山と森、そして川に囲まれた地。
そういうのがしっくりくるであろう、ここ、イセリア地方。
海にも面しており、その砂浜などからは、
一応簡単ではあるが、時折漁をするために、船がだされることもあるらしい。
イセリアの村の北門…門、といってもただ木の柵をつけているだけの、
それこそ気やすめでしかない柵の合間につけている出入り口、なのだが。
ともあれ、その北の出入り口から向かった先にありしものが、
ここ、シルヴァラントの第二の聖地、ともいわれているイセリアの聖堂。
代々の神子はそのマーテル教会の聖堂にて神託の儀式をうけ、そして旅にでる、
といわれている。
そしてまた、ミトスの動向を懸念したシムルグ達が、
彼らを監視する意味をもかねて、住みついている地。
コレットの父であるフランク、そして祖母ファイドラが住まいしその村は、
マナの血族を筆頭にし、ひっそりと暮らしている村といっても過言でない。
もっとも、いくら権力をもちしがマナの血族だからといって、
村の代表ともいえる人物が同じだと不都合がおこる、という理由ゆえに、
村の中ではマナの一族以外のものが村長を務める、という暗黙の決まりができている。
そんなイセリアの村に向かう街道、ではなく、森にとつづいている街道沿いを進んでゆくことしばし。
ロイドが育てられた、というドワーフのダイクの家は森を抜けた先にとあり、
この先にみえている山の麓の一角にあるらしい。
そのまま、森につづくある気持ちほどの人の手がはいりし街道沿いをすすみ、
イセリアの北に位置する森を抜けてゆくことしばし。
しばらくゆくと異様に人の手がはいりし道らしきものがあり、
その道を進んでいけばここ、イセリア地方にある人間牧場へとたどり着くことができる。
今現在、ここシルヴァラントで唯一、いまだに人々を囲っている牧場といってもよい。
「そういえば、何でロイドはドワーフに育てられてたの?」
ふとした素朴なる疑問をといかけているマルタ。
「そういえば。説明してなかったっけか?」
今さらといえば今さらながらのマルタの質問。
ゆえに、歩きつつも首をかしげるロイドに対し、
「うん。そういえば長い間皆と一緒にいるけど、
そういった個人的なことはあまり聞いてなかったな、とふと思って。
特にエミルのこと私しりたいのにぃ」
ぶ~ぶ~何やらいい始めるマルタに対し、
「え?僕は別に話すようなことはないけど」
何をはなせ、というのだろうか。
そもそも、この時間軸でいうならば、ついこの間まで眠っていたし、
さらに力でいうならば世界の安定と魔界を抑え込むことに集中させていた。
ゆえに、別に話すようなことはまったくない。
「俺は、この近くの崖の下にノイシュと母親と倒れてるところを親父に助けてもらったらしいんだ」
「らしい?それって……」
マルタがちょん、と首をかしげるが。
「俺、そのときのことを詳しく覚えていなかったからさ。
気が付いたら、知らない場所にいて、父さんと母さんがいなくて…
いろいろあって、母さんが死んだってきかされて。
親父が新しい家族になろうっていってくれたんだ」
一人で森の中に、両親を探しにいった記憶はいまだにロイドの中にはのこっている。
それがのこっているのに両親の顔が思いだせない、というのがもどかしい。
まあ、三歳児の記憶なのだからそれは仕方ない、とダイクやリフィルにいわれたが。
「…クヴァルってやつに何でそうなったのかはきかされた、けどな」
いって顔をしかめるロイドに。
「ロイド……」
それをきいていたがゆえに、ジーニアスの表情もまた暗い。
「クヴァル?」
マルタはそのときのことをしらない。
かの一件の後、パルマコスタにむかった一行にマルタは合流したがゆえ、
あの当時はまだ一行には加わってはいなかった。
「…アスカードの人間牧場の支配者、よ」
「…そっか」
それ以上はどうやら好奇心で聞きだせるような内容、ではないらしい。
そもそも、人間牧場の支配者の名がでてきた、ということは。
ロイド達家族はディザイアン達に襲われた、とみて間違いないであろう。
実際、ロイドは母親は以前ディザイアンに殺された、といっていたような。
そうおもい、そして、
「ねね。エミルは、皆と一緒に旅するまで何してたの!」
くるり、と一回転したのち、エミルの手をいきなり握り、
にこやかに話題を変換してくるマルタの姿。
「?え?寝てたけど」
「…そう、でなくて!そりゃ、夜はねてあたりまえでしょ!」
エミルは実は真実をいってはいる…精神体そのものが逆行してきている、という旨はともかくとして。
ここの自分の本体からしてみれば、まちがいなく眠っていた。
しかし、マルタはどうやら、ロイド達と出会う少し前の夜のことをいった、
とおもったらしい。
「でも、実際、宿にとまってて、何か騒がしいな、とおもって外にでたら。
なんか公開処刑?とかいうのが始まろうとしてたし。嘘はいってないんだけど……」
事実、あのとき。
宿にとまっていて、騒ぎになり、外にでてみればあのようなことになっていた。
「そういえば、ショコラのお母さんが処刑されそうになったとき。
エミルも手助けしてくれたんだったよね」
「…その後、一人で浚われたというショコラをエミル、助けにいったらしいしね」
ふとコレットがそのときのことを思い出し、にっこりといえば、
首をすくめてジーニアスがそんなことをいってくる。
そもそも、ショコラを助けにいったはず、なのに。
すでにエミルが救いだしていた、というのはこれいかに。
そう思ったあの当時。
その気持ちはジーニアスだけでなく、ロイドもまた同じであった。
そもそも、ショコラが浚われたから、旅を一端中止して、牧場潜入をきめた、というのに。
蓋をあけてみれば、実はショコラは浚われてまもなく、エミルに助けだされていた。
というその現実。
まあ、かの地に囚われていた他の人々を救いだせた、という点で納得するしかない。
のであろうが。
「…うっ」
何やら話題がマルタにとってあまり面白くない方向にむかいそうな気がする。
マルタは、かつて彼らにいわれたこと。
すなわち、助けてくれたエミルが王子だというのなら、
ショコラにとってもエミルは王子になるのでは?というようなことをいわれている。
そして、マルタはショコラが家族思いでしかも、かなりのがんばりやだ、としっている。
そもそも、家系を助けるためにわざわざ自分で旅業の案内人の仕事を兼用しているほど。
マルタは家にいるだけで何の仕事もしていない。
歳はさほどかわらない、というのに。
「パルマコスタ牧場か。そういや、あの牧場もディザイアン、一人もいなかったんだよな」
「マグニスがいた場所にしかいなかったよね?
そういや捕らえられていた人がいってた魔物って……」
「しかも、なんでか皆の体に埋め込まれていたはずのエクスフィアが取り除かれてたしな」
それがロイドからしてみれば信じられない。
そもそも、要の紋がないエクスフィアをどうやって取り出したのか。
おそらく、魔物が何かをしたのだろう、という予測はたてたが、真実はいまだにわからない。
「…え?牧場に、一人も、いなかった、の?」
信じられない、とばかりに目をぱちくりさせて、逆にといかけているミトス。
かの施設に誰もいない、ということはありえない。
それゆえの問いかけ。
「いなかったぞ?実際に。奥の管制室だったっけか?
そこにマグニスってやつはいたけど」
「そういえば、あのときからヒントはあったんだよね。俺はだまされていたのか、という言葉に、
あと、【クルシスは神子を受け入れようとしている】そういったあの言葉、あれは…」
そういいジーニアスが顔をふせるが、
「そういや、クラトスのやつ、ボータとも顔見知りだったみたい、だしな。
…でも、それらを全部俺達はみすごしてた……」
「クラトスさんのことはともかくとして。ロイド、ロイドの家ってこっち方面で間違いないの?」
以前に確かに立ちよったことがあるが、今現在でいうならば始めていく場所。
そんなエミルの問いかけに、
「うん。ロイドの家はこっちで間違いないよ。ロイドの家の周囲には川があってねぇ。
いいところだよ?ロイドの家からはよく星もみえるし」
「うん。よくロイドの家で天体観測させてもらってたしね」
にこやかにいうコレットにつづき、ジーニアスも同意するようにといってくる。
ふとみれば、ミトスは何やら考え込んでいるらしく、じっとうつむいているようであるが。
あのとき、全てを消して、自らの内に還したが、
かの地にいるものたちに思い入れでもあったのだろうか。
「ミトスサン、具合、ワルイのですか?」
そんなミトスの様子にきづいたのか、タバサがそんな声をかけている。
「え。あ。何でもないです。…シルヴァラントのドワーフ、か」
そしてこのロイドの育ての親。
タバサの言葉にはっと我にと戻り、ふるふると首をふったのち、
小さくそんなことをつぶやいているミトス。
「そういえば。ダイクさんとかいう人とプレセアって話しが弾むかもだね。
プレセアも細工物でたしか生計たててるっていってたし」
ドワーフといえば細工もの。
マルタでもイセリアのドワーフの噂はきいたことがある。
ゆえに、これはいい材料とおもったらしく、
わざとらしくない程度でいきなり話しをプレセアにふるマルタ。
どうやらそこまでして、エミルがショコラを、
しかもたった一人で救いにいった、という現実から目をそらしたい、らしい。
「お。よく覚えてたな。マルタちゃん。たしかにプレセアちゃんのつくるブローチや置物。
テセアラでは有名だからなぁ」
「む!オヤジだってな!イセリアにダイクありっていわれてるんだぞ!」
そんなゼロスの台詞にくってかかるかのように、
知名度ではまけていない、とばかりにロイドが叫び反論する。
どうでもいいが、騒いでディザイアンにみつかるかもしれない。
という思いはまったくもってロイドの中にはないらしい。
この付近には、一応、ディザイアンの施設がある、というのに。
「ドワーフの細工…ですか。たしかに、興味は、あります」
テセアラのドワーフ、アルテスタは市場に介入はしていなかった。
ゆえに、ドワーフの技術というものがどれほどのものなのか。
たしかに興味がない、というのは嘘になる。
マルタの台詞、そしてゼロスの言葉をうけ、プレセアがこくり、首を横にかしげながらもいってくる。
「なら。ダイクさんって人のところにいったあと。ロイドとジーニアスはそこに残るんでしょ?
プレセアも一緒にのこっていろいろときいてみたらどうかな?」
「…いい、のですか?」
「だって、こんな十六名もひきつれて、いきなり村にいったら。
それこそ警戒されない?いくらコレットの連れ、といっても。
それに…リーガルさんの手枷もあるし……」
「「「たしかに」」」
ちらり、とリーガルをみながらそういうエミルの台詞に、しいな、リフィル、ゼロスの声が一致する。
それぞれがリーガルをみて、うんうんうなづいているその様子は、
それぞれやはり思う所は同じである証拠。
エミルからしてみれば、趣味、の一言で納得してしまった、パルマコスタの人々。
彼らの反応が何ともいえない思いがあるのだが。
もしかしたら、にたような何かを彼らは目撃しているのかもしれない。
そういえば、ともおもう。
アリスが普通にムチを振るっていても、パルマコスタの人々は、
あまり動じている様子がかつてのときもなかったな、と。
「神子。それに皆も、それはどういう意味かな?」
そんな彼らを思わずみつめかえすリーガルであるが、自覚がない。
というのはこういうのをいうのかもしれない。
しかも、服装も服装。
まともな服装、ではなく、そのむき出しの筋肉質っぽい体に密着するような、
ぼろぼろにもちかい白いシャツ。
ちなみに小さいのか、はたまたそういう仕様、なのか、大きさ的には胸のあたりの下までしかないそれ。
そしてどこかほつれのみてとれるズボン。
この格好で、移動していたからか、行く先々で、
彼と面識がある存在達以外には、ブライアン公爵であることすら気づかれてもいなかった。
まあ、一応、世間的にはとある事情で牢にはいっている、となっている彼が外にいる。
と誰もおもわずに、またそんな出ていてもそんな格好をしているはずがない。
という思い込みがあったがゆえに誰も指摘しなかったのであろうが。
「いいこと?リーガル。ロイド達は牧場の人を助けた。
その結果村が襲われた、というので追放処分をうけたわ。
手枷をして、さらにはその格好のあなたをみて、また牧場の人をつれかえった。
と村の人々が認識したらどうなるか…あなたならわかるでしょう?」
そんなリーガルにたいし、あきれたように、それでいて諭すようにして淡々といいきるリフィル。
リフィルのいい分は完全に誰がきいても納得できるもの。
「うっ」
リフィルにいわれ、自分がいましめ、としていまだにはずそうとしていないその手枷。
それがここにきて本当の意味での枷になっていることにきづいたのか、言葉をつまらせる。
そんなリーガルの姿をみつつ、盛大にため息をついているリフィル。
ちらりとみれば、やれやれ、とばかりにゼロスは両手をかるくあげている。
テセアラではある程度ゼロスの知名度とその容姿の有名さもあいまって、
あまりつっこまれなかったが、ここシルヴァラントにおいては異なる。
そもそも、神子コレットのことを知っているものもごくわずか。
テセアラのように公式行事というようなものが各町などであり、
常にお披露目のようなことをする。
そんなことは当然ここシルヴァラントではあるはずもなく。
毎年のコレットの誕生日におこなわれる教会の祭り。
それによって参加していた一部のもののみがコレットの姿をしっているだけ。
だからこそ、コレットの偽物などというものがまかりとおり、
また、コレットが旅をしていても、神子だ、とすぐには気づかれなかった。
さらにいうならば、なぜかことごとくエミルが神子だ、と勘違いされ、
あろうことかコレットをおしのけてまで、エミルに人々が殺到したこともあった。
もっともその結果、コレットは階段を転げ落ち怪我をしてしまったのだが。
「…まあ、いいですけどね。
じゃあ。ロイドとジーニアス、そしてプレセアとリーガルさんが残るにしても。
あと、タバサさんものこるんでしょう?」
ひとまず、リーガルの手枷のことはおいとくとして。
改めてといかけるそんなエミルの台詞に、
「?ハイ。そのつもりですが、よくわかりましたね?エミルさん?」
心底、本当になぜにわかったのか、というように、
きょとん、とした様子で首を横にかしげつつもいってくるタバサ。
「アルテスタさんのことだからね」
大方、彼女を共に行動させた理由、そしてアレをタバサに組み入れた理由。
もう一人の、シルヴァラントにいるというドワーフと話す機会があれば、
といったようなことを命じていてもおかしくない、とおもったが。
どうやらそれは図星であったらしい。
エミルの台詞にちょん、と首を横にかしげているタバサの姿に思わずくすり、と笑みがもれる。
どうやらいい方向に自我が育ってきているらしい。
そういえば、とおもう。
あのマーテルは自我があるような輩の体をのっとるようなことはしないはずなのに。
しかし、かのマーテルの核となっていたのはあきらかにこのタバサの体。
で間違いないのであろう。
だとすれば、人工知能が破壊されるような何かがあのときはあったのかもしれない。
虚無になったそこにマーテルの精神体が入り込み、その結果、
その体を依代として、あのような精神集合体でもある精霊マーテルが誕生した。
そう考えるのが無難。
「たしかに。大人数でいくのも何かもしれねえな。
なら、アステルくんたちもロイド君の家ですこしまっててもらってはどうだ?
どうせリフィル様。人物図鑑とかいうのをロイド君の育ての親にたのむんでしょ?」
「ええ。そのつもりよ。ドワーフのダイクならば、その技術をしっていてもおかしくないわ。
そもそも、普通の人々にはこれらの技術は失われているものだもの」
本の裏表紙にある説明書きをみるかぎり、
記憶の投射とかよくわからないことがかかれているが。
どうやればそのようなことができるのか、いくらリフィルの知識でも知らないこと。
「記憶の投射、ですか。たしかに。研究所でもいまだに研究対象の一つですね。
たしかに興味ありますね。ならのこってその技術をおしえてもらえるように。
交渉してみようかな?ね。リヒター」
「俺としては、シルヴァラントにおけるいろいろなことをきいてみたい、というのがあるな。
自分の論文に役立つ」
「あはは。リヒターはシルヴァラントの研究を専門にしてたもんねぇ」
そんなアステルとリヒターの会話がきこえてくるが。
「なら、私もそこにのこりますわ。
この二人はほうっておいたら何をしでかすかわかったものではないもの」
ため息とともに、リリーナが、深い息をはきながらそんなことをいってくる。
どうやら、この様子からして、いつもこの二人に振り回されているっぽい。
そんな彼ら三人の力関係がよくわかる光景といえば光景。
「では、ダイクの元にのこるのは。ロイドとジーニアス。そしてリーガルとプレセア。
そして、アステル、リヒター、リリーナ。そしてタバサ。八名でいいのかしら?」
確認のために問いかけるが。
「あ、僕ものこりますね」
「え?何で?エミル?」
きょとん、とするマルタに対し、
「ノイシュはここにおいてくんでしょ?」
「お、おう。ノイシュの小屋もきちんとあるからな」
いきなりエミルに話しをふられ、首をかしげつつも答えるロイド。
「マルタは、ルアルディ夫妻の使者という役目もあるだろうから、いかないとだめだよ?」
「む~…エミルもくればいいのに」
「あまり大人数でおしかけてもどうか、とおもうしね」
たしかにエミルの言うとおり。
言うとおりではあるのだが。
「なんか納得いかない……」
心底納得いかない、とばかりにマルタがむくれだす。
「では、イセリアに戻るのは、私とコレット。
そしてしいな、ゼロス、セレス、マルタ、ミトスこの七名、ということかしら?」
「無難なんじゃないですか?」
そもそも、旅を始めた当初は五人であった、ときいている。
ならばそれに二名くらい加わった数になっても違和感はないであろう。
そもそも小さい村、というのは大人数のものたちにたいし、何かと警戒を抱くもの。
もっとも、少人数のものにたいしても警戒をいだきまくる傾向があるが。
しかも、ロイド達の反応というか話しをきくかぎり、
イセリアの村長、という人物はそういう傾向が異様に強い人間、らしい。
かつてのときはそんなことはあまりおもわなかったのだが。
あのときの村長は、ロイドがそんなことを…すなわち、虐殺などをするような人間ではない。
そう信じていたようにおもえる。
まあ、実際、あれをしでかしていたのはデクスだったわけだが。
そんなことを思いつつも、リフィルの台詞に同意を示すエミル。
「なら、それでいきましょう。と、そろそろつくようね」
そんな会話をしているうちにどうやら目的の場所。
すなわち、ダイクが住んでいる小屋付近にたどり着いたらしい。
少しばかりの坂の上に小さな建物がみえ、
その周囲をさらさらと小川が流れている。
川には橋かけかけられており、橋の下には澄み切った水。
川をのぞいてみれば、そこには魚の姿すら認識できる。
橋を超えた少しさきに、みえている建物がどうやらロイドの家、らしい。
このあたりは、おそらくダイクの考え、なのであろう。
ならされている土の上に杭がうたれ、
その杭を麻ひもでむすんでおり、簡単な柵なようなものができている。
杭と縄でつくられた、道沿いを少しすすんだその先。
木々の間にぽっかりと開けた空間があり、そこに建物はみえている。
そして少し進んださきにもまた小さな川があり、
そこには今度は頑丈な橋、でなくマルタがかけられているのがみてとれるが。
「うん?何か話し声がするかとおもったら、ロイドじゃねえか。
それに、先生や…なんか、人がふえてるな」
ふと、そんな会話がきこえたのであろう。
その手にジョウロを手にもったまま、奥のほうからでてくる人影一つ。
「親父!元気か!地震の影響はうけてないか?」
出てきたのは、その顎というか顔全体に髭をはやしているような、小柄な男性。
実際、口周り全てに髭等をはやしており、アルテスタとはまた違った雰囲気をかもしだしている。
巨大な地震が幾度も起こっている。
ゆえに、ロイドからしてみれば心配してもおかしくはない。
そもそも、パルマコスタの地においても、
また、トリエットにおいても地震の影響ですくなからず建物に被害がみうけられていた。
ゆえに多少不安になっていたロイドだが、元気そうなダイクの姿をみてほっとする。
「このあたりは固い岩盤の上だからな。みんなぴんびんしとるわい。
というかだからここにわざわざ家をたてたんだからな」
かつては、普通にアルテスタと同じように洞窟をくりぬいた場所にすんでいた。
しかし、ロイドを育てるにあたり、この地に小屋を建てたのはほかならぬダイク自身。
「しかし。どうしたんだ?コレットちゃんがいるってことは。
まだ再生の旅はおわってない、ようだが。
しかも、なんだか手枷をしてる輩にみたことのないものもいるな。
マナの流れがコレットちゃんに近い男性もいるし?」
ドワーフの一族は簡単なマナの流れならば把握ができる。
「ダイク。こちらはテセアラの人々よ」
「何と!?テセアラ!?…何かいろいろとあるようだな。
しかし、次元を隔てた世界と行き来ができるのは……いや、しかし」
リフィルの台詞をきき、その場で何やらうなりはじめ、
うんうんいいはじめるダイクに対し
「親父?親父はテセアラをしってるのか?」
「知ってるも何も…そうか。ロイド。おまえさんたちも世界の仕組みをならばしった。ということか。
わしらドワーフは外部にそれをいうことはないが、そういった知識の継承はなされていたからな」
ダイクはロイドに説明していないだけで、繁栄世界と衰退世界。
ついでにいえば勇者ミトスが裏切った、ということまでは知っている。
クルシス、という組織の真実も。
しかしそれをただ人間達に言う必要がない、とばかりに説明していなかっただけのこと。
「コレットの要の紋のことで相談がしたいの。ダイク」
「うん?先生も久しぶりだなぁ。ロイドのやつが迷惑かけてねえか?」
「・・・・・・・・・・大丈夫よ」
「その前半の無言が…うちのロイドがやはり迷惑かけてるっぽいな。
しかし、コレットちゃんの要の紋?クルシスの輝石の、か?」
「ええ」
「…ま、立ち話しも何だ、といいたいが。ひい、ふう、みい…
…さすがに十六人も中にはいるのは難しいか?」
さすがにそこまで家の中はひろくない。
その場にて腕をくみ、うんうんうなりはじめるダイクの様子をみて、くすりと笑う。
そんなリフィルの様子をみつつ、
「なら、僕ら外でまってますから。用事があるリフィルさん達だけ中にはいっては?」
いいつつ、
「ミトス達もそれでいいでしょ?用事があるのは、コレットやロイド、それにリフィルさんでしょうし。
用件がすんでから、アステルさんたちも聞きたいこととかあればきけば、
時間はあるんですし。あ、ダイクさん、といいましたよね。はじめまして」
「うん?お、おう?」
一瞬、目の前に巨大な樹がみえたような気がし、おもわずごしごしと目をこする。
しかし、それは気のせいであったのか、
目の前にいるのは金髪の少女なのか、少年なのかわからない子供が一人。
しかし、今たしかに目の前にみえたのは、巨大なマナを感じる樹。
そう、世界を構成する大樹カーラーンのごとくに。
にっこり微笑まれ、おもわず頭をさげるダイク。
何となく、ではあるがこの少年には逆らえない。
否、逆らってはいけない、というような感覚が直感的にダイクの脳裏にふとよぎる。
それはなぜなのか、はわからないが。
ドワーフという種族は基本、大地の加護をうけし種族。
ゆえに、あるいみではラタトスクの間接的な加護をうけている種族ともいえる。
ゆえに無意識のうちにその気配を感じ取ったらしきダイクはさすがというべきか。
あのアルテスタですら気配を少しばかり解放したときに気付いた、というのに。
それは、このダイクがクルシス、すなわち上空に移動することなく、
常にこの大地とともに生きていたゆえに他ならない。
「そうね。エミルのいうとおり。私はダイクに用件をつたえるわ」
いいつつも、リフィルが全員の顔をみわたすと、
それに同意するかのようにリーガルがこくり、とうなづいてくる。
「そういえば、あの奥にあるあれって…?」
ふとマルタが家の奥のほうにある石碑らしきものにきづいて首をかしげるが。
「ああ。あれ?あれ、俺の母さんのお墓」
「え?…ご、ごめん……」
さらり、といわれるとはおもわずに、おもわずマルタが顔をふせる。
「なら、リフィルさん達の話しがおわるまでに、お墓にあげる花とかでもさがしてくる?」
「あ、それいい!」
「あまり遠くにいかないのよ?あと、絶対に牧場には近づかないように。いいわね?」
花を探してくるのが悪い、とはいわないが。
しかし、念には念をいれておかなければ。
そんなリフィルの言葉をうけ、かるく笑みをうかべるエミルであるが。
「…どうやら、なんか入りこんでいる話しらしいな」
彼らが本当にテセアラのものだ、とするならば。
何かがまちがいなくおこっている。
本来ならば二つの世界にすまいしものがこうして共にいることなど、
今の状態ではありえない、のだから。
ゆえに、一人納得し、ともあれ、リフィルの言葉もあり、
ダイクは促すように、一人先に家の中へとはいってゆく――
「…エクスフィアの進化系…ねぇ。
とりあえず、クルシスの輝石がエクスフィアの進化系、といわれても。
この俺には詳しいことはわからないな。そもそも、それらは穢されしもの。
いくらドワーフの技術でも穢されし力を浄化することは難しいからな」
人々がエクスフィア、とよんでいるそれらは、微精霊達を狂わせてその威力を引きだしている。
そして、それをしっているがゆえに、その力を抑えるために要の紋というものが制作された。
精霊をも狂わせる力は当然のことながら人の精神、そしてその器にも影響をあたえる。
そしていうまでもなく、微精霊とはいえ精霊の力は強大。
それらの精霊の影響をうけないようにするために。
「そういえば、以前、エミルがエクスフィアは精霊石とか何とか……」
それは、ルインにおいてエミルにいわれた言葉。
ふとロイドが思いだしたようにそんなことを呟くが。
「ロイド。てめぇ、それを誰からきいた?」
「え?エミルから、だけど?」
「…そうか。あの子が、な。たしかに、エクスフィアはもともと、精霊石。
つまり、世界に満ちている微精霊達。それらの結晶。
簡単にいえば、精霊の卵ともいえるべきもの。
それを何をかんがえたのかかつての人間が、人の血、そして負の穢れでもってして、
そういった負の力をもってして穢し、力を悪用、否、利用しようとしてできたもの。
それがエクスフィア、とよばれているそれら、だ。
本来あるべき姿を無理やりに歪められているがゆえに、その副作用も半端がない。
副作用がない利用方法といえば、微精霊達が孵化し終わった精霊石。
たしか、アイオニトスともよばれしそれらがあるがな。
いくらわしらドワーフとて、強大な穢れを払うような技術。
かつてはあったのかもしれねえけどな。それはひきついじゃいねえ」
少し考え込んだのち、淡々と言葉をつむぎだすダイクの言葉に嘘はない。
「私たちが手に入れている情報では……」
リフィルがこれまでに手にいれた情報をダイクにつげてゆく。
それは、ジルコン、マナリーフ、そしてマナの欠片をもってして要の紋をつくりだす。
それにより、石の力をおさえる、というその方法。
そんなリフィルの説明をききつつ、そしてちらり、とコレットに視線をむける。
今、この状況でそれをいいだす、ということは。
「…永続天使性無機結晶症を防ぐため、か」
「ええ」
リフィルがこうしてわざわざいう、ということは。
当人は隠しているつもりなのかもしれないが、症状があらわれているのかもしれない。
「その症状はわしも聞いたことがある。
かつての勇者ミトスの姉、マーテル様がかかった病気である、ということもな」
そういうダイクの表情は何ともいえない表情をしている。
たしかに、一部のものたちは、勇者ミトス達を悪しざまにいっているのはしっている。
いるが、ダイクが両親から伝え聞いた話しによれば、
彼の気持ちもわからなくはない、ともおもえるのもまた事実。
だからといって、人の命を何ともおもわないその変わりようはどうか、ともおもうのだが。
「しかし。マナの欠片はたしかに。マナの塊たる彗星、ネオ・デリス・カーラーン。
それに出向けばどうにかなるかもしれぬが。
マナリーフのほうは、ここシルヴァラントにおいてはこの八百年にわたるマナの衰退。
それによりすでにもう生息してはおらんじゃろう。
マナの欠片はもしかすれば、モーリア坑道の地下深くに残っているかもしれぬがのぉ。
あれも世界が二つにわけられたとき、内部がかわっているとおもわれるから、
かの坑道の仕掛けがどうなっているのか、それはさすがのわしらでもわからんの」
「そういや。モーリア坑道って、テセアラにもあったよな?」
「ああ。トイズハレー鉱山と繋がっているともいわれている、
古にあるいつの時代にできたかわからないといわれているあの坑道のことだろ?
実際、どれほどの深さがあるのか、またその構造すらも謎、といわれてるね」
ダイクの言葉にふと、ロイドが思いだしたようにつぶやけば、
しいながそんなロイドにたいし、首をすくめていってくる。
実際、みずほの里にてかの坑道を調べてはいる。
いるが、ある程度の場所までいくとともに、先がつまっているといってよい。
しかも、ところどころいきなり行き止まりなどになっており、
それも今思えば世界を分けたときに坑道までもが分断されてしまったから、
そう思えば納得いくところもあるにはある。
「材料さえあれば、たしかに高度なる要の紋。それの作成は可能だ」
「じゃあ…」
「だが、材料がなけりゃどうにもならねぇ。
しかし、ロイド、おめえ、腕あげたな。よくまあここまでの要の紋をつくれたな」
いいつつ、ダイクがみているのは、コレットの首にかけられたままの要の紋。
首飾りの形式をもってしてつけられているそれは、
ロイドがアルテスタの協力、そして指導のもとつくりあげた品。
聞けば、桃色髪の少女がつけている要の紋…こちらは十字架に近い形をしているが。
それもまたロイドがつくりあげたもの、らしい。
少し見ない間に成長したロイドに感慨深いものを感じながらも、
「材料さえそろえば。ロイド、今のお前にならその技術をつたえてもいいかもしれぬな」
「本当か!親父!」
その台詞にぱっとロイドが顔を輝かせる。
これまでは、まだ半人前だから、といって要の紋の制作にはかかわらせてもらえなかったのに。
「やはり、テセアラとは少しばかり生体系が違うよう、ですね。このあたりの生体系に近いのは……」
結局、どうせここにのこるのならば、というので。
今きになるのはこのあたりの自然環境の様子、らしく。
エミルとマルタが花をさがしに周囲を探索しにいく、といえば、
そんな理由から、アステル達もまた一緒にこのあたりを探査している今現在。
ロイド達は今ごろ家の中にはいり、ダイクに説明をしている最中、なのであろう。
「モーリア坑道のあるあたりの地質と似てはいる、な」
周囲をみわたしつつ、またそこに生息している植物名どをみてそんなことをいってくる。
「でも、いいのかな?ロイド達ほうっておいて」
「ロイドも久しぶりに家にもどったんだし。いろいろとあるだろうし。
それに、リフィルさん達もいろいろとあるだろうしね。
それより、マルタ。ファイドラさんとかいう人達にきちんと伝えること忘れてないよね?」
「う。だ、大丈夫!ママがきちんと手紙かいてくれてるから!これをわたせば!」
ぽん、と懐にはいっているであろう手紙をたたきながら、
それでもすこしばかり言葉をつまらせいってくる。
「近いうちにママ達もここに話しあいにくる旨がかかれてるって」
パルマコスタの治安もきにはなるが、しかし、リフィル達がもたらした説明。
そちらのほうが衝撃的であったらしく、今後の話しあいのためにも、彼らは一度、
この地にやってくることをきめた、らしい。
そもそも、あのとき連携をとっていなかったのは、
ブルートがおそらくはマナの血族といわれしものを信じていなかったがゆえ、なのであろう。
大樹の暴走により妻を失った彼はマルタの言動から察するに、
世界再生そのものを恨んでいた節がある。
もっとも、再生後はこれまた人々のいいように都合のいいようにねつ造しまくられ、
人々に認識されていたにしろ。
新たな大樹が芽吹くことになったから世界が一つにもどったなど。
よくもまあいってくれたな、と今でもそれはおもっている。
勝手に自分との繋がりを立ち切り、その力をも奪い去っておいて、
それなのに、マナを正してほしい、と好き勝手いってきた当時のヒト。
まあ、いってきたのは目の前にいるアステル、なのだが。
偽りの真実、すなわち世界再生という偽りの真実をきかされていたがゆえ、
ヒトが自分達精霊を裏切っている、ということにきづかなかったのだろうか。
ともおもわなくもない。
しかし、このアステルならばそれくらいのことは予測していそうな気がするのだが。
そのあたりは今となってはわからない。
あのとき、苛立ちまぎれにアステルを殺さずにどうにかしていればわかったかもしれないが。
「まあ、どちらにしても。世界が元の姿にもどったあとが。
ヒトにとっての新たな試練とおもうけどね」
「耳がいたいわね。たしかに。ここまで文明の差がある以上。
テセアラ側がどのような態度をとってくるか。想像したくないわね」
ぽつり、とつぶやくエミルの言葉に同意するかのように、
こくこくとうなづいてくるリリーナ。
しかし、その視線は常にいったりきたり、
地面にかがみこんだりしているアステル達にむけられており、
何かあればすぐに彼らを止めよう、という決意がみてとれる。
「異なる文明、異なる認識、そして異なる生活基準。
それら全てが異なっている人々をみて、かの国の人間達がどうするか。
これまで同様に、蛮族、といってさげずんで見下すかどうかは。
それこそここ、シルヴァラントの人々の努力によるだろうしね」
虐げられる立場から人々を解放するという名目で、かつてのブルートはヴァンガードを立ちあげた。
しかし、ブルートはソルムのコアを手にし、その考えが歪んでしまった。
それこそ本能のままに突き動かされた結果。
あれを渡したのはアリスやリヒターの思惑通り、否、魔族達の思惑通りであったのであろう。
ちなみに、アリスはといえばセンチュリオン達に調べさせた結果、
今はとある場所にデクスと共にいることが判明している。
どうでもいいが、あの存在が封印にかかわっている、ということまで突き止めているっぽい。
かの書物もそろそろ対処する必要性があるのもまた事実。
できうれば、ミトス自身の手で、彼が初めたことは決着をつけてほしい、のだが。
あのとき、彼がどうしても自分でやる、といったがゆえに、かのような方法が取られているあれは。
この旅の中で、ミトスはかつての自分の理想。
それを改めて思いだしているはず。
それは日々、ミトスをみているがゆえに感じ取れている。
しかし、いまだにミトス自身が今していることを取り下げよう。
という思いにまで至っていないのは、これまでついてきてきているものをおもってのことなのか、
それとも意固地になっているだけ、なのか。
どちらにしろ、ユアンやクラトスの意見すらきかないのであれば、
ミトスを説得できるのはマーテルだけしかいないであろう。
あのマーテルもどこか言葉が抜けているゆえに、ミトスに誤解を与えかねない。
という思いがなくもない。
時折、もう面倒なのでかの彗星にいる全てのものを地上に移動させ、
さくっと彗星を解き放ちたい衝動にかられるのもまた事実。
もっとも、この場合、彗星を繋ぎとめているのがレインとの契約の一つでもある以上、
自分が勝手に、というわけにもいかないからこそそれはしていないが。
「…あ」
そんな会話をしている最中。
パタパタと上空から真っ白い鳥がとんでくる。
これは、このあたりに生息しているピヨピヨ、という魔物であり、
そしてまた、エミルがリフィル達の用事がすんだら連絡するように、と命じていた魔物。
エミルの手前におりたち、ピチュピチュとリフィル達が家の中からでてきたことをいってくる。
そんなピヨピヨの言葉をうけ、
「どうやら、リフィルさんたちの説明、おわったみたいですよ。
ひとまず、小屋のあたりにもどりましょうか」
アステル達はここに至るまでいくつかのサンプル、と称して草花を手にいれている。
そして、マルタがロイドの母親の墓に供える花は、
そのあたりに生えていたコスモスの花を花束にしており、
ゆえにお供えする花はすでに手にいれているといってよい。
小屋からは大分離れてはいるが、距離的にはさほど離れてはいない。
今、エミル達がいる場所は完全なる森の中。
木漏れ日の明かりが周囲を照らし出している。
さきほどから聞こえる様々な鳥の声は、その言葉が理解できるものがきけば、
王様がこられた、王様がこられた、とそれぞれが高らかに叫んでいるのが聞き取れたであろう。
「エミルって、何で魔物の言葉がわかるの?」
相変わらずそれが不明。
それゆえに、エミルにといかけるアステルに対し、
「それは、ヒトが知ろうとしないから、この子達の言葉がわからないだけ、だとおもいますよ?」
心を心の底から通わせようとおもわないがゆえ、ヒトは自然と心を通じさせる。
そのことすらを忘れてしまった。
そして、エルフ達ですら。
かつて、この世界におりたった当初は全てのものが自然と心を通わせていた、
というのに。
…もっとも、魔族達は除く、が。
それがエミルからしてみればやりきれない。
ほんとうに、いつのまに間違ってしまっていくのだろうか。
ヒト、というものは。
あのときですら理をかえてもやはり人は自ら滅びの道をたどろうとしていた。
自分があのとき、種子を発動させなかったとするならば、
理をかえたのだからもう関係ない、とこの地を立ち去っていたとするならば、
この惑星は確実にかつての瘴気におおわれし惑星にかわりゆいていただろうに。
理をかえ、自分がいなくても世界がまわるようになってはいた。
それでも、世界を見続け、見守りつづけていたのは、それは……
そこまでおもい、かるく頭を横にふる。
考えてもしかたがない。
もはや過ぎ去ったもしも、でしかない事柄。
今、必要なのは、これから。
かつてのようにマナを取り上げ、理をかえても間違いなく人は同じ道を歩むであろう。
精霊達は新たに構成しなおすもう一つの月。
それを精霊界、として存続させることにより、直接的な地上への干渉を減らす。
その方法をとることはすでに精霊達にも通達済み。
そして、人間達に新たにかすことになりし試練についても。
その試練の結果によりて、地上をやはり一度浄化するか否か。
それを決定するつもり。
それすらもできないのであれば、やはりゼロからやり直す必要がある。
一度、豊かさに慣れてしまった人間はやはりやり直すことができないのだ、と見切りをつける意味でも。
そんな会話をかわしつつも、ひとまずエミル達もまた、
会話がおわったらしいリフィル達と一度合流するために、ダイクの家にとむかってゆく――
「遅かったわね」
開口一番、いきなり口をひらいていわれたのがそんな言葉。
すでに家の中からでてきていたらしく、家の前にてエミル達五人がもどってくるをまっていたらしい。
一応、基本的なことはダイクに伝えており、
一部のものをこの場に残して自分達のみ一度村にもどることも伝えている。
だからこそ、森の中に散策にでたらしきエミル達をまっていたのだが。
「あ。すいません」
「ロイド。このコスモス、おそなえしてきてもいい?」
そんなリフィルにかるくエミルが謝り、一方で、
マルタが手にしているコスモスの花の束をみせ、ロイドにと確認する。
「お、おう。コスモスとってきたんだ。母さんも喜ぶよ」
そういえば、とおもう。
墓にいったとき、ロイドがみたことのない花が添えられていたが。
ダイクにきいてもそれは知らない、といっていた。
では、だれが母さんの墓にあの花を?という思いがロイドの中にはあったりする。
よもやクラトスがこの地にきたから、という理由にて、
アンナのすきだった花を供えているなど、予測できるはずもなく。
ゆえに、ロイドの中ではひたすらにハテナマークが飛び交っており、真実はわからぬまま。
「さて。全員そろったところで。まず、私とコレット。そしてしいなにゼロス。
そして、セレス、マルタ、ミトス。この七人で村に一度もどってくるわ。残りは、ここでまっていて頂戴。
さきほどダイクに頼んだ人物図鑑のことも後はおねがいするわ」
先ほど、コレットの要の紋のことをきいたのち、図鑑のこともリフィルはダイクに頼んでいる。
ダイク曰く、一晩はかかる、というのだから、
そのままならば用事を先にすませてきたほうがいい。
という結論にリフィル達はといえばいたっているらしいが。
「それじゃ、わしはさっき預かったあれをしておくが。
記憶は、ロイドの記憶から抜きだす、のでいいのかの?先生」
「しかたないわ。ロイドが面白そうだ、といって立候補しているのだもの。
それに、実害はない、のでしょう?」
「理論上は、な。まあ、どの記憶が転写されるかわからないけどな」
何やら二人だけ、否、ダイクの説明をきいているものにのみわかるような会話をしているこの二人。
「?どういうこと?」
マルタはそんなリフィルとダイクの会話が理解できない。
「?マルタは人物図鑑の作り方の明細ってしらないの?」
いってなかったかな?ともおもうが、そういえば、ともおもう。
かつてのときは、自分の力で自動的に記載されており、
このようなものをマルタはしたことがなかったな、と。
自分がいなかったときはテネブラエの力において自動的に魔物図鑑や道具図鑑、
それらの【コレクター図鑑】ともよべしそれらに記載されていたようではあるが。
「昨夜、リフィルさんのいっていた、人物図鑑、なんだけど。
あれって、指定した人の深層意識に保存されている様々な映像。
それらをペリット、ってよばれている石に投影することによって、
当事者がであった生命体の姿を外に取り出すことができるっていう技術なんだよ。
もっとも、投影するのは映像だけ、なので、簡単にいえば、
そうだね。テセアラでマルタもみたとおもうけど。
映写装置みたいなもの、とおもったらいいとおもうよ」
「そういえば、エミル。あなたは知っているみたいなことを昨夜いっていたわね。
その知識はどこから得たのかしら?」
さぐるようなそんなリフィルの視線にエミルはただほほ笑んだのち、
「もっと簡単にいえば、マルタが以前いってたでしょ?しゃべる剣とかの話し」
「ああ。あれ?昔あったとかいうお伽噺の?」
「あの技術に近いものだ、とおもえばいいとおもうよ」
もっとも、あれは人格そのものを投射し保存するがゆえ、
ただの映像のみを投影するアレとは異なるが。
そもそも、かの投影技術はあれから発生したいわば予備の技術なようなもの。
しかも昔はたしか指定して映像を呼び出すことができていたはずだが、
おそらく今いきている存在達は、そこまで細かなマナの指定などできないであろう。
しゃべる剣、という台詞に反応したのか、
「おう。あの伝説の天地戦争時代に開発されたという、人格をもつ剣のことか。
ありゃたしかハロルド博士という天才がつくった。といわれているな。
昔はドワーフの一族にもその技術は伝わっていたようだが。
いかんせん、かの核となりし石をつくるのに膨大なマナが必要なのもあり、
今では確かに、お伽噺でしかありえねえな。
もっとも、どこかで膨大なマナを仕様できるような設備があれば別だろうが」
マルタの台詞に反応したように、ぽん、と手をたたきながら、
リフィル達とともに家からでていたダイクがそんなことをいってくる。
そもそも、人間達が使用しているエクスフィア。
かの品の利用方法もかの技術方面から枝分かれしてできた技術といってもよい。
あれは微精霊達を殺すというよりはどちらかといえば膨大なるマナにより、
強制的に精霊石に宿りし精霊達を孵化させたのち、
孵化し殻となりし石を凝縮することにより、
コアクリスタル、といわれし品を作りだしていた。
それに被写体となりし人物の記憶と人格を投射することにより、
その被写体の分身、ともいえるもう一人の被写体をつくりあげたかつての技術。
「天地戦争時代の技術を発掘、または見直してつくられし技術。
それがエクスフィアの元、ともいわれていたらしいな。
この俺とてそのあたりのことは詳しくはわからねぇが。
そういう話しがあるっていうのもまた事実だな」
マルタの台詞に何やらうんうんうなづきつつも、そんなことをいってくるダイク。
どうやらこのダイク、そのあたりのことは一応簡単ながらも、
知識継承も行われているらしい。
まあ、アルテスタが実際に、そのコアクリスタルを使用しているにあたり、
たしかに技術面では失われているというよりは、
それらを作成する施設面がととのっていないだけ、というほうが正しいのかもしれない。
かといって、あれをほいほいとつくられてもかなり困るが。
実際、彼女の真似をして、アレを作成しようとしたが、
彼女はその技術をドワーフのみに伝承したのち、全ての技術における資料を無と化した。
…まあ、その過程で精霊に興味をいだき、精霊を捕らえようとする品を作りだそうとし、
それにきづいたがゆえ、センチュリオン達にそれとなく注意させにいった、という事情があるにしろ。
それは遥かなる過去の記憶。
まだ、ミトス達ですら産まれていなかった、かつての記憶。
「そんな技術があるんですか。初耳、です」
「そりゃ、当時の博士は悪用されないように、俺らドワーフ一族のみにその技術を伝承させたのち、
全ての研究結果を破棄した、と伝えられているからな。
残っているほうがおかしいとおもうぞ?まあ、そこのマルタちゃん?といったか?
嬢ちゃんのいうように、そういったものがあったというお伽噺的な伝承。
そういったものは残っているにしろ」
ダイクの言葉に感心したような声をあげるアステルに、
ダイクが腕をくみつつもそんなことをいってくるが。
「まあ、このペリット投影はそんなに隠されるような技術面でもないからな。
普通にエルフ族にも伝わっているはずだから。そもそも、あれをもらってきたのも」
「ええ。アスカードのハーレイってひとからもらいましたわ」
実際、リフィルはハーレイからそれを受け取っている。
世話になった、という理由から。
また、アイーシャを助けてくれたお礼、という理由もかねていたらしい。
ダイクの言葉にうなづくようにして、リフィルが返事をかえしているが。
「とりあえず、とっとと用事をすませにいきませんか?リフィル様ぁ。
話しはあとでもゆっくりできるっしょ?」
話しが絶対に長くなる。
そう直感し、ゼロスが会話を遮るように、両手をすこしばかりあげて、
やれやれ、といった様子を示すかのようなポーズをしつつそんなことをいってくる。
「あら。私としたことが。
ダイク。あとでこちらの用事がすんだら、そのあたりの会話をいろいろと聞かせてもらってもいいかしら?」
「おう。かまわねえぞ?そういや、先生とそういった話しをしたことなかったな。
いつもロイドに対する学習態度における指導はあったにしろ」
「そうですわね。いつもロイドの授業態度において、
あなたにも注意をしていたのだけど、この子ったら……」
「うっ」
何やら話題が自分のほうにむきだした。
そんな旗向きの悪さを感じたのか、
「お。俺、ノイシュを散歩させてくる!」
「あ、こら!ロイド!…ったく」
旗向きの悪さを感じ取り、すばやく馬小屋に入れられているノイシュのもとにいき、
そのまま、ノイシュの体をぽん、とたたき、
ノイシュの背にまたがりて、いきなりその場を離脱しているロイドの姿。
「あ!ロイド!って、いっちゃった……」
そんなロイドの後ろ姿をみて、コレットが何やらさみしそうな声をあげているが。
コレットからしてみれば、どうやらロイドに見送りしてほしかったらしい。
「まったく。あの子はいつも自分に都合がわるくなりはじめたら、
ノイシュを口実にして逃げるあの癖、なおっていないわね。
…旅をして少しはなおったかしら、とおもっていたのだけども」
そんなロイドをみおくったのち、リフィルが盛大にため息をつきいってくる。
実際、普通に廊下などにたたせていても、いつのまにかノイシュのもとにいき、
授業をさぼっていたことは数知れず。
だからこそ、リフィルはあえて、廊下、ではなく教師の後ろに立たすことにした。
目をはなしたら何をしでかすかわからないがゆえに。
「ロイドのことは仕方ないわ。とりあえず。じゃあ、ジーニアス、あとはお願いね。
リーガル、子供達のことを頼んだわ」
「うむ。任された」
たしかにゼロスのいうとおり。
ここで話しこんでいても時間が過ぎていくばかり。
まずは、先に村にいき、用事をすませてそれからいろいろと話したほうがいいであろう。
ダイクがいうには、材料がなければコレットの要の紋はどうにもならない、という。
そもそも、リフィル達がその材料というかこういう方法を調べている、
という方法を伝えたゆえに、それは特殊な要の紋だな、とダイクが同意した。
リフィルたちがその知識をいわなければ、ダイクとて、
よもやクルシスの輝石に特殊なる要の紋が必要、などとはおもってもいなかった。
ダイクがそれに気づけたのも彼らの説明があったからこそ。
つまりは、リフィル達が事前に、ジルコンやマナの欠片、そしてマナリーフ。
それらを利用して要の紋を作成する云々、という内容をしっていたがゆえに
ダイクも答えることができたといってよい。
リフィルの言葉をうけ、こくり、とうなづくリーガル。
「では、プレセアさんはドウシマス、カ?」
「薪が少なくなっているみたいですから。薪をとりにいってきます」
お世話になるのならば、何か別の自分のできることを。
よくよくみれば、薪置き場の場所に薪がすくなくなっていた。
ならば、樵、として生計をたてていた自分がそれくらい手伝っても問題ないだろう。
それゆえのプレセアの台詞。
「デハ、私もお手伝い、します。マスター・アルテスタの薪を私もとっていましたから」
アルテスタの家のそういった細かな品々は全てこのタバサがそろえていた。
ゆえに、タバサもまた、そういった機能はもっている。
…もっとも、彼女の場合、道具をつかわずともその腕力だけでどうにかなる。
という事情があるにしろ。
「ぼ、僕も手伝うよ!ププププレセア!力仕事ならままままかしといて!」
そんなプレセアの台詞に、はいはい、とばかりに手をあげて、
猛烈に自分をアピールしているジーニアス。
「…ジーニアスじゃ、プレセアやタバサさんにもたぶん、力は劣るとおもうけど…」
ぽつり、とつむがれたマルタの台詞に、
「う!で、でも人手はあったほうがいいし!」
実際、プレセアよりも力が劣る、と自覚しているだけに、
ぽつり、とつむがれたマルタの台詞はぐさり、とジーニアスの心をえぐり取る。
現実に、プレセアが運んでいた神木とよばれし丸太をロイドとジーニアス。
二人がかりでも運べなかったことがあったゆえに、マルタの指摘は的を得ている。
それでも負け時とばかりにいいきるジーニアスはあるいみ強いといえるのかもしれない。
「じゃあ、僕はいつものように、料理の準備、かな?
このあたりっていろいろと山菜豊富みたいだし。たまには山菜料理もいいだろうし」
「あ、エミル!私もてつだうね!」
「植物採取なら僕も手伝うよ!エミル、お兄ちゃんをたよってね!」
「…まだアステルさん、あきらめてないんですか……」
「……あきらめろ。というか、エミル、いい加減に受け入れてはどうだ?
こいつは絶対に、お前が【兄】とよぶまでいいつづけるぞ?」
ぐっと握りこぶしをつくり、エミルにたいしいってくるアステルにたいし、
エミルはただただため息をつくしかない。
というかまだ諦めてなかったのか、この人間は。
という思いのほうがはるかにつよい。
そんなエミルにぽん、とその肩に手をおきつつ、どこか哀愁のこもった視線にて、
ぽつり、といってくるリヒター。
エミルとしては、どうみても自分のほうが年上…というか、
どうみつもっとも自分よりも上のものはいないのだが。
嘘をつくような感じゆえに、どうしてもそうはよべない。
まだ、近所のお兄さん、というような形ならばともかくとして。
アステルがいっている意味がそうでない、と判る以上、
どうしてもそう呼ぶことに抵抗がある。
すなわち、それはラタトスクら精霊にとって嘘をつく行為にも近いこと。
そしてそれは、精霊にとってはもっとも嫌悪していることに近い、のだから。
基本、精霊はその本質的に嘘はつけない。
もっとも、ラタトスクはその永き時をえて、嘘ではないが真実でもない。
というような逃げ道をよく使用しているにしろ。
そして、それは他の精霊達にもいえている。
嘘をつくこと。
すなわち、基本、精神生命体にも近しい彼らにとって、
それは自分達の本質をとぼしめる行為にも他ならない、のだからして。
そんなことを思いつつも、ちらり、とアステルとリヒターをみてため息一つ。
本当に、この二人をみているとときどきおもう。
なぜ、こんな
あのとき、リヒターはリヒター自身の身を魔族に売り渡してまで、
自分にたいし復讐をしようとしていたんだ?と。
確かにあのとき、マナを整えてくれ、といってきて、
人間は世界に必要な要素だ、といったアステルの言葉にかっとなり、
一撃で殺したことは否めない、のだが。
このアステルをみていれば、あそこまでリヒターが怒った理由がよくわからない。
どうみてもアステルに振り回されている、としかおもえない、というのに。
それはおそらく、リヒター当人にしかわからない、のであろう……
「人物図鑑…かぁ」
ぱらり、ぱらりと本をめくるが、その仕組みがよくわからない。
「マナがこの本には付属されてるから、
よみとった情報が自然とこの本に記載される仕組み、みたいだね」
リフィル達はすでに村についたころであろうか。
「そんなものか?」
「そんなものなんだよ」
ロイドの問いかけに、きっぱりと、断言するようにいいきるジーニアス。
意識を投影するのは一日に一度だけ、というわけではなく、いくらでもできるらしい。
ゆえに、今ある手持ちの品にて挑戦してみたのがつい先ほど。
時折うけていたネコニンギルドの依頼達成時に、
なぜに宝石みたいなものももらえるのか、とおもっていたが。
売るにしても何となくのけておいた品がこういう形で利用されるとは。
そんなことをおもいつつも、椅子にすわりつつ、目の前にある本をめくる。
意識の投影とともに、そこには読み取った情報が記載されており、
組み合わせに応じて様々な生命がこの本には記載、されるらしい。
もし読み取る情報がこの本より増えればどうなるのだろうか?という素朴な疑問は、
この本そのものに特殊な仕掛けがほどこされており、
簡単にいえば複製する機能が含まれているがゆえ、紙が足りなくなる、
ということはありえない。
ちなみにこの複写機能は本そのものに転写されている魔方陣による効果であり、
これらの魔方陣をかつては解析して様々なものを複写しよう、という試みもなされていた。
そもそも、この本自体に使用されているのがマナリーフの繊維そのものであり、
そこにさらには精霊石の欠片を砕き使用しているがゆえ、
そう簡単にただ転載したから、といって使用できる代物でもない。
貴重品ではあるが、しかし記憶の転写がおこなえる技術をもっているものがいない。
ということもあり、ほとんどが宝の持ち腐れ状態であるといっても過言でないのが、
この人物図鑑。
最も、遺跡関連、すなわち古代のことを調べているものにとっては、
それはそれでとてつもないお宝の一つ。
ハーレイも自分でもっていても使い道がないがゆえ、お礼を兼ねてリフィルに手渡したという経緯がある。
最も、そんな事情まではロイド達は知らされてすらいないが。
「よくわかんねぇ。なんか親父が宝石手にもって、俺の頭におしつけてさ。
何かつぶやいてたかとおもったら、いつのまにか宝石に模様が刻まれててさ」
しかも、宝石の内部にわたり鮮明に。
細かな線とともに、たしかに宝石の中に何かの模様らしきものが突如として刻まれた。
そういえば、ともおもう。
「あれって、エミルが時々何かいってる旋律の何かに近しい言葉、だよな?」
エミルが精霊達と会話しているっぽい何かの旋律。
ダイクがつぶやいていたその言葉はそれに近い。
ダイク自身はその言葉の意味をきちんと把握していないが、
それは呪文のようなもの、としてそれを唱えればできる、という認識でしかない。
「でも、ランダム、というのが何だよね」
結構な数を消費したような気がするのに。
この本に記載されているのはさほど種類がなかったりする。
つまるところ、いくつも映像がだぶっている、ということに他ならない。
「意識を投影して、その投影された模様を彫ってできる…か」
ちなみに、一つ間違えば、投影された品が彫り上がる前に壊れれば、
どういう仕組みなのかわからないが、本に記載された文字も消え去る、らしい。
完全に彫像が完成し、本の上におくことにより、記載された文章は完全なものとなる、とはダイクの談。
それまでは、ここにかかれている文字はいわば仮記載のようなもの、であるらしい。
「ダイク叔父さんからもらったこの説明書。なんかいろいろとかかれてるよね」
そこには、ダイクがこの図鑑を完成、もしくはペリットの像をつくるにあたり、
注意事項を簡単にかかれた品が今現在、ジーニアスの手のうちにとある。
人物名鑑とよばれしこの図鑑。
人物名鑑とよばれしこれは、これまでロイドが出会った全ての生命体。
すなわち、様々な人、もしくは動物といった品々の姿形。
それらをペリットに意識下より特殊な力によって記憶を投影することにより、
そして投影された姿をきちんと寸分たがわずに彫り像をつくることにより完成する品。
つまるところ、簡単にいえばちょっとした宝石の細工品ができあがる、といった具合らしい。
ロイドもまた、挑戦してみろ、といわれ、その手にノイシュの模様がはいりこんでいる宝石。
それらを今現在手にしているが、何でもノイシュの模様がきざまれたそれは、
なぜか五つもできたらしく、つまりは五つもノイシュの姿がだぶった、らしい。
台所のほうからはいいにおいが漂ってきていたりする。
すでにエミル達も山菜を取り終え家にもどってきており、
リフィル達が村で一泊するかどうかはわからないが、
念のためにリフィル達の分までつくっておく、とはエミルの談。
そして、今現在、ジーニアスとロイドはロイドの私室にとやってきており、
ジーニアスはロイドのベットの上にこしかけ、
そしてロイドは自分の机の上にペリットをおき、
それをみながらジーニアスと会話をしていたりする。
「エミルやプレセアにもノイシュの模様わたされてたよね?誰のが一番上手にできるのかなぁ?」
「む!エミルに負けてたまるか!
というか俺だって器用さではまけてないはずなんだからな!」
どうもここ最近、エミルの手料理の凝りぐあいにより、
ロイドが自分で長所だ、とおもっている手先の器用さ。
それの部が悪いような気がする。
ロイドもまた、エミルの手伝いをし、食材をエミルのようにしようとするが、
うまくいかずに、どうしても細かな細工がつくれない。
手加減一つで簡単に食材そのものが崩れてしまう。
「あはは。まあ、コレット達がもどってきたら。
どの作品が一番いいか、確かめてもらおう。っていいだしたの、ロイドだよ?」
そう、ノイシュの模様が重なっているといわれ、
ダイクに手渡されたとき。
たまたまそれを利用していた宝石類がそれぞれ色違いであったこともあり、
何となく、誰が一番器用なのかな?とぽつり、とジーニアスがつぶやいたのをうけ、
俺だって器用にほれる!とロイドがいいだし、そして今にいたる。
ちなみに、ロイドが手にしたペリットは、赤。
どういう仕組みなのかはわからないが、きちんと模様にそって彫り込んでいくことにより、
ペリット自身に色が浮かび上がる仕組みとなっている、らしい。
そして、それは細部にわたるまでにあるきざまこまれた模様。
それをどこまで忠実に彫り込めるか、というので出来が異なるらしいのだが。
ちなみに、ノイシュの絵がかぶったとはいえ、全て同じ動作のものではなく、
それぞれが、たとえば寝ている動作、走っている動作、
そして小さくなり、ポシェットにはいっている姿、などその姿は様々。
それ以外は、ダイクがちょうどいい息抜きになる、といって今晩中に全て作り上げておく。
といってもっていってしまっているまま、なのだが。
ダイクが作業場にこもってしまった以上、ロイドとしてもすることがない。
だからこそ、手渡されたこれを完成させるために、自分の部屋にやってきている今現在。
ちなみに、エミル、タバサ、プレセアは食事の用意をしており、
リーガルはダイクの作業に興味があるらしく、
ダイクの許可をとり、静かにその作業をダイクの作業場でみまもっていたりする。
アステル、リヒター、リリーナの三人は、このあたりの生体系に興味があるらしく、
しばらくこの付近を探索してくる、といって今はいない。
まあ、リリーナもついているので辺なところにはいかないだろう、ということもあるが、
一番の原因は、なぜかエミルが呼びだした魔物の存在が大きいといえる。
何しろ、彼らが牧場に近づこうとしたらおそってもいいから。
にこやかにそういいきったエミルの台詞は今でもロイド達に危機感を抱かせた。
何しろおそわれても多少体がとけるか、服がとけるかくらいだから問題ないでしょう?
とにこやかにいったエミルの言葉はいまだに忘れられない。
そもそも、スライムの一種ともいわれるプリンをどこからともなく呼び出して、
この子たちを彼らについていかせるから問題ないとおもうよ?
そうにこやかにいいきったエミルの行動はつい先ほどのこと。
このあたりにプリンは生息していない。
その甘い香りにつられ、それを口にしてしまえば胃がかるく溶解し、
下手をすれば体全体が溶解し、プリンのえさとなってしまう。
そんな魔物がこのあたりにいれば、知らないはずがない。
だとすれば、いつものようにエミルが呼びだした、のであろうが。
魔物を呼び出すのは今にはじまったことではないのでまあいい。
いいが、そのチョイスが何ともいえない。
魔物の意思一つで相手を溶解させ、餌とするような魔物を監視?につける。
ロイドやジーニアスが思わず顔をひきつらせたのはいうまでもない。
「そりゃそうだけどさ。…しかし、あいつら、プリンに溶かされてない、よな?」
「…だ、大丈夫、だよ。きっと」
「「・・・・・・・・・・・・・・・」」
「…とりあえず、俺、これ、頑張ってほるわ」
「うん。僕、なら、エミル達の料理の手伝いしてくるね」
何となくではあるが互いに顔をみあわせるとともに一瞬無言になったのち、
考えることを放棄したのか、ロイドは目の前のペリットにむきなおり、
その手にノミをてにとり、作業にとりかかる。
そんなロイドをみつつ、ジーニアスもまた、ロイドの邪魔にならないように部屋をあとにする。
考えていてもしょうがない。
まあ、たぶん、変なことをしないかぎり彼らは大丈夫であろう。
…きっと。
~スキット・リフィル達が村にでむき、残されたロイドとの会話~
ロイド「しかし、これ、ほんとなつかしいよなぁ」
エミル「?何が?」
ロイド「これさ。親父が俺が中にはいらないようにって。
周囲に杭をうちまくって、ついでに歩くのに便利だろうって。
小さいころにつくってくれたんだよな」
エミル「へぇ」
ロイドがみていっているのは、ダイクの家の周囲にはりめぐらされている、杭と、
その杭を結ぶようにしてある麻の紐。
つまるところ、杭と紐でつくられた柵のようなそれ。
ロイド「今はあまり関係ないかもしれないけど。
けっきょく、つくったのだからそのまま、になっちまってるんだよな。これ」
ロイドが目をはなしたらどこにいくかわからない。
また、また一人で勝手に森の中にどこからでもはいらないように、
ダイクが考えてつくったその柵もどきは、
今ではダイクの家にいくための道しるべ、ともなっている。
たしかに森の中に道はあれど、木々をとるためにいくつもの道があり、
ゆえに、この道しるべもどきがなければ、始めて森にはいったものは確実に迷う。
それほどまでにこの森は鬱蒼と茂っており、また道をまちがえれば、
問答無用で人間牧場がある方向にといってしまう。
エミル「ダイクさんも、人の子を育てるのが初めてだったから、いろいろとやったんだね」
その気持ちわかるなぁ。
思わず遠い目をするエミル。
実際、かつて自分もこの地ではやったことがないが、幾度か子育てもどきは経験している。
それゆえに、どことなくダイクに親近感をもってしまう。
…面倒なのでセンチュリオン達にまるなげしたりしたことがあった、というのはともかくとして。
ノルンの場合も無から生み出したせいか、かなりの甘えん坊となっていた。
あの子の場合は人の愚かさが原因で世界が疲弊しかけていたがゆえ、
始めから自我をもたさずにうみだし、人とともにまぎれて自我を育てることにより、
多少の柔軟性をもたせようとした結果、なのだが。
ある程度の自我が育ち、ゆえに問題ない、と判断し、彼女にあの惑星を託し、
そして自分は彗星にと意識を移した。
エミル「…ノルン、元気かなぁ」
ロイド「?誰?それ?」
ジーニアス「?エミルの知り合い?」
エミル「うん。ちょっとね」
ロイド「そういや。俺達、エミルの友好関係ってしらないよな?」
ジーニアス「…えええ!?ロイドが友好関係なんて難しい言葉がいえた!また地震がくるよ!絶対に!」
ロイド「どういう意味だ!」
エミル「あはは。…まあ、地震はたしかにくるだろうけど」
というか、そろそろ本格的に大地の移動の下地はできた。
人間達は気づいていないであろうが、これまでの地震によって今現在。
実は、大地そのものは、完全に地下と切り離されている状態となっている。
すなわち、簡単にいえば、大地そのものが浮いている状態、といえる。
次なる契約ののち、目に見える形でいっきに大地は移動させてゆく予定でもある。
一度、浮遊させて移動させたほうが、大陸、そして海の間におこる摩擦もすくなくてすむ。
それゆえの処置。
ロイド「エミルまで!」
ジーニアス「でも、たしかに。エミルの交友関係ってきになるんだけど?」
エミル「そう?まあいいじゃない」
ジーニアス&ロイド「「きになる」」
タバサ「なんだかみなさん、楽シソウ、デスネ?」
プレセア「なんか、はいっていけない?でもたしかに。
エミルさんの友好関係はきになり、ます」
リーガル「うむ。で、どうなのだ?エミル?」
エミル「まあ、あまり気にするような関係はないですよ。きっと」
ロイド「でもさ。何となく、エミル、ミトスに似た誰かと知り合いでもいるのか?」
エミル「え?」
ロイド「いや、何となくさ。エミルがミトスをみる目って。
なんかなつかしいような人をみるような感じがしてるんだよな」
エミル「・・・・・・・・・・(このあたりはするどいんだな。このロイドは)」
ジーニアス「でも、ミトスはテセアラの人でしょ?エミルはここ、シルヴァラントだよ?」
プレセア「…世の中、には似た人間は三人いる、といいますし。それなのでは?」
リーガル「…面影をのこしている、という人間もいるだろうしな。
そしてそれが失われた相手だとすれば、そういう視線でみてしまうこともあろう」
実際、リーガルはプレセアにアリシアの面影を重ねている。
ロイド「…わりぃ。そのミトスに似てるかもしれない知り合いって、もしかして……」
エミル「大丈夫だよ。ありがとう。ロイド、心配してくれて」
それに、彼らが心配しているようなことはない。
そう、まだミトスはきちんと生きている、のだから。
あのときとは違って。
※ ※ ※ ※
神託の村、イセリア。
シルヴァラントにおいて、聖地にもちかしい場所ともいわれ、
そしてまた、シルヴァラントの中において唯一、
ディザイアン達と不可侵条約を結んだ、とされている地。
もっとも、再生の旅の最中、ディザイアン達が契約を破って攻撃をしてきた。
…まあ、そのときにはロイド達はあれがディザイアンではなく、
レネゲードだ、とはしらなかったのだからしかたないにしろ。
神子一行からその話しをきいた教会関係者は、彼らは約束を守るような輩ではない。
と改めて認識し、そしてより人々に注意をうながしている今現在。
つまり、ディザイアン達が何をいってきても、彼らはその約束をまもるはずがない、と。
実際、パルマコスタのドアが完全にだまされていた、という事情もあり、
そしてそのことは、異形と化していたにしろ、意識のみはあったクララも理解している。
一行が牧場を破壊し、さらには、そこに囚われている人々を救出している中で、
誰しもがより神子コレットに期待と希望を抱いている今現在。
それが、今のここ、シルヴァラントの現状。
「止まれ!…うん?神子様?神子さまではありませんか!
それに、リフィル先生も。…弟君はいないようですな?」
ロイド達をダイクの家にと残し、そこから徒歩で移動することしばし。
ノイシュもダイクの家にのこしており、
ゆえに、今現在、リフィル、コレット、マルタ、セレス、ゼロス、しいな、ミトス。
この七人にてイセリアの村にと移動してきたのだが。
街道沿いをあるいていき、村の入口付近にたどりついたかとおもうと、見張りの村人、なのであろう。
彼らより突如として竹でつくられし槍を突き付けられる。
その先っぽに気持ち程度、金属でつくられている矢じりらしきものがみてとれるが。
これで襲撃者などがやってきたら撃退できるのか、といえば、
かなり不安な品としかいいようがない。
入口をふさぐようにして竹やりを構えた二人の男たちであるが、
やってきた見慣れぬ一行の中にみおぼえのある姿、
銀の髪と金の髪の人物をみとめ、その槍をほっとした表情をうかべかるくさげる。
それはこの村の希望であり、世界の希望である少女の姿。
そして、その少女とともに護衛として旅にでたはずの女性の姿。
さらにいえば、ディザイアンをこの村に呼び込む原因ともなった少年の姉。
「リフィル先生、それに神子様も、いったい……」
困惑したような声を一人が紡ぎだせば、
「その説は弟、ジーニアスがご迷惑をおかけしたみたいで申し訳ありませんわ」
弟達がわるかったのは事実。
ゆえに、そんな村人にたいし、深くいきなり頭をさげるリフィル。
たしかに、人としてはいいことをしたのかもしれないが。
後先を考えて行動しなかった結果、被害はより膨大となった二人の子供のしでかしたこと。
そもそも、ジーニアスがマーブルという女性にあいにいかなければ。
救いの塔が出現した時期であり、ディザイアン達も警戒を強めていたであろうに。
そんな中で騒ぎをおこせばどうなるか。
考えなかった子供達の落ち度。
その結果、死ななくてもいい命が命を落とした。
マーブルだけでなく、村人たちも。
「まったくです。いくら子供とはいえしていいことと、悪いことが…
おかげで、村人が数名、犠牲になりましたよ」
吐き捨てるようにそういうが、リフィル自身にはさほど嫌悪感は抱いていないらしい。
かるく頭をさげるリフィルにたいし、そんなことをいってくる。
それでも、身内を殺されたものは、リフィルに対してもいい思いを抱かないであろう。
しかし、救いの旅にでて、救いの塔にいったはずの彼らがどうしてここに。
そんな彼らの疑問に答えるかのごとく、
「しかし。いったい?神子様がたは、救いの塔にむかわれた。
という報告は我らはうけているのですが?」
神子達がハイマから救いの塔にむかった。
というのはすでにここ、シルヴァラントの存在達の間に知れ渡っている。
にもかかわらず、なぜに神子がこの場にいるのだろうか。
きになるらしくそんなことをといかけてくる。
そんな彼らにたいし、
「マナの血族、ファイドラ様にお目通りをしなければならない事ができましたので」
淡々と紡ぎだすリフィルの姿。
リフィルの台詞に嘘はない。
そんなリフィルの説明をうけ、
「ロイドとジーニアスがこの場にいないのはわかりますが。あのクラトス殿は?それに……」
追放されている、というのは彼女もしっているはず。
そして、ロイドとジーニアスが神子一行に加わっている、というのも彼らは旅の噂で知っている。
それをきき、村長があんなよそものたちが一緒にいれば、
神子の旅が成功するものも成功するはずがない、
と何やらわめいているがゆえ、この村でそのことを知らないものはいない、といってよい。
護衛として雇ったはずのクラトスという人物の姿がみあたらないことに不審を抱く。
そんな彼の言葉を遮るかのごとく、
「こちらのマルタ・ルアルディは正式なるパルマコスタよりの使者です。
あなたは正式なる使者をいつまでもここで立ち往生させておくつもりですの?
私たちは急いでいます。村への立ち入りを希望しますわ。
まさか、使者や神子を村にいれない、ということはありませんわよね?」
「し、失礼いたしました!すぐに、連絡してきます!」
見張りはどうやら二人がかりでしていたらしく、一人があわてて村の奥にと駆けだしてゆく。
さすがに、シルヴァラントでも一番大きい、といわれているパルマコスタ。
その街からの正式なる使者、といわれ、思うところがあったらしい。
たしかに、神子がもどってきたのも一大事。
まさか、とはおもうが。
村長がここ最近つづく自身は神子が失敗したからだ!と高らかにいっているが、
しかし、人々はそれを冷めた視線でみていたここ最近。
何しろ、たしかに地震は頻発しているが、ディザイアンの被害はぱったりとやみ、
それどころか自然も以前とくらべいきいきしている。
そんな中で地震が発生していたとしても、
それはディザイアン達が最後の悪あがきで何かしでかしているのだ。
というような認識のほうがつよく、
村長が一人、神子が悪い、とわめいているのを冷めた目でみていたりする。
ゆえに、神子が戻ってきたことに何ともいえない思いをいだく。
おそらく、何かが発生し、ここに神子達はいるのであろう。
しかし、神子がしっぱいした、と一人で勝手に騒いでいる村長がこのことをしれば。
そんな見張りの男性の心配は、直後、現実のものとなる。
「な、なぜ神子、それに村を追放したはずのよそものの姉がここにいるのだ!」
高らかな声が、辺り一帯にと響き渡る。
みれば、村の奥のほうからあるいてくる恰幅のいい男性が一人。
しかも、顔を真赤にし何やらどなりつつ、リフィル達のほうへずがずがとあるいてくる。
そして。
「やはり失敗したのだな!このできそこないの神子め!この村にどんなつらをさげてもどってきた!
この地震が頻発するものおおかた、お前が旅から逃げ出したからだろう!」
いきなりといえばいきなりの暴言。
顔を真っ赤にし、きめつけ、とばかりにそんなことをいってくる。
「そんな。コレットはそんなことはしてないわよ!そういうあんたは何ものよ!」
むっとしながら、マルタがそんな村長の言葉にかちん、ときたのか言い返すが。
「何だ?きさまは?小娘が、だまっておれ!
そもそも、リフィル。きさまの弟のせいで、この村は壊滅的なダメージをうけた!
そんな被害をだすような疫病神のものを同行させるような神子を信じた私らが愚かだったのだ!
旅を失敗させておいてよくもまあおめおめともどってこれたもんだな!
まったくもってけしからん!これだからよそ者と仲良くする神子は…
いや、神子もまたヒトではなかったのだな。化け物とよそもの。できそこないの神子め!
そんな存在らが一緒にいては失敗するのも…」
顔を真っ赤にし、興奮したように何やらいいまくってくるその男性。
完全にコレットが失敗したもの、ときめつけた上から目線のその物言い。
「黙れ!」
さらに何やら言いつのろうとする目の前の男性の言葉をさえぎるように、
これまで黙ってその台詞をきいていたゼロスが大きく叫ぶ。
そして、ちらり、とリフィルに視線をむけたのち、
「よもや、神子の血族をまもりしはずの土地におまえのような愚かな考えをするものがいるとはな」
腕をくみ、こちらもまた上から目線のごとくに淡々といいつのる。
そんなゼロスのものいいと態度にかちん、ときたのであろう。
「何だと!きさま、何もののつもりだ!
そもそも、神子は救いの塔でなぜに命をとっとと捧げておらん!
ここ最近頻発する自身は神子がにげているからに違いないのだ!!
それをきさまのような得体のしれないよそものにとやかくいわれる筋合いは……」
「だまれ!そのほうはならば、天界の意思にさからう、というのか!?」
ピシャリ、というか威圧感をこめたゼロスの台詞。
さきほどからしいなはそんな目の前の男性の台詞をきき、あからさまに眉をひそめていたりする。
こういった罵詈雑言になれているしいなといえど、この目の前の暴言はあからかにひどい。
「何をいう!どこのだれともしらないものが、そもそもきさまはなにやつだ!
それにだ!神子はともかく、村を追放したものの身内も村にはいれられるか!
この私が村長だ!村長の決定は絶対なのだ!」
高らかに、それでいて威張るかのごとくにいいきってくるその男性。
その台詞をきき、傍にいる村人がおもいっきり顔をしかめていたり、
また顔色をかえていることにすらこの村長、と名乗った人物は気づいていない。
「そのほうのいい分、よくわかった」
そんな村長となのりし男性の言葉をきき、低く、それでいて感情のこもらない声をだすゼロス。
「なら……」
そこまでいいかけて、村長と自ら名乗った男は絶句する。
目の前にいた赤い髪の男性。
その男性の背があわく輝いたかとおもうと、その背にうかびしは、マナの翼。
それは、マナの神子、としての証といわれているもの。
ふわり、といきなり目の前の赤い髪の男性がうかびあがったかとおもうと、
その背にありしは、橙色にと輝く翼。
マナの翼。
ありえない。
ゆえに混乱する村長に対し、冷めた視線をふわり、とすこしばかり浮かび上がった状態で、
見下ろしつつも、
「女神マーテルの教えのもと、導くはずのこの地におまえのような愚かなものがいるとはな」
それはひどく冷めた、それでいてどこまでも見下したような、
否、完全に見下し、そして侮蔑にみちたようなそんな響きをもっている。
そういったことに少しばかり疎いコレットでもきづいてしまうほどの、
ある意味でいってしまえば絶対零度、ともいえるゼロスの声。
「女神マーテル様の教えは、全てのものを平等に愛せよ、のはずだが。
しかし、お前の今の態度からして、他者を排除しようとする心根がみてとれた
さらに、天界の使いでありし神子、コレットにたいする暴言。
シルヴァラントの神子と対をなす、我、テセアラの神子として見逃すわけにはいかん!」
ゼロスの叫びとともに、ゼロスの翼が淡く、それでいて強く輝く。
「な…テセアラだと!馬鹿な!それはお伽噺の月!」
何かのトリックかとおもうが、そんな様子はみられない。
たしかに、目の前の男は何もしないままに、その翼をもってして空中にと浮かんでいる。
天使の証、ともいえるマナの翼をもって。
「我は、女神マーテル様の意向のもと、この地を見定める役目をおわされた。
お前の態度はつまりは、マーテル様の慈悲をお前達ヒトが自らが拒否する、
ということでいいのだな?我ら神子に対するその態度、万死に値する。
マーテル様は慈悲深いおかただが、我はそうではないのでな」
淡々と相手を見下ろしつつも、絶対零度、ともいえる口調にて、
いいつつも、すっと手を上空にと掲げるゼロス。
輝く翼が橙色から金色を帯び、そして周囲のマナがゼロスにむかって集まりゆく。
そんな光景を目の当たりにしたこの場にいた他の村人たちは、
なぜかその場にひざまづき、祈りをささげていたりする。
そして、この騒ぎをききつけた、のであろう。
村の人々もまた、この場にあつまってきているのがみてとれる。
そんな彼らが目にしたは、淡く輝く橙色から金色にと変化した、
透き通った翼をもちし、見目麗しき青年の姿。
あきらかにいつもと違うゼロスの態度。
ゆえに、思うところがあったのか、ふわり、と自らも翼をだし、
「ゼロス?」
心配そうに、ふわり、とうきあがりつつも、ゼロスの目の前にと浮かび上がるコレット。
「馬鹿な…馬鹿な、馬鹿な、ありえぬ!神子が二人、だと!?」
そんな二人の翼…あきらかに、青年、そしてコレットの背にはマナの翼とおもわしきもの。
それは、ここ、マナの血族にあらわれる、という天使の子の証の翼。
そんなゼロスとコレットをみて一人わめいている村長となのりし男性。
一方にて、ゼロスが何をいっているのかわからずに唖然としているセレス達。
しかし、さすがというかすぐさまにゼロスの意図を察知したらしく、
「おまちくださいませ。テセアラの神子、ゼロス様。
たしかに、このものの言動は無礼きわまりないかとおもわれますが。
しかし、この村は、シルヴァラントの神子、コレットの生地。
彼女が生まれ育ちし村なれど、天の裁きによりて滅びをあたえるのは何とぞ」
すっと片腕を目の前にと礼をとるようにおりて、ゼロスにむかってうやうやしくいいはじめるリフィル。
「え?え…」
何かいいかけようとするマルタとセレスだが、リフィルがきっと強くそんな二人の瞳をつよく睨む。
つまり、何もいうな、と視線で牽制しているようなもの。
「天の裁きって、ジャッジメント?」
一方、いきなりのゼロスのその台詞とリフィルの態度にとまどいながらも、
首をかしげつつ、多少とまどいながらもいっているコレット。
そんな中。
「コレットちゃん。俺様とリフィル様に話しをあわせな」
小さく、ゼロスが本当に小さくつぶやき、その声は聴力が強化されているコレット、
そしてその場にいるミトスの耳にのみとどきゆく。
よくわからないが、どうやら話しをあわせたほうがいいらしい。
ゆえにわからないままに、こくり、とうなづくコレット。
たしかこういったのは前にもあった。
それはたしかテセアラのお城にて。
そのときのことを思い出し、ゆえに素直にうなづくコレットは、
しかしゼロスが何をしようとしているのかわかっていない。
「しかし。我らの同行を許可されしものよ。このようなものがマナの血族の聖地にいる。
それが我らとしてはゆるせるものではないのだが?
小さなほころびはヒトに不安、そして破滅をひきよせる。
このような他者を排除しようとし、立場をわきまえていないものがいれば、
おのずと一族にも被害がおよぼう。我は対をなす神子として、
また、女神マーテル様につかえしものとしても視過ごすわけにはいかぬ」
リフィルの言葉を受け入れたようにふるまいつつ、
それでいて威厳をもった声にリフィルにたいし答えるゼロス。
さすがリフィル様。
きちんと説明しなくても、こっちの意図がわかってるな。
そう心の中でおもうが、それを表情にはあらわさない。
「このもの、このイセリアの村長は、かつて我が弟、ジーニアスが、
ディザイアンとの不可侵条約をやぶり、かの地にディザイアンを害してしまったゆえ。
そのため、村に被害がでたことで、警戒心が強くなっているのですわ。そうですよね?村長?」
「……い、いったい、これは……」
リフィルの問いかけにも、村長は答えることができない。
何がおこっている、というのだ?
神子コレットが失敗して村にもどってきた。
だから、自分はその姿をみてすぐさまに言葉をなげかけた。
できそこないの神子、責任をとれ、という意味合いをこめて。
なのに、何だ、というのだ。これは。
ありえない。
神子の証たる天の翼をもつものが、もうひとり?
それは、まさか、まさか、まるで、天界からの使いが増えた、というのか!?
それに、目の前の天の翼をもちし青年はこういった。
テセアラの神子である、と。
テセアラとは女神マーテルの力によって月に移住したはずの伝説の民。
こころなしか、村長は息もしにくく感じてしまう。
実際に彼の周囲の空気が多少、とある干渉によって薄くなっているがゆえ、
それは気のせい、でも何でもないのだが。
「ひかえなさい。お兄…こちらのかたは、シルヴァラントと対をなすテセアラの神子。
あなたがたのような下賤のものはしらないでしょうが、
本来、神子とはテセアラとシルヴァラント、互いの世界に一人づつのみおられる
女神マーテル様の意思を体現させた天の使い。
本来ならば、お前のようなただの人間が会話をかわす立場でもないのですわよ!」
そんな村長と名乗った男性の姿をしばらく唖然とみていたセレスであるが、
何やらピン、とくるものがあったのであろう。
凜とした態度で、打ち合わせをしていたわけでもないのに、セレスが突如としてそんなことをいってくる。
セレスの中では、かつて幼き日にゼロスからきいた、神子様ごっこ。
それが脳裏をよぎり、ゆえに、おそらく兄がしているのはそれだ。
と瞬時に判断してのこの行動。
この兄にしてこの妹あり、というべき行動はさすがとしかいいようがない。
つまるところ、この兄妹は似たもの同士である、という何よりの証明。
「馬鹿な…馬鹿な、神子が二人いるなど、しんじられ…」
村長が何やら再び叫びはじめたその刹那。
ビシャァァァァァァァン!!
突如として晴れているにもかかわらず、いくつもの雷が村の周囲にとおちてくる。
小さく口の中でつぶやき、呪文詠唱を終えたゼロスが牽制を兼ねて放った術。
そしてそれは村の外、だけでなく村の中にも落雷する。
ゼロスが唱えしは【ジャッジメント】の術。
人のいないところをきちんと狙ってはなっているのはいかにもゼロスらしい。
村長の少し後ろの大地、そして周囲の道などにおち、大地に盛大な穴をぽっかりとあける。
ぶすぶすとした大地の焦げた匂いが周囲に充満するのとほぼ同時。
「お前のような輩がいきていては、マーテル様の教えに反するであろう。ゆえに、死ね」
冷たいまでのゼロスの視線に、村長はすくみあがる。
晴れている中での雷。
それはまぎれもなく、伝承にある天のイカヅチ、裁きそのものではないか。
神子が失敗したとばかりおもっていたが、そうではなく、
まさか、神子はあらたな使命をさずかっており、この村にたちよった、というのか。
なら、神子を散々罵倒し、見下していた自分は……
あんな雷に打たれれば命はない。
それは小さな子供でも理解ができる。
思わずすくみあがる村長。
「ま、まって!おねがい。村長さんを殺さないで!」
死ね、という言葉に反応し、思わずコレットがゼロス、そして村長の間にとわってはいる。
ちょうど、ゼロスと向かい合う形で、
村長の少し前に浮く形でぱたぱたとその場にとどまるその姿は、
その両手をひろげ、村長を完全にかばう姿勢となっている。
これがゼロスの演技のような気がしなくもない。
けど、本気でいっているのか冗談でいっているのかわからない以上、
コレットとしては、目の前で、しかもゼロスに誰かに死ね、などといってほしくない。
「シルヴァラントの神子、コレットよ。
そのものはお前をとぼしめる、さらには否定するような言葉をなげかけるような人間なのだぞ?」
「それでも、マーテル様の教えは、全ての命に愛を、だもん。
それに、ゼロスが誰かを殺す姿なんて私はみたくない」
それは嘘偽りのないコレットの本音。
ふるふると首を横にふりつつも、両手をくみ、
ゼロスを少しばかりみあげて、きっぱりといいきるコレット。
何ともいえない静寂。
それはほんの一瞬ではあるが、村長にとってはとても長くかんじられる一瞬。
「そこな人間。我が半身たる神子コレットの言葉に感謝するのだな。
命をとるのはこらえてやろう、だが。おまえの数々の許しがたき態度。
ゆえに、それにともなう裁きは当然うけてもらおう」
この村にくるまでに、村の大体の間取りはリフィルからきいている。
そして、どこにコレットの家があり、そして村長の家があるのか、というのも。
――かの力を目安にするがいい。
ふと、ゼロスの脳裏にそんな声が響いてくる。
それは、ゼロスが何やら面白そうなことをしているのを視ていたがゆえ、
エミルがゼロスのしようとすることを察知して、
間違えないように、すこしばかりゼロスの手助けをするために投げかけた言葉。
ついでにいえば、愚かなことばかりをわめいている人間にも多少のお仕置きをしていたりする。
すなわち、彼の周囲の空気をうすくして、息苦しくさせていたりするのだが。
ゆえに、先ほどまで真赤であった村長の顔色は、どちらかといえば今は赤と青。
両方がいりまじり、何ともいえない顔色にと成り果てていたりする。
ゼロスの視界、否、コレットやミトスの視界にはみえる、ほんのりと光ってみえる建物。
空に浮かんでいるゼロスだからこそその姿ははっきりとはみえるが、
村に背をむけている状態のコレットはそのことに気付いていない。
ゼロスが再び口の中で呪文を紡ぎ、そして、すっと手を振り下ろす。
それとともに、小さく、
「ジャッジメント」
そう呟いたその言葉は、その場においてコレットとミトスのみがとらえているが。
ビシャァァン!
先ほどよりも盛大なる音とともに、
「た、大変だ!村長の家に落雷がおちたぞ!火事だ、火事だ~!」
村の奥のほうからそんな叫びがきこえてくる。
みれば、村の奥のほうにあがる、火の手ひとつ。
「神子コレットに免じて命まではとらぬ。
が、その考えをあらためぬかぎり、またお前がこの村の代表、というのであれば。
お前の考えは天界に反するもの、として天の裁きをうけると思うがよい」
淡々とつむがれるゼロスの台詞に、その場にがくり、と力なくくずれおちる村長。
そんな村長をちらり、と一瞥したのち、
「神子ゼロスよ。今は村人を断罪するよりもさきに、すべきことがあるとおもわれます。
いかがでしょうか?」
「うむ。そうであるな。我らは女神マーテル様の意向にてこの地にでむいてきたのだからな。
そこなもの。我らをこの地にすまいし、我の血族。マナの血族の家に案内せよ」
「は、ははっ!ただちに!」
命令するのになれきっているゼロスの言葉には威厳もそなわり、
ウムをいわさぬ力が含まれている。
「…え、えっと………」
「…やりすぎだ、馬鹿」
戸惑いの声をあげるマルタに、ぽつり、とちいさくつぶやいているしいな。
村人たちがひざまづいたり、またざっと道をひらいてゆくそんな中。
一行は村人に案内され、そのまま奥にとあるコレットの生家へとむかってゆく。
その場に、いまだに茫然と、手足を大地につけたままの村長を残したまま。
イセリアの中に位置する、コレットの実家。
そしてまた、マーテル教にとってももっとも神聖であり、
シルヴァラントのものにとっては神聖なる一族がすまいし場所。
村人たちに案内され、彼らがやってきているのはコレットの実家。
人払いを、といわれ人々はとまどうものの。
しかし、相手は天界の天使の使い。
その姿というか翼を目の当たりにしているがゆえか、村人たちは素直にその言葉に従い、
残されしは、当事者、そしてこの家にすまいし、老女、そして男性のみ。
そして、誰もいなくなったのを確認したのち、
リフィルからファイドラむけてこれまでのこと、そして様々な説明がなされたのはつい今しがた。
「…そうか。世界は新たな転換期をむかえている、のじゃな?」
説明は、以前、リフィルがテセアラの王家にしたものとほぼ同じ。
しかし、こちらにはクルシスの天使がハーフエルフであった、
その事実をも含め、説明していたりする。
「しかし、クルシスの天使様がハーフエルフだったとは……」
「このことは、ファイドラ様」
「わかっておる。このことは皆には伝えないほうがよいじゃろう。
そして、そちらのかたがコレットと同じく、テセアラの」
リフィルの言葉にこくり、とうなづき、目の前にいる赤い髪の青年にと目をむける。
「ゼロス・ワイルダー。一応、これでもテセアラの神子やってる。
よろしくな。あんたが、前神子、アイドラの妹さんか」
「…姉をしっておる、のか?」
姉の名をいきなりいわれ、戸惑い気味の声をあげているのは、
目の前の椅子にすわりし、コレットの祖母であり、
また、マナの血族の中では最高の権力をもつ、といわれている前神子の妹ファイドラ。
長い金髪を後ろでたばねており、その服は祭司達に近いものを身にまとっている。
「神子という立場上、もう一つの世界における神子の情報。
それをときどき気まぐれに神託としてあいつらがくれやがるからな」
ゼロスの言葉に嘘はない。
というか、気まぐれというかそれをおしえてきたのはほかならぬプロネーマなのだが。
「姉、アイドラは救いの塔にまでたどりついたが、しかし……」
祭司達がいうには、共にいた彼女が助けたハーフエルフが最後の最後に暴走し、
その結果、アイドラは命をおとし、再生の旅は失敗した。
そう、もどってきた祭司達からきかされている。
真実は、アイドラの命をたすけようとして行動をおこした少年が殺されそうになり、
その少年をかばってアイドラが命をおとした、のだが。
その真実はファイドラ達には伝えられていない。
そして、その事実をゼロスはあのクラトスから聞かされている。
「しかし、コレットのことはたしかに問題、じゃの」
家にもどり、気が緩んだ、のであろう。
コレットはぷつり、とまるで緊張の糸が切れたようにその場に倒れた。
リフィルとともに、コレットを自室につれていき、
服をぬがし、コレットの体の異変をファイドラもまた目の当たりにした。
「ええ。そのこともかねて、ファイドラ様にお伺いをたてたく。
これまで、マナの血族にあのような症状がでたものはいないのでしょうか?
また、それの対処法でもあれば」
材料がそろうまでの簡易的な措置、としても。
それはかけ。
「地震の影響でおそらく人々の心も不安定になっているのでしょう。
そんな中でクルシスの真実、そして世界の今のありよう。
それをつたえれば、それこそ神子に、コレットに全ての責任をおしつけよう。
と人々がしてもおかしくはないわ。それこそ先ほどの村長のように」
あきらかに、上から目線できめつけでかかってきていた。
たしかに、再生の旅を途中でやめている、というのは真実なれど。
しかし、今している旅が真なる再生の旅といって過言でない。
しかし、あの村長はそんなことはしらない、とっとと命をささげろ。
そうきっぱりといいきるであろう。
あのようなものの態度はリフィルも覚えがある。
すなわち、自分さえよければ他人はどうなってもいい、という傲慢な考えをもちし人間。
「…たしかに。人は傷つきつかれたとき、誰かに責任をおしつけようとするもんね……」
そんなリフィルの台詞をきき、マルタがふとうなだれる。
もしも、とおもう。
もしもこの頻発する地震で家族に何かあったりしたならば。
そして、こうして共に旅をしていなかったら、自分は神子一行を恨むのではないか、と。
それは、もしも、でしかないが、ありえるかもしれない出来事。
あの家族がそう簡単にどうにかなる、とはおもえないが。
世の中、何が起こるかわかったものではない、というのは、
この旅の中でマルタは少しは理解したつもりである。
実際、今のマルタは知るはずもないが、とある時空において、
マルタは暴走した大樹によりて母親を失い、神子を、神子一行を恨んでいた。
神子が再生の旅をほうりだしたから、あんな悲劇がおこったのだ、と。
神子が逃げ出した、という噂をそのまま信じ込み。
「・・・・・・・・そう、だね」
その言葉にこれまでだまっていたミトスもぽつり、とつぶやく。
全てを自分達の責任にしてきたヒトの愚かさ。
それは嫌というほどにミトスはまのあたりにしてきた。
人々のためと思い行動しても、お前達がいるからこうなったのだ。
あげくは、お前達のようなハーフエルフがいるから、病気が発生したのだ。
この疫病神め、と迫害されまくったかつての記憶。
それでもいつかわかってもらえる、と信じていた。
けど、その思いは裏切られた。
姉という最愛の人の死をもってして。
「あの子はそうなっても、全て自分がわるいってためこみそうだから。
あたしらがきをつけてなきゃいけないんだろうけど。
たぶん、精神的にもいっぱいいっぱいだったんだろ」
実家にもどり、気がゆるんだ、のであろう。
コレットは今現在、ゆっくりと休んでいる。
しかし、とおもう。
パルマコスタの脱衣所でみたときより、よりその背の結晶化が進んでいるような気がするのは。
おそらく絶対に気のせいではない、はずである。
だからこそ、しいなもおもわずぎゅっと手をにぎりしめる。
否、にぎりしめることしかできない自分自身がしいなとしてももどかしい。
彼らが今いるのはコレットの生家。
入口からはいり、すぐに吹き抜けのキッチンをも含めた部屋となっているそこは、
はいってすぐにカーペットが敷かれており、そこに小さなテーブル。
そして向かい合うにうに二対の椅子。
そしてその奥に大きめの机にそれぞれ六つづつおかれている丸椅子。
その奥にキッチンがあり、その手前にはちょっとした台座。
この一階は、食事時の集いの場でもあり、また談話用の部屋をも兼ねている。
二階はそれぞれ、家族分の私室があり、コレットの部屋もまた二階に位置している。
無駄なものは一切おかれていない、木々特優の匂いがここちよいこの建物。
入口の手前に小さな鉢植えが置かれており、机の上にも小さな鉢植えの緑がおかれている。
そして、壁にはマナの血族を示す紋様がえがかれし、機織りでつくられしタペストリー。
それがかかげられており、二階につづく階段の前には、薄いカーテンがとりつけられている。
「それで、ファイドラ様、何かお心当たりはありませんか?」
「そういわれてものぉ」
コレットのあの症状を抑える何か意見をしらないか、といわれても。
たしかに、一族の間にはそのような症状がでることがある。
そんなことはきいたことがある。
それは神子に選ばれたものの宿命であり、
またそれを乗り越えてこそ救いの塔で祈りをささげる資格をえる、とも。
「気休めかもしれないけど、マーテル教会が、というか、
クルシスが指定しているあの護符が関係してないかな?義母さん」
そんな会話にわってはいるかのように、フランクがふと思い出したかのようにいってくる。
「ああ。たしかエンジェルアトボスの殻、だったっけか?
マーテル教会が指定しているという護符は。
何でもたしか、クルシスの天使に形がにてるとか何とかという理由もあったけど」
実際、その名のとおり、かの昆虫にはそういう少しばかりながらマナを整える効果もある。
もっとも、今の時代の人間達がその事実に気づいているかはともかくとして。
「エンジェルアトボス…たしか、ローズマリーに寄生する小さな虫ね。
このあたりで、ローズマリーの生息地、といえばカンベルト洞窟、かしら?」
それ以外にもあるかもしれないが。
ハーブの群生地、として思い浮かぶのはそこくらいしかない。
「しかし、カンベルト洞窟は先の異常気象でハーブが枯れたという噂もあります」
今は元に戻っているのかどうなのか。
そのあたりの情報を彼らはつかんでいない。
「一節には、マナリーフと呼ばれていた伝説の草花。それに近しい効力をもつ、ともいわれておるし。
たしかに、コレットに必要なマナリーフ変わりにはなるやもしれぬな」
コレットの治療に必要な品。
マナリーフにマナの欠片。
マナの欠片は入手手段としてはクルシスに頼むしかないのでは、という思いもあるが、
しかし、マナリーフの変わりくらい、にはなるかもしれない。
「では、コレットが目を覚ますまえに、ささっと、レアバードで。
カンベルト洞窟にすこしばかり散策にいってくるわ」
リフィルの台詞に、
「んじゃ、俺様はリフィル様の護衛としてついていくわ。
他の皆はコレットちゃんが目覚めたとき、一人では不安がるかもしれねえし。
コレットちゃんについてやっていてくれな」
かるい口調でいうそんなゼロスにたいし、
「お兄様、わたくしもいきますわ」
「ん?セレス、どうした?」
強い口調でいきなり会話にわってはいってくるかのようなセレスの口調。
「私もその殻をさがしにいくといっているのですわ!」
「…あ。わかった。セレス。ゼロスがリフィルさんと二人っきりになるのが嫌なんだ」
ぽん、とどこか納得したかのように、かるく手をたたくマルタに対し、
「な、なななにをいっているのですの!マルタ!わたしは、そう!お兄様が誰とつきあおうが!
いえ、そのリフィルさんが第二のそこのめぎつねのようにならないか心配して…でなくて!」
「…あんた、いい加減にあたしの誤解、この子からといてくれないかねぇ?」
そのめぎつね、というのが誰をさしているのか。
たびたびそのようにいわれ追いかけられているがゆえ、しいなとしてはため息をつかざるをえない。
「何いってるんだ。しいな。お前さんは、俺様のハニー…」
「た・か・ら!あたしはそんなんじゃなぁぁい!」
俺様のハニーだろ?といいかけたゼロスの台詞をぴしゃり、と大声で遮るしいな。
そもそも、その発現のせいで、セレスに目の仇にされ、
ことあるごとに、お兄様をたぶらかさないでくださいまし!といわれる身にもなってほしい。
「なら、しいな。あなたには皆をお願いしてもいいかしら?
レアバードをつかえば、数時間もたたないうちにもどってこれるとおもうし」
「わかったよ」
「うん。私もしかたないけど、ママ達の手紙の件のこともあるし」
手紙には、これからの提案などもかかれていたらしく、
そのことについての話しあいもしておくべきであろう。
リフィルの言葉にしいながうなづき、マルタもまた、しぶしぶながら同意を示す。
「先の件の騒ぎのこともある。では北の出口からでて移動するがよかろうて」
村の入口からでは、騒ぎになりかねない。
しかし、裏の聖堂に続く道ならば、滅多なことでは人はいない。
そもそも、ファイドラの許可がない限り、かの地への道はいつもは閉鎖されている。
ともあれ、気が緩んだのか、それとも症状が進行しているからなのか。
いまだに意識を取り戻さず深い眠りについているコレットを実家にのこし、
リフィル、ゼロス、セレスはひとまずカンベルト洞窟にむかう、ということで話しはまとまり、
マルタ、しいな、ミトスの三人をひとまず村にのこしたまま、
リフィル達は一度、村の北の出口から村をあとにすることに。
「…?どうかしたの?エミル?」
「ううん。何でもない」
何やらゼロスが面白いことをしでかしている。
少しばかり彼らのほうにも意識をむけていたがゆえに、ゼロスが今おこなったこと。
それは手にとるようにエミルは理解している。
リフィル達が村にたどり着いたのと同時刻。
すでに周囲の散策をおえたのか、様々な植物などをサンプル、として手にいれているアステル達。
何やら異様にほくほくした表情にて、
少し離れた先にテントをはり、その中に様々な道具をもとりだして、
何やらいろいろと実験しているようではあるが。
ふと、目をつむっているエミルの様子にきづいたのであろう。
ジーニアスが首をかしげてといかけてくる。
「それより、エミルのこれ、かわってるよね?」
エミルがつくったノイシュの像。
ペリット、と呼ばれているそれでつくられているはずのその彫像。
しかし、不思議なことに、エミルのつくりしそれは、
その内部がまるで水であるかのように、ゆらゆらと煌めきをみせている。
そして、何やらちいさき何かが四つほどその中を移動しているようにもみえなくもないが。
今後の旅はかなり厳しくなるかもしれない。
そんな話題がでて、ならばこのままノイシュを共につれていくかどうするか。
ロイドはいまだにそれを決めかねているらしい。
ノイシュもクラトスよりロイドを頼む、といわれていることから、離れる、という選択はないらしいが。
「これ、ノイシュの首飾りにしようかとおもってね」
ノイシュならばこの中にいれている生命体が何か、にきづくであろう。
そもそも、今現在、アーシスになっているのはノイシュのみ。
それに、かつての争いにより、プロトゾーンはかなり数を減らしている。
ここいらであらたに誕生させても問題はないはず。
それゆえに、新たな子供を産みだした。
この彫像の内部にゆらめいている四つの小さな何か、はプロトゾーンの幼生体。
正確には、これが成長することによりアクアンにと変化する。
ノイシュもひとりでいるよりは、仲間がいたほうがいいだろう。
という思いもあってこそ生み出した新たな命。
もっともそれを説明する気はさらさらないが。
そもそもしても理解不能であろうし、また説明するのが面倒、という理由もある。
「それより、やっぱり材料が少したりない、かな?」
スープはすでに作り終えている。
ハーブもある程度は乾燥している据え置きのものがあるとはいえ、
人数分の食事を用意するまでの材料はこの家にはやはりない、らしい。
「アステルさん達がとってきた山菜をつかうにしても、何かやっぱりたりない、よね?」
「だね」
ジーニアスもエミルの意見には賛成せざるをえない。
アステル達がたしかにいろいろとこのあたりに生えている山菜らしきものをとってはきているが。
…なぜかアステルがとってきたのが毒のある植物がおおかった、というのはともかくとして。
「山、とくれば、海、だし。海にでもいって材料手にいれてこよっかな?」
いまだにロイドはひたすらに、ペリットの彫像に奮闘しているらしく、
完全に部屋にとこもっている。
プレセアもまた、腕の見せ所、とばかりにひたすらに彫っている今現在。
すでに彫り終えた?エミル、そしてジーニアスがあるいみ手持無沙汰といってよい。
リーガルはといえば、タバサとともにダイクにいろいろと聞いているらしく、
彼らもまた作業場からでてこない。
人数が人数なので、ちょっとしたバーベキューでいいか、という思惑のもと、
すでに簡易バーベキューをする場所は確保し、さらには台座もつくっているのだが。
ちなみに森の中であるがゆえ、危険ということもあり、
念には念をいれ、周囲に水属性の魔物をより多く配置させていたりする。
「…海の食材でもとりにいくかなぁ」
それに、ともおもう。
先ほどから視ているゼロス達のこの流れだと、どうやら彼らもまたハーブをとりにいく模様。
といっても、リフィル、ゼロス、セレスの三人のみ、という注釈はつくが。
「あ。それいいかも。でも、今から海にでて、簡単に手にはいるの?」
「てっとり早く、イズールドにいけば手にはいるんじゃない?」
まあ、少しばかり命じれば、即座に海の魔物達が数多の魚介類や海藻類。
そういった品はすぐさまもってくるであろうが。
そんなジーニアスの問いかけに、首をちょこん、とかしげつついうエミル。
実際、かの場所にまでいけば簡単に魚介類は手にはいるであろう。
そもそも、かの場所は漁師の村。
普通に売り買いもされている。
それに、ともおもう。
「たしか、ジーニアス達って、アイフリードってヒトから、手紙、あずかってなかった?」
「・・・・・・ああ!!?」
今さらといえば今さらではあるが。
事実、アイフリードより、ジーニアス達は手紙をイズールドのライラに渡してほしい。
と引き受けていたりする。
それは、ルインからパルマコスタにむかう船の中にて。
クラトスがアイフリードとロイドの海賊見習い撤回をかけて戦ったのち、
ならば、かわりに、と渡されていた手紙。
「…すっかり忘れてたよ。僕。たしか、あれ姉さんに預けてたんだっけ」
ロイドに渡していればいつなくすかわからない。
そういうのもあり、たしか間違いなく姉にと渡していたはず。
「なら、リフィルさんに手紙もらいに、村にいく?」
「でも、僕、村を追放処分になってる身だし……」
「北の入口、だっけ?そこに着地すれば問題なくない?
村にはいらなきゃいいんだし。僕がリフィルさんに用事ができたから。
以前預かっていた手紙渡してきます、といえばそれまででしょ?」
「…たしかに。北の入口は何かないかぎり、封鎖されてるし。
でも、そこまでどうやっていくの?エミル?レアバードは姉さんか、しいなしかもってないよ?」
実際、もっているのはリフィルのウィングパック、もしくはしいなの腕輪。
そのどちらか、にしか機体はいれていない。
「どの子か呼ぶよ」
「……それって、また魔物?まさかまたシムルグ?」
エミルのその台詞をきき、ジーニアスの脳裏にうかびしは、かの優美な姿をした伝説の魔物。
神鳥、として二つの世界において有名になっている神鳥シムルグのあの優美なる姿。
あいかわらず、どうしてエミルがほいほいと魔物、
しかも伝説ともいわれているそれらを呼び出せるのか。
その答えはジーニアスはもらっていない。
戸惑いを含んだジーニアスの問いかけはこれまでのことを思えば仕方ない、
といえば仕方ないのかもしれないが、
エミルからしてみればなぜに戸惑いを含んできいてくるのか理解不能。
ゆえに、そんなジーニアスの問いをうけ、かるくちょこん、と首を横に傾げたのち、
「ここは狭いし。ラティスやレティスは呼んでも意味ないよ。別の子にするよ。
それじゃ、僕、ダイクさんたちにちょっとでてくるっていってくるね」
それに、ともおもう。
今呼べばまちがいなく何となく、またそのままお供します。
とかいってついてきそうな気がする。
それはもう果てしなく。
今現在、ラティスはかの建物の中へ、そしてレティスは念のためにヘイムダールへ。
それぞれとあることを命じているがゆえ、今現在、聖堂、とよばれし場所にシムルグはいない。
「ジーニアスはアステルさんたちにちょっとでてくるって伝えておいて。
すぐにもどるからって。数刻もかからないとおもうしね」
少なくとも、確実に昼あたりまでは戻れるはず。
朝早くにトリエットを出発し、この付近にやってきているのは昼よりも手前。
時刻はそろそろ昼にさしかかっているものの、まだ昼時間には程遠い。
それでも小腹がすくヒトもいるかもしれないというので、
一応台所となる流し場の机の上には
いくつかつくったおにぎりがきちんとお皿に乗って並べられている。
ついでにいえば、アステル達がとってきた山菜の一部も揚げており、
簡単な食事ならすぐにもできる準備はととのっている、といってもよい。
ただ、量が十人以上満足して食べられるほどあるか、といえば答えは否。
この場に残っている人物達だけならばことたりるかもしれないが。
今からあの子を呼び出して、かの地に移動すれば、ちょうどリフィル達とほぼ合流できるであろう。
それは確信。
だからこそ、それとなく食材のことを取り上げて、エミルは呟いたにすぎない。
しかし、そのことをジーニアスは当然、知るはずもない。
「あ。うん。わかった」
まあ、ロイドは彫刻に没頭しているから声をかけるのはおくとして。
ひとまず、たしかに何やらあやしげな研究っぽいことをしはじめているアステル達には、
念のために一声かけておくべき、であろう。
何でも出先ですぐに様々な実験がおこなえるように、という名目のもと、
簡易的な実験装置をウィングパックの中に常にいれてアステルは持ち歩いている、らしい。
気のせいとはおもいたいのだが、何やらあやしげな匂いが、
アステル達が組み立てたテントのほうからただよってきているような気もしなくもない。
先ほどちらり、とのぞいたとき、フラスコのような入れ物に、
これまた迷彩色のような何かの液体のようなものがこぽこぽといっていた。
それは見間違いであってほしい、とジーニアスとしては切実に願っていたりする。
姉がこの場にいなかったからいいものの。
あの実験もどきを姉、リフィルがいるところで始めていれば、とおもうと怖くてたまらない。
何となくだがとてもではないがいいようのない底知れぬ恐怖がたしかにそこにある。
おそらく、これまでの旅の中で
アステル達はたまたまかの実験をする機会がなかっただけ、なのであろう。
まあ、わからなくもない。
アステル達が合流したのは、フラノール。
そこから、すぐに異界の扉に移動したのち、こちら側にと移動してきた。
話しをきけば、パルマコスタではアステル達はこちら側の情勢などを書物、
または人々の話しをきくことで収集していたらしくこれ、といった目立った行為。
そういったものはしていない、とはアステルの談。
その言葉をアステルからきいたとき、
どことなくリリーナとリヒターがついっと目をそらしたことに気になるが。
「まあ、エミルが呼ぶ、というのだから、また飛竜とかそのあたり、かな?」
たしかに、飛竜をつかえば、イズールドまではすぐ、であろう。
ゆえに、深く考えることもなく、ジーニアスはジーニアスで、
エミルがダイク達に出かけてくる、という旨をつたえるかわりに、
アステル達のいるテントへとむかってゆく。
自分達がすこしばかり出かけてくる、ということを伝えるために。
「早めにいって、早めにもどる必要があるわね」
エミル達がそんな会話をしているとはつゆ知らず。
イセリアの村。
いつもならば閉鎖されている北の入口にとやってきている、
リフィル、ゼロス、セレスの三人。
ファイドラ達も見送りにきたかったらしいのだが、リフィル達が家を出ようとしたその直後。
村人たちがファイドラに話しがある、といってやってきており、
そのまま彼らと一言、二言かわしたのち、ファイドラは出かけていった。
ちらり、と聞こえた会話の内容からして、何かまたあの村長がやらかしているらしい。
何をしでかしているのか知りたくもないが。
おおかた、また理不尽なことをわめいており、手におえなくなったがゆえ、
ファイドラを呼びに来た、そのあたりであろう。
そうリフィルとしては結論づけていたりする。
実際、その通り、なのだが。
神子コレットが出発した後、ディザイアン達によって壊された家々。
それを再建させようにも、そんなことをすればディザイアン達の不興をかう。
といい、頑固としてみとめなかったイセリア村長。
ついでに、村を追放した子供の養父だから、という理由にて、
ダイクすら村に招き入れることならず、と厳命をだした。
このあたりで、大工仕事、もしくは細工の仕事ができるのはダイクのみ。
という状態の中、それは村の人々の生活に大打撃をあたえている。
それでもこっそりとダイクに依頼をしようとしたりした輩は、
村の決定に従えないのなら追放だ、という理不尽極まりない意見によって、
村長によって村を追いだされているものが数名いたりする。
ある意味ですでに我慢が限界にきていた最中の今回の騒動。
村長の言葉一つで、クルシスの天使の不興をかった。
その噂はまたたくまに狭い村の中につたわっている。
まして、自分の家が雷の直撃で燃えたことにより、
ダイクをよんで家を再建させろ、といいだしたことにより、
村の人々のたまりにたまった鬱憤が爆発した。
自分達の壊れた家は再建するどころか、立て直すことすらままらない。
そういっておきながら、いざ自分の家がそのような目にあえば、
あっさりとかつての決定を覆すそんな村長の自分勝手な傲慢さ。
しかも、村長がいうことをもってくるとするならば、
そんなことをすれば今度こそ、クルシスの、天界の怒りが村全体に襲いかかる。
その可能性すらある、というのに。
自分はわるくない、の一点ばりの村長。
わめきまくる村長にさすがの村人たちもついに我慢の限界を突破し、その結果。
村人たちがファイドラを呼びにきた、という事情があったりするのだが。
リフィルはそこまで詳しく気付いていない。
もっとも、次に村にもどったときには知ることにはなるであろう。
朝早く出発したということもあり、ダイクの家についたのち、
ここ、イセリアにやってきたのは、昼よりも前の時間帯。
太陽の位置から推測するに、あと一、二時間程度にて昼時になるであろう。
ちらり、とテセアラで普通に売られていた時計を懐からとりだし時刻を確認しているリフィル。
ちなみに、テセアラにおいては、懐中時計、というのもは普通に売られていたりする。
もっとも、その動力がぜんまい仕掛けであるがゆえ、
常にネジを回す必要がある、という問題点はあるものの。
リーガル曰く、今現在、防水加工、もしくはネジなしでも動く品を開発中、とのことらしい。
いまだ目覚めないコレットのこともきにかかる。
ファイドラが手持ちにかの殻をもっていない、というのであれば、取りに行く必要がある。
少しでも可能性があるのならば、それにかけるべき。
皮膚が結晶化しているのをみても、時間はすでに限られている。
このことに関して、あのエミルが何もいっていない、というのがかなり気になりはすれど。
ダイクの家に残してきているロイドはともかく、あのアステル達がかなりきになっているのもまた事実。
テセアラにはディザイアンというものはいなかった。
なら、興味深々で彼らがディザイアンの設備に近づいたり、もしくは潜入しようとしたり。
そんなことをしようとしかねない、という懸念もある。
しない、と信じたいが、しかし好奇心のほうがかってしまえば…
そこまで思い、かるく自らの最悪の考えを振り払うように首を横にかるくふる。
そんなリフィルをみつつ、
「?リフィル様?どうしたっしょ?」
「何でもないわ。とにかく、いきましょう」
なぜか村人たちが村長の家のほうにあつまっている今ならば、目立つことはないであろう。
ゆえに、ウィングパックの中にいれていた機体。
今のところ念のために、という理由から、しいなとリフィル、それぞれ四機づつ。
それぞれのウィングパック、そしてしいなの腕輪の中にといれている。
ウィングパックの中に数個の数、しかも同じものがはいっている場合、
どういう仕組みなのかはわからないが、卵のようなその入れ物の上層部。
そこにいくつもの数字が浮き出るようになっている。
その数字をおすことにより、
その数だけの品が中身全てをだすこともなく取り出せるようになっているらしい。
この技術はかなりきになるので、もしも時間があり、また余裕があるようならば、
是非ともこの開発過程を見学、もしくは分解して調べてみたいところ。
三人であるがゆえ、機体はひとまず二機。
リフィルが一人でのり、ゼロスとセレスは同じ機体に。
北門から少しすすんだ先にとある、白き砂浜においてレアバードを取り出し起動する。
目指すは、エンジェルアトボスの抜け殻を求め、カンベルト洞窟。
~スキット・上空にて~
リフィル「エンジェルアトボスの殻でどうにかなる、とはおもえないけど……」
ゼロス「しかしまあ。こっちにもあの護符があるとは、驚きだぜ」
セレス「前、お兄様がつれていってくださった、殻狩りはたのしかったです!」
それは幼き日。
御利益があるかもしれない、といってゼロスがセレスをつれだして、
ローズマリーの生息地に移動し、かたっぱしから殻をさがしまくった幼き日の記憶。
リフィル「…何をやってるのよ。あなたたちは。
…うちのジーニアスもそういえば、イセリアにきてから、
ロイドといっしょに、セミの抜け殻をあつめまくった時期があったけども」
あのときは、元の場所にもどしてらっしゃい!
とロイドともどもお説教をかました記憶がある。
はたや、成体となったセミなどもつかまえてきており、
おもいっきり正座をさせて滾々と反省をうながさせたが。
そもそも、一週間しかいきれらない、土の中で七年以上もいきてきて、
ようやく出てきたセミを問答無用で意味もなく捕まえるのはなにごとか。
と。
もっともそれらのセミは、興味があったのであろう。
コレットがセミのはいった虫籠をてにとったとたん、
こけっと、こけてしまい、その反動で籠がこわれ、
囚われていたセミはあっというまに周囲に飛んでにげていったのだが。
ゼロス「…まあ、昔はいろいろと、な」
まだ、セレスの母がゼロスを暗殺しようとうごいていなかった、ある日の優しい記憶。
セレス「ところで、お兄様、あれ、何でしょう?」
ゼロス「…あん?なんだぁ!?真っ白い…空飛ぶ…って、ありゃ、まさかペガサスか!?」
何やら背後のほうからばさばさと翼の音がしてきている。
今現在、とんでいるのは雲の合間をぬってとんでいるので、
普通の鳥はこんな上空を飛んでなどいない。
セレスいわれ、そちらをふりむいたゼロスの視界にうつりしは、
なぜか空をかけてくる翼をもちし、真っ白い馬。
セレス「ペガサス!?そんな伝説の動物が、どうして!?」
ゼロス「あ~…背にのってるの、エミルくんとがきんちょだわ。納得。
何かの理由でおそらく、エミルくんがよびだしたんっしょ」
そうとしか思えない。
というか、なぜにベガサス!?という思いは否めない。
リフィル「…ゼロス、それ、本当かしら?」
リフィルがそういいかけるが。
ゼロス「まあ、そろそろ目的地につくし。そこで話しをきくしかないっしょ」
眼下にみえるのは、洞窟の目印になる、というとある小さな漁港。
※ ※ ※ ※
「あれ?姉さん、それにゼロス達も!?」
エミルが新たに呼びだしたこの魔物…であったらしい。
これもまた伝説の獣の一つといわれている、どうみても翼のはえた馬。
つまりは、ペガサスとよばれし幻獣。
ユニコーンと並んで有名すぎる伝説の幻獣。
エミルがこのペガサスを呼び出したときには思わず驚いたが。
何となく、もうエミルだから何でもありのようなきがする。
とどこか達観してしまっているのもまた事実で。
エミルに促されるままに、ペガサスにまたがり、港町であるイズールドにまででむいてきた。
ゆっくりと馬から降り立つとともに、なぜか目の前に突如として、みおぼえのある機体。
そして、そこからおりてくるみおぼえのある三人の姿を目の当たりにし、
驚きのみちた声をあげているジーニアス。
「まったく。エミル、それは何、なのかしら?」
そんなジーニアスの驚愕の声は何のその。
リフィルはといえば、間横をすり抜けていった白き馬を上空でみいてたからか、
そのコメカミにおもいっきり手をあてて、頭がいたい、とばかりにそんなことをいってくる。
たしかにエミルがそういったモノを呼び出せる力があるのはしっている。
いるが、よもやシムルグにつづき、このような伝説の幻獣まで呼びだすとは。
そういえば、ともおもう。
エミルは、あのユニコーンの名前すらしっていなかったか?と。
それは今さらながらの素朴なる疑問。
「え?天馬ですけど?」
ちなみに、場所によりて呼びかたは様々。
ペーガスス、とよばれていたこともあれば、ペガサス、という呼び方をされることもある。
一般的にペガサス、という呼び名が普及してはいるが。
かつての時間軸では何やら勝手にとある勢力が自分達の力にすべく、
その誕生に逸話を交え神話、として確立していたが。
「森の中でラティス達をよんでも何ですし。
かといって、飛竜達をあそこでよんでも他の動植物が驚くでしょうし。この子が無難かなぁ、と」
さらり、と何でもないように、首をかしげつつリフィルの問いにこたえるエミル。
そんなエミルに対し、
「んで?エミルくんとがきんちょはどうしてここに?」
「あ。そうだ。そういえば何で姉さんとゼロス達がここに?ここであえたのは助かったけどさ」
ペガサスにのりて、村にいってみたはいいものの。
リフィル達は出かけた、という。
カンベルト洞窟にむかった、というのでそのままなら向こうで合流できるかも。
そうおもい、自分達もまたそのままこちらにむかってきていたのだが。
ジーニアスの問いかけとともに、
「何か村にいったら、リフィルさん達がカンベルト洞窟にむかったってききまして。
ちょっと、食材をかいに、イズールドに買い物にいこっか。っていう話しになって。
そういえば、前に皆がアイフリードさんから、手紙を預かってたのも思いだしまして」
「…そういえば。そんなものもあったわね。すっかり忘れていたわ」
エミルに指摘されて、今さらではあるがリフィルもそのことを思いだす。
便のときでいい、とはいわれたが。
断ろうにも、ロイドが何もかんがえていないのか受け取ってしまい、
無くしても何だ、というのでリフィル自身が確かに預かっていた。
「なので、リフィルさんに手紙を預かりにいったら、
リフィルさんたちが、こっちにむかった、ときかされまして。
なら、こっちで合流できるかな、というので僕たちもそのままきたんですけど」
エミルの言葉に嘘はない。
実際、きちんとエミルは村にはいり、一応そのことをきいている。
もっとも、それを説明してきたのはしいなであったが。
なぜにエミルが、と驚いていたが、食材をかいにいくついでに、
以前、ロイド達がアイフリードからもらっていた手紙を預かりにきた、といえば。
しいなも思いだしたらしく、何ともいえない表情を浮かべていたりした。
しいなもまたあのことをすっかり失念していたゆえに、
リフィル達が忘れていてもおそらく誰も責められないであろう。
「…そういえばあったわね。というか無くしてしまっていたほうがよかったかしら?」
懐にいれてある道具袋の中身をまさぐり、すこしばかりよれた手紙をみつけだし、
顔をしかめていうリフィルの表情はどことなく厄介事にならなければいいけども。
という思いがありありとみてとれる。
「それより。どうしてわざわざここ、イズールドに食材、なんて?」
リフィルの疑問は至極当然。
「いえ。アステルさん達が山菜をいろいろととってきてくれまして。
なら、山と対になるのは海かなぁ。ののりです。意味は別にこれといって。
たしか、ここって一般のひとにもいろいろと露店売りでしてましたよね?」
実際に、様々な品がうられている。
もっとも、リフィル達が以前この地にやってきていたときは、雪の影響で、
そういった露店はのきなみ閉鎖されていた、のだが。
何でも海の魔物が騒ぎだし、海に漁にでる船もいない云々、といわれ。
何とか船を出してもらったのが、ライラの手紙をとどける、という名目において、
パルマコスタにまで移動ができた。
「たしかに、しているはず、だけど。…仕方ないわね。
とりあえず、あなた達にもならてつだってもらいましょう。
私たちが目指しているのは、エンジェルアトボスの殻、よ。
この先にあるカンベルト洞窟にハーブが自生していたはずよ。
そこなら確実に手にはいるはずだからね」
そんなリフィルの台詞をきき、
「?何でマーテル教の護符が必要なの?姉さん?」
ジーニアスにはなぜそれが必要なのか、いりようなのか理解ができない。
「ファイドラ様曰く、かの護符はマナリーフに近い効果があるかもしれない。ということらしいわ。
現物、霊草マナリーフが手にはいらないのであれば、代用品を考えておくべきだわ」
エルフの里にまででむけばおそらくはあるだろう。
しかし、村を追放された自分達が村にいったとて、話しをきいてもらえるかどうか。
少なくとも、これ以上の症状の進行は確実にコレットの命を縮めてしまう。
それだけはいえる。
だから、できることはしよう、とおもうリフィルの気持ちに嘘はない。
姉が死んで、勇者ミトスは狂った、そうきかされた。
あのロイドがもし、コレットが死んで同じようになったとしたら?
そう思うと何ともいえない。
ならない、とはいいきれない。
そして、もしロイドと勇者ミトス…今はユグドラシルとなのっっているもの。
二人が同意してしまえば、世界はどうなってしまうのか。
それは考えるだけおそろしい。
口にはしないが、リフィルの中ではそういった懸念も一つの結果、として想像されている。
様々な想定を脳裏にもつことにより、最悪な状態を防ごうとリフィルなりに努力はしている。
コレットはおそらく、このまま死んでしまっても、静かにそれを受け入れてしまうだろう。
どうも自分が生きているのは、皆に、シルヴァラントの人々にわるい。
そうおもう心がいまだに抜け切れていない、というのをリフィルは把握している。
だからこそ、少しでも彼女の憂い、そして自らの中にある最悪な状態。
それを阻止するためにもこうしてリフィルは動いている。
今回、ミトスが同行しなかったのはリフィルにとっては好都合。
ミトスには何かがある。
それは直感。
ユアンにみせられた四人の絵姿のことも気にかかる。
ジーニアスにむけているあの態度が演技だとはおもえないが、
しかし心から信じ切れていないのもまた事実。
ゆえに、たとえゼロスに何か頼み事をするにしても、
できうればミトスのいないところで、というのが一番理想。
今回、あえてミトスをかの地に残したのにもそこに理由がある。
リーガルも共にいればミトスの動向に気を配ってもらうところだったのだが、
いくら何でも手枷をしているどうみてもあやしさ満載の人物を村にいれる、
というのはリスクが高すぎる。
ゆえに、リーガルはダイクの家にと留守番という形をとった。
主にアステル達の牽制というか足止め、というか見張り、という意味合いをもこめて。
「別に僕は手伝うのかまわないけど。エミルはどうする?」
「僕も別にかまわないけど。
なら、食材を買いそろえるのにリフィルさん達もてつだってくれます?手分けして買えば早くすむし」
実際、売り場が一つならばともかく、いくつもにもわかれていれば時間がかかる。
しかし手分けしてかうのであれば話しは別。
「…仕方ないわね。…あまり、この村にははいりたくない、のだけども」
いまだに彼らは村の中にはいっていない。
村から少しはなれた街道沿いのとある道端において、会話していたりする。
このあたり、さすがに人の行き来はほとんどなく、
ゆえにこうして立ち止まり、しかもあきらかに見たこともない品や動物。
レアバードやペガサス、そういった品や生物がその場にいたとしても、
それをみて騒ぎだてるものがいない、というのはあるいみ幸い、というべきか。
「?どうしたんですか?リフィルさん?何だか、顔色が……」
リフィルの顔色が何となくではあるが、先ほどよりも悪くなっているのは気のせいではないであろう。
ゆえに、首をかしげといかけるエミル。
そこまでいって、ふと思い出す。
そういえば、前のときもこんなことを自分はきいたような気が。
それは遥かなるかつての記憶。
「いえ。何でもないわ。ちょっとイズールドには嫌な思いでがあって、ね」
「?」
リフィルの言葉を濁したいいように、セレスがちょこん、と首をかしげる。
「まあまあ、リフィル様。心配無用!
何かあっても、このゼロス様がしっかりと、リフィル様を守ってさしあげますからね~」
「お兄様!」
リフィルの言葉にゼロスがうやうやしく、わざとなのか、本気なのかよくわからない。
かるく腕を自らの胸の前にもってきて掲げたかとおもうと、
かるく頭をさげつつリフィルにたいしそんなことをいいはなつ。
そんなゼロスにたいし、セレスがおもいっきり抗議らしき声をあげているが。
「うん?当然、セレスも守る対象だぞ?」
「わ、私はそういうことをききたいんじゃありませんわ!」
「…顔、真赤にしていっても説得力ないとおもうよ。セレス……」
さらり、といわれ、顔を真っ赤にし、ぷいっと横をむくセレス。
そんなセレスの様子をみて、ぽつり、とづふやいているジーニアス。
「ありがとう。ゼロス。まあ、守ってもらってどうにかなるものならいいんだけどね」
そんなゼロスの台詞に苦笑ぎみに答えるリフィル。
そんな彼らのやり取りをききつつも。
そういえば、前のときは自分がそんなことをリフィルにいったなぁ。
あのときは自分がラタトスクだ、などとまったく覚えてもいなかったが。
「ま、いいけどね。ベガ。念のため、姿をけしておいてね。騒ぎになられても面倒だし」
「御意に」
「「「って、しゃべった!?」」」
これまで、黙って傍にひかえていたペガサスが言葉を発したのをうけ、
ゼロス、セレス、リフィルの声が同時に重なる。
それをみて、
「あ、驚くよね。うん。僕もエミルがこの子呼びだしたときに驚いたよ……」
――およびですか?我が主よ。
そういってきたその台詞にあんぐりしたのはついさきほど。
主、とはどういう意味なのか、とエミルをといつめたが、
エミルはただただ笑みをうかべるのみで答えは結局かえしてはもらえていない。
エミルの言葉をうけ、すっとペガサスの体が透明になる。
その原理はレアバードにおけるステルス機能とほぼおなじ。
つまり、周囲の景色に体を反射させる特製をもたせたがゆえ、
溶けてきえたようにみえた、という形でしかない。
実際、そこにふれればきちんとペガサスがいるのをしめすかのごとく。
よくよく注意してみれば、そこにきちんと馬の形の何かがいるのは誰の目にもあきらか。
「そういえば、ここは何という村になるんだ?」
こちら、シルヴァラントにやってきてゼロス達が出向いた村や町。
それはいまだに数すくない。
パルマコスタを始めとして、絶海牧場、そしてトリエットの街くらい。
ゆえに、地図で名は確認はしているが、実際は何もしらないといってよい。
「たしか、イズールド、といったはずですよ。ゼロスさん。
小さいながらも水産物で有名な漁港、だったはず。ですよね。リフィルさん」
「え、ええ。そうね」
リフィルが説明するよりも先にエミルが答え、そんなエミルの台詞にうなづくリフィル。
たしかにエミルがいうのは事実なれど。
そういえば、とおもう。
「そういえば。エミル。あなたはどうやって、パルマコスタに移動していたの?
あなたと出会ったのはパルマコスタのあの公開処刑場、だったけども」
エミルがどこからやってきたのか。
どこに向かう予定なのか、はあのとききいたが。
そういえば、どこからきた、とはきいてなかったような気がする。
そもそも、問いかける状態ではなかったという現状、
すなわち、人間牧場に潜入する直前に再開した、という事実があったにしろ。
結局、目的地が同じならば、というコレットの意見に押される形で、エミルは同行することになり、
そして今の今までに至っている。
「え?普通に移動しましたけど?」
普通にかの地から移動し、たどり着いたはパルマコスタの外れの地。
かの地と反対側に位置しているがゆえにたどりついた。
「私がいいたいのは、そうではなくて……」
リフィルがいいかけるが。
「それより、はやいところ用事すませませんか?できたら昼前までには戻りたいんですよね。
ロイド達もお腹すかせてるでしょうし。
リーガルさんがいるから、変な料理はつくられない、とはおもうんですけど」
自分がいなければまちがいなくリーガルが率先して何か料理をつくるであろう。
間違ってもリヒターだけには料理をつくらせてはいけない、とそれだれは強く思う。
「それもそうだ。リフィル様、問いかけはいつでもできるっしょ?
まずは、買いだし、買いだし、ついでに殻がここで手にはいったらもうけものってな」
マーテル教の護符とされている材料となる素材である。
ゆえに普通に店などで売られていてもおかしくはない。
もっとも、売られている場合かなりの高値かもしれないが。
ここは群生地の近くだ、という。
ならば安く売られている可能性もなくはない。
「そうだよ。姉さん。まずは用事をすませようよ」
「え、ええ。そう、ね」
何だかまた話しをはぐらかされたようなきがする。
きがするが、これ以上追及しても、どうにもならないのもまた事実。
それに、時間はある。
今ここには自分達しかいない、のだから。
そう言い聞かせつつも、歩きだしたゼロスにつづくように、
リフィルもその場におかれたままであったレアバードをウイィングパックにしまいつつ、
街道沿いを視界の先にみえている漁港、イズールドにむけて歩きだしてゆく。
小さな漁港、イズールド。
本来ならば、砂漠地帯からオサ山道をこえてこの地にやってくるルート。
それ以外はイセリア方面からこの地にやってくるのであれば、
船を利用するしかすべがない。
かつてのリフィル達もまた普通に砂漠とオサ山道をこえてこの地にやってきた。
かつて、リフィル達がこの地を訪れたときには雪で覆われていた。
そもそも、なぜ砂漠地帯であったというのに雪がふっていたのか、
などといろいろと疑問点はおおかったにしろ。
当時はディザイアン達が何かしているのだろう、そうおもっていた。
つまり、神子の再生を邪魔するために天候をも操っているのだ、と。
「前きたときは、雪景色だったのよね」
イズールドにはいり、ため息をつきつつもいってくるリフィル。
「そもそも、なんで砂漠地帯とかに雪がふっていたのですの?
お兄様、砂漠に雪なんてふるのですか?」
「いや。普通はふらねえだろ。そのあたりどうなのよ?エミルくん?」
セレスにきかれ、その話題をエミルにふってくるゼロス。
人数的には五人、とさほど多くもなく、小さな村に五人の連れがはいってきても、
人々はちらり、と視線をむけるだけであまり興味を抱かないらしい。
これが十人以上であれば人々の興味対象になっていたであろうほどの小さな村。
「…何で僕にきくんですか?ゼロスさん」
「いや。エミルくんなら知ってるかなぁ、かと」
「・・・・・・・・・・・・」
確かにしっているが、それをいう、とでもおもっているのか?
この男は。
ゆえに、思わずため息をつき、
「とりあえず、たしか、お店はこの先にありましたよね」
さらり、とその質問にこたえることなく話題をかえる。
そして。
「あ、あと、ジーニアス。預かってた手紙って、どこに届けるの?」
「えっと、ライラっていう人だから。たしか、家はあっちのほう、だね」
以前、ライラとは面識があるがゆえ、いきなり話しをふられ、
ジーニアスもまた戸惑いながらもそんなエミルの問いかけにと返事を返す。
港町にはいる前には木でつくられた簡単な門もどきがあり、
そこをくぐった先が小さな漁港としていくつかの家々がつらなっている。
入江につくられしあるいみ小さな集落であるがゆえ、
ところどころ木でつくられた橋などをも利用して街並みは形成されているらしい。
港となっている桟橋もまた、パルマコスタほど頑丈ではなく、
木々でつくられたものであり、ゆえに巨大な船の出入りはまずできない。
ジーニアスが指差した家は、
村の入口から少しはいって先にある、少し奥まったところにある一つの家。
「仕方ないわ。まずは用事をすませてしまいましょう」
いつまでも他人の手紙をもっている、というわけにはいかない。
ネコニンギルドに頼む、という手もあったのだが、
他人の手紙にお金をかける、というのも何か違うようきがし、
というか、ロイドを二度もだました男が託した手紙である。
ロクでもないような気がしなくもない。
そんなことをおもいつつ、リフィルが盛大にため息をつきながらもいってくる。
潮の香りが周囲にただよい、また風にも海風特優の湿気と匂いがこもっている。
いうなれば、特徴ある磯の匂い、というべきか。
あまり頑丈、にもみえない木々でつくられた小さな小屋。
「おいおい。貧民街でももっとまともな家だぞ。ここの家並みは」
周囲をみつつ、ゼロスが何やらあきれたようにいっているが。
「仕方がないわ。ここはテセアラと違って、資材もとぼしい、のだもの」
ぞくにいうほったて小屋、にほぼちかい。
それでもきちんと家の形にはなっており、きちんと窓もつくられている。
少し奥まった場所にあるジーニアスが示した家。
どうやらそこが目的の女性がいる家、であるらしい。
コンコン。
「は~い」
がちゃり。
扉をノックすると、そこから一人の女性があらわれてくる。
茶色い短い髪に頭にかるくタオルのようなものをまき、
服装は海らしく肩を露出しいかにも涼しげな格好。
その青きスカートの前には白きエプロンらしきものがつけられており、
靴は動きやすい皮であみこまれているサンダルをはいている。
その女性は、リフィル、そしてジーニアスの姿にきづいたのか
「あら?あんたたち……」
少し思案するようにつぶやき、そして。
「アイフリードに手紙をわたしてくれたのかしら?ここにきた、ということは?」
見間違えるはずがない。
銀の髪というのも珍しいが、何よりも女性のほうがかなり美人であった。
あのときは金髪の少女と赤い髪の少年と男性が一緒にいたが。
連れが今は違うようではあるが、手紙を託した相手を見間違えるはずもない。
そんな彼女の問いかけに、
「ええ。手紙はきちんと渡したわ」
「んで、たぶんこれ、返事だとおもうんだけど。また手紙を代わりに預かってきたんだけど」
「みせて!」
ジーニアスがいいつつも、手紙をリフィルからうけとり手渡せば、
それをひったくるようにしてそれにざっと目を通しだす。
しかし、それに目をとおすたび、だんだんと女性の表情が険しくなっていき、
そして、
「何ですって!あなたたち!どういうつもりなの!」
いきなり、手紙をぐしゃり、と握り締めたかとおもうとそんなことを叫んでくる。
「へ?」
「?何が?」
きょとん、と首をかしげるのは、ジーニアスとエミル、ほぼ同時。
「へ?何が、じゃないわよ!この手紙よんでごらんなさいよ!」
何やら怒ったような女性の声。
「?ライラさん、いったい……」
戸惑いの声をあげるセレスの気持ちはわからなくもない。
たしか、手紙を預かっていたという相手はライラという女性らしい。
ならば、目の前の女性がそのライラ、というひとなのであろう。
そうセレスは推測するが、この怒り用は半端ではない。
むしろなぜ手紙をみただけで怒りだすのか理解不能。
「…少しかしてちょうだい。他人の手紙だから中を見聞していなかったけど。まさか……」
二度も契約をごまかされたのである。
ゆえに手紙にも何か不安を感じていたリフィルが眉をひそめつつも、
ライラのつきだした手紙を恐る恐るうけとり、それに目をとおす。
だんだんリフィルの視線が目を通すたびにこわばっていき、
「あ、あの男はぁぁ!やってくれたわね!」
「ね、姉さん?」
リフィルにしては珍しく、おもいっきり怒りをあらわにしている様子をみて、
ジーニアスもとまどわずにはいられない。
「これ、みてみなさい」
リフィルがこめかみをひくつかせつつも、つきだしたその手紙。
それを思わず覗き込む、エミル、ジーニアス、ゼロス、セレスの四人。
ライラへ。申し訳ない。
どうやっても期限までに借りた金を返すことができなそうだ。
俺は仲間達とともにこれから新たな旅にでる。
残金はこの手紙を届けた俺の一番の部下ロイドが全額返済してくれるはずだ
今まで世話になった、さらばだ
「「「…はぁぁ!?」」」
ゼロス、ジーニアス、エミルの声が同時にかさなる。
「え、えっと。一番の部下?いつ、誰がまたあのアイフリードさんの部下になったの?
たしか、クラトスさんが決闘して、ロイドの海賊みらない撤回させてなかった?」
たしかに撤回させていた。
あのとき、クラトスが徹底的にたしかアイフリードをたたきのめしていたはず。
かわいい我が子に海賊などさせられるか、という思いから。
「クラトスに間違いなく撤回させられていたわ。手紙を預かった。
ときいたときに中身まで見聞しておくべきだったわ」
プライバシーだから、と躊躇した自分を今は殴りたい。
ゆえにこめかみをおさえつつうなるようにいっているリフィル。
そんな彼らの反応とは裏腹に、
「さあ!全額返してもらいましょうか!」
づいっ、と顔をつきだすようにして、その腰に両手をあてていってくるライラ。
「え。えっと…ライラさんって、あのアイフリードとつきあっていたわけじゃあ……」
てっきり、恋文なんだ、ずっとそうおもっていた。
それゆえにジーニアスの戸惑いもひどい。
「冗談じゃないわ!あんなごろつき!私は高利貸しをしているの。
あいつ伝説の勇者ミトスの宝をみつけるとか何とかいって私からお金をかりたまま逃げていたのよ」
きっぱりはっきり。
声をたからかにいいきるライラの言葉にどうやら嘘はない、らしい。
「んで?見目麗しきお嬢さん?ちなみにいくらくらいそいつはかりてるのかな?」
「あら。素敵な殿方ね。あんなゴロツキの仲間とはおもえないくらいに」
「そりゃどうも。俺はそいつ、アイフリードってやつを知らないんでね」
ゼロスに今さらながらにきづいたのか、ゼロスを値踏みするように、
それでいて高飛車にいってくるが、ゼロスの優雅な物腰をみて、そして判断した、のであろう。
「そう。あなたのような上流階級のものはあんなゴロツキとは知りあわないでしょうね」
その物腰からおそらく、パルマコスタのおそらく裕福な出身のものだろう。
なぜにこの彼らとともに行動しているのかはわからないが。
「アイフリードのやつが私から借りている借金の金額なら。
合計でふくれにふくれあがって、一億ガルドまでふくれあがっているわ」
「ヒュウ。一億、そりゃすげえ」
「ええ!?そんな大金みたこともないよ!」
ゼロスがその台詞をきき、おもわず口笛をかるく鳴らし、
「よくわかりませんわ」
こちらはこちらで自分でお金をつかうようなことがあまりないがゆえ、よく理解していないっぽいセレス。
いつも大概お金を払うのはセバスチャンの役目であったがゆえ、
金額をいわれてもあまりピン、ときていないらしい。
ちなみにゼロス達と同行してからのちは、
何かかったりするときは、必ずゼロスがいわずともがな、
いつのまにかセレスのかわりに支払っていたりする。
「さあ!一億ガルド!耳をそろえてかえしてもらいましょうか!」
「そんな大金もってるはずないでしょ!
そもそも、僕たち、この手紙を届けてくれっていわれただけなんだから!
そこにかかれてる、あいつの仲間というのも真赤な嘘なんだからね!」
ライラの剣幕にジーニアスが思わずくってかかる。
「そういえば。一億といえば。でもたしか。通行証を一億でうりますよ。
とかいってた旅業の人達がいたよね?」
一億、という単語をきき、ふと思い出したようにつぶやくエミル。
たしか、旅業のものが、そんなことをいっていた。
そんな大金をはらった買うような存在がいるのだろうか。
とおもったのも記憶にあたらしい。
「…いたわね。ついでにいえば、コットンもその金額でかわないか。とかいってきたわね」
エミルの台詞にリフィルも思いだしたのか、盛大にため息をついていたりする。
ちなみにいまだにコメカミはぴくぴくしており、
アイフリードに対し、いまだに怒り心頭なのは間違いがない。
「コットン。って、そういや、あの人がいってたスピリチュア像。そのままになってるよね」
リフィルにつづき、その名がでたことで、
ハコネシア峠のコットンのことを思い出し、ぽつり、とつぶやいているジーニアス。
スピリュアの書がみたければ、像をもってこい。
そういわれていたが、結局像はみつからないままで今にいたっている。
もっとも、すでに封印全てを解放している今となっては意味がないのだが。
そもそも像をもってこい、といわれたのは再生の書をみて、
封印の場を確認するために閲覧したかったに過ぎないのであり、
ゆえに今はもはや用済みといってもよい。
一応、ブルートにもそのことをパルマコスタの会談時におもいだし。
彼がドアからだまし取った偽神子一行から手にいれている旨をつたえているがゆえ、
もしかしたら今ごろはパルマコスタがその書物を取り戻している、かもしれないが。
一億、という金額に聞き覚えがあったがゆえ、エミルがぽつり、とつぶやけば、
リフィルも思いだしたらしく、盛大にため息をつきながらいってくる。
そんな三者三様ともとれる彼らの様子を眺めつつも、
「そんなのはどうでもいいのよ!ここに書かれているのは、あなた達がお金をかえす。ということ。
あいつは海でつかまらないでしょうし。さあ、かえして!」
ライラからしてみれば彼らのいい分はどうでもいい。
むしろ、こんな手紙を届けてきたのだから、耳をそろえてお金をかえせ。
それがライラのいい分。
無茶苦茶にもほどがあるが、ライラの中ではそれが当たり前となっている。
つまり、手紙にかかれているのだから、その手紙をもってきた彼らが払うべきだ、と。
両手を腰にあてどなってくるライラとなのりし女性の姿をみてため息ひとつ。
「なら、アイフリードさん当人と話しあったらどうですか?」
「それができたら苦労しないわよ!あんたたちが代理人でしょう!」
ため息をつきつつもそういうエミルにたいし、ライラが何やらどなってくるが。
どうやら拉致があかないらしい。
ならば。
「――アクア」
「はいはいは~い。およびですか!?」
「「な!?魔物!?」」
突如としてその場にいない第三者の声が辺りに響き渡る。
それとともに、ゆらり、と空気が揺らめいたかとおもうと、
その場にあらわれし、女性のような、しかしどこからどうみてもヒトあらざるもの。
長くたらした青い髪。
透けている青白い肌。
身につけている服は白く、ヒレのような耳は魚型のピアスというか耳飾り。
足はちなみに地についておらず、いや、人の足の形状をしていない。
エミルが名を呼ぶとともに待っていました、とばかりにすぐさまにあらわれるアクアは、
常に待機しているというか、いつでもすぐに出れるように、
エミルの影の中に意識とをどうやら一部ほど残して行動している模様。
そんな現れたアクアの姿をみて、元々家にいたライラとその親、なのであろう。
二人の声が同時に驚愕したような声をあげているが。
「失礼な人間たちね。あたしには、せ…」
「アクア?」
「ううん。私たちにはエイトリオン、という名があるんですからね!
エイトリオンのエイトリオン・ブルーのアクアといえば私のことよ!」
がくり。
センチュリオン、といいかけたアクアの言葉を遮ったエミルの言葉をうけ、
あわてて言い返しているアクアであるが。
それは逆の意味でエミルを脱力させるのには十分すぎる台詞。
ゆえに思わずその場にて一瞬、脱力してしまう。
「まだいってるのか。おまえらは」
テネブラエものりのりで、エイトリオンブラック・テネブラエとなのっていたが。
いまだにそのネタをひっぱっているのか。
とエミルからしてみれば切実にいいたい。
果てしなく。
「何をいってるんですか!エミル様はその総司令官!それでいいじゃないですか!
ノルンちゃんもよろこんでたじゃないですか!」
「昔をもちだすな!昔を!ったく。
それより、話しはきいていたな?アイフリードをここにつれてこい。
手段はとわない。…足止めにてアレラを利用するのは許可する」
思わずこめかみに手をあてたのち、そうアクアに命じ、そして。
「いや。ここにつれてくるのにそれだと不都合。か。
ウェントスと協力して、空からでもいいからつれてこい」
あえて、配下を使ってもかまわない、といわなかったのは、
それをいえばアクア達が魔物達を束ねしものだ、と見破られないがため。
あまり意味がないような気もするのだが、
エミルからしてみれば魔物という言葉をだしていないのだから問題ないだろう。
という程度の認識でしかなかったりする。
「了解しました~!少しばかりお待ちくださいね!」
シュンっ。
元気よくそんな声をなげかけたのち、突如として現れたときと同様にかききえる。
アクアは彼…あの人間、アイフリード達と面識がある。
船の上で彼女達を呼び出していたがゆえに間違えることはないであろう。
「さてと。というわけで。アクア達がアイフリードさんをこの場につれてくるでしょうから。
金額に関しては当人と話しあってください。って、皆さん?どうかしたんですか?」
「どうしたじゃないよ!エミル!」
「い、今のは……」
ジーニアスがはっと我にもどり思わずさけび、ライラはライラで茫然、としたようにつぶやいていたりする。
「?」
そんな彼らの態度をみて、エミルは首をかしげざるをえない。
ラチがあかないから当人を呼んできてもらうのに、いったい何の不都合がある、
というのだろうか。
「…はぁ。エミルくん。もうすこし人の世界の常識を考えようぜ?」
「?ゼロスさん?」
たしかにエミルに、否、精霊の関係者ならばそれは当然なのかもしれないが。
しかし、普通の人にとってはそれは普通でない。
ゆえに、ゼロスが言葉をにごしつつ、そんなエミルの行動をたしなめる。
「とりあえず、あの子達が当事者を連れてくるでしょうから。
借金の金額のことに関しては僕らは関係ありませんし。当人としっかり話しあってください」
「海のどこかを移動しているあいつをどうやってつれてくるっていうのよ」
先ほどの魔物らしき何かもきになるが、しかしどうやつてつれてくるのか。
ライラとしては目の前にいる彼らにはらってもらったほうが手っとり早い。
それにみたところ一行の中のこの赤髪の青年はおかねもちっぽい。
ならば彼にはらってもらうというのも手なのだが、
いかんせん、きっぱりとアイフリードと面識がない、といわれてしまっては、
あなたが払って、といえないのがライラとしてはつらいところ。
そんな会話をしている最中。
「ライラ!アイフリードから手紙がきたってほんとうかい!?」
どこからききつけたのか、というか、情報が伝わるのがはやい、というべきか。
ドンドンと扉をたたいたかとおもうと、家の中に飛び込むようにしてはいってくる人影一つ。
「あ。マックスさん」
「?誰?」
エミルは面識がないがゆえに首をかしげざるをえない。
はいってきた男性はどこにでもいそうな、あまりぱっと見た目目立ちそうにない男性。
麻でできた上着にズボンをはいており、
どことなく気苦労を背負うような雰囲気を醸し出している。
「前、僕ら一行をパルマコスタまでつれていってくれた漁師のひと」
ジーニアスがそんな彼をみてつぶやき、エミルに対し丁寧に教えてくる。
かつて、ライラの手紙を配達する、という名目で、パルマコスタまで連れて行った人物。
それが今やってきたこのマックス、という男性。
そんなジーニアスの説明をうけ、
この人間が以前、コレット達一行をパルマコスタにまでつれていった人間なのか。
と一人納得するエミル。
「ふぅん。…あ」
「?」
「きたよ」
「え?」
エミルがふと顔をあげそうつぶやくとほぼ同時。
「うわぁぁぁぁぁぁ~~!」
何やら外から第三者の今度は男性の悲鳴らしきものがきこえてくる。
すぐさまに彼ののりし船を足止めし確保したのは視てしっていたが。
ウェントスの力をもってしてどうやらこの場に直接とばしてきた、らしい。
ドサッ。
何か重いものが外におちるおとがする。
それとともに。
「「エミル様、連れてきました」」
二つの声が同時にかさなる。
「お疲れさま」
声の主は白き猫のような虎のような姿をしたウェントスと、先ほどあらわれしアクアの二柱。
「な、何だ!?いったい!?というか、何がおこったんだ!?」
何やら混乱しわめいているみおぼえのある海賊服をきこんでいる一人の男性。
説明するまでもなく、さくっとあっさりと捉えてこの場につれてきたらしい。
「ああ!アイフリード!あんた!今度こそにがさないわよ!」
その姿をみとめ、ライラが思わず窓から身を乗り出しておもいっきり叫ぶ。
「げえ!?ライラ!?というかここはじゃあイズールドか!?なぜ!?」
何やら混乱したように叫んでいるその男性。
先ほどまで普通に船で移動していた、というのに。
あっというまに海の魔物にとりかこまれ、船の中が混乱したかとおもうと、
みおぼえのある女の子が突如として目の前にあらわれた。
…しかも、魔物達の上に浮いた形、で。
そして、
あんたを連れてきなさい、といわれたからね。
そういきなりいわれたかともうと、体がいきなり風にからめとられた。
気付いたときには空中で。
何か水の膜のような何かの中に突如として放り出された。
次に気づいたときは再び空中。
気付いたときは完全に地面にむけて落下していた。
先ほどまで海原にいたはず、なのに眼下にみえるのはどこかみおぼえのある軒並み。
もっとも、アクアがさくっとアイフリードをつれてきたあと、
ウェントスが残された船員たちに、ライラという女性のもとに彼をつれていった。
と説明したがゆえ、船員達は不安はあるものの説明をうけたがゆえに安心もした。
だからといって完全に信用したわけではないのだか。
ゆえに、突如として連れ去られた頭であるアイフリードを救うため、
あわてて航路を変更している今現在。
もっとも今現在彼らがいるのはルイン付近であるがゆえに、
この場にたどりつくまではるく一晩以上はかかるであろう。
先ほどというか、目の前の魔物らしきもの。
それらもかなりきになるが、しかし、今はそれどころではない。
そのまま、ダン、という音とともに盛大に玄関の扉をあけはなったかとおもうと、
そのまま外にとびだし、
「アイフリード!きっちりお金をまとめてかえしてもらうわよ!」
いまだにその背を地面につけたままアイフリードの目の前にかけよったかとおもうと、
その襟首をつかんだのち、高らかにいいはなっているライラの姿。
「さてと。当人つれてきましたし。僕らはもうようはないかと」
いまだに唖然としているリフィル達のほうをふりむきつつも、
にっこりとエミルがいうのとほぼ同時。
そんなエミルの台詞にはっと我にもどった、のであろう。
「ちょっとまちなさい!エミル!どうやって彼をここにつれてきたの!?」
がしっとエミルの肩をつかみ、エミルにとといかけているリフィル。
「ちょっと!そこの人間!エミル様から手をはなしてよね!」
そんなリフィルにきづいたのか、アクアがそんなリフィルにたいし盛大に何やら叫んでいる。
「…カオスだな。こりゃ」
ぽつり、とそんな光景をみてつぶやくゼロスに、
「いったい、何がどうなっているのですの?」
困惑したようにぽつり、とつぶやいているセレス。
しかし、これではラチがあかない。
「まあまあ。リフィル様。エミルくんにはあとからゆっくりときくとして。
今はとりあえず、あっちをどうにかするべきじゃねえのか?」
手紙をもってきた相手にお金を、とかいてあった以上。
自分達は関係ない、としっかりと念を入れておかなければ、
意味もわからない借金を押し付けられかねない。
ゼロスがそんなリフィルに声をかけているそんな中。
「ちょっとまて、ライラ!この俺がかりたのは二千万だろ!なぜ一億までつりあがってるんだ!?」
何やらそんなわめき声が外のほうからきこえてくる。
「あんたはこっちの利息をわかってて私からかりたでしょ!
本来なら五千万なんだけど、あんたが逃げたからね!その迷惑料もはいって倍の一億よ!」
「そんな無茶な!」
「「「「・・・・・・・・・・・・・・」」」」
思わずそんな会話がきこえてきて、顔を見合すゼロス、ジーニアス、セレスの三人。
いくらセレスとてそのライラのいい分がどこかおかしい、とわかるほど。
そんな利息がつく金貸し、などそれこそ裏のルートにおいてもあまりいない。
さすがのリフィルもがしり、とエミルの肩をつかんでいたが、
その言葉がきこえたのか、ぴたり、と固まったようになっており、
それをうけ、アクアが勢いよくそんなリフィルの手からエミルをひきはがしていたりする。
「まさか、あなた、エミル様にたいしよからぬ思いを抱いてるんじゃないでしょうね!」
ひきはがしつつも、リフィルにむかって何やらいっているアクアだが。
「あ・く・あ?」
まったく。
何をいいだしているのだろうか。
この子は。
いまだリフィルに何かいいかけたアクアにたいし、ぎろり、と睨むようにそういえば。
しゅん、とその頭にある耳をうなだれさせ、
「ご、ごめんなさい…」
「ったく。怒っているわけじゃないから。あまりいらないことはいうな、というだけだ。
……前のようにあまり人にかかわってお前達までつらい目にあうことはないんだからな」
それは本音。
ミトス達四人とアクアは仲がよかった。
人を嫌いではない、というのもわかっている。
それでも、ミトス達が四千年も自分との約束を破っているのもまた事実で。
嫌悪していた他者の命をもてあそぶ行為すら彼が行っている、という。
アクアは純粋である彼ら四人が好きだった。
特にマーテル、そしてあのミトス達が。
それを見知っているからこそ、エミルからしてみれば、
アクアがあまり人とかかわる、というのをよしとしない。
彼女が目覚めたとき、癇癪をおこした光景を目の当たりにしている以上、
あまり彼女に心配をかけたくない、というのもある。
それはセンチュリオン全てにおいてエミルがおもっていること。
もっとも、同じようにセンチュリオン達もラタトスクのことを心配しまくっているのだが。
ある意味、親の心子知らずであり、また子の心親知らず、の状態になっていたりする。
「そんな!エミル様だけにつらい目にあわすわけには!
エミル様こそおもどりください!あなた様ご自身が動かれる必要は!」
「それとこれとは別だ。とりあえず、あの人間たちのつれに、一応、心配がないように伝えておけ」
「それはウェントスが伝えていたらしいので問題ないかと」
そんな会話をしている彼らの言葉はリフィル達には理解不能。
聞いたことのない言葉でやり取りをしており、ゆえにリフィル達は首をかしげざるをえない。
そんな意味のわからない旋律の会話らしきものをしている彼の横をすっと通り抜け、
そして、
いまだに言い合いをしているアイフリード?当人であるらしき人物達のもとにと歩いてゆくゼロス。
そして。
「おいおい。あんたら。仲がいいのはいいが、真昼間っから。それだと。周囲の目をかんがえなよ?」
今の彼らの姿は、ライラがアイフリードに馬乗りになっているかの格好。
つまるところ、どうみてもライラがアイフリードに迫っている。
というようにしか見えないというのが現実であったりする。
当人はまったくそんな自覚はさらさらないのだろうが。
「ラ、ライラ!?まさか、やっぱりライラはアイフリードのことを!」
一方で、先ほど家にやってきた男性がそんな二人の姿をみて何やら悲鳴に近い声をあげているが。
どこからどうみても、第三者がみればライラがアイフリードにせまっている。
そうとしかみえない姿がそこにはある。
ゆえに混乱したように叫んでいるマックス、とよばれし男性。
「「な、馬鹿をい(わないで)(うな)どうして(私)(俺)がこんな奴なんかと!」」
その台詞はものの見事にアイフリードとライラほぼ同時。
つまるところ完全に二人の声が一致する。
「はいはい。そんなことより。俺様達はもう用済みでいいか?
借金の件はそいつとあんたの責任だろうが」
そんな彼らをかるくあしらいつつも、呆れたように、
それでいて確認をこめてといかけているゼロス。
誰しも痴話げんかにみえるそれに巻き込まれたくはない。
「ま、まってくれ!俺にそんな大金はらえるはずがないだろ!」
ゼロスの言葉をうけ、はっと我にもどったのか、アイフリードが何やらわめいてくるが。
「だからといって。この手紙託した相手に借金をおしつける。
というのはどうか、と思うんですけど。これ、クラトスさんがこの場にいたら。
アイフリードさん、問答無用で攻撃されてますよ。絶対」
これがもしロイドが手渡し、ロイドに借金をおしつけているとするならば。
問答無用でアイフリードにジャッジメントをおみまいするであろう。
もっとも、話をきいたクラトスがどう行動するか、までエミルもわからないが。
すくなくとも、アイフリードはただではすまない。
それだけは断言できる。
それほどまでにあのクラトスはどうやら子煩悩というか親ばかになっているらしい。
というのはこれまでの彼の行動でエミルは何となくではあるが理解している。
ゆえにエミルの台詞に嘘はない。
…最も、親ばか、という点ではエミルもあまりかわらない、とは一部ものもがいうであろう。
特にこうして人の世にでている時のエミルは自分達の子供、
すなわち自らが生み出したにもちかしい生命体達にとてつもなく甘くなる。
そのことをセンチュリオン達は身にしみて知っている。
そして、そんなラタトスクの優しさに人々がつけこみ利用しようとする、ということも。
「…エミルがよくわからない魔物を呼び出すのは今に始まったことじゃない、として」
「失礼ね!私たちをあんな下っ端魔物と一緒にしないでよね!」
ジーニアスの台詞にアクアが思わずくってかかる。
アクア達センチュリオンにとって魔物は配下であり僕。
ゆえに、同じようにみられるのは見下されているようなもの。
何しろ立場的にはセンチュリオンは魔物達を束ねしもの、なのだから。
そしてそれらの上にたつ魔物の王というべき存在。
それが精霊ラタトスク。
全てのマナを司りし存在。
そして、世界を産みだせし存在。
「え、えっと。とりあえず、アイフリードだった、よね?お金がないならつくればいいんじゃない?」
このままではラチがあかない。
というか、この騒動からとっとと逃れたい。
ロイドがこの場にいなかったのはあるいみ幸いといえるかもしれない。
そんなことをふとジーニアスはおもってしまう。
ロイドやコレットがいれば、かわいそうだから立て替えてあげよう。
とかいいだしかねない。
それはもう、手にとるようにその光景がありありとうかんでしまう。
そんなジーニアスの言葉をうけ、
「んな大金どうやってつくれっていうんだよ!」
アイフリードのいい分は至極もっとも。
「?あ。ならこんなのはどうですか?
アイフリードさんたちも海を航海してるなら、ドア総督達から通行証。
それらをもらってるとかあるんじゃないですか?もしくはそういうのをひろったり、とか」
おそらく航海中に遭難した船などからそういった品を彼らは手にいれているはず。
だとすればあまり必要とないであろうそれを売り払い資金にするのもいいであろう。
もしくは船の中にあるであろう彼の財宝を売り払ってでも、
ここはライラにきちんと一部でもお金をかえさないかぎり、
まちがいなくこの人間は自分達にすら借金をおしつけてきかねない。
そんなエミルの言葉をうけ、
「たしかに、もってるが。それがどうかしたのか?」
「なるほど。たしかにそれはいいかもしれないわ。
通行証はハコネシア峠のコットンがたしか一億で売っていたわね?
普通の店ならば十分の一の取引だけど、個人的には価値の半額。
そう暗黙の了解でこのシルヴァラントではきまっているわ。
あなたが通行証を二つもっているのなら、それをうりお金をつくるべきね」
リフィルもとっととこの騒動から逃れたい、のであろう。
エミルの台詞にのるかのごとく、そんなことをいってくる。
「コットンのやつにか!?」
アイフリードがそんな彼らのいい分に思わず目をまるくする中。
ようやくアイフリードの体の上からたちあがり、
そして、ポン、とその場にいるマックスの肩をたたき、そして
「それなら、マックスを連れていってちょうだい」
「え?」
いきなり話しをふられ、とまどうしかないマックス。
というかマックスにはまったくもって話しの全体像がみえてこない。
そももそ、こんな小さな村に銀髪の美人がやってくることなどそうそうない。
ゆえに、皆が約半年前、リフィル達がたちよったことを覚えており、
また、マックスが彼らがライラの手紙をうけとって、手紙を配送するかわりに、
パルマコスタに送らされていった、というのもこの集落の中では周知の事実。
ゆえに、マックスのもとに、あのときの銀髪の女性がやってきた。
とすぐさま話がいったといってもよい。
その言葉をきき、返事がきたのか、とあわててライラの家にたちよってみれば、
何やら彼らと…前いたときの一行とは一部メンバーがかわっているが。
とにかく何やらライラがもめていたかとおもうと、
突如として現れたみたこともない魔物。
さらには、いきなりライラの家の前に落ちてきたっぽいアイフリード。
これらを連続で体験し、混乱している中、ライラにぽん、と肩をつかまれ、
マックスは戸惑いの声をあげることしかできない。
むしろ、この状態できちんと説明もされずに状況を把握できる、とするならば、
それはそれであるいみ一つの才能、といえるであろう。
「また逃げられたら困るもの。お金はマックスにもたせてね。
あと、こいつが逃げたらあんたたちからお金をどこまでいっても取り立てるから」
「え、えっと。ライラ?」
マックスの戸惑いの声は何のその。
「…仕方ないわ。降りかかる火の粉ははらわないと。
コットンの小屋まで一気にレアバードで移動しましょう」
エミルにまた魔物を呼び出させるよりもそちらのほうがかなり安全。
というか見たこともない乗り物にのっている自分達をみれば、
このアイフリードという輩もへんな考えはおこさない、であろう。
見たこともない装置をみて、ディザイアンの仲間とおもわれるかもしれないが、
誰も好きこのんでディザイアン連中に借金をおしつけよう。
などとは絶対におもわないはず。
そんなことをすればどうなるのか、目に見えて明かなのだから。
「え、でも、姉さん」
「私たちは外で待機よ。私たちはコットンに面識があるもの。
スピリチュア像はどうした、といわれても面倒だしね。
ゼロス、エミル、あなたたちにアイフリードの見張りをお願いしてもいいかしら?」
「俺様は別にかまわねぇけど。逃げたらわかってるよな?あんた?」
「くっ」
いいつつ、ゼロスは無言でその手を腰にさしている剣の柄にとかける。
それは逃げ出そうとするならば容赦はしない、という意味であることを、
瞬時にアイフリードは理解する。
この赤髪の男性がどこまで強いのかわからないが、
しかし、以前自分を打ち負かした赤髪の男がかなりつよかったこともあり、
この青年もまた強いという可能性は否めない。
「そんなことしたら、今度こそあの子達に実力行使してもらいますよ?」
にっこり。
言葉をつまらせるアイフリードに対し、とどめ、とばかりに言い放つエミル。
エミルがいうあの子、というのはわからないが。
しかし、直感でそれはあの魔物達ではないのか、とアイフリードは理解する。
突如として海の魔物達に船が取り囲まれ、移動ができなくなった。
さらに大型の魔物もあらわれ、ここ最近、魔物の襲撃がなかった船員達はパニック状態。
そんな中、みおぼえのある少女が自分をどういった手段でなのか、
いきなり水の鞭のようなもので体をからめたかとおもうと、
気が付いたら空中に放り出されていた。
残された船、そして船員たちがどうなっているのかアイフリードにはわからない。
しかし、ここで断れば、残された船員達に被害がでるような気がする。
それだけは何としても避けなければならない。
アイフリードには船員達を、仲間達を守る意思がある。
まあ、エミルは彼らを殺すきはないが、よくてあの船は壊してもいいかな?
くらいの認識ではあるにしろ。
何しろあの船は危険すぎる。
センチュリオン達の紋様にしろ…
何よりも理解し難いのが、船首につけられている自分を模した、というあの精霊像。
あんな姿が自分の姿だ、と認識される、というほうがエミルにとってはかなりきつい。
たしかにあのような姿になれないこともないのだが。
こちらの姿に慣れ親しんでしまっている以上、わざわざ変えるつもりもさらさらない。
「さあ、早くお金をつくってきてね」
にっこりとほほ笑みながらいうライラの言葉をうけ、
「え、えっと。よくわからないけど、よろしく?」
何が何だかわからない。
しかし、どうやら自分は彼らとともにハコネシア峠にむかわなければならない、らしい。
それを把握し、とまどった声をあげるマックス。
「まったく。余計な手間がふえたってこと?」
ジーニアスが何やらぶつぶつ文句を言いだしているが、
「しょうがないでしょ?そもそも、あの手紙あずかったの君たちじゃない」
「それはそうだけどさ」
なら、代わりにこれを渡してくれ、といって何も考えずにロイドがうけとっていた。
あの場にジーニアスもいたが、返事だから、といわれ深く考えなかったのもまた事実。
「とっとと嫌なことは済ませてしまいましょう。あなた達ふたりもいいわね?さくっとむかうわよ」
「「向かうって」」
目の前の銀髪の美女の台詞の意味はアイフリード、そしてマックスにも意味がわからない。
「何?わしにこれを買い取ってほしいじゃと?いくらじゃ?」
机の前におかれたそれをみて、うなるようにいっている少し頭の禿げた初老の男性。
ハコネシア峠。
ハコネシアの砦、とよばれし先にいけば、アスカード、それにハイマ、
さらに北にむかっていけばルインにとたどり着くという地。
空を飛ぶ乗り物にのせられ、アイフリードとマックスは驚きを隠しきれなかったが。
そんな乗り物、みたこともきいたこともない。
まさか、このものたちはディザイアンなのか、ともおもうが。
彼らにはハーフエルフかどうか、という確かめるすべがない。
ゆえにどうやら逆らわないほうが賢明、という判断に至ったらしく、
またアイフリードはアイフリードでかつて乗せた一行が神子一行であることを知っているがゆえ、
この乗りものはまさか天から預かった聖なる乗り物なのでは、
と変にかんぐっていたりする。
まあたしかに、あたらず、とも遠からず、ではあるにしろ。
そんなこんなで何ごともなく、ジーニアスの後ろにマックス。
ゼロスの後ろにアイフリードを乗せ、リフィルの後ろにセレスをのして、
エミルは一人、呼びだしていたペガサスに一人跨って移動していたりする。
もっとも、ペガサスを目の当たりにし、アイフリードもマックスも唖然と口を開いていたが。
リフィル達が外でというか少し小屋から離れた場所でまっている中、
ゼロスとエミル、そしてアイフリードとマックス。
この四人でコットンの住まうこの小屋の中にはいってきている今現在。
「あんたはこれを一億ガルドでうってたんだろ?
だいたい、売り買いはその品の半額って相場はきまってる。
なら、こっちはこれが二個あるんだ。当然一億ガルトだな」
机の上におかれしは、二つの通行証。
それは、今のコットンからしてみればノドから手がでるほどほしい品。
かつてはディザイアン達から、ドアからいくらでも手にはいったというのに。
ちなみに、ドアやディザイアン達から手に入ったそれらが売れた場合、
その一割を奉納する、というのでこちらに被害がおよばない、という制約をも交わしていた。
しかし、ドアが死んだことと、マグニスが死亡したことをうけ、
今現在、あらたな通行証はまったくもってコットンの手にははいるツテがなくなっていた。
「な、何じゃと!こっちの足元をみおって!」
「おいおい。あんたがこれを一億ガルドで売り払ってるんだろうが?コットンさんよ」
「くっ。この盗賊が!」
「残念。俺様は海賊だ。で、買い取るのかとらないのか?
たしか、クララ夫人やブルートさんがいうには、今後
あんたにこれまでドアが回していた不正なる通行証。
それは回さないように、というお達しがでてたらしいが?」
何やら家の中にはいるなり、どうやら旧知の間柄であったらしく、
世間話をし始めたかとおもうと、いつのまにか交渉にうつっているこの二人。
ちなみに、家の中にはところせましと様々なものがならべられており、
足の踏み場がないほどといっても過言でないほどに色々なものがおかれている。
中にはどうみても壊れて使えないであろうような品までもおいてあり、
それら全て、この家の主コットン曰く、古美術品であるらしく、
壊れていても価値がある、とは彼の談。
そもそも、壊れた食器や道具、農具といったたぐいにどんな価値があるのやら。
それを修理して再利用、というのならまだしもわかる。
しかし、普通に壊れたままでおいておく、という人間の真理がエミルには判らない。
たしか、ジーニアス達いわく、このコットンという人物は、男性には目もかけなかった、という。
たしかに自分がかつてあったときもマルタにばかりはなしかけ、
自分は完全に無視をされていたな、とはおもうが。
しかし、このアイフリード相手にどうやらこのコットンという男性は無視をきめこむ。
ということはできないらしく、何やら言い合いにまで発展している模様。
「~~~っ。も、もってけ!くそ。牧場が壊滅さえしなかったら……」
ぶつぶついいつつも、それでも、アイフリードが追加で海から引き揚げた品を渡す。
その言葉が決めてになった、らしい。
ぶつぶついいつつも、奥のほうからジャラジャラとした音をさせ、
大きめな革袋をもってでてくるコットンの姿。
それをひょいっとうけとり、ライラの使いでもあるマックスの手にと握らせる。
あまりの重さに両手で抱え込むしかないマックスであるが、
「こ、こんな大金、落としたらどうしよう……」
マックスとしては困惑を隠しきれない模様。
それもそのはず。
誰がすきこのんで、中にお金がはいっています、といわんばかりの皮袋。
それを手にしたい、というのだろうか。
それははっきりいって、自分は大金をもっています。
襲ってください、といっているようなもの。
「うけとっていいんじゃないですか?
そもそも、この人が一億ガルドで通行証をうっている。それは旅業の人達も知るところですし」
気になったのでかの旅業のものからきいたところ、
バックについているのはコットンという人物である、というのをエミルはきいている。
しかも、今の言い回しから、ディザイアン達ともつるんでいた模様。
こういう人間はいつになっても懲りることはしないのだろうな。
自分の欲望に忠実で、それにともなって悲劇がおきても知らぬぞんぜぬ。
そんな人間の典型的な例。
それでいて、どうでもいいような壊れた品などを大切にし、その収集に命すらかける。
そんな人間がいることはたしかにしってはいるが、
だからといってそれを認められるか、といえば答えは否。
何ごとも適度というのがあるわけで、ヒトはその適度というものができるはず、なのに。
ときどきいる。
このようにつきぬけてしまうものたちが。
そして、その突き抜けた行為は時として、世界を自然をも脅かす行為にも発展する。
そう、知識力をもとめ、その知識をもとに様々な品をつくり、
そして世界を破滅にみちびくマナを利用した兵器を産みだしたかつてのヒトのごとくに。
「よっしゃあ!これで借金がかえせたな」
エミルがそんなことを思っている中、
一人アイフリードのみがガッツポーズをしているのがみてとれるが。
とりあえず、お金をうけとり、家の外へ。
そして外でまっていたリフィルとジーニアスと合流する。
「あなたにはあとでしっかりとお話しが必要のようね?
そもそも、クラトスに散々うちのめされて、ロイドの海賊見習いの契約書。
あなたがたとえ二重表記でだましていたとはいえかわした契約。
それは破棄されたはずなのに、どうして私たちをじぶんたちの仲間のようにかいたのかしら?
それをじっくりと聞かせてもらいたいところね」
「そ、それは…」
「しかも、ほとんど見知らずの私たちに借金をおしつける?あなた、何様?」
「ぐっ」
リフィルはアイフリードの目からみても銀髪の美女。
そんな美女に冷たい視線をむけられて、アイフリードは言葉につまる。
「まあまあ。リフィル様。それくらいにしておいて。
とっとと、俺らの降りかかった火の粉をはらいにいきましょうや。
こいつはあとでライラにひきわたしておけば問題ないっしょ」
「あとは当事者同士の問題でしょうしね」
こんな輩を相手にしていては時間がもったいない。
というか、かなり無駄な時間をつかったような気がしなくもない。
まあ、レアバードを利用しているのでほんの十数分もたっていない。
といえばそれまで、なのだが。
「ちょっとまて。俺はほぼ拉致同然に船からつれてこられたんだぞ!?」
「問題ないですよ。後でアクアに連絡にいかせておきますから。
アイフリードさんが必要なら、彼らのほうから迎えにくるでしょ。多分」
「ひゃひゃひゃ。エミルくんもいうねぇ」
「僕、人に何かなすりつけよう、とするような人間って嫌い、なんですよね。
まったく、…自分達でどうにかしようとあの子達ですら思いいたったというのに。
いい大人が、情けない」
そんな会話をかわしつつ、ひとまず再びレアバードにのりて、一行は再びイズールドへ。
「ライラ!お金だよ!一億ガルドだよ!」
家にはいるなり、よほど不安、だったのだろう。
即効ライラにお金のはいった袋をライラの目の前にどさり、とおいているマックス。
これまでもしっかりと袋をだきしめ緊張していたこともあり、
少しでもはなく、自らの手から袋を手放してしまいたかったらしい。
「ああ!私の一億ガルド!…とマックス。お帰りなさい」
中身をすばやく確認したのち、すりすりと皮袋の中の金貨に頬すりをし、
そして、とってつけたようにマックスにおかえり、といっているライラ。
「こ、これで借金はかえした、からな」
いまだにどこか尻ごみをしつつもそんなライラにいっているアイフリード。
よほどライラの金利がこわいのか。
はたまた彼女自身が怖いのか。
しかし、彼女が高利貸しであることはアイフリードはしっていて
それでも信用がない自分にかしてくれるのは彼女くらいしかおもいつかず、
ゆえに彼女から借金した。
ゆえに借金の責任はアイフリージ自身にあるといってよい。
「確かにうけとったわ。これで借金は帳消しにしてあげる。
さて、アイフリード、あなたにはいろいろと話しがあるわ?
そもそも、二重にお金をかりて、すぐにかえすあてがあるから?
そういってあなたは何年、私からにげまわっていたのかしら?え?」
「そ、それは…」
かえすことはかえしていた。
定期的にこの地にやってきていたのは、ライラに借金の一部を返済するがため。
もっとも、利子よりも低い金額しかライラいわくかえせていなかったらしく、
だんだんと借金がふくれあがっていた、のだが。
本来は十一で貸すところをすこしは考慮して利率を少しはさげていた、とはいうが、
アイフリードにとってそれは少し、ではなくむしろ利息を払うためだけ、に。
人々を送り届けする金額を上乗せしたり、といろいろと行動していたりもした。
「さてと。リフィルさん。僕らの用事はすみましたし。もういきません?」
「そうね」
「ちょ、ちょっとまて。おまえら!」
「じゃあ、ごゆっくり~」
「~~~!」
何やら背後の小屋のほうから叫びのようなものがきこえるが気にしない。
ひとまずは手紙を預かっていた、というお使いのような一件はこれですんだといってもよい。
「さてと。何かちょっと寄り道しちゃいましたけど。
とっとと材料かって、それからカンベルト洞窟、でしたっけ?いきましょうか」
「ええ。そうね」
何やらどっとつかれたような気がするのは、おそらくリフィルの気のせい、ではないのであろう。
姿はみえないが、どうやらそこに先ほどのアクア、そしてウェントス。
そう名乗ったものは常にそこにいるらしく、
おそらくはステルス機能と同じような性能をもっている生物?なのだろう、とあたりをつける。
魔物でもなく精霊でもない、それでいて自然にとけこむような、何か。
エイトリオン、となのっているがおそらくそれは彼らの種族名ではない。
それはリフィルの直感。
「そ、そうだわ。私は道具類をかってきますから。あなた達だけで海鮮類はかってきなさいな」
これ以上先にすすめば、そこにあるのは木々でつくられた残橋。
あれは動くたびにぎしぎしといい、今にも底が抜けそうになっていた。
「でも、露店で売りにだされてるのかな?」
「さあ?でもあっちにある店にはある程度の品はあるんじゃないのかな?そろそろ昼時でもあるし」
食材切れ、にはなっていないであろう。
まあ、そうなっていたとするならば。
「まあ、なかったらなかったで、海の子達にお願いするしかないかなぁ」
「「お願いって……」」
「エミル様。何なら命じましょうか?」
「いや。いいよ。売り切れてたらお願いね」
「はいっ!」
おそらく傍にいる、のであろう。
声のみがリフィル達の耳にきこえてくるが。
しかしその姿はしっかりとゼロスには視えている。
しかし、今のアクアの台詞がリフィル達に理解できていたとするならば、
さすがのリフィルとて結論に至ざるをえなかったであろう。
何しろアクアは命じる、そういっているのだから。
たまたまアクアがリフィル達の知らない原語で話していたがゆえ、
その言葉の意味にリフィル達が気付かなかったのはあるいみ幸運、というべきか。
そんなちょっとした危険をはらんだ会話をしていたということにまったくもって気付くことなく、
「じゃあ、僕はこの奥にあるであろう店にいってきますね。
セレスさんもいく?かわった品とかあるかもしれないし。
たぶん、店先でうってる鮮魚とかみたことないんじゃない?」
「そうですわね。きになりますわ」
簡単な魚釣りなどは兄につられていったことはあるにしろ。
それでも魚をつる、のではなく、ずっとじっとしていれば体にわるいから、という理由で、
磯などで貝などをとる、それだけに徹してもいた。
リフィルとゼロスがならば道具類をそろえるから、というのでひとまず近くの道具やへ。
エミル、ジーニアス、セレスの三人で村の奥にすすんでゆくことしばし。
やがて。
「らっしゃい、らっしゃい、水揚げしたての魚だよ~!」
何やら元気のいい掛け声らしきものが奥のほうからきこえてくる。
「あ。イズールド名物。昼時にあるっていう昼市場が始まってるみたい。
ちょうど運がよかったね。エミル」
ジーニアスはその知識からそういったものがこの地において開かれているのをしっている。
何でもこれを目当てだけにこの地にやってくるものもいくつかいるらしく、
また、市場ツアーなるものもくまれている、ときいたこともある。
奥にむかってゆくと、わいわい、がやがやという人の掛け声などとともに、
これまで少なかった人々が一気ににぎわいをみせはじめており、
普段は数名もいないであろう木々でできた港の残橋もどきに、
かなりの人がいったりきたりをしているのがみてとれる。
そして、そんな木々の上にござをひき、木の箱にいれ品物をうっている漁師たちらしき姿。
市場が開かれているのならばそこで食材を買い求めればいいであろう。
ゆえに、エミル達はそちらに足をむけてゆく。
~スキット・イズールド・昼市場~
エミル「へぇ。こんな形で市場とかやってるんだ。昔とかわらないね」
ジーニアス「?エミル。前にここにきたことあるの?」
エミル「え?あ、聞いたことがあるだけ、だよ」
正確にいえば視て聞いていた、のだが。
この港町はかつては結構大きな街であった。
ミトス達がまだ戦争をとめようとしていたときにはこんなに小さくなかったはずなのに。
それでも小規模になりはすれど、人々はこの地から離れようとしなかった。
ということなのであろう。
セレス「うわ~。なんかすごい大きな平べったい魚がいます!あれ何ですの!?」
ジーニアス「うわ。めずらしい。マンボウだよ」
エミル「ほんとうだ」
スイカの種のような形。
頭がやや狭く、後方にいくに従い体高が高くなっている特徴ある体。
真の尾鰭はなく体を断ち切ったような直線に水着のパレオを思わせる舵鰭。
舵鰭が丸く円形を描いていることから、ヤリマンボウ、の種ではないらしい。
マンボウの皮膚は厚く、うろこはまったくほぼなきにひとしい。
露店の親父「おう。坊ちゃん、嬢ちゃんたち!どうだい!
今日はめずらしいマンボウが水揚げされてるよ!
刺身、からあげ、煮物、何でもござれ!おいしいよ~!」
鮮度がよければキモ味えも味わうことが可能。
だいたい、一般的な料理法として、身と肝を生で酢みそもどきか、肝味えにするのが一般的。
マンボウの腸をかるくほした品は酒のつまみとして取引されており、
かなりの高級品、としてもここシルヴァラントでは出回っている。
ちなみにその腸を焼いてたべたばあい、ちょっとした焼き鳥の特上をたべているよう。
とは人間達の談。
エミル「マンボウか。これもいいかな」
ジーニアス「え?エミルってマンボウ、料理したことあるの!?」
エミル「まあね」
といっても、デリス・カーラーンにおいてディセンダーとしてでていたとき、であるが。
腕はおちてはいないだろう。
おそらくは。
セレス「こんなものが海の中を泳いでいるなんて。不思議ですわね」
露店の親父「魔物やディザイアンがいなきゃ、海の中にもぐってたのしむ。
そんなこともできるだろうがな。海の中は場所によってはとても綺麗だからな」
それこそ、かつての世界においてはそれようの観光施設まであったほど。
この世界ではそういったものは発展していないが。
もっとも、天地戦争前まではそういった娯楽施設は一般的として普及していたにしろ。
エミル「あ。サザエとかもある。なら、すいません。これと、これと…」
露店の親父「へい、まいど!」
ジーニアス「ほんと、始めて市場開かれてるときにきたけど。かなりの人、だね」
姉さんがこなかったわけだ、とつくづくおもう。
さっきから、足元がみしみしいっている。
いつなんどき、足元が崩れ落ちてもおかしくないような音。
それでもみしみし音がすれども崩れないのは、それだけ台座をしっかりと組み立てているから、
なのであろう。
セレス「これが市場、とうものですか。なんか素敵ですね」
エミル「セレスさんはこういった場所にきたことはないの?」
セレス「わたくしは、体がよわいがために、…お兄様がいろいろと連れて行ってくださったところ以外は、
あと、王都、くらいでしょうか?出向いたことがあるのは」
ジーニアス「セレス。体の具合悪くなったらすぐにいってよ?」
セレス「大丈夫ですわ。ここさいきん、自分でも信じられないくらい体の調子がいいのですわよ?」
セレスに渡したネルフィスの効果は確実に彼女の体を癒している。
あと一月もしないうちにセレスの体は完全に健康体のそれにかわるであろう。
エミル「そっか。とりあえず、さくっと食材買いそろえて。
それからリフィルさん達がいっていたからをさがしにいこっか」
ジーニアス「カンベルト洞窟、だっよたね」
露店の親父「うん?おまえさんたちはカンベルト洞窟にむかうのかい?
あそこはハーブの群生地だからな。
半年前、いきなり雪が降り始めて枯れ始めたときはどうなるかとおもったが。
今は普通にハーブの群生地にもどっているからな」
そういえば、ともおもう。
かつてのときは自分が目覚め、マナの調整をほうりだしてはいても、
目覚めの兆候をうけセンチュリオン達は覚醒手前。
すなわちコアの状態にまでなっていた。
…アステルをころしたかの半年の期間、だけでなく。
完全に大樹との繋がりがとぎれたあのときから換算すれば二年にわたり、
地上にマナが不足し、またマナが狂っていたということになる。
ゆえに、あのとき。
あの奥地以外、あの子達がいるあの場所以外はハーブ達は完全に枯れていたのであろう。
あの一株がのこっていたのは、ひとえにあの場にあの子達が生息していたからに他ならない。
エミルがふとそんなかつてのことをおもっている最中。
ジーニアス「ああ。あの雪はすごかったですもんね。
…トリエットの砂漠まで真っ白だったですもん」
露店の親父「おう。おかげで俺らもあのときは商売あがったりだったがな。
神子様さまさまってな。神子様が火の封印を解放してくださったおかげで。
ディザイアン達のわるだくみ、砂漠に雪がふるという現象もなくなった。
って話しだ。神子様に感謝しねえとな。がはははは」
ジーニアス「…え、えっと……」
そもそも、自分達がこの地を立ち去ったときにもまだ雪はふっていた。
それをしっているだけに、ジーニアスは何といっていいのかわからない。
セレス「?神子様?それって、コ…むがむがむが」
あわててコレット、といいかけたセレスの口をはがいじめにしてふさぎつつ、
ジーニアス「あ。他に何かお勧めのものってありますか!?」
露店の親父「お、おう!サービスだ、もってけ!」
子供達ばかりで買い物にきた、ということは。
両親にサプライズをするためか、はたまた旅業の一行のものか。
どちらにせよ少ないやりとりでこうして食材をかいもとめ、
誰かのために役立とうとする子供達の心意気。
それにうたれ、どさり、と頼んだ量よりもおおく用意してくる。
エミル「すいません。なんか」
露店の親父「いいってことよ。またごひいきに!」
セレス「ぷはっ。いきなり何をするのですの!ジーニアス!」
ジーニアス「ここでコレットの名をださないで。セレス。
コレットも知る人はしっているからね。ゼロスと同じように。あまり目立ちたくはないんだ」
セレス「わ、わかりましたわ」
なぜ目立つことを避けるのかセレスにはよく理解できないが。
というか兄ゼロスは神子でありながら目立ちまくっていたがゆえに理解ができない。
しかし、どこか真剣な様子のジーニアスの台詞にセレスとてうなずかざるをえない。
エミル「おまけかなりしてくれたからたすかっちゃった。リフィルさん達と合流しよっか」
ジーニアス「う。うん。そうだね」
セレス「こんど、お兄様といっしょにこういった場所をめぐるのも面白いかもしれませんわね」
三者三様。
そんなことをいいつつも、露店の人物に別れをつげ、
三人は元きたみちをもどってゆくことに――
pixv投稿日:2014年2月8日某日(Hp編集:2018年4月22日(日)
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あとがきもどき:
さて、今回のイズールドにはいったときの一言をば。
ラタ様、隠すきありますかー?と幾度目ともいえない突っ込みを。
あのばにミトスがいればすぐさまに正体が察知されかねない、という。
ついでにいえば、セレスからその名がでてもすでにアウトvという。
そのことに気付いてないエミルはか~~なり天然、というか。
あまり気にしていない、というべきか。
アクアもほいほいと呼ばれたから、といって嬉々としてでてこないように。
といろいろと突っ込みどころ満載、のイズールドの村の回です。
ちなみに原作ゲームではスピリチュアの宝珠がでてきていましたけど、
さくっとそのまま通行証、にしてあります。
宝珠?それらはだって、精霊契約がすんだ後、になりますしね。
アビシオン関係で……
豆知識:人物名鑑案内~ゲーム中説明より~
人物名鑑説明
人物名鑑はキャラクターのグラフィックとプロフィールデータをみることができます
人物名鑑にキャラクターを登録するためにはペリットを加工してもらう必要があります
また、ペリットには種類があり、それぞれのペリットで
人物名鑑に登録されるキャラクターが変化します
ゲームの進行にあわせてペリットの種類は増えていきます
レアキャラクターを登録する場合は、通常のペリットに加え、レアペリットが必要になります
新たなキャラクターが追加されなくても、
加工時に渡したベリットは消費されたままになりますので注意してください
ペリット、ファインペリット、レアペリットといった種類のペリットがあります
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