まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
pivixさんに投稿していた話の区切りとは変えてあります。容量的に……
ついに禁書の記憶(これはゲームの裏ダンジョン、です)のとっかかりにv
本来ならば、救いの塔をでてすぐに、クラトスが実はロイドの実父というのが判明。
というのがゲーム進行上のストーリー軸、ですが。
この話しは様々なイベントがシャッフルされまくってるので、
そのあたりもかわってきていたりします。
今回でもいっていますが、孤児院から出たというか追放されたアリス&デクス。
彼らはフォシテスが保護してます。
というかかつて禁書の封印強化をした彼は、
魔族と契約した同胞をほうってはおけなかったという理由もありますが。
つまるところ、アリスとデクスは今現在、イセリアの牧場にいたりします。
たぶん、ゲーム軸でもいたんだとおもうんですよねぇ。
あのフォシテスが同族みすてたとはおもえないし。
というか魔物に孤児院がおそわれたとかも把握してただろうし。
コレット達をラタ騎士の時間軸で恨んでたのも、
恩人であるフォシテスが殺されたりしてるので、というのもあったりする、という。
ラタ騎士のスキットとかそのあたりではでてきませんでしたけどね。
孤児院でてから彼らがどうしたのか、までは。
小説版ではデクス&アリスで旅をしてる、とでてたけど。
…何だか納得がいっていない、というのがちょこっとした本音。
いや、数年くらいは旅をしててもいいとおもうんですよ。
ヴァンガードに所属するのが、孤児院をでて五年ちょい、となってたし。
ラタ騎士時間軸でハイマの事件は八年前だし。
で、世界再生が二年前、と。
フォシテスが保護してたのに、ロイドたちのせいで牧場が壊滅し、
神子一行をうらみつつ、旅にもどったアリス達だったけど、
その途中でロイド達が禁書を燃やしたから魔族の力がなくなって、
みたいな感じにしてあります。(つまりラタがもともといた世界でも、です)
しかし、ついにミトスにまでセンチュリオンの存在が完全にばれました(笑
ついでに、エミルが何かしっているというか、
関係者、というのはもはやもう確信。
しかし、センチュリオン達が危惧してるように、
ラタを利用しよう、なんてことはまったく彼はまだおもってません。
何しろ彼の中ではいまだに、ラタと友達に!という思いが強いですから。
だから、関係者(もしかしたらかもしれないけど当人?)
かもしれないエミルが狙われているのをみて無意識にかばったわけで。
本来ならば、ジーニアスがミトスに攻撃し、
それに激怒したプロネーマがジーニアスを攻撃し、
そんなジーニアスをミトスがかばう、がゲーム軸(本来)での歴史でしたけど。
そういった細かなことがラタが表にでているのでかわってきています。
エミルにある程度、負が浄化されたミトスは、これから?
このあたりも変化してきているのが実情です。
あと、前回、エミルが自分を完全に裏切っている(大樹を蘇らせるのをなくしている)
というのではない、というのを知ったのに加え、
今回のミトスとの会話にて、ラタはある程度のミトスの現状を把握します。
どうしてミトスがそんな考えに囚われているのか、という謎とき?も少しばかり。
負は何しろ、精霊達ですらあっさりと狂わせるものですからねぇ(しみじみ
今回、それとついにユミルの森&エルフの里に突入、です。
あと、注意事項、です。
エルフの里、あるいみグロ指定?かもしれません。
つまりはラタの雷の神殿&シンフォニアの始まりの村襲撃。
それに近いです。あしからず……
あと、村の構造、一部にねつ造入ってます。
本来ならば、ゲーム上、集会場とかはありません。念のため。
(投稿分では96からの内容です)
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重なり合う協奏曲~エルフの里~
海の楽園、アルタミラ。
救いの塔から、アルタミラは南東の方向に位置している。
レアバードで飛び立ち、一行はアルタミラへ。
「ひゃあ。あいかわらずここはあっちいなぁ」
ゼロスがレアバードから降り立つなりそんなことを言い放ち、
「いいか?セレス。熱射病とかもこわいから、絶対にその帽子をぬぐなよ?
あと、念のために、日傘をさして……」
「…あいかわらず、神子のセレス嬢への過保護ぶりはすざましいな」
そんなゼロスとセレスの様子をみつつ、リーガルがあきれたようにいってくる。
そして。
「まずは、ホテルにチェックインするとしよう。
私は支配人に話しをつけてくる。あと一度会社の方にも顔をだす必要があるしな」
アルタミラにリーガルが会長をつとめているレザレノ・カンパニーの本社がある。
いいつつも、すたすたとそのまま街の中にはいり、その横手にある大きな建物。
その中にはいってゆくリーガルの姿。
リーガルがホテルの中にはいってゆくのとほぼ同時。
「…から、…で、…の」
ふと、ホテルのほうから何やら聞き覚えのある声がきこえてくる。
「ん?」
それはたまたまリーガルが扉をあけて中にはいったがゆえ、
どうやらホテルの入口付近でいいあっている誰かの声がきこえてきたらしい。
しかしその声が誰のものかわからずに首をかしげているロイド。
そしてまた。
「あれ?この声…クラトスさんに、ユアンさん?」
コレットがその手を耳にあて、きょとん、と首をかしげながらもそんなことをいってくる。
「クラトス、ですって!?コレット、間違いないのかしら?」
そんなコレットの言葉にはっとなりつつも、リフィルがコレットにと問いかける。
「え。はい。まちがいなくクラトスさんとユアンさんの声みたいですけど」
コレットはいまだに聴力のコントロールができていない。
ゆえに、無意味に自然と様々な音を拾ってしまう。
自分で意識してコントロールする、ということがいまだにコレットには難しいらしい。
それでもある程度の音は聞こえても無視すればいいんだ。
という折り合いを自らの中でつけているようではあるが。
「なんであいつらがこんなところにいるんだ?」
「クラトスには聞きたいことがあったからちょうどいいわ。
ケイトがどこにいるか、きいてみましょう。もしかしたら一緒かもしれないわ」
そんなリフィルの台詞にそういえば、とロイド達もおもいだす。
ウィルガイアにて、ケイトはクラトスにつれられて地上におりた、と。
たしかにそのように説明された。
だとすれば、ケイトがどこにいるかわかるはず。
なぜにここにクラトスがいるのか、という疑問はつきないが。
顔をみあわせ、ホテルの中へ。
内部にはいると、
「だから、なぜに私がきさまと同じ部屋にならなければならないのだ?!」
「それはお前が逃げるかもしれないからだ!」
何やらとてつもなく不毛らしき言い合いが入口付近にまできこえてくる。
ちらり、とみればどうやら二人は中央にある受付用のカウンター。
その奥にあるエレベーターの手前にある通路にてどうやら向かい合いつつもいいあっているらしい。
「クラトス!それにユアン!?」
ロイドがその見間違えることもない姿をみとめ、思わずそちらにむかって叫ぶが。
その声にこちらにきづいた、のであろう。
「ちっ」
ちらり、と声のしたほうにユアンは振り向き、そして小さく舌打ちしたのち、
「…今はあのことは後回しにするしかない、か」
何やら一人そうつぶやき、
「お前達か。やはりここにきたな」
やはり、ということは予測していたようなユアンの言い回し。
実際ボータがかつてリフィルに手渡しているとある装置。
それにより彼らの言動はその気になれば筒抜けになっていたりする。
「まさか、ユアン、ロイド達をまきこむつもりか!?」
何やらそんなユアンの横ではクラトスがそんなことをいっているが。
「他に手はない。あのままでは、確実に封印はとける」
「しかし!封魔の石は行方不明なのだろう!?」
「ああ。デリス・カーラーンにあったはずの場所にはなくなっていた。
だからといって、あのまま放置しておくわけにはいかん」
何やらそんな会話が二人の間にて繰り広げられていたりする。
「しかし、ロイド達には関係ないだろう!」
さらにクラトスがつっかかっているようではあるが。
「関係ないことはないだろう。かの書はヘイムダールに保管されている。
このままでは、ヘイムダールそのものが、かの禁書から漏れ出した波動で狂いかねん。
プロネーマに繋ぎをとり、そのことをミトスに報告はしてはいるが……」
しかしそれに関しての報告がない、ということは。
いまだに繋ぎがとれていないのか、それとも。
「あれでもあの封印な要、だ。
やつのことだ。一人でどうにかしようと行動をおこしかねん。
その前に何としても封印の強化。
もしくはできればかの禁書を消滅させてしまう必要がある。
もし、今のやつが取り込まれたら全てはおわってしまうからな」
ユアンが顔をしかめつつそんなことをいっているが。
ユアンもどうやら同じ懸念を抱いているようだな。
そんなユアンの様子にラタトスクも思わず内心うなづいてしまう。
そう。
あのミトスならばあの書物の状態をしったとするならば、
一人でどうにかしよう、と行動をおこしかねない。
そして、今のようにほとんど負に侵されてあるいみで狂っているミトスならば、
下手をすれば魔族に取り込まれかねない懸念がまっている。
「しかし…」
ユアンのいいたいことはクラトスとてわかる。
わかるが、だからといって、ロイド達を危険な目にあわせたくはない。
「ならば、私とお前とで……」
「報告によれば被害はかなり広がっているという。
それに、そいつらもヘイムダールに用があるのではないか?
神子の治療に使用するマナリーフがもしかしたら永遠に手にはいらなくなるかもしれない。
そんな懸念すら含んでいるのだからな。この一件には」
『な!?』
さらり、といわれたユアンの台詞にロイド達が思わず異口同音に絶句する。
「…すこしいいかしら。それはいったいどういうこと、なの?」
さすがのリフィルも永遠に手にはいらなくなるかもしれない。
そのようなことを耳にはさみ、黙ってはいられないらしい。
「…とりあえず。話しなら、ここは他の人の邪魔になりますし。
上にある食堂か、もしくは外にでてから、にしませんか?」
いまだにミトスは視るかぎりこちらには戻ってきていない。
どうやらタバサやリリーナには散歩をしてくる、といって外にでて、
そのままあちらに戻っていたようではあるが。
「たしかに。ここであんたたちもいいあってても他の客に迷惑だろうしね」
しいなとしても、今の会話は聞き捨てならない言葉を含んでいた。
ヘイムダールに、エルフの隠れ里にいったい何がおこっている、というのだろうか。
どうやら今のユアンのいい方では何かがおこっているのは間違いない、ようではあるが。
それゆえに、しいなもまたエミルの提案に同意するようにと言葉を発する。
「そう、だな。クラトス、逃げるなよ。お前一人でどうにかなる問題ではない。
すくなくとも、今お前が死ねば、封印はより弱まってしまうからな」
そう。
だからこそ、本来ならばクラトスにオリジンの封印解放をせまりたいが、
あの一件が終わらないかぎり、それもできない。
それはさらにかの封印が弱まることを意味してしまう。
言外に、だから今はロイドにお前のことを伝えるのはなしにしてやる。
といっている、とクラトスは本能的に感じ取る。
おそらく、ユアンはあの救いの塔の下で自分達を待ち構えていたとき、
本当ならば自分の身をつかい、ロイドを人質にでもとって封印解放を望むつもりだったのだろう。
しかし、ユアンの部下の一人が緊急の報告をもってきたことにより、順番が狂った。
それは、ヘイムダール、での異変。
そして、それをきいたケイトの台詞。
ケイトは、父である教皇がかの地に納められているという伝説の書物。
それを手にいれるために間者をもぐりこませているときいたことがある。
そのように彼らに伝えた。
それは、下手をすればあの書物が持ち出されてしまう可能性を意味している。
本来ならばそのままヘイムダールに向かいたいユアンであったが、
しかし、一人でいってもどうにもならない。
特に封魔の石が行方不明の今。
しかし、唯一の例外ともいえる存在がいる。
魔物を使役できるというエミルならば、もしかしてその存在をしっているかもしれない。
それは一縷のかけ。
それか、手段としてはあまり好ましくないが、
ロイドや神子をつかい、かの封印をあらたにかつてのように、
プロネーマ達と同じ行動をおこさせ封印強化をさせる、ということも考えついた。
封魔の石がない以上、完全にかの書物を浄化することはままならない。
「それで?どうしてあなた達がここにいるのかしら?」
リーガル曰く、このホテルには会議室なるものがあるらしい。
人数が人数。
ゆえに聞けば今日の利用はない、ということなので、そこを使わせてもらうことにした。
アルタミラにとひとまず戻ってはきた。
ここには、リリーナ、タバサ、そしてミトスがまっているはず。
彼らに合流する前に、なぜかホテルの一階で、こうしてユアンとクラトスに出会ってしまい、
話しあいのためにこの場にやってきている今現在。
エレベーターをあがり、会議室にたどりつき、それぞれが椅子にすわったのを確認したのち、
リフィルがクラトス、そしてユアンにとといかける。
「あんたは、ケイトをつれて地上におりた、そうきいた」
きっと、クラトスを睨みつけるようにロイドがいえば。
「ああ。ケイトは、ユアンに頼んですでにオゼットにもどっている」
「たしかに。我が部下が彼女をオゼットに送り届けているはずだ」
そんなロイドの質問に腕をくみつつも、淡々というクラトスにたいし、
うなづくようにして言葉をかぶせるかのようにしてユアンがいってくる。
「そもそも、どうしてケイトが連れ浚われていたのかしら?」
「・・・・・・・・・」
その問いかけにクラトスは答えない。
「そんなことよりも。だ。お前達、どうやらマナの欠片は手にいれたようだな」
クラトスが答える気がない、とわかったのかため息をつき、ユアンがそんなことをいってくる。
「ああ」
「では、あとの残りはマナリーフ、か」
そうつむぐユアンの台詞にすこし眉をよせ、
「まて。きでんはそれらの材料をしっていた、のか?」
怪訝そうにといかけているリーガル。
「お前達は確信をもっているだろうから今さらとりつくろうこともないだろう。
そもそも、神子の病はかつてマーテルがかかったものと同じ。
我らもかつて、それらの材料をあつめるのに奔走したことがあるからな」
『!?』
さらっといわれたユアンの台詞にその場にいる全員、エミルを除く
…が驚愕の表情をうかべ、思わず息をのむ。
「ま、まってよ!なら、ユアンさんも、そしてクラトスさんも。
まさか、あの四千年前の英雄の一人だっていうの!?
だって、あれから四千年もたってるんだよ!?いきてるはずがないよ!」
それは驚愕にちかいマルタの台詞。
「それが天使化、といわれている人体への変化の恩恵だ。
完全に天使化をはたすことができれば、任意で成長速度。
そして様々な機能を自らの意思で止めることも、また進めることもできる。
意識して、切り替えが可能になるのだ」
そんなマルタの疑問に淡々とユアンが答え、
「お前はマーテルのマナとより酷似している。
ゆえに、マーテルがたどった道。その病気を併発してしまったのだろう。
だからこそ、お前が神子の器として、否、マーテルの器として最適。
とされてしまったのだろうが…もっとも、そっちの神子が女性ならば。
あいつは何がなんでもテセアラを衰退世界にしていたであろうがな」
「げっ」
さらっといわれた台詞に思わずゼロスが言葉をつまらせる。
「お前ほど融和性が高いものはこれまでもいなかったからな。
しかし、お前の妹はお前ほど融和性をもっていない。
そもそも、初ともいえる。完全に天使化していないのにその天使の力をつかいこなせる。
そんな神子はな。伊達に永らく血が凝縮されたわけではない結果だな」
ゼロスは神託をうけたあのときから、すでにマナの翼を展開することができていた。
そして今の年齢にいたるまで、あるはずの症状。
すなわち副作用がまったくもっておきていない。
それをしり、一時はミトスもゼロスを器に、とおもったことはあるのだが、
さずかにゼロスは男。
姉様が男性になるなんて許せない!という思いもあり、その案は却下された。
それはゼロスはしることもない事実ではあるが。
「我らはユグドラシルが動く前にとあることをなしとげなければならない。
それで、お前達の力をまたかしてほしい」
ユアンがそういい頭をさげてくる。
「しかし、ユアン!ロイド達には関係が!」
いまだに納得していないクラトスがそんなユアンの台詞にくってかかる。
「このままでは、地表が危険になる。
お前とてわかっていよう。下手をすればかつての二の舞だ。
あのとき、ミトスとマーテルが精霊からの力をうけて、
我らと同じ天使化したあのときと、な。…地表に魔界の扉が開かれてしまう」
「!?それは、どういうこと、なのかしら?」
ユアンの言葉にリフィルが大きく目をみひらき問いかける。
聞き捨てならない台詞がでてきた。
地表に魔界の扉がひらかれる。
「ちょっとまってください。魔界との境界は精霊ラタトスクがまもっている。
たしか文献ではそうなっていたはず、ですけど」
そんなユアンの台詞にアステルがまった、をかけて逆にとといかける。
たしかに文献ではそのようになっていたはず。
「そうだ。かの精霊はまだかの【ラタトスクの間】において、
魔界との境界を守っている、はず…なのだが」
なのだが、なぜにここにセンチュリオンの気配をもつものがいるのだろうか。
ちらり、とユアンがエミルの背後に視線をむければ、そこにみおぼえのある気配のものが。
その姿をみたことはないが、そのマナの独特なる気配を間違えるはずもない。
姿をけしているようではあるが、ユアンの目にはしっかりとその姿はうつっている。
「しかし。時として例外、というものが存在する。
ヒトがその欲にて、無理やりに新たな窓を開いてしまうことが、な。
かつて、四千年前にもそのようなことがあった。
そして、八百年前にも。な。そのときは当時のシルヴァラント王朝がそれをしでかしたのだが」
だからこそ、ミトスはシルヴァラント王朝を滅ぼした。
豊かさにおぼれ、より強い力を欲した愚かな国がたどりついたは、
古の文献にあった魔族の力をかりより強い力をもって、クルシスになりかわろう。
そんな思いを抱いてしまった。
当時のことを思い出し、ユアンは盛大にため息をつかざるを得ない。
八百年もシルヴァラント側が衰退世界であったのは、
それらの愚かなる考えをもったものが、またあらわれては、
という危惧が根柢にあったことも否めない。
「その時開きかけてしまった小窓から、いくつもの魔族達が地表にやってきている。
そして、彼らはかつて我らが封じた魔王の配下。
その配下たちがどうやら、また六年前から裏で活動を再開しているらしい」
「六年前…ですって?」
リフィルがすこしばかり顔をしかめる。
「お前達、シルヴァラントのものはしらないか?六年前のハイマの事件を」
「「「?」」」
ユアンにいわれても、ロイド、コレット、ジーニアスは意味がわからない。
「あ。私はきいたことがある。たしか、六年前っていえば。
ハイマが魔物におそわれたとか何とか…」
詳しくはしらない、が。
マルタが旅人の噂話しをおもいだしながらもいってくる。
「そう。あれはハイマにいたものが、魔族の力をかりてひきおこしてしまったこと。
まあ、話しをきけば悪いのは人間でしかない、と私はおもったが」
あのあと、フォシテスがかの当事者たる二人を保護し、そして内情は聞きだしている。
その報告はきちんとクラトスにあがり、クラトスからユアンへも伝わっている。
ミトスに話すべきかどうか、で二人の意見をいいあったが、
あの当時のクラトスは言う必要はない、と一言のもとに切り捨てた。
無気力になっていたクラトスは、そこまでヒトのために動くことを望んではいなかった。
「ではそこから説明をする必要がありそうだな。
六年前。ハイマにとある孤児院があった。
そして、そこの孤児院は、表向きはたしかに孤児院ではあったが、
裏ではディザイアン達に子供達を提供していた」
『!?』
その言葉にロイドとジーニアス、そしてマルタが息をのむ。
「あるとき、冒険者がハイマにて殺され、金目のものが盗まれる事件が発生した。
そして、その犯人は、その当時、孤児院にいた一人の子供の仕業、とされた」
「子供が……」
ユアンの言葉にジーニアスが顔をふせる。
「しかし、それは濡れ衣以外でも何ものでもなく。
当時の孤児院の院長とその息子達がやったこと。
それを何のみよりもない子供に罪をなすりつけようと愚かな人間がしでかした。
そのとき、その孤児院に新たに引き取られたばかりのハーフエルフの少女。
かの少女が魔物を操り、孤児院を襲わせた」
『え?』
その言葉に一斉になぜかその視線がエミルにむけられる。
魔物を操る、という言葉でふとおもいうかんだのはエミルのこれまでの行動。
エミルならたやすくできてしまう、という確信があってこその皆の一致した行動といえる。
「普通、魔物が人のいうことなどきくはずがない。
魔科学でつくられしとある装置…
エクスフィアを利用した装置『ヒュプノス』を使い狂わせでもするか、
もしくは魔物の正気を奪うか、しない限りは、な」
ユアンの言葉に、いや、エミルはどうみても
――素で魔物にいうことを聞かせられている(んだが)(ぞ)(よね)。
各自、そんな思いがロイド達の脳裏によぎる。
「当時、疑われた子供はやっていない、と弁解したが。
当然、身よりもないうすぎたい人間の子の話しなど誰もきくはずもなく。
その子供は冒険者たちや街のものたちの手によって公開処刑という名の、
リンチをうけて今にも殺されそうになっていたという。
そのとき、その少女の耳に声がしたらしいのだ。力をもとめるか。と。
少女はその声に耳をかたむけた。…それは魔族からの誘いの声。
少女は結果として魔族と契約を結び、
そしてその魔族は、少女の願い…力なきものが殺されそうになっているその状況。
それを打破するために、魔物達をくるわせ、そして孤児院を襲撃させた。
少女が意図したわけではない。それは魔族がやったこと。
結果として、孤児院は壊滅し、少女がハーフエルフだとばれ、
その結果、少女が魔物を襲ったんだ、という結論に達した人々は、少女を街から追放した」
「…その、少女の、名、は?」
「――アリス。アリス・キャロル」
母方の姓は彼らに伝える必要はないであろう。
神子達によもやマナの血族の遠縁たる血縁だ、としらせる必要もユアンは感じない。
「かの少女と契約した魔族はこういったらしい。魔王の禁書をみつけだせ、とな。
その魔王の禁書とは、かつて我らが、ミトス、そしてクラトスとともに、
とある書物に封じたことを指しているはず。
今はヘイムダールにて厳重に保管されているそれが、
ここしばらく、その本が活性化している、という報告をうけている」
リフィルの質問に答えたのち、盛大にため息をつきながら説明してくるユアン。
それぞれ机をはさみ、向かい合う形ですわっているがゆえ、
ユアンのそんなちょっとした表情の変化もよくみてとれる。
かつての時間軸においては、その契約した魔族の骨。
本来ならば完全に消えてしまうであろうに、
骨、という形でかの地にのこり、周囲に影響をおよぼしていたかの魔物。
あのとき、オーブだけではなかったのか、とは思いはしたが。
デクスにより、その骨は破壊され、ハイマの地は平常にもどった。
それはラタトスクが自らをコアとして扉に封じられよう。
そうおもっていた直前のこと。
あのときのラタトスク、否エミルは、自分がそのようなことをすればどうなるか。
その先のことをおもってもいなかった。
ただ、ロイド達がコアにして封じれば問題がない、といっていたがゆえ、
それを実行しよう、としていたにすぎない。
…まあ、記憶を完全に取り戻したあと思えば、それは逆に世界をみはなすことであり、
そうしていたとしても、結果としてラタトスクが命じた魔物に人を駆逐しろ。
という命令が取り消されるわけでなく。
ついでにいえば、マーテルにはマナがうみだせもしなければ、調停すらできなかった。
百年もみたないうちに完全に地表全ては海にとかえりゆいてしまっていたであろう。
それでも世界だけは根が存続している以上、
そして扉を封じている以上、地上が魔界ニブルヘイムにもどりゆくことはなかったであろうが。
「かの書物にはかつて四千年前に地上にあらわれた、
リビングアーマー、そしてヘルナイトが封じられている。
八百年前にその封印がシルヴァラントの王家がおこなった実験の結果弱まり、
プロネーマ、フォシテス、マグニス達三人に封印強化の任をユグドラシルが与えたが」
「フォシテス…だって!?」
その言葉にロイドが過剰に反応する。
イセリアに攻め込んできたディザイアン達の…イセリア牧場の支配者。
たしかそう彼は名乗っていた。
「あれ?でもそれって、五聖刃ってなのってる奴らだよね?三人しかいないの?」
ふと気になったのかジーニアスがそんなことをいってくるが。
「当時、八百年前はまだ彼ら三人しかいなかったのだ。
残りの二人はまだクルシスに所属してまもなかったから、
そのような大任をまかせることはなかった。三人のうちから長を決定する。
ユグドラシルはそのように彼らにつたえたようではあるがな」
そして、プロネーマが選ばれた。
「まあ、そんなことはいい。問題なのは。その封印がまた緩んでいる。ということだ。
テセアラにしろシルヴァラントにしろ魔族達の動きが活性化している。
そのような報告を様々なところにはいりこませている部下達からの報告もある」
「…たしかに。私たちもその魔族、というものにはあっているから。
嘘ではない、ようね」
メルトキオの地下水道で、そしてロディルのもとで。
リフィル達は魔族、となのったものと邂逅を果たしている。
ユアンの説明にリフィルが考え込むように、
そして自分に納得させるかのようにつぶやいているが。
「やつらはヒトの心の奥底にある闇につけこんでくる。
そうなれば、互いの世界にて戦争がおこりかねん。
テセアラのほうはいうまでもなく、種族同士の争いになるだろう。
もっとも、なぜか互いの世界でマナが安定している以上、
そう簡単に魔族どもも活動できる、とはおもえないが」
彼らが行動するにあたり、どうしても彼らの身にマナは毒となる。
ゆえに力なきものは、弱体化し、また存続することもできはしない。
「おそらく、テセアラの教皇もそんな心の隙をつかれたのだろう。
どうやら奴もまた、無自覚ながら操られているようではあるしな。
だからこそ、神子を狙い、そして権力を欲した」
おそらくは、妻が殺されたのがきっかけとなったのであろう。
そうユアンは踏んでいる。
「…ずいぶんと詳しい、のだな」
そんなユアンに警戒するようにリーガルがといかけるが。
「これでも私はテセアラの管制官、つまりテセアラを管理する立場なものでね」
ゆえに、一応テセアラの内情は把握している。
特にユアンはレネゲード、という手足がある。
彼らからクルシスからは入らない情報も手にいれている。
「…こいつは、十四年前から地上にはおりていなかったから、
シルヴァラントで詳しくどのようなことがおこっているのかは把握していたかどうか。
それはあやしいが、な」
「…お前がもってくる情報や部下達の情報は常に執務室でこなしていたから
一応は理解しているつもりだが?」
ちらり、とユアンがクラトスをみていえば、クラトスが心外だとばかりにいってくる。
しかし、リフィルがきになったのはそこではない。
「十四年?」
だとすれば、それより前は地上にクラトスはでむいていたのだろうか。
ふとリフィルの脳裏にうかびしは、ダイクからきかされた言葉。
ロイドが拾われた、という時期とぴたりと一致しているのは、これは偶然か。
「一度はクルシスを出奔したくせに、もどってきたこいつは無気力で…
まあ、それをいっても仕方がない、か」
イセリアにむかっていたクラトスの家族。
しかし、それより前にクヴァルにみつかってしまい、
結果としてアンナは死に、そしてロイドと生き別れた。
ロイドもアンナが喰い殺してしまった、と思いんでしまったクラトスは、失意のままにとクルシスにもどった。
その無気力ぶりは狂い始めていたミトスですら心配するほど。
それ以上説明すれば、クラトスがロイドの父親だ、と説明することになってしまう。
今は時期ではない。
今はまだ。
ゆえに。
「そんなことはどうでもいい。
問題なのは、その書物から魔界の力があふれてきている。ということだ。
ケイトがいうには、教皇はかの書物を手にいれるため。
ヘイムダールに王家の使い、といつわって間者をはいりこませているという。
このままでは、ヘイムダールから禁書がうばわれかねない。
そうなれば、かの地のマナでどうにか封じられている影響が、
テセアラ中に広まってしまいかねない。私はそれを防ぎたい」
「しかし。ユアン。封魔の石がなく、またアレがあったとしても。
完成していないものを使用したとしても、完全に魔王達を浄化させることは」
「封魔の石は部下達に全力で探させている。
クルシスにおいても。な。保管してあった場所からなくなっているのだ。
だとすれば、クルシス内部に他にも裏切りものがいるのやもしれん。
魔族につうじている何ものかが、な」
可能性として、ロディルの息がかかったものではないか。
そうユアンはふんでいる。
もっとも、事実はそうではなく、テネブラエたちがさくっと回収しているだけなのだが。
「もしもそうだとすれば。
自我をほぼ封じられている彼らは、完全に魔族のいい餌食となってしまうだろう。
傀儡にするに自我がない、というのはこれほどいい手駒はないからな」
実際、かつての魔族達は天使達をそのように扱っていた。
そしてユアンはそのことをしっかりと覚えている。
完全に浄化させることができなかったがゆえに、書物、という形をとり封じ、
そこには全ての精霊達の力を総動員しはしたが。
そして、それぞれがもたされていたデリス・エンブレム。
さらにその表紙には彼らが表にでてこないように、穢されていない精霊石を配置した。
光属性の微精霊達の卵だ、というそれは、魔族にとっては天敵といえるもの。
あの当時、互いの勢力が主力としていた生体兵器であるかれらが、魔族の手におち、
そして魔族達は勢力の上層部のものたちをも傀儡にしていっていた。
どんどん広がっていく魔族の被害をくいとめるために、
彼らを統治していたものをどうにかする必要があった。
しかし、当時の彼らでは完全に倒すことができず、結果として封印、という形をとった。
封魔の石にマナをみたせば、彼らを消し去ることができる。
そうオリジンとマクスウェル、さらにはセンチュリオン達からきかされたがゆえ。
そして、時がみちるまで、封魔の石をユミルの森の水につけ、
書物も厳重に保管するようにエルフに頼みこんだ。
当時のエルフ達はミトスがオリジンと契約したことにより、
それまでの態度を完全に翻していたがゆえ。
ユアンととしてエルフ達に管理させるのは気が進まなかったが、
エルフの里にまでそのマナの濃さはあり魔族ははいりこむことができなかった。
それにその背後にありしトレントの森はオリジンの聖域。
ならばよほどのことがないかぎりは大丈夫だろう、という判断を下した。
「その、封魔の石、というのはいったい…」
「周囲のマナを取り込み、そしてマナに変換、燃焼させる力をもっている。
かつて、精霊ラタトスクより授かりしかの品は、
ユミルの森の水につけてあったのだが……」
八百年ほどまえに、それはデリス・カーラーンにと移動された。
かの地も安全ではない、と判断したミトスの手によって。
「また、ラタトスクかよ」
これまでにも幾度もでてきた精霊の名。
ゆえにロイドが思わずつぶやく。
彼らがどうしても自分達でどうにかする。
といったので、あのときラタトスクはそれを託した。
他のものにこれを知らせることなかれ、と。
封魔の石は当時、精霊炉などというものを研究していた人々にとって、
ノドから手がでるほどにほしい品であったことを理解していたがゆえのラタトスクの台詞。
「その肝心な石が失われてしまっている、というのね」
リフィルとしてはため息をつかざるをえない。
クルシスも一枚岩ではない、とわかっていたが。
どうやら他にも裏切り者が今の説明からするにいるらしい。
「今のテセアラで、すぐに影響をうけるのは、まちがいなく虐げられているハーフエルフ達だろう。
彼らはあまりにもヒトに迫害をうけすぎている。
そんな彼らが魔族の声に耳をかたむければ…まちがいなく、テセアラ中は戦火につつまれる。
それこそ、人対、ハーフエルフ、という戦争が、な」
おそらくハーフエルフ達は嬉々として参加するだろう。
特に実験に使用されたり、国に捕らえられていたものたちなどは。
そしておそらくは、今のテセアラの現状をこころよくおもっていないミトス。
彼もしばらくおよがせておけば?といいそうな気がする。
それはもうはてしなく。
何しろ精霊の楔が解放されることすら、ほうっておけばいい。
といいきっているというミトスなのである。
おそらく間違いなくそのように指示をするであろう。
それこそテセアラという国が疲弊してしまうまでは手だしするとはおもえない。
よくて国そのものが王家が死滅するまでほうっておく可能性すらある。
そこまでいい、深くため息をつき、
「まだ間に合う。かの影響はヘイムダールでも一部のものにしか現れていない。
今のうちに、禁書をどうにかすることで、その最悪な状況は防がれる」
戦争がおこるかもしれない。
そうきかされ、ロイドとしても驚かずにはいられない。
「ロイド。何とかしてあげようよ」
「そう、だな。…ほうっておけばそんなことになるっていうんなら。
ほうってはけおけないな」
コレットがじっとロイドをみつめつつも懇願するようにといってくるが。
そしてそんなコレットの台詞にロイドもうなづかざるを得ない。
戦争、といわれてもピン、とロイドにはこないが。
しかしよくないものだというのは何となくわかる。
ロイドは戦争がもたらす悲惨さを知らない。
それを身にしみているのは、この場においてはクラトス、ユアン。
そしてずっとそんなヒトの営みをみつづけていたラタトスクやセンチュリオン達のみ。
「ヘイムダール…か」
結局、ヘイムダールに一度いってみよう。
というので話しはまとまった。
どちらにしても、コレットの病気を治すためにヘイムダールにあるマナリーフ。
それが必要となる以上、避けてはとおれない道。
ひとまずリーガルの口利きで各自部屋をとり、そして今現在あつまっているのはホテルのロビー。
この一件が解決するまでは、何でもユアンとクラトス。
彼らもまた同行してくる、ということらしいが。
「それはそうと、リリーナ。ミトスは?」
タバサとリリーナはいるのに、ミトスがいない。
リーガルが確認したところ確かにかれらはここにとまっているらしく、
連絡をとったのだが、この場にミトスだけがみあたらない。
「散歩にでてくる、といってまだもどってきてません」
「……そう」
つまるところ、リフィル達がユグドラシルと話していたとき、
ミトスは彼女達とともにいなかった、ということ。
だとすれば、やっぱりあのミトスはユグドラシルなの?
簡単に姿形がかえられる、というのが信じがたいが。
そしてその言葉をきき、ジーニアスはぎゅっと手をつよくにぎりしめ、
その場においてうつむいていたりする。
彼女達と一緒にいたんだから、想像は杞憂であった。
そうあってほしかった。
けど、ミトスは彼女達とともにいなかった。
それはジーニアスを打ちのめすには十分すぎる事実。
「時間がおしいわ。ミトスのこともあるし。
リリーナ、タバサ。ミトスをここでまっていてくれるかしら?
用事がすんだら私たちはまたここにくるから、と伝えてくれる?」
ミトスをこの広いアルタミラで探すだすというか、この地にいるかどうかもあやしい。
ならば、おそらくは勝手にいなくなったりはしないであろう。
この場に連絡のものを残し、移動してしまったほうがはるかに速い。
先ほどのユアンの台詞を聞く限り、どうやら一刻の猶予もならないようなのだから。
ここ、アルタミラから、サイバックに向かう定時高速艇があるらしいが。
それよりもレアバードで飛んだほうがはるかに速い。
ユアンもどうやらレアバードをもってきていたらしく、
そのままレアバードに乗り込み、一行はエルフの里がある、というユミルの森へと移動する。
ひとまず休憩をしたほうがいいのでは、という意見もあったが事は一刻を争う。
それに、ケイトがいっていた、というならば、そこに教皇がいる可能性も否めない。
それに何よりいろいろなことが一気におこりすぎ、
できれば何か目的があり体を動かしていたほうが気がまぎれる、というもの。
マナリーフがあるというエルフの里。
そこにいくためにはユミルの森、という場所をぬけてすすまなければならないらしい。
水面に張り巡らされている木の橋が、唯一の通行手段でもあるこの森は、
少し移動するたびに固定されていない橋がゆらゆらとゆれてしまう。
「それにしても…これは、一体……」
本来ならば見張りにたっているであろう兵士。
それらがその場に倒れているのがみてとれる。
森の中につづくであろうその出入り口。
その横にぐったりとたおれている警備兵らしきもの。
「…死んでいるわ」
リフィルがかがみこみ、彼らの手をそっととりその脈をたしかめるが、
彼らの体はすでにつめたく、脈もうってない。
「そんな…一体誰が……」
「セレス。みるんじゃねえぞ」
マルタが声をふるわせていい、ゼロスがぎゆっと、
セレスにその光景をみせないように、その顔を自らの胸におしつけ、
死んでいる彼らをみせないようにとしているのがみてとれるが。
本来ならば、この警備兵達がこの入口を守っているのであろう。
そして、許可証をもたないものは追い返す。
しかしこの様子だと、許可証がないままに森の中にたちいることができるらしい。
「ここに、禁書がある、と知っているもの。…可能性として」
「…くそ。また教皇かっ!」
険しい表情でつぶやくリーガルの言葉にはっとしたようにロイドが叫ぶ。
というかそれ以外は考えられない。
「あのやろう。追い詰められた、としってなりふり構わなくなってやがるな」
「うむ。姫を誘拐したことといい。たしかに、何をしでかすかわからなくなっているな」
ゼロスの言葉にリーガルも同意せざるを得ない。
そっとリフィルが立ち上がりつつも、かるく死んでいる兵達にと祈りをささげる。
そして、じっと森の奥をみつめつつ、
「間違いないわ。この先にヘイムダールがある。まだ覚えてみたい。
……ついにここまで来たのね。ヘイムダール…
私が生まれ育った純粋なエルフのみが暮らす集落」
ぽつり、と森の奥をみつめつつもつぶやいているリフィル。
「先生?どうかしたんですか?」
「本当だ。先生。なんか怖い顔して。どうしたんだよ?」
ふとリフィルの表情が険しいことにきづき、コレットとロイドが、
そんなリフィルにと問いかけるが。
「先生。この人達、埋葬してあげたいんですけど、ダメでしょうか?」
「いや。それはやめておいたほうがいいだろう。
できれば王国に繋ぎをとりこのようになっていることをつたえなければ。
彼らの死体を国が検分する必要もあるからな」
コレットの懇願するような台詞をリーガルがぴしゃり、と否定する。
勝手に埋葬しては、彼らがどうして死んだのか。
その原因がつかめない。
エルフ達に殺されたのか、それとも他が原因か。
そういった死体を検死する機関も一応国には存在している。
「…そうね。できれば伝書鳩か何かいればいいんだけど……」
リフィルがため息をつきつつ何やらいってくるが。
「なら、ここにいる子達にたのみましょうか?
リフィルさんか誰かが一筆したためてくれれば、送ってもらいますけど」
さすがに王都そのものに魔物達に運ばすわけにはいかないであろう。
そんなエミルの台詞に思わず顔をみあわせ、
「すまぬ。エミル、たのめるか?さすがにこのまま、というわけにはいかないからな」
このままでは、無関係なものでも簡単にこの中にはいれてしまう。
それゆえにリーガルが申し出る。
「かまいませんよ」
いいつつも、エミルがかるく口笛を鳴らすとともに、
バサバサ、とした音がしたかとおもうと、
この森に生息しているのであろう様々な鳥達が一気にとあつまってくる。
もっとも、鳥達だけではなく獣やどうみても魔物達。
それらも一気にあつまっててきてまい、そのあまりの多さにおもわずマルタは一歩退いてしまう。
そのうちの一羽にエミルが視線をむけるとともに、その鳥は静かにエミルの目の前にとおりたってくる。
エミルが視線をむけたのは、鳥の中のうちの一羽。
「…鷹?」
その特徴はどこからどうみても鷹。
どうやらこのユミルの森には鷹が生息しているらしい。
その姿をみてぽつり、とつぶやいているジーニアス。
「他のもの達は戻れ」
そんな彼らの姿をみてエミルがかるくため息とともにそういえば、
そのままものすごく名残惜しそうに、
各自なぜかおもいっきり頭をさげるような行動をしたのち、
再び森の奥などにと分散してゆく魔物や鳥たち。
「この子なら、よくヒトもタカ狩りかで使用するから、連絡には問題ないかと」
「それはそう、だが」
しかし、野生の鷹がこうも簡単にいうことをきくのだろうか。
いや、エミルだからか、ともおもう。
かなり突っ込みどころは多々とあるが。
「では、陛下にむけて手紙をしたためる。
お前達は先にいっておいてくれ。すぐにおいつく」
「じゃあ、僕はリーガルさんが手紙をかくまでここにのこってますから。
皆は先にいっといてください」
いいつつも、リーガルは荷物の中から筆記用具をとりだし、
紙をとりだしつつも、さらさらと何やらしたためはじめる。
「そうね。記憶が確かならば、この道はかなり仕掛けを解除する必要があったはずだもの。
まずはその仕掛けを解除しにいきましょう」
リフィルの記憶がたしかならば、これらの橋はいくつか仕掛けがしてあり、
そう簡単にだれもかれもが奥にいけない仕掛けになっていたはず。
「この先がエルフの里…僕が産まれた場所……」
ジーニアスが産まれてすぐに里を追われたゆえにジーニアスが覚えているはずもない。
しかし、改めていわれれば、ジーニアスとしても感慨深いものがある。
たとえそれが産まれたばかりですぐに里をおわれていた、としても。
産まれ故郷であることは間違いようのない事実。
「よし。とにかくいこうぜ。リーガル達もすぐにおいついてくれよ」
いいつつも、リーガルとエミルをその場にのこし、そのまま水面の上にかけられている木の橋。
それを進んでゆくロイド達。
そのまままっすぐに進んださき。
ちょっとした大きな樹のしたに、何やら見慣れた力の場、らしきものが。
「あれは、力の場、じゃない?ロイド」
「本当だ。じゃあ、さっそく」
これまでの経験からして、仕掛けを解除するのに必要な属性に変化がされるはず。
ゆえに、ロイドが指につけているソーサラーリングをそれにかざすとともに、
ソーサラーリングが淡くかがやく。
「よっし。じゃあ、さっそく。ていっ」
今度はどんな属性に変化したのか確認しようとし、ロイドがソーサラーリングをかざすが。
ヒュッン。
何やら風をきるような、そんな細いような甲高い音がソーサラーリングからふともれる。
「お。今回は音がでた」
「?」
「何にもおきない、ね」
音がでただけで、何の変化もみられない。
ゆえに、ジーニアスが首をかしげ、コレットもまた首をかしげざるをえない。
「だな。これってどうやって使うんだろ?」
ひたすらに首をかしげるロイドに対し、
「たしか、特定の場所でなければ効果はないはず、よ」
リフィルが過去の記憶を思い出すかのようにいってくる。
しかし、それをどこで使用するのか、といったことがなかなか思い出せない。
たしか…
「花、に関係していた、とおもうのだけど……」
「花、ねぇ」
「こっちにピンクの花がさいてるけど、これ、かなぁ?」
「こっちは、きりかぶの上にピンクの花がさいてるけど」
ふとみれば、力の場の左右。
樹をはさんでたしかに、右手のきりかぶに桃色の花が、
そして左手にも同じような桃色の花がみてとれる。
「もしかして」
いいつつも、ロイドが近くにあったきりかぶにひょいっと飛び上がり、
そこにて、ソーサラーリングを発動する。
と。
シュタタ…ドオオンっ
『・・・・・・・・・』
なぜか、おそらくは木の橋の上を歩いていたであろうイノシシが、
まるで音につられたのかのようにいっきにロイド達のほうに突進し、
あわててさける一行にめもくれず、そのままおもいっきり目の前の木とぶつかり、
そのままひっくりかえり、ぴくぴくと痙攣しているのがみてとれる。
どうやらこれはイノシシの子供、らしく。
その先にいるうりぼうの母親、であろうものが、
じっと今にも彼らにとびからんばかりに臨戦態勢をとっいるのがみてとれる。
「どうしたの?…ああ。あれつかっちゃったんだ。
あの音は君たちの方向感覚をうしなわしちゃうからね」
どうやら、手紙をしたため、無事に送ったらしく、入口のほうからエミルとリーガル。
二人が近づいてくるのがみてとれる。
エミルはふと、たちどまり、そこにて臨戦態勢をとっているイノシシをみつつ、
その頭をゆっくりとなでたのち、…どうみてもそのイノシシはエミルにあまえるように、
その頭をすりすりとエミルの体にすりつけてきているが。
ちなみにこのイノシシ、イノシシのようにみえて実は魔物の一種。
ぱっと見目た普通のイノシシとかわりがないのであまり認識はされていないにしろ。
そのままエミルがひっくりかえっているウリボウにちかづき、
そのままひょいと抱き上げる。
それとともに気絶から気がついた、のであろう。
きゅ~きゅ~、と何ともかわいらしい声をあげつつ、
エミルの腕の中でじたばたとしている様が何ともあいらしい。
ちなみに、暴れているのではなくあきらかにはしゃいでいるというのは一目瞭然。
ボアの子、ボア・チャイルドはどうやら抱きかかえられたことにとても喜んでいるらしい。
「ほら、きちんとお母さんとはぐれないようにね」
いいな~というような視線が、他の子供達からその子供にとむけられる。
エミルの手から解き放たれ、ちょこちょこと母親のもとにちかよっていったウリボウは、
他にもいた三匹のウリボウ達にかこまれ、何やらちょっとした自慢そうな表情をうかべているが。
その表情に気付いたのはこの場においてはエミルのみ。
それゆえに思わず苦笑せざるをえない。
なぜか期待するように、じっと子供達がエミルをみつみてくる視線に耐えかねた、のであろう。
「仕方ないな。今回だけだぞ?」
いいつつも、ひょいひょいっとそれぞれに子供達をだきあげる。
その傍らでは母親であるボアがものすごく恐縮したように小さくなっているのがみてとれるが。
先ほどの子供達とおなじように小さな手足をばたつかせ、
その小さな体全身で喜びを表現している子供達。
やがて全ての子供達を抱き上げてはおろしおえ、
「さあ、もういけ」
その言葉とともに、母親がものすごくそれこそ橋に頭をこすりつけるようにして、
頭をうなだれたのち、子供達をひきつれて、橋をつたいつつ、森の奥にときえてゆく。
「うわ~。今のイノシシの子供、かわいかったねぇ」
「というか、今のウリボウ、抱きあげられて喜んでなかったか?何となく」
コレットがにこやかに、自分もだきたかった。
という不満をあからさまに浮かべつつそんなことをいってきて、
ロイドはロイドで奥にむかっていったイノシシ親子の姿をみつめつつ、
首をかしげながらそんなことをいってくる。
「そんなことより。その今のソーサラーリングの機能ですよ」
どうやらこのままでは話しがすすまない。
ゆえにアステルが救いの手、とばかりに何やらいってくる。
このままでは絶対に話題がイノシシ一色になってしまい、
ソーサラーリングのことが忘れ去られてしまう。
それゆえのアステルの台詞。
「う~ん。イノシシの子供がやってきたってことは。動物を呼寄せる機能、なのかなぁ?」
「…って、こっちでつかっても何の変化もないってことは。
きりかぶの上でつかったら効果があるってことなのか?」
ロイドが横にはえている別の花の前で再びリングをつかうが、
今度は何もむかってくる気配は感じられない。
「おそらく。きりかぶ、というよりは、この花に反応しているのよ。
そっちの花のほうは何かがおそらく足りない、んだわ」
花に反応しているとすれば、きりかぶの上にはえているのと、普通に地面からはえているもの。
その違いで反応が違うというようなことはまずありえないであろう。
「…へんな機能だな。まあ、いいか」
ロイドはどうやらそれですます、らしい。
エミルとしてはあの音をあの花の前で使用された場合、
動物達の方向感覚を狂わせてしまうがゆえに多様してほしくないのが本音。
まあ、何かの衝撃が必要ならば、そのあたりのものに命じればことたりる。
なるべくあれは使用させないようにしていくか。
そう心の中で決意しつつ、
「とりあえず、先にすすみません?」
いいつつも、リフィル達をみやるエミル。
一方で、
「だな。でも、動物を呼ぶなんておもしれ~!
これって、音で動物をあやつってるのかな?」
「たぶん。姉さんの予測が正しければ、花が咲いている場所でないとだめなんだろうけどね」
エミルに同意しつつも、何か面白そうにそんなことをいっているロイド。
そしてそんなロイドに答えるかのように、あきれたように苦笑しながらも
ジーニアスが一応説明、とばかりにそんなことをいってくる。
「そっか。お花さんがきっと好きなんだね」
コレットがそんなジーニアスの台詞に反応してにこやかにいい、
「そうか。うちの親父も花が好きだけどなぁ」
「…それは、さすがに関係ないとおもうけど」
「そうかな?」
「無駄口をたたいていないで。急ぐわよ。
入口にいた兵達のことを考えたら、里も危険になっている可能性が高いわ」
そんな会話をしている子供達の会話をぴしゃり、とうちきり、リフィルが腕をくみつついってくる。
「我らは移動するとき、いつも飛んでいっていたから、この道にはくわしくないからな」
クラトスがぽつり、とつぶやく。
「だな」
そしてまた、ユアンも同じであるらしく、そんなことをいってくる。
「さすがに、この森の中を皆をのせて移動できるような子はいませんし。
ストームクロウ達に負担をかけたくないですし」
この付近に生息している鳥の魔物の一種。
まあ、いえば嬉々としてどんなことをしてでもその命令を実行しようとするであろうが。
「そういえば、木の上に綺麗な鳥さんがいるね」
それはくちばしが異様におおきなカラフルなる鳥。
「あの子達はトードーっていう魔物の種類だよ」
「そうなんだ~」
コレットが上をみつつそういえば、エミルがそんなコレットにと説明をしていたりする。
その台詞に思わず顔をみあわせているクラトスとユアン。
「とりあえず、案内係りで、他の子にでもいいますね。あ、ちょうどいいか」
ふと、ブブブブブ、という音とともに、
横のほうをとんでいる見た目はスズメバチのような姿をしている魔物の一種、
キラービー達の群れがふとエミルの視界にとはいってくる。
そのままそちらに視線をむけ、
「奥までの案内を」
ピタリ。
エミルがそういうとともに、飛んでいたそれらは一斉に空中にてホバリングをし、
まるで先導するかのごとくに、エミル達の前にずらり、と並んで飛んでくる。
「この子達が奥まで案内してくれるみたいですよ」
「だから、まちなさい」
「かなりまて」
「…うわ~。エミル、ハチさんに頼んだんだ。かわったこだねぇ」
「この子はキラーピー。あ、でも触れたりしないでね?
この子達の体には毒があるから」
ちなみにその針でさされれば猛毒状態となるのだが。
そんな魔物達はエミルの傍にまでちかより、何やらブブブ、という音と、
カチカチ、といったような音らしきものを出している。
「え?種?ああ。あれらのか。なら、ついでにそれらをとってきて、特定の場所に」
かつてあったはずのそれらが今はなくなり、新たに種をうえることをしなければ、
道がどうやら続くようにはなっていない、とのことらしいが。
そしてまた。
「…しかし、やってくれた、な」
どうやって侵入者達が先にはいったのか、といえば。
トレント達をひたすらに狩りつくし、それらの体を水にうかすようにして足場にして移動した、とのこと。
それらをキラーピー達より報告をうけて、おもわずエミルは顔をしかめざるを得ない。
トレント達の死体はすでに水の底に沈みて大樹の根に触れ、マナに還り、
新たなトレント、として再生しているようではあるが。
エミルの言葉をうけ、十匹近くいたキラーピー達は、一匹をのこし、
そのまま一斉にその場を飛び立ってゆく。
残ったのは群れの中でもひたすらに大きな、クイーン・キラーピー、一体のみ。
「それにしても……」
リーガルが周囲を見渡す。
ユミルの森は全体が湖にできた森といっても過言でなく、
ところどころに浮き島があり、それらに木々が根をはっている。
そして済みきった水面の底には木々の根らしきものがみてとれるが、
その中に大樹の根が混じっていることはあまり知られてはいない。
この地は大樹の根があるからこそ、
世界が別れ、すなどけいのような世界になったときですら、
この原型を保ったまま今にまで至っている。
太陽の光が木漏れ日、として湖面にととどき、きらきらときらめき、
そして周囲にみちるは、水場独特のコケのような匂いと、それと新緑の匂い。
ところどころ鳥達の鳴き声がきこえてきて、
いたるところに真っ白な蝶がとびかっているのがみてとれる。
蝶達はこの場に【王】が出向いたのを喜ぶかのごとく、
いつもよりより多く舞っていたりするのだが。
「ここは、相変わらず綺麗なところ、だな」
俗世のしがらみを忘れてしまうほどに、ここは自然にあふれている。
湖面にうつりしは、木漏れ日の太陽の光、
もしくは木々の影をその湖面上にとおとしているそれは、
何とも幻想的といっても過言でない光景。
そして済みきった湖面の中には大小様々の魚が泳いでおり、
その魚に交じり、水属性の魔物達の姿もみてとれる。
ときおり、パシャン、と音がしては、水陸兼用の動物、そして魔物達が、
岸や渡されている木、そして湖と行き来している証拠。
通行手段は縦横に張り巡らされている木々の橋しかなく、
進んでゆくに従い、それらは簡易的なものになり、
歩くたびにぱしゃん、と足元の木々が揺れる。
「本当、ですね」
リーガルの呟きに思わずプレセアも立ち止まりつぶやいてしまう。
それほどまでにここは、まるで俗世から切り離されたような。
そんな空間に感じてしまう。
こころなしか他の場所にくらべ、気分がよりよく感じるのはプレセアの気のせいか。
「ここは、他とはくらべ、ものすごくマナが澄み切ってるんだね」
ジーニアスがほう、と感心したかのような、感嘆した声をもらす。
ここのマナはとても澄みきっている。
雑念が一切はいっていないがゆえにそれは当たり前といえば当たり前なれど。
「これほど美しい光景。それは見るものの心を動かす。
それがこのような自然でも、歌でも、心でも……」
リーガルがすっと目をとじ、大きく息をすいこむ。
息を吸い込むたびに、何か体の中にたまっているよくないもの。
そんなものがあるかどうかもわからないが、
まるでそれらが洗い流されてゆくような、そんな不思議な感覚。
そんなリーガルの呟きをうけ、
「ふぅん。リーガル。詩人だねぇ」
しいなが思わず感心したようにつぶやきつつも、
「たしかに。ここの自然が綺麗なのは認めるさ。
何でもここを手につけようとすれば、魔物の被害にあって、ずっと手つかず、らしいよ?」
まあ、たしかに。
ここを荒らすようなものがいれば問答無用で駆逐、もしくは排除しろ、と命令を下している。
トレント達が意味もなく侵入者達に駆られてしまったのは、
どうやら新たにつくられてしまっている魔科学による兵器の一つ。
魔銃がどうやら使用されたらしい。
穢されたエクスフィアを細かくくだき、弾丸にしたそれは、
微精霊達の穢れともあいまって、魔物達には致命的。
それもまた、リーガルの知らないところでこっそりと、
レザレノ社の技術をつかい、つくられているものらしい。
まだ量産されていないだけましといえばましなのかもしれないが。
どうやら、教皇の資金援助でそれらは開発されていたらしく、
ゆえに教皇にはそれらの試作品。
それが手にわたっていたらしい。
それを使用し、どうやら彼らはこの地に侵入、というとてつもないことをしているようだが。
「…私は…私の心は動いたのでしょうか……」
プレセアが、周囲をみつつぽつり、とつぶやく。
「プレセア……」
そんなプレセアにジーニアスは何と声をかけていいのかわからない。
それは自分が感じること。
「私は、自分の意志で考えているのでしょうか?
今、私がいった言葉は、本当に私が思った言葉なのでしょうか?」
プレセアは自分の心がわからない。
本当にそうおもったのか、それとも、リーガル達がそういったから、なのか。
そんなプレセアに対し、
「考えるということ。それ自体は本人にしかわからぬ。プレセア、お前は……」
リーガルがそんなプレセアに何かをいいかけるよりも早く、
「ん~?たしかに綺麗とおもうけどさ。でも、これ水だろ?試しにのんでみるか」
いって、止めるまもなく、その場にかがみこみ、
その手で水をすくい、そのまま一口のみほすロイド。
「もう。ロイド、いきなり自然の水をのんだりしたら、
お腹をこわしたらどうするんだよ!それにこれ湖の水だよ!
どんな雑菌がいるかもわからないんだよ!?」
そんなロイドに対し、ジーニアスがすばやく注意を促しているが。
「いえ。ユミルの森の水は、名水百選に選ばれているほどに有名ですし。
問題ないかと。ここの水は小瓶一つでかるく百ガルド以上はつけられてます」
「うそ!?…ならここの水、お宝の宝庫!?
これだけ水があったら、どれだけ小瓶につめられてお金かせげるんだろ?」
アステルの言葉にマルタが目をみひらき、まじまじと真面目な顔でそんなことをつぶやいている。
「お!これうめえ!皆ものんでみろよ!なんだか甘くて、それでいてまろやかで。
ああ、もう説明するより、のめ!」
いいつつも、ジーニアスの頭をぐいっとつかみ、
自分と同じようにかがみこませているロイド。
「…もう。煮沸消毒しなくて本当に大丈夫なの?」
ぶつぶついいつつ、ジーニアスがおそるおそる足元の水にと手をそえる。
「…あ。本当だ。…あれ?この味…マナの、味?でも、どこかで……」
この独特の甘みはどこかで味わった。
ジーニアスは気づかない。
それは日々、エミルが料理したとき、もしくはハーブティーに含まれていた味である。
ということに。
「っと。ってことで。プレセアちゃんものんでみろよ。
セレスものめのめ。ここの水は体にいいって評判だしな。
嘘か真かしらねえが、ここの水をのんで病気が回復したっていう話しがあるほどだしな」
いいつつも、腰にさげていた水筒をとりだし、
その中にあた水を近くの木の根元にすてたのち、あらたに湖の水をくみあげ、
コップをプレセアに差し出し、そして水筒そのものはセレスに差し出しているゼロス。
「…あ、おいしい、です」
ゼロスから手渡された水筒のコップを口につけ、思わず感想をつぶやくプレセア。
「だろ?なら、それでいいんじゃねえか?深くかんがえなくてもさ」
「…私の負け、だな。神子はよく女心というものをわかっていらっしゃる」
こういう心の動き、というものは自分が理解しようとしても深みにはまる。
ならば、素直に感じたことを信じてしまえばいい。
ゼロスがいいたいのはたったのそれだけ、ではあるが。
それがまさに心理、ともいえること。
それを自然な動作でなしとげてしまうゼロスにリーガル感心せざるを得ない。
この真面目さが常に保たれているならば、もっと神子の評価はあがるのだが。
どうしてもその思いが抜け切れないが。
社交場でのゼロスと、私的立場のゼロスでは、
あきらかに伝わってくる噂がまったく百八十度異なっているがゆえに、
どうしてもそう思わずにはいられない。
湖の中からいくつも木の枝が飛び出しており、そして湖から伸びている木々は、
その大きな根を湖の中にひろげるかのごとくに複雑に絡めあっている。
湖から飛び出している木々や、そして湖のいたるところに転々とある大地。
それらをつなぐようにして木の橋はかけられており、
もっとも、これらは橋、というよりはどちらかといえば渡し板というべきであろう。
少しでも気を抜けば湖に落ちてしまいそうな不安定な足場。
それを注意深く進んでゆくことしばし。
「ピンク色の花だけじゃなく、青い花とかもあるんだね」
時折みかける花をみては、コレットがそんなことをいってくる。
「ともかく、いくぞ。…仕掛けはなぜか解除されている、ようだしな」
よくよく目をこらしてみてみれば、魔物達がせわしなくうごきまわっているのがみてとれる。
まさか、とはおもうがどうやら魔物がこの地にある仕掛けを全て解除しているらしい。
クラトスが探るようにじっとエミルをみながらもそんなことをいってくる。
そうこうしているうちに、やがて湖の岸、なのであろう。
橋の行く手が完全に大地らしき場所がみてとれる。
「あれ?」
しかし、その橋の中央。
すなわち岸につづく唯一の道が、一人の少年によってふさがれている。
それに気づき、思わず声をあげているロイド。
そして、その少年に近づいていきつつ、
「こんにちわ。なあ、ちょっとそこを通してくれないかな?」
ロイドが目の前にいる少年に問いかけるが。
どうやらエルフの子供、であるらしい。
その瞳には多少の困惑と、そして恐怖が宿っている。
その一方で思わずエミルはその先にある方向をじっとみつめ思わず顔をしかめてしまう。
村がある方向から感じるこの感覚は。
まぎれもなく瘴気。
つまるところ、あれだけ対策を施すように、といっていたにもかかわらず、
エルフ達は対応を誤ったか、もしくは何もしなかったのか。
完全に書物から瘴気があふれ出し、村の中にただよっているっぽい。
それらの瘴気がユミルの森にまでたどりついていないのは、
魔物達がマナをつむぎ、ちょっとしたマナの檻のような役割をはたしており、
幸か不幸か瘴気の蔓延を完全に防いでいるようではあるが。
この辺りまで瘴気の気配はまったく漂ってきていないが、
あの独特の気配を、マナの乱れをラタトスクが感じないはずもない。
「ダメだ!」
エミルがそんなことを思っている最中、ロイドの言葉をうけた子供は、
なぜか焦ったような声をだす。
「へ?何でだ?」
「・・・・・・・・・」
しかしそんなロイドの質問に子供は無言のまま。
そもそも、村を襲ってきたのは人間。
そして目の前にいるのも人間。
しかも、そのうちの三人はハーフエルフの気配をもっている。
うち四人の気配は子供にはよくわからないが。
ヒトのマナでも、ハーフエルフでもないような気もしなくもないが、
すくなくとも、普通のヒトではない、というのはあきらか。
「どうして通してくれないんだい?」
「・・・・・・・・・・」
しいなの問いかけにも子供は無言のまま。
しかし、その視線は一行がもちし武器にそそがれており、
よくよくみれば、小さくカタカタと震えているのがみてとれる。
どうやらこの子供は子供なり、に村を守ろう、としているらしい。
それは小さな抵抗。
これ以上、侵略者がはいってこないための、小さな行動。
しかし、大人たちが完全に捕らえられてしまった今、
たまたま外にでていた自分がうごかなければ、
そんな使命感からこの子供はどうやら行動しているらしい。
「いったい、どうしたの?黙っていたらわからなくてよ?」
さすがのリフィルも子供のただならぬ様子にきづいたのか、
首をかしげつつも、子供に視線をあわせ問いかける。
「…お兄さんたち、気が短いんだけどな~」
ゼロスがいえば、子供はびくっと体を震わせる。
「だめだよ。ゼロス。そんなことをいったら。
この子。完全にこわがっちゃってるよ!」
コレットがそんなゼロスをたしなめるように思わず叫ぶ。
見る限り、子供は小さな体をがくがくとふるわせつつも、
必死で一行をこの先にすすませないようにとふんばっている。
そうとしかおもえない。
「どうしたの?何かなやんでるの?それとも何かあったの?」
「…お姉ちゃんたちは、あの襲撃者の仲間、じゃないの?
だって、武器もってるし……」
問いかけるコレットの台詞に声をふるわせつつも、それまで黙っていた子供が口をひらく。
「襲撃者、だと!?」
「ひっ」
「もう。リーガルさん。だまっててください」
リーガルが強い口調でいえば、子供はびくり、と体を震わせる。
「もしかして、入口でみた、兵を殺した奴らが……」
「間違いないだろうな」
背後では、アステルとリヒターがそんな会話を交わしているが。
「他のエルフ達はどうした?」
エミルの問いに。
なんでだろう。
このお兄ちゃんの問いかけには素直にこたえなければいけないような気がする。
それはエルフという種族であるがゆえ本能的に感じる直感。
ゆえに。
「…大人の皆は、僕らのような子供を人質にとられ、どこかにつれてかれちゃった。
僕はたまたま、ここにお母さんの病気をなおそうと、
ユミルの果実をもとめにやってきてたから…気が付いたら、
武装した人間達が村を襲ってて…お母さんも病気なのに、つれてかれて…っ」
そういう子供の瞳からはじんわりと涙が浮かんでおり、
「もう、もういいよ。…こわかったんだね。一人でがんばったんだね。
私たちがその仲間かとおもって、必死で被害をくいとめよう、としたんだね?」
そっとコレットが子供をだきしめると、びくり、としながらも、
そのままぎゅっとコレットの体を抱きしめ返すその子供。
「…これは、作戦を考えたほうがいいわね。
人質になっている子供達を救いだすのと。あとは襲撃しているものたちの排除」
リフィルが少し思案しつつ、そういえば。
「…村の入口には武装した人間の大人の男が見張ってる。
みんな、本当にあいつらの仲間じゃない、の?」
「どっちかといえば、俺達の予想通りだと、敵対してる相手、だな」
震える子供の声に、ゼロスがやれやれ、とばかり、
そして敵意はない、とばかりに両手をかるくあげてそう言い放つ。
「見張りがいるのであれば、奇襲をするしかなかろう。
我らが空から、回り込み、見張りを倒すか」
「でも、それだと人質の身が危険、よ」
クラトスがそういえば、リフィルが険しい顔でいってくる。
「あいつら、おかしいんだ。あいつらなんか見ているだけでこう悪寒がするし」
どうやら子供はこちらが敵ではない、と信じたらしい。
「でもさ。村にはいれないとなると、敵の状態もわかんねえし。
コトラにいらずんばこをえないっていうし」
「…ロイドさん。虎穴にいらずんば虎児を得ず、です」
もののみごとにいい間違えているロイドにたいし、ぴしゃり、とプレセアが訂正する。
というか、なぜに得ず、なのに得ない、と言い間違えているのやら。
思わず呆れたような視線がロイドに向けらているのは気のせいではないであろう。
「この森にも襲撃者の見張りがくるかもしれないわ。
この子を守る人も必要になってくるわね」
「ぼ、僕もいく。だって、お母さんが…っ」
「気持ちはわかるけども。危険なのよ。あなた、これまでどうしていたの?」
「…木の上にのぼって、あいつらをやりすごしてた。
そしたら、なんかまたヒトの声がしたから、それで……」
リフィルの問いかけに涙声で答えてくるこの子供。
勇敢にも、声がしたがゆえに木からおり、
この子供はこれ以上の襲撃がないように、この小さな体だ食い止めようとしたらしい。
「…この子のような考えを大人たちももっていれば……」
エミルは思わずそういいため息をつかずにはいられない。
こんな小さな子供ですら行動をおこす勇気がある、というのに。
今エルフの里にいる大人たちときたら。
それが情けなくてたまらない。
「…子供達がどこに囚われているのか。
そして大人たちがどこにつれていかれたのか。
それを調べる必要があるけども。同時にしないと、命が危険だわね」
自分達の、ではない。
囚われているエルフたちが、である。
「なら、このあたりにいる子たちにお願いしましょう。そのほうが手っとり早いですし」
エミルがそういい、すっと手をかざすとともに、
いくつもの色とりどりの蝶が突如としてあつまってくる。
それはこのユミルの森に生息する数々の蝶。
魔物達を使用するよりも、この蝶達を使ったほうがはるかに速い。
「――わかっているな。いけ」
エミルがいうとともに、ひらひらと一気に森の中にとんでゆく蝶の数々。
「…お兄ちゃん、いったい?」
それをみて子供は戸惑いを隠しきれない。
エルフの里で、蝶は精霊の、大樹の精霊の使い、ともいわれている神聖なもの。
そんな蝶達は絶対に人のいうことなどきくはずもない。
時には迷っていたりすれば、彼らの手助けをすることはありはすれど。
基本、蝶達は彼らエルフの生活にはまったくもってかかわっていない。
最も、小さな子供が好奇心から無意味に蝶を捕らえ殺しでもすれば、
その年はある程度の飢饉に見舞われる、という多少の影響はあるにしろ。
「いくとしたら、奥のトレントの森までは無理でしょうし。
また、のがれた人達がいたとすれば、トレントの森にいっている可能性がありますね」
トレントの森。
そこは精霊オリジンの聖域、といわれている場所。
この森の奥に存在しており、トレントの森のどこかには、
精霊オリジンがいる、とまでいわれている地。
「…オリジン、か」
「ここまできたからには、お前にオリジンの封印を、といいたいが。
どうやらそれは後回し、だな。どうも奥が胡散臭い」
きこえてくるのは、怒号のような声。
「これって…」
とまどったようなコレットの台詞。
コレットの耳にもクラトス、そしてユアン、彼らが聴こえている声がきこえている。
書物を渡せ、などといった怒号のようなやり取りと、
そしてカン、キン、と何かがまじりあうような音。
それとともに。
ドゴォォン!
突如として奥のほうから何かの爆発音らしきものがきこえてくる。
「!?母ちゃん!?皆!?」
子供がその音にきづき、はっとしたように、
「あ、まって!」
コレットの制止をふりきるように、そのままだっと奥にと駆けだしていってしまう。
「ち。誰かが魔術をつかったようだな」
「――先にいく。エルフ達を見殺しにはできぬ」
いいつつも、ふわり、とその背に翼を展開し、
ばさっとうかびあがり、空中から村があるほうにむかってゆくクラトス。
「まて!クラトス!まったく。先走りするのはあいかわらず、だな!あいつは!
お前達は、人質をたのむ!」
いいつつも、ユアンもまた翼を展開し、ばさばさとその場を飛び立ってゆく。
「トレントの森を調べるのと、あとは人質の場所、ね」
リフィルがいうとともに、エミルがすっと目をとじる。
蝶はあるいみラタトスクの別の意味での直接の配下というか、直接に加護をさずけし種族。
ゆえにその気になればエミルは、否、ラタトスクは地上全ての蝶の視線を視ることが可能。
いた。
エミルが彼らをみつけるのと、
「――エミル様。村のものたちは、奥の集会場に捕らえられているもようです。
そこに、里の長老も」
ふわり、とその場に闇が具現し、燕尾服のようなものをまといし姿があらわれる。
「テネブラエか。わかった。トレントの森のほうは?」
「数名、いるようですが。彼らはあのままでは気絶してしまうでしょう。
森のでいりぐちにも見張りがいるらしく、彼らは戻るに戻れなくなっているようです」
トレントの森での精神力の消費は半端ない。
「あ、テネブちゃんだ」
その姿をみて、コレットがふと声をかける。
「て・ね・ぶ・ら・え!です。まったく。それで、どうなさいますか?」
このままエルフをみすてるか。
それとも。
「例のものは?」
「奥に。そして例の件も」
「わかった。リフィルさん、僕らは森のほうにいってきます」
いいつつも、エミルがぴ~と口笛をならすとともに、
ばさばさと巨大な鳥がやってくる。
それらはエミルの上空にまでやってくると、その太い足を差し出してくる。
テネブラエにのってそのまま移動してもいいが、
どうやらここは無難に、鳥での移動をエミルは選択していたりする。
「エミルくん。俺様たちもいくぜ。セレスもいいな?」
「え?あ、はい。お兄様」
「ゼロスさんたちも?まあいいけど。なら、あと二羽よびますね」
エミルの言葉とともに、ばさばさとした音が二つ追加され、
ゼロスとセレス、そしてエミルの上空にてホバリングをする巨大な鳥が三羽。
「――お前は、彼らを集会所に案内しろ」
そのまま伸ばされた手をつかみ、ふわり、と空中にうきあがったエミルはといえば、
そこにのこされたクイーン・キラーピーにと次なる命令を下していたりする。
そして。
「リフィルさんたちは、その子が人々が捕らえられている場所に案内してくれますから。
後はまかせました」
いいつつも、そのまま、エミルの合図とともに、いっきに鳥ははばたき、
村のある方向にと飛び立ってゆく。
「あ、エミル!まちなさい!って、ゼロスまで。…しかたないわ」
――うわ~、何だ、きさまらは!?
「!先生。どうやら村があるかもしれない方向で何か戦闘がはじまったみたいです」
コレットの耳にそんな声がきこえてきて、コレットがはっとしたような声をあげる。
「っ。クラトスとユアンか!」
おそらく、彼らが空から奇襲をかけた、のであろう。
いくら教皇騎士団でもよもや空からの襲撃がある、とはおもってもみなかったはず。
ならば。
「いくしかなかろう。まずは人質達の安全を優先、だな」
リーガルが重々しくつぶやけば、こくり、とうなづくロイド達。
「リヒター?」
「いや、何というか複雑、でな。
エルフ達は俺達ハーフエルフを虐げているのに。助ける必要があるのか?」
「何いってるんだ!リヒター!困っている人をほうっておけっていうのか!?」
「リヒターがいかななくても、僕はいくよ。
うまくしたら、エルフの協力がより得られて精霊研究すすむし!」
「…アステル、…仕方ないか。付き合うよ」
「…というか、アステルくん、打算、ですね」
アステルの言葉にリヒターがやれやれ、とばかりにうなづけば、
プレセアがぽつり、とそんなことをいってくる。
たしかに打算、かもしれないが。
しかし、相手に貸しをつくる、というのも悪くはないはず。
「これで少しでもエルフ達がヒトやハーフエルフの扱いを変えてくれるかもしれないしね」
「打算だらけね。でも…その考えも悪くはない、わ」
「問題は、おそっているのも同じヒトである、ということだな」
『・・・・・・・・・・・』
さらり、とリーガルにいわれてしまい、全員が思わずだまりこむ。
これが魔物とかの襲撃や自然災害などで手助けしたのならば、
貸し、といっても差し支えもないかもしれないが。
襲撃しているものはヒト。
しかも、元がつくがおそらく教皇騎士団の面々。
つまりは、テセアラという国が襲撃した、とみられてもおかしくは…ない。
「…ひどい」
まず始めに感じたのは、その一言。
おそらくは素朴なる村であったのであろう。
しかしみえている家々は無残にもこわされ、そして所々燃えている。
そして大地には焦げたような跡がつき、
そしていくつかの人影らしき姿が倒れているのがみてとれる。
周囲に満ちるは、燃え盛る家々の炎の熱気とむせかえるような血の匂い。
それだけでは、ない。
ここに近づくにつれ、まとわりつくような不快感がどうしてもすてきれない。
まるで、そう、泥水の中を進んでいるかのごとく、体が重く感じてしまう。
それはこの地に満ちている瘴気の影響なのだが。
その事実に彼らは気付かない。
そもそも、彼らは瘴気というものを実際に目の当たりにしたのはほとんどない。
強いていえば、ロイド達のみが、ハイマにてかの魔血玉。
その影響で直接瘴気をうけたくらいか。
エルフの隠れ里、ヘイムダール。
その村にはいる入口にはおそらく見張り、であったのであろう。
武装しているエルフの男性二人が倒れているのがみてとれる。
地面にひろがる赤き血はどすぐろくかたまり、完全に地面に染み込んでいる。
ピクリ、ともうごかない彼らは抵抗はした、のであろう。
その目がかっとみひらかれており、最後の壮絶さをものがたっている。
そっとその首に手をあて命がないのを確認したのち、
リフィルとアステルがそっとそんな彼らの瞳を静かにとじる。
よくよくみれば、胸のあたりに小さな穴があいており、
そこから血がながれたのか、服をどすぐろく染めている。
槍でつかれてもこのような傷にはならない。
みたことのない傷。
ゆえに思わずリフィルが顔をしかめ、
「まさか…これは、銃?そんな、馬鹿な!?」
その傷口に心当たり、があるのであろう。
リーガルがその傷口をみて思わずそんなことをいっているが。
「リーガル、銃って?」
「……以前、会議で誰もが使える、魔術を使う相手でも、
離れていても飛び道具、として相手を倒せる武器の開発を、といわれたことがある」
しかも、そのときその人物は試作品までつくりあげていた。
見せてもらったそれは、おそろしいほどの威力で。
ゆえにリーガルはその開発申請を却下した。
ロイドの質問にぐっと手を強くにぎりしめるリーガル。
こんな精密なるもの、クルシス、もしくはディザイアン。
残りは…レザレノ社しかつくれるとはおもえない。
ふとあのときのユグドラシルの言葉をリーガルは思い出す。
自分の社のものが、そういったものを開発している、と。
「あれらの設計図、それらも全て破棄させたはず、なのに…」
「おそらく。破棄が完全にされてなく、隠れて開発されていたのでしょう」
「……何ということだ……」
リフィルの台詞にリーガルはうなだれるしかない。
「その武器を防ぐ方法は?」
「鉄などを貫通する力はよわかった、とおもう。
しかし…あれから数年はたっている。もしも研究をかさねていれば……」
「…遠く離れていても攻撃をうける。厄介ね」
しかも、リーガルの言葉から察するに誰でも使用が可能、ということ。
「…とにかく、集落に誰かがいないか、生存者がいないか確認しましょう」
燃え盛ったり、また壊されていたりする家々。
もしかしたら、家屋の下敷き等になって逃げ遅れたりしているものがいるかもしれない。
「それぞれ分担しましょう。生存者を探すメンバーと、人質がいるであろう場所に向かうもの」
そんな会話をしている最中。
パンパンッ!
何やら何か乾いたような、それでいて心にずしん、と響くような音がきこえてくる。
そして。
「な、なぜしなぬ!?く、くるな…うわぁぁ!?」
そんな声が奥のほうから聞こえてくるが。
「あっちの方向は…たしか、長老様の…」
街並み事態はかつてとかわっていない。
かわっているのは、そこにあったはずの家々が壊されたり、
また燃え落ちたりしてしまっている、ということ。
リフィルは十一のときまでこの地にてそだっているがゆえ、
里の街並みは把握している。
覚えていないようでいて、どうやらしっかりと、心の中にその光景は刻まれていたらしい。
村には川が流れており、その川にも今は燃え落ちたであろう瓦礫らしきものが、
ゆっくりと流れているのがみてとれる。
ロイドがその川に視線を向けている中、そんな音がきこえてきて、
「あっちから声がしたよ!」
いいつつ、声のしたほうにと駆けだしてゆくコレット。
「あ、コレット、まて!」
そんなコレットをあわてておいかけるロイド。
「リヒター、僕らはこのあたりを探索してみよう」
「だな」
あまり奥にいくのも危険かもしれない。
それに退路をきちんと確保しておくものも必要であろう。
ゆえにその場にアステルとリヒターはのこり、
コレットをおいかけ、ロイドを始めとした、リフィル、ジーニアス、
プレセア、リーガルは声のしたであろう方向にとかけだしてゆく。
「あたしは、このまま人質がいるであろう場所に案内してもらうよ。
潜入ならまかしとけってね」
いいつつ、しいなが目の前を飛ぶ魔物に視線をむければ、わかった、とばかりに、
ブブブ、という音とともに奥にととんでゆくクイーン・キラー・ピー。
人はそれぞれ適材適所、というものがある。
もしもどこかに閉じ込められ、そこに誰かがいたとしても、
しいなはそういった事態についての対処法。
すなわち、そういった訓練も多々としているがゆえに、
人質を解放するのはしいなの専売特許、といえるであろう。
かけてゆく最中で目にはいるは、手入れがされているであろう畑の数々。
それらは踏みにじられ、すでに原型をとどめていないが、
おそらくは大事に大事に育てられていたのであろう。
畑の周囲には散乱した収穫したての野菜らしきものがちらばっており、
その横にはそれらが入っていたであろう籠もみてとれる。
おそらく、この籠をもっていたものも襲撃をうけ、
手にしていた籠を手放すしかなかったのはその状況からしてみても一目瞭然。
「クラトス!?それに、ユアン!?」
かけてゆくことしばし。
壊されかけた橋をわたり、しばらくすすむと、その先に少し大きめの建物らしきものがみえてくる。
そして、その手前に、みおぼえのある姿が二人。
そしてその前には数名の鎧をきこんだ男たちの姿が倒れ伏していたりする。
「お前達か」
ちらり、とクラトスがそちらをみれば、
「人質のほうはどうした?」
ユアンもきになっているらしくといかけてくる。
「え?あ……」
いわれて、そういうば人質がとられているとかあの子供がいってたのに。
それをすっかり失念していたことを思い出し、おもわずロイドが短い声をあげているが。
「殺した…の?」
ジーニアスが震える声でといかける。
敵だ、とはわかっている。
わかっているが、どこか自然と声がふるえてしまっているジーニアス。
「しいながいない。おそらく、彼女がそちらにむかったのだろう。
彼女はみずほの民。そういう救助は慣れているはずだ。そういう専門でもあるのだからな」
リーガルがそんな彼らの疑問に答えるかのように淡々といってくるが。
「ああ。たしかに。みずほの民の彼女ならば…問題はない、か」
ユアンがそんなリーガルの台詞に納得したようにつぶやき。
「子供達は、トレントの森にある狩猟小屋に閉じ込められているらしい。
こいつらから聞きだした」
性格には、彼らが銃でうったにもかかわらず、血さえながさずに生きていた彼ら。
クラトス達に驚愕し、化け物!とさけびつつ、恐怖にかられ、
問いかけにあっさりと答えてきた、という事実があったりする。
彼らの手にしていた品はクラトス、そしてユアンからしてみればみおぼえがありすぎるもの。
それはかつての過去の世界で普通に至急されていた、銃、その劣化版。
ならば、体そのものを無機物化し、固めてしまえば攻撃ははねかえせる。
ユアンもクラトスもそういった自在のコントロールはすでに手慣れたもの。
伊達に四千年もの間、天使化した体とつきあっているわけではない。
それに何より、ユアンもクラトスも、天使化、という特製をもっていて、
最前線にかつては、共にシルヴァラント、そしてテセアラ。
それぞれ敵対する陣営ではあったが戦争に赴いていた身。
ゆえにそういう戦闘戦略や戦術に関して、そこいらの駆けだしのものに負けるはずもない。
「長老達はこの奥の集会場にいるらしいが……」
そこまでいい、おそらく、と互いに顔をみあわせるクラトスとユアン。
彼女があの集会場に潜入するとするならば、まちがいなく屋根裏から、であろう。
裏手はユミルの森に直結しており、木々をつかえば、おそらく簡単に屋根にも飛び移れる。
たしか、あの場所は天井付近に小さな小窓があったはず。
それは人が出入りするのには不可能に近い大きさなれど。
「いくぞ。…マナリーフは長老がもっているはずだから、な」
ちらり、とみる長老の家はもののみごとに半分壊され、
さらには火すらかけられているらしく、炎がいまでもくすぶっている。
完全に焼け落ちる前にその原型をとどめているのは、誰かが水の術でもつかったのかもしれないが。
そこまでクラトス達にはわからない。
それにしても、とおもう。
この村全体にただよっているこの瘴気の濃さ。
この濃さは一体どういうことなのか。
あきらかに、ユアンがいったように、禁書の封印がとけかけている証拠。
禁書を保管しているであろう場所には、より濃いそれが漂っているのが感じられる。
おそらく耐性がないものは歩くことすらきついほどに。
「ここは?」
鳥の手につかまり、というか鳥の爪にてがしり、とつかまえられ、移動してきたのは森の一角。
眼下に燃える家々をみつつも、その奥にある森の奥へと移動した。
ゆっくりとおろされたのはちょっとした開けた地。
完全に木々が開けたちょっとした広場となっているその奥には、
なぜかぽつん、と黒い石碑のようなものがみてとれる。
「僕だけならともかく、ゼロスさんたち、むちゃしますね。
ここはヒトの身にはきつい場所ですのに」
エミルはそんなついてきた二人に苦笑せざるを得ない。
まあ、許可をしたのは自分ではあるのだが。
「アクア」
「はいはいは~い!」
エミルがぽつり、とつぶやけば、
いきおいよくその場に水がいきなり竜巻のように渦巻いたかとおもうと、
次の瞬間、そこからあらわれてくる一つの影。
青く長いその髪の先端は魚類の尾に似、青く輝く白い肌。
耳はひれのごとくで、その耳には魚型のピアスを揺らしている。
「二人にとりあえず、軽い水の膜で結界を。それで彼らのマナの消費が防げるだろう」
現れた青い色をもちし、人型をした何か
…いうまでもなくセンチュリオン・アクアに対し、エミルがそういえば。
「かまいませんけど。いいんですか?」
「かまわん」
「…判りました」
アクアがパチン、と指をならすと。
その瞬間、ゼロスとセレスの体の周囲に、何かふわふわとした水の膜?のようなものが出現する。
それはさわると、ぷにぶにとしており、まるでゼリーのごとく。
ゼリーのようなものが目の前にあり、視界がみえにくくなるかとおもいもしたが、
そんなこともなく、そこに何かゼリーのような水の膜らしきものがある、
と認識できるだけで、行動にまったくもって害はないらしい。
実際、手をうごかし、その膜に手をつけても、その膜はぷにっとした感覚で、
行動するまま、その姿を自在に変化させている。
「――ソルム。この森に人質は?」
「今、確認いたしました。この先のとある小屋に子供達が捕らえられている模様です。
もっとも、子供達にはこの地はきついらしく…ほとんどがすでに気絶しています」
いくらエルフだといえど、この地はマナを多量に消費する。
正確にいうならば周囲のマナが濃いゆえに、
体内のマナすらその濃さにひきずられるような形になってしまう。
どうやら子供達が気絶しても命までとられていないのは、
その小屋の周囲にいるトレント達が、マナをある程度管理、
そして霧散しているがゆえにそこまでの被害はでていない、らしい。
本来ならば、この地において気絶したものたちは、
魔物達の手によりて森の入口に強制的に排除される、のであるが。
あろうことか、かの扉に魔血玉を配置しているがゆえ、
魔物達も近づくに近づけない状態に陥っているらしい。
トレントの森という特性ゆえに、魔物達もその瘴気によって狂っていないだけのこと。
「あ。さっきの」
たしか、あの塔の中であらわれた、亀ような何か。
その姿をみてセレスが口をだす。
「たしか、エイト…」
「セレスさん。名前だけ、でいいからね?このこら調子にのっちゃうから。
あの呼び名って、昔、ちょっとした戦隊ものの遊びをねだられて、
この子達がかんがえついた呼び名みたいなものだからね?」
エイトリオン、といいかけたセレスにむかってにっこりとほほ笑むエミル。
しかしその目はまったくもって笑っていない。
はっきりいって座っている。
周囲にはこれでもか、というほどに木々が茂っており、
かといって、さきほどのユミルの森、といわれていた場所とはまた雰囲気が違う。
強いていうならば、空気が完全に違う、というべきか。
本来、この地はラタトスクの加護、もしくは許可をえているものでなければ、
はいった瞬間、問答無用でその精神力、すなわちマナが問答無用で周囲のマナに溶け込んでしまい、
時間の経過とともに瀕死状態にとなってしまう。
そこまでしたのは他でもなく。
精霊オリジンの力をヒトが悪用しないため。
だというのに。
「そういや、さっきのあの石碑みたいなのは何なんだ?」
「あれ?あれは本来オリジンの石碑だよ。
…ミトスがいったように、クラトスさんが封じちゃってるみたいだけどね。
本当に、どうしてミトスはそんなことを…強要したのか、それとも……」
それともあの真面目なクラトスのこと。
自分から申し出た、というのだろうか。
でも、そんなことをする前に、ミトスが精霊炉のことをいいだしたときにとめてほしかった。
切実に。
どうしてそこで、自分に相談を、といってくれなかったのだろうか。
自分にとって四千年はそう永い時ではないが、地表の生物にとっては永き時間。
「そういや、あの天使様が封印してるとか何とかいってたな」
「そういえば、お兄様?あのとき、お兄様達の前にあらわれた男性は……」
「あいつはクルシスの総責任者」
「ええ?!」
「…ゼロスさん。話してなかったんですか?」
「いや、そこまでは」
二つの世界云々はジーニアス達から話しをきいてはいるセレス。
しかしどうやらそこまで詳しく話しはきかされていなかったらしい。
「それにしても、不思議ですわ。…これだけ魔物がいるのに」
よくよくみれば、周囲に多々と魔物の姿。
さらには動物の姿もみてとれるが。
それらがまるで道案内をするかのごとく、ずらり、
と道沿いの脇にとひかえているのがみてとれる。
いくつかの分かれ道などがありはすれど、動物や魔物たちがいるがゆえ、
道を間違えてすすむ、ということはこの状態ではまずありえないであろう。
ここは、本来その時々の正しき道をすすまないかぎり、ソルムの幻影が森にごとかかっている。
ゆえに簡単にまよってしまい、ついでにいえばレインの力もかかっており、
ゆえに多少の空間も歪んでいる。
つまるところ、正しい道をふまなければ、永遠に先に進もうとしても、
同じところばかりをまわるループにはまってしまう。
もっとも、それは先にすすむ場合、だけで、外にでようとするときには、
それらの干渉は取り払われるのであるが。
「本来は、蝶、そしてブッシュベイビー達が案内するようになっているんですけどね」
この地にはいってきたものは、まず、蝶、そしてブッシュベイビーを目指すしかない。
それらがいる道以外にはいりこめば、まちがいなく迷う。
「?でも、たしかエミルはシルヴァラントの人、ですよね?くわしいですのね?」
セレスですらしらなかったこと。
それをいわれ、セレスは首をかしげざるをえない。
そんなセレスに対し、
「それは我らがいますから」
主のかわりにさらり、とこたえているソルム。
ちなみにソルムはふわふわと、うかんでいるにはいるが、
ほぼ地面すれすれにてエミルの横に付従うようにと進んでいる。
「よくわかりませんが。そうですの?」
よくわからないが、どうやらそういうもの、らしい。
ゆえに首をちょこん、とかしげつつも納得したようにつぶやくセレス。
このあたりの素直さはあるいみ箱入りで育てられたがゆえの障害といえば障害。
「…セレス。お前、へんな奴にだけはだまされるなよ?いいな?」
「?はい。お兄様」
ずいぶんと丸くなった、とおもう。
始めにこの旅に合流したときよりも。
セレスにとって兄であるゼロスと共にいることにより、
どうやらだいぶ性格的にも穏やかになっているらしい。
ゼロスはそんな妹の変化は嫌いではない、嫌いでは。
むしろ、幼き日、純粋に慕ってくれていた妹の性格のまま。
それはとてもうれしい。
うれしいが…余計な虫がちかよってこないかがかなりきになる。
一番の懸念はどうやらあの天然たらしっぽいロイドくんなんだよなぁ。
ゼロスがそんなことを思っているなど、当然セレスはしらない。
本来ならば、この森にこういった小屋のようなものを作るのは時間的に不可能。
なのにこうして小屋がある、ということは。
ウィングパックのようなものにいれ、小屋ごと運んできた、とみるべきであろう。
視界の先に小屋らしきものがみえてくると、その周囲にいたトレントや魔物達。
それらが一斉にふりむいてきて、その場にそれぞれ礼をとってくる。
「え?」
それをみて戸惑いの声をあげるセレス。
どこからどうみても、あの魔物達は自分達のほうにむけて頭をさげてきている。
いや、この場合はどうみても、自分に、というよりは。
「で?エミルくん?どうすんのよ?」
横にいるエミルに腕をくみつつゼロスが問いかけてくるが。
「こうします。この小屋はあっても無意味というか害になるだけですしね」
こんなものをつくってくれれば、この地でヒトがどんな愚かなことをしでかすか。
すっとエミルが手をかざすとともに、エミルの手の中に淡い光が収束し。
次の瞬間、エミルの手には先ほどまでもっていなかった一つの杖がみうけられる。
それは、その先がまるで木々の葉のような形状をしている杖。
いくつかの星の輝きを宿したような宝珠を頭上にもち、
その宝珠の先には青葉のようなものが浮いている。
きらきらとかがやく宝珠にはまるでオーロラのごとくの輝きが、
常に煌めいているのがみてとれる。
エミルがその杖をそのまま、すっと小屋にむけたその刹那。
小屋全体が淡い緑色の光にとつつまれ。
そして次の瞬間。
小屋全体が光り輝いたかとおもうと、それは緑の光の粒となりて、
またたくまにと霧散してゆく。
それはあるいみ幻想的といえば幻想的な光景。
「…綺麗」
おもわずセレスがぽつり、とつぶやく。
エミルが杖をもっているその姿すら、光につつまれ幻想的。
ふわり、とエミルがかるく結んでいた金色の髪がそれにあわせて風もないのにたなびき。
よりその光景は幻想的なものとなっている。
周囲が淡い光につつまれたのはほんの一瞬。
ふとみればそこに小屋があった、という痕跡すらのこさずに、大地に横たわる数名の子供達。
どうやらここには十歳以下の子供達ばかりがどうやら囚われていたらしい。
それ以上の子どもたちはどうやら大人たちとともに捕らえられており、
ゆえにこの場にはいない、らしい。
「この子達をとりあえず、森の外へ。
ソルム。事件が解決するまでは、この子達の姿が奴らにみえないように幻影を」
「御意に」
ソルムがうなづき、そして魔物達がそれぞれ、協力し、
そこいらにいるウルフ達の背に子供達をのせてゆくのを確認し、
「じゃあ、僕らも外にいきましょうか。ここに捕らえられていたのはこの子達だけだったみたいですし」
「お、おう」
さすがにこうも堂々と
魔物達に命令をしたり、使役しているのをみればゼロスも何ともいえない。
というか、もしかしてエミルくん、俺様達でなくてもさくっとこれやってたんじゃあ?
何となくではあるがしでかしそうなきがする。
それはもう果てしなく。
「あの、光りは?」
コレットがふと奥のほうをみて思わず声をだす。
それはちょうど、コレット達がクラトス達と再び合流してすぐのこと。
奥にある森のほうこうにみえるは、緑色の光。
光の粒子のような、まるでホタルの光のようなものが森のほうから上空にたちのぼり、
それらはまるで周囲にとけこむように、きらきらと降り注いでいるのがみてとれる。
「あれは…マナの、光り?」
それをじっとみてユアンがつぶやく。
遠目にでもわかる。
あれはマナの塊たる光だ、と。
きらきらと森に降り注ぐようなその光はやがて綺麗に、
まるではじけるかのごとく、瞬く間にときえてゆく。
「この奥にあるのはトレントの森。
時折あのようなマナの光が洩れいでることがある、ときく」
クラトスもいいつつ、このタイミングで?という思いが否めない。
今現在、彼らがいる場所は、村にはいって少し奥にいったところにある一つの橋。
村にはいり左手に武器や、右手に道具屋。
それらの奥にある川にかけられている橋を渡り、左にいった奥にある族長の家の前。
ついでにいえば、橋を渡りきってすぐのところにある建物は、
この村唯一の宿屋【千年亭】と呼ばれし場所。
「ともかく。いくしかなかろう。…族長の身や他のものの身もきにかかる」
「ふん。こいつらは私に対しては非協力的、だからな」
「…ユアン……」
禁書のこともあるがゆえ、彼らは特例としてなかにはいることを許されてはいるが。
しかし、エルフ達は彼らがかつて精霊を裏切ったことをしっているがゆえに、
かなり非協力的といってよい。
この先のほんの一部のあたり、なのだろう。
集会場となぜにあの場所が隣接しているのか、という疑問は多々とあるが。
集会場の横にエルフの里につたわりし、書庫も設けられており、
じっとユアン達がみるその先の空間は、よりまがまがしい気配がただよっている。
その背後にトレントの森、そしてその集会場と書庫がある小島。
それらの周囲にユミルの森の水がなみなみとなければ、
まちがいなくあれらのまがまがしい空気はあっというまに周囲に拡散していたであろう。
人っ子ひとりみあたらない…否、いるにはいるが。
ほとんど倒れているものは、すでに事切れており、ロイド達は何ともやるせない気持ちになってしまう。
中には小さな子供らしき姿もみてとれ、こんなひどいことをするものは許しておけない。
そんな思いがよりロイド達の心にわきあがってくる。
族長…人によっては長老、ともいうらしい人物の家をぬけ、その先にある長くつづく木の橋を渡り。
この橋はそのまままるまる丸太を使用しているらしく、
巨大な木が二本、対岸に渡されることにより橋の役割を果たしている。
「あ。あそこに人が!」
ふと橋の先に動いている人影をみつけ、コレットがおもわず声をあげるが。
「!ちかづくな!神子!」
すばやくクラトスが焦った声をあげ、
翼を展開し、すばやくコレットの前に回り込む。
「何でだよ!クラトス!」
ロイドはなぜクラトスがそんな行動をするのかわからない。
少なくとも、ここでは敵ではない、そう思いたいのに。
やはり敵だった、とでもいうのだろうか。
「…いや、そいつの判断は正しい。あれはおそらくは……」
ふとみれば、その体をゆらゆらとゆらしつつ、
どこか体全体が黒く染まっているようなエルフ達。
それらがゆっくりと木の上をこちらに気付いたらしく歩いてくるのがみてとれる。
しかしその足取りはゆっくりで、そしてどこかおぼつかない。
「…覚えておくがいい。あれが、魔族達に傀儡、とされたものの末路、だ。
奴らは死者すらもああして、瘴気によって自分達の駒、として操ることがある」
見た目は普通のエルフ、なのに。
中にはヒトらしき姿もみてとれる。
「…どうやら、たまたまこの里にきていたものも巻き込まれたよう、だな」
「だな」
その姿をみて、クラトスとユアンは何ともいえない表情を浮かべていたりする。
「…クラトス。ユアン。彼らを助けることはできない、の?」
「わからぬ。すでに死んでいるのか、それとも生きたまま操られているのか。
しかし、躊躇していれば、我らも…くっ」
いいつつも、その場にてたちどまり、頭をおさえるクラトス。
クラトスの脳裏に響いてくる甘く囁く声。
お前は、ユグドラシルを殺す、といったのではなかったのか?
それはかつて、ハイマにおいて、クラトスがきいた声とほぼ同じ。
「こ…これは…」
そしてクラトス同様にリフィルも思わずその場にたちすくんでしまう。
脳裏に響くは、母の、そしてイセリアの人々の拒絶する声。
お前など産まなければよかった、などといった母の声らしきものもきこえれば、
お前達ハーフエルフは害虫なのだよ。といいきるイセリアの村長の声すらきこえてくる。
「な…何なの、この声…」
ジーニアスにもその声はきこえているらしく、もはや戸惑いの声しかあげられない。
お前は化け物なのだ。時間に取り残されたおまえを誰も受け入れてはくれないだろうよ
お前の横にいるお前の妹をころしたものをお前はゆるすのか?
姉さん、どうして。どうして私を殺したリーガル様を殺してくれないの?
プレセアの脳裏にも同じような声がひびき、その声とともに、
プレセアの耳にアリシアの声らしきものがきこえてくる。
リーガル様。わたしを殺したことを悔いるのならば、どうして死んでくださらないの?
「…アリ…シア…」
リーガルの耳にもそんな声がきこえてくる。
そしてまた。
お前の会社が我らを殺す兵器をつくった。お前がきちんと管理さえしていれば
いや、お前の会社さえなければ
そんな怨嗟のような声すらも。
ユアン、私をころす、の?大樹をよみがえらせるために?
ユアンの耳にもなつかしきマーテルの声がきこえてくるが。
「こざかしい!マーテルはそんなことを絶対にいわない!
私のマーテルは自分のことよりも他者のことに気をくばり。
他人のことをわがことのように悲しむ、それはそれはとても美しいひとだ!
我がマーテルを穢すようなことは断じてゆるさん!」
それは一喝。
「な、何だ何だ?皆、どうしたっていうんだ!?」
ロイドにもその影響はでている、のであるが。
ロイドは母親の加護の影響もあり、完全にそれらの声は遮断されている。
ゆえに、ロイドはなぜ皆がいきなり立ち止まり、苦痛にみちた表情をうかべだしたのか、
まったくもって理解不能。
「…ユアン。きさまらしい退け方、だな」
そんな友の台詞に横にてクラトスが苦笑をうかべざるをえない。
そして、ロイド達のほうをふりむきつつ、
「どうやら、これより先は魔界の、否瘴気が充満しているようだ。
心をつよくもたなければ、簡単に悪意にのみこまれ、魔族の手先となってしまう。
お前達はここでまて」
コレットはコレットで、どうしてその命をささげて世界を救わないの?
という様々な人々がいれかわり、たちかわり。
これまでの旅でであった全ての人の声でいわれ、半ばまいりかけていたりする。
そんな彼らがどのような目にあっているか、という詳しい内情まではわからないが、
大体クラトスにもユアンにも予測がつく。
それはかつて、彼らが経験したことがあるがゆえ。
「…まって。クラトスさんたち、あの人達をどうする、の?」
非難され、命をささげよ。
そういわれまくっているというのに、それでもコレットは目の前にみえている子供達や人々。
彼らの行く末がきになっている、らしい。
もしかして助けられるかもしれない。
死んでいるのか生きているのかわからない。
けど、たしかに彼らはきちんと立って歩いている。
「あのままでは、あの体ごと魔族達の贄に利用されてしまう。
その前に、殺す。跡かたもなく、な」
「そんな!どうにかならないんですか!?」
「無理だ。…マーテルがいれば……」
「マーテルがもちし、世界樹の杖ならば…しかし、ないものをいっても仕方がない」
マーテルがもっていたかの杖ならば膨大なるマナでそれらの瘴気をどうにかできた。
しかし、今はそのマーテルはいない。
「そんな、ダメ、だめです!殺すなんて…だめっ」
コレットが悲鳴に近い声でいい。
「そうだよ!あんたら何かんがえてるんだ!」
ロイドもコレットに賛同するかのようにクラトスとユアンにくってかかる。
「ならばどうしろ。というのだ?あいつらは、あるいみ不死身となっている。
その体を完全に跡かたもなく焼きつくし微塵ものこさずにしなければ。
あのものたちは、未来永劫、ずっと魔族達に利用されつづけてしまう」
「でも、何か方法があるはずだろ!」
「くどい!ロイド。お前そんな甘いことをいって、この先にいきているものたち。
それらすらも見殺しにするのか!?」
「そ、それは…けどっ!」
この先に捕らえられているのは間違いない。
それでもロイドの心が納得しない。
しばし、クラトス、そしてロイドがにらみ合う。
そんな言い合いをしている最中。
「声がしたかとおもえば…なぜお前達がここに……」
ゆっくりと、奥のほうからでてくる人影が三つ。
そしてその中央にいるのは、ロイド達もみおぼえがある姿。
「お、お前は!?」
思わずロイドがその姿をみて叫ぶ。
「お前達がここにいる、ということは。そうか。ケイトだな!あの裏切りものめ!」
ぎりっと憎々しげにそういうは、
「あんたは…教皇!」
「元、がつくわね」
ロイドが叫び、そんなロイドの台詞に冷静にリフィルが突っ込みをいれてくる。
「裏切り者、だと?ふざけるな!
ケイトの心をふみにじりやがって!絶対にゆるさねえ!
そいつらの状況もあんたの仕業、か!」
ロイドがぎりっと歯ぎしりをしながらも、きっと目の前の男性。
いうまでもなくテセアラの教皇の地位にあったそのものをきっと睨みつける。
それとほぼ同時。
「まあまあ。あつくなるなって。ロイドくんよ。
教皇さんよ。いいかげんにあきらめなよ。ってことで神子様登場~」
ふときづけば、横手のほうから現れる三つの人影。
奥にある森からどうやらでてきたらしく、ゼロス、セレス、そしてエミルの姿がみてとれる。
「この奥にいた子供達は助けだしましたよ。…しかし、やってくれてますね。これ」
エミルも思わず顔をしかめてしまうほどに、この場には瘴気の淀みがたまりまくっている。
「ふん。この国はもともとわしのものだったのだ。
それを取り戻そうとして何がわるい?それに」
それに、とおもう。
こんな村のものたちなど。
彼からしてみれば全員殺してもあきたりない。
「あんたが前国王の御烙印っていう噂は知ってるけどよ。
でも、それであんたが国王の座につけるかどうか、といえば答えは否だろうが」
呆れたようなゼロスの台詞をうけ、
「そうなの?ゼロス?」
なぜだろう。
彼らが現れたその瞬間
頭に響くような様々な声が綺麗さっぱりとなくなった。
それはまるでエミル達三人があらわれたから消えてしまったかのごとくに。
息をするのもどこか苦しかったというのに、その息苦しさすらなくなっている。
その事実に気付き疑問におもいつつも、コレットが首をかしげゼロスにといけかる。
この先にいた子供達は助けだした、と今エミルがいったのだから。
本当に子供達は助けだされたのであろう。
そのことにほっとしつつも問いかけるコレットに対し。
「ああ。この教皇は前国王が平民に手をつけて産ませた子だってもっぱらの噂だしな。
つまり、いまの陛下とこいつは兄弟ってことだな。
それもあってこいつはとびぬけて出世したって知る人はしってる噂だしな。
しかし、教皇さんよ。あんたはとある事情で王籍からぬかれてるだろうが。
それをいまさら」
そう、今さら、といえる。
彼がかつてエルフと恋におち、エルフと通じるなどまかりならん。
といわれ、それでも恋人を選んだ彼には今さらそんなことをいう資格はない。
それは一部のものしかしられていない事実。
よもや王家としても王家の血筋のものが、禁忌。
すなわち、エルフと通じ、こともあろうに子供をもうけたなど、スキャンダル以外の何ものでもない。
だからこそ、彼の存在はないものとされた。
王家の一員などではない、と。
所詮、庶民がうんだ庶子。
ゆえに王位継承権のはく奪、そして認知の取り消し、それはあっさりとまとまった。
「はん。いまのぼんくら王が死ねば籍を抜かれたとはいっても、わしは前国王の息子。
この国がわしのものになるのは決定だろう。
ロディル様もおっしゃっていたしな。
ロディル様がクルシスを牛耳った暁には、
このわしをマーテル教の代表としても国王とみとめる、とな。
なのに、神子よ。それをお前がまた邪魔をするのか!」
きっとゼロスを睨みつけながら、いまいましくもそんなことをいってくる。
「ロディル?それって五聖刃のディザイアンの?」
これまでずっと黙っていたマルタが思わず口をはさむ。
まさかここでその名がでてくるなど。
コレットを執拗にねらい、あげくは誘拐までし、
そしてプレセアの実験にもかかわっていた、ディザイアンのロディル。
「ロディル様はすばらしいおかたさ。
魔導砲をつかいクルシスを彼が掌握し、全世界を彼がおさめる。
わしはそこで一つの国をまかされる。すばらしいとはおもわないか?」
そういう教皇、ちなみにその名をフィリプという…は、完全に自分の世界の悦にはいっている。
そんな彼の台詞に思わず顔をみあわせ、そして
「・・・・・ロディルは俺達がたおしたぞ?」
というか、そのことを知らないのだろうか。
このおっさんは。
そんな思いをいだきつつも、ぽつり、とロイドが真実をつきつける。
が。
「はん。ざれごとを。お前達のような下賤な輩にロディル様がやられるはずが」
「いや、実際に死んでるけど」
そんなロイドの言葉をあざ笑うかのように吐き捨てるフィリプだが、
さらり、とジーニアスがそれを肯定し、
「うむ。絶海牧場で奴は命をおとしたな」
リーガルもその言葉を肯定するかのようにうなづきをみせる。
さすがに目の前で異形とかし死んでいったがゆえに、忘れるはずもない。
「ば、馬鹿な!ありえん!
魔族であるデミアン様と契約をしているロディル様が死ぬはずが!」
ジーニアス、そしてリーガルの台詞をうけ、
あきらかに狼狽しはじめる教皇フィリプ。
否、元教皇、というべきか。
すでにその地位は国においてはく奪されているのだから。
「そういえば、あのデミアンとか名乗った魔族、あれからどうなったんだ?エミル?」
あのとき、エミルが何かしたような気がするが。
ロイドはそういえば詳しくきいてなかったな、と今さらながらに思い出す。
「え?あれ?もういないよ?」
あのとき、痕跡も残さずに消滅させた。
「エミル?だと?そうか、きさまが魔族達がいっていた…
ふ、ふはは。ならばそこのものをわがてにし、コアのありかをきけば、
クルシスどころか世界はこのわしのものになる、ということか!」
そんな二人の会話をききつつ、その口元ににやり、と笑みをうかべたのち、
そんなことを高笑いをはじめながらもいいはなってくるこのフィリプ。
ち。余計なことを。
エミルがそう思うのとほぼ同時。
『コア?』
その場にいた全員…ゼロスを除く、が同時に首をかしげているのが見て取れる。
面倒なことになったな。
とエミルは思うが、だからといって下手なことはいえるはずもなく。
結果として、成り行きを見守る選択をするハメに。
「ふん。何もしらないのか。きさまらは。
世界を一つ生み出すほどの力をもつという、ラタトスクコア。
そして世界を支配できるほどの力をもつセンチュリオンコア。
魔族達はかのコアを手にすることができないゆえに、
われらが人に捜索を命じていたが…
奴らがいうには、精霊の神殿の奥にその祭壇がある、というのだが」
こちらが質問していないのに、おそらくあまりにロイド達の無知具合。
それを嘲ったのであろう。
たからかに嘲笑しつつも、ご丁寧に説明してくるこのフィリプ。
なるほど。
だからあのとき、あっさりと祭壇からコアが持ち出されたわけか。
説明を求めてもいないのに勝手にぺらぺら話してくれるのは確かにありがたいが。
あのとき、ソルムのコアはアリスの、そしてリヒターの手におちていた。
そしてそのソルムのコアの力にて、かつての悲劇がおこったといってよい。
他の地のコアがあのとき無事だったのは、
おそらくノームの神殿のみは、他にはいる手段があったからなのであろう。
ヒュプノスをつけている魔物を操っていたのならば、大地をほりすすみ、
大地を主体としただけのかの神殿にたどりつかせること。
それすら可能であったはずなのだから。
「また、ラタトスク、かよ」
ロイドがまたその精霊の名がでてきたがゆえに思わず顔をしかめる。
「でも。だからって、どうしてお姫様を誘拐する必要があったんですか?
それに、どうして、こんなことを……」
「姫に用があったのはわしではない。魔族達のほうだ。
わしはあの娘をつかって神子の宝玉と玉座を手にいれたかっただけだ。
そのもくろみが一致したからこそ、ジャミル殿と手を結んでいたまでのこと。
神子の宝玉をつかい、私も永遠の命をもつという天使になり、
永遠にこの世界を、国を支配するために!」
コレットの問いかけに高らかにいいはなつ。
「なるほど。だから俺様を呼び出したってか。
いまは俺様がクルシスの輝石はもってるからな」
以前まではセレスに預けていたが。
ゼロスが納得した、とばかりにうなづきをみせる。
セレスを狙っての襲撃、であったらしい。
あのとき、トクナガよりうけた報告、すなわち修道院の襲撃は。
間一髪、たまたま修道院を抜け出ていたセレスはその被害を免れはしていたが。
「ええい。いまいましい。セレスに預けているとしり、襲撃したが。
すでにセレスはも抜けのから。逃げ出したあと。
そののち、神子よ、お前とともにいたがゆえに手だしができんかった。
だが!ここできさまらを始末し、神子がもつ石を手にいれれば、
まだわしにもチャンスはある!
傭兵ども!傀儡ども!こいつらを倒せば報酬を倍にしてやる!かかれ!」
「襲撃?お兄様、それは、いったい……」
その事実を知らされていなかったセレスはその台詞に思わず顔を青ざめる。
何やら叫び、背後にいる鎧をきこんでいるもの、
そしてゆらゆらと動きがいびつなくうごいているエルフ達。
それらにそんな声をかけるフィリプであるが。
「いっとくが、あんたの屋敷や財産はすでに国が差し押さえてるぞ?」
さらり、とゼロスがとどめ、とばかりに言い放つ。
操られているであろうエルフ達も厄介なれど。
しかしおそらく、背後にいる鎧をきこんでいるものたちは、
この元教皇に金で雇われているもののはず。
彼らは傭兵。
つまり、金で動く輩といってよい。
ならば、真実を教えてやればよい。
「な、馬鹿な!」
さらっといわれたゼロスの台詞にフィリプが思わず目をみひらく。
いくら何でも前国王の血筋である自分にそんなことをするなど、
絶対にありえない、と盲信していたがゆえに。
「何をいってるんだ。あんた。この俺様に手配をかけたのが禍いしたな。
国はスピリチュアの悲劇の再来を恐れ、あんたを切り捨てるほうを選んだのさ。
臨時会議を開いて、な」
それこそ国の重鎮たる役職のものたちが、満場一致で可決した、という。
誰しも命がおしい。
しかも、その予兆ともいえる神鳥、さらには教皇の出身地であるオゼットの壊滅。
次は王都だ、と誰もが恐れずにはいられなかったゆえの国としての決断。
逃げていた教皇はその事実を知らされておらず、
また彼にそのことを伝えるものもいなかった。
誰しも巻き添えはくらいたくない。
ゆえにしったものは、そっと彼のもとから去っていっていた。
「あんたが達よりそうなところはすでに国の兵が目をひからせている
そんな中でどうやってそいつらに傭兵、としてのお金をはらうんだ?
あんたら、まちがいなく俺様達をたおせたとしても、
そいつに口封じでころされるのがせきの山だぞ?」
ゼロスのいい分はまさに正論。
ざわっ。
ゼロスの台詞に背後にいた数名の鎧をきこんだ男たちがざわつきはじめる。
そして。
「お、おまえら、雇い主にむかって!」
それまでゼロス達に武器を向けていた彼らは、それぞれの武器をフィリプのほうにむけていく。
まさに形勢逆転、とまではいかないが。
すくなくとも、操られているであろうものたちと、
さらには傭兵であろうものたち、両方を相手にする必要はなくなったらしい。
しかし、先ほどのフィリプの命令は当然いきているわけで。
『うおおぉぉぉぉ』
何とも形状し難い唸り声のようなものをあげつつも、そのままロイド達のほうにむかい、
迫ってくるエルフの数々。
「くっ。輝く御名のもと、地を這う穢れなき魂に……」
「よせ!クラトス!」
クラトスが何をしようとしているのか気付いた、のであろう。
すばやくロイドがクラトスに背後からだきつき、その詠唱を止めようとする。
クラトスが今行おうとしているのは、ジャッジメントの詠唱。
おそらくクラトスは問答無用で操られているエルフ達に術を炸裂させるつもりなのだろうる
しかしそんなのは許せない。
彼らを助ける方法があるはずだ。
「どけ!ロイド!このままではそいつらにお前達が傷つけられるのだぞ!」
「でも、こいつらも被害者だ!そんな人達を攻撃するなんてまちがってる!」
そうこうしている間にも、エルフ達は一気に間合いをつめてきて、
それぞれの武器を片手にし、さらには中には詠唱を唱え、術をむけてくるものすら。
「ええい、どけ!」
「い・や・だ!」
このままではラチがあかない。
みれば、リフィル達も苦戦をしているもよう。
相手は操られているのか死んでいるのか。
それがわからない。
ふと、その中の数名がそのターゲットを変更したらしく、
そのまま、その手を少し離れた先にいるエミルにむけてつきだし、
そして。
「「ファイアー……」」
くぐもったような声において、おそらくはファイアーボール、といおうとたのであろう。
しかし、その声は最後までつむがれることはなく。
直後。
ビュオオオオオッ。
突如として周囲に突発的にありえないことに吹雪が吹き荒れる。
それらは瞬く間にそこにいた敵対しているであろうものたち。
それらを一気に包み込んだかとおもうと、
一瞬ののち、
コキン。
やがて彼らは全て氷の彫像、となりはてる。
「ご無事ですか?」
それとともに、吹雪が一つの箇所にかたまり、くるくると舞ったかとおもうと、
そこから真っ白い着物をきているかのような、
それでいてこれまた真っ白な長い髪…しかしその髪の下部分は、
まるで着物に同化するかのごとくに途中で完全にきえており、
その頭にきらり、とかがやく氷でできた蓮の花のような髪かざり。
そこに特徴的なる紋章、三つ葉のクローバーにV字がかぶさったかのような紋様。
それが髪飾りの中でゆれており、さらにはその額にも同じような紋章らしきものがみてとれる。
真っ白な着物は足元までおおいかくし、しかし、その先に足らしきものはみあたらず、
しかも、ふわり、とそのまま空中に浮かんでいたりする。
しいながここにいればまちがいなく、雪女!?と叫んでいたことであろう。
それほどまでにみずほの里につたわりし雪女伝説、その姿に酷似している。
まあ、その伝説そのものがグラキエスの姿から連想されてしまっているがゆえ、
あるいみ仕方がない、といえば仕方がないのかもしれないが。
『な!?』
何が起こったのか理解不能。
それはほんの一瞬、であったというのに。
周囲にいたおそらくは敵、それらが全て完全に凍りついていたりする。
いわば完全なる氷の彫像。
それらがいたるところにできあがっている現状はこれいかに。
「…グラキエスか。例の件は?」
「とどこおりなく。…しかし、甘い、かとおもわれますが」
一人でまちがいなく動くだろうミトスの足止め。
それを主の命としてうけていたグラキエス。
グラキエスの力においてその身を一瞬こおりづけにし、
時間とともに溶けるようにし、その意識すら一瞬かりとり、
そしてあえて人にばけ、連れのひとがビーチで昏睡している、
とリリーナ達にと伝えにいった。
驚く皆とは対照的に、たんたんと現れた白き姿をした女性に語りかけているエミル。
「――ほう。何やら外が騒がしい、とみてみれば」
ふと、横手の奥のほうから、今度は別の声がする。
「お、お前は!?」
そこからあらわれたのは、変わった服装をしている男性。
体にぴったりとした動きやすそうな仕立てでありながら、
あいかわらずその顔部分まですっぽりと覆ってしまっていたりする。
「っ…くち、なわぁぁ!」
その声とともに、何やらその奥側に位置している左側の建物。
そこからばたん、とでてくる人影ひとつ。
みれば、その背後にはとまどったような表情をしたいくつものエルフ、
そして人間、さらには子供達の姿もみてとれる…が。
扉の向こうにいた見張りのものが突如としてこおりづけとなり、
氷の彫像と化したのをみてとり、外をうかがっていたのだが、
しいなが飛び出てきたのはいうまでもなく。
そこに、裏切り者であるくちなわの姿をみかけたからにすぎない。
「しいな、か。ふん。しかし、雇い主はもう役にはたたんな。
まあいい。ならこの力は前からの約束通り、この俺が使うとしよう」
いいつつも、その手ににぎられているのは、一冊の本。
「「そ、それは!」」
それにきづき、クラトスとユアン、二人が同時に声をあげる。
「…それをどうするつもりだ?」
それをみて顔をしかめつつも、そちらにむけてといかけているエミル。
そんなエミルの目の前には、エミルをかばうようにして、グラキエス、
そしてさらにはソルムまでが姿をあらわし、
護衛するかのように完全に臨戦態勢をとっていたりする。
「きまっている。我が両親の仇をうつ。
しいな、お前はそこで指をくわえてみているがいい。
我が両親を殺したのは精霊。ならばこの魔界の力をもってして、
この俺が精霊達を殺し、そしてお前をおいつめていくそのさまをな!」
そういうなりたかだかとその本を上空にかかげる。
刹那、ぶわり、とした黒き霧が本から発生し、またたくまに目の前の人物。
みずほの里のくちなわの体をつつみこむ。
それらの黒き霧はやがてくちなわの体の内部に吸い込まれるようにきえていき、
「ふ…ふはは!これが、力だ!」
くちなわがかちほこったかのように何やらさけんでくる。
「くそ。魔界の力と契約したか!」
クラトスがそれをみてにがにがしげにいい、
「そこまで魔王達は力を取り戻しているというのか!?」
ユアンもまたぎりっと歯をくいしばりつつもそんなことをいってくる。
「まずは、この憎々しいエルフの里を……」
いいつつ、くちわながさらに本を手にし何かいいかけたその刹那。
ピュィィィィィ。
甲高い鳥の鳴き声が周囲にと響き渡る。
そして次の瞬間。
カッ!!
まばゆいばかりの光りが、辺り一帯をおおいつくす。
「あれは。アスカ、か?」
エミルが腕をくみつつ上空をみあげてつぶやくとほぼ同時。
「……どうやらまにあったようですね。ほんと、自重なさってくださいませ」
ふわり、とそんなエミルの横手からやわらかな声がきこえてくる。
光の中、上空にたたずみしは、まぎれもなく精霊アスカ。
そして、ふわり、とエミルの横に真っ白い光をたずさえた、
見た目白鳥のような、それでいてその尾が幾重にもわかれている、
大きさ適にはちょうど人が一人またがれる程度、といったところか。
…が、光の中より出現する。
あまりの眩しさにエミル以外の全てのものは一瞬視覚を奪われており、
ゆえにそれらの姿にきづいているものはエミル以外はセンチュリオン達のみ。
「ここであなた様が解放をほどこされたらどのようなことになるか。
わかっておいででしょう?」
それでなくても、シルヴァラントや異界の扉とよばれし場所で。
ラタトスクが少しばかりマナを解放しただけでどのように変化がおこったのか。
まさか忘れているわけではないであろう。
それでなくてもラタトスクに近しいこの場でそんなことをすれば。
間違いなく一気にマナは爆発的に高まりをみせる。
これまで少しづつ変化をさせていたのが馬鹿らしいほどに。
そしてそのあまりの急激な変化はまちがいなく、ラタトスクの目覚め。
それを誰にでも確信もたせてしまう。
さらにいえば、そんな力をもつものがいるのかもしれない。
とヒトに懸念を抱かしかねない。
たしかに、アスカやルーメンがこなければ、まちがいなく。
あれをどうにかするためにラタトスクはマナを解放していたであろう。
「…くっ」
「ち。逃げられた、か」
あまりに強き光のマナ。
それに耐えかねた、のであろう。
魔族達は特に光のマナには弱い。
かろうじて本の力を最大限に使用したのか、黒き霧とともに目の前からかききえているくちなわの姿。
しかしどうやらあの本は持ち逃げされてしまった、らしい。
「面倒な。…テネブラエ」
「ここに」
エミルが呼ぶと、すぐさまテネブラエがあらわれる。
といっても、さすがにルーメン、そしてアスカの光の中は、
つらいのか、ひょっこりと、ラタトスクの足元にある影の中から姿をみせているが。
ちなみになぜかその姿をかなり小さくし、影の中にその姿が収まる程度のおおきさ。
つまり、今現在のテネブラエは手のひらサイズの大きさとして現れていたりする。
「かの書物、そしてあの人間をおえ。しかし深追いはするな。イグニス」
「ここに」
エミルの言葉とともに、炎を纏いし鳥が突如としてエミルの間横にあらわれる。
「テネブラエとともに捜索にいけ。
瘴気はお前のマナの炎で焼き尽くすことも可能だからな」
耐性を完全にもちしは、テネブラエとイグニスくらいであろう。
他のものは下手をすればコアにされかねない。
まあ力を自らが取り戻している以上、滅多なことはおこらないであろうが。
念には念を。
「いけ」
エミルがいい、それぞれが頭をさげその場からかききえるのと。
それと光がその場からかき消えるのとほぼ同時。
それはほんの一瞬にもみたない出来事。
「く、くちなわ、は?」
そこにいたはずのくちなわの姿はない。
「さっきの光のどさくさにまぎれ、にげちゃったみたいです」
戸惑いの声をあげるしいなにむけて、エミルが申し訳なさそうにいってくる。
ふと空をみれば、くるくると旋回していた精霊アスカが、
再びどこかにとんでいっているのがみてとれるが。
「…何で、精霊アスカがこんなところに?」
ものすごいタイミングであらわれたものである。
「くそ。禁書をもちさられた、か!」
「そのよう、だな」
「クラトス。私はかの書物の行方を命じる。…お前の件はそのあと、だ」
いうなり盛大にためいきをつき、そのままくるり、と身をひるがえすユアン。
そしてそのまま、ばさり、と翼を展開し、そのままふわり、と浮き上がる。
ちらり、とエミルをみてくるが。
その傍らにいる二つの何か。
魔物、でも精霊でもない、マナをもちしもの。
ユアンはその気配を見知っている。
「……センチュリオン……」
ではやはり。
懸念していたあの少年は、精霊の関係者だとでもいうのだろうか。
それはわからない。
わからないが。
すくなくとも。
「……彼らが目覚めた、というのは確かなよう、だな」
ならば、はやくどうにかしなければ。
精霊の決定が下される前に。
何しろ自分達が裏切っていることをしれば、
それこそ問答無用で地表が浄化されてしまう可能性も否めないのだから。
「…まさか、人間とハーフエルフ達に助けられる、とはな」
疲れたような族長、とよばれしエルフの台詞。
襲撃者はことごとく、氷の彫像となっており、ゆえに閉じ込められていたエルフ達。
彼らもどうやら無事に解放がなされたらしい。
「族長。こういっては何ですが。
たしかに、エルフと人間の関係は必ずしも良好なものとはいえません。
でも、困ったときは助けあう。それが知性をもって産まれたものの摂理でしょう。
彼らはその摂理にのっとって行動したにすぎないのでは?」
ため息をつきつつも、いってくる白き髪に白きあごひげをたくわえているエルフの男性。
「まったく。こんな状況のときまで何いってるのさ!」
「まったくだよね。まずは、お礼をいうのが先じゃないのかな?」
まったく、本当にエルフ達はどこまで愚かになりさがってしまっているのだろうか。
助けられたというのに、ハーフエルフと人が、というばかりで。
お礼をいってくるのは子供ばかり。
ある一定の歳をとったもの以上からはお礼のおの字もありはしない。
捕らえられていた人々は、しいながその内部にはいりこみ、
彼らを見張りのものから助けだした、というのにもかかわらず。
彼らからしいなにお礼の言葉はなげかけられず、かけられた言葉は非難するようなことばかり。
「そうだよね。子供達のほうが素直だよね。
そりゃ、お礼がほしくて助けたわけじゃないけど。
助けたられた相手に非難をむけるなんて、あんたたち何様?」
じとめでそんな大人たちをみるマルタにたいし、
「何を!人間風情が!」
数名のエルフ達がいきりたつように何やらいまだにいってくるが。
「……やはり、みかぎる、か?」
ぽつり、と呟いたその台詞にきづいたは、コレット、そしてゼロスのみ。
コレットは意味がわからずに首をかしげ、ゼロスはおもいっきりピクリ、と反応していたりする。
エルフは古代よりつづく、しかも伝承では精霊ラタトスクとともに降り立った古き種族。
そのはず、なのに。
でも、今【ラタトスク】から発せられたのは、みかぎる、という台詞。
つまるところ、精霊の堪忍袋の尾がきれたらしい。
それにきづき、ゼロスはおもわずひくり、とコメカミをひくつかせざるをえない。
「すくなくとも。命を助けられた相手にお礼もいえないような輩は。
世界とともに歩む、といわれているエルフの理とはかけ離れているとおもうけど?」
冷めたようなエミルの視線に。
「何を!この小僧が!」
一人のエルフがそのままいきりたったように叫ぶとともに、術を紡ぎだそうとするが。
がくん。
突如としてその体をその場に崩れるように床にとつっぶしてしまう。
突っ伏したのは一人ではなく、エミルにむけて攻撃をしかけてこようとしていた、
数名のまだ年若いエルフの男たち。
「まったく。エミル様に何をしようとしてるの?この人間は」
それとともに聞こえてくる第三者の声。
「ソルムか。やりすぎだ」
ソルムのマナをもってしてどうやら彼らのマナを完全に封じてしまったらしい。
そのことにエミルは思わずため息をつかざるをえない。
「いえ。エミル様に危害を加えようとしたものに何の遠慮がいりましょう」
「そのとおりです」
「……トニトルス、お前もか」
いつのまにかそんなエルフ達の頭上。
その場にふわふわとういているソルム、そしてトニトルスの姿をみて、
エミルはため息をつかざるをえない。
しかも、ソルム、だけではなくトニトルスも協力してしまったらしく、
彼らはおそらく今後、二柱の許可がないかぎり、
二度とマナは紡げないであろう。
リフィル達の視界にうつりしは、見た目が亀のような先ほどからいくどかみている不思議な生物。
さらに、今度は新たなる生物、として蛇のような、しかし蛇とはまたことなる、
その体が鱗?正確にいえば、まるでコレットの体が輝石化していたときのような、
輝く鱗のようなものにその身をつつみ、
なぜかその長ひょろい体にて大きめの水晶のような何かをつつみこんでいる何か。
きらり、とその水晶の中で独特な紋章が輝きをもっているのがみてとれる。
『ひっ!?まさか…まさか!?』
その気配に気づいた、のであろう。
エルフ達が何やら悲鳴に近い声をあげているが。
センチュリオン達のマナは独特なもの。
ついでにいえば、つい先日、テネブラエ達がこの地に警告を下したばかり。
「まあ。別にかまわないが。あ、リフィルさん。僕、ちょっと周囲見回ってきますね」
「あ、エミル?まちな…って、いってしまったわね」
ちらり、とふわふわと浮かびし魔物でも精霊でもない何かたち。
それらにエミルが視線をむけるとともに、
まるでそのものたちは同意したとばかりに、
そのままエミルとともに崩れた家の外にむかって移動してゆく。
リフィルがあわてて外にでていこうとするエミルをとめようとするが、
どうやらエミルの行動のほうがはやかった、らしい。
たしかにエミルが一番背後にいたがゆえ、止めるまもなかったといえばなかったのだが。
何しろエミルは崩れかけた壁、いうなれば入口近くであった壁にその身を預けていた。
ふとみれば、なぜかガタガタとその体を震わせているエルフ達が数名、見て取れる。
なぜかはわからないが、自分達が大樹の精霊ラタトスクの配下であるセンチュリオン達。
彼らの機嫌を損ねたのは明白。
しかも、きになりしは、たしかにあの少年のことを様づけして彼らは呼んでいた。
つまるところ、あの少年は大樹の精霊にかかわっている可能性がはるかに高い。
そんな相手にたいし、暴言を吐いた、という自覚が今さらながらにわきおこり、
彼らはがたがたと震えるしかできない。
彼らはまだ気付かない。
気付くことができない。
今まさに暴言をはいたものたちは、ことごとくマナが紡げなくなっている。
というその事実を。
しかも暴言をはいていたのはほとんどの大人たち。
子供達は純粋にお礼をいってきていたが、
ほとんどのものたちは、その場にいる人間達、つまりエミルをふくめて、
確実に罵詈雑言をあびせていた。
いわく、お前たち人間がこの地にやってきたから、
ハーフエルフをひきつれてきたからこのようなことになったのだ、と。
助けられていながらもそのものいいは、ラタトスクを完全に呆れさせるには十分すぎるもの。
「あれは……そうじゃな。我らが愚かだったのやもしれぬ」
忠告をうけていたにもかかわらず、自分達は何もしなかった。
倒れている同胞たち。
彼らはよりによってセンチュリオン達の怒りにふれた。
それがどういう意味をもたらすのか。
伊達にエルフの族長、という納める立場にいるわけではない。
うなだれるそんな族長の姿をリフィルは何ともいえない気持ちでみつめてしまう。
記憶にあるがままのその姿。
まるであのときに時が戻ったかのごとく。
「…族長さま、お久しぶりでございます」
何やらうなだれているが、このままでは話しがすすまない。
それに外にでていったエミルのこともある。
そしてクラトスのことも。
クラトスも気になることがあるといって、この場はやってきていない。
もしかしたら、ユミルの森の水に石がないかどうか探してみる、とかいっていたが。
その封魔の石といわれているものがどんなものなのか、リフィルにはわからない。
「…その顔。バージニア?!…ではないか。では…そうか、娘のリフィル、か」
ざわっ。
「そういえば、あの顔は…」
「じゃあ、あの子があのとき産まれたばかりのあの赤ん坊?」
何やらそんな声がエルフの女性達の間からきこえてきているが。
彼女達からしてみれば、本当は産まれたばかりの赤ん坊をつれての追放。
それは反対したかったのだが、あのとき生じた被害が被害。
それに、リフィルを差し出せ、といって里にまで影響をおよぼしたあの騒動は、
あのままであれば、下手をすれば王国の兵士すら襲撃してきたかもしれない。
そう、今回のように。
あの人間のことはこの地にいるエルフたちとてしっている。
かつて、エルフの女性と恋におち、この里を追放されたとある人間。
王家の血筋だという彼と恋におちた彼女を里のものはゆるしはしなかった。
王家のものはこれまでもロクなことをしでかしていないばかりか、
精霊石を穢す方法をみつけだしたのも、かつての王家の血筋のもの。
もっともそれは研究者がみつけだしたがゆえに、国をあげて開発した。
という実情があれど、責任者であったことにはかわりがない。
そして、今の現状。
差別を助長するかのようなそんな国。
そんな王家の血筋のものを受け入れるなんてことは到底できるはずもなかった。
だからこそ、エルフの一部ものが、改革派、といわれしものたちが、
ハーフエルフ達と繋ぎをとり、その女性を殺した。
いわば、教皇の妻であるケイトの母親は、エルフの里の暗黙の了解で、
暗殺がきめられた、といってもよい。
子供が産まれた、という話しをきき、より危機感を抱いたがゆえの、
当時、こっそりと内密に会議をしたエルフ達の決定。
その決定は事がすんだのち、族長はとある些細なことによってしることとなった。
若いエルフのものたちがそんな凶行に及んでいたなど、族長はしりもしなかった。
あるいみ完全なる監督不行き届き、といってよい。
そしてフィリプはあるとき、その真実をしることとなった。
妻を殺したのは、エルフの里のものたちが黒幕である、と。
あれだけエルフ達はハーフエルフを蔑んでいる行動をみせながらも
実は裏でつながり、自分の妻を害したのだ、と。
ハーフエルフ法とともに、教皇はエルフ法、というものも提出していた。
ほとんどのものの反対にあい、その法律は認められることがなかったが。
それは、もしもエルフ達が外のもの、すなわち誰かと通じた場合、
彼らもまたハーフエルフを製造するに加担したとし、罪とする、といったような内容。
そしてそれは個人だけでなく、親類縁者を含む、という苛烈極まりないものであった。
さすがのテセアラ国王がエルフを敵にまわすのは、といって、
それを却下してしまったがゆえに実地はされなかったが。
しかし、そのかわり、ハーフエルフ法はすばやく施行がなされた。
国によって法律がとおったその翌日。
あっというまにそのお触れは国中にと伝えられた。
「…姉さん?」
「ジーニアス。このかたがエルフの里をまとめられている血族の長。
ブラムハルド様、よ。族長もおかわりなく……」
「うむ。おぬしは…また母親によくにて育った。な。
お前達を村から追放したのは…」
「私が十一、のときですわ」
そしてジーニアスはまだ産まれたばかりであった。
「…お前達が村から追放され、いくつかのエルフ達もいなくなった」
おそらくは、国に通じていたものであろう。
扇動するかのように後から思えばふるまっていたエルフの若い衆たち。
それらの姿がみえなくなった。
騒ぎをききつけたのか、クルシスからあのユアンがこの地にやってきはしたが。
ハーフエルフは中にいれられない、といえば、
ならばこの地もクルシスの裁きの雷をくらいたいのか?
という言葉でエルフ達も従うより他になかった。
禁忌、とされている四英雄の一人、ユアン・カーフェイ。
彼もまたハーフエルフであり、かつてのシルヴァラントにおいて元帥の位置にいたもの。
参謀長官という役職をもちしもの。
もっとも、ミトス達のよ迷い事を見極めてみせるとか何とかいって、
さらには国からもそのような命をうけ、ミトス達と旅を同行することになったのだが。
今では人の世界にそこまで詳しい過去の出来事はのこされてはいない。
クルシスの徹底した情報操作によって、それらの資料は全て破棄されてしまっている。
天使化という技術すらクルシスの操作により、地表から失われていた。
今また、それらが研究されているのはひとえに、
教皇フィリプがロディルと手をむすび、ロディルがその情報をもらしたからにすぎない。
そういえば、先生はここで産まれたっていってたよな。
ならこのおじいさんっぽい人とあったことがあるってことか。
じっとみるかぎり、かなりの年齢の老人っぽい。
ロイドはいまだよくエルフが長命、といわれてもピン、ときていない。
ただ、年をとっているようにみえるから、
子供のころはここですんでいたという先生をしっているんだろうな。
という程度の認識でしかない。
まさかその容姿がリフィルの子供のころからまったくもって変化すらしていない。
その可能性にまったくもってたどり着いてすらいない。
これまでにもプレセアの件でそういったことは幾度もきいたことがある、というのに。
そういった情報と実際を照らし合わせて考える、ということが、
このロイドにはどうやらできていないらしい。
「すまんかったな。リフィル。しかし、あのときはそれ以外に方法がなかったんじゃ」
「…わかっておりますわ。族長さまは最後まで尽力をつくしてくださった。というのは」
それでも、死者がでてしまい、若いエルフ達がおさえられなくなってしまった。
このままでは伝承にきくかつての悲劇が再びおこりかねない。
とれる方法がそのときと同じしかなかったのが彼にとってもいまだに悔やまれている。
「我らはあるがまま、流されるままが正しい。そうおもっていたが…
しかし、それは確実に間違いじゃったのじゃな」
これからエルフ達はどうなるのか。
わからない。
少なくとも、センチュリオン達から彼らの主には伝達がいくであろう。
よもやまさか、その当事者がともに来ているなど、ブラムハルドは夢にもおもっていない。
『?』
そんなリフィルとエルフの長ブラムハルドと呼ばれた初老の男性の台詞をきき、
この場にいるコレット、マルタ、しいな、ゼロス、セレス、プレセア、リーガル、ロイド達。
彼らは首をかしげざるをえない。
ジーニアスは意味がわからなくても、それらの話しが自分達家族が追放された事件。
それを示しているのだろう、と予測がつき、しばしその場にうつむいていたりする。
この場には、アステルとリヒターはいない。
なぜかこれ幸い、とばかりに書庫にこもっていたりする。
他にも奪われたものがあるのではないか、一緒にさがす。
というものすごい屁理屈とともに。
しかも、書庫に納めれている様々な書物。
それらの中身が破られていたりしてもいけないし、とかいうさらなる理屈をつけて、
今現在、かの場所に閉じこもっていたりする。
混乱の直後であるがゆえに、そしてまた目の前に多々とある氷の彫像。
それらを直視し思考が完全に混乱しているエルフ達はあっさりとその提案をうけいれた。
どちらかといえば、好きにしろ、のような感じで。
彼らが信用、というかアステルが信用されていたのは、
幾度かこの村にやってきたことがあるがゆえ。
「…族長。今さら彼女達にあやまってもしかたがありませんわ。
たしかに、この子には罪がなかったでしょう。
あのときこの村での騒ぎは、この子達の家族が利用されたようなものですもの」
一人のエルフの女性が一歩前にあゆみでながらそんなことをいってくる。
「…ルーチェおばさま」
「久しぶり。リフィル。あのときの小さな子がこんなに大きくなって。
こんなに立派になって。…バージニアがみたら……」
そういいつつも、そっとその桃色の髪をふわり、となびかせ、
ぎゅっとリフィルをだきしめる。ルーチェとよばれたその女性。
そして、その両手をそっとリフィルの顔にそえ、
「…エグザイアを尋ねなさい。私にできたのは、クロイツの病気をなおそうと、
訪ねてきた彼らを追い返した里のものたちから少しでも力になれれば。
とおもって、たまたまそのとき村を訪れられていたエグザイアのモスリン町長。
彼に頼むしかできなかったけど…でも、モスリン町長は快く引き受けてくださったわ。
二人でエグザイアにむかったあと、どうなったのかはわからないけども」
あれからのち、まだ彼はこの里を訪れていない。
まあ、十年、数十年に一度程度しか訪れない彼なので、仕方ないといえば仕方ないが。
そんな思いを抱きつつも、かるくため息をついたのち、
「あの地ならば、あなたの両親も、きっと……」
ただ、きになるのは、クロイツの病気のこと。
病気ときかされ、こっそりと別れ際にユミルの果実をバージニアに与えはしたが。
「…おばさま……」
その台詞をきき、おもわずリフィルは息をのんでしまう。
だとすれば、母達があの地に迎えられていたのは、彼女が口をきいてくれたから。
ということなのだろう。
リフィル達家族が追放されるのを最後まで反対したのが、このルーチェだった。
産まれたばかりの子供がいる家族を追放などとんでもない、と。
最後までバージニアをかばっていた。
それをリフィルは知っている。
知っているからこそ、何ともいえない気持ちになってしまう。
そして、それをしっているがゆえか、この場にいるエルフの女性達は、
何ともいえない表情をうかべていたりする。
彼女達も反対していた立場のものたち。
でも、夫にいわれ、仕方なく反対にまわっていた。
それでも、どうにかしよう、と努力していたのもまた事実であり、
あのときの子供がこうして成長してこの里を訪ねてきた。
その事実に何ともいえない思いにつつまれ、
中にはそっと涙ぐんでいるものの姿すらみてとれる。
「……お母様にはあいましたわ」
「まあ。そうなの?…よかった。ならバージニアは無事、なのね?」
「無事…」
「…あれは、そう、いえるのかい?」
「…いえる、のではないでしょうか。すくなくとも…いきては、います」
桃色の髪のうら若い女性、リフィルがルーチェとよんだその女性の台詞に、
おもわずロイドがぽつり、とつぶやき、しいなも苦虫をつぶした表情でいい、
そしてそんな彼らの台詞にマルタがぽつり、とつぶやく。
「?…あなたたち、バージニアに何かあった、の?」
そんなリフィルとルーチェのやり取りをみて、そっと涙ぐんでいた女性の一人。
淡き青き髪をもちし女性がそんなしいな達にとといかける。
「…それは……」
何とこたえていいのかわからない。
どうやらこの場にいる彼らは皆、リフィルの母親をしっている、らしい。
たしかにエルフは長命で、成人すればその成長速度がゆっくりとなる。
それはここ、テセアラでは誰もがしっている常識。
だとすれば、彼らはみため通りの年齢ではない、ということ。
彼らの時間からしてみれば、十数年前のことなど、ついこの間のことなのであろう。
それがわかるからこそ、しいなは何ともいえない気持ちになってしまう。
「クロイツは?ユミルの果実で病気はなおったのかしら?」
「…いえ、お父様は、私たちがこちら側、テセアラにきた直後。
ちょっとした事故にまきこまれてエグザイアにたどりついたときには、もう……」
「そう。でもバージニア、とはあえた、のよね?」
「……はい」
心から心配してくれているのがわかるから。
リフィルは彼女に今の母の実情をつたえることができない。
心を壊し、自分の世界にはいりこんでしまっている、ということを。
「…クロイツは助からなかった、のね。
でも、あなた達が無事で本当によかった。あのとき、あなた達の姿がみえなかったから。
きけば、子供達だけでシルヴァラントに逃した、というじゃない。
それをきき、私たちはこっそりと、ラタトスク様にいのったのよ?
かの地からあの地に移動したであろうあなた達が無事でありますようにって」
ルーチェの台詞にその場にいた女性達がこくこくうなづく。
どうやらこの里の女性達はほぼ同じ思いでいたらしい。
「でも。リ~ちゃん?バージニアと一緒にいなくてもいいの?」
なつかしき名。
いつも、彼女、ルーチェはリフィルのことをり~ちゃん、といってかわいがってくれていた。
少し体の弱かった母のかわりによく面倒をみてくれてもいた。
いつかきいたことがある。
彼女の娘がいきていれば、リフィルと同い年になっていたはずだから、と。
死産、だったらしい。
その名もきめていた、というのに。
女の子ならばアーチェ、男の子ならば……
一緒に考えた、という。
バージニア、つまりリフィルの母と。
産まれてくる子供の名を。
産まれてくるのが男女なら、いいなずけ同士にしよっか。
とかいう冗談すらいっていた、という。
「お母様は、モスリン町長達が面倒をみてくださっているから大丈夫ですわ。
私はやることがありますから。私はこの子の護衛として選ばれた以上、
その役目を、責任を放棄するなんてことはできませんもの」
リフィルがコレットの護衛として選ばれ、旅にでているのは真実。
ゆえに、すこしばかり真実を偽り、否、真実を完全にいっていないだけで、
嘘はいっていないが完全なる真実をつげることなく、
目の前の女性の胸にすこし顔をよせたのち、そして表情をあらため、
彼女の胸から顔をあげ、きっぱりといいきっているリフィルの姿。
「護衛?…もしかして、その金髪の子は……」
ヒトにあらざるマナ。
「…はい。シルヴァラントの神子、コレットですわ。
私は、この子の世界再生の旅に、護衛、としてやとわれ。そして、今は……」
ざわり。
シルヴァラントの神子。
その台詞にその場にいたエルフたち。
女性と男性たち、その態度は様々。
女性達はいたましそうな表情をし、男性達はなぜか睨みつけるようにしてきていたりする。
そんな男性たちの態度にきづいた、のであろう。
きっと、そんな男性たちを睨みつけるルーチェ。
ルーチェの視線をうけ、気まずそうに視線をそらす男たち。
「…まったく。うちの男どもときたら。問題を履き違えまくっているのよね。
絶対に。あの愚かなる大戦。あの争いさえなければ、
大樹カーラーンもかれることなく、ヒトとエルフの間に、
こんなにも隔たりが産まれることもなかったでしょうに」
「…そして、ヒトが愚かにも停戦協定とよばれるものを無視さえしなければ、ね」
ルーチェの言葉に同意するかのように、
さきほどしいなに語りかけた青い髪の女性がうなづく。
「そういえば、えっと……」
「私?私はセフィール、セフィール・カーフェイ」
「ん?カーフェイって…あのユアンと同じ名字、かい?」
「ええ。彼の母親が、私の曾々々…とにかく、四千年前。
私の御先祖様が、彼の母親の兄だったの。それをしっているから、
あのユアンさん、きにかけてくれているのよ?ふふ。
あ、ちなみに私の名は風の精霊様の名をもじったのだ、と母からきかされたわ。
常に風の精霊様の加護がありますようにって」
一族にだけ言い伝えられていること。
マーテルとの婚約にあたり、相談された、ときく。
あのとき、たしかにミトス達は追放されてはいたが、
ミトス達が精霊と契約を交わしてゆく過程で、
村の中ならはいれることはままらないが、森の中までならば暗黙の了解、
として受け入れられていた。
完全に受けいられられたのは、ミトスがオリジンと契約をしたのち。
そしてラタトスクの加護をうけたのち。
それまでの態度をころり、とエルフの民は覆した。
そしてその事実をエルフの民のものはしっている。
男たちはそんな裏切り者のことを伝える必要はない、とやっきになり
自分達の態度をたなにあげ、そのことを闇に葬り去ろうとしたが。
女たちがそれを許さなかった。
エルフの女性達の手により、その真実は今の時代にまでつたわっている。
そして今は姿をみせることもなくなった、精霊達のことも。
だからこそ、ミトス達の話しはこの里では禁忌、とされてしまった。
ミトスがかつて、精霊炉をもちい、精霊達を特定の場所に封じてしまったがゆえ。
そしてこともあろうにオリジンすらもヒトのマナをもってして封じてしまったがゆえに。
「…やっぱり、あのユアンさんも四千年前からいきている、んですか?」
プレセアの戸惑いの声。
これまでにも幾度かはきいた。
そしてロイド達も。
でも、完全に心から納得できていない、というのもある。
その事実をきかされるたびに驚いてしまうのは、
すくなからずどこか心の中で信じ切っていないからといえるであろう。
そして、プレセアがとまどってしまうのは、
自分の時が、永きにわたり、停止されているのを自覚しているがゆえ。
十数年。
それは短いようでいて、ヒトの時間でいけばながい。
かつて小さかった子供達もすでに大人になっている。
本来、普通に成長していれば、プレセアは年相応、
二十八の女性、として妙齢なる淑女に成長していたであろう。
しかし、プレセアの時は、その体は十四のときにとまったまま。
微精霊達が正気をとりもどし、ゆっくりとではあるが穢れをとりはらわれ、
孵化にむかっていっているからこそ、プレセアの体は時間を取り戻している。
この世界、結構ヒトビトの結婚は早い。
早いものでは、十三からするものもいたりする。
大体、適齢期といわれしは、十五から二十歳あたり、ともいわれており、
だからこそ、プレセアはジーニアスに何ともいえない思いを抱いてしまう。
もし、自分が早くに結婚し子供をもうけられることができていれば、
ジーニアスくらいの子供がいてもおかしくなかったのではないか、と。
何しろオゼットでも十五で子供をうむものもいたのだから。
「…それが、微精霊様がたの力を悪用してしまったがゆえの結果なのでしょうね。
要の紋で抑えている微精霊達の力がよりつよくなれば、彼らの体は結晶化し、
そして体が全部、精霊石化することで、彼らは肉体的に死をむかえる。
けど、その魂は、微精霊様がたに囚われ、その魂すらきえてしまう……」
もしくは、それらの魂はあるものにうまれかわっている。
レイス、といわれし魔物達へ。
そしてその事実をエルフ達はしっている。
しっていながら見てみぬふりをしているのである。
自分達には関係ない、とばかりに。
精霊石化。
その台詞に思わず目を見開くロイド。
そんなロイドの表情にきづいた、のであろう。
「?あなた……」
ロイドから感じるマナはクラトスによくにている。
ゆえに首をかしげつつも、
「もしかして、知らなかったのかしら?かつてヒトがうみだせし。
ヒトの世では生体兵器、とまでいわれていた【天使】達の末路」
「……興味がある。きかせてはくれぬか?」
何かここできいておいたほうがいいような気がする。
それゆえに、
「精霊石をその身に宿した、または装備とは名ばかりで、
使用することはすなわち、微精霊達をその身に宿すこと。
微精霊達をその身にやどしたものたちは、やがて、その精神すらも狂わせていきます。
普通、人が世界を構成しているという微精霊達の巨大なる力。
そんなものに耐えられるはずもないんです。
自然界にありしものでその力の浸食をごまかしはしても、
やがては大いなる自然の一部に呑みこまれてしまう。
そして、そのままその精神…すなわち魂すら微精霊達の卵である精霊石にとりこまれ、
彼らはヒト、としての心すらたもてなくなってしまう。
より強い精神力があれば、精神体、として、それに近しい何か。に転生はできるでしょう。
でも、それはもともとのヒト、としての心はのこってはいないんです。
彼らを解放するには、微精霊達を卵の状態から孵化させるか、
…もしくは、微精霊達ごと殺す覚悟で石を壊すか。
微精霊達は石をこわされてもそのゆりかごともいえるものから解放されるだけなので、
大地に還り、やがてあらたな精霊石として時間とともに再生するでしょう。
けど、ヒトの魂はそうはいきません。
そして、石が傷つけば、より微精霊達の悲鳴はおおきくなり、
それを利用しようとしているものによりおおきな負担をかけます。
…ヒトは、微精霊様がたのゆりかごともいえる精霊石を穢すことにより、
力を得た、そう誤認しているのですわ。装備者の能力を最大限にたかめる?
そんなの…微精霊様の力が影響をおよぼし、その装備したもののマナが、
より過剰に反応しているだけだ、というのに。その結果おこる副作用。
それはヒトの体、としての崩壊。ヒトの姿すらままならなくなり、異形とかしてしまうでしょう」
『・・・・・・・・・・・』
エクスフィギュア。
かつて、その変化したものたちの体をヒトはそう呼んでいた、という。
そしてそれすらも戦争に利用していた、と。
それを彼らエルフの民はしっているがゆえに、
世界を構成している精霊達を悪用しているヒトが許せない。
信じることができない。
もっとも、その点に関してはエミル、否、ラタトスクとて同じこと。
この場の光景を離れた場所で視ていたラタトスクはふとおもう。
あの場にいなくてよかった。と。
いれば、なぜにわかっていても、お前達エルフは何もしていないんだ!
と思わず感情のままに叫んでしまっていた自覚があるだけに。
「…異形…マーブル…さん」
「…アリシア……」
その台詞にぽつり、とジーニアスとリーガルがほぼ同時にそれぞれの名をつむぐ。
「異形と化さなくても、やがてその体は完全に全身が精霊石化してしまう。
…かつてはそれすら、ヒトは壊し、つかっていたらしいけどもね。
精霊石は数がすくない。なら、ヒトをあえて石化して、
砕いてつかってしまえばいい、と。すくなくとも数はそろうからって」
『!?』
息をのんだのはロイドだけ、ではない。
この場にいる一行のほとんどのものが息をのむ。
つまり、それは。
「…なの、そんなの、まちがってる!なら、なら…っ」
なら、コレットもそんな目にあってしまうのだろうか。
「…もしかして、神子達の体があそこに保管されていた、のは、よもや……」
「ああ」
リーガルが何かにきづいたようにぽつり、とつぶやけば。
しいなも何かにきづいたかのように、うなづかざるをえない。
まさか、とはおもうが、思いたくはないが。
あの少女達の体は、あらたな精霊石化…クルシスの輝石をつくりだすために、
あえてあのままの姿であそこに放置されているのではないか、と。
…実際、今現在、クルシスで新たにつかわれているハイエクスフィアとよばれしもの。
それらは再生の神子のなれの果て。
「っ。な、なあ。えっと、族長ってあんたいったよな。
頼む。マナリーフをわけてくれないか。このとおりだ!」
がばっ。
その場に突如として床につっぷせ、頭をこすりつけるロイド。
今の話しをきいてだまってはいられない。
コレットの体が全て石になってしまうなど。
許せるものではない。
それが自分のせいかもしれない、という思いがあればなおさらに。
いきなりのロイドの行動にエルフ達はとまどわずにはいられない。
そしてそれは、どうやらいきなり話しかけられたブラムハルドとして例外、ではないらしく、
「…マナリーフ、といったか?」
思わず目を点にしたのち、そうつぶやく彼の気持ちはわからなくもないであろう。
「あ?え、えっと、お願い、します?」
ロイドが頭をさげているのをみて、何をおもったのか、
コレットもその場にちょこん、とすわり、
丁寧にその手をすっと前につき、頭をぺこり、とさげていたりする。
ロイドのなりふりかまわないある意味での土下座、とは異なり、
コレットのそれは優美なる丁寧な挨拶の動作。
しいていえば、三つ指をついて頭をさげるその動作は丁寧なお辞儀、といわれているもの。
人差し指、中指、薬指。
この三本の指先を座った先の膝の前の床につけたのち、頭をさげているコレット。
本来、この動作で深く頭を下げる場合は、
手の平をすべて床につけて深いお辞儀をするとき、
親指、人差し指、中指、これら三本指のあいだに額をつけるようにして行われるが一般的。
それはかつて剣などといった武器が主流であったころの動作のなごり。
といわれてはいるが、しかし今ではそんなことをしっているものはほとんどいない。
いるとすれば研究者か、より礼儀作法を研究、または熟知しているものたちくらい。
であろう。
「ああ。それが必要なんだ。たのむっ」
これでもか、といいつつ床に頭をこすりつけていっているロイド。
そんなロイドの姿にジーニアスも思うところがあったのか。
「え、えっと。僕からもおねがいします!」
いいつつ、ジーニアスもその場にすわり、頭を床にこすりつけていたりする。
リフィル直伝、ザ、土下座。
「…へぇ。シルヴァラントにも土下座の習慣ってあるんだ」
それをみて別の意味でしいなが感心したような声をあげているのがきこえてくるが。
「マナリーフ。か。
あれは我々エルフが魔術の為に利用している大切な植物。
このありさまだから、在庫ものこってはおらん」
たしかに、ここまで家々が破壊され、もしくは燃やされていれば、
のこっていない、という言葉にうなづかざるをえない。
「な、なら、どこで手にはいるのかをおしえてくれれば俺達でとりにいくから!」
それでもロイドは必至にならざるをえない。
今の話からしても、もしかしてコレットの全身が石になってしまうかもしれない。
そんなじわじわとした現実的な恐怖がロイドをつきうごかす。
「滅多なことでは生息地をおしえるわけにはいかん。
特に人間には、な。人間はめずらしいものをみつければ、
研究と称して根こそぎかりつくし、結果としてその種を絶滅させてしまうからな」
そして、狂った生体系はそのまま自然界にも影響をおよぼす。
たとえば、狼が人に害になるから、という理由でかりつくし、
その島国において絶滅させ、その狼がたべていた草食動物たち。
それらが天敵がいなくなったのをうけ暴発的にその種がふえすぎ、
結果としてヒトをおいつめていったように。
「……何とか、ならないのか?その植物がないと命を落とす仲間がいる」
ジーニアスが絞り出すような声でそんな族長にとといかける。
この心優しき神子を助けたい。
リーガルとて心からそうおもう。
目の前で、もうしったものが命を落とすのはみたくは…ない。
それがましてや大切におもっている仲間、とおもえる一人ならばなおさらに。
「?どういうこと、じゃ?」
その台詞に首をかしげるブラムハルドの台詞に、
「病気の仲間がいるんだ。え、えっと、天使こうか……」
頭をさげていたロイドがそのこすりつけていた頭をおこし、
その場にすわったままで、腕をくみ、ひたすらその言葉を思い出そうと頭をひねる。
「違う違う。たとか、永続天使性」
ロイドの言葉にマルタが続けてそういえば、
「永続天使性無機結晶病、です」
さくっとプレセアがそんな彼らにと正解をいってくる。
「そ、そう!それにかかった…」
「なんじゃと!?」
『何ですって!?』
ブラムハルドと、そしてその場にいたエルフ達の女性の声はほぼ同時。
「それって、マーテルさんの……」
とまどうエルフの女性の声がどこからかきこえてくる。
そしてまた、
「…それは、マーテルの…そうか、だからクラトス殿が……」
ブラムハルドも驚愕の表情をうかべ、そしておそらく症状にかかっているのであろう。
さきほどリフィルがいっていた、シルヴァラントの神子…マナのありようから、
天使のマナに近しいのはこの場においては神子ゼロスと、この少女。
もうひとりはいるが、しかしこちらのマナはこの二人のマナに近いが、まだそこまでではない。
だとするならば、金髪の少女。
この少女が先ほどリフィルのいっていた、
護衛となって旅をしている、といっていたシルヴァラントの神子なのであろう。
ゆえに、その視線をコレットにむけ、
「…そうか。シルヴァラントの神子、お前もマーテル殿と同じ道を歩んでしまったのだな」
深いため息とともにそんなことをつぶやくブラムハルド。
「何だって?今、マーテルっていったのかい?!」
しいながそんな彼の言葉をききとがめ、おもわずといかけるが。
「クラトス、だって?」
たしかに今クラトスは石を探す、といってこの場にいない。
まさかアルタミラで出会うなどとはおもっていなかったがゆえに、
ロイドとしては何ともいえない気持ちをいまだにいだいていたりする。
「…クラトス殿のことはいい。
そういうことならば、仕方がなかろう。お前達も知る権利、というものはありそうだ」
それに、とおもう。
訪ねてきたときは便利をはかってやってほしい。
めずらしく里をそれこそ数十年ぶりに訪ねてきたクラトスが彼にいったのである。
彼にとってクラトスは幼いながらに英雄、であった。
大人たちはそれをかたくなに認めようとしなかったが。
幼き日、湖におちおぼれていた彼を助けたのはほかならぬクラトスであった。
クラトスはあのときとかわらず、そして彼自身はこうして年をとってしまった。
天使化、といわれるそのいびつさをより目の当たりにしているこのブラムハルド。
自分達純粋なるエルフですら年をとるのに、ヒトであるはずのクラトスは歳をとらない。
…世界の理に反している存在。
それが天使化、とよばれしものたち。
「しかし、族長!」
「我らはこのものたちに命をたすけられた。
お前達は、ヒトと、ハーフエルフだから、という理由だけで、その恩すらも返さない、というのか?」
「くっ」
一人の若いエルフの青年がそんな族長の言葉に思わずさけぶが、
そんな青年をちらり、とブラムハルドは一瞥する。
言葉が言外にものがたっている。
自分達をあの襲撃者達からたすけてくれたこもたちに、何の恩もかえさないのか、と。
「しかし、あの襲撃者もそいつらが招きいれた可能性が…」
「…それをそこに倒れているものをみてもまだいえるのか?お前は」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
いまだにさきほどセンチュリオン達から攻撃をうけた…であろうものたちは、
床に倒れているままで目をさまさないものがいたりする。
そして、そんな彼らに手をかさないのは、
彼らが怒りをうけた相手があいてであるがゆえ。
下手に手をだし自分達までその怒りをうけてしまえば、考えるだけおそろしすぎる。
センチュリオン達の怒りをかう、ということは自然界における怒りをかう。
しいては自然から拒否される、というのも同意語、なのだから。
「マナリーフの生息地は、ここから東南にあるラーゼオン渓谷だ。
霧深い森の奥にある。そこの奥地にすむ番人にこの杖をみせなさい」
いいつつも、ブラムハルドが自らの腰にさしていた杖をそっとコレットの手ににぎららせる。
マーテルの器、として生かされてきているであろう少女に何も思わないわけではない。
ないが、ヒトがそれを受け入れてしまう体制がミトス達の手によってうみだされている。
それもまた事実なのである。
そしてかつてのエルフ達はそれをとめるのではなく傍観する、という立場を選択した。
自分達はかかわらない、自分達とはかかわりのないことだ、と。
どうせハーフエルフなのだからろくなことはしないし、かかわるのもけがらわしい。
そんな愚かなる理由のもとに。
そしてその選択は、今でもほぼかわっていない。
年月とともにヒトに興味をいだくエルフはでてきているが。
しかし産まれた子供がたどる道。
リフィル達がうまれたとき、里でうけいれられていたのは、
あのときは、若いエルフ達が幾人かヒトと通じていたがゆえ、
ある程度はエルフの里でもみてみぬふりという暗黙の了解がうまれてきていた。
八百年、という永きにわたる繁栄世界、という名の豊かさは、
そのあたりでもエルフ達の認識をあらためさそうとしていたその矢先。
かつてのリフィル達家族の追放事件があったといってもよい。
その結果、再びエルフ達は自衛のため、という理由にて
全てのハーフルエフを拒絶することを選択した。
してしまった。
かつてと同じように愚かなる選択を。
当時、ミトス達を追放したときと同じ過ち、かつてのそのままに。
そして、その過ちは未来にまでもつづいていた。
その事実をラタトスクのみが知っている。
彼らは再び魔科学を産みだしたヒトに見限りをつけ、ヒトの世界から離れることをえらんだ。
里に入り込んだハーフエルフは極刑、などという愚かなる掟までつくりだし。
そして、世界にいる数多の子供達はおきざりにして。
親に突如として行方不明になられた子供達がどうなるか。
わからなかったわけではないであろうに。
それでも、家族を殺されたくなければ、という半ば脅しのような同族の言葉をうけ、
エルフ達は里にとひきこもった。
家族との接触は禁忌、といわれ、残してきた子供にあうこともできず。
「…本当に、愚か、でしかないな」
「?エミル様?」
ふと彼らの様子をみつつ思わずつぶやかざるをえない。
エルフ達はいったいどこで間違ってしまったのだろうか。
この地に移住してきたときの彼らの意思はもはやどこにもみあたらない。
彼らの血筋というのと、かつての世界の我が子達だから、という理由にて、
これまでずっと見守ってきてはいたが。
ここまで愚かなものになりはてているなど。
情けないにもほどがある。
悪い意味でヒトの世界に影響された、というべき、なのだろう。
このあたりは。
時代が違う、世界が違う。
理が違う。
それらがわかっていても、なお。
「…いや、愚かなのは、俺、か」
おもわず自嘲じみた笑みをうかべてしまう。
わかっている。
わかっていても、自分の子供達を完全に切り捨てることができはしない。
こうして努力をしようとしているヒトがいるとわかればなおさらに。
そしてミトス。
今は間違った方向に進んでいるらしいが、本質的にはかわっていない。
だからこそ。
「差別、か。俺からしてみれば、全ては同じマナからうみだされし子供達でしかないのだが、な」
なのに血かどうの、だの種族が違う、だの。
いったい何の意味がある。
全てはラタトスクがうみだせしもの。
全ての命はマナによって構成されている以上、まったくどこにも違いなどない。
というのに。
理由の一つに、ミトスがねつ造したであろう、ディザイアン達の伝承。
すなわちマーテル教の経典の存在があるのであろう。
何しろ”ハーフエルフの愚かなるもの”。
そう経典ではといてしまっている。
その結果、経典にかかれているハーフエルフは女神にすらみはなされているもの。
そう人々が誤認してしまっている。
そしてそれがあたりまえのような世界ができあがってしまっている。
ミトスはどうしてあのような伝承にしたのだろうか。
ハーフエルフであることを誇りにもしていたのに。
マーテルが害されたことにより、自嘲気味となった、というのが正確なところなのだろうが。
このあたりはおそらく当人にきいても答えてくれないであろう。
あのミトスの性格上。
「さて。このものたちはこのままでいい、として。
さきほどリーガルが先刻と同じ手段で国に手紙をおくった。
すぐに彼らの回収はやってくるだろう」
目の前にこおりづけになっている、教皇フィリプ。
「…このものもまた、被害者、か」
そっと手をつけ意識を探る。
彼をここまで貶めてしまったのはほかならぬエルフ達がしでかした結果。
テセアラの王家の血筋だから、という理由だけで、
混血を認められない、と判断したエルフ達の暴走によってうまれた被害者。
そんな中、彼の記憶を探るにロディルと彼は出会った、らしい。
こんな世界はまちがっている。
ならばお前が国王となり、自分がクルシスをおさめることにより、
世界をよりよくしていかないか、と。
自分の背後には魔族もいるのだからなしとげられる、と。
その甘き囁きに当時打ちのめされていたフィリプはのってしまった。
そして魔族とかわってしまったがゆえに、その身に潜んでいた欲。
そして、娘が成長してゆくにつれ、別なる恐怖をフィリプを襲いだした。
自分は歳をとってゆくのに、成人してゆくに従い、助けられなかった妻と瓜二つになる娘。
まるで、妻がどうしてまもってくれなかったのか、といっているかのように。
そんな思いにつけこみ、彼は毎日のように悪夢をみることになってしまった。
毎晩のように妻の幻影…これは魔族によるもの、であるらしいが、
に責められ、そして日々、妻にそっくりになってゆく娘を育てる。
そして成長した娘は死んだ妻と同じ顔で、自分を慕ってくる。
あのときのように時がとまってしまったかのごとくに。
なのに自分だけが時をとってゆく。
それらの現実にフィリプは耐えられなくなっていき、そしてそんな心の隙。
そこに魔族はつけこんだ。
それはロディル達がもくろんでいたとおりに。
心を狂わされたフィリプは自らの娘すら、
目の前からいなくなればこの苦しみから逃れられる、と迫害を始め、
そして自分のような思いをつくらせないためといわんばかりの理屈をもってして、
ハーフエルフ法なるものをつくりあげた。
それはこのものの記憶をよみとったがゆえにわかる過去の思いとその記憶。
グラキエスの力によって浄化の力をもつこの氷にとらわれた彼らは、
ゆっくりと、その魂と器にたまった負の穢れを浄化してゆくことであろう。
このままこのものたちをすておけば、確実に地上における魔族の駒となりえる。
それだけは、何としてもさけなけばならないゆえに、
彼らが自然と完全に浄化されるまで手だしをするつもりはさらさらない。
どうしても、彼らと会話が必要だ、とでもいうのなら、
この器の中より精神体…すなわち魂ともいえるアストラル体だけ抜けださせ、
そこで会話をさせればことたりる。
もっとも、当人にそんな強い思いがあるか、もしくは外的要因がないかぎり、
そんなことはまず起こりえないであろうが。
「それより、いかがなさいますか?いまだにあのクラトスは封魔の石をさがし。
どうやらこのあたりの水場という水場を探しているようですが」
「ほうっておけ。まずは、あのくちなわ、という人間のことがさき、だ。
…どうやら、奴はフラノールにむかったよう、だがな」
たしか、あそこには……
「闇の装備品とよばれし品は全てこちらにある、のだがな」
もっとも、そのうちの一つはいまだにロイド達がもってはいるが。
しかし、アレが力をあれにかすとするならば。
「…折をみてあいつらにどうにかさせる、か」
自分が介入すればあっさりと決着はつく。
が、あのものと約束をしたのはロイド達であり、
ならば最後まで責任をもたせたほうがいいであろう。
~スキット・エルフの里をでて。ユミルの森を抜けている途中~
ロイド「・・・・・・・・・・・・・」
コレット「・・・・・・・・・・・」
しいな「ああもう!くらいねぇ!」
いらいらする。
無言で、それでいて顔をしかめているロイドにも。
そしてうつむいているコレットにも。
エミル「でも、リフィルさん。よかった、ですね」
リフィル「…そうね。…私にとっては小さくともものすごい進歩、ね」
いつでも里にもどってこい。
そう族長から声をかけられた。
かの襲撃はあの書物をねらってのものだとわかった以上、
お前達の追放処分は我らの過ちであったのだから、と。
バージニアとともに。
そのようにいわれ、リフィルはおもわず涙ぐんで、その場から走りだしてしまった。
二度ともどれない産まれ故郷。
ハーフエルフなのに、という声はすでにみられなくなっていた。
意識を取り戻したエルフ達が茫然自失としており、
リフィル達はしらないが、
彼らは力を振るうことができなくなっているのにきづき、より絶望したといってよい。
力がふるえない。
世界の力がつかえない、ということは、世界から拒絶されたにもちかしいこと。
つまるところ、自分達がいったあの台詞は、世界にとっても許し難いものであった。
そう事実としてつきつけられたに等しい。
そしてまた、同じように思っていたものたちですら、
仲間が力を振るおうとしてもまったくもって術の発動もできなくなっているのをまのあたりにし、
心で思っていてもそれを口にすることはなかった。
二の舞にはなりたくない。
そんな思いから。
ゼロス「しかし。渓谷、ねえ。噂によればかなりきつい場所っていうことだが。
セレス、きつかったらすぐにいえよ?
空でもとんでお前だけでも抱えるからな」
セレス「?お兄様?いつもおもうのですが、わたくしの体は前ほど弱くはありませんわ。
お兄様と旅をはじめて、わたくし、ものすごく体の調子がいいんですの」
それこそ以前はちょっとしたことで寝込んでいたというのに。
まったくそんな感じがない。
エクスフィアを手放しても調子はつづき、むしろ、エクスフィアを装備していないほうが、
体の調子がすこぶるよい。
リーガル「…神子はあいかわらず、セレス嬢には過保護全開、だな」
しいな「だねぇ。って、いいかげんに、ロイド!それにコレットも!
その周囲すら暗くする表情はやめな!ったく」
気持ちはわからなくもない。
結局、氷づけになっていたものたちは元にもどることはなかった。
エミル曰く、あの氷は浄化の力をもっているので、
彼らが完全に浄化されるまでは元にはもどらないんじゃないのかな?といっていたが。
というか、浄化の氷、などきいたことすらない。
あのときいた、エミルがたしかグラキエスとかよんでいた女性は、あの後姿をけした。
否、ロイド達の目にはそうみえただけで実際は傍にいる。
なぜだか今後、センチュリオン達は必ず一柱は絶対に傍にいよう。
という話しでまとまったらしく、それをききエミル、否ラタトスクはため息をついていたが。
あるいみで始まりの状態にもどってしまったといってよい。
せっかくいろいろと用事をいいつけては傍にいることをなるべくやめさせていた、というのに。
マルタ「で、でもさ。これで材料がそろうんだよね。
アルタミラにもどったら、
タバサにたのんで、アルテスタさん表にでてきてもらって。
コレットの体を治療してもらえるね!」
リーガル「うむ。タバサの体を借りている…?といえるのかどうかはあれはいえないが。
アルテスタ殿曰く、タバサ嬢の体をかりても技術は使用できる、
といっていたからな」
何でもエンジェルアトポスの細工ほどマナのコントロール。
それが必要なわけではない、らしい。
リーガル「アルタミラならば我が社の研究所もある。
タバサ嬢には、そこに案内し、つくってもらえばどうにかなるだろう」
アステル「ってことは、コレットの希望もみえてきたったことだよね!」
リヒター「…お前は元気だな」
アステル「だって!今回のおれい!といって!
いつでもあの書庫にたちいる許可がもらえたんだよ!
いつもヒトにはみせられないってつっぱねられていたのにさ!」
リヒター「…気持ちはわかるが、な。しかし…エミル」
エミル「え?は、はい?」
マルタ「エミル、エミル!ねえねえ、あの魔物、なんていうの!
あの樹の魔物になってるりんごおいしそう!何とかならない!?」
リヒター「・・・・・・・・・・・」
リフィル「マルタ。あなた、魔物になっている果物をたべるきかしら?」
マルタ「でも。あれ、おいしそう……」
エミル「まあ、あれはユミルの果実に近い効果をもっているのは事実だけどね。
でも、人間には毒だとおもうよ?あれ。マナが濃すぎて、
たしか、食べたら死ぬんじゃなかったかなぁ」
マルタ「げっ」
リフィル「綺麗なものには毒がある、というわけね」
アステル「そういえば、この付近の魔物の調査もエルフの反対でなかなか進んでないんだよね」
エミル「…調査しようとしてるんですか?」
アステル「僕が、じゃなくて国が、だけどね」
リヒター「ここ、エルフの住まし場所は伝承として精霊達の王オリジンがいるといわれている。
国はそのオリジンの力を何とか手にいれられないか。
と画策しているようだがな」
エミル「…また、これだから、ヒトは……」
アステル「僕は純粋なる興味!精霊の王なんだよ!
いろいろときけるだろうし、何よりも精霊ラタトスクのことにかんしても!」
エミル「…アステルさん、なんでそんなにラタトスクのことが知りたい、んですか?」
ほんとうに。
この人間の熱意はどこからくるのだろうか。
あのときですら。
この人間はアクアとともではあったといえど、ギンヌンガ・ガップまでやってきた。
まあ、彼がいうことがあのときにはみとめられず、
ミトスに、ヒトに裏切られたというその感情のまま、彼を殺してしまったのだが。
人は世界にとってやはり害虫でしなかったんだ、そうおもったあのときの思い。
それは今でもラタトスクとしてはかわらない。
でも、害虫も時には益虫となる。
そして、常に相対する関係のものをラタトスクは生み出している。
よりバランスを整えるべく。
狭間たるヒトはどちらにもなりえるが、ゆえにヒト同士で反発することもあるだろう。
その反発がより大きくなりて、なぜかマナを消費する戦争。
にまでほぼいってしまうのは呆れ以外の何ものでもないが。
アステル「ラタトスクにあえれば、世界の成り立ち、世界がどうやってうまれたのか!
それが解き明かされるとおもうんだ!」
リヒター「まあ、世界樹の精霊、などほとんどのものがばかばかしい。
とあまり信じてもいないがな」
エミル「そ、そうなんですか」
アステル「で、できたら友達になって、あれやこれやといろいろとききだして…
絶対にみつけだしてみせる!」
エミル「(…何となく、このあたりはミトスに通じてるぞ・・こいつ…)」
マルタ「精霊の友達。かぁ。なんだかロマンチック!」
しいな「何なら精霊達をよぶから。頼んでみたらどうだい?」
リフィル「まちなさい。まともなこと以外で精霊を呼び出すんじゃありません。
そんなことをすれば精霊達の協力が得られるものも得られなくなってしまうわ」
エミル「(まったくその通り。リフィル、よくいった!)」
マルタ「そういえば、精霊って、食事どうしてるんだろ?」
エミル「普通にマナ、だとおもうけど」
というか事実そのとおりマナだったりする。
エミルがこうして外で食事をしているのも、人の姿をもしているがゆえ。
体内ではしっかりと、そのままマナにしてしまっていたりする。
ゆえに、いまだに誰にもきづかれていないが、エミルいまだに排泄、
というヒト、否、生命体が必ず必要とする行為をしたためしはない。
そこまでする必要性をエミルは感じていない。
エミル「…精霊達は、マナがなくなったら存続できなくなるから、ね」
マルタ「ああ。だから、衰退世界であった私たちの世界では、
精霊達はコレットが目覚めさせるまで眠ってたのか、ね。コレット」
コレット「ふえ?え、えっと、何?マルタ?」
マルタ「もう。コレットったら。あの氷づけになった人達が心配なのはわかるけど。
エミルが大丈夫っていってたんだから。絶対に大丈夫なんだよ!」
コレット「う、うん。でも……」
リーガル「今は少しでもはやく急いだほうがよかろう」
ゼロス「俺様賛成~、ってことで、次はラーセオン渓谷ってか」
セレス「たのしみですわ!世界はほんとうに広いのですわね。お兄様」
ゼロス「おうよ!」
リフィル「たしかに。世界は広い、わね。とにかく、いきましょう。
クラトスはまだ用事があるといって里にのこってるままだけど」
ロイド「あんなやつのことなんてどうでもいい!
あいつ、あのとき、操られてるかもしれない皆を、ジャッジメントで消し去ろうとしてた!」
それでも、あの言葉の裏にはロイドを、自分を心配していた、というのがわかった。
だからこそ、ロイドはいらいらしてしまう。
なぜ、どうして。と。
まるで、そう。
自分を守るためならば何の犠牲もとわない、といっているかのようなあの態度はいったい。
あのときもそうだった。
自分をまもり、自分の身を挺してかばったクラトスのあの行動。
リフィル「で。エミル。あの女性はだから、何なのかしら?」
エミル「ですから。グラキエスのことでしょう?僕の家族の一人ですよ?」
コレット「そういえば、エミル。テネブちゃんのことも家族だっていってたよね?」
エミル「うん。かわいいでしょ?」
ゼロス「たしかに、美人だったなぁ。まるで伝説の雪女のごとく」
しいな「まったくだよ。あたしはあの姿みたとき、伝説の雪女!?とおもったよ」
セレス「でも、本当に雪女でしたら、そのことをはなしたりすれば、
問答無用で話したあいても周囲のものもこおりづけになってしまいますわ」
エミル「…あ~…」
そういえば、グラキエスの伝承は、なぜかセルシウスが暴走したりしたとき。
それらの影響などとまじったような形でつたわっている、というのは知ってはいたが。
ゆえにエミルは何ともいえない声をだすしかない。
事実、セルシウスは負に侵され、
これまでに幾度か街や村といったものを完全にこおりづけにする。
そんなことは多々とあったのだから。
ロイド「それにしても、あの若いエルフの男たち、むかつくよな!」
言いたいことがあるならばいえ、というんだ。
最後まで何かにがにがしげな表情を特に若いエルフ達は浮かべていた。
口にはだすことはしてこなかったが。
リフィル「しょうがないわ。エルフ達にとって、
私たちハーフエルフは忌むべき存在なのだから。
族長さまや他のエルフ達が受け入れてくれた台詞をいったのが奇跡なのよ」
ロイド「でもさ。あんなにあからさまに拒絶してます。っていう態度をしてこなくても。
ハーフエルフっていっても、エルフ達と同じで、
その半分は同じエルフの血がながれているっていうのにさ」
ゼロス「ロイドくんは子供だねぇ」
ロイド「何だと!?」
ゼロス「だから、なんだよ。同じ血が流れているから、こそなのさ」
ロイド「どういう、意味だよ?ゼロス?」
ゼロスにいわれてもロイドにはその意味がわからない。
ゼロス「なまじ自分に近いやつだから、かわいさあまって憎さ百倍。
…骨肉の争いなんてのは、そんなもんだぜ」
ロイド「何だよ、それ、意味わかんねぇ」
セレス「…お兄様。ごめんなさい。わたくしのお母様が……」
ゼロス「セレス、お前は関係ないさ。だから気にするな」
セレス「で、でもっ!」
マルタ「?」
ジーニアス「?どうかしたの?セレス」
セレス「お兄様の実のお母様は…」
ゼロス「セレス。俺様がいい、といってるんだ。言う必要はねえよ」
セレス「でもっ」
ゼロス「いいんだよ。はいはい。この話しはここでおしまいってな。
しかし、ロイドくん、おぼえときな。
血はときとして悲劇をうむこともあるってな」
ロイド「…わけわかんねぇ」
わからない、というのならば、そうなのだろう。
どこまで平和にくらしていたのかがよくわかる台詞。
リーガル「・・・神子の言葉はおもい、な」
しいな「まあ、こいつ、だからねぇ」
リーガルもしいなも、ゼロスの過去のことをしっているがゆえに、
何ともいえない表情をうかべ、神妙なる顔をするしかない。
そう、骨肉の争いほどつらいものはない。
ゼロス「あの教皇が自分の甥っこである今の陛下をころして。
国王になろうとしたように、な。身内だから、という理屈はつうじねえんだよ」
ロイド「・・・・・・・・・・・・・」
コレット「…かなしい、ね。家族でそんな思いをいだくなんて……」
リフィル「そうね。…でも、それがおこるのも世の中、なのよ。
…あなたたち子供にはまだ難しかったかもしれないわね」
できればこの子達が大人になるころにはそんな世の中であってほしくはないとおもう。
そんな思いをこめつつも、リフィルがしずかに笑みをうかべつつ言い放つ。
エミル「ヒトはいつでもそうですからね。
意味もなく自分の子を虐待したり、殺したりするのもヒトくらいですしね」
自然界の動物ならばいきるために、種を選択することもあるが、ヒトはそうではない。
ただ、いらいらしたから、きにいらなかったから。
または邪魔になったから、といった理由で我が子すらにも手をかける。
そして、悲しんでいるふりをするのである。
子供が死んだ、と。
動物や魔物達の中には我が子が死んだことがみとめられず、
ずっと死体を育てようとするものすらいる、というのに。
しいな「…エミル。あんたきついこというねぇ。でもたしかに真実、だね」
ロイド「…そんなの、俺、わかんねえ。というか間違ってる。間違ってるよ」
リフィル「そうね。でもその間違っているのが今の世の中、なのよ。
いえ、ヒトの心というべき、なのかもしれないわね。
間違っている、とおもうのならば、ロイド、あなたは正しくありなさい」
たとえ周囲にどんなことをいわれようとも。
それだけの覚悟と自覚が必要になる。
マルタ「ああもう!なんだかまた話しがくらくなってるぅぅ!
とにかく、はやくいこ!」
ロイド「あ。ああ。そう、だな」
リフィル「そうね」
その他一同『だな(だね)(ですね)』
pixv投稿日:2014年8月18日某日(Hp編集:2018年5月6日(日)
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あとがきもどき:
~豆知識~Wikiより~
益虫
益虫(えきちゅう、英:
Beneficial insects)とは、
何らかの形で人間の生活に役に立つ、昆虫など小動物のことを指していう言葉。
害虫の反対の意味を持つ。
~忍者の身体能力~参考:忍者、とはwiki~
忍者は日ごろからトレーニングを積み上げ、
一対多数の状況でも生還できるだけの力を身に付けています。
例えば忍者は麻を植えて毎日飛び越える訓練を行い、ジャンプ力を身につける。
麻は生長の早い植物で、種類によっては4ヶ月程度で
3~4mにまで生長するといわれており、ゆえに日々それをジャンプすることにより、
飛翔力を伸ばす訓練としている、といわれている。。
また、麻は服などを作るための繊維を採取できるので一石二鳥の訓練であるといえる。
脚力の訓練のために、長い布を垂らして地面につかないようにして走りこむなど
意味もないような修業にみえて具体性のある訓練によって
忍者の身体能力は鍛え上げられているといわれている。
人目に触れないように身を隠す技術に長け
現代で言うところのスパイのような役目を担っている。
忍者は日々の鍛錬によって、一日に百里(一里=約3.937km)の道のりを行き、
3mの高さまでジャンプすることが出来るといわれている。
忍者最大の特徴と言われるのが「忍術」「忍法」と呼ばれる独自の技で、
火や水を操り自在に姿を消すことが出来るという。