港町、パルマコスタ。
リフィル達にとっては懐かしい地であり、
そしてまた、この地に始めてやってきた、リーガルやゼロスにしては物珍しい地。
「規模はあまり大きくないですね」
「……そりゃ、あっちのようなメルトキオとかと比べたらそうかもしれないけど」
街にはいり、ぽつり、とつぶやかれたアステルの台詞にマルタが顔をしかめ反応する。
真っ先に街に入りたかったらしいが、何とかロイド達が合流するまで、
リリーナがアステルをかろうじて押しとどめていた、らしい。
ノイシュは街の手前にて、エミルがソーサラーリングの力…にみせかけているだけだが。
とにかく、その体を小さくし、エミルがノイシュ用につくった、という、
首かけのお守り袋もどきの中にちょこん、とはいっていたりする。
顔をちょこん、とだしてきょろきょろ周囲をしている様が何ともかわいらしい。
「これでもシルヴァラントで一番大きな街なんだけどな」
そんなマルタにつづき、ジーニアスもまた顔をしかめつつそんなことをいってくる。
実際、ジーニアスもこの地に初めてやってきたときは、このパルマコスタの大きさに感動したもの。
にもかかわらず、テセアラの人々はどうやらそうとはみてないらしい。
「…おいおい。まじかよ?こりゃ、貧民街の大きさよりも小さくねえか?」
「だから!メルトキオと比べないでってば!」
ジーニアスがこの地で一番、大きな街、という台詞に反応したのか、
ゼロスが呆れたようにつぶやくその台詞にジーニアスがおもいっきり反論していたりする。
そんな彼らの会話がきこえたのか、ふと、少し先にて何やら話していた男性が、
ぱっとこちらを振り向いてくる。
そして、しばらく目をぱちぱちと差せたのち、
「神子様!?それに皆さんも!?」
驚いたように、ぱたぱたとかけてくるは、ロイド達も見知った相手。
エミルもまた、彼とは牧場の手前にてあったことがあるがゆえに、
知らない相手、というわけではない。
確か、ニールとかいう名前の男性。
そして、
「これは、マルタちゃんも」
「もう。ニールさん、いい加減にちゃんづけはやめてよね!」
む~、と顔を膨らませ、かけよってきた男性にマルタが文句をいっているが。
どうやらマルタも同じパルマコスタだからか、ニールとは顔見知りらしい。
「神子様?!」
「え?嘘!?」
「あれ?でもこの前、寄付した人達と違うけど」
そんな二ールの声がきこえた、のであろう。
街の人々からそんな声がきこえていたりする。
「どうやら人数がまた増えられたようですね。ところで、そちらの人の……」
ニールはどうやら、リーガルが手にはめている枷がきになっているらしい。
まあ、気にならないほうがどうかしている。
なぜにわざわざ手枷をかけているのか。
手枷をしている、というのならば、彼は罪人だ、というのだろうか。
「こちらにこられたのは、その手枷をしている罪人の引き渡しで?」
「気にしないで。この人のこの手枷は趣味だから」
「…おい」
きっぱりと、そんなニールの台詞にリフィルがいいきれば、
リーガルが何ともいえない表情をうかべ、リフィルを横眼でみていたりするが。
というか、手枷などをしていて第三者、すなわち他人に追求される可能性。
それをこのリーガルはまったく考えていなかったとでもいうのだろうか。
テセアラ側では神子ゼロスが共にいたがゆえ、
何かの事情があるのだろう、と皆が皆、暗黙の了解で問いたださなかっただけのこと。
しかし、こちら側、シルヴァラントではまたわけが違う。
神子コレットとともにいる、手枷をつけている男性。
どうみても旅の最中で捉えた罪人を引き渡しにきたのではないか、
そんな可能性しか普通は思いつかない。
「…そ、そうですか」
リフィルのきっぱりしたものいいに、多少顔をひくつかせつつも…
しかし、どうやら、リーガルの手枷が彼の趣味だ、と信じたらしい。
そして、多少顔をひくつかせながらも、なるべく自らの視界にリーガルを入れないようにし、
「…この人も女王様気質の人のど…いや、まさか、な。
神子様の連れのリフィルさんがそんな、いやまさか……」
何やら一人、ぶつぶつと呟きはじめていたりする。
どうやら彼の中に思い浮かんだのは、リフィルが命令して、
リーガルが手枷をつけて、大衆の目にあえてさらすという羞恥プレイ、と呼ばれしもの。
それをしているのでは、という思いを抱いたらしい。
「こほん。いっておきますけど。私はかかわっていませんからね?」
そんな戸惑いを含んだニールの声がきこえたのであろう。
リフィルが咳払いをしつつ、きっぱりとそんな彼に対し、誤解をとこうといっているが。
「否定すればするほど、疑われるってこともあるけどな~」
「あんたはだまっときな!」
そんなリフィルにたいし、ゼロスがぽそり、といえば、
そんなゼロスにしいながおもいっきり肘でこづきつつもすばやく言い放つ。
「・・・・・・・・・と、ところで。神子様。封印解放の儀式は順調ですか?
救いの塔に出向かれた、という噂はこちらまで聞き及んではおりますが」
どうやら、リーガルの手枷の一件にはこれ以上ふれないほうが無難。
と判断したのか、はたまた見なかったこと、なかったことにしたのかはわからないが、
改めてコレットに向き直り、そんなことをといかけてくる。
そんなニールの言葉に、
「え?あ、えっと……」
コレットが馬鹿正直に説明しようとするが。
「それより、何でニールさんがここにいるの?」
本来ならば、パルマコスタの総督府の建物内部にいるはずの彼がどうして。
コレットの言葉を遮るかのように、マルタが問いかければ、
「そういうマルタちゃんは、ブルートさんが心配してたよ?ぱったりと手紙が途絶えた、とかいって」
「あ…あはは…やっぱし……」
「えっと。旅は順調なんだけどよ。でも、なんで建物の中にいないんだ?」
てっきり、ロイドからしてみれば、ニールはドア夫人を助け、
建物の中でいろいろとやっているのだろう、という思いがあったがゆえに、
まさかこうして、街にはいってすぐにであえるなど、夢にもおもっていなかったらしい。
「?皆さまもそれを知られてこちらに情報を求めやってこられたのでは?」
『?』
心底以外そうに逆にとわれ、ロイド達は思わず顔を見合わせる。
「この付近にこられたのであれば、パルマコスタの牧場か。
もしくは船をご利用になられるのかとおもいまして。
ここ最近、旧トリエット遺跡、そしてパルマコスタ牧場付近で、
頻繁にディザイアン達の姿が目撃されているらしいんです」
「「「ディザイアン!?」」」
その台詞に反応したは、アステル、リヒター、リリーナの三人。
繁栄世界では文献の中でしか存在しえなかった、女神マーテルが封じた、という愚かなる存在。
女神マーテルの力をもってしても倒すことができず、封じるしかできなかった。
とマーテル教の経典の中、その教えにとかれているその名。
繁栄世界ではただの物語の中だけのこと、と捕らえられているのだが、
しかし、今、目の前の人物はたしかに、目撃されている、といった。
つまり、こちら側、衰退世界の人々にとって、ディザイアン、
とは物語の中にでてくるモノではなく、生活に嫌な意味で密着していることを意味している。
「え?それってどういうこと?旧トリエット遺跡はともかくとして。
パルマココスタ人間牧場はつぶれちゃったでしょ?」
それはもうもののみごとに。
本来、自動自爆装置だけでは設備、すなわち施設は残ったであろうが、
ラタトスクが干渉したがゆえ、
かの地は完全に水没し、後も形もなくなっていたりする。
もっとも、ジーニアス達はエミルが干渉したことなど気付いておらず、
リフィルが自爆させた装置がすごかった、という認識でしかないのだが。
「先生のフエル爆弾、すごかったよね~」
コレットがあのときのことを思い出し、にこやかにそういえば、
「フエル爆弾?リフィルは爆弾を増やせたのか?」
リーガルはそのときのことを知らないがゆえ、
首をかしげリフィルにしごくまじめな表情でといかけていたりする。
そしてまた、
「すごい!リフィルさんって爆弾手造りできるんですか!?ぜひともご教授を…っ!」
「お前は変なところに反応するなっ!」
きらきらと目をかがやかし、ずいっとリフィルに迫りそうになるアステルを、
ぐいっとその首根っこ…と思わずなぜか猫の首根っこをつかむ姿を連想してしまうかのごとく、
慣れた手つきで襟元をつかみ、ぐいっとひっぱっているリヒターの姿。
「…牧場……」
何とも不穏な言葉である。
人間牧場、などとは。
ゆえにリリーナが思わず顔をしかめるが。
「え?違うのですか?それを調べにこられたのでは?」
ジーニアスの素朴なる疑問に対し、別の意味できょとんとしつつ、
ニールがそんなことをいってくる。
「最近、ディザイアン達が牧場跡地、さらには精霊の封印の地。
ソダ間欠泉や旧トリエット遺跡など。
その付近をうろついている、という目撃情報があがってきてるんです。
それゆえに我々も警備を厳重にし、総督代理のクララ夫人のいい分もありまして、
今は副総督であるブルートさんの指示のもと、この街の警備を厳重にし、
さらにはソダ島や旧トリエット遺跡に調査隊を派遣しているところなんです」
何か異変がないか、ニールもまた見回っていた矢先、
今朝がた、旅業からもどってきたものが、
町はずれの街道から外れた位置に、見慣れぬ何かをみた、という報告をうけ、
ニールが警戒をつよめるためにそれについて話しあいをしていたところ、
ちょうどロイド達が街の中にはいってきた。
もっとも、ニールは知るはずもないが。
その見慣れぬ何か、とは彼らが張っていたテントであり、
この地においてはああいうものがないがゆえ、不可解な品にみえたらしい。
「まさか、マグニスが復活したのかな?」
コレットが心配そうにいうが。
「たしかに。彼が死んだかどうか確かめず施設を脱出したものね。
…クヴァルのほうは完全に息の根がとまっていたけども」
それこそクラトスの手によって、かんぷなきまでに彼は死を迎えていた。
思えば、あのときからクラトスはあやしかったのかもしれない。
倒れたマグニスに向かい、愚かなのはきさまのほうだ、マグニス。
クルシスは神子を受け入れようとしている。
たしかにクラトスはそう、いった。
そして、マグニスがいっただまされていた、という台詞も。
クラトスがクルシスの一員であったのであれば、
そして、ロディルが一人暴走していたというのならば、リフィルの中でも話しが繋がる。
「もしくは、あのとき、潜入したとき、ディザイアンが一人もいなかったし。
どこかにでていたディザイアン達がもどってきてる、とか」
ジーニアスもまたあのとき、潜入したかの施設内において、
ことごとくディザイアン達の姿がみえなかったことを思い出し、
コレット、そしてリフィルに続きそんなことをいってくる。
実際、彼らがいうディザイアンというものがいなかったのは、
ジーニアス達が潜入する前にちょっぴしラタトスク自らが、
魔物達に命じ、彼らに制裁を加えていたからに他ならないのだが。
「わかりません。あと関係あるかどうかはわからないのですが。
ここしばらくイズールドとパルマコスタを結ぶ海路でディザイアンの襲撃をうける。ときいています」
そのあたりにあるとするならば、海の中の施設が関係しているというところか。
だとすれば、幻影をかの地そのものにかけていたのに気付かれたのか。
「かの地から逃げ出してきた人々の変わりにあらたに収容者を集めているのでは。
という不安も街の人々の中にはありまして……」
彼らが街にいれば、自分達もまたディザイアンにおそわれる。
だったら、もともと収容されていた人をディザイアン達に引き渡せば、
自分達は助かるのではないか、という考えをもった人々もでてきている今現在。
そんな人々を説得するのにニールも、そしてブルート達もまた駆けずり回っている。
そんな中、ふってわいたかのような、ディザイアン達の目撃情報。
人々の中では、疑心暗鬼が高まっている。
そこまでいい、はっと今さらながらに周囲に気がついたかのように、
ざっと周囲を見渡すニール。
いつのまにか、街の人々が集まってきており、あれが神子様?
などという声がきいてとれる。
どうもコレットをみたことがあるものは、コレットを。
コレットをみたことがないものは、
ローブを着こんでいるエミルをどうやら神子、と勘違いしているっぽいが。
ちなみに、ローブ、といえどマントと兼用のものであり、
ぱっと見た目、白い服の中に紺色のエミルの着ている服がちらり、とみえ、
それこそ、男なのか女なのか、その体系がしっかりと目視できないがゆえ、
目視だけでいくならば判断はつかない。
長い金髪はかるく流されるように下のあたりでいくつかみつあみにされているだけで、
ほとんどエミルは今現在、髪は流すがまま、の状態にしていたりする。
この場にいる金髪の子は、アステル、エミル、コレット、ミトス。
その三人いるが、アステルは完全にどうみても白衣、とみられる服装をしているからか、
アステルが神子かもしれない、という思いは人々の中にはないらしい。
そもそも病院の先生がきるような白衣をきているような人物が神子とは誰も思わない。
「とりあえず。皆さん。ここでは何ですから、総督府のほうへ」
これ以上、こんな場所ではなし、街の人々に不安を与えるわけにはいかない。
というかその判断が少しばかり遅すぎるような気もしなくもないが。
「パパは?」
「ブルートさんも今、海にでているから。もう少しすればもどってくるはずだよ」
マルタの問いかけに答えるニール。
「…いつのまにか、人があつまってきています」
ふとプレセアが周囲をみれば、いつのまにかこの場には街の人々、なのであろう。
人だかりができており、彼らを取り囲むように、すこしばかり距離をあけ、
近寄っていいのかそのあたりをつかみそこねているのか、
上空からみれば、ちょっとした穴あきドーナツ状態となりて人が集まってきていたりする。
その中心にいるのはいうまでもなくニールを含めたロイド達で。
会話が会話でもあることから、不安がたかまっている人々にとっては、
ほんの少しでも情報がほしい所。
そんな時、どうどうと、しかも昼の最中に気になっている話題をいっているものがいれば、
しかもそのうちの一人は総督府のもの。
さらに、どうやら話しを聞く限り、本物なのか偽物なのかはわからないが、
否、間違いなく本物、なのであろう。
総督府のものが、そのようにふるまっているのだから。
神子一行に言っている言葉は人々にとって信じるにあたいする。
「うお!?いつのまに!?」
その台詞に今さらながら、ロイドもまた人々に取り囲まれているのにきづき、
思わず一歩盛大に後ろにさがりがらもそんなことをいっているが。
「…ロイド。敵意がないからって人の気配とか感じられない、のは問題じゃあ?」
これもロイドの母が彼の力を閉じているうちの一つの影響なのか。
それはエミルにはわからない。
そもそも、ロイドもまた、ミトス達と同様に、ゼロスにしてもまた然り。
その気配を感覚として捉え認識することが可能であろうに。
「しかし…気になるわね。海にて目撃されている、というディザイアン。
もしかしたら、ハイマできいた、ロディルが創っているという魔導砲の建設。
それにかかわっているのかもしれないわ」
命をかけて牧場を脱出し、コレットに伝えようと逃げ出したというピエトロ。
かの男性の呪いを解除したとき、ピエトロの口から語られたのは、
魔導砲なるものを建造しようとしている、といった内容もたしかにあった。
「それはわかりません。ですが、海底に何か巨大な建造物を創ろうとしているのでは。
と近くまで探索にいったものの見聞した限りの意見、ですが」
ひとまず、ニールに案内されるまま、一行全て十六人。
彼らはそれぞれ総督府、とよばれしこの街を統べる設備が集まっている、という建物へ。
「やはり、まとめるものがいない、というのは問題だな」
リーガルは思うところがあるのか、何やら考え込んでいるようではあるが。
そもそも、街ごとにこのような自衛の手段、
そしてまた、街や村ごとに規律が違う、というここ、シルヴァラント。
統一した規定がないゆえに、盗賊や犯罪者などがあるいみで野放し状態となっている。
そもそも、きちんと情報伝達を各村や町同士で行っていないがゆえ、
例をあげるとすれば、神子の偽物、というような輩もでてきて、甘い汁を吸っていたりする。
その辺りを考えれば、レネゲード、そしてディザイアン。
どちらにしても、クルシス、という組織は内部に対象問題がある、とはいえ、
そういった規律はしっかりしているといってもいいであろう。
だからこそ、大陸が違えども手配をかけられたロイドの手配書が別の大陸においても有効のように。
「先生。たしかその海域には……」
コレットが不安そうにリフィルをみながらいってくる。
その海域には、コレット達も知っている、
海にある、といわれている人間牧場があるあたり。
「ええ。そうね。あの海域には確か、絶海牧場とよばれている場所があったはずね」
どこが入口なのかはわからない。
が、あの辺りの海域にある、というのは判明している。
それがシルヴァラントのものたちの認識。
「なんか気になるな。ロディルってやつが建設してるっていう魔導砲かもしれない。ってことだろ?」
以前、クラトスが言っていたことを思い出すとするならば、
クラトスはあのとき、魔導砲、とは古代兵器のトールハンマー、だとそういった。
どれほどの威力をもつのかロイドにはわからないが。
ろくなことではないのは確かであろう。
だからこそ、ロイドも思わず言わずにはいられない。
「ロイドくんよ~。きになるなら確かめてみればいいじゃねえか」
そんなロイドにたいし、ゼロスがかるくいってくるが。
「たしかに。これはあたしもゼロスの意見に賛成だね。
それに、魔導砲ってやつが外れでも、パルマコスタの牧場が本当に復活したのなら
……この街も下手をすればルインの二の舞になっちまうよ」
ルインの街は、ピエトロを保護したという罪でディザイアン達に襲われた。
もっとも、ロイド達の介入で完全なまでに街が破壊されつくされる。
ということはなかったにしろ。
あのとき、あの場にロイド達がいなければ、かなりの人がさらに命をおとし、
そしてまた、家々もまともにのこってなどはいなかったであろう。
それこそ、マナの守護塔に避難した人々も殺されていたか、
もしくは牧場につれていかれていた可能性がはるかに高い。
それを踏まえてのしいなの台詞。
あのとき、たまたま襲撃をうけたとき、しいなたちはマナの守護塔にいた。
だからすぐに対処ができた、のだが。
あのとき、もし一人だったら街の人達を守り切れた自信はない。
だからこそしいなはいわずにはいられない。
この街はルインの街のように簡単な自警団みたいなもの、
すなわち、それこそ農民が鍬や鎌をもっての武装、といった程度の反抗ではなく、
この総督府、という組織をあげて反抗しているがゆえにそれほど悲観することではない。
のかもしれないが。
しかし、しいなは聞かされている。
この総督府をまとめていた、ドア、という人物がディザイアンにくみしていた。
ということを。
組織の上のものが敵とつるんでいるのならば、下にいる民はいいように使い捨てにされる。
そういった事情をしいなは嫌、というほどに知っている。
「そうだな。とりあえずパルマコスタ牧場にいってみるか」
「牧場…それもきになりますけど。
けど、まずは、僕ととしてここの様々な資料に目を通したいんですけど」
アステルが、ずいっと待ちきれない、とばかりに目をきらきらさせていってくる。
どうやら目の前の彼が責任者に近い立場にいるもの、らしい。
ならば、この世界のことを少しでもしるために。
もしかしたら、王立図書館のように資料を閲覧するにしても許可がいるもかもしれない。
だからこそのアステルの提案。
「…そうね。第三者の視点からなら、何か見えないものもみつかるかもしれないわ」
特にディザイアン、という先入観がない彼らならば。
残された資料から、何か得るものがあるかもしれない。
ゆえに、リフィルはアステルの台詞にしばし考えこんだのち、
「ニール。この人達にこの街で保管している資料閲覧させてもらえないかしら?」
「えっと。よくわかりませんけど。私からもお願いします~」
なぜリフィル達がそういうのかはコレットはよくわからないが。
ここは自分もお願いしたほうが何となくいいような気がし、
かるく頭をさげるコレット。
そんなコレットの台詞をきき、
「ええ。それはもう。神子様の頼みでしたら。では、パルマコスタの学問所の資料室の謁見許可。
それを学校長あてにしたためてもらいましょう。といっても。
僕にはその権限がないのでブルートさんが戻ってきてから、になりますが」
クララ夫人、そしてブルートの採択があり、始めて許可は得られるので。
そういったことを説明しつつ、二ールが苦笑まじりにいってくる。
「なら、マルタものこったほうがよくない?」
「ええ!?なんで!?エミル!?」
さらり、といったエミルの台詞に思わずマルタがくいつくが。
「…ああ。そのほうがいいかもしれないね。
あのブルートってやつのことだ。マルタがいないとわかったら。
それに難癖をつけてマルタの無事をみるまでは~とかいって許可ださない。とかありえそうだし」
そもそも、マルタがこの一行に同行してきたのもあるいみでマルタが押し切ったから。
その時のことをしいなはよく覚えている。
伊達にアスカードの街からなしくずしてきに一行に加わっていたわけではない。
あのときの、彼の親ばかぶりはしいなは目の当たりにしているがゆえ、
言われたわけでもないのに、ありありとその光景が浮かんでしまい、
エミルの提案に納得せざるを得ない。
「それもそうね」
「だね」
しいなの台詞に、すかさずリフィルとジーニアスも納得したような声をだす。
あのとき、マルタとブルートが言い合いをしていた様子。
彼らは目の当たりにしているがゆえに、しいながいわんとするところが、
嫌でも納得できてしまう。
あの親ばか、としかいいようがない彼ならばいいかねない、と。
「なら、こいつもここでしばらく安静にさせてもらってもいいか?」
「お兄様?!」
いつもは神子様、というのに、あまりに驚いたのか、つい素で呼び名を元にもどしているセレス。
まあ、ここで神子様、といっても余計に話しがややこしくなったであろうから、
それはそれでよかったのかもしれないが。
「お前はここで休んでおけ」
「なぜですの!?」
「お前、熱だしてるだろうが!」
隠しているつもりでも、ゼロスには通用しない。
まだ微熱かもしれないが、すくなくとも、熱をだしはじめているのは事実。
そんな状態の妹を危険な場所につれてゆくことなど、ゼロスにできるはずがない。
「それはいけませんね。わかりました。医者をお呼びいたしましょう」
「デハ、ワタシはセレスさんを看病にここにのこります」
タバサが手をあげそういえば、
「そうね。タバサ。じゃああなたにお願いするわ」
ここにくるまで、タバサからリフィルはいろいろと聞きだしている。
タバサの中には医学に関する情報などもアルテスタはインプットしているらしく、
ゆえにいざ、というときにはたよりになるはず。
だからこそ、リフィルはタバサの提案を否定する要素がみあたらない。
もっとも、タバサが機械人形である、というのはばっと見た目にはわからないであろうが。
もしもわかったとすればそれこそ大騒ぎになりかねないかもしれないが。
ここ、シルヴァラントにはそのような技術はない。
最も、何となく神子コレットと共にいるがゆえ、
そしてどうも救いの塔にむかった、という話しが伝わっている以上、
クルシスからの~で通用してしまうような気がひしひしと感じてしまうにしろ。
「じゃあ、ここに残るのは、アステルさんとリヒターさん。リリーナさんと。
あとはマルタとタバサさん、そしてセレスさん、なのかな?ミトスはどうする?」
「え?えっと…僕は……」
僕もいきます。
そういおうとしたミトスよりも先に
「ミトスも危険だからここでまってて。セレス達を身守ってて、ね?」
「……と、いうことらしいわ。無事にもどってきたら、彼らを引き取りにきますから」
ジーニアスにすかさず懇願するようにいわれ、ミトスは言葉につまってしまう。
その隙にどうやらリフィルが話しをまとめるように、二ールに言い放つ。
「そうですか。判りました。神子様。皆さま。お気をつけて。では、部屋に案内しましょう。こちらです」
ニールがこの街にのこる、という彼らを促し、部屋をでてゆこうとする中、
そんなニールの後ろについていきつつ、振り向きざま、
「…ジーニアス。気をつけて。リフィルさんも、…みんなも」
どこか困惑したように、それでいて少しばかりほっとしたようにいってくるミトス。
ミトスもどこか思うところがあるらしい。
何かディザイアン達が行動をしているのならば、
まちがいなくプロネーマからの定期報告がきているはず。
それがない、ということは、ロディルがまた暴走している可能性も否めない。
自分に知られていない、とおもっているのか、あのロディルの暴走は目にあまるものがある。
いずれは粛清しなければな、とおもいながらも害はない、と放置していたつけ。
それが今まさにまわってきている、というところか。
ミトスがそんなことを思いつつ、ロイド達にむかい声をかけると、
「ああ。しばらくまっててくれよ。ミトス」
その困惑した様子を自分達を心配しているがゆえの表情と捉えたのか、
否、確実に捉えた、のであろう。
ロイドが心配ない、とばかりにミトスに笑顔をむけて言い放つ。
「セレス。お前はしっかりと体をやすめるんだ。いいな?」
「・・・・・・・・・・・・はい」
ゼロスはゼロスでセレスに言い含めているようではあるが。
本当ならばセレスも共にいきたい。
が、それは逆に兄の足手まといになるかもしれない。
その思いがあるからこそ、素直にこの場はうなづかずにはいられない。
すくなくとも、熱がどんどんあがってきている感覚がある以上、
ゼロスのいうとおり、安静が必要、ということには変わりがないのだから。
セレスの熱。
それは、セレスの器を構成しているマナが正常にもどりゆく過程においておこりえるもの。
すなわち、かつてエミルが手渡したエバーライトが正常に機能している証といえる。
熱によりて余計なものを排除してゆく様子は、ヒトがもつ免疫機能を高めている結果。
「…ジーニアス。それから、あと、これもっていって」
いいつつも、ミトスは懐にしまっていたらしき、何かを取り出し、
そっとジーニアスの手をつかみ、それを握らせてくる。
それは素朴な、とある木の実をくりぬいてつくられたとある笛。
「これは?」
いきなり笛らしき何かを手渡され、ジーニアスが戸惑いの声をあげるが。
「僕の…なくなった姉様の形見……」
「!そんな大事なもの!!」
ミトスの台詞をきき、ジーニアスが驚いたように笛をミトスに押し返そうとするが。
「危険になったらこれを吹いて。何ができるかはわからないけど。
もしかしたら助けられるかもしれないから」
ミトスからしてみれば、反逆しているロディルがセイジ姉弟に何かする、というのは許せないらしい。
ミトスからしてみれば、この二人はぜひとも手元においておきたい。
すなわち、計画の一員、千年王国の一員に、とおもっているがゆえの行動。
「…わかったよ。ありがとう。必ずもどってきてこの笛、返すから」
これを自分に渡してくる、ということは自分を大切におもってくれている。
そして信用されている。
そうおもえるからこそ、ジーニアスはぎゅっとミトスの手を握り締める。
やがて、パタン、とニールにつられ、彼らが部屋からでてゆくのを見送りつつ、
「…ジーニアス。あんたは絶対に無事にもどってこなきゃね」
「うん」
しいなも思うところがあるのか、ジーニアスの肩にぽん、と手をおきいってくる。
「なら、私はどうしようかな?一度家にもどって……」
マルタがいえば。
「そういえば。マルタさんはここにすんでるんですか?」
ふとアステルがきになったのかそんなことを問いかけているが。
ニールにつれられて部屋をでていったのは、熱をだしているセレスと
そんな彼女を看病するためについていったタバサ。
そして、なぜかミトス。この三人のみ。
あとの残りはいまだにこの場にのこっていたりする。
アステル達からしてみれば、許可がでてから行動したほうがいい、という思いがあるらしい。
「さすがにこの建物の中にはすんでないよ?私の家はこの先の奥にあるんだ」
といっても街の中にあるのには違いないが。
「うちにもいろいろと古代の資料、とよばれているものとかのこってるけど……」
「ぜひ閲覧させてください!!!!!」
がしっ、とぽそり、といったマルタがおもわずその場からひいてしまうほどに、
アステルがマルタの手をぎゅっと握りしめ、きっぱりとそんなことをいってくる。
「なら、決まりね。マルタ。この三人をお願いするわね。
あと、ブルートさんがもどってきたら私たちにも話しをきかせてもらえるように。
マルタ、あなたからもいっておいてくれればありがたいわ」
ニールがいっていた、精霊の封印、とよばれし場所でディザイアン達が目撃されている。
それがリフィルとしてはひっかかっている。
彼らがどこまで情報をつかんでいるかどうかはわからないが、
少なくとも、現状を理解するための知識の一つにはなるであろう。
「じゃ、俺達は俺達でとっとと用事をすまそうぜ。まずは牧場跡地、だな」
ロイドの言葉に皆が皆うなづいたのち、
マルタはアステル達三人をつれて、ひとまず実家にともどり、
そして、ロイド達…つまるところ、
ロイド、コレット、ジーニアス、リフィル、しいな、プレセア、ゼロス、リーガル。
そしてエミル。
九名にてひとまず、ディザイアン達が目撃された、というパルマコスタ牧場。
その跡地にむかってゆくことに。
木の実をくりぬいてつくられている、といっても。
どうやら一つの実からつくられているのではなく、いくつかの実をつなぎ合わせ、
大小様々な木の実をくりぬいて、それらを一つに束ねているらしき笛。
「かわった笛だよね」
じっと笛を大切そうにもちながら、ジーニアスがいうが。
「え?ジーニアスはみたことないの?それ、リンカの笛だけど……」
エミルからしてみれば、そんなジーニアスの台詞に驚きを隠しきれない。
そもそも、昔はこの笛はいたるところにあったというのに。
以前、まだ平和であったころは、
笛の音コンテストなどという代物を、エルフの里ですら行っていたことがあった。
…ついでに、それを審査するのはなぜかアスカであったりしたのだが。
アスカが一番心地よい、と感じた音色を出したものが優勝者。
そんなこともかつての人々は行っていた。
それは遥かなる古の記憶であり、ラタトスクが眠りにつくより前の、
そしてさらには天地戦争よりも前の記憶。
この大地に降り立ち、まだ人々が争いをせずにそれぞれの種族が、
大地を育み互いの種族を思いやり生活していたころの…記憶。
「涼しい音色を奏でることができる、というので人気があったんだよ?」
今はどうかはわからないが。
そもそも、リンカの木自体が極力減っている今。
たしかに人間達がこの笛の存在を知っている、というのはおかしいのかもしれないが。
もしもこの場にクラトス、もしくはミトスがいれば怪訝を示したであろう。
どうして絶滅しているはずのリンカの木のことに対し、
エミルはそんな昔のことまでしっているのか、と。
しかし不幸にも、この場にはそれを指摘できるようなものは残されていない。
アステルもまた文献にてリンカの木のことをしってはいるが、
パルマコスタに残った以上、
この場にいないがゆえに、エミルの言葉に突っ込みをいれてはこない。
「でも、なんか、ついこの前のような気がするんだけどな」
ふとロイドが何気なしにそんなことをつぶやいてくる。
総督府を出たのち、街を後にし牧場にむかい進んでいる今現在。
「何が?」
そんなロイドの台詞に首をかしげつつエミルが思わず問いかけるが、
「前、ここにきたとき、あのとき一緒にいたのはしいなとお前だったけどさ。
今は新たにリーガル、ゼロス、そしてプレセアの三人が加わってるけど。
…あのときとこのあたりもかわってないんだな、とおもってさ」
「何いってるのさ。ロイド。かなりかわってるよ。
僕たちがこの地をとおったとき、ほとんど草木はなかったでしょ!?」
それこそ、大地が疲弊しまくっている、というのを物語るかのように。
草木があっても小さいものが主で、ここまで麦による黄金の海、
といっても過言でない様子はみることがなかった。
あったのは、疲弊していた畑らしきもののみで、芽吹いてすらいなかったというのに。
そんなロイドに思わずジーニアスが反論をしているが。
「それより、パルマコスタの人間牧場が復活してたら大変なことになっちゃうよね」
コレットが沈みがちにそんなことをいってくる。
「あのときいいろいろとあったなぁ。ショコラを助けにいったはず、だったのに」
「…結局、あのとき、ショコラって
……エミルに連れて行かれる前に助けられてたみたいだしね」
ショコラが浚われたから、という理由で突入作戦にロイド達も加わった。
が、実際はショコラは浚われてすぐにエミルの介入により、
エミルの、否、ラタトスクの命令をうけた魔物達により、
ディザイアン達の手から無事に救出されており、
当然のことながらパルマコスタの牧場、というものにつれていかれなどはしていなかった。
その事実はドアには伝えられておらず、だからこそ、
ドアは始めの計画のままに行動するように、と部下達に命じていた。
…最も、そのときの命令の波動をうけ、目覚めてきたイグニスの存在がありはしたが。
ジーニアスがあのときのことをおもいだし、エミルをじとっとみながらいってくる。
ある意味では肩すかしをくらったようなもの。
牧場に潜入しても、人っ子一人すらみあたらなかった。
いたのは、囚われていたであろう人々、のみで。
「…だな。だけど。復活なんてしてたら問題だよな。また街を襲われて罪もない人が殺されちまう」
「…エクスフィアも…また、作られちゃうんだね。人の命を犠牲にして」
ロイドのつぶやきに、ジーニアスも思わず顔をふせてしまう。
「…こちらでは、そのようなことが日常的に行われていたんですね」
繁栄世界ではありえなかった、ディザイアン、という組織の脅威。
クルシスの同じ下部組織だ、というその組織は、
クルシスの闇の部分をうけている組織だ、そうプレセアはロイド達から聞かされた。
「…人の命を苗床にしてつくられている、というエクスフィア製造工場……
話しにはきいていたが、人間牧場とは下劣な施設なのだな。
…アリシアのような犠牲者をこれ以上出さないためにも、
牧場とやらの復活は阻止せねばらなぬ」
「そう、ですね。アリシアのような犠牲者は、もう……」
リーガルの台詞にプレセアもおもわずうつむきながら、つぶやかざるを得ない。
自分にとってたった一人の妹は、エクスフィアの犠牲となっていた。
その身にエクスフィアをつけられ、異形と化して…
異形とかした妹を殺した、というリーガルが許せたわけではない。
しかし、アリシアがいうには、あのままでは、
アリシアは罪もないひとを自らの手で殺しまくってしまっていた、という。
どちらを恨めばいいのかすらわからない、ごちゃごちゃとした感情。
しかし、ともおもう。
こちらでは、組織的にそのような悲劇が当たり前、としてまかりとおっている、という。
その理不尽さ。
それはまるで、テセアラ、という国がハーフエルフを差別し、
家畜以下、として扱っているのと同じなのかもしれない。
否、それよりもひどい、のかもしれない。
彼らは処刑されたりしないかぎり、
能力さえみとめられれば死ぬまでは国に飼い殺し、とはいえ命をつなぐことかできる。
が、こちらの牧場につれていかれた、という人々は、
問答無用で、しかも要の紋がないままにエクスフィアをその体に埋め込まれるという。
つまり、死を前提にした…人間牧場、とはよくいったものだ、とおもう。
人間を苗床にし、エクスフィアを製造する工場。
それは人、としてプレセアからしても許せるものでは…ない。
きけば女子供、老若男女関係なく、ディザイアン達はつれていき、
苗床、として牧場に収容する、という。
それこそ街をいきなり襲撃し、人々をつれさることもざらだとも。
ロイド達が育ったイセリア、という村は、
神子が産まれた村、ということもあり、
ディザイアン達と”不可侵契約”なるものを結んでいる、とはいうが。
ロイド達が村を追い出されたとき、その契約を無視しディザイアン達が村に攻め込んできた。
ともきかされた。
もっとも、どうしてそのようになったのかまで詳しい説明はロイドはしていないのだが。
つまり、始めにロイドが契約を破ったから、という前提はプレセアには語られていない。
「…ああ。俺はエクスフィアの為に殺される人を…もう、これ以上、増やしたくないよ」
それはロイドの偽らざる本音。
こんなもののために命を消されてしまう、など間違っている。
それに、あのときアリシアもいっていた。
意識はエクスフィアに閉じ込められている、と。
そしてこのままでは、意識がないままに永遠に生きてしまう、とも。
もっとも、どういう原理なのかはわからないが、
魔物によって、魂とエクスフィアは分離されていたようではあるが。
アルタミラでの出来事を思い出しながらも、ロイドが淡々と言葉を紡ぎだす。
「…そう、だな。…アリシアのような犠牲者は…もう、産まれてはならない」
「そう、ですね。とめましょう。牧場の復活、とやらを」
ぎゅっと手をにぎりしめ、つぶやくリーガルに、プレセアもまたうつむきつつも小さく同意を示す。
「いっとくけど。勝手に君たちヒトがあの子達を利用してるだけなんだからね?」
本当に、彼ら人間は、とそんな彼らに会話をききつつも、エミルは思ってしまう。
まるで、精霊石達が悪いようなその言い回し。
悪用しようとしているのはあくまでもヒトでしかない、というのに。
精霊達が孵化するまえに悪用しているのはほかならぬ人でしかない。
つまるところ、精霊石達もまた人間の犠牲者、といえる。
まだ孵化する前の力をそのヒトの精神の負の感情。
そういった穢れを加えることにより無理やりに狂わされてしまう微精霊達。
これがヒトによる犠牲でない、とどうしていえる。
「またそれ?いつもエミル、エクスフィアに罪はないような言い方するよね?」
「事実でしょ?勝手にあの子達を利用してるのは君たち、ヒトじゃないか。
今だって、ならどうしてジーニアス達はそれをつけてるの?」
ジーニアスにしろリフィルにしろ。
ジーニアスのほうはその内部にはいっているマーブルの魂がジーニアスに力をかそう。
そんな気持ちがあるがゆえに、まだ救いはあるのかもしれない。
しかし、プレセアにつけられているエクスフィアやリフィルのもっているそれら。
それはあきらかに、石に宿りし微精霊達の気持ちに反しているもの。
もっとも、エミルが、否、王が傍にいることにより、
彼らの気持ちは以前とはだいぶ変わっているようではあるが。
「そももそ、僕からしてみれは。自分達で努力しようともせずに。
その子達を無理やりに穢したあげくに使用しようとしているヒト。
そんな人の心のほうが信じられないけどね。
そして、それをしっていてそれを平然とつかっている君たち、にもね」
『・・・・・・・・・・・・・・』
エミルの言葉に言い換えす言葉がみつからず、思わず全員がその場にて黙りこんでしまう。
ロイド達は微精霊云々、という事実までしはらないかもしれない。
いや、アルテスタの言葉を理解しているならばわかっているはずである。
なのに。
しかし、それが生み出されるといわれている過程で何がおこるのか。
知っているはずなのに。
それでも平気で使い続けているのもまた事実。
「なぜ、他者の力をかりて自分達で努力しようとしないんだろうね。ヒトって」
いつもそう。
自分達で努力すれば何とかなるほどの力は与えているというのに。
かつてのときにしろ、今にしろ。
そして、その力の使いどころを間違えては世界を窮地に陥らせる。
それもまたヒトでしかありえない。
「エミル、あなたは……」
まるで、自分がヒトでないようなその言い回し。
だからこそ、リフィルは何ともいえない声をだす。
「ま、暗い話しはおいとくとして。で?リフィル様ぁ。その牧場ってのはこっちで間違いないのか?」
「え。ええ。そうね。あの先、よ」
街道沿いに北上していった先の森の中。
「人数がすくないんだし。レアバードつかったほうがよくねえか?」
「「「あ」」」
たしかに十六人もいるならばレアバードは使用不可能かもしれないが。
今は実際十人しかいない。
ゆえに、ゼロスの指摘に間の抜けた声をだしているロイド、しいな、ジーニアスの三人。
だとすれば、もっているレアバードでの移動は可能。
確かに歩いての移動となればかなり時間はかかる、が。
「そうね。…少しの距離だもの。そうしましょう」
たしか、牧場にある手前の大地には開けた場所があったはず。
ならばわざわざハコネシア峠の辺りを気にする必要はなくなる。
クルシスの動向もきになりはすれど、空での移動ならば、
あのレアバードならばさして時間はかからない。
「でも、たしかに。ゼロスさんのいうとおり。
レアバードでもいいかもしれませんけど、目立ちません?」
おそらくかの機体にはステルス機能とかついているような気もするが。
それにリフィル達が気付いているのかいないのか。
パルマコスタをでて、パルマコスタ牧場にむかうにあたり、
ゼロスの意見にて、人数が少ないのならばレアバードを使用すればどうか。
という意見がでたのはつい先ほど。
「今たしか、何機かりてたんだっけ?」
エミルの台詞に思いだしたようにロイドが首をかしげてぽつり、といってくる。
「もう。ロイド。八機だよ。アルタミラにいくときにいってたでしょ?」
アルタミラにゆくにあたり、どうやっていくのか話しあったときに、
何機今現在預かっているかどうかという話題になっていた。
ゆえに、ロイドの疑問にジーニアスが呆れたように言い放つ。
「…あのとき、たしかクルシスにみつかるのでは?といっていたのでは?」
プレセアが、そのときのことを思いだしたのかぽそり、といってくる。
「たしかに。それはあるのだけどもね」
短い距離だから、といって使用してクルシスに見つかってしまえば面倒かもしれない。
かといって、ここから歩いてゆくにしろ、
パルマコスタの牧場まではちょっとした距離がある。
「ん?あ。リフィルさん、ちょっとまってください」
ふと近くにみおぼえのある気配を感じ取る。
「?エミル。どうかしたの?」
とある気配にきづいたがゆえにリフィルに声をかけるが。
そんなエミルの台詞にリフィルが首をかしげるとほぼ同時。
「いえ。この先にスプニルがいるみたいだから、呼びますね」
「え?」
「「「?」」」
その名はリフィルは聞き覚えがある。
ユウマシ湖から移動するときに、森をぬけたところでまっていたかの不思議な馬。
一方、その言葉の意味はゼロス、リーガル、プレセア達にはわからない。
「――こい。スレイプニール」
エミルがそうつぶやくとともに、彼らの進んでいく予定の目の前の街道沿い。
その目の前の大地に淡い魔方陣らしきものが出現し、そこから影が形作られていき、そして。
「お久ぶりでございます」
「「「って、しゃべった!?」」」
魔方陣のようなものから魔物が現れたことにもおどろくが。
そもそも、八つの足をもつ馬のような魔物など、
リーガル、プレセア、ゼロスは聞いたことすらない。
「あ。この魔物さん。たしかユウマシ湖から……」
コレットがそのことにきづき、声をあげるが。
「…あ~。いたな。こんな魔物」
「うん。いたね」
あのとき、ユニコーンの角を手に入れた後、なぜか森を抜けた先で待機していた馬の群れ。
たしか計十一頭の群れを構成していたはずである。
そのときのことを思い出し、ロイドとジーニアスがしみじみと何やらいっているが。
そもそもついこの間のことなのに、かなり前のような気がロイド達からしてみればしてしまう。
それはあれからいろいろとあったから、なのだが。
「…この魔物なのね…は~……」
見たこともない、と当時おもった八本足の魔物。
というか久々にみたような気がする、エミルの魔物呼び。
リフィルがおもわずこめかみに手をあて思わずため息つくが。
「…リフィル。エミルとはいったい……」
「いわないで。リーガル。私達もまだこの子についてはほんとうにわかってないのよ」
それは本音。
リフィルとリーガルがそんな話しをしている中。
「――かわりは?」
『つつがなく』
何やらエミルと八本足の魔物は何か会話らしきものをしているらしい。
もっとも、その言葉の意味、そしてその旋律はリフィル達には相変わらず不明だが。
『それで?王。今回はどちらまで?』
「この先のヒトがつくりし施設跡まで、たのめるか?」
『――おまかせを』
エミルの言葉をうけ、一声、その八本足の馬が甲高いいななきのようなものをすると同時。
どこからともなく、ドド…という音とともに、十頭の馬達がこの場にとあらわれる。
そして、馬達はその場にて待機状態となりて、その場に膝をおってくる。
こういう光景は始めてみたがゆえに唖然としているゼロスとプレセア。
そしてまた、
「あ~…あのときもこうだったね」
しいなもまた、あのときのことを思いだしたのか、ため息まじりにそんなことをいっていたりする。
ユウマシ湖をでて、森をぬけた先にずらり、と馬がこうして待機していたあのとき。
あのときのことをしいなはしっかりと覚えている。
あのときは、まだしいなの傍には孤鈴がいた。
もっとも、その姿をみて孤鈴がありえないだの何だの、
そうつぶやいていた理由は結局、しいなは聞き出せなかったのだが。
「この子達は問題ないみたいですよ?」
「エミル…あなたねぇ」
くるり、と向き直り、にっこりというエミルの台詞にリフィルはさらにため息をつかざるをえない。
「…まあ、よくわかんねえが。つれてってくれるっていうんなら問題ねえんじゃねえの?」
ゼロスもさすがに驚きはしたが、エミルについてはありなのだろうな。
そう瞬時に頭の中を切り替える。
そもそも、エミルと先ほど見回りにいっていたとき、
エミルに報告とばかりに、またあの摩訶不思議なマナをもつ生物がやってきていた。
船の中において、アステルから一応ゼロスは精霊でも魔物でもない。
そんなマナをもつものがいるのか、そんな問いかけをアステルに問いかけている。
アステルから戻ってきたのは、可能性として、
おそらく自分の推測でしかないですが、自然界に溶け込むようなマナをもつ何か。
そういうのがいるとすれば、それこそ自分達が探している、
精霊ラタトスクに仕えているセンチュリオンの可能性が高い。
そうアステルはいいきった。
精霊ラタトスクに仕えているという八体の僕であり、
マナの属性を管理している、というセンチュリオン。
かの神鳥ともいわれているシムルグを使役できるという現実もある。
ゆえにほぼゼロスの中ではエミルの正体については、
精霊ラタトスクに関係する、何かなのではないか、とほぼ確証をもっていたりする。
もっとも、直接そのようにエミルにといかけたことはないにしろ。
「たしかに。そいつらなら、さくっとつけるだろうね。
何しろユウマシ湖からハイマまでもかなり早くついたくらいだし」
「…そういや、あのときなんでか木々がよけてたのはきのせいか?」
「ロイド。…気にしたらだめなんだよ。…たぶん」
エミルが八本足の魔物にのりて、移動していたあのとき。
移動してゆく目の前の木々がなぜかよけていたような気がする。
ふとそのときのことを思い出し、ぽつり、とロイドがいえば、
ジーニアスが頭を横にかるくふりつつも、これまたぽつり、とつぶやいてくる。
「いったい?」
「……?八本足の…魔物?エミルさん、それは……」
そんな光景をみて、リーガルとプレセアは戸惑いを隠しきれない。
「この子は幻獣スレイプニール。ちなみに名前はスプニルです」
「いや、私がききたいのはそうではなく」
「…私がききたいのは違います」
にっこりとそんな二人に説明するエミルの台詞に、リーガルとプレセアの声が同時に重なる。
今のエミルの説明は説明になっていない。
いや、説明になっているのかもしれないが。
そもそも、幻獣?そんな代名詞は、とうの昔に絶滅された、といわれている、
それこそ幻といわれている魔物の一種のはずである。
「それで?この子達は移動してもいいっていってますけど、どうします?」
そんな彼らの突っ込みにもエミルは笑顔でさらり、とかわし、
にこやかにリフィル達をみながらといかける。
「で?どうするよ?リフィル様ぁ」
首をすくめつつといかけるゼロスの台詞に、
「…たしかに。レアバードの使用よりは、いいかもしれないわね。
……その馬達が早いのはすでに私たちは実感済みだしね」
ユウマシ湖からハイマにまで、かつての移動のときさほど時間はかからなかった。
距離的にはユウマシ湖とハイマ、そしてパルマコスタから牧場。
互いを比べてみればあきらかに牧場にいくほうが距離はある。
「でも、そいつ。スレイプニール、っていうのにスプニルって名なのか?」
「そうですよ?」
「前は何ともおもわかなったけど。ずいぶんと安直の名前だねぇ」
ゼロスの問いにエミルがいえば、しいながふとあのときいえなかった感想。
それをぽつり、ともらしてくる。
「…この子の名前をつけた子供達がどうしてもその名がいいっていいまして……」
それはもう。
種族名をいったら、その名前がいい!
といってきかなかった。
あのときはすでに自分は地上にでることはしておらず、扉の前に常にいたがゆえ、
その光景は分身体たる蝶でみていた、のだが。
センチュリオン達もその台詞にあきれていたが。
子供達をとりかこむ大人たちが、もうすこし考えたほうが、
と戸惑いながらいっていたのも鮮明に今でもエミルは思いだせる。
それは記憶の上書き、というものがあるがゆえ、なのかもしれないが。
それは遥かなる古の記憶であり、この大地、すなわち惑星におりたって少し後のこと。
大地を緑豊かなものに変化させて、生み出したかの生命体達。
「?子供?」
その台詞にリフィルが首をかしげる。
エミルはたしか、これまであまり自分達と合流するよりも前。
人とかかわっていなかったようなそんな言い回しをしていたとおもったのだが。
だとすれば、エミルがいう子供、とは、何を示しているのだろうか。
よもや、この大地におりたった、リフィル達にとっては始まりの先祖。
すなわち、始祖たるエルフ達のことだ、などとは夢にもおもわない。
「とりあえず、僕はこの子にのりますから。
リフィルさん達は前のように、その子達のどの子かにのってくださいね」
「え。ええ。…しかたないわね。ゼロスは乗馬は……」
エミルにはいろいろとききたいことはあるが、
にこやかに笑みをうかべているエミルの様子をみて、
これはといかけてもはぐらかされるか、前のように答えになっていない返答。
それがもどってくると判断し、
深いため息とともに、リフィルもまたエミルの提案にうなづきをみせる。
たしかに、地上で早い移動ができるのならば、それにこしたことはない。
地上を走るというエレメンタルカーゴをもっていればよかったかもしれないが、
そんな乗り物、ここシルヴァラントでは本来ある乗り物ではない。
ゆえにそんなものにのっていればどうしても目立ってしまう。
「おいおい。リフィル様。乗馬は貴族のたしなみだぜ?」
リフィルの問いかけにゼロスが首をすくめ、きっぱりといいはなつ。
「うむ。私も幼きころより乗馬は必需事項としてたしなんでいる」
貴族たるもの、乗馬は優雅にこなすべし。
これが貴族達の中においてはあるいみの常識。
ついでにゼロスに関しては儀式のときなどお披露目としてよく馬にのっての移動。
そういったことがあるがゆえに、かなり様になっているといってよい。
「プレセアは?馬は?」
「…小さいころには、でも……」
「なら。プレセアは僕の後ろできまり、ね!」
困惑したようなプレセアにといかけているジーニアスが、
すかさずプレセアとの乗馬を約束していたりする光景がそこにあったりしはするが。
「…というか、その馬に関してリフィル。ロイド。お前達はつっこみしないのか?」
しごくもっともなリーガルの意見だが。
「…エミルがこの馬と話しているらしき光景をみるのはこれが二度目なのよ」
「あのときはたまげたよねぇ。森からでたらこいつらが待機してたんだから」
リフィルが盛大にため息とともにいえば、しいなもまた首をすくめていってくる。
そんな二人の様子をみつつ、どうやらこの馬もどき?と出会うのは、
彼らはこれが初めてではないということをリーガルは確信する。
そもそも、魔物が待機している、という話し自体、リーガルからしてみれば信じられないが。
結局のところ、レアバードで移動するよりは、たしかに安全性。
すなわち、空の移動でクルシスに目をつけられるかもしれない。
その危険性を回避でき、さらにははやくつけるのならば。
という理由から、一行はユウマシ湖からハイマにむかったあのときのごとく。
スプニル率いるこの馬の群れにてパルマコスタ牧場跡地に向かうことに。
さわさわと風がここちよい。
森にはいり、スプニル率いる馬からおりたち、この奥にあったはずの施設の場所へ。
以前この地にやってきたときは、このあたりをディザイアン達が見回りをしていたが。
そんな気配はどこにもみあたらない。
あのときはこのあたりを覆っていたヒトの何ともいえない負の気配も、
今ではすっかりと浄化され、完全に消え去っている。
もっとも、ロイド達がこの地にやってきたとき。
すでにラタトスクの手によりそういったディザイアン達は一掃されていたのだが。
やがて、森がぽっかりと開けたかとおもうと、目の前にひろがるは、
かつてはなかったちょっとした大きさの湖が一つ。
「これって……」
「……先生。俺達、場所まちがってない、よな?」
たしかに間違わずにすすんできたはず。
というかこの森にこのような湖があっただろうか。
否、前回このあたりにやってきたときはこのような湖はなかったはず。
困惑したようなジーニアス。
そしてとまどったようにリフィルを振り向き問いかけるロイド。
何のことはない、リフィルがかつてこの地にあった施設を自爆させたとき、
ソルムとイグニスの力をともない、完全に施設を消滅させたあと、
彼らが施設をたてるために大地に彫っていた穴等。
それらをうめるのにてっとりはやく、水を注ぎ込んでいるにすぎない。
湖の中にも施設の痕跡はどこにものこっておらず、
ぱっとみため、開けた場所に突如として湖が出現している、
というようにしかはたからはみうけられない。
この地にかつて、人工施設があったなど、
かつてをしらないものがみれば、到底信じられるものではないであろう。
「ええ。そのはず…なのだけど」
リフィルもまた困惑を隠しきれない。
あの自爆装置をたしかに起動させたはリフィルなれど、
こうも施設らしきものがまったく跡かたもなくなくなっているなど。
普通は施設を爆破させたとしても、その残骸、すなわち廃墟くらいはのこるはずなのに。
目の前にひろがるは、かつて施設があった場所と思われる場所にぽっかりと広がる湖のみ。
残っているであろう高い塀などといった痕跡すらものこっていない。
だからこそリフィルは困惑を隠しきれない。
「そう。ここは間違いなく元、人間牧場のあった場所、だ」
ふとそんな中、聞き覚えのある第三者の声がし、
おもわずはっと身構えつつも声のしたほうに振り向くリフィル達。
「レネゲード!!」
振り向いたさきに、みおぼえのある男性と、
これまたみおぼえのある鎧を着込んでいる人物達がみてとれる。
「あ。ボータさん、でしたっけ?」
ふとその人物をみて、エミルが声をかけるが。
横手から現れたのは、レネゲードのボータ、そしておそらくは、配下、なのだろう。
数名のディザイアンらしき鎧を着込んでいるレネゲードの組織の一員達。
「そうか!ニールさんたちはレネゲードとディザイアンの区別がついてないんだ!」
その姿をみて、ジーニアスが何かに思い至ったのか、そんなことをいってくる。
「「?」」
よく事情が理解できていないリーガルとプレセアが同時に首をかしげるが。
「お前達をまっていた」
そんな彼の台詞をうけ、
「おかしな話だな。我々がここに向かうのが予測できたというのか?」
相手が敵なのか味方なのかわからない。
しかし、ジーニアスの台詞を信じるならば、彼らはレネゲード。
すなわち、テセアラに衰退世界と繁栄世界。
その仕組みを教え込んだ張本人達。
何の目的でそのような真実を彼らが教えたのかはリーガルにはわからない。
そして、そんな彼らがここにいる目的も。
だからこそ警戒は崩さない。
崩せるはずもない。
そんなリーガルの問いかけに、
「さあ。どうだろうな?それより我々と手をくまないか?」
いきなりといえばいきなりのボータの台詞。
そもそも、コレットが傍にいる以上、彼らはそのマナから検索が可能。
そもそも、コレットにつけられているクルシスの輝石につけられている要の紋。
それが一種の発信機の役割をも果たしている。
「それって、みずほの里でもいってきましたよね?コレットを助けるときに」
そんなエミルの素朴なる問いかけに、
「またなのね。で、今度は何をたくらんでいるのかしら?
あのときは、コレットの奪還、という共通の目的があったとおもうのだけど?」
そんなボータの台詞にリフィルが警戒をとくことなく、
鋭い視線で少しの変化も見逃すまいとしながらもといかける。
「先生。こいつらのいうことなんてきくことなんかないよ。
また俺やコレットをこいつらが狙わない、という保障はどこにもないんだから」
ロイドがそんな彼の言葉を否定するかのごとく、きっぱりと何やら言いきるが。
「…あのときと今とではまた状況が異なっている」
再び横手から別の声がし、
「ユアン!?」
そちらをふりむき、ジーニアスが声をあげる。
みおぼえのある青い髪。
「以前、みずほの里。そして我々の施設の中でいった台詞を覚えているか?大樹カーラーンのことだ」
そんなジーニアスの呼びかけに答えることなく、たんたんと言葉をつむぎだし、
ゆっくりとボータの横にあゆみよってゆくユアンの姿。
「大樹カーラーン?聖地カーラーンにあったっていう伝説の大樹のことか?
あんたら、たしかコレットを助けるときにもそんなことをいってたな」
それはみずほの里で彼らがいっていた台詞。
「無限にマナを産みだす聖なる木、だったっけ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
あるいみで真実ではあるが、少し違う。
そもそも、樹として形をとっているのは都合がいいからに過ぎない。
そしてまた、世界にみちる力を変換するにあたり、依代とするのにちょうどいいが故。
だからこそ、彼らの会話をききつつもエミルはしばし黙りこむ。
ここでわざわざその少しばかりの違いを訂正しても意味がない。
そもそもする必要性を感じない。
「?それはお伽噺じゃないんですか?」
そんな台詞にコレットが首をかしげる。
「そっか。あのとき、コレットは……」
心を失っていた。
だからこそそのことに気付き、ロイドがぎゅっと手を握り締める。
彼らの施設の中で、あのときコレットはたしかにそこにいた、のに。
それを知らない、ということは、あのときのことをコレットは覚えていない。
ということ。
心を失っていた状態でレネゲード達の施設に保護され、そこから脱出した。
そしてまた、レネゲード達からあらたに説明をうけたみずほの里においては、
コレットはロディルに捕らえられていた。
「そうか。お前はどちらのときも話をきけていなかったな。
では改めて説明しよう。大樹カーラーンは実在した。
しかし、古代カーラーン大戦によるマナの涸渇で枯れ…
決定打となったは、シルヴァラントが開発した魔導砲、それの試作品の実験だ。
その結果…まあ、それはいい」
いや、よくもないとおもうが。
あのとき、とどめとなったのは事実。
もうあまりに愚かだったので、このままにして、地上を一斉浄化しよう。
とおもっていたのもまた事実。
だからこそ、ラタトスクは思わずすっと目をとじる。
思いだすはあの当時のこと。
何もしようとしないエルフ達、争いをやめない人間。
そして、犠牲になってゆく自然界の動植物や魔物達。
あのとき、たしかに、ヒトは絶滅させたほうがいいのでは、と思いを抱きはじめていた。
そしてとどめとなったのが、ミトス達、ユグドラシル姉弟の裏切り。
自分との約束を違え、種子をうばいしかの姉弟。
だからあのとき、人を絶滅させろ、と命令を下した。
自分を散々うらぎり、世界を壊しておきながら、自分にどうにかしてほしい。
そう願ってきたヒトの愚かさに嫌気がさして。
何かあればたよってくるくせに、そのくせすぐに裏切る人。
そんなヒトは一度、創りなおすかもしくはやり直したほうがいいのでは、
そうおもったからこそのあのときの命令。
「…今では聖地カーラーンに種子を残しているだけだ」
ユアンの台詞に、
「最後の封印に…大樹の種子が?」
とまどったような声をあげるコレットにかるくうなづきをみせ、
「我々はそれを大いなる実り、とよんでいる」
というかそのように伝えたのはほかならぬラタトスク自身。
あれを託すとき、この種子の名は?
といわれ、こう答えた。
――大いなる実り、と。
「でも、大いなる実りは、たしか勇者ミトスの魂って……」
そのようにコレットは習っている。
ロイド達はといえば、レネゲードの施設にて、そしてみずほの里で。
それらの説明をうけていたがゆえに、今さら驚かないようではあるが。
「それこそおとぎ話しだ。ユグドラシルが都合のいいようにねつ造した、な。
世界にマナを供給する大いなる実りとは大樹の種子を示している」
コレットが信じていたこととまた違う。
コレットはこのようにならった。
ミトスの魂が大いなる実りとなりて、世界にマナを安定させ、
そして、神子はそのミトスの魂にかわりて新たな大いなる実りにやどり、
世界にマナをその命をもってもたらせる。
それが神子に課せられた使命なのだ。
そのようにコレットは聞かされていた。
祭司長達から。
「二つの世界を一つに戻すためには大いなる実りが必要不可欠だ」
ボータの台詞につづき、きっぱりとユアンがいってくる。
「…精霊との契約だけじゃないってか」
ロイドが呟くようにいえば、こくり、とうなづき、
「ん?ちょっとまってよ。ってことは、何?
あんたたちも世界を二つから一つにもどすために行動してるっていうの?」
ジーニアスがそんなユアンの意図したいことに気付いたのか、警戒するように問いただすが。
「……私はかつていったはずだ。
ユグドラシルが、クルシスの指導者が二つの世界をつくったと」
それは、ロイド達が救いの塔から脱出したときに聞かされたこと。
「元々、世界は一つだった。それをユグドラシルが世界を二つに引き裂き、二つ歪めた」
「……マナが涸渇して大地の存続ができなくなるから」
「?その通りだ。あのままでは、大地の存続があやしかった。
それ以外に大地を保ったまま世界を安定させることは難しかったから、だが…」
ぽつり、とつぶやかれたエミルの台詞に少しばかり首をかしげたのち、
しかしエミルのいっていることは紛れもない事実。
あの提案をしたのは他らなぬミトス。
ほうっておけば人は大地ともども死んでいっていたであろうに。
ともおもう。
しかし、あのときのミトス達はそれをよしとはしなかった。
自分達ヒトのせいで罪もない大地まで巻き添えになることを、どうしてもよしとしなかった。
ラタトスクからしてみれば、大地がきえたとしてもそこに生きるものたちの魂。
それが消えてしまうわけではない。
それらの魂をあらたに再生しなおせば問題ない、という認識でしかなかったのだが。
「前にもおもったんだが。世界を二つに引き裂くなんてことができたのか?」
それは前から思っていた疑問。
いまだに疑問でしかないが。
「もう忘れたのか?…その頭は誰ににたのか…まあいい。
いったはずだ。ユグドラシルにはできた、とな。
精霊オリジンから授かった魔剣エターナルソードの力を用いて、だがな。
そして、二つの世界は大いなる実りからにじみでるわずかなマナ。
それを利用して、それを奪い合いことによって何とか存続しているのだ」
クラトスの息子にしては、信じられないほどの理解力だな。
そんなことを思いつつも、それは口にすることなく淡々と説明してくるユアンの台詞に、
「だから。繁栄と衰退が繰り返されて、神子が旅立つ……」
あのとき、心を失っていたというか精神体そのものが、
封じられていたがゆえ、詳しく覚えていなかったコレットがぽつりとつぶやく。
正確にいえば、力にのみこまれ、心が表にでることすらあやしくなっていたらしいが。
「しかし。大いなる実りが発芽すればそれもなくなる。
神子の再生の儀式、というものも終わる。大樹が復活するのだからな」
ユアンの説明に、
「どうしたら大樹が復活するんだ?」
「大いなる実りは死滅しかけている。それを救うためにも純粋なマナを大量に照射する」
ロイドの問いかけにきっぱりといいきるユアンの台詞に対し、
「そんなもの。地上にあるわけがないわ。それこそお伽噺だわ」
そういいつつ、リフィルが呆れたような声をだすが。
「…クルシスの拠点があるデリス・カーラーンは膨大なマナの塊でできた巨大な彗星だ。
それを魔剣の力でこの大地の遥かなる上空に繋ぎとめている。だからそれを使えばいい」
ユアンの台詞に、
「だったら、だったらどうして。それが本当ならどうしてユグドラシルは大樹を復活させないんだ!」
ロイドがユアンの台詞にくってかかるようにその場にて叫ぶが。
混乱しているのか、それとも無意識なのか、ロイドが頭をがしがしとかきむしっている。
ざっとエミルが他の人間達をみてみれば、
それぞれ驚いているのか固まっているらしき様子がみてとれるが。
「…デリス・カーラーンのマナは全てマーテルにささげられている。マーテルを復活させるために」
そんな彼らに淡々と次なる言葉を紡ぎだしてくるユアン。
本来の約束。
それは、彗星が飛来するまでの一過性のはず、であったこの処置。
マナが涸渇し、大地が消滅するのを防ぐために一時ほど分けるはずであった大地の分割。
世界の分割と、そしてデリス・カーラーンのもつ巨大なマナ。
それを利用し、マーテルを蘇らせようとした、否、しているミトス。
どうして、とおもう。
どうして、そう思いいたる前に自分の元にこなかったのだろうか。
ユアンの言葉をききつつも、思いはどうしてもそちらにむいてしまう。
すくなくとも、大地云々、また地上の人々、愚かなる国のものたち。
彼らの安否はともかくとして、どちらにしてもあのとき、
そのまま大樹を芽吹かせていても愚かな人はまた樹を枯らそうとしていたであろう。
ならば、それこそ当初の目的通り。
ミトス達が尽力した功績を考慮し、そういう愚かなものたちだけを死滅させる。
という方法もとれたというのに。
精霊炉の応用、そんなものまで使用しミトスは精霊達を閉じ込めた。
あのまま、かの精霊炉の研究がすすんでいたとすれば、
それこそクレーメルケイジなる品が、かつてのように開発されても不思議ではなかったあの当時。
それはかの惑星において実際にかつて開発されてしまった品。
大精霊達を閉じ込めるための…器。
「…ユアンさん。一つ、いいですか?」
ロイド達が黙り込んだその直後。
ふとエミルが顔をあげ、ユアンをじっとみつめ問いかける。
「?何だ?」
いきなり話しかけられ、戸惑いつつも、答えるユアンに対し、
「……そのとき、あ…彼は何といったんですか?」
そのとき、とはミトスがそのようにきめたそのときのこと。
あのとき、どのような会話が行われたのかまでは、ラタトスクは把握していない。
それどころかうるさい魔界のものたちを黙らせるために力をほどんどつかっていた。
そしてまた、ミトス達が頑張っているがゆえに、こっそりと大地が存続するように、
マナの供給を大地を通じて行き渡らせていた。
大地に、すなわち地下に張り巡らさせている大樹の根を通じて。
彼もまた、あのときミトスとともにあの場にやってきたうちの一人。
姿こそ完全にみせてなかったにしろ。
まちがいなく、かの地にまでやってきた四人の中のうちの一人であることは疑いようがない。
ついでにいえば、さらに人工精霊となりしマーテルにいらない知恵をつけ、
そしてこともあろうにロイドに自分やセンチュリオンをコアもどせば世界はすくわれる、
と依頼した人物でもある。
そんなことをすればどうなるのか。
彼はあのときわからなかったのだろうか。
すくなくとも、マナを調整することができるのは自分達のみ。
そんなことをしても、マナの乱れはもどらず、
そしてまた、命令をくだしていた人間を滅ぼせ、という命令もどうにもならなかった。
だというのに、コアにもどして扉に封印さえしてしまえばいい。
といってマーテルとともに依頼をだしてきたのは、他ならぬユアンであったらしい。
それはマナの切り替えの最中、センチュリオン達がもたらしてきた情報。
あの子、といいかけて、あえて彼、という問いかけにと変えて問いただす。
「……何故にそんなことを?」
エミルの問いに怪訝そうに逆にといかけてくるユアン。
ロイド達をみるかぎり驚いているのがみてとれるが、
この今問いかけてきたたしかエミルとかいった少年にはそれがない。
それが何かユアンからしてみればひっかかる。
「――知る必要がある、から」
それは真実。
嘘偽りのない真実。
なぜ自分を、自分達精霊を裏切ったのか、それを知りたい。
全てを決めるのは真実を知ってからでも遅くはない。
だけども、あのときは知ることのできなかったミトス達の心。
しかし今は聞くことができる。
「ユアンさん。私も知りたい、です。どうして……どうして、そんなことになったんですか?」
エミルの台詞につづき、コレットもまた困惑気味に問いかける。
「ミトスは…ユグドラシルは……」
「「え?」」
今、たしかにユアンはぽつり、とユアンはミトス、そういった。
それゆえにロイド達の唖然とした声がその場にて重なる。
「――ミトス・ユグドラシル。あいつは、底抜けのお人よしだった。
姉、マーテルとともに、な。全てのヒトが、種族が、手をとりあえる。
差別のない世界を、争いのない世界を。そんなたわごとをいって…
それでもあいつはやりとげた。千年以上にわたる争いがつづく国同士。
それをどうにか説得し、停戦にこぎつけ、…なのに、人間達はっ!
こともあろうに、あのとき、大いなる実りを守っていたマーテルをころしたっ!」
『!?』
それはかつて精霊がいっていた言葉と一致する。
マーテルは人に殺された、と。
そして、ロイド達が始めて知る、あのユグドラシルのフルネーム。
勇者ミトス、その名との一致。
精霊達のいった勇者ミトスが精霊をうらぎっている、というその台詞。
全てが、したくないのに彼らの脳内で一致する。
信じたくはないが、状況説明的にそれらの事実が真実を示している。
すなわち、勇者ミトス、とは信じられないが、
あのクルシスの指導者となのったユグドラシルなのではないか、ということを。
そしてマルタもまた思わずぎゅっと手をにぎりしめる。
あのとき、エグザイアにすまいい住人から、マルタはそのことを聞かされている。
あのとき、離れた場所にいたロイドはその話しをきいていなかったようではあるが。
「あのとき、ミトスは大いなる実りを発芽させるために彗星におもむいていた。
そして、世界を再び一つにもどし、マーテルが望む世界。
差別のない、争いのない世界がこれで…
なのに!人間達はそんなマーテルの思いをふみにじり、
こともあろうに大いなる実りを独占よしうとして、大軍をもっておしかけてきたっ!
マーテルは…大いなる実りを守ろうとし、…命を、…っっっっっっっ」
言うのに戸惑っていたが、一つ声を発すれば、
それはまるで吐露するかのように、次から次へとユアンの口からは飛び出てくる。
それはずっとユアンの心の中でたまっていたこと。
「あのとき、人間達が力を独占しようとして愚かなことさえしなければ!」
「あのとき、って、ユアン、お前……」
まるで、その場にいたかのような言い回し。
ゆえにロイドは戸惑いを隠しきれない。
そのようなことがあったのは、今から四千年以上昔のはず。
だとすれば、勇者ミトスも、このユアンも四千年以上いきている、というのか。
そんな馬鹿な、という思いがどうしてもロイドからしてみれば抜けきれない。
その思いはどうやらジーニアス達も同じらしく、
何とも複雑な表情を、困惑したような表情をうかべているのがみてとれるが。
そしてまた、リーガルは何ともいえない表情をうかべてしまう。
かつてケイトを救いだすためにコンテナ詰めとなりて、
テセアラに移動する最中、タバサから聞かされた勇者達の名前。
四人の勇者達の名。
その中にたしかにユアンの名もあった。
だとすれば、この目の前にいるユアンとなのりし人物は、
古代大戦時の英雄、ユアン・カーフェイだ、とでもいうのだろうか。
わからない。
わからないが、この憤りは何となくだがリーガルは理解してしまう。
否、せざるをえない。
この怒りはまぎれもなく、大切な人を喪ったがゆえのものではないか、と。
「――千年にも及んだ戦争。ようやく戦争が終結したが、
マナの涸渇、という事実はかわらなかった。
大樹の復活。大樹を目覚めさせることが急務でもあった。
そのために我らは精霊ラタトスクとも出会っており約束も交わしていたしな。
……しかし、大いなる実りを目覚めさせるには大量のマナも必要。
そうもいわれていた。そして、次に彗星が飛来するのはかなり先。
約百年周期にわたって近づく彗星デリス・カーラーン。
否、そういえばラタトスクはこういっていたな。ネオ・デリス・カーラーンだ、と。ともあれ……」
ユアンがそんなことをいうと、
「ちょっとまって」
ふといま、ユアンは聞き捨てならないことをいっていた。
だからこそ、途中でその説明をあえて遮るリフィル。
「何だ?」
「今、あなたはいったわね?あなたは…あなたたちは精霊と出会った、と」
聞き捨てならない精霊の名。
精霊ラタトスク。
アステル・レイカーがいう予測が真実だとするならば、
マナを司りし…精霊であり、大樹カーラーンの精霊。
そして、魔物の王。
「――精霊ラタトスクは、ギンヌンガ・ガップにおいて、魔界との境界の扉。
その地をまもっている。我らは…センチュリオン達に導かれかの地にいったにすぎん」
もっともその後でミトス達姉弟は頻繁にかの地を訪れていたようだが。
それは小さくつぶやくのみで、その言葉をききとれたのは、
この場においてはコレットとゼロス、そしてエミルのみ。
「じゃあ、あなたは…まさか四千年生きている…というの?」
困惑したようなリフィルの台詞に対し、
「――天使、とは無機生命体へと変化したヒト、を指し示す。
その神子が今その段階を踏まえているように、な」
「え?」
いきなり話をふられ、とまどったように声をだすコレット。
「お前達にもわかるようにいえば、簡単にいえば無機物。
すなわち、エクスフィアとお前達がよんでいるそれ。
それに自らの精神を移すことにより、石の精霊。
人工的に強制的に人工精霊と自らの精神体を変えたもの。
それが真の天使とよばれる存在。
もっとも、完全に天使化できたものはまずいないのだがな」
それこそ、自分達四人以外、完全になじんだ形で天使化しているものは、
あれから四千年たった今でもつくられていない。
「――話しがそれはじめていたな。ともかく。だ」
リフィルに話しに割って入られて、ようやく話しがかつての真実。
今伝えるべきことから脱線していることにきづくユアン。
ゆえに話しを元にもどそう、とするが。
「――永遠に、大樹を目覚めさせないつもり、で?」
はじめから、あのときのように。
自分から種子を奪うつもりだったのだろうか。
あの子は。
それが知りたい。
あのとき、目覚めてみれば、自分との繋がりが立たれていた大樹の種子。
調べてみればミトスの魂が新たな樹となりて、
そしてマーテルの魂が一部ありし人間達の精神融合体でありしものが、
おそらくは大いなる実りのマナの影響、であったのであろう。
あらたな樹の精霊、として存在していた。
こともあろうに、人間に新たな名を樹につけさせ、大樹の理すらかきかえて。
名をつける、ということはそういうこと。
そもそも力が涸渇しているものにそんなことをすればどうなるのか。
答えは目に見えてわかっていたであろうに。
でも、あの姉弟はそれをした。
だから知りたい。
…自分を本当に始めから裏切るつもりだったのか、否か、を。
「?大樹を目覚めさせなければ世界は二つに分けられたままになってしまう。
大樹を復活させなければ世界は滅ぶ。
そのために精霊達の力をかりて世界を二つにわけた。
…永遠、ではない。そのはず、だった。彗星が飛来する間での期間。
その間だけの臨時的の措置のはず、だったのだが……
しかしこれはいいわけにしかすぎないな。あれから四千年…
マーテルの心を、精神体を移す体をつくり、
マーテルの精神を、マーテルが宿りし傷ついたハイエクスフィアから移動させる。
その後で大樹を目覚めさせ、世界を元に戻す、というのが本来の目的。だった
…が、かかった時間が長すぎる。
このままでは、あのとき、人間達に殺されてしまったマーテルが、
種子を守ろうとした本能なのか、種子に同化してしまったこともあり、
……マーテルの壊れたハイエクスフィアが大いなる実りのマナを喰らい尽くす。
そして、マーテルも死に、大いなる実りも枯れてしまう」
エミルの問いかけに首をかしげながらも、
なぜにそんなことがきになるのか。
という疑問を抱くが、嘘をつく必要性も感じない。
というかいわなければならないような気が無意識のうちにしてしまい、するり、と真実をいいはなつ。
「?ちょっとまってよ。ならこの今の状況は?どっちの世界もマナが安定しているのは?」
そんなユアンの説明にジーニアスは戸惑いを隠しきれない。
今の言い回しは、ユアンは四千年前から生きているような。
そんな言い回しである。
だからこそ信じられない。
普通の人間がそんなに長い間生きていられるはずがない。
そして、二つの世界におけるマナの安定。
今のユアンの説明が真実だとすれば、
どちらの世界にもマナが安定し満ちているのがありえないこと。
マルタはかつて、エグザイアにて簡単な説明を、
第三者の視点、すなわちあの地にすんでいた人から世界云々、
という話しをきいていたがゆえ、何ともいえない気持ちになっているようではあるが。
「……これは予測でしかないのだが。おそらく、大いなる実りに限界が近いのだ、とおもう。
死に絶える前、枯れる前に大きな力が発動する。
お前達にも覚えがあるのではないか?死に際における最後の力なのではと睨んでいる。
…前に私はいったな。みずほの里で」
――神子がマーテルの器となり、大いなる実りが失われてしまったとすれば。
…大地が存続できる期間はもって、一年から、長くても数十年、だろう。
地上の全ての命は死に絶え、下手をすれば世界は魔界の瘴気に包まれる
それはユアンがみずほの里で、コレットの救出にあたり、
ロイド達に協力を申し出てきたときのこと。
「このままでは、間違いなく大いなる実りは枯れる。
このマナの感覚からして、もしかしたらあと数年も猶予はないかもしれぬ。
その前に…何としても大いなる実りを芽吹かせる必要がある」
『!?』
あと数年。
ユアンのいうことが真実だ、とするならば。
あと数年で世界が滅んでしまう、ということに他ならない。
だからこそ、リフィル、ジーニアス、しいな、リーガル、プレセアは息をのむ。
ロイドはよくわかっていないのか首を横にかしげているが。
ゼロスは今のユアンの予測は何となくだが間違っているのではないか。
そんな思いがどうしても否めない。
全ての鍵はまちがいなくエミルが握っている。
それはゼロスの直感。
もっとも、そのゼロスの直感こそが真実なのだが。
「……ともかく。
マーテルはクルシスの輝石…ハイエクスフィアの力で大いなる実りに寄生している。
心だけ。すなわち精神体だけが生きながらえている」
「マーテルが目覚めれば大いなる実りは彼女に吸収されて消滅するだろう。逆もまた然り」
ユアンにつづき、ボータが追加、とばかり、否、この場合はとどめ、というべきか。
ロイド達にむかってそんなことを言い放つ。
その言葉にさすがに消滅云々、ときかされ、
事の重大性に気付いたのか、ロイドも思わず息をのんでいるのがみてとれるが。
「そして。それを阻止するためにユグドラシルは
マーテルが寄生した大いなる実りを精霊の楔、という封印で守っている」
「だからレネゲードはマーテルの復活を阻止しようとしているのね」
ボータの説明をきき、リフィルが納得した、とばかりにため息をつく。
改めて説明をうければ納得がいく、というもの。
あのとき、トリエット砂漠の施設できいた時と今とでは、
リフィルのもつ情報もまた異なっている。
だからこそ納得せざるを得ない。
「そうだ、我々は大いなる実りを発芽させる。
その結果、マーテルは種子に取り込まれて消滅するだろう。そして……」
「大樹カーラーンが…復活する、か」
ユアンの言葉にロイドが言葉をかみしめるかのようにぽつり、とづふやく。
「もしそうなったら世界は元にもどるんですか?」
そんなコレットの問いかけに、
「それはわからん。しかし種子が消滅すれば世界は滅びる。
そもそも世界を二つにわけたのは、魔剣エターナルソードの力をもってして。
今あれと契約しているのはユグドラシルだ。
魔剣と新たに契約をし直し世界を一つにしてもらうか。
…いくらあやつでもマーテルが消えて大樹が復活すれば、
…かの精霊との約束をたがえる、ともおもえない。
あいつ自身が世界を一つに戻す可能性もなくは…ない」
最後の台詞はユアンもどこか疑問符を浮かべていってくる。
「希望的観測、ね。でもユグドラシルは精霊との契約をたがえているのでしょう?
そんな彼が大樹が芽吹いたから、といってそうするかしら?」
ユアンの台詞をうけ、リフィルが懸念していることを問いかける。
精霊達は口をそろえていっていた。
勇者ミトスは契約をたがえている、と。
「…あいつは、精霊ラタトスクと友達になる!とはりきっていたからな。
…今はどうおもっているのかわからないが。その思いはかわっていないとみた」
「……あ~……」
そんなユアンの台詞にエミルからしてはおもいっきり心当たりがありすぎる。
というか、好きにしろ、といったのもまた事実。
なのであのまっすぐな心であったミトスが、
そのまま信じて、友達になる!といまだにおもっている、という可能性は大いに高い。
というか今ともに旅をしているが、そのあたりはかわっていなうようにも見て取れる。
まあ、そのうちの一つの約束。
世界が平和になったら一緒に旅をしよう、と一方的にミトスがいってきたあの約束。
それは今、共に旅をしていることで果たされているがゆえに、約束を違えた。
ということにはラタトスクからしてみれば約束したことにはなっていないかもなのだが。
そもそも、否定も肯定もしなかった以上、約束したかもしれない、
というその事をラタトスクとしては否定しきれなかった、ということもある。
…あのときはすでにミトスは完全にその命在り方を変えてしまい
種子の命となってしまっていたがゆえ、その約束を果たすことはできなくなっていたが。
本当にしつこいくらいにいってきたからな。
あの当時。
それはまだ、このように世界が二つにわけられる前の時間帯においてのこと。
思わずエミルはそれを思い出し遠い目をしてしまう。
そんなエミルの変化に気付いたのは、注意深くエミルを観察していたゼロスのみ。
「?」
エミルがなぜかため息のようなものをつぶやいたかとおもうと、
なぜか遠くをみはじめたのをうけ、意味がわからず首をかしげるコレット達。
一方で、影の中にいたセンチュリオン達はといえば、
心当たりがありすぎるがゆえに、それぞれが盛大にうなづいている模様。
「いや。ちょっとまってよ。精霊と友達になるって……」
そんなユアンの台詞に思わずつっこみをいれているジーニアス。
というかその台詞には突っ込みどころが満載すぎる。
というか、勇者ミトスとよばれていたであろうあのユグドラシルが、
そのようなことをいっていた、などとジーニアスからしてみれば信じられない。
もっとも、あのユグドラシルが勇者ミトスである、というのも信じられないが。
ユアン、そしてエグザイアに住まいしモスリン達から聞かされていても、
やはり信じられない気持ちのほうがいまだに強い。
それほどまでに勇者ミトス、とは子供達の憧れの対象にもなっていた。
そんな勇者がどうしてクルシス、もしくはディザイアンなるものをつくりだしているのか。
だからこそ信じたくはない、というのがジーニアス達からしての本音。
「精霊の友達。か。ならしいなと精霊達の関係もそうなのかな?」
「え?どうなんだろ?でもあたしは契約してもらった立場だからねぇ」
コレットがふとしいなとウンディーネ達のことを思い出し、
しいなにそんなことをといかけているが。
まあ、精霊達からしてみれば、しいな、という人間は友人、
というよりは契約者、というくだりでしか今のところない、というのは、
エミルからしてみれば認識しているが。
つまり、精霊達はしいなたちヒトに関し、自分が傍にいるがゆえ、
という理由もあるのかもしれないが、あまり特殊な思いは今のところ抱いていないらしい。
…ミトスのときはかなり感情移入しまくっていた精霊達であるが、
ミトスに裏切られたこともあり、あまり人に心許さなくなっているのかもしれない。
まあそれはそれでよいこと、ではあるが。
あまり人に感情移入し、精霊達の心が乱される。
それはラタトスクとしてはあまり許容できるものではない。
できれば彼ら精霊には精神健やかであってほしい、というのが本音なのだから。
それはセンチュリオン、そしてこの大地にすまいし全ての存在においていえること。
「…だから、マーテル様には涙をのんできえてもらうってか」
そんな彼らの困惑とはうらはらに、ゼロスが試すようにユアンに問いかける。
「マーテルはすでに死んでいるのだ。
デリス・カーラーンのマナがなければとうに心もきえていた」
もっとも、マーテルとミトスが身につけている石。
かの石は精霊から授かった自分達がつけていたハイエクスフィア。
それとはどことなく違う感じをうけたがゆえ、どうなるのかはユアンでもわからない。
しかし、マーテルの体が結晶化しかけたことがあることを考えれば、
本質はあまりかわっていないはず。
だからこそ、これだけは断言をもってユアンもいいきれる。
どのみち、マーテルの心もまた、石に呑みこまれ消えてしまうのだ、と。
「…どうしてユグドラシルがマーテルにこだわっているのか…そっか。…お姉さん……」
姉を復活させられるかもしれない。
その可能性。
だからこそ、それに気づき、ジーニアスは何ともいえない表情をうかべてしまう。
世界か、姉か。
勇者ミトス、とよばれていたかもしれないあのユグドラシルは。
その選択をずっと迫られていた、とでもいうのだろうか。
そんな選択をずっとつきつけられていれば、…心が病んでしまっても不思議はない。
否、理解できてしまう。
しまうがゆえに、ジーニアスは何ともいえない表情をうかべてしまう。
自分だったらどうするのか。
姉を復活させる手段がある。
しかしそのためには世界を犠牲にするかもしれない。
姉がよみがえれば世界が滅ぶ。
しかし、世界を選べば姉が死ぬ。
ある意味…究極の、選択。
どちらを選んでも後悔がのこる、残酷なまでの非情な現実。
まだ、心が、精神が残っている、とわかっているのならばその思いはなおさらだろう。
あのとき、アルタミラのレザレノ・カンパニーの空中庭園にて、
アリシアの霊体と遭遇したあのときのように。
意思がしっかりし、生きているのとかわらない、そんな状態だ、と知っていればなおさら。
「そんな…どっちも助けるってことは」
「無理だ。すくなくともマーテルの精神は今や大いなる実りと完全に融合してしまっている。
両方、という理由で時間を先延ばしにしていれば、やがて大いなる実りは枯れてしまう
つまり、マーテルも実りも失われ、世界はどちらにしろ消滅する」
「そんな・・・・・・・・・」
ロイドの提案にぴしゃり、といいきるユアン。
その台詞にコレットが何ともいえない声をあげる。
どちらかを選ばなければならない。
世界か、女神マーテルか。
答えなどきまっている。
世界が滅べば全てが死に絶える。
だからここは一つの犠牲で世界を、というべきなのだろうが。
しかし、それでは、
「それじゃあ…何もかわらないじゃないかっ!
あのとき…コレットが犠牲になって世界が救われる、あのときとっ!」
だからこそロイドは思わず叫んでしまう。
コレット一人の犠牲でシルヴァラントが救われる。
コレットはそのように育てられていた。
またそうコレットも信じていた。
実際はそうではなく、コレットが犠牲になってもそれは偽りでしかなかったらしいが。
「しかし。時間はない。このマナの多さからいっても。
…大いなる実りが最後の力を振り絞っている可能性がすてきれない以上。
我らとしても計画を急ぐ必要があるのもまた事実だ」
世界再生が終わる前に、否、精霊の封印解放の旅の途中で安定したマナ。
シルヴァラントとテセアラ。
そして、クルシスのメイン・コンピューターではこのマナの安定は示されていない。
コンピューターの数値においては、テセアラ側のマナが衰退しているように示されている。
もしもマナが衰退している状態であそこまでマナがみちている、というのならば。
それこそ、本当に実りが死にかけているから、という可能性が高い。
もう一つの可能性。
精霊ラタトスクやセンチュリオン達が目覚めているとするならば、
自分達に何らかの接触をしてこない、というのも不気味すぎる。
ならば、可能性として確立が高い方をユアンは信じる。
すなわち、ずっと機具していた、大いなる実りの涸渇、すなわちマナが枯れる。
その現実を。
「問題は、大いなる実りを発芽させることだ。
今まで大いなる実りは衰退世界の精霊によって守護されてきた。
詳しい話しがしりたいのならば、マナリーフの守護者たる語り部を訪ねるがいい」
「それって……」
マナリーフ。
それはコレットの疾患において必要な材料の一つ。
まさかここでボータからその名がでるとはおもわずに、
リフィルが思わずといかけようとするが。
「…さきほど貴殿達がいった、マナの楔、だな」
それまでだまっていたリーガルがぽつり、とつぶやく。
世界か、個人か。
だれにきいても世界、というであろう。
たった一人の犠牲で世界が救われるのであれば、と。
会社を経営していく上でどうしても切り捨てなければいけないものもある。
それはリーガルは身をもってしっている。
しかし、これまで共に旅をしてきてわかったが、この子供達。
特にこのロイドという子供は認めることができないであろう。
そもそも犠牲になるはずであったシルヴァラントの神子。
彼女をテセアラにつれてきた時点でもいえるが。
誰かが犠牲になるのが間違っている。
そうきっぱりといいきっていたのをリーガルは見聞きしている。
しかし、ユアンがいっていることが真実ならば時間がないのも事実。
問題を先送りにし、選べるものも選べなくなってしまえば、もう未来はない。
「そうだ。しかしその楔は抜け始め、大いなる実りは弱っている」
淡々とつむぐボータの説明に、
「私たちが…精霊と契約しはじめているから…ですね。
二つの世界の精霊と契約しはじめようとしている、から」
しいなが元々契約していた、というウンディーネとシルフ。
テラアラ側においては、ヴォルトとセルシウス。
いまだ、相対しているという精霊同士はヴォルトとウンディーネしかいないものの。
それでも、セルシウスとシルフの楔の片方は完全に抜けている。
相対する精霊と契約をかわせば、再びあらたに二つの楔は解き放たれる。
そんなプレセアの呟きに、
そして、彼らが再び手を結びたい、といってきている理由。
それはしいながいるから。
召喚の資格をもっているのは、しいなのみ。
そうプレセアは聞かされている。
そしてリフィル達も。
「なるほど。だから私たちと手をくみたいのね。こちらには契約の資格をもつしいながいるから」
リフィルの問いかけにユアンはかるくうなづくのみ。
「……ユアン。お前はクルシス、なのか?それともレネゲード、なのか?」
そんなユアンに何を思ったのか、ロイドがすっとまっすぐに目をそらすことなく問いかける。
クラトスとも知り合いであったようなあの言い回し。
ユアンはいくら仲間を潜入させているとはいえ詳しすぎる。
そして信じられないが、今の言い回しでは、ユアンは勇者ミトスをしっているような。
そんな印象をうけた。
人が四千年も生きられるのか、という疑問はある。
しかし、エグザイアの長老、と名乗った人物は可能であるようなことをいっていた。
それらはかつて、人間がうみだした、無機生物化を果たすゆえ、
疑似精霊に近い存在になるがゆえ、長き時を生きることが可能、だと。
もっとも、あの老人がいうには今は昔と異なり、完全成功例がいまだかつてないのでは。
というようなこともいっていた。
そして、コレットを助けにいくときにうけた説明。
もしかしたら、ではあるが。
あのクラトスですらクルシスの一員であったのである。
ならばこのユアンもそう、である可能性は捨て切れない。
そう直感で思うがゆえのロイドの問いかけ。
このあたりの勘はロイドは変なところで鋭い。
「ほう。…まあ、いいだろう。協力を申し出ているのはこちらだ。
私は、クルシスでもあり、レネゲードの党首でもある」
バサリ。
言葉とともに、ユアンの背に薄く輝く、それでいてロイド達にとって見慣れた翼が出現する。
それはコレットによくにた、淡き色をもちし天使の翼。
「「「天使!?」」」
それをみて思わずリフィル・ジーニアス・しいなの三人が声を重ねるが。
「そう。私のクルシスでの立場。それは四大天使の一人。ユアン・カーフェイ。
テセアラの管制官だ。そしてレネゲードをつくりし当事者でもある」
さすがにこの回答は予測していなかったのか、唖然としたようにぽかんと口をあけているロイド。
管制官、ということは幹部である、ということ。
もっとも、そこまでの事実にロイドは気づいていないようだが。
管制官、という言葉からかなりの地位にいるものだ、とリフィルは推測したらしく、
おもいっきり目を見開いていたりする。
まさか、とはおもっていたらしいロイド。
クラトスと昔から知り合いのような会話をしていたから。
しかし、実際に天使の翼を目の当たりにするのと、予測だけ、というのでは衝撃が違う。
そして、しいなは彼の告白。
すなわち、うらぎりものである、というユアンの告白に、
その脳裏にくちなわの姿がよぎり、おもわずぎゅっと手をつよく握りしめる。
確かに、始めに里を裏切ったのはしいな自身なのかもしれない。
かといって、里全体を裏切る行為をしているかもしれないくちなわの行動。
それは許容できるものではない。
里にもどったときにもいっていた。
自分が精霊研究所に出向かされた後、情報が流れている節がある。
そのようなことを里のものがいっていたのをしいなはふと耳にはさんだ。
しいなは里のことについては一切、話しは外にもらしていない。
だとすれば、考えられることは、信じたくはないが、そういうこと、なのだろう。
つまり、あの当時からくちなわは里の情報を外に、
すなわち教皇達にもらしていた可能性がはるかに高い。
「どうして、レネゲードなんてものをつくったんですか?」
ミトスの仲間であったはずの彼が、どうして。
それに、マーテルと婚約していたはずの彼が、
クルシスという組織に敵対する組織をつくる。
センチュリオン達、そして魔物達の報告で一応知ってはいるが当事者の口からきいてみたい。
彼はあのとき、ミトス達の希望が挫折するのをみたい、という理屈をつけて、
たしかミトス達との旅に同行していたはずなのに。
そんなエミルの問いかけに、
「…このままでは、マーテルの真の遺言が果たされないからだ。
精霊ラタトスクとの約束も、な。それだけは、何としてもっ」
ユアンからしてみれば、精霊ラタトスクがいっていた大地の浄化。
大地をこよなく愛していたマーテルはそれを望まない。
だからこそ、聞く耳をもたないミトスを止めるため、
そして諦めさせるためにつくりだした組織。
「……彼女は、何といってたんですか?」
「?マーテルはこういった。誰もが差別されることのない世界をみたい、とな。
ミトスは…ユグドラシルはその遺言を歪めて捉えてしまっている。
このままでは、大地も、そして種子も失われてしまう。それだけは何としても避けねば」
「・・・・・・・・・・・・・・・つまり、種子を芽吹かせる。
それを諦めている、というわけではない、んですね?」
それが聞きたかったことの一つ。
「当たり前だろう。種子を、大樹を覚醒させなければ、世界が滅ぶ。
彼女が大切におもっていた大地が消えてしまう。そんなことは私は望まない」
エミルがすっと目をつむり、といかける言葉に多少首をかしげつつも、きっぱりといいきるユアン。
なぜこのようなことをきいてくるのだろうか。
このエミル、という少年は、ともおもう。
「あと、これだけは確認させてください。
……マーテルを蘇らせて種子を目覚めさせる。たしかにそう、いったんですね?」
「ああ。…今もやつはそれを信じて行動しているはずだ。
しかし、時間がかかりすぎた!このままマーテルを目覚めさせてしまえば、
マーテルのハイエクスフィアにて大いなる実りのマナが喰い尽くされてしまうっ」
エミルの問いかけにユアンが血を吐くがごとくに返事を返してくる。
そう、時間がかかりすぎたのだ。
このままでは、どちらも失われてしまう。
世界とマーテルと、どちらを選ぶか、といえば。
マーテルの意思をユアンは何があっても尊重する。
マーテルならば迷わずにこういう、と言い切れるから。
つまり、大地を守って、と。
そんなユアンの台詞をきき、エミルはすっと目を閉ざす。
ならば、まだ救いはあるとみるべきか。
完全に堕ちきっていないのは、マーテルという心のよりどころがあるから、なのだろう。
このような世界にしてしまっていることについては何ともいえない。
今の世界は魔族達にとっては住みやすいほど、人々の負の感情がうずましている。
不安、悲しみ、苦しみ、といった様々な負の感情が。
どちらの軸における世界においても。
「獅子身中の虫…か。しかし、エミル?」
ユアンの言葉にリーガルも思うところがあるのか、ぽつり、とつぶやく。
しかし、今のエミルの質問の意図。
その意味がどうしてもリーガルにはつかめない。
あんな質問をしていったい何の意味がある、というのだろうか。
――必ず、大樹を蘇らせてみせるから!
そういっていたあのときのミトスの思いは、心は…まだ変わってしまったわけではない。
それがわかっただけでも…何だかすこしほっとする。
まだ、引き返せる場所にいる、というのがわかっただけでも、
ラタトスクからしてみれば価値がある。
「そっか……」
……完全に約束をたがえるつもり、というわけではないというわけか。
そのことにすこしばかりほっとする。
まだあのときの気持ちを忘れていない、それが知れただけでも…いい。
思わずエミルの口元に笑みらしきものがうかんだのにはユアンは気付かない。
小さくその言葉の後に紡がれた言葉を一瞬捉えたのは、ユアンとゼロス、そしてコレットのみ。
その台詞をきき、
「お前は…?」
ユアンが思わず怪訝そうな顔を浮かべるが。
しかしこの言い回しからして、彼らは種子にすでに発芽するまでの力。
それが残っていない、ということに気づいていないらしい。
すでにかの種子にはそこまでの力は残っていない。
「ま。ようするに。裏切りものってことか」
「四大天使って…たしか、クラトスさんもそう名乗ってたけど……」
ゼロスがさらりといい、困惑したように一方ではつぶやくジーニアス。
クラトスもまた、クルシスの四大天使だ、とそう名乗っていた。
そして、あのレミエルは、自分が四大天使の空白に収まるのだ、
そう高らかにいっていた。
だからこそ困惑せざるを得ない。
ということは、このユアンはクルシスでもかなりの地位にいるのであろう。
つまりは、クラトスと同じ。
ユグドラシルの直属の部下である、ということに他ならない。
にもかかわらず、クルシスに反する組織を立ち上げている。
それがジーニアスからしてみれば理解不能。
「あいつはこれまでも幾度も忠告してもききいれなかったからな。そんなことはない。と。
マーテルのエクスフィアが大いなる実りのマナをこのままでは喰らい尽くす。
と。幾度忠告したことか…しかし、聞き入れられなかった。
ならばこちらはこちらで行動するしかない。
……ただそれだけのことだ。で、どうするのだ?」
そんなジーニアス達の困惑ぶり、思考がわかったのか、ため息まじりにそう呟いた後、
羽をしまったのちに、改めてロイド達を見まわしといかけてくる。
サアッと風が吹き抜ける。
背後にありし湖を吹き抜けた風は多少の冷たさをともない、周囲を満たす。
「・・・・・・・・・・・わかった」
いろいろと思うところはある。
けど、しばらく目をつむったのち、ロイドが静かに言い放つ。
「ロイド、信じるの?!」
そんなロイドの台詞にリフィルが驚いたような声をあげているが。
「信じるさ。こいつは自分の裏切り者としての立場を明かした。それってやばいことなんじゃないのか?」
どう考えても危険であろうに。
彼は自分がクルシスの天使であることまであかし、そのことを打ち明けた。
わざわざ嘘をつく必要もないであろう。
それにあのときのユアンのクラトスとの会話のやりとり。
そして、今ユアンが生やした翼。
それらがユアンが彼のいうように、クルシスの天使である、ということを示している。
神子、とよばれしものには天使の翼がある、とはセレスがいっていたが。
ユアンが神子だとは到底思えないし、絶対に違う、ともいいきれる。
「うん。私も信じる」
ロイドの言葉をうけ、コレットもこくり、とうなづく。
何となく、彼が裏切っている理由。
それは女神マーテルに関係しているような気がする。
彼はこういっている、彼女、と。
つまり、彼にとってマーテルとは大切な人、なのだろう。
コレットにとってロイドが命をかけても助けたい人であるように。
だからこそ、コレットは素直に信じることができる。
彼女の願いをかなえるために、そうユアンがしっかりといったわけではないが、わかる。
「仕方のない子達ね…はぁ」
そんなロイドやコレットの言葉をきき、リフィルが盛大にため息をついているが。
甘い、としかいいようがない。
ないが、それが彼らのいいところでもある、とリフィルは思っている。
だからこそ強く否定できない。
それよりも気になるのは今のエミルの言い回し。
まるで、ユアンに何かを確認するかのごとくの問いかけたあの意味は。
「……お前達はロディルの牧場へ向かうのだったな」
この甘さはクラトス、つまり父親ゆずりか。
クラトスも甘いがゆえに、ずるずるとミトスか世界かを選べずにここにまできている。
一度はミトスを討つ、ときめたにもかかわらず、家族を失ったことにより、無気力になり。
しかし、再びクラトスは動こうとしている。
ならば、ユアンもまた自分にできることを。
それにもう時間がない。
すっと目を閉じたのち、それらの思いは口にすることなく、ロイド達の今後。
すなわち、ロイド達がどこにむかっているのか、というのを問いかける。
「ホントによくしってるねぇ。こっちに密偵でもはなってるんじゃねえのか?」
ゼロスが苦笑まじりにそんなことをいっているが。
そもそもその報告をしたのはゼロス当人であろうに。
そうおもい、思わずエミルはゼロスをみてしまう。
エミルはゼロスが彼らに連絡をとっていたことを知っている。
というかわざわざ声にだす、というのは自分を疑ってほしいから、なのだろうか。
それともロイド達を試しているのか、おそらくは後者、なのであろうが。
「ホントだよな。まあいいや。魔導砲ってのが完成するまえにどうにかしたいんだ」
ゼロスの言葉にうなづきつつも、その言葉に隠された意味。
それを深く考えることもなく、ロイドが目の前にいるユアンに語りかける。
ユアンはいまだに腕を胸の前でくんだまま、びどうだにしていない。
「…それに、ロディルや…ヴァーリには…貸しがあります」
プレセアは、ロディルに命じられ、コレットの誘拐に手を貸した。
それがプレセアとしては許せない。
いくら心をほぼ失っていたとはいえ、自分が誰かを犠牲にしようとした、などとは。
さらにいえば、妹のこともある。
ゆえに、プレセアもまたロイドの意見にすぐさまに賛成しそんなことを言い放つ。
「…牧場と魔導砲はシステムが連結しているはずだ。管制室を無効化するといい」
この言い回しでは、彼らは牧場で何かがおこっている、というのを知らないらしい。
そうはおもうが、ユアンはそれを口にすることなく、淡々と事実のみをいいはなつ。
もっとも、あれを使おうとすれば、それを命令したもの、また操作しようとしているもの。
それらの器、
そして精神体から問答無用で力を吸い取るようにシステムを創り変えているにしろ。
ロイド達は当然、ラタトスクがそのように処置を施しているなど、知るはずもない。
「やけに…くわしいわね」
あまりに相手が詳しすぎる。
ゆえに、罠ではないか、とかんぐりつつもリフィルが警戒を含めた声で問いかけるが。
「我々もロディルの牧場に潜入する必要があるからな」
いいつつ、ボータはため息一つ。
「そういえば、何で皆さんはここにきてるんですか?」
大方の予測はつくが。
あの施設において、あの装置があった以上、あれを利用しようとしていたところであろう。
精霊炉。
牧場にはその施設がおいてあった。
すでにもうマナにと還しており、跡かたもなく消し去って内部にもどしているにしろ。
そんなエミルの問いかけに、
「ここ、パルマコスタ牧場にあったはずのものに用があったのだが……
…どこをどうしたらここまで綺麗さっぱり設備を消すことができたのだ?」
逆に疑問符をうかべ、そんなリフィルにとため息まじりにユアンがといかる。
予定が狂ったとはまさにこのこと。
自爆させた、という報告はうけていた。
が、よもやここまで綺麗さっぱり設備そのものがなくなっているなど想像すらしていなかった。
まさか、とおもいアスカード牧場も調べてみたところ、
そちらもまた同じように、まったくもって建物の残骸すら残っていなかった。
そもそも人間牧場に設置してある自爆装置。
それを作動させただけではここまで綺麗に消え去ることなどありえないはずなのに。
それこそ、かつて、天地戦争時代にあった、という。
物質を原子レベルにまで変換させるという技術。
そんなものがあれば話しは別であろうが。
もっとも、あれが開発されたとき、マクスウェルに命じ、
その力をヒトが使用できないようにしたのもまたラタトスクなのだが。
当然、そんな事実をユアン達が知るはずもない。
「ああ。あのときはすごかったよね。先生のフエル爆弾!」
コレットがぽん、と手をたたきつつもにこやかに言ってくるが。
「リフィルの爆弾、とは跡かたもなく消すことができるのか?」
そんなコレットの言葉をきき、困惑したような声をだしているリーガルの姿。
「馬鹿をいわないでちょうだい。私は施設にもともとあった自爆装置。
それを起動させただけにすぎないのですからね。
私だってあそこまでの規模になるなんておもってもみなかったわ。
それに、ここがこんなになっているなんて、くるまでしらなかったもの」
そこには、牧場、という忌々しい施設があったなど微塵も感じられない。
目の前にあるのは綺麗に澄み切った水をたたえた湖があるだけで。
「それもおかしいだろう。いくら地面が陥没して水没していた、としても。
水の中には設備の一つものこっていなかったのだからな。
……何かがあった、とみるべきか?それとも……」
そこまでいって、ちらり、とエミルをみるユアン。
かの飛竜の巣においてエミルが使用した…正確にはしいなに預けていたというとあるカビ。
それを用いたのならば、ここまで何ものこっていないのにもうなづける。
否、うなづけてしまう。
「何ものこってないって、そんな馬鹿なこと」
リフィルがいいかけるが、はっと何かにおもいあたったのか。
「…エミル。まさかここから逃げ出すときあのカビつかわなかった?」
あのカビ、とは飛竜の巣でエミルからしいなが預かっていた、というカビのこと。
ロイド達の武器すらもののみごとに砂と化した。
「いえ。つかってませんけど」
実際に使っていない。
ソルムやイグニスに命じ、もののみごとにこの場そのものを無くしただけのこと。
この地にありし歪みの修正をかねて。
ゆえにエミルは嘘はいっていない。
嘘は。
カビをつかっていないのは真実なのだから。
「…まあいい。奴の牧場の入口までならば道案内できるが、どうする?」
ボータがため息とともに、それでいて話題を切り替えるように問いかけてくる。
どちらにしても、彼らからしてみればこの場にあったはずの目的の品。
それが使えない以上、精霊の封印に使用していた精霊炉。
そちらに目的を切り替えている。
精霊達が解放されたあとのかの品をどうにかして利用できないか、と。
だからこそ、彼らはソダ間欠泉や旧トリエット遺跡、とよばれし場所でも目撃されている。
もっとも、旧トリエット遺跡に関してはまだ精霊と契約をしいなが交わしていないがゆえ、
精霊を封じたまま利用が可能かどうか、というのを調べているっぽいが。
どうする、も何もない。
そんなボータの台詞に、
「どうするもこうするもねえよ。手をくむんだろ。当然たのむさ」
「「「は~」」」
さらり、といったロイドの台詞をきき、背後にて思いっきりため息をはいている
リフィル、しいな、リーガルの三人。
「こういうロイドくんの人を信じるところはまあ嫌いじゃないけど、よ。…甘いな」
「ですね」
今回ばかりはゼロスの意見にエミルも同意せざるを得ない。
このあたり、すぐに他人を信用する、というところも本当によくミトスに似ている。と思う。
かつてのミトスとマーテルに。
人を信用しては裏切られ、それでも自分の理想を信じて進んでいっていたあのときのミトス達と。
「このものは、もうすこし危機感とか、
人を疑う、とかいうのをしったほうがいいのではないのか?」
リーガルもさすがに思うところがあるのか、呆れたようにそんなことをいってくる。
まだ子供、されどもうロイドも十六。
そろそろ独り立ちしてもおかしくない歳なのに、これでは、誰かにだまされ、
そして身を持ち崩しかねないがゆえの懸念を抱き、リーガルがぽつりといってくる。
裏切られる、それをわかっていてしているのならば問題はない。
ないが、何となくだが、このロイドはそういったものには慣れていないような気がする。
あのときですら、自分の偽物によって人々からうけた罵詈雑言。
それをうけて対処できなかったロイドの姿がふと脳裏によみがえる。
というか、ラタトスクがあの場にのこり、理を書き換えていた最中も、
それに何より命を落とすきっかけとなった事柄も、容易にたやすく人を信じたがゆえ、
であったはず。
どうやらそのあたりの根本的な痕跡はこのころからあった、らしい。
リフィルは以前、ユアンがロイドのことを鍵、と呼んでいたこともあり、
いまだに警戒をくずしてはいないらしい。
「あたしたちはきになるから牧場に向かう気ではあるけどさ。
あんたたちは何のために牧場へむかうんだい?」
彼ら、レネゲードが牧場に向かう意味がしいなにはわからない。
そもそも、このタイミングでこの場に彼らがいる、ということもあやしい。
彼らから預かっていたレアバード。
それを利用しているのならば、かの乗り物の位置を検索される、
ということもされるかもしれないが。
すくなくとも、自分達が異界の扉をくぐり、こちらにきた、など。
しいなも予測していなかったことだ、というのに、彼らはここに自分達がくる。
というのをわかっていたかのようにまちかまえていた。
それこそ第三者からの密告があったかのように。
だからこそしいなは怪訝に思う。
それでなくてもくちなわの裏切り、という現実を経験した直後。
そういう点に敏感になっているといってもよい。
「マナを大いなる実りに照射する準備だ。
ああ、その準備のためにレアバードの空間転移装置が使えなくなっている。
テセアラにいくのは牧場潜入のあとまでまて、いいな」
しいなの台詞にユアンがいえば、
「え?!あれでもしかして移動ができたのか!?」
「そりゃできるだろうさ。そもそもあたしらがあっちに移動したのも、あれで、だっだだろ?」
驚愕したような声をあげるロイドにしいながあきれてたようにつぶやくが。
そもそも、レネゲードの施設内から五機のレアバードに乗りて移動したのは他ならない事実である。
つまり、シルヴァラントからテセアラへレアバードをもってして移動した、
という事実がある以上、かのレアバードにて二つの世界の行き来が可能。
ということを暗に指し示しているといってよい。
そもそも、しいなもまた、かの乗り物にのりて、テセアラからシルヴァラントにいっていた身。
そして、レネゲード達から借り受けている八機のレアバードは、
エグザイアにてもらった腕輪の中にしいなは半分の機体を収納している。
ウィングパックにいれているわけでなく、腕輪の中にいれているがゆえ、
その気になればいつでもしいなはレアバードが取り出せる。
もっとも、貴重な遺物でもありし腕輪を壊してはいけないので、
それを使うのをとまどっている、というのが事実なれど。
ウィングパックの中に四機、そしてしいなの腕輪の中に四機。
計八機。
「そういや、こっちからあっちに戻るとしても。
レアバードをつかえばたしかに戻れるってことか」
ふとしいながそういったのち、そのことに今さらながらにきづき、
何やらその場にて考え込み始めるが。
「お前達がテセアラにもどるのは潜入作戦が住むまでまて。いいな」
「あ。ああ。そっか、あれをつかえばあっちにいけるってことなんだよな。
…あのときみたいにまた竜巻にまきこれたりしない、よな?」
ユアンの台詞に戸惑いつつもうなづき、
そしてふと、ここから移動したときのことを思い出し、ロイドがふと顔をしかめる。
「竜巻?ともあれ。こちらもあちらも、マナの量が安定している。
マナ不足でレアバードが不時着する、ということはないだろう。今のところは、な。
本来ならばテセアラのほうはこちら側の精霊の封印が解かれた以上、
衰退世界にはいるべくマナの量が減退し、レアバードの持続も難しいだろうが。
お前達はヴォルトとも契約をすでにかわしているがゆえにマナの調達も問題はないだろう」
ユアンは知らない。
彼らがテセアラにむかったとき、竜巻にまきこまれ、エグザイアに不時着したことを。
もっとも、不時着、というよりはそのようにしたのはほかならぬラタトスクなのだが。
ロイド達は当然そんなことを知るはずもない。
「ちょっとまってくれ。ならやっぱり、テセアラは…衰退世界にはいっているのかい?」
しいなが不安そうにといかける。
「いや。ユグドラシルの命で衰退世界と繁栄世界。
その転換作業は途中でとまっている。ゆえに中途半端な状態なのは間違いない」
「?なぜ作業をとめているのかしら?」
そんなユアンの台詞にリフィルが怪訝そうにといかける。
あれからクルシスのちょっかいがない、というのも懸念事項の一つ。
「……準備ができたら、ボータに声をかけろ。後は頼むぞ」
「わかりましたぞ」
しかしそんなリフィルの質問にはこたえることなく、ユアンはその場を立ち去ってゆく。
少し離れた先にて、魔科学による転移装置を発動させた気配をエミルは感じるが。
そもそも、いちいちマナを乱して転移する必要はないであろうに、ともおもう。
思わずかるくため息をつきつつも、ひとまず小さく乱れたマナを修正する。
そんなエミルの行為に気付くこともなく、
「準備ができたら声をかけろ」
ユアンを見送るために頭をさげていたボータが頭をあげ、ロイド達に向き直りつつもいってくる。
「ボータさんたちは、牧場の何の用事があるんですか?」
まあ、どうせ精霊炉、すなわち改造された魔導炉、とよばれているものに用事があるのであろうが。
「我らはあの地にありし魔導炉に用がある。
この地にあったものと、アスカード牧場のものは探しても見つからなかったからな」
盛大にため息をつきつつもそんなことをいってくるボータ。
やはり、どうやら目的はあれ、であったらしい。
そもそも大量にマナを消費する精霊炉。
微精霊達を取り込んで、さらなるマナを消費するあれもまた許容範囲をこえた代物。
精霊達を閉じ込めるために精霊炉と封魔の石、それらを砕いたものを精霊の封印、
と彼らが呼んでいた場ではつかっていたようではあるが。
エミルがそんなことを思っていると、
『魔導炉?』
聞きなれない言葉をきき、おもいっきり首をかしげているロイド達。
「まあ、それは我らのことだ。用事ができたらいえ。
なるべく時間は早いほうがいい。限られた時間しかない、のだからな」
そんなボータの台詞に、思わず顔をみあわせるロイド達。
たしかに時間がおしい、といういい分もわかる。
先ほど、ユアンがいっていた推測がまさにそう、だとするならば。
たしかに彼らもまた一刻を争うべきだ、と判断しているのだろう、ということも理解できる。
もっとも、彼らの思惑はまったくもって見当違い、でしかないのだが。
「どうするの?ロイド?」
このまま、彼らとともに牧場に潜入するのか、それとも体勢を整えるのか。
ジーニアスが不安そうに問いかけるが、
「とにかく。いこう。どっちにしろ、ここを調べたあとエレカーをつかってその海域にいくつもりだったんだし」
ロイドのその言葉には、嘘はない。
~スキット・絶海牧場に向かう途中・牧場跡地をでてすぐあと~
エミル「はい。どうぞ」
リフィル「あら。エミル。どうしたの?これ?」
それぞれに手渡された、ココナツの実にはいっている何かの飲み物。
エミル「みんな、いろいろと聞かされたり、また会話しててノドかわいたかな。
とおもって。さっきつくってみました」
一同「(いつのまに・・・・)」
いつのまに、とはおもうが、たしかにこれはありがたい。
ロイド「お!サンキュー!エミル!ノドいわれてみればかわいてたんだ」
しいな「あ。これ冷たい」
ボータ「…いやまて。突っ込みたいのは我らとしては、そこ、ではないのだが?」
なぜにエミルの肩にみたこともないような魔物がいるのだろうか。
緑色っぽい光をはっしている、何かの魔物。
コレット「そういえば、エミル。その魔物さんは?かわいいね~」
プレセア「?みたことない…です。でもマスコットみたいでかわいい…です」
何かのマスコットのごとくにみえなくもない。
よくロイド達がつくるてるてるぼうず、そんな形の胴体に、
その頭の部分にある大きな左右の耳らしきもの。
ちょこん、とした手?のようなものにこれまた小さな尻尾?らしきものがついているそれ。
そんな魔物などロイド達はみたことがない。
ゆえに困惑を隠しきれない。
エミル「え?この子?この子はフリーズスピリッツのスピカっていうんだ」
コレット「うわ~。かわいいね。このこ」
エミル「でしょ?この子にたのんで氷だしてもらったんだ」
一同『ちょっとまて』(コレット&エミルを除く)
エミル「?」
ロイド「まてまてまて!というか、これにはいってる氷、それがだしたのかよ!?」
リフィル「…ひさしぶりにエミルが魔物を使用しているのを改めてみた。
という感じだわ…さっきの馬とはまた違うし…はぁ……」
リーガル「…さきほどの馬のときにもおもったが、この子はいったい……」
コレット「でも、ロイド。これおいしいよ?あまくて」
ジーニアス「あ。ほんとだ」
なんだか冷たくてとても甘くて、何となくだが体にしみわたるようなそんな感覚。
エミル「海の中にいくならこの子つれていこっかな、とおもったんだけど……」
リフィル「…それはやめておきなさい。はてしなく」
コレット「ねえねえ。エミル。その子の得意なことって何?」
エミル「この子?フリーズランサーとか連発できるよ?」
ロイド「よくわかんねえけど。なんか便利そうだな」
ボータ「まてまて!何で魔物が傍にいて、しかもこの子のいうことをきいているのに、
なぜにきさまらは何ともおもわないんだ!?」
コレット「?何いってるんですか?ボータさん。
なんでか魔物さんたちってエミルのお手伝いよくしてますよ?」
ジーニアス「・・・こっちにきて、いや、テセアラにいってからはあまりみなかったけどね」
ゼロス「…おい。しいな。まじ、なのか?」
しいな「・・・事実だよ」
エミル「…妥協点なんですけどねぇ。アクアが自分がいくとかいいだしてたから」
それこそアクアがなら自分が姿を表してともにいく!とかいいだしていたがゆえ、
この子を呼び出した、のだが。
ボータ「?」
ロイド「アクア?ああ、あの船の中とかででてきたあの女の子か。というか、あの子も魔物なのか?」
エミル「え?あの子は魔物じゃないですよ?」
そう、魔物ではない。
センチュリオンなのだから。
リフィル「…頭がいたいわ。ともあれ、エミル、これは害にはならない、のね?」
エミル「ええ。だって皆、ノドかわいてるでしょ?」
一同「『たしかに、そう、だ(が)(けど)(けどよ)』
いろいろと思うところはあるが、たしかに飲み物には罪はない…はず。
ゆえに、互いに互いが思うところがあれど、それを口にする。
彼らは知らない。
その飲みもは、ソルムの幻影に対する一時にしろ耐性がつく、ということを。
ロイド「しかし。レネゲードと手をくむことになるとはなぁ」
リフィル「…そうね。二度目ではあるけどもね」
一度目はコレットの救出時。
リフィル「でも油断は禁物よ。彼らはあなたをも狙っていたのですからね。ロイド」
ジーニアス「そういえば、ロイドが鍵とか何とかいってたよね。こいつら」
エミルから手渡された飲み物をのみつつも、ロイドがいえば、
そんなロイドをたしなめるようにリフィルがいってくる。
ジーニアスも思うところがあるのかそんなことをいっているが。
ゼロス「ま、油断は禁物だな。背中をみせたすきにするり、と背中をずぶり。
な~んてことにならなきゃいいけどよ」
しいな「あんたにしちゃまともな意見だね。でもあたしも賛成だよ」
ゼロス「ま、リフィル様くらい警戒しているんでいいんじゃねえの?
ロイドくんみたいにそうほいほい他人を信用してたら、
命がいくらあってもたりねえしな」
ロイド「何だよ。ドワーフの誓いにもあるんだぞ!だますよりだまされろって!」
コレット「あ。ドワーフの誓い、十八番だね」
ロイド「おう!」
エミル「あ、おかわりあるけど、いる?」
ボータ「…だから、なぜ、魔物が飲み物のはいった容器をもっているのに、
…だれもつっこまないんだ?」
プレセア「…おそらく、きにしたら負け、だからだ、とおもいます」
たしか、ガオラキアの森でも魔物が率先して道案内をかってでてきていた。
ゆえにプレセアとしてもそういうよりほかにない。
みれば、魔物が飲み物のはいった容器を片手に、ふわふわとエミルの横に浮かんでいる。
コレット「うわぁ。この魔物さん、器用だねぇ」
コレットがおかわり、といえば、器用にもその小さな手で容器をつかみ、
コレットのコップかわりの器に飲み物をそそぎこんでいる、スピカ、
とさきほどエミルが説明したその魔物。
リフィル「…とりあえず。この光景は見なかったこと、みていないことにするとして。
ロイド達皆がおひとよし過ぎるのだから、用心深すぎるほうがいいのよ。
どうしても一人くらいは慎重ならなないと。
この子は…エミルは、こう、だしね。どこか天然だし」
ゼロス「たしかに。このロイドくんはすぐにどうやら人を信用しちまってるようだしな」
ロイド「何だよ?それがわるいってのか?」
ゼロス「んじゃ、俺様、ロイドくんをだましてやろろうかな~」
リフィル「…ゼロス?」
ゼロスの台詞にリフィルがぴたり、と動きをとめる。
ゼロス「ん?」
リフィル「…ロイドを裏切ったら…命はないわよ?」
ゼロス「じょ、冗談だよ。本気にするなって、リフィル様ぁ。…たぶん、な」
エミル「まあ、人には譲れないものもあるでしょうしね」
ゼロス「お。エミルくん、わかってるじゃねえか」
エミル「さっきユアンがいっていたこともありますしね。
リフィルさん。ならたとえば、ジーニアスが誰かに囚われて、
命がおしかったらいうことをきけ。といわれたら、どうします?」
リフィル「…それは・・・・・・・・・・」
ロイド「そんなの両方たすければいいだろ!」
エミル「そして、両方うしなう、の?ロイドは」
ロイド「それは……」
エミル「いざ、というときには何かを切り捨てる、選ばないといけない。
そういうことがあるのをロイド、特に君は覚えておいたほうがいいよ」
ロイド「何だよ…それ。それに、さっきユアンがいってたこと。
マーテルってやつも、種子も両方たすけられる方法。それを探すのがわるいっていうのか?」
ジーニアス「悪くないとおもうけど。けどロイド。
実際、テセアラとシルヴァラント。両方のマナが安定している。
…ユアンのいうとおり、大いなる実りとかいうのに、限界が近い。
その可能性はすてきれないよ」
ロイド「俺にはマナがどうかなんてわかんねえからなぁ。
ま、ドワーフの誓い、第十六番。成せばなる。うん」
一同「『……は~』」
エミル「…ロイドらしい、けどね」
結局、この心根がかわらないままに、ロイドはあのとき命をおとしてしまった。
あのときのことをふとエミルは思いだす。
人の争いに巻き込まれ、それでもどうにかしよう、とおもい行動し命を落としたロイド。
エミル「…ある程度休んだら出発します?ボータさん」
ボータ「あ。ああ、そうだな。(この子は、いったい…?)」
pixv投稿日:2014年2月8日某日(Hp編集:2018年4月22日(日)
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あとがきもどき:
~参考魔物資料・マイソロジー3より~
魔物図鑑112;フリーズスピリッツ
Lv66
Hp5700
弱点:地
得意属性:風
そういえば、ふとおもったんですが、ロイド達が牧場に潜入している間。
つまり、残された一行側の話しもすべきかな?
一応あるにはあるんですけど…そのあたりをどうしようか?と悩み中。
回想みたいにして合流後、ちらちらとだしてゆくか、がっちりとするか…
ううむ…