まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
pivixさんに投稿していた話の区切りとは変えてあります。容量的に……
というか、シルヴァラント編の話数に対しテセアラ編がそれをかるくこえそうな勢いなのは、
やはりテセアライベントのほうがおおいからでしょうね汗
…そういえば、シルヴァラント編、テセアラ編、としたのだから。
原作ゲーム通り、世界統合編としてもういっこにどこかでくぎるべきかな?
いや、この話しの場合、区切る箇所が・・・
あるとすれば、精霊との全契約済みなんでしょうね。やっぱり…
もしもは、シルヴァラントに流れて(?)いったところ、にすべきか。
ううむ…
ちなみに、ラタトスクが今回ちらり、と回想でもいうシーンがあるのですが、
この世界の成り立ち。
?とおもったひとは、そのすでに痕跡というか伏線はしょっぱな、1話にあがっているという。
何それ?とおもうひとの為に念のため。
そもそも、この世界というかこの宇宙空間そのもの。
幾度も明記してますが、この空間そのものをラタトスクが創っている、という裏設定です。
つまり、始まりもまたラタトスクから始まっています。
簡単に現代宇宙論でいうとすれば、ビックバン。
それを起こした当人&宇宙空間を広げていっている当事者、でもあるわけで。
ネオコアやら、さらり、とつくれている理由もまたそこにあったり。
…実は、宇宙の中心地。
そこに彼の本当の核でもあるコアがあったりしているのですが。
それに関して第1話でもぼかして説明していたわけですね。
だから、他の自分のことなどを知ろうとおもえば知れる立場にある、と明記していたわけで。
文字通り、この宇宙空間そのものは、彼が根を伸ばして広げていっている空間。
といってほぼ間違いないこの世界観…
もっとも、それぞれの分霊体でもあるラタトスク達は、それぞれ意識を隔離、
すなわち、意識共有していないのが大多数なので(このラタトスクもまた然り)
本家本元のラタ様は中心地でまどろんでる状態、というのがこの設定。
あれ?それって…まさか?とおもうひとはいるかもしれません。
アザトース(混沌の王Inクトゥルー)要素がちらり、と組み入れられての裏設定v
完璧に完全体ラタトスクになったら、かなうものはないというv
まあどうでもいい裏設定でしかないですが。
どうせこの設定、ラストになってもでることないんだし…(マテ
ともあれ、今回、ようやくアリシアイベント完結です。
・・・でもたぶん、アルタミラでのお話は今回だけでは終わらない…
さてさて、あれ?聖獣?何でリバースの?と思う人はいるかもしれませんが。
いやだってねぇ。
ラタトスクの騎士でお母さん(笑)でてきてたし。
なら、他の聖獣もいて当然、とおもうわけで。ええ
統合後にお母さんはやはり聖獣たちとの会話でマオ生み出してたりします。
いや、だって魔物図鑑の説明に、炎のフェニアの蘭に一児の母ってv
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重なり合う協奏曲~海の楽園アルタミラ~
海の楽園、といわれているアルタミラ。
あたりから、家族連れらしき声がきこえてくる。
街の入口には芝生が綺麗に手入れされて敷かれており、
裸足で歩いても問題ないように、要所要所にその芝生の道は続いている。
さらに、足元となる地面には細かな石がきちんと整備されており、
ちょっとした石にて紋様などをうみだし、
遊び心をもってして絵柄なども石の色彩などにより描かれているのがみてとれる。
元々、付近にあった小島などを埋め立てにって繋げ、
ちょっとした一つの街にしている様は、こういう光景をみるたびに、人間、というものも考えるよな、
とつくづくラタトスクは思ってしまうのだが。
周囲には海の街であることを示す独特の潮の香りがただよっている。
いたるところにパラソルらしきものが設置されており、
その下ではさまざまな出店らしきものが出店されているらしい。
オゼットの北にある残橋から、南に下ること四時間あまり。
たどり着いたは、アルタミラの近くにある街の外にある小さな桟橋。
そこからアルタミラの街へは目と鼻のさき。
アルタミラにある港に移動してもよかったのではあるが、
さすがに、エレメンタルカーゴが海を渡っている、というのは注目をあびかねないのでは。
というリフィルの意見もあいまって、直接街の港に寄港するということは避けたらしい。
そもそも、エレメンタルカーゴは本来、地上を走る乗り物。
船と作りがまったく異なる。
それが海を渡っているのをみれば、たしかに騒ぎになりかねない。
だからこそのリフィルの提案。
そこから徒歩にてアルタミラの街の入口へやってきている今現在。
「海の楽園、アルタミラへようこそお越しくださいました。どうかごゆっくりおつろぎくださいませ」
なぜかバニーガール…ウサギ耳をつけた女性が、
街のデイリグチにて入ってくる人々にそんな声をかけているのが見て取れるが。
街にはいってすぐに巨大な建物がみえ、それがこの街が誇る高級ホテルであることは、
エミルはかつてここにきたときに知っている。
「うわ~。すごいね!」
マルタが街にはいるなり、目をきらきらさせていってくる。
いたるところでにぎやかな声がきこえてきており、
さらには、なぜか水着姿の人々が行き交っているのもみてとれる。
どうやら浜辺とここは自由に出入りができるようになっているらしく、
幾人かの人物は水着のまま、目の前にある巨大な建物の中に吸い込まれるように消えている。
「あの建物は?」
リフィルがそんな人の動きに気付いたのか、ゼロスに問いかけるが。
「あれは、ここアルタミラが誇る、ホテル・レザレノだぜ。
レザレノ・カンバニーが直接経営しているホテルのひとつだな。ようするに宿泊施設だ」
リフィルに説明するゼロスの台詞に、
「うそ!?あんな大きな建物が!?」
「嘘だろ!?」
ジーニアスが驚愕したような声をあげ、ロイドもまた目をぱちくりさせて思わず叫ぶ。
「超高級ホテル、ってわけでもないんだが。スイートルームまで完備され、
一度は泊まってみたいホテル、年間ベスト10の常に一位になってるホテルだな」
そんな二人にたいし、うひゃひゃと笑いつつもゼロスが説明をしてきているが。
「かのホテルには四階、五階に海を一望できる部屋も用意されている」
ゼロスに変わり、リーガルが補足説明するかのようにいってくる。
そんなリーガルの説明に続き、
「二階にはショッピングフロア、すなわち二階全部がお店になってるんだぜ。
三階には海をこれまた一望できるレストラン。デートスポットとしても有名なレストラン、だな」
「…たかいんだろうな。そんな所だと」
「だよねぇ」
ロイドがぼつり、とつぶやけば、マルタまでが同意をしめしていたりする。
「一般客室はそうでもない。四百ガルドだ」
「うそ!?こんな高級そうなホテルなのに!?
私、一度ここにとまってみたい!そこいらの救いの小屋より安い!」
マルタがその台詞にすかさず反応を示してくる。
実際、救いの小屋に関しては、それ以上の金額のところもあるがゆえのマルタの台詞。
「うわ。ホテルからあの芝生。この下にある浜辺に続いてるんだ」
ふと見下ろせばこれまたきちんと整備されている浜辺の様子がみてとれる。
いたるところにびーちパラソルなどがたち、家族づれなどのにぎわった声が海のほうからきこえてくる。
見張り台、なのだろう。
きちんと不足の事態にそなえて、そういった設備もきちんとしているらしく、
また、沖のほうにまで出ていかないようにとの配慮もみたところされているらしく
一応、安全管理の面においてはしっかりとなされているらしい。
ビーチハウスやボート乗り場。
商業区画においてはまあいくようなことはないからともかくとして。
歓声をあげて波と戯れている家族連れの姿がふと視界にうつり、
彼らは今、世界で何がおこっているのか、自分達がどのような立場にいるのか。
おそらく判っていないのだろうな、とそんなことをふとエミルは思う。
地上全てを浄化する、ということは何もわからないああいう彼らの命をも、
一瞬にして摘み取る、それはラタトスクは十分に理解している。
それでも、躊躇していれば世界がダメになる、というのなら、決定を下すときにはとまどわない。
それを今しないのは、まだそこまでひどくはないから、という思いもありはする。
「あの。その向かうという、レザレノとかいう本社はどこにあるんですか?」
知ってはいるが、一応念のためにと問いかける。
そもそも、エミルが知っている、というのは本来ならばありえないこと。
もっとも、世界を視たから知っている、ということもあるし、
かつての時間軸においてここにやってきたことがある、という事実を除けば。
「…奥のビルだ」
リーガルが静かに指さしたその先。
ひときわたかくそびえたつ建造物が見て取れる。
「うわ~。すごいたかい」
「救いの塔とどっちが高いかな?」
「そりゃ、救いの塔でしょ」
マルタがそれをみて、その目の上に手をあて、見あげるようにいい、
コレットが首をかしげ、これまた逆のほうにみえる救いの塔と、
そしてみえている建物とを見比べいってくるが。
「マナの守護塔とどっこいどっこいの高さだな。あれ」
「いわれてみれば…」
たしかに、レザレノ本社だ、というビルはマナの守護塔とほぼ同じ高さといってよい。
きょろきょろと、物珍しく周囲をロイド達がみていた、からであろう。
くすり、と苦笑しつつ、
「ここ、アルタミラは初めてですか?」
バニーガールの格好をしている女性がそんな彼らにと話しかけてくる。
「あ、ああ」
「では、初めてのかたようにご案内人をつけましょうか?」
これもここ、アルタミラにおける、レザレノ・カンパニーのサービスの一つ。
無償で案内人がつく、というのは、この地に初めてやってきたものにとって、
かなり助かるといえば助かる仕組み、なのではあるが。
「あ、それはいいわ。俺様がいるしな」
そんなバニーガールの格好をしている女性にと、ゼロスがにこやかにはなしかける。
「あら。これは神子様。お久しぶりですわ。
何でも大変でしたわね。冤罪をよりによって教皇様から押し付けられたとか」
にこやかに、ゼロスの姿をみて、かるくお辞儀をしころころと笑みをうかべつつ
そんなことをいってくる女性に対し。
「君のような素敵な女性にねぎらわれたら、俺様、感激してしまうよ」
「あら。あら。神子様ったら、お上手なこと」
ころころとそんなゼロスの台詞をさらり、とかわし。
「ようこそ。お客様。ここ、海の楽園、アルタミラへ。
これはこの地に初めてやってきた方に差し上げているものよ。遠慮なくどうぞ」
いいつつも、その手にもっていた籠からタオルを一枚、一枚手渡してゆく。
ちなみに、海なのでタオルなどがあったほうが便利だろう、
という意見の元にこのサービスはほんの十数年前より始まっている。
時期に合わせ、タオルの柄も変わっているがゆえ、
タオルの柄をそろえようと様々な時期にやってくる観光客もいるほど。
もっとも、二度目からは有料、になるのだが。
「お。サンキュー。って、タオルに何かの絵がかかれてる」
ロイドがさっそく、もらったばかりのタオルを広げると、
その隅の方に小さな絵柄がはいっているのがみてとれる。
そしてまた。
「うわぁ。みてみて。ロイド。私のはイルカさんの絵がかかれてるよ~」
コレットが広げたそれには、中央にイルカが二匹。
戯れている様子が。
「…僕のこれ、なんで雪景色?」
ちなみに、ジーニアスのものには、雪が舞っている様子が描かれており、
その下のほうに、フラノール雪まつりイベント時期云々、
と書かれている文字がみてとれる。
そしてまた。
「……何?これ?」
ミトスが何の気なしに同じくタオルを開いてみてみれば、
そこには様々ななぜか魔方陣っぽいものや、猫や動物の姿。
そして、なぜか、あなたも神秘なる世界へ。とかかかれている文字が。
タオルはそれぞれ、袋の中にはいっており、
それぞれの袋の中にはイラストについての補足説明のような小さな冊子がはいっている。
「……神秘部。それはあなたを不思議にいざなう不思議なお店。
占いや願掛け、さらには縁起物。様々における品々を取り扱っています?」
そこにはいっている冊子をみて、ミトスが思わず顔をしかめるが。
しかも、ご用命はお手近のネコニンギルドへ。
と書かれていたりする。
「うむ。それは神秘通販だな。ネコニンギルドと契約を結んでいるがゆえ、
カタログにある品をネコニンギルドのどこにでも頼めば、
自然、自宅、もしくは指定した場所に品物が送られるようになっている」
ミトスが首をかしげているのに気付いたのか、
リーガルがそんな補足説明をしてきているが。
「ああ。あの通販かい。あれはたしかに便利だよね。なかなか辺境の地とかにいたら買い物とか不便だしね」
その点、ネコニンはどこにでもけっこういる。
ゆえに、この通販システムをレザレノが施行したとき、またたくまに人気がでた、という経緯をもっている。
しいながしみじみとそんなことをいっているが。
「そのタオル。いろいろと種類があるのよ。気が向いたらそろえてみてね。
ちなみに、二度目からは有料よ。代金は百ガルド
さらに、完全綿百%だから、肌触り、吸収力もいいわよ?」
レザレノ独自の開発部のこだわりにおいて、タオルの製造過程において、吸収力もより高められている。
…もっとも、これをつくるため、だけに。
エルフの里にはいる許可を国にもとめ、許可をうけたのはさすがというか何というか。
織物の専任者であるエルフのとある人物とゆえにレザレノは専属契約を結んでいる。
ちなみに、それに対する対価としては、エルフ側からは香辛料となっていたりする。
外貨はあっても意味がないから、という理由らしいのだが。
いわれてみれば、それぞれに渡されたタオルの柄は全て異なっている。
海の動物達を織り込んでつくられたものもあれば、魔物達の姿を模しているもの。
なぜかエミルの手にありしは、
「…何でシムルグ?と…」
ご丁寧に大きな木と、なぜかシムルグの模様が描かれている。
おそらく、この樹は大樹カーラーンを示しているのであろう。
自分のもとにこの柄がきたことに苦笑せざるを得ないが。
彼女は意図していたわけではないであろう、というのに。
「その中には初めてこの街を訪れた人ように。
そこのホテルの割り引券もはいっているから。ぜひとも利用してね?」
ちゃっかりしているというか何というか。
割引券を渡すことにより、ホテルの利用を促す方針であるらしい。
人の心情として、こういった場所にやってきたとき、割引できますよ。
といわれれば、ならいってみようかな。
という気になる、というもの。
かつてそのように力説していわれたな。
ふと、かつてのまだこの世界に来る前のことを思い出し、エミルはふと空を見上げる。
やはり、あのとき。
この惑星に移動する、のではなく。
一から世界を創ることを提案すべきだったのだろうか。
ならば、このような世界にはならなかったのだろうか。
それは今でもエミル…否、ラタトスクにも判らない。
しばし、いくばくかの会話を交わしたのち、やがて、次なる街の入口にやってきた人々。
どうやらやってきたのは家族連れ、であるらしい。
そちらのほうに頭をさげて、むかってゆくその女性。
「なんか、すげえな。ここ」
何が、と言葉にできそうにないが、すごい、という言葉がしっくりくる。
ゆえに、ロイドがぽつり、とつぶやくと。
「うん。同じ海に近い街でも、パルマコスタとはまったく違ってるよね」
風にのり聞こえてくる家族連れらしき歓声。
「海かぁ。魚釣りとかもできるのかな?」
「うむ。それだと、レンタルでつりざお、もしくはクルー釣りなど、そういうサービスも行っている」
マルタのぽつり、とした言葉にリーガルが淡々と説明してくる。
「…あんた、くわしいねぇ」
しいなが呆れたようにいえば、
「…だから、ほんとうに何できづかねぇんだ?」
ゼロスが呆れたように、意味ありげにしいなをみて首をかしげていたりする。
『?』
その言葉の意味は、ロイド、ジーニアス、マルタ、コレット、リフィルには判らない。
プレセアは、
「…昔、まだママがいきていたときに、きたこと、があります」
過去を思い出したのか、すこしうつむいているようであるが。
まだ、赤ん坊だったアリシアと家族で訪れたこの地。
幼かったゆえにあまり覚えていないが、それでも楽しかった、という思いでだけはある。
だからなのかな。
ともおもう。
アリシアがここに奉公にでている、というのは。
彼女もまた自分がまだ赤ん坊のころに家族でここを訪れたことがある。
というのは聞いていたはず。
なら、少しでも家族の思いでがあるところに、という選択をしたのかもしれない。
そのあたりはプレセアは詳しくきいたわけではないにしろ。
「…おや?あんたは…」
ふと、背後のほうから声をかけられ振り返る。
みれば、老人、なのだろう。
その手には花束がもたれている。
花束、といっても菊の花束、ではあるのだが。
「…いや。失礼。記憶にある少女とよく似ていたのでね。君もお参りかい?」
顔立ちもその髪の色もよく似ている。
ならば、家族、もしくは親戚なのだろう。
そう結論づけ、体をすこしかがめてプレセアに問いかけたのち、その場にいるリフィルにと視線をむけてくる。
リーガルは何やら少し離れた場所にて係員らしきものと話しており、
ロイド達とは今現在、少し離れていたりするがゆえに、
連れであることは、目の前の人物は気づいていない、らしい。
「…お参り?」
その意味がわからず、プレセアが首をかしげるが。
「ああ。この先に先の事件の慰霊碑があるんだよ。
…今日は、そのとき、命を落とした孫娘の誕生日、でね」
どこか悲しそうにいうその老人。
「事件?こんな平和そうな場所なのに、事件…ですか?」
「…しかも、命を落としたって……」
マルタがその台詞に目をみひらき、ジーニアスが声をかすれさせつついってくる。
「海の事故とかならば、レザレノさんがすぐに対処して、これまで死者とかはだしていないんだけどね。
あの事件は…まさか、こんなリゾート地で噂になってた怪物が現れる、とは」
そういいつつ。
「…いきなり、街の中に怪物が現れてね。
その怪物はレザレノの当時の社長、今の会長が退治して下ったらしいんだけど。
彼のもとにいた従業員も犠牲になったらしくてね……」
怪物の姿がみえなくなったとおもえば、少女を抱いて叫んでいた姿が目撃されている。
よもや、その少女と怪物が同一である、などその現場をみていたものはすでに死んでいる。
ゆえに、その事実に気づいているものはほとんどいないがゆえの台詞。
あの場にいなかったものは、まさか少女が怪物に変化したなど夢にも思うはずもなく。
「そのときの少女とお嬢さんの特徴がよく似ていたから。
お参りにきたのだ、とおもったのだけども。違うのかい?
ああ、もしもそうだとするなら、そこの露店で慰霊碑にお参りする人ように、
そのようの花束なども売っているから、購入すればいいよ」
いいつつも、
「じゃあね。お嬢さん」
いって、プレセアの頭をくしゃり、となでて、かるく頭をリフィル達に下げたのち、奥のほうへと歩いてゆく。
しばらくみていると、ホテルを少し過ぎた辺りで奥のほうにむかってゆくのがみてとれる。
「先生。よくわからないけど。誰かが命を落としているのなら。
私、お参りしてから、レザレノってところにいきたいです」
コレットの申し出に、
「ええ。それは私はかまわないのだけど、でも……」
今の人物のものいいからして、おそらく、その犠牲者、とは。だからこそリフィルは言葉につまる。
間違いであったほしい、とおもっていた。
あのとき、アルテスタがいったのは、プレセアの妹のことではない、と。
しかし、今の老人の台詞がそうなのだとすれば。
…間違いなく、もう、プレセアの妹は生きては、いない。
それが判ってしまったからこそ、リフィルは言葉をつまらせる。
「慰霊碑…か。パルマコスタにもあるんだよね。
ディザイアンに連れていかれた人達の慰霊碑と、海で死んだ人達の」
直接、死に目にあえないのならば、せめて慰霊碑を。
というブルートの父親の意見でかつてドア総督の父親とともに設置、されたらしい。
とマルタはそうきかされている。
「怪物って、魔物でもこの街の中にはいりこんだのか?」
「かもしれないね」
戦うすべをもたない一般人達にとって、たしかにそれは脅威ではあろう。
「魔物、といえば、本当にまったく魔物があれから襲ってこないよね」
ジーニアスがふと思い出したかのように、じっとエミルをみつついってくる。
「?何?ジーニアス?」
「エミルに関係してるのかな。とおもったんだけど。そのあたりどうなの?」
「?さあ?」
エミルとともに行動するようになってからこのかたジーニアス達は魔物に襲われた、という経験はない。
あるとすれば、封印の獣だというガーディアン達くらいであろうか。
パルマコスタからこのかた、ジーニアス達は魔物に襲われた、という自覚はない。
そんなジーニアスの台詞に、否定も肯定もせずににこやかにほほ笑むエミル。
「あ、あそこにお花屋さんがある。あのパラソルの下」
「お。ほんとだ」
「あ、わんちゃんもいる!」
ふと、その花屋らしき傍には、小さな子犬がちょこん、とすわっている。
それを目ざとくみつけ、そちらにかけてゆくコレット。
「あ、まてよ!コレット!」
そんなコレットをあわてておいかけていっているロイド。
出店の一つ、なのであろう。
その花屋は色とりどりの花がおかれている。
「海が近いので毎日、花はとりかえてるんですよ?」
とは花屋の店主の女性の談。
コレットが子犬と戯れているその横で、
「じゃあ、これと、これをお願いします。代金はいくらですか?」
マルタが花を物色しつつも、そんなことをといかけていたりする。
どうやら、購入し、その慰霊碑というものにマルタはお供えする気満々らしい。
何かあってはいけないから、というので。
一応、子供達にはリフィルは多少の金額はもたせるようにしている。
もっとも、かつての失敗もあるがゆえに、大金は持たせてはいないにしろ。
何しろかつて、ロイドに大金を持たせた結果、
そのあげく、だまされて詐欺にあってしまったロイドである。
ロイド達に大金を持たせられない、と
金銭面に関してはきびしくなったリフィルの気持ちもまあわからなくはない。
そもそも、なぜ必要なものを購入してくるように。
といったのに、言葉巧みにだまされて、船を購入しよう、という気持ちになったのか。
それはエミルにもわからない。
もっとも、その結果として、
アイフリードの船でルインからパルマコスタに移動することができた、といえばそれまで、なのだが。
マルタが慰霊碑の場所を確認がてら問いかけると、丁寧におしえてくれる店主の姿。
よくよくみれば、小さく看板にて、案内版もだされているらしく。
慰霊碑はこちら、のような文字と方角を示した矢印が看板には描かれている。
さらによくよくみてみれば、いたるところに、迷子になるものを防ぐためなのか。
そういった、どこどこはこちら、というような案内版がいたるところにみてとれる。
ホテルを抜けた先、たしかにいわれたとおり、その奥につづいている道があり、
そしてまた、ホテルの横には、ここ、アルタミラの全景、なのだろう。
パネル形式で簡単な街並みの案内がなされており、
現在地は今ここ、と印がつけられ、それぞれの区画、また主だった場所などの案内が、
パネル写真において明記されており、一目でどういけばいいのかわかるように、
丁寧に案内されているのがみてとれる。
その下には、行き先を示す乗り物のの時間、なのか。
時間らしきものがことこまかく描かれているのがみてとれるが。
その案内版に従い、進んでゆくことしばし。
ホテルの横にある奥につづく道。
その道はあらため埋め立てられたつくられた、のであろう。
海に完全に突起した形となる土地にとなっている。
しばらくすすんだその先。
海に完全に突き出した形のその細い道の奥る
そこに一つの石碑が建っているのがみてとれる。
さきほど、声をかけてきた人物と、その横にもう一人。
こちらもまた初老の男性、らしいが。
どうやらその人物と何らかの会話をかわしているらしい。
ふと、先ほどの男性がこちらにきづいたのか、
「ああ、お嬢さんもきたのかい?」
笑みをうかべ、プレセアをみてそんなことをいってくるが。
その台詞に、それまで背後をむいていた男性もまた振り返る。
初老の上品さをどことなく感じさせる男性。
もっとも、うわべだけ、その体面だけを気にした結果、悲劇を起こした人物ゆえに、
見た目と内面はそぐわない、というのはいい例なのかもしれない。
どこからどうみても高級そうなスーツに身をつつんだその男性は、
よく手入れされているのであろう口髭とそのオールバックに二つにわけている白い髪。
どことなく、ゼロスの屋敷にて出会ったセバスチャンを連想させる。
こちらを振り向いたその男性は、プレセアの姿をみるなり、その表情を驚愕にそめ、
「アリシア!?アリシアか!?」
ありえない、と彼自身がわかっているであろうに、いきなりそんなことをいってくる。
「何いってるの?この人。プレセアはそんな名前じゃあ……」
ジーニアスがいいかけるが、
「アリシアを…知っているんですか!?」
ジーニアスの台詞を遮るように、プレセアが珍しく声を張り上げる。
ちらり、とリフィルをみれば、どことなく悲しそうな表情をしているのがみてとれる。
どうやら彼女からしてみれば、この事実は隠しておきたかったもの、らしい。
「…え?お前さんはいったい……」
困惑気味な男に対し、
「アリシアは…私の姉妹です」
「おお…そうか。そうだな。…アリシアはずいぶん前になくなったのだ。こんなところにいるわけないな」
自分自身に言い聞かせるように、そんなことをつぶやいてくるその男性。
「…亡くなった?」
この人は、何をいっているの?
プレセアはその言葉を信じることができず、困惑した声をあげる。
そんなはずはない。
妹は、この地で、きっと幸せに…
プレセアがそんなことを思っている最中、
「どういうことなんだ?」
それまで黙って成り行きを見守っていたというか、
いきなりのことで反応ができていなかったのか、ロイドがはっと我にもどったようにきいてくる。
「!」
リフィルがあわてて、ロイドをつついて止めようとするが、すでに後の祭り。
「アリシアは貴族のブライアン家に奉公にきていたのだが。
……事件に巻き込まれてなくなってしまったのだよ」
きっかけをつくったのは目の前の人物。
彼が表向きの体裁だけを重視した結果、おこった事柄。
そもそも主の意見に従うのが僕たる役目ではないのだろうか。
にもかかわらず、彼女がどのようなことになるのかわかっていながら、
彼はかの人物に彼女を引き渡した。
ゆえに罪は彼にあるといってよい。
「亡くなった…んですか?どうして?」
困惑したように、コレットがそんな男性に問いかけるが、
「それは……私の口からはいえぬ。許しておくれ……」
一瞬、口ごもったのち、その口から懺悔の言葉を紡ぎだす。
「そうか。お前さんがアリシアの…そう、だな。生きていれば、アリシアはもう二十歳を過ぎている…
お前さんが奉公にきたときのアリシアによく似ていたから…そうか…姉妹か……」
アリシアが奉公にやってきたのも、十代手前。
ゆえに、その面影があっても不思議ではない。
そもそも、アリシアが奉公にでた当時とプレセアはほとんど肉体的成長が望めていない。
あまりにも面影を残している少女が目の前にきて、過去を回想していたのであろう。
ゆえに彼もまた錯覚を起こしてしまっていたらしい。
「…この街にあるレザレノ・カンパニー本社の空中庭園にアリシアの墓がある。
よかったら、そこへいっておあげ。妹がきてくれればアリシアも喜ぶ。
受付でこれをみせれば通してもらえるだろう」
いいつつも、その懐から一枚のカードらしきものをプレセアの手、ではなく。
その横にいたリフィルにと手渡してくる。
どうやらこの中で保護者は彼女だ、と認識したらしい。
「妹?プレセアがお姉さんじゃないの?」
その台詞にジーニアスが首をかしげ、
「?前、妹がいるってプレセアいってたよね?」
マルタもまた首をかしげながら素朴な疑問を口にする。
「あ、わかった。きっと三人姉妹なんだよ~」
コレットがふと思いついた、とばかりにそんなことをいってくるが。
そんな子供達の会話をききつつも、
「…そんなわけないでしょ。…ケイトの言葉を思い出しなさい」
ため息をつくリフィルのいい分にはっとしたような表情になるジーニアス。
――その子につけられているエクスフィア自体は珍しいものではないの。
ただ、要の紋に特殊な仕掛けがしてあって
本来なら数日で行われるエクスフィアの寄生行動を数十年単位に伸ばしているの。
それでエクスフィアはクルシスの輝石に突然変異することがあるらしいわ
あのとき、サイバックでケイトはそう、彼らにと説明した。
――ゆっくりと時間をかけて、エクスフィアはその子の中で変異してゆく。
その子はこれまでの被験者とくらべ、うまくいっているわ
と。
しいなは何ともいえない表情なり、ゼロスもまた黙りこんでいたりする。
彼らはもともと、プレセアがどれだけ成長していないのか知っている。
「エクスフィアの障害…か。成長過程まで止めてしまう…おそろしいね。本当に…」
ぽつり、としいなが呟けば、はっとしたような顔をしてプレセアをみるマルタ。
どうやらしいながいいたいことに気付いた、らしい。
プレセアがもともとつけいた要の紋をみてみれば、
その肉体的成長をゆっくりにするように、とのまじない原語とよばれし言葉が刻まれている。
そのことに気付くであろうが。
もっとも、ロイドはその内容まで詳しく覚えているわけでなく、
言葉を記号、として覚えているのであり、その中身、すなわち意味するところまで判っているわけではない。
だからこそ、気づけない。
プレセアにつけられていた要の紋によって、肉体の成長過程が止められていた、ということに。
それでも、これまでの村の人々の反応。
それらを総合して、プレセアの肉体が普通の成長を遂げてはいない。
というのも理解してはいる。
「あのとき、村の人達がいってたことは……」
呟きつつも、ロイドの脳裏によみがえりしは、オゼットの村でのやり取り。
「あの子、歳もとらないし、何考えてるかわからないから薄気味わるいのよね」
「そもそも、俺達が子供のころからまったく変化してないだろ?
化け物だよ。なんだってあんな化け物がこの村にすんでるんだよ」
「本当。あの化け物に比べたら、ハーフエルフなんてかわいくみえるわ。
すくなくとも、彼らは成人するまではきちんと歳をとるもの」
「ああ。やだやだ。ハーフエルフにしても、あの化け物にしても。
ああいう俺達の生活を脅かすようなああいう奴らはどっかでかたまって、
人目につかないようにいきていけっていうんだ。迷惑だよ。というか死んでくれないか」
「下手にあの子に手をだしたら呪いにかかるかもって何も手がうててないものね」
オゼットの村にはいったとき、世間話のようにいっていた村人たちの会話。
その会話はロイド達は聞いていた。
そして、次に出会った人物に、歳をとるのをやめた、とも聞かされた。
プレセアの母親はまだ小さいころに亡くなった、そうロイド達は聞かされている。
それらを総合すれば、間違いなく、目の前の男性がいっている人物は、
プレセアの妹、であり、つまりそれだれプレセアの肉体年齢が停止している。
ということを暗に指し示している。
「じゃあ、あんたはまったくこれっぽっちも成長しない子供が傍にいて。
同じ村に住んでいてまったく不気味におもわないっていうのかい!?」
村人たちから投げつけられた言葉。
それがロイド達の脳裏に鮮明にと浮かび上がったのか、それぞれ何ともいえない表情を浮かべているようだが。
マルタはそんな人々にくってかかったが。
影でこそこそいうようなあなた達こそ、人の皮をかぶったアクマ、だと。
いつも傍にいるがゆえに、失念してしまいがちなプレセアの実年齢。
すなわち…取り残されている時間の溝。
それを様々と第三者より突き付けられているといってもよい今現在。
「じゃあ、本当…に?嘘だろ?」
なら、目の前の人物がいっている被害者、とはまちがいなくプレセアの妹、なのだろうか。
心を取り戻し、父親が死んでいるのに気付き、そしてまた、今唯一の身内だ、という妹まで。
困惑したロイドの呟きをきき、目の前の男性は首を少し横にかしげつつ、
「レザレノ・カンバニーはこの奥にあるあのビルだよ。いっておあげ。…私は、もうしばらくここにいるからね」
いいつつも、慰霊碑をみあげるその男性。
「失礼。あなたは、なぜ、この慰霊碑に?」
リフィルが気になるのかといかければ。
「…これは、私の罪の象徴、でもありますからな……」
その瞳にはさまざまと後悔ね念が浮かんでいる。
「?罪の象徴?リーガルと同じようなことをいうんだな」
ふとロイドが思いだしたように首をかしげてつぶやくが。
リーガル、という名をきき、目の前の人物はあからさまに目を見開き、
「い、今、何と!?」
「え?」
いきなり目の前の人物に肩をつかまれ問いかけられ、困惑した声をだす。
そんなロイドに対し、
「今、君は、何と…!?」
あからかにその瞳は驚愕に彩られている。
「え?だからさ。前、リーガル…あ、俺達の連れなんだけど。そういや、あれ?リーガルは?」
「リーガルの旦那なら、街の入口あたりで何か警備員らしき人物と話してたぜ?」
ロイドが今さらながらこの場にリーガルがきていないのにきづき、きょろきょろと全員をみわたしつぶやけば、
ゼロスが首をすくめつついってくる。
「って、これは神子様!?…それは、真ですか!?」
どうやらこれまで、プレセアに気をとられ、ゼロスの存在にすら気づいていなかった、らしいる
それほどまでに彼が動揺していた、ということなのであろうが。
「俺様が間違うとでも?いっとくが、俺様。一度紹介された人物とかは間違えない自信あるぜ?」
役目柄、ゼロスのは目の前の人物が誰なのかをしっている。
「私は急用ができました。失礼いたします。神子様。そしてお伴の方々も」
そのまま、ロイドの肩から手をはなし、頭を深くさげたのち、
何やら駆け足で街のほうにとかけだしてゆく。
そんな彼の後ろ姿を見送りつつも、
「?あのひと、どうしたのかな?」
「オトイレ、かなぁ?」
「いや、それはないだろ」
マルタがそんな彼の様子に首をかしげ、コレットがのんびりとそういい、
すかさずそんなコレットにたいし突っ込みをいれているしいな。
どうやら彼のほうに意識をむけてみれば、リーガルのもとにかけていっているらしい。
そういえば、かの地を封じた形となったあと、人間達がうろうろとしているとか何とか。
報告をうけていたな、とふとおもう。
だからといって、あの地にヒトを立ち入らせる気はさらさらないが。
そもそも、ヒトとは愚かなもの。
いまだ完全に孵化しそうにない子供達を利用させるわけにはいかない。
あの地はもともと、精霊石達の孵化場、だったのだから。
ゆえにその影響で鉱石なども豊富であったものを、ヒトが目をつけ、鉱山、として利用していたに過ぎない。
まだかつてのテセアラがかの石をヒトに利用するよりもまえ。
そのとき、精霊石達は、普通の動力源の石、として様々なものに使用されていた。
それこそ、今のテセアラのように。
普通の動力源としての石、として。
それだけならば問題はさほどなかったのである。
もっとも、今テセアラ側というか人間が使用しているそれらは、
すでに穢されてしまい、狂わされた微精霊達でしかないがゆえ、
本来の精霊、としての力を発揮することができなくなっているにしろ。
かつてはそれこそ、精霊石は様々な呼び方をされていた。
火属性の微精霊が宿りし石は、火霊石、水属性が宿りし石は水霊石、など。
そのように様々に呼ばれ、人々は属性ごとにうまく利用していた。
…かの争いが始まる前までは。
エミルがふと過去に思いを寄せている中、
もっていた花束を慰霊碑の前にそなえ、かるくお祈りを捧げたのち。
「…私、カンパニーというところにいきたい、です」
プレセアがぽつり、とつぶやく。
墓がある、といわれたが、実際に目にするまでは信じたくない、というのがプレセアの本音。
「そうだな。どうせ今からいくところだったんだし。先生、いいだろ?少し寄り道くらいしても、さ」
「…え、ええ。そう、ね」
気になるのは、さきほどの男性の変化。
あきらかに、リーガルの名をだしたときに、動揺した。
だとすれば、リーガルに何かがある、とおもって間違いはないであろう。
そうはおもうが、リフィルはわからない。
ずっとテセアラに住んでいればまちがいなくその名くらいはきいたことがあるであろうが。
リーガル・ブライアン。
国より公爵位をたまわっている、ブライアン家の一人息子であり、
現当主である、ということを。
「…十六年…か」
ぽつり、と慰霊碑の元をさりつつも、ちらり、と慰霊碑に視線をむけてつぶやくゼロス。
「ヒトにとっての十数年は大きいんでしょうね。きっと」
エミルにはその感覚がよくわからない。
久しぶりに立ち寄った街などで、知り合いはすでに死んでいたり、ということはざらであった。
それは表にディセンダーとして出ていたとき、
また地上の様子をみるために旅をしていたときの記憶。
この地においてもそうすればよかったのかもしれなかったが。
それ以上に、この地にもともといた精神生命体…すなわち、魔族達が何をしでかすかわからなかった。
ほうっておけば、彼らはそのままこの惑星ごと消滅を望んでいたであろう。
だからこそ、あえて自分はかの地にとどまり、彼らを監視していた、のだから。
「そう…だね」
しいなもその台詞に少しばかり表情を暗くする。
しいなにとって、十数年、という年数は、それこそ自らがかつてヴォルトの契約と失敗したとき。
それを思い出してしまう。
あのとき、動くことができず、死んでいった里のものたち。
そして、このたびも。
前回のことを思い出し、動くことができなかったしいなをかばって電撃に討たれた孤鈴(コリン)。
もっとも、エミルからしてみれば、それは想定内というか、
手間が省けた、という所でしかなかったのだが。
どちらにしても、力が満ちている以上、あの仮初めの器はもちはしなかった。
本来の精霊たるヴェリウスにとって、人工的に作られた、仮初めの器。
精霊としての精神体にその器は小さすぎた。
あのとき、エミルがいなければ、というより、自分がまだ目覚めていなければ、器を消滅したのち、
時間をかけてその具現化するまでの力をおそらくは取り戻していたのであろうが。
それこそ、あのとき、自分の心に向き合いないさい、といってきたヴェリウスは、
たしかに力を取り戻していた、と今だからこそ思えること。
しかし、ともおもう。
あのとき、それぞれ別人格だ、とおもっていた自分の心。
ある意味で切り離していたのは間違いないが、元は同じ。
それをヴェリウスはそこまで把握していたのか。
それとも、まだそこまで視通す力は戻っていなかったのか。
それは今ではわからない。
そもそも、それをヴェリウス自身に確認すらしていない。
プレセアの妹、というのが八年前に起こった事件の被害者のうちの一人なのか。
それとも、一時ちまたでにぎわった、
珍しくもブライアン家当主の痴情の縺れといわれた事件なのか。
それまで浮いた話し一つもなかったというのに。
痴情の縺れで奉公人に手をかけた、というブライアン公爵の話題。
もっとも、それを信じるものはほとんどいなかったが。
しかし、当人がそのように申請し国にと出向してしまったがゆえにどうにもならない。
教皇の息がかかりし裁判官によって、有罪判決が下されたのもまた事実。
あのとき、ほとんどのものは、傍にいて助けられなかったがゆえに、
責任感から公爵は自分が悪いのだ、といっているのだ。
とほとんどの民がそういっていた、というのに。
真実は異なるにしろ。
そういえば、とおもう。
彼女のもとに向かわした僕が彼女の意見をいっていた、とテネブラエから報告はうけている。
何でも彼女を取り込みかけている微精霊達もまた、彼女にどことなく同情的、であるらしい。
微精霊達が人とあまりかかわりをもたない、もしくはそれを好ましく思わない。
エミルがそう思う点にはそのあたりにもある。
まだ孵化すらしていない彼ら微精霊達はよくもわるくも純粋そのもの。
つまり、何ものにすら染まってしまう。
あまりそういう煩わしいとしいかいいようのない、
形容のしがたい人の心に始めから触れて変なヒトに対しての思い入れ。
そんなのが芽生えてほしくない、というのもある。
万が一、ヒトに同情的になり、その結果力を貸したあげく、
その力を悪用されかねない、という懸念がある以上、
エミルがそのように心配してしまうのは当然といえば当然であろう。
事実、これまでにもそのようにして世界の理が乱れたことが幾度かあればなおさらに。
「たかがヒトの器に精霊石の力が耐えられるはずもない。
というのに、なぜにいつの時代もヒトとは愚かな……」
彼女もまた被害者でしかない、というのはわかっている。
そもそもなぜ、素直に彼の意見に従ったのかがエミルからしてみれば理解不能。
そして、また先ほどの人間もおそらくは、
エクスフィアとよばれている精霊石にかかわればどうなるのか。
うすうすながらわかっていたであろうに。
自分の手を下さずに抹殺しようとしたのであろうか。
本当に、とつくづくおもう。
「…本当に、ヒトとはいつも愚かでしかないな……」
自らの手を汚さずに他人にそれを行わせ、
自分は悪くない、といいきるヒトの心。
それがエミルからしてみれば、幾度目の当たりにしたとしても理解ができない。
つまるところは同じでしかない、というのに。
ふと立ち止まっているエミル、しいな、ゼロスに気付いたのか。
「お~い。何やってんだよ。三人とも、いくぞ~」
ふとかなり先にすすんでいたロイド達が三人にと声をかけてくる。
無意識のうちに早足になっているロイド達はかなり先にすすんでおり、
いつのまにかその先にある橋すら渡りきってしまっている。
「たしか。あの橋の先に、さっきの案内版にありましたけど。
移動手段だ、という乗り物があるんでしたっけ?」
たしか、先ほどみた看板にはそのようにかかれていた。
イラストつきでかかれているそれは、この街にやってきた初心者にも分かりやすく説明がしてあり、
また、下のほうには、
【観光案内係り、ガイドの御用命はホテル・レザレノのサービスカウンターまで】
という文字もまた書かれていた。
有料なのか無料なのかはわからないが、そういった案内係り、
というものも個人的に雇うことが可能、であるらしい。
そんなエミルの問いかけに、
「らしいね。あたしもあまりここにはきたことがないけど」
いって首をすくめるしいなに、
「この俺様が案内してやるぜ。あの橋をわたったさき。
簡易エレベーターを降りた先にエレメンタルレール乗り場の受付場があるんだぜ」
ロイド達がすでに渡りきっている橋の向こう。
その先にゼロス曰く、受付場がある、らしい。
そういえばそんなものがあったな、とふとエミルは思うが。
「…まあ、ここでどうこういっていても仕方ないしね。いくとしようか」
しいなが首をすくめつつもいってくる。
みれば、すでにコレット、ジーニアス、リフィル、ミトスは橋を渡っており、
マルタはその途中でエミルがついてきていないのに気付いたのか、
橋の手前でたったまま、じっとこちらをみては手をぶんぶんふっている。
ノイシュはこの街にはいる手前でいつものように、
エミルがその体を小さくさせているがゆえに、さほど問題はない。
そもそも、街の外で待機させていても、ここまでヒトが多い場所。
ロイド曰く、人見知りをするノイシュがどこかにいってしまう可能性が高い。
そんな意見もあいまって、すでに定番となりかけている大きさを変える。
その方法をとっているのだが。
ちなみに、カーゴ上においては、ロイド達は気づいていなかったが。
こっそりとウンディーネとアクアが懐かしさもあいまって、なのだろう。
とれたての新鮮魚類をノイシュにこっそりとあたえており、
ばりばりとノイシュがそれらを食べていたりする、という実情もあったりした、のだが。
ロイド達はすでに橋を渡りきっており、マルタと合流し、さほど幅の広くない橋。
ゆえに、横に並んで移動しては他のお客にも迷惑になるがゆえ、一列に並び、橋を渡ってゆくことしばし。
その橋の最中に、じっと海をみつめている薄水色の服をきた女性が、
何ともいえない悲しそうな表情でじっと海をみつめている様子がみてとれるが。
その女性から感じるのは、あきらかな悲しみ、そして諦め、そして後悔。
そんな様々な負の感情が傍を通るだけで感じ取れるほど。
カツッン。
それとともに、しいながしっかりとポケットの中にいれていたはずのとある品。
それが何もしていないにもかかわらず、ポケットの中からころがりおち、
それはころころとその女性の足元にころがってゆく。
それこそ、低い位置から高い位置に、というありえない方向に。
そういえば、かの石には思いがやどっていたな。
とふとおもう。
ヒトの念とは無意識のうちに、様々な品にと影響をあたえる。
そして、かの品は、かの人間がとある女性にむけて選んだ品。
かの指輪にはそんな男性のあるいみ”念”が含まれていたが、
別に問題があるわけでもないがゆえ、エミルはほうっておいた、のであるが。
どうやら、無意識のうちにその念が発動した、ということは。
おそらく、この女性が本来、あの指輪をうけとるべき女性、であるのであろう。
コロコロと足元にころがってきたそれにきづき、
ふと足元に視線をおとし、
「あの…落しましたよ」
そっとそれを拾い上げ、一瞬、拾ったあと、その品を目にし驚愕に目を見開いたのち、
それでも首を横にふりつつも、
ぎゅっと両手でそれを握り締め、落したとおもわれし女性。
すなわち、今、彼女の後ろを通り過ぎたしいなにと声をかけてくる。
女性に差し出されたそれは、しいながこの街にはいったとき。
指につけていたのだが、塩によって酸化してはいけない。
とおもい、取り外し、きちんと胸の内ポケットにいれていたはずの品。
あわてて、胸のポケットをさぐって確認してみるが、やはり品物はみあたらない。
なぜかはわからないが、何かのきっかけでどうやら今落してしまった、らしい。
「あ、ごめんよ。ありがとう」
何で落ちたんだろ?
なぜかわからないままに、それをその女性からうけとるしいな。
水色の服に水色の帽子。
縁取りは濃い紺色のロングスカートをきているその女性。
「あ、あの…失礼ですけど、この指輪は、どこで…?」
それは彼女にとってもみおぼえのある品。
ゆえに目をつむりつつ、問いかける。
その声は当人は無意識、なのであろうが多少震えているように感じられる。
「サイバックだよ。王立研究院の生徒がバザーで売ってたんだ」
問われるままに素直にこたえるしいなの答えに、
「!…まさか、ヨシュア……」
思わず、なのであろう。
そうつぶやく女性の声は震えている。
「?もしかしたらあの学生さんのことあなた、しってるの?」
マルタが目の前の女性に問いかけるが。
長い髪を後ろでたばね、あっぷし、どうやら帽子にてとめているらしいその女性は、
どこか雰囲気的に憂いを含んでいる。
マルタのそんな問いかけに、
「い…いえ……」
というか、今あきらかにあの学生の名を呼んだ、というのに。
しかも、視線をさまよわせつつ、ではまったくもって説得力がない。
「あ、あの…あきなりこんなことをお願いするのも申し訳ないのですが。
…このお金をこの指輪をうっていた学生さんに渡していただけませんか?」
いいつつ、その腰にさげていたポーチから一つの皮袋をとりだしてくる。
ジャラリ、という音からしてかなりの金額がはいっているとおもわれしそれ。
「は?何だって突然……」
しいながそんな女性のいい分に思わず目を丸くする。
「俺は、彼女にだまされていたんだ。
あいつは…ローザは俺みたいな貧乏学生より金持ちの貴族を選んだんだ」
あのとき、サイバックの露店にてこの指輪を売っていた男性がいっていた台詞。
もっとも、その後、エミルがいった台詞に青年としいなが抗議の声をあげた直後、
ロイドの驚愕した声が離れたところから聞こえてきたがゆえ、
その話題はそのときはそれまでになっていた出来事。
「そういや、あんた、あのとき。それから感じるのは、コレットによく似た後悔の念とか何とか……」
しいながそのときのことを思いだしたのか、そんなことをいってくる。
「ローザさんは、そのお金はどうしたんですか?」
問いかけるエミルの台詞に、
「それは、元々私のものではないの。渡してくれれば判るから…」
自分の名をいきなり呼ばれたことにも気づいていないのか、顔をふせつつもそんなことをいってくる。
「ローザって……」
マルタもまた、あのときの会話を思いだしたのであろう。
この指輪をうっていた青年がいっていた相手の名の名。
それがローザであったはず。
しかし、目の前の女性は否定しなかった。
だとすれば、彼女が彼のいっていただましていた、という女性なのだろうか。
マルタの目からしてみ、どこか憂いを含んだようにみえるその女性が、
そんなに悪女、のようにはみえない、とおもうのだが。
マルタのそんな困惑した問いかけに、
「?どういうこと?」
その場にいなかったジーニアス達にはどうやらその意味はわからない、らしい。
あのとき、リフィルのあるいみでの暴走をジーニアス達は止めており、
しいなとその露店をだしていた男性とのやり取りをきいていない。
ロイドもまたその場にいなかったがゆえか、ただただ首をかしげているのがみてとれる。
コレットはそのとき、いまだに心が完全にもどっていなかったがゆえ、
そのやり取りそのものの意味がわかっていない。
「どうして自分でそれを渡さないんですか?」
お金を渡してほしい、というその女性。
普通、お金をまったく知らない第三者に預けるようなことはしないであろうに。
それゆえに疑問に思うマルタのそんな問いかけに対し、
ふっと悲しそうにその女性…ローザは頬笑み、
「私は…あの人に会わす顔がありませんから……」
今にも泣きだしそうな表情。
泣き笑いの顔、とはこういうのをいうのであろう。
みているだけで痛々しいほどの笑みを浮かべるその女性。
しいなもそんな女性の表情をみてどこか悟るものがあった、のであろう。
「あんた…」
あのとき、彼の台詞をきいたとき、その女性はろくでもない。
とおもった。
しかし、当事者とおもわれる当人を目の前にして、どうやらそれは違うらしい。
そのことに思い当たり、困惑した声をあげるしいな。
そんなしいなが何かいいかけるのを察した、のか。
「……私、彼にひどいことをしてしまったんです。そのお詫びです。ああでもいわないと、彼は…いえ。
これはいいわけ、ですね。…私が彼にひどいことをしてしまったのは事実なんですから」
無意識、なのであろう。
女性の瞳から、ぽろり、と涙がこぼれおちる。
「…自己犠牲か。ヒトというものは、本当に、これだから……」
あのときも呟いたその台詞。
本当に、これだからヒトのこころ、とはよくわからない。
永き時を得てもこれだけは理解し難いものがある。
だからこそ捨てがたい、とおもうのも事実なので何ともいえないのだが。
そんな女性の台詞に何か悟るものがあったのか、
「誰かに脅されたりでもしてるの?」
ミトスが気になるのかそんな女性にとといかける。
そして問いかけたあと、はっとしたようにその口元に手をもっていっているが。
誰かを気にかけるようなことなどすっかり忘れていたというのに。
今、僕、自然に気になって口にしたよね。
自分自身の口からでた台詞にミトスは困惑を隠しきれない模様。
「よくわからないけども。何だか面倒なことになりそうね」
リフィルがそんなやり取りをききながらも盛大にため息をつく。
それでなくても、今はプレセアのことがある。というのに。
「よくわかりませんけど。でも先生。
あの人、とても悲しい目をしています。私、助けてあげたいです」
しかも、無意識に涙をこぽしても気づいていないほどに。
そんな表情というか心情にはコレットは心当たりがある。
自らを追い詰め、一人でどうにかしよう、とおもっていたあのときの自分自身。
食べ物の味がしなくなり、感覚もうしなっていく最中。
必死に誰にも気取られないように、無理にあかるくふるまっていたかつての自分。
なぜかコレットはあのときの自分と目の前の女性を重ねてしまう。
何がどうして似ている、というわけではないが。
何となく似ている、とおもうのはコレットの直感によるもの。
「?よくわかんねぇけど。それをあの露店開いてたって人にわたせばいいのか?」
しいながやり取りをしているとき、ロイドはリフィルのもとにおり、
というか暴走しかけるリフィルを横眼に要の紋を別の露店にて探していた。
ゆえにどんなやり取りがあったのか、ロイド達は詳しくしらない。
それでも、
「ドワーフの誓い第二番。困っている人をみたら必ず力を貸そう、だ」
きっぱりいいきるロイドの台詞に、
「またドワーフの誓い?でも、ならまたサイバックにいくの?」
ロイドの台詞に呆れたようにつぶやくジーニアス。
「いえ。一度、サイバックに向かうのも手かもしれないわ。…少し、きになることがあるの」
リフィルが何かを思いだしたようにふとつぶやく。
国がアルテスタを連行したのならば。
そのアルテスタとともに研究をしていたというあのケイトという女性。
彼女がどうなったのかが、リフィルとしては気にかかる。
彼女もまた被害者でしかない。
それはリフィルがいっていたこと。
しかし、彼女はハーフエルフ。
ハーフエルフだけで処刑されるというこの国のありよう。
だからこそ心配になってしまう。
そのためだけに行き先を変更するなど、言語道断とおもい口にはしなかったが。
しかし、何か別の用事があり、そのついで、という名目があれば、
リフィルとて気になっていたことを調べる口実ができる、というもの。
「ありがとうございます。…こんな無理なお願いをきいていただいて」
いいつつも、ぺこり、と頭をさげ、しいなにと、その皮袋を手渡すローザ。
ずしり、としたお金の重みがかなりの金額がその袋の中にはいっていることをうかがわせる。
「…私は、ローザといいます。ヨシュアにお金をわたしたら、また私を訪ねてもらえますか?
…私は、メルトキオの家に戻っていますので」
いいつつ、深く頭をさげてくるローザの姿。
「わかったよ。…これを渡したら必ず尋ねるよ。あんたの家ってどこなのさ?」
「……クロムウェル様のお屋敷、です。それでは、よろしくお願いいたします」
それだけいい、もう一度深く頭をさげ、その場をたちさってゆくその女性。
そんな女性の後ろ姿を見送りつつ、
「クロムウェル…ねぇ」
ゼロスが何かを思いだしたように、ぽつり、とつぶやく。
「?しってるのか?ゼロス?」
「まあな。はっきりいって貴族の風上にもおけないやつだぜ。いい噂は一つもやい野郎、だな」
ついこの前も借金を肩にして女の子を屋敷につれこんだ、という話しをきいたばかり。
しかもその借金も彼が手をまわし、無理やりに作らせたものであることをゼロスは知っている。
ならば、もしかして、彼女は、ともおもう。
その被害者なのであろう。
フラノールに住んでいた女性に目をつけていたるところに手をまわし、
借金のかたに無理やりに家に連れ込んだ、そうゼロスは噂にて聞いている。
さらには逃げられないように彼女がつきあっていた人物。
すなわち、奨学金をうけとっていた男性にすら手をまわし、彼女を脅したとか何とか、という話しすらも。
「まったく。ロイドのお人よしがまた始まったよ。
引き受けたからにはなら、後からサイバックによらないとね。それより、今はレザレノってところに向かおうよ」
先ほどの女性にも何らかの事情がありそうな気がひしひしとするが。
今問題なのはプレセアの事。
まったく知らない第三者より、ジーニアスからしてみれば、優先順位としてはプレセアのほうがはるかに高い。
ゼロスのそんな思いを知るはずもなく、ジーニアスがさらり、といってくるが。
「まあ。そういうなって。困ってる人には手をかさないと。だって」
「はいはい。ドワーフの誓い第二番、だよね。もう聞きあきたよ」
そのせいで、これまでイセリアにおいても幾度も面倒事に巻き込まれたりしたがゆえ、
ジーニアスはもはや諦めの境地といってよい。
「ま、とりあえず、この先に受付場がある。
そこからエレベーターをおりれば、エレメンタルレールの乗り場はすぐそこ、だぜ」
これ以上、この話題を話していてもラチがあかない、とばかり、
ゼロスが指をさしつつ、その先を示してくる。
たしかに道の先にエレメンタルレール乗り場、という看板がたっており、
どうやら乗り場にやってきているのは彼らだけではないらしく、数名の人々の姿もみてとれる。
このあたりの足場にも芝生が埋め込まれている一角があり、
ビーチサンダルなどでも足が痛くならないように、と配慮されているらしい。
芝生は丁寧に短く刈り取られており、ごみ一つ落ちてはいない。
どうやら清掃そのものもきちんと行き届いているらしい。
「ようこそ。昼間のエレルンタルレールは遊園地、レザレノカンパニー行きは常に運航しております。
商業区や他の区画に行きたいかたは、船員にその旨をお伝えください」
エレメンタルレール、受付場。
とかかれている建物。
その受付にとすわっている女性がにこやかにそんなことをいってくる。
そんな中。
「レザレノ・カンパニー行き、まもなく発車いたします~」
そこいらにあるスピーカーから案内が流れてくる。
「おっと。この先にあるエレベーターが乗り場につづいてるぜ。いこうぜ」
いいつつも、エレベーターのほうへと歩いてゆくゼロスの台詞に、
「なんか、ゼロスがいつのまにかしきってるんだけど」
ジーニアスが不満そうにいうが。
「お子様はそれか、迷子放送でもしてほしいのか?
おいてくぞ~。何、ここは迷子案内所もしっかり機能してるからな。
お前のようなガキんちょが迷子になってもしっかりと係り員が保護してくれるぜ~」
「だ、誰がガキんちょだよ!いこう!ロイド!」
ゼロスにいわれ、顔を紅潮させ、ずんずんとあるいてゆくジーニアス。
そのままゼロスを追い越して、端までいくものの、どうしていいのかわからないのかその場にてたちどまる。
そんなジーニアスに気付いたのであろう。
「そちらの屋根の中におはいりください。
皆さまが無事に床にのったのを確認したのち、扉を閉ざしていただきます。
安全面を考慮して、簡単な柵らしきものがその小さな小屋の中にはみてとれる。
みれば片面は壁ではあるが、奥には柵がはめ込まれており、そこから外の景色。
すなわち海が見渡せるようになっている。
よくよくみればガラスが張られており、強度補強をかねて柵がつけられているらしい。
ジーニアスがいわれるまま、おそるおそるその小さな部屋らしき場所に乗り込むと、
がちゃん、とおそらくは係り員なのであろう。
その人物がそこにあるレバーらしきものを操作する。
それとともに、がこんっ、という音とともに、ジーニアスののっている床が下降してゆく。
「うわ!?」
ジーニアスが思わずその何ともいえない浮遊感にたいし声をあげているが。
動く床、というものにはジーニアスはディザイアン達の施設にて乗ったことはあるが、
上下に動く床、というのものにはどうやら耐性がなかったらしい。
まだ、建物でいうならば、二階部分から一階の部分に移動するだけなので、
さほどの浮遊感は感じないものの、ある程度の高さになれば、
それこそ体が浮き上がるかのような浮遊感を人間達は感じる、らしいな。
そんなジーニアスの反応をみつつ、ふとエミルがそんなことを思っている最中。
「俺達もいこうぜ」
ゼロスにうながされ、それぞれジーニアスが乗ったエレベーターは、
ジーニアスが降りたのを確認したのち、再び元の位置にともどってくる。
それらの作業もどうやらその場にいる係り員がしているらしく、
レバーを押したり引いたりしているのがみてとれる。
どうやらここのエレベーターは手動で動かすタイプの代物らしい。
以前ここにきたときはそこまで詳しくみていなかったのでエミルは何とも思わなかったのだが。
もっとも、この街にやってきたとたん、ヴァンガードが発起したりいろいろとあったがゆえに、
そこまで詳しくみていなかったといえばそれまで、なのだが。
エレベーターを降りてゆくと、すでに幾人かの観光客らしき人物もその場に並んでおり、
順番に水の上におかれている簡単な屋根のついた電車のようなもの。
それに乗り込んでいっている様子がみてとれる。
エレメンタルレールは水の力を利用して運航されている船であり、
前方から吸い込んだ水を後半からより強く噴射することにより運航する船であるらしい。
ゆえに、あるいみ動力源は水であるがゆえ、環境的にも優しいつくりとなっている。
作り的にはさほどエレメンタルカーゴとかわりがない。
エレメンタルカーゴとよばれし品は、通常、空気中にと漂う地のマナを取り込み、
それを大地に吹きだすことによって反発の力を利用して推進力にしている。
この乗り物はこの場に満ちる水のマナを利用し、それを噴射することにより、
推進力にしている、らしい。
つまり、豊富にある水が動力源であるがゆえ、
水が涸渇しないかぎり、この船が動かなくなるようなことはまずないといってよい。
「お客様がたは、一…二…」
やってきたロイド達を指差し数え始める係り員。
ロイド、コレット、ジーニアス、マルタ。
リフィル、しいな、ゼロス、そしてプレセアとエミルとタバサ。
計十人。
いまだにリーガルは彼らの元に戻ってきてはいないが、
目的地をいっている以上、合流してくるだろう、というのがリフィルの意見。
ロイド達以外にも数名、どうやら目的地が同じ人物がいるらしく、
みればすでに数名乗り込んでいるのがみてとれる。
「このエレメンタルレールは最大蓄積容量、六百キロとなっております。
ゆえに、沈没したりする心配はありませんのでご安心ください」
いいつつも、いくつか連結していた船を分け始めている係り員。
人数にあわせ、運航する機体の数をその都度、どうやら変更しているらしい。
手前の船には女性客を、後ろの船には男性客をのせた後。
「それでは、エレメンタルレール、発射いたします。
このエレメンタルレールの行き先は、レザレノ・カンバニーいきとなっております。
皆さま、短い間ですがこの船による遊覧をお楽しみくださいませ。
なお、このたび案内を担当いたしますは、わたくしジュノーと申します」
ジュノー、と名乗った係り員らしき人物がぺこり、と頭をさげてくる。
運航する船一つ一つにつき、一人づつ。
どうやら案内人がきちんとついているらしい。
船は水路を回り、奥にあるレザレノ・カンバニーに続いており、
その間、様々な案内をするのが彼らの役目、であるらしいが。
ピ~という音とともに、ゆっくりと、エレメンタルレールが発信する。
それとともに、水しぶきが多少上がるが、スピードはさほどでていないがゆえに、
下をのぞきこめばそこに波がうまれているのがわかるくらい。
「あなたたち、アルタミラは初めて?」
「あ、はい。すごい立派な街ですよね。私びっくりしちゃいました」
ふと、マルタの横に座っていた女性がマルタ達にと話しかけてくる。
ちなみに、案内される中で、再びエミルが女性と勘違いされ、
手前の船に案内されそうになったのだが、
エミルが後ろの船がいい、といって手前の船にのるのは回避されている。
そもそも、アルタミラに初めてきたとき。
この船にのったとき、マルタにいきなり抱きつかれ、海の中に落ちそうになった。
そのことをエミルは忘れてはいない。
またかつてのあの時と同じようにならない、ともかぎらない。
だからこその判断。
マルタからしてみれば、エミルが後ろの船にのったとき、
私もなら後ろにいく、といいつつも、
リフィルの手をひっぱられ、一緒に手前の船に乗せられてしまい、すこしばかりむくれていたようではあるが。
「この街はレザレノ・カンパニーという会社がリゾートの街として発展させていったのよ。
私たちが今から向かうのは、その要となる会社の本社。
そのロビーにはあのグランテセアラブリッジの縮小模型があるらしいわ。
あれをみるのも私、楽しみなのよ」
ころころと笑みをうかべつつ、隣にすわりしマルタにそんなことをいってくる女性。
ちなみに、船にのるとともに、安全バーというものを下ろすようになっており、
ちょっとやちょっとの振動では体が動かないようになっている。
それでも、かつてエミルが海におちたあのときは。
マルタが何をおもったのかそのレバーを持ち上げて、エミルに抱きついた結果、であるのだが。
本来ならば安全ロックがかかり、持ちあがらなかったそれを持ち上げたのをみて、
係り員がかなり恐縮しまくっていたことをふとエミルは思いだす。
…あれは絶対にテネブラエが面白がってやったに違いない。
と今では変に確信をもっている。
そもそも、あのとき、エミルが水におちたのをみて、
水も滴る~といってきたのは今でも記憶に新しい。
そのあとショック療法、という言葉もありますし、とかいっていたことを考えれば、
水に落とした程度で記憶が完全になる、とでもあのときテネブラエは思っていたのだろうか。
内部にありし彼らの記憶をテネブラエに戻せばそのあたりもおのずと明らかになるのかもしれないが。
それはしない、と決めている以上、そのあたりの真実は永遠にわからないであろう。
よくよくみれば、水の中にレールが敷かれており、軌道を脱線しないようにとなっているらしい。
「そういえば、そんなことを聞いた記憶があるわね」
リフィルがその会話をきき、ふと思い出したようにつぶやく。
「あれの設計図とかもあるのだろうか?」
どこかでスイッチがはいったのか、リフィルの口調が多少かわっているのだが。
「あら。簡単な設計図ならみせてもらえると私はきいたわよ。
しかも、あの縮小模型。スイッチで見物客が橋を開閉できるらしいのよね。
それを楽しみにうちの娘はしてるんですのよ」
「うん!たのしみ!そういえば、お母さん。いつになったら本物の橋さんは渡れるようになるの?
今、あのおおきなはしさん、病気なんでしょう?」
リフィル達の前方に座っていたおそらくは母子、なのだろう。
母親らしき女性がそんなことを振り向きながらいってきて、
その横にすわっていた小さな女の子が何やらそんなことをいってきていたりする。
「病気?」
それをきき、コレットが首をかしげるが。
「うん。あのね。橋さん、病気なんだって。
だから今、いつもは時間になったらぽ~んってはねあがる橋さんがまったく動かなくなってるんだよ」
身ぶり手ぶりで橋が飛び跳ねる様子を表現しているのであろう。
小さな子供がそんなことをいっているが。
「今現在、グランテセアラブリッジはメンテナンスのため開閉機能も停止しております。
お客様にはご不便をおかけしていますようで申し訳ありません。
今、我が社が全力をもってして改善に取り組んでおります」
「そういえば、先の竜巻からだったかしらね?あのグランテセアラブリッジが通行止めになったのは」
「あの巨大な竜巻、ね。私もみたわ。
もうすこしで街を首都を直撃するかも、といわれていたのだけど。
さすが神子様よね。神子様の御力でそれは防がれたらしいわ」
「さすが神子様。女神マーテル様の御使いといわれているだけのことはあるわね」
口ぐちにそんな会話をはじめる女性達。
「竜巻って……」
しいながそれが何なのか思い当たった、のであろう。
顔をひきつらせつつも、小さくつぶやいているが。
リフィルはリフィルでその手をコメカミにあてていたりする。
いうまでもなく、それは
リフィル達がかの地、エグザイアから移動したときに発生していたもの。
もっとも、壊れている云々は、それに乗じてエミルがセンチュリオン達に命じ、
かの建造物に使われている精霊石を全て解放したからに他ならないのだが。
つまりは、動力源を失ったがゆえに、起動しなくなっているというだけのこと。
それ以外の機能。
すなわち、普通の橋としてならば何の問題なくあれは使用可能であるであろう。
もっとも、ざっと視た限り、大陸移動における衝撃にはあれは耐えられそうになかったが。
「?」
その場にいなかったプレセアはそんなしいな達の態度にきづいたのか、首をかしげているものの。
それでも、やはり妹のことがきになるのか、その表情はかなりこわばっている。
手前の船でそんな会話が繰り広げられているそんな中。
「これは神子様。神子様と一緒にのれるとは。鼻が高いですな」
にこやかに男性がゼロスにと話しかけているのがききとれる。
いつのまにか、ゼロスを中心としてその場にのっていた男性達。
しかし、ゼロスが口元に手をあてつつ、
「あまり騒ぎをおおきくしてくれるなよ?俺様、プライベートだからな」
ちゃめっけを含め、そんな彼らにといっているゼロス。
なかには冤罪を押し付けられて大変でしたね、などといいつつも、
ぜひとも神子様に役立ててください、と様々な品をわたしてくるものすらいる始末。
やんわりとかさばるような品はゼロスは断っているが、
ボトルシリーズやグミなどといった品々は、あっても困ることはなし。
と判断しているがゆえか素直にうけとっているのがみてとれる。
そんなゼロスをみつつ、
「…ゼロスって、本当に有名人なんだな」
目を丸くしてその光景をみているロイドに、
「…コレットもこれくらい自覚もってくれてたら楽だったんだけどね」
ジーニアスがため息まじりにそんなことをいっていたりする。
ゼロスはたしかに、その行動も態度も神子、としてふるまっているがゆえ、
神子であることを疑うものはまずいないであろう。
対してコレットは自分がそんなたいそうなものではない、とふるまっていたがゆえ、
それこそ偽物すら出ていた始末。
しかも、その偽物を糾弾するどころか、神子がたくさんいれば、
それだけ世界が平和になっていいよね。と肯定していたほど。
しかしその優しさは場合によっては逆に悲劇を招きかねない。
そもそも、あのとき、コレットが頑固とした姿勢で教会にいっていれば、
すくなくとも、今でもどうやら同じ過ち…すなわち、
ディザイアン達に苦しめられている人々より無理やりにお金をむしりとり、
献金、と生じて好き放題しているという彼女達の行動を防げたであろうに。
それは世界を視たときにエミルがしった事実。
そういえば、とおもう。
かつての時、彼らはその罪をとわれ、その保釈金を払うために行動していたな、と。
まあそれも自業自得でしかないのだが。
船に取り付けられているスピーカーから、そこにみててきたのは何なんだ、
という説明が絶えず流れてきているが。
やがて、船はがくん、と向きをかえ、街の奥のほう。
すなわちそびえたつ建物のほうへとむかっていき、そのまま建物の中に吸い込まれるように移動してゆく――
エレメンタルレールとよばれし海上移動用の船というよりも水上電車。
建物の中に発着場がきちんと整備されており、そこにはきちんと係りのものもいるらしく、
「ようこそ。レザレノカンパニー本社へ」
電車が到着するとともに、ずらり、と数名の社員らしき人物がその場に並び、
この場に船にてやってきた観光客達にと声をかけてくる。
そして、そのまま、船を降りる一人一人に対し、
「どうぞ」
いって、どうやらこの会社にやってきたときに渡すようになっている、のであろう。
記念品らしき品物…どうやらガラスに入った何か、らしいが。
ガラスにはカンバニー本社らしき建物と、遊園地の象徴ともいえる観覧車。
それらが模様として刻まれており、ガラス瓶だけでもちょっとした芸術品。
さまざまな角度からみてみれば、観覧車がうごいているようにみえるその細工は、
あるいみで見事、というよりほかにはない。
一般公開している場所は決まっているらしく、
船でやってきた一行には一応案内係りが常につくようになっているらしい。
観光でやってきている人々から離れ、そのまま慣れた様子で奥にとむかってゆくゼロス。
そして。
「よう。俺様の連れが空中庭園ってところにいきたいらしいんだけど」
どうやらそこは受付、らしい。
受付嬢らしき人物が二人すわっており、にこやかに笑みを浮かべ対応しているのがみてとれるが。
「これは神子様。お久しぶりですわ。空中庭園、ですか?
アポイントはおとりですか?今、ジョルジュ様はお出かけ中ですが……」
申し訳なさそうにいってくるそんな受付嬢に対し、
「そのジュルジュからいわれてな。一応、俺様の連れが通行証がわりに、と彼の社員証を預かってるんだが」
物珍しくきょろきょろと周囲を見渡しているロイドたちをちらり、とみて、
受付嬢にと話しかけているゼロスであるが。
「ジョルジュ様が、ですか?」
ゼロスの言葉をうけ、もう一人の受付嬢と一言、二言会話を交わしたのち、
「念の為に確認させていただいてもよろしいでしょうか?
神子様おひとり様だけでしたらご案内も可能なのですが。他にもお連れ様がいる、となりますと」
どうやら少し席をはずす相談をしていたのか、受付カウンターからでてきてぺこり、と頭をさげてくる受付嬢。
ゼロスが受付とそんな会話をしている最中。
「なんか、中はおもったほどそんなにすごくないんだな」
どこか拍子抜けのようにつぶやいているロイド。
「ロイドはどんな所を想像してたの?」
何となく予測はつくが、ひとまず首をかしげつつロイドにと問いかける。
そんなエミルの問いかけに、
「お城の中みたいなのかとおもったんだけどな」
「…それより、えっと…リフィルさん…あれ、どうしたの?」
首をすくめてそういうロイドに、ミトスが少し視線をとある方向にむけ、
困惑したように誰にともなくつぶやいていたりする。
そんなミトスの視線の先では。
「おお!すばらしい!これがあのグランテセアラブリッジの模型か!
細部までどうやら細かくつくられているようだな!」
興奮したリフィルの声が少しはなれているこの場にまできこえてきていたりする。
いつのまにか、リフィルは気になっていたらしく、エレメンタルレール乗り場。
その先にとある模型が展示してあるケースの前にまで移動しており、
興奮気味に何やら叫んでいるのがききとれる。
「こちらの橋の模型は細部にわたるところまで、寸分たがわずに再現されております」
そんな案内している女性らしき声もきこえてくるが。
「おお!橋はそのようにして開閉するのだな!」
見物客が開閉ポタンをぼち、と押すとともに、ケースの中の縮小模型である、
橋の模型が現物と同じように移動するようになっているらしく、
それをうけ、その空いた橋の上をこれまた模型の船が通り抜ける光景。
そのような模型がケースの中に創られ設置されているらしい。
その端の模型をみて興奮気味なリフィルがいつもと違う、と感じたのであろう。
どこか戸惑い気味にジーニアスにとといかけているミトスの姿。
「…気にしなくていいよ。もう、姉さんの馬鹿っ!」
ジーニアスがおもいっきり顔に手をあてため息をつきながらミトスにいうとともに、
リフィルに対しそんなことをいっているが。
と。
「お。いたいた。プレセアちゃん、さっき預かった例の品を彼女にみせてやってくれないか?」
受付のほうに歩いていっていたゼロスが受付嬢をともない歩いてもどってきて、
少し離れた場所にて立ちすくんでいたプレセアにと声をかけてくる。
「あ、はい」
ゼロスにいわれ、先ほどあずかった社員証らしきもの。
それを目の前の女性にと手渡すプレセア。
手渡すその手が多少震えているようにみえるのはおそらくきのせいではないであろう。
その社員証をうけとり、
「これは、ジョルジュ様の・・・間違いありません。
わかりました。神子様、御用があるのは空中庭園、でよろしいのですか?」
「まあな」
「ではこちらへ」
「お~い!先生!もういくってよ~!おいてくぞ~!」
女性に手招きされ、奥にといざなわれ、それをうけ、
ロイドがリフィルに対し、おもいっきり叫んでいたりする。
いきなり大声をあげたロイドに驚き、社員、そして観光客らしき人物が、
一気に視線をロイドに集中させるが、どうやら連れを呼んだだけだ、とわかったのか、
すぐにそれぞれその視線をそらしそれぞれの行動にとうつってゆく。
受付嬢に案内され歩いてゆくことしばし。
やがて、エレベーターホールがある場所にとたどり着く。
どうやらこちら側にあるエレベーターは社員専用であるらしく、
擦れ違うたびに頭を下げてはちらちらとロイド達に視線をむけてくる社員達。
このあたりにいる人々は全て社の制服をきており、私服である一行はたしかに目立つ。
やがて、一つのエレベーターの前にまでたどりつき、
「こちらです」
案内してきた受付嬢がエレベーターの中を指し示す。
「ありがとうな。ここから先は俺達だけでいくから」
「わかりました。神子様、そしてお連れ様、おきをつけて」
どうやら屋上につづいているエレベーターは一つしかないらしく、他はほとんど階が指定、されているらしい。
エレベーターに全員が乗り込むと、がしゃん、と柵による扉がしまり、ボタンにより階がどうやら指定できるらしい。
「さっきの男の人、ジョルジュっていうんだ」
しいなが何かを思いだそうとしているのか首をかしげつついうと、
「うん。なんかあの受付の人の態度からずいぶんと偉いひとなのかなぁ?」
そんなしいなの台詞をうけ、コレットが首をかしげつついってくる。
「えらい人、といえば店主とか?」
「マルタ。それをいうなら、ここは会社なんだから社長とかだよ」
マルタの台詞にエミルがすかさずそんな突っ込みをしているが。
エレベーターのボタンを屋上に設定すると、ぐんっと彼らをのせたエレベーターは浮上してゆく。
エレベーターの壁もまた分厚いガラスにて設置されているらしく、
それゆえに外の景色が移動とともに視野でも確認できるようにとなっている。
ぐんぐんと何もしていないのに自分達がどんどん上にあがっているのを
視界で確認できるがゆえに、何やら興奮気味にやがて騒ぎだしているロイド達。
やがて、チンッ、という音とともにエレベーターは屋上へ。
空中庭園はこのレザレノ・カンバニー本社ビルの屋上に作られているらしく、
様々な木々、そして噴水などが整備されている。
そして、色とりどりの花もまた咲き乱れており、中央には池。
その池の中に噴水が設置されており、常に水が循環され、綺麗な水をたたえている。
池からわずかに洩れいでている水は、この空中庭園を水路を通じゆきわたっており、
ここにうえられている様々な木々を潤しているのがみてとれる。
少し奥のほうには小さな家のようなものがたてられており、ちょっとした休憩所のようにみえなくもない。
そしてよりひときわ花々が咲き乱れている一角、池の手前にあるその場所に、
場違いな石碑らしきものがみてとれる。
無駄な草など一切生えていないその場所は常に誰かが手入れしていることを物語っている。
小さな石碑。
ふらり、とした様子でそちらに歩いてゆくプレセア。
それはやはりというか予測どおり墓、であるらしく、
墓の手前にはアリシア・コンバティール、ここに眠る。
享年十七歳。
そのような文字が刻まれており、その中央には赤く輝く石が一つ、
埋め込まれているのがみてとれる。
「アリシア…嘘…嘘…でしょう?こんな姿になって……」
がくん、とその場に崩れ落ちるように膝をつき、
その姿勢のまま、そっと墓石にと触れるプレセア。
嘘であってほしかった。
「これは…何、ですか?」
プレセアがその場にがくん、と崩れ落ちた姿をみて、そこにある石碑らしきものをみて、
困惑したような声をあげているミトス。
ミトスはたしかにこれまでかなりの命を犠牲にしていたものの、
おそらくは直接こうして人の生死を直接に目の当たりにしたことはなかったのでは。
ミトスのその様子にふとエミルはそんなことをおもってしまう。
おそらく、みていたとしても、それは報告、もしくは映像を通して、であり、
その場にいなければわからないことも多々とある。
だからこそ…かつてはあれほど嫌悪していたエクスフィアの製造過程。
あれをミトスがまた利用しているのだろう、と何となく予測はついている。
ヒトの心、とはあまりに残虐なことや、同じことを繰り返していれば麻痺してしまう。
それこそ何か罪を犯しても、それがさも当然だ、と認識誤差を起こしてしまうほどに。
いい例が戦争中の人間達、であろう。
そもそも、通常ならば常に誰かを傷つけたり害したりしたとすれば、
人間達が定めた法というものにより、罪にとわれ裁きをうける。
が、戦争中となればまた話しがことなる。
それどころか敵国のそれこそ非戦闘員ですら殺せば殺すほど名誉市民、として表彰してしまう。
それがヒト、というもの。
ヒトの国、としてのありかた。
ミトスはかつて、そんな国のありかたも間違っている、そう唱えていた、というのに。
命の重さにはかわりがないのだ、と。
ミトスとの旅の同行をセンチュリオン達がいろいろいっても何もいわなかったのは、
ロイド達とともに行動することにより、かつてのミトスの心のありよう。
それを思い出してほしかった、というのもある。
彼がかつてのことを思い出し、反省し、引き返してくれるのならばそれでよし。
そうでないのだとすれば…それこそ、一時的にしろ力で屈服させたのち、
無理やりにでもいうことをきかすしかないであろう。
できれば力づく、というのは避けたい、という思いがあるのもまた事実。
自分にたいし、まっすぐに、種族も何も関係なく友達になろう。
そんなことをいってきたヒトの子。
つくづく、甘いな、とふとエミルは自分自身に苦笑してしまう。
たしかに、ヒトの姿を模しているときは、甘くなる、とはセンチュリオン達によくいわれているが。
自分でもふとそうだな、と思ってしまう。
でも、確かめたい。
今のミトスはまだ完全に自分から種子を取り上げてはいない。
まあかの種子にすでに力がほぼ失われ、発芽したとしても大樹としての機能は望めない。
それほどまでに種子にたまった穢れは大きい。
一度、その穢れごと発芽させ、全ての穢れを世界にむけて発散させてしまえば、
純粋なる種子にもどりはするが。
しかしそれを行った後の種子にはすでに発芽するだけの力はのこされない。
おそらく、以前はだから、なのだろうか。
何を考えていたのかはわからないが、ミトスの魂が種子にとやどり、
ミトスの魂そのものが大樹のかわりとして芽吹き、
人間達の精神融合体の人工精霊として再生したマーテルが樹の精霊を名乗ったあのとき。
まだそれだけならばどうにかなったかもしれないのに。
人間達にあらたに名をつけさせたことにより、自分との繋がりが完全にと断ち切られたあのとき。
あの時の衝撃は今でも忘れたわけではない。
世界が統合されたのをうけ、ぼんやりしながら覚醒していたあのとき。
その直後、断ち切られた絆。
今はまだ、種子との絆は断ち切られてはいない。
すっと瞳をとじ、かつてのことを思い出す。
そんなエミルが過去を思い出している最中、
「…あの、その石の中央に埋められているのは…何ですか?」
ミトスがそれにきづいたのか、困惑した声をだす。
墓には似つかわしくないもの。
それを墓だとみとめてしまえば、それこそマーテルにもそれは通用してしまう。
マーテルもまたエクスフィアごと種子の内部に入り込んでいる状態。
だから、なのだろう。
ミトスが困惑したような声をだしているのは。
「ん?まさか…ここに埋められているのは…エクスフィアじゃないか!?」
ロイドもミトスの台詞に墓の中央に場違いに埋められているその石に気付いた、のであろう。
驚愕した声をだしているのが見て取れる。
墓の中央に埋め込まれているのは、たしかにロイド達のいうエクスフィアそのもの。
精霊石の中でもいまだ孵化には程遠い、まだ幼かった微精霊達の集合石。
どうやら墓の背後にいるとある魔物にはロイド達は気づいてすらいない、らしい。
「どうして…エクスフィアが……」
プレセアもそれにきづいた、のか震える声で石にと手をふれる。
と。
それまで輝きすらなかった石が淡くほのかに輝きをましたかとおもうと、
――お姉ちゃん。お姉ちゃんでしょう?
どこからともなく、第三者の声が、辺りにと響き渡る。
それは女性の声。
どこか幼さを残したような、少女の声。
少女、といっても完全に子供の甲高いそれではなく、年頃の少女といった声。
「…!アリシア…アリシアなの!?」
自分を姉、と呼ぶ声は、どこから声がしているのかわからない。
それでも、はっとしたようにと立ち上がり、
きょろきょろと周囲を見渡しはじめるプレセア。
声がきこえた、ということはこの墓は同姓同名の別人。
そうであってほしい、という無意識のうちに、アリシアの姿を探し求め、
さきほど自分達が降りてきたエレベーター乗り場のほうにと視線をむける。
だが、エレベーターは動いている気配すらなく、この場にはまた、自分達以外の姿すらみあたらない。
「みて!」
コレットがはっとしたように、墓を指差すと。
やがて、墓に埋め込まれている石がさらに輝きをまし、
その輝きはやがて墓の目の前に一人の女性の姿を創りだす。
その姿は完全に透けており、どこをどうみても生身の人間ではないのはあきらか。
「ゆ、幽霊?でも…あれ?」
姿がすけている、どこからどうみても人間の少女。
しかし、その少女のもつ特徴は、桃色の髪、そしてその面影もどことなくプレセアににている。
異なるのは、少女のほうは十代後半、おそらくは十六か七、くらいの女性である、ということ。
その服装もまたどうやらメイド服なのか、
この場にいた社員達の服とはまたことなっている服がみてとれる。
もっともそれらの服そのものも透けており、
服をきたままの姿をたもったまま、透けている人影、というところだろうか。
その少女はふわり、と墓の前に浮かんだまま、
「…お姉ちゃん…消える前にあえてよかった……」
あきらかにその言葉は目の前の少女から発せられている。
しかもその言葉はプレセアにむけて。
「アリシア?アリシアなのね?!どうなっているの?まだ生きていてくれているの!?その姿は、いったい」
プレセアは困惑しながらも、目の前にいる姿を透けている女性がアリシアで間違いない。
そう確信して問いかける。
その姿はまるで、まるで話しにきく幽霊のようではないか。
でも、という思いもある。
みずほの里にてイガグリがいっていたが、彼は肉体と精神体がかなりの間別れていても、
生き返ることができた、とそうプレセアはみずほの里にてイガグリよりきいている。
ならば、アリシアも。
そんな期待がないわけではないその問いかけ。
「…私は、今、エクスフィアそのものよ。このままではもうすぐ私の意識も保てなくなって消えてしまう……」
プレセアの問いかけに悲しそうにほほ笑んだのち、
「…私の体はエクスフィアに奪われたまま死んでしまって…私の意識はエクスフィアに閉じ込められてしまったの」
その言葉にはっとした表情をうかべるミトス。
今のアリシアのありようは、マーテルのありようそのもの。
マーテルがその場にあった大いなる実りと融合しなければ、
間違いなくそのままその意識はエクスフィアに呑みこまれて消えてしまっていた。
それはミトスとて理解している。
理解していたからこそ…デリス・カーラーンのマナを利用することを考えついた。
姉の精神がエクスフィアに取り込まれることで消してしまなわいように。
「アリシア…そんな…あなたまでエクスフィアの被害に……」
プレセアは何ともいえない表情をうかべ、ぎゆっと手を握り締める。
無意識なのだろう。
強く握りしめたその手からはツメがくいこみ、ぽたり、と血のシズクが大地にと落ちる。
「お姉ちゃん。お願い。私が消えるまえに、私の御主人さまを…ブライアン様を探してきて」
腕の前で祈るように手をくみ、そういってくる目の前の少女、アリシアの精神体。
「ブライアン?あなたが奉公にでた貴族?たしか、ここの会社の……」
しいなのいうことを信じるのならば、
ここレザレノ・カンバニーの創立者の家系のもののはず。
「…そう、彼が私を殺すことで…ああ、もう力が…お願い…お姉ちゃん……」
背後で淡く輝いていた精霊石の輝きがだんだん弱くなっていき、
それとともにアリシアの精神体もまただんだんと姿を透けさせてゆく。
「アリシア!?その人に殺されたの?!お願い!答えて!」
プレセアが消えていこうとするアリシアに手を伸ばすが、
その姿は石の輝きが収まってゆくのとともに完全にきえ、
――お願い…お姉ちゃん、あの人を…
その声だけを再び空中に響かせたのち、ぴたり、とその気配の波動は途切れてしまう。
それとともに、さあっとその場に風が吹き抜ける。
「アリシアっ!!!!!」
プレセアが叫ぶが、反応は何もない。
先ほどまで淡くかがやいていた石も今は完全に先ほどまで淡く輝いていたのが嘘のよう。
しばらく、ぎゅっと手をにぎり、体を震わせていたプレセアであるが、
やがて、顔を俯かせたまま、
「…ロイドさん。お願いがあります。…アリシアの仇を…探してください」
「ああ。わかってる。ブライアンってやつを叩き潰してここに連れてきてやる!」
「そうだよ!君の妹を殺すなんてゆるせない!」
ロイドとジーニアスが怒りをあらわにし、プレセアにと答えているが。
「…エクスフィア…まさか…」
リフィルのみは何かに気付いた、のであろう。
ちらり、とその視線をゼロスにむけていたりする。
ゼロスはそんなリフィルにと首を横にふるのみ。
少し考えればわかる、であろうに。
さきほど街の人がいっていた怪物。
そして、巻き込まれたという事件。
エクスフィアがここにある、ということは、その怪物、とは、いうまでもなく。
わかってしまった。
だからこそ、リフィルは何ともいえない気持ちになってしまう。
それに、とおもう。
しいながいうのが真実だとして、相手はこの国の公爵の地位をもちしもの。
そんな人物には向かえばそく、捕縛されてもおかしくはない。
そもそも、公爵位とは国王につづき位が高いとされている地位に所属しているもの。
身分制度というものがなかったシルヴァラントにて育ったせいか、
ロイドもジーニアスもそんなことをすれば問答無用で国がどう動くか。
そんなことすらわかっていないらしい。
どんな理由があれ、貴族に手をだした時点で罪にとわれる。
それがこのテセアラのように身分制度が著しく、貴族以外はどうでもいい。
そんな風潮がある世界では特に。
「…ミトス?」
「…エクスフィアって…おそろしいものなんだね」
ふと、ミトスがじっとエクスフィアをみているのにきづき、エミルがといかけると、
ミトスがぽつり、とそんなことをいってくる。
判っていたはずである。
エクスフィアとよばれし精霊石が人にどんな影響を及ぼすのかなどは。
――いいんだ。僕のことは、それよりも姉様を助けてほしいんだ。
ミトスの脳裏に浮かびしはありしきの記憶。
三日三晩、大いなる実りの前にて座り続け、たどり着いた答え、というかその方法。
――違う!姉様はまだいきてる!ハイエクスフィアが姉様の体の時間をとめてくれてる!
あのとき、マーテルの体ごと、大いなる実りに同化したマーテル。
――それも時間の問題だ。マーテルのハイエクスフィアは人間の攻撃によって傷ついた
再生機能もいずれは停止する。
ハイエクスフィアに宿ったマーテルの精神もやがては蝕まれる
それが天使体の死であることはわかっているだろう
クラトスにいわれた台詞。
――そんなことない!だって姉様は今、大いなる実りと同化してるんだよ!
大いなる実りのマナがハイエクスフィアの崩壊を止めてくれる。
ハイエクスフィアが崩壊する前に姉様の精神体を新しい体へ移せば姉様は死なずにすむ
――その精神を他者に移す、という実験はことごとく互いの国においても失敗している
お前はそれを失念していないか?
――それに。今は大いなる実りのマナで生かされていたとしても。
実りが樹としてめざめれば、どちらにしても……マーテルは樹の養分として消えてしまうだろう
あのとき。
クラトスとユアンから交互にいわれたその台詞。
デリス・カーラーンのマナと、大いなる実りのマナを利用し、姉様を蘇らせる
そう、できるはず、そうおもった。
でも、姉マーテルの精神は他の器に移動することなく、
その間も人間達は停戦していたというのにもかかわらず、
大いなる実りを我がものにしようとし、あらたな争いを初めていた。
ハーフエルフ達のマナに目をつけ、彼らのマナをもちい兵器を使用し、
その器を消失させる、という信じがたい方法すら取り始めていた。
ミトスの脳裏に浮かぶは、あのときのこと。
全てこれでうまくいく、世界は救われる。
自分達が頑張った日々はこれでむくわれるのだ、とおもった始まりの日であり、
そしてまた絶望した日でもあったあの日。
オリジンの元にでむき、問答無用でクラトスのマナを檻として封印した。
エターナルソードの力をもちい、救いの塔をつくり、
デリス・カーラーン…彗星を惑星ぎりぎりにととどめ置き、マナが涸渇しないようにと方法をとった。
――馬鹿なことをいうな!マーテルは死んだのだ!
他ならぬお前達の信じた二つの国の陣営達の手によってな!
人間達に殺されたのだ。確かに今は眠っている状態ということもできるかもしれんが
それは大いなる実りと同化してしまったからに過ぎない
このまま放置すれば間違いなく、マーテルのエクスフィアは大いなる実りを食いつくすぞ!
お前達姉弟のエクスフィアは我らのとは違う。特殊でより力がつよきもの。
大いなる実りくらいは確実に喰らい尽くしてしまうだろう
そうなればこんどこそマーテルは消滅し、大いなる実りもかれる
そう、ミトスとマーテルがつけていたエクスフィアと呼ばれし石。
それは体面的にエクスフィアだ、といっていただけで。
正式にいえば、精霊ラタトスクより授けられた精霊石そのもの。
そこには精霊は宿っていないがお前達の意思のもと、
その石は成長をとげるだろう、と託された石。
盟約、すなわち約束の証、として。
それとともに託されたデリス・エンブレム。
…万能の効果をもつ世界の加護。
どんどんと失われてゆく大いなる実りのマナ。
それにあわせ、彗星のマナを注ぎ込み涸渇を免れていた日々。
それ以上に大いなる実りにマナを注ぎ込んでいるのだから問題ない。
そう言い聞かせ…そして、ミトスは今にと至っている。
目の前にてエクスフィアに取り込まれたという少女の姿は、
なぜかミトスには自分を姉が責めているように感じられてしまい、
ふと顔を伏せてしまう。
――ミトス。私はいいから、大いなる実りを。世界を…
ミトスが彗星に出向くまえ、マーテルのいったその台詞のままに。
でも、姉様が生きていない世界など意味がない。
戦争を繰り返そうとする人間達を支配するものが必要だ。
そういう考えにいたり、組織したクルシス、そしてディザイアン。
飴と鞭。それをつかいわけなければ人間というものはつけあがるだけだ
常々ユアンがいっていたその言葉を実戦した。
ユアンにはいつもそんなこといわないで、といっていたが、
そんな甘いことを人間達にいっても通用しない。
それどころか大切なものを人間達はいともあっさりと奪い去る。
そう思い知ったがゆえに起こした行動。
精霊達すらも封魔の石を利用し、封印の装置をつくりあげ、その場に縛り付けた。
力が足りない云々、と理屈をつけてごまかして、真実にたどりつけないようにして。
精霊達が真実にきづいたときには精霊達は枷にとらわれ、身動きができなくなっており、
ミトスの計画は…そのまま、実行にとうつされた。
なかなか精神体を移動させるのにいい器がみつからず、
ならば、マナが似通っていれば問題ないのでは?
という意見のもとはじまった、神託制度。
マーテルの器とすべく、世界にささげる生贄制度。
「……どうかしてる」
ふと、なぜか過去を思い出し、それゆえにかるく首を横にふるミトス。
後悔なんてしない。
そうあのとき誓ったではないか。
過去のあんな想いなどここ数千年、思い出すことすらなかったのに。
どうしてたかが人間の小娘程度の精神体を目の当たりにしただけで、
ここまで過去を思いださなければならないのだ。
首を横にふるミトスのそんな思いを含めたその台詞を勘違い、したのだろう。
「ああ。そうさ。無抵抗な女性を殺すだなんて、
ミトス、お前も一緒にそのブライアンってやつをやっつけような!」
ぽん、とミトスの肩に手をおき、真顔でそんなことをいっているロイド。
というか、そもそも、今のアリシアという少女の台詞で、
なぜブライアン、という人物が彼女を殺したのだ、と思えるのだろうか。
それがエミルには不思議でたまらない。
彼が私を殺すことで、とはいったが、殺した、とはいっていないのに。
「…あなたたち……」
リフィルがそんなロイドにいいかけたその直後。
「あれ?誰かがのぼってくるのかな?」
ふと、コレットの耳が独特の機械音をききつけ、
自分達がのってきたエレベーターのほうにと視線をむける。
ふとみれば、階数をしめしているのであろう、文字がかかれた小さなランプが点滅しており、
それは一階からぐんぐんとここ、最上階にむかって移動してきているのがみてとれる。
やがて。
チッン。
先ほどきいた音とともに、
ガシャン。
扉が開かれ、そこから二つの人影がここ、空中庭園にでてくる様子が見て取れる。
「あ、リーガルさんと、それとさっきの…?」
エレベーターから降りてきたのは、先ほどプレセアに社員証を渡した初老の男性と、
そして相変わらず手枷をつけているままのリーガルであるらしく、
二人はゆっくりとエレベーターからおり、ここ空中庭園にと移動してくる。
この屋上には大きな木々も植えられており、
木々の間からエレベーターのあたりが確認できはするが、それでも距離はそこそこある。
といっても、一つのビルの屋上に作られている庭園なのでさほど広くもないのだが。
ちなみにこのビル、坪でいけば約二百坪の敷地にぴっちりと建てられていたりする。
約660㎡の敷地に建てられているビルは中央が吹き抜け、になっており、
災害時などにおける脱出道も地下、地上、海、と様々設置されている。
サイバックの研究院に援助をし、今現在は空を飛ぶ乗り物を開発させているほど。
レアバードといった品物、ではなく、多数の人数を運べる乗り物。
それがあれば辺境の地にでも海の荒れなどきにすることなく出向くことができる。
という意見のもと、であるらしいのだが。
「皆、ここにいたのか」
リーガルがこちらに歩きつつも声をかけてくる。
そんなリーガルにきづき、
「きいてくれよ!リーガル!プレセアの妹は殺されてたんだぜ!ブライアンってやつに!」
ロイドが憤慨したようにリーガルにいきなり言い放つ。
「お、おいおい。ロイドくん。いきなりそうむしかえさなくても……」
ゼロスがそんなロイドの台詞をきき、あわててたしなめるようにいうが、
「何いってるのさ!ゼロス!プレセアの妹は殺されたんだよ!」
そんなゼロスに憤慨するようにジーニアスもまた声を高らかにいってくる。
そんな二人の言葉をききつつも、
「…プレセアの妹さんはブライアンって貴族に仕えてたそうなんです。でも、そのご主人さまに……」
そういってうつむくコレット。
どうやらコレットも先ほどの会話を完全に誤解、しているらしい。
「まったく。ひどいよね。まだ私たちとさほどかわりない女の人を殺すなんて!」
マルタも憤慨したようにそんなことをいっているが。
「…事実を知らずにそう追求するのもどうか、とおもうけどね」
エミルがぽそり、といえば。
「何でよ?エミル!だって、さっき」
「さっき、彼女がいったのは、殺されることで、とはいったけど。
殺された、といってないんだよ?何でそうおもうわけ?」
冷めた口調で淡々というエミルの台詞をきき、
「何だよ!エミル!お前は人殺しをゆるせるってのか!」
ロイドがむっとしたようにそんなことをいってくるが。
「そうだよ!だって人殺しなんだよ!」
「じゃあ。少しきくけど、何であの墓に、君たちのいう、エクスフィア。あれがうめられてたの?」
「!?」
その言葉に息をのむジーニアス。
エクスフィアによって異形と化していた症例を彼らは知っているはずなのに。
よくもまあ、考えずにいえるものだ、とエミルからしてみれば呆れてしまう。
「妹…ですって?そんな馬鹿な。お嬢さん、あなたは彼女の妹、なのでは…」
そんな彼らの会話がきこえた、のであろう。
かすれる声でプレセアにとといかけるジョルジュの姿。
「……アリシア、は私の妹、です」
「…おお…そんな……では、あの噂は……」
その言葉をきき、よろり、とその場によろけるジョルジュ。
風の噂にジョルジュもきいたことがあった。
エクスフィアの実験により、歳をとらなくなった子供がいる、と。
だとすれば。
自分は何とおそろしいことを。
今さらながらに自分の罪を突き付けられたようで、よろり、とよろけてしまう。
そんなジョルジュの様子と、目をつむるリーガルの様子に思うところがあったのか、
「…何かしってるのか?」
考えようとはおもわなかった。
なぜ、ここにある墓にエクスフィアがはめ込まれているのか、ということを。
ロイドもエミルに冷めた口調でいわれ、少し冷静になりつつも問いかける。
ロイドの脳裏に一瞬うかびしは、クヴァルにいわれた台詞、そしてマーブルの最後。
――勘違いしてもらってはこまりますね。アンナを殺したのは私ではない。君の父親なのですよ。
――要の紋がないままエクスフィアを取り上げられたアンナは化け物になり、
それを父親が殺したのですよ。愚かだとはおもいませんか。
――嘘ではありませんよ。エクスフィアをはがされ怪物と化し。
あげくは大切にしていた我が子を自分が食い殺そうとし…
ああ、変な動物がまだおさなかった君をまもって怪我をしていましたけどね。
まるで呪いのごとくによみがえる、アスカード牧場にていわれたクヴァルの台詞。
その台詞がロイドの脳裏にと蘇る。
墓にエクスフィアがはめられていた理由。
まさか、とロイドは思わずごくり、と無意識のうちにツバをも飲み込む。
否定してほしい。
でもまさか、という思いもある。
それゆえか、ロイドの問いかける声は多少震えている。
そんな中、それまでじっと目を閉じていたリーガルが、
「…その殺人鬼に心当たりがある」
「!本当ですか!?」
プレセアはエクスフィアによって異形とかした人物をみたことがない。
だからこそ、ロイドやジーニアスの態度の変化に気づけない。
目をつむり、それでも決意したようにそういうリーガルの台詞に、
プレセアがはっとしたように顔をあげ、リーガルにとつめよってゆく。
「リーガル様!?」
その言葉をうけ、ジョルジュが悲鳴に近い声をあげているが。
「「「リーガル…様?」」」
いきなり先ほどの老人がリーガルを様づけでよんだことに対し、
同時に戸惑いの声をあげているロイド、ジーニアス、マルタの三人。
「少しいいか?…アリシアのことはどこで話をきいたのだ?」
彼らはアリシアのことは知らなかったはず。
にもかかわらず、そこまでしっている、となれば。
ちらり、とジョルジュをリーガルがみれば、顔色を真っ青にし、ジョルジュは首を横にと振っている。
「そこにあるアリシアのお墓でだよ」
「…そうか、…彼女はまだ、そこにいる、のだな……」
そのまま、意味がわからずにその場に立ち尽くすロイド達の横を擦りぬけ、リーガルは墓の前にと移動する。
「…アリシア……」
リーガルがふとその名を呟くとともに、
まったく輝きをもたなかった石がまるでそれに呼応するかのごとくに輝きだす。
そして。
――リーガル様?リーガル様なの?!本当に!?
そんな声がきこえたかとおもうと、先ほどと同じように、光がはじけ、
墓の前に少女の姿を映し出す。
――本当にリーガル様なのですね!お姉ちゃん、こんなに早くにリーガル様を連れてきてくれてありがとう!
あ、私、どこかおかしくない?髪とか乱れたりしてない?
なぜか、プレセアにそういうとどうじ、あわてて身なりを気にし始める。
「アリシア。お前は幽霊になってもどんな姿をしていても素敵だよ」
――やだ、リーガル様ったら……
何だろう。
この甘ったるい空気は。
リーガルの言葉をうけ、すこしばかり頬をそめたようになり、
体をくねらせているその様子は、何となく誰かを連想させてしまう。
「…?何?エミル?」
「・・・・・・・・何でもない」
何となくその様子がマルタと重なり、
エミルが思わずマルタをみたのに気付いたのであろう。
マルタが首をかしげていってくるが。
「リーガルさんってあの人と知り合いなのかな?」
マルタが首をかしげつつもそんなことをいっているが。
――…リーガル様、歳をとりましたね。でも歳をとられたリーガル様も素敵!
何というか、中年の魅力がより深くなったようで
「お前はあのときのまま、美しいままだな。…すまなかった。アリシア」
「…言葉のとりようによっては、
昔からリーガルさんが老けていたようにも聞こえるよね。あれ」
そんな二人のやり取りをききつつ、ぽそり、とエミルが呟けば。
「…たしかに」
しいなも思うところがあったのか、なぜか同意を示してくる。
「それにしても、様って…リーガル…それに、連れてきてくれたって…ああ!?」
ようやくこの場にいたり思い当たったらしく、いきなり大声をはりあげる。
「うわ!?ど、どうしたのさ。しいな、いきなり」
いきなり真横にて声を張り上げるしいなに驚き、ジーニアスが問いかけるが。
「あんた、まさか、リーガル・ブライアン!?」
「…やっときづいたよ。こいつは」
しいなの驚愕の声とは対照的に、首をすくめてそんなことをいっているゼロスであるが。
「ちょっと!ゼロス!なんだってあんたはしってたのかい!?」
「有名だろうが。そもそもなんで気付かなかったんだっていいたいぞ?俺様としては
鉱山にはいるにしても許可をうけているものしかはいれないはず。
さらには鉱山内部にもくわしい。そもそもあそこは私有地。
勝手にいくら元々そこではたらいていたといっても入れば罪にとわれるだろうが」
「…あ」
呆れたように、それでいて図星をいうゼロスの台詞に、しいなも思い当たることがありすぎ、
思わず顔を俯かせていたりする。
「リーガル…」
「…ブライアンって……」
「それって、プレセアの妹がいった、ブライアンっていう……」
ロイド、ジーニアス、マルタの声がほぼ意図していないのにもかかわらず、交互にと重なる。
そんな彼らの声にこたえるように、墓を背にするように向きをかえ、
「私はリーガル・ブライアン。陛下より公爵の位を頂いた、
レザレノ・カンパニーの会長だ。神子は…ご存じだったようだが」
ちらり、とゼロスをみていうリーガルの台詞に、
「前に王女の誕生パーティーで見かけたことがあったからな」
「そうか。忘れてたけど。ゼロス。あんたも一応は上流階級の人間だったんだったっけ」
さらり、というゼロスの台詞に、しいなが今思いだした、というようにいってくる。
「おいおい。俺様これでも陛下と同等の権力もってる階級なんだぜ?」
「しってるよ。あんたが神子ってことはね。でもいつも忘れちまうんだよね」
そんなしいなとゼロスのやり取りを耳にはさみつつ、
「じゃあ…彼女の仇のブライアンって…まさか……」
マルタが戸惑い気味にリーガルとアリシアにと視線をさまよわせる。
――そんなことない!リーカル様は悪くない、わるくないの!悪いのは、全て…
ふわふわとうかびしアリシアがマルタの声を遮るように大声をあげてくる。
「違う。アリシア。悪いのは私だ。理由はどうあれ、私は、お前を…っ」
――ううん。リーガル様は私をたすけてくださったのよ?
…ジョルジュさんが墓の前で話してくれてたから、理由は大体…
どうして、どうして。リーガル様、自ら自主なんてしてわざわざ牢になど!
リーガル様は何もわるくないのに!
「いや、わたしはお前を救えなかった。それだけで罪だ」
――ううん!リーガル様は私をすくってくれた!
自分の意思に関係なく、人々を殺してゆく私を止めてくれた!
「「!!!!!」」
その台詞に息をのむロイドとジーニアス。
「まさか…そんな…」
「…っ」
ジーニアスが口に手をあて息をのみ、ロイドが何ともいえない表情をうかべる。
「いや。方法はあったはずなのだ。お前をあのとき、止めて、どこかに閉じ込めて。
お前を元にもどす方法が、かならずっ。でも、私はあのとき…っ」
リーガルの握り締めた手からはぽたり、ぽたりと血が滴りおちている。
それに気付いた、のであろう。
ふわり、と墓の前から移動した少女がそんなリーガルの手を優しくつつみこむ。
といっても精神体でさほど力がないゆえに、触れることすらままらならいようだが。
――リーガル様は悪くないの。いつもリーガル様は自分の責任に感じてしまわれるから。
悪いのは……
そんな二人のやり取りをきいていた、のであろう。
「アリシア…許しておくれ…私は、私は……」
顔色を真っさおにし、ふらり、とよろけるようにアリシアの前にと移動し、
その場にいきなりがばり、と土下座をはじめるジョルジュの姿。
――……リーガル様。消えてしまう前にお会いできてよかった
そんなジョルジュに気づいているのかいないのか。
気にならないように、リーガルにと話しかけているアリシア。
「すまなかった。死してなお、それはお前を苦しめているのだな」
――ううん。リーガル様は悪くないの。それどころか。
エクスフィアのことを調べ、エクスフィアから手をひいたと聞きました。
変わりに自然エネルギーを利用しての動力を開発するように指示されたとか
「何をいう。それをいってきたのは元々お前ではないか。ここは水が豊富なのだから、
エレメンタルレールのように、水のマナを利用し他にも動力源として利用できないか、と」
――でもそれを実行しようとされたのはリーガル様です。
いつもわたしのたわいない言葉をリーガル様はいつもかなえてくださる。
わたしの無理なお願いもいつもきいてくださった
「何をいう。それはこちらの台詞だ。いつもお前がいてくれたから。
お前の存在があり、私ははじめて生きている、と感じることができていたのだ。
親に敷かれたレールの上で、ただ生きているだけでしかなかっ私に。
人としてのぬくもり、それをおしえてくれたのは。アリシア。お前だ」
――リーガル様……
何だろう。
おもいっきり話しがみえてこない。
というか。
そのまま二人して見つめ合い、何ともいえない甘い空気が二人の間に漂っていたりする。
「お~い?おふたりさ~ん?二人の世界にはいるのはいいが、話しがまったくみえてこないんだが?」
拉致があかない、と判断したのか、ゼロスが苦笑ぎみにそんな二人にと声をかけるが。
ほっとけば、そのまま二人の顔はいつのまにか近くなっており、
その場にだれかがいる、というのすらわすれ、
触れ合うことすらできないが、勢いにまかせキスをしてしまう勢いだったのか、
ものすごく二人の顔は近づいていたりしたのだが。
――あ。他にも人がいたんだった。やだ。私ったら
顔を真っ赤にし、照れたようにそういう妹をみつつ、プレセアは意味がわからない。
というか。
「…アリシア?」
何だろう。
自分は仇だ、とおもっていたのに。
このあまったるい空気は。
しかも、今、アリシアの方からリーガルにキスをしようとしていなかった?
それにきづき、プレセアは困惑ぎみ。
「アリシア…どういうこと、なの?」
戸惑い気味に問いかけるプレセアの台詞に。
「…アリシアと私は愛し合っていた」
リーガルがぽつり、とそんなことをいってくる。
「え?でもリーガルさんとそのアリシアさんだと年齢差が…
たしかリーガルさんって三十代だよね?その子どうみても十代…」
「テセアラでは年齢差によるカップルは珍しくねえぞ?
現に俺様のしってる夫人など三十も年下の男性と結婚したからな」
戸惑いを含んだジーニアスの台詞に、ゼロスが首をすくめていってくる。
「わたしがアリシアと出会ったのは、私が十七のときだった」
――姉さん、きいてよ。リーガル様ったら。私がご奉公にあがるまで。
寝食すらまともにせず、また服装とかにも無頓着だったのよ!
しかも、忙しいときは何もたべず仕事ばっかりで!
他の皆さんが幾度いっても改善しないから、私がむりやりに
「…アリシア、あなたまさか、奉公にでた先でまで家のように……」
まさか、とおもうが、アリシアにといかけるプレセアの台詞に。
――だって。リーガル様って、ずうたいばかりおおきくなった子供だったんですもの。
子供の世話をするのは姉さんだけの専売特許じゃないのよ!
「・・・・・・・・・・・・アリシア……」
何だろう。
何となくプレセアは自分の頭が痛くなってくるのを感じてしまう。
「うむ。いきなり目の前に食事をもってこられ、アーンしてください。といわれたときには驚いたな。
あれは鮮明におぼえている。しかし、他人からたべさせてもらったのなど初めての経験だったな。
あまりにうっとうしのでさがらせようとしたら、いつのまにか膝の上にきて、
食べるまでここをうごきません、といわれたときにはな」
「うわ。アリシアさんって積極的~」
その台詞をきき、マルタが目をかがやかしそんなことをいっているが。
――毎日、毎日それをくりかえしていたら、
リーガル様はきちんと、食堂でご飯をとってくださるようになったのよ?
もう厨房の人たちから大感謝されたんだから!
人々曰く、おそらく子供だからリーガルが折れたのだろう。
という認識であったのだが。
それまで不規則であった食事をきちんととりはじめた、ということは、
屋敷のものにとってはとても大きかった。
ゆえに、あれよ、あれよというまに、リーガル専属のメイド、という形になったのだが。
「始めは手のかかる妹のようでしかなかった。しかし、私はいつしかアリシアを…
あの日、私はアリシアの両親に結婚の申し込みをしにいくつもりだった。だが……」
そんなリーガルの話しをきいていた、のであろう。
「…それを執事である私が、アリシアはリーガル様はふさわしくない、と…
リーガル様は公爵家。アリシアは樵の娘。身分がつりあわない。
めかけ、として囲うのならば許容しましょう。ですからお考えなおしください。
と幾度も申し上げたのですが…リーガル様は、アリシア以外とは…とおっしゃられ
…私が、私が無理やり引き離してしまったのです。
…あの日、アリシアに家族が面会にきている、といい連れ出し、
そのままヴァーリにアリシアを引き渡しました。
アリシアさえいなくなれば、リーガル様は諦めてくださる。
彼女は実家に帰った、と嘘をつき…しかし、リーガル様には嘘を気付かれてしまい…」
「ヴァーリ!?」
プレセアが声をあらげる。
「ヴァーリはよく我が社に出入りしていた。我が家にもな。
不要になった使用人や社員、それを有料でひきとる、と話しをもちかけてきていてな。
そんな人物は我が社にも屋敷もいない。といつも追い返していたのだが…」
先代はそのようにして払い下げをしていた、というのもリーガルを固くなに拒否された。
彼に引き渡された人々の行方はリーガルが調べた限り、その後がわからなかった。
父は犠牲をとわないやり方をしていたが、リーガルはそれがきにくわなかった。
「…私がアリシアを見つけ出したときには、アリシアはヴァーリの手から、
…サイバックの地下研究所に連れていかれてしまっていたあとだった。
乗り込み、アリシアを救いだした、まではよかったのだが……」
そういうリーガルの声は沈んでいる。
――…そのとき、すでに私の旨にはエクスフィアが埋め込まれていてしまっていたの。
でも、リーガル様はそんな私をあそこから連れ出してくださった。…嬉しかった…
「アリシア。お前のためならば、私は身分も地位も何もいらない。
あのとき私がいった言葉に偽りはない。お前を救うのに何のためらいがいろう」
――リーガル様……うれしい
「アリシア……」
再び見つめ合い、二人の空気を創りだしているアリシアとリーガル。
「…リーガルさん、って…ロリコン?」
マルタがぽつり、といえば何ともいえない顔でリーガル達をみているロイド達。
「アリシアを連れ出す過程で、奴は鉱山を差し出すならば、とかいってきた。
すでに鉱山は閉鎖していたからな。それに奴はエクスフィアのブローカー。
私は研究所に莫大な資金援助をしていた。それを停止するか、アリシアを返せ。
そういえば、研究所はアリシアを素直に私のもとにもどしてくれた。
…おもえば、すぐに引き渡されたことに意味があったのだろうな」
そういうリーガルはその視線を虚空にむける。
アリシアとともに、レザレノ社がまだ実験段階で開発していた水上バイク。
それにのり、サイバックからアルタミラまで。
いっきに海上をすすんで、この地、アルタミラまでもどってきた。
ときおり、背後からだきついてくるアリシアは不安なのだろう。
そうおもっていた。
だが。
「どうした?アリシア?」
ふと立ち止まったアリシアに声をかける。
「リーガル様…私、私、幸せでした」
「アリシア?何をいきなり。そうだな。幸せだ。
これから二人で幸せになろう。ご家族に挨拶をし、結婚式をあげよう。
そうだな、子供はアリシア、君ににた元気な子供がいいな」
「リーガル様…」
「アリシア?」
ぽろり、とアリシアの瞳から流れ出る涙。
しかしその表情はどこか悲しみにみちていた。
「…もう、私、想い残すことはありません。
私…わたし、いつもいつもリーガル様に迷惑ばかりかけて…最後まで…」
「アリシア?」
何だかアリシアの様子がおかしい。
「リーガル様、私の最後の我がままをきいてください」
「最後?何をいう。これからもどんどん我がままをいってくれていい。それが家族になる、ということだろう?」
リーガルにはそのとき、まだアリシアが何をいおうとしているのかわからなかった。
「私…失敗作、といわれてたんです…もう、意識が……あ…あ…ああああっっっっっ」
体をわなわなとふるわせたかとおもうと、アリシアの体はみるまに異形と化してゆく。
――…私の体は化け物になってしまって…私の意思とは関係なく。
そのあたりにいる人々を手当たり次第に襲い始めてしまったの。止めようにも…止められなかった……
『!?』
アリシアの独白に息をのむ気配がいくつか。
「エクスフィギュア化……」
ミトスがぽつり、とその言葉を紡ぎだす。
「マーブルさん…まさか、アリシアさんもマーブルさんと同じ……」
ぎゅっとジーニアスが自らの手のエクスフィアを握り締め、リフィルもぎゅっと自らの手を握り締める。
墓にエクスフィアがはめられていた時点でその可能性は考えていた。
――私はどうにか体の制御を取り戻して…リーガル様に酷なお願い。
とわかっていても、懇願したの。リーガル様に私を殺してくれって
「!?」
その言葉にさらにロイドが言葉をつまらせる。
「できるはずがなかった!愛しているのに、なぜ、と!かならず元にもどす方法があるはずだ、と!」
リーガルがそのときのことを思いだした、のであろう。
血のはくような叫びをあげる。
――私は…これ以上、私が誰かを傷つけ殺すなんて許せなかった。
だから…最後は、せめて愛するリーガル様の手で…
愛しているからこそ、私はリーガル様にとどめをさしてほしかった。
彼の手で死にたかった…これ以上、罪を犯すまえに……
「アリシア…そんな……」
プレセアはそんなアリシアの台詞をきき声を震わせる。
化け物?
アリシアは何をいっているの?
「…エクスフィアをつけられた場合。要の紋をもたないエクスフィア。
そのエクスフィアをはがされたり、もしくは適合しなかった場合。
異形化することがある。…あなたはそれになってしまった、のね」
リフィルの説明に、こくり、とうなづくアリシア。
「リフィルさん…それは……」
プレセアは意味がわからず困惑ぎみ。
そんなプレセアの心を感じたのか、ひときわ、墓に埋め込まれている石が輝く。
「な、なんだ!?」
それぞれの脳裏に、とある光景がうつしだされる。
それは、どうみてもまだ若きリーガル、そして目の前の少女。
サイバックの地下研究所から脱出し、アルタミラにたどりつき。
そして、少女が異形とかしてゆく過程。
そして、異形とかした少女はアルタミラにきている人々に襲いかかっていった。
周囲にひびく阿鼻叫喚の声。
それはあまりにもリアルで、目の前で今、おこっているかのごとく。
そんな光景がロイド達の脳裏にうかびあがる。
それは精霊石がみせた、過去の記憶。
このアリシア、という少女が命を落とすきっかけとなった事件の記憶。
――リーガル様は私を助けるために、私の無理な酷なお願い、とわかっていても。
私のお願いをきいてくださった。
あのままだと、私は家族連れの小さな赤ん坊までもう少しで殺してしまうところだった」
意識はすぐに奪われ、体の自由はきかなくなった。
その台詞にロイド達は何ともいえない表情をうかべてしまう。
今、まさにその光景をロイド達はなぜか脳裏に想い浮かべた。
それこそ実際に今現在起こった出来事のように。
それはミトスとて同じこと。
あえてミトスにもみせるように、と命じたがゆえ、なのだが。
エミルの干渉により、この場にいたリーガル以外の全員。
その全員にそのときの光景、微精霊達が記憶していた光景を視せていたりする。
――それしか方法がなかった……
今まさに起こった光景のごとく、脳裏に浮かんだ光景。
アリシアが異形とかし、人々を傷つけ殺し…そして命をおとすその瞬間まで。
嘘だ、といってほしい。
しかし、漠然とではあるが、今脳裏にうかびし光景が真実であった。
というのを嫌でもプレセアにつきつける。
今、視た光景はまぎれもない、真実なのだ、と。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ミトスもまたその光景をみて、かつてのことを思い出す。
テセアラが開発したエクスフィア。
そもそも、天使化という兵器を開発する前は、
テセアラ側はかの人間兵器、すなわちエクスフィギュアとよばれしもの。
それらを主として使用していた。
人狩りなどというものを平気でおこない、マナを狂わせ異形とかし、
戦力、として投入していた。
そのことを、ミトスは知っている。
「マーブルさんと同じだ…マーブルさんも、異形にさせられて……」
ジーニアスが泣きそうな表情をうかべ、
「父さん……」
エミルのいったとおりだな。
とおもってしまう。
人殺しだ、と自分が高らかにいっていた相手。
しかし、実際は。
それを人殺し、というのなら、ロイドとて同じこと。
マーブルに致命傷をおわせたのは事実であり、
たとえその結果、彼女が意識をとりもどし、体の制御をとりもどしたあげく、
自らの体を自爆させた、としても。
結果としては同じこと。
そして、父親のこと。
自分を殺そうとした母親、それを止めるよう母親に懇願され、父親が殺した、という真実。
「…私は、アリシアを…彼女を、たった一人。初めて愛した人をこの手であやめてしまった…
幼き日より自衛のために習っていた拳闘武術。
誰かを救うために、と習ったこの修めた力で、愛するものを…」
この手枷は我が罪の象徴。
ふと、ロイド達はリーガルがいっていた台詞を思い出す。
――リーガル様は悪くないの。リーガル様はたくさんの命をすくったのだから。
あのままだと、私はそれこそビーチにでもいってしまっていたとしたら。
あのときにいた家族連れ全てを殺してしまっていたかもしれない。
リーガル様のその拳闘武術はリーガル様のいわれていたとおり。
誰かを救うためのもの。だから、こんな手枷なんてしないで。リーガル様
「しかし、私は私は、この手で、お前をっっっ」
――私、リーガル様にとめてもらって幸せだった。
だって、最後には元の姿にもどれ、リーガル様の膝の上で死ねたのだもの
嗚咽するリーガルの手の中で、アリシアの体は光となりはじけきえた。
それはマナを狂わされていたがゆえの結果。
「お前は、私の手の中で光となってきえてしまった…私の手の中にのこされたは、
お前のつけていた、そのエクスフィアのみ……」
消えてゆく彼女をどうにもできず、ただ名を呼んでいたリーガル。
残されたは、ひとつの石。
これがアリシアの命をうばった、そうおもい、壊そうとおもったができなかった。
だからこそ、墓にそれをうめこみ、アリシアの墓とした。
――…最後にあえて本当によかった。もう、思い残すことはないわ。
だから、リーガル様、もう自分を責めるのはやめて…
どうか自分を責めないで。そんな手枷なんかで自分を戒めるのはやめて
「いや。アリシア。私は…私は愛するお前を手にかけた。すくってやることすらできず、お前を…っ。
この手枷は私の罪の象徴であり、罰なのだ」
二度と、この手で愛するものを傷つけないように。
――私はもうすぐきえてしまうから。私に心配の種を残させないでください。
そもそも、そんな手枷をしていたら、リーガル様。食事はどうするの?
お風呂は?着替えもままらなないでしょう?
まさか着のみ、きのまま、というのはゆるせませんよ?
あと、髪も、リーガル様の髪はさらさらで綺麗なんですから、
髪の手入れをおこたって、油でベトベトになるなんてこともゆるしませんからね。あと……
何やら話しが盛大にずれてきている。
というか、あきらかに、アリシアがリーガルに対し、小言に近いことをいっている。
そんなアリシアの言葉を聞き、
「お前は…そんなになってまで、私の心配をしてくれている、のだな」
――いっときますけど、私はもう、あのときみたいに。
リーガル様がたとえ冗談でいったにしても、ならお前があらってくれるのか?
といわれても、私はもうリーガル様に触れることすらできないのですからね?
「そうだな。そういうこともあったな。
…あのときはあせったな。あまりにお前がうるさくいうから。
お前をあきらめさせるために、ならお前が風呂であらってくれるのか。
といえば、わかりました、といってぐいぐいと風呂場に引っ張って行った時は。
まさか本気にするとはおもわず、仕方なく風呂にはいったのは…いい思いでだな」
――前日に水着をかってたのがこうをそうしました。
でも、リーガル様、水着姿を褒めてくださったじゃないですか
「…お前がいきなり服を脱ぎだしたときは私もあのときはあせったぞ」
「ふふ。お仕事おわったらそのまま海に遊びにいくつもりでしたから。あの日は」
『・・・・・・・・・・・・・・』
何だろう。
この二人を会話させていれば、いつのまにかその話題は、
どうみてものろけ?以外の何ものもでもないものにかわっているような気がする。
一瞬、何ともいえない表情になるリフィル、しいな、ゼロス、エミル、ミトスの四人。
ミトスはミトスで、思い当たるところがあったのか、どこか遠い目をしていたりする。
そういえば、ユアンにたいし、マーテルがそんな似たようなことをしていたな。
とエミルはふと思い出す。
ゆえに、どことなく親近感でももった、のであろう。
――体の下まであらおとしたら、顔を真っ赤にさせて断るリーガル様。
本当に子供みたいでかわいかったなぁ。パパより小さかったし
「…アリシア。それは男としては悲しいからな?」
「「「確かに」」」
無意識ではあるが、即座にリーガルの台詞に同意をしめす、ゼロス、ミトス、ジーニアスの三人。
ゼロスなどはかなり同情的な視線をリーガルに送っていたりする。
何が、とはいっていないが、おのずとわかってしまう、というのが男というもの。
ゆえに、リーガルに何ともいえない同情心がわいてしまう。
タオルでおおっていたそれをアリシアがひっばろうとし、
あわてたかつての記憶。
それがさまざまとリーガルの脳裏によみがえる。
そんな二人の会話をきいていたのであろう。
「…何をなさってたんですか。お二人は……」
ぽそり、といまだに土下座をしたままのジョルジュがつぶやいているが。
まあ、気持ちはわからなくもないであろう。
よもや使用人と主人がそんなことをしていた、などと夢にもおもわない。
――だからね?リーガル様。そんな罰はもういりません。
その手の戒めがなくてもリーガル様は十分に苦しんだはずです。
だから、これ以上、私に心配を残させないで。
もう私はリーガル様をお風呂にいれることも、触れることもできないのだから。
でもリーガル様が他の人の手をかりてそういうのをされたりしたら、
私ちょっぴりやけるかな?あ、でも姉さんなら許せるかも?
「「な?!」」
いきなりの話題転換にジーニアス、そしてプレセアが同時に声をあげる。
「あ、アリシア?」
困惑したプレセアの台詞に、
――だって、姉さん。オゼットにいたころから子供達の面倒をみていたものね。
リーガル様も子供みたいなものだから、お世話とかおてのものでしょう?」
「アリシア。大人と子供は違います。絶対に。
そもそも、結婚前の女の子が男の人と風呂にはいったなんて、パパがきいていたら何といったか……」
おもいっきりその台詞をきき、プレセアは頭をかかえてしまう。
妹が殺されていた、という事実よりも。
何だろう。
生前、妹がそんなことをしでかしていた、という衝撃のほうがプレセアには強い。
この妹は奉公先で何をしていたのだ、と。
死んでいる、というのはあきらかなのだろう。
しかし、目の前にいる妹の幽霊はあきらかに生きているまま。
感情もしっかりとあらわれて、そこに肉体がないだけで。
実体がない、というだけでいきているのとさほどかわりがないようにみえる。
そのあたりにも原因があるのかもしれない、とプレセアはおもうが。
そもそも、奉公先で妹がその主人とそういう仲になっていた、
ということすらプレセアとしては驚きに値する。
しかも、相手は公爵家。
あきらかに身分が異なっている相手と、である。
そんな二人のやり取りをしばらく黙ってきいていたロイドであるが。
色々と思うところがあった、のであろう。
「…俺もジーニアスもにたような思いを味わった。それに、想像してみたんだ。…俺の、父さんも」
殺した相手と殺された相手。
相手に自分を懇願してくれ、と頼んだものと、それをうけいれざるをえなかったもの。
そんなリーガルとアリシアの会話は、ロイドの両親のそれと重なる。
「俺の父さんも…化け物になった母さんに手をかけた。
母さんを手にかけたとき、苦しんだんじゃないかって。
…母さんが、俺を喰い殺そうとして、父さんが母さんを殺すことで、それをどうにかとめようとしたって……」
それはクヴァルがいっていた台詞。
嘘だ、とおもいたかったが、どこか心の中でそれが真実なのだ、
と理解しているロイド自身。
だからこそ、リーガルとアリシアがどうしても自分の両親の姿と重なってしまう。
重ねてしまう。
だからこそいわずにはいられない。
そんなロイドの台詞をきき、驚いた、のであろう。
「…お前の父親もそう、だったのか?」
リーガルが驚いたようにいい、
――そう。あなたのお母様も。でもわかるわ。お母様もきっと、愛する人に自分をとめてほしかったのね
アリシアもまたしみじみとそんなことをいってくるが。
殺してくれ、と嘆願したもの同士。
判り合うところがあるのであろう。
そんなアリシアの声にこたえるかのように、ロイドの手につけられている石が、一瞬、ほのかにあわく光る。
――そう。だから私はあの人にお願いしたの。我が子を自分が殺すなんて許せるものですか
――そう、ですよね。自分が大切な人を傷つけるなんて、ゆるせないですものね
その光は同じ精霊石に宿りし精神体であがゆえに伝わる言葉のようなもの。
石同士の意思疎通。
エミルにはその声はきこえているものの、この場にいる誰にもどうやら
そのもう一つの【声】は理解できていない、らしい。
「…そう、きいた」
ロイドは自分の手につけられている石が淡く輝くのをみて、
母さんも肯定してるのかな?そんなことをおもい、ぎゅっと手の甲をにぎりしめ、
ぽつり、と二人にたいし言葉を紡ぎだす。
「俺…思うんだ。父さんやあんたの選択が正しかったのか。それはわからないけど」
そう、異形とかしていた妻を閉じ込め、その妻を元にもどすために、
そのためだけに街の人々を裏切っていたパルマコスタの総督ドア。
どちらが正しいのか、それはロイドにもわからない。
「わからないけども…俺の母さんはきっと父さんがあんたみたいに、
自分を罰して生きることは望まないとおもう」
パルマコスタで元気になっていたクララ夫人からいわれた言葉。
それをロイドは思い出す。
マルタ達とともに、再びパルマコスタに王廟から移動したあのとき。
クララ夫人からいわれた言葉。
本当は、夫には私のことをあきらめて、街のためにつくしてほしかった、と。
夫に自分を殺してほしい、と嘆願したけども、絶対に元にもどしてみせる。
そういわれた、と。
そしてそのために、ディザイアンと手をくむ、といわれたそのときの衝撃を。
「…そうだろうか」
リーガルが小さくつぶやくと、
――ええ。その人のいうとおりです。少なくとも私はそんなこと望んでいない。
それに、リーガル様にはたくさんの子供がいるじゃないですか。
その人達のためにも。リーガル様は一人じゃない。
いつもいっていたでしょう?リーガル様は使用人も、社員も自分の家族だ、と。
なら、その家族の人達のためにも、自分を罰することはやめて。
リーガル様に何かあれば、レザレノ・カンバニーに所属しているたくさんの人達。
そしてその人達にかかわる全ての人やその家族。そんな人達にも影響をあたえるのですよ?
リーガル様は、カンバニーの柱、といえる御人なのですから
「私は、アリシア。その柱として、お前とともに、二柱として、支えていきたいと…」
――今でも覚えてます。リーガル様のプロボーズ。
ご両親に挨拶にいこう。私とともにこれからもレザレノのために。
いや、私とともに一生を過ごしてくれるか、と。嬉しかった。うれしかったの
「それは私の嘘偽りない本心だ。アリシア」
――リーガル様はいつも私の望むものをあたえてくださった。
辺境の地で買い物にこまるひとがいるから、家で買い物できる何かがあればいいのにな。
といったら、いつのまにか家でも買い物ができる通販システム部門を会議で通し、
海があれたときは、首都にいくことかできないから、
天候に変化があっても行き来ができる方法があればいいのに、といえば。巨大な橋の建設を提案されて
「何をいう。アリシア。あのテセアラブリッジは、お前が、船の運航。
その解決策を悩んでいたとき、お前が橋をわければいいんじゃない?
といったのがきっかけとなって、設計にこぎつけたのだぞ?
設計師達からもその案はかなり公表だったぞ。おもいもつきなかった、と」
――それに、私がこんな品物を私が考えられるんだから、
他のひともいろいろと考えたりしてるんだろうな、といったら。
生活応援フェアなる部門設立までしてくださって
「うむ。たしかに、お前のいうとおり。大ぜいの意見、そして利用性。
それは約にたっているからな。事実それでヒット商品がかなり産まれている」
――それに、子供を育てる人達にも働く環境があったら、といったら…
「…ねえ。少しいい?リーガルさん?」
何やら話しがまたまたかわっている。
そんなリーガルとアリシアに恐る恐るといかけるエミル。
「…もしかして、リーガルさんって、アリシアさんと一緒に。
今ちらり、ときいただけでもかなりの経営やら、商品開発に貢献してない?
…何で、そんな人を追い出すようなことを、そのジョルジュってヒトはしたの?」
エミルの視線はそのままジョルジュにむけられるが。
その言葉をうけ、びくり、と体を硬直させるジョルジュの姿。
「アリシアは所詮、樵の娘。…リーガル様をレザレノにリーガル様ありき。
とよばれるまでに成長させ、リーガル様を支えていたのは知っていました。
ですから、ビジネス的の付き合いならばまだしも、
しかし、リーガル様は公爵。樵の娘と結婚など、断じてっ」
「…で、あんたは、アリシアをヴァーリに引き渡したってか?…最低、だね」
「…返すことばもありません」
冷めたようなしいなの台詞に、ジョルジュはただうなづくのみ。
「その事実、他の人達はしらなかったの?」
――私は、あくまでもリーガル様のお役に立てればいいな。という思いと。
こんなのがあれば便利だな、というのを意見していただけ、ですので。
それを私のしらないあいだにリーガル様が会議で提案してくださっていて。
いつのまにか新部署などを設立してくださっていたんです。
パパが病気になったとき、薬代やお医者代にこまったりして。
家でへそくりとかやってても、どうしてもつかってしまう。
なら誰かがかわりに預かってくれてれば、という意見で保険会社も設立してくださいましたし
「うむ。あの保険部門はかなりの人気となっている。
アリシアのいうように、皆が皆、不安に感じていたのだろうな。
人間、いつ何どき何があるかわからない。そのための保険。
いざというときは必ず保障される。その安心感が人気の一つなのだろう」
エミルの問いかけにアリシアが答え、リーガルもしみじみいってくる。
「ならさ。たとえば、アリシアさんを経営アドバイザー、とかいって。
あらたに会社に雇うとかしなかったの?
そうすれば、アリシアさんの力を周囲がみとめ、もし結婚といっても
実績さえあれば反対されなかったんじゃあ……」
「たしかに。そうね。そこまでの実績がすでにあったのだとすれば。
身分のこともあるかもしれないけども。どうにかなっていたのではなくて?」
エミルの台詞に思うところがあったのであろう。
リフィルもまたそんなことをいってくる。
「それは……」
「それは?」
「…アリシアを、その、人目に触れさせたくなかったというか…」
『……うわ~』
ぽそり、というリーガルの台詞に、思わずひいてしまうジーニアス達。
「そもそも、彼女は元気さから、街の人々にも好かれていた。
彼女つれて仕事に訪れた地でも、目をはなせばナンパされていないことは皆無だったのだぞ!?」
その都度、私の連れに何か?といって。
リーガルが有無をいわさず追い払っていたのだが。
それはまだその心が恋心だ、とわかる前からのこと。
「そもそも、始めはかわいい妹に声をかけるのは何ごとだ。
とおもいことごとくいいよってくる男どもを蹴散らしていたのだが……」
「あ~。何となくわかった。リーガルさんってパパと一緒の部類なんだ……」
その台詞をきき、思い当たるところがあった、のであろう。
マルタががくり、と肩を落とす。
マルタの父、ブルートも同じようなことをよくしているので、
マルタからしてみればどうしても親近感がわいてしまう。
…違う意味で。
――とにかく。リーガル様、もう、自分を苦しめるのはやめて。
リーカル様を必要としてくれている人達のためにも。そして、私のためにも
「…わかった。…しかし、この手は二度と無駄に命をあやめる道具とはせぬ。
私はお前に…お前とロイドにそれを誓う」
そっと、リーガルの手を包み込むようにしていってくるアリシアの言葉をうけ、
リーガルはしばらく目をつむったのち、その決意の言葉を紡ぎだす。
「そして…エクスフィアで人の命をもてあそぶものたちを打倒したとき。
…この戒めを外すことにしよう」
――でも、今すぐにせめてお風呂と、身なりと、あとご飯と。
それとそれと、ともかく、いろいろとしっかりと身辺なことだけはしてください!
「う…善処しよう」
――もう!いつもリーガル様はそうやって逃げて!いつもしないじゃなかったですか!
姉さん!それにみなさん!リーガル様をひっべがしてでもいいですから!
しっかりと身なりをととのえさせてください!
「あ、あの?アリシア?」
何だろう。
記憶にある妹よりもたくましくなっているような気がするのは。
とまどうプレセアに対し、
――あのね。姉さん。リーガル様って、耳元で息をふきかけると硬直するの。
だからその隙に服とか脱がしたり、拘束し身動きさせなくさせれば…」
「アリシア。それ、女の子がいうような台詞じゃありません。…育て方まちがえたのかな?私……」
困惑したようなプレセアの台詞。
どことなく同情心を含んだ視線をリフィルがプレセアにと向けているが。
――とにかく。姉さん。皆さん、リーガル様のことをよろしくおねがいします。
それと、姉さんのことも。リーガル様、姉さん、私、ようやくいけそうです。
…まっていてくれてありがとうございます
いきなり、背後をふりむき、声をかける。
その言葉とともに、墓の後ろの空間がゆらり、とゆらぎ。
そこからあらわれる、大きな鎌をもちし、ぼろぼろの布をまとったような魔物の姿。
『魔物!?』
その姿に思わずロイド達が身構えるが。
「もう、いいのか?」
――はい。ありがとうございます。我がままをきいてくださって
「かまわん。では」
『!?』
そのまま、問答無用でその手にもたれている鎌が墓に埋め込まれている石にと振り下ろされる。
エミル以外全員がいきなりのその行動に驚愕しているのがみてとれるが。
エミルはそれをしっているがゆえに驚くことはない。
カラッン。
――え?
とまどったようなアリシアの声。
これまで感じていたエクスフィアとの繋がりが、いっさい断ち切られた。
姿を保つことすらままならず、ふわふわと漂う霞のような姿となっているアリシア。
「我の役目はこの、まだ未熟なる精霊石を回収すること。
精霊石にとりこまれていた人間の魂にまでは関与せぬ。ではな」
それだけいいつつ、ふわり、とからん、とその場に転がった石を持ち上げたかとおもうと、
現れたときと同様、そのまま闇にと溶け消える。
そして、去り際。
「お前とともにありし微精霊達の願いだ。お前が望むのならば。
お前に次なる生を約束させることができる、らしい。お前がこのまま消えて成仏するか、
それともそこにいる誰かの子供として産まれからるか。お前自身が選ぶといい」
正確にいうのならば、微精霊達の願いというよりは、ラタトスクによる命というか、
彼女が望むのならば、という意見であったのだが。
それをテネブラエより聞かされていたはずであったのだが。
どうやら去り際に語ることにより、追求を免れる方法をかのものはとったらしい。
――私。エクスフィアになりきってしまう前に、リーガル様に結晶を壊してもらおう。
そうおもっていたのに……
困惑したようなアリシアの声。
しかしすでに実体が保てないのか、そこにあるのは霧のようなもののみ。
声のみがその場にと漂うごとくに聞こえてくる。
もっとも、その姿が認識できていないのは、ロイド達だけであり、
コレット、ゼロス、エミル、ミトスにはその姿はしっかりと視界に映し出している。
――あのままだと、私は石にとりこまれたまま、
石が壊れるまでずっと永遠に生きていくしかなかったの。
しゃべることもできずに、ぼんやりとした意識のまま、未来永劫生き続ける
そして意識はやがて、石に宿っていた微精霊達にのみこまれ、
私、という自我はきえてしまう。そう、聞かされていたの、だから…でも…
そこまでいい、言葉をとぎらせ。
――ねえ。姉さん?
「な、何?アリシア?声がする、ということは、あなたはそこにいる、のよね?」
手をのばしてもそこには霧のような何かがあるだけで、さきほどのように姿は認識できない。
――私をいつか、うんでくれる?
「え?」
いきなりこの妹は何をいいだすんだろう。
そんな困惑をふくめた戸惑いを含んだ声をあげるプレセア。
――私、もう一度、姉さんの家族になりたい。そして、生まれ変わってリーガル様の前にたつの。
そして問いただすのよ。私がいなくてもリーガル様はしっかりとやりましたか?って
「アリシア?」
いっている意味はわかる。
わかるが、それを理解したくない、という思いもある。
そもそも、死んだ、ということすらプレセアはまだ実感がきちんとできていない。
というのに。
先ほどまでみていたアリシアは姿は透けてはいたが、生きている人とかわりはなかった。
それゆえの戸惑い。
――リーガル様も、生まれ変わった私にしっかりとしているところをみせる。
そんな目標があれば、まさか後ろ向きに生きるなんてことはしないでしょう?
「…お前は、死してもなお、私を心配してくれるのだな。…ああ、わかった。約束しよう。
必ず生まれ変わったお前に素晴らしい世界をみせてやることを」
――ありがとう……
「アリシア!?」
すっと、その霧はそのまま、プレセアの体に入り込んでいったかとおもうと、
やがて、プレセアの中に暖かな何かが産まれたような感じがするとともに。
そこにいないのに、常にアリシアが傍にいるような。
そんな感覚にプレセアは包まれる。
「アリシア?…アリシアっ!?」
プレセアが必至に名を呼ぶが、すでにその反応はない。
――リーガル様。うまれかわって、いつか、またあなたに会える日を…
あなたがすでに亡くなっていたとしても。それでも。
あなたが残したレザレノがある限り。私は、いつでもあなたとともに。
姉さん、今度もまた始めから家族として、一緒に…
父さん、母さんにもあえたら…いいな…
姉さん、リーガル様を恨まないで…ね……
風にのり、ふとそんな声のみが周囲にと響き渡る。
それは、アリシアという精神体が最後に残した言葉。
すでに彼女の意識はプレセアの精神体というか、肉体の中に宿り、
やがてくるべき日にそなえ、新たな転生の準備にとはいりはじめている。
今後、滅多なことがないかぎり、アリシアとして外にでてくることはないであろう。
「アリシア…いつか、お前にあえる、のだな。そうか…」
ならば、自分のできること。
次にうまれてくるアリシアのために。
今のような世界でなく、より住みやすい世界にしてゆくこと。
いつもそう。
アリシアはリーガルが迷ったときには、その方向性を示してくれる。
それは死してもどうやらかわらなかったらしい。
リーガルがそっと、墓石に手をあて、誰にともなく呟く。
そして。
「…今まで何も告げずにすまなかった。私は罪人だ」
改めて、どこかすっきりしたような表情をうかべ、ロイド達にと向き直る。
みれば、先ほどよりも顔面蒼白ではあるが、
どことなく涙を浮かべているジョルジュの姿もみてとれるが。
彼もまた、今のアリシアの態度、そして思いに心を打たれた所が一応はあるらしい。
「もしかしたら、アリシアが生きていれば、もっとこの会社は大きくなっていたのかもしれないわね」
リフィルがぽそり、といえば、
「今、この会社がこのように発展していっているのも彼女のおかげだ。
彼女が提案した様々な新部署は、今でもより新しい発展を続けている。
私は、彼女の為にも、…それらを恥いることのないものにすることを誓おう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ミトスはそんなリーガルの様子をみつつも、だまりこんでいる。
魔物が率先して、精霊石を回収にくるなど、それはミトスにとっては信じられないこと。
もしかして、マナが少なくなっているはずのここテセアラ。
ここのマナが安定していることに関係しているのだろうか。
報告あがっていた数値によれば、確実にテセアラは衰退世界に入りかけ、
マナが涸渇しはじめていたはずだ、というのに。
実際にこの地におりたってみれば、マナはしっかりと安定している。
それこそ繁栄世界のときそのままに。
それがもしも魔物の行動にある、のならば。
本来の魔物の役割はマナの調整。
そのことをミトスは知っている。
だからこそ怪訝に思う。
監視システムで把握している事情と、実際の事情。
それが異なっている、この現実。
だからこそミトスはただただ黙りこむしかない。
後で一度あちらに戻り、確認させるべきだな、と心にきめつつも。
それを感情にあらわし、ジーニアスに気取られるわけにはいかない、そう思うがゆえ。
「…リーガル様はアリシアに手をかけた罪を告白し。
自ら監獄に入られたのです。会社に今後の憂いがないように。
全ての代理として私にその任をまかせ…私は…リーガル様のその思いにきづけなかった」
アリシアを失ったことによる、一時的なものだろう。
そう高をくくっていた。
所詮は樵の娘。
時間がたてばいつものリーガル様にもどられるだろう、と。
しかし、きづけばリーガルはいのつまにかいなくなっており、気付いたときには裁判が始まっていた。
罪状は…痴情の縺れ。
使用人を殺した罪にて、きちんと調べられるまもなく、だされた判決は禁錮三十年。
しかしあの場にいたものたち。
リーガルが血まみれの少女をだきしめて叫んでいた光景は。
アルタミラにいたほとんどのものがみてしっている。
よもやその人物があの怪物だなどと同一視しているものはいなかったが。
リーガルが怪物にとどめをさし、怪物が消えた光景。
それはかなりの目撃者がいたこと。
そして、怪物のあとに少女がいたということは、
怪物に囚われていた娘なのだろう、というのが人々の認識。
痴情の縺れなんかじゃない!という貴族、そして人々の意見をうけ、
新たに裁判が見直された結果わかったのは、
裁判官、そして審査員達がことごとくエクスフィアブローカーを通じ、買収されていた。
という事実。
裁判がやり直され、無罪が確定したが、リーガルはかたくなに監獄から出ようとしなかった。
自分の罪は罪なのだから、彼女を助けられなかったのだから、と。
それから八年間。
ジョルジュは暇をみつけては必至にリーガルを説得にむかっていた。
毎回監獄に向かい、そして時には経営方針の話しあいをするために。
会社のものたちもリーガルに同情的。
というより、昼日中におこった事件であるがゆえ、
ほとんどのものが事情をしっていた。
もっとも、彼女が怪物になった云々、ということまで知られていたのはごくわずかだが。
「…そんな私に教皇が話をもちかけてきたのだ。
コレットの誘拐とひきかえにヴァーリを捕らえる、と約束したのだ。
…私はそれを信じ、彼女の誘拐をひきうけた」
ヴァーリが裁かれないのであれば同じ悲劇がおこる。
しかし、自分がそれをすることで、ヴァーリが捕らえられるのならば。
きけば、コレットという少女をどうにかするわけではない、という。
教皇曰く、クルシスからの神託だ、と。
しかしその神託を邪魔しているものがいる、と。
神子ですらその神託にさからい、反旗を翻しテセアラを滅亡させようとしている、と。
神子が?という思いもあったが、ヴァーリを捕らえる、というその言葉。
その誘惑にリーガルは逆らえなかった。
だからこそ、教皇の手をとり、固くなにでようとしなかった牢から外にとでた。
「それで私たちに襲いかかってきたんだ」
マルタが納得いった、というようにつぶやいているが。
だからといって、リーガルが誘拐を引き受けた、というのは許容できるものではない。
ゆえにマルタはそんな彼の告白をきき、複雑な表情を浮かべていたりする。
そんなリーガルの台詞に、一瞬、びくりと眉を動かし。
しかしそれもほんの一瞬のみで、困惑した表情をすぐに作り浮かべたらしく、
「?どうして?コレットさんを…その、教皇ってヒトが?」
戸惑い気味…あきらかに事情を知らねば困惑してといかけているミトス。
と何もしらないものがきけば思うであろう。
表情もまた困惑した面影をつくっており、これが演技だ、と身抜けるのもは、
どうやらこの場にはエミル以外、いないらしい。
ミトスは意図していないのであろうが、嘘をつくとき、かならずマナが乱れる傾向がある。
それは精霊達もまた認めていた事実。
そして、分身体ともいうべき蝶にて確認して視ていたラタトスクもまた、その乱れ方は今でもよく覚えている。
そして、嘘をついたあと、いつも姉マーテルにその心情をもらしていた様子も。
「神託があった、といっていたが、真実は定かではない。神子が陥れられていた、というのならば。
教皇のいった神託そのものが嘘、ということなのだろう。
教皇は神子が世界を衰退させようとしている、裏切りものだ、といっていたからな」
「確実に嘘、でしょうね。あの教皇とロディルは間違いなく繋がっているでしょうね。
でなければ、教皇騎士団とかいう輩がでてきたとき、
五聖刃のロディルとなのりしディザイアンがやってくるわけないもの」
それはコレットが連れ浚われたときのこと。
リフィルの台詞に、
「…?ディザイアン?それって、たしか女神マーテル様が封じたとかいう?どうしてそんな輩が?」
「あいつらの考えていることなんかわかるもんか!
そもそも、人間をエクスフィアの培養体でしかない。といいきるような奴らなんだからな!」
「…今、脳裏に視えた光景を信じるとするならば。
もしかしたら、養分にされた人間達も同じように。
彼女と同じように肉体が消えてしまい、石だけしかのこらないのかもしれないわね。
だから、牧場内にはこれまで大量にいたであろう人々の痕跡。
それがなかった、とすれば。…つじつまがあうわ」
叫ぶようにいうロイドに、少し考え込んだのち、たどり着いた結論をいっているリフィル。
確かにその通り、ではあるものの。
それが強制的に装置によってマナを狂わされ、致命傷というか、
そのままその体を押しつぶされる形で石をとりだされる。
あの場にあった装置はそういう代物。
そして、消滅した体から解放されたマナを用い、その装置の原動力にしていた。
犠牲になったもののマナが次の犠牲を産んでゆく、という、その悪循環。
パルマコスタの牧場にしろ、アスカードの牧場にしろ同じような設備でしかなかった。
テネブラエ達に潜入させた絶海牧場とかいうところの設備だけは他とは異なっていたようだが。
もっとも、そちのらのほうが許容などできるはずもなく。
かの地ではヒトをいきたまま利用し、魔血玉つくりだしていた。
それこそ瘴気をも含ませて。
「え?それって、どういう…?」
困惑したようなミトスの台詞に、
「そうか。そういえばミトスは知らなかったんだっけ。
僕たちがつけているこの石。エクスフィアっていうんだけどね。
…姉さん、ミトスに説明してもいいかな?」
「…僕、聞きたいです」
ミトスからしてみればロイド達がどこまで真実にたどり着いているのか知りたい。
という思いもあるのであろう。
神妙な面持ちで、しっかりとリフィルとジーニアスの目をみつついうミトス。
「あのね……」
ジーニアス達がそんなミトスに説明をしはじめているそんな中。
「…私は、だまされていたのだ。それがよくわかった。
…アリシアの裁きはうけたが、私にはまだ昇華できぬ思いがある。…頼む。お前達が私を裁くのは
エクスフィアで人の命をもてあそんでいるというクルシスを倒してからにしてほしい。
…プレセア。それがすめば、私は仇として討たれることも受け入れよう」
「リーガル様!?」
淡々というリーガルの言葉をきき、ジョルジュが悲鳴に近い声をあげているが。
「…ヒト、とは複雑、ナンデスネ?よく、わかりません」
そんな彼らのやり取りをみながらも、少し離れた位置にいたタバサがぽつり、とつぶやく。
これまでのやり取りを黙ってみていたが、彼女の思考回路では、
よく理解できていないらしい。
「…そっか。タバサさんの人工知能はまだ発達途中、なんだね」
「?」
「学習式なんでしょう?」
「…マスターはソノヨウニいっていました」
ならば、機械とはいえ時として心が芽生えることもあるであろう。
そもそも、機械に心が宿らない、とおもっているのはニンゲン達のエゴ。
世界によっては機械生命体といった存在もいる。
そして、タバサはみたところ、ゆっくりとではあるが、その心が育まれかけている。
人工知能を搭載しているのならば、心が産まれても不思議ではないことをエミルは知っている。
エミルの台詞に首をすこしかしげつつも、淡々とこたえるタバサ。
エミルの少し前では、ジーニアスとリフィルがミトスにエクスフィアについて、
説明をしている様子がみてとれるが。
そして、墓の前ではリーガルがロイドとコレット、そしてプレセアに話しかけている様子も。
「まあ、それを決めるのは俺様達じゃないっしょ?」
そんなリーガルの台詞をきき、ゼロスが肩をすくめるが。
「…そう、だね。プレセア。あんたがきめな」
リーガルを仇。とするのか。それとも。
どちらにしても、ゼロスにしろしいなにしろ第三者であることにはかわりない。
おそらく、脳裏に浮かんだあの光景は真実あったこと、なのだろう。
なぜそんな光景を視たのかしいなにもわからない。
だけども、真実だ、という妙な確信がある。
もしかしたら、先ほどいっていた魔物の台詞。
そして、これまでも幾度かエミルがいっていた、エクスフィア、とは
世界に解き放たれる前の微精霊達の卵でしかない、という台詞。
アルテスタもそういっていた。
もしも、先ほどの光景を視せたのが、エクスフィアに宿っていた微精霊だ、とするならば。
おそらくそこに意味がある。
「…ここにコリンがいたら、きくこともできた、んだけどね」
コリンはそういう勘などとてもするどかった。
心は常にあなたとともに。
そういわれても、やはり傍にコリンがいない、という事実は、
いまだにしいなには受け入れがたい事実であるらしい。
そんなゼロスとしいなの台詞をきき、
「そう。だな。どっちにしろ、始めは捕虜扱いだったかもしれないけど。
俺達はもうリーガルを仲間だとおもっていたわけだし。俺もプレセアの意見を尊重するよ」
「そう。だね。プレセアが当事者だもんね」
ロイドに続き、コレットもうつむきつつ呟いたのち、
じっと祈るようにその手を胸の前でくみプレセアを見つめ始める。
ロイド、ゼロス、しいな、コレットの三人にじっと見つめられ、
プレセアは一瞬、視線をそらすものの、そのまま地面に視線をむけ、
「それでも…それでもっ。あなたが妹を殺したのは事実です…私の…私のたった一人の妹を…っ。
全てあなたが悪かったわけでもないのもわかってる。それでも…っ」
プレセアは何といっていいのかわからない。
さきほどプレセアの脳裏にも浮かんだ、アリシアの最後の光景。
怪物と化し、街の人々、観光客すら殺めていった変わり果てた妹の姿。
そして、リーガルの腕によって体を貫かれ…死する間際に元の姿にもどり、
そして光となって消えていった光景。
「…すまない」
リーガルには謝るしかできない。
リーガル自信もおそらくは心のどこかで裁かれたい、とでもおもっているのかもしれない。
よくなぜかヒトがいうことに、死んだものの所に共にいきたい。
という言葉がある。
そうしたからとて再び会える、というわけではない、というのに。
かつてのように、魂を保護する世界、冥界などという存在を創っていれば別として。
あのときは、太陽系そのものを一つの世界となし、理をひきかえた。
今はまだそれをしていない。
そのうちにする必要性がある、ではあろうが。
エミルがそんなことを思っている最中。
「でも…アリシアの最後の願いだから…私は、もう何もいいません。
それに…真の仇も…判りました。ヴァーリ…そして、ロディルっっっっっっっっっ」
プレセアが顔をそむけつつ、そして空を見上げて何やら叫んでいるのがみてとれる。
アリシアを直接手にかけたリーガルを今すぐ許せるか。
ときかれて許せる、というのはプレセアからしてみれば嘘になる。
でも、そのきっかけをつくった当事者は別にいる。
自分に言葉巧みにちかづき甘い言葉をいってきたヴァーリ。
そのヴァーリが妹にも。
「ヴァーリは私だけでなく、妹までっ」
怒りの方向転換をする相手がいるから、であろう。
リーガルに対する怒りはそのままヴァーリにとプレセアの中で向けられているらしい。
ヴァーリの上にいたのはロディルであることをプレセアは知っている。
おぼろげながらも自分の様子をロディル様に報告だな。
と常にヴァーリがいっていたことをプレセアは覚えている。
「私。ヴァーリ。そしてロディルが許せません。
そして、そんなエクスフィアを人で創っている、というクルシスもっっっ」
どうやら、ジーニアスとリフィルがミトスに説明している会話もまたプレセアに聞こえていたらしい。
まあ、さほど離れていない場所で説明していれば、嫌でも耳にはいるというもの。
わき上がるような思い。
その感情のままにプレセアは感情のままに言葉を叩きだすようにして叫ぶ。
それは、これまで蓋をされていた何かがあふれ出るかのごとく。
ずっと抑制されていた感情が、心の爆発によって一気に湧き出しているに過ぎないのだが。
「よし。決めた!」
「?」
なぜか、うん、とうなづきつつも、いきなりそんなことをいいだすロイド。
そんなロイドの台詞にコレットが首をかしげつつもロイドをみつめる。
「世界を統合するのとともに、一緒に打倒、クルシスだ!どうせ、俺達はクルシスの奴らにも狙われてる。
だったら、こっちがクルシスの奴らを倒せばいい。
あのユグドラシルとかいうすかしたやつをぶんなぐってでもとめてやる!」
ぐっと手を握り締め、力説するようにいっているロイドだが。
そんなロイドの台詞がきこえた、のであろう。
「…自信満々にいわれるといっそすがすがしいよね……」
ジーニアスがミトスにどうやら説明終えたらしく、
ロイドのほうをみてため息とともにそんなことをいってくる。
「そもそも、この世界を二つにわけたのがあいつ、ユグドラシルっていうんなら。
二つの世界を一つにすることも可能ってことだろ?
エクスフィアやディザイアンとかもクルシスの奴らが元々の原因と分かってるんだし」
「…まあ、どうあがいてもクルシスがかかわってくるのですもの。
それは避けては通れない道、でしょうね。クルシスと敵対する、というのは。
実際、今でも敵対しているのだし。いつクルシスの追手が入るかわからないもの」
「追手といえば、あいつが追手なんじゃないのかい?」
リフィルの台詞に、ふとしいなが何かを思いだしたようにいってくる。
「?」
そんなしいなの台詞にミトスが首をかしげると、
「ああ。あんたは知らなかったかい。…あたしたちに同行してた、というよりは。
敵なのに私たちの中に間者として入り込んでた奴がいたんだよ。
そいつがさ、あたしたちの前によく姿を今でもあらわすんだよね。
裏切りものだ、と判明した後でもさ」
「…クラトス…か。あいつ、本当に何考えてるんだろう……」
しいながミトスにたいし、首をすくめつつ説明する中、
「知るか!そもそも、あいつは始めから俺達を裏切ってたんだし。
あいつのことなんか考えてもわかるもんか!
どうせあいつのことだから、俺達の前に姿をみせるのも、
コレットをつれていくのか、もしくはまた俺達を利用しようとしているのか。
どっちにしろろくなことじゃないはずだ」
ぽつり、と呟きつつも首を横にふり、吐き捨てるようにいうロイド。
「?その、クラトスって人と何か、あったの?」
そんなロイドの台詞に対しミトスが何やら問いかけているが。
ロイドはあからさまにぎゅっと手をにぎりしめ、空をきっと睨みつける。
「クラトスさん…悪い人じゃない、と私はおもう」
「コレットまで何をいってるのさ。クラトスは敵なんだよ?
そもそも、あいつ自分が名乗ったんだよ?
クルシスの四大天使だって。ユグドラシルってやつに仕えている天使だって」
「でも…クラトスさん、シルヴァラントで私たちを助けてくれたよ?ものすごく」
「それは、コレット。お前をマーテルの器にするためだけ、だろ」
吐き捨てるようなロイドの台詞。
「敵なら敵らしく…あいつは、何で、あのとき……」
あのとき、飛竜の巣、とよばれていた地でのことを思い出し、ロイドがぎゅっと目をつぶる。
なぜ、あのとき。
クラトスは自分をかばったのか。
いまだにロイドはその答えがみえてこない。
「でも。たしかにクラトスさんの行動はわからないよね。
コレットが浚われたときも、ロディルはクルシスとは別行動。
とかわざわざ私たちにおしえにまできて。
…あ、もしかして、アルテスタさんのいってたクルシスの追手って……」
「…おそらく、クラトス、なのでしょうね。
だからクラトスは、コレットが連れていかれてすぐに私たちのところにたどり着いたのだわ。
…アルテスタのところにいた、のですもの。
クヴァルの独断行動と彼がいっていたのが事実だとして。
なぜそれを私たちに伝えたのか、それはわからないけどもね」
マルタが思いだしたようにいえば、リフィルもまた同意したようにうなづきつつもいってくる。
事実、あのとき、クラトスはアルテスタのところにいた。
飛竜の飛ぶ音と、声がきこえ、外にでてコレットが連れてゆかれるのを
より強化した視力にて確認していた。
「おぼろげな記憶の中で、あの人。魔導砲の制御に私を使う、とか何とかいっていたんですけど」
「魔導砲?それって古代戦争で遣われた、という兵器のトールハンマーのこと?」
コレットの言葉にミトスが少し首をかしげつつも問いかける。
ミトスの元にもその報告は上がっていたはずである。
ロディルが魔導砲を開発している、ということは。
それに関してはラタトスクもまた、彗星に意識を同調し確認したとき、
彼がそのように話しているのを聞いているがゆえに確認済み。
「前にハイマで助けたピエトロも魔導砲のことをいっていたわね。
古代兵器…ね。あのとき、クラトスもたしか、トールハンマーと……」
そもそも、あれを使われれば地上がそれでなくても少ないマナの状態でどうなるか。
わかっていてもなお放置していたミトスの心がいまだにラタトスクにはわからない。
本当に地上などどうなってもいい、とおもっているのか。
――最悪、精霊の楔が全て失われたとしても、二つの世界が分離して虚空にきえてゆくだけのこと。
大いなる実りはエターナルソードと救いの塔によって、デリス・カーラーンの引力圏に残る。
大いなる実りさえ失わなければ姉上の再生も可能だ。
むしろ忌むべき人間どもがすむべき場所を失うとあらば笑いがこみあげてくる
我らにはデリス・カーラーンという全ての命の源である星があるしな
あのとき、あの場にてプロネーマとかいう女性にいっていたあの台詞。
あれがミトスの本心でない、と信じたい。
もしもミトスがそのような決定を本当にしようとするのならば。
自らの手でミトスに罰を…それこそ彼ら曰くの裁きを与えることとなってしまう。
自分がこの地において初めて加護をあたえし存在に自らが手を下す。
確かに幾度かこれまでも世界でもそういうことはあったにしろ。
それらは当人、ではなく大体はそのものの子孫であったりしたりした。
加護をあたえた当事者が、というのはほとんどといって皆無であったにも等しい。
それをミトスが実行すること。
つまりは、精霊達を…自分との約束すら違えるということを意味している。
あのときは、目覚めた時にはすでにミトスの魂は新たな大樹の命となっていた。
ロイド達の行動が今とさほどかわっていない、とするならば。
ミトスにとどめをさしたのは、ロイド達、なのだろうか。
それとも、ミトスは己の行いを悔いて…いや、それはないか。
すくなくとも、あの子は、目の前のミトスにもいえることだが。
彼が自ら命を絶つようなことをする、というのはどうしても想像がつかない。
最後まであがく。
それがラタトスクがもっているミトスのイメージ。
また、ミトスもそのように行動していた。
いくらその考えが堕ちかけていようとも、根本的な所まではかわっていないはずである。
「古代兵器のこととかなら、王立研究院でも研究していたはずだよ」
しいながふと思い出したようにいってくるが。
そういえば、とおもう。
「そういえば。リフィルさん、サイバックにむかってみたほうがいいとかいってましたよね」
「あ。そういえば。さっき、先生、ローザさんってひとからお金預かってましたよね?
あのお金も渡しにいかないと」
エミルがそういえば、コレットが思いだしたようにいってくる。
先ほど、エレメンタルレール乗り場につづく橋の上で、
ローザという女性から、ヨシュアという人物に渡してほしい、と預かっているお金。
「…そうね。いつまでもヒトのお金を、しかも大金を預かっておくのも問題だものね。
なら、次の目的地はサイバック、でいいかしら?フラノールはその後、ね」
そんな彼らの会話をきいていた、のであろう。
「それでしたら。今日はもう遅くなります。皆さまはこの街でお休みください。
ホテルの部屋をご用意いたします。
あと、時間をつぶすのに必要であるかもしれませんので、
遊園地のフリーパスとカジノへの入室フリーパスを後ほどホテルの部屋のほうへ届けさせましょう
…私の罪がそれでつぐなわれる、とはおもいません。ですが、これくらいはさせてください」
「・・・・・・・・・・・・」
ジョルジュに頭を下げられ、プレセアはそっと視線をそらす。
彼に対し、どう反応していいのか、プレセアはわからない。
妹をだまし、ヴァーリに売り飛ばした、という目の前の男性。
しかも、妹を連れだした言葉というのが家族があいにきている。
という何とも卑劣なる言葉だった、と彼は先ほどいっていた。
リーガルが涙ながらにアリシアに攻撃をする光景を脳裏に浮かんだ光景にて目の当たりにした。
もしも、自分がああいう場面に遭遇したとするならば。
自分はどうしているだろう、ともブレセアは思わずにはいられなかった。
ロイドがいっていた台詞もまた、プレセアの中でくすぶっている。
異形と化した母さんを父さんがとどめをさした。
確かにさきほどロイドはそういった、のだから。
身分の差。
それは明かであったであろうに、公爵の地位をもつものと恋におちた、というアリシア。
おそらく、そこから全てが狂ってしまった、のであろう。
もっとも、先ほどのアリシアの様子からしてそれを悔いている様子はまったくみられなかったが。
ジョルジュのそんな台詞にプレセアの変わりにぱっと反応し、
「本当ですか!?あの素敵な大きな場所にとまれるの!?」
マルタが目をきらきらさせながらジョルジュに問いかける。
…どうやら一度は泊まってみたかった、らしい。
「…ホテル、レザレノ…か」
思いだすのは、あのとき、あのホテルで目覚めたあのとき。
いまだ記憶が完全に戻っていない状態で、ラタトスクであることを知ったあのとき。
マルタの額につけられているコアが偽物だ、とテネブラエから聞かされたあのときの衝撃。
あのときのことをエミルは忘れてるわけではない。
もっとも、あのときのマルタと今のこの時代のマルタ。
同じマルタではあれど、あのときのマルタは今の時間からして二年後のマルタ。
あのときと同じにはさせない。
絶対に。
ソルムのコアによる狂ってしまったブルート。
ソルムのコアの幻術によってロイドに変装したデクスが行った数々のこと。
それらは二度と起こさせない、とエミルは強く決めている。
だからこそ、かの方法。
ミトス達に地上におりさせて、世界を監視させる方法をとらせよう。
…精霊達を裏切り、オリジンを問答無用に封印した罪の償いとして。
そのようにすでに自分の中で決めて、それをまたセンチュリオン達にも伝えている、のだから。
なぜか八柱全員に甘い、とはいわれはしたのだが、
エミル…否、ラタトスクはこの考えを変えるつもりは今のところは、ない。
だからこそ、ミトスの今の嘘偽らざる本心が知りたい、というのもある。
――あのときのように、本当に世界を頑張って自分達の力で変えていく意思があるのか否か。
その旨をも含め。
「でもさ。せっかく海があるんだから、遊びたいよな」
「ロイド。そういう場合ではないでしょう?」
ロイドがぽろり、と何やらそんなことをいってくる。
「だって。先生、気分転換も必要、っていつも先生いってるだろ?」
「それとこれとは別です」
リフィルからしてみれば、海で遊ぶ、というなど言語道断といってよい。
「海。といえばやっぱりスイカ割りとかだろうね」
「でもあれ、スイカを綺麗にわらないと、食べにくい、ともいうよね」
しいなの台詞にふとエミルが苦笑しながら思わずしいなに対し突っ込みをいれる。
思いだすは、かつての世界においてギルドのメンバーと共に行ったスイカ割り。
一人がおもいっきり原型をとどめなく壊してしまい、後に続くものに続かない。
なら、自分がかわりになりましょう、といってなぜかテネブラエが申し出て。
ことごとくとあるメンバーが棒を振り下ろすたびに、体を変形させ、
コントロールがなってませんね。とテネブラエがからかいまくっていた記憶。
なぜかふとその記憶を思い出してしまい苦笑せざるを得ないエミル。
ちなみに、自分のときにもそれをやってきたので、
ちょっぴりお仕置きをかねて力を加えて振り下ろし、
テネブラエがなぜか抗議の涙目になっていたのもまたいい思い出。
それをみて、アクアなどがからからと笑っていて、
二人の追いかけゴッコが浜辺で始まったりしたりした、というオチもありはしたが。
どうもミトスと接しているからなのか、かつての記憶。
この惑星に降り立つよりも前の記憶がふと思い出されることが最近多いような気がする。
過去は過去でしかない、とわかっているのだが。
それでも思いだせる、ということは忘れていない、という証拠でもある。
自らの内にはこれまで生み出せし世界すべての記憶が抱擁されている。
それこそそこに生きていたもの、全ての。
認識しようとおもえばできるが、常にそこまではしていない。
その記憶を元にし、常にいつもは種子を創りだし、惑星を産みだしてゆく。
それが、命ある世界…世界樹を元とした世界の成り立ち。
記憶の因子がどこまで現れるかは、その世界次第。
今、この段階でも他の世界も多々と生み出され、また時を紡いでいる。
それらの世界に自分自身、すなわち意識をあえて遮断している状態の分身体もいれば、
そうでないものもいる。
自分はどちらかといえば前者。
この宇宙には、【自分】というものがすでにかなりの確率で増えているのもまた事実。
いずれは始まりの姿…すなわち、精霊ラタトスクとしてヒトツになる必要性もあるであろう。
それこそ、始まりの時。
何もなかった空間に自らが世界を…惑星を産みだしたあのとき、のように。
いつまでも自分が直接手助けしているがゆえに、ヒトは同じようなことを繰り返すのかもしれない。
そんな思いがあるのも事実なれど。
しかし、自分が手を下さなくてもヒトはおそらく同じような過ちを繰り返す、のであろう。
それこそ、自らの首を…自らが生きる大地を穢し、消滅させてしまうほどに。
あのときの、理をかえた今はすでに新たな惑星として再生しているかの場所のように。
それは少しばかり力が満ちたとき、かつていた時間軸に意識をむけて確認した事実。
pixv投稿日:2014年2月8日某日(Hp編集:2018年4月22日(日)
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あとがきもどき:
~どうでもいい裏設定~
~アリシア(提案&雑談&独り言)によってリーガルが行った会社の真部門等~
冠婚葬祭用の部署(積立&葬式&結婚式までセット価格あり)
保険部門(部署に応じ、無制限保障を謳った保険部門。
不足の事故などにおいてもしっかりと保障がされている)
(いつ、人間って父さんみたいにどうなるかわからないんですよね。
母さんも病気だったし、というアリシアの意見で、自分の家以外に預ける
積立みたいなものがあれば(家でのへそくりはどうしても使ってしまうから)
あのとき、お金に困ることとかなかったのに、という意見のもと設立)
通販部署(占い、家庭用品、その他に関する様々な通販をネコニンギルドと提携)
(家にいつつも、出かけることなく品物を手にいれることができる仕組みの確定)
グランテセアラブリッジの建設
(大陸同士の繋ぎがあれば、海があれているときとかでも、
きにすることなく、また病気のひとたちもはやく首都のお医者にみせられる、
という意見のもと、アリシアの橋をもちあげれば?という意見のもと計画&建設)
フラノールの雪まつり
(子供のころ、お姉ちゃんが雪うさぎとかつくってくれたのうれしかったな。
そんな楽しい思いを皆にしてほしいな、巨大な雪だまるとかつくりたかったな
といったところ、ならそれを祭りにしよう、と計画をあげる)
手紙&運送配達
(肉球ってきもちいいですよね。いつもぷにぷにいつまでもさわっていたいような。
肉球仲間でもあったがゆえに、そんな会話がなされていた二人。
配達とか手紙とか、そういうのに肉球とかついてたら素敵なのに、
アリシアのぽそっとした意見によって、伝票などが改善&会社名変更)
遊園地
(常にはいるたびに入場料をとってたら、こんでるときとか大変だから、
人にあわせてチケットみたいなのをうったらどうかな?
それだと、フリーパスみたいな感じで簡単にはいれるし。
ふとアリシアがおもいついていったことをリーガルが即会議にかけて可決)
商品開発
(庶民の感覚から、こんなのがあったら楽、という様々な道具を開発。
絵が上手であったアリシアのイラストによって実現した品々多数)
生活応援フェア
(いうまでもなく。庶民などからこんなのがあったら楽。
というのをイラスト、もしくは文字、できるひとならば試作品。
それらを収容し、定期的に様々な場所でコーナーをつくり、反応をみて、
いちばん売上のよかったものベスト10を商品化にするという企画)
(私でもこんな意見があるんだから他の人もいろんな意見があるとおもいますよ。
リーガル様も視野をひろげるのにいいかもしれませんね。という意見のもと実行)
託児所の設立
(働こうとおもう女性もかなりいるとおもうんですけど、でも小さい子供とかいたら、どうしても。
あとこのご時世、女一人で子供を育ててるしたりする人が安心して働ける場所があれば
父も危険な樵なんてせずに私たちを育てられたとおもうんですよね。
という世間話からリーガルが会議で提案して決議)
飛行機の開発(いまだに開発中)
(こんな空をとぶ乗り物があれば楽ですよね。という意見のもと、
イラストがあったがゆえにそれを技術者達とともに四苦八苦中。開発中
安全面における安全性がなかなか確立されないので実現にまでは至っていない)
主たる部署や新しい取り組みだけでもこれだけあります
細かなことをあげればきりがない、というv
社員における待遇の改善などもアリシア意見してたりします
(社員はそれをしらずにリーガルの功績とおもってる)
…ジョルジュさん、アリシアを排除するのではなく、
これらの功績かんがえても、どうみても経営アドバイザーとかそんな辺りで、
彼女を取り込んでいたほうが、会社の為になったのでは?
そんな裏設定になってますv
まあ、この裏設定のぼやきはエミルにいわせていますけどw
ちなみに、この八年間で会社が大きくなってきてるのは、
アリシアの提案したこれらの部署がかなり大成功をおさめているからです
つまり、アリシアによって会社の基礎が大きく修繕されたといってもよいという
リーガルもゆえに、すぐに結婚、というのではなく。
じぶんつきのメイド、ではなく、そのような役職をはじめにあたえ、
周囲から外堀を彼女なくして会社はなりたたない、という認識にしてしまっていれば、
悲劇は防げた、という裏設定になってます。
リーガルがあせって先に結婚しようとしたのは、
アリシアに心よせている人がけっこういたのをしってたからv
もっとも、彼女さえいれば身分などどうでもいい。
とおもっていたのもまた事実でもありますけどね。
でもおそらく、リーガルの人柄から、完全に社員全てを身捨てる、ということはできなかったでしょうし、
強制的にジョルジュにアリシアが引き渡されていなければ、アリシアもまたそんなリーガルの支えとなり、
いずれは国すらもみとめ結婚、という形になっていた、という裏設定。
IF、でしかいないですけどね
身分にとらわれ、目先でしかかんがえなかったジョルジュの考えがあった時点で
つまるところ、この話しでのアリシアは、経営に関してはかなり頭が働く子供であった。
という設定になっています
~~~
さて。アリシアの年齢。
プレセアと三歳違いだとするならば、プレセアの実年齢。
28からマイナス16年。そこからさらに三年。
ゆえに奉公にアリシアがでたのは、九歳のころ、としてあります。
ちなみに、リーガルとは八歳違いらしいですよ(公式発表)
でも、プレセアとアリシアの年齢差…公式発表なされてないんですよね…
なので、こちらは三歳差にしてあります。
幼い妹を養わないと、とおもっていた辺りも含めて九歳の子に言い含められる十六歳…w
さすがに恋愛感情になってきたのは、アリシアが女性らしくなってきたころ、にしてあります。
恋人同士に近い雰囲気になってたのは、十四歳のあたりです。
正式に恋人にちかくなったのは十五。
完全につきあいはじめたのが十六。
つまり、付き合いはじめてすぐにリーガルさん、行動にでようとしたという。
…ジョルジュはまあ、それまでならばいい影響をあたえているっぽいので、
普通の付き合いならば立場上認めていたのですが、正式に結婚、となると。
というので馬鹿なことをおもいついて実行していたりするのです。
その結果がまあ、あれでしたけども。
さて、彼らの八歳違い、という年齢差ですが。
22歳と14歳。まあ、あり、といえばありでしょうね。
普通の友達より、もっと仲のいい友達感覚。親友感覚あたりですし。
その時の彼らの裏設定的には。(つまり互いに想いを自覚してない)
某星を主体にした物語もなぜかアニメでは原作高校生から大学生、に変更されてましたしね。
そういえば、あらたにリメイクされるあのあたりの年齢の誤差。
きちんとなおしてくれるのかなぁ?うむむ…
そもそも、レディの守護神戦士の彼女らが以前のアニメではでなかった…
さてさて、ロイドの回想。
自分の母親の死因をしったのはアスカード牧場にてになってます
…どうでもいいかもしれませんが、自分でもどこに載せたかわからなくなってた(え?)
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