まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

pivixさんに投稿していた話の区切りとは変えてあります。容量的に……

 ※ちょこっと一言※
リーガルなら絶対にやる、とおもって、猫の手宅配便、をいれました。
いや、肉級……参考にしたのはくろねこ宅急便(まて)
この話しにでてくる、
この猫の手宅配便の伝票はその横にぷにぶに感を追求したものがありますよv
いや、だってねぇ。ラタのスキットに、シンフォニアの肉級スキットvv

あと、念のためにこれも追記をば。
こちらの話しでのテセアラ最新栄のエレカーの高速移動船。
現代の船とほぼ性能を同じにしてあります。
んでもって、しいなたちが手にいれた船は普通につかわれている旅客船と同じスピード。
そんな感じにしておりますので、あしからず。
…テイルズシリーズって夜昼の変化がないから何日かかるかわからんいんですよね…

※裏設定※
本来、アステル達が世界気象の異常にきづき、ひたすら研究し始めた時期。
それと世界再生時の時間はほぼ重なっていました。
が、世界再生後にアステルは世界の異常気象の原因をつきとめるべく、
王立図書館の閲覧(城の中にある特殊な許可がいる場所)の閲覧が許可されます。
で、そこに納められている書物でラタトスク達のことをしりました。
(つまりは、世界再生後から二年後の異常気象によって閲覧許可がおりたともいう)
リストにはのっていないその書物には、
かなり古いものではあったにしろ、
精霊ラタトスク、それにセンチュリオン達のことものっていました。
そして、ラタトスクはギンヌンガ・ガップというところで眠っている。とも。
さらに、精霊でありながら魔物の王、という記載もみつけています。
彼にも盲点であった魔物を支配する精霊、という存在。
そして、エイト・センチュリオン。
八つの属性を司る、精霊ラタトスクに仕えし僕。
世界再生後にそれを実証するためにアステル&リヒターは旅にでました。
これが本来のかつてラタトスクがいた時間軸。
今回については、ラタトスクがとっとと覚醒。
しかも、ちょうどしいながシルヴァラントにむかうより少し前。
ラタトスクが覚醒し、かの地からでたことにより、その波動によってセンチュリオン達のコアが活性化。
すなわち、卵の状態から蛹状態、すなわちコアの手前状態にまでなってしまい。
世界各地で異常気象がおこりはじめます。
その異常の原因をつきとめるべく、アステル達は原因をさぐっていき、
精霊達に何か原因があるのでは、と王家の所蔵している書物の許可をもとめ、
そしてアステルはラタトスクのことを知っていたりします。
(つまり、本来より早くラタトスクのことにたどりついている)
みおぼえのない魔物達が出現したりした報告をうけ、
魔物を使役する精霊、もしくは魔物を支配下においているというセンチュリオン。
どちらかが覚醒したのではないか、という論文を提出。
その一部をアステルはリヒターを連れて外出し、リリーナに届けるために出かけています
↑ロイド達がメルトキオの精霊研究所に出向いたとき、
ちょうど今、ここになっています。
つまり、先にラタトスクが目覚め(しかも記憶もちの逆行&力も充実)していることにより、
そういったちょっとしたことも世界規模で歴史がかわっていっていたりします。
(参照:果てない思い下巻&希望をつぐもの:公式設定小説より)
そういえば、ふとおもったんですけど、
テイルズシリーズって誕生日公式設定がないんですよね…
月とかいう概念なんじゃなかったりして(まて
某小説とかじゃないけど、○○の季節、とかいう感じで。

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重なり合う協奏曲~精霊研究所とエレメンタルカー~

「しかし、排除的な村、だったわね」
「あの村長じゃしかたないよ。イセリアの村長とあれは同じ穴のむじなだね」
「え?イセリアの村長って、虫だったのか!?」
「むじなかぁ。むじなといえば、このあたりの森にも生息してるけど」
リフィルの台詞にジーニアスが首をすくめつついうと、驚いたようにロイドが何やらいってくる。
「エミル…あんた……」
「?」
ロイドの台詞に答えたエミルをみてしいながなぜかため息をついてくる。
どうしてため息をつかれるのかエミルにはその理由がわからない。
「もともと。オゼットっていう街は。
  何でも古代大戦のころからそこに生えている特殊な神木っていわれている木。
  それを伐採して生計を立てていた村っていわれてるからな。
  神木の希少性を重視して、たしか神木の苗木でも持ち出したりすれば、
  即、その一族郎党ごと追放、もしくは罪に問うんじゃなかったっけか?」
ゼロスが思い出すようにそんなことをいってくるが。
「神木。っていったい何なんだ?」
「古代大戦の影響、らしいっていわれてるけどな。
  このガオラキアの森のとある奥に毒の沼地とよばれている不毛の地があるのさ。
  そこに生えている特殊な樹のことさ。
  その樹を伐採するのは毒の沼地を超えた先にいかなきゃいけないっていう話しだぜ?
  たぶん、プレセアちゃんの血筋は毒に耐性でもあるんじゃねえか?
  それか小さいころから微量な毒で耐性を親につけられてたか。
  でないと、毒の沼地に入り込んだ途端、毒によって、ぽっくり・・ってね」
ゼロスがわざとなのか、首に手をあて交差するかのような格好をとり、
がくん、と少し舌をだして頭を後ろにとのぞける動作をしてくるが。
森の奥に進んでゆくたびに、道なき道となってくる。
「で、こっちで間違いないのかしら?」
「案内してくれてるから問題ないかと」
一行の前には、オゼットの村にたどりつくまで、
エミル達の前にて灯りの役目を担っていたパンプキンツリーが
あいかわらず灯りとそして道案内がてら先導していたりする。
「あ、もしかしてあのあたり?」
ふとジーニアスが視線の先に、それまで鬱蒼と茂っていた森でしかなかったというのに、
山の岩肌がせりたっているのにきづき、そんなことをいってくるが。
「まちがいないね。みずほの調べでは、アルテスタってやつは、
  山の岩肌の一角に、穴を掘って暮らしてるっていうし」
「そういや、親父も俺と暮らす前は洞窟暮らしだったっけ」
しいなの台詞にロイドがかつてのことを思い出し、そんなことをいってくる。
子供を育てるのに洞窟では情操教育にもよくないだろう、という理由から、
ダイクはロイドを拾ってからあの場に家を建てたらしい。
進んでゆくことしばし。
やがて森を南に抜けてゆくと、行き止まりにとたどり着く。
広場のように開けた土地を岸壁が取り囲み、
その岩肌の一部に横穴らしきものが掘られ扉が取り付けられているのがみてとれる。
「家を構えるにしてもお世辞にも適当な場所とはいえないわね」
いいつつも、
「でも、ドワーフは本来、洞窟に住まう種族、というもの。こういう場に彼らは元々住んでいたのかしら?」
何やら自分の思考の渦の中に沈みかけているリフィル。
「それより、そろそろ日も暮れかけてるし。とっとと用事をすまさないか?」
ゼロスの言葉をうけ、扉らしきものをノックする。
「ごめんくださ~い。誰かいませんか~?」
幾度もノックをしつつ、叫ぶロイド。
ややあって、ゆっくりと扉が内部に開き、
「どちらサマですか?」
さすがに幾度もロイドが怒鳴っていたからであろう。
恐る恐る、という感じで扉の隙間から顔をのぞけてくる。
「え?…マーテル…?」
思わずその姿をみてエミルがぽつり、とつぶやくが、
その呟きにきづきゼロスがびくりと反応し、おもわずエミルをみてくるが。
薄緑色の長い髪。
その髪を後ろでひとつにみつあみにし服と同じ色の頭かざりをつけている。
おもいっきり短い丈の短い服からは、その足が露出している。
そこに血が通っている気配はない。
一瞬、その姿に驚き、無意識のうちにエミルはつぶやくが、
よくよくみればマーテル、ではないのは明か。
マーテルによく似てはいるが。
が、このマナの在り様は、有機生命体ではない。
どちらかといえば、無機物。
すなわち機械。
そういえば、と思いだす。
デリス・カーラーンの制御を全て支配下において調べたあのとき。
クルシスが…ミトスが利用しているというメイン・コンビュータ。
そこから取り出した情報の一つにとあるものがあった。
それは、神子の器にかわる新たなるマーテルの器。
幾度目かの神子システムの廃止を訴えたらしい四大天使の意見に従い創られたという。
人の体による器の代替え策として四大天使のうちの一人の提案で開発されたらしい。
ユアンがマーテルの器を創ると了解するとはおもえない。
四大天使とよばれているものたちは、どうやらあのとき、共に旅をしていた彼ららしい。
ならば、消去法からしてそれを提案したのはクラトス、なのであろう。
エクスフィアなどを利用してつくられたというその器には、
かのデリス・カーラーンのクルシスが今使用しているコンピューターから読みとった情報には、
その器に人工知能を掲載した、という記述はなかったはず、だが。
たしか廃棄された、とあの情報ではなっていたとおもうのだが。
しかし、こうして今目の前で彼女が動いている、ということは。
誰かがその破棄した機体を回収し、人工的な知能をプログラミングしたということか。
みたかぎり、完全なる命という心が宿っている形跡はない。
もっとも、心が育ちかけているという感覚はあるにしろ。
このままではいずれ、その器を主体とし、新たな精霊の精神として、
この少女の自我は確固たるものに確定されるであろう。
もっともそれはかなりの長き年月を有するであろうが。
まさか、とおもう。
マーテルがあのとき、融合体として精神融合体の人工精霊となったであろうあのとき。
何か核となるものがあれば、その融合はいともたやすい。
エミルがこの彼女をどこでもみた記憶がない、ということは。
まさか、マーテルはこの子の器を…核とした?
その可能性は遥かに高い。
「あの。ここにドワーフが住んでいる、ときいたんですけど会えますか?」
エミルがそんなことを思っていると、ロイドが出てきたその少女に問いかける。
「マスターアルテスタへご面会でスネ。どうぞ」
ロイドの言葉をうけ、少女はその扉を開け放つ。
口調からしてどうやらまだ言葉を流暢に話すことはできない、らしい。
つまり登録されたままのことしかまだできない、ということか。
どうやらはいってもいい、ということ、らしい。
「マスター。オキャク様、です」
そのまま家の奥のほうにむかっていき、何やらそんなことをいっている声がきこえてくる。
「…なんじゃ?おまえたちは」
髪も口髭も真っ白なドワーフ。
親父とは違うタイプのドワーフだな。
ロイドはそんなことを思いつつ、
「俺。ロイドっていいます。エクスフィアのことで聞きたいことが……」
「出ていけ!タバサ!こんな奴らを家の中にいれるな!」
出ていけ、といわれ、はいそうですか、と納得できるロイドではない。
「話しをきいてくれ!俺達は……」
そのまま、ロイドはこれまでのことを語りだす。
シルヴァラントによる世界再生の旅。
封印解放の儀式のたびにコレットが人としての機能をうしなったこと。
そして、コレットはついに心すら失ってしまった、と。
それをいったとき、ぴくり、とアルテスタが体を震わせたのに気付いたのは、
リフィル、しいな、ゼロス、エミルの四人のみ。
「頼む!俺達に力をかしてくれ!」
いうなり、がばっとその場にて頭をさげ土下座をしているロイドであるが。
しかしそんなロイドの態度にも、
「…そんなこと、儂のしったことではない。帰れ」
淡々とロイドに言い放つが、その体が多少震えているのに気付いているのかいないのか。
「な…何でだよ!少しくらいみてくれたって…」
ロイドが頭をあげて、思わずさらに言いつのろうとするが、
「……コレット、だけではない。聞いたかぎり、あの少女、プレセアもまた、コレットと同じ症状。
  …天使疾患といったか?そうであるとみるべきだろう」
リーガルがロイドだけでは説明に拉致があかない、と判断したのか口をはさんでくる。
「プレセア…だと?か、かえれ!あの子のことはもうたくさんじゃ!でていってくれ!」
先ほどまでとは違う、あからかな反応。
これまで黙っていてもロイドの話しをきいていたようにみえた、というのに。
そして。
「おまえらが出ていかないなら、儂がでていく!」
いうなり、がたん、と机の上においてあったであろう作業道具を机の上から乱暴におとし、
そのままロイド達の横をすり抜け、やがてバタン、と扉のしまる音。
どうやら本当に家の外にでていってしまった、らしい。
「なんなんだよ!」
あまりにも一方的な態度。
黙って自分の話しをきいてくれた以上、すくなくとも好感触はあったというのに。
ゆえに苛立ちを隠しきれなかったのであろう。
ロイドが思わず叫びをあげる。
「スミマセン」
そんなアルテスタの行動にたいし、目の前の少女…タバサ、といったが。
タバサ、それはエルフの言葉で人形を指し示す言葉。
今の存在達が古代エルフ語、と認識している言葉のうちの一つ。
タバサは頭をふかぶかとさげ、
「マスターはプレセアさんにかかわるのをいやがっておられるのでス」
「そんなぁ!じゃあ、プレセアがしんじゃってもいいっていうの!」
「ソウではないのです。マスターは後悔しているのでス」
後悔。
それは、教皇の命令に従ってエンジェルス計画に加担している、ということだろう。
「だったら、プレセアを助けてよ!それにコレットも!
  二人とも、要の紋をどうにかすれば助かるんでしょう?」
マルタがその瞳に涙をためて、タバサに懇願するが。
「…それが本当に彼女のタメになるのか私にはわからないのデスガ」
「どうして!死ぬとわかっていて、
  あんなむごい暮らしまでしててそれがいいことなんかもんか」
きっぱりいいきるロイドに迷いはないが。
ロイドはそれがどういう意味をもっているのか判っているのだろうか。
否、絶対にわかっていない。
だからこそ。
「そう、かな?ロイドがいう基準は何?たとえば、今、あの子が心を取り戻したとして。
  父親があんな状況になっていないのに気付かなかった自分。
  そして、時においていかれている自分の現状。
  村の人達の態度。それらを受け止めきれる、とおもうの?」
「…え?」
エミルのその指摘についてはやはりまったく考えてすらいなかった、らしい。
その台詞に言葉につまっているロイド。
「…下手をすればお母様のように、心を閉ざすか、
  もしくは完全に心を壊してしまって廃人になる可能性がある。エミル。あなたはそういいたいのね?」
「ええ。可能性としては、ありえる、でしょう?」
「…そうね。お母様でも、お父様がなくなったあと、あのようになってしまってるのだもの」
エミルのいい分に、リフィルは納得するしかない。
否、納得せざるをえない。
母ですらそう、なのである。
まだ精神的に幼いであろうプレセアがそれを受け止めきれるか否か。
村人の話しから統合するに、プレセアが歳をとらなくなったのは、
一年や二年、そんな生優しい期間ではない、とリフィルは思っている。
それは直感。
リフィルも成人してから、歳をとるスピードがゆっくりとなった。
が、ジーニアスは日に日に成長していっている。
そして、今も。
子供の成長は早い。
が、その横にまったく成長しない子がいれば、それは。
それは、ハーフエルフ達が差別されている原因とまったくもって同じもの。
ヒトは異質なるものを認めようとせずに排除しようとする。
彼女が村人たちから排除されなかったのは、何か理由があるのであろうか。
それはリフィルにはわからない。
「それでも、俺はプレセアには死んでほしくない。
  そういうのを考えるのはプレセア、そしてコレットが普通に笑っていられるようになってからだ」
「それって、問題の先送りっていわない?」
「う、うるさいな!とにかく、俺はプレセアも、そしてコレットもたすける!」
エミルのいい分にロイドが顔を真赤にし怒鳴ってくるが。
そんな彼らのやり取りを眺めたのち、
「そこまでおっしゃるのなら抑制鉱石を探すとイイデス」
「プレセアの要の紋は抑制鉱石じゃないのか?」
「はい。あれは違うものでつくられていますので。
  また今度来てください。アルテスタ様を説得してみますから」
そこまでいってぺこり、と頭をさげてくる。
「これ以上ここにいても仕方ないね。外にいこっか」
しいながため息まじりにそういってくるが
たしかにしいなのいうとおり、だろう。
肝心の外にでていったアルテスタが戻ってこない以上、どうしようもできない。
ならば。
「先に材料を用意して、それからまたお願いにくるしかない…か。
  親父もきにいらない人には依頼をうけたりしないけど。
  きちんと自分で材料を全部そろえてもってきた依頼者は追い返したりしなかったし」
同じドワーフ、というのならばそのあたりの気質は受け継いでいるだろう。
ダイク曰く、材料をそろえてまで何もしないのは、材料への冒涜にあたる。
とのことらしい。
ダイクがいうには、それはドワーフにとっても常識だ、とまでいっていたはず。
そんなイセリアにいるダイクのことを思い出しながらもつぶやくロイドに。
「可能性としては、ある。わね。タバサさん、だったわね。お邪魔したわね」
「いえ、お役にたてずにすいません」
いって、ぺこり、と頭をさげてくる。
そんな彼女をその場にのこし、そのまま扉のほうへと歩きだすロイド達。


バタン。
扉が開かれる音。
「?あなたはソトにいかない、のですか?」
ふと、一行のうちの一人がまだ部屋の中にのこっているのにきづき、
タバサ、となのった少女が声をかけてくる。
「ねえ。君はしってる?…彼以外のドワーフがどこにいるのか」
「それは、クルシスにいる、ときいています。それが、何か?」
「なぜ、あの人はクルシスから?」
「マスターはクルシスから逃げ出した、ときいています」
「じゃあ、なぜ、またエンジェルス計画なんてものに加担を?」
それがきになる。
エミルの問いかけにしばし考えたのち、
「デリス・カーラーンからマスターが逃げ出した後、オゼットに身をよせていたのです。
  ディザイアンのロディルというものにつかまり、
  マスターは協力しなければ街の人々を殺す、と脅されました。それで計画に加担することになったのです」
「ロディル…か。奴の目的は、いったい……」
そんな誰にともなくつぶやくエミルの呟きに、
「マスターがいうには、クルシスにロディルは反旗を翻すため、
  魔導砲なるものを制御するためにハイエクスフィアが必要だとか」
「魔導砲!?…なるほど、それで、か」
どうりで納得がいくというもの。
だからあの海底の施設であの装置が建設されていた、のであろう。
「どうやら、クルシスとよばれし組織も一枚岩、ではなさそうですね」
「テネブラエか。まあユアンのやつが行動している以上、他にもそういう輩がいても不思議ではなかろう」
ふと真横に出現したテネブラエがそんなことをいってくる。
そんなテネブラエに対し、淡々とこたえるエミル。
「?」
タバサの気のせいだろうか。
さきほどまでこの目の前の少年は、緑の瞳をしていなかったか?
でも、今の少年の瞳は深紅に染まっている。
ゆえにタバサは首をかしげるが、そのような事象はタバサはプログラムされていない。
ゆえにその理由を推し量ることができない。
また、彼女はマナを感じることができない。
もしもここにアルテスタがいれば、ドワーフであるがゆえ、テネブラエのマナに気付いた、であろう。
ドワーフ達は産まれながら、本能的にセンチュリオンのマナには反応するように、
そのように生み出されている、のだから。


「抑制鉱石ってどこにあるの?」
ドワーフにあえばどうにかなる。
そう簡単に思っていただけに、マルタ達の落胆具合はかなりのもの。
どうやら彼らは無意識のうちにドワーフの技術をつかえば、
コレットもプレセアもすぐに元通りにすることができる、とおもっていたらしい。
扉をでて、少しあるいたその先。
開けた広場のようになっている場所にたたずみ首をかしげるマルタ。
「シルヴァラントならどこで採れるか俺もしってるんだけどな。
  わりぃ。さすがにこっち側まではわかんねえや」
シルヴァラントではダイクにつられ、材料を採掘にいくことがしばしばあった。
ゆえにどこにどんな品があるのか、というのをロイドは知っている。
こっそり、ダイクにかくれ、自分でみつけた鉱石などを森のある場所に隠していたりもする。
「先生のあの無駄におおいガラクタの中にはいってないか?」
「ガラクタ、とは何だ、ガラクタ、とは!」
リフィルがそんなロイドの台詞に反論する。
「・・・あたしからしてみれば、救いの塔にいくあのとき。リフィルに渡したあれがきになってるよ…」
さずかに荷物をもったまま救いの塔にいくわけにはいかない。
そうクラトスにいわれ、それでも納得しきれなかったリフィル。
ならば、という理由でしいなが自分がもっていた、
その内部に応急セットをいれていたウィングパックをリフィルに渡し、
そしてそれはそのままになっていたりする。
ゆえにあれだけ大量にあったリフィル曰く貴重な資料の数々は、
今はウィングパックの内部に納められ、ゆえにかさばってはいなかったりする。
もっとも、そのうちの一部はいまだにノイシュの体に括りつけられており、
リフィルが気になったときにすぐに取り出せるようになっていたりする、のだが。
村にはいるわけにはいかないので、村の外で待機していたノイシュだが、
いつもならば魔物をみておびえていたノイシュだというのに。
どうやらこちら側にきてその傾向はみられないとロイドは思う。
そもそも、道案内をしてきた魔物とともにノイシュはまっていたことから、
ノイシュの中で何か変化があったのかな?くらいにしかおもっていない。
「でも、抑制鉱石ってたしかどこででも採掘できなかった、よね。たしか」
ジーニアスもダイクからそのあたりのことは聞かされている。
これから抑制鉱石を手にいれるとしても、それはまるで雲をつかむような内容に思えてしまう。
ジーニアスの言葉をうけ、ロイド、マルタが同時にため息をつく。
そんな彼らの会話をしばし黙ってきいていたのか、
しばし顔を伏せていたリーガルがふと顔をあげ
「アルタミラからユミルの森へむけてななめに続く一連の鉱山地帯でとれる。…ときいた
  もしもプレセアに要の紋をつくってやるのなら協力させてほしい。私はおまえたちを鉱山に案内できる」
何か決意をしたような表情でそんなことをいってくる。
「というか、何だ?それ?地名いわれてもわかんねぇよ。
  というより、あんた、プレセアとどういう関係なんだ?」
こちら側の地名はまだロイドは完全に把握していない。
リフィルなどは、
「ああ。あの一帯のことね」
隅々まで地図をなめ回すようにみていたがゆえに簡単な地名は頭にすでに入っているらしく、
どこか納得したようにそんなことをつぶやいているが。
「そういや、先生。地図をよくみてたっけ」
ロイドが納得したようにぽつり、とつぶやくが。
「関係は…ない」
そんなロイドの問いには完結にこたえてくるリーガルの姿。
「そのわりにはずいぶんときにしているようね」
そんなリーガルの台詞にリフィルが探るような視線をむける。
絶対に何かある。
それは確信だが、すくなくともこの目の前の男性がどういう素性のものなのかリフィルはまだ知らない。
判っているのは、コレットを浚いにきたという教皇の手のものであった。
ということのみ。
「まあいいさ。今のところ不審なことはないんだし」
「こいつは捕虜なんだしね」
ロイドの言葉にジーニアスがとどめ、とばかりにいってくる。
たしかに捕虜として連れてゆくことを選んだのは自分達。
どうもロイドってそのこと忘れてるみたいだからこのあたりで念をおしとかないと。
それに、プレセアに近づこうとしているんだから、念には念をいれとかないと。
ジーニアスがそんなことを思いつつもいっているが。
「抑制鉱石はエクスフィア鉱山の比較的表層で採掘される。
  私が知っている鉱山はここから海を越えた南の大陸だ」
「海…また、海なのね……」
リーガルの台詞にうんざりしたようにつぶやくリフィル。
一方で、
「つまり、アルタミラがある方角ってことだな。
  いいよなぁ。アルタミラ。なあなあ。ついでにアルタミラによろうぜ!」
「馬鹿いってるんじゃいよ!あんなチャラチャラしたリゾート地により道してる暇なんかないよ。
  というか、足がないよ。足が。…仕方ない。
  メルトキオの精霊研究所にいってレアバードの燃料補給ができないか。
  それらを確認してみるべきだろうね。故障してるかもしれないしさ」
ゼロスの提案を一言の内に却下したのち、少し考えるようにしてしいながそんなことをいってくる。
「よし。じゃあ、結局どうすんだ?」
ロイドが首をかしげ、全員を見渡すが。
「リーガルのいうことが真実だとしても。この地図からして、リーガルがいうのはこのあたり、でしょう?
  今いる場所がここ、なのだとしたら。足は必ず必要よ。
  サイバックでレアバードを利用可能にできなかった以上、
  たしかに、その首都にあるという精霊研究所?だったかしら。
  いってみる価値はあるかもしれないわね」
懐からテセアラの地図をとりだし、地図とにらめっこをしつつもつぶやくリフィル。
「でもさ。いくらレアバードを修理、もしくは燃料補給したとして。あの数で足りる、かな?
  ここにくるまでもいつぱいいっぱいだったんだよ?」
この地にやってくるまで、それでもぎりぎりの台数だった。
そんなジーニアスの至極もっともな呟きに、
「たりない。かもしれないわね」
リフィルもまたしばし考え込んでしまう。
「そのあたりは、メルトキオにいるあたしの仲間なら…とにかく、メルトキオに戻ろう」
しいながそういうのとほぼ同時。
「あれ?皆?」
「あ。エミル。まだ家の中にいたの?」
いまだに家の中にいたらしきエミルが扉からでてきて、
いまだに立ち止まって相談していたマルタ達と合流する。
エミルにきづき、といかけるマルタに対し、
「うん。ちょっとね。それより、これからどうするんですか?」
「メルトキオに戻ることになったよ」
「それより、もう完全に夜は更けてるけど……」
アルテスタに説明している間にどうやら完全に日は暮れてしまったらしい。
「彼がとめてくれる…とはおもえないわね。
  仕方ないわ。森が近いけども野宿をして、それから明日にそなえ……」
リフィルがそういいかけると、
「メルトキオにいくなら、レティスかラティスにでもたのみましょうか?」
「お!その手があったか!たのむ!」
「ちょっとまちなよ!ロイド!
  いくら何でもあのシムルグをほいほいと使ってたら。それこそ大問題になるよ!」
エミルの提案にすかさずロイドが同意を示し、
はっと顔色をかえ、そんなロイドをいさめるジーニアス。
「…でもまあ、今さら、なんじゃないかい?
  リフィル達をたすけるのに、あれにエミルのやつのってたんだろ?」
「ええ。そうね。でも、たしかに一理あるかもしれないわね。今はもう夜だもの。
  下手に昼間に移動するよりは、闇夜だとまだ騒ぎが大きくならないですむかもしれないわ」
「おいおい。おまえら、何冗談いって……」
彼らの会話の意味はゼロスにはわからない。
ゆえに、ゼロスがいいかけるが。
「それじゃ、善は急げ、ですし。呼びますね。――こい」
そういうとともに手をつき上げる。
エミルのその動作に従い、暗闇でしかない夜空の闇の中。
青く光る魔方陣が出現する。


「…おいおい。ありゃ、まじかよ?」
高い鳥のいななき。
すでに夜であるがゆえ、その姿ははっきりとは普通はわからない。
が、無意識のうちにそちらを凝視したゼロスにはその巨体の優美な姿を、その視界にて捉えている。
ゆえに思わず唖然とした声をだす。
「エミル。ここってあの鳥さんがおりてくる場所がないんじゃないの?」
たしかにここは、ラティスが降りてこられるほどに開けているわけではない。
「前みたいにじゃあ、体を小さくしてもらって、それから皆もミニマムサイズになる、とか」
以前にやった方法。
そんな会話をききつつ、
「おい。しいな、おまえ、シルヴァラントでいったいどんな旅をしてたんだ?」
唖然としつつも、横にいるしいなにとといかけているゼロス。
「…聞かないどくれ。この子、エミルに関しては私もよくいまだにわかってないんだからさ」
「あれってあの特徴からどうみても絵本や経典にでてくるマーテル様に使えし聖なる鳥。
  シムルグだろ?エミル君って、マーテル様の関係者?」
「また、それ?あの子達はそんな人に仕えたことなんてないっていうのに」
ゼロスの台詞に思いっきりため息をつき言い放ち、そして。
「ラティスで移動したら、すぐに海くらいは超えられますし。それで、どうします?」
その言葉の意味を正確に捕らえたのであろう。
「そうね」
リフィルが呟く間にも、上空を旋回していたシムルグは、やがて目の前にと降り立ってくる。
その途中、その体が光につつまれ、かつてのよう。
すなわちまだクラトスと旅をしていた最中。
再生の旅の途中でみた光景と同じようにその巨体の大きさをかえ、
やがて、エミル達がいる少し先。
開けている大地にと降り立ってくる。
「…さすがは伝説の鳥ってか?大きさが自由自在に変化って……」
それをみてぽつり、としいながつぶやけば。
「あら。しいなはこれはしらなかったかしら?」
「しらないよ」
「そういえば。姉さん。あのときはまだ、しいなは一緒に行動してなかったし」
「たしか。初めてソダ島ってとこにいったときにこいつで移動したんだよなぁ」
しいながいい、ジーニアスが首をすくめていいはなち、ロイドが思いだしたようにいってくる。
「結局。あのソダ島にいってもスピリチュア像はみつからなかったんだよね」
「そうそう」
ジーニアスとロイドが何やらそんな会話をしているが。
「…おまえら、本気であっちでどんな旅をしてたんだよ」
あきれたようなゼロスの台詞は、まさにその心情を示しているといってよい。
目の前にみえる鳥はあきらかに、マーテル教の経典に記されている、
女神マーテルに仕えている、という聖なる鳥の特徴そのもの。
だとすれば、こいつもクルシスの関係者か?
そうおもい、しみじみとエミルをゼロスはみるが。
「まったく。なんで勝手に人間達がこのこを宗教に利用してるのか。
  僕からしてみれば呆れる以外の何ものでもないけどね」
そんなゼロスの視線にきづき、首をすくめきっぱりといいきるエミル。
「私が以前、ファイドラ様からお聞きしていたのは。
  神託をうける聖堂にマーテル様の言葉をつたえるため、
  女神マーテル様が神鳥をつかわしてくれている、ときいていたのだけどね」
ため息まじりのリフィルの台詞に。
「こっちにはそういうのはないなぁ。あるとすれば、
  毎年行われる再生の儀式にて最後に訪れる救いの塔における様々な伝承くらいか?」
実際、毎年行われる儀式にて、ゼロスは毎年、救いの塔の中にはいっている。
もっとも、ゼロスが救いの塔の封印を解き放つと同時。
光とともに声が降り注ぐ。
そんな形式的な儀式、でしかないにしろ。
つまり、完全に内部にまではゼロスもいまだはいったことすらない。
「前やった方法だけど。ロイドがもってるソーサラーリング。
  その属性を小さくするものに変えてさえしまえば、このまま皆のれるとおもうけど」
実際その方法は、かつて救いの小屋からでてソダ島に向かうまでにとった方法。
「ええ?これ今、光りがでて面白いのにか?」
ロイドが少し不満そうにいうが。
「仕方ないわ。どちらにしてもまたここにもどってくることになるのだもの。エミル。お願いしてもいいかしら?」
「わかりました。ラティス」
「お任せを。そこな人間。こちらに」
「あ、ああ」
以前にもやったことがあるので、どうなるのかはロイドは知っている。
鳥の目の前にまで歩んでいったロイドが手をかざすと、
シムルグのラティスが何か一声鳴くとともに、淡くロイドの手にしているソーサラーリングが輝きを増す。
シムルグのもつ力により、その力の方向性を変えただけ、なのだが。
「うお!?あの鳥、話せるのか!?」
それをみて驚きの声をあげているゼロスの姿。
「まあ、普通は驚くよね。僕らも初めてあの鳥みたときそうだったもん」
少し前の出来事のはず、なのに。
なぜだろう。
かなり昔の出来事のように感じられるのは。
そんなことを思いつつ、ジーニアスが思わず遠い目をしながらもぽつり、とつぶやく。
「上空に移動したら、以前のように、この子の大きさを元にもどしてもらいますから。
  小さくなる効果が切れても何の問題はないとおもいますよ」
以前のときにもその方法をとっている。
ゆえにリフィルとしても苦笑せざるをえない。
「というか、あんたら、そういう理由でこれでのってったのかい?
  あんたたちがソダ島ってところにいったとき。
  救いの小屋とかで旅業ってやつらが、神鳥の姿をみたって大騒ぎになってたのにさ」
しいながそのときのことを思いだし、首をすくめていってくる。
あのとき、彼らが移動したのは、今のような夜ではなかった。
ゆえに、その優美なる姿は幾人もの人々に目撃されていたりする。
「んじゃ、やるぞ~!これ、前にもやったけど、なんか面白いんだよな~」
属性が変更した、と確信し、嬉々としてこちらに戻ってきていっているロイド。
「よっしゃ!まずは先にノイシュからだ!」
「きゅわんっ!?」
じりじりとよってゆくロイドの姿に思わずあとずさっているノイシュ。
「そういえばノイシュが小さくなったあのとき。かわいかったよね」
「おう!何とノイシュの手平バージョン!」
「たしかに。愛玩動物以外の何ものでもなかったわね」
「きゅわわわぁぁっん」
――王、助けてくださいぃっ。
何かそんなことをノイシュが叫んでいるようだが。
「どっちにしても。ノイシュだけでなくロイド達も小さくなるんだよ?」
「「「あ」」」
ため息とともにつぶやくエミルの台詞に同時につぶやくロイド、ジーニアス、リフィルの三人。
「ま、いいけどね。じゃ、いこっか。
   僕は前みたいに皆がばらばらにならないように、皆をつれてラティスに乗り込むね」
いいつつも、どこからともなくちょっとした大きめの風呂敷包みを取り出すエミル。
「…そういえば、前のときもそう、だったわね」
リフィルがあのときのことを思いしたのか何やらため息をついているが。
「だから、おまえさんたち、いったいどんな旅をしてきたんだ?」
そんな彼らの様子をみて、しみじみといっているゼロスに。
「ほう。人を小さくする力。か。それが誰にでもつかえれば、今問題となっている……
  …いや、今の私には関係ないか。いやでも……」
リーガルがそれをみて何やらそんなことをつぶやいているが。
「いや。そうでもないぜ?こんな小さい状態なら、女の子に気づかれずに除き放題。
  誰にもばれずにあ~んなことやこんなことまで、したいほうだ…」
ぼががっ。
「このアホミコ!なぐるよ!」
「いってぇ!なぐることないだろうが!しいな!」
「あんたは本当にやりかねないからね!というか、あんただってもってるだろう!ソーサラーリング!
  神子がもつ三種の神器の一つなんだからね!」
「おお。そういえば。でも今は俺様もってないぜ?」
「…そういや、あんた、輝石だけでなく指輪もセレスに渡してたっけ」
「そういうこと」
「つくづくそれでよかったとおもうよ。あんたが指輪もってたら絶対にロクなことしないからね。
  この小さくなる力の場。メルトキオの地下にもあるって話しだし」
「おお!それはいいことをきいた!」
「しまった!いうんじゃなかった!」
何やら漫才のようなことを、体が小さくなったのち繰り広げているしいなとゼロス。
「とにかく。皆、この風呂敷の上にきてね。皆のったらラティスで移動するよ」
「おう」
「あ、うん」
「「わかった(わ)」」
「「はいはいっと」」
「…ふっ」
エミルの台詞に、ロイド、ジーニアス、そしてリフィルとマルタ。
しいなとゼロス、リーガルが答え、それぞれが風呂敷の上にと移動する。
そのまま風呂敷をもち、
「じゃ、お願いね。ラティス」
「お任せを」
いいつつも、バサリ、とその場を飛び立ってゆくラティスの姿。
しばしその飛び去った後を残されたここまで道案内をしていた魔物がしばし、
じっと見あげて見送る様子がみてとれるが、やがてそのまま彼もまた、森の中にと消えてゆく。


 ~スキット~ガオラキアの森のアルテスタの家からメルトキオにいくまでの空中にて~

ジーニアス「あれ?ねえ。あの暗い中に光の筋があるのは、何?」
眼下にみえるは、真っ暗なおそらくは海。
その海に一筋の光りらしきものがみてとれる。
エミル「あの橋とかいうやつじゃないの?」
リフィル「あのグランテセアラブリッジとかいう橋ね。
      ほんとうに見事な技術よね。あれだけの建造物はシルヴァラントではつくれないわ」
しいな「ああ。たしかに、大陸同士を光の筋が結んでるってことは。
     まちがいなく、グランテセアラブリッジ、だろうね。
     へえ。あの橋、空からみたらこうみえるんだ」
ゼロス「あんたら、これに動じてないんだな。しいなまで感心することが違うっしょ。
     まっ、それはともかくとて。そ~でしょ、そ~でしょ。
     あいつはな。テセアラでも有名な三公爵の一人。
     ブライアン公爵が傘下の会社に作らせた橋なんだ」
リフィル「人の手につくられたというのが興味深いわ。設計図がみてみたいわ」
ゼロス「アルタミラって街に建設を請け負ったレザレノ社の本社があるぜ。
     そこにいけばみられるんじゃないか?」
リーガル「かの本社のロビーにグランテセアラブリッジの模型がある」
ロイド「模型?あんなでっかいものをか?」
ジーニアス「ロイド、何馬鹿なことをいってるのさ。たぶん、縮小模型でしょ」
リフィル「興味深いわ。レザレノ社、ね」
リーガル「うむ。ちなみに社のコンセプとはゆりかごから墓場まで、となっている」
ロイド「墓場!?」
ゼロス「…あんたくわしいなぁ。まてよ?あんたの名って、たしかリー……」
リーガル「ここ、テセアラに住むものでレザレノを知らないものはいないからな」
しいな「たしかにねぇ。…へんなもんまでも開発してるらしいし。
     あのくっさい香水とか。販売停止になってくれてあれはたすかったよ」
リフィル「アルタミラ…ああ、いってみたい!」
ゼロス「おお。リフィル様、いいこというね!じゃあ、このまま、この鳥で。めくるめく海の楽園、アルタミラへ!」
ロイド「ダメだぞ!よりみち禁止!」
ジーニアス「…いつもと反対だね」
リーガル「…ふっ」
ジーニアス「でもさ。僕おもったんだけど。
       このままこの鳥でずっと移動すれば移動手段楽なんじゃない?」
リフィル「いえ。以前にもいったけど、それはいい方法ではないとおもうわ。
      どうやらゼロスの反応からして、シムルグはこちらでも有名みたいだもの。
      滅多なことがない以上、エミルにも自粛してもらいましょう」
エミル「え?僕はまあリフィルさん達がいうならそれでもいいですけど…
     でも、移動手段、他に確保できるんですか?
     何ならこの子達以外、飛竜とかでも呼べますけど」
リフィル「だから、自粛してちょうだい。あなたのその力。
      魔物に何も見返りをもたせずにいうことを聞かせられる力なんて。
      国なんて組織にみつかったら大変なことになるわ」
ゼロス「だから、このエミル君っていたい……魔物を使役…ねぇ」


※ ※ ※ ※


メルトキオの城門。
いつにもまして警備の数がものものしい。
「…何だ?」
「あ…あれは……」
闇夜に浮かぶ巨大な鳥の影。
見張りにたっていた兵士達がその姿をみとめ、思わず叫ぶ。
思いだすは、先日、テセアラブリッジからもどってきた一部のものたちの証言。
神鳥シムルグらしきものをみた。

「まさか……」
誰ともなく乾いた声がつむがれる。
今現在、教皇の命により、神子とその一行に賞金首として手配がかかっている。
その手配にまるで符合したかのような神鳥の出現。
伝説ではこうある。
”天が神子を身守りしとき、女神は神鳥をつかわさん”と。
すなわち、それは…
「ぐ、偶然。さ、そう、偶然…教皇様がいうことは、絶対…」
よもや、マーテル教の最高責任者が間違ったことをするはずがない。
そう思うのだが、何だろう。
この漠然とした不安は。
そんな彼らの耳に、間違えようのない、甲高い鳥の鳴き声のようなものが聴こえてくる。
「ひ…ひぃぃっ」
「う、うろたえるな!」
腰がぬけかける兵士達に、声を震わせつつも何やらさけぶ別の兵士の姿。
やがて、いまだに混乱が収まりきらないそんな中。
「だ…だれか…きます」
道の先にいくつかの人影をみつめ、見張りの兵士が思わず叫ぶ。
あわててそちらの方向に遠視眼鏡を使い、確認することしばし。
「あ、あれは、み…神子様です。神子様が戻られた模様です!」
ざわり、とした兵士達の動揺。
先ほどみえた巨大なる鳥の影。
そして鳥の鳴き声。
そして、それに合わすかのように戻ってきた神子ゼロス。
やがて近づく彼らの姿は兵士の誰の目にもあきらかとなってゆく。
神子ゼロスの姿を知らないものなど、ここメルトキオには存在していない。
「よう。お勤め、ごくろうさん」
いつもの口調でかるく手をあげてそんな兵士達にと挨拶しているゼロスの姿。
そしてまた。
「?なんか異様に警備が激しくないかい?」
周囲をきょろきょろと見回ししいながつぶやくが。
「み……神子様、誠に恐れいりますがここをお通しするわけにはいかないのです。
  誠に畏れ多いとしかいいようがないのですが、
  神子様とそのお仲間達は教皇様の手により賞金首、として手配されております」
「が、わ、私どもは決して神子様にあだ名そうとはおもっていませんので!」
見張りの兵士、なのであろう。
もうそれは気の毒、というくらいに涙交じりの声をあげ、
いきなりがばり、とその場に頭をつけ・・・すなわち土下座をしてそんなことをいってくる兵士たち。
ざっとみれば、周囲にいる兵士達も同じような格好をしているのがみてとれる。
「私どもは神子様をこれっぽっちも疑っておりません。が、教皇様の命は絶対で…申し訳……」
「ああ。またあの狒々爺のさしがね。か。陛下は?」
兵士が言葉を紡ぐ台詞を遮って、そんな兵士達にと問いかけているゼロス。
「それが…何ともおっしゃってはいられない、とのことです」
実際は、神子と教皇の争いにかかわりあいにはなりたくない。
ほうっておけ、と国王自らが命じてしまったがゆえにこのような状況にとなっている。
「神子様をお迎えしたいのは山々なのですが。それをしましたら、まちがいなく…」
「わかってるわかってる。あの狒々爺は罪をでっちあげてでも。
  おまえらのような兵士くらいは簡単に処刑とかいいかねないしな。
  が、俺様が勝手に中にはいるのには問題ないだろ?」
実際にこれまで、かの教皇はそういう手段をもちい行動してきているときく。
かの人物が教皇の地位についたのは今から二十年と少し前のこと。
「しかし、教皇騎士団が常にこの扉の後ろでは待機して……」
ゼロスのいい分に、しどろもどろになりつつも、そんなことをいってくる。
「用意周到ってか。まあいいさ。街の中、までは?」
「街の中は問題ありません。そもそも、教皇が神子の手配をかけた、としりまして。
  街の人々は困惑しています。かつてのような悲劇がまた繰り返されるのでは、と」
中にはそれをうけ、教皇を罷免しろ!という声すら一部の貴族の間ではあがっている。
街の人々の中も言葉にはしないが、理由が教皇、としったものたちからは、
教皇を追放しなければ、伝説の悲劇が繰り返されるのでは?
とそれぞれ恐怖におののいている今現在。
兵士達はそれをしっていても、どうにもできない。
彼らは教皇の命に逆らうことは許されない。
それをすればそく、反逆罪にとわれ、一族もろとも処刑台の露とかしてしまうであろう。
「んじゃまあ。これから俺達がすることは、おまえたちはみなかった、いいな?」
「「ははっ!神子様、本当におきをつけて!」」
一言一句まちがいなく、その場にいる兵士達がゼロスに向かって頭をさげてくる。
「うわ。…ゼロスって……」
「こういうのをみたら、こいつも神子なんだって実感するんだけどねぇ」
それをみて思わず一歩さがってつぶやくロイドに、ため息とともにそんなことをいっているしいな。
「それで?神子よ?その方法、とは、いったい?」
リーガルの問いかけに、
「まあまあ。あせるなって。リーガルさんよぉ。
  というか野郎どもはどうでもいいんだけどな。かわいいハニー達の為に。
  俺様がとっておきの特別な入口をおしえてやるよ。ついてきな」
いいつつも、ゼロスは城壁にそって歩きだす。
そんなゼロスの言葉に首をかしげつつ、今はとにかくゼロスに従うしかない。
とばかりにそんなゼロスの後についていくロイド達。

ゼロスのあとにつづき、城壁の周囲に茂る草地を歩いてゆくことしばし。
やがてどこからともなく水の流れる音がきこえてくる。
「こっちだ。ほい、ここ」
いいつつも、ゼロスは一段吐くくなっている石畳みにひらり、と飛び降りる。
「うわ。ここ、何?」
ちょっとした異臭が立ち込める。
異臭といってもどちらかといえば泥のような匂い。
メルトキオの人々には異臭ととらえられるか、シルヴァラントのものはそうではない。
「あら、はすでんのような匂いがしてるわね」
リフィルが興味ふかそうにいい、しばし考えたのち。
「もしかして、ここは下水、かしら?」
シルヴァラントではあまり普及していない下水設備。
しかしこれだけ設備がととのっているテセアラならば、
街などにそういったものが整備されていても何ら不思議ではない。
城壁にぽっかりとあいている丸い穴は薄暗いトンネルへの入口となっている。
入口にあたるのであろう、そこにつけられているはずの柵は、
ちょうど部分的に壊されており、ちょうど人が一人出入りできるか否か。
それくらいの空間にとなっている。
ノイシュの姿はたしかに目立つ。
という理由から、ノイシュはいまだにその体を小さくさせたまま。
エミルがその胸にとあるポケットにすっぽりと入れて保護していたりする。
ロイドが自分がもつ、といったのだが、
ジーニアス、リフィルが同時に、ロイドは下手をしたらノイシュをつぶしかねない。
という意見をいい、結果としてエミルがノイシュを持つということで話しはまとまっている。
「さっすがリフィル様。その通りさ。ここから街の汚染水を外に流してるんだ」
リフィルの台詞にいかにもそのとおり、とゼロスがうなづき説明してくる。
「よくこんな侵入口を思いついたな。汚水って…きたね~水のことだろ?」
「ロイド、それ説明になってないから。というか言葉のまんまだから」
ロイドの台詞にジーニアスが呆れたように突っ込みをいれているが。
「たしかに。綺麗ではなさそうだけども。それほど汚れてもいないようだけど」
「ああ。それはな。レザレノ社が今開発中の土嚢浄化ってやつをここで実験してるからじゃねえか?
  何でも土嚢の中にいくつかの種類の土とか砂利とかをいれて、
  交互に水を通すことによって、汚れを取り除くとかいう……」
ゼロスの言葉に続き、
「うむ。小石、小砂利、砂、木炭、目の細かい砂、麻などの腐らない繊維。
  それらが入った土嚢袋を下水道の中の水の流れ部分に設置し配置している、ときく」
「なるほど。それはたしかに水の浄化する過程でシルヴァラントでも取られている方法ね」
リーガルの言葉にうなづくようにつぶやくリフィルに。
「…普通はそこまで、一般人には知られてないはずなんだけどなぁ。リーガルさんよ」
「・・・・・・・・・・・・」
ゼロスの意味を含んだ問いかけにリーガルは再び黙りこんでしまう。
「はぁ。だんまりか。まあいいさ。とにかく、そういうこった」
「でも、何でゼロスはこんな入口しってたの?」
マルタが気になるらしく、改めてゼロスに問いかけているが。
「メルトキオの入口の城門は夜になると閉鎖されるんでね。よくここから家にかえってるんだよ。
  ちなみに一部の貴族連中にしろ、一般人にしろ、暗黙の了解ってやつだな」
ゼロスのいい分に、ため息をついているしいな。
「?何で夜までにかえらないの?門限があるんでしょ?
  うちは門限やぶったら、ママがすごく怖いけどな」
「ん~。おしえてほしければ、今晩ご教授するけど……」
ぼかかっ。
「ってぇ!何すんだよ!って今度はリフィル様までぇぇ!」
握りこぶしをつくりだし、おもいっきりその手に息をふきつけ、
同時にゼロスにたたき込んでいるしいなとリフィル。
「あんたは!マルタにまで手をだそうとするんじゃない!」
「冗談にしても限度というものがあってことよ?」
ゼロスに詰め寄るように言い放つしいなとゼロス。
「?何でリフィルさんもしいなも怒ってるの?」
「さあ?」
マルタの疑問はエミルにもわからない。
「わかった。きっと腹がへったんだ。ほら、なんかお腹すいたら怒りっぽくなるだろ?」
「それはロイドくらいじゃあ……」
「何ならここにくるときにもらったこの木の実、たべる?」
「うえ!?何、エミル。その不気味な色の木の実は!?」
エミルがとりだした木の実をみて、おもわず一歩さがるマルタ。
「お。オークロットの実だな。それ、うまいんだよなぁ」
「たしかに。不気味な色のわりにこれっておいしいよね」
エミルから木の実をうけとり、慣れた手つきで、少し分厚い皮をむきだすロイドとジーニアス。
「やれやれ、お子様たちは色気より食い気ってか?」
そんな彼らをみてゼロスが首をすくめつついってくるが。
「ま、とりあえずいこうぜ」
「念のために警戒はしておいたほうがいいわね。
  城門は固められていたし。こちらの道が暗黙の了解で知っている人が多いのなら。
  この中に敵が待ち構えている、という可能性はすてきれないもの」
「へほいふしははい」
「…ロイド。せめて口の中の実を食べ終わってから口にしなよ」
でもいくしかない。といいたかったのだろうが。
その口にさきほどエミルからもらった木の実をおもいっきりほうばりながらいっては、
緊張感の欠片もない。
「うむ。何かをたべつつものをいうのは感心しないな」
「や~い、エミルやリーガルにまでいわれてやんの。ロイドったら」
「う、ふるへ~!」
ジーニアスがそんなロイドに何やらいっているが。
いまだに口に含んだまま、そんなジーニアスに言い返しているロイド。
「はいはい。どうでもいいけど、さっさと飲みこんでしまいなさい。まったく」
もごもごといまだに口を動かしているロイドをみて、こめかみに手をあてながらもいっているリフィル。
「そういえば、ゼロス。この下水道は出口は一か所だけ、なのかしら?」
「さあな。いくつかあるらしいけど、俺様がつかってたのは一か所だけだしな」
「そう。とにかくいきましょう」
「あ、まってくれ~」
ようやく口の中のものを飲みこんだらしく、ロイドがあわてて、
先に下水道の中にきえたリフィル達をおいかけて走ってゆく。
「…もしかして、おまえがロイドをほっとけないのは、あれでか?
  …たしかにほっといたら何をしでかすかわからない人種ではありそうだが」
「きゅうう…」
胸にいるノイシュに問いかけると、素直にうなだれるノイシュの姿がみてとれるが。
どうやらノイシュが自然に戻らないのはロイドの今後が心配ゆえ、でもあるらしい。
「…情がわいたか。でもそれは…きついぞ?」
プロトゾーンと人間の命の差。
それは彼とてわかっているであろうに。
長く傍にいればいるほど情がわき、別れがつらくなってしまう。
だからこそあまり、彼らは人間にかかわることをよしとしていなかった、のだが。
「お~い、エミル。何してんだ。おいてくぞ~!」
奥のほうからエミルをよぶロイドの声。
「まあいい。いくぞ」
そのままロイド達をおいかけるように、エミルもまた、下水道の中に身を躍らせてゆく。


下水道は地下へと続いているらしく、しずかに水を湛えている。
汚水の流れとは別に通路が確保されているのは、定期的にメンテナンスを施すため、なのであろう。
規則的な機械音が響いてくるが、ゼロス曰く、
この地下にはゴミ処理の設備もあるらしく、おそらくはその音であろう、とはリフィルの談。
ところどころ土嚢らしきものが積み上げられており、
その一か所につき一つの材質がはいったものが積み上げられている。
それが定期的に幾度も川の流れに沿うようにおかれているのがみてとれるが。
どうやら、定期的な距離をたもちつつ、
それぞれ、先ほどリーガルのいったように
【小石】【小砂利】【砂】【木炭】【目の細かい砂】【麻】
土嚢の中にはそれぞれ一種類づつ、それらの品々が入れられている。
その土嚢を通過することにより、
ここに流れている水の汚れを簡易的に浄化する実験がこの場で行われているらしい。

薄暗い道を歩いてゆくことしばし。
「な、何だぁ!?」
突如として上のほう。
トンネルの上部分にあるパイプ付近より何かが飛び降りてくる。
「殺気!?」
ジーニアスがその気配にきづき、思わず身構え。
「やっぱり。待ち伏せはあったわね」
リフィルもいいつつも身構える。
「…待っていたぞ。シルヴァラントの旅人とやら」
飛び降りてきたのは、三人の男たち。
「…?何だ?こいつら?」
三人はひと目でそれとわかるそろいの囚人服のようなものをきており、
そのうちの二人は丸坊主。
しかもなぜか三人は三人ともその手に丸い棍棒をもっている。
「おまえたちを始末すれば教皇が俺達の形を軽減してくれる」
「大人しくきえてもらおう!」
聞いてもいないことを勝手に説明してくるその襲撃者たち。
「おいおい。権力の無駄使いってか?教皇のやつ。
  みたところ、そいつら死刑囚だろうが。何かんがえてんだか」
「なるほど。死刑囚ということは。私たちに彼らが殺されても、彼らが私たちを始末したとしても。
  どちらにしても彼らに罪をなすりつけるのには問題ない、ということね。
  どちらにしろ死ぬ罪人なのだから」
ここでリフィル達が彼らを始末しても、死刑を実行したとでもつくろえばよい。
まして、もし万が一、彼らが事をなしとげたとしても、
脱獄した死刑囚が神子を殺した、という大義名分といういいわけがたつ。
神子を殺した、という罪で彼らを処罰する、大方そんなあたりであろう。
ゼロスの台詞にリフィルが理解した、とばかりにつぶやいているが。
ヒトが考えることはいつの時代もかわらない。
特に権力などというものに囚われている愚かなるものは。
ゆえに思わずため息をつかざるをえないエミル。
「へ。毎日牢屋につながれて運動不足のおまえらなんかにまけるなよ!」
こん棒を振りかざし、おそいかかってこようとする彼らに言い放ち、すらりと二本の剣を抜き放つロイド。
いざ、彼らと剣を交えん、としたその刹那。
ザバァァッ。
横に流れている下水の水が何やら音を立てて盛り上がる。
このあたりはちょうど、水をためている位置にあたるらしく、
その先につみあがった土嚢を区切りとし、その先の水の流れは少ないなれど、
このあたりの水はかなり深い。
『え?』
ふとみれば、その水の中より何かの蔓のようなもの。
うねうねとうごめく何か、はそのまま三人の男たちの体をからめ捕る。
「う、うわ、何だ!?」
「な…うわぁぁ!」
バシャァァッン
『・・・・・・・・・・』
蔦のようなものにからめとられ、男たちはそのまま水の中にと引きずりこまれてゆく。
一瞬、何がおこったのかわからずに無言になるロイド達。
そんなロイド達とはうらはらに、
「インコグニート…か」
じっとそちらに視線をむけてぽつり、とつぶやくエミル。
水の中にいる魔物達。
どうやら今行動したのはインコグニートであるらしいが。
男たちをからめ捕ったのはローパーの蔓。
やがて、ぶくぶくとした気泡のようなものが水面にみえているが、
しばらくするとその泡もみえなくなってゆく。
どうやら自分に対し、敵意をもっている、と判断したのであろう。
ゆえに実力行使で排除したらしいが。
「今のは……」
リフィルがなぜか意味ありげにエミルのほうをじっとみてくるが。
「とりあえず、先にいきませんか?まだ他にも襲撃者いても何ですし」
「え?ええ。そうね」
「つうか、あれは、魔物?なんだって、俺達には目もくれず……」
エミルの台詞にリフィルがはっとしたようにつぶやき、
ゼロスはゼロスでぶつぶつと一人つぶやいていたりする。
「ねえ。さっきの人達…どうなったのかな?」
ぽそり、とマルタがつぶやけば。
「さあ、な。とにかく、とっととこんなじめじめしたところからでようぜ」
気泡がなくなった、ということはすなわち。
しかしそれを口にはせずにロイドが提案してくる。
たしかに考えていてもすでにすんでしまったことはどうにもならない。
「たしかに。こんなところにいたら鼻がまがっちゃうよ」
ジーニアスもあまり深く考えないことにしたのか、
はたまたなかったことにしたのか、そんなことをいってくるが。
「…ま。たしかにな。さてと。出口はこっちだぜ?」
たしかにロイド達のいうとおり。
ここにいつまでいても仕方がない。
先ほどは自分達に魔物が攻撃してこなかったが、今後もそう、とはいいきれない。
そういえば、とおもう。
いつもこの道を通るとき、魔物の襲撃があったはずなのに。
なぜ、今回に限り、まったく魔物の姿すら一つもみないのであろうか。
それはゼロスの疑問。
しかも、エミルはここに初めてきたはず、なのに。
さきほど呟いた台詞は、この地下水道に住みついている魔物の種族名。
姿すらみせていないので知るはずもない魔物の名。
それをたしかにエミルは小さく呟いていた。
さきほどのシムルグの一件、といい。
こりゃ、しばらくエミル君はよくみておく必要があるな。
そんなことを思いつつも、すたすたととある方向にむけてゼロスは歩きだしてゆく。
目指すは、メルトキオに続く下水道からの脱出口。
すなわち、マンホールへ続く階段へと向かって。


「ようやく街にはいれたな」
「あああ。やっとこれで仲間にあえるよ」
下水度を抜け、外にでるなり、ほっとした声をあげているロイドにしいな。
下水道からつづく階段を上った先にでたのは、ちょっとしたマンホール。
「う~ん。空気がおいしい!」
す~は~。
匂いの籠る下水道にいたせいか、おもいっきり深呼吸しているマルタ。
思いっきり幾度か深呼吸を繰り返したのち、
「そういえば、しいなの仲間ってどこにいるの?」
はっと気付いたようにしいなにとといかける。
そんなマルタの問いかけに、
「精霊研究所ってところさ。あたしはそこで召喚の術を学んだんだ。
  孤鈴コリンの産まれたところでもあるんだよ」
「よし。その精霊研究所って所にいそごうぜ」
「精霊研究所…興味深いわ」
ロイドがいい、その言葉に反応するようにリフィルが呟く。
「で、どこにあるの?」
「ああ。それなら、こっちだよ」
エミルの問いに、しいなはそのまま歩きだす。
マンホールが続いていたのは、メルトキオの広場の一角であり、
ちょうど木々の後ろにあることからちょうど死角になっているらしく、
広場にいた人々もいきなり現れたとおもわれる彼らについて何の反応もしめさない。
否。
「あら。神子様、おもどりですか?」
「大変ですね。というか教皇様も何を考えてるのか…おっと。
  これをいえば反逆、ととらえられてしまいますわね」
「神子様、教皇たちにみつからないように気をつけてくださいね~」
「「・・・・・・・・・」」
何だろう。
このあまりにもゼロスに友好的な街の人々の反応は。
「ゼロスって、街の人達に信用されてるんだね」
てっきり手配云々、といわれていたので街の人達も排除的な傾向にあるか、
とおもっていたのに、あまりにも違う街の人々の反応。
「こいつは、民には人気あるからねぇ。だからもうちょいまじめにしてさえくれれば。
  もっとも、教皇のやつは民に人気があるからこそ、ゼロスを目仇にしてるんだけどね」
ジーニアスが目をぱちくりさせてつぶやく台詞を聞き咎めたのであろう、
しいなが首をすくめつつもそんなことをいってくる。
教皇がゼロスを目の仇にしている理由の一つ。
民は教皇よりも断然ゼロスの味方をしている。
それこそ貴族の中もほとんどが神子派といってよい。
よくにかられた権力者などは教皇派についているが。
それ以外の国を思う本当の貴族たちはこぞって神子派といってよい。
だからこそ、教皇は神子を目の仇にし、ゼロスが神子として正式に認められた後、
セレスの母親をそそのかして、神子ゼロスを暗殺するようにとしむけたのだから。
「ま、とにかく。こっちさ。とっとと移動しちまおう」
みれば、声をかけてきた一人一人に丁寧に声をかけているゼロスの姿がみてとれるが。
何やら頑張ってください、とかいって女性たちから、
ゼロスは…なぜか貢物っぽいものをうけとっているのがかなりきになるが。
小さな子供まで、これで神子様のお役にたてて、といってお金を差し出しているのをみて、
おもわずリフィルが顔をひきつらせているものの。
ゼロスはそれはうけとらず、それでお母さんにでも何かかってやれ。
とたしなめていたりする。
それをみて、ゼロスを少しばかり見直しているリフィルであったりするのだが。


「ここだよ」
そんなこんなで、しいなにつられ、街の中を進んでゆくことしばし。
やがて、その手前になぜか鉄柵らしきものがあるその柵をくぐりぬけ、
その先にとある建物の前にとしいなは立ち止まる。
扉をひらき、内部にはいるとともに、その入ってすぐの場所にとある受付。
その横にしいなはみおぼえのある姿をみとめ思わず目を丸くしてしまう。
「くちなわ!?くちなわじゃないか!?どうしてここに!?」
あっと短い声をあげたのち、思わず声をだしているしいなの姿。
おもわずしいなの様子にロイド達の視線もその受けつけの横にいた男に集中する。
ロイド達ですらみたこともない変わった服を着こんでいるその男性。
体にぴったりとした服はともかくとして、髪はもちろんのこと、その顔まですっぽりと覆っていたりする。
忍び装束。
それはかつての大陸でとある民族達が呼んでいた服装そのままに。
今はその大陸はかつての大戦によって海にと沈んで痕跡すらないが。
かの里にすまいしものたちは、その民の末裔たち。
「しいな、しいなじゃないか」
さすがのくちなわ、と呼ばれた男も気付いたらしく、しいなにそんな問いかけをしてくるが。
「あんた、どうしてここに」
しいながいいかけると、
「極秘の任務だ。で、そっちは?おまえはシルヴァラントに出向いていたはずでは。
  国からおまえの任務が変更になったと報告はあったが……」
いって、少し考え込むそぶりをしてくるその男。
「ああ。話しはきいてるのかい?なら話しははやいね。この子らがその例の奴らさ」
くちなわのいい分にしいなは苦笑せざるをえない。
やはりもうみずほには自分が戻ってきたことも、
国王に何を次にいわれたのか、も報告がいっているとみて間違いない。
いつものこととはいえ、みずほの民の情報収集力には舌をまく。
苦笑しつつも答えるしいなの言葉をきいたのち、
「では、このものが、シルヴァラントの?それで、なぜここに?」
ざっとその視線でその場にいる全員をなめまわすように視た後、
その視線が一度、コレットの場所で止まったのにきづいたのはエミルのみ。
一瞬、その瞳があやしく輝いたのにロイド達は気付かない。
気付くことができていない。
「あ、ああ。ちょっと厄介なことになってね。彼らと一緒に海を渡りたいんだけど、その手段がね」
いって肩をすくめるしいな。
「いまだグランテセアラブリッジは一般人には閉鎖されている。許可があれば可能だろうが」
事実、いまだにブリッジは完全解放されていない。
何でもなぜか開閉を担っていたエクスフィア。
エクスフィアの容器を調べたところ、その中からことごとく、エクスフィアの力が失われてしまっていたらしい。
つまり、エクスフィアそのものが消えてしまっており、
一部の技術者たちの間にてなぜそんなことになったのか大混乱していたりする。
エミルはその混乱ぶりを視て知ってはいるが、当然ロイド達はそんな事実を知るよしもない。
そもそも、あの竜巻に乗じてエミルがかの建造物に使用されている、
全てのエクスフィア…すなわち精霊石達を微精霊、として孵化させたことすら、
ロイド達はしるよしもないのだから。
「いや、あたしがいきたいのは別の大陸なのさ」
何やら自分達をほうっておかれて話しが進んでいるような気がする。
ゆえに、
「なあ、しいな。そいつ、誰だ?」
ロイドが気になっていたらしく、しいなにおずおずと問いかける。
そんなロイドの問いかけに、ようやくはっと気付いたように、
「ああ。わるいわるい。皆、こいつはみずほの里の仲間、くちなわだ」
「……しいなとは幼馴染だ。よろしくたのむ」
しいなの説明に、くちなわ、といわれた男は淡々とそんなことをいってくる。
「あ。ああ。よろしくたのむ」
かわってるな。こいつ。
頭をさげるわけでもなく、手を差し出してくるわけでもない。
口ではよろしく、といっていても本心ではわからないわね。
そんな男をみつつ、リフィルが冷静にくちなわを見定めているにしろ。
それだけいい、そのまま一言、二言、
そのままその場にいる受付係りにしいなが何かを伝えたのち、
そして。
「それじゃあ、あたしは研究所の連中と話しをつけてくるよ」
いって、慣れた足取りで一人研究所の奥にと向かってゆく。
「えっと、よろしくおねがいします。くちなわさん、でしたよね?」
マルタの台詞に、
「ああ」
淡々といまだに壁によりかかったまま感情のこもらない台詞でこたえてくるくちなわ。
「幼馴染かぁ。ロイドと僕みたいなものかな?」
「ジーニアス。コレットが抜けてるぞ?」
「う、うん。そうだね」
いって、コレットをみつめるジーニアスだが、コレットの表情はまったく変化しないまま、
これまでみていたところ瞬きすらしていないことにジーニアスは何ともいえない気持ちになっている。
コレットの姿をしているだけの人形なのではないか。
そんな不謹慎かもしれないが、そんな思いすら抱いてしまっているのもまた事実。
目の前で、コレットがこのように変化する様をみた、というのに。
どうしてもそれが信じられなくて。
本当のコレットはどこかにいて、いつものように笑っているのではないか。
と、そんな思いがどうしても捨て切れない。
そんな会話をしている最中。
「あれ?アステル。アステルじゃないの。いつ戻ってきたの?」
ふと受付に座っていた女性がエミルのほうをむきつつも、首をかしげてそんなことをいってくる。
「もう。また?この人はエミル!アステルって人じゃないんだから!」
サイバックの研究所でもエミルをみた人達がエミルをアステルという人と間違えていた。
ゆえにマルタが思わず叫ぶが。
「え?そういえば、アステルはそんなに髪はながくはないわね。
  ごめんなさいね。でもよく似てるわね。双子みたいに。
  アステルの親戚というよりは双子、なのかしら?
  あの子、家族のことまったく触れないからいても不思議ではないし」
何やら一人考え込みながらそんなことをいってくる受付嬢。
「その、アステル、という人は今こちらにいるのかしら?」
そんなリフィルの問いかけに、
「いえ。今は、リリーナ達とともに共同で、
  リヒターというハーフエルフを護衛に選び、外の実地調査に出向いています。
  たしか、雷の神殿の調査、とか。
  アステル達はそれがすんでそのままの足で地の神殿にでむく、ともいっていましたけど」
リフィルの問いかけに素直にこたえてくる受付嬢。
「そんなにエミルとそのアステルって人、似てるのかな?」
ジーニアスがつぶやけば、
「お。リリーナちゃんは出かけてるのか。残念」
ゼロスが心底残念そうにつぶやいているのがみてとれるが。
「とりあえず、俺達もしいなをおいかけようぜ?
  あんたらがもってきたっていうレアバードのことにしても、しいなはおそらくきいてるだろうし、な」
壊れているにしても、燃料がないにしても。
どちらにしても、レアバードはこちらに一度、預けるようになるであろう。
それこそ、精霊研究所がレアバード、という研究対象物を預からせてほしい、と言ってこないとは思えない。
「今、そのアステル、という人は出かけているといったけど、どういう事?」
「ああ。それはアステルのやつが少し前に提出した論文の検証さ。
  何でもリリーナの力も借りたいからとかいって、先に雷の神殿にいったらしいけど」
「論文?」
その台詞にリフィルが首をかしげるが。
「ああ。何でも王立図書館にかなりの数の古書がのこっていたらしくてね。
  アステルはだいぶ前から精霊研究をテーマにしていてね。
  だからここ、メルトキオの精霊研究所にもよく訪ねてきているんだが。
  そこで新たな発見があったらしく、その実地検証がどうとかいってたけど」
「精霊の研究…ね。興味深いわ。こちらでは、精霊も研究の対象にしているのね」
受付嬢の台詞に、リフィルがつぶやけば、
「マナをエネルギーとして利用するのには精霊自体を研究するほうがいいからね。
  しいなとコリンの御蔭でだいぶ研究はすすんだけど。
  逆をいえばしいなと孤鈴コリンがシルヴァラントにいったのち、
  研究はてづまり感になってるけどね」
首をすくめ、受付嬢はそんなことをいってくる。
というか部外者であろう自分達にこんなことを話してもいいのだろうか、ともおもわなくもないが。
「興味深いわ。精霊という存在はどう誕生してどう世界に影響を与えているのか……」
「ええ。数カ月前にいきなり異常気象が始まったのもありますしね。
  ある時を境にハーフエルフ達や、そして研究者たちが、
  マナが異様に安定している、という報告もありますし。
  一番は荒れた大地としてしか認識のなかった異界の扉とよばれし場所。
  かの地がある日を境にまたたくまに緑あふれる場所、すなわち島になった。ということでしょうかね?」
「そういや、前にもサイバックの人がそんなことをいってたような……」
ジーニアスがふと思い出し、そんなことをつぶやくが。
「異界の扉…ね」
それは自分達がシルヴァラントに流される原因ともなった場所。
ゆえにリフィルは何ともいえない気持ちになってしまう。
自分達を逃がすために、あえて囮として残った両親。
まだ十一でしかなかったリフィルが一歳にもみたないジーニアスをつれ、
シルヴァラントでいきてゆくのは容易なことではなかった。
そんな様々な思いが異界の扉という名称をきくと思いだされ、何ともいえない気持ちになってしまう。
「興味があるのなら、リリーナにあってみればいいでしょう。
  アステルはまとめた論文をリリーナに渡す、といって出かけていきましたし」
「論文、とは」
「もう。先生!今はそんなことより!しいなのところにいこうぜ。レアバードのこともきになるしさ」
絶対に長くなる。
それはもう確信をもっていえる。
研究が絡んだとおもわしきときのリフィルは下手をすれば一晩以上、ひたすら論議をしでかしかねない。
それでもなかなか動こうとしないリフィルをみつつ、盛大にため息をついて、
「ダメだこりゃ、先生はおいといて。俺達だけでいこうぜ」
「リフィル様って、先生ってよばれてるだけあって研究者気質なのな~」
ゼロスがそんなリフィルをみてそんなことをいっているが。
「まだこんなのは序の口だよ……」
どこか悟ったようにぽつり、とつぶやいているジーニアス。
「?」
そんなジーニアスの言葉の意味は、いまだゼロスはわからない。


しいなはどうやら地下の研究所へとむかった、らしい。
なぜかその場…サイバックの地下につづくような頑丈の扉。
その前に監視役なのか武装した兵士らしきものがいうには、しいながいるのはこの奥の施設、らしい。
扉をくぐっていくとその先に長い廊下が続いており、
その廊下の横にはいくつかの扉が並んでいるのがみてとれる。
「しいな、どこにいるんだろ?」
ロイドがあまりに扉がおおく、かたっぱしから扉に手をかけようとしたその刹那。
「そんな!荷物じゃあるまいし!無理だよ!」
「あ。しいなの声だ」
ふと、奥のほうのひときわ周囲に扉がみあたらない一つの場所。
どうやらその声はその奥からきこえてきているらしい。
その声にきづき、マルタが思わずつぶやくが。
「どうかしたのか?」
コンコンと扉をノックしても返答がないことから、そのまま扉を開け放つと、
そのまま扉の中にとはいってゆく。
その部屋の奥。
どうやら対応しているのであろう男性研究員…その奥にはさらに数人いるのがみてとれるが。
「この人達…皆ハーフエルフがほとんどだ……」
ジーニアスが彼らのマナにきづき、ぽつり、とつぶやく。
「ああ。わりぃ。きたのかい。きいとくれよ。
  こいつら、私たちにエレメンタルカーゴで海を渡れっていうんだよ」
「えれめん?何だ、そりゃ?なんかどっかできいたような?」
ロイドが首をかしげるが。
「以前、あなたがいっていたわね。それは何なのかしら?」
結局のところ、受付嬢と研究についての話しをまだ続けたかったのも山々なれど、
しかし、精霊を研究しているという設備がみれる、という誘惑にはかてず、
ロイド達が先をすすんでいったそのすぐ後にリフィルも合流して今にいたる。
以前、竜車の話題になったとき、たしかしいながそのようなことをいっていた。
そのことを思い出しといかけているリフィル。
「エレメンタルカーゴ。通称エレカー。と呼ばれているわ」
リフィルの問いかけにその場にいた別の女性研究院らしきものが答え、
そして、
「エクスフィアで制御された運送用の小型乗用車さ
  蓄積重量は操縦士者体重を含めて最大千四百KG
  最大スピードはエクスフィア搭載大型改良竜車の三倍以上」
しいなに説明していたらしき男性研究員がその女性に続いて説明してくる。
  現在は主に運送会社による宅配便事業につかわれている。
「この宅配便もまたレザレノ社の子会社さ」
これまた別の研究院がそんなことをいってくるが。
「おいおい。俺達は小包かよ。まいど~。ねこにんマークの宅配便ってか?」
そんな彼らの台詞にゼロスが思わず突っ込みをいれているが。
「え?ねこにんマーク、なにそれ?」
聞いたことがないがゆえ、思わずマルタが問いかける。
「ねこにん宅配便、有名だぜ?肉球印のねこにん宅配便ってな」
ちなみに、伝票は猫の肉球を追求した手触りの形の印をつけたものであるからか、
伝票だけ求めるものもいたりする。
ぷにぷにの触感が何ともいえず、不動の人気を誇っている理由の一つとなっている。
先代から引き継いだ、今はとある理由で背後から、
つまり会長となっている人物の提案でそのようになった、らしいのだが。
マークを変更したことによって、かなりの売上を確保し、
不動の人気になったというその宅配便の名は、”ねこにんマークの宅配便”。
で親しまれた名称により、本来の名である配達屋の名が霞んでしまっているほど。
ゆえにあまりに人気になったので、会社名を変更した、という逸話をもっている。
ちなみに、本来の今の名は、猫の手配達便、らしい。
何でも追求性を求め、今現在もねこにん達に従業員契約を契約社員でもいいから、
といって求めているらしいが。
いまだにねこにん達が了解した、という報告はうけていない。
なぜか報告の一つにそんなことをセンチュリオンがしてきたので、ラタトスクはそのことを知っている。
アクアがテネブラエにあんたも肉球をつければすこしはかわいげがあるかもよ。
とかいって、また言い合いになりかけたのは記憶にあたらしい。
思わず二柱のやり取りをおもいだし、ため息をつくエミルは間違っていないであろう。
もっとも、エミルがどうしてため息をいきなりついたのか、ロイド達にはわからないにしろ。
はたからみれば、ロイドがかつてしいながいったことを覚えていない。
そのことについてため息をついた、とみてとれるがゆえ、
そのことに対してはジーニアスもしいなも突っ込んではこないようだが。
「エレメンタルカーゴは空気中のマナから地のマナを取り込んで
  大地に吹きだすことで反発の力を産みだして推進力にしてるんだ
  だからその部部んにウンディーネを利用すれば波なりカーゴの完成ってわけだ」
しいなにいっていた研究員の台詞に、
「な…波乗り……」
まるでオウム返しのようにつぶやいているリフィル。
その顔色はこころなしか悪い。
「それしか方法はないのか?なあ、やっぱりあの鳥にたのんだほうが……」
「…いえ、混乱をこれ以上大きくするわけにもいかないでしょう。
  なるべく秘密裏に行動したほうがいいわ。あの教皇とかいう相手の出方もあるもの」
ロイドがいいかけた台詞をすばやく遮るリフィル。
こんな王立研究所でシムルグを使役できるエミルの存在を気取られるわけにはいかない。
ゆえにすばやくロイドがいいかけた台詞に割ってはいる。
「鳥?よくわからないが。ともかく。橋は封鎖されている。
  定期船を使うにしても、おそらく間違いなく教皇の息がかかっていて、
  あんたらがたとえ身分証明書をもっていたとしても使える確証がない」
ゼロス一人ならばどうにかなるかもしれないが。
人数が人数。
しかも、感情をまったく感じさせない、人形のような女の子までいる始末。
聞けば、彼女がシルヴァラントの神子だ、というが。
まるでそれは動く人形の何ものでもない。
「おまけに・・あんたたちはハーフエルフみたいだしね。
  ハーフエルフが二人もいる以上、安全性も保障できない」
淡々と紡ぐ女性研究員の台詞に、
「え?」
短く声をだしているジーニアス。
そしてまた。
「ええ。そういうあなたも同胞、のようだけども?」
ここにいる大半の研究員たちはマナの感覚からハーフエルフに他らない。
人間とおもえしものはほんの一人か二人しか存在していない。
「私はこのサークレットがある限り、ここから逃げ出すことはできないもの。
  地上の研究室に出向くことは私は認められてはいるけども。
  地下研究所から外にでれるだけまし、とおもうことにしているわ」
「きちんとそれなりの手続きをとれば俺達もここ、地下研究室からだしてもらえるが。
  その許可がおりるのはなかなかまれ。おりたとしても彼女のように、枷をつけられるのさ。
  少しでも変な行動がみとめられたら、それこそ問答無用で電撃が流れる、な」
吐き捨てるようにいってくる別の研究者。
どちらがいい、とはいいきれない。
すくなくともここからでられたとしても、いつ電撃を加えられ、殺されてしまうかわからない恐怖。
その恐怖をとってでも表にでたい、と願うか。
それともこの地下で一生をおえるか。
そういう選択しか彼らにはない。
「・・・また、ハーフエルフ……」
そんな彼らの説明にジーニアスが顔を曇らせる。
「テセアラとはそういう国だ。…知らないから恐れる。
  人となりをしってしまえば俺達とかわらない、とわかるんだけどな」
この中では数すくない普通の人、なのであろう。
その人物がそんなことをいってくるが。
そして少し顔をふせ、
「それに…研究にたずさわっている以上、俺達だってろくにこの建物から出してもらえない」
特にどうして、という説明は彼らにはしない。
教皇と国王によって命じられている研究に携わっているがゆえ、自由が制限されている、ということは。
彼らは神子にはその内容が口にはいらないように、と常々いわれている。
もしも神子の口にはいるようならば、それは反逆だ、と。
教皇の意見でクルシスの輝石を人工的につくっている、としられれば、
それこそ何がおこるかわからないから、という理由にて。
「…どうしてみ皆、仲良くできないんだろ…ママ達が目指すもの…か」
父と母が目指すもの。
それはきちんとした制度のもとでの人々の平和。
しかし、ここテセアラにきて思ってしまう。
力にて人を制御しても、それは必ず人々には幸せをもたらしてはいない、ということを。
マルタがそんな説明をきき、ぽつり、とつぶやけば、
「まあまあ。暗くなってもしょうがねぇ。で?その改造エレカーってやらは用意してもらえるのか?」
話が脱線しかけている、と感じたゆえに、さりげに話題を元にともどし、
研究員にとといかけるゼロス。
彼らがそんな技をいってきた、ということは。
おそらくは、自分達がここにくるまでに、
しいなはウンディーネとシルヴァラトで契約したことを彼らに伝えたのであろう。
でなければ、ウンディーネの力をかりて、などという提案はできはしないはず。
「改造が必要だが…そうだな。一晩まってもらえればこちらで用意しておく。
  俺達も教皇のやつには泡を吹かせてやりたいからな」
彼らにも意地がある。
こういう目にあっているのは今の教皇が変な法律を施行し実行してしまっているから。
しいなから簡単な説明はうけた。
教皇の罠にはまり、冤罪をおしつけられている、と。
「お~け~お~け~。んじゃまあ。俺様の屋敷で休もうぜ」
『屋敷?』
ゼロスの台詞にゼロスのことに詳しくない研究員達が思わず声をだすが。
そういえば、この美男子が誰なのか、彼らは知らないことにと今さらながらに気づく。
シルヴァラントの人間達だという彼らと一緒にいるのだから、
てっきりシルヴァラントの人間なのか、とおもったが。
そういえば、服は簡易的なれど、その使われている布は最高級品のもの。
困惑した研究員たちの様子に気付くことなく、
「教皇の手先がまちかまえてやしないだろうね」
そんなゼロスをじと目でみていっているしいな。
たしかにその申し出はありがたい。
しいなはまだここでしばらく彼らと話しあいをする必要があるが。
彼らの安全が一番懸念事項であったことも事実。
「どちらにしても。この街で一晩すごさなければならないのだもの……危険はどこにいても同じ、でしょうね」
ゼロスの台詞にうなづくリフィル。
本当ならリフィルもここにのこり、いろいろと研究について議論したいところだが、
ロイド達をほうっておくわけにもいかないであろう。
特にここは、あの教皇とかいう人物のひざ元ともいえる場所。
国王がどういう意味で手配を…しかも神子だというゼロスをも含め、
認めたのかわからないが、念には念をいれておいたほうがいい。
そんなリフィルの提案に、
「それもそっか」
ロイドが納得した、とばかりに盛大にうなづく。
「念のためにもう一度いっとくが。おまえらわすれてそうだしな。
  俺様の屋敷はテセアラ城を右にいった貴族街…貴族たちの住む地区にあるからな」
  何、ひときわでっかい屋敷だからな。嫌でも間違わないとはおもうけどよ」
「そういや、前のときは馬車で移動だったもんね」
ジーニアスが思いだした、とばかりにつぶやくが。
ここ、テセアラにきてまだ数日しかたっていないのに。
何やらいろいろとありすぎている。
めまぐるしく状況が変化している様にジーニアスはなかなか気持ちがおいつけない。
母のことにしろ、このテセアラ、という国のありようにしろ。
もしも、ロイドがいうように、世界を統合できたとしても。
ここまで差別のひどい世界と、シルヴァラントが共存できるのか。
そんな思いがふとよぎる。
ロイドにいえば、できるかどうかじゃなくて、やるんだ。
ときっぱりといいそうだよね。
そんなことをもふと思うが。
「んじゃまあ。いくとしますか。邪魔したな。しいな、レアバードはどうしたんだ?」
「あ。ああ。みてもらったけど、しばらく預かりさえできれば
  壊れてるかどうか彼らが調べてくれるらしいから、預けることにしたよ」
いってさらに奥にとつづく扉にとめをやるしいな。
その部屋は実験場となっており、ちょっとした広さを誇っている。
術の実験場となっているその部屋は、それゆえにかなりの広さを確保していたりする。
ゆえにレアバード全てをその部屋に取り出しておいている今現在。
「え?あれ、こわれてたのか?」
ロイドが驚いたようにいえば、
「あんたねぇ。あれだけ竜巻にまきこまれたんだよ?
  壊れててもおかしくはないってことさ。燃料のこともあるしね」
精霊研究所ならば燃料もどうにかなるかもしれない。
そんな可能性をも含め、しいなはここに預けることを了承していたりする。
「んじゃまあ。屋敷にもどるとしますかねぇ。いくぜ丁稚ども」
「誰が丁稚だよ!」
ゼロスの台詞にすかさずジーニアスが反論する。
「うひゃひゃ。さ、いくぜ。面倒な奴らがくる前に…な」
ちょうど今は教皇派の監視役がいなかったからいいものの。
いつそちら派の監視員がもどってくるとはかぎらない。
「?」
そんなゼロスの意味はロイド達にはわからない。
ゆえに、ただ思わず顔をみあわせてただただ首をかしげるのみ。


「こちらでは精霊も研究の対象になっているのね」
道をあるきつつも、気になっていたことをしいなにといかけているリフィル。
今、彼らがむかっているのは、貴族街、とよばれし区画。
「ああ。マナをエネルギーとして利用するのは、精霊自体を研究するほうがいいっていわれてるからね」
「本当に興味深いわ。精霊という存在はどう誕生してどう世界に影響を与えているのか……」
そんなリフィルの呟きに、
「コリンは精霊の研究には反対!」
ぼふん、と煙とともに現れた孤鈴コリンがしいなにと言い放つ。
「あら。どうして?」
「どうしても!」
首をかしげ問いかけるリフィルにきっぱりといいきるコリンの姿。
「…コリンは実験の段階でいろいろとつらい思いをしてきているからさ」
コリンの断固たる意見にしいなは少し顔をふせ、言いにくそうにリフィルに説明をしてくるが。
「そういえば、コリンは人工精霊なのよね。興味深いわ」
そういうリフィルの目が、いつものリフィルのそれでなく、
遺跡などを目の当たりにしたときの目の輝きにと変化してゆくのをみてとり、
「や・・・やば」
「ずらかれ!ゼロス、先にいくからね!」
さわらぬリフィルに祟り、もしくは障りなし、とばかり、コリンをつれて、いきなり駆けだすしいなの姿。
「あ、おまちなさい!」
そんなしいな達に思わずリフィルが叫んでいたりするが。
「姉さんったら、もう」
そんなリフィルの様子をみて盛大にため息をついているジーニアス。
「それにしても。前にもおもったけど、このあたり立派なお屋敷ばかりだよね?」
あらためてみてみれば、マルタが知っている建物。
パルマコスタの総督府よりも立派な建物が多々とみうけられる。
周囲をきょろきょろ見回しマルタが呟けば、
「貴族たちが住んでいる地区だからな。ま、俺様の屋敷はその中でもピカイチってわけだ」
実際、この区画で一番大きな建物。
それが神子ゼロスの屋敷でもあったりする。
ゼロスがそういうとほぼ同時。
道の向こう、というか背後から数人の娘たちがあるいてくるのがみてとれる。
「やあ、ハニー達、元気だったかい?」
そんな彼女達にいつものようにかるく声をかけるゼロスだが。
「ぜ、ゼロス様!?なぜ今もどってきたのですの!?」
「危険ですわ!教皇がゼロス様に冤罪をおしつけた、ともっぱらの噂ですわ!」
「ゼロス様は何も悪いことはしていませんわよね?」
「お父様がいってましたけど、ついに教皇は尻尾をだしたか、とかいってましたけど」
口ぐちにそんなことをいってくる女性たち。
そして、なぜかごそごそとそれぞれ懐をさぐりつつ、
「あ、あの。ゼロス様。わたくしたち何もできませんが。せめて、これを役立ててくださいませ」
「わたくしのこれも。これを私だとおもって」
「わ、わたくしも。ゼロス様、この一件が収まりましたらまた晩餐会でお相手ねがいますわ」
それぞれ、手にしているのはトリート、ミラクルグミといった品々。
「わりぃな。ハニー達。ハニー達もきをつけろよ?」
「きゃあ。ゼロス様に心配されましたわ。それでは、わたくしはこれで」
いいつつ、ゼロス達を追い抜くようにして進んでいき、
やがて、
「あなたのような人がゼロス様の傍にいるから、ゼロス様が冤罪にまきこまれたのよ」
「ああ。やだやだ。みずほの死神はゼロス様にまで厄介ごとを運んできたのね」
「っ」
しいなの横をすり抜けざまに言いたいことだけいって娘たちは立ち去ってゆく。
そんな彼女達にしいなは何もいえず、ただ拳を握りしめるのみ。
「死神?」
前にも彼女達はそんなようなことをいっていたような気がする。
ゆえにマルタが思わず首をかしげるが、
「さってと。そろそろ俺様の屋敷がみえてくるぜ。
  ま、今日の所はいろいろとあってつかれただろうし。ゆっくりするんだな。
  俺様はちょ~~と用事があるから別行動すっけどよ」
いいつつも、やがてひときわ大きな屋敷の前にとたどりつき、
その先すらみえない庭がつづいているらしき門をくぐりぬけ内部へとはいってゆく。

この地区、特区とよばれし区画にありし盾ものでも、特別に豪奢な屋敷。
「ほんと、でっかいよなぁ」
改めて周囲の建物と比較してみると、ゼロスが貴族とよばれるものである。
というのを認めざるを得ないロイド。
それこそ物語などの中でしかみたことのないような家に住んでいる。
というだけでロイドからしてみれば信じられないといってよい。
身分云々はリフィルにもかなり注意をうけているが、
シルヴァラントにそんな顕著な身分制度なるものがなかったゆえに、ロイドにはよくわからない。
不敬罪だの、何だの、といわれても理解できていないというのが実情。
その点では、リフィルがロイドを城につれていかなかった、というのは正解であろう。
まちがいなく、国王にむって為口をきいていたであろうロイド。
その結果、国王の懐具合によってはその場で不敬罪、といって処刑されても不思議ではないのだから。
そういえば、以前のときはどうだったのだろう、とふとエミルは思う。
以前の再生の旅のときもロイド達はこちら側にきた、はずだが。
でなければ、精霊達による魔導砲の使用なんてことはできるはずがない。
何となくだが、おもいっきり国王の目の前で為口をきいたような気がするような気がするのは、
おそらくエミルの気のせいではないであろう。
あのとき、当人たちから聞いたわけではないにしろ。
「おかえりなさいませ。神子様」
ゼロスを出迎えたのは、たしかセバスチャン、となのりし執事。
タキシードを着こんで、あいかわらず窮屈そうな手袋をしているのがみてとれる。
口髭がぴんとはっているのは、おそらく毎日の手入れをかかさないゆえか。
「おう。セバスチャン。おかえりになられたぜ~。何かかわったことはなかったか?」
そんなゼロスの問いかけに、
「はい。変わったことといえば、教皇様とテセアラ十八世陛下の使者より
   神子様がもどられしだい、通報するようにとおおせられましたが」
「あ。それ無視していいから」
あの国王はあんな目にあっていても、おそらくは身うちである教皇には頭があがらないはず。
年齢からして、彼のほうが兄にあたるゆえ、なのだろうが。
そもそも、彼が前国王から王族の資格を破棄されたのは、彼がエルフの女性と恋中になったがゆえ。
しぶしぶながら認めていた前国王にとってそれが決定打となったといってよい。
そのことをゼロスは知っている。
「はい。かしこまりました。それで、そちらのかたがたの寝所を用意すればよろしいので?」
さすがに二回目、ということもあり、心得た、とばかりにいってくる。
そんな彼の台詞に、
「おうよ。ま、よろしくたのむわ」
軽く声をかけ、
「んじゃま、俺様はちょっと着替えてくるわ」
いって、ゼロスは一人、階段をのぼり、彼の私室なのであろう。
そちらにむかってゆく様がみてとれる。
「すごい豪華な家具がいっぱいだよね。素敵~」
マルタが周囲を見渡し前にもおもっていたことを口にする。
そんなマルタの声がきこえた、のであろう。
ぴたり、と階段をのぼっていた足をとめ、
「そうでもないさ。
  …どんなに身分があっても、かっこよくても望まれて産まれてきたわけじゃないからな」
「え?」
ゼロスの呟きが何となくだがきこえた、のであろう。
ロイドがそちらを振り向き思わず声をだすが、すでにゼロスは階段をのぼりきり、
その姿は扉の向こうにときえている。
「これ、ゼロスのお母さん、なんだろうね」
「ほんとだ。ここに名前がかいてある。ミレーヌ・ワイルダー、か」
壁にかかっている大きな肖像画。
それをみてマルタがつぶやき、ジーニアスがしみじみみつつ、
その下にかかれている名らしきプレートをみていってくる。
美しい紅のドレスに身をつつみ、絵の中でほほ笑んでいる姿が描かれているが、
その頬笑みはどこか悲しそうにもみえなくもない。
何かを諦めたような表情の笑顔。
「何だろう?なんか、この人、笑ってるみたいなのに、なんかないてる?」
マルタがその肖像画をみて思わずぼつり、とつぶやく。
ほほ笑んではいるものの、決して心から笑っていないその肖像画。
マルタ達は知らない。
結婚を約束した人物と引き離され、さらには妹のあるいみ公認であった婚約者。
それと神託、という結果のもとに結婚させられてしまった彼女の事情を。
彼女にも恋人はいた、というのに。
その相手とも引き裂かれた。
天界の…クルシスの神託によって伴侶が指定されてしまったがゆえに。
天の決定に逆らえば、国がどうなるのか、彼らは身をもって知っていたがゆえに、
その決定に従って、その結果、ゼロスが産まれている、という事実を。


翌朝。
精霊研究所に改めてむかってみると、昨日の研究員の一人。
その女性が受付付近にいて、受付嬢らしき人物と話しているのがみてとれる。
頭にサークレットをつけている女性研究員が研究院にやってきた一行に気づき、
「あ、皆さん」
なぜここにいるのだろう、というような顔をうかべ、首をかしげてといかけてくる。
「エレカーの準備はできてるかい?」
といかけるしいなの台詞に首をさらに傾げ、
「え?もう、くちなわさんがとっくに運んでいきましたけど」
「え?」
昨日、念のため夕刻、こちらにきて確認したときにはそんなことはいっていなかったのに。
ゆえに思わず唖然とした声をだすしいな。
「え?くちなわが話しをしているのかとおもったんですけど。きいてなかったんですか?」
心底不思議そうにいってくる研究者の女性。
そんな女性に続くように、
「くちなわさんは。グランテセアラブリッジの横にある人工海岸に向かわれました。
  おそらくそこで待機しているはずですので、そちらにむかってください」
女性とはなしていた受付員がそんなことをいってくる。
「ああ。それと、くちなわさんにこれを渡しわすれてました。これを」
いいつつも、しいなに渡してくるのは、小さな手の平サイズの容器のようなもの。
「あれ?それ……」
「?何で応急セットをいれるやつが?」
「そうじゃないんじゃないのかな?リフィルさんのあの荷物もあれにはいってたし。
  だとすれば、持ち運び用の入れ物ってことでしょ?」
みおぼえのあるその容器。
ロイドがつぶやき、ジーニアスがソダ島でしいながつかっていたのを思い出し、そんなことをいっているが。
それよりも、救いの塔に行く前に
この容器の中にリフィルの荷物をいれたことを彼らは忘れているような気がする。
それはもうはてしなく。
ゆえにそんな二人にと突っ込みをいれているエミルの姿。
「ウィングパックかい。たすかるよ。
  今もってるやつには別のいれてるから。エレカーのみのがあったほうが間違えないし」
「うん?しいな。おまえ、もってるって……」
しいなの台詞にゼロスが首をかしげるが。
「あんたがおしつけてきたんだろうが!あれを!…まあ、あの応急セットはたすかったけどさ」
「…そうね。あのとき、しいなのもっていたあの応急処置の道具がなかったら。
  コレットがどうなっていたか考えたくないわ」
ゼロスの台詞にしいながさけび、あのときのことを思い出し、
リフィルが顔色を悪くしそんなことをいってくる。
「コレット…今、あのときのようになったらどうなっちゃうんだろ?」
「あのとき、コレットは階段から転げ落ちたからな」
ジーニアスがふあんそうにいい、ロイドがそのときのことを思い出したのであろう。
顔をしかめつついってくる。
「あれは転げ落ちたというよりは、突き飛ばされたというほうが正しくない?」
実際、エミルを神子と勘違いしたあの場にいた観光客によって、
コレットは階段からほぼ突き落とされたといっても過言でない。
「目先のことだけに囚われたヒトが暴走したあるいみ典型的な出来事だよね。あれ」
「まあ、たしかに。エミルとコレットが並んでたら。
  今みたいな服でなくてローブとかきこんでたら間違いなく勘違いされるのは判るけどね」
エミルの台詞に、ジーニアスがため息まじりにそんなことをいっているが。
「というかさ。それにエレメンタルカーゴってやつははいるのか?
  その何とかカーゴってそんなに小さいのかよ!?」
ロイドが信じられない、とばかりにのぞけながらそんなことをいっているが。
「そうか。シルヴァラントにはウィングパックがないんだな。さすが田舎者!」
「田舎者でわるかったな!どうせイセリアは神託の村といわれてても田舎だよ!」
「いや。ロイド、いわれている意味は絶対に違うと思うよ……」
ゼロスの台詞にロイドがむっとしつつそんなことを言い放つが、
そのロイドの台詞をきき、ジーニアスが思わず盛大にため息をつく。
「えっと。その中にその乗り物とかいうのがはいるの?しいな」
「ああ。そうさ」
これを使っているのをロイド達はみたことがある。
コレットがソダ間欠泉にて階段から転げ落ちたとき、
しいなが傷の手当てをするときにウィングパックにはいっている処置箱によりコレットを治療した。
それ以外は、リフィルの荷物を邪魔にならないように収めたときに。
その後、救いの塔での一件があり、
どうやら彼らはそのことについてはすっかり失念しているっぽいが。
「とにかく。その早く人工海岸ってところにいったほうがよくない?」
「それもそうだな」
エミルの言葉にたしかに、とばかりにうなづき、くるり、と向きをかえようとするロイドだが。
「ちょっとまっとくれよ。出ておいで。コリン」
しいなの言葉とともに、煙とともに受付の机の上にと出現する。
そんな孤鈴コリンへと、
「しばらく皆とお別れだ。皆にお別れをいっておきなよ。…大丈夫。もう変な実験はされないよ」
「コリン。元気だった?しいなのことたのんだわね」
その名をもってして漢字をあてはめ、しいなはコリンとの契約と化している。
名に別なる意味をもたせた言葉でもってして縛っているといってもよい。
陰陽術とよばれし使役の術にもちいられる方法の一つ。
「ここ、きらい!…コリンはしいながいるからさみしくないもん」
孤鈴コリン!そんなこといわないの」
「さよならっ」
しいながたしなめるが、それだけいってコリンの姿はかききえる。
マナはもう完全に満ちているはずだが、まだ本来のありようは思いだしていないらしい。
やはり、人工的につくられし、ゆがみし器が障害となっているべきであろう。
何らかの形で器を破棄させることができれば、コリンはヴェリウスとしての力と記憶。
すなわち本来のありようを思い出すことができるはず。
ヒトの心の精霊、として理をもたせている精霊として。
エミルがそんなことを思っている最中、
しいなが幾度か再び孤鈴コリンに問いかけるが、
孤鈴コリンが再び姿を現すことはない。
「ふぅ。やっぱり嫌われているわね。仕方ないといはえ、根は深いわね…」
そもそも、実験と称して非道なことなどもしていたヒトを好きなれ、というほうがどうかしている。
特に力を失いかけていたヴェリウスにとって、
ヒトによってそのようなことをされるのは、
自らが司りし人の心にたいし疑念を抱く結果ともなりかねなかったはず。
ヒトは何かを追求しようとしたときにどこまでも残虐になれる。
そう、たとえば生きたまま、その機能を調べるために体を斬り裂いたりなど、
平気でする生き物、なのだから。
「ごめんね」
「いや。しいなが謝ることはないわよ。
  あなたと孤鈴にひどいことをしていたのは私たちなんだもの。実際の研究資料を得るために、ね」
「ひどいとわかっててならなんであなた達はそんなことをするんですか?」
それはエミルの問いかけ。
そんなエミルに、
「それが私たちの役目だもの。成果をださなければ、私たちの身があぶないわ」
「・・・・・・・・・・・・」
つまり、我が身かわいさに他者の犠牲はとわない、という考え、ということなのだろう。
その結果、おこることすらおもわずに。
もし人工的な器にはいったのがヴェリウスでなかったならば、
そういったことをしでかしたものたちは問答無用で消滅させられていた。
精霊達とて矜持というものがある。
ヴェリウスはそのありようからして心の精霊であるからこそ実力行使をしなかっただけ。
それに彼らは気づいているのかいないのか。
下手をすれば、捉えた段階で、契約もしない束縛は、即、消滅を意味していてもおかしくはない、のだから。
「これだから、ヒトは……」
エミルが小さく呟くが、
「よくわかんねえけど。とりあえず、いこうぜ。
  エレカーってやつに早くのってみたいしな!早くのりて~!」
場の空気を読まないというか何というべきか、ロイドがそんなことをいってくる。
「…はぁ。このロイド君はのんきだねぇ」
そんなロイドをみて呆れた口調でいっているゼロス。
「まったくだわ。そもそも、元々地上を走るための乗り物で海を渡るなんて無謀よ」
そんなゼロスにうなづくように、うんうんうなづきつついっているリフィル。
「そうかな?でもさ。姉さん。たらいよりずっと安全そうだけど?」
ジーニアスがそんなリフィルにと言っているが。
どうやら話題はコリンのことから、完全に移動方法の手段にうつったらしい。
「たらぃぃ!?おいおいおい。シルヴァラントじゃ、タライで海をわたるのか!?」
「あ…あれかい。あれはたしかに…ねぇ。
  というか、安全管理のないまま、いくら海面が静かだからって。
  視界に先にみえてるかみえていないかの島までタライでしか移動手段がないって」
しいながソダ島にいく方法を思いだしたのか、遠い目をしながらいってくる。
「……ああ。タライのことを思い出したら気分が悪くなってきたわ……」
リフィルがふらり、となぜかよろけているが。
「おい。しいな。まじなのか?」
「まじさ。なんかアトラクションの感覚、なんだろうね。あそこの人達は。
  何でもタライ目当てに、間欠泉ってところにいってる人も多かったよ」
しいながふっと遠い目をしつつそんなことをいっているが。
「「タライで海をって……」」
どうやら思いはゼロスと同じであったのか、その場にいた研究員や受付嬢達が、
異口同音で何やらつぶやいている様がみてとれるが。
「アルタミラの遊園地でもきちんと係り員がいて安全面が確保されてるってのにさ。
  何もない大海原にタライのみで移動って…転覆したらしたで、タライを浮輪がわりにして泳ぐんだってさ」
「…まじかよ。シルヴァラントって……」
「い、いっとくけど。あのソダ島にいく手段がそうなだけで。他はきちんと蒸気船とかあるからね!」
マルタがはっとしたようにゼロスに対し、抗議の声をあげてるが。
「ちょっとまて。そっちじゃまだ蒸気船なんてもんつかってんのか?
  かぁ。どんだけ技術が遅れてるんだ?そっちは」
「何ですってぇ!」
「マルタちゃん。今度テセアラの豪華客船に案内してやるよ。リフィル様もな。あ、野郎はどうでもいいや」
マルタがきぃっと声をはりあげるが、そんなマルタの台詞をさらり、とかわし、
ゼロスが何やらそんなことをいってくるが。
「え?豪華客船?それってどんな?」
「ほう。テセアラの技術でいう豪華客船、とは。それは興味深い」
「でしょでしょ?聞いておどろけ、テセアラの豪華客船ってのはなぁ」
マルタがその言葉に目をぱちくりさせ、きらきらした目線でゼロスを見あげ問いかける。
そしてまた、リフィルはリフィルで興味を惹かれたらしい。
そんな二人にゼロスが得意げな表情で説明を開始しようとするが、
「はいはい。とにかく、いくよ!グランテセアラプリッジへ。おいてくよ!」
「あ、おい。まてよ。しいな!」
ゼロスを完全に無視し、すたすたと入口のほうへと歩き出す。
そんなしいなをあわてておいかけているゼロス。
そしてまた。
「エレカーか、楽しみだなぁ!」
「…ロイドって、始めだけは本当に元気いいよね……」
はしゃぐロイドの台詞にため息まじりにつぶやいているジーニアス。
「とりあえず、橋の麓にまでいけばいいんだよね?」
エミルの問いかけに。
「ああ。そうさ。橋の入口にある石の階段。その先にくちなわがいるはずだよ。いこう」
そうこたえつつ、
「じゃあ、あたしたちはこれで」
「きをつけてね」
その場にいる女性たちに別れの挨拶をむけ、そのまま王立研究院を後にする。
目指すはグランテセアラブリッジにある、という人工海岸。


「あれ?カギがかかってるみたいだよ?」
しいながいう石の階段。
グランテセアラブリッジはどうやら閉鎖されているらしい。
その中央に大きく、整備中。立入禁止、とかかれており、
視界の先に、作業員、なのであろう。
幾人もの人物がわらわらと橋の上などをいったりきたりしているのがみてとれる。
しいながいう橋の麓にあるという石の階段。
その前に柵があり、その柵にはしっかりと鍵がかかっていたりする。
ガチャガチャとしばしその扉をゆすったマルタがそんなことをいっているが。
「みたいだな。よし。こんなもの、てきと~に」
いいつつも、小さなピンを取り出して、カチャカチャと鍵穴にと差しこみ動かすロイド。
と。
ガチャリ。
キィッ。
扉につけられていた施錠が解除され、扉が音をたてて奥にと開く。
「ほら、あいた」
「ロイドって、手先だけは器用だからねぇ」
「ロイドならきっと空き巣も簡単にできるね」
苦笑しつつつぶやくジーニアスに、何やらさらり、とあるいみ危険なことをいっているマルタ。
「カギを無くした人達に鍵をあけることも頼まれることがあるからな。
  親父のところにもよく合鍵とかの依頼くるし」
その間、家に入れなくなったり、鍵があかないから困るような品。
それらを解除したりするのも依頼としてあり、自然覚えたロイドからしてみれば
これくらいは何でもないとおもっていたりする。
最も、エミルも少し鍵穴に風を送りこんでそこに力を加えれば
どんなに複雑なものでもどうとでもなったりするのだが。
「つうか。犯罪だろ。そりゃ。いくら手先が器用でも顔は俺様に負けてるな」
ゼロスがヒトの世界では常識的なことをいい、
その後になぜか関係のない顔の作りをいっているが。
ほんとうに人の美意識の基準はわからない、とおもう。
その時代、時代において美意識の基準がかけ離れているのだから。
そんなことをふとおもい、思わず苦笑せざるを得ないエミル。
ディセンダーとして表にでるときは、その世界における顔立ちの平均値。
それにしていたからか、なぜかよく美男子だの美少女だの。
色々と言われていたことを思い出す。
まったくそんな気はさらさらなかったというのに。
曰く、特徴がないゆえにそう捕らえられる、とはとあるヒトがいった台詞にこうあった。
美形・美人とは整った、すなわち特徴のない顔であり、その時代の多数派の顔の平均値である、と。
「なんだよ。顔は関係ないだろ!」
文句をいいつつも、開いた扉をくぐり、その先へ。
人工海岸とよばれている場所につづく桟橋がその先にと続いているのがみてとれる。
その桟橋を歩きつつ、ふと橋のほうに目をむけ、
「……橋がみえるわね」
ぽつり、とつぶやくリフィル。
「……ほんとだ。まさか、あの飾りみたいのは、エクスフィア…か?
  あの容器って、たしかアスカードの牧場でみた……」
動く床みたいなもので運ばれていた容器と同じもの。
それがいくつも橋の下にと重ねられている。
それが橋の下。
すなわち制御装置とおもわしきその真下にいくつも連なっているのが見て取れる。
「その通り。あれが制御に使われているエクスフィア、さ」
ゼロスの肯定に、
「あれが…全部、ヒトの命……」
ジーニアスが何ともいえない表情でぽつり、とつぶやく。
「ま。たしかにグロテスクかもしれねえな。エクスフィアの成り立ちってやつを知っちまうとな。
  最も、そんな風にいうのもどうかって思うがな。命の結晶…か」
ゼロスとて成り立ちを知ってしまった以上、何ともいえない気持ちになってしまう。
つまり、テセアラの技術は人の命の上になりたっているのだ、と嫌でも思い知らされる。
それでなくても人は誰かの命の犠牲によって生きている、というのに。
「あそこにあるだけの人が…シルヴァラントの人が命を落とした…んだよね」
マルタも思うところがあるらしく、顔をふせぽつり、とつぶやく。
「「「・・・・・・・・・」」」
マルタ、ロイド、リフィルが何ともいえない気持ちになり、
思わずその場にて無言になりつつ足をとめてしまう。
そんな彼らをしばしみつめていたが、やがてパンパン、と手をたたき、
「はいはい。暗い話しはおいといて。とっとといこうぜ」
そのまますたすたとその先を歩きだすゼロスの姿。
「あ。ゼロス。ったく」
そんなゼロスをみて、しいなが思わず声をかけているが。
あいかわらず不器用としかいいようがないが。
もうすこし言いようがあるのでは、というおもいがしいなからしてみれば捨て切れない。
「なんだよ。あいつ」
エクスフィアが人の命でつくられている、とおしえたはずなのに。
非情にしかおもえない態度に思わずロイドが文句をいうが、
「おそらく、場の空気を和ませるためにあえてわざとああいういい方をしているのよ。
  しんみりしていてもどうにもならない、というのも事実ですもの。
  …私たちもいきましょう。…いきたくないけど」
リフィルはリフィルでゼロスの意図をきちんととらえているらしい。
たしかに、ここでしんみりしていてもどうにもならなければ、
あの使用されているエクスフィアがどうにかなるわけでもない。
だから、ゼロスのいい分は正しい。
認めたくないが、それ以外に何もできない、というのもまた事実なのだから。
そんなことを思いつつも、そしてまた。
海を渡る、ということに対し、いまだに表情が晴れないリフィル。
どうも彼らとともにいる間、わざわざ感情を読み取るまでもなく、
簡単に彼らの考えや思いが手にとるようにわかってきているのは、かつてのときにはなかったこと。

やがて桟橋の先。
何か海面に乗り物らしきものが浮かんでいるのがみてとれるが。
どうやらそれがエレカー、とよばれしものらしい。
たしかに、世界を視たときにみたものと同じもの。
そしてかつての旅のときにも使用していたものと多少似通っている。
たしかあれは高速艇とか何とかリーガルがいっていたような。
エミルがそんなことを思っていると、
「まちくたびれたぞ。これがエレカーだ」
くちなわ、と呼ばれていた人物が、海に浮かぶ乗り物を指で示しつつ、
しいなに視線を合わすことなく、淡々といってくる。
その視線はしかし一行にむけられているのであからさまに視線をそらしているとは映らない。
「へえ。これが改造エレカーとかいうやつかぁ」
身を乗り出し、もの珍しそうにその乗り物をしげしげと眺めつついっているロイド。
「元がわからないからどこをどう改造してるのか僕らにはまったくわからないね」
ジーニアスも興味深々であったのであろう。
ロイドと同じように身を乗り出してみていたが、そんなことをいってくる。
「つうか。船っぽいのにしかみえないけどな」
違うのはロイドのしる帆がついていない、というくらいか。
そんなロイド達に対し、
「よぉし。ロイド君。さっきしいなからあずかってたさっきのパックをつかってみ?」
ここにくるまで、ロイドはしいなから、あまりにロイドがせがむがゆえに、
しいなはウィングパックをロイドにと手渡している。
「これか?」
「そうそう、これも使い方は……」
ゼロスが簡単にロイドがとりだしたそれの説明をする。
スイッチの位置、そしてそれに伴う簡単な注意事項。
「えっと…こうか?」
ロイドがいわれるまま、スイッチらしきものを押すと、
目の前にあった海に浮かんでいた船としかみえないエレカーが一瞬のうちにパックの中にと吸い込まれる。
が、それでロイドが手にしているウィングパックとよばれしものが重くなったというわけではない。
「「うわ!?」」
「ええ!?」
その声はロイドとジーニアス、そしてマルタ、ほぼ同時。
「なんで?どうして?」
よほど疑問におもったのか、再びスイッチを押す。
と、その場にエレカーは元の通りに海にと浮かぶ。
「…すげぇ!おもしれえ!これ!」
再びまたスイッチをおしているロイド。
「すごい…本当にあんな大きなものがあんな小さい中にきえちゃった……」
その光景をみてマルタがおもわず茫然、といった形で呟いているが。
「すごい、すごい!どうなってるんだろ!ロイド、僕にもやらせて!」
「おう。いいぜ!」
みれば、興味がでたのであろう。
ロイドにつづいて、ジーニアスまでエレカーの出し入れを初めていたりする。
「やれやれ。これだからお子様は」
そんな二人の様子をみてゼロスが両手をすこしわざとらしく掲げていっていたりする。
いかにも、呆れています、といわんばかりのその態度。
どうやら態度で呆れ具合を示しているらしい。
「なるほど。ここまで容量の大きいものまで収容できる。ウィングパック…ね」
リフィルがとあることを思いだしたのか、すこし考えてとれるが。
「こんな小さい中に本当にきえてるんだよね。どうなってるんだろ?分解してみたいな」
「やめときなよ。それ一つでかるく十数万はするんだからね」
「「うげっ!?」」
しいなの台詞に思わず手にしているウィングパックを落としそうになるジーニアス。
その何ともいえない声はロイドとジーニアス、ほぼ同時。
「な?ちゃんとエレカー、しまえただろ?」
「ああ。本当に出し入れ自由なんだ。すげぇ!よし、もう一回」
「もう、ロイド!あまりに出し入れつづけて壊れたらどうするのさ!僕ら弁償なんてできないよ!」
いまだに続けようとするロイドを何とか必死で止めようとしているジーニアス。
そんな彼らのやり取りをながめ、盛大にため息をついたのち、
「……はしゃぐのはそのくらいにして。そろそろ出発したらどうだ?」
呆れたようにくちなわがそんなことをいってくる。
横眼でしばらく彼らの様子をみていたらしいが、本格的にあきれているらしい。
「ウィングパック、か。これがあったら港のせまさとか船の置き場とか。
  そういう立地条件的なものは解放されるね。パパがほしがりそうだなぁ」
マルタがそれをみてそんなことをいっていたりするが。
「しいな。遊びに気を取られるお子様はおいといて。そろそろ出発したらどうだ?」
「「誰がお子様(なんだよ)(だ)!」」
くちなわの台詞に抗議の声をあげるジーニアスとロイドだが。
「お子様以外の何ものでもないでしょう。あなた達、遊びすぎよ。かしなさい」
このまま彼らにこれをもたしていてはラチがあかないとばかり、
ロイドの手から…ちなみにこのウィングパック。
ロイドとジーニアスが交互に奪うようにしてエレカーを出し入れしていたりしたのだが。
金額をきいてからは、互いに押し付け合うような形ではあったにしろ。
とにかく二人の手からパックを奪い、そして、そのままそれを海にとむけるリフィル。
「ああ。そうするよ。んじゃあまあ、やるよ」
リフィルに視線をむけられて、こくり、とうなづき、そして。
清蓮せいれん()よりいでし水煙(すいえん)の乙女よ。
  契約者の名において命ず。いでよ、ウンディーネ!」
しいなの言葉に従い、海上にウンディーネの姿が出現する。
それをみて、ぴくり、と表情をくちなわとなのった男性が動かしたのに気付いたのはエミルのみ。
おもいっきり嫌悪感を出しているというのにどうやら誰も気づいていないらしい。
「ウンディーネ。この乗り物に応用されている大地のマナの部分。それをあんたの力におきかえとくれ」
しいなが海面上にうかんでいるウンディーネに召喚した理由をいっているが。
ウンディーネはちらり、とその視線をエミルにとむけてくる。
かるくうなづくエミルの姿を確認し、ウンディーネもまた軽くうなづいたのち、
「…わかりました」
いいつつも、その力を変換させるためにヒトが作りし物体にと影響を及ぼすウンディーネ。
瞬く間にノームのマナの応用でしかなかったそれが、
ウンディーネのマナ、すなわち水のマナにとおきかえられる。
些細なマナの変化なれど、そのマナの変化にはリフィルもジーニアスも気づいていないらしい。
『レティス。ラタトスク様のことを頼みましたよ』
『お任せくださいませ』
しいなたちに気取られないように、であろう。
念話にてレティスに何やらそんなことをいっているウンディーネ。
「……あのな」
なぜに呼び出すたびにそんな心配をしているのだろうか。
センチュリオンにしても、魔物達にしても、また精霊達にしても然り。
ゆえに思わずため息をもらすエミルであるが。
「よ~し、エレカーか!盛り上がってきたぜ!」
そんなエミルの態度に気づいているのかいないのか。
否、絶対に気づいてないのであろうロイドが興奮気味にそんなことをいってくる。
「どうせすぐあきるくせに」
そんなロイドにと突っ込みをいれているジーニアス。
「これに乗っての移動、かぁ。もう少しおおきいほうがよかったなぁ。
  これだと一人一人の客室もままならないよね?」
そしてまた、しみじみとその乗り物をみてそんなことをいっているマルタ。
確かに普通の船とは違い、各個に小部屋が整備されているというような乗り物ではない。
「まあ。仕方ないさ。緊急だったんだし」
しいなもマルタの台詞に苦笑せざるをえない。
「さあ。いこうか。目指すはトイズバレー鉱山だよ!」
しいながそういい、乗りこもうとすると、くちなわがしいなに近づき、
「しいな、これをもっていけ」
小さな紐のついた袋のようなものをしいなにと手渡してくる。
「?お守りかい?」
「ああ。きをつけてな」
それはみずほの民がよくもつ、お守り袋。
お守り袋の中身をみれば高価が薄れる、といわれている品は、
その中に祈祷などをすませた聖なる札などをいれているのがならわし。
袋の紐の先には小さな紙細工の鶴がつけられている。
何らかの術というか符が刻んであるらしく、ちょっとやそっとでは壊れそうにない。
もっとも、それには別の意味も含まれている。
少し探ればすぐにわかりそうなものだが、どうやらしいなはそれに気づいていないらしい。
まあ、式神に近しい力を含めたものは、その力を込めた場所の特定ができる。
安否というかお守りとしてそのようなものを渡すことはみずほにおいては多々とある。
ゆえにそこに含まれている悪意に気づいていないようではあるが。
「しかし。ノイシュがまだ小さくなってるままで助かったよ。
  そいつ絶対にこれに乗るの怖がるとおもうしな」
ロイドが苦笑まじりにそんなことをいっているが。
「姉さん?ほら、いくよ」
「わ、わかっていてよ!それで、しいな、トイズバレー鉱山、というのは…」
「まあまあ。それは船にのってからでもいいんじゃねえか?
  まり長居してたら教皇騎士団のやつが個々に来ない、とも限らねえしな」
たしかにゼロスのいい分には一理ある。
「せめてもう少し大きな乗り物だったら……」
リフィルがぶつぶついいつつも文句をいっているが。
個室がないだけで後は問題ない乗り物だとおもえるのだが。
蓄積重量が操縦士の体重を含めても最大千四百というのならば、
この人数がのったくらいでこの乗り物がそう簡単に転覆などはしないであろうに。
というか、絶対にウンディーネがそんなことはさせない、とおもう。
ウンディーネだけでなくアクアにしても然り。
それぞれが思うところがありつつも、ひとまずエレカーに乗り込み、
やがて機体はくちなわが見送る桟橋を離れ、海原にと繰り出してゆく。


「さすが。研究所。わかってるね」
操縦室にいけば、そこに簡易的ではあるが船用の羅針盤が設置されているのをみて、
しいなが感心した声をだす。
海を航海するのに必要な羅針盤。
もともと、このエレカーには設備されていない品がきちんと設置されている、
というのはしいなにとってはありがたい。
「さて。羅針盤をみてきちんと運航を操縦できるのは…あたしはできるけど。
  ゼロスもたしかたしなみとしてできたはずだけど。
  あんたに操縦をまかせたら変なところにいきかねないもんね」
しいながちらり、とゼロスをみてため息まじりにいってくる。
海原にでたものの、海の真ん中で今現在は停船状態。
「今、あたしたちがいるのはここ、だよ」
しいながその場にテセアラの地図をとりだして、そして指をさしつつ、
「航海ルートとしては、こっちを回り込む方法と、こっちからの方法があるんだけど。
  こっちの南側を回り込むルートは、導きの小屋が近くにあるけど。
  それ以外が休む場所がないんだよね。
  ここで皆、雑魚寝か、もしくは手近いな大陸によって夜を明かすか」
「この船だと、どれくらいでたどりつくのかしら?
  たしか、昨日の説明では竜車のスピードの三倍以上、といっていたけども」
エクスフィア搭載大型改良云々、という竜車の性能はわからないが。
「すくなくみつもっても。まったく異なる大陸だからね。トイズバレー鉱山は」
「うむ。トイズバレー鉱山のある大陸はユミルの森もある地でもあるからな。
  安全な海路といえば、こちら側のほうがよかろうが。
  こちら側の海路は途中、海抜が低くなっていたりして座礁の危険もある」
リーガルが地図を除きこみつつ、海路の方角を指し示す。
「ああ。先に地の神殿の方向に、かい?」
「ん?そっちなら温泉があるぜ?これなら今日中に温泉につけるんじゃないか?
  だったら、今晩は温泉にゆっくりとつかって救いの小屋でやすめるんじゃねえか?」
ゼロスのいい分に、
「あんたねぇ。あんた、教皇から手配かけられてるのわすれてないかい?」
「ちっち。マーテル教に仕えている祭司は何も教皇に仕えてるんじゃねえぞ?
  祭司たちは基本、俺様、すなわち神子と、そしてマーテル様に仕えるように。
  という教育をもってして祭司になることができるんだぜ?
  それが教皇がいったから、とかいう祭司がいるとすれば、
  それはマーテル様への反逆、と捕らえられても仕方ないな。うん」
マーテルの名をきき、ロイドの顔が一瞬歪められるが。
「まあ、ウンディーネの力を使ってるから滅多なことでは座礁しないとおもうけど。
  で、どうする?こっちからいくか。それとも…」
海路は二つ。
北側の道をとるか、はたみた南側の道をとるか。
しばし地図をみて、それぞれ示された海路を眺めたのち、
「いえ。南側でいきましょう。これをみるかぎり、北側の海路はここから先、陸がないもの。
  なるべく何かあれば陸に上陸できる場所のほうがいいわ」
たしかに、地図にはゼロスが温泉がある、
といった小島より先には、小さな小島の軍勢があるだけで、
島、という島らしきものや、大陸といったものがみあたらない。
安全面を考えれば、大陸があったほうが気がらく、というもの。
もっとも、ずっと海の上にいたくない、という思いがないわけではないにしろ。
そんなリフィルの言い分に、
「ロイド。あんたたちの意見はどうだい?」
「俺は別に。先生の意見でいいんじゃないのか?」
「じゃ。決まりだね」
いって、しいなが、たっん、と南寄りの海路に指をそわし、確認をとる。
「うう。温泉…ま、しかたねぇか。コレットちゃんがまだ正気にもどってないからな」
「へぇぇ。正気にもどってたら、あんたは何だっていうのかねぇ?」
「いや。正気にもどってなきゃ、コレットちゃんも温泉を楽しめないっしょ?」
「どうだか」
ゼロスのいい分にしいながじと目でそんなゼロスをみているが。
「では。操縦は、私と神子、そしてしいなが三人で交代でよかろう」
「だね。羅針盤はシルヴァラントのものと同じかどうかもわからないし」
「いえ。みたところ磁石を利用している羅針盤のようね。仕組みは同じよ。
  もっとも精密さでいけばこちらのほうが大きいのでしょうけど」
リフィルが操縦室に整備されている羅針盤を先ほど確認しているからかそんなことをいってくる。
「いや。やっぱりテセアラのもので操縦はしたほうがいいだろう。
  シルヴァラントからきたというそなたたちはこのあたりの地理には詳しくあるまい。
  地図にない小さな小島などといった場所も多々とある。
  もしくは岩場とか、な。それらを考慮しても」

「あたしはそれには詳しいけど、あんたもそれにくわしいのかい?
  あんた、海にでたこととかあるのかい?」
「昔、知識としては叩きこまれている」
「昔…ねぇ。囚人のあんたが、ねぇ」
淡々というリーガルに怪訝そうな表情をむけているしいな。
「とりあえず、きまったのならば早く出発しないこと?
  …夜の海をこんな不安な乗り物で航海するのは危険だわ」
「よっしゃ。ジーニアス。魚釣りしようぜ、魚釣り!
   俺、一度やってみたかったんだ。話しにはきいた流しつり!」
「ロイド、それってカジキとか?この船じゃ絶対にむりだよ。
  というかそんなのつろうとしたら僕らのほうが海に投げ出されちゃうよ!」
「「・・・・・・・・・・・」」
そんなロイドとジーニアスのやり取りをみつつ、
「そういえば、この船の中、簡単な厨房はあったよね」
「あ、なら、僕が料理担当するね」
「エミル。この船は狭いのだから、
  たのむからまた何かに手伝ってもらったりはしないでちょうだいね?あなたよくよんでいるもの」
何に、とはいわないが。
これまでの野宿などをしていたとき、そしてまたアイフリードの船上で。
エミルが料理の手伝いといって魔物を呼んでいたのを知っているがゆえのリフィルの台詞。
「あ。なら、私、エミルの手伝いするね!できたら、エミルに私の手料理たべてもらいたいな」
「おお。なら、マルタちゃん。ぜひともこの俺様にマルタちゃんの手料理を」
「え?いいよ」
「よっしゃぁ!」
マルタの台詞にゼロスがガッツポーズをとっているが。
「「…御愁傷様」」
マルタの料理の腕をしっているロイドとジーニアが思わずぴたり、と制止して、
同時にゼロスにそんなことをいっていたりする。
「?」
ゼロスにはその意味がわからない。
「なら、私もマルタと一緒に」
「姉さん!そ、そうだ。姉さんはきちんと海路が正しいかどうか。
  ね?操縦士だけでなく見張りも必要なんだから、ね?ね!」
「そ、そうだぜ。先生。外の見張りは俺達でするから。先生はしいな達のところで、な!」
リフィルがいいかけると、何やら必至でそんなリフィルに懇願するようにいっているジーニアスとロイドの姿。
「変なやつらだなぁ。リフィル様の手料理か。俺様すっごくたべたいな~」
「あら。いいわよ。なら、今からでもつくろうかしら」
「おお、ラッキー!じゃ、さっそく……」
どうやらなぜか会話がまとまってしまったらしく、
そのまま厨房のほうへときえてゆくリフィルとゼロス。
そんな二人の後ろ姿を見送りつつ、
「…ねえ。とめなくてもいいの?」
つぶやくエミルの問いかけに。
「ちょうどいいよ。…あのあほ神子、少しでも静かになってくれたほうが航海が安全になるからね」
「うわ。しいなって毒舌」
「…俺、ゼロスに同情するかも……」
ジーニアスが思わずいい、ロイドがしみじみと感情のこもった声でいってくる。
「??」
そんな彼らのやりとりの意味はリーガルにはわからない。


  ~スキット~エレカーの内部。リフィルの料理~

ゼロス「おお。これぞ夢にみたリフィル様の料理、いっただっきま~す」
ロイド「…なあ。先生?この中にはいっているのって…何だ?」
何かみためは普通の何かの食材っぽいが、リフィルのつくるもの。
ゆえに油断はなりはしない。
リフィル「あら。ふぐよ」
ゼロス「そうか。そうか。フグねぇ。って、ふぐぅぅ!?」
あむあむ、ごっくん。
おもいっきり口に含んでいたそれを全て飲みこんでいるゼロスの姿。
リフィル「あら。平気よ。一緒にポイズンボトルを入れて煮込んだもの」
ゼロス「ど、どうりで、なんか、体がピリビリしてるような……」
リーガル「それは気のせいではないのか?神子?
      通常、ふぐの毒は食後二十分から三十分ほどで現れる、というが」
ジーニアス「…食べないで正解だったね」
ロイド「だな」
見た目は普通にみえたが絶対に何かある、とおもって手をつけていなかった。
ゼロス「だぁ!リーガルさんよ!悠長にいってないで!少しは俺様を気にしてもいいだろ!
     俺さまがっつりたべちゃったんだぜ!?」
リーガル「うむ。おしい神子をなくしたものだ」
ゼロス「勝手に殺すなぁぁ!」
リフィル「あら?一緒に毒の効果を打ち消す薬を煮込んだはずだから問題ないわよ?」
マルタ「そうだよ。この中の薬をいれたから間違いないよ」
リフィル「あら?マルタ。その薬……あら、いやだ。マルタ。それはストーンボトルよ。
      石化をつかってくる魔物達に対して使用されるボトルで石化を解除するものよ。
      石化限定なので毒にはきかないわ」
ちなみに、店で買う場合、ストーンボトルは二百四十ガルドほどするらしい。
入れ物の違いでわかりそうなものだが、マルタは間違えてしまったらしい。
なぜ、という思いを抱かないわけではないが。
まあ、マルタはよく確認せずにそういったことをしでかすというのは、
かつての旅のときにラタトスクは身にしみてしっているがゆえに突っ込まない。
何しろ旅の終わりのころまで料理を味見してつくる、
ということすらしなかった彼女なのだから。
マルタ「あれ?そうだっけ?」
リフィル「そうよ。状態異常を回復させるのは……」
ゼロス「どうでもいいから、早くバナシーアボトルぉぉ!」
ロイド「ああ!何すんだ!ゼロス!あまり数ないんだぞ!パナシーアボトル!」
一気に数本をがぶのみしているゼロスの姿がそこにはみうけられるが。
ゼロス「この美しい俺様が死んだら世界の損失っしょ!」
ジーニアス「…でもさ。状態異常変化があらわれてからのむのじゃなくて、きくの?」
ぴしり。
ロイド「お~い?ゼロス~?」
ジーニアス「あ。かたまっちゃった」
エミル「…なんだか賑やかだね」
そんな彼らの横では、いまだに回復薬の講義をリフィルがマルタに続けている光景がみてとれるが。
ロイド「で、これどうする?」
ジーニアス「せっかくの料理だけど。魚のえさにしよう」
エミル「あ、それなら僕もらっていい?そういうのが好きな子達がいるからね」
ロイド「…こ?」
ジーニアス「え?エミル、それって……」
エミル「この海に住んでる子で毒物好きな子ってけっこういるんだよ?」
ロイド&ジーニアス「「あ…あはははは……(深く聞かないようにしよう)」」
リーガル「しかし、キュアボトルといわず
      高価なパナシーアボトルを求めるのは、さすが神子というべきか」
ジーニアス「何、変なとこで感心してるのさ……」


※ ※ ※ ※


抑制鉱石があるという山がある場所は、ここから南の方角にある大陸、らしい。
「あ~あ~。あっち側にいったら、アルタミラにたどり着けるのになぁ」
見えてきた大陸と大陸同士の間の海峡。
そちらのほうをみて、思いっきりため息をつきつついているゼロス。
「さっき死ぬだの何だのと騒いでたやつの台詞とはおもえないね」
リフィルが作ったふぐ料理をたべて、死ぬだの何だのと騒いでいた男の台詞とはおもえない。
そんな最もともいえるしいなの呟きに、
「そうはいうけどな。しいな。アルタミラだぜ!アルタミラ!
  少し前までアルタミラの方まで雪が降ったりしたこともあったらしいけどな」
その異常は一時収まったにしろ、再びつい最近、雪がいきなり降り注いだことがあるらしい。
その報告はゼロスの耳にまではいってきていたりする。
ゼロスは知らない。
とある事情で瘴気によって狂いかけていたセルシウスの暴走による影響、ということは。
最も、今ではさくっとその現象も収まっているのではあるが。
「それにしても……」
ふと、壁際に座っているここから見える部屋にいるリーガルをみつめ、
「エクスフィア鉱山…ねぇ」
意味ありげにつぶやくゼロス。
今現在、操縦桿はしいなが握っており、ゼロスはそんなしいなの横になぜか暇だから、
という理由でいたりする。
操縦室とロイド達がいる部屋は、ガラスで区切られており、
それぞれの部屋が見通せる作りとなっている。
「なんだい。うさんくさそうな声をだして」
そんなゼロスにしいながため息まじりに問いかけるが、
というか無視をしたらしたでうるさくなるのがわかっているがゆえに相手をせざるをえない。
というのがしいなの心情。
「おまえだって知ってるでしょうよ。
  アルタミラの方にある、つまりその先の大陸にあるエクスフィア鉱山、といえば。
  トイズバレー鉱山のことだろ?」
ゼロスの台詞に、
「ああ。隣のモーリア坑道と繋がっているっていう、あれかい?
  たしか、いまだにモーリア坑道もなかなか奥まで調べられてないとかいう。
  あたしらでも最下層がどこまでつづいているのかわかっていないしね」
それは事実。
みずほの民の情報でもまだそこまでつかめていない。
途中からかなり魔物が強くなり、実力がなければ進めないどころか、
かなり厄介な仕掛けがある、ときく。
まあ、元々そこにマクスウェルがいた場所でもあるので、
それにあわせた仕掛けなどを嬉々としてかつてマクスウェルが創りだしていたのだが。
そんな事情は当然、今いきている存在達は知りはしない。
しっているとすれば、マクスウェルと契約を結んだときにいた、ミトス達四人くらいであろう。
「ま、あれは嘘かまことか冥界にまでつながってるとかいわれてたりするからな。
   それはともかくとして。あの付近の山の持ち主が誰かを考えてみろよ」
ゼロスの言葉に少し首をかしげ、
「?何いってんだい。あの付近の山はレザレノカンパニーの所有物だろ?
  あのあたりはレザレノの、否、ブライアン家の私有地だったはず。でもそれがどうしたんだい?」
レザレノ・カンバニーの創立者の家系でもあり、公爵でもあるブライアン家。
その家の私有地となっているのはかなり有名。
「…は~。しいなが立派なのは胸だけか」
しいなの台詞に盛大にため息をつくゼロス。
なぜそこまでわかっていて、わからないのだろうか。
しいなとて、あの事件のことは知っているはずである。
あの事件の後、情緒酌量の余地がある、といわれていたのに、
教皇の暗躍があり、結果として投獄されてしまった元社長のことは。
わざわざ牢の中にいなくても、逃げるはずもない、というので。
自宅にての監視付の処罰でもよかったのだが、
彼自信が罪は罪、といいきり、牢に入ることを望んだまま、今にいたっているその事情。
その名を思いだせれば、すぐに思いつくであろうに。
ぼかっ。
ゼロスがそんなことを思いつつ、盛大にため息をつくとともに、
おもいっきりしいなの拳がゼロスの頭にと直撃する。
ちなみに、今現在、しいなは操縦桿を握っている状態で、
ゼロスはその少し後ろにて、その操縦室にとある椅子にと座っている状態。
「なぐるよ!」
「なぐってからいうなよ!もう!というかおまえ、操縦桿はなしてもいいのかよ!」
ゼロスを殴るために操縦桿からわざわざ手をはなし、
おもいっきりゼロスをなぐっているのは何ともいえない。
「あ!」
「ったく。運転ミスで遭難、なんてやめてくれよ~」
「わ、悪かったよ」
それでなくても高速での移動。
少し目をはなした隙に何がおこるかわかったものではない。
事実、目をはなしたときに事故を起こすのは事故の定番ともいえるもの。
「まあ、船旅もかなりかかるんだ。のんびりいこうぜ、のんびりと」
そもそも、大陸の端っこにむかうのである。
レザレノカンパニーが所有している高速艇ならまだしも、これは普通のエレカーにすぎない。
ゆえにどうしても距離をすすむのに時間はかかる。
それでも徒歩やそれ以外よりは早いといえば早いのだが。
「あ。でしたら。ウンディーネにでも頼んで、早くしてもらえばどうですか?」
ふと、背後のほうから声がして思わずふりむけば、
「うお。エミル君。どうしたのさ。いきなり」
「お。うまそうだね」
エミルがもっているのはお盆にいれたおにぎりとそして飲み物らしきもの。
「ええ。お腹すいてないかな。とおもって。かんたんにつくってきました。
  おにぎりと、あとサントイッチですけど。これでしたら片手でも食べられるでしょ?」
たしかに操縦桿を握りながら、何かを食べたり、というわけにはいかない。
停船状態にしてものを食べるのならばともかくとして。
「たとえば、どこどこまでこの船を運んで~とかいってお願いしてみるとか」
「しかし、そんなお願い、精霊がきいてくれるかねぇ?」
エミルのいい分はたしかにわかるが。
しかしたしか精霊はあまり力を使用するようなことは好ましくないようなことをたしかいっていたはず。
「まあまあ。しいな。エミル君のいうように。ダメでもともとってか。たしかに、少しでも早いほうが楽っしょ?」
「そう、だね。じゃあ、ちょっと、あたしは甲板にでてくるよ」
ゼロスに促され、そのまま操縦室から外にとでてゆくしいなの姿。
やがて、
清蓮せいれんよりいでし水煙すいえんの乙女よ。
  契約者の名において命ず。いでよ、ウンディーネ!」
甲板からしいなの声が聞こえてくる。
そして
「ウンディーネ。あたしたちをトイズバレー鉱山とかいうところの入口付近。
  この船ごと運んでもらうことはできるかい?」
「いいでしょう。契約者よ。かなりのスピードがでます。
  では、あなた方全員は、部屋の中に待機していてください」
しいなの懸念は杞憂におわったのか、いともあっさりと許可をだしてくるウンディーネ。
そのあまりのあっさり用に一瞬、しいなは疑問に思うが、
移動させてくれるのであれば助かることにはかわらない。
「…それに、少しでも早いほうがあの御方の為にもなりますし」
「?何かいったかい?ウンディーネ」
「いえ。何も」
小さく呟かれたウンディーネの言葉が耳にはいったらしく、しいなが首をかしげるが、
完全に聞いていたわけではないので、しいなにはその言葉の意味はわからない。
「…あの御方…ねぇ」
ウンディーネのほうに注意して聴力を済ましていたゼロスが小さくつぶやき、
そしてそのまま視線をエミルにとむけてくる。
「?ゼロスさん。何か?」
「エミル君。これ、エミル君がつくったんだろ?」
「え、ええ。そうですけど」
「どうやったら普通のおにぎりでこんなにうまくつくれるんだ?」
さらり、と話題をかえてエミルにとといかけているゼロス。
どうもウンディーネとこのエミルには何かがある。
それはゼロスの直感。
あのとき、しいながあの桟橋でウンディーネを召喚したとき、
たしかにウンディーネはエミルのほうにかるく頭を下げていた。
それにゼロスは気づいている。
そして、エミルが呼んだ、というあの魔物。
さらにはガオラキアの森での魔物達の態度。
そんな会話をしている中、扉がひらき、
「了解してもらえたよ。あたしらも操縦室から皆と合流しておきなってさ」
ロイド達がいる部屋には少なくとも人数分くらいの簡単な椅子は設置してある。
というよりは、折り畳み椅子が置かれており、それに座ることが可能。
しいなの言葉をうけ、
「じゃ、皆のところにもどります?」
「そうだね。エミル、ノイシュは?」
「え?ああ。もう元の大きさにもどってますよ?今、リフィルさんがだきついてます」
海の揺れをなるべく感じないようにするためか、リフィルがべったりと今現在、
ノイシュの横に張り付いている状態になっていたりするのだが。


『うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?』
ズザザザッ。
それはまるで統べるような早さというべきか。
「すっげ~。ものすごくはやいぜ!これ!」
「って、アルタミラのジェットコースターかい、これはぁぁ!」


全員が一つの部屋にと入ったのを見届けた、のであろう。
船がふわり、と浮くような感覚。
それとともに、ゆっくりと、そして急激に船体は加速を初めていき。
やがて、水しぶきを盛大にあげながら、船は海上を横切ってゆく。
はたからみれば、水しぶきがあがっているのはみえるが、
それが何が原因で水しぶきがあがっているのかすらみえないほどのスピード。
なぜか部屋の中。
叫びや悲鳴、そしてロイドやしいな、といった声が響いているのがきこえてくるが。
「?何皆さわいでるんだろ?」
「エミル、なんでこんな早いのに平気なのよぉぉ!んきゃぁぁっ」
必死になぜか固定されている椅子やノイシュなどにしがみついている皆の姿がみてとれるが。
どうしてこの程度の事で皆、きちんと立っていられなくなるのかエミルには理解不能。
少しばかり遠心力がかかっているだけだ、というのに。
ノイシュはその本質からしてこの程度の遠心力は何ともなく、
でん、と普通に部屋の中に座り込んだままとなっていたりするがゆえ、
そんなロイドにしがみついているジーニアスやリフィルの姿がみてとれるが。
みれば、コレットはぱたぱたと翼をだしたまま、空中に浮かんでいるがゆえ、
遠心力の余波はあまり感じてはいないらしい。
空中でゆらゆらと安定をたもちそこにいる。
やがて。
びたり、といきなり船体が停止する。
「うう…気持ちわるい……」
ふらふらしつつ、ジーニアスがぽつり、とづふやく。
なぜかみれば皆がほとんど、体をふらふらさせているのがきになるが。
「皆どうしたの?」
「・・エミル。あなたなぜあれで平気なの……」
真っ青な顔をして疲れたようなリフィルの台詞。
なぜかあの程度でちょっとした乗り物酔いにかかっているらしい。
それがエミルからしてみれば不思議でたまらない。
「では、私はこれにて。何かありましたらいつでもまたお呼びくださいね」
声なき声が部屋の中に響くと同時、
きらきらとした水滴が、部屋の中、どこからともなく降り注ぐ。
その水滴に触れるとともに、気分がわるくなっていたリフィル達の顔色が、
こころなしかなおっているような気もしなくもないが。
どうやらわざわざ去り際に、異常回復の効果をもつ癒しの涙を散布していったらしい。
「とりあえず、どっかについてるみたいですよ?」
エミルが外を指さしつぶやけば、たしかに船の前には山らしきものが連なっているのがみてとれる。
あの一瞬で、連なっているという山脈地帯にまでどうやらたどり着いているらしい。
「…すこし、休んでいかない?」
ジーニアスのぽつり、とした呟きに。
「同感。…今後は下手にウンディーネに頼まないようにするよ……」
しいなが心底疲れたようにそんなことをいってくる。
たしかに早くに目的地にたどり着けることは助かるが、そのたびにこのスピード。
それこそアルタミラのジェットコースターにのっているような感覚を、なぜに味わわなくてはならないのか。
それゆえのしいなのつぶやきは、その心情までリフィルは知ることはないにしろ、
「ぜひそうして」
リフィルまでも疲れたような表情でそんなことをいっていたりする。
「?変な皆」
「俺様はスピードにのったりするのは面白いけどなぁ」
エミルがそんな彼らをみて首をかしげ、ゼロスはゼロスでそんなことをいっていたりする。
ともあれ、一日もたたないうち、というよりは。
一刻もたたないうちにたどりつきしトイズバレー鉱山がある、という山脈地帯。
目指すは、ここにある、という今は閉鎖された鉱山内部。



pixv投稿日:2014年2月8日某日(Hp編集:2018年4月22日(日)

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あとがきもどき:

※ぽそっとしたつぶやきですv

人の噂は千里を走る~というわけで(何が?)
メルトキオの人々の態度が違った理由。
その一言につきます。
何しろ昼間にエミル、シムルグ呼びだしてますからねぇ。
つまり目撃者多数。
ついでにいえば、壊れた原因を調べるために、
グランテセアラブリッジには数多の作業員や、
また原因解明のために研究者などもやってきていたわけで(カンパニーからの派遣)
そんな人々がシムルグの姿を認識したら?
つまり、噂はあっという間に広まってますよ~
ついでに、噂には尾ヒレがつきもの。
さて、一晩、さらに二晩も経過した人々が手にいれてる噂とは?ふふふふふ
エミル、ちなみにシムルグのレティスに姿を消すようにいわなかったのは、
わざとではないですよ(ボウヨミ)
いや、たとえ、ミトスがレティス達を勝手に宗教に利用していたという理由で、
むかっとしたのでならこっちも利用がてらにそれを利用しても問題ないな。
とかおもったわけではないですよ?(さらに棒よみ)
さて、皆が信じ込んでいる女神マーテルに仕えているという伝説の神鳥。
まったくその伝説のままの巨鳥があらわれて、
その前後するように教皇が神子を手配するような愚行をしたら?
人々がどっちを信用するか、皆いわなくてもわかるかと。
何しろテセアラには、あの『スピリチュア伝説』が小さな子供ですら知られているわけで
あるいみで、教皇、詰んでます(笑)
エミルが介入しなかった場合、完全にゼロスは街の人々からも疑問視されていても、
でも神子様だし、でも教皇のいい分も、みたいな感じでどっちつかず。のようでしたけどね。
ちなみに、シムルグだした理由。
というか、あのとき、なぜシムルグで体の大きさ変えて云々、とだしたかの理由。
実は、ゼロスにおまえら、どんな旅を・・・といわせたかったがために、
あのシーンは産まれていたという裏事情。
覚えてる人はいないでしょうけどね。
エミルが初めてシムルグ呼んだときのことですし。
…あれを考えたらかなりつづいてるな…初は6話(投稿分の話数)だし…
これ、完結したら何話になるんだろ?
なぜか、これ打ち込みしてる最中、これのラストが頭の中をリフレイン中。
誘惑にまけてラストを打ち込みしてしまったら、途中を打ちこみする気力が低下してしまう
というのは今までの経験からわかってるからまだラスト付近は打ち込みしてません。
というか物語にそってのみしか打ち込みしてない今現在・・・


 ※豆知識※~水のろ過について~WIKIより~
砂利の層の上に砂の層を敷きそこに水などを通すことで
不純物を取る表層濾過(砂濾過池(砂ろ過池))のこと。
かつて、上水道の浄水にしばしば用いられ、今日でも下水道の清浄に用いられている。
用水処理技術には懸濁物質 (SS) を捕捉除去するのが前処理での重要な技術の一つ。
また、鉄・マンガン・濁度・色度の処理などにも使われる。
用途としては、浴槽・プール・井戸水・雨水の処理装置として用いられている。
簡単作成方↓※この方法でこの話しには取り入れてあります
少しでも安全な水を飲むためにろ過装置を作成する方法。
ペットボトルなどの容器の底を切り取り、
呑口の方から「小石」「小砂利」「砂」「木炭」
「目の細かい砂」「麻などの腐らない繊維」を順に入れるとろ過装置が出来上がる
※簡単に作成することが出来ますが、ろ過をする前に
煮沸をするとろ過することの出来ない微生物までを死滅することが出来る場合があります