村の中は熱気で包まれている。
いたるところに火の手があがり、家々は全て燃えるか、崩れ落ちるかしている。
シムルグの背にのり、王城から一気にここまで飛んできた。
もっとも、エミルがいつものようにシムルグを呼び出したとき、
城でちょっとしたひと騒動があったらしいが、そんなことはエミルからしてみれば関係ない事。
火の粉をまきあげ、村の家屋という家屋はすでに形を成していない。
彼らが着地したのは、コレットが浚われたときに利用された地。
村の中でも崖に面したちょっとした広場になっている場所。
崖の真横にシムルグのレティスが体をつけ、
その翼を足場がわりにし、移動したのはつい先ほど。
いたるところで火がもえているからか、じっとりとした熱気が周囲をつつみこむ。
普通ならばこの場にいるだけで汗が流れ落ちるほど。
村全体が一つの炎になってしまったかのごとく、全ての家屋が燃えている。
そんな中でも森に被害はないのは、森にちらり、と視線をむければ、
火属性の魔物や、もしくは水属性の魔物達がぱたぱたと動き回っているが故。
「そんな…!」
コレットとてぼんやりとした意識でしかこの村はしらない。
ないが、この状態は尋常ではない、というのは一目瞭然。
村の様子をみて言葉につまる。
「ひどい……」
ジーニアスもその惨状にそういうのがやっと。
「一体、何がおきたんだ!?」
森だけが被害がない、というのも気にかかる。
「その割に森には被害はない、みたいだね」
しいながちらり、と村の外にと繋がる森のほうをみて、
火の手があがっていないことを確認しぽつり、とつぶやく。
「どうして……」
プレセアもその惨状に声がでない。
「どうして、こんなことに?ここにいた皆は?村の人達は?」
ほとんど涙目になりながらもつぶやくマルタ。
家は燃えているが、ヒトの気配は一つもみえない。
それが余計に不気味さを増している。
「これは……」
ふとリフィルが何かを思いだしたのかふと考え込む。
「先生?」
「覚えているかしら?ロイド?あのとき。ルインの街で。
ディザイアン達は村に火をかけて村人を連れ去ろうとした。ということを」
それを阻止したのが遠い日のように感じられる。
はっとそのことをロイドもまた思いだした、のであろう。
「まさか、これもディザイアンの奴らの仕業だってのか!?」
「それなら、ヒトが誰もいない、というのがわかるのよ。
おそらく…村人は連れていかれたんだわ。人間牧場に」
そういうリフィルの声は固い。
「っ。だ、誰かのこってないのかい!?」
しいなが叫ぶが。
「まって。なんか、声がする、こっちっ!」
はっとしたようにコレットがいい、とある方向にと駆けだしてゆく。
「あ、おい。コレット!」
「私たちもいきましょう」
駆けだしたコレットにつづき、ロイド達もまた駆けだしてゆく。
「…どうなさるのですか?エミル様?」
ふっと、彼らが駆けだしたのち、その場にあらわれるテネブラエ。
みればいつのまにか、八柱全員がこの場にやってきており、
周囲に現れているのが視てとれる。
「…ミトスの前では姿を表すな。これは命令だ、いいな?」
『――御意』
彼らもどうやらミトスがここにいる、というのには気づいているらしい。
ゆえに心配して姿をこの場にあらわしたらしいが。
エミルからしてはミトスが何を考えているのか、見極めたい。
それゆえにセンチュリオン達にと命令を下す。
センチュリオン達もいろいろと思うところがあるにしろ、
そのように命じられればそれに従うよりすべはない。
彼らは何をおいてもラタトスクに忠実に従う騎士、なのだから。
「あ!みて!」
街の中心地。
そのあたりまでかけていった先にみえるのは、
今にも焼けおちそうなぶら下がっている家の軒下。
そこに一人の子供が倒れているのがみてとれる。
周囲には家が並んでいることから、絶えまなく火の粉がとんできて、立っているだけで息苦しい。
「あぶない!」
今にも崩れ落ちそうな柱。
どさり、と倒れている少年の横に崩れてきた家の瓦礫がおちてくるが、少年は起き上がる気配すらない。
「ロイド!」
ジーニアスが顔色もわるく、ロイドに声をかけてくる。
「ああ、わかってる!」
手で飛んでいる火の粉を薙ぎ払いつつも、倒れている子供の傍にと駆け寄るロイド。
ロイドにつづき、その場にプレセア、ジーニアス、コレットもかけよるが。
少年はぴくり、とも動かない。
「ロイド!早く!」
「…く、この子、みためより重い…!?」
ロイドがあわててその子供をその場から抱きかかえようとするが、
その重さに思わず落としそうになってしまう。
「ロイド、いそいで!」
「でも、こいつ、以外とおもいんだよっ!」
「あ、私も手伝う」
ジーニアスが声をかけてせかすが、ロイドは必至に子供をだきあげようとしていたりする。
そんなロイドをみてコレットもまたちかより、そのまま手を少年の下にと差しこみ。
そして。
ひょいっ。
『・・・・・・・・・』
「か…片手……」
両手で持ち上げたか、とおもうと、片手でそのままくたっとなっている少年をもちあげる。
「あ。思ったより軽いみたい~。私一人で大丈夫だよ。とにかく先生達のところにいこう。ここは危険だよ~」
いいつつ、片手で少年を持ち上げたまま、すたすたとその場からあるいてゆくコレット。
「…ロイド、コレットに力でまけてどうするのさ」
「うっ」
呆れたようなジーニアスの視線がロイドにつきささり、ロイドは言葉につまってしまう。
「まったく。嘆かわしいわね。こっちよ」
いつのまにかやってきていたのであろう。
リフィルが火の手がないほうにとロイド達を誘導する。
村全体が炎に包まれており、ならば安全なのは森の中。
プレセアの家につづく道も多少焦げているものの、そちらのほうは火の手がないかもしれない。
もっとも、リフィルの目にもそちらのほうでも何か燃えているのがみてとれるが。
まだここよりはまし、といえる。
「あ」
ロイド達が少年らしき子供をつれ、その場から離れるとほぼ同時。
がらがらとそれまで燃えていた家が崩れ去る。
まさに危機一髪。
あのままでは、少年はまちがいなく燃え落ちた家の瓦礫に埋もれていたであろう。
「先生、どこに?」
「…プレセア、あなたの家を確認してもいいかしら?」
「は、はい」
プレセアも家がきになるが、それより気になるものもある。
それは…
「姉さん・・・これって……」
ところどころにみえる、黒いなにかの固まりのようなもの。
それが人の形をしているようにみえるのは、ジーニアスの気のせい。
そう、気のせいだ、といってほしい。
それゆえのジーニアスの言葉にリフィルは静かに首を横にふる。
村はずれにつづく道を抜け、その先にあるはずのプレセアの家。
しかし。
「…そんな…家が……」
プレセアの目に飛び込んできたのは、すでに燃え落ち、柱となってしまっている家の姿。
茫然とするプレセアにロイド達も何と声をかけていいのかわからない。
家から離れた場所につくっていたからか、墓の場所には被害がないようではあるが。
それでも雷による影響、なのであろう。
大地はえぐられ、原型をほぼとどめていない。
墓は森に入る手前につくっていたがゆえに、被害を免れたとみて間違いなさそうである。
「とにかく、そこにその子を寝かしましょう」
すでに家は燃え落ちているせいか、ここは村の中ほど熱くはない。
見あげた先ではいまだに村の家々が燃えている様子がみてとれるが。
とにかく、気絶しているらしい少年を横にする。
「怪我は…ない、ようね?」
それが不思議でしかない。
あんな燃え盛る家々の中にいて、怪我の一つもない、というのはどういうことか。
まだ、誰かにかばわれて体の下敷きになっていたりする、というのならまだしも。
少年の体を調べつつも、リフィルがすこし顔をひそめる。
少年から感じるマナは同胞のもの。
そんな中。
「これは…どうしたことだ……」
唖然とした声が、森のほうから聞こえてくる。
その声には覚えがあり、はっとしたようにそちらのほうを振り向きつつ、
「アルテスタさん!?よかった、無事だったのか!」
ロイドかほっとしたような声をあげる。
プレセアはその姿をみて思わず一歩、後ろに下がっているが。
「どうして、ここに?」
そんなリフィルの問いかけに、
「…裁きの雷がこの村めがけておちたのをみてな…しかし、これはいったい…その子は…?」
その場に倒れている金髪の子供。
「アルテスタさん?じゃあ、ロイド、この人が?」
コレットはロイドからアルテスタというドワーフから、ロイドが要の紋の作り方を習った、ときいている。
それゆえにコレットがといかければ、
ロイドがかるくその場にてうなづき肯定の意を示す。
「この子、村の中にたおれてたんだ。この子以外は…」
「あれ?そういえば、エミルは?」
「あ」
ロイドがそういいかけると、ふと今さらきづいたように、マルタがきょろきょろと周囲をみながらいってくる。
いつのまにか、エミルがいない。
そういえば、とおもう。
コレットが駆けだしたあと、エミルの姿をみていないような。
「んじゃ、俺様、エミル君を探してくるわ。たぶん、村で生き残りがいないか。
エミル君のことだから探してるんじゃねえのか?」
ゼロスがそういえば、
「ありえる。ね。ならあたしもいくよ」
ゼロスの台詞にしいながうなづき、しいなもまたゼロスに同行する意を示してくる。
「わからないんです。私たちも雷がこの地をめがけておちたのをみて、急いでここにきただけ、ですから」
リフィルがうつむくと、
「伝令兵の報告によれば、この地に多数の天使らしきものが降り立った。っていう報告もあったがな」
「!?」
ゼロスのさらり、としたその物言いに、アルタステがおもいっきりその目を見開く。
「まさか…これは、わしへの見せしめだ、というのか!?」
がくり、とその場に膝をつき、地面に手足をつけるアルテスタ。
「どういうことだい。見せしめって……」
その言葉は聞き捨てならない。
それゆえにといかけるしいなの言葉に対し、
「…何でもない。といいたいが。タバサ。その子をわしの家へ。
少しでも体を休めてやったほうがいいじゃろう。
…おまえさん達もここは危険だ、一度わしの家にくるといい」
疲れたようにいい、その場をたちあがり、のろり、のろりと足を歩めるアルテスタ。
そんな彼の姿をみつつ、
「?どういうことだ?」
ロイドがつぶやくと、
「…マスターは、自分のせいでオゼットが破壊されたとオモッテいるのデス」
アルテスタにいわれたとおり、そのままいまだ倒れているままの子供。
その子供にちかづき、そのままひょいっとその体をもちあげる。
「ま、また片手で…なんか僕、男の子として自信なくなってくるよ……」
ひょいっとさきほどのコレットと同じように、タバサもまた、
片手で少年を持ち上げたのをみて、ジーニアスが深くため息をつきながらそんなことをいっているが。
「仕方ないわ。なら、ゼロス、しいな。エミルのことをお願いしてもいいかしら?
私はあの子のこともあるし。アルタステの家に向かうわ。ロイドもそれでいいわね?」
「あ、ああ」
いつまでもここにいても仕方がない。
それどころかいつまた何ものかが襲ってくる、ともかぎらない。
リフィルの言葉にうなづきつつ、
「んじゃま、いきますか」
「あ。まちなよ。ゼロス、ったく。じゃ、あたしたちもあとでアルテスタの家にいくよ」
いいつつも、ゼロスとしいなは元きた道を戻りだす。
向かうは、村の中。
おそらくはそこにいるであろうエミルを探しにいくために。
「エミルくんって…なんだ、ありゃ?」
「?あの子、何やってるんだろ?」
ゼロスがその姿をみて思わず声をだすのと、しいなの声は多少意味がことなる。
ゼロスはエミルの周囲にみたことのない魔物っぽい何かが八体。
そこにいるのをみてとり、怪訝そうな表情を比べているのに対し、
しいなの目には、エミルが木の下で、何やら口を動かしているようにしかみうけられない。
何かいっているような気もしなくもないが、
しいなの目にはそこにいる八体の姿はみえていない。
ふと、エミルがそんなゼロス達に気付いたのか視線をむけてくる。
「ともかく、いいな?」
そんな声もまた聞こえてくるが。
やはり、しいなの目には何もみえず。
「うお!?」
ゼロスの目にはいきなりそこにいたはずのものたちがいきなり、
エミルの影の中に吸い込まれるようにきえてゆくのを目の当たりにし、思わず驚愕した声をだす。
「しいなさん。それにゼロスさんも、どうかしたんですか?」
エミルがいたのは、この村の中でも一番高い場所。
巨大な樹があり、本来はそこに宿屋があったらしいが、
その宿も炎の影響があったのか、宿があったあたりは樹の幹に焦げ跡を残している。
「エミルくん、今いたやつらはどこに…」
ゼロスがいいかけるが。
「?何いってんだい。ゼロス、エミルは一人だったじゃないか。あんたがこないから心配したんだよ。
リフィル達はアルテスタの家にむかったよ。あたしらも向かうことになったからね」
いいつつも、しいなは改めて村の中をみわたし、
「しかし、ずいぶんなことになっちまったね…ここも」
つい先日やってきたときは何ともなかったのに。
今はもう村という面影すらない。
それほどまでに地面はところどころ落雷の影響、なのだろうえぐられ、
そこにあったはずの家屋全ては完全に燃え落ちているか、
はたまた落雷で壊れたのか、はっきりいって原型一つとどめてすらいない。
いまだに燃え残った家屋の一部が音をたてて燃えており、炎はくすぶっているようだが。
「他に誰か生き残ってた村人はいたかい?」
おそらく、エミルが一緒に移動しなかったのは生き残っている人がいないか調べているから。
そうしいなは考えていたがゆえに、逆にエミルにと問いかける。
「いえ。誰も。ここには村人は一人もいませんでしたよ?」
その言葉に嘘はない。
そもそも、ミトスもまた村人ではいので、一人もいない、という言葉に偽りはない。
しかし、エミルのそんな言い回しは、あの子供以外にはいなかった、という意味にしいな達にはききとれる。
「…そうかい。とりあえず、いつまでもここにいたら危険かもしれないからね。一度、アルテスタのところにいくよ」
しいなが少し表情を曇らせつつもエミルにそういってくるが。
「でも、あまりに大人数で押しかけたらわるくありませんか?」
たしかにエミルの言うとおり、ではあるであろう。
「どちらにしても。今後のこともあるしね」
「ゼロスさんもそれでいいとおもうんですか?」
しいなが首をすくめていってくるのをうけ、その話題をゼロスにむければ、
「まあ仕方ないんじゃねえの?ロイドくんたちがあの保護した子供。
あの子供をほうっておく、とはもおもえねえしな」
たった一人だけ、あんな場所で倒れていた子供。
何か胡散臭い、とゼロスはおもうが、それをいってもおそらくロイド達は聞き入れないだろう。
だからこそそれを口にしてはいない、のだが。
そもそも、あんな場所に倒れていたにもかかわらず、少年の服はまったく汚れてすらいなかった。
ゼロスが気にしているのは、もう一つ。
あれほど燃え盛る柱などが真横とかにくずれおちてきていた、というのに。
少年の体はまったくもって火傷の一つすらみうけられなかった、ということ。
普通、あんなに燃える物体の真横にいれば人間、かならずしも火傷の一つくらいはしているもの。
しかし、あの子供にはそれがなかった。
それを彼らは気づいているのかいないのか。
考えられるのは、クルシスの関係者。
常に何かあっても周囲を冷静にみているゼロスだからこそ気付いたといえる。
いつもならしいなもそれくらい気付いているのはずなのだが、
村の家屋が全て焼はらわれていた、という惨状に目がいき、
そこまでどうやら気付いてはいない、らしい。
「わかりました。とりあえず、なら一回家にお邪魔してから。
それから、ですね。野宿するにしても、今後のこともありますし」
ミトスが何をしようとしているのか、というのもエミルからしてみれば気にかかる。
だからこそ二人の台詞に素直にうなづく。
影の中で心配そうなセンチュリオン達の気配がしてくるが、
そんな彼らをさらり、といなす。
どちらにしても、なぜこのようなことをしているのか。
直接に聞きだせるチャンス、なのかもしれない。
もっとも、センチュリオン達は口をそろえ、直接に聞き出すということは、
自分のことを知られることにもなりかねないので自重を、と先ほどいわれたばかりだが。
アルテスタの家にいくと、少年はどうやらベットに横にされているらしい。
「しいな。他は……」
家にはいり、ふとリフィルがしいなに問いかければ、ふるふるとしいなは首を横にふる。
それだけで自体を察したのであろう。
「そんな…じゃあ、村の人達は……」
その意味を悟り、プレセアが声を震わせる。
「…プレセア、大丈夫か?」
そんなプレセアを気遣い、リーガルが声をかけるが。
「…大丈夫です。でもこの釈然としない苛立ち…これが、怒り…」
久しく忘れていたこの感情。
ゆえにプレセアは自分の気持ちにとまどわずにはいられない。
「しかし。あいつ、よく無事だったよな。先生、そういえば、あの子は?」
「タバサとジーニアスが傍についているわ。あの子ったら心配だからといって傍にいるっていってね」
どうやらジーニアスは看病にのこったタバサにつきそい、
保護した子供が寝ている寝室に残っているらしい。
リフィルがため息とともにそんなことをいってくる。
今、全員がいるのは、机がおいているちょっとした広い場所。
「でも、もう少しであの子、焼け崩れる家屋の下敷きになってた、よね?」
マルタがふと声を震わせそんなことをいってくるが。
「そう、だな」
たしかにロイド達が少しでもおそければ、まちがいなく下敷きになっていたであろう。
それほどまでに危険な場所にあの子供は倒れていた。
「外傷はないようじゃが。目をさまさないのはどこか強くぶつけているのやもしれん。
しかし、あの子もまたハーフエルフのようじゃな」
アルテスタが部屋からでてきつつ、ロイド達をみてそんなことをいってくるが。
「ハーフエルフ…ですか?」
その言葉に一瞬、プレセアが眉をひそめる。
「ハーフエルフ…か。
しかし、このオゼットの村は他とくらべ、よりハーフエルフ蔑視の傾向が強い、ときいていた。
そんな村にあの子供は住んでいたのか?」
リーガルの素朴なる疑問は通常で考えればまちがいなく不思議に思うこと。
「プレセア。そのあたりはどうなのかしら?」
ちらり、とリフィルをみて気づかいつつも問いかけるリフィルの台詞に、
「わかりません。私もエクスフィアをつけられてからの記憶があいまいで…
あの子、みたかぎり十代くらい、ですよね。…だから……」
言葉を濁すプレセアに、
「そうか。人の世ではそれだけの時間がたっている、のじゃったな。
我らドワーフは長命種であるがゆえに、忘れ去りそうではあるが…
長命、といってもエルフほどでもないがの」
よくて五百年か数百年。
それがドワーフ族の寿命。
かつては万単位で寿命があった、ともきくが、ここ数千年でその寿命もまた変わってきている。
「そういえば、あんたさっき、みせしめ、とかいってたけど」
しいなが気になっていた、のであろう。
改めてアルテスタにと問いかける。
そんなしいなの問いに顔を伏せ、
「…そこのものたちには以前、わしは話したことがあるんじゃが。
わしが以前、クルシスに所属していた要の紋の細工師であったことは話したな」
「あ、ああ。きいた」
それはコレットが浚われた後、アルテスタから直接、ロイド達は聞かされた。
ロイド達はそれを事前に聞いていたがゆえにさほど驚いてはいないらしい。
「…おまえさん達があのとき、訪ねてくる直前に。
わしはクルシスの遣い、となのるものに見つかっておったのじゃよ」
その台詞にロイド達が息をのむ。
「私はユグドラシル様からの命をうけたものだ。お前がドワーフのアルテスタだな」
「デリス・カーラーンから逃げ出した罪は重い。
だが、これから尋ねることに答えれば慈悲を与えよう」
「そのやってきたユグドラシル様の命をうけた、という使いのものはそういった。
彼はこうもいった。ディザイアンと手をくみこの地でエンジェルス計画を私物化している。
そのことを知っている、と。わしはそれに関しては否定した。
私物化していたわけではない。命を…村のもの命を盾にとられて、仕方なく、と」
アルテスタの独白をきき、
「そういえば、あなた。あのとき。ロイドが土下座をしたあのとき、クルシスの追手にみつかってしまった。
たしかにそういっていたわね。なら、まさか……」
リフィルもあのときのアルテスタの台詞はきいている。
ロイドがコレットを連れ浚われ、アルテスタに土下座をしてでも頼みこんだあのとき。
その場にリフィルもまたいたのだから。
「わしは問われるままにこうもいった。
ユグドラシル様にロディルは反旗を翻すつもりだ、ときいている、とな。
そのためにどうしてもハイエクスフィアが必要なのだ、ときいている、と」
そう。
あのやってきた男性に包み隠さずアルテスタは答えた。
「…その後の言葉は、こうもいわれていた。
では、ロディルの動きをさぐるため、お前の動きはしばし泳がせる。
私がきたことを決して他言するな。
もし叛意あり、とみなせばそれなりの報復がまっている、とな。
…わしが、お主達に手をかしたことが、叛意、と取られたとすれば……」
『!?』
その言葉に息をのむ気配がいくつか。
それは、つまり。
「まさか…まさか、俺に要の紋の作り方をあんたがおしえたから、
村があんな目にあったっていうのか!?そんな馬鹿なっ!」
ロイドが声をあらげるが。
しかし、リフィルはどうやらその説明に納得がいった、らしい。
「そういうことね。どこからか、その情報が彼らにつたわってしまった。
彼らからしてみれば、すでに要の紋を自力でつくれないあなたに用はなかった。
けど、その技術が外にもれてしまうのは防ぎたかった。
でも、あなたは私たちに…というより、ロイドにその技術を伝えた」
「…わしは、また間違えたんじゃうか?プレセア、そしてシルヴァラントの神子。
二人を少しでも助けられれば、とおもってしたことが、こんな結果を……」
「……っっっっっっっっっ」
プレセアは声もでない。
ロイドがつくりし要の紋がなければプレセアは心を取り戻すこともできなかった。
父が死んでいたことすら気づかずに、いまでもそのまま暮らしていただろう。
時の流れにおいていかれたことに気づかないまま。
そのままいずれは死を迎えていただろう。
それくらいはプレセアとて理解している。
しかし、自分にこのエクスフィアを装着させたのもまた目の前の人物。
そして、村がああなってしまった原因も。
バタンッ!
そのまま勢いのまま、家の外へ飛び出してゆく。
「あ、プレセア!?」
マルタがそれにきづき、あわててロイド達の顔をみるが、
ロイドは何ともいえない表情をしており、彼女をおいかける状態ではなさそうである。
ゆえに、
「わ、私、いってくる!」
「なら、僕もいくよ。マルタ。ほうっておけないしね」
「うん。いこう、エミル」
そのまま二人してプレセアをおいかけるべく、マルタとエミルは家の外へ。
ロイドもまた何ともいえない。
もう間違えない。
そう誓ったのに、でも、自分がアルテスタに頼みこんで要の紋の作成方法。
それを聞いたことで、村があのような目にあったとしたならば?
村の惨状はかつてのイセリアを彷彿させる。
ロイドがディザイアンの牧場に侵入した結果、ディザイアンの報復をうけた村の惨状と。
そんなロイドの自責の念に気付いた、のであろう。
「…お前さんはわるくない。悪いのは全てわしじゃ。
…結局、わしは村のものを誰も助けることはできんかったんじゃな……」
どこか自嘲気味にそう呟いたのち。
「…おそらくは、国から村を調べるために調査隊がやってくるじゃろう。
…わしは素直に彼らに話すつもりじゃ。
安心しろ。おまえさんたちのことはいわん。全てはわしの責。じゃが、そこのシルヴァラントの神子よ」
「え?あ、は、はい」
いきなり話しをふられ、とまどったような声をだすコレット。
そのままコレットの横に近づいていき、そして、そっとコレットの首飾りにと手をのばす。
「おまえさんにつけているその要の紋。
それはクルシスの輝石を抑え込むのは不完全な品じゃ。
一刻も早く、正式な要の紋をつけなければ、おまえさんもまた近いうちに命をおとしかねん。
もしくは永久に心を失うか、そのどちらかになってしまうじゃろう」
『!?』
その言葉にさらにこの場にいる全員が息をのむ。
「どういう…こと、なんだよ。アルテスタさんっ!」
ロイドの叫びからはまるで血を吐くかのごとく。
「前にもいったとおもうが。クルシスが神子を使いものにならん。そういった、とお主達はいったな?」
「ええ。たしかに、そういわれたわ」
絶句している彼らとは対照的に、リフィルのみが冷静にアルテスタの問いにこたえる。
ここで感情的になってもどうしようもない。
アルテスタのいい分がただしい、のであれば。
いつここに追手がかかってもおかしくはない。
ならば、少しでもアルテスタから詳しい情報を聞き出しておかなければ。
これ以上の犠牲が産まれてしまう。
「彼女は永続天使性無機結晶病になっている可能性がある。前にも言ったと思うが
…かつて、マーテル様がかかったといわれている病じゃ。
マーテル様が天使化した後にかかったといわれている病でな」
「…マーテル様が……」
コレットの脳裏にうかびしは、ユウマシ湖でのユニコーンの言葉。
コレットをマーテルと勘違いし話しかけてきたユニコーンの言葉がよみがえる。
お前はマーテルか?と。
マーテルと同じ病にかかっているではないか、と。
「小僧。わしはお主に技術が継承されたのは間違ってはおらん。
そうおもっておる。すくなくとも、お主の力で、プレセアは心を取り戻し。
そしてこのシルヴァラントの神子もまた心を取り戻しておる以上は、な。
わしには時間がない。じゃからこそ、だ。
ルーンクレストの製法は複雑だ。その製造方法はお主にはまだ伝えておらん。
こうなった以上、お主に全て技術を継承せる必要があるじゃろう。
まずは、マナリーフ、そしてマナの欠片、そしてジルコン。
最低限、この三つが正式な要の紋を創るのには必要じゃ。
マナの欠片はデリス・カーラーンにいけばすぐにあるじゃろうが…
こればかりは口頭でいってもどうにもならぬからな。
実戦で作りながら実技で覚えるしかないじゃろう」
アルテスタがそういいかけたその直後。
そういいつつも、しばし目をとじ何かを思案し、決意したかのようなアルテスタの表情。
それに少しばかりリフィルが違和感を覚えるが、それが何を意味するのか。
彼女にはまだわからない。
アルテスタが次なる言葉を紡ぎだそうとしたその刹那。
「皆!目をさましたよ!」
奥の部屋からジーニアスの声がきこえてくる。
誰が、というのはいうまでもない。
思わず顔をみあわせ、
「…話しはあとにするか」
いいつつも、アルテスタが奥の部屋にむかっていくのをみてとり、
「私たちもいきましょう」
あの子供にはリフィルも聞きたいことがある。
あんな場所に倒れていた、というのに火傷一つおってなかった子供。
意識を失う寸前に術を発動させた、にしては服が綺麗すぎる。
「君、大丈夫?」
「ここは……うっ……」
頭をぶつけている可能性がある。
というのでそのヒタイにはタパサがあてがった冷たいタオルが、
固定されるようにして包帯として巻かれている。
ゆっくりと目をひらき、きょろきょろと視線をさまよわせた少年がふとその視線を
心配そうに覗き込んでいるジーニアスの視線とあわせる。
肩より長くのばしている髪。
金の髪はコレットの髪質とよく似ている。
「いきなり起き上がったらダメだよ」
そんな少年にあわててジーニアスが手をかし、そのままベットにと横たえる。
その海の青さを湛えたかのような透き通った青き瞳がジーニアスを捕らえる。
豊かな金髪に縁どられた透けるように白い肌。
ほっそりと伸びた白い手足。
そして海の青さを湛えた青き瞳。
華奢、という言葉がいかにも似合うその容姿。
「具合はどうじゃ?」
「あ…僕。そ、そうだ。僕、逃げようとして、そして……」
困惑したような少年の声。
「どうぞ」
「え…あ……」
差し出されたコップを手にしていいのかどうかわからないのか、戸惑いぎみにつぶやく少年。
「なあ、一体、何があったんだ?」
問いかけるロイドとは対照的に、
「ひゃあ。綺麗な子だねぇ。エミルも綺麗だけどさ。
エミルと並んだらこの子も女の子と間違えられてもおかしくはないよ」
「金の髪は一緒だね。髪質は違うみたいだけど」
しいなが少年をまじまじとみて素直な感想をもらし、
ジーニアスも思うところがあったのかそんなことをいってくる。
「でも、エミルの髪はもっと長いよ?」
「あいつの髪はなぁ。というかみつあみほどいたらどこまでだよ。といいたくなるよな」
「前、のばしてるのみたことあるけど、膝くらいまであるしね。エミルの髪」
「いや、それより長いだろ。あれ。あれって手入れが大変だよなぁ。絶対に」
「こほん」
コレットとロイドの会話はまちがいなく脱線していっている。
ゆえに、そんな二人にかるく咳払いをするリフィル。
二人をこのままにしておいたら全員を巻き込んで話しが脱線していくのは目にみえている。
だからこそ、リフィルは咳払いをすることでその会話を遮ったのであるが。
「つらいかもしれないけど。いったい何があったの?
私たちは倒れているあなたをここまで連れてきたの」
「倒れ…?そうだ、たしかいきなり天使様が襲ってきて……」
何かを思い出すようにつぶやく少年の台詞に、
「天使、だって!?」
その台詞にロイドがくいつく。
「それは間違いないのかしら?どうして天使、だと?」
探るようにリフィルが少年をみつつ問いかけるが。
「えっと…よくわからないんです。いきなり雷が落ちてきて…天使様が村を襲ってきたんです。
天使様、というのは皆、羽が生えていました。綺麗な鳥のような羽を皆もってましたし。
羽がはえているのは天使様、なんですよね?」
困惑したように、とまどいつつもそういってくる。
そんな少年の台詞に、
「くそっ!やっぱりクルシスかっ!」
ロイドがだんっと、近くの壁にとその手を握り締め、おもいっきり叩きつける。
ぱらばらと壁の一部が拳によって穴があけられ、
壁になっている土壁より土がぱらぱらと落ちているのがみてとれるが。
「しかし、よく無事だったな。生き残りはおまえさんだけだったぞ?しかも無傷だし」
ゼロスが壁ぎわにその背をもたれかけつつも、腕をくみつついってくる。
そう、無傷。
ありえないほどに。
だからこそ、あやしすぎる。
誰かにかばわれていた、とかならともかく。
あんな場所で倒れていたというのに、無傷、というのはありえない。
そもそも、あの状態で火傷の一つもしていない、というのはおかしすぎる。
それほどまでに真横にたしかに燃え盛る柱が倒れていた、のだから。
「そんな…他の皆は?」
そんなゼロス達の懸念に気づいていないかのごとく、
不安そうに、視線をさまよわせ、声を震わせいってくる。
「…仲間が村を探してみたけども…誰もいなかった、らしいわ」
答えるのは酷かもしれない。
しれないが、この少年も得体がしれない。
ゆえにリフィルは警戒をとくことなく、少年に事実を伝える。
「モンダイ、ナイデス」
そんな中、いまだにコップを手にしたまま差しだしていたタバサが少年にと声をかける。
いまだに差し出されているコップをおそるおそる手にとり、
そこにはいっている液体…水滴がついているのをみるのに、おそらくは冷たい水、なのであろう。
うけとった少年にタバサがこくり、とうなづくのをみて、一口、それを口にする。
「ねえ。君、名前なんていうの?」
ずっときになっていたのか、ジーニアスがそわそわしつつ、少年にと問いかける。
「僕は、ミトス、といいます。村の外れに一人で暮らしていたから……雷がどこかしこに落ちてきて、それで……」
いってうつむくミトス、となのった少年の言葉をうけ、
「英雄ミトスの名前だ!ねえ。君ってハーフエルフ、だよね?」
「え?ぼ、僕は、ちが……」
目をきらきらさせてといかけてくるジーニアスにあきらかにおびえの色をみせ、
ベットの中でちじこまるようになるミトスと名乗りし少年。
「安心なさい。わかるでしょう?あなたも私たちと同じ血が流れているのなら」
そんな少年のおびえは演技、とはおもえない。
ゆえに少しばかり警戒するのを和らげ、安心させるようにミトスに話しかける。
そんなリフィルの言葉をうけ、
「あ…あなたたちも、ハーフエルフ…なんですか?嘘だ…だって、だって…
でも人間達と一緒にいるじゃないですか!」
セイジ姉弟とロイド達を幾度も見比べ、信じられない、とばかりに声を張り上げる。
それははたからみれば明かなる拒絶。
かつての彼をしるものがいれば、そんな表情をすることすら信じられないこと、なのだが。
これが演技だ、と見抜けるものはそうそういないであろう。
そう、かつて国の存在達ですらミトスはその演技力で事をなしていったのだから。
この場の様子は離れていても常にエミルは視ているがゆえに現状を随時把握できている。
もっとも、プレセアを追いかけていき走っているマルタはそんなことを知るはずもないのだが。
プレセアはその気持ちが定まらない、のであろう。
ひたすらに森の中をはしり、きづけばいつのまにか彼女の家があったあたりまで走って行ってるらしい。
不安そうな表情をうかべ、叫ぶミトスをなだめるように、
「大丈夫だよ。私たち皆、二人の友達だから」
安心させるように、コレットがそんな話に割って入る。
「人間が…ハーフエルフと友達?嘘でしょう?
人なんて、僕らをみつけたら国に売り飛ばすだけじゃないですか!」
それは今も昔もかわらない。
かつてミトスが必至に停戦を結ぼうとしていたときですら。
テセアラの国のありようはあれからまったくかわっていないといってよい。
ハーフエルフを道具、としかみなしていないその国のありようは。
「嘘じゃないよ。僕と姉さんはこの人達の仲間なんだ。
だから皆、君に何もしないよ。手当だってしてるでしょ?それが証拠だよ」
「…あ」
今さらながら、頭に巻かれている包帯にきづいた、とでもいうように、その手をそっと頭にとあてる。
「無理もなかろう。このオゼットで隠れ住んでいたのならば、よりつらい思いをしただろうからな」
リーガルが憐憫を含んでそういうと、
「ともあれ、頭をうっている可能性があります。しばらく安静が必要です」
タバサがそんな彼らにと間をわってはいるかのごとくそんなことをいってくる。
「え…」
「ミトスさん、私はタバサ、といいます」
「・・・・・・・・・・・」
ミトスはタバサの自己紹介に何もこたえない。
その無表情の顔も何もかもが、姉とどうしてもかぶってしまう。
姉の器とすべく、七十年前にとつくりあげた、マーテルの器。
なのに、彼女は姉の精神を受け止めきれなかった。
彼女が成功していれば、クラトスも地上に降りることはなかっただろうに。
そうおもえばミトスは彼女に対し、怒り、しかわいてこない。
彼女さえ、姉マーテルの魂をうけとめていれば、と。
これそこ細部にいたるまで、姉そっくりに作り上げた、というのに。
「ぼ、ぼく、もう、いかなくちゃ……」
起き上がろうとするミトスだが。
「無理をしちゃいかん。今日は安静が第一だ。
…それに、どこにかえる、というのじゃ?村はもうないのじゃぞ?
おそらく、おまえさんのすんでいた場所も裁きの雷に見舞われたのじゃないのか?」
「・・・・・・・・・・・」
無言は彼らに肯定、と捕らえられる。
「で、でも、僕はハーフエルフで……」
「まだいってるのか?心配症だな。お前は。ここにはお前をどうにかしようってやつはいないぞ。
今ちょっと外にでてる三人だってそうさ」
「…他にも、いるんですか?」
「ああ。俺達の仲間が、な。ちょっと外の空気を吸いにでてるんだ」
ロイドの言葉に嘘はない。
ただ、プレセアがこの場にいるのがいたたまれなくなり、外にとびだした。
というのをいっていないだけ。
「…内、一人はミトスと同じ村の子なの。だから……」
コレットがしゅん、となりつつも小さく呟く。
「……村は……」
「もう、全ての家屋が焼けおちてるころ、だろうね」
ミトスの台詞にしいなもまた表情を曇らせる。
どちらにしろ、一人も人がのこっていなかったのもまた事実。
その場に何ともいえない沈黙がしばし訪れてゆく――
「…村を滅ぼしたのは…天使、なんですね」
「みたい、だね」
外に駆けだしたはいいものの、プレセアはどうしていいのかわからない。
がむしゃらにはしっていき、たどりついたは家の場所。
そんなプレセアを追いかけてきたマルタも何と声をかけていいのかわからない。
ロイド達がミトスとそんな会話をしている中。
焼けおちて原型をとどめていない家の前にしばらくたっていたプレセアだが、
やがて、被害を免れたらしい父親の墓の前にとやってきて、
その場にしゃがみこみ、誰にともなくぽつり、とつぶやく。
そんなプレセアにマルタも何と声をかけていいのかわからずに、
とりあえず、近くに咲いていた花をそっと墓の前にと据える。
なぜかマルタも不思議におもうが、家々は完全に焼け落ちているというのに、森に全く被害がみあたらない。
それどころか異様に魔物が多くみうけられ、
もしかしたら魔物達が消火活動でもしたのかな?などといった思いを抱いていたりする。
そんなマルタの思いはあたらずとも遠からず、なのだが。
「…もう、私にかえる場所はない、んですね……」
プレセアがぽつり、とつぶやくが。
「…帰る場所、というのは一つじゃないとおもうよ?」
「「え?」」
ぽつり、とつぶやかれるエミルの台詞に、思わず同時にふりむくプレセアとマルタ。
「自分がここが自分が帰る場所だ、いてもいい場所だ。
そうおもえるところが、帰る場所、すこし落ちつける場所、でいいんじゃないのかな」
それは、かつての世界にてギルドメンバーにいわれたこと。
ディセンダー、として表にでていたときにいわれた言葉。
還る場所は当時、世界樹と思われていた自分。
まあそれは間違い、ではないのだが。
それでも、あなたのもどってくる場所はここなのよ、と。
あなたはここにいてもいいの。あなたは私たちの仲間、なんだから。
遠い記憶の彼方にある思い出。
この世界に彼らの記憶を受け継ぎしものはいない。
一から生み出したかの地の記憶をうけつぐ種子から生み出した世界ならば、
彼らの記憶の因子を用いた同じ容姿をしているものが産まれるであろうが。
この世界というか惑星はそうではない。
「誰かがまっていてくれる場所。それが自分がいてもいい場所なんだ。と僕は思うよ。
ってこれは以前にいわれたことの受け売りだけどね」
それは遠い記憶。
「エミル…それをいったヒトは…」
マルタが不安そうにエミルに問いかける。
何となくだがそれをいったのは女性のようなきがする。
エミルがその人のところにいってしまいそうな、そんな心配がふとよぎる。
「もう、いないよ?」
「え?」
そう、もういない。
遥かなる過去のこと。
当時生きていたものはいるはずもない。
あの当時のことを知っているのは、自分と、そしてセンチュリオン達のみ。
まだ、デリス・カーラーンにおいて人々が大樹とともに暮らしていた時代。
そしてまた、遥かなる過去において生み出していた惑星においていわれた台詞。
同じ記憶の因子をもっているせいか、同じことをいわれ、思わずなつかしなくったのはいい思い出。
「とりあえず、そろそろもどろっか」
「え?あ。そうだね。そろそろあの子も起きてるかもしれないし」
エミルの言葉にマルタがふと思い出したようにいってくる。
「私、もう少しここにいます。…心を整理、したいから」
今もどったとしても、憤りをアルタステに向けてしまう。
それどころか、あの救助した子供にすら。
彼はハーフエルフだ、そういった。
ならば術が使えただろうに、なぜ一人でも村人を助けてくれなかったのか。と。
間違っている、それは八つ当たりにすぎない、と。
それでも、あの子供を非難してしまいそうで、今はだからあえない。
そんなプレセアの心がわかったのか、
「心の整理…か。無理に心を整理しなくてもいいよ。
特にヒトの心、なんてさ。…僕だってきちんと整理できてるわけじゃないもの。
…ヒトを信じ切れない、というのは当たり前だからね」
「エミル!?信じられないって…なんで…」
「マルタ。いつの時代もね。世界を…自然を荒らすのはヒト、でしかないんだよ。
その欲のため、もしくは見得、さらには自分達の豊かさという名目だけのために。
目先のことにしかとらわれず、その結果起こることに目をむけようともせず。
破壊の限りをつくしてゆく。それもまたヒトの心。人の行い。
…そんなヒトを信じ切れる、とマルタはいうの?」
「それは……でも、エミルだって、人間、なんだよ?」
エミルの指摘にマルタは言葉につまるが、逆にエミルにと問いかける。
「マルタは人の心が裏で何を考えてるのか。それをきちんと把握していくべきだよ。
表ではいいようなことをいって、裏では何を考えているのかわからないもの。
特に、マルタは、リフィルさんがあのように国王に紹介した手前。
そういった欲がらみで甘い言葉で近づいてくる人間達がいるだろうからね」
それこそ世間知らずの子供を丸めこむのはたやすいこと、といって。
欲にかられたものたちが群がってくるのは目にみえている。
もっとも、その事実を国王が周囲にもらせば、であるが。
「…エミルさんも、きついことをいうんですね…でも、そう、ですね」
甘い言葉にだまされたのはプレセアも同じ。
そんな都合のいいもの、そんな都合のいい話があるわけない、とわかっていたはずなのに。
父もあれほどうまい話しには裏がある、そう口癖のようにいっていたではないか。
でも、父の変わりに力がほしかった。
そんなとき、実験の話しがもちかけられた。
この実験に参加すればお金がもらえるどころか、力もついて、父のかわりに樵の仕事ができる、と。
それを身につけて求めるは、時折自分達の仕事をこなしてもらえればよい。
ただそれだけしかいわれなかった。
そんなうまい話がころがっているはずない、とわかっていただろうに。
でも、その話にとびついたのは、プレセア自身。
そして、ロディルからヴァーリを紹介され、あのサイバックの地下にと連れていかれた。
自分にエクスフィアをとりつけたアルタステのことは確かに憎い。
彼がそれをしなければ、十六年、という歳月を失いはしなかっただろう。
が、彼だけを責めるのは酷ともいえる。
そももそ、始めにその提案にうなづいたのは、他ならぬプレセア自身、なのだから。
あのとき、お金を目の前にだされ、そして力がつく、という言葉だけで。
それを身につけたあとおこりえる障害を確認しなかったのもまちがいなくプレセア自身。
物事はきちんと見極めて。とくにそれによって何がおこるか。考えて行動しなければ
――プレセア、アリシア、お前達は間違うな。
それは、ある日に父がいっていた台詞。
まるで、父自身がかつて何かの過ちをおかし、後悔しているように感じたあの日。
その後悔が何なのか、プレセアはわからない。
が、結果として、プレセアは父を、そして妹を養うために彼らの提案をうけいれた。
それによって何がおこるか。
お金が手にはいり、父の薬台がもらえ、そして力もついて樵の仕事ができる。
そんな都合のいい結果だけをみた結果といってしまえば、
あきらかにプレセアの自業自得、といえる面があるのだから。
一概に、アルテスタだけを責めるわけにはいかない。
そうわかっていても、やはり心がついていかない。
彼さえいなければ、と。
「…しばらく、一人にしてください……」
「でも」
「いこう。マルタ。プレセアも一人で色々と考えたいんだよ」
「…うん」
うつむき、そうつぶやくプレセアに困惑した声をかけるマルタであるが。
そんなマルタをうながすエミル。
「プレセア、気をつけてね?なるべく早く、もどってきてね?」
いつ、また襲撃があるかもしれない。
だからこそマルタは不安になる。
現場をみていたわけではないが。
尋常でないことがこの村でおこった、というのはいくらマルタとて理解しているつもり。
また、その襲撃者がいつ襲ってくるか、わからないのだから。
プレセアをきにしつつも、その場を立ち去ってゆく二人の後ろ姿を見送りつつ、
「…パパ、私、どうしたらいいの…?」
改めて墓にむきなおり、父親の墓にと問いかける。
その答えが返ってこない、とわかっていても。
さわさわと、ただ風のみが、そんなプレセアの周囲を吹き抜けてゆく……
~スキット~アルテスタの家・夜・夕飯前~少し長め~
プレセア「…私の村が…」
ジーニアス「元気だしてよ。っていっても無理だよね。
でも僕もかえる場所がないんだ。ロイドと一緒に村を追い出されたからね」
プレセア「そうなんですか?なぜ…」
ジーニアス「…ちょっと、ね。だから、僕もプレセアの気持ちが少しわかるよ。
イセリアはもしかしたら僕らの故郷になるかも。そうおもってたから……」
プレセア「故郷…帰る場所、ですか。そういえば、エミルさんにさっきいわれました」
ジーニアス「え?エミルに?何て?」
プレセア『帰る場所というのは一つじゃない。
自分がここが自分が帰る場所だ、いてもいい場所だ。
そうおもえるところが、帰る場所、すこし落ちつける場所、でいいんじゃないのかな』って」
ジーニアス「エミルがそんなことを?」
プレセア「…はい」
ジーニアス「エミルにもそんな場所がある…のかな?」
プレセア「わかりません。その言葉は受け売りだ、といってました」
ジーニアス「じゃあ、エミルにはそんなことをいってくれる人がいるってこと?」
プレセア「…いえ。そのいったひとは、もう……」
ジーニアス「…そっか」
ロイド「…なんというか、あいつもいろいろとあったみたいだな…それ聞く限りでは。
でもなんか、いい言葉だな。
自分がここが帰る場所だ、いてもいい場所だ、とおもったところが故郷、か」
リフィル「…ますます、あの子の素性が気になるわね。
あのこ、私たちと合流するまえにそんなことをいう人にあえたのかしら?」
コレット「…もしかして、エミルがショコラさんが浚われたとき。
一人でショコラさんを助けにいった、というのも。
それをいったヒトに関係してたのかもしれませんね」
それは、エミルと初めてあったときのこと。
ショコラが浚われた、ときいてエミルは一人、パルマコスタを飛びだした、らしい。
リフィル「…ありえるわね。それをいったひとが、ディザイアンにつかまったのだとしたら。
…ショコラをその人と重ね合わせて無謀でも一人で駆けだしたのかもしれないわね」
ロイド「…あいつも、じゃあ、親しい人をディザイアンに…くそっ。
ああもう、なんか暗くなっちまう。そうだ。ジーニアス」
ジーニアス「な、何?」
ロイド「けんだまかしてくれよ」
ジーニアス「え?いいけど、なんでさ?
まさか、ロイドも剣玉で戦う。とかいわない、よね?」
ミトス「…けんだま?というか、ジーニアスって剣玉で戦ってるの?」
それまで黙ってきいていたミトスが首をちょこん、と横にかしげてジーニアスにと問いかける。
ジーニアス「うん。そうだよ」
ミトス「…かわった武器だね」
目をぱちくりさせつつそういうその表情は本気でどうやら驚いているらしい。
ジーニアス「ミトスは?」
ミトス「え?僕?僕は…剣、かな?前におしえてくれてた人がいた、から」
ハーフエルフの自分に常識や、そして様々なことをおしえてくれた人間。
ミトスにとってクラトスは師匠よりもより信頼がおける人物であった。
彼が地上に降りたときですら、信じられなかったほど。
自分達ヒトの責なのだから、といって自らオリジンの封印を申し出ていたクラトス。
彼が死ねばオリジンは解放されてしまう。
それだけはミトスは何としても避けなければなならなかった。
姉マーテルを蘇らせるためにも。
リフィル「あら、そんな人がいたの?」
ミトス「…う。うん。でも、何でジーニアス、けんだまなんかが武器なの?あれって遊び道具だよね?」
話題が自分に及びそうになり、すばやく話しを元にもどし、逆にとといかけるミトスの姿。
マルタ「そういえばそうだよね」
マルタもそういえば、という表情で、台所のほうから歩いてきつつ、
椅子にすわりながらも首をかしげてといかける。
リフィル「あら?マルタ。料理の手伝いしていたんじゃなかったのかしら?」
たしか、エミルがタバサとともに料理を手伝う、というので、
マルタも私も、といって台所にいっていたはず、なのだが。
だからこそのリフィルの問いかけ。
マルタ「隠し味に品物いれようとしたら、エミルが皆と一緒にまっててっていうから……」
ジーニアス「…何いれようとしたの?」
何となく嫌な予感がしたのか、そんなマルタに問いかけているジーニアス。
マルタ「トウガラシ!だってカレーって辛いほうがおいしいっていうし!
もう、せっかく数十本いれようとおもったのに」
ロイド&ジーニアス「「エミル、よくとめてくれた!」」
マルタ「もう、どういう意味よ!なら、甘くしようとおもって、
こんどはハチミツを入れ物ごといれようとしたら、
今度はタバサさんが皆さんのところでまっててって」
ミトス「・・・・・・・・・・・・・・・・」
リーガル「…マルタは料理をつくったことはない、のか?」
マルタ「あるよ!だって私がつくった料理。
そういえば、パパが私が台所にたってるのみたら、いつも顔ひきつらせてたなぁ」
一同『・・・・・・・・・・・・』
結局、料理をしたのは数えるほどといってもよい。
きちんと始めからつくった、というのはないので料理をしたことがある。
というのはあるいみ語弊があるにしろ。
包丁などをマルタはこれまで握らせてもらったことがほぼない、と
かつてエミル達は聞いている。
エミルもまたこれまでの旅でマルタにそんなことはさせていない。
どうにか味見をする、というのを説明しようとしてはいる、のだが。
マルタはそのまま何でもこれをいれればおいしくなるはず。
といって先に手を出そうとするがゆえに苦戦しているのもまた事実。
それはあるいみリフィルと似通っているところがあるといってよい。
リフィルもまた、思いついた食材にすらならない品を料理にいれたりするのだから。
もっとも、それをやられてしまえばせっかくの料理が台無しになってしまう。
ゆえにエミルがやんわりと料理からマルタを遠ざけたのもある意味で、
仕方ないといえば仕方ないであろう。
ロイド「と、とにかくさ。ジーニアス。俺に剣玉をおしえてくれよ。まってる間の時間つぶしにもなるだろ?」
ジーニアス「別にいいけど。ロイドには無理だよ。きっと」
それは確信。
きっぱりといいきるジーニアス。
ロイド「な!?馬鹿にするな!ドワーフ仕込みの器用さをみせてやる!」
ロイド「…はっ、くっ……」
苦戦しているロイドをみつつ、
ミトス「で?なんでジーニアスはどうみても普通の剣玉が武器なの?」
ジーニアス「それはね……」
ロイド「…くっ。結構難しいんだな」
ジーニアスが説明しようとすると、どうやらロイドがそうそうにあきらめたらしく、
息をきらしつつも、机の上に剣玉をおいてそんなことをいってくる。
ジーニアス「やっぱりね。ロイドには無理だとおもったよ」
ゼロス「お、何やってんだよ。おまえら」
しいな「本当に」
リフィル「あら。二人とも、外はどうだった?」
二人して外を見回りに行っていたのを知っていたがゆえのリフィルの問いかけ。
それぞれが椅子にすわっているのをみて、しいなもまた椅子をひき、机の席にとつく。
しいな「村には人っ子一人いないよ」
ゼロス「少し足をのばして森の外にいってみたんだが。
野営している一陣がいたぜ?調査隊を陛下が派遣してるらしい。明日、村の調査にはいるってよ」
リフィル「…そう」
念のために森の外付近までゼロスとしいなは出向いたが。
そこでみたのは、夜に森に入るのは危険だ、ということもあり、
森の外でキャンプをしている調査隊の姿。
彼ら曰く、日がのぼるとともに、森にはいり、村に調査にはいる、とのことらしい。
しいな「その子が危険かもしれないね。生き残り、となると」
ミトス「…え?」
いきなりしいなにそういわれ、ミトスが思わず目をぱちくりさせ、
首を盛大にかしげるが。
しいな「兵士達がくるまえにその子をここから連れ出しておくのをお勧めするよ。
あいつら、何をするかわからないんだし」
ゼロス「たしかにな。下手をすればお前さんがハーフエルフ。
というだけで、村の被害をおまえさんに押し付ける可能性も」
ジーニアス「そんな!ミトスはわるくないのに!?」
ゼロス「そういう可能性があるってことさ」
ロイド「ああ!くそ!やっぱり難しい!」
ジーニアス「…まだやってたんだ。いい加減にあきらめなよ」
ふとみれば、いまだに必死にけんだまと格闘しているロイドの姿。
どうやら一度、挫折したものの、あきらめられないのか、また手にとり挑戦していたらしい。
そんなロイドに呆れたような視線をむけているジーニアス。
しいな「ああもう。あたしにかしてごらんよ。はっ…む…お、おかしいね……」
ゼロス「しいな、お前さんまで何やってんだよ。俺様にかしてみな。
よ、はっっ…ちきしょう、こんなハズじゃあ……」
しいなとゼロスが互いに交代して剣玉を納めようとするが、
互いが互いともきちんと玉が指定の場所に収まるどころか、あさっての方向にばかり飛んでいっている。
ミトス「僕にもかしてくれるかな?」
ジーニアス「もちろん、はい」
ミトスにいわれ、ゼロスの手から奪い取るように剣玉を取り戻し、そのままミトスに手渡しているジーニアス。
ミトス「ありがとう。それ!」
ロイド達とは違い、一発で、きちんと玉を飛ばしたかとおもうと、
指定の場所にきっちりとはめ込んでいるミトスの姿。
ジーニアス「うわぁ。ミトス、上手だね」
マルタ「本当!すごい!」
は、よっ、とさらに全ての三か所に上手に球を納めていっているミトスの姿。
ゼロス「もしかして、けんだまってハーフエルフのつくった遊びなんじゃねえの?」
ロイド「…ありえる」
そんな光景をみてそんなことをいっているゼロスとロイド。
コレット「なんか面白そう」
リフィル「あら、コレット。それは?」
コレット「えへへ。タバサさんが着替えが必要だろうってくれたの。にあう?」
コレットがきているのはタバサの私服。
あまり着替えをもっていない、というとタバサがならば、といって渡してきたらしい。
コレット「ロイド、どう?」
ロイド「お。おう。緑で木みたいだな」
コレット「・・・・そ、そうだね。たしかに緑づくし、だもんね」
ジーニアス「…ロイドの鈍感」
ロイド「よし。なら俺もミトスにばっかりいい格好させられるか!てりゃぁ!…あ」
思いっきり玉を飛ばそうとしたせいか、
ロイドの手からすっぽりと、剣玉自体がすっぽ抜ける。
そのままでは、まちがいなくリフィルの近くに落ちるか、
リフィルに当たる、とロイドは一瞬あせったのだが。
エミル「…まったく。皆、何やってるのさ?夕飯の支度できたよ?」
コレット「…あれ?剣玉…今、いきなり空中で向きをかえた、よね?気のせい?」
ロイド「あ、ああ。先生の頭の上にぶつかるかとおもったのに」
飛んできた剣玉をすっと片手でうけとめつつ、呆れたようにつぶやくエミル。
みればその手にはいくつもの皿が。
エミル「配膳するから。机の上、問題ない?」
リフィル「問題なくてよ。なら、私も手伝うわ」
エミル「すいません」
ミトス「…今、風が……」
ジーニアス「?どうかしたの?ミトス?」
ミトス「ううん。…不思議だな、とおもって」
ミトス(今、たしかに風のマナが一瞬…なぜ?)
たしかに、リフィルの方向に飛んでいたはずの剣玉は、
突如とした吹いたようにみえた風により、エミルの手に収まったようにみえた。
だからこそミトスは懸念に思ってしまう。
それは小さなマナの流れ、ではあったが。
ここは家の中。
そんなことがあるはずがない、というのに。
何かの術を唱えたようにもみえなかった。
だからこそ、疑問に思う。
そんなことがありえるのか、と。
※ ※ ※ ※
「アルテスタさん」
「…エミル、か」
ロイド達はまだ眠っている。
昨夜、夜食としてアルテスタが差し入れてきた品の中に睡眠薬がはいっていた。
もっともそれはエミルにはまったく意味がないこと、なのだが。
いまだに寝ているロイド達をその場にのこし、一人家の外にとでてゆくアルタステ。
そんな彼に気づき外にでていたエミルがといかける。
「お前さんは起きていたのか」
どこか疲れたような、それでいてふっきれたようなその表情。
すでに日はのぼり、村のほうからは、人々の声がきこえてきている。
どうやら昨夜、ゼロス達がいっていた調査隊がやってきた、らしい。
「国に自主、するつもりですか?この被害は自分のせいだ、といって」
おそらくはそう、なのだろう。
昨夜、彼がタバサに施していた処置をエミルは知っている。
それゆえの問いかけ。
「手紙はタバサに渡してある。…わしはずっと逃げておったんじゃよ。
しかし、その結果が村人をこのような目に…わしは、裁かれなければならん。
それに、わしが出向かなければ、まちがいなく国はあの子を…
あの唯一助かった子に罪をなすりつけるようなまねをしかねんからの」
いいつつも、その視線を家のほうにむける。
たった一人助かったハーフエルフの子供。
ハーフエルフだから、という理由で罪をなすりつける行為が用意に予測できる。
「村ひとは助けられなかった。せめて、一人だけでも」
「…アルテスタさんは、あのミトスが村に本当に住んでいた子と?」
そんな彼にとエミルが確認をこめて問いかける。
彼とてここに住んでいたもの。
ミトスがいっていることが嘘だ、とわかっているはず、なのに。
それとも本当に気付いていない、とでもいうのだろうか。
本当にこんな地において、隠れすむことができていた、と。
「わからん。…が、あの子を兵士に引き渡すわけにはいかんだろう」
まあ、したとしても、それこそミトスの思うつぼのような気もするが。
ミトスが声をひとつかければ、まちがいなくクルシスは総攻撃をかけるであろう。
そう、オゼットの村のように。
どうやらこの言い回しからして、このアルテスタはミトスがあのミトスだ。
と気付いているわけではなさそうである。
「わしの記憶はあの子に保存した。…タバサを、頼む」
すでに置手紙にもかいてある。
タバサは彼らの旅に必ず役にたつであろう。
だからこそのアルテスタの決断。
「いっても、無駄、のようですね。なら、一つだけ、いってもいいですか?」
「なんじゃい?」
「…テセアラ、という国は全ての責任を、教皇とその娘さんにおしつけているみたいです。
昨夜、ケイトさんが捕らえられた、という報告を僕はききました」
「何じゃと!?…それは、どこから…」
戸惑いを含んだアルタステの台詞。
「それは、私が」
「テネブラエ」
その言葉とともに、エミルの横にテネブラエが出現する。
それはまるで闇がいきなりあらわれ、具現化したかのごとくに。
「おまえさんは…魔物、ではないな?かといって、精霊、でも……」
戸惑いを含んだアルテスタの声。
そして、ふと、その顔を覗き込み、はっとした表情にと変化する。
テネブラエの瞳の中にありし紋章をどうやら目にした、らしい。
「まさか…まさか、あなたさまは…セン…」
かすれる声。
でも、そうだとすれば、なぜ?という思いもある。
なぜ、世界を構成するセンチュリオンがこんな所に、と。
「テネブラエ。それで?他は?」
「はい。いわれたとおり調べてみましたが。彼女はその責を自分一人で背負いまして。
そのまま縛についたようです。あの父親はそのまま逃走をしております」
「背後にいる魔族の同行は?」
「次なる作戦を練っているよう、ではありますが。まだ本格的には動いては…」
「そう。…引き続き、監視はしておけ。いいな?あと、気づかれないように。これだけはいっておく。
コアにもどされたりしたら厄介だからな。まあ、ありえないだろうが」
すでに力が満ちている以上、そう簡単に彼らセンチュリオンもそうやすやすとコアにはもどらない。
世界には最低限のマナしか提供していなくとも、
彼らセンチュリオン、そして精霊達には満ちた状態でマナを提供している、のだから。
固まるアルタステの目の前で語られる会話は、彼にとっては信じがたいもの。
紋章を抱くもの。
魔物でも精霊でもない存在。
まちがいなくその紋章から察するに、目の前のこの闇を凝縮したかのような、
犬のような猫のような存在はセンチュリオン、なのだろう。
大地の加護をうけし種族、ドワーフだからこそ、直感的にそれは理解できる。
できるが、なぜそんな世界を構成するセンチュリオンともあろうものが、
目の前のエミル、という少年の意見に従っているようにみえるのか。
「おまえさんは…いったい……」
かすれるアルタステの声はその心情を現している、といってもよい。
「僕は僕でしかありませんよ。あなたが、ドワーフのアルテスタ、という存在であるように、ね」
答えになっていないその答え。
一瞬、その背後に巨大な大樹の幻影がみえたような気がするのはアルタステの気のせいか。
「まさか、あなたは……あなたさまは……」
目の前にいるのが少年、ではなく巨大な樹にみえたのは。
だからこそ、アルタステは声をかすれさせる。
ドワーフの伝承の中にもありし、大樹カーラーンの分身だという存在。
この世界においては現れたことがなかったというが、だが、もしもそう、だとするならば?
そして、もしそうだとすれば、現れた意味は?
考えなくても答えは一つ、しかない。
「…ユグドラシル様は……彼は……」
「デリス・エンブレムを与えているのは間違いない事実。でしょう?」
「!?」
それを知っているのは一部のものしかしらないはず。
世界の加護たるデリス・エンブレム。
だからこそ、彼らドワーフがミトスに協力しているのだ。
それもエミルは自覚している。
自分の加護をうけている存在だから、協力するのは当然、という思いでミトスに協力しているのだ、と。
「…汝もまた、大地の加護をうけし種族の一人。
…自分なりの償い、とおもうのかもしれないけども。間違うな。これだはけいっておく」
それだけいいつつ、そのままくるり、と向きをかえ、
扉のほうにむかってゆくエミルにたいし、深く頭をさげるアルタステ。
「…御心使い、感謝いたします。…どうか、世界を…」
心残りがあったとすれば、今の世界のありよう。
しかし、おそらく、大地の心配はもうない、のであろう。
彼…大樹の御使いがこの世界において初めて地上にあらわれている。
それを考えれば。
その結果がたとえ一度、大地全ての浄化、であろうとも。
伝承にある世界が魔界ニブルヘイムにとってかわることは…まず、ありえない、のだから。
深く頭をさげたのち、ゆっくりとその一歩をふみだすアルタステ。
向かうは、村の中。
そこにいる兵士達に自分に責があるのだ、と伝えるために。
何ともいえない静寂が部屋全体を包み込む。
「アルテスタさん…そんな……」
目がさめれば、なぜかすでに日はかなり昇っており。
いるはずのアルテスタの姿はみえなかった。
タバサがマスターから手紙を預かっています、といわれ。
その手紙を読んで絶句したのはつい先ほど。
それをよみ、あわてて確認に出て行ったしいなはこの場にはいないにしろ。
そこに書かれていた内容。
それは。
『夜明けとともに国の調査隊がオゼットの村にはいる、と報告をうけた。
わしはこのたびの村の襲撃の責任をとり、出向しようとおもう。
タバサに必要なことは昨夜のうちにインプットしてある。
おそらくわしは二度とここにはもどってこれんじゃろう。
わしの変わりにお主たちにタバサを同行させようとおもう。
お主達が、シルヴァラントの神子を救えることを願っている』
「マスターは、私に皆さんのオテツダイヲスルヨウニ、と言われました」
淡々とした口調でタバサがいってくる。
「なんでとめなかったのさ?!」
ジーニアスがそんなタバサにくってかかるが。
「マスターのいうことは、絶対です」
淡々と棒読みのごとくにいいきるタバサ。
「マスターはこうもいわれました。
この家に調査隊達が家宅捜査に来る前に皆さんに出発するように、と。
テセアラの神子がいる限り国も変なことはできないだろうが、念のため、だそうです」
たしかに、一行の中にゼロスがいる以上。
やっくてるであろう彼らもまた強制的な実力行使にはでない、であろうが。
しかしそうでない、ともいいきれない。
「昨夜のうちに、情報を、と書かれているけど、どのような?」
「皆さんにこれから必要かもしれない、とおもわれること、ときいています」
答えになっていないタバサの台詞。
そもそも、タバサ自身もきちんと把握していない、といってよい。
記憶回路がまったくもって別である以上、彼女もまた把握しきれていないのだから。
やがて。
がちゃり、と扉が開く音がする。
「しいな!アルテスタさんは…」
「もう、連れていかれた後だったよ」
しいなが力なく首を横にふる。
もっとも間に合っていたとしても、どうこうできる、とはおもえなかったが。
「それで?これからどうするの?」
「姉さん。それより、ミトスのことはどうするの?ここに一人で残しておくのは危険だよ」
「俺達と一緒にいく、でいいんじゃないのか?
ここに一人でのこしてたら、こいつまで下手したら連れてかれるかもしれないんだろ?」
昨夜、ゼロスたちが示唆したようになるとはおもえないが。
その可能性がある以上、一人にしてはおけない。
「え?で、でも、僕……」
戸惑いを含んだミトスの視線はあきらかにさまよっている。
「ほんと!?ミトスと一緒に旅ができるの?やった!」
「…ジーニアス。喜ぶのは間違ってない?」
本音がでた、のであろう。
喜ぶジーニアスにマルタがそんなジーニアスにと図星をつくようにいっているが。
「…仕方ないわね。ここに一人のこしていくわけにもいかないし。
たしかに、生き残り、と知られればこの子も国に連行されかねないもの。
でも、私たちの旅についてこさせるのも危険なのだけども……」
リフィルが思案しつつそういうが。
「何いってんだよ。先生。どっちにしても危険なら。
俺達が近くにいたほうがいざ、ってときにどうにかできるだろ?ミトス一人くらい、俺が守ってやるって」
「…その根拠のない自信、ロイド、どこからくるのさ。
でも、僕は大賛成!それに、ゼロス達のいい分じゃないけど。
もし、何の罪もないミトスが連れていかれたりしたら…僕、いやだよ」
ロイドがきっぱりといい、ジーニアスもそんなロイドにと賛同する。
「…仕方ないわね。たしかに、この村に一人残すのは危険でしかないもの。
ミトス、あなたも同行してくるにしても、危険なことはしないのよ?
あなた、みたところ丸腰、だけど、剣を扱う、といっていたわね?」
リフィルの探るような視線に、
「え、えっと……」
「先生。平気だって。ミトスなら俺達が絶対に守るからさ」
「そ、そうだよ!僕もミトスを守るから!」
ロイドがいい、ジーニアスもまた、がたん、と椅子を立ち上がりつつも、力説するようにいってくる。
というか、ロイドとジーニアスより、確実にミトスのほうが腕は上だぞ?
そんな二人をみて思わず呆れているエミル。
そんなエミルの表情にロイドもジーニアスも気づいていないようではあるが。
「で?これからどうするんだい?」
しいなの問いかけに。
「まずは、できることからやっていこう。ゼロス。ここから近い神殿は?
クルシスのやつが動いているなら、はやいところ済ませたほうがよさそうだしな」
考えていても仕方がない。
アルテスタのことはきにはなる。
なるが、クルシスが動いているとなれば、自分達がしようとしていること。
すなわち、精霊との契約。
それを邪魔される可能性もある、ということ。
もっとも、エミルからしてみれば、テセアラ、という国がアルテスタをどうこうする。
とはもおもっていない。
彼がもつ技術はテセアラ、という国にとってはノドから手がでるほどほしいはず。
何らかの手段を用い、彼の技術を手にしようとするであろう。
だからこそ、すぐに処刑とかしないと確信をもっていえる。
もっとも、表向きにはオゼットの村の消滅の首謀者、として、
処刑した、という発表を国ぐるみでする可能性があるにしろ。
「フラノールのある極寒の大陸にある氷の神殿。
あとはメルトキオの北に地の神殿。南部に闇の神殿ってところだな」
「…あんた、伊達に毎年、儀式できちんと訪れてるだけあって即答だねぇ」
そんなゼロスにしいながあるいみ感心したようにいってくるが。
「俺様としては面倒な儀式でしかないがな。というかさ。内部にははいんないんだぜ?
封印が解かれている入口の前で儀式を行ったあと、救いの塔の前で祈りをささげ、はいおわり。
…ったく、面倒ったらありゃしねえ」
事実、ゼロスはどの神殿の奥までいったことはない。
「異界の扉、というのも気になるわ」
リフィルがふと思い出したようにいってくるが。
「ああ。あんたたちがシルヴァラントに流される結果となったという、あそこかい?」
「ええ。一度現場をみてみたい、というのもあるのよね」
しいなの台詞にリフィルがこくり、とうなづく。
「それに、もしそこが二極…すなわち、シルヴァラント側にいける道なのだ、とすれば。
レアバードを用いなくても移動が可能、ということでしょう?」
「ふむ。たしかに満月の夜に扉が開かれる、という伝承はあるが…」
リフィルの呟きにリーガルがうなづきつつもそんなことをいってくる。
「異界の…扉、ですか?」
「異界の扉っていえば、アルタミラの近くだな。せっかくだし、アルタミラにもよるか?」
「…アルタミラ、ですか?私、いってみたい、です」
それまで黙っていたプレセアが何かを思いだしたのか、そんなことをいってくる。
「え?どうしてさ?プレセア?」
「…思いだした、んです。妹が…アルタミラのことを手紙でかいてきたことが……」
ぴくり。
その台詞にリーガルがあからさまに動揺を示すが。
「アルタミラにあんたの妹は奉公にいってるのかい?」
しいなが今初めてきいた、とばかりに目をぱちくりさせて問いかけるが。
「そういえば、あなた、あのときいなかったものね。たしかでも、妹さんは……」
「ブラブラ家だったっけ?」
「違うよ。ロイド。ブラリ家だよ」
リフィルがいいかけると、ロイドが口をはさみ、
そんなロイドにつづきジーニアスがいってくる。
リフィルが口ごもったのはアルテスタの言葉を思い出したがゆえ。
その子、というのがプレセアをさしているとするならば、それは。プレセアにとって何と酷でしかないのだろうか。
だからこそリフィルはそれ以上、言葉を紡げない。
「ブライアン家、です」
そんなロイドとジーニアスの二人に突っ込みをするでもなく、淡々と事実をいいきるプレセア。
「ブライアン家?ああ、そりゃアルタミラだね。
なら、妹さんはレザレノ・カンパニーで働いているのかもしれないね」
「…え?」
しいなの台詞にぱちくり、と目をまたたかせるプレセア。
「?たしか、あの巨大な橋をつくったとかいう会社の名前ね?どうしてその名前がでてくるのかしら?」
そんなとまどうプレセアに、リフィルが気になるのかといかけてくる。
話題が変わったことにいくばくかほっとしたような口調になっているのにロイド達は気付かない。
「そりゃ、ブライアン家はカンバニーの創立者だからね。世界有数の大企業、レザレノ・カンバニー。
もっとも、その本社ビルは会社の規模からしてみれば驚くほどに小さいけど。
けど、世界中の最新技術がつまっている、といっても過言でない会社さ。
世界中で業務を展開しているだけあり、かの地では集まってこない情報はない、とまでいわれてるよ。
北から南まで、レザレノの手がはいっていない所はないからね。
たしか、フラノールの雪祭りもレザレノ主催で行われているはずだよ」
「…妹は、そんな大きなところに?」
しいなの台詞にプレセアは戸惑い顔。
でも、とおもう。
そんな場所ならば、妹はきっと不自由はしていないだろう、とも。
そんなしいなの台詞に、リーガルがぎゅっと手を握り締めているのにきづいたのは、
ゼロスと、そしてリフィルとエミルのみ。
「ここからだと、アルタミラにいくにしても、フラノールにいくにしても同じくらいの距離のはずだぜ?
エレカーで移動するにしても、レアバードで移動するにしても、な。
俺様としては、アルタミラをお勧めするぜ!
なんかいろいろとあったんだから、皆もゆっくりとして気持ちを整理するのに、
あの場はリゾート地でもあるからうってつけだしな」
どちらかといえば、ゼロスはフラノールにはいきたくない。
思い出したくもない光景を嫌でも思いだしてしまうがゆえに。
「姉さん!そのアルタミラってところにいこうよ。ね?」
家を失い、父をも失ったプレセア。
家族とあえば少しは気が休まるはず。
それゆえのジーニアスの提案。
しかし、ジーニアスはしらない。
そのことは、よりプレセアを悲しみに突き落とすことになる、ということを。
どちらにしても避けては通れない事実。
人間達曰く、恋は盲目、とはよくいったもの。
都合の悪いことはほとんど覚えていない、というか忘れてしまう。
あのとき、アルテスタの独白を、ジーニアスもまた聞いていたはず、なのに。
それとも、アルテスタがあのとき、プレセア、といわず、
その子、といったがゆえに、プレセアのことだ、とは認識していないのか。
【…その子の妹までもが被験者として選ばれ…そして死んでしまった一件、でな】
あのとき、たしかにアルテスタはそういった、というのに。
ロイド達に請われ、要の紋をつくってほしい、といわれたあのときに。
そのとき、その場にいなかったしいなはともかくとして。
ロイド達も気づいていない、というのだろうか。
おそらく、この様子からみれば気づいていない、のであろう。
リフィルのみは何かに気付いたらしく、思案したように顔をしかめているが。
「…避けては通れない…か。…アルタミラにいくのならば私が案内しよう」
本来ならば、あの街には入りたくない。
あの街で自分を知らないものはほぼ皆無。
しかし、彼女には説明の義務がある。
「おいおい。いいのか?」
「・・・・・・・・・・・」
ゼロスのいいたいことを察した、のであろう。
そんなゼロスに対し、リーガルは無言のまま。
「アルタミラかぁ。ゼロス、どんな街なの?」
「すげえぜ~?何たってリゾート地、というくらいだからな。遊園地とかもあるんだぜ?」
「「「遊園地?」」」
その言葉の意味がわからず、同時に声を発し、首をかしげるロイド、ジーニアス、マルタの三人。
「で、移動するにしても、エレメンタルカーゴと、レアバードと。
どっちで移動するんですか?たしか、預かってる機体は人数分もないですよね?」
タバサの言い回しだと、ついてくるつもり、らしいゆえに、ミトスとタバサ、その二人分、どうしても足りない。
そもそも、預かったレアバードの数は八機。
不足している機体の数は人数的に二人乗りでいけば問題はいといってよい。
そもそも、今現在でいうならば、シルヴァラント組みが五人。
テセアラ組みが四人。
それ以外で勘定されるのがエミルを含め、ミトスやタバサ、そしてノイシュといった面々。
ノイシュはいざとなれば体を小さくし運ぶことも可能なので、
数に入れなくてもいい、という面があるにしろ。
「クルシスってやつらが見張ってるかもしんねぇんだろ?
よくわかんねえけど、奴らは空を飛べるっていうんなら。レアバードでの移動はやばくねえか?
ここからだと、北にある桟橋から南に下れば、アルタミラまではすぐだしな。
ちなみにそのまま東にいけばフラノールにたどりつくけど
こっちは小島とかが多くて座礁の危険性があるからな。
フラノールにいくとすれば、アルタミラからでている、
フラノール行きの定期便にのっていくのを俺様としてはお勧めするぜ」
「仕方ないわね。…それでいきましょう。うう、また海なのね……」
リフィルががくり、とうなだれつつも、同意の意を示してくる。
ゼロスのいい分もリフィルには一理ある、と納得できるもの。
そもそも、空を飛んでいる段階でもしも襲われでもしたら、それは海でもいえるかもしれないが。
しかし、海は広大。
おそらくは天…空から監視しているかもしれないクルシスにとって、
空をとんでいる目標物と、海をわたっている目標物。
空を飛べるものなど限られている以上、襲ってください、といっているようなもの。
それならば、まだ他にも船舶がいるとおもわれし海上での移動が理想的。
それくらいはリフィルとてわかる。
もっとも、理解できても海の上を進む、という点でリフィルはどうしても納得いかないものもあるが。
しかし、自分一人の感情で全員を危険にさらすわけにはいかない。
特に、クルシスがオゼットを襲撃した、という事実がある以上…
ミトスがいうのが事実だとすれば、だが。
いつなんどき、クルシスがまたコレットを狙って襲ってくるかもわからない、のだから。
オゼットの村の北にある桟橋。
このあたりも落雷の影響があった、のであろう。
大地がところどころえぐられて、焦げたような跡がのこっている。
そのまま、ウィングパックの中にとしまってあったエレカーを取り出し、
海にと浮かべ、目指すはここから南にある、というアルタミラ。
結局のところ、アルテスタは戻っては来ず、
ミトスだけでなくタバサもまた、アルテスタの命令だから、という理由にて、
一行に同行することになったのはつい先ほど。
ゼロスやしいながいうのは、海の楽園、と呼ばれている地であり、
街全体がホテルや娯楽施設、などといったものがある、らしい。
そういえば、以前にあの街によったとき、
なぜかテネブラエのやつがセルシスウの姿になったり、
あとはブルート達が街を占領したりしていたな。
ふとかつてのことを思い出し、何となく海にと視線をむけるエミル。
ざざっと波をたて、南に下ってゆくことしばし。
「アルタミラっていう街はね。
ブライアン家が創立したレザレノ・カンパニーっていう会社が、総力をあげて開発した街でもあるんだよ」
しいながエレカーの内部で、おそらく詳しくはないであろう、
エミルやコレット、すなわちシルヴァラント組にと話しかける。
確か、地下通路にて主要施設はほとんどカンパニーは繋げていたな。
しいなの説明にふとエミルがそんなことを思っている中。
「しかし、タバサが操縦してくれてるから楽なんだけど。
アルタミラにいくまで軽くみつもっても四時間くらいはかかるだろうし。
結局ばたばたしてて、今朝の朝食も昼も食べてないし。
ちょうどいい機会だからここで何かつくろっか」
距離的にこのエレカーを利用しても四時間はかかるであろう。
「レザレノ製の高速艇ならばもっとはやくにつけるだろうけどね」
そういって首をすくめるが。
「ないものねだりってね。昨日はエミルにつくってもらったし。
なら今日はあたしがつくるよ。ロイド達は食材になるようなもの。
甲板にでてでも魚でもつっとくれ」
「?つりざおなんてあるのか?」
ロイドが首をかしげるが。
「あ。僕、この前これにのったときみたよ。なんでか倉庫にはいってた」
ジーニアスがロイドの台詞に思いだしたようにいってくる。
それは前、使用していたものがそのまま私物を入れたままにしていた、のだが。
荷物を受け取るにあたり、時間つぶしにおいて釣りをたしなんでいた者の忘れ物。
しいなもまた、このエレカーを移動させるにおいて、一応全体に目をとおしている。
ゆえに、なぜかこの乗り物の中につりざおがあったのは覚えていたがゆえ、
ロイド達にそんなことをいっている、のだが。
「しいな。では私も手伝おう」
「そうかい?たすかるよ。でも手枷しててできるのかい?
何ならあたしがその手枷はずしてやろうかい?あたし得意なんだよ?そういった錠前を外すのは」
しかも、今、リーガルが身につけているのはみずほ製。
「気持ちだけうけとっておく。私のこの手枷は私の罪の象徴。
私は今はこうして外にでているが本来ならば囚人なのだからな」
「そういや、あんた…」
あのトイズバレー鉱山からでたとき、あのヴァーリがいっていた言葉。
人殺しの罪人、と。
それをリーガルは否定をしなかった。
しいなとて、本意ではないにしろ人を殺したも同じと思っているがゆえ、
それに関してはしいなは何もいえない。
短い付き合いであるが、彼がすき好んで誰かを手にかけるようなことはしない。
とおもう、ならば自分とおなじような何かの事柄に巻き込まれて、その可能性のほうがはるかに高い。
そして、どうもこの真面目な性格にみえるリーガルのこと。
その罪を一人で背負って服役…という可能性がなくはない。
しいなはいまだにきづいていない。
リーガル、という名はあるいみで有名だ、というのに。
そんな会話をしつつも、エレカーの内部に設置されている、
簡易厨房にとむかってゆくしいなとリーガルの姿。
「よっしゃ!船での釣りか。なんたかのしそうだな。つりざお数本あったら、
誰が一番多くつれるか競争しようぜ!競争!」
ロイドが嬉々として、そんなことをいっているが。
「そもそもさ。ロイド、釣りをするにしても、餌はどうするのさ?」
「?グミでよくないか?」
「グミなんかで魚がつれるわけないでしょ!
いつもの釣りならそのあたりの岩の下やら、海岸を掘れば餌はいたけどさ」
すでに海の上に出ている以上、そんな餌は手にいれようがない。
「ルアー釣りは?ルアーもあるんじゃないの?」
そんな二人の会話をきいていたミトスがふと思い出したかのようにいってくる。
そもそも、なぜか虫が苦手だといっていたユアンとともに旅をしていたとき、
ユアンが率先してルアーを手作りしていたことをミトスがふと思い出したゆえの台詞なのだが。
もっとも、なぜかマーテルがこんなにかわいいのに?
といい、岩の下にいた幼虫を手づかみしてユアンの前にもっていっていたり、
という旅の光景もあったりしたのだが。
ミトスのやつ、あのときのことを思い出しているのか?
そんなミトスの台詞をきき、エミルもまたかつてのことを思い出す。
たしか、お前達、よくあきないな、と
クラトスがそんな二人をみて、かなり呆れていたはずである。
ひらひらと周囲を舞う蝶により、かつて彼らの旅を視ていたときの記憶。
「そっか。ルアーか。よし、なかったらルアーをつくって釣りに挑戦だ!」
「ったく。仕方ない。姉さん、ロイドがはしゃいで海におちないように。僕、見張りをかねていってくるね」
「リフィルさんは外にでないんですか?」
いまだに椅子にとすわり、外を極力といっていいほどにみようともせず、
じっと本に視線をおとしているリフィルにとミトスが問いかけるが。
「私はここにいます。いってらっしゃい。海におちないようにね?」
リフィルがいうと、
「いこう。ミトス!」
ぎゅっとミトスの手をにぎり、ジーニアスが笑みを浮かべてミトスにと話しかける。
「え?あ…う、うん」
いきなり手を握られ戸惑いを隠しきれないミトス。
そういえば、こいつ、こうして他人から手を握られたりしたこと、
ほとんど数えるほどしかなかったんじゃなかったか?
損得も何もない状態では、という注釈がつくにしろ。
あきらかに戸惑いをもっているミトスの様子にきづき、ふとエミルもまた思い当たり、
思わず目をぱちくりさせてしまう。
彼が本音をいえたのは、クラトスとユアン、そしてマーテル達だけであった。
もっとも、途中からたまに現れていたアクアがそんなミトスをからかっていたようだが。
それはまだ、ミトスが戦争を止めようとしており、
自らのことを知ったのち、かの書物にアレらを封印した後の出来事。
「そういえば。ゼロスさん。アルタミラってどんな街なんですか?
さっき、しいなさんが簡単なことはいってましたけど」
とりあえず、かつてのことを思い出せばだすほど、どうして、とミトスに問い詰めたくなってしまう。
どうして、自分達との約束を破ったのか、また破っているのか、と。
マーテルを復活させたい。
ならば、どうして、その話を精霊達にしなかったのだろうか。
彼らはいっていた、そんな相談は一つもなかった、と。
オリジンにしろいきなり封印された、ともいっていた。
精霊達に説明したのは、一度目は失敗したから時間をかけて成功する。
とか何とかいって、かの上書きの契約、すなわち、精霊の楔を納得させた、らしい。
それは、ウンディーネとシルフから今回、初めて聞かされた真実。
かつてのときは、そこまで詳しいことは聞きもしなかったのだが。
「うん?興味があるのかい?エミルくん」
「え。あ、はい。どんな街なのかなっておもいまして」
興味がある、というよりは、確認、という意味もある。
そういえば、あのとき、本来ならばもっとにぎわっているとか何とかいっていたような。
あまり人ごみという人ごみは好きではない、のだが。
意識していなくても強く願う心などは時折ラタトスクは感じ取ってしまう。
それが特に欲にかられたりする、という煩悩まみれの意識がより強い。
もっとも、今は力を完全に取り戻しているのでそれはない、と言い切れるのだが。
あの地にかつていったときに感じていた違和感。
あれはまぎれもなく埋め立てされて作られた地であったと確信をもっていえる。
そもそも、埋め立て、とは自然の調和を乱す結果になりえるもの。
ヒトはなぜかそれにより生じる自然への影響をまったくもって考慮しない。
それがたとえ自分達の首をしめる結果になるとわかっていようとも、である。
目先の欲、それをすれば楽になる、もしくは豊になる、というだけの理由にて。
それは豊かでも何でもなく、まちがいなく自分達の首をしめている、
ということにすらヒトはなぜか気づこうとしない。
救いはきちんと下水道の設備があのとき、しっかりしていたようにみえた、ということだろうか。
「おっけ~、オッケ~。この俺様がくわしくおしえてやるとしよう。
アルタミラは海を埋め立てて拡張した街なんだぜ。
元々、小さい島でしかなかった場所の海辺を片っ端から埋め立てていって、
一つの島のようにしたのが始まり、だな。
それを成し得たのが、レザレノ・カンバニーっていう会社さ。
アルタミラはすなわち、カンパニーとともに成長した街、ともいわれてる。
すべてあの街はカンバニーの子会社というか一つの系列会社で成り立っていて、
商業ビル、遊戯場、居住区、様々な区間はきちんと独立区画として、
それらがまじわって、まがりなりにも苦情とかでないようにしてあるんだぜ。
それら各ブロックをエレメンタルレールと呼ばれる海上移動用の電車。
それで移動するようになるんだけどな。それ以外には移動手段がない。
ああ、このエレカーとはまた違うからな?
ちなみに、海の街というだけのことはあり、また、リゾート地というのもあり、
主要な箇所にはきちんと、客船が定期的に便として運航されている。
アルタミラ発、どこどこ行きってな。
いうまでもなく、首都メルトキオ行き…これは、丁寧にも、
海岸沿いから高速竜車がセットとなっていて、自動で首都まで運んでくれる。
フラノール行きもにたようなものだが、それぞれは竜車にのるかのらないか。
それによってもまた値段がことなっているけどな」
いつになく饒舌にて説明してくるゼロス。
「?エレメンタルレール、ですか?それで移動しないと移動手段がないんですか?」
「簡単な橋などはかけられているけどな。
網の目のように水路が行きわたっているからな。水上移動をした方がはやいんだよ。
もっとも、それらの移動も全て無料、なので生活に不自由は感じていないらしいぜ?」
エレメンタルレールに関しては無料で行き来ができるので、人々から不満はあまり上がっていないらしい。
そんな二人の会話が聴こえた、のであろう。
本を片手にしたまま、深く息を吐き出し、
「…ま、また水、なのね……」
そうつぶやくリフィルの視線はどこか虚無。
「リフィル様はたしか十数年前にシルヴァラントにいったんだっけか?
そのころとアルタミラはかなりかわってるだろうしな。いったことは?」
リフィルがもともとこちらの産まれで、異界の扉によってシルヴァラントに移動した。
そのことはゼロスは聞かされている。
国王達もまた何らかの不測事態であちらに流されたのだろう、と勘違いされているのだが。
「いえ、アルタミラは……」
そういうと何かを思いだした、のであろう。
リフィルが顔を俯かせる。
「?俺様、何かリフィル様に悪いこときいたか?」
「…いえ、ちょっと、アルタミラにはいい思いでがないから……
私が水嫌いの理由になった街、でもあるから」
ゼロスの問いかけにリフィルがどこか遠くをみつつぽつり、とつぶやく。
マルタ、ジーニアス、ロイド、ミトス、コレットの五人は外にでており、
今現在、誰が一番大物がつれるか、といいつつ釣りを初めており、
しいなとリーガルは料理をつくりにいっており、タバサは操縦。
ゆえに、今この場にのこっているのは、プレセア、ゼロス、リフィル、エミルの四人。
「?リフィルさんは、水が苦手…なんですか?」
首をかしげといかけるプレセアに。
「ええ。昔にすこし…ね」
いいつつも、どこか懐かしむように、誰にいうでもなく。
「…私たち家族はわからないままに追われていたわ。あれは……」
家族とともに、アルタミラにまで逃げてきたあの日。
アルタミラならば海の街ということもあり、簡単な船が手にはいるかも。
という話しをどこからともなく両親がききつけて、やってきたかの地。
確かに船は手にはいった。
はいったが。
追手にもまた見つかってしまった。
「海に逃げた私たち家族。でも私は海に投げ出されてしまったの。
冬の寒い日だったわ…もがいても、そのまま沈んでゆく体…もう、ダメだ、とおもった。
それから…ね。水がダメになってしまったのは。あのときをどうしても思い出してしまうのよ」
「…リフィル様にもそんなことがあったのか。…でも、わかるぜ」
「え?」
ゼロスならばちゃかしてくる、とおもったのに、
逆に神妙にいわれ、リフィルのほうが逆にとまどってしまう。
「俺様もあるからな。俺様の場合は、雪、だけどな。どうしても、雪だけは…な」
脳裏によみがえるは、真赤な雪。
お前など産まなければよかった。
母の言葉はいまだにゼロスを蝕んでいる。
「…そう、何があったのかは詳しくきかないわ。…あなたもいろいろあったみたいね」
「まあな」
どことなく親近感。
そんな似た者同士の感覚を感じた、のであろう。
言葉すくなくも、しばらく視線を交わすリフィルとゼロス。
「そういや、エミルくんにも苦手なものはあるのか?」
その場の雰囲気を変えたいのか、話題をエミルにとふってくる。
「苦手、というか、いつになっても慣れないのは人の心、ですね。
…どうしても僕、ヒトを完全に好きにはなれないので。
……いつもいいようなことをいっては、常に裏切ってきたりするから……」
「「「・・・・・・・・・・・」」」
うつむき加減にそういうエミルの台詞に、
リフィル、ゼロス、プレセアもまた思うところがあるのであろう。
それぞれ無言になってしまう。
その台詞は三人が三人とも心当たりがありすぎる。
ゼロスは神子としてそのような人々を目の当たりにしていたし、
リフィルは自らがハーフエルフ、という立場上、人々の変化を目の当たりにしている。
プレセアもまた、胸につけているエクスフィア。
それが甘い話しにのってしまった自分自身に責がある、とはいえ。
甘い話しにまどわされ、あるいみで裏切られたのもまた事実。
「…あなたも、おそらく私たちと同じ、なのかしらね。ヒトはいくら疎んだとしても一人ではいきられない。
私たちハーフエルフがどうしても人の世界に溶け込まなければ生きていけないように」
リフィルがぽつり、とつぶやくが、そんなリフィルの台詞に答えを返すことなく、
エミルはただ曖昧に笑うのみ。
かかわらないまま、という方法はいくらでも取れる。
この地におりたち、ヒトと初めてかかわった。
それがミトス達。
だけど、そのミトス達は……
ディセンダーとして表にでていたときも人の裏切りは幾度となく目の当たりにしていた。
決定を下し、その大陸を消滅させたのも一度や二度、ではない。
中には世界ごと海に沈めたことすらあった。
地表全てを浄化するために。
いつの時代も世界の理を狂わすようなことをするのは、ヒト、でしかありえない。
知的生命体、とよばれる命はなぜその心をもってしてそのようなことをするのだろうか。
『ラタトスク様』
「僕、ちょっと、風にあたってきますね」
ふと聞こえてくるセンチュリオンの声。
いいつつも、その場を立ち上がり、外にとでてゆくエミルをみつつ。
「エミルくんもあの口調からして、いろいろあったみたいだな」
「…ええ、そうね」
しばし、残された三人の中に、何ともいえない空気が漂ってゆく。
「どうした?」
外にでて、周囲に誰もいないのを確認しての台詞。
ロイド達は手前にて魚釣りに興じているがゆえ、背後のこちらにはいない。
エレカーの最後尾。
そこは元々、荷物などを置く場所なのであろう。
ちょっとした広さ、そしてまた、非常用の緊急脱出ポットなどが設置されている。
「念のために、今向かわれていますアルタミラ、というところを視察したのですが。
かの地に人の魂に囚われたままの微精霊達がいる模様です」
「どこかの建物の屋上にあったけど、どうするの?ラタトスク様?」
ウェントスとアクアが交互にいってくる。
「…その建物は?」
「たしか、レザレノ・カンバニーって……」
「ふむ。…どちらにしても出向くことになりそうだな。それはそうと、かの鉱山は?」
「それについては、ソルムが滞りなく。もうあの地に入り込むことすらできないでしょう」
先の地震の余波を使用し、かの地を人間達が入れないように、と指示を出してはいた。
まだ、かの地にいる精霊石達を全て解放するにしても力が満ちていない。
そんな微精霊達が多すぎる。
ならば、入れなくしてしまえばよい。
それに、あの子達を利用しようとしている人間がどうやらいるらしい以上、
念には念を。
「モーリア坑道とたしか、道が繋がっていた場所もあるな?
あの場にはきちんと魔物達に命令を下したか?」
許可なく立ち入ろうとするものには制裁を。
地属性の竜族にそのようにかの地を守るように、と指示をだした。
「それも滞りなく」
「そうか。…今夜でもそれとなく抜けだして我もまた確認にいく」
「「わかりました」」
エミルの言葉をうけ、そのままその場から溶け消えるように、その二柱の姿はきえてゆく。
「おお!うまそ~!」
「結局、誰が一番多く魚つったの?」
おいしそうな匂いが周囲に漂う。
「それがさ。船が早いせいか幾度かひっかかりはしたんだけどな」
「手ごたえ感じたのもあったけど、なんかほとんど釣り糸がきられちゃったんだよね」
「…あれは無理だとおもうよ。ちらり、とみえたあれ、カジキマグロだったもん」
それぞれが席につきつつも、問いかけるエミルに交互に答えるロイド達。
首をすくめ、マルタがそういえば、ミトスが苦笑しながらもそんなことをいってくる。
実際、彼らの釣りにおいて、ルアーそののに魚がかかったらしい、が。
そのほとんどは小さい魚ではなくて大ぶりの魚達。
船体にひきよせる間もなく、糸が切れてどうやら不漁におわった、らしい。
今のところ波は穏やか。
さして問題も起こっていない。
操縦しているタバサ曰く、あと二時間くらいすればアルタミラにたどり着く、らしい。
船の中に設置されている食堂。
そこにあつまり、運ばれてくる料理を前にしてロイドが目を輝かせていっているが。
「うん?このミートローフは?」
「それは私がつくった」
ロイドがお皿にはいっているミートローフをみて問いかければ、リーガルがうなづきつつもいってくる。
桟橋をでて一時間以上すでに経過している。
「あら。これはかわっているわね。しいな。これは?」
「ああ。チラシ寿司っていうんだよ。船の中にお米があったから、遣わせてもらったよ。
簡単にしかつくってないけどさ」
ちなみに、このすしに利用されている魚は、ロイド達に任せていては、いつ材料がとどくかわからない。
ゆえにエミルに問いかけ、おそらくはもっているであろう。
食材の一部を譲り受けつくったにすぎない、のだが。
酢がはいっているそれは、体の健康にもよい、といわれている品。
甘さ加減の味見もしているがゆえに、さほど問題はないだろう、とはしいなの談。
「いっただっきま~!お、これまたうめえ!」
ロイドがいいつつ、ミートローフに手をつける。
「リーガルさん、料理上手なんですね。
エミルもそうだけど。なんかこのメンバーって、料理上手なの。
男の人がおおいの、私の気のせいかなぁ?」
マルタがしいなの作った料理、ちらしずしをたべつつそんなことをいっているが。
ちなみに、はいっている卵の切れはしがエミルならば細かく切られているであろうが、
しいなのつくりしそれらはおおざっぱにきられていたりする。
簡単に厚焼き卵にしたのちに、さくっとどうやらしいなは切っただけ、らしい。
「リーガルさん、これ、自分で覚えたんですか?」
エミルの問いかけに。
「いや、これは、私の大切な片翼がつくってくれた料理だ」
「?プレセア?どうかしたの?」
一口、ミートローフを口にしたのち、そのままの姿勢で硬直しているプレセアに気付いたのであろう。
心配そうにジーニアスがそんなプレセアにと問いかける。
「い、いえ、この味…ママの味……」
それはなつかしき味。
ミートローフは必需品よ。
といい、まだ幼かったプレセア達にプレセアの母親がおしえていた料理。
その味とほぼほとんどかわらない。
「……何でも、ないです」
隠し味に使う、といっていたのは、母がみつけた隠し品といっていた。
ゆえに、ぽつり、と呟いたものの、何でもない、とごまかしをいれ、
そのまま、ゆっくりとミートローフを再び食べ始める。
「でもさ。リーガルさん、料理上手だよね。
リーガルさんも僕みたいに必要にかられて、だったのかな?
僕だって毎回姉さんの料理をたべては死にかけたりしなきゃ……」
もくもくと料理を食べつつも、何かを思いだしたのかぽつり、とつぶやくジーニアス。
「どういう意味かしら?ジーニアス?」
ついつい本音が漏れた、のであろう。
ぽろり、と失言しているジーニアスにたいし、リフィルの鋭い視線が飛ぶ。
「…リフィルさんの料理、ですか?食べてみたいです」
ミトスが首をかしげつつも、リフィルにいえば、
「あら。なら、ちかいうちに」
「「それはやめと(きなよ。死ぬよ!)(け!絶対に死ぬぞ!)」」
リフィルがそういうとほぼ同時。
ジーニアスとロイドの声が同時に重なり。
「まだお前はわかいんだから。下手に死ににいくようなことをするな!」
「そうだよ!ミトス!姉さんの料理をたべろっていうなら。
まだそのあたりの食べられる草とかたべたほうがっ!」
「先生の料理たべるのなら、ポイズンボトル必要かなぁ?
なんか、先生の料理、ときどき毒状態になったるするよね。あれ面白いよね~」
「「いや、面白くないからっ!」」
必死に説得するロイドとジーニアス。
そんな中、コレットがにこやかにあるいみとどめのようなことをいっているが。
そんなコレットにこれまた同時に二人して突っ込みをいれている。
「二人とも?しっかり話しあいが必要のようねぇ?」
ひくひくとコメカミを震わせつつも、リフィルがそんな二人をみて何やらいっているが。
「僕は平気だよ。よく姉さまがつくった料理も、きちんと切れてなかったり。
生煮えだったり、あげくは砂が紛れてたりしてたもん」
・・・・・・・・・・
ぽん。
さらり、というミトスの言葉に何やら思うところがあった、のであろう。
ぽん、と横にすわっているミトスの肩にと手をおき、
「…お前も苦労したんだな……」
何となく悟ったかのようにロイドがしみじみと呟いていたりする。
そういえば、あのマーテルの料理、壊滅的だ、とアクアがかつていってたな。
エミルもまた、かつてアクアからきいたそのことを思い出し、何となく遠くをみつめてしまう。
そういえば、マクスウェルがいっていたが、アーチェとかいうハーフエルフの少女。
その料理もすごかったとか何とか。
わざわざかの地にまで出向いてきて愚痴をいってきたくらいなのだから
おそらくよほど、であったのであろう。
まああのとき、マクスウェルが人と契約した、というのにも驚いたが。
最も、一番驚いたのは、ヒトの身でありながら、
自ら契約の紋章などにたどり着いていたあのクラースとかいう人物か。
もっとも、結局自分の存在にたどり着くことはなかったが。
「そういえば、一般的なシェフも男の人がおおいよね?
料理って本当は男の人のほうが得意なのかなぁ?」
ふとマルタがその手をとめ、そんなことをいってくるが。
「う~ん。というかさ。料理って以外と重労働だろ?
食材確保からしてさ。だからじゃないのか?力がいるから。
って俺、前にもこんなこといったような気が……」
マルタの台詞にロイドがいったあと、首をかしげながらそんなことをいっているが。
「あ。そういえば、僕、前に本でよんだことがあるよ。
関係ないかもしれないけど。戦いに関しては女性のほうがむいてるって」
ジーニアスが何かを思いだしたらしく、いきなりそんなことをいってくる。
「え?そうなのか?」
目をぱちくりさせ、といかけるロイドに対し」
「うん。昔読んだ本にかかれてたんだ。女の人って血を恐れないんだって。だからむいてるって」
「「「あ~……」」」
血を恐れない。
その言葉で思い当たるところがあったらしく、しいな、リフィル、マルタの声がかさなり。
「でも、あれはむいてる、とかじゃないとおもう。むしろなくなれ、とおもう」
「まったくだわ。月の一度のあれ、はねぇ」
「あんたたち、あれがつらいならいっとくれよ。みずほ特性、痛みをやわらげる丸薬は常にもってるからね」
マルタがきっぱりといいきり、リフィルがため息まじりにいい、
しいながふと今さら、とでもいうように思いだしたようにいってくる。
「あら?そんなものがあるなら、もっと早くにいってほしかったわ」
「そういえば、シルヴァラントのときにでもいっとけばよかったね」
リフィルの台詞にしいなが今思いだした、とばかりにしみじみうなづいていっているが。
「?なんで女の人は血を恐れないんだ?」
「「「何でって…」」」
ロイドの素朴なる疑問に言葉につまるマルタ、リフィル、しいなの三人。
「え?ロイドは体から血とかでないの?」
「出るにきまってるだろ!」
「だよねぇ。月に一度ある、あれ、きついよね」
「?何いったんだよ。コレット、血がでるのは怪我したりしたときとか、鼻血とか…」
かみあっていないコレットとロイドの会話。
ふと、何かに気付いた、のであろう。
「まさか…コレット、あなた、月に一度あるあれ、男性も、とおもってるの?」
リフィルの困惑した問いかけに、
「だって、おばあさまが誰にでもあるって。だからロイド達も…」
きょとん、としていうコレットの台詞にまったく同時に顔をみあわせうなづき、
「コレット、あなたはちょっと後で課外授業が必要のようね」
盛大にリフィルがため息をつき、
「この子、そのあたりおしえる人いなかったのかい?」
しいなもまた、ため息をつきながらそんなことをいってくる。
「ふえ?」
コレットは意味がわかっていないらしく、ただ首をかしげているが。
「血、かぁ。血がでたりしたら、たしかにびびるよな。
そういや、コレットあのときも大けがなのに平気だったよな」
「ロイド!」
「…あ、わりぃ。そっか、あのときのコレットは……」
まるで骨でもみえるのではないのか、という大けがを負っていたコレット。
しかし、コレットはまったく痛がる様子すらなかった。
あのときの光景を思い出し、ロイドがふと呟くが、すばやくジーニアスがそんなロイドをたしなめる。
ロイドも自分の失言にきづき、罰の悪そうな表情を浮かべているが。
あのとき、コレットにはすでに痛覚というものが失われていた。
だからこそ、痛がらなかった、というのもあることを失念していたがゆえのロイドの台詞。
「ロイド。あなたは思ったことをすぐに口にする。
それは美点でもあるかもしれないけど、よく考えたほうがいいわよ。
言葉は、あるいみで暴力よ。何気ない言葉が相手を深く傷つけることもある。それをよく心におきなさい」
「…はい。先生」
リフィルにぴしゃり、といわれ、たしかにその通り、とロイドも思い当たる所があるのか、その場にとうなだれる。
事実、ロイドはこれまでにもいろいろとやらかしている。
感覚がないコレットに寒いだろう、といったり等々…
エミルが覚えている限りでも幾度かあるので、おそらくはイセリアにいたころもそうだったのかもしれないな。
そんなことを思いつつ、
「…とりあえず。なんか話題が変な方向にいってるみたいですけど。ご飯、たべてしまいませんか?」
どうも食事をする手が皆が皆、とまっている。
ゆえにエミルが首をかしげつつも全員をみわたし提案すると、
「そうだね。とっととたべてしまおう。でないと片付けもできないからね」
「そうそう。腹がへっては戦はできぬ~ってな」
たしかにエミルのいうとおり。
しいながうなづき、ゼロスがおちゃらけたようにいってくる。
「まだ、そのアルタミラってところにはつかないの?」
マルタが首をかしげつつ問いかければ、
「あと数時間はかかるだろうね。ま、急いでもろくなことはないからね。
あのときの、トイズバレー鉱山にむかったときのように。
あんたたちだって、ウンディーネ呼び出して、高速移動、あれはきついだろ?」
しいなの台詞にあのときのことを思いだした、のであろう。
こくこくと同時にうなづくロイド、ジーニアス、マルタの三人。
「なら、食べながらでもいいから、簡単な今後の話しあいをしておきましょう」
どちらにしても、まだ時間がある、というのならば、確認をこめて、今後の動向を話しあっておくべき。
リフィルの台詞に、
「そう。だな。…アルタミラにつけば、私がレザレノ本社に案内しよう」
しばし目をつむり、どこか決意したようにいうリーガルに。
「そりゃ助かるよ」
「…だから、なんでここまでいって気付かないのかねぇ」
しいなが素直にうなづくのをみて、ゼロスがそんなしいなをみてぽつり、とつぶやく。
その言い回しからして、リーガルがレザレノと何らかのかかわりがある。
そう予測は簡単につくであろうに。
どうやら、いまだ、しいなは、リーガル・ブライアン。
その名にたどり着いてはいない、らしい。
~スキット~~オゼットの北の桟橋からアルタミラに向けて移動中エレカー内部にて・食後~
エミル「そういえば、昨日、皆が話してたことなんだけど……」
ジーニアス「え?何?エミル?」
エミル「ほら。ミトスがいってたでしょ?なんでジーニアスの武器が剣玉なのかって」
マルタ「そういえば。そんなこといってたね」
エミル「うん。何で剣玉なの?僕も前から気になってたんだけど」
以前、雪に覆われたあの地において、ジーニアスから聞いてはいるが。
一応念のため、というのもある。
まあ、答えは同じであろう、とはおもっていても、気になっているのは事実。
ジーニアス「ああ。そのこと。
昔、ロイドが誕生日プレゼントに剣玉を作ってプレゼントしてくれたんだ」
ロイド「そういや、そんなこともあったっけか?」
ジーニアス「魔術を使う時集中するのに役立つんだよね」
ミトス「ああ。それで武器にしたんだ。マナを集めるのに集中力は大切だもんね」
僕もなんで武器がけんだま?っておもってたんだよね。
と小さくつぶやくミトスの台詞に思わずエミルも苦笑してしまう。
ジーニアス「ていうか。剣玉で遊んでたら紐がきれてロイドの頭に玉がぶつかっちゃってさ」
マルタ&ミトス「「…は?」」
目をぱちくりさせているマルタとミトス。
珍しい、とはもおう。
ミトスのこんな表情は滅多とみれないぞ、とも。
エミルがそんなことを思っていると、
ジーニアス「それで、ロイドが気絶したのをみて、コレットとこれは武器になるねって!」
どや顔できっぱりといいきるジーニアスの瞳はなぜかきらきらと輝いている。
マルタ「…コレット、本当なの?」
コレット「うん。もののみごとにロイド、気絶したんだよ~」
マルタ「…玉があたった程度、で?」
ミトス「えっと、ジーニアスがつかってるの、普通の剣玉…だよね?」
ミトスもまた困惑顔。
ロイド「…う。玉が重い方がいいか、とおもって鉄でつくったんだよ…
ほら、ジーニアスってこう、非力みたいだからさ。
遊び道具で力をつけさそう、とおもって、全部鉄でつくったら…」
マルタ&ミトス「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」
ゼロス「ひゃひゃひゃ。で、自分が気絶したわけだ。ロイドくんは」
ロイド「あれは失敗だったな。というか普通の紐で玉をつけたせいかな?」
遠い目で当時を思い出すようにつぶやくロイド。
エミル「…それ、切れてあたりまえじゃあ……」
以前のときは鉄でつくった云々まではそういえばきいてなかったな。
とふとおもうが、それで納得がいく、というもの。
なぜ当時も玉がぶつかった程度で気絶したんだろう?とおもっていたが。
結局聞きそびれていたのだから。
マルタ「…な、なんか。コレット達の昔って、どういう友達関係だったのか。
なんとなく予測できるような光景だね」
ミトス「その剣玉ってどうしたの?」
ロイド「先生が危ないから没収っていってさ」
マルタ「そりゃあ、ねえ」
コレット「先生、そういえば平気、かなぁ?」
ミトス「なんか、船内で本みてたよ?」
気分を紛らわすため、であろうが。
余計に酔うような気がするのは、エミルの気のせいか。
コレット「なんだか、リーガルさんもずっと甲板で海をずっとみてるままだし」
ジーニアス「そういえば、プレセアも、なんだよね。
久しぶりに家族にあえるから緊張してるのかなぁ?」
マルタ「・・・・・・・・・・・・そう、かな?」
誰しも、自分が歳をとっていない姿を家族にみせる、というのは勇気がいるはず。
おそらく、プレセアは遠くから姿を眺めるだけで名乗りはしないだろうな。
マルタはそうおもうが、それを口にはださない。
あくまでもこれはプレセア自身の問題。
エミルにもいわれた。
こればっかりは彼女自身が自分で結論をだすしかないから、僕らが口をだすことではない、と。
しいな「しっかし。あのタバサって子、地図もインプットされてるから、っていって。
船舶の操縦技術とかも組み入れられてるみたいだから、かなり助かるよ」
マルタ「そういえば、今、船を操縦してるの、タバサさんなんですよね?」
しいな「そうさ。何でもあって困るものじゃないからって。
内部に羅針盤が内蔵されてるってあの子いってたよ」
ミトス「・・・・・・・・あの、タバサさん、機械って本当、ですか?」
コレット「そういってたけど、でも、タバサはタバサだよ」
ロイド「そうだな」
ミトス「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
しいな「どうかしたのかい?ミトス」
ミトス「い、いえ、別に」
ロイド「そういや、なんでアルテスタさん、タバサをつくったんだろ?」
コレット「さみしかったんじゃないの?…一人は、さみしいよ」
ミトス「…そう。だね。一人はさみしい、よね」
ジーニアス「ミトス…ミトスの家族は?」
ミトス「…いないよ。僕が小さいころに死んじゃったから。たった一人の姉様も……」
ジーニアス「…ご、ごめん」
ミトス「…気にしないで」
ロイド「…そっか。お前も苦労したんだな」
ジーニアス「で、でも!今は僕らがいるからね!何か困ったこととかあったら何でもいってね!
だって僕ら皆ミトスの友達だからね!友達は助けあわないと!」
ロイド「そうだな。友達は助けあわないとな。ってことで。ジーニアス。
先生から出された課題、ちょこっとうつさせて……」
ジーニアス「それとこれとは話しがちがうよ!ロイド!
もう、いい加減に自分できちんと課題をこなしてよね!」
ミトス「…ぷっ。あははははっ!…あ。…僕、なんか本当に久しぶりに笑ったような気がする」
本当に久しぶりに。
漫才のようなやり取りをみて、それこそ何の裏もなく、今純粋に笑えた。
そのことにミトスは戸惑いを隠しきれない。
忘れていた感情。
楽しい、というその心。
マルタ「それにしても、遊園地ってなんだろ?」
ジーニアス「うん。きになるよね」
ロイド「だなぁ」
ミトス「大人も子供も楽しめる、娯楽施設だってきいたことがあるよ。僕」
ロイド「大人も…」
マルタ「子供も?」
ジーニアス「だめだ。まったく予測つかないや」
しいな「あはは。…時間があれば気分転換にいってみるのもいいかもだね。
ゼロスのやつにいえばほいほいと案内してくれるとおもうよ?
あいつたしか神子の特権でフリーパスもってたはずだし」
しかも同行者無制限の。
そして、何かをおもいついたのか、にやり、と笑い。
しいな「エミル。ミトス、こっちにきて」
エミル「?」
ミトス「何ですか?リフィルさん?」
しいな「ふっふっふっ。ゼロスにフリーパスを出させるにしても。あいつは女の子に弱いからね」
何か企んだような笑みをうかべるしいな。
エミル「し、しいなさん、まさか…僕は嫌ですからね!」
しいな「何いってるのさ。エミルは経験済なんだろ?てれない、てれない」
ミトス「?あ、あの、しいなさん、いったい何を……」
しいな「リフィルにも協力してもらおう。んっふっふっ。少しは退屈がまぎれそうだね」
エミル「だからって、なんでまた女装するなんて話しになるんですかぁ!」
ミトス「…女装?」
コレット「あ。そっか。ゼロス、女の子のいうことなら何でもきくっていってたもんね」
ジーニアス「女の…」
ロイド「…子、か?」
マルタ「そういえば、初めてあったとき、ゼロスって、エミルをナンパしてたよね?」
ロイド「そうなのか?」
ジーニアス「あのとき、ロイド気絶してたからね。そういえばしてたね」
そのあと、ゼロスがそんなはずはない。
自分の目が狂ったなんて信じない。
と叫んでいたのは記憶にあたらしい。
しいな「あんたらが少し上目使いでお願いすればきっとフリーパス使ってくれるよ!」
エミル「それ、しいなさんがすればいいじゃないですか!」
ミトス「えっと…女装…え?え?」
ミトスは彼らの会話についていかれない。
何をいっているのか理解できていないのか、
めずらしく目を大きく見開いて、それぞれ交互に見まわしていたりする。
ここにクラトス、もしくはユアンがいれば、ここまで感情をあらわにするミトスも珍しい、
と口をそろえていっているであろう光景が今まさに繰り広げられていたりする。
マルタ「でもさ。アルタミラって海の街なんでしょ?
それでエミルが男の人に声かけられまくったら…私なんか自信なくしちゃう」
しいな「たしかに。ありえるね」
ロイド「なんか面白そうだな。どれだけだまされるかかけようぜ」
エミル「ロイド!人を遊びの道具にしないでよ!」
おもいっきり会話の方向性がずれてきている。
ゆえに叫ぶエミルは間違っていない。
絶対に。
ミトス「…えっと、ついてきたの間違った?僕……」
ジーニアス「気にしたらだめだよ。きっと冗談だから。…多分」
ミトス「多分って。ジーニアス。それ答えになってないから」
先ほどまでの空気はどこへやら。
しばしそんなやり取りが船のなか、繰り広げけられてゆく……
pixv投稿日:2014年2月8日某日(Hp編集:2018年4月22日(日)
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あとがきもどき:
~ぼつねたスキット~おち~
エミル「ぼ、僕逃げますから!」
ミトス「え?だから、一体……」
エミル「…こい!」
一同『え?』
いつのまに。というほうが正しい。
コレット「うわぁ。イルカさんだぁ」
ジーニアス「うわ!?オルカだ!?オルカの群れだよ!」
ロイド「…エミルが呼んだんだろうな。きっと」
ミトス「…え?えっと、どういう?あれって魔物…ですよね?エミル、大丈夫なの?」
ロイド「エミルに関しては平気だとおもうぞ。なんでかしらないけど」
コレット「そうそう、エミルって魔物さんと仲よしだもん」
ミトス「…魔物と、ヒト、が?たしかに人になつく魔物はいる、というけど…」
どういうことだ?
魔物が人の言うことをきく?我らのように機械を使っている、というわけではないそうだし。
かといって、エクスフィアを用いた装置というわけでも。
ジーニアス「救いの塔に向かうまでもよくあったしね。こういう光景」
ロイド「そうそう。食事の用意をしているときに魔物がエミルの手伝いしてたしなぁ」
ミトス「・・・・・・・え?」
これいれたかったけど、さすがにミトスに気づかれるのが早すぎる。
というわけでボツにv
さて、あいかわらずのイベントシャッフルというか、ランダムになってきています。
アルタミラにいっている時点でイベントが何が前倒しになっているのか。
判るひとにはわかるかと。
アルタミラでかきたかったシーンにもう少しで突入ですv
いや、リーガル&アリシアのあるいみ馬鹿っプル振りが思いついてたんですよね(まて
ロイド達、完全にプレセアがどれだけの時間に取り残されているのか。
アリシアの墓の前で突き付けられます。
いや、享年かかれてるし、アリシア死んだの今から八年前だし…村人たちの会話等々。
それらを考慮すれば、ねえ?
あるいみで、プレセアの体は天使化一歩手前状態でもあるので、
つまり、ミトス達と同じですね。
プレセアが意識していたわけではないにしろ、
肉体的成長を止めている、という点では。
そういえば、精霊石のイベントの下り。
リーガルに精霊原語をエミルのいったあとに復唱させ、
彼にとなえさせてアリシアの魂を解放するパターンと。
これまで同様、魔物を使っての解放と。
どちらのパターンも実は考えてるんですよね。
というかどっちでも話しの筋はかわらないんですが。
さて…どっちのパターンにすべきかな・・・
ぱたぱたと打ち込み過程で、気分がのったパターンで打ち込みするとおもわれます。
前回の、エグザイアにてのミラ登場のようにw
さて、さらり、とリーカルがいう通販システム。
あれ?とおもったひとは、はい。そのとおり。
シンフォニアでは欠片もでてきませんでしたが、
このときからすでにあの部署というか通販システムはあった、という設定です。
ラタトスクの騎士でプレセアがいっていた通販システムですw
しかし、なんであんなあるいみで拷問アイテム…レザレノはつくったんだ?謎…
あれって、別名、やっぱり鉄の乙女とかいう事実上(実際にある)品物ですよねぇ汗
せめてレザレノ制の品物にはあの中に鋭い針が無数にないことを祈りたい……