まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

pivixさんに投稿していた話の区切りとは変えてあります。容量的に……

さて、今現在、旅に同行しているメンバーのおさらいまで。
テセアラ組:しいな、ゼロス、セレス、リーガル、プレセア、アステル、リヒター、
シルヴァラント組:ロイド、コレット、ジーニアス、リフィル、マルタ
その他:エミル(ラタトスク)、ミトス

ダイクの家にのこった組:タバサ(ただいまアルテスタが表にでている)リリーナ
↓今現在のPT状況
地の神殿別行動組:ロイド、コレット、リフィル、リヒター、プレセア、アステル、ゼロス、
休憩&食事担当組:エミル、ミトス、マルタ、しいな、セレス、ジーニアス、リーガル

※なお、リヒターがなぜ、ダイクの家に残っているはずなのにいるの?
という疑問さんは、前回のスキットに追加としてあります。
が、今回の休憩中にもきちんと?した説明が一応はいります。
彼がいる理由に、知る人ぞしる人物がでてきます。
小説版を知っている人はわかるかとv
彼女にした理由、あるイベで必要不可欠な相手を、
ジーニアスにする?それともタバサ?そう考えているときに、
どうせあのイベでコレットの病気判明するんだし、
なら、彼女でいいじゃん、という消去法でそうなってたりします。
過去、現在、未来は繋がってますよ~、魂は永久不滅です、
というのがひとつのコンセプト(コラマテや

追伸:
あとがきにオマケ的に、実際のゲーム選択しでもある、食事風景をいれてあります
この話ではエミルがつくってるのでその選択風景はないものとなっています。

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重なり合う協奏曲~ノームとベルセリウム~

「しかし、そんな生き物もいたんだねぇ」
どこかあきれたようなしいなの台詞。
目の前には光沢をもちしちょっとした大きさのトカゲのようなものたちが、
ちょこまかと行き交っており、しかし問題なのはしいなからしてみればそこではない。
その体がどうみても石、しかも俗にいわれている宝石の原石、
それに近しいような結晶のようなもので覆われていれば、何といっていいものか。
色は様々らしく、赤い色のものもいれば、紫いろのものすらいる。
「絶滅しかけちゃってるけどね」
小さなトカゲ達はエミルの周囲にちょこまかとはしりまわっており、
エミルがこれまたどこからともなく取り出したのであろう、
小さな宝石らしきものを嬉しそうについばんでいたりする。
「この子達は元々、鉱物そのものに意思がやどって生命体化した子達だからね。
  一般にいう無機生命の一つでもあるんだけど」
しかし、彼らは力がないばかりか、彼らを捕らえればその体は純度の高い宝石でもある。
ゆえに、欲にかられた人間達がことごとく乱獲を繰り返し、
ほぼ絶滅しかけているといってもよい。
そもそも、似たような、あちらは自分達に都合がわるくなりそうだから、
という理由において駆逐されてしまった獣人とよばれしものたちもいるにはいた。
今、のこっているのはネコニンやウサニン達くらいなもの。
「自然界にあるものもきちんと意思は宿っているからね。
  たとえばこのあたりにいる石とかにも。無機物、といわれているのに心がない、
  命がない、とおもってるのはヒトくらいだよ」
周囲にはいい匂いが充満しており、エミルは今現在、なべをかきまわしつつも、
足元をうろちょろしているジュルエリザード、と一般にヒトククリされているこの種族達。
天地戦争時代にほぼ絶滅しかかっていたのだが、ノームとソルムがほそぼそと保護をしており、
ゆえにノームの庇護下でどうにかその数をつないでいるこの種族。
「そんな動物もどきがいたなんて、あたしもしらなかったんだけど。エミルはよくしってたね」
感心したようにしいながつんつんと、トカゲ達をさわりつつもしいながいってくるが。
みずほの里もこのような生命体がいるなどとつかんですらいなかった。
その事実にしいなもまた驚きをかくしきれていない模様。
ひんやりとした体がその体内にまったくもって血も何もかよっていない、
というのを物語っていたりする。
「…この子たち、人をこわがらない、の?」
「基本は隠れてるとおもうよ?」
マルタが小さい体であむあむと石などをついばんでいる様子をみてかわいい、といいつつ、
そんなリザード達をみながらエミルにとといかけてくる。
今、この場にいるのはエミルを中心にし、
ミトス、マルタ、しいな、セレス、ジーニアス、そしてリーガル。
この七人。
結構な人数がこの場に残ったな、ともおもうが。
たしかにこの洞窟はざっとみるかぎり、先の風が吹き荒れた影響か
かなり大地がえぐられ、足場が不安定なところがふえているらしい。
ならば少人数で一応足場の確保にむかう、というのは理にかなっているのであろう。
「でも、この子も無機生命体、なんだよね?」
「そうだよ。君たちがいうところの心臓とかそういうのはこの子達にはないからね」
強いていえば、核となりしコアくらいであろう。
そのコアさえ無事ならば、このものたちは幾度でも再生する。
魔物ではなく、普通の生命体であるがゆえ、このものたちにはマナを調整する力はない。
「僕、無機生命体っていわれているものって、こんなふうに自我っぽいのがあるなんておもってもなかったよ」
ジーニアスがしみじみとそんなことをいっているが。
そもそも、心を失った状態のコレットでも最低限の行動をみせていたというのに。
本当に何も考えていないようにみえていた、とでもいうのだろうか。
「どんなものでも、長く時を得れば、そこには心が宿るんだよ。
  その点はしいなさんも知ってるんじゃないのかな?」
「ああ。たしか、付喪神だったね。というかエミル、あんたくわしいねぇ。
  あたしの里では、長く大切にされたものには命がやどる。そう信じられているのは確かだけどさ」
しいながあきれつつもいっている最中、
「うん。完成。あ、味見してみてもらえます?サラダはこんなものでいいだろうし」
「…というか、作りすぎだ、と僕おもうなぁ」
何でもカレーをかけてたべるのにはけっこう会うから、といって。
本当にいつつくっていたのであろうか?
ウドンなどをもその場でゆでて、ジーニアスに氷を産みだしてもらい、
それを溶かし簡単な水をつくりだしているエミル。
あるいみ魔術の有効利用ともいえるそれ。
いつのまにか、話している最中にもどんどんお皿につくられてゆく品は増えていき、
ついでにいえばカレーもまた一つの容器だけでなく、
小さなナベ?のようなものにまであるのはこれいかに。
それをエミルが手招きするとともに、うぞうぞとちかよってくるイモムシもどき。
それらがその背に上手にバランスをとりながらその尻尾をすこしばかりあげ、
こぼれないようにきをつけながら、そこにある穴の中にときえてゆく。
「あの小さいナベはどこにもってったの?エミル?」
マルタの素朴なる疑問に。
「クレイアイドル達のところにもってってもらおうかとおもって。
  今、リフィルさんやロイド達があの子達に案内してもらってるしね」
実際、今現在、三男と長男がそれぞれにわかれ、彼らを案内している
もう少しすれば、彼らは壊れかけた橋などをかけ終えてこちらにもどってくるであろう。
「しかし、エミルは料理の腕はなかなかだが、どこでならったのだ?」
「ん~。ほとんど我流、ですね」
習ったというか、何というか。
まあ、かなり久方ぶりでも手順さえ間違えなければそうは失敗はしはしない。
リーガルがかるくエミルのつくりしカレーを小皿にわけて味見をしつつ、
逆にエミルにとといかける。
リーガルも腕には自信があるが、エミルのつくりしこれは、
そこいらの高級料理店のだすカレーよりも格段に美味しい。
それはエミルが無意識のうちに、素材全てにおけるマナを最大限に引き出しているがゆえ。
「我流でここまでの腕になるとは。エミル。お前には料理の才能があるのだろうな」
「そんなことないですよ」
「…エミル。謙遜も度がすぎたら嫌味になるってしってる?」
しみじみいうリーガルの台詞に、にこやかにいうエミルにたいし、
思わずジーニアスがそんなエミルに突っ込みをしているが。
「あ、ミトス。ミトスはどう?この味付けで問題ない、かな?」
「え?あ、うん。でも、この味付け……」
とてもなつかしい味がする。
ミトスもエミルに進まれるまま、味見をしてみたのはいいものの、
何というか、どこかで食べたことがあるような味のような気がするのは、ミトスの気のせいか。
もっとも、さらりと実はエミルはこのカレーの中の具のひとつに、
ユミルの果実を使用しているがゆえに、ミトスが懐かしい思いを抱くのも当然といえば当然のこと。
それはミトスがまだ里にいたころ、姉とともによく共にいた女性がつくってくれた料理。
その味をふとミトスは思い出す。
この四千年、彼女のことを思いだしたことなどなかった、というのに。
それは唐突にミトスの心の中にその女性のことが思いだされる。
なぜ、今になってウィノナ姉様のことなんか……
ミトスが剣をある程度つかえたのは、彼女の指導があったからこそ。
そして、自分が里を追い出されたあと、世界を、戦争を終わらせよう。
その決意を新たにさせてくれた、エルフの里にいた一人の女性。
どうもこのエミルとともにいるここ最近、昔のことを異様に思いだしてしまう。
それはちょっとしたきっかけであったり、エミルの一言、であったり。
そして今もまた。
目の前にはちょこまかとうごきまわっている、石の生命体達。
それは、ミトスの願う無機生命体による千年王国。
たしかに無機生命体という点では近しいものがあるかもしれない。
だけど、ミトスが望んだのは・・ここまでそれぞれに個体性があるようなものではない。
静かな、誰にも邪魔をされない、静寂なる世界。
それがミトスの望んだその先にある世界。
静寂なる世界ならば、誰も傷つくことはない、そうおもったからこそ。
当初は命が短い人間がエルフやハーフエルフ達を迫害するから争いが絶えないのだ。
そうおもった。
でも、そうではなかった。
テセアラ側が開発したという天使化というその技術は、
自分達ハーフエルフすら凌駕する長寿をうみだしていた。
にもかかわらず、ヒトは争いをやめようとはしていなかった。
ミトスもまた、かのみずほの里の元となった島国がどうして滅んだのか。
それを身にしみて知っている。
完全に地表から朽ちていたとはいえ大樹の幹すらを失ってしまった魔導砲の実験。
地図からあのとき消えてしまった島はかの島だけではない。
さらに本格的にかの装置を開発しようとしていたがゆえに、
どうにかかの装置を破壊したかつてのミトス達。
もしもあれが本格的に完成していたとするならば、
世界にある大陸の半分以下が消失していてもおかしくはなかったであろう。
それほどの規模のものをかのシルヴァラントの軍部はつくりかけていた。
ああ、本当に。
自分の決意がゆらいでしまう。
否、ほとんど揺らいでいるといってもいい。
「――そういえば、この場所にはノームがいるんだよね」
ふとジーニアスがミトスがそんなことを思っているそんな中、
思いだしたようにしいなにむけてといかける。
とりあえず一通りのメインの料理はそろったから、というので、
エミルは今度はデザートに取り掛かっていたりする。
「ああ。すでにシルフと契約は交わしているからね。
  シルフと反対属性の精霊がノーム。だからまた一つ楔が解き放たれるはずさ」
すでに風の精霊シルフとはコレットの世界再生の旅の最中についていったときに契約をかわしている。
「ウンディーネとヴォルト、セルシウスとイフリート、次はシルフとノーム、か。なら、あとは……」
「ああ。闇の精霊シャドウと、光の精霊アスカとの契約、だね。
  けど、アスカはたしか、月の精霊ルナと一緒でなければ契約をしない、
  とか何とかいってたからね」
それに、アスカを呼び出す方法。
それも見つけ出さなければならない。
そのあたりは、始めから神殿の位置がわかっている精霊の契約とくらべ、
少しばかり面倒になるかもしれない、としいなはおもっているが。
ジーニアスの台詞に、うなづきつつもしいなが答えているそんな中。
「…どうしても、精霊と契約なんてしないとだめ、なの?」
ミトスからしてみれば、これ以上、何がおこるかわからない楔を解き放つ。
それはできればやめてほしい。
正確にいうならば、それで大いなる実りと同化している姉に何があるのか予測がつかない。
彗星デリス・カーラーンがある限り、大いなる実りが失われるようなことにはならないだろうが。
互いの世界の空間に呑みこまれないように、あえて精霊の力で楔とし檻としていたのに。
「ミトス。ミトスだって、この異様なまでのマナの安定。それ、わかってるんでしょ?」
「そ…それは……」
報告にもあがっていなかった、互いの世界のマナの安定。
どちらの世界のマナも充実している、などとありえない。
にもかかわらず、この地上においてたしかにマナは安定しているのは感じている。
だからこそ、ジーニアスにいわれ、ミトスは思わず口ごもる。
「このありえないマナの安定は、大樹の種子である大いなる実り。
  その力が涸渇しかけてるからなんじゃないか、という意見もあるんだ。
  だから、止まれないよ。まず精霊達をときはなって、そしてどうにかして大樹を蘇らせないと。
  下手をしたら大地ごと、僕らの世界は消滅、なんてことになりかねないしね」
「まあ、マナの照射とかいうのはあたしらじゃわからないからねぇ。
  そのあたりはあのレネゲードってやつらの腕次第なんだろうけどさ」
またレネゲード。
これまであまり実害がないからといってほうっておいていたあの組織。
ゆえに、おもわずその手をぎゅっと握りしめるミトス。
もしも、本当に大いなる実りに彼らのいうようにマナを照射?とかされたりしたら。
そうしたら、実りと同化している姉様はどうなるの?
――大いなる実りとともにマーテルも失われてしまうぞ!
  マーテルがこのまま大いなる実りを食いつぶすか、それともマーテルを選び、
  お前はかの精霊との約束を反故にするきか!?
ふとミトスの脳裏にユアンの言葉がよみがえる。
世界か、姉か、なんて選べない。
でも姉を選びたい、けど、姉はきっと世界を巻き込んで自分を選んだとしても喜ばない。
むしろ、嘆いて蘇っても命を自ら世界に分け与えようとするかもしれない。
「…ロイドがいうように、どっちも助かる方法があればいいのに、ね」
ユアンがいっていたマーテルを犠牲にしてでも大樹を蘇らせる、と。
このままでは世界もマーテルも消滅してしまうから、と。
しかし、ロイドはどちらをも助ける方法があるはずだ、ともいっている。
「難しいんじゃないかい?それは。
  だからこそ、コレット達のような神子がうみだされたんだろ?」
マーテルの器。
死んでしまったマーテルの精神を宿らせ、新たな体とされるべく産みだされる生贄。
「マーテル教の教えでは、女神マーテルが世界を大地をつくった。
  といわれてるけどさ。アステルの研究だと、そうじゃなくて、
  精霊ラタトスクが産みだしてるんだよね。ラタトスクに頼めばだめなのかな?」
「その精霊ラタトスクがどこにいるのかがわからないからねぇ。
  というか、素直にいうことはきいてくれるとはあたしはおもえないよ。
  そもそも、昔の大樹カーラーンを枯らしたのもヒトなんだろ?
  下手をすれば人間を恨んでいるかもしれない。人間なんて根絶やしになってもかまわない。
  そんな思考をもしもってたりしたら…厄介だけどね」
「・・・・・・え」
しいなのそんな呟きに、思わずぽつり、とつぶやいてしまうエミル。
というか、以前は実際そうであったので、エミルも何ともいいがたい表情を浮かべてしまう。
彼らの会話をそれとなくきいていたのだが。
まあ、あのときはかなりイライラしていたからなぁ。
そんなことを思いつつ、遠い目をしてしまう。
そんなエミルにきづくことなく、ジーニアスとしいなの会話はつづいている。
「ノームと契約をおえたら、風火水土の四大属性がそろうし。
  エグザイアできいた四大元素の長マクスウェルと接触をとれれば。
  もしかしたら精霊ラタトスクの位置もわかるかもしれないけど」
「そういえば、しいなのそれも、四大元素の精霊達をそろえるように。
  っていって、エグザイアの長老さんからもらったんだったっけ」
今さらといえば今さらながらのジーニアスの台詞。
「エグザイア…幻想卿、とも理想郷、ともいわれている楽園のこと?」
いまだにクルシスではかの飛行都市の位置、そして起動を完全に捕らえきれていない。
それはミトスがオリジンを封印したあのときから、このかたずっと。
しかしその言葉をのみこみつつ、
無難な問いかけをしているミトスはさすがというか何というべきか。
「ああ。テセアラにシルヴァラントからこいつらを連れて移動したときに。
  たまたま竜巻にまきこまれてね。たどり着いたのが飛行都市エグザイアだったからね」
「…あそこにいた人達はこうもいってましたよね。ハーフエルフに残された最後の楽園だ、って。
  戦乱に彼らが巻き込まれないように、勇者ミトスとよばれていたヒトが、
  彼らをマクスウェルに頼んで保護したんだって」
「あれ?そこまで詳しくきいたっけ?あ、エミルは長老様からきいたのかな?」
さらり、というエミルの台詞にジーニアスとしいなが首をかしげたのち、
そういえば、とおもいだす。
あのとき、エミルは一人、かの地の長老、といわれているものとしばらく同席していたな、と。
長老の家という場所でエミルとその長老…なぜか恐れ多いことに、精霊と同じ名を名乗っている長老。
…とジーニアス達はおもっている。
まさかその精霊当事者だ、とはいまだに気がついてすらいない。
とにかく、そんなマクスウェルとしばらく一緒にいたのであるから、
そういったことをエミルはきかされたのであろう。
そんな認識に落ちついていたりする。
まあ、聞いた、というよりは当時はまだきちんと意識を覚醒させていたがゆえ、
知っている、というほうがエミル、否ラタトスクからしてみれば正しいのだが。
ゆえに、そんなジーニアスの問いかけに笑みを浮かべて否とも是ともいわずに。
「じゃあ、しいなさんは、ノームと契約したら、エグザイアに?」
「それなんだけどね。ノームと契約したあと、ベルセリウムの位置をきいて。
  先にダイクの家にそれをもっていってから、のほうがいいのか。
  それとも、こっちにもどってきている以上、先に契約したほうがいいのか。
  リーガル、あんたはどうおもう?」
どちらも優先事項ではある。
しいなの心情的には少しでもはなくコレットが楽になるかもしれない方法をとりたい。
というのは山々なれど、しかし、場所が場所。
つまりテセアラとシルヴァラント。
同じ世界ならともかく、幾度もレアバードでいったりきたり、境界をこえまくる、
というのも何か違うような気がする。
「あのレアバードで空間を超えられるのはいいんだけど。
   いちいち、レネゲードの設備の真上にまでいかないと、エネルギー供給がされないっぽいしねぇ」
つまり、いちいち、シルヴァラントではトリエット砂漠に。
テセアラではフラノールのある大陸の小島のとある一角に。
いくら空を飛んでいるとはいえ、またステルス機能をつかっている、とはいえ。
いつクルシスから天使の追手がはいるかわからない以上、
なるべく空の移動はさけたいのがしいなとしての本音。
何しろ空を飛んでいるときには逃げ場もないし、また足場も悪い。
そんな中で自在に空を飛べる相手と戦闘になった場合、
あきらかに自分達が不利であるのは明白。
「クルシスの追手がこまるなんら、こっちから敵地にのりこんで打撃をあたえる。というのはどうかな?」
「マルタ。たしかにそれも一つの手かもしれないけどさ。それは危険すぎるよ」
マルタの意見にたいし、さくっと却下するようにいいきるジーニアス。
確かにそれが効率的かもしれない。
しかし、敵の戦力がわからない。
それに、下手にのりこんで、コレットが奪われでもしたら、それこそ取り返しがつかない。
だかこそジーニアスは否定する。
「そのあたりはお兄様達がもどってきてから、でもいいのではありませんの?」
「ま、それもそうなんだけど」
セレスのいい分は至極もっとも。
ゆえにセレスの言葉をうけ、首をすくませつつつぶやくジーニアス。
たしかに、今ここで乗り込む云々の話しをしたとしても、全員の意見をきいたわけではない。
いつかは決着をつけなければいけないのであろうが。
それが今ではない、というのだけはジーニアスは漠然とではあるが理解できる。

「よし、と、デザートもこんなもの、かな?」
ちなみにエミルがデザートにつくったのはフルーツポンチ。
大きなナベにしっかりとつくったので、問題はないであろう。
彼らがそんな会話をしている最中、エミルの料理というかデザートをつくっていた手がとまり、
うん、とうなづきつつも、独り言のようにそんなことを呟いてる声がきこえてくる。
そして、ナベをかけていた火を消したのち、彼らがあつまり話している場所にちかづき、
そしてその手前にちょこん、と腰を下ろし。
「とりあえず、食事の用意はこれでいいとして。そういえば、前からきになってたんだけど」
「何?エミル?」
エミルが気になっている、というのは珍しい。
ゆえに思わず首をかしげてといかけるジーニアスに、
同じく珍しい、とおもったのか、マルタとしいな、そしてリーガルも思わずその視線をエミルにとむける。
エミルが腰を下ろすとともに、まってました、
とばかりにその場にいまだにいるリザード達が、
わきゃわきゃとエミルの膝の上にのったり、すべりおりたりして遊んでいるが。
そんなかれらをエミルは優しくなでるのみ。
よくよく目を凝らせばジーニアスも気付いた、であろうが。
エミルが触れているそこからより濃いマナが彼らに注がれている、というその事実に。
しかしミトスにすら気づかれていないその行為はほんの一瞬のうちに、
彼らの体内に吸い込まれているからに他ならない。
「皆がいうように、かつての四千年前のように、世界が一つになったとして。そのとき、皆はどうするの?」
世界をかつてのように本来の姿にするというのはエミルの中でも決定事項。
エミルが知っていた時間率では、たしかリフィルとジーニアスは旅にでており、
ロイドとコレットはエクスフィア回収の旅に、もっとも途中でマーテル達によばれ、
自分と敵対する行動をとりまくってくれたわけ、だが。
「世界が一つにもどっても、それでハッピーエンド、というわけにもいかないでしょ?」
エミルのいい分は至極もっとも。
「うん。だから、パパ達はそれにむけて動こうとしてるんだしね」
「私はそのようになった場合、会社をあげて全力でシルヴァラントを支援したいとおもう。
  こちらの世界は技術力などが必要、となってくるだろうからな」
マルタがしみじみといい、リーガルはうなづくように、そんなことをいってくる。
実際、レザレノ・カンパニーはあのときでも、シルヴァラントにかなり貢献していた。
…にもかかわらず、その会長をいともあっさりと放火犯扱いし、取り調べも何もせず、
牢の中にぶちこんでいたあのイズールドの村のものたちの気がしれない、というのはあるにしろ。
リーガルが寛大な心をもっていなければ、まちがいなく村は壊滅的なダメージをうけたであろう。
何しろ、かの有名なレザレノの会長兼社長を何の証拠もないままに投獄してしまった、のだから。
「マーテル教の教えは全ての命の平等と、そして平和。
  この教えは僕もいいとおもうけど、そうなったとき、クルシスがどうなるか、だよね」
それは言外にミトスに対しての問いかけでもある。
そんなエミルの言葉の意図に気付くことなく、
「うむ。たしかに、今のクルシスがしていることは許されることではないであろう。
  しかし、仕組みをつくったものは、最後まで責任をもつ責任もあろう。
  できうれば、教会を存続させたままに世界再生の手伝いをしてもらえればいいのだが」
「甘い。甘いよ。リーガル。今でも人の命を劣悪種とかいって何でもないように扱ってるんだよ?
  そんな彼らがそんな提案をうけいれるとでもおもう?」
「でも、マーテル教がなくなったら、余計に混乱する、とおもいます。
  それに、そもそも、世界を混乱させていた黒幕が天界だなんて。普通は信じない、です」
セレスのいい分は、情報規制というか情報を偽られ信じ込まされている人々にとって
絶対に受け入れられない真実であろう。
宗教がもたらす悲劇というのはエミルもまたよくわかっている。
いくつもの宗教がうまれ、悲劇を起こすくらいならば、これまで通り、
マーテル教というものは存続していてもいいともおもっている。
そもそもあの教え事態はエミルは今ではそう悪いものではない、ともおもっている。
確かにヒトの一生は短いながらも旅のようなもの。
「それに、あのユクドラシルってやつが、はいそうですか。ということをきくともおもえないし」
ジーニアスがそういうが、その台詞に一瞬、ミトスが顔をふせたのに、ジーニアスは気づけない。
「ジーニアス。なら、ジーニアスは間違ったことをしたことはない、とでもいうの?」
「え?」
エミルにそういわれ、ジーニアスはとまどわずにはいられない。
まさか、そんなことをいわれるなど思ってもみなかった、
とばかりに目をぱちくり見開いているのがみてとれる。
「ヒトは誰でも間違うことがある。でも、その間違いを正すこともできる。
  …間違いを間違いのままにして、死んでしまったら、それは逃げていることでもあるでしょ?
  ゆずれない何か。それはジーニアス達にもあるんじゃないの?」
そこまでいったあと、静かに目をつむり、
そして。
「……僕は、基本的にはヒトを信じてはいないけど。でも、それができるのもまたヒト。
  そうおもってるんだよね。一人で何でもかんでも背負ってため込もうとするヒトに限って、
  そういう間違った方向性に思考が向かうことがよくあるようだけど」
本当に、何でもかんでもミトスは自分のみで抱え込もうとしていた。
そしてそれを察知して解決させていたのが姉であるマーテルでもあった。
伊達に彼らの旅を長きにわたり蝶の身でみていたわけではない。
「…エミルは間違ったことが、ある、の?」
「――あるよ」
あのとき、ミトスに石をわたさなければよかったかもしれない、とおもう。
そうすれば、普通の精霊石であるエクスフィアとなりしあれも、
四千年にもわたり、彼女の精神をとどめ置くことはなかったであろう。
それとも、ミトス達の心にうたれ、あのとき地上の浄化をみおくったこと。
あのとき、心あるもののみのこし、一部のもの以外を浄化する、という方法もとれたというのに。
でも、彼らは全ての命をありのままに生かして存続することを望んだ。
そしてその結果、ミトスは死に、その魂が力を失いし種子にやどり、
新たな樹となり、その樹によりによって、数多の少女達の精神が融合したマーテルが、
ロイド達ヒトの手によって新たな名をつけさせたことにより、
完全に大樹としての…マナを、世界を構築するための力が失われてしまった。
――ヒトを信じた自分が愚かだった。
そうおもっていたあの当時。
そして、彼らヒトが招いた愚かなる結果でもあったというのに、
そのことを棚にあげ、世界を安定させてほしい、といってきたヒト。
もしもあのとき、アステル達が世界再生といわれていた旅の真実。
それを知っていたならば、あのようなことはいわなかったであろう。
――千年の時の中で、リヒターがあのとき、真実を知らなかったということを知った。
そして、千年の時をえて、理を書き換えても、人はまた愚かなことを繰り返した。
地上にはぴこった人々の悪の心はたやすく魔族達をうけいれた。
扉そのものに問題はなかったにしろ、新たに開いた窓は大きすぎて。
再び理を書き換えるハメにとなったあの当時。
そして、精霊達をよりによって捕らえる装置をつくりあげはじめた人間達。
あのようにたやすく地上が瘴気に蹂躙されてしまったのは、
かのトールという国がアスカを捕らえてしまったからに過ぎない。
アスカの光は瘴気を抑える役目をも果たしていた、というのに。
本当にヒトはどこまでも愚かでしかなかった。
この世界がまたあのときと同じような時を刻むのかどうか。
それはさすがのラタトスクにも判らない。
でも、とおもう。
このたびのあの計画を始動させることにより、
すくなくとも彼らは自分達、個人個人の愚かさと向きあうことくらいはできるであろう。
そして、それがきっかけとなればいい、ともおもっている。
戸惑いを含んでといかけてくるミトスの台詞に、目をしばらくつむったのち、
ゆっくりとある、といいきるエミルの台詞におもわず目を丸くするミトスの姿。
「――僕の場合は大体、間違っていると気付いてもどうにもならないことが多いけど。
  でも、君たち、ヒトは違う、でしょう?」
エミルが、否ラタトスクがそうおもうのは、いつも全てがおわり、
また新たな理の中で世界が安定しはじめてからしばらくたってから。
あのときこうしておけばよかったかもしれない、とふとしたときに思い出すのである。
それは例えば一万年後であったり、数千年後であったり、
さらには数億年、といったときすらもあった。
ミトスはあの加護の試練にすら打ち勝ったヒト。
だからこそ、ラタトスクは自らの加護をあたえたのに。
不安定になっているのはあの力の負の部分のみだけを鍵と利用しているからなのか。
エミルの言葉にはいいしれない何ともいえない気持ちが含まれている。
それが何、なのか、この場にいる誰にもわからない。
「宗教、というのも僕はあまり好きではないけど、
  でも、ヒトって、何でもかんでも。そういった信仰をもつのをつくりあげるからね。
  ――古のヒトは、自然界にある様々なものに精霊たちがやどっている。
  そう信じて、実際にそうなんだけど。それらをあがめていたから、ね」
もっとも、自分達こそが神だ、といいだした輩も出現したのだが。
ある意味で、魔族化したかつてのこの地表の住人と相対する進化を遂げたといってもよいかもしれない。
魔界と化した地にすまいしかつてのこの惑星にもともといた精神生命体達。
彼らは自分達をプラス属性とマイナス属性とに分類するのならば、
マイナス属性のほうにその身をおくことを重視し、そしてそのように進化した。
この星のもともとの理が地表にいきるものが独自に進化できる力を得る。
そのようなものであったからこそ彼らはそのように変化したといってもよい。
マナと切り離し、かつてのような理にそろそろもどしてもいいか、
とおもい、そのようにした結果、ヒトはまた愚かな道に進んでしまっていったわけだが。
そもそも、エミル…ラタトスクとてずっとこの惑星にいるつもりはなかったのである。
エルフ達がたしかにこの惑星を選んだこともあったにしても。
この惑星の悲鳴をきいたからこそ、ラタトスクは手をかしていた。
自らの力で、傷ついた惑星を癒していっていた。
その癒しの過程の惑星をみた彗星に移住していたエルフ達がこの地に移住をきめたあのとき。
もしかしたら、あの判断も間違っていたのかもしれない。
やはり、一からあらたに世界を、惑星をつくっていれば。
しかし、惑星からの願いも切実でもあった。
だから、なのかもしれない。
あのとき、惑星の意思が自分をこの時代、すなわち過去に飛ばしたのは。
「エミル、だからあんたのその知識、どこから得てるんだい?
  前、たしかどっかの遺跡とかにそういったものが書かれているようなことをいってたけど」
しいながそんなエミルの台詞をうけ、あきれたようにいってくる。
みずほの里にもそういった伝承はのこっている。
というか実際、みずほの里事態がそのような教えのままに今にいたっているといってよい。
表向きはマーテル教を信仰しているようにみせかけてはいるが、実際は違う。
みずほの民が信仰しているのは、自然界、そのもの。
その考えは悲しいことにエルフ達の中からも今では失われかけている。
かつてのエルフ達ならば、すぐにセンチュリオンの気配にもきづいたであろうに。
あの気配にすぐにきづかなかったということは、自然とのかかわりかた。
自分本位でかかわり、完全に自然と同調しよう、という気がないという何よりの証拠。
「――八百万やおよろずの神、宗教の対象によって様々にそれぞれの神がいる。  
  もっとも、神=精霊、という考えが大多数、そうでしょ?しいなさん」
「?みずほでそのことをきいたのかい?
  まあ、たしかにそう、だけどさ。でも、それに何の関係があるのさ?」
エミルがいいたいことがしいなはよく理解できない。
ゆえに、首をかしげさらにエミルに問いかけようとしたそんな中。
「お、いい匂い」
「あら、皆、深刻そうな顔をして、何かあったのかしら?」
ふと、橋のある方向からこの場にいなかったものたち。
すなわち、ロイド、そしてリフィルの声がきこえてくる。
「あ、おかえり。ううん、何でもない。ちょっと、これからのことをはなしてたんだ。
  リフィルさん達は、足場の確保は完了したの?」
「ええ。さっきゼロス達にもあったけど。あちらも完了したようよ」
エミル達が休憩しているその少しさき。
その先にみえている木の橋…これもどうやらリフィル達が補強をしっかりとしたらしいが。
つり橋ではなくきちんとした木枠でつくられていた橋もまた腐食しかけており、
橋の上に橋をかける、という状況になってはいるものの、
その真上に新たなつり橋をかかげているリフィル達。
エミルの問いかけにリフィルが首をかしげつつも返事をかえしてくる。
これからの話しをしていたというだけで、何やら深刻そうな表情を浮かべるものだろうか。
そんなことを思いはするが、

「はらへった~、お、うまそうだな!これ!」
どうやらかなりお腹がすいていた、らしい。
そのまま駆け寄るようにして、エミルがつくっていたカレーの鍋のふたの中をみて、
そして。
「なあなあ、エミル。食べてもいいか?」
「…皆がもどってきてからのほうがよくない?」
待ちきれない、とばかりにいってくるロイドをみつつ苦笑しながらも返事を返す。
どうやら、ロイド達がもどってきたことにより、
先ほどの会話は中途半端ではあるがこれ以上の追求はされないであろう。
「先にもどっていたのか」
ふと、聞きなれた声がし、思わずそちらを振り向くロイド達。
そこには見慣れた赤い髪の多少眼つきのするどい男性が。
「あら。リヒター。そういえば、まだ説明をうけていないわ。
  あなたは、ダイクの所にのこっていたはず、なのだけど。
  レネゲードに何をいわれてきた、のかしら?」
それは探るようなリフィルの視線。
実際、この洞窟にはいる直前に彼がいたのに驚いたのはつい先刻のこと。
リヒター曰く、レネゲードにここまでつれてこられた、とはいっていたが。
しかしその詳しい内容はまったくもってきいていない。
「…お前達には関係ない、といいたいのだが。そういうわけにもいかないだろうな。
  お前達、エクスフィアで異形とかしたものを元にもどしたことがある。というのは事実か?」
なぜここでその話しがでてくる、のであろうか。
「クララさんのこと?クララさんなら、エミルがもどしたけど……」
リヒターもまた、こちらにちかよってきて、そのままその近くにある大きめな岩にその背をたむけ、
「でも、なぜその話しが、ここに……」
リフィルがいいかけると、
はっと何かにきがついた、のであろう。
「まさか…まさか、リヒター…以前、逃げだした、ウィノナが……」
ぴくり。
その名にミトスが反応したのに気がついたのは、この場においてはエミルのみ。
「そのまさかだ。当人かどうかはわからないが、な。
  レネゲードのボータとかいう輩がいうには、
  彼らの調査でこの地に、異形とかしたエクスフィギュアとよばれしもの。
  何でも奴らはエクスフィアで異形とかしたものたちをそう呼ぶ、らしい。
  それがこの洞窟の中で以前みられた、という話しだ。
  …それらの目撃情報が、研究院の白衣だった、というのがきになって、な」
「ウィノナ…なの?本当に?ウィノナ姉さん、なの?」
「…それはわからん。が、ほうってもおけまい。…まだこの地にいるかどうかもわからんが。な」
アステルの声は多少震えている。
たしかにこの地にはエクスフィギュアが一人いるが。
その人物の名も【ウィノナ・ピックフォード】であることもエミルはつかんでいる。
その魂のありようから、一瞬エミルは目をぱちくりさせはしたのだが。
よもやこの時代に彼女の前世である魂がいるなどとは思ってもみなかった。
かつて、あのダオスと心を通わせた女性。
…どうやら彼女はこの時代にも生きていた、らしい。
前世と来世が同じ名であるのは何という偶然、というべきか。
「誰なの?その人物は?」
怪訝そうにといかけるそんなリフィルの問いかけに、
「あたしが答えるよ。
   数年前、王立研究院で行方不明になった、というハーフエルフの女性だね。
   あたしらみずほの里ではエクフィアの実験体に選ばれた、
   ということまではつかんでいた、んだけど……」
「…ウィノナ姉さんは、ある日、ケイトの所属する研究所に配属されて。
  それからしばらくして、行方不明になったんです。
  僕、きになって、ずっと探してたら、ある研究者から、
  彼女は実験に失敗し、殺されそうになったところを逃げ出したって……」
「あれから数年以上たっている。が、彼女はハーフエルフだ。
  …怪物となっても本能を万が一たもっていれば生きているかもしれぬ。
  白衣をきていた、というだけで当人かどうかもわからないが、な。
  …すくなくとも、この俺も彼女にはすくなからず世話になっていたから、な」
彼女はリヒター達ハーフエルフにとっては母親のような存在でもあった。
明るい彼女になぐさめられていたハーフエルフ達は一人や二人ではない。
「ピックフォード……」
茫然としたように小さくつぶやくミトス。
さきほど、ミトスが思いだしたばかりのかつてのミトスがもう一人の姉。
としたっていたエルフの女性の名もそれであった。
その苗字が同じなのは偶然の一致なのか、それとも彼女の血筋だ、とでもいうのだろうか。
彼女には確か妹がいた。
血筋が残っているならぱその可能性もあるかもしれないが。
自分達が追放され、妹もまた行方知れずになった、
と旅の噂でそうきいた。
だからこそ、ミトスは信じられないようにつぶやくしかできない。
「?ミトス、もしかしてウィノナ姉さんと知り合いなの?」
そんなミトスの様子にきがついたのか、アステルが首をかしげてといかける。
「あ、いえ。…たぶん、同姓同名の人違い、かと。
  ……僕の知っているウィノナ姉様は…僕の目の前で…姉様よりも前に……」
「しかし、彼女が研究所につれてこられたのは、ほぼ瀕死状態だったときいたが?
  ならば、同じ人物という可能性も」
「ありえません」
それはきっぱりと断言できる。
ミトスがいっているのは四千年以上も前のこと。
彼らの話しぶりからして、相手が天使化していたようにはおもえない。
それに、エンジェルス計画の実験で失敗して異形と化した、というのならば。
天使化してあのときから万が一にも生き延びていたという可能性は皆無。
「ケイトさん…エンジェルス、計画、ですね」
「っ。また母さんと同じような犠牲者がいるっていうのかよっ」
ぽつり、とつぶやくプレセアの台詞にぎゅっとロイドが手を握り締める。
プレセアだけ、ではない。
たしかに彼女、ケイトはプレセア以外にも実験をしていたようなことをいっていた。
「…白衣をきていた異形のもの。何か手がかりがあるかもしれない、とおもうとな。
  ……いてもたってもいられなかった……」
自分が今いるのは、アステルや、彼女の御蔭だ、とリヒターはおもっている。
だからこそ、譲れなかった。
ありえない、とおもっていても確かめずにはいられなかった。
なぜその情報を彼らレネゲードが自分のもとにもってきたのか。
その意味がリヒターにはよくわからなかったが。
しかし、わざわざ運んでくれる、という言葉をきき、気がついたときにはうなづいていた。
彼女なのか、そうでないのか。
それはわからない。
しかし、今いかなければ後悔する。
そう直感したからこそ、リヒターは今、ここにいる。
「その異形と化した人はまだここにいる、と?」
「わからん。もう命をおとしているかもしれん。でも、痕跡くらいはのこっているかもしれん」
「…そう」
リフィルの問いかけにリヒターは首を横にふりながらも返事をかえす。
そんな彼らの会話を聞きつつも、
「うん?もしかして、あの女の人のことか~?」
それまでだまっていたクレイアイドルの三男が、ちょこん、
とコレットの腕の中よりおりつつ、全員をみあげつつも声を発する。
「「!?」」
その台詞に思わず顔をみあわせ、ばっとクレイアイドルに視線をうつすリヒターとアステル。
「たしかに、いるなぁ。二年くらい前からだつたか?この洞窟のとある部屋にすみついててな~。
  調子いいときには自我ももどってるみたいなんだな~」
「自分達精霊とは内部に封じられている彼女の心と直接話すことができるんだな~」
三男につづき、どうやらリヒター達とともに行動していたらしき長男もそんなことをいってくる。
「ここに、いる、のかい?その人は」
しいなのそんな問いかけに、
「この洞窟のベルセリウムの生息地、そこに彼女はすんでるんだな~」
「ベルセリウムは精霊の暴走を抑える力も多少あるから過ごしやすいんだとおもうな~」
口ぐちに、さらり、と何やら重要なことをいってくるこのクレイアイドル兄弟。
「そ、その女の人の名前、とかわかる?」
アステルの声が多少涙声のようになっているようにみえるのは、
おそらく誰の気のせい、でもないであろう。
アステルにとって、リリーナとは別の母親的存在でもあった人物。
それが彼女であったがゆえに、その戸惑いはどうやら大きい。
「ヒトの名前なんてきいてもいちいちおぼえてないんだな~」
「だな~。けど、彼女はエルフの血をひいてるんだな~」
「うん。ハーエエルフ、なんだな~」
っ。
その台詞に息をのんだのは、アステルとリヒターだけではない。
ジーニアスとリフィルも同様に息をのんでいたりする。
「…姉さん、ほうっておけないよ。助けないと」
「ええ」
「リフィルさん、レイズテッドをつかえるんですから、リフィルさんが治せるとおもいますよ?
  あのピエトロさんも治せましたし」
自分にやってほしい、といわれるまえにさらり、とさりげなくリフィルにいうエミル。
ミトスの前であの杖をつかえば確実に気付かれる。
あれがマーテルのもつ大樹カーラーンの杖、それににた同じ材質ものである、と。
「どちらにしろ。ベルセリウムが必要なのだもの。
  私がやってみるけど、だめなときには、エミル、お願いするわね」
「大丈夫だ、とおもいますけど。ここは精霊の神殿、でもあるんですし」
この地にいるがゆえに、微精霊達がさほど暴走をしておらず、
これまで無事に生きてこれているのであろう。
ならば、問題なく元に戻すことは可能のはず。
ついでにノームを解放するとともにこの周囲のマナを少しばかりあげておけば、
自分があの微精霊達を孵化させてもまず気付かれない。
――ウィノナ姉様!
――ミトス。マーテル…よかった…未来がかわったわ。
――はなさないで。どうして、どうして!
――前に、はなしたわよね?私には…ミトス、マーテル、未来を……
――ウィノナ姉様!
――あなた達ならば、やりとげられる。だって、わかるもの…今、みえたわ……
――優しいあなた達に未来の祝福を……世界に、平和を……
――ウィノナ姉さまぁぁぁぁぁぁぁぁ!
彼らがそんな会話をしている最中、ふとミトスの脳裏に過去の出来事がよみがえる。
それは、ミトス達が里を追われるきっかけとなったとある事件。
自分達をかばった彼女の最後の言葉。
彼女が身を挺し、かばったことによって、ミトス達は追放処分という処置にとどめおかれた。
弓と、そして剣の名手でもあった彼女は、魔術を使用することはなかったが、
里にとっては、より腕のいいエルフとして名がとおっていた。
それでも、里のものは、魔術をつかえない彼女を見下しており、
それでもその腕から里のものからの信頼をもかちえていた。
それはミトスにとって、始まりともいえる、エルフの里を追放されたときの始まりの記憶。
いつか、彼女からきいたことがあった。
彼女には時折、未来をみることができる力があるんだ、と。
でも、自分ではその力ほコントロールはできはしない、と。
彼女の言葉、自分達ならばやりとげられる。
彼女がいったのだ。
だからミトスは諦めなかった。
絶対にやり遂げてみせる。
と。
それは最後の彼女なりの嘘だったのかもしれない。
しかし、その言葉を嘘にしたくなかった。
だから、いくら姉が絶望するくらいなら静かにくらしましょう。
そういってもあきらめなかった。
それでは、自分達をかばってしんでしまったウィノナ姉様がうかばれない、と。
同姓同名の他人。
そうわかっていても、心がざわめく。
あのとき、今くらいの自分の力があれば、ウィノナ姉様を助けることができたのに、と。
――絶望はしないわ。だってあきらめたらそこでいつもおわりだもの。
  だから、私は自分にできることをしているだけよ。
  ミトス、マーテル。あなた達も自分にできることをしていけばいいの。
  無理をしなくても。ただそれたけでいいのよ。それをわすれないで。
その言葉はミトスの軸となったといってよい。
ミトスの口癖のそれは、彼女からのもの。

…ミトス?
別に視るつもりはなかったというのに、ミトスから流れてくるは、彼の想い。
ゆえに思わずエミルはミトスをまじまじとみてしまう。
そういえば、かつてアクアにマーテル以外にも尊敬していた姉のような人がいた、
と話していたことがあったはずだが。
だとすれば、ウィノナというヒトがそうなのだろうか。
ミトスから今流れてきた想いと間接的に視えた記憶からは、
同じ魂をもちしもので間違いはなさそうだが。
彼女の魂をエミルが見間違えるはずがない。
ゼクンドゥスの力の一部を受け継いでいる魂のありかたを見間違えるはずもない。
「……取り戻させる、か?」
彼女に過去の記憶を思い出させてもいいかもしれない。
ミトスがここまで想っている、というのならば。
しかし、過去…この時代のあの彼女に何があったのかエミルは完全に詳しくはない。
ならば、彼女に触れて魂の記憶をよみとるべき、なのかもしれない。
それによってどうするかきめる、というのも一つの手。
マーテルはどこか口下手であったがゆえに、ミトスを勘違いさせかねないが、
でも、もう一人姉のようにしたっている人物の言葉があれば?
「……我ながら、甘い、かもな」
それはぽつり、とつむぐラタトスクの本音。
たしかに、ヒトの姿を模しているときは、甘くなっているのかもしれない。
こんな風に思う、ということ自体が。
どうやら自分はミトスのことをそれなりにかなり気にいっていたらしい。
あの当時は無自覚であったが。
ああ、だからか、ともおもう。
あのとき、ミトスとマーテルに裏切られたのだ、とわかったときに。
もうどうでもいい、とおもってしまったのは。
無意識のうちに彼らを気にいり、心から信じたかった、のであろう。
あのときの自分は。
だから、裏切られたことをしり、どうでもよくなり、マナの調停を放り投げた。
もう、地上は浄化してもかまわない、そんな気持ちであったのもまた事実。
それでもロイド達とともに過ごし、マーテル、そしてミトスの魂が宿りし幼き苗木。
たしかに、ともおもう。
自分の中からあのようなたぎるような怒りがきえたのは、
あの苗木をみてからではなかったか、と。
あのままコアとなり封印され、世界が消滅するならば、
心のどこかでミトス達も解放される、そんな思いがあったのかもしれないな、とも。
「……あいつらが心配するわけ、か」
おもわず苦笑せざるを得ない。
今さらといえば今さらかもしれないが。
エミルがミトスの様子をみつつ、そんなことを一人小さくつぶやいている一方で、
「クララさんのような人が、他にも……先生、助けてあげようよ」
「ええ。知った以上は助けます。必ず。…そのままにしておけるもの、ですか」
「母さん達みたいな思いをするのは、もう誰も増えてほしくない」
「うむ。…アリシアのような悲劇はもう産むべきではない。
  元に戻す方法があるのならば、私もそのものを助けてあげたい」
コレットが手をくみながらいい、そんなコレットに力強くうなづくリフィル。
ロイド、そしてリーガルも思うところがあるらしく、力強くうなづいていたりする。
「その、彼女がいる場所はどこ、なのかしら?」
「センチュリオン様の祭壇に入る手前の部屋なんだなぁ」
『!?』
その言葉に思わず驚愕の表情を浮かべるリフィル達。
あ、しまった。
とエミルは思うがすでにおそし。
まあ、完全に祭壇にいく手前ではあるにしろ。
あの場所にいくまでには他の隠し通路からもいけるというのに。
さらり、とセンチュリオンの名をだすな、といいたい。
切実に。
たしかにソルムや自分のことはいうな、とはいっていたが。
…ここに彼らの祭壇があるというのをいうな、とはいっていなかったか。
おもわずコメカミに手をあててため息をつくエミル。
そんなエミルのちょっとした態度にきづいたのは、少し離れた場所にいたゼロスのみ。
それ以外のリフィル達はといえば、さらり、といわれたセンチュリオン。
その単語におもいっきり反応しており、エミルのそんなちょっとした動作に気づいてすらいないらしい。
「ちょ、ちょっとまってよ!ここにまさか、センチュリオンの、
  精霊ラタトスクの直接の配下とおもわれる祭壇があるの!?
  ここにあるのは、地の精霊ノームの祭壇だけじゃないの!?」
アステルがおもいっきり目をみひらき、ずいっとクレイアイドル兄弟にとつめよっているが。
どうやら今のさらりとした爆弾発言ともいえる台詞に、
完全のその意識が研究者のそれにときりかわってしまったらしい。
「……とりあえず、話しはあとにして、先にたべません?カレーがにつまっちゃいますし」
いくら弱火にしているとはいえ、このままほうっておけば話しはおわらない。
ならば、自然に違和感なくなるべく話題をかえてしまおう。
そんな思惑をも含めたエミルの提案に、
「それもそうだ。俺、もう腹ペコだしな。皆もどってきたし。いいだろ?先生」
この場にはそれぞれ別行動していた皆がすでにもどってきていたりする。
ロイドからしてみれば、センチュリオンのことよりも、今はとにかくご飯のほうが最優先。
「そうね。詳しく教えてもらうにしても。…先に食べてからにしてしまいましょう」
「センチュリオンの祭壇。そんなものがここにあるなんて。
  なら、ソナー探知機を用意して、よりくわしく内部を調べないと」
「うむ。たしかにアレならば隠された通路もみつけられるだろうが。
  しかし、盲点だったな。精霊の祭壇と同じ場所にそんなものがあるなどとは」
「もしかしたら、他の精霊の祭壇のところにもセンチュリオンの祭壇。
  っていわれているものがあるのかもしれないね。最優先探索事項だね」
何やらそんなことをいっているリヒターとアステルの姿も目にはいる。
…自分達以外立ち入りを制限していて正解だったな。
たしか、以前のときは地震によって壊れた場所からソルムのコアなども持ち出されていた。
今はしっかりと結界を強化しているがゆえに、どこからもタチイルことはできはしない。
自分の許可、もしくはセンチュリオンの許可がない限り、は。
先ほどまで多少暗くなりかけていた雰囲気であったはずだというのに、
何やら空気が完全にかわっているような気がするのは、おそらくエミルの気のせいではない。
絶対に。
「…ここに、祭壇?」
そしてまた、ぼうぜんとしたようにつぶやいているミトス。
…そういえば、ミトスもなぜここがマナが偏っているのか、また充実しているのか。
知らないままにここを利用していたな、とふとエミルは思い出す。
古の人々が使用していた精霊の祭壇を利用し精霊達の封印を施したゆえに、
ミトスはそこまで詳しくしらないはず、である。
センチュリオン達もどこに祭壇があるのかなんてミトスに話してはいないはず。
…アクアならぽろり、といっているかもしれないが。
しかし、もしそうであるならば、コアをどうにか彼らがしていたであろう。
だとすれば、知らない、とおもったほうがまず間違いない。
「そういえば、アステル。そのソナー、なんだけども」
「ええ。これは、遺跡調査などにつかっている品なんですよ。
  隠された通路などをも調べるのにとても便利なんですよね。
  何しろ遺跡ってもろい箇所もありますから。遺跡を壊さないように、という名目もありまして。
  ちなみにこれらには音波、もしくは光を用いるタイプのものもありますが。
  精霊の力がより強い箇所はでもこれらもあまり効果がないんですよね。
  おそらく、精霊の力が強すぎて、機械が正常に働かないんだとおもうんですよね」
そこに精霊がいるがゆえに、マナが強すぎて正確な調べができないのだろう。
というのが、精霊の神殿などにたいしてこれらを使用するときの数値。
それにたいする研究者達の意見。
それ以外の場所、普通の遺跡や海の中などは普通に探ることが可能なのに、
精霊にかかわる場所のみきちんとしたデータがとれない、というのはそうとしかおもえない。
「なら。先にノームと契約したほうがいいわね。
  センチュリオンの祭壇にはいる隠し通路をみつけるためにも」
「そうですね」
二人して何やらもりあがっているリフィルとアステル。
みれば、リヒターもかなり気になるらしく、二人の会話にわってはいり、
リフィル、アステル、リヒターの三人で、
それぞれ今テセアラにあるという探索装置について話しが盛り上がっている模様。
…あの先に通路があるとわかっても、絶対にはいれないんだが。
そんなリフィルやアステルとのやり取りをききつつも、思わず内心突っ込みをいれるエミル。
しかしそれを口にするわけにはいかない。
あの地にはいれない、というのをエミルが知っているのはあきらかに不自然なのだから。

「?エミル、どうかしたの?」
「ううん。何でもない……」
知らずどうやらため息をついていた、らしい。
そんなエミルを心配そうにみていってくるコレット。
どうやら心の底から心配して声をかけてきたらしい。
食事もおわり、ひとまず地の精霊がいるであろう祭壇があるという場所にむかっていっている今現在。
ゆえにそんなコレットに心配ないとばかりにエミルが答えるが、
「…まあ、エミルがため息をつくのもわかるよ。あれ……」
いまだに三人で、センチュリオンがどうだの、ソナーがどうだのいいあっている
リフィル、アステル、リヒターの三人の姿が、視線の先にみてとれる。
「先生の遺跡モードだけでも厄介だ、というのに増えた……」
「同感。姉さんのような人が二人も増えるなんて……」
ぽん、とそんなエミルの肩をたたき、心底同意する、とばかりに疲れたようにいってくるロイド。
そしてそんなロイドにつづき、これまた同意するようにうなづいているジーニアス。
どうやらエミルが少しばかり元気がないようにみえるのは、
リフィル達が興奮しまくり、あきらかにハイテンションとなりつつも、
彼らなりの理論をぶつけまくっているのを目の当たりにしているから、と捉えたらしい。
どうでもいいが、よくもまあ、あんなに会話をしつつ足を滑らすこともなく、
またもつれさせることもなく進めているものだ、とあるいみ感心してしまうが。
「でもさ。結局、クレイアイドルって何なんだろ?」
「精霊の一種だっていわれてるよ」
ちょこん、とエミルのもっている袋の中になぜか五人ともはいり、
きゃいきゃいはしゃいでいるクレイアイドル達。
始めはノイシュと同じ場所にいたのだが、あまりにクレイアイドル達が、
ノイシュをいじりまわし、ノイシュが悲鳴をあげたがゆえに、
エミルはノイシュとクレイアイドルをわけていたりする。
ため息とともにリフィルをちらりとみたのち、その視線をエミルのもつ袋にうつし、
首をかしげつつもいってくるロイド。
そんなロイドに定説ともいえる説明をしているジーニアス。
「でも、その子達、かわいいよね」
「「「「「お~、俺達かわいいんだ~」」」」」
「「・・・・・・・・・・・・・」」
コレットの声がきこえた、のであろう。
同時に異口同音でコレットの声にこたえているクレイアイドル五兄弟。
そんなクレイアイドル達の様子に思わず無言になっているロイドとジーニアス。
「この口の悪さがなければたしかにかわいい、けどね」
マルタもたしかにかわいい、とはおもうがこの口の悪さが何ともいえない。
「だよなぁ。ガラ悪いし、何考えてるのかわかんないのがなぁ」
「クレイアイドルの知能って、三歳児に近いとも一節にはいわれてるみたいだしね」
ジーニアスが首をすくめながらそんなことをいってくる。
「そうかなぁ?とてもかわいいとおもうけど、ね。プレセアやしいなもそうおもうでしょ?」
「い、いきなり話しをふらないでおくれよ」
いきなりコレットに話しをふられ、わたわたとあせりはじめるしいな。
「…まあ、魔物や精霊達にも個性はあるんだし、
  この子達の口調がこう、というだけだとおもうよ?」
実際、モーリア行動の中にいるクレイアイドル達はこんな口のきき方はしていない。
「かわいい?んでしょうか?…こう、ですか?なんだ~、やんのか~」
「か、かわいい//」
コレットの台詞をうけ、少しばかり首をかしげたのち、
クレイアイドル五兄弟の真似をしはじめるプレセア。
あきらかに棒読みではあるが、その動作がジーニアスにはかわいらしくうつったらしい。
「っと、かわいらしいプレセアちゃんのモノマネはおいとくとして。
  そろそろ地の精霊がいるという祭壇のある部屋の前につくぞ?」
目の前にはきりたった断崖絶壁。
そこには長い梯子らしきものがみてとれる。
どうやらつり橋の予備とともに念のために梯子も彼らはつくっていたらしい。
見下ろす崖下は薄暗くどこまでつづいているかわからない。
あの場につづく本来ならば転移陣があったらしいのだが、
クレイアイドル達がいうには、風が吹き荒れたときの影響で、
その台座がある足場ごとどうやら崩れてしまった、とのことらしい。
何だかなぁ、ともおもいはするが、崩れてしまったのであれば仕方がない。
「お~。ここをおりていって、その先にある扉の先にノーム様はいるんだな~」
ぴょこん、とエミルの鞄の中からとびだして、
そのまま、ひょいっと崖下にと飛び降りるクレイアイドル達。
先に飛び降りた長男につづくように、続けざまに二男、三男、ととびだしては、
そのままいきおいよく崖下にジャンプしてゆく。
「耐久性に問題があるかもしれなくてよ。一応一人一人おりていったほうがいいでしょう」
いつのまにかどうやら意見交換がおわったのか、
はたまたこの場にまでやってきたがゆえに一度話しあいをとめたのか。
それは定かではないが、突如としていきなり真面目な顔をしてリフィルが全員を見渡しながらいってくる。
簡易的につくった梯子であるがゆえに全員の重さに耐えきれるかどうか。
それはかなり怪しいところ。
かの糸はかなり耐久性にすぐれている、とはきくが、リフィルはあの糸でつくられたもの。
それらに関してあまり詳しくはない。
そもそもシルヴァラントではまちがいなく普及していないといっても過言でない。
かつてはドワーフ達がそれらを使用していたとも聞き及ぶが、
かの魔物から糸をかすめとれるような、またそれらが流通するような仕組みも、
シルヴァラントには残されていない、というのが一番大きい。
テセアラ側では、高級糸として取引されており、多少の流通は確認されている、らしい。
それぞれ思うところはありはすれど、ひとまずリフィルのいうように、
一人一人、梯子をおりて、この先にあるという地の精霊ノームの祭壇。
その祭壇があるという手前の場所にまで移動してゆくことに。


ひたすらに梯子をおりてしばらくいき、
やがてたどりつくは、完全に隔絶されたとある場所。
その手前には大きな扉が位置しており、
その扉の手前には何かの紋章のようなものが刻まれているのがみてとれる。
「これは…雷の神殿にあったものと似ている、わね」
リフィルがその目の前の巨大な扉をみてそういえば、
「ああ、これも封印の一つ、さ」
いいつつ、しいながその前にすすみでて、すばやく手を動かし印を刻む。
その動きにあわせ、扉の紋様があわく輝き、やがて。
ゴゴゴゴゴ。
音とともにゆっくりと扉が左右にひらいてゆく。
開いたその先にみえるは、広がるちょとした部屋と、
そしてその奥にある見慣れた台座。
台座の周囲にはいくつもの石の柱らしきものがならんでおり、
これまでの場所とはあきらかにその空間は違うことを物語っている。
しいなが意を決し、その扉の中に一歩、足を踏み入れるとほぼ同時。
ゴゴゴゴゴゴッ。
ものすごいまでの揺れが襲いくる。
「っ、はやく部屋の中へっ!」
このままここにいれば、この足場の下にあるそれこそ底のみえない奈落の底。
かろうじて水の音がしていることから、下に水が流れているのか、
それとも湖のようなものがあるのか、それはリフィルにはわからない。
わかるのは、たっているのもままならないほどの揺れ。
そして、少しでもバランスを崩せば崖下に転げ落ちてしまうかもしれない、というその事実のみ。
リフィルの掛け声とともに、あわてて部屋の中にはいってゆくロイド達。
そして、最後にエミル、そしてとまどっていたミトスの手をひいて中にとはいるジーニアス。
その直後。
どごぉ、ドゴドゴ、ドゴォォ!
「これは、グレイブ!?」
地面からいくつもの岩がせり出してはきえていき、
そしてさらなる大きな岩がせりだし、あっというまに退路をふさぎ、
そしてまた、その岩は先にすすむのを拒むかのように目の前にも出現しはじめる。
「このまま閉じ込められてしまうわ。とにかく祭壇の前に!」
リフィルの掛け声。
「あ。姉さんっ!」
はっと気付いたときにはすでに目のの前には岩の壁がせりだしており、
いつのまにかリフィル達と寸断、されてしまったらしい。
後ろを振り向いても入口であった扉付近にも岩の柱もどきの壁が出現しており、
先にいくのも後ろにいくのもどうにもならない状態。
それにきづき、ジーニアスが思わず声をはりあげる。
「たぶん、この壁は精霊と契約をすませばきえるとおもいます!」
閉じ込められたのは、エミルとジーニアスとミトスだけ、ではない。
この場にはセレスとアステル、そしてマルタまでもがいたりする。
どうやらゼロスやリヒター、そしてリーガル、ロイド、コレット、しいな、リフィル。
七人と七人、というちょうど半分づつという具合にいいように分断された、らしい。
たしかに分断しろ、とはいったが。
まあいいか。
すぐさま思考をきりかえつつ、
「しいなさん。しいなさん達は契約を」
「で、でも、あんたたちは……」
「これはおそらく、精霊の力でつくられた壁です。精霊と契約をすれば解除されるはずです。
  僕たちを分断したのは人数が多いせいなのか、それとも召喚士の資格をもつしいなさん。
  あなただけを招き入れようとしたのかまではわかりませんけど。リヒター、そっちはまかせたよ」
「まかせとけ」
伊達にどうやら精霊に関して研究をつづけていたわけではないらしい。
すぐさまそのように判断し、岩の向こうにいるリヒターにそんなことをいっているアステル。
「これ、壊せないのかな?」
「精霊の力で創られているとしたら、反射機能がついてるかもしれないから。
  …やめといたほうがいいとおもうよ?」
「げっ」
実際精霊が直接つくりだした障壁などにはそういう機能がついていた。
そんな古文書をアステルはみつけたことがある。
だからこそアステルの忠告はあるいみ正しい。
なるほど、その手があるか。
実際これにはそんな機能はまったくノームは付随させていないらしいが、
すばやく近くの岩に手をあてて、その機能を付加させる。
はたからみれば、どうにかしてこの岩をできないかな、とおもって岩にふれている。
そのようにしか絶対にみえないであろう。
そんなエミルの行動をみて、
「お兄様たち、大丈夫でしょうか?」
不安そうな声をあげるセレスの表情はあきらかに心配しています、
といわんばかりの色がみてとれる。
「大丈夫だよ」
手加減するようにいってるし。
そもそも目的は、しいなにミトスとの契約の楔。
ノームが自由になるために契約をかわさせるというものなのである。
だからこそ、ノームが彼らを殺したりすることはまずありえない。
まあ、あの子はおっちょこちょいだから手加減をまちがう可能性もなきにはあらずだが。
しかし、自分もいま同行していることをしっているはず。
ならば慎重に行動をおこすであろう。
特にソルムからも強くいいきかせましたので、という報告をうけているので、
そのあたりについての心配はあまりない。
さて。ノームはうまくやるかな?
エミルがそんなことを思っているさ中。
「仕方ないわ。こちらで契約をしてしまいましょう」
どうやら下手にこの壁を破壊するよりは、契約を優先することをリフィルもまたきめた、らしい。
「しいな、たのむよ」
「はいよ」
リフィルやロイドの台詞をうけ、しいなは一歩、その場にある祭壇の前にと足をすすめてゆく。


周囲には魔術の一つ、グレイブでできたらしき地面から突き出たいくつもの突起。
それらはまるで台座にむかう道のように整列しており、
しかし、だからといってこれを飛び越えるには少しむりではないか、
というほどの高さがある。
「――我が名はしいな!ノームとの契約を望むもの!」
しいなが一歩、祭壇の前に踏み出し、たからかに声をあげる。
それとともに、ずずずっ、という音とともに、
どすんっ、どすんっ、という地の底から響くような地響きが部屋全体にのしかかる。
ずしん、ずしんと揺れがひびくたびに、この場にいる全員の体が地面からうきそうになる。
しかし、その響きは岩の壁に閉じ込められているエミル達のほうにはとどいていない。
つまりは、分断された彼らの周囲にのみ発生していたりする。
それとともに、周囲にある土柱が一瞬きえては、あらたな土柱がいくつも大地からもりあがり、
ドォオッン!
とてつもない振動が辺り一帯にと襲いかかる。
それとともにこれまでよりもさらに大きな土柱がいくつも出現し、
そこから、まるでスポーン、と飛び出してきたかのごとく、
何かの固まりが空にむけて飛び上がる。
それはくるくると回転をし、すとん、と台座の上にと着地する。
「……もぐら?」
「うわ~、大きなモグラさんだ~」
その姿をみて、唖然したように呟くリヒターに、逆にコレットは目をきらきらさせていたりする。
絵姿でたしかに地の精霊はもぐらのような姿をしているのはみたことがあったが、
まさか本当にモグラのような姿をしている、とはおもってもいなかったらしい。
「うわ。大きなモグラ…ひょっとして、あれがノーム、なの?ぷっ」
岩の隙間から向こう側をうかがっていたジーニアスがその姿をみて、
おもわずぷっとロイド達とは分断されたその場において吹きだしているが。
向こう側がきになるのか、
岩の間にかろうじてある小さな隙間から向こう側をのぞきこむようにして、
ジーニアスやアステル、そしてマルタやセレスまで岩に張り付いている光景は、
あるいみ後ろからみていて何ともいえない光景といえば光景なのだが。
祭壇のある場所と分断されているこの巨大な岩の壁は、
どうやらいくつもの土柱が重なってできているらしく、
しかしかろうじてそのいくつかある隙間から向こう側がみえている。
それにきづき、ジーニアスがぺたり、と岩にはりついて、向こう側を確認していたりする。
岩壁に亀裂がはいるかのような細い隙間は四本。
ジーニアス、アステル、マルタ、セレスが向こう側を確認しているその背後では、
「ま、しいなさんが契約すむまで、ここでのんびりしとこうよ」
「…エミル、のんきだね」
いつのまに?というべきか。
どうやら大地からせり上がった土がちょうどいい椅子がわりになる大きさになっており、
それにいつのまにか腰をかけて、のんびりその手にコップをもちながらもいっているエミル。
そんなエミルをみてため息をつきながらもつぶやいているミトス。
「皆さん、大丈夫でしょうか?」
心配、なのであろう。
プレセアはプレセアで、壁にその身をよりかけて、不安そうにそんなことをいっているが。
「あの隙間、こじ開けるか広げることができたらあちらにいけないでしょうか?」
あの隙間、とプレセアが指差すは、ジーニアス達がぺたり、とはりついている細い隙間のこと。
指が一本、かろうじてはいるかはいらないか、の隙間から、
向こう側をみようとする根性はあるいみ根性、といえるであろう。
くるくると回転するように着地したノームはふくよかな体系をしており、
その巨体はすっぽりと祭壇をふさぐような形となりて、
今現在しいなたちの目の前にと鎮座していたりする。
そしてなぜかそのかわいらしい手には巨大なスコップをもっており、
そのスコップを祭壇の横につきたてるようにして、
はたからみればそのスコップで体をささえているのでは?とおもえるほど。
もう片方の手にもスコップをもっていれば、
あ、松葉づえかわり?と思わず誰もが突っ込みをするであろう。

「こいつがノームか!」
その姿をみて、ロイドがまじまじと目の前の精霊…なのであろう。
どうみても巨大なもぐらもどきをみながらいってくる。
「ロイド。ここで問題よ。ウンディーネとヴォルトが相対関係であったわね。
  では、ノームの相対関係の精霊は?」
そんなロイドに確認、とばかり、リフィルがロイドに質問を投げかけるが。
「うげ!?先生、こんなところにまできて勉強かよっ。
  目覚めさせている精霊の中ってことだし………イフリート?」
「はぁ、セルシウスのときにでてきただろ。ったく」
ロイドが疑問符をうかべていえば、しいなが呆れたようにため息をつきつつ、
そんなロイドに突っ込みをいれる。
「シルフです!もう。マナの流れを分断する役目をもつ精霊。
  ノームと相対関係にいる精霊は風の精霊、シルフよ。
  さっきの会話をこの子はきちんときいてなかったのかしら……」
食事時にその話題をいちおうふっておいたというのに。
しかも、どうすればイフリート、などという言葉がでてくるのやら。
リフィルがそんなロイドの台詞に思わず叫ぶ。
そして。
「もう、なんど教えれば覚えてくれるのかしら……」
リフィルの呟きは、彼女のあるいみ苦労を物語っているといってよいであろう。
「……シルヴァラントの学力レベルは低レベルに抑えているのだな」
「あんたにしては珍しいつっこみだね」
ぽつり、とつぶやくリーガルにたいし、これまたそんなリーガルに突っ込みをいれているしいな。
リーガルは本気でそういっているわけではない。
ないが、少しでもリフィルのなぐさめとばかりにそんなことをいっているのみ。
「いやぁ。まあな」
「「「ほめられて(ないから)(ません)(ないのだが)(ないだろ)」」」
照れたように頭をかくロイドにたいし、同時に突っ込みをいれている
ゼロス、リフィル、リーガル、しいなの四人。
「まったく。いったい何年、私の生徒をやっているのかしら……」
ロイドに突っ込みをしたあと、リフィルは一人ぶつぶつといいつつ頭をかかえていたりする。
どうやら、まさか間違える、とはおもってもみなかったらしい。
「うわ~。みてみて、ゼロス、あのもぐらさん、頭に大きなリボンつけてるよ。かわいいね~」
一方で、そんな彼らの会話にはいることなく、ノームをみてはしゃいだ声をあげているコレット。
「…リボン、か?ありゃ?違うんじゃねえの?」
たしかにリボン?にみえなくもないような気がするが。
その頭のあたりに真赤な何か、リボンのようなそれがみてとれる。
そんなコレットとゼロスのやり取りにたいし、
「うむ。あれはリボンではないな。おそらくは削岩機のプロペラであろう」
さきほどまでロイドに突っ込みをいれていたというのに、すばやく話題をきりかえているリーガルの姿。

「…今のロイドさんのあれ、ほめられてません、よね?」
「…もう、ロイドの馬鹿」
そんなやり取りもジーニアスのいるところまできちんときこえてきている。
まるで、そう、そこに音声機でもあるように、
彼らの会話のやり取りが、きちんときこえてきているがゆえ、
ロイド達がどんな会話をしているのかジーニアス達にも手にとるように理解ができている。
ゆえに、今のロイド達のやり取りをきき、プレセアがぽつり、とつぶやけば、
そんなロイドの声をきき、ジーニアスががくり、と肩をおとしていたりする。

「え~?そうなんですか~?巨大なもぐらさんに真赤なリポン、かわいいのに~」
どうやらコレットは削岩機、というリーガルの意見が納得できない、らしい。
たしかに正面からみるかぎり、それは頭につけている大きな赤いリボン。
そうみえる、のであるが。
ちなみにこの色、かつてマーテルが赤のほうがかわいいわよ?
といったことから、ノームはその頭の掘削機の色を赤にかえていたりする、
という経緯をもっているのだが。
その事実をこの場で知るのは、エミル、そしてミトスのみ。
そんなコレットとリーガルのやり取りをききつつ、
「さっすが会長様。鉱山関係のこともくわしいねぇ」
「このなりをしているからつい失念しかけるが。
  このものは、たしかレザレノ・カンパニーのリーガル・ブライアン会長であったな」
ゼロスの言葉にいまさらながらにぽつり、とつぶやいているリヒター。
いまだにリーガルのその服装は普通の服、といえるようなものではない。
むしろ囚人服の一つ、もしくはメルトキオの貧民層ですらまともな服をきています。
というような腹よりも短い、どこかぽろぽろの白いシャツに朽ちたようなズボン。
それがリーガルの格好。
この格好をみて、このリーガルがよもや公爵などとは、誰もまちがいなく思いつかない。
もっとも、それをしったとしても、口にするものはいないであろう。
上流階級の趣味って、とすこしばかり引かれることはあっても、
それを口にすれば無礼にあたる、というのを民は知っている。
ロイド達がリーガルの服装につっこみをいれないの、
これまでも幾度もいっても彼がその格好をあらためなかったがゆえ、
もはや諦めの境地にいたっているからに他ならない。
「ま、いいさ。とにかく、やるよ」
そんな彼らのやり取りをみつつ、こほん、と咳払いをひとつし。
そして、一歩前にすすみでる。
そんなしいなの姿を確認し、
「お~。ようやくきたか~。さてと。これはいわないとな~」
どこか間延びしたようなノームの声が、もぐらもどきの姿から発せられる。
そしてそのつぶらな瞳はしいなをひたり、と見据えつつ、
「おまえ、召喚士だな~。俺はミトスと契約しちゃってるぞ~」
かるい口調でしいなにさらり、といいはなつノーム。
そんなノームの言葉をきき、
「またミトスの名前がでたね。ミトスってほんとうにすごいんだね~」
心の底からすごい、という感情をこめてつぶやくコレット。
そのコレットの言葉をきき、何ともいえない表情をうかべるロイドたち。
たしかにすごい、のであろう。
しかし、ユグドラシルがかつての勇者ミトスであった。
そう知らされているロイド達からしてみれば、その感情は複雑きわまりない。
「我はしいな。ノームがミトスとの契約を破棄し、我と契約することをのぞむ」
ノームにむかい、契約の口上をたからかにいいきるしいな。
「…おまえ、かたっくるしいしゃべり方をするなぁ。プププッ」
どうやら今のしいなの口調は多少、ノームのつぼ、にはいったらしい。
すとん、とスコップをその背中におさめ、そのかわいらしい両手を口元にもっていき、
おもいっきり笑いをこらえているノームの姿。
「し、しかたないだろ!精霊との契約はこうしろってならったんだから!」
そんなノームの態度に顔を真っ赤にして思わず反論しているしいな。
何だろう。
かつての精霊の失敗から、精霊、とは身構えていたかつての自分が、
ここしばらくの精霊との契約によってその概念が崩されているような気がするのは。
しいなのそんな思いに気づいているのかいないのか。
「ふぅん。まあいいや。ちよっともんでやるから、かかってこいよ~
  かる~く大地の力ってもんをみせてやる~!」
「…かるっ」
軽い口調でさらり、というノームの言葉に、思わずぽつり、とロイドがつぶやく。
「軽くても相手は精霊を。油断をしないで、くるわよ!」
口調がいくら軽くても相手は精霊。
リフィルが気を引き締めるようにそう注意を促すとほぼ同時。
ぴょん、と祭壇から飛び降りるかのごとくに高くとびあがるノームの姿。
その手に符をはさみ、
「いくよ!蛇拘符じゃこうふ!!」
いいつつ、飛び上がっているノームにむけて、しいなが符術を解き放つ。
それとともに、幾重にも重なった符がノームの体にまきつき、
ノームの体の自由を一瞬奪い去る。
その頭につけていた掘削機をプロペラのようにして回し体を浮かしていたノームは、
その絡まった符によって身動きがとれなくなり、
そのままどすん、と大地におち、ごろごろ、と丸いフォルムだからよく回る。
というかよく転がる。
そのままごろごろと幾度か回転したのち、ぴょんっと飛び上がるように、
地面から岩が突き出したかとおもうとその反動によって体制を整え、
「何すんだよ~!」
おもいっきり不満です、というばかりの表情をうかべ、ぷりぷりと怒りだす。
「…こいつ、やっぱり変」
ぽそり、とつぶやいたロイドの心情に思うところがあった、のであろう。
リーガルも多少何ともいえない表情を浮かべているのがみてとれるが。
そのまま、いまだにぷりぶりとしいなにむかって文句をいっているノームの背後に回り込み、
そのまま、
「えいっ」
ドッン。ゴロゴロ…
『・・・・・・・・』
ロイドの体当たりによって、またまたその場に今度はまえのめりでその場にこけて、
その短い手足をじたばたさせはじめているノームの姿。
そんなノームの姿をみて思わず黙り込んでいる、
リフィル、リヒター、リーガル、しいな、ゼロスの五人。
「…こいつ、本当に精霊、なのか?」
いともあっさり、ただの体当たりだけでじたばた自力で起き上がることができないっぽい、
ノームのその姿をみて、ロイドが呆れたようにそんなことをいっている。
「体がまんまるいからおきあがれないのかなぁ?」
コレットはコレットでそんなノームをみて、そんなことをさらり、といっているが。
「うわ~ん、やったなぁぁ!」
いや、やったな、といわれても。
その思いはロイド達七人だけでなく、その様子をみていたジーニアス達四人も同じこと。
その頭の掘削機を勢いよくまわし、うつ伏せ状態のまま、その場にふわり、とうきあがり、
そしてそのまま、その反動を利用してすとん、と地面におりたったかとおもうと、
その背にかけていたスコップをてにとり、
そのスコップをぶんぶんロイドに向けて振り回してくる。
「うわっ!?というか、なんで武器がスコップなんだよ!」
ぶんっ。
ノームがスコップを振り回すたびに、風がうなる音がする。
「もう、僕はおこったんだからな~!ええい!グランドダッシャー!」
「って、うわっ!?」
ノームの言葉とともに、地面が突如としてぐらぐらと振動をはじめる。
振動とともにいくつかの地割れも発生してはきえていき、
その場にたっているのすらロイド達はままならなくなったのか、
どうにかふんばりその場にもちこたえるのがやっと。
「はぁ。しょうがないね。一気に片付けるよ!」
そんなやり取りをしばし唖然とみていたしいなだが、
おもいっきり盛大にため息をつき、そして再び懐に手をつっこみ、
その手に符をかまえる。
「炸力符!」
「フォトン!」
しいなが符を放つのと、リフィルが詠唱を終えるのはほぼ同時。
枚飛ぶ札と、強力な押しつぶすかのような光の重圧。
その攻撃にノームが一瞬、詠唱をとめたらしく、
それまで立っているのすらやっとの揺れがようやく収まる。
その一瞬の隙をつき、
「空破衝」「獅子翔破陣!」
冷静に観察していたゼロスがその技を突如して繰り出し、
その強力な付きによりノームの体が吹き飛ばされる。
それとともに、ノームの体がその場から吹き飛ばされ、
その体は再び台座の上にとすぽん、とはさまってしまう。
「陽流・甲」
武器を交差させ、風をまといし斬りつけるリヒター。
三散華さざんか
リーガルによる連続した三連続の蹴り。
リヒターとリーガルの容赦ない攻撃が、じたばたともがいている、
またまた台座の隙間にすっぽりはまっているノームにと直撃する。
「虎牙破斬!!」
「閃光墜刃牙!」
ちらり、とゼロスと顔をみあわせ、それとともに、ロイドとゼロス、二人の技がそんなノームにと炸裂する。
「うわ。おまえら、きたないぞぉぉ!…きゅぅぅっ」

「「「「・・・・・・・・・・・・・」」」」
ずいぶんとあっけない。
その思いは、覗いてみていたジーニアス達四人、そして攻撃をしかけていた
ロイド達七人に共通する想い。
みれば、台座の上で目をぐるぐるまわしている…なぜまわしているのかがわかるか、
といえば、もじどおり、そのつぶらな瞳があったその場所に、
今ではぐるぐると渦のようなソレがみてとれているからに他ならない。
…たしかに、手加減はしろ、といったが。
しすぎだろう。
そんなノームの様子を大地を通じ視ていたがゆえに、思わずエミルもまたため息をついてしまう。
「…え?もしかて、もう決着、ついたの?」
信じらない、とばかりにミトスがぽつり、とつぶやけば。
「うん。ミトスものぞいてみる?なんか、気絶してるっぽい…あれ、本当に精霊?」
ジーニアスが自分がのぞいていた位置から少し横にそれ、
ミトスに確認するか、とといかければ、ミトスも多少とまどいつつも、
ジーニアスがのぞいていたその隙間から向こうの様子を確認する。
隙間からみえている光景は台座の上で目を回しているノームの姿がたしかに視える。
「・・・・・・・・・・・・・」
自分のときはもっと苦戦したんだが?
ノームのやつ、今、おもいっきり手をぬいてなかったか?
そんなことをおもいつつ、ミトスが思わず無言になりつつ、
ゆっくりとその場から一歩さがったのをみてとり、
「あれ、今までの精霊よりもかなり楽だったみたい」
ジーニアスも今の戦いというか戦いにもならないそれに思うところがあったのであろう。
そういえば、とふとミトスは思う。
ああ、あのノームはそういえば、ものすごくものぐさで面倒くさがりだったな、と。
ならば、手をぬいてさくっと形だけの試練をこなした可能性がある。
ミトス自身の契約のときはかなりはっちゃけていたようにおもうので、
いろんな意味でズルイような気がしなくもない。
しかし、そんな苦虫をつぶしたようなミトスの表情を、
あっさりと精霊との決着がついたっぽいことに対しての表情だろう、と理解したのであろう。
「あんなにあっさりと決着つくなら、なんでこんな壁つくってきたんだろ?」
ふとした素朴なる疑問をマルタがぽつり、とつぶやいてくる。
今のあれは戦闘という戦闘ではなかった。
絶対に断言できる。
ならばあんなに簡単に決着がついているのならば、
このような岩の壁もどきなど作る必要性はなかったのではないか、と。
まあ、精霊が何を考えてこの壁をつくったのかはマルタにはわからないが。
判らないからこそ、疑問におもう。
この壁もどきは、別にあってもなくても問題なかったのではないか、と。

「いたたたた。おまえら、きたねぇなぁ」
祭壇の上にちょこん、とすわり、ぷりぷりと怒っています、という雰囲気をつくり、
何やら文句をいってくるノーム。
「よってたかって多勢に無勢。七人がかりでぼこぼこにしやがって。
  ミトスを見習えよな~。あいつは一人で挑んできたんだぞ~」
目の前にいるロイド達をみながらそんな文句をいっているノームの姿。
「ミトスってすごいんだね~」
そんなノームににこにこといっているコレットは、
実は今の戦闘にまったくもって参加していなかったりする。
「おう!ミトスはすごいんだぞ~!
  あの時代にあって、ヒトの戦争をとめようとしてる奴なんてあいつら以外にはいなかったからな~。
  俺達精霊もほぼヒトの戦争に関してはあきらめていたっていうのにさ~」
いや、精霊があきらめていたって。
思わずその台詞に内心突っ込みをいれつつもリフィル達が顔をみあわせる。
「あのとき、欲をだしたふたつの国のニンゲン達がへんなことさえしなきゃぁなぁ。
  本当にこれだから欲にかられたヒトはやってられないっていうか。
  っと、まあいいや。誓いをたてやがれ!」
そこまでいいかけ、はっと何かにきづいたように、あわててくちごもり、
そして、軽い口調でしいなにむけてそんなことをいってくる。
「…その前に、あの子達と隔てている壁をどうにかしてくれないかしら?」
どうやらこの地の精霊ノームという存在はかなり軽い性格をしているらしい。
ゆえに盛大にため息をついたのち、リフィルが弟を含めた七人が閉じ込められている方向。
すなわち、自分達がこの場にはいってきた扉がある方向を指差しいってくる。
「…え?」
自分が勝手にあれを解除してもいいものだろうか?
ノームにはその判断ができない。
分断しろ、という命令をうけていた以上、勝手に動けばお説教がまっている。
それはノームとしては避けたい。
切実に。
ゆえに思わず言葉につまってしまうノームの姿。

「どうやら契約するみたいだけど、僕たちもあっちにいけないかな?」
アステルが隙間から祭壇の方向をのぞきつつ、腕をくみつつもぽつり、とつぶやく。
「まあ、しいなさんの試練はおわったみたいですし。いってもいいんじゃないですか?」
「でも、いくとしてもここからどうやってでるの?」
アステルの言葉にエミルがさらり、といえば、首をかしげつつマルタがいってくる。
つんつんと壁をつつくが、そう簡単にこの壁はこわれそうにない。
「爆弾で壊す、とか…」
「いや、それだとこの洞窟そのものまでこわれかねないよ!」
さらり、というアステルの台詞に思わず一歩さがりながらも却下とばかりにいいきるジーニアス。
というかこんな狭い場所でそんなものをつかわれれば、
まちがいなく自分達にもその影響が及んでしまう。
ゆえにそんな爆弾を使用する、という案は受け入れならない。
絶対に。
「なら、えいっ」
ジュウウウウウッ。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・』
エミルが腰につけているポーチの中から小さな小瓶、のようなものをとりだすと、
そのまま、ぽいっとさきほどジーニアスがいた場所。
つまり、今、唯一人が近くにいない岩の付近にむけて、その小瓶をぽいっと投げつける。
それとともに、パリッン、と瓶が割れるおととともに、
そこかに透明な液体が一気に広がったかとおもうと次の瞬間。
それらの液体はまたたくまにかかった岩の全てを溶かしてゆく。
「え、エミル?今のは何、かなぁ?」
おもわずひきつつもジーニアスがといかければ。
「え?ああ。さっき、あの子たちから熔解液もらったんだよね」
「そんな物騒なもんもらっていないでよね!」
「…よくあの万物を溶かすのではないか、といわれている熔解液をいれる入れ物がありましたね」
叫ぶジーニアスに、そしてまた別の意味で感心したようにいっているアステル。
さきほど、紐を作成していたときに、手持ち無沙汰のものたちをみて、
なら、これに濃縮した熔解液でもいれといて、と実はエミルが小瓶を渡しており、
魔物達は嬉々としてエミルから手渡されたそれらの中に液体をなみなみと注いでいたりする。
簡単に人すら、骨をものこさずとかし、大地すら溶かすとまでいわれているかの魔物の熔解液。
そんなものをほいほいともちあるくな、とジーニアスからしてみれば切実にいいたい。
熔解液の前評判というか噂はどうやら伊達、ではなかったらしい。
あっというまにまるで岩はジュッとした音とともに一気にとけ、
さらに液体は足場となりし地面までいくつかえぐっていっているのがみてとれる。
エミルがかるく指を鳴らすとともに、地面までえぐっていた液の浸食がぴたり、とやみ、
きづけばいつのまにかぽっかりと穴のあいた巨大なあらたな壁のようなものがみてとれる。
それはついさきほどまで彼らの視界をさえぎっていたもののはず、なのだが。
熔解液によって溶かされた岩部分はいびつな形をしたままかたまっており、
しかしどうやら一瞬のうちに、さきほどエミルが投げた小瓶の中の液体は、
周囲の大気に霧散してしまったのか、すでにそこに液体の痕跡はみあたらない。
かの溶液はたしかに威力は絶大なれど、空気にふれればすぐに霧散する、という特製をももっている。
もっとも、すぐ、といっても数秒は保つことが可能なので、
当然、それらの熔解液を普通に魔物達から吹き付けられた敵対者は、
それをさけることができなければ、まちがいなく命を落とす品。
「あれ取り扱おうとして、これまでも幾人もの人が溶けて死んでるんですよねぇ」
「へぇ」
なんだかアステルがかなり物騒なことをいっているような気がするのは、
ジーニアスの気のせい、であろうか。
みれば、ひくり、とミトスまでもめずらしく多少口元をひきつらせているのがみてとれる。
「ま、これで先にすすめますし」
「…他にもある、といわないよね?エミル、お願いだからそれ、つかわないでね?」
ジーニアスのその言葉にはなぜかかなりの感情がこもっていたりするのだが。
どうしてそんなに必死にジーニアスがいってくるのかエミルには理解不能。
「と、とにかく、これで前にいけますわ!」
今の光景はとりあえず、セレスの中ではなかったこと、にされたらしい。
そのまま、たっと一歩ふみだし、その先にいるゼロスのもとにかけよってゆくセレス。

エミルが岩に穴をとある方法であけているそんな中。
「…なんか、やりにくいねぇ」
何か後ろのほうがわいわいと騒がしいような気がするが。
あの子らは、あの中でいったい何をしてるんだか。
そんな思いをいだきつつも、
「二つの世界がお互いを犠牲にしなくてもいい世界をつくるために。ノーム、あんたの力をかしとくれ」
しいながそうノームにいうのとほぼ同時。
「あ、あれ?エミル達が閉じ込められてたあの壁さんが、なんか穴があいたよ?」
ふとコレットがそれにきづき、そちらを指差しながらいってくる。
たしかに。
みれば、なぜか岩がどろっととけるようにして一気に溶けており、
ついでにいえば足場となる地面までも少しばかりとけていき、
ぽっかりとした穴がつくられはじめているのがみてとれる。
「あ~。ありゃ、たぶん、ここの魔物の熔解液でもつかったんだな~」
『え?』
さらっというノームの台詞に、その場にいたほぼ全員、コレットとロイドを除く、
が一瞬顔を見合わせる。
ロイドにはその意味がよく理解できず、そしてコレットはその知識を知らない。
当然、テセアラに住んでいる以上、ゼロスはそのあたりの知識はもっている。
そしてリーガルにしろ然り。
リフィルはアステル達からかの魔物の熔解液のことをきいている。
彼らが固まっているそんな中。
「お兄様!お怪我は!?」
心配そうにさけびながら、ゼロスのほうにかけよってくるセレスの姿。
どうやら分断されていた壁もどきは何らかの手段…
溶けた岩をみるかぎり、彼らがいる場所とどうやらつながったらしく、
そこから無事にでることができた、というのはつかめるが。
しかし、今のノームの言葉がきにかかる。
それはもうはてしなく。
「まあ、そんなことはどうでもいいや~。さてと。んじゃ、俺の力、姉ちゃんたちにかしてやるな~」
ノームの言葉とともに茶色い光が辺りを照らし出す。
そしてまばゆき白い光が辺りをうめつくしたかとおもうと、
光は一つの塊となり、そしてゆっくりとしいなの手の中にとおりてくる。
すとん、としいなの手の中におさまりしは、契約の証、といわれているルビーの指輪。
しいなの手の中に指輪が収まったその直後。
ざあっとこの場一体に風が吹き抜ける。
風は小さな竜巻となりそれぞれ、三つの柱となりて、
やがて、その三つの柱が収縮したかとおもうと、緑の光りがほとばしる。
「あ、あれ?シルフさんたち?」
その姿をみてきょとん、とした声をだしているコレット。
ふわふわと浮かびしは、セフィー、ユーティス、フィアレス達。
「おお~!シルフ達、ひさしぶり~!」
「本当に。お久しぶりですね」
そんな彼女達の姿をみてとり、ノームがちゃっと片手をあげてはなしかける。
そんなノームににこやかな笑みを浮かべて対応している長女であるセフィー。
鳥のようなその翼をかるくパタパタさせ、その翼でも久しぶり、という挨拶をしているのがうかがえる。
「やっとだねぇ。ようやく僕たちの間に流れていたマナが分断されたってか?」
そんなセフィーの横で腕をくみつつも、ふわふわとういていっているユーティス。
「うん。これで……」

「――ウティ トェオスティ アエウド 
  ヂムッティ セヤ ティアン ンズワンススウヌン ティアウムグ?」
まったく、何をフィアレスはいおうとしているのやら。
小さく再び、余計なことをいうなといったはずだが?
と彼らのみに聞こえるようにそっとつぶやく。
そんなエミルの言葉にぴくり、と反応し、その場に一瞬固まるノーム、そしてシルフ達三姉妹。

「と、とにかく。マナの流れが分断したってことだよね。ね」
「お、おう!というわけで、しばらくすると地震がおこるぞ~。
  マナの楔をひっこぬいたようなもんだからな~」
ついでに、命令されていることをしなければならないし。
しかしそれは口にはだせない。
というか、ちらり、とみれば、入口辺りの扉の付近で、
こちらをじっとみて腕をくんでいる【王】の姿が目にはいる。
あいかわらずどうやら人の姿を模しているままであるらしい。
必死に何か話題をかえるかのごとくそういう三女、フィアレスのせりふに、
ノームもこれまた、なぜかカタコトのようにそんなことをいってくる。
そんな彼ら精霊達の態度をみて、
「?精霊さんたち、どうかしたの?」
彼らが緊張しているようにみえるのは、コレットの気のせいか。
先ほど小さくつぶやいたエミルの言葉はあまりにちいさく、
その言葉にきづいているのは、コレット、ミトス、ゼロスこの三人のみ。
他にこの場にいる人間達はエミルが小さく何かつぶやいたことすら気づいていない。
「皆。きをつけてね~。それでは、また~」
しかし、そんなコレットの質問にこたえることなく、深く頭をさげたのち、
そのまま、風とともにその場からかききえる。
フィアレスに続き、
「えっと、しつれい、します?」
「では、何かありましたらよんでくださいね?」
それぞれ、しいな達にむきなおり、
というか正確にはその視線はおもいっきりエミルにむかっている、のだが。
エミルがロイド達よりも一番奥にいることから、必然的にロイド達にむいて
シルフ達はそういっているようにみえなくもない。
それぞれそんなことをいいつつも、現れたときと同様、残り二人のシルフ達もその場からかききえる。
「んじゃあ、そういうことで!」
お説教をうけるまえに、さくっといわれたことをしてしまおう。
とばかりに、大げさにわたわたと手をふりつつも、
そのまるっこい体をおおきくしならせ、ぺこり、と頭をさげたのち、
ドオオッン!
『・・・・・・・・・・』
そのままモグラのごとく、その頭を地面につっこみ、そのまま大地の中にきえてゆく。
そんなノームの姿をあきれたようにしばらくみつめるロイド達。
目の前には台座の前にぽっかりと空いた穴。


「と、とにかく。計画通りってことだよな。うん」
どうやら今のノームの態度、それはなかったこと、にしたらしい。
あえてその目の前にある穴から視線をそらしつつも、腕をくみながら、
あえて話題をかえようとしているのかそんなことをいってくるロイド。
「でもよ。あとこれで残りは光と闇の楔ってやつだけなんだろ?
  二つの世界が切り離されたら、俺様たちやっぱりあえなくなるんじゃねえのか?」
「それ、ゼロスさん、イフリートのところでもいってましたよね」
ゼロスがそういってくるのは二度目。
イフリートとの契約終了のときにもゼロスはそんなことをいってきていた。
もっとも、あのときはその直後に地震がおこり、話しが途中でとまってしまっていたが。
「二極から世界の移動ができるはずですし。
  僕たちがあの異界の扉から移動したあと、たぶん調査もはいってるとおもいますよ」
そんな彼らにむけ、アステルが少しかんがえながらもそんなことをいってくる。
「たしかに。レアバードで移動ができるのは、マナの流れによって繋がっているから。
  なのでしょうね。ならば、世界が切り離されてもレアバードで移動ができるか。
  その辺りはあやしい、わね。もともと世界をつないでいる、という二極。
  そこからの移動ならば可能、なのでしょうけども」
「ま、どっちにしても。精霊と契約をすませ、世界を一つにもどせば。
  そんなことは考えなくてもすむんじゃないのかな?」
「それもそうだな」
マルタの台詞に、あっさりとうなづくロイド。
「さて。ノームとの契約は済んだのはいいのだけど。
  ベルセリウムの場所を聞き出すまえに、ノームはきえてしまったわね」
リフィルがため息をつくと、
「そういえば、この先に祭壇なんて本当にあるのかなぁ?」
「精霊は嘘をつけない、そういわれているわ。ならばあるのでしょう。
  おそらく、隠し通路のようなものがあるはずよ。アステル」
「ええ。でも相変わらず精霊のいる場所というのはマナが安定しないんですよね。
  このソナーはマナの流れというかその濃度などで隠し部屋などを見つけるものなんですけど」
リフィルの言葉をうけ、アステルが何やら道具をとりだす。
その手にもたれているのは二本の金属、のようなもの。
そしてその足元には大本の機械、なのであろう。
アステルがそれを取り出し、何やらかちゃかちゃと操作するとともに、
そこにいくつもの螺旋のような映像、そして簡単なこの付近の間取り?
らしきものが、機械の上に映像、として窓のようにしてうかびあがる。
「それにしても、勇者ミトスってやつ…なんで、そんな奴が……」
「うん。僕、いまだに信じられないよ。勇者ミトスがあのユグドラシルって……」
エグザイアできいたあの言葉。
いまだにジーニアスは信じられない。
「――ミトスはミトス、だよ」
そんなロイドやジーニアスの呟きにたいし、ぽつり、とつぶやくエミル。
「え?」
「他の何ものでもない。たとえ先にみている道を踏み外していたとしても。
  彼は彼以外の何ものでもないよ。誰かがその姿を模したりして成り代わってたりしない限りは、ね」
「たしかに、その通り、ね。勇者ミトスに関しては当人にきかなければわからないでしょう。
  でも、エミル、あなた、いいことをいうのね」
エミルのいうのはたしかに心理。
ゆえにリフィルが感心しながらもといかける。
個人は個人、それは心理でもそれをきちんと理解、
もしくは納得しようとするものなどそう多くはない。
それがわかっているがゆえのリフィルの台詞。
「……昔、いわれたことがあるんです。僕は僕だ、って」
自分がアステルかもしれない、とおもっていたあのとき。
――キミは君だよ。
そうこの場で、マルタが自分にそういってきた。
それはまちがいなくこの場所で。
この地の神殿のノームの祭壇のあったこの場所で。
「昔、は昔。今は今。それでも……
  ――優しくて一生懸命だ、というのは本質的に変わってない、と僕はおもいますし」
本質的な部分はかわっていない、そうおもう。
「エミル?」
――名前なんて関係ない。昔、アステルっていう人だったとしても、
  キミがキミだってことはかわらないよ。
あのときのマルタの言葉にたしかに救われた。
自分が何なのか、迷っていたあのとき。
ラタトスクとしての人格というか性格のことも。
「…えっと、エミル?」
どこか懐かしむようにつぶやくエミルの言葉にそれぞれ思うところがあった、のであろう。
そしてさらに、ミトスがエミルの言葉をきき、思わず目を見開いていたりする。
まるで、今の台詞は自分にむけられたような感じがしてしまい、
ミトスからしてみればとまどわずにはいられない。
「ロイド達だって、今の彼がどういう思いでいるのか、なんてわからないでしょう?
  君たちが判断してるのは第三者からみての意見、だけだろうし」
「「それは……」」
リフィルとアステルはその言葉に思うところがあるのであろう。
思わず言葉につまる二人とはうらはらに、
「でも、あいつのせいでこんな世界になってるんだぞ!」
ロイドがそんなエミルにくってかかる。
「なら、ロイドは、あの子…ううん。
  彼らが戦争をとめて、世界を二つに分けなかった場合。
  今の世界がこうして、君たちが生きていられる世界であった、とでもおもうの?」
自分はまちがいなく地上を浄化していた。
そこにロイド達が産まれていたかどうかはわからない。
「マナが涸渇していた。というのはきかされてたよね?
  そんな中で大地が存続していけてた、とでも?
  ロイド達がいっているのは、結果論。感情論でしかないよ。
  そのとき、どんな形だったのか、君たちだってしらない、でしょう?」
ミトス達が頑張っているのをしらなければ、まちがいなくヒトを見限っていた。
そう自覚があるからこそのエミルの台詞。
「だけどっ」
しかしロイドはエミルのいうことが何となく理屈的にはわかっても納得はできない。
それを納得してしまえば、今の世界のありようを、
犠牲をだす世界を認めてしまうような気がしてしまうがゆえに納得なんてできはしない。
「ヒトは必ずどちらかを選ぶときがくる。ううん。ヒトだけじゃない。
  生きているかぎり、選択はいつもつきもの、なんだよ。
  一を犠牲にして数多をたすけるか。それとも数多を犠牲にして一をたすけるか。
  どっちがどっち、なんてどっちも、なんて都合のいいことはまずおこりえない。
  世界にいるものたちを助けたいから、このままだとまちがいなく死滅する。
  そう判ってた場合、ロイド達はならどうしてた?
  その当時をいきている人達を助けたいからって、数年後、ううん、数十年後かもしれない。
  全てを巻き込んで滅びにむかう、とわかっていても、そこにいる命をたすける?
  そのとき、一度何かの犠牲をはらうことにより命が存続できる、とわかっていても?」
「…難しいこというなよ。エミル」
世界か、コレットか。
そう選択をつきつけられたあのときのことを思い出し、
嫌なことを思いだした、とばかりに顔をしかめるロイド。
しかしそうしかめる、という点でそのあたりのことをきちんと考えていない、という何よりの証拠。
「そうやって、ロイドは逃げるんだね。
  でも、勇者ミトスといわれているあの子達はそれをなしとげた。
  それは間違わないで。ロイド。
  今の君がいっていることは、かつての彼らの行動をも否定することになるってことをね。
  そもそも、たったの四人で戦争を終わらせようと努力した彼らの努力。
  それすらをもロイド達は否定するの?」
「そ、それは……」
「――ヒトを信じて裏切られて。ロイドはまだ完全に人に裏切られたことがない、でしょ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「エミル。そこまでにしておきなさい。あなたのいうことは一理あるけどもね」
エミルにたたみかけられるようにいわれ、ロイドは黙りこむしかできない。
そんな黙り込んだロイドをみて、ため息を盛大につき、
ロイドをかばうようにして、リフィルがエミルをたしなめてくる。
「でも、誰も犠牲にならない方法がある。俺はそれを探したいよ…」
それはぽつり、とつぶやかれたロイドの言葉。
その言葉は誰につむがれるものでもなく、彼自身にいいきかすようなもの。
「で、方法がみつからずに全てを巻き込むの?」
「っ」
「ロイドのいっているのは、感情論だよ。…時として選択を必要とすることがある。
  それは絶対に必要不可欠。それだけは覚えておいてよね。
  選択をして、それがあやまっていた、とおもうのか。
  それとも、その選択をのりこえて、その選択をやり直すのか。
  やり直しのきかないこともあるかもしれないけど、生きているかぎり、それは可能、だからね」
最後の言葉はミトスにむけて。
ミトスは今、自分の今の行動が正しいのかどうかまよっている。
だからこそのあとおし。
「……前、ハイマでクラトスにも同じようなことをいわれたことがある」
それはぽつり、としたロイドの呟き。
「世の中にはたしかに、やり直しがきかないこともある、よね。
  あのときだろ。クラトスにいわれた。
  やり直せるものならやりなおせばいい。そういわれ、
  あんたは、間違えたならやり直せばいいんじゃないのか、そういってたよね」
ふとしいなもそのときのことを思いだした、のであろう。
ハイマのあの日のやり取りのことをおもいだし、エミル達の会話にわってはいってくる。
「エミルの今のいい分は確かに一理ある、であろう。
  我らは勇者ミトスのことを伝承しかしらぬ。
  そして、その勇者ミトスがクルシスの指導者だ、ときいたのも、
  私たちはお前達からきかされたのみで実際にみたわけではない。
  しかし、これだけはいえる。我らは知りあってまだまもない。
  そして歳も私たちはそれぞれ離れている。
  しかし、私はそれでも、お前達の友として、できるかぎりのことをするつもりだ。
  ロイド。お前が間違えそうになったとき、私は全力でそれを阻止しよう」
「…たぶん、ミトスにはそれを止めてくれる人がいなかったんだろうね」
「……それどころか、そのミトスの思想に従ってしまったのでしょう」
リーガルが決意をあらたにつぶやけば、顔をすこしふせ、マルタがぽつり、とつぶやいいてくる。
そしてそんなマルタの言葉をうけ、リフィルも少し表情をくもらせいってくる。
本当に。
どうしてあのとき、クラトスはミトスを止めよう、とおもわなかったのだろうか。
ユアンがいったとしてもマーテルのこともあり確実に反発していたであろうから、
クラトスが説得すればどうにかなったであろうに。
すでに過ぎ去ったことであるとはいえ、ラタトスクは思わずにはいられない。
あのときのことを視て知った以上、ラタトスクとしては何ともいえない。
そもそも、どうしてあのとき、自分をたよってこなかったのか。
その思いがどうしても捨て切れない。
マナの奔流によって浸される前の彼女を元の姿のまま蘇らせることなどたやすかった。
というのに。
四千年という長き時はラタトスクとっては短くても、ヒトの魂にとってはそうではなかった。
ゆえに、今の彼女の魂はマナにあてられ、ほぼ精霊に近しい精神体に変化してしまっている。
さらり、とエミルはあの子達、と無意識のうちにいているのだが。
それに気づいているのはこの場においてはリフィルとゼロスのみ。
ちらりと視線をかわしつつも、互いにそれを口にするつもりはどうやらないらしい。
ミトスもあの子と呼ばれたのにきづき、戸惑いを隠し切れていないようではあるが。
今のエミルの言い回しはまるであのときの自分達のことをしっていたかのような。
そんな言い回しのように感じてしまい、戸惑いを隠しきれない。
…実際に知っているがゆえのエミルの言葉、なのだが。
エミルはそんな言動をした、ということにまったくもって気付いていない。
「それにしても……なんか、ずっと地中にいたら、息がつまるっていうか、何っていうか」
何だか話題が暗くなっている。
それゆえに、多少のため息をつきながら周囲をみわたしながらつぶやくマルタ。
「たしかに。洞窟の中にはいってかなりの時間がたっているものね」
マルタのそんな言葉をうけ、この空気をかえるのにはいい話題だとでもおもったのか、
リフィルもそんなマルタの台詞に同意するかのようにいってくる。
「そう?洞窟の中とかひんやりしてて僕は好きだけどな。…おちつくし」
これは嘘ではない。
大地は自らが司る大樹に通じるものがある。
それに、これらの大地はすべて彼の力によってうみだされているもの。
常に魔界の様子をきにしていなかったあの場所よりはるかにおちつくといってよい。
「まあ、たしかに。土くさくと埃っぽいのは否めないよねぇ」
そんな会話をききつつもジーニアスが周囲をみわたしながらぽつり、といってくる。
実際、さきほどノームがこれでもか、というほどに大地を突起させたがゆえ、
この部屋全体にはいまだに多少の土埃がまっている。
「それに、薄暗い、ですわ」
セレスも思うところがあるのであろう。
先ほどの話題よりこちらの話題に参加したほうが気がまぎれる、
とばかりにそんな彼らの会話に割って入ってくる。
「…あ。発見!リフィルさん、どうやらこの先に道がつづいてるようですよ」
ふとアステルがいまだに機械をいじって…というか、
その手に二本の金属棒をもちて、周囲をうろうろとしていたのはみてとっていたが。
その金属棒が反応しているとばかりに、ぐんっと
アステルが力をくわえていないのにもかかわらず左右に広がる。
「おそらく、その先に隠し通路がある、のね。この模様は……」
ふとその岩壁に刻まれた紋様をみておもわずつぶやくリフィル。
その模様に似たようなものをいくつかみた。
たしか、アスカードの地下遺跡で。
そしてまたイフリートの神殿で。
水の神殿においてもかの水瓶にこのような紋様が刻まれていた。
雷の神殿などはその背後にたしかにこれと同じ紋様がみてとれた。
紋様の一つ一つは同じなれど、それぞれ大きくなっている紋様がことなっている。
しかし模様的には皆同じ。
中心に蝶のようなものがきざまれ、それを中心として八つの紋様。
そしてみるかぎり、ここに刻まれている紋様は、
その中心にある紋様とは別の八つの紋様のうちの一つが大きく描かれている。
まじまじとその紋様をみてみれば、それは海賊船カーラーン号の中でみた、
センチュリオンを示しているといわれている紋章とまったく同じであることがうかがえる。
だとするならば、この紋様はおそらく、センチュリオンの祭壇の何か。
それを示している、そう捕らえて間違いないのかもしれない。
「入口というか、隠し通路みたいなものは?」
「仕掛けも何もないんですよね。
  強いていえば、この壁はかなり強いマナにおおわれています。
  まるで結界、のように。何かの力で解除されるんでしょうけど」
リフィルの問いかけにアステルが首をすくめていってくる。
「ソーサラーリング、とか?」
「そういえば、聖堂の入口も始めはソーサラーリングで道がふさがれてたねぇ」
ジーニアスがふとロイドをみながらそういえば、
コレットが何かおもいだしたのか、ぽん、と手をたたきながらそんなことをいってくる。
「んじゃ、さっそく」
「って、まてい!ロイドくん!よく天井をみてみなよ!」
ロイドがさっそくソーサラーリングを使おうとしているのにきづき、
あわててそんなロイドをとめているゼロス。
「何だよ。ゼロス」
「あれ」
ゼロスがそういって示した天井。
そこにはいくつものとがった土柱が無数に点在していたりする。
ロイドがこの場で振動をおこせば、間違いなくそれらはロイド達のいるこの場。
すなわちこの足場めがけてふりそそぐ、であろう。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
「ロイド、僕、串刺にはなりたくないんだけど」
「…何か仕掛けがないか、さがしましょう」
「お、おう」
さすがのロイドも冷や汗をながしつつ、ジーニアスとリフィルの提案にうなづかずにはいられない。
あのまま何もかんがえずに、今振動をおこす性質にかわっているソーサラーリング。
それを使用すれば自分達めがけて天井の鋭い柱もどきがおちてくる。
それを嫌でも理解せざるをえない。
「この祭壇に何か仕掛けがないかしら?」
「可能性、としてはありますね」
リフィルがそんなことをいいつつ先ほどまで檻として使用されていた精霊の祭壇。
その場に近づいていっているのがみてとれる。
ふむ。
たしかにもうアレは意味がないのだから、あれを利用してあの通路に移動させる。
というのも一つの手、か。
祭壇の間に移動させる、というのは許容できないが。
しかし、かのものがいるあの通路にの移動ならば、さほど問題ないはず。
だとするならば、あれを利用して…よし。
そうと決めれば即実行。
リフィルが装置をいろいろと調べている最中、かの通路の一部を解放する。
それとともに。
ゴゴゴゴゴッ。
どこからともなく響いてくる地響きのような音。
「な、何?今の音」
マルタがそんなことをいいつつ、横にいるエミルの腕をぎゅっとにぎってくる。
「もしかしたら、何らかの仕掛けが解除された、のかもしれません。
  元ときた道をもどってみれば、もしかして隠し通路みたいなのが出現しているのかも」
アステルが少し思案しながらそんなことをいってくるが。
「ありえる、かもしれないわね」
「って、のんびりと話してないで!今の揺れで、あれ!」
『え?』
ジーニアスのあわてた台詞に全員が天井を思わずふりあおぐ。
みれば、ぐらぐらと天井につらなっていた鋭い石。
それらが今の振動でぐらぐらと揺れており、
「っ!とにかく!はしりなさい!いそいで!」
リフィルの言葉とほぼ同時。
全員があわててその場を走り出す。
そんな彼らの背後では、
どがが、グッシャァァン!
天井から落ちてきた土柱がことごとく地面にあたり、その場につきささってゆく……


「び、びっくりしたぁ」
「…必死に走ったからきづかなかった、けどさ?」
いいつつ、背後のほうを振り向くロイド。
先ほど、あの扉をくぐったときには、そこには橋も何もなく。
足場も何もなかったがゆえにその先にある道っぽい場所にいかれなかったのだが。
どうやらひたすらに落ちてくる柱から逃れるために走ったとき、
そのままこれまた天井からおちてきた柱によって、
偶然にも足場となっていたそこをとおり、
先ほどまでとおれなかった対岸側にどうやら移動してきた、らしい。
「もしかして、さっきの揺れは、この仕掛けを解除するものであったのかもしれないですね」
アステルがちょうど隙まにぴったりとはいりこむような柱をみつつ、
どうみてもこんなぴったり隙まにあてはまるものがおちてきた、というのは偶然とはおもえない。
ならば、さきほどリフィルが装置をいじっていたときに何らかの形で解除された仕掛けの一つ。
そう考えるほうが無難であろう。
そう結論づけていってくる。
「それにしても……」
何か思うところがあるのだろうか。
周囲をみわたしつつ、
「…このあたりの魔物、異様におおきくない?」
ぽつり、とつぶやくジーニアス。
「?別にこの付近にはエルダードラゴンとかヴァイパーがいるだけみたいだけど」
別にさほど個体的には大きくない。
さきほどまで足場的にはせまかった通路ではあるが、このあたりはそうではない。
この付近は彼らの生息地でもあるがゆえ、足場的にはかなりしっかりしていたりする。
「いえ。ジーニアス。問題なのは、そこではない、とおもいます」
いいつつも、視線で示すその先には、
ことごとくちょこん、とお座りしているドラゴン達の姿がみてとれる。
壁にはわさわさとビットスパイダー達の姿もみてとれるが。
このあたりはワーム達の生息域ではなく、とある場所を区切りとして、
しっかりと魔物達の生息域は区切られている。
ヴァイパーと呼ばれし見た目はトカゲのような魔物も壁にちょこん、ととまっており、
どうやらみるかぎり、エミルにたいし、礼をとっているらしい。
しかし、魔物達が礼をとっているという様子は傍から見る限りではわからないもの。
普通の人々がみれば、魔物がなぜか立ち止まっていたり、
またうなだれて?いるようにしかみえはしない。
巨大な亀の魔物でも有名でもあるメガリスなどは、その手足を甲らの中にいれ、
頭だけちょこん、とのぞかせて彼らなりの礼をとっているようではあるが。
「うわっ!?」
突如としてロイドが思わず叫び声をあげる。
みれば、少し前に、ひょこっと壁からその上半身をつきだしている、ロックイーターの姿が。
エミルがすっと手を横にかるく動かすとともに、こくこくとその上半身をうごかし、
そのまま、ずずずっという音とともに壁の中にとひっこんでゆく。
そんなロックイーターのいた場所には壁にぽっかりと穴があいており、
そこから奥というか先にすすめる道が出来上がっていたりする。
「な、なんだったんだ?今のは」
ロイドが唖然としつつ、きえていったロックイーターをみてぽつりとつぶやくが。
「今のはロックイーターと呼ばれる魔物だな」
そんなロイドにたいし、淡々と説明しているリーガルの姿。
「あら。この奥から…なぜかしら?異様に濃いマナが流れてきているわ」
ふと、先ほどロックイーターの力によってというか、イーターが喰らった大地。
その結果空いた穴の奥からマナの流れを感じ取り、おもわずぽつり、とリフィルがつぶやく。
「どうやらこの先がどっかにつうじてるんじゃねえのか?どうするよ?」
どうする、といわれても。
ゼロスの台詞に思わずロイド達は顔をみあわせつつ、
「とにかく、いってみよう」
「ええ。たしか文献によれば、伝説の鉱物、ベルセリウムは
  マナが豊富な場所にある、とかかれていたはずです。
  リフィルさん達のいうように、この奥からマナを感じるなら、ある可能性が高いですね」
「たしかに。この奥から流れてくる風には異様にマナを感じるな。いってみる価値はあろう」
アステルの言葉にリヒターもうなづきをみせる。
ぽっかりと開いた穴は薄暗く、光源も何もないが、
しかしその先から流れてくる風から確実にどこかに通じている、というのは一目瞭然。
ベルセリウムの生息地はマナがなくては生存不可能。
正確にいえば、生存、というよりは繁殖地、とでもいうべきか。
個体によっていきのびるだけ、ならば水さえあればベルセリウムはいきられる。
それこそ、瘴気が充満している中ですら。
ロックイーターによってつくられた穴は、ちょっとした緩やかな坂道となっており、
そのまま薄暗い洞窟の中を抜けてゆくことしばし。
やがて、ちょっとした開けた空間にとつきあたる。
「ここは……」
周囲をみて思わず声をあげているリフィル。
壁にはいたるところ、樹の根がはっており、マナそのものが濃いことがうかがえる。
「あまりマナが濃いい場所に長時間いるのはマナに酔いかねないわ。
  たしか、ホーリィボトルがあったわね。各自ボトルをつかったほうがよさそうね」
適度なマナならば人体にさほど影響はないが、より濃いマナだとどうしても影響がでる。
「これは…このきの根からマナが流れ出しているようだが……」
壁にはっている木の根をさわりつつ、リヒターが周囲をみつつ、
驚いているのであろう、めずらしく目をみひらきつつ、そんなことをいっているのがみてとれるが。
「まさか、リヒター、これって!」
「ああ。…アステル。お前の持論が正しい、という証拠かもな。
  これは、古代にあった大樹の根の一部、と推測できるやもしれん」
「ええ!?だって、大樹カーラーンはかれて、今は種子しかないんだよ!?」
アステルとリヒターのそんなやりとりをきき、驚愕の声をあげるジーニアス。
「いえ。可能性は高いわね。…たしかに、より強いマナをこの樹の根から感じる、もの」
壁をつたっているあまたの樹の根。
その樹そのものがみえているわけではないが。
みるかぎり、どうやらこの付近は樹の根っこらしきものが壁、そして足元、
さらには天井、といったものをおおっており、ちょっとした樹の根の洞、
否、樹の根によってできているトンネルのようにみえなくはない。
もともと、大地の地下には張り巡らせてある大樹の根があるので、
こういったものがあってもおかしくはない、というか、
センチュリオンの祭壇付近はこうして目に見える形で根が張りだしている場所は多々とある。
さきほどまでは薄暗い洞窟であった、というのに。
この付近はふわふわとただよいし、緑色っぽい光が常にただよっており、
それらが周囲をあわく照らし出している。
「こ、これは、フィラメント効果か!?」
「ええ。間違いありませんよ。リフィルさん!」
「すばらしい!まさかこの目でフィラメント効果がみれるとは!」
ふと、それらの光に今さらながらにきづいたらしく、盛り上がりをみせているリフィルとアステル。
「…あ~。リフィルさん。スイッチはいっちゃったみたい、だね」
「…あ~。もう、先生はほうっとこうぜ。とにかく、先をいってみようぜ」
「だね。姉さん達、おいてくよ~」
こうなってはとまらない。
ゆえに、ため息をつきつつも、そのままどうやらここも洞窟、らしいのだが。
先ほどまでの洞窟とはまた雰囲気がまったくもってことなっている。
そちらの道に足をふみいれ、
「で、どっちにいくの?」
右にいくか、左にいくか。
どうやら通路は今のところ一本道であるようだが、ここより先がどうなっているのか。
それはマルタにもわからない。
「幻想的な光景、ですわね。お兄様」
「…だな」
周囲にふわり、ふわりとただよいし淡く光る光の球は手をのばせば、
ぱちん、とはじけ飛ぶようにと溶け消える。
これらは純粋たるマナの光りであり、それらのマナは光の粒となり、
そのまま大地にと吸い込まれていっている。
大地を通じ、精霊、そしてこのあたりにいる魔物達。
それらにマナが供給され、マナの循環をになっている。
周囲をみわたしつつ、ぎゆっとゼロスの服の一部をつかみ、
そんなことをいうセレスにたいし、ゼロスも心の底からそうつぶやかずにはいられない。
ふわり、ふわりと光の球は張り巡らされている木の根から湧いてでたかとおもうと、
それらは空中ではじけてはきえてゆく。
始めてみるものにとっては何とも不思議な幻想的な光景。
「これが……」
――大樹がないのにそういえば、マナの供給はどうやってるの?
――最低限は、地下にある根からしているぞ?
ふと、ミトスはかつてラタトスクからきいた言葉を思い出す。
それはちょっとした疑問であったがゆえに、あの場にでむいたときにきいた台詞。
まだ姉がいきていたとき、アクアにいわれ、出向いた先で、
この光景にちかいものをミトスはみたことがある。
ミトスが手をのばせば、まとわりつくようにマナの塊たる光はその手の平の中ではじけてきえる。
これらのマナはまだ変換されていない純粋たるマナ。
属性全てをもちしマナであるがゆえ、ソルム達センチュリオン達の力で属性ごとにわけられ、
そしてそれらは魔物を通じ、精霊達にもゆきわたる。
大樹の根がありし場所には全ての属性の魔物達もおり、
センチュリオンと契約を交わしているがゆえ、マナの循環も滞りなくゆきわたる。
小さな魔物達から大きな魔物達、そうしてマナは世界を循環していっている。
「右にいくか、左にいくか…か。アステル、装置もマナが多すぎて役にたたないな」
リヒターが手にもっている機械をみつつため息まじりにそういってくるが。
あまりにマナが濃いゆえに、マナの測定によって地形を把握しているそれは、
今は完全に役に立たなくなっていたりする。
「とりあえず、こっちにいこうぜ」
どちらにしてもここにいつまでいるわけにもいかない。
ゆえに、そのまま問答無用で左にむけて歩きはじめているロイド。
「お~い、姉さんたち、本当においてくよ~」
いまだに周囲の樹の根をみつつ、わいわいと意見をかわしているリフィルとアステル。
そんな二人に呆れたようなジーニアスの声がとんでゆく。


「しっかし、迷うような場所だな…ここ」
薄暗くないだけまし、といえるかもしれないが。
始めはたしかに一本道であったというのに、進んでゆくとやがていくつかの小道らしきものにわかれており、
また、あきらかに小さな子供くらいしか通れないのではないか?
というような穴らしきものもみてとれている。
それらから様々な魔物達が出入りしており、その先にも道が続いていることをうかがわせている。
それでも、先をすすんでいるのは、先にすすまなければどうにもならない。
というのと、あと、不思議と光がまるで先導するかのごとく、
一か所の道にのみより多くただよっており、まるでこっちが正解だよ。
とばかりに導いているようにみえるがゆえ、そちらの道に、道にとはいっている今現在。
事実、それらの光はエミルが操っており、彼らを光によって誘導しているのだが。
その事実に当然ロイド達が気付くことはない。
「…あれ?何か、音がする」
「これは…うなり声?」
右に、左に、と入り組んだ道を進んでゆくことしばし。
ふとコレットが足をとめ、おもわず耳を澄ます動作をする。
そしてまた、ゼロスも足をとめ、とある方向をじっとみていたりする。
――ウ…ウゥゥ…
地の底から響くような唸り声がたしかにその先からきこえてきている。
「!リヒター、これ…」
ふとアステルがその付近につきでていた樹の根の突起。
その先に白き布らしきものがひっかかっているのにきづき、おもわず声をあげる。
こんなところに人が入り込むということはないであろうに。
それはたしかに人工的な布。
「この先に例の人がいるかもしれないわね。注意していきましょう。
  …正気をうしなっていたら、いきなり攻撃されるとも限らないわ」
リフィルもアステルとリヒターにつづきその場にかがみこみ、
その布をゆっくりと丁寧にとりはずし、確認しながらその道の奥にと視線をむける。
そして。
「コレット、ゼロス。その声らしきものはどっちからしているのかしら?」
この二人は天使化している…ゼロスが天使化している、というのには驚いたが。
しかし、ゼロスもテセアラの神子。
神子というものはおそらく天使化しているのが条件、なのかもしれない。
そうリフィルは考えており、ゆえに迷うことなく聴力が普通よりよくなっているであろう、
そんなふたりにとといかける。
「この奥からきこえてきます」
「だな。セレス、危ないから、絶対に前にでるんじゃねえぞ?」
「はい。お兄様」
「…とにかく、相手の動きをとめて。レイズデッドで元にもどせればいいのだけども」
「リフィルさん。迷いのある術は威力にかける。僕らの研究でもそれは証明されてますよ。
  そういう迷いは禁物かと。それに僕、楽しみにしてるんですよね。
  マナが乱れたという人をヒトの手で元にもどせる、というのをきいて」
「…アステルさん、それ、ヒトとしてどうか、とおもいます」
それは相手の命を心配している、というよりは、その結果に感心がある、
といっているようなもの。
それにきづきぽつり、とプレセアがつぶやくが。
「でも、きにならない?プレセアさんも?」
「それは……」
見た目は歳下であるが、実際は年上。
それをしっているからこそ、アステルはプレセアにきちんと敬称をつけている。
「あ、あの穴の奥からきこえてきます」
しばらくあるくと、壁にぽっかりと穴があいており、
どうやらその先に別の空間がひろがっているらしい。
うなるような声はその穴の奥から。
コレットの言葉をうけ、それぞれ顔をみあわせ、
「念のために、この場に幾人かのこりましょう。
  しいな、動きをとめるのにあなたの手をかりてもいいかしら?」
「あいよ」
「先生。俺もいく」
「僕も」
リフィルの言葉をうけ、自分も、自分もと立候補しているロイド達。
ロイドにつづきジーニアスがそういえば、アステル達もまたきになるらしく、
ロイドがいくなら自分も、とコレットがいい。
「なら、僕とゼロスとセレスさんとマルタ…かな?ここでまつのは」
どうもアステルやリヒターは譲りそうにない。
「ミトスはどうする?」
「僕は……」
この先にいるであろう人間は、あるいみミトスの命令ではなかった、といえど、
ミトスが根本的に人間牧場、と名をつけた場所で常に発生していたそれとおなじもの。
ミトスがとまどっているのをみてとり、
「じゃあ、何かあったらいけないから、入口付近で僕らは待機。それでいいかな?」
「そうね。たしかに。騒がれて逃げられたりでもしたら大変だもの。
  入口を固めていてくれれば助かるわ」
相手がどんなに暴れるかわからない。
それに、自分達をみて逃げ出してしまうかもしれない。
そうなれば、次にみつけて人に戻せる機会が失われかねない。
結局のところ、エミル、セレス、マルタ、ミトス、そしてゼロス。
入口付近で彼ら五人が待機しつつ、
リフィル、ロイド、コレット、ジーニアス、しいな、アステル、リヒター、プレセア、しいな。
この九人で声がする、という洞窟の中にと足を踏み入れてゆくことに。


「ここは……」
洞窟の中にさらにある洞窟。
その中に足をふみいれ、頭上にはびこる根っこをかるくはらいつつ進んでゆくことしばし。
やがてぽっかりとした開けた空間にとおどりでる。
そこは数多の幻想的な光がただよいながらも、
周囲の壁にはいくつもの鈍く光る銀色のような何か、がはりついており、
それらがまるでそれらの光をくらうかのごとく、光が銀色のそれにちかづいては、
その内部に吸い込まれるようにきえてゆく。
部屋全体がいくつもの銀色の鉱石?らしきものや、また水晶などで覆われており、
部屋全体がちょっとした幻想的な雰囲気をかもしだしている。
そしてその奥に、ひときわおおきな鈍く銀色にひかる固まりがあり、
その目の前に、異様な姿がみてとれる。
全身がほぼ緑色でおおわれているのではないか、というほどの異様なその姿は、
頭部もまたふくれあがり、その中央にひとつの目玉にみえなくもない何か。
真っ白いアステル達のきている服とよくにたそれ。
彼らいわく、王立研究院のものに至急されるという白衣である、というそれ。
それらがびりびりにさけつつも、その胸元にある模様から、
それが支給されている服であることを瞬時にアステルは看破する。
赤く不自然なほどにのびている手足の爪、そして不自然なまでに折れ曲がっている間接。
「っ…マーブル…さん」
その姿をまのあたりにし、ジーニアスはマーブルのことを思い出し、
おもわずその手をぎゅっとにぎりしめる。
「…ハク…イ…が…がぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!」
その異形の生物はその場にしゃがみこんでいたのであるが、
ふとその顔をロイド達のほうにむけ、そして何やらうなるように叫んだのち、
そのまま、いっきにその手を大きくふりかぶってくる。
「うわっ?!」
「く。まずい。俺達の白衣をみて反応したか!?
  彼女をこのようにした奴らと混合している可能性がたかいっ!」
ぶんっと大きく振り払われた手からかろうじて飛び下がり、何とかロイドがのがれるが。
どうやら、白衣をきているアステル達とともにいる、ということから、
目の前のソレは彼らを敵、と判断したらしく。
「が…がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
大きな叫びとともにおもいっきりその両手を振り回してくる。
「!あぶない!」
ふとマナの異様な高まりにきづき、リフィルがさけぶとともに、
そのものの目あたりから、光線、のようなものがときはなたれる。
それらは周囲の壁にあたり、がらがらと壁そのものが崩れさる。
「マナによってくるった人はレーザー光線まで使用できるの!すごい!」
「まてまてぃ!アステル!そんな変なところに感心してる場合かぁぁ!
  というか、レーザー光線ってなんなんだよっ!」
そんな光景をみて逆の意味で目をきらきらしはじめているアステル。
どうやら別の意味で興味がわいてしまったらしい。
そんなアステルに四方八方に乱射されている光線からのがれつつ、
これまたご丁寧にも突っ込みをいれているロイド。
「ちっ。きりがない。少し時間をかせいどくれ!符術であいつの動きをとめるから!」
「わかったわ!皆、しいなの時間をかせぐわよ!
  あと、あの人も被害者なんだから。怪我はさせてはだめよ!」
「んなこといったって、先生!」
「いくわよ!」
しいなが符術をつかうために精神を集中しはじめたのをみてとり、
リフィルがだっとかけだしつつもその場にいる皆にと指示をだす。
「っ、ダメぇ!」
リフィルに気をとられ、ロイドはどうやら気付いていなかったのであろう。
いつのまにか間合いをつめてきていた【ウィノナ】の手がおおきくロイドにむけて振り下ろされる。
「しまっ!」
「ロイドっ!」
それはほんの一瞬のこと。
振り下ろされるその腕とロイドの間に瞬時に翼を展開してわってはいり、
ロイドを抱きかかえるようにしてかばうコレット。
その直後、大きく振り下ろされたウィノナのツメがコレットの肩をおおきくえぐる。
デジャヴ。
その光景はいつかどこかでみたような。
ロイドが茫然としているそんな中。
「コレット、おまえ!くそう、よくもコレットを!」
ロイドが怒りにまかせ、剣をおおきく降ろうとするが。
「ダメ…ダメだよ、ロイド。あの人を傷つけちゃ……」
「っ!」
そんなロイドの手をほそいコレットの腕がおしとどめる。
「またせたね!衝力揚符!!」
いつのまにまわりこんでいたのであろう。
ロイド達が邪魔であるがゆえ、背後にまわりこみ、術をくりだすしいな。
しいなの放った符は異形とかしたそのものの体全体をぐるり、と
まるで蛇がからめとるかのごとくにまとわりつき、その動きを一瞬停止させる。
本来、この符術は対象となる敵一体を符で囲み、一定時間仰け反り時間を増加させるもの。
すなわち、符にからめとられた【ウィノナ】の体はおおきくのぞけり、
そのまま一瞬停止する。
「リフィル!今だよ!」
「わかっていてよ!彼の者を死の淵より呼び戻せ…レイズ・デッド!」
符にとらわれ硬直している【ウィノナ】にむけて、リフィルの術がくりだされる。
「が…がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「くっ」
しかし抵抗力が半端ない。
おもわず一歩、後ろにさがるリフィル。
このままでは。
リフィルがそんなことをおもっている中。
「命の奇跡を!レイズデッド!」
突如として、リフィルの間横から声がする。
ふとみれば、いつのまにか入口からはしってきたらしく、
マルタがその手に杖をかかげ、共に詠唱している姿がめにはいる。
パルマコスタにもどったあの日、マルタが母親からおそわった術。
一人で無理ならば二人ですればよい。
ちなみに、マルタの母親いわく、詠唱は気持ちがこもっていればよい。
レイズデッドは命の奇跡をになうもの。
より自分が心をこめられる言葉ならばより威力はます。
そのようにマルタはきかされている。
「が…が…がぁ…あぁぁぁぁぁっっっっっっっっっ」
何ともいえない悲鳴とも絶叫ともいえない声が周囲に響き渡る。
それの声は水晶などに反響し、幾重にもの響きとなって、
あたりいったいにとひびきわたってゆく。
リフィルとマルタ。
その二人によって解き放たれたやわらかな光はやがて、
異形とかしている彼女の体そのものをつつみこみ、
その姿はゆっくりと、しかし確実にちいさくなっていき。
そして。
ドサリッ。
何かが倒れるおととともに、みればその場にぼろぼろになった白衣をきこんでいる女性が一人。
長い金髪がさらり、と倒れた女性の体をおおいつくしている。
髪の長さは腰のあたりであろうか。
顔色ははてしなく青白いが、どこか幼げな面影をのこしているようにみえなくもない。
しっかりと目をとじてはいるが、その顔立ちは整っているのがうかがえる。
「……嘘……」
その姿をみて、茫然とつぶやいているミトス。
その姿は忘れようにもわすれようがない姿であり、
ミトスにとってはもう一人の姉、といっても過言でなかった大切なヒト。
「「ウィノナ姉!?」」
ミトスが茫然とその場に第三者、すなわちエミルやゼロス達がいることすらわすれ、
そうつぶやいているそんな目の前では、
倒れた彼女にむかい、だっとかけだしちかよっていっているアステルとリヒター。
そんな二人の姿が目にはいる。
体はいたるところ傷つき、これまで過酷な状況であったことがうかがえる。
服もずたぼろになっており、あわててアステルがその身にまとっていた白衣を、
その場に横たわっている女性にとふわり、とかける。
「…たすかったわ。マルタ」
「ううん。役にたててよかった。あの人が、ウィノナ、さん、なのかな?」
「そのよう、ね」
どうにかなったことにほっとしつつ、リフィルがいつのまにか横にいるマルタにむけて、
感謝の言葉を投げかける。
そんなリフィルの言葉をうけつつ、
リヒターとアステルが傍にかけより膝をついている目の前によこたわりし女性。
そんな女性をみてぽつり、とつぶやくマルタに同意をしめすようにうなづくリフィル。
「!コレット、大丈夫か!?」
目の前で人の姿にもどったその姿をまのあたりにし、おもわずほっと息をつくロイド。
今、コレットが止めなければ自分は何をしていた?
まちがいなく、あの今人にもどった彼女を斬っていた。
そうおもうと自分がおそろしくなる。
母と同じ実験に利用された相手を下手をすれば自分が殺していたかもしれない。
その恐怖。
そんな恐怖がおそいくるのとほぼ同時、今、コレットが自分をかばって怪我をした。
その事実をはっと今さらながらにおもいだし、
おもわずがしりと自分の目の前にいるコレットの肩をつかむロイド。
しかし、次の瞬間。
「…え?コレット…お前、それ……」
つかんだコレットの肩が異様に固い。
否、今の攻撃によってコレットの袖はもののみごとにきりさかれ、
そこからコレットの肩が片方、丸見えになっていたりする。
肩だけでなく背中の一部もみえているそこは…一面の鱗のような何か、でおおわれている。
「み、みないで!お願い、ロイド、見ないでっっ!」
はっと気付いたようにロイドから距離をとり、その反動でふらり、とコレットがよろける。
ぽたり、ぽたりとコレットの背から血がしたたりおちており、
今の一撃がかなり深かったことをうかがわせる。
「おまえ、それっ」
「…こんなの、気持ちわるいよね?こんなの…変だよね、こんなの…こんな……」
みられた。
一番見られなくなかった人に。
「何いってるんだ!気持ちわるいわけなんてないだろ!それより、怪我の手当てを!先生!」
「…うっ」
「「コレット!?」」
コレットのそんな体の変化に戸惑うものの、今はそれよりもコレットの怪我のほうが大事。
思わずさけぶロイドの声とほぼ同時。
コレットが小さくうめいたかとおもうと、そのままぐらり、と体制を崩してしまう。
「…いたいたしい、な」
そんなコレットをどうにか近くにいたリーガルがうけとめるが、その表情は何ともいたましい。
「姉さん、コレットのそれ……」
「…永続天使性無機結晶症、よ。症状があらわれているのよ」
「そんなっ!…くそっ」
コレットの顔はとてつもなく青白い。
いつのまにかあれほど流れていた血がとまり、べっとりと、
鱗のような青い・・・触ればそれが石のようなものだと理解できるそれらのうえに、
べっとりとあかぐろいかたまりがこびりついたように固まりをみせている。
震える声で姉にといかけるジーニアスの台詞に首をよこにふりつつもこたえるリフィル。
リフィル達はパルマコスタの浴場でコレットのこの症状のことはしっていた。
しかし、あのときよりもかなりその範囲はひろがっている。
あのときは、肩付近だけであったのに。
すでにコレットの症状は肘あたりまでひろがっている。
それは今までロイドがみようとしていなかった現実。
そういう症状がある、というのはきかされていたが。
コレットが何でもないようにふるまっていたがゆえに、気づいてやることができなかった。
またか、またなのか。
また、俺はっ!
その自分のふがいなさにくやしくなり、ロイドはぎゅっと手を握り締める。
その握り締めたツメが手のひらにくいこみ、ぽたり、と血をしたたりおとしているが、
それにすらロイドはどうやら気付いていないもよう。
「命の鼓動を感じる、な。おそらくこの鉱石のような銀色のこれが、
   例のベルセリウム、というやつなのだろう」
ウィノナをアステルにまかし、さきほど盛大にウィノナが放った光線。
それによって周囲からはがれおちたのであろう銀色の石らしきものを手にとり、
リヒターがそれを注意深くかんさつしながらそんなことをいってくる。
それらは手にとると、どくん、とまるで脈動するように一瞬うごき、
やがてぴたり、とその動きは停止する。
彼らは基本、何かにふれられていたときには、仮死状態であるかのように、
その動きをとめ普通の鉱石、のようにふるまう。
ゆえに生きている、となかなか見破れるヒトが滅多といない、というのが実情。
いつもはうぞうぞとその銀色の体をうねらし、普通に大地を這いまわり、
マナを喰らい生きながらえている。
コンッ。
かるくたたけば金属のよりかたいような音がひびくのみで、
まさかそれが生きている、などとは到底おもえない、のであろう。
例にもれず、リヒターもまた、コンコンと手にとったそれをたたいているのがみてとれる
「まず、その人と、あとコレットをどこかで休ませないと。
  その前にここからでないとね。リヒター。
  そのあたりのそれらを余分に集めておいてくれるかしら?」
どれくらいの量がいるのかわからない。
少なくて肝心な品ができない、というのではかなり困る。
現物をみたわけではないのだが、鉱物のようにみえていて生きている鼓動。
たしかにマナの鼓動を感じることから、これが【ベルセリウム】とよばれているものなのだろう。
そう判断したがゆえのリフィルの言葉。
「コレットと、あとそのウィノナさんを誰かが背負う必要があるけども」
「先生。俺がコレットを運びたい。・・・たのむっ。
  俺、こいつがこんなになってるのに気付いてやれなかった、だから、せめて…」
それは懺悔にもちかいロイドの台詞。
コレットの身長は百五十八センチ。
ゆえにどうにかロイドの背でもひこずることなく背負うことが可能。
「しかたないわね。あとリヒター、その白衣、この子にかけてもらっていいかしら?」
「かまわん。というかそんな服をきりさかれているままでの移動はこまるだろう」
リフィルの意見にすなおにうなづき、リヒターもまたその白衣をコレットの背にとかぷせてくる。
これにより、この場に白衣をきていたリヒターとアステル。
二人それぞれの白衣はウィノナ、そしてコレットにとてわたされ、
二人は白衣の下にきていた服をさらけだす。
アステルの服装はどこにでもあるような軽装で、
どこからどうみても旅にするような服装ではない、絶対に。
リーガルのほうはある程度の武装らしきものをしていることから、こちらはまあ違和感ないが。
そんな会話をしている最中もどうやらリヒターは周囲のベルセリウムを集め終わった、らしい。
らしい、というのはいつのまにか入口のほうからやってきたエミル達もてつだいつつ、
エミルがとりだした皮袋にそれらをしまいこんでおり、
ある程度の量はどうやら確保できたもよう。
「ウィノナ姉さんはどうする?…僕にもっと力と背があればな……」
ちなみにアステルの背はロイドよりも少し低い。
というかエミルとその背はほぼ同じ。
ウィノナの背は女性にしてはかなり高めでもあることから、
アステルが背負ったとしてもまちがいなく足のあたりをずるずるとひこずってしまう。
「俺が背負おう」
リヒターの身長は百八十センチ。
リーガルが百八十九センチという大きさであるがゆえに、身長的にはほぼ同じといってよい。
それをういならば、ロイドもまた百七十三センチはあるので、背が高い。
といえばそれまで、だが。
ちなみにエミルとアステルの身長は百六十九センチであったりする。
リヒターがいいつつも、ウィノナの傍にかがみこむのとほぼ同時。
ズゥッン。
腹の底に響くような地鳴りが鳴り響く。
そして、次の瞬間。
グラッ
一瞬、大地がぶれかとおもうとその刹那。
大地が脈動するかのごとくに一気にその揺れをましてゆく。
「な!?こんな時に地震!?」
「マナの楔がぬけたから…っ、ここはあぶないっ!」
ジーニアスが驚愕の声をあげつつ、何とかふみとどまりながらも思わずさけび、
はっとしたようにしいなが叫ぶ。
さきほど、【ウィノナ】がかたっぱしから光線を周囲に解き放ったがゆえに、
よくよくみれば、天井部分からも巨大な岩もどきがみえており、
それらがこの揺れでぐらぐらと揺れているのがみてとれる。
あんないわがおちてきて下敷きになってしまえばおそらく命がないか、
大けがは必然。
「ああっ!」
思わずマルタが声をはりあげる。
ちょうど、リヒターがウィノナを抱き上げたその直後。
彼らの頭上。
かなり大きめないわがぐらり、とゆらぎ、
それは地震による衝撃によって、そのまま一気に落下してゆく。
「っ!」
「!!危ない!!!!!!!ウィノナ姉様!!」
ドッン!
皆が皆、一瞬のことで反応が遅れるのと、ミトスの叫び声がひびくのとほぼ同時。
何かにつきとばされ、ウィノナを抱きしめるように、その場からころがってゆくリヒターとウィノナ。
『ミトスっ!!?』
次に彼らの視線にとびこんできたのは、なぜかリヒター達をつきとばし、
今にも岩に押しつぶされそうになっているミトスの姿。
そして。
次の瞬間、ミトスは落ちてきた岩の下敷きになってしまう。
「そんな…いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
マルタの悲痛なる叫びが辺りにと響き渡る。
「…姉…さま……達……」
ミトスの視線にうつりしは、リヒターにだきかかえられているウィノナの姿。
別人、とわかっていた。
わかっていても体がかってにうごいた。
それはミトスの過去の記憶に起因する。
まだ幼い日、ミトスは落石にあいそうになり、そしてウィノナにかばわれたことがある。
その記憶が一瞬だぶり、無意識のうちに彼女を守ろうとし体がうごいた。
僕は何をしてるんだろう?
そうおもう心と、助かってよかった。
という心がせめぎあう。
そして、薄れゆく意識の中、マルタの叫びをききつつ、無意識にその名を呼ぶ。
それはミトスにとって大事な二人の名。
ウィノナ、そしてマーテル、その二つの名を。

何が一瞬、おこったのかロイドには理解不能。
しかし、目の前の現実は、そんな現実逃避すらさせてくれない。
巨大な岩の下敷きになっているミトス。
そこからひろがってゆく血の塊。
「っ。回復がおいつかないわ。とにかく、この岩を何とかしないと」
いまだに揺れはつづいている。
かといって、ミトスをこのままにしておく、というわけにはいかない。
巨大な岩はおしてもひいてもぴくりともせず、
ミトスの体をほぼおしつぶしている。
その岩の下から流れ出る血はあきらかにミトスのもので。
一刻をあらそう、というのはみてとれる。
リフィルの声にはっと我にともどり、それぞれあわてて岩をどかそうとする。
が。
しかし、プレセアの斧でこわそうにも、ベルセリウムを含みしそれらは、
簡単にプレセアの斧の刃すらはじいてしまう。
必死にリフィル、マルタ、そしてリヒターによる回復術が、
岩の下敷きになっているミトスにとほどこされるが。
しかし、この岩をどにかしなければ意味がない。
ロイド達はエミルにコレットを預け、ジーニアスとともにひっしに岩をどうにかしようと努力している。
しかし、岩はぴくり、とも反応しない。
「のけっ」
しばらくその光景をみていたリーガルだが、一瞬目をとじ、そして思案したのち、
決意をあらたにしたように一歩その足を岩の前にとふみだしてゆく。
「リーガル?」
「このものをたすけるため、我が戒めをここにて解放せん!」
足だけではまちがいなく無理、であろう。
プレセアの刃すらとおらなかったのである。
この石は。
でも、自らが戒め、として封じた自らの拳の攻撃、ならば?
自分が今しなければ、まちがいなくミトスの命はうしなわれる。
それほどまでに出血がひどい。
戒めなど、人の命にくらべればどんなものか。
自分のこの手は人の命を二度とあやめないためにつかう。
そのために自ら枷をすることをきめた。
が、その力をつかわなかったばかりに命を目の前で失わすことなど。
そんなこと、許せるはずもない。
そう叫ぶやいなや、力をいれ、パキン、とリーガルの両手を高速していた手枷がこわれゆく。
パラパラとその場におちてゆく手枷。
そしてぐっと足に力をこめ、
「はぁぁ!掌底破しょうていは!!」
タッン、と足場を大きくふみぬき、勢いをつけ、その拳を岩にとつきつける。
掌底破しょうていは
それは踏みこんで拳底をくりだす技であり、
高速の踏み込みから技に移行することもできれば、
踏みこんで拳底とともに気を叩きつける特技の一つ。
また、この技はかつてリーガルがアリシアの命を奪った技でもあるのだが。
大きく踏み込まれたリーガルの足のあったそこは、
くぼみができており、よりおおきく踏み込んだことがうかがえる。
リーガルがその拳を巨大な岩につきつけるとほぼ同時。
ぴしっ、ぴしぴし…バァァッン!
まるで破裂するような音とともに、いっきに岩に亀裂が発生し、
またたくまに岩は無数の小さな岩となりて崩れてゆく。
「す、すげぇ」
おもわずそれを目の当たりにし唖然とした声をだすロイド。
「たすかったわ。リーガル。そのままその子をおねがい!
  回復術をかけつついくわ。ここからまずでましょう!」
ここにいてはいつ天井にある岩がまたおちてくるかわからない。
リーガルの今の技についていろいろと聞きたいことはあれど、
しかし今は何よりここからでるのが先決。
「わかった」
この血ぬられた手で助けられる命がある。
今、自分にできること。
リフィル達は回復術をとめられない。
きづけばいつのまにかエミルがコレットを背負っており、
いつでもここからでる準備はできているらしい。
リヒターもその言葉をうけ、アステルにてつだってもらい、その背にウィノナを背負いゆく。
彼らがそれぞれ、けが人、そしてまた意識をうしなっているものたち。
それらを背負ったその直後。
それまでよりも激しい揺れが発生する。
「いそいで!」
はっと上をみてみれば、今の岩よりもおおきな岩が今にもおちてきそう。
リフィルの言葉をうけ、あわててその部屋をでてゆく一行。
彼らが部屋をでたその直後。
ズゥゥゥッン。
間一髪、とでもいうべきか。
入口をふさぐようにして、天井にあった巨大な岩がさきほどまでリフィル達がいた部屋。
その部屋の中におちていったのがうかがえる。
それにともない周囲に土煙りがただよっているが、みしみしとした音は周囲からたえまなく、
それでいて、ぐらぐらといまだに地面もゆれている。
今現在、ウィノナはリヒターが背負い、そしてコレットはエミルが。
そしてミトスはリーガルが背負っており、
リフィルとマルタはひたすらに顔色がわるいミトスにむけて回復術をほどこしている。
まるで、その手をやめたらミトスが死んでしまうのではないか、と恐れているかのごとくに。
「姉さん、こんな地下で移動するのは危険だよ!」
「わかっていてよ!ここからの出口もわからないのだもの!」
この揺れの中、きた道をもどる、というのは危険すぎる。
実際に、ばらぱらと土が天井付近よりおちてきており、いつこの通路も崩れてしまうかわからない。
ゆえにジーニアスの叫びにリフィルも叫ぶが、これといっていい解決方法がみあたらない。
「…しょうがない。ロイド、コレットをおねがい」
「え?あ、おい、エミル?」
いきなりそういわれ、その背にいるコレットをロイドにたくそうとするエミルに、
ロイドはとまどいつつも、それでもコレットを素直にうけとり、
そのまま横抱きにするロイドの姿。
「エミル?」
エミルが何をしたいのかマルタにはわからない。
否、この場にいる誰もが理解不能、であろう。


あまりしたくなかったけど、やむをえまい。
このままでは、彼らがこのまま地中で生き埋めになりかねない。
かといって、自分の力で全員を地上に転送させる、というのはあきらかに不自然。
ならば。
地上につづく道をつくってやればよい。
「――ウティ ウス フイルルイバド ティイ トゥヤ トゥウムド!」
たんっと、近くの壁に手をつけて、一言。
我が意に従うようにと言葉をつむぐ。
刹那。
ざわり、とエミルが手をつけたその壁、数多の樹の根がみっしりと密集していたそこに、
赤き蝶の紋章が突如として浮かびあがる。
そして、次の瞬間。
ざぁぁぁぁっ。
まるで波がひくかのごとく、ざあっとした音をたて、
一気に樹の根が動いたかとおもうと、その場に新たな道ができあがる。
たしかに樹の根におおわれた壁でしかなかったはずなのに、
エミルの目の前にはぽっかりとひらいた樹の根にかこまれた新たな道がみてとれる。
それはあまりに異様な光景。
この付近にある大樹の根はエミルの、否ラタトスクの分身体といって過言でない。
ゆえに当然、ラタトスクの意思には従い、また思い通りにうごかせる。
「エミル…いったい、それは…」
かすれる声をだすリーガルに対し、
「今はそんなことより。ここからでましょう」
それだけいいつつ、その新たにできた道のほうにむけてあるきだす。
しばらく唖然としていたリフィル達ではあるが、
「あ、エミル、まってよ!リフィルさんたちもいこ。
  たぶん、エミルがすすんでいったんだから外にでられるんだよ。きっと」
それは勘。
マルタもそんなエミルのあとにつづきあわてておいかけてゆく。
「今の、紋章は……蝶?」
「ああ、蝶、だったな」
たしかにくっきり鮮やかにうかびあがった壁の蝶の紋様。
この場にあんな仕掛けがあったのだろうか。
ならば、なぜそれをエミルは知っていたのだろうか。
聞きたいことは多すぎる。
それでも、揺れは収まることなくつづいており、
バラバラと天井からおちてくる土もだんだんとおおくなってくる。
「っ、とにかく、私たちもいきましょう!」
かろうじて二人が並べるかならべないか、というほどの通路は、
どうやら樹の根によってトンネルのように形成されているらしい。
足場も樹の根がからみあい、ちょっとした階段のようになっている。
あまり急激な階段、というわけでもなく、
それでもぐるぐると円を描くようにしてつづいているその樹の根のトンネル。
いまだに周囲はゆれている、のであろう。
周囲の地面がみしみしとなっているのはわかりはするが、
このあたりの樹の根は密集しているのか、さほど揺れは感じない。
ぐるぐると入り組んでいるらしき薄暗い、それでもほのかにあわく光源。
さきほどと同じように緑色っぽいマナの光り。
その光りがあるがゆえに足元がおぼつくことなく、すすんでゆくことしばし。
やがて、視界の先に明るい空間がぽっかりとみえてくる。
「外だ!」
それをみて思わずさけぶジーニアス。
自然、誰ともなく足がはやくなる。
『うっ』
薄暗い場所からいきなり明るい場所にでたがゆえ、おもわずそれぞれ目をほそめる。
降り注ぐ太陽の光りはすでにどうやらもう夕刻、であるらしい。
空は夕焼け色にそまっており、どこからともなくカラスがないているのがきこえてくる。
これでも最短の距離で道をつくったがゆえ、別の島にまでは移動していない。
といっても、今現在たどりついているこの場所は、
地の神殿、とよばれしものがある崖の上にといちしており、
そこにある小高い丘の麓に本来ないはずの空洞がぽっかりひらき、
そこからエミル達はこうして地上にでてきているのに他ならない。
このあたりからは周囲がとてもよく見渡せる。
「こりゃ、高いところにでてきたなぁ」
ゼロスが周囲を確認しつつ、そんなことをつぶやきながら、
「どうやら、山の上のあたりにでたっぽいけど、そのあたりはどうなのよ?」
「たぶん、位置的にはさっきの洞窟の真上あたりだとおもいますけど」
実際にほぼ真上に近しい位置なのだが。
「とにかく、はやくミトスや、コレットをやすませないと。でも、ここからどうやって移動すれば……」
いつものレアバードでの移動、という手段はとれない。
気絶しているものが三人もいるのである。
そんな危険なことができるはずもない。
「ここ、ちょぅど高い位置だから、呼びますよ」
エミルのその台詞にぴくり、とリフィルが反応するが。
しかし、今はそれ以外にいい方法がおもいつかない。
「……またあなたにたよってしまうのも心苦しいけど、ね。お願いできるかしら。エミル」
「僕もミトスが心配ですし」
まさか身を挺してかばうとはおもってもみなかった。
しかも体を天使化させないままに。
天使化、一部を無機物化していればそんな怪我もおおわなかったであろうに。
それほどまでに無意識のうちに体がうごいた、のであろう。
無意識の行動は人の本質を現すというのをエミルはよくしっている。
本当はあのときのままの優しいミトスなのだ、と確信がもてたといってよい。
「ゼロスさん。あの子で移動するのに。ゼロスさんの名前をつかってもいいですか?
  気絶してる人達もいますし」
「…しゃあねえだろ。陛下には俺様がうまくいっておく。 
  って、またエミルくん、神鳥をよびだすってか?」
「だから、レティスやラティス達は神鳥ってもんじゃないんですけど。
  ともかく、よびますね。あの子達にのって王都まで移動しましょう」
そういいつつも、それ以上の追求がされるよりも早く。
「こい」
エミルがすっと手をつきだすとともに、上空に青白く輝く魔方陣が出現し、
そこより優美なる姿をした巨体な鳥があらわれる。
「…神鳥、シムルグ……」
その光景を目の当たりにし、ぽつり、とつぶやくアステル。
その絵姿はマーテル教の教えをうけているものならば一度は目にしたことがある。
女神マーテルにつかえている、といわれている聖なる鳥、そのもの。
その特徴を兼ね備えた鳥が今まさに、ゆっくりとこの場におりたってくる。
「だから、この子達は神鳥なんかじゃないんですけどね」
そんなアステルの台詞に苦笑しつつ、
「レティス。皆が安全にのれるようにそのあたりで待機を」
『判りました』
ふわり、とエミルの目の前、すなわちちょっとした高さに位置しているこの場。
足元は見下ろせば断崖絶壁で海しかないその場所にぱさり、
とレティスが翼をはためかしながらまいおりてくる。
エミルにいわれるまま、その羽をエミル達のいる足場の絶壁付近にとかけ、
そのまま空中にと停止する。
レティスの足元には空気の層の足場ができており、ゆえに空中で立ち止まるのもわけはない。


  ~スキット・地の神殿あと、シムルグの背にて~

マルタ「…ミトス、大丈夫、かな?」
ジーニアス「…ぼく、あのとき、何もできなかった」
ロイド「それをいうなら、俺も、さ。リーガル、ありがとな」
リーガル「…いや、この私のいまいましい手の力も誰かをたすけることができる、のだな」
じっと自らの手をみつめてしまう。
すでにシムルグの背、という安全な場所でもあることもあり、
また誰かに背負われたり横抱きにされているよりは、
普通に横にしておいたほうが安静にする、という点でもいいだろう。
というリフィルの意見もあり、普通にその背によこたえられている、
ミトス、ウィノナ、コレットの三人。
コレットのその肩から背にかけての石でできた鱗のようなそれは、
かろうじてその背にかけられた白衣にて隠されてはいるものの、
だからといってそれらがきえてしまったわけではない。
プレセア「でも、エミルさんは、いったい……」
ありえない道。
あの場所であの一瞬のあいだに隠し通路をみつけた、とはおもえない。
まるで、エミルがあの意味不明な言葉。
それを紡ぐとともに、壁をはっていた木々の根が意思をもっているかのごとくにはぜわれた。
さらにそれらはうねるようにして、道をつくりあげた。
リフィル「…そう、ね」
アステル「あの紋章。僕が調べている紋章にちかかったような気が……」
それは精霊ラタトスクを示しているのではないか、とおもわれている紋章。
蝶は精霊のつかい。
そうエルフ達の間でもいわれているその言葉のままに。
精霊ラタトスクを示すのは蝶なのだ、とアステルは妙な確信をもっている。
それはどの絵にも、また大樹を示すであろうそれらにも、
かならず蝶の紋様だけ、は刻まれていたからにほかならない。
リヒター「…エミルのこともきになるが。ウィノナ姉のことも問題、だな」
彼女は研究院から逃げ出した、とされており、表向きには手配がかかっていたりする。
ゼロス「ま、そのあたりは俺様にまかせな。下手な手だしはさせねえよ」
リヒター「…すまんな。神子」
ゼロス「野郎に感謝されてもなぁ。その人がおきたら、こうしっかりと、お礼をしてくれればそれはもう」
しいな「あ~ん~た~は~!めずらしく積極的だとおもったら、
      そいつ目当てかい!すこしはその女癖の悪さをどうにかしな!」
アステル&リヒター「「・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
セレス「ああ!このめぎつね!お兄様に何を!というか、お兄様!
     何かしてほしいのでしたら、わたくしが!」
しいな「いや、それはやめときな。ってまさか、あんた妹にまで手をだして!」
ゼロス「誰がだすかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
プレセア「…こういうの、何という、のでしょうか?」
リーガル「カオス、だな」
リフィル「…頭がいたいわ」
エミルのことでも頭がいっぱいなのに。
別の意味で頭がいたくなってくるような気がするのは。
おそらくリフィルの気のせい、ではないであろう。
アステル「それより、これがシムルグ…ああ、研究したい、解剖したい!」
リフィル「うむ。それについては同感だな」
エミル「させませんからね!ぜったいに!あ、そろそろみえてきましたよ」
エミルが指差すさきにみえるは、王都メルトキオの街並み。
ロイド「あ~。なんスイッチはいってる先生はともかくとして。
     で、これ、どこにむかってるんだ?」
王都にむかっている、というのききはした。
しかし、この巨体な鳥をどこにつける、というのだろうか。
前と同じように城につけたらそれはもう大騒ぎになるような気がする。
それくらいはいくらロイドとて理解できる。
エミル「そのあたりは。しいなさん。シルフ召喚できますか?」
しいな「ふえ?あ、ああ。かまわないけどさ」
エミル「始めは王城に、とおもったんですけど。
     ミトス達の身の安全面を考えて、ゼロスさんの屋敷の上空で停止させますから。
     そこからシルフの風で静かに着地できるようにいってもらえれば。
     それか、風の層でもつくって階段、でもいいですけど。
     それより、風の層につつまれゆっくりと降りたほうが安全でしょうし」
全員をのせたまま、シムルグを下降させたとしてもかなりの距離がどうしても発生する。
別にそれくらいの距離はエミルはどうってことはないが、
他のものはそうはいかないであろう。
軽く高度数百メートル以上にもなることから、安全面性は保障できない。
ゼロス「たしかに。王城にというのも手だが。
     特にそこのウィノナってやつは手配かかってるやつだしな。
     俺様の屋敷のほうが安全、か。よし。エミルくん。俺様の屋敷の上空。それでいこうぜ」
エミル「ええ。で、しいなさん、お願いできますか?」
しいな「かまわないけど…さ」
エミル「そろそろ、王都にはいりますよ」
何やら下のほうが騒がしい。
よくよくみればこちらを見あげ、指をさしている人々の姿がみてとれる。
エミルの指摘をうけみてみれば、いつのまにかシムルグは王都の上空にたどりついているらしい。
目指すは、エミルのいうように、ゼロスの屋敷の上空。





pixv投稿日:2014年2月8日某日(Hp編集:2018年4月22日(日)

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あとがきもどき:

  ~予備知識:ゲーム原作本来のルートだと?~ノームの神殿、食事編~

クレイアイドル四男「なんだ~。おまえら、やんのか、こら~」
ロイド「汗。こいつらこんなんばっかだな」
ゼロス「育ちが悪いのかねぇ?」
しいな「あんたと同じだね」
ゼロス「とほほ。しいな、きびし~」
四男「何ごちゃごちゃやってんだ~。なんか用か~」
リーガル「奥にいきたい。すまんが道をあけてくれないか?」
四男「ただで通ろうっていうのか。世の中、そんなに甘くねぇ~」
ロイド「またかよ…おまえら兄弟、姿も考えも似すぎだろ…で、どうすりゃいいんだ?」
四男「カライってどんなだ?カライって美味いのか?カライもんくわせろ~」
ジーニアス「カライって…辛いものが食べたいってことかな?カレーライスとか?」
四男「おお!それ!それでいい!くわせろ!」
(レシピがない場合はアルテスタの家のタパサにもらいにいかないと通せんぼのままです)
リフィル「じゃ、ここで休憩にしましょう」
リーガル「誰がつくるのだ?」
ロイド「そうだなぁ・・・」
(選択肢:コレット・ジーニアス・リフィル・しいな・ゼロス、プレセア・リーガル)


コレットの場合:
ロイド「じゃあ。コレット、ちょっとつくってくれよ」
コレット「うん。頑張るね。おいしくつくれるかな……」
四男「おお!これがカライのか~」
コレット「どうぞ、召し上がれv」
四男「(容器ごとぱくり)おお~。カライ~カライ~」
ロイド「汗。こいつたぶんカライのわかってねえぞ……」
コレット「一生懸命つくったのに……」
ロイド「お、コレット、美味いよこれ!」
コレット「ほんと?」
ロイド「ああ。次からもカレーライスはコレットに頼もう」
コレット「うん。まかせてね!」


ジーニアスの場合:
ロイド「じゃあ。ジーニアス。ちょっとつくってくれよ」
ジーニアス「OK。任せて。得意料理だよ」
四男「おお!これがカライのか~」
ジーニアス「さあ、食べてみてよ」
四男「(容器ごとぱくり)おお~。カライ~カライ~」
ロイド「汗。こいつたぶんカライのわかってねえぞ……」
ジーニアス「作りがいのないやつだなぁ。もう!」
ロイド「ん。ジーニアス。美味いよ」
ジーニアス「でしょ?まだまだいっぱいあるよ。あ、プレセア、おかわりいる?」
プレセア「いただきます」
ゼロス「なあ。俺様もおかわり~」
ジーニアス「OK」
リーガル「私ももらおう」
ジーニアス「どんどんたべてよ」
ロイド「…おい。全然減らないぞ?」
コレット「…もう、お腹いっぱいだよ~」
ジーニアス「はりきってつくりすぎちゃった」
リフィル「もう…このこったら……」


リフィルの場合:
ロイド「じゃあ、先生、ちょっとつくってくれよ」
ジーニアス「!?」
リフィル「え?私がつくるの?」
ジーニアス「姉さんを指名するなんて……
       あ!わかった!クレイアイドルの味覚が正しいか確認するん……」
ばしっっ(リフィルによって頭をたたかれるジーニアス)
リフィル「どういう意味よ。まったく。いいわ、作りましょう」
ロイド「たのむよ」
四男「おお、これがカライのか~」
リフィル「どうかしら?とにかく食べてみて」
四男「(容器ごとぱくり)おお~。カライ~カライ~」
ロイド「汗。こいつたぶんカライのわかってねえぞ……」
ジーニアス「こいつが味覚オンチでよかったね」
リフィル「これでも結構頑張ったのよ?ロイド、食べてみる?」
ロイド「でもこいつが全部くっちまったぜ?」
リフィル「あら、残念」

しいなの場合:
ロイド「じゃあ。しいな。ちょっとつくってくれよ」
しいな「え?あたしががい?そりゃ、かまわないけど……」
四男「おお!これがカライのか~」
しいな「どうだい?けっこう美味そうだろ?」
四男「(容器ごとぱくり)おお~。カライ~カライ~」
ロイド「汗。こいつたぶんカライのわかってねえぞ……」
しいな「まあいいよ。料理もたまにすると楽しいさ。
     なまっちゃったら嫌だしね」
ゼロス「しいな~。何何~?花嫁修業してんの?意外~」
しいな「///そんなんじゃないよ!もう!」
ロイド「ん。美味い。美味いよ。しいな」
しいな「そ、そうかい?パイナッブルをいれるのがポイントだよ」
ロイド「え!カレーライスにパイナップルは入れないだろ。普通」
しいな「いま、美味いって食べてたじゃないか」
ロイド「いや。普通いれないだろ。かわってるな。しいな」
しいな「酸味がでて美味しくなるんだよ!実際美味いじゃないか!」
プレセア「普通はパイナップル、いれないんですね……」


ゼロスの場合:
ロイド「じゃあ、ゼロス。ちょっとつくってくれよ」
ゼロス「お~し!腕ふるっちゃうぜ!」
四男「おお、コレがカライのか~」
四男「(容器ごとぱくり)」
ゼロス「どうよ?辛いけどうまいっしょ?」
四男「おお~。カライ~カライ~」
ロイド「汗。こいつたぶんカライのわかってねえぞ……」
ゼロス「!ま、まあ俺様もパワー全開で作ったわけじゃないし~」
プレセア「ゼロスくん。汗びっしょりになってました」
リーガル「うむ。かなり本気でつくっているようにみえたが……」
ゼロス「・・・・・・」
ロイド「でも、さっき食べたけどこれうまいぜ。クレイアイドルにはもったいないよ」
ゼロス「ハニ~v」
ロイド「だぁ~!うっとおしい!」


プレセアの場合:
ロイド「じゃあ、プレセア。ちょっとつくってくれよ」
プレセア「わかりました」
四男「おお!これがカライのか~」
プレセア「どうぞ」
四男「(容器ごとぱくり)おお~。カライ~カライ~」
ロイド「汗。こいつたぶんカライのわかってねえぞ……」
ジーニアス「怒。せっかくプレセアがつくったのに!ボクも食べるよ!
       !?…お、お、おいしい、よ(滝汗)」
プレセア「おいしい?おかしいです……味よりも辛くすることを重視したので
      人が食べられるものにはなっていないはずです」
ロイド&ゼロス&リーガル「「「・・・・・・・・」」」
ロイド「…ジーニアス……」
ゼロス「泣けるねぇ……」
ロイド「今度はちゃんと俺達ようにもつくってくれよ。プレセア」
プレセア「はい。がんばります」


リーガルの場合:
ロイド「じゃあ、リーガル、ちょっとつくってくれよ」
リーガル「ふむ。いいだろう。では私の包丁をだしてこなければ……」
ジーニアス「え!?もしかして自分専用の包丁をもってるの!?」
リーガル「うむ。料理をするものの魂がこもっている道具だからな。
      常に自分で携帯し大切に扱っている。
      何でも誠意をこめて接すれば必ず答えてくれるものだ」
ジーニアス「汗。う、うん、そうだね」
ゼロス「ふぅん。あんたがそんなことをいうなんてな。珍しく口がまわるじゃねえの」
リーガル「む。そうだな。すまない。すぐにとりかかる」
四男「おお、コレがカライのか~(容器ごとばくり)おお、カライ~、カライ~」
ロイド「汗。こいつたぶんカライのわかってねぇぞ…」
リーガル「料理したものとしては、研鑽のためにも感想はききたかったところだが。
      仕方あるまい」
ジーニアス「リーガルって、料理のことになるとちょっと感じかわるよね」
ロイド「それだけこだわってるってことだろ。いいじゃねぇか。
    なあ、俺もくっていいか?」
リーガル「もちろんだ」

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