何ともいえない気持ちをかかえたまま、ひとまず再び人間牧場へ。
そこでまっていたニールと合流し、今度こそ内部へと侵入することに。
消えたドアの死体より残されたカードキーを使い、裏より侵入。
未だに潜入がばれた気配がない。
が、天井や壁の境目に設置されている小さな機械がそこにあるのはすでに確認済み。
先刻とはことなり、今は”人のそれ”にしているので、自分の姿も確実に映っているであろう。
離れた場所からでも監視ができるように設置した場所の風景を映すための装置。
だがそれを口に出すことはない。
衰退世界たるシルヴァラントには本来このような技術は存在しない。
しないことになっている。
テセアラの技術を知っているような素振りを見せれば、またクラトスに怪しまれてしまう。
かつては当たり前であったことが今では当たり前ではなくなっているこの世界。
今はまだ正体を悟られれば種を手にいれることが不可能となってしまう。
一番の目的は、大樹の精霊マーテルの誕生阻止、なのだから。
ゆえに、ちょこっと力が扱える、普通のシルヴァラント人でとおそう、とエミルはおもっている。
もっとも、エミルの普通がかなりヒトからしてみればかけ離れているのだが…それにエミルは気づけない。
何しろ今のエミルは、かつての世界、
デリス・カーラーンにてもよくとっていたディセンダーのまま、あるいみ行動しているようなもの、なのだから。
そんなエミルの苦労?を全く知らない一行は、大勢の人間が収容された巨大な牢の前で足を止めている。
「収容された人たちだ…」
すでに魔物達の連絡によりここに捕らえられている人々の把握はしてある。
あのとき、彼らは被害がおよばないようにそれぞれ強制的に眠りにつかせていた。
ゆえに、何がおこったのか理解していないであろう。
そしてまた、体内にうめこまれたエクスフィアが消えていることにおそらく気づいてはいるであろうが、
眠りについていた以上、また何かされた、とおもうのが人の真理というもの。
「ロイド、助けてあげようよ!」
「あったりまえだろ」
「うん、私も助けてあげたい」
「そうね、後々のことを考えると、このまま放置しておくのは拙いわね」
ジーニアスが彼らをみてロイドにいいはなつ。
そんなジーニアスにあっさりと返事をかえすロイド達。
ロイドたちがここの人たちを見捨てるとは思っていなかったが、
それでもリフィルの言葉に安堵する。
すくなくとも、彼らはここにいた愚かなるモノではない、と再認識がなされた、それだけでもあるいみ安堵である。
「ここにショコラはいないようだな。本当に助かってるのかな?」
「だったら救いの小屋によればよかったんじゃ?」
エミルの意見は至極もっとも。
だが、一刻もはやいほうがいい、といってこちらを選んだのはロイドなのでその言葉におもわず声をつまらせる。
「よし、二手に分かれるか?」
ロイドが提案する。
どうやら考えないことにしたらしい。
このままここの人々を連れ出す者と、更に奥に進んでショコラがいるかどうかわからないが。
というか確実に助けているのであれからまた浚われてない限りは問題ないとおもうが。
そんな報告も魔物達からあがってきていない。
とにかく探し、出来ることならそのままマグニスを討つという結論に達したらしい。
あるいみエミルからしてみれば願ってもない提案。
「それなら、僕はこの人たちを助ける。皆は先に行ってショコラさんを探してみたら?
いないとおもうけどね。確実に助けたのは事実だし」
まあ、他の囚われている人間達はいるであろうが。
「エミル一人で? 危険だよ!」
ジーニアスが何やらそんなことをいってくる。
確かに戦力の分散は普通に考えれば彼らにとっては危険、にあたるのであろう。
が、ここにすでに脅威となるものがいないことをエミルはしっている。
こっそりと監視につけていた魔物からすでに連絡をうけている。
この施設にはいまだに応援が送られてきていない、と。
「そうね。何かあったときのために、治癒術を使える私かクラトスが同行した方がいいわね」
「い、いえ、大丈夫です! 僕一人でも…」
リフィルはともかく、クラトスの同行は全力で遠慮したい。
ただでさえ警戒されているというのに、
クッションになってくれるロイドやコレットなしでクラトスと同行するのはある意味面倒。
ついでにいえば正体が露見してもまた面倒。
まあそのときはそのときで、ミトスが何を考えているのか、問いつめる気ではあるが。
「でも危険よ」
「本当に大丈夫です。 それにマグニス…でしたっけ?彼のこともありますから、
リフィルさんとクラトスさんはロイドたちと一緒にいた方がいいと思います」
これで納得してくれなければクラトスの同行の可能性が高い。
治癒術の腕ではクラトスよりそれを専門とするリフィルの方が上。
となればマグニスを討つメンバーには当然リフィルが妥当。
さらにエミルは治癒術では最高峰ともいわれる術…レイズデッドをつかえるのをみせてしまっている。
どう彼らが判断するか、だからといって彼らの心というか精神をいじりたくないのもまた事実。
その気になれば記憶操作からといって、なるべくその方法はとりたくはない。
「エミルなら大丈夫だろう」
そんな思いを抱いていると意外なことに助け舟というか意見はクラトスから。
「キリアと戦ったときに見て分かったが、彼ならここのディザイアンに遅れを取ることはないだろう」
「は、はぁ…ありがとうございます」
クラトスが自分を一人になるのを許可するのは意外だったが。
意外過ぎて、思わず呆けた返事を返してしまう。
それを見てクラトスは微妙に表情を緩めた。
更に意外。
かつて、ミトス達とともに移動していたときに時折見せていたあの表情。
目としてつけていた蝶よりその姿はみおぼえがある。
「これがロイドなら危うくて任せられんがな」
「な、何だよそれ!」
「お前もエミルに負けぬよう、精進するのだな」
クラトスがロイドを心配していっているのがその言葉から感じられる。
…あのクラトスって子煩悩だったんだ。
更に意外。
「くっそー! 偉そうに! エミル! 絶対負けねぇからな! すぐに追いついてやる!」
「あ、うん…。頑張って」
ロイドは、エミルよりも弱いと言われたことについては自覚があるらしく、
否定せずになぜか寧ろ宣戦布告をして来ているが。
何だか不思議な気分になってしまう。。
かつてエミルはロイドに、まだまだだな、だの、腕を上げたみたいだな、だの言われる立場だったのに、
この時代では全くの正反対となっている。
そもそも記憶を失っていたあの当時、かつての力が扱えなかったのがかなり痛い。
型はあるていど体というか感覚でおぼえてはいれども、まったく形になっていなかったのも事実なのである。
…まあ、そのせいでねぼけていたあのとき、リヒターにもまけてしまった、のだが。
ルインの湖底の洞窟では完膚なきまでに叩きのめされたこともある。
本来もっている力、それはすなわち数多たる時間を得て技の数々。
ちなみにこの世界においては古代に失われた技術たる技も当然エミルは使用可能。
それら…過去を思い出して何とも形容し難い奇妙な気分になってしまう。
あの時とは全く態度の違うロイドにも原因があるのかもしれない。
秘密主義を貫き、悪い噂を立てられても否定せず、
ひたすら一人で動き回っていたあのロイドとはまるで別人。
だが、これが本来のロイド・アーヴィング、という人間、なのだろう。
彼があのような行動を取らざるを得ない状況を作り出した大元の原因は自分…
すなわち、精霊ラタトスク。
あのとき、魔物達に人間達を駆逐しろ、と命じたことが全ての発端。
それを思うと罪悪感が込み上げてきてしまう。
もっともだからといってどうこうするつもりもさらさらないのだが。
たかが小さな罪悪感程度でどこうこうなっていたりすれば、世界の存続などできはしない。
しかも今の彼らは自分が経験したかつての歴史を知るはずもない。
そしてまたセンチュリオン達も。
センチュリオン達に記憶の継承をさせる気はさらさらない。
それでなくても彼らはよくしてくれている、のだから。
精霊達においてもまた然り。
そういえば、とおもう。
かの世界は自分に託したあと、新たな爆発を得て精霊達の力の残滓により、
あらたな惑星となっているようではあったが。
まあ、様々な”界”は自分がいなくてもどうにかなるだろう…たぶん。
その”世界”において一つひとつ、きちんと太陽を中心に惑星にしていた、のだから。
そのように理をひいていた、というのもまた事実。
それに精霊界には創世力、というものをおいていた。
何かあればオリジンやマクスウェルがどうにかする、であろう。
あの場所は自分がいなくても回るようにそのように理をあのとき、ひきなおしていた、のだから。
次なる種子の発動の合間というかその間接的なる処置として。
「えと…じゃあロイド、皆も気をつけてね」
「お前の方こそ気をつけろよな! 一人なんだから!」
「う、うん」
「念のために、これを渡しておくわ」
「あ、ありがとうございます」
アップルグミが数個入った袋をリフィルが手渡してくる。
絶対に使用することはありえない、といえるが、それをいうわけにはいかない。
ゆえに素直にうけとり、そしてそこにいるニールとかいう人間にむきなおる。
「ニールさんは僕と一緒に来てください」
「ええ、そのつもりです。後詰めでパルマコスタの軍が追って来ますが、それまでの間よろしくお願いします。
神子様たちは、どうかショコラをお願いします」
どうやらもう少しすれば別働隊がこの場所にやってくる、らしい。
「任せて下さい。行こう、ロイド」
そんなやり取りをしたのち、彼らはそのまま牧場の奥へとかけだしてゆく。
そんな彼らを見送りつつも、そのまま牢の近いてゆく。
「どうやってあけるつもりですか?」
不思議そうにいってくるニールの問いかけに、
「たぶん、これじゃないのかな?」
そこいらにおちているカードらしきものを、そのまますっと機械にとかざす。
ロイド達が裏口で使用していたカードとは色違いのいたのようなもの。
ゆえにエミルの行動に不自然さはない…とおもいたい。
視たかぎり、ドアはなぜ本部たるクルシスとつながらないのかいまだに悪戦苦闘しているっぽい。
そして、仲間に連絡をつなげ、応援要求をだしつづけているにもかかわらず無視されているらしく、
号をにやしてか同僚に直接通信をつなげているっぽい。
エミルのかざしたそれは少し前ここにきたときに手にいれていたもの。
その場におちていたようにみせかけた、ただそれだけ。
カードをかざすと、やはりというべきか、がこん、と牢が解放される。
わらわらとでてくる収容されている人達の姿。
そんな人達と何やら会話をしていたニールであるが、
「エミルさん、この牧場に収容されているのはここにいる人たちだけのようです。急いで脱出しましょう!」
「あ、はい」
気づけばニールは素早く全員をまとめていたりする。
彼らは何がおこったのかわからないであろう。
が、ニールが総督府のものだ、といえば。
ドア様がたすけにきてくださった!とそんな人々の喜びようははてしない。
そのドアのせいでここにつれてこられた、というのにもかかわらず、である。
ざっとみればそこにマルタの姿はない。
どうやら彼女は捕らえられてはいなかったらしい。
そのことに安堵する。
もっともその様子は欠片もみせることはないにしろ。
そのまま、収容されていた人々を連れ、エミルとニールは出口を目指すことに。
弱っている者が大勢いるため素早くは移動できなかったが、相変わらずディザイアンに出会わない。
その理由をエミルはしっているが、まったく出会わないことにニールはかなり慎重になっているらしい。
あと少しで外、というその刹那。
エミルたちの目の前で、鉄製の頑丈な扉が音を立てて閉まった。
押しても引いてもびくともしない。
後ろを見れば、今来た通路とも完全に扉で分断されている。
全員、小さな部屋の中に閉じ込められてしまったらしい。
「やっぱり罠だったんだ!」
「どうしましょう、ここまで来て…!」
余程頑丈な扉なのだろう、剣で叩いても傷が付くだけでびくともしない。
誰ともなくそんな声がきこえてくるが。
ロイド達にみせつけるように、どうやらここを閉じた、らしい。
が、ものすごく面倒である。
「あかないなら、扉をつくればいいんですよ」
「え?」
にっこり。
戸惑いの声をあげるニールににこりとわらい、すっと剣をぬきはなち、かまえ目をとじる。
剣に粒子変換の理をのせ、そのまま一気にかるく孤を描くように扉にと振り下ろす。
がしゃぁぁん。
『・・・・・・・・・・・・・』
あれほど分厚かったはずの壁はエミルの剣にて綺麗にきりとられ、
そのまま扉は反対方向へ、斬られたかたちのままたおれゆく。
「さ、いきましょ」
「え、あ、はい」
なぜか唖然としている人々の姿が目にはいるが。
それこそなぜ、とおもってしまう。
こんなこと、クラトスやミトスでも簡単にできる、というのに、である。
「馬鹿な!?」
どこぞの管制室でそんなことをとある赤い髪の人物がさけんでいたりするのだが。
「うわ。剣で扉をきったよ。あのエミル」
「…すざましいな」
クラトスもどうやら以外だったらしくそのような声をもらしていたりする。
「ニールさん。いきましょう」
「は、はい!」
なぜか唖然としているニールにと話しかけるとはっと我に戻った模様。
言われたニールは迅速に収容されていた人々を纏め、部屋を脱出する。
何もないことを確認してからニールたちの後を追う。
牧場の出口までは罠もなく、これまでと同様ディザイアンにも出会わなかった。
当然といえば当然だが。
ニールの言っていた通り牧場前で待機していたパルマコスタ軍に収容されていた人々を預け、
エミルはロイドたちの脱出を待つことに。
軍は一足先にパルマコスタへと帰還させ、ニールも共に残った。
たしか、記憶では爆発させたとか何とかいっていたので、おそらく彼らももうすぐでてくるであろう。
隣に立つニールはなぜかそわそわと落ち着かない。
と、奥からでてくる人影が数名、みてとれる。
「よかった…」
後に続く四人にも目立った傷は見られない。
彼らが負けるとは思っていなかったが、こうして無事な姿を確認しおもわず声をもらす。
まあ、まっている間暇なので彼らを除き視ていた、というのはおいとくとして。
だから無事、なのはわかっていた、のだが。
かつてがかつて。
あのときも、マーテルの盟約がなければロイド達の手助けができたかもしれないのに。
仲間を人質にされ、そして……多勢に無勢の中でも、彼らは…そして…考えないようにしよう。
そうおもい、ロイド達にと視線をむける。
「エミルも無事か…! 収容された人達は!?」
「皆、パルマコスタに移動させました」
ロイドの問いに、ニールが素早く答えている。
「じゃあ、エミルとニールさんも急いで逃げて!」
いきなりジーニアスがそんなことをいってくる。
「は?」
そんなジーニアスの台詞にニールが首をかしげ短い声をだす。
「爆発します~」
事態が分かっていないニールは、ジーニアスの言葉に首を傾げるが、
続くコレットの言葉に顔色を変え、慌てて走り出す。
全員がその場を離れて間もなく、激しい轟音が辺り一帯に響き渡り、牧場が火を噴く。
一瞬で上空に巨大なキノコ雲が浮かび上がり、それが爆発の規模を雄弁に物語る。
だけど、これでは後世にまでこの地はのこる。
それゆえに。
…ソルム。大地を陥没させ、この施設を跡かたもなく消滅させろ。
すっと目をとじ、センチュリオン・ソルムにと命を下す。
刹那。
轟音とともに、さらに再び振動がおこり、周囲の大地が陥没する。
そのまま、施設は大地に呑みこまれ、やがて大地の底ににえたぎるマグマらしきものがみえ…
そこに大量の地下水がながれこみ、完全に施設はその場よりかききえる。
後には大量にたちのぼる、水蒸気、とぼっかり開いた穴にできた、新しい湖らしきもの、のみ。
命じたのは他でもない。
記憶にある中でいえば、この施設は後世までのこっていた。
イセリア牧場とかいわれていた場所がのこっていた以上、のこっていても不思議はない。
だから跡かたもなく消しておくことにした。
のこしておいても意味がない、とおもうがゆえに。
「うわ~…爆発ってすごいんだな」
それを遠目にみて、ロイドがそういうが。
「…あの自爆装置、そこまでの威力があったのかしら?」
リフィルはただひたすらに首をかしげていたりする。
「とにかく。街にもどるんでしょ?」
ひとまず話題をかえるがてらに彼らにと問いかける。
「そ、そうですね。とにかくもどりましょう。軍にいいましたので、救いの小屋や峠にも連絡がいっているはずです
そちらに避難していた人がいればその人達もおそらく軍が街につれていってくれているでしょう」
※スキット※
エミル「それにしても、凄い爆発だったよねー…」
ロイド「先生も容赦ないよなぁ」
ジーニアス「何をどうしたらあれだけの爆発が起こせるのさ」
ロイド「先生、爆薬でも隠し持ってたのか?」
リフィル「そんなもの持っていません。元々あの牧場に備えられていた自爆装置を作動させただけよ」
コレット「爆薬かぁ。先生はならエルフだからエルフ爆弾だね!」
にこやかにいうコレットに。
ロイド「それってごろがわるくないか?」
素のロイドのつっこみ。
コレット「なら、エルフからもじって、増える爆弾とかかな?」
ロイド「すげ~、先生、爆弾ふやせるのか!」
リフィル「増やせません! 馬鹿なこと言わないで頂戴」
ジーニアス「でも実際増やせそうだよね…痛っ!」
リフィル「……」
エミル「痛そー…」
ロイド「実際痛いんだぞ、あれ」
クラトス「どうでもいいが、誰も突っ込みをしないのか?」
なぜかぽそり、とつぶやいているクラトス。
さすがにディザイアンが一人もおらず、マグニスが本部と連絡がとれない、
とわめいていたのをきいているがゆえか思うところがあるらしい。
が、彼らがいくら考えてもそれはわかるはずがない。
何しろまったくもってエミル達は証拠をのこしていない、のだから。
※スキットその2※
ロイド「それはそうと、なぁエミル」
エミル「何?」
「お前さ、結構短気だったりするのか?」
エミル「え? ……そんなこと…ないと思う、けど……いや、そうかも」
ロイド「やっぱりそうか」
エミル「やっぱり、って?」
ロイド「牧場でニールさんたちと閉じ込められたろ?何か…トー…何とかってヤツで俺達にも見れたんだけどさ」
エミル「もしかして、投影機?」
ロイド「それそれ! それで見てたら、声は聞こえなかったんだけど、お前、閉じ込められてすぐ壁切り裂いてただろ?」
エミル「あ、ああ…それで…」
ロイド「エミルって見た感じだと…何ていうか大人しそうなヤツだから、意外だったんだよな~」
エミル「あははははは……」
ロイド「というか、どうやってあんな鉄の壁がきれるんだ?」
エミル「え?技さえ磨けばだれでもできるよ」
リフィル「いや。できないとおもうわ。私は」
ジーニアス「同じく」
なぜか即座にエミルの台詞にリフィルとジーニアスが突っ込みをしてくるが。
エミル「そうかなぁ?」
そもそもエミルのあるいみ基準はどうしても精霊よりというか世界より。
一瞬で扉を溶解させることもできれば、そのまま何もなかったかのように粒子に変換することすら可能。
完全に人格が融合…完全に覚醒する前ならば少しばかり疑問におもったであろうが。
確実に記憶を取り戻してからは、エミルとしての人格もまた、
かつてのディセンダーとしてふるまっていたものそのものであることもわかり、
すっかり本来の性格にもどっているエミルはそのヒトとの認識の違いになかなか気づけない。
クラトス「…すくなくとも。このものがかなりの腕であることはたしか、のようだな」
ちなみに、実はクラトスとミトスも同じようなことができたりするのはお約束。
※ ※ ※
パルマコスタの一件に無事決着がつき、一行は再生の旅に戻ることにしたらしい。
爆破した牧場跡地…完全にどうやら湖になったらしいが。
そこはパルマコスタの軍が定期的に見回り、
ディザイアンの残党がいれば討伐するとニールが約束してきた。
だがあのもの凄い爆発を見れば、
生き残れたディザイアンがいないことは誰の目から見ても明らかとしかいいようがないが。
他の場所に出向いていたものがいなければ、であるが。
もっともその前にせん滅させていたので
別の牧場とかいうところから増援がこないかぎりは問題ない、といえよう。
そもそも今ではかの地は完全に水没し、施設は水の底である。
ショコラはやはり助かっており、何でも砦まで避難していたらしい。
ショコラの口から祖母の名がでたとき、ロイドとジーニアスが一瞬顔をみあわせる。
彼女が
「いつかおばあちゃんもドア様が助けてくれる、とおもったのに…」
といっているのが聞き取れるが。
街にもどってみれば、ドアは今回のディザイアンとの決戦において命をおとした。
ということになっているらしい。
さすがに彼が街をうらぎっていた、ということは伏せられたらしい。
これ異常の混乱はさけたい、という意向らしいが。
ショコラの声をきいているロイドとコレットとジーニアスの顔が何ともいえない表情となりはてる。
まあ大まかの予測はつく。
何よりも、ジーニアスのつけているエクスフィアの精神体が、自分の名はマーブルだ、といっているのである。
彼らはその精神体をみることすらできないようではあるが。
ひとまずごたごたもおちつき、そのまま再び旅にもどろうとするロイド達。
と。
「ねえ、エミルはこの後どうするの?」
「え? どうって…」
このたびは、目的があったからこそ一時的に同行できただけ。
本来彼らの旅は世界再生とかいわれている旅のはず。
素性の知れないエミルの同行は危険だと考えられても不思議ではない。
ロイドやコレットはそう思わなくとも、厳格な大人二人が果たして何と言うか。
彼らについていけば確実に種子の位置を把握することは可能であろう。
何よりもこのとき、何がおこっていたのかエミルは知らない。
だから知りたい、ともおもう。
そしてできればミトスと話したい。
あのときの言葉が嘘であった、とはおもいたくはない。
友達になろう!といってきていたあのときの台詞が。
心の闇の試練もうちかったあの子がどうしてこのような世界にしているのか、ということを。
…可能性として、自らの闇、すなわち負に呑みこまれてしまった可能性がはるかに高い。
でも、あのミトスはそれすらをもうちやぶる光の力をもっていた、というのに。
移動によって上書きされた過去の記憶。
だからこそ鮮明にミトス達のことは思いだせる。
「特にどこかに行く予定もないんだけど…」
まあ、あるといえばあるが。
今は世界を見て回り、どのような状態になっているのか、自らの目線で確かめたい。
「そういえば聞いてなかったんだけど、エミルはパルマコスタの人なの?」
「う、ううん?パルマコスタじゃないよ」
もっとも、この姿で以前、孵化したことからあるいみパルマコスタ産まれ、といっても過言でないが。
そんなことは絶対にいえない。
というよりセンチュリオン達にすらいっていないのにいうつもりなどさらさらない。
自分が未来から過去へきている、ということは。
「旅か何かしてるのか?」
「そんなとこかな? 次の行き先は決めてないんだけど。とりあえずいくところはいくつかあるんだ
ここからだと一番近いのは間欠泉かなぁ。その次に風の街にいって……別に急ぎはしないんだけどね」
そしてルインの街。
今、あの街はルーメンの影響で闇に呑みこまれてしまっているっぽい。
あまりにじらすとあの子達のほうからくる可能性がたかくなるが、まあそれはそれでいいとおもう。
もっとも、迎えにいくつもりだった、としればあの子たちもまたイグニスのように盛大におちこむであろうが。
エミルの答えを聞いて、コレットは目に見えて分かるほど顔を輝かせる。
おもわずエミルがひいてしまうほどに。
「じゃあ、私達と一緒に行こうよ! エミルが来てくれるときっと楽しいと思うの、ね、ロイド?」
「ああ、俺も賛成! 特に予定がないんだったら一緒に行こうぜ!」
「ボクもいいと思うよ。戦闘で前衛をロイドだけに任せるのもこの先不安だし…」
ジーニアスがまた余計なことを口にしてロイドに小突かれる。
クラトスも剣士だが、魔術、治癒術をも扱えるため
強敵との戦闘では回復のため後衛に回らざるを得なくなり、結果ロイドだけが前衛となる。
前衛が一人か二人かでは大きく違うのだろう。
さらにいえばエミルは回復術もあつかえる。
まさにあるいみ戦力として計算すれば理想といえるであろう。
「そう言ってくれるのは…嬉しいんだけど、でも…」
四人のやり取りを黙って見ている大人二人をちらっと見やる。
クラトスは無表情で、自分に決定権はないと言わんばかりにただ見ているだけ。
あからさまに反対してきそうなのに意外といえば意外といえる。
リフィルはといえば、エミルと目が合うと小さく溜め息をつき、
「もう、貴方達は…。神子であるコレットがそう言うのなら、私達はそれに従うだけなのだけれど…
もう少し警戒心とか緊張感とか…」
「大丈夫だって先生! エミルが悪いヤツじゃないのはもう分かってるだろ?」
「…そうね。それにクラトスが言うくらいなのだから、実力の面でも問題なさそうですし……いいかしら、クラトス」
「異存はない」
リフィルがクラトスに問いかけると、クラトスがさらに意外なことに問題ない、といってくる。
どうやら拍子抜けするほどに同行は許可された、らしい。
何というか警戒心がない、というか。
そういえば、あのときも彼らはついてきたことを思い出す。
たしかロイドのことを知りたいとか何か、とかいう理由で。
もっとも、警戒しているからこそ傍においておいたほうがいい、という判断でもあるのだろうが。
何しろかの地にいたディザイアン達全てがきえ、さらに何らかのトラブルがおこっていたらしく、
あの施設からクルシスに連絡をつけることすらままならなくなっていた。
利用できたのは、通信…それも一部のみ、と施設内の装置のみ。
クラトスがどこまで把握しているか、ということはさすがのエミルもそこまで詳しくは干渉して視ていない。
もっとも、そのトラブルを起こしたのは自分達であるがそれはそれ。
力を取り戻している以上、マナにかかわることに関して何か干渉することはたやすい、のだから。
「じゃあ…これからもよろしくお願いします」
ともあれどうやら同行は許可、されたらしい。
そのことにほっとする。
何やら影の中からセンチュリオン達の盛大なるため息がきこえてくるような気がするが。
(…ラタトスク様、正体を悟られぬようにおきをつけくださいよ?)
そしてまた、何やら念をおした声すらも。
(わかってるよ)
精霊としてかかわるのならばあまり好ましくないが、一個人、
人…かつてのようにディセンダーとしてかかわるのならば何の問題は、ない、とおもうから。
「おう! こっちこそよろしくな! さっきも言ったけど、ぜってー負けねぇからな!」
「え、ああ、あのこと…」
ロイドが得意としている双剣士の技もすでにエミルは全て所得済み。
そういえば、とおもう。
人々の可能性を引き出す何かを理をもってして生み出せば、
今ある差別というか力にたいする偏見もなくなるかもしれない。
どこぞの世界でやったことのある試練の迷宮とかがいいかもしれない。
「お前にその気があるのなら、私が多少指南するが…どうする?」
そんなロイドに対し、クラトスがこれまた何やらそんなことをいっているが。
「え、ホントかクラトス!よっしゃエミル! すぐに追い抜くからな!」
というか、クラトスは自分の息子と剣を交えたいだけではないのだろうか。
何となくそんな予感がする、それはもうひしひしと。
「うん…頑張ってね」
エミルが元々知っているロイドと、この時代のロイドとの差。
少しは慣れたつもりでいたのだが、やっぱりまだ違和感は拭えない。
ロイドの最後を思い出す。
マーテルの盟約がなければとっくに手をだしていた、というのに。
先に疲弊してしまったのは大地のほう。
彼らは自業自得という枷におちいり、自らの首をしめてかの文明達は滅んだ。
それでも、微精霊達を内部に取り込む技術を得て、自らが神、となのっていた彼らは健在なれど。
あのラグナログの中、必至に仲間を守って、そして…だからこそ、彼らの魂をいれた種子をクラトスに預けた。
次なる世界では幸せになることをその種子に託し。
自らの中には彼らの記憶のみをとどめ置いて。
友人たちとはしゃぐロイドを眺めていたエミルの視界にふとクラトスがうつりこむ。
特に気にすることでもないのだが彼の表情が気になった。
彼も、エミルと同様前を行くロイドたちを見ている模様。
いや、ロイドを見ているようである。
クラトスは自身を傭兵だと言った。
つまり神子の護衛に雇われているのだろうが。
クラトスが傭兵、ということそのものを信じているわけではない。
もしもそうならば、護衛の対象であるコレットでなければならない。
なのにクラトスはじっとロイドを見つめている。
その視線はいつもの厳格なものではなく、何故かとても優しいもので、
だが少しばかり悲しみが入り混じっているように見えて――
不器用だ、とおもう。
どうやら本当に親子の名乗りはあげていないらしい。
「……何だ?」
無意識にクラトスを凝視していたらしい。
視線に気がついたらしい彼と目が合ってしまう。
「あ…いえ、何でもないです。すみません、不躾に見てしまって…」
「いや、気にしていない」
言うとクラトスは視線を前に戻した。
だが、もう先ほどのような柔らかな視線を向けてはいない。
(ラタトスク様)
(何だ?)
心の中に響いてくる声。
(ディザイアン、となのっているものたちは、どうやら魔道砲、を開発している模様です。)
(いかがなさいますか?)
そういえば、とおもいだす。
かつてのときは、魔導砲をロイドたち
…正確にいえばしいなが精霊達の力をもちい、放った結果、自分はその衝撃でたたき起こされた、ということを。
(・・・・・・・・・・どこで開発しているのか調べろ。必要とあれば配下をつかい滅してもかまわない。)
(わかりました。)
センチュリオン達からの報告は、あるいみ面倒きわまりないもの。
そもそもいくら破棄してもなぜにあの装置をヒトは使用しよう、とするのだろうか。
つくづく愚かだ、とおもってしまう。
あの当時ですら…この時代から四千年前ですらそのために地上のマナが著しく低下し、
命あるものが生活することすらままらなくなっていた、というのに、である。
魔道砲も利用方法によっては世界の利益になることがあるというのに。
いつも自分達の欲のためだけに利用しようとする、愚かなる、ヒト。
それでもいくつか前の世界では、それらを克服し、きちんと共存できて技術を開発した世界もあった。
その地の太陽の寿命とともにその世界の存続は不可能になったので継続をあきらめたが。
ふと過去のことに想いをよせていると、遠くからロイドに呼ばれる声がする。
「そういえばまだ聞いてなかったんだけど、次はどこに向かうの?」
そういえば、彼らが次にどこにいくのかきいてない。
エミルの問いに、コレットが笑顔で答える。
影にと潜むのは今現在はソルムがつきしたがっている。
「まずは、救いの小屋だよね」
「救いの小屋?」
立ち寄ったことはなかったが、各街と街の間の中継地点に建てられた旅人専用の宿のような場所のはず。
エミルが知っているのは二年後の知識だが、この時代でも大した違いはないだろう。
というか二年ばかりで小屋の存在が普及した、ともおもえない。
「ああ、ハコネシア峠の手前のな。そこで何とかの像ってのを貰うんだ」
「スピリチュア像」
溜め息混じりにジーニアスがロイドの台詞を補足する。
「そうそう!」
ぽん、と手をたたいてロイドが何やらそういっているが。
…本当にわかっていたのだろうか、とおもわず思ってしまうのは仕方ない。
絶対に。
「それ、再生の旅に必要なものなの?」
「うん。私達、封印のある場所に行かなくちゃならないの。でもね、どこにあるのかまでは分からないの」
そんなエミルの質問にコレットがかわりに答えてくる。
「えっと、つまりどういうこと?」
封印のある場所、というのもわからないが、どこにあるかがわからない、とはこれいかに。
「…そういえば、あなたは学校にかよったことがなかったのよね」
「あ。はい」
「簡単に説明するわ。女神マーテルの試練をこなすと、世界を護る精霊が復活し、マナが復活するの。
その試練があるといわれている手がかりになるのが……パルマコスタにあった再生の書なのだけども」
封印が何を示すのかはよくわからない。
が、おそらくその試練とかいうのをこなす場所なのであろうことは予測がつく。
ノームやウンディーネ達がいた場所に何やら捕獲装置もどきがあったような気がするが。
ついでにいえばシャドウのところにも。
「それがニセ神子一行に取られちゃってさ」
リフィルのため息につづいてジーニアスが答えてくる。
「ニセ神子?それってもしかして神子だというコレットの偽者?」
「神子を名乗ってあくどいことしてる奴らさ。ほんっとムカつくよな」
再生の神子を名乗る人間達といえば覚えがある。
以前の旅の途中、ふと立ち寄った街でねこにんに頼まれて受けた仕事の中に、
盗賊団を追い払って欲しいというものがあった。
その盗賊団の女首領が、自分達はかつて再生の神子を騙っていたとエミルに話してきたことがある。
それが原因で仲間がマーテル教会に捕まり、釈放には多額の寄付金が必要で、
それが理由で彼女らは盗賊団を結成していたとも。
今まで忘れていたが、それでも彼女らの末路を知っているエミルからしてみれば何ともいえない。
まあ他人の名をかたりしかもいろいろと力なき存在達から巻き上げていたらしいから同情はしないが。
「で、そいつら、ボクたちより一足先に再生の書を手に入れて、ハコネシア峠のコットンって奴に売っちゃったんだよ」
ジーニアスがそんな説明をしてくるが。
「…きくかぎり、それってとても大切なものじゃ?というかそれ手にいれたひとも罪にとわれない?」
どう考えても偽物がそれをうばい、うっぱらったとするならば、
手にいれたものも同罪とみなされるであろう。
「国でもあればそうでしょうね。だけどここには共通した法、というのがないわ。
あるいみそれぞれの街のみで法はあるにしろ。ゆえに罪、とかはいえないのよ」
リフィルの盛大たるためいき。
この地のものたちは協力して共通した理たる法をつくることすらしていない。
それぞれの街で、村でそれぞれの掟をつくっているのみ。
「再生の書を見たければ救いの小屋にあるスピリチュア像を渡せって言ってきやがったんだ」
「しょうもないヒトだね…」
これは正直な感想。
いい年して本当にどうしようもない爺さんだと思う。
コットンがスピリチュアル書を持っていたからこそあの時リヒターに会うきっかけを得ることができた。
それは確かなのだが、それでもコットンを好きにはなれなかった。
当たり前だが。
ああいう欲の塊というような人間はもっとも自分達精霊が嫌悪する種でもあるがゆえ。
「そんな訳だから、今の時点での目的は再生の書。その後のことは全く分からないんだ」
ジーニアスの説明を聞いてふと気がつく。
もしかして、彼らの言う封印の場所とは、精霊達の眠る地なのではと。
女神マーテルの試練をこなすことによって精霊が復活するという過程もおかしい。
たしかに彼らにはこの世界を二つにわけたときに目印となるべく役目をあたえはした。
一年周期にてマナのめぐりを半分に抑えるために。
オリジンもなぜか賛成したので自分もならば、と認めることにしたかつての記憶。
眠りにつく前の記憶。
それにあわせ自分もまた世界の存続のために眠りについた…のだが。
そもそも女神の試練とやらが胡散臭い。
精霊が眠る地を神子が訪れて、何をするかは知らない。
そのすることが試練なのだろうが。
神子が何かをすると精霊が目覚める。
その目覚める云々、というのも違和感がありまくる。
本当に、かつてもっと詳しく精霊達からきいておくべきだった、とつくづく思う。
マナが今現在、八百年にわたり、きちんと循環されていない、というのは、
センチュリオン達を迎えにいったときに精霊達から聞かされてはいるが……
精霊が目覚めただけでこのシルヴァラントの希薄なマナが復活するとは思えない。
というかセンチュリオン達がマナを循環させておらず、
また魔物達が分断されているこんな中でまともにマナが循環し世界を潤すとはおもえない。
この当時はまだそのような…マナがなくても問題ない理はひいていない。
そこにはまた何か別の要因があるのだろう。
おそらくは、かつて本来おこなうはずであった、マナの転換。
それにことつけて儀式とやらを組み入れているような気がする。
それはもうひしひしと。
まあ、マナの循環を管理しているのは、かつて彗星で移動しているときに、
センチュリオン達を休ませるために簡易的につくっていたかの装置に原因があるっぽいが……
ともあれ、封印の場所が精霊の眠る地である可能性ははてしなく高い。
そして、精霊の眠る地というのは総じてセンチュリオン・コアの眠る地を示している。
当然エミルはその全てを知っている。
何しろセンチュリオン達の神殿の上に精霊達の神殿をもたてた。
というより創ったのはほかならぬ彼自身。
そして、あの計画を実行するにあたり、彼らに神殿にとどまるようにいったのもほかならぬエミル自身。
…もっとも、センチュリオンがコア化し、その波動においた力にて、ミトスが彼らをそこに縛りつけてしまったのだが
それはランチュリオン達を迎えにいったときにノーム達から聞いてしっている。
楔のような役目をこの地にてあたえられている、と。
そしてその力は総じて奥に眠りしセンチュリオン達の力が
あらがえる可能性があるとすれば、ヒトにあらたに契約をしなおしてもらうこと、のみ。
が、いまだにかれら精霊達はミトスとの契約に縛られている。
アレ以後、精霊達との契約をのぞむものが現れていないらしい。
だがそれを彼らに教える訳にはいかない。
言えば当然何故知っているのかを追求される。
それに対する納得の行く説明が思い浮かばない。
正直に全てを話すわけにはいかない。
彼らが探し求める答えを知っているのに、それを教えることができないのは何とももどかしいもの。
楽しそうに談笑するロイド達の横でこっそり溜め息を吐く。
そういえば、トニトルスの神殿にいったときに
人の精神体がいたがゆえに解放というか、解き放ったが。
あの人間はどうなったのだろうか、とおもうが、まああまり気にする必要はないであろう。
たぶん。
救いの小屋まであと半日程。
救いの小屋に到着したのは日が暮れる一刻ほど前。
コットンの要求するスピリチュア像が安置されている小屋の中。
そこには何やらエミルにとっては見慣れた姿の人物が。
シルヴァラントでは恐らくお目にかかれないであろう忍の服を身に纏ったその姿。
間違いなくしいなに違いない。
どうしてしいながここにいるとかいろいろと思うが。
そういえば、かつて何か彼女はシルヴァラントにいったことがあるようなことをいっていた。
それが今、ということ、なのだろう。
彼女はスピリチュア像に向かい、一心に祈っているようだった。
ロイド達はまだ彼女と知り合いではないのであろう。
話しかける様子はない。
「……ラのみんなを救えるようにどうぞお助け下さい」
テセアラ…
小声で聞き取りにくかったが、確かにしいなはテセアラと言った。
聴覚の鋭いコレットにも、聞こえただろう。
横目でコレットをみれば、しいなと同じように両手を胸の前で組んではいるが。
だが祈るではなくしいなを見つめている。
その表情は柔らかい。
どうしてしいながシルヴァラントに…そんな疑問がふとよぎる。
まだこの時間軸では世界は二つにわけられているまま。
異界の扉を誰かが使用した、という感覚はない。
おそらくは、今の時点ではロイド達はテセアラの存在すらしらないであろう。
シルヴァラントから流れるマナで繁栄している世界テセアラ。
今のシルヴァラント人は、シルヴァラントが衰退し続ける本当の理由を知らない。
どうしてテセアラ人であるしいながシルヴァラントにいるのか、どうやって来たのか、それは全く分からなかった。
聞こうにも相手からしたら自分は初対面。
あの異界の扉の地は厳重に封印してはいるが
一応、たしかにこちらとの扉だけの機能は果たすようにはしてある。
それでも、誰かが使用すればわかるようにはしてある。
ここしばらく、人で利用したのは、感覚的にたしかこの時間軸においては十数年前のはずである。
そういえば、とおもう。
今のエミルの姿はアステルを模したもの。
まあ髪の長さがことなるにしろ。
今のエミルの姿はたしかにアステルのそれなれど、髪の長さが断じて違う。
肩よりも長い髪はかるくみつあみされ、そのまま後ろ、もしくはたまに前にとたらされている。
なぜかコレット達が、髪がさらさら~といって時折いじてくることがあるにしろ。
まあ、聞かれた場合、そっくりさんですますか。
そう自己完結。
アステルの名前をいわれても、首をかしげておけばいいだけのこと。
まあ、センチュリオン達はぜったいに、自分のこの人の姿にそっくりなひとがいる。
ときけば、みてみたい!と…絶対に約一名はいうのがわかりきっているがそれはそれ。
世の中には似た人間が三人はいるなどと言うから、その手で誤魔化すことは当然可能。
もっとも、それでテセアラ人のしいなに会ったことがあるなどと言われて
これ以上クラトスに不審に思われても面倒であるし、クルシスとかいう場所に連絡がいってもさらに面倒極まりない。
せめてセンチュリオン達が全ての魔物達と縁をきちんと結び直せれば自らの力もより確実になる、というのに。
今の彼らではある程度の力をもったものが相手だと確実にコアにもどされる。
それだけはおもいっきり面倒極まりない。
だからといって、未来の時間軸の彼らの記憶と力を継承させてもそれはそれでまた面倒。
彼らが今以上に口やかましくなってしまうことだけは絶対に避けたい所。
「ロイド、邪魔しちゃ悪いから出直そうよ」
と、そんなことを思っていると、ロイドの後ろ襟から伸びる白い紐を軽く引っ張るジーニアスの姿が。
「……そうだな」
しいなが真剣に祈りを捧げているスピリチュア像がこちらの目的。
祈りを中断させるのも気が引ける。
だが踵を返したその瞬間、しいなが勢いよく振り返る。
「待て!」
鋭い声に思わず足が止まる。
何より、敵意を顕にしたその声に驚いてしまう。
「ここで会ったが百年目! 今度こそお前たちを倒す!!」
「…は?」
おもわず目が点。
そういえば、始めのころは敵対していたとか何とかいっていたような気もしなくもないが。
(?あのものはみずほの民とよばれし忍びのものですよね?)
(どうやらそのようだな。気配からして召喚の力をつぐものらしい)
世界をざっと確認したときにどんなものがあるのか一応は把握している。
センチュリオン達においても魔物達との縁の関係でまた然り。
実際に彼女につき従っている精霊の気配もある。
ヒトの心によりうまれし精霊。
研究院にて消滅しかけていたそのマナを捉われ、実体をえた、精霊。
ついでにいえば…というか、絶対にあのとき、ヴェリウスのやつは気づいていたような気がする。
それはもうはてしなく。
あのときの自分の性格は本来の自分の中にあるそれである、ということに。
否、そこまでの力はまだなかった、のかもしれないが。
それをセンチュリオン達に気取られることなく、念波のみで会話を交わす。
「ここはみんなが祈る場所だ。やめようぜ」
「わ、わかった…」
符を構え、今にも飛び掛ってきそうなしいなだったが、ロイドの言葉にあっさりと退いてくる。
が、どうやら敵対していることには変わりはなさそうである。
「彼女、誰?」
ゆえにといかけるエミルは間違っていない。
おそらくは。
「コレットの命を狙ってる暗殺者だよ」
「は?」
エミルの知る限り、コレットとしいなは仲が良かった。
それが昔は命を狙い狙われる間柄だったなど想像もつかない。
だが現にしいなは殺気こそ抑えてはいるが、こちらに敵意をぶつけてきている。
友好的には全く思えない。
もっともいざとなれば絶対に彼女はとまどい、とどめはさせないであろうことは容易に予測がつく。
(扉を利用してきたのでしょうか?)
(いや、こちらの感覚てきには、かの扉を利用したのは最近ではありえない。少しまえに子供二人はあったがな)
眠っていてもそれくらいの把握はできている。
ソルムの疑問はわかりはすれども、それゆえの返事。
ちなみにそのときの移動してきたのが、目の前にいるリフィルとジーニアスだったりするのだが。
対するコレットが怯えるでもなくにこにこしているのが不自然極まりない。
が、まあそこはコレットだから仕方がないのであろう。
目たる蝶でみていたときのマーテルもあんな感じだったなぁ、とふとおもう。
それでユアンが文句をいい、ミトスがマーテルに同意し、クラトスは無言で…
かつての彼ら、ミトス達の旅の最中の光景。
日常茶飯事ともいえたあの光景。
みていて飽きなかった…というのはおいとくとして。
「俺、ロイドって言うんだ。お前の名前は?」
「は…?」
ロイドまで妙なことを言い出した。
しいながポカンと口を開けたまま固まったのを見て何だかかわいそうになってくる。
みればまったく関係ないことを聞かれ硬直しまっている模様。
「あ、私はコレットです。まだ神子としては半人前なんですけど、頑張って世界再生してみますね」
そんな彼女においうちとばかりのコレットの台詞。
「お、お前の名前なんか聞いてない!」
硬直から脱したらしい彼女がが慌てて怒鳴りかえしてくるが。
「あ、そうですよね。ごめんなさい」
「あたしはお前を殺そうとしているんだぞ!」
しいなが更に慌てるのを見てふと思い出す。
これはあのときと一緒だ。と。
コレットに敵意を剥き出しにしていたマルタが、いつの間にやら絆されていたあのときと同じ。
ついでにいえば、かつて遥かなる過去、自分が保護をあたえたヒトとあきらかにかぶる。
(……なんか昔をおもいだすな……)
それは遥かなる過去の記憶。
まだこの世界にくるまえ、自らが種子として生み出し育んだ世界の記憶。
今はノルンに託している世界の記憶。
(そういえば、あまりに拉致があかないから、といって、我らに杖をたくしましたね。あの当時……)
こちら側からの意見もあるいみきかず、マイペースでどんどんと話題をさらにかえていっていたかの少女。
あまりにももう面倒であったし、またみていてあるいみ保護よくをかきたてられた…というのもあり、
仕方なく、本当にしかたなく、加護をあたえた杖をあたえたのが、護りの巫女たるはじまりのきっかけ。
その末裔がかのマーテル達になるのだがそれはそれ。
しいなも知らず知らずのうちにコレットのペースに飲み込まれている。
うろたえるしいなを見ていると、敵対しているという事実を忘れそうになってしまう。
「知ってます。でも話し合えばきっとお互いわかり合えますよ」
命を狙われているのだから、普通はわかり合えるはずはない。
だがそのうちわかり合えてしまうところがコレットの恐ろしいところ。
しかも計算してるのではなく、彼女は常に素だ。
天然といってよい。
もしあのとき、ギンヌンガ・ガップに訪れたのがアステルではなくコレットだったら…?
あり得ない話だが、想像してしまい酷く後悔してしまう。
考えないことにしよう……
まちがいなく、昔とおなじようになっていたような気がひしひしとしてしまうがゆえに。
まああの当時はそのままセンチュリオンにマルナゲしたのだが。
「お前、人の話を聞いているのか!」
「聞いてますよ~。だって、えっと……殺し屋さん」
「しいなだ! 藤林しいな!!」
遂にしいなが名乗る。
完全にコレットのペースに巻き込まれてしまっている。
気のどく、としかいいようがない。
「しいなさん、お祈りなさってました。
祈ることは心が豊かになることです。 私もお祈りします。だからきっとわかり合えます~」
「……うわ~…あるいみ、恐ろしいよね、これって……」
思わず呟きが漏れる。
(それについては我らも同感です)
どうやらセンチュリオン達も同じ感想を抱いたらしい。
いつのまにかどうやらテネブラエやイグニスも一時もどってきていたらしい。
エミルの感想にあわせるように、念話にてそんなセンチュリオン達の意見が聞こえてくる。
エミルのつぶやきが聞こえたらしいジーニアスと目が合うが、彼は小さく肩を竦めただけ。
「あ、あたしは、お前をちゃんと殺せるようにって……もういい! 気が削がれた! 次こそ覚えていろ!!」
一方的に怒鳴りつけ、しいなは慌しく小屋から走り去ってゆく。
入り口のところで入ろうしていた司祭とぶつかりそうになったその姿はお世辞にも忍には見えなかったが、
このことは後にしいなが仲間になっても言わないでおこうとそっと心の奥底で誓っておく。
それよりも、しいながコレットの命を狙う理由。
それが今は何よりも問題といえば問題かもしれない。
しいなの住むテセアラは、シルヴァラントから流れるマナで繁栄している。
そのせいでシルヴァラントは逆に衰退し、両世界間の文明レベルの差に広がりが生まれる。
これが世界再生後に問題となるらしい。
…まあ、自分が使命をさぼって、というかヒトに嫌気がさして役目をほうって、
センチュリオン達にも魔物達にも命じずにマナの調整をしなかった、というのはおいとくとして。
本来ならば一年という循環であったがゆえにこのようなことにはおこりえなかったはずなのだが。
ミトスがやらかしてくれたおかげでこのようなことになっているのは容易に想像できてしまう。
神子を殺すということは、世界再生をさせたくないということ。
シルヴァラントが再生されると、マナがテセアラに流れなくなり、結果テセアラの繁栄が止まる。
テセアラ人としては、シルヴァラントの世界再生は歓迎できない。それは分かる。
だが腑に落ちないのは、シルヴァラントではテセアラという世界が知られていないのに対し、
テセアラではシルヴァラントの再生を阻止しようと暗殺者を送り込む、
即ちテセアラではシルヴァラントの存在が知られているということに他ならない。
この差は文明レベルの差で済ませられる問題でもないような気がする。
第三者たるものが動いているような気がしなくもない。
ふむ。
(センチュリオン達に命ずる。どうやら二つの世界で暗躍するものがいるらしい。…調べろ。ソルム。お前もだ)
(『は』)
彼らにまかせていればすぐにでも結果はわかるであろう。
念波にて目覚めている彼らにと指令をだす。
ふときづけば、いつのまにか司祭相手に交渉がはじまっているらしい。
そんな中、ふとある気配を感じ、そんな彼らをしり目にそっと小屋の外へとでる。
と。
「は~い!ラタトスク様!お久しぶりです!
ざっと四千年ぶりですね!ラタトスク様の指令がきこえたのでやってきましたぁ!」
予測はできた。
だからこそため息をつかざるをえない。
だからこそ小屋からでて、少し離れた場所にて簡単なる防音の結界をはった。
その直後のこと。
「ラ…ラタトスク様!?そのおすがた!人のそれ!素敵です!!」
そこにいるのは、みおぼえがありすぎる姿。
青き色をした女性のような姿をした、センチュリオン・アクア。
…どうやら、かの神殿からさくっとこの場にきたらしい。
「…お前はよくすぐにわかったな。アクア。イグニスはすぐにわからなかったぞ?」
「愛のなせるわざです!」
「……とりあえず、この姿のときはエミルとよべ。この容姿での名だ。よくここがわかったな?」
確実に気配は遮断している、というのに。
「それも愛の力です!ラタトスク様…いえ、エミル様の目覚めの波動をうけて、
契約の切れていなかったこに少しでも情報をあつめさせようと海などを徹底的に調べさせていたんですよ!」
ちなみにそのせいで、海に巨大な魔物がでる、と噂になっていたりするのだが。
かわらない彼女に思わずため息がもれだしてしまう。
「…とりあえず。アクア。おちつけ。あと他のものにも命じているが。
お前とて魔物達との縁がきれているだろう。全ての魔物とあらたに縁をむすびなおせ」
「はい、わっかりましたぁぁ!」
元気にぴしっとけい礼のようなものをとってくるアクアの姿がそこにある。
くすり、と笑みをうかべつつ、ぽん、とアクアの頭に手をおく。
「えへへへ」
触れるとどうじ、アクアに自らの力が補充される。
おもいっきりアクアの顔がゆるんでいるのは…まあおいておく。
いつものことなので。
未来においては一時、アクアはヒトへの恋におぼれてしまったが。
彼が結婚するとともに、アクアは彼の元から姿を消した。
いわく、お邪魔虫になりたくはないから、と。
人の器を生み出し、それに精神の一部、すなわち分霊体として存在させることは可能だが、
と当時いったにもかかわらず、である。
アクアはそれをよしとはしなかった。
「力は補充しておいた。いけ。…あと、人前でではでてくるな。面倒なことになる」
「えええ!?…う~…わ、わかりました…す、姿けしてなら!?」
「お前たちの擬態を見破ることのできる天使化したものがいる。それもひかえろ。
用事があるならば影の中にひそめ。もしくは人の姿に擬態しろ」
どうやらかなり不満らしい。
ゆえに手っとり早い方法を一応念の為にとつたえておく。
まあ、かつての世界にてディセンダーとして行動していたときも、
アクアは人の姿に幾度かなっているので問題はないであろう・・・たぶん。
その姿がとある世界できにいったとかいう制服をきいてなければ、という注釈がつくが。
おそらくこの世界ではあのような服は…まだない、とおもがゆえの不安。
「ラタトスク様のお役にたてるように、このアクア、がんばります!では、縁むすびにいってきまーす!」
元気よくあいさつをし、そのままふわり、と空気の中の水分にと溶け消える。
「…あいかわらず元気だな……まあ、あいつからやはりやってきたから、迎えはまあ必要はなくなった、か」
ならば、急いでソダ間欠泉とかいうところにいく必要もなくなった。
あと残っているのはウェントスとルーメンのみ。
「いたいた、エミル!いつのまに外にでてたのさ!?」
ふとみれば、どうやらジーニアス達の話しはおわった、らしい。
みれば全員が小屋からでてきている模様。
どうやらアクアとほぼ入れちがいになったようでほっとする。
アクアの姿は見られてはいなかった、らしい。
「あ、うん。ちょっと……」
「外の空気でもすいたくなったの?」
首をかしげいってくるジーニアスに笑みをかえしておく。
「それより、その像とかいうものはもらえたの?」
この場の大切なものであろうが、それを人が簡単に授けたりするものだろうか、とおもう。
しかもまったく関係ない人にあげるために。
「それが……」
問い返すその台詞になぜかジーニアス達は戸惑い顔。
「?」
おもわず首をかしげてしまうエミルはおそらくは、間違っては…いない……
「…偽物?」
何というべきか。
この救いの小屋にあるという像は何でも偽物であるらしい。
一年前に、祭司の一人が像をもっていき、紛失してしまい、
何でもロイドの義父に改めてつくってもらったものが今ここにはあるらしい。
「…ねえ。少しおもったこといってもいいかな?」
「…いいたいことはわかるけど、一応きくわ。何、エミル?」
「…君たちって、偽物とかいうのに縁があるの?」
思わずそういうエミルは間違っていないとおもう。
自分達は偽りなどいうものを嫌悪する傾向がある、というのに。
人はどうしてわざわざあえて偽りを正当性化するのであろうか。
どうやらリフィルも同じ思いを抱いていたのか、盛大にため息をついてくる。
「というか、何だってその旅業?とかいうのにその像をその人間ってもっていったの?」
それは素朴なる疑問。
というか、もっていっていいものなのだろうか、とおもう。
聞けば、あれはたしかこの救いの小屋の御神体のようなものだ、という。
それをもって旅に…旅にでている間、訪れたもの達に何といいわけをするのであろうか。
今は御神体はありません、で通用するのだろうか。
そういえば、自分に関してもかつては様々な姿を模された品々で人間達はあがめていたことがあった。
たしかに様々な姿をとれることはとれるが…共通して、なぜその時代においての美女、
という形式で語り継がれていたのであろうか、とふとおもう。
ときたま、たしかに分霊体としてリスの姿をして大樹のもとにいたことはあるにしろ。
そのような姿を人の前にあらわしたことなどなかった、というのに。
ディセンダーのときにしても…なぜか女性体にしたら人々が面倒なことになったので、
なるべくどちらともない形態をとるようにしていたかつての記憶。
もっとも、こちらの惑星に移動してからのちはそんな形態をとったことは一度もないのだが。
先日はたしか、コレットの偽物だ、というものたちに彼らは出会っていたはずである。
さらについでに、クラトスの傭兵、というのもまちがいなく偽り。
まあ、自分が旅人、というのもあるいみで偽りかもしれないが、旅をしているのは事実なので、
完全に嘘ではない、嘘では。
ただ、ヒトではない、ということをいっていないだけ。
「あのスビリチュア像はその内部にダイヤモンドがはめこまれているのよ。
それで、常に祭司たちが旅にでるときはもってゆくことが決まり事となっているの。
スピリチュア像をもってゆくことにより、かつてのスピリチュアの経験をたどり、
その加護をつよめる、そういった意味合いで」
ダイヤモンドがはめこまれているからといって、そんなことでいいのだろうか、とおもいはする。
エミルからしてみればあれは別に高価な品でも何でもないが。
「そういえぱ……ああいった鉱石ってなんでかヒトって重宝してたっけ……」
おもわず素でつぶやいてしまう。
なぜかそれらが生成された場所を人は掘りつくすほどに。
「まあ、興味ない人からしてみればそんな感覚でしょうね」
どうやらエミルの呟きは、興味がないから、とリフィルは捉えた、らしい。
まあたしかに興味がないといえば興味がないが。
というかその気になればどんな品物でもすぐさま創りだせる。
実際、パルマコスタでとまったときの資金もそのようにして店にうり資金を得たにすぎない。
精霊たる彼は別にお金を必要としない。
というかかの地にいるかぎりそんなものはまったくもって必要がなかったといえる。
もっとも、人の世ではそうはいかないのでてっとり早く人が宝石、とよぶ鉱石を創り売ったのだが。
「……それで?皆はどうするんですか?えっと……」
「像を落としたのはソダ間欠泉、らしいわ。仕方ないからとりにいくしかないでしょう。
そういえば、エミル。あなたもあそこに用事があるっていってたわね?」
「え?あ、はい。別に急ぎはしませんけど……」
というか急ぐべき用事であるアクアを起こすというのは、すでにアクアからやってきたので問題はなくなっている。
まあ、ウンディーネと繋ぎをとってみるのも悪くはないとはおもうが。
しかし、アクアがいるならば、アクアを通じて連絡をとったほうがはるかに速い。
「そういえば、エミルって、アスカードとソダ島に用事があるっていってたよね?」
「え、あ。うん」
まあ、ソダ島とかよばれている場所の用事はもはやおわったも等しいが。
しかし、いっていたのは本当なので嘘はついていない。
「エミルの用事って何なの?」
「え、えっと……」
祭壇、といっていいものか。
おそらくは、ウンディーネのいる場所に彼らが目指している封印の場所というのはあるのだろうが。
「それより、そのソダ島、と かにいくんですか?」
「仕方ないわ。再生の書をみないとどこにいけばいいのかわからないもの」
「…それ以外に何か道しるべみたいなものはないんですか?」
というか、かつては様々な文献がいりまじっていたはずである。
特に精霊達…八大達の居場所については。
互いの国や各勢力陣達が精霊の力を悪用しようとして調べていたとき、
いろいろなそういったものがあふれかえっていたような気がひしひしとするのだが……
……今はのこっていない、というのだろうか。
まあ、センチュリオンの祭壇ですら忘れ去られていたようだからそれもありえるのかもしれないが。
ざっと世界を視た限り、たしか間欠泉のある小島とこの大陸は少しばかり離れていたような気がするが。
「あの場所は観光名所にもなっているわ。…のこっているかどうかがあやしいけど、いってみるしかないでしょう」
盛大にため息をつきつつも、リフィルがそんなことをいってくる。
まあたしかに、観光名所になっている、というのならば、
しかも人がなぜか価値がある、と認めているダイヤモンドをはめている、という像。
誰かにもっていかれていても不思議はない。
「でも、姉さん、なかったらどうするのさ?」
「そのときは別な方法を考えるしかないわ」
ジーニアスの台詞にリフィルがまたまたため息をつく。
「…リフィルさん、ため息がおおくないですか?大丈夫ですか?えっと、たしか、誰かがいったことがありますけど。
ため息をつくと幸せが一つ、にげてゆく、ともいいますよ?」
かつての大戦で海に沈んだ大陸につたわっていた諺のひとつ。
ため息をつくと幸せがにげる。
逆に笑顔は幸せを運んでくれる、という諺もあったような気がする。
「え?ため池って幸せになれるのか?」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
どうやらため息、がため池、にきこえたらしい。
ゆえに思わず無言になっているジーニアス、リフィル、そしてクラトスの三人。
そしてまた、
「ため池かぁ。そういえば、ため池っていろんな生物がいるよね」
「そういえば、蛙とかもよくいるよな」
「蛙…かぁ。そういえばよく人間ってグミのもとにするからってあの子達をよく乱獲してたなぁ……」
コレットがそんなロイドにいい、ロイドがため池の話題から蛙の話題へと変換する。
蛙、といえば思い出すのはゲコゲコ達といった種族の魔物達。
彼らはグミの元ともいえる核を落とすがゆえかよく人間に乱獲されていた。
様々な属性に適応できるがゆえに、そのようなものを生み出す能力を持たしていただけなのだが。
それがどうやら裏目にでていたっぽい。
そういえば、縁を結びにいっていたグラキエスが、イズールドとかいう近くにて、
ノストロビアをみつけたので神殿のほうに移動させたとか何とかいっていたような気がするが。
なぜにあの場所にノスロビアがいたのかは謎なれど、突発的な変化をとげる魔物がいてもおかしくはない。
すくなくとも彼らの種族においては、気候によって変化する機能をもたせている、のだから。
「そういえば、蛙さんの大合唱、最近きかないね」
「そりゃ、あの雪の中では蛙もなかないだろ。きっと冬眠してたのさ」
「そっかぁ。そういえば、あの雪ってもうやんだのかなぁ?」
「やんだんじゃねえのか?だってコレットが火の精霊だっけか?あれで解放したんだろ?」
そんな会話をしているコレットとロイドであるが。
イグニスの目覚める前の波動でそういえば、かの地は雪になっていたはず。
もっとも、当人が自らきたことにより、その雪はすでに解消されているはず、であるが。
かつてのときは、自ら起こしにいったことをふと思い出す。
自分が起こしたのではないのにマルタが起こして目覚めていたのは、
近くに自分がいたからなのか、それともテネブラエが何かしたのか。
…まあ、波動からして近くにいたから、というのが一番の理由、であろうが。
まあ、テネブラエが何かしていた、のであろう。
そもそも、あのときですら、自分が触れないかぎり、テネブラエはおきなかったのだから。
「火の精霊?解放?」
封魔の石すらをも用いたあの祭壇。
完全なる封魔の石ではないにしろ、疑似的なものでつくられていた。
センチュリオン達の祭壇にいくときに、その祭壇らしきものはたしかに視たことがあるにしろ。
テネブラエを迎えにいったときや、グラキエス、そしてソルムといったセンチュリオン達を迎えにいったとき、
精霊達がなぜかかの装置にて簡易的に捕われていたことは知っている。
こちら側、シルヴァラント、とよばれている場所のセンチュリオン達がいる場所はまだ訪れていないが。
おそらくは同じようなものなのであろう。
そういえば、とおもう。
「そういえば、イフリートの神殿の近くってオアシスがあったとおもうんですけど……」
たしかかつて、イフリート曰く、充満する負に負けて暴走したことがあるとか何とか。
もともと、かの地は緑あふれる場所であったというのに。
もっとも、マーテルが精霊を生み出すころには、別の場所が人の手により砂漠化してしまっていたが。
「あら。火の精霊、イフリートのことはしっているのね?」
「え、あ、はい。一応」
というか顔見知りというか自分が生み出した子供でもある。
それはいわないが。
「知識が偏っているのね。…世界再生のことをしらなくて火の精霊とかをしっているなんて」
「あ…あはは……」
その問いかけに何とこたえていいものか。
ゆえにかるく笑みをうかべてごまかしておく。
「でも、八大精霊達は有名ですし」
「?八大?精霊はそんなに数はいなくてよ?かつてはいた、らしいけどね。
今、確認というか認識されているのは、イフリート、シルフ、ウンディーネよ。
それはスピリチュアの再生の旅の物語でも触れられているしね」
そういえば、世界が二つに分けられていたときは、彼らは分断していたような気がしなくもないが。
世界を分けるにあたり、反対属性を持つ存在同士を分けて管理したほうが、
より循環がしやすいだろう、という意見のもと。
もっとも、それを提案してきたのはミトスであったが。
別に不都合も感じないし、それに一年毎ごとというのであればあまり世界に負担もかからない。
だからこそ許可をだした、のだが……
それでも大地にかかる負担は負担。
ゆえにそれらの負担を軽減すべく、大地の存続をかねて自らは眠りについた。
それにより、魔界との境界線をより強固にすることも目的として。
そのあたりはこの時もかつてのときも変わり映えはしていない。
「シルフ…か。そういえば、フィアレスに何か伝言があるとか何とかいってたっけ……」
氷の神殿にいったときに、セルシウスが最近フィアレスと手合わせしてないのでさみしい、
とかそんなことをいっていたような気がする。
まあそのあたりは、ウェントスを起こしてからでも問題はないであろう。
リフィルの説明にふとセルシウスがいっていた言葉を思い出す。
「?何か繋がりがあるのかしら?まあいいわ。ともかく、間欠泉にいくしかないでしょう。
そこで像がなければないで、次なる手を考えるしかないわ」
盛大なるリフィルのため息をうけ、
「あ。そういえば、先生。マナの守護塔にあるという書物には精霊達のこととかのってないんですかね?」
コレットが何かを思い出したようにといってくる。
「可能性としては高いけども。ルインにいくにはかなり距離があるわ。
それにたしか、マナの守護塔は魔物がすみついたとかで閉鎖されていたはずよ?」
ルイン、それはエミルがかつて暮らしていた地。
古代の言葉で廃墟を示したその街の名は、かつての人々が必ず再生する、という希望をこめてつけた村。
世界再生ののちは、たしか彼ら一行が街の復興にかかわったとかで、
町の人々全員といっていいほどにロイド信仰が盛んであったが。
どちらにしてもルーメンからこない限り、いく必要性はあることはある。
まあ元々、全員を迎えにいくつもりだったのでそれは問題ない、ないのだが。
まあ、周囲が闇に覆われているっぽいがそれだけであまり被害はないので問題はないであろう。
ウェントスのほうの反転作用もすでにおわり、何やら風が吹き荒れているようではあるがそれはそれ。
あとすこしのきっかけがあればおそらくウェントスのほうは完全に覚醒するのが世界を通じて視てとれる。
さて、どうすべきか。
少しばかり世界に、否、間欠泉のあたりにそっと目をとじ意識をむけて視てみれば、
たしかに一か所の間欠泉が吹き出ている小さなくぼみの上に、それらしき像がおちているのがみてとれる。
というかよくもまあ、今聞く限りは一年前に落した、というのに無事であったともおもわなくもないが。
先ほど命じたゆえに、今現在、自らの元にセンチュリオン達はいない。
まあすぐに戻ってくる、ではあろうが。
調べるくらい、僕達たる魔物達に命じればすぐに情報ははいってくるはず。
思考は一瞬。
そのまま、意識をむけているそれにとすっと多少の力を施す。
まあ、これくらいならば許されるであろう。
直接干渉したわけではない、のだから。
「何かがおかしいわ」
「どうしたんだよ?先生?」
ふと、周囲をみわたしながらもそんなことをいってくるリフィル。
救いの小屋をぬけ、とりあえず目指すはソダ間欠泉とよばれし場所。
それゆえに進んでいる今現在、なのだが、リフィルが何やらいきなりそんなことをいってくる。
「きづいていて?あの牧場からこのかた、一度も魔物に襲われていないのよ?」
「魔物がでないのはいいことなんじゃないのか?」
ロイドのいい分は至極もっとも。
救いの小屋とソダ間欠泉はほぼ大地のほぼ正反対の位置にとある。
さらにいえば、間欠泉にむかってゆく遊覧船とかいうのがある場所から島まではかなり離れているらしい。
人間牧場から救いの小屋までは約半日程度ではあったが、ソダ間欠泉にむかうまでは、
おそらく日数的に二、三日はかかるであろう、とのこと。
「昨日だけならばともかく。今日もまったく魔物に襲われてないのよ?」
それまでは、魔物達はよく人間をみたら襲ってきていた、というのが通説であったというのに。
もっとも、それはラタトスクが命じていたわけでなく、
大樹を枯らした人間達を魔物達がよくおもっていないがゆえに攻撃していた、ただそれだけのこと。
すでに王たるラタトスクが目覚めている以上、勝手な行動は慎んであたりまえ。
というか、気配がそこにあるのに襲撃するような愚かなものがいるはずもない。
いるとすれば分別がないものか、もしくは若いものか、そのどちらか。
もっとも、襲いかかろうとすれば、他の魔物達が黙っておらず確実に粛清しかねないにしろ。
「きっと、マーテル様の加護ですよ。先生」
コレットがにこやかにそんなことをいってくる。
しかし、だからといって森を抜けたりする間もまったく襲撃がなかった、
というのがリフィルからしてみれば気にかかる。
クラトスも思うところがあるのかその言葉にしばし何やら考えるそぶりをしているが。
「…マーテル…か。そういえば、リフィルさん、この間、詳しく教えてくれるようなこといってましたよね?
せっかくですから、歩きながらでもそのあたりのこと教えてもらえますか?」
彼ら人が信じている真実、というものをラタトスクは知らない。
それゆえの台詞。
過去、目覚めたときもすでに再生後であったので、このときの人間達がどうおもっていたのか、
そんなことはまったくしらないに等しい。
目覚めているセンチュリオン達全員に命令を付け加えたのはつい先ほど。
まあ、テネブラエやイグニスなどは、クラトスがいることもあり、かなりしぶっていたが。
しかし、問題なのはそこではない。
やはりというか、ユミルの森につけていたはずのかの石はどこにもなかった、らしい。
だからこそ、センチュリオン達にその捜索を命じたまで。
また、どうやら海底に問題の品物は創られているっぽいのでそれはアクアにと任せてある。
どこまで心配性なのか、あの僕(しもべ)達は、とおもわなくもないが。
しかしまあ、それぞれに縁を結び直し強固にしているのは一刻一刻感じ取られる。
この調子でいけばあと数日もあれば彼らはすべての縁を結び終えるであろうことも。
闇の波動がつよくなれば、より光たるルーメンの覚醒もはやくなるであろう。
ついでに、彗星、ネオ・デリス・カーラーンとも繋がりの意識を同調させたがゆえに、
かの地にいる魔物達との繋がりも強化するように命じておいた。
ゆえに今現在はセンチュリオン達は傍にいない。
…まあ、よべばすぐさまに移動してくるだろうが。
また、ルーメンのいる場所のあたりに意識をむけてみてみれば、
みるかぎり、あの地にいるディザイアンとかいう輩達はブルーキャンドルを使用しているらしい。
町においては、常に松明を灯し生活している模様。
あのあたり一帯、ルーメンの影響で漆黒の闇にと覆われている今現在。
その闇もじわじわと広がっており、あと少しすればその先の峠にまでたどり着く勢いっぽい。
「そうね。なら、まずはこの旅の目的にも関係している、世界再生、それからいきましょうか」
かつて、世界の中心にマナを生み出す大樹があった。
しかし、争いで樹は枯れ、かわりに勇者の命がマナになった。
それを嘆いた女神は天にきえた。
このとき、女神は天使をつかわした。
私が眠れば世界は滅ぶ、私を目覚めさせよ
天使は神子をうみ、神子は天へつづく塔をめざす。
これが…世界再生のはじまりである。
どうやら荷物の中に教科書のようなものをいれていた、らしい。
それを取り出しつつも、読み上げるようにいってくる。
「古代大戦は勇者ミトスによって聖地カーラーンにて停戦されました。
その後、勇者ミトスは女神マーテルとの契約によって戦乱の原因であるディザイアンを封印しました。
封印が弱まるとディザイアンが復活する。
マナの神子がマーテル様の神託をうける重要な日。それが神託の日。
そして世界再生の旅がおこなわれる。それはディザイアンを封印する旅のこと。
女神マーテルの試練をこなすと、世界を守る精霊が復活し、マナも復活する」
そこまでいい、ひといきつき、
「現在の食糧不足や日照りはマナの涸渇が原因。
これはディザイアンが牧場でマナを大量に消費しているから、といわれているわ。
神子の旅はマナを復活させ、ディザイアンを消滅させる旅。そして、その旅が今の私たちの旅、なのよ」
エミルの質問にこたえ、リフィルが説明をしてくる。
リフィルの口から語られる、世界の成り立ちと旅の理由。
その言葉に思わずぴくり、と反応してしまう。
そもそも、女神?しかも勇者の命がマナ?
ついでにいえばディザイアンを封印?
おもいっきり突っ込みどころがありすぎる。
そもそも、世界の成り立ちというか、勇者の命がマナになった。
というのに誰も疑問を思わないのであろうか。
たかが一人の命がマナになってどうなるというのだろうか。
しかも、天使を遣わす、などというのが胡散臭い。
テセアラが開発した人体兵器がたしか天使とは呼ばれていたが。
元々のとある鉱石の精霊体たる彼らとは異なるものたち。
しかしどうやら視る限り、この場にいる誰もそのことを疑っていないらしい。
少し考えればわかるであろうに。
たかが一人の人間が死んだからといってマナになってどうこうなるものでもない、ということくらいは。
たしかに死ねばその肉体はマナへと還る。
時間とともにマナに還るようにしたのはほかならぬラタトスク自身。
かつて、死体をも利用する輩がいたがゆえの処置。
完全に死亡しないかぎりマナに還ることはないので問題はないはず、である。
それはすなわち、肉体との繋がりが完全に断ち切られたときを意味している。
もっとも、それらも一定の時間内ではどうこうできるような術も授けている。
それこそ一定の時間内では死の淵からすらも呼びもどすことができる術…レイズ・デッドを。
おもわず軽くため息がもれてしまう。
本当に、どうして人はあたえられた情報などを疑う、ということをほとんどしないのであろう。
まあ、かつてはいたのかもしれない、その嘘にきづいたものは。
だが、人がすることといえば、不都合なものは排除する。
…よもやミトスも同じようなことをしている、とは思いたくはないが。
どうやらその可能性が果てしなく高い。
人はどこまでも変わるもの、とはしってはいるが、何ともいえない気持ちになってしまう。
そうではない、とおもっていた人がかわってゆくのは何ともいえない。
現に結局あの時空ですら、人は大樹ユグドラシルを枯らしてしまった、のだから。
あのとき、アステル達がアクアにつられて、訪れたとき、
アステルとリヒターにいったあのときのまま、
人はまたその樹を枯らすだろうよ。
そうラタトスクがいった言葉のままに。
リフィルの話しをまとめると、何でも女神がディザイアンとかいうものを封じた、らしい。
というか、戦争の原因であったのがディザイアン、というのが何とも胡散臭いこと極まりない。
というか両方の勢力が互いに互いの領土をもとめてあの戦いは延々とつづいていたというのに。
あまりに血が流される過程において、魔界の存在にきづいたヒトが、
その魔族との契約のために、数多の生贄をささげ、魔界との扉を開こうとしたように。
その封印が解かれ始めると神子が天よりつかわされ、天の試練のもと精霊をときはなち、
そして神子の力によってディザイアンが再び封印され、世界が救われる、とのことらしい。
らしいが……おもいっきり胡散臭いこと極まりない。
マナの血族とよばれしものたちのなかから、天使の子がうまれ、
封印がよわまったとき、天の使いとして誕生する、とのことらしいが。
そういえば、とおもう。
コレットのマナが歪に、しかも何やら歪められているのは視てわかってはいるが。
ラタトスクがしるコレットはすでに天使化していたので、あまり違和感を感じなかったのだが。
今のコレットのマナは人と天使の狭間といってよい。
不完全状態といってよい。
たしか、この状態だと、彼ら人がいう天使疾患とかいうのがでるはずであるが。
それこそ、かつてマーテルがかかった症状。
体すべてが結晶化してしまう、という症状に。
みるかぎり、それを抑えるべき品物をコレットは身につけてはいない。
もしかして、自ら望んで天使化してるとかいうわけではないのか?
そんなことをふと思う。
どうやらそのあたりも詳しく確認する必要があるのかもしれない。
わざわざ彼女が望んで変化しているのでなければ、なぜコレットを天使化させるのか、という疑問もある。
「詳しくはこの本にかかれているわ」
いって、リフィルが本を手渡してくる。
「あ、すいません。・・・・・・・・・・・・・・・・」
そういえば、あのとき、文字すらもわからなかった自分にいろいろとおしえてくれたのは……
ふと思い出す。
よくよく考えれば、たしかにおかしい、とは思われていたのであろう。
文字すらも読めなかった自分をうけいれたあの夫婦とて。
ふとかつてのことを思い出す。
もっとも、自分が過去、すなわちこの時代にきた以上はあのようなことにしたくはない。
が、世界統合後に人が何をしでかすか、という予測は嫌でもついてしまう。
あまりにも、テセアラとシルヴァラントの技術面は違いすぎる。
どこぞの世界でやった、無機物のみ影響するとある小さき生き物を誕生させてしまおうか。
とおもうほどに。
それだと、互いの世界が無からの出発なのでおそらく問題はない、であろう。
そもそも、あれらがこのむのは、木々でつくられたもの、でなく、
主に鉱石などといったもので創られたもの、なのだから。
そのあたりも考える必要性があるかもしれない。
ざっとその教科書らしきものにと目をとおす。
そこには、ラタトスクの知っている事柄とはまったく異なることが書かれている。
というか、古代大戦、と呼ばれている場所の項目に注目する。
あれから、四千年。
今から四千年前、そうたしかに書かれている。
よくもまあ、一年ごとの周期、という約束、しかも彗星の接近まで。
という約束だったのに、そこまでひきのばしたものだ、とつくづく思う。
こうして目安となるものが目の前にあればなおさらに。
そんな会話をしつつも、一行は救いの小屋をえて、ソダ島へ渡る場所があるというその場所へとむかってゆく。
途中、牧場跡地がきになるから、という理由でそこに立ち寄ったりはしたものの、
そこにはぽっかりと空いた穴になみなみと水がたたえられ、新たな湖が一つできているのに他ならない。
みればどうやらアクアがその湖に眷属たる僕(しもべ)をいくらかはなっているっぽいが。
ソルムの眷属たる魔物達も増えていることから、このあたりのマナがきちんと循環するのも時間の問題。
水は大地を潤し、大地は木々をうるわし、そこにすまう生物を癒してゆく。
かつて、元いた場所において新たな惑星を、とおもっていたが。
ここももしかしたらその方法を考えていたほうがいいかもしれない、とふとおもう。
まだこの時間軸においては様々な惑星を、この太陽の周りに生み出してはいない。
新たに種子から新しく、惑星そのものを生み出して、今ここにいる、数多なる命を移動させる。
という方法もなくはない。
かつてのように精霊達を残す、のではなく完全にここにいる命そのものに任せる、
という理をひいてしまえば、いくら愚かな人だとて精霊達を利用する。
というようなあのようなことはおこらないであろう。
たぶん。
トールのときにしても、あの国の人間達がアスカを捕らえたことにより、その力をもってして愚かにも人は悪用したのだから。
「でも、エミル。あんな誰でもしってるようなことまでしらないの?マーテル教の経典やら絵本やらみたことないの?」
牧場の跡地を過ぎて少しいった辺りにおいて、ジーニアスがふと何かに気づいたようにと語りかけてくる。
「まったくないよ?」
というか以前も今もないので嘘ではない。
そういえば、とおもう。
記憶があいまいであったあのときも、
マーテルの像、というのをみたときに、何ともいえない怒りのようなものを抱いていたような気がするが。
孵化したばかりとはいえ自らから大樹を取り上げた彼らに対し、思うところがあったがゆえの怒りであったのだろう。
ミトスの命が種子にとやどり、それを守護する精神融合体たるマーテルが誕生した。
さらに人に名をつけさせたことで、自分との繋がりがぱったりと途絶えてしまったあのとき。
そう今ならば断言できる。
おぼろげながら目覚めていた中で、確実大樹の気配が失われたあのときの衝撃。
だから、きづいた。
ミトスに、彼らに裏切られた、ということに。
だからこそ、もうヒトなど信じられなくて、マナの調整を命じなかった。
ラタトスクが目覚めていたがゆえにマナ不足にはなっていなかったが。
そもそも、あの種子は目覚めた直後にはマナを生み出す力すらなかった、のだから。
かろうじて薄いマナくらいは生み出せていたがゆえに、ヒトはそのことに気付きもしなかったが。
「…エミルって、もしかして断片的な記憶喪失、とかじゃない?いくら何でもマーテル教の経典の内容すらしらない、なんて」
再びジーニアスが何やらそんなことをいってくるが。
そもそも、いくら未来の時間軸からやってきていた、としても、
これまでギンヌンガ・ガップにて眠っていたのは事実なので知らなくてあたりまえ。
というか必要性を感じない。
知ればしるほどミトスにたいし、何ともいえない気持ちのほうがわきあがってしまう。
あのときの彼の心はどこにいってしまったのか、ということが。
あまりに人が愚かにもマナを消費するがゆえ、魔族達がうるさいがゆえ、
あのとき、魔界に出向いており、眠っていた中でのオリジンの封印……
もっとも、今の自分はオリジンが封印されている、ということは精霊達からきいて知っている。
そもそも、センチュリオン達を目覚めさせる過程で精霊達と繋ぎをとらせるにあたり、
オリジンだけ繋ぎがとれない、という状況が今現在できあがっていたりする。
まあ、地上においてのことでなく、根本たる意識のみ、という分野では繋ぎはとれはしたらしいが。
「そういえば、そろそろお昼じゃないのか?」
たしかにみれば、日は高い。
もっとも、エミルからしてみれば食事をとる必要性はまったくないのだが。
確か天使化しているクラトスたちも食事の機能を自分の意思で制御できたはず、である。
もっとも、適合しないものはことごとく異形、もしくは自我を失っていたかつての記憶。
どこまでも人は愚かになれる、とあきれたかつての記憶。
たかが人がいくら負で狂わせた、いわば穢した微精霊達の力を取り入れたとて、
その力が利用できるのはほんの一面性にすぎない。
力に取り込まれてゆくくらい、少し考えればわかる、であろうに。
ロイドがふと、空をみあげていってくる。
みあげたそこにはあいかわらず、月と、そして彗星が存在している。
もっとも、彗星、ネオ・デリス・カーラーンはどうやらロイド達は認識できていない、らしい。
たしかにあの塔みたいな場所から認識阻害の術を感じてはいるが。
おそらく可能性としてあの場所はかつての大樹があったばしょ。
ならばレイン…当人いわく、エターナル、という名も気にいっていることから、
ミトスが使用するにあたり、なら君の名はエターナルソードだね、とかいっていたが。
使い手に応じ姿をかえた結果、ミトスは剣士であるがゆえに剣の形態をとったまで。
ついでにいえばオリジンも剣を利用するがゆえにかの形態をよくとっていた、という理由もあるにしろ。
「そういえば、そろそろ太陽も上空に近いね。リフィルさん、皆、一度休憩にしませんか?」
ロイドの言葉をうけ、エミルがにこやかにリフィルに笑みをうかべつつ提案する。
「そうね。…どちらにしても、間欠泉まではかなりあるものね。少しでも早いほうがいい、んだけど」
そういい、ため息ひとつ。
「そうだ、コレットの翼でとんでいく、とかは?」
「そういえば、私どこまでとべるのかな~?」
ぽん、と手をうちながら、ジーニアスが何やらそんなことをいっていたりするが。
「コレット一人を先にいかせるわけにはいかないでしょうが。
私たち全員が空を飛べるのならばいざしらず。飛べるのはコレットだけ、なんですからね」
リフィルがそんなジーニアスの提案にたいし、ため息をつきながら突っ込みをいれてくる。
正確にいえば、コレットだけ、ではないのだが。
そんなことをふとおもい、ちらり、とクラトスの顔をみてみるが、クラトスは表情をまったくかえていない。
というかその視線はまたまたロイドにむけられていたりする。
というか、そこまで気にかけるのならば、自分が父親だ、と名乗ればいいのに、とおもわなくもない。
自分を裏切っているから、という理由でロイドに話していない、という理由ではなそう、だが。
「…空、ね」
おもわず、ふとつぶやくのは仕方がない。
方法はある。
というか空を飛べる僕を呼び出して移動すればいい、ただそれだけ。
どちらにしても、ざっとこの辺りを視て確認はしてある。
ルーメンの反属性の影響で、ほんの少し先まですでに闇が押し寄せているっぽい。
ならば、まだ完全に目覚めそうにないルーメンから覚醒させる、というのがいいかもしれない。
魔物達は別に暗闇でもあまり困ることはないが、木々などにおいては、日照不足は成長の妨げにもなりかねない。
そういえば、テネブラエが縁を結び直しにいっていたとき、
何かヒトがつくりし聖堂?っぽいところで、ラティス達をみつけた、とかいっていたが。
どうりで、ギンヌンガ・ガップのあの迷宮の中にいなかったはず、である。
「空、といえば。エミルって、旅をしてるっていってたよね?ずっと歩いての移動?」
どういう繋がりがあるのやら。
コレットがエミルにむけてきいてくる。
「え?あ、そういうときもあるけど。目的地が離れていたりしたら、時折友達に乗せてもらうこともあるにはあるよ?」
この場合の友達、という言葉の意味合いは、裏をかえせば僕(しもべ)、ともいうが。
「?友達にのせてもらう。って。エミルの友達って、空を飛ぶ手段とかもってるのか?」
ロイドが首をかしげつつといかけてくる。
「エミルの友達か~。どこにすんでるの?」
「別に決まった場所ではないよ?そのあたりのどこにでも皆いるし」
ちなみにこの周囲でも。
少し声をかければ一斉にあつまるであろう。
それはもう確信をもっていえること。
「しかし、移動手段がある、というのなら。エミル、それを利用させてもらうことはできないかしら?
私たちは少しでもはやく、行動したいのだけども」
少しでも長く、コレットに旅をさせてあげたいのも本音。
だけども、少しでもはやく、世界を再生し、ディザイアン達を封じたいのもまた本音。
そのときにコレットがたとえ命をおとそうと。
コレットの命と、世界の平和。
コレットの命一つで、世界は救われる。
彼らは、リフィル達はそう、信じ込んでいる。
もっとも、そのあたりのことをエミルはまだ、知らない。
リフィルの言葉に、
「え?それはかまわないですけど……けど、リフィルさん達がこまりませんか?
今までも、なんでか利用しようとしてたひと、ほとんどが怖がってたりしてるんですけど」
ちなみに、それはこの惑星、ではなくこれまで経験してきた様々な世界においてのこと。
なぜか、魔物をつれていると、人々は怖がっていた。
この子達は問題ない、といっているのにもかかわらず、である。
また、エミルが魔物を使役?できるときづき、捕らえよえとしてきた組織もありはした。
かの惑星、デリス・カーラーンにおいても。
ディセンダーを捕らえ、自分達の戦力に、としなかった陣営がなかったわけではない。
「それはどういう……」
リフィルが何やらいいかけたその刹那。
ルグワァァ…
どこからともなく、獣の唸り声と。
「た、たすけてくれぇ、うわぁぁ!」
何やら人が助けをもとめる声。
みれば、数名の人間が何やらこちらにむけて走ってきているのがみてとれる。
そしてその背後にはいくつかの魔物達の姿も。
ぱっと見た目は巨大な白と黒を貴重とした、四本足であるく少し大きめの犬のようなもの。
二本の足で立つことも可能なれど、そのまま長時間において歩く、というのは彼らはできない。
基本、ゆったりと水辺の近くで生活しているはずの魔物達の姿がそこにある。
「魔物か!?」
クラトスがそれをみて身構えるが。
「まってください。クラトスさん」
「エミル!?」
彼らに魔物達を傷つけさせるわけにはいかない。
それゆえに、クラトスを制し、そのまま、いっきに、彼らと、そして魔物達の前にと回り込む。
「とまれ」
どうみても魔物はなぜか興奮しているようにみえなくもない。
にもかかわらず、エミルが何やら一言、エミルの口調とは少しことなり、低い声でつぶやいたその刹那。
ぴたり、と魔物達は制止する。
「エミル、あぶないよ!?」
コレットが、そんな魔物達にちかづいてゆくエミルに思わずいうが。
次の瞬間、コレット達はその目の前の光景にあんぐりしてしまう。
こともあろうに、魔物達は、エミルになされるがまま、素直に体をふれさせている。
中には、うなだれてその場に座り込んでいる魔物の姿すら。
この子達がこうして人を追いかけている理由。
それは一つしかありえない。
だからこそ問いかける。
愚かな人が何をして、どうして彼らを追いかけているのか、を。
「あの魔物は……」
クラトスが何かに思い当たった、のであろう。
まあ、エミルがとまれ、といった言葉をうけて魔物が素直に止まったことに、驚きを隠しきれないようではあるが。
いまだにすぐに剣を抜けるような形をとっているものの、
自分達のほうにかけよってきた数名の男たちをちらり、と垣間見る。
男たちの顔色はとてつもなく悪い。
普通に考えれば、魔物においかけられ、平常である、というのがおかしい、が。
「あの魔物は、人に絶対に危害を加えるはずのない種類のはずだが?
なぜあの種族の魔物においかけられていた?」
それは問いかけ。
かつての国のやり方を思い出す。
この魔物はたしかに、人に危害は加えない。
が、ある特性をもっている。
その条件さえ満たせば、問答無用で使い捨てにする戦力となりえる。
それをしっていたからこそ、国は率先してこの魔物達を狩りつくした。
かつてそのことをミトスやマーテルがしったとき、悲しんでいた、はずなのに。
馬替わりの消耗品、として人に育てられ、そして消耗品として使い捨てられた魔物。
目の前にいる魔物はそのうちの一種と同じもの。
同じような特性をもつ魔物をクルシスは…ミトスはその当時の権力者と同じようにと扱っている。
「し、しらねえ!いきなり襲いかかられて……」
震えるその声に、どうやらロイド達はすっかり男の声を信じてしまったらしい。
「人を襲うような魔物さんにはみえない…よ?」
しかし、唯一、コレットのみは、エミルになされるがまま、うなだれ、しかもなでられている魔物達をみて純粋なる疑問を発する。
「あんたら、剣をもってるなら、とっととあの魔物をやっつけてくれ!」
「そうだそうだ!」
助けてもらおうとしているのであろうに、何とも傲慢ともいえる男たちの台詞。
やはり、というか、本当にいつの時代も人は愚かでしかない、というか。
「この子達がいっています。あなたたち、この子達の子供を浚ったようですね?
返してあげてください。この子達の子供を」
エミルがたちあがり、背後に魔物達をそのままにしつつも、ロイド達の横、
というか隠れるようにしている男たちにむかって言い放つ。
「何いってるんだよ。エミル。こいつらはいきなり襲われたといつてるんだぜ?
そんな凶悪な魔物、というかなんでお前には攻撃してこないんだ?」
ロイドからしてみれば、人を襲っていたであろう魔物は全て悪者。
それゆえの台詞。
それこそ、魔物は全て倒すべきもの、と思い込んでいるといってもよい。
魔物だから倒しても問題はない、たおすべき。
それは、人が間違った認識のもとにもっている彼ら曰くの常識。
その常識が、自分達が世界の理を、自らの身を苦しめていることにすら気づいていない。
魔物達がいなくなる、ということは、周囲のマナの循環がなされなくなる、ということに他ならない。
衰退世界、とよばれているこの大地がマナが涸渇している、という理由はそこにもある。
人は魔物を害するもの、として駆逐している。
だからこそ、それでなくても少ないマナが、循環させるものが少なくなり、
悪循環に陥っている、ということを人は気づいてすらいない。
そんないかにも当然、とばかりに、人を援護するロイドの態度に思わずあきれてしまう。
本当に知ろうとしないというか、その場の雰囲気に流されるというか。
それが彼らしさ、といえばそれまでだが。
しかし、善悪を見極める目は養うべきだ、とおもう。
「あのね?ロイド。知らないかもしれないけど、この子達が口にするのは、水だけ、なんだよ?
そんなこの子達が意味もなく人を襲うわけないでしょ?
それは、かならず襲われる原因がある、ということにほかならないんだよ?」
実際、この魔物達は水のみで生きている、といってよい。
大気と水と、その二つがあり、さらには自然のある場所の中で生活しているこの魔物達。
彼らの役割は、体内に水を取り入れ、そしてその水を空気中に気化させて解き放つ役割をもっている。
いわば、水の眷属のうちのひとつの魔物。
水のマナを循環させる役割をもつ魔物のひとつ。
わざわざ火属性の魔物やその火の微精霊の力をかりなくても、
彼ら一つの個体であるていどその役割を果たしているといってよい。
「たしか、以前に文献でよんだことがあるわ。古い文献だったけど。森の中で生息する、水のみで生きている魔物。
あの魔物達はその特徴によくにているわ。
彼らは家族の繋がりをとても大切にするの。たしか一生に一度しか卵をうまない。
それゆえに、種族同士で子供を守り、そだてる、と書かれていたわ。
大人しい魔物ゆえにいきなり襲いかかる、というのはありえない、とおもうのだけど?」
リフィルがかつて、産まれ育った地にてみた彼らの特性。
そんなリフィルの台詞に。
「魔物なんだぞ!その剣はかざりかよ!」
「あんた、杖をもっているということは術がつかえるんだろ!とっととあれをころせ!」
さすがに、そういわれ、ジーニアスもおもわずむっとしてしまう。
「なんだよ。あんたたち。それが助けをもとめる相手への台詞?」
あきれたようなジーニアスの言葉に対し、
「うるさい!子供が口出しするな!剣をもっているものが俺らみたいな力ないものを助ける。それは当たり前だろうが!」
男たちのあるいみ身勝手、ともいえるものいいに、さすがのロイドも何かおかしい。
とおもいだしたのか、顔をしかめているのがみてとれる。
その台詞をきき、さらに思わず自然とため息がでてしまう。
「これだから、ヒト、というものは……」
エミルの呟きも至極もっとも。
ならば、彼らの口をもってして、彼らのその罪を暴いてやればいいであろう。
それゆえに。
『汝らの心で思いし言葉を口にせよ』
この世界にとっては理ともいえるその言葉にて、彼らのその心をあばけだす。
それをきき、どう行動するかで、彼らへの今後の対応もきまってくる。
今のロイドは、かつてのラタトスクがしっていたロイドとは同じなれど、
ラタトスクがしっていたロイドはこれより二年後のロイド。
人はよくもわるくもかわるもの。
それにクラトスのこともある。
彼らの性格をきちんと見極めるのにはこれはちょうどいい機会、ともいえよう。
ティアン ヌイウワン イク ティアイオ エムド ティアン
アンエディティ ワエム ブン ティエクンム イオティ ティ エ トゥオティア
(訳:
聞きなれない旋律の、しかし音のような何かがエミルの口から紡がれる。
それは、旋律でありながら、風にのり、周囲にまるで自然のごとくに溶け消えてゆく。
それはほんの一瞬のことであったがゆえにリフィル達ですらきづかない。
その旋律をうけ、一瞬、男たちの体に光が吸い込まれた、ということに。
「みつかったときは運がないとおもったが、ついてたな」
「だな。ここでこいつらにあの魔物をころさせれば、これを牧場にもっていけばお金がもらえる」
「そこの少女と子供もつれていけばお金になりそうだな」
それは、彼らが心でおもっていたその声そのもの。
口にだしてしまってはっとする。
おもわず互いの顔をみあわせる男たち。
おそらくは、互いが思っていたであろうこと。
それが確かに今、口にだされていた。
相手もそれぞれに驚いたような顔をしていることから、
それぞれに思っていることを口にだしている可能性が高い。
「な、なんで心の声を口にだしてるんだ!?」
「まさか、子供らをつれていけば、ディザイアンから金塊がもらえるのがばれたのか!?」
何やら驚いたような、それでいて、ロイド達からしてみれば嫌悪してもよい。
というような信じられない台詞が助けをもとめてきた男たちの口から発せられている。
今、たしかにこの男たちはディザイアン、そういった。
そして、牧場にもっていく、とか、子供をつれていけばお金になりそう、とか。
「おまえら、ディザイアンの仲間か!?」
ロイドが険しい表情で、そんな男たちを睨みつけるが。
「我々はハーフエルフではないですよ?そんな野蛮な」
しれっと一人の男がいうが、しかし、
「ハーフエルフはいいお得意様だからな。こっちを見下しているがゆえに、扱いやすい。
少し下でになればこっちはがっぽりと儲けさせてもらえるしな」
自分が口にだした言葉にきづき、はっと口元をおさえている男の一人。
自分が今、口にしてしまった言葉がどうして口にでたのかわからない、
というような、失敗した、というような表情を浮かべているのがみてとれる。
「ち。馬鹿な旅行者達にあの魔物を始末させて、ついでにこの子供らをも
ごまかしてつれていけばお金になっただろうに。あの金髪の子さえいなければ」
別の男からはそんな声がもれているが。
いったあとに、どうして口にだしたのか、こちらもまたわからない、のであろう。
はっとして口を押さえていたりする。
しばしそんな男たちの様子をみつつ、
「…エミル。あなた、今、何をいったの?」
可能性とすれば、今、エミルがつぶやいた歌のような何かの言葉。
たしかに一瞬ではあるが力を感じたその言葉。
リフィルがそれにきづき、エミルに問いかけるのとほぼ同時。
「なぜ、思ったことが口にでてるんだ!?」
「ち。このままでは俺らに都合がわるい。この卵だけでももって…」
男たちがいいつつも、その場を離れようとするが。
「逃がすとおもう?」
ふと気付けば、いつのまにか周囲に他の魔物達も近寄ってきているらしく、
ぐるり、と周囲を取り囲んでいるのがみてとれる。
ロイド達もそれにきづき、思わず身構えるが。
と。
「「「うわ~!?」」」
ふと、男たちが悲鳴をあげる。
突如として彼らの体がふわり、とうきあがる。
みれば、いつのまにか彼らの上空に空を飛ぶ魔物が出現していたらしく、
魔物達はそれぞれ、彼らをつかんで上空へ。
そして、別の魔物がそんな男たちの手から、荷物らしきものをかっさらう。
そして、そのまま羽ばたきつつ、その荷物をエミルの元へと運んでゆく。
バサバサととびつつも、その荷物をエミルのもとにと運んでくる鳥の魔物。
このあたりには存在しない、ボーボーという種族の魔物。
「御苦労。さてと。もう、愚かなる存在に誘拐されるではないぞ?
といっても、他にも愚かな人間がいる、とは限らない、か……」
ロイド達からしてみれば、短い間とはいえ知っているエミルの口調ではない、というのがきにかかるが。
しかし問題なのはそこではない。
いまだに原因なのであろう男たちは上空に魔物につかまっているまま。
が、エミルが卵を受け取ると同時、ぱっと手をはなし、そのまま男たちは支えを失い、上空から地上へと。
別に助けてやる必要性も感じないのでエミルは手をだすつもりはさらさらないが、
しばし、顎に手をあて、そして、おもむろにと手をつきだし、
「…こい。シンカー。そしてユニセロフよ」
彼らを安全に送り届けるために、選択した僕達の名を紡ぎだす。
この場にあるいみセンチュリオン達が一柱も残っていなかった。
というのが彼を止めるものがいなかった、といってよい。
ラタトスクからしてみれば、自分の行動に違和感をもっていない。
それをみて人がどう思うか、というのはあまり気にしていない、といってもよい。
もともと、ディセンダーとして行動していたときも魔物を呼び出していたのだから問題はない。
そんな認識でしかない。
それに拍車をかけているのは、かつての旅、といってもよい。
かつての時空にて、マルタ達とともに旅をしていたとき、
エミルは記憶がないままにしろ、魔物と契約し、魔物達とともに旅をしていた、のだから。
ゆえに、そこに不自然なことを一切感じていない、といってもよい。
エミル…否、王たるラタトスクの言葉をうけ、その場に蒼き魔方陣のようなものが出現する。
そこからでてくる青く透き通った体をもちし女性のような何かと、
そして黒き光をまといし、巨大なる獣の姿。
今ではすでに忘れ去られてひさしい、
精霊ラタトスクと直接契約をむすびし、ギンヌンガ・ガップ内にて守護にあたっている魔物のうちの一体。
「このものたちを、安全な場所に。お前は彼らの守護にあたれ。愚かなるものには…何をしてもかまわん」
そう命じるとともに、ユニセロフが頭をたれる。
その言葉はロイド達には意味不明。
精霊達や魔物達ならば言葉は通じるであろうが、自然の声を忘れてしまったヒトには理解不能。
シンカ達に魔物たちを託し、安全な場所へ移動させるようにと命じておく。
シンカーはかつて、ヒトが精霊達の力を利用しようとし、
微精霊を無理やりにゆがめ、つくりだした人工的精霊といってよい。
かといって完全なる精霊でもないがゆえに、その特性はどちらかといえば魔物側として理を組み入れた。
いわば、アクアやウンディーネを補佐する、という名目で。
エミルがいいつも、手をかざすと同時。
再びそこに蒼き光をまといし魔方陣があらわれる。
その魔方陣はやがて、そこにいる魔物たち、卵を取り戻そうとおってきていた魔物達をもとりこんでいき、
やがて、魔物達は、光りとともに、その魔方陣の中にとかききえてゆく。
どうやら、魔物達に被害がでることなくすんだようである。
そのことにほっとする。
ふと気付けば、なぜか唖然としたようなリフィル達の顔が目にはいる。
エミルからしてみれば、別にたいしたことをしたわけではない。というのに。
なぜに彼らは唖然、としたような表情をしているのか、エミル、否ラタトスクからしてみれば理解不能。
それゆえに。
「?何か?」
首をかしげ、そんな彼らにたいし問いかけるその言葉に嘘はない。
彼は本当に理解していない、のだから。
「「何か、じゃない!」」
「何かじゃないでしょう!?」
「どういうことだ?!」
首をかしげるエミルに対し、異口同音というかものの見事に同時にいっているロイド達。
ロイドとジーニアスの声がかさなり、リフィルが思わずといったようにいいかえし、
クラトスにしてはめずらしく動揺を浮かべた表情をしていたりする。
そんな中において、
「すご~い。エミルって魔物にいうこときかせられるの?」
にこやかにコレットのみがそんなことをいっていたりする。
「あの子たちは、ただ、仲間の子供を取り戻す手伝いをしてくれただけ、だよ?
あの子達の仲間意識は強いからね。同じ種族同士で争うのは、人くらいなものだよ。
しかも、自分達の欲や勝手な理屈、でね」
いいつつも、いまだに気絶している男たち…
どうやら空から落下した衝撃で気絶している、らしい。
をちらりとみ、
「さてと」
彼らを目覚めさせるのに、どの方法がてっとり早いか。
水をぶっかけるのが一番手っとり早い、であろう。
かといってアクアを呼ぶ、というのも彼女のこと、クラトスに久しぶり。
とかいいだしかねないのでそれは思考の中から却下する。
ならば。
「ジーニアス。この人達、おこしてくれない?水でもぶっかければきがつくとおもうんだ」
そんなエミルの提案に、
「おこしてどうするのさ?エミル?」
それは素朴なる疑問。
「さっき、彼らがいってたでしょ?子供云々って。
もしかしたら、彼ら、子供とかをディザイアンとかいうものたちにお金目当てに売り渡してた。
そんな可能性もなくはないでしょ?子供達は世界の宝。
なら、もしもそうなら、そのあたりのことを詳しくききださないと」
そんなエミルの言葉にはっとするリフィル。
たしかに、彼らはさきほどそんなようなことをいっていた。
「って、つまり?」
ロイドはいまだによく理解していないらしい。
「ま、ロイドだしね…。つまり、エミルがいいたいのはこういうことでしょ?
さっきのこいつらのいいまわしから、こいつらが子供達を誘拐して、
ディザイアン達に引き渡している可能性があるから、それを聞きだしたい。と」
「な、なんだよ!?こいつらそんな悪いことしてるのか!?」
ジーニアスのため息まじりの説明をうけ、ロイドがようやく理解したらしく、憤慨したようにいってくる。
「だから、それをきちんと聞きだしたほうがいい。とおもうんだけど。
それとも、ロイドは、まだこの人達を信じるの?
魔物達の子供を勝手にうばって、さらには人の子供まで誘拐してるような人間を?」
「だけど。それをしってどうするの?エミル?」
リフィルも思うところがあるのか、というか先ほどのことがきにかかる。
切実に。
このエミル、という少年のことはいまだにリフィル達は詳しくしらない。
そう今さらながらに思い知ったといってよい。
「そういう人がいるのを少しばかり忠告しておくのと、していない。のとでは。危険度の具合が違うとおもうんですけど?
特にこういう人間って、自分達がいかにも被害者のようなふりをして近づいて、
そして折りをみて本性を表したりするものが大多数でしょうしね」
リフィルの問いに、エミルがこたえ、そして。
「そして、よく人がおこなうことが、仲間のふりをして一緒に行動していたあげく。
その時がきたら本性をあらわしたり、とかというのもありますしね。
中には身内を人質とかにとられて無理やりに裏切りにもっていく場合もあるようですけど」
それこそ嫌、というほどにそういうのをまのあたりにしてきた。
これまでの世界においても。
この惑星においては、一度も表にでていないがゆえにそれを実際に経験してはいないものの。
「たしかに。それはありえるわね。誰しも身内を盾にされれば断れないもの」
リフィルがふと顔を伏せる。
「忠告するだけならば問題ないでしょ?知っているのと知らない、とではかなり違うしね」
「そうね…それだと、たしかに。下手にディザイアンにかかわるわけではないものね。
最低限の被害も抑えられる可能性もあるわ」
エミルにいろいろいと聞きたいことはありはすれど、
たしかにエミルのいい分にも一理ある。
「で、水でもぶっかければこの人達、いくら何でもおきるでしょ?」
「まって。その前に、この男たちを縛る必要があるわ」
リフィルの提案。
「え?」
「意識を取り戻したこの男たちが、この中でいえば、そうね。
武器をもっていないコレット、もしくはジーニアスを人質にしかねないわ。こういうことは念には念をいれないと」
いいつつも、荷物の中から縄を数本、とりだしているリフィル。
それにおもわずひいてしまう。
「あ、あの?リフィルさん?なんで縄なんてもってるんですか?」
思わず問いかけるエミルは間違っていない。
絶対に。
「あら?旅の必需品、でしょ?」
「は…はぁ」
たしかに必需品、かもしれないが。
「…ねえ、ロイド、リフィルさん、なんか人を縛るの…てなれてない?」
何やらものすごい手際で、彼らの手を後ろにまわし、その手を縄でしばりつけ、
さらにとどめ、とばかりに近くの樹にむすびつけているのはこれいかに。
「え?あ、まあ、先生だし」
ロイドがなぜか目をそらしていってくる。
エミルは知らない。
イセリアにて、あまりにいうことをきかなかったロイドやジーニアスが、
よくお仕置き、という名目でときどき同じようなことをされたことがある、ということを。
そして、イセリアでは、あら、またリフィル先生の『みのむし』をうけるようなことをしでかしたのね。
というような村人の認識であった、ということを。
みればジーニアスもどこか目をそらし、遠い目をしているのがみてとれる。
「??」
何があったというのだろうか。
思わず首をかしげてしまう。
「さて、これでいいでしょう」
男たち四名を樹にもののみごとにくくりつけ、リフィルが満足そうにいってくる。
そのとき、樹につるそうとしていたリフィルに、コレットが先生、それはかわいそうです。
といって止めていたようではあるが。
結局、ただ樹にくくりつけているだけ、にとどまっているっぽい。
というかああいう自分勝手な人間達は、樹につるしたあげく、放置していても何の問題もない、
とエミルからしてみればつくづくおもってしまうのだが。
「それじゃ、いくよ。スプラッシュ!」
ジーニアスの言葉ととにも、彼らの真下から水が噴き上げる。
勢いよく、水の勢いでうきあがり、そのまま、再びどすん、と地面に着地している男たち。
「「「「な、なんだ!?」」」」
どうやらものの見事に同時に声を重ねていることから、意識を取り戻したらしい。
「さてと。あなた達には聞きたいことがあるわ?」
リフィルがいうと、男たちは逃げよう、としたのであろう。
だが、自分達の現状が、手を後ろにまわされ、縛られていることに今さらながらに理解する。
「あなた達は、さっき、牧場云々、といっていたわね?しかも子供達を連れていく、とか。
そのあたりのことを詳しく聞かせてもらいましょうか?」
リフィルのといに、
「誰がいうか!」
「く。みたところ大人の男が一人のひ弱な旅人じゃなかったのか!?」
「誰だよ。子供が四人、しかも大人は男女しかいないのだから簡単にまるめこめるから、
こいつらのもとにいこうといったやつは!」
何やら口ぐちにそんなことをいっている男たち。
ちなみに、一番始めの言葉以外は、どうやら心の声を表にだしている結果、らしい。
「どうやら素直にいわないようね。なら、やりようはあるわ」
いいつつ、ちらり、とクラトスに視線をむければ、クラトスがわかった、
とばかりに、剣にちゃきっと手をあてる。
「ひっ!!」
悲鳴のもののようなものをあげたのち、
「お、俺達はわるくねぇ!」
「そうだそうだ!そもそも、これはドア総督も許可済みなんだぞ!」
「子供一人につき、金塊一つ、ディザイアンとも話しをつけているからって!」
ドア。
その言葉をきき、ロイド達の表情が曇る。
パルマコスタのドアがディザイアンと通じていたことをロイド達は知っている。
だからこそ表情を曇らせざるをえない。
「旅業の一行を上手にだまして全員つれていけばさらに報酬ははずんでくれるしな」
「パルマコスタのやつらも馬鹿なやつらだよな。ドア総督がディザイアンとつるんでる。
なんて夢にもおもっちゃいねぇ。だから俺達はもうけられるんだけどな」
そういったのちに、はっとした表情になっていることから、どうやらまたまた心でおもっていた、らしい。
「あいつ…どこまで町の人を裏切っていたんだ!?」
ロイドの何ともいえない憤り。
「そんな……まさか、これまでにも旅業に出た人が、ディザイアン達…に?」
コレットの悲しそうな声。
「…本当に、これだからヒトは……」
エミルが思わずいってしまうのは仕方ない。
絶対に。
「そうね。悲しいけど、どうやら真実、のようね。では、次にきくわ。その人達はどうしたの?いわないのなら、そうね。
嫌でもきかせてもらうわ。飴とムチ、という言葉を御存じかしら?」
リフィルがにこやかに、笑みをうかべていっているが。
その背後でクラトスが剣の柄にいまだに手をかけている。
おそらく、人はこの言葉でこう認識する、であろう。
杖をもっている、ということからおそらく女性は術者。
回復術を旅をしている、ということは使えるかもしれない。
ならば、傷をつけては、回復し、という拷問も辞さない、と。
そしてどうやらその考えはものの見事に彼らの思いと一致、したらしい。
ざっと顔色をかえ、
「冗談じゃねえ!傷つけられては回復され、なんて拷問はまっぴらだ!」
「俺達は詳しくはしらねえ!ただ、パルマコスタの牧場につれていけばいつも資金はもらえてた!」
何やらそんなことを命がおしいがゆえかいってくる男たち。
「で、あの卵は?」
エミルの問いはひどく冷めたもの。
「あれの使い道はしらねえよ。ただ、魔物の…特に擦りこみができるような魔物の卵は特に高額でかいとってくれるんだよ」
「その点、あの魔物達は人を襲うことがないから卵を奪いにいったのに」
「まさか、追いかけてくるとは想定外もいいとこだ」
我が身かわいさか、ぽろぽろとそんな現状をいってくる。
本当に、これだからヒトは、とつくづくおもってしまう。
「残念だったね。もう、パルマコスタの牧場はないよ?」
そんな彼らに冷めた口調でジーニアスが何やらいっているが。
「そんなわけないだろ。あんたたちこそ何いってるんだよ」
冷めたような男のうちの一人の口調。
「事実だぜ。ついでにもうパルマコスタにドアもいないぜ?
さっき俺達は牧場跡地にいってみたけど、もうそこに施設の痕跡はのこっちゃいなかった」
「ロイド!?」
「ええ!?ロイドが痕跡なんて難しい台詞をいえるなんて!?」
「…ああ、本当に急いだほうがいいかもしれないわ。嵐になるかもしれないわ」
ロイドの台詞に驚愕したような声をあげているジーニアス。
そしてそれに続いてそんなことをいっているリフィル。
…そういえば、と思いだす。
このころのロイドはまだ九九すらもいえなかったとかジーニアスがかつていっていたような気がする。
それをおもえば彼らの反応もわかる…のかもしれない。
が、何ともいえない気持ちになってしまうのは仕方がない。
絶対に。
「本当ですよ~?もう、パルマコスタの人間牧場はないんです。だから、あなた達ももうそんな悪いことをしないでください。
あなた達の心の中にもいるでしょう?良心、という神様は。
これからは、人々が手をとりあい助け合っていくべきなんです。世界再生は絶対になしとげますから」
コレットがそんな男たちの前にたち、手をくみつつそんなことをいっているが。
「はん。世界再生、ってこの前のときも失敗したじゃないか」
「どうせ今回も失敗するさ」
この前の神子は、それはコレットの祖母であるファイドラの姉。
そして、クラトスはその光景を知っている。
心を失っていたにもかかわらず、ハーフエルフの子をかばい、命をおとした彼女のことを。
その光景はマーテルと重なった。
にもかかわらず、ミトスはそのことに何とも思いを抱かなかった。
あのとき、もうミトスはかつてのミトスではない、とクラトスは思い知ったといってよい。
だからこそ、クルシスを出た。
クラトスにとってかつての記憶。
エミルはその当時のことを知らない。
過去のことを視ようとおもえば、世界に刻まれた記憶を読み取ればそれは可能なれど。
そこまでエミル…ラタトスクはしていない。
「そんなことありません。絶対に成功させます、から。…先生、彼らの縄をほどいてあげてください」
「けど、コレット…」
「お願いします。彼らも牧場がない、とわかればきっと必ず悔いあらためてくれます」
コレットの台詞は人を信じているがゆえ。
しかし、世の中そうでない人間もいる。
コレットの懇願をうけ、ため息ひとつ。
「…仕方ないわね。この旅の決定権はコレットにあるのだもの。クラトス」
「…いいのか?」
「コレットがそういうのだから。私たちの役目は、何?」
「…それは……」
こういう男たちに神子、という言葉はきかせられない。
特に、マグニスがいっていたように、神子が天からみはなされた。
と牧場主達に連絡がいっているのであればなおさらに。
だからこそ、神子の護衛、という言葉は口にはせず。
「わかった」
いいつつも、ぶつり、と一閃のもと、男たちの縄をたちきるクラトス。
「かならず世界は再生します。ですからもう悪いことはしないでくださいね?」
拘束からとかれ、手をさすっている男たちにコレットが語りかけるが、
「あんたたちは優しいんだな。二度とこんなことはしないさ」
縛られていた手をさすりながらも、そんなことをいってくる。
が。
「馬鹿なやつら。こんなおいしいこと、やめるわけがないだろうに。
バルマコスタ牧場がだめなら、他の牧場にいくだけさ。
何、ハーフエルフ達はすこし下手にでればあっさりとこちらのおもうがままだしな」
口でそういいつつも、さらに続いてそんなことをいってくる。
さきほど、エミルが本質的に彼らに命じている理はいまだに健在。
すなわち”心の声を口にしろ”という絶対てきなる命は。
彼らの体もマナでできているもの。
ゆえに、マナを司る王の命は絶対。
器そのものがその命を履き違えることはない。
そこにその当事者の意思は関係なく。
「おまえら……」
ロイドがそんな彼らに思わず文句をいいかけるが。
「ちっ。おまえら、にげるぞ!」
なぜか心におもったことが口にでている以上、自分達の不利、と悟ったのであろう。
そのまま、コレットが自分達を許す、といったことをうけ、
ロイド達が油断しているのをいいことに、そのまま、いきなり走り出す男たち。
「あ、まて!」
ロイドがいうが。
すでに男たちは脱兎のごとくに走り出し、木々の間に姿を消している。
「どうして、あの人達、あんなことをいうの?」
コレットは彼らの思いが理解できない。
「どうやら、あの彼らは思ったままを口に出すようになってるみたいだけど……」
エミルが何かいっていた、歌のような何か、が関係しているのか。
それとも、魔物達の卵を奪ったがゆえに魔物達によって何らかの術をうけたのか。
リフィルが思案を初めているのがみてとれる。
「世の中、いくらでも表面上を取り繕うひとがいるってことだよ。コレットたちもだまされちゃだめだよ?
ヒトなんて常にその身の中に、いつなんどき悪意をもって接してくるかわからないんだから」
そのときに悪意がなくても、人は簡単に堕ちてしまう。
自らの心の闇に呑みこまれてしまう。
あのミトスはそうではない、とあのとき、信じた、なのに……
だからこそのエミルの言葉。
その言葉には実感がこもっている。
「でも、それだと、常に誰かを疑うことになるじゃないか。というか、エミルは何だってそんなことをいうんだよ?」
不満そうなロイドの台詞。
「……ロイドは誰かに裏切られたこととかはないの?
ジーニアスやリフィルさん達はその表情からして理解してるっぽいけど。
パルマコスタでドアととかいう人にロイドがいった台詞はならどうして?」
ジーニアスもリフィルも嫌というほどにヒトが裏切る、ということは身にしみてわかっている。
ハーフエルフだ、とわかっただけでヒトは彼らを常に排除しようとしてきた。
今いるイセリアでもハーフエルフとわかれば間違いなく追い出されるであろう。
だからこそ、エルフと偽っているに過ぎない。
もっとも、エミルはそこまで詳しいわけではないが、しかし二人の表情から何となく理解くらいはできる。
そもそも、昔から、人は、あるときをさいきにして、自分達と違うものを受け入れる努力を放棄し、
あげくは排除しようとしていた、のだから。
かつてのときは、それらの概念も薄れたころに、とあるまた愚かなものたちが、
そのきっかけを創りだしてしまった。
それまではそれぞれの種族がいろいろと思うところがあったではあろうが、共存していきていた、というのに。
エルフ達から一部のものには、差別感情、というものがふたたび芽生えていたのもまた事実。
どうやらエミルの言葉に思うところがあったのだろう。
エミルにいわれ、ロイドも自分がドアに何といったのか思いだした、のであろう。
何ともいえない表情をしているのがみてとれる。
「…お前は、誰かに裏切られたことがあるのか?」
クラトスが何やらそんなことをいってくる。
というか裏切っている当事者が何をいう、とかなりいいたいが。
「そうなのか?エミル?」
ロイドも気になるらしくといかけてくる。
そんな彼らに曖昧にほほ笑んだのち、
「なんか、昼ご飯の話しをするまえにちょこっと騒動になっちゃいましたけど。どうします?このままこの先で一度休憩します?」
この先にちょっとした川がある。
休憩するなら川の近くがうってつけ、といえるであろう。
そんなエミルの言葉に呼応するかのごとく、
ぐ~~~~
「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」
盛大に何かの音が鳴り響く。
その音の主に思わず無言で視線をむけている、ジーニアス、リフィル、クラトスの三人。
「わ、わるかったな!でも、腹へってんだからしょうがないだろ!」
ロイドが何やら反論してきているようではあるが。
エミルにまだ聞きたいことは山とある。
というか、先ほど、あきらかに、魔物達はエミルのいうことをきいていた。
「…エミル、あとで聞かせてもらうわよ?」
「?」
リフィルが何をききたいのか、エミルはよくわからない。
「そういえばもうお昼なんだね~」
コレットがのほほんといい、
「近くに川があるみたいだから、そこで休憩する?」
そんな彼らにと提案する。
「え?エミル、わかるの?」
「え?だって、水の臭いがするでしょ?」
「そりゃ、水のマナの気配はするけど…臭いって……」
エミルの言葉にジーニアスが戸惑い気味にといってくる。
たしかに水のマナが強くなっている方向はわかる。
わかるが、普通のひと…さっきのあれをみて、普通?というのが何か疑問を抱かざるをえないが。
しかし、エミルから感じるマナは人のそれ。
自分達のようなハーフエルフのものではない。
だからおそらく、人、なのではあろうが。
というか、魔物が素直に普通の人間のいうことをきくのか?という疑問はある。
そもそも、精霊達やセンチュリオン達ですら気がつかれなかった気配を、
ジーニアス達、すなわちハーフエルフやエルフ達が気づく、というほうが無理というもの。
「そういえば、エミルって、魔物さんとお話しできるの?すごいね~?」
コレットが場の空気を読まず、そんなことをいってくる。
「そう?あの子達はわかりやすいよ?一緒にすごしてたらすぐに理解できるよ?」
というかあれほどわかりやすい子達はいないとおもうのに。
彼らは基本的には本能に忠実。
なのに人はそれらのことにも目を耳をふさいでいる。
「……そういう、ことね。は~……」
きょとん、というエミルの言葉に、リフィルはとある事例を思い出す。
それは、ヒトの子を魔物が育てた実例をあげた書物の存在。
実際にこれまで、幾度かそのような実例があった、らしい。
もしも目の前にいるこのエミル、という少年がその実例の一つ、ならば、
魔物達に対して警戒を全くしていない、というのが理解できる。
できてしまう。
エミルは嘘はいっていない。
一緒に過ごしていれば、すくなからず、いきとしいけるものの心を知ろうとおもえば、
知ることができるようにしているのはまた事実。
ただ、人はその声に耳をふさいでいるだけ。
一緒に過ごす、という言葉でリフィルはエミルが魔物に育てられたかもしれない、
という可能性を思いついただけで、エミルがそういったわけではない。
「まあ、いろいろとあったのは事実ね。仕方ないわ。今日のお昼は私が手によりをかけてつくるわ」
「「「え?」」」
リフィルの言葉に、ロイド、ジーニアス、そしてエミルの声が重なる。
リフィルの料理…死にそうなったことを思い出す。
それはかつての記憶。
というか料理を食べただけで意識が飛びそうになる、というのはこれいかに。
「あ、あの。リフィルさん、あの、僕がつくっちゃだめですか?」
「あら?どうしてかしら?私の手料理、ぜひエミルにも食べてほしいのだけど」
それは全力で否定したい。
が、当然、リフィル達はエミルが彼女の料理の腕を知っている、などとは知るよしもない。
すばやく思考を巡らせる。
そして、
「あ、あの。その、僕本当は料理が趣味、なんですけど。
その…誰かに、ヒトに食べてもらう、という機会がほんとうになくて…
その、感想とかもらえたらうれしい、とか、その……」
料理が趣味、というのは本当。
ディセンダーとしてふるまっていたときについた趣味といってよい。
顔を伏せ、そう小さくつぶやくようにいうエミルの台詞にはっとするリフィル。
さきほどエミルがいっていた言葉を反復するとなれば、
というかリフィルはエミルが魔物に育てられたのではないか、と先ほどの台詞にて予測をつけている。
「エミルって料理が好きなの?」
「というか、僕がつくっても、その、皆友達達は本音をなかなかいってくれてないとおもうんだよね」
仮にも彼らにとっては王がつくった品物。
まずい、なんて絶対にいえるはずがない、それゆえの台詞。
まあ、きちんと味見をしているのでそれはない、とはおもう…のだが。
「エミルの友達って?」
「あ、うん。魔物達なんだけど。あの子達、その遠慮する、というかその……」
コレットのといかけにエミルが小さく思わずつぶやく。
その台詞に思わず顔をみあわせているリフィルとクラトス。
「それにその…誰かと一緒にたべる、ということを、その…したことがなくて。その……」
かつてはあったが、この時間軸の惑星上においてはまったくなかったので嘘ではない。
「ぼ、僕、エミルの料理たべてみたい!ね。ロイド!」
「お、おう!エミルの手料理か。ここはエミルにまかせようぜ、な、先生!」
ここぞとばかりにジーニアスとロイドが賛成の意を示す。
「ふむ。ならば、手分けして薪などを集めつつ移動したほうがいいだろう。
ちょうどここは森でもあるしな。広いつついけば手ごろな量になるだろう」
クラトスもどうやら反対する気はまったくない、らしい。
そもそも、以前リフィルの料理をたべたとき、意識して味覚を閉じなければ食べられたものではなかった。
それゆえのクラトスの台詞。
「仕方ないわ。なら今回はエミルにお願いしましょう」
どうやらあきらめたらしいリフィルの台詞に、あからさまにほっと胸をなでおろしているロイドとジーニアス。
みれば、クラトスすらほっとした表情を浮かべているのがみてとれる。
どうやらクラトスもリフィルの料理の腕は知っている、らしいとその表情でエミルは確信する。
「あ、ありがとうございます。僕、がんばってつくりますね!」
人のために料理をつくる、なんて本当に久しぶり、だとおもう。
それこそかつての時間軸においても、マルタと、そしてロイド達と旅をしていたあの短い期間のみ。
その時間だけであった。
ごくごくたま~に気がむき、ギンヌンガ・ガップの中で料理をつくり、
センチュリオン達や魔物達にふるまってはいたが。
人に食べさせた記憶はアレ以後まったくない、といってよい。
そして、この時間軸のこの惑星上においては、一度もなかった、といってよい。
「そうときまれば、薪をあつめたほうがいいだろう。少しでも手間がはぶけるからな」
「よっしゃ!ジーニアス、薪あつめ、どっちが多くあつめられるか競争だ!」
「まけないよ!」
「遠くにいくのではないわよ~!」
リフィルが駆けだした二人に注意を促しているが。
どうやら、自分が料理をしたい、といった台詞は疑われてはいないらしい。
そのことにほっとする。
まあ、センチュリオン達がいれば、そういえば、ラタトスク様の地上での趣味ってそうでしたよね。
と間違いなく思いだしていってくるであろう。
約一名ほど、久しぶりにラタトスク様の料理がたべたいです!
といいだすセンチュリオンがいるような気がひしひしとするにはするが。
そういえば、と思う。
アクアは今があれから四千年たっている、と気づいていたようではあるが。
だとすれば、彼らとの約束、一年期間、さらには彗星が接近するまで。
という約束が果たされていない、ということにも気づいているはず。
だとすれば、アクアは彼らが裏切った、ということにも気づいた、であろう。
アクアはマーテルと仲がよかった。
おそらく、情報を必至になって集めた、というのもそのあたりもあってのことだ。
とは何となく理解できてしまう。
どうもあの子は自分の中にため込む傾向があるがゆえに気にはなってしまう。
もっとも、それらをみこして、毎度、毎度、テネブラエがちょっかいをかけ、
アクアの気を紛れさせていることを、ラタトスクは知っている。
最も、その行動をうけて、アクアはテネブラエを常に陰険、とよんでいたりするのだが。
それこそもう、永き時にわたり、かつての惑星、否、それよりも前からも。
おそらくあの二人の関係は変わらないような気もしなくもないが、
まあ本格的に嫌いあっているのではない、とわかっているのでとりあえず放置しているこの現状。
そもそも、アクアが落ち込みかけているときによりちょっかいをかけているがゆえに、
もはやもう周知の事実、といってよい。
アクアもそれに気づいているのではあるが、どうやらテネブラエに対しては、素直にお礼をいう、という気持ちにならないらしい。
…まあ、あれだけからかっていれば気持ちはわからなくもないのだが。
「さて。エミル。いろいろと話しをきかせてもらうわよ?
そもそもさっきのあれは何!?というか、あなた、何をいったの?」
ロイドとジーニアスが薪集めに一行から少し離れている今現在。
ここぞとばかりにリフィルが問いかけてくる。
「え?さっきの、とは何でしょうか?」
「何って……あなた、自分が何をしたのかわかってるのかしら?」
「え?ただ、彼らをよんだだけですけど?」
ついでにその前は心の声を彼ら限定で口にするようにさせただけ。
彼らの体を構成しているマナそのものにそのような理を少しばかりのせたのみ。
「魔物を呼び出す、というのは聞いたことすらない」
否、クラトスはそれができる存在をしっている。
センチュリオン、とよばれし、精霊ラタトスクの僕(しもべ)たる存在たち。
魔物はセンチュリオン達の
「?あの子達は素直ですから、呼べば必ずこたえてくれますよ?」
もっともそれはラタトスクやセンチュリオン限定、ではあるのだが。
誰でも、といっていないがゆえに嘘ではない。
「…あなたの育った環境がはてしなく気になるわ……」
どうやらエミルは先ほどの自分の行動に対し、何の疑問も抱いていないらしい。
きょとん、としている様子から、何をいわれているのか、と思っているのがみてとれる。
それゆえに、リフィルは盛大にため息をつかざるをえない。
おそらくこの調子では、いろいろときいても、エミルはきちんと答えることすらできないであろう。
どうやら彼の中ではそれがあたりまえ、として確定しているらしい。
そのことに嫌でも気づいてしまう。
そして、ふと思い出す。
先ほどエミルがいっていた台詞。
なぜか、人が怖がる、という台詞。
「……エミル。一つきくけど、あなたが空を移動するときに呼ぶのは、魔物なの?」
「え?そうですけど?」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
さらり、と肯定され、おもわずこめかみに手をあてうなるリフィル。
クラトスにしても腕をくみ珍しく黙り込んでいたりする。
先ほど、エミルは料理をヒトに食べてもらう機会がないようなことをいっていた。
裏をかえせば、彼の周りには人間がいなかった、ということも考えられる。
そもそも、魔物を友達、といっているあたりから、その可能性がはるかに高い。
「……よくいままで無事だったわね。この子」
思わずぽつり、とつぶやくリフィルの心情は様々な思いがうずまいている。
まあ、無事、ではないのかもしれないが。
さきほどエミルがみせたあの何ともいえない表情。
クラトスにお前は裏切られたことがあるのか、と聞かれたときにエミルが浮かべて笑み。
それは何ともいえない笑みであった。
心から笑っているという笑みでなく、どうしようもない、というようなそんな笑み。
「あ、川がみえてきましたね」
そんな会話をしている最中、視界の先に、さらさらと流れている小さな小川がみえてくる。
「川かぁ。そういえば、前、ロイドの家にいったとき、ロイドの家の前の川におちたことが私あるんだよ~」
「そうなの?」
川、という単語に反応し、そんなことをいってくるコレット。
「うん。そのときね。川の水がすこしおおくてね。
わたし、こうどんぶらこ~、どんぶらこ~、って、そのまま川にながされてってたの。
ノイシュが助けてくれたんだ~。あのまま流されてたら、私、桃太郎になったのかなぁ?」
・・・・・・・・・・・・あれか。
あのとき、テネブラエがノイシュと会話していた内容を思い出す。
あのときの自分は理解できなかったが、自分のことを思い出して、
そのときのことを思い返したのち、彼らがどんな会話をしていたのかを理解した。
「桃太郎のお伽噺はたしか、桃の中から生まれた、でしょ?そのとき、コレットは桃もってたの?」
「ううん。もってたのは、お茶碗~」
「なら、一寸法師にちかくなるんじゃないの?」
「あ。そっか、あ、でもあのお話しの子って男の子」
「それをいうなら、桃太郎もだよ?」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」
なぜかエミルとコレットがそんな会話をしていると、
リフィルとクラトスは、何ともいえない表情をし、二人をみわたし、なぜか盛大にため息をついていたりする。
「…この子も、コレットに負けずおとらずの天然みたいだわ……」
リフィルがつぶやき。
「…とりあえず、昼の支度をしよう。私は念の為、周囲をみまわってくる」
「なら、ちょうどあの場所が開けていいみたいだから、ロイド達をみつけたらここに集合するようにいってちょうだい」
「わかった」
そういいつつも、この場をあとにしてゆくクラトスの姿。
キュ~ン……
その姿をみて、ノイシュが不安そうな声をあげているが。
「え?ノイシュ?ああ、…君が気にしなくても大丈夫。…たぶん、ね」
きゅ~ん、きゅ~ん。
『全ては、彼らの心のうちを問いただした後から決定を下してでも遅くはない』
ノイシュが心配しているのは、目の前の王がうらぎっているクラトス達をどうするのか。
というのもある。
ノイシュとて”王”に初めてこの惑星上にて産みだされた子供。
ゆえに、その気配には敏感。
特に近くにセンチュリオンの気配があり、またその名を呼んでいたのだからなおさらに。
「?エミル?」
不思議な旋律のような何かをエミルが再びつぶやいたのをうけ、コレットが首をかしげる。
「何でもない。それより、容易をするのにかまどを簡単にでもつくらないと」
「かまどかぁ。かまどってつくれるの?」
「岩などを利用して簡単につくれるんだよ?コレットはしらないの?」
「あ、うん。やったことなくて……」
「なら、一緒につくる?創り方はおしえるし」
「うん!あ、えっと……」
「私はここで周囲を見張っていますから。あなたは好きなようにしなさい。コレット。やってみたいのでしょう?」
ずっと、村からでることすら許されなかったコレットにとって、
おそらく自然のもので簡易的なかまどをつくる、というのは初めての経験であろう。
それゆえのリフィルの台詞。
「はい。ありがとうございます!リフィル先生!エミル、やりかたおしえて~!」
いいつつも、エミルがむかっていった川の傍にとかけてゆく。
そんなコレットの姿をみつつ、ふと涙腺が緩くなってしまう。
この旅の終わりには、コレットはその命を落としてしまう。
人としての思い出をつくっていくのがいいことなのか、それとも、
何もしらないままその命を終えたほうがいいのか。
だけど、コレットが命をおとさなければ、このシルヴァラントは滅ぶ。
それこそディザイアン達がマナをすいつくし。
そう思うと何ともいえない気持ちになってしまう。
リフィルは、否、このシルヴァラントにいる誰もがしらない。
クルシスに所属している存在達以外は。
その考えこそが、クルシスより、偽りの真実を押し付けられている、ということを。
「かまどってどうつくるの?」
「ここは大小の石があるから、石組みのかまどでいいとおもうよ?
とりあえず、コレット、石でかまどをつくる方法はしらないんだよね?」
「うん」
ちらり、とみれば少し離れた場所でリフィルがこちらをみているのがみてとれる。
どうやら周囲を少し離れた場所、といってもすぐに対応できる距離内で監視しているらしい。
「まず、代表的な組み方の一つをいうね。まずは、囲いの一部を崩して組む方法」
いいつつも、てごろな小さな石で簡単にと説明する。
本来は、コの字組、とよばれているものなれど、彼らが使用している原語にコ、という言葉はない。
「この石のかまどは、一つの鍋とかを熱するのに効率がいいんだよ。
大きめな石を六個から十個くらい用意して、その中にそうだね、えっと、親指と人差し指を、こうやってみて」
いいつつも、手の形を三角の形にする。
「えっと、こう?」
「うん。で、それをだいたい親指から人差し指の間までのこの距離ね。
これが四つ分とすこしくらい隙間があくように石をくんでいくんだよ。
そうだね、コレットもやってみる?石の大きさは…これくらいがちょうどだね」
いいつつも、その場にあるちょうどいいくらいの大きさの石を手にとり、
コレットに指し示す。
「僕は、こっちでもう一つの方法のかまど、こっちはいくつもの鍋をかけるのに便利な方法なんだけど。
それをやりつつコレットのもみてるから、コレットは石をまずさがしてきて。どっちにしろ石は必要だから」
「うん。わかった、おもしろそ~」
どうやらコレットは石を探す、というのが面白そうだ、とおもったらしい。
まあ、面白い形の石などもあるがゆえに脱線するとも限らない。
というか、あのマーテルもたしかよく脱線し、
いつのまにかミトスとともに、かわった石をさがすのに夢中になり、
クラトス達があきれていたかつての彼らの旅路。
そのことを思い出し、まああまりアテにはできないか、とすぐさまに思考を切り替える。
そして。
「手伝ってもらったほうが、はやい。か」
そういいつつも、すっと目をとじ、そして言葉をつむぎだす。
pixv投稿日:2014年1月5日某日(Hp編集:2018年4月22日(日)
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あとがきもどき:
編集の関係で、タグとかやり直してたりするんですけど…やはり面倒といえば面倒ですね。
いや、メモ帳にはpiさんようにタグもそのままのっけて打ち込みしてるんですよ。
そのせいでhP用のタグとそっちのタグの差があましてね…