まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

pivixさんに投稿していた話の区切りとは変えてあります。容量的に……

今回、あるいみでラタトスク無双…ひとことつっこみ。
いや、ラタ様、それ、普通ではありえません、ありえませんからー!
センチュリオン達も止めましょうよ…と、おもって思いついたシーンがはいります。
そういえば、OAVみたときもおもったんですけど。
あの飛竜の巣の原型って、あれってやっぱりラ○ュタ…と思うのは私だけ?
私だけ?なので基本イメージ、それでおもっていただけたら早いです(まて
さて、ちょっとした裏設定。
今回、裏で手をひいている魔族の名…までいける、かな?
その魔族さんは、シンフォニアの時間軸でディザイアンのロディル達をそそのかし、
その反逆の心を煽り、ミトス達をどうにかしよう、と企んでいましたが、
ロイド達の活躍?によって失敗してしまい、ゆえにその後、
その矛先をリヒターにむけた、というかつての時間軸。
すなわち、もともとラタトスクがいた時間軸においてはそんな状態になっていました。
ロディルをそそのかしていた魔族と、リヒターに取り憑いていた魔族。
それは同じ存在、というかある魔族の部下達という裏設定となっております。
某裏切りの騎士の名がでてきますけど、
いや、リビングアーマーの魔族名って、どこにもゲームでも小説でも設定集でもでてないんですよね?
んでもって、なら歴史&神話から、鎧関係で考えていく上で、
なぜかふっと、某裏切りの騎士が思いついていた、という。
そもそも、この惑星そのものはかつては普通の惑星だったのに、
ヒトがあまりにも愚かなことをしまくって、瘴気の塊にしてしまった。
という設定が先にあったりしますからね。
で、ラタ様がそれをしり、星がなげいているのをしって、マナを注いでいっていたのに、
そんな中、主としていたデリス・カーラーンでも人が愚かなことをしてしまい、
移住の地を探す、という人々がでてきて、その結果、この地を選んだという裏設定さん。
星もあっさりとラタ様をうけいれたのは、星がこのままでは消滅してしまうがゆえ、
ラタにお願いをしていた身であるがゆえに星そのものが受け入れた、という。
一話にもさらり、とかきましたけど、惑星そのものの意思は、
ラタトスクとは別に、この惑星には存在している、という形になっています。
滅多と出てきはしませんけどね。
基本、星の意思そのものは、流されるまま、でしかないので。
でも、それに介入できるのが世界を生み出せしラタトスク、というような裏設定。
そんな感じになっています。
そろそろ裏設定伏線もまたかなりでてくるので、ここでひとまず明記をば。
某魔族の仲間達のたくらみは、やがて、ラグナログ、そしてダオス時代。
それらに結びついていっていっていたりする、というまたまた余計な裏設定もあったりしますが。
当然、それらをラタトスクは経験してるので、そんなことはさせる気はさらさらないです。
そもそも、そのためにわざわざ彼らに新しい惑星を創っている状態、ですしね。
でも、いくら新しい地を得ても力を欲する馬鹿はいるわけで。
元がヒトの精神体であるがゆえかそういった欲望に魔族達は忠実なので。
変化してゆく環境にて生き延びるために器を捨て去った人間のなれの果て。
それが魔族の上層部というか力あるものたち、そんな裏設定になってます。
彼らの力の源は負の力。
あれ?その設定って、某L様(スレイヤーズ)の世界なのでは?
と思ったひとは、まちがいないです。似たようなものとおもってください。
というかむしろほぼそのまんまに近いかも?
あの世界の魔族達も精神生命体、でしかありませんからねえ。

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重なり合う協奏曲~飛竜の巣~

みずほの里。
いつのまにそろえたのかわからないが、
広い庭先にはいくつものレアバードが並べられている。
もっとも、置き場の関係で翼を閉じた状態でおいてあり、
離陸後に翼を広げ一気に飛行する形をとる、らしい。
翼を広げていないがゆえに、より多くの機体がこの庭先にと配備できる、とはボータの談。
里に戻った直後からせわしなく、おそらくはレネゲードの一員、なのだろう。
武装兵達が屋敷や里の中を駆けずり回っているのを目の当たりにしている。
作戦実行は本日の日がくれてすぐ、すなわち日暮れとともに、という話しらしく、
それまでそれぞれ、すべきことをしておくようにといわれ、
それぞれがコレット奪還にむけて様々なことをしている今現在。
「そういえばさ。おろちとくちなわって、兄弟なんだろ?面白い名前だな」
ふと、剣の手入れをしつつ、きになっていたのか、
ロイドが自分の横でこれまた武器だという符の手入れや、
その身につけている暗具の手入れをしているしいなにと問いかける。
「偽名…なんですか?」
シャーコ、シャーコ……
その傍らでは自らの獲物でもある斧を里から借りた大きめな砥石により、
ひたすらに研磨しているプレセアの姿がみてとれるが。
斧を研磨しつつ、首をかしげといかけるそんなプレセアの問いかけに、
「いや、ちょっと違うけど。みずほにはさ。あざなっていう別名をつける風習があってね。
  本当の名を隠す習慣があるのさ。名前には力がこもるからね。
  実際にそのものの名を呼ぶだけで相手を括る、足止めするような術もあるしね。
  だから実際の名を知られているのは都合がわるいのさ。
  言霊ことだまっていって、言葉には魂がこもる、ともいわれているしね」
事実、名を呼ぶだけで相手の動きを止める術も存在している。
それはその術をかける相手の力量にもよりはすれど。
そういった事柄を防ぐために、みずほの民はあえて本名を隠している。
「へぇ。よくわかんねえけど。本当の名前はなんていうんだ?」
素朴なるロイドの問いかけに、
「さあね?それは本人と親と頭領しかしらないよ。あとは、そうだね、結婚する相手だね」
「?しいなの名前もそのあざなとかいうやつなの?」
しいなの問いに、その横でくつろいでいたマルタが問いかける。
今現在、この部屋にいるのは、ロイド、しいな、プレセアの三人。
リフィル、リーガルは庭先にでており、レネゲード達を手伝っている。
ジーニアスはさっきから、プレセア疲れてない?とかいいつつも、
こまごまと水やらお菓子やら台所からこの場に運んできていたりするゆえに、今この場にはちょうどいない。
ゼロスはイガグリと話しがある、といいこの場にはおらず、
エミルは相変わらず、ノイシュのもとで、ちなみにノイシュは厩に預けられ、
今回の作戦には同行しない、ということにて話しはまとまっていたりする。
その厩にいっているがゆえにエミルは今、この場にはいない。
「ああ。そうさ」
しいながそう答えるとほぼ同時。
「プレセアちゃ~ん、俺様、しいなの本名、しってるぜ?」
廊下のほうからひっょこりと顔をだしたゼロスがそんな会話が聴こえた、のであろう。
いきなりそんなことをプレセアにいっているが。
ゼロスの背後にはイガグリとそしてタイガの姿もみてとれる。
「え!な、なんであんたが知ってるのさ!?」
あきらかにうろたえるしいなであるが。
「しいなの本名は、妖怪暴力鬼女っていうんだぜ?」
「ゼ~ロ~ス~!!」
さらり、といったゼロスの台詞に、すくり、としいなが立ち上がる。
「ほっほっほっ」
そんなしいなをみて笑みをうかべているイガグリに、
「神子殿。しいなをからかうのはほどほどに……」
「こら、まちな!ええい、にげまわるんじゃないよ!」
「冗談!逃げないとお前、俺様なぐるってしょ!って、顔、顔はやめて!」
「うっさい!このあほ神子ぉぉ!!」
そのまま、庭にとかけおり逃げ出してゆくゼロスをこれまたしいながおいかける。
「ほらみろ!お前のそんな行動が暴力鬼女っていうんだよ!
  って、シュリケンなんてなげんなよ!あぶねえなぁ!」
「全部よけつつ、しかも手でうけとめつついうんじゃないぃぃ!」
何やら思いっきりじゃれ合っているようにしかみえないしいなとゼロス。
「ふむ。さすがは神子殿ですな。
  しいなが孤鈴コリンとわかれ、内心おちこんでいる、
  とおもい、あのようにわざとしいなを奮起させているのでしょうな」
そんな二人をみてしみじみと感心したようにタイガがいうが。
「え?ゼロスのやつ、そうなのか?そう、だよな。
  いきなりずっと一緒にいたやつと離れることになったら…つらい、よな」
しかも、目の前でその姿がきえてゆくところをみていれば。
あのとき、すぐにヴェリウスとなのった精霊が現れたゆえにしいなは立ち直ったようにみえたが。
もしそうでなかったら、とおもうと、ロイドは言葉につまる。
つまり、あのとき、しいなは今度はしいなが大切にしていた家族を再び失った。
という事実を抱えて生きていくことになっていたのだということに、今さらながらに気付かされる。
当事者から本来の姿にもどった、と説明をうけたのでなければ、
しいなはおそらく今以上に落ち込んでいたであろう。
「俺、自分のことしか考えてなかったな。しいなが落ち込んでることなんて……」
気付かなかった、いつもとかわらないしいなの態度だったから。
「それでよかったのだとおもいますぞ。
  しいな、あの子は落ち込んだりしたときに、まわりが腫れ物を触るみたいに接してくる。
  それを何よりも嫌っていますからな。自分が悪いせいでそうなるんだ、と。
  その思いを悪循環させる傾向がどうしてもあの子にはありますから。
  その思いは特に以前の事故以降、強くなっておりますしな。
  普段とかわらぬあなたがたの態度、それがしいなにとって何よりの治療、かと」
「…つまり、そうすると、もっとおちこむ、ということ、ですか?」
「その通りですな」
「……人をなぐさめる、というのは難しい、んですね」
ここに帰る最中、ゼロスが軽い口調で次はコレットちゃんの救出だな。
と孤鈴のことには触れずにいっていた言葉を思い出す。
あのときは、たしかジーニアスがしいなが落ち込んでいるのにデリカシーがないな。
みたいなことをいっていたが。
リーガルもまた、しいなの悲しみは深く、つらい、といってゼロスの言葉をやんわりと非難した。
ゼロス曰く、過ぎたことをくよくよいっても仕方がない。
そもそも、本来の姿にもどっただけだ、とあいつもいってたじゃないか。
と軽い口調でいっていたが。
あの台詞もしいなを元気づける為であった可能性が、今のタイガの言い回しだとかなり高い。


~スキット~みずほの里。雷の神殿より帰還、コレット奪還出撃前~

ロイド「お。そうだ。プレセア、願い札ってやつができたぞ」
雨ですることがなかったからというべきか。
アルテスタの家の中でひたすらに細工に没頭し、すでに仕上げていたのだが。
それをすっかりと渡すのを忘れていたがゆえに、今さらながらそれを袋から取り出しその場におく。
プレセア「…すごい、です。天使の絵がほってあります」
しかもその姿はコレットの姿を模した、らしい。
コレットの容姿に翼が掘られており、自由に使っていい、といわれたからか、
アルテスタの家にあった染め粉を使い淡い色彩までつけられている。
ロイド「せっかくプレセアが毒の沼んなかから神木ってやつをとってきてくれたからな」
リフィル「たしかに。あんな毒の沼地に生えている木、というのは興味深かったわね」
プレセアに同行していっていたがゆえに、リフィルはかの樹がどのような場所に生えていたか。
把握しているがゆえに素直に感想をもらす。
ゼロス「しっかし。ロイドくんよ。あの木はかなりかたかっただろうに?」
ロイド「アルテスタさんの工房にある道具、固いものでも掘れるように、
     道具類にきちんと細かな屑ダイヤがちりばめられてるらしくてさ。
     おかげで少しでも手をくるわせたら、さくっと木が壊れそうで注意したんだぜ」
ジーニアス「…うわ。この天使の絵、コレットだ。
       本当、ロイドってこういうことだけ、は器用だよね」
ロイド「だけは余計だ!…俺もコレットが無事に戻ってきてくれるように。
     はやく元の元気なコレットに戻るように、って願って彫ったんだ」
ジーニアスに突っ込みをいれ、顔をふせていうロイドの台詞に、
その場にいる全員が思わず無言となりはてるが。
しいな「へぇ。ゼロスにしてはいいこといったんだね。こいつからきいたけどさ。
     うん、いい出来だ。さ、プレセア。この裏に願いごとをかくんだよ」
プレセア「・・・はい」
ロイド「よし。俺達も…コレットが無事でありますように。無事に元にもどりますように」
しいな「…ロイド。あんた、寄せ書きじゃないんだから、いくつも願いをかいても…」
リフィル「いえ。元をただせばいいかたをかえているだけで一つの願いのようだもの。
      しいな、このおまじないの一種のこれは一つの札に一つの願い、という決まりでも?」
しいな「そういや、そんなことはきいたことないねぇ。
     けど、たいがい、一つの札には一つしか皆かかないよ。
     願いがおおければおおいほど、それぞれその数だけの願い札をつくるのさ」
ゼロス「ま、ロイドくんはおおざっぱみたいだし。いいんじゃねえの?」
ロイド「どういう意味だ!」
ゼロス「おっとっと。…俺様、ちょこっとそのあたりでもみまわってくるわ」
ロイド「あ!ゼロス!んにゃろう、にげたなっ」
しいな「…はぁ。まあいいけどね。さてと。願いごとがかなったら。
     これは割って川に流すんだ。それまで大切にもってるんだよ?」
そんなゼロスを見送りつつも、しいながため息まじりにいってくる。
プレセア「はい」
マルタ「え?これわっちゃうの!?もったいない」
ロイド「え!?これ、わるのか!?」
ロイドとマルタの驚愕の声はほぼ同時。
しいな「そうさ。それが願い札の使い方なんだから」
ロイド「それを早くいってくれよ…せっかく…一生懸命彫ったのに……」
リフィル「あら?きいていれば手をぬいていた、とでもいうのかしら?」
ロイド「うぐっ」
ジーニアス「まさか、コレットが無事に戻りますように、っていう願いの品にまで、
       コレットの誕生日プレゼントの首飾りのときみたいに。
       手をぬいて突貫的につくろう、とかおもってないよね?」
ロイド「ううっ」
プレセア「?コレットさんの、首飾り、ですか?私の要の紋をつくったあとにつくってた?」
ジーニアス「そうだよ。きいてよ。プレセア、ロイドったらねぇ」
誕生日に毎年、首飾りを贈る、と約束していながら、誕生日すらわすれ、作ってすらいなかったこと。
そして、シルヴァラントにて旅をする中で、救いの塔にいく直前まで、
またまたそれを忘れていたことをジーニアスがプレセアに暴露する。
プレセア「……ロイドさん、ってひどいひと?」
ジーニアス「ひどいというか、何もかんがえてないんだよ」
ロイド「だぁぁ!あれはわるかったっていってるだろぉ!」
リーガル「…シルヴァラントの神子を奪還する前にこな調子で大丈夫なのか?」
リフィル「…先が思いやられるわね」
リーガル&リフィル「「はぁ~……」」
ロイド「どういう意味だよ!先生もリーガルまでも!」
ジーニアス「ま、ロイドだしねぇ」
ロイド「くそぉ!グレてやる!というか、あれ?マルタは?」
プレセア「マルタさんなら、エミルさんがいる厩にいきました」
ロイド「そういや、ノイシュも厩にいたっけ。あとで様子にみいって、
     それから…剣の手入れ、だな。絶対に助けだしてやるからな。コレット」
ジーニアス「…あ、話しそらした。まあ、たしかに。絶対にたすけようね。コレットを」
ロイド「ああ」


※ ※ ※ ※


「…人の心…か」
――私は心の精霊。心を司りしもの。心を見守る精霊。
ヴェリウスと名乗った、かつて孤鈴であったという認めたあの狐のような精霊。
その姿をふと思い出しロイドがつぶやく。
そんな中。
「にぎやかだな。準備はすんだのか?」
長い青い髪を後ろでひと束にまとめ、それをくるり、と別なる紐でひとくくりにし、
その身に鎧を着込んだユアンが近づき、ロイド達にと話しかけてくる。
そんな中。
「十五分後に出撃!総員、騎乗準備!騎乗準備!」
『はっ!』
この場にいたレネゲード達が、指示をしているボータの声うけ、
あわただしく動きはじめる様子が視界にとはいってくる。
「…斬れるぞ。使え」
剣の手入れをしていたロイドをみていたのか、一振りの剣を差し出し、ロイドにいってくるユアン。
そんなユアンに、
「俺は親父の剣でいい」
きっぱりといいきっているロイド。
「そういえば、お前は二刀流、なのだな。我流か?」
「あ…ああ」
その問いかけにロイドが一瞬言葉を濁す。
かつて、その問いかけはクラトスにも聞かれた台詞。
言葉を濁したロイドをどう思ったのかロイドにはわからないが、しかしそれには触れることなく、
「会いたいか?父親に」
ユアンの問いかけに。
「当たり前だ。でもそれはコレットを助けて全てを終わらせてから、だな」
いいつつ、剣を分解して手入れしていたロイドが再び剣を元にともどし、
鞘にと収め、二本の剣を腰にさして立ち上がる。
一方。
「…エルフは人間との交流は好まない。だが、時として交流をもつエルフもいる。
  そして、所帯をもつものも。お前達はどうやら…いや、これはいうまい」
ヘイムダールにはかつて、父親に連れられてリーガルは立ち入ったことがある。
だからこそわかる。
リフィルとジーニアスがエルフではない、ということが。
エルフ特優のあの長い耳が彼らには見当たらない。
中にはあまり耳がめだたないものもいるらしいが。
それでも、何となく違う、と断言できる。
「…シルヴァラントでもハーフエルフは理不尽な差別にさらされているのだな」
それは独白にもちかいリーガルの呟き。
そんな彼らの視線の先、少し離れた屋敷の中において、プレセアの気をひこうとしているのか、
お菓子などをお盆にいれて持ち運んでいるジーニアスの姿がみてとれる。
「…種族違いの恋、か」
あからさまなジーニアスの態度。
ゆえにわからないはずもない。
「…実るはずのない恋だわ」
きちんとプレセアが時間に取り残されてしまっている、年齢差がある。
それを認識しているようにはリフィルの目からみても見えない。
一目ぼれのような感じがした。
「…恋は盲目、とはよくいったものだわ。あの子、わかっていないのよ。
  あの子の態度がどれだけ、あの子をプレセアを傷つけるかもしれない、ということが」
プレセアの態度はまるで子供を諭すような態度だ、とリフィルは思う。
しかし、リフィルの推測が正しければ、こちら側の世界ではいざしらず、
シルヴァラントでも十六くらいですでに結婚し、十七、八で子供をもっているものもすくなくはない。
「諦めたほうがいい。そのほうが傷つかない。あの子も、それにプレセアも」
「…ここ、テセアラでは年齢差で結ばれるものは少なくない。
  いい例が政略結婚だな。三十もはなれて婚姻を結ぶものもいる」
「それは特殊な例、だわ。私はあの子が傷つくのをみたくはないの。せめて、あの子だけは……」
「恋愛は自由だ。私はかくあるべきだ、そうおもっている。
  そのものの産まれや身分、そういったもので引き離されたり、
  そして誰かの思惑で別れさせられたりすべきはないものだ、と」
「あら?あなたにしてはロマンチストなことをいうのね。リーガル」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
彼女との交際が、自分の身分というものが枷になるのならば。
身分も立場も何もいらない。
本当にそうおもった。
彼女がいればそれでいい、と。
全てを投げ出してでも彼女とともにいたかった。
だけども。
「…産まれや身分、そういうもので思いあう二人が引き裂かれる。
  それが私には許せないだけ、だ。だから私は祈りたい。
  種族違いの恋でも、実るのだ、と。そう、信じたいのだ」
「…そうね。そうあるべきなのでしょうね。本当はきっと。
  けど、リーガル。あなたのその今のいいまわし、まるで経験談のようなのは?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「だんまり、ね」
リフィルの問いにリーガルは無言となり。
「そろそろ時間になるようだ。我らも準備をするとしよう」
「ええ。そうね。コレットを助けださないと」
まるで図星をいわれたかのように黙り込むリーガルの様子に、
何かがあった、とリフィルは推測するが、それは今聞くようなことではない。
そもそも人には言いたくないことの一つや二つといったものが存在している。
人が嫌がることを無理やりに聞き出すようなことをリフィルとて好きこのんで行わない。
やがて。
「十分前!準備いそげ!」
そんな声がきこえてくる。
「先生!リーガル!」
どうやらロイド達の準備もすんだ、らしい。
リフィル達のもとに近づいてくるロイド達にかるく手をかかげて返事をかえす。
「あ。皆」
そんな中、彼らの耳に聞き覚えのある声が。
ふとみれば、どうやらエミルが奥にある厩のほうからやってきたらしい。
「エミル。あなたは準備はいいの?」
エミルはロイドのように剣を手入れするでもなく、そのまま厩のほうにいっていたが。
だからこそ、リフィルは確認を込めてといかける。
たしかにエミルの腕はロイド達よりははるかに上だ、というのは理解してはいるが。
それとこれとは話しは別。
ユアン達レネゲードがいうのが事実ならば、行く先にはかなりの戦力となりえる
兵士、さらには魔物…そこまでおもい、ふと思う。
もしかして、かの地にいるという飛竜達は、いくらクルシスに飼い慣らされている、
とはいえ本当にエミルに対し攻撃ができるのか、と。
リフィルが懸念しているのはこれまでのエミルと魔物の関係。
ここ、テセアラにきてから後も、魔物達が率先し、どうみてもエミルを手伝っていた。
それこそ自分達が兵士達に連れられていったときに身にしみたといってよい。
エミルはお願いしただけだ、といっていたが。
あからさまにエミルの意思のまま、魔物達は行進していた、と自信をもっていえる。
そんなリフィルの問いかけに、
「ええ。僕のほうは。リフィルさん達は?皆そろそろここにあつまってきてるようですね」
みれば、今回の作戦に参加するものたちが、こちらに集まってきているのがみてとれる。
今回、タイガ達は里を留守にすることはできない、というのと、
今回の潜入は、レネゲードからの依頼扱いとなっており、
その依頼はしいなに任されたという形になっていたりする。
もっとも、しいなだけでなく、協力者としてくちなわが選ばれ一緒に行動することになっているのだが。
「あれ?おろち?なんであんたが?」
なぜかくちなわでなく、この場にいるおろちにしいなが首をかしげといかける。
「くちなわのやつ。なぜか夕刻ごろから熱をだしていてな。俺がくちなわの変わりに駆り出された」
なぜかいきなり突如として発熱し、くちなわは床に伏せっていたりする。
病気になるなど健康管理ができていない証拠、というイガグリの一喝もあり、
今回の作戦からくちなわははずされ、そのかわりとして急遽おろちが選ばれたらしい。
そもそも、なぜ彼がこの里を裏切っている、というのにこの里のものはまだ気づいていないのか。
エミルからしてみればそれが理解不能。
わざわざ裏切っているものをつれていき、こちらの情報を流されても面倒。
ゆえにちょこっととある魔物に命じた、にすぎないのだが。
ゼロスのほうは問題はないといってよい。
彼は自分の不利益になるようなことは一切しないと言い切れる。
今回、コレットを連れていかれて困るのはゼロスもまた同じ、なのだから。
クルシスから神子をセレスに譲るがゆえに協力しろ、といわれているらしいが。
神子の真実、すなわち、それは生贄、というのをしり、
クルシスに完全に傾いていたゼロスも誰につくか決めかねているらしい。
だからこそレネゲードにも情報を流している。
よもやその事実をエミルが知っている、とはゼロスも夢にも思っていないであろうが。
ため息とともにそういいきるおろちは、何やらぶつぶつと、
「まったく。くちなわのやつも。重要な任務の前に熱をだすなど。小さな子供の知恵熱ではあるまいに……」
弟にたいし、何やらぶつぶつと文句をいっているのがみてとれるが。
「日暮れとともに、闇に乗じて出発する!全員、位置につけ!」
ユアンの怒号にも近い声とともに、レネゲード達の動きが一気にあわただしくなってゆく。
「僕たちもいこう」
ジーニアスがロイドにそういえば、
「ああ。そうだな。まってろよ。コレット!」
機体の数にも限りがある、という。
上空にて敵を引きつける囮役と、内部に侵入する本隊たる役。
「はい。しいな。これ」
「?何だい?これ?」
エミルから手渡されたのは小さな小瓶。
その中には何か砂のような何か、がはいっている。
「お守り、かい?」
しいなが首をかしげるが。
「似たようなもの、かな?」
しいなの問いかけにエミルはただ笑みを浮かべるのみ。
かの地はもともと飛竜達の住み家。
それに勝手にヒトが手をくわえているにすぎない。
かといって、爆発などをおこせば、彼らの住み家が荒れてしまう。
ならば、ヒトがつくりし建造物を自然に還してしまえばよい。
あの場所にいく、というのならばこれで十分。
別に飛竜達に害があるような微生物、ではないのだから。
「ゆくぞ!」
ざっ。
キュイイッン。
号令とともに、一気にその場にいる全てのレアバードが浮上する。
浮上とともにその翼を広げ、その機体を安定させる。
「目指すは飛竜の巣!総員、かの地にはいるまで雲の中をつっきり発見されないようにしろ!」
普通に飛んで移動したのでは確実に気づかれる。
ならば、雲の中を先行し、気づかれないように移動してしまえばよい。
計画に都合がいいというか何というか、夕方から曇り始めており、空はどんよりとした雲にと覆われている。
天から地上を監視しているクルシスの監視システムも、雲の中までは監視していない。
分厚い雲の下、そしてまた、みずほの里の上にいくつもの機体が浮遊する。
そして。
「全員、出撃!!!!!」
キィィンッ。
号令とともに、総機体全てが一気に目的地にむかってつきすすんでゆく。


今回の作戦に失敗すれば後がない。
それゆえにレネゲードはその主力戦力をこの作戦にほとんどつぎ込んできているらしい。
とはいえ、失敗したときのことをも考えて、多少の戦力はそれぞれの拠点に残してきているらしいが。
別れた班は四つ。
そのうちの三つは囮。
あの地にロディルがいるならば、ロディルがここテセアラで秘密裏に作成し、
設備として使用していた場所、そこを奇襲する班も存在している。
もっともそれは囮、でしかないのだが。
あくまでもロディルの目をそちらにむけさせるためのもの。
飛竜の巣がある、といわれている積乱雲。
それは、テセアラ人のあいだでは、竜の巣、とよばれている巨大な雲の塊。
周囲の気流は乱れており、雲の流れが前後異なっているのがみてとれる。
そんな積乱雲の中心に位置している、空に浮かびし島。
それが飛竜達の巣でもある、彼らの住み家。


ビ~ビ~、
敵襲。敵襲。総員、ただちに配備につけ、くりかえす…
焦ったような声が建物の内部にめぐらされているスピーカーから洩れてゆく。
ばたばたと走り回る人影は、その混乱さを物語っている。
「ええい!私の魔導砲はどうしたのですか!」
苛立ちをまじえ、ここ、管制室にとやってきて叫んでいる一人の男。
「さきほどの停電から、まだ時間がたってません!
  省エネルギーモードからの切り替えには時間がかかります!」
必死に操作パネルをいじりつつ、担当であろう人物がそんな彼にと叫んでいるが。
つい先ほど、この施設内部を停電がおそった。
まあそれはわかる。
かの海域にちかづくとき、毎回雷のマナが不安定となり、
ゆえに、施設全てはいつも省エネルギーモードにきりかえている。
それが今回、裏目にでた、というべきか。
必要最低限の装置しか動かしていなかったがゆえに、
雲をつきぬけてくる敵に気付けなかった、というのはあるいみでいいわけでしかないにしろ。
目の前にいくつもの画面が映し出され、そこには施設内の様子。
そして外の様子が映像としてこの管制室にと映し出されている。
「愚かもの!万が一、マーテル様の器に傷でもつけば、私の立場はっ!」
それでなくても勝手に神子を連れ出したことがその日のうちにプロネーマにばれた。
なぜ、という思いもつよかったが、しかし、どうにかプロネーマを言い含め、
ならば、神子を使えるようにしてみよ、というお達しのもと、まだ、反逆するにしても力がたりない。
その下地もできていない。
ゆえに、仕方なく、それでいて素直に従うようにみせかけて、
シルヴァラントの神子…マーテルの器として生み出された少女と、
そしてクルシスの輝石の研究に重点をおかせていた、のだが。
予定ではまだ数日はあったはず、なのに。
明日の朝、クルシスから神子を引き取りにくる、という連絡がはいったばかり。
ここの設備よりはデリス・カーラーンの設備のほうが問題ないから、
という理由にて。
ことごとく自分の計画を邪魔してくるクルシスめ、とはおもうが。
従わないわけにはいかず、そしてまた、配下の部下達にもそれを悟らせるわけにはいかない。
すでに報告では、五聖刃のうちの二人が神子達一行の手により殺された、ときいている。
今がチャンスなのである。
その不手際と責任をプロネーマになすりつけ、自分が五聖刃の長にとおさまり、
そしていずれはユグドラシルにうってかわり、
自分がクルシスの、世界の王となるための要ともなる大切な時期。
反逆の意思がない、というのを示すのならば、神子を渡すのだな。
そう、クルシスの四大天使、クラトス・アウリオン。
…ユグドラシルの忠実なる直属の配下の天使にいわれては、ロディルも従うしかない。
もっとも、その彼も四十年くらい前にクルシスから離脱していた、らしいが。
彼の存在そのものが重要な役目を担っていることもあり、ユグドラシルは許した、らしい。
そのあたりの甘さもまたロディルからしてみれば甘い、としかいいきれない。
そんな大切な時期の前に、よもやレネゲードの奇襲をうけようとは。
あのとき、神子を連れ去るとき調子づいて名乗ったのが悪かったのか!?
ともおもうが、それはあとのまつり。
飛竜の巣の外にと念のためにと配置していたそれが、侵入者を感知したのは、つい先ほど。
省エネルギーモードにしていたがゆえに、その感知が遅れたといってもよい。
すべての監視装置を起動させてしまえば、まちがいなく電源が落ちてしまう。
それほどまでにいまだ電源は不安定。


バチバチ。
いくつもの鳴り響く落雷。
周囲をうめつくす、いくつもの稲妻。
雲の中はいくつもの稲妻がはしり、たしかにここを通って移動する、
というのは普通に考えれば自殺行為に過ぎない。
その中央。
すくっとレネゲードが運転するレアバードの背後にたちて、
ヴォルトを召喚するのに媒介となる符を構えているしいな。
この雲に入る直前、しいなはヴォルトを召喚している。
そして、呼びだしている間は常に符を構えて不足の事態にそなえているようだが。
いくつもの落雷は、一行に直撃するが、ヴォルトの張った障壁によって、ことごとくそれらは霧散されている。
数十機のレアバード。
それぞれ、レネゲード達が運転するその背後にのりて、この場にやってきている今現在。
雲を突き抜けたのを確認し、ユアンがすっと手をあげる。
「…ありがとう。ヴォルト」
それが合図。
これまでヴォルトをずっと召喚していたしいながそういうとともに、
ヴォルトの召喚が解除され、一行を包んでいた障壁が解除される。
いわば、一行は召喚されてきていたヴォルトの内部にいたようなもの。
ゆえにどんな電撃も受け付けなかったにすぎない。
視界の先にみえるは、空に浮かびし一つの島。
「ジャッジメントの的になる!散開せよ!」
ボータの声をうけ、レアバードの機体が数機を一つの部隊とし、
それぞれひと固まりで移動していた場所から散開する。
「きたぞ!」
ふと、空に浮かびし島より、いくつもの影がこちらに飛んでくるのがみてとれる。
その背に騎乗しているヒトの姿も。
「…愚かな」
ぽつり、とつぶやくエミルの変化に気付いたは、
エミルを乗せていたレネゲードの一員のみ。
そのまま、すっとその場にたちて、そのまま手を大きく広げ、ただ一言。
『――我が意に従え!飛竜共!!』
この場にいる誰にも理解できない不思議な旋律を保った原語がエミルの口から発せられる。
それでなくても低い外気温が一気に低くなったような気がするのは、この場にいる全員の気のせいか。
『るぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
『な?!』
その直後。
こちらに向かってきていたであろう飛竜達の動きがあからさまにと変化する。
それはまるで同士討ち。
巨体がそれぞれ、それぞれの背にのりし人間達をことごとく振り落としては、
中には体当たりをして他の竜の背にのっているものを喰らっているものの姿すら。
彼らの虫よけ、すなわち、彼らを害するものを排除する程度ならば、
かの場所に彼らが住んでいても問題はない、と見逃していたが。
彼らをこうしてたかがヒトの戦いに駆り出す、というのならば容赦はしない。
さらに、再びエミルが手をかかげ、
「――ゆけ」
ゆらり、とエミルの背後の空間がゆらり、とゆらめき。
次の瞬間、いくもの人影が出現する。
それらの影は全て姿が透けており、それぞれ武装らしきものをしている存在達の姿。
それらは、エミルの声をうけ、まるで統制がとれている兵士達のごとく、
一気に空をうきながら、空そものが大地のごとくかけていき、
竜の背の上にいるものたちにときりかかってゆく。
それらの攻撃をうけたのち、まるで意識が刈り取られたようになり、
ことごとく竜の背からおちてゆく人々の姿。
「な、え、エミル!?」
何が何だか理解不能。
思わず振り向いて問いかけるロイドとは裏腹に、
「パルマコスタでこの人達、みつけてたしね。皆は、コレットを助けに施設の中へ。こっちはまかせて」
『いや、まかせてって……』
これは一体、何がどうなっている、というのだろうか。
いきなりどうみても同士討ち、というか仲間割れ、というか。
突如として敵は飛竜の制御を失ったようにみえる。
ボタボタと飛竜の背から地上におちてゆくヒトの姿が豆粒のようにみえなくもない。
その困惑はロイド達だけでなく、レネゲード達とてほぼ同じ。
「トニトルス、ウェントス」
『――ここに』
エミルがいうとともに、雲の中。
彼らの姿が浮かび上がる。
といっても、雲の中にいるがゆえに、ユアンやゼロスの視界にすら視えてはいない。
「かのものたちへの防御は?」
『滞りなく』
命じていたまま、どうやら彼らはきちんと役割をこなしている、らしい。
ならば。
「リフィルさん、みんな!攻撃を!」
「え?」
エミルの言葉をうけ戸惑いの声をはっするリフィルに、
「よくわかんねぇけど、先生!」
何が何だかわからない。
しかし、たしかに相手が混乱している今ならば、こちらにも勝算がある。
「ホーリーランス!」
戸惑いつつも、リフィルが言葉を紡ぎだす。
それとともに空中に浮かび上がる魔方陣。
そこから発生した白く輝きし翼から四方八方にむけて光の槍が降り注ぐ。
いくつもの光りの槍がむかってくる飛竜達を直撃する。
否、直撃したようにみえるが、それらの攻撃は、
ことごとく、飛竜、ではなくて竜をあやつりし鎧をきこんだ人々にと直撃する。
リフィルがそのように術を修正した、というわけでもないのに。
「プレセア!?」
ジーニアスが操縦していた背後にのっていたプレセアがたっん、と機体をけりて、そのまま一気にと飛び上がる。
すでに、ロイド達ののっている機体は、飛竜達の中にと入り込んでおり、
目の前にて飛竜達が彼らを使役していたはずのクルシス、もしくはディザイアン。
彼らを排除していっている様子が繰り広げられていたりするのだが。
そのまま、勢いのままに、飛竜にその巨大な斧を振り下ろすが、その攻撃はいともたやすくはじかれる。
「え?」
まるで、キンッ、とした音とともに、物理攻撃はうけつけない、とばかりに。
ならば。
「きさまはっ!」
飛竜をあやつっているのであろう人物がプレセアにきづき、術を繰り出そうとするが、
すばやくその操縦士者にと狙いをさだめ、斧をふりかぶる。
その斧の攻撃をうけ、薙ぎ払われ、
「うわぁっ!?」
飛竜の背から振り落とされる操縦者。
そもそも、すでに彼らの操縦は飛竜達はうけつけていないらしく、
操縦していたものたちは、混乱ぎみに、それでいて必死に制御しようとしているのがみてとれるほど。
そんな中、彼らにとっての敵があらわれても、すぐに対処はできはしない。
「エミル、あなたいったい何をしたの、何を!?」
あきらかに、飛竜達は彼らの制御をうけつけていない。
だからこそのリフィルの叫び。
「え?ただ、お願いしただけですよ?」
それは嘘ではない。
というか、お前達を利用するようなものには制裁を。
といっただけで。
「ちょっとまて。その子はまさか、魔物に…」
魔物にやはりいうことを聞かせられるのか?
それは戸惑いを含んだボータの声。
そしてまた。
「好機だ。一気に島に乗り込むぞ!時間がおしい!クルシスからの増援を呼ばれては面倒だ!」
その顔をしっかりと覆い尽くし
顔もなぜか声もすこしくぐもったようになっているユアンがそんなことをいってくる。
今は詮索している時間はない。
いつ何時、クルシスからの増援、天使達がかけつける、とはかぎらない。
相手の手駒であろう飛竜達が彼らにとって戦力にならないのならば、
たしかに疑問点はつきないが、今はとにかく好機といえる。
「危なすぎるよ!」
飛び上がり、竜の背から背へと空中で飛び移っては操縦者達をなぎはらってゆく。
飛竜達との距離が途切れれば、プレセアの体はまちがいなく地上にまっさかさま。
あわててレアバードを操縦し、プレセアの真下にと回り込み、
落ちてきたプレセアをすばやくうけとめつつもプレセアにそんなことをいっているジーニアス。
「なぜか、この飛竜達は物理攻撃も術もうけつけない。狙うは操縦者だけをねらえ!」
飛竜に武器をつきつけても、それははじかれるばかり。
「馬鹿な。インセインならばともかく、なぜにこいつらに攻撃が……」
ユアンがそれをみてそんなことを呟いているが。
「!何か巨大なのが…くるよっ!」
バシャバシャと地上からは人がおちているのを示すかのように水しぶきの音が聞こえてきている。
そんな中、突如とした巨大な影が、雲の中より出現する。
それはまるで雲を裂くようにしてその巨体をゆっくりと現してくる。
『!?』
それぞれがその巨体を目にし、声にならない声をあげているのがみてとれるが。
大きさ的にはシムルグ達とほぼ同様。
否、それよりは一回りほど大きなその姿。
みればゼロスですら目を見開いているのがみてとれる。
「――きたか」
唯一、動揺している彼らの中でまったく驚いていないのはエミルのみ。
「な…何だ、こいつは?」
それは巨大な黒光のうろこをもちし竜。
ドラゴンの頭にコウモリの翼。
そして一対のワシの脚にヘビの尾。
その尾の先端には矢尻のようなトゲをもっているその巨体。
手はその巨体とはうってかわり、すこし小さめではあるが、鋭いツメがみてとれる。
俗につたわりし、ワイバーンの特徴をより強くだしているその姿。
茫然とつぶやくロイドに、
「うひょう。何くったらこんなにでかくなんのよ」
呆れたようにそんなことをいっているゼロスの姿。
それとともに。
『ルグォォォォ!!』
現れた巨体の体から雄叫びのような鳴き声が響き渡る。
それとともに、一斉にその場にいた飛竜達が統制された動きをみせ、きちんと整列を成してゆく。
ぐるりといつのまにか取り囲んでいた竜達は、
レネゲード達のレアバードを…正確にいえば、ロイドやエミル達がいる部隊の、ではあるが。
その部隊を取り囲み、整列したのち一斉にレネゲードのほうにむけて頭をさげてくる。
もっとも、それははたからみればそう見えるのであり、
正確にいえば、エミルにむけて、というのが正しいのだが。
「――シエル」
エミルの呟きは驚愕している人々の耳には届かない。
「エミル、危ない!」
その巨体は一気に間合いをつめ、エミルののっているレアバードのもとにと近づいてゆく。
思わずそれをみて声をはりあげるロイド。
だがしかし。
『・・・・・・・・は?』
何というべきか。
首をつきだし、今にもまさか、炎でもはくのではないか。
とおもい、リフィルがあわてて詠唱をするよりも早く、
その首をうなだれさせつつ、首をつきだし、
そんなそれのつきだされた口元を優しくなでているエミルの姿が視界にはいる。
そのあまりといえばあまりの光景に敵味方問わず、一瞬唖然とするものの。
「あ。僕、この子にのりますから。ここまでどうも」
そういうなり、とっん、と乗っていたレアバードをけり、そのまま、くるり、と空中で一回転。
そのまま、その場に停止しているままの巨大なる竜の頭にと飛び移るエミルの姿。
「エミル、危ないって…これってどういうことなの?」
「…私、にもわかりません」
ジーニアスも何が何だか理解できない。
危ない、と叫んだ直後、まるでエミルに従うかのような巨大な竜の姿を目の当たりにすれば、
どう反応していいのかわからない、というのが本音。
どうやらその思いはこの場にいる全てのものに共通しているらしく、
皆が皆、唖然としている雰囲気がその場にて感じ取られているものの。
そんな人々の唖然とした思いは関係ない、とばかり、
「――シエル。わかっているな?」
竜の頭に飛び乗ったのち、淡々と言葉を紡ぎだしているエミルの姿。
その声は、天使化しているゼロス、そしてユアンにしか聞こえていない。
「御意に」
すでに、連絡はウェントスよりうけている。
自分達をヒトの争いに巻き込まなければこのままでもよし。
そうでなければ、すに救う害虫、として駆除するように、と。
シエル、とはこの竜の名。
そもそも、この竜はギンヌンガ・ガップを守りしとある竜の子供でもあったりする。
エミルをのせたその竜は、ぱさり、とその巨体を翻させ、
そしてそのまま上空にとびたり、と制止する。
そして、そのまま
『ルグォォッ!』
いななくとともに、その背にいまだディザイアンの一員達を乗せていた竜が、
その竜の目の前にと彼らが操縦していないにもかかわらずに整列する。
その直後。
大きく口を開け放ったその口から、真赤な炎が噴き出される。
『な?!』
それをみて驚きの声をあげたは、ほぼ同時。
この場にて声を発していないのはエミルくらいであろう。
ジュッ、とした短い音とともに何かが蒸発してゆく。
やがて、炎が途切れたその場にのこるは、無傷な飛竜達の姿のみ。
その背にのっていたはずのディザイアン達であろう鎧をきている人々の姿はみうけられない。
「だから、エミルって一体……」
その光景をみて茫然とつぶやいているロイド。
あきらかに、エミルがかかわっている、としかおもえないこの光景。
敵に操られているはずの魔物がこぞってこちら側に味方しているこの異常。
その呟きはこの場にいる全員の心情を示している、といってよい。
「追手はこっちにまかせて。ロイド達は、コレットを助けにいって」
エミルの言葉にはっと我にともどり、
「ゆくぞ!」
ボータの合図とともに、ロイド達を乗せたレアバードが飛竜の巣。
とよばれているその浮遊大陸へと飛び降りてゆく。


「ここからは三手にわかれる!一つは指令室にむかう!
  一つは神子をさがしだせ!もう一つはこの地にのこりし戦力をかく乱せよ!」
ユアンの声にしたがいて、いくつかの人数に再びわかれ、ばらばらと駆けだしてゆく男たち。
そしてまた。
「敵襲、敵襲!」
さすがに施設の内部にはいったからか、武装している兵士達が、
こちらにむかって駆けだしてくる様子がみてとれる。
そしてまた、施設内部に響き渡る、警報の音が嫌でもロイド達の耳にとはいってくる。
けたたましく鳴り響く警報の音は、それはロイド達の侵入をもつたえしもの。
どこからともなく、設備の中に侵入者。くりかえします。
エリアA505において、施設内部に侵入者を感知しました。
そんな声がどこからともなく施設内部にと響き渡っているのもききとれる。
「ボータ。私は指令室にむかう!あとはまかせた!」
「お気をつけて!くれぐれもその兜はぬがれませんように!」
ユアンの正体がここで露見したり、また発覚したりすることは避けなければならない。
ここにいたるまで、自分達の名を呼ばないように、とロイド達にはボータはいっているが。
ロイド達がどこまでそれを理解しているのかどうかはともかく、として。
「指令室って、あんた」
しいなが問いかけるが、
「むやみやたらに探すより、指令室でどこに神子が囚われているのか見つけ出し。
  それを連絡したほうがはるかに効率がいいからな。
  おそらくは、ロディルのやつもそこにいる、だろう」
ユアンの台詞に、
「俺もいく!」
「ロイド、でも!」
ジーニアスがそんなロイドに叫び返すが。
「あいつは一発なぐってやらないときがすまねぇ!」
目の前で高らかに笑いながらコレットを浚っていったあの男だけは、絶対に。
そもそも、そちらを優先するよりは、コレットを先に見つけ出すことが先であろうに。
ロイドはどうやら怒りにかまけて、優先順位を間違えているらしい。
そもそも、あのとき、アスカード牧場においても、
ロイドは人々を無事に逃がすことよりも、クヴァルを先に倒すことを優先した。
あのときとは異なり、ここにはまだ敵対勢力陣がかなり残っているのに、
もしもコレットをどこかに連れていかれてしまえばどうするつもりなのだろうか。
ロイド達の様子をエミルは外にて、手前に光の窓を産みだして、
映し出すことによって常に視ている状態。
もっとも、ロイドはそんな自分達の様子がエミルに見られているなどしるよしもないのだが。
「完全に電力が復活する前に何としてでも主力砲などを無効化する必要がある」
「あんたがそういえばいってたね。あの海域にいく前日は電力が不安定になるって」
どうしてそこまで詳しいのか、ときけば、敵対するにあたいする場所は、
徹底して調べているからだ、との返事がもどってきていたりする。
ゆえにボータの言葉に嘘はない。
この地もまたユアンの統括すべき場であり幾度か訪れたことがあるがゆえ、
ユアンが詳しいがゆえにボータたちにもその情報が伝わっている。
という事実をボータもユアンもいっていないだけ。
「潜入調査ならあたしたちの役目だね。おろちっ!」
「わかってる。俺は彼らとともにいく。しいなはそのものたちと」
どこに囚われているかわからない、コレットをみつけだし、
増援がくるまえにここから脱出する。
そしてできればこの施設をも破壊する。
これが今回の作戦。
「…わかったわ。コレットの居場所がわったら…」
「これを渡しておく」
いって、ユアンが小さな何かの機械のようなものをリフィルにと渡してくる。
「これは?」
「無線機だ。これを通じ、お前達に連絡をつける」
「わかったわ」
どうやらピンで止める形の無線機らしく、リフィルはすばやくその小さな無線機を胸元にとつける。
「行きましょう。皆、気をつけて」
ロイドはユアンとともにいくという。
二人だけでは心配というか、ユアンは一応今回の依頼者。
ゆえに依頼者に何かあってはいけない、というのでそれにおろちも同行。
ユアンとロイド、おろち、そして他二名ほどのレネゲード。
五人にて管制室に向かうらしく、その他のケネゲード達はそれぞれ施設の中を駆けだしてゆく。
彼らは騒ぎを大きくすることで、主力本隊であるそちらから目をそらすのが目的。
「――いくぞ!」
ユアンの言葉をかわきりに、それぞれがそれぞれの役目をはたすべく、その場から駆けだしてゆく。


「ええい!そもそも、奇襲などありえません!
  あやつらの行動はすべてテセアラの神子を通じてつつぬけのはず!」
プロネーマがそのようにテセアラの神子と接触した、そうきいている。
ユアン曰く、テセアラの神子は女性に甘いというのでその役目はお前向きだろう。
という理由でその役目を押し付けられた、らしいのだが。
本来、テセアラの管理はユアンの仕事。
もっともそれに許可を出したのはユグドラシル、であるらしいが。
モニターに映りしは、彼は気づいてはいない。
その映像そのものがごまかされている、ということに。
モニターにうつっているのは、竜の炎がレネゲード達を薙ぎ払っている様子。
きらきらとした光りの粒子のようなものが周囲に漂っているのにきづけば、
彼らもまた自分達が幻影の術にかかっている、と理解したであろうが。
この術はさほど大きな効果はもたない。
ただ、攻撃の認識を特定のものに関しては見たものを脳に伝えるにあたり、
その情報が誤認される、という程度の幻術。
幻術を得意とするソルムによる幻影。
ソルムが司りしは土。
ゆえに世界のどこにいようとも、土があればその力をつうじ、その力の発動は可能。
そもそもすでに主たるラタトスクが力を完全に取り戻している以上、
センチュリオン達もまた、できないことはない、といってよい。
そう、ありえないのである。
シルヴァラントの一行にテセアラの神子が同行している以上、は。
そこまで叫び、ふと何かをおもいついたのか、にやり、と笑みを浮かべ、
その手にて丸い眼鏡をくいっと持ち上げ、口元を歪めつつ、
「そうか。これは私のミスでなく、プロネーマのミス、ということになるのではありませんか?
  責任は、全て、あの女に、ふぉっほっほっ」
これであの女をあの地位から、五聖刃の長という立場からひきずりおろす名目ができた。
というもの。
それにおもいあたり、笑みをうかべるロディル。
ロディルが笑みを浮かべたその刹那。
ドゴォッンッ!
扉のほうから何かが壊れる音。
はっと振り向けばそこにここにいるはずのない第三者の姿が見て取れる。
どうやら迷わずにたどり着いたらしく、
なぜ?という思いもあるが、頑丈な扉、ではなくその横の壁を壊したらしい。
「コレットはどこだ!」
壊れた壁をくぐりぬけ、そこにみおぼえのある姿をみつけるとともに、
すでに抜き放っていた…ここまでたどり着くまでも幾人ものディザイアンらしき者たちがいた。
それらを薙ぎ払いつつここまでたどり着いた。
なぜ、制御室の場所をユアンがきちんと把握しているのか、という疑問は、
ロイドの中にはないらしい。
ユアンがこっちだ、というがままに進んでいってたどり着き、
扉には頑丈な防御機能が備わっているが、壁はそうではない、といい。
用意していたという爆発物にて壁の一部を吹き飛ばしたに過ぎない。
セキュリティ関係では強く力をいれていたがそういった物理的なダメージ。
それがこの地においては弱いことをユアンが把握していたがゆえにできた方法。
「これはこれは。飛んで火にいる夏の虫、ですな。
  マーテル様の器と、エンジェルス計画の集大成のその石。
  その二つがあれば私は五聖刃の長どころか、空白になっている四大天使、
  いや、それどころか!ふぉっほっほっほっ!……かかれ!」
その未来を脳裏に思い描き、完全に勝利したかのように高笑いをし、
そして、この場にいる部下達にと指示をだす。
その指示をうけ、この場所にて機械をいじっていたものたちが、
機械から幾人かはなれ、襲撃者を撃退しようと武器を手にしきりかかる。
襲いかかるそんな人々を二刀流の剣でなぎ倒し、そしてまた。
その手にもっている刃二つがついた薙刀を片手に振り回し、
そんなディザイアン達をけちらしているユアンの姿。
中には術を使用しようとするものの、しかしその表情はすぐに驚愕の表情にとうってかわる。
なぜか、術が発動しない。
そもそも、今現在、この場においてラタトスクがこの施設にもともといたものに対しては、
術が発動しないように、とマナの使用に制限をかけている。
だからこそ、空中戦において竜の背にのっていたものたちが、
術を使用してこなかったという事実があるのだが。
主に術を主体にし…また、ここにいるものはほとんとがその機械を操作する技術をかわれたものたち。
ゆえに、彼らは基本、戦闘にはむいていない。
彼らはどちらかといえば頭脳より。
戦わなければいなけいときは常に術にたよっていたものたち。
そんな彼らが術を使用できなければどうなるか。
おのずとその心の動揺は隙をつくり、そんな隙をユアン、そしてロイドが見逃すはずもない。
「?」
おかしい、とはおもう。
なぜ彼らは術を放ってこないのだろうか、と。
ユアンが一瞬、その事実に気づき疑問に思うが、
その直後。
び~び~
けたたましい警戒音のようなものが、施設内部に響き渡る。
「何ごとだ!?」
その異様な音に対し、ロディルが何やら声を張り上げるが。
「マ…魔導砲が壊されました!」
いまだ操作バネルを操作していた別のものが、何やらそんなことを叫んでくるが。
みれば、モニターにうつりしは、竜の巨体が魔導砲にぶつかり、
その魔導砲の隠れ蓑、としていた塔をぽっきりと折っている様。
彼らの目には竜が倒されたように見えていたりするが、実際は違う。
エミルの指示により、体当たりにて塔を破壊したに過ぎない。
「コレットを返せ!」
うわ~、あれってもしかしてエミルが指示したとか…じゃないよな?
一瞬、その光景を目の当たり…つまりは、ロディル達とは違い、
その巨体にて外にあった高い塔のようなもの。
それに体当たりをしそれを破壊している光景をモニター越しにみて、
思わずそんなことを思いつつも、全て襲いかかってきた敵をなぎはらい、
二本の剣をその手にもったまま、ロディルにつきつけていいはなつロイド。
「…くそ。ここはまかせたぞ。私はマーテル様の器をっ!」
「まてっ!」
ロイドが追いかけようとするが、その目の前に。
「っ!」
「おお。これは、後はまかせましたぞ」
ロディルが向かっていったその先の扉から、ロイドにとってみおぼえのある姿がみてとれる。
「っ!クラトスゥッ!」
その姿をみてロイドが叫ぶ。
けたたましく鳴り響く警報は、だんだんと音を増してゆく。
ロディルがその場から駆けだしていったその直後。
バチバチバチッ。
「い、いかん!エネルギーが、逆流!退避、総員、退避ぃぃ!」
必死に操作パネルを操作していた別のものが、
それに気づき、声を張り上げるが、すでに遅し。
ドゴォォッン。
直後、盛大なる爆発音が鳴り響く――


ロイドとユアンがユアンの部下とともに管制室を目指し無事にとたどり着き、
制御室にて戦いを繰り広げているそんな中。
「どうにかならんのか!?」
「くそ!魔導砲が折れてしまっては!」
けたたましく鳴り響く警報は、設備の不備を示すもの。
必死にコントロールパネルを操作するが、まったくその指示は受け付けない。
「くそっ!ダメだ!制御できんっ!」
バチバチとエネルギーが逆流しているのがみてとれる。
ここ、魔導砲の動力ともしているこの場。
この場のエネルギーはこの建物全体の動力源にもしている代物。
もしもこの動力源となっているものが暴走すれば、設備全体のシステムが壊滅的な被害をうける。
それこそこの空中要塞としている浮遊島が地上に落下してしまうほどの衝撃が発生するであろう。
だからこそ必死に制御しようとするが、まったくもって制御をうけつけようとしない。
「だめだ!残りのエネルギーが暴走するぞ!メイン炉の力が暴走している…うわっ!」
バチバチバチィッ。
それまでコントロールパネルを必至に触っていたものが、
パネルから発生した電撃によってその場から弾き飛ばされる。
必死にメイン炉をどうにか抑え込もうとしている彼らは、その背後にしのびよっている影にと気付かない。
「こののまでは、メイン炉が逆流…何だ、お前達は!」
トスッ。
ようやく背後に気配を感じ、振り向くがすでに遅し。
そのまま、その意識はその首元に振り下ろされた手刀にて刈り取られる。
「く、侵入者かっ!」
それに気づき、その場にいたものたちが反撃しようとするものの、侵入者は一人ではない。
「うわっ!?」
「なっ!?」
一閃。
まさに、一閃、といってよい。
すばやく剣を抜き放って攻撃をしかけたゼロスの一撃によって、
その場にばたばたと倒れてゆく鎧を着込んだおそらくは、
この施設につとめているディザイアン達。
この場にいたのはさほど多くなかったらしく、全員を倒すのにさほど時間はかからない。
「さぁってと。どうみてもこひはお姫様が囚われてるっていう部屋じゃないなぁ」
全員を倒し終え、剣を鞘にとしまいつつ、ゼロスが周囲を見渡しいってくる。
彼らがたどり着いたこの部屋はいくつもの機械装置らしきものはみてとれるが、
部屋の中央に大きな球体のような何か、がみられるだけで、
他にさほどめぼしいものはみあたらない。
ところどころの機械から、火花のようなものが散っているのが気にかかるが。
壊れかけているのだろう、というのは誰の目からみてもわかるほど。
なぜそうなっているのかはわからないにしろ。
「…潜入ミッションは慣れているから、道案内は任せろって…任せた結果が、これ?」
ジーニアスがじと目でしいなをみつついってくる。
今この場にいるのは、ゼロスとしいなはともかくとして、
リフィル、ジーニアス、プレセア、そしてリーガル、マルタこの七人。
結局、レネゲード達と別れ、しいなが自信満々に、こういった施設への侵入は、
自分達の十八番だから、というのを信じ、しいなに任せ移動したどり着いた先。
どうみても、コレットが囚われている部屋ではない。
絶対に。
わざわざ通気口らしき狭い通路を通ってきた、というのに、である。
しいな曰く、こういう場所が重要な場所に通じている、といっていたが。
たしかに重要、なのかもしれない。
その重要の意味が彼らの求めているのとはまったくもって間逆に近い。
様々な機械類がこの部屋には見て取れる。
中央にある巨大な球体のようなものからも、多大なるマナをジーニアスは感じ取る。
おそらくは、この設備の動力源に近い何か、なのであろう。
それほどまでにマナに満ちている。
しかも雷のマナだというのがじっとみなくてもわかるほどに、
この部屋には雷のマナに満ち溢れている。
まるで、まるでそう。
あの雷の神殿で感じていたマナのごとくに。
ジーニアスがじと目でしいなをみている最中、他のメンバーからもしいなに視線が突き刺さる。
「う…うるさいね!たまには勘が外れることもあるんだよ!」
しいなはそう叫ぶが、視線をそらしつつ、では説得力がない。
そんなしいなの視線のさまよいに気付いたらしく、
「…これが初めてではないのでは?」
淡々とプレセアが感情のこもらない声でぽつり、と素直に思ったことをつげると、
「うっ」
しいなは図星をつかれたように言葉につまってしまう。
「そういえば、しいなってどこか抜けてるとこが……」
マルタが思い当たるところがあったのか、ぽつり、とそんなことを呟いているが。
「はぁ。時間がないわ。二手にわかれてロイド達とコレットを探しましょう」
どこに管制室があるのかはわからない。
が、この施設のどこかにコレットが囚われているのは間違いがないはず。
今ここでしいなをせめても仕方がない。
このマナの感じからして、ここはおそらくは、この施設の要の場。
近くにいるパネルを調べようにも火花が散っていて近づけない。
ならば、ここに長くいるのはあるいみで危険。
いつ、機械類が爆発を起こすかわからない。
もっとも、この中央にある異様に雷のマナにみちている球体。
これが爆発したらその規模はおそらく、確認しようがないほどに巨大なものになるだろう。
それこそ自分がかつて、自爆装置を起動させ、壊滅させたディザイアン達の人間牧場のように。
簡単にこれが暴走し爆発する、とはおもえないが、油断はできない。
すでにその兆候はこの場所にある機械類が示している。
全ての機械から火花がちり、いつ爆発してもおかしくない状況。
だからこそ、時間がない。
クルシスからの増援の可能性を考慮した、時間がない、という理由もあるが。
リフィルの言葉をうけ、
「了解。しいな」
いって、ひらひらと、その先にとつづいている開かれた扉の先。
その先にすすんでいき、片手をあげてしいなを招くゼロスの姿。
「ちょっと!なんであんたがきめんのよ。ったく」
文句をいいつつも、そんなゼロスについていくしいなの姿。
「え?あ、えっと。わ、わたしもそっちにいく!」
そんな二人をあわてておいかけてゆくマルタ。
三人がそちらに向かってゆくと、その場に残されるは、
ジーニアス、プレセア、リフィル、リーガル、の四人。
いまだにバチバチと周囲には火花が散っている。
「行きましょう。…これは……」
ふと、リフィルがとあるいまだに火花が散っている機械類の中。
光輝くモニターの一角にと目をとめる。
「これは、ここの見取り図、だわ。それに、これは……」
おそらくは、ここから動力を供給していたのか、とある一点に、
重要的に動力を送るように、と設定されているのがみてとれる。
火花が散っていなければ、機械を操作してもっと詳しくみることが可能なのだが。
バチイッ!
その直後、さらに盛大な火花をともない、完全に機械がショートする。
どうやら完全に壊れてしまったらしい。
それをかわきりに、ボンッ、ボンッ。
続けざまに壊れていく制御装置を兼ねているとおもわれし機械類。
「いきましょう。私たちも。ここにいても仕方ないわ。
  あの見取り図がもしも予測がただしければ、コレットはこの奥、にいるはずよ」
リフィルがゼロス達が消えていった扉とは別の通路の扉を指し示す。
バチバチッ。
という音ともに、ふっと周囲が暗くなる。
直後、淡い光のみが周囲を照らし出す。
どうやら主電源が落ちたことにより、臨時用の電源が作動した、らしい。
それもどこまでもつ、かはわからないが。

「い、一緒のチームだね」
「そうですね」
ジーニアスがどもりつつ、横にいるプレセアに声をかければ、
淡々とジーニアスにと返事をかえしてくるプレセアの姿。
「さ、いきましょう。時間がないわ」
制御室にむかった、というロイド達がうまくすれば、無線で連絡があるはず。
コレットの奪還。
それが今回の作戦における最重要事項、なのだから。
まさか、コレットの救出をほうっておいてまで、相手を叩きのめすことを優先している、とは思えない。
今、思いたくない、というべきか。
いくらロイドでも優先順位は間違えない…と思いたいリフィルの心。
しかし、リフィルは知らない。
その懸念通りの行動をロイドが今まさにとっている、ということを。


ドゴォンッ。
盛大な爆発音が鳴り響く。
その爆発は重要な設備がそれぞれ設置されている場所。
すなわち、それぞれ機械類が設置されている場所に集中する。
動力炉からあふれた力が逆流し、真っ先に機械類に影響を及ぼしたがゆえ、
それぞれの部屋にある設備という設備が爆発を起こしたに過ぎない。
その可能性を考え、その動力源を主電源から研究過程。
すなわち、部屋の中心に設置してあるとある器にと切り替えたがゆえに、
その部屋に設置されている様々な機械類はその動力の逆流の被害からは免れているが。
「――神子のマナを絞りつくすかもしれませんが、問題はない。でしょう。
  全ての責任はあの女に、プロネーマにある、のですからね」
それに何よりも、マナを完全に使いきってしまえば、この器の精神体は完全に死に絶える。
そのほうが、彼、ロディルからしてみても一石二鳥。
精神体が死に絶えた器にどこまでマナが残っているか否かなど自分がしったことではない。
きちんと整備…完全にまだ先ほどは感知、といったが。
器にされてしまえば自分の目論見もきえてしまう。
だからこそ、完治、とはいったが実はその兆候はしっかりと残してある。
ほうっておけば二、三か月もすればその兆候はあらわれ、この神子は完全に症状があらわれる。
そうなれば、今、ドワーフのアルテスタがいない今、
このクルシスにはそれらを抑える要の紋の制作技術をもったドワーフはいない。
ならば、その技術の一端を担う頭脳明晰な自分をクルシスは頼らざるをえない。
いずれはあの馬鹿な教皇を国王に据え、地上全てを自らの手のうちに。
「ふ…ふぉっほっほっほっ!」
その自分の計画がいかにも成功する、と確信をもち、高らかに笑いつつ、
動力源を変えたばかりの装置をそのままパチパチといじりだす。
おそらくは、ここにやってくる愚かな劣悪種たちに、自分の力、そして彼らの愚かさをみせつけるために。


ドゴォン!
「なっ!?」
グラグラグラッ。
立っていられないほどの巨大な揺れ。
「何が!?」
しいながそう叫ぶとほぼ同時。
「お。ロイドくんの声、こっちだ」
「ちょ、まちなよ!ゼロス!あたしには何にも…っ」
そういいかけ、はっと思いだす。
そういえば、ゼロスは幼いころからなぜか異様に耳がよくなかったか。
それはまるで、まるでそう。
コレットが天使化していく過程で異様に聴力がよくなっていった。
かなり遠くにいてもその声を拾ってしまうゼロスのことを、しいなは地獄耳、としか思っていなかったが。
しかし、ともおもう。
目の前のゼロスもまた神子。
まさか、とはおもうが、あのコレットと同じような現象が起こって…
そこまでおもい、そんなわけないか、と思い直す。
ゼロスは何かの味を感じられなくなった兆候も、痛みを感じなくなった兆候も、
さらには口をきけなくなったことすらない、のだから。
「とにかくいこう。皆も心配だし」
「…だね」
マルタの言葉にしいなはうなづくしかできない。
どちらにしても、先をすすむ、しか方法はないのだから。


「…うっ……」
一体、何が。
ものすごい衝撃を感じた。
それはクラトスの姿をみて、そのままクラトスに向かっていったその矢先。
覚えているのは、吹き飛ばされ、そして…そして?
回避も間に合わない、とおもい無意識にでたのは叫び声。
そしてその直後。
必死な声で、自分を呼ぶ声。
ロイド!と。
覚悟したはずの衝撃も痛みも何も感じられない。
「……え?」
目を恐る恐るひらいたロイドの目にはいってきたのは、自分の上に覆いかぶさるようにしている影一つ。
「クラ…トス?」
一瞬、何が起こったのかロイドには理解できない。
衝撃を感じ、その衝撃派にて吹き飛ばされ…どうやら何か、が爆発したらしいが。
吹き飛ばされたとおもったら、自らめがけて巨大な柱が降ってきた。
体勢を衝撃派で失っているロイドにさけるすべはなかった。
なかったというのに、これは、いったい……
「な…んで?」
よくよくみれば、クラトスの上に自分に襲いかかっていたはずであろう、
巨大な柱の残骸が乗っているのがみてとれる。
嫌でも理解する。
できてしまう。
クラトスは柱の下敷きになろうとした自分を自らの身を呈してかばったのだ、と。
クラトスがロイドに覆いかぶさるようにして隙間を確保しているがゆえ、
落ちてきたはずの柱による怪我はロイドはまったくうけていない。
むしろその柱はクラトスの背の上にいまだにのっかっているのがみてとれる。
それは、まぎれもなく、ロイドを直撃するであっただろう折れた柱。
「…無事か?」
「…あ、ああ。けど、あんた、なんで……」
なんで、どうして。
敵、のはずなのに。
なんで。
言葉にならないロイドの声。
「……なら、いい」
ふっと、気のせいか、クラトスが笑みを浮かべたような気がする。
この表情は。
ロイドの脳裏に浮かびしは、シルヴァラントでクラトスとまだ旅をしていた時のこと。
そういえば、クラトスは時折こういう表情をすることがあった。
と今さらながらに思い出す。
クラトスが敵のまわし者だ、とわかってからすっかり忘れていたそのやわらかな表情。
いつもは無表情なクラトスが時折みせていた…優しさ。
もっとも、ロイドはそれがロイド限定、ということにまでまだ気づいていないのだが。
ロイドの無事を確認してか、クラトスがゆっくりと立ち上がる。
それとともに、クラトスの背にのっていた柱が、音をたてて横にと落ちる。
「あ…クラ……」
クラトス。
名を呼びたいのに名前が呼べない。
手を伸ばしたロイドの視線に入ったのは、ロイドの視線の先で、
あのみおぼえのある青き天使の翼を展開するクラトスの姿。
「――まさか貴様が直接、乗り込んでくるとはな」
その言葉は、クラトスの視線の先
…同じく、ロイドとともに衝撃派で吹き飛ばされたのであろう。
その武器にてかろうじてその場にとどまっていたとおもわれるユアンにむけて。
「――神子をマーテルの器にさせるわけにはいかんからな」
「…そう、か。しかし……」
危険なことを、と言葉を含め、問いかける。
ユグドラシルにその正体を悟られないように動いているのはしっている。
いるが直接乗り込んでくる、ということは正体が露見しかねない。
だとすれば、これまで長年にわたりユアンがもくろんでいた、
すなわち、ユアンが掲げる、種子の実りとマーテルの解放。
それが果たせなくなる可能性が高い。
だというのに、自らこうしてこの場にやってきている、ということは。
やはり、ロイド、に関係があるのだろう。
だからこそクラトスは言葉を詰まらせる。
それはつまり、彼もまた、ロイドの命を盾にとるつもりなのだ、と。
そう、ユグドラシルのように。
それとともに。
「ご無事ですか!?」
息を切らせたように駆けこんでくる数名の姿。
「ボータ、か」
近くまできていたらしく、爆発のほぼ直後に部屋にかけこんでくるボータとレネゲード達。
その姿をみてユアンが呟くが。
「クラトス。――オリジンの封印を解放しろ」
体勢を整えつつ立ち上がり、武器をクラトスにむけてびたり、と言い放つユアン。
「え?」
今、ユアンは何といった?
ロイドは一瞬、ユアンが何をいったのかはわからない。
「――ゆけ」
「え?」
ふと、振り向きもせずに、何かクラトスがいったような気がする。
一瞬、目をぱちくりさせて思わず声をだすロイドであるが。
「――神子を守るために強くなりたい。お前はそういった。
  あの言葉がまだお前の中でいきているなら。ゆけ。
  ロディルは神子を動力源として罠をしかけている。
  朝日が昇る前に、何としても…クルシスからの増援、がくる」
振り向きもせずに、淡々と、重要、ともおもえることを独り言のように呟くクラトス。
「なんで、なんで、あんたは…っ!」
自分達を裏切っているはず、なのに。
なのにどうしてそんなことをいうのだろうか。
ロイドには理解できない。
「ふ。甘い、な」
そんなクラトスをみて思うところがあったのだろう。
ユアンが苦笑をもらし、
「――お前は家族ができてかわったな。そもそも、あのとき。
  クルシスから逃げていたはずのお前達が子供をもうけていた。
  というのにも私は驚かざるをえなかった。そもそも何だ?
  その顔でしかも布おむつをきちんとかえて、妻に尻にひかれ……」
クラトスの意場所をつきとめて、出向いていったときのことを思いだしたのか、
いきなりユアンが愚痴りはじめる。
家族?
そういえば、とおもう。
クラトスには家族がいた、と。
妻と、子が。
それはロイド達が海を越えるよりも前。
クラトスに剣の稽古を頼んでいたときのこと。
オサ山道を抜けるときの野営のとき。
クラトスが落したロケットペンダントらしきものを拾ったとき、中身は見なかったが、クラトスからそうきいた。
妻と子は、ディザイアンに殺された、と。
なら、どうして。
どうして家族を殺したユグドラシルに従っている?
ロイドにはそれが理解できない。
クラトスが裏切った、ということばかり頭に先にたち、
それを失念していた自分に今さらながらに気づかされる。
「そもそも。だ。二人が死んだ、とおもって、無気力になって戻ってきたキサマは…」
いまだにユアンの愚痴らしきものは続いている。
ぼんやりとした思考であったがゆえに、ロイドは重要な部分を聞き逃している。
家族を守るために、イセリアに落ちついたら向かうといっていた、というユアンの台詞を。
「…リーダー。今はそんなことをいっているときではないかと」
さすがに話しがすすまない、とおもったのであろう。
ボータがすかさずそんなユアンをやんわりととめるように言ってくる。
ユアンはどうも昔の仲間のことを話しだすと止まらない。
そのことをボータはよく知っている。
いつもあまり話さないのに饒舌になる、というべきか。
そこに、息子や妻の名をだしていないのはさすがというか、
それとも意図的なのか、それはわからないが。
もしも、そのぼやきに名をだしていればロイドとて疑問におもったであろう。
クラトスの妻の名、アンナ。息子の名をロイド、というのだから。
それとほぼ同時。
「ロイド!」
「って、こっちはなんか取り込み中ってか?」
ロイドにとって聞き覚えのある声が。
ふと振り向けば、視線の先。
ロイドの背後にある入口らしき場所から姿をみせている男一人に女二人の姿。
「しいなにマルタ!?それにゼロスも!?」
なぜ彼らがここにいる、のだろうか。
ロイドのそんな疑問は何のその。
「――神子はこの先の、黄昏の間にいる」
ぽいっと、クラトスのほうから何かが投げられてくる。
それは簡易的なこの施設の間取りをかいたもの。
「って、お前…お前、何のつもりなんだよ!?」
敵、のはずなのに。
これが罠である可能性は高い。
けども、なぜだろう。
これが本物のこの施設の間取りを書いた紙だ、とロイドは直感的に理解する。
理解できてしまう。
だからこそ思わず叫ぶ。
「――いけ!時間がない」
「…本当に、甘いな」
「お前の考えはよめた。しかし、いったはずだ。私にもやることがある、とな」
苦笑ぎみなユアンにたいし、クラトスがいい、剣を抜き放ち、ぴたり、とかまえる。
「どうなさいますか?リーダー?」
「クラトスの確保も優先したいが…お前達は神子の回収をいそげ!
  夜明けとともに、クルシスの精鋭部隊が突入する手はずになっているのは事実だからな」
というより、その手続きをするために、ぎりぎりまで地上に降りてこられなかったのだから。
それにその作戦のときに自分が戻って指揮をとらなければ怪しまれる。
だからこそユアンにもまた時間がない。
ゆえにボータの台詞に完結に指示をだす。
「けど……」
そんなユアン達をみつつ、そしてまたクラトスをこの場においたまま、それでいいのか?
そう思えてしまうがゆえにロイドは決意がつかない。
「俺達に力を貸してくれるなら、あんたも……」
前のように、一緒に。
本当に敵なのか。
いま、まさに身を呈して自分をかばってくれたクラトス。
それに自分をかばったことで怪我をしていないか、という心配もある。
敵なのに、敵なのに…なのに、憎みきれない。
「わかりました。ゆくぞ。今は神子の奪還が先だ。黄昏の間は、その奥、だ」
ユアンの言葉をうけ、頭をさげ、クラトスの横をすりぬけて、ロイドのもとにとやってくる。
ロイドはいまだに決心がつかない。
そんなロイドを見かねた、のだろう。
何があったのかはわからない。
わからないが、しいなとて、ロイドがクラトスになついていたことをしっている。
慕っていたといってもよい。
そしてクラトスが敵であったと知ったとき、一番おちこんでいたことも。
「ロイド!今はコレットを助けるのが先決だよ!」
クラトスに惑わされている場合ではない。
「あんたは…一時の迷いで大切なものを失ってもいいのかいっ!」
それはしいなの叫び。
あのとき、自分が過去を思い出し、呆けていたせいでコリンは身をさらした。
あのまま、コリンが消えていたらぞっとする。
否、消えてしまったのだ。
自分とともにいた、人工精霊の孤鈴は。
今の孤鈴は元々の本来の姿であった、という心の精霊ヴェリウス。
コリンが消えてすぐにその事実をしったからこそ、少しは立ち直れた、そうおもう。
けど、もしも、あのとき、ヴェリウスがすぐに復活を果たさなかったら?
自分はずっと、孤鈴のことをひきずっていたであろう。
自分がふがいないせいで、里のものにつづいて孤鈴まで失った、と。
心は常にともにある、といっても傍にいるのといないのとではわけが違う。
いつもはげましあってきたあの声はもう二度ときくことはできない。
だからこそのしいなの叫びには実感がこもっている。
「ロイド…お前は、間違うな。いけっ!」
そうクラトスがいうとともに、たっん、と床をけり、その一撃をユアンにむけてゆく。
キィン。
金属がぶつかりあう音が部屋にと響きわたる。
「お前は…って」
困惑するロイドにたいし、
「まあまあ。あの天使様が何を考えてるのかわかんねぇんだし。
  今はコレットちゃんを助けるのが先決っしょ?ロイドくん。
  あいつらがいうのが事実だとすれば、もう時間は数時間もないんだぜ?」
夜明けの時刻まであと数時間をきっている。
確かにゼロスの言うとおり、今は迷っているときではない。
「うん。いこう。ロイド。今はコレットが先だよ。くやしいけど」
しいなとゼロス、そしてマルタにまでいわれ、はっとなり。
「わかった。ボータ、お前達は黄昏の間、というのをしっている、のか?」
「潜入にあたり、この施設の間取りは頭にいれてある。いくぞ!」
「ああ。わかった!」
クラトスのことで考えたいことはいろいろとある。
けど、今は、自分のすべきことを。
そう決意し、そのまま、この先にある、という黄昏の間へ。
ロイドがボータ達と駆けだしてゆくのをみとどけ、
「あんた、ほんっと、何がしたいんだ?…ふりまわされる身にもなれってんだよ」
一番最後まで残ったゼロスが、ぽつり、とその言葉をクラトスにむけて言い放ち、
そのまま、ゼロスもまた駆けだしてゆく。
そんなゼロスの声を拾ったのか、
「何がしたい…か。たしかに。な」
「――お前が、アダマンタイトを精製した、ときいた。…本気、なんだな」
「ああ。だから、今ここでお前の意見に従うわけには…いかん!
  それをなさなければ、世界は…エターナルソードは……」
「エターナル、リングか。剣との契約に必要な」
武器を交えつつ、そんな会話をしているのが走ってゆくゼロスの耳に届いてくるが。
エターナルリング?エターナルソード?
ゼロスがふと首をかしげているその耳に、
「かの力がなければ、世界を一つに戻すことはできない。
  今、この世界が二つわけられているのは、かの魔剣の力、なのだからな」
そういう、ことかよ。
だからといって、子供を親がいいように利用し振り回していいわけは…ない。
ゆえに無意識にゼロスははしりつつも、ぎゅっとその手を握り締める。
なら、その理由を息子にいってやれってんだよ!
子供の気持ちなんて、まったくあいつはわかっちゃいねえ!
そう思うからこそ、ロイドがほうっておけない。
親に振り回されてしまうのは、自分だけで十分、そう思っているが故になおさらに。


「さて、と。後はまかせたぞ」
背後にいる飛竜やセンチュリオン達にと指示をだす。
ロイド達の様子は逐一、視ていたがゆえに今の状況は把握している。
こうして近くにきたがゆえに、確信に近いものがもてた事実も一つ判明した。
「裏で手をひきしは、デミアン…か」
リビングアーマー、と今は名乗りし魔族の一人。
かつて、彼がまだヒトでいたころの名は、ランスロット。
…当時のこの惑星の伝承でいうならば、裏切りの騎士。
愚かなる戦いの末にヒトとしての器を消失し、精神生命体となりし彼らたち。
というか、デミアンとは縁がある、とでもいうのだろうか。
あのとき、リヒターに手をかしていた魔族もたしかデミアンだったはず。
そんな縁はほしくもないが。
ラグナログを起こすきっかけとなったのはその同僚であるデミテル達であった。
懸念は、あの人間が不死の契約を魔族と結んでいる可能性がある、ということ。
完全なる契約ではない、というのはわかりはするが。
世界を視るにあたり、今回の作戦にあわせ、テセアラ側でとある作戦をも実行しようとしている。
それもエミル…否、ラタトスクは把握している。
それらを防ぐためにもどうにかして彼らをそれとなくその阻止にむけるべきであろう。
今現在、トニトルスがその体を大きくし、この浮遊大陸をぐるり、
とまるでどくろをまくようにして包み込んでいる。
簡単にいえば、トニトルスの内部に島全体が包み込まれているといってもよい。
それこそ、蛇が獲物をとらえ、締め付けている、そんな光景のごとく。
もっとも、姿を消している状態なので天使化している者たち以外のその目には、
精霊達などしかその姿を認識することができないであろうが。
それは、機械を通じてもいえること。
「ソルム。お前はついてこい。どうやらコレットのマナを使用し、あのものは重力を操っているようだし、な」
重力そのものは、ノームの担当、と思われているが、当然ノームの上司にもあたるソルム。
ソルムもまたその力を完全にと操れる。
それに何よりもこの施設内部には今現在、敵側のみに限って、ではあるが。
ソルムの幻術がかかっている状態。
ゆえに力もふるいやすい、というもの。
少しばかりの力をふるっても、周囲にみちているそのマナとあわさり、
その力がどこから発せられているか把握はできないであろう。
それこそ、ソルムのマナはこの場全てに満ちている状態に今はなっているのだから。
簡単にいえば、この地そのものは今現在、ソルムの支配下にあるといってもよい。
そして、それは裏を返せばラタトスクの支配下に置かれているということ。
だからこそ、この地にいるエルフの血を受け継ぎし、敵対していたものたちは、
術を、マナを紡げない。
ラタトスクがそのように制限をかけているがゆえに。
「しかし、本当にヒトとはどこまでも愚かでしかない、な」
権力、という目先の欲に視野を奪われ、身内すら利用しているあの男。
そして、それをうすうすわかっていながらも、自分の叔父だから、
という理由だけで黙認し見逃しているあの人間にも。
呆れる以外の何ものでもない。
さらにいえば、親だから、という理由だけで間違っている、とわかっていても、
盲目的に従っている彼女にも。
殺して、その死体を利用し、傀儡となすのか、またはその姿になりかわるのか。
どちらにしても、あのものたちがそんな愚かな人間を利用し、
ミトス達がかけた封印をとき、扉にちょっかいをかけようとしている、というのは明白。
もっとも、強力に封印をかけなおしているがゆえ、近づくこともままならないであろうが。
「グラキエスは爆発によって生じている場所を凍らせておけ。
  あの人間にわたしたあの品が力を発揮するまでは、な」
あまりこの浮遊大地そのものに負担をかけるわけにはいかない。
一柱、一柱にと指示を飛ばしてゆく。
ルーメンには外において、光りの幻影を使用し、この設備の様子を外部に漏らさないように、と。
イグニスにはすでに、ヴォルトとウンディーネの楔が解き放たれたのをうけ、大地の移動を命じている。
その過程によって発生する地震はとどめ置き、合図とともに解放するように、とも。
それができるのは、大地の下にマグマ、とよばれしイグニスが司りし溶岩。
それを張り巡らせているからに過ぎない。
マグマを移動させることにより大地の移動もまたたやすい。
かつて文明を栄させていた時代、それによって生じる地震を人間達は様々な名で呼んでいたが。
アクアはそれによって海に変化が訪れるがゆえに、それの対処を命じている。
すでに移動によって生じる生き物たちや魔物達への指示もアクアは済ませているはず。
ウェントスは万が一、増援がきても、ここにたちいることができないよう、
この付近に嵐をおこすように命じているがゆえ、そう簡単にこの付近には何人たりとて近づけないはず。
「ラタトスク様。では私もおともいたします」
闇を具現化させたような姿を現し、頭をたれてそんなことをいってくるテネブラエ。
「――いくぞ」
うまくすれば、相手をおびき出すこともできる、であろう。
であれば一気に方がつけられる、というもの。
そうすればあとは、かの地にでむき、あの書物をどうにかしてしまいさえすれば、
彼らの活動はこの地においてはできなくなるはず。
すでにあちら側の力もみちており、あと少しすれば、
惑星の内、すなわちこの大地の下に存在している魔族達。
彼ら全てをかの地に強制移動させることが可能、となっている今だからこそできること。
完全にこの惑星が今おかれている構造を理解しているものはまずいないであろう。
地殻、すなわち地表が存在し、その下にありしはマグマ、と呼ばれし存在があるということは。
かつて地表全てを瘴気に満たしてしまい、惑星を消滅させかけていた、
この地にすんでいた種族達。
彼らが今拠点とせしは、地核、とかつては呼ばれし場所の上にと存在する、
かつての惑星の痕跡を残せし唯一の場所。
メソスフェア、とかつては呼ばれていた場所は、
地表としている外殻でもあるこの大地よりは固い大地にて構成されている。
簡単にいえば、惑星の中にもうひとつ、世界があるようなもの。
その上にマナをもってしてかつてこの惑星が本来もっていた姿を取り戻させていったに過ぎない。
もっとも、それを逆恨みして・・・まあ、その事実を魔族とよばれし彼らもまた忘れている、
のかもしれないが。
そもそも、星が本来あるべき姿に戻しただけだ、というのに。
なぜにまた滅びの道を歩もうとするのか。
滅ぶのならば自分達だけで勝手に滅べ、そういいたい。
ラタトスクからしてみれば切実に。
星そのものがもつ寿命がきたのならともかくとして、
なぜにそこに住まう生命体達の手により、寿命を短くさせられなければらならないのか。
そういう点では、星そのものが自らの子でもある生命体をいつくしむばかりで、
きちんとした対処を…すなわち、粛清などといったものをとらなかった。
というのも大きい理由にあげられるのであろうが。
あのとき、この惑星の現状をしったとき、声をかけなければ、
この星の意思はまちがいなく、彼らとそのまま死…すなわち消滅を迎えていたであろう、
それは想像するだに固くない。
それはかつての記憶。
そのころはまだデリス・カーラーンにおいてもあそこまでヒトは愚かなことをしていなかったのだが…
ふと過去に思いをはせる。
「…こちらがある程度おちついたらノルンの様子でもみにいくか……」
それは独り言。
自らの子として生み出した、新たなる世界樹の精霊。
あちらとこちらを一時、繋げてみるのも…悪くはない。
もっともそれは人間達は移動できないように、という注釈がつくが。
この地におりたち、あの場所で扉を封じてこのかた、あの地にはもどっていない。
移動させているあの彗星にて様子は伝わってきているので問題はない、そうおもっていたのだが。
しかし、今はそうしていけば必ずいずれは訪れるかもしれない結末をしっている。
最も、あれの一番の原因となったのは……
そういえば、とおもう。
あのとき、自らの力の解放とともにあちらにも送った力は、ちゃんとあの子に届いたのだろうか。
それは今では確認のしようがない。
しようと思えばできるだろうが。
それには多大なる力を消費する。
すでにこの世界はあの自分が存続していた時間軸とは別の時間軸。
すなわち、別空間の流れ、…多次元世界の一つ、として確定してしまっているのだから。
「――いくぞ」
言葉とともに、エミルの姿はその場より光の残滓のみを残しかききえる。
後にはきらきらとした赤と緑の入り混じった細かな光の粒が降り注ぎ、
その降り注いだ光が触れた大地からは、新たな新緑の芽が芽吹きだす。
この地にて、ヒトが手掛け壊してしまった自然。
それを回復させるかのごとくに。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「くっっっっ」
「・・・・・・っ」
部屋の中といわず、周囲に響き渡る、何ともいえない悲鳴。
部屋の中央には薄紫色にと光る力の場のようなものができ、
その周囲にはいくつもの紋様が浮かんだ魔方陣がその場を取り囲むようにして浮遊している。
その中で、うずくまり、立ちあがることすらできない四人の姿。
リフィル、ジーニアス、プレセア、リーガルは体の自由がきかず立ち上がることすらできない。
叫び声をあげているのはほとんどジーニアスだけで、ほとんどは歯を食いしばり、
声にもならない声をあげているようではあるが。
「ふぉっほっほっほっ。どうです?神子のマナの味は?ふぉっほっほっ」
そんな彼らをみつつ、部屋の奥のほう。
すなわち、いくつものカプセルが立ち並んだその中央。
中央に大きく設置されているカプセルの中。
その中の液体につけられている少女の横で、
眼鏡をかけた恰幅のいい男性が何ともいえない笑い声をあげているのがみてとれるが。
「ようやく調整しおえたマーテル様の器、絶対に渡しませんよ。ふぉっほっほっ」
この少女を渡したとしても、逆にユグドラシルの足かせになるようにと調整している。
もしくは、この少女を器にしたとしても、自分がかけた枷が、逆にこの器すらをも操れる。
ならば、ユグドラシルなど取るに足らず。
そんな思いをこめ笑い声をあげている男…ロディルの目に宿りし力から感じるには、
自らが抱いている野望が欠片も失敗する、とはおもっていないらしい。
四人は動けない。
コレットのマナを用い、彼らの周囲の重力がことごとく変化させられている。
今、彼らにかけられているのはこの惑星よりも十倍の重力。
「世界を救うどころか、仲間を助けることもできない。まさに神子は愚かなる罪人、というわけですな」
自らの深層心理の奥深くで、眠りについていたコレットの意識にそんな声がとどく。
どんどんとさらに深くに意識が沈んでいくような、何かに消されてゆくような。
そんな感覚。
これまで自らを何となく守っていたような気がした暖かな感じも今はしない。
ここに連れてこられて、あの力は感じなくなっている。
コレットは気づいていないが、ロディルの放つ瘴気によって、
微精霊達が狂わされた結果、彼らが好意でコレットの精神体を守っていた、のだが。
その守りがうすくなっているに過ぎない。
ごめんね。ごめんね。皆。
まるでコレット自らを責めるように、これまでほとんど感じなかった外の光景。
その光景がなぜかコレットに直接感じ取られる。
それは、彼らの属性によるもの。
彼らが最も好むのは、ヒトの負の感情。
つまり、あえてわざとリフィル達が自分のマナによって被害をうけているのをみせることにより、
コレットの精神体により不安、そして自分が仲間を傷つける恐怖、
そういったものを植え付けているに過ぎない。
その恐れや恐怖はそのまま、彼らの力となる。
その結果、さらに微精霊達は瘴気によって穢され、狂ってゆく。
まさに悪循環。
やっぱり、私、あのときに、あのままレミエル様と一緒にいくべきだったんだ。
私なんかが生き残ったから、皆が。
コレットが自らを責め、そんなことを思っている最中。
「…違います」
そんなコレットの心に、たしかプレセア、といったか。
ほとんど外のことなんてわからなかったのに、
なぜかあの少女のことに関してだけは伝わってきた。
ロイドの母親と同じ、エクスフィアの被験者とされてしまっている…少女。
「悪いのは…悪いのはコレットさんじゃ、ないっ!」
立っていることすらままならないであろうに。
それでも、その手にもっている斧を支えにし、無理にとその場から立ち上がる。
リフィル達が身動きできない中、プレセアが必至に立ち上がる光景が視てとれる。
そう、彼女はわるくない。
どうやらあのロディルがいうには、今のこの状態は、彼女の、
あのコレットという少女のマナを使用してこの罠は展開されているらしい。
勝手に意識のない彼女を利用しているというのに、なぜに彼女がわるい、というのか。
自分は仕方がなかったかもしれない、とおもう。
彼の甘言に従い、エクスフィアを求めてしまったのはあくまでも自分。
そんな都合のいいものがあるはずがない、とわかっていたのに。
しかも見返りも何もなく。
その結果が、父が死んでも何もしなかった自分と、失われた時間。
彼女はまだ何も失っていない。
まだ、彼女を大切におもっている人がこうしている。
自分は父を守れなかった。
奉公にでている妹も、自分が完全に記憶がとぎれとぎれになってからは、
毎年おくるようにいっていた手紙もどうなったのか記憶がない。
ロイド達から聞かされた、世界のシステム。
神子に犠牲を強いて世界が存続している。
その話しをきいたとき、プレセアは絶句せざるを得なかった。
自分達が平和に暮らせていたのはシルヴァラント、という世界の犠牲があったからだ、と。
そしてまた、エクスフィアがどのように作られたのか。
それもプレセアは聞かされた。
それは人の命を苗床とし生み出された石。
そんな命の結晶ともいえる品物を、今現在、テセアラではただの動力源、
として少し壊れたりしたら無用、とばかりに捨てている。
それはしいなが吐き捨てるようにそういっていたからプレセアも理解できた、のだが。
だからこそ。
彼女に罪を押し付けるのは間違っている。
間違っているのは、いるのは…
「コレットさんは…悪くありません!悪いのは…神子に犠牲をしいる…世界のシステム、ですっ!」
クルシス。
幼いころから聞かされていた、天界の存在。
世界を身守りし、そして女神マーテルの目覚めをまつものたちの住処の名。
それは天の名。
しかし、リフィル達から語られたのは、お伽噺の中にでてくる、
ディザイアンを管理しているのもまたクルシスで。
彼らはこうもいった。
神子、とは女神マーテルの器にされる世界への生贄だ、とも。
女神マーテルが目覚め、世界が救われるのなら、それでいい。
大概のものはそういうだろう。
プレセアもそのとき、一瞬だがそうおもった。
たった一人の犠牲で世界全てが…彼らがいうところの二つの世界が救われるのなら、と。
だけども。
語られた言葉は、真逆をいっていた。

「神子がマーテルの器となり、大いなる実りが失われてしまったとすれば。
  …大地が存続できる期間はもって、一年から、長くても数十年、だろう。
  地上の全ての命は死に絶え、下手をすれば世界は魔界の瘴気に包まれる」

そう、たしかにそう、みずほの里にて、
レネゲードのリーダーである、というユアンという男性はそういった。
地上全ての命は死に絶える、と。
しかも、長くもっても数十年。
彼らが嘘をついているようにはみえなかった。
たとえ思い違いをしているのかもしれないとしても、その可能性がある以上。
コレットを世界の生贄、として認めるわけにはいかない。
「何!?」
気力を振り絞り、足を一歩、踏み出してゆく。
みしみしとした力がプレセアに襲いかかるが、今ここで躊躇すればどこかにいる妹にも被害が及ぶ。
そんなのは、そんなのは絶対に。
だからこそプレセアは譲れない。
彼女は知らない。
その妹がすでに死んでいる、というその事実を。
そんなプレセアをみて、ロディルが驚愕の表情をうかべ、
さらに装置をいじり、彼らにかけている重力をより重く操作する。
どうにか両手両足をついて保っていたリフィル達も、
その重力にまけて完全に床にとはりつくような格好になってしまう。
それでも、そんな中、必死に足を踏み出してゆく。
ヒトの強い意思、とは時として何人にも負けない強い力を発揮する。
それこそ、微精霊達が狂わされている中で、そんな彼らを屈服させてしまうほどに。
「プ…プレセア……」
「プレ…セア…」
ジーニアスとリーガルの声はほぼ同時。
床にへばりつくような格好をしながらも、プレセアの名を呼びしは、彼女を心配しているがゆえのもの。
こんな中で動く、ということは体全体に負担がかかることを意味している。
すなわち、立っているだけで押しつぶされそうな力が常に働きかけられているのだから。
「ええい!実験体でしかないエクスフィアの苗床の分際で!
  ちょうどいい。あなたのエクスフィアの成果確認にもなりますな。
  お前につけたエクスフィア。十六年というゆっくりとした長き時間。
  それによってどこまでハイエクスフィアの性能に近づいているのか……」
いいつつ、再び操作パネルを操作する。
ハイエクスフィアならば、この程度の重力は跳ねのける。
それはユグドラシルを目の当たりにしているからこそわかること。
彼の元に屈服する経緯となったのは、彼の力を見せつけられたがゆえ。
ロディルは他の者たちとは経歴が異なる。
プロネーマ、マグニス、そしてクヴァルとはまた違った経歴にてクルシスに所属した。
当時、彼の野心が透けてみえたからこそ、ユグドラシル…ミトスは彼にはかの封印。
それに携わらせなかった。
封印の強化、という重要な役目を。
「あ…あぐぅっ」
さらに何倍もの重力を上乗せされ、その場にがくん、と膝をつく。
プレセアの口から何ともいえない声が漏れだすが。
「ふふふ。こうなったのは全て神子のせい。
  恨むのなら私でなく愚かなる罪人を恨むのですな。
  ああ、あなたは心配いりませんよ?あなたは今のところ成功している苗床ですからな。
  そのままその要の紋を再びとりはずし、石の完成までは生かしてあげますよ。生かしては、ね」
それは言外に他のものは生きてはかえさない、といっているようなもの。
「まったく。道具は道具なりに心など必要はないのですよ。
  この娘とてそう。産まれたときからこの娘は道具以外の何ものでもないのですから。
  そんな道具にすぎないものが、生を望んだがゆえに、こうして皆が苦しむはめになるのです。
  愚かな神子のせいで、ね。ああ、おまえたちも。恨むのならば愚かなるこの罪人を恨むのですな」
下卑た笑みをうかべつつ、その場にういているコレットをみて、
にやり、と口元をゆがめるロディル。
「…あり…もしない…罪を…」
「な!?」
さすがにその台詞にはプレセアの堪忍袋の緒がきれる。
自由の聞かない体に叱咤をかまし、そのままぐっとたちあがり、
ゆっくり、一歩、一歩、体全てが砕けそうになる痛みを感じつつも歩みを止めず、
口を開くことすらつらいが、しかしこれだけはいわなければ。
彼女のせいではない。
悪いのは、悪いのは、すべて…
「罪を…コレットさんに…なすりつけないでぇぇぇぇぇぇ!」
そのままさらに重く感じている斧を勢いのまま、
目の前にいるロディルにむけて振り下ろす。
「ひ…ひぃっ!?」
ドガッッ。
バチイイッッ。
しかし、いくら勢いのままに振り下ろした、といっても所詮、無理をして体を動かしていたにすぎず。
その目測はおもいっきり外れ、ロディルの背後にあったとある機械にと振り下ろされる。
それとともに、バチバチと飛び散りだす火花。
それと同時。
ふっ。
それまでリフィル達を苦しめていた重苦しいまでの空気が一気に解除される。
と。
「皆!?無事か!?」
プレセアの叫びがきっかけといってもよい。
その声でその位置がきちんと判明した。
部屋に駆け込んだロイド達が目にしたのは、
息をきらせ、ふらふらしつつ立ち上がろうとしているリフィル、ジーニアス、
リーガルの姿と、そして。
「プレセア!?」
どさり。
無理をしたがゆえに、その場に糸が切れたように倒れ伏してゆくプレセアの姿。
「これは…神子をあの装置からださねば。
  どうやらこの部屋の装置は神子のマナを動力源にして起動している。
  下手をすれば神子はマナをすい尽くされ、死ぬぞっ」
ボータがはっとしたように、カプセルにはいっているコレットと、
そして周囲にある装置類をみてそれに気付き叫んでくるが。
「「「な!?」」」
その声は、ロイドとしいな、そしてリフィル、ジーニアス、リーガル。
五人ほぼ同時。
「つまり、コレットちゃんをあそこからださねえとあぶねえってか」
「我らとしてはそれでもまあいいのだが。
  この装置はおそらく、神子のマナをすいつくし、実体化している器のマナすらもしぼりとる。
  おそらく、ヒトとしての器も何もかものこりはしないはずだしな」


何やらぽそり、と本音らしきものがもれているボータ。


彼らからしてみれば、コレットが器にならずにそして、脅威にならないように消えるのならば。
それはそれで目的が達せられたといってもよい。
そもそも、神子を奪還する理由とは、器にさせないため、なのだから。
「おまえっ!」
ボータの台詞にかっとなり、ロイドが叫ぶとほぼ同時。
「アイン・ソフ・アウルっ!!!!!」
ごうっ。
突如。
部屋の横のほうから、光りの柱のような渦が発生する。
いくつもの光りを帯びたそのまるで渦のようなそれは、直後。
「コレット?!」
ロイドが叫ぶまもなく、コレットがはいっているカプセルにと直撃する。
「さて。と。チェックメイト、ですね」
ふときづけば、いつのまに、というべきか。
ロディルの真後ろ。
その後ろに剣を構えたエミルの姿が。
その剣はしっかりと、ロディルの首元にと突き付けられている。
光に包まれ、まるで始めから何もなかったかのように、
そこにある無数のカプセルが飲みこまれるようにと消えてゆく。
そう、まさに消えてゆくという表現に相応しく、光りにまるで溶け消えていくかのごとく。
「――御苦労。テネブラエ」
「まったく。あいかわらず、私たちの扱いがひどいというか……」
エミルが剣をつきつけつつ、コレットが入っていたカプセルがあった方向にちらり、
と視線をむけていえば、
いつのまに、というべきか。
そこに黒き闇を纏った犬のような猫のような形容しがたい生き物が浮いている。
その背には…
『コレット(さん)!?』
くったりとしたコレットが。
その姿をみてリフィル、ジーニアス、マルタ、しいな、プレセアが同時に叫ぶ。
そもそも、いくら加減をしているから、といって、あの攻撃の中でコレットを助けてこい。
という命令は何というべきなのだろうか。
自分達に傷をつけるつもりがない攻撃だから問題はない、とわかっていても。
その攻撃で幾度かあえてお仕置きという名目をもってしてコアに戻されたことがある以上、
その攻撃の中に飛び込んでゆくことに戸惑いがないわけではない。
もっともそれを口にしても、だから?としか戻ってこないのも十分に承知しているのだが。
そのまま、ふわふわと空中に…そう、何もない空中をいかにも普通の道であるかのごとく
歩くようにし、唖然としているロイド達の真上までやってきて、その体をゆっくりと床にと近づける。
「さて。そこのロイドとかたしかいいましたね。
  あなたがつくった要の紋をこの娘にとっととつけてくださいね?」
「お、お前は……」
幾度かみたことがある。
エミルの関係で。
「たしか、テネなんとか……」
ジーニアスが記憶を手繰り寄せつつも名を呼ぼうとするが、きちんとした名がでてこない。
「おもいだした!テネテネだ!」
「違います!」
ぽん、と手をうちきっぱりいいきるロイドにすかさず突っ込みをいれているテネブラエ。
「…今はそんな漫才をしているとき、なのか?」
そんな会話をみつつ、リーガルがぽつり、とつぶやく。
魔物のよう、ではあるが、敵、ではどうやらなさそうである。
というより、人語を発している魔物、というのに驚かざるを得ない。
「いったい、あなた達は……」
リフィルの困惑したような声。
魔物でもない、ましてや精霊でもない、感じたことのないマナ。
しかしそれでも、世界にしっかりとなじんでというよりはなくてはならない。
と感じるそのマナの在り様をもった不思議な存在。
「ふっふっふっ。よくぞきいてくれました!私は、エイトリオン・ブラックの…」
「うわっ?!」
ずるっ。
何やらエミルがよく知っている…というかああいう表情をするときは、
いつもテネブラエは何かしでかす前提であることをエミル…否、ラタトスクは嫌というほどにしっている。
そして案の定、というか。
紡がれた言葉に思わずずるっと足を滑らせそうになってしまう。
もっとも、その過程でつきつけていた刃が相手、すなわちロディルの服を多少ばかり、
切り裂いているようだが、今はそんなことは関係ない。
そのせいでなぜか目の前のロディルが叫び声を出しているがそんなことはどうでもいい。
というか。
「こらまて!テネブラエ!何だ!その言いまわしは!」
「何をいわれますか!やはりこうして我ら八柱がそろったときには、これをやらなければ!」
「やらんでいい!やらんで!というかまだそれ忘れてなかったのか!?」
思わず叫ぶエミルは間違っていない。
絶対に。
というより、むしろ忘れているのだろう、とおもっていたのに。
そういえば、ノルンを産みだしたときにもこの八柱達は、
エイトリオン・ナイトといって…思いだしたらなぜだろう。
実体化しているからか、頭がいたくなってくるような気がするのは。
かつてあったヒトがつくりし戦隊物とかいうのに確かに彼らは一時はまったことはあった。
それは認める、みとめるが。
なぜにどうして、この世界でもその話題をまたぶり返す!?
そんな思いのほうがはるかに強い。
彼らが得意顔をして決めポーズも決めました。是非ともラタトスク様にも!
といってきたことを遠い記憶の彼方ではあるが、そうしたことがあったのも事実。
それは認めざるをえない事実、だがしかし…だからといって、また、それはない。
絶対に。
あのとき自分にもぜひに自分達が考えた戦闘服を!とかいっておしつけてきた。
なぜに仮面一つで変装になる!?と突っ込みをいれた覚えのあるあの当時。
そういえば、関係ないのかもしれないが、ロイドもあのとき、
ジュエルハンターとかいって仮面を落としていたな。
ふとそんなことを今さらながらに思い出す。
どうみてもよくわからない仮面、でしかなかったが。
当時、表にでていたときにそれをきいたギルドのメンバーがまた……思いだすまい。
ふと思わず遠い目をし過去に想いをはせるラタトスクは間違っていないであろう。
たしかに、八柱達にはセンチュリオンとは自ら人目があるときは名乗るな。
特にロイド達の前では。
たしかにそういった。
だからといって、なぜに昔の彼ら曰く、ラタトスク騎士団としての名を名乗る!?
もっとも、そんなエミルの心情などこの場にいる誰も知るはずもなく。
ゆえに。
「?なあ、エミルのやつ、なんかまた様子がちがわなくないか?」
「なんか乱暴な口調になってるね」
首をかしげてぽつり、とつぶやくロイドとジーニアス。
「もう。今はそんなことより…コレットは…どうやら、怪我、はないようね」
その場にいるロディルや他のもの。
どうやら一緒にやってきたボータもこの状態についていかれないらしく、
唖然としている様子がみてとれる。
そんな中、リフィルが今はそれどころではない、というか。
相手が意表をいろんな意味でつかれて唖然としている今が好機。
とばかりにテネブラエの背にのっているコレットをそっと抱き上げる。
やがて。
「はっ!?な、何奴?!きさま、いつのまに!?」
はっと我にもどったらしく、ロディルがエミル、そして意味不明な生物をみて叫んでくるが。
そんな中。
「ふ…ふ…」
まったく異なる第三者の声がその場にと響いてくる。
「――ったく。あいつらにはあとでよぉぉくいっとく必要があるな。
  それはともかく。…でてこい。いるのだろう?そこに」
ぴたり、と虚空に剣をつきつけたまま、エミルが険しい表情にて言い放つ。
それと同時、ゆらり、と空間が揺らぐ。
その場にあらわれたのは、何やらみおぼえのある甲冑を着こんでいる人物のような姿。
しかし、何もない空間から現れたのは明白で。
「ほぉう。この魔族。デミアンに気付くとは。…きさま、何奴だ?
  気配からして、ヒト…のようだが、しかしそう、ではあるまい?」
くぐもったようなその声はどこまでも低く、それでいて性別すら悟らせないようなそんな声。
「まあいい。不定要素が入ったようだが。ロディル。ここはひくぞ」
「しかし……」
どうやらその言い回しから、この鎧のデミアンとなのったものは、
ロディルと知り合い、であるらしいとリフィル達にも理解ができる。
できるが、いきなり現れたその様子にリフィル、そしてジーニアスはとまどわずにはいられない。
そして、背後では動揺に息をのんでいるボータ、そしてレネゲードの一員、
なのであろう他のものたちの姿もみてとれる。
彼らはハーフエルフ。
エルフの血をひきしものたち。
ゆえに、このもののマナがマナでなく、瘴気である。
というのを直感的に悟っているらしい。
マナと瘴気。
これらは反物質といってもよい。
マナは瘴気にとって毒となり、瘴気はマナにとって毒となる。
相容れぬ存在。
「あれは、我の予測通りだと…くく。これはいい」
マナの在り様からして、そこにいる何か、が彼らにとって宿敵にあたるもの。
と瞬時に判断し、にやり、と笑みを浮かべつつもいってくる。
「デミアン…ですって?何者…?」
これまた感じたことのないマナ。
視ているだけで何というか、正気を失い、まるでそう、闇に囚われてしまいそうな。
感覚としてはそう。
あのとき、ハイマにてあの球体を触ったときのようなあの感覚。
あれによく似ている。
ぞわり、と本能的にわきだつ嫌悪感。
直感的にわかる。
あれは自分達とは相いれない存在だ、ということが。
ゆえに警戒し、リフィルが杖を構えつつ、コレットの安全を考えて、
コレットを背後にいるゼロスに託し問いかける。
いつでも技が使用できるようにかまえつつ。
直感でしかないが、あの存在にきく術はおそらくは光属性のはず。
だからこそいつでも術が解き放てるように準備は忘れない。
デミアン、と名乗りし魔族をみてやはり、と確証を新たにするエミル。
この気配は間違いがない。
あのとき、あの場にてリヒターに取りついていた魔族に違いない。
ということは、こいつらはこんな時から画策を繰り広げていた、ということか?
思わずエミルは眉をひそめる。
つまりはそういうこと、なのだろう。
ミトスの陣営に魔族の息のかかったものが入り込み、
そして長き時をえて、結果としてミトスは自分を裏切る行為をしでかした。
そもそも、自分がいくら殺された、とはいえ。
扉が一時的にも開放される、などありえないことがあのとき確かにおこった。
しかし、もしもそのときに、リヒターの中にすでにコレが潜んでいたのならば?
全てのつじつまはあう。
内部と外からの干渉で一時にしろ扉が解放されてしまった、ということは。
すぐさまにその場にかけている封印の力によって扉は閉ざされた、
というのは判っているにしろ。
そのとき解き放たれた力は世界により瘴気をふりまき、世界に負をまき散らせていった。
それはかつての記憶。
いくら魔族達には精神生命体であるがゆえ消滅しない限り寿命がない、とはいえ。
気の長い計画、としかいいようがない。
ないが、それを認めるわけにはいかない。
断じて。
そもそもそれをこの星は望んではいない。
星によって産まれただけである生命体がなぜに自らの母体を滅ぼそうとするのか。
それはラタトスクからしてみても永遠の謎といってもよい。
ほとんどのものは、力、もしくは繁栄をもとめるあまりそれに気づかずに、
星の寿命を縮めてゆく道を歩み、ほとんどのものは自滅してゆく。
そこに精霊達や星の意思が介入しなくても、である。
あまりにひどい場合は精霊達や星の意思が介入し、星に巣食った害虫、と判断し駆除することもあるが。
そう、かつてラタトスクが人間は害虫でしかない。
と、そうおもったあのときのように。
リフィルの問いには答えず、その顔らしきもの、
というのは顔をすっぽりと兜らしきもので覆っているのでその表情はみえない。
リフィル達は気づいていない、であろう。
そもそも、その中身がない、ということに。
このものは、今現在、この鎧のみとして具現化しこの場に存在している、ということに。
そしてその頭部分をエミルにむけ、
「興味深い介入者の存在も知りましたし、ね。ソトのあれはあなたの仕業ですかな?
  我らがずっと探し求めていたもっとも障害となりし存在。まさか目覚めていたとは…」
何やらそんなことをいってくる。
腐っても魔族。
彼らもまたセンチュリオンのマナを見分けることが可能。
ゆえにテネブラエのことを見抜いた、らしい。
外にいるトニトルスにもこの様子だと気付いたのかもしれない。
わざわざそれをこの場にて確認するつもりはさらさらないが。
「逃がすと思うのか?」
今ここでこれを始末しておいたほうがいい。
ゆえに、すっと剣をかまえ、身構える。
「!?こ、このマナの高まりは…ここはひくとしましょう。
  ロディル。まあやってもいいですが、油断しないこと、ですね」
そういいつつ、現れたとき同様、その場からかききえるそれ。
「…ちっ。逃げたか。しかし……」
しかし、彼の手足になっているであろうモノはここにいまだにのこっている。
「なんかよくわかんないけど。ロイド、コレットに」
「あ。ああ」
マルタからしてみれば、何がどうなっているのか理解できない。
さっきのあの光の帯のようなものは何なのか、とかいろいろと判らないことばかり。
だけども一つだけいえることは、浚われたコレットが無事にこの場にいる。
ということ。
エミルの知り合いらしきこの魔物のような動物はおそらくは危害を加えない。
それどころかむしろこちら側の仲間、といえる。
それはマルタだけでなく、ロイド達も確信をもっていえること。
目の前で行われている展開についていけず戸惑うロイドであったが、
マルタの言葉をうけ、あわてて腰のポケットからじゃらり、
とアルテスタの家にてつくった首飾りを取り出し、目の前に掲げる。
「約束したよな。いつかできそこないのペンダント。
  ちゃんと作ってプレゼントするって。といっても前よりちょっぴし出来がよくなっただけ。
  かもしんねえけど…これでも、一生懸命つくったんだ。お前の笑顔がもう一度、みたくて」
いいつつも、そっとコレットの首に首飾りをしゃらり、とかける。
「よっしゃ」
「いえ。まだよ。コレットの意識が戻るまでは…」
しいながぐっと手を握り締めてガッツポーズをし、そんな中、リフィルが冷静な言葉を発してくる。
「なるほど。技術をあのアルテスタから授かりましたか。
  しかし、所詮、諸悪な劣悪種がつくりししな!そんなものは、すぐにっ!」
ロディルがすかさず、先ほどの攻撃で壊れていなかったらしい一つの台座のようにと駆けより、
それにすっと手をかざす。
それとともに、台座の上に光る窓のようなものがいくつも出現する。
どうやらその台座もまた何かのコントロール装置、らしい。
コレットの虚無なる瞳に光が宿りかけたと思ったその矢先。
「うわっ!?」
壁から突如としていくつも生えてきた機械の腕のようなものが、
あっというまにロイド、そしてその場にいるしいなたちをも捕らえようとし、
この部屋全体に細い機械のワームがところせまし、とわきでてくる。
「ちょっ!?なんだい、これ…うわっ!?」
それを払いのけようとし、変なところ。
すなわち足元にそれが近づいてきてあわてて跳ねのけようとしたしいなの手を、
別のところからのびてきた腕がからめとる。
「うわ!?」
「しいな!?ちっ」
ザッン。
それをみてすかさずゼロスが剣を抜き放ち、そんなせまってくる機械類を薙ぎ払う。
「さて。神子につけられた劣悪でしかない要の紋は取り外しておきましょう。
  おそらくは、これに刻まれたはハイエクスフィア専用のまじない文字のはず。
  材質はありあわせのものを利用したようですね。
  しかし、文字さえわかれば、この私の技術をもってすれば、同じ品をつくることも!
  さすれば私がハイエクスフィアを手にいれ力を手にいれる日も!」
コレットとロイドの間は、二人の間の地面からもつきだしてきたいくつもの機械の手。
それに翻弄され近づくことすらままならなくなっている。
一方で、
「…もう、何でエミルの周囲にはあれ、まったくちかよってないのさ!」
「いえ。よくみなさい。ジーニアス」
いつのまに、というべきか
エミルはちょこん、とさきほどテネブラエ、となのった生き物の背にのっており、
ふわふわと空中にと浮かんでいる。
機械のワーム、とでもいうべきであろう手はそんなエミル達にもむかっていくが、
たどり着くまえにまるで闇に呑みこまれるかのごとく、
黒い霧のようなものに包まれたかとおもうと瞬く間にときえていっているのがみてとれる。
つまり今現在、エミルの周囲にのみぽっかりと、それらがたどり着いていない、
という空間が出来上がっていたりする。
部屋を覆い尽くすほどの機械の腕。
細く、それでいて何かをつかむことを優先するのであろうそれらの機械は、
ロイド達を捕らえようとしているのか、問答無用でロイド達をつかんでこようとしていたりする。
それらを必至に剣を抜き、振り払うロイド達。
ロディルはそんな彼らを横眼でみつつ、コレットの胸元にある、
その首飾りを奪おうとし、手をのばし、力まかせに引きちぎろうとする。
「…うん?」
ふときづけば、そんなロディルの手をつかんでいる何かの手。
「…めて…」
ふときづけば、目の前の声さえ今はだせないはずの人形、否器にすぎないもの。
それが何かいったような気がするのはロディルの気のせいか。
しかし、次の瞬間。
「や…やめて!」
パッン。
意思をもった声とともに、何かを払いのける過程で生じた何かを叩く音。
「コ…コレット!?」
「声が…でた!!」
そんなコレットの様子に気付いたのであろう。
驚きながらロイドが驚愕な声をあげ、そしてまた、ジーニアスが感極まった声をだす。
「コ…コレット!あんた、もとにもどったのかい!?」
しいなのうわずった声。
ちなみに、そんな声をかけつつも、皆が皆、
せまりくる触手ともいってもよい機械の腕を薙ぎ払っていたりする。
「コレット!」
マルタがこれまたコレットにむけて思わずその名を叫んでいるが。
ちなみにマルタとしいなはゼロスが守っていたのだが、
しいなが自分は平気だから、あんたはマルタを!といって、
ゼロスはマルタの周囲にせまっているそれらを薙ぎ払っていたりする。
しいなはふとももに隠し持っていた短剣でもって、それらを薙ぎ払っているようであるが。
「…あ、あれ?私…みんな、何やってるの?つかみごっこ?」
目をぱちくりさせ、それでいて、なぜだろう。
わさわさと迫っている何かの腕のようなものを必至に薙ぎ払っているロイド達の姿。
その姿をみて目をばちくりさせたのちにといかけているコレット。
何だろう。
さっきまでつらい何かを感じていたような気がするのに。
まるで頭の中に霞がかかったかのように、さきほどまで何を考えていたのか。
それがすぐにはコレットには思い出せない。
しかも、何だろう。
ものすごく、つらくて悲しくて、それでいて…なぜか全てを破壊したいようなその衝動。
それらの思いが綺麗さっぱりとなくなっていることにもふときづく。
囚われたのち、そんな思いがどうしても湧き出してきていたことはコレットは自覚していた。
もっとも自覚していたからといって自分の体をどうにかできるような状況でもなかったのだが。
まるで、そう、憑き物がおちたような、もしくは肩の荷がおりたような。
まさに体がうける感覚としてはそんな感じ。
だからこそ、コレットからしてみればとまどわずにはいられない。
実際は、先ほどエミルが放った攻撃【アイン・ソフ・アウル】の直撃をうけたとき、
コレットの体をむしばんでいた瘴気が綺麗に浄化されたにすぎない。
微精霊達を穢していた瘴気が綺麗に浄化させられたのをうけ、
微精霊達が正気を取り戻した結果、再びコレットの保護を微精霊達が開始した。
もっともすでにロディルの手によりコレットの身にほどこされた処置。
それはコレットの体に宿りし微精霊達にはどうにもできないこと。
そもそも、彼らがいくらその進行を遅らせていても、コレットがアレを身につけているかぎり。
まちがいなく、その力はコレットの体をむしばみ、やがて全身を精霊石そのものへとかえてしまう。
人の器もまたマナでできしもの。
ゆえに、原初の姿にちかしい形にもどりゆくだけ、といってしまえばそれまでなのだが。
それはヒト、としての死を意味している。
全身を、ということは文字通り、肉体を構成している内臓も何もかも全てが。
全てが一つのこさずに、精霊石という鉱石にと成り果てる、のだから。
そんなコレットの何ともこの場の現状をみていうような台詞ではない。
エミルでもそうおもえるそんな感想をうけ、
『そんなわけ(あるか)(ないだろ)(でしょう!』
ロイド、ゼロス、ジーニアスの声がほぼ重なり、
「どこをどうみたらそうみえるの(さ)(の)!?」
しいなとマルタの声がほぼ重なる。
「ふぉっほっほっ。興味深い。どうやら抑制鉱石だけでも、
  クルシスの輝石の寄生を抑える効果があるようですな。やはり、その首飾りは、私のものに」
「だめぇ!これはロイドのなんだから!あなたがロイドがすきでもこれはだめ!」
はっとしてコレットが首飾りをひっしにつかみつつ、目の前のロディル似たし言い放つ。
「ちょっとまて!何でそいつが俺をすきだっていうんだよ!コレット、お前は!」
言いたいことは山とある。
あるが、その一言だけはロイドとしても突っ込みをいれたい。
ゆえにすかさずそんなコレットに何やら叫んでいるロイドであるが。
「え?だって、ロイドの手作りをうばってもほしいって。
  それにこのひと、ストーカーってヒトなんでしょう?」
「ストーカーとはまた失礼な!私がその子を欲しているのは興味深い人体素材だからですよ。
  何しろエクスフィアを数十年。寄生させている器からうまれし子供。しかもその父親もまた…
  これほど興味深い研究対象というか解剖してでもその全体を確かめたい素材もめずらしい!」
「…それって、案にストーカーもどきだって認めてるようなものだとおもうけど」
「…まったくだ」
ぽつり、とつぶやくエミル似たし、同じ思いを抱いたのか、リーガルもまたぽつり、とづふやく。
「何いってんだよ。エミルもリーガルも。俺、スカートなんてはいてないぞ!」
『いや、そうじゃない(から)(だろ)』
ロイドの叫びに、なぜかロディルからも同時に突っ込みがはいってくるが。
「まあいい。神子。その体もろとも、お前は私のもになりなさい!」
「いや!」
コレットが手をのばしてきたロディルの手をはらいのけるが。
「何と!?あの男性はロリコンなのですか?エミル様」
目を丸くしていきなり場の空気をよんでいない、というか。
そんなことをいってくるテネブラエ。
「ロリコン?って、確か……」
その台詞をきき、なぜかマルタが聞き返してくるものの、
「ロリコン。すなわち、ロリータコンプレックスのことですね。
  つまりは、自分よりもはるかに年下の相手に欲情するという……」
ほっとけば間違いなくそれに関する口上が始まりそうなテネブラエの口調。
こうなったらこいつは止まらないからな。
ゆえにエミルはほぼ傍観。
とめて自分にまでとばっちりがきてはたまらないがゆえの判断。
「誰がロリコンだ!鷲はそんなものではない!
  このわしをつかまえて、ロリコンなど失礼きわまりない!」
テネブラエの台詞に何やら叫んでいるロディルだが。
しかも顔を真っ赤にしてわざわざ叫んでいるのはこれいかに。
「今のうちに、コレット、こっちへ!」
何やら狼狽している相手を好機、と捉えたのであろう。
ロイドがすかさずコレットをてねまきする。
「あ、うん…って、きゃっ!」
こけっ。
『・・・・・・・・・・・・・・・あ』
その場に無数に機械の腕っぽいのがみてとれるので、念の為とおもって取り出した…
ちなみに、コレットのチャクラムは本来は取り上げられていたものの、
さきほどテネブラエがコレットを保護したときにその懐に入れておいたもの。
そのあたりも一応、エミルからいわれていたがゆえに抜かりはない。
自分の懐からいつものように気にとめることなくチャクラムを取り出し、
行く手をはばむ腕もどきを薙ぎ払おうとし、
そのまま、こけっと体勢を狂わせた…それも当然であろう。
これまでほとんど浮いていて自分の足では歩いていなかったコレット。
そんなコレットがいきなり自分の足で歩こうとすれば、ふらついてしまうのは道理。
そもそも移動の中もほとんど翼をだしており、少しばかり浮いて統べるように移動していた。
その障害が意識を取り戻した直後であるという事実もあいまって、
ふらり、とよろけてしまったらしい。
重なった声はロディル以外のほとんどのものがほぼ同時。
コレットがよろけて思わず捕まったそれ。
それはさきほどロディルが何やら操作していた台座のようなもの。
手にチャクラムをもったまま捕まろうとしたその結果。
バチイッッ。
もののみごとにコレットが手にしていたチャクラムがその装置に突き刺さり、
さきほどのプレセアの斧が突き刺さった装置と同じく火花を散らす。
それとともに、突如とし、これまでうねうねと、ロイド達を捕まえようとしてきていた機械の腕。
それらがくたり、と力をなくし、そのままその場から動かなくなってしまう。
「な、何!?」
それをみて驚愕したような声をあげているロディル。
「ふ…ふぇぇ!?な、なんかこわしちゃった!?」
あわてたように火花がちるそれをみて、そんなことをいっているコレット。
そんな中、一瞬、目を点にしたのち、
「あははは!コレットだ、これでこそコレットだよ!」
なぜかジーニアスがその目に涙をためて、目をこすりながらそんなことをいっているが。
「おお~。やるねぇ。コレットちゃん。
  けど、思ったとおり、コレットちゃんの声、かわいい声だな」
そんなコレットをみてゼロスがかるく口笛を吹いたのち、そんなことをいっているが。
そんなゼロスに対し、ゼロスの脇を軽くこづきつつ、
「ちょっかいだすんじゃないよ?それにしても、悪夢がよみがえるよ…」
それとなく忠告しているしいなの姿。
悪夢、というのが何を指すのかはエミルはよくわからないが。
何かコレットの行動でしいなは何かを経験しているらしい。
ゆえにしいなの台詞に首をかしげるエミル。
「とにかく。あいつをどうにかしないとね」
この場からコレットを連れ出すにしても、まずはあのロディルとかいう輩をどうにかするのが先。
しいなが懐から符を取り出そうとまさぐれば、かつん、と固いものにふとふれる。
「…あ、これ」
ふとそれが気になり、それを取り出すしいな。
それはここにくる前にエミルから渡された、何か砂のような何かが入っている小さな瓶。
砂、ということは目くらましにつかえるかも。
そうおもい、
「ていっ!」
砂による眼つぶし攻撃はある意味みずほの里のもにとっては日常的な行為。
それに何より、エミルが持たしてくれた品である。
どうみてもただの砂でしかないが、何かの効果があるのかもしれない。
そんなことをおもいつつ、
思いっきりコレットに手を伸ばそうとしているロディルにと、その小瓶を投げつける。
「おっと。こんな小瓶ごとき……何?」
投げつけられた小瓶を手におそらくは隠し持っていたのであろう。
鋭いツメのような何かでそれを切り裂ロディル。
それとともに中の砂がロディルの頭の上から降り注ぐ。
「…?」
目にはいれば目くらましにもなったはず、なのに。
しかし、なぜだろう。
なぜかその場に立ち止まり、固まっているようにみえるのは。
ロディルの困惑した様子に気づき、しいなが首をかしげるのと。
「あ。しいなさん。あれ投げたんだ。なら、早めにここから出たほうがいいかな?」
のんびりと、エミルがゆっくりとテネブラエに指示をだし、
ふわり、としいな達の真後ろにと着地してくる。
「エミル様。あれは……」
テネブラエもあれが何か、に気付いたのであろう。
何かいいたそうにエミルをみてくるが。
「うん。例のこたちだよ?ここに被害をださないようにはあれがうってつけだし」
さらり、とテネブラエの台詞を肯定するかのように笑みを浮かべるエミル。
「な…何ですか?!これはぁぁ!?」
直後、ロディルの何ともいえない叫びがコダマする。
砂が触れたその場所、一番始めに被害をこうむったのは、ロディルがかけている眼鏡。
一瞬のうちに、砂のような何か、が眼鏡を覆い尽くしたかとおもうと、
直後、ぼろり、と眼鏡はまるで朽ちた金属のごとくにもろくも崩れ去る。
そしてそれは、ロディルが身につけていた全ての金属において発生していき、
服を止めていたであろうベルトの金属なども。
さらにいえば、ロディルの足元にもなぜか砂がわさわさとすごい勢いで広がっていき、
彼の背後にある壁という壁に瞬く間にと広がってゆく。
それとともにぽろぽろと落ちてくる何か。
「…エミル。あんた、あたしに何をわたしたんだい?」
今さらではあるが、しいなが何となく嫌な予感がして問いかける。
その額には気のせいか、うっすらと汗がにじみ出ているが。
「え?ああ。しいなさんに渡したあの中には、ちょっとしたカビがはいってまして。
  あのこたちの食事は金属類、すなわち、鉱物なんですよね~」
さらり、と何やらとてつもないことをいっているような気がするのは、
しいなの気のせいか。
さらに詳しくいうならば、かれらには人工物のみ喰らうように、と指示をだしているがゆえ、
人の手が加わりしもの以外はまったく無害といってよい。
「あれらは瞬く間に金属類を喰らい尽くして、砂に変換していきますからね」
そんなエミルの台詞に追加説明をするかのように、テネブラエがそんなことをいってくるが。
「…砂?」
いわれてみれば、いつのまに、というべきか。
いつのまにか、砂らしきそれは、天井部分までおおっており、
たしからパラバラと何かが落ちて…
「うわ!?こ、これは!?」
まず始めに声をあげたのはリーガル。
リーガルの手につけていた手枷が天井から落ちてきた砂のように触れかかとおもうと、
直後、またたくまにその手枷が黄色くなっていき、
次の瞬間、ぼろり、とそれはもう跡かたもなくその場に崩れ去る。
ドシャ、とした小さな砂の塊がリーガルの足元に落ちているのがみてとれるが。
「あの子たち、食欲旺盛だから、そこにある全ての金属をことごとく食べるんですよね」
にっこりと、エミルが何でもないようにいっているが。
「…ちょっとまちなさい。エミル。今、あなた、何て?」
今、ミエルは絶対に聞き捨てならないことをいったとおもう。
全ての金属類。
たしかにそういった。
思わずはっと周囲の壁をみわたせば、いつのまにか壁全体が黄色くなっており、
…正確にいえば砂らしきものに覆い尽くされているのがみてとれる。
視界の先にあったはずの数々の機械類はいつのまにか砂に覆われており、
中にはすでに砂の塊の山と化して床に崩れ落ちているものすら。
今、彼らがいるのはあきらかに人がつくりし人工的な建物。
しかもこの設備は魔科学の技術を用い作られており、
普通に大地を切り開き、あなを彫り利用している場とはかなり異なる。
「って、うわ!?なななにこれぇ!?」
次に声をあげたのはマルタ。
手にしていたはずの武器がいつのまにかどしゃり、という音と共にその場に崩れ去る。
「み、皆急いでここからでなさい!でないと…砂の中に生き埋めになるわ!」
リフィルがはっとしたように思わず叫ぶ。
そして。
「エミル!あなた何ていうものをもっていたの!?あんなものきいたことすらないわよ!」
「え?普通にあのこたちは自然界にいますよ?」
「まあ、たしかに。あまり知られてはいないでしょうね。
  そもそもこのカビは、光りに弱いですし。光りにあたるとすぐに死に絶えてしまうので」
リフィルの叫びに対し、首をかしげるエミルにこれまたさらり、といっているテネブラエ。
「ま、ま・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
ドシャァァン。
『・・・・・・・・・・・』
追いかけよう、としたのであろう。
だがしかし、ロディルの背後にあった機械類。
それらが瞬く間に砂とかし、その砂はその重みにたえかね、
そのままロディルを巻き込むようにして崩れ去る。
ロイド達の視界の先で、ロディルを巻き込んだちょっとしたいくつもの砂の山が出来上がる。
その砂の山は次々と連鎖的にどんどんふえており、
天井から落ちてくる砂の数もまたどんどん増えていっている。
「…うわぁぁ。私のチャクラムまで砂になったよ~。ロイド」
「って、悠長にいってないで、うわ!あっちの天井が崩れるよ!?」
コレットが手にしていた武器もまた、もののみごとに砂と化して崩れさる。
ドシャァァァ。
ものすごい音とともに、天井が全て砂とかして崩れ去り、
それとともに、この場の上にあったであろう設備がこの場に崩れ落ちてくる。
強いていえば土台の力を失い、上にあった品々がこの場に落ちてきたといってよい。
ぽっかりと開いてみえるは、外の景色。
いつのまにか通路ぞいに広がっていっていたのであろう、ロイド達が入ってきた道。
そちらの壁というか通路そのものも黄色いに砂に覆われている。
いつ、完全に砂とかして、天井といわず壁そのものがなくなっても不思議でない状態。
「皆、急いで脱出するわよ!」
リフィルの声をうけ。
「脱出って、姉さん、どこからするのさ!」
「すくなくとも、建物の中にいたら、私たちまで砂の生き埋めになりかねないわ!」
目の前のロディルのように。
「うお!?俺様の武器まで砂になったぞ!?」
ゼロスが手にしていた短剣がぼろり、と砂とかして崩れ去る。
「エエエエエエミル!?これってどうなるの!?」
「え?ただ、この建物全部が砂になるだけだし。
  まあ、それまでに太陽がのぼったら死滅しちゃうから、全部とはいえないかもしれないけど」
「このカビは、光りがさしこまないじめじめした場所を好みますからねぇ」
「だぁぁ!悠長にいってるなぁ!と、とにかく!あっこから外にいこう!
  レアバードまで砂になったら脱出もできやしねえ!いくぞ!皆!」
ロイドの叫びにはっとしたような表情を浮かべるしいな達の姿がみてとれるが。
もっとも、レアバードが置かれている場所は普通の大地の上、なので。
胞子が飛んでいかないかぎり、レアバードが砂になるようなことはないのだが。
「でも、そういえば、何で服とかは無事なんだろ?」
「そりゃ、植物の繊維だし。あくまでもあのこたちが食べるのは植物とかでなく、鉱物類だけ、だからね」
嘘はいっていない。
そこに自らの命によって、喰らうのは人の手が加わりしもののみ、ということをいっていないだけ。
「って、悠長にいってないで、いそぐよ!」
しいなもさすがにこの状態に危機感を抱いた、らしい。
そもそも、この場所は建物のたしかかなり奥まった場所のはず。
カビ、とエミルがいうアレがどれほどの繁殖率をもっているのかはわからないが、
一気に壁が崩れたりしたのを視る限り、
ものすごい勢いで繁殖していく、というのには違いなさそうである。
そういえば、としいなはふと思い出す。
このカビのことは、みずほの里の文献にのっていたな、と。
一時これを武器として使用しようとしたが、逆に自分達の武器。
手裏剣そのほかもろもろまで砂とかし、さらには一粒でものこっていれば、
そのままそのカビはまたたくまに繁殖してしまう。と。
救いは草木等には影響をあたえないらしく、木でつくられし木造建築物などは被害がない。
ということ。
もっとも、それにクギなどがつかわれていればクギが砂と化してしまうが。
どこからともなく、どしゃどしゃと、砂が崩れ落ちる音が響いてくる。
解き放たれたカビの胞子は、またたくまにこの施設全体に、ほどよい具合に広がっていっているらしい。
日の出まではまだ大分時間がある。
まちがいなく、日の出まで全ての設備全てを喰らい尽くし、砂と化すであろう。
「って、レアバードにいったとして、僕ら、砂まみれなんだけど!?」
ジーニアスが叫ぶようにいう。
実際、天井から落ちてくる砂にまみれているのは事実。
もしもこの砂がレアバードにつけば?空を飛んでいるときに砂になってしまったら、
それこそ洒落にならない、とおもう。
「エミル。このカビ…信じられないけど。このカビは光に弱い、のよね?」
「あ。はい」
「なら、建物のそとにでたら、光り属性の術をつかって、
  私たちの体についているカビを死滅させましょう。それからでないと危険すぎるわ」
この会話ははしりながら。
背後ではどんどんと建物全体が崩れていっている音が聞こえてきている。
何やら中にいるのであろう人々の悲鳴らしきものもきこえているが。
「って、レネゲードの人達、大丈夫なのかな…」
マルタがふと呟くが。
「?別に砂に埋もれたからって死にはしないでしょ?」
「…窒息しなきゃね」
きょとん、として首をかしげるエミルに、しいながため息まじりにそんなことをいってくる。
実際、大量の砂に埋もれ、窒息しないか、といえば答えは否、であろう。
たかが砂、されど砂といったところか。
「…胸につけていた無線機も砂になって使いものにならないわ」
ふとリフィルが気付いたように、はっとして胸につけていたはずの預かった無線機。
それを手にとるが、ぼろり、と砂とかしてそれは瞬く間にと崩れ去る。
つまり、無線による連絡手段は断たれたといってよい。
「うわ!?腰にさげていた剣がくずれたぁぁ!?」
ロイドが何やら叫んでいるが。
みればロイドが腰にさしていた二本の剣。
それらが砂とかして崩れてしまったらしい。
すでに足元は砂の塊というよりは、砂地と化している。
どんどんと浸食するカビにより、施設内部全てが砂にと変化していき、
外にみえていたはずのあの塔のようなもの。
それすらも、音をたてて崩れていっているのがみてとれる。
ちなみに、これらのカビから守ろうとした場合、
守りたいものを繊維で包んでおけばよい。
すなわち、ポケットの中などにいれている品々にはカビの影響はまったくない。
ロイド達が必至に建物内部から脱出しようとしているそんな中。


「な…こ、これは!?」
異変に気付いたのはほぼ同時。
周囲の壁という壁があっというまに茶色に変化し、ぼろぼろと崩れ出す。
何のきなしに近くにある品に触れると、ぼろり、と砂にとなりてその物質は崩れゆく。
「まさか…なぜ、このカビがこんなところに!?」
記憶のかなたに思いだす。
かつて、シルヴァラントにて開発されていた魔導砲。
しかしマナを消費する兵器は自分達の首をもしめるのではないか、
そんな意見もあり、古い文献からこのカビのことを知り、
これを研究していたものたちがいたことを。
このカビは基本、暗くて、しかもじめじめしているところに生息している品。
実験的にこれを使用した街はもののみごとにその機能を停止した。
実用化しなかったのは、これを利用した側。
つまり、少しでもこれに触れてしまえば、何らかのきっかけで、
自分達にもその影響がでてしまい、それで崩れ落ちた研究施設は一つや二つではない、という。
たしか、動物などの巣にもそれらは生息しており、
たとえば人間達が入り込んだときに、武器をことごとく無効化する効果もあったとか。
「っ!ボータ!きこえるな!すぐに総員を退避させろ!
  茶色い色の砂のようなものにはふれるな!装備全てが砂と化すぞ!
  それと、レアバードをすぐさまにウィングパックに収容し、
  服の中、もしくは布か何かでつつんですぐに保護しろ!」
レアバードを守っている部隊にも素早く指示をだす。
万が一、ということもある。
移動手段が断たれてしまえば、レネゲード達はこの場に取り残されてしまう。
「これは、何なんだ?」
戸惑い気味なクラトスに対し、
「お前も覚えているだろう。これがかつてライナの街で使用された武器、だ」
「!?」
ライナの街。
それは一夜にして消えた街、として当時テセアラ側ではすわ、シルヴァラント側の新兵器か。
と大騒ぎになった街。
寝ていた人々は気付くことなく、気づけば荒野に放り出されていたらしい。
街並みは、木造建築以外はことごとく消えさっており、
街に植えられていた樹木達のみが何ごともなかったかのように荒野の中にそびえていたらしい。
クラトスも当時、まだ子供であったがその光景は目の当たりにしている。
一夜で消えた街、というので人手が少しでもほしい国は、
貴族院の学園に通う子供達にその後始末を課外授業と称して課していた。
もっとも、好奇心にかられ、そこにあった砂を持ち帰った子供が、
なぜか一夜にして家が消えた、という逸話があったりもしたことをクラトスは今さらながらに思いだす。
「いや。武器、というよりは、元々自然界にあった品、というべきか。これは、カビの一種だ」
「…カビ?」
カビ、とはあのカビ、だろうか。
クラトスがユアンの台詞に思わず眉をひそめるが。
「そうだ。そのカビだ。普通のカビなどとは違い、このカビが好むのは、どうやら無機物。
  …我らのつけているハイエクスフィアも危険かもしれないな。
  いや、マナの欠片を利用しているがゆえに我らの要の紋は問題ないだろうが……
  いや、そもそも、これは特別品とかかの精霊がいっていたが……」
普通の抑制鉱石ごときでつくられている要の紋くらいならば、簡単に崩れさる。
精霊石そのものにあのカビが効力を発揮するのかまではユアンも知らない。
「クラトス。ジャッジメントを」
「なぜだ?」
いきなり何をいいだすのだろうか。
この男は。
時折、突拍子もないことを言い出すのは長い付き合いであるからこそわかっているが。
「このカビの弱点はとてもたやすい。光りに弱い。光にあたると死滅する。
  お前のジャッジメントの光りとその攻撃によって開いたそこから我らも脱出なしければ…
  …我らもこのカビの餌食になりかねない、ということだ。
  わすれたか?我らは無機生命体化をしているのだぞ?」
「!?」
天使化、とはまさにそういうこと。
「お前とてカビの餌食にはなりたくないだろう。私とて嫌だ」
天使化しているものにこのカビがどこまで通用するのか。
その実験も行われていたらしい、が、その施設が崩壊してしまっていたがゆえ、
ユアンもその内情まではしらない。
それは当時、彼らがまだ国に所属していたころの記憶。
最も、彼らにはかつてラタトスクがかけている加護があるがゆえ、
カビの餌食になる、ということはありえない、のだが。
それを彼らがしるよしもない。
狭い空間でジャッジメントを放てばどうなるか。
クラトスとて理解しないわけではない。
しかし、ユアンの言葉を事実だといわんばかり、周囲の機械類がことごとく砂とかし崩れていっている。
床や壁などもいつのまにか茶色い砂?のような何かに覆われており、
…きのせいか、靴にもそれらがこびりついている。
「ここは一時休戦だ。…ロイド達が神子を救出できている、と期待するしかあるまい」
それはため息。
こうなった以上、彼らがどうなっているかわからない。
そもそも無線機で呼びかけても応答がない。
だとすれば、無線機が壊れたか、それとも答えられない状況なのか。
はたまた、このカビによって無線機が砂とかして使えなくなったか。
繁殖率がどの程度なのかユアンにはわからない。
わからないが、直感的にずっとここにいればまちがいなく、砂の生き埋めになり、
下手をすれば自分達の体ごとカビの餌食となりかねない、ということは理解ができる。
だからこそのユアンの提案。
すでにこの部屋にあった機械類全ては砂とかし、どうやら使い物にならなくなっているらしい。
ユアンの体を覆っていた鎧もまた、ドシャ、という音とともに砂となりて崩れゆく。
その下からは常にユアンがクルシスにて身につけている服がみてとれるが。
レネゲード達を逃がしたのち、自分がいかにもここに任務のためにやってきた。
とするためにあえてその下には服を着こんできていたらしい。
そもそもここ、テセアラはユアンの管轄地。
神子を連れてゆくのにユアンが同行しても何ら不思議ではない。
ここにいた理由のいいわけもすでにユアンは用意していたりする。
ロディルに不穏な動きを感知したゆえに、調べに早めに降りる。
そういい、クルシスの伝令兵につたえ、正式な転送装置を伝い地上に降りた、のだから。



pixv投稿日:2014年2月8日某日(Hp編集:2018年4月22日(日)

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あとがきもどき:

※参考WIkiより※地球内部の構造※
地球はいくつかの層から成っています。
地球の半径は約6400km
その表面は陸地では厚さ30km~60km以上
海洋地帯では10km以下の地殻で覆われている。
その下には、固い岩石の層があり、
この層と地殻を合わせてリソスフェアといい、。リソスフェアの厚さは150kmくらい。
リソスフェアは十数枚のプレートから成っている。
その下には、アセノスフェアという柔らかく多少流動性のある層があり、
※そのさらに下にはメソスフェアという固い層にての構成。
地下700~2900Km辺りにわたり位置する層。
(↑この部分に注目し、この物語の裏設定では、
  魔族達がこの部分にて暮らしている、ということにしてあります。
  つまり、その界目の部分をラタ様がマナで覆い、
  さらに扉を一か所設け、それがラタトスクの間の封印の扉、となっています)
地殻の下の層からメソスフェアまではマントルと呼ばれている。
地殻とは、地球の表面を覆っている層のこと
地殻の厚さは、大陸では普通30km以上
海洋では厚くても10kmほど
大陸の地殻の厚さは、地上の標高が高いほど厚くなる
大山脈や高原では、地殻の厚さは50~60kmにもなる
地球中心の核の部分に近しい部分は地核(高熱高圧)とよばれる。


一言:
あれ?デミテル?
はい。TOPにでてきたあのデミテル、ですよ~v
あのデミテルの説、いろいろあるんですよね。
元々魔族とか何だとか。
あのハーフエルフが魔科学を復活させたのも、魔族のそそのかし。
があったっぽいですし。
ハーフエルフの魔術師。というファンタジアさんの設定でしたが。
この話しでは、この時代というか、古代戦争時代に、
魔族と契約し、すでに不死の契約結んでいたりします。
ものすっごぉぉぉくどうでもいい設定ですが、
デミアン、はデミテルの双子の弟、という設定です。
弟のデミテルが過去、ラタ様に倒された(さすがにマナを叩きこまれたので完全消滅)
※(リヒターに取り憑いていた魔族の名、となっています)
その二の舞は踏まないように、いろいろと画策をあの後、していくことになり。
結果として、TOP時間軸において、
それらを隠してスカーレット夫妻に弟子入り、という形になってます。
あれ?不死の契約してるのに、なんでクレス達にたおされたの?
という理由は。
ダンジョン攻略していく中で、たまたまクレス達が契約の要としていた、
契約の石を破壊してたからですw
(あのダンジョン、いろいろと壊したりするものがありましたからねぇ)
TOP時間軸では、あと少しでマナを涸渇できて、
扉も消滅させられる、というので魔族が活気づいてたりするという。
もっとも、彼らはラタ様が力をそのとき蓄えていたことを知りません。
この話しではマーテルが盟約もちだしてきたので手だしできないので、
なら、せめて地上にみちかけている負を変換して、
力にして蓄えて、あるべきときに備えよう、としていたので。
もっとも、世界樹ユグドラシルの消滅&マーテルの消滅と同時に、星の意思もあいまって、
(ついでにマーテルや樹となっていたミトスの意思)過去に飛ばされてますけども。