まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

pivixさんに投稿していた話の区切りとは変えてあります。容量的に……

今回、地震、津波といった表現が出てきます。
それらを御了解ください。(投稿話数的には51の続きです)
そういえば、シンフォニアのあの時間帯…
あれだけ地震おきまくってたのに(楔ぬくたびに)
なんで津波とかおこらなかったんですかねぇ。謎。
いや、大樹暴走時にはおこって、パルマコスタは水没してたりしましたけどね?
…あれだけ巨大な地震おこりまくってたら、津波とかおこってもおかしくないのでは…

一応。
注意です。王家とのやり取りですでに展開ネタバレに近いものを
さらり、とリフィル&ゼロスコンビが国王に進言しています。
打ち合わせしてなくても、あの二人って絶対それくらいのことはできる。
と私は思う…いや、ゼロスは魑魅魍魎(まて)の大人たちの中で、
神子、として生活していたわけだし?リフィルは冷静沈着を常に念頭におき、
弟ジーニアスと生きていくことに必死だったわけだし?
え?ケイト?でてきますよ?
だってそうじゃなきゃ、ファンダムででてきたケイトのイベント(まて)が組み入れられないじゃないですか。

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重なり合う協奏曲~不安の高まり~

すでに夜明けが近い、とはいえまだ外は真っ暗闇といってもよい。
かろうじて、雲の切れはしから空にみえる夜空がみえる程度。
いつもの夜より暗く感じるは、おそらくこの飛竜の巣を取り囲む、分厚い雲の影響か。
そもそも、足元すらおぼつかないゆえに灯りをつけようとランタンを取り出した。
が、ランタンもまたすぐさまに砂と化してしまい、灯りがまったくない状態。
ふわふわふわり。
ロイド達の目の前をぼんやりとした光りにつつまれたような透けている人型のそれら。
それらはたしか、先ほどエミルの背後から出てきたナニかである。
というのはわかる。
わかるが。
「…ねえ。エミル。さっきもきこうとしたんだけど、彼ら…何なの?」
聞きたくない。
聞けば取り返しがつかない。
けども、聞かなければ先にすすめない。
恐る恐る問いかけるマルタの台詞に。
「え?パルマコスタ付近にただよってた人達の魂。なんか死にきれないって浮遊してたからね」
ゆえにテネブラエに命じて一応保護という形をとってはいた。
彼らはディザイアン達にとてつもない怒りをもっており、
このまま配下の魔物として再生させてもよし、またそのままその魂を浄化させ、
あらたな生として転生させてもよし。
「魂って…幽霊!?」
悲鳴にもちかいマルタの台詞。
ぼんやりと彼らの体がほのかにひかっているがゆえに、かろうじて周囲がみえる程度。
たしかに、マルタもよく知っている義勇兵の格好の人々だ、とおもう。
中にはマルタが見知ったような顔もあるような気がしなくもない。
彼らは全て生気が抜けたような表情をしており…といっても事実死んでいるのだが。
彼らには今、実体がない。
完全に精神体、としてそこにいる。
「魂…アストラル体、か。しかし、エミル、お前はなぜ」
恐怖よりもその研究心のほうが勝ったらしく、口調がかわっているリフィル。
「なんか、好き勝手するディザイアン達にこのまま殺されたんじゃ死にきれない。
  とかいってあのあたり、ものすごい数の彼らが浮遊してましたよ?」
これは嘘ではない。
もっとも、ディザイアン達につかまって、精霊石の内部に閉じ込められる結果となった魂達。
それらもまたあの施設から微精霊達を解放したときに解き放っている。
「…エミルって…視える、ひと?」
そういった魂などをみれるものがいる、という。
たしか、シャーマンとか何とかママがいってたような。
マルタが恐る恐るといかけるが。
「その気になれば誰でもみようとおもえばみえるとおもうけど」
「いや、絶対にむりだろ。それ」
思わずロイドがそんなエミルにと突っ込みをいれる。
周囲は真っ暗。
にもかかわらず、どうにか足元を救われずあるける。
それはありがたい、たいが。
「…もう、僕、どこから突っ込みしたらいいのかわからないよ…うわ。
  …このあたりももう全部砂地だよ……」
崩れ落ちた天井部分から外にでて歩くことしばし。
暗くて先がみえないが、さらに真っ暗な方角。
エミル曰く、そっちにレアバードがある、とのこと。
コレットもまたうん、あっちのほうにみえるね、と同意をしめしていたのだが。
しかし、なぜだろう。
さきほどからコレットは何となく自分の体が重く感じていたりする。
それは、カビの影響がすでに無機物化しかけているコレットの体に影響を与えているから、なのであるが。
そのことにコレットは気付かない。
そんな会話をしている最中。
バチバチバチイッ。
突如としてどこからか、雷が大地めがけて降り注ぐ。
それにより、薄紫の光りが大地を暗闇から照らし出す。
その一瞬の灯りはこのあたり全体を一瞬にしろ照らし出す。
「もう少しいけば、砂地はおわるみたいだな。
  足場が普通の大地になれば、フォトンを唱え、我らの体についているであろう、
  カビの胞子を死滅させ、それからここから脱出すべきだろう。しいな」
「な、なんだい?」
いきなりリフィルに話しをふられ、思わず戸惑いぎみにうわずった声をだす。
目の前のすけている人影はエミル曰く、精神体、つまりは幽霊。
幽霊、という存在は信じてはいたがこうしてくっきりとみたのは初めてといってもよい。
どうやら危害を加えられるどころか、こちらの味方、であることは間違いなさそうなのだが。
そもそも、こんなのをパルマコスタ付近でみつけた、といえエミルのいい分にも気にかかる。
「でもエミル?この幽霊さんたち、なんでつれてきたの?」
それは素朴なるコレットの疑問。
翼をだし、ふわふわと飛んで移動しているので直接砂には触れていない。
体がきのせいか重く感じる以上、
移動するのにロイド達のまた足手まといになってはとおもい、翼をだしているらしいが。
「それは私が説明しましょう」
「あ、テネブちゃん」
「ですから、テネブラエ!です。まったく。そもそも、彼らはパルマコスタ付近の、人間牧場?ですか?
  そのように呼ばれていたあたりに浮遊していた魂達なのですよ。
  彼らは捕らえられていた人々を助けることもできず、
  ディザイアンにいともたやすくまるで待ち伏せされたかのごとく殺されてしまい、
  大切な人達を助けられなかった、ということをかなり悔いていたようで。
  その思いが心残りになり、あのあたりに浮遊していたのですよ」
それはドアがディザイアン達にその情報を流していたがゆえ。
パルマコスタのドアが率いる義勇兵、とはいわばおもてむき。
真実は、ディザイアン達にむけた生贄、といってもよいものであった。
もっとも、駆り出されたり、もしくは自ら志願したものたちはそんなことはしるよしもなかったが。
「シルヴァラントの神子コレットがディザイアンに浚われた。
  そう彼らにいったところ、自分達が今度こそ助けだしてみせる。といいましてね。
  なら、ちょうど戦力となる手助けも数があっても問題ないので、
  こうして彼らに手伝ってもらっているのですよ」
「まあ、コレットが無事にここから逃げおおせたら、彼らの心残りも浄化されるだろうしね」
彼らにとって神子、とは救いの象徴。
その神子を自分達の力だけではない、とはいえ救える手助けになった。
そう思えることは、ディザイアン達をどうにかしたい。
と強く思う心残りゆえにこの世にとどまっていた存在達。
心残りが浄化されれば、彼らは世界に溶け込み、
その魂はやがてめぐりめぐって、またあらたに転生を果たす。
魂を管理するような界はいまだこの世界ではつくっていない。
そういった界もつくったほうがいいのかもしれないが。
しかし、と思う。
そのようにした結果、ラグナログの手前のヒトの世にて、
かの地にオーディーン達がちょっかいをしかけてきた、という事実もある以上、
そう簡単にかつて自分が行ったようにする、というのは考えるべきであろう。
今、ヒトが死したとき、その魂は大気中にとけいるように同化し、
その意識はまじりあい、そしてまっさらな状態となりまた新たな生をむかえる。
そのような仕組みに今現在はなっている。
もっとも、そんな器をもたない魂そのものは、魔族達にとってまた獲物であり、
彼らは虎視眈々と自分達の戦力を増やそうと欲に囚われやすい人の魂を狙っている。
事実、その欲望ゆえにヒトから魔族にいまだになりかわるヒトも少なくはない。
かつて、大樹カーラーンが地上にあったときにはそういったものは防げていたのだが。
まあざっとみたかぎり、あらたな魔族にされたものは今のところはいない、らしいが。
それに近い、契約したものは数名、確認できているにしろ。
砂に埋もれたロディルだが、仮初めの契約をしている以上、まちがいなく死にはしない。
あれを泳がせ、あのデミアンもろとも消滅させたほうが手っとり早いであろう。
そんなことを思いつつも、そこまで詳しいことはいわず、さらりといっているエミル。
「そういえば、ドアとかいう人間がどうなったかとかも彼らはきいてきましたけど。
  そもそも、死してもなお、信じているその心が私からしてみれば不思議でたまりませんけどね」
あの人間のせいで死んだ、というのに。
浮遊していた義勇兵達の魂にはまったくそんな疑念を抱いているものはいなかった。
真実をおしえても信じないものが大多数。
中には信じて、そのままテネブラエの配下の魔物になることを選んだものもいるにしろ。
そう、あのジークのように。
もっとも、あのジークの場合は自分が生み出した技により、
世界に混乱を招いた責任と、そして残された子供達の心配。
それらがあって魔物に変化することを望んだようではあるが。
あくまでもあのとき、エミル…否、ラタトスクはジークに選択肢を与えただけ。
選んだのは、ジーク、というヒトの心、なのだから。
さらっというテネブラエの台詞に、パルマコスタのドアのことを思いだした、のであろう。
ロイド、ジーニアス、コレット、リフィルの顔がくもる。
「?ドア総督がどうかしたの?」
マルタはドアが何をしていたのか知らない。
街のもので真実をしっているものはごくわずか、であろう。
「ドア総督も気のどくだったよね。せっかく奥さんを助けだせたのに、
  総督自身がしんじゃったら、意味がないよ…それにキリアも行方不明のまま、だし」
ドア、という言葉で思いだしたらしく、マルタが顔をふせる。
ドアの一人娘、キリアもあの事件のあと。
正確にいうならば牧場に囚われていた人々が助けだされたというその後、みたものがいない。
「…クララ夫人がいうには、もうキリアちゃんはいないっていってたけど……」
意識を取り戻したクララがいったらしい。
キリアもまた、ディザイアン達に殺された、と。
どうしてそうなったのかまではマルタは知らない。
マルタが知っているのは、ドアが死に、キリアもまた死体はないが死んだ、といわれ、
残ったのはクララ夫人ただ一人だけ、というその事実のみ。
あるいみ事実、ではある。
そこにドアが裏切って街の情報や、あげくは牧場に被験者たるヒトを率先していた。
という事実がマルタが知る真実の中には含まれていないだけ。
マルタの呟きにロイド達もまた再び沈黙せざるを得ない。
あのドアの最後をロイド達はまのあたりにしている。
キリアにばけていたあのものの最後も。
救いといえば、あの異形にかえられていた夫人だけでも、
エミルの力にて元にもどったこと、であろう。
あの場にエミルがいなければ、また罪もない被害者でしかない人をロイドは殺すしかなかったかも。
とどうしても思えてしまう。
あのまま、異形とかしていた彼女をあの場所から解き放ったとして、
彼女が誰かを傷つけたりしない、という保障はなかった。
あのとき、クララ夫人に心が残っていたのかどうかすら、ロイドには判らないのだから。
「…過去を振り返るのはあとにしましょう。どうやらこのあたりには砂はもうないようね」
いつのまにか、設備があった場所を完全に抜けた、らしい。
周囲にみえるは、この浮遊している大陸に生えている木々。
このあたりには人工物らしきものはみあたらない。
もくもくと歩き続けている中でいつのまにか建物…すでにもはや原型すらとどめていない、が。
否、とどめているはいるが、黒くそびえるようにしてあったはずのその建物は、
今は暗くてよくみえないが、びっしりすでにカビにと覆われており、
完全に崩れさるのも時間の問題、といってよい。
そしてもそんな暗闇の中。
上空付近に光の人影が二つ、みてとれるような気がするが。
それはもくもくとたちのぼる砂埃でロイドもしっかりとは認識できない。
砂となり崩れ落ちてゆく過程で周囲には盛大な砂埃が舞っている。
それでなくても月灯りすらない夜の暗闇。
いくら夜明けが近い、といってもまだ空はほんのりと明るくすらなっていない。
そんな中で砂ほこりが舞う、ということは視界がまったくきかなくなるという事。
かろうじてみえているのは先頭をあるく、ヒト型の精神体、
それは口をきくことはないにしろ。
一般にいう幽霊、とよばれしものがほのかに光を放っているがゆえ、
かろうじて周囲だけは見えているのに他ならない。
「皆、一か所にかたまってちょうだい。あと、あなた。
  そのままそこにいたら術にまきこまれて、光だから下手をすれば浄化してしまいかねないのだけど……」
そんなリフィルの言葉をきき、
「んで?リフィル様。いったい何をしようっての?」
ゼロスがその手を頭の後ろにまわしながらも問いかける。
「そういえば、話しが途切れていたわね。しいな。あなたにはヴォルトを召喚してもらうわ。
  私たちについているかもしれないカビをひとまずどうにかしたのち、
  レアバードで一気に雲をつきぬけ、ここから脱出しましょう」
「つまり、きたときのようにってこと?姉さん?」
「たしか、レアバードのところには、レネゲードの人達が残ってなかったですっけ?」
ふとマルタが思いだしたようにそういえば、
「ええ。彼らもコレットを奪還するのが役目といっていたもの。
   彼らだってこのままここにいるわけにはいかないでしょう」
「…そういや、夜明けとともに増援がくるって……」
いつのまにか口調を元にもどし、そういうリフィルにロイドがふと顔をふせつつ思わずつぶやく。
どうしてあのとき、クラトスは自分にこの情報をあたえたのか。
なぜ、あのとき、崩れてきた柱から自分をかばったのか。
本当に、クラトスは敵なのか。
――のけ。傷つけたくはない。
あのとき、救いの塔でクラトスにいわれた言葉もあわさって、
ロイドにはクラトスが何を考えているのかわからない。
敵のはず、なのだろう。
目の前で天使の翼を出し、ユアンに武器をむけたクラトスは。
なのに、敵だ、というのに憎みきれない自分の心にもロイドは今さらながらに気づかされる。
「どこからそんな情報を手にいれたのかは気になるけども。
  そういう情報があるのならば早くしたほうがいいわ。とにかく、まずは自分達の身を清めましょう」
「で、姉さん。清めるって、どうするのさ?」
リフィルの台詞に素朴なる疑問をなげかけるジーニアス。
「あら?私たち全員に、光の術である、フォトンをかけるのよ」
『え゛?』
『な?!』
さらり、といったリフィルの台詞に、ロイド、ジーニアス、マルタの声が重なり、
そしてまた、しいな、リーガル、二人の声が一致する。
「フォトン…ですか?」
プレセアがそんなリフィルの台詞をきき首をかしげるが。
「威力を少なめにすれば、問題ないでしょ?マルタ。あなたは威力調整は?」
「えっと、その、私はあまり術をつかうことがないから、そういうのは……」
そういうのができる、というのは母からきいて知ってはいるが。
マルタはそういうことをしたことがない。
そもそも旅の最中もほとんど父や母が攻撃してくる魔物などを撃退していたので、
マルタ自身が術をつかうようなことはまずなかった。
マルタはどちらかといえば術よりは体を動かすほうが好き。
ゆえにスピナーを手にもち、率先して前衛にでていくタイプといってよい。
「とにかく。時間がないわ。さくっといきましょう。
  フォトンによって私たちについているかもしれないあのカビ?らしきもの。
  それを死滅させてでなければレアバードの近くにもよれないわ。
  近づいて、レアバードまで砂になってしまったら洒落にならないもの」
リフィルの台詞に、
「…たしかに。我が枷すらも砂とかしてしまっているからな……」
自分の戒め、としてずっとつけているつもりだった手枷。
その手枷は今、リーガルの手にははめられていない。
先ほど、砂と成り果て崩れ去った。
じっと自分の手をみていると、あのときの自らの手を思いだす。
愛するものを手にかけ、愛するものの血で汚れた自らの手を。
「まあ、たしかに?俺様達の武器も砂になっちゃってたりするしなぁ」
実際、ゼロスが使っていた短剣もすでに砂と化している。
腰にさしている剣がかろうじて無事なのはゼロスにもわからないが、
エミル達がいうことを信じるのならば、ゼロスの剣の鞘はとある動物の皮でつくられている。
握る部分の柄にもゼロスは持ちやすいように布を巻いており、それらが功を奏している。
そうとしか思えない。
「…たしかに。私の斧ももうありません」
プレセアがもっていた斧もまた、移動途中に砂とかして崩れ落ちた。
この中でいまだ武器をもったままであるのは、エミル、
そしてケンダマが武器であるがゆえに被害を免れているジーニアス。
そして、たまたま動物の皮や布を巻きつけているがゆえに
腰にさしていた剣のみは、被害を免れているゼロス。
そして、武器が杖であるがゆえに被害を免れているリフィル。
ロイド、マルタ、プレセア、コレットがもっていた武器はすでに砂と化している。
リーガルの手につけられていた手枷すら砂になっている以上、
リフィルのいい分もあながち間違っていないように感じてしまうがゆえ、
それぞれ思いのままにづふやくリーガル、ゼロス、プレセア達。
「時間がないわ。さくっといくわよ。さくっと。光りよ、フォトン!」
リフィルの言葉に従い、光の粒子が一気に周囲にて爆発する。
「って、先生、まっ!」
「んにゃぁぁ!?」
「うわ!?姉さん、そんな、いきなりぃぃ!?」
「おお。リフィル様のあいの鞭にかわり、愛の攻撃ってか?」
「あんたは、馬鹿いってんじゃないよっ!って、リフィル、攻撃、これめだつよっ!」
ロイド達がまった、をかけるよりも早く、詠唱は完了し、
直後、収束する光の渦がその場にと発生し、
『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?』
しばし、その場に彼らの悲鳴がコダマしてゆく……


「しかし、不幸中の幸い…というか、しかし、あの子はいったい……」
ユアンからの指示もあり、しかしユアンからこのカビの存在はきいたことがあった。
昔話の過程で。
まさか、とおもいつつも、指示をだし、ウィングパックにレアバードを収容した。
そのほぼ直後、建物らしきほうからジャッジメントの光が降り注ぎ、
そしてまた、その少しあとにフォトンの術では?というような光の帯がある一か所に降り注いだ。
困惑せざるを得ないのは、背後に控えしいくつもの飛竜達。
何でも、一番大きな飛竜。
あのたしか金髪の少年、エミルとなのった子がレアバードから飛び乗った竜。
その竜曰く、頼まれたから、といって、彼らにこの場にいる飛竜達を提供してきた。
人語が話せることにも驚いたが。
どうやらこの巨大な竜は韻竜とよばれし、古代竜の一種、であるらしい。
エンシェントドラゴンの一種、ともいうが。
「被害は?」
ボータからこの場を任されていた責任者が問いかける。
ふと、
「ボータ様!」
いつのまにか空にはジャッジメントの光が降り注いでおり、
それらは無差別というか場所を問わず、周囲に降り注いでおり、
周囲は青白い光につつまれ、かろうじて少し先程度なら見えるようにとなっている。
もっとも、砂埃がたっているのか、完全に視界が良好、というわけではないが。
「あ。きちんとシエルにいわれたとおり、この子達準備してたみたいだね」
ふと、そんな彼らの耳に子供の声がきこえてくる。
よくよくみれば、前方から歩いてくるのは、どこかくたびれた様子のボータを先頭にし、
その背後に一緒にこの場に突入した神子達一行のその仲間達の姿がみてとれるが。
ほとんどのものがくたり、としたような様子なのに対し、
約一名、金髪の子のみがのんびりとそんなことをいっているのがみてとれる。
そして、その視線を空にとむけ、
「――シエル。状態は?」
「――滞りなく」
『って、竜がしゃべったぁぁ!?』
もうどこからどう突っ込んでいいのか、ロイド達にもそんな気力はない。
ないが、いきなり上空…みれば、ここにジャッジメントが降り注がないのは、
どうやらその巨体にてこの付近をあの巨大な飛竜が翼を広げ、
それらの余波を防いでいるらしい様子がみてとれる。
エミルの問いにその場にたたずむ飛竜より人語が発せられ、
驚愕の声を発する、ロイド、ジーニアス、マルタ、しいなの四人。
「人語を話す、だと!?まさか、古代竜か!?」
リフィルはリフィルで別の意味で目を輝かせ始めているが。
「…いや、俺様としては、何でそれにつっこまないんだ?」
「テネブちゃんのこと、なんで誰も何もいわないの?」
一方で、エミルにつき従うようにしているはず、なのに。
それに触れない彼らの様子に疑問を覚え、ぽつり、とつぶやくゼロスに、
これまた首をかしげているコレット。
「?何いってるんだよ。ゼロスもコレットも。さっきのテネなんとかってやつ。きえたじゃないか」
そう。きえた。
ロイド達からしてみればそうとしかおもえない。
ただ、姿をいつものように消しているだけ、なのだが。
その姿は、コレット達のような存在、もしくは世界に繋がりがあるものしか確認できない。
ロイドが視えていないのはどうやらロイドの石の中にて彼を守護している彼女の影響。
それもあるようではあるが。
つまり、今現在、姿を消しているテネブラエの姿を確認できるのは、
この場においてはエミル以外では、ゼロス、そしてコレットのみ。
もしもここに、ユアンやクラトスがいれば、息をのんでいたであろう。
その姿は彼らはかつて、それこそ四千年前にみおぼえのある姿、なのだから。
「うわ~。おっきな竜さんだ~」
コレットがその手を目の前にかざし、シエルを見あげるようにいってくる。
「そう?シエルはまだあまり歳はとってないからね」
自分が眠っている間に生まれた子供なのだ、とキンヌンガ・カップにいる両親からきいている。
彼らの特徴として離れていても意思疎通などができる、ということがいえるだろう。
相手に思い描いた光景を念話として伝えることもできる。
もっともそれは同種族間に限る、という制約はあるものの。
「ボータ様。ご無事で何よりです。シルヴァラントの神子奪還、おめでとうございます」
「ああ。お前達も無事で何よりだ」
そう声をかけるボータはどこか疲れているようにみえなくもないが。
しかし、なぜだろう。
こころなしか、エミル以外の全員が、どこか疲れたような感覚をうけなくもない。
「ずいぶんと、てこずったようですね」
「…ああ、まあな…」
そんなレネゲードの一員の台詞にどこか遠い目をしながらつぶやくボータ。
服がくたびれているのは戦闘が原因ではない。
むしろさきほどリフィルの放ったフォトンによるもののほうが大きい。
カビの胞子一つでものこっては、というので威力を彼女曰く低めにしながらも、
しかし完全に低くしては意味がない。
ならば、殺傷能力がない程度までひきさげればいい。
そんな考えのもと放たれたフォトンは文字通り、一行をその場に足とめした。
文字通り、光の爆発により、その光の重圧に押しつぶされるごとくに。
たしかにあれで体についていたカビ…だったのだろう。
砂のような黄色い何か、はきえさったが。
何というか脱力感が襲ってきたのはいうまでもなく。
ちなみにそんな中でもエミルのみは平気でその場にたっていた、のだが。
ゼロスはかろうじてその場にたちつくし、地面に膝をつけるのはまぬがれたが。
それ以外はことごとく、地面にキスをしたといってよい。
「と。ともかく。このまま作戦を実行する。
  神子を奪還後。すみやかにここを離脱せよ。それが元々の作戦内容だ」
ボータの高らかにものいいに、
「ちょ、ちょっとまてよ。おまえらにも仲間がいるんだろ?なんで……」
とまどったようなロイドの台詞。
「時間がない。クルシスからの増援、それは戦闘部隊である天使部隊も含まれている。
  それに、だ。そこの子が何でもこの竜に頼んだらしく、我らの仲間はここにいる、
  飛竜達が保護してくれる、らしいしな」
ボータにかわり、この場の指揮をとっていた人物がそんなことをいってくる。
彼らもまたカビの影響をうけた、のであろう。
その体に纏っていたはずの鎧、そして兜など、ことごとくなくなっているのはこれいかに。
もともとここにずっといたものはまだ鎧も兜も無事、らしいが。
「そういえばあんたたち、あのカビの影響はどうやって…」
それはしいなの素朴なる疑問。
そんなしいなの声にこたえるように、
「…そこの巨大な竜が我らに熱線をあびせさせてな…死ぬかとおもった…」
『うわ~・・・・』
『・・・・・・・・・・』
その場にいるほぼ全員といってよいレネゲード達が遠い目をしたのをみて、
何となく悟った、のであろう。
ロイド、ジーニアス、マルタ、しいな、ゼロスの声がかさなり、
プレセア、リーガル、リフィルの無言の視線がいたたまれないようにと彼らに向けられる。
「とにかく。いくぞ!撤収準備!」
「まって。レアバードがないけど…」
はっと周囲にレアバードがでていない。
それに気づき、しいながといかければ、
「レアバードは危険だ。この付近にはカビの胞子が砂ほこりとして飛び交っている。
  レアバードで離陸した、カビがとりつき砂とかして墜落した、では洒落にらなんからな」
『よくわかった(よ)(わ)』
その言葉を瞬時に理解し、うなづくようにして同時につぶやくしいなとリフィル。
「?」
一方でよくわからないのか首をかしげているロイド。
実際、今現在、夜明けよりも前にそういった機械類をこの場で使う。
ということは、それらの機械もまたカビ達のご飯になる、ということに他ならない。
つまり、とびだったとおもったと同時、機体がカビに浸食され、
そのまま砂とかして乗っていたものが地上に落とされる、といった形になってしまう。
「じゃあ、シエル。後は手はず通りに」
「――はい。お任せを」
頼られるのは大変に誇らしいこと。
いつも、父母からきいていた、世界を守りし自分達の王のことを。
こうして言葉がかわせられる、というのは大変に誇らしい。
しかも、何かを任せてもらえる、というのはそれは王に認めてもらっている、
という誇りにもつながってくる。
ゆえに、エミルの言葉にきっぱりといいきるシエル。
「シエル?この子の名前、シエルっていうの?」
「うん。いい名前でしょ?」
「うん。エミルがつけたの?」
「つけたのはこの子の両親だよ」
そんなエミルの言葉をきき、ふと疑問におもったのかコレットがといかけ、
そんなコレットににこやかに返事をしているエミル。
「「いや、両親って……」」
ちょっとまて。
ここはテセアラ。
なのになぜ、エミルはテセアラにいる魔物の名をしっているのだ?
その思いはシルヴァラント組、そしてしいなを含めて全員一致する。
前々からエミルには理解不能なところがあるとはおもっていたが。
「ゆくぞ!時間がない!全員、騎乗準備!」
といっても、竜に乗るためのクラなどをつけてもカビの餌食になりかねない。
ゆえに用意してあった、皮製のクラを簡単にその場に待機している飛竜達の背にと紐にてくくりつけている。
「とにかく。行きましょう」
エミルのことはあとで問いただすとして。
といっても、あの子のことだから、いつものように容量がえない返答しかもどってこないでしょうけども。
そんなことを思いつつも、リフィルが全員を促す。
彼らがいうのが事実ならば、いつクルシスから増援がくる、とはかぎらない。
ならばやはくコレットをここから連れ出さなければ、コレットの奪還は難しくなる。
彼らがいう戦闘要員の天使云々、というのがどんなものかはきになるが。
おそらくはロクでもないものであることは明白。
「――エミル様」
ふと、声がして振り向けば、待機していたであろうウェントスの姿。
「な!?白虎!?」
その姿をみて思わずしいなが声をあらげているが。
たしかにウェントスの姿をみて、かつての大陸の民がそのような名をつけたことがある。
たしかに風を司る、という意味では間違いではない、ないのだが。
「おつかれ。ウェントス。いくよ」
そのまま、ひょいっとそのままウェントスの背にとまたがり、ふわり、と浮き上がる。
「――トニトルス。もういい。あとは指示通りに」
「――御意に」
『うわ!?』
それとともに、ゆらり、と周囲の空間がロイド達の目には歪んだかとおもうと、
彼らが次にめにしたのは、大地を取り巻くような巨大な蛇のような何かの姿。
「ってこんどは青竜かい!?」
しいながその姿をみて何やらふたたび声を荒げているが。
指示をうけ、その抱擁を大地からときはなち、淡い光とともにその大きさを変化させ、
いつもの姿。
すなわち、水晶のような球体を抱きかかえるような格好になっている姿にと変化する。
それは蛇が水晶の球をだきこんでどくろをまいているかのごとくの格好ともいえる。
淡く紫色に輝くその姿は、そのままふわり、と空中に浮き上がり、
そして、その直後。
びしゃぁぁぁぁん!!
いくつもの落雷が大地めがけて降り注ぐ。
それはこの地に残っていた残兵達に降り注いでいる、のだが。
そんな事情をロイド達はしるよしもない。
「白虎?青竜?それは…」
リフィルがしいなの声に対し反応し、何か問いかけようとしているが。
「いくぞ!」
いつのまにかボータたちもまた飛竜の背にのっており、ふわり、と上空にと浮かび上がっている。
落雷がところかしこに降り注ぎ、さらには施設そのものが砂と化していっている今現在。
追撃してくるものはいないとはおもうが念には念を。
そのためにエミルがあらかじめ指示をしておいたこと。
「今はここから早く遠ざかるのが先なのでは?リフィルさんとかいいましたよね?」
そんなリフィルの横にふわふわと浮かびつつ、忠告をしているテネブラエ。
「それは、そうだが……」
とまどうリフィルに対し、
「先生!何やってんだよ!」
ふと気付けば、いつのまにかロイド達もまたすでに飛竜の背にと移動しているらしく、
いまだに背にのっていないリフィルに上空から声をかけているのがみてとれる。
しいなとゼロスがともにのり、ジーニアスとプレセア、そしてロイドとコレット。
「リフィル。気持ちはわかるが、今は…詮索はあとからでも十分にできる」
「…え、ええ、そうね。いきましょう。リーガル」
いまだにその場にのこっていたらしいリーガルに促され、リフィルとリーガルもまた、飛竜の背に飛び移る。
「しいなさん、ヴォルトを」
「え?あ、ああ」
全員が飛竜の背にのったのを確認し、エミルがしいなに声をかけるとともに、
しいながどこかとまどったような声をあげつつも、
「威き神が振るう紫電の鎚よ 契約者の名において命ず 出でよ ヴォルト!」
その手にヴォルトを召喚するための符を構えヴォルトを召喚するしいな。
「ヴォルト。あたしたちの周りにきたときのように障壁を」
「が…がぎぎ……」
――よろしいのですか?
ちらり、とその視線がエミルに向けられるが、そんなヴォルトにエミルはこくり、とうなづくのみ。
それをうけ、ヴォルトがその体を肥大し、その場にいる飛竜全てを包み込む。
「一度、里にもどるぞ。…イガグリ殿達に作戦の結果を伝えねばならんからな」
ふときづけば、一緒にきいてたはずのおろちはどうやらボータとともに飛竜にのっているらしく、
無事であったらしい姿に今さらながらしいなはほっとする。
「いくぞ!夜明けまで時間がない!この海域から少しでも遠くに!」
「――ソルム。わかっているな?」
「はい」
今現在、ウェントスの背に横にすわるようにまたがっているエミルの横には、
ふわふわとういているみずほの里いわく竜…ロイド達にはどうみても蛇、にしかみえないが。
そして、なぜだろう。
いつのまにか水晶のような甲羅をもちし亀までがその横にふわふわとういている。
これもまたどうやらエミルの知り合いであることは、その態度から予測がつく、のだが。
「…あの子は、いったい…あれは…何?」
その場にいるエミルの知り合いとおもしき魔物のような何か。
全てが同じようなマナであり、しかし、何というか。
それぞれにマナの感覚が異なっている。
まるで、まるでそう。
エミルが座りし白き虎は、風のマナを凝縮したような…
それこそ、風の精霊シルフよりもより濃い感じをうけ、
エミルがトニトルス、とよんでいる蛇のようなそれからは、
これまたおなじくより濃い雷のマナを感じ取ることができる。
そして、亀のような何か、からは地のマナを。
精霊達以外にそんな属性をもつものがいる、のだろうか。
ふと、リフィルの脳裏に浮かびしは、海賊船【カーラーン】の中でみた、
大樹の精霊ラタトスクに仕えている、という八つの紋章をもちしものたち。
遠目なのでリフィルはそこまで確定しきれないが、
より近くにいけば、彼らのそれぞれにその特徴ある紋章があることがうかがえたであろう。
テネブラエはその瞳の中に、トニトルスはそのもちし球体の中に。
ウェントスはその額に、ソルムは甲羅の中に。
それぞれその特徴ある紋章を抱いている、ということが。


「いった、か」
空を見上げれば飛び立ってゆく飛竜の姿。
おそらく、何らかの形でここにいた飛竜達の協力をとりつけた、のだろう。
「しかし、あの子はいったい……」
魔物に言うことを聞かせられるあの能力。
まさか、とおもう。
魔物は崇高なる生き物。
何人にも滅多と従わない。
従うとすれば、センチュリオン、もしくは大樹の精霊くらい、であろう。
もしくは大樹の精霊に何らかのかかわりがあるもの、か。
「…そういえば、昔、婆様からきかされたことがあるな…まさか、な」
それは、この地にたどり着くよりも以前の惑星でのこと。
――そのときにはね。ユアン。
    大樹の精霊、ラタトスク様は大樹を守るべく、大樹の分身という存在を産みだしては、
    地上に遣わせていたらしいのよ?と。
――その大樹の御使いはここではいないの?
――ラタトスク様が魔界と地上を隔てる扉をつくられてそこを守るようになっているから、どうなのかしらね。
   でも、そういう御方が地上に現れた、というのはきいたことがないから。
   ここではいないのかもしれないわね。
それは、昔の、遠い記憶のかなたの、幼い日の記憶。
ユアンがふと過去に思いをはせていると、
「…結局、全ての設備が砂と化した…な」
というよりは、彼らが手にしていた武器などもことごとく砂と化した。
翼を展開し、直接の被害を免れたはずの自分達でもそう、なのだから。
この場にあった品々がどうなったのかはおしてしるべし。
「さて。クラトス。とりあえず、砂に生き埋めになったものたちを救助するぞ」
「…お前は、大丈夫なのか?」
すでにユアンの顔を覆っていた兜は存在しない。
「問題ない。そもそも、私は夜明けよりも前にここにくる予定、であったのだからな」
その言葉に嘘はない。
それこそ、テセアラの管制官としてコレットの引き渡しを見届けるために。
そして、不足の事態に備え、レネゲードのものたちにもこういいきかせてある。
ディザイアンのふりをしろ、と。
いちいち彼らが仲間の顔などを把握していないのは承知済み。
ならばこの状況は仲間達にも有利に働くといってよい。
「――あのとき、爆発さえおきなければ、お前の息子の命をたてに。
  お前にオリジンの解放を促すつもりだった、のだがな」
それをいうまえに、あの爆発はおきた。
「――アダマンタイトは作成した。しかし、あとそれに伴う火力。
  神木などが必要となる。それ以外にも必要な品もある」
「…本気、なのか?」
「お前とてわかっていよう。我らはオリジンを一度、裏切った。
  私がオリジンの解放をしたところで、彼は二度と我らとは契約をむすぶまい。
  ――それどころか、大地が滅びるのを許容するかもしれん」
彼ら精霊がどう判断するのか、それはクラトスにはわからない。
しかし、ともおもう。
「…あの子については、私も不思議、でしかない…がな。
  予測として、ラタトスクの関係者なのでは、という認識はしている。
  精霊達とも知り合いのような言動をしていたし、不自然なことが多すぎる」
だとすれば。
「…時間は、残されていない、ということか。
  クラトス。お前にとうが、ラタトスクは目覚めている、とおもうか?」
「…いるとすれば、我らが裏切っていることにきづいているだろう。
  かつて、彼がいっていたという地上の浄化がとっくに行われているのではないのか?」
「……そう、だな」
愚かな争いを繰り返す地上のヒトに制裁を。
彼が直接、手だしをしなかったのは人々に好きにやらせ、最後には地上を海で浄化する。
そのつもりであった、とミトスから聞かされた。
それをミトスが延々と説得し、何とか自分達の意見を通せた、とも。
すでに、飛び上がっていったロイド達の姿はみえない。
「――ロイド。お前は、間違うな、よ」
「そういう、お前は、息子に親殺しの罪をなすりつけるつもり、か?」
「……我らは罪を犯しすぎた。そうだろう?」
「……あやつにせさるくらいならば、仲間として私がお前に最後の引導を渡す。
  マーテルが私が協力し、お前の息子に親殺しをさせた、としれば、
  あの世にいってから、あいつにこっぴどく怒られてしまうからな」
「ふっ。どちらにしろ…私は、オリジンを解放すれば命はない。
  …そのときは、後をたのむぞ。ユアン。そのときにはミトスもおそらくは…」
「刺し違えてもミトスを、か」
「…もしくは、ロイド達にミトスを……」
「…我らが本当はしなければならないことをあのものたちに託す、か」
「――まずは、今すべきことを。ユアン。
  きさまのいうように生き埋めになっているものを救出していこう。…ロディルは最後でいいな」
「もちろんだ」
そんな会話をしつつも、二人して、そのまま薄く明るくなりはじめた空の下。
砂に埋もれた人々を救出するために、再びそちらにとむかってゆく。
すでに夜はあけ始めており、夜明けは…近い。


「では。な。何かれあばまた連絡するようになるだろう」
その声とともに、庭先においてあるレアバードにて、レネゲード達が飛び立ってゆく。
昨夜の騒動が嘘のよう。
ロイド達はかなり疲れていた、のであろう。
帰って、風呂にタイガの指示で案内されたのち、
まるで倒れるようにと眠りについた。
ここは、みずほの里。
飛竜の巣から飛竜によってこの場に戻ってきた彼ら達。
なぜか飛竜でこの地にもどってきた、というのにあまり驚かれなかったのは、
すでにエミルがそのことをあらかじめイガグリやタイガにいっていたからに他ならない。
帰りはおそらく、飛竜で飛行してくるようになるとおもいます、と。
その言葉通りであったので、タイガ達は動じない。
そもそも、タイガはイガグリより、雷の神殿でエミルに助けられたことを伝えられている。
そして、みずほの里が…否、一族が古より四神、とあがめし存在。
それに近しい存在とともにいる彼をどうして普通のヒトだ、とおもえようか。
「さてと。とりあえず、コレットを救出できましたし。これからリフィルさん達はどうするんですか?」
それは問いかけ。
何やらいろいろときいてきた…特にセンチュリオン達に対して。
まあなぜか、彼らがエイトリオン何たら、といいだして、ポーズをきめ思わず怒鳴ってしまい、
彼らに懇々と説教をしていたのがつい先ほどまで。
なぜかその説教の様子をみて詳しく聞くことをリフィル達はためらっているらしいが、
ゼロスなどは彼らに憐れみの視線を送っていたりする。
ロイドとジーニアス、マルタが崩れるように眠りについている中で、
今この場でおきているのは、リフィルにゼロス、そしてしいな。
リーガルにプレセア。
コレットは疲れているだろうから、というのでリフィルが説得して布団にと横たえている。
念のためにエミルがいれたラベンダーティーを飲ませているので
今ごろはぐっすりと眠っていることであろう。
ちなみになぜか、彼らは具現化というか姿を完全に保つことすらままらなくなっており、
多少姿をすけさせて、くったりとしていたがゆえ、
エミルがいつものように自らの内にと招き入れているのだが。
まあ、コアに戻るほどのダメージは与えていないのでまったくもって問題なない。
とエミルからしてみればその程度のことでしかない。
「精霊達の言葉を信じるのならば、まずはしいなに契約を全てしてもらい、
  精霊の楔?だったかしら。それを解除してもらうのが早いわね」
エミルの問いかけに少し考えつつしいなに視線をむけてそういうリフィル。
ちなみに、今彼らがいるのは、レネゲード達が飛び立った、庭の中。
先ほどまであれほどいたレアバードの機体はすでにそこには一機もない。
「その意見には賛成ですけど。けど、こっちだけで勝手にやってもいいんですかね?」
「?どういうことだい?エミル?」
任務上、数日くらいは寝なくても平気というか気がたかぶって寝られない。
というしいなもまたこの場にはおり、エミルの問いかけにしいなが首をかしげて問いかけてくる。
「一応、ここにはクニ、というものがあるんだったら。話しを通したほうがいいんじゃないか。
  そうおもいまして。あと、シルヴァラント側にも、ですか?」
そもそも、あのとき。
シルヴァラントとテセアラの間でまたかつてのようにいがみ合いになった原因となったもの。
それはまちがいなく彼らが勝手に世界を統合
…しかもマルタ曰く、きづいたら世界が一つになっていた云々、といっていたことを考えれば、
まちがいなく、まったくもって話しを通すことすらなく、彼らだけで行動していたのであろう。
その結果、互いの文明の差があまりにも明白で、テセアラの人々はシルヴァラント人を蔑んだ。
自分達よりも価値の低いもの、すなわち全てにおいて自分達より劣っている存在、として。
何の事前情報もなかった彼らは翻弄されるしかなかった、であろう。
特にまとめるような組織すらなかったシルヴァラント側からしてみれば。
だからこそ、あのようなヴァンガード、というような組織を発足したのだろうが。
「たしかに、一理あるかもしれないね。話しを通す…か」
「そうね。私たちの最終目的。それは、世界を元通りにすること、なのだもの」
しいながつぶやき、リフィルもまたその場にて考え込み始める。
「王家には神子様の申し添えで問題ないのでは?」
そんな二人をみて、口をだしてくるイガグリに対し、
「まあ、やりようによるけどな。おし。さっきのユアンとかいうやつがいってたこと。
  あれを利用させてもらうとするか」
あれ、とは世界の存続が危うい云々、といった台詞。
「というわけで。リフィル様ぁ。陛下をだまくらかす相談を二人っきりで…」
「この、あほみこぉぉ!あんたをリフィルと二人なんかにさせれるはずないでしょうが!」
すかさずそんなゼロスにしいなの鉄槌が炸裂する。
「しかし。王家に話しをするのならば早いほうがいいのでは?
  我らの調べではあのロディル?とかいうディザイアン、か?
  たしか教皇とも繋がりがあったはず。何をしかけてくるかはわからんからな」
「昨日、テセアラに潜入している草のものがいうには、
  ロディルの命でヴァーリが何やら不穏な動きをしている、という報告があったばかりじゃしな」
タイガの台詞にうなづくように、イガグリまでもがそんなことをいっている。
たしか、神子を奪還する過程において、発生するであろう混乱。
その混乱を利用してあの人間が何かをしようとしている。
というのはシルフ達配下の微精霊達からそんな報告をうけてはいるが。
コレットをクルシスに引き渡したあとで、王とどうやらあの魔族が入れ替わる予定。
その計画を立てているっぽい、という報告をエミルはうけている。
もっともそういった計画がある、というのをエミルは彼らに言う気はさらさらない。
「…まあ、皆も疲れているだろうから。まずはゆっくりと体をやすめるとよかろう。
  子供達はすでにもう眠っているらしいからな」
どこまで疲れていたのかはわからないが。
すでに夜はあけ、空はあかるくなっている。
あと少しすれば太陽も完全に地平線の彼方から顔を出すであろう。
リフィル達はしるよしもないが、計画通り。
かの地にはクルシスからの増援部隊が今現在やってきており、
しかし、かの地は雲の中に位置している場所。
完全に太陽の光りが差し込んではいない今、
ことごとく武装している武具などがカビの餌食になっているらしく、
結果として砂に埋もれたものたちを救出したのち長居は無用。
との判断がどうやら下されている、らしい。
もっともその判断を下したのもまたユアンであり、
戦闘部隊要員である天使達に指示をだし、雲がいっとき収まっているかの地から、
砂にうもれていたものたちを地上に降ろす命令を下していたりする。
クラトスはロディルとともにクルシスにと戻り、報告に一度もどっているらしいが。
ロディルからしてみれば、かの地における研究結果を保管していなかったがゆえか、
その点に関してはかなり落ち込んでいるように視えなくもないが。
「んじゃ、休む前に話しをつめてから、一度それぞれ体をやすめるとしようぜ」
「何あんたが仕切ってるんだよ!でもまあ、たしかに一理あるけど、さ。
  リフィル。あんたたちもそれでいいかい?」
ゼロスがいつのまにかしきっていることにたいし、しいなが叫ぶが。
しかしそれ以上、いい案がないのもまた事実。
ゆえにその場にいるリフィル達にしいながといかけるが。
「ええ。異存はないわ。そうね。たしかに…話しはとおしておくべき、なのでしょうね」
精霊と契約を結んでゆく過程で何がおこるかわからない。
世界が一つにもどせるのか、はたまた切り離した状態のまま、になるのか。
鍵を握りしはオリジンだ、とわかっているのだが。
「…トレントの森にいくにしても……」
「ん?エルフの隠れ里か?入るには王室の許可証がいるな」
「…で、しょうね」
リフィルの呟きにきづいた、のであろう。
ゼロスがそんなことをいってくる。
リフィルとてしっている。
生まれ育った地のことなのだから。
ユミルの森をぬけた先にある、エルフの隠れ里、ヘイムダール。
さらにその奥にあるトレントの森、とよばれしその奥に、
オリジンの石板、とよばれしものがある、ということは。
思いだした、といってもよい。
どちらにしても、かの地にいくには許可証なるものがいる。
そして、そのツテはリフィルにはない。
が、今ここには、テセアラの神子だ、というゼロスがいる。
ならば。
「ゼロス。国王にいって、ヘイムダール
  …いえ、トレントの森への立ち入り許可証。それをもらうことは可能、かしら?」
「問題ないとおもうぜ?必要なのか?」
「ええ。私の記憶が確かならば、あの奥にはオリジンの石板があったはず。
  オリジンとの契約に何が必要かまではわからないけども、いってみる価値はあるとおもうわ」
もしくは、里のものに話しがきければ、かなりの収穫になるであろう。
あの地はハーフエルフを受け入れているのかどうかはわからないが。
風の噂にて、逃亡中、かの地はハーフエルフ全てを負いだした、ともきいた。
そしてハーフエルフを立ち入りさせなくなった、とも。
しかしそれは子供のころの記憶。
今がどうなっているのかまでは、リフィルとてしるよしもない。


――修正、開始
「――ワイディーンワティウイム スティエディティ」
さわさわと風が吹き抜ける。
リフィル達は話しあいの後、今はゆっくりと休んでいる。
そもそも無理やりに精霊達の力でもってしてマナを繋いでいるこの次元同士。
テセアラとシルヴァラント。
センチュリオン達が目覚めてその仮初めの楔は意味をなさない、とはいえ。
楔が抜けた影響で発生したエネルギーは失われたわけではない。
それは世界にむけた言葉。
歪みを修正すべく、全てのものにむけての命令。
それに何よりも、それによって生じる力をもちい、
大地の移動を手っとり早く行ったほうが大地にあまり負担をかけない、という理由もある。
すっと目をとじ、そして紡ぎだされた言葉はすでに待機させてある存在達へ。
直後。
ドッンッ。
世界のどこにいても感じるほどの巨大な音が響き渡る。
それは、大地より響く音。
それとともに、グラグラと揺れは始める大地。
そして、ゆっくりとした揺れはやがて、どんどんその大きさを増してゆく。

「な…なんだ!?」
あまりの揺れに思わず目を覚ます。
はっと目をさませば、天井といわず、横になっている場所自体が揺れている。
「地震か!?」
ここまで巨大な地震など感じたことはないが。
そう、としかおもえない。
激しい揺れは部屋にある様々な品を床にとおとし、さらには外からは何かが落ちてわれる音。
それは屋根につかわれている瓦が地上におちて割れる音、なのだが。
そこまでロイド達は気付かない。
立ち上がることすらもままならないほどの揺れ。
ロイド達は知らない。
この現象がこの場、だけではなく世界全て。
すなわち、テセアラとシルヴァラントその全域で起こっている、ということを。

「本当に地震が起こるとは……」
示唆、されてはいた。
しいながヴォルトと契約を結べば、それによって世界に地震が起こる可能性がある。
と。
しいながロイド達を迎えにいっていたとき、エミルの口から。
里のものにここ数日の間に大きな地震が起こる可能性がある、と伝えていたとはいえ。
本当にこうして起こる、とは思ってもいなかった。
普通にたっていることすらままならない状況を考えればこの揺れはかなりの規模といえる。
建物の中にいたほうが安全なのか、それとも外にでたほうがいいのか。
その判断は一瞬。
外から瓦が落ちて割れる音がきこえてくる。
それならば家の中にいたほうが安全。
気になるのはこの揺れによって木造建築物である家などが崩れたりしないか、ということ。
まだ時刻は昼前…なので、火を扱っていたりすることはない、とはおもうが。
地震によって次におこりえるのは、一番は火の取り扱い。
これが夜とかならば、灯りにつかっていたらんぷの火が落ちて、確実に火事になっていたであろう。
救いはすでに太陽が昇っているがゆえ、そういうのを使用していないということ。
突き上げるような衝撃と、そして、左右に揺れる感覚は、だんだんと大きくなっていき、
それこそいつ終わるのかもわからないほどに揺れがだんだんとひどくなる一方。
それはほんの数秒、もしくは数分、であったのかもしれないが。
生きた心地がしない、というのはまさにこういうのをいうのであろう。
みしみしと揺れる建物。
いつ崩れてもおかしくないほどに柱がみしみしと音を立てて揺れる様は、
いつ柱が折れて家屋が倒壊してもおかしくは…ない。


揺れは定期的に、今現在も続いている。
忘れたころにおこるそれは、揺り返しであろう、という意見がもっぱら高いが。
「…それにしても、何というか」
地震によって飛び起き、全員が集まった後、ゼロスが提案したこと。
それは、この地震を利用して国王陛下にいうことを聞かす案がある。
と提案してきたときにはロイド達は唖然としたが。
そもそも、みずほの民がいうには、シムルグが現れたことにより、
かつての悲劇、すなわちスピリチュアの悲劇がまた再び起こるのではないのか。
というもっぱらの噂であったらしい。
そこのこの地震。
ならば、乗り込んでいき、教皇がゼロスにかけている手配。
それらが原因だ何だのと難癖をつければ、おそらくこちらのいい分はあっさりと通るはず。
それがゼロスのいい分。
この地震もまた、神子を教皇が手配をかけ、しかも殺そうとしたことが原因である。
とこじつけて説明すればあっさりいくはずだ、とゼロスがいってきたときには、
ほとんどのものが唖然としてしまったのだが。
もっとも、この意見はゼロスの意見、ではなく。
ゼロスが森に少し気分転換にいったときにクラトスから提示された案なのだが。
それをロイド達は知らない。
門を守っていた兵士達もまた、地震の後始末に追われている、らしい。
みずほの里もまた建物の崩壊、などといった被害は多少あったものの、
人的被害は報告されず。
とはいえ心構えができていた彼らはともかくとして、突如として地震に見舞われた人々はまた違う。
案の定、というべきか、王都にても貧民街などの建物、そして貴族街においても、
その屋敷の中の家具などが壊れたりし、かなりの被害がでているらしい。
ゆえに兵士達は見張りどころではなく、街の中を走り回っていたりする。
みずほの里からレアバードにて近くまでやってきたが、ところどころみえる火の手はおそらくは、
地震によって生じた火事、であろう。
この混乱に乗じてメルトキオの地下水路から王都へと入ろう。
といったのはほかならぬゼロス。
こんな混乱なのだから、どうどうと正面からはいっても問題ないような気もしなくもないが、
混乱しているからこそ、逆に教皇騎士団の目が光っている可能性がある。
その指摘をリフィルにされ、しぶしぶ地下水道へとやってきているロイド達。
何でもこの地下水道。
王都だけでなく、王城、にも通じている道があるらしい、とはみずほの民からの情報。
「あれ?なんか話し声がするよ?」
ふと、王城に通じている、という地下水路の道を進んでゆく最中、コレットが足をとめ耳を済ます。
久しぶりにゆっくり寝たせいか、何となく首を寝違えたような気もしなくもないが。
それでも、みずほの里につたわる整体、というのをうけて、首の寝違えは直っている。
「前のほうに階段がみえる。そこから話し声がするよ」
コレットが耳を澄ますようにそういえば。
「…そう。まだやはり、そういった天使の特徴は残っているまま、なのね」
地震によってそれぞれが飛び起きたあと、なぜかコレットはそのまま爆睡、していたが。
ここにくるまで、コレットがまだ天使の翼が展開できることはリフィルは一応確認している。
「油断は禁物ね。…ゆっくり近づいてみましょう」
リフィルの意見に逆らうものはおらず、こくり、とそれぞれがその場にとうなづく。

ゆっくりと足音を消して近づいてゆくことしばし。
やがて。
「それでは、これが代金だ」
「たしかに。へへへ……」
一人の兵士らしき人物が太った男にジャラリ、と音のする何かの袋を手渡しているのがみてとれる。
それはちょぅど階段の途中。
その階段の先は王城ではなくたしか、マーテル教会に通じている、と渡された地図には載っている場所。
ここ、地下水路は臨時時の避難通路にもなっているらしく、隠し通路がいくつも張り巡らされているらしい。
「これはどれくらいで国王はくたばる?」
「食べたら確実にお陀仏だよ。もっとも、トリカブトから取り出している毒だからな。
  それ以外にもいろんな毒草の液を抽出してある。
  液体を国王の水差しにでもいれてしまえば問題はない。あとはそっちでどうにかするんだろう?」
何やらものすごく不穏な台詞がきこえてくるのはこれいかに。
「教皇様のツテで国王に成り代わるものもすでに手配しているらしいからな」
「しっかし。前の毒が解毒されたのがきついな。あの毒は面倒だったっていうのによ。
  病死にみせかけて死ねるような毒を長期にわたりもっていたというのに。
  治癒術を使用できる輩は教皇様が徹底的に処刑してたんじゃなかったのか?」
『・・・・・・・・・・・』
ものすごく不穏な会話、としかおもえない。
というより、このうち、一人の声は聞き覚えがあるような気がする。
「前の毒は病死にみえるようにっていう注文だったからな。
  ゆっくりだが確実に死ぬ毒だったっていうのに。
  解毒さえされなければ、あと一月もしないうちに国王はくたばってたったのによ。
  神子のやつ、どこまでも俺様の邪魔をする」
最後の台詞はにがにがしさをその言葉にて表すかのごとく吐き捨てるようにいっている。
「あいつは…ヴァーリ!そこまで堕ちていたかっ!」
ぎりっと、その手枷…砂と化してしまい、手枷がなくなったリーガルであったが。
みずほの里のものにたのみこみ、なぜか再び自らの手に手枷をしている今現在。
手枷をしている手をぎゅっと強くにぎりしめ、
その手の平から無意識のうちにぽたぽたと血が滴り落ちる。
「なるほどね。あの健康優良体の国王が病気になっていたのはそういうことか」
少し離れた場所にて、そんな会話を盗み聞いていた彼らであるが、
リーガルが唸り、ゼロスが納得したように呟いていたりする。
「本当によくにかられた人間って…懲りないよね」
呆れたようなエミルの台詞。
そもそも、すでに一度、計画が失敗している、とわかっていてもなぜまた同じことをしようとするのやら。
「それについては同感ね。でも、見過ごすわけにはいかないわ」
かつて、国王の病床にてその解毒をしているがゆえに、リフィルがきっぱりと言いつのる。
「!?何ものだ!?」
ふと、こちらの声に気付いた、のであろう。
さきほど太った男にお金の入った袋を渡していたであろう兵士がこちらにと視線をむけてくる。
「よっと。神子様登場~」
とっん、と足場をけり、かるく飛び上がり、ひらり、と彼らの間合いにはいるように、
その階段の途中に舞い降りるゼロス。
「しまった!ゼロスか!くっ、今の話しを…」
「ば~ちりきかせてもらったぜ?前の陛下の体調不良も貴様らのせいってことまでもな」
「ヴァーリ!きさまっ!」
そんなゼロスに続き、リーガルの怒りのこもった声が周囲にコダマする。
「ち。国王暗殺の事実を知られてはこまるんだよ。ここでくたばりな!ゆけ!」
ゆらり。
ロディルが何やらいうとともに、背後の闇がゆらり、と揺らめく。
その隙をつき、兵士がその手に小瓶らしきものをもち階段を駆け上がろうとするが、
「よっと」
すばやくそんな兵士の前に回り込んだゼロスが足払いをかけ、
そんな兵士の手から小さな小瓶を奪い去る。
小さな小瓶の中にはいくばくかの液体がはいっており、おそらくはこれが毒、なのであろう。
「薬(これ)はもらっとくぜ。これをどこで教皇に渡すことになってる?」
ゼロスはそのまま剣を抜き放ち仰向けに倒れている兵士のノドにとつきつける。
ちなみに、ロイド達の武器は、みずほの里で一新しており、
ゆえに、飛竜の巣において砂と化してしまい武器を失っていたロイド達であったが、
今現在はそれぞれきちんと武器をもっている状況。
「やれやれ。主にいわれきたものの、何をこんな奴らに手間取っている?」
ゆらり、とゆらめき影からでてきたもの。
それは鞭をもった、一人の女性。
ぱっと見た目、ヒトからしてみれば、妖艶、という言葉がいかにもしっくりくるその容姿。
体に直接ぴったりとしているその服はまるでレオタード、と呼ばれる服装のよう。
そしてその背になぜかマントをつけており、そのマントをばさり、とひるがえしつつも、
目の前にいるロディルにむかって言い放つ。
「うわ。何、あいつ?みただけで悪寒がはしったよ。これみてよ」
ぶるり、と体をふるわせ、腕をみせるジーニアスの手はものすごいまでの鳥肌にと覆われている。
マントのようなものをはおっているその女性の手にはなぜか鞭。
しかも皮製。
「…ちっ。ヘルマスターか」
その姿をみても思わずぽつり、とつぶやくエミル。
この地上にのこりし魔族の一体というか、種族のひとつ。
力があるがゆえに地上にのこり、ヒトの心をまどわせしもの。
しかし、こいつは常に力あるものに従属していたはず、なのだが。
テネブラエが掌握しきれていないはぐれのうちの一体、なのであろう。
ヘルマスターの種族の中でもどうやら彼女はそのうちの上位種、にあたるらしい。
下っ端魔族達とはあきらかにその存在のありようが異なる。
「あとは任せたぞ」
「まて!ヴァーリ!」
リーガルが階段を駆け上がり、剣を突き付けて兵士を足踏みしている横をすり抜け、
この場を立ち去ろうとするヴァーリにと声を荒げるが。
「!テネブラエ!」
エミルがそれにきづいたその刹那。
彼らがいた一体を闇の渦のようなものが爆発する。
それは、現れたヘルマスターの攻撃。
その闇の中に羊の角をもったような巨大な獣の姿がみてとれたのは、
この場においてはエミル、ゼロス、そしてコレットのみ。
防衛本能、というべきか。
咄嗟的にゼロスもまたその背に翼を展開しており、ゆえにこの攻撃を無効化したらしいが。
地下より湧き出すかのごとくの闇を纏った攻撃。
ちなみに、属性が闇であるがゆえ、反属性の光には弱い。
すかさずテネブラエをよび、その攻撃を吸収させたものの、
『うわっ!?』
その場にはいつくばるようにして、その攻撃に押しつぶされているロイド達の姿がみてとれる。
その場にはいつくばるようになっているからか、
ゼロスの背に展開されているそれにはどうやらロイド達の誰も気づいていない、らしい。
気付いているのはコレットのみ。
「――ほう。まさか、コアから覚醒していたとは。なるほど。どうりで」
先の異常気象は彼らの目覚めの前兆、ですか。
押しつぶされそうなまでの何かの力。
それにあらがうロイド達の耳に幻聴か、そんな台詞が届いてくる。
「なぜ、あのようなものに手をかす?」
すっと、剣を構え、それにと剣をつきつけ問いかけるエミル。
そんなエミルの前にはそれとの間に割って入るかのように、
臨戦態勢をとっているテネブラエがふわふわとうきつつ身構えているのだが。
「――おまえは何やつ?」
まるで、センチュリオンがかばっているかのようなその行動。
そういえば、さきほど目の前のこの金髪の少年は、まちがいなく、闇のセンチュリオンの名を呼んだ。
それに呼応して現れたかのようなセンチュリオン。
関係がないはず、はない。
「まあいい。私の役目はあの人間を逃がすこと。すでに役目は終えましたし。
  そこの転がっている人間達に一応名乗っておきましょう。
  私は、ヘルマスター。ヘルマスターに属する魔族、ジャミル。以後お見知りおきを。
  ああ、あの御方が復活したら、あなたはまっさきに生贄とささげるとしましょう。
  ・・・・・の気配をもちしものよ」
マナの気配には敏感。
ゆえに、にいっと笑みを浮かべ、その場から現れた時のようにかききえる。
小さく呟かれたその言葉はもおわずエミルの眉をひそめてしまう。
大樹の気配をもちしものよ。
たしかに、今ソレはそういった。
消える寸前、ばさり、と黒き翼をはばたかせ、翼でその体を包み込むようにしてかききえる。
「…ジャミル…か」
どうやら、デミアンにしろジャミルにしろ、
地上にのこりし魔族達がいろいろと暗躍しているらしい。
魔族は基本、力あるものに従属する。
かの惑星とともに、かの惑星の王となるべき存在も、あの地においた暗黒大樹とともに育てている今現在。
その名はすでに決めているが。
「おいおい。今のは何だったのよ。この俺様が美人なのに鳥肌たっちまったぜ」
すばやく翼をしまい、ゼロスが完全に気絶している兵士を横眼にそんなことをいってくる。
気絶、というよりは今のジャミルの瘴気にあてられて、
どうやらこの兵士はこときれた、らしい。
瘴気に侵されたことを示すかのように、
やがてしばらくすると、その体が光に包まれ、鎧のみ残し、その体は空気に溶け消えるように消えてしまう。
「な、何だぁ!?」
それをみて思わず声をあらげるロイド。
「これって…あのとき…と、同じ?」
その最後はドアやキリアに化けてしたプロネーマの僕となのっていたものたち。
その姿とかぶる。
ドアの体も同じく、完全に事切れたのち、光の粒となりてその場から消滅した。
そのことを、リフィル達は目の当たりにしている。
「くっ。ヴァーリぃぃ!」
怒りにみちたリーガルの声。
「逃げられてしまったわね。それにしても、さっきの女は一体……」
闇からでてきたようなあの女性は、あきらかにヒト、ではなかった。
どちらかといえば自分達とは相いれないもの。
それは直感ではあるが理解できた。
それに、先ほどの技。
直接くらっていれば間違いなく死んでいた、という確証がある。
そんなリフィルの呟きをききつつも、
「どうも、あの人間が教皇や五聖刃ってなのっている奴らと繋がってるようですね」
「…ロディル、そしてヴァーリ…ディザイアンと彼らが繋がっている?」
戸惑いを含んだプレセアの声。
「ふむふむ。よっしゃ。いい案がうかんだぜ。まあ、さくっと陛下のもとにいこうぜ。その前に…と」
いいつつ、ゼロスが取り上げていた小瓶を目の前にかかげ、
「まずは教皇のところに乗り込み、だな」
そんなゼロスの台詞をききつつも、
「そう。そういうことだったのね。おそらく。テセアラのエクスフィアはヴァーリからロディルに流れ、
  そしてクルシスの輝石に関する実験もロディルからヴァーリを通じて、教皇に流れていっているんだわ」
これまでの情報を集めてみればそれだと納得がいく。
そんなリフィルの確認するかのような呟きをうけ
「大かた、大体見当はつくけどよ。
  教皇のやつ、協力する見返りに国王の暗殺を持ちかけたに違いないな」
「不埒なっ!」
ゼロスの言葉にリーガルがぎり、と歯を食いしばる。
「よくわかんねぇけど。その教皇ってやつを追い詰めようぜ。
  というか、そいつが俺達の手配かけてるんだろ?」
似てもにてつかない手配書がオゼットの村の掲示板に張られていたのをロイドはみている。
その手配書はかつて、シルヴァラントにてディザイアン達が配布していたそれ。
それとほぼ同じような手配書の似顔絵であったことにもロイドは不満があるのだが。
どうやっても自分に似ていない、というのがロイドの本音。
それぞれ人数分あるはずの手配書は、なぜかエミルのだけなかったのが気になるが。
ロイドは知らない。
エミルの姿を思いだしてそれを描こうとしたその直後、
彼らの脳がその姿を認識できなくなっている、ということを。
「教皇のやつは、あの兵士がいうには、自室でまってるらしいぜ?いくか」
「ああ」
あのヴァーリとかいう人物を逃がしたのは痛いが。
しかし、またもや国王暗殺などというものを企んでいる以上、それを阻止しなければ意味がない。


――ユグドラシル様。精霊の楔が抜けた、との報告がありました。
ふと、意識をむけるとどうやらあちら側にてそのことを知ったらしい。
無表情で伝達にきた伝令にミトスが駆けよってゆくのがみてとれる。
――精霊の楔は完全に消滅したのか?
――いえ、ウンディーネ、ヴォルトラインのみです。
ふとみれば、ミトスの前にはプロネーマの姿が。
どうやらコレットのことと、あの場にておこったこと。
それらの報告をしていた、らしい。
――消えたのがヴォルトがらみだというのがきになりまする。
  クラトス様の話しではロイド達がレアバードを手にいれようとしている。とのことでしたが…
どうやらクラトスは虚偽を交え、プロネーマにと説明しているらしい。
たしかに事実ではあるが。
作戦が成功した暁には一行にレアバードを貸し与える。
そうレネゲード達がいってきていたがゆえ、クラトスの説明に嘘はない。
――裏切ったな…裏切ったんだな、また…僕を
震えるような声のミトスの様子がみてとれる。
また?
そもそも、裏切っているのは自分だろうに、何を。
――七十年前のあのときと同じように、またっ
絞り出すようなミトスの声。
そんなミトスを痛ましそうにみているプロネーマ
――プロネーマ。お前にあらたな役割をあたえる
――何なりとお申しくださいませ
――まずはクラトスに精霊の楔のことを知らせるのだ
――…まだ、クラトス様を信じる、というのですか?
  あのかたに現状を知らせればロイド達にくみすることも考えられましょう
  それよりは私がロイド達を止めに参ります
――ロイド達のことはいい。私に考えがある
考え?ミトス、お前は何を…
リフィル達は背後に少し遅れて歩いているエミルの険しい表情に気づかない。
その意識をネオ・デリス・カーラーン、すなわち上空にある彗星にむけているがゆえ、
その内部で執り行われているやりとりをみて険しい表情をしている、
という事実に気付くはずもないのだが。
――ですが、このままでは精霊の楔が全て奪われてしまうやも
懸念をこめたプロネーマの台詞。
――ならば、それでもいい!
悲鳴にもちかい、ミトスの叫び。
ミトスが座っていた椅子にミトスの拳がいきおいよく振り下ろされるのがみてとれる。
――最悪、精霊の楔が全て失われたとしても、
  二つの世界が分離して虚空にきえてゆくだけのこと。
  大いなる実りはエターナルソードと救いの塔によって、
  デリス・カーラーンの引力圏に残る。
  大いなる実りさえ失わなければ姉上の再生も可能だ。
  むしろ忌むべき人間どもがすむべき場所を失うとあらば笑いがこみあげてくる
  我らにはデリス・カーラーンという全ての命の源である星があるしな
――それは…
そんな彼らの様子を視て思わずその場にとぴたり、と足をとめる。

「?エミル?」
そんなエミルの何かただならぬ様子に気付いた、のであろう。
ふと首をかしげ、背後を振り向きつつもコレットが気にするようにいってくるが。
「あ。何でもないよ。皆、先にのぼっていいよ」
すでに、出口である梯子の前まではたどり着いている。
意識をあちらに向けている間にどうやら出口付近にまで近づいていたらしい。

――大体、なぜ私を裏切りつづける人間達を守ってやらなければならない?
  クラトスが私を裏切るなら、私も奴が守ろうとするものを全て裏切る。もう人間のことなどしるか!

「…馬鹿な。…お前は、そこまで…というか、完全なる八つ当たり、だな」
それは、お気に入りの玩具を取り上げられ、周囲に当たり散らす子供のごとく。
「…お前は…判っているのか?それは…完全に…」
二つの世界が分離して虚空にきえてゆく、ということは。
大地ごと消滅しかねない、ということ。
それはあきらかに自分や精霊達と交わした契約に反しているということ。
それでなくても今の状態はあきらかに契約違反、だというのに。
内心で思っていただけのはずなのに茫然とし思わずそれを口にしているエミルであるが、
その呟きの意味は当然、その場にいる誰にもわからない。
ゆえに。
「?エミル、本当にどうかしたの?具合でもわるいの?」
「…たしかに。顔色がわるいわね。エミル、大丈夫なの?」
コレットが心配そうにいい、ふとリフィルもきになるらしく、エミルの顔を覗き込む。
エミルは自分では気付いていないが、どうやら顔色を悪くさせているらしい。
どこまでもヒトに近しくその姿を模しているがゆえ、感情によって表情もまた変化する。
もっともあくまでも具現化させているその器がそうしてあるだけで、
エミルからしてみれば無意識極まりない変化、なのではあるが。
「あ。大丈夫です。それより、皆、先に外にでてください。僕は後でいいですから」
「でも……」
いまだに困惑したようなコレットと、そして心配そうにいっているリフィル。
「…はぁ。テネブラエ」
「はい?何でょうか?」
「階段を遣わずに、上に」
「判りました」
そのまま、ひょいっと姿を現したテネブラエの背に横すわりになる。
ふわり、とそのまま浮き上がるテネブラエ。
「なら、テネブラエで上にいきますから。…ちょっと、外の空気をすってますね」
「あ、エミル!?」
そのまま、ふわっと階段の横を浮き上がり、そのまま上空へ。
天井にある出口であるマンホールの蓋が、どこから現れたのかはしらないが、
おそらくこの下水道の中に生息している魔物、なのであろう。
触手をもちし魔物達が一斉にもちあげ、その出口を解放する。
そのまま、開かれたそこから外にでてゆくエミル。
それはある意味で一瞬のことで。
「…本当に先にでちゃった」
唖然としたジーニアスの声。
そしてまた。
「エミルさん…なんか、ものすごく顔色…悪かったです」
それこそ真っ青、といってもよかった。
「この下水道の空気はそういい、とはいえないからな。空気清浄も考えるべき、なのかもしれぬな」
プレセアの台詞をきき、リーガルが何やらそんなことをいい考え込んでいるが。
「ともかく。私たちも外にでましょう」
「あ、なら、私も飛んで外に出ますね~」
パタパタパタ。
翼をだし、ふわり、とうきあがり、コレットもまた階段横を飛びつつも外へと飛び出してゆく。

――お前はクルシスの状況をクラトスに報告しつつ奴を監視しろ。奴の裏切りを余すことなく調べ上げるのだ
――御意

「…エミル様?何が……」
外にでても何やら主の表情はおもわしくない。
ゆえに心配そうにテネブラエが問いかけてくる。
「…何。ミトスのやつが…な」
その台詞に表情を歪め、
「…まさか、まだ何かを仕出かそう、というのですか?どこまであの子はエミル様を…」

――それからもう一つ。私はしばらくデリス・カーラーンを離れる。
  コアシステムの計算結果を含め、私の不在中にクルシスで起きたことを伝令せよ

「…離れる?だと?あいつは、何を……」
彼らのやり取りにはいまだに意識を向けている。

――このようなときに、いったいどちらにいかれるのですか
――オゼットだ
そういうとともに、エミルも…否、ラタトスクがよくしる少年の姿にミトスは変化する。
それはありし日の姿のまま。
かつて、ラタトスクの元にやってきた当時の姿、そのままに。
――ユグドラシル様…
――私はただのミトスとしてロイド達に接触する後はたのむよ。プロネーマ
かつて、ミトスが外交上でよくみせていた笑み。
第三者曰く、天使の頬笑み、とたしかいっていたその笑みをプロネーマにむける。

「…オゼット、だと?あいつは何を…まさか…
  『…センチュリオン共に命ずる。オゼット付近の配下の魔物達に命じろ。
    ミトスが何かをしでかす可能性がある。
    まさか…とはおもうが、かの惑星の設備を使うやもしれん』」
それは宇宙空間を移動するにあたり、障害物になりえる隕石群。
それらを破壊するためにかつて設置していた装置。
まさか、とおもう。
しかし、可能性は否定しきれない。
オゼットに向かう、ということは。
今のやり取りからしておそらくは、目的はかの地にはえているかの木々。
あれさえなければ、指輪の生成ができない、と踏んでいる可能性がある。
「テネブラエ。お前もいけ。…魔物やかの地に住まう動植物には罪がない、ゆえな」
「…人間達はどうなさいますか?」
「…ほうっておけ。自業自得だ」
あの地にすまう人々はあまりにも他者を排除しようとする傾向が強すぎる。
「動植物の変化をみて、それでも関係ない、とおもうようならばそのままにしておけ」
かの地から彼ら…魔物や動物達を避難させるのが何よりの最優先。
動くことのできない植物達はセンチュリオン達により障壁をはればよい。
もっとも、植物達の意見もきちんと聞くように、というのは忘れないが。
「…うん?」
ふと、あちらで別の動きがある模様。
みれば、ユアンがかの地の管制室にむかっているらしい。
あの飛竜の巣にての出来事から、どうやら仕事をしにかの地にもどっているらしいが。
ふと周囲をみれば出てきた場所はどうやら薔薇庭園、と呼ばれている区画、らしい。
その一角にベンチが据えられており、テネブラエからおり、そこにと腰掛ける。
一人、一人、マンホールの中より地下からこの場に出てきている姿がエミルの目にとまる。


教会に続いている、という道の先にある扉。
それはどうやら外からカギがかかっているらしく、扉は開かない。
どちらかといえば何か扉の前におかれているらしく、
うんともすんともいわないがゆえ、しかたなく一番てじかであろう場所。
そこから外にでることを選択し、街の中にと繰り出すことに。
それからしばし移動し、外につづく階段の前で少しばかりいろいろとあったものの、
階段を上りマンホールから出てきたのは、王城のほぼ真下にある薔薇庭園の中。
「…あいつ……」
ふと視界の端に、なぜか王城からでてくるみおぼえのある姿がみてとれロイドが思わず立ち止まる。
「あれって、クラトスさん…だよね?どうしてお城から?」
困惑したようなコレットの台詞。
なぜか城の中から出てくる人影はまぎれもなくクラトスそのもの。
「さあな。どうでもいいじゃん。あんなやつ。あいつの奇行は今に始まったことじゃないっしょ?
  あの施設の中でもあいつの行動はわけわからなかったんだしよ」
たしかにゼロスの言うとおり。
あの飛竜の巣にあった施設の中で、なぜかクラトスは自分に地図をわたし、
しかも、コレットの居場所、さらにはいつクルシスからの増援がくるか。
それまでロイドにいってきた。
その前はなぜか崩れてきた柱からロイドをかばった、という事実すらある。
たしかにゼロスにいわれるとおり、奇行、といえば奇行、なのだろう。
「でも、そういうわけにもいかないわね。
  国王とクルシスが手を結んでしまったら、どうしようもないもの」
それでなくても、国王の許可が必要なこともある。
世界を一つに戻すためにはどうしても絶対にオリジンとの契約は必要不可欠であろう。
そのためにはヘイムダールに立ち寄る必要性がある。
そして、ゼロスがいうには、立ち入るためには王家の許可が必要、とのこと。
それに、エミルの意見にもあったように、
世界を一つに統合するにしても、やはりきちんと国に話しを通しているのといないのとでは、
その後に待ち受ける様々なことに関しても厄介なことにはならないであろう。
それでなくてもテセアラとシルヴァラント。
二つの世界の文明の差は開きすぎている。
このまま自分達がどうにかして勝手に世界を統合できた、として。
身分制度、というものが当たり前のように浸透しているテセアラの人々が、
自分達よりも劣っている、としかおもえないシルヴァラント人を見下さない、蔑まない、という保障はない。
それどころか、下手をすれば、今テセアラでは身分制度の中において最下層とされている種族。
ハーフエルフにシルヴァラント人全てがあてはめられてしまう可能性も。
もっとも、リフィルだからこそ先のことを考えてこのように思っているのだが。
ロイドはまったくその後のことなどは考えていない。
世界が一つにもどればそれで平和になる、そう本気で信じている節がみてとれる。
人の心、とはそんなにたやすいものではない、というのに。
「おいかけようよ。ロイド。クラトスさん、何を考えているのか私もききたい」
自分の場所をロイドに伝えた、そうコレットはロイドから聞かされた。
だからこそ、聞きたい。
「それにしても、あいつ、無事だったんだねぇ。ユアンのやつもなら無事なのかねぇ?」
飛竜の巣で別れたきり、クラトスにしろユアンにしろ安否はわからなかったのだが。
クラトスがここにいる、ということはユアンもまたどこかに逃げている、ということなのか。
「僕はそれより、何のために城から出てきたのかを知りたいよ……」
ジーニアスもクラトスに対し、何ともいえない思いを抱いているのは同じ。
「とにかく、追いかけよう!まだ遠くにはいっていないはずだ!」
「おいおい。教皇はどうすんのよ?」
「おそらく。彼は薬が届くのをまっているはずよ。なら少しくらいは問題ないのではなくて?」
部屋にてこの毒…薬、と表向きにはするのであろうが。
これが届くのをあの兵士からゼロスが聞きだしたことを信じるのならば、
教皇は自室にてその到着をまっているはず。
「ったく。しかたねぇなあ。リフィル様はともかくとして。
  ロイドくんは、君子危うきに近寄らずってことをしらねぇのかねぇ」
ロイドの言葉をうけ、ゼロスが頭の後ろに手をやりながらそんなことをいってくるが。
「?おれ、くんしって名じゃないぞ?」
「燻製かぁ。そういえば、ロイド、燻製作り得意だったよね?」
「お。おう!そういや最近つくってないなぁ。エッグベアの燻製肉」
そんなゼロスにすかさずロイドが突っ込みをいれ、
そんなロイドにふと思い出したようにコレットがいえば、
ロイドもまた思いだしたかのようにそんなことをいっている。
「……話しがずれてます」
ぽそり、とつぶやいたプレセアの言葉は
まさにこの場にいる二人を除いた全員の気持ちを代表しているようなもの。
「とにかく、いこう!」
そのまま、クラトスが向かったとおもわれる場所。
すなわち、街の外に続くであろう階段にむかい駆けだしてゆくロイド。
「やれやれ。……あいつ、知ってるのか?いや、しらねえっぽいな」
ぽつり、と呟かれるゼロスの言葉の意味は、リフィル達には判らない。
「エミル。大丈夫?」
「まだ顔色悪いよ?」
ふとみれば、エミルはそこにある椅子に腰かけて少しばかり休んでいるらしい。
心配そうに声をかけるマルタに、しいなも気になるのか声をかけてくる。
「うん。僕は大丈夫。しばらくここで待ってるよ。誰もいないしね」
幾度かこの地を訪れたときはあれほどいたはずの街の人々の姿。
今回にかぎり、まったくそんな人々の姿はみあたらない。
かろうじてぽつり、ぽつりとみえる人影はほとんど兵士のものであったり、
一般人らしき姿はまったくもって見当たらない。
「エミル一人をここに残していくのも心配だわ。クラトスを追いかけるにしても。別れましょう」
「僕は大丈夫ですし。クラトスさんが気になるなら、そっちを先に」
リフィルの言葉にエミルがいうが。
「でも…あ、な、なら、私がのこる!」
マルタが声をあげていってくるが。
「皆さん、ご心配なく。エミル様には私がついていますので」
エミルの横に控えるように、ちょこんっと座っているテネブラエがいってくる。
そもそも、このテネブラエ、という存在は何なのか。
いまだにリフィル達はきちんとした答えをエミルからもらっていない。
エミルにきいても、毎回、テネブラエはテネブラエだし、という返事しかない以上、
その正体をつかみかねているといってもよい。
まあ、彼が彼らを家族、といいきっていることからして、危害は加えない、とはおもう。
思うのだが。
「ありがとう。マルタ。でも大丈夫。心配しないで」
顔色が悪いのは、ミトスがどうやら本気で大地などどうでもいい。
とおもっている節があるがゆえ。
そしてまた。
今現在、ミトスが行っているその指示にもよる。
「早くしないと、クラトスさん、街からでていっちゃうよ?」
たしかにエミルのいうとおり。
「…すぐに戻りますから。あなたはここで安静にしてなさい。いいわね?」
すでにロイドとジーニアスは駆けだしていっている。
あの二人をほうっておくこともできはしない。
「判りました」
「あ、わたし、そこの噴水でハンカチぬらしてくるね!
  エミル、つらいなら横になったらいいよ!んで、私が膝枕でもして…きゃっ」
『・・・・・・・・・・・・・・・・』
マルタの脳裏におそらく、エミルを膝枕している姿が浮かんでいるのであろう。
体をくねらせそんなことをいいだすマルタにたいし、その場にいるエミル、テネブラエ、リフィル、
プレセア、ゼロス、しいなの無言の視線がマルタにと向けられる。
「……エミル様」
「いわなくていいから、テネブラエ。本当に」
それでなくてもミトスの動向でヒトがいうところの頭が痛い、というのに。
これ以上厄介になりえることはやめてほしい。
切実に。

エミルの体調が気になりはすれ、ひとまずリフィル達もまた、
先につっぱしり駆けだしていったロイド達をおいかけることに。


「では、神木はたしかに、街の外へ運んでおきます」
リフィル達がロイド達を追いかけ、長くつづく階段。
一般の人々が住まう居住区、とよばれるあたりに差し掛かったとき。
ふと階段の下のほうでそんな声がきこえてくる。
みればそこにクラトスと、祭司らしき姿がみてとれるが。
「クラトス!」
そんなクラトスにロイドが街中だ、というのに
剣の柄に手をかけて駆け寄っている姿もみてとれ、思わずリフィルはため息をついてしまう。
前にもクラトスにいわれたはず。
街の中で剣をぬくな。
と。
しかもここは王都。
その危険性をロイドはわかっているのだろうか。
否、判っていないわね。あの子は。
そのあたりのことを徹底してあの子には教え込まないと。
リフィルがとある使命感を胸にたぎらせるとともに、一瞬、ロイドは何ともいえない悪寒に襲われる。
おもわずぶるり、と体を震わせたのち、それでも剣の柄に手をかけいつでも抜ける体勢をとる。
そんなロイドの様子にただならぬものを感じた、のであろう。
すぐにでも叫ぶことができるように祭司らしき人物が身構える。
「…こんな所で戦うつもりか?ここは王都。剣でもぬこうものなら、お前はすぐに兵士につかまるぞ?
  というか少しは場、というものを考えろ。前もいったはずだ。街中で剣を抜くな、とな」
そんなロイドに対し、呆れたようなクラトスの声がかけられる。
「…まったくだわ」
そんなクラトスの台詞がきこえた、のであろう。
リフィルもまたそのコメカミに手をあて、クラトスに同意するように呟いているが。
「それに関しては俺様も同感っと」
そんなリフィルにこれまた同意をしめしているゼロス。
「っ!今、神木ってきこえた。神木を何するつもりなんだ!」
盛大なため息をつかれ、そういわれ、かっとなりつつも、ロイドがクラトスにかみついているが。
しかも、リフィルやゼロスからも同じようなことをいわれ、顔を真っ赤にして叫んでいるようではあるが。
「お前達が知る必要はない」
そんなロイドの質問にたいし、答える必要はないとばかりに言い捨てるクラトスの姿。
「……神木は…通常の薪の数倍以上の火力で燃えるそうです」
そんな彼らのやり取りを静かにきいていたプレセアがぽつり、とつぶやく。
神木を利用する、となればその火力、もしくはその燃える持続性。
長き時間にわたり燃え続けるその火力は、用途によっては重宝する品。
「…まさか、アイオニトスを溶かすの?」
アダマンタイトすらつくった、というのである。
それゆえに、ふとジーニアスが思いついたのは、もう一つの伝説上の鉱物。
「アイオニトスは空想の鉱物だわ。でも、アイオニトスもまた、今では伝説上の鉱物。
  といわれている。まさか、クラトス、あなた……」
先日、クラトスが王立研究院にて作ったというアダマンタイト。
そして、通常の火力でもえるという神木をもとめるクラトス。
そこに関連性がない、とは絶対に言いきれない。
むしろ関連づけて考えるほうが自然。
「そう、だな。たしかに、今では伝説上の鉱物、といわれているな」
ふっとそんなジーニアスの呟きに苦笑らしきものをうかべつぶやくクラトス。
「ずいぶんともったいぶった言い回しじゃねえか」
そんなクラトスの態度がロイドには気にいらない。
そもそも、聞きたいことは他にもあるのに。
その言葉が今のロイドにはでてこない。
どうしてあのとき、自分をかばったのか。
お礼も結局いえていないが、敵であるクラトスにお礼をいう、というのは、
でも、助けてもらったのは事実で。
ゆえにロイドの心はあるいみどうしていいのかわからずに、
その苛立ちをぶつけるかのごとく、そのいい方が強い口調になっているに他ならない。
そんなロイドをみて、ふっと笑みをうかべ、
そのまま、祭司に対し、
「では、手はず通りにたのむ」
そういい、その場から立ち去ろうとするクラトスであるが。
「まてよ!」
「どけ」
立ち去ろうとするクラトスの前に割り込みロイドがその行く手を妨害する。
「待てっていってるだろ!」
「お前達はそんな時間をつぶしている時間はないはずだ。
  早く正確な要の紋を神子につけなければ、取り返しのつかないことになるぞ?
  時間がたてばたつほど、な」
「え?」
ため息とともに、いきなりそんなことをいわれ、ロイドには意味がわからない。
ジーニアスもその意味がわからないらしく、戸惑いの表情を浮かべている。
「――再生の神子。生きたい、とおもうのならば。完全ではないその要の紋を外すのだな」
ちらり、とその視線をコレットにむけ、淡々とクラトスが言いつのるが、
「…嫌です。これはロイドが私にくれたものだから絶対にはずしません」
ぎゅっと首にかけられた首飾りを握り締め、きっぱりといいきるコレットの姿。
「馬鹿なことを。クルシスの輝石は普通の要の紋では抑えきれん。
  特殊な物質で創った要の紋以外はな。浸食を促進するだけだ」
「え?」
今、最後に不審なことをクラトスはいわなかったか。
ゆえにリフィルが小さく声をあげるが。
「あ、まて!」
いいたいことは言い終えた、とばかり、そのままクラトスは唖然とするロイドの横をすり抜け、
そのまま街の外へと向かってゆく。
急いでいるのか駆け足で移動しており、
追いかけるには全速力でこちらも走る必要があるであろう。
「浸食…?まさか……」
ふとリフィルの脳裏に浮かびしは、サイバックの学術資料館でみた内容。
たしか、永続…天使…詳しい病名までは覚えていないが、
体が結晶化する副作用がクルシスの輝石にはあるらしい、ということはつきとめている。
今のクラトスの言葉を信じるとすれば、早いうちに完全なる要の紋をコレットにつけなければ、
コレットもまたその病気になってしまう可能性が高い、ということに他ならない。
それは、すなわち、死を意味している。
「くそっ」
一瞬、ロイド達がひるんだその隙に駆け去るようにその場からたちさるクラトスだが、
クラトスを追いかけようとするロイドをみつつ、
「ロイドくんよぉ。あんなわけわからんやつはともかくとして。俺達は俺達のすべきことをしようぜ、な?」
いつもならば王都、という理由で外にかなりの人の姿がみてとれるのだが。
今日にかぎってその人気はない。
ほとんどのものが、この地震と神子の手配を関連づけ、
ついに天の怒りが始まった、といって各家の中にて震えていたりする。
この地に住まうものは皆、教皇が神子ゼロスを手配したことをしっている。
それにあわせて現れたという神鳥シムルグ。
さらには、このありえない巨大地震。
関連づけて考えないほうがどうかしている。
それでなくても、いつ天よりの裁きが下るのではないか、
と内心恐れていた人々がその考えに囚われてしまうのは道理といってよい。
「そうね。今はまず、すべきことをしましょう。えっと、祭司様。あの彼はいったい、何を…?」
いまだに何が何なのかわらかないままにその場にたたずんでいる祭司らしき人物にリフィルが声をかける。
「おや?これは神子様。気付きませんで。
  神子様、わたくしたちはマーテル様と神子様にお仕えする身ですので。
  教皇がいくらおかしなことをいっていても従う意思はありませんので」
なぜか異様にその部分を強調しつつゼロスにぺこり、と頭をさげてくる。
どうやら今の今までゼロスの存在に気づいていなかった、らしい。
「んで?あの男は何をしにきてたんだ?」
「はい。前回、プレセアによって王家に納められた神木があったとおもいますが。
  もっとも、神子様がつれてこられた治癒術士により、陛下の病状は回復し、
  数日にわたり執り行われる予定であった神木の使用も最小限ですみましたしな。
  切り離した薪の一つのみでことたりました。そのあまりの神木があったのですが。
  彼はその神木を求めているらしくて。何でも必要だ、とか。
  身分は王室付の宮廷学者様、らしいですが」
身分証に偽りはなかった。
「宮廷学者…ねぇ」
サイバックでもクラトスはそう名乗っていた、という。
ゆえにゼロスが意味ありげにつぶやくが。
「ところで。神子様、教皇の手が伸びているであろうここ王都に出向かれるのは危険なのでは?
  というか、教皇様はいったい、何を考えて神子様に刃をむけるようなまねを…」
「さあな。あいつの考えなど俺様はしったこっちゃねえが。教皇のやつは教会にいるのか?」
「はい。何でも今日は大事な客人がくるから、誰も近づけないように。
  と我ら祭司達にもいっておりまして。ゆえに今、マーテル教会には、
  教皇の息がかかったものしか残っていないはず、ですが…まさか、神子様?!」
そこまでいい、ゼロスが何をいいたいのかに気付いたのか目をみひらいていってくる。
「ちょこっと決着をつけるだけさ。お前らは巻き込まれないように安全な場所にでもいろ」
「は、ははっ。皆さま、神子様のことをくれぐれもお願いもうしあげます。
  神子様に何かあればこの国はおしまいです」
そこまでいい、深く頭をさげ、
「では、失礼いたします。仲間達にも神子様の御帰還と、邪魔をしないように。
  との旨を伝えなければいけませんので」
いいつつも、その場をたちさってゆく祭司の姿。


ウィルガイア、とどうやらかの地は呼んでいるらしい。
かつて、この地にでむくまで、彼らがあの彗星内部で生活していた地。
かなり手が加わり、当時の面影はあまり残されてはないが。
どちらかといえば生活感を感じさせるものを徹底して排除してある、というべきか。
その最深部にあたる場所にデリス・カーラーンの管制室がある。
かつてラタトスク達が使用していた装置をミトスがみつけ、再利用しているらしい。
把握しているだけで、そこで世界再生の管理や二つの世界の監視が行われているらしいが。
ユアンが管制室に入ると警備の天使達が無表情で敬礼している様子が視てとれる。
それ以外のその場にいる天使達はユアンに目もくれずもくもくと作業をこなしている。
自らの影響下にすでに収めているその装置はこちらの都合のいいように、
ちょこっと情報を操作しているのだが。
彼らはそのことにすらいまだに気づいていないらしい。
淡々と作業をこなすその様は、まさに機械仕掛けの人形のごとく。
心をもたない、プログラム、もしくは命令されたことのみをこなすだけの人形。
天使化、とは自己をも犠牲にするテセアラが開発した力の一つ。
微精霊達の力をあえて穢し利用する結果、ヒトの心が耐えられるはずもない。
微精霊、とはいえ世界を構成する力の理の一つ。
そんな巨大な力に人の心が弱い心、信念のままあらがえるはずもない。
中には強い心をもちしものはその力にも打ち勝つことができることはできるが。
そのいい例がミトス達四人、といっていいだろう。
何ごとにもくじけない、頑固とした信念。
それにより、自らの意思の力にてその力をねじふせている。
天使化に失敗し、実験体とされたものたちがかつてかなりの数命を落としたことをラタトスクは知っている。
もっとも人の自業自得、なので手だしするつもりはなかったのだが。
そもそも、微精霊を利用しようとし、勝手に自滅していくのだから、
もう勝手にすればいい、とおもっていたのもまた事実。
人の器が、ヒトが死のうが利用された微精霊達が死ぬわけでなく。
自分達が開発した力で自滅していくのになぜに手をださなければならないのか。
だからあのとき、ミトスとマーテルが天使化を希望してきたとき、反対した。
人が行いしことは人の手で、自分達が決着をつけるべきだから。
呼びだした魔族もまたヒトの行った結果なんだから、と。
そのあまりの熱心さに討たれ、だからこそ許可をだした。
ミトスとマーテルにあたえた精霊石は特殊な品であり、
微精霊達が宿りしもの、ではなく、むしろその器となりしもの。
それでも通常の人々が利用している精霊石よりははるかに力をもちしもの。
だからこそ、デリス・エンプレムをもあたえ、
その肉体に影響が、心に影響が及ばないようにした、というのに。
それはかつての記憶。
エミルが過去のことに思いを馳せている中。
おそらくは管制室長、であったはず。
かの地を把握したときにそのようにたしか認識した。
管制室長、たしかその名をアドル、とかいったか。
ユアンはそのアドルの元に歩み寄り、メインスクリーンに精霊の楔の疑似モデル映像。
その映像を示すようにと指示をだしている。
アドルがコンソールを操作すると大地を上空から写していた映像が切り替わり、
精霊の楔らしきものが表示される。
画面中央には大いなる実りがあり、
そして実りの周囲には三色のエネルギーラインが網の目のようにと走っている。
そのラインはまるで木の根のようにひろがっており、
それらが二つの世界にマナを教級するパイプラインとなっている。
かつてはそのような仕組みになっていた。
というか、よくもまあ考えたものだ、とおもう。
楔を利用し疑似木の根を作り上げ、かつての大樹カーラーンの役目を模す、などとは。
本来、そのエネルギーラインは八体の精霊達を利用していることもあり、
四色表示で示されなければならないはずのそれら。
すなわち、表示されていない色のラインに何らかの不都合が生じている、ということ。
地震を起こした以上、あちらのシステムにも感知させたようにみせておかねば不自然。
ゆえにエミルはそれのみはきちんと表示されるように意識して捜査してある。
それ以外の数値…特にマナの数値や大地の変動。
そういったものはかつてのまま、すなわち現実とは異なる結果が示されているのだが。
「精霊の楔が一つ表示されていないが、どうなっているのだ?」
「現在、ウンディーネラインの楔は消滅しています」
淡々とユアンの問いかけに答えるアドル。
「しかし、なぜ突然、精霊の楔がきえたのだ。原因はわかっているのか?」
「計測された情報から推察すると、
  本来休眠状態にあるはずのヴォルトが強制的に目覚めさせられ
  ウンディーネとともに封印から解放されたためであると考えられます」
ユアンの問いに淡々と答えているアドル。
ユアンがそんなやり取りをしている最中。
「ユアン様」
管制室の扉が開き、プロネーマがはいってくる。
そんな彼女をみてユアンが眉をひそめる様子がみてとれる
「なぜお前がここにいる?ディザイアン階級が管制室に達いることはできぬはずだが?
  それより、飛竜の巣での失態の始末はすんだのか?」

「ユグドラシル様より特別にお許しを頂き、精霊の楔について調べておりまする。そういうユアン様は……」
「お前もあの場にいたのならばしっていよう。あの異様なほどの巨大な揺れ。
  何かあったのではないか、とおもってこうして調べにきたまでだ。異様なマナの乱れもきになったしな」
「さすがはユアン様」
「かの飛竜の巣は我らにはもうつかいものにはならんだろう。
  あのカビは大地深くにまで浸透し、いつ目覚めるともかぎらん。
  生体系には影響がなくとも、我らが使用する様々な道具類には不利
  ところで、今確認したのだが。精霊の楔の一部が消失したそうだが。
  このことはユグドラシル様もご存じなのか?」
それは問いかけ。
「もちろんです」
「ではユグドラシル様はどうなさるおつもりなのだ?私には何の報告も指示もきていないが。
  何か対策を命じられるようなことをおっしゃったのか?」
ユアンの問いに、プロネーマはいいよどみ、視線を落とす。
「かまわん。いずれは私の元にも報告がくるはずだ。答えよ」
いくら疑っていようとも、ユアンは四大天使の一人であり、またテセアラの管制官。
ゆえにプロネーマが答えない、という不備は許されるものではない。
「いえ、あの…原因が精霊にあるのならば、再生の神子達が精霊と接触するのを阻止してはどうか、
  と奏上もうしあげたのですが…」
「ロディルの報告では、たしかレネゲードのやつらは、奇襲をしてきたそうだな。
  なるほど。たしか奴らの一行には契約の資格をもつものがいたはずだ。
  だとすれば、そのものにヴォルトとの契約をさせ、奇襲をもちい神子を救いだしたか」
いけしゃあしゃあと、いいはなつユアン。
そのように提案したのはほかならぬ彼自信なのだが、
それを彼女達に悟らせないのはさすがというか。
「はい。わらわもそう思います。そうとしか考えられません故。
  ですから、そのように僭越ながら申し上げたのですが、
  それは無用である。 との仰せなのでございまする」
「…は?大いなる実りの守護が失われるのだぞ?それは非常事態にあたるのでは?」
内心、ほくそ笑みながらもとまどったように問いかける。
ユアンのとってはミトスが放置していろ、というのは好機といってよい。
しかしそんなことは表情に微塵もみせはしない。
それはかつてシルヴァラントにて国に仕えていたころから彼は変わっていない。
「はい。それはもう。わらわも放置するべきではない、とおもうのですが。
  ユグドラシル様がおっしゃるのには仮に精霊の楔が全て消えたところで、
  大いなる実りが失われるわけではない、と。
  大いなる実りは救いの塔によってデリス・カーラーンと繋がっております。
  救いの塔が失われなければマーテル様へのマナの供給が失われることはありませぬ故
  神子達のすきにさせよ、とおおせなのです」
困惑したようなプロネーマの声は彼女の内情を示しているのであろう。
「馬鹿な。…クラトスにはこのことを伝えたのか?」
「それは今からです。
  念のためにここにて精霊の楔を確認してからにしようとおもいまして…ユアン様?」
ここで彼女をそうか、といって退出せたのでは、自分の役割からしてあきらかに不自然。
ゆえに。
「そうか。ならば、クラトスにもこの一件の報告を。
  何が起こるかわかぬことを放置するのは危険でしかないからな。
  私は今一度、テセアラに降りる。精霊の楔が本当に解き放たれのか。
  ウンディーネの神殿と、ヴォルトの神殿。その互いを直接目で確認してくる
  あの地震のこともきにかかる。おそらくは精霊の楔が抜けた影響だろうが…
  互いの世界にてあの地震は起こっている可能性があることもつたえよ」
「さようでございますか。その報告は必ずお伝えいたします」
「あいつもシルヴァラントの管制官なのだから、仕事をしてもらわねば、
  私の仕事があやつのぶんまで増えてしまうからな」
やれやれ、というようにユアンがつぶやけば、思うところがあったのであろう。
それまですこしばかり険しかったプロネーマの表情がふっとやわらぐ。
「然り」
「精霊の楔は常に監視しておけ。こんなことは初めてだ。何がおこるかわからんのだからな」
「かしこまりました」
ユアンの言葉をうけ、アドルが軽く頭をさげてくる。
その表情には何の感情も見受けられないが。
その場にプロネーマとアドルをのこし、ユアンは管制室を後にしてゆく。

「…ル、…ミル…エミルったら!」
「え?あ」
ずっとあちらに意識をむけていた、から、であろう。
「うわっ!?」
いつのまにか顔を覗き込むほどに近くにちかよっていたマルタの接近した顔をみて、
思わずその場にのけぞるエミル。
「ああああの、マルタ?」
なぜだろう。
なぜにマルタは自分の額にマルタの額をおしつけているのだろうか。
「どう?マルタ?」
リフィル達がクラトスとの会話をすませ、もどってきたとき。
エミルはどこか目をつむり、びくり、ともうごかなくなっていた。
その手に濡らした布を手にもちつつも、ちかよってくるリフィル。
「熱はないみたいです」
「あ、す、すいません。もう大丈夫ですから」
意識をあちらに完全に向けていたから、とはいえない。
「本当に大丈夫?エミル?」
心配したようにコレットが困惑したようにいってくるが。
「うん。平気。それより、クラトスさんは何だったの?」、
「はい。一応これを」
「あ、ありがとうございます」
話題をかえるべく、リフィルから手渡された濡れタオルを受け取りつつも、
かるく顔にあてたのち、ロイド達にと問いかける。
クラトスのほうにはあまり意識をむけていなかったので、何があったのかはわからないが。
かるく同時に視ていたので何となくだが理解はしている。
しかし、あの場にいなかったエミルが知っている、というのはあきらかに不自然。
それゆえの問いかけ。
「あいつはよくわかんない、というのが正直なところだね」
しいなが苦虫をつぶしたような表情をしながらいってくる。
「?」
「まあまあ。あんなよくわからん奴のことはともかくとして。んじゃ、さくっと決着をつけにいくとしますかね。
  あの祭司がいうには教皇の手のものばかりが教会にいるらしいな」
「??」
まあたしかに、ざっとそちらに意識を向ければ教皇騎士団らしきものたちしか、
マーテル教会の内部にはみうけられないが。
エミルが首をかしげている様をみて、意味がわからない、と捉えたのであろう。
「とにかく。急ぎましょう。クラトスが城の中で何をしていたのかもきになるしね」
神木を手にいれるためになぜにわざわざ城に出向く必要があるのだろうか。
それがリフィルの懸念。
オゼットにいけば手にはいるであろうに。
「そういえば、プレセア。神木って、他にも伐採してるひといたの?」
ふときになるのか、マルタがプレセアにとといかける。
「いえ。私の父のあとは、私だけ…でした。
  村の人達は数人かかりで一本の神木を切り倒していたので……」
ゆえに、かかる手間暇と先立つ金銭のほうが先にきて、それを生業にしていたものはまずいない。
そもそも、プレセアの父がかの地にいついたのも、
「…よくわからないですけど。父も村に毎月、神木を納めていましたから」
それは、この地にすむのならば、と町長達がプレセアの父にいったがゆえ。
ゆえに、何もしなくても神木が手にはいる状態になっていた村人たちは、
あるいみ、神木で生計をたてているとはいっても、自分達が働くわけでなく。
それによって資金を得ていた、というのによそものである彼ら父娘を虐げていた。
ヒトとは都合のいいところしか目をむけず、そして排除しようとする。
その結果、何が起こるか、などまったく考えもせずに。
楽に慣れきった彼らが危険を冒してかの樹を伐採するか、といえば答えは否。
しかし、彼らがプレセアを追い出す発言をしたのもまた事実。
ゆえにそれで彼らがどうこうなろうともあるいみ自業自得としかいいようがないのだが。
もっとも、その前にミトスが何やらあの地にしそうな気配、ではあるにしろ。


薔薇庭園、とよばれし場所から階段を上り、そのさらに上につづく階段を上ったさき。
そこにみえるがここ、テセアラの要ともいえる王城。
そして、城につづく階段の下、その左側に位置する巨大な建物。
それが、テセアラのマーテル教会。
パルマコスタの教会ともイセリアの教会とも違う、とはロイド達の談。
教皇の部屋はマーテル教会の一番奥の部屋、にあるらしい。
奥に続く扉の前には教皇騎士団が守っており、
すばやく気配を殺し近づいたしいなが、そんな騎士団に一撃をくわえ、
どすり、とその場に騎士の一人は倒れ伏す。
さすがに教皇が人払いをしている、というだけのことはあり。
教会の中にいるのは騎士団らしきものたちの姿のみ。
見回っているであろう騎士団を音もなく倒して奥に進んでゆくことしばし。
ガチャリ。
その奥にとつづく扉。
ゼロス曰く、ここが教皇の部屋、であるらしい。
その扉に手をかけるとほぼ同時。
「遅かったではないか!」
扉の向こうから怒鳴り声が聞こえてくる。
そしてこちらに背をむけていた教皇が振り向くのと、
「そりゃどうも失敬」
ゼロスの声はほぼ同時。
「な!?神子だと!?それに…くっ。シルヴァラントの蛮族達かっ!お前達、どうしてここにっ」
驚愕したような表情をうかべ、歯を食いしばりそんなことをいってくる。
「あんたに聞きたいことがあるんだよ」
ロイドが一歩前にでて言い放つと、それにあわせ、一歩教皇はその歩みを背後にむける。
「陛下にかつて毒をもっていたらしいじゃないか。ついでに、また同じようなことをしようとしてるってな」
ゼロスのいい分に、
「…知らんな」
表情一つかえずにきっぱりといいきる教皇。
「本当につらの皮が厚いなぁ」
「しらんっ!」
ゼロスのいい分にもきっぱりと言い切りつつも、一歩一歩後ろにと下がってゆく。
「うごかないで」
何かを企んでいることに気付いたのか、
武器を手にし、ぴたり、とそんな教皇につきつけてるプレセア。
「では、この毒薬はあなたに呑んでもらいましょう。これはあなたに届けられるはずのものだったはず」
リフィルがゼロスから小瓶をうけとり、それを目の前にかかげる。
「そ、それはっ」
それをみてあきらかに動揺したそぶりを初めてみせる。
「そういや、前に国王陛下にもってたっていう毒はすぐに効く薬じゃなかった。
  とかさっきあったやつらがいってたよね。なら問題ないのかな?
  それもどうせすぐに効く薬じゃないんだろうし」
マルタがふと思い出したようにそういえば、
「たしか、トリなんとかの毒っていってたよね~」
コレットがにこやかにマルタの台詞に賛同するかのようにいってくる。
「トリカブトって、親父に猛毒だから絶対に口にするな、と俺いわれてたけど。解毒薬ってあるのか?」
そんな二人の会話をききつつ、そんなことをいっているロイド。
「あるんじゃないの?毒味をしない、とも限らないんだし」
ゼロスのいい分はどこか軽い。
確実にない、とわかっていていっているようでもある。
「ねえ。これ、何だろ?」
ふとみれば、机の上に何かの粉がはいった瓶のようなものがおかれている。
それにきづき、コレットが机の方にちかよってゆくが、
「っ」
コレットが机に近づいていったのをみて、あきらかに言葉につまる男の姿。
「その反応からして。これがあなたに渡されていた解毒薬、のようね」
リフィルがそれにきづき、つかつかとコレットの横にちかより、
ひょいっとその小瓶を机の上から持ち上げる。
中には白っぽい粉がはいっており、それが何なのかはリフィルにはわからない。
ちなみに、エミルが瓶の中をすこし視てみれば、その粉の正体。
それは青酸カリ、らしいが。
というか、完全にこの人間も彼らにだまされている、らしい。
そんな中、じりじりとさらに一歩、背後に足をすすめ、
そして。
チリッン。
その場、すなわち背後にあった本棚の隙間においてあったのであろう。
手を伸ばし、それを手にしたかとおもうと、それをチリン、と鳴らしてくる。
それとともに、こちらにむかってくる足音がいくつか。
どうやら今のが合図、というか呼寄せの鈴であったらしい。
「今、兵を呼んだ。ここで神子が死ねば教会は名実ともに私の配下となる」
勝ち誇ったようにそんなことを目の前の人間はいってくるが。
「神子なしでマーテル教会がたもてるものか」
そんな教皇の台詞に淡々とリーガルが真実を紡ぎだす。
そもそも、マーテル教会は、天界から認められたマーテルの御使い。
その神子の名のもとに存続しているといってもよい。
長き繁栄時代の中でその神子の重要性をどうやら上層部のものは忘れかけているようだが。
しかし、神子をないがしろにした結果、どうなったか。
彼らとて理解しているはずである。
かつて、スピリチュアの悲劇、というものがあったのだから。
だからこそ、テセアラ人の感覚としてはリーガルのいい分は正しい。
それがクルシスによって歪められている真実であるにしろ。
「ふん!セレスがおるわ!」
「やろう。やっぱり妹を巻き込む気でいやがったかっ!
  どこまであんたは妹を利用したらきがすむっ!そもそも、あいつがっ…この狒々爺め!」
『え?妹?』
その言葉になぜか異口同音で言葉を発し、ゼロスをみているロイド、ジーニアス、マルタの三人。
彼らの脳裏に浮かんでいるのはおそらく、ゼロスそっくりの少女、なのだろうが。
生まれつき体がよわいというあの人間の娘は、それは血が近しいがゆえの障害。
元々、血縁関係ではあったゼロスの両親。
それは母親における妹とて同じこと。
クルシスのシステムが妹、ではなく姉のほうを選んだことにより、
それによってゼロスの運命は狂ったといってもよい。
――お前など、産まなければよかった、か。
かの地にあった木々が当時の事を覚えていたがゆえ、エミルはそれを知っている。
それは彼女の本意ではなかったであろうが。
しかしまだ幼い子供に自分はいらない子どもなのだ、と植え付けるのは十分。
「神子がいけないのだ!なぜお前のようないい加減な男が何故神子なのだ!
  お前さえいなければ私のハーフエルフ追放計画を邪魔するものはいなくなったのに!」
「…人間は、どうしてハーフエルフを邪魔にするの…」
吐き捨てるようにいう教皇の台詞にジーニアスが悲しそうにぽつり、とつぶやく。
ロイド達の態度では否定れないがゆえに忘れていたが、
ヒトはハーフエルフに対し、いつもこのような態度をとってくる。
それを忘れていたわけではない。
ないが、イセリアでの生活と、そして真実をしっても態度をかえなかったロイド。
ゆえに、その人の醜を一時にしろジーニアスが失念していたこともまた事実。
「異端のものは排除される」
ジーニアスの呟きにきっぱりとこたえる男だが。
「異端、ね。それでいえばお前達ひとも世界からみれば異端、ではないのか?」
「エミル?」
異端というならば、自然をないがしろにする生命こそ、それこそ世界にとっての異端。
それこそ害虫以外の何ものでもない。
腕を組み、淡々と真実のみをつぶやいたエミルの言葉に気付いたのか、
ふと首をかしげマルタがエミルのほうをみてくるが。
気のせいだろうか。
一瞬、そういったエミルの瞳の色が緑から深紅へと変化したようにマルタの目にみえたのは。
変化は一瞬。
ゆえにそんなエミルの一瞬の変化に気付くことなく、
「ふざけるな!この世界に産まれてきたかぎり、誰だって何だって。そのまま生きていてもいいんだ!」
相手にむかってきっぱりと断言するように叫び返しているロイド。
「…その過程で世界の理に逆らったりしなければ、ね。
  いつも自然を壊すのもヒト、争いを起こすのもまたヒトでしかない。それをロイド、忘れてない?
  君たちヒトの心がいつでも不安要素を産みだしている。という事実を」
そんなロイドにとエミルが逆に問いかけるが。
「もう。エミル。今はそんなことをいってる場合じゃあ!」
そんなエミルの言葉をきき、なぜかジーニアスが突っ込みをしてくるが。
「でも、たしにかね。いつも争いを起こすのはヒト。人の心でしかないのだもの」
しかし、エミルのいい分には一理ある。
ゆえにリフィルもすこしうつむき同意してしまう。
と。
バタン!と扉が勢いよくひらかれ、
そこから幾人もの兵士らしき姿が部屋の中になだれ込んでくる。
兵士達はそれぞれ武器をかまえ、
「う、うごくな!」
手にもった武器をつきつけ、逃すまい、としてくるが。
「あ」
その隙をついた、のであろう。
この部屋に隠されていた隠し通路。
本棚の一部の本をガコン、と動かしたかとおもうと、
本棚が移動して開かれた道…それはサイバックでみた隠し通路とよくにた構造。
ともかくその新たにぽっかりと開いた隠し通路にとその身をおどらせる。
「おいおいおい。このままじゃあ、教皇のやつにまた逃げられちまうぜ?」
そんな教皇をみてゼロスが呆れたように呟くが、
「私がはらいます」
その言葉とともに、プレセアがそれまで教皇につきつけていた斧をその場にて振りかぶる。
「うわ!?」
ぶんっと大きくふられた斧は音を立てて虚空を薙ぎ払う。
一瞬ひるんだ兵士達をみつつ、
「今のうちです」
淡々とプレセアがいってくるが。
「なら、ついでに」
そのまま、懐からとある品を取り出して、ぽいっと彼らにと投げつける。
「あ。皆、息はとめてくださいね?」
でなければ確実に彼らにも影響があるであろう。
「何を…って…え?」
漂ってくるのは、覚えのある匂い。
ラベンダーの匂いは一瞬、彼らの思考力を奪い去る。
気をぬけばそのまま匂いにつられるように睡魔が襲ってくるかのごとく。
ばたんっ。
どさっ。
『ぐ~……』
『・・・・・・・・・・・』
エミルの指摘をうけ、咄嗟的に息をとめたからいいものの。
そうでないものたち。
すなわち、その場にいた兵士達はエミルが投げつけたちいさな袋。
ちなみに中にはいっているものは何のことはない。
ラベンダーのポブリ。
どこからともなく吹いてくる風により、その匂いは部屋の外にとながれていき、
バタバタと部屋の外にいるであろう兵士達が倒れている音がきこえてくる。
そんな光景をみてなぜか無言となっているリフィル、ジーニアス、ロイド、
マルタ、ゼロス、リーガル、しいな、プレセア達八人の姿が見て取れるが。
「なんでか僕がつくったポプリとかって、異様に効果発揮するんですよね。相変わらず」
「…そういえば、そうね。ポプリとはいわず、全般だけどもね」
どこか疲れたようにため息をつきつつも、こめかみに手をあてながらつぶやくリフィル。
「そういえば、エミルが入れてくれたハーブティーも飲んですぐに眠くなるもんね」
「…そういう問題か?おい?この効果はいくら、ラベンダーそのものに、
  睡眠効果がある、といわれていても異常だろ?」
ぽつり、とつぶやくゼロスの台詞に、
「たしかに。その言葉には私も同意見です。ゼロスくん」
プレセアもまたそんなゼロスに同意を示していたりするが。
「とりあえず、あの男の人、おいかけるんじゃないんですか?」
エミルにいわれ、はっと我にともどり。
「え。ええ。そうね。いきましょう」
ここにいつまでいても仕方がない。
机の上にあった小瓶を忘れずに回収し、そのまま教皇が消えていった隠し通路。
その通路にロイド達もまた、その身を躍らせてゆく。


「くそ…逃げられたか」
隠し通路は一本道で、レンガに囲まれた細い通路を抜けた先。
そこはどうやら地下につづく途中の階段であるらしく、
そのまま下にむかっていけば地下牢、そして上にいけば王城の中。
そのまま明るい部分、すなわち階段を上るように登っていけば、
足元にふかふかの絨毯がしかれているとある建物の中にとたどりつく。
ざっとみるかぎり、どこかの建物の中、らしき場所ではあるが。
「こりゃ、王城の中、だな」
ゼロスが周囲を見渡し、すぐさまそのことに思い当たり、そんなことをいってくる。
と。
「み…神子様、すいません。ご覚悟を!教皇様の御命令ですっ」
いつのまにいたのであろうか。
鎧を着込んだ兵士らしきものが、こちらに気付いたのか武器をつきつけてくる。
が、カタカタとその身が震えているように見えるのはおそらく気のせいではないであろう。
「きゃっ!?」
目の前にていきなり武器をつきつけられ、コレットが思わずその場にてこけそうになり、
咄嗟的に翼を展開し、ふわり、とその場にと浮き上がる。
「ひ…ひぃぃぃっ」
「天使だ!天使が降臨した!」
「やはり、あのシムルグの前兆といい、あの地震といい、うわぁぁっ!」
「天の怒りにふれたのだ。スピリチュアの再臨だ!」
薄く輝く翼はまぎれもなく天使の翼。
マーテル教の祭典や、絵本をみたものならば誰でもしっている。
それは天の遣い、としての天使の姿。
普通の鳥の翼らしき翼をもつものは下っ端天使であるが、そうでない翼をもちしもの。
透明な翼をもちしは、より女神マーテルに近しい天使、といわれている。
そして、目の前の金髪の少女は、その薄くかがやく桃色に輝く翼を展開し、
まぎれもなく、ぱたぱたとその場にと浮かんでいる。
仮装、とかそういうのではなく、あきらかに何の種も仕掛けもないのに浮いているのは明か。
その姿をみて取り乱すように叫びだす兵士達。
みれば、騒ぎをききつけたのか、やってきていた兵士達もまた、
その場にがくり、と膝をついたり、中には土下座をしているものの姿すら。
王城の中にいた、のであろう。
普通の使用人達はその天使の羽を目の当たりにし、悲鳴をあげてどこかに逃げていっているが。
そんな人々の様子をみて、何やら思いついたのか、
それともこれを始めから狙っていたのか、それはわからないが。
「みろ!お前達の神をも恐れぬ行為がクルシスからの使いをもたらしたのだぞ!」
高らかにそんな兵士達といわず、この場全てにいきわたるような声で朗々と言い放つ。
そんなゼロスの台詞をきき、
「神子様…では、やはりっ!」
問いかける兵士の声はかなり震えている。
ひっ、としたような悲鳴もまたいたるところから聞こえてくるのがみてとれるが。
というか、本当に何をしたんだ?ミトスのやつは、過去。
思わずそんな人々の反応をみてエミルは思うが。
どうやらかなり恐れられるようなことをミトスはかつてしでかしている、らしい。
一方、ロイド達は何が何だかわからない。
なぜかリーガル、しいな、プレセアのみは納得したような表情を浮かべているが。
それ以外、ロイド、ジーニアス、リフィル、マルタの四人は困惑顔。
「そう。彼女こそ死と破壊の天使。スピリチュアの再来だ!」
高らかに言い放つゼロスの言葉に、
「お…お許しを!天使様!」
「お許しぉぉっ!」
悲鳴にもにた兵士達の声が響き渡る。
それは一番始めに武器をつきつけてきた兵士達。
がくがくと体をより震わせていることから、本気でいっているのがうかがえる。
「あ…あの、えっと…どうしよう?」
そんな彼らの様子をみて、コレットもまた困惑顔。
どうしたらいいのかがわからない。
ゼロスの言い回しから、何か意味があるような気がし、そのまま空中に浮いたまま、
ではあるのだが。
「おい。どうなってるんだ?」
「いいから。俺様に調子をあわせろ」
こづくようにして、ゼロスに小声でといかけるロイドにたいし、ゼロスもまた小声でロイドにと返事を返す。
そして、
「天使様。このものの処遇はいかがいたしましょう」
そんなことをコレットのほうにむいていっているが。
さすがにここまでくればいくらロイドとて気付いたらしい。
これがゼロスによる演技だ、と。
なぜかコレットを恐れているような兵士達。
ならばこれを利用しない手はない。
それゆえに、
「…コレット、殺すっていえ」
小声で小さくつぶやく。
コレットはまだ聴力も異様によかったはず。
ならば周囲に聞きとれないくらいの言葉でもコレットには通じるはず。
「で…でも」
小さく呟いたその台詞を捕らえられたのは、エミルとゼロス、コレットのみ。
そんなロイドの言葉がきこえ、困惑したようにコレットが呟くが。
「いいから。えらそうにな」
再び続けざま、小さい声にてコレットに支持をだす。
よくわからないけど、ロイドがそういうなら…
そう思い、
「えっと…死になさい」
コレットのその台詞は棒読みでしかないが、それが逆に無表情にもとれ、
恐怖に落ちいている人々からしてみれば、より恐怖を煽る結果となっていたりする。
「お、御許しを!どうか!」
みれば、離れた場所にいたこの城の中につとめているものたち、であろう。
そんな彼らもまたその場に平伏しているのがみてとれる。
ほとんどのものたちが体をわなわな震わせており、動くことすらままならなくなっているらしい。
…だから、本当にミトスはかつて何をしたんだ?何を?
そんな人々の様子を視てとり、エミルが思わず眉をひそめるが。
「天使様。彼らの命、この神子に免じてお助けくださいませ。
  私は天使様に仇なすものを倒し再び神子としてマーテル様のおしえを広めていきますのでどうか……」
そんな中、ゼロスが淡々とコレットにむけて言いつのる。
「許すっていってやれ」
そんなゼロスにあわすように、小声でコレットに支持をだしているロイド。
「あ。はい…許しましょう」
ロイドにいわれるまま、淡々とコレットが答えると、
「聞いたな!天使様は神子こそが教会の聖なる意思だと認定された!
  即刻引き返し、我に仇なす教皇とその私兵、教皇騎士団を捕らえるのだ!」
「わ、わかりました!」
「神子とその仲間達の手配は即刻撤回せよ!」
「か、必ず!皆、神子様の命令に従うのだ!でなければメルトキオに明日はない!」
ゼロスの言葉をうけ、さらに深く平伏したのち、あわててその場からかけだしてゆく兵士達の姿。
やがて、兵士達全員の姿がみえなくなったのを確認し、ふわふわと降りてきつつ、
「すご~い。皆ゼロスのいうことをきいたよ」
感心したようにいっているコレット。
ちなみに、自分の言動がそのようになった、というのにコレットは気づいていないらしい。
「…スピリチュア伝説に助けられたな」
しばらく黙ってことの成行きをみていたリーガルだが、
ぽつり、とそんなことをいっていたりする。
「シルヴァラントの神子、スピリチュアと関係がやはりあるのかしら?」
「さあな。詳しい話しは教会の資料でも読んでくれ。とにかくスビリチュアは、
  神子をないがしろにした国王を殺して神子を救ったことで有名なんだ」
リフィルが気になるのかそう問いかければ、ゼロスが首をすくめていってくる。
「ふ~ん、今の状況と似にてるね。よくわからないけど」
マルタのそんな物言いに、
「似てるなんてもんじゃないよ。というかその種まきはかなりされてたからね」
ため息まじりにづふやくしいなの台詞に、思わず顔を見合わせて首をかしげるロイド達。
そんな彼らをざっとみたのち、深いため息をついたのち、
「…シムルグがいい例さ」
「?」
ちらり、としいなから視線をむけられて、エミルが首をかしげるが、
そんなエミルをみて再びしいなはため息をついたのち、
「神鳥シムルグは女神マーテルに仕えている鳥、としてマーテル教の経典にある。
  そんな鳥が神子が手配された直後にあらわれた
  それだけでも人々は疑心暗鬼になっていたはずさ」
事実、噂にオヒレがつきまくり、面白い形となって噂は飛び交っていた。
リフィルもしいなの言いたいことに気付いた、のであろう。
「そこにくわえて、このたびの地震…ね」
しいなの言葉につづき、リフィルもまた深いため息をついてくる。
噂がどこまで広がるか、懸念していたが。
どうやらただの噂の段階、というところではなくなっているらしい。
もっとも、エミルがシムルグを呼び出したのも事実でもあるし、また、地震があったのもまた事実。
さらにいえば、教皇騎士団が壊れた装置で冤罪もどきを押し付けてきたのもまた事実。
あの場にいた研究院の人々は、リフィル達にきちんと検査をしていない。
そんなところまできちんと目撃している。
だからこそ、リフィルはため息をつかざるをえない。
そういえば、とおもう。
かつて、しいながパルマコスタによったとき、スピリチュアのことを、
死と破壊の天使とかいっていたような気がしなくもない、と。
「これでもう追われるようなことはないってことなの?エミル?」
いまだにちらり、と視線をよそにむけてみれば、使用人、達なのであろう。
壁の端により、平伏している様がみてとれるが。
そんな人々の様子をみつつ、マルタが首をかしげ、なぜかエミルにときいてくる。
「さあ?まああの人間達が馬鹿じゃないかぎりは手配とくんじゃない?
  まあ、あの教皇とかいう立場にいた人間がそう簡単にあきらめるともおもえないけど」
ああいう手合いは追い詰められれば何をしでかすかわからない。
一番いいのは、彼らと繋がりがある魔族達を芋蔓式におびき出す材料となってほしい所だが。
「教会関係は大丈夫だろ。あとは陛下だな」
そんな会話をききつつも、ゼロスが何やらいってくるが。
そんなゼロスの台詞をきき、
「とりあえず、毒を盛られそうになっていたことだけはつたえないとな」
「というか、前も毒をもられていたのだけどもね」
ロイドのいい分のリフィルからしてみればため息をつかざるをえない。
そもそも、ここテセアラというかメルトキオに初めてやってきた日。
リフィルはエミルとともにゼロスにつれられ、国王の寝室に出向いている、のだから。
そのとき、毒を盛られていたことは伝えていた、はずなのに。
何の対策もしていなかった、ということなのだろうか。
一国家の権力者ともあろうものが、である。
だからこそ、リフィルからしてみれば何ともいえない思いに囚われてしまう。
そんなきちんと判断ができないようなものに、自分達の家族は、
苦しい目にあわされるハメになってしまったのか、と思えばなおさらに。


「ま、まちなさい!」
伝令はあっというまに広がったらしい。
「人の噂は千里を走る、とはいうけど、まさにそれだね」
エミルがしみじみとそんなことをつぶやくが。
先ほどの今だ、というのに。
スピリチュアの再来が現れ、神子を害しようとしたものを処罰しようとした。
という噂はあっというまにまたたくまに城全体にと伝わっているらしい。
この様子ではまちがいなく、城の外に伝わっていくのも時間の問題であろう。
ゼロスに案内され、だどりついたは国王の寝室がある、という城の二階。
すでに扉の前にはヒルダが出てきており、ゼロス達の姿をみとめるなり、
体を震わせつつもそんなことをいってくる。
「姫、陛下にあわせてください」
必死で部屋にいれまい、と虚勢をはるヒルダにと、ゼロスが淡々と言いつのる。
「…スピリチュアの再来か何かはしりませぬが…父はまだ病み上がりなのです
  お父様はただ、テセアラを守ろうと」
ヒルダの声は震えている。
ヒルダの耳にも届いている。
神子ゼロスを手配したとおもった直後に現れた、という神鳥シムルグ。
見間違いでは、という意見は、あまりの多さの目撃情報に塗りつぶされた。
そして、きわめつけはこの地震。
いまだに時間をおいては時折ゆれるその揺れは、あからさまに人々に不安を抱かせている。
一番大きな揺れではここ、メルトキオでも被害があった。
貧民街などの一角においては家が崩れ去った、ともきく。
貴族の屋敷などではことごとく棚などが倒れ、貴重な品が割れた、とも。
それでなくても、神子を教皇が陥れようとして、天が怒っている。
といった噂がまことしやかに流れている最中の巨大地震。
その怒りの矛先が・・・神子の手配を許可した王家に向くのは当然で。
すでに、貴族の一部からは、なぜ神子の手配を容認したのだ!?
という声もあがってきている、という。
実際、ヒルダもそんな詰めかけた貴族達の対処にあたったのは一度や二度ではない。
神子様がテセアラを裏切るはずがない。
そうヒルダはそういったのに、父は叔父上が嘘をついているとでも?
といって聞き入れなかった。
その結果がこれ。
それでも、ヒルダにとってはたったひとりの父親。
自分の身で父が、国が守れるのならば、それでもいい。
それでも、恐怖は捨て切れない。
ゆえに無意識のうちにヒルダの声、そして体は震えている。
「…わかっていますよ。姫。国王は教皇に毒を盛られていました。それは調べがつきましたか?」
そんなヒルダの様子をみて、ふぅっと息を深くはいたのち、
少しでもヒルダの気持ちを和らげようとしたのかゼロスが問いかける。
実際、あの水を持ち込んだのは教皇が直接、祈りをこめた聖なる水、といって持ち込んだもの。
しかし。
「いえ。教皇は自分はしらぬ、ぞんぜぬ、と。
  父も教皇がそのようなことをするはずがない、誰かが教皇を陥れようとした、としか」
そこまでいい、すこし顔を伏せ、
「たしかに、あの水差しなどにも毒がはいっていました。これは確認されています」
昔、何があったのかはしらないが、祖父にその権利をはく奪されたらしい、王家のもの。
かつて王族の権利をはく奪された叔父。
ヒルダはなぜはく奪されたのか、そのあたりのことは詳しくはない。
父に昔きいたことがあるが、身分違いのものに恋をしただけで叔父は悪くない。
とどこか遠い目をしていっていたのは今でもヒルダは覚えている。
ヒルダは知らない。
彼がエルフと恋におち、子供まで設けていた、というその事実を。
「またその教皇のやつは同じことをしようとしていたらしい。さっき俺達がそれを追求したら、逃げだした」
そんなゼロスにかわり、ロイドが場の空気をよまずにいきなりそんなことを言い放つ。
ロイドからしてみれば少しでもはやくに国王に話しを、ということろなのだろうが。
少しはヒルダ姫のこともきづかうことをしらんのか?
そんなことをおもい、ゼロスが思わずあきれてロイドをみていることに、ロイド自身は気付かない。
「まさか…」
ヒルダの声がさらに震える。
「…はぁ。そのまさか。よ。毒を新たにうけとるつもりだったらしいわ」
まさかロイドがいきなり用件というか重要な部分をいうとはおもわずに、
思わずコメカミに手をあてつつも、それでいて、ロイドがいってしまった以上、
ごまかしは無用、とばかりにリフィルもまた説明する。
できうれば、それらのことはいわずにリフィルからすれば謁見を願いたかったのだが。
教皇は彼らの身うち、血の繋がりがあるものだ、とゼロスからきかされた。
そんな血の繋がった身うちが自分達を害そうとしている、など。
まだ若い女の子に聞かせたくなかった、というのがリフィルの本音。
「俺様たちがその取引現場を押さえて取り上げたけどな」
リフィルのそんな思いなどしるよしもなく、とどめ、とばかりにロイドがいうが。
「そんな…そんな、叔父上が?」
ヒルダの心の中ではどこかでまだ信じていたい、という思いがあったのであろう。
その気持ちはエミルとてわかる。
自分とて、あのミトスが完全に自分を裏切っている…とは思いきれないところがあるのだから。
もっとも、あのときは完全にそうとしかいいようがないことをしでかしてくれていたので、
ヒトというヒトを見限っていたのだが。
まだ、この時間軸ではミトスはあのようなことをしでかしていない。
自分から大樹の種子を取り上げるようなことはしていない。
…もっとも、その力を削ぐことはしているっぽいが。
だからこそ、問いかけたい。
なぜ。
なぜ、どうして。
自分をたよることなく、種子の消滅にもなりかねない行為をしているのか、と。
あれほど大地が消滅…海と化すことすら拒否していたあの子だ、というのに。
「よい。ヒルダ」
ふと、そんなやり取りをしている会話がきこえた、のであろう。
扉の向こうから、聞き覚えのある男性の声がきこえてくる。
やがて、ガチャリ、と扉が開かれると、そこには案の定。
この国の国王だ、という人物がたっているのがみてとれる。
どうやら扉の前でやり取りをしていたのをききつけ、こうして部屋からでてきたらしい。
「……お父様、ですが」
困惑したヒルダにたいし、視線で部屋の中に、とうながす国王。
その視線をうけ、ヒルダもこれまで立ちふさがっていた扉の前から横にとよける。
「…入るがいい」
国王の台詞にしばし顔をみあわせつつも、そのまま部屋の中へはいってゆくロイド達。


「裏切りもの、ゼロス。私を殺しにきたのか?」
部屋の中に用意されていた椅子にすわりつつ、ゼロスにむかって開口一番。
といかけたその台詞は国王としてはありえない。
しかし、彼からしてみればおそらくは真面目なのであろう。
そんな問いかけ。
「な!?それは違うぞ!ゼロスはあんたを助けようと…」
そんな目の前の国王であろう、とおもわしき人物に思わずロイドが叫ぼうとするが、
「黙りなさい。ロイド。陛下、御前を騒がせて申し訳ありません。
  ロイド?いい?ここには身分、というものがあるの。
  あなたの不適切な言葉一つで不敬罪、ととられて処刑されてもおかしくはないの。
  だからあなたはいらないことをいわないの。いいわね?」
国王陛下に溜め口を利きかねない。
というか、むしろ王女にすら溜め口をきいていたロイドである。
国王にむかって普通に話さない、とはいいきれない。
だからこそ、すばやくそんな不敬罪ともとられる発言をする前にぴしゃり、とリフィルが言い含める。
というか、ロイドは謙譲語とか尊敬語、とかヒトがいうところの言い回しを知らないのだろうか。
…知っていても覚えてない、というのが正しいような気がする。
エミルはいつもどちらかといえば命令する立場なので気にしたことはほとんどないのだが。
すっとその場に膝をつき、相手に敬意の意を示し、相手を見下ろす、のではなく、
みあげるような格好にて国王にと言葉をはっするリフィル。
エミルは部屋にはいってすぐに窓の近くによっており、
窓によりかかっている状態でそんな彼らを眺めているのだが。
気になるのは窓の外、というか、オゼット付近。
ミトス、お前は……
ミトスの指示にて、降下を初めているラタトスクの記憶にもある戦闘部隊。
白と黒の翼をもちし、戦闘用に心を壊されているものたち。
それらが突如としてオゼットの上空に出現しているのが視てとれる。
――自分達が選ばれしもの、と勘違いするものよ。
  どちらが格下なのか、その身をもってして思い知るがよい
そんな声がミトスから発せられるとともに、上空に飛来した天使達が一斉に、オゼットの村にと舞い降りてゆく。
ロイド達はあの地がそのようなことになっているのに気付いてすらいないであろう。
離れているのだから知りようがない、といえばそれまで、だが。
しかし、それにもまして気になりしは…
「…まさか、本当にアレを使う気だ…とはな」
その気になれば大陸一つをも吹き飛ばせる威力をもちし力。
それに繋がるマナを制限しているがゆえにそこまでの力は発揮できない、とはいえ。
…信じたくなかった、というのもある。
そこにまだ生きているものがいるのに、とまどわずにそれを使用する、と決定をだすミトスの心を。
あれほど、誰もが傷つくのを拒んでいた、というのに。
ぎゅっとエミルが手を強く握りしめていることに皆は気付かない。
気付きようがない。
すでにセンチュリオン達はかの地にむかわせている。
あの地に生きる動植物を守らせるために。
「お主は、先日、神子につれられてきた治癒術士の…報告ではハーフエルフ、だと…」
リフィルのその言葉と行動をみつつ、
そんなリフィルを見下ろしながらそんなことをいってくる。
「ハーフエルフ、ね。壊れた装置で調べもせずに
  勝手に冤罪おしつけた騎士団の報告を陛下達はうのみにした、と」
呆れたようなゼロスの台詞。
ゼロスの言葉に嘘はない。
あのとき、たしかに機械は故障していた。
なぜか、はそれはゼロスにもわからないが。
彼らがそれをうけ、まったく調べてもいないのに、高らかに言い放った。
その事実はあの場にいた研究院全てが目撃している真実。
「……自分の命の恩人なのに、ハーフルエフときいただけで罪人扱いって。
  そんなの人の上にたつものが判断することじゃないとおもう。
  そんなのパパ達がきいたら怒りまくるよ。絶対に」
マルタが上にたつものの心構え。
それを日々父母にいわれていたがゆえかふとそんな言葉を発しているが。
ちなみにマルタも一応眼上のものに対する態度、というものは叩きこまれている。
ゆえに、国王の目の前にて対峙したとき、リフィル同様、
すっとその膝を片足をつけていたりする。
それ以外の礼儀作法も一応は叩きこまれている。
もっともマルタはそんな態度は自分にはあわない、といってあまり熱心に習っていないのだが。
「そのほうは?」
ふとマルタに視線をむけたのち、その視線がマルタの肩に向けられたとおもうと、
そのまま、国王の視線は肩にのりし一匹の子猫に注がれる。
少女の肩にのりしは見た目は子猫。
だが、なぜだろう。
なぜか懐かしいような、それでいて畏怖を抱くようなそんな感覚をうけるのは。
そんな思いにかられつつも少女にと問いかける。
「陛下。こちらの少女はシルヴァラントに残されし王族にゆかりあるもの。
  身分を今でこそ隠してはいますが、シルヴァラントの王女ですわ。
  今はディザイアン達の脅威もあり、その一族は民の中に隠されておりますが」
リフィルがそんなマルタにかわり、マルタの秘密をさらり、と言い放つ。
そもそも、たしかにエミルの言うとおり。
二つの世界が統合したとしても、シルヴァラント側がなめられて、
それこそ奴隷のような扱いをされない、とは限らない。
ならば、打てる手はうっておく。
マルタを利用するようで悪いが、マルタの血筋は本物。
それに、何よりも、マルタの傍についているというこの子猫。
それは本来、代々王家につたわりし聖獣である、という。
なら、それを利用し、シルヴァラント側の印象を少しでも強烈に、
というのがリフィルの狙い。
のちのち、間違ってもテセアラ側がシルヴァラント側を見下したりしないように。
「何と!?」
「え!?では、あなたもわたくしと同じ…?」
驚愕したように、がたん、と椅子から立ちあがる国王に、困惑したようなヒルダの声。
「え?え?」
いきなり自分に話題がふられ、視線をさまよわせるマルタ。
たしかにそのように父、母からいつも聞かされている。
いるが、このような場でいきなりそんなことをいわれる、とおもっていなかったらしく。
あきらかにその視線は泳ぎまくっている。
助けをもとめるようにその視線はエミルにむけられるが、
エミルはなぜか窓の外をじっと眺めており、マルタ達のほうに向いてすらいない。
「……王家を騙る…とかではなさそうだな。だとすれば。
  娘よ。そのほうの肩のうえにいる猫、ただの猫ではあるまい。よもや」
じっと、マルタの肩にいた子猫に視線をむけていた国王がやがて静かに言葉を発する。
それは確信をもった台詞。
すでに自分達の王家には失われてしまった…聖なる獣。
それがもしシルヴァラント側には生き残っている、というのならば。
「ほう。見抜きましたか。いかにも。私は古の盟約に従いし、王家に従いしもの。
  もっとも、こちら側の王家は私のような契約獣はすでに失っているようですがね」
すでにこちらの国との契約は断ちきられている。
同じ饕餮だからこそ、シヴァにもわかる。
本来、対をなして仕えていた饕餮達。
それがいつの時代からか、互いに牽制し合うようになり…
きっきけは、ほんの些細なこと。
互いの国が聖獣を従えているのはおかしい、一つの国が使役するべき。
そんな事を言い出した国王が全ての始まり。
そのあまりの傲慢さにそのときは彼ら饕餮は当時の王家に使えることすらせず、
そのまま契約の場にて眠りについた、のではあるが。
あの古代大戦、とよばれていたときも、彼らはいまだ眠りについていた。
マナが涸渇していた、という理由もたしかにある。
もしも彼らが王家にいたならば、あのようなこと…すなわち、
マーテルが殺されるようなことにはならなかたのかもしれない。
とは、センチュリオン達の談。
それはもしも、でしかないが。
もしくは、それを決定した当時の国に愛想をつかし、完全に盟約を断ちきっていたか。
そのどちらかであったであろうことは、ラタトスクとて理解している。
「「!?」」
その驚愕は、国王、そしてヒルダ姫以外。
ゼロス、そしてプレセアにも普及する。
「…言葉を話す獣、か。
  我らがかつて、スビリチュアの怒りをうけたときにうしないし聖なる王家を守護する獣。
  二つの王家に伝わりし獣。……その姿は猫のようではあるが、伝承ではこうある
  その姿は万物のごとし、視る存在によってその姿を変化せしめん、とな」
どこか疲れたような国王の台詞。
神話にありし神鳥シムルグだけでなく、こうして天より王家に遣わされていた、という聖獣まで現れる、とは。
その動物もどきが嘘をいっているのかもしれない。
しれないが、何となくだが、それは嘘ではなく真実だ、
という直感が国王の中にはしっかりとして根付いている。
それはなぜ、かはわからないが。
「ひゅう。マルタちゃんってそうだったんだ」
ゼロスがマルタを改めてみつつそんなことをいっているが。
「…だからって、マルタに前にもいったけどちょっかいだすんじゃないよ?」
しいなもまたその場に座ったまま…どうやら国王の御前なので座ったらしい。
きっとゼロスを見あげるようにそんなことをいっているが。
「…その猫さん、話せたことに…驚きです」
プレセアが目を丸くしてそんなことをいっているが。
リーガルは罪人である自分が国王陛下のお目を汚すわけにはいかない。
といって、部屋にはいってくるのをためらい、
いまだに扉の外で待機しているがゆえにこの場にはいない。
もしも国王がリーガルの姿を目にしていれば、いつもいっている台詞をいったであろう。
ブライアン公爵、汝の思いはわかるが、あれは正当防衛であったのだから、と。
事実、有罪判決がでた過程、そのあと、不審におもった調査隊が調べたところ、
かの判事はどうやらとある人物に買収されており、
何が何でも公爵を有罪にしろ、としかもかなりの大金を受け取っていた、らしい。
ゆえにそれらが明るみになり、裁判がやり直され、執行猶予もつき、
本来ならば彼は自由にすでになっている、はず、なのだが。
自らの罪は始めの裁判にて決定しているので、といってかたくなにそれを認めようとしない。
幾度か代理のものをつかわせては、考え直すように、とは常に国王も心を砕いていたのだが。
もっともそんな事実をロイド達は知らない。
この場で知っているのはゼロスのみであろう。
「しかし、裏切り者…ね。こいつは俺様にお似合いだ。
  まあとにかく、俺達は教皇のやつに陥れられただけだ。テセアラに仇なすつもりはない」
あるいみ自嘲に近い笑みを浮かべ、淡々といいきるゼロス。
その言葉には一切の迷いがない。
ミトスのこともそうだが、こちらもこちらであるいみで面倒。
これだから、ヒトがつくりし国、という組織は、ともおもう。
「……たとえ王室がそれを疑ったところで、
  教会と兵と民はゼロスさんの味方をするでしょうけどね」
壁に寄りかかりつつも、それでいてぽつり、と誰にともなくづふやくエミル。
どうやら噂は面白いほどに一人歩きをしており、いつのまにか街の中そのものにも広がっているらしい。
ついでにいえばなぜか伝書鳩などを用い、離れた街…すなわちサイバックのほうにまで。
人の噂は千里を走る、とはよくいったものだな。
とつくづくこういう面においてはヒトの力、というものに呆れてしまう。
もっとも、それをリフィル達が知れば、そんなのは人の力でも何でもない。
といって頭を抱えること請け合い、であろうが。
俗にいう、単なる噂好き、としかいいようがない、のだから。
「たしかに。エミルのいうとおりね」
エミルの独り言に近い台詞が聴こえた、のであろう、小さくそう呟いたのち、
「…こちらにはスピリチュアの再臨とよばれしものもいます。陛下」
改めて国王に向き直り、言葉を発するリフィル。
そんなリフィルの言葉をうけ、
「何が望みだ?」
こちらをあるいみ不敬罪云々、といっているにもかかわらず、
あるいみで脅すような発言をしてくる、ということは何かがある、ということ。
伊達に国王、という身分についているわけではない。
そのあたりの言葉の駆け引きは彼とて理解している。
それゆえの問いかけ。
「望みって…」
ロイドにはそんなリフィルと国王の駆け引きの意味がわからない。
ゆえに、思わずリフィルと国王の顔を幾度も交互に見直すが。
こういう駆け引きが得意なのはテネブラエのやつが得意としているがな。
もっとも、その場合は相手を煙に巻く、という意味で。
ロイドの困惑した思いを読み取り、ふと口元に苦笑をもらすエミルの姿。
そんな中。
「できうれば、王室で保管されている、という勇者ミトスとカーラーン大戦の資料の閲覧の許可を
  それと、ヘイムダール…ユミルの森とよばれし場所への立ち入りの許可を」
リフィルのそのいい分は、自分達の手配をどうにかしてほしい。
とかそういうのではなく、ロイドがまったく予測していなかったもの。
「え?先生?」
思わず目をぱちくりさせ、リフィルを見つめているロイドの姿。
「ヘイムダールって…あ」
なぜ姉がそんな…自分達家族を追放した場所への立ち入りをもとめるのか。
ジーニアスも一瞬、そんな思いに囚われるが。
しかしすぐさまにとあることにと思い当たる。
エグザイアにて、聞かされたではないか。
それこそ散歩にでていたときに。
かの地にすまうハーフエルフから。
トレントの森の奥深く、精霊オリジンが宿りし石板があるっていう噂だったけど、と。
ジーニアスは確かにそのように聞かされた。
そのことを今さらながらに思いだし、ゆえに姉がどうしてそんなことをいったのか理解する。
否、理解せざるをえない、というべきか。
国王がその言葉に思わず意味がわからない、というような表情を浮かべるが。
そもそも、なぜに古代の資料をみたがるるのかも、
そして、交流をことごとくヒトの世とはたっているエルフ達の里にはいる許可をもとめるのかも。
それが理解できないゆえに表情を曇らさざるを得ない。
「それと、もう一つ」
「まだ何かある、というのか」
後からもってくる、ということはおそらくこちらが重要な提案、なのだろう。
そうはおもうが、それを口にはせず、あえてまだあるのか、
というような言い回しでといかける。
この駆け引きは言葉の駆け引きといってよい。
何か意味を含めたような言い回しに国王も思うところがあったのか、
何となくその顔をしかめているのがみてとれるが。
「はい。これは民には知らせてほしくないのですが。
  互いの世界、二人の神子。この二人がこの地に揃ったのは偶然ではありません」
リフィルのその物言いに、ロイドが何かいいかけようとするが、
きっと視線でそんなロイドをだまらせる。
「ほう?それはいったい?」
たしかに、二つの世界の神子が一つの世界に揃った。
など前代未聞といってよい。
衰退世界と繁栄世界。
その世界の存在が判明し、はや八百年ばかりときいている。
そんな歴史の中でも一度とてなかったことが、実際に今、起こっている。
国を守る立場、として少しの異変も国王、として見逃すわけにはいかないのもまた事実。
それゆえに、それはどういう意味なのか、という意味合いをこめて再度問いかける。
そんな国王の台詞に、しばし迷ったふりをして、言葉を今まさに選んでいます、
といった様子をとりつつも、
「僭越ながら申し上げます。
  まだ完全なる確証は得られていないのですが、神子達がうけた神託によりますと、
  この世界は、今危機に瀕しているらしいのです」
それは、彼にとっても青天霹靂ともいえる台詞。
しかも、今、彼女はたしかに、神子達がうけた神託、そういった。
ゆえに無碍にできるものではない、というのはいくら彼とて理解する。
これまで神託に逆らい、ろくな目にあわなかった、というのは歴史が事実を物語っている。
だからこその神子。
神子が天からの神託をうけとり、それを国王に伝える。
古からつたわっている世界の仕組み。
だからこそ、神子は国王と同等、否、それ以上の権力をもっている。
もっとも、それは眉つばでしかない、という貴族連中もいるにはいるが。
神子はただのおかざりにすぎない、と。
それでも、毎回、神子誕生の儀式に同行したものは思い知るのである。
そのときに、必ず、天の遣い、天使が現れることにより。
伝説は真実だったのだ、と。
「危機?とな?」
「はい。それを回避するには、精霊全てと新たに誰かが契約をし直す必要があります」
うつむいたまま、膝を床につけ淡々というリフィルの言葉に迷いはない。
どうやら、この口上は前もって考えていたらしい。
でなければ、今こうぽんぼんと迷いなくいえる、とはおもえない。
「…だから、そのみずほの民を、ということか?」
精霊との契約の資格をもちしもの。
それはみずほの民において、今はただ一人。
ならば、彼女を共にしている、という意味はわからなくもないが。
しかし、解せない、という思いが国王の中にあるのもまた事実。
ならばなぜ、そのことを始めのあのときにいわなかったのか、と。
「それもあります。ですが、その危機を回避する過程にて、
  今は二つの世界に別れているはずのシルヴァラントとテセアラ。
  この二つの世界を統合せざる事態になるはずです。そのときのために国王陛下。
  陛下には何とぞそうなったときのことを考えていてほしいのです」
そこまでいい、その顔をあげ、深刻そうな表情になったのち、
「シルヴァラントは今現在、ディザイアンの復活、という八百年における衰退世界の間にて。
  この民に隠されし王女、マルタのように、王族もその身分を隠し、
  いつかディザイアン達が封じられたときにその王家の復興を目指しています。
  が表立ち組織をつくりあげようとすればディザイアン達につぶされ、ままならない状態です」
その台詞に国王としても唸ざるを得ない。
女神マーテルが勇者ミトスとの盟約によってディザイアンなる愚かなるものを封じた。
そして、衰退世界とよばれし場所ではその封印が解放される。
そのように伝えられている。
「ゆえに、こちらのように、きちんとした国、というような組織はありません
  ですが、そうだからといって、こちらの世界がシルヴァラントの民を虐げる。
  そのようなことになれば、再び封印されたはずのディザイアン。
  彼らが再び地上に復活し、今度こそ女神マーテルの加護をうしない、
  世界は滅亡しかねません。そのために陛下には今後のことを考えてほしいのです」
どちらかの世界にディザイアンが目覚めているこの現状は。
それは女神が人を試しているのでは、と一部のものはそう捕らえている。
衰退世界となっているものは、努力がたりないから、
女神マーテルの加護が行き届かないがゆえにそうなるのだ、と。
それが、ここテセアラでの常識。
常識、と思い込まされている偽りの真実。
「…神子よ。それはまことか?」
その問いかけはコレット、ではなくゼロスにむけて。
まっすぐにゼロスをみつめるその瞳は虚偽を許さない、という表情をしているが。
「俺様にくだった神託によれば。
  下手をすれば大地は数十年後には死滅するかもしれない。との報告はあったぜ?陛下?」
嘘はいっていない。
そもそも、あのユアンがいった、ということはクルシスがいったも同意語。
ゼロスはその立場上、ユアンがここテセアラを管理する天使だ、と知っている。
知っているからこそゼロスは嘘はいっていない。
クルシスの立場、としてでなくレネゲードの立場としてユアンがいったのではあるが、
ユアンがクルシスの四大天使の一人であるという幹部であることには違いないのだから。
「だからこそ、じゃねえのか?本来ありえるはずのないシルヴァラントの神子がこちらにやってきた
  こんなのは今まで一度もなかったこと。これも女神マーテル様のおぼしめしってな。
  俺達人がどこまで守るに値するか、それを見極めてるんじゃないか。と俺様としてはおもってるけどな」
打ち合わせをしたわけでもないのに、リフィルの口から出まかせに合わせるように、
首をすくめていいはなつゼロスの言葉はまさに真実をいっているようにしかみえない。
さらり、というゼロスの台詞に国王、そして王女も目を見開かずにはいられない。
神子が肯定した、ということは間違いない、のであろう。
しかし、話しが唐突すぎる。
十数年後には世界が死滅する、など誰がいったい信じられようか。
しかし、それがクルシスから、天界から下った神託、というのならば、
人類に残された時間は……
「…資料は二階の書庫に保管してある。好きにするがいい。しかし、その後の提案は…」
あまりの内容に国王もすぐには返事ができない。
それほどに内容はとてつもなく重い。
自分の判断一つで世界がどうにかなるかもしれない、その重み。
神子ゼロスの言い回しから、衰退世界になりえる、とかいう、
そんな生易しいものではないのかもしれない。
だからこそ…互いの世界に遣わしているという女神マーテルの御遣い。
そんな彼らがそろったのではないのか、と。
衰退世界と繁栄世界。
互いに男女、と決められている神子の存在。
もし、それに意味がある、というのならば、彼らがこちら側、
テセアラにきたのも意味があるのかもしれない。
国王がそんな思いを抱きはじめたとほぼ同時、
「ええ。かわっております。ことがことですもの。
  私たちも詳しいことはまだわかりません。ですが、神子がうけたという神託に従い、
  このしいなに精霊達との契約をしてもらう所存です。私たちにはそれしか道がありませんから
  この子が一度、心を失ったのもおそらくは、彼女をこちらにこさせるため。
  あえてマーテル様がこの子そして世界にあたえた試練、ともおもっております」
まるで国王の予測を裏付けるかのようなリフィルの台詞が紡がれる。
「…内容が内容だ。そのことは私の心にとめおくとしよう。…もしそれが事実だとすれば」
「まちがいなく暴動がおこるだろうな。だからこれはここだけの話しだ。陛下。
  その可能性があるかもしれない、というのだけわかっていればいい。
  俺様もそれを阻止するために彼らと行動せざるをえないようだしな」
かすれるような国王の台詞につづき、さらり、といいきるゼロス。
このあたり、リフィルとどうみても相談があったとはおもえないのだが。
さすがというか何というか。
ロイドやジーニアス達はどうやら彼らの話しについていかれないらしく、
唖然、とした表情を浮かべていたりする。
下手に口をひらけば、まちがいなく口からでまかせ…
あるいみでは出まかせ、ではないのだが。
それがバレル、とでもわかっているのか、さすがのロイドも口をつぐんでいるらしい。
「…教会と神子、お主の権力争うの果て…というわけではなさそう、だな」
「残念ながら。これはクルシスからの神託によってわかってることだからな。
  もっとも、教皇のやつはこんなことしるよしもないだろうが。
  しってたら馬鹿なことを今ごろしないだろうよ」
「…わしは疲れた。教会の権力争いにかかわるのはもうごめんだ…だが……
  本気で叔父上は、私を害そうとした、というのか?」
もしもそうだとすれば、彼が狙っているのは国王の地位、とも考えられる。
信じたくはないが。
「それは俺様にはわからねぇ。が、あいつはこうもいった。俺様をころし、セレスを利用するってな」
「セレスを?修道院に軟禁している彼女を、か?」
「陛下。あんただってわかってるはずだ。あの一件にセレスは全く関わりがないのに。
  そもそも、まだ幼い子が本気であんたは、あの暗殺事件を企てた。とでもおもってるのか?」
「…それは……教皇が……」
するどい視線でゼロスに睨まれ、言葉を濁すテセアラ十八世。
「教皇が、ね。あいつのせいでそれでなくても体の弱いセレスがどんな思いをしているか。
  知らない、とはいわせないぞ?陛下」
「…神子……」
全ての罪をまだ幼い子供におしつけて軟禁した。
その事実は変わらない。
そしてそれを容認したのは他らなぬ彼自身。
「ともかく。今は逃げだした教皇とその一味。それらをどうにかしてくれ。
  今はそれだけでいい。あいつら、何かまたしでかしそうだしな。
  …いっとくが、身内の情、という理由で不問にするようなことをすれば。
  それこそ俺様とてどうなるかわかったもんじゃねえぞ?」
「…神鳥シムルグが目撃されている以上、私とて国をまもる立場にあるもの。それは理解している。神子よ」
疲れたようなその台詞は様々な思いが渦巻いているようではあるが。
みたところ、ゼロス達のいい分を信じ切っていいのかどうか、という所であろう。
「んじゃまあ。そういうことで。失礼しますよ。陛下。あ、そうそう」
いいつつも、リフィルにちらり、と視線をむける。
「陛下。これが教皇の私室にてみつけた品ですわ。
  それと、これが取引に遣われそうになっていた品です。
  陛下のほうで調べていただければ幸いです。おそらくはどちらも毒物、でしょうが」
あの教皇は解毒薬、とおもっていたようだが。
おそらく違うであろうとリフィルは直感的に思っている。
そんな会話をしている最中。
ドガァァァァァン!!!!!!
何やら盛大音が外から聞こえてくる。
「な、何だ!?」
「ロイド、あれみて!」
窓の外らみえる光景。
海の向こう。
激しい音とともに空が光っている。
窓の横にいたエミルが窓の外を指さすのをうけ、
膝をついて座っていたロイド達もまたあわてて立ち上がり、窓の外らか外をみる。
ここは二階。
ついでにいえばメルトキオの中でも高い位置に作られた城の中。
つまり、高い位置に建てられている上に二階にある部屋、ということもあり、外がよくみとおせる。
晴れ渡っているはずの空の一角。
晴れ渡っているはずなのに、その一部のみ雲が渦巻き、
そこからまるで雲が渦巻くような形になったのち、いくつもの雷が、
地上めがけて降り注いでいる光景が窓の向こうに展開されている。
「な、なんだなんだぁ~?!」
さずかのゼロスも異変に気付いた、のか、窓の傍にかけより、
そこから窓を開け放ち…この窓ははめ込み式、ではないので。
どうやら解放は可能、らしい。
両開きの窓をばっとあけはなつ。
窓の外には小さな手すりの格子があり、そこにちょっとした鉢植えなどが並べられている。
「あれは…村の方……」
それは海の向こう。
すなわち、オゼット方面におこっていること。
それをみて、プレセアが窓枠に手をかけ背伸びをしながら思いっきり目を見開いて
外をみながらそんなことを呟いているのがみてとれる。
「…何、あれ?ものすごいマナが…あの雷のほうから流れてる……」
遠くに離れていてもわかるほどの巨大な雷のマナ。
晴れているはず、なのに。
雷はとどまることなく、地上めがけていくつも降り注いでいる。
「…嫌な予感がするわね……」
リフィルもまた、窓の近くによってきてそれを目視し、
眉をひそめそんなことをいっているが。
そんな中、やがて雷が止み、それとともに何事もなかったかのごとく、
海の向こうに立ち込めていた暗雲すらも綺麗さっぱりと消えてゆく。
それこそはじめから何もなかったかのごとくに。
と。
「た、大変です!陛下!」
「何ごとです!?」
国王にかわり、ヒルダが駆けこんできた伝令兵らしきものに声をあらげるが。
駆けこんできた兵士の息はかなりあがっている。
「い、今報告がはしりました!オゼット地方に謎の落雷!
  それと、グランテセアラブリッジにて観測されたらしいのですが、
  数多の天使らしきものがオゼットに舞い降りている、とのことです!」
『!?』
兵士の報告にその場にいたエミル以外の全員が息をのむ。
「神子?これは一体!?」
困惑した国王の声。
「俺様にもわからねぇ」
ゼロスにもわからない。
こんな報告はうけていない。
ゆえにとまどわずにはいられない。
「もしかして…」
ふと、じっと窓の外をみていたマルタだが、何か思いついたのかふと声をもらす。
「マルタ?何か思うところがあるの?」
そんなマルタに気付いたのか、ジーニアスが問いかけるが。
「えっと。スピリチュア伝説、というのをさっききいたんですけど。
  かつて、神子をないがしろにした人にたいし、裁きをした人のこと、なんですよね」
「たしかにそうだけど。それがいったい?」
マルタが何をいいたいのかわからずに、首をかしげるしいなに対し、
「…あのオゼットの人達、
  私たちを、というよりゼロスを教皇騎士団に売り飛ばすような行為をしましたよね?」
『!?』
マルタの台詞に息をのむ気配はほとんど。
エミル、そしてゼロス以外。
すなわち、国王を含め、ヒルダもまた息をのむ。
「それが、天界の目にとまっていたとするならば…可能性はなくはない、わね」
マルタの言わんところを察し、リフィルが険しい表情で考え込む。
この地につたわりしスピリチュア伝説がどうか、というのはわからないが。
しかし、とおもう。
可能性はあるが、クルシスがそんなことをするだろうか、ともおもう。
可能性とすれば、クラトスがいうように、あのロディルが勝手に行動をさきに起こしていた、
のだとすれば、そんなロディルに協力した村人たちへの見せしめか。
「先生!アルテスタさん達が心配だ!いこう!」
ロイドがあせったようにいってくる。
遠くからもみえる火の手は一瞬あがるものの、
さすがにセンチュリオン達や魔物達をすでに前もって配置していたせいか、
森に関しては被害はさほど起こっていないらしい。
本来ならばおこりえる落雷による森林火災。
それもどうやら防がれているのがエミルには視てとれる。
しかし当然、ロイド達にはそんなことは判るはずもなく。
「っ。はやく神子達の手配をといたのち、我ら王家は今回のこととは一切かかわっていない。
  というのを誰にも徹底しろ!いそげ!…オゼットの二の舞になるぞ!
  あれは・・・あれは、まさか、天の雷……」
がくり、とその場…窓枠に手をのせ、うなだれたのち。はっとしたように顔をあげ、
「兵士達を集合させろ!私自らが指揮をとる、いそげ!」
あせったような声が国王の口から紡がれる。
もしも、マルタ、と呼ばれている彼ら曰く、シルヴラァントの王女がいうのが事実だとすれば、
神子の手配に加担していたとおもわれたこの国そのものに
かつてのように天界の裁きが下ってもおかしくはない。
それゆえの判断。


「うむ。私もここからみた」
何ごとか、とおもい、すでに皆が皆、廊下にある窓からいきなり降り注いだ雷。
それを目の当たりにしていた、らしい。
城の中にも動揺した気配が伝わっている。
次はこの城に雷が落ちるのではないか、と兵士達が噂しているのすら聞こえてくる。
国王の寝室を出て、外で待機していたリーガルと合流。
「とにかく、急ぎましょう」
「でも、いそぐっていっても。先生あの場所は森をぬけていかないと……」
レアバードでたしかに近くまではいける、であろうが。
「急ぐなら、どの子か呼びましょうか?」
どうもあの地でミトス達は好き勝手しているようだが。
まあ、殺すよりも生け捕りにする目的、逆らうものには容赦していないようだが。
ミトス曰く、減ってしまった培養体の変わりにするとか何とかいっているのも視てとれる。
本当に、ヒトを思いやっていたあの子の心は今はどこにいってしまったというのだろうか。
だからこそのエミルの提案。
それにミトスが何を考えているのかもきにかかる。
わざわざあれをするために彼が出向いてきている、とはおもえない。
一瞬、エミルの言葉にリフィルは考え込むも。
しかし、時間がおしい、というのもまた事実。
「…お願いするわ。エミル」
「わかりました。なら、この城の屋上で呼びますね」
この城の屋上は出入りができるように開かれており、
そこから兵士達が見張りなどをしているのをエミルは知っている。
高さ的にもシルムグ達を呼ぶにしても大きささえかえれは問題はない。
そもそも、城の横にその巨体をつければそのまま移り乗ることも可能。


~スキット~屋上からシムルグの背へいくまで~

ロイド「くそっ。何がどうなってるんだよ!あの雷はいったい!」
マルタ「…アルテスタさんたち、大丈夫かな…」
プレセア「…村、が心配、です」
リフィル「あれがクルシスの手によるものなのか、それとも自然現象なのか…」
ジーニアス「姉さん。いきなり消えた雷雲もどき。どうみてもあれ、自然じゃないよ」
リフィル「そう、ね」
しいな「ああもう!何がどうなってるのさ!」
リーガル「……かのちのものたちが無事ならいいのだが」
ジーニアス「フラグみたいなことをいわないでよね!」
ゼロス「おっと、屋上にむかう階段はこっちだぜ?」
マルタ「ゼロスってこの城に詳しいんだね」
ゼロス「そりゃ、ガキのころから出入りしてるからな」
コレット「すご~い。ゼロスってなら王子様みたいなんだね。お城にすんでるの?」
ゼロス「それをいうならコレットちゃんも。
     繁栄世界にコレットちゃんがいたらこんなお城くらい自由に出入りできてるぜ?
     もっともその場合、コレットちゃんが男の子になってるだろうけど」
ロイド「コレットが、男?」
コレット「ええ!?なら、私がぺったんこなのは、まさか私って男の子なの!?」
自らの胸に手をあてながら、そんなことをいってくるコレット。
エミル「え?コレットって男の子だったの?」
コレット「そうなのかなぁ?」
一同『いや。そんなわけない(から)(だろ)(でしょうが)』
リフィル「はいはい。馬鹿いってないで。急ぐわよ」




pixv投稿日:2014年2月8日某日(Hp編集:2018年4月22日(日)

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あとがきもどき:

あれ?ジャミル?あれ?と思った人はその通り。(地下水路で出てきた魔族さん)
そうです。TOP時間軸において、アルヴァニスタのレアード王子にとりついていた鳥さん。
あの魔族さんですよ。
さらり、となにげにリンクしてます。この話し。
いや、だって同じ世界設定ですしね。TOS時代から二年後にRにいき、
その後ラグナログを得てTOP時代に、ですし。
例の魔族の名、イシュタル伝説、このテイルズシリーズ軸にしてるところがあるので、
一瞬、ギルガメッシュにしようかな?ともおもったんですけどね。
え?ならこの話しではプルートは?という疑問もあるでしょうが。
当然、出てきますよ。というか、元々この話しでは、
ラタ様がラグラログ以降、というかその瘴気を利用して、
魔界を束ねるにあたいする魔族、冥王プルートを産みだしていましたので。
こちらの時間軸においては、ちらり、とでてきている魔界になりえる惑星。
その王として誕生予定ですv
ちなみに、あれ?キリアに化けた敵さんってきえてたっけ?というひとは。
もう本当に初期の初期。・・・2話目にでてきてます。
マナを狂わされたり、瘴気によって完全に侵されるたりしたら、
マナとなりて世界に還るような仕組みなってたり。
一番の理由はこの場にエミル(ラタトスク)がいるが故。
さて、本来の時間軸では、
王室にいったときに地下水路にてロディルは二人に仇討されますが。
それはすでにプレセアが真実を知った後、のことなので。
この話しでは、さきにゼロスの提案(というかクラトスの提案)によって、
王室に出向いているのでそれらがなくなってたりします。つまりは後回しに…
(クラトスがそんな提案をしてきたのはエミルの行動に不安を覚えてきているがゆえ)
(そろそろ、クラトス、さすがにエミルがセンチュリオン達と繋がっているのでは。
  という予測に基づきはじめてます。まさかラタトスク自身だとはまだ思ってませんが)