともと襲わなかったっけ?
そんな変な認識が産まれかけている今現在。


  ~スキット・ラーゼオン峡谷・花を回復させてゆく道中~

ロイド「だぁぁぁぁぁぁぁ!めんどくさぃぃぃ!うまくいかねぇぇ!」
コレット「ロイド、頑張って」
リフィル「頭を使うのよ。ロイド」
ジーニアス「はじまった。ロイドのそれ。ほんとうにあきっぽいよねぇ。
      まあ頭を使うのはロイドの苦手なことだからねぇ」
ロイド「だってさ!何だよ!これ!いったりきたり、
     さらにはのる場所まちがったらさっきなんか入り口にもどったぞ!」
さきほどからいったりきたり。
あげくは渓谷、すなわち川の上を飛んでの移動も幾度かくりかえし。
そもそも、木々から木の実が一個づつしかとれない、というのはまちがっている。
なぜか一つは簡単にとれるのに、二つ目となると、枝からひくとも取れそうもなく。
ならばとおもい剣などできりつけても逆にはじかれるしまつ。
しかたなく、本当にしかたなく、一つづつ果物をとっては花の場所にいどうして、
その繰り返し。
始めは面白がっていたロイドだがどうやらあまりのその行動の繰り返しに、
いつものようにあきてきてしまったらしい。
しかも花の風にのって移動する先は予測がつかない場所。
中には足場がかなりおぼつかないような崖の上にある、
ちょっとした場所のようなものもあったりした。
リーガル「うむ。植物の起こす風にはどうやら一定のリズムがあるようだ。
      心をおちつかせることで、自然道が開けるのであろう」
コレット「おもしろいよねぇ。川の上をふわふわとういて移動するの」
プレセア「…いつ川におちるか、とおもうと怖かった、です。
      というか、あと何往復すればいいんでしょうか……」
ゼロス「俺様は自分の翼で移動しまくってるからなぁ」
ロイド「せこいぞ!ゼロス!」
ゼロス「神子の特典ってな~。コレットちゃんもそうすればいいのに」
コレット「私は風にのってふわふわとんでくのがたのしいから」
セレス「…お、お兄様?わたしもやってみたいのですが」
ゼロス「ダメだぞ?こいつらがいくどか風の膜がきれておちたのみただろ?
     怪我したらどうすんだ?」
リフィル「あなた、ほんとうにとことん妹に対しては過保護、なのねぇ」
コレット「でも、ロイド。ロイドがどうしてもっていうなら。
      私がロイドをはこんでくよ?ロイドくらいなら簡単にはこべるし!」
ロイド「…それって、男として自信なくすから遠慮しとくよ……」
マルタ「うう。エミルがいればぁ」
プレセア「…エミル、さん、もう頂上、でしょうか?」
リフィル「…おそらく、ね」
アステル「でも、興味深いですね。あの木々も。なんで一個以外とれないんでしょうか?」
リヒター「伝承ではかつての大樹カーラーンの葉とよばれた奇跡の葉。
      それもかならず一枚しかとれなかった、という文献がのこってたがな。
      それに近いのではないのか?」
アステル「葉っぱもあれ、とれなかったしねぇ。…かたっぱしからとって。
      どうなっているのか分析し、詳しく研究したいのに……」
リフィル「…そんなのだから、
      おそらく、研究者達は断ち切り禁止、といわれていたのでは?」
しいな「…まったくだね」
ロイド「というか、さっきの場所なんかたどり着いた場所に宝箱だけあったんだぞ!」
リフィル「あなたがとめるまもなくあけるから戦闘になったんでしょう?」
リーガル「うむ。あのようにあからさますぎるものをうかつにあけるのは危険な行為だな」
実際、リフィルが止めようとしてもロイドが手をかけてしまい、
宝箱をあけた瞬間、魔物フェイクが襲いかかってきた。
どうやら宝箱に擬態していた魔物、であったらしい。
リフィル「そもそも、ミミックやフェイクといった魔物は。
      彼らはその体を宝箱などに擬態して、自分に手をかけた獲物をたべる。
      そういわれている魔物なのだから。
      あからさまにあやしいのに手をかける馬鹿がどこにいますか」
ジーニアス「というか、あきらかにマナが魔物だったのに。
       ロイドったら、とめるまもなく宝箱に手をかけちゃったからねぇ」
マルタ「…やっぱり、エミルがいたほうがよかったとおもうなぁ。
     エミルが一緒だったら何となくあの魔物さん、襲ってこなかったような気が」
コレット「うん。エミル、魔物さんと仲よし、だものね」
ロイド「…だって、そこに宝箱があったらあけたくなるだろ!?」
リフィル&しいな「「時と場合をかんがえ(な)(なさい)!!」」
アステル「でも興味深いですね。エミルがあの魔物と遭遇したらどうなるんだろ?」
リヒター「…何となくだが、魔物がなつく光景しかおもいうかばないのだが?」
一同『・・・・・・・・・・』
たしかにリヒターのいうとおり。
はっきりいってエミルが襲われている光景、というよりは、
宝箱がすりすりとエミルにすりよっているような光景。
それしか思い浮かばない。
ゼロス「とりあえず、女性優先で俺様がはこんでやってもいいぜ?
      あ、でもセレスが先な?」
しいな「あんたって…というか、そこにあんたは絶対に下心があるだろ!」
ゼロス「何いってんだよ。しいな。俺様は親切心からいってるんだぜ?
     たとえばだきつかれてしいなの豊満なる胸を堪能したいとか、
     そういう思いは決して…」
しいな「いってるじゃないかぁ!このあほ神子ぉぉぉぉぉぉ!」
リーガル「…やれやれ。この二人はあいかわらず、だな」
リフィル「…そのよう、ね」
セレス「ま、まけませんわ!わたしも絶対にめぎつねよりもおおきくなってみせますわ!」
コレット「…わたし、成長するのかなぁ……」
ぐっと自分の胸をみおろし、そして力説するようにいっているセレスに。
自分の胸をぺたり、とさわり、しみじみといっているコレット。
マルタ「うう。わたしも…毎日牛乳、のんでたのに、のんでたのにぃぃっ」
マルタもマルタで胸に手をあて何やらぶつぶつといっていたりする。
多少涙目になっているのはおそらく気のせいではない。
ゼロス「ん?胸の大きさをきにしてるのか?いい方法があるぜ?」
そんな少女達三人の言動にきづいたのか、
ゼロスがにっとした笑みをうかべながらもいってくる。
しいなから逃げ切りつつも、きっちりと彼女達の声をひろっているゼロスは
あるいみさすがといえるであろう。
しいな「あんたは!コレット達に何をいうきだいぃぃ!」
ゼロス「いや、俺様は、ただ、夜ちょこっとマッサージをすればって」
しいな「あんたというやつはぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
リフィル「…なぜかしら。頭がいたいわ。ゼロスのあのいいかた、おそらく、あれは」
リーガル「だろう。な。
     しかし、セレス嬢の前でいわなったのは神子なりの思いやりだろう」
リヒター「…俺がきいていた神子の印象だと、妹御がいなければ、
      まちがいなくいっていたような気がするがな」
確実にいっていた(な)(わね)。
リヒターのつぶやきに、リフィル、アステル、リーガルの思いは口にはださないまでも、
もののみごとに一致する。」
ゼロス「って、こら!しいな!どこからその岩とってきたぁぁ!」
しいな「あんたのそれ、つぶしてやるよ!」
ゼロス「って下半身をねらうなぁぁ!俺様の息子がぁぁ!」
ジーニアス「…カオス、だね」
コレット「あとでゼロスに詳しくおしえてもらおうっと。
      私もしいなみたいな胸になりたいし」
マルタ「わ、わたしも!ぜったいに大きくなってみせるんだから!」
セレス「わたくしもきになりますわ。あとで皆でではお兄様にきいてみましょう」
何やらいいつつも、うんうんうなづきあっている、
コレット、マルタ、セレスの三人。
リフィル&アステル「「やめと(きなさい)(いたほうがいいよ)」」
リーガル&リヒター「「やめ(ておいたほうがよかろう)(とけ)」」
一方、そんな彼らのやりとりをききつつも、
プレセア「…私の場合、成長…するのでしょうか?」
ものすごく不安、である。
何しろ実年齢はもう二十八。
確実に成長期間はおわっている。
…身体成長時間がとまっていたから、そういう面でもとまっていただけで、まだみこみはある。
そう信じたい。
ぽつり、とこたえるプレセアの疑問にこたえるものは…誰もいない。

※ ※ ※ ※


「…何をやってるんだ?あいつらは?」
思わずあきれてしまう。
なかなかに進んでこないな、とおもいつつ、意識をそちらにむけてみれば。
何やら追いかけゴッコをしているゼロスとしいなの姿が目にはいる。
どうやらまたゼロスが何かをいったがゆえ、のようであるが。
あれだけ走り回っていれば余計に体力を使いそうなきがするだが。
「まあ、あそこまでくればあと少し、か」
それにしても、
「語り部…か。まだあの役割は存続していたのだな」
問題なのはどこまで伝えているのか、ということ。
あの時ですら伝承がかなり失われかけていた。
「きゅ?」
「ああ、お前達は関係ないから、きにするな」
周囲にいるは、この付近に生息する魔物達。
「とりあえず。フラン。これまで何があったか、連絡を」
「きゅるっ!」
目の前にいるは巨大な植物にもみえる花の魔物。
太い幾本もの根はうねうねとうごき、
なぜかびしっと幾本かの根にて敬礼のような格好をしてきているが。
赤紫の葉は羽のごとくに左右にひろがり、
それもぱたぱたとあおぐように、喜びを全身であらわしているのがみてとれる。
赤きつぼみも収縮を繰り返し、その体全身で表現をあらわしている。
【プランティクス】のフラン。
この地をまもりし、魔物の一体。
今、エミルがいるのは、霊草、とかつてからよばれていたマナリーフの生息地。
そしておそらくは、ロイド達がやってくるであろう場所。
ゴールドドラゴンの背にまだかりて、渓谷の川沿いをのぼっていき、
頂上付近の滝の中央付近にある洞窟の内部にたどりつくはたやすきこと。


「というか、水の中でもないのに魔物さん、およいでるねぇ」
「たぶん、霧が深い、せい、だろうね」
どれくらいのぼってきたであろうか。
周囲は上っていくにしたがい霧がこくなってきて、
ひんやりとした霧と山どくとくの冷たさが体をそれぞれ包み込んでいる。
そんな霧の中をなぜか魚のような魔物たちが水中のごとく、
すいすいと地表、さらには空中を泳いでいるのがみてとれ、
気持ちよさそうにみえるがゆえに、コレットがそんな魔物達をみて思わずつぶやく。
霧に空から降り注ぐ太陽の光が反射して、
ちょっとした幻想的な光景をところどころうみだしているのもみてとれるが。
「だぁぁ!まだつかないのかよ!もう俺、つかれたぁ」
おそらく感覚でしかないが大分のぼってきているはず。
よくもまあ、こんな辺鄙なところにヒト…まあこの場合はエルフというべきか。
が本当に住んでいるのだろうか、とおもうほどに。
花々が吐き出す空気を利用し、上下左右にいったりきたり。
だいぶのぼってきたはず、なのに、いまだに誰かがすんでいるらしき場所はみあたらない。
「だなぁ。その番人ってやつのところにはまだつかないのかよ」
ロイドにつづき、ゼロスもうんざりしたかのようにいっている。
「だよねぇ。まだつかないのかなぁ?」
そんなロイド、ゼロスにつづき、マルタまでも深いためいきをつきながらいい、
そのばにちょこん、とかがみこみ。
「ああもう、足がいたい、疲れた、つかれたぁ!」
ここにエミルがいたらおぶってもらったりするのに!
そんなことを小さくつぶやきつつも、何やらぶつぶつ言い始めているマルタ。
「…ゼロスくんも、ロイドくんも、マルタさんも、だらしない、です」
そんな三人をみつつ、ぽそっといっているプレセア。
「でも。ほら。ここから上にのぼる道があるし。
  きっともうすぐだよ。こんなに急激な坂道がつづいてるんだし」
「…きをぬいたり滑り落ちそうなほどの急な坂、だけどな」
コレットがふと、横手の斜め上のほうにある道に目をとめ、
そんな彼らに何やらいっているが。
それをみて、盛大にため息をつきながらいっているリヒター。
少し耳をすませば、ごうごうと流れ落ちている滝の音。
たしかに横のほうには川が流れ落ち、
きりたった崖の上からおちてくるそれは、ちょっとした巨大な滝となっている。
「なら、私ちょっと上のほう確認してくるね」
いいつつも、パタパタと羽を展開し、険しい登り坂としかみえない崖の道の上をとびつつも、
どこまで道がつづいてるのか確認するためにとふわりとうきあがっているコレット。
道にそってしばしすすんでゆくと、どうやらこの道はあの滝の上にとつづいているらしく、
みるかぎり、この先はどうやら花の空気による移動、というものはないらしい。
ついでにいえば。
「ロイド!この先に建物があったよ!」
視界の先に人がすんでいそうなちょっとした小屋らしきものをみつけ、
コレットが元気よく、ぱたぱたとうかびながらも、
崖道の下にいるロイド達にと話しかける。
「…霧で大地がぬかるんでるわ。注意してすすみなさい。
  でないと、足を滑らせて、崖下に転落、となりえないわ」
そんなことになれば洒落にもならない。
リフィルの険しい表情にさすがのロイドもごくり、とノドをならしてしまう。
たしかに気をぬけば、ずるり、と地面をすべってしまいそうなほどに、
このあたりの大地はぬかるんでいる。
まるで雨あがりの大地のごとくに。

慎重に慎重に足をすすめ、急激な坂道を上ってゆくことしばし。
やがて、しっかりとした足取りができる場所にとたどりつく。
このあたりは完全に人の手がくわわっているのがみてとれ、
道も平にある程度はならされ、雑草類もきちんと刈り取られているのがみてとれる。
そして、その先にさきほどの滝の元となっている川、なのであろう。
川が流れており、流れにそったその先から、
崖下にその川の水がごうごうと音をたてて流れ落ちているのがみてとれる。
橋はどこからどうみても人工的にかけられている、というのがわかるほどに、
しっかりとしたつくりとなっており、何やらきちんとした手すりらしきものまで設置されている。
橋の手前にまたまた萎れた花があるがゆえ、
ひとまずキルマフルーツをあたえ、花を復活させたのち、
川にかけられている橋をわたってゆくことしばし。
よくよくみれば川の中にもこの花はさいており、
なぜか上にむけて常に空気を吐き出しているのがみてとれる。
そして橋をわたりきった対岸側にも花がはえており、
それぞれがそれぞれに空気を常にはきだしている。
そんな光景をみつつも、そのさきにある一件の小屋。
そちらにロイド達は思わず目をむける。
それは建物、というよりは小屋、というほうが近しいもの。
大きさ的にはそれほどでもなく、建物の横手には積み上げられている薪らしきものが、
たかだかとつまれているのがみてとれる。
「よ、ようやくついたの、か?」
おそらくはここが、エルフの族長のいった番人とかいう者が住んでいるところなのだろう。
それにしても、時間がかかりすぎるし、ここにくるまでの手段が独特すぎだろ。
エルフ達はどうやってここまで移動してるんだ?
思わずロイドはそうおもわざるをえない。
ちなみにエルフ達はそれぞれ風の術をつかい応用にて、
自らの体を風の膜で覆うことにより、ロイド達と同じ方法で移動していたりする。
まあ、一番てっとり早いのは、空からの移動がベストなのだが。
この辺りは常に霧でおおわれており、視界もわるく、また木々も生い茂っていることから、
あまりそれはエルフ達もこのんではいない。
そもそも、空からの移動、という手段が限られている。
たしかに、空をとぶ動物などを操るという方法もなくはないが。
それよりもここはエルフ達にとっては神聖なる場所。
ゆえにそんな自然の掟を歪めるような行動をするわけにもいかない。
結果として、常に皆が皆、彼らがここまでやってきた方法とほぼ同じ…
ソーサラーリングをつかっていない、ということだけを除き、
同じような方法でここまで用があるときはたどり着いていたりする。
下にも道がつづいており、よくよくみれば、短い残橋のようなものがあり、
それは川に隣接しており、そこから川の水がくめたり、
もしくはちょこっと川に下りたりができるようになっているらしく、
そこにはロープらしきものがはられており、
川に流されてしまわないように、というちょっとした工夫がみてとれる。
そして、家の横には小さな井戸があり、その横には桶のようなものがおかれている。
そして、小屋の横のほう、すなわち少し隣接しているらしきそこには、
巨大な水車らしきものが、カラカラと川の水にてまわっている。
「とにかく、ここで間違いはないでしょうね」
ちらり、と屋根をみてみれば、屋根にある煙突らしきものから、
うっすら、とではあるが煙があがっているのがみてとれる。
ゆえに確信をもってリフィルがいえば、
「ようやくついたぁ。ほんっと。なんでこんな変なところにすんでるんだよ」
いまだにぶつぶつ何やらいっているロイド。
そんなロイドとは対照的に、
「ここにすんでる人って食事ってどうしてるんだろ?」
それはアステルの素朴なる疑問。
たしかエルフとて何かを食べたりしなけれけば生きてはいけないはずなのに。
「さあな。そこに柵らしきものがみえるから、
  もしかしたらその先で菜園でもつくっているもかもしれないな」
ちらり、とリヒターが視線をむけた先には、
立ち入り禁止、とばかりに道はきちんとあるにもかかわらず、
柵がしっかりとつけられている場所がたしかに存在しており、
たしかにそういう可能性もなくはない。
とりあえず、こごか目的の場所で間違いはないであろう。
しかし、それにしても。
「でも、エミル、いないねぇ」
エミルの姿がみあたらない。
この小屋のような小さな家の周囲でまっているのではないのだろうか。
だとすれば、まだこの先もある、というのだろうか。
何やら細かな何かの音らしきものがきこえてくるのもきにかかる。
わからない。
わからないが。
「とにかく、この家を訪ねましょう」
いいつつも、リフィルが代表して一歩まえに踏み出し、
そして木でつくられている木製の扉を、しばし、コンコン、とノックしてゆく――


ガチャリ。
小屋のような小さな家の中にはいると、内部は外からみれば小さいようでいて。
どうやら外からはよくよくわからなかったがかなり奥行きだけはあったらしい。
足元には石がしきつめられており、その先には真赤な絨毯。
そして壁際には暖炉、そしてその横手にはおそらくは食事を用意する場所なのだろう。
そういった設備が設置してあり、絨毯の上には四組の椅子と、
その中央には木でつくられし四角い机。
その机の上には気持ち程度、花瓶に花がそえられている。
暖炉の横にありし壁には絵がかけられており、そして壁にはいくつもの棚があり、
そこいらに様々なものがはいっている。
そして、それらと区切るようにして、柱があり、それを境として、その反対側。
そちらはこんどは全く生活感、というよりは、
今度は様々な機具らしきものがおかれているのがみてとれ、
ガシャン、ガシャン、と数代もある織機らしきものが、ガシャガシャと音をたてているのがみてとれる。
外にもきこえていた細かな何かの音。
それらの正体。
注意深くこのあたりを観察すれば、それらは天井付近や壁を覆っている大小様々の歯車。
大きいものから小さいものまで、大きさは様々。
家の右手のほうからつづいているそれは、どうやら右手のほうにあった水車小屋。
よくよく調べてみればそれにつながっているというのがわかるというもの。
そして、それらの前にすわりて、それらを紡いでいる一人の女性らしき姿。
老婆のようにもみえるが実際のところはわからない。
「…うん?なんじゃ?人間?それにハーフエルフ、か?
  どうやら天使もいるようじゃな」
視線はゼロスとコレット、そしてプレセアにむけられて。
扉をノックしたのち、どうぞ、という声があったがゆえにはいってきていたが、
どうやらこの目の前の織機の前にすわっているものがこの家の主らしい。
その手をとめ、機をおるのをやめたのち、座っていた椅子から視線だけむけ、
家にはいってきた一行をゆっくりと一人一人、
見定めるようにいってくるその人物は、声からしてどうやら女性であるらしい。
その頭から体にかけてすっぽりと覆うような茶色いフードつきのローブは、
このあたりの高度において気温がひくいゆえに、防寒対策、として着られている。
そうみてほぼ間違いはないであろう。
「あ。ああ。あんたが番人ってヒトだな。
  えっと、マナリーフってやつを分けてほしいんだけど……」
とまどうようにいうロイドの台詞をきき、
一瞬顔をしかめたのち、
そのまますとん、と椅子からおりたち、
そしてロイドの前にちかより、その目をじっとみつめだす。
「な、何だよ?」
いきなり顔をまじまじとみつめられて、ロイドはおもわずたじろがずにはいられない。
「えっと。お願いします。おばあさん」
どうやらかなりの年輩の女性らしい。
ゆえにコレットがそんなロイドにつづき、ぺこり、と頭をさげてくる。
これは自分にかかわるもの。
ゆえに自分がお願いするのが筋であるがゆえのコレットの言葉。
「ふむ。どうやら長老の証はもっているようじゃな。
  いかにも。私はエルフの里の伝承を次代に受け継がせるもの……」
コレットが頭をさげつつも、そり両手に杖をさしだすように、
目の前につきだしていたがゆえ、杖をちらりと目にしたのち、
またまたあらためて一行をみつめなおす語り部とよばれているその女性。
「あなたが。あの?エルフの伝承を正しくつたえている、という語り部?」
リフィルがその台詞に思わず目をみひらきつつも問いかける。
エルフの里ならば誰でもしっている。
人知れず、ヒトとの接触をほぼたち、エルフの歴史をまもっているものがいる、と。
リフィルとジーニアス、そしてリヒターはそのマナのありようから目の前の女性が、
エルフであることがわかるが、それ以外のものは、エルフの特徴でもある、
尖った耳すらフードですっぽりと覆われてしまっているがゆえに確証がもてない。
壁にあるいくつもの歯車らしきもの。
それらは常にカチカチとした音をつむぎだしている。
そしてよくよくみればそれらの力でもってして、
無人なのに自動で織物が織り込まれていっている機織り機もみてとれる。
「どうやら悪いものたちではないようじゃな」
少し前から異様にこの付近の魔物や動物達が騒がしかったので、
一応は警戒をしていたのだが、どうやらそれは杞憂であったらしい。
彼女は知らない。
騒がしかった、のではなく、魔物にしろ動物にしろ、
王が直接にこの地を訪れたことにより興奮して騒いでいただけだ、ということを。
「必要なだけもっていけ。といいたいんじゃが。
  あいにくと、今はすべて使いきってしまっておるからのぉ」
すでに先にとってきていたものは、織物に使用すべく加工してしまっている。
目の前の彼らがなぜそれを必要とするのかはわからないが。
しかし、天使となっているものがいるのならば話しは別。
おそらくは、かの症状、あれがでたものがいるのであろう。
精霊石化してしまう現象をおこしてしまっているものが。
たしかにマナリーフを使えばその症状を抑えることができる。
できるが、それが根本的な解決ではないことも彼女は知っている。
「そんな」
その台詞をききジーニアスが絶望にも近い声をあげる。
一方で
「すごい。これら、ぜんまい仕掛けで自動でうごいてるよ!
  これだと、下手な力とか必要ないね。
  たぶん、動力源はこの小屋の横手にあった巨大な水車、かな?」
小屋の横にある川にたしかに水車らしきものがみえていた。
「うむ。水車の力により、これらのぜんまいを動かすことにして、動力源としているのだろう」
目をきらきらとさせて、周囲の様々な機械仕掛けの細工をみつめていうアステルに、
そんなアステルにつづき、
こちらも興味があるとばかりにじっくりと見つめて観察しつついっているリヒター。
つまるところ、ここにはエクスフィアのエの字もつかわれていない。
全ては自然にあるもので力が生み出されているのは一目瞭然。
かつて、人々がエクスフィアを手にするまでは、普通にどこにでもみられていたであろう光景が、
この部屋にはその技術の集合体ともあろうものがそろい、また今でも現役で活動している。
それは誰の目にもあきらかなる事実。
「どうにかならないの?」
まさか、在庫を切らしている、とはいわれるとはおもわなかったのか、
マルタが不安そうにといかける。
「うむ。まあ、手はないこともないが。あらたにとってくればいいだけじゃからの。
  しかし、あれは少し難しい場所にはえているからのぉ。
  おまえさんたちが果たしてとってこれるかどうか。
  とってくれるのであれば、おまえさん達にマナリーフを渡すのもやぶさかではないんじゃが」
しかし、とおもう。
ここ最近、あのプランティクスに落ちつきがない。
それよりも前など、狂暴化しており近づくことすらもできなかった。
「そりゃないぜ。俺様たち一応ここまで登ってきたんぜ?
  ロイドくんのもってるソーサラーリングの属性をつかって」
「何と。おまえさんはソーサラーリングをもっておるのか?
  あれは、この世界には今は…いや、天使がいる、ということは。
  そうか。では、おまえさん達が神子。か。
  クルシスの聖具とよばれているそれを手にしておるんじゃな」
「あ。ああ」
しかし、神子が三人?天使の気配を感じるのはあきらかに三人。
うちひとりはまだ少ない感覚ではあるが、この感じは間違えようがない。
もっとも、彼女とて天使といえばクラトスやユアンとしか面識がないのだが。
ゼロスの台詞にどこか一人でなっとくする女性におもわずうなづくロイド。
というか、これってそんなに有名なのか?
そうロイドとしてはおもわずにはいられない。
イセリアの聖堂で手にいれたマーテル教会の聖具、といわれているという、
ソーサラーリング。
でも、とおもう。
でも普通にエミルのやつももってたしなぁ。
エミルがもっていたがゆえに、ロイドはそれが貴重なるもの。
という認識がものすごく薄くなっていたりする。
自分が勝手にあの場から持ち出しここにまで至っている、ということすら失念し。
「リングの力の属性でここまでのぼってきたのならば問題はない…かの」
そこまでいい、しばしその場に思案するようにその手をあごにあてたまま、
しばし考え込みはじめる。
そんな彼女にむけて、
「心配ないって。どんな場所にあっても無事にとってくるって。…ロイドくんが」
「って、俺かよ!」
いいことをいった、とおもったらこれだ。
ゆえにさらっというゼロスの台詞に思わず抗議の声をあげているロイド。
「あの。私からも頼みます。教えてください」
そんな何やら漫才のようなやりとりをしている二人をさくり、と無視し、
目の前にいる女性にと淡々と懇願する台詞をつむぎだしているプレセア。
「むぅ。わかった。ついてきなさい」
どうやら目の前のこの彼らの意見はかわりそうにない。
何か外の様子がいつもとちがうので断断りたいのは山々なれど。
そのまま、彼らを先導するかのように、ゆっくりと、玄関のほうにと足をむけてゆく。

「この先の洞窟に薬草がある。あとそこの白衣二人は研究者のようじゃが。
  必要以上のものを伐採するんじゃないぞ?」
その忠告は白衣をきているアステルとリヒターにむけられているのは一目瞭然。
「あの。すこしいいでしょうか?」
「うん?」
語り部とよばれし女性が案内したは、さきほど目にした柵で覆われた道の前。
柵をぎぃっとあけた彼女はこの先にマナリーフがある、という。
そんな彼女にむけ、あらためて、
「ここに私たちの連れが先にきているはず。なのだけども。
  そちらに私たちよりも前にだれかが訪ねてこなかったかしら?」
「いや、こちらには誰もきてないぞ?
  しかし、誰かがはいりこんでいたのやもしれぬな。
  異様につい先刻、魔物達や動物達がさわがしく、
  滅多とない狼達の遠吠えすらひびきわたっていたからの」
その声はリフィル達も山道を風を見極めていたときにきいている。
オオ~ン、という遠吠えのようなものは。
「…そうですか。もしも後からきたら、私たちはマナリーフをとりにいった。
  そう伝えていだたけませんか?あと必ずここでまっているように、と」
そんなリフィルの問いかけに、
「それくらいはかまわんじゃろ。というかおまえさんたち。
  それ以上にもまだ仲間がおったのか。
  この私のもとにここまでの大人数が訪ねてくるなど初めてじゃの。ふぉほっほっ」
どこぞの誰かを連想させるような笑い声だが、
こちらには嫌味もいやらしさもまったくもって感じない。
むしろ、どこかその声にはこれだから生きているというのは面白い。
といったような感情が感じ取れるような気がするのはリフィル達の気のせいだろうか。
もっとも、そうった裏の意味にロイドは気づいていないらしく、
「エミルのやつ。どこにいるんだ?」
「うん。先にきてるはず、なんだよねぇ」
「まさか、本当の本当の頂上にいたりして」
首をひたすらにかしげるロイドに、マルタもしゅん、とうなだれつつもそうつぶやき、
ジーニアスが冗談まじりにそんなことをいってくる。
「とにかく。いきましょう!ああ、たのしみです!霊草マナリーフ!
  僕も手にいれたかったんですけど、ことごとく手にはいらなかったんですよね!あれ!」
「……おぬしたち。そこの白衣の人間が無駄に霊草をとらぬようにみはっておくれな?」
「わかりましたわ」
「承った」
アステルのそのものいいに不安を感じたのか、ぽそっとそんなことをいってくる。
そんな彼女の台詞にほぼ同時にうなづき返答をかえしているリフィルとリーガル。
どうやら二人も語り部たる彼女と同じ気持ちらしく、
ものすごく神妙なる表情でうなづいているのがみてとれる。
「…アステル。どうせなら、ここのあの機械たちを調べるのでもいいのでは?
  霊草はこいつらがとってくる、というのだから」
リヒターも何やらものすごい危惧をいだいたらしく、無難な方向にもっていこうとするが。
「それも興味あるけど!だって、どんなふうに生えているのか。
  いまだにあれって生体不明なんだよ!こんなチャンス滅多とないよ!
  ぜんまい仕掛けの機械類はその気になれば古の設計図からでもつくれるし!」
ぐっと力をこめていっているアステル。
どうやら本気でそんなことをいっているらしい。
「……まあ、あまり無理をするようならば…まあ、これは今言う必要もないじゃろう」
そんなことをすれば、かの地の守り番が黙っていないであろう。
もっともそれは忠告を無視した人の末路であるがゆえ、
彼女もそれ以上は何もいうことは、ない。


「つ…つかれた」
たしかに面倒な場所にあった、とおもう。
途中で足場となった場所が崩れてしまい川にとおち、またまた山道をのぼったりすることしばし。
いくつもの萎れた花々を全て復活させ、ようやく目にはいりしは、ごうごうと流れ落ちる巨大なる滝。
その中央付近にぽっかりと開いているちょっとした洞窟。
足場という足場はなく、否あるにはあるが、
そこにいくためにはいくつもの花が吐き出す空気にうまくのり、
それらを併用していかなければたどりつけないような場所。
もっとも、空を飛べるのであればそんな苦労は関係なく、
そのままその場にとたどりつけたりするのだが。
どうにかこうにか、幾度も川におちながらも何とかたたどりつき、ほっと息をつかざるをえない。
「…難しい場所、の理由はこれ、なのかなぁ」
「わからないわ」
「…まって、何か中から……」
ジーニアスがうんざりしたようにそういえば、リフィルが首をふりつつも
そんなジーニアスに返答を返す。
たしかに面倒ではあったが、しかし難しい、というほどでもなかった。
花々が生み出す風の法則すらつかんでしまえばそう難しいことではない。
ふとコレットが洞窟のほうをじっとみながらも、その両手をみみにあて、耳をすます。
たしかに、洞窟のほうから何か、がきこえてくる。
「…?誰か、いる?」
でも、この声は。
「…エミル?」
たしかにエミルの声っぽい。
何か幾度かきいたよくわからないような言葉を発しているらしい。
それはエミルがよく、魔物達と会話をしているっぽいときにきいている言葉。
「え?エミル、だって?」
その台詞をきき、ロイドが無造作にひょいっと洞窟の内部を覗き込む。
「あ、まちなさい!いきなり…」
そんなロイドの行動をあわててリフィルがたしなめようとするが。
すでにおそし。
そのままロイドはその身を洞窟の中へとすべりこませてゆく。

水は遥か下のほうまで流れ落ちており、その滝の中央にあるこの洞窟は、
まさに秘密の生息地、というに相応しき場所といえるのであろう。
水苔のにおいとごうごうと流れ落ちる滝の音。
滝の裏の洞窟の空間は以外に広く、岩の形状もあいまって、
ところどころ日光の光が洞窟内部に差し込んでいるのがみてとれる。
足元にはびっしりと水苔らしきものがはえており、
歩くたびに、くしゃ、という音がしたとおもうと、
じんわりと、水をたっぷりと含んだコケから水があふれ出す。
そして洞窟の奥のほう。
そこに…
「エミル!お前、なんでこんなところにいるんだよ!って、それ、何だ?」
それ、とロイドが指差すは。
そこにいる何だろう。
ものすごくこの毒々しいような色をもっている巨大な花のような何か、は。
視線の先、先にいっていたはずのエミルの姿がみてとれる。
みてとれる、のだが、エミルの横に巨大植物?とでもいうべきか。
巨大な花らしきものがじっとたたずんでいるのがみてとれる。
まさか、あれがマナリーフ、とかいわないよな?
おもわずロイドがそんなことをおもいながらも声をかければ、
「あ。ロイド。それに皆。遅かったね」
くるり、と向き直り、そして。
「ああ。問題はない。排除は必要はないぞ」
うねうねとその鋭き葉っぱをそっとエミルにさしだしつつ、
まるで身ぶり手ぶりのようにその葉っぱをゆらゆらとゆらし、
洞窟の入り口ふきんにいる彼らにソレで指差すようにさししめしては、
その巨大なるつぼみのようなそれをこてん、と横にしているそれ。
「このコは【プランティクス】のフランだよ。かわいいでしょ?」
「かわいい…か?」
さらり、といわれ、それでいてその大きなつぼみのようなそれに手をのばし、
エミルがそのつぼみをなでると、まるで、もっとなでて、といわんばかりに、
エミルの手にその巨大な体をこすりつけるようにしている…
今、エミルがプランティクス、といったもの。
思わずロイドがつぶやけば。
「うわぁ。かわいいねぇ。その大きなお花さん。エミルにあまえてるんだ~」
「うん。この子まだ子供だからねぇ」
『ちょっと(まて)(まちなよ)(まってほしいのですが)』
エミルの台詞ににっこりとコレットが動じずにいえば、
それ以外のメンバーからそんな声が自然ともれる。
というかほぼエミルとコレットの台詞の直後に同時に突っ込みをいれているその様は、
全員が全員、かなり息があっているといってよい。
「かわったお花さんだねぇ」
「うん。この子達の特徴は、成長しきったら一度、また生まれ変わるんだ。
  簡単にいえば、たぶんヒトの世界につたわっている不死鳥伝説。
  そんな感じのようなものかな?あのコ達は灰の中から蘇るけど。
  この子は自分の体を養分として新しい苗、としてうまれかわるんだ」
時折、様子をみに蝶で訪ねてもいたがゆえ、
実際に王と対面ができ、かなりフランは喜んでいるがゆえのこの甘えよう。
もっともそんな事実をコレット達がしるはずもなく。
「この子はここに生えてるマナリーフを自然と守る役目もしてるからね」
そんなエミルの台詞にはっとなり。
「そ、そうだよ!マナリーフだよ!というか、エミル。
  お前なんでこんなところでまってたんだよ!」
てっきり、あの家でまっている、とばかりにおもってたのに。
そんなロイドの台詞にすこしばかり首をかしげ、
「え?でも、ロイド達って、マナリーフとりにきたんでしょ?
  なら、ここでマナリーフの生息地はここしかないらしいし。
  ならここで待つのが自然でしょ?」
こてん、と首をかしげいいきるエミルの様子にどうやら嘘はない、らしい。
「まて。エミル。なぜここにしかない、といいきれるのだ?」
「え?このあたりのコたちもいってましたよ?」
実際に、かつてはいくつも生息していたらしいのだが。
とある時期、ヒトが乱獲してしまい、今ではここしかのこっていないらしい。
この植物、マナリーフは環境の変化にとても敏感。
少しでも狂えば生息できない。
「この辺りのコって…何?」
「え?この付近に生息してる魔物達が皆いってましたよ?」
ちなみにここにきたとき、皆が挨拶にきてちょっとした騒ぎになったりしたのだが。
それはエミルは説明しない。
言う必要がない、と判断しているがゆえに。
「また魔物かよ…エミルらしい、といえばエミルらしいけど、さ」
ロイドが頭をがりがりかきつつも、盛大にため息をつく。
つかざるをえない。
何だろう。
自分達があんなに苦労してここにようやくたどりついたのに。
エミルがここにいる、ということは。
おそらくあのドラゴンの背にまたがったまま、
すんなりと問題なくこの場にやってきてまっていたのであろう。
まあ、自分達がやってくる長い間、何をしていたのかはきになるが。
「あ。マナリーフは用意してるよ。でも本当に遅かったねぇ」
「用意って。助かりはするけどさ。何だか、だよねぇ」
にっこりとそういうエミルの台詞にしいなも苦笑せざるを得ない。
エミルの横にちょこん、と座る?というか生えている?ような巨大な植物。
「【プランティクス】ね。
  おそらくその魔物がこの霊草を得るための試練、なのでしょうけど」
しかしこれでは試練も何もあったものではない。
リフィルもリフィルで思わずため息をついてしまう。
まあ、無駄な戦いをしなくてもいい、というのは助かりはする。
するが。
このまま戦闘がなければ、このこたち、危険な目にあうのではないかしら?
そんな危惧を多少なりとも抱いているのもまた、事実。
リフィルがそんな危惧を抱いているそんな中。
「うわぁ。この子のおはだ、すべすべ~」
「でしょう?肌触りがとてもいいんだ。
  ちなみにこの子の葉っぱって、髪にうるおいをあたえるのにもいいんだよ?」
「ほんとう!?いいなぁ。旅で髪のおていれ、おざなりになるし」
「あ、本当かい?あたしもならちょっとほしい…かも?」
「あ、あなたたち…ねぇ」
思わず呆れざるをえない。
みれば、エミルの横にいつのまにかコレットがちかより、
その巨大なる植物、プランティクスにしっかりとだきつき、
その巨体を堪能しているのがみてとれる。
しかもエミルの台詞になぜかしいなまで便乗しているっぽいのはこれいかに。
「…ほんと、頭がいたい、わ」
「…だな。しかし、まあ、無事、ということでいいんではないのか?」
リフィルの呟きに、リーガルもそうとしかいいようが…ない。


「たすかったぁ」
なぜか心底そんなふうにいっているロイドの姿が目にはいる。
「うわぁ。かなり高い場所、だったんだねぇ」
コレットもコレットで何やらそんなことをいっているが。
ラーセオン渓谷。
その頂上付近の滝の中央あたりで空気の膜がとぎれ、
さらには花が吐き出す空気の流れすらたちきられ、そのまま一気に落下してゆく。
それが本来のあるべきこの場所にたどり着く方法なのだが。
一行は別なる手段でこの場にたどり着いていたりする。
ごうごうと滝つぼに川の水が流れ込む音が響いている。
かの洞窟から出る場合、ある意味で手段がない。
洞窟の出口である滝の場所には空気を吐き出す花は存在していない。
それでもうまくすれば、滝つぼのほうから時折ふきつける、
上昇気流にのって移動すれば、かろうじて移動ができる足場にたどりつけはするが。
もっとも上にいく、のではなくその風にのることで、
斜め前に存在している崖につきでている足場。
そこにたどりつくことができる、という程度、なのだが。
それに失敗すれば問答無用で滝の下、すなわち滝つぼまでまっさかさま。
ここからゴールドドラゴンで移動するにしても、
この横手にある大地はドラゴンが着地するのにはすこし狭すぎる。
もっとも、この洞窟にエミルが普通にはいれたのは、
真横にのりつけたドラゴンの背からエミルが飛び移ったにすぎない。
まあ、その気になれば今の姿のまま浮く、こともできはするのだが。
彼らがおりたったのは、滝の下にあるちょっとした中州、のような場所。
つまるところ、二人づつゴールドドラゴンの背にまたがりて、
彼らは安全面を考えて下におりることを選んでいたりする。
そして今、ようやく全員がおりきり、一息ついたのか、
ロイドが滝をみあげつつそんなことをいっていたりするのだが。
「とにかく。ここは川の中にある中州のようね。先にすすみましょう。
  都合よくまたあの空気を吐き出す花がいるようだし、ね」
この中州らしき場所には二体の花がみてとれる。
花だから本、というべきでは、という思いもあるが、
どうも見た目がああであるがゆえに、【体】と表現するのが無難であろう。
そうおもうがゆえに、心の中で、【体】よびをしている花をみつつもいいきるリフィル。
あいかわらず空気を吐き出す花は空気をひたすらにはきだしている。
それらが吐き出す空気を利用し、川の対岸側へ。
そこからさらに離れている岸にたどりつくのには空気を利用した移動をしなければ、
川をわたろうにも流れがはやく、また深さもかなりあり、
それよりは風にのって移動するのが無難といえば無難。
この場においては、ごうごうと流れ落ちてくる滝の水が、
それでなくても鋭い刃のごとくロイド達の体に常にあたっており、
すでにそれぞれの体はほぼ完全に濡れてしまっていたりする。
否、約一名のみまったく濡れていないエミルがいるにはいるが。
「何でエミルだけ濡れないんだよ……」
ぼやくロイドだが、そんなロイドにエミルはただ笑みをうかべるのみ。
「んじゃ、俺様はセレスをつれて先にいってるな~。
  しいな、リフィル様ぁ。何なら俺がセレスをつれてったあとに連れていっても…」
「「却下(だよ)」」
「そりゃねえよ。んじゃま、あっちでまってるな」
ゼロスの台詞にリフィルとしいなが同時に間髪いれずに言い放つと、
首をすくめつつ、そのままばさり、と淡く輝く翼を展開し、
そのままお姫様だっこの形でセレスをだきかかえ、この場から飛んでゆくゼロスの姿。
「あいつ、あの姿嫌ってたわりには妹のためにはどんどんつかうんだねぇ」
そんなゼロスの姿をみつつ、しいながぽつり、とつぶやいているが。
ゼロスは天使の姿を嫌っていた。
そのことをしいなはよくしっている。
しっているからこそ、妹の安全のために躊躇なく使用するその姿に違和感を感じてしまう。
でも、ときどきゼロスをみていれば怖くなる。
何となくゼロスはもしかしたら、セレスのために命を投げ出してしまうのではないか、と。

「やっとついたぁ」
まさかまた、同じように移動しなければならないなど。
滝の下につづいていた道はどうやら始まりの道。
すなわち、一番始めにわたった橋の下につづいていたらしく、
そこからまた上にむかってすすんでいかなければならない。
それに気づいたロイドが散々ごね、結果として、エミルが折れた形となり、
ロイド達を運ぶためだけ、に【レイヴン】を呼び出し、
その鳥のかぎづめにがしっと肩を掴まれた形で、
ばさばさと一気にあるいみで鷹が餌を運ぶかのごとくにロイド達は運ばれていった。
さすがにそんな移動方法は遠慮したかったらしく、
リフィル達はそちらの移動よりも移動したときと同様に風にのっての移動を望みはしたが。
エミルが呼びだした【レイヴン】は一体だけではなく、
むしろ複数呼びだしたがゆえに、一気に一行はそれぞれカギ爪につかまれるようにして、
あっというまに移動を果たした。
さすがにコレット、そしてゼロスはそれを遠慮し、
そしてコレットは一人でとんでゆくよりは、といってプレセアを抱えて、ではあったが。
「もう。ロイドの馬鹿!というかエミルもあんな魔物よばないでよ!
  あれ、獰猛な猛禽類としても有名な鷹科の魔物でしょ!?」
ジーニアスがほぼ涙目になりながらエミルに何やら抗議をしていたりする一方で、
「でも、あの子達にはちゃんと言い聞かせておいたから。
  皆の肩に爪がくいこんで傷ついたりはしてないでしょ?
  あの子達、手加減するの難しかったっていってたもん」
『・・・・・・・・・』
実際、レイヴン達がそのツメで獲物をとるときは、傷つけることを前提。
それを傷つけずに、という王の命令はあるいみで彼らにとっては苦難といえた。
が、直接の王からの命令をやり遂げたい一新で、レイヴン達はそれをなしとげた。
そのことがエミルとしては誇らしい。
あのコたちもやればできるんだよね。と。
エミルの肩には小さくなっているゴールドドラゴンの子供がのりて、
反対側の肩にはこれまた小さな亀、がちょこん、とのっている。
この亀はソルムがその体を小さくしたものであり、
よくよくみれば普通の亀とは異なるのがわかるのだが、
ぱっと見た目は小さな亀、にしかみえずにあまり違和感を感じさせてはいない。
むしろ、知らないものがみれば、むしろよくあんな肩にしっかりとカメがのってるなぁ。
と違う意味で感心してしまうほどに上手にバランスをとってのっている。
「とりあえず、はやくいきません?待ってるでしょうし」
聞けば、何でもエルフの語り部たる女性にいわれ、マナリーフを取りに来たということらしい。
何でもあの場所には在庫がのこっていなかった、とのことらしいが。
まあそうではないか、とはおもっていたが。
何しろ聞く限り、ここ最近マナリーフをとりにきていない、といっていたのだから。
そんなことをエミルがおもいつつも、首をかしげて全員をみつつも問いかける。
ここで会話をするよりも、先に用事を済ますのが先決のはず。
しかしどうやらほうっておけば延々となぜか愚痴をいいだしそうな気がする。
それゆえの台詞。
そんなエミルの台詞をきき、
「そうね。いきましょう。…とりあえず、報告はしないと、ね」
目的のものは手に入れたが。
一応は手にいれたことを報告しておく義務がある。
ゆえにリフィルもエミルの言葉にうなづきつつも、
視線の先にみえているいまだに濃い霧におおわれている一角にたつ家にと足をむけてゆく。

「無事にもどってきたな」
一行が家にはいると、まっていた、とばかりに声をかけてくる一人の女性。
はいるなりに投げかけられたその台詞に。
「ってことは、知ってたんだ。あの巨大植物のような魔物のこと」
ジーニアスがその言葉をきき、おもいっきりため息をついているのがみてとれるが。
そもそも、あの場にエミルがいなければ、まちがいなく戦闘になっていた。
あんな巨大な植物もどきをあいてに勝てていたどうかすらもあやしい。
だからこそのため息。
「うむ。しかしそれをおしえたところでお前達の意思はかわらなかっただろう。
  非情に強い意思を感じた。それにどうやら天使化しているものもいるようじゃしな。
  ならば、天使術とヒトがかつてよんでいた雷属性の術もつかえるじゃろう。
  問題はなかったであろう?」
「…まあ、戦うことはなかったけど、何だかなぁ」
マルタがぽつり、といえば。
「?どういうことじゃ?あの魔物はマナリーフに近寄りし存在にかならず試練をあたえるはずじゃが」
いいつつも、
「うん?そっちの金髪の子は…なぜにその肩にゴールドドラゴンがのっておる?」
よくよくみれば普通のコドラといわれし小さな竜かとおもえば、
そのマナの特性からして、トレントの森にいるゴールドドラゴンであることがうかがえる。
というか、どうして魔物がヒトとともにいるのかが理解不能。
そもそも、あのドラゴンは決して他者に屈したり、従ったりするような存在ではない。
――エミル様。
ふと、エミルにテネブラエの念話がきこえてくる。
「あ、ちょっと僕、外にでてくるね」
「あ、エミル。どうしたの?」
「ちょっと。ね。すぐにもどるよ」
おそらくはフラノールにむかったあのものの報告、であろう。
下手にこの場できくよりは、外でゆっくりときいたほうがよい。
「?エミルのやつ…トイレか?」
そんな外にむってでてゆくエミルをみつつ、ロイドが首をかしげるが。
「それだとついていったら悪いかなぁ…」
エミルを追いかけようとしていたマルタがロイドの呟きをきき、
かろうじてその場にと思いとどまる。
「あの子は、いったい……ありえん。
  ゴールドドラゴンがヒトになつく、などとは」
何やらぶつぶつといっている目の前のエルフの初老の女性。
そんな女性に対し、
「マナリーフは無事に手にいれることができました。
  あの、少しききたいのですが。あなたはずっとここに住んでいるのですか?」
リフィルが丁寧にと問いかける。
幼き日。
エルフの語り部の話しをきき、いつかはあってみたい、とおもっていたヒト。
エルフの生き字引、とまでいわれている女性が今、目の前にいる。
それゆえにリフィルの口調は自然と丁寧なものになってしまう。
「そうじゃ。私はエルフの里の伝承を後世にと伝えしもの。
  嘘偽りのない伝承を後世に受け継がせるもの。
  ここで、マナリーフの織物をつくり、そこに様々な物語をあみこんでおるのじゃ」
たしかに、よくよくみれば、壁にそなえつけられているらしき棚には、
いくつもの布らしきものがみてとれる。
もっともそれ以上に歯車の音が常にひびき、
自動にて機織り機がうごく音もきこえてきているのだが。
「どんな物語、なんですか?」
そんな彼女に首をかしげてといかけているプレセア。
どうやらマルタも興味があるらしく、
そのちょこん、と首をかしげてじっと女性をみつめていたりする。
そんな彼らをざっと見渡した後、
「空から飛来したエルフの伝承や人の誕生。パラクラフ王朝の繁栄と衰退」
これらはユアンから実情をきいたがゆえに語り継ぐことができること。
そもそも、エルフ達とてシルヴァラントにいく手段がない。
「天使の出現。大樹カーラーンとカーラーン大戦。…そして、勇者ミトスの物語」
ゆっくりと言葉をつむぎだす。
「ん?たしか、ヘイムダールじゃ、ミトスの話しは禁忌とかきいたけどな?俺様」
その言葉をきき、ゼロスがふと疑問におもったのか口をはさむ。
たしかにそのようにいわれていたはず。
ついでにいえば、国でもそういうようにきいたような。
それゆえのゼロスの台詞。
「ここはヘイムダールではない。
  私はヘイムダールの掟に縛られないようにここに住み、伝承を残しておる。
  そもそも、あのような掟をつくるなど、エルフにあるまじきこと。
  幾度も手のひらをかえすようにしたエルフ達の愚かさに蓋をしてしまうような行為。
  それ以外の何ものでもないのじゃからの。
  もっとも、ミトスがやったことが許されるか、といえば……」
そこまでいい、首を左右にふり目をつむる。
「なあ。一体。勇者ミトスって何ものなんだ?
  その勇者ミトスの仲間ってやつのこともあんたはしってるのか?」
これまで幾度もきかされた、勇者ミトスとそしてその仲間達。
ユアン達は自分達は勇者ミトスの仲間であり、
そしてクルシスの指導者こそが、そのミトスそのものだ、そういっていた。
でも、いまだに信じられない。
何しろあのお伽噺は四千年前のことのはず。
その時からいきられる人間がいるなど、信じられない。
ゆえにロイドは完全に信じ切っていない。
いないからこそ、幾度きかされても驚いてしまう。
信じていないことはするり、と脳裏から外れてしまっているといってもよい。
「精霊との契約にもミトスの名前がでてきました」
「コレットの病気の治療にもミトスの伝承がかかわってるよね」
「精霊っていえば、僕は当然、精霊ラタトスクのことをききたい!」
コレットがふと思い出すようにいえば、しいなもまたぽつりといい、
そしてそんな二人につづくようにアステルがここぞとばかりに手をあげて、
きっぱりはっきりと断言する。
「おぬし、精霊ラタトスク様のことをしっておるのか?
  めずらしい。ラタトスク様のことはカーラーン戦争の最中でも、
  人に忘れ去られて等しい精霊のはずじゃったのに」
アステルの台詞に逆に驚いたようにまじまじとアステルの顔をみて、
感心したようにそういうその様子は本気でどうやら驚いているらしい。
ヒトが精霊ラタトスクのことを知っている、というのは驚愕せざるをえない。
かの精霊は一般的には忘れ去られて久しい精霊、のはずなのに、と。
「ふふ。僕をなめないでください。
  精霊ラタトスクはおそらく、ギンヌンガ・ガップというところにいて、
  八つの僕をもちしエイト・センチュリオンとよばれしものたち。
  彼らを使役してマナを整えている。そこまでは調べがついています!
  まあ、文献からよみといて、さらにはそれを解読した僕なりの考えですけど」
そんなアステルの台詞に大きく目をみひらきつつ、
「ほう。すごいのぉ。あのミトスですら精霊様がたや、
  センチュリオン様がたからきいてその存在にたどりついたというのに」
『!?』
さらり、といわれたその台詞に息をのむゼロス以外のほぼ全員。
「そう。じゃな。いや、もしかすると、では先ほどのあの子は…
  そうだとしたら、つじつまはあうのやもしれぬが…いやしかし…」
ふと何かを思い出したのか、ぶつぶついいはじめる女性に対し
「あの。詳しく教えてもらえませんか?勇者ミトスのことも。
  そしてその精霊ラタトスク、のことも」
ユアン達やエグザイアの人々からきいた内容、ではなく。
エルフにはどのようにつたわっているのか。
伝承、というものは場所によって異なる伝わり方をしている。
場所によっては歪められ伝えられているものがある。
実際、シルヴァラントにあった王朝が滅ぼされた一件。
その一件も真実は歪められて伝わっている。
そしてマルタはそのことを母親から聞かされて知っている。
だからこそ知りたい、とおもう。
それに何となくだが、ミトスとラタトスクに関してのことは知るべきだ。
とおもう。
それがどうしてそう思うのかまではマルタはわからないが。
でも、ここで聞くべきだ、と本能的な勘が叫んでいる。
「ミトスは…ヘイムダールに産まれ、カーラーン大戦がはじまると村を追放された哀れな異端者。
  村に帰るために三人の仲間とともにカーラーン大戦を終結させた。
  精霊様がたと契約を結び、精霊の王ともいわれるオリジンとも契約を果たし。
  もっとも、オリジンと契約を果たしたことにより、
  里のエルフ達はがらり、と態度をかえたようじゃがの。
  じゃが、ミトスは里にもどれというエルフ達の言葉にはしたがわなかった。
  世界を真なる意味で救うまでは、といったそうじゃ」
そして、彼らの放浪の旅が始まった。
それはヒトにとっては永き時間。
次なる彗星が飛来するまでの数十年、という時間。
「異端者?じゃあ、本当に勇者ミトスは…ハーフエルフ…だったの?」
エグザイアのモスリンにそう聞かされてはいたが。
改めてそういわれれば衝撃を隠しきれない。
「ヒトは彼らのことは正しくつたえてはおらんじゃろうな。
  そもそも、彼らが停戦をむすばせたことすら、隠そうとしたくらいじゃ。
  しかし、ミトス達のことは当時すでに民にしられすぎておった。
  国々は彼らがハーフエルフであることを隠すのに躍起になり、
  停戦後も彼らの正体が知られるのを恐れ、彼らに刺客を送っていたと伝え聞く」
「そんな…」
「自分達の国の戦力、利益にならぬのならば殺してしまえ。の考えでの。
  当時、大地はマナが涸渇し疲弊し、いくつもの大地が消滅をしておった。
  このままでは全ての大陸がマナ不足で消えてしまうのでは。
  そういわれていた中、ミトスが大地を存続させる方法を編み出した。
  それは、大樹の種子の存在があってこそなしえられた奇跡。
  我らエルフの故郷ともいえる彗星ネオ・デリス・カーラーン。
  膨大なるマナの純粋たる固まりの彗星のマナをもってして、
  種子を芽吹かせ大樹を蘇らせることにより、世界にマナを取り戻す。
  そう、ミトスは精霊と盟約をかわした。
  盟約の証、とし、万物たる加護、万能の加護ともいえしデリスエンブレム。
  大樹の加護ともいえしそれを携え、飛来の時をまった。
  じゃが…大樹が飛来するまさにそのとき。
  表面上は停戦協定を結んでいたようにみせかけていた二つの国の陣営は裏切った。
  ミトスが大樹を発芽させるために飛来してくる彗星。
  そこに出向いていたときに悲劇はおこった。
  …せめてきた陣営達の狙いは大いなる実り。
  マナをうみだせし大樹の種子。二つの国のものたちは、
  その力を我がものにと画策しておったのじゃ。
  シルヴァラントはその力をもってして魔導砲を使用し、完全にテセアラを消滅させよう、とし。
  テセアラはその力をもってしてマナを全て吸いだして自分達の国の利益にするために」
「ち、ちょっとまってよ。そんなことをしたら、もしかしたら…」
ジーニアスが何かにきづいたらしく声をあげる。
「そうじゃ。そんなことをすれば大樹は蘇ることはなく。
  地表全てが死に絶える。しかし当時の国々はミトスにそれを諭されていたにもかかわらず。
  ハーフエルフごときがいうことなので間違っているにちがいない。
  それはマナを独占するための方便にすぎん。
  そういいきり、そして行動をおこした。結果…大いなる実りは守り切れた。
  じゃが…その代償はおおきかった。
  ミトスにとって親代わりでもあったたった一人の姉。
  マーテル・ユグドラシルが大いなる実りを狙っていた人々に殺されてしまったのじゃ。
  彼女は命をかけて種子をまもりきったという。
  …ミトスがそれをしり彗星からもどったときには、すでにマーテルは虫の息だった、ということじゃ」
「そんな…ひどい…どうしてそのときの国はそんなことを……」
セレスの声は震えている。
大いなる実り云々はよくわからないが、しかしわかることがある。
マナを独占する方便?
そんなわけがないだろうに、とおもう。
「やつらは精霊全てと契約をしていたミトスの力を恐れておった。
  だからこそ、自分達の陣営にとりこもうとし、それが無理ならば暗殺をしようとしておった。
  あわよくば、ミトス達のもちしエンブレムをも奪おうとしたのやもしれぬがの」
それは今ではわからない。
当時のものたちは、すでに生きてはいないのだから。
「ひどいことに、そんな国に魔族のものたちがささやいてしまったらしくての。
  ラタトスク様の存在までしられてしまい…
  彼らは強大なる力をもつであろう精霊ラタトスク様のお力まで狙い始めおった」
マーテルを蘇らせるために、一時の猶予を。
そう決意したのは、ミトスがそれを閉じこもっていた実りの間にて知ってしまったがゆえ。
このままでは、姉だけでなく、よりによって、
姉を殺した人間達はラタトスクにまでも手をかけようというの?
あんなさみしい場所でずっと世界をまもっているラタトスクを?
それがきっかけとなり、決意するにいたった。
うるさくいってくるであろう精霊達は封じ、そして…国を粛清する。
時間をかけてでも、彼らが二度と馬鹿なことを考えたりしないように教育し直すべきだ、と。
その時の決意は今でもミトスの中にしっかりと残っている。
ただ、その初心を少しばかり忘れてしまっていたのは事実なれど。
エミルとの旅の中で、ミトスはその初心を確実に思い出している。
もっとも、そんなミトスの心情などこの場にいるロイド達には知るはずもないのだが。
「じゃあ、本当に勇者ミトスはハーフエルフ……」
世界を救おうとして、たった一人の姉を殺された。
それはかつてユアンがいっていた内容とほぼ同じ。
そしてユアンはこうもいっていた。
種子を目覚めさせればマーテルの精神は死に、マーテルを蘇らせれば種子が死ぬ、と。
「そう。ミトスはハーフエルフじゃった。ミトスの仲間もな。
  ミトスの仲間、古代勇者とよばれし四人の中で人間だったのはただ一人。
  ミトス達とともに旅をすることをきめ国を出奔した、
  当時のテセアラ王国、その騎士団長を務めておった人物。
  クラトス・アウリオン。テセアラにクラトスあり、とまでいわれ民にも慕われておった。
  彼はミトスの考えに共感し、国を出奔し、ミトス達とともに、
  挫折しながらも千年以上にも及ぶ二つの陣営の戦争を停戦にまでもちこんだ。
  そして彼はミトスの師匠ともいうべき存在でもある」
「ミトスの?それはいったい……」
リフィルがすこしばかり顔をしかめといかければ。
「ミトスはヘイムダール産まれであったがゆえに、外との交流はほぼなかった。
  当時のヘイムダールでもハーフエルフへの差別は小さいながらもあったらしくての。
  そんなかの姉弟達を当時狩人の女神との異名をとりし、
  ウィノナ。ウィノナ・ピックフォード。
  精霊ゼクンドゥス様の加護をよりつよく発現させたエルフの女性。
  しかしその力は時としてエルフ達すらをも恐れさせるものじゃったという。
  彼女が精霊様の加護でしるは、未来。
  その時折で発生するであろう、もっとも確立の高い未来。
  そしてその未来は大概、人の死にかかわること。
  それらに発揮されていたがゆえに、別名、死神。
  として当時ヘイムダールでも、忌み嫌われておったという。愚かなことを。
  精霊様の力を多少なりとも使えるというのに、忌み嫌うなど。
  …おそらく、当時のエルフ達からしてすでに間違った方向にいっておったのじゃろうな」
『!?』
今度こそ、息をのんだ気配は全員。
「ウィノナ…だと。馬鹿な。彼女は」
リーガルがつぶやき、
「いえ。ウィノナはたしかに、産まれたときから今にいたるまで。
  きちんとその出自はわかっています。ですから同姓同名、かと」
アステルもそんなリーガルの台詞に困惑ぎみ。
「そういえば、あのとき……」
ふとジーニアスがあのときのこと、ウィノナを助けだしたときのことを思い出す。
あのとき、ミトスは、彼女をみて何と叫んだ?
――ウィノナ姉様!
たしかに、ミトスは落ちてくる巨大岩をみて叫びつつ、彼女をかかえていたリヒターごと突き飛ばした。
「名前が同じ、じゃと?予測でしかないが。
  もしかしたら、そのものは……おそらくは、魂が同一、なのじゃろう。
  彼女の魂はそれほどまでに精霊様の加護がつよかった。
  しかもゼクンドゥス様が司りし力は時間と空間。
  …魂にそれだけの力がくわわっておれば、魂も輪廻転生を果たす過程で、
  おそらくは…もしかしたら記憶も継承したまま転生してるやもしれぬ。
  それほどまでに精霊様がたの力、というのは予測がつかないのじゃよ」
それはとてつもないことだ、ともおもう。
死んだ瞬間、さらには時においていかれている記憶すら継承してゆく、などと。
こうして伝承として語り継ぐのではなく、記憶、としてのこってゆくなど。
逃れる方法はたったひとつ。
直接、精霊ゼクンドゥスに掛け合い、その加護をなくしてもらうこと。
しかし、精霊ゼクンドゥスに出会えたものはまずいない。
ミトスがオリジンから授かった、というかのエターナルソード。
それが精霊に会う鍵をになっているのかもしれないが。
彼女は知らない。
よもやその剣そのものがその精霊である、ということを。
「…まあ、これはあくまでも予測で。
  ほんとうに同姓同名の別人、という確立のほうが高いじゃろうがの。
  おまえさんたちがいっているその女性のウィノナ、という人物とは。
  ともあれ、彼ら四人は異端視されながらもそれを乗り越え、
  幾度裏切られても、挫折してもそれで立ち止まることなく、
  やがて絶対に不可能だ、とおもわれていたこと。
  延々と繰り広げていた二つの陣営に停戦協定を結ばせるまでいたった。
  そこに互いの国の思惑がありはしたのだろうが、
  しかし、それで地表における争いが終結したのもまた事実。
  じゃが…ミトスは、彼らは精霊様の信頼をうらぎった。
  精霊様方を当時開発研究されていた魔導炉の上位版。
  精霊炉をつくりあげ、その台座を封魔の石でつくりあげ、
  マナの檻をつくりだすことにより、精霊達を特定の場所にそれぞれとじこめ、
  オリジンにおいては、ヒトのマナをもってして封印とし、マナの檻、とした。
  当時、彼らが精霊と交わしていた契約。それは。
  世界を彗星の飛来まで存続させるために、あえて一年ごとにマナをわけあたえる。
  大地を存続させるため、少ないマナで全ての大地が無事であるように、
  という願いをこめて二つにわけた世界。シルヴァラントとテセアラ。
  互いの国で争いがおこらぬように、彼らは当時それぞれの勢力圏であった世界。
  それらを元にしたわけた、という。それが今の二つの世界のありようじゃな。
  …ともかく、結果とし、ミトスは彗星が飛来したそのとき。
  約束を裏切り、契約を裏切り、精霊様がたをとじこめ…そして今にまでいたっておる。
  クルシスなんて組織をつくりあげ、偽りの伝承を人々に信じ込ませ、
  …かつてはあれほど忌み嫌っていたというエクスフィア。
  穢された精霊石様がたまで悪用して、な」
むしろミトスが率先して今ではそれらをつくりだしている、という。
そこまでいって、ため息ひとつ。
「精霊オリジンに愛され、そして精霊ラタトスクの加護すらうけし、勇者ミトス。
  しかし、ミトスは堕ちてしまった。堕ちた勇者じゃからこそ、
  ヘイムダールではその名が禁忌、とされてしまっておるのじゃよ」
「堕ちた?それは、いったい」
「ミトスはオリジンを裏切り、オリジンから与えられた魔剣の力を利用して、
  本来ならば彗星の飛来とともに一つに戻すはずであった大地。
  世界を二つにひきさいたのは大地の存続という立派な理由があった。
  だが、種子をめぶかせることなく、彼らはその力で彗星を上空にとどめ、
  そして世界をひきさいたそのままに、いびつなる世界をつくりあげた。
  マーテル教、などといういつわりの女神をうみだし、人々に信仰させ、
  それを快くおもわないものは徹底的に粛清、排除し、
  人々の心を砕き、または消してゆくことによって、偽りがさも真実であるかのように。
  今のような世界をミトスとその仲間達はうみだしてしまっておる」
勇者ミトスと女神マーテル。
あの伝説はクルシスがねつ造したものであり、真赤な嘘。
「ミトス・ユグドラシル。そしてその姉マーテル・ユグドラシル。
  シルヴァラントに所属していたユアン・カーフェイ。
  そしてテセアラに所属していたクラトス・アウリオン。
  彼ら四人が結果として今のような世界をつくりあげてしまっておる。
  …四千年ものあいだ、精霊様がたの信頼と契約をうらぎってまで、な。
  四人の天使達が世界をこのように変質させてしまった。
  だからこそ、ヘイムダールでは彼らの名は禁忌なのじゃ。
  もっとも、それだけ、ではないがの。
  ミトス達がまだ精霊様がたを裏切っていないときに里で預かっている品。
  その一つに禁書、といわれるものがある。
  それらをどうにかするのも彼らしかできぬこと。
  禁忌としてはいるが、その力、精霊様がたとの契約も、
  そして何よりも我らエルフ達にとって絶対なのはラタトスク様の加護をうけたもの。
  その事実。ゆえに彼らが里を訪れたとしても断ることはできぬのが実情じゃ。
  もっとも、彼らが里を訪れるのは禁書の様子を確認するため、に限られてはおったがの」
「禁書って…まさか」
はっとしたように思わずしいなが目をみひらく。
ここにくる前、くちなわがもっていったあのまがまがしい本。
あれをたしか、エルフの族長はそんな名でよんでいなかったか。
魔王の禁書、と。


「どうした?」
言葉ととにも、ゆらり、と目の前の木々の影の中が突如としてもりあがる。
その影はやがて一つの形をなし、その場にすとん、と座る体勢をみせたのち、
「あのクチナワとかなのりしものは、アビシオンとかいうものと繋ぎをとったもようです」
「やはり、あれにいったか」
しかし、あれは。
「あいつの力が分断されているネビリムの装備品とよばれしものはこちらにあるが?」
そのうちの一つはロイドがもっている魔剣ネビリム、といわれしもの。
ついでにいえばネビリムのカギも彼らがもっている。
「かの書物より力をえた彼は、あのものに力を分け与えたのち、
  どうやらみずほの里にむかったらしいのですが……」
そこまでいい、すこしばかり顔をふせ、
「力を得たあのものは、フラノールを自らの支配下におこうとしておりましたが。
  それが難しい、とわかると、メルトキオにむかった模様でして……」
「…つまり、闇の神殿を利用しかねない、ということ、か」
ロクなことをしでかさない。
本当にこれだからヒト、というものは。
「シャドウもいまだ囚われているまま、ですので。
  下手をすればシャドウが狂わされる可能性がたかく……」
何やらそんなことをいってくるが。
「…いや、どうやら。すこしばかり遅かったようだ」
すっと意識をむければ、確実に瘴気によって多少狂ったシャドウの分霊体達の姿。
「……あの大陸がすっぽりと闇に覆われた、か」
そういえば、かつての時間軸でもあのあたりは、常闇の街とかいわれていたな。
そんなことをふとおもう。
狂わされたシャドウの分霊体達は、神殿の外にでむいていき、
あっというまに神殿を中心として周囲を闇にとつつみこんでいっている。
それこそかつてのごとく、ルーメンがまだ覚醒していなかったときのごとくに。
「いかがなさいますか?」
どうやらその指示をうけるために、あえてこちらに戻ってきたようではあるが。
「アルタミラにもどったのち、彼らをシャドウの元にむかわせる。
  そのときにどさくさにまぎれ、シャドウを正気に戻すしかあるまい。
  ルナの力があればより確実なのだが、ルナもまた捕らわれている以上、
  無理をさせることはできないからな」
しかし、力を分け与えてみずほにむかった、というあの人間のことがきにかかる。
「――テネブラエ。もしかしたらあいつは手駒を増やすつもりなのかもしれん。
  魔物達との縁をよりしっかりとつかんでおけ。
  微弱なる瘴気などによって、魔族どもの駒に魔物達が利用されぬように、な」
あのクチナワは精霊を殺すようなことをいっていた。
みずほの民はそしてかつてのしいなとの契約の絡みにおいて、
精霊…ヴォルトではあったが、
基本的に精霊に対してはあまりいい感情をもたないものもいるはず。
否、確実にいるであろう。
それをきちんと表にださないだけで。
復讐するために力を、その考えに賛同する輩がいない、とも限らない。
それは、かつてダオスを利用しようとしたあの魔族達と共通するところがある。
あのときも、ダオスを隠れ蓑にし、魔族達は暗躍していた。
みずほの民の子孫であるかの一族のものたちすら瘴気で侵し操って。
あのころは、みずほ、という名が時とともに変貌し、ミブナの里、と名称を改めていたが。
しかし、手駒をそろえて、いったい何を…
精霊と、そして世界に反旗を翻そうとするのなら。
精霊にダメージを与えるには、てっとりはやく、魔科学。
それの利用をおもいつくであろう。
そして、それらをより有利に使用できそうな場所、はといえば…
「…レザレノ・カンパニー、か?」
かの施設というか会社さえ掌握してしまえば、
たしかに大量的にそれらの魔科学による装置類の生産が可能になるであろう。
まさか、とはおもうが。
あそこまで復讐の念にとらわれたものが、大地のことを考えるはずもない。
目先のことしか考えず、つきすすむ可能性のほうがはるかに高い。
「……テネブラエ。ゼロスの屋敷におもむき。
  もしかしたら、かのものがレザレノ社を襲撃するやもしれぬ可能性がある。
  そのことをそれとなく伝えておけ。
  ああ、騒ぎになられても面倒だから、人型になってな」
「わかりました」
とりあえず、あのセバスチャン達ならばどうにかするであろう。
それに彼らが報告があがってくれば、彼らとて動かざるをえないはず。
「…杞憂、ですめばいいのだがな」
しかし、なぜだろう。
あのときのように、またアルタミラが占領されてしまうような気がひしひしとしてしまうのは。
自分が思ったから、強くおもったからという理由で現実になってはたまらない。
どちらかといえば自分はそれを否定したい。
が、以前のこともある。
あのとき、パルマコスタに出向いたときも、嫌な予感を強くおもったせいなのか、人間の処刑。
というものが訪ねた翌日におこってしまったのだからして。

「あれ?みんな、どうかしたんですか?」
とりあえずテネブラエに指示をだして家の中にもどってみれば、
それぞれが何やらものすごく考え込むような表情をしており、
なぜかリフィル、そして語り部のエルフの女性、アステル。
この三人が固まり、何やら意見を交わしあっているのがみてとれる。
「あ。エミル。おかえり~」
「はは~ん。やっぱりトイレ、かい?」
そんなエミルの問いかけにエミルが戻ってきたのに気付いた、のであろう。
コレットがはっと気付いたように声をかけてきて、
そしてしいながにやっとした笑みをうかべてきいてくる。
「え、えっと。答えないといけませんか?」
「まあ、いいけどね。たしかに、生理現象はどうにもなんないんだしさ」
「…で、なんでロイド達や他の皆も深刻そうな表情、を?」
まさか、メルトキオ大陸の今の異変を彼らがもう知っている、というわけでもないであろうに。
「いや、ちょっとね」
いいつつも、しいなはじっとエミルをみつめる。
今、エルフの語り部からきかされた内容の一つ。
それに精霊原語、というものが存在した。
その発音は、まぎれもなく、エミルが幾度か発音していたまさにそれ。
リフィルが交渉し、それらの対応表が書かれた文字が紋様となっているタペストリー。
どうやらそれを手にいれたっぽいが。
それをエミルに知られるわけにはいかない、ともおもう。
かの原語は精霊に近しいものが使用する、世界の言葉。
エルフの語り部はそういった。
ちなみに、名は、といえば、語り部、というのが役職名であり、
その存在が悪用されないがために名はふせる、というのが代々の役目、であるらしい。
次代をまかせられるような相手を探してはエルフの里にでむいているのだが、
ほとんどのエルフ達が固定概念に染まり切り、きちんとした公平な立場でものごとをみる。
それができるものがいないがゆえに、こうして今でも一人ここで伝承をまもっている、とのこと。
…まあ、どうやらあの三人での話しあいの中で、
どうやらその候補としてアステルとリヒターが選ばれてしまったらしく、
語り部より様々な質問をうけている、というのが今の実情、だったりするのだが。
「くちなわが持ち逃げした本のことがわかったんだよ。
  あれはかつて勇者ミトスとその仲間達が、その中に魔界の魔王達を封じた書物らしいんだ。
  …やっかいなものをもちだしてくれたものだよ。あいつも」
あれが世に解き放たれればどうなるかはわからない。
そのように締めくくられていた。
だからこそしいなは首をすくめていわざるをえない。
「…里のものがしでかした不始末はあたしが始末をつける。
  それがあたしがあたし自身にたいしてのけじめ、でもあるからね」
その行動の底にある理由がしいなに復讐をしたいがためだ、というのならば。
しいなはそれを止める役割がある。
そう自分に言い聞かすようにぎゅっと手を握り締める。
「…俺、何が真実なのかわかんなくなってきたよ。
  女神マーテルの伝承も全て嘘だった、なんてさ」
「うん。私も。だって私は……」
「コレットは特にそう、だろうね。でも僕も……」
一方のお子様組みは何やらものすごく萎れている。
「…前、ユアンさんがいったとおり、だったんだね。
  マーテル様が殺されて、でもその精神はハイエクスフィア…
  クルシスの輝石?にやどってて。
  だからその精神を入れ替えれば生きられるって」
「うん。それで産まれたのが神子制度…つまり、私たちのような神子、なんだよね」
ロイドとコレットにつづき、ジーニアス、そしてマルタのそんな会話がきこえてくる。
そんな会話がきこえてくる、ということは。
どうやらあの短い間に完結にどうやら彼らにそれらの概念のような真実。
そういったものもあの語り部は伝えているらしい。
――マーテルの魂は今は精霊石にとらわれ、生きている、とはいえぬ。
  じゃが、魂は存続しておる。その魂さえ新しき身体を得ることができれば、
  あるいみで、マーテルは蘇る、といういいかたもできるのじゃろう。
  そして、そんなマーテルを蘇らせるためにうまれたのが、マーテル教。
  お前達が信じている勇者ミトスと女神マーテル。その伝承の根柢たる真実。
彼らはエミルが部屋にもどってくる直前、そのようにきかされた。
きかされた直後であるがゆえにうなだれているといってよい。
「…え、えっと。とりあえず。用事もすんだなら。そろそろいきません?
  きっと、ミトスやリリーナさん、それにタバサさんもまってるでしょうし」
一番の懸念はミトスが彼女達の目をかいくぐってまた一人で行動しかねない。
ということ。
くちなわという人間があれを持ち出した、としれば、
ミトスは絶対に行動をおこす。
そして今のミトスならば下手をすれば逆に呑みこまれてしまいかねない。
それだけは…避けたい。
何としてでも。
ミトスを魔族達の傀儡なんかにさせたくはない。
自分とかつてかかわったばかりにそんな目にあってしまうような、そんなヒトは、もう。
自分との約束を果たそうとして種子にその魂を注ぎ込んだミトス。
力を失ったままでは約束が果たせない、とうおもったのであろう。
死してもなお、あの子は約束をはたそうとしていたのだ、とはおもう。
…あのあと、マーテルが名前をヒトにさえつけさせなければ。
あのあと、自分を目覚めさせにくれば、ミトスを蘇らせることも可能だったのに。
でも、彼女はそれをしなかった。
そしてユアンもクラトスも。
その可能性にいきつかなかった。
新たな名をつけ、それですべてがおわった。
そう思いこんでいた。
あのとき、地表のマナが滞っていたのは、大樹の暴走とともに、あの衝撃によってまどろでいたがゆえ。
覚醒の波動をうけてセンチュリオン達が覚醒しかけてたからにすぎない。
マナの反転作用はその副作用としてマナを増幅させる効果もある。
だから、力を失っていた…マナを産みだす力もない苗木、ですら。
マナを産みだせている、と錯覚できたほどに。
自分のもとに訪ねてくるどころか名すら理をもってかきかえたあのものたち。
それをしり、ヒトに絶望した。
だから、マナの調停を命じなかった。
声をかければすぐにセンチュリオン達は覚醒を果たしていただろう。
それこそ、覚醒の波動をうけて真っ先に目覚めたテネブラエのように。
でも、する気がなかった。
ミトスが約束を破ったのだから、こちらももう約束を果たす必要はないだろう。
そう、おもった。
あのままほうっておいてもヒトはまちがいなく死滅していた。
マナが狂った世界でヒトはいきてゆくことは難しい。
また生き残ったとしてもそれはごくわずかで、新しく世界を再生しなおすのには都合がよかった。
なのに、ヒトはアクアの手をかり、かの地にやってきた。
アクアもおそらくは目覚めたばかりで実情を把握していなかったのであろう。
でなければ、裏切るばかりで約束すらはたさないヒトを、
あの場にまでつれてくることはしなかったはず。
いらいらにまかせるまま、アステルというものに攻撃をしかけ、
あっさりとその人間は命をおとし、やはり害虫だったのだな。
一人の人間が死んでも何もおこらない。自重じみた台詞をいったあのとき。
誤算は傍にいたリヒターというもの。
怒りにまかせ、自分に攻撃をしかけてきて、その結果、コアにもどされた。
コアに戻された衝撃で扉の封印が緩んでしまい、
あろうことかそのリヒターは漏れ出した魔族と契約を果たし…そして、
結果的に世界の理を引き直す行動をすることになった。
にもかかわらず、一度ならず二度までも。
それから後、ヒトは愚かな争いをくりかえした。
マナがなくなった世界において。
一度はほぼ地表が瘴気に覆われるハメにとなってしまった。
その結果、自らが干渉すれば、精霊マーテルに地表のことは手だししないでほしい。
といわれ、そして・・・結果として、マーテルはその盟約の結果、
自分で自分の首をしめることになってしまった。
再び発展していった魔科学によって消費されたマナのせいで。
彼女が消滅してしまえば精霊の盟約も関係ない。
ゆえに完全に消滅し、彼女の存在をもってして
理をひきかえていたあの地に新たな理とともに種子を芽吹かそうとして
…そして、今にいたった。
過去への移動。
あのときはまだ、リヒターだから被害があれですんだ、といえる。
もし、もしもミトスが魔族達の手に落ちてしまったら。
考えるだけにおそろしい。
それに何よりも、魔族に操られてしまうミトスをみたくない。
――僕はミトス。ミトス・ユグドラシルっていうんだ!君が精霊ラタトスク?
――契約なんかじゃなくて、約束!
  僕は君と友達になりたいんだから、契約で縛るようなことはしたくないんだ!
まっすぐに自分をみてそういってきたあのときのミトスの言葉に嘘はなかった。
――ねえ。だから、僕と友達になって!これも約束だよ!
  そして、世界が平和になったら、大樹が復活したら一緒に地上を旅しようよ!
  君が守ってる世界を僕らの手で案内したいんだ!
目を閉じれば今でもあのときのミトスの輝いた瞳を思い出す。
思い出すからこそ……
甘い、とはおもう。
おもうが。
本当は文句の一つでもいいたかった。
ミトスにあったら。
でも、種子にその魂を宿してまで、守ろうとした末路をしってしまっている。
それに種子に魂をうつしたということは、何かがあったのであろう。
本来ならば、マーテルと同じく石にその魂はやどったままであったはずなのに。
その石が破壊されてしまうような何かが、あのときに。
――地上を一緒に旅をしよう!
あれはミトスが一方的にいっていた台詞ではあったが。
でも、ミトスとならばそれもいいかもしれないな。
たまには一度くらいはこの世界においても地上にでても。
そうおもったあの当時。
センチュリオン達の後押しもあった。
大樹さえ復活すればそれは可能であった。
はず、なのに。
でも、ミトスの顔をみたら文句をいうよりも懐かしさのほうが強かった。
ジーニアス達と会話をしているミトスはあのときのミトスのままで。
センチュリオン達から止められていたがゆえに、自ら名乗ることはしていなかったが。
でも、気づかれればそれはそれでかまいはしない。
そうおもっているのもまた事実。
あの子はきちんと面と向かい合ってしっかりと話しあえば絶対に理解する。
まあ、なかなか意見を曲げないところはありはしたが。
でも、間違っていると思うところはきちんとミトスは自らをいさめようとしていた。
その心をしっているからこそ、かつての志を取り戻させたかった。
このまま、ミトスに精霊達をうらぎったままの存在であった。
そんな結末を精霊達の心の中にも残したくはない。
一度は過ちをおこしたが、それでも思いなおし契約を果たしたヒトのコ、として。
できれば精霊達の心の中にも暖かな記憶として残ってほしい、というのもある。
あの後、理を引きかえた後。
否、理を引きかえている最中から。
いや、それよりも以前から彼らはずっとおもっていたのであろう。
ミトスのことはすくなからずとも精霊達だけでなく、
センチュリオン達の心に影をおとしていたのをしっているからこそなおさらに。
精霊マーテルの話題になっても、誰もミトスのことは口にしようとしなかった。
それほどまでに、ミトスのことは彼らの心に影をおとしていた。
でも、今ならばそれが防げる。
できれば、ミトスにも誰にも…センチュリオン達や精霊達。
かれらには悲しい思いをしてほしくない。
それが…ラタトスクとしての切実なる願い。
だからこそ、ラタトスクはいまだにセンチュリオン達に、未来の記憶を統合させていない。
その気になればできる、というのにもかかわらず。
この後にあった出来事はすべて自分の心の中にだけしまいこみ。
「そ、そうだよ!ミトスたちがまってるんだった。
  姉さん!それにアステルも!そろそろいこうよ!
  少しでも早く、アルタミラにもどらないと!」
エミルの台詞にはっとしたようにジーニアスが目をみひらき、
そしていまだに何やら語り部の女性と様々な意見をかわしあっている部屋の奥へとむかってゆく。
何やら、やれ使命がどうのだの。
気が向けば弟子としてここでやってみないか、だの。
そんな声がきこえてきてはしているが。
「たしかに。会話はいつでもできる。今はともかく。
  材料をもってかえり、一刻もはやく治療の道具をそろえるべきであろう」
今は抑えられていても、いつまた症状が悪化するかわからない。
そして今度症状があらわれたとき、また抑えられるかどうかすらもあやしい。
そんなジーニアスに同意するかのように、
リーガルもそんな彼らのもとにちかづきながらそんな意見をいっているのがみてとれる。
「そうだよ。先生。世界が一つになったらいつでもここにこれるんだし。今はとにかく、コレットを」
エミルの言葉にはっとなり、今は何を優先すべきか思いだすロイド。
語り部となのったエルフの女性の言葉に迷っている場合ではない。
今すべきこと。
今、俺がしなければならないのは、コレットを確実に治療することではなかったのか。
また、ヒトの会話でその根本的なことを見失いそうであった自分の心にきづき、
ロイドもまたはっとしたようにそんな彼らの意見に賛同するようにと声をあげる。
「でもさ。帰るにしても、またあの花の空気とおっておりるの?
  エミルがよんでくれた鳥さんで降りるのも怖いよ、あれは」
「?え?レイヴン達は怖くないよ?」
「もう!それはエミルだけだよ!
  あんな鷲さんのようなツメにがしっとつかまれたら。
  ああ、自分は餌になっちゃうんだ。という悲壮感しかうまれないよ!
  違うって理屈ではわかってても!」
「たしかに、マルタさんのいうとおり、です」
なぜにたかが肩をつかんで移動する、というのが悲壮感につながるのだろうか。
そもそも、餌として連れていかれているのではない、と始めからわかっているであろうに。
しかも、なぜかマルタの台詞にプレセアまでが同意しているのが意味がわからない。
わからないがゆえにエミルは首をかしげざるをえない。
『――エミル様。どうなさるのですか?』
ちょこん、と首をかしげたせいなのか、肩にのっているソルムがエミルにと問いかけてくる。
「う~ん。なら、またレティスかラティスでもよぼっか?」
  ここからアルタミラまで距離あるし。あの子達でいったほうがはるかにはやいし」
レアバードなど目ではない。
シムルグならば、ここからひとっ飛び。
それにここは崖近く。
あの子達を呼ぶのに問題はない。
崖すれすれにあの子達に待機してもらい、その翼を橋替わりにして移動するもよし。
また、せっかくソーサラーリングの属性を変更しているのだから、
風の膜をうみださせ、シムルグに風をおこさせ背に移動させるもよし。
エミルの台詞にしばし、ロイド達は顔を見合わせてゆく――


 ~スキット・ラーセオン渓谷からアルタミラへ~

ロイド「やっばりすげえ!この鳥!」
コレット「ほんとう。マーテル様の神鳥なだけはあるよね!」
エミル「だから、コレット、幾度それは違うっていえば……」
ジーニアス「そうだよ。そもそも、女神マーテルなんてものがうそっぱちだったじゃない」
マルタ「でもさ。産まれたときからきかされていた。伝説。
     マーテル教の教えが全部嘘だ、というのはなかなかに認められないよ」
ジーニアス「それはそう、だけどさ」
マルタ「それに、コレットは神子、として産まれてきてるんだもん。
     私たちでもなかなか心の揺らぎがなくならないのに、無理はないとおもう」
エミル「信じることはいいことだとおもうよ?
     そもそも、マーテル教というものがねつ造だったとしても。
     それでもその教えには嘘はなかったんでしょう?
     汝、互いを愛せよ。隣人をあいせよ。全ての命は平等であれ。
     うん。僕は好きだよ。この台詞」
ミトス達、あの子達がずっと目指していた希望。
その希望がマーテル教の教え、にはつまっている。
ロイド「そうだよなぁ。汝、旅をせよ、という教えもたしかにあったよな」
エミル「ヒトの一生なんて本当に旅のようなものだもの。
     選択を一つきめるだけで、そこで帰路がわかれてしまうように、ね」
リフィル「…エミル…あなたは……いえ、何でもないわ」
――精霊ラタトスクについておしえてください。
    精霊につかえているという、センチュリオン、とは
三人で話していたときに、気になってといかけた。

闇のセンチュリオン・テネブラエ。
光のセンチユリオン・ルーメン。
雷のセンチュリオン・トニトルス。
水のセンチュリオン・アクア
火のセンチュリオン・イグニス。
氷のセンチュリオン・グラキエス
風のセンチュリオン・ウェントス。
地のセンチュリオン・ソルム。

語り部のエルフの女性はそういった。
そしてそのセンチュリオン達を示すといわれている紋章のはいったタペストリー。
その中央には巨大な樹が織り込まれ、そこに真赤な蝶をほどこした紋様。
その周囲をとりかこむようにしてある八つの紋様。
それぞれの紋様が、センチュリオンらを示しているという。
色とりどりの紋様、そして鮮明なほどに赤い蝶と、新緑の大樹。
蝶はラタトスクの象徴、だという。
だから、エルフの隠れ里のあるあの場所には蝶がおおいのだ、と。
あの場所は大樹以外でもっとも精霊ラタトスクに近しい場所だから、と。
その名はリフィルは聞き覚えがある。
嫌というほどに。
エミルの傍に時折あらわれる…しかも、アクアに関しては、なぜかヒト型をしていたこともある。
それこそ、あの海賊船カーラーン号の中で。
それをリフィルは目の当たりにしている。
エイト・センチュリオン、というらしい。
彼ら八体の俗称は。
それは…あのテネブラエ達が名乗っていた、エイトリオン、それによくにた響き。
――ノルン、という言葉に聞き覚えは?
問いかけたリフィルにたいし、
――よくしっておるな。それは我らの先祖が移動するよりいたかつての惑星。
  彗星に移住するまえにいた惑星デリス・カーラーン。
  真なる母星にラタトスク様がうみだされた新たな大樹の精霊の名じゃよ。それを、どこで?
その言葉に、いえ、それは覚えていませんが、きになっていたもので。
そうリフィルは首をふっておいた。
覚えていない、なんて言うのは嘘。
エミルと、まちがいなくセンチュリオンとおもわれし彼らの会話。
それにときおりでてくるノルンという名前。
マルタなどは、まさかエミルの恋人!?などと一人、もんもんとしているようだが。
――ねえ。語り部さん。そのセンチュリオン達が誰かに敬称つけてよぶとしたら。
  どんなヒトがいるとおもう?
――ありえんじゃろう。いや、ひとりおるか。
  この地では確認はされておらぬが、彗星においては姿を現していた。
【ディセンダー】
大樹の分身体であり、そして世界を見定めるといわれているもの。
この惑星におりたったのち、一度も確認されていない、といわれている、
もはやエルフですら忘れ去られているという伝説の存在。
大樹の代理者。
大樹の力をもってして世界を見極めるために生み出される、という存在。
基本、ディセンダーは記憶も何ももたない、という。
それこそ何もない状態で地上にでることにより、より正しく世界を見極めるために。
――あなた、ディザイアンをしらないの?
エミルに始めてあったあのときに、リフィルがといかけたあの台詞。
本当にエミルはあのとき、何もしらないそぶりであった。
それに、学校というものにいったことがない、とも。
そして、今おもえば、親は、といって、ひたすらに首をかしげていた。
もし、記憶がないのだとしたら、そしてエミルがそのディセンダーなのだとしたら。
…ピタリ、とパズルは一致してしまう。
おそろしいほどに。
よもやリフィルはエミルが精霊ラタトスクそのものだ、などとは夢にもおもっていない。
よくて関係者かもしれない、とおもっていだか。
そんな存在がいた、など初耳もいいところ。
ききたい。
けど、きいても答えてくれるかわからない。
【ディセンダー】は人にあらず。
世界を平和に導いた後はまた世界樹に還る。
伝承にはそうある、という。
なら、もしもエミルがそのディセンダー、だとするならば?
エミルもまた消えてしまうのであろうか。
問いかけると同時に消えてしもうかもしれない、という懸念。
いや、そもそもエミルがこの旅に同行してきたのは、
コレット達がほぼ無理をいったから、といってもよい。
ただ、行き先がおなじだから、という理由で、
一緒にいこう、とひたすらにコレット達が誘ったからにすぎない。
リフィルがそんな思考にひたっている最中。
ロイド「おお!すげえ!もうみえてきたぜ!あれ?
     なあなあ、あのくるくるまわってるでっかい水車みたいなの何だ?」
空からでもよくわかる。
何やら巨大な水車のような丸い何か、がゆっくりと回転しているのが。
リーガル「うむ。あれはアルタミラが誇る巨大観覧車だな。
      あのエリアは娯楽施設である遊園地にあたるな」
ジーニアス「娯楽施設って…シルヴァラントじゃそんな場所絶対ないよ!」
コレット「うわぁ。なんだかおもしろそう。あそこなんかにぎやかっぽい!
      なんかみたことないかわった乗り物っぽいのがたくさんある~!」
コレットがその目をこらすように、
その目の上に手をあて、そちらのほうをレティスの背の上から、
のりだすようにしてみつつもそんなことをいっているが。
ロイド「…よくみえるなぁ。俺まったくみえないぜ」
ジーニアス「コレットはまだ視力もいいまま、なんだ」
コレット「うん。そうみたい。いいなぁ。なんかあそこたのしそう……」
リーガル「ふむ。ではおそらく、タバサ嬢によるアルテスタ殿の作業も時間がかかるだろうる
      私の権限でおまえたちにはかの遊園地で遊べるようにはからうとしよう。
      ジョルジュにえば、フリーパス券が発行されるはずだ。
      あの地で時間をつぶしていれば、おのずと治療具もできあがろう」
しいな「いいのかい!?あたし、あのジェットコースターすきなんだよ!」
ゼロス「おいおい。しいな。おまえさんまで…」
セレス「遊園地!お兄様!お兄様!わたくしもいきたいです! 
     一度はいってみたかったですのに、ずっと体が弱いからだめだ!
     って一度もいったたためしはないのですし!」
ゼロス「うっ」
目をきらきらさせ、さらに懇願するように手をくまれ、
見あげるようにいわれ、ゼロスは絶句してしまう。
いや、セレスは体が、いやいや。
エミル君の力でセレスはどうやら健康体になってるっぽいし。
いやでも。
ゼロスの内部でかなりの葛藤がみられ、
その場にて頭をかかえうんうんうなりだすゼロスの姿。
マルタ「遊園地って、どんな場所?」
リーガル「それは、いってみたのお楽しみ、だな」
マルタ「む~。リーガルさんのケチぃぃ!」
エミル「・・・えっと。レティスに降りてもらってもいい、のかなぁ?これ?」
アステル「僕、ジェットコースターって話しにきいたことあってものったことないんだよね」
リヒター「俺もだな」
アステル&リヒター「「・・・・・・・・・・・・」」
しいな「何だい、何だい!あんたたち、それでもテセアラ人かい!?」
アステル「いや、でも僕九歳からずっと研究所だし」
リヒター「俺は家族で山奥に隠れすんでいたからな。
      みつかったあとは強制的に研究室だ。処刑されることなく、な」
しいな「わ、わるい…よし!なら、あたしが案内してやるよ!
     きっとたのしいさ!」
コレット「だから、ゆう何とかって何なの?しいな?」
しいな「大人から子供まで楽しめる様々な遊具施設がある場所、さ。
     あんたたちも気にいるとおもうよ。絶対に。
     たとえば、シルヴァラントのあのタライみたいに」
リフィル「た、たらい!?私は遠慮してよ!それは絶対に!?」
しいな「あ~。いいかたがわるかったね。
     あれは、安全性をまったく考慮してなかっただろ?」
ロイド・ジーニアス・リフィル「「「たしかに」」」
コレット「ええ?たらいさん、おもしろかったけどなぁ」
リーガル「たら…」
プレセア「い?」
マルタ「たしかに。あれはあぶないよね。よくあれで水難事故毎回おこってないとおもう」
しいな「あんな自分達でどうにかしてください。でなくて。
     かならず誰かが傍にいて、何かがあったら即対応、救助体勢もばっちり。
     ついでにトラブルがあってもすぐに何とかしてくれる係りのものがいて。
     そういう心配をまったくせずにいろいろと遊べる施設がととのってるのさ」
リフィル「そ、そうなの。びっくりしたわ。…またあれはごめんよ。二度と」
エミル「え、えっと。とりあえず、この子、おろしますね。レティス、地上へ」



pixv投稿日:2014年8月18日某日(Hp編集:2018年5月6日(日)

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あとがきもどき:
ようやくほっとかれたミトスとの合流(笑)です。
でもって、アルタミラ&メルトキオのとあるフラグが今回たちますv
ここでクロスになってくるのか!?という突っ込みがあるかな?あるかな?
って、自分で暴露していたらあるわけないですよね(苦笑
あと、アルタミラにもどることで、またまたサブイベが連続して発生ですv