まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

pivixさんに投稿していた話の区切りとは変えてあります。容量的に……
話的にはこの2話は6を少し超えたあたりで区切ってます。

この話しにも、魔物のシムルグがでてきます。
え?また?これにも?という人もいるでしょうが。その疑問は、
ラタトスクの騎士の魔物図鑑のあの説明にありますv
……なんで、神子を助けた、という伝承があるんだろう?
しかも二つの世界を飛び交ったって……
まあ、あれをみて、人間がその雄大なる姿をみて勝手にねつ造したのだろうな。
とおもっていたりする、という裏事情。
そもそも、あんな綺麗な鳥が聖堂の中にいれば、そりゃ、魔物とはおもわずに、
勘違いする人間もいても…おかしくはない…の、かなぁ?
シムルグの生息場は、イセリアの聖堂の中、でしたしね。
魔物ともおもえないその優美さを利用して、ミトスがマーテル教の伝承を伝えるのに、
利用していてもおかしくはないなぁ、とおもっての設定です。
…事実はどうなんですかね?謎。
そもそも、あのシムルグがラタ(センチュリオン)達以外に従う、というのが信じられないし。

~※参考まで※~
ラタトスクの騎士、魔物図鑑。
NO,90シムルグ
神子を乗せて、二つの世界を飛び交ったという伝説の神鳥。
羽ばたく姿は優美のひとこと。

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重なり合う協奏曲 ~食事風景と移動手段と~

「「「・・・・・・・・・・・・」」」
「あ、おかえり~」
この光景を何、といえばいいのであろうか。
ちょこまかと、小さな魔物達がエミルの周囲をいきかっている。
みれば、魔物達がそれぞれ、どうやら石でかまどをつくっているっぽい。
視線をむけてみれば、リフィルが盛大にこめかみに手をあてているのがみてとれる。
「えっと、ロイド、あれって僕の目の錯覚じゃないよね?」
「…というか、なんで魔物がいうこときいてるんだ?というか、魔物がかまどつくってる…」
その横では、エミルが…どこにもっていたのかわからないが。
どこからともなく取り出しているっぽいマナイタっほいものの上で、
何やらこれまた目もとまらない早さでその手にしている小さなナイフを動かしているのがみてとれる。
問題なのは、そこではなく、
その下にあるココナツの実を半分にきったようなものの中に、
それぞれ、何やらわけられていれられているような気がするのはこれいかに。
ロイド達がもどってきたことにどうやら気づいたらしく、
「あ、おかえり。薪ひろえた?」
「あ。ああ。えっと……」
そう声をかけられても、何といっていいものか。
小さな魔物達は、ロイド達にたいし、小さい体ながらも威嚇しているのがみてとれる。
「威嚇しなくてもいいよ。とりあえず、お疲れさま。また何かあればよぶね?」
いわれ、こくこくと魔物達はうなづき、そのままその場にあらわれた、魔方陣のようなものの中にときえてゆく。
「エミル。すこしいいか?その大きな鍋とかどこにもってたんだ?」
どうでもいいが、巨大ともいえる鍋が二つ。
どこにもっていたのか、ときにかかる。
切実に。
「え?袋の中に常にいれてるよ?」
それはディセンダーとして表にでているときの必需品、といってよい。
ついでにそういえば、とおもいだし、彗星の移動中、つかっていなかった数々の食材。
それがたしかあったことにきづいて、せっかくだからつかってしまおう。
とおもったがゆえのメニューの選択。
そもそも、彼が使用している袋の中の時間は完全にとまっているがゆえに、料理が腐る、ということすらありえない。
簡単にいえば、袋の中にいらられたその時のまま、完全に時がとめおかれている、のだから。
いわく、天地戦争、とよばれし時代において、人々が必需品、としてもっていたもの。
もっとも、その戦争によって大樹が枯れてしまい、その品はそれ以後、少なくなっていっているのだが。
今、空間圧縮袋だけでも貴重品なのに、そこに時の力が加わっているもの、など、
それこそ神話の中の代物、といってよい。
もっとも、その品はクルシスより、常に神子の家系にのみ伝えられ、
ゆえにコレットが旅にでるとき、その袋はコレットに託されているがゆえ、
劣化しているとはいえ似たようなものをリフィル達は一つほどもっているにはいるにしろ。
「…うわ~。すご、この細工、もしかしてエミルが今やったの?」
ふとみれば、器であろう中に細かな細工がほどこされている具材?らしきものが多々とみてとれる。
利用している具は、卵にダイコン、そしてじゃがいもにこんにゃく、さらにはウィンナーやニンジンといったもの。
ついでに練りものなどもはいっているが、それはエミルの手がくわわり、ちょっとした一つの芸術品のような形となっている。
それは、ノイシュの姿であったり、コレットの姿形であったり、ロイドの姿であったり、
もしくは簡単なところですらもみじの葉の状態であったり、と。
肉に関しては面倒なのでこっそりと、袋の中に手をつっこみ、いかにもとりだしたようにみせかけただけではあるが、
マナを紡いで、簡単な鳥肉などを創りだしていたりする。
「もうすこしで具材はできあがるから。あとは、これらをいれて、煮込んでできあがり。体があたたまるよ?」
ちなみに、かつてのデリス・カーラーンではこれのことをこうよんでいた。
今の言葉で言い直すならば、みそおでん、と。
なぜかエミルが創った場合、体力も、そして精神力、そして状態異常すら完全回復してしまうのだが。
今のこの世界においては、みずほの里につたわりし伝統料理の一つ。
「で、薪はあつまったの?」
「え。あ、うん」
「ロイドたち、薪をくべたことは?」
「親父と外にいったときにいくどか」
「なら、そこに石でかまどつくってるからおねがいしてもいい?」
みれば、かまどはふたつ。
平行に並んだ形のものと、囲い型ににたものがつくられているっぽい。
というかよくもまあ、同じ大きさ、ほぼ同じ形の石をくみ上げてつくりあげている。というか。
だいたい、二十から二十五センチくらいに組み上げられている。
ロイドがダイクからきいた理想の大きさそのままに。
たしか、あまり高くするとなんとか効率が悪くなるとかいっていたはず。
ふと義父ダイクにいわれたことを思い出しているロイド。
「うわ。はかったかのように、きちんと二十五センチだし、こっちは四十センチくらいだね」
「…それより、コレットは?」
「このあたりにある変わった形の石をみつけてそれをあつめるのに夢中になってたよ?」
「「・・・・・・・・・・・・」」
事実、夢中になっては、リフィルのもとにもっていき、
どうしてこんな形になったりするんですか?とか質問攻めにしている今現在。
リフィルも知りたいのはいいこと、とばかりにコレットにその仕組みを教えていたりする。
ついでにいえば、このあたりにはちょっとした鉱石の原石もあったりする。
それをコレットがみつけ、リフィルにもっていき、
リフィルが目をかがやかし、一緒に探していたりする、という現状もあったりする、のだが。
まあ、この川、中に砂金もあるんだけどな。
とはエミルはおもうが、それは別に口にすることではないのでいっていない。
「…とにかく、薪をくべようぜ」
「だね」
「そういや、ジーニアスも薪とかくべるのなれてるのか?」
「姉さんと旅しているときは野宿は基本だったからね。いわく、サバイバル知識はたたきこまれてるよ?」
いつなんどき、何があってもいきていかれるように。
その知識はジーニアスにしっかりと伝えられている。
「基本の薪の組み方は「三角すい型」とかよばれている方法だね。
  火をつける材料をを準備したら、つぎは焚き付ける素材。
  鉈とかがあれば、鉈を使って、薪を1cm角ぐらいに割ったものを10本ぐらい使う。
  焚き付け用の品は火が落ちそうになった時に使えるように、少し余分に作る。
  そして、燃えやすい材料、たとえば紙とか枯れ葉とか。
  とにかくそれらを中心にして、三角すいに組んでゆく。
  ここで、空気が流れるように隙間を開けて並べるのがポイントだね。
  さらにその上に3~5cm角ぐらいのやや太めの薪5~6本を乗せる。
  これも同じように隙間を開けて並べる。そこまでしてようやく準備が完了。
  で、これからやるのは、この鉈とかの方法ではないけど、似たようなものだけど。
  集めてきた薪はそれぞれ四十センチくらいの長さに折っていくんだけど。
  それはここにくるまでにもうやってるよね?」
実際、薪になるであろう木々をあつめながら、だいたいの長さに足などで折っていっている。
ロイドは剣をもちい。
なぜか、ジーニアスがおさらい、とばかりに薪の組み方講座なるものをロイドに初めているのがみてとれるが。
「わかってるよ。親父とでかけたとき、きちんとしないとご飯ぬきだったんだからな」
そうこういいつつも、どうやら薪をくべおえた、らしい。
「それじゃ、いくよ~。威力をかなり小さめにして…ファイアーボール!」
ボッ。
ジーニアスの術により、かまどにくべられている薪にと火がともる。
常に野宿を経験しているがゆえなのか、どうやら手加減が身についているらしい。
「あとは、この鍋に水をいれて…と」
いいつつも、腰にとつけている鞄状の荷物入れより一つの杖をとりだす。
ちなみにエミルが利用しているのは、袋形式の荷物入れでなく、腰にまく、ポーチ形式の空間圧縮鞄。
万が一、人にみられたときように、自分以外のものが開いた場合は、中に袋があるようにしかみえないが。
エミルがとりだした杖をかざすとともに、杖の先から水の球が鍋の中にと注がれる。
「…エミル、えっと、それ…何?」
「え?水連の杖だけど?」
ちなみにこれを使用した場合、ターゲット、としたものの真上から水流を降らすこととなる。
分野としては高圧の水流で敵を押し流すもの。
もっとも、この世界においてのこの術に近しいもののの原型はまた異なっている。
目標の周囲の地面から水を圧縮させてうちだす、中級魔術に組み入れられていたりする。
上空に打ち上げるか、はたまた頭上から落とすか、の差異でしかないにしろ。
「聞いたことないんだけど……」
「そう?属性を含んだ杖って、よくあるよ?」
ちなみに、火の属性を含んだものもあれば、ほとんどの属性をもつ杖は存在している。
もっとも、今この世界において普及しているものはまずない、といってもよいのだが。
「ロイド、ジーニアス、みてみて~!先生と一緒にこんなのがとれたよ~!」
そんな会話をしている最中、コレットが何やら走ってやってくる。
「みてみて~!」
いいつつも、手の中にあるのは、様々な色彩を含んだ石のようなもの。
「あ、石英とかだね。メノウに、それに、あ、水晶もみつけたんだ~」
どうやらいくつかの小さな鉱石をみつけた、らしい。
手の中にあるそれをみて、そういうエミルの台詞に。
「エミルも詳しいんだね?先生も詳しいんだよ~?
  さっきなんか、先生、大きなアメジストの原石この上でみつけてはしゃいでたし」
「って、それってたしか宝石の名前じゃ?」
ジーニアスがその説明に口をはさんでくるものの、
「ときどきとれる場所があるからね。この場所がちょうど条件をみたしてたんじゃないの?」
「ってことは、何か!?さがせば宝石がみつかるかもってか!?ジーニアス、いくぞ!」
「あ、ちょっ!ロイド…原石のままじゃ、あまり価値…ないんだけどな。
  仕方ない。ロイドほうっといたら何しでかすかわかんないもんね……」
コレットとともに駆けだしてゆくロイドをみて、ジーニアスが何やらため息をついているが。
「いいよ。いってきて。できたらよぶし。これから材料煮込んでいくから。
  少し時間かかるだろうしね。それか、時間あったらそこの川で魚とかとってもいいかもだよ?塩とかももってるし」
無駄にとるのではなく彼らの血肉になるのならばそれは自然界の理の中なので、反対する理由もないがゆえの台詞。
どうやらこの大地において八百年ほどマナが滞っているがゆえ、
かつて大地がつくっていた鉱石などが今現在は表にでてきている模様。
簡単にいえば、大地が疲弊したがゆえに、それらが目につくようになった、といってよい。
もろくなった岩盤などの中から結晶が漏れ出し、そして川などにたまっているのが今の現状。
どうやらこのシルヴァラントにすんでいる存在達はそのことに気付いてすらいないようではあるが。
「元気だな~、さて、と」
ロイド達がいなくなったのをうけ、すっと火にくべた鍋にと手をかざす。
刹那、瞬く間に鍋の中の水が沸騰し、そのまま中にと具剤をいれそして味をととのえる。
何ともおもわず、かつての袋のまま再生させたはいいものの、
当時、はまっていた手作りミソまではいっていたのには驚いたが。
まあ、せっかくなのでそれを利用しての料理、といってもよい。
あるいみ、これらの命はその場で止め置かれていたといってもよい。
いつか使おうとおもって忘れていた、というのはおいとくとして。
コアの内部にとどめおいていたがゆえに、すっかり忘れていたのだが。
おそらく、記憶の上書きがなければまちがいなく忘れ去っていたであろう。
…事実、すっかりかつてのときも忘れていた、のだから。


「うお。いい匂い!」
「あ、おかえり~」
どうやら見回りにいっていたであろうクラトスも戻ってきたようではあるが。
どうやら満足した、のであろう。
リフィルなどはなぜかほくほくしたような表情を浮かべているのがみてとれる。
事実、リフィルからしてみれば満足したといってよい。
売り物にはならないにしろ、川辺においていくつかの鉱石が発見された、
ということは、すくなからずそこに何かの理由があるはず、とおもうがゆえ。
しかも、みつけた石などを調べていけば、マナが濃い時代とそうでない時代。
あきらかに石の密度が異なっていることもよくわかる。
中には、それによっていくつかの層ができている石もみつかった。
歴史をしるうえで貴重な資料。
ゆえに満足した、といっても過言でない。
まあ、そちらに気をとられ、エミルのことをすっかり忘れていた、というのはあるにしろ。
「しかし、川にも魔物がいたのには驚いたな~」
普通なら、襲いかかってくるであろうに、ロイド達の姿をみたとたん、魔物達はこぞって彼らから逃げるように距離をあけていた。
思わず身構えたロイド達がそれこそ拍子ぬけするほどに。
その両手にそれだけあつめてどうするの?
といいたくなるような大量の石や様々なものをもったロイド達がエミルの元へともどってくる。
周囲にはエミルがつくりし料理の何ともいえない香ばしい臭いがただよっている。
さきほど小さい鍋でつくりし料理のほうは魔物達にことづけ、このあたりのものたちで食べるように、と代表の魔物にと預けてある。
もっともそんなことはリフィル達はしるよしもないが。
「はい。ずっと歩いてて体も冷えてるだろうから、少しはぬくもればいいんだけど」
いいつつも、ココナツの実を半分にきった器に、具や汁をいれてゆく。
「うまそ~、というかこれエミル、なんだ?」
「えっとね。いろんないい方があるみたいだけど、しっくりくるのは、おでん、かなぁ?
  場所によってはごった煮とかもいったりするみたいだけど」
ちなみに、味噌煮、という場所もかつてはあった。
「うわ~。この大根、すご~い。これ、エミル、ダイコン…だよね?」
ジーニアスが器の中にある小さな細工がほどこされているそれをみて、
何やらそんなことをいってくるが。
汁が染み込んでいるがゆえか、その色は薄茶色にとなっている。
もっとも、ニンジン、とおもわれしそれにも丁寧に細工がほどこされ、
中には花のような形をしているものもあれば、その形は様々といってよい。
よくよくみれば、材料をそのままつかっている、のではなく、全てにおいて手がくわわっているのがみてとれる。
それこそ成功な細工もの、といっても過言でないほどに。
「うわ~。エミルって器用なんだね~」
コレットがそんなことをいっているが。
「…ロイド。手先の器用さでエミルにまけてるんじゃないの?」
「う!け、けど、エミルはたぶん、鍵あけとかできないぞ!」
いや、できるけど。
そうおもうが、それは口にはせず、
「とりあえず、それほど量はつくってないけど。口にあう…かな?」
「いっただきま~す」
「あ、ちょ!ロイド!?」
どうやら待ち切れなかった、のか、そのまま、木をくりぬいてつくったスプーンで、
その中にあるウィンナーらしき、なぜかタコの形をしているそれを口にする。
「うめぇ!これ、初めてたべるけど、うめえよ!コレットもたべてみろよ」
「え?あ、うん」
ロイドにしかも、ロイドが口にしたスプーンをさしだされ、とまどうものの、
これって、間接キッスだよね?とかおもうが、ロイドはそれに気づいてない、らしい。
これを断るのはもったいない。
かといって、と戸惑っている最中。
「コレット?」
「あ、ううん!えっと、私のはちゃんとあるから、自分達のたべようよ?ね?」
あのまま、あむっと口になんでしないのよ。
私のばかぁぁ!
と内心絶叫しながらも、それを抑えてにこやかにいうコレット。
「…おいしい!!…え?…あれ?え?」
口にすれば、不思議と、なぜか精神力が回復しているような気がするのはこれいかに。
ついでに体力も。
しかし、おいしいことにはかわりがない。
というか食べた直後に自らの力になっていくような気がするのはジーニアスの気のせいか。
「これは…エミル、この味付けにしたのは何かしら?」
「え?ミソですけど?以前にちょっとこってた時期の大豆から手作りしたのがのこってて……」
まあ、その以前、というのが数万年前、というのはおいとくとして。
まあ、時をとめていたので少し前である、ということには変わりはない…多分。
以前、とはいっているがそれがいつごろか、というのもいっていないので嘘ではない。
「…そう、なつかしいわね」
ふとリフィルが思わずつぶやく。
幼きころ、生まれ育った地では時折口にしたことのある臭いと味。
まあ、味はこちらのほうが何となくまろやかで、さらにはマナが濃いような気がするのは気になるが。
エルフの里といわれし場所でつくられしものよりもマナが濃い、というのはこれいかに。
今までずっとエルフの里の情報をもとめているがいまだにその情報は皆無といってよい。
「お?なんか、気のせいか、たべたら元気がわいてくるぞ!エミル、おかわりあるか!?」
「もってはいかれないし、たべきっていいよ?むりだったらこのあたりの子達に食べてもらうけど」
まあ、一声かければ魔物達はこぞってやってくるであろう。
ついでに森の動物達も。
「…うん。ほんと。おいしい」
試練をうけてからこのかた、食事をあまり体がうけつけなくなっていた、というのに。
なぜだろう。
この食事はすんなりと食べることができる。
それこそ、体がもっと、と訴えているかのごとくに。
「私もおかわりいい?エミル?」
そういうコレットの様子に一瞬、クラトスの眉がぴくり、と反応する。
天使化するにあたり、食欲などがなくなるはず、なのに。
おかわりを、ということ自体がクラトスからしてみれば信じがたい。
「あら。いい兆候ね。最近、あなた食がほそいから心配してたのよ?
  コレット、ダイエットもいいけど、ほどほどにしなさいよ?体が基本なのですからね」
「…はい。先生」
どうやら、食が細いのは、ダイエット、と思われていたらしいことにほっとする。
「たしかに、うまいな。これは、みそおでん、か?」
「みそ?」
その言葉をしらず、クラトスの台詞にロイドが首をかしげるが。
「ちょうどいいは。これにつかわれている材料で今日はお勉強としましょう。
  エミル、これにつかっているのは手作りミソ、でいいのかしら?」
「え、はい」
リフィルにいわれ、それに関しては間違いないのでうなづいておく。
まあ、大豆とかはめんどくさかったのでそのまま大豆のみを創りだしたのはおいとくとして。
「これの味付けにつかわれている味噌、というものはね。
  材料は主に大豆で、これに緬や塩を混ぜ合わせ、そして、発酵…簡単にいえば腐らせることによって、
  大豆を構成しているマナが昇華しやすく分解されるの。
  さらに、マナが分解されることによって、うまみも増すという効果ももっているのよ。たしか、製造に関しては……」
「まあ、一般的には、緬をふやせば、甘みがまして、大豆をふやせば旨みが増す、といわれてますね」
それは嘘ではない。
「種類も豊富で、赤味噌、白味噌、合わせ味噌、とかいろいろとあるらしいわ。
  エミルが今回つくったのは手作り、ということは、大豆からてがけたのかしら?」
「え、あ、はい。…以前、ちょっとこってたというのと暇だったので……」
ちなみにその以前、というのが彗星で移動しているときだったりするのだが。
つまりは、この大地におりたつより前のこと。
「このシルヴァラントでは初めてたべたわ。…本当になつかしいわ」
製法はかつて書物にて知っていたが、だからといってつくることはなかった。
そんな暇は一切なかったといってよい。
だからこそのリフィルの台詞。
まだ、あの里で両親と暮らしていたときは、寒い日などはときどき母がつくってくれていた料理の一つ。
曰く、確か、み…何とかいう里の郷土料理とかいっていたような気がするが。
そのレシピをおしえた、のは父であった、らしいが。
旅をしていても御目にかかるようなものではなかったのに。
まさかここで、という思いもある。
ちなみに、ここシルヴァラントでは保存食にもなる、ということでかなり一般的に普及しているたべもの。
それが大豆、であったりする。
ちなみに、小麦にしてもまた然り。
「ふむ。手作り…か。今度私も挑戦してみようかしら?」
その台詞に、ぴたり、と必至に料理をたべていたロイドとジーニアスの手がとまる。
みればクラトスすら、ぴたり、と動きをとめていたりする。
「リフィルさんもおかわりどうですか?」
「いただくわ。って、エミル、あなたはたべないの?」
「僕は、どっちかといえば皆がおいしいって食べているのをみるのが好きなんですよ」
にっこりとそういうエミルの言葉に、一瞬顔をみあわせるリフィル達。
「エミル。お前はほこっていいぞ!うちの親父よりもだんぜんうまいからな!」
「うん。くやしいけどおばあさまの料理よりおいしいよ~?」
「そうそう、それに、姉さんの料理とくらべたら…」
「どういう意味かしら?ジーニアス?」
ジーニアスって、ちょっと口をすべらせやすいのかな?
かつてはあまりそういうことはおもわなかったが。
しかしどうやら、その考えは間違っていないっぽい。
「しかし、ここまで具を細かく細工する必要はないんじゃないのか?」
クラトまでもが、ノイシュの形をしたニンジンを取り出して、何やらそんなことをいってくる。
クラトスからしてみれば、味覚を一度閉じてみたにもかかわらず、
味がしっかりと感じられることに驚愕せざるを得ない。
そもそも、エミルがつくりしものは、マナが多々に含まれている。
いくら天使化しているとはいえ、その基本となっているものはマナにはかわりはない。
ゆえにその体もマナを吸収しようとする。
それがマナを司りし王がつくりしマナならばなおさらに。
そもそも、料理を創るにあたり、常にその品を食べたものの身によりよく吸収するように、
という理そのものを料理自体に乗せているので吸収力は半端ない。
「え?だってそのほうがよろこんでもらえますし」
ついでに魔物達にも彼らの姿を模して創った場合、結構好評だったりした。
それは、かつての記憶。
マルタとともに旅をしていたときも、そしてまた、かつてディセンダーとして降臨していたときも。
細かい細工をほどこした料理をみて嫌がられたことは一度も…いや、幾度かはあったか、
とそういえばおもう。
なぜか、本人そっくりのものをつくったら、たべられない、といわれたことがあったような気がする。
せっかくケーキでほぼ百分の一の精密なものをつくった、というのに。
もっとも、結局はたべないともったいないから、というので食べてはもらえたが。
なぜかマルタの姿をつくったときには、泣かれてしまったが。
いまだにその理由はエミルは判らない。
テネブラエ達の姿をつくったとはには喜んでいたから、マルタの姿のもつくったというのに。
ノイシュにもきちんと器をあたえ、よそっているがゆえ、
始めはとまどっていたノイシュだが、王にいわれて食べないわけにもいかず。
それに、何よりも王のつくる料理はまぎれもなくマナそのものといってよい。
ゆえに、畏れ多いとおもいつつも口にしている今現在。
ちなみになぜか、魔物達いわく、一度口にしたら癖になる、らしい。


「ふぃ~、くったくった」
「…ほんとによくたべたね。空になっちゃった」
久しぶりの料理であったが、どうやら腕は衰えてはいない、らしい。
念のためにセンチュリオン達用の品も確保しておいて正解であった、というべきか。
というか、料理を久方ぶりにつくったとしれば、なぜか八柱達は絶対にほしがるのがみえている。
そして食べられなかったことをしれば盛大におちこむであろう。
まあそれもみていてあるいみ面白いといえば面白いのだが。
平気です、といいながら、皆が皆、同じような状態になっているのが何とも言い難い。
それはこれまでの経験からいえること。
ちなみに料理を確保したものは、水晶に閉じ込めているがゆえ、
傍目からは確保している、とはうつらない。
ぱっとみため、水晶の中に何か小さな細工の模様が組み入れられたようにみえなくもないが。
ロイドがお腹をおさえ、その場に足をなげだしつつもいってくる。
「ふわ~…なんか、ねむくなってきた……」
「…そういえば、僕も……」
そもそも、彼らの体自体のマナそのものがかつがつ成り立っていたといってもよい。
それほどまでにこちら側のマナは不足していた。
そこに一気にマナが注がれた形になったがゆえ、器そのものがマナに満たされたといってよい。
さらにはお腹がいっぱいになったこともあり、本能からお腹が一杯になれば、
生物はほとんどといっていいほどに睡魔を迎えるようになっている。
基本的に、お腹が満腹になる、ということは安全である、というのと同意語。
それゆえの生きとしいけるものの本能、といってもよい。
逆をいえば、その力を蓄えるために、あえて休息をとろうとする、といってもよい。
「何だかひさしぶりに、きちんと食べたような気がするわ」
なつかしい料理であった、というのもあるのであろうが。
気になるのは、体力だけでなく精神力も満たされたような感覚。
すっと目をとじ、精神を集中させてみれば、どうやらそれは気のせい、ではないらしい。
特別に変わったことをした記憶はないので、可能性としては、今たべた、エミルの料理、なのではあるが…
「まあ、食べてすぐに動くのも何でしょうし。少し休憩していきましょうか」
「そういえば、食べてすぐに運動とかしたら、よく吐くヒトもいますしね」
ちなみにこれは事実。
「いざ、というときに満腹で動きが鈍っていてどうにもならない、というのも困るしね」
そういう間にも、どうやら睡魔にはかてなかった、らしい。
そのまま、こてん、と横になり、眠っているロイドの姿。
ジーニアスはすわったまま、うとうととしており、コレットも船をこいでいるのがみてとれる。
「まあ、今日はお昼寝日よりかもしれませんね」
イグニス達が目覚めたがゆえに、マナの調停もほぼ正常にもどりつつある。
あとは、ルーメンとウェントスすらおこせば、より完全に世界のマナはもどりゆく。
トニトルスは目覚めさせてあえてあの地においてはいるものの、
トニトルスなりに、どうやら空間を歪め繋げては属性の縁を紡ぎ直しているらしい。
まあ、そのこともあり、かの場所においては空間がねじれている、というか歪んでいる。
というのにきづいたとある研究院達が原因を究明しようとしているのが視てとれるが。
「少しでも旅は急いだほうがいいのだがな…お子様達は仕方がないな」
すでに完全にねむってしまったロイドをみて、クラトスが何やらそんなことをいってくるが。
「じゃあ、僕は後かたずけしてますね」
いいつつも、鍋をもちつつ川の傍へ。


少し離れた場所にて川の水で鍋を洗っているらしいエミルの姿を傍目にみつつ、
「クラトス、あなたはあの子のことをどう思うかしら?」
「エミル、か」
「ええ」
パルマコスタで出会った旅の途中とおもわれし子供。
というかロイドが一方的にあのとき巻き込んでしまった子供でもある。
それがリフィルの認識であった。
そもそも、初対面の相手に、いきなり戦えるかとか話しかけ、
有無を言わさずに戦闘に巻き込んでいたのはまちがいなくロイドであった。
ゆえに、リフィルがエミルをあるいみロイドの被害者、とみていても不思議ではない。
次にあったときはパルマコスタの牧場にて。
きけば、ショコラが浚われた、ときいて、彼女を助けたのち、
彼女とともに行動していた人達の様子をみに、一人で助けにきた、ということだったが。
「得体がしれない、な」
まさに、クラトスからしてみればその一言につきる。
「このご時世にありながら、あの子はディザイアンのことをしらなかった。それに、どうやらマーテル教の経典、すら、な」
シルヴァラントに住みつつも、それを知らない、というのはありえない。
いくら人里離れた場所で生活していたとしても、である。
テセアラで産まれたにしては、ならばどうしてこちら側にいるのか、という疑問がおこる。
まあ、どうやらあちら側からきているらしき女性はいることは把握しているが。
おそらく彼女はユアンが何らかの進言をかの国の国王にいったのであろう。
というのは何となくだが予測はついている。
「それは私も始めはおもったけど。あの子の言い回しから、もしかしたら、あの子。
  …人でない何かに育てられたのじゃないかしら、ともおもったのだけど。そのあたりはどう思うかしら?」
あまりにも人の常識をしらなすぎる。
そもそも、魔物を友達、といっていることからも普通の村などで育ったとは言い難い。
「なるほど。野生の動物や魔物が人の子を育てた、という事例は今までも幾度かあったが。
  しかしそれでも、得体が知れないのは事実だ。
  あの子は旅をしているといった。そもそもソダ島やアスカードに何の用でいくのか。それすら我々は聞いていない」
どこにいくのか、ときいたとき、ソダ島やアスカードに用事がある、とエミルがいい。
それをきいて、コレットが『目的地が一緒なら一緒にいきましょう』と誘ったのが全ての発端。
クラトスも神子がいうのならば、というので許可したのだが。
リフィルが許可を出した以上、戦力的な面からしてみても、彼の動向をかたくなにこばむ。
というのは疑われそうな気がしたがゆえに、賛同した。
「そういえば、そうね。あの子は別に急ぐわけでもない、といっていたけど……」
実際、みていても急いでいるそぶりはみえない。
まあ、一人で浚われたとかいうショコラを助けだそうと、町を飛びだしたっぽいので、正義感というのもはあるらしいが。
しかし、勇気と無謀は別ものである、というのをリフィルは嫌というほどに思い知っている。
よくもまあ、たった一人でショコラを助けだせた、とおもいはするが。
…まあ、それも魔物の介入があって、のことだったらしいが。
「このご時世に、ただの観光目的の旅行、というわけでもあるまい」
そこまでいいつつ、視線をリフィルにむけ、
「ショコラの話しを覚えているか?」
エミルに助けられたのち、そのまま旅を続けようと峠を越えていたが、
しかし、ドアが総攻撃をかける、という噂を別の旅業のものからきき、
一緒にいた旅業の人々も少しでもドアの助けになれれば、とおもい、ちょうど踵をかえしたとき。
牧場のあたりが爆発したのを目の当たりにした、らしい。
たまたま竜車を操っている人物がいたので、彼らにたのみ、町にもどったちょうどその時。
ロイド達もまた町にともどってきていた。
ゆえに、そのときにロイド達とショコラ達は再会したのだが。
そのときにショコラからリフィルは一応、何があったのか聞きだしている。
「魔物がいきなり襲ってきた、というあれね。そもそも、ディザイアン達だけを襲った、というけど……まさか、クラトス。
  あなた、それもエミルの仕業では、とおもっているとかではなくて?」
先ほどの光景からしてみて、リフィルも思わないわけではなかった。
小さな魔物が率先し、エミルの手伝いをしていたあの光景は、あるいみ驚愕したといってもよい。
それまでの固定概念が覆されるかのごとくに。
「可能性をいっているまでだ。あの子はさきほど、魔物を呼び出した。
  それに、あの男たちをおいかけてきていた魔物達もエミルのいうことはきいていた」
どうみてもいうことをきいていた。
そもそも魔物のほうから手伝っていた、といっても過言でなかったあの光景。
「魔物を操るにはそれなりの何かが必要だ。たとえば、魔物を操る装置、とかな」
クルシスとて、魔物を装置で操っている。
完全に魔物を制御しきれてはいない。
しかしあのとき現れた魔物達はどうみても野生の魔物達。
「…悪い子ではない、とはおもうのだけど。たしかに得体はしれないわ、ね。
  あの子が何かをいったとたん、あの男たちはおそらく、心でおもっていたことであろう。
  そのことを口にしていたもの」
あのタイミングであれば、どうみてもエミルがいったあの歌のような何か。
あれが関係している、としか思えない。
彼らもまた自分達の思ったことが口にでていることに驚きを隠しきれないようであった。
つまり、それは彼らが意図していっていたわけではない、ということ。
しかもあの旋律はどこかできいたことがあるような気がリフィルはするのだが、
それがどこであったのかが思い出せない。
それは、エルフの里で常に自然の恵みに感謝するうたげをするときに、常に歌われる聖歌。
その旋律に近しいことにリフィルは気づけない。
「そもそも、魔物にいうことをきかせる人間がいるというのが信じがたい事実でもある」
クラトスからしてみれば、それはありえない、とおもわざるをえない。
魔物の役割をしっているがゆえなおさらに。
「たしかに、ね。ディザイアンが魔物を操っている、とはいわれているけど。
  みるかぎり、ディザイアン達も魔物の襲撃にはあっているものね」
一説にはディザイアンが魔物を操っている、とはたしかにマーテル教の教えにはあるが、
しかし現実としてディザイアン達とて魔物の襲撃うけないわけではない。
しかし、それをといても仲間割れ…もしくは操るのに失敗した愚か者。
そういって、ほとんどのものがとりあわない、というのもまた事実。
魔物に命令できるものを、クラトスは一応は知っている。
だが、ありえない、とおもう。
彼がしるは、精霊ラタトスク、そしてそのしもべたるセンチュリオン達。
精霊ラタトスクは魔物達の王でもある、らしい、とはミトスがいっていた。
以前、センチュリオン・アクアがマーテルにいっていた台詞からすれば、
ラタトスクの命により、魔物達がマナの調停をしている、とも。
もっとも、ラタトスクからしてみれば、アクアがそこまでおしゃべりしていた、とは夢にもおもっていないのだが。
まあ、知れば知ったで、盛大に呆れざるをえないであろう。
そもそも、アクアは気をゆるした存在に対しては、以前からすこし甘くなる傾向がある。
そしてその気を許したものに裏切られたことも数しれず。
もっともそれはラタトスクとて同じ、なのだが。
ラタトスクからしてみれば、センチュリオン達までヒトによって悲しむ必要がない、
とおもっているのであまり彼らがヒトにかかわることをよし、としていないのだが。
しかしそれをいうたびに、それは我らもラタトスク様にその台詞をそっくりかえします。
すなわち、同じことです、と逆にいわていたりする。
「なら、クラトス。確認をこめて、試してみましょうか?」
「試す、何をだ?」
リフィルの何か思いついたような表情に、クラトスが思わず聞き返す。
「私たちの旅は急ぐものであることには違いないわ。これは間違いないわね」
「ああ。再生はいそがねばならん」
無機生命体化に変化しているはずのコレットがどうして先ほどの食事ができたのか。
という疑問はあれど、あえて味覚を閉じた自分にも感じられたあの料理の味。
そこに何かヒントがあるような気がクラトスからしてみれば思わざるをえない。
もっともクラトスがいくら考えても絶対に答えにはたどり着けないであろうが。
「あの子がいっていたでしょ?あの子が旅をするとき、空を飛んだことがあるって。
  だけど、それをしたら私たちが怖がるかもって」
たしか、あの男たちがやってくる直前にそんなことをいっていたような気がする。
そのことにおもいあたり、おもわずクラトスが顔をしかめたのをみてとり、
「だから、頼んでみるのよ。あなたが使用していた空の手段。使わせてもらえないか。って。
  ちょうど、ロイド達も起きたばかりになるでしょうし。
  それにあの子が本当に魔物を使役できるのか、確かめる手段にもなるでしょう?」
たしかにそれはあるいみでは一石二鳥、というべきか。
「しかし、あの子がそれをききとげるか?」
「あら?ダメでもともと、よ」
さきほど、エミルが呼びだした魔物。
それぞれに膨大なるマナを感じた。
それこそ、ざっと視た限り、自分達ではかなわない、と直感できるほどに。
空の移動ができるならば、旅が短縮される、ということ。
さらにいえば、いくら何でもディザイアン達とて空までは襲ってこないであろう。
安全面からも期待ができる。
それゆえのリフィルの提案。
「それに、気になることもあるのよ」
「何がだ?」
「ショコラ達が、峠できいた、というあの言葉よ」
峠の向こうは、今は原因不明の闇が襲っているらしいです。
そうたしかにいっていた。
闇が襲う、その意味はよくわからない。
が、すくなくとも、峠の向こうで何かがおこっている、というのは間違いない、のであろう。
リフィル達はまだ、しらない。
峠の向こうが、とある境、否、じわじわとその闇の空間が広がっていっている、ということを。
いまだにルーメンが目覚めないがゆえに、光の反属性反応が起こっている、ということを。
すなわち、周囲がかの場所を起点とし、闇に覆われていってる、というその事実を。


川の水にて鍋を洗い…まあ、洗う最中にでる水にと含まれているマナに魚や魔物達が群がってはきはしたが。
別に問題もなく、そのまま近くにやってきていたボーボー達の手により、鍋に炎がふきかけられ、瞬く間に鍋はかわきゆく。
完全に使用した鍋等が綺麗になったのをうけ、再び鞄の中へそれらを収容。
使用した器などはココナツの実であったり、木でつくったスプーンであったりした、ということもあり、
近くにいた土属性の魔物達にとそれらをあたえておいた。
魔物の中には木材を主食とする種類のものもいる。
それらの魔物にあたえた、エミルからしてみればただそれだけ。
少し離れた場所でエミルのことを話しつつも、それでもエミルの周囲に魔物がいつのまにか集まっている。
というのには気づいていたリフィル達。
どうみても魔物がエミルを手伝っている、としかみえないその光景に、
思わずコメカミに手をあててしまうのは、信じがたい現実をみているがゆえであろう。
リフィル達がそんな会話をしている最中、どうやらエミルの後始末は終わった、らしい。
どうやら魔物達もそれぞれ、森へと戻って行っている模様。
魔物達の姿が完全にみえなくなったのを確認した後、
互いに顔をみあわし、リフィルが代表し、エミルの元へと近づいてゆく。

「エミル、ちょっといいかしら?」
「はい?」
すでに使用したかまどなども石もくずし、薪にした木などはすべて灰とかしている。
それらは魔物達が穴をあけ、地面の中にしまいこんでいたりする。
おそらくは数刻もしないうちにそれらの品はマナにと還りゆく、であろう。
リフィルに声をかけられ、ふりむけば、少し離れた場所にクラトスの姿もみてとれる。
エミルには聞きたいことは山とある。
が、彼がきちんと答えられるか、といえばリフィルとしても戸惑わずにはいられない。
そもそも、彼はどうみてもそれができて当たり前、と考えている節がある。
それこそ自然に魔物達に様々なことを頼んでいる光景からも、
それが不自然極まりないことなのだ、と自覚していないといってよい。
このあたりの認識は今後のこともあり、きちんと自覚させなければいけない分野かもしれない。
とリフィルは心のうちに強くきめ、
「さっきの魔物達は?」
「え?用事がすんだのでもどってもらいましたけど?」
「…どうして魔物たちがあなたのいうことをきくのかしら?」
「え?あの子達はいつでもお願いしたらいうこときいてくれますよ?」
やはり、というか平行線。
予測はできたとはいえ、リフィルのといに、きょとん、とさも当たり前のように答えられ、
リフィルは思わずため息をついてしまう。
「さっき、あなた。あの男たちを追いかけていた魔物達の前で、魔物を呼び出していたわよね?
  そもそも、意図的に魔物を召喚できる、なんて聞いたことすらなかったのだけど?」
「それは、リフィルさんがしらないだけ、では?」
事実、センチュリオン達は召喚できる。
やはり、エミルは自分の行動があからさまに普通ではない、というのに気付いていない、らしい。
そのことにリフィルからしてみれば、頭がいたくなるような感覚をうけてしまう。
エミルがここにいることにより、エミルの周囲より無意識のうちにマナは整えられていっている。
ゆえに自然もより生き生きとしはじめているのだが、完全にマナを解放したわけではないのでその変化は微妙。
ゆっくりと変化しているその自然界の変化にリフィルはまだ気づいていない。
今現在の二人の位置はといえば、エミルの背後に川があり、その川の背後には広がる森。
そして彼らがいるのは、川のほとりにひろがる河原。
大小様々な石があるその河原はあるいみで、石のかまどをつくるのにはうってつけであったといってよい。
「……は~。まあいいわ。そのあたりのあなたの認識の相違はおいおい訂正する必要があるとして。
  あなた、たしか、さっき空を移動する手段がある、とかいっていたわよね?」
とりあえず本題をさくり、ときりだすリフィル。
こういうことは回りくどくいうよりは、さくっといってしまったほうがいい。
下手に回りくどくいえば、相手に警戒させてしまう可能性すらある。
もっとも、エミルに関しては、どうしても話しがずれてしまう、
というなぜかそれはもう確信がもててしまうがゆえに、直球でいったほうがいい、というリフィルの思いもあるにしろ。
「ありますけど。あ、もしかして、さっきロイド達がいっていたように、空の移動でもしたいんですか?
  別に僕としてはリフィルさん達がいいのならかまいませんけど。…あの子達を怖がらない、のなら」
魔物達とて不必要に人に怖がられるのをよしとしているわけではない。
魔物達にも心はある。
それゆえのエミル台詞。
「それは問題なくてよ。こちらは頼んでいる側ですもの。
  それに、空だと、いくら何でもディザイアン達の襲撃もないでしょうし。私たちは少しでもはやく急ぎたいの」
ふと思うことは、これまで魔物の襲撃がない、というのはエミルの存在があるがゆえなのでは。
とおもっているのもまた事実。
あのとき、エミルがドア夫人に利用したあの小枝。
あの小枝から感じた膨大なるマナ。
もしかしたらそのあたりに何か原因があるのかもしれない。
それをきいて、エミルが素直に答えてくるのか、もしくはその質問の意図をわかってくれるか。
というのははなはだ疑問なれど。
「まあ、かまいませんけど。なら、ノイシュものれるような子だと、レティスあたりが無難かな?」
今は何より、絶対に口うるさく何かいってくるであろうセンチュリオン達は出払っている。
呼ぶならたしかに今、であろう。
なぜか毎回、彼らは地上で自分が魔物を呼び出すのを、心配している節がある。
この世界というか惑星においては一度もしていなかったがゆえに、
彼らが余計にその心配を口にだす可能性は遥かに高い。
別に魔物を呼び出したからといって自分の正体が露見するわけではないであろうに。
つくづく心配性のしもべ達。
しかし、ここにセンチュリオン、もしくは精霊達でもいれば、間違いなく、
それはラタトスク様の認識であり、他の存在にとっては違います!
と即座に否定がはいったであろう。
が、不幸にも今、この場に精霊も、そしてセンチュリオン達もいない。
「問題なのはロイドなのよね。あの子、ときどき眠ったら夕方までおきないことがあるから」
「あ、なら、全員が乗れる子よびましょうか?ノイシュものれるでしょうし。
  ここにいる全員くらいのっても問題ないかと。それだと眠ったままでも移動は可能ですし」
まあレティスならば問題はないであろう。
そもそも、あの子はその大きさを自由にかえることが可能。
本来の姿は一つのちょっとした島程度であったりするのだが。
何の疑いもなく、さらり、と肯定してくるエミルの態度をみて、
この子、よくもまあ本当に今まで無事だったわね。
とリフィルとしてはつくづくおもってしまうが、しかし今はエミルのもつ力を直接認識すること。
そのことが第一。
そして、力の有無をたしかめつつも、旅路もいそげる。
まさにあるいみで一石二鳥。
「なら、全は急げ、でよびましようか?
  ロイド達は寝ているみたいですけど、まあ、乗って移動してたら目を覚ますでしょうし」
先ほどの料理が完全に彼らの血肉となるのには、さほど時間はかからない。
ほんの数十分もあれば確実に彼らの力と変化する。
それにぐずぐずしていたら、センチュリオン達がもどってきてしまう。
あの僕達はなせか異様にこのたびについては心配性になっているような気がする。
それはもう果てしなく。
たしかエルフ達の伝承で、魔物使いとかいう伝承もたしか伝えていたような気がするので、
おそらく勝手にそっちと勘違いしてくれれば都合がいい、のだが。
おそらくリフィルはその可能性にたどり着く、であろう。
彼女がどこまで、かつて里にて知識を得ていたか、にもよるであろうが。
「お願いできるかしら?」
「いいですよ?…でも、ほんと、あの子みて怖がらないでくださいね?」
まあ、あの子の場合はどちらかといえば、怖がられる、というよりは
皆がその美しさに、呆けてしまう、という可能性もなきにしもあらず。
何しろ未来では神鳥、とまでなぜかいわれていたほどである。
…呼び出したのさほどないのに、
なぜか神子のお供をした、というように勝手に人間達が真実を捻じ曲げてしまっていたらしい、が。
エミルがもし、マーテル教の経典をみていれば、もしくは知ってさえいれば”そうではない”というのに気付いた、であろう。
そもそも、レティスが今現在、住みついているのは、イセリアの聖堂。
その威厳というか美しい魔物の姿をみて、
クルシス側が勝手に、かのシムルグは神鳥でありマーテルの使い、と記していたりするのだから。


「こい、シムルグ」
手をすっと突き出し、エミルが言葉を紡ぐと同時。
空を覆い尽くすほどの青き輝きをもつ魔方陣らしきものが出現する。
それはやがて、輝きをまし、やがて、その中より光とともに現れる巨大な影ひとつ。
ばさり。
羽音とともに、周囲に巨大な影がまいおちる。
『お久しぶりでございます。王。というか、本当に外にでられていたのですね……』
センチュリオン達がやってきたときにきいてはいたが。
実際に目の当たりにすると驚いてしまう。
しかも、どうみても人の気配のそれであることから、呼び出されたのでなければ絶対にわからなかった自信がある。
それゆえの台詞。
ばさり、と羽をはばたかせ、それでいて、上空を幾度か旋回したのち、
そのまま急降下の形で目の前にと毎降りてくる巨大なる鳥。
白と青を基準とした、何だかみていて神々しさすら感じさせる鳥。
急降下とともに、その体は光につつまれ、上空でいたときとその大きさを変化させてゆく。
そのまま、ばさり、とエミルの前に降り立ったその姿は、
ちょうどエミル達の前に立ちふさがる程度の大きさになっていたりする。
それでもちょっとした見上げる程度、すなわち建物でいうならば、三階建てくらいの大きさはあるであろう。
周囲の木々よりも大きな巨体は、まさに壮麗、といってよい。
『まあな。少しきになることもあったからな。ところで。お前はあの地から別なところに今はいるらしいが……』
彼女達は、基本、ギンヌンガ・ガップのあの空間を護っていた、はずなのに。
確かに他にも護り手はいるので問題はないといえばない、のだが。
『はい。……彼らの動向が気になりまして』
王たるラタトスクの問いかけに少しばかり戸惑いつつもいってくる。
ちなみに、今語っている言葉は、魔物達が使用する言葉であり、
リフィル達はその原語を知らない。
もしも、知って入れば、王、という単語にきづき、間違いなく何かに気づいたであろう。
が、リフィルもクラトスもその言葉を知らないがゆえに、彼らが何をいっているのか理解不能。
わかるのは、エミルが目の前の巨大なる鳥らしきものと何か会話らしきものをしている。
ということのみ。
まるでそう、風がつむぐ旋律のごとくのようなその言葉。
先ほどエミルがいった言葉とはまた異なる旋律をもったそれ。
しばし、唖然としてしまうが、やがて、はっと我にともどり。
「エミル!?ちょっとまて!?まさかそれは、マーテル教の経典にのっている。
  神鳥シムルグではないのか!?女神マーテル様の使いの!?」
がしっとエミルの肩をつかみ、リフィルがエミルにいってくる。
「?は?…えっと、レティス。誰かにもしかして仕えたの?」
リフィルの言葉に、きょとんとし、思わずレティスにとといかけているエミル。
まあ、自分が眠っている間に何かがあったかもしれないがゆえの問いかけ。
「ありえません」
きっぱり。
それは即答。
その言葉は、リフィル達にも理解可能。
どうやら、エミルのその呟きにあわせ、即座にレティス、とよばれし鳥もまた言葉を変えたらしい。
そもそも、彼女達が仕えるのは、センチュリオン、そして王たるラタトスク以外にはありえない。
それゆえの彼女の完全否定といってよい。
「そもそも、聖堂にやってきたものが何やらいっていたような気もしますけど。
  私はそのマーテルですか?そんなものにつかえたことなど我ら一族の誰もいちどもありません。
  大方、人間達が勝手に事実をねつ造して伝えているだけにすぎないのではないですか?」
聖なる鳥すらをも従えていた、慈悲深き女神マーテル。
それがマーテル教の根柢にある教え。
その当事者とおもわれし鳥からきっぱりと否定の言葉が紡がれる。
特徴はたしかにマーテル教の経典にある神鳥のもの。
「いつの時代も人間というものはかってに私たち魔物を悪意をもってみるか。
  それとも勝手にまたは偶像とあがめるか。その時によって変化させていますしね」
「…たしかに」
レティスの言い分に思わずうなづくエミルは間違っていないであろう。
事実、これまの数多たる世界においてもそう、だったのだから。
そもそも、彼女達の種族たるシムルグはかつてにおいても、
様々な国でかってに神とか名乗ったものたちの使いとして伝えられていたりした。
当人がその国の近くにいたことすら一度もないというのにもかかわらず、である。
そしてそれは古代における争いにしてもまた然り。
古代戦争とよばれしより前の時代に起こった戦争。
天地戦争の時代に滅んだとある国においては、シムルグを国の始祖とし…ありえないが。
自分達は精霊王の末裔ゆえにシムルグの加護があるとか何とかいっていた。
もっとも、それを第三者にも見せつけようとし、シムルグ達を捕らえよえとし、
シムルグの反撃にあい、その国はあるいみ滅んだようなものといってもよい。
まあ、ラタトスクも許さないのでちょっぴし干渉はしたにはしたが。
それは当時の記憶。
どうして人は嘘により、人民の心をつかもうとするのか、本当に理解不能。
そももそ、オリジンの末裔、ということ自体が嘘である、といってるようなものなのに。
それを信じてしまうヒトもヒトで呆れざるを得ないのだが。
『それにしても、センチュリオン様方はお傍におられないのですか?』
『今、あいつらにはちょっとした用事をいいつけているからな』
それは事実。
だから今、この場にセンチュリオン達はいない。
「……せめて、おそばにおひとり、もしくは、他のものたちをつけてくださいませ」
何やら深いため息のようなものを吐きだしたのち、そんなことをいってくる。
「…お前までいうか」
なぜにセンチュリオン達だけでなく、魔物である彼女まで同じことをいうのやら。
「まで、ということはやはりいわれているのですね?」
「…あいつらが過保護すぎるだけだ」
それは本音。
何やら言葉をかえつつも、会話しているエミルと神鳥シムルグとおもわしきその会話の内容はリフィルには理解不能。
クラトスもまさか、自分達が伝承につたえるために利用している魔物のうちの一体を呼び出す。
とはおもっていなかったがゆえに固まっているのだが。
その固まっている事実にラタトスクは気づいていない。
「ところで、私を呼び出された御用件は何でしょうか?」
「え?ああ。ちょっと移動するのに足になってもらいたくてな。できるか?」
「それはかまいませんが。ふふ、他のものたちがうらやましがりますね。まちがいなく」
そもそも、王がその分身たる蝶たる目でなく、地上にでたのも初だ、というのに。
その王の足になれる、という何とも誇らしい役目。
他の同族、否、他の魔物達がきけば絶対にうらやむことまちがいなし。
それゆえの彼女…レティスの台詞。
リフィルはといえば、シムルグとおもわしき鳥にきっぱりと女神マーテルとのかかわりを否定され、
今現在一瞬硬直していたりする。
その特徴からしてまちがいなく、経典にしるされている女神マーテルにつかえし聖なる鳥。
青きとさかのようなものも、翼の下部分が青と緑の羽で構成されていることも疑い用がない。
そのはずなのに。
しかし、今、この鳥はまちがいなく、人の原語で、かかわりはない、そういいきった。
しかも、一族の誰もいない、きっぱりとそういいきったその言葉は、どこか冷めた口調でもあったように感じた。
だからこそ硬直せざるを得ない。
信じていた聖なる鳥であろうそれから否定の言葉をきくなどとは。
そもそも、聖なる鳥とともに、大地を創造した、そうマーテル教の経典にはのっている。
そして、それとともに大樹をはぐくんだ、と。
ふとそういえば、とおもいだす。
生まれ育った地において、マーテル教の話しになったとき、大人たちがこぞって不機嫌になっていた。
そもそも、女神マーテルなんてものはいないのに、といっていた大人たちすらもいた。
その当時、まだリフィルは十にもみたなかったので気にしたことはなかったが。
今、否定の言葉をうけ、そのときの出来事がふと脳裏に浮かんでくる。
何が真実なのか、わからなくなってくる。
しかし、今はその真偽を確かめている暇はない。
「リフィルさん、この場所だと、レティスはこの大きさが限度なんですけど。
  どこか開けた場所にいって、大きさをかえてもらいますか?だったらそのまま皆、レティスの背にのれますけど?」
今の現状では、全員がのれることはないにしろ、すこし窮屈、であろう。
そんなエミルの台詞に、はっと硬直からとけ、
「…この鳥は、大きさをかえられるのか?というか、レティス?シムルグでは?」
「ああ。シムルグはこの子達の魔物としての種族名ですよ?
  この子達にもそれぞれ個体別にきちんと名はありますよ?当然でしょ?」
魔物達を生み出すにあたり、基本、ラタトスクは彼らに名をつけていた。
特にレティスは最古参といってよい。
シムルグ達を生み出したのは、光の精霊アスカ達を生み出したときとほぼ同時期。
当然、といわれさらにリフィルはとまどわずにはいられない。
しかも、どうやらこのエミル、この神鳥シムルグであろう鳥と知り合い、であるらしい。
そのことすら信じられない。
たしか、ファイドラ様が聖堂にはマーテル様の言葉をつたえるため、
女神マーテル様が神鳥をつかわしてくれている、とはきいたことはあったが。
そんな会話をしている主たる王達をしばしみたのち、
「あら?そこの人間の子供はかつて人が勝手に模倣したソーサラーリングを持っているのですね。
  それでしたら、そのものたちがもっているソーサラーリングの属性を、小さくするのもに変えてはいかがでしょう?」
ふと、少し離れた場所で寝ているロイドの手に、覚えのある波動のそれをみて、
何やらそんなことをいってくる。
そんなレティスの台詞に、
「あ、その手があるか。レティス、いけるか?」
「問題はありません。あなた方もそれでいいですか?」
この場の空間はさほど広くない。
ゆえに呼び出され、この場に降り立てるほどに大きさをかえて着地したのはつい先ほど。
まあ、王に頼られる、ということほど誇らしいことはない。
この場に裏切りものの一人であるクラトスという人間がいるのはかなり気になるが。
まあ、王にも何かお考えがあってのことでしょうし。
そうレティスの中では自己完結できていたりする。
ちなみに、ラタトスクも本家たるソーサラーリングはもっている。
デザインが異なるがゆえにリフィルはそのことにまだ気づいてはいない。
クルシスが所有しているリングは、かつて人が自分達に都合がいいように、誰もが使えるように生み出した模造品。
その知識もかつて、エルフの里より、リングの伝承を伝えきいていたものから流失した。
かつての天地戦争、とよばれし時代にはリングが多様され、
その時にリングの力の場、というものが人の手により創られており、それはどうやら今でも健在、であるらしい。
正確にいうならば、今の人類はそこまでの技術力をまだ手にしていない、というべきか。
もっとも、ラタトスクからしてみれば、そんな説明をする気はさらさらない。
そもそも、聞かれてもいないのだから。

いいか、といわれても戸惑うしかできない、というのが本音。
まさか、エミルが呼びだしたのが、神聖なる鳥、とまでいわれているシムルグであるなど。
一体誰が想像できようか。
しかも、今、エミルはこのシムルグのことを、魔物としての個体名、そういった。
つまり、神鳥などではなく、シムルグというのは魔物の一種、ということ、なのだろうか。
だが、それだとマーテル教の教えとまったく異なるといってよい。
神鳥シムルグは、魔物をディザイアンを抑える役割を持つ聖なる神の鳥なのだ、
という教えでもあるのだから。
ゆえに、いろいろと混乱し動揺せざるを得ないが、その心を何とか押し殺し、
「…エミル。このシルムグは、力の場の力を利用することができるの?」
さきほどの言い回しできになっていたことをひとまずといかける。
質問ができただけ、リフィルはあるいみ自分をほめたい、とおもってしまう。
それほどまでに、エミル、そしてシムルグがいった否定の言葉は衝撃的。
マーテル教の教えにどっぷりつかっている彼女達であるからなおさらに。
それが偽りの教えであり、宗教であり女神などはいない、と知らないがゆえの動揺。
「え?属性の力なら可能ですよ?この子は光の力ももってますから」
そもそも、使用者の大きさを一定期間のみ変更させる、というのは、
そのマナをぎゅっと濃縮させるがゆえ。
ゆえに一時圧縮したような形となり、姿が小さくなるに過ぎない。
ゆえに時間はさほどもたない、のだが。
圧縮されたものは、自然に元に戻ろうとする力が働くようになっている。
そこに別の力で何らかの補佐をし補強しない限り、は。

バサリ。
とりあえず混乱する思考の中においても、本当にそんなことができるのか。
という疑問もあり、クラトスと目配せをし、エミルに承諾の台詞をいったのはつい先ほど。
先に子供達を縮小化させ、そのままその場に背をたいらにしている鳥のもとへ。
次にリフィルが縮小化し、次にクラトス。
クラトスはシムルグの力を借りたようにみせかけて、自らその体を変化させていたりする。
この方法がとれるのは、ミトス、そしてユアン、そしてクラトスのみ。
四大天使、とよばれているその力というか輝石の使いこなしは伊達ではない。
エミルはそのままの大きさでそのままレティスの背へ。
何でも万が一があったらいけないから、という理由にて、
今現在、皆、エミルがもっている布のようなものに入れられて、そのままエミルのひざ元に集められていたりする。
いまだに子供達は目を覚ましていない。
この現状でよくもまあ目をさまさないものだ、とリフィルからしてみれば呆れてしまうが。
そうこうしているうちに、どうやら準備が整った、らしい。
いきおいよく、羽音とともに、鳥が羽ばたく音がリフィルの耳にと届いてくる。
ぐん、と一気に体が上昇してゆく何とも言い難い感覚がリフィルに襲いかかる。

『それで、目的はどちらまででしょうか。王?』
『アクアの神殿の場所がある地まで。まあここからだと近いがな』
「了解いたしましたわ」
何ともいえない浮遊感。
ふと、体がふわり、と軽くなったような感じをうけ、ふと気付けば、
先ほどまでみえていた視界、すなわち、布があっさりと取り除かれる。
はっとみれば、どうやら自分達の大きさが元の姿にもどった、らしい。
「うお!?え?え?うわ~!?これって先生!?」
「みてみて~!ロイド!お空にういてるよ!?」
どうやらその衝撃というか、体にかかる冷たい風にきづいたのか、
はっと飛び起きたロイドが周囲をみわたし何やらそんなことをいっているのが目にはいる。
そもそも、すでにラティスの大きさは上空にとびだったとともに、本来の大きさに近しいものになっているがゆえに、
はっきりいってそのラティスの背にはロイド達が全員のっていたとしてもかなりの余裕があったりする。
もっとも、あまりはしゃいで背の横のほう、すなわち翼の近くやそうでない場所。
すなわち胴体以外の場所にいけば落ちてしまう可能性もなくはないのだが。
「え、えっと、姉さん?これって……」
はっとみれば、横にみえるは、まさか、とおもうが、雲?のような気がする。
突き抜けるほどの青空に、そして眼下にみえる大地のようなもの。
ふかふかの毛のようなものが自分達の足元にあることから、
おそらくこれは何かの動物か何かにのっている、のではあろうが。
足場となっている場所が何やらおぼつかない。
ふわふわとした感覚でおもわず立ち上がることすらままならない。
ざっと周囲をみてみれば、眼下に大地らしきものと、そして海のようなもの。
そしてその視界の先には山のようなものが、なぜか眼下にみえているのはこれいかに。
しかし、リフィルは何やらとある方向をじっとみており、どうやらジーニアスの問いかけには気づいていない、らしい。
リフィルがみている方向の空は、漆黒の闇が広がっている。
それこそ先がみえないほどに。
まだ時刻はお昼過ぎだ、というのにもかかわらず、である。
エミルはといえば、いつのまにかリフィル達から離れていたらしく、
みれば、どうやら…頭?のような場所にいるのがみてとれる。
バサバサと何かが羽ばたく音と、そしてこの毛並み。
よくよくみれば巨大なる翼のようなものが上下に動いているのがみてとれる。
それゆえに、信じがたいが、巨大な鳥に自分達が乗っているのだ。
と今さらながにジーニアスは理解する。
と。
「あ、皆、目がさめたんだ。もう目的地につくよ?」
そもそも、あの場所からアクア達の神殿の場所まで、歩いてでも三、四日程度の距離でしかない。
レティスの移動ならば、ほんの数分もかからない距離といってよい。
何しろ空には何の障害物もない、のだから。
「わたくしはどうしましょうか?」
「また移動をたのむだろうしな。とりあえずまっていてくれるか?」
「それはもちろん。どこにおりましょうか?」
「そうだな……」
すっと地上に意識を向けて、どの場所がいいかみつくろう。
普通に間欠泉の入口っぽいような人工物が創られているが、
そのあたりは人が少数とはいえ騒ぎになりかねない。
ならば、
「人がつくりし渡り場から、反対側へ」
「わかりました」
翼の羽ばたきの音でエミル達の会話はリフィル達には届いてはいない。
が、その会話は注意して聴覚をとぎすませていたクラトスには届いている。
コレットもまた、そんな会話は聞こえているが、
今は、自分が空をしかもかなりの高さを飛んでいるっぽい、ということに気をとられ、
エミルの会話はまったく耳にはいっていないといってよい。
エミルがそういうのと同時。
バサリ、とした羽ばたきの音がさらに小刻みにとなってゆく。
ふときづけば、それまで眼下にみえていた地面や、海がどんどんと近づいてくる。
やがて、完全に周囲の眼下には海と、そして小さな島らしきもののみがみえてくる。
「というか、この鳥?みたいなの、何なんだ?」
「それは僕がききたいよ」
ロイドもどうやらこれが鳥っぽい何かだ、とは理解した、らしい。
ノイシュは先ほどから、ぺたり、と座り込んでおり、びくり、とも動いてはいない。
ロイドとジーニアスがそんな会話をしている最中。
「あ、リフィルさん。渡り場らしき場所から反対側に降りてもらってもいいですか?」
「…え、ええ」
「……たしかに、普通の渡り場におりたてば、大騒ぎになるだろうな」
リフィルとクラトスがどこか疲れたようにぽつり、とつぶやく。
いきなりいろいろとあり、もうどこから突っ込めばいいのかわからない。
というのが正直な思いであるがゆえの反応。
人は、一気にいろいろなことを経験すると、その思考力を麻痺させてしまう。
あるいみその典型、といえるであろう。



「…つうか、本当に鳥だったんだ。でっけぇ!」
半信半疑であったが、どうやらどこかに着地したっぽいのをうけ、
ふとみれば、どうやらどこかの島らしき場所についたらしい。
とりあえず、自分が何に乗っていたのか、というのには興味がある。
ゆえに、どうやら大地に降り立てる、というのにきづき、
すばやくその背より飛び降り…というか、どうやらその翼において、
大地との架け橋としているらしきその鳥。
大地におりたち改めてみてみれば、自分達がのっていたのが巨大な、しかもものすごい綺麗な鳥であったことがうかがえる。
それゆえに思わず素直な感想を叫んでいるロイドの姿。
そしてまた。
「って、ええ!?ちょっと、姉さん!?これってもしかして、伝説の神鳥シムルグ!?」
ジーニアスがその特徴に気づき、おもわず姉にむかって何やらいっているのがみてとれるが。
どこまで人はこのシムルグ達を自分達の伝承というか宗教という概念に押し込んでいるのか。
どうやらそのあたりもきちんと彼らに聞く必要があるようだな。
そんなことをおもいつつ、
「あの?リフィルさん?クラトスさん?つきましたよ?」
すでに、コレットもまた気になっていた、のであろう。
ロイドにつづいて、翼を滑り台のようにして大地にと滑りおりている。
今現在は、レティスは海の上に降りたっており、その足は海の上に立っている状態。
ちなみに、その足場に何か岩場がある、とかでなく文字通り海の上にとたっているこの現状。
それでも、巨体ゆえに、背と大地の差はあるがゆえ、
その翼をそっとのばし、大地との架け橋にしているのは、ラタトスクが命じたがゆえ。
姉に問いかけようとするが、いまだにクラトスとリフィルはこの場に降りてきてはいないらしい。
あらためて、目の前の巨体たる鳥をみる。
マーテル教の経典の中にかかれている、絵本にかかれている鳥の特徴そのままのその優美なる姿。
「これって、マーテル様がコレットのために使わしてくれたのかな?」
ジーニアスがコレットにそんなことをいっているのがみてとれるが。
「そうなのかなぁ?これって、やっぱり絵本にある、マーテル様のお使いの神様の鳥だよね?」
何やらそんな会話をしているジーニアスとコレット。
「あまり自分で降りようとしないのならば、振り落としましょうか?」
さらり、とそういっているレティスの台詞。
まあ、振り落としてもこのあたりの海におちるだけなので、問題はない。
「レティス。それしたら、リフィルさんもクラトスさんも海におちるよ?」
まちがいなく落ちる。
その言葉に、はっとし。
「い、いきましょう。クラトス」
振り落とされて、海に落とされてはたまったものではない。
というか、どうやってこの鳥は海の上にたっている、というとかいろいろと突っ込み所は多数。
が、このままだと、本気で海にたたき落とされそうな気がする。
それはもう本能的な危険察知。
あわてて、ジーニアス達と同じように、かけ橋となっている翼をつかい、
ロイド達のもとへと降り立っているリフィルに、それにつづいているクラトスの姿。


二人が自らの背より降り立ったのを見届けたのち。
「…やはり、心配なので、わたくしもついていきますわ」
しばし目をとじたのち、そんなことをいってくるレティスの姿。
「え?」
今の状態は、ちょうどエミルがレティスの頭の真横にたっている状態といってよい。
エミルが疑問の声を発するとほぼ同時、その言葉とともに、レティスの体が淡い光にとつつまれる。
「……レティスまで過保護だったか……」
その言葉の意味を察知し、思わずうなるラタトスク。
その口調はエミルとしてふるまっているときのものでなく、本来の口調にもどっていたりする。
とっん、とそのままレティスの肩から飛び降りるかのごとく、
そのまま大地にと着地する。
それとともに、光りにつつまれたレティスの体が視る間に小さくなっていき、
やがて、ちょっとした小さな鳥の姿にまでと変化する。
ちなみに、ぱっとみためは、どこぞの世界のセキセイインコのごとくといってよい。
シムルグの幼生体は普通の鳥とさほどかわらない。
どうやらその姿を幼生体のそれにと変化、させたらしい。
成長し、時を過ごした彼らはその姿を自在に変化させることが可能。
そのまま、ちょこん、とその小さな姿にて、エミルの肩にととまってくる。
そして。
「この姿ならばおそばにいられますしね。不足の事態にも備えられます」
何やらそんなことを誇らしげにといってくる。
くるが。
『いるのはいいが…我の正体はあの人間達には伝えていない。それを心得ておけ』
どうやらいっても無駄、らしい。
それゆえにため息をひとつつき、一応忠告をきちんとしておくことを忘れない。
どうやら彼らには王のことは伝えていない、らしい。
まあ、知られれば愚かなるヒトのこと。
何をしでかしてくるか予測がつかない。
それでなくても、この中には王の期待を裏切っているものが約一名いる。
どうして王が彼らとともに行動しているのかレティスは判らない。
エイト・センチュリオンも、そしてどの魔物も傍にいない。
というのがレティスからしてみれば不安でしかない。
人は王の…精霊ラタトスクのことをしれば、かならずその力を欲しようとするであろう。
そう予測がつくからなおさらに。
だからこそ、姿を変えることを選んだ。
それに、もしもセンチュリオン達が用事でいないときでも、
自分のようなものが傍にいれば少しでも王を護れることができるから、という理由にて。
その思いがラタトスクにも伝わったがゆえに、おもわず、過保護、という言葉が飛び出していたのだが。
ちょうど、エミルが大地に降り立つ直前に、その肩に飛び乗った形であったがゆえ、
リフィルはその小さな鳥が人の言葉を話したことに気付いてはいない。
すとん、と大地に降り立ったエミルの肩には、ちょこん、とその肩にのっかる小さな青き鳥が一羽。


「なあなあ、結局、今さっきの鳥ってどこいったんだ!?」
「ねえ。あれってやっぱり神鳥シムルグなの!?」
「あれ~?おっきな鳥さん、きえちゃった~。エミル、しらない?」
三者三様。
そんなエミルにとなぜか興奮したようなロイドとジーニアスが口ぐちにといってくる。
コレットは、レティスのあの優美な姿がみえなくなったことにたいし、何やら悲しんでいるようにみえなくもないが。
「一つ、訂正」
「「何?」」
そんな二人にとため息をひとつつき、ぴっと指をつきたてつつ言葉を発するエミルにたいし、
もののみみごとに同時に首をかしげているジーニアスとロイドの姿。
しかも言葉までもののみごとに重なっていたりする。
「あの子はシムルグ達は、神鳥でも何でもないよ?世界にいる魔物達の一種、光り属性をまといし魔物シムルグ。
  というか、何それ?神鳥?人間ってどこまで勝手に魔物達を神聖化したり、もしくはおとしめたりしてるわけ?」
それは本音。
つくづく思う。
「は?エミルこそ何いってるのさ?あの特徴、まさにマーテル様につかえし神鳥だったじゃない?」
ジーニアスがさも当然、のようにいってくる。
あんな綺麗なしかも、どうみても特徴は神鳥なのに、
エミルが何をいっているのか、ジーニアスからすれば、何を馬鹿なことをいってるんだ、というようにしか感じない。
「あの子達はその女神マーテルなんてものに仕えたことは一度もないよ。
  それにあの子もいってたし。あの子の一族のだれもそんなことはしたことないってね」
もっとも、思いこんでいるであろう彼らにそれをいっても理解不能であろうが。
それでも、真実はただ一つ。
「エミル、さっきの鳥は…って、その肩の鳥は?」
ふと、エミルの肩に、さきほどまでいなかった青き鳥をみてリフィルがいってくる。
さすがに目ざとい。
が、これがレティスだというつもりはさらさらない。
「それより、リフィルさん。えっと、間欠泉のある島までたどり着きましたけど。これからどうするんですか?」
とりあえず無難なところでさらり、と話題を変えておく。
クラトスはいまだに何やら考え込んでいるようではあるが。
その心を視ることは可能なれど、それで気づかれてはもともこもない。
少し意識してしまうだけで、相手が思っていることも全てがラタトスクには手にとるように理解できてしまう。
少しばかり意識して感じてみれば、どうやら思うところがあるらしいが、
ミトスに報告するかせざるか、かなり内心で葛藤しているらしい。
別に報告されるようなことはしていない、とはおもうのだが。

降り立った場所は、ちょうど観光名所として設置されている船着き場のちょうど反対側。
このあたりまでくると、どうやら観光客の姿はぱたり、とないらしい。
もっとも、ところどころ、地下より水蒸気が大地のいたるところから噴き出ているのがみてとれる。
青と白を基準にした、小さな鳥。
その頭のてっぺんの色も青。
羽に青色が混じっており、そして頭の部分は青い丸い模様のようにとなっている。
それ以外は尻尾以外は基本、真っ白といってもよい小さな鳥。
一般的によく飼育されているとある鳥に似ていなくもないが、どこか違う。
そもそも、マナの流れが確実異なっている。
エミルの肩にのりし鳥から感じるは、鳥のそれではなく、どちらかといえば魔物のマナの流れそのもの。
どうやら、エミルの肩にのっている鳥は魔物である、らしいが。
リフィルはそんな鳥の魔物は知らない。
体を小さくしたがゆえに、先ほどの巨体のときのマナとは感じるものによっては変化して感じてしまう。
それこそ、シムルグ達は幼少時に力を蓄えるためにあえてそのマナを擬態しているといってよい。
その擬態により、よりマナをその身に蓄える、という性質をもっている。
それは大人になってもまた然り。
そしてそのためたマナを放出することができるのも、またシムルグの特性のひとつ。
体を小さくしているとはいえ、攻撃力は本来のままであったりする。
ゆえにどうやらラティスは人の目を欺く目的をかねてこの形態になったようではある、のだが。
ピルピルピル~
すみきった鳥の鳴き声が響き渡る。
どうやら、リフィル達の前では、人語を話せる、というのは隠す、らしい。
まあそれはそれであるいみ好都合。
「そうね。とりあえず、像を探さないことには、ね。エミルはどうするの?」
「そうですね。僕はじゃあ、ちょっと用事すませてきていいですか?ここに前もいっていたけどちょっと用事があるので」
気になるのはウンディーネの今の状態。
せっかくこの場にやってきているので確認をこめて移動してみるのも一つの手。
「ラティスのこともありますし。じゃあ、僕はここで用事をすませてからまってますから。
  リフィルさん達はリフィルさん達の用事をすませてきてください」
「え?エミル一人じゃあぶなくない?」
「問題ないよ。一人は慣れてるしね」
「…まあ、たしかに。こんな海の中の小島でしかないのだから危険はない、とおもうけど……」
「リフィルさん達はリフィルさん達の用事があるんでしょう?僕の個人的な用事につきあわすのも悪いですし」
まあ、素で行動できなくなるから、という理由はあるにしろ。
「でも、あなたが先にもしも戻ってしまったら、私たちは戻る手段がなくなってしまうわ」
「なら、僕の用事がすんだら、リフィルさんたちに合流しますよ。それでいいでしょ?」
「その用事、というのは?」
「ちょっとした野暮用ですから」
さらに問いかけようとするリフィルににこやかに語りかけ、
「たしか、ここには看板がありましたよね?間欠泉の説明文の。その看板の前で待ち合わせ、でどうでしょう?」
このあたりを確認するために視たときに、たしかそのようなものがあったはず。
というか、あのとき、力をすこしばかり使ったときにそれは確認済み。
「そんなものがあるのかしら?」
「え?しらないんですか?」
エミルも視てしっているがゆえに、きたことがある、というわけではないのだが。
「たしか、説明文がかかれている看板が間欠泉の前にあったような気がするんですけど」
「まあ、いってみればわかるわね。…あなたと別行動、というのは気になるけど。
  とにかく、私たちも探し物をしなければいけないのも事実だものね」
なぜここまできて、エミルが別行動を、といってくるのかリフィルにはわからない。
「別にエミルの用事に俺達つきあっても迷惑でも何でもないんだけどな~」
ロイドが何やらそんなことをいってくるが。
「そういうわけにはいかないよ。じゃ、またあとで」
いいつつも、その場をかるく駆けだし、ロイド達がひきとめるよりもはやく、
そのまま、すとん、とその先にある崖の下へと飛び降りる。
このあたりは木々がうっそうと茂っており、おそらくすぐには見つからないであろう。
「あ!エミルっ!…って、いっちゃった。エミルの用事って、なんなんだろ?」
「わからないわ。…すくなくとも、私たちは私たちの用事をすませましょう。
  ……それに、像がなかったことのことも考える必要があるもの」
一年前におとした、というスピリチュア像がまだここにある、という可能性は果てしなく低い。
エミルのこともきになるが、まあそれは後で合流したときに聞きだせばよいこと。
まさか、自分達をこの場に置き去りにはしない…と思いたい。
そんなリフィルの言葉に続き、
「とにかく。先を急ごう。…エミルのことはそれからだ」
彼らに精霊の居場所をそれとなく教えるためには、どうしても像は必要。
クラトスはその精霊の居場所を知ってはいるが、普通、そんなことは一般人はしるよしもない。
そのためのスピリチュア書。
再生の旅において道を記すためにクルシスが命じて創らせたもの。
「そうね。とにかく、いきましょう。エミルがいうには、
  どうやらここは、船着き場の反対方向、のようだしね。それに……」
よくよくみれば、ぼろぼろなれど、小さな道しるべのもののようなものがたっている。
それは石でできており、そこには、矢印がほどこされ、この奥、間欠泉。
と簡単に説明文が書かれているのがみてとれる。
いろいろと思うところはあれど、ひとまずは、当初の目的通り、
リフィル達はスピリチュア像を手にいれるため、間欠泉のある方面へと向かうことに。


※スキット※
ロイド「しかし、あの鳥、すっげえ綺麗だったよな~」
ジーニアス「あれって、絵本にあった女神マーテル様の神鳥だよね?」
コレット「でも、エミルは違うっていってたよ?」
ジーニアス「エミルの勘違いでしょ。あんな綺麗な魔物がいるはずないし」
リフィル「…そう、かしら?」
ジーニアス「姉さん?」
あのレティス、とエミルがよんでいた当事者が、きっぱりと否定していた。
あの言葉、エミルがさらり、といったあの台詞。
”人間ってどこまで勝手に魔物達を神聖化したり、もしくはおとしめたりしてるわけ?”
何か違和感を感じた。
それが何なのか、リフィルはわからない。
そこに何かエミルが魔物を呼び出せる手がかりがあるような気がするのはリフィルの気のせいか。
クラトス「…今は、少しでも急いだほうがいいだろう」
ジーニアス「でも、マーテル様のご加護かぁ。やっぱり魔物が襲ってこないのも。
       じゃあ、マーテル様がきっとコレットを祝福してるからなんだね」
コレット「そう、なのかなぁ?」
ジーニアス「だって、コレット、天使になってるし」
リフィル「はいはい。そんなことより、今は急ぐわよ。
       あまり遅くなったら下手をしたらエミルにおいてきぼりされて、
       この島に置き去りにされてしまいかねなくてよ」
ジーニアス「?何でそこにエミルがでてくるの?コレットがよんだんでしょ?」
コレット「私はあんな鳥さんとお話しできないよ~?」
リフィル「…そう。あなた達は寝ていたからみていないのね。とにかくいきましょう」
ジーニアスはあのとき、エミルがあのシムルグを呼び出したとき、
寝ていたがゆえに。その現場をみていない。
現場をみていなければ、経典の存在もあり、一概に信じられない、であろう。
事実、いまだにリフィルとて信じられない、のだから。
コレット「でも、このあたり穴がぽこぽこあるね~。誰かが私みたいによくころんだのかな?」
周囲をみれば、大地にところどころ陥没したように穴があいている。
そこに水がたまり、さらには、そこから水蒸気も噴き出しているのもみてとれる。
リフィル「あまり近づいたらあぶないわよ。その吹きだしている気体もまちがいなく温度が高いみたいだから」
水蒸気らしきものが噴き出すのとともに、周囲にみちる生温かい風。
それだけでも、どれほどの熱を含んでいるのか容易に予測が可能。
ジーニアス「いや、転んだって……」
ロイド「コレット以外にも転んで穴あけられるやつっていたのか?」
クラトス「……この神子は、まさか大地にも穴をあけられるのか?家だけでなく?」
トリエットにて家に穴をあけたことをみているがゆえのクラトスの台詞。
どこか唖然としているのはおそらく気のせいではないのであろう。
リフィル「はいはい。バカいってないで。クラトスまで。とにかくいきましょう。
      絶対に穴の周囲には近づかないように。火傷では下手をすればすまないわよ」
それでなくても子供達の会話は収集がつかないのに、クラトスまで参加するとは予想外。
特に念をおさなければ、火傷をしてしまいそうな子供が約二名。

※ ※ ※


「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
リフィル達の姿が完全にみえなくなったところにて、扉を発動。
そのまま直接、センチュリオンの祭壇にやってきたはいいものの、
周囲のあるいみ惨状におもわず無言。
どうみても真新しい傷らしきものがところどころ周囲の壁や大地にきざまれているのがみてとれる。
「…あの?王?これは……」
戸惑い気味に言葉を発してくるレティスにたいし、
「…おそらく、アクアだな」
おそらく、目覚めたあと、魔物達に命じ、情報を集めていく中で、
ミトス達が裏切ったことをしったのであろう。
そのときに癇癪をおこした可能性がはるかにたかい。
「…ああ。それで異様にこの島に石がごろごろしていたのか」
アクアの癇癪は、文字通りというか、水のマナすらをも乱す結果となる。
大まかの予測はつくが、おそらくは、アクアの感情の爆発によって、
この島のいたるところにて、間欠泉が吹き荒れた、のではないであろうか。
それにともない、崖の岩なども削り取られ、さらにはその岩をもちい、おもいっきりストレス解消、とばかりに岩を砕いていた。
というのが何となくだが、否、確実に予測できる。
「…どうりで、やってきたときに、あまりイライラしていなかったわけだ」
わかってしまえば、ため息をつかざるをえない。
アクアのことだから、自分が目覚めた波動をうけてすぐにやってきそうであったというのに。
すぐに来なかった理由がよくわかった。
…まあ、癇癪をおこしたな、とは当人にはいわないが。
「…しかし、テネブラエがこれをみたら、まちがいなくまたアクアにつっかかるぞ……」
おもわずつぶやくエミルは間違っていないであろう。
「ですね……」
あの二人の言い合いは魔物達の中でもかなり有名。
それゆえに、王の言葉にぽつり、と同意をしめしているレティス。
「とりあえず、ウンディーネのもとにいくぞ。…どうやら、この神殿も多少は創り変えされているらしいしな」
セルシウスがいっていた台詞が気にかかりはする。
この装置と契約によって自分達はこの地に縛り付けられた、そういっていた。
それに、再生の神子が精霊の封印をとく。
そうリフィル達は確かにそういっていた。
「…精霊炉をよもやミトスが作成する、とはな」
かつての国で人がつくりしそれをよしとせず、彼はそれを破壊していた、のに。
それはかつての世界であったこと。
その進化の先にクレーメルケージ、とよばれし大精霊すら捕らえられる措置が出来上がる。
それこそ持ち運び可能で小さい小型化したものが。
世界を二つにわけたときは、たしかに利用はしたが、それはあくまでも応用で。
精霊達にあまり負担をかけたくないから、という理由で精霊炉を作成する過程の応用で、
ミトスがとある装置を思いついて、それをそれぞれの地にと設置していた。
そこに大精霊達の力、そしてコア化したセンチュリオン達のマナ。
さらにはその地に配置した魔物達の力。
それらもあって、一年ごとのマナの循環はうまくいっていた、のだが。
それはかつての記憶。
しかし、あのとき、精霊達が捕らえられている、といっていたあの場所にあったのは、
応用されたものにさらに手がくわわった、いうなれば檻のようなものであった。
ここから動くことすらできません、とそういっていたセルシウス。
その意味を完全に確認するためにも、こちら側、
すなわちシルヴァラント側の精霊達の実情も把握しておく必要はあるであろう。
だからこそあえて別行動、という形をとったまで。
そのまま、アクアの癇癪の結果暴れたであろう痕跡が生々しい空間。
すなわち、センチュリオン・アクアのある祭壇の間を歩きだす。
その先にとある壁にとそっと手をかざすとともに、赤と緑の入り混じった光が辺りをてらす。
それとともに、ぽっかりとした道が突如として目の前に出現する。
この先はそのまま、本来、ウンディーネ達が拠点としていた場所にと続いている。
たしか、地下の滝の前に入口が繋がっていたはずだが、と思いだす。
まあ、考えていてもしかたがない。
そのまま、まずは現状を確かめるためにも、一歩、足を踏み出してゆく。


「しかし、ここ、熱いよなぁ~」
「ほんと。ものすごく汗かいちゃうよ」
「…仕方ないわ。いたるところから水蒸気が噴出しているのですもの」
しかもついでにお湯が噴き出している穴すらある。
「…間欠泉は、この島全体、だったのね」
リフィルがため息まじりにそんなことをおもわずつぶやく。
そもそも、よくよく気をつけなければ、噴き出してくる蒸気に触れてしまいそうなほど。
おそらくは、大地にある数多の穴は蒸気が噴出してできている穴かと推測する。
リフィルは知らない。
しるよしもない、よもやそれはアクアの癇癪によって、マナが乱れまくった結果、あらたにつくられし噴出口である、ということを。
それに、周囲には巨大な岩が異様にごろごろところがっている。
大小様々な石はもともとこの地にあったのか。
しかし、その岩の裂け目というかその断面が、どうも最近割れたのでは?
とおもわせるような面におもえるのは気のせいか。
この島は、木々がある一体と、そうでない一体との区切りがしっかりと成されている、らしい。

島の反対側に進んでゆくにつれ、自然の木々も少なくなってきているのがみてとれる。
「お。あそこ、水がたまってるぞ」
「あ。ほんとだ~」
ふと歩いてゆく先に、ちょっとした水たまりのようなものを発見し、
ロイドがそちらにむかっていこうとするが。
「まちなさい!よくみなさい!あの水たまりから湯気がでまくってるでしょ!?
  あなた、そのまま手をつっこみかねないから注意しておくけど!
  そんなことをしたらまちがいなく大やけどをしますからね!」
「うげ」
ロイドが走りだそうとするその服、すなわちロイドの服のスソをつかみ、
その反動で、半のめりとなりこけそうになったロイドがリフィルの言葉をきき、おもわずひるむ。
まちがいなくリフィルがとめなければ、汗をかいた手を洗おうと手をつっこんでいた。
「ちょうどいい湯加減になってるところだといいんだけど、あるのかな?」
「ないでしょう」
それはもう断言。
でなければ、歩くだけで汗がだらだらとでるようなこの蒸し暑さはありえない。
「コレット、平気?」
「あ、はい。なんか平気です~」
平気、といいつつも多少汗を流しているのがみてとれるが。
しかしそれはロイド達ほど、ではない。
「そういえば、クラトスも平気そうな顔をしてるよな?こんな蒸し暑いのに?」
ロイドもジーニアスも、そしてリフィルもだらだらと汗を流している、というのに。
クラトスは汗の一つも流していない。
「心頭滅却すれば火もまた涼し、だ。精進がたりんぞ」
「しん?ししとうがどうかしたのか?」
クラトスからしてみれば、体温調整を自ら行えるので寒さ熱さを感じる必要はない。
もっともそれをいうわけにはいかないがゆえの台詞、なのだが。
「…ロイド。違うよ。クラトスさんがいったのは、心構えでどうにかなる、ということだよ。
  心構えででも熱さそのものがかわる、とはおもわないけどね。気分の問題だよね」
ジーニアスがいいつつ汗をぬぐい、
「あ、ようやくみえてきた。あそこがそうじゃないのかな?」
この先、間欠泉。
そうかかれている石の導がたっている。
みればどうやら簡単ではあるが道らしきものが整備されており、
石が簡単に敷き詰められているのがみてとれる。
どうやらこの石の道にそっていけば、目的の場所にまでたどり着ける、らしい。


ソダ島そのものは、殺風景な場所といっていい。
強いていえば、岩と、そして木々のみがあり、見所という見どころは皆無といってもよい小さな島。
一応、観光地の一つではあるにはあるのだが、ただ、間欠泉がある、というだけで、
島そのものには、宿泊施設も他に見物する場所すらない。
「それにしても…なんか、異様にロープがおおくない?」
周囲をみれば、いたるところに、立ち入り禁止、とばかりにロープがあり、
そのロープの中には大きな岩が転がっているのがみてとれる。
どうやら危険だから、という理由でロープが張られている、らしいが。
「ここに、像があればいいね~」
「うお!?すげぇ!熱湯が吹きだしてる!」
「あ、エミルがいってた看板ってこれ、かなぁ?」
コレットがそれにきづき、そんなことをいってくる。
そこには、たしかに間欠泉の簡単な説明文が記載されている看板がたっている。
ざっとみれば、どうやらこの場にいるのはコレット達だけ、ではないらしい。
「すいませ~ん」
とりあえず、ざっと間欠泉の吹き出し口であろう穴をみてもそれらしきものはみあたらない。
ゆえに、コレットが近くにいた人にもきいてみよう、とばかりに声をかける。
どうやら他にも幾人かの観光客がきている、らしい。
「おや。君たちも観光かい?ここにくる人のほとんどは間欠泉をみにくるのじゃなく、
  タライを体験したい人らしいね。君たちもそのくちかい?」
「「「タライ?」」」
コレットが話しかけた人物がそんなことをいい、思わず異口同音で首をかしげるコレット、
ジーニアス、そしてロイドの三人。
「タライって?」
「ああ、違う手段できたのかい?ならパルマコスタで小さな船でもかりたのかな?
  ここにくる手段はね、基本、タライにのって、なんだよ。かなり面白いよ?
  この島にたどりつくまで海水とかもはいって転覆とかのどきどき感も味わえるしね」
その言葉がきこえたのであろう、リフィルがさっと顔を青ざめさせる。
「次にくるときは挑戦してみたらいいよ。転覆したらマーテル様の加護が薄かった、ということだしね。
  まあ、このあたりの海流はそうきつくないからタライをつかんで浮輪がわりにし、転覆してもどうにかなるだろうしね」
いや、どうにかなるって。
というか、タライって。
いろいろと突っ込みどころは多々とある。
ゆえに思わず顔をみあわせる子供達。
「でも、君たち、運がいいね~。少し前までここ、危険だから立入禁止きんしになってたんだよ?」
聞いてもいないのにそんなこともいってくるが。
「?それって?」
「それが、不思議なことにね。これまで一度もなかったらしいんだけど。いたるところからお湯が噴き出してね。
  しかも巨大な岩は崩れたり、もしくはふってきたりするし。ほら、そのあたりに転がってるだろ?巨大な岩」
たしかに、不釣り合いなほどに大きな岩がこの場にはごろごろしている、いるが。
ロイドの疑問にコレットが話しかけた人物がにこやかに答えを返してくる。
「ソダ遊覧船乗り場で解除されるのをまってここにきたんだけどね。
  しかし、みてのとおり、これからこの岩達をのけていく必要があるみたいで。
  遊覧船乗り場にて、この岩の移動をネコニンギルドに依頼すべく募金を募ってるよ?」
「たしかに。岩が異様に多いわね」
リフィルが周囲をみわたしつつもいってくる。
クラトスからしてみれば、とある場所をみて思わず内心舌打ちしてしまう。
そこには、神殿にいくための封印の石板がある場所なのに、
岩があり、この先にあるであろう展望台にはいかれなくなっている。
そもそも危険だから断ち切り禁止、とばかりにロープがはられており、
みるかぎり、岩も一つや二つ、ではなく、展望台につづく道を、巨大な岩がしっかりとふさいでいるのがみてとれる。
「岩が取り除かれればあの岩の先にある展望台からお湯が噴き出ているのが少し上の位置からおがめるよ」
そう説明する男の会話にと割って入り、
「すいません。うちの子供達にいろいろと説明していただいてありがとうございます。あの、少しお伺いしたいのですが。
  このあたりで、木彫りの像をみかけた、とかいう話しはききませんこと?」
「お。これは何とも美人さんだねぇ。いや、きいたことないね?何だい。もしかして落し物かい?」
「え。ええ」
リフィルのうなづきをうけ、
「それっていつごろおとしたんだい?」
「一年前ってきいたけど」
ロイドがリフィルにかわっていってくる。
「それだと、もう絶対にないだろうね。さっきもいったけど、
  ついこの間まで、なぜかここの間欠泉は異様に多く吹きだしまくってたんだよ。
  それこそ島全体なんじゃ?とおもわれるほどにね。だから島に入ることが禁止されてたくらいだし」
ついでにいうならば、そのときやってきていた観光客がかろうじて逃げ出したがゆえに、そのことが伝わった、といってもよい。
「まあ、もしあるとすれば、そこの簡易休憩所にきいてみればいいよ。
  落し物とかがあった場合、大概ここに預けられているからね」
親切にもいってくる男の台詞に、
「ここの管理ってどうなってるの?」
ふと気になったらしく、ジーニアスがといかける。
「ここは、パルマコスタのドア様が管理している、ときいているよ?」
「そ、そうなんだ」
「ありがとう。一応ダメもとで確認してみますわ」
「なぁに。美人さんの問いかけには誠意をもって返答しますよ?」

そんな会話をしている最中。
「すげえ!また本当に熱湯がふきでてる!」
ちょうど、本日、幾度目かにもかわらいほどの巨大な熱湯が間欠泉、として噴き上げる。
定期的にたしかに間欠泉は噴き上がっているものの、その規模はとの時間帯によって大小ことなっている。
これでもか、とおもえるほどの巨大な柱が、一気に地下より吹き上げる。
シュー、という音とともに何本ものお湯の柱が岩場からせりあがる。
ロイドがそれをみて興奮したかのように、転倒防止用のローブから身をのりだし、
何やらそんなことを叫んでいたりするのだが。
「間欠泉っていうのはね。周期的に熱湯や水蒸気が噴き上がる温泉のことなんだよ」
ジーニアスがそんなロイドに念のために説明を施す様子がみてとれる。
「お、おう。しってるぜ?」
忘れてた、という表情をおもいっきりだしつつも、言葉のみではいいつくろうロイドの姿。
湯はひとしきり噴き出してはやみ、少したつとまたでてくる、を繰り返している。
「ずいぶんと間隔が短いのだな」
クラトスが腕組みをしてつぶやきつつも、
「でも、やっぱり、像らしきものはありませんね。先生」
お湯が噴き出しているであろうどの穴のどこにもそれらしき像はみあたらない。
彼らは知らない。
ここにくる前、ラタトスクがちょっぴし干渉し、
ちょうどそこにきていた旅行者の一行の真上に間欠泉の吹きだしとともにそれがおちてきて、
それがスピリュア像だときづいた旅人がマーテル様の恵みだ、といってもっていってしまっている。ということを。
家族連れの旅業者であった、ということも関係していたりする。
しかし当然、そんな事情をリフィル達がしるよしもない。
「…そうね。さっききいた、休憩所できいてみましょう。けど……」
さきほど、あの男がいった、ここもあのドアが管理していた、のだとすれば。
ディザイアンと繋がっていたドアがスピリチュア像をそのままにしていた、とは言い難い。
それにきづいて回収させていた可能性のほうがはるかに高い。
「ままならないわね」
ため息をつくリフィルに対し、
「先生、やっぱり、様々な書物が納められてるっていうマナの守護塔にいってみるのはどうでしょう?
  おそらく、精霊達のことについての文書もあるとおもうんですけど」
「マスターボルトマンの術書があるという噂はきいたことがあるけど、精霊達についてのものもあるかしら?」
「噂では、古代大戦時の資料もあるってきいたことがあります~。おばあさまからですけど」
マナの守護塔の話しの中でかつて祖母からそのような話しをコレットは聞いたことがある。
「ファイドラ様から?それはたしかに、可能性としては高いかもしれないわね。
  どちらにしろ、像がない以上、あのコットンとかいう人がスピリチュア書をみせてくれる。
  という可能性は限りなく低いわ。仕方ないわ。遠回りになるかもしれないけど。
  一度、マナの守護塔にいってみるしかないわね。コレットもそれでいいかしら?」
「私、一度いってみたかったんです。ルインの街って別名水の都ともいわれてるようですし」
それに八百年ほど前はかの地に自分達の一族も住んでいたことがあるらしい。
ともコレットは聞かされている。
「しかし、ここからルインへいくのだとすれば、かなりの距離があるが?」
クラトスの至極もっともな台詞。
スピリチュア像が手にはいらないとなれば、別なる手段をどうにかして、神子であるコレットに伝えるしかないのだが。
その手段がクラトスにはおもいつかない。
「そのあたりのことはエミルに交渉してみましょう。もしかしたらあの鳥でつれていってもらえるかもしれないもの。
  …あまりエミルの手を借りたくはないのだけど、時間がおしいのも事実ですものね」
「エミル…か」
たしかにあの移動方法では早い、であろうが。
シムルグを呼び出したことには驚いたといってよい。
まさか、その優美さからミトスが利用しよう、ときめた魔物を呼び出すなど。
あれはたしかイセリアの聖堂にいたはず、なのに。
気づいたとにきは、あの魔物は聖堂にすみついていた。
クルシスがどうにかしようとしたが、かの魔物だけは絶対に操ることすらできなかった。
そんな魔物をいともあっさりと、あのエミルは呼び出し、あまつさえどうみても使役していた。
顔見知りっぽいような会話らしきものをしていたことも気にかかる。
あの魔物はかなり人見知りというか人嫌いであったはず、なのに。
クルシスのものが近づいただけで、輝く息を吹きかけられたことは数しれず。
クルシスに、ミトスに報告すべきか。
いまだにクラトスの中で判断はついていない。
しかし、報告する、ということは下手をすればロイドのことも気づかれてしまう可能性がある。
ミトスはおそらく、ロイドが身につけているエクスフィアを手にしようとするであろう。
あるいみで、人工的に成功したハイエクスフィア、なのだから。
二度と息子を失いたくはない。
自分の手でまた家族を手にかけるようなことはしたくない。
その思いがクラトスの葛藤をあおっている。
エミルのことを報告すれば、まちがいなく神子一行のことも調べられ、
そしてロイドのことにもたどりつかれてしまうであろう。
それでなくても、すでにロイドの生存は…ミトスの耳にはいっている可能性が高い。
まだ入っていない可能性もなくはないが。
ともあれ今問題なのはそこではない。
像がない、ということは、神子一行にスピリチュア書をみせられない、ということ。
それとなく封印の場所に神子達を導いていくにしても、それは傭兵、
といって動向している自分が示すのはあからさまに不自然でしかない。
まあ、マナの守護塔にはルナが封印されているので封印の一つであるので、いくことに不満はない、ないのだが。
しかし気になることもある。
さきほど、空の上からみたマナの守護塔がある方向。
そこはまだ昼だ、というのに漆黒の闇にとつつまれていた。
それこそ、そこだけまるで夜の帳がおりているかのごとくに。
クルシスに戻れば、もう少し詳しい情報が、シルヴァラントの管理官である自分のもとに上がってくるであろうが。
というか絶対にそういった書類上の仕事がたまっているような気がする。
それはもうはてしなく。
簡単な引き継ぎは、プロネーマにしはしたが、あれは引き継ぎ、というほどのものでもなかった。
「仕方ないわ。それに…空からだと、通行証もいらない、でしょう?」
ハコネシア峠をこえる通行証は、コットン曰く、一億ガルド、といっていた。
そんな大金、払えるはずもない。
かといって、わざわざパルマコスタにまでもどり、通行証だけもらう、というのも気がひける。
まあ確実にもどっていえば、もらえる、とはおもうのだが。
それでなくても、ドアを失い、さらには捕らえられていた人々を保護し混乱しているであろう、
あの街にこれ以上の負担をかけたくないのもまた事実。


「あ、皆。探し物はみつかりました?」
ない、とわかっているが、ひとまずといかける。
ウンディーネが囚われているとおもわしき、あの装置の場所までいってみて確信できたこと。
それは完全に、魔科学をもちい、ミトスは彼らを封魔の石の力を応用したあの装置にて、
完全に精霊達を縛りつけ、檻のごとくに捕らえている、ということ。
その誓約の楔により、精霊達はそこから動くことすらもままならなくなっているこの現状。
さらにいえば、あちら側の精霊達はそれでも表にでることはできた、というのに。
具現化するのすら、どうやらその枷によってままならない、らしい、ということも。
聞けば、神子とよばれしものが儀式をすることにより、
具現化するほどの力が解き放たれる、ようになっているらしい。
そもそも、セルシウス達は、神子とはマーテルの器、といっていたが。
まさか、とはおもうが、人に他人の精神を憑依させようという試みをしているのでは。
と今さらながらに実感がもてた。
以前、人が行っていた研究の中で、自らの力とすべく、魔物達の力をその身にとりこもう。
とした実験が二つの国においてされていたことを思い出す。
その実験施設などはことごとく自然災害、という形で壊滅させていたはず、なのだが。
そのときの研究成果を利用している可能性すらでてきているこの現状。
本当にミトスはどこまで自らの心の闇に堕ちてしまったのか、とつくづくおもう。
あれほど光にあふれていた、というのに。
否、光にあふれていたがゆえに、その反動でおこった闇が深い、というべきなのか。
「いえ、やっぱりなかったわ」
リフィルがそんなエミルの心情をしるはずもなく、首をふりつついってくる。
「そうですか。とりあえず僕のほうの用事はここでは一応おわりましたし。
  それで、リフィルさん達はどうするんですか?」
そもそも今のところ一緒に同行しているのは、目的地が同じであった、という理由から。
だからこそ、リフィル達もコレットのいうようにエミルとの同行を許可したといってよい。
これが神子の旅についていくから、という理由であれば、まちがいなく、許可などしていないであろう。
「そうね。エミル。モノは相談なんだけど」
「はい?」
リフィルが何か言い淀むようにいってくる様子をみて思わず首をかしげてしまう。
そろそろ、夕刻になれば戻るのが困難になる、という理由で、
この場にいた観光客達はそれぞれ、船着き場があるらしき場所にとむかっていっている。
もっとも、その船着き場にはいくつものたらいが浮いている、という状態になっていたのだが。
エミルに頼んでいいものか葛藤はある。
だが、急がなければならないのも事実。
ゆえに、
「私たちをルインにまで運んでもらうことはできるかしら?」
「ルインに、ですか?別にかまいませんけど……」
どちらにしろ、これ以上ほうっておけば、確実に峠をこえて闇がおしよせてしまう。
その前にルーメンを覚醒させるつもりではあったので、リフィルの申し出は、あるいみエミルにとっては好都合。
「それはかまいませんけど」
「助かるわ。ここからルインにまではかなり距離があるもの」
さらり、と許可がでたことにたいし、ほっとするものの。
「エミル、でもあなた、アスカードでの用事はいいのかしら?」
「別に急ぎませんし。リフィルさんたち、どうも急ぐんでしょ?ならそっち優先でもかまいませんよ?」
ルーメンの祭壇の上に、人間達が塔のようなものをたてている、という。
おそらくは、その地にルナを縛り付けている可能性がはるかに高い。
できれば、彼らのいう精霊の解放、という儀式も目にしておきたいところ。
判断材料は多ければ多いほど、今後の決定もしやすくなる。
ピル?
『では、私がまた大きくなりましょうか?』
鳥の鳴き声をだした後、念波にてそのようにといかけてくるレティスに対し、
『…いや、今度はラティスを呼ぶ。お前はそのままでいろ』
『判りました』
ラティとはレティスのつがいである一対ともいえるシムルグの雄。
リフィル達が肩にいるレティスをただの鳥、とおもっているのならば、
そう想わせておいたほうが今後都合がいい、というのもある。
「?姉さん?エミルがどうやってルインにつれてってくれるのさ?エミルでも無理でしょ?」
いまだに理解していないジーニアスが首をかしげていってくるが。
「ジーニアス。よくみていなさい。…これが真実、よ」
「「「?」」」
リフィルが何やら意味ありげにいうがゆえ、ロイド、コレット、ジーニアスが思わず顔をみあわし、同時に首をかしげてゆく。
いつのまにか、どうやらこの場にいた観光客は全員、帰路についたらしい。
もっとも、まだ海を渡っているようではあるが。
しかしこの場にいない、というのは事実。
「なら、ここの船着き場でよびましょうか?ちょうど広いですし、ね」
船着き場、という言葉にびくり、とリフィルは反応するが。
「じゃ、先にいってよんどきますね」
「あ。おい、エミル?えっと、先生?」
「えっと、姉さん?」
「…あなた達は、先にいっていなさい。私は少し後からいきます」
できれば、すぐに乗り込める状態で移動したほうがリフィルからしてみれば好都合。
「あ、エミル、まって~」
そんなエミルをおいかけるようにコレットがかけだしていき、
それにつづいて、ロイド、ジーニアスもおいかけてこの場を駆けだしてゆく。
「……私はあまりあの子の力?らしきものを使うのは賛成できないがな」
クラトスがそんな子供達の姿をみつつも、腕を組みつついってくる。
「それは私もよ。けど、今は少しでも時間が早いほうがいいの。
  クラトス、あなたは気づいていたかしら?あのマグニスがいった台詞。
  あのマグニスはコレットのことを天から見放された神子、といっていたわ。
  その真偽もあるし、それに…神子を狙っていたのも確か。
  まさか彼らも空の移動で先に進んでいる、とは夢にもおもわないでしょう?」
ディザイアン達の牧場を神子の一行が破壊したのをうけ、彼らがどんな行動をしてくるか。
まさか空で移動しているとはおもわないであろう。
コレットの安全面を優先する以上、あるいみ空での移動はうってつけといってよい。
もっとも、空で移動しているとわかればディザイアン達は必ず対抗策、
すなわち彼らが使用しているという飛竜などを導入してくる可能性もなくはないが。
しかし、まだ空での移動手段がある、と気づかれているとはおもえない。
いまだにリフィルとて信じられない、のだから。
「それは、たしかにそうだが…普通、空の移動手段などあるはずもない、のだからな。
  飛竜でもてなづけていれば話しは別であろうが」
クルシスにおいてはかつて、レアバードを開発していたが。
今ではあれは使用することなく、ほぼ念のための移動手段でしかない。
もっとも、レネゲードはそれを利用しているっぽいが。
さらにその技術をテセアラに流しているっぽいことまでクラトスはつかんでいる。
「…ディザイアン達がやっている、という移動手段の一つね。
  敵の裏をかくにはまず味方から、ともいうし。…でもあまり多様はしないわ。
  あの子にもあの子の旅の目的があるのでしょうし。
  …でもあの力を野放しにしておくのは危険だから、傍においておきたい。
  というのもあるのだけどね。あの子がディザイアンの手におちたら危険だわ」
何が、とはいわない。
魔物を呼び出せ、いうことを聞かせるだけの能力は、
ディザイアン達からしても、おそらくノドから手がでるほどにほしいものであろう。
それくらいのことはリフィルとて理解できる。
嫌というほどに。
逆をいえば、エミルを手中におさめれば、魔物達をも手中にできたといっても過言でないのでは。
そんな思いすらふとよぎってしまうほどに。
そんな馬鹿な、と自分の考えを必至に否定しようとするが、しかしどうしてもその考えが否定しきれない。
それは、リフィルの中に流れし血が本能的に真実を当てている、のだが。
リフィルはそれに気づけない。
エルフ達は、大樹の精霊ラタトスク、異界の護り手、魔物の王、
かの精霊のことはあるいみ極秘事項として大人になれば一族のものに伝えることにしていたりする。
リフィルがしらなかったのは、かの地において成人まで成長していなかったがゆえ。
その事実をまた、母からも知らされることがなかったがゆえ。
それほどまでにエルフ達にとっては、精霊ラタトスク…大樹の精霊の存在の意義は大きい。

「この子は、ラティス。あのレティスの伴侶です」
何となく雰囲気がここに乗ってきたときの鳥とはことなる。
それゆえにリフィルがといかければ、さらり、とした言葉がエミルの口から紡がれる。
ロイドとジーニアスはといえば、口をあんぐりとあけている。
目の前でエミルが何やら呟いたとたん、目の前の海の上に蒼く輝く魔方陣らしきものがあらわれ、
そこから優雅な鳥が一体、現れてきた。
それはそのまま、くるり、と上空を旋回したのち、ゆっくりとロイド達の目の前。
すなわち海の真上にと毎降りてきた。
ロイド達が今いるのは、船着き場となっている桟橋の上。
現れた優雅なる姿をせし巨鳥はその巨体を海の上にとたずさえている。
まるで海が大地、とばかりに海の上に浮かんでいるというか、立っている、といってよい。
降り立つとどうじ、海に降り立った証とばかりに波紋が広がっていっており、
その波紋は少し離れた場所でやがて波となり、
周囲にちょっとした波しぶきをうみだしていたりする。
青き鶏冠のようなものをもちし、白と青を基調とした優雅なる巨鳥。
マーテル教の経典、そして絵本にすらえがかれている、女神マーテルにつかえし、聖なる鳥。
どうみても特徴は、その神鳥シムルグ、としかおもえない。
その優雅さも、そしてどこか神聖さをかんじさせるところも。
「もしかして、エミルって女神マーテル様にかかわりがあるの?」
「いっとくけど、僕は誰にもつかえたことなんてないからね?」
どちらかといえば、仕えられる立場といってよい。
唖然としつつ、ジーニアスが何ともマのぬけた質問をしたものの、いともぱっさりとエミルにと切り捨てられる。
ちなみにヒトと契約を結んだこともこの世界においては一度もまだない。
盟約を結んだことはあったにしろ。
自分と契約すれば、魔物も必然的に契約者のいうことをきく。
これまでの世界でそういった力をもつものを、人がどのようにあつかったのか。
嫌というほどに思い知っているがゆえ、あえて契約者はつくらないようにしてはいる。
マルタとのあれもまた、契約、というよりは盟約の分野として認識していた。
だから、あのとき、マルタを手助けした、のだが。
ふとかつての時間軸のことを思い出し、しかしその考えをすぐさまに振り払う。
そういえば、とおもう。
あのとき、マルタは大樹の暴走で母親が死んだ、といっていた。
パルマコスタにいるときマルタと出会いはしなかったが、しかし自分を知らない彼女にも、悲しい思いはさせたくない。
「でも、これって、どうみても神鳥シムルグ……」
「本当に、ヒトって自分が信じ込まされていることしか信じようとしないよね?
  この子はだから、神鳥なんてものじゃないよ。
  そもそもシムルグとは、この子達の魔物としての種族名、なんだし」
「人って、僕はエルフで……」
「同じだよ。君たちがいうところの人間も、エルフも、ハーフエルフも。
  心をもって、文明を築いているもの、それすべてが僕にとってはヒトにはかわりないから」
それは事実。
獣人とよばれしものたちも、全て。
エミル…ラタトスクにとっては文明を築きし彼らはすべてヒト、という括りでしかない。
全てが人でしかない、といいきるエミルの言葉にジーニアスは絶句してしまう。
大概のものは、種族が違うから、といって差別する、というのに。
その言い回しだと、エミルにとって種族とか関係なく、すべてがヒト、という括りでしかない。
というようにしか感じられない。
否、今の言い回しから確実に、エミルにとっての認識はそう、なのであろう。
そんな考えかたをしている人間など、今までジーニアスは出会ったことすらない。
まあ、種族なんて関係ないだろ?といいそうな友人は約一名、いるにはいるけど。
そんなことをおもい、ちらり、と横にいるロイドをみているジーニアス。
「よくわかんねぇけど。この鳥で移動するのか?エミル?」
一方で、その会話の意味がまったく理解できず、
気になっていることのみを問いかけてきているロイド。
「うん。リフィルさんにさっきたのまれたしね。
  ラティスで移動していけば、ルインの村まではそんなに時間かからないよ。
  たぶん、夜までにはたどりつけるんじゃないのかな?」
もっともいくまでに闇と化した空間を通るがゆえに、人間達の感覚では、
今がいつごろか、という感覚がつかめないかもしれないが。
「ジーニアス。一つ、僕が好きな言葉をおしえとこうか?」
いまだに何やら考え込んでいるジーニアスに話しかける。
「え?どうしたのさ?エミル?」
「…以前、僕がきいたことがあって、気にいっている言葉にこんなのがあるんだよ。
  心に色はない。心に種族も何も関係ないってね」
いくつかの世界でそのようなことをいっていたものたちがいた。
護りの巫女に選ばれた彼女もそのようなことをいっていた。
そして、あのマーテルも。
それに賛同していたはずなのに、ミトスにそのときの思いはもう残っていない、というのか。
それともそのときの思いは今のミトスは忘れてしまったのか。
人の心はうつろいやすいもの。
それは身をもって知ってはいるが、それを目の当たりにするたびに悲しくもある。
どうして自ら信じたことを信じつづけることができないのか、と。
この言葉で少しでもジーニアスも彼がもっている差別意識を昇華させてくれればいいのだが。
短い間でしかないが、どうも今のジーニアスは無意識に人を見下している感じがある。
だからこその台詞。
「心に色はない、か。よく意味わかんないけど、なんか素敵な言葉だね。エミル」
「うん。僕もそうおもう。だからこの言葉、好きなんだ」
コレットがその台詞をきき、にこやかにいってくる。
「そもそも、姿形なんて、どうにでもなるようなものにとらわれて。
  その本質を見失ったら意味がない、と僕からしてみれば思うのにね」
それこそ、この世界では一般的ではないが幻影という術もある。
ソルムがその幻影を得意としているが。
そのソルムのコアの力にて、かつてロイドの幻影をまとったものがいた。
それが、あの時の血の粛清、とよばれし事件の真相。
この世界において、ソルムはすでに目覚めさせているのであのようなことはおこさせない。
そうおもっているが…人はどこまでも愚か。
魔族の力を呼び出して同じことをしでかさない、という保障はない。
今のところ、かの地にきちんとあの書物は保管、されているようではあるが。
それでも、里の中にどうやら野心をもっているっぽいものがまぎれこんでいる。
というのはセンチュリオン達に確認にいかさせたときに報告をうけている。
そのあたりのことも、エルフの里の長老に話しておくべきか。
それともこちらで対処すべきか。
まだその判断はできていない。
今のエルフ達は何ごとも傍観を貫くばかりで動こうとしない。
かつて、この惑星に降り立ったときの彼らとは完全にその行動真理が異なってしまっている。
あのとき、この惑星におりたった彼らは自ら動いて未来をつかもう、とした存在達ばかりだった。
というのに。
あの惑星から、彗星に移動し、新たな居住区を、と言いだしたのも彼らであったというのに。
あの行動力はどこにいってしまったのか、といいたい。
切実に。



pixv投稿日:2014年1月7日某日(Hp編集:2018年4月22日(日)

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あとがきもどき:
編集するのに、やはり時間がかかる今日この頃……