~テイルズシンフォニア・海の楽園アルタミラ・カジノ。カジノコイン交換表~
※ガルド購入は、1枚500ガルドとなっています。
ミラクルグミ20枚(一万ガルド)
ルーンボトル500枚(二十五万ガルド)
レアペリット2,000枚(百万ガルド)
ストライクリング5,000枚(二百五十万ガルド)
テクニカルリング5,000枚(二百五十万ガルド)
メンタルリング15,000枚(七百五十万ガルド)
魔神の玩具250枚(ビシャスコア)(闇の装備品の一つ)
忘れな草75,000枚(ねこにんの里にてこれまでのムービーが閲覧可能となる)
???150,000(カジノ一日体験入店券)←称号&カジノ従業員服装入手
上記となっています。
※魔玩ビシャスコアに関しては、カジノで手にいれようとするならば、
値段で換算すると十二万五千ガルド必要なので、
どうにかストーリー上てきに当事者から千ガルドで購入。
そのパターンができればそれにしたほうが助かるかもしれません
…そういえば、あのバターンって、クラトスルートでしかむりなのだろうか?
どうなんだろ?
ちなみに、コインを増やしていく方法。
1スロットマシンでひたすらある程度ふやしつつ、
リセット可能、なので、ある程度たまってはセーブ、リセットくりかえし、
さらに、10スロットに移動して、とやっていけば。
けっこう一日やればある程度はたまります
え?百スロットましん?やったことないですよ?むりだもん
ひたすら10でためてはセーブリセットの口でしたv私はv
カードゲーム?ルールよくわかってないものやっても確実性をもってして、
スロットオンリーでカジノコインは稼いでます……
それはテイルズもドラクエも同じこと。
ドラクエ…スイカ、しかそろったことないんですよね…(遠い目…
(祝♪前、9にて初めて7がそろいましたv)
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「そういえば、いつのまにかそろそろ夕方になるね」
いつのまにかすでに日はくれかけており、海が茜色にと染まっていくのがみてとれる。
ここはレザレノカンパニー本社でもあるビルの屋上。
高い位置にいるがゆえに、水平線もくっきりと視通せる。
三百六十度。
すなわち、どこをむいても海がみえる状態、であるがゆえ、ここから日の出、
そしてまた日の入りも拝める絶景ポイントといえなくもない。
アルタミラは周囲を海にと囲まれた島につくられている街でもあるがゆえ、島の周囲は海にと囲まれている。
今現在はアルタミラにくるまでは、海路を通じて、でしか移動方法がなく、
陸沿いではどうあがいてもたどり着くことはできなくなっている。
すなわち、ここアルタミラにくるためには船で移動してくるしか手段はないといってよい。
だからこそ、レザレノはアルタミラ行きの船を定期的に運航している。
それこそ、どこどこ経由、という形で。
「そうね…今日はもう遅くなってしまうわね。移動するにしても明日にしたほうがいいでしょう。
それに…プレセアもいろいろあったのだもの。今日はゆっくりと休んだほうがいいわ」
宿代を相手がだしてくれる、というのは恐縮ではあるが、しかし、ともおもう。
こちらにきてもお金が同じであったので、シルヴァラントで使用していたお金が使用できる。
それは助かるが、あまり無駄遣いもできないのもまた事実。
そろそろ懐もさみしくなってきてはいる。
このあたりですこしばかり、またネコニンギルドの依頼でもうけ、
金額をある程度稼いでおく必要があるかもしれない。
そんなことを思いつつも、リフィルがその場にいる全員をみわたしつついってくる。
たしかに今日はいろいろとありすぎた。
それぞれ、考えをまとめるにも宿の提供はありがたい。
結局のところ、ジョルジュやリーガルの提案を断るという理由もおもいつかなければ、
どちらにしても、今日くらいは野宿でなくそれぞれゆっくり子供達を休ませたい。
そうおもうがゆえにリフィルもまた同意する。
リフィルは基本、誰かに借りをつくる、というのは好まないにもかかわらず。
「…さて、どうすべきか……」
昼の顔と夜の顔。
ここ、アルタミラは二面性をもっている。
夜は大人の、そして恋人の時間、としても有名らしきここアルタミラ。
ミトスとともに旅をしているのはいい。
まあ、センチュリオン達はことごとく戻ってきては何やら小言をいってきているが。
視ている最中感じることのなかったミトス自身の感情。
ロイド達をみている中で、ミトスがどうやら過去を思い出すことが増えている。
それはあきらかに自分にとっては重宝といえる。
それとなく近いうちに話しをどうにか誘導でもし、
なぜ自分達精霊を裏切るような考えにいたったのかを聞きだしたい所。
なぜ、という思いは日に日につよくなっている。
どうして先に精霊達に相談、もしくは自分の元にそのときこなかったのか、と。
二つの陣営がどうしようもないのならば、
国そのものを消してしまえば大樹を蘇らせたとしても問題なかっただろうに。と。
「聖獣たちを先にめざめさせたとしても、またあいつらが何かいいそうだな」
特に誰、とはいわないが。
やはり、ヒトは滅ぼすべきなのでは。
といいそうな聖獣が約一名。
すでに彼らを目覚めさせてもいい布石は整った。
マナも完全に偏ることなく万弁なくいきわたらせている。
それにそなえ、ちょっぴしすでに理の変更も初めている。
精霊達が基本、この世界にいきる自然界を代表した精霊だとすれば、
聖獣たちはその言葉どおり、動物達を監視、もしくは導く立場にいるものたち。
以前、すでにその概要は彼らに話し、自分が決定したのならば、
その理にかえることもいとわない、という許可はたしかにもらっている。
いるが。
さらにいうなれば、聖獣たちにひいている理は、
聖獣一体につき万が一契約する場合は、ヒトでは一人のみ、という制約をもうけている。
すなわち、一人の人間が何体もの聖獣との契約はできないようにしている。
それは万が一にも精霊達と契約したものが、聖獣たちの力まで手にし、
力におぼれることがないように、と定めている理。
「ゲオルギアスのやつは絶対にミトスの裏切りをしれば、
やはりヒトなど滅ぼすべきだ、などと確実にいうだろうしな……」
それはもう手にとるようにとわかってしまう。
聖獣の王として生み出しているゲオルギアス。
そもそも、かつてのときですら。
人を滅ぼすのをやめた自分に対し、わざわざギンヌンガ・ガップにまで確認にきたほど。
なぜ、と。
これほどまでに手ひどい裏切りを受けてもなお、まだヒトをあなた様は信じるのか。と。
そもそも、あのとき、ヒトを滅ぼせ、と命令した自分の命に率先して従っていたのが、
他ならぬゲオルギアスであった。
だからこそ、魔物だけでなく動物達もまた狂暴化の一途をたどっていたあの時。
アクアがリヒターについていっていたあのとき、
自分は当時はしるよしもなかったが、後からきくところによれば、
シャオルーンとアクアが幾度となく激突、していたらしい。
リヒターが自らを殺そうとしているのをしっていて、なぜ、と。
さすがに二人はある意味で似たもの同士でもあるがゆえ、
シャオルーンにはアクアはその心情を暴露していたらしいのだが。
すなわち、自らのコアを壊すこと、この世界…否、
この地表全ての消滅。
コアを壊しても、やがて自らのコアは再び再生を果たす。
それこそ、彗星ネオ・デリス・カーラーンがあるかぎり…否、
自らの元となっているこの【世界】の中心地で眠る【核(コア)】がある限り。
この地のように途中から、なのではなく始めからまた惑星をうみだせばいい。
自分を…ラタトスク様を裏切るような世界を救う必要はないのだから、といって。
そして、さらには。
リヒター様の望みもかなうし、一石二鳥でしょう、と。
リヒターごときが封印になっても、アクアは扉が守られることはない。
とわかっていたにもかかわらず、リヒターに説明していなかったのはそれもあったらしい。。
ユグドラシルが枯れてゆく最中、シャオルーンが愚痴ったことから知った事実。
そういえば、ともおもう。
あのとき、自らが人間達を魔物達に対し滅ぼせ、という命を撤回するより少し前。
あのときは結局、他の六聖獣たちがゲオルギアスをどうにか説得していたらしい。
しかもその説得理由がならばヒトを見極めるために自分達でヒトを作ればいいでしょう。
というフェニアの意見をもとに聖獣たちはオルセルグを産みだしていた。
あの旅の最中でそのオルセルグにあうことはなかったが、あっていれば違っていたのだろうか。
あのときは、オルセルグ云々、ときいても意味がわからなかったし、
またあっていたとしても理解できなかった可能性のほうがはるかに高いが。
いまだに今現在において、聖獣たちは目覚めさせてはいない。
しかし、そろそろ目覚めさせてもいいかもしれない、とおもうのもまた事実。
「さて、どうするか……」
やはり、目覚めさせるにしても、精霊達の楔全てを解放させてから。
そうでなければ、聖獣たちと精霊達の連携がままならなくなってしまう可能性が高い。
「うん?あっれ~?エミルくん?こんなところでどうしたんだ?」
ふと聞きなれた声がする。
海辺にでて、少しばかり夜の海をみつつも思考にふけっていた。
それぞれ、二人部屋などをあてがわれたロイド達はすでに寝ているらしいが。
エミルは食事がすんですぐに外にでたのでどの部屋なのかはきいていないが。
ちなみに、動物もオッケーの部屋があるらしく、ノイシュはロイドとともに、
部屋の中で本来の大きさにもどってくつろぎながら眠っているのが視てとれる。
「あれ?ゼロスさんこそ?」
そういえば、ゼロスはクラトスに呼び出されて外にでていたな、とふとおもう。
ミトスは一度、あちらに戻ろうとしたらしいが、
ジーニアスと同じ部屋…というか、押し切られ、一緒になってしまい、
ジーニアスに抱きつかれている状態でそのままジーニアスが寝てしまったがゆえに、
戻るに戻れない状態になっているっぽいが。
「いや。俺様はさっきまでどうしてもっていう子をことわれなくてな~。
そういうエミル君は女の子つれてないの?」
断れない、というよりはクラトスが一方的に通信してきたらしく、
ゼロスとしては仕方なくっぽかったような気がするが。
それを知っている、というそぶりはまったくみせず、
「あ、僕ちょっと、外の風にあたってただけですから」
これも嘘ではない。
外にでていた、というのは事実なので嘘はいっていない。
嘘は。
いろいろと考えていたというのをいっていないだけ。
いいつつも、その視線を海にとむける。
ゆっくりと、しかし確実に大陸の移動は初めている。
それこそゆっくり、ゆっくりなのでよくよく気をつけてみなければわからないほどに。
地震を起こす頻度としても、いまだに本来あるであろう楔が一つ抜けただけの今では、
あまりに頻繁におこしてもおかしい、とおもわれかねない。
エミルからしてみれば一気にしてしまいたかったのだが、
センチュリオン達が念には念をといってきた。
ミトスが合流したことにより、何かしら彼が自分に何か害するようなことをしでかすかも。
という懸念を彼らは抱いているらしい。
もっとも、皆が皆、ミトスの変わりように困惑しているのは事実なれど。
それはラタトスクとて同じこと。
共に旅をしているミトスからは、あのときのよう。
すなわち、何があっても困難がどんなにふりかかっても、
何とかしよう、という気概が今のところみられない。
それこそ、流されるまま、という印象を何となくうけている。
いまだにロイド達はミトスを非力、とみている節がある。
そのあたりも近いうちにどうにかする必要性があるであろう。
それとも、ミトスをかばい、誰かが怪我をすれば、ミトスは目がさめるのであろうか。
自らが何をしているのか、というかつてミトスが抱いた理想とはかけ離れている。
その自らの行いに。
じっと海をみているエミルの様子に何か思うところがあったのか。
「何だ。まあ、エミルくんもいろいろあるようだな。
よっしゃ。この俺様がいいところへつれてってやるよ。ついてきな。
その様子だと、どうせエミル君はまだホテルにもどるきはねえんだろ?」
「え?まあそうですけど…」
というより、寝る必要性を感じない。
「お子様達はもうおねむの時間だろうがな。リフィル様でもさそいたいけど。
逆に何となくお小言いわれそうだしなぁ」
ゼロスが髪をかるくかきながらそんなことをいってくる。
そういえば、部屋割りは基本、ツインルームを主体としたからか、
リフィル、ジーニアス、そしてミトスが一部屋。
ロイドとエミル、そしてゼロスが一部屋。プラスそれにノイシュ。
コレットとマルタが同じ部屋。
しいなとタバサ、そしてプレセアが同じ部屋。
タバサはどうやら自分は部屋はいらない、といったらしいが。
しいながそんなわけにはいかないだろ、といって自分達の部屋にひっぱりこんでいる。
リーガルは会社のことで話しがあるとかで、一緒のホテルには泊まってはいない。
ジョルジュ曰く、たまっているレザレノの会長の決算が必要な書類があるとか何とか。
何でも監獄にもっていったところ、リーガルが出所しており、その居場所を探していた、らしい。
どうしてもリーガルに意見をうかがわなければいけない症例がでているがゆえに。
もっとも、ロイドの部屋、すなわち、ゼロスもエミルもこうして外にでてきているがゆえ、
ロイドは今現在、一人でノイシュとともに部屋にいる状態、なのだが。
大きめなふかふかのベットに横になったとたん、そのまま爆睡しているのが視てとれる。
どうやらロイドも精神的に多少は疲れていたらしい。
「ああ。リフィルさんならいいそうですね。…僕もいわれそうですね。子供ははやくねなさい!って」
実際には子供でも何でもないのだが。
というか、自分より年上の存在などいるはずもない。
ゼロスの台詞にくすり、と苦笑をうかべつぶやくエミルに、
「いうな。リフィル様なら。つうことで、エミルくん、ちょこっと俺様につきあえな?」
「いいですけど。どこかにいくんですか?」
「なあに!アルタミラっていったらやっぱり…っと。これはいってからのおたのしみ~」
にやり、と何か企んでいるようなゼロス。
いくとすれば、夜の遊園地か、カジノか。
…おそらく後者、であろうが。
ゼロスに促されるまま、そのままエレメンタルレール乗り場へと移動する。
夜の空気に冷やされた海風がここちよい。
ウンディーネが解放されたことにより、アクアの負担もまた減っている。
海にすまう生き物もまた、いきいきとしているのが視てとれる。
夜だというのに人々は賑わっており、夜の海水浴もまた許可されているのか、
ほのかに海岸には灯りなどがともっているのがみてとれる。
街のいたるところには抑えられた灯り、すなわち街頭が設置されており、
夜でも足元がみえない、ということはない。
「いらっしゃいませ。夜のエレメンタルレールは
カジノ、遊園地行き、劇場エリア行きのみとなっております。
それ以外の目的地の方は、後方のエレメンタルレールをご利用ください」
乗り込みができる船の位置は二か所あるらしく、
片方は娯楽施設、もう片方は生活にねづいた場所経由にいくようにとなっているらしい。
それこそ、商業区とかそこにすんでいる人々の為に動いているらしい。
どうやら他にもカジノにむかってゆく人々はいるらしく、数名がカジノ行き、
となっている元に並んでいるのがみてとれる。
遊園地のほうは、ほとんどカップルが出向くらしく、
「遊園地行き、エレメンタルレール、まもなく発車いたします~」
そんな案内がスピーカーからもれている。
ちなみにホテルは完全防音設備を整えているらしく、窓を閉めている限り、
外の喧騒はきこえてこないようにしているらしく、
ゆえに外でスピーカーなどで騒いでいても気にならないようになっている、らしい。
そしてまた、この街にある全ての民間の家にもまた、
レザレノは無償でそういった設備投資を行っている、らしい。
もともと、この地にすまうものは、
ほとんどといっていいほどにレザレノ関連の会社に勤めている関係者。
ゆえに、レザレノ社としてのサービスの一環、であるらしい。
防音設備などがしっかりしていても、爆弾の規模がわからない以上、
民間の建物などが壊される可能性がある以上云々、と
かつてリーガルがいっいていたことをふと思い出す。
そんな中、どうやら遊園地行きのレールが発車したらしく、
しばらくすると次のエレメンタルレールが乗り場にとやってくる。
「夜のアルタミラは昼とは違った雰囲気なんだぜ。当然、お子様は禁止ってな」
新たにやってきたエレメンタルレール。
それに乗り込み、隣に座りつつも、ゼロスがそんなことをいってくるが。
「夜間は安全のために街の出口は封鎖されてましたしね」
一応、念のためにそれは確認している。
近くにいったところ、警備のものに、夜の街への出入りは、
許可証をもつものでないと認めていない、ということらしい。
もっとも、実体でなく精霊体にその姿をかえれば簡単に外にでることなどたやすいが。
もしくは人々に認識されないような気配をまとえば簡単に外にでることは可能。
基本的のこの街、アルタミラは水路に囲まれた形になっている街でもあるがゆえ、
街の出入り口となっている場所以外は、その水の水路を越えなければ外にはでられない。
ゆえに、入口さえ封鎖してしまえば、
普通、空中を歩くすべをもたない人間達は出入りが不可能となっている。
このあたりはルインとさほどかわらない。
街の規模がまったく異なるにしろ。
「カジノ、劇場行きまもなく発射いたしま~す」
そうこうしている中、乗り込んだエレメンタルレールがゆっくりと動き出す。
エミル達以外にも数名乗り込んでおり、
また後ろのほうにはどこかの貴婦人らしき姿もみてとれる。
月灯りと街頭が照らし出す中、ゆっくりとエレメンタルレールは水上を進んでゆく。
やがて、目的地にとたどり着き、ぞろぞろと人々が降りてゆくのがみてとれるが。
「えっと、ゼロスさん?ここは?」
以前、ここにきたときは、そういえば、ここにヴァンガード達が拠点をつくっていたな。
ふとそんなことをおもいつつも、ひとまず来たことがない、と思われている。
実際に【今】来たのは初めてなので確かにそのとおり、なのだが。
それゆえに問いかけるエミルに対し、
「このエリアは娯楽施設がかたまってるんだぜ」
ゼロスがそういうのと、
「カジノ・劇場エリアにようこそ。夜しか味わえないアルタミラを楽しんでください」
受付場にいる人物がどうやらエレメンタルレールが到着するたびに表にでているらしく、
一人一人の乗客に頭をさげつつもそんなことをいっているのがみてとれる。
少し視線をあげれば、簡易エレベーターを上った先。
二階部分にあたる場所にカジノらしき建物がみてとれる。
さほどネオンは豪勢、というほどにつけているのではなく、
どちらかといえば落ちついたオレンジ色の灯りを主体にし、
周囲の光景、すなわち夜の海にあまり違和感なくとけこむようにとつくられているそれ。
「カジノかぁ…はいりたいなぁ。でもハマっちゃうと怖いしなぁ……」
カジノ、と描かれた看板のある建物の前。
中にはいろうかどうしようか、まよっている人物の姿もちらほらとみうけられる。
おそらく、心でつぶやいているつもり、なのだろうが、
思いっきり口にだしている存在の姿もみてとれる。
カジノの入口前には看板がでており、
【カジノは二十歳を過ぎてから】
と注意書きがなされているが。
「…ん?」
ふと、違和感を感じ、すっと目を閉じ意識をとぎすます。
あきらかに感じる微弱なる…瘴気。
こんなところでなぜ?とおもうが。
ざっと確認してゆくと、どうやらこの瘴気はこの先にいるとある一人の人物から感じられる。
海の上に掛けられた橋の上にて海を眺めてため息をついている年若い男性。
「あ、おい。エミルくん?」
ゼロスが怪訝そうにいってくるが、とりあえずほうっておくわけにはいかないであろう。
それゆえに、その男性の元にちかづいていきつつ、
「どうかしたんですか?」
あきらかにため息ばかりついているその男性にと声をかける。
まあ、ため息をつきまくっているので声をかけてもさほど違和感は感じられないであろう。
…多分。
「ああ。ちょっとね。困ったことになっちゃって」
「?困ったこと、ですか?」
エミルがその男性に話しかけていると、少し遅れてゼロスもまたこちらにとやってくる。
「おいおい。エミルくん、どうしたんだよ?」
「あ。すいません。なんかこの人がため息ばかりついてるのが目にはいったから。ちょっときになっちゃって……」
嘘ではない。
気になったのはため息、ではなく彼から感じる瘴気の気配、なのだが。
ため息をついている姿が目にはいったのもまた事実なのであながち嘘はついていない。
ただ、気になった理由について真実を述べていないだけ。
「おいおいおい。ヤロウなんかにかかわらなくても……」
そんなエミルに呆れたようにゼロスがいってくるが。
というか、男性でなかったらゼロスは率先して声をかけていたのだろうか。
否、おそらく間違いなく声をかけていたのだろうな。
そうなぜか変に確信をもちつつも、
「あの?何かあったんですか?」
そんなゼロスの台詞に苦笑しつつも、目の前の男性の顔を覗き込むようにして問いかける。
瘴気が彼に悪影響をあまり及ぼしているような感じはうけない、のだが。
多少の影響はあたえているらしいが。
強いていえば彼のもつ本来の運気が穢されている、というくらいか。
つまり、本来の運気が瘴気によって穢され、ほとんどなくなっているといってよい。
「いやぁ。聞くも涙、語るも涙。そこのカジノで僕の全財産、すっちゃったんだよ……」
「・・・・・・・・は?」
ちょっとまて。
全財産?
思わずエミルがその台詞に目を丸くすると、
「あちゃぁ。というか。ここのコイン替わりのチップは交換したらもう換金できないだろうがよ。
そもそも、カジノに入るときに節度をまもって遊んでくれ。
って係りのものがいってるだろうに」
呆れたようにそんな男性にゼロスが横から口をはさんでくるが。
…どうやら、カジノにくる客全てに対してゼロスの口調からして係りのものが声をかけているっぽい。
「…あの。それって…自業自得、ですよね?」
思わずそういうエミルは間違っていない。
絶対に。
というかこの人間は何をやっているのだろうか、とふと思う。
それとも、彼のもつ品から感じる瘴気に思考まで侵されはじめている、というのだろうか。
マナをみるかぎり、まだ彼には運気のみしかかの瘴気は影響をあたえているようにはみえないが。
「僕にのこされたこれを売るかどうか……」
いいつつ男性が懐からとりだしたのは一つの箱。
ちなみにその箱から間違えようのない覚えのある瘴気が周囲にまき散らされているのが視てとれる。
というか、これだけの瘴気だ、というのにこの男性は気づいていないのだろうか。
否、気づいていないっぽい。
「そうだ!君、ケンダマすき?好きだよね!ね!」
「え?まあ、嫌いじゃないですけど…」
というか、遊び道具がすくない、という子供達に彗星にて移動しているとき、
自らの樹でおいてケンダマなどをつくっては子供達に渡していたのは事実。
そういえば、あのときのケンダマはどうなったのだろうか。
それをわたしたとき、当時の大人たちが恐縮しまくり、
家宝にしますだの何だのといっていたが。
あまりに移動するにあたり、暇だったので、彗星上においてもディセンダーとして、
苗木としておいてあった自らの依代たる大樹カーラーン。
その保護するディセンダーとして表にでていたあの当時。
いくつかは彼らが里をつくるときに大地に埋めていたような樹もしなくもないが。
それによって、あっというまにかの地に森ができたことをふと思い出す。
しかし、それでもまだいくつかのこっていたはず、なのだが。
詰め寄られるようにしていっくてる男性の台詞におもわず一歩退きつつも、
こくり、とうなづくエミルに対し、
「おお!何という奇遇!実は僕、珍しいケンダマをもってるんだよ」
いいつつ、さきほど懐からだしていた小箱をすっと目の前にと突き出してくる。
ぱかり、と箱をあけたそこには、木屑につつまれた、たしかに剣玉らしきものが。
どうでもいいが、気づかない、のだろうか。
木箱の中にいれていた木屑が瘴気によって朽ちていきかけている、というその事実に。
「これを千ガルドで君にうってあげよう!」
いいことを思いついた!とばかりにいってくるその男性。
「え?千ガルド…ですか?」
思わずエミルが目をぱちくりする中で、
「おいおい。エミルくん。そんなあからさまにあやしいのまさか……」
「ね!珍しい形状なんだよ。お買い得だよ~」
「あ、じゃあ。これで」
いいつつも、腰につけているポーチの中から、小さな革袋を取り出し、その中からお金を取り出す。
ちなみに、共通価格であるガルドは一ガルド、十ガルド、百ガルド、となっており。
百ガルドを十枚、男性にと握らせる。
コインそのものの大きさが異なっており大きさでも金額が把握可能となっている。
「毎度!」
お金をうけとり、その木箱ごとそれを手渡してくるその男性。
あからさまに自らの手の中で瘴気がうずまくが、それをすかさず封じておく。
マナをうけ、あっというまに瘴気はなりをひそめるが。
「これは…ビジャスコア、とよばれし品か……」
その道具に秘められし名を読み取り、ふとつぶやくエミルに対し、
「うん?君はそれの名前をしってるのかい?
それを手にいれてからというもの、ボクのツキはがた落ち……
い、いや、とにかくすごいよ、これは!それじゃ!」
いいつつも、お金をぎっとにぎりしめ、その場を立ち去ってゆくその男性。
「…あ、あの人、またカジノにはいっていっちゃった……」
立ち去ってゆく男性をみていると、そのままお金を握り締め、
再びカジノの中にむかっていく様子が。
「…懲りないねぇ。というか、エミルくん。なんでそんなあからさまにあやしい品を?」
あきれたようなゼロスの声。
「少し。・・・これを放っておくわけにはいかないですしね」
手の中で一時はもがこうとしていた瘴気…正確にはこの道具に宿りし下級魔族。
しかしそれらは一瞬で大人しくなっているのがみてとれる。
こちらのマナの総量からして確実に勝てない。
下手をすれば確実に消滅させられる、と判断したがゆえ、屈服することを選んだらしい。
「…しかし、なんだってこんなあからさまに瘴気をふりまくこれにあの人間はきづかなかったんだ?」
エミルが木箱を手にし少し力を込めただけで、
ぽろり、と木箱はまるで朽ちたかのごとくに砂と化し、さらには光となって周囲に溶け消える。
「お。おい?エミルくん?」
「この道具のもつ瘴気に入れ物が耐えられなかっただけですよ。
瘴気によって穢された器はマナに還る。それは人の器とて同じこと」
そしてその魂は瘴気に囚われ、魔族の傀儡と成り果てる。
エミルが周囲に漂いし淡い光にそっと手をふれると、
まるで光は呼応するかのごとくに輝きをまし、
そのまままるでエミルの中に吸い込まれるようにしてきえてゆく。
本来あるべき場所にマナが還っただけ、なのではあるが。
「おいおいおい。エミルくん?今のは、いったい?
しかし、今のやつ、ツキががたおちとかいってたけど、
そいつ、呪われた品なんじゃねえのか?」
ゼロスが少し眉をひそめ、そんなことをいってくるが。
「まあ、精神力が弱い人間達が手にしたとするならば。
これにとってはいい糧でしかないでしょうね。これ、あるいみで下級魔族ですし」
「…は?」
さらり、といわれたエミルの言葉の意味をすぐに理解できず、ゼロスが間の抜けた声をだすが。
『…エミル様、さらり、と爆弾発言をなさるのはおやめになったほうが…』
影の中よりなぜかグラキエスの忠告する声が聞こえてくる。
「それより。ゼロスさん。どっちにいくんですか?こっち方面の劇場?それとも?」
このまま奥にと進めば、この先、アルタミラ劇場、とかかれている看板が。
そして、来た道を少しもどれば、先ほどの男性がはいっていったカジノ。
このエリアにはカジノと劇場、その二か所が存在しており、
途中にあたるこの橋の上には休憩場にしているのであろう。
簡単な椅子というか長椅子が備え付けられており、
座ってゆっくりと休憩できるようにとなっている。
奥の劇場の周囲にはいくつものかがり火がたかれており、
赤々とそのかがり火を海の上にうつしだしているのもみてとれるが。
「あ。ああ。エミルくん、あまり動じてないなぁ。
ま、いいさ。アルタミラっていえばやっぱりカジノだからな!」
「ああ。たしかに。かけごととかまちがいなくリフィルさんが怒りそうですね」
そんなもったいないこととか何とか確実にいう。
絶対にいう。
「…まあ、リフィル様ならいうな」
というか、今、こいつ何といった?
下級魔族、とたしかに聞き間違いでなければそういったはず。
お伽噺の中にある魔界ニブルヘイムに住まうという魔族。
しかしこれ以上、先ほどの台詞に関して突っ込める感じでもない。
「そういえば、ゼロスさんはなんで僕をさそったんですか?」
「いや。たまたまエミルくん、そとにいたっしょ?」
それに何よりも気になっていることもある。
エミルがどうみても使役している伝説にあるという神鳥シムルグ。
エミル曰く、彼らは誰にも仕えたことはない、ときっぱりといいきっているが。
ロイド達にきいても、それは当のシムルグから否定の言葉をもらったことがある、といっていた。
それに気になるのはもうひとつ。
エミルがミトスというあの少年をみているその瞳。
どこか悲しみを含んだその視線。
あのミトスという少年はあの村にすんでいた、と当人はいっているが。
しかし、エミルはシルヴァラントからロイド達とともにやってきた、という。
だとすれば、こちら側、テセアラの人物をしっているともおもえない。
それに、ともおもう。
あの少年は、あの中で怪我ひとつなくあんな場所に、しかもたったひとりで倒れていた。
怪我もなく、しかも炎にまかれている中で火傷一つもしていなかったというのは、
あるいみ奇跡というよりは間違いなく不審極まりない。
誰かにかばわれてたとかならばそれも理解できるが、あの少年は一人であの場にと倒れていた。
「まあ、そうですね。ゼロスさんが誘ってくるとはおもわなかったもので」
くすくすと笑うエミルの姿にすこしばかり違和感を感じなくなくもない。
「エミルくん?」
「いえ。とりあえず、いきましょうか。ゼロスさん」
あの看板にはカジノは二十歳になってから、とかかれていた。
ヒトのいう年齢でいくとすれば、自分はあきらかに問題ない。
ゼロスがそれに気づいているとはおもえないが。
「…もうちょう、驚くかとおもったんだがなぁ」
それとも、シルヴァラントにもこういうものがあるのだろうか。
カジノとか劇場とか。
彼らの話しをきくかぎり、そんな娯楽施設など絶対にない、とおもうのだが。
エミルの反応はカジノの建物をみてもゼロスが思っていたほど反応はなかった。
まるで、見慣れている、といわんばかりに。
もっとも、エミルからしてみれば、この程度のカジノの規模ならば小さい。
としかいいようがない。
そもそも、エミルがしっている中では街一つどころか、
惑星一つまるごとカジノというか娯楽施設にしてしまっていた世界の記憶すらある。
もっともそのときは、惑星ごと、ではなく恒星…
すなわち、太陽系をひっくるめ、理をひいていた時、ではあるが。
それは、幾度か前に生み出した場所でのこと。
どうみても十代にしかみえない子供でも、保護者が共にいれば中にはいることは可能。
もっとも、今がさほど深夜に近い時間帯でない、というのにも理由があれど。
極力灯りを優しい灯りに抑えてあるネオンが輝くカジノの看板。
その下にある扉をくぐると、そこは様々な感情がうずまく世界。
「…ふむ」
すっと手の平に生み出していた小さな水晶をそっと垣間見る。
この場そのものに人々の様々な強い感情がうずまき、マナに変換するにはうってつけ。
それほど欲を求める人の感情の念、というものは果てしない。
人数がさほどいないがゆえか、それなりの【力】でしかないが。
ここにマナの流れをつかむものがいれば、エミルが建物の中にはいるとともに、
マナの穢れというかヨドミが一瞬のうちに、
エミルの周囲にて浄化されていることに気付いたであろう。
入口から入ると、ふかふかの真赤な絨毯にまず目がとどく。
そして真正面に机らしきものがあり、その横に兎の耳をつけた女性の姿がみてとれる。
建物は基本、丸いホールの形になっており、
簡単な段差のみで様々なエリアにと分けられているらしい。
建物の真正面の奥には大きなトランプの絵が描かれている模様があり、
そして、さらに奥のほうにはちょっとしたカウンターにて飲み物を頼める、のであろう。
数名の人物が様々な品を飲んでいるのがみてとれる。
どうやらお酒などをも取り扱っているらしい。
入口から左にはいった段差の階段の先にはルーレット台があり、
数名の人物がそれぞれ、希望するところにチップをかけているのがみてとれる。
…なぜか祭司服をきているヒトの姿もみてとれるが。
「ここは、アルタミラが誇るカジノなんだぜ。ちなみに、現金はご法度。
使用できるのはここで売られている通貨代わりのチップのみ。
そこのチップ売り場で現金で交換できるが、一度チップに交換した場合、
二度と現金に戻すことはできない仕組みになってる。
そして、そのチップもまたこのカジノでしか使用できない、という仕組みだからな」
あるいみでこの中でのみ通用する通貨のようなもの。
使用されるチップ替わりのコインも多少の不純物が混ぜてあるがゆえ、
銀、としての価値は転売しようにもはっきりいってお金にならない代物。
この中でのみ楽しむための品であり、また、記念として、
そのコインをつかって、ちょっとしたアクセサリー類やキーホルダー等。
といったものを作るお店もまた存在している。
つくる、といっても、形状を選び、コインに希望があれば名や日付を刻みこみ、
もともとある型にそれらをうめこみ形となす、という品なのだが。
アルタミラにやってきた記念としてそれをつくっていくものも結構いるらしい。
もっとも、それらもかつてのときに、こういう事態ではなければ云々、といって、
聞かされていた事実なれど。
エミルに説明しつつも、先にいる兎耳をつけている女性、
いわく、ヒトがいうところにバニーガールの格好をしている女性に近づき
一言、二言会話をかわしているゼロスの姿。
「…ま、いっか」
とりあえず、チップ売り場、とかかれているテーブルにと移動する。
ホテルの売店にて、いろいろとみていたマルタ達が、値段が高い云々、といっていたのもあり、
そういえば、ここいらあたりで念のために資金の獲得でもと思い立ち、
こっそりといくつかの宝石類を創りだし、店にと売り払ったのがつい先刻。
正確には、それらを引き取るだけのお金がすぐにあつめられない、
というので、ならば、こちらが好きな何かを購入し、
その差額をもらう、というのではどうでしょうか?
という意見をだせば、とんとん拍子に話しはまとまり、
ロイド達をもよんで、彼らの気にいる武具などを購入したりした、のだが。
そのときの金額の残りがいまだにけっこうあったりする。
質のいいエメラルド等は滅多と手にはいらないらしく、かなり高く見積もられた、らしい。
リフィル達もどこで手にいれたのだだのきいてきたが、
以前旅をしていたときにたまたま採掘とかしたことがあったので。
とひとまずは答えてある。
嘘はついていない。
それらがそれで手にいれたもの、とはいっていないのだから。
「ようこそ。ここは魅惑のスポットカジノでございます」
チップ売り場の男性が、近づいてたエミルにとカウンター越しに話しかけてくる。
制服、なのであろうスーツにもちかい燕尾服を着こなしているその男性。
「ここでカジノで使用できるチップへの交換ができます。チップの説明をききますか?」
「あ、はい。お願いします」
エミルの言葉に満足そうに笑みをうかべ、
「当ホテルではご遊戯の際に専用のチップが必要となります。
チップはこちらでご購入可能で、ガルド、EXジェム等と交換できます。
チップを集めると当カジノ自慢の様々なアイテムと交換できます。
こちらでしか入手できないレアものがあるかもしれませんよ?」
そこまでいい、
「それでは、チップを交換いたしますが。いくら交換いたしますか?
ガルドでは1チップ、五百ガルドとなっております」
そういえば、売り払った宝石類はEXクラスのジェムに値するとか何とか。
先刻のホテルの店のものがいっていたような気もするが。
「えっと、これだといくら交換になりますか?」
とりあえず、手ごろな宝石を取り出し、ことり、とその場にとおいてみる。
「これは!EXジェムでも高級品である品ですね。
これでしたら一つでコイン、五十枚、となっております」
…たかがこの程度のルビーでそれか。
ならば。
悪用とかはされないであろうし、手っとり早いというのもある。
「じゃあ、このルビーとサファイアとオパールとこのダイヤで」
「…少々お待ちください」
いいつつも、ルーペらしきものを取り出し、じっくりと鑑定を始める目の前の男性。
どうやら目の前の男性は、鑑定スキルを持っているらしい。
ちなみに、ダイヤは普通のダイヤとブラックダイヤ、ついでにピンクダイヤも出してある。
ダイヤについては小ぶりのものをだしたのでさほど問題はない、であろう。
ちなみにそれぞれ二、三個づつ。
しばらくなぜか唖然としつつ、品物、そしてエミルの顔を交互にみたのち、
そして、少し目をつむりかるく頭を横に振ったのち、
「確認いたしました。それぞれ本物、と確認いたしましたので。
これらの宝石類十個で、チップ五百枚ですが。貴重な品でもありますので。
これらのことを考慮し、そうですね。チップ八百枚ではいかがでしょうか?」
どうやら三百枚ほどおまけしてくれるらしい。
「あ、ならそれで」
「では。内訳はいかがなさいますか?」
チップは、1チップ、10チップ、そして100チップ、とわかれているらしい。
このあたりは普通のガルドとさほど変わり映えはしていないらしい。
「そうですね……」
エミルがそんな会話をしている最中。
「うん?うお!?エミルくん、それどうしたんよ?」
「あ、ゼロスさん。いえ、まだあった宝石類と交換したらこれだけになるって」
「…だから、どこでそんな品を手にいれたんよ?おまえさんは」
呆れたようなゼロスの声。
「そういうゼロスさんは?」
「うん?いや、ここには貴族の奥さま方もいたからな。ご挨拶は大切だからな~」
どうやらこの地にいる少し生地のいい服をきている人間達はゼロスのことをしっているらしい。
いつのまにかゼロスの手にはチップが幾枚か握られている。
…どうやらこの場にきている夫人方がゼロスに渡したもの、らしいが。
「じゃあ、とりあえず、半分づつ、百と十で」
「かしこまりました」
じゃらじゃらと、用意されるチップ数。
さすがに、十チップ、そして百チップにしたからか、数はさほどないにしろ。
「んで。エミルくん。交換したはいいけど、何であそぶのかきめたのかい?」
「いえ。ここ、何があるんですか?」
「ルーレットにトランプ、そしてスロッドだな」
十チップが四十枚。百チップが四枚。
小さな籠を手渡されたのをみるかぎり、どうやらこの中にチップをいれて持ち運ぶようになっているらしい。
「そうですね。どれが一番簡単ですか?」
「まあ、どれも運だが、スロットはあれは動体視力がよければどうとでもなるしな。
俺様も以前にきたときのチップをここに預けたままになってるからな。
つかうこともないし。ご婦人がたに配ってきたところだし」
…どうやら、以前にここにやってきたときにゼロスはチップを荒稼ぎしていたらしい。
…ゼロスが何やら話したあと、バニーガールの女性たちが、
この中にいる女性たちに何やら配っていたような気もしなくもないが。
ゼロスの手持ちのチップをこの場にいる女性たちに分けてほしい、
とでもおそらくはお願いしたのであろう。
そのお礼としてまたチップをもらっていてはあるいみ本末転倒のような気もしなくもないが。
「俺様はスロット台は禁止くらっちまってるからなぁ」
かたっぱしから7をそろえまくったがゆえに、ゼロスはスロッド台禁止を言い渡されている。
もっともそんな事情をエミルはしるよしもないのだが。
「スロッドは楽だぜ?同じ模様をそろえるだけでいいからな」
まあたしかに楽ではあろうが。
どうやらここのスロットはゼロスの台詞から察するに、
一段、一段きちんとボタンをおして止めるタイプ、のものらしい。
中には自動で一度ボタンを押せば列全てがとまるタイプのものもあるのだが。
「じゃあ、ひとまずそれで」
ゼロスに連れられ、スロットコーナーへ。
「神子様。神子様は申し訳ありませんが、神子様の加護はあまりにおつよく。
いつも大当たりをだしてしまうので、申し訳ありませんが……」
スロットコーナーの係りのもの、なのであろう。
申し訳なさそうにゼロスに対しそんなことをいってきているのがみてとれる。
「俺様は案内してきただけだぜ?これで遊ぶのはこいつさ」
「あ、こんにちわ」
ひとまずかるくぺこり、と頭をさげ、そこにいるバニーガールの女性に挨拶し、
「ここのスロット?とかですか?どういう仕組みになってるんですか?」
すこしばかり首をかしげ、といかけるエミルの様子に、
「神子様のお連れさまですか?」
「まあな」
「わかりました。まず、このスロットコーナーの説明をさせていただきます」
それぞれ、1チップ、10チップ、となっているスロッドの列がそれぞれあり、
そしてその中央にひときわ大きめの台が一つ。
その台はこのカジノの目玉ともいえる一度あたり百チップのスロッド台であるらしい。
一チップと10チップのスロッドはそれぞれ十台づつ。
左右にわかれ、部屋に設置されており、
手前側が一スロッドの台、奥側が十スロッドの台、となっているらしい。
あわせる絵柄は、三つそろえれば、かけた分だけその絵柄の倍数。
すなわち、礼をあげれば七が三つそろったとすれば千倍。
【BAR】と書かれている絵柄がそろった場合は五百倍。
エンブレムの形をかたどった絵がそろえば百倍。
剣だと五十倍、鎧が二十五倍、盾が十倍、グミが五倍。
そして、グミ一つの絵柄が一倍…すなわち、かけた金額がもどってくる。
という仕組みであるらしい。
中心、上下、そして斜め、と含め、全部で五口分、一度でかけることが可能。
一チップでできる台はボタンは一つのみになっており、
どうやら止めるタイミングによって三つの絵柄がそろうか否か、がきまるらしいが。
みれば、チップを五枚いれてはひたすらにスロットを回している人物の姿がちらほらとみえ、
時折、当たったことを示すのか、台の上につけられているランプがちかちかと点灯し、
大当たりが出た場合、○番台さま、大当たり、というようなアナウンスが流れている。
「んじゃまあ、俺様はポーカー台にちょっくらいってくるわ」
「あ。はい。あそこのトランプの位置、ですか?」
ゼロスが指し示した方向には、トランプの絵がかかれている場所があり、
数名の人物が席についているのがみてとれる。
トランプを用いた様々な賭けごともどうやら行われているっぽい。
その手前に先ほど違和感を感じた祭司服を着ている男性がたっているのを視る限り、
おそらくは、もしかすればゼロスへの伝令の役目を担っている男性なのかもしれないな。
とふと思いつつも、それを口にすることなく、あっさりとゼロスをひとまず見送っておく。
「それで?どうなさるのですか?めずらしい」
ふわり、と横に姿を現しつつも…といっても、その姿は他者からは認識できていない、
であろうが。
ふわり、とその姿を現すとともに、そのままエミルの肩にとのってくる。
「ルーメンか。何、ここに懐かしい気配を感じたのもあるからな」
それは、ヒトが忘れな草、とよびし品。
昔も今も植物学的に貴重だの何だのと人間達はいっていたが。
しかしその貴重性により、リンカの木と同じく絶滅しかかっている草でもある。
今では唯一残されているねこにんの里。
その里のもみでどうやらかの草は生息を続けているらしいが。
いまだ成長過程でしかない子供のねこにん。
そのねこにんのマナが媒体となり成長してゆく草。
子供といえど全てのねこにんの子供に、というわけではない。
マナが多少乱れかけている子供のマナを正すため、
あえてそのマナの乱れがその植物にとって好ましい環境である、というだけのこと。
ゆえに、ネコニン版、無害なる冬虫夏草、というものすらいる。
もっとも、本来の冬虫夏草は大概、動植物の死骸のマナを糧として成長してゆく、のだが。
「あれは、人間のもつ深層意識に眠る記憶を呼び覚ます効果がある、からな」
そういうエミル…否、ラタトスクの台詞に思うところがあったのであろう。
「…もしかして、ミトスにお使いになるおつもり、ですか?」
「…まあな」
こっそりと、ミトスに与える食事の中にかの成分を紛れ込ませることにより、
ミトスに過去を振り返らせるのが目的の一つ。
その過程にてミトス一人だけ、ではおかしくおもわれるかもしれないがゆえ、
ロイド達をも巻き込むことになるかもしれないがそれはそれ。
ジーニアスの傍にいるときのミトスの様子をみるかぎり、
完全に過去の志を忘れているようにはみうけられない。
といっても、かつてのような完全なる意思を宿した光をその瞳に宿しているわけではないが。
ミトスもかつてよくいっていた台詞。
人は、自分達のような、ハーフエルフも人間も、過去に学ぶべきだ、と。
その台詞は過去にあった大戦、そしてこの地に移動する結果となったかつての歴史。
すなわち、この大地に移住するきっかけとなったミトスたちからしてみれば昔がたり。
ヘイムダールに産まれしものは、かならずどうして自分達がこの地でいきているのか。
それを幼き日に昔かたりとし、それこそ子守唄がわりにもされきかされる。
愚かにもマナを喰らいつくし、大地を疲弊され、大地を道づれにし死滅しようとしていた。
そんなかつての記憶を。
もっとも、それは言葉だけで、完全に理解しているのか、といえば疑いもでる。
彼らエルフ達は言葉ではいうが、実行にはうつさない。
つまり、理屈では理解していてもそれはそれとして実際とは関係ない、
とばかりに傍観を決め込んでいるのが今のエルフ達の実情。
テネブラエがかの地の長老に忠告をしたらしいが、
それから視ているかぎり、彼らが行動をおこした様子はまったくない。
かの書物を厳重に封印しなおす、でもなく。
そのまま打算的に、そこにおいていれば問題ない、とばかりに。
救いようがない、というのはまさにああいうことをいうのかもしれない。
そもそも、センチュリオンの忠告をないがしろにする時点で、
完全に彼らの種族としての盟約そのものの本質を忘れてしまっているに等しい。
「まあ、あまり目立たない程度にチップをあつめればよかろう?」
絵柄をそろえるなど簡単なと。
この程度の動きなど、エミルにとっては止まっているにも等しい。
百スロットを利用すれば一気に稼げるであろうが、かの台はたったの一台。
あまり目立つことは極力避けたい。
ならば、エンブレム等、といったあまり大々的に報じられていない絵柄。
それを三度に一度くらいづつそろえていけば問題はないであろう。
そんな会話の意味は、周囲にいる人々には理解不能。
そもそも、この建物自体が音楽がここちよい音量で流れており、
さらには解読不能ともいえる原語で会話しているエミルは、
ただ何か意味不明なことを呟いている、というようにしか人々の目にはうつらない。
もっとも、ここカジノにおいては他人を気にかけるようなものはあまりおら、
子供が一スロットマシン、もしくは十スロットマシンで遊ぶのは時折あること。
ゆえにさほど問題視もしていない、らしい。
もっとも、これが時刻が遅くなれば係りのものから声がかかり、
退席しホテルにもどるように、という勧告がはいるらしいが。
そのまま十スロットマシンの一番隅にとある少し死角にもなっている台。
その台にとすわり、コインを五つ投入する。
「さて、始めるか」
エミルがスロットマシンに座り、スロットを開始するのを少し離れた所で見届けつつ、
「よっしゃ。じゃ、俺様も、ここ、いいか」
「これは、神子様」
いかにもわざとらしい表現としかいいようがないが。
かなり席はあいている、というのに、神官服を纏った男性の横にとすわるゼロス。
何か自体が動いたとき、ここアルタミラでの接触の場所。
その場所とゼロスが定めているのが、ここカジノ。
ここならば様々な人々が接触しても不自然ではない。
それどころか興奮した人々から様々な情報を手にいれることすら可能。
いわば情報収集の場としてはここ、カジノはうってつけの場所といってよい。
実際に、このカジノの中にとある休憩場。
その場を任されている人物が裏では情報屋も兼用している、というのは、
知る人ぞしる事実。
レザレノ・カンパニーの情報部に所属している彼は会社の任務、
としてここで働きながら情報を集めている。
そのことをゼロスはその立場上知っている。
エミルはざっと世界を視たときに念の為にそのあたりも確認はしている。
かつて、このカジノに案内した元社員という人物が、
リーガルに説明していたことをふと思い出したがゆえ、
一応念のためにそのあたりが今も行われているのかきになった、というのもある。
詳しいところまではきちんと視て確認したわけではないが、
だいたいのところが確認できればエミルからしてみれば問題なかったわけであり。
ゆえにその人物がどういった情報を握っている、ということまでは完全把握はしていない。
「そういえば、サイバックにて、犯罪者が教皇によって捕らえられた、とか。
罪人を匿った罪、ということですが」
トランプを手にしつつ、独り言のようにつぶやくその神官。
「へぇ。それはまた」
いいつつも、ゼロスが再びその場に一枚、トランプをおき、別のトランプを手にしてゆく。
「あら?でも教皇様、といえば。
たしか国王様が見つけ次第連絡しろ、と勅命が先日ありましたわよね?」
同じくその場にいた別の客らしき人物がその会話に割ってはいってくるが。
「ええ。何でも教皇様はよりにもよって神子様を陥れようとしたとか。
壊れた機械にて神子様をハーフエルフを匿った罪に陥れようとしたとかで」
「まあ。よりによって神子様を?ああ、だからなのかしら?
ここさいきん、いつまたスピリチュアの悲劇の再臨があるんじゃないかって。
皆が皆、不安になっているんですのよね」
「そうそう。噂ではグランテセアラブリッジが今現在普通に通行するは問題ないとしても、
航海にあたっては跳ね橋機能が起動しなくなったのもその前兆じゃないか、と」
「あら。あの王都にむかってきた巨大竜巻もその前兆なのでは、
といわれていますわよ?それに……」
人の噂というものは、真実におひれをつけてあっという間にとひろがってゆく。
特にここ、アルタミラは様々な場所から観光客が訪れる地。
少し前の出来事でも、人々は面白かったこと、気になったこと、
もしくは不安におもったこと、といった噂はあっというまに人から人へ伝達してゆく傾向がある。
「まあ。そんな噂があるのですの?私はフラノールのほうからやってきたのですけども」
なぜかゼロスがこの席に座ったことにより、この席にはほとんど男性はまずいない。
というより、ほぼ女性においてこの場は占められていたりする。
男性はゼロスと祭司服をきている男性くらいといってもよい。
そもそも、カードを配っている係り員からして女性であるこの場所。
巨大竜巻、というのはいうまでもなく、エグザイアから地上におりるときに発生した代物、であろう。
もっともそこまで詳しいことはゼロスは聞かされていないが。
「そういえば。噂ですけども、神鳥シムルグが現れたとか。
神子様、そのあたりはどうなのでしょうか?」
「さてねぇ。まあ、安心してくださいな。ご婦人様がた。
この神子ゼロスがいるかぎり、皆さまを悪いようにはいたしませんよ」
「「きゃぁ。神子様っ。さすがですわっ!」」
何とも黄色い甲高い声が場違いながらも響き渡る。
「そういえば、その捕らえられたというかたは?」
「さあ?サイバックの研究者、という噂しか……」
「サイバック…かの研究所ではハーフエルフ達がたしかいるのでしたわよね」
「たしかに。ハーフエルフ達の知識はすごいとしかいいようがありませんけども。
反乱でもおこされれば、私たち力なきものはどうしようもありませんわ」
「そのために国が管理する必要があるがゆえに、
市街にて住まうことを禁止したとわたくしはききましたわ」
ハーフエルフを匿えば死罪。
野蛮で卑しい種族、として幼き日から言い聞かさせれている彼女達にとって、
それは所詮他人ごとでしかない。
他人事でしかないが、自分達の身に危険が降りかかるのであれば話しは別。
「神子様はたしか、ハーフエルフの擁護派でしたわね。
あんな得体のしれない力をもつものを……」
「マダム。女神マーテル様のおしえは、誰もが等しく、その加護を、ですよ」
「それは、そう、ですが……」
「…それに、産まれた子供に罪はありませんからね。
ハーフエルフと産まれたからには、片方の親が必ずヒトであるわけで」
「そう、ですわね。エルフ、もしくはハーフエルフと通じる人が前提にいるのですわね」
「さすが、神子様のお話しは奥が深いですわ」
ゼロスからしてみれば、神子、という立場ゆえに、女神マーテルのおしえに従っている。
そのようにふるまうのがすでに身についているがゆえに、こういう人間達に説明するのは手慣れたもの。
ミトスが生み出せし偽りの宗教。
否、偽り、ともいえないのかもしれない。
もし、マーテルが生きていたとしたとするならば、
彼女の考えに共感した人々が彼女をあがめ、
あたらしい宗教をつくっていてもたしかにおかしくはなかった…かもしれないか。
当人がいくら否定しようとも、周囲、特にヒトというか国、というものは、
その個人がもつ影響力を利用しようとする。
それはいつの時代においてもいえること。
そして、あまりに個人が持つ影響力がつよくなれば、そのものを異端、
もしくは犯罪者、としてありもしない罪をおしつけて断罪する。
死人に口なし、とばかり、殺してからのちそのものの名誉を回復させたり。
そんなことを平気にと行う。
それがヒト。
これまでもそんな人の愚かを嫌というほどに視てきたラタトスクは、
だからこそ何ともいえない思いになってしまう。
そんな中でそうではない、あがこうとしているヒトもいることをしっている。
しかし、そんなあがくものですら、国、という組織は利用しようとする。
国、といわず宗教、という概念においてすら。
そもそも、宗教、という代物自体がヒトがつくりだした幻想でしかない代物でしかない、
というのに。
様々な人々の思いを飲みこんで、アルタミラの夜は更けてゆく――
朝日がさんさんと海面にと降り注ぐ。
ほのかに海より立ち昇った水蒸気がアルタミラの街を覆い尽くす。
朝靄と太陽の光りが混じり合い、幻想的な光景をかもしだし、
この光景を目当てにこの地にやってくるものもすくなくない、という。
「うむ。皆ゆっくりとやすめたか?」
それぞれ部屋からでて、朝食をとるために食堂へ。
ここ、ホテル・レザレノのホテルの三階にある食堂はは有名であるらしく、
一節によればワンダーシェフもこのホテルにこっそりと食べにくるほどといわれている。
まあ実際エミルは先ほど、外にでていたときにぱったりと出くわしているのだが。
結局、昨日のうちには戻ってこなかったリーガルであるが、
朝になり、どうやら用事がすんだのか、はたまた後はジョルジュにおしつけたのか、
そのあたりはわからないにしろ、先にこの場にとまっているリーガルの姿。
どうでもいいが、家に一度もどったのであるならば、
その布だけの囚人服から着替えてくればよかったのに、と思わざるを得ないが。
それでも腰に小さなポーチをつけていることをみれば、
その中におそらくは着替えくらいをいれているウィングパック類が入っている、と思いたい。
ホテル・レザレノは一階部分に海のホテルであるらしく、その眼下に水を湛えてつくられており、
その水の上に橋を渡すような見た目として設計されている。
そのまま直接、海の水を引き込んでいるがゆえ、
潮の満ち引きなどにより、その水位の変動はありはすれど、
そしてまた、海の生物、ちょっとした小さな魚や小さい生物等。
それらもまた建物の中にある…あるいみでこの海からしてみれば浅瀬のようなもの。
ゆえに、普通に浅瀬に生息する海の生物もまたホテルの中にいながらに観測できる。
きちんと、海の水を引き込む場所には柵がしてあり、あまり巨大な生物は入ってこれないようになっており、
また、ゴミのポイ捨てなども徹底し清掃員が綺麗にしていることもあり、
一概に汚れた水、というものにはなりえない。
もっとも、嵐の日などは、海とホテルをつなぐ水の引き込み口が閉じられ、
ホテルの中が海の荒れ模様に影響されないようにと工夫もされている。
もともと、この地は浅瀬であったゆえに、元々あった自然になるべく近い形で、
という意見もあいまって、このようなホテルにとなっている、らしい。
ホテルのロビーにそのような理由がかかれているプレートというか説明文が置かれており、
誰でも成り立ちを知ることができるようにとなっているのがみてとれる。
ホテル全体はところどころに広い大きめのガラス窓が設置されており、
そこから景色がみわたせるようになっている。
ホテルの中央部分は吹き抜けとなっており、
臨時用の非常階段がその部分につけられている。
もっとも普通はその階段部分にはいる入口は閉ざされており、
絶対に使用することはできなくなっているようではあるが。
ホテルのいたるところに様々な大小の木々が植えられており、
ちょっとした花壇のようなものが各階に必ずいくつか設置されているここホテル・レザレノ。
解放感をしっかりと強調した広い空間からみえるは、巨大な窓からみえる外の景色。
高い位置からみえる海の景色はまさに絶景とし、
この地にてプロポーズなどを考えるものも少なくない、という。
「あ。リーガルさん」
ホテルの宿泊客用にどうやら朝はバイキング形式であるらしく、
宿泊客が好きな品を選んで何でも食べれる形となっている。
もっとも、この形式になったのもまたリーガルの代になってかららしいのだが。
以前、この地で朝食をとったときに片翼が云々といっていたことを考えると、
おそらくこの仕組みもまたアリシアが考えだし意見したもの、なのであろう。
ふとみれば、ジーニアスがミトスに細いんだからしっかりとたべないと。
といって、お皿にたべきれないほどの量をのせようとしているのがみてとれるが。
なぜか見慣れぬ人物とともに歩いてきたリーガルの姿をみとめ声をかける。
「エミルか。皆は?」
「あそこで皆、朝食を物色してます」
指をさせば、皆が皆、どれを食べようか、と目を輝かせ、
それぞれ好きな品々をお皿にもっていっている様子が目にはいる。
ちなみに、バイキングの料理でなく本格的な料理がほしい人はほしい人ように、
きちんと注文すれば別に料理を食べることも可能、らしい。
ゼロスはいつのまにか、というかホテルのお客に対し、というよりは、
女子供にたいし、率先し自らが器用にお皿に料理をもりつけて、
ぱっとみため、どうみてもフルコースのごときの盛り付けにし、女子供達を喜ばせている。
しいなは、滅多にないという和食コーナーの品物をとり、
お茶碗などにお米などをついで、なぜか卵かけごはんにしているのが目にはいる。
ちなみに、飲み物はお茶。
和食、洋食、どちらも選べる、というのがこの朝食バイキングの売り、らしい。
ここ数年、健康食品、として和食の人気が高まってきていることにも起因しているらしいのだが。
「あ、あの?リーガルさん?その人は?」
リーガルの横にいる人物は何となくではあるがエミルもよくよくみればみおぼえがある人物。
というか、なぜに彼が今、という思いもある。
かつて、リーガルが手配してくれた高速艇の船長を務めていた…人物。
あのときは普通に足がなかったのでリーガルが用意してくれた高速艇の存在はかなり助かったにしろ。
なぜに今、彼がこの場にいるのだろうか、という思いがあるのもまた事実。
そういえばあの船の中は生活に必要な場所は整っていたゆえに、
困ることはほとんどなかったといってよい。
だからこそ何の不都合もなく旅がつづけられていたあの当時。
彼らの協力があったからこそ様々な場所に移動できたといってもよい。
「うむ。彼のことでも話しあおうとおもってな」
そういうリーガルの言葉には何やら含みがある模様。
「?」
そもそも移動方法をとるのならば、
レアバードというものがレネゲードより貸しだされているのだから、
それで移動すれば問題はないはず。
もっとも、リフィル達は空から監視しているであろうクルシスに見つかる可能性がある。
といって懸念を示していたが。
最も、エミルからしてみればすでにミトスに気づかれている以上、
懸念も何もない、という認識でしかないのだが。
「あ。リーガル」
「あ、リーガルさんだ~」
ロイドとコレットがそんなリーガルに気づき、
その手にコレットはコップのみを、ロイドはお皿に山盛りにお肉を盛りつけたそれを。
手にしつつも、こちらにと近づいてくる。
「うむ。またせたな。どうだ?ゆっくりと寝られたか?」
「あ。はい」
そういうコレットの首はなぜかすこしばかり横にかしげているのだが。
コレット曰く、寝違えた云々、といっているが、それは症状があらわれ始めている兆候。
いくらコレットの内部にいる微精霊達が抑えているとはいえ、
ただの人の体に微精霊達の力が耐えられるはずもない。
ゆっくりと、確実にコレットの今現在の体は蝕まれていっている。
そもそもその辺りのことをもロイド達はどうおもっているのだろうか、ともおもう。
あれだけ、アルテスタが危険性を説いていたのだから、忘れている、とはおもえないのだが。
当人は肩がこっているから、というような認識であるらしいが。
まだどうやら完全に自らの体の変調に完全に気付いてはいない、らしい。
もっとも、まさか、という思いはあるようではあるが。
「うん?コレット、首をどうかしたのか?」
コレットがすこしばかりずっと首をかしげているのにきづきリーガルが問いかける。
「あ。いえ。たぶん寝違えちゃったらしくて…
いきなり首をもとにもどしても、首の筋を痛めたらいけないからって。先生が…」
それでも、ゆっくりと、そのままというわけにもいかないから、
無理をしないように首を元に戻すように、という指示はうけているにしろ。
リーガルの問いかけに苦笑しながらこたえ、
「そうか。…ベットがあわなかったのか?」
リーガルが少し考え込むそぶりをみせるが。
「あ、いえ!とてもふかふかでした~!体がうまってしまいそうで、とってもたのしかったです!」
それは嘘ではない。
マルタとともにふかふかのベットにダイブして幾度か遊んでいたのもまた事実。
エミルが念のために、といって渡してあったポプリ。
気分が高揚していて寝られないようならば、枕元におけばいいよ。
といっていた言葉のままに、それを枕の横におきどうにか睡眠にこぎつけたらしいが。
「あら。リーガル。…そちらのかたは?」
タバサは部屋に残されたノイシュとお留守番。
ルームサービスをとり、ノイシュのご飯にするらしい。
リーガルをも含めれば、計十二人、というあるいみちょっとした団体といっても過言でない一行。
もっとも、人々はその中に神子がいるのをみてとり、
いつもの神子様の癖。
すなわち、田舎などからでてきた旅業者などに、
ゼロスは率先し、自ら案内を申し出ることがある。
どうやら今回もそれ、とおもっているらしい。
現にはしゃぎまくっているマルタやロイドをみていれば、
どうみてもどこぞの田舎から、もしくは初めてこの地にやってきた、
旅業者、と誰がどうみてもおもってしまう。
しかも、ロイドやコレット達がリフィルのことを先生、とよんでいるがゆえ、
学びの場の教師が生徒達をつれ、慰安旅行にやってきているのかな?
という認識をもつものもどうやらこの場にいる人間達の中にはいるらしいが。
「うむ。皆もゆっくりと休めたか?」
「え、ええ。まあ、…昨夜、ジーニアスとミトスがなかなか寝つかなかったけどね。
まったく。エミルからあずかっていたポプリを叩きつけてようやくあの子達ねたのよ」
苦笑ぎみのリフィルの台詞。
興奮していたジーニアスがなかなかミトスとおしゃべりばかりで寝ようとせず、
そういえば、と思いだし、リフィルがエミルからあずかっていた、ハーブのポプリ。
それを二人に投げつけ、何とかことなきを得た、らしい。
始めは寝るつもりなどなかったミトスとて、ハーブの効果。
すなわち、睡眠機能を停止している、にもかかわらず、
なぜか眠気がおそってきてしまい、気づけば朝になっていた、という結果らしいが。
ゆえに、昨夜は結局、ミトスは彗星ネオ・デリス・カーラーンに移動してはいない。
「ここ、アルタミラに初めてきたものは、大概興奮して一日目はほとんど寝不足になる。
と私も報告はうけているからな。目下、いまだにそれにたいしての対策は模索中だ」
一応、そういう報告もあがってきているが、なかなかいい案がないのもじじつ。
だからこそ、夜の遊園地などを解放したりいろいろと手はうっているのだが。
リーガルが苦笑ぎみにいうと。
「まあ、しかたないわ。あの子達こんなにぎやかなところにきたのなんて初めてですもの」
リフィルはそんなリーガルの台詞に苦笑ぎみ。
少しばかり肩をすくめ、しかたない、とばかりに笑みをうかべていってくる。
実際、シルヴァラントに住んでいるかぎり、こんな場所にはお目にかかれないであろう。
唯一、発展しているとおもわれるパルマコスタですらここまでにぎやかではない。
誰もが安心し遊べる場が、シルヴァラントにはない。
いつもディザイアン達の影におびえ、子供達とて住んでいる街や村の外。
そこで遊ぶのは魔物の脅威だけでなく、ディザイアン達にみつかれば、
問答無用でつれていかれてしまう、という恐怖から大人たちもまた、
子供達に外にでないように、と口ぐちにいっている。
…もっとも、外にでなかったから、といって危険が回避できるわけではないが。
ディザイアン達は思いついたかのごとく、ヒトが住まう地を襲撃する。
それこそ、かつての馬車の中できいたあの家族がいっていたように。
学びの場にすら襲撃し、そこにいる子供達を連れてゆくこともたびたびある。
だからこそ、かく住み家において簡単な自警団、というものが出来上がっている。
…ディザイアン達にかなわないまでも少しでも時間を稼ぎ、
一人でも多くの人々を助ける、という名目で。
「だってさ。先生。ドワーフの誓い。第十番!よく遊び、よく遊べ!っていう誓いもあるんだぞ?」
「…ロイド。はしたないから、たったままものをたべるのはやめなさい。…はぁ」
どうやらおいしそうな果物をみつけたからか席につくまでまてなかったらしい。
お皿にのせているそれを口にひょいっともっていき、
ぱくぱくとたべつつも、リフィルのもとにちかづいてくるロイドをみて、
リフィルが盛大なるため息をついているが。
ここ、ホテル・レザレノの三階に位置している食事所。
彼らは四人掛けのテーブルを三つほど確保しており、ジーニアス、リフィル、ミトスが一つの席。
ロイド、コレット、プレセアが同じ席。
エミル、マルタ、しいな、ゼロスが一つの席。
それぞれそのような席割りとなっている。
宿泊客、なのであろう、にぎやかな子供の声なども時折きこえてきて、
目を輝かせては並んでいる料理について親らしき人物にねだっている様子もみてとれる。
リフィルの席を一つあけたのは、リーガルがもどってくる、
もしくはタバサがやってきたときのためようとしてあけているらしいが。
リフィルの予測はもののみごとにあたったといってよい。
「料理、すごかったね!ミトス」
「あ、うん。そうだね。…ジーニアス、僕、こんなにたべられないよ?」
「何いってるんだよ。ミトス。ミトスはほそいんだから。しっかりたべてから体力つけないと!」
「…あ、う、うん」
ミトス、あなたはしっかりとたべないとだめよ?
ジーニアスの言葉をきき、ふとミトスの脳裏に浮かぶは姉マーテルの言葉。
マーテルもまた口癖のようにそんなことをいっていた。
なぜ睡眠機能を止めているはずの自分がきづいたら寝てしまっていたのか。
困惑することばかり。
それとも、純粋に自分を慕うジーニアスが傍にいることで、
これまでずっと張りつめていた緊張を無意識のうちに解除してしまっていたのだろうか。
それこそ姉達と旅をしていたときのように。
まさか、な。
ミトスがそんな困惑を抱いているとは夢にもおもわず、ミトスは曖昧にうなづくしかできない。
「はいはい。皆、きちんと料理をとったのならば、早く席につきなさい。
他の宿泊客達に迷惑をかけるんじゃありません」
「「「は~い(先生)(リフィルさん)(姉さん)」」」
リフィルの言葉をうけ、それぞれマルタ達もまた料理を手にしそれぞれの席へ。
「じゃあ、レザレノの高速艇をつかわせてくれるっていうのかい?」
リーガルの提案はしいなからしてみれば唖然とするよりほかにない。
聞けば、リーガル専用の高速艇が一隻あるらしい。
本来ならば様々な場所などに出張などにいく場合に使われていたらしいが、
ここ八年の間は、ジョルジュや会社のものの慰安旅行などに使用されているらしきそれ。
向かい合わせ同士の席を四つ確保しているがため、
それぞれの会話をきちんと聞き取ることは可能。
「うむ。ジョルジュにこれから神子とともに神殿にいく必要がある。
といったところ、では高速艇をお使いください、といわれてな。
実際、船がなくては困るところも多々とあるであろうし。
リフィルがこの前いっていた懸念を考えれば、我が者の船を使用すれば、
いくらクルシスという相手とてよもやそこに我ら一行、
すなわち神子達がのっている、とはおもわないだろう」
「僕としてはリフィルさん達がきめたらいいとおもいますけど。
リーガルさん、その船ってけっこうおおきいんですか?」
知ってはいるが知っている、ということ自体がおかしいので、エミルがそれとなくといかける。
「それほどでもないが。内部には宿泊施設娯楽施設等、一応設備はととのっている。
わが社の社員などが慰安旅行などに使用することもあるからな」
リーガルの説明に続き、
「船内には社員達の意見もとりいれて、体を動かせる場も設けてあります。
リーガル様よりお聞きした皆さまの人数ですと、大きめの船体がよろしいかと」
「でも、それではあなたがたも困るのではなくて?
私たちの旅はいつ移動するか。とかあるいみで不規則なのですもの」
話を聞くかぎり、たしかに申し出はありがたい。
いつのまにか人数がふえ、しかもタバサがかなりさすがに自らが機械だ、
といいきっているだけあり、かなりの重さ。
レアバードに乗れたとしても、重量オーバー、とかにもなりかねない。
船、すなわち海での移動、というのはリフィルからしてみれば避けたいが、
しかし、話をきくかぎり、船そのものがしっかりしているらしい。
これまで乗ってきたタライや漁船。
そんなものとはおそらくは比べ物にはならないであろう。
申し出はありがたい。
「それには及びません。何しろ神子様もおられる旅です。
リーガル様も同行なされている以上、神子様に不自由させるわけにもいきませんし。
それに何より、移動に関して心配ごとがなくなるのであれば、
我らの船、そして我ら船員一同が皆さまの旅にお役にたてれば
これ以上の誉れはありません」
たしか、レストランやバー、フィトネスクラブ等々。
そんなものがあの船の中にはあったな。
エミルがそんなことを思っている最中、
「大まかに船体の説明をいたしますと。
総トン数は8,566t。全長130m。全幅19m。高さ11m
内部には客室、ラウンジはともかく。美容室。売店。劇場。
ダンスフロア、最後部にレストラル、店外の甲板にプール…」
淡々と説明をつづけている船長の姿。
きらきら、きらきら。
その説明をきき、
マルタ、ロイド、ジーニアス、コレットの目がいつのまにかきらきらと輝いている。
それはもう、ものすごく。
そして。
「先生!それたのもう!それ!」
「うわ~!船でそんな設備があるんだ。すご~い。
うちのパルマコスタが誇る蒸気船なんて目じゃないよ!みてみた~い!」
「すご~い。で、プールって何?」
「もう。コレットったら。プール、というのはね。簡単にいえば大きな風呂みたいなものだよ」
シルヴァラントにはそういった設備はない。
というかそういう娯楽施設がないといってもよい。
そもそも、無防備なそんな場所をつくれば、
ディザイアン達に襲ってください、といっているようなもの。
「おお!すげえ!先生!つかっていいっていうんだからお願いしようぜ!な、な!?」
確か沈没とかしたらどうなるの?ときいたとき、
しっかりと救命ボードも設置されているから大丈夫云々、とかつて説明をうけた記憶があるが。
そもそも約五百人から乗れると説明をうけていただけのことはあり、
かなり広かったことを今でもよくエミルは覚えている。
ロイドが興奮したようにいい、マルタが目をきらきらさせていい、
コレットが聞きなれない言葉、プールという言葉に反応し。
「うむ。彼らはこういっているが?どうする?」
リーガルにとわれ、リフィルに視線が注がれる。
空での移動が危険、といった手前、断る、というのももったいない。
かといって、今きくかぎりそんな巨大な船を自分達の旅のためだけに、
借りる、というのはいかがなものなのだろうか。
リフィルのそんな思惑を知ってかしらずか、
「すげえ!そんな船で旅ができるなんてな!
というか、船って漁船とかあんなのばっかじゃないんだ。
海賊船カーラーンにのったときもでっかいとおもったけど。親父がみたら何っていうかなぁ」
「うん。あの船もおおきかったよね。でもロイド。今の説明で大きさわかってるの?」
…どうやらこちらはこちら、でもはや完全に船にのっての旅、が決定づけられているらしい。
ジーニアスの問いかけに、
「よくわかんねえけど。とにかくすげえでけえってことだろ?」
「「…は~……」」
きっぱりいいきるロイドの台詞にジーニアスとリフィルのため息が同時に発せられる。
「そういえば、これから今度は結局どこにむかうんですか?」
どちらにしても次なる目的地。
フラノールにいくのか、それともサイバックにいくのか。
そんなエミルの問いかけに、
「サイバックのほうがいいでしょう。…預かっているお金のこともあるしね」
念のためにリフィルが預かった金額を確認したところ五千ガルドあったらしい。
他人のお金でもあることから、リフィルからしてみればさくっと渡してしまいたいらしい。
「…船で移動するの?」
そんな会話をきいていたらしきミトスが戸惑い気味にいってくる。
そういえば。
ミトスはああいう船にのったことすらなかったのではないか。
当時、一応定期連絡船などというものはあったにしろ。
それぞれの国はそういったものには力をいれていなかった。
また、あの当時は突発したレザレノのような会社もなかった。
否、かつてはあったりもしたのだが、国により徴収され吸収されていた。
ほとんどが軍事面に力をそそいでおり、そういう面において、
人々の暮らしが豊かになっていた、ということはまずありえなかった。
どちらかといえば、国は民の暮らしなどそっちのけで軍事面にばかり力をいれており、
また、民など戦力の一つ、すなわち使い捨ての道具でしかない、というような認識であったあの当時。
そういう組織を立ち上げようとしたものはこぞって国に捕らえられ、
実験体とさせられていたことをラタトスクは視て知っている。
「…じゃあ、お言葉に甘えてもいいのかしら?」
あのエレカーの移動より、聞く限り、リーガルが用意できる、という船のほうが、
確実に安全面性からしても上。
しばし思案したのち、リフィルがリーガルのほうをむき答えたのをうけ、
「うむ。では、手はずをそのように」
「かしこまりました。出港の準備に時間がかかりますので。
皆さまはそれまでどうなさいますか?」
「そうね…リーガル。ここからサイバックまで出港する船とかはあるのかしら?」
「うむ。それならあと数刻のちにちょうどサイバック行きの旅客船が出港するが。
では、先にサイバックにいっておくのか?」
「ええ。はやいところ預かっていたお金をかえしてしまいたいもの」
そんな会話をしている二人。
どうやら話しはまとまったらしい。
まさかまたあの船を利用することになるとはな。
これも一つの縁、なのだろうか。
…そういえば、あのとき、エミルも一緒に泳ごう、とかいって
マルタにひっきりなしに付きまとわれた記憶がある。
自分ではなくその方向性をミトスにむけていけば、ミトスも少しはかつての心を思い出すかもしれないな。
そんなことをふと思いつつ、
「じゃあ、決まりですね。食事がすんだらじゃあ、出かける用意ですね。
僕はいつでもいいんですけど。じゃあ、僕、ノイシュとタバサさんにいってきますね」
いいつつもその場を後にする。
そんなエミルの後ろ姿を見送りつつ、
「あれ?エミルのやつ、けっきょく、ほとんど食べてないぞ?」
「飲み物だけしかのんでなかったよね?」
エミルが口にしていたのはたしか飲み物だけ。
しかも水。
今さらながらにエミルが食べていないのにきづきロイドがぽつり、とつぶやいているが。
「…そういえば、エミルっていつも食事のときあまりたべないよね?」
どちらかといえば、エミルが料理をする側にまわり、
にこにこと皆が食事をしているのをみていることがほとんど。
「ミトスはしっかりとたべないとだめだからね?」
「そうよ。あなたはまだ育ちざかりなのだから」
コレットがふと思い出したように首をかしげていい、
一方で、ジーニアスとリフィルがこれみよがしにミトスに口ぐちにいっていたりする。
「え、えっと。僕よりジーニアスもじゃあ、しっかり食べたほうが…」
「そりゃたべるよ!僕だって背がおおきくなりたいもん!」
そんなミトスにきっぱりといいきっているジーニアス。
しばし、その場において彼らの何でもないようなやり取りが繰り広げられてゆく――
アルタミラからサイバックまでは、東よりの船路をつたい、
それから北に進路をかえることによりたどりつく船路となっているらしい。
完全に北よりの船路となりしは、フラノール行きの定期便、らしい。
何でもここ、アルタミラからサイバックまでは、定期的に便がでているらしく、
聞けば大型船をも迎え入れられるほどの港が設置されているのがサイバックであるから。
という理由らしい。
それ以外にもグランテセアラブリッジの下に位置している港も大型船が着岸できるらしいが。
グランテセアラブリッジが完成するまでは、
様々な物資がどうしても船での運搬にたよるしかなかったがゆえ、
そういった港もまた整備されているその名残、とのこと。
準備があるとかで、用意ができ次第、ここサイバックに例の船は入港することになるらしい。
学園都市とよばれているサイバックは様々な品々が求められているらしく、
ゆえに荷物運搬とともに、人々もまた客、として乗せて運航しているらしい。
港から街の中へ。
さすがにもうこの街には幾度かきているがゆえか、ロイド達の足取りも軽い。
そのまま港をぬけ、街の中へいき、
先に用事をすませたほうがいい、というリフィルの意見のもと、
バザーが行われている広場のほうへと移動する。
相変わらず街は白い服をきた人物達が多く以前とさほどかわっていないらしい。
街の中を進んでゆくことしばし。
「ヨシュア。そろそろ納期がせまってるぞ」
ふと目的の場所にちかづくと、何やらそんな声がきこえてくる。
ここ、サイバックの中にとあるバザー市場。
一人の青年のもとにあごひげを蓄えた男性が近づき何やら話しかけている。
「あともう少しで学費が払えます。もう少しだけまってください」
その人物に対し、目的の人物が何やら話しているのもみてとれるが。
「?」
「どうしたんだろ?」
ヨシュアに預かっていたお金をわたすためにここまでやってきたはいいものの、
何やら相手は取り込み中、らしい。
その光景をみてロイドが首をかしげ、その様子をみてコレットもまた首をかしげる。
「うむ。お前は優秀な生徒だ。私だっておいだしたくはない。しかしこれは国の決まりだからな」
「…わかっています」
「私ももう一度、奨学生になれないか確認してみる。
今回の奨学金取りやめは急であったこともあるしな。がんばりなさい」
「はい」
どうやら話しはおわったらしい。
話し終えたヨシュアと話していた人物はそのまま横をすり抜け
視線にておいかけてゆくとどうやら彼は研究所のほうへとむかっていっている。
みたところ彼もまた研究所に所属している人物、であるらしい。
「…奨学金の取りやめ……」
その言葉がきこえていたリフィルが何か考え込むような動作をしているが。
「いったい何だったんだ?」
いいつつも、そんな今離れていった男性を見送りつつ、ちかづいてゆくロイド。
そんな自分の元に近づいてくる一行に気付いたのか、
「やあ。あなたがたは。指輪のお客さん達じゃないですか」
一行の中にしいなの姿を認め、にこやかな笑顔をうかべ声をかけてくるその男性。
あいかわらずというか彼の出店には人の姿がみあたらず、
他の露店にはいくつかの客がはいっているのだが、
彼の店の周囲には一人もちかよっていないのがみてとれる。
ちらり、とみるかぎり、先日までいたジャンク品を売っている、という人物。
どうやらリフィルが興奮しまくっていたかの店を開いていた人物は、
どうやらすでに露店をしまったらしくその姿はみあたらない。
「あ、あの……」
マルタが何と声をかけていいのかわからずに、とまどった声を発する。
奨学制度云々、というのはパルマコスタの学問所でも使用されているがゆえか、
マルタもその意味が何となくではあるが理解できだかゆえにとまどっているらしい。
「もしかして、今の話しをきいていたのですか?」
そんなマルタの様子、そしてざっと一行を見渡したのち、苦笑しながらも問いかけてくる。
そんなヨシュアの台詞に、
「…すいません。立ち聞きする形になっていましました」
プレセアが申し訳なさそうに目の前の青年に声をかけているが。
「今のは不可抗力だとおもわれます。
私たちがやってきたときに話しがきこえてきたのですから」
タバサが淡々とそんなことをいっているが。
「…タバサ……」
そんなタバサの台詞にリフィルが軽くため息をつく。
確かにその通り、ではあるが、場の雰囲気、というものもある。
どうやらこのタバサはいまだそういう雰囲気を読み取るまでの心は発達していないらしい。
「いや。いいんですよ。お恥ずかしい話しですが。学問所の学費が納められなくて。
ですからこうしてバザーに参加してるんですけど。なかなか……」
苦笑じみた笑みを浮かべ、目の前の青年、ヨシュアはそんなことをいってくる。
その言葉をきき、しばし目をぱちくりさせたのち、
「ああ。だからあの女の人」
納得がいったかのように、ぽん、とその場にて手をうつロイド。
「あ、だからあの人、お金を渡してほしいっていってきたんですね」
ロイドに続き、コレットもまた納得したとばかりにそんなことをいっているが。
そんなロイドとコレットの会話がきこえた、のであろう。
「?何の話しですか?」
二人にたいし問いかけているヨシュア。
「うん?あんた、話し方かわったね」
そんなヨシュアに気づき、しいながふと呟くようにといかけると。
「え。ええ。注意をうけたんです。
お店をだす以上、こちらは売り子、お客様にタメグチをきくような売り子だと、
店側はなめられる。それどころかまともに商品も売れないだろう。と。
よくよく考えてみれば、たしかに、僕は売りたい側であり、
お客様はかってくださる側なんですよね。…失念してました。
なので口調はきをつけるようにしたんです」
しいなに指輪をうっていたあのころは、お客に対しても友人のように接していた。
時折説明をしている中、なぜ相手がときどき顔をしかめるのか、ということすら気づかなかった。
指摘してきた近くの道具屋の主人にヨシュアとしてれみば感謝しきれない。
すなわち、相手から見下されていたがゆえにお客もよりつかなかったのではないか。
そういわれてぐうのねもでなかったのもまた事実であった。
ゆえに、極力、口調には気をつけるようにした。
以前やってきたレザレノ・カンバニーの社員にきいたところ、
お客様は神様です、の精神で接すればいい、という概念のもと、心がけるようにしている。
「たしかに。いきなり初対面で、しかも売り手からなれなれしく話しかけられれば。
何か裏があるのでは、もしくは詐欺とかふっかけてくるのではないか。
と相手からしてみれば警戒しまくるでしょうね」
リフィルもその説明をきき、どこか納得したようにうんうんうなづいているが。
「「「?」」」
お子様組。
すなわち、ロイド、コレット、マルタの三人はそんな彼らの言葉の意味は理解できていないらしく、
ひたすらただ首をかしげていたりする。
親しき中にも礼儀あり、という諺にもあるとおり、
やはりある程度の敬語というものはどうしても売り手には必須といえる。
「とりあえず、あなたに預かりものがあるの」
「僕に…ですか?」
リフィルがいうと、困惑したようにヨシュアが答える。
「アルタミラにてあなたあてにお金を預かっています」
淡々としたタバサの説明。
タバサがいうのとほぼ同時、リフィルが預かっていた皮袋をとりだし、ヨシュアにと手渡す。
が。
「…こんな大金、いったい、誰が……」
ずしり、とした重みを感じ、中身をみて驚きかすれたようにづふやくヨシュアであるが。
しばし困惑した表情を浮かべていたものの、
「…まてよ?アルタミラ?…もしかしたら、ローザ…なのか?」
ふと思い当るところがあるのか、そんなことを呟いていたりする。
「しいなが貴公から頂いた指輪をみて声をかけてきたようだ」
リーガルが困惑しているヨシュアにとわざわざ説明をしているが。
「ローザだ!…悪いけど、これはうけとれない。返してきてくれ」
思い当たったらしく、驚愕の声をあげ、そして表情を険しくし、
そのままその袋を一番近くにいるロイドの手の中へと突き返してくる。
先ほど口調に気をつけろ、といわれていた、といっていたにもかかわらず、
口調がどうやら素にもどっているっぽいが。
「そんな!」
その言葉をききマルタが短い声をあげ、
「あちゃあ。こりゃ、やっぱりわけありだな」
ゼロスが首をすくめそんなことをいってくる。
そうではないか、とはおもっていた。
かの貴族の名がでた時点で厄介事というのはわかりきっていたが。
「詮索するのはよくない…とおもいます」
プレセアがそんなことをいってくるが。
「でもよ。プレセアちゃん。事情がわからないと俺様達狭間に挟まれて、
何ども下手をしたらいったりきたりするハメになるぜ?」
「そうね。たしかにゼロスのいうとおりではあるけども……」
ゼロスの言葉にリフィルがいいかけるが、
その言葉に感じるもの、があったのであろう。
「あなた方にはおしえておいたほうがよさそうですね。
…これは僕個人のことになるんですけど。
…ローザは僕の恋人、でした。僕が一人前の学者になったら結婚しようって。
でも…彼女は僕を裏切ったんです」
「裏切った?どういうことだ?」
その台詞にロイドが眉をひそめ、さらに問いかける。
「ある日突然。貴族と結婚することになったから別れてほしい、と。
貧乏学生との生活はあきあきだ、といわれました」
「何それ、ひどい!」
「何だそれ!ひどい女だな!」
マルタが叫び、ロイドもまた叫んでいるが。
リフィルとコレットは何か感じるところがあったのか、その言葉に何やら考え込んでいたりする。
「彼女を恨まなかったといえばウソになる。でも、施しをうけるわけにはいきません」
ヨシュアの言葉をうけ、
「よし。わかった。これは返してくるよ!」
「お願いします」
ロイドが憤慨したようにいうが、その言葉の裏に隠されている真実。
それがわからない、のだろうか。
これまでも幾度もそういうことをロイドは経験しているであろうに。
確かに世の中にはそういう人間もいるにはいる。
そもそもあのときの彼女の涙に何も感じなかったのであろうか。
否、忘れているのであろう。
「…ロイドって、一つのことに集中したら他を忘れるよね。ものすごく」
ぽつり、とつぶやくエミルの台詞がきこえているのかいないのか。
「自分は金持ちになるからって元恋人に施しなんて冗談じゃねえ!
男にだってプライドってもんがあるんだぞ!」
一人ロイドは何やら憤慨している模様だが。
「ロイドって、絶対に人の心の裏表、それを感じ取るの苦手だよね」
「…みたい、だね」
ミトスも思うところがあるのか、ぽつり、とつぶやいたエミルの台詞に同意してくる。
ミトスとて先ほどの会話から何かしら感じるところがあった、のであろう。
そもそも、本当にそんなフタマタをかけるような女性ならば、
あんな悲しそうな顔はしない。
絶対に。
「何だよ。エミルやミトスはひどい女の肩をもつのか?」
「事情もしらずにそういいきれるロイドもどうかとおもうけどね」
「何?」
ロイドの問いかけにさらり、というエミルの台詞にロイドが何やら反応を示すが。
「まあまあ。とりあえず、彼女がいるのはメルトキオっていってたし。
どうする?リフィル様?これからメルトキオにむかうか?」
「そうね。まずは、研究所に向かいましょう。…確認したいこともあるし」
「…わたし、何となくわかります」
「そうね。…おそらく、そういうことなのでしょうね」
コレットは思い当たるところがあるのか、どこかしずみがちにそんなことをいっている。
コレットもまたロイドを思うがゆえにロイドに嘘をついたことがある。
ロイドはそれは優しい嘘、といっていたが。
まちがいなく、あの涙から感じたことからして彼女は自分と同じだ。
そう確信がもてるがゆえに、コレットの声は沈んでいる。
リフィルもまた、確信がもてているらしく、コレットに同意を示しているが。
ひとまず用事は一応済んだ、ということもありヨシュアに別れをつげ、
そのまま街の奥にとある研究所へ向かうことに。
「何だって!?ケイトが!?」
研究所にはいると、なぜか院内が騒がしい。
聞けば、近日中にケイトの処刑が決まった、とのこと。
それで研究所内部がざわめきにみちているらしいのだが。
「何でケイトが……」
茫然としたロイドの呟きに、
「何でも教皇をおびき出すためとか、
そうでなくてもクルシスに刃向かう研究に加担していた罪とかで……」
聞けば、ロイド達がこの街を立ち去ってすぐ。
教皇騎士団達がケイトを罪人を匿った罪、という理由をつけてひきつれていったらしい。
そのまま王都に連行されたその直後。
国のほうから逆に教皇の手配がかかってしまい、騎士団達は行方不明。
教皇にしても然り。
ケイトは教皇の罪、すなわち反逆罪にと問われ、そのまま捕らえられ、
近日中に処刑がきまったらしく、それでケイトが所属していたここ、王立研究院。
内部がかなり騒がしくなっているらしい。
何でもケイトは罪は自分一人に、といって研究に加担していた全ての仲間。
すなわち、研究所のメンバーに罪はない、といいきり全て自分一人で罪をかぶる気らしい。
「院長もいろいろと動いておられるのですが……」
シュナイダーが何とか国に働きかけているらしいが。
これみよがしに、ケイトの処刑の日が先日、発表されたらしい。
「俺達のせいか?…くそっ」
「いえ。始めはたしかに私たちにかかわりがあるとしても。
あとの罪は…エンジェルス計画に加担していた、ということね?」
「そう、です」
リフィルの問いかけにうなだれる研究員。
シュナイダーを始めとし、一部のものたちがかかわっていたエンジェルス計画。
その罪全てをケイト一人におしつけた形にし、国は体裁を保つ気らしい。
そもそも首謀者としての立場、血筋、ケイトはそれらを兼ね備えている。
教皇が国を我がものにしようとしていると前提したならば、
ケイトのその血筋はそれを手助けするにたりるもの。
「表向きの罪は罪人をかくまって逃がした罪での処刑、となっているそうです」
エンジェルス計画のことを一般に知らすわけにはいかない。
それはあるいみで民を実験体にしていたということに他ならない。
国民にそれが伝わると国の威信にもかかわる。
ゆえに国自体は表向きの罪を始めにケイトが捕らえられた罪になぞらえ、
彼女一人に罪をなすりつけ、解決したようにみせかけるつもり、らしい。
「エンジェルス計画…人工的にクルシスの輝石をつくる、とかいう?」
ミトスがぽつり、と首をかしげつつも問いかけてくる。
そのあたりの説明はミトスはジーニアスからうけている。
地上にてクヴァル以外にも成功に近づけていたというハーフエルフがいた、
ということ自体、ミトスからしては根耳に水であったのだが。
「ロイド。ケイトさんを助けてあげようよ」
「僕も助けてあげたいです」
コレットは純粋にケイトを心配していっているが。
ミトスのほうはぱっと見た目、心配そうにいっているように視えなくもないが、
そのケイトというハーフエルフを取り込めないか、という思惑が見え隠れしている。
クヴァルがいない今、どうしてもミトスの唱える千年王国にはクルシスの輝石。
すなわちハイエクスフィアは必要不可欠。
「…私、私も…助けてあげたい…とおもいます」
実験の被害者であったはずなのに、プレセアまでもそんなことをいっているが。
「そうだな。ケイトは助けてあげないと。けど、どうやって?それに、アルテスタさんも……」
「ドワーフのアルテスタ、ですか?噂によれば城の地下牢に入れられている、と聞きましたが」
アルテスタに関する処罰はいまだに国から発表はなされていない、らしい。
国としても扱いにこまっている、というところか。
そもそも、かの地が落雷によって滅ぼされたのをクルシスの仕業とするならば。
それでなくても人々が疑心暗鬼になっている最中、
神子を仇名そうとしてクルシスの、天界の怒りをかった、とみとめるようなもの。
すなわち、人々の心に深くねづいている恐怖、スピリチュア伝説の再来。
それが再びおこりえるのでは、という国にたいする疑心暗鬼。
国としてはオゼットの悲劇は何とか自然現象、で納めたいところであるらしいが。
天使の姿が目撃されている以上、なかなかそういうわけにはいかないのも現実らしい。
「城の中の牢はどうしようもないが。
処刑間近であるというケイトのほうならば何とかなるやもしれん」
それまでだまっていたリーガルが、何かを考えついたのかぽつり、といってくる。
今いるのは研究院にはいってすぐ。
受付場のあるちょっとしたロビー。
「どういうことですか?」
その台詞にマルタが首をかしげつつ問いかけるが。
「闘技場で行われている試合にでるのだ」
「「「試合~?」」」
ロイド、ジーニアス、マルタの声が重なる。
意味がわからない、といった風ではあるが。
「あれは元々、罪人と猛獣の戦いを観賞するためにつくられた施設だ」
「…まだ人間達はそんなものをつくってるんですか」
思わず素で呆れてしまうエミルは間違っていない。
絶対に。
『まだ?』
素でつぶやいたエミルの台詞に思わず全員の視線がエミルに集中する。
それは一行だけでなくその場にいた研究院達もまたエミルに視線が集中するが。
「何だってヒトってそんなのをみたがるんですかね?」
それはもう呆れる他ない。
いつの時代もそういったものをどうしてヒトは率先してつくるのか。
そもそも争いをしている中ですらそういった施設はヒトは率先してつくっていた。
なぜ力なきものが傷つき、そして血をながし、そして殺されるのを娯楽、
として楽しめるのか、それがラタトスクからしてみれば理解不能。
生き残るためでもなく、食べるためとかでもなく、ただの快楽、娯楽のためだけに。
そのために傷つけられる魔物、そして動物達のことなど人間達は気にしてすらいない。
「それが、ヒトの業、なのよ。エミル。でも、たしかにエミルのいうとおり、ね」
リフィルもそんなエミルの台詞に思うところがあったのか、すこしばかり声をひそめる。
エミルがいいたいことはわからなくもない。
だからこその台詞。
「…エミルは優しい、のだな。ともかく。罪人を闘技場へ連行するために、監獄に繋がっている。
そもそも闘技場は処刑場をも兼ねているからな」
闘技が行われないときなど、そこは公開処刑場と化す。
「…そういや、あんたも牢の中にいたんだっけな」
ゼロスが首をすくめていうが、
「かの闘技場のメンテナンス、それらを我が社は請け負っているからな」
どうやらそのために内部構造にも詳しい、らしい。
「よし。じゃあ、その闘技場とかというのにいこう!いそがないとケイトが殺されちまう!」
ロイドの台詞に。
「でも、神子様。よろしいのですか?」
「まあ、いいんじゃねえの?あ、けどこのことはオフレコ、な?」
「わかっております。…神子様、そしてお連れの皆さま。
…ケイトのことを頼みます」
彼らとて共に働いていたケイトが罪にとわれ処刑される、というのは許せるものではない。
彼女がハーフエルフだ、としても。
あるいみでこの研究所をあげて教皇に協力していたというのは疑いようのない事実。
その罪をいってにひきうけ、彼女だけに罪を背負わす。
それは間違っている、とそれぞれ内心ではおもっている。
特に院長であるシュナイダーはその思いは果てしなく強い。
だからこそいろいろと必死に訴えかけているのだが。
天界の怒りのとぱっちりを恐れた国はなかなか動こうとしない。
とにかく表向きでも自体が収まったということをよに知らしめたい。
そんな思惑があるらしく、おもうようにいっていない、らしい。
「王都にいくとしても、どうやっていくの?」
それが問題。
「たしか今から王都にいくという荷物便があるはずです。
よろしければその中に皆さまも同行なさいますか?」
研究所からの荷物に関しての検疫はほとんどないといってよい。
すでに出発時に調べているがゆえ、国の手前にはいるまでまったくないといってよい。
素朴なるエミルの問いかけに、ふとおもいついたのか一人の研究員がそんなことをいってくる。
その提案にしばし顔を見合わせるロイド達。
どちらにしても時間は残されていない。
国の発表によれば近日中、ということらしい。
「いこう。先生。皆。ケイトを助けよう。俺、後悔はしたくないから」
それが意味することをロイドはわかっているのかいないのか。
それはある意味で国にたいし喧嘩を吹っ掛けている、ということに。
~スキット・メルトキオに向かうエレカーの中~
ロイド「…たしかに、荷物と一緒でいいっていったけどさ~」
何だろう。これは。
コレット「うわ~。面白いね」
ジーニアス「・・・コレットはのんきだね。まさかコンテナにいれられるとは僕もおもわなかったよ……」
荷物とともにメルトキオへ。
それはいい。
いいのだが、念のために、と用意されたはなぜか大きめのコンテナ。
ロイド、ジーニアス、コレット、リフィル、ミトス、しいな。
そして、エミル、タバサ、マルタ、プレセア、リーガル、ゼロス。
それぞれ六人づつ。
一つのコンテナにいれられ、荷物よろしく運搬されている今現在。
それぞれ座りこむ形でコンテナの中にいるのだが。
外の様子がまったくロイド達にはわからない。
ミトス「荷物として運ばれるなんて初めての経験だよ」
しいな「普通はないだろ。普通は。あったら怖いよ」
ジーニアス「確かに」
リフィル「はいはい。無駄口をたたいてないの。
このままグランテセアラブリッジを通って街にはいる手前。
そこで私たちを外にだす、という話しだったでしょう?
それまでに気付かれたらもともこもないのよ?」
あくまでも、ケイトを助けだすにしても、自分達。
とくに神子がかかわっている、というのは知られないほうがいいだろう。
というのはリーガルの意見。
その意見にはリフィルも賛同するがゆえ、この方法をうけいれた。
ロイド「エミル達のほうはどうなんだろ?」
ミトス「そういえば、ジーニアス達はあのエミルって子とどうして一緒にいるの?」
ジーニアス「結局そういえばエミル僕たちの旅についてきてくれてるよね」
コレット「あのね。始めは目的地が一緒だから一緒にいこうってさそったの」
ロイド「そういや、あいつの用事ってもうすんでるのかな?」
ジーニアス「いわないところをみるとすんだんじゃない?
何だったのかはわからないけどさ」
コレット「たしか、ソダ間欠泉とアスカードだったよね?エミルの用事があるっていった場所」
ロイド「だな」
ミトス「?その用事がすんでも一緒にいるの?」
コレット「エミルは優しいから。とてもたすかるんだよぉ。とってもつよいし」
ジーニアス「見た目からは想像できないけどね」
ロイド「偽の精霊も一撃でたおしてたしなぁ」
ミトス「…え?」
しいな「強いようにはみえないんだけどねぇ。あの子は…それに…」
コリンが何かとエミルを気にかけていた。
それがいまだにしいなとしてはきにかかっている。
リフィル「…はぁ。もう話すのはやめなさい。とはいわないから。
せめて小さい声ではなしなさい。まったく……」
そういえば、どうやってエミルと一緒に旅がはじまったのかミトスに説明してなかったな。
そんなことをロイドがいいだし、
しばしエミルとの出会いがコンテナの中において語られてゆく……
~スキット・向かう途中、その2~
マルタ「エーミル!」
エミル「うわ?な、何?マルタ?」
いきなり腕にだきつかれ戸惑いの声をあげるエミル。
ゼロス「というか。エミルくん、それ、何だ?」
ゼロスがエミルの頭上を指差し何やら問いかけてくるが。
エミル「え?何って?皆が暗いっていうから、この子よんだだけなんですけど?」
エミルの横にふわふわとうかびしは、光をまといしちょっとした球体のような何か。
タバサ「そもそも、なぜに魔物がエミルさんのいうことをきくのでしょうか?」
プレセア「それ…魔物、なんですか?」
青白く輝く光の球にしかみえないそれ。
リーガル「たしかに、暗いからみえにくい、とはいったが…しかし…」
なぜエミルが何かつぶやくとともに、魔方陣の中より光の球としかみえない、
エミルいわく魔物が出現してくるのやら。
リーガルもまた様々な場所に出向いているが、このような魔物はみたことがない。
それゆえに戸惑いを隠しきれない。
つまり、エミルは魔物を自在に呼び出しができる、ということ。
改めてそれをみると、エミルの危険性がよくわかる。
いろいろな意味で。
どうみても神鳥でしかないシムルグを呼び出せる時点でただものではない。
そうおもってはいたのだが……
マルタ「暗闇でエミルにそれとなく抱きつこうとおもってたのに。
だから、今は腕で我慢するの!」
エミル「抱きつくって…マルタ、寒いの?毛布とかあるかなぁ?」
マルタ「もう!エミルのばかぁ!」
ゼロス「痴話げんかはともかくとして。だからエミルくんって一体……」
タバサ「マスターアルテスタによるプログラムの中から検索するにあたり。
魔物を使役するには、瘴気などによって狂わせたり、
もしくはエクスフィアや機械などにより魔物を狂わせ使役する。
その症例も確認されています」
リーガル「他にも可能性があるものはあるのか?魔物を使役できるなど」
タバサ「魔物達は基本、大樹の精霊ラタトスク様の配下であるエイトセンチュリオン。
彼らの配下でありますので、センチュリオン様方以外では、
いうことをきかせられるとしましたら、魔物の王である……」
エミル「…タバサさんってアルテスタさんにどういう情報いれられてるの?」
タバサ「世界に関する必要なことなどは一通り」
エミル「なら、今クルシスとかいうのが何をしようとしているのか、とかも?」
タバサ「はい。ミトス・ユグドラシル様は無機生命体の千年王国をつくろう。
となさっているらしいです」
マルタ「え?ミトス?あのユグドラシルの名って…ミトス、なの?」
リーガル「ふむ。勇者ミトスと同じ名、だな」
タバサ「当たり前です。ユグドラシル様は勇者ミトスとよばれているかたなのですから」
リーガル&マルタ&ゼロス「「「え?」」」
マルタ「そんなのおかしいよ!だって四千年前の人だよ!勇者ミトスって!」
タバサ「天使化とはそういうものだ、と情報の中にはいっています」
エミル「…とりあえず、何かたべます?サンドイッチとかつくってますけど」
ゼロス「お。おいしそう。いっただきま~す」
マルタ「あ。おいしそう。私もわたしも~。難しいことは私はよくわからないけど。
タバサさんの今の説明、冗談だよね?」
タバサ「?冗談、とは何でしょうか?」
マルタ「・・・・・・・・・・・・」
リーガル「まさか…な」
エミル「無機生命体の王国…か。あいつは本当に……」
ゼロス「?エミルくん?」
エミル「何でもないです」
全ての命を無機生命体に。
本当にそんなことで差別というものがなくなる、とおもっているのだろうか。
あの子は。
差別、というものはヒトがもつ心が生み出すものだ、というのに。
シヴァ「…にゃあ…(エミル様…)」
ゼロス「そういや、その猫もマルタちゃんの頭の上が定位置になっちまってるな~」
マルタ「でもこの子、タマミヤちゃん、まったく重さかんじないよ?」
リーガル「そもそもその猫は何なのだ?」
どうもただの猫ではないらしいが。
ゼロス「そっか。おまえさんはあのとき陛下のところにいなかったんだったな」
あのとき、リーガルは部屋の外にいた。
あの場にいたものは、シヴァの正体を聞かされていたのだが。
エミル「ふむ。シヴァ。説明を」
シヴァ「よろしいのですか?」
エミル「かまわん」
リーガル「しゃべった!?」
タバサ「魔物、ですか?」
シヴァ「にたようなものですね。私の種族は
タバサ「
マルタ「そっか。リーガルさんもタバサさんもこの子がはなせるのしらなかったっけ?」
あの場にて、国王の前で話したがゆえにてっきり知っているとばかりおもっていたが。
シヴァ「では、私のことをお話しいたしましょう。
といっても、以前にお話ししたこととかわりありませんが…」
ゼロス「…俺様としてはなぜエミル君に許可をもとめたのかがきになるんだけどな」
しばし、コンテナの中。
シヴァによるリーガルとタバサへの説明がなされてゆく……
※ ※ ※ ※
王都メルトキオ。
先日この地にやってきたときは、人々の姿はほとんどみうけられなかったが。
国からの正式発表があったからか、それとも別の要因か。
前回きたときよりもある程度の人々の姿は街の中にとちらほらとみてとれる。
「…で、ここは?」
たしか街の外にてコンテナから外に、という話であったはず、なのだが。
どこをどうみてもどこかの倉庫。
「ここは、運搬してきた荷物を一度止めおいておく倉庫となっております。
この裏に闘技場がありまして」
何でも闘技場などでは時折様々な物資が必要となるがゆえか、
闘技場の裏手にあたるこの場に倉庫がつくられているらしい。
街の外よりもこちらのほうが人目につかないのでは、という判断のもと、
どうやらここまでコンテナ詰めにしたまま運んできた、らしいのだが。
一緒に運ばれてきたらしい荷物をせかせかと運んでいる人々の姿がみてとれる。
「よし!先生!皆!ケイトを助けにいこう!」
ロイドがいいつつ、扉のほう、すなわち明るくなっている方向が外だろう。
と検討をつけ外にでようとしているが。
「まちなさい。ロイド。こんな大人数で動けばどうしても目立ってしまうわ」
「うむ。先ほどの区分けでいいのではないか?六人ごとの移動で。
闘技場をみにきた客とおもわれるであろう」
リフィルの言葉にうなづきつつも、リーガルが答える。
そして。
「たしか。今行われているのはミトス杯だな。シングル戦となっているはずだ。
参加料は五千ガルド。誰が出るのか決めたほうがよかろう」
「リーガル。闘技場とかいうところの鍵はどのようになっているのかしら?」
「普通の鍵だな。特殊な鍵はつかわれていない」
「じゃあ、ロイドの出番ね」
「へ?お、おれ!?」
リーガルの説明をうけ、リフィルがといかけたのち、リフィルがロイドにと視線をむける。
「あなた、手先だけ、は器用でしょう?あなたが鍵をあけるのよ」
「まかせとけ!鍵くらいなんてことはないさ!」
「…ロイド。今、だけ、といわれたのわかってないよ。絶対に」
「ロイド、手先は器用だもんね~」
ジーニアスが呆れたようにいい、コレットがにこやかにといってくる。
「ん~。じゃあ、僕かミトスが参加する?」
「え?ぼ、僕?」
「ミトス、戦えるでしょ?」
「え、えっと……」
「何いってるのさ。エミル。ミトスにそんな危険なことさせられないよ!」
すかさずジーニアスがわってはいってくるが。
「そうかな?まちがいなく僕がみたかぎり、ここにいる皆より。
ロイドやジーニアス、君たちよりミトスのほうが腕は上、だよ?」
「まっさかぁ」
「そうだぞ。エミル。お前がいくら俺よりも腕が上だからってミトスまで……」
「僕は……」
さらり、といわれとまどうミトスにたいし、
「でも。ミトスも勇者ミトスと同じ名前だし。観客は盛り上がるんじゃないのかい?」
しいなの意見も至極もっとも。
というか、勇者ミトス、とよばれている当事者、なのだが。
いまだに彼らはそのことに気付いていない、らしい。
マルタ達もさきほど、タバサの爆弾発言があったにもかかわらず、
このミトスと同一視はどうやらしていないらしい。
先ほど、コンテナの中でタバサがミトスの本名。
すなわち、ミトス・ユグドラシルという名を暴露し、天使化していれば、
四千年くらい簡単にすごせる、というような旨をさらり、といっていた。
もっとも、コンテナに一緒にはいっていたマルタ、ゼロス、リーガル、プレセアはともかくとして。
一緒のコンテナではなかったロイド達はその名をきいていないのだが。
「リーガルさん、闘技場の参加状態とあと報酬ってどうなってるんですか?」
伊達にこれまでの世界で幾度も闘技場といわれている場を制覇しているわけではない。
大概の世界の仕組みは同じようなものであるがゆえ、
ここもそうだろう、とあたりをつけてといかける。
そんなエミルの問いかけに。
「うむ。初級、中級、上級、となっている。
それぞれの階級をクリアして初めてその上の階級に挑めることができる。
今行われているミトス杯はシングル戦のみ、だがな。
他にもパーティー戦もあり、それは四人ひと組で行われる。
初級で優勝すれば一万二千ガルド。そして薬セットがたしかもらえたはずだ」
「闘技場のほうで盛り上がれば盛り上がるほど。
おそらく、そちらに意識が集中するでしょうから。脱獄の手助けをするのにはいいのだけどもね」
たしにかリフィルのいうことにも一理ある。
「じゃあ、ミトスがでないのなら僕がでようかな?」
『え?エミル(さん)が?』
その台詞はほぼ同時。
「ここ最近、あまり体動かしてないし。ちょっとした運動くらいにはなるでしょ?
あ、この子つれてってね。用事がすんだらこの子に手紙でもことづけてくれれば。
僕のところに手紙もってきてくれるから。後から僕なら簡単に合流できるだろうし。
ケイトさんを脱獄させてすぐにこの街からでないと危険、でしょ?」
事実、騒ぎにならないはずがない。
いいつつも、肩にのっている真っ白い鳥をロイド達にと託す。
パタパタと白い鳥はエミルの言葉をうけ、なぜかちらり、とその首をエミルにむけたのち、
少しばかりため息…鳥がため息?のようなものをつき、
そのままぱた、とマルタの肩の上にととまる鳥。
「…ピュルル」
ラタトスク様、お気をつけくださいませ
何やらルーメンからそんな声がきこえてくるが。
「そうね。エミルの腕なら問題ないでしょう。なら、それでいきましょう」
「う~。俺もどれだけ腕があがってるか参加してみたかったなぁ」
「ロイド。あなたはダメよ。そもそも牢の鍵などをあなたにあけてもらうつもりなのですからね」
リフィルの中ではすでにロイドに鍵を開けさせるのが決定事項、であるらしい。
ともあれ、簡単な打ち合わせをしたのち、二手にわかれ、少し時間をおいて外にとでる。
外にでて闘技場がある、といわれている場所にとちかづくにつれ、
人々のざわめきが大きくなってくる。
闘技場は円形状の建物となっており、真っ白い石を積み上げつくられている。
そのでいりぐちには見張りの兵士らしきものがおり、
周囲には参加するものたち、なのであろう。
腕に覚えがありそうなもの、また救護班なのであろう。
白い服を着こんだ女性や男性の姿もみてとれる。
「いらっしゃいませ。参加ですか?それとも見学ですか?
見学の場合はあちらの扉から奥にいってくださいませ」
先にゼロス達一行が闘技場入りし、いつのまにかゼロスの周囲には人だかり。
そんな中、エミルが受付にちかづくとにこやかに受付嬢がそんなことをいってくる。
中は無駄な装飾品などはなく、見物客、なのであろう。
人々でごったがえしている。
そんな中に神子であるゼロスが姿を現したこともあり、
ゼロスの周囲にはかなりの人だかりができていたりする。
ほとんどのものがゼロスが教皇にはめられて冤罪をおしつけられそうになった。
という話しを聞き及んでいるのであろう。
大変でしたわね。神子様。
などという声もちらほらときこえてきていたりすれど。
ちらり、とリフィル達に視線をむければ、無言で首を縦にふってくるリフィル達。
どうやらゼロスが人目を引きつけているのを隠れ蓑とし、
罪人が運ばれてくる、という扉をリーガルにと確認している。
扉は受付の奥にあるらしく、参加者達が出入りする扉とは逆方向に位置している。
「あ。参加で」
「かしこまりました」
エミルがそのまま参加受付をすまし、奥にはいってゆくと。
「神子様、参加者の皆さまに激励の言葉を今回はかけられますか?」
「そうだなぁ。俺様の連れも一緒でいいか?」
会話からして、ゼロスは幾度か参加者に激励の言葉をかけるため、
ここ闘技場にやってきていたことがあるらしい。
「神子様のお連れ様でしたら問題ありませんわ」
本来ならば参加者しか入れないはずの控室。
しかしどうやらゼロスは神子、という立場ゆえか自在に出入りが許可されているらしい。
エミルが受付をすませ、注意事項をきいているそんな中、
エミルの耳にそんなやり取りがきこえてくる。
リーガル曰く、控室の奥にその扉があるらしい。
その言葉をうけ、ゼロスは他の皆とともに控室へ。
控室は屈強な男たちでごったがえしており、
「神子様!?」
「ゼロス様!?」
「我らに激励にきてくださったのですか!?」
ゼロスが控室にはいるなり、あっというまに人だかり。
「おっけ~、おっけ~。皆、がんばってるな~」
そんな彼らにゼロスが対応をしているが。
なぜか見張りの兵士までもがゼロスの近くによっていき、
リーガルが視線で示した扉の前も一瞬手薄になるのがみてとれる。
そんな中。
「登録ナンバー百四十六番」
「あ。はい」
エミルがもらった受付番号。
それが百四十六番。
さすがにシングル戦であるがゆえか参加者はけっこういるらしい。
もっともそれで勝ち進むかどうかは別として。
「さあ、新たな参加者です!登録ナンバー百四十六番!さあ、はりきっていきましょう!」
わ~!!
扉の向こうよりきこえてくる観客達の熱気のこもった声。
「いきましょう」
いまだにゼロスが皆を引きつけている。
リフィル達が壁となり、見張りのいなくなった扉の前にたち、
その背後でロイドがかちゃかちゃと鍵をすばやく開け放つ。
中に入るは、先刻決めたとおり。
ロイド、リフィル、ジーニアス、コレット、そしてミトスとリーガル。
本来ならばしいなが同行するつもりだったのだが、
内部に詳しいリーガルがいたほうがいいだろう。
という理由から、しいなは居残り組にとなっている。
鉄剛性の重い扉。
リフィル達がその扉を開け放つ音すら、ゼロスがわざとらしく大きな声をだしているがゆえに、
扉を開いたことすらどうやら気付かれていないらしい。
「それはそうと、リフィル。それは?」
「さきほどしいなから預かったのよ」
どうやらしいなは兵士の横をすれ違いざまに牢やの鍵らしきものを擦りとっていたらしい。
「簡単な牢の配置を説明するぞ」
扉をこっそりと締め直したのち、六人はそのまま牢にとつづく道にと足を踏み入れる。
さすがに監獄につながっている、ということもありその先はとても広い。
監獄らしき牢が並ぶ場所にたどりつけど、定期的に見張りの兵士らしきものの姿がみえ、
そんな兵士達をどうにかやりすごしつつ、ロイド達は牢の中。
ケイトの姿をもとめしばしさまよってゆく……
「おおっと!一撃、一撃です!では張り切っていきましょう!」
何とも手ごたえがないというか何というか。
というかたかが一撃でその場にと気絶する挑戦者。
一回戦、二回戦ともあっさりと一撃での勝ち進み。
「おおっと!新しい優勝者がきまりました~!」
うわ~!
さすがに初級、ということはあり、ほとんど時間もかけずに制覇する。
ちらり、とロイド達のほうを視る限りいまだにケイトを見つけ出してはいないらしい。
「すごい、すごい!エミルって本当につよいんだね!」
マルタがなぜか興奮ぎみに初級コースを優勝したエミルのもとにかけよってくるが。
「エミルくんってそのなりでけっこうやるんだなぁ」
ゼロスが感心したようにそんなことをいってくる。
「で?どうすんだ?エミルくん?」
「ついでに、このまま連続していきますよ」
そもそもロイド達の用事はまだ終わっていない。
ならば、ついでにこの闘技場を制覇しておくのもまあ、悪くは…ない。
「何でこんなにひろいんだろう?」
見張りの兵士達をかわしつつ探すのも面倒になってきたのか、
見張りの兵士を気絶させ昏倒させ、いまだに牢の中をうろうろとしている彼ら六人。
ジーニアスがぼやくようにそんなことをいっているが。
そもそもこの牢はどうやら地下に続いているらしく、地下三階まで続いているらしい。
なかなかケイトがみつけだせないゆえか、ジーニアスがぼやきはじめる。
「…そうか。処刑間近といっていたな。では一番奥の独房かもしれん。こっちだ」
処刑が迫った人物達はリーガル曰く、何でも一番地下である、地下三階。
そこにある独房にいれられる、ということらしい。
リーガルの案内にて地下三階にある独房という位置まで進んでゆくことしばし。
と。
何やら地上のほうからはちきれんばかりの歓声が聞こえてくる。
「な、なんだ?闘技場の客達の声かい?」
まるで大地を震わすごとくの歓声とはまさにこういうのをいうのかもしれない。
地下であるこの場までその声は伝わってくる。
それほどまでに何か闘技場のほうで興奮する何か、があったらしい。
「いた!ロイド、いたよ!」
ふとジーニアスが注意深く独房一つ一つを確認していたところ、
一番奥。
突き当たりの独房にみおぼえのある姿をみとめ、ロイドにふりむきながらいってくる。
「あなたたち…どうしてあなた達がここにいるの?」
その姿をみとめたのか、困惑したようにケイトが牢ごしにと話しかけてくる。
ここは滅多と一般客というより面会客すらこない独房だ、というのに。
「俺達のせいでつかまったんだろ?だから助けにきたんだよ」
ロイドがさも当たり前のようにいいつつも、
「これだな。よっし。こんな鍵なら問題ないな」
いいつつも、手慣れた手つきで牢の鍵をかちゃかちゃとはずしだす。
ロイドが幾度かピンを動かすと、ガチャ、という音とともに、
ギィ…それまで閉じられていた独房の扉がゆっくりと開かれる。
リフィルがしいなから預かった牢の鍵は地下につづく扉を開くのは役にはたったが。
独房の鍵と普通の牢の鍵はことなっているらしく、独房は独房用の鍵がどこかにあるらしい。
リーガルはおそらく詰所にあるだろう、といっていたが。
数名の兵士達がいるであろうそこまでいき鍵を手にいれるよりは、
ロイドがあけたほうが早い、という結論となり、ゆえにロイドが鍵をあけることになっているのだが。
ロイドがかちゃかちゃと慣れた手つきで鍵をあけるのをしばし目を丸くしてみていたケイトであるが、
「…ありがとう。でも、いいわ」
諦めきった様子でケイトはふるふると首を横にふる。
「よくないだろ。何か事情があるのならここを出てからきく」
そんなケイトにきっぱりとロイドがいえば、
「とにかく、いそいで!いつ見張りの兵士がもどってくるかもわからないんだし」
「とりあえず。しいなにいわれたとおりにしておきましょう」
「…先生、何もってるのかとおもえば……」
なぜリフィルが丸太をもっているのか気になっていたが。
リフィルが丸太をかついでいたのにはロイド達もまた気付いていた。
ケイトの入れられていた独房にとはいり、
丸太を独房の中にある小さなベット。
そこにおいたかとおもうと、その上に毛布をかけるリフィルの姿。
ぱっとみため、毛布が盛り上がっていることもあり、
中にはいって確認しないかぎり、
ばっと見た目、毛布にくるまり眠っているように見えるであろう。
すぐに脱走したのに気付かれては面倒というしいなの意見による簡易的な替え玉であるらしい。
しいなが共にいっていれば、その丸太にしいな独自の術をかけ、
当人とみまごうばかりに替え玉人形、としてその丸太は用をなしていたのだが。
しいなたち、みずほの民が得意とする身代わりの術、として。
それはかつてエミルが知っている時間軸の中で、しいながマルタに行ったこと。
闘技場から少し離れた古い建物の影。
この場にはマンホールがありここから地下水路にと移動することが可能。
ロイド達が扉から出てみれば、なぜかその場にはあまり人はおらず。
ロイド達が扉の向こうからやってきたことらすに気付いたものがいない始末。
闘技場をあとにする過程できこえてきた会話を聞く限りは、
何でも上級者コースを初級からいっきにのぼりつめた子供、がいるらしい。
まさか、な、とおもいつつも、人々の目がそちらにそれているのならば好都合。
そっとケイトを囲むようにして外にでて人気のないこの場所にまで移動してきた。
ゼロス達との待ち合わせは街の外にきめているがため、
ロイド達がここからケイトを伴い兵士に見つかることなく街さえ出ていけば、
ケイト救出作戦は成功したにも等しい。
そのまま、マンホールをくぐりぬけ、地下水路をとおり、街の外へ。
「しっかし。闘技場と牢屋がつながっていたとはな。リーガル様様だぜ」
すでに待ち合わせとしていた地下水路にと続く道。
そのほとりにて待っていたらしきゼロスがロイド達の姿、そしてケイトの姿をみとめ、
リーガルにむかって話しかける。
「でもリーガルさんが知っていた御蔭でケイトさんが助けられたんですよね?」
にっこりとそんなリーガルに笑みを浮かべていっているコレット。
「あれ?エミルとマルタは?」
ゼロスがここにいるのだから、エミル達がいてもおかしくないであろうに。
「エミル君なら、優勝者としてまだお役目がのこってるらしいぜ?
マルタちゃんは積極的にそんなエミル君のお手伝い」
首をすくめつつさらり、とゼロスが言い放つが。
「エミルさん、すごかったです。連続してほとんど一撃で勝ちすすんでいきました」
それも相手が反撃するまもなく。
ほとんどいちげきで相手をノックアウト。
なぜか魔物が出てきたときには魔物のほうからごろり、とひっくりかえり、
戦闘にも何にもならなかった、という事実がありはすれど。
「あのエミルって子…そんなに強い、の?」
ミトスが目をぱちくりさせてそんなことをいってくるが。
「そっか。そういえばミトスはエミルが戦っているところみたことないんだっけ?」
コレットが思いだしたようにいい、
「そういうけど。コレット。僕たちも数えるほどしかないよ?」
「そういや。エミルが同行してこのかた。
それまでイセリアをでてから常におそわれてた魔物の襲撃もぱったりとないしなぁ」
ゆえに戦う所をみていない、というのは嘘ではない。
あったとしても、ほとんどエミルが一撃のもと決めていたのでその実力が計りようがない。
「ま。何だな。テセアラ広しといえど、
経済界と牢獄に通じている貴族はあんたしかいないな。うひゃひゃ」
「こら!ゼロス!あんたはいい加減にしな!」
そんな会話をしている最中、ゼロスがリーガルにたいしおちゃらけた様子でいっているが。
そんなゼロスにしいながくってかかっている様子がみてとれる。
「…まさに恥ずべきこと、だな」
「ったく。コレットのツメの垢でもあんたはのんどきな」
リーガルがため息をつき、しいながきっぱりといいきれば、
「え?あれ?しいな。私の手、よごれてる?ツメに垢たまってるかなぁ?」
「あ。俺の手、真っ黒だ!」
コレットが自らの手をまじまじとながめ、ロイドもまたつられるようにしてその手をみれば、
先ほど鍵をあけたから、であろう。
油らしきものでロイドの手はけっこう真っ黒になっていたりする。
「うわ。ロイド、はやいところ手をあらいなよ」
「洗うってったって。お、ここの水ででもあらうかな」
「「「「それはやめとき(な)(くがよかろう)(なさい)(なよ)」」」」
ロイドが指し示したのは、下水道の水。
さすがにそれはない。
絶対に。
ゆえにすかさずそんなロイドにすばやく突っ込みをいれている
しいな、リーガル、リフィル、ジーニアスの四人の姿。
「仕方ないね。あたしの石鹸をかしてやるよ。あと、水気招来符!」
しいなが懐からとある符らしきものをとりだし、何やらいったとおもうと。
こぽり、とどこからともなく水が空中にぽっかりと球体のように浮かび上がる。
バシャリ、とおちるその水球をこれまたどこから取り出したのかはわからないが、
なぜかタライを手にしていたしいながそれをいれ、
「ほら、しっかりとあらうんだよ」
いってタライにはいった水と石鹸ごとロイドにとおしつけてくる。
「みずほの民は何でもありだな。…しかし、これからどうするのだ?」
そんなしいなの様子をみて、リーガルが軽くため息をついたのち、
あらためてケイトに向き直り問いかける。
リフィルが行った偽装工作によりすぐには脱走したことはわからないであろうが。
牢の中にはいり布団をめくれば当人がいないのは一目瞭然。
ここにくるまで、ケイトの首につけられていた魔力封じの首輪。
その鍵がどうやらリフィルが手にした鍵の束の中にあったらしく、
ケイトの首輪はすでに取り払っているものの。
「そういえば。そうだね。これからどうするの?家族は?」
ロイドが横で手を洗っているのをみながらため息をついたのち、
あらためてケイトに向き直りといかけるジーニアスの台詞に、
「とりあえず…改めてお礼をいうわ。どうもありがとう。……母はなくなったわ。父は…だめ」
一息ついたのもあり、そしてまたさきほどのゼロス達のやり取り。
それをみて緊張がほぐれたらしく、すこし表情を柔らかくしたのち、ケイトが頭をさげつついってくる。
そして。
「…お願いがあるの。私をオゼットにまでつれていって」
少し考えたのち、そういってくるケイトに対し、
「オゼット?あそこは今、たぶん廃墟になってるとおもう。…それでもいいのか?」
あれからさほど日はたっていない。
村人が一人もいなくなったあの村。
唯一の生き残りであったとおもわれるミトスも一緒にいる以上、
かの村は無人の村となっているといってよい。
村、といえるかどうかすらもあやしい。
現にロイド達が知る限り、家は一つものこっていなかった。
全ての家々が焼けおちて。
「…ええ。あそこは私の故郷なの。お願い」
「故郷…か。わかった。先生達もそれでいいよな?」
「仕方ないわね。…エミルには村でじゃあ落ち合うようにしましょう」
マルタがエミルの元にのこる、といわれ、
しいながマルタの肩にとまっていた白きとりは引き受けている。
しいながその言葉をうけ、いくつかの文をしたため、
鳥の足にくくりつけるとほぼ同時。
パタパタと鳥は説明もしていないのに彼らのもとから飛び立ってゆく。
オゼットはあの日の惨状からまったくといっていいほどに立ち直ってはいない。
否、少しの変化といえば、燃え落ちた家々。
その後始末はどうやらされているらしく、
すでに家があった痕跡は焼けおち色のかわった大地からしかみてとれないほど。
家の土台すら残っていない地。
ところどころ削がれた大地はそのままで、ときおりその中に水がたまっているのがみてとれる。
そのみずたまりにどこからかとんできたらしいアメンボが水の上にと浮いている。
「プレセア!?」
さすがに廃墟と化したというか、村があった痕跡すらほとんどのこっていない地。
それは予想外だったのか、ケイトは村についてもしばらく押し黙っているまま。
そのまま奥にすすんでゆき、タバサの提案もあり、
ここに残るのであれば、唯一残っている家。
村の奥に位置しているマスターの家を利用してはどうでしょうか?
誰もすんでいないと家も朽ちてしまいますし、という意見もあり、アルテスタの家にむかっていたそんな中。
やがて、プレセアの家があった区画に近づくとともに、どこからともなく第三者の声がなげかけられる。
ふとみれば、プレセアの父親の墓の前にみたこともない男性がたっており、
墓の前には新しい花束がおかれていることから、
どうやら墓の主たるプレセアの父親の知り合いらしい、というのは予測がつくのだが。
「…あなたは?」
困惑したようなプレセアの台詞に。
「そうか。心を取り戻したのだな。お前はまだ小さかったから覚えてはいまい」
そういい苦笑してくるその男性。
「ジークの墓参りでも、とおもってな。村を離れている間にこのようなことになるとはな」
ちょうどあのとき、村にいなかったのが幸いしたというべきか。
村が天使に襲われた、という噂をきき、やってきて目にしたは、壊滅したオゼットの村の様子。
教皇が何かを企んでいるらしい、と話しをききつけ、こっそりと探っていたその矢先。
ジークにも頼まれていた。
自分はもう動くことができないから、それに娘のことも頼む、と。
プレセアを元に戻すためには要の紋が必要、ということまではわかったが。
なかなかそれを手にいれる機会にめぐまれなかった。
心を失っていたプレセアのもとに彼がでむいたこともあるが、
どうやらプレセアはそのことを覚えてすらいないらしい。
数年前から世界にむけて旅にでており、こちらにやってきていなかったのが禍したか。
すでにジークは死んでおり、そこには墓のみ。
そもそも、彼が旅にでたのも死期を悟ったジークに頼まれたから、というのもある。
プレセアを元に戻す方法を見つけ出してほしい、という願いのままに。
どうやら視た限り、
自分がどうにかして手にいれた要の紋がなくても心を取り戻しているらしいが。
そのことにほっとしつつも、
「少し、昔語りをしようか?」
いきなり脈略もない話をいきなりしはじめる。
「…かつて、この村には鬼人とよばれる男がすんでいた」
誰にいうともなく、ぽつり、と何やらかたりはじめるフリード
「彼の戦斧はすざましい技を繰り出したそうだ。
…かつて、その男は教皇騎士団にいた。その男の名はジーク」
『!?』
その言葉に思わず顔をみあわせるロイド達。
プレセアの父の名がたしかジークであったはずである。
プレセアの父が元、教皇騎士団?
それはロイド達はしらなかった事実。
どうやらプレセアも知らなかったらしく、目を見開いているのがみてとれる。
感情を表に出すことが苦手なプレセアにしては珍しい表情の変化。
その言葉をきき、
「教皇騎士団!?プレセアの父さんが!?」
驚愕の声を思わずあげるロイド。
ロイドの驚愕はおそらくこの場にいる全員に共通しているであろう。
あとさき考えず、思ったことをすぐに口にするロイドは、
他のものがプレセアのことを思って声にださないのとは異なり、あるいみで裏表がない。
そんなロイドの驚愕に答えるわけでなく、そのまま男性は淡々と、
「先代の教皇の時代、ジークは騎士団随一の戦士だった。
斧を震わせれば右にでるものはいないほどの」
それはプレセアだけでなくその場にいる全員にいってきかせるようなそんな口調。
「…でも、それならなぜパパはキコリに……」
プレセアが物ごころついたときにはすでに父はキコリの家業をしていた。
ここ、オゼットで。
だからこそプレセアはそんな男性の台詞をききとまどわずにはいられない。
「ジークはとある技の奥義を生み出した。
そしてその技を会得した騎士団は変質していった。…暗黒部隊へとな。
ジークの生み出した技の力の強力さに騎士団の面々はおぼれてしまったのだ」
その技を生み出した責任を感じ、ジークは騎士団を退団した。
その力を人を救うことではなく、人を陥れようとしはじめた騎士団のあやうさを感じ。
「よかれ、とおもってジークは人々を救える力なれば、とおもい、
騎士団の面々にその技を伝授した。だが、結果は……」
当時のことを思い出したのであろう。
すでに完全に星空となっている空をみあげる。
みあげたそこには木々の間に隠れているが、満月に近い月が浮いているのがみてとれる。
そんなフリードの言葉に、
「突如手にいれた力におぼれてしまったのね。よくあることね」
リフィルが盛大にため息をもらす。
そう、よくあること。
いきなりすぎた力をもったものがよく堕ちいる罠。
「…どんな、技、だったんですか?」
あの温和な父がうみだした技。
しかも力におぼれてしまうほどの強力な側面をもった。
気にならないはずはない。
そんなプレセアの問いかけに、
「ジークの生み出したその技の奥義は、とても理にはかなっていた。そして強力であった。
それゆえに騎士団員達はこぞってジークからその技を学んでいった。
その結果、ほとんどのものが力におぼれていってしまったのだが…
ジークはそのことに嘆き、真の奥義を私だけに伝えてきこりとなったのだ」
「…だから、パパは貴族やお城の人に面識があったんですね……」
王都に時折父についていったときに面識があるようなそぶりをたしかにみせていた。
しかも相手が父をしっている場合もあった。
そのことを思い出し、プレセアが思わずつぶやく。
「プレセア。お前がいきていてよかった。
私はお前に父親の言葉を…ジークの言葉を伝えなければならない」
オゼットの村が壊滅した、という話しをきき、この地にやってきた。
プレセアの安否もわからないままであったのだが。
ここで彼女にあえたのもまたジークの導きか、そんなことをふと思う。
その言葉に足をとめ、はっとしたように、
「パパの…パパの言葉!?パパは、パパはなんて……」
止められていた。
お前がキコリを、力をもとめてまでする必要はない、と。
それでも、とおもい力をもとめたのは他ならないプレセア自身。
その言葉の裏にある意味を考えもせず。
病床にふせった父、そして妹を養うために自らが樵の仕事を請け負うことを決めたのは
他ならぬプレセア自身。
「心の闇に負けるな、と」
「心の闇……」
その言葉はリフィル達の心にもひびく。
それは誰にもいえること。
自らの負の心に負けること。
人はどこまでも堕ちてしまう。
立ち直るにしてもそれにともなう代償もそれにともない大きくなってゆく。
「・・・・・・・・・・・・・」
その台詞をきき黙りこむミトス。
間違っている、とはおもわない。
思わないのだが、だがなぜだろう。
ロイド達と共に行動している中で何かが間違っている、と思い始めているのもまた事実。
まるでそう。
ロイド達の旅はかつて理想にもえていた自分達四人の旅を連想させてしまう。
嫌というほどに。
「心の闇?」
その言葉の意味が理解できないのかロイドが首をかしげるが。
そんなロイドをみて、
「…ロイド君は平和だねぇ」
おもわずあきれたようにつぶやくゼロスの言葉に、うんうんうなづいているしいな。
ロイドらしい、といえばそれまでかもしれないが、しかしそれは人の痛みを自分のこと、
として捉えて考えていない、というようにも認識されかねない。
事実、確実にしているつもりでもロイドはしていないのであろう。
後先考えず、自分がおもったことが正しい、とおもって行動しているからこその障害。
それによっておこる出来事をまったく配慮していないといってもよい。
簡単にいえば後先考えていないがゆえの障害、ともいえるのだが。
自分が起こした行動や、その言葉によってどのような結果になるのか。
ロイドはそこまで考えて行動しない。
思ったままをすぐに口にする。
そして行動も。
それを幾度かリフィル達にたしなめられてはいるにしろ。
当人がしっかりと自覚しなければ意味がない。
思慮深くない。
一言で示すのならばそういい表わせるのかもしれない。
それがよい結果につながればいいが、時としてそれは悲劇をまねく。
そう、かつてのイセリアでの出来事のように。
その点、ミトスは自分がこうすればこうなる。
というあらゆる視点を考え、そして行動していた。
そのあたりが決定的ともいえるロイドとミトスの違い、であろう。
「プレセア。お前には心がある。たとえ、時を失い、感情を失っていたとしても。
それは、紛れもない真実なのだ。そして、心はたやすく動く。心とはそういうものだ」
そう、だからこそ、エミルはミトスとの同行を認めたといってもよい。
他者とともにいることにより、ミトスの心がかつての心に戻ることを期待して。
「そして、だからこそ。といえるのだが。それゆえに心はたやすく闇をも生み出す」
「……はい。それはわかります」
「…人は、皆、そうだ。心に闇を抱えている。が、その闇に負けてはならぬのだ。
人は全てその心に闇をもってもいるが星をももっている。
その星をつねに闇に曇らせることなく輝かしつづけること、それが人がすべきことなのだ」
そこまでいい、空をみあげ、
「人の心に闇があるのは当たり前なのだ。夜があり、昼があるように。
光があり闇があるように。それを制御してこそ真の人間、というものだ」
「光と…闇……」
誰にともなくその台詞をききぽそり、とつぶやくミトス。
裏切ったのは人。
裏切られたあのときの信頼。
でも、あのとき、精霊を閉じ込める、ではなく協力をたのんでいたら。
もしかして結果は違っていた?
これまで考えもしなかったことをふと思いついてしまい、
あわててミトスは首を横にふる。
それはありえなかった過去。
こうしていたらよかったかもしれない、という幻想。
すでにあれから進み始めているのである。
あれから四千年。
今立ち止まるわけにはいかない。
あと少し。
あと少しで姉がよみがえるところにまできているのだから。
だからこそふと思い浮かんだその考えを必至で否定する。
しかしミトスは気づいていない。
自身で否定すればするほど、その考えがより自分の心の中に染み込んでゆく、ということに。
すなわち、今の自分のしていること。
それが世界に対する裏切り以外の何ものでもないのだ、というその事実に。
そしてそれはかつてのミトスの信念すらも裏切っている、というその事実を示している。
歪んでしまったミトスの理想。
根本的なところはかわっていないにしろ、
歪みしそれは、かつてミトス達が理想としていたものではなくなっている。
ラタトスクはヒトというものにたいし、光にも闇にも属するもの、として生み出している。
光にも闇にも属するがゆえの狭間のもの。
ゆえに人は闇も、光りも許容することができ、抱擁することができる。
きまった方向を自ら選べるといってよい。
そして、闇は光にもなりえ、そして光は闇にもなりえる。
それがヒト、としてのありよう。
「…心の闇を制御する…難しいですね」
プレセアがおもわずぽつり、とつぶやく。
「教皇騎士団の連中とは違い、ジークは闇にと打ち勝った。
私も闇の侵攻を食い止めた。なぜだとおもう?」
「…わかりません」
それは本当にわからない。
すくなくとも、考えても今のプレセアにはわからない。
「よくわかんねぇけど。心がつよかったんじゃないのか?」
心の闇云々はわからないが、とりあえず、自分の弱い心にまけるか否か、という問いかけだとおもう。
ゆえにおもったことを口にするロイドに対し、
「そうだ。そして、信頼できる友がいた。どんなことでも語りあえる友がな。
私にはジークが、そしてジークには……」
「あなたがいた、ということかしら?」
それまで黙っていたリフィルがそんな彼にと口を開く。
何もかもを語り合える友、というのはなかなかいるようでいない。
人はどうしても人づきあいをしてゆく中で、互いに距離をおきつつも、平穏であるようにと行動する。
ぶつかりあっても、それでも友、といえる…親友とよべる存在がいる人はあるいみ幸せであろう。
すくなくとも、本音をぶつけあえることができるのだから。
そのためにたとえ、互いの意見がぶつかりあおうとも、最後にはわかりあえなくても、
それでも許しあえる、そのような
自分の全てをさらけださせ、全てを忘れても問題ないような、そんな存在。
「プレセア。お前にもどうやらいい仲間ができたようだ。
……仲間を信じなさい。他でもない仲間を信じる自分自身を信じなさい。
疲れたら私のところにくるといい。ジークの話しをしてあげよう。
皆さん、これからもプレセアのことを…友の忘れ形見をよろしくおねがいします」
いきなりといえばいきなり頭をさげられ戸惑いはすれど、
「こっちこそ。プレセアにはお世話になってるし。プレセア、これからもよろしくな!」
「はい。ロイドさん。皆さん、これからもよろしくおねがいします」
「プ、プレセアの闇は僕がはらうよ!」
プレセアの言葉をうけ、ジーニアスが思わず叫ぶ。
「プレセア、これをお前にわたしておこう」
「これは?」
手わたされたのは巨大な斧。
そういえば、体ににあわない大きな斧を彼、フリードはたしかにもっていた。
「これは、ジークから預かっていた代物だ。かつて、あいつが騎士団にいたころにつかっていたものだ。
…娘であるお前が使うのにあいつも文句はなかろう」
それは、ガイアクリーヴァーとよばれし斧。
プレセアに斧を手渡し、再び深く頭をさげたのち、その男性は森の中へときえてゆく。
そんな彼の後ろ姿を見送りつつ、思うところがあった、のであろう。
「…改めてお礼をいうわ。助けてくれてありがとう。…私は、プレセアを実験につかっていたのに」
あまつさえ、彼女の妹までをも犠牲にした。
ぽつり、とケイトがロイド達に向き直りつつもそんなことをいってくる。
「…あんたがあのとき。俺達を見逃してくれたから俺達は今、ここにいる」
あのとき、いくら冤罪とはいえ捕まったのは事実。
そこから逃げ道を示したのはほかならぬケイト自身。
ゆえにロイドのいうこともあながち間違ってはいない。
少なくとも、ケイトが捕らえられた名目は表向きとはいえロイド達とはいっていないが、
ハーフエルフに加担した罪人を逃がした罪、というものなのだから。
「だから。そのせいで処刑されそうになってたんだから助けてあたりまえだよ」
そんなロイドの台詞に顔を伏せ、
「…私の正体をしっても?」
『正体?』
ロイド、ジーニアス、コレットの声が同時に重なる。
ゼロスはどうやら始めからしっているらしく、顔をしかめているのがみてとれるが。
「…私の母はエルフだった。父は人間で…今、マーテル教会の教皇の地位にいるわ」
「「え?」」
今、一瞬、ケイトが何といったのか。
ロイドとジーニアスには理解できず、一瞬、呆けた声をだす。
マーテル教会の教皇の地位にいる人物。
すなわち、国王に毒をもり、あまつさえゼロスをなきものにしようとしていた人物。
そして、たしか…ハーフエルフを虐げる法律をつくったとかいわれている人物。
「やっぱしな。お母さん似でよかったなぁ」
ゼロスがケイトに対し、場にそぐわないような台詞をのたまうが、
「そんなこといってる場合かい!?まあ、父親似でなかったのはいいことかもしれないけどさ」
しいなまでもがあるいみでとどめともいえる台詞をいっていれば、
それはあるいみゼロスのいい分を肯定しているも同意語。
マルタがここにいれば確実にこういったであろう。
すなわち、
私もよくパパ似でなくてよかったねっていわれるよ。と。
「ひどすぎるじゃないか!自分の娘を処刑しようとしてたなんて!」
ジーニアスが憤慨したように叫びだすが。
「しかしなぁ。ハーフエルフが罪を犯した場合。例外なく処刑ってきめたのは教皇自身なんだぜ?」
ゼロスがそんなジーニアスにたいし、肩をすくめつつもいいはなつ。
「ではあなたはあの教皇の娘さん、なのね」
淡々としたリフィルの口調。
その言葉にこくり、とうなづくケイトをみたのち、
何かがぷつり、と切れたのであろう。
「何だよ!それ!自分の娘がハーフエルフなのにどうしてそんなことをきめるんだよ!」
ジーニアスが感情を高ぶらせ何やら叫んでいるが。
「ジーニアス?大丈夫?」
そんなジーニアスの様子をみて、おもわず無意識のうちにジーニアスをなだめているミトス。
その怒りはミトスにも覚えがある。
どうして、ヒトは自分達ハーフエルフをないがしろにするの!
とその怒りをかつて、ミトスは姉に、そしてクラトスにぶつけた。
姉にいわれたこと。
絶望するのなら、ひっそりといきていきましょう。
その台詞がミトスの脳裏によみがえる。
「おいおい。俺にかみつくなよ」
そんなジーニアスにたいし、ゼロスが苦笑まじりに言い放つが、
「僕、絶対に教皇を許さない!」
なぜ、とおもう。
どうして自分の子供にそんなことができるのか。
捨てられた、とおもっていた自分達は実は両親が自分達を助けるため。
最善の方法ではなかったかもしれない。
けど、自分達を助けるために、両親は姉とともにシルヴァラントに移動させた。
それを今のジーニアスは知っている。
知っているからこそ信じられない。
親が子を、守ろうとするのではなく殺そうとする、などと。
「ま、まって!父にひどいことはしないで!」
そんなジーニアスの剣幕に驚いたのはどうやらケイトも同じであったらしく、
あわてたようにそんなジーニアスにすがるようにといってくる。
「どうして!あなたはひどいことをされてるのに!」
「だって…だって、それでも父親ですもの……
父が私にエクスフィアをクルシスの輝石に変える実験をしろと命令してきたとき。
…私、正直いってうれしかった。
やっと私を必要としてくれたって。やっと、やっと父は私を必要としてくれたのよ!」
「わかんない、わかんないよ!そんなの!」
常にリフィルに守られていたジーニアスにはそのあたりがよくわからない。
肉親に冷遇されたという記憶はジーニアスの中にはない。
リフィルが始めからジーニアスに両親は死んだ、といっていたこともあり、
捨てられた、という認識がなかったことも大きい。
しかも、真実をしったときは自分達は捨てられたのではなく愛されていた。
それこそ母は心を壊してもなお、自分達を思うほどに。
だからこそ、ジーニアスには理解不能。
親が子を求めるその心。
子が親をもとめるその心。
それらがよくいまだに理解できていないといってもよい。
「ジーニアス。少しおちつきなさい」
「だって、姉さん!」
さすがに興奮する弟の様子にリフィルも思うところがあったのか、
ぴしゃり、とそんなジーニアスをたしなめる。
そんな中。
「……私、すこしわかる」
通じるところがあるのであろう。
コレットが顔をふせつつも、ぽつり、とつぶやく。
「コレット?」
そんなコレットの様子にきづき、ロイドが首をかしげつつ問いかけるが、
「…レミエルさんが私のお父さんかもしれないって思ったとき…
あれが死ぬための旅だって知っていたのに。
それでもお父さんがやっと私にあいにきてくれた。
そう思ったら私、嬉しかったから。…涙がでるほどに嬉しかったから」
「コレット……」
そうか、そういえば、コレットは始めからあの旅が自分が死ぬための旅だって知ってたんだった。
それを俺はコレットが天使になるたびに喜んで、そして、そして救いの塔で。
コレットの台詞をきき、ロイドの表情が暗くなる。
選択を間違ったのはロイド自身。
エミルにも忠告をうけていたにもかかわらず、間違えてしまったのはロイド。
コレットの心が失われ、マーテルの器としてコレットが死ぬ。
そういわれたときようやく間違いにと気付いた。
あのままコレットが死んでいたら、とおもうとぞっとする。
そしておもう。
死ぬとわかっていてもなお、親にあえたのがうれしい、というその思い。
その思いはロイドにはよくわからない。
自分はどうなのだろう、とおもう。
おぼろげながら覚えているのは両親をさがし、ダイクの元から森にふみいった自分。
幼き日の自分。
そしてダイクの口から母は死んだ、ときかされた。
そして新しい家族になろう、と。
胸の前で手をくみ、思い出すようにそうつぶやくコレットの様子に、
ロイド達は何と声をかけていいのかわからない。
「これから…一人でいろいろと考えてみます。
父のこと、私のこと、ハーフエルフのこと…本当に助けてくれてありがとう」
しばらくコレットの会話をじっときいていたケイト。
死ぬ為の旅云々、という台詞の意味はケイトにはわからないが。
しかし、どこか通じるところを感じ取ったのであろう。
「では、マスターの家に案内します」
タバサがそういうとともに。
パタパタ。
どこからともなく鳥の羽ばたきがきこえてくる。
「あれ?鳥さん?」
ふとみれば、メルトキオで別れたはずの真っ白い鳥がいつのまにかやってきており、
その鳥はすっと手をのばしたしいなの腕にととまりゆく。
「エミル達からの伝言、だね。…サイバックでまってる、だってさ」
どうやらエミル達はここにきても入れちがいになる可能性があるがゆえ、
サイバックに直接いってまっている、という旨が
鳥の足にくくりつけられている手紙に記されているらしい。
了解、という意味を含めた文をつづり、再びしいなが鳥を解き放つ。
「…それから、プレセア…ごめんなさい……」
立ち去る間際、
ぽつり、とケイトがプレセアの横をすり抜けるときに頭をさげてわびをいれるが、
その言葉にプレセアは反応を示せない。
そのままタバサに連れられ、森の奥にとわけいってゆくケイトの後ろ姿を見送りつつも、
「……何だか悲しいね。どうしてこんな風になっちゃうのかな」
ぽつり、と誰にともなく呟くコレット。
ただ、彼女は愛してほしかっただけ。
ぬくもりがほしかっただけ。
望むのは、自分を自分としてみてほしい。
そんな思いであったのでろあう。
コレットがかつて、神子としてでなく自分としてみてほしかったように。
それがわかるからこそ、コレットは何ともいえない気持ちになってしまう。
コレットはロイドやジーニアスが村にやってきてから救われた。
周囲が神子、としてしか扱わなかった中で唯一、自分自身としてみてくれた友達。
そして、ロイドはコレットにとって命よりも大切な存在になっていった。
だからこそ、ロイドが生きる世界のためならば死んでもいい、とおもえるほどに。
「二つの勢力は必ず悲しいがな対立してしまうからな」
リーガルがため息とともにふとそんなことをいってくる。
それはなぐさめにもならない、とわかっているが。
それは真実でもあるがゆえの台詞。
「シルヴァラントとテセアラ、エルフと人間。天と地」
しいながぽつり、とつぶやき、
「そして、狭間のものはいつもいつも犠牲になるわ。ハーフエルフも神子も。
…かつて、そのために枯れてしまった大樹カーラーンのように」
リフィルがそれに続くようにいってくる。
犠牲になっているのは、ユアンの言葉を信じるとするならば、
おそらくは大いなる実りも。
大樹カーラーンも人々の争いの末に枯れたという。
「大樹…カーラーン……」
その言葉をきき、ミトスがぎゅっと手を握り締める。
まさかその名がでてくるとは思わなかった。
大樹カーラーン。
そして大樹の精霊。
そして…自分にこれを託した、かの精霊は、今。
ふと無意識のうちに胸にと手をあてる。
ミトスのつけているハイエクスフィアとよばれるそれは、ラタトスクより託されたもの。
見た目はハイエクスフィアとよばれている精霊石にしかみえないが、
元々精霊がやどっていない状態の石で創られたらしく、
――お前達の意思の力によってその石はお前達の力になりえるだろう。
そういわれ、託された石。
それでも力が強いがゆえに力に呑みこまれないようにといわれ、
エンブレムをも授けられた当時の記憶がありありとミトスの脳裏によみがえる。
「そんなのダメだ!誰かが犠牲になればいいなんて!」
そんな彼らの台詞をきき、はじかれたようにロイドが叫ぶが。
「けどな。ロイドくん。人が二人いれば必ずどちらかが犠牲になるんだぜ。
かならずどちらかが犠牲になるんだ。優劣がつく。それは国も世界も同じだ。平等なんて…幻想だ」
「・・・・・・・・・」
【誰もが幸せにくらせる世界?
そんなのは幻想にきまっているだろうが。あまいな。
その甘さがどこまで通用するかお前達の傍でみてやろう。
いつ挫折するのかがみものだな】
かつて、それはユアンが同行するときにミトスがいわれた台詞。
ふとミトスの脳裏よかつてのユアンの台詞がありありと蘇る。
そして、自分は平等はありえない。
その結論にいたった。
ならば、全てが同じになればいい、という思いの元に発動した千年計画。
「産まれ、立場、外見、種族…そのようなものに振り回されるのだな」
リーガルも思うところがあるらしく、ため息とともにそんなことをいっているが。
事実、リーガルは立場ゆえにアリシアとの結婚を反対された。
公爵家と樵の娘では不釣り合いだ、という理由から。
反対だけならばまだよかったかもしれないが、
結果としてアリシアはヴァーリに引き渡され、異形とかして結果として命を落とした。
アリシアがいなければ、リーガルは力なきものにまで目をむけるようなことはしなかったであろう。
そう自覚があるからこそ、何ともいえない気持ちになってしまう。
彼女がいたからこそ、力なきもの、民の望むものをより身近に感じることにより、
会社の経営に反映させることができたといってよい。
貧民街における設備投資もリーガルは視野にいれはじめていた。
結局のところ、たしかにアリシアの指摘どおり。
貧民街で疫病などがたとえば発生した場合、それらはめぐりめぐって周囲を巻き込んでしまう。
ならばそのようにならないように始めからきちんとしておけば、すなわち予防対策。
それまで、貧民街のことなど国はみむきもしなかった。
下水道における水質にしてもまた然り。
かつてのリーガルならばそんな意見は力なきものがなにをいう。
と一笑にふしていたであろう。
そんな傲慢な考えをかえてくれたのは、他ならぬアリシア。
産まれや立場などは関係ない。
アリシアの存在があったからこそ、リーガルはっきりといいきれる。
それこそ、そんなものは関係なく、個人の人となり、考え方次第だ、と。
「そんなの……でも、心は皆、同じだろ?誰だって自分を否定されれば傷つくにきまってる。
それなのに…そのことを忘れてるんだ」
ここ、テセアラにきてあまりにもひどい差別を目の当たりにし、ロイドも思うところがあるらしい。
シルヴァラントでは
ここまであからさまな差別、というものをロイドはみたことがなかった。
しかし、ここではあきらかにそのような差別がまかりとおっている。
住むところすら指定され、さらにはハーフエルフだから、という理由だけで、
地下に閉じ込められ一生を過ごすしかない、というハーフエルフ達。
「そうだよね。皆が皆、思いやっていきていければいいのにね」
コレットがそんなロイドの台詞に神妙にうなづく。
「少しづつ…人はかわれます。いえ、かわらないといけないんです…」
「…そう信じてやっていくしかないよな」
プレセアの台詞にロイドがつぶやくが。
「…信じても、むくわれないこともあるよ」
ぽつり、と無意識のうちにぽつり、とづふやくミトス。
「ミトス?」
「そんなのいえるの、ロイド達が大切なものを無くしたことがないからいえるんだよ!
心は皆同じ?ならどうして?どうして人間は僕達ハーフエルフをないがしろにするの!?
意見を聞き入れてもくれないの!?
信用させるようなことをいったあげくに、どうして裏切ることばかりするの!?」
クラトスの息子がそんなことをいうなっ!
クラトスの血をひくくせに。
信じていい、といったくせに。
クラトスはまた自分を裏切り始めている。
「ミトス……。でも、そうでないヒトもいる。
少なくともロイドやここにいる皆は違うよ。少なくとも、僕はミトスを裏切らない」
「本当に?…ジーニアスは信じてもいいかもしれないけど。でも、他の皆は…だって、人間だもの。
これまでだってそう。いつもヒトはいいようなことをいっては僕たちを裏切るんだ……」
信じていた国によって殺された姉。
おいなる実りを独占しようとしたヒトの手によって。
「…ミトスさん…いろいろとあった、んですね」
そんなミトスの叫びにプレセアもまた思うところがあったのかぽつり、とつぶやく。
「裏切り…か。けど、人間だろうとエルフだろうと。
イヤな奴は誰だってイヤだろうし。好きになったら相手が何であれ関係なくなるはずだろ?
親父がよく相手を知りもせずに否定するなっていってたんだけどさ。
結局のところ、そういうこと、なんだとおもう。
そもそも自分達ではどうしようもないことで相手にどうこういわれても、
どうしようもないのも事実だろ?裏切られた、としても。
裏切る側にも理由があるんだ…と俺としてはそう、思いたい…
俺、馬鹿だからさ。ミトスに何っていったらいいのかわからないけど。
けど、諦めたらそこで終わりだとおもう。裏切られてもそれでも諦めたらそれで終わってしまう。
裏切られても信じつづけることが大切だ、そうおもうから」
どこか心の奥底でクラトスが敵だ、とわかっていても敵とはおもいきれないロイド自身。
「…でも、その裏切りで大切な人が害されたとしたとするならば。
それでもロイド。お前は前をむいていけるか?」
「…わかんねぇ。けど、そうならないように、俺はもう間違えないって決めたんだ」
「…酷のようかもしれぬが。では、コレットがアリシアのようになったとすれば?お前はどうする?」
「それは……コレットをどうにかして元にもどす!実際、元に戻せる方法はわかってるし」
リーガルの問いに少し考えたのち、それでもきっぱりといいきるロイド。
「そういえば。あのとき、クララさんをエミルが元にもどしてたよね」
「おそらく、今の私でも元にもどすことは可能だとおもうわ。
ユニコーンからユニコーンホーンを授かっているからね」
ジーニアスがふとパルマコスタでの出来事を思い出しつぶやき、
リフィルもまたうなづくようにいってくる。
「エミル。あのときそういえばいってたよね。マナが乱されて異形と化すって…
古代遺跡にそのような文献がのこってたっぽいようなことをいってたけど」
「そうね。エミルがその知識をどこで手にいれたのか、そういえば効きそびれていたわね
あの子はあの変化のことをこうもいっていたわね。エクスフィギュア、と」
「・・・・・・・え?」
コレットが思いだしたようにいい、リフィルもまたうなづきつつもそんなことを言い放つ。
その台詞に戸惑いを含んだ声をだすミトス。
そもそも、エクスフィギュアという単語は今の世界に普及していないはず。
ディザイアン達にすらかの言葉はほとんど知らせていないというのに。
それに、かの天使化などに関する遺跡などはほとんど破壊したはず、だというのに。
今の言い回しからすれば、いまだのこっているそれらの文献、
もしくは記されている遺跡がのこっている、というのだろうか。
八百年もの間、衰退世界となっているシルヴァラントの地にて。
そのほうなほうこくはクラトスのほうからあがってきてすらいないが。
否、もしかして知っていてもクラトスは自分に報告してきていないだけなのかもしれない。
エミルとの出会いを簡単に説明されてはいたが、ミトスはそこまではきいていなかった。
何しろロイド達の説明では、エミルの料理が半端なくおいしい、とか
そういったことばかりが主体で話しに脈略がなかったのもまた事実。
「…とにかく。私たちもいきましょう」
いつまでもここにいても仕方がない。
タバサは彼女を家に案内したのち、入れちがいにならないようにサイバックにでむく。
そういっていた。
ならば。
「――いきましょう。エミル達もまっているかもしれないけれど。
それに…夜の森で一夜を過ごすのは…危険だわ」
すでに夜となっている以上。
森の中をうろうろするのはできるだけ避けたいというのもリフィルの本音。
~スキット・ガオラキアの森から夜があけてサイバックへ戻る途中~
プレセア「…あの村に一人のこしてきて本当に大丈夫なんでしょうか?」
昨夜、結局、ケイトは一人になりたいから、といって、
アルテスタの家にはもどってこなかった。
夜の森を移動するのは危険だから、という理由にて
アルテスタの家で一夜を過ごしたのち、朝になり出発した、のだが。
きになるのはケイトのこと。
プレセアを実験体にしていたとはいえ、彼女もまたあるいみで被害者。
プレセアのその呟きには様々な思いが含められているのが垣間見える。
リフィル「…一人になりたいのでしょう。考えることはたくさんあるはずだわ」
ロイド「…あの人も自分がハーフエルフだから苦しんでるんだな」
リフィル「そうね。でも彼女があの生き方を選んだのはハーフエルフだからではないわ」
ロイド「そうかな?」
リフィル「そうよ。父親である教皇に愛してもらいたかったから。
プレセアの実験に加担した。それを血のせいにするのは卑怯だわ」
リーガル「その通りだ」
ロイド「たしかにそうかもしれないけどさ。…ちょっとかわいそうだって俺、おもうよ」
リフィル「甘いわね。いいえ。その甘さがあなたらしさなのかもしれないわね」
ミトス「…皆が皆、同じ種族になればそんなこともなくなるのに」
ジーニアス「そう、かな?」
ミトス「そうだよ。だってそれぞれ違う種族同士だからそんなことがおこるんでしょ?」
リーガル「いや。それはなかろう」
リフィル「そうね。…悲しいことに、差別というのは、種族とかは関係なく。
心が生み出しているものだと少なくとも私はおもうわ」
ジーニアス「…そう、だね。相手を見下す心。自分を過信する心。
そういったものが…差別を産みだしているんだと思う。
僕も無意識のうちに人間達を見下していたところがあるもん……」
それはエミルの指摘によってジーニアスは自覚した。
ジーニアス「僕、ずっとおもってた。これだから人間は。人間なんて。って。
…相手のことを知りもしないでさ。人間なんだからという理由だけで、
大人たちにしても周囲にしてもずっと…そう、ずっと見下してたんだ」
ロイドと出会ったときも始めはそうだった。
そのうちにロイドに問答無用で連れ回され始めだし、もはや人間だから、
というよりはロイドだから仕方ない、という考えに至ってしまったのだが。
しいな「…もしかしなくてもディザイアン達もそうなんだろうね。
あたしたち人間を劣悪種、とよんで家畜扱いして、格下扱いしてさ。
つまり、個人をしろうともせずに種族で格下扱い、家畜でしかない。
そんな扱いしかしてないってことだろ?やつらも。
結局、相手を見下したりする奴らは…心が弱いんだよ。…わからなくもないけどね。
そのほうが楽だから。相手を見下して、自分とは違う。
そうおもっていれば自分は傷つかなくてすむ、から」
ミトス「・・・・・・・・・・・・・・・」
ジーニアス「あのユグドラシルってやつもそうなのかな?」
しいな「でなきゃ、マーテル教やらディザイアンやらつくらないんじゃないのかい?」
ゼロス「…俺様としては、経典にある愚かなるものディザイアン。
それが天界の一部だ、というのに驚愕したけどな」
そもそも、経典で説いているはずの封印すべき存在が天界所属の組織など。
何の冗談だ、といいたい。
切実に。
もっともゼロスの場合は、それをしいなたちから聞いたから驚愕した、のではなく、
直接、クルシスのほうから聞かされていたがゆえ、という違いはあるものの。
ロイド「俺は難しいことはよくわからないけど。けど、これだけはいえる。
絶対に絶望なんてしない。必ず道はひらけるはずだって。
また、自分達で道を切り開く行動をしなければ何もかわらないんだ。
人の考えも、何もかも、全てが」
ミトス「・・・・・・・っ」
絶望なんてしない。
きっとどこかに必ず希望はあるはずだもの。
それは、かつてのミトスの口癖そのままの台詞。
ミトス「…から…」
ジーニアス「?ミトス?」
思わずぴたり、とたちどまり、
気づけばぎゅっと手をにぎりしめ、体をふるわせているミトス。
そんなミトスの様子にきづき、ジーニアスが怪訝そうに声をかけるが。
ミトス「ロイドは大切な人を失ったことがないからそんなことがいえるんだよ!!
裏切られても信じつづける?よくいえるね!
なら、ロイドは、君の大切におもっている人達が・・・仲間が、家族が!
裏切りによって殺されてもそんなことをいえるの!?失ったことがないからいえる戯言だよっ!」
そのまま、だっとその場から駆けだしてゆく。
腕の中で冷たくなってゆく姉。
姉が害されたとしって彗星からもどってきたあのとき。
彗星のデリス・カーラーンの力を種子に分け与えようとしたあのとき。
互いの勢力が攻撃をしかけてきたあのときのことは、
ミトスは昨日のことのようにはっきりと覚えている。
だからこそ叫ばずにはいられない。
そんな生易しいことは、幻想でしかない、と。
それは大切なものを失ったことがないものがいえるただの戯言だ、と。
ジーニアス「あ!ミトス、まってよ!」
そんなミトスのあとをあわてておいかけてゆくジーニアス。
プレセア「…今の、怒りよう…もしかして、ミトスさんのお姉さんは……」
リフィル「…可能性はある、わね。…あの子の姉もまたハーフエルフなのだから」
リーガル「…ミトス…か」
ふと思い出すは、タバサがかのコンテナの中でいった、クルシスの指導者だという名。
ミトス・ユグドラシル。
そう、たしかにタバサはそういった。
勇者ミトスの名であり、そして今のクルシスの指導者当人だ、と。
そのミトスと同じ名の少年。
そういえば、とおもう。
かの少年のフルネームをリーガル達はきいていない。
そもそも、このオゼットの地にてたったひとり怪我もなく無事であった。
そのことすらおかしい、としかいいようがないのに。
子供を疑いたくはない。
しかし、とおもう。
リーガルとて伊達に巨大企業といわれている会社を若いうちから任されていたわけではない。
だからこそ、エミルがミトスにむけている何ともいえない視線。
それに気づいている。
ちらり、と視線をゼロスにむければ、ゼロスはかるく首をすくめるのみ。
視線のみでわかる。
どうやら神子ゼロスも同じ懸念を抱いている、ということが。
ゼロス「…ま、ここテセアラで無事に過ごせているハーフエルフがいるか。
といえば答えは否だからな。隠れすんでいたとしても。
何かのきっかけでそれが判明し、家族が殺されて子供が捕らえられる。
というのは日常的にここテセアラではおこりえることだしな」
実際として、
そのようにして王立研究院にしばりつけられているハーフエルフ達は少なくない。
リフィル「…そう」
ゼロスの言葉をきき、だから、両親は自分達をシルヴァラントに逃がしたのだろう。
その確信が強くなる。
今のゼロスの言い回しからするならば、親を殺しててでも子供を捕らえる。
それはここテセアラではまかりとおっているような言い回し、なのだから。
しいな「…だぁ。もう。しょうがないね。あたしが二人を探してくるよ。
ここ、ガオラキアの森はあたしの庭でもあるからね」
プレセア「…しいなさん、おとも、します。わたしも森にはくわしい、です」
リフィル「…しかたないわね。二人にならお願いするわ。
下手に私たちがうごいて遭難などしてはどうにもならないもの」
ガオラキアの森は鬱蒼とした森。
下手に道を間違えればわからない。
それでなくても右も左も、北も南もわからないほどに鬱蒼としている森、なのだから。
pixv投稿日:2014年2月8日某日(Hp編集:2018年4月22日(日)
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あとがきもどき:
※参考にしたクルーズ客船※~wikiより~
1980年10月4日にアラスカ沖で火災事故を起こし、11日に沈没した船。
名:ロイヤル・バイキング・サン→プリンセンダム
1971年9月21日
進水 1972年7月7日 就航 1973年11月30日 喪失 1980年10月11日アラスカ沖で沈没
建造社 デ・メルウェデ造船所 建造費 2000万ドル 排水量 総トン数 8,566t
全長
130.29m 全幅 19m 吃水 6m 高さ 11.2m
機関 ストークバルチラ8TM410ディーゼル4基2軸推進
17,600hp
バウスラスター 800hp
発電機 2基 速力 21ノット
船客 425人(定員)、375人(クルーズ)
乗員 164人 デッキは上部よりサン、ブリッジ、プロムナード、メイン、A、Bの6層構造。
これにした理由。
いや、乗客全員が救助されてる、というのもありますし。
10t以下でいい船ないかな~とおもって探した概要船がこれになりましたv
脳内完結している船さん、そこまで詳しく、
船の概要とか設定してなかったですからねぇ。
豪華客船のイメージで高速艇はしてありましたが(まてこら)
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