雪景の街、フラノール。
船にて航路を北にむけ、たどりついたは雪の大陸。
そこからリーガルがことづけて用意していた、という、
エレカー…何でも雪の街用に改良されているそれは雪をかきわけつつもすすんでゆく。
今、この時期はちょうど雪まつりの時期の手前らしく、
荷物物資の運搬がけっこうあるらしく、移動するにあたり、
一緒に荷物もという何とも合理的な移動方法となっていたりしたのだが。
さすがに高速艇とよばれているだけのことはあり、
数日もしないうちに新たなる大陸にとたどり着き、エレカーに乗り込み進むことしばし。
目の前には雪景色に覆われている街並みがひろがっている。
エレカーが決められた場所に止まると同時、
どこからともなくあらわれた、レザレノの社員、なのであろう。
制服らしきものをきた人物達がわらわらとあたりをとりかこみ、
どんどん荷物を外に運び出している様子がみてとれる。
そのままそり?らしきものに荷物をおきかえ、どうやらそれにより街の中にはこんでゆく、らしい。
「しっかし…あいかわらず、何というか…なぁ」
ゼロスが眉をひそめつつ、周囲をみわたしそんなことをいっているが。
どこをみわたしても雪景色。
きのせいか、ゼロスの目にはその雪があの日のように赤くそまっているように視えなくもない。
「…なあ。リーガル、あれ、何やってんだ?」
何なのだろうか。
街の外。
そこにいくつもの雪の塊らしきものがあり、そこにわらわらと人がたむろしているのがみてとれる。
ざっとみるかぎり、雪をかためては何かをしている、ようにみえるのだが。
「うむ。あと少ししたら、ここフラノールで開催される雪まつりが実地されるのだ」
そんなロイドの問いかけに完結にこたえているリーガルの姿。
どこからどうみてもその雪の塊は巨大な彫像もどきが幾多もある。
それは街につづく街道沿いに続いており、
最後の調整、なのか、それとも新たに参加しているものもいるのかはわからないが。
ともあれ、様々な人々がそれぞれの巨大な彫像をつくっていっているらしい。
「ちなみに、一般参加もうけつけている。
もっとも、あのような巨大なものは時間をかけなければつくれないであろうがな」
このたびの祭りは一時危ぶまれたのではあるが。
どうにか雪ももどってきたゆえに、開催が可能となっている。
「このたびの雪がなかなかそろわなくて、いつもより規模は小さくなっているようだがな」
本来ならば、もっと大きな建造物を数カ月にもかけてつくったりしているのだが。
一応、それでも初期は期間とわずで作成を可能としていたのだが、
今はそれ以外の枠。
限られた時間のなかでどこまですばらしい彫像がつくれるか、というのも競うようになっている。
なぜか楽しいごと好き、なのか、開催するにあたり、ときおり魔物が参加していたり、
ということもあり、人々が驚いたりした、ということもあったりするのだが。
ちなみに参加していたビックフット達曰く、子供が喜ぶから、という理由であったらしい。
それはグラキエスから報告をうけて、エミルがおもわず苦笑してしまったがゆえに覚えていること。
本格的な開催は十五日間ではあるが、その期間内に、
雪像類をみた見物客に投票をしてもらい、順位を競う、というのがこの祭りの名目。
「うわぁ。ロイド。面白そう。ね。セレスさん!」
「え…雪で…ものをつくる、のですの?」
セレスのいた修道院は雪なんてものはふったことはない。
セレスの記憶にある雪の日は、それは最悪の日であった。
母がこともあろうに兄の命を狙うためにハーフエルフに依頼し、
そして家族がばらばらになってしまったきっかけの日でもある。
ゼロスはセレスがこの地にやってくるのをしぶったのだが、
コレットが一緒にいこう、とさそい、セレスは断りきれなかったというのもあったりする。
もっとも、コレットが誘ったがゆえにセレスは気兼ねなく同行できている。
というのもあるのだが。
兄であるゼロスにどうしても負い目を感じてしまい、いまだにセレスは素直になりきれていない。
「うわ~。なんかおもしろそう。用は巨大な雪だるまなんだろ?俺達も参加できるのか?リーガル?」
「うむ。しかし時間もなかろう?」
「何いってんだよ!皆で強力すればあっというまにできるさ!な!」
「な!って、ロイド!まさか僕たちも参加させるき!?」
「何いってんだよ。ジーニアス。ミトスもやるだろ?面白そうだし」
「え?ぼ。僕も!?」
いきなり話しを振られ、戸惑いをかくしきれないミトスの姿。
「…僕、雪うさぎくらいしかつくったことないよ?」
それはかつて、まだ旅をしていたとき、雪がふり、姉を喜ばそうとつくった小さな雪うさぎ。
まあ、かわいい。
そういって喜んでいた姉のマーテル。
その笑顔を取り戻すためにも。
僕は……
無意識のうちにぎゅっと手を握り締めるそんなミトスの様子に気づいているのかいないのか。
「まったく。遊びにきたのではなくてよ?ともかく。いつまでもここにいては風邪をひいてしまうわ。
宿をとって。それからにしましょう。…防寒服も必要のようだしね」
なぜか雪となっていた砂漠地帯のことをふとリフィルは思い出す。
自分達があの地を立ち去るまで、結局雪が降り止むことはなかった、のだが。
もっとも、リフィルはしるよしもないが。
そのあと、ラタトスクノの力の波動をうけて完全に目覚めたイグニスの影響により、
かの地の雪は綺麗さっぱりと溶けて本来の姿もにどっていたりする。
ショコラを助けるために発したラタトスクの直接による命。
その波動をうけ、イグニスが完全覚醒した、という理由があったりしたのだが。
…もっとも、そのとき、イグニスがラタトスク自らが迎えにいくつもりであった。
というのをテネブラエからきかされて盛大におちこんだ、という事もあったりしたが。
「参加受付はフラノールの教会の受付でおこなっている。
まあ、たしかに。早い所宿をとるのは賛成だ。
万が一、宿が確保できない場合、我が者の宿舎を利用できればよいのだが」
さすがに周囲が雪、というだけのことはあり、普通の場所のように、
外で野宿すればいい、というわけにはいかない。
そんなことをすればまちがいなく凍死する。
人の体に外気温マイナス、という温度は死亡するには十分すぎる温度。
もしくは、カマクラをつくり、そこで一晩すごすか。そのどちらか。
案外、雪の中ほど暖かいものはない。
…もっとも、しっかりとしたつくりにしなければ、雪にうもれて窒息死。という末路がまっているにしろ。
立ち並ぶ巨大な石像類。
リーガル曰く、この石像は街につづく街道沿いに作られているらしい。
このたびは一時期、全ての雪がとけてしまう、というありえない事態が数カ月前におこり、
それゆえに新たに創りなおしている最中である、ということらしいが。
そういえば、グラキエスの影響でこのあたりの雪は一時完全に溶けだしていたな。
ふとエミルは思い出す。
あのとき、迎えにいったとき、セルシウスから自分も狂いそうになっていた云々と、
たしかそんなことをいわれたようなきがしなくもない。
たしかにあの場の氷もほとんど溶けていたような気もしなくもないが。
直接【境界の扉】を用いてセンチュリオン達の祭壇に移動したので
外の様子までさほどきにかけもしなかったのだが。
雪はあいかわらず、とまることなくひっきりなしり降り注いでいる。
少したちどまっていれば、それこそ人間のゆきだるまができるほどに。
街は常におそらく誰かの手がはいっているのであろう。
さほど雪がつもっている、というわけでもなく、しっかりと道も確保されており、
また、屋根の上にもさほど雪はたまっていない。
もっとも、その雪をかきあつめては外にもってゆくそりらしきものをひいている人々。
そんな人々の姿がちらほらとみえていたりするのだが。
この地に生えている木々も完全に雪におおわれており、
また、このあたりの木々はそれなりの木々がはえている。
すなわち、寒さに強い木々しかはえていない、といっても過言でない。
きちんと雪かきされ、それでも気をぬけばすべってしまいそうな階段。
それを進んでいった先。
そこが雪景の街、フラノール。
基本、高地を利用してつくられているこの街は、階段、もしくは坂道によって行き来するようになっている。
一番高い位置には教会があり、そこから街が一望でき、
景色が一番いい場所、としての観光名所としても有名、らしい。
実際確かに景色はよかったな、とはおもうが。
あのときは、ロイドに化けたデクスにより人々が傷つけられていた。
その後、なぜ妹を、とロイドがつめよられたところをエミルは目撃している。
あれはロイドではなかった、といっても街のひとはききいれなかった。
階段をのぼり、すぐその横手に大きめの宿があり、その一階は食事所を兼用していてるらしい。
宿だけでなく、病院なども遠出をしなくてもこの街一つで大概なものはまかなえる。
それがここ雪の街フラノール。
理由として、雪がつもっている最中、遠出は難しいだろう、ということもあり、
街の中に主要施設が一つにまとめられた経緯があるらしいが。
「それにしても、すげぇよな!この雪!わ~つめてえ!」
「って、ロイド!いきなり雪をなげてこないでよ!ええい!おかえしだ!」
「何くそ!」
周囲にある雪を手にとりはしゃいでいるロイド。
いきなり何をおもいついたのか雪をまるめ、ジーニアスにその雪玉をなげてくる。
「…子供、だねぇ」
そんな二人の様子をみてあきれたようにつぶやくしいなに。
「うわぁ。みてみて。セレス。ねえ。あそこに大きなつららがあるよ!」
「まあ、本当ですわ!あんな大きなつらら…初めてみました」
「うん。私もだよ」
こちらはこちらで、とある家の軒下からたれさがっている巨大なつららにきづいたのか、
そんな会話をしているコレットとセレス。
「うぉ!でっけえ!」
コレットとセレスの会話がきこえた、のであろう。
その手にて雪玉をつくることをとめることなく、そちらに視線をむけて叫んでいるロイド。
「…ロイド達ってあんなのが面白い、のかなぁ?」
「面白いんだろうな。…エミルはあまり驚いていないのだな?」
そんな彼らの様子をみて目をぱちくりさせているエミルをみつつ、
リーガルが逆にとといかけてくるが。
「そういうリーガルさんは。そんな格好で寒くないんですか?」
囚人服もどきはさすがに会社のものにいわれたからなのか、
その上に簡単な上着を羽織っているようではあるが、薄着であることにはかわりはない。
リーガルにたいし、マルタが首をかしげつつといかけているが。
「心頭滅却すれば火もまた涼し。…これも我が修業だ」
そんなマルタにさらり、といいはなっているリーガル。
「うわ!?」
「もう!ロイド!ミトスにまでやったなぁ!ミトス!こうなったら二人でロイドを撃沈だ!」
「え?あ、ちょ、ちよっと、ジーニアス!?」
ロイドがなげた雪玉がミトスにあたり、それをみてジーニアスがミトスの手をとり、
そのまま近くの雪をつかみ簡単な雪玉をつくってはミトスにと手渡してくる。
さすがにこの反応は理解できなかったらしく、雪玉を手渡されとまどっているミトスの姿が見て取れるが。
そういえば、あのように純粋に遊ぶようなこと、あいつ、これまでなかったんじゃあ?
ふとそのことに思い当たり、何となくまな暖かい眼差しになってしまうエミル。
「…お子様達は元気だねぇ。なんでそんなに元気なんだか」
そんなロイド達の様子をみてあきれたようにつぶやいているしいな。
「…まったくだな。早く精霊と契約してここから立ち去りたいものだな」
それでなくてもこの地にいれば、まちがいなくフラノール支社の責任者がでてくる。
そうなれば旅どころではなく、また仕事のほうが忙しくなってしまうであろう。
「ほんとだよ。とっとととりあえず、どこかの建物の中にでもはいろう」
「そうね。…あまり外にいれば風邪をひきかねないものね」
ぶるり、と体をふるわせていうしいなに、そんなしいなに同意をしているリフィル。
そんな彼らの様子を交互にみつつ、そして何かをおもいついたのかにやり、と笑みをうかべ、
「歳をとると、暑いのや寒いのがダメになるらしいな~。俺様、全然平気だぜ~?」
天使化における機能の中に体感温度の調整、というものもある。
ゼロスはそれをうまく利用しているがゆえに寒さはまったく感じていない。
それはミトスにおいても同じこと。
コレットのほうはいまだによくその体と付き合いができていないらしく、
そこまで自分で調整、ということはできていないようではあるが。
「失礼だね!あたしはまだ十九歳だよ!」
そんなにやにやと笑いながらいうゼロスに対し、しいなが喰ってかかっているが。
「…言い返す気力もでぬ。ともあれ、どこかの建物の中にはいろう。
たしかそこの宿の一階が食事所も兼用していたはずだ」
リーガルが示したのは、街にはいってすぐにある、ちょっとした大きめの建物。
建物の前にはベットの絵が描かれている看板がでており、
そこが宿屋であることをうかがわせている。
もっとも、ベットの絵とナイフとフォークの絵も同時にあることから、
食事所が兼用されている、というのが看板にて一目瞭然なのではあるが。
「う。さ、寒くない…寒くないわよ……」
ゼロスの言葉をきき、やせ我慢をし、体をすこしばかりふるわせつつも、
そんなことをいっているリフィル。
どうやら歳をとると~といったゼロスの言葉がきいているらしい。
なぜにヒトはそういうのを気にするのか、いまだにラタトスクからしてみれば理解不能なのだが。
そもそも、ヒトは歳をとるもの。
なのになぜ気にする必要があるのだろうか。
というのがラタトスクからしてみての認識。
もっとも、それは歳をとることのない精霊ゆえの台詞だから、といえるであろう。
ラタトスク達精霊からしてみれば、ヒトの一生などほんの一瞬にすぎない。
それこそ、一度すこし休もうとおもい休んでおきれば数百年経過していたりする、
というのもざらなのだから。
カラッン。
扉につけられているであろう鐘がしずかに音を紡ぎだす。
「いらっしゃいませぇ。団体様ですか?」
ざっとみるかぎりどうみても団体一行。
ぞろぞろと入ってきた人数は十人以上。
タバサはそのまま船にのこっているのを考慮したとしても、
ロイドの手によって小さくされているノイシュ…
これはメルトキオの地下水路にてソーサラーリングの性能をかえているらしく、
それゆえにエミルにたよらずこのたびはロイドがノイシュを小さくしていたりする。
どうやらノイシュを小さくして街の中に連れてゆく、というのは、
面倒ごとにならない、さらにいえば食費もあまりかからない。
というのにどうやらようやく今さらながらにきづいてのことらしい。
まあわざわざ厩などを用意してもらわずとも、その場で食事があたえられたりするのだから
あるいみ便利といえば便利であろう。
さすがに十二人という一行を団体、といわず何とする。
「ええ。席はあるかしら?」
「それでしたら、こちらのお座席にどうぞ~」
どうやら席はあいている、らしい。
部屋の奥まった場所にあるとある部屋にと案内される。
「これは…畳、かい?おちつくねぇ。あ、ちょっと!ロイド!ジーニアス!靴をぬぎな!靴を!」
すかさずしいなが靴のまま座敷にあがろうとするロイドとジーニアスに注意をうながす。
案内されたのはどうやら畳の間らしく、普通の床のように靴のまま、というわけにはいかないる
しいなは靴をぬぎこういう場所にあがるのは慣れているが、
さすがにロイド達はそういったものにはあまり慣れていないらしい。
みずほの里でそういうのに慣れたのではないのか?
靴のままあがろうとした彼らをみて思わずエミルがそんな感想を抱いたりしているのだが。
部屋には座布団がおかれており、ゆったりとくつろげるスペースとなっているらしい。
寒いせいかこの部屋には掘りごたつがつくられており、こたつの上にはテーブル。
それぞれ左右対象に席が二つ。
どうやら一つのテーブルにつき六人座れるらしく、
六人ごとにわけてそれぞれ掘りごたつ…この座り方もしいなが指導しているが。
ともあれ、それぞれひとまず席にとつく。
「うわ~、あたたかい」
しいなにいわれ、不思議に思いながらもその場にすわれば、足元がとても暖かい。
掘りごたつ、とよばれているそれは、あなをほり、その中に暖をとるための品が入れられているらしい。
ちらり、とみれば下のほうに炭らしきものがみてとれる。
思わず足をその場にてぶらぶらさせつくつぶやくジーニアス。
「いきかえる~」
ロイドもまた、くたっとなったように、その場にて机の上にぺたり、とその体を投げ出していたりするが。
「まったく…仕方のない子たちね。それで?ゼロス?氷の神殿はどこにあるのかしら?」
「氷の神殿はここから南だな。歩いていっても結構の距離があるぜ?」
何しろ距離的にはこの大陸の端のあたり。
山脈地帯の一角にあるそこは、一応街道も整備されてはいるが、
基本いつも雪がふりつもっているがゆえ、道という道がほぼないといってよい。
「ここの名物はフラノールバーボンってやつなんだぜ?」
おそらくはメニュー表、なのであろう。
羊皮にかかれているメニュー表らしきものを手にとり、
ゼロスがそんなことをいってくる。
「かなりきついからな。これをハニー達にのませると、もう大変…」
ぽかっ。
ゼロスが続きをいいかけるよりもはやく、ゼロスの横にすわっていたしいなが、
そんなゼロスの頭をおもいっきりたたく。
「あんたはぁ!子供達がいるところでそんなことをいうんじゃないよ!ったく」
「お兄…神子様。お酒は公務中には控えるように、と申し上げていたはずですが?」
「セレス…おまえなぁ。これどうみても公務じゃないだろうが。
…ああ、お前はだめ!だからな?前によくやすめると話しをきいた。といって、
一滴だけ垂らしてミルクにいれて飲んでその場で倒れたのをわすれたわけじゃないよな!?」
席は別な場所。
というか、今現在、同じ席についているのは、ゼロス、しいな、リーガル。
そしてエミル、マルタ、プレセア。
もう一つの席にロイド、ジーニアス、ミトス。
その前にはコレット、リフィル、セレス。
それぞれ六人づつにわかれて二つの掘りごたつに座っている今現在。
ちなみに、ミトスはジーニアスが一緒にすわろう、と問答無用で、
ジーニアスの真横に座らせられた、という経緯をもつ。
セレスが背あわせで座っているゼロスにむかい、そんなことをいっているが。
すかさずそんなセレスにたいし、ゼロスが何やらいいつのる。
「…ゼロスってけっこう妹想いだよね?」
「だな」
「な!?こ、この俺様のどこが!?」
マルタがしみじみといい、その言葉にうなづくロイド。
そんな二人の声をきき、あからさまに動揺しているゼロス。
「だって、ゼロス、船の中でもセレスをきにかけてたでしょ?」
ちなみにさんづけしていたのだが、セレスが同年代に近しい子にさんづけされるのも、
といいだして、結局呼び捨てとなっていたりする。
もっとも、エミルだけはいまだにさんづけ、ではあるが。
「はいはい。とにかく話しがすすまないから。ゼロスがシスコンなのはおいといて」
「な!?リフィル様ぁ!?この俺様のどこがシス…っ」
「騒がないの。他にもお客はいるのですからね」
「あはは。姉さんにおこられてやんのぉ」
「うっせえ!このガキんちょ!」
そんなゼロスにびしゃり、とリフィルが言い含め、言葉につまったゼロスをみて、
ジーニアスがからからと笑い声をあげているが。
この畳の間となっている部屋はかなり大きいらしく、
それぞれ衝立によってそれぞれの場所が区切られている。
本来は一つの掘りごたつにつき一つの衝立で広い畳の間を区切っているらしいが、
人数にあわせ、その衝立を移動することにより、調整をしているらしい。
くすっ。
そんなやり取りをしている最中、どこからともなくくすり、とした笑い声がきこえてくる。
「ん?何だ?」
その笑い声は衝立の向こうから。
「いえ。申し訳ありません。何か楽しそうだったもので、つい」
いいつつ、ひょっこりと衝立の向こうから一人の男性が顔をだす。
どうやらこの畳の部屋に案内されている一人、であるらしい。
ぱっとみため、旅慣れたような格好をしていることから、おそらくは旅をしているものなのであろうが。
「あんたは?」
「これは申し訳ありません。神子様、ときこえたもので、つい。お初におめにかかります。
その赤き髪はまごうことなくテセアラが誇る神子ゼロス様とお見受けいたしました。
私は旅業にて商売を営んでおりますオベロンと申します」
いってぺこり、と頭をさげてくる。
「オペロン?ああ。なるほど。おまえさんか。
貴族の中でめずらしいものを用意している旅の商人、というのは」
その名に覚えがあり、ふとゼロスが記憶の中からその名をひっぱりだす。
今、メルトキオでちょっとしたブームともなっている商人の名。
それがたしかオベロンであったはず。
基本的に珍しく手に入りにくいものを扱っているというその商人は、
なるべく依頼にそった品をそろえてくる、というので貴族の夫人方には好評、らしい。
「その旅の商人がなんだってこんなところに?」
マルタが疑問におもったらしくといかける。
旅の商人というのはシルヴァラントでもよくみかけていたので、
マルタからしてみてもあまり違和感はもっていないらしい。
「神子様のお連れの方々ですか?
はい。私はここには、セルシウスの涙を求めてやってきたのです」
「「「セルシウスの涙?」」」
ききなれない言葉をきき、マルタ、ジーニアス、コレットが同時に声をあげる。
それぞれ顔をみあわせて、完全に首をひねり、こころなしか、頭の中にハテナマークが浮かんでいる。
といのがはたからみても嫌でも理解できるほど。
「セルシウス、というのは氷の精霊セルシウスのことかしら?」
たしか、文献の記憶にあった氷の精霊の名。
それがセルシウスであったはず。
そんなリフィルの問いかけに、
「いえ。ご存じありませんか?通称セルシウスの涙。フラノール名物でもある氷の花のことです。
どんなものでも凍らせてしまう不思議な力をもっているのですが」
衝立の横にたちつつも、そんなことをいってくる。
「どんな…」
「もの、でも?」
「まっさかぁ」
マルタが唖然とし、それにつづきジーニアスがつぶやき、ロイドがありえない、とばかりに言い放つ。
この三人、申し合わせたわけでもないのに、おもいっきりタイミングがあっている。
それこそ申し合わせ、一つの言葉を発しているかのごとくに意見もぴったり一致している。
「私、きいたことがありますわ。たしか取り扱いがとても難しいとか…
しっかりと温度管理をしなければ溶けてしまう、ともききましたわ」
以前、みてみたい、とセレスがいい、その数日後。
めずらしくやってきたゼロスがどこからともなくその花を渡してくれたのは、セレスは記憶にあたらしい。
本当にどこからききつけたのだろうか、とおもうが。
セレスは知らないが、いつもならばフラノールのでおこなわれる行事などは、
いろいろと難癖をつけて出席しなかったゼロスなのだが、
トクナガからの定期報告便である手紙をみたのち、なぜか行事に出席し、
セルシウスの涙を手にいれて、そしてふらり、と修道院に出向いた。
という事情があったりしたのだが。
そのような裏の事情はセレスは知らない。
元々、セルシウスの涙とよばれしそれは、とある樹木に過ぎない。
しかしその樹は本来、氷にてうまれし樹木であるがゆえ、
温度管理が少しでも変化すれば樹そのものが枯れてしまう。
そんな特性ゆえか、常に氷の神殿辺りにしか生えておらず、
また、普通の樹になっているときには人の目にふれないこともあり、
かの洞窟の中でひっそりと咲く花が人の目にふれているようではあるが。
一般的に知られているのは小さな苗に近しいもの。
小さいときには氷の結晶が完全に花の形、すなわち葉っぱと茎と花。
それらしき姿をしているがゆえに、氷の花、ともいわれているらしい。
「ええ。そのとおりです。もしももっておられるのでありましたら、
譲っていただけませんか?もちろん、いいねで買い取りますので」
「いいねって、そんなにすごいものなのか?それ?」
「まあ、うん十万ガルドで取引されることもあるって俺様はきくな」
「すご~い!エミル!それ手にいれよう!そうすればいっきにお金持ち!」
ゼロスの台詞にマルタがもののみごとに反応を示す。
「それで?あなたはどうして声をかけてきたんですか?」
そもそも、神子、という単語だけで声をかけてきたようにはみえない。
そんなエミルの問いかけに、
「いえ。氷の神殿にいくようなことがきこえてきましたので。
あなたがたが氷の神殿にいくのならば、セルシウスの涙を頼もうかとおもいまして。
よもやまさか神子様もおられるとはおもいませんでしたが」
言外に、この雪の街で神子にあうなどとは思わなかった。
という言葉をにおわせている。
「いくつもとればいっきにお金持ちになれるね!」
「どんな花なのかなぁ?」
「たしかに。どうせいくのなら、お金になるものがあるなら、
ガルドはあってこまることはないしね」
マルタの中ではすでに花をとることが決定づけられているらしい。
コレットはコレットでどのような花なのか興味をひかれているらしいが。
ジーニアスもジーニアスで資金のことも考えて、
このあたりでそろそろ資金繰りをかんがえないと、とおもっていたがゆえか、
どうやらこの話しに乗り気であるらしい。
「神子様はご存じかとおもわれますが。
もし、お連れの皆さまがセルシウスの涙を取り扱うのであれば。
その取扱いにはくれぐれも注意なさってください」
「「「?」」」
そういってくるオベロンの台詞に同時に首をかしげるロイド達。
なぜ花を取ってくる、というだけなのに注意をしなければいけないのか?
というような思いがありありとその表情からみてとれる。
「直接さわったりしたら、大やけどをしてしまうんだよ」
「花で…火傷…ですか?」
プレセアもさすがにその台詞は予想外であったらしく、おもわず口をはさんでくる。
「つまり、氷でできた花・・・ということは、温度が低いということかしら?」
ある一定の温度より下がれば人の体は火傷をしてしまう。
リフィルはそのことを知識として知っている。
「そんなもんどうやってとってこいっていうんだよ」
火傷をするような品もの。
それこそどうやって持ち運ぶのか。
むすっとしたようにロイドがいえば、
「あなたがたの服はどうやら使用されていないようですが。
この街の人々が必ず使用している素材。
ベンギニストフェザーを使用したペンギニストミトンを使用すれば、
持ち運びは問題ありませんよ」
「たしかに。ちなみにこの街のものがきている服そのものには、
ペンギニストフェザーが使用されているジャケットが主流となっている。
かの素材は寒さを防ぐ性質をもっているからな」
商人の言葉につづき、リーガルがうなづくようにいってくる。
ちなみに、手枷をしている手は膝の上におかれているからか、
商人はリーガルが手枷をしていることに気付いてすらいないらしい。
まあ、リーガルが座っている位置がちょうど彼からみて背中側になるがゆえに、
顔だけむけてそういってくる相手の膝の上まで注意しろ、
というほうがおかしいといえばおかしいのだが。
「そうそう。防寒具にはペンギニストフェザーが一番ってな」
リーガルにつづき、ゼロスまでもが同意するようにいってくるが。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
そのせいでまあ人間達がかつてペンギニスト達を乱獲しまくってくれたのだが。
ゆえにエミルは思わず無言になってしまう。
だからこそ、彼らに氷属性だけでなく雷属性をももたせた。
敵対してくる相手を電撃でひるませて逃げられるようにできるように。
そもそも、なぜに倒して羽を手にいれよう、という発想になるか。
それ自体がもうラタトスクからしては摩訶不思議といってよい。
そもそも巣にいけば彼らが素材にしている羽はいくらでもあるであろうに。
…もっとも、だからといって巣にいる雛や卵に手をだされるのはかなり困るが。
さらに一時、雛を乱獲し、その皮をはいで毛皮にしたりしたのが人間達の中ではやったこともあった。
本当にヒトというものはろくなことをしない。
そうラタトクスが認識してしまっているのも仕方ないことといえよう。
何しろ肉をもとめて、ではなく毛皮のためだけに、乱獲し、
一時そのせいで彼らが紡ぐマナが著しく低下したということがあったのだから。
今ではそのようなことをしでかすまえ、一定の体力が低下した場合、
彼らは本能的に自動で電撃を繰り出すように作り変えているがゆえ、
かつてほどその生体数に被害はでていない。
「ペンギニストミトンって何ですか?」
コレットがきになるらしく、オベロンにと話しかけているが。
「ペンギニストミトンについては、この街にいるアクセサリー屋。
【雪姫】という店にいる老人、そこの老主人にきくといいですよ。お嬢さん」
にっこりとそんなコレットに対しそんなことをいってくる。
アクセサリー屋の老人。
かつてのときは偽物とすりかわっており、二度手間をかけさせられた。
もっともあの襲撃そのものがかの老人を浚うためのカモフラージュ。
でしかなかった、というのは後からしった事実なれど。
「…とりあえず、今日はこれからでかけても夜遅くなるでしょうし。
今日はここで休んで明日にしませんか?」
すでに時刻は昼過ぎている。
この大陸についたのが昼前であり、エレカーの中で昼をむかえている。
もう少しすれば夜の闇が押し寄せてくるであろう。
気温もそれにともないどんどんと下がっていっている。
「わかりました。雪姫、ですね。いってみます~」
コレットがにこやかにそうこたえると、
「私はしばらくこの街に滞在しておりますので。
もし手にはいりましたら声をかけてください。それでは、神子様、私はこれで」
どうやら連れがいたらしく、はやくこい、というような声がきこえてくる。
そのまま衝立の奥にふたたびひっこみ、荷物らしきリュックサック…かなり大きいが。
ともあれそれを背負い、その場をあとにしてゆくその男性。
そんな彼の後ろ姿を見送りつつ、
「セルシウスの涙…かぁ。響きが何か綺麗だね!ね!エミル!」
「え?あ、うん。そうだね」
なぜセルシウスの名をつけたのか本当にヒトの感覚、というのはよくわからない。
それをいうならば、まだ砂漠の花といわれている砂が特殊な条件でかたまるあれのほうが
まだその命名に納得がいくものがあるのだが。
なぜにセルシウスの名をつけたのだろうか。
思わず首をかしげるエミルに対し、
「もう!エミルって情緒がないんだからっ」
む~としたようすでいきなりむくれるマルタ。
「なんかものすごく珍しいものらしいね。氷の洞窟に咲いてるってことは、ね。ロイド」
「ああ。俺達がいく氷の神殿ってところにある可能性が高いな」
コレットの言葉にロイドがうなづく。
「だとすれば…セルシウスの涙とは精霊に何か関係があるのかもしれないわね」
リフィルが少し考えながらもそんなことをいってくる。
まあある意味で関係があるといえばあるかもしれないが。
そもそもあの場にいく手前のあの地底湖。
あれをこえないとあの地にはたどりつけない。
もっとも別なる入口はあるにはあるが。
その入口は今はしっかりと閉じている。
「お待たせしました。ご注文はおきまりですか~?」
そんな会話をしている中、ウェイトレスらしき人物が注文をききにやってくる。
「あ。なら、僕はこれを」
ひとまずメニューの中にとあるクリームスープを注文する。
エミルに続き、
「んじゃ、俺様はこれだな。海鮮と野菜のスープ。
ここのスープは肌と健康にいいって有名なんだぜ~」
ゼロスの言葉に、
「わ、私もそれで!」
「わ、わたしも!」
すばやく反応し、マルタがすかさず叫び、コレットもまた続けざまにいってくる。
「ミトスは何をたのむの?」
「え?じゃあ……」
何もたのまない、といえば間違いなくジーニアス、そしてロイド達からたえまなく、
そんな遠慮なんてしなくていい、といわれる。
絶対にいわれる。
それはミトスからしてみれば食べなくても問題ないが、できるだけ面倒ごとは避けたいのも事実。
だからこそ。
「…じゃあ、この海鮮カレーを」
ひとまず無難なところを指差すミトス。
カレーならば外れはないだろう、という思いもあるが、
そもそも味覚を消してしまえばどんなにまずくても食べられるし、
また、そもそも食事をする機能を止めてしまえば食事もしなくてすむのだから、
極端にいえば水と空気さえあれば生存は可能。
水が不可欠、というのは永き時の中で気づいたこと。
エンブレムを身につけていたときにはきづかなかったのだが
適度な水を補給しなければどうやら石そのものの機能が低下するらしい。
簡単にいえば、石が乾いてひび割れてしまうようなもの。
ひび割れるまではいかないまでも、威力が低下するのもまた事実。
といっても、一日、二日くらい水を得なかったからといってすぐさまどうにかなる。
というようなものでもないのだが。
そもそも普通に生活している限り、空気中に水のマナは漂っているので、
基本的に水をわざわざ補給する必要はないといってよい。
もっとも無重力状態である中ではその補給は必要となりはすれど。
食事をしている最中にもさらに雪は降り積もっているらしい。
一応部屋があいているか確認したところ、さすがに人数が人数。
さらに奥の宿屋を紹介された。
そちらならば、部屋数もゆとりがあるのでまだ祭りの時期ではないがゆえ、
一晩か二晩くらいならばどうにかなるであろう、ということらしい。
雪姫、と書かれているアクセサリー屋にとひとまずはいる。
さきほどの行商人がいうのが正しければここにてミトンが手にはいるらしいのだが。
「しかし。氷の洞窟ってどれだけ寒いのかなぁ」
思わずぽそり、と店の品ぞろえをみつつもロイドが呟く。
品ぞろえはアクセサリー屋、といえど基本、グミ系統がおおく、
どちらかといえば道具屋といったところ。
アップルグミ、オレンジグミ、ミックスグミ、レモングミ。
一応、ミラクルグミ以外の各種は取り揃えられている。
もっとも、たしかに様々な装飾品も売られているようだが。
麻痺を防ぐアクセサリや、石化を防ぐアクセサリ等。
どうやら毒、封印、石化、麻痺を防ぐアクセサリは、
それぞれ三千六百ガルドづつで販売されている模様。
ブラックオニキスやムーンストーンは二万二千五百ガルドするらしいが。
ここに並べられている宝石類よりエミルが創りし鉱石のほうがはるかに精度は高い。
そんなロイドの呟きがきこえたのか、
「ああ。精れ…セルシウスの涙ってやつを探しにいくんだよ」
精霊と契約にいく、といいかけて、あわてていいかえているロイド。
他人に精霊と契約にいくなんていったとしても、笑われるのがおち。
ロイド達にとってはそれが真実だとしても、
一般の人々は精霊とは無縁の生活をしている。
「ふむ。ペンギニストミトンはもっておるのかの?」
そう問いかけてくる老人は、エミルにとってみおぼえがある人間。
「そのミトンってやつを探しにきたんだけど。おいてる?おじいちゃん?」
マルタがそんな人物にむかってといかけるが。
「今は在庫を切らしているからのぉ」
「そんな…何とかならないんですか?」
「ふむ。どうやらセルシウスの涙を素手でさわれば火傷をしてしまう。
というのはしっておるようじゃの。よし、おまえさんたちはどうやら旅業者らしいしの。
ちなみに、ペンギニストミトンというのはの。
氷の洞窟に生息しているペンギニストの羽毛でできたあったかい手袋のことじゃよ。
そうじゃな…おまえさんたちが、材料であるペンギニストの羽。
ペンギニストフェザーを一人につき三枚でもとってくれば。
記念にわしがミトンをつくってやろう」
いいつつも、こしをトントンとたたくその老人。
説明を求めていないのにその内容を説明するのは、慣れているのか、
はたまた歳をとればなぜかヒトは説明したがる傾向が強くなるところがあるがゆえ、
その傾向がでたゆえなのか。
「お爺ちゃんったら…店の手伝いはいらないっていったら、
いつも旅の人にあんなことをいってるんですよ?」
品物をみているエミル達にと、
ロイド達に話しかけている祖父のほうをみて苦笑ぎみにいってくる店の主人。
ちなみに、買う意思があり、とみたのか、
宝飾品類をテーブルの上に柔らかな入れ物の中に並べておき、
自由に選べるようにと差しだしてきている今現在。
たしかこの青年がかつてグラキエスのコアをメルトキオに売り払ったことにより、
けっこう面倒なことになったんだったな。
ふとエミルはそんなことを思い出すが。
リフィル達がコアにきづき渡してほしい、と願ったときに渡していれば、
彼もまたその中にあった欲…すなわち、金銭欲が増幅するようなこともなかったであろうに。
カウンターの前にいるエミル、マルタ、リフィルにたいし苦笑ぎみにそんなことをいってくる。
リフィルもまた、精霊の神殿におもむくにあたり、属性耐性のアクセサリを探しているらしい。
もっとも、あまりに高い品物であれば、それこそ一度全員にいって、
ネコニンのギルドの依頼をうけさせる気でいるらしいが。
そのことは、リフィルはきっぱりとここに来る前。
すなわち、高速艇の中において全員にむかってきっぱりと断言している。
なるべく資金を使わないようにしようとはおもうが、必要となれば、
ネコニンギルドで依頼をうけ、その資金を得ることをする、と。
シルヴァラントでは資金がなくなれば教会にいけば資金援助が多少受けられていたらしいが。
ここ、テセアラではそれはない。
ゼロスのつけ、という方法もとれるらしい…これはゼロスがいったのだが。
ゼロスに借りをつくるのは何かが間違っている、というか怖いという考えもあり、
リフィルは自分達のみで資金を確保することを選択しているらしい。
最も、これまで大概のものはエミルがほとんど立て替えていたりしたがゆえ、
また、アルタミラにてかの地にあったミスリル装備品類。
それらを買いそろえている以上、
そうそう武器や防具を買い換える必要もないとおもうのだが。
「羽…か。もってこさせるか?」
もしくは羽をつかい手袋を創りだすか。
そもそも、氷属性の耐性をつければわざわざ羽を使用する必要性はないのだが。
「エミル?」
「ううん。何でもない」
どちらにしても、魔物達をわざわざ危険にさらすようなことでもない。
「なら、リフィルさん達は宿を確保してきてください。
その間に僕、ノイシュと一緒にその羽とか言うのを手にいれてきますから」
エミルがいうと、
「そんな。エミル一人で?危険だよ!」
ジーニアスが何やらいってくる。
「エミルがいくなら私も!」
「ノイシュにはそう何人ものれないでしょ?」
よくて三人。
「あのバイクとかいうのをつかえば…どうでしょうか?」
プレセアの呟きに、
「いや。あれはまだ改良途中だ。雪の中では動力となる水が間違いなく凍り憑いて、
逆に機体が動かなくなる可能性があるだろう」
それがあのバイクの今のところあげられている改良点の一つ。
「大丈夫ですよ。ただ羽をとってくるだけですし」
そういうエミルのいい分に思うところがあったのか、
「そう。じゃあ、エミル、お願いしてもいいかしら?」
「でも(先生)(姉さん)!」
その声はほぼ同時。
しかし、そんなロイドとジーニアスに対し、
「よく考えてみなさい。二人とも?
もしエミルの前に魔物がいたとして、魔物がエミルを襲っている光景。…おもいつくかしら?」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
さらり、とリフィルにいわれ、二人の脳裏にうかびしは、魔物に囲まれているエミルの光景。
しかしどう考えてもなぜかおそわれている光景が思い浮かばない。
むしろ思いだすのは魔物が率先してエミルの手伝いをして料理の用意をしていたこととか、
そんなことばかり。
しかも魔物が多々とみうけられた場所ですら、
よくよくかんがえればなぜか魔物達は、こぞってエミルを避けていなかったか?
「エミル。時間はどれくらいかかりそうかしら?」
「ノイシュにのっていけばそう時間はかからないかと」
伊達に大地をかけるアーシスに進化しているわけではない。
ノイシュからしてみれば、雪であろうが何であろうが関係ないといえる。
「お前、それでもいいのか?」
おもわずポケットの中にいるノイシュにロイドが問いかけるが。
「きゅわんっ!」
元気よく一声いななくノイシュの姿。
ノイシュからしてみれば、王が自分を望んでいるのならば、断る理由などは・・・一つも、ない。
「うわ。何?これ?」
ペンギニストがいるというのは南にあるという氷の洞窟。
結局のところ、防寒具が必要なのにはかわりがない。
ということもあり、エミルの提案が受け入れられ、
エミル一人で本来ならば外にでたかったのであるが。
なぜかマルタも同行してこの場にまでやってきている今現在。
ロイド達は街で留守番しており、今この場にはいない。
「すごい。大きな氷だねぇ」
マルタがそれをみて思わず手をのばしそうになっている。
「マルタ、だめだ!」
思わずそんなマルタの手をひっぱり、手をひっこめさせる。
「え?エミル?」
「危ないよ。この根はとても温度が低いからね。普通にさわれば火傷するよ?
あの街でいっていた人達がいたでしょう?」
それは行商人の男性や店の男性がいっていたこと。
「それにしても…これが問題のセルシウスの花…なのかなぁ?どうみても巨大な樹木じゃない?これ?」
あきらかに巨大な根。
事実その通り、なのだが。
本来ここまでこれは育つことはないはず、なのだが。
どうやらマナが満ちたこともあり、異様に発育しているらしい。
周囲は雪景色ゆえに、氷の木の根らしきものがせりだしていても違和感はない。
以前、この場にきたときは、グラキエスの影響で、
周囲の雪や氷は完全に溶けており、この横にながれている川もまた、
完全に凍りつき、内部でのみ水が流れていたのだが。
唯一ここから移動できる入口は根に覆われており、そう簡単には出入り不可能となっている。
もっとも、この上にある洞窟はぽっかりと入口を広げており、そこから移動が可能らしい。
「うん?うわぁ。かわいい!」
ふとマルタが気配を感じたのかそんな声をあげてくる。
みればその視線の先にはちょうどちょっとした大人程度の大きさのペンギニスト達が数匹。
ぱっと見た目、人間がきぐるみをきているような大きさではある。
ふわふわもこもこの姿が何ともいえない。
「例の品は?」
「きゅいっ!!」
ごーろごろごろ……
その姿を認め、エミルがといかけると、
その後方から二匹のペンギニスト達が、なぜか雪玉をごろごろところがしつつも近寄ってくる。
すでに念話において彼らに羽を用意しておくように、と命じているがゆえか、
一応用意はしていた、らしい。
持ち運び手段はともかくとして。
桃色、そして青色をしているペンギニスト達。
ちなみに子供は灰色で、大人たちよりもさらにもこもことしており、かなり愛らしさが強調されている。
真っ黒な大きな丸い瞳に黄色いくちばし。
大きめなひれにもちかいその足でひょこひょこと歩く姿はいかにもかわいらしい。
くちばしの下には人間の顔らしき模様があり、ぱっと見た目、
どこぞの人間がぺんぎんのきぐるみをきているのでは、とみえなくもない。
そしていくつかの雪玉がエミル達の前にでんっといきなりおかれ、
その場にずらり、と並び始めるペンギミスト達。
「えっと…エミル?」
戸惑いを隠しきれないマルタをそのままに、雪玉のほうにちかづいていき、そのまますっと手をかざす。
エミルの手から放たれるは、炎。
エミルの手にはめられているソーサラーリングによって、雪がとかされ、
その中央にとある羽の塊が出現する。
どうやら雪玉の核にしてかきあつめているらしい。
彼らは基本、ものをはこぶときにこうして雪玉にしてごろごろところがしながら移動する。
また攻撃に関しても雪玉を前にもっていき、体を隠しつつ盾とする。
ペンギンが雪玉をつくる光景があいらすく、大概心あるものはその光景にほんわかと絆され、
大概のものは攻撃をやめることがあるらしいが。
欲にかられたヒトはそうはいかない。
エミルが手にはめているそれは、ロイド達がもっている不完全なものではない。
エミルの意思によってどの属性でも使用可能。
ペンギニストの体自体はとても細い。
その体がふわふわの羽毛がかさなり、大きくみえているだけ。
羽は水をはじく特性ももっており、ゆえに防水性にもこの羽は優れている。
「ごくろう。明日、我らがくるとき、お前達は人目につかないようにしておけ。いいな?」
それは命令。
念には念を。
そしてそれはこの場にいる魔物達にもいえること。
エミルが何をいっているのかマルタには理解できない。
何かいってはいるのだろうが、その言葉はマルタには理解不能。
精霊の場できいたものともちがうその旋律の言葉は、音のような旋律をもっている。
エミルの言葉をうけ、それぞれがうなだれたのち、その場を立ち去ってゆく魔物達。
よくよくみれば、ペンギミストだけでなく数多の魔物達の姿もみてとれるが。
それらの魔物達は襲ってくるわけでなく、
なぜかその場にてかしこまっているようにみえるのはマルタの目の錯覚か。
マルタは気のせい、ですませているが、それは気のせいではなく。
この地にすまう魔物。
アイスウォーリアやフェザーマジック。
そういった魔物達の代表したものたちがこの場にやってきていたりする。
王がこの地を訪れるという報告もあり、挨拶にでむいてきているに過ぎないのだが。
「さて。と。マルタ。羽も手にはいったし。もどろっか」
「…あ、うん」
魔物と話しているようにみえたときのエミルはどこか近寄りがたかった。
しかし、向き直ったエミルはいつもとかわらない。
気のせいだよね。
そう自分自身に言い聞かせ、
「そうだね。コレット達もまってるだろうしね。
それにあの街を探索してみたいし!雪の街なんて、素敵だし!」
パルマコスタには滅多に雪は降らない。
噂にて砂漠に雪がふっていたとききはしたが、実際をみたわけではない。
「エミル達、大丈夫かなぁ?」
問題ない、というエミルを信じて送りだしたが、心配なものは心配。
「まあ、エミルだし。平気なんじゃない?ロイドよりああみえて腕はいいんだし」
「わるかったな!」
宿を確保し、時間稼ぎをかねてならば雪像をみてくればいいのでは。
という意見もあいまって、街からさほど離れないのならば別行動してもいい。
というリフィルの意見もあり、こうして雪像が並んでいる場所にやってきているロイド達。
「雪の像…か。あれ?これって……」
ふとミトスがとある雪像の前にて足をとめる。
羽の生えた青年と、そして優しそうな女性の像。
「あ、ここに名前がかかれてるよ?」
雪像の前には、これまた雪でつくられた看板がおいてあり、
そこには、勇者ミトスと女神マーテル、という雪像の題がみてとれる。
「これって、勇者ミトスと女神マーテル様の姿を模したものらしいね」
どうやら経典の中にある勇者ミトス像、それを元にしてつくられたらしいそれは、
勇者ミトスの背には翼が付けられている。
もっとも、薄い羽は表現というか問題があったのか、
ミトスの背後には雪の壁のようなものがつくられ、
その壁に羽が描かれているのがみてとれるが。
雪の壁をくりぬくようにしてつくられたそれは、一瞬足をとめてしまうほどに、
結構細かなところまで細工がほどこされている。
似てもにてつかない。
それがミトスがそれをみたときの感想。
姉様はもっと。
そうおもい、思わず自らの手を握り締める。
「みてみて~!こっちにはベンギンさんの像とかもあるよ!」
そこには巨大なペンギンもどきの像なども。
なぜか竜車を模したらしき雪像もみてとれるが。
雪像は様々な形がつくられており、見物客を楽しませている。
いまだに完全に祭りが開催されている時期でないがゆえか、
未完成の像もところどころみてとれるが。
リーガル曰く、あと十数日ばかりで今年の祭りが開催される、とのことらしい。
ゆえに人々は最後の仕上げ、とばかりに雪像の手入れに余念がない。
もう少しすれば観光客もけっこう多くなり、一般の家々も観光客用に宿として解放されるらしい。
もっとも、この祭りに参加意思表示をした家のみが解放されるのであり、
他人を泊らせるのが嫌、という家庭には観光客がとまるようなことは絶対にない。
雪像をゆっくりみているだけでどうやらかなりの時間を要するらしく、
街を中心として、さまざまな雪像が設置されているそれは、
この祭りがすでに定番となり、人々の目を楽しませている証拠ともいえる。
中には機械をつかい雪をかきあつめ、巨大な雪像類を作り上げているものも。
「そういえば、ゆっくりするの、なんか久しぶりだねぇ」
こうしてゆっくりと何の目的もなく何かを見物するなど久しぶり以外の何ものでもない。
「わたくしは話にはきいていましたけど。こんなに巨大な像、なのですね」
セレスが感心したようにいっている。
ちなみに、セレスが宿をでて像をみにいく、といったとたん、
ゼロスがどこから用意したのか、これぞ!というほどに防寒具をもってきて、
とにかく風邪をひくな!とばかりにセレスにおしつけていた。
それをみて困惑した表情をセレスは浮かべていたのだが。
兄には嫌われている、とおもっているのにこうして気を使われるたびに申し訳なくなってしまう。
「セレス。大丈夫?気分わるくなったらすぐにいってね?」
セレスは体がよわいから、少しでも変化があったらすぐに宿にもどるようにいってくれ。
ゼロスがそんなことをいっていたが。
よほどきになる、のであろう。
少し離れたところで、なぜかしいなとともに、この雪像をみにきているゼロスの姿がみてとれるが。
それに気づいているのはどうやらコレットとミトスのみ、であるらしい。
さらにいうのなら、
「?気のせい、かな?」
どうも知ったような赤い髪の男性がみえたような気がし、コレットはおもわず首をかしげるが。
何をやってるんだ。
クラトスのやつは。
その姿をみとめ、思わずミトスは顔をしかめていたりする。
ちなみに、寒いから、という理由にて、リフィルが買ったというそれぞれフードつきのローブ。
ふわふわもこもこのそれをそれぞれ頭にかぶっていることもあり、
ぱっと遠目からみたかぎりでは、彼らの容姿はすぐにわからなくなっている。
ゆえにどうやら遠くからロイドの様子をみているクラトスも、
その場にミトスがいることに気づいていないようではあるが。
しかし、クラトスの姿はいつもの格好ということもあり、
おもいっきりミトスのほうには気づかれていたりする。
「今年の雪像はできがいいんだよ。一時雪が全部とける。
という現象があったからか、雪がしっかりとしまっているからねぇ」
それこと古い雪がのこっておらず、真新しい雪ばかり、というのも理由の一つであろう。
そんな会話をしている子供達にむかい、その場にいた街の人らしき人物が声をかけてくる。
「こっちにはビックフットの像…あ、犬もある」
「ノイシュみたいな犬はないなぁ」
「ノイシュが犬って……」
「犬だろ?」
思わずそういうロイドの台詞にミトスが呟くが。
まさか本当に気付いていないのだろうか。
思わずミトスは困惑してしまう。
古代からの由緒ある命、プロトゾーンだというのに。
この性格は誰ににたのだろうか、とふとおもう。
父親であるクラトスではない。
クラトスはここまで天然ではなかったはずである。
だとすれば、母親かもそれとも育ての親が親だけにこうなったのか。
あのとき、何としてもクラトスが戻ってきたとき息子を探し出し、
傍においておけばいい手駒になっていたかもしれないな。
ロイドの様子をみるかぎり、ヒトにいわれたことを素直に信じる傾向があり、
また、信じたことに関してはつきすすんでいく。
それがたとえ間違っていたとしてもそれに気付くことなく。
気付いたときにはどうやら反省するらしいが、同じ過ちを幾度も繰り返しているっぽい。
うまく育てればそれこそ五聖刃よりもいい手駒になっていたであろう。
そうすればクラトスは自分を裏切ることなく、ずっと傍にいてくれたはずである。
今もまた、クラトスは不穏な動きをしている。
また、かつてのように自分を裏切るのか。
そのためにプロネーマを監視にはつけているが。
クラトスの真意を見極めるために。
それはもしも、ありえたかもしれない歴史の一つ。
今さらいってもそれは仕方のないことかもしれないが。
ミトスがそんなことを思っている最中、
「ミトス、みてみて!あれすごいよ!いってみようよ!」
ぐいっとミトスの手をひっぱり、巨大な建物らしき建造物を模した雪像。
それをみつけてかジーニアスがそちらのほうにと駆けだしてゆく。
「あ。うん」
そんなジーニアスにつられるまま、そちらに移動してゆくミトス達。
「かわいい。これって誰がつくってるんですか?」
その場にあるかわいらしい犬の像。
それをなでつつ、その場にいた人物にとといかけているコレット。
「これはこの像をつくっている人だよ。
その雪の看板に制作者達のパーティー名、もしくは個人名がはいってるだろ?」
ちなみに、参加するにあたり、個人名、もしくは偽名、さらにはパーティー名。
さらにいうならば、大概グループで参加することもあり、グループ名。
そういったものが必ず記されている。
それは投票するにあたり必要となり、その名の横には番号が振られている。
祭りの最中、この番号を手渡された投票用紙にかきこみ、その投票数によって優勝者がきまるらしい。
そんな説明をしつつも、
「もともと、この街で、雪をつかって像をつくって人々をたのしませよう。
そういいだしたのはレザレノ・カンバニーなんだよ。
雪が絶えずあるのならば、雪をつかって観光名所を創りだせばいい、とね。
目の付けどころが違うよ。おかげでこの街は雪まつりの時期はとてもにぎわうからね」
それこそ雪像をみるために、首都メルトキオからもツアーがくまれるほど。
旅業などにおいては、雪まつりツアーというものすらできている。
「あれ?あれは?」
ふとこの場にそぐわない何か植物のような雪像。
それに気づき、思わずロイドが声をあげ、
「何だろう?すいません。あれは?」
コレットもまた首をかしげつつ、その場にて説明してくれていた人物、
ジャケットを着こんでいる女性にとといかける。
「ああ。あれかい?あれがセルシウスの涙とよばれている氷の花だよ。
私はみたことないんだけどね。何でもかなりの高値で売れるとか」
そこにつくられているのは、雪でつくられた、花のような何か。
葉っぱと花弁がしっかりと形つくられている。
開いている花冠は繊細ですっきりと美しい。
それはまるで蓮の花にもちかい花弁。
「本物は氷でできているらしいから、もっと綺麗なんだとおもうよ。
さて、そろそろ夜になるから。寒くなるまえにあんたたちも宿にもどりなさいね?」
すでに日はくれかけ、街の街灯がちらほらと灯され初めている。
ぱたぱたと係りのものなのであろう人々が、街にある街灯に灯りをともしていっている光景が目にはいる。
そしてそれらはここ、雪像がある場所にもいえることで、
雪にてつくられた小さなかまくら。
その中に蝋燭がおかれており、その蝋燭一つ一つに灯りがともされていっている。
ゆらゆらとゆらめく蝋燭の灯りが雪像を照らし出し、
何とも幻想的な光景を産みだしていたりする。
「綺麗だねぇ」
そんな光景をにこやかにみているコレットだが。
そんなコレットの横顔をじっとしばらくみていたロイドであるが。
「…なあ、コレット」
「何?ロイド?」
「お前さ…俺に何か隠していることはないか?」
気付いたのは船の中。
何か動きがぎこちなかったコレット。
それが何なのかはわからないが、すくなくともコレットは何かを隠している。
「え?」
一瞬、コレットが戸惑いの表情をうかべたのに気付き、ロイドはおもわず顔をしかめる。
しかしそれはほんの一瞬で、
「やだな。そんなことないよ?うん」
にっこりとほほ笑むコレットはいつもの様子で。
「…なら、いいけどさ。お前最近時折また元気がないときがあるだろ?」
それはふとしたときに気付くのだが、
コレットが何か考え込んでいるような様子を幾度かロイドは目の当たりにしている。
それは安全が確保されている船の上だからこそ気付いたといえる。
そもそも外敵の心配もないし、食事の心配も、すなわち衣食住の心配がない。
たとえ怪我をしたとしても、かかりつけの医者なども船にはいるらしく、
ゆえに怪我などをしたときの心配もない。
だからこそすこしばかり安心したがゆえに気づけたちょっとした違和感。
「大丈夫だよ。本当に。えへへ。あんな豪華な船にのってて、ちょっと緊張してただけだから」
「ならいいけどさ。…無理するなよ?」
「うん」
「もどろっか。お~い!ジーニアス達!そろそろ宿にもどるぞ~!」
いつのまにかプレセアと共に行動していたセレス、そしてジーニアス達にと声をかける。
おそらくそろそろエミルとマルタもノイシュとともに戻ってくるころだろう。
ジーニアス達を呼びにかけだしてゆくロイドの後ろ姿を見送りつつ、
「…ロイド。ごめんね。けど……誰にもいえない。こんな体のこと……」
始めは気のせい、とおもっていた。
けど、気のせいではなかった。
ゆっくりと、しかし確実に。
その症状はあらわれていっている。
――永続天使性無機結晶症。
体そのものが精霊石化するその症状は、確実にコレットの体を蝕みはじめているのだから。
「雪街の名にはじないすばらしい景色を堪能してよ
夜だと街灯の光がこの景色をより幻想的なものにかえてくれるよ」
街の一番高台にと位置している入口にあった宿よりもおおきな宿泊施設。
何でも元は外にあったという救いの小屋が発端、というその場所。
しかしこの場は常に雪がふっており、またかつてはさほど観光客などがおらず、
資金繰りにもこまったがゆえに、結果としてこの地には救いの小屋。
というものは一つも存在していないらしい。
つまりはこの街の高台に位置しているフラノール教会の聖堂が、
唯一、マーテル教会の施設といえる。
その横に宿があるのは、この場所の景色に目をつけたレザレノ・カンパニーが、
設置したいまだ建造から真新しい、といってもすでに営業十年目、になるらしいが。
リーガルの姿を支配人がみとめたらしく、リーガル様、そして神子様のお連れさまならば。
というので無料でとまれた昨夜。
何でも今はまだ観光シーズンではないがゆえ、あと十日もすれば予約で満室らしいが、
今はまださほど満室にもなっていないらしい。
そして、この宿の特徴は、旅業ツアーもみこしてつくられている点、といえよう。
いくつかの大広間があり、そこに一行が全員で雑魚寝…にはなりはすれど、
敷布団などによってその部屋においてご飯をたべたり、眠ったりすることができる。
というのが一つの売りでもあるらしい。
風呂も大浴場なるものがあり、景色を堪能しつつ、露天風呂を味わえられる。
また、個室などにもそれぞれ風呂は設置されており、
内部にある風呂と、テラスがある部屋などは、部屋の外にも小さな樽風呂が設置されており、
希望者には雪見酒なども可能、となっていたりするらしい。
個室はある程度うまってはいたものの、旅業ツアー用の大広間が残っていたらしく、
全員が一部屋にて休む、という形になりはしたが、休める、というのは助かるもので。
もっとも、ロイドがいきなり枕をジーニアスになげつけて、
まくら投げが勃発しかけ、リフィルの鉄槌がくだった、という経緯が昨夜あったにしろ。
高台、しかも三階に用意されていたその部屋からの眺めは絶景で、
教会の前にとある高台からは、街を一望できるらしく、
またそのように、座って景色を眺めてもいいようにきちんと設備がなされている。
寒いところから外をみるよりは、という理由でこのホテルを選ぶ人も少なからずいるらしい。
また、この教会が重宝しているのはもう一つ。
何でも遠方からこの教会に結婚式をあげにくるものもいるらしく、
その結果、集まった人々や、また結婚式の準備など。
それを教会だけで一気にやらずとも、宿…ホテル・フラノール。
ホテルにてそれようの値段プランが盛り込まれており、
それを予約すれば準備などもまたホテルにいる係りのものがやってくれる。
そのあたりもかなり重宝しているらしい。
そんなホテルを出て、街からでて南に進んでゆくことしばし。
防寒対策はばっちりといえる。
それぞれペンギニストフェザーでつくられたジャケット、またローブをまとい、
また、靴の底にもこのあたりの雪は下手をすれば体が沈んでしまう。
ということもあり、何でもみずほの里につたわりし、【みずぐも】。
それを参考にして開発された、という雪に沈まないための道具なるものもあるらしく、
もしくは、移動用として板を靴の下にくくりつけ、滑って移動する方法。
その場合は慣れるまでこけたりして、下手をすれば骨折などの危険もあるらしいが。
基本である街道沿いは常に除雪車といわれしレザレノの車が雪をのけているらしく、
一般的に移動にはさほどこまりはしない…のではあるが。
しかし、一行がむかいしは、滅多に人もちかづかない、南にあるという氷の神殿。
当然、ヒトの手がはいっていない雪道を進んでゆくわけで。
ロボでも呼んで皆を移動させようか、ともおもいはしたが。
ロボの背には氷のとげがあり、よくよくのれても一匹につき一人くらい。
それにどうやら自分は見定める、と決めてはいるが、魔物達はミトス達に対し、
どうやらいろいろと思うところがあるらしく、
また、ロボ達は人間自体をあまり好ましくおもっていない。
つまるところ、そんな魔物に子供達などがのっているのを他者がみれば、
まちがいなく魔物が人間を襲っている、と勘違いし襲いかかってくるであろう。
それこそ討伐隊でもくんでロボ達を狩りにいきかねない。
そんなことはさせられるはずもなく。
結果として素直に普通に進んでいるのだが。
もっとも、では、ソリをつかえばどうだ?というリーガルの意見もあり。
ソリをいくつか括りつけ、その先にノイシュを先頭にし、
ノイシュにそれぞれ二人づつ乗り込んでいるソリ、ちなみに一つあたり約百二十センチ。
別名、スノーボートともいわれているそれをくくりつけ、
五個のスノーボートが連なっている、という何とも変わった光景を産みだしながらも、
ノイシュにひっぱられてやってきたここ、氷の神殿があるという場所。
さすがにこのあたりからは岩がごろごろとしており、
いくらノイシュにひっぱられているとはいえ、
ソリそのものが岩などにひっかかってしまうがゆえに、
ひとまずそりから降り立ったのがつい先ほど。
足を投げ出す形で座るようになるがゆえ、上手にのらなければ、
逆に足をひねってしまう危険性があったりしたのだが。
ちなみに、リーガルの体格がよすぎて、リーガルが一人でしかのれなかったこともあり、
結果としてリーガル一人でのっているのだが。
ノイシュの背にロイドとコレットが乗る形となっての移動であったのだが。
すなわち、ロイドとコレットとリフィルがノイシュの背にのりて、
ジーニアスとミトス、エミルとマルタ、ゼロスとセレス、プレセアとしいな。
リフィルがソリにのるのをためらったがゆえ、結果として狭いが仕方がない、
という結論にいたったという経緯があったりする。
ノイシュは三人を背にのせながらもみごとにその任を勤め上げ、この場にまでたどり着いたのだが。
リーガル曰く、これでは犬ぞりだな、といっていたが。
何でも犬にそりをひかせて順位を競う大会というものも一応はあるらしい。
「うわ!?何だ!?これ!?」
それをみて思わず驚いた声をあげているロイド。
目の前にはおそらくは、神殿につづく入口、なのであろう。
ぽっかりと開いた山の麓にとある穴がみえているのだが。
その穴の前になぜか氷がびっしりと張り巡らされており、
内部にはいることができなくなっている。
「これは…氷の根…かしら?」
「これは…セルシスウの涙…か?ここまで巨大なものは私もみたことがないが……」
リフィルがそのどうみても氷の樹の根。
そうとしかみえないそれにちかづき、そんな感想をもらしているが。
リーガルもまたそれをみて困惑した表情をうかべている。
「どうするの?姉さん?入口はそこしかないみたいだけど」
ざっとみるかぎり、入口は一つのみ。
問いかけるジーニアスの台詞に、
「あ、私、周囲をみてきます」
ふわり。
パタパタパタ。
翼をだし、そのままその場からふわり、とうきあがる。
そして、少し浮き上がり、きょろきょろと周囲を確認したのち、
「あ。ここに洞窟らしきものがあります。ここから入れそうですよ~」
コレットが指差すはちょうどびっしりと木の根らしきものがあるちょっとした崖の上。
「この川からのぼれない、かな?」
「下手をすればすべるわね」
いくら滑り止め、といって靴の底にスパイク、とよばれし鉄の板をつけているとはいえ。
おそらくは凍っていなければ普通の川なのであろう。
実際に耳をすませば、氷の下にて流れる川の音が聞き取れる。
ちなみに、この川、結構深さがあり、ペンギニスト達が泳ぐにも十分すぎるほど。
川の水がすみきっているがゆえ、そこまで深いとはおもわれないのだが。
また、常に氷が張っているがゆえに、その深さはあまり知られてはいない。
かつてのときはこの川に点在する岩をつたい、上にのぼったんだったな。
ふとそんなことをエミルが思っていると。
「うん。この樹の根をとびあがっていけば何とかなりそうだ。よっと」
ひょい、ひょい。
そのまま、ぴょん、と飛び上がり、樹の根をつたい、コレットが示す崖の上にと移動する。
「うん。いけそうだ。お~い!先生!皆!あがってこいよ!」
ロイドがその場にまで移動したのち、端のほうから下を見下ろしながらそんなことをいってくる。
「そんな動きができるのロイドくらいだよ!」
そんなロイドにすかさずジーニアスが反論しているが。
「ふむ。なるほど。これくらいならば何とかなるか?」
いいつつも、リーガルもまた慣れた様子で、氷の根を足場とし、
そのまま崖の上にと移動してゆく。
「先生?何でしたら私が運びましょうか?」
ふわふわ、パタパタ。
いまだに翼を出現させつつ、リフィルの横におりたち、といかけるコレットに対し、
「そうね…お願いしてもいいかしら?」
コレットの力はリフィルも認めざるをえないところ。
そもそも飛び上がっておちでもしたら、
それこそ大けがを負いかねないほどに崖はけっこう高さがある。
たしかにロイド達がしたように、氷を足場とすれば何とかなるのかもしれないが。
それは足を滑らせたりしなければ、という注釈がつく。
少しでも足場を間違えればそのまままっさかさまに落下する。
「あ!エミル!?」
マルタがエミルにオネダリし、どうにかしてエミルにお姫様だっこという形ででも、
この崖を登る間だけでも、とおもいエミルに視線をうつしてみるが、
エミルはいつのまにか、ひょいひょいと慣れた動作でいつのまにか氷をつたい、
すでにロイド達の横にまでたどり着いていたりする。
「…もうっ!」
もっと早くにいっとけばよかった!
とマルタは思うがあとの祭り。
しいなも慣れた様子でひょいひょいと氷をつたい、崖を上っているのをみるかぎり、
どうやらこういう場にはしいなもまた慣れているらしい。
「それじゃ、一人一人運びますね~」
パタパタと翼をはためかせつつ、コレットにより一人一人、
崖の上にまでそれぞれコレットに抱かれた状態で運ばれてゆく、
ジーニアス、リフィル、ミトス、セレス、プレセア、マルタの六人。
エミル、ロイド、しいな、ゼロス、リーガルの五人は自力で崖の上にまでたどり着いている。
びっしりと崖をつたうように氷の根は張り巡らさせてはいるが、
ここからどうやら中にはいれるらしい。
崖のすぐ横手には、巨大な氷柱があり、よくよく耳をすませば水が流れ落ちている音がきこえてくる。
どうやらこの氷柱は滝が凍りついてできているものらしく、
この水が下に流れ落ちることにより、この場の滝つぼ、そして川ができている模様。
もっとも、完全に凍りついているがゆえ、ところどころにある不思議な穴。
それを通じてでしか内部、すなわち川の中に入ることは不可能なれど。
この穴はペンギニスト達が利用している川の中につづくための道。
人一人くらいすっぽりと入り込めるその穴は、
注意していなければ、そのまままちがいなく埋まってしまうほど。
足場となっているこの崖の一角はしっかりとしているようで、
しかし気をぬけばまちがいなく滑ってしまう。
時折、その穴の中からペンギニスト達がひょっこり顔をだしては顔をひっこめていることから、
どうやらこちらの様子をうかがってはいる、らしい。
少し坂になっているがゆえ、すべりでもすれば、まちがいなく、滝つぼのあたりまで移動し、
そのまま氷によってすべるように先ほど移動してきた場所。
すなわち、崖下まで直接滑り落ちてしまうであろう。
「…魔物の気配はある、のに姿がないね?」
ミトスが不思議そうにそんなことをいっていたりする。
この地には常に魔物がいるはずなのに。
姿すらあまりみられない、というのがミトスからしてみれば不思議でたまらない。
ざっとみるかぎり、ときおり途切れているところもあるが、
その上からはつららが垂れ下がっており、時折水滴をおとしている。
どうやらその水滴により、時折雪がとけており、道となりえる場所が途切れているらしいが。
「行きましょう。皆、注意してすむのよ?」
魔物達が近寄ってこないのは今に始まったことではない。
エミルが合流してこのかた、こういった場所にいったときですら魔物はなぜか近寄ってこない。
シルヴァラント側だけでなく、やはりこちら側でも。
異なるのはあのときと違い、エミルはあまり魔物を呼び出さなくなった、という点か。
そのままぽっかりと山肌にひらけている洞窟の中へと移動する。
洞窟の中にはいると、そこはひんやりとした空気が満ちており、
天井からはいくつものつららが垂れ下がっている。
人の手が多少加わっているのであろうが、人工的な建造物などというものは一つもみえない。
このあたりはさすがに雪はつもってはいないが、空気がつめたいせい、なのであろう。
足場となっている大地すら氷ついており、きをぬけばすぐさまこけてしまう。
洞窟からその先はちょっとした坂になっており、一歩一歩きをつけて進んでゆくことしばし。
さすがに寒いからか以前のように草花の姿はみあたらない。
もっとも、寒さに強い草花は多少みうけられているにはいるが。
「あれ?なんだろ?あれ?」
ふとコレットが視線を下のほうにむけてふとつぶやく。
「なんだ?」
「地底湖…のようね」
ふと足場のさらに下。
そこになみなみとたたえられているちょっとした湖のようなものがみてとれる。
そしてその先に唯一の建造物っぽい何か石碑らしきものも。
「どうやら。あの湖をこえたさき。あの場所が精霊の神殿に関係しているようね」
リフィルがそれをみつつも呟くが。
「だとすれば。あの湖をこえていかないといけないってこと?」
マルタが覗き込むようにそちらをみつつもいってくる。
本来ならば、氷をつかい足場をつくる、のであろうが。
なぜか命じてもいないのに魔物達が率先して先に足場を確保しているがゆえか、
移動にさほどこまることはないらしい。
「とにかく、いってみましょう」
リフィルの言葉に否定要素もみあたらず、
ひとまず眼下にみえている湖のほうにむけて、ひたすらに進んでゆくことに。
たどり着いた目の前にあるのは、豊な水をたたえた湖。
その地底湖は絶えず湧水がわき出ているらしく、
ところどころからわきだす水の音が旋律を奏でている。
ざっとみため、深さはどれくらいあるのかリフィル達にはわからないが、
すくなくとも、この湖の深さは大人二人ぶんくらい、かるく達している。
水面のところどころから岩が顔をのぞかせており、
本来ならばその岩場はペンギニスト達の休憩場、としても利用されている。
湖の中にはいくつかの魚などが泳いでいる様子もみてとれるが、
そしてまた、横の岩壁からはこんこんとわき水が常に湖の中にと注がれている。
「あ。先生。こっち側に扉があります~」
パタパタと再び翼をはためかせ、対岸を確認に言ったコレット曰く、
湖を抜けた先にどうやら扉があるらしい。
扉の手前にはどうみても人工的な石像があり、それがどうやら仕掛けになっているらしい。
「おそらく、その扉というのが、精霊の神殿につづく扉、なのでしょうね」
リフィルが少しかんがえこみつつ思わずうめく。
リフィルにとっては海も湖もかわりなく苦手なことにはかわりがない。
もっとも、移動している船は巨大ゆえに揺れがすくなく、
海の上ということを忘れさせてくれるので多少その恐怖感は薄れていれど。
そもそも、タライ、もしくは漁船とくらべれば揺れもすくなく、
また地上よりも快適なのである。
周囲が海であることをきにさえしなければ、普通に過ごすのに問題はない。
「だな。じゃあ、この湖がわたれれば向こう岸にたどりつけるのか」
「こういう場所だからこそ、力の場があったのだとおもうわ。
ソーサラーリングの性能が氷属性に書き換えられていたはずね。
ロイド、さっき変えたソーサラーリングを」
「それか、セルシウスの涙を使用するか、だな」
リフィルの言葉につづき、リーガルもまたそんなことをいってくる。
ここにたどり着くまでその途中に力の場らしきものがあり、
すでに属性を変更しているがゆえのリフィルの台詞。
もっとも、その効果を面白がってロイドがとあることをしでかして、
あわててその場から駆けだした、という経緯がさきほどあったりしたのだが。
「よっしゃ!」
しばらくそれの使用は禁止!
といわれていたがゆえ、ロイドが嬉々として湖にソーサラーリングをむける。
一瞬、コキン、と湖は氷つくが、すぐさま何ごともなかったかのように、
その氷はとけ、湖はあいもかわらず水を滾々と湛えている。
「あれ?ダメだ。凍らないぞ?」
ロイドが幾度か挑戦するが、一瞬凍ってはすぐさまにまた氷はとける。
その繰り返し。
「おそらく、湧水の勢いが強すぎるのね」
「先生。私が一人一人運びましょうか?」
コレットが先ほどと同じように、という意味をこめて提案してくるが。
「いえ、それよりは、セルシウスの涙というものを探してみましょう。
それを試してからでもあなたに頼むのも遅くはないわ」
この地にあるという氷の花。
せっかく、エミルがとってきた…マルタいわく、
ぺンギニスト達が雪玉につつんでもってきた、といっていたが。
ともあれ、その羽をつかい、人数分の手袋はすでに確保している。
そしてまた、セルシウスの涙をとりにいくのならば、
これにつつめばいい、といわれ、羽に余分があったとかで、
ペンギニストフェザーをもちいた小さなきんちゃく袋。
それもつくってもらっており、それを携帯してきていたりする。
かの雪姫の元店主曰く、この巾着袋にいれておけば、溶けるようなこともないらしく、
また柔らかいがゆえにクッションの変わりとなりて、花が壊れるようなこともないらしい。
「そういえば、あの人。何でも凍らせることができるっていってましたね~」
コレットがふと思い出したようにそんなことをいってくるが。
「そういやそうだな」
コレットの台詞にロイドも思いだしたのかうなづきつつもいってくる。
「でも、何でもっていうのはなんかあやしいよね?」
マルタのそんな指摘に。
「まあ、実際にお湯や火事の現場ですら凍らせたことがあるらしいからな。あれは」
ゼロスがもっている知識の一つをもちだしそんなことをいってくる。
実際、火事となった場所にその花をなげこんで、鎮火したことがあったらしい。
もっとも、そのあと花はもののみごとに溶けてしまったようではあるが。
「とにかく。探してみましょう。…それに、いいねでかう、といってきたのだもの。
ガルドはあってこしたことはないわ」
「ネコニンギルドの依頼をうけるのも楽しいけどな」
「だね」
ロイドの台詞にコレットがうなづき、
「たしか、そのセルシウスの涙ってこの洞窟にあるんだよね?
まさか、あの巨大な根っこもどきが花とかいわないよね?」
「普通のセルシウスの花とよばれしものは、あんなに巨大ではない」
すかさずそんなジーニアスの言葉にリーガルが訂正をいれてくる。
「そういえば、セルシウスの涙に触れば体が毒に侵されるんだったっけ?」
「毒!?まさか火傷するのは毒のせいなの!?」
「毒か…」
それも一つの手かもしれないな。
触れたものを毒状態にする。
その特性をもたせればすくなくとも、人間達がよく乱獲する植物などにおいては、
自衛手段としてはいいかもしれない。
その毒の特性を人間のマナにのみ対応させる形にすれば、
さほど問題もないであろう。
このあたりも少しかんがえてみるべきか。
エミルがそんなことを思っているとは夢にもおもわずに、
「…馬鹿をいってるんじゃありません。ジーニアス。
そもそも火傷をする、というのだから、その氷がかなり温度が低い証拠です。
さあ、ロイド、ここで問題よ?火傷をするほどの冷たい温度。さあ、何度から?」
「うえ!?と、とにかく、さがしにいこう!」
いきなり話しをふられ、ロイドがあわててその場から立ち去るが。
「あ、まちなさい!」
「…逃げたね」
そんなロイドをみて、ジーニアスがあきれつつもぽつり、とつぶやく。
「はい!先生!たしかマイナス四度以下から、です!」
コレットのみが一人元気よく手をあげて、リフィルの問いかけに答えているが。
「さすがね。コレット。そう。マイス四度以下の凍結温度にさらされたとき、
凍傷は発生するわ。一般的に、凍傷とよばれている症状は。
皮膚の変色にくわえ、灼熱感やうづくような感覚……」
リフィルの凍傷による説明が開始される。
一般的にヒトが認識しているところによれば、
凍傷は皮膚の変色に加え、灼熱感やうずくような感覚、
部分的・全体的なしびれ感、そして時には激しい痛みをも伴う。
もしも治療が行われない場合、
凍傷に冒された皮膚は徐々に黒くなり、数時間後には水疱が生じてくる。
患部や血管が高度に傷害されると壊疽が起こり、最終的に切断が必要となってしまう。
程度が著しい場合は筋肉や骨にまで壊死が起き、あるいみでほうっておけば、
まちがいなく危険、とされている症状の一つ。
凍傷によって破壊された皮膚は完全に黒くなり、
黒くなった皮膚は焼けたようにも垣間見える。
凍傷に侵された部分は冷たいこともあり、見分ける一つの要因ともなっているらしいが。
つまるところ、手足を失う危険性がある、ということ。
だからこそ、フラノールの人々は常に防寒対策には気をつけている。
ひとまず、セルシウスの涙、とよばれている氷の花を探し、再び洞窟内を探索する。
先ほど移動してきた場所。
その先に途切れている道をつくるべく、冷気をぶつけ足場を確保し先に進んでゆくことしばし。
一度外にでて崖沿いをすすみ、また別の入口から洞窟内部へ。
「あ、ロイド、あれ!」
さすがに右往左往したこともあり、全員がもはや疲れ気味。
ふと、新たに入りなおした洞窟の先。
そこに氷の小さな花がいくつか咲き乱れているのがみてとれる。
それはどうみても普通の花のような形をしているが、異なるのはそれが氷でできている。
ということ。
雪像の中でみつけたセルシウスの涙とよばれていた花とまったく同じ姿のそれ。
「よかった。みつかって」
きらきらと太陽の光を多少反射しそこにはえているそれは、いかにも幻想的。
「美しいですね」
プレセアが無意識のうちにその花に手を伸ばそうとするが、
「危ないよ!プレセア!じかにさわっちゃだめだ!」
あわてたようにジーニアスがそんなプレセアに注意を促す。
みればプレセアは今は手袋をはめておらず、
ゆえにあわててジーニアスがきづき注意を促したようではあるが。
「…そうでした」
直接さわれば危険、というのは先ほどリフィルが説明していたとおり。
思わずその美しさから我をわすれ無意識のうちに触れようとしていたのにきづき、
「ジーニアス。ありがとうございます」
ひとまずジーニアスにたいしお礼をいう。
「え?い、いや、プレセアがその、火傷とかしたらいやだし……」
いきなりプレセアにお礼をいわれ、とまどうジーニアス。
「優しい、のですね」
「~~っ。と、とにかく。花をとっていこうよ!」
顔を真っ赤にしつつも、ジーニアスが手袋をはめた状態でそこにある氷の花にと手をのばす。
少しでも力をくわえればぼろり、と崩れてしまう花。
どうやら力加減が大切、であるらしい。
四つ目に挑戦したところようやく無事にそれを取り出し、
どうやらコツは地面から救い取るようにしてとるのがコツであるらしい。
花とよばれているだけのことはあり、氷でできている以外はどうみても普通の花。
草とくき、そして花の部分がしっかりとあるそれは、
まぎれもなく、氷の花、とよぶにふさわしき品。
「使用するにしても、花の先だけとって移動してみましょう」
完全なる形のものは転売するようとしても、
あの湖に投げ込むのは完全な形の代物でなくてもいいだろう。
それもあり、リフィルがてじかにある花の上の部分だけをぽきり、と手折る。
「さあ。いきましょう。さっきの場所に。
これでダメなら…コレット、またあなたにお願いすることになるけども」
「はい!先生!」
ちらり、と視界にはいるのは人の形をしている魔物らしきものたち。
それらは翼をもっていることもあり、普通ならば空をとんでいたりしても襲われるであろうが。
なぜかこの洞窟の中でもまったく魔物達は襲ってはこない。
それどころか魔物の姿も遠巻きでしかみうけられない。
近寄ってこようとすらしない魔物達の様子にリーガル、そしてゼロスもまた思うところがあるらしい。
ミトスなどは、ありえない、などと小さくつぶやいており、
その思いはリフィルからしても同意に値する。
魔物達は人をみればよくおそいかかる。
かつてミトスが聞いた…センチュリオン・アクアから、ではあるが。
大樹を枯らす人間達に魔物達が怒っているがゆえ、
魔物はヒトをみれば襲いかかるのだ、と。
魔物にとってそうでないヒトと愚かなことをするヒト。
それは同じヒトでしかありえないので関係ない、とも。
ラタトスクも別に実害がないのならばほうっておくように、と命じている以上、
魔物達の被害がなくなることはなかった。
それはミトスが世界を二つにわけてからは、少しばかりはなりをひそめはしたが。
自重するように、という命がラタトスクより発せられたがゆえのことであったらしい。
ともあれ、再び元きた道を戻り、さきほどの地底湖へ。
「じゃあ、これを投げてみるわね」
リフィルが先ほど手折った花の部分。
それをぽいっと躊躇なく湖の中にとほうりなげる。
刹那。
ピシパシピシィィッ。
落ちたそれを中心として、あっという間に湖の水が凍りつく。
まるでそれは水を流すような勢いで、湖全体が凍りつき、
その反動なのか、壁から湧き出ている水すらも一時凍りついているらしい。
「へぇ。完全にこおりついてるね」
しいなが念のために、幾度か湖の一部をふみつつも確認するが。
どうやら簡単に湖にはった氷がとける心配はない、らしい。
「けどさ。これ、いつまで凍ってるんだい?」
『あ』
たしかにしいなの指摘通り。
もしこの先にすすんだあと、再び氷がとけていれば。
それに、ざっとみるかぎり、この先の扉がある場所。
その場所はそんなに広くはないらしい。
さすがに十二人もいれば身動きすらままならないのではないか。
「なら、しいなさんたちだけでここをわたっていくのは?僕、ここにのこりますから。
もしも氷がとけていたら。またさっきのところから花をとってくればいいんでしょう?」
エミルがそんな彼らに提案するようにいってくる。
「セレス。お前も危ないからここでまってろ」
「でも…」
「でも、も何もねえ。いいな?!」
「……はい。神子様」
強い口調でいわれ、セレスとしてはうなだれるしかない。
~スキット・氷の神殿・力の場ソーサラーリング属性変更時~
ロイド「うわ!?リングが急に冷たくなったぞ!?」
ジーニアス「きっとリングの冷気で何でも凍らせることができるんだよ」
ロイド「へぇ。じゃあ、試しにジーニアスで実験してみよう」
ジーニアス「ロイド!」
ロイド「冗談だって」
コレット「うわぁ。ロイド。今度それでかき氷がいつでもつくれるね!」
ロイド「そういえばそうだな!」
リフィル「…馬鹿をいってるんじゃありません。
というかよくこの寒いなかでそんなものをおもいつくわね。あなたは」
コレット「え?でもおばあさまがよくいっていましたよ?先生。
寒い中で寒いものをたべるのもまた修業だって」
リフィル「…そういえば、ファイドラ様は氷が好物といっていたわね……」
エミル「かき氷かぁ。シロップあるよ?つくる?」
ロイド「おお!さすがエミル!ものもちいいな!」
ゼロス「…俺様としてはなんでエミルくんがそんなもの持ち運んでるのかを疑問に思うぞ」
セレス「うわぁ。かき氷、ですか?高級品ですよね?たしか」
ゼロス「セレス!?いいか?たべるにしても、お前は一杯だけだからな!?
お前はすぐに少しでもお腹をひやしたりしたら体を壊すんだからな?!」
マルタ「…やっぱり、ゼロスってシスコン……」
リフィル「シスコンね」
しいな「だね」
セレス「え?あ、おに…神子様こそ!
たべすぎてお腹をこわすようなことはしないでくださいよ!」
ゼロス「おお!?セレスが俺様を心配してくれてるのか?やさしいねぇ。
さっすが俺様の妹!あとそこのやつら!俺様が何だって!?」
プレセア「…ゼロスさん、自覚ないのでしょうか?」
マルタ「セレス、ゼロスに愛されてるねぇ」
セレス「そ、そんなはずは…わたくしは……」
コレット「セレス?」
愛されているはずなどはない。
自分が神子様の、お兄様の幸せを壊してしまったのだから。
自分と、そして母のせいで。
だからこそセレスはその台詞にうつむいてしまう。
ロイド「すげえ!これおもしれえ!」
一方、ロイドは面白いのか、冷気をかたっぱしから様々な場所にとむけて飛ばしている。
ジーニアス「って、ロイド!それを勝手にいろいんな所に飛ばさないでよ!って、ああ!?」
全員「ん?」
ジーニアスがおもわず天井を指差し叫ぶのをうけ、
全員がおもわず天井にと視線をむける。
そこには、ぐらぐらと異様に発達してしまったつらら達が今すぐにでも落ちてきそうな光景が。
ロイド「まじい!調子づいて天井のつららにむけたら…」
ジーニアス「ロイドの馬鹿ぁぁぁ!」
リフィル「急いでここからにげるわよ!つららによって串刺しになるわ!」
みれば、ロイドがむけた天井のつららがこぞって大きくなり、
ぐらぐらと揺れているのがみてとれる。
落ちてくるのは…時間の、問題……
※ ※ ※ ※
凍った湖を超えたさき。
その重たい扉の前にありしは、氷でつくられている氷の柱。
四つあるそれらは、どうやら動かすことができる、らしい。
扉の前にある石には、
【見渡せる場所に答えはある】という文字が刻まれており、
氷の端らの上部分には、顔らしきものを現しているのであろう。
そんな部分がみてとれる。
柱はどうやらぐるぐると回すことができるらしく、
つまりは、柱をとある方向にむけることにより、この扉は解除されるらしい。
「四つの柱…さっきみえたあれ、かしら?」
ふと移動の最中にみえたどうみてもヒトの手がくわわっているような石柱。
それらは様々な方向を向いていたのを思い出し、
「ふふ…ふはは!よし!私がいうとおりにその氷柱をうごかしてみろ!
この奥にあるものは、顔部分を左に!その下の部分は右!
そこは…違う!上ではない!下だ!そっちの左側の柱はうごかすな!」
いきなりといえばいきなり豹変したリフィルがそれぞれに指示をだす。
「…うわ。また先生の遺跡モードだよ」
そんなリフィルの豹変をうけ、思わずロイドがぼやいているが。
「よ、よかった。ミトスがここにいなくてよかった。
…ミトスにまで姉さんのこれがばれるところだったよ……」
ミトスは対岸にセレス達とともに残っている。
あちら側にのこったのは、ミトス、エミル、マルタ、セレスの四人。
がくり、と肩をおとしつつも、どこかほっとしたようにつぶやいているジーニアス。
そもそも、湖を渡った先。
どうやらこの最深部あたりまでかの氷の根はのびているらしく、
びっしりと壁という壁には氷の根らしきものがつたっているのがみてとれる。
たしかに洞窟内を詮索するにあたり、ひっきりなしにそのようなものはみうけられたが。
ここはよりその量が多いといえる。
壁、という壁にはまるで樹の根のように氷がはりめぐらされており、
少しでもよろけたりすれば、まちなくその氷にふれてしまうほど。
つまり、慎重に移動しなければ、それこそリフィルのいう凍傷になりかねない。
リフィルの指示どおり、像を動かすと。
がこん、という音とともに重たい石の扉が開かれる。
そのまま扉をくぐっていったさきにあるのは、みおぼえのある封印の間。
「シルヴァラントのものとかわりはない…ようだな」
リフィルがそれをまじまじとみて、そんなことをいっているが。
しいなが一歩、その祭壇に近づくとともに。
びしりっ。
突如として部屋全体が凍りつく。
はっとみれば、先ほど移動してきた扉もまた凍りついており、
すなわち、氷によって完全にこの部屋の中に閉じ込められたといっても過言でない。
そして、それとともに。
『契約の資格をもつもの。我が名はセルシウス。かつての勇者ミトスと契約するもの』
やわらかな、女性のような声が部屋全体にどこからともなく響き渡る。
思わずきょろきょろと周囲を見渡すロイド達であるが、声はすれども姿は見えず。
その声をきき、一瞬目をつむり、やがて、ぴん、と背筋をのばしたのち
一歩、一歩、祭壇の前にと近づいていき、そして。
「我が名はしいな。セルシウスがミトスとの契約を破棄し、我と契約することを望む!」
凜、として高らかにしいなが言い放つ。
そんなしいなの声をうけいれたのか、
くすり、と笑う気配とともに、
『私と?面白い。ミトスとの契約は破棄された。
その契約はうけいれよう。が。お前が私を扱えるのか試してみるがいい』
その言葉とともに、祭壇の中央。
それから青白い光が立ち昇り、それはやがて人影と別の何かを形とる。
バリンっとはじけるようにして出現した青白き氷の柱。
その中よりあらわれる影は二つ。
女性にしては珍しく…この世界では髪は女の命。
また魅力の一つともいわれており、短い髪のものは、自らの髪をうった女性くらい。
にもかかわらず、短き黒い髪に青き瞳。
その髪にはカーチュシャとして青いヘアバンドがつけられている。
服装はとても動きやすい服をしており、どこが服なのか肌なのか、
よくわからないような服装をきこなしている。
「その力、私の前に示してみろ」
そんな精霊セルシウスの横には一匹の狼らしきものがみてとれる。
「青い…狼?」
「おそらく。あれがセルシウスのガーディガンなんだわ」
精霊にはそれぞれ、試練の魔物、カーディアンがいた。
ならば、傍に控えているあの狼がセルシウスが本来封印されていたとき、
あらわれるというカーディアン、なのであろう。
イフリートなどの神殿ででてきたかの魔物達のように。
「…あ」
ロイド達が扉の奥にはいっていくのとほぼ同時。
ゆらり、と凍りついていた湖が揺れたかとおもうと、あっという間に湖の氷はとけてゆく。
「リフィルさんのいうように、本当に氷…とけちゃったね」
「ですわね」
目の前にある氷ついていた地底湖は、
先ほどと同じように、滾々と湧水を湛える湖にとかわりゆいている。
「どうするの?エミル?」
「さっきの場所にまでいって、氷の花をとってくるのが一番じゃないのかな?
それか、これをつかうか、だけど……みずぐもでもあればいいんだけど」
しいながもっているかどうかはわからないが。
「何、それ?」
マルタが聞きなれない何かの言葉をきき、首をかしげといかけてくる。
「みずほの里の人達が言うには、それをつかって水の上を移動するらしいよ?」
実際、あのときはここまで湧水の勢いがなかった。
というより、完全に湧水は止まっていた。
…アクアが役目を放棄していたがために。
だからこそ普通に水の上を歩いてわたれる、という芸当ができたのだが。
「そんなものがあるのですの?」
「うん。きになるなら、こんどしいなんにきいてみたら?セレスさん」
「…あのヒトに借りをつくるのは…そもそも、なんでお兄様はあんな人を……」
何やらぶつぶつとセレスがいい始める。
「セレスって、ゼロスが大好きなんだね」
「え!?そ、そういうわけじゃありませんわ!誰がお兄様のことなんてっ!」
マルタの台詞に顔を真っ赤にして抗議の声をあげても説得力は…ない。
「ないものねだりしてもしょうがないよ。エミル。
じゃあ、さっきの場所までお花とりにいこ?」
「だね。あれ?ミトス?」
ふとみれば、ミトスはその場にと立ち止まっている。
「僕はここでまってるよ」
「え?でも危ないよ?」
マルタがそんなミトスに心配そうに声をかけるが。
「対岸にジーニアス達が姿をみせて僕たちの姿がなかったら逆に心配かけちゃうしね」
「…それもそうだね」
マルタがその台詞に納得したようにいい、
「じゃあ、お花はどうする?」
「う~ん。じゃあ、マルタとセレスさんはミトスとここでまっててよ。僕、とってくるから」
「え?エミル、私もいくぅ!」
マルタがすかさずそんなエミルにいってくるが。
「もしセレスさんの具合がわるくなったら、ミトス一人じゃ心配でしょ?
セレスさんも男性に介抱されるよりは女性のほうがいいとおもうし」
なぜか女性はそういう面がある。
エミルからしてみれば不思議でたまらないのだが。
そもそも、男性でも女性でも関係ないじゃないか、ともおもうが。
男性のほうが生殖本能が強いものがいたりするのか、そのあたりも仕方がないのかもしれない。
特にヒトの男はそういった面以外においても、自らの欲のためだけに、
そういった行為を強いるものがいるというのだから呆れる以外の何ものでもない。
「このあたりの魔物は比較的おとなしいだろうしね」
そもそも、何かあれば湖の中にいる魔物達が対処するであろう。
それにマルタの傍にはシヴァもいる。
ミトスとセレスだけ残していけば、今のミトスはセレスに何をしでかすかわからない。
という不安もあるがゆえのエミルの台詞。
「いててて。こいつのヒゲ、つららみたいだぜ」
剣を抜こうとしていたゼロスはフェンリルに押し倒されていたりする。
ちなみに、一般的にフェンリル、と呼ばれている魔物達は属性ごとにいたりする。
もっとも、ギンヌンガ・ガップを守りしフェンリルは全属性を備えもっているフェンリルなのだが。
ゼロスの肩に髭をつきさしている狼をロイドが背後からきりつける。
が、きんっとその刃は狼の毛によってはじかれる。
伊達にセンチュリオン、そしてラタトスクが力を取り戻しているわけではない。
本来、精霊の守護についている彼ら達は人間の攻撃など受け付けない。
というかそれ以上の力をもっている。
すなわち、人間が何をしようと、人間達がいうところでいえば、
蚊がちくり、とさすようなものでしかない。
それでも、攻撃をされた、というのは理解できるがゆえ、
ゼロスに標的を絞っていたフェンリル…その名をキールというが。
そういえば、何をおもったのかラグナログの後。
かの地の街の名”ユグドラシル”のマナにて生み出された、
つまりは今いる精霊達よりも力のよわい精霊達がつけたのか、
はたまた、どこかに伝承がのこっていたのか。
それはわからないが、ユグドラシルが枯れかけたあのとき、
このあたりにあった街の中がたしかフリーズキールという名になっていたな。
そんな光景をマルタ達と離れ、すでに氷の花は命じていたがゆえに魔物達がもってきている。
ゆえにわざわざあの地までいく必要も感じない。
だからこそ、あえてその場から移動し、この神殿の奥というか本来あるべき神殿の場所。
ここ、グラキエスの神殿の間にやってきて、ゼロス達の様子をみているエミルであるが。
そのまま、けりっとゼロスを足でというよりは後ろ足で思いっきり蹴って、
ゼロスを背後にごろん、とおもいっきり吹き飛ばしたのち、
そのままターゲットをゼロスからロイドにかえている様子がみてとれる。
「ファーストエイドっ。てて。ったく。もう少し手加減しろよな。この犬っころっ」
転がりながらも自分自身に癒しの術をかけているゼロス。
「…そういえば、あなたも癒しの術がつかえたのだったわね」
今さらといえば今さらではあるが。
リフィルが癒しの術を使おうとする前にゼロスが自力で傷をいやしたのをみて、
リフィルがそんなことをいっているが。
「まあな。俺様これでも神子だし。っと、しいなのほうは……」
ロイドのほうをちらり、とみれば、完全に押されている。
素早い動きにロイドはどうやら対応しきれていないらしい。
もっとも、キールのほうは思いっきりじゃれている感覚でしかないようだが。
キールが本気になれば、彼ら程度あっというまにこおりづけになってしまう。
セルシウスのガーディアンだとおもわれし氷の狼、フェンリルに足止めされ、
ロイド達はその場から手前にすすむことができない。
祭壇の前では、セルシウスとしいなが対峙しており、そちらにちかづきたいが、
すばやく移動してくるフェンリルによってそんなロイド達の動きは制限されている。
「新たなる契約の資格をもちしもの。お前の力がどれほどのものなのか私の前に示すがいい」
いいつつ、さっと手を前に交差させしいなと対峙するセルシウス。
「いわれなくてもやってやるよ!衝力場符!」
懐から取り出された数多の札がしいなの力ある言葉に答え、ふわり、と空にうき、
それらはセルシウスの周囲をぐるり、と取り囲む。
本来、この技は一定の確率で相手をのけぞらせる効果をもつ、のだが。
「あまいっ!氷襲連撃(ひょうしゅうれんげき)!!」
自らの周囲を取り囲んだそれらにたいし、思いっきり足を振り上げ、
札の一枚、一枚に攻撃をしているセルシウス。
ちなみに、凍結効果があるがゆえ、セルシウスを取り囲んでいた数多の札は、
セルシウスの足技によってことごとく凍結し、大地におちるとともに
じゅっとした音とともにそれらの札は消滅してゆく。
「では、次はこちらからいくぞ!
そういうとともに、ふっとしいなとの間合いを一気につめたかとおもうと、
しいなの懐にはいりこんだかとおもうと接近からのゼロ距離にて連続蹴りが繰り出される。
そのままパンチ、そして足蹴りを駆使しながらも、
連続して回し蹴りをこおなっているのがみてとれる。
「…いや、セルシウス、あいつのあれはどうみても飛燕連脚じゃないだろう」
思わず素で突っ込みをいれてしまう。
彼らの戦いの様子をこの場において観戦しているはいいものの。
「違いますね。あれは」
「あれってどうみても、
その様子をその場に現れているセンチュリオン達もまたみつつ突っ込みをおもいっきりしているが。
ちなみに初めにセルシウスが放った術は、震脚から崩拳を繰り出し相手をふっ飛ばし、
さらには凍結効果がある氷襲連撃(ひょうしゅうれんげき)とよばれし技。
本来の
が、今のセルシウスのこうけ儀にはあきらかに右ストレートが含まれている。
つまり、
飛連幻竜拳とは、幻竜拳と飛燕連脚を組み合わせた奥義のうちの一つ。
「…あいつは、基本、格闘技肌だからな……」
どちらかといえば冷気を纏いながらも、ヒトがいうところの職業でいうならば、
格闘家に近しい技をセルシウスは好む。
つまり、自らが実体化している器である体を動かす攻撃を好むがゆえ、
基本、あまり精霊術などといったものは彼女は好んでつかわない。
もっとも、技にあのようにして組み入れていたりしはすれど。
「…なっ!?」
いきなりふっと自らの懐にはいられたかとおもうと、
セルシウスから右ストレートの拳がとんできたかとおもうと、それから連続しての回し蹴り。
「あんた精霊なのに体術なのかい!?」
思わずしいながセルシウスに対し、そんなことをいっているが。
「何をいう。かつての人間達もいっていたぞ?適度な運動は美容にもいい、とな」
「精霊なんだからそんなの関係ないだろっ!?」
思わずそんなセルシウスにたいし、素で突っ込みをしているしいな。
「そうはいかん。それに日々技を磨くというのも楽しいものだぞ?
そもそも、ミトスのやつにここに捕らえられてからというもの、
我と組み手をするものすらいなくなって、我もしばらくなまっているからな、つきあってもらうぞ!」
「いや、ちょっとまていっ!趣旨がかわってるから!あたしは契約してもらいたいんだよ!」
「問答無用!」
「だぁぁ!何だい!このバトルジャンキーマニアの精霊はぁぁ!!」
しいなが何やらそんなことを叫んでいるが。
「ああ!セルシウスだけずるいっ!!!!」
『え?』
ふとこの場にはいないはずの第三者の声。
そしてそれはゼロス、プレセア、リーガルが聞いたことのない声。
「って、シルフ!?あたしはよんでないよ!?」
いつのまに現れたのであろう。
ふわり、としいなの横にうかびしは、たしかシルフ三姉妹のうちの一体だという姿。
「あら。フィアレス。お久しぶりですね」
「…え?」
フェンリルを何とかかわしつつも、リフィル達の耳にときこえてきたそんな声。
その名をきき、ふとリフィルの脳裏にとある会話がふとよぎる。
――シルフ…か。そういえば、フィアレスに何か伝言があるとか何とかいってたっけ……
それは、エミルが合流してすぐのころ、エミルに世界のことをおしえていたときのこと。
リフィルが困惑した表情を浮かべ、そして短い声を発したことに気付くことなく、
「うん。ひさしぶり~!セルシウス一人だけで体動かすのずるいよ!」
「何をいうのですか。あなたはセフィーやユーティスがいるではないですか?
私などはくみての相手がこの四千年!いなかったんですよ!?」
…何だか話しがずれている。
それはもうものすごく。
「ダメだよ。だって、姉様たち、私がくみてしようっていってもうけてくれないんだもん。
…術つかってすぐに私ダウンさせてくるし」
む~、とした様子でいうその姿は何ともいえない。
というかこんな場所で交わす会話ではない、絶対に。
橙色のベレー帽をかぶり、体を覆い隠すほどの盾を背負っている小さな少女。
その薄桃色の羽は蝶の羽のようでいて、また花の花弁のようにもみてとれる。
まあ実際、この三姉妹を産みだすとき、鳥、蝶、花をイメージして創ったがゆえに
みるものによってはそんな印象を強くうけるのは当然といえば当然なのだが。
「そもそも。
体を動かす、というような感じではないし」
「それはわかりますが。そういえば、この場に……」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
何やら会話の方向性が不穏極まりない。
「ウェントス。グラキエス。あいつらの会話をとめてこい」
どうもこの調子で、自分にことづけたとか何とかいいそうな雰囲気がひしひしとする。
というか絶対にいう。
たしかに、セルシウスはグラキエスを迎えにいったときにそんなことをいっていたが。
その場に人間達がいる、ということを失念しているのではないか。
それに何よりミトスがその聴力を強化していることにすら気づいていないのか。
空気を遮断しなければまちがいなくこの会話はミトスに筒抜けとなっている。
どうも正体を気取られないように、といってくるわりに、
精霊達が気付かれるような会話をしているような気がするのはこれいかに。
『な!?』
突如として、いきなり部屋の中。
それでなくても氷ついていた祭壇の間。
その中に突如としてどこからともなく吹雪が巻き起こる。
それゆえに驚愕の声をあげているリフィル達八人。
「なんだ、あれは!?」
「うわ~。真っ白い人だ~」
吹雪の中、突如として雪とともにあらわれた人影にきづいたのは、ゼロスとコレットのみ。
天使化している彼らには、姿を消しているセンチュリオン達を認識することが可能。
まるで白い着物をきているような、それこそ全身真っ白の女性の姿をしているその姿。
異様なまでに真っ白い肌に、白い髪。
否、髪にみえるそれは髪ではなく、いくつかの束らしきものになっているのがみてとれる。
よくよくみれば、その服にも、その肌にも特徴ある何か模様らしきものが刻まれており、
どこからどうみても生気をもった人間ではない、といったその容姿。
ついでにいうならば、着物を着こなしているようにみえるその中は、
当然のごとく人間の足まではうみだしてはいない。
その気になればそれは可能なれど、グラキエス曰くそんなものは必要ない、とのことらしい。
そういうのをつくるのは、すなわち、ヒトに擬態したときだけで十分、
とはセンチュリオン達の談。
「?どこにそんな人がいるの?というかこの雪何!?」
いきなりの吹雪。
前すらみえず、目の前にいるはずのフェンリル、そしてセルシウスの姿すら、
吹雪によって完全に姿がみえなくなっていたりするこの現象。
ジーニアスがきょろきょろと周囲をみつついってくるが。
ふとみれば、先ほどまでジーニアス達が対峙していたはずのフェンリル。
そのフェンリルがなぜかちょこん、とその場にへたりこむように床に伏せているのが目にはいる。
「――御苦労。キール。さて、あなたがたは何いらないことをいおうとしていました?」
声はすれども姿はみえず、とはまさにこのこと。
どこからともなくまたまた第三者の声がきこえてくるが、
リフィル達の目にはその姿は認識できない。
『「げ!?グラキエス様!?それにウェントス様まで!?」』
その声は、セルシウスとフィアレスがほぼ同時。
ウェントスはラタトスクが何をいいたいのか察し、というよりは、
センチュリオン達もまたミトスが主に気づいて何かしでかしてはたまらない。
そんな思いがあるがゆえか、率先してすぐさまミトスにこの場の会話が聞かれないように、
この部屋を囲むようにして薄い膜のようにして真空状態をつくりだしていたりする。
音とは空気の振動。
ゆえに、真空状態では音は伝わらない。
何か精霊達がいっているが、その言葉の意味はリフィル達にはわからない。
どうも何かに驚愕している、らしいのだが。
それが何に驚愕しているのかまったくもって理解不能。
「うわ~。すごい。真っ白な虎さんだぁ」
氷の精霊、セルシウスとの契約の戦い。
突如として部屋の中に吹雪がおこったかとおもうと、その雪の中に人影らしきものがみえ、
さらに出口付近には、真っ白い虎のような、猫のような何か。
それらが空中に浮かんでいるのがみてとれる。
「?何いってるんだよ。コレット、そんな白い虎…なんて……」
ロイドがそんなコレットの台詞をうけ、きょろきょろと辺りをみわたすが、
それまでフェンリルによりひっきりなしに攻撃があったにもかかわらず、
今現在は、ガーディアンとおもわしきそれからの攻撃はなりをひそめている。
ロイド達の視界にはいるは、なぜかその場にぺたん、
と伏せ状態になっているフェンリルの姿のみ。
その横にいるグラキエスの姿は視えてはいない。
ロイドの力は彼のもつ石に宿りし母親が抑えているがゆえ、
ロイドはまだ半精霊としての素質をもっているにもかかわらず、その力は発揮できてはいない。
そもそも、ロイドは精霊石とほぼ同化しかけていたアンナと、
そしてまた、その体内にアイオニトスを宿していたクラトスとの子供。
ゆえに、ロイドの特性からすれば、彼らがいうところのヒトとはかなり異なっている。
アイオニトスの影響、そして母体となりし女性の影響。
精霊としての特性が3、ヒトとしての特性が5、そして新たな種としての特性。
すなわち、精霊とヒトとの特性を備えもつ新たな人種。
その先駆けとしての特性が2。
その割合でもってしてこの世界に生をうけている。
異種族同士の混血、とはそれほどまでにめずらしいもの。
ましてや、精霊の血を偶然とはいえ引く形になったロイドは新たな種の先がけといえるであろう。
今現在のこの世界において、ロイドという存在はたった一人のみ。
つまるところ、同じような特性をもつ存在は他には存在していない。
ロイドは気づいていないであろうが、ゆえに普通の人、
つまるところリフィル達のようなハーフエルフ達よりもはるかに寿命は長い。
器をもちし生をうけている以上、寿命はあるが、器を失ってもなお、その命はつづく。
だからこそ、あのとき。
ロイド達が命をおとしたあのとき、クラトスに彼らの魂をラタトスクは託した。
それは遥かなる過去の記憶であり、またこの時間からすれば未来の記憶。
もっともあんなことは二度とおこりえてほしくはないが。
「…コレットちゃん。もしかしてあいつら、俺様達、
すなわち神子である俺様達にしかみえてないんじゃないのか?」
ちらり、とリフィルやジーニアス、プレセアやしいな、そしてリーガルをみてみるが、
どうやら全員が全員ともその姿はみえていないらしい。
ゼロスがちらりと視線をむければそれぞれ無言で首を横にふってくる。
すなわち、そこにいるはずの姿が視えていない、ということに他ならない。
ゼロスとコレットにみえていて他にはみえない。
だとすれば、答えは一つ。
すなわち、神子である自分達には視えている、ということは。
ゼロスがかつてその身に宿したアイオニトスの影響か。
コレットのほうはその身にハイエクスフィアをつけている影響、なのであろうが。
互いが互いとも天使化を実はしている、という相違点であろう。
それに思い当たり、しかしそのことはふせ、神子だから、
ということを強調してつぶやくゼロス。
「ふえ?そうなの?ロイド?あの女性と虎さんみえてないの?」
コレットが不思議そうにといかけるが、ロイドはただ首を横にふる。
一方で、なぜだろう。
氷の精霊セルシウスと、そして風の精霊シルフのうちの一体。
それらがその場にてちよこん、といきなりその場に正座をしているのはこれいかに。
「まったく。あなた方は。もう少しであの御方にいったのですけど、とかいいかけましたわね?」
「「うっ」」
グラキエスの呆れ混じりの台詞にセルシウスは唸るしかない。
「ともあれ。これでそこの人間によりミトスの枷からセルシウス。
あなたは解き放たれました。あとはあなたと対となっているイフリート。
もしくは、シルフ、あなたと対になっているノームとの契約を促しておきなさい」
すでに、あの人間はシルフとも契約を交わしている。
つまり、彼らがノーム、そしてイフリートと契約をかわせば、マナの楔、
とよばれているらしきそれは消滅する。
そもそもあれがあるからこそ、センチュリオン達の仕事が多少増えているといっても過言でない。
わざわざマナが流れ出しているものをまた元にもどすなど。
最も、それは彼らセンチュリオン達が目覚めているがゆえにいえることであり、
もしもセンチュリオン達が目覚めていないままでそんなことをしでかしたとするならば、
世界のマナが歪み、大地に多大なる影響を与えていることであろう。
それこそ、今は意図的に何の障害もなく大地を移動させるためにおこしている地震。
それが突発的におこり、大地が、自然が悲鳴をあげるほどに。
「すこしばかり、お話しが必要のようですわね?」
『「い…いやぁぁっっっっっ!!」』
にっこりほほ笑むグラキエスの台詞に、互いに抱き合い何やら叫んでいるセルシウスとフェアレス。
しかし、その姿は、ロイド達からは、吹雪に遮られ、垣間見ることすらできては…いない。
「――見事だ」
『は?』
突如としてあらわれた吹雪。
そもそも、洞窟の中なのになぜにいきなり吹雪がおこったのか。
しかも、コレット達がいっていた白い虎やら白い人影やらは何だったのか。
突っ込みたい所は多々とある。
さらによりつよく吹雪き、たっているのすらままならない状況に陥ったのち、
ふと目をあけてみれば、いつのまにか吹雪はやんでおり。
しかも、祭壇の上にふわり、とセルシウスが浮かんでいる。
しかも、なぜだろう。
どことなく疲労しているように感じられるのは、ロイド達の目の錯覚か。
シルフの三女だという小さな少女などはなぜかぐしぐしと、その瞳にいまだに涙をためているが。
というか涙まで具現化しているのはさすがというか何というか。
一体全体、今の吹雪の間に何があった、というのだろうか。
ロイド達は怪訝におもい、ちらり、とゼロスとコレットに視線をむけるが、
二人も何ともいえない表情をしていたりする。
吹雪の最中にてみた光景は、一方的に蹂躙されていた二体の精霊。
つまるところ、あの白い人影は精霊達よりも力が上、ということにほかならない。
そんな存在がいるのか、という思いがゼロスにはあれど。
あるとすれば、それこそ精霊達の上に位置しているであろう。
王立研究院の報告でもあった、世界のマナを司る精霊ラタトスクに仕えている、
というセンチュリオン達くらいなのではなかろうか。
このタイミングでそれらしきものが現れたことに対して、ゼロスは懸念を隠しきれない。
襲ってこない魔物達。
そして、エミルから手渡された、トクナガ曰く、シルヴァラントにつたわっている、
という癒しの力を込めた石。
それとなく、船の中でリフィルに確認をとったが、そんな癒しの力が秘められた石、
などというものは、リフィルですらきいたことすらない、とのこと。
つまるところ、シルヴァラントで普及していた石ではない、ということに他ならない。
「いや、何がみごとって…あたし何にもしてないよ?」
それがしいなとしての本音。
一体全体何がどうなったのか。
そもそも、先ほどまでの吹雪はセルシウスが生み出したものではなかったのか。
突っ込みどころは多々とある。
「どんな理由にしろ、私を地面につけることができたゆえな」
「…それって、おもいっきりこいつ、じゃなくてさっきの奴のせいじゃないか?」
淡々と語るセルシウスに対し、ゼロスが思いっきり突っ込みをいれるが。
というかそれ以外ありえない。
「しかし、お前達がきたから、あの方々もこられたのもまた事実。
というわけで、汝との契約を認めよう。
さあ、誓いをたてるがよい。この私を使役できるような誓いを」
「いや、それは助かるけど…何というかさ。…この割り切れない思いは……」
そもそも、いきなり精霊の契約の試練も何も関係ないかのごとくのセルシウスの台詞。
つまるところ、組み手をする相手がいなかったからたまってる云々の台詞。
それにつづき、召喚してもないのにいきなり現れた、シルフの三女だという風の精霊。
そしていきなり突如として発生した吹雪。
どこからどう突っ込みをしていいのかわからないほど。
だからこそ、しいなは何ともいえない表情を浮かべてしまう。
契約をしてもらえるのはありがたい。
ありがたいのだが…何だろう。
この何とも釈然としない思いは。
一方で、
「さっきの女の人っぽい人と虎さんどこにいったのかなぁ?」
きょろきょろと、吹雪が収まると同時にきえた二つの影をさがし、
周囲をきょろきょろしているコレット。
吹雪が消えるとともに、現れたときと同様、吹雪とおなじように一瞬のうちに溶け消えた。
たしかに吹雪の中にいたはず、なのに。
吹雪がとまるとともに、消えてしまった二つの影。
何となくではあるが、アイフリードの船の中でであった、アクアという少女。
その少女に雰囲気が何となく似ていたような気もしなくもない。
そんなことを思いつつきょろきょろとコレットが周囲を見渡すが、
すでにセンチュリオン達はラタトスクの元にもどっているがゆえ、
今この場にはいない。
といっても、この場を視ていることにはかわりがない、のだが。
ゼロスだけが何かいる、といってもリフィルは信じなかったであろうが、
どうやらコレットもまたその姿をみとめていたらしい。
だとすれば本当にあの吹雪の中にて何か、が現れていたのであろう。
コレットの様子からして今はそれがこの場にはいないことがうかがえる。
「…まあ、いろいろと疑問点はつきないけども。しいな。契約を」
「あ。ああ」
たしかにリフィルの言うとおり。
疑問点はたくさんある。
というかあれで試練?がおわったのだろうか?という疑問もある。
最も、彼らがこれ以上戦わないことを選んだのにも理由がある。
これ以上余計なことをいうようであれば、あの御方も考えがあるそうですよ?
といったところ、ものの見事に戦わないことを選んだ、らしい。
…どうやら、互いに互いとも、戦いの中で余計なことをいってしまうかもしれない。
という気持ちがはるかに高かったらしい。
だからこそ、いきなりのあるいみ降参宣言、となっているらしいのだが。
当然そんなことを彼らが知るはずもない。
釈然としないものの、誓いの言葉をいわなければ新たな契約は成立しない。
それゆえに。
「二つの世界がお互いを犠牲にしなくてもいい世界をつくるために。セルシウスの力をかしてほしい」
「承知した。私の力、見事使いこなしてみせよ」
その台詞にうなづくとともに、光がはじけ、セルシウスの姿はその場からかききえる。
そしてその光が一か所に固まったかとおもうと、
それは一つの形をなし、ゆっくりとしいなの手の中にとおちてくる。
それはサフィイアの指輪。
セルシウスとの契約の証たる指輪。
「組み手とかしたかったらいつでも私たちをよんでね!
ノームやイフリートはなんでか嫌がるけど。それじゃっ!」
「あ」
なぜここでノームやイフリート、という精霊の名がててくるのだろうか。
思わずしいなが短い声をあげるものの、現れたときと同様に、
そのままシルフの姿はその場からかききえる。
…正確にいうならば、契約がおわればまだ話しがある。
とこってりとウェントス、そしてグラキエスからいわれていたがゆえに、
あまり彼らセンチュリオン達をまたしても後が怖い。
それゆえにさくっとどうやら契約の儀式をこなしたセルシウス。
もっとも、そんなセルシウスの心情などしいな達は知るはずもなく。
「…と、とりあえず、契約は完了した…みたいだね」
何だか疲れた。
何が、というわけではないが、何となくこう精神的に。
これは苦戦するだろう、と覚悟していただけに、何とも後味がわるい戦闘結果ともいえる。
はっきりいって何もしていない。
「…あの狼のやつにも、俺の剣、まったく通じてなかったな……」
ロイドはロイドでそのことにて多少落ち込んでいるようではあるが。
「しっかし。氷の精霊、セルシウス様…か。セルシウス様、クールビューティーだったなぁ。
あ、あのフィアレスっていう風の精霊?の子もかわいかったけど」
ゼロスがその場の雰囲気を和ますためか、かたまた素か。
どうやら両方入り混じっているようではあるが。
その頭の後ろに両手をあてて組みながら、精霊達のいた祭壇をみつつそんなことをいってくる。
「はぁ…あなたって相手が女性の姿をしていれば何でもいいのねぇ。
そもそも、エミルにもあなた、声をかけていたものね」
たしかにあのときのエミルの格好はぱっと見た目どちらかわからなかったであろうが。
だからといって、いきなりエミルをナンパしていたゼロスの行動。
あの行動をリフィルは忘れたわけではない。
「ああ。こいつは歩くわいせつ物だからねぇ」
そんなリフィルにたいし、首をすくめつついってくるしいな。
その手に握られた指輪はなくさないように、すばやく懐にしまいこんでいるようではあるが。
「どういう意味だ」
「文字通りだよ」
しいなの台詞にすかさずゼロスが反論するが、
ゼロスの台詞をききリーガルがため息をつき、プレセアは無言のまま。
コレットはいまだにさっきの子達いなくなったなぁ。
とおもい、きょろきょろと周囲を見渡していたりするのだが。
しかし、今のゼロスの発言で、何かうやむやにて戦いがおわったセルシウスとの契約の儀式。
それに対しての何となく釈然としない思いが払拭されたことに気付いたのは、
この場においてはどうやら誰もいないらしい。
ゼロスの言葉を受け、先ほどまでの何ともいえない空気がかわっているのだが。
もっとも、ゼロスはゆえにあえて道化を演じているようではあるにしろ。
そして、ふと、至極真面目な表情になり、
「ん?まてよ?そうかそうか。しいな。
お前はこの俺様が男の色気を放っているっていいたいんだな。
テセアラ広しといえど、この俺様ほど知性と美貌、
それ以外のものをそりゃあもう色々と兼ね備えているものはいないからな。
天は二物を与えずというが、この俺様には、二物も三物も……」
至極真面目にそういうゼロスはふざけているようには到底見えない。
むしろ本気でそうおもっているように傍から見ればみえるであろう。
それがゼロスの計算づくの台詞だ、と気付けるものはどうやらいないらしい。
「なぁぁにが色気だい!この色魔!!」
そんなゼロスにたいし、しいなが強い口調で思わず突っ込みをいれているが。
すでに先ほどまでのセルシウス達に対する何ともいえない思いはその場にはない。
そしてゼロスのそんな台詞をきいていたリーガルの中からも、
先ほどまで抱いていたセルシウス達の態度の変化。
それに対する懸念が払拭されていたりする。
「…これが我が国の神子か…なさけない……」
本気でそうおもっているのか、深いため息とともにそんなことをつぶやいているリーガル。
一方で、
「?なあ。先生。色魔ってなんだ?くえるのか?」
ゼロスはしいなの言葉の意味というか、ゼロスとしいなの会話の意味。
それ自体がどうやら理解できていないらしい。
「…はぁ。食べられないとおもうけど……」
もう、いろいろと突っ込みどころが満載で、リフィルもまた説明する気力がない。
というか、それすらこの子に教えないといけないのかしら?
ゼロスによる女性への態度も頭痛の要因ならば、ロイドのこの無知具合もまたその一因。
だからこそ、リフィルは無意識のうちにその手をこめかみにあてうなってしまう。
ダイクのことは尊敬はしているが、絶対にロイドの育て方まちかなってないかしら?
という思いがどうしても、ダイクに対してはリフィルは抱かざるを得ない。
それとも、男親が育てれば子供はこんなようになってしまうのだろうか。
それは世の中の男親に対するあるいみでかなり間違った偏見でしかないかもしれないが。
ロイドをみていればどうみてもそう思えてしまうのもまた事実。
「…色魔。ですか?それはたくさんの女の人をもてあそぶ不誠実な男性のこと。
つまり、たくさんの女の人に声をかけ、いろいろと物をもらったりする人のことです」
「なんだ。ゼロスのことか。ゼロス、女の人に声をかけたら必ずなんかもらってるもんな」
それこそ、老若を問わずして。
老人から子供まで、なぜかゼロスが声をかければ大概、なぜかプレゼントを渡してくる。
ちなみに、若い女性などはゼロスに声をかけられるとかなり喜んでいたりするようだが。
「そういわれると面白くねぇなぁ。ま、俺様は神子だからな」
おちゃらけた様子で、しかし神子だから、といいきるゼロス。
「そういえば、ゼロスさんの子供のころってどんなだったんですか?
やっぱり、皆に神子っていわれて…つらかった?」
誕生日がくるのがいやだった過去の自分。
ロイド達と出会うまでは、ずっといやだった。
皆が自分が死ぬのを楽しみにしてます、といっているようで。
コレットの台詞に、
「お?コレットちゃん?興味があるのか?」
「あ。えっと。私は小さいころ、皆がいつも、誕生日を祝ってくれてたけど。
それは、あと○年で世界が再生されるんですねっていつもいわれてたから……」
しかも、皆が皆、コレットをコレットとしてではなく、神子としかみてこなかった。
「そういや。お前、毎年教会で誕生日の祝いがおこなわれてたよな。
そういや、俺も気になるな。子供のころのゼロスってどんなだったんだ?」
コレットの台詞にどうやらロイドもまた気になったらしい。
もはや完全に話題がずれまくっている。
しかしそのずれを誰も指摘しないのは、
すくなからずゼロスの子供のころ、という話題になり、気になっているがゆえか。
「それじゃあ、コレットちゃんの疑問に答えてあげちゃおう!
俺様の子供のころは、それはそれは麗しくも神童っていわれてたな」
にっと笑みを浮かべつつそういうロイドの台詞に、
「振動?ゆれてたのか?」
「うわ~。ゼロスの子供のころって、ゆらゆらとゆれてたの?
ゆりかごとかにはいってた赤ちゃんのころ?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
ロイドが真面目な顔でいい、コレットが目をキラキラとしながらいってくる。
…どうやら二人とも本気でそんなことをいっている、らしい。
「…ロイドくんやコレットちゃんの怖いところは本気ってところだな」
ぽそり、というゼロスの台詞に、
「あ、それわかる」
しいながすかさず同意し、
「…コレットと話していたらいつも話しがずれてくからねぇ」
ジーニアスも思い当たるところがありまくり、
ゼロスの台詞にしみじみと同意していたりする。
「何だよ。ゼロス。ほめても何もないぞ?」
「ゆりかごかぁ。そういえば、船の中、ほとんど揺れなかったね」
「あれは船というよりはもはやもうどっかの街だろ、街」
ロイドがいえば、コレットがにこやかにそんなことをいってくる。
またまた話がずれていっている。
「街かぁ。でもなら街の人達、誰もいないってこと?」
「船員が街の人になるんじゃないのか?」
「そっかぁ」
「…なぜ、コレットが会話に加わっただけでこう話しがずれてゆくのだ?」
思わずそんなやり取りをみて疑問におもったのか、リーガルがぽつり、とつぶやく。
「…まあ、この子達は天然だから……」
リフィルももはや呆れ顔。
「あ~…はいはい。まああの船のことはともかくとして。
ともかく、俺様の子供のころはメルトキオ中のアイドル。
いや、世界中にとってのアイドルだったってことだよ」
それこそ、神子の儀式を終えたあの日。
世界中で祝いの儀が行われた、という。
それこそ全てのマーテル教会といわず街や村、全てにおいて。
「アイドルって…ゼロスって、女だったのか!?」
「なんでそうなる!?」
「え?だって、アイドルって、女の子にいう台詞だろ?」
「…リフィル。少しいいか?ロイドの教育は、いったい……」
「…お願い。聞かないで。リーガル…ああ、頭がいたいわ……」
困惑したようにリフィルに視線をむけるリーガルの台詞に、
みればリフィルは本気で頭をかかえていたりする。
「でもさ。僕もよくわからないんだよね。ゼロスってたしかに面白いかもしれないけどさ。
なんでゼロスがもててるのかっていうのが」
ジーニアスはジーニアスできになっていたのかそんなことをいってくる。
ある意味でこの会話のズレを修正する唯一の人物、それがジーニアスであろう。
「それはひがみか?ま、がきんちょにはわかんねぇだろうな」
「む!だから!僕はガキじゃない!」
からかうようにいうゼロスの台詞にジーニアスがおもわずくってかかる。
「…俺様もまあ昔は不思議だったよ。ま、すぐに原因はわかったけどな」
「「え?」」
その問いかけはロイドとジーニアス、ほぼ同時。
「何でだ?」
その理由に思い当たり、何ともいえない表情をしているリフィルとリーガルとしいな。
しかしロイドはわからないのか、首をかしげつつもそんなゼロスに問いかけている。
「俺様が…神子だからさ」
「…そっか……」
コレットもまたゼロスがいわんとするところがわかり、思わず顔をふせてしまう。
つまるところはそういうこと。
ゼロスもまた、自分と同じように神子、としてしか周囲にみてもらえていなかった。
ということ。
自分、という個人でなく、神子、としかみられないそのさみしさは、
コレットは身にしみてよくわかっている。
そして人々から距離をおかれるさみしさも。
「ふ~ん。よくわかんねぇけど。ゼロスが神子だろうと何だろうと関係ないとおもうけどな。
そういや、イセリアでもコレットに同じようなこといってたな。
神子だから遊んじゃいけないって馬鹿なこといってたりしたなぁ。
そもそも、コレットはコレットでしかないのに。皆変なこといってたよな。な、コレット」
「え?あ、う、うん。そう、だね」
そのロイドの純粋さが、自分を自分としてみてくれるその心が。
当時の自分にどれだけ救いをもたらしていたのか、きっとロイドは知らないよね。
だからこそ、コレットはロイドの台詞にかるくほほ笑む。
「なるほど、ね。はは。殺し文句だね。それは。
…お前がそうおもってくれてるのなら、それでもいいぜ。
…コレットちゃんがロイドくんを大切っていった意味、分かったきがするな」
コレットの表情から察するに同じ思いを抱いていたのであろう。
自分を自分とみてもらえない、神子としての価値しかない、いらない子。
つまりいつでも替えがきく、そんな存在。
そんな中、たった一人、一人でも自分をみてくれる人がいたならば。
…コレットがロイドの為に命をすてよう、とおもった。
という理由もうなづける。
否、ゼロスはうなづけてしまう。
今まさに、ゼロスはセレスの為に命をかけよう、そうおもっているのだからなおさらに。
「あ。エミル、やっともどってきた~!」
なかなか戻ってこないエミルを気にしつつ、なぜかミトスの表情が一瞬曇ったのをみてとり、
片っ端からいろいろと話しかけてはいたのだが。
心配そうにじっと湖の向こうを眺めていたミトスがエミルがこの場からたちさり、
少しすればなぜか表情が険しくなった。
この場に三人しかいないのもあり、とにかくマルタがミトスに話しかけ、
またセレスにも話しかけてどうにか話しをつなごうとしていた、のだが。
ミトスからしてみれば、湖の向こうの祭壇の様子。
それを聴力を強化して聞いて状況を把握していたはず、なのに。
突如としてそれがきこえなくなったがゆえに表情が険しくなっていたりするのだが。
聞こえてくるのは、吹雪らしき音。
なぜ洞窟の中で、という思いもあるが。
より聴力を強化しても扉の向こうの様子を聞きとれることはなく、
逆に傍でいろいろと話しているマルタ達の声がとてもわずらわしく感じていたがゆえ、
表情もけわしくなってしまっていたのだが。
エミルがこの場に戻ったのは、セルシウス達が姿を消したのとほぼ同時。
ふと懲りずに扉の向こう側に意識をむけていたミトスの耳に、
ロイド達の会話がようやくきこえてくる。
どうやら会話の内容からは精霊との契約がすんだかどうかはわからないが。
しかし、自らのうちにあった精霊との繋がり。
その一つが消失したのを確かに先ほど感じた。
ということは、自分の契約が破棄された、ということなのであろう。
火、風、水、光、闇、地、氷、雷。
八属性のうち、契約が消された、と聞かされてあえて内部の繋がりをたどり、
気付いたのは三属性の消失。
水の精霊は何となくわかる。
リフィルがユニコーンホーンを手にいれていることから、
こともあろうに姉のために閉じ込めていたあのユニコーン。
かのユニコーンの力を彼らは授かったのだ、ということが。
これによって、やはり先にコレットの疾患を治してでなければ器にはできない。
疾患があるままでも器としたのち、治療をほどこす、という方法がとれなくなった。
しかし、なぜ風の精霊とも契約を交わしているのだろうか。
クラトスからはそのような報告はあがっていなかった。
このシルヴァラントの王族の末裔だという少女にかかわることにて、何かがあった。
としかおもえない。
シルヴァラント側の王族はあのとき、たしかに殺したとおもっていたのに。
どうやらいまだに生き残りがいた、らしい。
ミトスがそんなことを思っている中。
「ロイド達は、まだ?」
そろそろあの扉の向こうからでてくるはず、である。
それがわかっているからこそ、それに間に合うようにあの場からここに戻ってきた。
当然、いらないことをいいかけていたセルシウス達にはしっかりと、
センチュリオン達にお灸をすえておくように、とことづけて。
そんな中。
「とりあえず、これで次は氷だから…次はイフリートと契約すればいいのか?」
「よくできました。ロイド。…ま、子供でわかるよね~」
湖の向こうから、扉をくぐりつつそんな会話をしているロイド達の姿が現れる。
もっとも、湖の対岸とこちらはある程度の距離があるがゆえ、
マルタやセレスにはその会話はきこえていないようではあるが。
そして。
「あれ~?先生、氷がとけちゃってます~」
ふとコレットが湖の氷がとけているのにきづき、
リフィルを振り返りつつもそんなことをいっているのがみてとれる。
「おそらく、エミル達が対岸にのこっているもの。コレット。
私たちが外にでてきたことをおしえてもらえるかしら?
おそらく…特にエミルがいるのだもの。氷の花をまたとってきているはずよ」
マルタやセレスはそこまで気がまわるかどうかはわからないが、
すくなくとも、エミルはそういった面では気がつくであろう。
それゆえのリフィルの台詞。
「はい。わかりました~」
ふわり。
パタパタと翼をはためかせ、そのまま湖の上を飛び立つコレット。
「あれ?あれって、コレット?コレット、おわったの~?」
ふと、向こう岸より何かが飛んでくるのにきづき、目をこらしてみていたマルタだが、
その人影が見慣れたコレットの翼を生やした姿だ、ときづき、
手をぶんぶんふりつつ、そんなコレットにと叫んでといかける。
「あ。マルタ。うん。無事におわったよ~。
それでね。先生がいうには、皆のことだから氷の花をとってきてるだろうって」
ふわふわとその場にうかびつつも、湖の上にたつようにして、
マルタ、セレス、エミルの目の前の湖の上。
その水上にたつようにしてそんなことをいってくる。
「うん。とってきてるよ。あ。コレット、危ないから水からはなれてね?」
今のコレットの立ち位置ではまちがいなくコレットまでもが凍りつく。
エミルにいわれ、ふわり、とその場に再び浮き上がるコレット。
それとともに、エミルが布の中にいれていたそれをそっと湖の上にうかべるべく、
端によりたちかがみこみ、そっとそれを湖の上へと滑り落とす。
それとともに。
ピシッ…ピシピシピシッ。
一瞬、花のようなそれが浮かび、湖の水に綺麗な波紋が広がったかとおもうと、
次の瞬間。
さあっとその波紋が広がるように、一瞬のうちに湖の水は再び凍りつく。
「さっきもあまり凍ってなかったから。
コレット。皆に早めにわたってくるようにつたえてくれる?」
実際、ロイド達が仕掛けをといて、扉にはいってしばらくすると、
湧水の影響によって、この氷は溶けている。
これをまたもってきている、とおもったということは、
セルシウスの力を利用する、ということを失念していたのか、
はたまたそこまで思う余裕がないのか。
それはエミルにはわからないが。
すくなくとも、セルシウスの力を借りればいつでもどこでも氷を操ることは可能。
目の前の湖が再び凍りついたのをみてとり、
「いきましょう。もうここでの用事はないわ」
気になるのは祭壇の奥にあったあの模様。
あれに近い模様をリフィルは幾度かみている。
イフリートの祭壇で、そしてヴォルトの祭壇、シルフの祭壇においては、
あの仕掛けのあった風車の間で。
水の祭壇においては、その手前の仕掛けであった水瓶の位置。
その場ににたような模様が描かれていたのをリフィルはしっかりと確認している。
そして、さらに気になりしは、その模様の中にそれぞれ一つづつ。
リフィルもまたみおぼえのある模様があった、ということ。
海賊船カーラーンの中でみた、精霊ラタトスクに仕えている、というセンチュリオン。
それらを示しているというかの紋章。
それらが刻まれている場所。
何か意味があるような気がしてならない。
ちなみに、風車の間のあの場所と、アスカードの地下にあったあの場所は繋がっており、
正確にいうならば、大樹の解放点たるセンチュリオンの間。
それにそれぞれ繋がっている。
もっとも、あのときエミルは元々のシルフ達の祭壇。
その奥からかの地に移動しウェントスを目覚めさせはしたのだが。
しいなはあのときのことを白昼夢、とおもっているがゆえさほど気にとめてはいない。
何しろ気付いたときにはあの扉は再び閉じられていたがゆえ、
また、扉にちかづいてもびくともしなかったということもあり、
気のせいですませてしまっている節がある。
もっとも、その疑問をリフィルに話していればまた違ったことになっているであろうが。
リフィルの言葉をうけ、ロイド達もまた、それぞれ凍った湖にと足を踏み入れる。
滑り止めを靴底にしているがゆえか、しっかりと氷を踏みしめながら注意深くすすんでゆく。
滑り止めをしていなければ、そのまま氷の流れに流されるまますべるように移動し、
いくつか湖からつきでている岩にぶつかるまではとまることすらままならない。
「おかえり。怪我とかなかった?皆?」
きょろきょろと全員をみわたし、マルタがそんなことをいってくるが。
「あ、お兄…いえ。神子様。無事のお勤め御苦労さまですわ」
「…セレスもいいかげんに、ゼロスのこと、神子っていいなおさないんでいいんじゃ?」
どうもいつも、ゼロスに呼びかけるたび、お兄ちゃんといいかけているのか、
はたまた、お兄様、といいかけているのか、それはわからないが。
いいかけては、口をつぐんで神子様、といっているのは、何か違和感を感じてしまう。
エミルが知っていたセレスは常にゼロスのことをお兄様、とよんでいた。
まああまり彼女と会話するようなことがなかったといえばなかったのだが。
どうやらその違和感はロイドもまた感じていたらしく、
首をすくめつつそんなことをいってくる。
「そんな無礼なことはできませんわ。神子様は神子様ですもの」
そんなロイドのいい分に、きっぱりといいきるセレスであるが。
その瞳がどこか悲しげにゆらいでいるのにセレス自身、どうやら気がついていないらしい。
「でも、ゼロスが神子でも、セレスのお兄さんでしょ?
お兄さんをお兄さんってよぶのにおかしくないでしょ?」
コレットもまた同じ思いを抱いていたらしい。
ゼロスがいないときには、いつもお兄様が、お兄様が、といっているのに。
どうしてゼロスの前ではこんないい方をするのだろうか。
それがコレットとしては不思議でたまらない。
たとえば公式の場など、すなわち何かの行事とかならまだしも。
プライベートであるならば、呼びかたなどは自分のおもうがままでいいであろうに、と。
「……お兄様は神子様です。産まれながらの。立場が違いますわ」
何もしらなかった昔、ではない。
父が死に、自分の存在がゼロスの幸せを奪っていたのだ、と知った以上。
昔のように、無邪気に兄であるゼロスを慕うのは…セレスからしては、
母の罪、そして自分の罪から目をそむけてしまうようなもの。
セレスには何の罪もない。
ゼロスはそういうが。
すくなからず、父が自殺したのも自分に関係があるのでは、とも陰口をいわれていた。
それは、天界が認めた子供以外を産んだから、といっていたくちさがない大人の陰口。
それを幼いながらもきいてしまったセレスゆえの懸念。
まだ、天界が認めていた伴侶ならば、天界があらたに血筋を遣わした。
ですんだであろう。
しかし、神託によってひきはなされた相手との子供。
それは裏をかえせば、神託に逆らい産まれた禁忌の子、ともいわれていた。
昔はそんなことはしらず、こっそりと屋敷にでむいては、兄にあそんでもらっていたのだが。
事情をしってしまった今は、昔のように無邪気にふるまうわけにはいかない。
目の前の兄は、兄でありながらも、それでも天使の子、なのだから。
だからこそセレスはゼロスの前では素直になれない。
自分の誕生そのものに負い目を感じているがゆえ、なおさらに。
このあたりは、この兄妹、よくにている、といってよいであろう。
ゼロスもまた、自分の産まれに否定的、という点においては、この兄妹よく似ている。
そして不器用なところも。
エミルがしっていたあのときの二人は、気兼ねなく心をいいあっていたようにおもえたが。
そもそも、セレスに何かあればヴァンガードのやつらただじゃおかない。
皆殺しだ、とまで公言していたゼロスである。
だからこそ、今のゼロスとセレスの様子にはどうしてもエミルは違和感を感じてしまう。
それとも、コレットと同じなのだろうか。
否、同じ、なのであろう。
偽りの真実を覚えこまされているこの世界の人々。
実の親でも違う、と思い込まされている節があるのは、
コレットの一件でエミルもまた思い知っている。
どうみても違う、としかいいようがないのに。
そもそもどうしてマナの流れをみることができるリフィル達ですら、
勘違いしていたのか、いまだにエミルには理解不能なれど。
もしもそうならば、父親が同じであるこの二人がぎくしゃくしている。
というのもそのあたりにあるのかもしれない。
本当は父親は同じなのに、異なっている、とおもっているのかもしれない。
それは二人に確認したわけではないにしろ。
まあ、それに関してエミルがどうこう言える立場ではない。
すくなくとも、ゼロスの母親とセレスの母親。
その二人が姉妹であったことは事実なのだから、血は確実に繋がっているこの二人。
そして、父親も。
おそらくは、ゼロスの母親が死んだ一件により、
二人の間にわだかまり、もしくは誤解が生じているのだろうな。
そう予測はつくが、それをエミルが知っている、というのはあくまでおかしい。
だからこそ、エミルは何もいわない。
「皆、無事だったみたいだね。じゃ、外にでようか。
さっきのところからあの川を下っていけばはやく降りれるとおもうしね。
たしかスノーボートもあるし。あれで滑っていけば問題ないでしょ?」
ノイシュにひっぱられ、ここまでのってきたあの乗り物。
あれにまたがり、川をすべりおりれば、この神殿からすぐさまに移動できる。
「お!川下りか!?なんかおもしろそう!」
「うわ~。たしかに面白そう」
「たしかに。崖を飛び降りるよりは安全かもしれないわね……」
~スキット・氷の川下り~
ロイド「おっもしれぇ!なあなあ、もういっかい!」
コレット「うん。これたのしい!」
リフィル「馬鹿いってるんじゃありません!もう何回やってるのよ!あなたたち!」
すでに、滑り降りたのち、幾度もまた崖を飛びあがり、
またまた川をスノーボートで下ることを幾度もくりかえしているロイド達。
さすがに五回目、ともなるとリフィルも堪忍袋の緒がきれた、らしい。
リフィルの叫びが周囲にとコダマする。
マルタ「…あれ?うわっ!?」
ふと、ぐらぐらと何か体がゆれる感覚。
リーガル「まずい。もしかしたら地震かもしれぬ。ここは危険だ」
リフィル「ともかく、ここから立ち去るわよ!」
もしも地震の前兆だとするのならば。
山の麓でしかないこの場所は危険極まりない。
いつ、山の雪が雪崩、として崩れてくるかわからない。
ロイド「え~。先生、もういっかい……」
リフィル「いい加減にしなさぁぁいっっっ!」
ぐらっ。
ジーニアス「うわ!?本格的にゆれだしたぁぁ!?」
セレス「…ふえ!?お、兄様…じゃなかった、神子様!?」
今にも倒れかけていたセレスを素早くだきあげつつも、
ゼロス「とにかく、ここからはなれるぞ!ここは危険だ!リフィル様のいうとおりな!」
エミル「…あせったときって人間ってよくその人の本質でるよね」
ゼロスが躊躇なくセレスを抱き上げて安全を確保したことからも、
ゼロスがセレスを大切にしているのはみてとれる。
マルタ「エミル~。私も……」
エミル「?マルタは自分であるけるでしょ?」
マルタ「…うう。エミルのいけずぅぅっっっっっっ!」
しいな「…エミル。あんたはもうちょい、女の子の気持ちかんがえてやりなよ……」
リフィル「とにかく、ここからはやくたちのきましょう!」
エミル「ノイシュ。準備はいい?」
ノイシュ「うぉん!」
このあたりは山ばかり。
揺れは始めは横に揺れていたが、だんだんとひどくなってきている。
揺れが完全にひどくなれば動くことすらままならなくなるであろう。
もっともそれはエミルやノイシュには関係ないのだが。
ドド…
コレット「えっと。先生…あれ、なんでしょう?なんか雪がくずれてます~」
リフィル「のんびりいってないの!雪崩よ!とにかく逃げるわよ!」
ロイド「雪崩って…」
一同(エミルとミトスを除く)『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』
ドドドドド……
ロイド「あ…あぶなかった……」
コレット「うわ~。さっきまでいたところ、雪でみえなくなっちゃった」
しいな「というより。洞窟につづく道がふさがっちまったねぇ」
雪崩によって崩れた雪は、完全に洞窟につづく道をふさいでしまっている。
セレス「あ、あの、神子様、そろそろおろしていただけませんか?」
ゼロス「ん?ああ。セレス、怪我は?」
セレス「あ、ありませんわ…というか、いい加減にこのお姫さまだっこはやめてくださいませ!」
リーガル「まだ油断は禁物だ。また揺れないともかぎらないからな。いそいで街にもどろう」
リフィル「そうね。急いでスノーボートの紐を結び直しましょう」
移動はきたときとおなじようにノイシュによって。
pixv投稿日:2014年2月8日某日(Hp編集:2018年4月22日(日)
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あとがきもどき:
初期にて、ちらり、とエミルが独り言をいっていたあの台詞。
実は、氷の神殿でいきなりシルフ三女を出したいがための伏線でしたv
あと、美容云々をいったのは、なぜかユアンだったりするのですv
マーテルがなら私もやってみる、といいだして、
ミトスが必至にとめた、という経緯も過去あったりします。
(姉様に筋肉つくのは何かちがう!というミトスの意見にて)
こ、ここまでくるのがな、ながかった……
あのとき、セルシウスが~というのまで独り言に追加していたら、
それこそリフィルの懸念はより大きくなっていることでしょうw
もっとも、無意識につぶやいちゃっているがゆえ、
エミルはそんなこといったことすら覚えてませんv(マテ
ミトスはいきなり音が聞こえなくなったのを怪訝におもっていますが。
真空の壁の手前も雪がふぶいており、またウェントスにより風も吹き荒れています。
さらには、にぎやかなマルタ&セレスの会話でそれどころではなかったりする、という
…白い虎やら白い人やらミトスがきけば、まちがいなく、
それはセンチュリオンだ、と気付いていた、んですけどね。
そのあたり、センチュリオン達は抜かりありませんv
実際、いまだにラタトスクを裏切っているのは事実ですからねぇ。ミトス……
さてさて、あれ?戦闘は?とおもわれるかもしれませんが、
またまた今回の精霊戦いにおいても、エミルとセンチュリオン達の介入により、
さらり、と流されてしまっていたりしますv
裏をかえせば、
お説教&一瞬のうちにお仕置きをされ、そこまでの力がのこっていない精霊達v
~参考にしたスノーボート表~
○20cmのロングボディーの2人乗り用ソリ
スノーボート 特大 ジャンボ
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代金:2700円
○【RCP】丈夫 頑丈 そり ソリ 運搬 救助 大型
【ジャンボスレー】
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10P05Apr14M
サ イ ズ 約幅116.6×奥行57.6×高さ18cm
重 量 約3.12kg
カラー レッド
材 質 ポリエチレン
代金;5250円
この話の品はこの中間、とおもってください。
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