まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

pivixさんに投稿していた話の区切りとは変えてあります。容量的に……

今回は、サイバックイベントが主です。piさんの投稿分的には36のあたりです。

########################################

重なり合う協奏曲~学園都市サイバック~

グランテセアラブリッジ、とよばれている端は、大陸同士をつなぐ端。
レザレノ・カンパニー、という会社がつくった、というその橋は、
さまざまな物流のかなめになっていた…とかつてカンパニー本社できいた記憶がある。
あのときはすでにあの橋は壊れていた、のだが。
おそらくは、あの救いの塔が崩れるのと、それと世界の統合。
その余波でかの橋は崩れてしまったのであろうと予測はつくが。
「ぷ、プレセアってオゼットってところに住んでるんだ」
ジーニアスが真赤になりつつも、プレセアにどこに住んでいるのか。
としつこく問いかけ、戻ってきた答えがオゼット、という台詞。
「オゼット…なんかどっかできいたような…わかった!」
ぽん、とロイドがそんな二人の会話をききつつ手をたたき、
「オゼットとコレットって似てるから聞いたような気がするんだ!」
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
きっぱりといいきるロイドの台詞に、思わずロイドに視線が集中する。
ぼかっ。
「ってぇ!いきなり何すんだよ!先生!」
「馬鹿なことをいってるんじゃありません。まったく」
はぁ、とその手に息をふきかけて、おもいっきりロイドを叩いているリフィルの姿がみてとれる。
そんなロイドを呆れたようにみているジーニアス。
一方で、
「…なあ。しいな、シルヴァラントの人間って皆こう、なのか?」
「あはは…このロイドは特別だよ…きっと、多分…うん」
しいなからしても何ともいえない。
ロイドを基準にしたらシルヴァラントの皆が不幸になるような気がする。
それは勘。
それゆえにしいなもまた乾いた笑いをあげるしかない。
「ってて…おお、すげ~!でっけえ橋だなぁ!」
頭を抱えつつも、文句をいっていたかとおもうと、ばっとその顔をあげ、いきなりそんなことをいいだすロイド。
目の前には見あげるほどに巨大な橋が海にとかかっている。
目の前にある橋を目にし、ロイドが思わず興奮したようにいっているが。
先ほど注意をうけたことはどうやらすっかりともはや忘れてしまっているらしい。
一度、ゼロスの屋敷にともどり、ノイシュと合流し、それから簡単な旅の支度を整え、
やってきたここ、グランテセアラブリッジの入口。
青く澄んだ海水が美しく、その建造物を海面に映し出している。
波もさほど高くなく穏やかで、ところどころ海面に渦がまいているのがみてとれるが。
橋は海と空の間にひかれた白い線のごとくにそこに存在していたりする。
こういう品物をヒトがうみだすのは問題はないが、これらが発展していったその先に、
かつてのような空中要塞といったような殺戮兵器をかねたものすらヒトは生み出してしまう。
もっとも、マナと切り離した世界においても人は科学というものを産みだし、
にたようなものをつくりだしてしまっていたが。
どちらにしても、ヒトが行き着くところは皆同じ、ということ、なのだろう。
マナを主体にしていなくても、元素を主体としていたとしても。
自らの首をしめる行動をヒトは行っているのだから。
エミルが橋をみつつそんなことを思っていると、
「ふっふっふ。聞いて驚け。田舎者。こいつはフウジ大陸とアルタミラ大陸をつなぐ世界一のはね橋だ。
  制御に三千個のエクスフィアが使われてるんだぜ」
立ち止まり、腰に手をあて上機嫌にいってくる。
「…三千個……」
その台詞にジーニアスがぽつり、とつぶやき、
「え?それって…じゃあ……」
エクスフィアがどのようにして作られているのか。
マルタもまたリフィル達から聞かされて知っているがゆえに言葉につまる。
あのとき、マルタはまだ一緒にいなかった。
マルタが彼らとともに移動はじめたのは、リフィル達がアイフリードの船でパルマコスタに出向いてから後。
つまりは、アスカード人間牧場を壊滅させた後であったがゆえに、
あの光景をマルタはまのあたりにはしていない。
「三千人分の…命、か」
ロイドがつぶやき、リフィルは橋の両脇にとある制御装置らしきものと、
そしてそれらを管理しているらしき施設に目をやり思わず目を伏せる。
シルヴァラントで人の命を犠牲にして作られた命。
その命がここで三千分も使用されている。
つまり、三千ほどの人間がエクスフィアによって殺された、ということに他ならない。
「なんだ、なんだ?四人とも暗い顔をしてさ」
てっきりすごい、とかいわれる、とおもったのに。
ゼロスが不満そうに、リフィル、マルタ、ジーニアス、ロイドをみながらいってくる。
「それに、しいなまで何だっていうんだ?」
みればしいなまでうつむいているのがゼロスには理解不能。
「そうね…あなたもエクスフィアをつけているのだもの。無関係ではないわ。話しておくべき、でしょうね」
知らないことは無知。
事実、リフィルとて便利な道具、としてしか認識していなかった。
「私たちが、シルヴァラントで……」
リフィルから語られるのは、アスカード牧場、とよばれる地で知った事実。
そして、エクスフィアを装備されたものはどうなるのか。
要の紋がない状態の人間の行き着く先。
そして、マナを狂わされ異形の見た目化け物に成り果てる、というその事実。
シルヴァラントにある人間牧場、とよばれている地は、
人の命を苗床にしたエクスフィアの製造工場なのだ、と。
そういえば、とおもう。
パルマコスタ牧場にしろ、アスカード牧場にしろ。
かの地から救出された人々の体にはなぜかエクスフィアはなかった。
救出された人々がいうには、魔物に体を切り裂かれ、きづいたらなくなっていた。
そんなことをいっていたような気もしなくもないが。
だとすれば、魔物達の中にはマナを狂わさせず問題なく、
寄生させられたエクスフィアを取り除くことができるものがいる、ということ。
ふと、エミルをちらり、とみつつリフィルがゼロスに説明する。
魔物、で連想するのはやはりエミルのこと。
あのときですら…そう、エミルと行動することになったあのとき。
助けだした人々が口ぐちに魔物が、といっていた。
エミルが施設に入るまえにそんなことがあった、というのが都合がよすぎるように思える。
まさか、とはおもうが、先発隊、として魔物達に施設に潜入させたのでは。
エミルが魔物に対し、いうことを聞かせられるのはこれまでの旅で実証済み。
どちらかといえば魔物達のほうが率先してエミルを手伝っているように見受けられた。
おそらく、エミルにそれをきいてもエミルは答えない、であろう。
何しろあのとき、リフィル達とともに、エミルはまちがいなく、施設内にはいった、のだから。
「・・・・・・・ハードな話しだな、それ、マジもんなのか?」
リフィルの話しをきくうちに、ゼロスの表情もだんだんと険しいものにとなってゆく。
そして自らの胸元につけているエクスフィアにと目をおとす。
まるで、そこにいる精神体…彼らはまだその内部に精神体が閉じ込められる。
ということまではおそらく知らない、であろうが。
そっと片手をエクスフィアを装備している胸にあてつつ、まじめな顔で問い返す。
そんなゼロスに対し、
「こんな嘘、つくかよ。俺だって嘘であってほしい、けど……」
強い口調で否定し、その後はロイドもまた顔をふせる。
ロイドの脳裏によぎったのは、自らが殺すきっかけとなってしまったマーブルの最後。
同じように異形とかせられたドア夫人を化け物、と呼んでしまった自分。
ジーニアスも同じことを思い出したのか顔を伏せていたりする。

しいなも顔を伏せていることから、おそらくは、しいなもその現場を目の当たりにしたのだろう。
そのことに思い当たり、かるくため息をつく。
こいつは、以前のトラウマが刺激されちまって、それでこいつらに肩入れってところか。
しいなの事情をしっているがゆえ、ゼロスもそのことに思い当たる。
たしかにそんなことを知ってしまえば、
かつて自分のせいでみずほの里の民を殺してしまった、と自責の念に囚われているしいななら、
まちがいなく感情移入してしまうであろう。
それが忍び、として間違っていようとも。
顔をそれぞれふせている、
ロイド、ジーニアス、リフィル、マルタ、しいなをざっとみつつ、軽くため息ひとつ。
「…こんな空気、俺様の柄じゃいが…しゃあないか」
ぽつり、と小さくつぶやき、その呟きに気付いたのはどうやらエミルのみらしいが。
やがて、ぽん、とかるく手をうち、
「まあ、そうはいっても、今さら死んだ人が生き返るわけでなし。
  人間、前向きにいかなきゃねぇ。前向きに、前向きにっと」
あっけらかん、とまるで気にしていないかのごとくに振る舞いそういうゼロスの台詞に、
「前向きなのか軽薄なのかわからないわね。あなた」
リフィルが呆れたようにそんなゼロスにいっているが。
「まあ、こいつはねぇ」
わざと道化をふるまうことが多々とあるのをしっているがゆえ、しいなからしても何ともいえない。
どこまでが本気でどこまでが冗談なのか。
長いつきあいであるしいなとて、いまだによくわかっていない、のだから。
「そういえば、お前やプレセアもエクスフィアを装備してるけど。
  しいなの話しじゃそんな感じじゃなかったけど、こっちじゃ一般的なのか?」
どうやら気になっていたらしい。
そんなロイドの問いかけに、
「いんや。こいつはレネゲードってやつらからもらったんだ」
「「レネゲードから!?」」
驚愕の叫びはロイドとジーニアス、ほぼ同時。
たしかにしいなが、レネゲード云々、といっていたような気がするが。
レネゲードとテセアラはつるんでいるのか、ときいたこともある。
それは、あの砂漠の施設から逃げ出すときのこと。
「ちなみに、あたのこれもそうさ。あいつらから献上された品だってきいてる」
「そういうこった。しいなにしろ、教皇騎士団とか。まあかなりの人数がわけてもらっているはずだぜ?」
しいなとゼロスの説明に、
「プレセアも?」
マルタが首をかしげつつ問いかける。
「いや、その子は…」
「その子は違うよ。ちょっと…ね」
「「「?」」」
言葉を濁す二人の台詞に、ロイド、ジーニアス、マルタが首をかしげる。
ゼロスもしいなからプレセアの報告はうけている。
小さな子供が丸太を運んでいる。
しかもゼロスが六歳のころから少女の姿はかわっていない。
気にならない、というほうがどうかしている。
十六年、という年月は果てしなくヒトからしてみればとにかく長い。
「しっかし、こうしてみると、この二人、何となく似てるよな」
そんな会話をしている最中も、コレットは微動だにしないまま。
話題を変えようとしたのか、はたまた暗くなりかけた雰囲気を変えようとしたのか、
ゼロスがいきなりプレセアとコレットをみつつそんなことをいってくるが。
「そうか?」
いきなりといえばいきなりのゼロスの台詞。
そんなゼロスの言葉にロイドとしては首をかしげざるをえない。
「あんまり笑わないっしょ。女の子はやっぱり笑顔が一番ってな」
「コレットは笑いたくても笑えないんだ。そんなこというなっ!」
ゼロスの言葉にかっとなり、ロイドがゼロスに喰ってかかろうとするが。
「わ、悪かったよ。もう、熱いやつだなぁ。
  っと、さてと。とりあえずとっととグランテセアラブリッジを渡っちまおう」
そんなロイドの突撃をさらり、とかわし、兵士達がたむろしている方にと歩きだす。
ゼロスが橋の入口付近に近づくと、係り員らしき男が飛び出してくる。
みれば、先日の竜巻、の影響、なのだろう。
ところかしこ、設備らしきものが壊れているのが目にはいる。
それをみて、しいなが多少顔をひきつらせているのもみてとれるが。
「いらっしゃいませ、神子様!」
「お~う、いらっしゃったぜ~」
ざっと、周囲にいる兵士達がゼロスに対し敬礼を取る様は、あきらかに圧巻、といってよい。
「俺様のことにはきにすんな。お前達は仕事にもどっていいぜ」
ゼロスがいうのとともに、
『はっ』
再び兵士達が深く頭をさげ、それぞれの持ち場らしき場所にともどってゆく。
「ゼロスって…ほんとうにお偉いさんなんだ」
そんな光景をみてしみじみというジーニアス。
「コレットでもこんな光景はなかった、よな」
「これが国がある、ということなのでしょうね」
ロイドが思い出すようにいい、リフィルもまたそんなことをいっていたりする。
「ご連絡は頂いております。そちらのシルヴァラントの皆さまもようこそ。
  マナの濃度が以前とくらべかなり低くなっていますのでどちらさまもおきをつけて」
「え~!?これで薄いの!?こんなに強く感じるのに!?じゃあ、シルヴァラントはどうなるのさ!?
 出がらしでひからびちゃって…そんな感じだよ!…前、までは」
ある時を境にマナが濃くなったのはジーニアスも気づいている。
それはコレットが世界再生を果たすよりも前。
救いの塔にいよくりも前に。
その時から感じていたマナの感覚と、ここテセアラでのマナの感覚は同じもの。
つまり、どちらもつり合いがとれているかのごとくに。
しいなの言葉をかりるならば、砂時計を横にし、同じ砂を互いの器に満たしているかのごとく。
「グルルル、キュウン?」
――この橋わたるの?壊れない?
震える体でそんなことをいっているノイシュに対し
「渡るだけなら問題ない」
ただ、今のこの橋は制御していた品がなくなり開いたり閉じたりができなくなっているだけ。
ノイシュの横にて、ノイシュの体に手をおきつつノイシュに語りかけているエミルの姿。
そんな会話をしているエミルに気付いたのか、
「ん?何だよ。ノイシュ。怖いのか?こんな立派な橋なんだから問題ないだろ?
  まあ、みたところ壊れてるところも多々とあるっぽいけど……」
工事のもの、なのだろう。
ところせわしと人々がゆきかっているのもみてとれるが。
ちなみに、橋の目の前には、
【整備中。立入禁止。どうしても、という人は王家の許可を】
そんな看板が掛けられていたりする。
「そういやさ。俺様、ずっと気になってたんだけど……」
そんなロイドとエミルに気付た、のであろう。
昨日から気になっていたが結局聞きそびれていたこと。
ちょうどいい機会とばかり、
「それ、何だ?」
見たこともない動物。
昨日から気になっていたのだが、聞く機会がそびれていたといってよい。
そんなゼロスの問いかけに、
「これは俺の友達だ」
「ひゃあ。野蛮人の友達かぁ。で、これは何ていう動物なんだ?」
「む。野蛮人とは何だ!野蛮人とは!ノイシュは犬だ!」
「へ?犬?どうみても犬じゃないだろ。これ」
指をさしつついうゼロスに、
「犬っていったら犬なんだよ。だって、尻尾があって遠吠えするっていったら犬か狼だろ?
  こいつはオオカミっていう柄じゃないから、だから犬」
「「「・・・・・・・・・・・」」」
きっぱりいいきるロイドの台詞に思わず黙りこむマルタ、ゼロス、しいなの三人。
そしてまた、
「そういう基準でロイドってノイシュを犬っていってたんだ……」
呆れたようなジーニアスの台詞は、その場にいる全員の心情を示しているといってよい。
「ノイシュのその特徴、どこかでみたような気がしてるのよね……」
リフィルはノイシュをみてからずっと、何かがひっかかっている。
でもそれが何か、までは思い出していない。
かつて、まだリフィルがヘイムダールに住んでいるときに、
プロトゾーンに関する資料をみたことがあるがゆえ、ひっかかっているのだが。
それにリフィルは気づかない。
「ともあれようこそ。シルヴァラントよりの来訪者の方々も。
  テセアラが誇る巨大建造物、グランテセアラブリッジへ。
  大きな船などが通るときにはこの橋は開閉可能に作られています。
  もっとも、昨日の竜巻の影響で、まだこの橋は整備中ですので。なるべくお気をつけください。
  今はまだ原因究明中ですが、開閉装置も起動しなくなっていますので」
係り員らしき人物が、ゼロスに対し、そんなことをいってくる。
「オッケー、オッケー。しかし、開閉ができないってか?」
「はい。船体の運航にも影響が……」
そんな会話も聞こえてくるが、そもそも精霊石達を普通に利用するならともかく、
穢した状態で使用しているアレは許容範囲をこえる。
ゆえに彼らを全て孵化させただけのこと。
「きゅうん?」
王?と問いかけてくるノイシュに対し、
「ここのものたちは全て孵化させたからな」
「きゅぅ……」
なるほど。
そういいうなづくノイシュ。
エクスフィアが入っていたはずの容器を調べれば、
その内部にあるはずの石が消えていることに気付く、であろうが。
その内部までヒトが確認するかどうかは別として。
「?」
エミルの声がきこえたらしく、マルタが首をかしげているが。
「そういえば、この橋を渡った先にサイバック、という街があるのよね?」
改めてといかけるリフィルの台詞に、
「まあな。王都にも研究所はあるが、輝石の研究をしていたのはサイバックのほうだしな。
  あちらさんのほうが設備も整ってるんだよ。王都のほうは精霊とマナを主体として研究してるけどな。
  何しろ街全体が研究所っていう感じだからな」
「メルトキオの研究所…か」
ゼロスの台詞にしいなが少し顔を曇らせる。
「?しいな、しってるの?」
マルタの台詞に。
「ああ、コリンとはそこで出会ったからね」
「そういや、コリン以来、人工精霊を産みだすのは失敗してるっていってたな」
ふとゼロスが思いだしたようにいってくる。
「え?孤鈴コリンって…人工的に生み出された精霊…なの?」
戸惑い気味のジーニアスの台詞。
「まあ、ね」
正確にいえば、生み出された器にヴェリウスの精神体が入ったがゆえ、
傍から見れば新たに誕生したようにみえただけ。
それにヒトは気付くことなく自分達の研究の成果で意思ある人工精霊を産みだせた。
そう勘違いしているっぽいが。
かつての人工的に生み出された属性疑似精霊達のようなものをまた生み出されても、
面倒といえば面倒極まりない。
完全なる精霊でもなく、かといってほうっておくわけにもいかないあの存在達は、
魔物として理をもたせ、今にいたっているが。
あれらを産みだすのにかつての魔道士とよばれし人間達は
どれほどの微精霊達や、数多の命を犠牲にしたことか。
「最も、あそこでいってた研究者のいい分は本末転倒だったけどね」
しいながふと何かを思いだしたのか、首をすくめていってくる。
「?どんなことをいってたんですか?」
しいなが本末転倒、とまでいうような何か。
気になるが故にといかけるそんなエミルの台詞に、
「精霊が生み出す力は本質的にマナと同じはず。だったら仮に世界からマナが失われても
  精霊の力を借りれば世界を維持できるかもしれない。ってね」
・・・・・・・・・・・
「…その人間って何考えてるんですか?精霊はマナがなければ存続できない。
  そんな当たり前なことをまさか知らないんですか?」
思わずしいなの台詞に一瞬呆れて唖然とし目をぱくちりさせたのち、呆れ混じりにつぶやくエミルに、
「?そんなものなの?」
マルタが首をかしげつつ問いかけてくる。
「精霊は、マナがあってこそ存続が可能、だからね」
「マナ、かぁ」
マナ、といわれてもマルタにはよくわからない。
ゆえにただ首をかしげるしかないマルタ。
エミルの台詞に嘘はない。
そもそも、エミルが…
否、ラタトスクが生み出すマナがなければ精霊達の存続は不可能といってよい。
だからこそあのとき。
マーテルが守護せしユグドラシルから産まれた精霊達は、
マーテルが枯れてそのマナが少なくなってゆく過程で消滅していった。
存続すらできなくなり。
のこったのは自らが初期から生み出していた精霊達のみ。
界を分けて存続させていた精霊達のみ。
つまりは、今いる精霊達のみといってよい。
「それにしても、エミル。あんた詳しいね」
「そうですか?当たり前のことだ、とおもうんですけど」
昔はそれこそ当たり前にどの種族ですらそんな当たり前のことをしっていた。
ただその当たり前なことをヒトが忘れてしまっているだけ。
ゆえに、かつては人工的に精霊をいくつも魔道士とよばれしものが生み出したりもしていた。
微精霊達を集わせ、人工的に。
属性ごとの精霊を。
完全なる精霊として生み出すことができなかったそれらは、暴走し、
結果として生み出した人間達を死滅させる原因となったのではあるが。
たかが人間が巨大な力を制御できるなどと本気でおもっていたらしい当時の人々。
それは今も昔もかわらない。
なぜヒトはいつの時代も大きな力を自分達ならば制御できる、と思い、
何かあればどうにもならないものに手をだす、のであろうか。
幾度も世界を産みだし、創ってゆく過程でラタトスクが毎回おもうこと。
しいなとエミルがそんな会話をしている中、
「ところで…この橋ってどれだけ長いの?」
みたかぎり、先がみえない。
海をまたいでみえる橋は、その先がみえないほどにつづいているように垣間見える。
気になっているらしく、ぽつり、とつぶやくジーニアスに対し、
「そりゃ、大陸同士をつないでいるからな」
そんなジーニアスの疑問に答えているゼロスの姿がそこにある。
「とにかく、いこうぜ」
話しを切り上げ、歩きはじめるゼロス。
そんなゼロスの後をあわてておいかける形でついてゆくロイド達。
「ゼロス様、おきをつけて。シルヴァラントの皆さまも」
そんな彼らにとお辞儀をしつつ、うやうやしくいってくる係り員の男性。
「…こんな巨大な橋をつくれるんだ、テセアラって……シルヴァラントとはものすごい違い、だよね」
マルタがすこし俯き加減にぽつり、とつぶやく。
シルヴァラントの橋の主流は、石でできた橋、もしくは木でできた橋。
こんな立派な、しかも巨大な橋などマルタは聞いたことがない。
「お~い、おまえら、おいてくぞ~」
みれば、ゼロスは先にと進んでいっている。
「いきましょう。…下さえみなければ平気よ、そう、平気……」
リフィルの声が多少震えているような気がするのは、おそらく気のせいではないだろう。
途中、作業員達が右往左往しており、ところどころ壊れているらしい場所を目の当たりにするたびに、
しいなの顔が気のせいではなくひきつっているのがみてとれたが。


~スキット:グランテセアラブリッジを渡る最中~

ゼロス「そんなわけで。みんなのあだ名を決めたいとおもう」
ロイド「何だよ。いきなり」
ゼロス「俺様は、ゼロス君。プレセアちゃんは、おちびちゃん。
     コレットちゃんが天使ちゃん。マルタちゃんが子猫ちゃん。ロイドはお前、ジーニアスがガキ」
ジーニアス「僕とロイドだけ適当だね」
ゼロス「まあまあ。んで、リフィル様がゴージャスウルトラクールビューティー」
リフィル「いやよ。そんなの」
ゼロス「ええ!?じゃあ、女王様」
リフィル「…あのね。もっとまともなものはないの?」
ジーニアス「…姉さんが女王様ってなんか違和感がないんだけど……」
ロイド「え?先生ってどこかの王様だったのか?」
マルタ「まさか、リフィルさんってサドの女王様!?」
リフィル「なぜそうなるの!?というか、マルタ、どこでそんな言葉を覚えたのかしら?」
マルタ「え?ママがよくいってるし」
リフィル「…あなたのお母様にはよく話しあう必要があるわね。絶対に」
ジーニアス「あれ?でも、そういえば、エミルのあだ名は?」
エミル「え?僕?」
ゼロス「エミル君のあだ名、ねぇ。この俺様が女の子と間違ったなんて信じられないけど。
     エミル君、本当は女の子じゃあ……」
ロイド「そういや、エミルと一緒に風呂とかはいったことなかったよな」
ジーニアス「そういえば。いつもエミル一人で見回りにいってたしね」
マルタ「ええ!?エミルって女の子なの!?嘘だよね?嘘だといって!」
エミル「…性別なんてどうでもいい、とおもうんだけど……」
マルタ&ゼロス「「よくない!」」
リフィル「…とにかく、私はあなたのいうようなあだ名は認めませんからね」
ロイド「よくわかんねえけど。先生は先生だろ?それ以外の何なのさ?」
ジーニアス「もしくは、遺跡マニア……」
リフィル「ジーニアス?誰がマニア、なのかしら?学者だ、といってるでしょう?」
ゼロス「学者で先生、か。うん、いい響き~。魅惑の女学者教師か…ってぇ!」
しいな「何馬鹿なこといってるんだい!なぐるよ!」
ゼロス「もうなぐってるじゃないか!この暴力女!」
しいな「何だってぇぇ!」
マルタ「二人って仲がいいんだね」
しいな&ゼロス「「どこが!」」
ジーニアス「あはは。息ぴったり」
リフィル「…はぁ。もう勝手にしてちょうだい……」
ゼロス「で、エミル君、どうなのよ?」
エミル「そういえば、サイバックなら、レアバードの燃料補給ができませんかね?
     研究所ならそういうのもできるんじゃあ」
しいな「そういえばそう、だね。精霊研究所のほうに話しをつけてみるよ」
ゼロス「うん?レアバード?たしかレネゲードのやつがもってるとかいうあれ、か?
     そういえば、陛下の前であんたらそんなこといってたな」
リフィルとエミルを連れ、治癒じゅぅを施すために登城したとき、
たしかリフィルがそんなことをいっていたのをゼロスは思い出す。
しいな「ああ、燃料不足でね」
ゼロス「?どっかに不時着でもしてるのか?」
しいな「いや、もってるよ」
ゼロス「しいな、お前、ウィングパックでももっていってたのか?」
しいな「…まあ、にたようなもんさ」
リフィル「(エミルが話しをそらしたの、誰もきづいてない、のかしら?
       でも、エミルがわざわざ話題をそらす意味があるのかしら?判らないわ)」


  ~スキット:しいなのおまじない~(ゲーム原作にあるスキットに+α)~
しいな「コレットは元気になる~。コレットは元気になる~……」
マルタ「あうだなんたかなんとかさんぼだい~。エコエコアザラクサンボダイ~」
しいな&マルタ「「ダメかぁ」」
コレットの前で何やら祈るような格好をして、頭を幾度もさげているマルタに、
幾度も手をひらひらさせて何やらいっているしいな。
しばらくそんな行動を繰り返したのち、がくり、と肩をおとしている二人の姿。
ロイド「…何やってんだ?しいなもマルタも」
しいな「な、何でもないよ。ただ、コレットが元気になるようにって」
マルタ「うん。そうだよ。ママから教わった台詞をいってたんだ。
     エコエコアザラクサンボダイ~って」
エミル「…マルタ、それ、おまじない、じゃないよ…間違ってるし」
マルタ「え?そうなの?」
エミル「うん。マルタがいってるの古の人が使ってた言葉が混じってるとおもうよ」
ちなみに、エコエコアザラクというのは、
よくヒトがかつて魔族と契約するときに用いていた台詞。
それは天地戦争の時代にまでさかのぼる。
あるいみ呪術を用いるときによくヒトが使用していた言葉といってよい。
おそらくその言葉の意味がわからないままに、言葉のみが伝わっているのであろう。
また、サンボダイとかいっていた言葉も何となくだが理解する。
それはかつて、古代戦争時代、ヒトが生み出せし平和の具像。
実在した人物を神とあがめて創られた宗教のうちの一つ。
それを指し示す言葉に似たようなものが確かあったはず。
そんなエミルの説明に
マルタ「そうなの?ママがときどきいってるんだけど。詳しくはその言葉、覚えてないんだよね。
     何か人を呪ったり…ううん、強く願ったりするときにいえばいいって。
     よくなんか黒い服きて、カエルの目玉とかつかって何かやってるし」
エミル「…マルタのお母さんっていったい……」
まさか、前世の記憶をもったまま転生してる魂、とかいわないよな?
どうもそんな気がしてしまう。
これまでのマルタの言動から。
ありえないことはありえないというのをエミルは身をもって知っている。
時折そういった魂が存在している。
本来は生まれ変わればかつての記憶は残っていないはず、だというのに。
強烈に何かを思っていたりすると、魂そのものに記憶がこびりつき、
その魂の記憶のままに行動してしまう存在たちが。
しいな「それについては同感。だよ。マルタの母親。か。
     でも…早くもどってほしいよ…コレット……」
ロイド「…ああ。そうだな」
ジーニアス「で、ロイドはマルタのお母さんについて突っ込まないんだよ」
ロイド「?何かつっこみするようなこといったか?」
ジーニアス「わかってないのならいいよ……」
それって、伝承にある黒魔術の儀式…じゃないよね?
ジーニアスのその思いの答えはおそらくマルタには判らない……


※ ※ ※ ※

グランテセアラブリッジを渡り切り、そのまま入江沿いにすすんでいくことしばし。
やがてみえてくる街が、学園都市サイバックとよばれている街。
サイバックという街は、ゆるやかな入江に作られている街であるという。
「この街は…嫌い…早く……オゼットへ……」
街の入口に差し掛かるとともに、プレセアがいきなり足をとめつついってくる。
「ちょ~とまっててくれよ。おちびちゃん。す~ぐ終わるから」
なぜ嫌い、というのかわかっているがゆえ、しいなも何ともいえない表情を浮かべざるを得ない。
だれしもいい思いでがある場所ではない場所に好き好んで近づこう、とはおもわない。
そんなプレセアの心情がわかっているのであろう。
軽い口調で、ゼロスがプレセアをなだめるようにといっているが。
「しかし、なんだか白衣をきたような人達がいっぱいいるね」
マルタが街の中をざっとみつつ、そんなことをいってくるが。
たしかに、街の入口からでもわかるほどに白衣をきている人々の姿が半端ない。
「…サイバック…か」
かつてのことを思い出す。
ここで自分がアステルじゃないか、といわれたあのときのことを。
あの時とは違い、髪の長さなどを変えているとはいえ、いわれない、とは限らない。
「何なら、ノイシュと一緒にここでまってる?それなら僕もここでまっとくけど」
「いえ。何があるかわからないもの。皆一緒のほうがいいわ。
  ノイシュも知らない場所で外でまたせているよりは、一緒に行動したほうがいいでしょう」
「でも先生。こいつ、かなり人見知りするぜ?」
「ん~。ノイシュ一人にさせるのも心配だし。
  なら、僕、そこら変でノイシュとまってるよ。あまり時間はかからないんでしょ?」
ソルムの幻影にてノイシュの姿をごまかすことは可能なれど、
わざわざ研究対象にされかねない中にノイシュを連れてゆく必要はまったくもって感じない。
何しろノイシュの姿をみるものがみればわかるはず。
プロトゾーンの進化系の一つであるアーシスの特徴。
この研究者たちがどれほど知っているかどうかはわからないが。
念には念をいれておいたほうがいいであろう。
下手をすればノイシュを捕らえ、研究材料に、という人間がいない、とも限らない。
「でも、エミル、あなた一人じゃ……」
リフィルが何かいいかけるが。
「もし心配ならそのあたりの子でも呼びますし」
「…それはやめて頂戴」
エミルがいう子、というのが何なのか何となく察し、ため息まじりにいうリフィル。
「?」
ゼロスはその意味がわからず首をかしげ、しいなはしいなで乾いた笑いを浮かべている。
伊達にこれまで、エミルが幾度か魔物を”子”、と呼んでいたのをみていたわけではない。
ゆえに聞かなくても理解ができる。
できてしまう。
エミルがいうのはそのあたりにいる魔物達を示しているのだ、ということが。
「んじゃあ、結局どうすんだ?」
「ノイシュを街にいれて騒ぎになっても何だし。そこらへんでまってるよ」
エミルが指差したのは、海に面して整備されているらしき場所。
どうやらちょっとした憩いの場としてつくられているらしい。
「…私も、まって、ます」
そんなエミル、そしてプレセアの台詞をききつつも、深くため息をつき、
「…仕方ないわね。エミル、じゃあ、ノイシュとプレセアのことをお願いね」
なぜか異様に街にはいるのを嫌がるプレセアに無理をいうわけにもいかないだろう。
それゆえにリフィルが折れていってくる。
「まあ、しゃあない、か。んじゃま、エミル君達はまっててくれな。さてと、いこうぜ」
「そういえば、どこにいくんだ?」
今さらといえば今さらながらのロイドの質問。
「あのな。ロイド君。俺様達がむかうのは、この街の王立研究所、さ」
「それってどこにあるの?」
ゼロスの台詞にマルタが首をかしげてといかけると、
「街の奥さ。幾度かここにはきたことがあるからね」
ゼロスのかわりにしいながマルタにと答えてくる。
「少し前まで、この街はまさに青天の霹靂、だったけどな」
「?」
首をすくめ、そういうゼロスの台詞に、首をかしげるロイド達。
「ちょっと前までなんだけどな。このあたり一帯は晴れているというのにいきなり落雷が多発しててな。
  ここ最近は収まっているらしいが…それでも、時折、な。
  雷の神殿のあたりが頻繁に晴れているにもかかわらず、あいかわらず落雷しまくっているらしいがな」
「せいて、って何だ?」
「もう。ロイド、晴天の霹靂。諺、だよ」
「はぁ。青く晴れた空に突然おこる雷のことを示した諺、よ」
首をかしげてつぶやくロイドにため息まじりにジーニアスがいい、
コメカミをおさえつつ、そんなロイドに説明をしているリフィルの姿がみてとれる。
「リフィルさん、ロイドってきちんと学校にいってた、んですよね?」
「ほらみなさい。マルタにまでそんなことをいわれて。
  今夜から、ロイドへの課題は増やしたほうがよさそうね」
「ええ!?そりゃないよ!先生!」
「はいはい。おまえら。たわむれてないで、いくぞ」
そんな彼らのやりとりをみつつ、そのまますたすたと先に進み始めているゼロスの姿。
「じゃ、僕らはどこか休める場所でまってますね」
「エミル、プレセアに変なことしないでよね!」
「?」
ジーニアスが何やらエミルにそんなことをいってくるが、その意味はエミルにはわからない。
ゆえにただ首をかしげるのみ。
「馬鹿なことをいってないの。ジーニアス。いくわよ。ゼロスを見失ったら大変よ」
そんなジーニアスの首根っこをつかみ、ずるずるとひこずるようにして、ゼロスをおいかけてゆくリフィル。
「うう。エミルがまってるなら私もまとうかな……」
「マルタも一緒にいってみれば?テセアラにせっかくきたんだし」
「う」
「たしか、マルタ、前にいってたよね?見聞を広める為にもって」
理由の一つにそれをあげ、自分達の旅についていく許可をもぎとった。
そんなことをマルタは以前いっていた。
ゆえにエミルは間違ったことはいっていない。
そこにマルタがいればプレセアと名乗った少女の内部にて穢されている微精霊達。
かれらの浄化ができない、という事実をいっていないだけ。
「それにしても…青白い顔をしたばかりの人達が多い、ね」
ここから見える範囲でも、青白い顔をしている白衣の人間が多々とみうけられる。
そんなエミルの呟きに、
「あはは。そりゃそうさ。この街には学者だの研究者だのばっかりが集まってるからね。
  …幽閉されてるハーフエルフも強制的にそれらに携わるようになってるしね」
しいながかるく笑い声をあげたのち、説明してくる。
最も、最後のほうの台詞はすこし沈んだ声になっているのは気のせいではないであろう。
「そっか。ロイドとは正反対の人ばっかりがあつまってるんだ」
ぽん、と手をたたきつつ、納得した、とばかりにいいきるマルタ。
「おお。ここにいるのは俺とは反対の人、なのか?何の反対なんだ?」
「…ロイド、馬鹿にされてるのに気づこうよ……」
そんなロイドの台詞に再びため息まじりにつぶやくエミルは間違ってはいないであろう。
まあ、ロイドだからこそ何も考えていない、という理由があるのだろうが。
その言葉に含まれている意味をきちんと把握しなければ、
ああ、だからか。
あのときも、マーテルのいうがままに行動していたロイド。
どうやらいまだに深く考えて物事をいったりする、ということがロイドはできない、らしい。
少し考えればわかったであろうに。
もっとも、あのとき滅びたいのならば勝手に滅べばいい、とばかり、
マナの調整をまったくしなかったのもまた事実なれど。
そもそも、あのときのユグドラシルはたしかに微弱なマナが生み出せはしても、
それはあくまでも薄いマナであり、世界の存続ができるほどのマナ、ではなかった。
それを知ろうともせずに、自分をコアに戻し、センチュリオン達のコアで封印を。
そんな提案をマーテルからうけ、素直にその言葉のままに行動していたロイド。
そんなことをすれば、あのとき、あの大地は百年もせず、
マナ不足で完全に命という命が滅んでしまっていたであろう。
そのことにあのときのロイドは気づいてすらいなかった。
精霊達も説明しなかったのは、自分達が魔導砲を利用した、という負い目からなのか。
はたまたヒトのすることにいちいち反論しても仕方ない、と諦めていたのか。
それはわからないが。
あのとき、わざわざラタトスクも全て終わってからのち、精霊達からいい分を聞いてはいない。
聞く必要を感じなかったがゆえ。
「とりあえず、ゼロスさんたち、先にいっちゃったよ?」
みれば、すでにゼロス達はだいぶ先にと進んでいっている。
「いけね。いこうぜ!皆!」
「しょうがないね。ほら、マルタ、いくよ」
「あ、しいな、でも、でもぉぉ」
マルタの手をひき、走り出したロイドをおいかけているしいな。
なぜかマルタは後ろを振り向きつつ何やらいっているようではあるが。
「さて、と。ソルム、念のためにノイシュの周囲に幻影を」
「御意」
名を呼ぶとともに、水晶のような甲羅をもちしちょっとした大きさの亀が、
刹那、エミルの目の前の空間に現れる。
「…?」
もっとも、その姿は他者にはみえていない。
見えているのは、ノイシュ、エミル、
そして微精霊を十数年、という期間に渡り内に秘めていたプレセアのみ。


「ここは、王家が管理している施設…なの、かしら?」
結局のところ、ノイシュとプレセア、そしてエミルをその場にのこし、
ロイド達四人とゼロスとしいなの六人にて街の中を進んでゆくことしばし。
王立研究院。
ぎゅっと懐にいれている母の日記を握り締め、歩きつつもリフィルが問いかける。
全ての発端、といえる施設。
この施設がリフィルを求めたがゆえ、
両親は定住する地もなく、そして自分達はシルヴァラントへと逃がされた。
母の日記を先に手にいれて事実をしっていなければ思うところは別であったであろう。
こんな研究機関がシルヴァラントにもあれば、とおもっていたかもしれない。
が、今のリフィルはエグザイアにて真実を知ってしまっている。
ゆえに何ともいえない気持ちのほうがはるかに強い。
「まあな。テセアラの王立研究院は元々は王政の管轄下ではなかったんだけどな。
  今から二代前の陛下が王立ってことにしたらしいぜ?
  そしたらまあ、いろんな研究がすすんじまって。
  いまじゃ、テセアラの最高学府よ。ここに籍を置くためなら死んでもいい。
  っていうやつらがゴマンといるんだぜ?っと、ほれ、ついた」
王立研究院は、テセアラ中からインテリと呼ばれし存在達があつまる最高の研究機関、
といわれているらしい。
機密事項ではあるが、国王や教皇よりクルシスの輝石やエクスフィア。
それらの研究も秘密裏とはいえ結構表だって研究されているとはゼロスの談。
「公的な援助が国からだされているからな。
  ここの研究者たちは資金を気にすることなく研究することができてるんだよ。
  まあ、あるいみ、金食い虫となる研究者にとってはパラダイス、だな」
そんな会話をしつつも、街の中を進んでゆくことしばし。
道のところどころに白衣を着ている存在達がおり、
それぞれが自身の研究内容などといったものを話しているのが道すがらでも聞きとれる。
ゼロスが立ち止ったのは、街の入口からしばらくいった先にとある、
ちょっとした大きめの落ちついた色調の建物の前。
そのまま勝手知ったるとばかりにその建物の中へとはいってゆく。
「うわ、何だこれ!?」
目の前にある巨大な動物のような骨。
建物にはいってすぐに目につくのは、受付の真横。
すなわち入口からはいって正面におかれている何かの化石、のようなもの。
本来ならばマナに還るはずであったその体は、とある事情により石と一体化し、
それを掘りだされ、復元された形でこの場に展示されていたりする。
「恐竜…?それとも魔物?」
マルタはマルタで近づいてそんなことをいっているのがみてとれる。
「骨格標本、だね。古の動物の化石、かな?」
ジーニアスもそれをみてそんなことをいっているが。
そんなロイドやジーニアスとは対照的に、
「よ~う、メルトキオから連絡、きてるかい?」
受付らしき場所にちかづきながら、軽い口調で何やらいっているゼロスの姿がみてとれる。
ゼロスに気付いた、のであろう。
受付に座っていた若い男が近づいてきて、
「神子様、お待ちしておりました。こちらへどうぞ。先に頂いた詳細報告はすでに拝見ずみだそうです」
うやうやしくお辞儀をしたのち、
「こちらです」
受付を別なるものにとことづけたのち、ゼロス達をとある部屋にと案内してゆく。

受付係りにと案内されたは、受付から奥にとつづく部屋。
案内された部屋にいたのは、一人の男性。
分厚いレンズの眼鏡をかけ、オールパックになでつけている金の髪。
白衣をきており、いかにも研究者といったいで立ちの男性がそこにいる。
ロイド達が案内された部屋には濃厚な机と椅子が何組か置かれており、
立派な表紙のついた研究書らしきものが無造作に置かれているのがみてとれる。
研究院らしき男はロイド達をしばしみたのち、そしてコレットに視線をむけると笑みを浮かべ、
「こちらの方がコレットさん、ですね?コレットさんの病状の報告をうけて我々は、
  神子ゼロス様のクルシスの輝石を調査した資料に着目いたしました」
いいつつも、机の上に置かれている機械らしきもののスイッチをいれる。
それとともに、机の上に球体の立体映像が出現する。
いうなれば、投影版の水晶のようなもの、というところか。
それをみて目を丸くしているジーニアスに、
「へぇ。なんかすごいな。よくわかんねえけど」
理解ができないままに、感心したような声をあげているロイドの姿。
「ほうほう。俺様の輝石が役にたったんだな。
  こりゃあ、コレットちゃんが正気にもどったらたっぷりとお礼をしてもらおう」
「馬鹿いってんじゃないよ!あんたはっ!」
ゼロスの台詞にすかさずしいなが突っ込みをいれているが。
「クルシスの輝石はエクスフィアの進化系と考えられます。二つの結晶はともに無機生命体ですから」
「何ですって?」
「ムキ…?なんだ、そりゃ?そういえば、エミルが以前、精霊石がどうとかこうとか」
ふと、ルインでのエミルの会話を思い出し、ロイドが首をかしげるが。
あのときの説明の意味をいまだにロイドは理解していない。
「無機生命体。つまりエクスフィアも生きているっていうことね」
「そうです」
リフィルのつぶやきに、研究院がうなづきをみせ、
「以前、精霊研究所と合同研究をしたのですが。
  どうも、エクスフィアにしろ輝石の内部にしろ、微弱ながらマナが感じられ、
  ハーフエルフ達がいうには、そのマナは精霊のマナに限りなく近い、ということだった、のですが…
  それ以外の詳しいことは何とも。しかし、これだけはいえます。
  二つの結晶体はどちらも他の生命体に寄生し、融合する性質を兼ね備えています。
  もっともなじむのは魔物でしたが。
  こちらのほうはいつのまにか結晶体が消えている、という実験結果が得られています」
それは、魔物達のマナの調停の役割の過程で、精霊石が孵化しただけ、なのだが。
そのことにヒトは気づかない。
「わくわかんねぇけど…寄生って…なんかぞっとしない話しだな」
「この時、要の紋がないと体内のマナのバランスを崩し暴走すると考えられます」
「だから…要の紋なしのエクスフィアは人を化け物にかえちゃうんだね……
  マーブルさんやクララさんのように……」
ドア夫人であるクララはエミルの力によって元の姿にもどったのを目の当たりにしているが。
マーブルの最後を思い出し、ジーニアスがふと顔をふせる。
自分達のせいで死んでしまったマーブル。
ジーニアスは自分があのとき、牧場にいかなければ、と今でもおもっている。
あのとき牧場にいき、見つかってしまったからこそマーブルは…
悔やんでも悔やみきれない。
あの日、あの場所にいきさえしなければ、マーブルはあのように利用されることも、
彼女が自らの命をかけて自爆するようなこともなかったはず。
だからこそ自責の念は消えはしない。
「おや。ご存じでしたか?ええ、そうです。実際にそのような報告も受けています。
  例をあげると、アリシア・コンバティールという少女が…いえ、これは関係ありませんでしたね。
   ともあり、クルシスの輝石がエクスフィアと同質である以上、
   現在のコレットさんはクルシスの輝石に寄生されていると推測されます」
「寄生……」
ロイドとて森の中で生活していた身。
寄生する植物などといったものも知っている。
それが意味することも。
虫などの中には他の種の幼虫などに寄生して成虫を産みだすものもいる、のだから。
それらの結果はその命を糧とし、別なる命を産みだすというもの。
すなわち、寄生されたものには先はない。
すなわち、寄生されることは、すなわち死と同意語。
天使となることはすなわち死を意味する。
リフィルやレミエルにいわれた台詞。
ゆえにこそ眉を思わずひそめてしまう。
そんなことは、絶対に、認められない!
ぎゅっと無意識のうちに手を握り締めるロイドの様子に気づいたのはゼロスとしいなのみ。
「なるほど、ね。だとすれば封印解放の儀式は
  クルシスの輝石による融合を促進させる効果があるのかもしれないわね。興味深いわ」
「先生。そんないい方、やめてくれよ。コレットばっかりこんなひどい目にあってるっていうのに」
リフィルの呟きにロイドが顔を伏せつつもそんなことを言い放つが、
「コレットだけ…ねえ。もっとひどい子もいるさ……」
「「え?」」
そんなロイドの台詞にふとぽつり、とつぶやくしいな。
しいなは直接、プレセア、という少女をみたわけではなかった。
報告などで知っていただけ。
今回、共に行動するのが初めての顔合わせといってよい。
しいなは彼女の身の周りを調べる諜報には回されていなかった。
みずほの里の民が調べていた結果を知っていただけ。
そして、アリシア。
先ほど研究院がいったその名は、まちがいなく彼女の妹の名。
プレセアが適合者としてうまくいっていたがゆえに、選ばれてしまった少女の名。
「何でもない」
コレットはまだ心を失って時間は少ない。
が、あの子は、プレセアは、十六年もの間、ずっとあのまま。
それは何と残酷なのだろう、としいなは思う。
クルシスの輝石とエクスフィアが同じ同質のものだ、とはおもわなかったが。
それでも、ヒトの手でクルシスの輝石を産みだす過程の実験として、
その被験者と選ばれてしまった彼女は、ならば。
しかし今、そんなことを彼らにいってどうする、というのか。
ゆえに、しいなはそんな思いを振り払う。
コレットよりも過酷な状態になっている子がいる、というのを知れば、
彼らがどう思うかわかっているがゆえに、何ともいえない。
それに何より、彼女が実験を施されたのはこの研究室であったはず。
だからこそ、今ここでそれをいうわけにはいかないという思いもある。
「そんじゃあ、要の紋があれば彼女は元気になるんだな?」
「ええ。しかし、神子様の要の紋らしきものと同じ、なのであれば。
  神子様の要の紋は特殊でしたから、何とも……」
「?どういうことなんだ?」
首をかしげるロイドの問いかけに、
「ああ。簡単なことさ。俺様がクルシスの輝石を身につけたとき。
  クルシスからの神託をうけて身につけたんだけどな。そのときに、台座とともに受け取ったんだが」
「ええ。輝石だけでなく台座ごと神子様はわたくしどもに授けてくださりまして。
  おかげで要の紋の研究もある程度すすんだんですよ」
ゼロスの台詞につづき、研究員がそんなことをいってくる。
「ともかく、ゼロス様の特殊な鉱石でできている要の紋は無理としても。
  まともな要の紋があれば多少はクルシスの輝石とて自由に操れるようになるはずです」
「要の紋…か。どこかで手にいれられないかな?抑制鉱石なんかすぐに手にはいらないだろうし。
  あれをつくるにも特殊な技術が必要だし。俺にできるのは文字の細工くらいだしな」
特殊な工程を得て作成する要の紋。
ロイドはその特殊な工程はまだ腕がたりない、という理由で習っていない。
まじないの言葉といわれる原語の修理くらいはできるものの。
「現在の研究院でも要の紋を創りだすことは不可能ですからね。
  要の紋を創ろうとするならば、きちんとドワーフから技術を学ぶ必要があるでしょう。
「俺もまだ親父に半人前、といわれて技術はおしえてもらえてないからなぁ」
研究者の台詞にロイドがしみじみといい、
「そういえば、姉さんのエクスフィアの台座の要の紋もロイドが修理したんだっけ」
「おう。あの程度のまじない原語ならどうとでもなるんだけどな」
ふと思い出したようにジーニアスがいい、そんなジーニアスにと答えているロイド。
ゼロスはしいなから、このロイドという人間が、
シルヴァラントのドワーフに育てられている、というのをきいている。
そんな彼らの会話をききつつも、ぽん、と手をたたき、
「ふむ。俺様に少し心当たりがあるな。俺様にまっかせとけ」
さらにどんっと胸をたたき、きっぱりと言い切るゼロス。
「ああ。そういえば、今日はバザーの日、でしたね。たしかに、可能性としてはありますね」
ゼロスのいいたいことがわかった、のであろう。
研究員がそんなことをいってくるが。
「「「?バザー?」」」
その意味がわからず、ロイド、ジーニアス、マルタが首をかしげる。
彼らにはバザー、という概念はない。
そもそもそこまで治安がいい場所がない、といってよい。
「ま、俺さまについてきなって」
「神子様、何かありましたらまたお越しくださいませ」
そんな挨拶を交わし、部屋を後にする。
「え?あ、おい。ゼロス。えっと…」
「どうもありがとう。おかげで活路がみいだせましたわ」
「いえ、どういたしまして。あまりお役にたてませんでしたが」
ロイドがいいかけると、リフィルが変わりにお礼をいい、
そんなリフィルにたいし、にこやかに返事をかえす研究員の姿がしばし見受けられてゆく。


はぁ。
思わずため息がでてしまう。
「死の穢れもうけてるか…面倒な…」
「?」
周囲に人払いの結界を軽くほどこし、そっとプレセアに手をかざす。
何をしているのかはわからないが、何だろう。
何か忘れかけていた何かを思いだしそうな、そんな予感。
ロイド達とわかれ、やってきたのは、少し奥にとある海沿いのとある場所。
王家管理であるがゆえに立ち入り禁止の柵にて覆われている土地が、
街の入口にはいってすぐその右側にと存在し、
その先にと進んでいくと、幾人かの人々が店らしきものを開いている場所にとたどり着く。
露店のようなものが並んでおり、道具屋や武器屋、といった店もみてとれる。
何となく武器やをのぞいてみれば、店の名はその名もずばり、【学生御用達】というらしい。
鬼包丁やコテツといった武器の他、ベレットやグローブ、といった品も売られているらしいが。
かるく店を見回ったのち、ゼロス達がむかっていった奥のほうへ。
プレセアからしてみれば、その奥にはいきたくはない、という思いもあるが、
なぜかこのエミル、といった少年とともにならば安心できるがゆえ、
疑問ももたずに素直についてきている今現在。
その安心感はプレセアの内部にいる微精霊達がラタトスクの波動に気づいて、
ゆえに安心しているのであるが、その事実にプレセアは気づかない。
気付くことができない。
立ち入り禁止の柵が設けられている場所をぐるり、と回り込んでゆくと、
その奥にみえるは、海沿いにつくられたちょっとした憩いの場。
エミル達がやってきたのはまさにその憩いの場となっているとある空間。
そこにてプレセアに手をかざし、プレセアの内部に閉じ込められている微精霊達。
微精霊達の穢れを払うべくマナを注ぎ込んでいる今現在。
立ち入り禁止となっている場所にはいくつもの煙突らしきものがあり、
地下よりの換気口になっているのであろう。
真っ白い蒸気の煙がもくもくといくつもたちのぼっているのがみてとれる。
「どうやらこのものには死臭がまとわりついていますね」
テネブラエもそんな中、人払いの結界をほどこしているがゆえか姿を現しいってくる。
「ほんとだ。でも、何で?」
同じく姿を現しているアクアが首を盛大にかしげているが。
「…ふむ。今、このものの記憶…微精霊達が記憶せしものを視てみたが……
  案外、この人間は、心を取り戻さぬほうがいいのかもしれぬな」
父親が死んだと気付くことなく延々と父親の面倒をみているこの少女。
それによって周囲の村人から気味悪がれているらしい。
しかも、父親の娘を心配する念もまたあわさって余計に負の念がひどくなっている。
父親の念、すなわち精神体を浄化するにしても、娘たちの安否が判明しない以上、
どうやら完全に昇天しそうにすらない。
どうやら妹もいた、らしいが。
そういえば、妹がどうとかかつていっていたような。
詳しくはあのときも聞かされていなかったが。
「子を思う親の念ほど強いものはない、からな。
  それをどうにかしないかぎり、消滅させるか満足させるか。
  どちらかにしなければ、内部の微精霊達を完全に孵化させることもままらなない、か」
ロイドが身につけている精霊石と同じようなもの。
こちらの石にも彼女の父親の精神体が宿り、娘を心配し、常に傍にいるのが視てとれる。
もっとも、ロイドのほうは、母体となる母親にもともとついていたがゆえ、
微精霊達もまた、ロイドを自分の子供のように感じている節があるっぽいが……
と。
「ん?」
ふと、入口のほうから武装した兵士が数名、この街にはいってくるのがみてとれる。
それをうけ、人間達がかかわりあいになりたくない、とばかりによけているのがみてとれるが。
「あれは……」
「どこかの兵士、みたいですね」
「…念のためだ。トニトルス」
「ここに」
名を呼ぶとともに、ふわふわと水晶のようなものにまきついているような、
黒く透き通った水晶玉にみえるそれに蛇のような体をまきつけているトニトルスが姿を現す。
水晶の中にはトニトルスの紋章である雷のセンチュリオンを示す紋様が
くっきりとうかびあがっていたりするのだが。
「あのものたちが見覚えのあるものをもっている。
  万が一、あれを使用しそうになれば、かの装置を」
昨日、城にてハーフエルフか否か。
マナのありようを検索するために使用された装置。
その装置を彼らがもっているのが視てとれる。
ヒトの考えそうなことは何となくだが理解ができる。
難癖をつけて、どうにかしてリフィルを排除しようとしている可能性が高い。
おそらくあの人間は、リフィルが国王の症状を治した、ということを聞かされたはず。
毒云々というあたりは知らぬぞんぜぬ、で押し通していたようではあるが。
だとすれば、考えられることはひとつ。
難題、もしくは無理やりにねつ造する可能性が考えられる。
「いかがなさいますか?我らが出向いてもよろしいですが……」
「様子をみる。いざとなれば配下の魔物でも呼寄せろ」
「判りました」
その言葉とともに、トニトルスの姿がかききえる。
周囲に少しばかり雷を発生させれば、機械類は使いものにはならなくなる。
特定の方向性を持たせマナを発生させることなど、
雷のセンチュリオンであるトニトルスにとってはたやすいこと。


「あれ?エミル、それにノイシュも」
「わおんっ」
ゼロスにいわれ、ひとまず研究所をあとにしたところ。
その少し先の海側に面した憩いの場。
そこにみおぼえのある姿をみとめ、思わずロイドが話しかける。
「あ、皆。もう用事はおわったの?」
ロイドの声にきづいたらしく、ノイシュもまた返事をかえしているのがみてとれるが。
「あれ?エミル、髪やりかえたの?」
先ほどまでは普通にみつあみにしていたのだが、今現在は腰のあたりのみでかるく編みこんでいるのみ。
「うん。ちょっとね。それより、皆用事はおわったの?」
マルタがエミルの変化に気づいてといかけるが、逆にといかける。
さきほどまで来ていた白いローブも今は脱ぎ、その下に着ている服のみにしている今現在。
「いや、用事、というかさ……」
そういうロイドの口調は少し歯切れが悪い。
「そういえば、ゼロス。任せとけっていっていたけども。要の紋のあてがあるのかしら?」
リフィルがそんな彼らの会話に割ってはいるかのように、改めてゼロスにと問いかける。
「今月は、バザー週間だからな。おそらく毎回いるジャンク屋もいるはずだぜ」
「ジャ?」
ゼロスの台詞に首をかしげるロイドに対し、
「つまり、ガラクタにしかみえないようなのをうってる奴もいるってことさ。
  当人にはただのガラクタ、でも他人にはお宝ってこともあるだろ?
  ときどき、中途半端な要の紋や小さなエクスフィア。
  そういうのも時折、バザーの出店品に紛れていることがあるらしいんだよ」
しいなの台詞に、
「ああ、あのコットンさんみたいな人のことか」
ぽん、と手をたたいて何やらいっているジーニアス。
「そういや結局、スピリチュア像はみつからなかったんだよな~」
コットン、という名をきき、何か思いだしたらしい。
ロイドが何やら思いだしたようにそんなことを呟いているが。
ソダ間欠泉におとしたといわれていたスピリチュア像は、結局、ロイド達は手にいれてはいない。
そのようにエミルが仕向けたことすらロイド達はしるよしもない。
「ああ。そういえば、なんかいろいろとうってましたね」
ここにくるまでの広場でたしかに様々な露店が出されていた。
「じゃあ、広場にいくんですか?」
首をかしげてといかけるエミルの台詞に、
「まあ、そうなるかな」
「ところで、エミル君よ。その動物もどきの背にのってるその亀みたいなのはなんなんだ?」
ノイシュの背の上にちょこん、とのっている亀のようなもの。
「?何いってるのさ。ゼロス、そんなものいないよ?」
「ゼロス。あんたねぇ。場を和ますにしてももうちょいまともな嘘つきなよ。そんなもんどこにもいないだろ?」
「え?お前ら、これがみえないのか?」
呆れたようなジーニアスとしいなの言葉に一瞬目をばちくりさせたのち、
「わりぃわりぃ。さてと。とりあえず、広場にいこうぜ」
「あ、話しそらした」
「ったく。あいつは場の空気をかえようとときどき変なことをいうからねぇ」
ジーニアスとしいながそんなことをいっているが。
「…アレがみえていない、だと?どういうことなんだ?
  かといって、しいなが嘘をついているようにはみえないし……」
ゼロスはゼロスで歩きつつ、小さくそんなことを呟いていたりする。
今現在、ソルムの姿はいつもの姿よりも小さくなりて、ノイシュの背にのせている状態。
姿をみせていたとしても、かわった亀のようにしかみえない。
もしくは、水晶でできているっぽい亀の置物か。
身動きさえしなければ。
『よろしいのですか?あのものには私の姿がみえているようですが?』
「まあ、アイオニトスを服用してるようだし、仕方なかろう。問題はない」
問いかけてくるソルムたいし、返事を返す。

ちなみに、一番前にゼロスが率先して先をうながし、その次にロイドとジーニアス。
その次にコレットとマルタ。
さらにその後ろにリフィルとしいな。
そしてエミルとノイシュが一番後ろの順番にて歩いている今現在。
計、八人と一体という大所帯なれど、別に大人数で行動するというような光景は、
ここサイバックでは珍しくないのかあまり注目はされていない。
強いていうならば、道ゆく女性がゼロスに気づき、声をかけてくる、というくらいか。
「うわ~。いろんな露店があるんだね」
きょろきょろと周囲をみつつジーニアスがいい、
「あまりうろうろしないのよ。ジーニアス。うん?あ、あれは!?」
ふと何かに気付いたらしく、目を輝かせ、とある方向にだっとかけだしていっているリフィル。
「あ、先生!?しゃぁない。おいかけるか」
そんなリフィルを追いかけてゆくロイド。
一方で、
「うん?そこの綺麗なお嬢さん」
ふと露店を開いているいまだ年若い青年が、こちらにむけて何やらいってくる。
「おや?およびですよ。コレットちゃんにマルタちゃん。あと、可能性としてエミル君も」
そんな青年の呼びこみの声をうけ、こちらを振り向きつつもいってくるゼロスの姿。
「いくら何でもこの格好で勘違いはされないんじゃあ……」
自分の格好を改めて見直して思わずそんなゼロスにと反論するエミルは間違っていないであろう。
そもそも今のエミルの格好は、これまで着こんでいたローブも脱いでいる状態。
もっとも、服を変えた様子をみていたのはプレセアのみなので、
よもやエミルの体が一瞬光に包まれて、服がかわったというのをみていたのは、
プレセア、そしてノイシュ、それ以外はセンチュリオン達のみ。
肩のあたりまである上着。
剣の鞘を内包せし固定されているヒップバックは丸く。
露わになっている肩にはマフラーがまかれ、鎖骨辺りもマフラーにてみえなくなっている。
体に直接フィットしているその服からして、女性特有の胸の丸みがないことはあきらか。
もっとも、世の中には胸が目立たない女性もいるにはいるが。
くるぶしでがっちりホールドされているかわりにかかとのない靴。
ローブに隠れ見えていなかったそれらも今はしっかりと目にみえている姿。
この姿をみて女性か否か、といわれれば、十人に一人か二人は女性かも、
というかもしれないが、すくなくともすぐさまに女性、と答えるものはまずいない。
もっとも、その髪の長さから、すぐに答えられないものがいるであろうが。
「いやいや。その露出している肩のその無駄に色っぽい白いうなじが何とも」
ぼがっ。
「ってぇ!何すんだよ!しいな!」
何かいいかけるゼロスの言葉を遮るかのように、しいなの握りこぶしがゼロスの頭に振り下ろされる。
そんなしいなに対し抗議の声をあげているゼロス。
「あんたは!エミルにまでへんな色目つかうんじゃない!
  ったく、あんたは男にだけは変な色目つかわないんじゃなかったのかい!?」
「でもなぁ。しいな。エミル君だぜ?」
「うっ。それをいわれると…というか、あたしは綺麗なお嬢さんにはいらないのかい!?
  あ、あたしが呼ばれたのかもしれないだろ!?」
「…なんでそこで言葉につまるんだろ?」
なぜか、エミルをじっとみて、一瞬言葉につまっているしいな。
そんなしいなをみつつ首をかしげるエミル。
「…エミルって、無駄にかわいいんだよね」
マルタまでもがそんなことをいっているが。
意味がよくわからない。
そもそもこの姿はアステルという人間を模しているものであり、
もしもそうならば、アステル、という人間もまたそのような対象である、ということか。
そういえば、この姿であの施設にはいっても、やはり間違えられる可能性は高い。
まあ、センチュリオン達へのいい分はすでにもう確保済みではあるが。
「ないない。絶対にない」
「何だってぇ!?」
エミルがそんなことを思っている最中も、なぜかたわむれているしいなとゼロスの姿がみてとれる。

しいなとゼロスが戯れている少し先。
「ふははは!すばらしい!すばらしいぞ!ここは!おい、それをみせてみろ!おおお!
  古代魔科学のカーボンではないか!おお、そっちのものはなんだ!?」
「・・・・・・・・・・」
ふとみれば、先ほどリフィルが駆けだしていった先。
この店の二つ先にとある露店の前にて、リフィルが高らかに何やら叫んでいるのが聴こえてくる。
ちらり、とそちらに視線をむければ、そこにある品物をかたっぱしからまぜくりかえし、
何やら物色しているようにも見えなくはない。
どうやらリフィルの遺跡モードと呼ばれるものが発動しているらしい。
ぎゃいぎゃいといいあっているゼロスとしいなはその様子に気づいていないらしいが。
あの様子をみるたびに、おもってしまう。
自分が精霊としての素をだせば、あの遺跡モードというものと同じように扱われるのか。と。
絶対に違う、と思うのだが。
かつてのときですら同じような扱いをうけていた以上、ない、とはいいきれない。
ゆえに思わずちらり、とそちらに視線をむけたのちため息をつくエミル。
「なんかリフィルさんのほうは賑やかだね」
そんなリフィルの声に気付いたのか、マルタが首をかしげつつそんなことをいっているが。
ちらり、とみれば、ジーニアスががっくりと肩を落としている姿も視界にはいるが。
どうやらリフィルを抑えるのは諦めているっぽい。

そんな彼らの様子をしばし唖然として見つめていたが、はっと我にもどったらしく、
「黒髪の色っぽいお姉さん。お姉さんにぴったりの指輪がありますよ」
しいなにむけてそんなことをいってくる露店の男性。
「黒髪ってことは、しいなさんですね」
その台詞にマルタが納得したようにつぶやきつつ、
男が差し出してきた入れ物にはいっているそれをみて、
「うわぁ。綺麗な指輪!」
目をきらきらと輝かせそんなことをいっているマルタ。
「ピンクパールだね」
指輪ケースに入れられているそれは、ピンクパールに金の台座。
パールの周囲には花らしき細工が施されているもの。
「いいなぁ。指輪かぁ。エミル、私に指輪ちょうだい!」
「え?何で?」
差し出された指輪ケースを覗き込んでいたマルタとエミルだが、
いきなりマルタがエミルにむかってそんなことをいってくる。
エミルからしてみれば理解不能。
「ソーサラーリングはマルタにはあげられないよ?」
ゆえに思わず素でそんなマルタにと逆に問いかける。
エミルが持っている指輪、といえば今、身につけているのはソーサラーリングのみ。
たしか、荷物の中にエメラルドリングとかいろいろとあったような気もしなくもないが。
「もう、違うよ!そんなんじゃなくってっ」
マルタが何かいいかけるが、エミルには意味がわからない。
ゆえにひたすら首をかしげるのみ。
「ちっちっ。エミル君、女心がわかってないねぇ。指輪っていったら約束の証。女の子の憧れってな」
「約束…ですか」
約束、で思い出してしまうのはどうしてもミトス達のこと。
――人間を、僕たちをなめないでよね。絶対に、大樹を、この世界を救ってみせるんだから。
あの約束はいまだ果たされていない。
それどころか、あのときミトスがいっていた世界からかけ離れていっているこの世界。
しかもミトスが率先してそんな世界にしてしまっている。
あれほど虐げられてようと前をむいて進んでいたあの子の面影は、
デリス・カーラーンでの様子を視る限り、今はどこにもみあたらない。
ゆえに思わずうつむいてしまう。
「?エミル?」
そんなエミルの変化に気付いたのであろう。
マルタが首をかしげつつも、不安そうに問いかけてくるが。
「何でもない。ちょっと昔を思い出してね」
「指輪で思い出す昔って…まさか、女!?」
マルタが何か悲鳴に近いような声をあげているが。
だから、どうしてそうおもうのか。
そういえば、人間は誓いの儀式などによく指輪を用いたりする、というが。
指輪の裏にと彫られている文字。
しいなはそれに気づいているのかいないのか。
掘られている文字から、この目の前の人間は、
その女性におそらく、プロポーズ、すなわち伴侶になってもらうべく、この指輪を用意した、のであろう。
君を永遠に愛す、という言葉が指輪の裏にと彫られているのが感じ取れる。
どうやらしいなにしろマルタにしろ、指輪の台座の裏に彫られている文字には気づいていないらしいが。
「まあ、たしかにしいなには似合いそうだな。何とかに真珠っていうし」
「どういう意味さ!ゼロス!」
「おお。こわ、俺様は別に豚に、とはいって…」
「いってるだろうが!その口で!」
またまたじゃれあいのような掛け合い漫才のような会話を繰り広げているゼロスとしいな。
「どうですか?今なら百ガルドでいいですよ」
ラチがあかない、とおもったのであろう。
そんな二人の会話を割って入るかのように、値段を提示してくる。
「ホントかい!?」
その値段にすかさず反応しているしいなに対し、
「え?あまりに安すぎない?偽物?」
マルタが怪訝そうに、しみじみ指輪ケースをみながらいってくる。
「ううん。これ、本物だよ。間違いない」
「?エミル、わかるの?」
「わかるのかい?あんたは」
「人工的なものと自然のものとでは必ず違いがあるからね」
エミルの断定に首をかしげつつもといかけてくるマルタとしいなに対し、
違いがある、ということのみを提示する。
「エミルがいうんなら、間違いないんだろうけど。エミルが嘘をつく、とはおもえないし。
  でも、本物のピンクパールっていったら珍しいよね?なんでそんなに安いの?」
マルタがひたすら首をかしげつつ、露店の男性にとといかける。
たしかに量産、というか人工増殖などが確定していないこの世界。
すなわち、真珠の養殖、というものも一般的ではない以上、
アコヤ貝などからとれる真珠は高級品、として取り扱われているらしい。
そしてそれらは珊瑚などの装飾品にしても然り。
「それは…おはずかしながら。
  俺の昔の彼女にあげたものなんだ。突き返されちゃったけどね」
「…そうなのかい」
首をすくめ、いってくる男の台詞に、何ともいえない表情をうかべるしいな。
「俺は・・・彼女にだまされていたんだ。
  あいつは、ローザは俺みたいな貧乏学生より金持ちの貴族を選んだんだ」
いって、ぎゅっと自らの手をにぎりしめている男性だが、
この人間は、そういった人物の背景を調べようとしたのであろうか。
否、絶対にしていないような気がする。
それはもう確信。
エミルがそんなことを思っている最中、
「元気おだしよ。人間、金なんかじゃないよ」
「…ありがとう。あんた綺麗なだけじゃなくて心まで優しいんだな。この指輪、あんたにあげるよ」
「でも」
なぜかしいなとその男性の間でそんなやり取りがなされていたりする。
「いいんだ。俺、そいつをもっていると、どうしても彼女のことを思い出しちまう。
  そのくせ、捨てる度胸もないんだ。もらってくれよ」
「わかった。大切にさせてもらうよ」
「…ありがとう」
どうやらしいなは指輪をもらう、ということにしたらしい。
らしいが。
「しいなさん、それちょっとみせてもらえますか?」
「え?ああ、かまわないけど、どうかしたのかい?」
「ちょっと気になることがありまして」
首をかしげるしいなの手から、指輪ケースにはいったままの指輪をうけとりつつ、
じっとしばし指輪をみつめることしばし。
やはり、というべきか。
手にもてばこの指輪に宿っている念が嫌でもわかる。
離れていてもわかった何かの念。
誰かに影響をあたえるような強いものではないにしろ。
気になっていたがゆえに、しいなに頼み、直接みてみたところ、
案の定、というべきの結果がそこには視てとれる。
一方で、
「しかし、そいつをつきかえしたっていう女はろくなもんじゃないね。金持ちをえらんだってか?はんっ」
しいなが吐き捨てるようにそんなことをいっているが。
「そう、かな?持ち物には念がこもる、けど、これから感じるのは……」
一人の女性の悲しみに満ちた念。
「?エミル?」
「何でもない。しいなさん達がそうおもうならそう、なんでしょうね。
  どうせその相手の事情とか調べずに相手のことをうのみにしてってとこでしょうけど」
「あんたに何がわかるんだよ!」
「どういう意味さ、エミル!」
抗議の声は男としいな、ほぼ同時。
「すくなくとも。この指輪に込められている念は悲しみにみちてますからね」
諦めと、そして悲哀。
そんな念がこの指輪には残滓として残っている。
「…少なくとも、この指輪から感じるのは、コレットによく似てる感情の念、ですね」
「?コレットに?というか、念?」
「僕、そういうのにはちょっと敏感なので」
嘘ではない。
ちょっとどころではない、という注釈がつくにしろ。
「コレットに似てるって、どういうことさ?エミル?」
「強いていえば、コレットがあのとき。
  …レミエルの言葉を受け入れたときの感覚。それに近いものを感じただけですよ」
その言葉に嘘はない。
「え?それって……」
そのときのことを思い出し、マルタが顔をふせる。
レミエルの言葉に従い、今の状態…感情全て、心を失ってしまったコレット。
マルタがそういいかけるとほぼ同時。
「たか!何だよ!それは!」
ふとロイドの叫び声が聞こえてくる。
みればどうやら露店商の売り子らしきものと言い合っているらしい。
「どうかしたのかな?」
「気になるな。ちょっくらあっちをみてくるわ」
ひらひらと手をふりつつも、そちらのほうにちかづいてゆくゼロス。
「僕達もいきませんか?はい。しいなさん、これ」
「あ、ああ」
なんか話しをはぐらかされたような気もしなくもないが。
今、エミルがいったその言葉の意味はしいなにはわからない。
マルタもまた判らない。
「…自己犠牲…か。ヒトというものは本当に……」
本当に、よくわからない。
感じた念は、自己犠牲そのものといった念。
どうして自らをなげうってでも他者を助けようとするのに、
他者を逆に陥れたり、もしくは他者を排除しようとするのだろうか、ヒトというものは。
「エミル?」
そんなエミルの呟きにきづき、エミルの横で首をかしげるマルタ。
何だろう。
ときどきエミルが遠くに感じるよ。
ふとしたときに感じるエミルとの距離。
「?マルタ、何?」
「ううん、何でもない」
「何でもないって…何でいきなり手をつなぐの?」
いきなり手をにぎってくるマルタにたいし、首をかしげといかけるエミルであるが。
「何となく」
「何となくって……」
わざわざ握られた手を振り払う、というのも何の理由もない以上、不自然…か。
ゆえにため息をつきつつも、
「とりあえず、ロイド達のところにいかない?」
「あ、うん」
結局、エミルに指輪がほしい、といった返事ももらえなかったな。
「でも、あきらめないんだから!」
「??」
マルタがそんなことを思いつつも、最後の台詞は無意識のうちに口にだす。
何を諦めない、というのだろうか。
このマルタは。
そんなマルタの叫びの意味がわからずに、エミルはただ首をかしげるのみ。
そういえば、以前俺が俺じゃないとかこいついってたな。
ふとそのことまでをも思い出す。
思い出は美化される、とよく人間達がいっていたがまさにその通り、かもしれない。
あまりよくない思いではあまり思いださなかったというのに。
マルタ達とともに行動している中で、
あのころの、始めのころのマルタ達の言動すらも思い出してきている今日この頃。
ディセンダーとして表にでていたときの性格と、精霊としての性格。
どちらも自分でしかなかった、というのに。
それでも、あのときの表にでていた性格は、
精霊としての自分を抑えていたがゆえにあのようになってしまっていたのだが。
何よりも魔族とリヒターが契約してしまい、
無理やりに扉をこじ開けた結果、扉の理が狂ったのはあのとき気付いていた。
だからこそあのとき、人に擬態する、という方法をとったのだから。
どちらも自分であったというのに彼女は認めようとはしなかった。
自分の理想のみを押し付けるばかりで。
あのときの自分も強くいわなかったのが原因かもしれないが。
ラタトスク自身、とわかってからも、いつのころからか認めるような発言をしていたが、
本当に認めていたのかは今となってはわからないこと。
あるいみ、マルタは裏表がない人間であるといっていいだろう。
感情のままにつきすすむ。
そのあたりはロイドとよく似ているのかもしれない。
喜怒哀楽。
それは生き物がもっている命の輝き。
そういえば、と過去に思いを馳せているととあることをも思い出す。
ハイマにて瘴気が感じられたあのとき。
あの地を念のために調べさせてみたところ、やはりというか何というか。
あの地に魔族がいた痕跡が残っていたらしい。
最も、あのときのマナの解放でそれらは浄化されているらしいが。
この時間軸から六年ほど前の事件。
ハイマの教会にて神官からきいたこと。
そして、それはかつてデクスからきいた内容とおもいっきりかぶっていた。
扉にて隔てたが、魔族はこちらの世界にも残っている。
以前呼びだした魔族がいい例といってもよい。
大概はマナの影響で無害化していたり、もしくはセンチュリオンの配下に収まっているが。
六年前はまだセンチュリオン達も目覚めておらず、また自らも目覚めていなかった。
おそらくは、微弱なる瘴気に侵された魔物達が暴走した結果、なのだろう。
アリスが今、どうしているのかもきになるが。
念のためにその事実をハイマにてきいたのち、
センチュリオン達にそれとなくそのときの関係者を調べてみるように、と指示はしているが。
「…力を与えるかわりに魔王の禁書をみつけだせ…か」
「エミル?」
「何でもない」
いまだ、きちんとヘイムダールにかの書物は保管されているらしいが。
センチュリオン達の調べた結果、かの地にて魔族と契約した少女。
その魔族はどうもリビングアーマーの部下であるらしい。
ミトスはそのことをしっている、のだろうか。
封じられてもなお、配下をつかい、地上に混乱を招こうとしている彼らのことを。
知っていて放っているのならば、それは……
ロディルとアリスの繋がりもまた今の時点で判明している。
あのときは、すでにロイド達が禁書を消滅させていたがゆえ、アリスも魔族から解放されていたらしいが。
どちらにしても、いずれはヘイムダールにいく必要性がある。
いざとなれば、センチュリオン達がとめても自らがかの品を浄化する必要もあるであろう。
「おいおい。ロイド君よ。何さわいでるんだ?」
ふとエミルがかつての出来事やこれからの行動等に思いをはせていると、
いつのまにかロイド達のいる露店の前にたどり着いていたらしい。
何か叫んでいるらしきロイドにゼロスが問いかける様がみてとれる。
「このおっさん、要の紋が一万もするっていうんだぜ」
「あるいみ、足元みられてるよね。ガラクタっていってたのにさ」
そんなゼロスの問いかけに答えるように、ロイドがふてくされつついい、
ジーニアスもまた呆れたようにいってくる。
「こっちも商売なんだ。いらないんなら別にいいんだぜ?」
にやにやと、これが完全にほしい、とわかっているからであろう。
笑みをうかべてそんなことをいってくる露店商の男性。
そんな彼らのやり取りをみつつ、ぽん、と手をたたき、
「よし。今すぐここのバザーの責任者をよんできてこいつが商売できないようにしてやろう。
  ここ、サイバックで足元をみるような商売をする輩は放っておけないしな」
「な、なんだよ。あんたは」
ゼロスの台詞に怪訝そうな表情をゼロスにむけてくるその男性。
どうやらゼロスのことを知らない、らしい。
それだけでどうやら普通の商売人ではない、というのを物語っているのと同意語。
それゆえにゼロスの目がきらり、と光り、
「神子ゼロス様をしらないたぁ、いい根性してるじゃねえか。
  商売人で俺様をしらないってどこのもぐりの業者よ?こりゃ、サイバックのバザー担当者はっと……」
ゼロスの台詞に、あからさまにゲッと短い声を上げたのち、
「!?み、神子様!?ど、どうぞ。このがらくた…いえ、これは差し上げますので御許しくださいませ!」
そこにある要の紋をひっつかみ、ぐいっとゼロスにおしつけるように、それを差し出してくる男の姿。
神子に目をつけられてはたまったものではない。
すなわち、どこでも商売などができなくなるだけでなく信用にもかかわること。
ここ、テセアラで神子に刃向かった、もしくは目をつけられた。
それだけで商売どころではなくなる、といってよい。
「うむうむ。いい心がけだ。覚えておくぞ」
「はは~」
それを当り前のようにうなづき、そんなことをいっているゼロス。
「…権力の無駄使い……」
それをみてぽつり、とつぶやいているジーニアス。
「で、リフィルさんはどうするの?」
みれば、いまだに目を輝かせながらも品々をみているリフィルの姿が目にはいる。
「…もう、姉さんはほっといていいよ」
がくり、とうなづくジーニアスだが、
「リフィルさん、お金、たりるのかなぁ?」
ふときになるらしくマルタがつぶやき、
「うげ。お金なくなったらネコニンギルドって…そういや、こっちにもあるのか?」
シルヴァラントでは資金がなくなりかければ、ギルドにて依頼をうけていた。
海を渡る前までは魔物を倒せばなぜか魔物がいくばくかのお金をもっていたので、
それでどうにかなっていた、のだが。
パルマコスタ以降、魔物との戦いはほとんど経験しておらず、
ゆえに戦闘によって資金をえる、ということができていないロイド達。
もっとも、ロイドはいまだに気づいていないが、
食材などといった品々は、いつもエミルが用意しかけては、
別なるものが今日はつくる、といいだし、結局、食材などもエミル任せ。
エミルからしてみれば、資金がたりなくなれば何か鉱石の一つでも創り、
そのあたりの店に売ればある程度の資金にはなるのでまったく気にしてすらいない。
「ああもう。ほら、いくよ。リフィル」
「ああ、まだ全部見終わって…っ」
いまだにそこから離れようとしないリフィルをみてため息ひとつつき、
リフィルの手をひっつかみ、その場から引き剥がしているしいなの姿。


「ありがとな。ゼロス。助かったよ」
いまだに後ろ髪をひかれているらしいリフィルはともかくとして、
露店から少し離れた場所にてゼロスにお礼をいっているロイド。
さすがに露店商の目の前であるいみ脅迫じみた行動にて無料でもらったゆえに、
ゼロスにその場でお礼をいうのはロイドとしてもはばかられたらしい。
「いやいや。かわいいコレットちゃんの為だからな」
ゼロスがそんなロイドにと答えているが。
「よし!王立研究院の研究室をかりて修理するか」
「なら、僕、ちょっとノイシュと外にでてくるね」
ロイドが向きをかえ、また王立研究院のほうへ向かっていこうとするのをみつつ、
ノイシュの体に手をおきながらいうエミル。
そんなエミルに対し、
「?何でだ?」
「時間かかるでしょ?修理するなら」
「そっか。この街には厩っぽいものがないから、外のほうがいいのか」
ジーニアスが何かにきづいたらしく、ぽん、と手をたたきつついってくる。
「え、じゃあ、私もエミルと一緒にいくっ!」
「え?マルタはロイド達と一緒でなくてもいいの?」
「エミルと二人っきりのチャンスっ!」
「「「・・・・・・・・・・・」」」
エミルの台詞に、ぐっと握りこぶしをにぎりしめ、そんなことをいっているマルタだが。
そんなマルタの台詞に、しいな、ゼロス、ジーニアスが思わずだまりこむ。
そして、ぽん、とエミルの肩に手をおき、
「大変だねぇ。もてる男も」
ゼロスがしみじみそんなことをいってくるが。
「そういえば、さっき。待ってる間。この街に武装した兵士っぽい人がきてましたけど。
  一応、気をつけたほうがいいかもですよ?」
ゼロスの台詞に苦笑しながらも一応報告。
そんなエミルの台詞に、
「?こういう街ならば見回りの兵士なのではないの?エミル?」
リフィルがようやく我にもどったらしく、エミルの台詞に反応を示すが、
「いえ。なんか、前いきなり襲ってきた人間達と同じ格好をしてたので」
ちなみに、ゼロスの屋敷に襲撃したものと、それとあの城の扉の前にて、
ゼロス達が撃退したものたちと同じ格好をしていたのは疑い用がない。
「昨夜、ゼロスさんの屋敷に襲ってきたヒトも同じような格好してた人が、
  なんか影から襲撃者たちをみてたっぽいんですよね……」
そんなエミルの言葉に、
「そりゃ、たしかにきになる。ね。ゼロス、あたしはちょっとこの街を探索してみるよ。
  念には念いれといたほうがいい。そういうのはあたしの分野、だしね」
この街にも普通に兵士はいる、いるが、襲ってきたものとかかわりがあるかもしれない。
それをきき黙っていられるしいなではない。
「じゃあ、待ち合わせは街の入口にしましょう。
  皆もそれでよろしくて?ロイド、要の紋の修理はできそう?」
「ああ。まじない原語が多少かすれているから、これを治せば何とか、たぶん。
  前、先生に渡したやつと同じような感じだし。これ」
以前、トリエットでリフィルに手渡した要の紋。
あれよりも多少は文字がかすれているが、文字さえ治せば何とかいけそう。
手にいれた要の紋をみつつリフィルの問いかけに答えるロイド。
「じゃあ、あたしもあとで合流するよ。ゼロス、あんたも気を付けなよ。もしかしたら…だしね」
「まさか、いくらあの爺でもこんなところで行動は…おこしかねないか?」
行動はしないだろう、といいかけるが、あの男のこと。
何か屁理屈とかいってしでかしかねない。
特に国王が回復した、というのを知った今、何をしてくるか予測がつかない。
一応、国王には教皇の手にわたった品には十分に注意するように、とはいったが。
あの国王が自分の言葉をどれだけ信用することやら。
そもそも、血の繋がりを重視して、あの国王もゼロスのいい分よりも、
教皇のいい分をうのみにする傾向があるのをゼロスは知っている。
それで暗殺されそうになるのだからあるいみで自業自得、なのかもしれないが。
「?」
そんなしいなとゼロスの会話の意味はロイドにはわからない。
ぎゅっとその手に要の紋を握り締め、
「まってろよ。コレット、きっと、元のお前に……」
いまだに何の反応も示さないコレットにむけてロイドがそんなことをいっているが。
今現在のコレットの精神は深層心理の奥深くにて眠っている状態。
全てを諦めたゆえに、自分はいなくなってもいい、その思いから閉じこもっている。
表にでてきているのは微精霊達の意識体。
ロイドはいまだに気づいていない。
どうしてコレットがその心を閉ざしたのか、ということに。
それは、あのとき、ロイドがコレットと世界、
あの選択のとき、ロイドが世界を選択したことにより、
やっぱり自分のすべきことは、自分が犠牲になることなんだ、とおもってしまったがゆえ。
ということに。


「サイバックって、なんか研究者っぽい人ばかりだった」
「マルタ?」
ロイド達とわかれ、ひとまず街の外へ。
街からでて少し先。
海岸沿いの浜辺にとやってきている今現在。
ノイシュは浜辺近くに生えている木の下でねそべっているのがみてとれるが。
「なんか、白衣きてるひとが近くにいたら緊張しちゃうんだよね。
  なんか、勉強しろ~、しろ~っていわれてるみたいにさ」
砂浜に文字をかきつつも、マルタがそんなことをいってくるが。
「でも、たしか、パルマコスタには学校があるんでしょ?あまりかわらないんじゃあ?」
たしかシルヴァラントの中では最高学府、とまであの場所はいわれていたはず。
実際に、ジーニアス達もそんなことをいっていた。
パルマコスタに住んでいるマルタならばその学校に通っていても不思議はないと思うのだが。
「あんな壁の高いところ、私には無理だよ。
  パパは何とかして私をいれようとしてくれたりしたけどさ。
  結局、ママが雇ってくれた家庭教師に勉強はおそわってたし」
「ふ、ふぅん、そうなんだ」
「エミルは?エミルはどこか学校とかにいってるの?
  もしいってるなら私もそこにいきたいな~」
ずりずりと擦りよってくるかのようにいってくるマルタに対し、
「え?僕はそういうところにいったことないから」
「え?そうなの?」
「うん。前、リフィルさん達にはいったけどね。
  それに、リフィルさんがこの旅の中でいろいろと教えてくれてるし。
  それで十分かな、とおもうしね」
実際、リフィルから課題なども出されている。
ロイドはいまだに文句をいいまくっているが。
どうもやはりというか何というか。
四千年前のヒトの世界と、今の世界。
かなりかわっている点が多すぎる。
かといって、自らがかの地にて理の変更をしたあの後の世界とも異なっている。
それらの相違点を見詰めつつ、リフィルのあるいみ課外授業ともいえるそれを習っている今現在。
それは、彼女達と行動を共にしはじめてからずっと続いている。
もっとも、救いの塔以降は、その課外授業は行われていないものの。
「ねえ。エミル…コレット、モトにもどる…よね」
「それは、当人次第、じゃないのかな」
「え?」
「だって、マルタもみてたでしょ?あのとき、ロイドが選択したのは?」
「それは……でも、あのときは」
世界か、コレットか。
ジーニアスにいわれ、ロイドが選択したのは、世界。
マルタもすぐにその選択に答えることができなかったあのとき。
「コレットって、みたところ、自己犠牲の精神が異様に強いっぽいし。
  …まあ、どうもそのように育てられてるのが原因らしい、けどね」
その一番の原因は、ミトス達がつくりあげたこの神子、という制度が根本たる原因。
「…ねえ。エミルはこの旅がおわったらどうするの?何なら、一緒にパルマコスタに…」
「僕は僕のすることがあるからね」
「?何それ?なら私も手伝う!」
「マルタはマルタのすべきことがあるとおもうよ。きっと」
「む~、何それ!」
むっと膨れるマルタに対し、
「もしも、世界がかつてのように一つにもどったとしたら。
  シルヴァラントの人達が、テセアラの人達にどんな態度とられるとおもう?」
「え?それは……」
「ここって、身分制度ってものがあるらしいよね?
  マルタもみたでしょ?テセアラの首都のあの街並み。
  シルヴァラントで繁栄しているというパルマコスタと比べて、どう?」
「それは……」
エミルの問いかけにマルタは答えることができない。
「下手をしたら、世界が一つにもどっても、テセアラの人は、
  シルヴァラントの人達を、それこそディザイアン達という輩達のように、
  蛮族とかいってさげずんで何をしてくるかわからない、よね?」
「まさか、でも、ゼロスとかはそんなことはしないとおもうよ。きっと」
「ヒトはね。マルタ。…個人がどうおもっても、国、というものがあった場合。
  それが間違っていたとしても従い、間違いを犯すものなんだよ。
  その国の方針にさからえば自分が罪人になるから、そんな理由でね。
  そんな法をつくったものまたヒトでしかない、というのに。
  その法にほかの生物などにもあてはめてヒトは判断しようとしかしないから」
たかが一方の方面だけみて、自分達の利益になるようにしむける。
それがヒト。
中にはそうでないものもいるにはいるが、それはほんのごくわずかにすぎない。
「マルタは、そんな中で頑張ろうとする両親をほうっておけるの?」
実際に、ヴァンガードの発足は、そんなテセアラ人たちの横暴から、
シルヴァラントの人々を解放するためにブルートが発足した。
ソルムのコアを受け取るまでの彼は、たしかに、民のことを思っての行動であったはず。
狂ったのはコアをうけとり、その心が蝕まれていってしまったがゆえ。
たかがヒトがセンチュリオン達のもつ世界を司る巨大な力を制御できるはずもない、
というのに。
アリスとリヒター。
アクアがリヒターに詳しいことをおしえたとはおもえないので、
おそらくは、アリスがかつて契約していた魔族からコアのことを聞いていたのだろう。
それはかつての記憶。
「そんなのできるわけ…じゃあ、エミルも手伝ってよ!」
「だから、マルタにはマルタの。僕には僕のすべきことがあるからね」
「だから、そのすべきことって何なのよ!それをおしえてくれなきゃ賛成できないよ!」
「まあ、今は、コレットの心を浮上させるのが一番だろうし。
  まだ時間はあるんだから、マルタはよく考えてみたらいいよ」
「もう、エミル!話しそらさないでよね!」
マルタがたちあがり何やら文句をいってくるが。
「さて。と。僕、そのあたり散歩してくるね」
「あ、エミル、ま…あれ?エミル、どこ?エミル~?」
先ほどまでそこにいたはず、なのに。
木の後ろにいったはずのエミルの姿がみあたらない。
きょろきょろとしばし、エミルの姿を探すマルタの姿がその場においてみうけられてゆく。


「かなりたまっていますね」
「だな。…あの地でハーフエルフ達を生涯閉じ込めて、という関係もあるのだろう」
すっと手の平に浮かびしは、真っ黒な蓮の花のような水晶もどき。
マルタの前でこの作業はできない。
ゆえに、木の間に隠れるようにしてやってきているここ、扉の前。
「それで?ラタトスク様、その種子はどのようにして発芽させるおつもり、ですか?」
「これは、方向性をかえただけの大いなる実り。その暗黒版、だからな。
  これをかの魔界にて発芽させ、そのまま魔界そのものを取り込んだのち…
  解放し作り上げた惑星に魔界ごと転移させる」
この扉の奥にとある魔界ニブルヘイム。
この種子から芽吹くは、普通の大樹…すなわち、世界樹ではない。
暗黒大樹、とよばれし品。
これは一定のマナ、そして瘴気を産みだしたり、浄化する作用をもっている。
本来の大樹の役割は、瘴気を浄化しマナを産みだす役割をもっているのだが、
この種子は逆の役目をもたせ今現在育てている最中。
基本となりしは、ヒトによる負の念により力を蓄えている、のだが。
よもや、グランテセアラブリッジと、ここサイバック。
たったの二か所で完全に世界一つ構成されるまでの力がたまるとはおもわなかったが。
「さて、どのあたりにこれを産みだすべきか……」
すっと手を振るとともに、天井に突如としてこの宇宙空間ともいえる惑星がある恒星の周囲が映し出される。
「太陽からある程度ちかしい場所のほうがいい、だろうな」
大きさは、この惑星とほぼ同じにする予定。
大地の下にて渦巻いているままの瘴気は、マグマにと変換することにより、
かつてのようなことも起こらなくなるであろう。
「さて、センチュリオン共」
『は』
ラタトスクがこの場に戻るとともに、センチュリオン達も何か次なる命があるかもしれない。
ゆえに全員が勢ぞろいしているのだが。
「次なる命だ。…ヒト、という種族からマナを切り離せ。
  否、性格にいえば、マナと彼らを構成する器の間に、分子原子があるようにみせかけろ」
それにより、ヒトはマナ、という分野を見逃し、原子に目をむけてゆくことになるだろう。
それにより、マクスウェルが世界の王、という認識をヒトがする可能性もあるが。
オリジンやそれ以外の精霊のことに気付かれるよりははるかにまし。
なぜかヒトという種族は簡単に精霊の力すら制御できる、
すなわち自然の力すら制御できる、と思いこむ生物なのだから。
全ての命からマナを切り離すのにかつては千年かかった。
が、その種族を限定すればさほど時はかからない。
もっとも、すぐにマナに還るような理はすこしばかり時間をおくように変更する予定ではあるが。
「マクスウェルにはその説明は?」
「以前にもこの提案はしているからな。報告だけでよかろう」
それに何よりも、エグザイアにてそのあたりの確認をも一応とっている。
「ミトス達に気づかれぬよう、ちょうど太陽の真裏あたりでよいだろう。ゆくぞ」
その言葉とともに、その場から光とともにラタトスクの姿がかききえる。
向かう先は、太陽の真裏。
新たな惑星を黒き種子で芽吹かせるために。


「う~ん、しっかりした土台がいるな」
リフィル達に入口でまっていてくれ、といったものの。
要の紋だけを治すのはたやすい。
だがしかし、クルシスの輝石を取り外すことはできない。
下手に取り外して異形と化してしまっては取り返しがつかない。
ならば、別なる形で要の紋をその身につけさせるのが一番いい方法、なのであろうが。
「何かもってなかったかな……」
いいつつも、自分の服のポケットや懐をさぐる。
と。
かちゃり、と何か固いものにとふと触れる。
「…あ」
コレットの十六歳の誕生日。
義父ダイクには半人前のでき、といわれた首飾り。
あれからまたまたすっかり忘れていた代物。
救いの塔にいく前日、ジーニアス達に呆れられた、というのに。
またすっかりと忘れてしまっていた自分自身に嫌気がさす。
花をかたどった首飾り。
ふと、ハイマで声を失ったコレットのいってくれた言葉がロイドの脳裏によみがえる。
――天使になってもずっと、まってる――
「っ。まってろよ。コレット。待ってることなんてない。
  俺が、俺がこの首飾りでお前を元にもどしてやるからな!」
今度こそ、間違えないために、約束をたがえないためにも。
台座とすべきものがさだまり、ロイドは一人、作業場にて熱中してゆく。


「あら?マルタ?」
エミルやしいなと別れ、ふたたび王立研究院にともどってきていた。
ロイドが一人、修理するから、といって部屋に閉じこもっている間、
入口の待合室にて待っている最中、ふとみおぼえのある人物が。
「ああ。やはり神子様のお連れさん、でしたか。念のためとおもったのですが」
研究院の入口にいたのであろう人物が、マルタを案内しつつ、
待合室にいるゼロスにむかって何やらいってくる。
そんなマルタに気づき、リフィルが声をかけているが。
「?エミルはどうしたの?」
「それが、エミル、散歩してくるっていって、はぐれちゃって。エミル、こっちにもどってきてない?」
散歩してくる、といってノイシュと一緒に出かけた以上、ここに戻ってきているかもしれない。
すぐに姿がみえなくなったのは、おそらくノイシュの背にのって、
ノイシュを散歩がてら走らせているのではないか、というのがマルタの予測。
実際は全く異なっている、のであるが。
ノイシュはどうも、やはりいまだ決心がつかない、というかその特性自体を生かし切れていない、
ゆえにウンディーネにいい、水上、また水中での行動のリハビリを命じていたりするラタトスク。
ノイシュの姿がみえなくなったのは、ウンディーネにつられ、
ノイシュが海中に連れていかれているから、なのだが。
それにマルタは気づけない。
気付くことができない。
最も、気づけたらそれはそれですごいとしかいいようがないであろうが。
「いえ、まだ戻ってきてないわ」
「あ、もしかして、エミル、ノイシュを走らせてるんじゃない?
  あいつ、走るのすきだからな。ってロイドがよくぼやいてるもん」
ジーニアスがふと思い出したようにマルタにたいしそんなことをいっているが。
実際、ロイドはノイシュを散歩させるとき、
いちいち連れて歩いていてはノイシュの散歩にならない、という理由から、
なぜかその背にのっかって、自由に走りまわさせていたりする。
幾度も付き合わされたことがあるがゆえに、ジーニアスはそのことをしっている。
「ノイシュもきっとストレスがたまっているのよ。いろいろあったもの」
「そう、だね」
空を飛んだり、竜巻に巻き込まれたり。
たしかにいろいろとあった。
リフィルの台詞にジーニアスが思わず顔をふせる。
「そういえば、ロイドは?」
この場にロイドがいないのにきづき、といかけるマルタの台詞に、
「ロイド君なら、研究室の作業場をかりて要の紋の修理をしてるぜ?」
「結構時間がかかるかもしれないわね。
  ゼロス、ここ、サイバックには他にどんな施設があるの?」
たしか、以前の修理も一晩かかっていたことを思い出す。
数時間はかるく経過していたはず。
夕方宿屋にはいり、ロイドから要の紋を受け取ったのは夜遅くであった。
それを思い出しゼロスにと問いかけるリフィルの台詞に、
「うん?学術図書館とかもあるぜ?
  ここテセアラの様々な資料が集まってる。とまでいわれている場所さ」
「興味深いわ。私たちでも閲覧できるのかしら?」
「そりゃ、俺様の口利きがあれば、な。リフィル様、いってみたいの?」
「ええ。情報はあるにこしたことはないもの」
「たしかに。気になるよね。姉さん。僕もみてみたい」
「ええ!?リフィルさんもジーニアスも本気!?うわぁ。こんなときまで勉強なんてしたくないよ~」
そんな彼らの会話をきき、心底嫌とばかりにマルタが叫ぶ。
「んじゃま、そうすっかね。たしかにコレットちゃんもあっちのほうがいいかもだし」
このままここにいれば、天使化しているという彼女を調べてみたい。
とかいうあるいみマニアックな研究者たちがやってきかねない。
ならばまだ図書館のほうが安全といえば安全。
「よし。きまりだな。奥にいってる赤いガキが出てきたら、学術資料館にいるってつたえてくれ」
「わかりました。さきほどの全身、真赤な男の子ですね」
ゼロスが受付のものにそういえば、納得したようにうなづいてくる受付の女性。
どうやら彼らの初見の認識も、赤い、で統一されているらしい。
「全身真っ赤…あるいみその通りだよね、驚くほど赤いし」
マルタがそんな受付嬢の台詞をきき、納得したようにうんうんうなづいていたりするのだが。
「では、決まりね」
「ここ、テセアラの本ってどんななんだろ?」
「わからないわね。少なくとも…シルヴァラントより技術は発達している、でしょうね」
シルヴァラントでは羊皮紙などが主流であったが。
こちらもそうだ、とはいいきれない。
むしろ、きちんとした紙の製法が確立されている、とみて間違いないであろう。


サイバックにとある学術資料館。
街の入口から入って少し奥にとあるその建物は、入口にきちんと看板がたっており、
扉をくぐってゆけば、受付係りらしきものがみてとれる。
ここから東にはガオラキアの森があるだけで、めぼしいものは何もない、らしい。
そしてここ、サイバックが学園都市と呼ばれる所以。
それはこの地でいろいろなことが研究されているかららしい。
エクスフィアの機器利用、マナと魔科学の研究。
魔術研究、歴史研究等。
精霊とマナに関しては王都メルトキオの研究所のほうが盛ん、であるらしいが。
「うわぁ。すごい本の量。マナの守護塔よりも多いよ。これ」
建物にはいるなり、ジーニアスがそんな声をだしていたりするが。
「ここではお静かにねがいます。って、これは神子様。
  神子様がこのような場にこられるなど。学生時代以来ではないですか?」
受付嬢らしき人物が、ジーニアスに注意をうながし、
そして共にいるゼロスにきづきそんなことをいってくる。
「麗しきお嬢さん。お久しぶりです」
「まあ、神子様ったら。あいかわらず、ですわね」
ぽっと頬をそめてゼロスの台詞にそんなことをいってくる受付嬢ではあるが。
「学生?ゼロスも学校にかよってたの?…みえないんだけど」
そんなジーニアスの台詞に、
「ちっちっ。これだからガキは。
  この俺様はこうみえて王立研究院付属の学問所を首席で卒業してるんだぜ?」
「「嘘(だぁ)!?」」
ゼロスの台詞に同時に叫んでいるマルタとジーニアス。
「嘘だ。この女の子にちゃらちゃらしてるゼロスが僕より頭がいいなんてみとめない!」
ジーニアスはジーニアスで何やらそんなことをいっているが。
「あら。そうなの?なら今後の夜の授業はゼロスにも受け持ってもらおうかしら」
その台詞をきき、リフィルが少し考えたのちそんな提案をしていたりする。
「うん?夜の授業?」
「ええ。この子達、旅にでたでしょう?かといって学業をおろそかにさせるわけにはいかないわ。
  だから、時間があれば、夜に課外授業をかねて授業をしてるのよ。
  いつも課題もきちんと出しているのよ?」
「ひゅう。さすがリフィル様、先生っていわれてるのはダテじゃないってか?
  俺様としては、夜の、というのだったら、ベットの上で…」
「そういえば、ここの資料はかなり多いわね。ロイドをまつ時間つぶしにはちょうどいいわ」
「…うう。リフィル様が無視する。マルタちゃん、なぐさめて~」
「ゼロスが頭がいい?…信じられない」
「ひど。マルタちゃんまで」
マルタの背後から抱きつくようにしていうゼロスにたいし、
マルタがさらり、と身をかわしつつもいってくる。
「これだけ本があるといろいろとあるんだろうね」
「そうね。もしかしたら勇者ミトス達に関するものもあるかもしれないわね」
おそらくは、全ての鍵は古代大戦にある。
そうおもうがゆえのリフィルの台詞。
「あの。すいません」
「はい?」
先ほどまでゼロスと話していた受付嬢にといかけるマルタ。
「ここって、勇者ミトスに関する資料とかもあるんですか?」
「ええ。ありますよ。それでしたらこちらの棚です」
マルタの質問ににっこりとほほ笑み、とある棚にと案内してくる受付嬢。
そして、とある棚の前で立ち止まり、
「この辺りに、勇者ミトスとその仲間達の資料が展示されているはずですわ」
「どうもありがとうございます」
案内してくれた係りのものにお礼をいい、しばし棚をじっとみつめるマルタ。
棚に案内されている中、
「すいません。あやしい薬の効能、という本を探しているんですけど……」
どうやら何かの本を探しているらしい研究者らしき人物が、
もう一人いる受付係りのもににとといかけているのが見て取れる。
「「…あやしい薬って……」」
その台詞をききとがめ、思わず同時につぶやいているマルタとジーニアス。
「あと、精神世界へのトリップ、というのも……」
その人物が続けざまにいったその台詞に、リフィルが思わずコメカミに手をあてる。
「精神世界へのトリップ?なんか面白そう」
「やめときなさい。それはまちがいなく、禁止事項の薬草とかに違いないわ。
  例をあげるとすれば、大麻、とかね。廃人になりたいの?」
「げ。それはちょっと……」
リフィルの説明にマルタは思わず引いてしまう。
「ここの図書館にない資料はない、とまでいわれてるんだぜ?」
ゼロスがどや顔をして全員を見渡しそんなことをいってくるが。
「あら、これは……興味深いわね。肉体は精神の器…器?これは……」
リフィルがとある本の表紙に目をつけて、ぱらぱらとその本をその場でたったままめくり始める。
器、ときいて思い出すは、レミエルのいっていたコレットをマーテルの器にする。
その台詞。
「肉体は精神体の器にすぎない。ゆえに、その精神を取り出し、別なる器に移動させるのは理論的に……」
ぱらばらとリフィルがその書物を読みふけっているそんな横で、
「あれ?これ……」
勇者ミトスと仲間達に関する考察について。
とかかれている表紙の本。
本そのものはかなり大きく、見開きにすれば結構な大きさ。
ジーニアスがそれにきづき、それを手にとろうとするが、
上の棚にあるがゆえに背伸びをしてもまだたりない。
「ん~、もうすこし……」
「おい。チビ、これか?」
「誰がチビなんだよ!」
「図書室ではお静かに!」
ジーニアスがゼロスにたいし、くってかかるが、すかさず係り員から注意の声が飛んでくる。
「えっと、何みてるの?」
ふと同い年くらいの女の子が何かを熱心にみているのにきづき、
少女が座っている椅子の横にちかづき、覗き込みながらといかけているマルタ。
「珍しい動植物の図鑑をみてるのよ。この中には魔術でつかう触媒も結構多いのよ。
  あなたは?新しい学生さん、かしら?」
「え?私?私は観光?」
「あら。珍しいわね。観光客でここにくるなんて。
  それほど本が好きなのかしら?本好きにはここはたまらないものね」
観光、といったのはそれ以外に何と答えていいのかわからないがゆえ。
たしかに本好きなものにはたまらない、であろう。
これほどまでの量の本があるのならば。
噂ではマナの守護塔にかなりの量の本が保管されている、とはきくが、
マルタはその量がどれほどなのかは見たことがないのでよくわからない。
奥のほうにまでつづく、本棚はこれでもか、というほどに何列もつづいている。
「これは…ミトスの仲間に…?」
ゼロスが棚の上より下ろした本は、近くの机の上にと置かれ、
ぱらばらとその資料をめくり始めるジーニアス。
ふと、その中の項目に気になる言葉をみつけ、
「姉さん。ちょっといい?」
「どうかして?ジーニアス?」
片手に今まで読んでいた本を持ち、どうやら本格的に座って読む算段らしい。
ジーニアスによばれ、近づくリフィルに、
「これ、どうおもう?」
ジーニアスが示した場所には、天使、という言葉がかかれている何かしらの症状。
「ミトスの仲間に体中が結晶化する病になった人がいるってかかれてるけど。その症状の名前、これみてよ」
「永続天使性無機結晶病?…天使?天使疾患に近しい症状、かしら」
リフィルもその内容が気になるらしく、読み進めてゆくが、肝心なことはあまり書かれてはおらず。
ユニコーンの力にてその女性は助かった、という項目が記入されている程度。
「ユニコーンが乙女を救った…ね」
「?ユニコーン?あのとき、ユニコーンが
  マーテルの病を生かすために生かされてた。みたいなことをいってましたけど」
先ほどまで話していた少女との話しがおわったらしく、
マルタがリフィル達に近づいて、ユニコーン、という言葉に反応しそんなことをいってくる。
あのとき、ウンディーネと契約したのち、ユウマシ湖にてユニコーンの角をもとめたあのとき。
しいなとコレットとともに湖の中央にいったとき、たしかにユニコーンがそんなことをいっていた。
「もっと、詳しい内容は…だめね。これにはかかれていないわ」
リフィルがぱらばらと他のページも確認し、もっと詳しいことが書かれていないか、と
ざっと目を通すが、それ以外に詳しい内容は触れられてはいないらしい。
どうやら勇者ミトス達の旅における功績などをまとめている資料、であるらしいが。
テセアラの近衛騎士団長とともに勇者ミトスは停戦協定を成し遂げた。
そのようなことも書かれている。
「他に詳しい内容がかかれているものはないのかしら?」
「この大量の書物の中にはあるかもしれないけど…見つけ出すのは無理なんじゃない?
  それこそ、日にちをかければあるかもしれないけどさ」
リフィルの台詞にジーニアスが首をすくめていってくる。
「せめて、カーラーン大戦に関する記述とかかかれているものはないかしら」
そんなリフィルの言葉が聴こえた、のであろう。
この建物内にいる女性に片っ端から声をかけていたらしいゼロスが近づいてきて、
「うん?リフィル様はカーラーン大戦に関する記述がみたいのか?
  ここより詳しい資料があるとすればテセアラ王室だな。
  たしか、王室が編纂して保管してるってきいたことがあるぜ。
  何でもカーラーン大戦時代、王室とミトスとの間にはいろいろと因縁があったらしいからな」
「?その因縁って?」
「さあな。詳しくは語られていないし。俺様もあるのをしっているだけで、そんな資料はみたことすらないからな」
ゼロスの説明にジーニアスが首をかしげつつ問いかけるが、
ゼロスもそうとしかいいようがない。
そういったものがある、というのは知ってはいるが、
実際にみたことがない以上、そうとしか説明のしようがない。
「仕方ないわね。とりあえず、それぞれ気になるものを物色し、時間をつぶしましょう。
  きっと、本を読んでいれば、ロイドの作業も終わるでしょうしね」
あくまでもこの本の閲覧は時間つぶし。
だけども時間があれば、本格的にこの資料は全て読破してしまいたいわね。
そんなことをおもいつつ、リフィルがジーニアス、そしてマルタにと視線をむける。
「んじゃ、俺様はちと用事もあるので、一度研究室にもどるな」
「え?ゼロスもここにいないの?」
「俺様も暇じゃないのよ。じゃあな~」
ひらひらと手をふりつつも、資料館を後にするそんなゼロスの後ろ姿を見送りつつ、
「変なやつ」
「仕方ないわ。どうやらここテセアラでは神子、というものはかなり重要な立場のようですもの。
  おそらくいろいろとあるのよ」
ジーニアスの呟きに、リフィルが苦笑まじりにそんなジーニアスをたしなめる。
短い間ではあるが、テセアラにおける神子という立場。
それがかなり重きをおいているのは、リフィルとて理解した。
でなければ、昨日、こちらにきてすぐに国王との謁見がかなうはずもない。


「コレット、まさかこんな形でお前に誕生日プレゼントを渡すことになるとはな」
細工もおわり、受付にいってみると、そこにいるはずのリフィル達の姿はなく。
聞けば、何でも学術資料館という場所に彼らは移動した、らしい。
作業が終われば連絡するように、と言付かっているので、そちらでお待ちください。
そういわれ、まつことしばし。
研究所の入口付近にある待合場所でもあるロビー。
エミルの姿がみあたらないが、きけばノイシュの散歩にでたっきり、だという。
まあ、エミルのことだし、問題はないだろう。
そうおもいつつも、コレットに近づいていきつつ、
先ほど細工し終えたばかりの首飾りを取り出すロイド。
そして、コレットの目の前にたち、
「わかるか?コレット。遅くなって…ごめん。遅くなったけど、これが俺からの誕生日プレゼントだ」
立ちつくしたまま、まったく動かないコレットの首にそっと首飾りをかけるロイド。
「コレット、俺がわかるか?」
首飾りをかけて、コレットの顔を覗き込むが、コレットの表情には何の変化もみられない。
「コレット?」
不安そうにコレットを覗き込むジーニアス。
「…ダメ、みたいだね」
マルタもまたため息をつきつつぽつり、とつぶやく。
「時間がかかるのか。もしくは要の紋に問題があるのか。
  たしか、ゼロス。あなたの輝石は特殊な要の紋だとかいっていたわね?」
「おうよ。研究院が調べた結果でよければわかってるぜ?
  ジルコンと何かで結ばれた品。マナリーフらしきもので紡がれた文字。
  もっとも、詳しくは研究院でも判ってはいないんだけどな。クルシスの輝石の要の紋に関しては」
実際に、何の物質でできている、という正確なる答えは研究期間内には見つからなかった。
今でもクルシスの輝石を研究している部署では
その要の紋から得たデータにて、その把握に努めているらしいが。
「わかってるのは。中央にマナリーフっていう特殊な物質が使われているってことだな」
もっとも、輝石を預けてからこのかた、時間がたっているので
もしかしたら研究が進んでいるかもしれないが。
そんな報告はゼロスはまだ受けてはいない。
「ジルコンって、たしか伝説の?」
「そっちじゃ伝説なのか?こっちじゃ時折発掘されるぜ?もっとも貴重な品であるのは間違いないけどな」
いいつつ首をすくめ、
「んで、結局、コレットちゃんは元にもどらない…と」
いまだにコレットの表情は先ほどとまったくもってかわりがない。
「仕方ないわね。ダイク、もしくはテラアニにいるというドワーフの力を借りればどうかしら?
  おそらくは要の紋に問題があるのだとおもうのだけども」
ふむ、と考え込むようにしてその手を顎にあててつぶやくリフィル。
「姉さん。おじさんはシルヴァラントにいるんだよ。
  それに、レアバードは燃料切れだし。そもそもしいながもってるし」
レアバードが入っている、という腕輪はしいながもっており、
ジーニアス達は今現在、移動する手段をもっていないといえる。
「ここって、研究所、なんだろ?ここにいる人なら何かいい方法をしらないかな?」
「雷のマナ、となれば、雷の精霊、ヴォルトだけども。
  しいなはたしか、契約していない、といっていたわね。
  雷の精霊のいる神殿はわかっているのかしら?こちらでは?」
「雷の神殿ってか?そりゃ、わかってるけどさ。
  そもそも、毎年のように封印解放の儀式は恒例化してるからな。
  神殿の場所は俺様はくわしいぜ?というかどうせプレセアちゃんを送ってくんだ。
  アルテスタってやつにきくのが手っとりはやくないか?」
「そういえば、ここテセアラにもドワーフっているのか?」
「最後の一人、といわれてるけどな。アルテスタは」
ゼロスの台詞にロイドが首をかしげといかければ、そんな答えが戻ってくる。
「そうね。ならば、そのドワーフに聞いてみるのが一番、かもしれないわね。
  どちらにしてもそこにむかってゆくのでしょう?」
「まあな。そのためにプレセアちゃんに道案内をお願いしてるんだし。な、プレセアちゃん」
「……はい。道案内…します」
ゼロスがプレセアに依頼したのは、ガオラキアの森を抜けるための道案内。
ガオラキアの森の奥にあるオゼットに住む彼女だからこそできること。
と。
「神子様、聞かせてもらいましたぞ。
  テセアラの滅亡に手をかした反逆者として神子様とその仲間達を反逆罪にと認定します」
研究院の奥からまってました、とばかりにでてくる鎧を着込んだ男たち。
「はぁ?おまえら、何いってんの?いつ、どこで俺様がそんなことしたよ?」
「とぼけないでいただきたい。
  今、シルヴァラントにいく、という話しがでていた以上、問答無用です」
「屁理屈、ね。私たちは可能性の話しをしただけで、それで言い切るなんて」
あきれたようなリフィルの台詞。
誰がどう聞いていたとしても、屁理屈というか言いがかりとしかいいようがない。
「問答無用。我ら教皇騎士団は教皇様の御命令で動いています。
  神子様が王家への反逆の疑いがあるがゆえに監視せよ、と」
「反逆、ね。どっちが反逆しようとしてるんだか。
  そもそも、国王がふせっていたのは何の理由だったのかお前ら聞かされてないのか?」
ゼロスの言葉が聴こえているのかいないのか。
否、聞こえていても無視するつもり、なのであろう。
そのまま、
「取り押さえてサンプルをとれ。
  そっちの天使とかいうやつのほうはいい。近寄ると殺されるかもしれないからな」
気付けばいつのまにか鎧を着込んだ、ゼロス曰く教皇騎士団という輩がロイド達を取り囲んでいたりする。
「おもいっきり言いがかり、だよね。これ」
「なるほど。そういうことね。おそらく、その教皇という人物の目的。それは口封じ、ね」
「口封じ!?」
「ええ。毒を解除した、というのはおそらく伝わっているはずだわ。
  だとすれば、真実をしっている私たち、そしてこれ幸いと神子を陥れようとしても」
「ひゅう。さすがリフィル様。あの狒々爺ならやりかねないしな。
  ここにこいつらがきたもの、反論すれば教皇の不興をかうとか何とか。
  こいつらが言いくるめたにちがいないしな」
みれば、遠巻きにはらはらしながらもこちらの様子をみている研究者たちの姿もみてとれる。
彼らも話しの内容はきこえていた。
あきらかに教皇騎士団達の言いがかりともいえる内容は。
甲冑をがしゃがしゃいわせ、その手に様々な武器を手にもち、
あっというまにロイド達を取り囲む兵士達の数、およそ六名。
「いて!何すんだよ!」
腕をねじり上げられて思わずロイドが抗議の声を唱えるが構うことなく腕をねじあげる兵士の姿。
「こいつらって何なわけ?」
「教皇騎士団、さ。教皇のためならば盲目的に犯罪もいとわない集団、さ」
「聞き捨てなりませんな。神子様。そのいい方は。
  いや、元神子様というべきでしょうね。犯罪者ゼロス」
「だから、誰が犯罪者だってのよ。おまえら、しらねえぞ?スピリチュア伝説が再来しても、な」
「はん。あんな伝説を目の当たりにするものなどいるはずもないでしょう」
ゼロスの台詞を鼻で笑い飛ばすかのような男の台詞。
関係者以外にはコレットの羽が見えない状態になっているがゆえ、
教皇騎士団とよばれしものたちは、コレットの背に生えている翼に気づかない。
もしも気付いていれば、スビリチュア伝説の再来を恐れたであろうに。
「ハーフエルフは見た目が人間と変わらないものもいる。
  だからこそそいつらを確認する必要があるんだ」
もっともらしく言い放ち、
「この二人は適合しました!」
「おいおいおい。おまえら、生体検査の機械すらつかってないのに、適合した、だ?
  …そういうこと、か。ヘドがでるぜ。教皇のやりそうなこって」
リフィルとジーニアスの背後にまわった兵士が、
二人の腕をねじりあげながら、何の検査もしてない、というのにそんなことを言い放つ。
実際、彼らは生体検査装置をもってきていたのだが、それはまったく使用不能となっており、
ゆえに元々いわれていたこと。
すなわち、適合していなくても適合したことにしろ。
という命令のまま、行動に移している彼ら騎士団の面々。
さきほどリフィルがいった台詞の通り、まさに口封じ、なのだろう。
あのとき、国王の毒を解除したリフィル。
その弟らしき人物も一緒にハーフエルフ、ということにして処刑してしまえば、
死人に口なし、とはまさによくいったもの。
「何すんだよ!ジーニアス、先生!」
ロイドが思わず叫ぶが。
「私たちのことは気にするんじゃありません。今はとにかくコレットのことを」
しいなに幾度も忠告をうけていた。
ハーフエルフと気付かれないように、と。
ゆえに肯定も否定もせずに、うろたえるロイドに一喝するかのように叫ぶリフィル。
「はん。低脳なハーフエルフがよくほえる」
「何だと!先生もジーニアスもお前らよりよほど立派だぞ!おまえらいきなり何だっていうんだよ!
  ハーフエルフだろうが何だろうが、関係ないだろ!」
「おいおい。ロイド君よ。そりゃ少し違うぜ?お前らの世界がどうかはしらねえが。
  こっちじゃハーフエルフは身分制度の最下層なんだよ。
  もっとも、こいつらはこじつけつけてもし生体装置で反応しなくても、
  反応したといって難癖つけるき満々だったようだけどな。
  実際、装置をつかわずにいきなり宣言してるわけだし。そこんとこどうよ?」
「教皇様のいい分は絶対です。彼が二人をハーフエルフだ、と認定しました。
  ゆえに、わざわざ機械で調べる必要もない、ということですよ。神子様」
「あいつ、これまでもそういって罪もないやつらを処刑してたよな?」
実際に、そうでないのにそのように細工して、自分が上にいくために、
教皇はかなりの人間を蹴落としたり、またその命を奪っていたりする。
「ハーフエルフの人間は例外なく死刑。あの金髪の少年はどこに?」
「はん。俺様がしるかよ」
「そんな馬鹿な!というか、まさかお前ら、エミルにまで!」
エミルがいまだに戻ってきていない。
まさか、エミルだからありえない、とはおもうが。
こいつらに捕まったんじゃあ。
そんな悪い予感が脳裏をかすめ、思わず叫ぶロイド。
「あの少年もまたハーフエルフだ、と教皇がいわれた以上、彼もまた死罪」
「エミルに何かしたらゆるさないんだからね!!」
マルタがその台詞に反応し、思わず叫ぶが。
「まずはその二人をつれていけ」
「先生!ジーニアス!」
その言葉とともに、ジーニアスとリフィルをひねり上げていた兵士達が、
武器をつきつけながらリフィル達に歩くように促し連れていこうとする。
そんな二人にたいし、ロイドが叫ぶが、
ロイドもまた手をひねられ、その手に手枷らしきものをはめられてしまいなすすべはない。
「ロイド!」
「ロイド、あなたは、コレットを何があっても助けだしなさい!いいわね!」
ジーニアスが振り返りながら叫び、リフィルはリフィルでロイドにすべきことを伝言する。
「教皇がいうには、あの女性は術がつかえる。という。
  だとすれば魔術も使える可能性がたかい。ハーフエルフならば当たり前だしな。
  厳重に警戒しなければならないが、人員が確保できなかったからな。
  かといって、警備を手薄にして逃げられてもしたら厄介だ。
  神子達はとりあえず地下にでも軟禁しておけ」」
「しかたあるまい。教皇より少数人数で、というお達しだからな。橋まで戻れば応援がよべるしな」
「あんたたち、さいってい!」
マルタがきっと睨みつけるように言い放つが、
「罪人が。こいつらを地下につれていけ」
すでに全員に手枷がかけられ、なすすべはない。
そんな騒ぎの中ですら、コレットは静かにその場にたたずむのみ。
人間がすることは相変わらずというべきなのだろう。
コレットの内部にて微精霊達はそんな思いにと駆られていたりする。
いつの時代もかわらない。
他人を陥れるようなヒトがいる、というのは、彼らが産まれおち、
そしてヒトに利用される状態になり見知った事実。
何よりも、王たるラタトスクの加護をうけているという人間ですら、その信頼を裏切っている、のだから。
この場で力を解放することはたやすい。
が、王の許可がない以上、勝手に行動することは今現在は慎んでいる。
もっとも、自らの器であるこの少女に危害が加わるようならば、
微精霊達もまた正当防衛として力の行使を遠慮なく施行するつもりではあるが。
当然、ロイド達はそんな事情を知るよしも…ない。


王立研究院。
そのさらに奥。
地下にとつづく階段の先。
見張りらしきものがいるその先に、頑丈な扉がみてとれる。
バタンッ。
その重苦しいまでの鉄制の、しかもご丁寧に鍵までついた、
さらには何重にもかけられているカンヌキが解き放たれ、勢いよく扉が開かれる。
「誰!?」
部屋の奥にいた、のであろう。
白衣をきた青い髪に眼鏡をかけた女性がその音に気付き驚きつつも振り返る。
ハーフエルフ風情が俺達に声をかけるな。おまえは黙って研究をつづけろ」
「気様は作業をしていればいいんだ」
そんな女性にたいし、口ぐちにそんなことをいいはなつ兵士の姿。
「こいつらは罪人だ。引き取りにくるまでここに軟禁しておけ」
兵士達はそれだけいうと、甲冑をならし、部屋から外にとでてゆく。
ギギィ、バタン。
重い扉が閉められ、さらにはがちゃがちゃと、幾重ものカンヌキが再びかけられている音。
連れてこられた部屋はどうやら研究室、なのか、それにしても薄暗い。
じめじめしており、先ほどまでいた研究室とはあきらかに薄暗い。
「罪人…ねぇ。せっかく人間に産まれてきたのなら大人しくしていればいいのに」
先ほど声をかけてきた青い髪に眼鏡をかけた女性が近づきながらそんなことをいってくる。
ひっつめにした紙と眼鏡は彼女の容姿をえらく地味にみせている。
が、よくよくみれば整った顔立ちをしているのもみてとれる。
「馬鹿いえ。俺達は何もしていない!」
そんな女性の台詞にロイドが叫び、
「教皇の奴が罠にはめたんだよ。おもいっきり言いがかりをつけて、な。
  ったく、間違いなく教皇のやつ、クルシスからの裁きが下るぜ。ありゃ」
その台詞にさっと顔色をかえる女性。
「その赤い髪…まさか、まさか、あなたは…神子、ゼロス?」
「おうよ。さっすが俺様」
「神子に本格的に危害を加えたらどうなるのか。
  教皇のやつは欲にかられてそれすらもわすれちまってるのかねぇ。ああ、やだやだ。
  これだから耄碌して、権力の欲におぼれた奴は」
「教皇のことを悪くいわないで!」
ゼロスの台詞に咄嗟的、なのだろう、すかさず反論してくるその女性。
「う…こないで……」
ふと、背後にいる桃色の髪の少女に気付いたらしく、女性がはっとした表情をうかべ、
そのまま桃色の髪の少女…プレセアの元に近づいていこうとするが、
そんな女性から離れるように、一歩、また一歩、後ろにとさがっているプレセアの姿。
「…プレセア?ブレセアね?どうしてあなたまでここに!」
驚いたような女性の台詞に、
「プレセアをしってるのか?」
しかもプレセアの様子からしてただ事ではない。
そんなロイドの問いかけに、
「そ…それは……」
「王立研究院のハーフエルフが人間の子供と知り合いねぇ。おかしいじゃねぇか」
言葉につまる女性の台詞に、ゼロスがそんなことを言い放つ。
「?どういうことだ?ゼロス?」
「ゼロス…まさか、神子ゼロス!?
  上は何を考えて…スピリチュア伝説の再来を求めてるというのか!?」
部屋にいた他の研究院らしき男性が、その名に気づき、驚愕した声をあげているが。
「ロイド君よ。いまだにおまえさん、よくわかってないようだからいっとくけどな。
  この世界じゃ、ハーフエルフはゴミ同然の扱いをうけてるんだよ。
  王立研究院で働くハーフエルフは一生研究室から出してもらえない。
  一生、な。万が一外にでることがあったとしても、枷をつけられての外出となる。
  少しでも逆らえば、すぐに命を落とすような、な」
ゼロスの台詞に、
「そんな、むちゃくちゃな…え?ちょっとまて、じゃあ……」

リフィル、ジーニアス。力のない母を許してください。
いかな王立研究院といえどもシルヴァラントまでおまえたちを追いかけてはいきはしないでしょう。

飛空都市エグザイアにてリフィルから町長より預かった、リフィル達の母、バージニアの日記。
そこに書かれていた言葉をロイドは思い出す。
だとすれば、ここが、その。

あの薄汚れた牢獄で一生奴隷のように使われるくらいならば、生きて、自由に…

そう書かれていたあの日記。
「そいつのぜひはともかくとして。
  どうしてここから出られないはずのあんたとこのプレセアが知り合いなんだ?
  それにさっき、あんた教皇をかばう発言をしたな?
  そもそも、ハーフエルフを虐げる法律を独断で推し進めたのはあの教皇だぞ?
  そんな教皇をかばう発言をする、ということは。
  すなわち、あんたの正体、それはまことしやかに噂されている、あの……」
そんなゼロスの言葉を遮るかのように、
「…その子はうちのチームの研究用のサンプルよ」
そんな女性の台詞にロイドの脳裏に嫌な予感がわきあがる。
間違っていてほしい。
だけども、心のどこかで、まさか、という思いがある。
そう、リフィルの母の日記を知らなければ、
勘違いだと思い、そんな可能性にすら行き当らなかったであろうに。
間違っていてほしい。
「…研究?何のだよ」
そうといかけるロイドの声はかすれている。
そんなロイドの心情をあざ笑うかのごとく、
「人間の体内でクルシスの輝石を生成する研究」
下がってきた眼鏡のフレームをなおしつつ、淡々とその質問にこたえてくる。
「クルシスの…輝石を?」
「クルシスの輝石も理論的にはエクスフィアと変わらない。
  ゆっくりと時間をかけて寄生させれば。エンジェルス計画。私たちはそうよんでるわ」
「!!」
その台詞に思わず目を見開くロイド。
エンジェルス計画。
それは、ロイドの母が実験体とされたという計画の名。
「あんたも…あんたもディザイアン達の仲間かっ!!」
かっとなり、そのまま力まかせに自らの手枷を壊すロイド。
感情のまま、力が最大限に発揮されたがゆえに壊すことができたらしい。
「ディザイアン?ああ、衰退世界にいる、という愚かなるものたちのことね。
  私たちは純粋に計画を推し進めているのよ。
  この計画が成功すれば、誰もがクルシスの輝石を手にいれて、
  神子と同じ力を手にいれることができる」
「ふ…ふざけるな!それじゃ、ディザイアンがエクスフィアをつくってるのと同じじゃないか!」
「何?何をいってるの?」
ロイドの叫びの意味はどうやら女性は知らない、らしい。
「知らないとはいわせない!エクスフィアは人の命を苗床にしそして創られている。
  あんたはそれをしってて、なおっ!」
「何を馬鹿なことを…」
「馬鹿なこと?嘘なもんか!ディザイアン達が人間牧場でやっていること。
  それはエクスフィアを人間でもって製造するための工場だったんだからなっ!
  あんたは、あんたらは人の命をなんだとおもってるんだよっ!」
ロイドの怒りはとどまることを知らないらしい。
そんなロイドの台詞に冷めた視線をむけ、
「その言葉、そっくりそのまま返すわ。あんたたち人間はハーフエルフの命を何だとおもってるの?」
淡々とした冷めたまでのその口調。
その言葉には彼女が抱いている様々な感情が渦巻いている、のだが。
怒りに囚われているロイドはそんな彼女の言葉に含まれている感情の有無に気づかない。
「同じだよ。そんなの同じにきまってる。というか話しをすりかえるな!
  あんたは、ディザイアン達のように人の命を何ともおもってないのかっ! 
  ハーエフルフも人間も、魔物も精霊も、生きてるってことにかわりはないだろ!」
エミルとともに行動していて、おもったこと。
魔物にも心があるんだな、と漠然とではあるが理解した。
理解できてしまったというほうが正しい。
魔物にも確固たる意思があるのをロイドはこれまで目の当たりにしている。
そしてまた精霊も。
「何をいってるの?あなた達は私たちハーフエルフを差別し、あまつさえごみ同然。
  いえ、それ以下に扱ってるじゃないの。
  そんなあなた達に私たちのすることをとやかくいわれる筋合いはないわ。
  この研究が成功すれば、誰もが力を手にいれることができる。
  そうなれば、クルシスなんてものに協力しなくても、それぞれが」
そういいかける彼女の言葉を遮るかのように、
「まちな。そいつはテセアラの人間じゃない」
空中から突如として声がしたかとおもうと、部屋の隅に白い煙が立ち上る。
「あ、コリン!?」
その煙の中から見知った姿があらわれ、ロイドが驚きの声をあげるが。
そのままコリンは部屋中を駆けまわり、リン、と澄み切った鈴の音を響かせる。
「そいつは、その子はシルヴァラントでハーフエルフやドワーフと育った変わり種だよ」
つづいて再び煙とともにしいながその場に出現する。
「しいな!?何でここに……」
たしか周囲を調べてくる、といって別行動であったはず、なのに。
「おせぇよ。しいな」
「はん。あんたにしては珍しく大人しくしてたじゃないか」
「そりゃ、俺様があそこで騒いだらコレットちゃんたちに何かあったらこまるっしょ?」
「あれ?ゼロス、おまえ、いつのまに…」
いつのまにか、ゼロスの手にかけられていたはずの枷も解き放たれている。
「ちっちっ。ロイド君。手錠抜けとかはいい男の必要必須事項だぜ?」
「は?何だ?それ?」
ロイドの台詞に、指を横にふりつつも、きっぱりいいきるゼロス。
そんな彼らのやり取りをながめ、軽くため息をついたのち、
「詳しい話しはあとだ。ジーニアスとリフィルがメルトキオに連行された。今おいかければ助けられるはずさ!」
「まって」
そんな彼らのやり取りをききつつも、
「あなたたち、ここから逃げるつもりなの?」
動揺したようにいってくる先ほどまで会話していた女性。
「あんたはたしか、ケイト、だね。邪魔をする気かい?
  まあ、逃げられたとうっちゃあ、あんたも咎めをうけるかもしれないけど。
  あんたもいつまでもあんな教皇に従うつもりなんだい?あいつは、あんたを……」
「…教皇様のいうことは絶対、よ」
しいなの言葉を遮るかのように、しいなにケイト、と呼ばれた女性は否定することなく、
それでも教皇に対する言葉を紡ぎだす。
「こいつは親友のハーフエルフを助けにいくつもりなんだ。
  どうする?ハーフエルフのお姉ちゃん?それともあんたの正体。
  ここに努めている奴らは知ってるのかなぁ?」
「ケイト?正体、とは一体……」
その台詞に何か違和感を感じた、のであろう。
部屋にいた他のハーフエルフの研究院らしき男性が戸惑い気味に問いかける。
「だ、だまされないわ。人間がハーフエルフを助けるはずなんかない」
「しかし。ケイト。上でハーフエルフが二人連行されたって話しをきいたぞ?」
そういうのは、先ほど奥からでてきた一人の男性。
どうやらこの部屋は奥にまでつづいている、らしく。
何かの連絡事項などを伝えるための通信手段がこの部屋の奥、にあるらしい。
どうやらその連絡手段にてそのことをきいたらしく、そんなことをいってくるその男。
「時間がねぇ。邪魔するっていうんだったら…戦うまでだっ!」
いいつつ、自由になっている剣の柄にと手をかけ、
「人の命を何ともおもってないやつなんかに手加減なんかしねぇ!覚悟しろ!」
エンジェルス計画を実行している。
そう聞かされて、ロイドが黙っていられるはずもない。
その計画は、クヴァルから聞かされた、ロイドの実母が携わっていた計画の名、なのだから。
そのせいで、母はディザイアンに…否、クヴァルに殺されてしまった。
その体を自分が人質にとられたせいで、エクスフィアをはぎ取られ、
異形と化したあげく、それを止めるために実の父親が手にかける。
その出来事の発端ともいえる計画。
自分と同じような被害者をこれ以上だすわけにはいかない。
ゆえにロイドの言葉には、いくら相手が女性といえど迷いは見当たらない。
「……いいわ。見逃してあげる。その代わり。
  そのハーフエルフの友達を助けたら必ずここに戻ってきて。
  あなた達の話しが本当だったら……プレセアを研究体から解放してあげてもいいわ」
「お、おい、ケイト!」
そんな彼女の台詞に驚愕したような他のハーフエルフ達の声が重なるが。
「本当、だな?」
いまだに剣の柄に手をかけつつも、警戒しつつ相手にとといかける。
そんなロイドの台詞に、
「女神マーテルに誓って」
それだけいいきり、そのまますっと背後にある棚のほうにと近づいてゆく。
「…秘密の抜け穴があるの。…ここからサイバックの街へ出られるわ」
がこん、と一つの本を動かすとともに、そこにないはずの道が開かれる。
どうやら秘密の通路、という言葉に嘘はない、らしい。
「あんた…本気で俺達を?」
さすがに道を示した以上、彼女が本気でそういっている、というのに気付いたらしく、
戸惑いの声をあげているロイド。
てっきり、目の前のケイト、と呼ばれた女性はディザイアン達と同じように、
人のいのちを命とも何とも思っていないんだ、そう思っていたのだが。
違う、というのだろうか。
そう思うとともに、すっと頭が冷えてくる。
そういえば、この女性はエクスフィアの製造過程をいっても、意味がわかっていなかったようにみえた。
あのときは頭に血がのぼり、何をこいつはいってるんだ、というようにしか思えなかったが。
だとすれば、この女性は本当にそれを知らず、計画に加担していた、というのだろうか。
人の命を命ともおもわない、ヒトの命を犠牲にして創りだされるエクスフィア。
わからない。
わからないが、今は考えていても仕方がない。
今優先すべきは、連れていかれてしまったジーニアスとリフィルの救出。
あと、いまだに合流していないエミルの安否。
「急ぐよ。橋にむかうんだ。橋のメンテナンスがおわってたら洒落にならないからね」
竜巻で被害をうけた、というが、跳ね橋の機能が復活していれば、
橋をあげられてしまっては追いかけることがままならなくなってしまう。
しいなの台詞にロイドもうなづき、ようやく剣から手をはなし、
「…助かる。ありがとう」
とりあえず本気で逃がしてくれる気であるのはうかがえる。
ゆえに、そのことに関してのみは感謝の言葉を紡ぐロイドであるが。
「ちょっといいか?プレセアちゃんの研究ってのは、誰の命令、だ?
  俺様もマーテル教会もそんな報告は、王家だって報告はうけてないぜ?」
「そ…それは…いえないわ」
「つまり、教皇だな」
「・・・・・・・・・・」
ゼロスの問いかけに答えずうつむくケイト。
無意識なのか、その手が再び眼鏡にとかけられている。
どうやら何か心に動揺をうけたとき、彼女は眼鏡をなおすのが癖、らしい。
「ち。胸糞わりぃ。子供は親を選べないっていうがな……」
「あなた、やはり……」
ゼロスのその言葉に、やはり神子が先ほどいった台詞ははったりでも何もなく。
自分の正体をしってそういっていたことに気付き、ケイトは言葉につまる。
今、ハーフエルフが虐げられる原因となっている根本たる人物。
それが今現在のマーテル教の教皇たる人物。
子供は親を選べない。
ゼロスが一番嫌悪すること。
それは、子供が親の意思に振り回されてしまう、ということ。
「いそぐよ!ゼロス!」
「わあってるよ。やれやれだぜ」
しいなの言葉をうけ、隠し通路に身をおどらせる。
やがて彼らの姿が見えなくなったのを確認し、隠し扉を閉じるケイト。
「おい。いいのか。ケイト」
「…相手は神子よ。…伝説のスピリチュアの怒りを私たちがこうむらないためにも。これでいいのよ」
「たしかに。しかし、神子を罪人といったあいつら、教皇騎士団だっただろ?」
「教皇の噂はいい噂きかないからな。
  今までも神子をどうにか失脚させようといろいろしてたというじゃないか。
  一節によれば、昔、ゼロス様のお母君の妹御をそそのかしたのも教皇って……」
「ああ。それはきいた。まだ赤ん坊のセレス様を神子にして傀儡にするため、とかいう噂だろ?」
「…しかし、捉えた奴らを逃がした、としれば、俺達どうなるんだ?」
「……あなた達は何もしらなかった。罪を問われれば私がつぐなうわ」
「しかし。ケイト」
「エンジェルス計画。計画主任としての責任、だもの。
  さあ、それより、研究中の神子の要の紋。その材質の特定と。
  これまでの被験者の適合データ。それらの照合、よ」
今まで、クルシスの輝石の研究に適合しているのはプレセア、のみ。
他に適合者として使用したものはことごとく失敗している。
その身内である妹も失敗した。
他にそれらを施そうとすれば、ことごとくすぐさまに異形と化している。
人の命をなんだとおもってるんだ!
先ほどの赤い服に赤い髪の少年の言葉がふと脳裏をよぎる。
「…ばかばかしい。あなたたちヒトが私たちを虐げる以上。
  私たちが人を実験体として何がわるいっていうのよ」
それは独り言ともいえる、ケイト自身に言い聞かせるようなつぶやき。
こいつは、シルヴァラントでドワーフやハーフエルフと育った変わり種さ。
あの服装は、みずほの民のもの。
確か、報告ではシルヴァラントのものがこちら側、テラアラに、
シルヴァラントの神子とともにやってきた、という話しは聞かされたが。
あの彼らがそうだ、というのだろうか。
わからない。
わからないが、今はただ、ケイトは父親にいわれたことを、ただひたすらに実行するのみ。


隠し通路は一本道。
迷うことなく、やがて突き当たりにいきつくと、その壁には梯子がかけられている。
どうやらこの梯子を登れば外にでれる、らしい。
そのまま梯子をのぼってゆくと、何か蓋のようなものが頭上にあり、
重く感じるそれをおもいっきりと押し上げる。
ずず、とした音ともにその蓋らしきもが開かれ、開いたそこから外にとでる。
どうやらマンホールの一つにあの通路は繋がっていたらしく。
人気のないサイバックの街外れにと繋がっていたらしい。
「ちょっと!あたしの後ろからあんたはあがってくるんじゃないよ!」
梯子の途中からふりかえりながらも背後にいるゼロスに文句をいっているしいな。
「え~、何でよ」
そんなしいなにたいしゼロスが不満そうな声をあげるが。
「なんでって。あんたは油断がらないからな。
  前だって、あたしがシャワーを浴びてるのをのぞいてたじゃないか!」
「ひどい。俺様の知的好奇心をそんないい方。コレットちゃん~。俺様、なぐさめて~」
「こら!ゼロス!あんたはコレットにいたずらするんじゃないよ!」
「ええ。ゼロスって不潔。お風呂をのぞくなんて」
そんなゼロスとしいなのやりとりをきき、マルタがそんなことをいっているが。
「ああもう、しいなもゼロスも言い合ってないでとっととあがってこい!」
すでに先に上がったロイドがそんな彼らのやり取りをきき、
そんなことを叫んでいるが。
やがて、ぱたぱたと空を飛びつつ上がってきたコレットに手をのばし、
ふわふわといまだに空中に浮かんでいるままのコレットの手をつかみ、
そのままゆっくりと地上にと下ろすロイド。
コレットはロイドになされるがまま、そのまま素直にすとん、と足を大地にとつけている。
いまだに何やら文句の言い合いをしながらも、ゼロスとしいなもまた、
梯子をのぼりきり、隠し通路から出てくるのを確認したのち、
念のために再び蓋を閉めるロイドの姿。
そして、蓋をしめ、ふと顔をあげ、
「くそ!先生たち、無事だといいけど」
何ともいえない思いから出た言葉は、今一番気になっていること。
エミルは…まあ、あのエミルのこと。
何となく何かあった、というような思いが抱けない。
むしろ、エミルに何かしようとすればおもいっきり返り討ちにあいつらあうんじゃあ?
そんな思いがどうしてもロイドの中からぬぐい捨て切れない。
「グランテセアラブリッジは一部が跳ね橋になってるからね。
  いくらメンテナンス中とはいえ、橋をあげられちまったらお手上げだよ」
「うう。エミル、大丈夫かなぁ」
しいなの台詞にマルタがぽつり、とつぶやけば、
「……会話による移動速度の低下……」
立ち止まってそんなことをいっている彼らの台詞に思うところがあったのであろう。
ぽつり、とそんなことをいってくるプレセアの姿が。
「おっと。プレセアのいうとおりだな。急ごう」
その言葉をうけロイドがいい、彼らはそのまま駆け足でそのまま街の外へとむかってゆく。


「橋はえっと……」
街からでて、目的の橋はたしか、街からでてどちら側だったか。
ロイドが改めて確認しようとしたその矢先。
「…なあ、俺様の目がおかしい、のかな?あれ、何だ?」
「何だい。あんたは、こんなときに……」
ゼロスがある方向をみつつ、いきなりそんなことをいってくる。
そんなゼロスにいらいらしつつ、しいなが思わずくってかかろうとするが。
ドド…ドドドドド……
何だろう。
この地響きのような、この音は。
しかもこころなしか大地も揺れているような。
ゼロスが指差した方向に思わずロイドとしいなが同時に顔をむけるとともに、
何かもくもくと…どうみても土煙りのようなものが、
橋のある方角からのぼっているようにみえるのは、しいなやロイドの気のせいか。
「…なあ、しいな。あれって…何にみえる?」
「って、だぁぁ!何だってこんなときに魔物の暴走体に出くわすんだよぉぉぉ!!」
唖然としたようなロイドの呟きと、
そしてまた。
頭をかきむしるようにしてそれを目の当たりにして思わず叫んでいるしいな。
彼らの視線の先。
そこには、もくもくと土煙りをたてながら、数十体の魔物達が突進してくる様がみてとれる。
「うん?あれは……」
混乱し、さけんでいるしいなとは対象的に、
ゼロスの視界はその中心にみおぼえのある姿を捕らえ、思わず呟かざるを得ない。
土煙りの最中、その中心。
そこに、色違いの何か、がたしかにおり、魔物とともに一緒に走っているのがみてとれる。
その特殊ともいえるその動物は他には絶対にいない、といいきれるもの。
と。
「…お~い……」
「?何かいったか?しいな?」
「いや、あたしは、なんにも」
ふと、何か名前を呼ばれたような気がし、思わずロイドがしいなに問いかけるが。
しいなはただ首をふる。
ドドドドド…
だんだんと魔物達が近づいてきているのかその土煙りがだんだんと激しくなってくる。
やがて、かくん、と魔物達はその向きをかえ、東の方角へ進路をかえる。
もくもくとたちのぼる土煙り。
と。
「お~い、ロイドぉ!」
ロイドにとって聞き覚えのある声が、
土煙りの向こうからきこえてくるのは、ロイドの気のせいか。
やがて、土煙りがさあっとどこからともなく吹いた軽い風にと吹き飛ばされ、
その土煙りの向こうからみえるは……
「「はぁ?ノイシュ!?」」
声をあげたのは、しいなとロイド、ほぼ同時。
なぜか土煙りの向こうから現れたのは、
エミルと確か一緒に散歩にいっていたというはずのノイシュの姿。
しかもその背には。
「ああ、先生!?それにジーニアス!?それにエミルも!」
「エミル!よかった、無事だったんだね!」
その姿をみて、マルタが感極まった声をあげているが。
「あ、あはは。ただいま、でいいのかな?ロイド」
よいしょ。
いいつつも、ひょいっとノイシュの背から飛び降り、ロイドのもとにとかけてくる。
そのままジーニアスはぼすん、とロイドに抱きつくようにとびかかっているが。
「…なあ、少しいいかい?何があったんだい?…何となく予測はつくけど、まさか…ねぇ?」
伊達にこれまで、エミルがシルヴァラントで何かしていた光景をみていたわけではない。
信じたくはないが、それ以外に何と説明がつく、というのだろうか。
「リフィル。あんた大丈夫かい?」
「…聞かないで。まさか、とおもったことがやっぱり、とおもってるだけだから」
ノイシュの背から降りたリフィルの顔色はどことなく悪い。
「?で、何があったんだ?おまえそんたち、あいつらに連れていかれた、とおもったんだが?
  無事ってことは、逃げだしたってことだろうけど」
ゼロスは何が何だかわからない。
「エミル。大丈夫?やつらに変なことされてない?」
「何もされてないよ?」
「…されたのは、あの兵士達だよね。…大丈夫なのかなぁ。あのひとたち」
ぽつり、とつぶやくジーニアスの台詞はどこか遠くをみつめている。
たしか、勢いのまま、その反動で海に落ちたようにみえたのだが、気のせいであってほしい。
切実に。
「で、何があったんだ?」
「え?ただ、たまたまあの子達の道順にリフィルさん達がいたから。
  なんか、リフィルさんたち、武装した人間達に連れ浚われそうになってたから。
  ただ、あの子達にお願いしただけですよ?」
「やっぱしかい……」
疲れたようなしいなの台詞。
まさか、とおもっていたが。
リフィルのようすから、まさかとはおもっていたが。
何しろこのエミル。
あの伝説ともいわれた神鳥シムルグすら使役していた節がある。
そして、食事のたびの魔物達がエミルを手伝っていたのをしいなはシルヴァラントで目の当たりにしている。
しかも、である。
「…その前に、エミルったら、シムルグで降りてきてね……」
「うわ~……」
疲れたようなジーニアスの呟きに、おもわず何ともいえない声をだす。
そんなしいなの台詞に、
「?シムルグ?って、あれか?あの伝説の女神マーテルに仕えてるっていう?何を馬鹿な……」
「冗談、ならいいんだけどね…ふっ……」
ゼロスの言葉に遠い目をしつつもぽつり、とつぶやくジーニアス。
その言葉にはどこか哀愁がこもっている。
「頭がいたいわ。エミル。あなたねぇ、もう少し、常識、というものを…
  いえ、助けてもらったのはお礼をいうけども、だけども……」
リフィルはリフィルでいまだに頭がいたいらしく頭をかかえつつも、
エミルに何やらそんなことをいってきているが。
「?ただ、レティスにのってたとき、リフィルさん達をみつけただけですけど?」
「それが問題、なのよ。まったく…はぁ……」
しかも、レティスとエミルが呼ぶあのシムルグの背にノイシュまでのっていた。
神鳥、と今ゼロスがいったということは、こちらにも神鳥シムルグの伝承はある。
そうみて間違いはないであろう。
あのとき、その光景を目の当たりにした兵士達が、
『スピリチュアの再臨か!?うわぁ!』
などといって逃げだしていったのは記憶にあたらしい。
つい先ほどのことなのに、あまりにも精神的に疲れてしまい、
かなり前の出来事のようにリフィルとしては感じてしまう。
そのまま、暴走するかのごとく走ってきた魔物達の群れに巻き込まれ、
そのままどうやら海のほうに投げ出されていたっぽいが。
冗談、であったほしい、というのがリフィルの感想。
事実、エミルはかの地から出てきたのち、ノイシュを迎えにシムルグを呼び、
そのまま空の移動をしていた最中。
リフィル達が連れ浚われているのを目の当たりにし、
そのあたりにいた魔物たちにちょっとした命令を下したにすぎない。
すなわち、彼女達を護送しているらしき人間達を排除するように、と。
ゆえにエミルは嘘はいっていない。
「おお。あの巨大な鳥か。たしかに、あんなのが目の前にきたら驚くよな。うん」
幾度かみたことがあるがゆえに、それだけで納得し、
「と、とにかく。先生もジーニアスも無事でよかった。処刑っていわれてあせったぜ」
ほっとしたようなロイドは、どうやらどうやって彼らが逃げおおせたのか。
そのことにはこれ以上深く追求するつもりはさらさらないらしい。
「?どういうこった?しいな?」
「…聞かないどくれ……こりゃ、後の噂がこわい…かも、だねぇ」
「まったく、だわ」
首をかしげるゼロスに、どこか明後日をみつつつぶやくしいな。
そんなしいなに同意するかのようにつぶやいているリフィル。
「とにかく、エミルも無事でよかった!いきなりいなくなっちゃうんだもん。心配したんだよ?」
マルタもあまり気にしないことにしたらしい。
マルタにとって、リフィルやジーニアス、それにエミルが無事にここにいる。
それだけが現実であり、深く考えることはしていない。
「とにかく。あせったよ。あんたたちの正体が発覚したんじゃないかってね。
  教皇のやつのことだ。無理難題でもおしつけて、あんたたちを処刑しかねないからね。
  何しろ十一年前のあの一件はあいつにとっては汚点の一つだからね」
教皇の命でももってして、あの家族の探索は行われていた。
しいなの調べでは、そのとき実験に携わっていたあのケイト。
あのケイトのテゴマ、として教皇は聡明と名高かったリフィルを求めていた、らしい。
もっともしいなはみずほの里にて調べられたその結果をリフィルに説明していないが。
「…え?こいつら、本当にハーフエルフ…なのか?しいな?
  でもたしか、こいつら、ヘイムダール産まれって…ヘイムダール…それに、リフィル…だと、まさか……」
そこまでいい、ゼロスも何かに思い当たったらしく、はっとした表情をうかべる。
「そのまさか。さ」
「なるほど。な、異界の扉…か」
あのとき、国王の前でリフィルがいった台詞。
異界の扉からシルヴァラントに流された。
なるほど、ならば納得がいく、というもの。
教皇が必至になって追跡していたが、よもや対象者がシルヴァラントに逃げていれば、
いくら教皇とて別なる世界、シルヴァラントまで追いかけようがない。
「ひゃあ。俺様があのケイトにいった台詞は嘘からまことってか?何だかなぁ」
あの場限りの嘘のはず、だったのに。
まさかあの台詞が図星をついていたなどとは。


pixv投稿日:2014年2月8日某日(Hp編集:2018年4月22日(日)

Home    TOP     BACK    NEXT


##################################################

あとがきもどき:

※リフィル&ジーニアス合流※
本来あるはずの、はね橋を飛んで移動する、というのは、
エミル(ラタトスク)がいるゆえに、そのイベント?は回避されてます。
というより竜巻に乗じてかの橋のエクスフィアは全て微精霊、
としてラタトスクが孵化させているので、実は整備不能になってたりします。
そのために、ゼロスとの初共闘がなかったりするんですけどね。
ちょっとした細かなことから歴史がかわっていっている、ということで。
あのシーンはある意味でちょっとした面白い?かもしれませんけどね。
小説版では、あれはロイドが悪い、と切実に思います。
だって、ロイドが叫んだから、跳ね橋がつりあがったわけで。
…でも、ゲーム本編でもありえそうな設定だなぁ。と密かにおもってたり。
敵にもきこえたから、追跡者にきづいて、跳ね橋をあげる、という方法をとる。
…まあ、護送している側からしてみれば的確な判断、ですね。
ウンディーネが詠唱もなく姿を現したのは、きっと思うところがあったんだろう。
そんなことをふとおもってたり。
…あれ、ゲームでは、コレットのみが一人、ぱたばたと空をとんで、
つりあがった橋を渡りきってるんですよね…
ロイド達は海におっこちていってるのに(ウンディーネの力でどうにかなったにしろ)
まあ、そんなイベント?もこの話しでは回避されていたりします。
あと、変わっている点。
それは、コレットとプレセアの意識を取り戻す順番の変化、ですね。
このあたりはOAVの設定さんも含めてのシャッフルなので、
違和感がないように仕上がっている…と思いたいです。
いや、OAVでは、先にプレセアがロイドの要の紋で意識取り戻してたし。
…トイズバレー鉱山で、ユグドラシルにコレットが連れ浚われてた、
というあたりもあったりしたけども。
リーガル登場は、漫画版では、ガオラキアの森。
ゲーム(原作)では、メルトキオの地下下水道。OAVでは、
アルテスタの家にて留守番していたゼロスへの襲撃。
この話はこの流れからどのバターンかおわかりかとv