まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
pivixさんに投稿していた話の区切りとは変えてあります。容量的に……
今回はついに、救いの塔、突入、です!
マナの欠片を手にいれるため、一行は敵地であるデリス・カーラーンに乗り込みます。
前回、テセアラの暗部をかきましたが、
身分制度というものがある、ということは、やってそうなきがするんですよね…裏で……
しかも、国の暗黙の了解で……
ハーフエルフ法なんて人権無視しまくってる法律がまかりとおってるお国柄ですし…
ゲーム本編ではそんな裏事情なんか語られることはないですけどもね。
あと、エミル側が何をしていたのか、それをすこしばかり。
ちょこっとしたギャグ?みたいなのりになってしまってるのは
あるいみ仕方なし?(自覚あり
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重なり合う協奏曲~ウィルガイア~
翌朝。
イセリア地方のダイクの家にて一夜を過ごした一行。
「これが、女神の護符、だ」
朝になり、ようやく女神の護符、と一般には呼ばれているらしい。
それらが完成したらしく、ダイクがそれらを手にしていってくる。
ダイクから手渡されたのは、蝶の模様らしきものが小さくほどこされている、
ちょっとしたブローチらしきもの。
そのブローチに鎖がつけられており、これは腕輪のようにして、
直接手につけるようになっているらしい。
腕の大きさにあわせ、カチリ、とところどころで修正がきくらしく、
腕にまきつけつつも、適当なところで金具をあわす。
「ロイドには念のため、こいつはコレットちゃん達とはちがって、
絶対に腕輪ならなくしそうだったからな。ちょっと細工して指輪にしてある」
ロイドにわたされたのは、細かな文字と紋様がきざまれている、鈍くひかる銀とも金ともいえない指輪。
コレット達のそれよりもかなり見劣りはするが、一応効果のほどは同じ、であるらしい。
一方、コレットとプレセアに渡された、
鎖にほどこされている細い糸はきらきらと虹色にとかがやき、
手をかざせば光に反射しとてつもなく幻想的。
「女神の護符って詳しくみたことなかったんですけど。
これって…センチュリオンの紋様らしきものが刻まれてます、よね?」
「おう。何でもセンチュリオン様方の加護がありますように、という意味合いもあるらしいぞ。これは」
よくよくみれば、小さくセンチュリオン達全員分、
すなわち八柱分の紋様がこまかく刻まれているのがみてとれる。
コレットとプレセアの腕輪は、ところどころ水晶のようなものが、
鎖の中にあみこまれており、そこにその紋様が刻まれているのがみてとれる。
アステルがそれらをのぞみこみ、確認をとうようにダイクにといかければ、
ダイクがさらりとうなづきながらもそんなアステルの疑問に返事をかえしていたりする。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
おもわずちらり、とミトスをみてしまうエミルは間違っていないであろう。
…どうやらミトスは変なところでセンチュリオン達の紋章。
それを今の時代にまで人々に継承させてしまっていたっぽい。
さすがのこれはエミルも想定外。
まあ、こまかく刻まれているがゆえ、ぱっとみためただの模様。
そうとしかみえない、というのが不幸中の幸いか。
しかも、中心にあるのはあきらかに蝶。
…どうみても、俺をこれ意識してミトスのやつ、デザインしただろ。
そうエミルが思うのは仕方がない。
絶対に。
ユアンにこういった何かをデザインするセンスはほぼ皆無。
クラトスにしても然り。
だとすれば、こういうのを考えだしたのはおのずとミトス、もしくはマーテルとなる。
そして、ミトスは絵もうまかった。
だとすれば答えは必然的に限られてくる。
まさか、あのとき、常に蝶で傍にいたのにきづいていたのか?こいつは?
そんなそぶりはなかったが。
まあ、蝶は自分の分身、または使い。
そんな伝承をエルフの里で伝え聞いて育っていたミトスゆえに、あまり不思議にはおもっていなかった。
そう思いたい。
「…あ」
ふと、コレットがぽつり、とつぶやく。
何かが、すっと抜けてゆくような感じ。
そしておもわずその手を肩にとあてる。
そこにあったはずの固い感覚がすっととれている。
それにきづき思わず目をみひらくコレット。
そんなコレットの態度に気付いた、のであろう。
リフィルがそっとコレットの肩に両手をぽん、とおきつつ。
「…どうやら、ひとまず、抑えられた、ようね」
そこにあるはずの輝石の固さ。
それが今、コレットがソレをみにつけたちょくご、内部にきえたのか、
それとも一時それらの進行がおさえられたのか。
そこまではリフィルもわからないが。
ともかく、コレットの体、特に肩は完全に石とかしていたのに。
それがおさまっているのが感じられる。
さわった肩は石の硬さ、ではなくヒト独自のもの。
「どうやら、予測はあたっていた、ようね」
そのことにリフィルはほっとする。
だからこそ、代々の巫女は必ず護符をつくっては旅立っていたのであろう。
コレットのときにそれをしなかったのは、すでに材料がなかったというのと、
そして祭司達がレネゲードの襲撃で命をおとしていたがゆえ、
そのことを伝えるものがいなかったがゆえ。
もっとも、それをダイクに依頼されてきても、ダイクは材料がないから、
という理由で断らざるを得なかったであろう。
神子の護衛たるマーテル教の祭司。
その代表者には神託の日、クルシスよりとある品が送られる。
そして神子が神託をうけたとき、それを使用するように、ともいわれる。
しかし、その祭司は殺された。
ゆえにコレットにその品が渡ることはなかった。
クラトスは気づいていなかったが、コレットの症状のゆっくりとした進行。
それは一重にエミルの存在があったからこそ。
常にマナを多量に含んだ飲み物や食べ物、それを提供していたからにすぎない。
かつての時間軸においてはエミルはしるよしもないが、
それらの進行をひたすらにコレットは自身の中に隠しきっていた。
ロイド達に心配をかけないように、と。
「さあ。いきましょう。これからいくのは敵の本拠地、よ。気をひきしめて」
リフィルの言葉に思わず顔をみあわせ、こくり、とうなづくロイドとジーニアス。
何がまっているかわからない。
しかし、いつかは避けられない。
ケイトのこともある。
ゆえにロイド達につづき、こくり、とうなづくリーガル。
「でも、アステル、リヒター、あなた達もほんとうにいい、の?」
「クルシスの拠点でしょう?興味がありますし」
できれば戦力外であろう彼をつれていきたくはない。
が、どうやらアステルもひかない模様。
「では、私はミトスさんをつれて、一度テセアラにもどりますね」
ミトスもおそらくは戦えないだろう。
敵の本拠地に連れてゆくのはしのびない。
ゆえに、ひとまず無事にもどってくるまで、ミトスはリリーナ預かり、となった。
下手に研究所につれていけばハーフエルフということもあり捕らえられてしまうので、
ならば、リーガルがアルタミラでまっていればいい。
そういって、一筆したためた。
それをレザレノにもっていけば、優遇されるらしい。
「タバサ。ミトスをお願いね」
「わかり、ました」
すでにアルテスタの人格は再び休眠したらしく、その表にでてきているのは、
タバサの人工知能たる人格。
何でも他人の体で技術をつかったがゆえ、記憶と人格でしかない彼も多少つかれた、
とのことらしく、今はタバサの中で眠りについていたりする。
レアバードの使用方法。
それらを簡単に教えたのち、二台のレアハードを彼らに貸し出すリフィル。
結局、すくいの塔にむかいしは、ゼロスがひたすらにまっていろ、
といってもききいれなかったゼロスの妹を含め、
リフィル、コレット、ジーニアス、ロイド、マルタ。
そしてしいな、プレセア、ゼロス、リーガル、アステル、リヒター、そしてエミル。
この十三人での突入、ということに昨夜話しはまとまった。
いつのまにかエミルが呼んでいた、のであろう。
これまた見たこともないような、透き通った小さな、人が一人が二人のれるか。
といったくらいの竜がちょこん、と少し先にとすわっているのがみてとれるが。
しかしその体は完全にすきとおっており、
かといって、全員が透明、というわけでもなく。
腹のあたりは紫で顔の下部分、そして翼らしきものは青。
小さな二つの前足をちょこん、と前にだすかのように伏せの状態でその場に待機しているそれ。
「…エミル、さっきからきになっていたのだけど、それは何、かしら?」
エミルが間違いなくよんでいる。
しかし、こんな魔物、否生物だとしてもみたことすらない。
「え?この子ですか?クリスタルドラゴン族の子供で、
種族名はまだ子供なのでそのまんま、クリスタルパヒー、といいます。
かわいいでしょ?ちなみに名前はココっていいます」
いや、聞きたいのはそうではない。
というか、そんな魔物というか種族きいたことすらない。
ぴくり、とミトスが何やら反応しているのにきづいたのは、この場においてはゼロスのみ。
ミトスはその種族のことをしっている。
そう、かのギンヌンガ・ガップに出向いていたときに、
かの地にそういった種族である魔物がいたのをミトスはみたことがある。
「へぇ。かわってるな。…というか、透明、なのに内臓とか何もみえないな。それ?」
興味をひかれた、のであろう。
ロイドがまじまじと近くにより、ココをじっと眺めているが。
「それはそうだよ。この子達の体は水晶体でできているからね。
たぶんロイド達がおもっている生体系とまったく異なるし。
そうだね。ロイド達にもわかるようにいえば、この子も無機生命体、のくくりになるのかな?」
『!?』
さらっといったエミルの言葉にその場にいた全員が息をのむ。
それはコレットが、否、天使がそのくくりにはいる、といわれていた種族。
エミルがちかよれば、甘えるようにとすりよってくるその様は、
感情がない、とおもわれているそれとは到底おもえない。
「この子達はマナを吸い込んで、水晶の成長とともに大きくなっていくからね」
「…始めてみたわ。そのような魔物なんて」
「まあ、そうでしょうね。この子達は滅多に人前にはでませんし」
以前、彼らを倒しただけで膨大な数の水晶、もしくは鉱物が手にはいる。
という理由で人間達はこの種族の魔物達を狩り尽くした。
これはあぶない、とおもいラタトスクがギンヌンガ・ガップに彼らを招いた。
そして彼らに地中における自在な移動ができる力を新たに与え。
「自然にも、この子達にも、ヒトが気付かないだけで心はあるんだよ。
この子達はその心が表にでてきて生命体へとなっているだけ」
普通の生命、とはおそらくヒトはみないであろう。
ただの石の化け物、もしくは魔物としかみないはず。
でも、この子達にも心はある。
この子を呼んだのは、ミトスにわかってほしいから。
ミトスは心をなくして無機生命体の王国をつくろう、とおもっているらしいが。
しかし、無機物にも心はあるのだ、ということを。
いずれは確実に封じたはずの心も再び育ち、自我をもつ、ということを。
どうみても自我をもっているとしかおもえない水晶のように透き通ったその魔物は、
あまえるようにエミルののばしたてにひたすらその顔をこすりつけるようにしていたりする。
それは小さな子供が、甘えているようなそんな感じをうけてしまう。
「この子達には、きみたちのように、心臓も、そして血も流れてはいない。
けど、きちんと生きているんだよ」
だから、ミトスにはわかってほしい。
彼がいっていることは、どちらにしても心を封じる、というのは無理なのだ。と。
かならず、心、というものはどんなものにも産まれる可能性があるのだ、と。
ミトスがかの地に戻るまえに、それだけは思い出して、そして知ってほしかった。
できうれば、かの地にもどらずに彼らとともにいて、
かつてのミトスにもどってほしい、という願いも。
それらの多少の思いが心に含まれているとはいえ。
「タバサ、みたいだね」
タバサもまた自動人形、とアルテスタがいっていた。
機械仕掛けなのだ、と。
「でも、タバサさんにも自我は芽生えてる、でしょ?
たしかアルテスタさんがいうには、成長式の人工知能っていってたし」
実際、タバサには心が芽生えはじめている。
当人は自覚していないようではあるが。
本当に、とおもう。
かつてのマーテルはなぜ、彼女を核、としてしまったのだろうか。
彼女は誰かの心を乗ってるようなことはよしとしなかったはずなのに。
しかし、あのマーテルの核となっていたのはまぎれもなくあのタバサである、
そうエミルはそのマナのありようからわかっている。
エミルは知らないが、それはミトスの攻撃により、
完全にタバサの人工知能が壊されてしまい、いうなれば死んでしまったがゆえ。
そこにマーテルの意識がはいりこみ、タバサとしての体をいかした。
そしてその体を核として、数多の少女達の思念というか精神体をとりこみ、
そして意識集合生命体…人工精霊と変化した。
世界樹の精霊、マーテル、として。
『それは……』
「・・・・・・・・・・」
そっと恐る恐るミトスがクリスタルパヒーだといった竜、ドラゴンに手をのばすと、
ドラゴンはなされるまま。
まだ子供であるがゆえに、人に対する恐怖などと、というものはこの子はもっていない。
さらにいうならば、王が傍にいる、という安心感も手伝っている。
王が傍にいるものたちが悪いものであるはずがない。
それは無意識における絶対的な信頼。
ひんやり、としたその体はたしかにその体が水晶である、というのをものがたっている。
でも、どうみてもこの水晶でできている竜には意識がある。
なぜ、とおもう。
無機物、とはこんなに意識が誰にでもわかるようなものなの、と。
永き時の中でたしかに、自我をのこしたままの、しかも反旗をひるがえすようなもの。
そういったものも天使化していゆく過程ででてきてはいた。
始めのころはありえない、と排除していたが
あまりにつづくので彼らの精神コントロールをミトスは優先した。
いちいち排除するよりは、心をコントロールしてしまったほうがはやい。
そう結論づけ。
「この世界にいきているものは、全て心がある。
ただ、それをヒトは忘れてしまってるだけ、だからね」
「…耳がいたいわ、ね。でも、たしかにエミルのいうとおり、なのでしょうね」
エミルの台詞にリフィルが顔をしかめる。
しかし、エミルのいうことは間違っていない。
「・・・・・・・」
なら、僕がしようとしていることは?
エミルがいうように、本当にいつかは心がうまれる、というのならば。
ただの無機生命体にした、というだけでは本当の静かな、心安らげる世界というものはなりえないの?
それは小さなミトスの心に芽生えた不安。
ずっと目をそらしていた、でも目の前につきつけられたこの現実。
たしかに、目のまえにいる竜はあきらかに水晶そのもの。
でも、いきて自我があり、そして心ももっている。
それはミトスの心をゆさぶるには十分すぎるほど。
かつてミトスはちらり、とそれらをみただけでじっくりとみたことはなかった。
アクア達から、あれはクリスタルドラゴンという種族よ。
そういうことしかきいていなかったし、
わざわざ彼らをみをみにいくよりは、早くラタトスクの間にいきたかった。
それらのことを思い出し、また心を揺さぶれらてしまったミトスは無言になるしかできない。
否、無言にならざるをえない。
「…そして、それらの自然をヒトは傷つけ、破壊している、か」
リーガルも開発者の立場として思うところがあるのか顔をしかめていたりする。
「僕はこの子にのっていきますね。それだとレアバードの数もたりるでしょう?」
ミトス達にレアバードを二機わたせば、残りは六機。
二人づつのったとしても一人あぶれてしまう。
ノイシュはいつものように小さくするから問題ないとしても、である。
ロイド、もしくはエミルがいれば彼ら三人のうち誰かを小さくして運ぶ。
というのもできるであろうが、ソーサラーリングはロイドとエミルしかもっていない。
そして、リリーナも開発途中のものがあるとはしってはいるが、
効果なものであるがゆえにそうほいほいと持ちだせはしない。
というか使ったらこわれる、というようなものを壊せばどうなるか。
まちがいなく犯罪者、として処刑されてしまう。
リリーナはそれは避けたい。
ゆえにそんな危険な行動はおかしはしない。
「なるべく早くもどるから。ミトス、まっててね」
ぎゅっとミトスの手をにぎりつつ、それでいてミトスを気遣うようにいっているジーニアス。
「うん。ジーニアス。それにリフィルさんも皆もきをつけて」
そんなジーニアスの手をにぎりかえし、儚いような感じをうける笑みをうかべ、
ジーニアス、そしてリフィル達をみながらも言うミトス。
ミトスからしてみれば、一緒にいこう、といわれたらどうしようか。
ともおもっていた。
一部のものはミトスのこの姿をしっている。
ユグドラシル様、とよばれでもしたらそれこそ面倒。
ゆえに、待っていてほしいといわれたときにはほっとしたほど。
これならば、自由行動がきく。
ユグドラシル、としてデリス・カーラーンにもどることすら。
リリーナとタバサくらいならばどうとでもあしらえる。
それがエミルが、否、ラタトスクがミトスの今を完全に確認してみよう。
そんな試しの行動である、ということにミトスは気付かない。
否、気づくことができない。
「ま、とりあえず。いくしかないっしょ。
いつかはいかないといけないんだしな。コレットちゃんのためにも」
「ええ。そうね。いきましょう」
そのまま、それぞれレアバードにと乗り込み、ふわり、とそのままうきあがる。
眼下には後からテセアラにむかう、というダバサ、リリーナ、ミトスの姿がみてとれるが。
「いくわよ。目標、救いの塔!」
リフィルの言葉に従い、一気に六機のレアバードが浮上する。
「さて、と。いこっか」
「ぐるるるっ」
ぽん、とエミルがかるく頭をなでると、よりその体をひくくさせてくるクリスタルパピーのココ。
そのまま、ひょいっとエミルがその背にまたがると、ふわり、とココもまた上昇する。
きらきらとその水晶の体が太陽の光に反射し二色にときらめくその様は、まるで飛ぶ宝石のごとく。
世界の中心にある、といわれている塔。
それが救いの塔。
実際はかつてその場に大樹カーラーンが存在していた場所。
地下にはいまだにその名残、ともいえるちょっとした固まりの根も存在している。
さらにその奥の奥には、生命の場とよばれし場所も。
それはこの新たな世界の根源といえる核のような場所。
すでにそれはこの惑星の完全たる中央に移動し、ゆっくりとこの惑星の理ごと、
多少の変更を施しているにしろ。
「そういえば、世界が一つにもどったとき。世界の名前ってどうなるんですかね」
それは素朴なる疑問。
以前のときは、テセアラとシルヴァラント。
互いの戦乱がおさまり、シルヴァラントのイセリア、そしてテセアラ。
二つの神子の家系が話しあい、決まった名が、アセリアという名。
そこから、アセリア歴、というものが発生していた。
テセアラとイセリアを混じっての名をつけたのがその名の由来、であったはず。
そして、二つの世界、かつてのできごとを忘れないために、
それぞれ空にある二つの月に、名をつけた。
といってももともと、互いの世界の人々は、
月の名を互いの世界でよんでいたがゆえ、さほど混乱はおこらなかった。
青い月と白い月。
どちらがどちらの名にするか、で多少もめたくらいであったはず。
「そうか。世界が一つにもどったら、名前も必要となってくるんだよな。
今はシルヴァラントとテセアラ、とよんでいるけど」
「世界が一つになったら、勢力圏としての名、でしかなくなるわね。たしかに」
エミルの素朴なる疑問というか問いかけに、ロイドがうなづきつつもいってくる。
今現在、救いの塔をめざし、空をとんでいる途中。
そんなエミルの問いにリフィルも思わず考えこんでしまっている様子がみてとれる。
今はまだいい。
しかし、世界を一つに統合したとき、世界の呼び名。
それはたしかに必要不可欠、であろう。
「四文字が一緒のテセアラ、イセリア、その二つの名をもじる、とか?」
「ジーニアス。そんな単純な…いえ、でも悪くはないのかもしれないわね」
そういえば、とおもいだす。
あのときも、後々ジーニアスが成長したのち、世界に名をつけていたな、と。
彼らが死んだのち、世界の名は決定された。
当時、マナの切り離しではしりまわっていたセンチュリオンからそのような報告をうけた記憶がある。
ロイドは天使化、という過程でコレットとともに表舞台にはあまりあらわれなくなっていた。
それは二人を利用しようとする輩があまりに増えてきたがゆえ。
こっそりと一時期、エルフの里にて二人は住んでいたことすらある。
彼らが命を落としたのは、ラグナログとよばれし争いのとき。
そして、そんなロイド達の魂をラタトスクはクラトスにと託した。
ちょうど接近してきた彗星にいまだにいたクラトスに。
それは前の時間軸のことであり、ラタトスクにとっては懐かしき記憶。
まあ、あのアセリア歴の中で、ラグナログが発生してしまったりした、
というのは何ともいえない思いではあるが。
そして、彼らは一時、その文明の高さから、アセリア歴を旧暦、とし、太陽暦、というものをうみだした。
それがかつての古代文明とよばれていたトール達をはじめとした文明たちの時代。
最も彼らが滅んだのち、再びヒトはアセリア歴を戒めをこめて使用開始していたが。
「うむ。その辺りも陛下と、そしてマルタの両親と話しあう必要があるであろうな」
シルヴァラントの代表といえばイセリアのマナの血族かもしれないが。
しかし、テセアラにもマナの血族と王家、というものがある。
同じ土台でなければまちがいなくテセアラの人々はシルヴァラントのものたちを見下してしまう。
特に身分制度、というものになれてしまっているものたちはとくに。
それがわかるがゆえに、リーガルもうなづかざるをえない。
「…パパがいってた、王家の復興、か。私は意味がない、とおもったけど。やっぱり必要、なのかなぁ」
「まちがいなく、国がなければ、我が国の人々は
シルヴァラントの人々を、統治するものもいない蛮族、と見下しかねませんしね」
さらり、ときっぱりと断言するかのようにいいきるアステル。
伊達に九歳のころから様々な嫌味をうけつつも研究所で過ごしていたわけではない。
そういった人々の負の面、というのはアステルはよく理解しているつもりである。
テセアラの人々は身分制度、というものがあるせいか、無意識のうちに見下すものをもとめている。
そして、自分より身分が低いものをみて安心するのだ。
ああ、自分よりも境遇が悪いものがいるんだ、と。
その最下位の位置にさせられたものはたまったものではない。
同じヒトだ、というのに。
そして、今現在、その役割は、狭間のものだから、という理由だけで、
ハーフエルフという存在にテセアラはおしつけている。
そういった意味での狭間のもの、というのならば、
エミルからしてみれば、ヒトそのものが狭間の存在だ、というのに。
たしかに、あの当時もテセアラの人々はシルヴァラント人を見下していた。
シルヴァラントのものにナサケをかけるつもりはない。といい。
公共の場で平気で力なき老婦人を蹴り飛ばしていた。
しかもテセアラの祭司が。
あのとき、助けにはいったアリスの言葉はあるいみ真実といってよい。
何かを成すにはどうしても力が必要なのだ、と。
そしてアリスはこうもいった。
ロイド達というかコレット達を力ある偽善者だ、と。
力があるからこそ、そんな世迷言ともいえることをいえているのだ、と。
それはかつて、クラトスがロイド達にいったこと。
ロイドがイセリアのことで悔いていたときに、クラトスがいっていた言葉とだぶっている。
もっともそんな事実をラタトスクは知らないが。
アリスといえば、デクスとともに
どうやらイセリアの牧場にフォシテスに保護され、どうやら生活しているらしい。
魔族と契約したアリスをおそらく同族たるアリスをフォシテスはほうっておけなかったのであろう。
かつて同族のためにテセアラで大量虐殺をもしたというハーフエルフの英雄フォシテス。
彼が殺したものは関係者ばかりで無関係なものには一切手をつけていない。
だというのに、テセアラでは悪逆非道な存在、として語り継がれてしまっていたりする。
テネブラエ曰く、かの書物にあらたに封じられているっぽい残留思念。
そのうちの一人がどうやらイセリアにある牧場主、であるらしい。
ミトスはどうやらかつて、再びかの書の再度の封印強化をほどこしているっぽい。
ミトス達以外に感じた気配は三つ。
イセリアの牧場内部にいる魔物達と縁を結びにいったとき、
テネブラエはその気配に気づいた、といってはいたが。
フォシテスのことは、先のテセアラでの書庫にてエミルは目にしている。
コレットの治療方法をみつけるとき、たまたま手にとった書物にそのことがかかれていた。
あの書物にはその当時のことが簡単ではあるがかかれていた。
当時の人々が意味もなくハーフエルフを虐殺していったことも。
そしてそれがさも当たり前のようにかかれていたことにたいし、
ラタトスクからしてみれば嫌悪以外の何ものでもなかったが。
「そのあたりは、ブルートさんたちが、ファイドラ様と話しあいの結果。
何とかしてくれる、そう信じましょう」
ルアルディ夫妻はフィイドラと、すなわちマナの血族の最高権力者である彼女と会話をする。
そのようなことがかかれている書をマルタに託していた。
ならば、彼らがよりよい結果をもたらしてくれる。
そうとしかリフィルはいいようがない。
自分達だけではどうにもならないこと、というのはどうしてもおこりえているのだから。
「見えてきましたよ」
いってエミルが指差す先には、雲をつきぬけそびえたつ一つの塔。
かつてはこんな塔はなかったので、
ラタトスクが眠っている間におそらくは、精霊達の力をつかいつくったのであろう。
もしくは彗星の中の内部にあるちょっとした品をつくるプログラム。
あれをみつけだして使用したのかもしれないが。
「あれ?塔の周り……」
ふと、アステルが何かにきづいたようにぽつり、とつぶやく。
塔の周りに薄く輝く膜、のようなものがみてとれる。
「あれは…もしかして、結界?まさか…以前のときはコレットの輝石で解除されていたようだけど」
そういえば、とおもう。
あれから救いの塔にいっていなかったゆえに、もしかして、その結界が再び再生したのかもしれない。
「前のときは、私が近づいたら結界が割れるようにきえた、んですけど」
たしかに目の前に塔、はあるのに。
その内部にリフィルたちは入れない。
「?あれ?どうかしたんですか?」
一方で、するり、とそんな結界をものともせずに内部にはいったエミルはといえば、
なぜか足止めをくらっているリフィル達をみつめ思わず首をかしげてしまう。
「いえ。というか。エミル、あなたはなぜにこれにはいれるの?」
そっちのほうがかなり重要。
どうやら完全に結界らしきもので塔は覆われているらしい。
「先生、それより、雲いきが……」
さっきから雲行きがあやしい。
先ほどまで青空であったはずの空はこのあたり一帯は薄暗く、
まだ昼前だ、というのにとてつもなく暗い。
よくよく感じれば、上空から雷らしき音すらも時折聞こえてきてはいた。
そんな空の様子をふとみあげ、
「ここが無理なら、テセアラ側に移動してみたらどうですかね?」
「今から、シルヴァラントペースにいってマナの供給をうけろ、と?」
エミルのいい分はわからなくもない。
が。
「いえ。ちょうどいいマナの供給がそこにあるみたいですし」
トニトルス、ヴォルト。
エミルがすっと目をとじ、意識するとともに。
ピシャァァン!
ゴロゴロゴロ…
とてつもなく盛大な雷の音と、それとともに、どざぁ!と突如として雨が盛大に降り始める。
「これは!?まさか突発的豪雨!?いけない、皆、きをつけ…っ」
リフィルがそういうよりも早く。
「まずい!」
そう叫んだのは誰の声か。
ドンガラガッシャァァン!
盛大なる音と、そしてリフィル達の目の前に光がほとばしる。
レアバードの動力源は雷でつくられている電気。
ゆえに一気にそれをみたし、強制的に次元の移動装置を起動させたまで。
リフィル達はといえば目の前で雷を直接まのあたりにしたせいか、なぜか気絶しているようではあるが。
「…えっと」
とりあえず、気絶している全員をそのままレアバードからひとまずおろす。
エミルがすっと手をかるく横にするだけで、彼らの体はふわり、
とエミルが手もふれていないのにと浮き上がる。
「って、うお!?」
どうやら一行の中で一番始めに気がついたのはゼロスらしく、
ふわり、と浮き上がった状態で何やら驚きの声を発しているが。
「って、え?え?…エミルくん、何やってんの?」
間の抜けた声だ、と自覚しているが聞かずにはいられない。
というか、さっきのいきなりの雷もエミルの仕業のような気がしてならない。
「皆が気絶しちゃってるから、レアバードから下ろそうとおもって」
いや、それはわかる。
ふわふわとゆっくりと空中にうかびながらも全員がそのままゆっくりと地面に横たわっている。
そして、エミルがかるく指をぱちん、と鳴らすとともに、
そこにあった六機のレアバードは光となりて、しいなの腕輪の中にと吸い込まれてゆく。
「どうやら、さっきの雷のエネルギーで、救いの塔の軸のまま世界移動をしてるみたいですよ?」
というかそのようにした、というのが正しいのだが。
「…まあ、深くはきかないけどよ。というか、だとすれば、ここはテセアラ、か」
たしかに周囲をみれば、シルヴァラントと違い、自然豊かな大地が目にはいる。
そうこうしているうちに、やがて。
「う……」
一人一人がうめき声とともに、なぜか頭をふりかぶりつつも目をさまし、
そのままゆっくりとおきあがる。
「いまのは、いったい……」
まだ目がちかちかする。
というか、生きている。
目の前で雷の直撃をうけるか、と思わず身構えたのに。
「雷のエネルギーで世界移動をしただけみたいですよ?
あ、レアバードは一応、しいなさんのあれに収納しておきました」
目覚めてゆっくりとおきあがるリフィルにとさらり、といっているエミル。
「?それは、いったい……」
よくよくみれば、周囲にそれぞれ気絶しているらしき他のものたちの姿がみてとれる。
リフィルがそんなエミルに問いかけようとしたその直後。
ぞくり。
とてつもない悪寒がリフィルの体をつきぬける。
思わずはっとして身構えるリフィル。
その気配は背後から。
振り返ったその先にはみおぼえのある塔がたしかにありはするが、
それはリフィルのしっている塔の入口、ではない。
どこかが違う。
エミルがいうのが真実、だとするならば。
ここはシルヴァラントの救いの塔ではなくテセアラの救いの塔、とでもいうのだろうか。
「……リリス?」
リフィルがはっと振り向くよりもはやく、エミルがそちらのほうをみて、首をかしげ、一つの名を紡ぎだす。
はっとリフィルが振り向いたその先。
そこに見慣れぬ一人の女性の姿が目にはいる。
腰のあたりまであるであろうストレートの漆黒の髪はまるで濡れているかのように、
つややかな輝きをもち、ヒトにあらざるごときの透き通るような白い肌。
そして血のようにつややかな口元に、金色の瞳。
服は漆黒のワンピースのようなものでありながら、
その服そのものがつややかな闇のイメージをふと彷彿するがごとく。
シンプルなワンピースは目の前の女性の体形をこれでもか、というほどに強調している。
スタイルはかなりいい。
いいが、何だろう。
彼女をみていれば、恐怖、という感情のほうがリフィルには先にくる。
なぜか無意識のうちに体が身構えてしまっているのに気付き、
リフィルは戸惑いを隠しきれない。
「こりゃまた、ずいぶんと……」
ゼロスも思わず言葉をつまらす。
ものすごい美人、なのに。
悪寒がとまらない。
「めずらしいな。リリスがここにくるとは」
「アリカからききまして。本当に【外】にでられていたのですわね」
くすくすと、そういう女性、どうやらこの女性の名はリリス、というらしい。
そして、そのやり取りからエミルとこの女性は知り合いらしい、とみてとれるが。
「すいません。リフィルさん。僕、ちょっと彼女と話しがあるので。
皆のことおねがいしますね。あ、先に何でしたら塔にいっていてもいいですよ。
もしかしたら、彼女の用件、ちょっと時間かかるかもですし」
彼女が直接ここにくるなど滅多とないこと。
普段は魔界ニブルヘイムにこもっている、というのに。
「え、ええ」
リフィルはエミルの言葉にうなづくしかできない。
その金色の瞳にみられていれば、何もかも捨ててしまいたくなる衝動がおそいくる。
全てをゆだねてしまえばいい。
その感覚は、
「…魅了?」
そう、魅了の術の感覚に近い。
しかし、相手はそんな術をつかっている形跡もない。
だとすれば無意識の体質、とでもいうのだろうか。
とまどうリフィルをその場にのこし、
エミルがその女性のほうに近づいてゆくのを茫然、と見守ることしかリフィルはできない。
『何の用だ?』
『ラタトスク様が新たな魔界を作成されている、とききまして』
二人してまたまた判らない言葉で会話をはじめているエミルとその女性。
それは精霊達と話しているときの旋律ともまた異なる何か。
「……あとでお前達には伝えるつもりだった、のだがな」
だが、せっかくやってきたのである。
先にあの場をみせておく、というのも一つの手であろう。
それに、クラトス達の会話からして彼らが殺される、ということもないだろう。
「――ソルム。かの地にてはありし日の姿をみせるように、
かの残りし器にありし日のものたちの姿を投影しておけ」
「――御意に」
どこからともなく、肯定の声がその場にととどく。
その意味はリフィルにもゼロスにも理解不能。
「では、まいりましょうか」
「そうだな。ここで、というわけにもいかないし、な」
このままここで話していてはいらない勘繰りをさねかねない。
否、すでに彼女がここにきている時点でいらない勘繰りをされるのはわかっているが。
しかし、まだ目覚めているのはリフィルとゼロスのみ。
ならば後はどうにでもなる。
エミルがかるく手をふるとともに、
ばさり、と待機していたクリスタルパヒーのココが、すばやくエミルの手前におりたってくる。
その背にエミルが素早くまたがるとともに、
女性背から、真っ黒なコウモリのような翼がばさり、と生える。
「…ひゅう。あの女性、もしかしてあんな美人なのに魔物、なのか?」
「いえ、あのマナのありようは…魔物、ではないわ」
みているだけで嫌悪というか避けたいなうな衝動。
そんなもの、リフィルは知らない。
否、知っている。
この感覚は。
この感覚は、かのち、ハイマにて感じた、あの球体を手にとったあのとき。
あのときと同じ感覚。
この不快きわまりない感覚を間違えるはずもない。
「エミル、まちなさいっ!」
リフィルがそのことにきづき、はっとしてあわててエミルをとめようとするが。
「あとで必ずいきますから。じゃ、そういうことで。
皆にはすこし急用ができたっていっといてください」
いいつつも、エミルは水晶の竜の子供の背にまたがり、
そしてその背に翼を生やした女性とともに空にうかびあがったかとおもうと、
その姿はまたたくまにとリフィルの視界からきえてしまう。
「…とりあえず、リフィル様。皆をおこさねえか?
エミルくんがいうのが真実だとすれば、ここはテセアラっぽいし」
「…そうね。でも、一つだけいえるのは」
目の前にある雲よりも高い塔。
こんな塔は、救いの塔、以外にはありえない。
やはり、どうやらここはテラアラ、らしい。
らしい、というのは急激なマナの供給であったのであろう。
レアバードを取り出し使用してみようとしたが、
どうやら一時的にショートしているらしく、時間をおくか、
もしくはレネゲードにもっていき直してもらう必要性があるであろう。
つまり、浮くことはできても飛行能力が多少疑問があったりするらしく、
コレットがふわふわと翼を展開し周囲を確認したところ、
それはコレットの記憶にあるシルヴァラントの救いの塔の付近、ではなく。
あきらかに異なる場所にあるらしい、というのがコレットの意見。
そもそも、前にきたとき、入口にこんな石板、のようなものはみあたらなかった。
あるにはあったが、形が違う。
何よりもコレットが塔の前にたってもどこかにあるであろう入口はまったくもって開く気配すらない。
「しかし、エミルの知り合い?がいたって?先生?」
「おう。ものすごい美人だったぜ?」
「そんな…エミルに女の人の知り合いだなんて……」
あえてゼロスはその女性の背に翼があったことには触れていない。
エミルの知り合いの女性が何かこの場にやってきており、
一言二言会話したのち、緊急の用事ができた、といって少しエミルは別行動となった。
そのようにゼロスは彼らにと伝えている。
そんなゼロスの説明をきき、マルタは茫然とこの世の終わり、といったような表情を浮かべていたりする。
「エミルのことを今きにしてもどうしようもないわ。
あの子がもどってきたときにそれらはきくとして。
まずは、ここにどうやってはいるか、ね」
リフィルが周囲をくまなく探索しながら、しかし入口らしきものがないのにきづき、
ふう、とため息をつきながらもいってくるが。
「あ、リフィルさん。ここに石碑らしきものがありますよ?」
ふとアステルがよくよくみれば見落てしまいそうな柱の影にかくれているそれ。
飾りの一つなのではないか、とおもわれるそこに、
たしかにリフィル達にもみおぼえのあるような何か、が設置されている。
「これは、神託の石板?」
アステルもまたリフィルとともに周囲をくまなく探索しており、
そんなアステルがそれをみつけ、リフィルがあわててちかよって確認してみれば、
何やらこれまでの封印解放の儀で散々みた封印の石板。
それによくにたものが、たしかに柱の中にうもれるようにして存在しているのがみてとれる。
「みたいです。…でも、ここに刻まれている家紋らしきもの。うちの家のじゃないよ?」
「こりゃ、ワイルダー家の家紋だな」
コレットがそれをみて首をかしげ、ゼロスがさらり、と何でもないように言い放つ。
「コレットちゃんのシルヴァラントではコレットちゃんの家紋なんだったんだろ。
こっちでは俺様のワイルダー家、ってね」
いって、ゼロスが天使言語でかかれているその石板に手をかざす。
刹那、ゼロスの身につけているクルシスの輝石、そしてゼロスのマナが共鳴をはたし、
次の瞬間。
何もなかったはずのそこに、光りの階段が出現する。
それはかつて、コレット達が水の神殿でコレットが石板にふれ、
光る水の橋ができたときのごとく。
リフィル達いわく、この付近の柱はすべてカーボネイドでつくられており、
ゆえに魔科学の技術によってつくられている、とのことらしいが。
たしかにその先に扉らしきものはみてとれたが、
そこには光の壁のようなものがあり、どうやっても先にはいかれなかった。
コレットがとんでいっても阻まれていた。
にもかかわらず、ゼロスが手をかざした刹那。
パリン、と何かが割れるような音がしたかとおもうと、
光の階段が出現し、少し上のほうにみえている扉のようなもの。
そこに階段は接続される。
「なるほど。シルヴァラントの封印はシルヴァラントの。
テセアラの封印はテセアラの神子。
それぞれの神子のマナでなければ封印は解放されない、のね」
コレットにできてゼロスにできた、ということはそういうこと、なのであろう。
関係者以外、排除しようとする思惑がとてつもなくよくみえている。
「すげぇ!光の階段だ!前、水の封印のときは水の橋だったけど!」
ロイドがそれをみて目をきらきらさせていい、
「ゼロスって、本当に神子なんだなぁ。コレットにできたようなことができてるし」
「…あのな」
「当たり前ですわ。お兄様が神子様でなくて何だというの?」
感心したようにいうロイドにたいし、ゼロスは呆れざるを得ない。
そんなロイドにむけ、これまたなぜか自分のことにように誇らしくいっているセレス。
始めはセレスがついてくることを反対していたゼロスだが、
ミトスが残る、というのをしり、結局ついてくるほうにと妥協をした。
自分の目が届かないところでクルシスに
本当の意味でセレスが人質にされてはゼロスとしてはたまったものではない。
それならばまだ傍でひたすらに守っていたほうがまし、というもの。
「うわぁ。すごい。何だか思い出しちゃうな。世界再生の旅のこと」
光の橋。
そして、その先にある扉。
それは以前コレットが死ぬために旅をしていたときのことを嫌でも思い出す。
コレットが救いの塔に近寄ったときもこのように、薄く光る階段が出現した。
あのときは、救いの塔で自分は死んでおわりなんだ。
ずっとそうおもっていた。
でも、命はつづいていた。
そして今、ロイド達は自分のために必死になって敵地に乗り込もうとしている。
それがコレットからしてみればとてもうれしく、そしてまたとても心苦しい。
自分のために誰かが傷ついたり、また悲しい思いをしてほしくない。
それはまぎれもないコレットの本音。
「今度はお前の病気を治すためにきたんだ。前とは違うよ」
そんなコレットに反応し、ロイドがすかさずコレットに話しかけているが。
「ああ。テセアラの救いの塔はどのような構造なのだろうか!わくわくするな!」
「ええ。僕も内部にはいったことはないんですよ。とても楽しみです」
こちらはこちらで、なぜか二人とも学者モード?っぽいようなものになり、
興奮したように叫んでいるリフィルとアステル。
そんなアステルとリフィルを横眼でみつつ、
「…リフィルのやつ、もしかしたら研究所にきていたほうが生き生きとしていたんじゃあ?」
ありえないかもしれない過去。
リフィルが研究所にいないのは、彼女の両親がそれに反対し、彼らをシルヴァラントに逃がしたから。
もしもリヒターのときのように。
両親が殺されて、リフィルが捕らえられていたとするならば。
…もしかしたらアステルとおもいっきり意気投合し、
とてつもないことになっていたかもしれないな。
そんなもしも、がふと脳裏をよぎり、リヒターは思わず遠い目をしてしまう。
彼女ならば何となく、あのような理不尽な差別すらおしのけていってしまいそうな感じがある。
何というかリフィルには誰かを教え従えるような、そんなよくわからないカリスマがある。
それをカリスマ、というのかどうかはともかくとして。
目の前にみえている扉には、光る模様がうきでている。
それは不思議な紋様。
円陣の中に三角の模様らしきものがきざまれており、そして三方向から、
それぞれ鳥の翼らしき模様がつきでている不思議な模様。
「…シュリケンに模様は近い、ね」
ぽつり、とそれをみてしいなが思わずみたままの感想をもらす。
風魔手裏剣、といわれているそれにとてもよく模様はにている。
円の中心には鍵穴のような模様があり、それらは青白く光りをともない、
壁にと浮き上がるようにして存在している。
「おお!ここにも神託の石板が!ゼロス!」
「はいはいっと」
今度ははっきりと、神託の石板。
そうわかるような品が、扉の間横に設置されており、
そこには見慣れた手の形を模したカーボネイドでつくらているらしい、
これまでの封印の場でもよくめにしていたものとほぼ同じ品がみてとれる。
異なるのは、その石板がある台座に刻まれている家紋らしき紋様。
それがコレットのブリューネル家の家紋でなく、ゼロスいわく、
ワイルダー家の家紋だ、ということくらい。
「何をしている!とっととあけないか!」
「はいはいっと。もう、リフィル様はおっかねぇな~」
まくしたてるようにいってくるリフィルをみつつもゼロスがすっと石板にと手をかざす。
ゼロスが石板に手をおくとほぼ同時。
キッン。
金属音のようなものがすると同時。
目の前にあった紋章が描かれた壁。
そこに新たな扉が出現する。
さきほど壁でしかなかったそこには、茶色い門、すなわちゲートのようなものが出現しており、
その先は真っ白いほどに輝く空間で、塔の中身はまったくみえない。
しかし、確実にこの先につづく道が現れた、というのは一目瞭然。
「ひゃあ。どうよどうよ。俺様今、かがやいてる?神子って感じ?」
入口が現れたのをみておちゃらけたようにゼロスがいうと、
「はいはい。とにかく、いこうぜ」
そんなゼロスの言葉をさらり、とながし、ロイドが先を促すかのごとくにいってくる。
「ひゃひゃひゃ。了解」
そんなロイドにいつにもなく高いテンションでゼロスがいうが。
ゼロスはこの先、何があるのかわかっている。
エミルくんが同行しなかったのはあるいみよかったよな。
とふとおもう。
絶対に共にいたら、あのミトスがエミルにたいし何をいいだすか。
もしもエミルが完全にミトス側についてしまえば後はない。
その点でいえばあの美人さんがどこかにつれていってくれたのは、かなり助かったといってよい。
人、ではないのであろう。
しかし、どうも魔物でもないような気がひしひしとする。
ゼロスですら悪寒がはしるような相手がただの魔物だとは思えない。
たしかに人とはおもえないほどの美貌の持ち主、ではありはしたが。
「ふぅ。下品な笑い声だな」
「そんなことありませんわ!お兄様の声はどんな声でも美声です!」
「……セレス。無理しなくていいんだよ?」
リーガルが深くため息をつきいえば、それを否定するようにきっぱりと
セレスがそんなゼロスをかばうようにいってくる。
「いいえ。お兄様の声はとてつもなく美声ですわ!」
『・・・・・・・・・』
きっぱりといいきるセレスはどうやら本気でいっているらしい。
そのことに気付き、思わずその場にいるゼロスとセレス以外の全員がだまりこむ。
「…それより、ゼロスくん、どうかしました、か?
なんか、いつもより、テンションがおかしい、です?」
いつもとゼロスの様子が違う。
どこか無理をしているかのような。
プレセアがそのことにきづき、ぽつり、とつぶやけば。
「うるさいってんだろ。こいつはいつもこんなだよ。ほっときなって。
おおかた、緊張してるかもしれないあんたたちをなごませようと。
あえて道化を演じてるってところだろうし」
「…あのな。しいな」
「何だよ。あんたがいつもしてることだろ?」
「…なるほど。神子は神子なりに考えての行動、ということか。
ふむ。そこを見抜けないとは私もまだまだ、ということか」
そんなしいなとゼロスのやりとりをききつつ、
リーガルはどうやらしいなのいい分を信じた、らしい。
深く反省するようにそんなことをつぶやいていたりする。
「そんなことより!はやくなかにはいりましょう!
救いの塔の中がどんなになってるのか!僕とてもきになってるんです!」
「たしかに。ここまでこれたものはいても、中にはいったものはまずいないからな」
アステルの言葉にリヒターもうなづかざるをえない。
内部がどのうよになっているのか。
これまで文献すらのこされていない。
ゆえに、リヒターとて内部に興味がわかないわけではない。
「…しっかし。さすがはプレセアちゃん。…鋭い、ねぇ。
しいなに見抜かれるとは、俺様まだまだってか?」
「あんたが!わかりやすすぎるんだよ。ったく。ほら、いくよ」
あえていつも道化を演じ、周囲をなごまし、時には自らを囮となして、
ゼロスは幾度も行動をおこしている。
そしてその事実をしいなは幼き日より傍にみて見知っている。
なのにどうして女性がからむとその嘘がみぬけないのか、という疑問がありはすれど。
しいなはなぜ、ゼロスに女性がからむと周囲がみえなくなるのか、
しいな自身ですら理解していない。
それは無意識からくるゼロスへの嫉妬という感情である、ということを。
自分を構うのではなく別の女性を構うことへの嫉妬。
このあたり、しいなとセレスはとてつもなくよく似ている、といってよい。
違うのは、セレスはそのあたりのことをきちんと判断してしまっている…
特にトクナガの涙ぐましい努力で、という違いはありはすれど。
向こう側すらみえない真っ白な入口。
それをくぐるとともに、一瞬眩しい光がその場にいる全員。
リフィル、コレット、ジーアニス、ロイド、マルタ、
しいな、プレセア、リーガル、ゼロス、セレス、アステル、リヒター。
彼ら十二人を包み込む。
そもそも、この扉そのものが転移装置、すなわち門となっている。
転移装置である門門をくぐった先にあるのは、
これまた透明な物質でできている足場。
その足場の左右には黒い石らしきものでつくられた柱がいくつも並んでいる。
透明な足場はまるで一枚の板づづであるかのように、
一枚、一枚の区切り場所があわい青い光を放っているのがみてとれる。
そして石柱はそんな板の境目に左右ともそれぞれ一しており、
柱には天使文字がきざまれ、淡い青い光を一部湛えているのがみてとれる。
それ以外には何もなく、ぼっかりと開けた空間のなかにただよういくつもの物質。
それはどこまでつづいているのかわからないほどの光の道。
孤を描くように続くその道は、それでも途中で区切られており、
ぽっかりとしたこの空間そのもののなかでこの道そのものが浮いているといってよい。
見あげた先のこの空間の行き着くさきもわからない。
見あげたその先ですら終着点がわからないほどの距離。
ざっとみるかぎり、救いの塔の中、なのであろう塔の中そのものは充実しておらず、
完全なる吹き抜け構造になっているのが誰の目にもあきらか。
やがて、彼らが移動したのは、リフィル達もみおぼえがある透明な道。
というかありすぎる。
まったくその構造も、そして足場も柱も、周囲の様子も。
かつて救いの塔にはいったときとまったく同じ。
それがリフィルからしてみれば信じられない。
「え?これって、どういう…こと?」
ジーニアスも戸惑いをどうやら隠しきれないらしい。
「…ここ、テラアラ、だったよな?」
しいなも不思議そうにぽつり、とつぶやく。
この光景はかつて、シルヴァラントで救いに塔にはいった。
あのときとまったく同じ。
戸惑いつつも先にすすんでゆくと、同じように転送装置があり、
やはりまたまたあのときと同じような空間にとたどり着く。
そこには、いくつもの棺がふわふわと浮かんでは沈んでいる。
リフィル達がかつてみた光景のまま。
「うっ…」
ゼロスが思わずそれらを目の当たりにし、足をとめる。
そしてそれにきづいたのか、他の全員も足をとめる。
以前、この光景をみたことがあるリフィル達ですら、そのまま足をとめている。
「…何と、醜悪な……」
混沌としたといったほうが表現し難い空間に浮かんでいる無数の棺。
だが、彼らは知らない。
その内部にみえているその姿が、実は投影されているものであり、
棺に直接あるいみ投影だけされたそれらは、それぞれの遺影のようなもの。
すなわち、その内部には本来あったはずの少女達の体はない。
かつてエミルがこの地にやってきたとき、エミルは彼女達の体ごと昇華した。
棺のみをのこしたのは、その事実にすぐに気付かれないようにするための処置。
「…何て悲しい場所、なの?…中に人、がはいってる」
それも十五、六の少女ばかり。
棺がより近づいたとき、その内部にあるのであろう顔らしきものがちらり、とみえ、
プレセアも思わずそういわずにはいられない。
だとすれば、この上をみあげても下を見下ろしても数多とあるあのカプセルのようなものは、
おそらく、死体をいれている棺。
そう、としかおもえない。
実際はすでにその内部に死体ははいっていないにしろ。
そんな事実を彼らがしるよしもない。
「いや。そんなことより。ここは本当にテセアラ、なんだよな?
何だって、シルヴァラントの救いの塔とまったく同じ光景なのさ!」
それはしいなの悲鳴に近い台詞。
かつて、コレットと共にしいなもこの地にやってきた。
そのとき、しいなもこの光景を目の当たりにしている。
あの後、レネゲード達に助けられ、世界の真実とやらをしいなもまたきかされたのだが。
「…?」
じっとみていたゼロスはといえば、ふと違和感を感じる。
たしかに棺らしきものの中に少女の姿はみてとれる。
とれるが、何となく、その中には誰もいないのでは。
そんな思いがふとよぎる。
ゼロスは自慢ではないが、離れていても美少女の感覚を間違える。
とはおもっていない。
なのに、これらの棺らしきものから感じるものは、虚無。
かつてはたしかにいた、らしき感じはうけるが、今はそこには彼女達の体はない。
そう、たしかに姿ははいっているようにみえているが、
よくよく目をこらしてみてみれば、
それはまるで姿身のごとく。
つまり絵のような感覚をうけてしまう。
それにおもいあたり、じっとみてみるが、やはりあるべきもの。
すなわち、本当に体がはいっているならばありえるはずのもの。
すなわち、影、というものがその内部に存在していない。
「…おい、しいな。以前お前がコレットちゃんたちときたときも、こう、だったのか?」
「…ああ。あのときは……」
しいなは動揺しているがゆえに、ゼロスがたどり着いた違和感にたどり着けない。
そしてそれは他のメンバーにおいてもいえること。
このような光景をみて冷静に分析しているゼロスはあるいみさすが、というより他にない。
「そのとき、おまえらだけでここにきた、のか?」
「あのときは、エミルも一緒にいたけど…でも、まったく同じってどういうことさ?」
「エミルくんが、ねぇ……」
だとすれば、ここにいたはずの本来の彼女達の亡きがら。
それをどうにかしたのはエミルくんってこと、なんだろうな。
確認はしていないが何となくそう確証をもつゼロス。
もっともそれを彼らにいうつもりはゼロスとしてはさらさらない。
というか気付いていないのならば彼らにそう勘違いさせておいたほうが都合がいい。
いつ誰の口からここの異常がクルシスに伝わってしまうのかわからない。
そのままである、ということはまだクルシスはこのことに気付いていない、のであろう。
一気に数多の人の体を消せるような存在。
そんな存在を彼らがほうっておくはずもないのだから。
「そう、そうだよ!シルヴァラントの救いの塔とまったく同じじゃないか!」
「そんな、馬鹿な!」
ジーニアスの叫びにロイドが思わず否定するように強く叫ぶ。
「みて。あの先!あれ、あのときの、剣じゃないかい!?」
ふと視線の先に、床に埋め込まれている剣らしきものがみてとれる。
しいながそれにきづき思わず叫ぶ。
あのとき、クラトスが裏切りものだ、とわかり、そして。そして。
ふとしいなはその表情をくもらせる。
あのときのことを鮮明に思い出したがゆえに、顔をしかめざるを得ない。
そして現れたユグドラシル、となのりし青年。
クルシス、そしてディザイアンを統べしもの。
そうたしかに彼は名乗った。
「あの剣…あのとき、の?」
あのとき、不思議な声の主らしきものは、剣くらいしかおもいつかなかった。
ジーニアスもしいなの指摘にきづいた、のであろう。
みおぼえのある虹色に輝く剣をみつけ、茫然と呟く。
「体が…震える。ここ、同じだよ!」
コレットもこの場の空気は覚えがある。
死の覚悟をきめたこの空気をコレットが間違えるはずもない。
だからこそ、確信をもって思わず叫ぶ。
「…ロイド。これにみおぼえはなくて?」
リフィルが慎重に、それでいて周囲を探索していたらしく、
ふと剣が刺さっている足場のある台座。
そこにある一本の柱に目ざとく目をつけ、その前でたちどまりそんなことをいってくる。
「…これはっ!まさか…あのときの!?」
ユグドラシル、となのった青年の手から放たれた衝撃派。
それによって吹き飛ばされたあのとき。
コレットを咄嗟にかばい、近くにある柱にとロイドは叩きつけられた。
あのときロイドはコレットに怪我がないのにほっとして、そして意識を手放した。
それでも、そのとき背後の柱が崩れたことはかろうじて記憶している。
「あのとき、クラトスとたたかって、ユグドラシルってやつが現れて…じゃあ、ここは、本当に……」
「「「?」」」
そのときその場にいなかったアステル、リヒター、そしてプレセアはその意味がわからない。
セレスは何をいっているのか始めかわらかわずにひたすらに首をかしげている。
それよりセレスは周囲の少女達の棺らしきものに目をうばわれ、
その手にて体を抱きこむようにして小さく震えていたりする。
そしてそんなセレスをそっと抱きこむようにして、ゼロスがそれとなく慰めていたりする。
たしかにこの光景は、ぱっとみため、死体がはいっている棺が無数にある。
そう、としかみえはしない。
そして、本来ならば本当にその中に死体がはいっていたのであろう。
おそらくは、これまでの再生の旅で失敗した女性の神子達の全ての死体が。
「…本当に、趣味がわりぃ」
ぽつり、とゼロスが呟くのも道理といえば道理であろう。
こうして死んでまで彼らはずっとその彼女達の体をこんなところに放置していた。
そういうことに他ならない、のだから。
そして、瞬時に理解する。
クルシスに手をかし、神子の座をセレスにわたしたとすれば、
セレスが新たなここの犠牲者として加わってしまうのだ。と。
冗談じゃない。とおもう。
セレスに手はださせない。
死ぬことすら許せないのに、死してもなお、安楽にすごせないなど。
冗談じゃない。
ゼロスがそう吐き捨てたその直後
シュン。
というような小さな音が前方よりきこえてくる。
ふとみれば、虹色の剣が床にうまっている青白い輝く床。
その上に光がはじけ、そこから一人の男性が出現する。
赤みがかった茶色い髪をし、しかし服装はロイド達の見知っているものではない。
白を基準とし、体にぴったりとしつらえているような服装。
しかしよくよくみれば、それが鎧をかねているのがよくわかる。
白を基準とし、薄青いラインが幾重もはいり、
それらのところどころの継ぎ目らしきものには、皮でできているのか、
ベルトらしきものがつけられており、腕、太ももあたり、そして腰。
そして胸のあたりの正面を交差するようにそれらの皮ベルト?
が皮鎧のごとく保護するためなのか複雑にからみあっている。
そしてその腰には一振りの剣。
その背にあるのは、マントかわり、なのであろうが。
フタマタにわかれたすっとのびた鋭い羽を現しているかのようなひらひら。
このフタマタにわかれているマントもどき。
以前の服装のときもクラトスはこんなフタマタにわかれているマントを身につけていた。
もっとも、ロイドも似たようなそれにちかいものを身につけてはいるにしろ。
どちらかといえばどこぞの騎士のような正装、といった感じをうけるもの。
しかしロイド達は、特にロイドはその姿を見間違えるはずもない。
「ここで二つの世界は繋がっているのだ。同じで当然だろう」
「…クラトス……」
その姿をみて、ロイドがぽつり、とつぶやく。
またか、とおもう。
いきなり現れては意味不明なことをいっては、そして敵なのか味方なのか。
あのとき、自分を命がけで助けたのはなぜだったのか。
様々な思いがロイドの中で去来する。
「クラトス、また、あんたか。あんたは一体、何もの、なんだ?」
それはロイド自身がとてつもなく知りたい。
なぜ、クラトスの背をみていたら懐かしい思いを抱くのか。
あのときどうして自分を命がけで崩れてくる柱からかばったのか。
なぜ、なぜ。
なぜ、をあげるときりがない。
一方で、幾度かストーカーのごとき、
ロイドが寝ているときに世話を焼いているのを目の当たりにしたことのあるリーガルはといえば、
その姿をみて多少眉をひそめていたりする。
敵、とはきいていたが。
しかし、ロイドの寝相をただし、毛布をかけ直す彼にそんな気配はみられなかった。
しかしここであらわれた、ということはやはりそういうこと、なのだろう。
「神子にはデリス・カーラーンへきてもらわねばならん」
そんなロイドにクラトスは淡々と言葉を紡ぎだす。
「まだそんなことをいうのか!コレットをマーテルの器にしてどうしようっていうんだ!
下手をすればそれで世界が滅びるかもしれないんだぞ!なのに、あんたは!」
世界を歪めた理由。
それはいまだに許せないが。
しかしエミルがいっていた台詞がロイドの胸の中にちくり、と影をおとしている。
少ないマナで大地が存続できるか否か。
ロイドとて理解した。
せざるをえなかった。
だからといって、どうして、という思いが捨て切れないが。
マナがどんなに大切なのか、いまだにロイドにはよくわからない。
でも、マナがなければ命は産まれない。
でも、ともおもう。
かつて、世界にはマナがなかった、というのなら。
マナがなくてもどうにかなるのではないか、という思いも否めない。
ロイドは自らの体もマナで構成されている。
その事実にいまだに思いいたってすらいない。
ジーニアス達などはそれをきちんと理解し把握しているが、
ロイドは授業中でもつねにねていたがゆえに実感をともなっていない。
「…ユグドラシル様の命令は絶対、だ」
そんなロイドの叫びに淡々とこたえるクラトス。
「なぜそこまでしてマーテルを蘇らせることにこだわるんだ!」
「語る必要はない」
いいつつ、すらり、と剣を抜き放ち、ロイド達のほうにとつきつける。
「…エミルはいない、のか。好都合、だな」
もしもエミルがいれば、ミトスがどうでてくるのか。
それはクラトスもわからなかった。
魔物を使役できる存在。
ミトスに隠していたのに、ミトスは地上でそれをしってしまった。
「…ちくしょう!あんたはやっぱり俺達の敵なんだな!もしかしたら、っておもってたのに!」
裏切られている。
そうわかっていてもロイドはクラトスを嫌いになりきれなかった。
決定的だったのは、あの飛竜の巣でクラトスにかばわれたあのとき。
あのとき、クラトスは命がけでロイドをかばった。
そして自分が怪我をし、下手をすれば命をおとしたかもしれないのに、
ロイドをかばい、そしてこういった。
――無事か。ならば、いい。
ただそれだけ。
その一言だけ。
その言葉がどんなにロイドを苦しめているのか。
クラトスにはわからないであろう。
そしてロイドも。
剣を向けられても、それでも、クラトスを嫌いになりきれない自分の心。
その心に戸惑いを隠し切れていない。
幾度も信じては裏切られているかもしれないというのに。
なのに、クラトスをみていれば、切ないようなよくわからない感情がわいてでてくる。
それこそ、そう、なつかしい。
そんな感情が。
「今さら何をいうのだ。私は名乗ったはずだ。クルシスに所属する四大天使の一人だ、とな」
「ちくしょう!今度は手をぬく、なよ!」
「…というか、ロイドくんだけで話しをすすめてるよなぁ。あれ」
「…神子、緊張感がない、とおもわぬか?しかし、あの男…」
よくよくみれば、とてもロイドによく似ている。
しかも殺気も何もない。
だとすれば。
「リフィル。あやつは何か企んでいるかもしれぬ。気をぬくな」
「ええ。わかっていてよ。コレットを渡してなるものですか」
「今度こそコレットは守ってみせる!デリス・カーラーンなんかに連れていかせやしない!」
いいつつ、ロイドもまた剣をすらり、と抜き放つ。
完全に感情が表にでてしまい、後先を考えなくなっている。
その事実にロイドはまったくもって気付いていない。
「熱くなるな。熱くなり周りがみえなくなると守りたいものすら守れなくなるぞ」
「うるせぇ!」
かちん、ときてしまう。
なぜ敵対しているクラトスからそんなことをいわれなくてはいけないのか。
それが的をえている言葉だからこそ、ロイドはかちん、ときてしまう。
「!ロイド!」
はっと何かに気付いたように思わずさけぶジーニアス。
ロイドが完全に熱くなり周囲を見渡す余裕がなくなっている。
それにきづき、全員がこの場に集結していた。
何かあればすぐにうごけるように。
しかし、突如としていくつものマナが収束するのを感じ、思わずジーニアスが叫ぶ。
そして、そのマナは一瞬のうちに形づくったかとおもうと、
ロイドの背後、そしてさらにリフィル達の周囲、さらにはゼロス達の前。
それぞれその場にいる全員を取り囲むように、
真っ黒な鳥の翼をもちし武装している天使らしき姿が突如としてあらわれる。
そしてそれぞれ天使達は武器を構え、いつでも攻撃体制をとれるような格好をとる。
ロイドが思わずはっと後ろをふりむけば、
かなりの数の天使達にかこまれてしまっている仲間達の姿が。
「…抵抗は止めることだな。抵抗すれば容赦はしない。お前の仲間達も、な」
「クラトス、おまえっ!」
多勢に無勢。
武器を構えて攻撃するよりも早く、まちがいなく天使達の攻撃が炸裂する。
仲間を人質にとられてしまったようなもの。
「ロイド、熱くなるな。常に周りをみて周囲の情報をつかめ。
そうでなければ守りたいものもまもれない。これがそのいい例だ。
武器を納めろ。仲間達が傷つけられたくないのなら、な」
「……くそっ」
ここでクラトスにきりかかっても、背後にいるコレットの身の安全。
コレットだけ、ではない。
他の仲間達の身が危険にさらされる。
クラトスだけでも厄介、なのに。
この十名以上はいるであろう天使達を相手にするのは。
「あんたにだけ…は、いわれたくは、ないっ」
たしかに血がのぼり、クラトスだけにしか目がいっていなかった。
クラトスの仲間が、天使がやってくるなど思ってもいなかった。
「抵抗さえしなければ傷はつけない。お前の仲間達も、な」
そこまでいい、クラトスが手をすっとかざす。
「連れていけ」
まるで始めから想定していたかのごとく、天使達にクラトスが合図をする。
天使達の武器にせっつかれるようにしてロイド達が一か所にあつめられる。
それとともに、ロイド達の足元。
突如として全員が集められたその真下から青く輝く魔方陣が出陣し、
ロイド達の体がふわり、とうきあがる。
力が抜けていくようなそんな感覚の中。
「うっ…く、くそ…っ」
何もできないままに。
このまま、そうはおもうが、体に力がはいらない。
みれば、仲間達もまた武器をつきつけられ自由がきかないらしい。
「コレット!?」
はっとみればがくん、と膝を床についているコレットの姿がめにはいる。
「く…そ…」
どうにか手をのばそうとするが、意識がもうろとしていくる。
何か甘いような匂いが充満している。
それが睡眠効果をもたらす匂いである、と気付いたときにはすでにおそし。
そのままロイドの意識は闇にと呑みこまれてゆく。
「お甘いこって」
バタバタとたおれている皆。
その中でまったく変化のない人物が一人のみ。
始めから彼らを捕らえるのにどういう手段をもちいるのか。
ゼロスはきいていたがゆえに、眠り香の対策をほどこしていたまで。
「ふ。神子を傷つけるわけにはいかないからな」
「コレットちゃんを、でなくてロイドくんを、じゃねえのか?あんたの場合は」
「・・・・・・・・」
睨みつけるようにしてゼロスにいわれるが、そんなゼロスの台詞にクラトスは無言のまま。
ちなみにゼロスは眠ってしまったセレスをしっかりとだきかかえ、
しっかりとその体でもってしてセレスをかばっていたりする。
「このまま彼らを護送する。神子、お前もだ」
「へいへい、っと。そういえば、ケイトちゃんはどうしたのよ?」
「彼女も今はウィルガイアにいる。…あとで彼女も解放する予定だ」
クラトスとて彼女をあのままおいておくつもりはない。
たしかに彼女がいれば、クルシスの輝石、ハイエクスフィア。
クヴァルのかわりに彼女ならばロイドのあれのように完成させることができるであろう。
でも、クラトスは千年王国に賛同している、というわけではない。
量産のめどがたてば、ミトスは何をしでかすかわからない。
そんな思いもあり、ひとまずつれてきただけはつれてきたのだから命令に反したわけでなく。
ロイド達が逃げ出すときをみはからい、もともとケイトもまた解放するつもりであった。
「ったく、あんたは敵なのか味方なのか。そろそろ立ち位置をきめちゃどうだい?
いつまで息子とユグドラシル、その狭間でゆれてんだよ。みてていらいらする。あんたは」
それで息子がどんな思いをしているのか。
わかっていないのだろうか。
この天使様は。
どうやら息子であるロイドくんはその事実を知らないみたいだが。
みたところ無意識のうちに親、と理解しているのか慕っている様子。
だからこそ、いらいらする。
親が子を利用する、そんなことはゼロスはとても許容できるものではないのだから。
「ふ。そういう神子、お前もだ、な」
しかしそんなゼロスの嫌味に逆に正論で言い返しているクラトス。
ゼロスもまた、それぞれの陣営に情報をもたらし、
あるいみ二重、否三重スパイのような役割を今のところ果たしている。
そしてクラトスはそれを知っている。
しっているからこその台詞。
「俺様はいんいんだよ。しかし、いっとくが。
こいつにかすり傷一つでもつけたら、俺様は絶対にお前らを許さないからな」
そんなことになれば、ゼロスは自分を許せない。
そして全て、エミルに事情を、彼らの内情をぶちまけるつもりではある。
それでエミルがどうするかはあの精霊次第。
すくなくともセレスの身さえ無事ならば、ゼロスはそれで満足、なのだから。
「…肝に銘じてはおこう」
こいつ、といってそっとやさしくゼロスがセレスの髪をなでつつ、
きっとクラトスをにらみながらそんなことをいっているが。
そんな彼らのやり取りを天使達は無表情でそのまま見守っていたりする。
この天使達は戦闘用にそのように生み出されており、
命令のまま物事を実行する戦闘部隊。
彼らが今うけている命令は、クラトスに従う、ということ。
ゆえにクラトスの命令がない限り、彼らが余計なことをすることは…ない。
転送エレベーター。
それはエターナルソードとよばれている剣の姿をしている精霊ゼクンドゥス。
ちなみに通称をレイン、ラタトスクもレイン、名で呼んでいるが。
ともかく、その精霊が擬態している姿。
剣の姿であるそれが安置されているそこから、樹の根がからみあい
上空にとひたすらに、螺旋を描くようにのびている。
それが周囲の壁のやくわりをはたしているらしく、
そこから起動エレベーターが上下する空間となっているらしい。
そこから一気に上空にあるデリス・カーラーンへと移動が可能。
正確にいうならば、彗星につづく塔の内部の道へ、というべきか。
気絶というか眠っているロイド達はその起動エレベーターにのせられ、
そしてさらに転送装置にのせられ、とある場所にと移動されてゆく。
それは、ウィルガイアとよばれしなかにあるとある牢――
ロイド達が救いの塔にてとある光景をみて絶句したのち、
クラトスと対峙し連れさらわれている、という経験をしている同時刻。
「か、かわいいっっっっっ!」
おもわずぎゆっと目の前の小さな子供をだきしめているリリス。
むぎゅっというような擬態音がきこえてきたのは気のせいではない。
絶対に。
「…王様?」
そのむぎゅっという音とともにその豊満なる胸に押し込められているのは、
ゆるやかなウェーブのはいった、金の瞳をもちし小さな少女。
いまだ力が完全でないがゆえ、姿が子供の姿なれど。
完全に力が満ちれば自力で姿は変化は可能。
なれど、まだこの精霊にはそこまでの力はない。
「この世界の暗黒大樹の精霊、プルート、だ。
本質はお前魔族と同様。瘴気、そして負を糧とする精霊、だな。
つまり、精霊といってもお前達と同じといっても差し支えはない」
もともと、魔族達も精神生命体。
そして精霊にしても然り。
ただ言葉が違い、理が異なっているというだけ。
しかし、このプルートは魔族と同じ理をもってして生み出した。
この惑星を構成している暗黒大樹の精霊、として。
今、ラタトスクがリリスとともにやってきているのは、ラタトスクが新たにうみだせし惑星。
ラタトスクが新たな魔界としてうみだせし新たなる惑星。
そこにリリスを伴い移動してきていたりする。
「ラタトスク様!私、私この子そだてたい!かわいいもの!」
「…お前に育てられたらどんなものになるかわからないから却下だ!」
ちなみに今のラタトスクの瞳の色は深紅に変化しており、
その気配もヒトのそれではなく、大樹の気配、すなわち精霊の気配を解放している状態。
「そんな!すべての老若男女すら籠絡するような淑女に育ててみせますわ!短期間で!」
「だから却下だといっている!ったく」
任せたら洒落にならなくなってしまう。
「こんなにかわいいのに、力は私たちよりもはるかに強いなんて。
ああもう。たべちゃいたい!このままねやに…」
「だ・か・ら、まて!お前は。ったく。しばらく眠りたいのか?眠らすぞ?」
「そ、それは…」
さすがのリリスとてラタトスクのマナを直接うければ
下手をすれば消滅、よくて数万年以上力を失い実体化できなくなるか。
それだけは避けたい。
切実に。
以前のときですら力を回復するのにかるく一万年くらい時を要した。
「地表に満ちる数多の負。それをこのものにもう少ししたら全て注ぎ込むからな。
そのときが、この地の完全なる完成、だ」
それは、彼らが全ての精霊と契約をかわしきったあの瞬間。
世界を作りなおすための理を実地した瞬間こそ。
それまで虐げられて、地上にさまよっている全ての数多なる精神体。
すなわち幽体達の思念すら全てこの地にと移動させる。
それにより、完全にこのプルートは形をなす。
つまりは、闇をすべし王として。
そしてこの新たなる惑星の王、として。
破壊と再生。それを司りしもの。
それがこのプルートの存在意義。
そのようにして理を大樹そのものにひいてある。
ゆえにその精霊としてうみだされたこの精霊にも。
「まあ、千年もあれば新たな魔界もおちつくだろうしな」
千年。
それはかつての時間軸で全ての命からマナを取り上げ、新たな理を引き返した時間と同じ。
絶対的な強者がいれば、魔界は確実に安定する。
今は実力がほぼ拮抗しているがゆえに、魔族達は互いに牽制しあい、
そして下っ端達は好き放題に暴れている。
ならば、完全に統治する存在を創りだしてしまえばよい。
ただそれだけのこと。
それをかつてのラタトスクはしなかったのは、
彼らが自力で彼らなりに自分達でその考えにたどりつき、彼ら自身で選んでほしかったから。
しかしその結果があれなのだとするならば。
干渉するのによもや迷いはない。
すでに惑星の意思にも許可をとっている。
このまま共に消滅するか、それとも彼らにあらたな世界をあたえて生きながらえさすか。
惑星の意思が答えてきた返答は後者。
かなり自分自身が傷つけられ、そして消滅させられそうになっていた、
といのにもかかわらず、やはり自分の内部で育った命。
ゆえに甘さがのこっているらしい。
まあ、その甘さがあったがゆえに、今こうしてラタトスクも、
あのとき、過去に移動してきてしまっているのであろうが。
「この地にお前達魔族を移動させたのち。許可なきものは移動できなくする。
もっとも、一応、彼らにはといかけはするが、な」
新たな新天地に出向くか否か。
それともこのまま消滅するか。
それは魔族達にとっては究極の二択、になるであろう。
そこではむかってくるような魔族達にラタトスクは容赦するつもりはさらさらない。
「…まて。リリス。プルートをどこにつれていこうとしている?」
がしり。
そのままがっしりと小さな精霊プルートとなづけた少女。
その少女をつれてこっそりとこの場をはなれようとしているリリスの肩をしっかりとつかむ。
「あ、熱い、あつい!ラタトスク様!マナ、マナ!」
とりあえず、忠告はしたというのに。
本当にこりない、というか。
ゆえにラタトスクとしてはため息をつかざるをえない。
自分に従ってきているのはまあいいが。
真実をしっている以上、従うのは彼らのような魔族からしてみれば、
力あるものに従うのは当然の行為。
一時アクアが変な知識をもったのも、このリリスが影響している。
というのをラタトスクは知っているがゆえに、慎重にならざるをえない。
アクアのあれを矯正するにもかなり手間がかかったことをふとラタトスクは思い出す。
もっともそのときはまだ、地表で戦争などおこってもいなかったときであったにしろ。
同時期であれば確実にラタトスクは切れていた自信がある。
それはもう果てしなく。
「ったく。油断も隙もない。プルート。いいか?
こいつのようなものがついてきて、といってもついていくんじゃないぞ?」
「?はい。ラタトスク様」
ラタトスクの台詞にきょとん、としつつ首をかしげてくるその様はまさに純粋そのもの。
純粋なる産まれたばかりの精霊に変な知識をいれてほしくは…ない。
「ったく。リリスのやつ、相変わらず、というか……」
あれでも一応は魔界の実力者の一人。
彼女の力とくらべれば、ミトス達が禁書の中に封じたヘルナイトやリビングアーマー。
彼らなどかわいらしいもの。
どちらかといえば、リリスはヘルナイトになみなみならぬ思いを抱いているようだが。
かつて、かのヘルナイトことランスロッドは彼女の部下であった、という。
それはまだ彼らがきちんとヒト、としてその身体をもっていたころ。
それこそ彼ら魔族達が普通の人であったころの遥かなる昔に。
彼女曰く、彼は完全にその力というか心を欲に囚われてしまいああなっている。
と以前さみしそうに彼女がいったことをラタトスクは覚えている。
魔族、とよばれているものたちには感情がない。
そうほとんどのヒトはおもっているかもしれないが、実際はヒトとかわりはしない。
ただ、彼らが糧とするのが、負の力になってしまっており、
その存在のありようが、精神生命体、というくだりに変化してしまっているだけ。
その点、昔ラタトスクがつくりあげた、負の精霊ゲーテと近しいものがあるといえばある。
今回、暗黒大樹の精霊として生み出しているプルートもゲーテに近いといえば近いが。
しかし、プルートは魔族を、そしてあの惑星を統べる生み出した精霊。
結局のところ、リリスがいきなり彼女が自分達の王になる。
そういっても魔界は実力主義。
素直に従わない輩がいるはず、という意見をしつこくいい、
ゆえに、移動するまでに彼女に魔界の現状をおしえておいたほうがいいのでは。
そんな彼女の意見もあり、しかたなく、瘴気に耐性のあるテネブラエ。
テネブラエの力をよりあげて瘴気の耐性をより強くしたのち、
一応お目付け役、としてテネブラエとともに先ほどニブルヘイムに送りだしたのだが。
どうも間違ったような気がする。
それはもう果てしなく。
「……しかし、かの地に彼らを移動するのでは、いずれは必要なことかと」
横にうかびし、水晶の甲らをもちし亀のような姿をしているソルムがそんなことをいってくる。
その尻尾はフタマタにわかれている蛇の姿をしており、
その姿はみずほの里につたわりし、玄武、とよばれし亀と通じるものがある。
エミルの間横に従うようにして浮いているのは、
エミルが、否ラタトスクがこれから彗星に赴く、といっているがゆえ、
一人で行動をさせるわけにはいかない、という理由から姿を現しているに過ぎない。
「そうかもしれぬが、な」
しかし、なぜだろう。
リリスの影響でかつてのアクアのように
あのこが染まってしまうような気がひしひししてしまうのは。
「…まあ、被害が我らにむかわなければ問題はない、のだがな」
いって深くため息ひとつ。
「……ラタトスク様?」
そんな会話をしつつも、ふわり、とおりたったその先は、
かつてこの場においてコレットが儀式をうけていたちょっとした間。
ここは救いの塔、とよばれている内部。
その一応最奥部、と認識されているらしいが、実はさらに奥というか上がある。
とにかく、その場、すなわち床につきつけられている虹色にと光る剣。
その剣から声がとまどったようにきこえてくる。
「レイン」
「……ソルム様、ラタトスク様は何かあったのか?」
戸惑いを含んだかのようなレインの声。
剣の真上に淡く光りが収束したか、とおもうと。
そこには四枚の翼をもちし一人の男性のような姿が出現する。
その姿こそレインの精霊体におけるヒトの形態。
涼やかな眼つきに淡い金色の髪は肩のあたりできりそろえられ、
その身にまとっている服は白く輝き、かんたんにその体に巻きつけられたようになっている。
どちらかといえば、レインのこの姿こそ、天使、とよぶに相応しい。
まさにそんな姿をしているこのレイン。
もっとも、通常は今現在、ミトスとの契約もあり常にその身を剣にしているわけなのだが。
「いえ。リリスのことで、すこし」
「・・・・・・・・あ~」
ソルムの返答にどうやらものすごく納得されてしまったらしい。
どこか遠い目をしながらつぶやくレインの様子をみて苦笑しつつ、
「まあ、リリスは今にはじまったことではないからな。
ところで、レイン。ここにきた彼らはどうなった?」
「ラタトスク様が確認されればわかるとはおもいますが。
あのクラトスが皆を無効化してこの上空につれていかれました」
いって指をさすのは、先刻ロイド達がつれていかれた起動エレベーター。
「…そうか。できればお前との契約もミトスの枷から解放したいところだが」
「仕方ありません。今私が契約を解除してしまえば。
それでなくても不安定になっている二つの相違軸。
それらが互いに干渉しあい、大地が消滅しかねませんし」
「…まあ、それはそれでいいかもしれぬがな」
そうなってしまえば、あるいみそこにすまいしものたちの自業自得というもの。
何もしらないものたちにとっては悲劇以外でも何ものでもないかもしれないが。
そもそも。
「そもそも、この原因をつくりだしたのも、当時の人間達のせい、だというしな」
まったく、本当に人間というものは。
せっかくミトスがその力を発揮して大樹を目覚めさすために行動をしていたとき。
なぜに攻撃なんてものをしでかしたのか。
欲にかられた人間は目先のことしかみえていない。
その結果どんな結末になるのか考えもせず、
否、わかっていても欲を優先し、自ら破滅の道をつきすすむ。
壊すのは簡単だが、それらを再生するのには時間がかかる。
そのことを完全にヒト、というものは失念してしまっている。
ラタトスク達のような精霊達からしてみればそれは一瞬のことなれど、
ヒトの括りでしかない彼らにとってそれは途方もない時間がかかる、というのに。
「…できうれば、ミトス自身にお前との約束は果たしてほしいのだが、な」
「……王」
ふぅ、とため息をひとつつき、ぽつり、とつぶやくラタトスクの台詞に、
レインとしては何ともいえない声をうかべざるをえない。
「そ、そういえば。王。そのお姿というか。
いったいどのような辺境の変化なのですか?わざわざ扉の間から外にでられるなど」
この惑星においては外にでたことなど一つもなかった、というのに。
分霊体としてならばあるのはしっているが。
どうやら本格的に本体ごと外にでているのはこれが初めて。
しかも、なぜにそんな人の姿をしているのか、レインからしてみても理解不能。
まあ、王の考えを理解できるか、といえば答えは否でしかないのだが。
「この惑星上ではなかったが、かつてはよくとっていたからな」
「まあ、あの当時はディセンダーとして、ですがね。たいていは」
「そうでもないぞ?場所によっては、普通の人間にまぎれているからな。
その場のディセンダーは別にうみだして」
「…それはそう、ですが」
その都度、センチュリオン達が気をもんでいるのにきづいているのかいないのか。
ゆえにソルムとしては盛大にため息をつかざるを得ない。
本当に、ほうっておいたら何をしでかすかわからない。
それが彼らの王であり主であるラタトスク。
まあそんな主だからこそ、彼らは誠心誠意をもってしてつくすことをきめているのだが。
ラタトスクのうちにひそみし孤独を何よりもセンチュリオン達は理解しているがゆえに。
「近いうちにお前がそこに囚われているのもどうにかする」
「あまりご無理をなさらないように。ソルム様。
くれぐれもラタトスク様がむちゃをなさらぬように見守っていくださいね」
「無論だ」
「…おい。お前達、どういう意味だ?それは?」
まったく、センチュリオン達といい、精霊達といい。
なぜに口をそろえて同じようなことをいうのだろうか。
おもわず腕をくみ、ぎろり、と睨みつけるラタトスクの視線をうけ、
おもわず恐縮したように固まるソルムとレイン。
そんな姿をするくらいならば余計なことをいわなくてもいいのに、ともおもうが。
「まあいい。いくぞ。ソルム。レイン。わかっているとはおもうが」
「はい。お気をつけて」
そのまま、たんっと床をけり、ふわり、とその場にうきあがる。
そんなラタトスクの足元にすばやくソルムがまわりこみ、
ラタトスクをその背にのせ、起動エレベーターとなっている木の根が螺旋し、
ちなみにこの樹の根、どうみてもカーラーンの根によって形成されている。
螺旋状態となっている根の内部をそのままソルムの背にのりて、
ラタトスクもまた上空に位置するかの場所に向かって移動してゆく。
そんな王の姿をみおくりつつも、
「…しかし、王はいったい、何を考えてられるのか」
裏切られているのはわかっているであろうに。
それでもまだ、ミトスを信じているらしいきの姿。
まあ、ミトスたちにほだされていたのは知ってはいたが。
だからこそ、自分達もミトスと契約することに同意した。
あのミトスならば、王の孤独を少しでも緩和させてくれるかもしれない。
そんな思いもあってこそ。
そこまでおもい、レイン、とよばれし精霊ゼクンドゥスはゆっくりと目をとじる。
それとともにその体が輝き、光りの粒となりて、下にとある剣にと吸い込まれてゆく。
今、彼がすべきこと。
それはこの地において二つの世界をつなぎとめ、
そして彗星ネオ・デリス・カーラーンの影響を地上にもたらせないために、
障壁をはりつづけなければならない、のだから。
神聖都市、ウィルガイア。
それがこの地につけられている名称。
かつてのままの名をどうやら使用しているらしい。
次元をずらし、位相をずらすことにより存続している二つの大地。
本来は一つしかない大地をずらし、それらをたもっているのは、
全てはレインの力、さらにその力を発揮するのが、
かつて大樹があった場所である、という条件が重なっているがゆえ。
精霊の力をその身にうけいれて、
そしてその力をある程度融合させてしまった人間達。
人の精神というものは強いようでいてもろい。
ゆえに、その結果、ヒトがいうところの無機生命体。
すなわち、【天使化】とよばれしものに変化したものたち。
彼らはその代償として大概その感情の起伏を失ってしまう。
素体となった人間の精神力にもよるのだが。
感情表現が極度に抑えられてしまうといってもよい。
そして、それらを制御できるようになるのはヒトからしてみれば途方もない時間をようする。
もっとも、能力と時間、
それらがあっても精神力がたりず、永遠に感情が戻らないものも多々といる。
そして、ちらり、と周囲をみるかぎり、この場にいるものたちは。
その背に白き翼をほとんどはやしているものばかり。
思わずかるくため息をつかざるをえない。
彼らが未熟である証。
そしてこの光景はラタトスクにとってはあまり面白いものではない。
かつて、彼らが空をおおいつくし、
兵器として使用されていた時代。
その時代こそ…ミトス達が産まれたかの時代。
あの時代はすでに空中戦艦などというものがマナ不足で存在せず、
かわりにヒトの命が戦力、としてもてはやされていた。
微精霊の力の影響をうけたものは、すくなからず人体に影響をうける。
その影響の一つに様々な体への変化があげられる。
その一つに体内のマナの放出による飛行能力。
彼らの当初の目的としては、自在に必要に応じて羽をだし、空をとぶことができる。
というのが開発理由の一つ、であったはず。
しかし、自然の力すら認識できなくなっているヒトにしてみれば、
それを自在にコントールする、というその感覚がつかめるものがほぼいなかった。
中には本能的に…例を挙げるとすればクラトス達のようにコントロールできるものがいはするが。
クラトスとてその血筋に、というか彼の祖母が実はエルフの血族の直系。
それもあってこそ、自在に無意識のうちにコントロールができていた。
といってもよい。
そして、コントロールが未熟なものたちは、マナの放出、そして収束、それらがうまくいかず、
結果としてマナが固定化してしまい、マナの放出部分すら体の一部として物質化して固定化させてしまう。
それが、【天使】とかつてよばれていた生体兵器達。
機動部隊、とよばれていたものたちの真実。
本来、完成されたといわれている天使化、とは
天使化によって、体のほぼ全ての機能を自らの意思で調整できるようになるもの。
それらはその身にとりこんだ微精霊達の力との融和性。
そのひとことにつきる、といってもよい。
そして、そんな融和性をもっているのもはそうは多くはない。
つまるところ、ほとんどのものがうまく使用できず、
天使化の技術をうけたものは、ほとんどのものがこのように翼を固定化させていた。
そして、かつてのような光景が、今エミルの目の前には展開していたりする。
ちらり、とエミルに視線をむけるものもいるが、エミルを気にしているものたちはいない。
エミルの気配はこの世界というか彗星とほぼ同じ。
ゆえに、ほぼ自ら考えることを失っている彼らからしてみれば、
違和感を感じはすれど、そこまで強く不思議におもうことはなく、
そのままスルーしていたりする、というのが今の実情。
普通に移動していても何もいわれない、というのは助かりはするが、
しかし、この光景はかつてを思い出し、おもわずいらっとしてしまう。
救いはこの場にいるものたちは強制的に闘争本能。
それらを強化されているものではない、ということくらいであろう。
「ロイド達は…この奥、らしいな」
「ですね」
「いくか。ソルム。念のために姿はけしておけよ」
「わかりました」
その言葉とともに、ソルムの姿が周囲の気配にとけこむようにきえてゆく。
よくよく目をこらせばそこに何かがいる、というのは透明ではあるがわかりはするが。
そこまで注意深くみるものも、この様子ではおそらくいないであろう。
いたとしても間違いなくきにとめない。
それだけは確信をもっていえること。
「ここは……」
どれくらい、気絶していたのであろうか。
クラトスにはめられ、気を失った。
はっと目をあければ、どうやらどこかの牢?のような場所にいられている。
「あ、ようやく目がさめた?ロイド?」
ふとみれば、同じく部屋にいれられているのは、
ゼロス、リーガル、ジーニアス、そしてアステルとリヒターであるらしい。
それはそうとして。
「セレスがいるのに、何で他の皆がいないんだ?」
みれば、この場にはセレスがしっかりといるのにもかかわらず、
コレットやリフィル達の姿がみあたらない。
「どうやら。セレス嬢は神子がしっかりと抱きかかえていたらしく、
ゆえに共にこの牢にいれられてしまったようだな」
そんなロイドの素朴なる疑問にリーガルがため息まじりにいってくる。
「コレット!?」
「ロイド~。よかった、目がさめたんだね~」
ロイドがおもわずはっと立ち上がりつつも思わずさけぶと、横手の方向からコレットの声がきこえてくる。
しかし声はすれども姿はみえず。
「何でも、俺様は真っ先に目をさましたんだけど。
コレットちゃんを治療する準備が整うまで、命があるみたいよ。
今のままじゃ、つかいものにならないんだってさ」
そんなロイドの疑問に答えるかのごとく、ゼロスが両手をかるくひろげ、
あるいみお手上げ、といったような感覚で軽い口調でいってくる。
「よかった。なかなかロイドが目をさまさないって。皆がいってたから~」
ほっとしたようなコレットの声はどうやら横のほうから。
「どうやら、しっかりとセレスを抱きかかえてたらしいゼロスのせいで、
セレスだけ、はこっちの牢屋にはいってるみたいだけど。
基本、男女ごと牢を分けられてるみたいだよ。
姉さんやマルタ達もあっちにいるみたいだし」
ロイドが目を覚ますよりも前に彼らは声をかけあって情報交換をしてはいる。
その結果わかったのは、基本男女にわけて牢をわけているということと、
そして、セレスの身を心配したのであろう。
しっかりとセレスを抱きかかえていたゼロスから
おそらくひきはがすことができなかったのか、
しかたなくセレスもこの牢にともに入れられてしまっている、ということ。
「でも、私としてはこのほうがいいですわ」
「…セレス嬢。貴殿は女性、という認識をもうすこし、だな」
そんなセレスにリーガルが盛大にため息をつき、淑女たるもの云々。
と何やら説教まじりのことを言い始めていはするが。
「はめられたのかもね。コレットを治療する道具を僕たちに揃えさせて、
それからここに連れてくればあいつらも手間が省けるでしょ。
もっとも、僕たちはまだマナリーフとマナの欠片を手にいれてないわけだけど。
あいつら、たぶん僕らが全部の材料をそろえてやってくる、とおもってたんじゃないのかな?」
それはロイドが気絶している間に、声をかけあい、
リフィル達と会話して、ジーニアスがたどり着いている結論。
「…クラトスのやつ、そのために俺達を利用したのか?」
クラトスがいったのである。
ユニコーンの言葉を思いだせ、と。
「…俺は、まただまされていた、のか?」
クラトスの言葉を信じたわけではなかったが。
それでも、アルテスタの言葉もあった。
「ロイド……」
そんなロイドにゼロスが思わず声をかけようとするが。
「…ドワーフの誓い、十八番。だますよりだまされろ、とはいうけどさ。こうもつづくと」
ロイドがふと顔をふせる。
クラトスに裏切られ、そしてだまされている。
それはこの状況をみても明白なのだろう。
なのに、なのにどうして。
「…なのに、どうして!俺はあいつを心底憎みきれないんだよ!
なら、どうしてあのとき、命がけで俺をたすけんだ!クラトス!」
叫ぶロイドの言葉に答えてくれるものは誰もいない。
「我々はともかく。コレット達が気がかりだ。どうやら隣の牢屋に入れられているようだが」
こちらの牢にいれられているのは、ゼロス、セレス、リーガル、ロイド、ジーニアス。
そしてアステルとリヒター。
この七人。
そして向こうには、しいな、リフィル、コレット、マルタ、プレセア達が。
つまりおそらくは向こうは五人が牢の中にいれられているのであろう。
そのあたりは声をかけあい、
全員そろっているかすでにロイドが目覚めるより前に確認済み。
「その点、リリーナやミトスがアルタミラでまっていたのはよかったよね」
ぽつり、と心底安心したようにジーニアスがぽつり、とつぶやく。
救いの塔に向うにあたり、タバサを始めとしたリリーナ、ミトス、タバサは
アルタミラに向かうためにと別れている。
「コレット達も無事なんだな」
リーガルの言葉をうけ、ほっとしたように力をぬき、そしてぐるり、と周囲をみわたすロイド。
どうやらこの牢には奥に簡単なトイレらしきものなどが整備されており、その奥にベットが一つ。
どこからどうみても大人数を収容できるような場所ではない。
それでも広さがある、ということは捉えた人に余裕をもたすためか、
基本、天使を収容するためにつくられているそれは、
それでも天使になりたてのものが反旗を翻すこともある。
ゆえにつくられたその場所。
まだ完全に代謝物のコントロールができないもののため用につくられている仮初めの牢。
ベットが気持ち程度しかないのは、基本、彼らは睡眠というものを必要としないがゆえ。
否、寝るにはねるが、横になって、ということはしない。
寝るとすれば、その場にすわりこんで眠るようにとなっている。
それは翼が固定化したもの全てに共通していること。
クラトス達のように、完全に天使化したものは普通のヒトとかわりなく行動できるが、
マナが固定化して翼が固定化したものはそうではない。
「しかし、俺って何でこう、何どもさらわれて、牢屋にいれられなきゃならないんだ?」
何やらロイドががんがんと牢の柵をたたきながらそんなことをいっているが。
「日頃の行いだな。日頃の」
「ああ。たしかに」
「どういう意味だ!ゼロスもそれにジーニアスも!」
きっぱりといいきるゼロスにたいし、
ジーニアスがどこか納得した、というようにうなづいており、
そんなジーニアスにロイドが思わず叫び返していたりする。
このロイド、牢に入れられている、というのに悲壮感がまったくない。
それはシルヴァラントペースとよばれし場所に囚われていたときもそうだったのだが。
ロイドはそんな自分自身にまったくもって気がついていない。
「そう幾度も牢にいれられたのか?しかし、命があるだけましだろう」
そうつぶやくリーガルの言葉には実感がこもっていたりする。
伊達に自分から望んだとはいえ永きにわたり、八年もの間。
牢獄の中で過ごしていたわけではない言葉の重さが感じられる。
「それは、そうなんだけどさ。……くそ~。頑丈にできてるな。
靴にしこんでたハリガネでも鍵はあかない、か」
鍵穴らしきものはみえているが、かちゃかちゃとしても、まったく反応がない。
文句をいいつつも、ちゃっかりと鍵開けに挑戦しているのはロイドらしいというか、何というべきか。
「こっちもだよ。いろいろこれまで試してみたけど。ビクともしなったよ」
そんなロイドの声がきこえたのであろう。
横のほうからそんなしいなの声がきこえてくる。
「コレットかプレセアはここを壊せないか?」
ふと思いついたようにロイドが横にいるであろう彼女達にとといかける。
プレセアはロイドよりも力がある。
コレットに関してはなぜかその姿形のまま壁などを跡をつけて壊すほど。
「やってみたけど、ダメだったの」
「…すみません。お役に…たてなくて」
横のほうからコレット、そしてプレセアの声がきこえてくるが。
実際、コレット達もいろいろとしてみた。
しかし目の前にある牢の柵はびくともしなかった。
「もう。ロイド、ロイドが目をさますまでにいろいろやってはみたんだよ?
何しろロイドが一番遅くに目をさましたんだから」
「う。わ、わるかったよ」
そんなロイドにたしなめるようにジーニアスがじと目でいってくる。
実際、ロイドより早く目がさめたジーニアス達は、声をかけあい様々なことをためしてみた。
この牢からでることができないか。と。
「その先らしきものに制御装置のようなものがみえるから。
あれをどうにかできれば違うのでしょうけど…」
リフィルがその視線の先にあるちょっとした台座のような場所をみつつ、
ため息まじりにそんなことをいってくる。
実際、ロイド達の牢からはみえないが、リフィル達のいる牢からは、
おそらくそこが制御装置がある場所なのであろう。
ちょっとした台らしきものがみてとれる。
ちょうど死角の位置にはいるのか、ロイド達の牢からはその全容はあまりみえない。
「?まって、誰かくるよ」
そんなやり取りをしているそんな中。
ふとコレットがその耳をすませ、思わず叫ぶ。
このあたりには誰もいなかったはず、なのに。
「ここ、かな?」
ふと、そんな彼らの耳に何やらとても聞きなれた声が。
「今の声!?」
思わずジーニアスが目をみひらきつつも声を張り上げる。
遠くからきこえてくるのは、間違えようもない。
その声は周囲に響くかのようにきこえてきて、遠くなのか近くからきこえてきているのか
しっかりと判断に迷うものがあるが。
「まさか、エミル!?おーい!エミルなのか?!」
今きこえてきた声はまぎれもなくエミルのもの。
なぜにエミルがここにいるのか。
というか、たしか救いの塔にはいるときに知り合いと一緒にどこかにいったとか。
そんな説明をうけていたのだが。
そもそも、どうやってここにやってきたのか。
聞きたいことは山とある。
しかし、ある意味これは救いといえば救い。
ロイドがその声をきき、思わず声をはりあげる。
それとともに、やがて、視線の先、牢屋と牢屋の先にある通路にと、
みおぼえのある金髪の少年の姿が目にはいってくる。
ゆっくりと上のほうかり降りてくる様子をみるかぎり、
どうやらロイド達の視線の先にみえているそこに、階段、のようなものがあるらしい。
もっともその光景はリフィル達のいる牢からはみることはできないが。
「あ、ロイド達。ようやくみつけた。
…というか、何牢屋の中にはいってるの?中で休みでもしてるの?」
階段をおりきり、みてみれば、
なぜか二か所の牢にそれぞれ別れていれられているロイド達の姿がみてとれる。
ちらり、とみてみれば、それぞれにどうやら牢屋に入れられているもよう。
ということは、あれから抜け出しもせずに延々と中にいたのであろうか。
この彼らは。
それゆえに思わずエミルが首をかしげるが。
「誰がだ!というか、ここからでれないんだよ」
「エミル、あなた、いったいどうやってここに……」
ロイドが叫び、リフィルが怪訝そうに、姿をあわらしたエミルにと問いかける。
リフィル達は天使達にどうやらここにつれてこられたが。
エミルはどうやってここにまできた、というのだろうか。
「え?普通に救いの塔とよばれている中のとこからあがってきましたけど?」
嘘ではない。
嘘では。
きちんと起動エレベーターを使用してないが、その空間を利用はした。
「…いろいろと聞きたいことはあるけど。
エミル。その先に装置のようなものがあるの。それはわかるかしら?」
「え?あ、はい。これですね」
それはリフィル達とロイド達が捕らえられているちょうど中間にある台座。
小さな制御装置がその台座にはしつらえており、そこにてこの牢の管理をしているらしい。
「これをどうにかすればいいんですね」
いいつつ、エミルがその装置に手をかざす。
刹那。
ピッ。
『――………により、解放いたします』
どこからともなく声が響き。
それとともに。
ガシャン。
ロイド、そしてリフィル達が閉じ込められている牢の扉が自然にと開かれる。
あえてエミルがその手前の音を遮断したがゆえに、ロイド達にはきこえていないが。
機械から発せられた音は、管理者コード、という言葉。
本来、この地にある全てのものはラタトスクが管理していたといってもよい。
ゆえに、ラタトスクそのものが管理者権限をもっているがゆえ、簡単にこうして自在に干渉は可能。
「たすかったぁ」
「というか、エミル、よく合流できたね!」
ほっとしつつ、開かれた扉からそれぞれでてくるロイド達。
みれば、リフィル達も恐る恐る、ではあるが扉からでてくるのがみてとれる。
ジーニアスがほっとした声をだし、マルタが弾んだ声でいってくる。
「うん。この子達が教えてくれたしね」
『・・・・・・・・・』
みれば、エミルの背後にふわふわと浮かんでいる魔物が一体。
それと、あと機械?のような何かが浮かんでいるのはこれいかに。
「・・・なあ、エミル。それって…?」
「ああ。ここにすんでるレイスとマーダーだよ」
本来、マーダーは侵入者などにレーザー光線などをあてるための機械の属性をもちしもの。
かつてエミルが、否、ラタトスクが、
この地を管理するのに面倒だからという理由でうみだしている機械生命体。
ちなみに、同じ種族のくくりにて、パーフェクトマーダーとよばれているものもいる。
レイスはいうまでもなく闇属性をもちし、人の体の上半身をもちし、
それでいてヒトを完全に紫一色にしたかのような容姿をしているとある魔物。
ふとロイドがエミルの背後にいるそれらにきづき、指をさしつつといかけるが。
「もういいよ。それぞれ元の場所にもどっても」
エミルがいうのとどうじ、マーダーとレイス、とエミルがそれぞれいったものは、
なぜかそのまま、頭をさげるような…マーダーに関しては、
その体をそのままぐるん、とほぼ垂直に横にした後、
そのまま、ふわふわと背後のほうにと飛んでゆく。
「僕がくるまでに時間がけっこうあったとおもうんだけど。もしかして、ずっとここにいたの?皆?」
「僕ら、塔にはいって、クラトスさんにつかまっちゃったんだ」
エミルが首をかしげてといかければ、ジーニアスがしゅん、となりつついってくる。
「というか。エミル、よくあなたここにまでこれたわね?」
ここはおそらく敵の本拠地であろうに。
ゆえにこそ再度の問いかけをエミルにむけるリフィル。
その視線は少しの違和感もみのがすまい、としているのか、
じっとエミルをひたすらに見つめていたりする。
「え?普通にあそこから自由に出入りができるみたいですよ?」
ちなみにエミルのこの言葉に嘘はない。
実際にきちんと通路は確保されている模様。
そもそもエミルは普通にそれらの通路を通ってきた。
時折面倒なので壁などはすり抜けたりして移動したりはしているが。
「あの、あなたの知り合いって人は?」
「え?リリスですか?彼女はかえりましたよ」
しかもプルートをつれて。
テネブラエをつけているからそう変なことにはならない、とはおもうのだが。
というか思いたい。
リフィルの問いかけに、さらり、とこたえるエミル。
じっとエミルの目をみて問いかけるリフィルだが、エミルはきょとん、とした表情のまま。
やがて、何かを諦めたのか、深くため息をつき。
「…まあいいわ。エミル。あなたがやってきたという場所。
そこからなら、ここから出ることができる、というわけね?」
「ですね。確実に道は通じてましたし」
とりあえずこれ以上きいてもまともな返事はもどってこないであろう。
ゆえに盛大にため息をつきつつ、リフィルが気になっていたことをといかける。
「まあいいじゃないか。エミル、本当にたすかったぜ。
なら、あとはもらうものもらってとっととここから出ていくだけだな」
「…エミルがこなければ、私がどうにかしよう、とおもっていたのだが。
いらぬお世話であったようだな」
手の力を利用することもやむを得ない。
そうおもっていたが、どうやらそれは杞憂におわったらしい。
リーガルがぽつり、と何やらそんなことをいっているが。
「それなんですけど。リーガルさん。
手での攻撃のほうが慣れてるなら、いい加減にその手枷、はずしません?
いつのまにかまた、手枷つけてましたし」
せっかく地の神殿にて手枷をこわしてその両手を自由にしていた、というのに。
またまたリーガルは己の手に枷をはめて自由を奪っていたりする。
呆れたように首をかしげつつそういってくるエミルに対し、
「たしかに。私はもともと足より手での攻撃を得意としているが。
…かつての私はエクスフィアをつけていた。
エクスフィアは装備者の能力を最大限に高めるもの。
あのときはそう信じていた。が、その結果、私は、この手で……」
エクスフィアがもたらす悲劇をしらなかった。
知らなかった、ではすませられない。
いまだに覚えている。
自分の手がアリシアの体をやすやすとその腹を貫いたあの感触を。
今、リーガルはエクスフィアを装備していない。
あの一件以後、エクスフィアの使用を見直した。
そしてそれはレザレノに努めるものたちにも念のためにと通達した。
かの力における副作用。
それがわかったからそれらを安全面のために中止する、と。
じっと手枷をはめたまま、自らの手をみつめるリーガル。
その表情は何ともいえない表情をうかべているが。
「ったく。素直じゃねえよな。最初から手で戦えばいいじゃねえか。
あのときだって、ミトスを助けるためにあんたはその力をつかったんだしな」
あのとき。
地の神殿の奥深くで、岩につぶされかけたミトスを助けるため、
リーガルはその手枷の枷を解放した。
ゼロスからしてみれば、力の出し惜しみ、というのはあまりほめられたものではない。
「あの時は特別だ。人の命にはかえられぬ。
が、私は二度とこの手で戦わない、と誓ったのだ。
命がかかっていても、相手の命を奪いかねない、この手の力は、な」
エクスフィアを装備していなくても、自らの力が強いことにはかわりがない。
一番の理由は、また自分が攻撃をすれば相手の体を貫いてしまうのではないか。
そんな不安がリーガルの中にあるがゆえに、リーガルはふんぎりがついていない。
殺さなくてもいい相手まで殺してしまうのではないか、と。
「命を助けたり、誰かを助けたりする場合はともかく。そのとき手をつかう行為は別件、だ。
ロイド、お前は世界を統合してコレットを救うのだろう?そして世界も。
そんなお前達の命を助けるのにこの手の力をつかうことはあっても、戦いには私は使用はしない」
それはリーガルなりの決意。
足だけでもどうにかなるのだから、手はつかわなくてもいいだろう。
この場にアリシアがいれば、まちがいなくリーガルに一喝していたであろうが。
リーガルはそれに気づかない。
時には力があるのに使用しない、ということは、相手を危険な目にあわせることもあるのだ。
そのことをリーガルは失念してしまっている。
そしてそれがわかるからこそ、ゼロスは舌打ちせざるを得ない。
どうも過去にとらわれ、大局をこの会長様は絶対に見誤っている、と。
「まあ、そうだけどさ。でも、その手枷は邪魔だとおもうんだけどなぁ。俺も」
ロイドもどうやらリーガルの手枷は思うところがあったらしい。
まじまじとリーガルの手枷をみて何やらそんなことをいっているが。
「とにかく。
こんなところでいつまでも話していたらいつ見回りのものがくるかわからないわ。
エミル、ここにくるまで、周囲の様子はどうだったのかしら?」
エミルが普通にここにまでやってきたのであれば、見張りはいない、とみるべきか。
それとも、エミルの背後にいた魔物達の影響で
ここにいるであろうものたちも手だしができなかったのか。
そんな思いを抱きつつも、再びエミルにと視線をむける。
今現在、彼らがいるのは、牢からでた先。
それぞれの牢からでた彼らは、その先にある少し開けた足場に移動しており、
そこにて全員あつまりちょっとした会話を繰り広げていたりする。
ここからならよくわかるが。
この場から移動床にのって、牢の場所にそれぞれ移動ができるようになっており、
ロイド達が捕らえられていた場所は、万が一牢からでたとしても、
完全に吹き抜けとなっている空中に牢は位置しており、
そこからでてもどうにもならなかったのだ、というのがよくわかる。
エミルが機械を操作したがゆえに、ロイド達はそこから移動することが、
つまり、移動床がきちんと牢屋のほうにやってきたがゆえ、
こうしてあの場から抜け出すことができたといってよい。
目の前には制御装置らしきものが設置されている台座。
牢屋の前にはそれぞれ、牢に続いている、と示すためのものなのであろう。
門らしきものが設置されており、そこにパネルが上から垂れ下がっているのがみてとれる。
ちらり、と左手のほうをみればちょっとした階段があり、
その上に転送装置らしきものがみてとれるが、
やはりざっとみてもこの付近には他の人影はみあたらない。
足場となっている床そのものが空中につくられているものらしく、
見下ろせば、それこそ下がどこまでつづいているのかわからないほど吹き抜けとなっている。
「さっき、エミル、そこの転送措置からでてきた、よね?」
ちょうど階段だからこそ、よくわからなかったが。
よくよく目をこらせば上のほうに淡い青いような紫のような光がみてとれる。
だとすれば、あの階段の先に転送装置らしきものがある、とみてよいであろう。
首をかしげつつもといかけてくるアステルに対し、
「あ。うん。なんか転送陣の上にいろいろ荷物らしきものがあったから。
それを取り除いてみたら、ロイド達がいる場所につづいてたんだけど」
実際、あのままでは荷物が転送陣をふさぎ起動しなかったであろう。
それらを移動させたのは、共にいたマーダーであるが。
エミルは自分が取り除いたといっていないので嘘はいっていない。
ただ、マーダーが荷物を移動させた、というのをいっていないだけ。
「この上はどうやら居住区になってたみたいだよ」
いいつつ、エミルがすっと上を指差す。
たしかにみあければ、上空に別の足場らしきものがみてとれる。
それらの足場もまた空中にういているかのごとく、吹き抜けの穴にぽっかりと、
そこにただあるようにみえなくもない。
事実、ここはかの塔の中の空間なので、
吹き抜けの構造になっていても何らおかしくはないのだが。
「とにかく。いつまでもここにいても何ですし。移動しませんか?」
しばし、その場にある装置をエミルに問いかけたあと、気になったらしく調べていたアステルであるが。
そこにかかれている文字が意味がわからずにため息をつく。
天使言語に近いが、またことなるもの。
そんな文字がその装置らしきものには表示されている。
「これは、古代エルフ語、だな」
古代エルフ語という概念はしってはいるが、それをきちんと書くことができるもの。
といえばほぼ限られている。
おそらくエルフ達ですら、言葉を理解することはできはするが、
その原語をかけ、といわれれば今でこそ難しいであろう。
かつてヴォルトがしいなたちに語り、リフィルが翻訳したかの言葉。
それらの原語がそこには表示されている。
エミルからしてみれば、どうやらこの場は救いの塔の内部。
この塔そのものをアレを使用してつくったらしくため息をつかざるをえない。
まさか彗星内部においていた彼らを、警備係りとして移動していたとは思いもよらなかったが。
彗星に設置していたアプリケーターよりつくられたものも、またマナにて直接作り上げられるもの。
あれは面倒だったので、設定さえいれれば、マナが勝手に固定化し、
物質を作り上げるように、そう設定してはいた。
ミトスはどうやらそれにきづき、それを最大限に活用、しているらしい。
使用者制限、というものを設けていればよかったかもしれないな、と、今さらながらにおもってしまう。
リヒターもアステルとおなじく、装置をみながらそんなことをいっているが。
「とにかく。いきましょう」
エミルがここにまで無事にやってきたのであればどうにかなるかもしれない。
とはおもうが、それにしても。
「?エミル、あなた、何かあって?」
「え?」
「いえ、何でもないわ」
皆をうながしつつも、エミルをまじまじとみてといかけるリフィル。
なぜだろう。
エミルの気配がいつもと違うように感じてしまうのは。
そこにいるはずなのに、いないような、そんな不可思議な感覚をエミルからうける。
ちらり、とリヒターをみれば、リヒターも同じ思いをいだいているのか、
すこしばかり首をかしげているのがみてとれる。
実際この地はラタトスクのマナそのもので創られた地といってもよい。
ゆえに、気配が周囲とまざりあい、希薄になるのは至極当然。
エミルがわざわざヒトの気配に擬態でもするか、とおもわないかぎり、
この違和感はまちがいなくなくなりはしない。
地表ではあえてその擬態をとってはいたが、ここでそんな行為をする必要性をエミルは感じない。
「とりあえず、じゃあ、僕が先にいきますね」
いいつつも、そのまま左手にある階段をとんとんとあがってゆくエミル。
ロイド達が捕らえられていた場所からこちらをみれば右手にあたる階段も、
逆方面からみれば左手にと位置しており、その階段は途中で区切られている。
その階段の区切られた先にどうやら転送陣があるらしい。
淡くかがやく青白い光の帯がそこからたちのぼっているのがみてとれる。
青白いような紫のような、とにかくそんな光の帯。
エミルがそれにのるとともに、
エミルの姿がふいっと下からみてもわかるがその場からかききえる。
「…いただくものはいただいて。あとケイトのこともわかればいいんだけど」
「私たちもいきましょう」
エミルにつづくようにリフィルがいい、その言葉をうけてロイド達もうなづきをみせる。
うなづきをみせつつも、ロイドが何やらぽつり、とそんなことを呟いているが。
どうやらここは牢屋しかない場所らしい。
ならば、いつまでもここにいても仕方がない。
転送装置をぬけた先。
そこは整えられた清潔な居住区。
そういいあらわすのがしっくりくるような空間が広がっていたりする。
転送陣から少し歩いた先にみえるは、透明なドームでおおわれた動く床。
そして右手のほうにはエレベーター、なのであろう。
チン、という音とともに幾人もの翼をはやしたヒト達が、出入りを繰り返しているのが見て取れる。
ぱっとみるかぎり、ムダとおもわれたものはことごとく省かれている。
本来あるであろう木々ですら無駄なもの、とおもわれたらしく、
ここにはそういったものは存在していない。
塵一つついていないその空間に、
小さな機械が音をたて、ところせましとうごきまわっているのがみてとれる。
それは掃除ロボットの一種であり、彼らの行動によって、
常にこの場はチリひとつない空間にと保たれている。
「すばらしい!これらはすべてもしかして魔科学、か!?
すべて材質がみたこともないものばかりだ!」
リフィルが思わず興奮したように周囲の壁に手をあてそんなことをいっているが。
「そんなことより、あれ」
「…もののみごとに天使ばっかり、だねぇ」
ちらり、とみえる様々な人々は全てその背に白き翼をはやしており、
どうみても普通の人間はこの場にはいない、というのは一目瞭然。
マルタがそれにきづき、指をさし、そちらをみてしいながおもわず首をすくめる。
「うへぇ。もののみごとに天使ばっかりだなぁ。ここ」
それにきづいたのか、ロイドもまたうんざりしたようにいってくる。
「こんなところうろついていたら、すぐに通報されそうだな」
リヒターが淡々と至極もっともなことをいってくるが。
「そういえば、よくエミル通報とかされなかったよね?そういうのないのかな?」
これだけの数の天使らしきものがいるのに。
天使、とわかるのは、かつてのレミエルとまったく同じ、
鳥の翼をもったものたちばかりであるがゆえ
そんなジーニアスの台詞に、。
「可能性としてエミル君の背後にいたアレラをみて、お仲間とおもわれてたんじゃねえの?」
『なるほど』
ゼロスのさらり、としたものいいに、同時に納得とばかりにつぶやくロイド達。
翼を生やしてはおらずとも、たしかに魔物を従え、
さらには警備ロボットまでひきつれていれば、仲間とおもわれても不思議ではない。
最も、ロイド達はあの機械らしき何かが警備ロボットの一つなどとは知るよしもないのだが。
「すでにエミルがあの魔物と機械を手放している以上。警戒は必要ね。
あとコレットとゼロスは天使だからいいとして。
そうね、私たちは連行されているフリをしましょう」
リフィルのそんなものいいに、
「あ。こっちに誰かくる」
ふときづけば、一人の天使がこちらに近づいてくるのがみてとれる。
「あら。お客さま?」
どうやら意思疎通はできる、らしい。
ちらり、とこちらをみてくるが、首をすこしかしげただけでそんなことをいってくる一人の女性。
彼らは隠れているつもりではあるが、気付かれないはずがない。
そもそも話すのにあたり、防音処置などまったくもってしていなかった。
何か声がする、とおもって近づいてきた女性の目にはいったのは、
この地においてはめずらしいヒトの子と、
そしてハーフエルフの気配をもちしものと、天使の気配をもちしもの。
…あとの一人はよくわからないゆえに、首をかしげざるをえないが。
「久しぶりね。この神聖都市ウィルガイアで天使形態でないものをみるのは。
幹部クラスの方をのぞけば、前のマーテル様の器がここにきた八百年ぶりね」
そういい、まじまじとその視線をアステル達にとむけ、
「あなた達をみていて思いだしたのだけど。
私たちも元々、ハーフエルフや人間だったのよ。
どうして忘れていたのかしら。きっとここが平和だから、ね」
いいつつそう首をかしげながらそういうが、表情はぴくり、ともうごいていない。
否、よくよくみれば多少の変化はありはするが。
そんな女性の姿をみて、プレセアがじっとそんな女性をみていたりする。
その表情の変化のとぼしさはプレセア自身をみているかのごとく。
ロイドが近づいてきた翼を生やした女性が話しかけてきているそんな中、
「しかし。そろそろマナの流れを切り替えなければならないのではないのか?」
「しかし、ユグドラシル様の命令だそうだぞ?繁栄世界と衰退世界。その処理は中断している、ときく」
ふとそんな会話がロイド達の耳にときこえてくる。
ちらり、とみてみれば、どうやら天使の男性が二人ほど。
その場にたちすくみ、どうやら世間話しをしているらしい。
「それはしっている。しかし、今現在。
どういうことかわからないが、種子の守りが弱まりかけている。
システムが混乱しているといってもよい。
ラインが一つだけでなく、すでに二つも消えているというぞ?」
「それはしっている。その調査のためにユアン様までもが地上にでむかれているときく。
四大天使様方が何とかするではあろうが」
「何とかしなければ。二つの世界をこのままの姿で維持することもユグドラシル様のご意思だしな」
うんうんうなづくその様は、よくよく見れば彼らの表情もほぼうごいていない。
多少の表情の変化はあるようではあるが。
そんな彼らをちらり、とみてロイドは思わず首をかしげる。
何となくその姿が誰かにかぶったようにみえるが、
しかし相手の翼に目をとられ、天使、というフィルターでみているロイドには、
それが誰を示しているのか気づけない。
その表情の変化の乏しさは共にいるプレセアとほぼ同じ。
というその事実に。
「たしかに。しかし。かの彗星の力はあてにはできないぞ。
デリス・カーラーンのマナはマーテル様が命をかけてまもった
大樹の種子を死滅させないために全て種子に注がれている」
「それはわかっている。それこそ四千年前からな。
二つの世界でマナの消費量を反映、衰退を繰り返させることで抑えねばならぬほど、
大樹の種子からもれるマナは微弱だという」
「だな。まあ、マーテル様が復活し、
ユグドラシル様が天使の千年王国を築いてくだされば、
二つの世界のマナ消費量管理などどうでもよくなるだろう。
世界も一つに統合されるであろうしな」
「全くだ。それもこれもヒトが無駄にマナを消費するからだな」
「それを考えればユグドラシル様は何とも慈悲深い。
我らのような狭間のもの、ハーフエルフだけでなく、
きちんと心ありしヒトにまで天使化という救いをもたらしているのだからな」
「だな」
何やら言いたいことをいいおえた、のであろう。
「それはそうと、お前、そろそろ交代の時間じゃないのか?」
「そうだな。ではまた」
「また」
いって、それぞれその場からわかれている天使二名。
『・・・・・・・・・・・』
彼らの会話はあまり離れていないロイド達のもとにもきこえていた。
「今の……」
思わずロイドが口を開けようとするが。
それよりも早く。
「しかし、今回の器にレミエルが神託を与えてから、計算できぬ事態がおこりすぎている。
まったく、誰だ?レミエルを今回の神子の神託として推挙したのは?」
「レミエルのやつは、身分不相応にも四大天使の座をねらっていたからな。
おおかた、神子の神託のときに何かしでかしたのではないのか?
実際、クラトス様自らが制裁をくわえた、ときくぞ?」
はっとみれば、別の場所から何やらそんな会話をしているのがみてとれる。
今度はさきほどの天使達とは違う別のもの達、であるらしい。
一人は女性、一人は男性の天使達。
「まあ、ディザイアンの中でもユグドラシル様にたてつくものがいたのはわかっていたからな」
「よりによって魔導砲を開発していた五聖刃のロディル、か」
「何だ、きさま、もう様をつけないのか?」
「裏切り者に様をつける意味はない」
「たしかに。しかし、こまったな。なぜかクヴァル様やマグニス様。
彼らも死んでしまったときく。ヒトの反乱にあってな」
「ヒトとはそういうものなのだろう。意味もなく我らを虐げるような輩なのだから」
「違いない」
『・・・・・・・・』
今度はそんな会話がきこえてきて、おもわずロイド達はだまりこむ。
クヴァル、そしてマグニス。
彼らを殺したのはほかならぬロイド達。
そして、ロイドの心につきささるのは、彼らがいまいった、意味もなく自分達を虐げる。
その言葉。
お前達もしているじゃないか。といいたい。
「…始めに裏切ったのはどっちか、ということ、だよね」
ぽつり、とそんなロイドの横でエミルがつぶやき、ロイドもはっと目をみひらく。
そう。
彼らはもともとヒトに虐げられていた。
だから、今は彼らが。
「…でも、そんなのまちがってる。自分がやられたからやりかえすって……そんなの、間違ってるよ」
ぎゅっとロイドはこぶしを握り締める。
「でも、ロイドもお母さんの仇だからって、クヴァルってヒトを殺したんでしょ?」
「そ、それは……」
「やられたらやりかえす。彼らはただ、その相手がやってきた相手とは違う相手。
でも、たぶん彼らにとっては同じヒトだ、というだけで同じなんだろうね。
君たちヒトが、ハーフエルフ、というだけで、全て同じで害がある、と教育されているように」
『・・・・・・・・・・・・っ』
実際、シルヴァラントにしろ、テセアラにしろ。
ハーフエルフは害にしかならない。
そのように教育がされている。
だからこそ、彼らは何もエミルの言葉にいいかえせない。
それが事実だ、と理解できるがゆえに言い返すことができない。
特にリヒターなどはそれを身をもってしっている。
ハーフエルフだ、エルフと通じた。
という理由だけで目の前で両親。
それを殺されてしまっているのだから。
「死んでしまったものは仕方がない。
それより、いなくなってしまった五聖刃のかわりに、プロネーマ様を助けるものが必要だ」
「ではその候補者なのではないか?クラトス様がつれかえったという」
「そういえば、クラトス様が戻られていたな。ユアン様は?」
「ユアン様はまだ地上の探索からもどられてはいない。
このたびの不測の事態の調査に自らあたられているのであろう」
そんなロイド達の言葉がきこえているにもかかわらず、
まったく気にもとめずに会話をつづけている二人の天使達。
「近いうちに、また新たな神聖五聖刃が選出されるかもしれないな」
「だな」
いいつつも、そんな会話をしている二人の天使は奥にある扉の中にときえてゆく。
「…天使、という概念をすこし訂正する必要があるようね。
てっきり全ての天使が心をうしなっているのか、とおもったわ」
けども、どうやらそうではなく、互いに意思疎通ができているらしい。
「あら。あなたはまだディザイアン階級、なのね。
ならまだ説明をうけてないのかしら?
天使化するにあたり、たしかに感情は一時失ってしまうけども。
時間とともに感情が回復するものもいるにはいるのよ。
でも、昔ほど感情の起伏が激しいか、ととわれれば答えは否、だけどね。
だって、そんな必要を感じないのですもの。
でも、あるいみで感情が回復しないほうが楽かもしれないわ。
だって、何もすることなく、ただ無碍に時間ばかりすぎてゆくのだもの。
ああ、エレベーターはこの先、よ」
それだけいい、先ほどこの街の名をいってきた女性は、ふわり、とその場から浮き上がる。
どうやら彼らはエレベーターを使用する、もしくはその翼で上下に飛び交うことにより、
普通にこの吹き抜けの空間内にあるいくつもの居住区。
それらを行き来しているらしい。
女性にいわれ、よくよくみてみれば、会話をしているものもいれば、
虚無な表情のまま、ふわふわと周囲をさまよっているかのごとく移動しているものもいる。
会話をしているものはどうやら少数人数っぽく、
意味もなくふわふわと浮いているものはほとんどその表情が抜け落ちている。
もっとも、会話をしているものもどちらかといえば能面のような固まった表情。
そういうに相応しい変化しかみられないが。
「どこを見回しても、天使、天使、天使。
ったく、薄気味わるいぜ。何をかんがえてるのかわかりゃしねえ」
今彼らに話してきた女性すら、その表情にまったく変化がなかった。
そのようにロイドにはみえた。
「人形みたいなやつら、だな」
「人形…ですか」
そんなロイドの台詞にプレセアがぴくり、と反応したのにロイドは気づけない。
「たしかに。人形みたい、だよね。表情がまったくうごいてないし」
ロイドがぽつり、とつぶやけば、それに同意したようにつぶやくジーニアス。
彼らは戸惑いの声をあげているプレセアの変化に気づいていない。
そんな彼らの言葉をうけ、すこし沈みがちに、
「…あの人達、私と同じ、ですね」
「何いってるんだよ。プレセアのどこが」
ぽつり、とつぶやくプレセアに思わずジーニアスが反論する。
「でも、彼らは私と同じ。です。私も表情に変化はほとんどみられま、せん。
以前など、心をうしなって、いわれるまま、ただ生きているだけ、でした」
「「そ、それは……」」
「あなたたち、もう少し物事を考えてものをいいなさい。特にロイド。あなたはね。
前にもいったとおもうけど。あなたの何気ない言葉は。
時として相手を傷つけるの?まさかもう忘れたの?」
「…ご、ごめん。プレセア。でも俺そんなつもりじゃ」
「では、どんなつもり、なんですか?」
「・・・・・・・・・」
プレセアの問いかけにロイドは答えることができはしない。
「私は、人間なんでしょうか?」
「に、人間にきまってるでしょ!」
「では、あの人たちもそう、なのでは?」
「「・・・・・・・・・・」」
ぽつりとつぶやくプレセアの台詞にすかさずジーニアスが反論するが、
それにつづいていわれたプレセアの台詞にジーニアスもロイドも答えることができない。
プレセアにいわれようやくきづく。
天使、というだけで彼らをヒトでない何かとみていた自分の心に。
天使だ、というだけで敵、とみなしていた自分達の心にと。
「しかし。驚きですね。彼女がいうには、ここにいる天使達。
全てハーフエルフかとおもってましたら、人間もいた、というのですから」
「だな」
そんな彼らの横では、アステルとリヒターが何やらそんなことをいっていたりする。
彼らからしてみれば、まさかクルシスが人にも天使化という方法。
それをとっている、というのは信じがたい事実であったらしい。
「え、えっと。エミルはどこからきたの?」
何だか空気が重い。
ゆえに話題をかえるべく、あえてマルタがエミルにと話題をかえてといかける。
みれば、コレットもうつむいており、コレットもまた思うところがあるらしい。
「この先にある扉の奥にたしかエレベーターがあったよ?
でも、僕がきたのはその先にみえてるエスカレーターの先だけど。
この扉の先はどうやら彼らの居住区ぽかったけどね」
いいつつ、エミルが指差すは、さきほど天使の男性達がはいっていった扉の先と、
そして目の前にある斜め方向にのぼっている動いている床らしき場所。
「エレベーターの移動はどれくらい?」
「たしか。移動は一階から五階までありましたよ?」
リフィルの問いかけにさらり、とこたえるエミル。
実際、この先にあるエレベーターでそれぞれの階への移動は可能。
「ここは、なら何階なのかしら?」
「一階でしたよ?一応、皆をさがすのに、エレベーターも調べてみたので。
どこかの部屋にいるかもしれませんしね。でも皆はそこにはいませんでしたけど」
実際に移動したわけではないが、視て確認しているのでエミルの言葉に嘘はない。
「とりあえず、一通りの階をみていきましょう。あまり天使達にははなしかけないように。
話しかけられたら私が何とか対処します」
「そうだな。まずはマナの欠片がどこにあるのか。
それとなく天使達があのように噂話しなどをしているのならば。
それらの話しから推測できるやもしれぬ。
いざとなれば近くの天使にきくしかないだろうが」
「まかせて。ハイエクスフィアの実験で必要になったとでもいえばどうにか。
ちょうど、素材といっても違和感がないこの子達がいるものね」
リーガルの台詞にうなづきつつも、リフィルがそんなことをいってくるが。
「先生、そりゃないよ……」
さらりというリフィルの台詞にがくり、と肩を落とすロイド。
「とにかく。いくわよ。いいこと?ロイド。あなた達は護送されている、
エクスフィアの素材。連行されている立場の役割というのをわすれないで。
ゆえに勝手な行動、または言動はつつしむように」
「…はい。先生」
そういうリフィルの目は座っている。
いらないことをいうな。
と完全にその目がものがたっている。
ゆえに、ロイドとしてはいいたいことはいろいろとあるが、
こういうときのリフィルに逆らったら怖いことを十分身にしみてしっているがゆえ、
うなだれつつもうなづくより他にない。
「…ここは」
扉をくぐったさきは、がらん、とした廊下、そしていくつかの小部屋らしきものがみてとれる。
「しっかし。この街、何か違和感をかんじるね」
しいなが扉をくぐり周囲をみわたしつつぽつり、とそんなことをいってくる。
たしかに綺麗、なのだが。
何だろう。
こう無機物すぎる、というべきか。
そこにあるべきものがまったくなく、ただ建物となっている品々があるのみ。
そのようにしかみえない。
それがかなりの違和感をしいなにと与えていたりする。
「おそらくは。先ほどからみるかぎり、多くのものがたしかにここに存在しているが。
しかし、ここにはまったく生活感、というものが感じられない。
それが原因だろう」
リーガルも周囲をみわたしつつ、しいなの疑問に答えるかのように何やらいっくてるが。
実際、必要最低限のものしかなく、この場においても、床と壁。
それ以外の何もみあたらない。
普通人が生活していればそこに花の一つでもありそうなのに、娯楽用、観賞用のそれら。
それらがまったくみあたらない。
無機質。
一言でいってしまえばまさにそのとおり。
生活感の欠片もない。
しいなたちヒトからしてみれば、それは無ともいえる空間に等しい。
エミルにとってはまったく違和感を感じてすらいないのだが。
そもそも、宇宙空間とくらべれば、よりおおくのものがあるではないか。
というのがエミルの、否ラタトスクの認識であったりする。
「そっか。たしかに生活感の欠片も感じないね。ここは。
こんなとこで生活するのはあたしはごめんだよ」
そしてこんなところに彼らを住まわせているクルシスはやはり間違っている。
そんな思いがふとしいなの心によぎる。
彼らはこんな生活感もないような場所で永遠とすごしているのであろう。
それが何ともさみしくも…そしてやるせない。
ふと、
「オリジンは封印されているときく。
精霊の王をも封じる力とはどのようなものなのだろう」
「そういえば、オリジンの封印はユグドラシル様の命令で幹部の方々が取り仕切ったとか」
扉からはいってすぐ。
ふと右手にある部屋のほうからそんな会話がきこえてくる。
みれば、壁際に三人の天使たちがあつまっており、またまた世間話をしているらしい。
ちらり、とロイド達にきづくが興味がないとばかりにそのまま会話をつづけていたりする。
ある意味でリフィルが居住区画で情報を集めよう、とおもったのは正解といえよう。
「うらやましいわ。私もそこまでの信頼をユグドラシル様からうけてみたいわ」
どうやら話題は精霊オリジンのこと、らしい。
「しかし。幹部の方が封印したからこそ。オリジンが目覚めることはない。
そしてオリジンが目覚めないかぎり、エターナルソードは永遠にユグドラシル様のものであろう」
その台詞をきき、思わずエミルが眉をひそめる。
彼らはレインが精霊だ、と認識していないのであろうか。
どうもそのものいいから、ただの剣、という認識でしかないような気がする。
それはもう果てしなく。
「精霊オリジンの封印、だって?」
しいなが思わずぽつり、とつぶやくが。
その呟きがきこえた、のであろう。
「あら?めずらしいわね。人間と、そしてディザイアン階級。
それに下級天使?どうして人間が、ここに?」
先ほど、うらやましい、といっていた天使の女性が、しいなの言葉に気付いたのか、
ふと視線をむけたのち、
ふわふわととんできて、まじまじと一行をみつつ何やらといかけてくるが。
「このものたちを連行しているのよ。必要になったマナの欠片をとりにいきたいのだけど」
「?ああ。もしかしてその人間達は素材なのね?
マナの欠片の保管庫ならこの先、この扉をでてすぐ左手にある扉の先よ。
でも今は配布は停止されているはずだけども」
「ありがとう。私たちはいそぐので、これで」
そういいつつ、多少首をかしげてくる。
どうやらこの女性はかなり自我が戻ってきているらしい。
マナの活性化に従い、当然、彼らが感じるマナ、
そして彼らの内部に影響をあたえていた微精霊。
それらも活性化していたりする。
ゆえにそれまでずっと停滞していた天使化していたものたちの感情。
それがゆっくりと今現在表にでてきていたりする。
ラタトスクが力を取り戻すに従い、狂わされた微精霊達も正気をとりもどし、
ゆえにそれらのヒトの器からの解放を望んでいる結果ともいえる。
ついでにいえば彼らの体内より急激ではないが、微精霊達が抜け出れるように、
ラタトスクは干渉していたりする。
ミトスはしらないが、そう遠くない未来、全ての天使達が自我を取り戻すであろう。
何しろ彼らを狂わせていた微精霊達。
それらが全て解放されるのだから。
「…さっすがリフィル様。機転がすごいねぇ」
おもわず扉を抜けた先にてぽつり、とゼロスがこぼす。
あの場にてたじろいだロイド達とは違い、リフィルは堂々と、
逆にあの天使にとマナの欠片のありかをといかけた。
「ロイド達が余計なことをいわなかったからよかったのよ。
さ、位置がわかったから、とりにいきましょう」
どうやら偶然にもマナの欠片の保管庫は近くであったらしい。
ならば先に必要なものを手にいれ、それから先ほどきいた、
ケイトらしき人物のことを調べても遅くはない。
そんなことをおもいつつも、さくさくと歩みをすすめてゆくリフィル。
目指すは、今きいたばかりのマナの欠片の保管庫。
先ほどきいた保管庫につづく扉。
そこをくぐるとどうやらかなりの広さの保管庫であるらしい。
ずらり、といくつもの棚のようなそれにカプセルのようなものがしきつめられ、
そしてその手前におそらくは倉庫番、なのか一人の天使の姿がみてとれる。
ふとエミルがクラトスのほうを視てみれば、クラトスはケイトをつれている。
どうやらケイトに面会にいき、そのままケイトをつれてどうやらあの場を出ているよう。
落ちつくまでどうやらケイトはとある部屋にあるいみ軟禁していたらしいが。
クラトス曰く、このウィルガイアに住む天使達は、
あまりに長い時間を生きているために、時間の感覚が麻痺し虚無になってしまっている
そういっているが、そんなことはない。
ただ、その身にとりこんでいた微精霊。
その力にたえられなくなってきて影響がではじめていただけのこと。
それにしても、とおもう。
「…時間の止まった世界、ね」
この程度でそんな表現をするなどとは。
ぽつり、とつぶやくエミルの台詞が聴こえた、のであろう。
「たしかに、そう、なのかもしれないね。
天使化、か。もっと詳しく研究してみる必要があるんだろうね。きっと」
「…だからって、アステルさん。アステルさんまで天使化を推進しよう。
なんておもわないでくださいね?」
まあ、微精霊達の卵たる精霊石を全て人の手に触れられないように、
理を書き換えるつもりなので人が手にすることは二度とできなくなるであろう。
「…勇者ミトスって、どうしてこんな世界をつくりだしたんだろ?」
「話しはそこまでにしなさい。とにかく、今は――」
会話を始めたアステル達の言葉をさえぎり、リフィルが一歩前にでて、倉庫番らしき人物にと近づき、
「すいません。マナの欠片をもらえないかしら?」
「マナの欠片をくださ~い」
リフィルがいうのと、コレットがいうのはほぼ同時。
すっと目を閉じ思いをはせる。
先ほどクラトスがケイトにはなしていたこと。
それはミトスにとってはおそらく始まりの記憶とも言える出来事。
――お願いです!陛下にお目通りできないのはわかっていますから、
せめて騎士団の方に取り次いでください!
このままだとシルヴァラントとの全面戦争が始まってしまうんです!
必死に懇願していた、という。
その騒ぎをききつけ、クラトスが表にでていった。
そしてそんなクラトスにむけ、
――騎士団の方ですね?シルヴァラントの侵攻作戦が始まろうとしてるんです!
――お前は?
――ミトスです。ミトス・ユグドラシル。
ミトスはヘイムダールを追われ、シルヴァラントを目指していた。
その途中、シルヴァラントのテセアラ進行計画をしってしまい、
ゆえにテセアラにそのことを伝えにいった。
でも、人間達は、ミトスが、ミトスの姉がハーフエルフだから、という理由だけで、
その忠告を無視した。
ざれごとだ、と。
ミトスとマーテル、そしてクラトスの意見すら当時のテセアラ王は無視したという。
結果として、テセアラの街は、国は炎につつまれた。
またか、とおもった。
あのときは。
ついに全面戦争に突入したか。
本当にヒトとは愚かでしかないな、と。
戦争が始まったのはセンチュリオン達の報告でわかっていた。
どうするかと問われ、ほうっておけ、とも命じていた。
魔物達に被害がでないのならそれでいい、と。
あのとき、すでに戦いは断続的につづき、九百年はたっていた。
それは彗星が九回めぐってきたからそれは間違いなかったはず。
なぜか百年周期で、おそらくヒトは無意識のうちに悟っていたのであろう。
百年毎に少ないはずのマナがみちる時がある、と。
それをめざすかのようにして人々は戦争をしでかしていた。
――どうして。僕たちの言葉にほんの少しでも耳をかしてくれていれば。
こんなことにはならなかったのに。
――ヘイムダールでもそうだった。僕らとはかかわりのない事件も。
全部僕らの責任にされて、そしてウィノナ姉様までが僕らのせいでっ
ハーフエルフがやくさいの原因だって、村を追われて
――私が、あの傷ついた人を助けたばっかりに
――姉様はわるくない!悪いのは、…悪いのは、恩をあだでかえしたような、あのっ
マーテルが怪我をしたひとを保護したのが始まりといえば始まり。
でもそれはきっかけにすぎなかった。
それがエルフの力をもとめる国の間者だとしても。
エルフ達がその言葉に耳をかし、あの当時いたハーフエルフ達が耳をかし、
そして戦争にくわわり、またその知識を国に提供していった
それらの責任全てをミトス達におしつけるようにして、処刑しようとしたエルフの民
そんなミトス達をかばうようにして命をおとしたウィノナ。
クラトスの言葉から、ぽつり、ぽつりと当時のことがケイトにと語られていた。
当時、シルヴァラントはハーフエルフを重要しているといわれていた。
けど、実際はハーフエルフを使い、天使化の実験を繰り返し、あるいみ奴隷のような扱い
テセアラにしろ当時他にもあった国ですら、
すべてのものがハーフエルフ達を追いたていた
利用するところはして、必要がなくなれば全ての罪をおしつける。
そんな世界に当時はなっていた
そして心がすさんだ人々は、自分達より下に見下すもの。
つまりはハーフエルフを蔑むことによって、心の安定を保っていたかのようにもおもう。
そんなことをしても意味がない、というのに
そして、マナが少ないのもすべてハーフエルフのせいにし、
大樹がかれたのすら彼らのせい、といいきっていたあの当時。
たしかに、そうかもしれないが。
しかし、それは魔族とかかわりをもったヒトの国がしでかしたこと。
大樹が結果的に枯れる原因をつくったのは、ほかならぬヒト。
ハーフエルフではない、ヒトの欲。
力をもとめたヒトがより多くのマナを消費し、マナを多様する兵器を作り上げたがゆえ
そこにたしかにエルフ、そしてハーフエルフの知識が利用されたとはいえ。
それを作り上げたのはヒトでしかなかった、というのに。
――ミトス。クラトスにあたってはだめよ。わかっているでしょう?
こういうことは何度でもおきる。私たちはそれを乗り越えなければならないのよ
もう、九百年以上前からヒトとハーフエルフの関係は歪みつつあった
これを変えることは簡単ではないわ
そのとき、マーテルがそういった、という。
そして。
――約束したわね。ミトス。絶望するなら、静かに暮らす道を選びましょうって
マーテルの言葉に、そのときミトスは。
――絶望、じゃない。僕は…諦めない。誰かが声をあげなければ何もかわらないもの
そういった。
それはミトスがラタトスクにもいった言葉。
なのに。今のミトスは。
「……君は、どうして……」
姉を殺されたのが原因なのだろう、というのはわかっている。
でも、もう一つわかっていたこともあったはず。
どうして、閉じこもったというあのとき。
自分のもとに訪ねてきてくれなかったのか。と。
あのとき、彗星が接近していたのだから、約束では訪ねてくるはずだったのに、と。
そのときに話しをきいていれば、マーテルの体くらいいくらでも新たに創ることができたのに。
なのに、ミトスは選択を間違えた。
彗星の力と全ての精霊の力をマーテルを生き返らせることに利用した。
あのとき、ミトスが訪ねてきて話しをきけば。
まちがいなくラタトスクは今ある国に救いはない。
そう判断し天変地異をおこし、心あるものだけをのこし、
地上の人々を粛清していたであろうに。
なのに。
――絶望なんてしない。どこかに道はあるはずだもの。
――ならば、お前は私の新たな希望だ
それはかつてのミトスとクラトスとのやりとり。
彼らの、クラトスとミトスの旅の始まりの記憶。
その記憶がクラトスからケイトに語られているのがみてとれる。
エミルが目をとじ、その思いを他にむけるとほぼ同時。
一方、コレットとリフィルが互いに倉庫番らしき人物にと声をかけたのをうけ、
倉庫番らしきものが、そんな二人にと視線をむける。
リフィル達は背後の少し離れた場所で、エミルが目をとじて壁によりかかっていることに気付かない。
気付かないまま目の前の倉庫番らしき天使にと語りかけていたりする。
「人間…か?」
ふと背後にいるロイド達に気がついたのであろう。
とまどったような声をあげる倉庫番の天使。
「人間がくるなど報告はうけていないな。
とにかく、マナの欠片は今現在、配布中止となっている。
それぞれ自分のエリアにかえりなさい。
ディザイアン階級のお前も用事があるのなら、そちらに向かうように」
その台詞はコレット、そしてリフィルにむけて。
「この人間達はクルシスの輝石を研究するための素材よ。
ハイエクスフィアといったほうがいいかしら」
そんな天使の台詞にリフィルがさもあたりまえ、のように堂々と言い放つ。
ここまで堂々といいきれば、よもや嘘をついているなど誰も夢にもおもわないであろう。
「ハイエクスフィアの?ああ。そういえば。
クラトス様が地上から研究者をつれてもどっていたか。
たしかに、人間をつかった研究がされているとはきいてはいたが。
だからか、クラトス様がハーフエルフの研究者をつれてもどられたのは」
『!?』
さらり、といわれた天使の言葉に思わず顔をみあわせるロイド達。
リフィルは内心驚愕するものの、しかしその驚愕を表情にあらわすことなく、
「そうよ。それでマナの欠片が必要になったのよ」
いかにもそれが原因で必要になったのだ、といわんばかりの態度をとる。
本当ならば地上から連れてきたという研究者のことを詳しくききたい。
しかしそれをしてしまえば不振がられる。
ゆえにその動揺をおしころし、何でもないように、
いかにもしっているとばかりの態度をとりつつ、淡々と命じるように言い放つ。
「ふむ。わかった。身分証明書を提示してくれ」
たしかに目の前のディザイアン階級のハーフエルフの言葉は筋がとおっている。
下級の天使も二人もいるということは、間違いないのであろう。
そう判断し、その手におそらくは、取り出し記録、なのであろう。
タッチパネル式のような薄い板のようなものを取り出す天使。
どうやらそれにてシステムに書きいれることで、出し入れの記録を保管しているらしい。
「そんなもんがいるのかよ」
ゼロスがやれやれ、とばかりにいえば、
「あたりまえだ」
即座に相手からそんな返答が投げかけられてくる。
そんなやり取りをしている最中、ふとマルタが背後にいるエミルの様子にきづく。
みればエミルは壁によりかかり、目をつむっている。
「エミル?エミル、エミルってば!」
まさか、意識を失ってるとか、何かエミルの身になにか!?
そう多少あせりつつ、おもわずエミルに強い口調でかたりかけるマルタであるが。
「そこ!今は大切な話しの最中よ!口をださない!」
そんなマルタにむけ、リフィルの強い叱咤の声がむけられる。
「…ル、…ミル、エミルってば!」
「え?あ…え、えっと、何?」
じっと目をとじ、クラトスがいっていたことに思いをはせていれば、
いつのまにかどうやらじっと自分の目をのぞきこんでいるマルタの視線。
何やらリフィルの声もきこえたような気がしなくもないが。
「何が、じゃないよ。どうしたの?エミル?つかれたの?」
心配そうにそんなエミルにマルタがいってくるが。
「い、いや、大丈夫だよ。うん」
疲れていたのではない。
ただ、どうしてミトスがこのようになってしまっているのか。
それに思いをはせていただけ。
ふとリフィル達のほうをみてみれば、
「しかし、身分証明書がなければ……」
何やら倉庫番らしき天使化している人物がそんなことをいっているのがみてとれる。
「…え、えっと、何がどうなったの?」
とりあえず、意識をあちらにむけていて、こちらで何がおこっていたのか。
まったくもって気にもとめていなかった。
どうやら身分証とか何とかいわれているようではあるが。
そんなエミルの戸惑いの声に問いかけるかのごとく、
『始めはマナの欠片は配布中止中。
自分のエリアにもどりなさい。といってきたのですが』
ふと心に響いてくるソルムの声。
それで?
ひとまず今の状況を理解するために、
状況を把握しているらしきソルムにと、同じく念話にてといかける。
『あの女性が、この場にいる人間達をクルシスの輝石を研究するための素材。
そう説明しまして。そしてその結果、欠片が必要になった、と説明したもようです。
しかし…ラタトスク様、大丈夫でございますか?』
どこか気づかってくるようなソルム。
「…問題はないよ」
そう。問題はない。
ただ、すこしばかり、ミトスのかつて。
そして今のありよう。
それらを思い返すきっかけをクラトスの会話からつかんでしまっただけのこと。
マルタに少し笑みをうかべ、そう答えたその直後。
「…あれ?」
ふとクラトスのほうをみてみれば、どうやらケイトとともに通信室にむかっていたらしい。
一体、何を…
エミルがそう思うとほぼ同時。
――クラトス様、何か御用でしょうか?
――通信機を借りる。
――わかりました。どちらにお繋ぎいたしますか?
――第十一ブロックの倉庫へ繋げ
――マナの欠片の保管庫ですね。判りました
その言葉とともに、その場にいた天使が通信機器を操作し、
どうやらこの地の通信機と繋げたもよう。
おもわず、この横にあるモニターをはっとみつめるエミル。
そんなエミルの行動とほぼ同時、
ヴッン。
倉庫の入口付近にあるスクリーンが一気に明るさをましてゆく。
そして。
「あ。クラトス様!?」
さきほどリフィルと何やら言い合っていたっぽい天使がそこに映し出された姿をみて声をあげる。
みれば、スクリーンにむけて簡単に膝をおっているのがみてとれる。
彼らなりのクラトスにたいし礼をとっているらしい。
片膝をつけ、スクリーンの向こうのクラトスに礼をとっているその様は、
ロイドたちからしてみれば違和感が半端ない。
クラトスのほうからも、相手が礼をとっているのは確認できているようではあるが。
『神子の儀式の準備のためにマナの欠片が必要になった。
そちらに使いを送ったので彼らに届けさせてくれ』
スクリーンの向こうから、そんなクラトスの声がきこえてくる。
「わかりました」
そんなクラトスの言葉に礼をとりつつ返事をかえしている男性。
そのままクラトスの通信はぷつり、ときれる。
用はすんだ、とばかりに。
なぜクラトスがあの輝く窓?ぽいのに姿がみえているのか。
しかし、これはチャンス。
そう思ったらしく、
「そ、そう、それそれ!それ、俺達だ!」
すかさずロイドがそのクラトスの言葉にかぶせるかのごとく、そんなことを言い放つ。
「人間は黙ってなさい!まったく。誰が無駄口をたたけといった」
冷淡に、それでいて淡々とした口調で言い放つリフィルの姿は、
到底演技とはおもえない迫力をもっている。
「きいたでしょう?急いでマナの欠片をよこしなさい」
上から目線の命令で、目の前にいる天使に淡々と言い放っているリフィル。
――間に合ったようだな。ではいこうか
クラトスのほうをみれば、ケイトに何やらそんなことをいっているクラトスの姿が。
「・・・・・・・・・」
まさかこのためだけにわざわざクラトスのやつは、通信してきたのか?
おもわずエミルは呆れてしまう。
クラトスのほうを視ているがゆえ、クラトスの様子も手にとるようにわかっている。
どうやら本気でロイド達を助けるためだけ、に通信を繋げてきたらしい。
そのままケイトとともに通信室をはなれる二人にたいし、
天使が御苦労さまです、と淡々と言葉をかけているが。
クラトスの今のやり取りをまったくもって疑問にすらおもっていないらしい。
まあ、末端でしかない彼らが上のすることにいちいち口をはさむ権利はない。
そういう事情がありはするのであろうが。
「しかし。先ほどはハイエクスフィアの研究に使う、といっていなかったか?」
怪訝そうなそんな天使の台詞に、
「そうよ。私たちが必要としているゆえに、儀式にも必要。
ならば共に預かってこい、というので私たちが取りに来たのよ。
さあ、早くなさい。儀式用にも、研究にも必要なのだから。
ユグドラシル様に職務怠慢の報告をされたいの!?」
「そうだよ。ユグドラシル様は怒ったらこわいよ~」
そんな姉の台詞に追従するかのごとく、ジーニアスが追い打ち、とばかりに言い放つ。
「クラトスさんは…」
コレットが何かいいかけるが。
「いそぎなさい!まったく。こんな所で手間をかけられるわけにはいかないのよ。
急いできたから、身分証も研究室においてきてしまっているし。
そもそも、地上からつれてきたという素材の護送係りにもさせられるし。
私たちを何だとおもってるのか…こんな所で時間をくらうわけにはいかないのよ」
盛大にため息をつくリフィルに思うところがあったのであろう。
「わ、わかった。少しまってろ!」
どうやら目の前の彼女も上からの命令で、いきなりこの人間達の護送。
ついでにとばかりにマナの欠片をとってこい、と命じられたのだ、と解釈したらしく、
あわててふわり、とその場からうきあがる。
そして、がちゃがちゃと何やら上のほうで作業をしたかとおもうと、
その手に小さな二つの箱をもちやってくる。
ぱかり、と箱をあければその内部に丸く輝く物質が一つづつ。
「後できちんと申請をしておいてくれ。
これがマナの欠片だ。研究用と儀式用。たしかにわたしたから、な」
そういいつつ、
「…あんたも大変だな。しかしそんな大役をまかせられる。ということは。
いなくなった五聖刃の方々の候補者なのか?
プロネーマ様につづき、またディザイアン階級に美人がふえる、ということか」
何やら一人でそんな納得をしていたりするその天使。
どうやらこの天使もだいぶ自我が戻りかけているらしい。
「プロネーマ様にはお目通りしたことはあるわ」
リフィルの言葉は嘘ではない。
映像超しではあるが。
たしかにリフィルはプロネーマをみたことがある。
アスカードの人間牧場にて。
あの牧場主だというクヴァルと会話していた女性。
その女性をたしかに、クヴァルがプロネーマ、とそう呼んでいた。
ついでにいえばガオラキアの森でもあっている。
ゆえにリフィルは嘘はついていない。
「そうか。私の名はカインという。覚えておいてくれ」
「わかったわ。さあ、いくわよ」
それだけいい、しっかりとその小箱を懐にしまったリフィルは、そのままその場から踵をかえす。
「ほらほら。おまえらも。遅れるんじゃねえよ」
リフィルに追従、とばかりにゼロスがその場に立ちすくんでいるロイド達をせっつかす。
ゼロスにせっつかれ、はっと我にもどったのか、あわててリフィルの後をおうロイド。
「あ、名前。…まあ、いいか」
その場から離れるロイド達に天使のそんな声がきこえてきてはいるものの、
それにかまうことなく、ロイド達は扉の外へと足をむけてゆく。
あとで照会がされたときに、記憶しておこう。
もしかしたら、新たな五聖刃になりえるかもしれない相手の名をしっておくのに損はない。
「しっかし、こういう役割が似合うよな。リフィル様って。なあ、人間?」
「うるさいなぁ。お前だってそうだろう」
にやにやと笑みをうかべて何やらいってくるゼロスに思わずロイドがくってかかる。
「演技、なのですわね。すばらしい演技力ですわ」
セレスはセレスで尊敬したようにきらきらとした視線でリフィルをみていたりする。
「でも、やっぱりさっきあの人がいっていたの。
地上からつれてこられた研究者って……」
「信じたくはないけど。十中八九、ケイトのこと、でしょうね。
違っていてくれたらいいのだけど……」
ぽつり、とつぶやかれたコレットの心配そうな言葉に、
リフィルが盛大にため息をつきながらいってくる。
違っていてほしいがおそらく間違いはないのであろう。
「ケイトの情報が手にはいればいいのだけども、ね」
「問題はまだあるぞ。ケイト嬢をみつけたとして。
どうやってここから連れ出すか、だな」
「…それもあったわね」
問題はまだまだどうやら山積み、であるらしい。
リーガルの言葉に深く再びため息をつくリフィル。
「ならさ。道にまよったふりして、さんざん探し回るってのはどうだ?」
「ロイド、何を…って、でもいい意見かも」
「そうね。あなたにしては、まともな意見。かもしれないわね。
それでいきましょう。あなた達を護送しているのに、道にまよってしまった。
研究者として招かれた、というのなら、研究所にいる可能性があるわ。
ここでクラトスの名を借りてしまいましょう。
クラトスにいわれ、彼らをケイトのもとにつれていけ、といわれている、と」
あの場でクラトスが通信してきたのは何か意味があるような気がする。
「あ、それいいですね」
すかさずそんなリフィルの言葉にエミルが賛同する。
「エミルにしては珍しいね。賛成するなんて」
「でも、クラトスさんですし」
「ま、たしかに。いいんじゃねえの?ロイドくんだって。意図返しくらいしたいだろ?」
「…それは、そう、だけど」
「あの天使の態度をみるかぎり、クラトスにここにいる天使達は逆らえないようだしね。
ならしっかりと利用させてもらいましょう。
彼が私たちを利用するのなら、私たちも利用しても何の問題もないはずよ」
ゼロスの言葉にロイドがくちごもると、リフィルがきっぱりとそんなことをいってくる。
どうやらリフィルの中でもクラトスにたいし、
いろいろと思うところがたまっているらしい。
「とりあえず、ここの居住区のところにはいなかったですし。なら、この先、ですかね?」
いってエミルが示すのは、動いている床の先。
「そうね。まずは天使達の会話をききつつ、ついでに敵地の情報あつめ、といきましょう」
クラトスからの通信なのだから、そう簡単にはこちらの嘘がばれる、とはおもえない。
ならば、せっかくなので、この地にて敵地の情報を集めるのも悪くはない。
まさか二つも欠片が手にはいるとはリフィルからしてみれば嬉しい誤算であったにしろ。
そんな会話をしつつ、ロイド達をいかにも護送しています、とばかりに、
ロイド達を中心におき、リフィルとコレットが先頭にたち、
一番後ろにはゼロスとリヒターがはさみこむようにして隊形を整える。
移動隊形的に詳しくいうならば、
手前にリフィルとコレットが先頭にたち、そのすぐ後ろにロイド、リーガル。
そのさらに後ろにアステルとしいな、とつづき七列になりて、
あまり邪魔にならないように、少人数で、約二名づつ、列になりて進みだす。
もっとも十三人なので、どうしても一人あぶれてしまい、一人だけ一人になりはするが。
~簡単陣形・隊形説明~
前
リフィル ・コレット
ロイド ・リーガル
アステル ・しいな
しいな ・セレス
ジーニアス・プレセア
エミル
リヒター・ゼロス
後
※ ※ ※ ※
「マナの欠片、かぁ。これってどんな効果があるんだ?」
「僕が研究した結果でよければ説明しますよ?
マナの欠片といわれているものは。
マナの力の流れを変調するための高密度のマナの結晶体です。
純粋なるマナの塊、ともいわれていて様々な用途に加工によって使用可能です。
もっとも、直接に使用しようとすれば、マナの濃さに耐えられないらしく、
逆に変異体をおこしえる原因、ともされていますけども。
そういったことが過去の文献にはかかれていましたね」
ロイドが素朴なる疑問をぽつり、とつぶやけば、
ここぞとばかりにそんなロイドの質問にこたえているアステル。
さすがにロイドのすぐ後ろを歩いているがゆえに、ロイドの呟きを素早くとらえたらしい。
ぐんぐん動く床、すなわち動く歩道ともいえるそれ。
それにのりながら素朴なる疑問をつぶやくロイドに答えているアステル。
「…説明ありがとさん。それ以上の説明はいいから」
これ以上詳しい説明をいわれれば、こんな場所でもたったままねむくなりかねない。
いや、確実に眠くなる。
ゆえにロイドはあわててアステルのそれ以上の説明に対しやんわりと断りをいれておく。
透明なる筒のようなもので保護されている道。
それを進んでいき、それらがとぎれた先にちょっとした階段があり、
その先にもどうやら足場は続いているらしい。
「あれ?ねえ。みてよ。あれ」
ふと、ジーニアスが視線の先。
かなり先にとあるとある転送陣らしきものをみながら指をさす。
そこには、紫いろにかがやく光の柱らしきものが立ち昇っていたりする。
「あれは、巨大な転送装置、かしら」
思わず足をとめ、そちらをじっとながめつつつぶやくリフィル。
「なら、地上にもどるにはあれをつかえばいいのかな?エミル、どうなんだ?」
「僕はあそこからきましたけど」
エミルがそういうが。
「でも、エミルが来た時と、どうやら状況はかわっているようね」
転送装置らしき周囲にはかなりの天使の数がみうけられる。
「ちなみに、この横のほうには、消耗品の自動販売機とかもありますよ」
「自動…何だ?それ?」
エミルの言葉にロイドが首をかしげてといかけるが。
「簡単にいえば、物資供給の装置だね」
ちなみに本来お金がいるが、エミルが干渉すれば無料で物資の補給は可能。
「あと、たしか体力回復装置もあったはずですけど」
「…エミル、おまえ、俺達をさがすのにどれだけこのあたりをうろうろしたんだよ」
「あはは」
そんなエミルの台詞にロイドとしては呆れざるをえない。
やはりゼロスのいうように、魔物らしきものをつれていたがゆえ、
天使達に仲間、とおもわれていた可能性がさらに高くなってきた。
ロイドだけでなくジーニアス達ですらそんな思いを抱く中、
「とりあえず、あそこまでいってみましょう」
「先生。何か考えがあるの?」
「ええ。問題なのは……」
いいつつ、ちらり、とロイドをみるリフィル。
「な、何だよ。先生?」
じっとロイドをみつめたのち、無造作に懐から杖をとりだすリフィル。
「せ、先生?」
何やらひたすら嫌な予感がする。
おもわずあとずさるロイドに対し、
「あなたはいらないことをいいそうだもの。なのでしばらく黙っていてもらうわ」
「え?」
ロイドがたじろぐそんな中。
「封じよ!サイレンス!」
それは本来ならば敵一体の呪文を封じる技。
一定期間において、まったく言葉を話せなくなる術。
リフィルの言葉に従いて、リフィルの杖から伸びた光が、瞬く間にロイドを包み込む。
「・・・っ。・・・」
先生、いきなり何すんだよ!
そうロイドはいうつもりであるが、口をぱくばくさせるのみで声がでない。
「…姉さん、やりすぎじゃあ」
「余計なことをいうのは絶対にこの子なのよ。これくらいしないと」
「…まあ、日頃の行い、だねぇ」
そんなロイドをみてどこか憐れみをもってつぶやくジーニアスにたいし、
きっぱりといいきっているリフィル。
さっきもロイドはいらないことをいいかけていた。
これから先、またいらないことをいわれてはたまったものではない。
そんなロイドをみて呆れたように、それでいてどこか納得したように、
ぽつり、とつぶやいているしいな。
どうやらロイドの声を封じたことに対してはあまり驚いていないらしい。
むしろ、ああ、なるほどね。
という思いのほうがしいなからしてみればかなり強い。
先ほども下手をすれば嘘をついているというのがバレるところであった。
ここは敵地。
なるべく下手なリスクは避けたいのがしいなとしても本音。
「うわ~。ロイド、ちょっと前の私みたいだね。
あのときみたいに、手文字で意思をつたえたらいいよ」
そんなロイドににこやかに、それでいてさらり、と何でもないようにいっているコレット。
「・・・・・・・・・」
コレットの言葉をきき、ロイドはおもわず黙りこむ。
声がでないことでおもわずリフィルに文句をいったが。
そういえば、コレットもこんな経験をしたんだった、と。
それを思えば術?による一時の声を失うことなど何だというのだろうか。
だからといって、なぜに自分だけ、という思いがどうしてもぬぐい捨て切れないが。
「さて。いきましょう。くれぐれも他の皆もいらないことはいわないで。
この私にまかせてちょうだい」
「わかったよ」
「了解した」
「ま、俺様は上手にリフィル様にあわせるさ」
「なら、僕らはしずかに見守ってますよ。そのほうが護送されてる人っぽいし」
リフィルの言葉にしいながこくり、とうなづき、
リーガルもこくり、と同意をしめす。
そんなリフィルの言葉をきき、ゼロスがおちゃらけたようにいい、
そんな彼らの会話をきき、アステルがそんなことをいってくる。
「では、いくわよ」
いいつつも、リフィルは目の前にみえている光の柱のある方にとあるきだす。
そんなリフィルの後ろにつづき、一行もまたあるきだす。
リフィルには何か考えがあるのであろうが。
たしか、あそこもまた身分証明書が必要であったような。
ちなみにエミルが横を通り抜けたとき、
精霊体になっていたがゆえ、彼らにはまったくもって気付かれてすらいない。
見回りの警備ロボットが横を通った、
という認識しか見張りの存在達はもっていない。
「まちなさい。身分証明書を提示しなさい」
現れた一行にたいし、巨大な転送陣らしきもの。
それにつづく入口の前にたっている天使がそんなことをいってくる。
これまでの天使と違い、鎧に身をつつみ、一応武装をしているのがみてとれるが。
しかし、特徴的なのは、少しばかり顔をゆがめ、
そして一行をざっとみたのちにいってくる、ということであろう。
あきらかに目の前の天使らしき人物には感情がある、とその表情が物語っている。
「失礼。すこしききたいのですけども。
ここにははじめてきたので道にまよってしまって。
この人間達をとある御方にいわれて護送中なのだけど。
クラトス様はどこにおられるかご存じないかしら?」
そんなリフィルの問いかけに、
「うん?何だ。ディザイアン階級のものか。
たしかにここウィルガイアは広いからな。しかし、クラトス様だと?
お前のような身分のものが、クラトス様に何の…」
「これはクラトス様から直接にいわれたことなので他者にはいえないわ。
クラトス様から頼まれたとある品を直接てわたしたいのだけども。
クラトス様がどこにおられるかご存じないかしら?
あと、できたら、この人間達をつれてゆけ、といわれている研究所。
そこにいるというケイトというものがどこにいるか教えてもらいたいのだけど。
プロネーマ様から直接、彼らをケイトというものにわたせ、といわれたのよ」
そこまでいい。
私も暇じゃないのに。
それでなくても今は牧場の一件でいろいろと忙しいのに。
などとこれみよがしにぶつぶつつぶやいているリフィル。
「クラトス様に確認をとりたいが…
今現在、送信ラインはクラトス様により使用制限がかかっているからな。
しかし、クラトス様にいったい」
「あなたのようなものに教えるとおもって?私がおこられる、のよ!?
しかも、クラトス様だけじゃなくて、プロネーマ様にも!」
「す、すまん」
強い口調でいうリフィルの剣幕におされた、のであろう。
逆に目の前の天使がリフィルにあやまっている様子がみてとれる。
「それで、クラトス様とケイトというものはどこにいるのかしら?
まったく、始めてこの地にきたものにこんな役目をいい渡すなんて……」
ぽん。
いまだにぶつぶつつぶやくリフィルに何やら思うところがあったのであろう。
「…下っ端はつらいよな。うんうん。本来なら教えてやるところではないのだが。
どうやらお前もいきなり無理難題をいわれたらしいな。
しかし、一足遅かったな。クラトス様はさきほどそのケイトという女性をつれ、
地上にむかわれたばかりだ」
ぽん、とリフィルの肩に同情したかのように手をおき、そんなことをいってくるこの天使。
『!?』
そういってくる天使の台詞に思わず驚きの表情をうかべるロイド達。
「何ですって!?人に用件をいいつけておいて…って、これは不敬にあたるわね。
けど、直接手渡せとあれほどいいきかせられたのに、どういうことなの!?」
「……お前も苦労してるんだな。それで、身分証なのだが……」
「いきなり別の用件で外にでたときにいいつけられたのよ?
常に持ち歩いていなかった私もわるいけど。
まさかクラトス様から用件をいわれるなんて。思ってもみなかったのだもの」
ぐったりとしたようにうなだれるリフィルの様子はどうみても演技にはみえない。
「…まあ、その、何だ?しかし、ここを通すものは提示が必要。
というのが鉄則となっている規則だからな。
…しかし、どうしてもクラトス様にあわれたいのであれば」
「あわなければいけないのよ。まったく。なぜに次から次へと、
都合がいいとばかりに私に皆して用事をいいつけて…いくら四大天使様でも…
下っ端の体はいくつもないのよ」
「…こらこら。そういうのは心でおもっていても口にするな。
…気持ちはわからなくもないが」
…どうやら完全に目の前の天使はリフィルのいい分を信じた、らしい。
「そもそも、私も完全に自我がなくならないから、という理由で。
こんな役目を追わされて…と、危ない危ない。
ここを通すわけには役目がらいかないが。…私一人ならばごまかせるのだがな。
しかし、まだ間に合う。この先に緊急時にある臨時のゲートがある。
そっちにむかって外にいってみるがいいだろう。
先ほど移動したばかなりので、しかもハーフエルフを連れている以上。
そう遠くにはいっていないだろうしな」
いいつつも、
「道がわからないのならば、この先の設備にこの施設の全容を現している装置がある。
装置の使い方とパスワードは…ここまできているものならばしっているか。
それで確認してみるがいい。緊急時の転送装置の位置もそこでわかるはずだ。
…まあ、何だ。そんなにいろいろといいつけられる、というのは
期待されているのだろう。まあ、がんばれ」
完全にリフィルのいい分を信じたらしく、
同情したように、それでいてそれとなく他の手をおしえてくれるこの天使は。
かなり人間らしさがのこっている、とロイド達は感じてしまう。
というかそうとしかみえない。
「…がんばれ、というのならここを通してくれてもいいじゃない」
「…そうもいかないのさ。これが。下っ端天使のつらいところ、だな」
「…仕方ないわね。ならとりあえず、急いでその装置をみつけて外にでてみるわ。
まったく、いらない手間を……」
「まあ、上のもののいきなりの無理難題は今に始まったことじゃないさ。
っと、私がこんなことをいっていたとはいわないでくれよ?」
「わかっていてよ。ともかくありがとう。いってみるわ。
いくわよ。まったく、こんな足手まといをつれて右往左往させられるなんてね」
ぶつぶついいつつも、その場の天使にお礼をいいつつ。
背後で唖然としているロイド達にそういいはなち、
リフィルはくるり、と向きをかえ、元きた道を歩き出す。
やがて、完全にある程度すすんでいき、指示された左側。
その左側のエリアにつづくカプセル状の通路を抜け切ったのをみてとり、
「さすがリフィル様。演技がうまいねぇ」
「というか。あの天使、感情がのこっててたすかったね」
ゼロスがそんなリフィルに感心したようにいい、しいなが感心したようにいってくる。
リフィルが今とった態度はいたって簡単。
つまり、上司に振り回される下っ端。
それを演じたに過ぎない。
『ものすごくそういう感情は我らもわかります』
おいこら。どういう意味だ。
なぜか影の中で、しみじみとソルムがうなづいているのが感じ取れ、
おもわずそんなソルムに対し、ラタトスクが念話にて注意を促す。
別にそれほどふりまわしているつもりはないぞ。
自分は。
ラタトスクはそう思うが、そもそもこうして外にでて彼らとかかわっていることが、
センチュリオン、そして精霊達からしてみればふりまわされているといってよい。
「天使、といえど様々な性格のものがいるんだな」
「だね。お人形さんばかりの奴らばかりじゃないってことだね」
リーガルのつぶやきに、しいなが首をすくめつつも同意を示す。
てっきり、天使とは感情も、血も涙もない輩ばかり、とおもっていたが。
どうしてこうして。
人間くささがのこっている輩もいるではないか。
もっとも、彼はより早くに微精霊たちが抜け切ったがゆえ、
そしてまたある程度の自我がのこっていたがゆえ、
あのように完全に元の自我を取り戻しているわけなのだが。
そんな裏事情を当然、しいなたちが知るはずもない。
ちなみに、リフィルがそのような演技をしよう、とおもったのは、
リフィルが知っている天使、といえば、あのユグドラシルにクラトス。
ついでにいえばレミエル、といったかなり感情豊かな天使達ばかりであったがゆえ。
そういう技も通用するのではないか、とおもったまでのこと。
この地にて始めて話しかけられた女性の表情はたしかにとぼしかったが、
よくよくみれば、感情を表にあらわすのが苦手なプレセアと通じるところがあり、
ゆえに彼らにもしっかりと感情という心がある、と確信がもてたがゆえ。
ラタトスクはしるよしもないが、かつての時間軸のときは、
全ての天使達が無表情きわまりなく、ゆえにリフィルはこの方法をとっていない。
マナの欠片を手にいれるときですら、先ほどのような言動はかつてはしていなかった。
そのあたりが、相手に感情があるか否か、というのを見極めた結果ともいえるであろう。
ラタトスクの干渉により彼らの内部にいた微精霊達。
それらは自我をとりもどし、中にはすでにその内部から解き放たれているものすらいる。
もっとも、【天使化】しているものたちがそれにきづいているかどうかはともかくとして。
pixv投稿日:2014年8月18日某日(Hp編集:2018年5月6日(日)
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あとがきもどき:
ついに神聖都市、ウィルガイア、です!
エミル、普通に歩きまわってますけど、天使達はまったくきにもとめてません。
だって、人の気配、というよりは、どっちかといえば…ねぇ?(苦笑
自我がしっかりしている天使なら、ん?ともおでしょうが。
それにきづいたソルムがさくっと相手に幻影かけるので、これまた問題はなかったり
つまるところ、違和感を感じた相手には、エミルの背に天使の羽がみえている。
といった感じになっているのでまったくもって天使達からしてみれば無問題(かなりまて
ちなみに、それはエミルが命令したのではなくソルムがかってにやってることですよ~
ここでラタトスクが力つかったりしたら、彗星が活性化する。
というのが嫌でもわかっていますからね(苦笑
ラタは気づいているけど何も言わない状態です。
ま、いっか、の感覚で。
今回のそれの裏設定のひとことつっこみ
それでいいんですか?ラタトスク様
しかも、時折ではあるが、移動している最中、精霊体になっていることもしばし……
~モンスター出典~
名:クリスタルパピー
出典:テイルズオブレジェンディア
Lv:37
Hp:6815
攻撃力:409
出現場所:氷のモニュメント
~アイテム図鑑説明~
マナの欠片。
力の流れを変調する高密度の結晶体
永続天使性無機結晶症を治療するために必要
~術案内~
術名:サイレンス
習得条件;Lv23
消費TP:6
詠唱:約二秒
敵一体の呪文を強制的に封じる。
効果は戦闘終了まで持続する
ミント・アドネードが使用できたので、
リフィルも使用できる、という形にしてあります。
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