まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

pivixさんに投稿していた話の区切りとは変えてあります。容量的に……

さて、リフィル達の会話、ですが。
あれのモトネタさんは、リフィルがリーガル達と、
ラタトスクの騎士でエミルの正体について話し合う場所がありましたが。
あんな感じだ、とおもっていただけたら間違いないです。
あれもエミルのいないところでそんな会話をしていましたし。
もっとも、エミルがその会話を盗みきいてしまってましたけどね。
ラタ騎士では。
あと、釣りのシーンはいうまでもがな。
ラタトスの騎士でテネブラエがつりざおになって、
アーケロンを釣り上げるシーンがモトネタになってますw
さて、この話し。たしかに脳内完結はしておりますが。
戦闘シーンなどにおいては、文字通り。
ゲーム内容みたいな感じで、漠然、とした感じでイメージしてただけ。ですので。
戦闘シーンなどを書く場合、どの技にしよっかなぁ?
とかいろいろと考えてやってたりします。
ユニゾンアタックでいいのがあったはず、なのに。
それがみつからないこともしばしば…
あんれぇ?あったはずだよなぁ?とおもいつつ、
しかたなく、別の技の使用にきりかえたり、とかやっていたりします。
なので、面倒なので(マテ)戦闘シーンはさらっとながしていたりするんですけどね。
さて、そろそろミトスも、エミルがおかしい、と気付きはじめてます(笑
気付いた理由として、
ここ、シルヴァラントでエミルがコレット達との旅の最中にやらかしている数々のこと。
それらをパルマコスタにやってきた旅者達が話していたのが、
パルマコスタの人々につたわっており、それをミトスがきいてしまったからです。
それまでも疑問におもいまくっていたところに、あるいみとどめともいえるという。
でもそれにエミル気はきづいてませんv
まあ、ミトスに気づかれたら気付かれたで何でこんなことをしているのかきけばいいか。
みたいなノリでしかないラタトスク様なので、
センチュリオン達からしてみれば、ハラハラしてしまうのはしかたなし?
ついでにいえば、精霊達もミトスがラタトスクのことをしってしまえば、
何をしでかそうとするのかわからないのでハラハラ中。
この場合、一番の苦労者なのは…誰、なんでしょうねぇ?ふふふふふw

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重なり合う協奏曲~それぞれの思い~

砂漠の花、トリエット。
砂漠の中に唯一巨大オアシスがあるこの地。
先ほどの地震の影響なのか、いくつか家々が壊れ、
今現在、人々はそれらの対応におわれているらしく、人々がせわしなく、いきかっている様がみてとれる。
地下ですらたっていられないほどの揺れ。
地上ではより揺れがおおきかったのか、
いくつかの石づくりの家々が完全に崩壊しているのもみてとれる。
いつ余震がくるかわからないから、砂漠の一角にテントをはって、
様子をみるかどうか、という意見をかわしたのち、
やはり安全のは街まで移動したほうがいいであろう。
という意見のもとに、旧トリエット遺跡のある場所から、トリエットの街にまで、
外でまっていたノイシュと合流し、一機にレアバードで近くまで移動した。
外にでた直後というか、今もであるが、ものすごいまでの砂嵐が吹き荒れており、
前がろくにみえない状態に今現在はなっていたりする。
「じゃあ、ひとまず、私たちはレネゲードの施設にいってくるから。
  あなたたちは、しっかりと体をやすめておきなさい」
全員で移動しても意味がない。
一応、ボータからもユアンにきちんと報告がいっているであろうが。
あの説明書にあるとおり、互いの世界を行き来するための話しあいと報告。
それをするために一度、施設に赴く必要がある。
ゆえに、ロイド、ジーニアス、コレット、ミトス、マルタは完全にその場にのこし、
そしてレネゲードの施設に興味がある、というアステル、リヒター、リリーナを伴って、
リフィルとリーガルはひとまず別行動をすることに。
さすがに子供ばかりを街に残すのは心配、ということもあり、
ゼロス、そしてしいなを街にのこしたは、万が一ゼロスが何かしでかしても、
しいながゼロスのストッパーになりえるから、という理由もあってのこと。
つまり、コレット、ロイド、ジーニアス、ミトス、マルタ、プレセア。
そして、エミル、ゼロス、セレス、タバサ、しいなの十一人が街にとのこり、
残りの五人、リフィル、リーガル、アステル、リヒター、リリーナのみで、
砂漠にあるというレネゲードの施設へと向かうことにし、
ひとまずは二手にわかれ、街の中でそれぞれ別れるロイド達。
「よっしゃ!先生達がもどってくるまで、魚つりしようぜ!魚釣り!」
「もう、ロイド、無駄使いしたら、姉さんにまたおこられるよ?」
たしか、前回も魚釣りをするのに百ガルド必要であったはず。
そもそも、消耗品のグミなどをかいなさい、といてわたされたお金で遊ぼうとするなど。
絶対にお小言がまっているとしかおもえない提案。
「宿の部屋は十六名分もないみたいだから。
  なら、今日のところは、オアシスの傍で野宿になるだろうし。
  夕飯の材料を用意する意味でも問題ないんじゃないのかな?
  ロイド達はなら、魚釣りにいってきてよ。
  ミトスもロイド達と一緒に、誰がいちばん大物をつりあげるか。
  ちょっとしたゲームでもしてきたら?」
「え?」
いきなり話しをふられ、戸惑いの表情をみせるミトス。
「?だって、ミトスってそういったこと、これまでしたことないんじゃない?」
「…それは、そう、だけど」
たしかにミトスはそんな競争のようなたぐいのものをしたことがない。
そもそも、旅をしていたときも、必然的により効果的な方法。
石を投げ込んだり、もしくはヴォルトと契約したのちは水の中に電撃を通したり。
そういった形で食材を確保していたかつての記憶。
それは、いまだにミトスがクラトス達とともに、世界に平和もらたらすため、
そして、戦争をとめるために旅をしていたときの当時の記憶。
そしてまた、戦争をとめ、世界を救うためにあえて世界をわけたのち、
互いの国の勢力からにげつつ、困っている人達をたすけるためにと移動していた当時とて、
ミトスはそのような遊びといった遊びをしたことがまったくない。
それを知っているがゆえに、それとなくエミルがミトスに提案しているにすぎないのだが。
ミトスからしてみれば、いきなりそんなことをいわれ戸惑わずにはいられない。
「そっか。よおし!なら、ミトスもまきこんで、湖にいくぞ!」
そんなエミルとミトスの会話をきき、なぜかうんうんと納得したようにうなづいたのち、
いきなりがしっとミトスの手をつかみ、
お~!といったように手をおおきくふりかぶり、
そのまま、ミトスの手をひき、湖のある方向に駆けだしてゆくロイドの姿。
「ちょっと!ロイド!いきなりミトスの手をひいて、走りださないでよね!
  ミトスかけこけたらどうするんだよ!って、ロイドの馬鹿ぁぁ!」
「あ、ロイド、まってよぉ!」
「…ったく。お子様だねぇ。あの子達は」
そんなロイド達やジーニアスをあわてておいかけていっているコレット。
そんなお子様達の姿をみて、あきれたようにつぶやいているしいな。
すでに四人の姿は砂嵐の向こうにかすれてみえなくなっていたりする。
「ゼロスさん達は、しいなさんとともに、湖付近で野宿できるところを確保してきてもらえますか?」
そんなエミルの問いかけに、
「そういえエミル君はどうするのよ?」
逆に問い返しているゼロスであるが。
「僕は、タバサさんやマルタとともに、食材でもかってきますよ。
  あと、ロイド達はたぶんアテにならないから、消耗品類の補充、ですかね?」
まちがいなくロイド達にまかせていれば、以前のようにいらないものをかいかねない。
それでなくても、ここ砂漠の街には様々な露店がひらかれている。
手造りでしかないちょっとした飾り品なども売られており、
しかも時折法外な値段でそれらをとりあつかっている露店もあったりする。
「アステルさんたちがもどってきたら、
  この前、アステルさんがもってたテント、あれをつかわせてもらいましょう」
あれならば、この砂嵐の中でも皆が皆、ゆったりと休むことができるであろう。
自分は別に何ともないが、他のものはそうはいかない。
この砂嵐は大陸を移動したり、すこしばかり大地を変動させるにあたり、
人間達の目につかないためにごまかしとしてうみだしているにすぎないモノ。
そんなエミルの意見をきき、
「…まあ、無難なところか。湖付近ならこの砂嵐もどうにかなるかもしれないしな」
歩くたびに、というか口をひらくたびに口の中に砂がはいってきそうなほどの砂嵐。
ちなみにゼロスはどこからとりだしたのか、
持ちあるていたらしき眼鏡をセレスにとかけ、
セレスの目の中に砂がはいらないように、しっかりと対策をしていたりする。
口元は、ハンカチを巻くように指示しており、
ゆえに、一行の中で、一番砂の被害にあっていないのはセレスであったりする。
もっとも、エミルにはまったくもってそんなものは関係なく、
よくよくみれば、砂ですらエミルの体にふれれば、
その内部に溶け消えて、正確にいえばマナにと還っているのがみてとれるが。
しかし、その事実にいまだに誰にも気づいていない。
「じゃ、マルタとタバサんは、今日の食材の買いだしとか、お付き合いおねがいしますね?」
そんなエミルの台詞をうけ、
「この地デハどのようなものをうっている、のですか?」
首をかしげといかけてくるタバサ。
「どうだろ?店にいってみないと何ともいえないけど。
  あまりいいのがなかったら、どの子かよんで他の街にいってもいいし」
「そういえば。エミル、資金のほうは平気なの?」
マルタがふと思い出したようにいってくるが。
「僕のほうは問題ないけど。そろそろリフィルさんたちも、
  またネコニンギルドでの依頼云々、とかいいだしかねないかもね」
まあ、ネコニンギルドの依頼はさほど難しくないものが多いがゆえに、
ちょっとした資金をかせぐにはうってつけではあるが。
「じゃ、またあとで」
そんなやり取りをしつつも、ひとまずこれまた二手にわかれるエミル達。
一方は、買いだしに街にと繰り出し、一方は湖へ。


エミル達がそれぞれ別れて、それぞれに役割分担なようなものをしているそんな中。
砂漠の中を歩く人影が五つ。
正確にいえば、ラクダにのった人影、というべきか。
トリエットはさすがに砂漠の街、というだけのことはあり。
少しばかり出かける人ように、貸出ラクダ、というものを運営している。
それを利用しリフィル達はトリエットの街から繰り出していたりする。
そもそも、ここまでのひどい砂嵐の中、普通に砂漠を進むのは無謀者のすること。
それこそ、方角をまちがえれば即座に砂漠の中で遭難しかねない。
それほどまでにトリエットの砂漠は広大。
本来ならばレアバードでひとっ飛びし、施設の近くに移動したかったのだが、
アステルが砂漠の形態を実感したい、といいだし、それにさほど距離が離れているわけでもなく。
そもそも、トリエット遺跡あたりには観光客なども多々と訪れるがゆえ、
ラクダそのものに、その道が教え込まれていたりする。
ゆえに、何の手綱をとらなくても、勝手にラクダが遺跡にまでつれてゆく。
という形態をこのラクダ達はとっているのだが。
それ以外の場所に行きたい場合は、どうしても手綱をとりて、方向を指定する必要があったりする。
周囲はどこをどうみても、砂、砂、砂。
砂嵐がふきあれているせいか、砂時にちょっとした波模様ができていたりするのだが、
風がつよく、そこまでの自然のちょっとした変化にリフィル達は気づけない。
否、気づくことができない。
進んでゆくことしばし。
「あ、なんか建物みたいなのがみえてきましたけど、あれ、ですか?」
ふと、どこをどうみても砂漠、でしかなかったというのに。
この地にはにつかわしくない、巨大な建造物らしきものが視界にとはいってくる。
リフィル達がラクダにのりて、施設の目の前までたどりつくと、
どこからともなく。
【きたか。今、扉をあける。のってきたラクダとともに内部にはいってくるがいい。
  これほどの砂嵐でラクダをそこにおいておくのは危険だ】
「あ、扉の上に監視装置らしきものがありますね。たぶんあそこからこちらにきづいたんでしょうね」
ふとアステルが、建物の入口らしき上の部分。
小さな箱のようなものを目にし、それが監視カメラ、とあたりをつけ、そんなことをいってくるが。
「監視、カメラ…ね」
この技術をしらないがゆえ、
だからこそ、ロイド達は姿をみたディザイアン達は倒したから平気。
だとおもっていたのに、といってきたのであろう。
でも、なぜか姿がばれていて、村が襲われる結果となった。と。
ロイドがこの場に捉えられて助けにきたとき、ジーニアスから聞かされた内容を
ふとリフィルは思いだす。
その言葉とともに、がこん、と目の前の重苦しい扉が開かれる。
どうやら、はいれ、ということらしい。
たしかに、ラクダをつれて入るだけの広さはある。
ゆえに、そのまま内部にはいるリフィル達五人。
内部にはいると、わらわらと、リフィルにとってはみおぼえのある、
それでいて、アステル達からしてみれば、始めてみるような鎧をきこんだ人物達がやってきて、
「御苦労さまです。ラクダはお預かりいたします」
「リーダーと副リーダーがお待ちです」
手なれた手つきで数名が、だっとラクダの横にいき、その手綱をとり、
どうやら、この施設の内部にも、厩らしきものがあるらしく、
そちらのほうにつれてゆく、とのことらしい。
簡単にそんな説明をされたのち、その腕を胸の前にかかげ、
簡単な敬礼をしてくる人物につれられ、リフィル達は施設の奥へと案内されてゆく。

「きたか」
レネゲードの内部にある、ユアンの執務室。
以前、この場にきたときは、ユアンから驚愕の事実を聞かされた。
ユアンは相変わらず机の奥におり、そして手前にはボータがいつものように、
直立不動のごとくにたっているのがみてとれる。
「まずは、礼をいう。ボータが本来ならばあの施設で水死していたようだな」
「ゆ、ユアンさま!?」
いきなり、かるく頭をさげていう、ユアンにボータが思わず戸惑いをみせる。
「…エミルが一言いわなければ、私たちもその手段に気付かなかったけどね。
  エミルがウンディーネのことをいったから気がついたけども。
  あのとき、エミルがいわなかったら、私たちはきっと、まちがいなく、
  ボータを見殺しにして、殺してしまっていたわね」
あのとき、まったく精霊のことすらおもいもつかなかった。
どんどん増えてゆく水。
そして、リフィルは冷静にそんなボータの姿をみて、ボータが閉じた扉を開けば自分達まで危険が及ぶ。
そう判断し、ロイド達が必至にどうにかしようとしているのを止めようともおもった。
そんなユアンの謝罪の言葉をきき、すこしばかり眉をひそめるリフィルの姿。
まちがいなく、自分はあのとき、ボータを見殺しにすることを選択していた。
自分達が、というかロイドやコレットを助けるために。
そうならなかったのは、エミルの一言があってこそ。
そして、水の精霊と契約していたしいながいたからこそできた技。
「…エミル。か。すこしきく。お前達は、あの子を何だとおもっている?」
すこし思案し、そして、この場にはどうやらリフィルだけ。
正確には、どうやらテセアラの精霊研究をしている一行と、
そしてテセアラのレザレノ・カンパニーのブライアン公爵。
この話題をだしたとしても、口がかるそうな子供達がこの場にいるわけでもなく。
ゆえに、これまでずっと疑問におもっていたその言葉を目の前のリフィル達にとなげかける。
「パルマコスタに潜入させている、配下のものがいうには、
  あの子は何らかの力で、エクスフィギュアとなりし人間を元もにどした、という。
  普通はそんなこと、それこそユニコーンの力の補助でもなければ不可能であろうに」
さらにいえば、マナが乱れているがゆえに、異形と化している。
そんなこと、普通、知るはずがない。
クルシスとてその事実を知っているのは、今ではもう自分を含めて、二人のみ。
もっとも、クルシスにいるドワーフ達などはその事実をしっているかもしれないが。
だがしかし、地上のものがその真実を知っていたとは到底おもえない。
あの子供は、遺跡の中にそういった記述があったようなことをどうやらいった。
そこまでの情報はユアンも部下達の報告によってつかんでいる。
しかし、そのような遺跡が発見されたことなどユアンは聞いたことすらない。
もしもそんなものがあれば、クルシスが、否、ミトスが放っては置かないはず。
そう、クルシス、という組織をつくりあげたとき、
戦争などに関する、それまでの歴史など、全てを破壊しろ、と命じたのは他らなぬミトス自身。
だからこそ、疑問におもう。
思わざるをえない。
そんなものが地上にいまは絶対にいるはずがない、のだから。
そんなユアンの問いかけに、
「あの子は不思議な枝のようなものをもっていたわ。
  それこそ、某大なマナを一瞬にとりあつかえるほどの」
この枝は僕にしかつかえませんから、ともいっていた。
「僕の予想では、エミルは魔物とどうやら意思疎通ができていることから。
  それに、魔物を実際に呼びだすところもみましたし。
  それこそ、伝承にはのこっていないですけど、世界樹…大樹カーラーンに関係した、
  たとえば、護り手とか守護者とか、そういった血筋の末裔ではないか、と」
そんなリフィルにつづき、アステルがエミルに対する考察をぽつり、といってくる。
だとすれば、自分達がしらない原語のようなあの言葉。
それを受け継いでいてもおかしくはない。
そしてまた、精霊たちもそれを当然のごとくに会話をする、ということも。
「これは、確認だが。この地、シルヴァラント。そしてテセアラ。
  その互いの世界で神鳥シムルグが目撃されているが。
  その神鳥、としたかの魔物を呼びだしたのも、まさかとはおもうが、あの子、か?」
それは最終確認。
かの魔物は普通の人間などに使役されるような代物ではない。
むしろ、近づいただけで、即効、反撃をうけていた。
かの魔物がシルヴァラントの地の聖殿と自分達がなした場所に住みついていることを、
ユアンもまた知っている。
「ええ。・・・もっとも、かの魔物自ら、自分はそんな神鳥でも何でもない。
  女神マーテルなんてものに一族の誰も仕えたことすらない、
  ときっぱり否定の言葉までもらっていますけどもね」
そんなユアンの台詞にこくり、とうなづくリフィル。
まさか、言葉を話すことには驚いたが。
しかも、あの鳥はエミルに対し、敬語で接していた。
ということは、あの魔物達にとって、エミルは目上にあたる存在、という可能性がはるかに高い。
この場にロイド達、否、エミルがいないからこそできる会話。
「僕は話しでしかきいていませんけど。
  神子ゼロス様を陥れようとした教皇一派が神鳥の怒りにふれた。
  というのは、テセアラ中にすでにひろまっている事実ですしね」
それは、リフィル達があるいみで冤罪のようなものをかけられ、
実際はまあ、テセアラの法律からいけば冤罪でも何でもないのだが。
しかし、調べる装置が故障していたのに、確認もせずに断定した以上、冤罪といっても過言でない。
連行してゆくリフィル達を助けるとき、
エミルがその足としてシムルグのつがいの一体。
それを呼び出していたにすぎない、のだが。
リフィルの説明をききつつも、アステルが首をすくめてこちらもまたいってくる。
僕も実際にそのシムルグをみてみたい、と何やらそんな愚痴をいっていたりもするのだが。
「…ボータからきいたのだが。エミルは白い虎のような何かを呼びだした、ということだが。
  そのものの名を何とあのエミルは呼んでいたか覚えていないか?」
「あのときは、いろいろとあり、何とあの子供があれを呼んでいたのか覚えていなくて」
それは、絶海牧場の地にて、エミルが呼びだした白い虎のような何か、のことだろうか。
そんな問いかけに、リフィルとリーガルが無意識のうちにそれぞれの手をあごにとあてる。
「……たしか、ウェントス、と」
「!!!!」
リーガルはその地位と立場上、一度であったものや、名をきいたもの。
それらを記憶することにたけている。
だからこそ、あのとき、エミルが何と呼んだのかしっかりと記憶している。
白い巨大な虎のような、猫のような、何か。
しかし、その模様とそのありようからして、あきらかに虎ではなかった。
そもそも、空中にうかびし、しかも、その足元に風のようなものをまとっているような。
そんなようにみえる虎、など見たこともきいたことすらない。
リーガルが思いだすようにいえば、はっとしたような表情をうかべるユアン。
「まさか…いや、でも…やはり、か」
それは、ユアンが懸念していたこと。
もし、ユアンの予測が正しい、のであれば。
シルヴァラントの神子が神託をうけた前後から発生した世界の異常気象。
彼女が旅にでて、確実に世界に異常気象がまきおこった。
しばらくのちには、その異常気象がおさまり、
今度は互いの世界において、不気味なほどにマナが安定した。
それこそ、互いの世界のマナが涸渇している、ということもなく。
そして、本来あるであろうマナよりもどうみても増えている形で。
ウェントス。
その名は、ユアンにも覚えがある。
それは、風のセンチュリオンの名。
実際にかつてのとき、直接目にしたセンチュリオンは少ないにしろ。
その名は水のセンチュリオン・アクアから聞いたことがあるがゆえ、おそらくは間違いはない。
だとすれば、センチュリオンが目覚めている、ということは。
彼らの上司にあたる、精霊ラタトスクも目覚めていても不思議ではない。
念のために、部下達に、かの地、異界の扉の地を調べさせてはいるが。
そもそも、あの地があのように、たったのほぼ一晩に近い形で、緑豊かな大地になるなど。
正確にいえば、あのような森に変化したのは、神託の日からほぼ一月後。
あっというまに木々は成長し、あのような完全なる鬱蒼とした森へと変化していたという。
自然界におけるそんな木々の成長が通常あるはずがない。
あるとすれば、それはマナに確実に関係している。
そして、マナを司りしは……
しばし、そんな思考をいだきつつ、すっと目をとじ、そして。
「…そうか」
ただの一言。
ユアンは気づいていないが、その声は多少なりとも震えている。
「あなたは、あれらの存在に心当たりがある、のかしら?」
リフィルの鋭い視線をうけ、
「――いや。しかし、我らの計画はやはり急がねばならんようだな。
  お前達、火の精霊と契約をはたした、のだな?」
「え、ええ」
どうも話しをはぐらかされている。
そうおもうが、しかし、これ以上追及してもおそらく、このユアンは口を割らない。
しばし、じっとそんなユアンをみつめるリフィルだが、
ユアンはやはりというか、こちらの疑問にこたえてくれそうにない。
「…では、空間転移装置を起動させよう。好きに世界を移動するがいい。
  あと、レアバードを使用するときは、必ずステルス機能を起動させておくように。
  連動システムを使えば、それぞれの機体が離れ離れになるようなことはないからな」
レアバードの機体にはそれぞれ、機体番号、というのが存在している。
そして、グループごとに、きちんと連動システムに登録することにより、
自動的に、リーダーと設置したその機体についてゆく機能がそなえられている。
つまり、それを登録していれば、他の機体がかってにふらふらとどこかにいく。
というようなことは確実に防げる機能ともいえる。
「ひとまず、ユアン様がお礼をいわれたがゆえに、私からもいっておく。
  …本来なら、ユアン様にお前達への伝言をたのむつもり、だったのだがな。
  まだ、私にもやらなければいけないことがある、ということ、なのだろう」
あのとき、あのまま水死する覚悟であった。
けど、こうして生き残っている。
生き残った以上、これまで同様、ユアンを全力でサポートしてゆく所存のボータ。
「そういえば、忘れていたわ。
  私たちの仲間の一人が、あなた達からレアバードを借りたそうなの。お返ししておくわね」
いいつつも、ミトスのみのレアバードをいれたウィングパックを手渡すリフィル。
「?それがおかしいのだ。ボータの連絡で、我らの機体はきちんと確認したが。
  全ての機体はきちんと収納庫にはいっている。お前達にわたしている、八機以外、全て、な。
  それに我らがお前達以外にレアバードを貸しだしたのは、
  お前達の今は仲間になっている、藤林しいな。彼女が初めて、だからな」
報告をうけたのち、覚悟と準備ができたならば、これをつかうがいい。
といって手渡したのは、あのときが後も先にも始めてといってよい。
ボータからそのようなことをきき、念のためにボータもまた、
施設にもどってすぐに、レアバードの数を確認した。
それぞれの施設においてもきちんと数を確認させたので間違いはない。
つまり、今現在、きちんと全てにおいての機体は格納庫、
もしくはそれぞれが使用しており、きちんとその所在は判明している。
ゆえに、あの子供がいっていた、自分達から預かった、という言葉は不可能。
というか絶対にありえない。
「勘違い…ではなくて?」
「いや。レアバードはクルシスも所有している。
  下手に奴らに気づかれないように、こちらも管理は一応徹底している。
  ゆえに、あの子がいったことは、ありえない、はずなのだ」
そんなリフィルの声をうけ、ユアンのかわりにこたえてくるボータ。
「我らの機体には、必ずとある一文が刻まれている。
  これを格納庫にもっていき、それを調べたい、お前達、時間はあるか?」
その言葉に顔をみあわせ。
「ええ。私も確認するわ」
「わたしもだ」
「格納庫!?興味あるからいきます!」
「…アステル。周囲の機械に勝手にさわったりしないのよ?」
エミルのことも気にはなるが。
しかし、ありえない、とまでいいきる、ということは。
ならば、あのミトスがのっていたレアバードは?
それに、ともおもう。
ミトスは自分達のあとをついてきていた、といっていた。
そういえば、ともおもう。
たしか、ニール達は、いきなりミトスの姿がきえた、とかいわなかったか?
見張りのものや、警備員達の目をかいくぐり、ミトスはあの場にやってきた。
ということになる。
彼らいわく、扉の前にもきちんと安全のために人がいたはずだ、というのに。
まるで、部屋から消えるようにいなくなってしまったがゆえに、
ディザイアン達が何かしでかしたのではないか、と大騒ぎになっていた、と。
そしてその思いはどうやらアステル達も同じらしい。
ちらり、とアステル達をみれば、アステル達もまた、こくり、とリフィルの視線にうなづいてくる。
アステル達とて、いきなり消えたミトスを探すために、かりだされていた。
窓の下にも見回りのものがいたのに、忽然と部屋からきえてしまったミトスを探すため。
アステルがもちし、とある観測装置でマナの乱れをその部屋の中で、その痕跡を見つけ出した。
完全にいいきれないが、すくなくとも、この部屋の中で何らかのマナの乱れが発生した、と。
アステルが魔科学による転送のマナの乱れ。
それらの数値もきちんと把握していれば、すぐさまそれは魔科学による転送。
そう結論はつけられたであろう。
しかし、テセアラにおいても、魔科学による転送なんてものをするものはありえない。
それはいまだに国家、そして研究所、さらにはカンパニーなどで研究されている、
机上の理論でしかない代物。

入り組んだ道を、ユアンとボータに案内されつつ、奥に、奥にと進んでゆく。
そういえば、とリフィルはふと思い出す。
かつて、ここから逃げ出すとき。
エミルが呼びだしたらしき魔物の影響で、この地にいたレネゲードの一員達。
彼らはことごとく気絶、もしくは眠っており、反撃すらされなかった。
そうでなければ、レアバードの格納庫にたどり着く前に、
下手をすれば再びつかまっていた可能性がたかかったであろう。
一方では、始めてはいる、魔科学によってつくられている建造物。
ゆえに、興味深々、といったかたちできょろきょろとしては、
さらには壁という壁をひたすらにしらべようとしては、
その首根っこをつかんで、という表現がまさに正しい、のであろう。
アステルの襟首をつかんで、その都度ひきもどしているリヒターの姿がみてとれるが。
彼らが向かいしは、この施設の中にある、というレアバードの格納庫。
そして、そこはリフィルにとっては、新たな旅の始まりともいえる、出発点であった場所。


リフィル達が、ユアン達とそんな会話をしている同時刻。
「だぁぁぁぁぁぁぁぁ!また靴だぁぁぁぁぁ!」
何ともいえない悲壮な悲鳴が、周囲にと響き渡る。
魚釣りを始めてしばらくのち、あれほど吹き荒れていた砂嵐は何とかやんだ。
といっても、時折、突発的に吹く風とともに、
砂が舞うのは仕方ないといえば仕方ない、ことなのだろう。
そしてまた、思いだしたかのように、ぐらぐらとゆれる大地。
それでも、立っていられないほどの巨大な揺れ、ではなく、
すわっていて、あ、揺れてるかな?という程度の揺れのせいか、あまり動じる必要性も感じない。
「ロイドすごい大量だねぇ」
にこにこと、そんなロイドの横で、つりざおを手にしながらいっているコレット。
「これのどこが大量だ!」
「…大量、だよね。たしかに」
「だね」
ロイドの背後につみあげられしは、これでもか。
といわんばかりの、様々な皮靴、そしてなぜかヤカンや鍋。
そういった生活製品そのもの。
魚をつったときにいれるためのバケツには、一匹もはいっておらず、
逆に、ロイドが釣り上げているのは、どうみても誰かがこの地に捨てた、のであろう。
そういった数々の不用品ばかり。
にこやかにいうコレットにたいし、が~というような口調でロイドが言い返すが、
そんなロイドの背後につみあげられている品々をみて、
ぽつり、とつぶやくジーニアスに、これまたうんうんうなづいているミトス。
「というか。何で俺だけつれないんだよ!」
コレット、ジーニアス、そしてミトスのバケツの中にはそれなりに魚がはいっている。
というのに。
ロイドはいまだにまったくもってつれていない。
「でも、ロイドすごいねえ。湖の中お掃除してるし」
「…コレット、それとどめといわない?」
にこにこと、ロイドに悪気はないのであろうが、あるいみとどめ。
そんな台詞をいっているコレット。
――あらあら、すごいわね。ユアン。あなたが釣りをしたら、川がきれいになるわ。
――それは嫌味か!マーテル!
ふと、そんな彼らの会話をききつつ、とあるかつてのことを思いだすミトス。
ユアンもよく、なぜか魚釣りなどを始めのころしていたとき、
なぜか彼がつりあげるものは、今のロイドと同じような、生活不用品。
あまりにユアンが魚を釣りあげられないがゆえに、
クラトスがため息をつき、ジャッジメントをはなち、魚をゲットした、
そんな日は数知れず。
「あ、でも、これら綺麗にあらったらまたつかえるかもだよ?
  もしくは、鉄屑としてうっても少しは路銀のたしになるかも」
ロイドがつりあげた様々な鍋やヤカン。
中には穴があいていないものもあり、綺麗にすれば再利用可能にみえる品もある。
「というか、なんだってこの湖の中にこんなに物が捨てられてるんだよ」
げんなり、としたようなロイドの台詞に。
「どうせ、誰もきづかないだろう、というようなニンゲンがやったんじゃないの?」
事実、ヒトは、誰にもみられていないのならば、捨ててもいいか。
という真理が働くことがある。
そのとき、理性が働き、きちんとした手段をもちいればいいのだが。
何の罪悪感ももたず、様々なものをポイステする人間は後を絶たない。
おそろしいのは、湖の中に捨てられている品の中に、鉛でできた製品もある。
ということだろう。
そうすることで、鉛がとけだし、生活用水でもある水に影響がでるかもしれない。
その可能性すら失念し、そういった品を捨てる人間達。
結果としてその行いが、自分達の身に、
しかも命にかかわってくるということを、完全に失念してしまっている。
この場にエミルがいれば、
”ヒトはなぜか自分達がやったことが自分にかえってくる。それを失念しているんだよね”
そうきっぱりといいきっているであろう。
冷めた口調で淡々というジーニアスにたいし、
「…それより、コレット。コレットのつりざお…ひいてるよ?」
「ふえ?あ、ほんとだ!」
というか、おもいっきりひいている、というのにコレットは気づいてなかったのだろうか。
コレットが手にしている竹でつくられしつりざおが、これでもか、
というほどにおもいっきりしなっているのがみてとれる。
それは確実に、何か獲物がかかった証拠。
「うわ~、ロイド、みてみて~、わたし、なんかひっぱられてる~」
「って、コレット!完全に湖に引きずり込まれそうになってるからぁぁ!」
つりざおをもっているコレットはそのままするずると、
かかった獲物がおそらく暴れている、のであろう。
そのままおもいっきり湖の中につりざおごと引き摺りこまれそうになっていたりする。
そんな様子をみて思わずさけんでいるジーニアス。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
その様子をみて、どこか遠い目をしはじめるミトス。
――あら?あらあらあらら~
――姉様!?
――マーテル!?くそ!私のマーテルに何をする!?
――…なぜに、手造りのつりざおを手放さない?
かつても、マーテルがこのような現象になったことがあった。
そのまま、針にかかった獲物にひきずられ、そのままドボン、と海におちてしまい、
さらにはしばらくのんびりとした声のままに海の上をひきずられていっていた。
そんな当時の記憶を思い出し、
「…マナが似ていると性格までにる、のかな…姉様……」
ぽつり、と小さくそんなことをつぶやいているミトス。
結局、あのときはずぶぬれになった姉をミトスが助けだし、針にかかっていた水属性の魔物にたいし、
たまたまやってきていた水のセンチュリオンが、滾々と説教をしていたのをふと思い出す。
そんなミトスの態度とは対照的に、
「ほら、コレット、しっかりとつりざおもって、ってロイドもてつだってよ!」
「お、おう!」
ジーニアスががしり、とコレットの背後からコレットをはがいじめにし、
そして、そんなコレットの真横にロイドが移動し、コレットの手にしているつりざお。
そのつりざおにコレットとともに手をかける。
「ミトス!ミトスもてつだって!」
「え?あ、う、うん」
思わず過去のことを回想し視点がさだまっていなかったミトスであるが、
ジーニアスの声にはっと我にもどり、ジーニアスの背後に、
ジーニアスまでもが湖の中に引きずり込まれないために、ジーニアスを抱きしめるような形にて、
コレットを補佐するように位置につくミトス。
力加減を間違えてしまえば、ジーニアスの体が壊れてしまう。
ゆえに、慎重に、その力のありどころを見間違えないように、
しかし、足元には力をこめ、絶対に動かないようにするミトス。
それはミトスだからこそできる技。
すこしばかり足元のあたりを無機物に変換させ、さらには重さをふやしてやればいい。
ただそれだけのこと。
「一気に、力をあわせていくぞ!」
ロイドの号令をもとに、それぞれが力をいれたり、
ロイドとコレットはしっかりと二人がかりでつりざおを手にし、
そして四人の力をあわせ、どうにかこうにかつりざおをおもいっきり引き上げる。
ザッパァァン!
それとともに湖から巨大な水しぶきがあがったかとおもうと、
いきおいよく、ひっぱりあげられた大きな何か、が、
その反動で、ロイド達の背後にビタンと何かがおちる。
おそらく、今音がしたそれが、コレットのつりざおにかかった獲物、なのであろうが。
「おお。これはすごいねぇ。この魚は、この湖の主、といわれているこだよ」
「たま~に年数名以上は、人間も喰われるっていう伝説のぬしだねぇ。これは」
ざわざわざわ。
いつのまにやってきたのであろうか。
あっというまに人々があつまりはじめ、そこにピチピチとはねている巨大な魚もどき。
その大きさを無視すれば、どこからどうみても、その特徴的にナマズにしかみえないが。
そうとしかいいようのないその形態。
それをみて口ぐちにいってくる街の人々。
しかし、何やら聞き捨てならない台詞も聞こえてくるが。
ぬるっとした黒光りをする肌には、うろこらしきものはみあたらず、
ぱくぱくと、その大きな口はかるくちょっとした子供程度ならば、かるく丸のみできるほどの大きさ。
つまるところ、先ほどの街の人の台詞が冗談、ともいいきれない。
それにきづき、ジーニアスが思わず冷や汗を流す。
「しかし、このぬしもこんな最後をむかえる、とはねぇ」
感心したように人々がいうその視線のさき。
つりざおについていた針がささっているのは、その巨大な魚もどきの口元、ではなく。
どうもても、そのひょろりとのびている尾らしきもの。
姿形からどうみても、ナマズ、としかいいようのないそれは、
あきらかに人間の大人たちよりもかなり大きい。
その尾のあたりにコレットの釣り針が突き刺さっていたりする。
どうやら、この獲物はコレットの針を飲み込んだ、のではなく、
たまたま、その尾?に針をひっかけてしまい、
もがくうちにどんどんとくいこみ、結果してこうして釣りあげられてしまった、らしい。
「あまりの暑さに水浴びしようにも、このぬしがいるがゆえに、
  この湖での遊泳は基本、禁止されていたからねぇ」
それでも、あまりの暑さに水にとびこみ、これのえさになった人間は数知れず。
餌がすくないときなどは、これまた巨大な尾びれをつかい、
陸にまであがり、近くのさまざまな生物をかたっぱしから食べてもいたりした。
ゆえに、この付近に馬やらラクダやらつないでいれば、
いつのまにかこれに喰われていなくなっている、ということもこれまで多発していた。
主とよばれし巨大ななまずもどきが一匹なのかどうかまでは、人々にもわからない。
しかし、いつも目撃されるのは、今コレットがつりあげた、
目の下に大きな十字の傷がありしモノ、なので、おそらく同一のものなのだろう。
というのが一般的な定説。
しばらくは、様子見になるであろうが、今後被害が観測されないようであれば、
このオアシス、すなわち湖での遊泳も禁止でなくなるかもしれない。
などとそんな声もきこえてくる。
「…こんなところでもコレットの悪運がきいてるんだ……」
そもそも、この巨大怪魚、といってもよい、巨大なナマズもどき。
どうみても、まともに釣り上げた、というよりは、
偶然にそのヒレのような場所に針がささり、もがいているうちにとれなくなった。
そんなところ、であろう。
そして、それは人々にとって危険な生物であった。
コレットの悪運は身にしみてわかっていたつもりであったが、こういう所にまで発揮されるとは。
そうおもい、もはやジーニアスからしてみれば、呆れるより他にない。
それ以外にどうしろ、というのだろうか、というのが素直な感想。


ざわざわと、人々が騒がしい。
「?何かあったの?」
食材などを買ったのち、湖の付近にやってきてみれば、なぜかその場にできている人だかり。
荷物のほとんどは、エミル、そしてタバサがもっており、
マルタもまたもってはいるが、二人ほどではない。
サボテンの葉で編み込まれた籠の中にいくつかの果物をいれたものをもち、
その人ごみにきづいて、好奇心のほうがかった、のであろう。
そんな人ごみの野次馬にまぎれ、そちらにかけていきといかけているマルタの姿。
「ああ。湖でつりをしていた子供が、湖のヌシをつりあげたらしいんだよ」
そんなマルタに声をかける、あつまっていた野次馬の一人。
「ええ!?トリエットの湖のヌシって、たしかヒトクイで有名な!?」
夜になり、巨大な影が移動したかとおもうと、湖の近くにつないでいた動物がいなくなる。
また、以前などは、湖の近くだから、といって野営をしていた、
宿にはいれきれなかった旅業のいっこうの一人がいなくなったこともあった、という。
大体、夜にそれらは活動していることから、夜は湖付近には近づかないように。
とはあるいみ暗黙の了解にすらなっていた。
「この前の異常気象で湖がこおったときに死んでいてくれればよかったんだけどねぇ」
「まあ、いいじゃないか。どうも釣り上げられたみたいだし」
「釣り上げた、というよりは偶然に針がひっかかって、みたいだけどね」
何やら人々のそんな会話がききとれる。
釣り?
その言葉に、思うところがあり、人ごみをかきわけて、その中心であろう場所にむかってゆくマルタ。
その視線の先に、案の定、というか何というか。
「コレット!それに、皆も…って…うわ!?おおきい!」
思わず、そこにいまだにぴたん、ぴたんと、その尻尾らしきものをたたきつけている、
その巨大な何か、をみて思わずのけぞっているマルタ。
そんなマルタをみて、
「あ、マルタ。買い物はおわったの?」
ふと、マルタにきづき、コレットが声をかけてくる。
ちなみに、街にはいったときにつけていた頭を覆う顔を隠すためのフード。
それは今現在、コレットはしていない。
「うん。一応…よくこんなのつりあげたねぇ」
もはや感心、というよりは呆れのほうが強い。
マルタが恐る恐る、それにちかづき、つんつんとつついているそんな中。
「あ、ナマズだね。ロイド、これ食べるつもりでつったの?」
マルタにつづき、エミルとタバサもまた、人ごみをかきわけてそんな彼らのもとにと近づいてくる。
「こ、これ、たべられるの?」
おもわず、それを指差し、そんなエミル、もしくはロイドを交互にみて、
ありえない、とばかりにいってくるジーニアス。
「?だって、これ、マナズでしょ?
  みるかぎり、水質の変化でこんなに大きくなっただけみたいだし」
ちなみに、この魚が主食としていた小さな魚や甲殻類。
それらが人間達の捨てたゴミの影響で、ただ変化をおこしているだけのこと。
つまりは、それらの毒に対抗するために、彼らもいきるために変化をおこした。
ただそれだけのこと、なのだが。
ナマズは基本、その貪欲といわれている食欲からしても有名。
本来のナマズ類はここまで大きくはない、のだが。
この湖に住まう魔物アーケロンもまた、その影響で巨大化していたこともあり、
普通の生体系にも影響がでている、のであろう。
そう簡単に予測をつけつつも、
「白身だし、昔から、人間達はこのナマズを食用にしてたし。問題ないでしょ?」
逆に、きょとん、と首をかしげてといかけるエミル。
事実、テンプラやかば焼き、そして今ではそれをしているかどうかもあやしいが、
しいなたちの先祖はタタキや刺身、といった食用に用いていた。
もっとも、ちらり、と誰かがつりあげたのか、こんもりと、山のようになっている品。
おそらくは、この湖の中に人間達が捨てたヒトにとっての不用品の数々。
それに視線をむけ、
「たぶん、人間が無責任にもそれらの品をこの湖にすてたために、変異をおこしたんじゃないのかな?
  よくあることだし。ヒトの手によって生体系が狂わされる、というのは」
そうつぶやくエミルにたいし、
「まったくだね。環境問題ってやつ、だね」
これまできこえることのなかった第三者の声。
しかしその声は彼らにとっては聞きなれたもの。
「あれ?しいな?いつのまに?」
いつのまに、というべきか。
湖とほぼ向かい合う形で、背をむけていたロイド達だが、
その背後からいきなり声をかけられ、ふりむけば、
たしかこのあたりで野営の準備をしているはずのしいなの姿がそこにはある。
「なんかさわがしかったからね」
そういうしいなの手には、しっかりと、今晩の火の元にするのであろう。
いくつかの薪、ちなみにそれらの薪はこのあたりに生息している、
デナイドの枝から拝借しているようではあるが。
ちょうどこの時期、彼らは子育ての時期ということもあり、
自らの体の一部にもなっている枝を剪定する。
ゆえに、そこいらにそういった剪定された枝がおちてはいるのだが。
「あ。エミル達もいたんだね。買い物はすんだかい?」
「はい。一応は。しいなさんたちのほうは?」
「こっちも一応簡単には準備はできてるよ。
  あとはリフィル達がもどってきたら、アステルにあれを使わせてもらえば。
  万が一の雨風もしのげるとおもうよ」
エミルの台詞に、首をすくめつつも、ちらり、と対岸側をみつついってくるしいな。
実際、この街の宿にきいてはみたが、
十六人、という大所帯を受け入れるほど部屋数はあいてなかった。
かといって、別れてそれぞれ休むよりは、まとまっていたほうがいい。
というのがリフィルの意見。
そもそも、しいなたちテセアラ組はここ、シルヴァラントに慣れていない。
そしてまた、シルヴァラントの人々も、テセアラのことを月の住人、
としたお伽噺でしか信じていない。
テセアラの感性と、シルヴァラントの感性はまったくもってことなっている。
産まれも育ちも、そして豊かさも違うから、それはそれでしかたがないといえば仕方がないが。
彼らにとって当たり前のことでも、ここシルヴァラントでは贅沢と分類されるものもある。
そんなことができるのは、一節にはディザイアンの輩達のみ、とまでいわれているほど。
だからこそ、それらの誤解を招かないためにも、野営、という方法をとることにとなった。
「たしかに、ナマズは白身でおしいけどなぁ。
  こんな巨大な魔物にちかいやつもたべられる、のか?」
ロイドが、つりあげた魔物を剣でつつきながらも何やらいってくる。
「うん。ナマズはごちそうだよね。それは認める、認めるけどさぁ。
  ロイドの家の前の川でよくうなぎやらナマズはとれてたよね」
実際、ロイドの家の周囲に流れている川でよくそれらがとれ、
ゆえに、ロイドにとってはあるいみ見慣れた食材といえば食材。
「でも、親父がいっていたけど、ナマズの中には種類によっては、
  生臭くてたべるのも難しい種類もあるっていってたぞ?」
イセリア方面からでたことがないロイドはそんなナマズをみたこともないが。
というか、むしろ小さなナマズ類しかみたことのなかったロイドからしてみれば、
こんな巨大なマナズを始めてみた、といって間違いない。
というか、誰しもこんな巨大なナマズが本当にいる、とはおもってもいなかったであろう。
海ならばともかく、ここは砂漠の一画。
海ならば巨大生物がどれほどいても違和感はないが、
たしかにこの湖はこのあたり、トリエットからしてみれば一番大きな湖であり、
また、底がみえない底なし湖、としてもまた有名。
だからこそ、以前の異常気象にときに、深いはずの湖が凍りついた、というので人々が驚愕していた。
普通、人々の常識であてはめると、深さをもつ湖や川などは、
並大抵のことでは絶対に凍らない、という認識をもっていたがゆえ、
湖が凍りつき、砂漠に雪がふりつもっていたことから、
ディザイアン達が、神子の旅を妨害しようとして、天候にまで手をかけはじめている。
そんな認識であった。
まったくもって、誤解というか認識違いでしかないのだが。
センチュリオン・コアのことをしらない人々にとって、
そしてまた、クルシスにとって偽りの歴史を信じさせられている人々にとっては、
それが彼らの中で真実、としてまことしやかにささやかれていた。
つまり、これらの異常気象は、ディザイアン達が神子を排除しようとし、
そのために、抵抗をつよめている結果であり、
また、ディザイアンの長が、そのために、神子により封印されないために目覚めたのだ、と。
そんなロイド達の会話をききつつも、
「いや、くさみがあっても食べられる方法はあるからな」
そんな彼らの会話がきこえた、のであろう。
野次馬の中の一人が、ぽつり、とそんな彼らの会話に突っ込みらしき言葉をぽつり、といってくる。
ちらり、とその声がしたほうに視線をむけたのち、
「たしかに。ハーブとかつかえばくさみはとれるしね。
  これ、さばくのなら、あたしがやろうかい?こういうさばいたりするの、あたし、得意だけどさ」
しいなが、その手にもっていた薪をひょい、とジーニアスにひきわたす。
あわてて、枝をおとさないようにして、それらをかかえているジーニアス。
「しいな、すご~い、おさかなさな、さばけるの?ロイドみたいだね~。
  ロイドもおさかなさんの、三枚おろしとか得意なんだよ~?」
「ロイド、そういうところ、では器用、だからねぇ」
「これだけ大きいんだ。かば焼きにしても、この街の人達。
  全員分にいきわたるくらいの量にはなるんじゃないのか?これだと」
かるく数メートルはあろうか、という巨大ナマズ。
たしかに、この湖の付近で野営準備をしていたとき、
注意、として、夜は絶対に湖の近くにはちかよらないように。
巨大ヒトクイ生物がでるから、という忠告はしいなもまたうけていた。
もし、彼らがいうように、それが事実だとするならば、
さばいたときに、内部から人の一部とかがでてきかねない。
まあ、話しを聞く限り、ここ最近でそういった行方不明者がでていない、
というらしいので、それはない、とはおもうのだが。
「捌くにしても、マナイタはどうするんだよ?しいな?」
ロイドはロイドでしいなにそんなことをきいていたりする。
「家の周囲ではそこいらにあった岩をマナイタがわりにしたけどさ」
このあたり、そんなものはまったくみあたらない。
「…普通に解体、してくしかないんじゃないかい?
  ほら、よく海岸にうちあげられたクジラなんかをそうするだろ?」
テセアラではそういったことが時折、数年に一度くらいはあったりした。
ゆえに、それと同じ感覚でしいながいうが、
「クジラ!?そんな高級なのとこれとがいっしょっ!?」
「クジラかあ。あれが打ち上げられたとき、大人たちがはりきるよね」
シルヴァラントでも時折、そういうことがあるがゆえ、
しいなの台詞にうなづきつつも、驚愕したように叫んでいるジーニアスに、
マルタはマルタでそういったとき、街の大人たち、
特に漁師たちが興奮しまくっていたのをおもいだし、しみじみとそんなことをいってくる。
「…まあ、僕は、釣り上げたのなら、この子の命を無駄にしない。
   というのなら、別に文句はないですけどね」
命はめぐる。
それがこの地上においての理。
釣り上げれているこのナマズはまだ生きたい、であろうが。
しかし、これ以上このままこの子がいきていたとしても、
まちがいなく、この子は湖に染み込み始めている毒におかされている。
ゆえに、その毒により近いうちに命をおとすことになるであろう。
ならば、苦しむ前に、という思いがあるのもまた事実。
ゆえに、そんなことをいいつつも、そっとナマズにと手をそえる。
――このまま、汝の魂を我の内部に還すか否か、返答はいかに?
そっと、いまだに水をもとめ、口とエラをぱくぱくさせているそれにとといかける。
彼らとて、その生体は弱肉強食。
ゆえに、自分が何ものかに食べられる、というのを考えていないわけではない。
そもそも、この湖に生息するナマズ達は、アーケロン達にとってもよりよい食材でもあったりする。
もっとも、これほどまでに巨大になれば、アーケロンを逆にどうやらこのナマズはくらっていたようだが。
それに関してエミルはとやかくいうつもりはない。
それが自然における生体系の一つと理解していれば、そこに介入するつもりはさらさらない。
しかし、湖から釣り上げられた目の前のマナズはすでに瀕死の状態。
ならば、少しでも救いをあたえても…たまたま目にはいっただけ、とはいえ。
あたえたとしても、問題は…ない。
エミルの問いをうけ、一瞬、びくん、とマナズの体が大きくはねる。
それとともに、それまでビタン、ビタンと必死であがらっていたナマズの体。
その体がびくん、と跳ねたかとおもうと、
ゆっくりと、そのつぶらな瞳が閉じられる。
直接に触れられれば嫌でもわかる。
自らの横にいる人の姿をしてはいるが、【世界の王】であることが。
全ての命、そしてその器は、ラタトスクがうみだせしマナによって構成されている。
すなわち、ラタトスクは今現在のこの世界における、世界の王といって過言でない。
全てのものはマナにて構成されており、
ゆえに、ラタトスクの意思一つで、マナを還元することも、また新たに構成し直すことも可能。
そして、ほぼ地上にいきている様々な生命体。
それらの肉となっている体はは単なる精神体の器、でしかない。
母なる元に還れるのならば、それ以上の誉はない。
だからこそ、あらがうことをやめその身をゆだねる選択をするこの生物の行動は、
彼ら自然界における生物にとって当たり前といえば当たり前の行動。
よくよく注意をこらしてみていれば、マナズの体から、あわき光がたちのぼり、
その光りは横にてその体にふれているエミルの中に吸い込まれていく様子がみえたであろう。
しかし、ナマズの巨体にさえぎられ、エミルの体はほぼ隠れていたがゆえ、
その事実にロイド達は気づいていない。
「早くきめないと、こいつが死んだら、これだけの暑さだ。
  逆に腐敗がはじまっちまうしね。で、どうするんだい?」
このままこれをこの場においておけば、まちがいなく腐敗する。
まだ命があるときはいい。
が、死んだ直後から時間との勝負、といえる。
「…街の男たちを動員しよう」
「あ、ああ。そうだな。
  動かなくなったってことは…これが腐敗したら洒落にならないしな」
それでなくても湖の傍。
ついでにいえば、大きさからしてどこかに運べるような代物でもない。
ならば、たしかに、このかわった格好をしている女性のいうように、
この場で解体してしまうのが一番いい。
そんなしいなたちの言葉をうけ、あつまっていた野次馬達がそれぞれ顔をみあわしたのち、
やがて、ぱらばらと、その段取りをするためか、それぞれ街の中にともどってゆく――


街とは対岸側、とはいえ、目立つのはなるべくさけたい。
ゆえに、周囲にカモフラージュ、として、いくつかの、あつめてきたサボテンの葉など。
巨大なそれらがテントの周囲にかぶされており、
ぱっとみためは、それらはサボテンの葉などでつくられた簡易的な小屋にみえなくもない。
よもや、その内部にしっかりとしたつくりの人工的な何かがある、など。
ここ、シルヴァラントの人々が思いつくはずもない。
そもそも、そのようなものがあることなど、彼らからしてみれば考えられないこと。
パチパチ、と起こしている火がはぜる。
パキッン。
また一つ、薪にしていた木がハゼ割れる。
「…そう、こちらもいろいろとあったのね」
なせかもどってきてみれば、街の中が騒がしく、
聞けば、何でも旅業の一行の子供達が、トリエットの湖のヌシを釣り上げたとか。
その容姿をきいたとき、
おもわずコメカミに手をあててしまったリフィルはおそらく絶対に間違ってはいない。
自分達がいないときに、何をやっているの、あの子達は。
とおもう気持ちはリーガルもまた同じであったらしく、彼にしてはめずらしく、多少顔をしかめてすらいた。
ヌシとどうやら巨大なナマズ、であったらしく。
この暑さゆえに腐敗も早いという意見のもと、何でも街の大人たち、
解体作業のできるものたち総動員で、そのナマズを解体し、
各家々へおすそわけ、とばかりに配布、したらしい。
そのために、ひさしぶりに御馳走でもあるまともな白身がたべられる、
というのもあり、街はあるいみお祭り騒ぎ直前になりかけていたといってもよい。
それでも、そこまで騒がないのは、一重にそろそろ夜になりかけている、ということと。
いきなりでは準備が間に合わない、という思いから。
さらにいえば、この近くには、犠牲者はいないものの、ディザイアンの施設らしきものがあり、
ゆえに、あまりおおっぴらに騒げない、とは街の人達の談。
彼らは知らないゆえに仕方がないのだが、それはディザイアンの施設ではなく、
レネゲードの施設であるがゆえ、街の人々に危害はまずないといってよい。
リフィル達が街にもどったとき、すでゆ夕方も終わり近くになっており、
夜の闇がじんわり、とではあるがさしせまっていた時刻。
砂漠の夜は気温が一気にさがってくる。
昼と夜の気温の差が激しいのがあるいみで砂漠の特徴の一つともいえる。
もっとも、砂漠の移動は昼間は体力をつかうので、あえて夜に移動する。
という方法をとったほうが体力的に疲労しなくてすむ、のだが。
いかんせん、砂漠には夜行性の生物、もしくは魔物も生息している。
ゆえに、好んで夜に砂漠を移動しよう、というつわものはまずいない。
湖の対岸に、トリエットの街が位置しており、ここからも街のあかりがちらほらとみえる。
トリエットの街はたしかに、湖を取り込んで発展した街、とはいえ。
規模はさほどおおきくはない。
それは、砂漠地帯であるがゆえに、パルマコスタほど巨大な街にまで発展できず、
ゆえに、ここ、シルヴァラントにはパルマコスタ以上の街は今現在存在していない。
「しかし、ほんっと、こっちの世界は小さい街とかばっか、なんだなぁ」
そもそも、シルヴァラントで一番巨大だ、というパルマコスタの街並みですら、
ゼロス達からしてみれば、この小さい街は一体?というような感覚でしかない。
強いていえば、オゼット以上、そしてサイバック以下、といったあたりの大きさ。
さらにいえば、ここ、トリエットの街の規模は、その広さからして、ほぼオゼットに近い。
「仕方がないわ。こちらはあなた達のほうとちがい、ディザイアンが常にいたのですもの。
  街を新しくしようにも、彼らがやってきて壊せばそれでおわり」
実際、これまでにもディザイアンがいくつもの街や村を壊滅させた、という話しはどこにでも残っている。
かつて、この付近、砂漠にも様々な集落のようなものがあったらしいが、今ではそれも皆無。
さらにいえば、点在していたらしきオアシスも、すでにこの湖しか残っていない。
「…私たちの世界、はこちらの世界を犠牲にして繁栄、していたんですね」
ぽそり、と改めてそれを感じたのか、プレセアがぽつり、とつぶやく。
エクスフィアが人間の命でつくられている、ときいたときは、
その犠牲となった人間がかわいそうとかいうそういった気持ちはおこらなかった。
それは、あるいみで人ごとであったからなのかもしれないが。
しかし、そんな会話をしているとき、なら、プレセアはアリシアのことも、
何ともおもわないのか、といわれ、はっとした。
つまるところ、自分達に置き換えて、考えようとしていなかっただけ、なのだ、と。
自らが妹を実験体とされ、殺されたという怒りと悲しみ。
そんな悲しみをこちらの世界の人々は誰しもがいつでおいかねない。
自分の悲しみは自分だけのもの、と心のどこかでおもっていた、
自分自身のあるいみ傲慢ともいえるその考えに狼狽し、
それ以後、プレセアはなるべく自分視点でも考えるようにと心がけている。
最も、その自分視点で、というのがほとんどのヒトにできないがゆえ、
いつの時代もヒトは他者をないがしろにする行動をとりまくり、
あげくは、大地をも巻き込んだ争いにまで発展してゆく、のだが。
「繁栄世界と衰退世界…か。くそ。何としても、
  互いの世界が犠牲にしあうようなこの仕組みはおわらせないと。
  でないと、どんどん犠牲者がふえちまう」
今、この地にすまうものたちは、そんな仕組みなど知るはずもない。
皆が皆、神子が救いの塔にむかったのであれば、近いうちにかならず救われる。
そう信じて日々を過ごしている今現在。
この地において、あまりコレットが騒ぎをおこしていなかった…といっても、
とある民家の壁を壊したり、というようなことはしてはいるが。
街のものが皆が皆、神子一行をしっているわけではない。
というのがあるいみ効を奏している。
もっとも、ロイドはいまだに掲示板もどきに自らの手配書が張られているのにきづき、
おもいっきり顔をしかめていたりするのだが。
さすがにあの手配書の似顔絵で、手配者である、と気付いているものはほとんどいない。
ゼロスなどはあれをみたときにかなり爆笑していたが。
ロイドくんの特徴をよくとらえてやがる、と。
ジーニアスやミトスが釣り上げた小さな魚は、くしざしにし、
焚火のまわりにかるく塩をふり、今現在焼いている最中。
香ばしい匂いが周囲にとたちこめる。
「犠牲、ね。とりあえず、皆がそろったところで、いいかしら?」
ひとまず、寝どこの用意、そして食事の支度も一通りおちつき、
といっても、エミルはちまちまとうごきまわり、
相変わらず、皆の食事を作りそんな料理をタバサが皆のもとに運んできている今現在。
それぞれに料理がいきわたったのをみてとり、
改めて全員を見渡しつつも、リフィルが口を開く。
「とりあえず。火の精霊と契約もすんだことだし。
  パルマコスタのニールやルアルディ夫妻にもいったけども。
  まずは、ファイドラ様に彼らと同じような説明をしにもどるわ。
  ロイドとジーニアスは村にはいれないでしょうから、ダイクの家に一度いく、ということでいいわね?」
「…仕方ないよね。僕とロイドは村を追放されてる身だし……」
リフィルの言葉にジーニアスが思わずうつむく。
「…俺、あのときやっぱり間違ってたのかな。
  マーブルさんを助けたのは悪いことだ、とはおもわない。 
  けど、結局、そのせいで、マーブルさんはあんな姿にさせられて、村も……」
あのまま、マーブルをみてみぬふりをしていれば、マーブルはあんな最後を迎えなかったかもしれない。
その思いがいまだにロイドからしてみれば抜けきれない。
そして、自分の名をよび、村にやってきたディザイアン達にころされた村の人々。
炎に染まった村。
そして、人々の悲鳴。
今でもロイドははっきりと思いだせる。
「…それをいうなら、僕があのとき、どうしてもマーブルさんに伝えたい。
  といって無理いって牧場にいったばっかりに……」
禁止されてるだろう、とロイドにもいわれたが、どうしても伝えたいから。
と強行したのはジーニアス自身。
何やら暗くなる二人の子供達をみつつ、
「ま、過ぎたことはしかたねえんでねえの?」
「あのな!ゼロス!そんないいかた…っ!」
おもわず、かっとなり、ロイドがゼロスにくってかかろうとするが。
「じゃあ、何か?ロイド君は、そううだうだいっていれば。
   じぶんのせいで、誰かがしにました、とずっといってればいいってか?」
「神子、そのようないい方は少し酷なのではないか?」
「こいつは強くいわないとわかんねえとおもうぜ?絶対にな」
きっぱりといわなければ絶対にロイドは気付かない。
「誰もそうとはいってないだろ!」
「お前らがいってるのはそれと同じなんだよ。
  いつまでも過ぎたことをぐだぐだいって。過去はどうやっても取り戻せないんだぜ?
  その先に何があるっていうんだよ。必要なのはこれからじゃねえのか?」
「ゼロスさん、いいすぎ、です。でも、一理、あります」
ゼロスの言葉にプレセアも思わずうつむく。
そう、過去は取り戻せない。
自らが失ってしまった十六年、という歳月も。
「たしかに。過去にばかりとらわれて、また過ちを起こしてもらってもこまるもの。
  それはそうと、私たちがレネゲードからきいた報告をここでしておくわね」
ボータ達からうけた説明。
ちらり、とその視線を一瞬リーガルにむけるリフィルにたいし、こくり、とうなづくリーガル。
リーガルとリフィルはユアンより、とある首飾りのペンダントの中身。
それを見せられた。
それは、みおぼえのある人物達がうつりし、絵姿…かなり精密な品であったが。
そこにうつっていたのは、一人の子供と、そして男性二人と柔らかな、
しかもどこかでみおぼえのある女性が一人。
そして、問題なのは、そこにうつっている四人が四人とも、
リフィルも、そしてリーガルもみおぼえがある、ということ。
しかし、それを口にすれば何らか不都合がおこりかねない。
だからこそ、経過観測する、ということで話しはまとまっている。
「まず、レネゲードの追跡調査によると。…ブレセアにはきついかもしれないけども。
  あの村にいた住人達は、イセリアの人間牧場につれていかれたらしいわ。
  次なる衰退世界になるテセアラ。
  そこにあらたな牧場をつくるときの第一号たる実験材料として、今は捉えているらしいわ」
ユアンの説明によれば、それはクルシスの指導者ユグドラシルの命で、
その反転作業が中断しているがゆえ、彼らの処遇も宙に浮いている状態になっているらしい。
つまりは、自分達の世界が繁栄世界にはいり、テセアラが衰退世界にはいる。
それはどうやら決定事項ではあるものの、
なぜかその作業は中断され…ユアン曰く、それよりも、神子の身柄確保が最優先。
という命がくだっているがゆえ、といっていたが。
しかも、気になることもいっていた。
ユグドラシルがディザイアンの長プロネーマに指揮官の権限を与えてしまい、
ユアンのもとにすらきちんと報告が最近あがってきていない、と。
ユアンとて、リフィル達が精霊との契約をかわすにあたり
それを考えていなかった、といえばウソになる。
すなわち、プロネーマに後をまかせ、自分はマナの照射にとりかかるために。
今、こうして地上におりてこられているのも、地上のマナが数値とは異なっている。
その調査、という名目のために地上におりているという形をとっている、とのことらしい。
ユアン曰く、クルシスにあるメイン・コンピューターにおいては、
テセアラとシルヴァラントのマナの推移。
あきらかにテセアラ側のマナが衰退していなければおかしい、というようになっているらしい。
が、現実は、互いの世界とも同じマナの濃さで満たされており、
こればかりは地上におりて観測しなければわからなかった誤差。
それゆえに、自ら調べる、という名目のもと、ある程度自由に行動しているとのことらしいが。
しかし、そこまでの説明をロイド達にしても、まちがいなく意味不明。
というか、特に誰とはいわないが、約一名は、
そんな細かなことまで話しはじめれば、話しの最中に眠ってしまいかねない。
ゆえに、簡単に話しをおおまかにはしょりつつも説明するリフィルの姿。
このあたりは伊達に長き間にわたり、ロイドの担任を務めていたわけではない。
そのあたりの手加減、というのもはリフィルはすでに身につけている。
「そんな…先生、その人達、助けてあげることはできないんですか?」
不安そうなコレットの声。
「今、彼らをたすけても、受け入れてくれる場所が問題よ。
  イセリアの街の人々が、牧場から救出した人々を受け入れるか。
  といえば、あの村長ならば答えは否、でしょう」
「・・・・・・・・・・・・・」
きっぱりといいきるリフィルの言葉に、うつむくコレット。
コレットとて、イセリアの村長の性格はわかっている。
いつも自分にたいしコビタようなことをいいつつも、
何かあれば、神子のくせに、と暴言をはいてきていたあの村長。
たしかにリフィルのいうとおり。
牧場から彼らを救出したとしても、まちがいなく村長はうけいれない。
パルマコスタ牧場やアスカード牧場の場合は、パルマコスタ、
そして、ルインの街にそれぞれがおちついた。
パルマコスタの場合は組織だって彼らを保護してくれたがゆえ、後々を気にする必要がなかったが。
今回はそうはいかない。
「それに、アステル達からきいたのだけども。
  あの街の人間達は自分達こそ選ばれたものだという選民思考。
  そんな思考をもっているらしいから、それこそ村では到底うけいれないでしょう。
  下手をすればそんな思考をもっている、ということはすなわち。
  彼らもまたディザイアンの仲間だ、といって断罪しかねないわ」
そう、一番の懸念はそこにある。
そう簡単に選民思考をもっていたという人々の考えがかわっている、とはおもえない。
助けだして、そして村にあづけたとしても、高飛車な態度を助けだした人々がとったとすれば。
それこそ、村の中にあらたな争いを呼びかねない。
それはもう確信をもっていえること。
いずれはたしかに救いださなければいけないかもしれないが。
今はそんなことより、リフィルからしてみればコレットのことを優先したい。
ゆえに、
「とりあえず、明日はイセリアにむかいましょう。
 ファイドラ様にこれまでの経緯を説明したあと。
  あと、ファイドラ様ならば、マナの欠片、そしてマナリーフ。
  もしくは、クルシスの輝石の本来の要の紋。それらの心当たりがあるかも、だもの」
その台詞にはっとしたように顔をあげるロイド。
その顔はいかにも、それをすっかり失念していた、というのを物語っている。
「永続天使…何、だっけ?」
「永続天使性無機結晶症、ですか?」
その名をしったのは、サイバックの学術図書館にて。
そして、アルテスタの家でもその名はロイド達は聞かされている。
ジーニアスが思いだすようにつぶやけば、
それぞれの空になりかけているコップに水をそそいでまわっていたタバサが、
ふと首をかしげつつ、そんな会話にわってはいってくる。
「そういえば、あのとき…アルテスタさんは、その病にかかったら、最終的に、命を落とすって……」
そうつぶやくジーニアスの声はかすれている。

――あの症状は、その装備者の体そのものをエクスフィアに…
  というよりは、精霊石に変えてしまうものじゃ。
  その装備者が利用する穢された微精霊達の力と同化することにより、
  そのものの精神体まで人工的な精霊に変化する過程において、
  その体そのもの自らが精霊達の核となりし石、すなわち結晶体になってしまう。
  もっとも、その過程にて完全に精霊になりしものなどはまずいない。
  心臓が結晶化した時点でほとんどのものは命を落とす

「うん。たしか、装備者というか、病にかかったもの。
  その身を無機物に…それこそ、エクスフィアそのものにかえてしまうって……」
アルテスタの家で聞かされた言葉を思い出し、
マルタもまた顔色をかえてぽつり、とつぶやいてくる。
リーガルもそのときのアルテスタの言葉を思い出し、何ともいえない表情を浮かべているが。
「コレット、お前、まさか…症状がでている、ということは…ない、よな?」
「え?う、うん、だ、大丈夫だよ。ロイド」
「「「・・・・・・・・・・・・・・」」」
そういうコレットの視線はロイドから外れており、
さらには、コレットの癖、嘘をつくとき必ずする愛想笑いをしていたりする。
そしてまた、そのコレットの台詞が嘘であることを、マルタ、リフィル、しいなはしっている。
知っているからこそ、何ともいえない表情をし、思わずコレットを見つめ返す。
彼女達がしったのは、パルマコスタの脱衣所にて。
コレットがなぜか服をぬぐのをいやがっていたので、
しいなが何、遠慮してるんだい、と強制的に脱がせたところ、その変化を目の当たりにした。
コレットによって、心配をかけたくないから、だまっていてほしい、といわれてはいるが。
「とにかく。それを防ぐためにも、神子の血族の長であるファイドラ様ならば。
  何かしっておられるかもしれないもの」
すでにコレットの変化が始まってしまっている以上、リフィルからしてみれば、時間がおしい。
かといって、コレットに黙っていてほしい、と言われた以上、
それを高らかにいって、そちらを優先する、というわけにもいかない。
何ともいえないもどかしさがリフィルの中にありはすれど、
それを表にださないのは、さすがと言わざるを得ない。
「あ、ああ」
今、あきらかに、コレットは視線をそらせた。
まさか、コレット…とロイドはおもう。
先ほどコレットとともに、つりざおを持ち上げるとき、コレットの手をにぎったが。
異様なまでにコレットの手は冷たかった。
それを思い出し、ロイドは何ともいえない思いにとらわれる。
まさか、な。とおもう。
絶対に気のせいだ。
そう、気のせいであってくれ。
――神子。命がおしければ、その要の紋を外す、のだな。
ふと、ロイドの脳裏になぜかクラトスの言葉がふとよぎる。
それは、以前クラトスとかちあったときにいわれた台詞。
しかし、その言葉をコレットは否定した。
これはロイドからもらった大切なものだから、と。
でも、とおもう。
もしも、自分があげたあの要の紋が、コレットの病気。
それをもし併発する原因となるとしっていて、あのときクラトスがいったのだとすれば?
そうおもうと、ロイドはぞくり、と悪寒がしてしまう。
自分はコレットを助けたいばかりに、逆にコレットをつらい目にあわせているのでは、と。
今のコレットの態度はあきらかに不自然。
そしてまた、しいなの瞳もどこか憐憫を含んでいるようにみえなくもない。
気のせいだ。
そうロイドは自分自身にいいきかせるが、それが現実を逃避しているからだ、
とロイドは気付かない。
否、気づいていてもそれを直視しようとしていない。
「ここ、シルヴァラントにおいて、聖地の次に神聖な場所。
  神託の村、イセリア、ですか。たしかコレット達はそこの出身なんですよね?」
「私とジーニアスは途中から、学校で教鞭をおしえるのに認められて移住したのだけども」
それでも、ともおもう。
「…ハーフエルフという立場を隠し、エルフとしてふるまっていたからうけいれられた、
  というのもあるでしょうけども」
顔をふせ、ちいさくつぶやくそんなリフィルの言葉をうけ、
「そういえば、こちらの世界でもハーフエルフの差別は……」
「これだから、人間は」
リリーナがいいかけると、リヒターがそんなリリーナにつづき吐き捨てるようにいってくる。
「互いに知らないから。自分達にもっていない力をもつから。
  なら排除しよう、そんな気持ちでいるかぎり。きっと、差別というものはなくならないんでしょうね。
  それこそ、まちがいなく同じ人間同士でも、差別があるように」
「ええ。そのとおり、ね。これはまちがいなく。
  ヒトとしての心があるかぎり、たとえ同じ種族としてそのありようがかわっても。
  必ずいずれは差別というのはあらわれるでしょうね。
  相手、そして自分自身に向き直らない限り、は」
それこそ、互いに互いを思いやる心。
そして、相手のことを自分の身に置き換えて考える心。
そして、尊重し合う心。
排除する、のではなく受け入れる心。
それらが一つでもかけていれば差別というものはなくならない。
「…そもそも、僕も頭がよすぎるからって、エルフの取り換えっこだ。
  とかいってさんっざんいじめられましたしね。
  まあ、やってきたものにはそれ相応の仕返しはしましたけど」
それこそ、相手がぐうのねもでないままに。
アステルはその知能をもってして、自らを貶めようとする大人たちなどに、
幼いときから対抗しようといろいろと自分なりに行動を起こしていたりする。
だからこそ、七歳のころからあんなある意味ではどろどろとしている研究所において、
自らの立場を確立していたといってよい。
つまるところ、アステルに口、そしてその理論でかなうものはなし。
といわれはじめるのは、アステルが研究所に所属してしばらくしてからのこと。
何しろガチガチの頭がかたい大人たちの理論を正論でもってして、
しかも物的証拠なども自ら実験や調べたりしてつきつめて、
それらを論文、として、発表、ついでにいえば、
その発表論文を研究所だけ、ではなく、王家の研究所などにも送りつけており、
ゆえに、彼の成果を一人占めしようとしたものなどは、
この研究は、以前、このものからこういう論文がとどいているが?
と逆においつめられる形となって、自らの失態を暴露するような形になっていたりした。
「……まあ、一つの種族だけでも、必ずそういった愚かな考えをもつものはでてきますしね」
そんな彼らの会話をききつつも、
「はい。デザート」
一通り、会話をしつつ、すでに皆が食事をしおわったころを見計らい、
デザート用に用意していた果物のはいったお皿を目の前にと置くエミル。
それらのデザートはそれぞれ、これまた細かな細工がほどこされており、
食べるのがもったいないほどの出来映えとなっていたりする。
例をあげるならば、その花弁一枚、一枚まで丁寧に再現された薔薇の花など。
「…あいかわらず、エミルの料理は凝ってるよね。味もいいけど、この細工がね……」
しかも、よくわからない理由で、砂漠だし、といって、ナンまでつくっているらしく、
ナンにエミルが準備していたスープをからめてたべればこれまた絶品。
ちなみに、ナンだけでも何となく甘みがあり、
それこそもくもくと食べられるのではないか、というような品。
「…同じ種族でも差別はなくならない…か。心がなかったらそういうのはなくなる、かな」
「それは無理かな?生きていれば必ず、心、というのは芽生えてくるし。
  いいれいが、精霊達でもそうでしょ?彼らはそれぞれの心というか性格あるし」
本当に、彼らをこの地で生み出したときには、あんな性格になるとはおもわなかったのだが。
なぜに皆が皆、ほとんど過保護状態のような感じになっているのやら。
何となく、イフリートとセルシウスの中の悪さは、
一重に絶対に、テネブラエとアクアが言い争っているのをよくかれらがまのあたりにしたがゆえ、
何となくそれを参考にしたのではないか、
もしもは、それに触発されてしまったのではないか。
とひそかにラタトスクとしては思っていたりする。
そもそも、ここの精霊達は【他の世界】の精霊達と意識を共有させていないはずだ、というのに。
「……差別は心がうみだす……」
「そう、だよね。実際、私もハーフエルフは怖いもの、狂暴で粗悪で、
  皆が皆、ディザイアン達みたいな輩だって、周囲がいっていたけど。
  パパやママ、それにあの子がいなかったら、私もきっと……」
マルタとて、両親に何かあれば、両親がいっていた言葉がやはり間違っていて、
街の人達がいっていたことが真実だったんだ、と自らの思いを変えていたであろう自覚がある。
友達であった彼女達家族は例外にすぎなかったんだ、と。
全てのハーフエルフを怖い、そして凶悪なもの、と認識してしまっていたであろう。
「俺様たち、テセアラでは、幼いときからそのようにすりこまれてるからな。
  ハーフエルフは粗悪で野蛮で、蛮族にも劣るとな」
「何でそんな考えにヒトが至っているのか、僕からしてみれば不思議でたまりませんけどね。
  そもそも、狭間の子供達がうまれるのは、
  異種族間の間にて心を通じ合わせたものによって、産まれた子供でしょ?
  つまり、逆をいえば、互いの種族のかけ橋になるはずの子なのに。
  なのに自分達とは違うから、という理由だけで迫害するニンゲンってほんっとかわってますよね」
それはいつの世界においても時代においてもいえるとおもう。
あのときですら、せっかく確かに差別はあるものの、溶け込み共存していたはず、なのに。
あの国のとあるヒトの手によって、再びエルフ達は……
そもそも、簡単に魔族と契約した人物をミッドガルド王国が重宝した。
それが全ての原因であり、
もっとも、アレが魔族のことにたどりついたのも、
これまたいらないことをいったマーテルの存在があったがゆえ、なのだが。
ふと、あのときのことを思い出し、思わず目をとじるエミル。
結局、理をかえても、そして時代がかわっても、
エルフ達の事なかれ主義、自分達でどうにかしよう、という道はみられなかった。
ということか。
それでも、まだロイド達が生きていたあのときまでは、エルフ達も協力していた、
というのに。
狂ってきたのは、ラグナログ、とよばれし争いがありしあと。
自らの守りし扉は問題なかったが、
こともあろうに、欲におぼれた人間達が魔物と契約し、地上に瘴気をまきちらした。
もっとも、あのとき、扉の理を変えざるをえなかったが。
そもそも、普通に科学が発展してゆくのはまあいい。
しかし、豊かさをもとめたけっか、なぜに再び世界をないがしろにする方法を選ぶのか。
さらにいえば、当時の人間達は、自らを神、として呼び、
それに従いものたちですらそれをしんじきっていたりした。
実際、器を失いしあれらは、精神生命体…すなわち、魔族に近しい存在となりて、
地上全てを自らの支配下におこうとすらしていた。
本当に、ヒトの欲、というのもは呆れる以外の何ものでもない。
「前に、エミルがいっていたよね。心に色はないって」
「うん。僕の好きな言葉、でもあるけどね。
  けど、いつもヒトはそのことすらをわすれてしまって、
  中には自分達が選ばれたものなんだ~とか間違った認識でつきすすんでいくんだよね」
それはもう、呆れるほどに。
コレットの台詞にこくり、とうなづきつつも、盛大にため息をつくエミル。
「…ほんと、エミルってときどき、なんかいろいろみてきたように物をいうよな。
  けど、それって、知らないから、相手をしらないからそんな考えにいたるんだろうな」
「まあ、そうだろうね。というかヒトはしろうともしないだろうけどね。
  知らないほうが楽だから、目や耳をふさぎ、周囲に流されるまま、
  いわれるままにしていたほうが楽だから。
  そして、相手をみとめるより排除して、自分の世界を守るほうが楽だから、そんな狭い考えから」
「ま、エミル君のいうとおり、だな。知らないから恐れる。
  自分にもっていない力があるから恐れる。
  未知の力だからこそ、排除するか、もしくはこびへつらうか。
  受け入れて痛い目にあうより、消してしまったほうが楽、だからだろうな」
エミルのそんな独白にもちかいその台詞に、ゼロスがその手にコップをもちつつも、
ぽつり、とそんなことをいってくる。
「…本当。いつもヒトはかわらない。だから…」
「だから?」
「ううん。何でもない」
だから、あのとき、人間を滅ぼせ。
もう、救いはない。
ならばゼロからまたやりなおすべき。
そう判断した。
ユグドラシル姉弟に裏切られた、というのもあった。
自分達がそんな結果を招いておいて、さらに自分をたよろうとするヒトの愚かさ。
それに嫌気がさした、といってもよい。
今思えば、アステルはそこまで気付いていなかったのであろうが。
純粋に、ただ世界を助けてほしい、とおもったのだろう。
しかし、ヒトも世界わ構成する大切な要因、という台詞はあのときのラタトスクにとって、
それは間違いでしかない、という思いでしかなかったのもまた事実。
そもそも、ミトス達との約束においても、
彼らがそれを成しえなかった場合、地上はやはり当初の予定とおり、
一度浄化する、という話しをしていたのだから。
マーテルが精霊の盟約というものを持ち出してきたがゆえ、
地上にあまり干渉ができなくなっていたが。
しかし、それでもマーテルと世界樹ユグドラシルは消滅した。
他ならぬヒトの愚かさの原因で。
実際、あのとき、星の力が加わらなかったとしても、
世界は一度、種子の発芽とともに作りなおすつもりであった。
つまるところゼロからの出発。
まさか、星の力でもってして過去、すなわち【今】に飛ばされるとは思ってもみなかったが。
しかし、それを口にするわけにもいかず、エミルはただ曖昧に笑みをうかべかるくほほ笑むのみ。
まさか、ここで『だからヒトを滅ぼそうとおもった』などいえるわけがない。
「マーテル様の教えは全ての命が平等に、なのに。何でそんな悲しいことになる、のかな?」
「僕もその考えはいいとおもうよ。…教え、だけ、ならね。
   もっとも、なんでディザイアンなんてものをうみだしたのか、
   いまだにはなはだ疑問でしかないんだけど」
そもそも、自分達ハーフエルフを虐げる人々が許せない。
といっていたのに。
なぜにまた周囲から迫害されるような組織を作り上げたのか。
「宗教において、絶対的な悪。そしてそれまでの人々が抱いていたハーフエルフの嫌悪感。
  おそらく、ユグドラシルはそれを利用した、のでしょう」
エミルの台詞に、ちらり、とその視線をミトスに向けたのち、リフィルがため息まじりにいってくる。
「…それを、本当に彼らが望んだのか、が僕は知りたいけどね」
「え?」
彼ら?
エミルのぽつり、とした台詞に首をかしげるロイド達。
その一方で、はっとした表情をうかべる、リフィルとリーガル。
「……昔のことは俺、わからないけど。けど、だからって今の状態は間違ってる。
  これだけは俺はいえる。誰かを犠牲にしてなりたつ世界なんて」
「そうはいうけどね。ロイド、基本的に、君たち人間も。
  それに、動物達も、基本、食物連鎖の中に組みこまれてるんだよ?
  君たちが今、たべてるそれらの食材の元になったもの。
  それらも元々は普通に生きていたもの。命によって生かされている。
  それをわすれてない?つまり、命を他者から得ることによって、
  君たちヒトもまた生かされてるんだって」
「それは……」
「エミルって、哲学的なことをいうんだね。でも、そんなエミルもまた素敵っ」
「……たしかに。僕たち人間は何かたべなければ生きていかれません。
  それこそ、そんなことが必要ないのは、精霊達くらいでしょう。
  精霊はマナによって生息が可能となる。
  でもその精霊達もマナがなくては存在すらできない。
  そして、世界はマナによって構成されている。
  マナの涸渇、すなわち死の世界になるのですから。
  いえ、昔の文献を読み説いたときにみつけた、瘴気に侵された地になる、
  というべきなんでしょうか?たしか……」
「……ニブルヘイム」
「え?」
「え?あ、ううん。えっと、僕も昔、きいたことがあって。
  それって、魔界、ニブルヘイム、のこと、ですよね?」
アステルがいいかけると、ぽつり、とつぶやくミトスにたいし、
エミル以外の視線がいっきにミトスにとむけられる。
そんな彼らにあわてたようにこたえているミトス。
ミトスの脳裏に浮かびしは、魔界との境界だというかの扉。
そして、そこを守りし精霊のこと。
「ええ。精霊ラタトスクがその魔界との境界を守っている、と古い文献にはありました」
「……とりあえず。リフィルさん。明日はなら、イセリア方面っていうところにいく。それでいいんですか?」
「え、ええ。そうね」
何となくこれ以上の会話をひっぱるのは、自分のことに触れられかねない。
ゆえに、さりげなく話題をかえるエミル。
そんなエミルの問いかけに、やはり、この子は、とおもいつつ、
「とりあえず。明日は早めにでかけましょう。
  今日の騒ぎもあるのだもの。それに、朝靄がまだ晴れないうちに、
  レアバードで一気にむかってしまったほうがいいわ」
晴れてしまえば必ず、自分達の乗り物をみて人々が騒ぎになりかねない。
「イセリア、か。親父、元気かなぁ」
「…そうね。久しぶりにロイド、あなたは親孝行でもしていなさいな。
  いろいろとあったもの。私はコレットをファイドラ様のところにつれていき。
  そして、今後のこともあるし、それにルアルディ夫妻から頼まれたこと。
  それらの伝言もあるからね」
彼らはネコニンギルドに手紙を依頼しておく、といっていたが。
何でも伝書鳩便を使用するより、ネコニンギルドのほうが確実だから、ということらしい。
砂漠の夜の空気は冷たい。
しかし、近くに湖があるがゆえか、たしかにひんやりとした空気はみちているが、
完全に凍りつくほどの外気温にはこのあたりにおいてはなっていない。
といっても、外観温度的には一度程度にまで下がっているようではあるが。
「じゃあ、今日は火の番は僕がしますね」
「え?でも、エミル、エミルはやすまなくてもいいの?」
「大丈夫だよ。マルタ達はゆっくりやすんで。リフィルさんたちもそれでいい、ですよね?」
「え。ええ、ならお願いするわ」
エミルから火の番をするといってくるのは珍しい。
たしかにいろいろとあり、精神的に疲れてもいる。
「あと、テントに入る前に、皆気がたかぶってて眠れないかもしれないから。
  ひとまず、ハーブティーつくってますから、それのんでいってくださいね」
そういえば、さきほどから落ちつく特有の匂いがしてきている。
少しさきにアステル持参であった、携帯式コンロの上にヤカンがのせられ、
どうやらそれによってエミルはハーブティーをつくっていた、らしい。
ちょうど風向きが逆であったがゆえに、その匂いは完全に、
リフィル達のもとにただよってきていないが。
実は、ちょうど風下にあたる街付近では、その効果によって、
そこにいる全てのものがもののみごとに爆睡していたりする。
最も、その事実をリフィル達が知るはずもないのだが。
「お。エミルのハーブティーか、あれなんかぐっすりねられるんだよな」
「そうだね。エミル、わたしにもいい?」
そもそも、あれは、眠れなくなったとおもったときですら、
エミルのハーブティーを口にしたときだけ、コレットは眠ることができていた。
ゆえに、コレットもまたその効果のほどは身にしみてわかっている。
今おきていれば、そしてこれ以上ロイドに追求されれば、コレットは隠し通せる自身がない。
ならば、寝てしまえばいい、という究極の結論にいたっているがゆえの問い。
「うん。いいよ。皆も遠慮しないでね。ミトスも」
「え?あ…う、うん」
名を呼ばれて、思わずうなづいたのち、きづけばいつのまにか、
独特などこか落ちつく匂いのするハーブティーのはいったコップ。
それを手渡され、とまどうしかないミトス。
エミルからしてみれば、ミトスにこれからすることを見られたくはない。
ゆえに、さくっとねてほしいというのもあり、
自然にミトスにハーブティーを渡したにすぎない。
よもやミトスとて、これをのめば、いくら睡眠機能を停止させていたとしても、
睡魔に襲われる、など夢にはおもわない。


さわり。
風がほどよく吹きつける。
「…皆、ねたか」
先ほど手渡したハーブティーの効果で、皆が皆。
ぐっすりとテントの中でねているのがみてとれる。
リーガルは子供一人で寝ずの番をさせるわけにも、といっていたが、
リーガルも火の傍で、すでに完全に眠りの中にとおちている。
同行していたすべての気配が完全に眠りについたのを確認したのち、
「アクア。ウンディーネ」
すっと目を閉じ、再び目をひらき、名を紡ぎだす。
その瞳の色はいつもの緑、ではなく深紅色にと変化しており、
また、エミルが纏いし雰囲気もがらり、とかわっていたりする。
それは、そこにいるだけで圧倒的な威圧感、もしくは絶対者のごとくの雰囲気。
まず、この雰囲気に逆らえるものは絶対ないない、といえるほどの雰囲気がそこにはある。
「はい!はいはいはい!」
「アクア様はあいかわらず元気ですわね」
元気よく、ぴょこん、とパシャリ、と湖の中から飛び出すように顕現せしは、
いうまでもなく水のセンチュリオン・アクア。
そして、これまたパシャリ、と水の上にうかぶようにして顕現せしは、水の精霊ウンディーネ。
周囲の木々もまた、その気配にうちふるえており、
近くにありし【王】の気配により歓喜、そして服従の意を示している。
それぞれあらわれし、片方のアクアといえば、うれしそうに、くるくるとラタトスクの周囲をまわり、
そしてまた、ウンディーネはウンディーネで、
次なる指示があるのをまっているのか、うやうやしく頭をたれていたりする。
「イフリートの契約が解除されたからな。ここを拠点とし、この地をかつてのようにもどす。
  そのため、この地にウンディーネ。お前の加護を。
  アクアはこの湖に淀みし力を全てマナに還すがゆえ、それをウンディーネに分け与えろ」
ロイドがかなりこの湖の中にありし異物を取り除いているらしいが。
しかし、まだまだ視たかぎり、この固定にはそういった不純物が存在している。
それらを隠れ場所にしている生物達もいるようではあるが、
それらのかわりとなりし水草類を生やしてやれば解決するし、
もしくはそういった穴などがある岩などにそれらを変化させることにより、
この湖にすまいしものが、人のつくりし人工物によって傷つけられる。
その可能性をつぶしておきたいというのがエミルの、否、ラタトスクとしての本音。
そもそも、ラタトスクが眠りにつくより前は、このあたりは緑豊かな地でもあった。
たしかに一部は砂漠であったが、ここまでひどくはなかったのもまた事実。
ゆえに、かつてのような姿に手っとり早くすますには、
自分がマナを分け与えればそれこそ一晩で一気に緑が蘇りかねない。
湖を通じ、ウンディーネの、すなわち水の加護を循環させることにより、
自然とこの地の生体系に影響を及ばせていくほうが違和感を感じられないはず。
そもそも、あのハイマの地ですら、自分がマナを解放しただけで、
たったの数時間のうちにあのように変化がおこってしまったという現象を目の当たりにしている。
今ここで自らがマナを解放してしまえば、おしてしるべし。
皆が目覚めたとき、そこは砂漠でなく、いつのまにか熱帯雨林となっていました。
というのでは洒落にならない。
確実に。
しかも、実際に力を少しでも解放すればそうなりそう、という自覚があるだけに、
だからこそ、この地をかつての大地にもどすにあたり、ウンディーネ達に任すことにした。
次にノームと契約を彼らがはたし、ミトスとの契約の楔がとけ、
ノームもまた檻から解放されれば、彼の力とあわせ、
かつてのような豊かな大地にもどさせるために。
「さて、では、やるか。
  無は有に、有は無に。ヒトよりうちすてられし哀れなるものどもよ
  我が名のもとに、その器たる力をあるべき姿に還らさん」
すっと目をとじ、ラタトスクがそうつぶやいたその刹那。
パアッ。
湖がまばゆい光を放ちだす。
それは、湖だけにあらず、このあたり一帯、というべきか。
もしもこの光景をみている第三者がいれば、
トリエットの街を中心として、大地が全て光り輝いているのがみてとれたであろう。
それは、まるで幻想的な光景。
大地が金色に光ったかとおもうとその刹那、淡い緑にもちかい青のような光が、
周囲全体をおおいつくし、それは光の粒となりて、光の洪水のごとく、
一気に空中に解放され、それらはやがてある程度の高さにまでいくと
くるくると風にまうかのごとくに、光は円えがき、
やがて、澄んだ鈴の音のような音のような何か、を発しつつ、
その光はさらに細かな光の粒となりて、空中より大地全体に降り注ぐ。
きらきらとした光の粒が、大地に、そして砂漠にとおりたち、
その光の粒をうけた大地もまた、淡き輝きをましてゆく。
「そういえば。ラタトスク様。あそこの場所からも精霊石達を救いだすの?どうするの?」
ふと思い出したように、首をちょこん、とかしげ、
そんな光景をみても何でもないかのごとく、くるり、とその身を一回転させたのち、
嬉しそうにラタトスクの傍によりそいながらもといかけてくるアクア。
「一気にしてもいいが。それよりは……」
ヒトがこれ以上、かの品を利用できないのだ、と知らしめたほうがいいであろう。
ゆえに、アクアの台詞に、にやり、とした笑みを浮かべるラタトスク。
そんな二人の主従の様子を、ただしずかにウンディーネは身守りつつも、
その身はヒトの身にあらず、というのになぜか盛大にため息をついていたりする。
ウンディーネ達精霊からしてみれば、王の、すなわちラタトスクの決定は絶対ではあるものの、
しかし、ウンディーネはどちらかといえば人が好きな部類でもある。
まあ、あれほどの目に、またこれほどの目にあっていながら、
人ほ滅ぼせ、という命令がでてないのがあるいみ救いといえば救いなのかもしれないが。
しかし、ともおもう。
人が、王の、ラタトスクの存在にきづき、
さらにその身がコア、とよばれし誰もが手にいれられるかもしれない巨大な力。
その力にもなりえる、とすれば、どんな行動をおこしてくるか。
もしも王がその身をコアにし、それをヒトが利用してしまえば。
その巨大な力はまたたくまに使用者だけでなく、
周囲全てをまきこんで、ヒトは破滅への道を突き進んでゆくであろう。
かつて、精霊達がきかされている、センチュリオン・コアですら、
通常のものは触れれば本能が刺激され、特に人は正気を失ってしまう。
と聞かされている以上、地上にでている王の身が心配になるのは当たり前。
かつてのように、力をもとめた愚かな人間達が、
その力を…今度はラタトスクをもとめ、争いをしかねない、のだから。
そう、あのとき。
人々が大いなる実りを独占し、ミトス達を裏切り攻撃をしかけてきたように。

しばし、その地帯一体が、青白き光をともない、
夜の暗闇にしっかりと、その大地を照らしだしてゆく――


朝靄が周囲にとたちこめる。
昼間の気温が嘘のように、砂漠の朝はとてもひえこむ。
そしてまた、この付近にはここ、オアシスでもある湖があるがゆえ、
周囲に、霧、といった状態で濃霧が発生し、地上を霧が優しくつつみこむ。
太陽が昇りはじめれば、これらの霧はまたたくまにと霧散し、
そして砂漠独特のうだるような暑さが今日もまたまっている、のであろう。
約半年前まで一時、雪に覆われていたような感覚はもはやどこにも残ってすらいない。
否、もしも今、この地にやってきたものがそれをきけば、
砂漠に雪?何を夢みたいなことをいっているの?
とまず間違いなく誰もが口をそろえていうであろう。
「今朝は何だか空気がとても澄んでいるわね」
いつのまにか、爆睡していたらしく、気がつけばすでに朝。
それはどうやら皆にもいえることらしく、
一緒のテントにいたミトスなどは、なぜか目を大きくみひらき、
え?僕がねてた?みたいなことをいっていたが。
それをきき、ロイドはロイドで、エミルと交代しようとお前もおもってたのか。
などと、そんなミトスに話しかけていたのがつい先ほどのこと。
ミトスからしてみれば、睡眠機能を停止させているはずの自分が寝ていた。
この現象にとまどっているだけで、ロイドのいうように、
エミルのかわりに火の番をしよう、とおもっていたわけではない。
皆が寝静まったあと、プロネーマと連絡をとろうとおもっていただけに、
気付けばいつのまにか朝であったことの衝撃のほうがはるかに強い。
しかも、これが一度や二度ではない、となれば。
おのずと予測されるは、
「…エミルのつくった…ハーブティー?」
ぽつり、とつぶやくミトスの台詞にきづいた、のであろう。
「うん。エミルのつくった飲み物すごいよね。
  私も旅の途中、どうしても眠れないときにはとてもお世話になってたんだ」
にこやかに、そんなミトスにいっているコレット。
それは本来ならば睡眠、という機能が歪みによりて停止するはずの副作用。
しかし、エミルが傍にいたがため、コレットは完全に一度も眠れなかった、
ということはなかった。
そもそも、本来強制的に狂わされ、それらの現象を引き起こすべき微精霊達。
かれらがエミルの力をもってして、正気をたもっていたがゆえ、
もっとも、それでも人の身に精霊の力はつよすぎ、どうしても現象そのもの。
その力を得る以上、どうしてもそういった現象を乗り越える必要があるのもまた事実。
それら全てを克服する精神力をもつものが、
かつて生体兵器である【エンジェルイア】とよばれしもの、として存在していた古の時代。
通称、天使。
実戦にと駆り出されていた。
それは完成された人としての、生体兵器、として。
エクスフィギュアなど目ではない、意思をもちし、理想の駒、として。
ミトスが生をうけた時代は、その天使達が率先し、最前線にて戦っていた。
例をあげるとするならば、シルヴァラントのユアン、
そして、テセアラのクラシス、といった面々が有名であったことはいうまでもない。
そんなコレットの言葉に思わず目をみひらくミトス。
ありえない。
天使化における副作用がたかが外的要因でくつがえされる、など。
あるとすれば、それはマナの……
「……エミル…君は、いったい……」
まさか、まさかとはおもうけど、君は…ラタトスクの関係者、なの?
そう思わざるをえない。
決定的な確証はないものの。
しかし、パルマコスタの地において、ドアとよばれし人間の妻。
かの妻をエクスフィギュア化していた旨の報告はうけていた。
それをもってして、パルマコスタを駒の一つにくわえられた、と。
しかし、その男性の妻はエミルの手により元にともどった。
そしてまた、あまり実害がないからとほうっておいたクヴァルのつくりしとある石。
魔血玉デモンブラッドとよびし人工的なそれ。
完全な品ではないので実害はあまりないだろう、とほうっていたのだが。
かの瘴気に侵された人間を治療したのは確かにリフィルらしい、のだが。
しかし、いくら人工的とはいえそうそう簡単に瘴気が消え去るはずもない。
そして、きになりしは、パルマコスタできいた、ハイマの様子。
本来、草木もほとんどないような大地であったはずなのに、
今では緑豊かな地に変化してしまっている、とのことらしい。
しかも、人々の話しを総合するにあたり、神子一行が訪れた後にそのような現象になっている。
とか。
さらに、パルマコスタの地でいろいろと情報をそれとなく集めてみれば、
でてくるでてくる不可思議な噂というか真実かどうかもわからない不確定な情報が。
それはこの地、シルヴァラントにこなければわからなかったこと。
そもそも、ルインの地あたりが暗闇に覆われていたなどという報告もうけていなかった。
そもそも、そこまでの力はクルシス、にはない。
炎の灯りすら打ち消すような暗闇を人工的に産みだせる技術など。
それこそ、闇の精霊シャドウの力をもってすれば可能ではあろうが。
さすがにパルマコスタは港町であり、また旅業の拠点ともいわれている街でもあり、
必ず旅業者はパルマコスタにたちより、様々な話しを旅人達はおとしてゆく。
ゆえに、情報収集をするにはたしかにうってつけの地といえばそれまで、なのだが。
いかんせん、自分のもと、すなわち、ミトスのもとに上がってきている報告が、
ミトスが自ら聞いた情報とまったくもって一致していない、というこの現実。
そしてここ。
トリエットにおいても、雪におおわれていた、という。
ありえない。
そんな報告、どこの牧場からもうけてもいなければ…否、
おそらくは、プロネーマ辺りが報告の必要なし、とにぎりつぶしていたのか、
あるいは。
そして、シムルグ。
かの誇り高き魔物の存在。
しばしだまりこみ、うつむくそんなミトスをみつつ、
「ミトス?どうかしたの?」
ふと、そんなミトスにきづいたのか、心配そうに声をかけるジーニアス。
まだ日はのぼっていないが、移動は早い方がいい、というリフィルの意見もあり、
すでにかたずけをすませ、そして街の外にとやってきている今現在。
目の前にはとりだされたレアバードが八機、いつでも出発をまつがごとくに並んでいる。
「え?あ、ううん。何でもない。ただ、神託の村?だったっけ?ジーニアスがすんでいたところ」
そんなジーニアスにたいし、何でもない、とかるく首をふり、
さりげなく、違和感がないように話題をかえ、ジーニアスにとといかけているミトス。
その表情にはさきほどまでの何かを思案していたようなものはみられない。
「…うん。僕やロイドはでもいたら、村にいれてもらえないだろうし。
  姉さんがいうように、イセリアの救いの小屋の近くでおりたあと、
  僕らはダイク叔父さんのところで留守番してるよ」
ひとまず、昨日の話しあいにおいて、イセリア方面に一気にレアバードでむかったのち、
イセリアにある救いの小屋付近にておりたち、それから徒歩でダイクの家にむかったのち、
それからコレット達はイセリアの村にたちよる、というので話しはまとまっている。
ちなみに、なぜダイクの家を始めにするのか、といえば、
ロイドとジーニアスのことがあることもあるが、
一重に、唯一この地にのこりし、人間牧場の様子。
その様子をさぐるため、という意味合いもあるらしい。
すでに、この地にあった、パルマコスタ、アスカード、そして絶海牧場。
この三つの牧場は、リフィル達の手によって壊滅状態になっている。
もっとも、絶海牧場にいたっては、たしかにその主はころしたが、
爆破させていないので結局、あの場にいたディザイアン達。
彼らがどうなっているのかまではリフィル達は知らないが。
「とにかく、いきましょう。霧のあるうちに出発したほうが。騒ぎにならなくてすむもの」
一番の理由は、朝靄にまぎれ移動してしまうということ。
それでなくてもこの地において、レアバードはかなり目立つ。
ステルス機能という、鏡の性質をもたせることにより、
周囲の景色をとりこむことにより、姿をけすこの性能は、
このステルス機能を展開している上でのみ応用される。
つまりは、地上に降り立った場合、自分達、すなわち乗組員には通用しない。
はたからみれば、何もないところからいきなり人があらわれた。
そう捕らえられなくもない。
そして、そんなことができるもの。
ここ、シルヴァラントではかならず、ディザイアン達の転送、と結び付けられてしまう。
テセアラならば、まだ神子ゼロスの顔もあり、
また、アステルいわく、研究所の試作品、もしくはカンパニーの試作品の実験。
といえばいともあっさり人々は納得するらしいのだが。
それとなくリーガルに昨夜、確認をとってみたが、
たしかにレザレノ社では様々な試作品を市場においてその効果を実験していることがあるらしい。
何でも今は水上バイクとよばれしものを普通の人々にも販売できるように、
その価格リスクを抑える研究が開発部の中でおこなわれているようなことをいっていたが。
そもそも、水上バイク?といわれてもリフィル達にはピンとこない。
「空中に移動した直後にステルス機能を作動させるわ。
  あと、無駄に装置にさわりまくっても問題ないように、
  設備そのものにロックをかけているから、完全なる自動操縦になっているのを忘れないで」
誰が、とはいわないが。
下手にさわりまくって機体をこわしかねないがゆえの処置。
もっとも、
「…ということで。リヒター、しっかりとアステルは見張ってて頂戴」
「心得た」
一番の懸念は、一人でそれらを解除できかねないアステルの存在。
ゆえに、アステルのお目付け役として、
アステルとリヒターは同じレアバードに騎乗することにとなっている。
そもそも、レネゲードの施設において、
なぜかユアンを言いくるめ、一機研究用にもらっていたというのに、
どこまでもその研究意欲が高いのはいいことなのか悪いことなのか。
アステル曰く、時間があるときに分解し、それらの構造を完全に把握し、
自力でも作成できるようになりたい、ということらしいのだが。
同じ種族でもあるがゆえか、はたまた苦労性?のところが意気投合したのか、
このリヒターとリフィルは何気に息があっている。
どことなく、リヒターは常にアステルに苦労をさせられ、
そしてまた、リフィルはリフィルで常にロイド達に苦労をかけさせられていたせいか、
そのあたりの暗黙の了解というか、どことなく通じるところがあるらしい。
「むう。いくら僕でも飛んでる最中に分解したりはしないよ。…多分」
「「「多分って……」」」
ぽつり、と紡がれたアステルの台詞をききとがめ、
同時につぶやく、ロイド、ジーニアス、マルタの三人。
「とにかく、それぞれ機体にのりこみなさい。いくわよ」
これ以上、話しをつづけいていも時間が過ぎてゆくばかり。
まずは、この砂漠地帯を越えて、イセリア地方にいってからでも話しはおそくない。
そんなリフィルの言葉をうけ、
昨夜きめた乗り合わせのとおり、それぞれが八機あるレアバードにと乗り込んでゆく。


イセリア。
トリエット地方から北に位置しているとある地方。
それは、ここ、シルヴァラントの人々にとっては、第二の聖地、ともよべる地。
代々、神子がうまれしマナの血族、すなわち天使の血をひくという家系がすまいし土地。
そして、マーテル教のこれまた第二の聖地ともいわれる聖殿がそこにはあり、
マーテル教の祭司を目指すものは、かならずその地におて修業が課せられる。
しかし、だからといって神託の村とよばれし場所は発展などもしておらず、
どちらかといえばひっそりとした小さな村、という印象がかなり強い。
そして、ここシルヴァラントの中で唯一、
どういう方法をとったのか、ディザイアン達と不可侵条約、というものを結べた地。
としてもまた有名。
伝承からしてみれば、ディザイアン達からしてみれば
神子はいかしておいては、自分達がまた封印されかねない存在。
ゆえに、簡単にそうそうそんな契約がなされるなど信じがたいが。
実際にそのような契約がとりかわされている、らしい。
最も、真実は、ディザイアンもまたクルシスの一部であることから、
神子を傷つけることはありはすれど絶対に殺すまではすることはないのだが。
彼らにとってもマーテルの器となりし神子の身は貴重であり、
またそんなことはクルシス上層部からも許されていない。
ただ、その事実をここ、シルヴァラントの人々、そしてテセアラの人々もまた知らないだけ。
シルヴァラントの地図でいえば、ロイドの住んでいた、
ドワーフのダイクの小屋があるのは、ほぼ北の先端に位置しており、
そしてイセリアの村との間に、人間牧場が存在してるのがみてとれる。
砂漠地方とトリエット地方の間には山脈が連なっており、
その山脈の間にありし街道を超えることにより、互いの地域を行き来することが可能。
街道もまた、崖などに囲まれた道であり、
テセアラのようにきちんと整備されているわけでなく、
普通にむきだしの地面がならされている、ただそれだけの道でしかない。
レアバードにて北にむかってゆくことしばし。
やがて、乾いた風に新緑特有のにおいが立ちこみ始めたかとおもうと、
眼下にみえてくるは、連なる山々の姿。
上空からでもはっきりとわかるのは、山間にある村と、そして山の中にあるとある施設。

人間牧場といわれしその場所は、上空からみれば、まさに黒い要塞といった風貌。
その手前に、ぽつん、と山と山に囲まれた草原の中にありし小さな建物。
それが視界にはいるとともに、ぐんっと、レアバードが自然と下降してゆく。
やがて、自動操縦設定されていたレアバードは
そのまま、その近くの草原にゆっくりと降り立ってゆく。
イセリア地方、唯一といってもいい、救いの小屋。
「こっちにも救いの小屋はあるんですねぇ」
リフィルから説明をうけていたが、実際に目にするのとではまた話しが別。
「なぜ救いの小屋がディザイアンの襲撃をこれまでうけなかったのか。
  疑問にはおもっていたけどもね。今ならば納得するわ」
そもそも、ディザイアンとクルシスが同じ組織ならば、
彼らが経営しているその場所に攻撃をしかけるはずがない。
そして、そのことを逆手にとり、マーテル様の加護があるからだ、
と人々にいってしまえば、当然人々は加護、という言葉を信じ込む。
まさに、クルシスにとっては一石二鳥ともいえる手。
「でも、先生。ここから親父のもとにいくにしても。
  イセリアの村にいくにしても、まだ大分距離があるけど……」
事実、ここから距離はかなりある。
そんなロイドの言葉に、かるくその手を額にあて、
「説明したでしょう?そもそも、いくらステルス機能がある、とはいえ。
  レネゲードもいっていたけど、ディザイアン達もレアバードを所有しているのよ?
  姿をかくしている機体を彼らがその魔科学の技術でみつけない、ともかぎらないわ。
  そして、ここには人間牧場がある。念には念をいれないと。
  イセリアの村近くまでいって、その感知装置に発見されました。
  ではそれこそおそってください、といっているようなものでしょう?」
空中でおそわれた場合、それこそ逃げ道というものがない。
否、もしも術でも使用されれば、それこそ術によっては避けられないものもある。
たとえばジャッジメントなどといった術は、相手を特定さえしてしまえば、
たとえ離れていても、その相手を認識してさえいれば術を落とすことが可能。
もっとも、距離に応じ、そのために使う精神力もまた違ってくる、という欠点があるにしろ。
そんなロイドに呆れたように言い放ち、そして。
「これだけの人数だもの。コレットに気づかれる、ということはまずない。とはおもうけどもね」
何しろ十六人という大所帯。
プラス、ノイシュがいるにしろ。
レアバードからおりるとともに、ノイシュもまた、その体を元の大きさに戻されている。
遥か先にとそびえみえている救いの塔。
その塔の方向に思わずリフィルが視線をむける。
「救いの塔…か。全てはここ、からはじまった、んだよな」
そんなリフィルの視線にきづいたのか、ロイドもまた、救いの塔の方向をみつつぽつり、といってくる。
イセリアの村から追放され、一度家にもどり、そして始めて立ち寄った場所。
それが、ここ救いの小屋。
ここで、コレット達をみなかったか、と
問いかけたのがまるで昨日のことのように、ロイドの脳裏によみがえる。
「…うん、そう、だね。あそこには先生と、そしてクラトスさんと立ち寄って、そして」
そして山をこえ、砂漠にとはいり、そこでロイドが捕らえられている、と言うジーニアスと合流した。
「はいはい。シルヴァラントのお子様達。それにリフィル様も。
  旅の始めの思いでにひたるのはいいけどよ。
  とっとといこうぜ。セレス、気分がわるくなったらすぐにいうんだぞ?」
「お、お兄様!私はそこまでひよわではありませんわ!」
「でもなぁ。お前、何でもないときにもいつもよく熱だしてたし……」
「ここ最近は体調はすこぶるいいですわ!」
「ほんっと、セレスさんとゼロスさんって、仲がいいよね」
そんな二人をにこやかに笑みを浮かべつついっているエミル。
「なっ!」
そんなエミルの台詞に顔を真っ赤にするセレスに、
「まあ、俺様もセレスとこうして旅ができるとはおもってなかったしなぁ」
「陛下から何もいってこない、ということは、
  トクナガどのの説得が成功している、ということであったのだろう」
ゼロスの言葉に何かおもうところがあるのか、うんうんうなづきつつもいっているリーガル。
「それと、念のためにいっておくけども。
  この辺りは、シーフ、すなわち盗賊達がよく目撃されているから、
  皆、油断はしないようにね。…相変わらず魔物はよってこないようだけど。
  人間、となれば話しは別ですからね」
「…そういや、旅にでて砂漠にはいってすぐに、俺も襲われたな……」
まさか人間がいきなり襲ってくるとはおもわずに、とまどった記憶を思い出し、
おもわず顔をふせつつもつぶやくロイド。
イセリアの村と家との往復で、幾度かはそういう輩と遭遇したことはあったが、
うまくそれまで木々を利用して逃げおおせていた。
が、砂漠ではそんなことはできず、強制的に戦うハメになったといってもよい。
相手がディザイアンなら当時はこいつらは悪なんだから、
という思いで罪悪感の何も感じなかったが、ディザイアンとは違う悪。
さらにいえば旅の最中にどうみても普通の無外っぽいような男たちが、
それこそ非道なことをし、子供達を浚っていたというのも見聞きした。
「世の中で怖いのは、何よりもヒトの心、だからね。
  この世に悪があるとするならば、それは人の心ってね」
そんなロイドの心を視通したのか、ぽつり、とエミルがどこか遠くをみながらいってくる。
そう、いつの時代も、何かよくないことをおこすのは、ヒトの心でしかない。
「ヒトがそれぞれ掲げる正義もひとそれぞれ。
  当人にとってそれが正義でも、他人からしてみればそれは悪でしかない。
  つまり、心のもちようひとつで、正義にも悪にもどちらにもなりえるからね」
「…だから、俺は正義っていう言葉が嫌いなんだよな」
以前はディザイアンは完全なる悪だ、といいきれていたが。
しかし、今はそうではない、とわかってしまっている。
彼らもまた、クルシス、という組織のあるいみ被害者というか、
いわば汚れ役をおしつけられているだけの組織でしかないのだ、と。
それが今ならばわかるがゆえに、ロイドもその台詞に顔をしかめぽつりとつぶやく。
「この世に悪があるとすれば、それは人の心…か、たしかに、そう、だね」
エミルの台詞に思うところがあるのであろう。
ジーニアスも顔をふせつつも、ぽつり、とつぶやいてくる。
「そうね。人の心が差別をうみ、そして迫害をも生み出している」
そんな彼らの言葉をうけ、リフィルがしみじみといえば、
その場にいる誰もが静かにうなづきをみせていたり、
また目をとじ、同意するかのような仕草をみせているのがみてとれる。
「…皆が皆、思いやりの心をもてば、そんなこともなくなるだろうに。
  どうして、皆、仲良くできないのかな?」
コレットも思うところがあるのであろう。
顔をふせ、悲しそうな表情をしながらそんなことをいってくるが。
「コレット、それが、人、なのよ。理屈ではわかっていても。
  ヒトは自分と異なる力をもっていたり、何か自分と違うところをもつものを、
  無意識のうちに、自分達の心の安定のために排除しようとするものなのよ。
  …それを制御し、周囲と協調できるようになれば、違う、のでしょうけどもね」
「……誰もが差別されることのない世界…」
「うん。そんな世界ができたら素敵だね」
ぽつり、とミトスがつむぎしは、マーテルの最後の言葉。
「しかし。差別はなくならぬだろう。大なり、小なり、な」
「それでも…それでも、排除するんじゃなくて、そこにいるのを許せる。
  そんな世界になってくれればいい。…俺は、そう、おもうよ」
「そうね。それは理想だわね」
「…人はかわっていかねばならぬ。いや、かわらなければならぬのだろうな。
  でなければ、世界を一つにもどしたとして、かつての古代大戦。それの二の舞になりかねない」
「そう、ね」
「…先生、俺、わかんなくなってきたよ。世界を二つにわけたから、
  だから世界がマナを取り合うような世界になったのはたしかに悪いことだとおもう。
  だから、俺はそんな世界を元にもどしたい。
  けど、もしも世界が一つにもどって、またかつてのような争いが起こったら……」
これまで考えてもいなかったこと。
しかし、リーガルにいわれ、ロイドもはっとする。
同じヒトですら見下していたようなテセアラの人々。
「そのため、にマルタの両親、ルアルディ夫妻にも話しをして、
  これからファイドラ様にも話しにいくのよ。ロイド。
  こちらがかの国に見下されないようにして、きちんと話を通すためにも、ね」
「…できることから、していく、しかない、です」
ロイドの台詞に、リフィルがたしなめ、
それまでだまってきいていたプレセアがぽつり、とつぶやく。
「できることを、か。そう、だな。諦めたらそこで終わりだよな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そんな彼らの会話をききミトスは思わずだまりこむ。
彼らのその姿勢はかつての自分達のありようそのまま。
戦乱につづく戦乱、そして差別。
それらをなくそうと頑張っていた当時の自分。
諦めない。
僕は、絶対にあきらめない。
それはかつてのミトスの口癖。
「…勇者ミトスは諦めちゃった…のかな?」
ぽつり、とつぶやくコレットに対し、
「どう、かしら?彼は彼なりに達観したのかもしれないわね。
  なくなりそうにない争いに差別。なら力で押さえつけてしまえばいい、とね」
ため息まじりに、ちらり、とミトスをみたのち、そんなことをいいきるリフィル。
「そして、それに利用されたのが宗教、ということか」
うなづくようにいうリーガルの表情は、すこしばかり眉をひそめているのがみてとれる。
「いつの時代も宗教というのは人のこころを捕らえ、そして逆に非情にもしますしね」
「…エミルって、ほんとときどき、達観したようなことをいうよね?ほんと」
エミルの呟きに、ジーニアスが呆れたように呟くが。
「とりあえず。いきません?いつまでもここにいても、何をしてるんだろ?とか思われても何ですし」
ちなみに、いきなり姿がはたからみれば現れたようになっているがゆえか、
周囲の木々、すなわちちょっとした林の中にかくれていた盗賊達。
彼らはこちらを恐る恐るうかがっている。
突如として現れたようにみえる…正確には、
ステルス機能を展開していたレアバードからおりただけ、なのだが。
ともかく、そんなことができるのは、このあたりの人々の認識からしてみれば、
それこそディザイアンしかありえない。
遠目だからわからないが、可能性がある以上、静かに身をひそめているらしい。
ひとまず。
しずかに、そのまま自然にそっと大地に手をつけ、そして。
――邪魔をしてくるような輩がいれば排除せよ。
目をとじ、大地を通じ、このあたり一帯にいる魔物達にちょっとした命を下しておく。
そんなエミルの様子を不思議そうにみつつ、
「エミル?何地面に手をついてるの?」
「え?ううん。ちょっとね」
「靴の紐でもとけていたのかしら?」
エミルの動作はどちらかといえば、かがみこみ、片手は大地に、
そして片手は靴にとあてられていたがゆえか、
傍から見れば靴の紐を少しばかり修正しようとしたようにみえなくもない。
そんなエミルの様子にきづき、きょとん、と首をかしげてといかけるマルタに、
これまた首をかしげつつもいってくるリフィルの姿。
「とりあえず、ここから、まずはダイクの家を目指しましょう」
たしかに、エミルのいうとおり。
いつまでもここにいても仕方がない。
ゆえに、一行はノイシュを伴い、十六名、という人数をともなって、
一路、その進路を、北に、北にと徒歩にてその歩みを進めてゆくことに。


途中、一夜ほど、野宿をし、さらに北上してゆくことしばし。
なぜか魔物の襲撃どころか盗賊、すなわちシーフ達の襲撃がないことにいぶかしながらも、
何ごともなく道中をすごせるのはいいこと、とわりきりつつ、
これが敵の罠の可能性もあることから、慎重に警戒しつつ街道沿いをすすんでゆくと、
やがて、街道沿いに小さな集落の姿がみえはじめる。
「あれが、神託の村?」
「なんか小さな村だな」
規模ははっきりいって、オゼットの村よりも確実に小さい。
中にはいればそうではないのかもしれないが。
しかし、みるかぎり、街の規模というか広さはさほどないのは一目瞭然。
「あの村の北から聖堂につうじる道があるのよ」
「へえ。シルヴァラントの聖堂、ねぇ」
リフィルの説明にゼロスがすっと目をほそめるが、
「そういや、テセアラでの神託の儀式ってどこであるんだ?」
「完全なる神子の継承儀式は救いの塔の手前、だな。
  それ以外の儀式は大抵、テセアラの聖堂でおこなわれてるぜ?」
神子の継承儀式、それは神子が五歳になったころに執り行われる。
そして、神子は伝説にしたがい、精霊の地を訪ねていき、
そして最終的に救いの塔にとおもむくこととなる。
そして、救いの塔の手前で祈りをささげることにより、
天からの使いがあらわれ、その背に天の証ともいえる翼を展開することとなる。
それがテセアラの神子、としての継承儀式。
ロイドの問いに首をすくめて説明するゼロス。
「五歳……」
そんなゼロスの説明に、マルタが小さく息をもらす。
「俺様が神子の儀式をしたのちは、父親も元神子、という立場ではあるが、
  神子としての役割からは解放され、すべて俺様がこなすようになってたからな」
儀式を終えれば、神子の役目は次代にそのまま継承される。
たとえそれが幼子とて許されない。
そして、父親は、継承の儀が終わった直後から家にまったくよりつかなくなった。
もう自分の役目はおわったのだ、自分には関係ない、とばかりに。
つまりは、セレスの母親のもとにいりびたっており、
それもあり、ゼロスの母は自らの心の檻に囚われていっていた。
「…うん。私もきちんと自分の役目をきかされたの、五歳のときだった……」
三歳のころからそれとなくそういうことをきかされ、完全にきかされたのが五歳のとき。
神子は、その命を世界のために捧げるために産まれるものなのだ。
そう五歳の誕生日、コレットは祭司長達から聞かされた。
「…ここから北西にいった森の中に人間牧場があるわ。
  その付近には監視カメラなどもあるでしょうから、十分に気をつけてちょうだい。
  特にアステル。興味があるからって近づいたりしないように」
興味深々であったのはわかっている。
だからこそ、さらに釘をさすリフィルはおそらく間違ってはいないであろう。
ここからだと、北西の森にあたる位置に人間牧場はあり、
その森をこえた先に、ロイドの養父の住んでいるダイクの小屋がある。
「お父様やお婆様…元気、かな?」
街道の先にみえている村をみつつ、ぽつり、とちいさくコレットが呟く。
そうはおもうが、ふとコレットの顔に影がよぎる。
祖母や父はどうおもうだろうか。
再生の旅を途中でやめてしまっている自分をみて。
命を落として世界を救うためであったはずの旅。
でも、実際、今コレットは死んでいない。
たとえ、自分が死んで、マーテル様を蘇らせたとしても、
その結果、世界が滅ぶかもしれない、そういわれていたとしても。
それでも、幼きころからずっといわれていたこと。
それを成し遂げていない、すなわち生まれながらの使命といわれていたその役目。
それを果たしていないことにはかわりない。
だからこそ、コレットの表情は果てしなく暗い。
「あとできちんと挨拶にいきましょう。まずはダイクよ」
「先に、村にいかぬのか?」
リフィルの言葉にリーガルがすこしばかり首をかしげといかけてくるが。
「ジーニアスとロイドは村を追放されている身分ですからね。
  弟と教え子がしでかしたことは私も謝らないといけないのもあるけども」
「…先生、俺、やっぱりあのとき、間違ってたのかな?俺、いまだにわかんないんだ」
リフィルの言葉に、なぜ追放される結果となったのか、そのときのことを思い出し、
ロイドが顔をふせていってくる。
「…あなたは、間違ったことをした、とおもっているのかしら?」
「わかんねえ。本当にわかんねぇんだ。
  マーブルさんを助けたのは間違ってなかった。そのときはそうおもってた。
  姿がみられてないし、みられたディザイアンは倒したから問題ないって。
  でも、結果は……俺のせいでマーブルさんはあんな異形の姿にさせられて、さらには、村も……」
――ロイド・アーヴィングはいるか!
そういってディザイアン達は村に攻め込んできた、という。
炎に包まれた村。
周囲に響く、見知った人々の悲鳴。
今でもロイドの脳裏にこびりついているその光景。
そして、ただの化け物、敵でしかない、とおもっていた相手から、
聞き覚えのある声とともに、そして…目の前で自爆した、変わり果てたマーブルの姿。
「はいはい。過ぎたことをくよくよしてもしかたねえだろ?
  んで?リフィル様?そのロイドくんの育ての親ってのがすんでるのは?」
何やら話題が暗くなりかけている。
ゆえに、パンパン、と手をたたき、軽い口調でそんな会話を遮るゼロス。
「んっとにあんたって…ま、あんたらしいけどね」
このゼロスの軽い口調が、相手への気遣いであることをしっているがゆえ、
しいなとしては苦笑せざるを得ない。
「そうね。ゼロスのいうとおり。過ぎたことを気にしても、しかたないでしょう。ロイド。
  大切なのは、これからどうするのか、あなたの心構え次第よ」
「これから。か。そう、だな。ごめん。先生、皆。
  なんか、俺、村にちかづいたら、どうしてもあのときのこと思いだして、さ」
自分のせいで誰かが死ぬなんて経験はロイドにとってはあのときが初めてであった。
いまだに村人達から投げかけられた言葉。
――どうせ牧場の人間なんてあそこで朽ち果てる運命じゃないの。
――余計なことをしなければ、死ぬのはそいつらだけでもすんだのに。
村人や、村長から投げかけられた言葉は、いまだにロイドの中でくすぶっている。
間違っている。
そう、間違っている。
捕らえられているから、ただそれだけで身捨てるという考えをもつ大人たち。
でも、助けようとした結果、関係ない人々が命を落としたのもまた事実で。
クラトスがいっていた言葉がふとロイドの脳裏によみがえる。
――中途半端な善意は悲劇をうむだけだ。
たしかにそうだ、とおもう。
けど、困っている人、虐げられている人を視過ごすなんてことはしたくない。
「…正しいことをしようとするならば、それに伴う力が必要…か」
ぽつり、とロイドがつぶやけば。
「…前、クラトスさんがロイドにいった言葉、だね。
  クラトスさん、こうもいってたよね。強さとは、力や腕力だけではないって。
  罪を認める強さ。忘れない強さ。それらも必要だって」
「そう、だな」
「…うん、そういってた、ね」
あのころは、クラトスが敵、クルシスの一員などとは知らなかった。
コレットの台詞に思わずロイドとジーニアスがつぶやき、その場にとうつむくが。
「……そんなこと、いわれたんだ」
ぽつり、とそんな彼らをみつつつぶやくミトス。
それはかつて、ミトスもクラトスにいわれたことがある。
なつかしき台詞。
ゆえに、かつてのことを思い出し、ミトスもまたその場においてうつむいてしまう。
本当に。
なぜだろう。
彼らとともに行動しはじめ、かつての、世界を、
理想を現実にするために旅をしていた当時、
それこそクルシスの指導者として行動していたときには思いだすことすらなかった出来事。
それらが鮮明に思いだされているこの現状。
だからこそ、ミトスは今自分がおこなっていることにたいし、決意が揺らいでしまう。
今、自分がやっていることは、本当にかつての自分の理想にそっているのか、と。
命は平等、否、平等ではない。
姉が殺されたときに悟ってしまった。
でも、それは、…自ら、逃げてしまったのではないか、と。
あのころはそうはおもえなかった。
が、なぜか今はそう思える。
そう思える原因、それは…
「・・・・・・・っ」
あまりにも似ている。
彼らは、自分達、かつて世界の平和をもとめ旅をしていた自分達と。
だからこそ、ぎゅっとミトスは思わず手を握り締めてしまう。
あのとき、ミトス達の敵は、世界、であった。
そして、今、ロイド達の敵は、クルシス・・・すなわち、その指導者たるミトス自身。
「な~んか暗いねぇ。あたしは、ロイドの育ての親ってのに興味があるよ」
「ふむ。たしかに。シルヴァラントのドワーフ、か。
  ここシルヴァラントはテセアラと違い、ドワーフもまたヒトにとけこみ生活しているようだしな。
  ドワーフの技術力は我らも気にはしていたのだが、いかんせん。
  アルテスタどのは我らの協力へは耳もかさなかったからな」
実際、レザレノ社はアルテスタのことをしり、話しを持ちかけはした。
が、けんもほろろに断られた。
自分は人間社会に、また人間に協力するつもりはさらさらない、と。
「アルテスタさんかぁ。…アルテスタさん、今ごろどうしてるんだろ?」
「そういや。国の関係者につれていかれたまま、だったよな?…ひどい目にあってないといいけど」
自ら自分の責任だ、と名乗り出たという。
ロイド達が目覚めたときにはすでにアルテスタは連れ去られており、
おいかけようとしたが、それをリフィル達にと止められた。
コレットのぽそり、としたつぶやきに、ロイドもまた視線をさまよわせながらいってくる。
「ま、陛下も馬鹿じゃねえからな。貴重な技術力、そしてその知識。
  それらをフイにするようなことはしねえだろ」
考えられるとすれば、それこそハーフエルフ達のように、
その身を捕らえ、そして国に従属させる、ということくらいか。
「アルテスタが国にとらわれてどこにいるかわからない以上、
  コレットの要の紋のことにたいし、頼れるのはダイクしかいないのだもの」
「そう、だね。コレットのその要の紋。今は仮初めのもの、だものね」
何か姉達は隠している。
それを何となくジーニアスは気付いている。
それも、コレットに関しての何か。
「そうだね。精霊との契約も大切だけど、コレットの件についても大切だしね」
そんな彼らの会話をききつつ、しいなもまた首をすくめていってくる。
そう、世界を救ったとしても、コレットが死んでしまえば、それは意味がない。
しいなが望みしは誰もが犠牲になることのない世界。
コレットの犠牲があってこその世界の再生、などばかけている。
だからこそ、彼らに協力をした。
コレットの…シルヴァラントの神子の暗殺、という指令を追っていたにもかかわらず。


~スキット・イセリアに向かう途中~

ロイド「しかし、ほんと、なんか前とちがってるよなぁ」
ジーニアス「一番の原因は、寒くない、というのと、マナの安定だよね」
リフィル「そうね。そもそも、私たちが出発したとき、
      このあたりは完全に雪に覆われていたもの。
      寒かったわね…いきなり一気に冷え込んだかとおもうと、
      あっというまに周囲が雪でおおわれて……」
エミル「…えっと…そう、なんですか?」
ロイド「そもそも、なんでほんと、あれ、いきなり雪になったんだ?」
エミル「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
自分の覚醒とともにセンチュリオン達も覚醒をむかえ、その反動だ、とはいえない。
とてもいえない。
もっともいうつもりもないが。
コレット「そうかな?一番の原因は、アステルさん達がもってる、
      このテントのおかげだとおもう!あったかいよねぇ。これ。
      いいなぁ、こんなのここシルヴァラントでも販売されないかなぁ」
ロイド「…コレット。販売されても五十万ガルド以上するような代物。
     どうやって手にいれるっていうんだよ……」
実際、リーガル達いわく、このテントの価格はそれほどの値段がするらしい。
そんな大金、どこからでるのか、とロイドは声を大きくしていいたい。
切実に。
ジーニアス「…そんな高いの、シルヴァラントで買える人、いるとはおもえないんだけど」
リーガル「コスト削減は目指しているのだが、これ以上の価格低下は難しいであろうな」
コレット「たしか、リーガルさん、これより小さいのもあるんですよね?」
リーガル「うむ。これはあくまでも大人数用だからな。
      一人用のテントから家族用のテントまで、様々そろえて販売している」
コレット「一人一つもってたら、ロイド、外にだされて反省してこい。
       とかいわれても、雨風きにせずにたったまま寝るようなこともなくなるね!」
ロイド「お!そういえば、そうだな」
リフィル「そもそも、たったまま寝るとか、立たされるの前提で考えるんじゃありません!」
ミトス「…ねえ。話し、またすりかわってない?」
しいな「…ま、コレットだしねぇ」
マルタ「うん。コレットだし」
ミトス「・・・・・・・・(姉様にほんとこの子似てるよ…なんだかなぁ……)」
エミル「それより、皆さん、スーブのおかわりいります?」
しいな「しっかし。エミル。あんたついに野宿時の食事係りになりかけてるよねぇ」
エミル「あはは。好きでやってることですし。それに……」
いいつつ、ちらり、とリフィルとリヒターをみやる。
全力で二人が用意をしよう、といい、どうにか阻止をしたのはつい先ほどのこと。
ジーニアス「そういえば。リヒターさん。食事の用意をさっき姉さんとするとかいってたけど。
       料理したことあるの?」
リヒター「ない」
ジーニアス「エミル、よく二人をとめてくれたよ。ありがと!」
エミル「あ、うん。何となくだけどリヒターさんって料理するイメージがなくてね……」
かつて、彼の料理を食べてコアに戻りかけていたことがある以上、
リヒターにまかせられない、というのもある。
にもかかわらず、なぜかかの地においてお菓子つくりだけはまともであった。
それだけは異様なこと、としてラタトスクもまた覚えている。
そもそも、普通の料理が壊滅的だ、というのに。
なぜにデザート類だけはまともに作り上げることができるのか理解不能といってよい。
リフィル「でも、どうやったらこういうように白くなるのかしら?
      私がスープをつくったらいつも白いスープのはずなのに、
      紫とかよくわからない色になるのよね……」
ジーニアス「…そのせいで、なぜかオシロイとか、いれて姉さんの料理たべられるものじゃなくなるけどね」
そもそも、石鹸とかいれるのはこれいかに。
それはもう料理じゃない!
とジーニアスは声を大にしていいたい。
そもそも、料理の材料の一つに、念のために、と石鹸まで用意されている。
それ自体がすでに間違っている。
…何より食器をあらったりするもの、ではなく材料、として用意されてしまっているのだから。
アステル「でも、リフィルさんのいい分も正しいとおもいますよ? 
      料理もそれは実験!だとすれば、どんな組み合わせでどんな効果がでるのか!
      もしくは組み合わせによって、盛ったはずの毒が無効かされるか否か!」
ロイド「まてまてまてぃ!毒をもること前提かよ!」
アステル「あはは。いやだなぁ。ロイド、冗談だよ。冗談v」
リリーナ「いえ、本気の目だったわね。今のは……」
ゼロス「あ~。俺様は毒殺とかもあったから、毒の耐性はついてるけどなぁ。
     毒の耐性つけるために、幼いころから必ず微弱なる毒は盛られてたし」
ロイド&ジーニアス&マルタ「「「それは・・・・・」」」
しいな「どう考えても耐性とかじゃなくて、暗殺目当て、だったっぽいけどね。それは」
そんなゼロスの台詞にしいなが盛大にため息をつきながらそんなことをつぶやくが。
マルタ「…とりあえず。エミル、おかわり!」
エミル「あ、うん」
リリーナ「そういえば、明日のいつごろに目的地につくのかしら?リフィルさん」
リフィル「明日の昼前にはダイクの小屋につくはずよ」
ロイド「親父、元気かなぁ」
リフィル「ダイクには少し頼みたいことも他にあるしね」
ジーニアス「?たのみたいこと?」
リフィル「これよ」
取り出したのは一冊の本らしき何か。
マルタ「あれ?リフィルさん、それって……」
リフィル「前、アスカードでハーレイからもらったのよ。何でも人物図鑑、というらしいわ。
      ドワーフのダイクならば、これの技術をもっているはずだもの」
本からは多少の魔力が繁栄されている。
エミル「ああ。あの意識を宝石類…たしか、ペリット、とヒトがよんでいるそれら。
     それに投影するあれ、ですか」
リフィル「あら、エミルはこれをしっているのかしら?」
エミル「ええ、すこし」
そもそも、意識を投影する、その仕組みは、かつての完全なる自我という意識の投影。
それから発生した予備技術のようなもの。
ミトス「…それって……」
ユアンが得意としていたが、しかしその不器用さから、まともなものが仕上がらなかったな。
ふとかつてのことをおもいだし、思わずミトスが声をあげかける。
ロイド「?それってどんな品なんだ?」
リフィル「私にも詳しくはわからないわ。ダイクに説明をうけたほうがいいでしょう」
コレット「なんか面白そう、ね。ロイド」
ロイド「お、おう」
プレセア「…絶対に、はなしがずれまくってる、と思うのは気のせい、でしょうか?」
リーガル「…いや、気のせいではない、とおもうぞ。私も」




pixv投稿日:2014年2月8日某日(Hp編集:2018年4月22日(日)

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あとがきもどき:

この付近から、piさんの一話あたりの容量が増やされたこともあり、
2話前後で1話編集、となってます。