乾いた風が吹きつける。
「うわ~!本当に、見渡すかぎりの砂漠だよ!砂漠!」
人っ子一人もおらず、なぜか周囲にも何もない。
ところどころにサボテンがぽつん、ぽつんと点在しているそんな場所。
しかしほとんどが砂ばかりで、それこそ右も左もわからない。
かろうじて風とともに吹き荒れている砂嵐の向こうに山脈がみてとれることから、
そちら方面、何でもオサ山道、というらしい。
そちら方面のみは認識ができるが。
騒ぎになってはいけない、という理由なのか、
一行が降り立ったのは街から少し離れた場所。
いきなり遺跡にむかってもいいが、準備はしっかりとしたほうがいいだろう。
という理由において、リフィルが設定したのは、
トリエットの街から少し離れた街道沿いのとある地点。
自動操縦において、地図を拡大し、どのあたりにむかう、という指定もできるらしく、
ゆえにリフィルは今回、それを利用した。
「あちぃ。やっぱり前にここきたときがおかしかったんだよな?」
「何当たり前のこといってるのさ。ロイド。
そもそも、前にきたとき、なんで砂漠なのに雪が降り積もっていたのか。
そっちのほうがありえなかったんだよ」
レアバードからおり、レアバードをウィングパックの中、
そしてまた、しいなの手元の腕輪に収納し、周囲をきょろきょろとみながら叫んでいるアステル。
一方で、あまりの暑さに文句をいいつつも、くたっとなりながらいっているロイド。
そんなロイドにたいし、これまた呆れたように突っ込みをいれているジーニアス。
「そういえば。前にこのあたりきたとき、このあたり一面雪景色だったよね」
コレットがそのときのことを思いだしていってくる。
まさか砂漠と言われていた場所に、完全に雪が降り積もっていたのをみて驚いたのは記憶に新しい。
「…何しろ湖すら凍ってたものね」
トリエットの中にある湖すらこおっていたあの当時。
リフィルがぽつり、とつぶやき。
そういえば、とふとそんな彼らの会話をききつつも思いだす。
あのときは、テネブラエがつりざおに変化して、アレを釣り上げたが、
彼らはほんとにどうやってあの中にはいっていったんだ?
そうはおもうが、しかし、そのときも、あのときのようにアレがあの場で眠っていた。
というわけではないのかもしれない。
彼らの会話をききつつも、ふとかつてのことを思い出すエミル。
「おかしいですね。砂漠でそんな現象がおこるなんて。
フラノール辺りの雪が一気にとけた異常気象と連動していたんでしょうか?」
「ありえるかもしれないな。空間がずれているとはいえ、互いに密接している世界同士だ。
もっとも、そのあたりは詳しく調べてみないと何ともいえないがな」
そんな彼らの会話をききつつも、アステルが首をかしげすこしばかり考え込み、
そんなアステルの意見をきき、リヒターも周囲をみわたしつつもいってくる。
見渡すかぎりの砂、砂、砂。
太陽すら地上をてらし、より周囲は暑くなっている。
「ここの砂の粒子はかなり細かいですね。
エレカーとかを利用する場合、ここまで細かければ、内部にはいってしまって故障しかねませんね」
基本、テセアラにはこんな完全なる砂漠地帯、というのは存在していない。
だからこそ、まさか砂漠のような場所があるような構造になっていない。
「雪ってどれくらいつもってたの?そのとき?」
アステル達が周囲をみつつ、そんな会話をしている横で、ふときになり、コレットにとといかける。
そんなエミルの問いかけに、
「えっとね。私たちの腰のあたりまできてたんだよ~。
クラトスさんが、先頭にたって、雪をはらって道をつくってくれてたんだ」
「…そう、だったな」
にこやかにいうコレットの台詞に、ふとロイドの顔がくもる。
あのとき、クラトスから雪かきなどついての簡単な説明をうけた。
こういう場合どうすればいいのか。
また、雪の重みで壊れた露店をみて、常に雪は屋根からおろさなければ、
あのように壊れることもあるのだ。と。
あのときのことを思い出し、表情を暗くするロイド。
いまだにロイドの中では、クラトス、という人物がわからない。
神子を守るのだろう?といっていて、自分に剣の稽古をつけてくれていたあのクラトス。
自分達を守ってくれていたのは、コレットをマーテルの器にするため、だったのだろうか。
それに、ともおもう。
あのとき、救いの塔で、傷つけたくない、といわれたあの台詞。
そして、コレットが浚われていた飛竜の巣と呼ばれし場所で、
倒れてきた柱から自分をかばったクラトスのあの姿。
「え?砂漠地帯なのに…雪がふってたの?」
それはありえない。
ありえないがゆえに、戸惑い気味にミトスがいってくる。
そんな報告などうけていなかった。
あの真面目なクラトスがそんな状態になっていたとして、
地上に降り立つまえに報告すらしない、というのはありえない。
だとすれば、このマナの安定と同様、
ウィルガイア…つまり、デリス・カーラーンからでは地上の様子が完全に把握できていなかった。
その可能性がはるかに高い。
「そういえば、あの天気も、コレットが神託をうける少し前からはじまったんだよね?」
あと数日でコレットの神託の日。
完全に雪が降り始めたのは、神託をうけたあの日のこと。
はじめはちらほらと空からふってきた雪は、あっというまに大雪となった。
「あれもクルシスが関係していた、のかしら?」
「さあねぇ。でも、あいつらは、コレットをマーテルの器にしたい。
なら、そんな天候までいじるなんてするかい?
アルテスタじゃないけど、恐怖とかを感じさせることで、
クルシスの輝石、ハイエクスフィアを目覚めさせるっていっていたし。
これは、普通のエクスフィアにもいえること、らしいけど」
しいながそんなリフィルの台詞に、すこし顔をしかめつついってくる。
「エクスフィアの製造方法…皆さんからきいたかぎりでは信じがたい事実ですね。
この地、シルヴァラントで人々の命を犠牲にしてつくられている」
リリーナが顔をふせつついえば、
「…教皇の命令であんな実験に参加していた研究所の人間がいうことでもないとおもうけど。
いくら直接かかわっていなくても、そこに在籍していた以上、それは僕らも同罪、なんだし」
「…アステル。あなたは相変わらずきびしいわね。でも、たしかに、そうね。
……私も、プレセアのことをしっていても、何もしなかったわ。
……ごめんなさいね。プレセア」
いきなり話しをふられ、プレセアはふるふると顔を横にふる。
「……悪いのは、それを命令した、教皇。
そしてそれに加担していた、ヴァーリ、そしてロディル、ですから」
「でも、あなた、妹さんま……」
「リリーナ。それ以上はいうな」
「ご、ごめんなさい……」
妹さんまで、といいかけた台詞をぴしゃり、とさえぎるリヒター。
その台詞にリーガルが思わず眉をひそめ、ぎゅっとその手を握り締めていたりする。
アリシアの魂本人から、許された、とはいえ、リーガルはまだ、自分自身を許せていない。
特に、パルマコスタにて、クララから、アリシアと同じように、
異形とかしていたというのに、元の姿にもどった、というのをきいてから、
その思いは遥かに強くなっている。
あのとき、殺さずに、アリシアを捕獲していれば、アリシアは。
どうしてもそんな思いが捨て切れない。
「教皇…か」
しいながその台詞に顔をしかめる。
あの教皇に協力していたくちなわ。
「…あたしらが、こっちにきて、あいつらがまたなんかしでかしてなきゃいいけど」
「ま、教皇がいくらものをいおうが。
こっちらは、コレットちゃんというスピリチュアの再臨。
そんな大義名分がある以上、誰もあのひひじじいのいうことなんてききはしないさ。
それこそ、かつてのスピリチュアの悲劇の二の舞にはなりたくないだろうしな」
しいなのつぶやきに、ゼロスがあっけられかん、と言い放つ。
「そういえば、お兄…いえ、神子様。わたくし、何もいわれませんけど。
修道院にもどらなくても問題なくなったのでしょうか?」
「セレス。お前は何も心配しなくていいんだ」
「?神子様がそういうのなら、そうなのでしょうけど……」
なぜに自分が自由を許されているのか、
それがセレスからしてみれば不思議でたまらない。
たしかに、兄とともに旅ができる。
というのはこれ以上のない喜びではあるが。
「国にもどったら、きちんと陛下からお前を修道院から解放する許可をもらってやる」
「え?でも、それは、お兄……」
「ったく。セレスさぁ。いいかげんに、ゼロスのこと。
お兄様、といいかけては言い返すんなら、きっぱりと、お兄様よびすれば?」
言いかけては言葉をにごし、あわてて言い返しているセレス。
ゼロスがいない場では、彼女は皆にゼロスのことをお兄様よばわりしている。というのに。
なぜにゼロスの前ではそうよばないのだろうか。
「ななななにをいっていますの!
私がそんな、おに…いえ、神子様をそんな呼び方ができるはずが。
だって、だって、神子様のお母様は、わたくしの……」
あきれたようなジーニアスのつぶやきに、顔を真っ赤にして抗議の声をあげているセレス。
しかし、顔を真っ赤にしていっても説得力はない。
そして、顔を真っ赤にしたかとおもうと、すぐさまその表情を沈んだものと変えうつむくセレス。
そんなセレスに対し、
「そう、だな。お前の母親は俺が殺したも当然だからな」
「ち、ちがいますわ!あれは、お母様が、お母様がわるいのですわ!」
何やらゼロスとセレスの雰囲気からして、
二人の間にかつて何か、つまり母親に関して何かがあったのだ。
と嫌でも推測ができるが。
しかし、きになるのは、お前の、という台詞。
「?お前のって?」
「そういえば、ロイド。お前は知らなかったのか。それとも覚えていないのか。
神子とセレスの母親は違っている。いわば異母兄妹だな」
そんなロイドの疑問に淡々とこたえているリーガル。
「神子様には、すでに父親も、母親も今はいませんので。
神子様と完全に直接血がつながっているのは、ここにいるセレスさんだけですわ」
リーガルにつづき、リリーナが追加説明、とばかりにいってくるが。
「…ま、マナの血族といわれているやつは、いるにはいるけどな」
そんな彼らにつづき、しいなもまた首をすくめていってくる。
ゼロスが死ねば必然的に血の濃さからセレスが後を継ぐであろう。
それをおもったからこそ、かつて、ゼロスはセレスに自分の立場を引き継がせようと、
かのクルシスに協力することを決意した。
それがセレスにとって最も最善だ、とおもったから。
そして、実の母親にすら産まれてこなければよかったといわれた自分は、
いてもいなくても問題ないのだから、そんな思いから。
しかし、ゼロスは知ってしまった。
女性の神子というのが、マーテルの器、として、結果として命を落とす。
それが前提となっていることを。
もし、コレットが失敗したとすれば、ならばセレスでその実験を行おう。
等と、クルシス側がそんな事を言い出しかねない。
セレスを殺すために、ゼロスはクルシスに協力しているのではない。
願うのは、たった一人の大切な妹が幸せに、そして平穏に暮らせる世界。
セレスの存在をしったとき、驚きはした。
父が母以外の女性に子供を産ませていた、という事実も驚いたが。
それでも、ゼロスはセレスに救われたのだ。
皆が皆、ゼロスを神子、としてしかみなかった。
けど、あの幼き日。
セレスは、まっすぐに、ゼロスを神子、としてではなく、兄、としてみてくれた。
そこには神子という立場も何も関係なく、ただ純粋に、ゼロスのことを兄と慕ってきた。
それがどれだけ、神子としてしかみられなかったゼロスに救いをもたらしたか。
おそらくセレスは気づいていないであろう。
だから、あのときから、ゼロスはセレスを守ろう、と決意していた。
そして、セレスの母親によって自分に刺客がさしむけられ、
その刺客からかばって母が命をおとしたとき。
母からつげられた言葉、お前などうまなければよかった。
その言葉を聞き。
自分は産まれてきてはいけなかったんだ、とおもった。
自分がいるから、セレスも、皆が皆、幸せになれないんだ。
そうおもった。
否、産まれてしまったから、セレスも父の子、として表にでることができないのだ。
そうゼロスなりに理解した。
理解してしまった。
そして、さらにゼロスを追い詰めたのは、その暗殺の首謀者、として
当時まだ幼かったセレスに全て罪がかぶせられてしまったということ。
絶対に違う、というゼロスの意見すら教皇はききいれなかった。
子供のたわごと、として切り捨てた。
神子は母親を殺されて、善悪がわからなくなっていらっしゃる。
そういって、教皇は周囲のものをいいくるめた。
護れなかった妹。
体の弱い妹。
そんな妹をあんな辺境の地にとじこめたら、それこそ長生きできないかもしれないのに。
「まあ、シスコン、ブラコン兄妹はともかくとして」
「リフィルさまぁ。誰がシスコンだってか?」
「あなたのことよ。それにセレスもブラコンだし」
これまでの言動、そして態度からどこをどうとってもそうとしかいえない。
「わ、わたくしは、神子様のことなんて、何ともおもっていませんわ!
ええ、何ともおもていませんことよ!」
「…セレスって、嘘つくとき、いっつもスカート握り締めてるよね」
「うん。しかも、瞳に涙ためていっても説得力ないよね?」
それはセレスの癖。
心にもないことをいうとき、かならずセレスはスカートをぎゅっと握りしめる。
エミルがぽそり、といい、それに賛同するようにジーニアスもじっとセレスをみつついってくる。
「なななな。わ、わたくし先にいきますわ!」
「こらまて!セレス!お前まだ体が本調子でないんだからはしるな!
というか、こんな砂漠で走ってこけて、怪我したらっ!」
「「「…やっばりシスコン(だ)(だな)(だろ)(ね)」」」
顔を真っ赤にし、走り始めるセレスをみて、そんなセレスをあわてておいかけているゼロス。
そんな二人の様子をみて、その場にいるほぼ全員の声が一致する。
「なんか、あの二人ってなつかしいなぁ」
おもわず、ぽつり、とつぶやくエミル。
「?エミル?」
「え?あ、何でもない。…前、あんな光景みたことがあるなあって」
本当に、なつかしい。
いつの時代も、
血のつながりし、兄妹や姉弟などといったものは変わらない、ということなのだろう。
『ミトス、走ったら危ないわよ!』
『でも、姉さま!この先にイフリートがいるかもしれないんだよね!』
『だからって、走るんじゃありません』
『このあたりはイフリートの影響で、ところどころ砂漠化してるのだもの』
『砂が傷口にはいって悪化したらどうするの?』
それはかつての記憶
ミトス達がイフリートと契約にのぞんだあのときの記憶。
ふわふわとただよいし蝶にて視ていた彼らの思いで。
結局、あのとき、マーテルのいうように、おもいっきりこけてしまい、
マーテルが、ほらみなさい。
といって、ミトスの手当てをしていたあの当時の記憶。
「そういえば、トリエットにはいったときも。
リフィル先生がジーニアスに似たようなこといってたね」
ふとコレットがそのときのことをおもいだし、そんなことをいってくる。
「あのときは、周囲が雪に覆われていたけども。
ここ、トリエットの砂漠の砂は粒子が細かいことで有名ですもの。
走ってこけて、雪でさらに粒子が固くなってるかもしれない砂。
それが傷口にはいって悪化する可能性もあったもの」
あのとき、ジーニアスが街にはいるなりかけだし、
案の定というか雪ですべってこけて、擦りむいた傷ぐちに砂がはいりこんでおり、
それをリフィルが丁寧にその砂を取り除いていた。
ロイドを救出し、気が緩んでいたのかもしれないが、そのあたりはコレットにもわからない。
「……」
そんな彼らの会話をききつつ、思わずだまりこむミトス。
ミトスの脳裏にうかびしは、エミルが思いだした光景。
まさにその当時のこと。
たった二人の姉弟。
そして…今の今まで思いもしなかったが、あるいみゼロスも同じなのだ、
と今さらながらに理解する。
ゼロスも、すでに、父母はおらず、妹といえば異母妹であるセレスのみ。
自分が一番、かつて嫌悪していた、家族を人質にとり、いうことをきかせる人間達。
自分は、そんな嫌悪していた人間達と、同じことをしていないか?
否、していたのではないか?
そんな思いがミトスの脳裏をよぎる。
実際、ミトスはゼロスに、テセアラの神子にいうことをきかせるために、
ゼロスの神子の地位からの解放、そして妹にその地位をゆずる。
裏切れば妹の命はない、そんなことをいっていうことを聞かせている。
自分は何よりも、あのときは、そういった人質などをとる方法。
それを嫌悪していたはず、なのに。
けど、自分はまったくそんな嫌悪感すらなく、それをあたりまえ、として行っていた。
他者を見下す、というのすら嫌悪していたのに。
今はそれを当たり前、として認識してしまっている自分の気持ち。
かつての自分の認識との誤差。
たしかにヒトは愚かでしかない。
しかし、あのとき、自分はどうおもっていた?
全ての人がそうではない、そうおもっていなかったか?
でも、今は、全てのものが愚かなものでしかない、と見下していることに、今さらながらにふと気付く。
彼らのもとにこうして地上におりてきてから、自分のおこない。
その行いが間違っている、かつての自分の理想とかけはなれている。
そう思わざるをえないことが多々とありすぎて、
自分がやろうとしていることは正しいのか。
そんな思いがどうしても捨て切れない。
「…いつの時代も、上にたつものの判断で傷つくのは、下のものたち、でしかないからね」
「え?」
ぽつり、とつぶやかれたエミルの台詞に、おもわずはっとしてエミルをふりむくミトス。
まるで、今の自分の心を読んだのではないか、とおもうようなエミルの台詞。
はっとふりむいたミトスにエミルはただ優しくほほ笑み、
「…でも、きちんと、ついてきてくれるものはいるんだよ?
きちんと振り返れば、ね。さてと。この先に街がたしかあるんですよね?」
ミトスに笑みをむけたのち、あらためてリフィルにと問いかける。
それは、ミトスにむけてのあるいみ進言。
ミトスは一人で何もかもあのときもそうだが背負おうとしすぎている。
しかし、今のミトスは一人ではない。
すくなくとも、あのフォシテスや、プロネーマ。
彼らは心のそこからミトスの力になりたい、とおもっている。
でなければ、テネブラエも確認済みではあるが、
彼らはあの書物の封印に自らの魂をかけても参加しなかったであろう。
どういう理由で彼らがその封印の強化に参加したのかはともかくとして。
内部にありし魂の波動は、外からでも把握は可能。
あの書物には、ミトス達三人以外にも、封印にかかわりし魂が別に三つ。
あらたに当時より加えられている。
そして、その魂の波動は、あのプロネーマとよばれし女性と、
そして、イセリアの牧場にいるフォシテス。
そして…あのとき、エミルが制裁をくわえた、マグニス、という三人の気配であった。
そんなことを思いつつも、しかしそれを口にすることなく、
すこしばかり目をとじたのち、
何でもなかったかのように、リフィルに話しをふっているエミル。
そんなエミルの問いかけに、
「ええ。この先、砂に埋もれて見えにくいかもしれないけども。この先にトリエットの街があるわ」
「そういえば、ここはイフリートの加護がある地、といわれてるんですよね?リフィルさん」
リフィルの言葉に、ふと思い出したかのように、顔をあげてといかけるアステル。
どうやら、かがんで砂の状態を確認していた、らしい。
しかも、しっかりとどこからこれまたとりだしたのか、
というか、常に持ちあるいているのか。
といいたいが。
小さな試験管らしきものに、しっかりと砂をつめて、
さらに小さな箱からとりだした、ラベルのようなシールをその試験管に張り付けており、
そこに、何やら文字をかきこんでいっている様子がみてとれるが。
…どうやら、サンプル、として持ち帰る気、満々、らしい。
「ええ。そうよ。そして、みえてきたわ。あれが、そう、よ」
リフィルが指差ししは、砂漠の中にあってして、一部、緑が異様にめだっている区画。
見渡す限りの砂ばかりの地において、その場所はやけにとめだっている。
「さ、いきましょう。まずは情報収集をもかねないと、ね」
自分達がテセアラに移動して、あれからかなりの月日が経過している。
パルマコスタで一応、情報は手にいれたが。
気になりしは、パルマコスタできいた、地震が頻発している、ということ。
話しをきけば、自分達がヴォルトと契約をかわしたあのとき。
あのときから、地震は小規模ではあるが頻発している、らしい。
精霊の楔がぬけた、ということに関係があるのか。
それはわからない。
こちら側は大陸が異なる地。
ならば、パルマコスタとは違った話しがきけるかもしれない。
特に、ここは精霊の封印の箇所でもあった、精霊の神殿がある地、なのだから。
「あ、ロイド。そろそろノイシュを小さくしてあげてね。
ノイシュひとりで外にまたせておくのもかわいそうだし」
「お、おう!」
エミルにいわれ、ロイドがその手にはめているソーサラーリングをノイシュにむける。
その前に、ノイシュの背からゼロスがさもあたりまえのように、
手を差し出し、ノイシュの背からセレスをおろしている様子がみてとれるが。
ロイドのソーサラーリングの力をうけ、ノイシュの体が小さく変化する。
「じゃ、いこっか」
そんな小さくなったノイシュをひょい、とエミルは手で救いあげ、
ノイシュ専用につくりしポシェットの中にノイシュを収納する。
そんなエミルやリフィルの言葉をうけ、その場にいる全員。
十六名はそのままみえている木々のほうにむかってすすんでゆく――
トリエット砂漠の中に位置する、唯一の休憩所ともいえるトリエットの街。
「数カ月ちょっと前にきたときは、完全に雪で埋もれていたけども。
今は砂漠の街、としての景色にもどっているようね」
大体今の時間からして約半年にあれからすでに経過している。
それらのことをもかみしめつつも、ぽつり、とつぶやくリフィルの姿。
「そもそも、なんで砂漠にあのとき雪がふってたんだ?先生?」
「そうね…それはわからないわ。
あのときは、ディザイアン達がコレットの旅を妨害しようとして。
天候に何らかの干渉をしているのだ、とおもっていたけども」
しかし、ディザイアン達にはそんな力もなければ、
クルシスの手下、とわかった以上、その可能性はありえない。
生体系への影響が心配ではあったあの当時。
もともと、砂漠の生き物は寒さに強いはず、とわかっていても。
日がな一日中、寒ければどうなるのか、それはリフィルからしてみて研究してみたかったこと。
街にはいりリフィルが街並みを確認し、そんなことをいっているが。
どうやらかつてのあのときの面影はまったくどこにものこっていないらしい。
おそらく、この景色をみたものが、数カ月、すなわち約半年ほど前。
この地に雪が降っていた、といっても普通は信じはしないであろう。
「でも、砂漠の雪。かぁ。
そんなありえない現象の中、好きな人と腕をくんで散策したら。
きっと素敵なんだろうな!ね!エミル!」
「?雪ならフラノールで散々みたし、雪像もつくったよね?マルタ?」
「そうじゃなくてっ!」
「??」
いきなりばっとエミルの手をとり、そんなことをいってくるマルタにたいし、
エミルは首をかしけざるをえない。
あのときもおもったが。
なぜに好意をもっている、またむけている、というだけで。
そんな考えにいたるのか、いまだにもってラタトスクとしては理解不能。
「好きな人と・・・!い、いいね!プ、プププレ……」
「?ジーニアス。どうかしたのですか?何か震えていますけど。
顔があかいです。熱でもあるのでしょうか?」
「……なんか、こういう反応みてたら。いろんな人の性格っていろいろでてるよね。
十人十色、とはよくいったものだよな。とほんとおもうよ」
その諺をつくりしかつてのヒトに思わず同意してしまう。
本当に、ヒトは様々。
「…それはそうと。あの壁にある、人型の穴みたいなの、何かしら?」
ふとリリーナが街の奥にある一つの家。
その家の壁にどうみても人型の穴にしかみえない穴があいているのにきづき、
首をかしげてそんなことをいっていたりする。
「たしかに。僕、きいてきます!」
「あ、こらまて!アステル!ったく……」
アステルもそれにきづいたのか、だっとかけだしていき、
あっというまにその家の前にとたどり着いているアステル、リリーナ、リヒターの三人。
「あれって……」
「?何かしってるの?ジーニアス?」
それをみて、ジーニアスがぽつり、とつぶやいたのをみて、
ミトスが首をかしげつつ、そんなジーニアスにとといかける。
「あ~…あれ、コレットなんだよな……」
「えへへへ。壁に穴あけちゃった。でもまだ直してないんだ~」
「…そういや、イセリアの学校でも、コレットがあけた穴、まだ直してなかったよな?」
「?壁に穴、ですの?どうやればあんな綺麗な人型を……」
そんな彼らの会話をきき、意味がわからない、とばかりにひたすらにセレスが首をかしげているが。
そんな中。
「この穴はとてもありがたいものなのですよ。
何と再生の神子様がこの家に加護をもたらせてくださるためにあけてくださったのです」
『・・・・・・・・・・・・・・』
アステル達がといかけた、家の主人?なのであろうか。
そんな人物らしき人間が、その穴のことをそうアステル達に説明している声がきこえてくる。
「…まずいわね。コレット、あなた、フードをかぶって顔を少しでもかくしておきなさい」
「ふえ?どうしてですか?先生?」
いまだに皆がこちらに気づいていないがゆえのリフィルの提案。
あれがコレットが、すなわち神子があけた、というのが知られている。
というかああいっておおっぴらに宣伝しているとするならば、
間違いなくコレットに気づいた街の人が騒ぎをおこしかねない。
「騒ぎになったら面倒だからよ」
「よくわかりませんけど、わかりました~」
いいつつも、リフィルがごそごそと、荷物の中からフード付ローブを取り出し、コレットにと手渡す。
それをうけつり、そのままかるくそれをはおるコレットの姿。
「まずは、この街で情報をあつめるとしましょう。
待ち合わせは、そうね。宿に部屋をとっておくから、宿の前で待ち合わせ、ということで」
リフィルの言葉に。
「エミル!一緒にいこ!」
「え?あ、うん。ゼロスさんたちはどうします?」
「そうだな。俺様はセレスをつれてこのあたりをみてみるわ。
こいつ、こんなところにきたのは初めてだしな」
「わ、わたくしは、別に案内なんてされなくても……
で、でも仕方ありませんわ!神子様がどうしても、というのなら…」
そんなセレスの台詞をきき、
「そうそう。セレス。ここでどんな騒ぎになるかわからないわ。
ゼロスのことを神子、と呼ぶのは禁止ね」
「・・・え?」
「あら。あなたがいつもゼロスがいないときに呼んでいる呼び方で問題ないでしょ?」
「でででででできませんっ!な、なぜにいきなりそんなっ!」
「あなたたちテセアラの地ではどうかわからないけども。
こちら側、シルヴァラントでは、今は神子は救いの旅にでている状態、なのよ。
それに、以前、神子の偽物、というものもでていたほどなのよ。
下手な騒ぎにまきこまれないためよ」
「そ、そんな……でも、おに…神子様を前の呼び方にするなんて、そんな……」
「ほんっと、なんでセレスはゼロスの前では、いつもの呼びかたできないの?」
「照れてるのよ。いいこと?セレス?
下手に大騒ぎにならないため、なのですからね?異論はみとめなくてよ?」
「…う、うう…お…おに…やっぱり、無理ですわ!目の前で呼ぶなんて!」
「あ、こら!セレス!知らない土地でいきなり走りだすんじゃない!
というか、こけたらどうするんだ!ってこらまて!セレス!」
『・・・・・・・・・・・・』
顔を真っ赤にし、照れ隠し、なのであろう。
いきなりだっと駆けだしてゆくセレスをみて、そんなセレスをあわてて追いかけていっているゼロスの姿。
そんな二人の姿をみおくりつつ、
「…なんだか、あの二人って、素直じゃねえなぁ」
ぽつり、とつぶやくロイドだが、
今回に限っては誰もがロイドの台詞に同意せざるをえない……
旧トリエット遺跡とよばれているその場所は、
周囲を切り立った断崖絶壁。
その麓にと位置している。
かつてはこの地に人間達が街をつくり、生活していたのだが、
この地にあったオアシスが枯れたことにより、人々はその街の拠点を移動している。
「しかし、あち~…疲れた~……」
ここまで歩いてくるだけの距離はあった。
ゆえに、くたっとなりつつも文句をいっているロイド。
ひとまず街で簡単な情報収集をしたのちに、
一応、宿の部屋は確保するつもり、だったのだが。
さすがにいきなり十六人分もの部屋はあいてなかったらしく、
さらには大部屋もまたうまっていたらしく、結局宿をとることはできなかった。
ならば、さくっと用事をすませ、この砂漠をこえて、
レアバードで山脈を移動し、イセリア地方のあたりで野宿するなり、
もしくは一度、ロイドの実家、すなわちダイクのもとに立ち寄るなりしましょう。
というリフィルの意見のもと、先に精霊と契約するために移動してきている今現在。
「だからいったのに。砂漠ではしゃいでたらすぐにばてるよって」
自分のいうことを聞かないから。
そんなロイドにジーニアスが冷めた視線でうなだれているロイドをみつついっているが。
「ロイドって、お子様だよね」
「…そう、だね」
マルタにいわれ、思わずミトスも同意を示す。
というか、何ごとにも興味をいだき、そしてすぐにあきるのは、小さな子供とあまりかわらない。
本当に、クラトスの血をひいているのかすら疑ってしまうほどに、
これまでロイドとともに行動しているが、ロイドは飽きやすい。
「もう、砂漠は飽き飽きだぜ」
「ロイド。情けないよ?セレスだって平気そうなのに」
「…そりゃ、セレスはノイシュにのってるし」
ゼロスが、砂漠の移動は体力を消費するから、セレスは体力がないんだから。
とことごとく言い含め、結局のところセレスはノイシュにのっての移動となっている。
「でも、砂漠、というのは物語ではしってましたけど。本当に砂ばかり、なんですのね」
セレスとしては、始めてみる景色。
ゆえに、ノイシュの背からも物珍しく、周囲をじっくりと眺めていた。
そんな会話をしつつも、ロイド達は二回目。
ということもあり、慣れた様子で奥に、奥にとすすんでゆく。
進んでゆくことしばし。
「おおおおおお!」
突如としてリフィルの叫び声が周囲にこだまする。
「?」
旧、トリエット遺跡とよばれし、元イフリートの神殿。
この地にこの神殿がたてられたのは、この地が火のマナにみちていたがゆえ。
かつての人間達が、火の精霊をあがめるために、
この地に神殿をつくったのが発端。
もっとも、その後、どうやらミトス達がその神殿に手を加えているらしいが。
遺跡にはいり、奥にすすむなり、なぜかリフィルが頭をかかえて叫びだす。
「あれ?前にきたとき、こんなに柱、たおれてたっけ?」
「いや、これどうみても崩れてるだろ」
前回、この地にやってきたときよりも、確実に周囲の柱が崩れている。
「…それか、前回きたとき、ここ、雪に埋もれてたからきづかなかった、とか?」
ジーニアスもなぜかきょろきょろと周囲をみつつそんなことをいっているが。
どうやら彼らの話しぶりからして、
彼らがこの地にてイフリートを解放したとき、この地もまた雪に覆われてた。
まあ、たしかイグニスが目覚めたのは、ラタトスクがあのとき、
ショコラが浚われた、ときいて魔物達に直接命令を下したその波動。
それによって完全に覚醒したらしいので、
それまではマナの反転作用で雪がふっていた、というのはエミルは理解しているが。
ジーニアス達が覚えているのは、かつてこの地にやってきたとき、
このあたりは全て雪に覆われており、砂漠のサの字もみあたらなかった。
周囲にありし遺跡の名残であろう柱もほとんど雪に埋もれていたといってよい。
「えっと、リフィルさん?どうしたんですか?」
何か、ものすごくディジャヴが…
以前のときも、この地にマルタとともにやってきたとき、リフィルはこんな反応をしていたような。
ふとかつての時間軸のことを思い出しつつも、それでも念のためにリフィルにとといかける。
リフィルはなぜか、叫びつつ、だっと走って奥のほうに駆けだしていっているが。
「ここが、イフリートの神殿跡。ふふふ。
リヒター!リリーナ!シルヴァラントでの始めての精霊の神殿!しっかりと調べるよ!」
「まて!アステル!お前は一人でどこかにいこうとするな!
お前はいつも、研究対象をみつけたら一人でどこかにいくのだからな。
何があるか危険だ、といつも口をすっぱくしていっているだろうが!」
一方で、こちらはこちらで、リフィル同様、だっと駆けだそうとしているアステル。
そんなアステルの首根っこというか襟元をむんず、とつかみ、
どうにか押しとどめているリヒターの姿がみてとれる。
「?リフィルさん?」
そんなリフィルの様子にマルタもまた首をかしげているのがみてとれるが。
「先生!?どうかしたのか!?」
滅多に叫ぶようなことのないリフィルがいきなり叫んだのをみて、
ロイドが驚いたようにそんなリフィルをあわてておいかけていっていたりする。
「…ひとまず、奥にいきません?」
たしかにリフィルをこのままほうっておくわけにもいかない。
とりあえず、一人奥にいったリフィルをおいかけるように、一行もまた奥へとむかってゆく。
「この先に、封印の石板があって、そこから前ははいれたんだよね?」
「そういや。テセアラの精霊の神殿は封印の石板がなかったんだったよね」
コレットの言葉にジーニアスがそのことを思いだし、遠くをみながらいってくる。
そんな中。
「あああ!何ということだ!街できいてはいたが!
この間あったという地震で遺跡にも被害がでている、とはきいていたが!
ああ!貴重な遺跡が!カーボネイトがぁぁ!」
「…うわ。姉さんのいつもの病気がでてる……」
「?あ、あの?リフィルさんの、あれはいったい?」
いつもの冷静沈着な、自らに勉強をロイド達とともに教えてくれているリフィル。
そんなリフィルの姿からはまったく想像もできないほどの口調の変わりよう。
「これは、ここに入口らしきものがあったみたいですね。でも、柱で完全にうまっちゃってますね」
「あら。これは、…天使言語ですわね」
そんなリフィルの変化にあまり動じることもせず、リフィルの横に移動し、
その場にかがみこみ、足元を調べながらいってくるリリーナ。
「ああ、損失だ!偉大な歴史の損失だ!」
「…はじまったよ。姉さんの遺跡モード……」
そんなリフィルの様子をみて、がくり、と肩をおとしつぶやいているジーニアス。
以前、この地にやってきたとき、コレットが神託の石板に手をおき、
そして扉を開いたはずのその場所に、倒れた柱の残骸がつみかさなっており、
リフィル達がしる出入り口が完全にふさがれていたりする。
そして、その出入り口には古代の技術でつくられし、
魔術障壁の役割をも果たしていたといわれたカーボネイトの扉。
それがあったことを知っているがゆえに、リフィルは叫ばずにはいられない。
「それより。どうすんだよ?…う、おもい。
この柱、のきそうにないぞ?入口がふさがってるとなると……」
以前はいったのはこの柱に埋もれた下にありし出入り口。
「技でそこの柱を吹き飛ばしたらいいんじゃねえのか?」
ロイドがいえば、ゼロスがその手を腰にさしている剣にあてつついってくる。
「何だと!きさま、これ以上、この遺跡を傷つけるというのか!
断じて許さんぞ!それは絶対に!!」
そんなゼロスの台詞にはっと我に半ばもどったのか、
がしっとゼロスのもとにつめより、ゼロスの襟首をがしっとつかみ、
少し見あげた形でいっているリフィル。
はたからみれば、リフィルがゼロスに迫っているようにも見えなくはない。
「もう、じゃあ姉さん、どうするっていうのさ!」
「遺跡を傷つけることは断じて!この私の目の黒いうちはゆるさん!」
「…他に入口はないのか?」
そんなリフィルの剣幕に多少ため息をつきつつも、ちらり、としいなをみているリヒター。
「あ、あたしにきかないどくれよ。あたしはこの遺跡にはきてないんだからね」
そもそも、入れちがいなりかねないので、かの山道で彼らを待ち構えていた。
ゆえに、しいなはこの遺跡の調査まではしていない。
寒かったから、という本当の理由がありはすれど。
さらにいえば、その他の精霊の神殿も半ば彼らと同行していたがゆえ、
しいなが入口をみつけだした、というわけでもなかったりする。
「……はぁ」
まったく、このままでは埒があかない。
そういえば、以前のときはそれとなくテネブラエが誘導してきたがゆえ、
かの入口にたどり着けたのだったな。
ふとかつてのことを思いだす。
それはこの神殿における魔物達の出入り口。
イグニスが目覚めかけていたがゆえ、誰もが入れる状態になっていたあの当時。
なら、どうやって何にはいるか。
そんな言い合いをわいわいとしているそんな彼らをそのままに、
「あれ?エミル?」
そのまま、一人奥にすたすたとあるいてゆくエミル。
あのときは記憶を失っていたがゆえ、入口のことすら覚えていなかった。
奥にむかってゆくと、崩れかけている、それでいてかつての神殿の一部。
その壁の一部に書かれている紋様が目にとまる。
このあたりの壁は様々な模様がえがかれており、
そのうちの一つが入口を兼用しており、本来、この出入り口は魔物達専用のもの。
あのときは、魔物達のこともあり、自然とこの入口が解放されていたがゆえ、
ジーニアスも中にはいることができていたのであろう。
と今ならばそれも理解できる。
あのときはそんなことまったくもって思いだしてすらいなかったが。
そのまま、すっと一つの紋様の前にたち、そっと手をかざす。
刹那、エミルがかざしたその先の壁。
その壁の一角に、赤と緑の光が一瞬まばゆいばかりにたちこめる。
「「「「な!?」」」」
そのマナの気配に気づいたのは、それまで断固として、
遺跡をこれ以上破壊するようなまねは阻止する!
と断言し叫んでいたリフィルと、そしてジーニアス、
さらには、周囲の探索をしていたリヒター、
そしてリフィルの豹変ぶりを目の当たりにし、半ば唖然としていたミトス。
計四名。
彼らはその特性、すなわち、エルフの血ゆえに、マナの気配には敏感。
一瞬とはいえ膨大に膨れ上がったマナの気配に、はっと思わず息をのむ。
彼らが視線をむけたさき。
しかし、光が立ち込めたのはほんの一瞬のこと。
「あれ?うわ~。すごい、エミル、隠し通路みつけたの?ここから中にはいれそうだねぇ」
エミルの前にありしは、さきほどまではおそらく壁の一部であったはず。
なのに、今ではぽっかりと開いている空間がみてとれる。
それにきづき、コレットが感心したような声をあげているが。
「ちょっとまちなさい!エミル、あなた、その入口はどうして…っ!」
リフィルが何か叫んでくるが。
「え?このあたりにいる子はしってますよ?」
実際、魔物達専用の出口であるがゆえ、魔物達はこの道を知っている。
魔物達とて食事が必要なものもいる。
遺跡の、すなわち建物内部にいる魔物達のための道。
つまるところ、閉じられた空間では、食事がままらなないことがおこりえるかもしれない。
それゆえにかつてエミルが施している処置。
何しろこの神殿は、たしかに内部はクルシスの手が加わりはしているが、
基本、その外壁は元イフリートの神殿が建てられた当時のまま、うち捨てられていたりする。
「ま、何にしても。よかったんじゃねえか?リフィル様。
あそこからどうやら中にはいれるっぽいし。
リフィル様が懸念していた遺跡をこれ以上壊すってこともなくなったってことで」
「それはそう、なんだけども」
しかし、釈然としない。
エミルがいっていた、このあたりの子、というのは。
これまでのエミルの言動からまちがいなく、このあたりに生息している魔物達。
なのであろうが。
たしかに、ゼロスの言うとおり。
リフィル自身が遺跡を壊す、また傷つけるようなことは認めない。
そういっていたのは事実。
しかし、だからといって、まさかエミルが隠されていたであろう、
別の出入り口を発現させるとは。
エミルはまよいなくその場にむかっていっていた。
技で柱の残骸を吹き飛ばそうとしかねない、男性陣をけん制しつつ、
リフィルは他の皆にも視線をくばっていた。
だからこそ、エミルがすっと、まよいなく奥のあの場所に行ったのに気付いている。
まるで、そう。
始めからその入口をしっていたかのように。
「…前とここのつくりは少しちがうね」
「だな」
入口らしき場所からはいれば、周囲には熱気という熱気は感じられず、
内部は完全に石つくりとなっており、石でつくられし、
石のアーチらしきものが左右にみてとれる。
足元も全て石がしきつめてあり、外と比べ内部はひんやりとした空気に包まれている。
といって過言でない。
以前は、階段をおりてすこしばかりここと同じつくりの道を通ったのち開けた空間に出た後、
その先の扉をくぐれば、そこはもう溶岩地帯でもあった。
しかし、この道によくにた通路にでたときは、すでに内部が多少の熱気に包まれていた。
ゆえに、中にはいってとても暖かかったのをロイド達は記憶している。
何しろ外が完全なる雪景色。
中でほっとひといきついたのは記憶にあたらしい。
始めての封印解放に訪れた地。
それがここ、イフリートの神殿とよばれし場所。
ゆえに、ジーニアスもロイドもこの地にはいろいろと思うところがある。
あのとき、純粋にコレットの背に翼がはえたのをみた。
それがコレットの苦しみの始まりだともしらず、純粋に喜んでいた自分達。
今思えば、そんな過去の自分をジーニアスもロイドもなぐりたい。
知らなかった、ではすまされない。
無条件に、コレットが世界をすくってくれる。
そうおもっていたあの当時。
いまだ半年ばかり前のことでしかないというのに、かなり前のような気がしてしまう。
「あれ?なんでこんな所に宝箱があるのかなぁ?」
ふと、コレットがそんな道の少し先。
少しくぼんだ位置に宝箱があるのにきづきそんなことをいってくる。
「何!?そうか。この入口はおそらく、まだ誰も発見されてない地。
だとすれば、かのアスカードの地下遺跡のように、まだ手つかずの古代の宝かもしれない!」
宝箱に近づいていこうとしているコレットをおしのけて、
そのまま宝箱の目の前に移動しているリフィル。
「ふはは。古代のお宝!さあ、何がでてくるか!」
そのままその宝箱にと手をかける。
刹那。
ぐわっというような擬態音があるのではないか、というほどに。
リフィルの目の前の宝箱が突如として巨大化する。
「な!?こ、これは!?」
「まさか、それは、宝箱に擬態しているという魔物!?」
リフィルが思わずみがまえると、なぜか目をきらきらさせリフィルの元にかけよってゆくアステル。
そのまま、巨大化したそれは、そのいくつもある鋭い牙。
宝箱を開けた状態でその大きな口らしきそれをひらき、目の前にいる人間に襲いかかろうとする。
「……ったく。何をしている?」
突如して、少し重苦しいような声が周囲に響く。
はっとしてみれば、エミルが腕を胸の前でくみ、そちらをみつつ呟いているらしいが。
なぜだろう。
こころなしか空気が重くなったような気がするのは。
ピタリ、とそんなエミルの言葉をうけてか、
なぜか、それまではリフィル達に襲いかかる気満々であったであろう、
その宝箱に擬態している魔物は、そのまま、後ろにずるずると退いていき、
そして、しゅるしゅるとまるで畏縮するかのごとくにその体を小さくさせる。
「えっと…エミル?」
いつものエミルの雰囲気とは異なるゆえ、戸惑いつつといかけるマルタであるが。
そのまま、すたすたと唖然としているリフィル達の横をすりぬけ、
完全に壁際に後退しているそれの目の前にとたつエミル。
そして。
「・・・・・・・・・・・、・・・・・・・・・・」
その場にいる誰もがわからない旋律のような何か、を突如としてエミルは紡ぎだす。
「まったく。たしかに、この地によからぬものがはいりこんだとき。
排除してはいい、とはいったが。あのものたちはそういうものではないぞ?」
「……王」
気配に気づかなかった、というのはいいわけにならない。
ゆえに、目の前にいるエミル、否、ラタトスの気配にきづき、
魔物であるフェイクは畏縮するより他にない。
イグニスが目覚めている、とはいえ。
この地にあまり第三者がはいりこんで、何かしでかしても面倒なこともあり、
魔物達に侵入者は排除してもいい、とイグニスを通じ命令は下していたが。
しかし、自らがいるのに、襲いかかろうとするなど、言語道断。
「…まあいい。お前のその形態は欲にかられた人間達にはうってつけ、だしな」
彼のその形態を咎めるわけではない、むしろこれでいい、とすらおもっている。
もっとも。
「…あと、相手の力量だけはしっかりと見定めてから襲いかかるようにしろ。いいな?」
常にこの魔物はたしかにその体を宝箱に擬態している、とはいえ。
基本的に彼の本体はスライムにちかしいもの。
もっとも、彼らのような魔物、すなわち宝箱に擬態している魔物達は、
欲にかられている人間達にはいろいろな意味でターゲットにされている。
彼らは基本、宝箱に擬態し、開いた人間やちかよってきた生命体におそいかかり、
その身をもってして相手をとりこみ、そして溶かしたのちに栄養とする。
そのとき、たとえば人間の冒険者などがもっていたお金や装備品。
すなわち、溶かしきれていなかった様々な品は時として、
彼らがそのまま内部にとどめ置いていることもしばしば。
ゆえに、それらを目当てに彼らを乱獲しようとする人間も少なくはない。
もっとも、実力がなければかえりうちにあうしかない、のだが。
基本、これらの系統種族においては、属性攻撃においてしかダメージをあたえられない。
ゆえに、普通の武器で挑んでもまちがいなくかえりうち。
「――ゆけ」
エミルがすっと手を横にふるとともに、
そのまま、ぐにゃり、と宝箱に擬態していたソレが溶けるようにしてその場に崩れ、
ゼリー状というか液体状にもみえるそれこそが、この魔物フェイクの本体そのもの。
そのまま、ラタトスクに一礼したのち、壁の隙間にとソレはきえてゆく。
「…まったく。…あれ?みんな、どうかしたんですか?」
まさかリフィルに襲いかかろうとするとは。
ふとみれば、なぜか背後で唖然としているリフィル達の姿がみてとれ、
思わず首をかしげてといかけるエミル。
「どうかした、じゃないわよ!エミル、今、あなた何をしたの!何を!」
先ほどのことといい、今といい。
「あら?また空気がかわった?」
一瞬、空気が重苦しく変化したような気がしたというのに。
さきほどまでの重圧感はすでにない。
リリーナが不思議そうに首をかしげてそんなことをいっているが。
「…そういや、エミルって、ときどき魔物とはなしてるっぽかったもんね」
「あいかわらず、何といってるのかわかんねえけどな」
それは、エミルが料理などをしているとき、たしかにエミルは魔物達と会話をしていた。
もっとも、何といっていたのかはロイド達も理解できていなかったが。
テセアラに移動してからこのかた、こういうエミルの態度はほとんどみるようなことはあまりなかったが。
もっとも、ガオラキアの森などで魔物と会話していたっぽい様子をみている以上、
リーガルとて何ともいえない表情を浮かべていたりする。
そしてまた。
「…魔物と、会話?いえ、今の旋律の原語はどれにもあてはまらないような。
エミル!今度その言葉の翻訳に協力して!」
「え?」
まさか、そこに思考がゆきつくとは。
目をきらきらさせ、がしっとエミルの肩をつかんでいってくるアステルにたいし、
思わず一歩、後ろにさがるエミル。
まさかこんな反応をされるとは夢にもおもわなかったがゆえ、
あるいみ珍しくエミルとしてはとまどっていたりする。
「今の魔物は……」
リフィルが小さくつぶやけば。
「あの子はフェイクっていう種類の魔物ですよ。
基本、さっきのスライム形状なんですけど、ああして何かに擬態して、
そして近寄ってきた生き物を溶かして喰らう子たちですね」
そんなリフィルにさらり、と何でもないように説明しているエミルの姿。
いまだにアステルにしっかりと肩をつかまれ、懇願されているが。
「…ま、そんなことより。とにかく、先にいこうぜ」
「…だね。エミルの不思議さは今にはじまったことじゃないしね。
この奥に、イフリートがいる、のかねぇ。…しかし、この音はいったい?」
ふと、ゼロスが道の奥のほうをみて、すこしばかり首をかしげる。
「え?あ、ほんと。なんだろ?なんか、ご~、ご~、っていう音がしてきてる。
前にきたとき、こんな音しなかったのに」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ふとこのあたりを確認がてらに視てみれば、通路の先にふさぐようにして眠っている魔物が一体。
…この様子では、以前、ロイド達がこの地にやってきたとき。
あれはこの中にはいっていなかったのか。
それとも、そのときにはいったまま、ここが暖かいので、そのままいついてしまったのか。
まあどちらにしろ。
それが道をふさいでいる、というのは見間違えのようのない事実。
コレットの台詞に首わかしげつつも、進んでゆくことしばし。
やがて、通路をふさぐように、天井までとどかんばかりの木が一体。
完全に道をふさぐように、その場にでん、と居座っていたりする。
その木の幹らしき部分から、ご~ご~、スピスピ、というような音がもれているが。
『・・・・・・・・・・・・』
こんな場所に普通の木々が生えているはずがない。
一瞬、互いに互いが顔をみあわせつつも、
「これは、まさか、あのときの……」
リフィルがかつてこの場にきたときのことを思い出し、ぽつり、とつぶやく。
道をふさぎしは、デナイド、と呼ばれし魔物。
この魔物の特性は睡眠中は全ての属性攻撃を無効とし、そして吸収する性質をもっている。
「…前、ここにきたとき、そういえば、道の横にこんな魔物みたような……」
「そういや。なんでか樹があったよな」
ジーニアスがぽつり、とつぶやき、ロイドも思いだしたのかそんなことをいってくる。
あのとき、何だろうか、とおもい、剣でつついたのはほかならぬロイド自身。
剣でつついても何の反応もないので普通の木だ、と判断しそうになったあの当時。
「あ。たしか、クラトスさんが説明していたよね。
この魔物さんってたしか、睡眠中は全ての攻撃を吸収して無効化するって。
だから、邪魔にならないのならば、ほうっておいてそのまま先にいこうって」
「…この魔物、あのときからずっとこの遺跡の中にいるのかしら?」
…どうやら、話しのそぶりからして、かつてのときもいたらしい。
「…まあ、たしかに。この子達は暑いところを好む魔物だけど。
…とりあえず、起こしてのいてもらわないと、先にすすめないね」
こちらの気配に気づくことができないほどの深い睡眠状態。
「どうやっておこすんだ?これ?」
「ご飯をあげてみる、というのはどうですか?」
つんつんとつつきつつも、まったくぴくり、ともしない。
目の前の道を完全にふさいでいる木の魔物。
そんなロイドの様子をみつつ、おっかなぴっくり、
傍にちかよりて、その場にいる木の魔物らしきそれをみあげていっているセレス。
「ごはん?グミとかか?」
「栄養剤では。なら、僕の開発したスペシャル栄養剤を……」
がしっ。
アステルがごそごそと何やら取り出そうとしたのをうけ。
なぜかアステルの両脇から、がしり、と
リリーナとリヒターがそんなアステルをはがいじめにし、
「まて!アステル!お前はあれをつかおうとしただろうが!」
「そうよ!アステル!あなたがそれをつかったとき!
施設の中が草に覆われて大騒動になったのを忘れたわけじゃないでしょう!」
「下手したらこれが巨大化したらどうするんだ!よけいに手がつけられなくなるぞ!」
「そうよ!そもそも、小さな植物ですら巨大化させたでしょう!あれは!」
『・・・・・・・・・・・・・・』
何をしたのだろうか。
このアステルという人間は。
そんなリヒターとリリーナの必死さをみながら、思わずエミルすら無言になってしまう。
二人の様子から、どうやら彼らが嘘をいっているようにはみえない、
ということは、急成長をとげる成分を含んだ何かを開発した、といったところか。
「…とりあえず。これを起こすのに何か餌をとってくる。というのが無難なんじゃないかなぁ?」
「そうね。眠っている間に倒す、というのは。
前にクラトスの説明でそれは無理だ、と判明しているものね」
おそってこないうちに、これを排除したほうがいいのでは。
とリフィルが意見をしたとき、クラトスからかえってきた台詞は。
物理攻撃も属性攻撃も眠っている間はこの魔物は吸収し無効化する。
と説明された。
そもそも、道の脇におり、邪魔にもならないのだからほうっておいてもいいだろう。
そんな意見のもと、あのときは見逃していた、のだが。
「この魔物さん、何をたべるのかなぁ?エミル、知らない?」
「え?この子達、デナイドの好物は淡水系の魚や魔物が好物だけど。
このあたりだと、この子達は基本、水辺に生息してるはずなんだけどね」
それでもここにいる、ということは。
やはりここが暖かいがゆえに、そのまますみついてしまっているのか。
はたまた、そろそろ繁殖の時期であるがゆえに、天敵である人間。
そんな人間達がはいってこないであろうここで繁殖するのを選んだのか。
それは当事者からきいてみなければさすがのエミルでもわからない。
「…やけにお前は魔物の生体にくわしい、のだな?」
コレットの問いかけにさらり、とこたえるエミルにたいし、
すっとリヒターが目を細めてといかけてくるが。
「え?誰でもしってるかと」
『いや。むり(だから)(だとおもう)(でしょ)(なのでは)』
首をちょこん、と心底不思議とばかりに傾げるエミルにたいし、
その場にいた全員、ミトスまでもがそんなエミルに対して突っ込みをいれてくる。
「…まあ、それはそうとして。このあたりの淡水というと。トリエットのオアシスかしらね」
エミルがどうしてそこまで詳しいのか。
リフィルの推測通り、エミルが大樹カーラーンの精霊の関係者とするならば。
魔物の生体にくわしいのも納得がゆくのだが。
しかし、このままでは先にすすめない。
ゆえに、すこし考えこんだのち、リフィルがぽつり、といってくる。
「ええ!?また街にもどるのかよ!?」
さっき街をでてこの場所にやってきたばかり。
ここにくるまで照りつける太陽、そして口にはいってくる砂。
それらを経験しているロイドは心底うんざりしたような声をあげてくる。
「なら、二手にわかれないかい?
もしかしたらこいつが目覚めるかもしれないしさ。
片方の組みが念のため、魚をとりにいく、というのでどうだい?」
しいながそんなことを提案してくるが。
「それより、エミル。何かこの子をおこせそうな、魔物さん、よべない?」
ふと何かをおもいついたのか、コレットが懇願するように、
その手をくみつつ、エミルをみながらいってくる。
「え?何で?」
「せっかくここまできたんだもの。それに、エミルなら何となくできそうな気がするし」
確かにできはするが。
「そういや。エミルは魔物呼びだせるしな」
「そういえば。エミル、おねがい!」
コレットの言葉にその事実にきづいたのか、うんうんうなづくロイドに、
これまたコレットと同じようにして懇願するようにいってくるジーニアス。
「……は~。ま、いいけどね」
あまり、ミトスの前でしたくはないが。
かといってここで断る、というのもまた何か意図があるのでは、と勘繰られかねない。
それにまあ、いくら今は爆睡しているとはいえ
目覚めれば嫌でもこちらの気配には気付くであろう。
ゆえに、かるくため息をひとつつき、
そして、すっと手を目の前にかざし、そして。一言。
「――こい。アーケロン」
エミルの言葉に従い、暗い遺跡の通路の中。
青白く光る魔方陣が、床全体にと突如として広がってゆく。
『な!?』
その呟きは誰からもたらされたものなのか。
それも定かではない。
話にはきいていた。
エミルが魔物を呼び出すことができる。
と。
しかし、ありえない。
人間が、しかも精霊ラタトスクの配下であり、
それこそ、何かの媒介でもつかっていれば話しは別だが。
もしくは瘴気などによって魔物の理性を狂わせることができれば、
魔物の使役は可能であることを、この四千年の間にミトスは把握している。
そもそも、魔物を使役するという実験は、
かつての古代戦争の最中にも、互いの国の勢力によって実験、そして研究されていたこと。
しかし、何の媒介も何もなく。
言葉のみで使役できるなど、ミトスはきいたことすらない。
否、あるにはある。
それができるのは、それは。
「……なぜ……」
茫然としたようにつぶやくそんなミトスの台詞に、
ミトスがエミルが魔物を呼んだ、それだけの意味で驚いている、ととらえたのか。
「普通驚くよね。これ。僕らも始めてみたときは驚いたもん」
「ああ。しかも、エミルがよんだのは巨大な鳥だったしな」
しかも、それがマーテル教の教えにある神鳥シムルグそのものであったりもした。
ぽん、とミトスの肩をたたきつつも、しみじみとつぶやくジーニアス。
そしてまた、うんうんうなづきつつもいっているロイド。
一方で。
「興味深いですね。エミルのこの力は。
魔物を使役できるのは、精霊ラタトスクの配下だという、
エイト・センチュリオン達だけかとおもっていましたよ」
「ふえ?そのセンちゃんとかいうのは魔物を使役できるんですか?」
そんなアステルの台詞に、首をかしげといかけるコレットに対し、
「ええ。これは古代の、禁書指定にもなっている、
半ば、目録にすらのっていなかった書物などからひもといたことなんですけど。
精霊ラタトスクに使えし八柱の配下たる僕。
彼らは八つのそれぞれの属性をもち、またその属性の魔物を配下におさめ、
マナの調停をしている、らしいんですよね。
つまり、魔物が世界にいるのはマナの調停をしているから、という解釈ですね。
これは僕は間違っていないとおもいます。
そもそも、マナが乱れてもすぐに魔物の生体系に影響があったその直後、
マナは安定していますしね。これまでも」
「あれ?でも、その、センなんとかって、たしか……」
たしか、その響きの呼び方は、コレットがその思考を深く考えようとしたその刹那。
「みて!魔物が目をさましたよ!」
ふとみれば、気配に気がついたのか、それまで眠っていたであろう、
木の魔物、デナイドが目をさましたのか、
そのいくつもある枝をうねうねさせつつ、そしてまた、
小さくなっていた幹を大きくのばしつつ、その頭の部分にある数多の枝を周囲にひろげる。
そして、そのデナイドは
おそらく、触手かわりにしているのであろう手をそのまま目の前にいるエミルのほうにむけてくる。
「あ、あぶない!エミルさん!」
はっと顔色をかえて叫ぶリリーナ。
だがしかし。
「…は?」
次の瞬間、リリーナの目は思わず点と化す。
いったい、これは。
なすがままに、エミルになでられるままになっている魔物の姿が目の前にはある。
ありえない光景。
ゆえに、ありえないがゆえに、しばし目をごしごしさせながらも幾度も見直すリリーナ達。
「ま、エミルだしねぇ」
「だな。何となくこんな気がしたよ。僕」
「右に同じく」
こちらはこちらで、伊達にシルヴァラントからテセアラにいたるまでこのかたずっと、
共に同行していたわけではないのか、どこか達観したようにつぶやいている、
しいな、ジーニアス、ロイドの三人。
半ば唖然としているもの、どこか達観したような表情をうかべているもの。
興味ふかそうに、きらきらと瞳を輝かせてそんなエミルをみているもの。
三者三様。
そんな彼らの様子にまったく気付くことなく、
「とりあえず、横に移動しといてね」
エミルの言葉とともに、素直にその場から移動するデナイドの姿。
完全に横に移動したデナイドの姿を確認し、
やがて、くるり、と向きなおり、
「これで奥にいけますよ」
『ちょっと(まてぃ)(まて)(まって)(まちなさい)』
「「・・・・・・・・・」」
にこやかにいうエミルの台詞に、ほぼ全員の声が一致する。
声にもならない無言をつらぬいているのは、ミトス、そしてゼロスとリフィル。
この三名のみ。
~スキット・旧トリエット遺跡、エミルがアーケロンを召喚後~
ロイド「しかし、ダメもとでいったけど、本当にどうにかできるとは」
ジーニアス「できる、とはおもったけどさ。けど、エミルっていったい……」
ミトス「…あの、魔方陣は……」
アステル「すごいよ!エミル!さすが僕の義弟!」
エミル「って、まだアステルさん、その僕を弟よびするのあきらめてないんですか!?」
アステル「でも、ほら、僕と君、そっくりだし、ね?さ、お兄ちゃんってよんで、さ、さ!」
エミル「……ミトス~、アステルさんに何とかいってよ……」
ミトス「って、何でエミルは僕にたよるの?」
まさか自分に話しが降られるとはおもっておらず、
今のエミルの行動をしばらく考えこんでいたミトスだが。
いきなり話しをふられ、驚きながらもエミルに対し問いかけていたりする。
エミル「何となく?」
それに、ともおもう。
――外にでたとき、何かあったら僕らがどうにかするから!
といってきたのは、他ならぬミトス自身。
外にでて一緒に旅をしよう、としつこくいってきたミトスに対し、
自分は精霊だから、そんなことをすれば面倒なことに巻き込まれないぞ?
と多少の真実をまじえて諦めさせるためにかつていったことがある。
そのとき、ミトスはきっぱりと。
――何か面倒事にまきこまれても、自分がどうにかするから、いっしょにいこうよ!
としつこくいってきて、実際にあまりにしつこかったし、必死であったがゆえに、
ラタトスクは否定も肯定もしなかった。
その必死さがほほえましかったがゆえに。
だから、ミトスにどうにかしてもらっても問題ないだろう。
という考えがラタトスクの心の奥底にあったりするのだが。
その考えにラタトスク当人もあまり気付いていなかったりする。
ほぼ無意識に近くにいたミトスにそのようなことをいっているがゆえに、
エミルのその言葉に意図はない。
ミトス「えっと。でも、別に呼び方くらいどうにでも……」
エミル「なら。ミトスにきくけどさ。ミトスのお姉さんに結婚相手ができたとして。
あっさりと、お兄さんよびってできる?」
――あら、ミトス、義兄さんとよびなさいね。
――嫌だ!だってユアンなんだよ!姉様!
エミルの台詞に、かつてのやり取りが思いだされ、
ミトス「…あ、うん。無理だね」
きっぱりと思わず少し天井をみつめつつも、それでいてきっぱりいいきるミトス。
コレット「でも、魚さんとかが好物っていうんなら。また、魚釣りしたかったなぁ。私」
ロイド「お!あの、氷をくずして釣りをしたあれ、おもしろかったよな!」
ジーニアス「そもそも、砂漠のオアシスがあのとき凍りついてたこと。それが驚愕だよ」
ロイド「でも、それだからこそたのしめたし!
氷に穴をあけて魚をつるなんて俺あのとき始めてだったしさ!」
エミル「…えっと、リフィルさん?」
リフィル「…はぁ。以前、トリエットにいったとき。
このあたりに私たちがきたとき、雪に覆われていたのは話したわね?」
リフィルの台詞にこくり、とうなづくエミル、そしてテセアラ組。
リフィル「なぜか泉まで凍りついていて。
なら、その氷を利用して客を呼び込もう、という人がいてね。
氷に穴をあけて魚釣りを客にさせる、という商売をしていたのよ。
物珍しさもあってかなり繁盛していたわね。あのときは」
急ぎの旅なのだから、というのに。
コレットがやってみたい、といいだして。
結局全員で参加したことを思い出し、ふと遠い目をするリフィル。
いくら氷とはいえ水の上。
必死に抵抗したのに、強制的に水の上につけていかれたことはリフィルにとっては消したい思い出。
ゼロス「お。フラノール地方のワカサギつりみたいなものか?」
アステル「でしょうね」
リフィル「あら?あなたたちのほうにもそんなものがあるの?というかワカサギ?」
セレス「わたくし、あれ、一度やってみたかったのですけども……」
ゼロス「すぐに魚がかかるわけじゃねえからな。
それでお前が風邪をひいてはもともこもないぞ?セレス?」
マルタ「…ゼロスって、ほんとうにシスコン…(ぽそり)」
リーガル「…というか、完全に話題がかわっていないか?」
たしか話題はエミルがどうして魔物が呼びだせるのか。
といった話題であったはずなのに。
コレットの一言で話題がまったくもってすりかわっていたりする。
しいな「…ま、コレットだしねぇ。この子はいつもこう、だからね」
どこか悟ったように、ぽそり、といっているしいな。
エミル「魚つり、かぁ」
ロイド「よっしゃ!ならこんど、皆で競争しようぜ!競争!」
エミル「ロイド。いっとくけど、魚つりとかするもはダメとはいわないけど。
小さい稚魚とかはきちんとかえさないとだめだよ?
そもそも、人間って食べないものたちですらつったあげく、
そのまま地上に放置して、そんな子達を無意味に殺す傾向があるからね」
ヒトが他の命を食べる、ということに否定はしない。
彼らとて生きるために他の命を食べる必要がある。
それは他の生命体においてもいえること。
しかし、ヒトはそうでない、すなわち食料にするのでもないのに他者の命を殺しすぎる。
リヒター「たしかに。それは否定はしないが。しかし、話題がすりかわってないか?」
リーガル「まったくだ」
※ ※ ※ ※
旧、トリエット遺跡、とよばれし場所。
そこは【火の精霊イフリート】を祀っているとシルヴァラントでは伝えられし神殿。
「しかし、入口はちがったのに。入る場所は同じ…かぁ」
長い石づくりの道をすすんでしばらく。
デナイドがふさいでいた扉をくぐり、さらにつづく道をすすんでいった先。
やがて、ロイド達にとってみおぼえのある場所、
すなわちすこしばかり開けた空間にとたどりつく。
「その奥に階段がみえている、ということは。
以前、シルヴァラントの皆さんは、あの階段から、ここに?」
アステルが、薄暗い地下の中。
ふとその視線の先に階段らしきものをみとめ、首をかしげつつ、
横にいるリフィルにとといかけてくる。
「そのとおりだ。しかし、貴重な遺跡が…ああっ……」
「まあまあ。先生。この中が崩れてなかっただけよかった、とおもおうぜ?」
「そういえば。外はかなり崩れていたのに。内部はほとんど崩れていないね」
外の柱はことごとく崩れていたというのに。
内部の構造は、かつてきたときとほぼかわっていない。
「さっきから、壁や石の柱をみていたんですけど。
細かな文字が刻まれてるんですよね。模様みたいな。
おそらく、それが何らかの効果をもって強度をあげているのかと」
カーボネイトとよばれし品でつくられているわけでもなく。
どちらかといえば、このあたりに使用されている石の性質からして、
ぱっと見た目、使用されている石は透明感があることから、
おそらくは、黒曜石に近い何か、が使用されているのであろう。
ここは、イフリート、すなわち火の精霊がいる、というのだから。
ガラス質の火山石だといわれているそれらの石が多量にあり、
それを再利用していてもおかしくはない。
そんなことをおもいつつも、アステルが周囲の壁に手をあてながらいってくる。
「うむ。それは私も以前におもったときに感じたことだ。
これもおそらくは魔科学によって建造されたものだろう」
「そういや、この扉くぐったら、一気に暑くなったんだよな…以前……」
以前のことをおもいだし、げんなり、としたような顔をして、
そんなアステルとリフィルの会話とはまったく別のことをぽつり、といっているロイド。
「?どういうことだ?」
その意味がわからず、リヒターが横にいるジーニアスにと問いかけるが。
「ああ。この扉くぐったら、そこは溶岩地帯になってるんですよ。
…足踏み外したりしたら、まっさかさまに煮えたぎる溶岩の中。
足場がしっかりと、幅が広い箇所はいいですけど」
ジーニアスもかつてのことを思いだしたのか、げんなりとしたように、
そんなリヒターの問いかけにこたえていたりする。
「あのとき、どうにかしてといた仕掛け。まだそのままになってればいいな~」
また、仕掛けを一つづつ解除していくのと、はじめから解放されている仕掛け。
それだけでもあの暑い空間を行き来する時間が少しでも減る。
ロイドが盛大にため息をつきながらもそんなことをいってくる。
しかし、とおもう。
ミトス達がきちんと、足場をつくっているがゆえ、そこまで悲観する必要もないのでは。
と。
そんなジーニアスやロイド達の表情をみつつ、エミルとしては首をかしげずにはいられない。
本来、かつてこの場所。
すなわち、完全なる精霊の試練の場を産みだしていたあの場所は。
ただの溶岩の上にちょっとした幾本かの柱もどきを横たえていたのみで、
それもまた試練の一つ、としていたもの。
しかも、足場となりしは普通の柱、なので、当然足場がおぼつかず、
それもまた試練、として精霊と繋ぎのとれる祭壇の場所。
そこに至る道にとなっていた。
そのあたりは、マーテルが自らの精霊を産みだしたとき、
かつての神殿の様式に近い形で、かの地、熱砂の洞窟を産みだしていた。
ちなみに、この場の上には塔をうみだし、
センチュリオン達の祭壇に気づかれないように、
それこそ星座の塔をそれとなく人間達に干渉させ、たてさせていたが。
ちなみに、あの塔の仕掛けを考えるにあたり、
なぜか新たに生み出していた冥王プルートもかなりのりのりで手伝ってきた。
今回はかつてよりも早くプルートは生み出せそうでもあるので、
以前よりもはやく、魔族達はきちんと統括されるであろう。
もっとも、それでも暴走する輩はいるであろうが。
すでに少し前に芽吹かせた、かの暗黒種子は確実に芽吹き、
今現在、暗黒大樹のもと、惑星を形成していっている。
「とにかく、先にいきません?セレスさん、大丈夫?」
「へ、平気ですわ」
ふと、ゼロスの横というか、少し斜め後ろにちょこん、といるセレスにと問いかければ、
必死に大丈夫、といわんばかりにこたえてくるセレスの姿。
「だから、お前はノイシュとまってればよかったのに」
ノイシュは今現在、この遺跡の内部にはいらずに、
そのまま外にてまっているつもりらしく、この場にはいない。
「でも、ゼロス。セレスさんを一人で外にのこすわけにもいかないし。しかたないんじゃ?」
そんなゼロスに、マルタが至極当然な意見をいってくる。
たしかに、セレスが外にのこるとなれば、誰かがセレスを守るために、
あえて外に残る必要があったであろう。
だが、アステル達三人も、始めてみるであろうシルヴァラントの精霊の神殿。
それに興味深々で、ほうっておけば彼らだけで内部にはいりそうな勢い。
かといって、何かあるかわからない以上、戦力は削りたくはない。
結果として、セレスもまた、具合がわるくなればすぐにいうように。
という意見のもと、この内部にまで一緒にやってきていたりする。
「でも、溶岩地帯、というのは問題ですね。
その溶岩地帯を抜けるのに、けっこうかかりますか?」
「以前は、仕掛けを解除しつつ、だったから。
何かのはずみで、仕掛けが元にもどっていれば、以前のように時間はかかるわね」
アステルのといに、少しかんがえつつもリフィルが答える。
もっとも、あのときも不可思議としかいえない現象がおこっていたが。
何しろ溶岩が溶けては凍って、を繰り返していた。
それをおもいだし、リフィルがすこし考えこむそぶりをみせはじめる。
「ふむ。なら、熱さでダウンしても何ですし。しいなさん」
「ふえ?な、なんだい?アステル」
アステルに、さんづけして呼ばれるのは、何となく厄介事のような気がする。
それはもう果てしなく。
ゆえに、すこしばかり身構えつつも、アステルにと返事をするしいな。
「火と反対属性なのは、氷。セルシウスと契約しましたよね。
セルシウスを召喚し、熱さを半減、もしくは遮断できませんか?」
「「「あ」」」
その手があった、とばかりに、小さく声をあげている、マルタ、ジーニアス、しいなの三人。
「そうね。今はたしかに。その手がつかえるかもね」
「まて。アステル。しかし、今ここでしいなに精神力をつかわせれば。
この後あるであろう、精霊との試練。それに差し支えるのではないか?」
そんなアステルの意見にリヒターがもっともらしきことをいってくる。
たしかに、精霊の召喚には精神力をつかう。
今はそれほど完全に密着した理にしていないが。
基本、呼びだされたのち、精霊達は自らのマナと周囲に満ちるマナにて活動をしている。
特に今は、傍にエミルが、否ラタトスクがいる以上。
活動時間に制限がない、といってもよい。
精霊の契約の証である指輪は、精霊達が契約者をみとめ、預けるもの。
しかし、そのせいか、ミトスのような考えをもつものがでてしまったがゆえ、
ラタトスクはあのとき、理をかえるとき、精霊達の契約の理も少しばかり変更した。
すなわち、召喚者の精神力を使用し、精霊達の力を行使するように、と。
つまり、その身にあわない力はいくら精霊と契約しても使用できないように。
また、ルナやオリジン、そしてマクスウェル以外の精霊達は、
ラタトスクがうみだせし、精霊界にと移住していた。
マクスウェル達がのこりしは、マーテルそのものが、
統括するような精霊を産みだすマナすら生み出せなかったゆえ。
彼女のマナにより新たにうまれし精霊達を身守り、そして導くため。
…もっとも、アスカは界から外に遊びにでた先で、人間に捕らえられてしまったが。
「…とりあえず、よんでみるだけよんでみたらどうだ?」
しばし考えこんでいたリーガルが、しいなをみつついってくる。
「そうだね。たしかに、中でたおれて。この中に溶岩地帯があるっていうのなら。
ふらり、とよろけて溶岩の中にはいって死にました、は洒落にならないからね」
溶岩の熱気というものがどれほどのものなのかはわからない。
わからないが、すくなくとも、外の熱さの比ではないであろう。
ならば、少しでもそんな危険対策をして移動したほうが安心、というもの。
それゆえに。
「なら、いくよ。蒼ざめし永久氷結の使徒よ 契約者の名において命ず、出でよ セルシウス!!」
キッン。
しいなの声とともに、周囲に氷の粒が突如として出現する。
それらの氷の粒はゆっくりと一か所にまとまっていき、やがて一つの形を成す。
「契約者よ。私に何か用か?」
やがて、氷の粒が形をなしたかとおもうと、そこに氷の精霊セルシウスが出現する。
「ああ。セルシウス。私たちに熱さの影響がでないように、
氷の力で熱さを半減させるような何かをかけることは可能かい?」
そんなセルシウスにしいなが問いかけているが。
そんなしいなの言葉をきき、
「――スウムワン ウティ ウス ヌンディヤ バンルル?」
凜、としたような、不思議な旋律の声がセルシウスから紡がれる。
そんなセルシウスの言葉をうけ、すっと目をとじ。
『かまわん』
念話により、直接セルシウスにと語りかけるエミル。
エミルがこくり、と小さくうなづき、念話にて返事をかえしてきたのをうけ、
これまたこくり、とうなづいているセルシウス。
「?何をいってるんだい?とにかく、できそうかい?」
しかし、そんなセルシウスの言葉の意味は、しいなにはまったくわからない。
ゆえに、首をかしげといかけるしいなにたいし、
「いいだろう。お前達に氷の粒を貸し与えよう」
セルシウスがそういったその刹那。
きらきらと、全員の周囲に小さな氷の粒が、体を覆うようにと出現する。
「それではな」
用事はすんだ、とばかりに、これまたかるく頭をさげ、
パンッ、というような音とともに、その場からかききえるセルシウスの姿。
「うわ~。これ、すっごいすずしい!すごいすごい!」
自分の周囲に小さくただよいし氷の結晶。
きらきらと輝くそれは、俗にいうフラノール地方でよくみられる、という、
ダイヤモンドダストとよばれし現象に近しい。
興味ふかそうに、それを手にしようとしては、するり、
と結晶をとりこぼしているアステルが、何やら興奮したようにそんなことをいっているが。
それとともに。
『――しかし、ラタトスク様?』
『――何だ?』
実際は姿を消したようでいて、いまだに傍にいるセルシウス。
ミトスが傍にいるがゆえに、セルシウスからしてみれば気が気ではない。
しかも、常にいつも傍に感じていたはずのセンチュリオン達の気配。
その全てがラタトスクの傍にいない、というのはこれいかに。
『――皆さまがたは?』
『お前達との楔がときはなれたれるのを利用して大地にも手を加えるからな。
それらの準備のために、それぞれの祭壇にもどさせている』
世界、すなわち大地の変動は、それにともないどうしてもマナも乱れてしまう。
そして、彼らの祭壇からならば、彼らはその地にありし大樹の根を利用し必要最低限の力のみで、
世界全ての魔物達に命令、そしてマナの乱れを正すことが可能。
あまり彼らが直接力をつかえば気付かれてしまう可能性があるが、
しかし、地下に張り巡らされている根の力をつかえば、
大地からその力がわきだしたように感じるがゆえに、
センチュリオン達の存在にまではまちがいなくたどり着けない。
それゆえの命令。
『――・・・・・・・・・・・おともいたします』
しばしの沈黙ののち、そんなことをいってくるセルシウス。
「――はぁ……」
なぜにしばしの沈黙ののち、そんな意見になるのだろうか。
ゆえに、思わずため息をつくエミル。
「?エミル?どうかしたの?」
「ううん。何でもないよ。マルタ」
完全に姿を消しているがゆえに、その姿はミトス達にも認識不可能になっている。
しかし、ともおもう。
すこしセルシウスが力をこめれば、その姿は認識されてしまうであろう。
特に、ミトス、ゼロス、そしてコレットには。
ついてきてもいいが、我についているようにはみせるな。いいな?
念には念を。
一度、しいなが召喚している以上、ついてきていても違和感は感じられないであろう。
しかし、それがエミルにぴったりついていれば、疑問を抱かせかねない。
それゆえのエミルの命。
エミルがいきなりため息をついたのをみて、
心配そうにそんなエミルの顔を、マルタがその横から覗き込んでくるが。
そんなマルタにエミルはただ笑みをかえし、何でもない、とこたえるのみ。
「これはたすかるわ。じゃあ、いきましょう」
この氷の粒の加護があれば、おそらくは、
今では完全なる灼熱地帯と化しているであろうあの空間でも何とかなるであろう。
おそらく、涼しいままにあの場を通り抜けることすら可能のはず。
そんなリフィルの言葉をうけ、
「楽しみです。シルヴァラントの精霊の神殿」
「たしかに。文献にすらのこっていないからな。まさか実際に目にできるとは」
アステルの台詞にリヒターも何やらうんうんとうなづいているが。
「…アステル。いっておきますけど。いきなり走り出したりしないでよ?
今、彼らがいったように、ここは溶岩が露出しているみたいですからね?いいわね?」
「はいはい。まったく、リリーナは心配症だなぁ」
そんなアステルに対し、小さな子供にいいきかせるかのごとく滾々といいきかせているリリーナ。
「セレス、ほら?」
「え?お兄…様?」
結局、散々とまどっていたが、リフィルの意見もあり、
そして、街の中でたしかに、神子、というたびに人々が反応しまくったのをうけ、
ようやく照れはするものの、神子様呼びからお兄様呼びになっているセレス。
しかし、ゼロスを呼ぶたびに、真赤になり、照れている様子は、
はたからみればかなりほほえましい、としかいいようがない。
第三者がみれば、ああ、この子、お兄ちゃんっ子なんだ。
と誰もが認識せざるをえないそぶりをしている、ということに。
セレスはまったくもって気付いていない。
ともあれ、そんな会話をかわしたのち、
その先にある扉をくぐってゆく一行。
それまではひんやりとした空間であったというのに。
扉をくぐれば、一瞬のうちに周囲の様子は一変する。
「…うわ。本当の足元に溶岩がぐつぐつとわきだしてる……」
周囲に氷の粒という加護があるがゆえに、熱さはさほどかんじないが。
これはたしかに。
「たしかに。精霊の試練、というだけのことはあるのだろうな」
さすがのリヒターもその様子をまのあたりにし、ぽつり、とそんなことをつぶやいていたりする。
こぽこぽとした音が、この足場であろう道の下にながれし溶岩であろうもの。
それらがとてつもない温度をもっているのが嫌でもわかる。
「…魔科学。たしかにとてつもない技術、だよね」
こんな煮えたぎっているしかいいようのない溶岩の上に。
この足場となっている石つくりの道はある。
先ほどまで薄暗かった地下の内部は、溶岩から発せられる赤々とした灯りにて、
部屋全体が赤色というか橙色にと染まっている。
この足場から落ちれば、まちがいなく即死。
しかも影も形ものこらずに、溶岩にまたたくまに体が溶かされてしまうであろう。
「ここは、いりくんでいてよ。みんな、まちがえなくついてくるように」
いくつもの仕掛けを解除して、先につづく道を確保した当時のことを思い出しながら、
背後をふりむきつつも、全員に注意をうながすべくそんなことをいってくるリフィル。
「しかし、さすがは精霊、だよね。本当はこんなだったんだ…
あのとき、この場所が遺跡ごと凍りついててよかったよ。ほんと」
そもそも、足場にみえている溶岩すら凍りついていたあのとき。
「あのときは、熱さと寒さが一緒にきて、もうダメ、とおもったけどさ」
ジーニアスがこの地に初めてはいったときのことを思い出し、何やらそんなことをいってくるが。
彼らがこの遺跡の内部にはいりしとき、遺跡全体が完全に凍りついていた。
それでも、かろうじて湧き出す溶岩は健在で。
溶岩がわいてでては凍り付き、そんな光景を繰り返していた。
ゆえに、何ともいえない温度がこの場を支配していたといっても過言でない。
「でも、なんであのとき、この場所、あんなに凍りついてたんだ?」
「僕にきかないでよ。ロイド」
これが本来の火の精霊の試練、というのならば。
ならばあのときの現象はなんだったのだろうか。
ゆえに、素朴なる疑問をなげかけているロイド。
そんなロイドにたいし、あきれたように答えているジーニアス。
「ここが…凍っていた、んですか?」
とまどったようなミトスの台詞に。
「ええ。そうよ。完全に凍りついていたのだけども。
けど、今はそんな痕跡はのこっていないわね。
まさか、外の雪だけでなく遺跡の中までそんなになっているとは、
あのとき、私たちもおもわなかったのだけど」
そういえば、とおもう。
ありえない。
とクラトスがあのときつぶやいていたあの台詞。
つまりは、クルシス側もこの地が凍っているなどと、予測していなかった。
ということなのだろう。
今ならば、あのときのクラトスの言葉に含まれた意味がリフィルとてよくわかる。
あのときは、火の精霊がいるといわれている場所が氷りつくなど。
ありえない、という意味でいっている、とばかりおもっていたのだが。
「…ありえません」
顔をふせ、ぎゅっと手をにぎりしめ、つぶやくミトスに対し、
「そうね。でも、そのありえないことがおこっていたのよ。
そう、砂漠に雪がふる、というようなありえない現象のように、ね」
「・・・・・・・・・・・・」
リフィル、そしてロイド達の様子からして、彼らのいうことには嘘がないのであろう。
だとすれば、この地はあのとき、凍っていたことになる。
溶岩すら凍らせるもの。
セルシウスの契約が解除されている今ならばいざしらず。
しかし、精霊の力がみちたその場所で、その精霊の力すら封じるようなことができるもの。
そんな存在など……
そんなリフィル達の会話をききつつ、
「興味深いですね。異常気象はこちらもひどかったようですけど。もしかしたら、氷属性の……」
「それより、いきません?」
何となく嫌な予感がし、アステルの言葉をさえぎるエミル。
「そうだね。とっとといこうよ」
かつての面影、今はまったくこの場にはのこっていない。
当時のことを思い出し、ジーニアスが、しいな様様だよ。
などといいつつも、エミルの問いかけに素直にうなづくジーニアス。
あのときは、奥にいくほど建物の中がだんだんと凍りついていた。
そんな会話をききつつも、エミルはただだまっているのみ。
その原因はエミルには嫌というほどにわかっている。
すなわち、イグニスによる、マナの反転。
センチュリオンの力が逆転現象をおこしていた。
ただそれだけのこと。
しかし、わざわざ説明するつもりはエミルにはまったくない。
一方で、
「…たしかに。何も対策しなきゃ、ここは歩いていくのも大変だろうね」
いくらしいなとてこの場の異質さはわかるつもり。
水の精霊の祭壇などとはまた雰囲気もまったくかわっている。
たしかに火の精霊、というだけのことはある。
まさか、部屋全体というか、足場以外がすべて、溶岩に覆われているとは。
ゆえに、しいなもじっと足場の下になみなみとわきだし、流れている溶岩らしきもの。
それをみて、ぽそり、とつぶやいていたりするのがみてとれる。
「で、あいかわらず。魔物の姿はみえても襲ってはこない…んだな」
溶岩の上を平気であるいている魔物らしき姿や、
道の先などに魔物達の姿がいくつもみえる。
みえるが、そんな魔物達はまったくもってこちらにむかってくる気配もなく。
中には、すっと足場のはしっこのほうにいき、ぺたり、と座り込んでいる魔物達の姿すら。
つまるところ、争う姿勢はありません、とどの魔物をみても嫌でもわかるその有様。
足場となっている足元は、溶岩の上に柱がたてられ、
その上に橋のような形で道がつけられていたりする。
そして、それらの道はいくつかの階段などでつながっており、
かつてはこれらの階段などは始めからなく、
ロイド達が仕掛けを解除したがゆえ、出現しているといってよい。
「階段のあたりはせまいから、各自きをつけて」
リフィルの言葉をうけ、それぞれが足元に注意をしつつ、
いくつか入り組んでいるらしき、溶岩の上につくられし足場を進んでゆくことしばし。
やがて、青白き輝きをもつ、転送陣らしきものがある場所にとたどりつく。
「さすがに、仕掛けが解除されてるせいか、はやかったわね」
「たしかに。前回、ここにきたとき、
あっちにいったり、こっちにいったりして苦労して仕掛け解除したもんね」
あのときのことをおもいだしてか、姉の言葉にジーニアスががくり、とうなだれる。
「そのときは、僕そこにはいなかったからなぁ」
「そうね。エミルと出会う前のことですもの」
エミルの台詞にリフィルがつぶやき。
「あたしも、あんたたちと始めてであったのはあのオサ山道だしね」
しいなもまた、そんな彼らにたいし、首をすくめていってくる。
「この転送陣の先に祭壇があるんですか?」
転送陣の周囲を注意深くその場にかがみこんで調べていたアステルが、
顔をあげつつリフィルにとといかける。
「そうよ。さあ、いきましょう」
目的の場所は、すぐそこ。
青白い輝きをもつ転送陣。
それをくぐったさきにあるのは、ミトスが精霊達を閉じ込めるため、つくっているとある祭壇。
「…イフリートかぁ。戦ったら暑いんだろうなぁ」
目の前にありしは、なぜか赤き輝きをたもっているとある祭壇。
たしか以前にきたときは、この祭壇は光などはたたえておらず、
普通の青き台座がそこにあるだけ、だったはずなのに。
今は台座そのものが赤く燃えているようなのはこれいかに。
そんな台座をみて、ぽつり、とつぶやいているロイド。
エミルといえば、その台座の背後にあるとある壁をみていたりする。
一応、閉じてはいるものの。
その先からセンチュリオン達の祭壇に移動することが可能。
もっとも、自分達以外、今はかの地にはいれないようにしているがゆえ、
何かの間違いがおこる、ということはありえないだろうが。
部屋そのものは、ドーム状になっているとある部屋。
ドーム状になっている丸い円形状の周囲にある壁には、
ところせましと、様々な紋様などがきざまれており、
その中央に、とある石で土台をつくられし装置が設置されている。
この装置のことを人々は精霊の祭壇、とよんでいるようではあるが。
しかし、これは祭壇、でも何でもなく。
いわば、精霊達をこの地にとどめおくための、檻でしかない。
「ここが、イフリートの祭壇。とても興味深いです!」
いいつつも、ごそごそと、ウィングパックをそのあたりの床にむけ、
ぽふん、という音とともに巨大な袋らしきものを取り出して、
中をごそごそとあさりはじめているアステルの姿。
「えっと。アステルさん?何を……」
「古の文献にあったんですよね。精霊イフリートはお酒に目がない。と。
フラノールであなた達が精霊と契約をかわす、ときいて。これをかっておいたんです。ジャーン!」
いって、巨大な袋の中からとりだしたは、
「お。アステルくん。そりゃ、フラノール名物、フラノールバーボンじゃねえか!」
「はい!アルコール度数がたかいこれなら、きっと精霊も満足してもらえるかと!」
ゼロスがそれにきづき、アステルにたいし、問いかけるようにきいているが。
そんなゼロスの問いかけにきっぱりといいきっているアステルの姿が目にはいる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
まずいかもしれない。
思わず、そんなアステルの台詞をきき、天井をみあげるエミル。
イフリートはそういった所というか面がある。
というか、お酒を供えた人間にたいし、かなり打ち解けるというか何というか。
かつて幾度か注意を促したことすらあり、
しっかりとセンチュリオンを通じお仕置きしたことも数知れず。
横をみれば、ひくひくとおもいっきり顔をひきつらせているセルシウスの姿もみてとれるが。
セルシウスもまた、イフリートのお酒好き、その反応をおもいだしているらしい。
「…アステルのそれはともかくとして。で、契約するんだろ?
まさか、ここまできて、しない、とはいわないだろうね?」
そんな二人のやり取りをみて、ため息をついたのち、
思わず肩をおとしてつぶやくロイドにたいし、
しいなが苦笑しながらもといかけているが。
ロイドがこういった愚痴をいうのはこれまでもよくきいていた。
ゆえに本心ではない、というのはわかっているが。
しかし確認は必要ともいえる。
「い、いや。するよ。するにきまってるだろ。しいな、たのむよ」
「はいよ」
ロイドの言葉をうけ、しいなが一歩前にでて、
「我はしいな!イフリートとの契約を望むもの!」
凜、としたしいなの声が部屋の中にと響き渡る。
「で、何で僕たちは部屋の隅っこに?」
なぜに自分までこっちに移動させられているのだろうか。
ミトスの戸惑いはわからなくもない。
「だって、これからたぶん、ロイド達、精霊と戦闘になるだろうし。巻き込まれたら大変でしょ?」
なぜか、ミトスはこっち、といわれ、不思議におもいつつも、
エミルのもとにいけば、ミトス同様、マルタ、そしてセレスも声をかけられ、
結果として、壁際に、エミルを始めとし、
マルタ、リリーナ、セレス、そしてミトスとタバサが移動していたりする。
ミトスからしてれば、自分との契約が解除される様を、
どうしてみなければいけないのか、という思いはあるが。
そもそも、あの転送陣をくぐりぬけるとき、
少し気分がわるい、といってその場でまっていようとしたというのに、
一人でこんなところに残しておくほうが心配だよ!
といって、ジーニアスにほぼ強制的に手をひかれ、
この場にまでやってきてしまっている。
ミトスからしてみれば、イフリートが自分のことを暴露するのではないか。
と気が気ではない。
もっとも、ミトスは知らない。
すでにイグニスより、ラタトスクの命によりて、
イフリートには、ミトスを同行させるが、いらないことをいわないように、と
釘をさされている、ということを。
「マナが…!」
「現れるわよ!」
しいなの声とともに、部屋の中に火のマナが満ち溢れる。
それにきづき、声をあげるジーニアスとリフィルの二人。
台座の上に輝かんばかりの赤き炎がたちのぼり、それはやがて一つの形をなしてゆく。
それは筋肉質の人間の男の上半身をもち、そして下半身はなぜかうなぎの尾のようなそれ。
そしてその胸元に目のような胸あてと、かぎづめのような肩あてのようなもの。
その背にはぱっとみため、翼なのかそれともマントのつもりなのか。
頭には二本の角らしきものをもち、二本の異様に大きな手が、
それが人あらざるものである、というのをびしびしと伝えていたりする。
祭壇の上に具現化したのち、かるくその手を胸の前にあて、
うやうやしく頭をエミルにむけて下げたのち…
もっとも、ちょうどロイド達の背後にエミル達もいるがゆえ、
それがエミルに対してのものだ、とすぐには誰もが理解できないが。
「契約の資格をもつものよ。我、ミトスとの契約するもの」
イフリートが好むのは強者。
ゆえに、他の精霊と異なり、縛られている、という言葉は相応しくない。
とおもっているらしく、縛られている、という言葉はつかってこない。
両腕をくみ、しいなを見下ろすようにいってくる、
そんなその場にあらわれし、異形の存在…火の精霊イフリートの言葉と視線をうけ、
きっと、姿勢を正し、
「我はしいな。イフリートとの契約を望むもの。ミトスとの契約を破棄し、我と契約をすることを望む」
目の前に現れた、炎をまといし精霊。
まちがいなくこの精霊が火の精霊、イフリート、なのであろう。
ゆえに、しいなが姿勢をただし、契約したい旨を目の前の存在にむかって言い放つ。
ちらり、とイフリートの視線がエミルにむけられるが。
そんなイフリートの視線にかるく目をとじ、肯定の意をしめすエミル。
そんなエミルの肯定を確認したのち、
「我と契約できるだけの資質があるかどうか。それを試させてもらおう」
いいつつ、身構えようとするイフリートであるが。
「あなたが、火の精霊、イフリートですね。
あ、これは、契約の儀式に必要だ、とおもわれし、ささげものです。どうぞ、おうけとりください」
すっと、しいなの横をすりぬけ、祭壇の前に、
先ほどとりだした、ちょっとしたボトルのようなそれをおいているアステル。
「うん?これは?ほう。これはお酒ではないか!
この地にとらわれて四千年。このような貢物をしてくるものもいなかったしな。
これはありがたくいただこう」
いいつつも、すっとイフリートが手をかざしたかとおもうと、
ふわり、とアステルがその場においた、フラノールバーボンがはいりし瓶は、
突如として空中にとうきあがり、
そして、それはイフリートが手をつかっていないのにもかかわらず、
きゅぽん。
空中にて、瓶の栓が取り除かれる。
そして、ゆっくりと、瓶はかたむいていき、
こぽこぽとイフリートの頭上より、
瓶の中にはいりしお酒がイフリートにむかって注がれる。
しかし、そのお酒はこれまた空中でふっとかききえ、
よくよくみれば、イフリートがあじわっているかのごとく、
ノドらしき部分をうごかしているのがみてとれるが。
何のことはない。
ただ、空中から自らのノドに直接お酒そのものを転移させているだけのこと。
「おお、燃える、もえるぞぉぉ!」
その言葉ともに、ごうっ、という音がしたかとおもうと、
それまで比較的落ちついていたはずのイフリートが纏いし炎。
それらがまるで猛るようにして一気にと燃え上がる。
「って、精霊の試練の前に狂暴化させてどうするのさ!」
そんなアステルにたいし、思わず叫んでいるジーニアス。
あきらかに、マナの濃さが増した。
先ほどよりも倍近く、マナの密度が違っている。
「興味深いわ。お酒で精霊の力も増す、のかしら?」
「姉さんまで何を悠長なことを!!」
そんな精霊の変化をまのあたりにし、リフィルはリフィルで、
別のところに興味をいだいたのか、そんなことをいっているが。
「ふはは!我は久しぶりに気分がよい。
ミトスとの契約は破棄された。
が、お前達が新たな契約をするものとしてふさわしいか、見極める。いくぞ!」
言葉とともに、ぶわり、としたマナがイフリートより発せられ、
イフリートを中心とし、ちょっとしたバトル空間ともいえる、
空間そのものが一瞬切り離されたフィールドが出現する。
「我が炎に焼きつくせぬものはない。ゆくぞ!」
その言葉とともに、イフリートからいくつもの炎がまきこおり、
それとともに、ロイド達をとりかこむようにして、
周囲そのものにも炎の柱が出現し、ロイド達の退路がたたれてしまう。
「あ。エミル達とはなされちゃった」
「でも好都合かもしれなくてよ。あの火の柱が壁になって。
あの壁際に避難しているっぽいセレス達には攻撃は届かないでしょうし。皆、いくわよ!」
それは炎の壁。
ヴォルトとの契約で、不可思議な光の壁らしきものがあったのは記憶しているが。
今回にかぎっては、炎の壁。
しかし、これはこれで好都合。
何しろ一番の懸念事項は、戦闘能力がないであろう、セレス、そしてリリーナの存在。
エミルは…まあ、いいとして。
すくなくとも、エミルが傍にいるのならば、問題はないであろう。
ミトスのほうはその身にエクスフィアをつけていることから、
戦闘ができない、というわけではないであろうが。
しかし、リフィルは一瞬、イフリートがミトスにむけた鋭い視線。
その視線の変化を見逃してはいない。
それはまるで、睨むような、それでいて見定めるような、そんな視線。
目は口ほどにモノをいう、といったのはどこの誰であったのか。
その視線から感じたのは、勘でしかないが、イフリートはミトスを知っている。
なぜかふとそんな思いがリフィルの中に芽生えたのもまた事実。
エミルのほうは…なぜかヴォルトを含め、ウンディーネやシルフ。
そういった精霊達が彼を知っているそぶりをみせていたっぽいことから、
イフリートもまた知っていてもおかしくない、とおもわなくもないが。
それに、ともおもう。
もしも、リフィルの予想通り、エミルが精霊ラタトスクの関係者、
もしくはそれに付随する一族のものだとするならば。
精霊達がエミルのことをしっていても何ら不思議はないのだから。
「お兄様!?みなさま!?」
ふと、目の前が炎につつまれ、その先がみえなくなったのをうけ、セレスが悲鳴に近い声をあげるが。
「おそらく。精霊の試練がはじまったのでしょう。皆を信じてここでまちましょう。セレス様」
「リリーナさん…はい……」
リリーナからしてみれば、セレスは一応公爵家の令嬢。
「ってて。まったく、リヒターのやつ。ぶんなげなくてもいいじゃないか!」
ふと、真横から、そんな声がきこえてくるが。
ふと声のほうをふりむけば、なぜか先ほどまで祭壇の前にいたはずのアステルの姿がみてとれる。
「えっと…アステル、さん?」
なぜにアステルがここにいるのだろうか。
先ほどまでたしかに、祭壇の目の前、にいたはずなのに。
「ああ。おそらく、リヒターがあぶないから。
といって、アステルをこちらに放り投げたのでしょう。よくやったわ。リヒター」
なれている、とばかりに、リリーナがそんなアステルの姿をみて、
納得した、とばかりにつぶやいているのがみてとれるが。
「…そうなんですか?アステルさん?」
というか、ほうりなげるって。
…あったな。そういえば。
かつて、自分がエミル・キャスタニエとして記憶をうしなっていたあのとき。
なぜか、あぶない、といって放り投げられた記憶が幾度かある。
その直後にラタトスクの人格に切り替わり、そんなリヒターに文句をいっていた記憶が。
エミルがそんなことをおもっている中、
「えっと、中では、いったい?」
そんなどこか遠くをみているようなエミルとは対照的に、首をかしげてといかけているミトス。
「しいなさんが、契約してほしい、といって。
これから契約の試練がはじまるんだとおもう。
ああ、シルヴァラントでの初の契約の儀式にたちあえるとおもったのに!」
「…どこの儀式でも同じだとおもうわ。私は。
それに、アステル。あなたは魔術耐性があまりないのだから。
たしかにあなたのきているその白衣は、精霊研究所がつくりし、
魔導における耐性をつけているものだけども。完全ではないのですからね」
そんなアステルにたいし、そんなことをいっているリリーナ。
「ロイドサンたちが、シレンおえるのをまつ、しかないです」
そんな彼らの会話をききつつも、これまでほとんど滅多と口にすることがなかったタバサが、
ぽつり、とそんなことをいってくる。
「そういえば。タバサさんは護身術とかもインプットされてるの?」
それは素朴なる疑問。
「ハイ。マスターアルテスタが可能なかぎり、そういった知識もツメコンデイマス。
それをリヨウシタコト、はメッタトアリマセンが。
ショクザイをとるときにはチョウホウ、しています」
そんなエミルの素朴なる疑問に、これまたさらり、とこたえてきているタバサ。
「あ。そっか。家にあったお肉とか、ならタバサさんが狩ってきてたんだ」
「ハイ」
事実、アルテスタの家には燻製にされていた肉系などもかなりあった。
「…なんか、エミルもタバサさんも余裕、だね……」
あの場に残されているものを心配でないのか。
いやまあ、ミトスからしてみれば、あのまま死んでほしい。
というのが一番だが、特にロイドには。
しかし、ジーニアスとリフィルは傷ついてほしくない、というのが前提ゆえに、
イフリートの力をしっているがゆえに、ミトスとしては内心複雑な思いが捨て切れない。
「でも、お兄様たち、大丈夫、なのでしょうか?」
そんな彼らとは対照的に、
心配そうに、炎にかこまれ、内部がわからなくなってしまった精霊の祭壇方向。
そちらをみて、心配そうにつぶやいているセレス。
「パルマコスタ、といわれている場所、どうしてこの辺りが砂漠なのか。本をみせてもらいました」
そうつぶやくセレスの顔色は、兄であるゼロスを心配しているからか、こころなしか青い。
トリエットの悲劇。
当時の神子ノーラは再生の旅の途中、再生の儀式を行うため
旧トリエットの中心にあったイフリート宮を訪れた。
このとき、ノーラの儀式を遮るように祭司の一人が暴れ出し、
クルシスは神の怒りを落としたという。
これが後にいう、イフリートの業火の始まりであった。
簡単な内容が描かれている、始まりの一文。
クルシスにより、裁きの雷が落されたあと、イフリートの業火の炎により、この地は七日七晩。
業火の炎によってつつまれ、その結果、緑豊かであったこの地は砂漠と化した。
セレスが見た本にはそのようなことが書かれていた。
つまり、それほどの力をもつものと、兄は今、あの炎の向こうで戦っている。
自分も力をもっているのに、ともおもうが、
しかし、兄が自分を心配しているのもわかるがゆえに、セレスとしてはもどかしくてしかたがない。
やはり、闘技場などで、同行している皆に勝たなければ、
兄は同等に自分をみてくれないのではないか。
そんな思いにセレスは囚われてしまう。
炎は音すらも遮断しているらしく、実際は、炎の周囲が真空状態となっており、
また内部の空間が一部切り離されてフィールド化しているがゆえ、
内部の様子が普通の人間などにはわからない、というだけ、なのだが。
ふとそちらを視れば、イフリートがかなり手加減し、彼らの力を見極めているのがみてとれる。
どうでもいいが、ひさしぶりにお酒を飲んだゆえか、
多少、嬉々として、当初の目的、すなわちかなり手加減してでも、
彼らの契約、すなわち、ミトスとの契約だけでも解き放つように。
といっていた命令すら忘れてしまっているのではないか、とおもえるほどに、
どこからどうみても一対多数の戦いを楽しんでいるのが視てとれる。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
まったく、あいつは何をやってるんだ。
思わず無言になりつつも、すっと目をとじるエミルの姿。
――イフリート
びくり。
ふと聞こえてくるとある声。
一瞬、その重苦しい声をきき、それまで攻撃を繰り出していたイフリートの動き。
それが一瞬にしろ停止する。
「?今よ!」
一瞬、なぜか動きのとまったイフリートにきづき、リフィルが声をたからかにあげる。
それをうけ、ざっと視線をかわす、ロイド、ゼロス、リーガルの三人。
ざっとそれぞれが距離をとったその直後。
「水に飲まれろ!スプレッド!」
ジーニアスがすかさず詠唱をし、イフリートの足元から、
水柱が発生し、その発生した水は、イフリートの体を一気につつみこむ。
それとほぼ同時。
「シャープネス!」
戦闘開始のときに、すでにキーネストを唱え、全員の攻撃力をある程度底上げしているものの、
さらにとどめ、とばかりに攻撃力を向上させる術を上乗せするために、
ユニコーンホーンをかまえ、術を唱えているリフィル。
「
だっと、駆けだし、そして、がっと、足をつきだし、
いまだに動きが停止しているイフリートに、その足をつきだしているリーガル。
三連続の空中回し蹴りを放ち、最後にサマーソルトで締める奥義のうちの一つ。
そしてまた、ちらり、と視線をリヒターにむけたかとおもうと、
だっとかけだしてゆくプレセア。
「陽流・庚!」
「
アイコンタクトはほぼ一瞬。
同時にかけだし、そしてほぼ同時にこれまた技を繰り出しているリーガルとプレセア。
リーガルはその獲物である剣と斧で二度、
イフリートを斬りあげたのち、そして斬りおろしふきとばさんとする。
そんなリーガルと同時に攻撃をしかけているプレセアといえば、
円弧を描く軌跡で二度斬り上げた後、さらに三日月の軌跡の斬撃を放ちゆく。
連続する攻撃にイフリートが一瞬、さらにひるんだのをうけ、
その直後。
「いくぜ!!
「逃げるなよ!
ロイドとゼロスによる複合攻撃。
二人の迅速剣を組み合わせた攻撃が、硬直したイフリートの体を捉えてゆく――
パリッン。
何かが割れるような音。
それとともに、それまで周囲をかこっていた炎の壁が、
まるでガラスのごとく一気に固まったかとおもうと、突如としてかききえる。
「無事にオワッタよう、ですね」
「だね」
そちらをみて、うなづくタバサに、同意をしめしているエミル。
まったく、イフリートもこまったものだ、とおもう。
どうも戦いはじめると、肝心なことをイフリートは忘れる傾向がある。
だからこそ、先ほど釘をさした。
今は、戦いという遊びをしているときではない、と。
そんな会話をしている二人の視線の先。
どうやら試しの試練はおわったらしく、
ふわふわと祭壇の上にただよっているイフリートの前に、
ロイド達十人がそんなイフリートの前に疲労困憊といった様子でいるのがみてとれるが。
かたや、その場に膝をついているもの、息をきらしているもの。
そして、まったくダメージをうけていないようなもの。
様々なれど、
そんな彼らの様子をじっとみたのち、やがて。
「ふむ。ミトスは一人で挑んできたのだが…まあいい。普及点、だろう。
いいだろう。そなたの誓いを我にと示せ」
実際、ミトスは精霊との契約において、ほぼ一人で挑んでいった。
ちらり、とその視線をミトスにむけたのち、淡々とそんなことを紡いでいるイフリート。
「…ミトスって、ほんとうにすごかったんだ」
十人がかりでやっとかてたようなきがするのに。
一人で戦ったなんて、そんな思いがふとジーアスの中にとよぎる。
そんなジーニアスの呟きを横にてききつつも、
「二つの世界がお互いを犠牲にしなくてもいい世界をつくるために。イフリート、その力をかしてくれ」
息をととのえつつ、一歩前にふみだして、イフリートに誓いの言葉をいっているしいなの姿。
「我の猛炎、そなたに貸し与えよう。…それと、セルシウス、久しいな」
「ち。話しかけてきたか」
その言葉とともに、それまで姿をけしていたセルシスウもまた具現化する。
その顔にはあからさまに、嫌悪感がひしひしとうかんでいるのがみてとれるが。
このふたりはまったく、と思い思わずそんな二人の様子をみてため息をついているエミル。
いつも、イフリートがちょっかいをかけまくるがゆえに、
セルシウスが辟易している、というのもラタトスクとしては理解しているが。
テネブラエとアクアとはまた違った形のこの二人。
そもそも、イフリートもそんなにセルシウスにちょっかいをかけなくてもいいものを。
これまでにもセンチュリオン達から幾度も注意をさせたか、その数知れず。
「そもそも、この場にくるまでも試練だというのに。
お前の力でどうやら熱さを半減していたらしいな」
「それがどうした?問題はなかろう?」
というか、ラタトスクが許可した以上、
イフリートにとやかくいわれる必要性をまったくもってセルシウスは感じられない。
「…ああ。たしかに問題はない、な」
いきなりそんな会話をはじめているこのふたり。
「って、セルシウス、あんた、いつのまに……」
しいなが、その姿をみて、とまどったように声をあげているが。
「いえ。たしか、ヴォルトと契約したときも。
反属性てある精霊、ウンディーネがあらわれたわね。それに関係してるのかしら?」
リフィルはリフィルでまさか、さきほどしいながセルシウスを呼びだしたあと、
あれからずっと傍にいたとは夢にもおもわずに、そんなことをいっていたりするが。
たしかに、あのとき、しいながセルシウスを呼び出していなくても、
そしてまた、ラタトスクが目覚めていなかったとしても
セルシウスはこの場に現れていたであろう。
それこそ、ミトスが施せし、楔の役割が解除されたということを伝えるために。
「いっておくが、傍によるな、ちかよるな。いらないことをいうな。暑苦しい」
「…互いに相反ぬとはいえ。そう嫌そうに我をさけるか」
『・・・・・・・・・・』
どうみても、氷の精霊セルシウスはあきらかに、
火の精霊イフリートにたいし、何やら思うところがあるらしい。
そのとげとげしいまでの口調にそのことにきづいたのか、
思わず顔をみあわせているロイド達。
そんなロイド達の様子とはうらはらに、
「仕方がなかろう。我らは互いに相反する存在だ。
というか、お前は暑苦しすぎる。お前がここにとらわれて、
あるいみこの四千年は我としては平穏な心であったのかもしれぬがな」
「なぜに我との付き合いをさける?」
まったく、このふたりは、とおもう。
それゆえに。
『――イフリート?セルシウス?』
これ以上、話しを脱線させるな、という意味合いをこめ、
二体に直接、声を念話にて叩きこむエミルであるが、
今のエミルは壁にもたれかかり、ただしずかに目をつむっているのみで、
まさか精霊達にそんな言葉をなげかけている、などと誰も夢にもおもわない。
ぴくり。
彼らに直接響くように伝わってきた声に、びくり、と二体の精霊が同時に反応する。
つい、いつものように言い合いを始めそうになっていた二体であるが。
そんなことをすればどうなるか。
今、響いてきた声も多少不機嫌さを伴っていた以上、
下手をすればそれこそものすごく久しぶりのお仕置きがまっている。
しかも、センチュリオン達によるもの、ではなくて。
下手をすれば【王】自らの。
それは避けたい。
絶対に。
というか下手をすれば具現化すらできないほどにダメージをうけかねない。
それはもう確信。
それゆえに。
――ここは、予定通りにいくぞ。イフリート。
――だな。これ以上、ラタトスク様の機嫌をそこねぬようにな。
ほぼ一瞬で瞳を交わしあい、アイコンタクトで互いに意見を交わすセルシウスとイフリート。
そして。
「と、ともかくだ。私たちは互いを害する存在だ」
そういう、セルシウスの声は多少こころなしか震えているのは気のせいか。
「では、我らのマナが分断されたのは喜ぶべきことか?」
そんなセルシウスの台詞をうけ、こまれた気のせいか、
多少声をふるわせつつも、半ば棒読みのごとくにいってくるイフリート。
「――世界を揺るがせる事態であることはたしか、だな」
そんなイフリートの台詞にこくり、とうなづきをみせているセルシウス。
それはもう、おもいっきりに世界を揺るがせる事態になっている、といって過言でない。
ラタトスクが目覚めていなければ、それこそわからない、としかいいようがないが。
しかし、現実に王はすでに目覚めている。
だからこそ、二精霊達は嘘はいっていない。
世界を揺るがせる。
それも嘘ではない。
センチュリオン達から聞かされた王の決定は、世界を揺るがすもの、といって過言でない。
もっとも、かつての姿に戻すだけ、といってしまえばそれまで、だが。
「…ふむ。そのとおり…だな」
「…あとはこの、契約者達に任せるしかない。それに、この者達は……」
何やら余計なことをいいかける。
ゆえに。
「――ウティ トェオスティ アエウド
ヂムッティ セヤ ティアン ンズワンススウヌン ティアウムグ?」
低く、それでいてどこか重みのある言葉が、ずんっとその場にと響き渡る。
余計なことをいうなといったはずだが?というエミルの牽制。
「?エミル?」
今、一瞬、エミルの瞳の色が、緑から深紅にそまったような。
そんなきがし、マルタが首をかしげ、そんなエミルにと問いかけるが。
しかし、まじまじとエミルをみなおしてみても、その瞳の色はいつもと同じ。
気のせい?でも?
マルタが混乱しているそんな中。
「「……ウ オムドンディスティエムド」」
エミルが紡ぎしその台詞に、セルシウスとイフリートがうなだれつつも同時に呟き、
そして。
「「…我ら、相反する存在は、お前達に全てを託す。……プディオドンムワン」」
かるく目をとじ、互いに頭をかるくさげてきたのち、
セルシウスとイフリートの体が輝きをまし、
やがて、はじけるようにしてその姿はかききえる。
それと同時、空中にはじけた赤き光が集まっていったかとおもうと、
それはやがて一つの指輪の形をなし、
ゆっくりとしいなの手の平の中にとおちてくる。
どうでもいいが、何を自重を、というのだろうか。
あいつらは。
エミルがそんなことを思っている最中。
「リヒター、怪我はない?」
ちょこまかと、リヒターのもとにかけより、ぺたぺたとリヒターをさわりながら、
リヒターにと問いかけているアステルの姿が目にはいる。
「でも、これでイフリートと契約がすんだったことなんだよね?
イフリートとセルシウス。そしてヴォルトとウンディーネ」
ジーニアスが、ひとつ、ひとつ指をおりつつも、思い返すようにそんなことをいってくるが。
「・・・・・・・・・・・」
一方でリフィルはといえば、さきほどからじっと何かをかんがえるように、
ひたすらその手をあごにあてていたりする。
思うは、さきほどの精霊達の旋律のような言葉。
あの言葉は、ウンディーネとの場において、エミルがいっていたあの言葉とほぼ同じ。
さらに、エミルもまたそんな精霊達にたいし、同じ原語なのであろう、その言葉をもちいていた。
「でも、イフリートってすごいねぇ。火でつつまれてたよ。あの体」
「そりゃ、火の精霊っていうくらいだしね」
リフィルがそんなことをおもいつつ、じっとエミルをみているそんな中。
コレットがふとそんなことをいってくる。
そんなコレットに、首をすくめつつ、ジーニアスがパンパンと服をはたきつつも答えているが。
「さきほどまで、祭壇が赤くそまってたのも、色をうしないましたね」
青く輝くかぎやきすらなくなり普通の台座がそこにあるのみ。
アステルが残念そうにそんなことをつぶやきつつも、
先ほどまでイフリートが捉えられていたそれの前にたち、
腰をかがめて、その装置を調べながらもそんなことをいってくる。
どうやら、アステルの興味はこの設備そのものにあるらしい。
「そういえば。前にきたときも、ここ、詳しくみることなかったんだよな。
さっきまで、この部屋全体もあつかったけど、その暑さもなくなったよな」
以前にきたときは、この地において、コレットが翼をはやした。
「ここで私、翼もらったんだよね~」
コレットがそんなことをつぶやきつつも、ふわり、とその背に桃色の翼を展開する。
「あのとき、僕がおもしろがって、幾度も羽の出し入れみせてもらったんだよね」
ジーニアスもそのときのことを思い出し、何やらそんな会話をしているのがみてとれるが。
そんな中、いつのまにかリフィルがかつて一度みたことのある装置。
それを取り出し、何やらいじりはじめているアステル。
「アステル?あなた、何を……」
それは、リフィルが氷の神殿でアステルが使用していたのをみたことがある機械。
「あ、やっぱりです。この奥に、まだどうやら道がつづいているみたいです」
かちゃかちゃと、何やらいくつか箱のようなそれをいじりつつも、
その反応をみてアステルがじっと、祭壇の奥の扉をみていってくる。
「?でも、入口みたいなのはないぜ?」
ぺたぺたと、アステルが示したその先。
その先にある壁をぺたぺたとさわりつつ、首をかしげ、
そんなアステルを振り返りながらもいっているロイド。
ロイドがぺたぺたとさわりし壁には、特徴のあるセンチュリオン、イグニスの紋様と、
そして火の精霊イフリートを示す紋様が描かれており、
その下のほうに小さく蝶の紋様もまた刻まれていたりする。
「これは…!リフィルさんたちからきいた、紋様の一つにまちがいないですね」
船の中で、リフィル達が海賊船カーラーン号の中でみた、という、
センチュリオン達を示す紋様。
それをリフィルから聞きだし、書き写していたアステルが、
そこに刻まれている紋様にきづき、何やらそんなことをいってきたりする。
リフィルはリフィルであのとき、興味があったがゆえ、
全ての紋様を彼女なりにきちんと別に書き写していたがゆえ、
アステルに説明することができている、のだが。
…もっとも、それはラタトスクからしてみれば、してほしくなかったのだが。
しかしだからといって止めれば下手に勘繰られる以上、
好きにさせるより他になかったのもまた事実。
「何だと!?ふむ。たしかに……」
アステルの言葉をうけ、だっとその場にかけよっていき、
これまたリフィルもその場を周囲深く観察しはじめている様がみてとれるが。
「…先生が二人いる。と、ともあれ。よ~し、これで計画通りってか?」
ぽつり、とそんな意見を互いに交わしあいはじめたリフィルとアステルを横目でみつつ、
気分をかえるがごとくに、ロイドがあかるくそんなことをいってくる。
「火の精霊との契約の証。ガーネット、か」
ぎゅっと、さきほどイフリートから託された、ガーネットの指輪をにぎりしめつつ、
ぽつり、とつぶやくしいな。
「えっと、エミル、さっきのは……」
ミトスがさきほど、エミルがつぶやいた言葉のようなもの。
それがどうしてもきになるのか、エミルにといかけようとするが。
「でもよぉ。二つの世界が切り離されたら。俺様たち、もうあえないんじゃねえの?」
そんなミトスの台詞を遮るように、それでいて不自然でないように、
首をすくめ、それでいて手をすこしばかりお手上げ、とばかりにあげたのち、
いきなりそんなことをいってくるゼロスの姿。
ゼロスからしてみれば、ミトスにエミルのことを詳しくしれるのはできれば避けたい。
そもそも、エミルがどの勢力の味方をするかわからない以上、
危険なことは避けたいのが事実。
ゆえに、あまりエミルに目立ったことはゼロスとしてはしてほしくないのだが、
しかし、さらり、とエミルが行っている以上、それとなく自分がストッパーになるしかない。
そんな少しばかり決意を決めたがゆえの質問の遮り。
この場にセンチュリオン達がいれば、よくやってくれました。
と口ぐちにまちがいなくゼロスを褒めるであろうその行為は、
しかしミトスにとっては思わず顔をしかめる行為でしかない。
「何で?レアバードで行き来すればいいじゃん」
そんなゼロスの至極自然ともいえる話題変換をした理由。
その理由にきづくことなく、ただ純粋に首をかしげ、そんなゼロスに答えているロイド。
「今はマナの流れによって繋がっているから、レアバードでも移動できるようだけど……」
そのように取り扱い説明書に追記、としてかかれてあった。
「だけど、世界のマナが切り離されてもそれが可能かどうかわからないわ。
おそらく、二極からのの移動は可能、でしょうけども」
しかし、こちら側、シルヴァラントで異界の扉のような場所がある。
などリフィルはきいたことすらない。
一番確実なのは、あの場からの移動であろうが。
ロイドの台詞に、リフィルがそんなことを追加説明的にいってくる。
どうやら、その場の扉をしらべつつも、
一応、ロイド達の様子や台詞にも気にかけて、はいるらしい。
それゆえに、振り向くことなく今だに周囲の壁をいったりきたりしながらも、
ロイドの疑問にこたえているリフィルの姿がみてとれるが。
「すると…マナを切り離した瞬間。
二つの世界は永遠の別れをむかえることになるやもしれぬということか?」
リーガルがそんなロイドの疑問につぶやき、
「そんな。最後の精霊と契約するときが、皆とのお別れっていうことなの?」
コレットもまた困惑したように、皆をみつつそんなことをいってくる。
「でもさ。世界を一つにもどせば、それもなくなるんだろうし。永遠ってことはないんじゃないのかな?」
「たしかに。ロイドのいうとおりだと僕もおもいます」
リフィルたちから説明をうけていた内容は、
何でも精霊と契約をかわしたのち、レネゲードが何らかの方法をもってして、
空にあるという巨大彗星、クルシスの拠点である彗星のマナを大いなる実りに照射して、
おおいなる実りを発芽させ、伝説にある大樹をよみがえらせる、というしろもの。
もしも、彼らがいうように、世界が一つにもどるのならば。
それこそ、陸続きでないにしろ、今のように空間が異なる、というような世界ではなくなる以上、
いつでもその気になればゆききは可能となるはずである。
ゆえに、ロイドの台詞に同意しつつもこれまた壁をしらべながらもいってくるアステル。
「ロイド、あなたにしてはさえてるわね。たしかにレネゲードのいうように、大いなる実りを発芽させ。
そして世界を一つにもどせば、ふたつの世界というよりは、
二つの国、という括りになるでしょうし、そのとおり、なのだけど」
「…うわ。ロイドがそんなこというなんて。地震でもおこるんじゃ…」
「何だと!ジーニアス、そりゃ、どうい……」
一歩退きながら、さも天変地異がおこる、とばかりにいいきるジーニアスの台詞に、
ロイドが思わず文句をいいそうになるが。
刹那。
「!皆、何かにつかまりなさい!」
はっとしたような表情をうかべ、必死にさけぶリフィル。
「!これは!」
突如としてマナが乱れを感じ取り、リヒターもまた声をあらげる。
その直後。
ぐらっ。
グラグラグラ…ドオオン!
始めはゆっくりと、しかし、直後として巨大な揺れが彼ら一行にと襲いかかる。
「うわ!?本当に地震がきたぁ!ロイドがへんなこというから!」
「俺のせいかよ!うわ!たってるのもきついぞ!これ!」
たっていることすらままならないほどの巨大な揺れ。
冗談半分でいったジーニアスの言葉がまさに現実となったかのような、
もののみごとにタイミングも一致した揺れが突如として発生する。
その場に手をつき、どうにか体制をととのえつつも、
何やらいいあうそんな子供達の会話をききつつ、
「馬鹿をいっているんじゃありません!
おそらく、これはマナの楔とよばれしものを解放したのが原因のはずよ!
いくらロイドがめずらしくまともなことをいったからといって、
そのために本当に天変地異が招かれてたまるものですか!」
ばかばかしい言い合いをしている弟ジーニアスとロイドにたいし、
ぴしゃり、とリフィルが訂正をいれているがそういうリフィルもまた、
たっているのがやっと、らしく、
その手を壁にあてて、何とか姿勢をたもっていたりする。
「つ、机はないんですの?お兄さま?!」
「セレス。こんなところにそんなものは絶対にないよ!ってまだ揺れてるし!」
ぐらぐらと、始めはつきあげるような揺れは、やがて左右に揺れ始め、
部屋全体がぐらぐらとゆれているのがみてとれる。
この部屋そのものが、装飾類のない部屋だからいいものの、
もしも何か装飾系がはいった柱などがあれば、まちがいなくこの揺れで崩れるだろう。
それほどまでのの巨大な揺れ。
それぞれ、必死で体勢をたもつ最中、やがてゆっくりとその揺れは収まりをみせてゆく。
「び、びっくりしたぁ。かなり長い間、ゆれたよね?」
マルタがおそるおそる、手と膝をつき床にへたりこんでいた状態からおきあがりつつ、
困惑したようにつぶやけば、
「たしかに。最近、地震がやけにおおいですね。
そういえば、皆さんがヴォルトと契約した後、
頻繁にそれこそ数日に一度は必ず地震は観測されています」
ふと思い出したかのように、リリーナがそんなことをいってくるが。
事実、彼らがあのときあの場にて契約をかわしてからのち。
世界で地震が頻々に報告されている。
それまで滅多とそんなことなどなかったというのに。
ゆえに、人々の中では不安がさらに高まっていたりする。
そこにつけこむかのごとくの教皇の行動。
すなわち、神子ゼロスの手配。
ゆえに、テセアラの人々の不安はあるいみでピークに達していたといってよい。
神子を教皇が害そうとしたがゆえ、その警告、として地震が頻発していたのではないか、と。
そして、いまだに教皇がつかまっていない現状では、
天がそんなテセアラの人々を許さずに裁きを与えているのではないか。
そんな不安がまことしやかに、テセアラの人々の間にはうずまいていたりする。
そしてまた、シルヴァラントのほうはといえば。
神子コレットが世界再生を確実に果たしているがゆえ、
ディザイアンが悪あがきで最後のあがきとばかりにいろいろとやっており、
その結果、いろいろとおこっているのでは、という認識がなされていたりする。
そのあたりのことは、ニール達の口から絶海牧場からもどったのちに聞かされている。
「まあ、マナの流れ、しかも四千年にもわたり、マナで繋がっていたという二つの世界。
空間がずれているとはいえ、マナでつながっていた世界。その仕組みをかえているんです。
大地にも影響がでてもたしかにおかしくはない、ですね。
たぶん、僕の予測ですが、精霊と契約するたびに、
これらの地震のような異常は互いの世界においてみられているかと」
アステルが自分の考えをその場でしめし、
「うむ。たしかに。世界を切り離す、という大事業だ。
大地が悲鳴をあげていてもおかしくはないであろうな」
同意するかのように、リーガルもまた、アステルの説明にこくこくとうなづいていたりする。
「…でも、まだこの部屋にいたままで、よかったです。ここから外にでてたら……」
『あ』
ぽそり、とつぶやいたプレセアの言葉に、
それぞれがそれぞれ顔をみあわせているロイド達。
たしかに、精霊の試練をおえたあと、しばらくこの場にのこっていたからいいものの。
もしも、外にでていたとすれば。
「…下手をしたら、溶岩の中におちてた?うわ…命びろい?」
その事実にきづいたのか、ジーニアスが震える声でそんなことをいってくるが。
「とりあえず。外にでましょう。いつ、余震がくるかわかないもの。慎重に、ね」
あれほどの巨大な地震。
揺れ返しがあってもおかしくはない。
この地をもっと調べたいのは山々なれど、皆を安全に避難させるほうが何よりも最優先。
皆が皆、いきなりの地震をうけ、先ほどのエミルの態度。
すなわち、精霊と何か会話していたと、ということすら失念しており、
ゆえに、ミトスですらエミルにそのあたりのことをこれ以上追及するのを忘れていたりする。
「とりあえず、いきません?ノイシュも外でまってるでしょうし」
「外…は!?まさか、今の遺跡でさらに外の遺跡がこわれているとかないだろうな!
ゆくぞ!これ以上の偉大なる歴史の損失になっていてたまるかぁぁ!」
「「「えっと……」」」
あるいみまたまた突如としてその様子を変貌させ、
かけだしてゆくリフィルをみつつ、戸惑いの声をあげている、マルタ、ミトス、セレスの三人。
「ったく。先生はしかたねえなぁ。俺たちもいこう」
一人でさきに転移陣にのり、その先にいってしまったリフィルの後ろ姿をみおくりつつ、
がしがしと頭をかきながら、ロイドがそんなことをいってくるが。
確かに、いつまでもこの場にのこっていてもしかたない。
ゆえに、それぞれがそれぞれ、顔をみあわせつつも、
ひとまず、この場から離れることに。
~スキット・地震あと&遺跡をでてすぐ~
ロイド「しっかし、びっくりしたなぁ。うお!?またゆれた?!」
どうにか、急いで遺跡の外にでたはいいものの。
その途中、いくどかぐらぐらとゆれかけては、あわててその場にそれぞれかがみ、
たったままで体勢が不安定となりて、下になみなみとある溶岩におちないようにときをつけた。
ようやく一息つき、近くにいるであろうノイシュを呼寄せたその直後。
再び揺れが襲いくる。
リフィル「今回の揺れは、前のヴォルトとウンディーネとの契約より、
かなり揺れが激しい、わね。それに大きな揺れの回数も多いし」
アステル「ここまで大きな揺れは、僕もこんなに頻繁に感じるのは産まれて始めてです」
マルタ「エミル~、私、こわい!」
エミル「?ただの地震だよ?」
世界を元にもどすために、どうしても避けられないこと。
ゆっくりと、しかし確実に大陸の移動ははたしている。
ノームとシルフの楔がひとまず取り払われたとき、
より盛大に大地は移動させる予定、ではあるが。
ジーニアス「僕、てっきり、ロイドがまともなことをいったから。
世界がぴっくりして、地震になったのかとおもったよ」
ロイド「どういう意味だ!」
しいな「たぶん。リフィルのいうとおり。
精霊の楔ってやつを解除してるからの揺れ、なんだろうけどね」
ミトス「・・・ねえ。このままこんなに巨大地震がおこるのなら。
世界はこのまま、でもいいんじゃないのかな?」
ロイド「何いってるんだよ。ミトス。このまでは下手したら世界が滅びるかもしれないんだぞ?
それに、このままじゃあ、二つの世界が互いに犠牲になるばかりだ」
ミトス「…うん。そういってたね。…ごめん、へんなこといって」
ミトスもこの地震がまちがいなく、自らがうみだした、精霊の楔。
あれが抜けたからだ、と自覚している。
彼らはそれを自覚していても、なお、その仕組みを取り払おうとしている。
その結果、不安定になった大いなる実りがどちらかの空間にひきずりこまれる可能性。
それを完全に彼らは考えてもいないのだ。
と今のロイドの台詞からいやがおうにも理解する。
理解せざるをえない。
それを行った結果、何がおこるのか。
彼らはその可能性にたどりつくことなく、ただ、今の現状。
すなわち、衰退世界と繁栄世界。
それらの仕組み、互いの世界が犠牲にしあう仕組みをかえる、そのためだけ。
にどうも行動しているようにみえる。
ゆえに、ミトスはそれ以上はだまりこむ。
どちらにしろ、これで地上が滅んだとしても、
あらゆる意味で人間達の行いによる自業自得。
そう、おもっていたはず、なのに。
何だろう、このおしよせてくる、何ともいえない不安は。
リーガル「不安。なのだな。しかし、やるしかなかろう」
そんなミトスの態度に不安ゆえに黙ったのと判断してか、リーガルがぽつり、といってくる。
セレス「それより、外にでたはいいけど、お兄様、これはいったい…」
ゼロス「砂嵐、だな。しかもかなりひどいぜ、こりゃ」
外にでたはいいものの。
一寸先ほどみえないほどの砂嵐。
風がひたすらにふきつけ、砂が舞っている。
まだ完全に外にでたわけでなく、扉の少し奥にいるがゆえ、
吹きつける砂はさほど感じないが、このまま外をあるくとすれば。
まちがいなく砂に行動は阻まれてしまう、であろう。
pixv投稿日:2014年2月8日某日(Hp編集:2018年4月22日(日)
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ウス ドインス ムイティ テティティンディ
~豆知識?技説明~テイルズ用語集より参考抜粋~
翔舞烈月華(しょうぶれつげっか)
円弧を描く軌跡で二度斬り上げた後、さらに三日月の軌跡の斬撃を放つ
陽流・庚
剣と斧で二回斬り上げたあとに斬り下ろして吹き飛ばす特技。これだけ属性がない
衝破十文字(しょうはじゅうもんじ)<複合技
剣士2名の瞬迅剣系の技を組み合わせた複合特技。
二人が対象を交差するように駆け、貫く。
発動条件の簡単さから序盤によく見る複合特技だと思われる。
ダメージ判定は使用者双方1ヒットずつ、物理攻撃力に依存。
ロイドは突きの攻撃力が適応。
物理判定の複合特技の中では最も威力が低く、ヒット数も少ない。