まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

pivixさんに投稿していた話の区切りとは変えてあります。容量的に……

今回は、指輪物語の続きが主です。あとセレスの合流についての話がちょこっとほど。
1=サイバックにて指輪購入
2=アルタミラでしいなが指輪をおとし、拾った相手からお金を渡してほしい、とたのまれる。
3=サイバックにて指輪を渡した男性にお金をてわたしたのち、返してほしい、とのたのまれる
4=王都メルトキオにて、お金を託してきた女性、ローザにお金をかえす

~今現在の旅の一行メンバー~
○シルヴァラント組。
ロイド・コレット・ジーニアス・リフィル・
○テセアラ組。
しいな、プレセア・ゼロス・リーガル・
※この話のみで参加中メンバー(すなわちオリジナル要素)※
○シルヴァラント側
マルタ
(昔はエミルに助けられた、と勘違いし、エミルを王子様、と慕っていた女の子。
  今の時代においては、やはりエミルに絡まれているところをたすけられ、
  エミルを自分の王子様!といって慕っている。エミルの真実はいまだに知らない)
○テセアラ側
タバサ・セレス
(クルシスの命令により、アルテスタがつくりだした、マーテルの器とすべき機械人形。
  人工知能が搭載されており、ゆっくりとではあるが心が育ち中)
(ゼロスの七歳年下の妹。本来ならば孤島の修道院に軟禁されていたのだが、
  教皇騎士団の暴走もあり、それをいいわけとしてゼロス達と同行がみとめられている)
○クルシス側
ミトス(ユグドラシルとしてでなく子供の姿にて合流中)
(本来のゲーム軸ではアルテスタの家にて留守番のところこの話では旅に同行中)
○世界側
エミル・(レジェンド・ラ・キャスタニエ)
(精霊ラタトスク。大樹カーラーンの精霊にて、世界のマナを司り、
  また、世界をうみだせしもの。万物の王であり魔物の王でもある。宇宙(世界)の王。
 TOP世界(時空改善がない世界の)消滅後逆行してきている当事者)
昔(移動する前の時間軸)は、記憶がないままに、エミル・キャスタニエ、といわれても、
元々使用していたディセンダー時の【キャスタニエ(演じるもの)】という苗字だったので、
まったく疑いもせずに自分をエミルという人間だ、と思い込んでいたという設定です。

今現在で十三人という一行となっています。
センチュリオン全員が目覚めているのですでにマナの調停は、
センチュリオン&魔物がやっているのでクルシスのマナの調整システム
それは関係なくなっていたりします

ちなみに、天地戦争→古代戦争、となってたりします。
つまり、天地戦争がようやくおちついて、人間の国同士がまた愚かな争いをはじめ、
で、結果として千年以上にわたるまた争いが始まった、という設定です。
あれだけひどい争い(古代戦争時代)で、しかも千年以上つづいており、
空中戦艦とかもあったことをかんがえると、一時文明が疲弊したんだろうなぁ。
とかおもったりした、というのもありますが。
人間、豊かさになれはじめたり、安定しだすと愚かなことを考える馬鹿がでてくるのですよ
ええ…
悲しいことに……


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重なり合う協奏曲~セレス・ワイルダー~

「「「わ~っ!!」」」
歓声が周囲よりわき上がる。
ふとみれば、どうやらようやくロイド達はケイトを見つけ出したらしい。
「おおっと。新たに初級の上位決定者がきまりました~!
  皆さん、拍手をお願いいたします!このまま連続して中級コースに参加なさいますか?」
お祝いの花束らしきもの。
そして商品だ、という一万二千ガルドとお薬セットが手渡される。
初級コースを勝ち抜いた者同士であらたに勝ち抜き戦があり、
その時折の初級、中級、上級、といったコースの優勝者が決定される、らしいが。
初級コースのものが中級に挑み負けた場合も、中級に直接進んだ場合、
繰り下げ的に第二位のものが初級優勝、として取り扱われることになるらしい。
もっとも、取り扱いがそうなるだけで第二位のものに賞金や賞品が渡されることはないのだが。
「あ。はい、連続してうけます」
エミルの言葉をうけ、
「おおっと!ここにつわものがいた!!
  初級コース優勝者は中級コースに挑むことが決定だぁぁ!」
『うわぁぁぁっ』
その台詞にまるで歓声によって地震がおこっているのではないか、
というほどに空気が揺れる。
優勝したものは別なる控室に案内されるらしく、係りのものに案内され、その部屋に。
「…あれ?マルタ?」
なぜかその場にマルタのみがいるのをみてとり、エミルが首をかしげといかけるが。
たしかさきほどロイド達はケイトをみつけて外にでたはず、なのに。
「エミル!すごいね!さっすがエミル!」
ぱっと目をかがやかせ、近づいてくるマルタであるが。
「…皆は?」
なぜにマルタがここにいるのだろうか。
たしかさきほどエミルがロイド達のほうを意識して視たかぎり、
ゼロス達とともにケイトを彼らの中に隠し外にでていたはず、なのだが。
やはり意識を彼らのほうにむけてみれば、町はずれにあるとある建物のほう。
地下水路に続く道がある人気のないそこに彼らが移動しているのがみてとれるのに。
「ゼロスにきいたの。優勝者はいろいろとあるんでしょ?
  だから私はエミルのお手伝い!次にエミルが優勝したら私が花束もってくね!」
「え…えっと?」
「ああ。説明してませんでしたね。お連れ様の申し出があった場合。
  こちらが手配している花係りのものとは別にお連れ様にも協力してもらうことができるんです」
首をかしげるエミルの様子に気付いた、のであろう。
その場にいた係りのものがそんなことをいってくる。
「さて。初級コースの決勝戦もおわりましたので。
  次からは中級コースの参加者のみが先ほどの控室にはいることになります」
この場はどうやら次なる場にいくための臨時的な控室、であるらしい。
一度、あの場から離れるのは、初級挑戦者がそのまま、
中級にも資金も払わずに紛れ込むのを防ぐための処置、らしいが。
連続してうける、といった時点で優勝賞金から次なる挑戦金額は差し引かれている。
闘技場の中で渡されるのは、それにともなう明細がかかれている紙のようなもの。
実際に品物をうけとるのは受付にてこの場を退出するときに金額などが清算され、
受け渡される形となっているらしい。
「エミル!頑張って!」
「あ。うん」
「では、改めて受付番号のこちらをどうぞ。このたびは規定人数を完全にクリアしていますので。
  皆さま方には普通に戦ったいただきます」
初級コースにて普通に戦う相手として指定されているのが、
ローグ、デュエリスト、ヘビーアーマー、それぞれ一体づつ。
中級コースは、一回戦がグラップラワー、コフィンマスター、フェザーマジック。
そして決勝戦にいたっては、それぞれ勝ち抜いたものたちによるトーナメント戦となり、
そのあたりは初級コースとさほど変わり映えはしていないらし。
ちなみに、初級で優勝した場合は一万二千ガルドであったが、中級は、二万ガルド、
となるらしい。
初級で配られる曰く、名目がお薬セットといわれるそれらの内容は、
エリクシール、ミラクルボトル、ミラクルグミ、といった品々であるらしいが。
「…ん?」
控室に案内されてゆくそんな中。
ふわり、と虚空が一瞬歪んだかとおもうと、そこからみおぼえのある白き姿が出現する。
「ルーメンか。どうした?」
たしかしいながルーメンをつれていたはずなのだが。
なぜにルーメンが戻ってきているのだろうか。
『エミル様。あのものたちからの伝言です』
いいつつも、自らのくちばしで足につけているらしき手紙をとりはずし、
ふわり、とエミルの手にと手渡してくる。
「これはなら、マルタに。…我は彼らを視てしっているからな。
  どうやらオゼットにむかう予定、らしいな」
どうやらケイトがオゼットに連れて行ってほしい云々、といっており。
そのまま彼らは地下水路をとおり、エレカーを使用し、
海の向こうの大陸にわたり、再びオゼットに向かうつもり、であるらしい。
少し意識をあちらに向ければそれくらいのことはたやすくわかる。
「…まあ、戻ってきたものはしかたない。なら、お前はマルタの傍に。…何があるかわからないからな」
そもそも、血気盛んな男たちも多々といる中。
マルタが危険な目にあわない、ともかぎらない。
シヴァが傍にいる時点で問題はない、とおもうのだが。
シヴァはどちらかといえば人目を気にせずに他者を消したりしそうな気がする。
それはもう果てしなく。
そんなことをすれば騒ぎになりかねないがゆえの処置。
ルーメンがいればそのあたりのことをしでかしたとしてもごまかせるであろう。

「しかし…手ごたえがないな」
何となく次なる一回戦の相手だというグラップラワー達などは、
こちらの気配に気づいて戦いにすらならないのでは、という自覚もある。
グラップラワーは本来、ガオラキアの森に生息している植物系の魔物、なのだが。
ここで使用されている、ということは人間達が捕らえたか。
もしくはここで繁殖するのがマナの調停に便利だからなのか。
おそらくは後者、なのだろうが。
すくなくとも、センチュリオン達の力が満ちている今、
魔物達の力もまた満ち足りている。
ゆえに人間達に反旗を翻そうとおもえば簡単に彼らもまたできるはず。
それをしない、ということはすくなともここにいるメリットがあるからに他ならない。
なぜか先ほど少しばかり気配を解放したがゆえか、
この地にいる魔物達のほとんどが恐縮しているらしき姿が視てとれているのだが。
魔物達が率先して動こうとしていないのをうけ、大会主催者側もまた、
中級コースにおける戦いの仕組みを今現在相談している最中であるらしい。
このままでいけば、おそらくは魔物達との戦闘をすっとばし、
参加者達のみの勝ち抜き戦になるのではないか、というような気もしなくもないが。
まあ、それならそれで問題はない。
どちらにしろ、始めの目的であるケイトの救出という目的はすでに達せられている以上、
せっかく参加したのだからここもついでに制覇しておこう、という気まぐれでしかない。
「そもそも、上位決定戦って……」
一気にたしかに上り詰めた。
疲れていない場合、そして時間がある場合は連続して上位のクラスに参加することが可能。
だからこそ優勝者は次なるクラスに参加するか否か、問いかけられる。
エミルは参加する、と答えたがゆえにここにいる、のだが。
闘技場に参加しているのはエミル一人ではないがゆえ、
戦いがおわるまでに結構時間が経過していたらしい。
そもそも、初級から上級まで、一気に連続してうけたのもまた事実。
なぜかこのたび、参加するはずであった魔物達が、
ことごとく行動不能というか動く気配がなかったとかで、
急遽、闘技場の形式がいつもと変わったという実情があるにしろ。
魔物達との戦いをすっとばし、参加者のみのトーナメント形式において、
優勝者が決められる形となっていたりする今現在。

そして今。
すでに日は暮れかけているが、連続しての戦いの末、エミルがその上級コースをも制した、のだが。
そもそも、制するも何も。
トーナメント形式で勝ち進み、
なぜかどうにかして主催者が本来使用されるべきであった魔物達。
彼らを最後に導入しよう、とあがいたらしいが、ことごとく魔物達は動くことすらしなかったらしい。
…ドラゴンナイトなどはこちらに気付くとともに、
その場にてなぜかひざまづいていたりしたりしたのだが。
竜人族の末裔がまだ生き残っていることをよしとすべきか、
それともいいように人につかわれているのをなげくべきなのか。
…どうやら、ヒトに絶滅させられるくらいならば、ヒトに屈服することを選んだらしい。
その一部のものたちがどうにかその血筋を今にまで伝えているらしいのだが。
かつての時も彼ら竜人族はその屈強な力を人間達に悪用され、
兵器として使い捨ての戦力、として投入されていた。
ヒトにかかわるな、とラタトスクがセンチュリオン達に命じさせ人気のない場所に移動していたはず、
なのだが。
そんな隠れて生活していた彼らの集落すら人間達は襲撃し、彼らを捕らえていたかつての記憶。
捕らえられた一部のものが、ヒトの手を不本意ではあったであろうがかりつつも、
どうにかその種族を存続させる結果となっているっぽいが。
ともあれ。
何でも主催者曰く、前回のミトス杯の優勝者。
その人物に繋ぎをとったらしいのだが、その人物がいまだに現れていない、らしい。
聞けば少女、であるらしいのだが。
もっとも、前回優勝者が参加するか否か、というのは任意に任されているらしい、が。
今回のミトス杯には参加する、という報告をうけていたらしい、のだが。
その当人がいまだにこの地にやってきていない、らしい。
すでに日は暮れかけており、夜の帳がおちはじめている今現在。
ミトス杯においては闘技場は夜は執り行われることはないらしい。
何でも夜は危険だからという理由で、パーティー戦の時のみ時と場合に応じ解放している、らしい。
夜になればこの地は、アンデット系の魔物がどこからともなくわいてでて、
闘技場の中をさまよいあるくがゆえに危険、と判断されてのこと、らしいのだが。
結局、ある程度まってみたが前回優勝者が指定時間内に間に合いそうもなく、
もし当人がやってきたとしても、明日、前回優勝者と戦うか否か。
その判断自体はエミルにゆだねられるらしい。
つまり、戦っても戦わなくても自由、ということらしいのだが。
そのあたりについては個人向け、すなわちシングル戦というだけのことはあり、
個人の事情を組んでいる仕組みとなっているというべきか。
数時間以上経過していることもあり、
ロイド達はあと少しでガオラキアの森に到達するあたりまで移動しているのが視てとれる。
もっとも、なぜか交通手段を使わずに徒歩で移動しているあたりも考えがあるのかわからないが。
エレカーをもっているのだから、それこそ使用すればいいのに、ともおもう。
ウンディーネの力を一度消してもらえば普通に大地でもあの乗り物は使用可能。
そのことに彼らは思い当たっているのかいないのか。
それとも追手を警戒して徒歩で移動しているのか。
「今日の闘技場はあと少しで閉鎖となります。皆さま、お忘れもののないように……」
先ほどから繰り返しそんな声がきこえてくる。
みれば、闘技場の中をメガホン片手に走り回っている係り員らしき姿も。
「エミル?どうするの?」
すでにほとんどの観客達もまた帰り支度を始めている。
マルタとエミルがいるのは、受付場。
とりあえず、時間が時間なので
今日の闘技場の成果ともいえる賞品と賞金を受け取っている今。
「もう夜だし。リフィルさんたちも夜には移動しないとおもうんだよね。
  でも、とりあえず、ここで宿をとるより、外で野宿のほうが楽、かな?」
丸太をケイトの身代わりにしているのは視て知っているが。
しかし、そんな方法をとっていれば、その脱走にみずほの民がかかわっているのでは。
と疑ってください、といっているようなもの。
ゆえに、この場にいる魔物達に少しばかり先刻戦いの合間に命令を下した。
ちょうどここには闇属性のアンデット系における魔物もいる。
テネブラエに命じ、彼らをあの牢の中にひとまずおいておいたがゆえに、
すぐに騒ぎにはならない、であろう。
なったとしても、魔物に殺された、という認識になりえる可能性が高い。
ヒトが害してこようとすればそく逃げるように、と指示を付け加えてはいるが。
シングルバトル上級の優勝賞金。三万ガルド。
そして回復セット、となづけられている賞品。
エリクシール、ミラクルボトル、ミラクルグミ、といった品々を受付にてうけとり、
すでに人気もすくなくなってきた闘技場をそんな会話をしつつも後にする。


闘技場から外にでると、
「けほっ…ケホッ…」
どこからともなく誰かがせき込んでいる声がきこえてくる。
ふと声のするほうに視線をむけてみれば、そこにかがみこんでいる一人の人間。
何やらみおぼえがあるようなマナのような気がするのはエミルの気のせいか。
ゆえに、首をかしげつつも、そちらのほうに近づいてゆく。

「ケホッ、ケホッ……」
「えっと…?大丈夫ですか?」
建物の隅にてかがみこみ、せき込んでいる人間にときづき声をかける。
何かみおぼえのあるマナをもつ人間。
「セレス様、お水を…」
ふとエミルがかがみこみ、声をかけるとほぼ同時、
執事服らしきものを着こんでいる男性がこちらにと近寄ってくる。
「トクナガ…ありがとう。それと、大丈夫、です。ケホッ」
息もくるしそうにそういいながらもよろけつつも立ち上がる。
装飾が多めの白きブラウス。
短いがゆったりとしたスカート。
大きめの橙色の帽子。
肩の辺りまである赤い髪が印象深い。
ゼロスの髪が深紅ならば、この少女の髪の色は桃色がかった赤色。
というか…この子ってどうみても、ゼロスの妹の……
エミルが知っているのはロイドにソルムの幻影の力で化けたデクスが浚った少女。
セレスに何かあればヴァンガードのやつら、皆殺しだ、
とか何やらゼロスがあのときそんなことをいっていたのをふとエミルは思い出す。
マルタが謝っても許せそうにない、といっていたことも。
しいなやリーガル達が当時いっていたのは、
ゼロスはとてもこの妹を大切にしている云々、といっていたような気が。
エミルがかつてのことを思い出し、おもわずまじまじとその少女をみている中、
「おや。あなたは。たしか、神子様のおともの……」
ふとトクナガ、と呼ばれた人物がエミルに気付いたらしく声をかけてくる。
「え?では、トクナガ。この人が例の?」
その言葉をうけ、まじまじとエミルを観察しはじめるその少女。
「エミルー!って、誰?その人達?」
闘技場にて連続して戦っていたのだからノドがかわいてるでしょう?!
といいい、こちらの意見も聞かずに飲み物をかいにいっていたマルタが、
なぜか両手に飲み物をもったままこちらにかけってくるのがみてとれるが。
そのまま、エミルの目の前にいる少女と男性をみて首をかしげてといかけてくる。
「さあ?でも、今、この人達、神子っていってたから。もしかしてゼロスさんの知り合いかも」
知り合いも知り合い。
エミルの記憶が確かならば、この少女はたしかゼロスの妹であったはず。
たしか体が弱いとか当時いっていたような気がするのだが。
たしかにマナが極力弱い。
簡単にいえば魂のもつ力に、体となっている器がおいついておらず、
マナの容量と器がおいつかず、虚弱体質になっているらしい。
あの当時は力も、そして記憶すらも取り戻していなかったのでそこまではわからなかった、
のだが。
近すぎる血による交配により、マナがいくばくか狂わされている結果であるらしい。
とある時代ならばこういったであろうが。
すなわち、遺伝子が多少狂っている、と。
もしくはドクメントの構成が本来あるべきものからすこしばかり狂っているがゆえの障害。
「え?ゼロスの?そういえば、何となく感じが似てる…
  あ!もしかしてゼロスがいってた妹さん!?ゼロスと違っておしとやかっぽい。
  歳のころは…コレット達と同じくらい、それより下、かな?」
たしかに赤い髪もその瞳の色もゼロスと同じ。
決定的なのはマナが酷似しまくっている、という点でまちがいなく血縁者。
ぱっと見た目、コレットと同い年、もしくは少し下くらいにみえるが。
そういえば、彼女は当時、たしか十八になったばかりとか何やらいっていたことからして、
今のこの彼女はならば十六なのであろう。
つまり、コレットやロイドと同世代といえる。
「そうかなぁ?ゼロスがいったらよく似てるだろ、というとおもうけど。
  あと、ゼロスだったら、自分は美貌と知性と教養と、とかいろいろといいそう」
実際にいうような気がする。
それはもう果てしなく。
というか間違いなくいう。
これは断言できる。
絶対に。
「そういえば、エミル闘技場で優勝したから、ゼロスもきっとエミルに一目おくね!」
「別におかれなくてもいいけど……」
おかれたからといって別にどうということもないが。
もっともそれで自分のほうにも協力してくれる気になるのならばそれにこしたことはない。
今、ゼロスはユアン、クラトス、そしてクルシス。
三方だけでなくロイド達も見定めている節がある。
別に実害がないのでエミルもそれに関しては何もいっていない、のだが。
協力者がいるのといないのとでは、ごまかしようもかわってくる。
いざとなればそれこそ自らの身を分けて行動することも考える必要があるであろう。
それこそ分身体、として。
いつもの蝶など、といったものでなく、生身の器、としての分身を。
「ううん!さすが私のエミル!」
そんなエミルに対し、きらきらと瞳をかがやかしながら
「はい。エミル」
両手にもっていたコップの一つをエミルにと差しだしてくるマルタの姿。
「あ、ありがとう。…えっと、それで、本当に大丈夫なんですか?
   なんかものすごく顔色もわるいですけど」
マルタがかってきた飲み物をうけとりつつも、改めてセレスと呼ばれた少女に問いかける。
そんなエミルの問いかけに対し、
「へ、平気ですわ。ごほっ」
ごほごほっ。
あきらかに平気じゃない。
息つぎすらできそうがないくらい、ものすごくせき込んでいる。
「うわ。顔色がわるいよ!?お、お医者さんにいかないと!」
その様子に気づき、マルタが焦った声をだす。
「問題…ありませんわ」
「そんなことないでしょ!?顔色もわるいし。はやく医者に……」
「…お医者でもどうしようもありませんわ」
マルタの焦った声をきき、どこか諦めきったような声をだすその少女。
「そんな…どうにかならないの?」
ゼロスの妹、といわれ否定しなかったところをみるとおそらくは、
ゼロスの口から時折でてきていた妹当人、なのだろうが。
さすがに顔色も真っ青で、しかもかなりせき込んでいるのを目の当たりにし、
いつものマルタならばエミルに近づく女性にたいし牽制をしかけるところなれど、
どうやらそんな気にもならないらしく、逆に心配そうに少女にと問いかけている。
「…セレス様は生まれつき病弱なのでございます。
  お医者には安静に、といわれているのですが……」
「えっと。あなたは?」
そんなマルタの様子に思うところがあったのか、執事服をきている男性がいってくる。
そんな男性に対し、マルタが首をかしげつつ問いかけると、
「申し遅れました。わたくしはセレス様のお世話役のトクナガ、と申します」
いいつつも、流暢な動作でお時儀をしつつ、名乗ってくるその男性。
どうやら彼の名前はトクナガ、であるらしい。
たしか、彼はかつてグラキエスのコアを購入していたな。
ふとエミルはどうでもいいことを思い出す。
あのとき、コアの気配にきづけなかったのは、やはり力が戻っていなかった障害、といえよう。
もしもあのとき気付いていれば、少しは違った結果になったであろうに。
もっとも、それを今さらいってもどうにもならないのもまた事実なれど。
「えっと。その病弱だっていうゼロスの妹さんのその子がどうしてここに?」
そももそ、なぜにゼロスの妹がここにいる、のだろう。
そんなエミルの問いかけに、
「それは……そういえば、神子様はご一緒ではないのですか?」
さらり、と話題をかえて逆にトナクガとなのった男性がといかけてくる。
「ゼロスさん達なら、ロイド達と一緒に今ごろはガオラキアの森をぬけて、
  オゼットの村にいってるんじゃないのかなぁ?」
それほどまでにあれから時間は経過している。
実際、先ほど視るかぎり、彼ら一行はオゼットの村にたどり着いているらしい。
なぜかプレセアの家のあった場所で見慣れない人物と話しているのが視てとれる。
「わた…くし、はっ。ごほごほっ」
「もう。無理しないで。あ、これ。まだ手をつけてないから大丈夫だよ?」
いいつつも、手にしていたフルーツジュースを差し出すマルタ。
さすがに目の前でかなりせき込んでおり、
顔色も真っ青の少女に対し思うところがあるらしい。
「…とりあえず、どこかで体を休めたほうがよさそうですけど。
  もう夕方だし、これから移動するにしても遅くなるし。
  僕たちは外で野宿でもしようとおもってたんですけど…
  心配ですから送っていきましょうか?」
そういえば、どうやってここにきたのだろうか、とふとおもう。
たしか、あのときゼロスがいうには、かつて彼女は修道院とかいうところに、
ほとんど軟禁されていたとか何とかといっていたような気も。
修道院、というのはあの修道院なのであろう。
世界を視たときに一応確認はしているが。
というかあそこからどうやってここまで、という思いのほうがエミルからしてみれば強い。
本当にどうやってここまでやってきたのやら。
可能性としてはかの地に定期的にはいっている物資を配達する船に紛れてなのだろうが。
そもそも、いくら孤島とはいえ食事などの物資は必要。
ゆえに定期的にそういう船が出入りしているのは間違いない、とおもうのだが。
ヒトであるかぎり、何も食べない、というわけにはいかないのだから。
「セレス様、とりあえず今日はもう闘技場は閉められる模様です」
「そのよう…ですわね。ごほっ」
どうやら彼女もまたこの闘技場をみにきた、らしい。
こんな時間になったのはやはり体調ゆえ、なのか。
「あの。本当に大丈夫なんですか?」
「いつもの…ことですわ。…ありがとう。すこし落ちつきました」
マルタが差し出した飲み物をすこし飲み干しおちついたのか、
ようやく息が整い始めたらしくそんなことをいってくる。
「セレス様。このような時間になってしまいましたので。
  いつものようにセバスチャンに繋ぎをとりて本日はお屋敷で休ませていただきましょう」
そこまでいい、そしてちらり、とその視線をエミルとマルタにむけ、
「できましたら、お二方にも一緒に御同行していただければ幸いです。
  セレス様はいつも修道院でひとりきり、なので。
  旅のお話しや、できましたら神子様のお話しなどをセレス様にしていだけましたら。
  とても助かるのですが……」
うやうやしくお辞儀をしながらそんな提案をしてくる。
「?修道院?セレスさん…だったよね?えっと、ゼロスと一緒に住んでいないの?」
「…お兄様と私は……」
そういい顔をふせるセレスであるが。
「…セレス様は国によって修道院にゼロス様とは住む場所を変えられているのです」
「何で…あ。そっか。ゼロスがいってたことにあたるのかな?
  たしか、ゼロスは親戚はメルトキオに住んでいないって。
  神子の血族は万が一の天災などに備えて、住む場所がわけられてるって。
  そんなことを前……」
それはロイドが身分差別を目の当たりにし、その話題になったときにいっていたこと。
コレットの親戚などにも話しがおよび、ゼロスがたしかそんなことをいっていたはず。
そのとき、たしかシルヴァラントも繁栄世界になれば、
コレットの家はかなりの金持ちになるとか何とかいっていたような気がするが。
だけど、ともおもう。
「…兄妹でも一緒にすめない、だなんて、なんか、嫌、だな……」
自分には妹も姉もいない。
否、いたにはいたらしい。
姉が。
しかし、幼い日にディザイアンに殺された、そうマルタは聞かされている。
マルタがまだ物ごころつく前であったのでマルタには記憶がないのだが。
うつむくセレスの様子に思うところがあったのであろう。
「うん。わかった!旅のこととか、ゼロスのこととかいっぱいはなしてあけるね!」
「本当ですか!?お兄様のことをお話しいただけるのですか!?」
先ほどまで顔色がわるかったのだが、今もまだ悪いが、
その青白い顔にぱっと赤みがさす。
どうやら本当にうれしい、らしい。
「うん!まっかせて!いいよね?エミル」
というか、だめ、といっても自分一人でもいく、と絶対にいうよな。
このマルタの様子だと。
思わずそんなマルタの様子をみつつ苦笑しながらも、
「僕はかまわないけど。でもいいのかな?
  かってに僕たちもお邪魔して。…野宿の用意しなくてすむのはたすかるけどさ」
野宿にするつもりであったのは、まちがいなく宿に魔物達がやってきかねないがゆえ。
他の客などもいるので騒ぎになりえる可能性が高いがゆえに、
あえて野宿をするつもりであったのだが。
「神子様のおともの方々です。私からもセバスチャン殿にお願いしてみましょう」
どうやらエミルとマルタがゼロスの屋敷に今晩厄介になるのは確定、であるらしい。
「…なら、あとで。屋敷についたあと、ゼロスさん達に手紙でもおくっときますね」
どちらにしても、こちらで一晩すごすのならば。
おそらくリフィル達もまた深夜の森を移動するようなまねはしないであろうことから、
朝になり移動するつもりであろう。
なら入れちがいにならないように、先に待ち合わせの場所。
サイバックの街で待ち合わせ、として打ち合わせしておいたほうが…よい。


「へえ。セレスさんって、今十六、なんだ。ならロイドやコレットと同じ、だね」
神子の旅立ちは、神子が十六の誕生日になってから。
といわれている。
救いの塔が現れてあれから一年もたっていないがゆえに、
それを考えれば今回の神子の旅は救いの塔にたどりつくまで、
今まで記録にのこっている旅の中で最短であったのではなかろうか。
ふとそんなことを思いつつもマルタがセレスにと話しかける。
「そう。ですか。お兄様は今、シルヴァラントの神子と……
  黄泉の国、といわれていたシルヴァラント…興味深いですわ。
  本当にあったのですね。衰退世界……あ、あの。それでその…
  お兄様をたぶらかすような、その……」
女の子は女の子同士がいいだろう。
特にセレス様には同年代に近い女の子もいないので、一緒にお願いします。
といわれ、一緒の部屋をあてがわれた。
エミルは客であるがゆえに一人部屋をあてがわれているらしいが。
ゼロスの屋敷にて食事を済まし、それぞれ疲れているだろう。
という意見もあいまって、すでに寝室にそれぞれ入っているマルタ達。
「ああ。大丈夫だよ。シルヴァラントの神子のコレットっていう子はね。
  もうロイドって子一筋みたいだし」
「でも、お兄様をたぶらかす女狐のあのみずほのしいなという人もいるのでしょう!?」
「女狐って…しいなのこと?」
「だって、だってお兄様が以前、彼女のことをお兄様のハニーってっ!」
「…それ、ゼロスが口でいってるだけだとおもうな。うん」
どうもゼロスは妹の反応がみたくて、からかい半分にいったのでは?
という気持ちのほうがマルタからしてみれば遥かに強い。
というかむしろそれが真実だ、と確信をもっていえる。
先に体が弱いセレスをセバスチャンが寝室に案内したのち、
マルタは彼女に関して簡単なことは聞かされている。
何でも体がよわい、というのに国の命令で
女ばかりの修道院にあるいみで軟禁状態となっているというこの少女。
何それ!?
とおもわずマルタが憤ったのはいうまでもなく。
幼いころから修道院に軟禁されているので友人、という友人は皆無であることも。
彼女セレスにとって兄であるゼロスが唯一の世界との繋がりであること、などなど。
だからか、ともおもう。
国王の元にてゼロスが妹の話題をだしたとき、どこか険悪な雰囲気に陥ったのは。
そういう事情があるのならば、ゼロスのあの態度もうなづける。
…もっとも、執事達もまた詳しいことまでは説明していない、のだが。
いわく、セレスの母親が神子ゼロスを殺そうと刺客を差し向けて
そんなゼロスをかばってゼロスの実母が死んだり、
その罪によってセレスの母が処刑され、それを示唆したとされたのが、
当時まだ幼いセレスとされ、罪を押し付けられてその罪で軟禁されることになったことなど。
そういった事情は執事二人からはマルタに聞かされてはいない。
しかも、詳しくきけば、その修道院は教皇騎士団達が常に見張りをしている、らしい。
よくそんなところから抜け出せましたね。
とマルタとエミルが問いかければ、どうやら身の回りの世話をする女史。
そんな彼女達が外にすらでることを許されないセレスに同情し、
力をかしてくれているがゆえに時折こうして外にでることが可能、となっているらしい。
ゼロスが時折やってきては、病気療法という名目で、よく以前は温泉などに連れ出していた。
ということらしい、のだが。
…監視の目つきで。
たしかにそれでは息苦しくなってしまうであろう、というのはマルタでも嫌でもわかる。
それでなくても病弱な少女にこの国はどんな仕打ちをしているのか。
と憤るのも無理はない。
騎士団、ときき、エミルがすこしばかり考える仕草をしていたのにはマルタも気になったが。
そのとき問いかけても何でもない、とはぐらかされ、結局、話しはきけていない。


「しかし……」
追い詰められた人間は何をしでかすかわからない。
よくもまあ、いつの時代もかわらない。
つくづく人というものは。
周囲にみちる鉄さびにもにた匂い。
修道院、という言葉をきき、意識をこちらに向けてみれば何のことはない。
教皇騎士団とおもわれし人間達によってこの地はすでに襲撃をうけていた。
なぜ騎士団が、と怪訝に思うままに、力なく殺されていった修道女達。
彼女達はなぜ殺されたのかがわからずに、その場にとどまりおいている。
なぜ、と。
その場に幽体となりてとどまり、戸惑いを隠し切れていない存在達の姿がそこにある。
部屋をあてがわれ、一人になったがゆえにこちらにと移動した。
夜であることから闇を利用しての簡易移動。
闇から闇への移動はテネブラエがもっとも得意とするものであり、
またそれゆえに自身のマナを使う必要もないともいえる。
もっとも、センチュリオン達の力が満ちている以上、わざわざ自身の力をつかわずとも、
世界にみちている彼らの力を利用して簡単に移動することは可能なれど。
主要と人々がしている大陸から離れていることもあり、
おそらく彼女達のは国から教皇達に手配がかかったことすらしらされることなく、
そのままいきなり襲撃してきた彼らによって命を落とした、のであろう。
「ほんとうに、これだからヒトは愚かな……」
小さな島に唯一ある塔の中へとはいってゆく。
塔の一番上。
塔のいたるところに血がとびちり、あかぐろい染みとなっている。
彼女達には何の罪もないであろうに。
しかし、
「…このまま生き証人がいない、というのも問題…か?」
すくなくとも、まだ蘇生可能なものは幾人かみうけられる。
ならば、彼らを蘇らせ、国に説明させるのが一番無難、であるであろう。
いきなりの襲撃をうけ、国の本意を問いただすためか、
この地においてあった伝書鳩はすでに解き放たれている模様。
おそらく近いうちに国からの使者がこの場にたどりつくはず。
早くて明日か、明後日、そのあたりには。
「さて。お前達に問う。まだお前達は生き返らせることが可能のものがいる。
  どうする?それともこのまま死して次なる生をむかえるか?」
それは問いかけ。
この場にいるすでに死者の魂となりしものたちへの問いかけ。


バタバタバタ。
朝から何やら騒がしい。
「どうかしたんですか?」
部屋から外にでて一階に降りていけばいつになく険しい表情のセバスチャンと。
そして、向かいあうようにして話しこんでいるトクナガの姿。
どうやら昨日、かの修道院から放たれた伝書鳩が王国にたどり着いたらしく、
教皇騎士団による修道院への襲撃、が国に伝わったらしい。
うまく手紙にはごまかし、セレス様は襲撃の最中、逃がしました、という旨が書かれていたっぽいが。
真偽を確かめるために調査隊が組織され、朝早くに修道院にむかって派遣されたらしい。
どうやらそのことを教会関係者がセバスチャンに伝えてきたらしく、
そのことについて話しあっていた模様。
「これは。いえ、少しばかり…しかし、セレス様は……」
「これは耳にはいられませんぬな」
救いはセレスがそのことに気付いていない、という点であろう。
自分によくしてくれていた修道女達がことごとく殺されたかもしれない、などと。
それでなくても体の弱いセレスが聞けば、そく倒れかねないその事実。
「これは、いえ。何でも…そういえば、いつおたちになるのですか?」
「あ。はい。昨日のうちに手紙を皆のもとにことづけたので。
  とりあえずサイバックで落ち合う予定にはしているのですけど」
一応、この屋敷にお世話になるにあたり、
明日になればゼロス達と合流するために出発する旨は伝えてある。
「彼らにやはり頼むのがよろしいかと」
「しかし…いえ、そうですね。今の状態ではたしかに。神子様の傍が安全かと……」
「?」
何やら二人して深刻そうにはなしているが。
どうやらセレスをどうするのか、そのあたりのことを話しあっていたらしい。
かの修道院が襲撃をうけた以上、あの場に戻るのは危険、とトクナガは判断したらしいが。
たしかにそのとおりではある。
教皇達が何かしなくても、下手をすればクルシス側が何かしてくる可能性も否めない。
ミトスはそんなことをしない、とおもいたいが。
どうも近くにいればいるほど、あの子はかつての志を失っている。
そのことを嫌でも思い知らされてしまう。
根本的なものはかわっていない…と思いたい、のだが。
「しかし。セレス様はエクスフィアの恩恵がある、とはいえ。
  ときおり寝込むようなこともありますし。旅に同行なさるのは…」
「たしか、神子様のおともには、腕のいい治癒術士もおられるので。
  何かあったらそのものにたよるのもよろしいのでは?」
トクナガの心配そうな台詞に、セバスチャンがそんなことをいってくる。
たしかにちょっとした治癒術ならば今のリフィルならぱ使いこなせる。
伊達にユニコーンホーンを託されているわけではない。
「何かいい治癒の品でもあればいいんですが……」
そんなことをいいつつ、二人してなぜかその場にてふさぎこむ。
そんな彼らにたいし、
「あの?治癒の力をもつ石、ならありますけど?」
「「え?」」
二人が驚愕している最中、ポシェットの中から一つの首飾りを取り出すエミル。
昨夜、かの地にて、セレス様のことをお願いします。
と助けた修道女達からいわれたのをうけ、念のために創っておいた品。
もっともぱっと見た目は蝶の形をした首飾りでしかないそれ。
瞳の部分に使用されている石に特徴がある。
それはどこまでも澄み切った青い石。
「それは?」
「この首飾りに使われている石は、より強い治癒の力が秘められているといわれています」
実際にその通り、なのだが。
「?そのような石があるのですか?」
「もしかして、それはシルヴァラントの?その石の名は?」
首をひたすらにかしげるトクナガに、
エミルがシルヴァラントからやってきている、というのをしっているからか、
セバスチャンが思いついたようにとといかけてくる。
ここテセアラではそのような石の存在はきいたことはない。
ないが、シルヴァラントにはそのような石があるのかもしれない。
そうおもっての問いかけらしいが。
「…ネルフィス。といいます」
かつてのデリス・カーラーンにおいてはエバーライトとも呼ばれていた。
マナが凝縮された結晶。
もっとも人が使用せしはマナの根本たる力までは使用できず、
表て向きには難病、もしくは死をわずらっている怪我すらをも治す高い治癒力をもっている。
そのようにかつては伝えられていたもの。
もっとも、だんだんとどんな願いもかなえる石、というように
かつては人の噂の中で、尾ヒレがついてしまっていたが。
創世時代にはその伝承もこの地に残っていたはずだが、
今はエルフ達ですら覚えているかどうかすらあやしい。
この石はみにつけているだけで、そのマナがみにつけているものの器ににじみこみ、
ゆっくりと、しかし確実にマナに歪みを正しく治す。
本来あるべきより完全に近しい形に修正してゆく、といっても過言ではない。
そのせいなのか、なぜか何でも願いがかなう石、などかつていわれていたこともあったが。
そういえば、この石をめぐっても、かつての争いの最中。
天地戦争、と後に人が呼び始めたあの時も騒ぎになったことをふと思い出す。
石そのものにはそんな力はない、というのに。
マナの流れ、そして大きさを感じ取れるものがそれをみれば、
それはマナの塊である、とすぐに感じ取れるほどのマナの結晶。
マナの欠片、とよばれている代物などとは比べ物にもならない高濃度たる結晶体。
かつては魔物達の体内でこれを精製させていたのだが、いかんせん。
それを目当てに人が魔物を乱獲し始めたがゆえに、その理はかきかえた。
ゆえに今、この石の存在をしっているとするならば。
精霊達、もしくはセンチュリオン達くらいであろう。
最も彼らにエミルはそこまで詳しく説明する気はさらさらないが。
「ネルフィス、ですか。きいたことがないですね」
「ええ。しかしそのようなものがあるとは…セレス様の病弱体質によき影響になりますかな?」
「さあ?それは何とも…でも少しは違うんじゃないですか?
  常にみにつけていれば病弱体質の子が健康体になった。
  っていう話しもきいたことがありますし」
もっともたしかあのときはブローチの形にしてみにつけさせていたらしいが。
あのセレスの様子を視る限り、完全に治るにしても、時間がかかるであろう。
もっともざっとみたかぎりあの程度のマナの歪みならば、
常に身につけてさえおけば数年のうちには健康体にかわりゆくであろうが。
そんなエミルの台詞に思うところがあったのであろう。
やがて、なぜかがっしりとエミルの手をつかみ、
「エミル様。お願いがあります」
「え?あ、はい。何でしょうか?」
いきなり真剣な表情をむけられて思わずとまどってしまう。
「わたくしとセレス様をサイバックにまでお連れいただけませんか?
  そこで神子様にどうしてもお話ししなければならないことがありますので」
「…かまいませんけど……これ、どうします?」
とりあえず、ぶらぶらと手の中で蝶の首飾りをもてあそびつつもといかける。
「それはできましたら、エミル様のほうから神子様にセレス様に渡すように。
  それとなくいってくださいませんか?セレス様は神子様からのもらいものならば、
  絶対にいわずとも御身の身につけられますので」
治癒の力の効果のほどはわからないが、病弱体質の子が健康体になった。
という話しがすくなくとも伝わっているのならば、信憑性ははるかに高い。
それに、今朝早くに伝書鳩が国にたどりついたとはいえ、
襲撃されてまもないというのに自分とセレスがすでに首都にいる、
というのは余計な懸念を産みかねない。
しかし、サイバックならば。
詳しくは伝達にきた祭司がいうには書かれていなかったとのことらしいが。
ならばそれを利用しない手はない。
サイバックからたしか荷物便が近日中にかの修道院には届くはずであった。
その便にまぎれこみ、逃げだした、とでもいえばどうとでもなる。
もっともその場合は乗組員達の口裏合わせ、というものが必要となるであろうが。


「おはよ~って。エミル。早いねぇ」
「あ。おはよう。マルタ。あれ?セレスさんは?」
一緒にねていたはずのセレスが共にいない。
「身仕度をしてるよ。すぐにおりてくるって。どうかしたの?」
なぜか三人が顔を突き合わせて深刻そうに話している様子に気付いたらしく、
首をかしげつつといかけてくる。
そんなマルタに対し、
「いえ。今、こちらのかたに、サイバックに出向かれるならば、
  わたくしどもも一緒にお願いできないか、と頼んでいたのですよ。
  神子様もどうやらそちらにこられるようですのでね。
  できればセレス様を神子様にあわせてさしあげたいので。
  それに…神子様のお連れには、セレス様と同年代の少年少女もいる、とか?
  セレス様にはその、そのような知り合いはおられませんので……」
そういい口をつぐむトクナガの台詞に思うところがあった、のであろう。
「そっか。そうだよね!うん。わかった!
  きっと、コレットもロイド達もセレスのこときにいるよ!うん!
  ちょっと恥ずかしがり屋なところの面もあるらしいけど。
  特にロイドと話していたらそんなの馬鹿らしい、って思うようになるだろうし」
昨夜のうちに、セレスから同年代の知り合いがまったくいない。
というのをマルタは聞かされていたがゆえに、トクナガの台詞にすぐさまに同意する。
そこに含まれている言葉の裏の意味はマルタはわからない。
わからないが、純粋にどうやらセレスをコレット達にひきあわせ、
できうれば友人にしてしまいたいらしい。
「昨日のうちにルーメンに手紙は託しているから。
  ロイド達もサイバックでまってるとおもうよ?」
ちらり、と視る限り、どうやらちょうどロイド達もまたアルテスタの家をでたところ、らしいが。
「なら。エミル。セレスさんも一緒に旅をするようになるの?」
「それはわからないけど…そうなる、んじゃないのかな?」
少なくとも。
国がどのような判断をするのか。
神子ゼロスのもとにセレスをおいておいたほうがいい、と判断するのか。
それとも、やはり今度は城の中に幽閉すべきだ、という意見がでるのか。
それはエミルにもわからない。
どちらにしても愚かなるヒトが考えることをここで考えても仕方がない。
それに合流さえさしてしまえば、
絶対にロイド達が再び幽閉などということは許しはしないであろう。
それこそリフィルが懸念しているとおり、相手が国王でも思いっきり喧嘩を吹っ掛ける。
絶対に。
それでなくても、国が定めた処刑がきまっていたケイトという人物を、
牢獄の中から自分達にかかわったせいだから、という理由だけで助けだしたロイド達ならば。


ざわざわざわ。
あいかわらず、にぎやかというか、白い服をきた人物達が行き交っているこの街。
サイバック。
ロイド達はオゼットの村からここ、サイバックへ。
そしてマルタとエミルは新たな同行者二人をつれて、ここサイバックへ。
合流地点、ときめたこの場にて待っている最中。
「お~い!エミル、いた!」
港にて海をみていたエミル達の耳にきこえてくるは、聞きなれた声。
王都から出て、海岸線沿いにまでいき、魔物を呼び出しここにまで移動してきた。
どうやら結果としてロイド達より早くこの地についていたらしいが。
港には巨大な船が隣接している。
エミルが港にいたのは、みおぼえのある船が停泊していたがゆえ。
まさか、とおもい近づいていけば、船員らしき人物がおりてきて、
エミル様がたですね、と声をかけられたのはつい先刻のこと。
全長、百三十メートルにもおよぶ巨大客船。
目の前にあるこの船こそが、リーガルがかつていっていたレザレノの所有する、
高速艇のそれであったりする。
準備ができたがゆえに、この港に入港してきたとのことらしい。
幅も十九メートルとちょっとした豪華客船、とヒトがいう分野にはいるのではないのか?
といったようなその容貌のその船は、エミルがかつて、
自身が精霊だ、と忘れていたときにリーガルの好意によって利用させてもらっていた船そのもの。
そういえば、といまさらながらにおもうのだが。
あのとき、いつ港もにどる自分達にあわせ、乗組員達も時間をつぶしていたのであろうか。
常に停泊できる港がなかったがゆえにその近くまでいっては小舟で移動していたのもなつかしい。
それは遥かなるかつての記憶。
もっともそのことを覚えているのはもうエミルしかいない、のだが。
元々あったあの【惑星】そのものすら、爆発を経て別なる惑星として生まれ変わっている。
「あ。皆」
「お…お兄……」
「?セレス?」
その中にゼロスの姿をみとめてか、マルタの背後に隠れるようにそっとその背後に回り込む。
そんなセレスの様子を怪訝におもったのであろう、
マルタが後ろを振り返りつつも首をかしげて声をかけるが。
「な!?セレス!?なんでお前がこんなところにいるんだ!?
  お前は修道院からでたらいけないんだぞ!?」
そんなセレスの姿に気付いたのか、ゼロスが驚愕したように声をあらげてくるが。
…どうやらゼロスはまだ、修道院が襲われた、という事実を知らされていないらしい。
「…ことと次第によっちゃあ、お前が妹でも……」
ゼロスがそういいかけると。
「ええ!?ゼロスの妹!?にてないっ!」
「うわ~。ゼロスの妹さんなんだ。はじめまして。
  私、コレット・ブリューネルっていいます。あなたは?」
そんなゼロスの言葉をさえぎり、おもわずまじまじとマルタの背後にかくれた少女と、
そしてゼロスを見比べて驚愕の声をあげているジーニアスに。
にこにこと、そんな少女のもとにかけよっていきつつも、
ぎゅっとその手をにぎりしめ、にこやかに名をきいているコレット。
さすがというか何というか。
いつまに、という認識のほうが強い。
いきなり手を握られて、おもいっきりセレスが動揺しているのがみてとれる。
「?何だってあんたの妹がこんなところにいるんだい?修道院にいるはずだろ?」
「俺様にきくな。何がどうなって……」
しいなにいわれ、ゼロスにも意味がわからずに困惑した声をあげているが。
「?エミル?マルタ?その子は、いったい?」
リフィルがそんなゼロス、そして妹、といわれた少女をちらりとみつつ声をかけてくる。
「えっと……」
エミルが説明をしかけようとすると。
「神子様!」
ふと、横手のほうから第三者の声がする。
みれば、どうやらトクナガがもどってきたらしい。
彼曰く、修道院に立ち寄ったであろう船員達に話しがあるといって別行動を少ししていたのだが。
「トクナガ。いったい何が……」
セレスの世話係りであるトクナガがこの場にいる、ということは、まぎれもなくセレス当人なのであろうが。
だからこそゼロスは不審、というよりは心配になってしまう。
体の弱いセレスを長い時間つれまわせば、いつ倒れてしまうかわからない。
そんな心配。
ちらり、とトクナガが視線をはしらせ、セレスのほうをみたことにより、
何かある、と瞬時に判断、したのであろう。
「リフィル様。俺さまちょっとこいつと話しがあるから」
いって、トクナガを促し、その場を少しはなれようとするゼロスに対し、
「私もきかせてもらえるかしら?私もしっておく必要性があるような気がするのよ」
「…あたしもいくよ。…あの子はどうも苦手だからねぇ」
なぜかいつのまにか敵視されては、おいかけまわされていた。
ゆえにしいなが首をすくめつつも、リフィルに続きいってくる。
今、彼らがいるのはサイバックの港。
巨大な船が入港していることもあり、ひと目見ようとしている研究者、
そして学生達もまたこの場にはあつまり、ちょっとしたにぎわい状態となっているこの場。
ゆえに、彼らがどれだけ騒いでいても周囲に気づかれない、というのは
あるいみ幸いといえるであろう。


「…何だって?」
少し離れトクナガより説明をうけた第一声のゼロスの声はとても固い。
その声には怒りすらたまっている。
「教皇のやつ…っ」
トクナガは真実と嘘をまじえ、さしつかえのないことをゼロスにと説明している。
いわく、修道院がなぜかいきなり教皇騎士団に襲撃をうけたこと。
そして、そのときやってきていた貨物船に修道女達がセレス様と私を乗せて逃がし、
何とか無事に逃げおおせたこと。かの地がどうなっているか今はわからない、ということ。
「…追い詰められた人間は何をするかわからない、とはいうけどさ……」
しいなもそんなトクナガの説明をきき、ぎゅっと手を握り締める。
国が教皇や、その配下たる騎士団を指名手配したことはしいなとて理解している。
しかしまさかその矛先がゼロスの妹のほうにむけられるとは。
「神子様。いったい何がおこっているのでしょうか?」
少し不安げなトクナガの様子。
これが演技だというのだからあるいみですごいというよりほかにはない。
まあ、実際に素もはいっているのではあろうが。
事実、かの地が騎士団に襲われたのも本当。
彼らはそれよりまえにかの地を脱走していた、というのを除けばそこに嘘はない。
「セレス様の身の安全を考えていましたところ。
  ちょうどそこの船の船員がたに神子様がたと合流する話しがあるとききまして。
  それで、神子様がたの連れだというあの子供達にも話しをききまして」
マルタとエミルに王都であった、というのをいわないのがミソ。
あったのは事実なれど、それはここで、ではない。
しかし、話しを聞く限り、ここでたまたま出会った、と人はまちがいなく勘違いをするであろう。
事情をしらないものは特に。
「教皇のやつはついに尻尾をだしただけ、なんだけどな。
  しかし、あの狒々爺…セレスを利用しようとしていただけじゃなく、命までっ」
おそらくは、セレスを襲撃し捕らえ、自分にたいしての人質とするつもりだったのだろう。
あの教皇は。
それが理解できるがゆえにゼロスは吐き捨てるように言い放つ。
もっとも、その目的であるセレスが捕らえられなかった以上、
別なる手をうってくる可能性がはるかに高い。
「なぜに教皇騎士団がセレス様を、という思いもありますが。しかし、事が事です。
  なのでセレス様はもっとも安全と思われる神子様のおそばに、とおもいまして……」
「おいおい。トクナガ。俺様は今大事な旅の最中なんだぞ?
  セレスはそれでなくても体がよわいだろうが。
  いくらクルシスの輝石とエクスフィア、その恩恵で寝たきりではなくなれたにしても。
  それでもときおり寝込んだりするだろうが。
  そんな奴を危険な旅に同行させるなんて……」
それでなくてもセレスは昔から体がよわくほとんど寝たきりであった。
少しばかり走ったりしてもせき込み、すぐに寝込んでいた。
だからこそ、ゼロスが怪訝そうに言いつのるが、
「でも。ゼロス。このトクナガ、という人のいうことにも一理あるわね。
  その修道院、というところにあなたの妹さんは事情はともあれ、いたのでしょう?
  なら、別なところに保護したとしても、狙われる可能性は…あるわ。
  城の中での保護も危険でしょう。すくなくとも、教皇の毒殺がまかり通るくらいだったのですもの」
そもそも、教皇が差し入れした品だからといって毒味すらしていなかったらしい。
そして、その教皇派とよばれる貴族が城の中にいない、ともかぎらない。
「私はこれから王都にでむきまして。国王陛下にあらましを伝える所存です。
  しかし、その間、セレス様のことがきがかりでして。
  セレス様の安全を考えれば神子様とともにおられたほうがよろしいかと……」
「しかしなぁ。あいつは体がものすごくよわいんだぞ!?
  この前も熱だしてねこんでただろ!?
  ちょっと病気療法をかねて温泉につれていっても、
  そのあと数日ねこんだりするし…やっぱり駄目だ。危険すぎる。
  これからどんな危険なことがおこるかわからないんだからな」
トクナガの台詞にゼロスが否定的な意見を出すが、
「たしかに。危険かもしれないけども。でもゼロス。
  一緒につれていってあげたほうがいいと私はおもうわ」
「リフィル様!?」
「リフィル、あんた?一体?」
まさかのリフィルの擁護にたいし、ゼロスが思わず叫び、
それまでだまってきいていたしいなが口をはさんでくる。
ちらり、とみれば、セレスをはさみ、ロイドとジーニアス、そしてコレット。
三人の子供達がセレスを質問攻めにしているっぽい。
セレスとしては同年代に近しい子供と会話したことなど皆無というか、
マルタ達が初めてであったがゆえに、戸惑いを隠し切れていないようではあるが。
おもわず高飛車な言い回しをしても、ロイドたちにはそれが通用しない。
それどころかコレットによって会話がどんどんずれていっている。
そんな会話がどうやら繰り広げられているらしいが。
それはゼロスの異様によくなっている聴覚にてききとれている。
いるが、それとこれとは話しが別。
ゼロスからしてみれば、自分の命よりも守りたい相手。
それがセレスなのだから、危険な旅に同行させる、というのは認められない現実。
リーガルは船の船長と話しがあるとかで、
船に先に乗り込んでいっているがゆえにここにはいない。
「どちらにしても、ねらわれている可能性があるのならば。
  すくなくとも、あの教皇がこのまま何もしない、とはおもえないわ。
  ゼロス、あなただって自分の目が届かないところで妹さんに危害が加わるかも。
  そうおもえば自由に行動もきかなくなるでしょう?」
「それは…そうだけど。リフィル様ぁ。あいつは本当に体が……」
「リーガルの好意であの船が利用させてもらえるのなら。
  最悪、妹さんはあの船の中で待機してもらっていればいいのじゃないかしら?
  すくなくとも、目の届かない所にいるわけではないのだもの。
  安全面からしてはこれほど安全な場所もないわ」
しかも、海の上。
どこに移動しているかわからない船の上にまでいくら教皇達といえど手はだせはしないであろう。
だからこそのリフィルの提案。
「はい。お話しを聞いた限りでは、かの船の中には医者も駐在しているとか。
  だからこそ、神子様にお願いするのでございます」
医者などがきちんと駐在している船の旅。
それほど安全が確保されているものはない。
「…しかし、あいつが何というかねぇ。…俺様、あいつには嫌われてるからなぁ」
そういえば、とおもう。
「…セレスは、修道院が襲撃されたことはわかっているのか?」
「いえ、おそらくは……」
「…ま、しってたとしたら、あいつはいまごろ寝込んでる…か」
話しを聞く限り、襲撃をうけたのは夜かそのあたりか。
もしくはセレスを連れ去るために彼女に睡眠薬か何かが盛られていたのかもしれない。
だからこそ、眠っているままのセレスをあの場から無事に連れ出せたのかもしれない。
それは推測でしかないが。
トクナガが言葉を濁したところをみれば、おそらくセレスは修道院が襲撃をうけた。
ということを完全にきかされていない可能性が高い。
ああみえて、妹セレスは修道女達を気にかけていた。
どうやって言い含めて修道院から外にでているのかそのあたりもゼロスはきになるが。
もしかしたら、いつものように、自分が慰安旅行につれていくとか何とか。
そういってごまかしている可能性もすくなからずある、ということに他ならない。
「それでなくても、私たちシルヴァラント組に加えて、テセアラ組。
  すでにタバサも加わっているのだから」
事実、今この旅の一行のメンバーの人数をいうならば、
シルヴァラント組みがロイド、コレット、ジーニアス、リフィル、マルタ、それにエミル。
そしてテセアラ組。
ゼロスにしいなにリーガルのプレセア、そしてタバサにミトス。
すでに十二人もいるのである。
今さら一人二人ふえてもあまり変わり映えはしない、というのがリフィルとしての本音。
移動手段が船、というのがリフィルからしてみれば何ともいえないが、
すくなくとも、船の大きさを視る限り、安全面においては申し分はない。
おそらく船の内部は陸地にいるときよりも快適に過ごせるのではないのでなかろうか。
そこが海の上だ、ということさえ忘れてしまえば、であるが。
「わたくしも、レザレノの高速艇の噂は聞き及んでおりますので。
  それにどこかを移動している相手をいくら襲撃者といえど襲撃はできますまい?」
たしかにトクナガのいい分も至極もっとも。
「~~っ。ともかく。この話しはあいつが俺様と一緒でいいのか、
  そのあたりを許可してから、だ。いいな?トクナガ」
「はい。神子様。ありがとうございます!」
元々、セレスを修道院から連れ出したのは、
セレスが闘技場で優勝できるほどの力をもてば、神子の旅に同行させてもらえるのではないのか。
とセレスが思いつき、そしてトクナガがそれに同意したがゆえのこの計画。
本来の計画…すなわち、闘技場に参加するであろうゼロス、もしくはその仲間達。
どちらかにかち、旅の同行を願い出るつもりであったのだが。
結果として形は違えどどうやらセレスの願い通り、
神子ゼロスの旅に同行することが可能になったらしい。
そのことにトクナガとしてはほっとせざるをえない。
あとは、トクナガ自身がより国を相手に納得させるいいわけ…もとい、
説得させて許可をもぎ取るのみ。


「おおお。すげぇぇ!!」
リーガルの好意で貸してもらえる、というレザレノの高速船。
サイバックにてエミル達と落ちあい、そこに用意されていた船。
ひとまずつもる話しもあるだろう、ということもあり、
人にきかれても問題ないようにと船の中に移動したのがついさきほど。
よくわからないが、しばらくの間、ゼロスの妹も共に行動することになるらしい。
もっとも、体が弱い、というのですぐさま船にのっているかかりつけの医者。
その医者の見立てでとりあえずゆっくり休んでください、といわれ。
客室の一つにセレスはすでに連れていかれている後、なのだが。
身の周りの世話をする乗組員というか、この船においては、
滅多と医者の出番がないので、かかりつけの医者がほとんどセレス専属になる、らしい。
ひとまず案内されたは、船の中にある食堂。
それもがらん、としており、伊達に百名以上収容できるスペースというわけではなさそうである。
そんな人数を収容できる船を自分達のみであるいみで貸し切り。
これで興奮しないほうがあるいみどうかしているのかもしれないが。
「うわ~。すごいね。これ。…村より豪華だよ」
ジーニアスが設備をみながらも首をすくめてそんなことをいっているが。
「うん。すごい。うちのパルマコスタなんて目じゃないよ。これ。…なんかくやしいなぁ」
それこそ衰退世界と繁栄世界。
そういわれている力の差がこの船一つにも表れているようで。
客室はありあまっているので好きな場所をつかっていい。
ということらしいが、いまだロイド達は客室までは決めていない。
「さて、これからのことなのだけど……」
リフィルが口を開きかけると。
「あ。そういえば、ヨシュアさんから預かってたあのお金。あの人にかえしてこなくてもいいのかな?」
ふとコレットが思いだしたようにそんなことをつぶやいてくる。
がらん、とした食堂の一角。
誰もいないということもあり、席をくっつけて人数分すわれるようにしている今現在。
王都メルトキオにたちよったというのに、そういえば、
頼まれたあのお金を彼女にかえしていないことにふときづいたのか、
コレットがそんなことをいってくるが。
「なら、ひとまず。次の目的地に行く前に一度、王都によってきたらどうです?
  あ、僕、ここの厨房係りのひとといろいろと話してみますね。
  ここの設備いろいろと整ってるみたいだから。いろいろとつくれそうだし」
それに、ともおもう。
これだけ広いのならば、多少の僕(しもべ)達というか魔物達を呼んだとしても、
問題ないのではないか、とも。
もっとも口にしたとたん、かなりの数の魔物やセンチュリオン達も嬉々として、
実体化しかねないからいわないが。
タバサはその機能てきにどうやら船員達に重宝されている、らしく、
船員達といろいろと打ち合わせがあるとかで、この場にはきていない。
リーガル曰く、客室の下には車輌用の甲板もつくられているらしく、
人数が人数、ゆえに簡単な陸移動用の乗り物、
エレメンタルカーゴの馬車版をこの船に組み入れているらしい。
あと、レザレノにていまだに開発途中の陸上用単品乗り物、
通称、何でもこれもまたアリシアが命名したらしい、がバイクとよばれしものもあるらしい。
それもまたエレカーの応用で創られているのでさほど運転技術は必要でないらしいが。
今はまだ試用段階で一般普及にまではいたっていない代物、であるらしい。
小回りがきくが、安全面にて多少の改良が必要らしく、
最高速度などの調整でいまだに一般普及にまではいたっていない、とのことらしいが。
この高速艇で移動した場合、約百日で世界をめぐれるとのことらしいが。
それでも、これだけの船が接岸できる港がそうそうなく、
どうしても陸に移動する場合は小型艇による移動になるらしいのだが。
もっとも、主たる場所、メルトキオのある大陸、
そしてサイバックの港、さらにはフラノールのある大陸、には。
入港できる港が設置れているらしい。
「たしかに。他人のお金をいつまでももっている、というのもね」
しいなも思うところがあるのかコレットの言葉にうなづく。
「どちらにしても。これから向かうつもりなのはフラノールですもの。
  そうね。王都で用事がのこっているのならばそちらを先に片付けておいたほうがいいでしょうね」
そんな会話をしている最中。
「では、試作品ではあるが、バイクの試乗をお願いしてもいいだろうか?」
どうやら話がおわったらしく、リーガルが近づきながらそんなことをいってくる。
「出港にはあと少し時間がかかりそうだからな。
  バイクを使えば往復で数時間もたたないうちにいってもどってこれるだろう」
今のところ最高速度は三十キロに設定されているらしいが、
ときおりそれ以上のスピードがでてしまい、試行錯誤しているという。
そんな説明を加えつつもリーガルが全員を見渡しつついってくる。
「あ。リーガルさん。僕、厨房のほうにいってもいいですか?」
「うむ。できればエミルのもつレシピなどを係りのものにおしえてもらえれば助かる。
  きけばエミル、お前はかなり料理が上手、というしな」
たしかリーガルもまた料理が上手であったとおもったのだが。
リーガルのそんな台詞にかるく笑みをうかべつつ、
「わかりました。じゃ、僕厨房のほうにいきますね」
「あ!エミル…私は…どうしよっかな…うん。わたしもいく。…確かめたいこともあるんだ」
ヨシュアがいった自分を裏切ったという台詞。
しかし、エミルがいっていた言葉の裏、その意味をマルタは知りたい。
どうして好きな人をうらぎり、別の人と結婚などといいだしたのか。
その真意がマルタとしては気になっているがゆえ、
エミルとともにここに残るか、それともロイド達とともにメルトキオにでむくか。
それを計りにかけ、どうやら後者のほうを選んだ、らしい。
しばし、今後の予定の話しあいをしつつも、
結局のところ、一度、預かっていたお金のこともあり、
出港にはもう少し時間もかかる、というリーガルの意見もあいまって、
再びロイド達は一度、王都メルトキオにと向かうことに。


~スキット・初バイク試乗~
ロイド「すげぇ!これすげぇ!」
リフィル「なるほど。仕組みは単純、なのだな」
ぐっとペダルを踏み込めばスピードは速くならしい。
さらに、もう一つのペダルはブレーキとなっているらしく、
いきなりブレーキを踏み込むよりは、数回にわけてゆっくりとスピードを落とすように。
という指示がありはした。
何でもいきなり止めようとすればその反動で体が機体から放り出される危険。
そういった危険があるらしい。
なぜにヘルメットを?とおもったのだが、ここまで単体でスピードがでるのならば、
たしかにリーガルのいわんとすることもわからなくもない。
小回りがきく、という点ではエレカーなどよりもよほど便利であろう。
ちなみにこれの原料になっているのは水、であるらしい。
水と大地と風と光のマナ。
それらを利用して開発にこぎつけているらしいが。
普及点は夜には利用できない、という点か。
あくまでも光も利用している機体なので、雨の日や曇りの日。
さらには夜などはこの機体そのものは動きはすれどスピードがでない、らしい。
はしゃぐロイドに、リフィルは別の意味でこの機体に興味深々。
魔科学、とは別なる仕組みでつくられたこれにかなり興味がわいたらしい。
ジーニアス「すごいすごい!って、ミトス、運転上手だね?」
ミトス「え?そう?」
…仕組み的には昔あった自転車とあまりこれかわらないし。
そんなことを内心おもいつつも、苦笑ぎみにこたえるミトス。
今、この世界において自転車というものはない。
こんなものを開発しているのならば、そのうちまちがいなくあの簡単な仕組みである乗り物。
あれにたどり着く可能性はなくはない。
プレセア「…これだと、王都、までかなり早くたどりつきます」
許可証なるものをリーガルが示せば、テセアラブリッジは普通に通行可能。
いまだに技術者らしきものがうろうろとしているその橋は、
いわく、なぜか動力源としていたはずのエクスフィア。
それらがことごとく涸渇、すなわちエクスフィアを内包していた容器の中から綺麗さっぱり。
調べたところ消えた障害によるものであるらしい。
それをきき、ミトスが思わず顔をしかめたのに気付いたのはゼロスとリフィルのみ。
容器の中にあるエクスフィアだけがきえる。
そんなことはありえない。
ありえるとするならば、エクスフィアとよばれし、精霊石が孵化した以外に考えられない。
しかし、ヒトの血により穢された精霊達がそうかんたんに孵化するものだろうか。
ミトスのこれまでの記憶においてもそんな現象は報告すらされていない。
しいな「こりゃ、便利だ。リーガル。これみずほに優遇してくれないか?」
リーガル「これはまだ試作品だ。もっともそのうちにみずほの民にも、
      いつものように試作品などの使用状況を実証検分してもらうことになるだろう」
普通の民にたのむより、みずほの民に頼んだほうが効率的。
何かあってもみずほの民ならば何とかするだろう、という判断のもと、
危険性がともなうそういった品に関しては、レザレノはかつてよりみずほに依頼を出している。
マルタ「あはは!これたのし~!なんか癖になりそう!」
コレット「だねぇ。ロイド、もっとはやくできない?」
ロイド「おう!まかせとけ!」
リフィル「こら!まちなさい!街道からははずれないのよ!…ったく」
ちなみに、今現在、二人乗りの形となっており、
機体の数は六台となっており、
それぞれ今現在、ほぼ二人乗りの形で移動している彼ら達。
ロイドの後ろにはコレットがのり、
ジーニアスの後ろにはプレセア。
リフィルのうしろにマルタ。
ゼロスの後ろにしいな、そしてミトスとリーガルがそれぞれ一人づつ。
計六台における移動となっている今現在。
そんな中、ロイドとコレットを乗せたバイクは、
そのままスピードを早め、いっきに前にとせり出してゆく。
しいな「それにしてもこんなのが一般普及したら、竜車とか商売あがったりだねぇ」
リーガル「うむ。できうれば一家に一台を目指している」
しいな「…あんたがいえば洒落にならないよ」
プレセア「…もう、王都がみえてきました」
実際、会話をしている最中もスピードはでており、どんどん先にすすんでいっている。
いつのまにか視界の先にみえるは、王都の街並み。
竜車と異なり揺れがあまりない、というのがあるいみネックといえよう。
マルタ「これだと酔わないですみそう。…少しゆれるけど、風がきもちいいし」
マルタはどうしてもあの揺れが好きになれず竜車が苦手、なのだが。
これはどうやらそんなことはないらしい。
リフィル「はいはい。騒ぎになる前に街に入る前にそれぞれパックに戻すのをわすれないようにね」
この乗り物はウィングパック、縮小版。
リーガル曰く、この乗り物用としてつくった小さなカプセル状のそれに普段はしまわれている。
ゆえに持ち運びもかさばらない。
一般普及しているウィングパックよりより精密度になるがゆえに、
値段がたかくなってしまっているのも今後の課題、とのことらしい。
そうこうしているうちに一行は王都メルトキオにとたどり着く。
サイバックを出てほんの一時間もたっていない、というのにもかかわらず。
ミトス「…繁栄世界が続くと問題…だな」
この調子ではかつてのように。
その力を戦力にむけよう、という動きがでてもおかしくはない。
それこそかつての争いの再現。
人は豊かさになれればよりよい豊かさをもとめどんどん突き進んでゆく。
その結果として、大樹カーラーンがかれ、世界が危機に瀕していたことなど、
人々の記憶からはすでに失われて久しい。
人は、豊かさになれてしまえば、都合のわるいことを忘れてしまう、
という典型的な例、であろう。
今はクラトスに命じ、衰退世界と繁栄世界。
その転換システムを中止させているが、
平行して行う必要もあるかもしれない。
しかし、とおもう。
このマナの安定具合はどういうことなのか。
ありえない。
本来ならばこちらの世界側はシルヴァラント側の精霊が解放された時点において、
すくなからず多少なりともあちらに流れていき減少していなければおかしいのに。
それがまったく地上におりてみてわかったのは、感じられない、ということ。
クルシスのシステムではこのような数値にはなっていなかった。
だとすれば…クルシスのメインコンピューターが壊れている可能性がはるかに高い。


※ ※ ※ ※


グランテセアラブリッジを抜け、王都メルトキオまでは、そこから南西の方角に位置している。
王都の手前においてリーガルから渡された試作品だというバイクを降り、
そこからは徒歩にて王都の中へ。
「…そういや、まともに表からはいるの久しぶりのような気がするな……」
ふとロイドがそんなことをつぶやいているが。
「たしかに。いわれてみればここ最近は地下水路ばかりつかってたもんね」
自分達が手配されていたことや、さらには囚人となっていたケイトを脱出させるため。
ゆえにここ幾度かは地下水路を経由してか、はたまた乗り物に紛れ込んでか。
…もっとも、その乗り物の場合はコンテナ詰め、という経験をしたのだが。
ともあれ、まともに正面からはいったのは始めのとき。
すなわち、この王都に初めてやってきたとき以外ではなかろうか。
教皇のたくらみとかいうのに巻き込まれ、街にはいるのにも兵士にとめられていた。
しかし、今はそのようなこともなく、普通に街の中に出入りできることからして
わざわざまた地下水路をとおる必要性がないゆえに、何となくものさみしさも感じなくはない。
「あの人ってどこにいるのかな?」
「まあ、貴族街、だろうな。とりあえず、上層にいくぞ」
おそらく、貴族層といえど、人身御供になったような女性がいるような場所。
そんな心当たりは数か所しかない。
「あ、あの人……」
進んでゆくことしばし。
城の手前側に位置している薔薇庭園。
その中にみおぼえのある女性の姿をみとめ、思わずコレットが声をあげる。
アルタミラで出会ったその女性は、じっと噴水の前にたたずみ、
遠目などでそれはコレット、そしてゼロスとミトスにしかわからないが、
うっすらと涙すら浮かべていたりする。
しばしじっと噴水を眺めるその表情には諦めの色がより酷でているが。
「あの……」
コレットがそんな女性に近づきながら声をかけると、はっとようやく気付いたらしく。
「皆さん。あ、あの。ヨシュアにお金を渡してもらえましたか?」
はっとしたように涙をあわててふきとりつつも、はかない笑みをうかべつつ、声をかけてきた一行、
すなわちロイド達にとほほ笑みかけてくる。
「これ、うけとれないっていわれた」
突き返すようにして、ヨシュアから預かっていたお金を目の前の女性。
ローザにつきかえすロイド。
その声には憤りがまじっている。
ヨシュアにいわれた言葉のままに信じ切っているらしきその様子は、
あのときエミル達からいわれた言葉の裏の意味を考えていない証拠。
「そんな…どうして…」
突き返されたお金をみて、戸惑いを隠しきれない様子のローザ。
これがなければ、まちがいなくヨシュアは学校を追放されてしまう。
そこまであのクロムウェルは手をまわし、ヨシュアが再び奨学生になることすら阻んでいる。
それでも何とかしてお金さえ払えば在学は可能ということにまできごつけた。
しかし、学費は分割はみとめられず、いっきにおさめた場合のみ、という。
それを知り、どうにかクロムウェルの目をかいくぐって、
彼にお金をわたすか考えていたところ、彼らにそのことを頼むことができた、というのに。
これで彼は彼の望みのままに学者になれることもできる。
もう思い残すことはない。
そうおもっていたのに。
受け取れない、ということは、彼の在学が危険視される、ということと同意語。
だからこそローザはとまどわずにはいられない。
「どうして、だって?ヨシュアだって男だ。
  そんな施しうけられないにきまってる!あんたはヨシュアを…」
そんなローザの困惑気味な様子に気づかないのか、吐き捨てるように言い放つ。
そんなロイドに対し、
「ロイド!やめなさい!」
このままでは、ロイドによる彼女への非難があびせられるであろう。
そもそも、この子はエミルにあのときもいわれたというのに考えていないのかしら。
否、考えついてすらいないのであろう。
どうもロイドは特に女性の気持ちというものに疎すぎる。
それはロイドをおしえていてリフィルが深く実感していることでもある。
何しろあからさまなコレットの好意にすら気づいていないロイドである。
他人の、男女の思いなどわかれ、いうほうが無理なのかもしれないが。
すくなくとも、それはロイド、そして自分達が非難するようなことではない。
だからこそ、すばやく強い口調でロイドの台詞をさえぎるリフィル。
「でも、先生!」
なんで先生までこんなひどい女のことをかばおうとするんだよ!
そうおもっているロイドはなぜリフィルが止めようとするのか理解できない。
どちらが正しいのか。
真実はどこにあるのか。
すこし冷静になりよくよくみれば、女性が悲しそうな表情を浮かべていることにもきづいたであろうに。
一つのことに集中しているロイドはどうも周囲を気にかけるゆとり、
というものがかけているらしい。
そんな様子を離れた場所、すなわち船の中で視つつ、ふとエミルは思い出す。
そういえば、かつてロイドはその感情のまま、
未亡人となった人物に自分が結婚すれば悲しむ子供に父親ができるとかおもって、
いきなりプロボーズをしたとか何とか、イセリアにでむいたときにきいたことがあるな、と。
さすがにあの話しをきいたときには呆れ以外の何ものでもなかったのだが。
あれもまた何も考えていないがゆえの行動、といえるのであろう。
…いまだになぜいきなりプロポーズという思いにいたったのか、
エミルとしても理解しかねている、のだが。
…今はまさかそんなことはしていない、とはおもいたい。
もっとも、そのあとなぜにトマトの投げ合いになったのかすら、
エミルからしてみても理解不能な一件ではあったにしろ。
「…そうですか。ヨシュアから私とのことを聞いてしまったんですね。
  私は…ずるい女なんです。彼の学費を奪って、彼の愛を裏切って……」
ロイドの憤りをみて、ヨシュアから彼らがきいたことを確信する。
そして、逆にヨシュアが自分の嘘をそのまま信じてくれていることも。
彼には自分が彼の身を盾にされ脅されているなどきづかれたくなかった。
しかしこの目の前の少年の様子をみるかぎり、ヨシュアには気づかれていないらしい。
そのことにほっとしつつも、
「…このお金は彼が私のために学費を切り崩して用意してくれたものです。
  だから…彼に返すのが正しいの」
どうにかしてこのお金を彼にわたし、これにて学費をおさめなければ。
彼はあの地から追放されてしまう。
そしておそらくクロムウェルの息がかかっている以上、にどとかの地に在学などはできないであろう。
であれば彼の夢てある学者になる、という夢がたたれることになる。
それだけは避けなければ。
何としても。
犠牲になるは自分だけでいいのだから。
彼には彼の夢があり未来がある。
そのためにはこのお金は何としても彼に返してもらう必要があったというのに。
「どうしてそんなにお金が必要なんですか?」
学費を切り崩して用意してくれたもの。
そうきき、プレセアも思うところがあるのかといかける。
女性の様子からして何か確実に事情があるとはおもうが。
立ち入ったことかもしれないが、それでもきになるのは、
彼女のその諦めきった視線がどことなく自分に通じているのを感じたからかもしれない。
取り戻せない、何か。
その何かはプレセアにはわからないが。
プレセアが取り戻したのいのは、取り残されてしまった時間。
では、彼女は?
「それは……」
そんな思いを抱きつつ、といかけるプレセアの台詞にローザは思わず顔をふせる。
彼らはみずしらずの自分の願いをうけいれ、お金を手渡しにいってくれた人達。
しかし、見ず知らずの人に自分の事情をいっても仕方がない、という想い。
ローザがいうべきか、いわざるべきか、悩んでいるそんな中。
「ローザ様。またこちらにおられたのですね。ご主人さまがお呼びです」
ふと貴族街のほうからあるいてくる一人の使用人らしき女性の姿。
その女性はローザの元にまでちかづき、かるく頭をさげたのち、
ローザにそんなことをいってくる。
どうやら彼女がここにいる、というのはよくあること、であるらしい。
「あ。わかりました。…すみません。急ぎますので失礼します。…無理なお願いをしてすいませんでした」
その言葉をうけ、深く目の前にいる彼らにとお辞儀をし、
その場から立ち去ってゆくローザの姿。
そんなローザの後ろ姿を見送りつつ、
「あれれ。いっちまったよ。で?念のためにきくけど。君はどこの家で働いているのかな?」
ローザからクロムウェルの屋敷にいる、という話しはきいているが。
使用人らしき女性からせっかくだから話しをきくべき。
ゼロスがそうおもったのは、理解していないロイドの為であるといってよい。
基本、ゼロスは勘違いで他人を、特に女性をとぼしめるようなことは大嫌い。
真実をつきつけ、そしてそれをしったときの反応により、その人物の人柄を見極める。
基本、ヒトは自らの都合のわるいこと、そして間違っていることをつきつけられたとき、
素の人柄がでるといってよい。
それはゼロスがこれまで生きてきたなかで編み出した処世術の一つ。
「み、神子様!?これは失礼いたしました!
  は、はい!あのっ。私はクロムウェル様にお仕えしております」
その台詞に今さらながら、この場に神子ゼロスがいるのにきづいたらしく、
あわてた様子で頭をふかくさげたのち、ささっと髪を整えるその女性。
「へぇ。ゼロスって有名人なんだっけ」
そんな女性の姿をみて、忘れていた、とばかりにぽつり、といっているロイド。
そしてまた、
「そのわりにあのローザってヒト、ゼロスを知らなかったじゃない」
そんなロイドとは対照的にちらり、とゼロスを横眼でみつつ
さらり、といいはなつジーニアス。
「ローザさまはフラノールの方ですから……」
神子がフラノールに近寄らないのは周知の事実。
公式の場にしかあらわれないので、その人なり、そして顔などが知られているか。
といえばそうではない。
ここメルトキオやアルタミラでは誰にも声をかけ…とくに女子供に、という注釈はつくが。
ゆえに、ゼロスを知らないものがないほどといってよいのだが、
フラノールだけは、別。
「いくら俺様だっていってもメルトキオの外まで完全に顔が知られてるわけじゃねえよ。
  フラノールは俺様、公務以外ではあまり近づくこともしないしな」
あの白き雪がどうしてもあのときのことを連想させてしまい、どうしても好きになれない。
幼き日の出来事はそれほどゼロスの心の中にしっかりと傷を残している。
母親も自分の死を気にしてほしくなかったからといって、
なぜにあのような台詞をいったのか。
――お前などうまなければよかった。
そういって、冷たくなっていった母親の言葉は、いまだにゼロスを蝕んでいる。
「しかし、やっぱりクロムウェルか」
使用人らしき女性の台詞をきき、やはり、とおもってしまう。
ならば、ゼロスが手にいれていた情報のクロムウェルが罠にはめてまで、
手にいれた女性というのはあのローザという女性のことなのであろう。
「ゼロスさん、知ってるんですか?」
やっぱり、という台詞をきき、コレットが首をかしげつつゼロスをみながらといかける。
「アルタミラでもいったとおもうが。そいつに関してはあまりいい話しはきかないな。
  この間も女の子を借金のかたにして屋敷につれこんだとか……」
彼女からお金を手渡されたときに、ゼロスは彼らに説明している。
クロムウェルという人物はあまりいい噂をきかない貴族だ、と。
「…それがローザ様です。あのかたはご両親の借金を返済するために、
  ご主人さまと婚約させられたんです。将来を誓い合っていた恋人もいたらしいのですが。
  …ご主人さまはその男性にまで手をだす、そういわれたらしくて…
  彼の将来を守りたいのならば、自分のものになれ、と…
  …あ、私ももどらなくちゃ。神子様、余計なことをいいました。失礼いたします」
そこまでいいかけ、はっとして。
自分もまた遅れれば主であるクロムウェルにどんな無理難題をつきつけられるかわからない。
彼は少しでも特に使用人の女性がなにかすれば無理難題をおしつける。
男性には厳しいが、女性には様々な面において強要を迫る。
「…なんだかかわいそう……」
深く頭をさげたのち、ぱたぱたとあわててかけてゆくそんな女性の後ろ姿を見送りつつ、
コレットがぽつり、とつぶやく。
つまりはそういうこと。
あのローザという女性は、両親の借金、という枷だけでなく、
つまるところあのヨシュアの命まで盾にとられ、しかたなく貴族のもとに嫁ぐ。
それを選んだ、というのが嫌でもわかる。
「何それ!?そのクロムウェルってやつ、男のかざかみにもおけないよ!何!?
  じゃあ、あのローザってひと、両親の借金と、あとヨシュアの命をたてに脅されてってことじゃないっ!」
何かあるのだろう。
とはもおっていた。
しかし、事情をしってみれば、はっきりいってローザには罪はない。
悪いのはクロムウェルとかいう貴族の男性。
誰だって、親、そして好きな人を盾にとられれば、否とはいえない。
それがわかるからこそ、マルタは憤慨したようにその場にて叫ぶ。
「…俺、事情もしらないでひどいこといっちまった……エミルがいってたとおりだった……」
――ロイドってヒトの言葉の裏の意味、捕らえること苦手でしょ?
そういわれたその言葉の意味。
それがぐさり、と今さらながらにロイドの心に突き刺さる。
そしてまた。
――よく後先考えて物事をいいなさい。
そういっているリフィルの言葉の意味も。
間違えない、といっているのにまた俺、間違ってたんだな。
そのことに思い当たり、ロイドは深くうなだれる。
「でも…私、わかる」
彼女達が立ち去った後ろ姿が消えていった方向をみながらぽつりと、誰にともなく呟くコレット。
「コレット?」
そんなコレットの様子にきづいたのか、しいなが首をかしげコレットに視線をむけ、
そてプレセアもまたそんなコレットにと注目する。
「私もだって、旅にでるとき…ロイドに嘘をいったもん。
  心配かけたくなかったから…それに、旅の中でも……」
相手に心配かけたくないがために嘘をつく。
それは残酷かもしれないが、優しい嘘。
自分が我慢すればいい。
そうおもっての…嘘。
自分が犠牲になれば全てが救われるのならば。
大切な人がまもれるのならば、死んでもいい。
そうおもっての旅、のはずであった再生の旅。
だからこそ、コレットのは事情は違えどローザの気持ちがよくわかる。
すなわち、彼女もまた、大切な人を、家族を愛する人を守りたかったのだ、と。
「コレット……」
コレットが何をもってしてそういうのか思い当たり、
ジーニアスが思わず沈んだ声をだす。
ジーニアスもまたコレットの手紙を読んでいる。
そして、あのとき、救いの塔でコレットの心の声をきいていた。
だからこそ、ジーニアスも何ともいえない気持ちになってしまう。
ジーニアスとてローザという女性が、フタマタをかけてヨシュアを裏切った。
そう聞かれたときには憤慨した。
しかし、エミルの一言で少し考えたのもまた事実。
何か裏があるのでは、と。
そして、その通り、裏というか事情があった。
それも、彼女の犠牲、という悲しい事情が。
「まったく……。だから、あなたは思ったことをすぐに口にするのはやめなさい。と。
  いつもいっているでしょう?あなたの言葉は時として相手を傷つけることになるの。
  あなたはもうすこし、物事を考えてから言葉をいう癖をつけなさい」
リフィルがそんなロイドにたしなめるように言い放つ。
いつもその時その時に口をすっぱくしていっているのに。
いつになれば学習するのだろうか。
この教え子は。
それゆえの呆れも多少まじっているといってもよい。
…もっとも、口をすっぱくしていっても変わらないような気がひしひしと
リフィルからしてみれば思えてしまうのだが。
しかし、これでは大人になれば困るのはロイド。
だからこそ根気よく、ロイドに言い聞かせていくしかない。
それこそ、ロイドがいうように諦めることなく。
「…はい。先生……」
リフィルの指摘はそのとおり、なのでロイドはうなだれるしかない。
それでなくても、今朝がた、ロイドは間違えたばかり。
それが間違いであったのかはいまだにロイドの中では答えがでていないが。
ガオラキアの森でロイドがいった言葉によってミトスは傷ついたようであった。
――失ったことがないからいえるんだよ!
そういっていた言葉はいまだロイドの心の中にくすぶっている。
たしかにそうなのかもしれない。
けど、だからといってあきらめたくはない。
諦めたらそこで終わりだと。
…しばらくの間、サイバックにつくまでミトスはロイドと口すらきかなかったが。
「…ヨシュアさんにお話ししますか?」
ぽつり、とプレセアが誰にともなく問いかける。
優しい嘘であり残酷な嘘。
しかし、すれ違ったままの二人。
真実をいったとすれば、ヨシュアは苦しむであろう。
しかし、このままではヨシュアはローザを誤解したまま、
すなわち、自分を裏切ったひどい女性だ、と勘違いしたままになってしまう。
「…あの人は話されるのを嫌がるでしょうね。
  だからこそ、あえてつきはなすようないい方で相手から嫌われるようにふるまったのでしょうし。
  事情を知られたくないから。だから本当のことをいわずに彼と別れたんだわ」
だからこそ、あえて、貧乏学生との生活はあきあきした。
というようなことを彼にいったのであろう。
相手がその言葉によって傷つくのはわかっていても。
そういえば、自分のことを詮索することなく、ひどい女だ、
とおもいながらもふっきれてくれることを期待して。
「しかし、クロムウェルってやつ、ろくなもんじゃないね。
  今の子の話しを聞く限り、どうもそいつ、貴族の立場を利用して、
  ヨシュアにまでちょっかいをかけようとしてたみたいだし。
  もしかして、あのヨシュアが奨学生から下ろされたのも……」
あのとき。
サイバックのあの場所できこえてきたあの台詞。
どうやら相手は教師であったらしいが。
奨学生をいきなり下ろされた、そのようなことをいっていた。
奨学金制度はサイバックの学術所に設置されている制度。
誰しも完全に高額な学費を払えるわけではない。
しかし、国としては優秀な頭脳がほしい。
だからこそ、出世ばらい的な制度として、仮初めに国が学費を建て替えるという制度。
あのとき聞こえてきた話しを聞く限り、いきなりその奨学生からヨシュアははずされてしまった。
そんなことをいっていた。
普通そんなことはありえない。
ありえるとすれば、何らかの圧力がかかった。
それ以外に考えられない。
「可能性はあるわね。貴族が口をだしたとするならば。そのあたりはどうなの?ゼロス?」
しいなの台詞をうけ、ちらり、とゼロスをみつつといかけるリフィルに対し、
「可能性はあるな。とくにサイバックの学園は寄付などで運営されてるからな。
  いくら国営、とはいえ資金調達は必要不可欠であるからな。
  貴族なんてやからに目をつけられれば研究費とかも削除されかねない。
  学校の寄付と生徒一人。どっちをとるかなんて、答えはいうまでもないだろ」
一人を排除さえすれば平和がたもてるのならば。
人は後者を選ぶ。
確実に。
「でも、私、納得がいかない!」
「だね。あたしもだよ。マルタ。あたしはヨシュアに話すべきだとおもう」
たしかに皆の話しもわかる。
ローザという女性の気持ちも。
かといって、このまますれ違ったまま。
互いを思っているとわかっているのに、誤解したままなんてマルタとしては許せない。
何よりも、女性が犠牲になればそれですむ、そんなのは許せそうにない。
「でも…話してもローザさんもヨシュアさんもこまらない…かな?
  すれ違っているままなのは悲しいけど……」
コレットも何ともいえない。
自分のときは、ロイドが笑って許してくれた。
けど、彼女は…両親のこともある。
愛のない結婚。
神託によって決められる神子の血族の結婚と同じだ。
ふとコレットはそんな思いにとらわれる。
神子の血族の結婚は大概天界からの神託によって決まるという。
どんなに好きな人がいても、それ以外は許されては…いない。
「…俺様はいうべきだとおもうけどな。
  …愛のない結婚なんて冗談じゃねえ。子供ができたらそれこそかわいそうだ」
お前など、産まなければよかった。
結婚を約束していた相手達と神託によって別れさせられた母親達。
なぜ、神託は妹、ではなく母を選んだのか。
妹を選んでいれば、それこそそのまま問題はなかったであろうに。
母の相手もまた、母をたぶらかした罪とかでゼロスが調べたかぎり、
…国によってというよりは、教皇の手により処刑されていた。
相手がいる限り、クルシスの神託に従わないかもしれないから、という理不尽な理由で。
そして、ゼロスが産まれ…その手に石を握っているのをみて、
ゼロスの母、ミレーヌは半狂乱になった、という。
神託によりお前を妻としたのに、お前は天使と、というようなことをいったという父。
好きな相手以外とは子供をつくりたくない、という父の意向を無視し、
媚薬をもりて強制的に行為に及ばせた教会と国。
好きな人とむりやり引き裂かれ、そして不義を疑われ。
だからこそ、ミレーヌは部屋に閉じこもりがちになってしまっていた。
それこそ、ゼロスが話しかけてもほとんど返事もないほどに。
父親はもともとつきあっていた愛人…すなわち、元恋人のもとにかかりっきり。
父親に声をかけてもらった記憶はゼロスにはほとんどない。
そしてゼロスが正式に神子として儀式をうけたのちなどは、
父親は家にすらよりつきもしなかった。
そして産まれたのが…セレス。
「今回ばかりはあたしもゼロスに賛成だよ。あたしはいうべきだ、とおもう」
しいなもまたそんなゼロスの意見に賛成とばかりにいってくる。
「私は…わかりません。どちらが正しいのかは……」
どちらが正しいのか。
いうべきなのか、いわないべきなのか。
どちらにしても、どちらかが傷つくことになるであろう。
いった場合、ヨシュアはローザが自分を犠牲にしていたことをしるであろう。
そして、自己嫌悪に陥るはず。
恋人がそんな状態になっているなどしらず、自分はローザの言葉をうのみにし、
ひどい女だったんだ、と言い聞かせ、調べようともしなかった自分自身に。
いわなかった場合、ヨシュアはひどい女にだまされていた。
ずっとそうおもい、誤解したままいきていくことになるだろう。
そしてローザは悲しみのまま、愛のない結婚を強いられる。
「で?どうするよ?ロイドくん?」
それはあるいみでゼロスがロイドを試す問いかけ。
ロイドがどちらを選ぶのか。


「皆さん。ローザに返していただけましたか?」
何ともいえない気持ちのまま。
ひとまずエミル達もまっているから、という理由にてひとまずメルトキオを後にする。
いまだ騒ぎになっていないところをみると、ケイトが脱走していることは、
いまだに気づかれてはいなかったらしいが。
答えのでないまま、サイバックへ。
ロイド達の姿を認めたのか、
いまだに答えのでないままのロイドにと話しかけてくるヨシュアの姿。
ここまできて、いまだロイドは答えがでていない。
リフィルからもまた、あなたが決めなさい。といわれた。
あなたがヨシュアに安請け合いをしたのだから、と。
返してくる、といったのはロイド。
あなたは依頼をうけた責任があるから、と。
どうする?
本当のことをいうか、それとも黙っているか。
「あの?」
そんな黙りこんでいるロイドの様子に何か思うところがあったのか、
首をかしげといかけてくるヨシュアの姿。
このままでは、どちらも悲しすぎる。
どうにもならないのかもしれない。
けど、どうにかできるかもしれない。
なら、せめて、誤解だけはといてやりたい。
コレットがいっていたあの台詞。
私、わかる、といったあの言葉がロイドに重くのしかかっている。
自分がいるから死のうとおもったといったコレット。
大切な人、家族がロイドが生きている世界だから死んでもいい、とおもえたんだよ。
あのとき、コレットはそういった。
自分が死ぬための旅だ、と始めからわかっていて、なお。
あんな悲しい思いをさせるのは、もう、いやだ。
そうおもう。
それがたとえ誰であろうとも。
だから。
間違っているかもしれない。
これが正しいことではないかもしれない。
それでも。
今、自分が正しい、と思うことを。
「…なあ、ヨシュア。あんたに話しておきたいことがあるんだ」
「?」
深刻そうにいきなりいわれ、ヨシュアとしては首をかしげざるを得ない。
施しをうけるわけにはいかないからお金をかえしてきてほしい。
そう頼んだだけだというのに、この深刻な表情は何だというのだろうか。
「ローザさんはあんたに隠してることがあるんだよ」
これが正しいかわからない。
それでも、いってしまったことはもう取り返しがつかない。
そんなロイドの台詞に思いっきり目をみひらき、
「本当ですか!?」
思わずその言葉にくいつくヨシュア。
彼女があのようなことをいうなんて、信じ切れていなかった。
心のどこかで嘘であったほしい、とおもっていたがゆえのヨシュアのくいつき。
「ロイドくん、いいのか?」
「ああ。彼は知る必要がある、とおもう。いや、知らないといけないんだ。実は……」
彼女から聞かされたこと。
両親の借金のカタで貴族と結婚させられることがきまった、ということ。
彼の身を盾にとられていることまではロイドはいうかいわざるか一瞬迷うが、
それをいえば彼はおそらく自分を責める。
それゆえに無意識なのであろう、そのことだけは避け、
ヨシュアに説明してゆくロイドの姿がしばしその場において身受けられてゆく……

「そんな…彼女は借金の返済のために!?…じゃあ、あの話は嘘だったのか?」
ロイドの説明をうけ、衝撃をうけたのか、驚愕しそんなことをつぶやきはじめるヨシュア。
「……何があったの?」
そんなヨシュアの様子に何かがあったのだとおもい、マルタが思わずといかけるが、
「ローザの母親は病気がちでそれを直すためにかなり借金をしていたんです。
  僕は学問所の学費を切り崩しながらそれを助けていました」
それを苦痛におもったことはない。
「ああ。だから学費がはらえなくなっちまったんだね」
もっとも理由はそれだけではないようであるが。
まちがいなく、奨学生からはずされたことにも起因しているのであろう。
奨学生といえど完全学費免除というわけでなく、多少のお金は必要となる。
「おそらく。ローザがあなたに渡そうとしたそのお金は。
  あなたが払ってくれた学費の分なのかもしれないわね」
ロイドが彼の目の前においたままの皮袋をみつつリフィルがつぶやく。
実際、ローザはこのお金は彼のもの。
彼にかえすのが筋だ、そういっていた。
「ああ…ローザ!僕は君のためなら学問所をやめてもよかったのに!!」
自分の夢と彼女。
どちらを選ぶか、といえば答えはきまっている。
勉学はどこにでもできるが、彼女は一人しかいないのだから。
「…きっと、まちがいなくやめてほしくなかったんですよ。夢を、諦めてほしくなかった」
コレットはその気持ちがいたいほどにわかる。
わかるからこそいわずにはいられない。
「…自分のためにヨシュアさんが夢をあきらめることが耐えられなかったんだね」
マルタがコレットに同意するようにつぶやき、
「そう、だね」
しいなもしみじみとうなづいているのがみてとれるが。
そんな女性陣の台詞をしばしきいていたが、やがて、きっと顔をあげ、
「ローザは…彼女は、今、どこに?」
「メルトキオのクロムウェルってやつのところにいるよ」
どこかふっきれたようにといかけるヨシュアにとこたえるしいな。
「ありがとう」
お礼をいい、なぜかばたばたとその場を片付け始め、
そして、店じまいをしたのち、ロイド達に頭をさげ、
その場からたちさってゆくヨシュアの姿。
「…ヨシュアさん、大丈夫かねぇ」
ふっきれた様子なので自分の中で答えはでたのであろうが。
「助けてあげたほうが……」
コレットが心配そうにそんなヨシュアの後ろ姿をみつつもぽつり、とつぶやく。
「いいえ。これ以上、あたしたちが深入りしてはだめよ。
  …自分が愛した人を助けるくらい、自分の力でなしとげなければね」
「…そういうもん、なのか?」
リフィルの言葉に困惑したようにづふやくロイド。
「そういうものよ。あなただって、コレットを助けだすとき。
  人任せにはしたくなかったでしょう?…同じことよ」
「…そう、いうものなのか」
「そうよ」
「…ともあれ、これ以上、我らがかかわってもどうにもならぬであろう。港にいこう」
たしかにここにいつまでもいても仕方がない。
ヨシュアとローザのことは、彼ら次第。


「すげぇっ。…この船だけで生活全部できるんじゃないか?」
ロイドがそういうのも仕方ない。
というより、はっきりいってイセリアの村より設備がととのっている。
否、整いすぎている。
ロイド達が初めて目にするプールというものは、
どうやら水をためて、いつでも自由に泳げるしろものであったらしい。
いわく、人工的な海や川みたいなものか、とロイドはそう納得したのだが。
リーガルの好意によって貸しだされた、というこのレザレノの高速船。
リーガル曰く、この船によって世界一周も可能、とのこと。
百日以上かかるので、そのときにはそれなりの準備が必要とされるらしいが。
世界をほぼマタにかけているといってもいいレザレノ・カンパニー。
出張などもまた世界各地にいたるがゆえに、設備だけはしっかりと施されているらしい。
もっとも、時間がかかりすぎるので、今現在、
空を飛ぶ乗り物…飛行艇を研究中、らしいのだが。
その台詞をきいたとき、ミトスが少し顔をしかめたのにきづいたのはエミルのみ。
軍事用に開発されていたかの戦艦達はことごとくマナを消費し、
そしてまた大地をえぐり去っていった。
…ミトス達が産まれたときはその戦艦の維持ができないほどにマナが涸渇しており、
結果として別なる方面…すなわち、ヒトを兵器となす地上戦に互いの国が移動していたが。
しかも下手に船が巨大なせいで、海の上ということすら忘れてしまいそうなほど。
部屋はかなりの数があまっている…というよりは、一行の貸し切り状態。
本来、百人以上が船にのることができるという中に、
客という客は一行のたったの十三人、ぷらす、ノイシュが一体しかいないのだから、
それはもう客室という場所も選びたい放題。
しかも、至れり尽くせりの環境は、
そんな環境にまったく慣れていないロイド達に戸惑いを起こさせるのは十分すぎるほど。
洗濯機というものを初めてみたときはロイドはたまげたが。
洗濯板をつかわずに自動でできるのか!?すげえ!
と。
コレットなどはこれがあれば、手がアカギレしなくてすむねぇ、とかいっていたが。
ジーニアスが切実に、リーガルに、これもらえない!?
と懇願していた様子もロイドにとっては記憶に新しい。
…聞けば、リフィルは洗濯すらもなぜか実験のごとくにしてしまうらしく、
ジーニアスがきをつけなければ…よく服や下着類といったものをダメにしてしまうことがある、らしい。
いわく、この薬草やこの組み合わせなどが汚れをよく落とすのではないか。
となぜか実戦的にやってしまう、とのことらしい。
それをきいたとき、ロイドはおもわずひきつってしまったが。
ジーニアスの家事力が高い要因が垣間見えた瞬間、といえよう。
まさか料理以外にもそんなところでも苦労しているとはおもってもいなかったのだが。
シルヴァラントでは、洗濯をする場合、タライに水をはり、洗濯板、もしくは手もみ以外にはありえない。
それほどまでに自動で洗濯をしてくれる、という機械はジーニアスにとって衝撃であったらしい。
エミルからしてみれば?でしかないのだが。
そもそも、エミルは洗濯、というものを必要としない。
今の体すら、実体化しているだけで、少し意識すれば汚れなどまったくもって関係ない。
それをいえば食事なども関係ない、といえるのだが。
もっとも、何かを飲んだりするのは好きだが。
それは自らが大樹を司りし精霊ゆえか。
永らく樹とともにいくつもの世界を産みだしていたがゆえか、
そういったものをいつのまにか好むようになっていたりするのだが。
エミル自身は気づいていないが無意識のうちに周囲の大気すら浄化してしまっていたりする。
もっとも、気配が世界と同じゆえにリフィル達はそのマナの変化に気づいてすらいないのだが。
さらにいうならば、各部屋に設置してある蛇口?といわれるものをひねれば、お湯もでれば水もでる。
いつも川、そして井戸に水を汲みに行っていたロイド達にとっては、
それだけでも衝撃的なことであったらしい。
さらにわざわざ厠などにいかなくても、部屋にそういった設備がついている。
ということすらもかなり衝撃をうけていたようではあるが。
「ほんと、すごいよね!ね!ミトス」
「う。うん。そうだね」
ウィルガイアにおいては必要ない、とおもい切り捨ててしまった様々なもの。
生活感があふれている設備といえばそれまで、だが。
それらがこの船の中には収束している。
そもそも娯楽など堕落させるだけでしかない、とおもい切り捨てたはず、なのに。
リーガル曰く、少しの娯楽は人の心を豊かにすることにも貢献する、といっていた。
そしてまた、体を動かす設備の場所もあり、とにかく体を動かすことにより、
いろいろと考えたりすることもあったりしても、すこしはすっきりするがゆえ、
そういう設備もこの船の中に設置した、とのことらしい。
ある意味で、本格的にこの船において一生すら過ごせるのではないか?
というほどに整っているかもしれないこの高速艇。
ちなみに船の名は【ベルセリオス】というらしい。
古のとある科学者の名を借りつけた、というそれは、
エミルからしてみてもなつかしいなでもあるのもまた事実。
そもそも彼女があのような代物、水晶に人格を投射するようなものを開発したあのとき。
もっとも、あれが開発され、あの天地戦争とよばれた戦争はどうにか収束したに違いないのだが。
かの戦いの後、疲弊した地上の民の文明は瞬く間に低下していったのにもかかわらず、
すぐさまに復興したのは彼女達の尽力があったといってもよい。
…あのときは、彼女が大樹の必要性をとき、人々に大樹の重要性をといていたが。
しかし、彼女の死後、マナの固まりたる大樹にやはり人々は目をつけた。
そして結果としてはじまっていった、かの戦争。
外に被害が及ばないように、マナがなくしては存続できないようにしたがゆえか、
この惑星の外にまで人間達がでむくようなことはなかったのがあるいみ不幸中の幸いか。
そうでなければ、欲におぼれた人間達はまちがいなく、
この惑星をも飛び出す技を、技術を編み出していたであろう。
もっとも、ある一定の距離から離れればマナがとどかなくなり、
体が消えてしまうということにきづき、その計画は閉ざされたらしいが。
あのときの騒動の発端ともなった巨大なスカルプチャの結晶体は面倒なので、
さくり、とラタトスクは当時マナに還しておいたのだが。
今、そのようなことがおこっていないのは一重に、空に彗星ネオ・デリス・カーラーンがあるがゆえ。
かの彗星はラタトスクが生み出せしマナの塊。
だからこそ、生命体達は宇宙空間でもその姿を保っているといってよい。
興奮気味な子供達は船の詮索に気を取られ、ロイドはジーニアス達をひきつれて、
かたっぱしから船の中を見回っている今現在。

「人数が人数だから、旅業の一行、ということで表向きはいきましょう。
  こちらにはテセアラの神子ゼロスもいるのだから、問題はないでしょう」
ぱさり。
子供達は船内の探索。
残された大人組みはこれからのことの相談もかねて、この場にと集まっている。
いいつつも、広い机の上に三枚の地図を取り出しその場にと広げるリフィル。
それは、かつて飛空都市エグザイアにおいてモスリンからもらったかつての世界地図。
そしてまた、シルヴァラント側の地図と、こちらテセアラ側の地図。
その三枚。
ここは、船内にとある会議室。
一応、仕事用につくられていることもあり、こういった会議室という設備も整えているらしきこの船。
「うむ。今このあたりを運航している」
リーガルがテセアラの地図を指差しいってくる。
古の地図だ、という世界が一つであったころの地図に何やら興味深々らしく
魔投影だという特殊な機械をつかい、その地図を写し取り、
…かつて、その機材はカメラ、とよばれていたが。
この船にこれまた用意されているという、伝書鳩。
その鳩にことづけ、レザレノの本社に託すように指示をだしていたりする。
「で?リフィルさん、これからどこにむかうんですか?」
マルタは船内に興味があるらしく、ロイド達とともに出向いている。
エミルは先刻まで厨房にこもっていたのだが、
彼らがちょっとした会議をする、というのでそれにあわせ簡単な食事をもちて
この場にやってきている今現在。
タバサはその性能…意思がある自動人形、ということもあり、
この船にのっている技術者などがかなり興味深々であったりするのだが。
ゆえに船員、もしくは技術者などにつかまり、今この場にはいない。
今、この場にいるのは、リフィルを始めとした大人組み。
リフィル、リーガル、ゼロス、そしてしいなとエミル。
ロイド、ジーニアス、コレット、マルタ、プレセア、ミトスは船内の散策中。
セレスは疲れていたのか、今はまだ船室にて休んでいる状態であるが。
「これって、かつての地図、そしてシルヴァラントとテセアラの地図ですよね?」
エミルもまたその地図の存在をしっているがゆえに、リフィルにと問いかける。
自然、もってきたサンドイッチ類をその場において、
あいている椅子にと座りといかけるエミルであるが。
「しかし、この地図だと、王都はどのあたりになるのかねぇ?」
ゼロスがかつての地図をみながらそんなことをいっているが。
知っている世界地図とまったく異なる形状なので、多少きになるらしい。
「…ここにかかれている文字が解読できればいいのだけども。
  古代エルフ語に近い…けども、違うのよね。これ」
その発音そのものが、エミルが精霊たちと会話しているときのそれになるのだが。
リフィル達はそこまで気付かない。
「そういえば。エミル」
「はい?」
ふと何か思い出したのか、リフィルがふと顔をあげエミルにと話しかけてくる。
そんなリフィルの台詞に首をかしげるエミルだが、
「あなた、トイズバレー鉱山であのバキュラから何をとりだしたのかしら?」
あれからいろいろとあり、詳しく聞きそびれていたことを今さらながらに思いだしたらしい。
「え?これですか?」
イブルアイ、とよばれしそれを腰につけているポシェットからとりだしその場におく。
まがまがしい感じを始めははなっていたそれではあるが、
エミルのマナの影響で今ではすっかりおとなしい。
ぱっとみため、どこかおどろおどろしいような感じをうける模様がかかれた品物、
それで十分まかり通る。
見た目はチャクラムのそれであるが、何とも不気味な形をしているといってよい。
「前からきになっていたのよね。これ、すこし調べさせてもらってもいいかしら?」
「それはかまいませんけど…気をつけてくださいね?」
「?何をきをつけるっていうんだい?」
エミルの言葉をききとがめ、しいながおもわず問い返すが、
「これも多少、瘴気を纏っている品ですからね。
  気をぬいたら、瘴気によって囚われ、下手をしたら狂わされる可能性も……」
そんなエミルの台詞にリフィルがすっと目をほそめ、
「…それはあのときの。ピエトロがもっていたという球体。
  それに近いとおもってもいいのかしら?」
周囲を巻き込んで呪いを発散させようとしたであろうそれ。
リフィル達がきづいたときは、いつのまにかそれは消滅していたが。
力を使い果たしたのか、はたまた気絶している間に何かがあったのか。
それはいまだにリフィルには判らない。
わかっているのは、あのとき。
あの黒き霧のようなものに包まれた直後、
自分の中に何ともいえない不安、恐怖…そして絶望がおそってきた、ということ。
どこからともなく響いてくる声。
お前達は両親に捨てられたんだ、といった内容の声は今でもリフィルははっきりと覚えている。
下級魔族でもあるこれらは血、そして魂をすっていくごとに力を増してゆく。
もっとも、今エミルが手にしている品々。
センチュリオン達、そしてエミルが見つけ出した品々は全部で今のところ八つ。
ガオラキアの森にて剣の形をしているファフニール。
渓谷において、斧の形をしているディアボロス。
地の神殿において符の形をしている黒翼。
トリエットの砂漠から、シルルルがもっていたという剣の形をせしソウルイーター。
ウィルガイアと名付けられているかの地にては、アポカリプス。
バキュラの内部に封印れていたイビルアイ。
そして、アルタミラにおいてビジャスコアと
パルマコスタ付近にあったというケイオスハート。
下級魔族達曰く、全部で九体、いるらしいが。
残りは一体。
テネブラエたちが捜索したかぎり、とある人間がもっているらしい。
「かまいませんけど。本当にきをつけてくださいね」
まあ、リフィル達ならば問題ないであろう。
…ミトスが多少影響を受ける可能性が高いが。
ほんとうにどうしてデリス・エンブレムをその身から手放したのか。
こともあろうにあの力をもちい、鍵となして身につけていないがゆえに、
ミトスの心が闇に呑まれていっていった可能性がはるかに高い。
そのためのあの加護であったというのに。
下手にことわっても不思議がられる。
そもそも、今のアレラは自らの支配下にあるがゆえ下手なことはしないであろう。
下手なことをすれば即消滅、というのは彼らも身にしみてわかっているはずである。
いいつつも、リフィルの前にそれをさしだす。
武器の形状からしてチャクラムであるそれは、
ちょっとした巨大な目玉モドキの格好をしていたりする。
なぜにそのような形をとっているのかエミルからしてみれば不思議でたまらないが。
「…とあえず、今、運航しているのがここ。
  そして、リフィルがいうように、今、この船はここ。フラノールにむかっている」
リーガルが地図を示し説明してくる。
アルタミラから北東にいった場所にある大陸。
それがフラノールがあるという大陸。
常に一年中雪に覆われている場所であり、
グラキエスの神殿が本来ある場所でもあったりする。
もっとも、人間達は氷の神殿、すなわち氷の精霊がいる場所、という認識であろうが。
地図をみるかぎり近いようにみえるそれは、逆をいえばそれだけ大陸がなく、
この地には海が多い、ということを意味している。
もっともそれはシルヴァラント側にもいえること、なのではあるが。
「異界の扉、とよばれているのはどこなのかしら?」
リフィルの問いかけに、
「ここだ」
アルタミラの東にとある小さな島を指差し、そして。
「今、この地は王立研究院の研究者達がこぞって立ち入り調査をしているらしい。
  何でも数カ月前からこの地はいきなり緑豊かな大地に変化していっているとか。
  それまでは岩しかなかった不思議な島でしかなかったというのに。
  今では様々な木々が生い茂る島になっているらしい」
そういえば。
自分が外にでたときにマナが無意識のうちに降り注がれたがゆえか、
あの場がそのようになっていたな、と今さらながらにふとエミルは思い出す。
別に問題もないだろう、とおもいほうっておいた、のではあるが。
「でも、そんなこと普通ありえるのかい?
   異界の扉のある島といったら、何の変哲もない巨大な岩がごろごろしてる。
   でもマナの数値が異様におかしい。それが定説だっただろ?」
そんなリーガルの台詞にしいなが首をかしげつつ怪訝そうにといかけるが。
「うむ。研究院においてはこれも異常気象の一環であったのではないか。
  という意見が大半、らしい。…いつのまにか収まっていた異常気象。
  その手がかりをもとめ、研究者達が調査にはいっているらしい」
そのようにリーガルはジョルジュより報告をうけた。
ああ、だからか。
どうりでここしばらく、かの地に人の気配がいようにしているな、とおもっていたが。
実害もないので完全にほうっておいた、のであるが。
かの場所に立ち入ろうとするようなものがいたり、
もしくはかの場所を穢したり壊そうとしたりしたものがいた場合、
排除してもかまわない、とあの場にいる魔物達に命じてはいるものの。
そもそも、今、かの内部には自分達以外。
すなわち、センチュリオン、もしくは自分以外は入れなくしていたりする。
一応、シルヴァラント側に移動する扉の役目のみは使用可能としているが。
それも特殊な条件、すなわち満月の光がかのストーンサークルに満ちたとき。
その条件を満たしたときのみ、と定めているので問題はないはずである。
「ここ、氷の神殿でのしいなの契約がすんだのち、私たちもここを調べにいってもかまわないかしら?」
「それはかまわないが…なぜだ?」
リフィルの台詞に、その場にいたゼロス、そしてしいなもまた首をかしげる。
「精霊と契約を果たすにしても、
  どちらにしてもシルヴァラント側の精霊とも契約が必要となるわ。
  レアバードで境界移動ができるかどうかわからないのだもの。
  …移動方法があるかどうかは確認しておくべきではなくて?」
「ふむ。二極のうちの一つの可能性…か」
リフィルの台詞に応用にうなづきつつも、リーガルが呟く。
たしかに。
精霊全てと契約をするつもりならば、いまだにシルヴァラント側の精霊と契約をこなしていない。
すでにウンディーネとシルフとの契約は済ませてはいるが、
ルナ、そしてイフリートとの契約がすんでいない。
アスカはまあ自在に互いの世界、すなわち二つの世界を行き来しているっぽいので、
どちら側でも契約は可能であろうが。
もっとも、アスカのこと。
ルナと一緒でなければ契約をしない、とかいいそうだが。
というか必ずいう。
ルナがそのようにあの場でいっていた以上、二体同時契約、ということになるであろう。
アスカといえば、あいつも考えなければいけないな。
そもそも、なぜ簡単に人間などに捕らえられてしまったのやら。
一番の原因は、かのラグナログ勃発時、人間達がクレーメルケージもどき。
それを開発してしまったということであろう。
すなわち、精霊達を捕らえる装置を開発してしまったがゆえにあれはおこったといってよい。
アスカが捕らえられ、こともあろうにあの地の人間達は、
アスカの力を研究したあげく、時間移動装置というものを産みだした。
過去を改変する、ということはそれだけ次元が不安定になる、というのに。
彼らは意識していなかったのであろうが、あのせいで、
いくつも生み出された別の時間軸の世界が滅んでいったことか。
本当に人間達は理解しようとしない。
さすがに許容範囲を超えていたのでそういう場合は、
世界規模の災害をおこしては収束させていたのだが。
そのたびにマーテルに文句をいわれていたことをおもいだす。
結果として、人間達には干渉しないでほしい、と精霊の盟約までもちだしてきた。
そんなかつてのことを思い出しつつも、ふと今後のことを考える。
どちらにしろ、あのときよりも早く、別なる世界を産みだす必要があるであろう。
すでに、あと少しであの地も完成する。
ならばさくっと地殻にいる彼ら魔族全てをあちらの惑星に移動してしまえばことたりる。
リフィルとリーガルがそんな会話をしているのをみつつ、
「で?結局どうするんだい?でも、あっちにもどってまたこっちに戻ってこれる。その保障は?」
たしかにしいなのいい分にも一理ある。
あちらにいきました、こちらにはこれません、というのでは意味がない。
もっとも、エミルは自在に行き来ができるのだが、それは彼らに伝えてはいない。
しいなの問いかけに、
「異界の扉。とよばれているものの真偽を確かめておきたいの。
  …本当に、私たちがあの地からシルヴァラントに流されたのであれば…
  つまり、こちらからあちらにいけるのであれば」
「逆もまたしかり。つまり、あちらからこちらに繋がっている場所もあるのでは。ということか」
リフィルのいわんとするところをさっし、リーガルがその場にて考え込みはじめる。
あの場とかの地をつないでいる空間の歪み。
それに人間達が気付くことができればたしかに移動はたやすい、であろうが。
何しろあの地はパルマコスタ付近のとある場所と直結している。
…どうやら一度、自分があの地におりたったこともあり、
完全にそれは固定化されているっぽい。
意識したつもりはなかったのだが。
何しろ扉をつかい、移動した先がその地。
パルマコスタ付近のとある草原の一角。
エミルがそんなことを思っている最中、
「ええ。調べておくべきだ、とおもうの」
「ふむ。たしかに。その意見をもってして研究院のものたちに協力を依頼する。
  というのも一つの手ではあろうな」
世界を一つに戻すにしても、自分達だけでかってに行動すれば、
何もしらない一般市民は混乱するであろう。
それに何より、かの研究所の力はあってこまるものではない。
二人の会話はどうやら続いているらしい。
どちらにしても。
「…ふむ」
――イグニス。グラキエス。
『およびでございますか?』
少し念じればすぐさまもどってくるセンチュリオンの声。
――これより、このものたちにセルシウスとの契約におもむかせる。
そのあとは、イフリートのもとに連れてゆく。その報告を
『――御意に』
「移動ができるのであれば、確実に、一つづつ楔を解き放ってゆく。そのほうが確実だとおもうの」
リフィルが、とんっとシルヴァラント側のとある一角を指差しつつも
全員をみわたしいってくる。
相対する属性同士の精霊が楔、だというのならば。
次なる目的地にいるであろう氷の精霊に対するは炎の精霊。
すなわち、旧トリエット遺跡にいるであろう炎の精霊イフリート。
リフィルが指差すそこは、旧トリエット遺跡のある場――




pixv投稿日:2014年2月8日某日(Hp編集:2018年4月22日(日)

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あとがきもどき:

豆知識:~出典、テイルズオブ用語集より~
名:エバーライト(テイルズオブレジェンディア)
水や大気に含まれる滄我のエッセンスが高密度に凝縮され、結晶化した鉱石。
滄我の力の一部が封じ込められており、奇跡とも言えるほどの高い治癒能力を持っている。
材質の理屈的には※スカルプチャと似たようなところがあるものの、
中に凝縮されている滄我の力は全くの桁違い。鉱石として石ころとダイアモンド以上の差がある。
水の民の間では「ネルフェスの涙」と呼ばれている。
基本的には癒しの力が主であり、生体機能を促進する働きを持っているだけなのだが
人々の口から口へと上るうちに段々と噂に尾ひれがつき、「どんな願いをも叶える」という
噂が定着してしまい、かえって謎を深めることとなってしまった。

※スカルプチャ
滄我のエッセンスが魔物の体内で凝縮し、結晶化したもの
モンスターを倒すと体そのものが結晶に凝縮されて結晶化する。
通常、人間の体内に滄我の力が宿ることで爪術が使えるようになるが、
近隣の動物や魔物に宿ると、外見的にも性質変化を起こし、呪文など
様々な力を使えるようになるほか、その魔物特有の性質まで引き出される。
滄我のエッセンスは魔物の中に入り込んだ時点で魔物の性質と融合し、
人間に宿った時とは全く別物の性質になっているため、これを結晶化した
スカルプチャを装備することで、装着者はさまざまな効果を発揮することが出来る。
逆に言うと、魔物の性質を取り込んだことで結晶としての純度は低くなっており、
エバーライトほどの劇的な効果を生み出すことは出来ない。
スカルプチャは直径4cmほどの球体で、いずれも宝石のように輝いている。
基本的には青い光を放つが、色や光の強さは宿していたモンスターによって
各々個体差がある。装備品としてだけではなく装飾品としても需要があり、
さまざまな形に加工されたり色を加えられたりして重宝されている

※私的の感覚では、レジェンディアの滄我、とはマナとおもってます。
ちなみに、遺跡にいたのがマーテルで、
元々の海を管理していたのがラタトスクという感覚だったり(こらまて)
ちなみにレジェンディア設定でいけば、
あの世界ではラタトスクはメルネスとゲーテのみをつくって
大陸というものをつくっておらず、生命体は海の中で生活してたという設定です。
・・・遺跡船がくるまでは(まて)

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ようやくセレス登場&合流だ!え?セレス合流するの!?
と一人でもおもってくだされば、よっし!です(マテ
ミトスも合流したのにセレスまで!?
このあたりがエミル(ラタトスク)がいるゆえの変更点ですよ(だからまて
だからこそ、高速艇を利用となったんですし。ふふふふふ…
テセアラ側では高速艇があるからいいものの、シルヴァラントは?
とおもわれるかもしれませんが、それにもとある乗り物がでてくるので問題なし!
まあ、十人以上いればどうみても旅業者一行にしかみえないので、
旅してても違和感ないかと。うん。リーガルの手枷もあるいみで、
趣味?とおもわれなくもないかなぁ、とか(リーガルさん…汗
さてさて、指輪物語、3がはいりますよv
あと、絶対にあってもおかしくない、という乗り物を追加です。
…あんなエレカーとかあるのに、あの世界。
なんでバイクやら、自転車やらがないのだろうか?
絶対にあってもおかしくない、とおうものに。
…主流交通手段が竜車って…謎……
ウィングパックなんてものすら開発してる世界、なのに…ねぇ?

ロイドの行動による、あるいみでのエミルの回想。
え?何それ?
とおもったひとは、もしかしてラタトスクの騎士でのイセリアでのイベント?
みていないかたもいるかもしれませんが。
…実際にロイド、やらかしてるみたいですよ~?
あきれる以外の何ものでもありませんけど。
でも、あれみたとき、なぜトマトのなげあいに?とおもったのは、
きっと私だけではないはず、です!
こらこら、コレットはどうした?とあのときおもった私は間違っていないとおもいます
どちらにしても、どのルートをたどっても、相手はどうした!?
といいたいですけど。
…そういえば、ラタのフラノールイベント、ロイドとリフィルのあの会話。
うぎゃぁ!?とおもったのは私だけではきっとない、はず。
二人きりのときには名前でよんで、なんて、リフィル先生…砂吐きますw
ロイドがやらかした?事件。
ロイドとジーニアスによっておこったディザイアンによるイセリア襲撃。
それによって死んでしまったポールという少年の父親。
ふさぎこんでいるポールの様子を世界再生後に知ったロイドが行ったこと。
毎日ポールのもとにかよい、それこそポールの母親にののしられても通い続け。
そして、なぜかポールの父親になればポールがふさぎこまなくなるのでは、
とおもいつき、いきなりポールの母親にプロポーズ。←突っ込み満載すぎますが汗
当然、ポールの母親のリリアは怒り、ここでなぜかロイドにトマトを投げつける。
(・・・食事の用意でもしてたのか?それともロイドに対する嫌がらせで、
  トマトを毎日用意していたのか??)
反射的にうちかえしたトマトがリリアに命中し、そしてトマトの応酬になった。
という事件です。
…ロイド、食べ物は大事にしましょう。


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