まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

pivixさんに投稿していた話の区切りとは変えてあります。容量的に……

そういえば、ふとおもったんですが、ロイド達が牧場に潜入している間。
つまり、残された一行側の話しもすべきかな?
一応あるにはあるんですけど…そのあたりをどうしようか?と悩み中。
回想みたいにして合流後、ちらちらとだしてゆくか、がっちりとするか…
ううむ…
あと、念のため。少しばかり、絶海牧場の仕掛けというか、
ある程度は元に近いままにしていますが、多少のアレンジが建造物の構造的、
ちょっとぱかりアレンジがくわえてあります。
(例:転送陣によって別のエリアのあたりに繋がってたりとか)
まあそこまで詳しくはかく必要もない(移動だけなので)してないですが。
さて、今回で絶海牧場の主、ロディルと再び再開?です。
え?どこかであってたっけ?という人は、前回、飛竜の巣でも、
ロイド達はロディルと出会ってます。逃げられてもいますけど。
さて、あれだけひっぱって、何かあるように出てきた魔族デミアンさん。
今回でログアウトですv
ついでにログアウトになるのはロディルもですv
魔族と契約っぽいことをさせていた理由。
ロディルの体が綺麗に消えていたこともあり、ゆえにそれにともなう伏線もどき、
という形で魔族はでてきていました。あしからず。


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重なり合う協奏曲~絶海牧場~

絶海牧場、とよばれし人間牧場の地。
そもそも、この地においてはかつて、ラタトスクがテネブラエ達に命じ、
ちょっとした幻影の最中にいまだにこの施設全体は覆われているはず、なのだが。
この地に残している魔物達から、あらたな人間達が苗床、もしくは労働力、
として連れてこられた、という報告はどのセンチュリオン達からもあがってきてはいない。
ボータ達が容易していた船にのりて、小舟にわかれて島へと上陸する。
入口は小島が点在している最中の一か所に位置しており、
どの島に入口があるのか、というのは島の一つ一つを調べない限り、
どこから人間牧場にはいることができるのか、普通はわからない。
このあたりは、また座礁する船も多く、滅多と普通の漁船などもよりつかない。
もっとも、このあたりに牧場がある、としっているがゆえ、
滅多とシルヴァラントの人々はこの付近に近寄ってはこないらしいが。
位置としてはイズールドとパルマコスタをつなぐ、地図でみる海の位置からしてみれば、南、
すなわちほぼ南東のほうにこの島は位置している。
といっても、パルマコスタのほぼ下付近にある島、ということにはかわりがないのだが。
この辺りは島が点在しており、漁業をするにはたしかに魚の宝庫、なのではあるが、
ディザイアンの脅威もあり、滅多と人が近づかない。
そんな島の中にある一つ。
島につきだしている岩肌をくりぬき、ちょっとした洞窟がみてとれる。
それが海底につくられている施設への唯一徒歩でいける出入り口。
それ以外は空を利用した移動になるらしく、つまりは逃げ出すにしてもなかなか逃げられない。
そんな仕組みになっていたかの施設。
もっとも、今はかの地に捉えられていた収容者は全て解放しているはずだが。
幻影を解くように、という命令をしていない以上、
かの地においてはいまだに幻影は有効となっているはず。
だからこそ、この地に来る前に、彼らに飲み物をエミルは手渡した。
彼らもソルムの幻影に囚われてしまわないように。
「ここが?」
島が点在している中の一つの島。
たしかに、島に唯一ある岩肌の中央付近にぽっかりと開いている穴らしきものがみてとれる。
それをみて、ロイドがぽつり、とつぶやけば、
「そうだ。我々はここの魔導炉に用がある。
  ここをまっすぐに進めば牧場へ繋がっているはずだ」
この地まで先導するように導いてきたボータが入口の前で立ち止まり、
こちらをざっとみわたしつつもいってくる。
「わかった」
その台詞にロイドがこくり、とうなづけば、そのままボータが先にすすもうとし、
そしてふと何かを思いだしたのか、ぴたり、と立ち止まり、そして。
「そうだ。一つ言い忘れていた。お前達。
  行く先々の牧場で牧場を破壊していたようだが。
  魔導炉は大いなる実りの発芽のためにかかせないのだ。ここまで破壊するなよ?」
それでなくても、二つの魔導炉が失われてしまっている以上、
これ以上、すぐにつかえるであろう設備が使用できないのはかなり痛い。
それはすなわち、大いなる実りに地上からマナを照射できなくなってしまうということ。
それゆえのボータの忠告。
言いたいことだけいい、ボータは部下達とともに、そのまま穴の中にその身を投じてゆく。
「だってよ、リフィル」
ボータ達の姿がみえなくなったのをうけ、しいながちらり、とリフィルをみて言ってくる。
そもそも、牧場の二か所を破壊したのはリフィルであることをしいなはしっている。
うち一つのアスカード牧場においては、しいなもまたその場にいた。
「……別に意味なく破壊していたわけではなくてよ」
破壊したのは、再び牧場を利用できなくさせるため。
これ以上、ディザイアン達が人間達を収容できなくさせるため。
まさかあの自爆装置であそこまで跡かたもなくなくなっているなど、
リフィルは夢にもおもっていなかったが。
よくて何らかの建物の残骸がのこっていて当たり前、そうおもっていたというのに。
もののみごとに何もなかった。
そのことに対し、多少不信感をもちつつも、しいなの台詞に深いため息とともに言葉を紡ぐ。
「しかし。やはりその、魔導砲なるものを無効化させるには、
  管制室にいく必要があるようだな。ここが牧場、とよばれている施設の入口、か」
リーガルもまた思うところがあるらしい。
リーガル達はロイド達からディザイアン達がつくりし人間牧場。
その概要を聞かされている。
それは人を捕らえ、無理やりに人の体にエクスフィアをうめこみ、
人間を苗床にしエクスフィアを製造する場所である、ということを。
直接に体に埋め込まれてしまったエクスフィア。
要の紋を取り付けるしか方法はない。
無理にとろうとすれば、それこそアリシアのように異形と化してしまう。
最も、リーガル達は知らないが。
魔物の力を利用すれば、エクスフィアとよばれし精霊石と、器とを切り離すことが可能。
ということを。
そもそも、その方法もちい、エミルは助けだした人々から、精霊席の全てを皆解放していたりする。
以前、アリシアの一件でそのあたりを把握しているかどうかは怪しい所。
「俺の勘ではたぶん一番奥だな。ここだときっと最上階だぜ」
「何をもってして最上階、というのかわからないけどさ。
  施設にはいっていうのならばともかく、ここより上はないんだから。
  一度、僕ら地下にいくことにならない?」
ロイドがきっぱりと自信満々にいってくるが、ここより上には設備らしきものはまったくない。
というより、かの施設は海の中に作られている。
「最上階、というよりは、一番地下、ということもありえるわね」
「うっ」
エミルの指摘にさらにリフィルがとどめとばかりにいってくる。
「もう何度もこういう場所にきてるからってロイド。自信満々にいいすぎ」
そんなロイドにジーニアスが呆れたように言い放つが。
「と、とにかく。そのかんなんとかって場所にいこうぜ」
どうやら分が悪い、とでもおもったのか、ロイドがずんずんと一人先にと歩きだす。
「まあまあ。んじゃまあ。その管制室とかいうところを探そうぜ~」
ゼロスの台詞にリフィル達もまたこくり、とうなづく。
みれば、どうやら岩にあいた穴には人工的な細工が施されており、
この穴はまっすぐ、地下にむかって伸びているらしい。
エミルが以前ここにきたときは、そのまま直接移動したがゆえ、このあたりに直接おりたってはいない。
ともあれ、そのまま岩にあいた穴を進んでゆくことしばし。
やがて、どうやら施設にむかうため、なのであろう。
海の中に伸びている通路らしき場所にとたどりつく。

分厚いガラスで覆われたその場所からは、外を泳ぐこのあたりの海の生物達がみてとれる。
こういった場所でないのならば、
ちょっとした水族館の遊歩道、といっても差し支えはないであろう。
「すっげ~!周囲を魚がおよいでるぜ!魚が!」
「すご~い。でもこれって、このガラス、割れないのかなぁ?」
そんな光景をみて、現状を忘れているのか、はしゃぐようにいっているロイド。
コレットはコレットで感心したように周囲のガラスをコンコンとたたいているが。
「ふむ。こういう場所でないのならば。これは娯楽施設にもつかえそうだな」
リーガルが何やらこの光景をみて、一人考え込むかのようにそんなことをいっているのがみてとれる。
「ああ。水族館ですか?」
「うん?何だ?それは?」
「え?水にすむ生物達を一般の様々なものたちにみせるための設備、ですけど…」
そこまでいって、ふと思い当る。
そういえば、今のこの地上にそのような設備は一つもなかったはずである。
テセアラ側にもそのような設備はいまだできていなかった。
近いようなものはあるにはあるが、それは水槽にいれたちょっとした規模程度の代物。
「ふむ。水族館。か。わるくないな。うむ。旅がおわればさっそく会議にかけてみよう」
こういう場所だ、とわからなければ、この光景ばとこか心がやすまる。
ガラスの向こうでは悠々と泳いでいる魚たちの姿がみてとれることから、
何もないのであればぼ~とみていてもあきないであろう。
「エミル、あなた……」
水族館、なんて言葉はリフィルも知らない。
そもそも、かの施設があったころは、天地戦争が始まるより前のこと。
つまり、今いきているものたちが知るはずのない知識。
もっともそんなことをリフィル達が知るはずもなく。
ゆえに、さらり、といったエミルの台詞に違和感をもつリフィル。
まるで、そう、今のエミルのいいまわしは、そのような設備があった。
それをしっていたかのごとくの言い回し。
そんな水族館なる施設など、リフィルはきいたことすらない、というのに。
先ほどのエミルがユアンにといかけた問いかけ。
エミルの得体の知れなさは今に始まったことではないが、
だからこそ、リフィルはエミルに対し戸惑いを隠しきれない。
「ったく。たしかに綺麗な光景だけどさ。
  ここがどこにつづいているのかあんたら、わすれるんじゃないよ」
しいなもこの光景には心がほっとする、というその意見がわからないわけではない。
が、ここは人間牧場の施設の一つ。
「…使いどころさえまちがえわなければ、ヒトはこんなものをつくりだせるんですけどね」
ぽつり、とつぶやかれたエミルの台詞に、誰もがうなづかずにはいられない。
人の命を命ともおもわない設備でなく、娯楽施設としてのものならば。
これはたしかに様々な人々を楽しませ、また癒せる場所になるであろうに。
海の中を斜め下につづくようにつくられている海中通路の遊歩道。
周囲に魚が泳ぐさまをみながらも、長い通路を進んでゆくことしばし。
「あ、あれみて!」
やがて、視界の先。
魚が周囲に泳ぐその先に、海の中にぽっかりと不釣り合い、ともいえる建造物。
それらしきものがみえてくる。
どうやらこの通路はそこにむかってのびているらしい。
よくよくみれば、その建造物らしき上にどこかの小島の一つ、なのであろう。
その島の大地らしきものもみてとれるが。
光がひとつもない海の中、その建造物からいくつもの光がもれだしている。
その光にむらがるようにして、様々な魚達がよっている光景もまたみてとれるが。
コレットの台詞に全員がそちらをみて、思わず顔を見合わせる。
そして。
「どうやら、あれが絶海牧場、とよばれている場所、ね。
  どうりで、どこにあるかわからない、といわれてたはずね。完全に海の中にある施設だなんて……」
リフィルの台詞に、
「そういえば、姉さん。ここ、海の中なのに平気なの?」
ふとジーニアスがきになっていたのか、そんなリフィルに問いかける。
「ん?何をいう!ジーニアス。いくらここが牧場とはいえ、
   海の中につくられている建物、ということにはかわりない!
   ということは、あるいみでこれもまた遺跡の一つ!」
「…うわ。先生、いつのまにか遺跡モードになりかけてたんだ」
ジーニアスの台詞にきっぱりといいきるリフィルの台詞に思わずロイドが一歩退くが。
「うん?リフィルは海が嫌い、なのか?」
そんなジーニアスのいい分に、リーガルが首をかしげつつ問いかける。
「そういえば、ここ海の中なのにどうして息ができるのかなぁ?
   周囲にお魚さん達がおよいでいるから水の中、なのに」
「いいところに気がついた!コレット!これをみろ!ここに刻まれしは魔科学による文字。つまり…」
リフィルが周囲、すなわち自分達があるいている通路の横。
そこにあるいくつかのアーチらしきものに刻まれている文字。
それを示し、いきなり説明モード。
「ああ。もう。先生、今はそんなことより、とっとといこうぜ!」
「ですね。…できたら、囚われているかもしれない人達を解放してあげたい、です」
「…姉さんはほっとこ。みるかぎり一本道だから問題ないでしょ」
どうみても一本道。
ゆえに先にすすんでも、道に迷うようなことはないであろう。


長い、とにかくひたすらに長い、海中通路を進んでゆくことしばし。
やがて、どうやら建造物の前にまでたどりつく。
ボータがどこから手にいれたのかはわからないが、これをつかえばいい。
とここにくる少し前に手渡されていたカードのようなもの。
それを入口の前にある機械のようなものに通すように、といわれていたとおり、
そこにある機械のような何か。
どうやらカード一つがはいるかのような細い穴がみてとれることから、
ここにいれるのだろう、と予測をつけ、ロイドがその穴にカードを通すと、
『ピ。認証いたしました。ゲートを開きます』
どこからともなく機械的な声が響き、目の前の頑丈な扉がゆっくりと開かれる。
それぞれ顔をみあわせ。
「ここから先は、ディザイアンの拠点よ。気を引き締めていきなさい」
「わかったよ。先生」
「了解、姉さん」
「海の中にこんな建物つくれるなんて、すごいね~」
「…あたしゃ、こんな状況なのにそっちに意識がむくあんたがすごいよ。コレット…」
三者三様。
それぞれリフィルの言葉にうなづくもの、そして別の意味で感心しているもの。
ともあれそんな会話をかわしつつも、扉をくぐる。
扉をくぐった先は、どうやらちょっとした広さの通路らしきもの。
つまり、まともな道、というものではないらしい。
はいってすぐにちょっとした空間があり、そこかに三つにわかれた道がみてとれる。
道の下を覗き込めばどこまでつづいているのかわからない、深い穴となっており、
落ちればまず確実に命はないな、とロイド達におもわせるほど。
それほどまでに、暗く、底がみえない穴がぼっかりと開いている。
左右の道をすすんでみるが、
その先の扉は閉じられており、どうやらまっすぐにしか進めないらしい。
まっすぐに進んだ先の扉をくぐったさきには、歩けばその足元が光る床らしきものがあり、
一歩すすむごとに、後方に戻れないかのように、床から光の壁のようなものが現れ、
後退できなくなっていたりする。
「興味深い!ここもこのような仕掛けがあるのか!」
「あ~。はいはい。リフィル、ともかく、いくよ」
その仕掛けをみて興奮しはじめるリフィルを横眼に、あきれたように先にとすすむしいな達。
どうやらリフィルはこの設備における仕掛け、それに興味をひかれたらしい。
しかもこの仕掛けはどうやら床全体を光らせなければ、先につづく道。
それが閉ざされているっぽい。
それぞれ試行錯誤しつつも、何とか光る床を全て光らせるロイド達。
そんな光る床の仕掛けがある部屋を進んでゆくと、今度は縦にと伸びている、
丸いような穴のような場所にとたどり着く。
上を見あげてもどこまでもつづくその穴は、どうやらこの設備内。
全てに通じているエレベーターを兼用しているらしい。
「あ、力の場があるよ!」
コレットがふと、その部屋の隅に、みおぼえのある力の場、とよばれているものを発見し、
それを指差し声をだす。
「よし。ロイド!お前のソーサラーリングをそれにかざしてみろ!」
「…へいへいっと。…先生、いつまで遺跡モードなんだろう……」
こんな状態になっているリフィルに逆らってはろくなことはない。
そうおもうがゆえに、素直にそれにちかづき、指輪をかざす。
「…何だか不思議な音がするな」
リングの属性が変化したらしく、不思議な旋律をかもしだす。
「!?これは!ソーサラーリングの音にこの施設の機械が反応している!」
共鳴するような響きとともに、機械が作動しているのを感じ取り、
リフィルがはっとしたように叫んでいるが。
そういえば、ここの設備はそのような仕掛けがほどこされていたな、とふとおもう。
もっとも、あのときこの場にきたときは精霊体であったがゆえに、
まったくもってエミルには何の意味をもなさなかったのだが。
「わかった。ならここではこの音が鍵のかわりなんだ」
音が鍵のかわり。
それはまるで、アスカード遺跡の地下にあったあの遺跡のごとく。
あれもまた、風によってつむぎだされる鐘の音が、仕掛けの解除となっていた。
「俺もそうおもった」
『・・・・・・・・・・・・・・・嘘(ね)(だ)(だな)(ですね)』
ロイドの台詞に、
リフィル、ジーニアス、リーガルとゼロス、そしてプレセアの声が一致する。
「嘘でもないんじゃないのかな?リフィルさん達が今いったからそう思った。ということでは」
「…エミル。あんた、それとどめだから」
にこやかにいうエミルの台詞にしいなが苦笑しながらいってくるが。
「うわ~。音で、なんて。鐘をならして仕掛けが解除したあの遺跡みたいだね。ロイド」
「お、おう」
「あの遺跡…そういえば……」
コレットの台詞をきき、ふとしいなが思いだすのは。
あのときのあれは、白昼夢だったのだろうか。
エミルがあの部屋の中で扉をくぐったさきにあった、あのあれは。
それはエミルがウェントスを目覚めさせたときのこと。
「それより、ここ、エレベーターになってるみたいですよ。下とか上にいけるみたいです」
エミルが部屋の中央にある円陣らしきもの。
その上を調べるようにすっと腰をかがめ、そしてリフィル達をみながらいってくる。
元々しっていることではあるが、今まさに調べています、というような格好をとっているのは、
そのほうが何かと詮索されないであろう、という思いゆえ。
「で、どっちにいきますか?上?それとも下?」
「管制室は絶対に上!」
「…まあ、上でいいんじゃないかい?」
絶対、といいきるロイドにあきれつつも、しいながため息とともにいってくる。
どうやらいっても無駄、と判断したらしい。
「ともかく、いきましょう。上にいくためは…これね」
円陣らしき上というかそこにある小さなバネルのような装置。
それがおそらくは起動するための鍵なのであろう。
そうおもい、リフィルがそのタッチパネル式であるそれにふれるとともに、
「皆、この円陣の中へ」
リフィルの言葉をうけ、九名全員が円陣の上に足をのせる。
それとともに、リフィルがすこしばかりパネルを操作する。
それとともに、グンッ、という音ともに、ロイド達の足元。
すなわち円陣がかかれていた床が一気に上にと浮かび上がりだす。
「うわ!?床がうごいたぞ!すげぇ!」
「ふむ。エレベーター、か」
興奮するロイドに淡々とつむいでいるリーガル。
あるいみで対照的ともいえるその光景。
ガコン。
床はいっきに上昇していき、やがてまだ上があるであろう、にもかかわらず
ガコン、という音ともにとある場所にて停止する。
周囲に別の床があることから、どうやらどこかの階らしき場所についた、らしい。
「あれ?まだ上があるのに、これ、これ以上はあがらないのか?」
ロイドが首をかしげつつといかければ、
「そのようね」
リフィルがいくらパネルを操作しても、うんともすんともいわない。
それどころか、とある文字が出現する。
「…どうやらここから上は何かの作業が必要、のようね」
これ以上先は何かをしなければいかれない、のであろう。
「みたかぎりでは、この牧場にあるエレベーターはこれ一つ、のはずよ」
それ以外にそれらしきものはみあたらなかった。
閉じられていた部屋のほうにあるのかもしれないが。
そういくつもある、とはおもえない。
「それにパネルにはまだこの先の階があることも表示されているわ。
  すなわち、ディザイアン達もまたこのエレベーターを使って先に進んでいるはずよ」
「なーるほど。だとすれば、話しは簡単、だな」
「ええ」
「「「?」」」
意味がわかったかのようにうなづくゼロスとリフィルの会話をききつつ、
ロイド、ジーニアス、コレットが首をかしげる。
「もしかして、リフィルさんたち。ディザイアンとかいうものたちに、うごかしてもらうつもりですか?」
そんなエミルの素朴なる問いかけに、
「つまり、動かさるをえない状況をつくる、ということ、か?」
リーガルもまた思いいたったのか、手枷をつけているその手を顎にあてつついってくる。
「さっすが先生!でも、どうやって?」
具体的にはどうやるのか、それがロイドにはわからない。
「騒ぎを起こしましょう。そうね。収容されているであろう人達に騒ぎでも起こしてもらいましょうか」
ちょっとまて。
今すでにこの施設には収容れている人は一人もいない、のではあるが。
リフィルの提案に思わずエミルがぴくり、と反応したのに気付いたのはゼロスのみ。
「で、その騒ぎでディザイアン達がエレベーターを動かしたところを狙うのか」
ロイドが納得した、とばかりにうんうんうなづくが。
というか、反乱も何も。
ここにはすでに一人も捉えられている人間達はのこっていないのだが。
ざっと念の為に今、この施設全体を視通し確認したが、
あのとき全員脱出させたときのように、この施設内には一人たりとてのこっていない。
ディザイアン達は幻を視ており、いるはずのない収容されている幻のものたち。
それらにムチを振るっている。
「…リフィル。あんたあくどいねぇ……」
そんなリフィルの提案にしいなが呆れたようにつぶやくが。
「おだまりなさい。手段を選んでいる場合かしら?」
「ほめられたものではないかもしれぬが。
  この地に捉えられているものたちを救える、それでゆくしかなかろう」
リフィルの提案に、リーガルもしぶしぶ、のようではあるが。
今のリフィルの提案には利点がある。
それはすなわち、この地に捉えられているであろう人々の救出、という利点が。
ゆえにこそその提案にうなづくリーガル。
「う~ん、ちょっと申し訳ないような気もするけど、やるか」
他にいい案が思い浮かばない、というのもある。
ゆえになのか、しぶしぶながらもリフィルの提案にうなづいているロイド。
さて、どうするか。
彼らの決定をうけ、しばし考え込むエミル。
そもそも、この地にはすでに捉えられているという人々は一人もいない。
そして、ロイド達には一時ではあるが、この地のものたちにかけている、
ソルムの幻影、それに対抗すべきかるい力を授けてある。
つまり、幻影に対する耐性が今現在、ロイド達には備わって言っているといってよい。
「とりあえず、ここからでねえか?ここがどこなのかもわかんねえんだしよ」
エミルの変化に気づいてはいるものの、それに触れることはなく、
それでいてエミルを注意深く観察しながら、そんなロイド達にゼロスが提案してくる。
「それに、もしかしたら外にでたら何か他の方法があるかもしれねえだろ?」
「あんたにしては…めずらしくまともな意見だねぇ」
ゼロスのそんな提案にしいなが目をしばし、ぱちぱちさせたのち、驚いたようにいってくるが。
「そうね。この階に何があるのか。それに囚われているであろう人々がどこにいるのか。
  それも探しだなければ。施設全体の概要がわかる装置があればいいのだけども」
ボータ達からでもそういうのをもらっておくべきだったわ。
そうつぶやくリフィルの口調をききつつも、
「ま、とにかく、いってみようぜ」
手をひらひらさせつつ、すっと円陣からでて、その先にあるであろう扉。
そちらのほうへとむかってゆくゼロスの姿。
「あ、ゼロス、まてよ!」
そんなゼロスをあわてておいかけてゆくロイド。
そしてそんなロイドにつづき、リフィル達もまた、扉からこの部屋をでてゆく様子がみてとれるが。

「…さて、どうするか?」
「……いかがなさいますか?エミル様?」
「そう、だな」
すでに全員がこの場から立ち退き、扉の向こうにいっている。
それゆえなのか姿を現したアクアが首をかしげてといかけてくるが。
「ここって、たしか、今……」
「ああ、ソルムにまかせた、からな」
そう、ソルムの幻影によってあるいみでこの地はすでに支配されているといってよい。
そしてあるいみでここにある装置類全ても、そのきになればラタトスクは支配できる。
「いざとなれば、ここにいる魔物達で応用する、か」
それしかないであろう。
この地にも魔物達はいる。
「…アクア。傍にいるのはいいが念のために姿はけしておけ、いいな」
「は~い!」
姿をけしても、ゼロス、そしてコレットにはその姿は認識できるであろうが。
ゼロスはわざわざ声をださないであろうし、コレットのほうは…
どちらにしても、ロイド達がどうするのか。
しばらく様子をみるしかないであろう。


エレベーター室からでれば、どうやらそこはちょっとした何かの建物がある部屋でとまっていたらしい。
ここは、とおもう。
たしか、人々が捉えられていた場所のうちの一つであったはず。
いくつかの四角い層らしきものがつながり、そして檻らしきものが各層にみうけられる。
「おそらく、この建物の周囲にあったレバーのようなものがスイッチなのでしょうけど」
しかし、ともおもう。
リフィルは困惑を隠しきれない。
檻らしきものがある、ということは、まちがいなくここが捉えられている人々。
そんな人々が収容されているであろう場所、のはずなのに。
人っ子一人みえない、というのはどういうことか。
「ダメだ。先生。上に飛び上がってみてみたけど、どこにも誰もいない」
「だとしたら。ここに捕らえられていた人々は、今は連れ出されてるんじゃないのかい?
  その魔導砲とかいうやつの建造か、はたまた……」
考えたくはないが、エクスフィアを取り出すために。
「んで?エミル君は何やってるんだ?」
ふと、一番最後にでてきたエミルが、何かやっているのにきづき、ゼロスが怪訝そうに問いかける。
そもそも、エミルの傍にいる青い姿をしている少女らしきもの。
やはり、とおもう。
魔物、ではないとおもう。
かといって精霊でも。
しかもその姿にロイド達が気付いていない、というのも驚いていないことからも確信がもてる。
「いえ。ここにスイッチみたいなのがあるから、何かな、とおもって」
いいつつも、いくつかあるスイッチをエミルが解放するとともに、
ガシャン。
そんな音が聞こえてくる。
「あ!牢がひらかれた!」
誰もいないのに、牢が一人でに開かれたのをみてロイドが思わず声をあげるが。
「あ~。それ、エミル君だわ。エミルくんが何かここにあるスイッチさわってたし」
そんなロイドの声がきこえたらしく、首をすくめつつ、叫ぶようにいっているゼロス。
ちなみに、ロイド達とはいま現在、反対側におり、
ゆえにロイド達の声はすれどその姿はみえていない。
「え?えっと、何かわるかったですか?」
エミルがそういいかけると、
「まって!ロイド!誰かがくるよ!」
ふとコレットがその音にきづいたのかき、向こうがわにてはっとした声をあげる。
それは先ほど自分達が移動してきた部屋のほう、すなわちエレベーター室のほうから。
それとともに、
「きさまだな!?脱走の手引きをしたのは!」
自分達が解除していないのに、牢が開かれたことをうけ、
この場に見回りにきたらしきディザイアンが二名。
ちょうどロイドたちが牢の前でそんな話しをしている最中、
たまたまエレベーター室の前にいたエミルとゼロス。
二人とぱったりとそんな彼らは遭遇する。
ディザイアン達の目にはいりしは、牢の中から抜け出す捉えていた苗床の人間達。
もっとも、それは幻、ではなく彼らの目にそのように映っているだけなのだが。
ちらり、とエミルをアクアがみれば、こくり、とエミルがうなづくのをみてとり、
「やってしまいなさい!」
エミルの肩に寄り添うように浮かんでいる魔物。
結局この場にまで同行してきている魔物フリーズスピリッツに命令を下しているアクア。
それとともに、
ヒュウッ。
冷たい風が辺り一帯を吹き抜ける。
「な、何だ…」
「うわぁぁ!?」
コッキン。
フリーズスピリッツより解き放たれたフリーズランサーがそのままディザイアンを直撃し、
その場に彼らが叫び声をあげるよりも早く、ディザイアン二名の氷の彫像を作りだす。
その声にきづき、リフィル達がちかよってきたときにはすでにおわっており、
その場には氷となりしディザイアンらしきものがみてとれるのみ。
「これは……」
「うわぁ。すごい、よくできた氷の像だねぇ」
リフィルがその意味にきづき、驚いたような声をあげ、コレットは別の意味で感心していたりする。
コレットはどうやら人間が実際に氷漬けにされている。
という可能性に気づいてはいないらしい。
「これは、貴殿がつれている魔物の仕業…か?」
リーガルがとまどったようにいえば、
「ま、いいんじゃねえの?それより、これでたぶん先にすすめるんじゃねえのか?」
今、彼ら鎧をきこんでいる輩達がいっていた台詞がゼロスとしてはきにかかる。
脱走の手引きをした、と。
この地には誰もいなかったのに、脱走も何もない、とおもう。
それに、今、たしかに。
このロイド達が認識していない青い色の少女の声をうけ、魔物は攻撃をしかけた。
それはあきらかに、この少女が魔物を使役できている、という証拠。
魔物を使役できるもの。
魔物を配下におく、という存在。
ゼロスの脳裏にふと浮かびしは、センチュリオン、という単語と、そして精霊ラタトスク、という名。
まさか、とおもう。
まさかこのロイド達がわかっていない、少女のような何かが、そのセンチュリオンだ。
とでもいうのだろうか。
だとすれば、少女とともにときどきみた、あのテネブラエとかいう輩達もまた。
だとすれば、そんな存在が様をつけているエミルはいったい、ということになる。
可能性は抱いていたが、よりエミルが精霊の関係者である可能性が高まったといってよい。
しかし、わざわざそれをロイド達につたえるつもりはゼロスとしてはさらさらない。
つまるところ、レネゲードか、クルシスか、ロイド達か。
三つ計りにかけていたところを、もうひとつ。
すなわち、エミルを加えても差し支えはない、そう思える判断が増えた。
これまでもエミルの言動から視野にいれてはいたが、完全に答えはでていなかった。
しかし、魔物を使役できる、と今、完全に確証がもてた。
あと一つ、何かのきっかけがあれば、完全に選ぶことができるのに、とも思わなくもない。
エミルが何を考えているのかはわからない。
が、あのときのユアンとの会話から感じるにあたり、
もしかしたら、もしかしたら、でしかないが。
このエミルはもしかしたら勇者ミトスとよばれていたものたち。
それをしっていたかのような、あの言い回し。
だからこそ、ゼロスはロイド達にはいわない。
言っても意味がないとおもうし、それは自分だけの考えでしかない、と思うが故に。
「よくわかんないけど。ロイド。エレベーター室があいてるよ!うまくいったみたいだね!」
何もしていないのに、氷の銅像をしばらくみていたコレットであるが、
ふとエレベーター室の扉が開いているのにきづいて嬉しそうな声をあげてくる。
「あ、ああ…な~んか釈然としないけどな」
そんなロイドの呟きに、おもいっきり目をみひらき、
みれば、リフィルだけでなく、しいなとジーニアスまで驚きに目を見開いている。
「す、すばらしいわ!ロイド!釈然なんて言葉をしっていたなんて!しかも用法がまちがってないわ!」
感極まったように叫んでいるリフィルの姿。
「うわ。ロイドがまともなこといった。急ごう。下手したら大嵐がくるかもだよ」
「どういう意味だよ!先生も、それにジーニアスまで!」
そんな二人にロイドが思わず叫び返しているのがみてとれるが。
「それより、先にいかないんですか?」
このままほうっておいてもラチがあかない。
というより話がすすまない。
「そうそう。とっとと早いところエレベーターでこの設備の最上階? ってやつを目指そうぜ」
エミルの台詞にゼロスが続けざまに同意するかのようにいってくる。
「それもそうね」
たしかに今はロイドを褒めるよりも前に、先にすすむべき、であろう。
ゆえにこそ、ロイドを褒めるのもそこそこにし、
リフィルが先にエレベーター室にとはいってゆき、
「何をしている!きまら!はやくいくぞ!」
どうやらまたまた遺跡モード、とよばれている性格にかわっている、らしい。
そんなリフィルの言葉をうけ首をすくめつつ、
「とにかく、いくっきゃないってか」
しいなの言葉にロイド達もうなづき、それぞれエレベーター室にとはいってゆく。


「何だ、ここ?」
次にとまった階から降りてみれば、何やらレール?のようなものが張り巡らされており、
そしてそのレールの上を手すりつきのような台座、
らしきものが移動しているのがみてとれる。
それ以外には何もなく、ぽっかりと吹き抜けのごとくに底と天井がわからないほどの穴。
そんな空間がぽっかりとその場には出現している。
そして、少し斜め上あたりの向こう側。
そこに暗闇の中、一か所のみひかっているらしき場所がみてとれる。
どうやらそこが目的の場所につづく道につづいている場所、らしいが。
まともにいくためには、どうやらこのレールをこの台座にて移動してゆく必要があるらしいが。
「……面倒だな。…アクア。あそこまで道をつくれるか?」
「はい!お任せを!」
『え?』
どこからともなくきこえてくる第三者の声。
何となく聞き覚えがあるような気がするのはリフィル達の気のせいか。
きょろきょろと周囲をみるが、それらしき第三者の姿はない。
しかし、それとともに、
「何、このすごい量のマナ?!」
「こ、これは…!?」
驚愕したようなジーニアスとリフィルの声。
たしかにここは海の中。
だが海の中につくられている施設であり、きちんとこうして空気もある。
たしかに通常空間よりは水のマナが多いといえば多いとはおもう。
しかし、しかしである。
瞬く間に水のマナが収束したかとおもうと、彼らの目の前。
その前に水があっという間にあつまり、
それはやがて、水の道となりて、向こう側の入口らしき場所とつながってゆく。
その光景はまるで、ソダ間欠泉において、封印をとくために水の道が現れたときのごとく。
否、それよりも強い水のマナ。
やがてきらきらと輝く水の橋がリフィル達の目の前にと出現する。
水の橋、ところどころ階段がいくつかできており、
それを上ることにより、急激な坂のようなものにはなっていない。
そのまま、とんっと何でもないように一歩を踏み出し、そして。
「?あれ?皆いかないんですか?」
さも当然のごとく、いきなりあらわれたその水の橋にと足をかけているエミル。
数歩進んでゆくも、背後から誰もついてきていないのにきづき、ふと首をかしげつつ問いかける。
『ちょっとま(てぃ)(ちなさい)(ってよ)』
『すこしま(ってください)(まて)』
そんなエミルの台詞に、ロイド、リフィル、ジーニアスの声が同時に重なり。
そしてまた、プレセア、リーガルの声もまた一致する。
一方で、
「すっご~い。これってお水の橋だ~」
突如として現れた水の橋にむかってかがみこみ、
ぱしゃぱしゃとそれに手をつき喜んだような声をあげているコレット。
ちなみにこの橋は完全に水のマナが固定されてできているがゆえに、
こうして触れば普通に水の感触もたのしめる。
もっともだからといって、乗ったら踏み抜く、というような代物でもなく、
強い力が加われば、その部分のみが固まり、問題なく進めるようになっている。
そして強い力がのくとともに、再び水そのものにとかわる性質をもっている。
「…ま、すすめるんならいいんでないの?
  このよくわからないレールっぽいうえにある台座ですすむよりは、な」
普通の存在がこんなことを突如としてできるはずがない。
そもそも、マナを操れる、というエルフですら不可能であろう。
こんなことができるのは、精霊、もしくはマナを司るという精霊ラタトスク。
そしてそれに仕えしセンチュリオンくらいであろう。
それはもう完全なる確信。
コレットがばしゃぱしゃと水の橋に手をふれてはしゃいでいるその横で、
すっとゼロスもまた、その水の足にと一歩、足を踏み入れる。
ふわん、とした感触はすぐに固く感じられ、進んでゆくのにまったくもって不都合を感じない。
「エミル、これはいったい……」
しいなが眉をひそめ、そんなエミルにと問いかけるが。
「?みなさん、いかないんですか?ならけしてきますけど?」
どうもゼロス以外、この橋を渡る気配がみられない。
だとすれば、わざわざあのレールをつかい移動する気、なのだろうか。
まあそれはそれでエミルは別にかまいはしないが。
「お。まってくれよ!エミル!コレット、いくぞ!」
「あ、まってよ~、ロイド!」
ゼロスも普通にこの水の橋っぽいものの上を歩いていることもあり、
エミルにいわれ、ロイドもあわててその水の橋の上に恐る恐る足をかける。
ふよん、とした感覚は始めあるものの、すぐに固い感触にかわり、
歩いてゆくのに差しさわりはない、らしい。
ロイドが進んでいったのをみて、コレットもそんなロイドの後をあわてておいかける。
「あ!まちなさい!まったく。警戒心とか、そういったものをね…」
「……リフィル。すでにジーニアスまで先にいってしまってるぞ」
「・・・・・・・・・・・・・」
リフィルがそんなロイドやコレットに注意を促そうとするが、
ロイドとコレットにつづき、ジーニアスも好奇心にまけたのか、
そんな彼らの後から恐る恐るではあるが水の橋にと足をのせ、
問題ない、とわかれば普通にそのまま橋をわたっていっていたりする。
リフィルが滾々とこの場にて注意を促そうと言葉をはっしているが、
そんなリフィルの言葉などきいてなどおらず、
子供達はといえばさくっとすでに橋を中央のあたりまで渡りきっていたりする。
「ああもう!まったく。私たちもいきましょう」
このよくわからない、いくつものレールの分岐らしきもの
これに乗って移動するより、たしかに今、エミルが何らかの方法で生み出した、
否、うみだしてもらった、というべきか。
たしかにこの橋をわたっていったほうが確実に向こう側にとたどり着けるのは明白。
リーガルの指摘をつけて、一瞬だまりこむものの、
リフィルもまた、恐る恐るではあるが、目の前にある水の橋にと足をのせてゆく。


「それで?エミル、説明してもらえるのかしら?」
無事に水の橋を渡り切り…もっとも、なるべく下をみないように、とは移動したが。
手すりも何もない、吹き抜けの空間をまたぐようにかけられた橋。
どうにか無事に全員渡りきったところで、パシャリ、と音をたててその橋は、
まるで始めから何もなかったかのように、パシャリ、と溶けて
遥かなる奈落の底にもみえる穴の下のほうにと水となりておちている。
「?え?何をですか?」
リフィルにそういわれても、エミルには何を説明してほしい、といわれているのかがわからない。
「あ、あなたねぇ…っ」
リフィルが思わず叫ぼうとするが。
「おいおい。リフィル様。こんなところで叫んだら、敵さんにここにいます。
  っていっているようなもんじゃねえのか?」
「はっ!そ、そうね。とにかく、この話しは後できっちりとさせてもらいますからね!エミル!」
「?」
リフィルの指摘にエミルはひたすら首を横にかしげるのみ。
「と。とりあえず、ま~たへんなところにでたみたいだね。
  なんかいくつかの色を伴った光の陣みたいなのがみてとれるんだけど」
足場はさほど広くない。
しいなもいろいろと思うところはあるが、しかし、ともおもう。
あれからディザイアン達の姿が見られるのはみられるのだが、
あたかも彼らは自分達には気づいていないらしい。
どうやら色ごとに転移する場所を間違えないように、という配慮がしてあるらしい。
ざっと視たところこの転移陣を抜けた先にまたエレベーターの乗り口。
といっても、先ほどから移動しているあのエレベーター、ではあるのだが。
そもそも、上にいくのならば、階ごとを閉ざしていた床をぶち抜いていけば、
すぐにこの設備の最上階にたどり着けるのではないか、という思いがなくはないものの。
技の一つでもお見舞いすればいともたやすく全てが消滅し、簡単に上に登ってゆく、
というだけで目的は達成されるはず、なのだが。
ロイド達がその提案をしてこなかったがゆえにこうしてのんびりと普通の道?
らしきものをつかい、目的地に進んでいっている今現在。
「たぶん、色ごとに移動する場所がわかるようになってるんじゃないんですか?」
音による反応で転移陣の行き先が変更するような仕組みとここのはなっているらしい。
「すげ~!これ、ソーサラーリングをむけたら、色がかわるぜ!ほらほら!」
「もう!ロイド!今はそんな場合じゃないでしょ!?」
ふとみれば、ロイドが何をおもったのか、魔方陣にむけてソーサラーリングをかざし、
その魔方陣からもれだす光の色がかわるのにきづいたらしく、
はしゃいだように幾度も色を変更しているのが視界にはいる。
「はぁ……。おそらくそうでしょうね。…ここにくるまでに施設の概要を示した装置。
  それがなかったのが痛いわね」
そんなロイドの様子をみて、思いっきりこめかみに手をあて深いため息をついたのち、
少し考えつつもリフィルが自身のこの仕掛けに対する予測をいってくる。
「ボータさんたちにこの施設内部の見取り図でももらっておくべきでしたね」
にこやかにいうエミルに対し、
「そういや。あいつら先にはいったはずなのに、どこいったんだろ?これまでみなかったよな?」
ここにくまるで、彼らをまったくみなかった。
そのことにエミルの台詞をうけ今さらながらに気付いたらしく、
ロイドがようやく飽きたのか色をかえるのをやめてそんなことをいってくる。
数名の部下とともに、ここ絶海牧場に共にやってきていたはずのボータは、
ロイド達がこの施設にはいるよりも少し前に中にとはいっていった。
もっともこの地にも彼らに内通というか、入り込んでいる彼らの間者もいることから、
彼らの手引きで、という注釈がついているようだが。
そもそも、幻影は間者だからとか何だから、とかいう区別はつけていない。
ゆえに、本当はレネゲードの一員であっても、彼らもまた幻覚に囚われている。
ロイド達がこの場にいるディザイアンと呼ばれているヒト達にみつからないのは、
少しばかりエミルが干渉しているからにすぎない。
つまり、エミルが意識している限り、ロイド達の姿は彼らにみられることはない。
つまり、ソルムの幻影に囚われている彼らでは認識ができない、といってもよい。
「あの口ぶりだとおそらく、彼らはここのことを知りつくしていたようでもあったし。
  目的の魔導炉、とかいう場所に先にむかっている、とみて間違いないでしょうね」
それがどこにあるのかはわからないが。
エミルはこの施設の概要をすでに完全に把握しているが、
それをリフィル達に伝えるのはあきらかに不自然というよりは、
知っているはずがないことゆえに、わざわざ教えるつもりもない。
エミルがそんなことを思っているなど知るはずもなく、
リフィルがため息とともにいってくる。
「しかし、ここを進まねば、先にすすめないのであれば、いくしかなかろう」
「しっつも~ん。エミル君はどの色の転移陣にのればいいとおもう?」
「え?」
淡々とリーガルが紡ぎだす言葉をうけ、ゼロスがいきなりそんな話をエミルにふってくる。
たしかここはいくつかの扉はロックがかかっていたはず。
ならば。
『アクア。この地にいる魔物達にロックを解除させておけ』
『はい!わかりました!』
ゼロスの問いかけをうけ、すっと目をとじ、アクアに念話にて命令を下す。
たしか、ロックがかけられている扉はいくつかあったはず。
今ざっと視たかぎりでも三か所。
そこさえ解除させておけば、普通に移動は可能。
転送陣に幾度かのることにより、転送先を変更することができるが、
色がかわっても移動ができない、ということは、転送先の陣が稼働していない、ということ。
最も、アクアの命によりて、魔物達が率先してそれらを解除しているのが視てとれる。
「…とりあえず、赤い色にしてみる…とか?」
さすがというか何というか、魔物達が率先して解除したこともあり、
どうやらこの施設内の仕掛けは全て今の間のうちに解除されたらしい。
転送陣の移動先の指定となっている色は、白、赤、緑、青の四色であり、
先ほどロイドが変更させたソーサラーリングの属性。
それによって転移先の変更が可能、となっている。
赤にすれば、そこにあるその先の転送陣を青にかえれば、
この建造物の管制室につづく道がある場所にとたどり着く。
「というわけだ。ロイド君。その魔方陣の色を赤い色にしてみ?」
「お、おう?」
なぜにゼロスはエミルに意見をきいて、さらにそれに従うように、といってくるのか。
多少不思議におもいつつも、それでもいわれたとおり、
魔方陣にむけてソーサラーリングをかざし、魔方陣の色を赤色にと変更する。
ゼロスからしてみれば、今、エミルが意味もなく目をつむった、とはおもえない。
それにともない、エミルの横にいる少女のような何か。
それが何か聞きなれないような言葉らしきものを紡いでいたのもきにかかる。
エミルは今、彼女?に命じて何かさせたのではないか、と。
だからこその提案。
エミルが何かしたであろう、とおもうがゆえの行動。
「よっしゃ。赤になったな。いってみようぜ。リフィル様。それに下僕達~」
「誰が下僕だ!誰が!!」
ロイドがそんなゼロスにたいし、思わず突っかかろうとするが、
手をひらひらさせつつも、ゼロスはそのまま陣の中へ。
それとともに、シュン、という音とともにゼロスの姿がその場からかききえる。
「あ、ゼロス先いっちゃった。先生、どうします?」
「…しかたないわね。ここでずっととまっているまま、というわけにもいかないもの」
どちらにしても、
様々な色を試しては移動していかなければ目的の場所までにはたどり着けないであろう。
「ったく。あたしもいくよ。お先に~」
ゼロスが先にいったこともあり、しいながそんなゼロスの後にと続く。
「じゃ、僕も先にいきますね」
そのままエミルもまた転送陣へ。
「仕方ないわね。皆、油断は禁物よ」
転移陣を抜けた先にディザイアン達が待ち構えていない、ともかぎらない。
このような判りやすい移動方法の場所があるならば、
その出口となるであろう場所で待ち構えている可能性。
それを考慮しておく必要がある。
ここはあるいみで敵の拠点。
しかも、クルシスに堂々と歯向かうような輩の拠点、なのである。
用心にこしたことはない。
まあ、刃向かっているといえばレネゲードのユアンもそれに当てはまる。
まさか彼がクルシスの幹部ともいえる位置にいるとは、さすがのリフィルも思っていなかったが。
しかし、ユアンの裏切りの理由と、ロディルの裏切りの理由。
それには確実に差があることもリフィルは気づいている。
おそらく、ロディルの裏切りは自らが世界を支配したいがゆえ。
ユアンのほうは世界を救いたいが故。
片や欲のため、他者を切り捨てようとしているが、
ユアンの根柢にあるのは世界を救いたいがゆえ。
どちらを信じるか、といえばどちらも胡散臭いが選ぶとすれば決まっている。
この場にのこりし、ジーニアス、ロイド、コレット、リーガル、プレセアをみつつ、
リフィルが警戒するようにと言い含める。
「うむ。ここは敵の最中なのだから。それくらい慎重のほうがよかろう」
リフィルの台詞にこくり、と神妙な表情でうなづくリーガル。
そしてまた、
「…これまで、まったく襲いかかられてないことも不思議、です」
この地にはかなりの魔物の数がここにくるまでもみうけられた、というのに。
自分達の姿をみても襲ってくることは一度もなかった。
それがプレセアからしてみれば信じられない。
というか完全に自我を取り戻してからこのかた、信じられないことばかり。
心を取り戻してすぐに知った父の死。
それだけではない、自分がコレット、という少女を自分がもっとも嫌悪しているはずの相手。
その相手に引き渡してしまっていた、という事実。
さらに、妹のこと。
いろいろとありすぎたといってよい。
まるで、そう、失っていた十六年、という歳月の中で経験するかもしれない、
かもしれない出来事が一気に襲いかかってきたかのごとくに。
それらのことをおもいつつも、こちらもこくり、とうなづきをみせているプレセア。
それぞれがそれぞれに思うところはあるにしろ、いつまでもここにいても仕方がない。
というのもまた事実。
ゆえに、ゼロス、エミル、しいなにつづき、リフィル達もまた、転送陣の中にと身を投じてゆく――


魔方陣を抜けた先、左から青、赤、緑色の魔方陣が並んでおり、その先に一つの扉がみてとれる。
一度、区切られたエレベーターはここより上にのみつづいており、
ここからこの施設の要となっている管制室に移動することが可能。
そのまま扉をくぐり、改めてエレベーターに乗り込むことしばし、
やがて、ガコン、という音と、チン、という音とともに
エレベーターが最上階にとたどり着く。
扉をくぐり、まず目につくのは、いくつもの機械類とこれまた巨大なスクリーン。
スクリーンの向こうには、何かの建造物のようなものがみてとれるが。
そしてそんな巨大なスクリーンの前。
そこにぽってりとした体形のみおぼえのある男性が一人。
エレベーターから入ってきた一行をみて、一瞬目を見開くものの、
しかし不敵な笑みを浮かべ、
「生きておったか。神子くずれとその仲間めが。ごきぶりなみの生命力だのう」
まあたしかに。
あの生物はこの地が瘴気に覆われている最中も生き延びている、
この惑星における自分達がここにくるよりも前の太古の生物の一つだが。
つまり、大樹がこの地に移住するよりも前、
魔族となりはてた人間達、またそれ以外の生物達、彼らよりも原初たる生物。
もっとも、瘴気の中でも生き抜いたがゆえにかなりの耐性をもってしまっているようだが。
ふとロディルの台詞にエミルがそんなことを思っていると、
そんな彼の姿を認識してか、ぎゅっと手を握り締めつつも、
その場から一歩前に進み出て、
「…ヴァーリと二人で…私をだましたんですね……」
そして、妹も。
そんなプレセアの言葉をうけ、
「プレセア、か。お前がその小さい体でクルシスの輝石をつくりだしてくれていれば。
  もっと大事にしてあげたのですかねぇ。不必要な要の紋などをつけたりして。
  クルシスの輝石に変化するのを止めるなど、何と愚かな。
  まあ、劣悪種でしか所詮はなかった、ということなのですかね。
  あのアリシアにしろ……」
「……っ!きえなさい!」
自分だけならまだしも、
アリシアまで侮辱するような発言は、プレセアからしては許せない。
相変わらずスクリーンの前にたっているようにみえる人物、
ロディルの台詞にプレセアがかっとなり、その手に斧をもったまま、そちらにむかって突撃する。
「あ、まちなさい!」
そもそも、飛竜の巣では逃げられた。
リフィルの制止の声も何のその。
アリシアの仇でもあるがゆえ、プレセアは怒りのままにも突き進む。
しかし、そんなプレセアをあざ笑うかのように、
「ふぉっふぉっふぉっ。まあ、そういきりたたずに、投影機をみなさい。
  これからちょっとした水中ショーをみせよう」
そういうとともに、ロディルの背後にあるスクリーンの映像が切り替わる。
『?』
それはどこかの通路、らしいが。
よくよくみれば、ロイド達がこの地にやってくるときに通ったかの海中通路。
風景からしてその通路にみえなくもない。
つまりは、海の中にのびていた、ちょっとした遊歩道もどき。
この男は何をいいたいのだろう。
通路だけを映し出しているがゆえに、ロイド達からしては首をかしげざるを得ない。
しかし、幻に囚われているロディルからしてみれば、
その通路にロイド達が解放した…とおもっているこの牧場に捉えていた人々。
これもまた幻、でしかないのだが。
そもそも実際に捉えられていた人々はとうの昔に解放されている。
この地にいたディザイアン達は幻影によりいまだにその人々がこの地にいる。
そう思いこんでいたにすぎない。
ロディルの目にはその通路をあるいてゆく人々の姿が認識されている。
もっともその認識もまたただの幻でしかないがゆえ、
ロイド達の目からしてみれば、ただ無人の通路をロディルが映し出している。
というようにしか映らない。
ゆえに、何がしたいのかわからずに、思わず顔をみあわせ首をかしげるロイド達。
しかし、ともおもう。
自分達がこの地に囚われていたものたちを解放していなければ、
目の前のヒトは間違いなく、あの場から逃げようとしていたものに何かをするつもりであったのであろう。
だとすれば、以前のときは、おそらくは…
ロイド達のことだから囚われていた人々を解放したはず。
そして、彼らは今のロディルの行動により、水死したのであろう。
ウンディーネをしいなが召喚し助けていれば別であろうが。
目の前にうつしだされている通路がだんだんと水にうまってゆく。
ロディルの目にはそこを通ろうとしている人々が水没しそうになり、
もがいている様子が都合よく映し出されていたりする。
たしかに自分達が望むがままの光景がみえる幻影がかけられているはず、であるが。
「ふひょひょひょ!きさまらが助けだした囚人たちは、
  あのように、水にブザマに呑みこまれて死んでゆくのだ。
  きさまたちが助けさえしなければあのように水死することはなかったのに」
下卑た笑いを高らかにあげつつも、そんなことをいってくるロディルの姿。
「…あいつ、何がしたいの?何いってるの?」
彼が何をいっているのかジーニアスにも理解ができない。
「というか。俺達、ここにくるまでに捉えられていた人達みつけてないよな?」
「うん。誰もいなかったよね」
牢の中には誰もいなかった。
つまりはどこかで人々は作業に駆り出されているのだろう。
それがロイド達からしての認識。
ロイドの台詞にコレットもまた首をかしげつつそんなことをぽつり、と呟くが。
「ええい!あれをみて何ともおもわないのか!?」
ロディルからしてみれば、神子一行の反応が理解できない。
目の前で水没してゆく人間達をみても動じない、というのはどういうことなのか。
「…ひょっとして、ではあるけども」
「?姉さん?」
リフィルがふと何かにきづいたのか、その手を顎にあてつつも、そして。
「この地にきたときから感じていたのだけども。マナが多少狂っているのよ。
  おそらくは、このマナの感じからして…何かを歪めるようなもの、なのかもしれないわ。
  よく魔物達が幻惑をつかったときに似ているマナの感じでもあるし。
  だとすれば、あのロディルとかいうディザイアンもそれにかかっている。
  という可能性があるわね。つまり、彼の目にはそこにはないのに、あるようにみえている。
  という可能性が」
まあ、さすがにこの地にいるものたちがみえているもの、
リフィル達にはみえていない、というのに違和感をもたれまくってもおかしいが故、
あのとき渡した飲み物にちょっとしたソルムの幻影によるマナの変化。
それが認識できるようにしてはいたが。
たったのそれだけで、
そのことにまでたどりついたリフィルの思考に思わずエミルは感心してしまう。
「しかし。それより、あの通路が海水で満たされれば、戻りがこまるのではないか?」
リーガルの目にもそこにはただの通路しかうつっていない。
当然といえば当然なれど。
この場にボータ達がいたとしても、エミルが手渡していた飲み物を飲んでいた以上、
彼らがこの地にみちているソルムの幻術にはまることはまずありえない。
『あ』
リーガルの指摘に、思わず顔をみあわせているロイド達。
たしか入口は一つだけであったような。
だとすれば、あそこが水没するのはロイド達にとっても好ましくない。
ゆえに。
「やめろ!今すぐ海水をとめるんだ!」
「無駄だ」
ロイドの言葉にみもふたもなくきっぱりといいきるロディル。
そしてまた、そんなロディルにむかい、斧を振りかぶるプレセア。
しかし、そんなプレセアの一撃をひょい、とよけ、
「お前達がここに乗り込んできたわけはわかっていますよ。
  おおかた、わが魔導砲を無力化しようというのでしょう。
  残念でしたねぇ。魔導砲へ続く通路は海水で満たしてあげましたよ!ふぉっふおっふぉっ!」
「そんな……」
つまり、魔導砲とよばれし場所へはたどり着けない、ということ。
それにきづいてかコレットが困惑したような声をあげてくる。
「劣悪種の命など知ったことではありませんしね。魔導砲はクルシスの輝石があれば完成する。
  が、それ以外の力。私は最強の力をてにいれる!そこの劣悪種!ラタトスクコアをわたせ!」
その声はエミルにむかって。
やはり、どうやら魔族達からコアのことはきいているらしい。
「センチュリオン・コアとラタトスク・コア。
  それらとクルシスの輝石、それがあればこの私はこの世界で王になれる!」
高らかにそんなことを言い放ってくる。
『?ラタトスク…コア?』
しかしロイド達にはその意味はわからない。
まあエミルからしてみれば理解されてもかなり困るが。
ロディルがエミルを指差しいっているのにきづき、
全員の視線がエミルに向かうが、エミルはただ無言のまま。
というか、何でこんな輩をミトスは配下においてるんだ?
という思いのほうがはるかに強い。
どうみても野心にあふれ、いつでも裏切る気まんまん、としかみえないような輩を。
それとも、魔族とかかわることにより、野心がより強くなってしまったのか。
ヒトに本来あるべきもの。
他者を思いやる心、というものがどうも目の前のヒトには欠落している。
それを失ってしまえばそれこそヒトは世界にとっての害虫以外の何ものでもない、
というのに。
「コアと、そして輝石。そしてあのトールハンマーさえあれば、
  ユグドラシルもクルシスも恐るるにたらんわい」
「――御託はいい。それより、デミアン。いい加減にでてこい。
  それとも、そのまま隠れて高見の見物か?」
ロディルは気づいていないようではあるが。
どうやらその先の壁の中。
そこに潜んでいる影一つ。
「ソレを従えていることを考えても、やはり、きさまは…
  しかし、よく我の気配にきづいたものだな。くくっ」
ゆらり。
それとともに壁の一角にあった、影が揺らぐ。
「これは、デミアン様。いつのまに?」
ロディルがその姿にきづき、そんな声をだしているが。
「あ、あいつは……」
「たしか、飛竜の巣で……」
飛竜の巣で、ロディルを追い詰めていたときに現れた人影であることにきづき、
ジーニアスとロイドが同時に声をあげる。
「そのマナの在り様から、そこにいるのは、水の……」
デミアンはちらり、とエミルの横にいるアクアに視線をむけ、
にやり、と笑みを浮かべつつ何やらいいかけてくるが。
彼ら魔族は、自分達に相反するマナの気配には敏感。
ゆえに姿をけしているアクアにも気付いたらしいが。
「念の為にきくが。お前の背後にいるのは誰だ?」
大体予測はつくが。
もっとも、問いかけても答える、とは夢にもおもっていない。
腕を組みつつも、問いかけるエミルは、そっとアクアに影の中に潜むように指示をだす。
この程度の魔族であれば、アクア達の力はすでに満ちているがゆえに問題はないが、
反作用としてこのあたりの施設一体が壊滅しかねないがゆえの措置。
というよりは、アクアが興奮して、問答無用で力を発揮してしまえば、
こんな海底施設などいともたやすく崩れさる。
「まずは、きさまから力づくでもラタトスク・コアのありかをききだしてやろう!
  どうやら、先ほどのそやつの台詞をきいて、首をかしげていないのは 
  きさまだけ、のようであったしな」
ラタトスク・コア、という単語をきいても首をかしげていなかったのは、この場においてはエミルのみ。
正確にいえば、エミルとアクア、というべきなのかもしれないが。
「――エミル様。お下がりください。このような愚かなる輩はあなた様がでるほどでは」
ゆらり、と声とともにエミルの足元の影が揺らぐ。
それとともにその場にあらわれし、闇を纏いし獣が一柱。
「――テネブラエか。たしかにあいつはお前ならば問題ないだろうが」
テネブラエが従えしは闇。
闇は全てを包み込み、そしてまた魔族達の源でもある瘴気もまた闇の一部にすぎない。
「……ランスロッドが動いているのか否か、それを確かめろ」
「御意に」
『?』
『!?』
いきなり現れた、また闇をまとったたしかテネなんとかという獣。
それをみて首をかしげるコレットとしいな。
そしてまた、リーガル、プレセア、リフィルは驚きを隠し切れていないらしい。
なぜか目をみひらき、エミルとテネブラエのやり取りをじっとみていたりする。
二人が会話をしているらしき言葉はリフィル達には理解不能。
しかし、その言葉はエミルが時折、魔物と会話しているのではないか?
とおもわれるときに発している旋律とほぼ同じもの。
しかも、エミルは腕を組んだまま、目の前の犬のような猫のようなそれに何かいっている。
首をうなだれるその様は、まるで臣下の礼。
もっともそれはリフィル達の勘違いではなく、真実そのとおり、なのであるが。
「ふ…ふはは!これはいい!まさか、きさままであらわれるとはな!――テネブラエ!!」
高らかにいきなりデミアン、と呼ばれたそれが笑い抱いたかとおもえば、
びしっとテネブラエを指差しそんなことをいってくる。
「――あなたがたもこりませんねぇ」
テネブラエはかつて、彼らと面識がある。
それゆえの台詞。
「え?テネブちゃん、知り合いなの?あのひとと?」
「で・す・か・ら!テネブラエです!その呼び方はやめてください!コレットさん!」
そんなテネブラエに首をかしげつつ、コレットが疑問におもったのか問いかけるが。
すばやくそんなコレットに対し、訂正の言葉を発しているテネブラエ。
というか、コレットに呼び方を訂正しても無駄だ、とおもうのだが。
以前のときも結局、コレットはテネブラエの呼び方をかえることはなかった。
ゆえにそんなコレットにたいし、訂正を促しているテネブラエをみつつ、
思わずかるくため息をついているエミルの姿。
そんなエミルとは対照的に、
「きさまは何ものだ!?」
リーガルが警戒を崩さずデミアンにと問いかける。
普通のヒトのはずがない。
「なぜに愚かな人間に我が自己紹介をする必要が?」
「この御方は我らハーフエルフよりも崇高なる魔族ですよ」
『魔族!?』
魔族とは、それこそお伽噺の中に登場する諸悪なる存在。
ゆえにロディルの説明に、ロイド、ジーニアス、コレット、そしてしいなが同時に叫ぶ。
「すばらしいとおもいませんか!彼らの力は世界をも制する!
  彼らの王が目覚めしそのときは、私がこの地上の王に!ふぉっおっほっ!」
「……愚かな。魔族がいうことをうのみにするとは、な」
魔族が約束を守るはずがないというのに。
そのようにきちんと契約をかわしていたとしても、魔族は必ず何らかの裏をついてくる。
それが魔族のありよう。
なぜに人は自らの欲のために周囲すら顧みず、
また自分の身を貶め、朽ちさせるようなことを率先するのか。
こればかりは永い時を得ている今現在もラタトスクからしてみれば理解不能。
「?お知り合いですかな?デミアン様?」
「なに。少しな。こっちの輩は我がひきうける。お前はその目ざわりな神子達をどうにかするがよい」
「これは、あなたさまが自ら動くとは…珍しいこともあるものですな。
  まあいい。劣悪種が魔族様がたにかなうとはおもえぬしな。
  あの目ざわりな救いの塔とて魔導砲をもちいればすぐに崩れさる」
デミアンの言葉をうけ、多少目をぱちくりさせるものの、
にやり、と笑みをうかべ、ロイド達にむきなおってくるロディルの姿。
いまだにどうやらかの道具のシステムの根源そのものを書き換えていることにすら、
目の前のヒトは気づいてすらいないらしい。
そんなロディルに呆れたような視線をむけつつも、
「テネブラエ。あれは別に喰らわしてもかまわん。喰らっても知識さえわかればな」
そもそも、これは生かしておいてもろくなことにはならない。
この魔族がリヒターにちょっかいをかけていたのはわかっている。
ならば、ここで消しておけば少なくとも、リヒターが魔族と契約ということにはならないであろう。
まあ、今の段階ではアステルを殺すきはまったくないのでありえない、とはおもうが。
しかし、自らが殺さずとも、別な勢力、特にヒトとは愚かでしかないがゆえ、
人により殺され、彼が力を求めない、とも限らない。
あと少しでかの地も安定する。
そうすれば、地下に位置している魔界そのものをかの地にまるごと移動させてしまえばよい。
少なくとも、そうすることにより、地表を手にいれる云々、といっている輩達。
それらの不満は払拭されるであろう。
「御意に。――いでよ。アンダーテイカー」
テネブラエの言葉に従い、その手に巨大な鎌をもっている魔物が出現する。
「「「魔物!?」」」
その姿をみて思わず身構えるロイド、ジーニアス、しいなの三人。
それは幾人もの使者の恨み、つらみが集まり、悪霊となりて魔物に転化した魂。
その巨大な鎌にて魂を切り裂き、そして切り裂いた魂を糧とする魔物。
一方で、
「ほう。魔物を使役できるとは……やはりきさまはしっているようですね。まあいいでしょう」
その視線をちらり、とエミルにむけ、そして高らかにその片手を大きく掲げる。
そんなロディルをみつつ、
「というか。救いの塔を壊して何になるっていうんだ?」
それは素朴なるロイドの疑問。
ロイド達は救いの塔によって、彗星がとどめ置かれている、という事実を知らない。
エミルはそのことに気付いているが、わざわざここでロイド達に説明するつもりもない。
「くく…お前達のような劣悪種には関係ないことだ。
  ともあれ。私はようやくクルシスの輝石を手にいれたのだからな!
  どれ、まずわしが装備して輝石の力を試してやるわい」
いいつつも、懐から一つの石を取り出してくるロディル。
気配でそれがハイエクスフィアとよばれている品ではない、とわかるであろうに。
どうやらロディルはそれにすら気づいていないらしい。
ハーフエルフだというのにマナの違いがわからない、というのはあるいみで致命的。
それとも欲にかられそれらの感覚を失っている、ということなのか。
エミルがそんなロディルを冷めた視線でみていることに気付くことなく、
ふぉっふぉっふぉっ、と高らかに笑い声をあげながら手にした石を握り締めるロディルの姿。
それを笑みを浮かべつつ、その身につけるとほぼ同時。
どくん、とした鼓動とともにロディルのマナが激しく変動する。
それとともにロディルの姿が揺らぎ、その姿はまたたくまにロディルのそれとは異なる、
それでいて、エクスフィギュアともまた異なる姿にと瞬く間にとかわりゆく。
「クララさんの姿に似てるけど…違う?」
「マーブルさんにもあんな甲らみたいなのはなかったよ……」
コレットがぽつり、とつぶやき、その姿をみてジーニアスもかるく首を横にふる。
どちらかといえば、ザリガニに近いようなその形状。
胸のあたり、そして腕を覆う白い甲らのようなものは、
見た目と違いかなりもろいことが、マナのありようからうかがえる。
たしかこの形状は、かつての人がエクスフュギュアの量産という過程において、
盾、すなわち使い捨てとすべく少しばかり手を加えていた形状の一つであったはず。
エスクフィギュアとよばれしものの形状はいくつかある。
特攻型、防衛型、そして接近戦型、などと形状は様々。
それはマナの狂わせかたを少しばかりかえて器を変化させているにすぎないちょっとした変化。
ヒトとはどこまでも残虐になれる、というあるいみ典型的な例、ともいえる。
そして、石の内部にいる微精霊達もそのように狂わされている。
まさかとはおもうがこのようなものまでミトスは量産している、というのだろうか。
願わくば、過去にあった品を再利用しているだけ、と思いたいところ、なのだが。
そこまでラタトスクとしても確認していないので何ともいえない気持ちになってしまう。
「ふ…ふはは!力だ!力がみなぎる!」
というか、自分の姿がかわったことにすら気づいていないのか。
それとも力を得たのだからそれが当たり前、とおもっているのか。
ミトス達の姿がかわっていないことから考えても、
それがハイエクスフィアとよばれしものではない、とわかりそうなものなのに。
これだから力と欲におぼれたヒト、というものは。
つくづく愚かでしかない。
エミルのそんな呆れにも近い視線に気づくことなく、
「さあ、わが力のまえに、朽ち果てよ!」
咆哮とともに、ロディルがその腕をロイド達にむけて振るってくる。
それは戦闘の始まりの合図であり、そしてまたロディルにとっての終わりの合図。
視た限り、マナを無理やりに変化させたことから、あの体は数刻ももたない。
ちらり、と視線をリフィル達にむけてみるが、どうやらリフィル達はその事実に気づいていないらしい。
しかし、ともおもう。
「…あれを気付いていてほうっておいたのか」
呆れというか、やはり魔族ゆえ、というべきか。
ため息とともに目の前にいるデミアンに対しつぶやくエミルの台詞に、
「これは意なことを。力をもとめるものを我らが認めない、とでも?」
「それで?その魂を自分達の傀儡に、か」
魔族たちに魅入られた魂は、死してもなおその精神体、すなわち魂を従属されてしまう。
魂が消滅するまで、このかたずっと。
ある意味ではヒトが求める不老不死、というものに近いといえば近い。
そもそも魂は歳をとることはまずないし、それをいえば不老、ということもない。
不死、すなわち、死という概念もなく、あるのは消滅、もしくは昇天、ということば。
つまり、死、という概念とはまた異なっている。
もっとも、魔族たちの瘴気に侵されたものを救う方法はある。
つまりは純粋なるマナを叩きこんでやればよい。
ただそれだけ。
しかし、大概そんな魔族達に付け入られるような輩は、救い用がない愚かなヒトであることもまた事実。
「しかし。その魔物は我ら魔族にとっては鬼門。ここはひくとしましょう。
  ……どうやら関係者、と断定できたことですしね」
テネブラエが呼びだせし魔物は魂を喰らう魔物。
つまりは、精神体である魔族にとっては天敵といって過言でない。
「逃がすとおもうか?」
腕をくみつつも、そんな魔族デミアンに対し淡々とつむぐエミル。
いつものロイド達との態度とは違う、
どこか近寄りがたい雰囲気をもつエミルの変化に気づき多少とまどうものの、
しかし、腕をふりかぶり攻撃してこようとしているロディルをどうにかしなければ。
それゆえに、
「くるわよ!皆、きをつけて!」
リフィルがエミルの変化に違和感を感じつつも、ロイド達に注意を促す。
言葉とともに、闇に溶け消えるようにきえるデミアンであるが、
「――追いなさい!」
テネブラエの声とともに、アンダーテイカーもまたそのまま闇の中にきえてゆく。

『・・・ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ』
しばしのち、どこからともなく断末魔のようなものがきこえてくるが。
どうやら跡かたもなく喰らったらしい。
喰らうことでそれがもつ知識もアレは手にいれることができるので、まったくもって問題はない。
「ぐ…ぐぅぅっ…」
断末魔の悲鳴とともに、異形と化したロディルがぐらり、とその場にとよろめく。
魔族との契約を仮初めにも交わしていたがゆえ、魔族が消滅したのをうけ、
一気に力が削がれたことによる精神体の減少。
しかし、異形と化したその表情はその変化すら悟れるほどの顔そのものを残しておらず、
そのかわり、
「るうぉぉぉぉっ!」
声にならない声をあげ、唸り声とともに変化した腕を振り回しながら、
目の前にいるロイド達にむかて、辺り構わずふりかぶる。
デミアンの消滅をうけて、彼の半ばかかっていた不死性は解除されている。
そしてまた、ある程度の魔族の瘴気に侵されていたがゆえ、
その繋がりがいきなり断たれたことにより、今のロディルはあるいみで暴走状態。
つまり自我がまともに働いていない状態、といってさしつかえがない。
すなわち、生物における本能のまま、そしてまた、狂わされた精霊達の力。
それらによって強制的に仕掛けられている闘争本能が刺激されているにすぎない。
カッン。
変化した鋭い足の爪が床をけり、そのままいきおいのまま腕をおおきくふりかぶる。
「うわっ?!」
ロイドに降りおろされたロディルの腕は風の唸り声をあげたのみで、
かろうじてロイドがひょいっとその腕の攻撃をあわてて後ろに飛びのき、寸前のところで避けりきる。
「くらいなさい!狐月閃こげつせん!」
小さく飛翔し、懺悔気の真空破で月の軌跡を描くようにして斬りあげるプレセア。
プレセアの斧による技、狐月閃こげつせんが炸裂する。
ちなみにこの技、次の技につなげるまで多少の隙ができるがゆえ、
次なる攻撃に繋げにくい、という欠点があったりするのだが。
プレセアの一撃をうけ、よろり、とよろめくロディルだが、
しかし、次の瞬間、ロディルの口元が何やら紡ぎだす。
「!皆、よけて!」
リフィルがはっとして、マナの集まりにきづき、思わず警戒を呼び掛ける。
ロディルの周囲に黒い渦が発生し、過重力空間が出現する。
が。
「…え?」
そのまま黒い固まりが襲いくるか、とおもいリフィルが思わず身構えるが、
しかし、それはぴたり、とそのまま制止する。
「――ワルイスン閉じよ
それとともにエミルが何か呟いている言葉がききとれるが、
やはり何をいっているのかリフィル達には理解不能。
そして出現したはずの重力による黒い渦は、現れたときと同様、
まるでその場から溶け消えるようにときえてゆく。
「…が?」
それをみて一瞬首をかしげているロディル。
だがしかし、そのままその巨大になった手を再び大きく振りかぶってくる。
それはまるで狂ったかのごとく、ぶんぶんと巨大な手を振り回す様は、
あるいみでエミルから視て哀れ、としかいいようがない。
なぜにそこまで力を求めるのか。
何の為の力なのか。
それを見失っているヒトの末路とはいつも哀れとしかいいようがない。
別のいい方をすれば愚かでしかない、ともいえる。
ぶんぶんと腕を振り回すロディルをかろうじてかわしているロイド達。
ちなみにロディルの右手には鋭い刃のようなものがついており、
それが剣のかわりとなっているがゆえ、振り回す腕を手で払う。
ということはできずに、ロイド達が武器で何とかかわしていたりする。
ジーニアスはどうにかその腕の攻撃を避けているようではあるが、
少しばかり腕がふられたことによる衝撃派を直接にうけている模様。
「お~お~。でかい図体のせいか、動きがそうでもないな。こいつ。
  ロイドくんは後ろへまわりこめよ。はさんじまえばこっちのもんだろ、これは」
ゼロスがひゅん、とその手に剣を握り締め、そんなことをいってくるが。
そんなゼロスの台詞にこくり、とうなづき、
魔神剣まじんけん!!」
ゼロスが二刀流の剣を振りかぶり、術をその場にて繰り出し衝撃派をロディルに放つ。
「……が!?」
どうやらロディルはロックブレイクを唱えようとしたらしいが、
すでに先ほどの言葉にて、ロディルの術の行使。
それにともなうマナの使用は禁止しているも当然。
ゆえに今現在、ロディルはまったく術の使用ができなくなっていたりする。
「な…馬鹿…な…!?」
「「でやぁぁぁ!!」」
自らが術が使用できない、というのにようやく少しばかり自我を取り戻したのか、
先ほどまでの獣のような咆哮とは別にようやく言葉らしい言葉をつむぐロディル。
だがしかし、すでに時は遅し。
前後に回り込んだロイド、そしてゼロスの剣が、勢いよくロディルのその巨体にと振り下ろされる。
「ぐ…ぐうわぁぁっ…な、何ということだ…私の…私の体が…朽ち果てていくっ!
  だ…だましたな…プロネーマ…それに、デミアンっっっっっっっっ」
声もかすれかすれに、ロイドとゼロス、二人の剣技を同時にあびて、
その体をぼろぼろと、今にもまるでもろくなった土の塊のごとく壊れさせてゆくロディル。
そもそも、魔族と仮初めに不死の契約を結んだものの末路ともいえる。
それは、魔族を失うことにより、また契約をたちきられることにより、
急激に器たる肉体のマナが消失してゆく。
おそらくはあのデミアンとかいう魔族はそんなことまでは説明はしていなかったのであろう
魔族達はそのことを伏せ、いかにもメリットしかないようにしか欲をもちし人間達には説明しない。
それはそのものの魂を手にいれるにあたり、不必要な事柄だ、とわかっているがゆえ。
ぼろぼろと崩れてゆく体をひこずるように、そのまま管制室の隅。
段差がある少し下の先にしつらえてある機械にと近づいてゆくロディルの姿。
その姿からはもうその体が長くはもたない、というのが明白。
青く変色していた肌は赤茶色に変化し、まるで乾いた土壁のごとく、
ぼろぼろとその体から崩れ去っているのがみてとれる。

「な、なんだっていうんだ?」
さすがにそんな変化はこれまでも目の当たりにしたことがなかったがゆえか、
ロイドがその変化をみてとまどったような声をあげているが。
そんな中も、やがて体はだんだんと朽ちていき、
足が完全に崩れ去り、たっていることもできなくなったのか、
そのまま機械のほうにむけてその場にと倒れこむ。
ぼろぼろと崩れてゆく体。
すでに足は完全に土と化し、ロディルの肉体の原型すらとどめておらず、
その場に土の塊をさらけだしていたりする。
それはやがて、腰のあたりにまで普及するが、いまだロディルは息があるらしい。
あるいみで根性だけで器にとどまっている、といっても過言でないその姿は、
見ているロイド達を唖然とさせるには十分すぎる光景。
そんな光景を間のありたにし、次なる行動をすべきであろうに、
唖然としているのか、ロイド達はロディルの行動をただ黙ってみつめているのみ。
どうやら体が朽ちてゆく様に驚き、それでもずるずると動いているロディルの姿をみて、
一瞬、それぞれ行動することすら忘れてしまっているらしい。
すでに腰のあたりまで失いつつも、ずるずると機械に両手でもってずり寄っていき、
そして、
「…し、しかし、ただではしなんぞ。きさまたちも道連れだ!」
その声とともにどうやら残っていたであろう最後の力。
その力をふりかぶり、その装置にあるとあるスイッチを作動させる。
それとともに力尽きたのか、その場にてがくり、と崩れ落ち、
そのままやがて、その体は顔から腕、全て土となり、その場にもろくも崩れ去る。
カラッン。
それとともにその場にころがってゆく、ロディルがつけていた精霊石が一つ。
「――エミル様」
「御苦労」
精霊石はまるで意思をもっているかのごとく、ころころとエミルのほうへと、
カツン、という音とともに、少し空中を飛んだかのごとくに足元におちてくる。
それをその尾っぽで拾い上げ、エミルに手渡してくるテネブラエ。
それと同時。
――ファン、ファン、ビィー、ビィー。
けたたましい警戒音のようなものが周囲に鳴り響き、
そして。
――自爆装置が作動しました、自爆装置が作動しました……
何やらリフィル達にとっては聞きなれた、それでいて幾度かきいたような、
無機質な声とともに、警報のようなものがその場にと鳴り響く。
「いけない!自爆装置だわ!」
リフィルがようやく今のロディルの行動の意図に気付くが、すでに遅し。
「爆破するなってボータさんがいってたよね?」
それをうけ、コレットが不安そうな声をあげる。
そのまま、だっとかけだし、機械の傍にたちより、
カチャカチャとパネルをいじりだすリフィルの姿。
「先生!?」
そんなリフィルの姿にきづき、コレットが驚愕したような声をあげるが、
「くそ。俺達もてつだ……」
リフィルに続き、ロイド達もまた段差を飛び降り、機械の元にかけよるが、
ぱっとみて、それがかなり複雑であることを瞬時に理解したのか、
「無理です。私たちの中であの機械を扱えるのはリフィルさんくらいだと…
  エミルさんはどうだかわかりませんが」
ロイドの言葉を遮るようにプレセアがいい、
しかし最後はちらり、とエミルに視線をむけ、訂正するかのようにいってくる。
「?僕?」
そんなプレセアの声をうけ、きょとん、とエミルは首をかしげるのみ。
「どうやらこれもまた魔科学でつくられし装置のようだな。…複雑怪奇だな」
リーガルもまたそれを目にし、機械に多少は詳しい自信があったものの、それをみて声を唸らせる。
「俺様はテセアラ産まれでも魔科学の仕組みなんざほとんど勉強しねぇからな」
「私とて会社のことによって多少調べてはいるが、これは……」
ゼロスの言葉にリーガルもまたカチャカチャとコントロールパネルらしきものをいじりつつも、
手におえない、とばかりに顔を曇らせる。
周囲には相変わらず警戒音と、そして避難を促す無機質な機械の音声が鳴り響いており、
「先生!?」
いまだに難しい顔のまま機械を操作しているらしきリフィルに声をかけるロイド。
「わかっています!でもこれは私一人ではとてもおいつかないわ!」
この自爆装置はどうやら同時に数名がスイッチを押したりすることにより、
作動させた自爆装置が解除される仕組み、らしい。
それもそれぞれセキュリティを突破して、という注釈がつく。
「あ、あたしも機械にはうとくて……壊すのなら簡単なんだけど」
「それでは意味がないわ!下手をすれば時間より先にこの施設そのものが自爆しかねないわ!
  だとすれば、ここは海の中。私たちは問答無用で海の中にこの施設ともども放り出されるわ!」
「…それ、溺死、しますね」
「もう、プレセア!たしかにそうかもしれないけど!あっさりいわないでよ!」
プレセアが至極もっとなことをいい、そんなプレセアに思わずジーニアスが抗議の声をあげているが。
まあたしかに、水の中で息をする、という方法を彼らが見出さない限り、
また、武器を手にし、さらには服をきたまま遊泳できるのならば問題はないであろうが。
と、
「…誰か、くる!?」
コレットがふと、背後にある扉の奥から数名の足音をききとり、思わずその場にて身構える。
みれば、ゼロスもまたその足音にきづいているのか、警戒態勢にはいっているのがみてとれるが。
というか、彼らは音の気配は察知できても、気配そのものを捕らえる、
ということはできない、らしい。
その扉の先にいるのが誰なのか、まではどうやら理解はできていないらしい。
コレットとゼロスの様子からそのことを悟り、エミルが軽く小さくため息をもらすが。
そんなエミルの様子に気付いたのは、この場においてはプレセアのみ。
やがて、シュン、という音とともに、ロイド達がはいってきた扉とは別の場所。
奥につづいていたであろう扉が開かれ、そこからボータ達が部屋の中に駆けこんでくる。
「ここは我々がひきうけようぞ!」
どうやら鳴り響く警報により、自爆装置が作動されたことにきづき、
急いでこの場にまでやってきた、らしい。
ボータの後ろにはこの地に共にやってきたうちの、彼の部下のうちの二名の姿もみてとれる。
「ボータ!無事だったんだな。今までどこに……」
現れたボータにロイドがほっとした声をあげるが、しかしそんなロイドにはおかまいなしに、
「そんなことはあとでいい!お前達はそこの地上ゲートから外にでて脱出するのだ!
  あそこから地上にでられる、早く!お前達はあそこから脱出しろ!」
いってボータが指し示すは、入口から反対側にある扉。
それは今、ボータ達がちょうど入ってきた扉とは右側に位置しているそれは、
その扉をくぐれば地上にぬけるゲートの場に直結している。
「でも……」
ロイドが思わず何かいいかけるが、
「早く外にでろ!お前達がいては足手まといだ!」
すでに、警報は高らかに鳴り響いており、自爆まであと、とカウントダウンに入りかけている。
「…任せてもいいの、ね」
「ゆけ!」
リフィルが確認するように問いかければ、ボータがいい、
すばやく部下とともに、リフィルを押しのけるように、
装置の前にとたち、すばやく部下達に指示をだしつつも、ぱちぱちとコントロールパネル。
それらをすばやく操作してゆく。
「いけ!気がちる!」
「…行きましょう。ここは彼らを信じて」
リフィルもまた魔科学の装置に完全に詳しい、というわけではない。
彼らの手伝いをしたいのは山々なれど、彼のいう気がちる。
という言葉もまたリフィルもうなづける。
それでなくても、時間が差し迫っている。
ボータと部下達ならば呼吸がそろい作業ができるであろうが、リフィルがいれば、
それはあきらかに、作業の手を中断させかねない。
それらのことをすばやく脳裏で計算し、
「いきましょう」
「ここからどうやら、向こうにでられるみたいですね」
ちらり、とエミルが視線をあげれば、そこにみえるは、巨大なガラスのようなもの。
そのガラスの先に奥にとある部屋らしきものがみてとれる。
そこは管制室がガラス越しにどうやら見渡せる部屋となっているらしいが。
エミルがいわれるまま、その扉をくぐっていけば、
どうやら細い通路になっているらしく、その通路は少し先にて階段となっており、
そこから登ることにより、別の場所に移動することが可能らしい。
たしかに、リフィルのいうとおり。
ここにいてもどうにもならない。
それどころか彼らの気をちせらる原因にもなりかねない。
ゆえに。
「…我らはいこう。…ここはきでんらにまかせたぞ」
「――任せておけ」
リーガルの問いかけに、ボータがうなづき、再び部下たちとともに、
管制室にあるいくつもの機械類を慣れた手つきで操作し始める。


階段をのぼりきり、出た先。
階段の先にある扉はボータが操作したのか、ロイド達の目の前で開かれ、
何ごともなくそのままロイド達は階段から別の部屋にとたどり着く。
全員が部屋にたどり着き、そして、はっとみれば、
部屋の前には巨大なガラスのようなものがあり、
そこからボータ達のいる管制室全体が見渡せるようになっている。
が。
「ね、ねえ、あれ!?」
「な!?」
それに始めに気付いたのはジーニアス、そしてしいな。
ジーニアスが指差した先のものを目の当たりにし、ロイド達はその場にと立ちつくす。
ガラスの向こうに展開している管制室。
しかし、ボータ達が動きまわり、作業をしているその足元に、まごうことなき水が…おそらくは海水。
それがひたひたと押し寄せてきているのがみてとれる。
始めは足元にひたるほどしかなかった水は、あっという間にボータ達の膝のあたりまで増えてゆく。
それは、この施設における仕掛けの一つ。
きちんとした手段をもちいない場合によって作業した場合、
強制的に管制室が一時、水で満たされる仕組みとなっている。
それは侵入者対策ともいえる罠。
「大変だ!あそこのドアをあけてやらないと!」
それに気づき、あわててロイドが自分達が出てきた扉、
すなわち床にはめ込まれている扉に手をかける。
ロイドが手をかけるのと同時、ジーニアスもそんなロイドに手をかすが、
「だめだ!あかないよ!」
扉はぴくり、とも反応を示さない。
そもそもこの扉は内部からは手動であけることは可能なれど、外からはそれは不可能となっている。
「どけ!」
リーガルが声をあらげ、そのままロイド達をおしのけると、目の前にある巨大なガラス。
そのガラスに幾度も蹴りをくらわせる。
が、当然のことながら強化ガラスはぴくり、ともしない。
そもそも海中における水圧にも耐えられるこのガラスが、たかが蹴り程度で壊れるなどありえない。
もっとも、それよりも強い力を加えればたやすく壊すことは可能なれど。
「!ボータ達だわ。水がくることをしっていて、技と内部からロックを…鍵をかけたのよ」
リフィルがはっとそのことに思い当たり、一歩背後によろめくようにぽつりとつぶやく。
「どうしてですか!?」
そんなリフィルの言葉にコレットが悲鳴にも近い声をあげる。
だとすればつじつまがあう。
どうして自分達があの場にいたら邪魔だ、といってあの場から退けたのか。
罠を解除しようとしたときにおこりえることを彼らがしっていたとするならば――
「……扉が開けばここにも水が押し寄せてくる。
  ここはみればかるとおり。天がドーム状におおわれているわ。……水の逃げ道がないのよ」
そのころにはすでに管制室は完全に水に覆われてしまっているであろうが。
みるかぎり、たしかにここから空が見渡せる。
ドーム状になっているガラスか何かでできているそこからは、
かなり高い位置に外の明かりがさしこんでいるのが確認できるほど。
「まさか…私たちを…助ける…ため?」
茫然としたようなプレセアの呟きに、
「そんなのダメだよ!何とかできないの!?」
コレットが悲鳴にも近い叫びをいってくる。
「くそ!みているだけなのかっ!」
ロイドががんがんとガラスに剣をつきつけるが、当然ガラスはびくり、ともしない。
「…音が……」
「……とまった」
そんな中、あれほどけたたましく、自爆装置が作動しました、という声とともに、
警報が鳴り響いていた音が、ぴたり、と突如として制止する。
それとともに、ガガ…
ちょっとした雑音とともに、
『――自爆装置は停止させた』
壁にありしスピーカーからボータの声が部屋の中にと聞こえてくる。
「ボータ!?あの扉をあけろ!俺達で上のドームを破壊すればっ!」
ふとみれば、ボータ達は先ほどいた位置から移動しており、装置があったよりも上の場所。
すなわち、一番始めにロイド達がいたその場所にまで移動してきているらしい。
しかし、水はとまることなく、どんどんと水位をあげており、
すでに装置そのものは水で水没しているが、目の前の部屋が水でうまるのも時間の問題。
ロイドが相手に聞こえているのかいないのかわからないまま、ガラスの向こうにむかって叫ぶ。
この通信は向こう側とこちらをつなぐもの。
ゆえにその声はガラスの向こうにいるボータにもきこえたらしく、
その口元に少しばかり笑みをうかべ、
「我々の役目は大いなる実りへマナを注ぐため各地の牧場の魔導炉を改造すること。
  魔導炉がつかいものにならなくなっていたものの代用の作業。
  それもおそらく数日中にはおわるだろう。
  そして、我らの役目は、ここ、管制室での作業をもってして終了する」
もっとも、二か所の魔導炉は使いものならず、精霊を閉じこめていた炉。
それをどうにか操作することにより、変わりの役目を果たすことができることをつかみ、
その作業をもこなしていた。
クルシス側から作業すれば簡単でしかない作業を地上でやるのにかなり労力をつかったが。
「お前達には我らが成功したことをユアン様に伝えてもらわねばならない」
淡々と先ほどまでロディルが目の前にいた通信機。
その前にたち、言葉を紡ぎだすボータの台詞に、
「そんなことは自分で伝えろ!いいから扉をあけやがれ!」
そうこうしている間にもどんどんと水かさはましてゆく。
ロイドが必至にガラスにむかって剣をたたきつけ、リーガルもまた、ガラスを足蹴りにする。
「あの水を誰かどうにかしてぇぇ!」
コレットが悲鳴に近い声をあげるが。
「…水ならウンディーネじゃ?」
どうやら彼らはウンディーネと契約を結んでいることそのものを綺麗さっぱり忘れているらしい。
ゆえに、ぽそり、とつぶやくエミルの台詞に、
「!そうか!清漣よりいでし水煙の乙女よ!契約者の名において命ず 出でよ ウンディーネ!!」
しいなの言葉とともに水のマナが収束し、その場に青き輝きをもつ水の精霊ウンディーネが召喚される。
「ウンディーネ!あの水をどうにかしておくれ!」
そんなウンディーネにたいし、しいなが切羽詰まったように語りかけると、
「――おまかせを」
ウンディーネがしいなの声にうなづき、そして手にいつのまにか出現させたのか、
三股の槍らしきものをすっとガラスの向こう側。
すなわち管制室にむけて指し示す。
と。
ザァァァァッ……
「『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』」
それまで、水が一気におしよせ、今にもボータ達の体を覆い尽くそうとしていた水。
それが嘘のように、逆流し、あっという間に水位はさがりゆく。
その光景にロイド、ジーニアス、コレット、リーガル、しいな。
そしてガラスの向こうで唖然としている様子のボータ達の姿がみてとれるが。
「というか。何でみんな。扉を壊したり、ガラスを壊そうとしてるばっかりで。
  ウンディーネを呼ぶというのを失念してたの?」
それがエミルからしてみれば理解不能。
というか水を司っている、と彼らはしっているはずなのに。
そんなエミルの呆れたような口調をうけ、
「あ~…思いつかなかったんだよ」
しいなが罰がわるそうに、おもわずその視線をそっとずらす。
すでに先ほどまで水はボータ達の腰をこえ、胸元までせまっていたのだが、
その水はもののみごとにひいており、あとにはぴしょん、とした小さな水滴が、
管制室内部にありし様々な品から滴り落ちているのがみてとれるのみ。
「ついでにこの設備全体、他の場所の水もひかせますか?」
「――アン ルンエヌンス任せる
「――ティイ ヤイオディ バウルル御意に
その問いはエミルにむけて、なのだが
傍からみればしいなに問いかけているようにみえなくもない。
もっとも、エミルとウンディーネがまた例の不思議な旋律をもつ何かを呟いているのは気になるものの。
「え?あ、ああ……」
そんなウンディーネの言葉にとまどったようにうなづくしいな。
それとともに、
ガコッン。
何か音がした、かとおもうと、
先ほどまでロイド達が押してもひいても、たたいてもびくともしなかったはずの床にある扉。
その扉がガコン、という音とともに、開きゆく。
ボータ達が扉のロックを解除したわけでなく、
エミルがすこしばかりマナをあやつりそれらを解除したに過ぎないのだが。
当然そんな理由をこの場にいる誰も知るはずもなく、
「…自爆装置が解除されたから…か?」
さきほどまで何をしても開かなかった扉が開かれたのをみて、
リーガルがすこしばかり眉をひそめつつそんなことをつぶやく様をみて、
「…ありえる、かもしれないけど…でも……」
リーガルのいい分はたしかに一理ある。
が、リフィルが気になるのは、さきほどの魔族、とよばれしものがどうなったのか。
それと、今、たしかに、エミルはまたウンディーネと何か会話らしきものをしていた。
まるで、そう。
あのとき、ウンディーネと契約したあのときと同じように。
「!皆さん、上!」
バサッ、バサッ。
その羽音にきづいたのか、はっとしたようにプレセアが上を振り仰ぐ。
この部屋の横の壁にちょっとした柵のようなものがあり、
そこががこん、と開かれ、そこから幾体もの飛竜の幼体達が飛び出てくる。
「な…なんだぁ!?」
ロイドがはっと上をふりあおぎ驚いたような声をあげているが。
振り仰いだその先。
ドーム状の天井を覆い尽くすかのごとく、飛竜達が舞っている光景がそこにある。
「あれは…おそらく、ロディルの飛竜達、でしょう。
  自爆装置の解除によって檻までも開いてしまったんだわ」
その光景をみてリフィルが冷静に分析しそんなことをいいはなつ。
「いかん、やつら、くるぞ!」
「くっ!」
飛竜達はしばし天井付近をぐるぐるとまわっていたかとおもうと、
やがて、一気にそれらは全て下降してくる。
それをうけあわてて身構えるロイド達。
しかし、次の瞬間。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(は)(え)?』
何ともいえない唖然とした呟きが、ロイド、ジーニアス、リフィル、
しいな、プレセア、リーガル、ゼロスの口からつむがれる。
そして管制室もまたこちらの様子がみてとれていたらしく、
唖然とした声をだしているボータ達の様子がみてとれるが。
一気に下降してきて、すわ攻撃をしかけてくるか、とおもった飛竜達は、
もののみごとに少し上のあたりで制止したかとおもうと、
それぞれが整列し、もののみごとに首をうなだれているのがみてとれる。
そしてその中でも一番の巨体である飛竜がゆっくりとエミルの前におりたったかとおもうと、
その竜は床に足をつけたまま、ぺたん、とその場に伏せ状態。
そんな光景を目の当たりにし、その場にいるほぼ全員が唖然とした表情を浮かべていたりする。
そういえば、とおもう。
この施設の中にはまだ幼い子達もいたからといって、少しばかりのこっていたものもいたな。
と。
この地があるいみで安全地帯であったこともあり、
しばらくはこの地に残ることを選んだ個体がいたことをエミルはふと思い出す。
そしてその中で唯一、体に水玉模様のない個体。
この個体はこの地に残りし幼体達を保護するためにたしかのこっていたもののはず。
ロディルを倒したことにより、彼らに定期的に与えられる食料。
それが失われたことを意味しており、ゆえに。
「――ふむ。ウェントス」
「――ここに」
エミルが呟くとともに、その場に真っ白な猫のような虎のような何か、が出現する。
『また何かでた!?』
それをみて、なぜかロイドやジーニアス、またそれ以外のものたちが何か叫んでいるようだが。
そんな彼らの言葉がきこえているにもかかわらず、さらり、と無視し、
「このものたちを、彼らの本来の巣へ」
「――御意に」
ウェントスがうなづいたのをみてとり、
「あ。ボータさん、この子達が外につれてってくれるそうなので。あの天井を開いてもらえますか?」
『ちょっと(まちなさい)((まてぃ))(まちな)(ってください)(まってよ)!!』
うなだれる飛竜の頭を優しくなでつつも、くるり、と振り向き、
いまだに唖然としている管制室にいるボータ達に視線をむけ
にこやかにいうエミルの言葉にはっと我にともどったのか
ものの見事にほぼ完全に同時に叫んでいる、リフィルやロイドとゼロス、しいなにプレセアにジーニアス。
そんな面々の声がほぼ同時に一致する。
「?」
エミルからしてみればなぜ皆が皆叫んでくるのか理解不能。
ゆえに、ちょこん、と首を横にかるくかしげるが。
「かなりまちなさい!あなたねぇ!」
リフィルがそんなエミルに詰め寄ろうとするが、
「うわぁ。真っ白い猫さんだぁ。その子達おとなしいねぇ」
「ここにいる子達はほとんどまだ子供だからね」
一方で、にこやかに、飛竜達がまったく無害、というのにきづいたのか、
コレットがにこやかまなでにそんなエミルに話しかけているが。
「そうなんだ~」
「この施設の管理人がいなくなったらこの子達もご飯がなくなっちゃうからね」
「?そのこたち、どこかにつれていくの?」
「ウェントス、この子に頼んで安全な場所につれていってもらうつもりだよ」
「そうなんだ。猫さん、猫さん、どこにつれてくの?」
唖然としている面々の中、のんびりと会話をしているエミルとコレット。
「…すこしまて。というかなぜにコレットはこんな現状なのに動じていないのだ?」
「……天然なんだよ……」
リーガルがぽそり、とつぶやき、そしてまた、ジーニアスががくり、と肩をおとしながらいってくる。
「そのこたちのお母さんたちは?」
「そういえば…」
キュウウィ…
エミルがふと視線をむければ悲しそうな鳴き声がその場に響き渡る。
「この子達は両親のことは知らないみたいだね。
  まちがいなく卵のうちに誘拐されてここにつれてこられてたんでしょ。
  まったく、これだからヒトはロクなことをしでかさないんだから」
「卵って…そういえば、前にもいたね。そんな人達。あの人達どうしたのかなぁ」
エミルの言葉をうけて、コレットがふととあることを思いだしたのか、そんなことをいってくるが。
それはまだ、コレット達が救いの旅とよばれし旅の真実をしらないときのこと。
愚かなるヒトが魔物の卵を盗み出し、その人間達はあろうことか、
人々すらもドアの協力のもとディザイアン達に売り飛ばしていた。
あれから彼らにかけた枷は解除していないこともあり、
二度とああいった悪さなどはできなくなっているであろうが。
そんなことはエミルの知ったことではない。
「激しくまちなさい!というか話題がすりかわっててよ!」
このまま、この二人を会話させていればまちがいなく話しが脱線する。
それはもうものすごく。
そんな危機感を抱き、リフィルがあわててエミルとコレットの会話に割ってはいってくる。
「というかさ。…今、確実にエミルくんのやつ、魔物の言葉…わかってなかったか?」
「ま、エミルだしねぇ…ほんと、あの子はなんなんだか……」
ゼロスの言葉にしいなもまた首をすくめていってくるが。
伊達にこれまでエミルが魔物を呼び出したり、また作業を手伝わせたり、
そういったことを目の当たりにしているわけではないらしい。
あるいみで達観しているというか諦めの境地にいたっているらしい。
「あ。そういえばそうでしたね。ボータさん。あの天井、あけてもらえませんか?
  そこの管制室からだとあけられるでしょ?」
制御装置もあの地に全てあったはず。
「――いや。今は無理だ。強制的に自爆装置を解除させたこともあり。
  しばらく、装置による作業はロックがかかりできないようになっている」
それは事実。
というか、なぜにあの狂暴、とよばれし飛竜達が大人しく首をうなだれているのだろうか。
あの飛竜の巣でもおもったが、この子はいったい。
そんな思いがボータの中でつよくなる。
「…しかたないな。なら、吹き飛ばすか。あ、危ないからお前達は下がっていろ」
バササッ。
エミルの言葉をうけ、一斉に首を飛竜達がさげたかとおもえば、
彼らはもののみごとに、エミルの背後に飛び立ち移動する。
「エミル?お前、いったい何を……」
ロイドが怪訝そうな声をあげるよりも早く。
すっと目をとじ、そして。
「…無に還れ!アイン・ソフ・アウル!!」
エミルがいきなり剣に手をかけたかとおもうと、
その剣をすっと背後にふりかぶり、その剣をおもいっきり天井にむけて解き放つ。
それとともに、某大ともいえる光の球がその直前より発生し、
虹色にも近しい光は光の帯を幾重にもまきつけるように螺旋を描き、
それはやがて天井に直撃し、光にのみこまれ周囲が一瞬光に呑みこまれる。

あまりの眩しさに目を閉じるロイド達。
やがて、おそるおそる目を開いたロイド達の目に飛び込んできたは、
『・・・え?』
誰ともなく茫然とした声がつむぎだされる。
さきほどまであったはずの天井。
それがあとかたもなく、綺麗さっぱりときえている。
そう、文字通りきえている。
見あげたそこには外の青空が広がっており、
そこに天窓らしきものがあった痕跡すら欠片ものこっていない。
「うん。これなら外にでれますね」
『ちょっと(まちなさい)(まてぃ)(まて)(まってよね)(まってください)!!』
幾度叫んだかもわからない。
しかし、叫ばずにはいられない。
先ほどと同じく、うんうんと満足そうにうなづくエミルの態度とは対照的に、
おもいっきり叫んでいるリフィル、ロイド、ゼロス、ジーニアス、プレセアの五人。
そしてまた。
「いったい、このエミルとは……」
困惑したような声をあげて、エミルと、そして消えた天井を交互にみてつぶやくリーガルに、
「…エミルの力って……」
これまた困惑したような呟きをもらしているしいな。
「……クウムグ…」
そしてまた、なぜかいまだに召喚からもどっていないウンディーネはといえば、
その手を額にあてて、ため息とともにそんなことをつぶやいていたりする。
「?どうかしたんですか?皆?」
『どうかした、じゃないっ!!』
「?」
本日、再び幾度目かになるかもわからない、ロイド達一行の叫びが、
静かに、しかしむなしくもその場にと響き渡ってゆく……


「…な、なんか異様に疲れたような気がするのは、気のせいかしら……」
くたり、とした様子で何かつぶやくリフィル。
結局のところ、このままここにいてもしかたがない。
それにしばらく装置が作動できない、というのであれば、
たしかにエミルのいうとおり、…なぜにこれまたエミルのいうことを魔物がいうことをきいているのか。
などと疑問点は多数にありはすれど。
それと今のエミルの技。
あの技はたしか、コレットを助けだしたときに放った技であったはず。
あの技についてもそういえば、リフィル達は詳しく聞かされていない。
聞いたにはきいたが、要領を得ない返答、”技の一つですけど?”
という返事しかもどってきておらず、結果としてその威力は計りかねていた。
だがしかし、綺麗に物質が消え去る技、などリフィル達からしてもきいたことはない。
もっとも、かつてのあのときは、力が完全でなく覚醒しきっていなかったこともあり、
いともあっさりとリヒターごときにこの技は遮られてしまったのだが。
本来、この技は回避不能の技であり、
原初の光であり、また無に還す光でもあるがゆえ、普通の威力だと逃れようもない。
なぜかエミルの指示に従いてその場の床に降り立った飛竜の幼体達。
それらにのり、この絶海牧場から脱出する、ということにおいて話しはまとまったものの、
どこかリフィル達は疲れた顔。
「?疲れたときは甘いものがいいですよ?」
なぜリフィルが盛大にため息をつきつつそんなことをいっているのか理解できず、
そんなリフィルにエミルがいえば。
「誰のせいとおもってるのかしら…この子は……」
さらにこめかみ手をあて盛大にその場においてため息をついているリフィルの姿。
そんな中、突如として周囲がさらに明るくなる。
それは太陽の光よりも眩しき光が上のほうから照りつけてくる。
「…これは……」
ふと、いまだになぜかいるウンディーネがふとふりあおぐ。
それとともに。
「あ。アスカちゃんだ」
アクアがふわふわとうかびつつ…ちなみに姿は消してはいない。
もういろいろとありすぎてロイド達はといえば驚くのにも疲れたのか、
それぞれがどこか疲れ切ったような表情を浮かべており、
そんなアクアに突っ込みをいれてくるものすらいない状態。
バサッ。
大きな鳥の羽音とともに、見あげた空に光る何かが飛んでいるのがみてとれる。
そして。
「――巨大な力を感じたとおもいましたら……」
澄んだ声がその場にと響いてくるが。
「――アスカ、か」
ぽつり、とつぶやいたエミルの声を拾えたのはこの場においてはゼロスとコレットのみ。


空を眩しいまでの光が覆い尽くす。
それはまるで光の螺旋。
しかしその光は不快なものではなく、どちらかといえばなつかしいもの。
ゆえに、この場に飛んできたはいいものの、そこにいるのはみおぼえのある王の姿。
相変わらずヒトの姿を模しているらしいが、見間違えるはずもない。
そもそも、傍にセンチュリオン達がいる以上、王であることは疑いようのない事実。


「僕、先に外にでますね。ボータさんたちも用事がすんだら脱出してくださいね?」
「…あ、ああ……」
もういろいろとありすぎて突っ込みどころが満載すぎて、
ボータ達からしても何といっていいのかわからない。
ゆえに、エミルの声をきき…そもそも、通信機能をいまだに通じさせていたか否か。
それすらも失念してしまうほどの衝撃がボータ達を襲っている。
というか、エミルの声がスピーカーから、ではなく。
脳裏に響くように聞こえてきていること、その事実にすら気づかないほどに。
そのまま、ふわり、とその場にいたテネブラエの背にのるとともに、
エミルの体はふわり、と吹き抜けとなっていた天井にむけ…もっとも、
その天井は先ほどのエミルの技で綺麗に消し飛ばされているのだが。
そのままふわりふわりと浮かんでゆくエミルを唖然とみおくるロイド達。
「…な、なあ。とりあえず、…外にでないか?」
「…だね」
「エミル…あのこ、あとで覚えていなさいよっ。いろいろと聞くことはたくさんあるんですからねっ!」
困惑したようにロイドがいい、疲れたようにそんなロイドの台詞にジーニアスが同意する。
一方で、リフィルが手を握り締め、決意をあらたにするかのごとく、
そんなことをいっていたりするのがみてとれるのだが。
「…エミルくん…か」
「?ゼロス?」
「何でもねえ」
魔族と名乗ったものと知り合いであったらしきあのテネブラエという輩。
確実にエミルがかの精霊とかかわりがあるものであろうことはもはや明白といってよい。
ならば、以前エミルからそれとなく問いかけられた提案。
それに何より、セレスはエミルからもらったあの石により、
少しづつではあるが健康になっているような気がする。
それは日々、セレスの体力がかつてより満ちているのを感じ取られるがゆえの感想。
レネゲードはもとより、こりゃ、クルシスよりエミルくんに従ったほうが俺様としては得、か?
しかし気になるのは、かつての精霊の決定とかいう代物。
そのあたりのことをユアンから詳しく聞きだす必要があるであろう。


「光がみえたとおもったのですが、ラタトスク様でしたか」
苦笑気味のアスカの台詞。
アスカは完全にそのはばたきを停止しており、空中にとどまっている状態。
ちらり、と下をみればどうやらいまだにロイド達は施設の中にとどまっているらしい。
「まあな。というかこの姿のときはその名では呼ぶな」
「たしか、えっと…エミル様、でしたか?」
「我らとしてはいい加減にヒトに紛れることをやめていただきたいのですがね……」
エミルの下にて、テネブラエがため息とともにそんなことをいってくるが。
「まだいうか。お前達は」
いい加減に諦めて納得すればいいものを。
「そもそも、地上にでるのは今に始まったことではないだろうに」
この世界では初めてとはいえこれまでもよく地上にでていた。
しかも記憶をわざと消した状態で外にでていたときも多々とある。
だからこそラタトスクからしてみれば、テネブラエの台詞にため息をつかざるを得ない。
「ふむ…まあ、ちょうどいい。ここに契約の資格をもつ人間がいることだしな。
  それとなくルナのミトスの枷を無くすように誘導しておけ」
ルナはアスカとでなければ契約しない、というであろうし、
またその旨をマナの守護塔とよばれている場所で彼らにと伝えている。
「何か試練をあたえたほうがよろしいですか?」
そんなラタトスクの意見に少し二つの首をかしげつつ、問いかけてくるアスカ。
二つの長い首は淡く黄色に輝いており、その羽は暁色。
「そうだな…お前を無事に新たに呼びだすことができれば、でいいのではないか?
  視たかぎり、リンカの木すらこちらは絶滅しかかっているからな。
  まったく、これだからヒトというものは……」
かろうじて残っていたはずの高度あり山脈の中のリンカの木の群生地。
それはずてにテセアラ側には存在せず、またこちら側。
シルヴァラント側においてはマナの涸渇から、これまた木々が枯れていたりする。
しかも大地そのものの力が失われており、ゆえに新たな芽などがめぶくことすらない。
まあその辺りはソルムに命じたがゆえ、かの地では魔物達がきちんとマナを循環させており、
あと数年もたてば確実に木々は蘇るであろうが。
「ノームのやつにも働いてもらったほうが何かと都合がいいからな」
アスカの試練とすれば、彼らも率先してノームと契約を交わすことになるであろう。
まずはこの地においてイフリートと契約をかわさせることにより、
ミトスの楔のうちの一つの対が解除される。
精霊石の欠片はタバサが所有していたようであるし、
リフィルの技とノームの力があればかの地の大地を彼らによみがえらせる。
という方法がとれなくもない。
「…なぜか我の力だと一気に蘇りすぎるからな」
それはもう。
かの地、入口がある場所にしろ、ハイマ、とよばれし場所にしろ。
多少の力を解放しただけであそこまでの自然がよみがえるとは。
きちんと最低限のマナは供給していたはず、なのに。
ミトスによるかの地、彗星の装置の応用によって、
それらすら涸渇していたことがうかがえる。
だからこそ、ラタトスクとしてはため息をつかざるをえない。
なぜだろうか。
以前の記憶を失っていたとき外にでていたときよりも、
違う意味でため息が多くなっているような気がするのは。
そこまでおもい、かるく首を横にふり、
「…まあいい。そろそろ彼らもこちらにやってきそうだしな。方法はまかせる」
それだけいいつつも、すっと手を横にふる。
それとともに、ゆらり、とエミルの姿がその場から溶け消える。
否、その場にいるのではあるが精霊体に変化したのみであり、
ゆえに精霊達以外の目にその姿がうつることはない。
「――どうやら、ミトス達のほうが何かしそうな気配でもあるしな」
姿を消したのは、ミトス達の動向を見定めるため。
この場にのこって普通に視るだけでもいいのだが。
それだと何となくリフィル達の追求が面倒なような気がするがゆえの決定。
そのまま、その場からふいっとかききえる。
そんなラタトスクの姿を見送りつつも、
「……ミトス…ですか。ラタトスク様はまだあの人間を信じておられるのでしょうか?」
ぽつり、としたアスカの呟きは風にのってかききえる。
考えがあるのはわかるが、ラタトスクが何を考えているのかがアスカには判らない。
否、世界を産みだせし王の考えが自分達にわかるはずもない、ともいえる。
ゆえに、すこしばかり頭をふりかぶり、
「…まずは、あの人間達に試練を与えるとしますか」
まずは、自分のすべきことを。
ゆえに、アスカの視線はすっと下にと注がれる。


「…エミル、先にいっちゃったね」
こちらが何かいうよりも先に、エミルはさっさと解き放たれた場所から外にとでていった。
そもそも、あの魔物のような何か達は何なのか、とか聞きたいことは色々とある。
しかも、確実に先ほど、あのテネブラエとか名乗っていたものは魔物を使役していた。
「あ、ボータさん達。大丈夫でしたか?」
ふと気付けば、いつのまにかボータがこちらに移動してきたのか、こちらもまた、
先ほどエミルがのぼっていった天井のドームがあった場所を見あげている。
そんなボータにきづき、コレットが心配そうにとといかける。
そして。
「あ、ああ…しかし、あの子は一体……」
困惑した声をあげるボータに対し、
「おまえなぁ!お前が犠牲になっても俺達は誰も喜ばないんだぞ!
  そもそも、お前があそこで水死したらユアンのやつに何っていえばいいんだよ!」
そんなボータに気がついたらしく、ロイドがボータに詰め寄っている様がみてとれるが。
ロイドからしてみれば、自分のせいでこれ以上誰も犠牲になってほしくないというのに。
しかし、彼らは自分の身を犠牲にして、自分達を助けようとした。
それが納得いかない。
「…エミルのやつがウンディーネの名をださなかったら。
  たぶんあたしも気付くことなくあんたたちを殺してた…んだろうね」
しいなもそんなロイドにつづき、ふと顔をふせてしまう。
あのとき、まったく思いもつかなかった。
エミルの、水ならウンディーネでは?という言葉をきいて、はっと始めて気がついた。
もしも、あの台詞がなければ、しいなはボータ達を助けることもできず、
あるいみで見殺しにしまっていたであろう。
しいなは知らない。
そしてロイド達も。
知るはずがない。
事実、かつてラタトスクがいまだに眠っていた時間軸においては、
それが現実になっていた、ということを。
彼らを助けられたことにほっとするも、しかし逆をいえば彼らを殺してしまっていたかもしれない。
その可能性のほうがはるかに高いことにきづき、しいなは思わず自らの体を手を交差させて抱きしめる。
自分のせいで、また、誰かが死ぬ。
幼き日のあの時、里のものが死んでしまっただけでなく、孤鈴すら、
あのとき、ヴォルトの雷をみて、しいなはひるんでしまった。
その結果、しいなを守って孤鈴はヴォルトの直撃をうけ、その体を消失させた。
もっとも、それにより孤鈴となのっていたヴェリウスの精霊体そのもの。
すなわち精神体が解き放たれ、精霊として本格的に力を取り戻した、のだが。
しかし、あのときもしいなはしらないが。
エミルがかのものに力を注いでいなければ、
孤鈴としてヴェリウスとしてあの場で復活することもなく、しいなの目の前からきえていたであろう。
それこそ時間をおけばヴェリウスとして再生することはたやすく、
ゆえに、ラタトスクが目覚めたあのときもヴェリウスはすでにヴェリウスとしてそこにいた。
「…まあいい。お前達はともかく。全ての精霊との契約を優先しろ。
  レアバードにはステルス機能もついている。クルシスの目から逃れるために、な。
  …もっとも、天使化しているのもには通用しない代物だが。
  クルシスにいる地上を監視している天使達は自ら考える感情すら失っている。
  ゆえにあの程度の機能でもめくらましにはなろう」
いろいろと思うところはあれど、しかし、生き残ったからには自らのすべきことを。
「ステルス機能?それは興味があるけども……」
「ステルス?って何だ?」
リフィルがいい、ロイドが首をかしげるとほぼ同時。
「…ねえ。あれ、何?」
ふと、空をいまだにみあげていたジーニアスがふと声をだす。
眩しいまでの光が、空の彼方にみてとれる。
ここからではよくみえないが。
すくなくとも、ただごとでないのは間違えようがない。
そんなジーニアスの声をうけてか、その手を目の前にかざし、ふと上をみあげ。
「うわ~。すごい、頭が二つある光る鳥さんだ~」
じっとそちらのほうをみて、感心したようにいっているコレット。
コレットの視界には、しっかりとその姿が認識できている。
そしてまたゼロスも。
「光る…」
「鳥?」
ロイドやジーニアスにはコレットが何をいっているのか理解不能。
「コレット…さん?」
プレセアが首をかしげ、そんなコレットにといかけると。
「なんか、エミルがあの光る鳥さんとはなしてるっぽい?」
その会話の内容、というか言葉らしきものはききとれるのだが、
コレットには理解不能の言葉。
天使言語、とよばれているものに近いような気もしなくもないが、
それでいて、何となくヴォルトがつかっていたような、古代エルフ語。
それに近いような気もしなくもない。
不思議な言葉。
エミルが時折、精霊と話していたっぽい、あの歌のような旋律の言葉とはまた違う。
光る鳥、そしてエミルが何かを話している。
というのに、はっとして、
「まさか…ロイド、私たちもいきましょう。私の予測が正しいのなら……」
リフィルの予測。
エミルはこれまでにもまるで精霊達と知り合いのごとくに会話らしきものをしていた。
さきほどにしろ、あんな現状にてすぐに精霊の名をだすことも、
精霊の特性をよく把握しつかんでいるから、ともみてとれる。
そもそも、あのとき、リフィルですら、迫りくる水にばかり目をとられ、
水の精霊を呼び出す、という可能性をまったくもって思いもつかなかった。
そして、今、コレットのいった光る鳥。
そして、エミルがその鳥らしきものと話している、という。
ここからでもわかる。
太陽とは違う、光る何かがたしかに頭上にみてとれる。
そして、リフィルの予測が正しければ、それはおそらくは……
「先生?」
「姉さん?」
そんなリフィルの言葉にロイドとジーニアスが同時に首をかしげるが。
「――もしかして、コレットのいう光る鳥、とは精霊アスカ、かもしれないわ」
『な!?』
リフィルの呟きに驚きの声をあげたは、しいな達だけではなく、ボータ達とて同じこと。
「馬鹿な!?精霊アスカはいまだにユグドラシルから逃げ回っているはずだぞ!?」
ボータがふと、何やらリフィル達にとって聞きずてならない、
しかも何やら重要っぽいようなことを思わずさんだのをききとり、
「それは興味深いわね。どういう…?」
リフィルが思わず問いかけると、
「んなことより、俺様達はどうすんのよ?リフィル様ぁ?」
そんなリフィルの台詞にわってはいったように、ゼロスが首をすくめていってくる。
「…とにかく、ここからでたほうがよかろう。
  いつここに、この地にいるであろうものたちが刺客としてあらわれるかもわからんしな」
そんなゼロスにつづき、リーガルがぽつり、といってくる。
この地にもディザイアンとか呼ばれている者たちがいる、はず、なのに。
「でも…この地に囚われていた人達…は?」
プレセアが彼らを助けたいがゆえ、そんなことをいってくるが。
そんな彼らの会話をききつつも、
「…うん?そうか。お前達はしらなかったのか。
  この地に囚われていたものは、なぜか全員脱出をずいぶん前にしているぞ?
  あれからこの地にあらたに誰かが連れてこられた形跡もないしな」
『は?』
いきなりといえばいきなりのボータの台詞に同時に全員の声が重なる。
「潜入させていたものたちのデータと脱出したものを照らし合わせれば、
  あれからこの地に誰かが連れてこられた…まあ、あのロディルが何かしていれば別。
  だが、すくなくとも、クルシス、否、ディザイアン、という組織において、
  この地にあらたに培養体、として人間達が連れてこられた形跡はない」
それもこの絶海牧場における異変の一つ。
しかも、そこにいるはずもない、というのに、この地にくれば、
目の前にそんな人間達がいるように認識してしまう。
そんな摩訶不思議な現象がこの地にておこっている。
ということを、彼らレネゲードは把握している。
他の施設でもそのようなことがおこっている、ということは確認されていない。
確認できたのは、この海中にある施設のみ。
「それはいったい……」
困惑したようなリフィルの台詞に。
「それはわからん。が、すくなくとも。この施設の中にはいったとたん。
  我らの潜入させている同士達ですら、いるはずのない人間達。
  それを認識してしまう、という不思議な現象がおこっているからな」
いまだにその現象の解明はできていない。
というかこの施設にはいったとたん、同士達もその現象に巻き込まれてしまうがゆえ、
調べようにもなかなか調べようがなかったといってよい。
しかも、幻とはいえ認識できてしまう代物。
つまりは、あるはずのないものを認識していることにより、
実際にそれがない、とわかっているがゆえに余計にレネゲード達は混乱している。
といってもよい。
「しかし。このたびは我らもこの内部にはいっても人間達の姿とかを認識できなかったからな。
  それに意味があるのかないのかは……」
……よもや、エミルから手渡されていたかの飲み物がその効果を打ち消している。
などとはボータとていくら何でも思いつかない。
いいつつも盛大にため息をついたのち、そして、ふと何かを思いだしたように、
「ひとまず。リフィル殿。あなたにこれを渡しておこう」
いいつつも、ぽん、と小さなウィングパックをリフィルにと手渡すボータ。
「これは?」
いきなりそれを手渡され、困惑した声をあげるリフィルに対し、
「その中にはレアバードの取り扱い説明書がはいっている。
  それをみてあなたたちでレアバードを操作するといい。
  二つの世界を行き来するためのやり方とかもそれにかかれている」
「なるほど…」
ぽんっという音とともに、その中にはいっている分厚い本を取り出し、
パラパラとそれをめくりつつざっと目を通す。
「それはそうと、なぜこれはすべて天使言語でかかれているのかしら?」
全ての文字が天使言語でかかれており、ゆえにリフィルが問いかけるが。
「昔、その文字が共通原語であったらしい、というのしか我らはしらぬからな」
それは彼らヒトがいうところの古代大戦時。
その文字が世界に共通している文字であった。
ただそれだけのこと。
「さて、我らはこの場を立ち去る。…ユアン様に報告しなければならないしな。
  あと、どこにユグドラシルの目があるかわからない。
  いくら仲間達同士とはいえ、我らのリーダー、ユアン様の名をだすことがないように」
「?何でだ?」
いきなりそういわれ、首をかしげるロイドの台詞に。
「……あの子には何かありそうだからな。
  それに、お前達がつれている新しい子、ミトス…とかいったか?あやつは……」
彼らの一行にあらたな同行者が増えたことはボータも認識している。
部下に命じそれとなく調べているが、やはりかの地にはそれらしきもの。
つまり、あのオゼット付近にハーフエルフが隠れ住んでいた形跡などまったくもってみつからなかった。
しかも、天使達の襲撃の中、無傷で助かっている、という何とも胡散臭い。
まだ確定ができないが、ミトス、という名も気にかかる。
しかも、今、クルシスにミトスはいない、という。
それとなくクルシス側に潜入している同士の報告では、
ユグドラシルは何かの目的で今現在不在中、であるらしいとのことらしい。
それはプロネーマのもとにもぐりこんでいる同士が、
彼女がぼやいていたのを耳にしたがゆえ、手にはいった情報。
何でもミトス・ユグドラシルは、今現在地上に出向いている。
その情報の信憑性は、プロネーマのいつものユグドラシルに対する忠誠と、
そしてそのぼやきの内容から、かなり信憑性は高い、とボータは踏んでいる。
まだ確証がないがゆえにユアンに伝えてはいないが。
だからこそ念には念を。
もしも、ボータの予測が正しいのであれば、もしかすれば、
かのユグドラシルはその姿を元の姿にもどし、彼らの旅の中に紛れ込んだ可能性。
その可能性が捨て切れない以上、念には念をいれておいたほうがいい。
今、この場にそのミトスとなのりしものがいるならば、
こっそりと人物像を映像に捉え、ユアンに確認してもらう、ということもできるのだが。
そもそも、ミトスの本来、というか少年の姿を知っているものはごくわずか。
クルシスの幹部にしても知らないもののほうが多い。
もっとも、四大天使、といわれているものは当然のことながら知ってはいるが。
そして、ミトスに協力した、プロネーマ、マグニス、フォシテス。
この三人はミトスの少年の姿を見知っている。
彼らはかつて、魔界の禁書、とよばれしものの再封印、という大役を任された。
そのときに彼らはミトスの姿を知っている。
クヴァルとロディルは彼らより後に組織にはいったがゆえ、その姿は知らないはず。
「…ユアン様はお前達にも先ほどいったが、とても危険な立場にある。
  ユアン様に何かあればそれこそ世界にも影響があるからな。
  …あのクラトスはミトス・ユグドラシルを止めることはできないであろう。
  だとすれば、ユアン様が最後の砦、でもあるのだからな」
ミトスはかつての仲間以外の進言はまず聞き入れない。
否、かつての仲間の進言すら、
ここしばらくは聞き入れてない、とはユアンからボータは聞いている。
それでも、ユアンはミトスを信じているのか、
大樹さえ蘇らせれば、というようなことをいっているのをよくボータは耳にしている。
それは自分の義弟となるはずであった少年を思ってのことなのか。
そのあたりのことまでユアンの心情をボータが把握しているわけではないが。
すくなくとも、ユアンがミトスのことを思っている、それだけは確信をもっていえる。
「そういや。あいつ、クルシスの四大天使っていう肩書の幹部のくせに。
  上司であるユグドラシルってやつを裏切ってるんだったっけか?」
「裏切る、といよりは、本来、ユグドラシルが行おうとしていたこと。
  その一番始めの理想にもどそうとしている、というほうが正しいが、な」
ゼロスの言葉にびしゃり、と訂正をいれつつ。
「我らは先にゆく。いいな?ユアン様の名は滅多とだすでないぞ?」
それだけいいつつも、
近くにいる飛竜に近づいていき、それにともない、エミルの命がありて待機していた飛竜達。
それらがボータ達が近づいてきたことにより首をかしげる。
そのまま、顔を見合わせ、それぞれ飛竜の背にまたがるボータ達。
彼らをのせて、そのまま、ばさり、と飛竜達がその場をはばたき、
ふわり、とうきあがる。
「お前達は一刻もはやく。全ての精霊との契約を。
  …何かあれば、トリエットの我らの施設までこい、ゆくぞ!
  我らは先にいってまっている。話は外にでてからだ」
「「「は!」」」
ボータとともにやってきていた部下たちもまた飛竜にまたがりて、
バサバサ、という翼の音とともに、彼らは一気にこの場から上昇してゆく。
「…何か、話しをはぐらかされたような気がするけど……とりあえず、俺達もいこうぜ」
何となく、ボータにはぐらかされたような気がしなくもない。
しかし、いつまでもここにいてもしかたがない。
いいつつも、飛竜の傍によっていき…そして、ふと首をかしげるロイド。
みれば、先ほどから異様にコレットが肩をきにしているのか、
いくつかさわっては、そしては手をはなしている。
「コレット?」
「え?あ、うん。そうだね。いこう、ロイド!」
「コレットさん…肩、あとでもみましょうか?」
肩をきにしている、ということは、肩がいたい、ということなのだろうか。
首をかしげつつコレットに語りかけるプレセアの台詞に、
一瞬、はっとしたような表情をうかべるものの、
「う。ううん!大丈夫だから。さ、いこ!私、ロイドの後ろにのってもいい?」
「あ…ああ」
一瞬、コレットが驚愕したような表情を浮かべたことがきになるが、
しかしすぐにいつものコレットにもどったのをうけ、
気のせいか?
それですまし、
「よし。とりあえず、戻ろうぜ」
「…そうね。あれもきになるしね」
あれ、というのは空にみえている光の何か。
たしかにロイドの言うとおり。
いつまでにここにいても仕方がない。
ゆえに、彼らもまた、ボータ達につづき、それぞれ飛竜にまたがり、
絶海牧場、とよばれた施設を後にしてゆく――


またたく光。
それはまるでもう一つの太陽。
一瞬、太陽がその場に具現化したのではないか、というほどに、輝く、光る鳥。
飛竜にまたがりて、空中に躍り出たロイド達がまず目にしたのは、
輝くばかりの光る体をもちし、優美なる鳥。
鳥、というのもおかしいかもしれないが、しかし翼があり、頭がなぜかふたつ。
その姿はあるいみで圧倒的であり、そしてまたなぜか太陽、を連想させる。
「まさか…本当に…光の精霊…アスカ…かい?」
唖然としているロイド達の中で、一番先に我にともどったのか、
しいなが茫然、とたように、その光る鳥にむけて声をかける。
空中にまるでそこに何か足場があるかのごとく、とまっているその様は、
一瞬、その足元に何もない、というのに、
なぜか巨大な樹の枝に止まっているかのような幻覚を覚えてしまう。
一瞬、その場にいる全員の脳裏にうかびしは、
巨大なる大樹の枝にちょこん、と光る鳥が羽をやすめるべきとまっている光景。
「契約の資格をもちしもの。あなたのことは聞き及んでおりますよ」
凜、としたそれでいて鈴を転がしたような声がその場にと響き渡る。
一瞬、その声はどこから、ともおもったが。
脳内に響いてくるようなその声は、あきらかに目の前の光る鳥から感じられる。
「いかにも。私は光の精霊アスカ。月の精霊ルナとともにありし存在。
  ――あなたが精霊達との契約を違えたミトスとの契約の楔をいくつか解放した。
  そのことは聞き及んでおります。どうやらルナとも接触をもったようですね」
アスカとしても、ルナが彼らに自分を探して、と伝えていることは確認済み。
ルナ、と呼ばれ、しいなが思いだすのはマナの守護塔にてのこと。
「そういえば、あのとき。あの女性さん、アスカを探してっていってたよね?」
マナの守護塔の封印をとく儀式のとき、
レミエルよりも先にあらわれた女性の姿を思い出し、
ふとコレットが首をかしげてそんなことをいってくる。
「たしか。アスカがいなければ何もできない。契約も何も、といっていたわね」
リフィルも思うところがあるのか、そんなことをいっているが。
「よくわかんねえけど。精霊なら、しいな。契約お願いしたらどうだ?というか、エミル、どこいった?」
きょろきょろと周囲を見渡すが、エミルの姿がみあたらない。
先に確かにあの場から出ていたはずなのに。
それとも、先にパルマコスタに戻っている途中なのだろうか。
確かに、先にいく、とはいったが。
「そういえば。と、ともかく。えっと…我はしいな。アスカとの契約を望むもの」
まさかこういった場で出会えるとはおもわずに、かといってロイドのいうことも一理ある。
ゆえに、飛竜の背にまたがりながらもアスカにむかっていうしいなに対し、
「私との契約を望む?と?私はルナと一緒でいなければ契約はしません。
  それに、今回、私があなた達と出会ったのは…まあこれはいいでしょう」
王の、ラタトスクの力を感じたからこの場にやってきただけであり、
彼らと契約するつもりでこの場にやってきたわけではない。
「あなた方が本当に私とルナと契約を交わしたい。
  というのであれば古のやり方に従い、私を呼び出してみなさい」
「?古の…」
「やりかた?」
ジーニアスとコレットがそんなアスカの台詞をきき、首をかしげるのとほぼ同時。
そういうなり、ばさり、とその大きな翼をひろげ、ふわり、とその場から舞いあがる。
「――あなたがたが見事、私を呼び出す方法をみつけ、
  儀式にのっとって呼び出したのであれば、ルナとともに契約は交わしましょう」
それとともに、ばさり、と大きくその翼を上下にはばたかせる。
ゴウッ。
『うわっ!?』
そのはばたきによる衝撃なのか、周囲にものすごいまでの風がまきおこり、
一瞬、そのあまりの強風にロイド達がその場において目をとじてしまう。
「――アスカ!あんたはミトスとの契約ってやつに縛られていないのかい!?」
しいながどうにかその風を耐えつつも、飛んでゆこうとするアスカに声をかけるが。
「――ミトス。我ら精霊との契約を違え、あの御方の信頼すら裏切ろうとしているもの。
  ……私たちとしてはこれ以上、あの御方が苦しむ様をみたくない、というのに…
  ……ヒトは、大樹を枯らしただけでなく、どこまで……」
「…あの御方?」
そうぽつり、とつぶやくようにしてつむがれるアスカの言葉にリフィルが反応を示すが。
そのまま、答える必要はない、とばかりにふたたび、ばさり、と翼をはためかせ、
そのまま空中にと飛び上がってゆくアスカの姿。
その姿はまたたくまにと雲の中にきえてしまい、
あっというまにその姿は認識できなくなってしまう。
「…あ、いっちゃった……」
そんな精霊が飛び去っていった方向をみつつ、ぽつり、とづふやくコレット。
「…とりあえず。エミルさんがいない、ということは、パルマコスタに向かったのでしょうか?」
今の精霊アスカとおもわれし精霊の言葉もきにはなる。
そもそも、精霊がいう”あの御方”というのがなぜかひっかかる。
なぜかふと、エミルの顔がプレセアの脳裏によぎったが、
よもやそれが彼女の直感による真実であることに、プレセアは気づけない。
否、気づくことができない。
「それより、問題はさきほどあの光る鳥のいったこと、ではないのか?」
どうも論点がずれている。
「ま。精霊と契約をしなきゃいけないんなら。
  あの鳥を呼び出さないといけないってことなんだろうしな。
  その辺りはあのアステル君にでもきけばいいんじゃねえの?」
リーガルの言葉をうけ、ゼロスが首をすくめつつも提案してくる。
今、精霊がいったあの御方。
もはやゼロスの中ではそれがエミルを指し示している、とほぼ確信をもっている。
が、わざわざロイド達、すなわち彼らに伝える必要もないがゆえ、
そのことには触れず、あえて精霊との契約のことを持ち出し話題を転換させる。
「でも、光の精霊アスカはテセアラでは伝説上の精霊、とまでいわれてるんだよ?
  いくらあのアステルでも……」
「おいおい。そのアステル君はさらには伝承にすら残っていなかったっていう。
  伝説も伝説、大樹の精霊にまでたどりついてんだろ?
  光の精霊の伝承くらいそれも調べてるっておもって間違いねえとおもうぞ?」
しいながいいかけるると、ゼロスがいい。
そんな中。
「…あれ?誰か…くるよ?」
ふと、パルマコスタの方角。
つまりは大陸がある方向から何かがとんでくるのにきづき、
ふとコレットが、その手を目の前にかざしつつも、ぽつり、とつぶやく。
ちなみに、今現在、それぞれ飛竜に一人、もしくは二人づつまたがるようにして、
空に飛び出しており、ゆえに今彼らがいるのは空中。
風がふきぬけ、少し上空をむけば、手にとどく位置に雲が存在しているそんな位置。
つまるところ、彼らは空中ホバリングしている飛竜の背にのりて、
そんな会話をしているに過ぎない。
まあ、彼らが会話をしている最中も、丁寧にその空中にとどまっている飛竜達もまた、
王の命があるがゆえ、とはいえあるいみ律義、といえば律義といえる。
眼下にはきらめく海がひろがっており、この場には彼らしかいない、はずなのに。
コレットはとある一点をじっとみていたりする。
やがて、キ~ン、という音とともに。
「ジーニアス!リフィルさん、皆!」
何やらものすごく聞き覚えのある声が音のほうからきこえてきて、
思わずその場にて顔を見合すジーニアス達。
やがて、音がだんだん近づいてきたかとおもうと、
みおぼえのある機体にまたがる金色の髪の少年の姿が視界にはいってくる。
「ミトス!?」
なぜにミトスがここにいるのだろうか。
そもそも、彼はパルマコスタでセレスやアステル達とまっていたはず。
それゆえにその姿を認識したジーニアスが驚愕した声をあげる。
そんな中、
「よかった。ジーニアス、無事だったんだね」
金属音のようなものを響かせて、ゆっくりと近づいてきた一機のレアバード。
ロイド達が乗っているそれとさほどかわりがないが、しかし何かがちがう。
それが何かロイドやコレット達にはわからない。
そんなレアバードにまたがりて、ほっとしたような声をかけてくるミトスの姿。
そんな中。
ヴゥン……
眼下のほうから音がして、ふと下をふりむけば、
一気に飛び上がってくる数機のレアバードの姿。
どうやらあの場においてボータ達がレアバードを取り出し、
翼を広げることなく一気にそれぞれ上昇、してきたらしい。
おもいっきり垂直に飛び上がったそれらは、やがて雲のあたりまで一気に上昇すると、
一機づつ、その翼をガシャン、という音とともにひろげ、
それぞれシュイン、というような音をたてつつも、
ゆっくりとロイド達の前にと降りてくる。
そして、
「うん?そのものは……」
その視界にミトスの姿を捉えた、のであろう。
かなり顔をしかめ、何やらじっとミトスのほうをみているボータ。
「…ちっ」
ちいさくミトスが舌打ちしたその音を捉えたのは近くにいたジーニアス、
そしてゼロスとコレットのみ。
ミトスからしてみれば、まさかここでボータ達と出会うことになるとはおもっていなかった。
ただ、心配であったというのもあるが、あの光が気になった、というのもある。
まるで自分がエターナルソードを使用したときのようなあの光。
念のために剣を調べにいってみたが、使用された形跡はなかった。
だとすれば、あの光は別の要因で発生した、ということになる。
「ミトス?」
一瞬、ミトスが険しい表情を浮かべたのにきづき、ジーニアスが首をかしげてといかけるが。
「え?あ……」
「ミトス。でもどうしてミトスがここに?それにどうしてレアバードを?」
「その色のレアバードってみたことないよな?」
ロイドがミトスののりしレアバードをみて首をかしげそんなことをいってくる。
ミトスにはウィングパックを渡していなかったはず。
そもそも、今現在、レアバードはしいなの腕輪と、
リフィルが手にしているウィングパックの中にそれぞれ四機づつしかはいっていない。
ミトスが乗りしレアバードの色は緑。
数緑色と濃い緑を主体とした、どこかジーニアス達のレアバードとは、
何となく作りがちがってみえるそれ。
ちなみに、彼らが預かっているレアバードの機体の色。
それは、赤、黒、紫、青、これらの色が二機づつで、
緑、という色は彼らは預かってはいない。
「えっと…ごめんね。僕、やっぱり皆が心配で。皆の跡をつけてたんだ。
  それでレネゲードって人達にお願いしてレアバードを貸してもらったんだ」
ミトスのいい分は嘘。
この場にボータがいるが、かといって、いい嘘がみあたらない。
「?我らのもつ機体とはそれは違うな?
  その作りはあきらかに……我らの同士が誰かにレアバードを簡単に貸す。
  というのはありえないが?」
鋭い視線がそんなミトスにボータから投げかけられる。
ミトスが乗りしレアバードはみるものがみればわかるが、
あきらかにクルシスによる規格のそれ。
つまり、レネゲードたちが所有している少しばかり改造しているそれとは意味が違う。
「それより、えっと。それって飛竜…だよね?肉食の?…大丈夫なの?」
ボータ達ならば、少しの違いもわかるであろう。
ゆえに、あえて話題をかえるべく、とまどったような声をあげつつも、
ロイド達がのりし飛竜の幼体をじっとみて首をかしげてといかけるミトス。
「お。おう。大丈夫っぽいぞ?…たぶん」
たぶん、というのは確証がもてないがゆえ。
「そういえば。ミトスさん。途中でエミルさんにあいませんでしたか?」
プレセアの問いかけに。
「え?あ、あってない…けど?」
言われてみれば、この場にエミルの姿がみあたらない。
「エミルのやつ、ならミトスとも入れちがいになっちまったのか?
  俺達より先に出ていたはずなんだけどな?」
そんなミトスの台詞にロイドが首をかしげてそんなことをつぶやくが。
「…ともかく。この場で話しこんでいても追ってがこないともかぎらないからな。
  それにここは空中。クルシスの監視システムに見つかっても厄介だ。
  ひとまず機体を降下させれる場所にまで移動してから話しをしよう」
「…それもそうね。いきましょう」
「こっちだ。お前達、遅れずについてこい」
ボータの言葉とともに、ボータの部下たちもうなづき、
キィィン、という音とともに、彼らのレアバードよりジェットエンジンが噴き出される。
そのままシュイン、という音とともにそこから飛び立ってゆくボータ達がのりし機体。
「俺様達もいこうぜ。リフィル様~」
「そうね。…話はひとまず、おいておきましょう。
  彼らのいい分も一理あるのだもの。こんな場所で、
  もしも空からクルシスに狙い撃ちでもされれば全滅してしまいかねないわ」
「…そういや、クルシスの奴らは翼もってるから、それも可能ってことかい」
「そうよ」
リフィルの言葉にはっと思いあたったのか、しいなが顎に手をあてそんなことをいってくる。
事実、クルシスの天使、となのりし存在達には翼がある。
ゼロスやコレット、そしてミトスやユアン、クラトス達は輝く光る翼であるが、
ほんどのものが、マナを操ることができず、マナが固定化してしまい、
様々な形の翼としてその身に固定化されている。
全てのものたちが鳥のような翼、ではなく、各自のマナの放出具合により、その翼の形は様々。
中にはコウモリのような翼をもちしものもいる。
「…それより、さっき、なんか光る鳥、みたいなのがみえたような気がするんだけど…」
ミトスの視界に確かにはいりこんだのは、あれはまちがいなく精霊アスカであった。
何か彼らがそんなアスカと話していたような、いないような。
そんなミトスの傍から聞けば戸惑いを含んだようなそんな言葉をうけ、
「あ。ああ。なんかな」
「というか、なんだってあの精霊さん、ここにきてたんだろ?」
それがコレットからしても不思議でたまらない。
「ジーニアスが僕が渡した笛を吹いたのだとしたら、それもわからなくもないけど…
  でも、ジーニアスは笛ふいてないみたいだし」
とまどったようにそういうミトスの台詞に。
「どういうことかしら?」
逆にそんなミトスにたいし、リフィルが問いつめる。
ちなみに、すでにばさばさと、飛竜達は普通に飛んでおり、
そんな飛竜のスピードにあわせ、ミトスもまたあわせて飛んでいる今現在。
「以前、姉様からきいたことなんですけど。
  あの笛の音は昔、精霊アスカに奉じていたことがあるらしいんです。
  だから、ふっとそんなことを思いだしたんですけど……」
実際、その事実はミトスはかつて、精霊達から実際に聞かされている。
かつてそのようなことがあった、と。
「興味深いわね。ミトス。あとでジーニアスに渡している笛を調べさせてもらってもいいかしら?」
「もう!姉さん!ミトスから預かってるこれはミトスのお姉さんの形見なんだからね!
  そんなの認められるはずないでしょ!?あ、ミトス、地上におりたら、渡してくれてた笛、返すね」
姉に渡すと絶対に分解する。
それはもう確信をもっていえる。
だからこそ、ジーニアスが憤慨したように、そのまま懐にそっと手をそえつつも思わず叫ぶ。
「…仕方ないわね。分解してでも調べてみたかったのだけど……」
「…やっぱし。絶対に却下!だからね!まったく……」
ジーニアスの即座の反対に、リフィルが心底残念そうな声をあげてくる。
「あ、ボータさんたちが、地上におりて、こっちにむかって手をふってます~」
ふとみれば、いつのまにかボータ達が地上におりたち、
こちらにむかって手をふっている。
よくよくみれば、降りてこい、と手をふりつつ合図をしている、らしい。
「私たちも行きましょう」
それをうけ、リフィルがいうと、
クルワァァッ。
了解した、とばかりにロイド達がまたがっている飛竜達が一斉にいいななき、
そしてそのまま、指示をしていない、にもかかわらず、
飛竜達はそちらにむかって急降下を始めてゆく。
『うわ?!』
『きゃ!?』
いきなり急降下を始めた飛竜におどろき、短い悲鳴のようなものをあげているロイドやコレット達。
そんなロイド達の姿をみながらも、
「……なぜ、飛竜の幼生体達がジーニアス達のいうことを…?」
いつもの子供らしい表情、ではなく、どこかさぐるようなミトスの表情。
ミトスの視線の先では、それぞれの幼生体にまたがりながら、
一気に地上にむけて急降下していっているロイド達の姿がみてとれる。
しかし、とおもう。
「…ち。プロネーマのやつにゴミを始末させたが、もう一つのゴミの始末はできなかったか」
ロディルの性格上、かならず自爆装置をロイド達にまければ起動するであろう。
そして必ず彼らはその自爆装置を止めるはず。
ボータ達が共にいるならば、ボータ達はかならずロイド達、
というよりは、契約のしかくをもちししいな、という人間を助けようとするはず。
そのためにたとえ自分達が犠牲になろうとも。
だからこそ、プロネーマに命じ、
古にあった、今はつかわれていない傍から見ればクルシスの輝石にみえなくもないものを手渡した。
ロディルに渡すように、と指示をだし。
ロディル、そしてボータ達レネゲード、あわよくばロイド達一行。
彼ら全員を始末できる絶好の機会…だった、のだが。
ジーニアスに笛を渡していたのは、
できればジーニアスとリフィルだけは自分達のほうにとりこみたかったがゆえ。
自分達、エルフの血をひきしハーフエルフ達は、
一定期間の間であれば、多少、普通の人間達より息をとめていることもできる。
神子の体が水死する可能性もなくはないが、
すでに神子の今の体は疾患がはじまっており、
それで彼女の精神が死んだとしても、それはそれで好都合。
そのはずであった。
が、なぜかボータ達はいきのびており、ロイド達はあの場にいた飛竜の幼生体。
それらにまたがり脱出をしていた。
まさかボータ達が生き残っていた、というのがミトスからしてみれば誤算もいいところ。
今、ミトスが乗りしレアバードはクルシスが所有している品。
みるものがみれば、その作りの差は一目瞭然。
しかし、かといって、ミトスがウィングパックなるものを手にいれている、
というのもあきらかに不自然極まりない。
たしかに、今、地上ではかのパックが普及してはいるが、値段がかさばり、
隠れ住んでいた、と伝えている以上、そんな高級品をミトスが持っている。
というのは不自然極まりない。
さらに自分がいくら探しても捉えることができなかった精霊アスカ。
あれは確かに精霊アスカであった。
ルナを捉えたときに逃してしまったのがかなり痛い、とおもっていたが。
まさかこちら側にいる、とは。
否、彼ら精霊達は自在に境界を超えることくらいたやすい、のであろう。
でなければ世界中のマナを管理する、という立場でいられるはずがない。
それにアスカが司りしは光。
つまり、光あるところ、アスカはどこにでも出現可能、ということ。
このまま、自分も地上におりて、ボータ達と会話してもよいが、
かといって、それでこの機体がクルシスのものだ、とわかっても厄介極まりない。
かといって、一人自分だけがあそこに降りずにパルマコスタに戻る、
というのもまた不自然。
彼らが何かいうのをどうにか遮り、ジーニアス達に気づかせないようにするしかないか。
そう自分の中で決着をつけたのち、
ミトスもまた、ロイド達につづき、ボータ達がまつその場所にと降下してゆく。


「……ひとまず、先ほどお前達に渡した説明書をみればわかるだろうが。
  簡単にこのレアバードの設備機能を説明しておくぞ?」
ミトスが降りたとき、ちょうどボータがリフィル達にとレアバードの機能を説明しているらしく、
降り立った大地は開けた場所であるがゆえ、あたりには数機のレアバードがみてとれる。
どうやらリフィルにいい、リフィル達のもっていたレアバードもその場にだしたらしく、
それを前にしてボータがいろいろと機能の説明をしている、らしい。
「あ。ミトス。なかなかおりてこないから心配しちゃった」
「え?あ、ご、ごめんね…」
ミトスが降り立つ気配を感じ、ミトスが着地する真下にてまっていたらしきジーニアスが、
ミトスがレアバードを着地させるとともに、かけよってくる。
そんなジーニアスにミトスは何といえばいいのかわからずに無難な声を投げかける。
「えっと…リフィルさん達は…何やってるの?」
みれば、リフィルとリーガルが真剣な表情でボータの説明らしきものをきいているらしいが。
そもそも、あれをどうにかすれば、レネゲードなどどうにもなる。
まったく、忌々しい、とおもう。
彼の両親にしろ、そしてかの息子にしろ。
今ここで彼をふいうちで倒すのはいともたやすい。
たやすいが、それをすればジーニアス達は自分の元にはこなくなるであろう。
それはなるべくなら避けたい。
ロイド達はどうでもいい。
しかし、ジーニアスとリフィルは自分の世界、千年王国の一員に加えたい。
そんなミトスの心情というか思惑など知るはずもなく、
「ボータさんからレアバードの機能説明うけてるらしいよ。
  なんかレネゲードが所有しているあれっていろんな機能つけられてるんだって」
僕も詳しくきいてないからよくわからないけど。
ミトスの問いかけに首をすくめて返事をしつつ、
「でも、いい加減に切り上げないと……」
ふっとそのまま空を振り仰ぐ。
先ほどまで晴れていたはずの空はいつのまにか雲がでてきており、
時折、どこからともなく雷の音がきこえてくる。
一気に空が暗くなっているのをみるかぎり、これは確実に一雨くる。
ここは、パルマコスタから近い、といっても、雨宿りするような場所もない。
見渡す限りの黄金の海。
つまり、このあたりは麦畑が広がっており、その中央に街道が伸びているのがみてとれる。
いつのまに、ともおもう。
先ほどまでまったくもってそんな気配すらなかったのに。
しかし、マナの乱れはまったくない。
だとすれば、これは自然現象、ということなのだろう。
そうジーニアスは自身の中で結論をだしつつも、
「大雨になる前にとにかくここから離れないと。僕たち、雨にぬれちゃうしね」
そういい首をすくめる。
その直後。
ピシャアアン…ゴロゴロゴロ……
『・・・・・・・・・・・・・・』
ものすごいまでの雷の音がしたかとおもうと、一気にさらに空が暗くなる。
そして。
ドザァァッ……
一気に水のマナが濃くなったかとおもうと、
まるでバケツをひっくり返したような雨が周囲をたたきつける。
降るかもしれない、とはおもっていたが、
ここまで唐突に降りだす、とはおもっていなかったらしく、
全員が全員、なぜかミトスまでくわわり、思わずほぼ同時に空を振り仰ぐ。
それぞれが空を振り仰いでいるそんな中。
「…降ってきたな」
「ですね」
確かに、雨のためのコーティングは施してはいるが、精密機械なのにはかわりない。
「…あまり雨の中、この機体をつかうのは思わしくないからな。
  とりあえず、リフィル殿。これを渡しておく」
いって、ぽいっと小さな箱のような何か、がボータの手より渡される。
「これは?」
ボータの手から渡された小さな箱のようなそれをみて、リフィルがボータに問いかけるが。
「それは通信機だ。我ら専用の周波数がはいっておる。
  もっとも、定期的に周波数は変更しているから、その都度、繋ぎのものをつかわせる」
常に同じ周波数にしていないのはクルシスに逆探知されないがための手段。
もっとも、クルシスにおける周波数は常に潜入させている同士から手にいれており、
レネゲード達は常にそれらの会話の逆探知が可能、という形になっていたりするのだが。
伊達にリーダーであるユアンがテセアラの管制官、という立場なわけではない。
そのくらいのことは、いともあっさりと調べがつく。
というより、ユアンの指示で変更することもあるがゆえ、
クルシスの情報はあるいみでレネゲードに一部筒抜けといってよい。
古代大戦時代からの今の地上の人間からしてみればあるいみでオーバーテクノロジー。
魔科学、とも呼ばれることもあるが、これらは純粋にそういったものではなく、
普通のかつて、科学、とよばれし力を具現化し体現させているもの。
レネゲード達は魔科学は、マナを多大に消費するがゆえ、
一時、クルシスでも研究されていた、そういった普通?の科学、というものを好んで使用している。
基本的に原子の力が関係してくるがゆえ、マクスウェルが司りし力を利用した技術。
それらの技術はレネゲードからテセアラにも伝わっており、
今ではかの国においてもそれらの技術が開発されていたりする。
いい例がソナーなどと呼ばれし探索システム、であろう。
音波などによって、物体などを探索する装置。
最も、いまだに大量生産、にまではどちらもこぎつけてはいない。
「繋ぎ…って」
「みずほの里のものに協力を要請する。おまえたちもそのほうがいいだろう」
リフィルの言葉に淡々とボータがいい、
「みずほ…って、あんたたち……」
しいなとしてはいつのまに、とおもう。
まあ、彼らが里にきていた以上、直接彼らが里に依頼をする、という可能性。
それを考えなかったわけではないが。
しいなの知らない間にどうやら、彼らはみずほの里にそういった依頼をだしていたらしい。
そんな彼らの会話をききつつも、
「…それより、皆。パルマコスタに戻りませんか?
  僕、ニールさん達に黙ってでてきたから謝らないと……
  それに、このままここにいても、雨にぬれるばかりでしょうし」
空をみるかぎり、そしてまた、マナの濃さからして雨がやむ気配はない。
周囲には水と風のマナが充満しており、このままでは風もより強くなるであろう。
いくらクルシスとて、地上の天気まで管理してるわけではない。
マナを少し展開し、周囲にフィールドをはれば雨にぬれることはないが、
それでは自分が天使である、というのをいっているのも同然で。
仕方なく、ではあるが、ミトスもロイド達と同じく雨に打たれるままにとなっている。
そんなミトスの問いかけをうけ、
「そうだね。このままじゃ、僕らも風邪ひいちゃうし」
いくらマナが充実していようとも、気のせいではなく、どことなく肌寒い。
それはジーニアスの気のせい、なのかもしれないが。
思わず体を抱きしめるように手を交差させ、ぶるり、と体を震わせる。
そういっている間にも、雨はどんどんひどくなり、
このままではまちがいなく視界すらあやしくなってくるであろう。
「では、何か用事があればそれで我らをよべ。
  我らも忙しい身なのでな。では。例の件というか約束はわすれるなよ」
いいつつも、ちらり、とミトスをじっとみたのち、そして、すっと片手をあげるボータ。
それを合図とばかりにいつのまにか待機していたらしきボータの仲間達。
すなわちレネゲードの一員達が一斉にわらわらとレアバードにと機上する。
「お前達はすでに氷の精霊と契約を交わしていたな。
  こちらで炎の精霊と契約を交わせばあらたな楔がぬけるであろう。健闘をいのる!」
リフィルに通信機と説明した品を押し付けたのち、
ボータもまた、一人、レアバードにとまたがりそして。
そのまま、彼らの返事もきかないうちに、
キュイイン…
一気にそれぞれがレアバードを起動する。
機体はそのまま、降り立ったときと同様、音をたて、その場に風をおこしながらも上昇し、
やがて、ある程度の高さまで移動したかとおもうと、一気にこの場から立ち去るかのごとくに別方向、
すなわちトリエット砂漠とよばれしものがある方向にむけて飛んでゆく。
「…あ、いっちゃった……」
いきなりといえばいきなり。
というか、用件だけつたえ、立ち去る様はあるいみ潔い、というか何というべきか。
「ったく。なんなんだよ。あいつら……」
そんなボータ達をみつつ、ロイドが何やらいいかけるが。
「…とりあえず、街にもどりませんか?このままだとびしょぬれになってしまいます」
雨はやみそうもなく、さらには雷もひどくなってきている。
雨雲にて暗くなった空には所々稲光すらみえている。
たしかにプレセアの言うとおり。
このあたりには雨宿りできるような森もない。
「ふむ。エレカーでもあればよかったのだがな」
リーガルがそんなことをいってくるが。
ちなみに、エレカーそのものは、船の中にそのままおいていたらしく、
何でもちょうどいいからメンテナンスをするつもり、だったらしい。
まさかあのまま、異界の扉、とよばれし場所からこちら側。
すなわちシルヴァラントにくるとはおもっていなかったゆえに、
今現在、地上を移動する手段、といえば限られてくる。
「なあ。先生。レアバードで移動っていうのは?」
この雨の中、ひたすらに歩いてパルマコスタにもどる、というのはロイドからしてみれば避けたい。
「…やめておいたほうがよかろう。雷は高い位置におちる。という。
  レアバードとて金属。…雷の餌食になりたくはなかろう?」
「げっ」
リーガルがそんなロイドにたいし、ため息まじりにそんなことをいってくるが。
事実、空には稲光がみえている以上、空にレアバードで飛び上がったとたん、
雷の餌食にならない、とはいいきれない。
ボータ達は飛んでいったが、彼らは彼らなりの対処の仕方がある、のであろう。
もしくはそれを失念していたのか、はたまたそれを避けきれる運転技術があるのか。
それはリーガルにもわからないが。
「…はぁ。仕方ないわね。…フラノールでそれぞれにかっていた。
  フード付のローブをそれぞれ着こんで、とにかくパルマコスタにいきましょう」
かのフード付ローブは時折、水を含んだ雪も降ることがあるらしく、
一応は防水加工もどきが付随されている、とリフィルは購入したときに聞いている。
「ここからだと、パルマコスタまでどれくらいかかるんだ?」
どうも前回このあたりを通ったときと違って、
完全に麦が成長しきっているがゆえ、どうも位置感覚がつかめない。
そんなロイドの言葉をうけてか、
「距離的にはそんなに離れてないとおもうよ?
  三十分か、そこいら歩けば確実つくんじゃないのかな?」
どちらにしても、このままここにいても拉致があかない。
ジーニアスも思うところがあるのか、そうつぶやきつつも盛大にため息をつき、
「とりあえず、話はパルマコスタにもどってから、だね」
「そうね」
ジーニアスの台詞にリフィルがうなづき、そして、はっと今さらといえば今さらであるが。
「でも、ミトス。ありがとう」
「え?」
いきなりお礼のような言葉をいわれ、目をぱちくりさせるミトスに対し、
「ミトスが僕たちを追いかけてきてくれてて僕、嬉しいんだ。
  まあ、ミトスが危険な目にあってたかもしれないとかいろいろと思うところはあるけど。
  でも、一人で僕らにおいついてくるなんて、ミトスってすごいんだね」
「たしかに。よくあのレネゲードからレアバードなんてものをかしてもらえたわね」
ジーニアスの台詞にリフィルもうなづかざるをえない。
あのとき、自分達はボータ達とすぐに出発したはず、なのに。
ミトスの気配すらつかめなかった。
だとすれば、あの場所に残っていたかもしれないレネゲードからレアバードを貸してもらったのか。
しかし、ともおもう。
彼らのようなレネゲードが、そう簡単にいくら自分達の同行者だからといって、
おそらくは主要な移動手段であるレアバードをほいほい貸し出すものだろうか。
「そんなことより、はやくいこうぜ。このままじゃ、風邪ひいちまう」
ロイドの台詞に、
「大丈夫だよ。ロイドは絶対に風邪なんてひかないから。何とかは風邪をひかないっていうでしょ?」
さらり、とそんなロイドに対し、きっぱりといいきっているジーニアス。
「うん?おう!俺は健康だけ!はとりえだからな!」
「…ロイドさん、ほめられてるんじゃない、とおもいます」
威張ったようにいうロイドにたいし、プレセアがぽつり、とつぶやく。
馬鹿は風邪をひかない。
一瞬、その場にいた全員、ミトスを含んだ…といってもロイド以外の、であるが。
そんな言葉が彼らの脳裏によぎるが。
ロイドをみていれば、なぜかそれぞれが、確かに、とおもわざるをえない。
「…ま、とにかくいこうぜ。このままでも俺様は水もしたたるいい男~だけどよ」
「あんたはねぇ…って、たしかに。いつまでもここにいてもしかたないしね」
ゼロスがさらり、と何でもないようにいいきり。
しいながそんなゼロスにたいし、突っ込みをしようとするが。
たしかにいつまでもここにいても仕方がない。
「それじゃ、いこ!僕、ミトスのような優しい子と友達なれてよかった!これからもよろしくね!ミトス!」
「一人で勝手に行動したのはほめられたことではなくてよ?
  もしも、途中で誰かに襲われでもしたら…
  こちら側にはディザイアンとよばれしものもいるのですからね。
  彼らは子供でも容赦はしないもの」
もっとも、ハーフエルフ、という立場で見逃す可能性はなくもしもあらずだが。
かつて、ジーニアスがロイドがレネゲードにつかまったとき、
その機転をきかせ、ハーフエルフだから、同胞だから、という理由で見逃されたように。
「……ごめんなさい。あと…僕も、嬉しい……」
とまどったようなミトスの台詞。
目の前のジーニアスの言葉には偽りがない。
その瞳はまっすぐで、何も疑っていない。
おもわず、何かがちくり、と痛むような感じをうける。
それが何なのかはミトスにはわからない。
ここまでまっすぐに、しかも自分がハーフエルフ、とわかった上で好意をむけてきた相手。
そういったものは、ミトスからしてみても新鮮。
戦争を終わらせた後も、大人たちはミトスの力を狙い刺客を差し向けてきていた。
ミトス達四人に対し。
それでも、世界をめぐり、人々の認識を変えようとしていた。
ハーフエルフでも、人間でも、誰もが安心して世界でいられるように。
人々を説得するために、あえて世界をめぐることを選んだ。
…最も、最後の最後で、人間達に、二つの国に裏切られてしまったが。
彼らとともにいれば、何だか心がざわつく。
捨てたはずの、否、捨ててはいないが、考えないようにしていたこと。
それはかつての自分の理想。
そして願っていたこと。
命は平等である、というのを信じ切ってやまない彼ら。
それがミトスからしてみれば…忌々しく、そしてうらやましい。
彼らは大切なものを失ったことがないからこうでいられるのだ。
そう自分自身に言い聞かせる。
彼らだってそう。
大切な、クラトスの息子とて彼が大切におもっているであろう神子を失えば。
まちがいなく自分と同じ道をたどるはず。
そして、ジーニアスとリフィル。
この二人は自分と姉と境遇がよくにている。
だから、理解してもらえる、とおもう。
誰もが同じになってしまえば、差別などというものはなくなるのだ、と。
しかし、ともおもう。
――差別を産むのはヒトの心。
あのとき、彼らからいわれた台詞がミトスの中から消えようとしない。
だとすれば、心が差別を産む、というのならば。
何も考えない、ただそこにあるだけの生。
――それが本当に正しいことなのか。
ありえない。
ありえないけど、ふっとおもってしまった、自分の理想の歪み。
なら、この四千年、頑張ってきていた自分は生きている意味がないのでは。
とすらおもってしまう。
けど…もう、止まれない。
あと少し。
あと少しで理想は完成する。
ロイドが身につけている人工的に始めて成功したとおもわれしハイエクスフィア。
エンジェルス計画の集大成。
あれを量産さえできれば、争いも何もない静寂なる世界が訪れる。
そうすれば、姉を蘇らせ、今度こそ大樹を復活させ。
静かなる世界が再び再生する。
そこにはヒトというヒトはおらず、全てが魔物、そして精霊。
そして…かつてヒトであったものは無機生命化、すなわち、無機物、として。
かつて、精霊達からきかされたことがある。
マナがあふれていたときには、万物に宿りし精霊達もまた具現化することができていた、と。
石の精霊。
天使化とはそれに近いかもね。
そうミトスは精霊達から聞かされている。
実際、ある意味でより近い、といえるであろう。
その結果、ヒトの心、そして精神が利用された微精霊達に呑みこまれる。
ということを除けば、であるが。
ミトスがそんなことを思っている最中。
ドシャァァン!!
突如として先ほどよりも大きな雷の音が聞こえてくる。
みればどうやら近くにおちたらしい。
ものすごい轟音と、そして。
ドォォン!
大地が震えるようなそんな感覚が襲いかかってくる。
「い、いそぎましょう!まだこれでは雨はひどくなるわ!」
袋からそれぞれ、フラノールで購入していたフードを各自分とりだしつつも、
はっとしたように空を振り仰ぐリフィル。
「…エミル、大丈夫かなぁ?」
気になるのは先にいったはずのエミルのこと。
これだけの雨でエミルもまたとまどっているのではないか。
そう思い、ぽつり、とつぶやくコレットにたいし、
「いや。あのエミルくんなら大丈夫っしょ」
そんなコレットの台詞におちゃらけたようにきっぱりといいきるゼロス。
何となくではあるが。
このいきなりの雨。
これはエミルに関係しているような気がする。
まるで、そう。
精霊が何らかの意図をもってして、今まさに雨を降らしたのではないのか。
そんな懸念がどうしてもゼロスの中からはぬぐい捨て切れない。
事実、そのとおりでしかないのだが。
雨を降らせたは、彼らがより道しないでパルマコスタにもどるようにするため。
そして雷は…いまだに人間をよりよくおもっていないトニトルスの独断であったりするのだが。
それに関してラタトスクは別に何もいってはいない。
そもそも、ラタトスクからしてみれば彼らに命の別状がない限り、
別に問題はないだろう、という認識でしかない。
リフィルがかざしたウィングパックの中に、再びレアバードが収納される。
「え?あ、あの、リフィルさん?」
まさか自分の乗っていたレアバードまで収容される、とはおもわなかったのか、
ミトスがとまどったような声をリフィルにむけてしてくるが。
「それでなくても八機あるのだもの。
  今、全員で十六人なのだから、レアバードの移動があったとしても。
  十分にことたりるわ。あまり数を増やして面倒なことになってもいけないもの。
  火の精霊との契約におもむいたとき、彼らの施設にもよってこれはかえしておきましょう」
今現在、パルマコスタに残っているものたちをあわせても、全部で十六名。
もっともノイシュのこともあるが、なぜかエミルのソーサラーリング。
なぜエミルがそんなものをもっているのか、いまだにリフィル達は詳しくしらない。
というか、エミルにきいても昔からもってるから、という返事しかもどってきていない。
ともあれ、エミルのもちしそれにてノイシュを小さくさせることができる以上、
ノイシュのことは頭数にいれなくてもどうにかなる、というのが現状。
もっとも、パルマコスタに戻った以上、マルタがどうなるかわからないのはあるが。
このまま彼女も自分達とともに行動することになるのか。
それとも、やはりパルマコスタに残ることになるのか。
おそらくは、アステル達三人は間違いなくついてくるであろう。
精霊研究を主としているというアステル達は、精霊との契約にかなり興味深々であった。
ならば今後ついてこない、という可能性はまったくもってありえない。
だとすれば、マルタが離脱したとしても、十五人。
もしくは、セレスをパルマコスタで預かってもらうとしても十四人。
体が弱いというセレスを何があるかわからない場所に連れていくよりは、
ここ、シルヴァラントでも比較的、医療なども充実しているかの地に残していたほうが、
いざ、というときに手遅れにはならないであろう。
脳内でそんなことを思いつつも、手をかざし、リフィルのもちしウィングパック。
その中にミトスのレアバードも収納するリフィルの姿。
「先生!それより、はやくいこうぜ!ってだんだん雨ひどくなってきてるし」
雨はだんだんとひどくなっており、ついには視界すらさえぎるかのごとく、
それほどまでに大地に叩きつけるごとくに降り注いでいる。
「一時的なもの…だとはおもうのだけどもね」
世界再生より前にあった、異常気象。
その中で、このような突発的な集中豪雨、ともいえるような現象が幾度かあった。
あのときは、すわ、村が水没するのではないか、と一時大騒ぎになったほど。
もっとも、それはコレットが旅立つ直前であったがゆえ、
ディザイアン達が神子の足止めをしようとしているのでは。
という説のほうが何かと強かったが。
そもそも、雨と雪が同時に降る、など、普通ではありえない現象。

シルヴァラント側では、ヴォルトが、テセアラ側ではウンディーネが。
それぞれいなかったがために、同時に発生、ということは今までありえなかった。
微精霊達による事象も微精霊そのものが少なくなっていたがゆえに発生し得なかった。
もっとも、微精霊が少ない、という事実をヒトは気づいてすらいなかったのだが。

それがたしかに、あのときには起こっていた。
ユアンがいっていた、今の二つの世界のマナの安定。
それがもしも、大樹の種子だという大いなる実りの最後の力だとするならば。
あの現象ももしかしたら、なのかもしれない。
すなわち、それは…そこまで考え、ぶるり、と頭を横にふりつつも、
すでに駆けだしていっているロイドが叫ぶのをみてとり、
ふっと一人つぶやくようにいっているリフィル。
みれば、いつのまにかロイドは雨を走れば少しでもさけられるかも。
というよくわからない理由で街道沿いを走りだしており、
そんなロイドにつづいてコレットもまたついていっており。
ジーニアスはほうっておけない、という理由からか、
これまたなぜかミトスの手をひき、こちらもまた駆け足状態になっていたりする。
あるいみぱっと傍から見れば子供達が追いかけゴッコでもしているのではないのか。
というような光景がそこにある、のだが。
これが大雨でなければ、たしかにそれでも通用する。
「…子供達は元気だな」
「…ですね」
「だねぇ。よくもまあ、この雨の中を元気にはしれることだよ」
そんなロイド、ジーニアス、コレット、ミトスの姿をみつつも、
呆れたように、それでいて半ば少しばかり感心しているのか、ぽつり、とつぶやくリーガル。
そんなリーガルに心底同意する、とばかりにうなづいているプレセア。
そしてまた、そんな二人に同意するかのように、こくこくとうなづいているしいな。
「ま、お子様だからじゃねえのか?」
雪よりはまし、だけどな。
そんなことをおもいつつも、彼らに同意するかのようにつぶやくゼロス。
「…私たちも行きましょう。…道具袋の中に傘をいれておくべきだったわ……」
今度から間違えないように、カッパや傘は必ずいれておくようにしましょう。
そう心の中で決意しつつも、
「ひとまず。いきましょう。この街道沿いをすすめばパルマコスタ、のはずよ」
ちらり、とみれば少し先に案内版らしきものがみてとれ、
この先パルマコスタ、とかかれている木でつくられた案内版がぽつん、
と道の横に建てられている。
だとすれば、どうにかこのまま進んでいっても、間違いなくパルマコスタにはつけるであろう。
問題は…そこにいくまでどれほどまでに、フード付のローブを纏ったとはいえ、
完全防水とかではないそれでどこまで雨がふせげるか。
その一言につきなくは…ない。


~スキット~パルマコスタに向かう最中。雨の中~

コレット「すごい雨だねぇ」
ジーニアス「そういえば、コレットは平気なの?」
コレット「ふえ?」
ジーニアス「だって、平気で空みあげてるでしょ?雨が目にはいったらいたいでしょ?」
コレット「…え?あ、う、うん。そう、だね」
何ともおもわなかった。
それゆえに思わずコレットは言葉につまる。
たしかに普通に雨は目の中にはいってきていた。
しかし、痛みはまったく感じなかった。
それが意味することの意味。
それを悟り、思わずコレットは息をのむが、しかしロイド達に心配をかけるわけにはいかない。
コレット「手をかざしてるから、雨をとめてるんだよ」
ロイド「そっか?それでもすぐに目にはいるぞ?ってぇ」
ジーニアス「…ミトスは平気、なの?」
みればミトスも平気そうに空を眺めている。
ミトス「え?あ。うん。…よくふるなって……」
マナが異様に濃い。
ありえないほどに。
たしかに今現在はこちら側にマナが循環させる状態になってはいる。
が、完全にシステムが起動していたわけでもなく。
それに、とおもう。
完全なる繁栄世界にしている世界においてもここまでマナは濃くなかったはず。
だからこそ、ミトスは思わず顔をしかめる。
ありえないことがおきているこの現実。
おそらくは、地上に降りなければしらなかった事実。
クラトスは…まああてにはしていない。
我が子がいきている、とわかって自分を裏切る可能性がある彼のことは。
ユアンは…言う必要がない、とおもっているのであろう。
ディザイアン達からもこんな報告はあがってきていない。
否、誰かがとめている可能性がはるかに高い。
だとすれば、プロネーマ辺りか、それともその手前なのか。
すくなくとも、きちんとクルシスの情報網が生きていない、という一言につきる。
ジーニアス「…それより、いこう。姉さん達はちゃんとついてきてるようだけど」
ちらり、と後ろをみれば、早足ではあるが、ついてきているリフィル、しいな、
リーガル、プレセア、ゼロス達の姿がみてとれる。
ロイド「そうだな。うわ!またひかった!」
空はあいかわらず稲光。
ジーニアス「…近くに雷、おちないといいけどね」
ロイド「そういや。雷って高いところにおちるんだったけ?
     ならリーガルの傍にいたほうが安全か?」
ミトス「…すくなくとも。そんな近くに雷おちたら普通の人間はいきてないとおもうよ?」
そんなロイドに対し、無意識のうちに突っ込みをいれているミトス。
そして、自分がそんな突っ込みをしたことにはっときづき、
あわてて口元に信じられない、とばかりに手をあてる。
ジーニアス「ミトスのいうとおりだよ。というか雷が人におちたら死ぬよ。絶対」
コレット「そうかな?だって私、試練でジャッジメントつかえるよ?」
ジーニアス「いや、術と天然の雷は違うから。…たぶん」
コレット「雷かぁ。そういえば、お腹おさえてなくてだいじょうぶなのかなぁ?
      雷さまにおへそとられないかな?」
ロイド「そういや。雷様ってやつどこにいるんだ?」
ジーニアス&ミトス「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
ミトス「…えっと。少しきくけど、雷様って……」
ロイド「ん?何だ?ミトス?しらないのか?
     雷ってのはな。何でもタイコをたたく鬼とかいうやつがおこしているらしく」
コレット「それで雷をならしては子供のおへそをとってくんだって。こわいね~」
ジーニアス「…ここにまだ子供の寝物語をしんじてる人達がいたよ。信じられない……」
ミトス「あ…あはは……」
本当にこのロイドはあのクラトスの子か?
思わずそうおもうミトスはおそらくは間違っては…いない……


pixv投稿日:2014年2月8日某日(Hp編集:2018年4月22日(日)

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あとがきもどき:

さて、無事?に絶海牧場も完了です。
エミルが同行しているがゆえに、ボータの死亡イベント、回避されました。
おもうんですけど、なんであのとき、
ロイド達、ウンディーネの召喚、というのを失念してたんですかねぇ。
あるいみ混乱してその事実に気づいていなかったのかもしれないですけど、
あのあと、それに気づいた様子すらなかったですしね。ゲーム本編…
しかも、気づくどころか、ユアンの気持ち、ロイド考えもせず、
ユアンにくってかかってましたし……
あの場面、絶対にウンディーネを召喚すれば、
ボータ達は助かったはず、とおもうのはきっと私だけではないはずです。
ユアンにはストッパー?が必要だとおもいますしね。
ボータには今後のクルシスの在り様のこともあり、生きていてもらいましたv