まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
pivixさんに投稿していた話の区切りとは変えてあります。容量的に……
ちなみに、別バージョンのほうでは、案内人がミラでなく、町長になってました。
ほんとちょっとした部分しか本編繋がり的に変わってない、という。
いや、なんかそのシーンとかかんがえてたら、
そのシーンがこうだったら、とか分岐点とかってよくできますしね。
実際、これもそのうちの一つから発生した話しですし(こらこらこら)
始めのころ1話でやってた、未来の自分を取り込んだ云々、
というのもあったりしますしねぇ…
マイソロジーの大いなる実り=世界。
んでもって、元々自分の世界観(宇宙意思)がビンゴであったというのもあり、
その点、ラタトスクがコア(核)をもってしての具現化とかいうのは、
結構ツボだったりするんですよね。いや、何事にも依代は必要かと。
なのでいろいろ、ラタ様のことしったときに、考えてあそんでました。
マイソロジーではラタトスクがでてこないのがさみしい・・・ので。
(いや、まあ、エミルの人格変化はあるのでラタ様はいるっぽいけど・・けど)
私の考えるマイソロジーエミルは=ラタトスク、なんですけどね(こらこらこら)
そういや、某作品では、なんでラタトスクの間、があるのに何でラタトスクがでてこないんでしょうか?
謎・・・・コアになって眠ってるのかなぁ…あれ……
ちなみに、マイソロジー設定感覚でいえば、
オリジナル・カノンノが始まりのディセンダーっぽいのをいっていたのは(マイソロ3)、
元々、始まりの世界でカノンノがラタトスクのディセンダー(守りの御子)になった。
という経緯で私の中ではねつ造設定が確定していたり。
始まりの大いなる実り=ラタトスク、だったりするのです。
まあ、これらの元にしてる軸もそう、なんですけどね。
全て(世界=宇宙)の始まりはラタトスク、ということで。
さて、ラタ様が目覚めているがための原作(ゲーム)との差異部分。
本来、とある品を手にいれるのは、ある事件?の後ですが、
こちらの話しでは始めにエグザイアに向かったがために、
そのあたりが異なっております。御了解のほどを。
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重なり合う協奏曲~空中都市~
そびえたつ山々。
それでなくてもここは空中。
地上から約六千メートルに位置している飛行都市。
そこにさらに標高のある山々が連なっているのだから、景色としては雄大で壮大、といってよい。
もっとも標高が高くても生態系に影響がでていないのは、
一重にマクスウェルの結界がこの地全体に張り巡らされているがゆえ、
重力関係などに関して問題がないこともあげられる。
マクスウェルの結界が常に張られている状態なので、いわばこの地は、
マナにあふれている地だ、といってよい。
逆をいえば精神体すら実体化を特定の条件を満たせば実体化できるほどに。
憩いの場、にしている、のであろう。
長い階段を抜けた先。
ちょっとした広場のようになっている噴水すらあるその場所。
「おや。これはミラ様」
「こんにちわ。ごきげんよう。ミラ様。今日もいいお天気ですね」
口ぐちにそこにいた人物達が、ミラに気づき声をかけてくる。
「うむ。皆も元気そうだな」
「また。ミラ様。長老様がなげきますわよ?その口調」
「しかし、だな」
くすくすと笑いながらいってくるその口ぶりから、
どうやらミラはよく彼女の口調に関していろいろといわれている、らしい。
「おや?お客さま?」
『……え?バージニア?』
「!?やはり母はここにいるんですね!?」
ふとそこにいる人々がリフィルに目をとめ、異口同音で同じ名をいってくる。
ここまでくればもう疑いようはない。
それゆえのリフィルの叫び。
「…ああ、だから結界にはじかれなかったのか?」
一人が何やら考え込むようにいい、
「けど…もし、あの人が正気にもどらなかったら、傷つくのはこの子達じゃあ……」
何やらそんな会話をしはじめているその場にいたこの街の住人達。
「ちょっといいかい?ここにこのリフィル達の母親がいるのかい?」
バージニア、という名からしておそらくはもう間違いない。
しいなはかつての出来事をしっている。
伊達に王立研究院に派遣されていたわけではない。
研究院が求め、結局手にいれることがかなわなかった、という子供。
それは今から約十一年前の出来事。
表向きの発表には、当時のエルフ達が、国を裏切った人物を助けようとし、
その人物を助けようとするもの、国に渡そうとするもの、で動乱が起こった。
とされてはいるが、それはあくまでも表向き。
かの地にて国が戦乱を起こした、と知られない為の表向きの理由。
すべては、聡明だ、と首都にまで噂がとどいてきていた子供を手にいれるために、
国が間者をわりこませ、しかけた罠。
リフィルにバージニア。
いくら何でも同じ名が二つ、母娘とも同じ名、という偶然があるはずもない。
「あんたは?これはめずらしいね。精霊の気配をまといしものをつれてる。
ということは、あんたは召喚の資格をもつものかい?」
「僕がみえるの?」
ぽふん。
その言葉にコリンが姿をあらわし、首をちょこん、と傾げといかける。
「ここは、マナが強いからね。そういうのは私らでもわかるのさ。
しかし、かわいい精霊だねぇ。名前はなんていうんだい?」
「僕は、孤鈴!」
「孤鈴かい。いい名だねぇ」
「その首の鈴もにあってるね」
「えへへ。これ、昔しいなが僕にプレゼントしてくれたの。僕のたからもの!」
「そうかいそうかい」
「…何だか話しがそれてない?」
いつのまにかリフィルの母親の話題、から、コリンの話題に話しがそらされている。
それにきづき、マルタがぽつり、とつぶやくが。
「ミラ様、そのお客様達をどちらに?」
「爺様にいわれたように。町長の家につれていくところだ」
「ああ。なるほど。ミュゼ様にもよろしくいっておいてくださいな」
いいつつも、ぺこり、と頭をさげている人々の姿。
そんな彼らにミラがすこしばかり顔をしかめていってくる。
「ああ。まあ、あの姉様は自由奔放、だからな」
「?姉って、あんた姉がいるのかい?」
「まあ、な」
しいなの問いかけに答えるその口調はどこか重い。
「ともかく、いくぞ。あまり遅くなればどんな愚痴を爺様からいわれたもんじゃない」
「ああ。それはたしかに避けたい、ですねぇ」
「雷が落ちるのはたしかに、嫌ですよね」
うんうん。
なぜかミラの台詞に異口同音でうなづく人々。
「…つまり、頑固爺さんってとこなのかな?」
マルタがそんな人々の会話をききつつ、ぽつり、とつぶやくが。
「…何となく違うような気がする…」
それこそ、マクスウェルのことだから文字通り、力を使って、のような気がする。
それはもう果てしなく。
もっとも、エミルが知っているのはあきらかに不自然。
ゆえにあえてそこまで説明はしないが。
「では。私はこのものたちをつれていかないといけないのでな」
「御苦労さまです。ミラ様」
いいつつも、そんな人々に別れをつげ、すたすたと歩きだすミラにたいし、
「…何かおもいっきり話し、はぐらかされてない?今の?」
マルタがぽそり、といえば。
「…ここに、お母さんがいるの?」
ジーニアスの体が多少震えているようにみえるのは、おそらく気のせい、ではないであろう。
自分達を捨てた母親。
その母親がいる。
拒絶の言葉を投げかけられるのは、覚えてないにしろ実の母親にそういわれたとすれば。
それはどれほどつらいだろうか。
そんな悪い予感ばかりジーニアスの脳裏をよぎる。
「そういえば、町長の家って、まだ先なの?」
どこか沈んだようなジーニアス、そしてリフィルとは裏腹に、
きょとん、としつつ横をあるくミラにとといかけるエミル。
「うむ。この先にある。あの森の中にある屋敷が町長の家だ」
ミラが指差した先には、ちょっとした森が。
「…空中なのに森って……」
「おそらく、島ごと、空中に浮かんでいるんだね。…ものすごい規模だね。ここは」
しいなも感心せざるを得ない。
いくつもの小さな小島が連なっているらしきこの地、エグザイア。
空中にこんな場所があるなど、思ってすらいなかった。
地上からこれほどまでに島の軍勢が浮かんでいるのがみえなかったのは、
何かの意図があるのか、それともしいなたちにはわからない何かがあるのか。
それはしいなはわからない。
よもや、地上からみれば、この地は雲の塊にしかみえない、など夢にはおもわない。
何しろここからは、地上はしっかりと視えている、のだからして。
小鳥のさえずりがきこえてくる。
森の中にある木造建築の二階建の家。
周囲には放し飼いにしているのであろう、鶏などといったとりの姿もみてとれる。
「おお。ミラか」
屋敷につくと使用人、なのであろう人物に案内され、とある部屋にと案内され、またされることしばし。
扉から入ってきた人物がミラの姿をみとめ声をかけてくる。
「御無沙汰してます。モスリン町長」
「しかし、あの赤んぼうのミラも大きくなったなぁ。人の成長、とは早いものだ。
うん?そちらのもたちが、長老様のいっていた?」
ミラの背後にいるロイド達に目をとめ、首をかしげるモスリン、と呼ばれた男性。
ここにくるまでみた存在達とは少しことなり、
肌が多少日焼けしており、どちらかといえば野性味を感じさせなくもない。
そして、その後ろに少し顔をふせぎみのリフィルにときづき、
「バージニア!?…そうか、それで長老様が……」
どこか納得したように、そんなことをつぶやいていたりする。
「あ、あの。バージニアって、やっぱりリフィルさんたちのお母さん、なんですか?」
これまでにも幾度かきいた、その名前。
気になっていたらしく、マルタが恐る恐るといかける。
「うむ。…そうか。それで許可がでてお前達はこの地にたどり着けたのか。まあ、とりあえず、かけなさい」
この部屋にあるのは長机とそれにともなういくつかの椅子。
ちょっとしたここは会議場となっているのか、椅子と机。
それ以外には何かをかくためのボート、なのであろう、それくらいのものしかおいていない。
いくつかの植物はおそらく、部屋の雰囲気を和やかにするため、であろう。
そう言葉をかけたのち、
「うん?そちらの少女は…その翼は…天使、か?」
しかし、話しにきいていたものと何かが違う。
透明な翼を生やした金髪の女の子。
が、その表情は一切動いてすらいない。
「たしか、長老様の昔話しで、そのような症状になりし生体兵器の話しはきいたことがあるが。
人間とは残酷なことをおもいつく。
そのものの自我を崩壊させ、そのものの器をもって兵器となす、などとはな」
苦虫をつぶしたようなモスリン、とよばれたその男性。
「詳しい話しをきいてるんですか?」
そこがきになるがゆえのエミルの問いかけ。
「うむ。…まあ、ちょっとしたこともあったからな」
だから、そのちょっとしたこと、とは一体?
「では、私はこれで。爺様にきちんと案内した、とつたえてくる」
いって、その場を立ち去ろうとするミラであるが。
「あ、ミラさんっていいましたよね?僕もついていっていいですか?」
「お前が?かまわないが…なぜだ?」
「ちょっと確認したいことがありまして」
それは嘘ではない。
「ふむ。まあいいが。くれぐれも爺様にそそうのないようにな」
「え?エミル。なら、私も…」
マルタがたちあがりついてこようとするが。
「マルタはコレットについていてあげて。
今のリフィルさんやジーニアスだと、コレットのことにまで気がまわらないかもしれないし」
実の母親がいるかもしれない。
そういわれ、動揺している彼らはおそらくコレットのことにまで気がまわらないはず。
ロイドに任せれば何をしでかすかわかったものじゃない。
しいながいるにはいるが、
「しいながいるけど。でもしいな一人じゃ女の子だもん。必要なこともあるでしょ?」
一人より二人のほうが何かあったときに都合がいい。
というより、できれば彼らがいないところでマクスウェルとは話しあう必要がある。
「…む~。エミルがそういうなら……」
エミルの台詞にマルタは不満そうであるが、
「話しはまとまったのか?ではいくぞ」
「はい。では、またあとでね」
パタン。
それだけ会話をかわし、エミルとミラはその部屋をあとにする。
「?長老様に何をあの子は?…まあいい。さて、ではあらためて、お客人たち。ようこそ、エグザイアへ。
私がこの街、エグザイアの町長を務めているモスリン、という。
ああ、この名は代々町長を務めるものが継ぐななので深い意味はない。
なぜこのような場所にくることになったのか。
できれば説明をねがいたい。そこの娘に関してのことも、な。さて、何か質問があればきくが……」
感情をまったくあらわさない、薄い翼をはやした少女。
その少女に視線をむけ、淡々といってくるモスリンに対し、
しいなの口から簡単なこれまでの事情が語られる。
そしてある程度、簡単な説明が終わったのち、
「…お母様のことをおしえてください。ここに、この町にいる、のですよね?」
ずっときになっていた。
母の名をだされたときから。
それゆえのリフィルの台詞。
「聞いてどうする?バージニアとクロイツの子よ。
バージニアと瓜二つ、ということはおそらくお前さんがリフィル、なのだろう。
では、そちらの銀髪の子がジーニアス、か」
「「!?」」
名をいっていないのに言いあてる。
それはもうまちがいなく、親がここにいる、ということ。
「…お父様も…いるの?」
戸惑いを含んだリフィルの台詞。
「クロイツ?って、誰?」
ジーニアスはその名の意味がわからない。
「……お父様の名よ」
「え!?」
リフィルの台詞にジーニアスは驚きを隠しきれない。
そもそも、ジーニアスはずっと、両親は昔、死んだ。
そうリフィルから聞かされていたのである。
ここにきて、生きているかのような言い回しを第三者からききとまどわずにはいられない。
「あわないほうがいい、だろう。ちなみにクロイツはもう死んでいる」
「…お父様が…」
「何でだよ。何であわないほうがいいっていうんだい?」
しいなからしてみれば、それがきになる。
「あえば、逆につらい目にあうかもしれん。
たしかに、お前達にあえば、彼女も…しかし、そうでなければ…つらい目にあうのはお前達だ」
それに、とおもう。
正気にもどり、あのときのように取り乱した彼女になったとするならば。
今度こそ、彼女は自殺しかねない、という懸念もある。
それゆえの台詞。
しかしリフィル達は当然、そんな彼らがもっている事情、など知るはずもない。
「しかし、あわないほうがいい。といっても納得しない、だろう。
ここに、バージニアから預かっている日記、がある。
が、今のおまえさんたちにこれをみせるわけにはいかないのも事実。
おそらく、お前さん達のその様子からしてみて、両親に捨てられた、そう思っているようだしな」
「どこが違うというの!?私は…私は、まだ一歳にもみたないジーニアスとっ」
叫ぶようなリフィルの台詞。
こんなに取り乱している姉の姿などジーニアスはみたことがない。
「そうおもっている以上、おまえさんには真実をうけとめきれまい」
その原因が彼女自身…リフィルにある、と知れば、なおさらに。
「あ、あの?どうしてリフィルさんのご両親がここにいる、もしくはいたんですか?」
マルタは事情はよくわからないが、しかし、
何となくリフィル達の過去に何かがあったのだろう、そうおもう。
両親に捨てられた、そうおもっている。
そう、目の前のモスリン、となのった人物はそういった。
それがどういう意味のなかマルタにはわからない。
「ふむ。そうだな。どうやら同行者達はしらない、らしい。しっておく必要があるべき、だろうな。
そもそも、そのものたち、リフィルとジーニアスはもともと、シルヴァラントの産まれではない」
「「え?」」
その戸惑いの声はマルタとロイド、ほぼ同時。
「どういう…じゃあ、やっぱり……」
しいなの戸惑いの声。
「その格好からして、おぬしはみずほの里のものだろう。
私もいくどか地上におりることがあるのでみずほの里のことはしっている。
ならば情報収集は御手のもの、だろうしな。お主の思っているとおり。
そのものたちの産まれは、エルフの隠れ里、ユミルの森の奥深くにあるヘイムダール、だ」
「え?エルフの…隠れ…里?」
その台詞にジーニアスが戸惑いの声をあげる。
「何いってんだよ?先生とジーニアスは、だって、俺達といっしょにシルヴァラントで……」
しかもイセリアで教師をしていたのに、こちらの産まれ。
そういきなりいわれても、ロイドには意味がわからない。
「ヘイ何とかって…何?」
マルタも戸惑いの声をあげるが。
「ヘイムダール。純粋なエルフ達が住む隠れ里、さ。
エルフ達は森の中で、外界との接触をほとんど断ち暮らしているのさ。
ユミルの森っていう巨大な湖を湛えた森の奥にあってね。
その奥には彼らの聖地ともいえるトレントの森ってやつがある。
ちなみに、ユミルの森にはいるのには王国の許可証が必要だけどね」
マルタの疑問に変わりにこたえているしいな。
このあたりのことは、さすがに忍びの里、といわれている場所の出身でもあり、しいなはとても詳しい。
「うむ。まあ、里に関してはそんなところだ。
今から少し前…といっても人間の時間でいえば十年ばかり、か?
地上におりた私はユミルの森にて行き倒れている夫婦をみつけた。
それがエルフのバージニア、そしてその夫のクロイツだった」
淡々と語るモスリンの台詞に、ぎゅっと手を握り締め、
「……お父様…だわ」
リフィルがちいさく呟きをもらす。
「クロイツはメルトキオからエルフの里の調査に遣わされていたらしい。
もっとも、バージニアと恋中になってヘイムダールに残ったようだが」
「?メルソトキ?」
「メルトキオ、だよ。ロイド。あんたにも前に説明しただろ?あたしたち、テセアラの首都の名だよ」
ものの見事に名を間違えてつぶやくロイドにすかさず突っ込み訂正をいれているしいな。
というか、メル、しかあっていない。
「……でも、村に住んでいたハーフエルフの一人が父を売り飛ばそうとした。
……大きな騒ぎになったわ。エルフとハーフエルフの間で暴動がおきて……」
それまでは、たしかに疎んじれてはいたが、エルフ達もさほど差別的ではなかった。
たしかに忌諱されていたが、ここで生まれ育ったのだから、と受けいられられていた。
全てが狂ったのはあの日。
あのときから。
誰かがいいだしたのかはわからない。
やはりハーフエルフをここに住まわすからこんなことに。
と若い誰かが言いだし、あっというまにそれは里にと広まっていき…
そして起こった騒動。
あのときリフィルはまだ産まれたばかりの弟ジーニアスを抱きしめ、
とにかく母達にいわれ大人しくしているよりほかになかった。
聞こえてくる爆音らしきものと、大きな声。
気付けば家にまで火がかけられ、そして……
「姉…さん?」
ジーニアスはずっと、自分の産まれはシルヴァラントだ、そうおもっていた。
しかし、リフィルの台詞からそうではない、というのが今まさに。
ゆえにジーニアスからしてみればとまどわずにはいられない。
というか、暴動?騒ぎ?
ジーニアスはそれはしらない。
「そんな…僕、知らない、知らないよ!?姉さん!?」
叫ぶようなジーニアスの台詞に、
「あたりまえよ。あなたはまだあのとき、産まれたばかりだったもの」
覚えているのは、大人しく差し出せ!と誰かがいっていた台詞。
それに反発していた母の台詞。
そのあたりの会話はよく深く思いだせないリフィルだが、
もしそこを詳しく覚えていれば、自らが捨てられた、とはおもわなかった、であろう。
彼らはたしかに、あのとき、リフィルを差し出せ、そういっていた、のだから。
「……騒ぎの原因であるバージニア達は里から追放されたそううだ。
各地を転々としたが、ハーフエルフへの風あたりはつよく……」
「そっか…それで僕たち…捨てられちゃったんだね」
顔をふせぎゅっと何かをこらえるようにして手を握り締めてつぶやくジーニアス。
産まれたばかり、ということは。
姉はそのとき十一。
さきほどの姉の台詞から察するに、一年あまりは放浪していた、のだろうが。
そのときに自分達子供が邪魔になった、のだろうか。
子供さえいなければ、そう想われたのかもしれない。
それがジーニアスには…つらい。
実の親にそうおもわれてしまった、ということが。
しばし、何ともいえない沈黙が部屋の中にと満ちてゆく。
リフィル達を町長の家にと残し、ミラとともに歩いてゆくことしばし。
「しかし、なぜお前はあのものたちとともにいなかったのだ?」
ミラからしてみればそれが気にかかる。
「ちょっとね。…もう、姿をみせてもいいよ」
「わかりました」
それとともに、ゆらり、と景色がゆらぎ、そこに黒き何かが出現する。
「そういえば、聞きそびれていたが、それは?」
「それ、とは失礼な。私はセ…テネブラエです」
センチュリオン、というのはまだ伏せておいたほうがいいかもしれない。
このミラとなのりし人間がどこまで自分達のことを聞かされているのかもわからない以上。
「かわっているな。おまえのありようは」
みたこともないマナの感じをうけるというのに、それでいて自然に調和している。
不可思議なマナの感覚。
長老の家を出て、そのまま森の奥へ、奥へ進んでゆくことしばし。
「あれが爺様の家だ」
ミラが指差す先には、ちょっとしたレンガでできた丸い家と、
その横に木々でつくられているであろう小さな家らしきものがみてとれる。
レンガの色は黒であり、そこから多大なるマナを感じることからして、
まちがいなく、直接マクスウェルが自らのマナをもちい具現化させて創ったもの、
でどうやら間違いはなさそうだが。
しかし、ただの人間を濃いマナの中で育てればどうなるか。
マクスウェルはわからなかったのか?
いや、わかるはずもないか。
もっとも、その結果、かつて失われてしまった自然との繋がり、
マナを感じる力などを取り戻しているらしいが。
この人間から感じるマナはあきらかに人間のそれ。
が、そこにマクスウェルの加護がかかっているがゆえに、
またこんな場所…正確にいうならばマクスウェルのマナに満ちている場所。
そこでおそらくは育てられた、のであろう。
ゆえにマナにたいし敏感になっている、といってよい。
人とはよくもわるくも周囲の環境になじんでゆく生き物、なのだから。
それが物ごころついていない赤ん坊ならばさらに変化していっても不思議ではない。
「爺様、今もどったぞ」
がちゃり、と扉をあけたその先にいるであろう人物にと声をかける。
そんなミラの言葉をうけ、
「おう。ミラか。よくもど……え゛?」
なぜかこたつ…しかも掘りごたつっぽいものに体をいれて、
ずずっとお茶をすすっているのは、見間違えもなく。
「…何やってんだ?マクスウェル」
おもわずあきれてそう問いかけるエミルは間違っていない。
絶対に。
「え?…え?…まさか?!」
なぜか、エミル、そしてその横にいるテネブラエを交互にみつつ、
お茶のはいった湯のみコップをもったまま固まりつつも何やらいってくる。
白いひげをはやし、どこからどうみても初老の老人。
しかも、なぜかその体には【ちゃんちゃんこ】、と
たしか以前とある島にていわれていた服をきているのもきにかかる。
「そのまさか、ですよ。マクスウェル」
そんなマクスウェルの戸惑いに気付いた、のであろう。
テネブラエがマクスウェルに対して言い放つ。
「…なぜに地上へ?しかもなぜにその姿に?」
「…だから。なぜにお前達は同じような反応を……」
幾度この台詞を聞かされた、であろうか。
精霊達はこぞって同じようなことをいってきた。
「?爺様?このエミルという少年と知り合いなのか?」
ミラとしては二人の態度、そしてテネブラエ、となのりしものが、
どうやら祖父と知り合いのような感じの話し方をしているので驚かずにはいられない。
というか、物ごころついてからこのかた、みたことすらあったことすらない、というのに。
どうみてもエミルの年齢はミラよりも年下。
ならば祖父が地上に出向いたときにであったのであろうか。
ミラにはそれがわからない。
「エミル?…ああ、あなた様の地上での呼び名、ですかな?
ふむ。ミラ。ここに案内してきたお客人達はどうしたのじゃ?」
様?
あの祖父が様をつけるなど、何ごと?
そうはおもうが、しかし。
「モスリン町長の家に」
「どうやら、バージニア姉弟もやってきているようじゃな。
ミラ、お主は、彼らをあの家に案内してあげなさい」
「しかし、爺様。それでは……」
「いつまでもあのものもあのままではいかんじゃろう。何かのきっかけになるやもしれん」
「…わかり、ました」
たしかに、あのままではよくない、というのはミラとてわかっている。
「善は急げ、じゃよ」
「ったく、人使いのあらい爺様だ」
「わしは、そちらの御方と話しがあるのでな」
「?あ、ああ。わかった」
どうも、あの祖父はこのエミルにたいして敬語っぽいものを話している。
それがミラにはきにかかるが。
しかし、祖父のいいつけは絶対。
というか、逆らったら後がこわい。
ゆえに、そのまま首をかしげつつも、そのままその場をあとにする。
ミラの姿が完全に遠ざかったのを確認したのち、
「で?何がどうなってるんだ?
センチュリオン達の連絡から、お前が人の子を育てている、ような報告はあったが?」
腕をくみつつもといかける、そんなエミルに対し、
「まあ、立ち話も何ですし。どうぞ、ラタトスク様」
いいつつもたちあがり、そこにある座布団の一つにエミルをすすめてくる。
「しかし…センチュリオン様が傍にいなければ、儂でもきづきませんぞ?
その…あなたさまがラタトスク様、だとは」
センチュリオン達がたかがヒトの傍にしたがっているはずもない。
だからこそきづけた。
「ああ。それは私たちとて直接にラタトスク様の御手。
自らにて起こされなければ気付きませんでしたので仕方がないかと」
「・・・・・・・・・・・・」
マクスウェルの台詞にさらり、とこたえるテネブラエの台詞に、
マクスウェルとしても何といっていいのかわからない。
「下手に気配を解放するわけにはいかないからな」
それこそその気配だけで自然界が恐縮、畏縮してしまう。
さらにいえば、自分の気配を少しばかり解放するだけで、あのようなこと。
すなわちあっというまに自然が蘇ったりしてしまう。
まあそれはいいこと、なのではあるが、ヒトの目がある以上、
それに目をつけられて付きまとわれては面倒なこと極まりない。
「で?あの人間の娘は何、なのだ?」
「ああ、あのもの、ですか。それは…」
それは、今から少し前のこと。
少し前、といってもそれはマクスウェル達精霊達の基準からしてのこと。
海のほうからいつもよりも騒がしき鳥などの声にきづき、ふと意識をむけてみれば、
そこにクジラに保護されている形の二人の人間の赤ん坊、がいたらしい。
そのうちの一人は瀕死であり、結局生き残ることはかなわなかったのだが、
それを哀れにおもい、マクスウェルは自らの眷属、とすることにより、
簡易精霊、として育てること、にしたらしい。
ミラのほうは生き延び、そして今に至っている、らしいが。
「あの子の名をミラ、そしてミュゼ、となづけたのは、
おそらく、捨てた親の少しでものなさけ、なのですかのぉ。
その首にお守り袋がはいっておりましてな。そこに名が刻んでありまして」
子供の名らしきもののみを刻んだお守り袋。
が、それ以外は何もみにつけていなかった人間の赤ん坊。
いつもならばすておいた、のではあるが。
それはほんの気まぐれ。
気まぐれの風がふいたといってもよい。
「微精霊達に探らせてみたところ、あの子達は……」
ミラとミュゼ。
ただ、同じ日に、正室が子供を産んだ、という理由だけで、
お家騒動のもとになるから、という理由のみで捨てられた人の子。
しかも、双子、ということで忌み嫌われる、禁忌の子である、という理由だけで。
「子供に罪はない、というのにですにの」
なるほど。
つまり、あのものは。
出自が知られれば、たしかに面倒、ではあろう。
そういえば、かつてのときもそういう理由があったのか、とふとおもう。
あのときも、たしかマクスウェルの養い子が地上にでて、何やらあった。
そう認識していたが。
そういう出自であったならば納得がいく、というもの。
あのときは姉妹だという二人にはまったくあうことすらなかったのだが。
ミュゼに関してもその身を捕らえられ、結局は人に殺されたといってよい。
マクスウェルが人の魂を眷属にしている、という認識でしかあのときはなかった、のだが。
かつては詳しいことを追求、もしくは訪ねていなかったがゆえに、
マクスウェルからもそのような報告はあがってはきていなかった。
ゆえに、エミルもかの姉妹のことは詳しくない。
というか今初めてしったといってよい。
「それを、あの娘には?」
「海で拾ったことはいってあります。が、出自に関してはおしえておりません。
…とくにミュゼになどにいえば、それこそ復讐する、とかいいだしかねませんしの」
精霊として確立しつつある彼女の力ならば、それはいともたやすい、であろう。
まあそうしたのは人間達である、のだから自業自得、しかいえないが。
しかしそれでミトスに目をつけられては面倒極まりない。
今はミトスの目からこうして結界をはることにより逃れている、のだから。
それこそミトスとの繋がりをも結界によって遮断する形にて。
「それで?ラタトスク様?地上に、しかも人のお姿で出られている。ということは。
この世界のありよう。…ミトスが裏切りしできている今の世界。この事実に関して、ですかの?」
「ああ。そうだ。時に、マクスウェル。オリジンに関して詳しくしりたい」
クラトスから感じていたあの気配がやはりそう、なのか。
間違いない、とはおもえども、信じたくないのもまた…事実。
今後の決定、大樹の在り様をきめるに至っても。
今はいくつか候補はあげている。
かつてのような世界にしても、ヒトはおそらく過ちを繰り返す。
まあ、界を分けたり、あたらしい惑星をつくる、というのに変更はないにしろ。
あのような面倒なこと。
人が精霊達の力を利用して…しかも、その精神体を捕らえる装置。
それを創られては面倒極まりない。
人は力をもとめるあまり、制御できない、とわかっていても、
自分達ならば問題ない、できる、と思いこみ、危険なものにすら簡単に手をだす生き物、なのだから。
しぃん。
部屋の中がしずかに沈黙にと満たされる。
がちゃり。
静かなるそんな部屋の空気が何となくいたたまれない、そんな感じをうけている最中。
気配も何も感じなかったのに!?
がちゃり、といきなり扉がひらかれ、おもわず警戒態勢をとるしいな。
そんな中。
「うん?何だ?異様に静かだが……」
「あれ?ミラさん?」
さきほど、エミルと一緒に出て行ったはずのミラがどうしてまたここにいるのだろうか。
その姿をみておもわず首をかしげるしいな。
「ミラ、でいいぞ。たしか、しいなとかいったな。おぬしは」
「あ。ああ。そういえば、エミルは?」
一緒に出て行ったはず、なのにエミルの姿がみあたらない。
「あいつは、うちの爺様と話しがあるとかで家のほうにのこってるぞ」
「まさか…まさか、エミル、ミラさんのお爺様にご挨拶!?
まさか、ミラさんとお付き合いをとか・・・いやぁぁ!
ミラ!私まけないからね!いくら公認されても!」
「?この娘は何をいっているのだ?」
マルタが無駄な妄想を働かせ、いきなりそんなことを叫びだしているのだが。
「あ…あはは。きにしないどくれ」
マルタの悪い妄想癖がでたよ。
首をかしげるミラはどうやらマルタの言葉の意味が理解できていない、らしい。
ゆえにしいなからしてみれば乾いた声をあげるしかない。
「ミラ様?またの御来訪、ということは?何か?」
「うむ。爺様の伝言だ。リフィルとジーニアス。二人をかのものにあわせてこい、とな」
「な!?し、しかし……」
ミラの言葉に戸惑いの声をあげるモスリン。
いきなりといえばいきなりのミラの登場に、そしてまた、その言葉。
「つまり、どういうことなんだい?」
しいなもさっきまでは、あわないほうがいい、とかモスリンがいっていたのを聞いていたがゆえ、
問いかけずにはいれられない。
「いつまでもあのままでは、よくないだろう。とのことらしい。
というか、ぜったいに爺様は面倒になったに違いないぞ?
彼女に何かあれば毎回爺様のところに意見がくるようになっていたしな」
「…まあ、あの状態の彼女をどうにかできるのは長老様のみですからねぇ」
少し眉をひそめていうミラに、どこか遠くをみつついっているモスリン。
「?つまり、どういうことなんだ?」
ロイドはよく理解できていないらしい。
「つまり。だ。私は爺様からその二人をそのものたちの母親、バージニア。
その元につれていくように、といわれて戻ってきたわけだ」
びくり。
その台詞にジーニアスが体を震わせる。
「しかし、もしそれで彼女が正気を取り戻せなかったら……」
「私にいうな。私も爺様が何をかんがえているかなどはわからん。
そもそも、彼女に話しかけてまともにこれまで対処できたのは、爺様だけ、だろうが」
「…たしかに」
実際、きちんと話しが通じたのはマクスウェルのみ。
他のものの言葉は彼女には届いていないのか、いつも彼女は自分の世界にこもっている。
「それで?どうするのだ?私としては爺様がいった以上。
お前達がいやがってでも、連れていくつもりなのだが?」
「…連れていってちょうだい」
「姉さん!?」
姉の言葉にジーニアスが思わず叫ぶ。
自分達を捨てた親。
「あう必要があるの。私は」
ずっと、探していたあの景色。
あの遺跡はどこなのか、と。
でも、どんなに探してもみつからなかった。
生まれ育ったはずの森ですら。
探してもみつからなかったはず。
シルヴァラントには存在していなかった、のだから。
「よくわかんねえけど。先生のお母さんがいきてるってことなんだろ?」
ロイドはいまだによく理解できていない、らしい。
「しかし、あれは生きている、といえるのか……」
「少なくとも、死んではいない。爺様がいうには、
精神体が崩壊したわけではないので何かきっかけがあれば、と以前いっていたしな」
ロイドの台詞に意味真なことをいっているモスリンとミラ。
「しかし、世の中には知らないほうが幸せ、ということもあるでしょう」
「しるか。私は爺様がいったようにするだけだ。
あの爺様は怒らせたり、すねらせたりしたら後が面倒だからな」
「…まあ、長老様ですし。…仕方ありません。
けど、リフィルさん、でしたか?本当にいいのですか?覚悟はありますか?」
「…ええ。案内してちょうだい」
なぜにそこまでいう必要があるのか。
いったい母に何がおこっている、というのか。
生きている、のではあろう。
しかし、その言い回しがかなり微妙。
精神体が崩壊、とかまるで、まるで今の心を失っているコレットを連想してしまう。
「では、お連れの方々はどうします?」
モスリンにいわれ、おもわず顔をみあわせるしいなとマルタ。
当事者であるのは、ジーニアスとリフィル。
「ロイド、あんたはどうすんだい?」
「俺?俺はいってみる。先生とジーニアスのお母さん、なんだろ?きちんと挨拶したいし」
ロイドの言葉に嘘はない。
が、ロイドは知らない。
その当人が挨拶などができる状態ではない、ということを。
「…あたしも、いくべき、なんだろうね」
しいながつかんでいる情報がもしも事実、ならば。
リフィル達にその真実を伝える必要があるかもしれない。
ここにいるものたちはその事実をしっているのかどうかはしいなにはわからない。
クロイツの身に、あのとき、何がおこったのか。
たまたま、リリーナからきいたとある実験の内容。
リリーナの同胞でもあるケイトから聞かされた、とある内容。
それは…ハーフエルフの伴侶である男性にエクスフィアを薬と偽り飲みこませ、
そして子を成させたのち、その子を適合者とする。
何とも胸糞悪い…実験内容。
教皇の命、であったらしい。
その実験体にあがったのが、そのとき研究院から逃げていたとある夫婦。
その名が、たしか、バージニアとクロイツであった。
それをしいなは覚えている。
覚えているがゆえに伝えるべきかどうか、迷っているといってよい。
「まあ、この人達が案内しないっていっても。
先生達のお母さんなんだろ?俺、どっちにしても探すつもりだったし」
リフィルの母親がいるかもしれない、とわかったとき、ロイドがおもったのは、
自分のこと。
死んでしまった母親には会えないが、それでも。
いつかどこかで生きているかもしれない実の父親に会えるかもしれない。
もっとも生きていれば自分を探してこない、というのもきにかかるが。
クヴァルのあの言い回しからして、そういえば、あの男は自分の父親を知っていた、のだろうか。
そんなことをふと思う。
生きているならばやり直しはきくであろう。
死んでしまってはどうにもできないが、生きていればいくらでもやり直すことができる。
それこそ幾度も話しあうことすらも。
だからこそ、ロイドは後でリフィルの母親のことをこの街の人々にきくつもりであった。
それがいらないおせっかいかもしれないが、ジーニアスにとっても、
またリフィルにとってもそれは大事なことだ、とおもったがゆえ。
「「ロイド……」」
ロイドの言葉に思わず同時につぶやくリフィルとジーニアス。
「ジーニアス。あなたはここでまっていなさい」
「ううん。僕もいく。…逃げてちゃ、だめ、なんだよね。きっと……」
母親にあうのはこわい。
拒絶されるのが何よりも。
けど、逃げていてはどうにもならない。
おそらくそれは、姉さんも同じ気持ちだ、とおもうから。
母を覚えていない自分よりも姉のほうがその思いは複雑、であろう。
だからこそ、ジーニアスは逃げたくない。
ロイド達は、自分がハーフエルフだ、と知っても受け入れてくれた。
しいななどは忠告すらしてくれた。
マルタは一番怖いのは人の心、とまで…まあマルタの場合は親がいったようではあるが。
だからこそ、今ならジーニアスも勇気がもてるような気がする。
自分自身と向き合うための、その勇気が。
「仕方ありません。長老様がいわれるのでしたら、何かお考えがあるのでしょう。
…たしかに、すでに彼女があの状態になって十年あまり…
我らでは何ともできませんでしたが、あるいは……」
彼女が気にかけていた子供達。
もしも、それがきっかけになる、のなら。
もっとも正気を取り戻した彼女がどういう行動にでるのか、予測はつかない。
あの時のことを思い出し、自殺しようとする可能性すらありえる。
「念のために、そちらの子は留守番しておいたほうがいいでしょう」
そういってむけた視線はコレットにむけて。
「?何でだよ?」
なぜコレットだけはダメだ、というのか。
それがロイドにはわからない。
「私もよく生体兵器となりしヒトについては詳しくはありませんが。
しかし、長老様がいうには、本能のまま、向けられる感情などに敏感に反応する場合もある。と。
ここはマクスウェル様の加護が生きているので天使の特性。
天使の特性である雷の力なども威力は削がれるでしょうが。
この街中で雷の術、ジャッジメントなどを解き放たれても困りますからな」
天使術、としてかつて名を響かせていたらしき、雷の術。
長老曰く、天使となりしものは大概この術を使いこなすことができる、らしい。
もっとも苦手なものは苦手、なれど。
この地はマナがより濃い地。
この地でそんな術を放てば…どうなるのか考えたくない、というのも本音。
「コレットをそんなふうにいうなっ!」
ロイドが叫ぶが。
「では、そのものを抑えることができる、とでも?暴走したとして?」
「それは……」
今のコレットが暴走する。
ユアンと名乗ったものたちもいっていた。
今の神子は防衛本能にもとづく殺戮兵器のようなものだ、と。
その防衛本能とかいうのがロイドにはよくわからないが。
すくなくとも、平穏な響きではない、というのは一目瞭然。
「しかし、そのものを一人ここに残すのも不安ではないか?」
「たしかにそう、ですが。しかし彼女にあわせて何かあってからでは遅いですし」
自分達が接したときのように、問答無用で敵意をむけてきたとするならば。
何がおこるか想像にかたくない。
「一番いいのは、爺様にそのものを預けるのが一番だろうな」
「たしかに。その方法がいいかもしれません。長老様ならば何かあっても対処できるでしょうし。
では、私が彼女を長老の家につれていきましょう。ミラ様は」
「ああ。あ。あとで彼女から預かっている例のものを」
「かしこまりました」
ロイド達を横におき、何やら会話がすすんでいるミラとモスリン。
どうやら二人の間で話しがまとまった、らしい。
「さて、心の準備ができたのならば、今からでも案内するが?」
淡々と語られるミラの台詞。
その言葉にすこし考えこんだのち、そして意をけっしてきっと前を見据え、
「お願いするわ」
リフィルが決い新たに返事を返す。
ここに、お母様が――
ずっときになっていた。
なぜあのとき、泣きながら自分達を…と。
「…本当に、ヒト、というものは……」
本当にロクなことをしでかさない。
それはかつてのときも、そして今も、そして今この【時】もかわっていない、らしい。
「まったくですじゃ。我らの配下でもある微精霊達を何とおもっているのやら」
エミルの呟きとともに、周囲の気温が一気に下がる。
この場に第三者がいれば、まちがいなくこの場の空気というか威圧感に押され、
意識を保っていることすら難しいであろう。
かつて、この地で何があったのか、あの姉弟たちの両親に何があったのか。
マクスウェルから語られた真実。
「よりによって、精霊石をヒトに呑みこませる、とはな。しかもいくつも」
「まだ正気であったバージニアというものがいうには、
それは、薬だ、といって飲まされたらしいですがの。寿命を延ばす薬だ、と」
「ばかばかしい」
「然り。…が、一概にたしかに嘘ではありませんからのぉ」
実例があった以上、嘘、とは言い難い。
が、なぜその人間はそれを手にしたのだろうか。
「この地に彼を連れてきたとき、すでにその肉体はほとんど結晶化しかけていましての。
しかも自我をも失っておりまして…微精霊達をその体内から解放、したのですが…」
「当事者の自我がすでに壊されていた…か」
それにより、マナが狂い、おこった出来事。
「姿をもどすことはできたのですが…しかし……」
それをしてももう、救いはなかった。
彼を助けようとして幾人かの犠牲者も出てしまっていた以上、
マクスウェルとて見逃すことができなかった。
マクスウェルの放った雷に打たれ、そしてその器が消滅するその一瞬。
最後にそのものが呼んだ名は、妻の名と、子供達の名。
「…あのときの、バージニアの悲鳴は何ともいえませんでしたからのぉ……」
バージニアの夫がしでかした惨劇。
しかし、誰もバージニアを責めることなどできはしなかった。
誰もが、理解してしまった。
今、ヒトの世で出回っているエクスフィア、とよばれしものが引き起こす障害。
その悲劇を。
「あれから、彼女は近づくもの全てが、
自分達をおいかけてきていた兵士、もしくは追手にみえるようでしての……」
話し、すらもままならない。
食事をつくっては、そのまま少し口につけるだけで捨てて…
そして、とり憑かれたようにしてあやしている人形。
「エルフと人の寿命の差…か。わかっていたであろうにな」
精霊と人。
種族の差とその生きる時間の差。
もし、あのとき、自分が外に残ったとしても…今のように、地上にでてマナを調整。
それも可能であったあのとき。
リヒターがいってきた。
コアと実体を分けて人として生活することはできないのか、と。
それを却下したのはほかならぬ自分自身。
でもそれをしなかったのは、時間の差というものをあまり感じたくなかったのもあるのかもしれない。
それは過去の記憶を呼び起こしてしまう。
精霊達を産みだした当時、様々な種族と心かよわすものもいた。
そして中には子を成すものも。
が、その結果として時間とともに、その力をうけつぎしものは、やがて野心をもち…
その精霊の心そのものを壊す、もしくは精霊自らが消滅を願うきっかけとなってしまった
遥かなる過去の出来事。
まだ、デリス・カーラーンなどを創るよりも遥かなる前の出来事。
かつて、ラタトスクが加護を与えたものもいた。
そういう世界であったからこそ。
が、ヒトはそんな加護をあたえたものの力を欲し、そしてそのものが自らのものにならない、
とわかったとたん、そのものを殺した。
それこそ、世界に害する悪人、という彼らにとっては都合のいい、ねつ造した罪をおしつけて。
もう、救いはない、とおもい世界を浄化したあのとき。
そんな遥かなる過去の出来事をふとラタトスクは思い出してしまう。
そういった出来事もあり、精霊、そして人、正確にいうならば、多種族との間に子はなせないようにした。
子を成す場合は、精霊達の分霊を別の分離体としてなせばどうにかなる、という形をとり。
力におぼれることなきように、理を始めから本能的に理解した存在でしか誕生できないように。
時の中、おいていかれる、わかっていても尚、それでも残るものがある。
それは思い出と、その心。
しかし、その心すら、時としてヒトは歪めてしまう。
精霊達とて長き時間の中でその思いを昇華しわざわざ思い出すようなことは滅多とない。
何かのきっかけがあれば思い出す、であろうが。
そう、今のエミルの…ラタトスクのように。
そして、あのときのリヒターの言葉でそれらのことを思い出してしまったときのように。
人格が融合したばかりではっきりとしてなかったあのときですら、
思いだしてしまったその時の思い。
詳しい経緯までは思い出せなかったが、だけどわかることもあった。
だからこそ、断った。
そんな暇はない、そう一言のうちに却下して。
「今の地上人はよくよくいきても軽くみつもってですら百年もいきられない。
が、エルフ達はかるく千年はいきる。わかっていたはず、なのにな」
なのに、妻と同じ時間を、と願い、それを手にしたというクロイツ。
それがどういう意味をもつのか、彼はわかっていなかったのだろうか。
わかっていてなお、その力にすがったというのならば、それは何と滑稽なのだろう。
それが自らの寿命、そして魂すらをも消滅するかもしれない、とわかっていたであろうに。
エルフの里にいたのならば、そういったこともしっていたはず。
にもかかわらず、かのものはそれを選択した。
精霊石をその身に取り込む、というその方法を。
薬、と信じていたのかすらもあやしい。
妻であるバージニアにはそのように嘘をついていた可能性もある。
もっとも、だまされていた、という可能性もなくはないのかもしれない、が。
「それで?そのクロイツの器はどうした?」
「――マナに還しましたですじゃ」
そう、その器はマナに還し、欠片すら残っていない。
そのとき彼が身につけている全てに関して、マクスウェルはマナに還元した、のだから。
つまり、それが意味すること。
すなわち、当時かの人物がに身つけていたものは欠片とものこっていない、ということに他ならない。
何も残っていないがゆえに、今の状況になっている、という捉え方もできる。
が、ヒトの心とは複雑怪奇。
真実など、わかるはずもない。
「…はぁ。…ヴェリウスのやつが力を完全に取り戻せばどうにかなる、のだろうがな」
「然り。あなたさまの話しをきくかぎり、今は孤鈴となのっているとか?」
「ああ。人がつくりし人工精霊の器、という枷に囚われて、な」
あの偽りの器を脱ぎ捨てなければ、ヴェリウスは本来の姿を取り戻せない。
本来の力を使いこなすことはできはしない。
孤鈴というのは、
あくまでも、ヴェリウスの中で芽生えた、心の一つ、でしかない、のだから。
「ここは……」
どこか懐かしい景色。
目の前には小さな小川に、森の中にひっそりとたつ小さな木造の家。
静かなたたずまいと、そして何よりもおちつくその雰囲気。
家のつくりもどことなく、リフィルの記憶にあるまま。
おもわず茫然とその場にたちつくしてしまうリフィルの姿をみて、
「?姉さん?」
ミラに案内されてきたのは、小さな森の奥にとあるとある場所。
周囲には他に家らしきものがないことから、おそらくはそこに、
ジーニアス達の母親が住んでいる、のであろうが。
「あんたたち、噂の客人かい?そこに近づくのはおやめよ」
そんな中、その手に何やらお盆?らしきものをもった女性が、近づいてくる一行にきづいた、のであろう。
いきなりそんなことをいってくる。
「何だ。スバルではないか」
「おや。これはミラ様。めずらしいですな。ミラ様がこちらに出向かれるなど。
ああ、長老様に何かいわれましたか?」
「うむ。このものたちをあのものに引き合わせてみろ、といわれてな」
いって、ちらり、とリフィルとジーニアスを視線で示す。
「その顔は…バージニア!?…しかし、ミラ様。それは危険、なのでは?
今でこそ、彼女は落ちついていますが、あのときのような……」
「それを私にいうな。文句があるのなら爺様にいえ」
「う。長老様に、ですか?それができるのはミラ様達くらいですよ。
私たちはとてもご意見などできはしません」
その台詞に、
「あんたの爺さんっていったい…」
「?何で意見できないんだ?」
同時におもわず声をあげているしいなとロイド。
結局のところ、長老だ、という家にモスリンがコレットをつれていき、
コレットとエミルが二人っきりになるのは許せない、といい、
マルタもその場にのこってしまったがゆえに、
今この場にきているのは、当事者たるセイジ姉弟以外ではロイドとしいなのみ。
もっとも、残ったマルタが積極的にエミルにアプローチしているのをみて、
マクスウェルが面白がり、あるいみかの場所ではちょっとした混沌とした場と化しているのだが。
何しろ問題になるような存在がいないがゆえに、センチュリオンまででてきている始末。
もっともそんな状況になっていることなど、当然ロイド達はしるよしもない。
「そんなおそろしい」
スバルとよばれた初老の女性は体をすこしぶるり、と震わせいってくる。
そもそも、長老がここしばらく共にすんでいる、というだけでも畏れ多いというのに。
意見するなどもってのほか。
それがここ、エグザイアの街の人々の認識。
「「?」」
スバルの台詞に首をかしげるしいなとロイド。
「ここに、お母様が……」
リフィルがつぶやき、ジーニアスは無意識にぎゅっと自分の手を握り締める。
「いくぞ」
そんな中、ミラがすたすたとあるいていき、かるく家の玄関の扉をノックする。
返事がないのはいつものこと。
ゆえにそのまま返事がないまま、家の中へ。
「……誰?」
家の中はこじんまりしており机の上には料理が並べられている。
が、それにはまったく手がつけられておらず、おかれたスープから湯気がたちのぼっている。
玄関からはいってすぐに台所があり、その横にはテーブル。
そしてその奥には少し段がたかくなり、ベットが二つ、並べられている。
段が高くなっている場所にはちょっとした戸棚、そして本棚らしきものがみてとれるが。
戸棚近くのベットの脇。
そこにたっている女性が、ヒトの気配にきづいたらしく声をかけてくる。
「うむ。私だ」
「あら。ミラ様ね。ご機嫌よう。あら?そちらの方々は?」
「…今日は調子がいいようだな」
会話が成立している、ということは、あるいみで調子がいい、ということ。
いつもは会話すらなりたたない。
銀色の髪は長くのび、顔半分を覆い隠しているものの、
その髪の長さは肩より少し長い程度。
薄い紺色と緑を主体としたローブを着ている一人の女性。
なぜかその手にはつぎはぎだらけの人形が抱かれているのが気になるが。
「!…しつれい。ちょっとお尋ねしたいのですが……」
リフィルが息をのみつつも、その女性にと声をかける。
「あら。ハーフエルフね。私の子供もそうなの。かわいいでしょう?」
いいつつも、そのまなざしは人形へ。
「「…人形(じゃねえか)(だね)」」
その光景をみて同時につぶやくロイドとしいな。
あきらかに、この女性は手にしている人形をみてそういっている。
それゆえに戸惑いを隠しきれない。
「ほら。利発そうな顔をしてるでしょう?この子はリフィル。私の自慢の娘よ」
くたり、となっているツギハギだらけの人形をあやすようにしながら、
穏やかな口調でそういてくる銀髪の女性。
「・・・・・・・」
「…え?姉さんと…同じ…じゃあ……まさか……?」
その言葉をきき、リフィルは黙りこむしかできない。
銀色の髪。
そして覚えのある顔。
間違いない、ないのに。
ジーニアスはおもわず、顔半分以上が隠れている女性と、姉リフィルを見比べる。
髪で顔が隠れているからその表情はジーニアスにはわからない。
ジーニアスのとまどったような声に、しいなが横にいるミラをみれば、ミラはしずかにこくり、とうなづくのみ。
だとすれば、この女性が、この二人の…
そのミラの行動で、目の前の女性が誰なのか、しいなは察し、何ともいえない気持ちになる。
あわないほうがいい。
そういっていた言葉の意味。
この様子からして、おそらくは…この女性は、精神を病んでいる。
「今ね。お腹の中に二人目の子がいるの。名前も決まっているのよ。
女の子ならジーン。男の子ならジーニアス。どう、素敵な名前でしょう?」
愛しそうに片手で人形を抱いたまま、もう片方の手でお腹に手をあて、そういってくる。
「…え?じゃあ……」
思わず一歩、後ろにさがり、つぶやくジーニアス。
人形を子供、というその女性。
そしてお腹にいるはずのない子がいる、という。
しかも、その名は、姉とそして自分の名。
疑いようのない、まぎれもない現実が目の前にある。
「…あの…あなたは、バージニアさん…ですか?」
ロイドのとまどったような声。
人形を子供、といっている時点で普通ではない、とおもう。
こういう人をロイドはみたことがない。
ゆえにどういう対応をとればいいのかわからない。
まちがいなく、先生達の母親、とおもうんだけど。だけども。
そんなとまどったようなロイドの台詞に、
「ええ。そうよ。よく御存じね?」
「「!?」」
さらり、といわれたその言葉に、ロイドとジーニアスが絶句する。
リフィルは先ほどから黙っているまま。
「…この人は……」
かすれたようなしいなの声に、
「今日は調子がいいようだな。バージニア」
「今日は?とは?」
「ふむ。いつも彼女とはほぼ会話は成立しない。が、すくなからず今日は成立しているからな」
思わずといかけるしいなに淡々とこたえているミラ。
そう、いつも会話がなりたたない。
常に幻の家族とともに会話を交わしている彼女とは。
こうして言葉のやり取りができている、というだけ珍しいといってよい。
「…っ」
「…冗談…ではなく、てよ」
言葉につまるジーニアスに、そして低い声で、それでいて言葉を絞り出すようにつぶやくリフィル。
「…先生」
「…リフィル、あんた……」
ロイドも何といっていいのかわからない。
そしてしいなも。
「冗談ではなくてよ!どういうつもりなの!
私たち姉弟があなたに捨てられてからどうやって生きてきたとおもうの!?
あのとき、ジーニアスは一歳にもみたなかったのよ!?
私は、まだようやく十二になったばかりで…どういうつもりなのよ!」
覚えているのは、とある場所でじっとしているように、といわれた言葉と。
そして、母の泣き顔。
伸ばした手は届かず、気づけば景色がかわっていたあのとき。
ずっと探していた。
両親の手がかりを。
だけど、ようやくみつけた、その母親は……
それは叫ぶような血を吐くようなリフィルの叫び。
リフィルがここまで感情をあらわにしていることなどジーニアスもみたことがない。
いつも冷静沈着で…まあ、遺跡を目にすれば別の意味で豹変していたが。
「な…何です?急に大声をだして…リフィルがおきてしまいますわ」
おろおろしつつ、人形をあやしだす、バージニア、と呼ばれし女性。
「おかしいのはあなただわ!よくも…よくもっ!」
ジーニアスはうなだれ、ぎゅっと思いをこらえているらしく、しかしその体はカタカタと小さく震えている。
「リフィルは私です!あなたが疎んで捨てた子供は私よ!
そんな人形なんかじゃないっ!ジーニアスだってちゃんとここにいるわっ!」
叫ぶリフィルに対し、
「何をいってるの?おかしな人ね」
首をかしげ理解していないバージニア。
「おかしいのはあなただわっ!よくも…よくもっ!」
リフィルが声をつませらつつ叫ぶものの、
「ああ。リフィルが泣きだしてしまったわ。もう、出て行ってください。
…ああ、いい子ね。リフィル。怖いお姉さん達はいっちゃいましたよ。もう、泣かないで……」
まるで、すでにそこに誰もいないか、のように人形をあやしだす。
「っ!」
その光景にこらえきれなくなったらしく、そのまま扉へむかい家の外へと飛び出すリフィルの姿。
「…姉さんっ」
駆けだしていったリフィルにジーニアスが話しかけるが。
「おい。あんた、それ、人形じゃ……」
「今日の夕食は何にしましょうかね?ああ、もう用意してあったんだったわね。
さあ、リフィル。離乳食をたべられるかなぁ?」
まるでそこにロイド達がいない、とばかりに、そのままロイド達の横をすりぬけ、
椅子にとすわり、机の上にあるスープをスプーンですくい、人形へ。
「あら。あつかったかしら?ふ~、ふ~…」
人形の口元にスープを運ぶが、当然、ぽたぽたと人形にスープは注がれるのみ。
「おい。あんたっ!」
ロイドが思わず叫ぶが。
「無駄だ。どうやら調子がいい状態はおわったらしい。彼女はいつも、他人の言葉は耳にはいっていない」
「何…だよ、どういうことなんだよっ、これっ」
淡々というミラの台詞に、ロイドは叫ばずにはいられない。
どうみても人形を子供、と思いこんでいる女性。
しかもその女性はリフィルとジーニアスの間違いなく実の母親。
なのに、二人にまったくこの女性は反応を示さなかった。
「この人…精神を病んでるんだね」
「ああ。そうだ」
しいなのつぶやきに、淡々とこたえつつ、
「もうここにいても仕方なかろう」
一応、祖父のいいつけとおり、二人をバージニアにあわせた。
それ以外はミラがどうこうすることではない。
やはり、というか。
子供達にあわせてもバージニアは正気にはもどらなかったか。
そういう思いのほうがはるかに強いが。
「だね。ロイド。外にいくよ。リフィルが心配だ。ジーニアスもそれでいいかい?」
「…うん」
そんな会話をしている目の前では、
「リフィル。あなたはお姉ちゃんになるんだから、好き嫌いしてはだめよ?あら、ねむってしまったのね」
いって、ふらふらと、椅子からたちあがり、ベットにむかい、
そして人形をそっと横たえているバージニアの姿が目にはいる。
かちゃり。
そのまま何ともいえない気持ちをかかえたまま、ロイドもまた、ミラの後につづき、その家をあとにし扉の外へ。
家からでると、少し離れた場所にある木の真下。
そこで、木にすがりつくようにしているリフィルの姿を発見する。
「…馬鹿に…してるわ…自分で子供をすてて、記憶すら捨ててしまうなんて…っ!
覚えていてすら…くれない…なんて……」
まちがいなく、あれは母だった。
自分達に気づいてすらくれなかった。
それがリフィルからしてみれば悔しくてしかたがない。
まだ、なぜきたの、とか罵倒されたほうがましだった。
あんな、あんな。
リフィルの中で様々な思いが去来する。
あの母と別れてから、これまでのこと。
ジーニアスを必至で育ててきたこれまでの十一年間。
「…姉さん…なかないで……」
ジーニアスもそんな姉に何と声をかけていいのかわからない。
あのとき、ジーニアスは物ごころついていなかったがゆえ、母の顔を覚えていない。
だからこそ、彼女が母親だ、といわれてもピン、とこないのはある。
が、姉はそう、ではない。
ジーニアスも何といっていいのかが心の底からわからない。
けども、直感というか本能でジーニアスも理解している。
あの女性が自分達の産みの母親なのだ、と。
かさり。
「あんた。モスリンさん」
ふと、足音がし、そちらをロイドがふりむけば、
少し遅れてきたらしく、そこにモスリンがたっているのがみてとれる。
「ミラ様。バージニアは…」
「うむ。やはりダメだったな。まあ言葉のやり取りが珍しくできてはいたが。それは一瞬でしかなかったが」
「そう、ですか。実の子供達でも無理…でしたか」
落胆したようなモスリンの台詞。
もしかして、と期待していたのだが、そうは問屋がおろさなかったらしい。
「…なあ、彼女はなんでここにいるんだい?」
リフィルとジーニアスは何かを聞ける状態ではないであろう。
それゆえのしいなの問いかけ。
わざわざこの場にやってきた、ということは、
おそらくこのモスリン、と名乗っている人物も彼女の状態はしっていたのであろう。
だからこそ、リフィル達が彼女…バージニア、と確かいっていたが。
リフィル達が母親とあうのをためらっていたのであろう。
あの状態…心を壊している状態をしっていたからこそ。
しかし、気になることもある。
なぜ彼女がここにいるのか、ということ。
「今から数年前…のような気もするが、今から約十年ほど前、だったか。
ユミルの森で行き倒れている夫婦をみつけた。それがバージニアと夫のクロイツだった」
しいなの問いかけに淡々とこたえるモスリン。
さあっと彼らの周囲を風が吹き抜ける。
「…お父様…だわ」
ひとしきり泣いて叫んで、少しはすっきりした、のであろう。
涙をぬぐいつつも、顔をあげ、ぽつり、とつぶやくリフィルの姿。
このやり取りはモスリンの家でもされたのだが。
今のリフィルはそこまで気がまわっていないらしい。
「先ほども家の中で説明したが、クロイツはメルトキオからエルフの里の調査に遣わされたらしい。
バージニアと恋中になってヘイムダールに残ったようだが」
モスリンの言葉に、リフィルもうなづく。
そう、二人の物語は、よく母から聞かされていた。
しかし、その幸せも……
「…でも、村に住んでいたハーフエルフの一人が父を兵士に売り飛ばそうとした。
大きな騒ぎになったわ。エルフとハーフエルフの間で暴動が起きて……」
あのときのことはリフィルもよく覚えている。
何が何だかわからなかった。
モスリンの家でもいった言葉。
でもいわずにはいられない。
全ての原因は、あの暴動にあったのだから。
「騒ぎの原因であるバージニア達は追放されたそうじゃ。
各地を転々としたが、ハーフエルフへの風当たりはつよく……」
「僕たち…すてられちゃったんだね」
モスリンの言葉にジーニアスがうなだれる。
町長だ、というモスリンの家でもいわれたが。
母親を目の当たりにし確認した今となっては感じる重さがまた異なる。
「何だよ、それ…だって、ジーニアスも先生もあの人の子供なんだろ?なのに」
ロイドが何かいいかけるが。
「だまりな。ロイド。あんたにはおそらくわからないよ。
ドワーフに育てられ、それでも愛情をうけて育ったあんたには、ね」
そんなロイドにぴしゃり、としいなが言い放つ。
「だって、子供なんだろ!?親って子供を守るものなんだろ!?」
「ああ。そうさ。けど、子供を守るために手放す場合だってあるんだよ」
「何だよ・・・わけわかんねぇ!」
ロイドはそういわれてもまったく意味がわからない。
守るために手放す?
そんなことはありえない。
だからこその叫び。
しいなはそういったことを知っている。
これまでの人生でそういうものを幾度もみてきた。
だからこそ、これだけはいえる。
「…まあ、中には損得で子供を売り飛ばすような親もいるにはいる、けどね」
吐き捨てるようなしいなの言葉。
それが、テセアラではまかり通っているのだから…洒落にならない。
貧相街に産まれてしまったものはどうにもできない。
が、物ごころつく前にどこかの養子にだし、手放すことで子供の未来をよりいいものに。
そう願う親もまた少なくないのもまた事実。
そんなテセアラの事情をロイドは知らない。
知らないからこそわからない。
時として子供の幸せを願うために子供をあえて手放す親がいる、ということが。
「時に、例のものはもってきたのか?」
「ええ。さて。問おう。バージニアとクロイツの子、リフィル、そしてジーニアスよ。
ここに、彼女がまだ正気を保っていたとき、この地にやってきたときに預かったものがある」
「?それは?」
いいつつ、懐からとりだしたのは、一冊の本のようなもの。
それをみてしいなが首をかしげつつもといかける。
「バージニアの日記だ」
「…日記?」
その言葉にロイドが首をかしげるが。
「あんな状態なのに日記なんてかけたのかい?」
しいなの素朴なる疑問。
「いや。これはバージニアが子供達と別れてからつづっていたもの、らしい。
彼女は常に気にかけていたからな。
伝説の地、シルヴァランドならばハーフエルフも差別されていまい。幸せになっていてほしい、と」
「つまり、彼女は始めからああ、ではなかったってことかい?」
「そうだ。クロイツは…病にかかっていたらしくてな。この村にきて間もなく、……息をひきとった。
バージニアがおかしくなったのは…その時からじゃよ」
そんなモスリンとしいなの会話をききつつも、
「…勝手だわ。勝手に私たちを捨てて、勝手に忘れて…自分だけ夢の世界にいって…
なのに、気にかけていた、ですって?冗談ではなくてよっ!
まだ、子供でしかなかった私がジーニアスを連れてどれだけっ…っ」
「お前達がどういう状態だったのかは私にはわからん。
私がしっているのはあのときのバージニア達の様子だけ、だからな。異形と化した…」
「ミラ様。それはいうことではないとおもわれます」
「うん?なぜだ?」
「…世の中には、知らないほうがいいこともあります。特に、今のこのものたちはそれは…酷です」
ミラがいいかけた台詞をモスリンがすばやくさえぎり、
そんな彼の台詞にミラが首をかしげて逆にとといかける。
少し顔をふせていうモスリンの台詞に、
「…どういう、ことなんだい?」
「みずほの里のものならばしっていよう。
かのものは、王立研究院のとある実験の被験者にされてしまっていた」
「っ。…まさか、かかわったのは…ケイトっていう……」
「そうだ」
「・・・・っ」
その言葉に、しいなとしては自らの手を強く握りしめるしかできない。
「爺様が配下のものに調べさせたところ、何でもプレセアとかいう人間が成功しているから、
なら、エルフ、そしてそれに近しいものでも効果がでるのではないか。
と馬鹿なことをしでかしていたようだがな」
マクスウェルが配下でもある微精霊達を使役し手にいれた情報。
完全とまではいかないが、簡単な説明をミラはうけている。
「…何?それ……」
思うところがあったのか、
それまで俯いていたジーニアスが恐る恐るしいなにと問いかける。
今、彼らはたしかに異形と化した。
と言いかけた。
まさか、と思う。
思いだしたのはマーブル、そしてドア夫人。
そしてさらにいうのならば…ロイドの母親。
クヴァルというディザイアンがいっていた、
ロイドの母親は異形と化して、その母親をロイドの父親が殺した、と。
まさか、まさかまさか、という思いがジーニアスの脳裏をよぎる。
もしかしたら…もしかしなくても、
自分達の実の父親もそのような状況になってしまっていたのではないのか、と。
「…秘密裏に教皇自らが行っている実験さ。むなくそわるい。
人為的にクルシスの輝石を創りだす実験。その被験者が…プレセアって子さ。
まあ、それは今は関係ないとして。それより、その日記には、一体……」
クルシスの輝石。
ハイエクスフィア、と確かレミエルはいっていた。
つまるところエクスフィアには変わりがない。
「私は役目柄地上に降りることもあるからな。
そのとき、子供達に会うことがあれば渡してほしい、と頼まれていたものだ。
もっとも、彼女もあの彼の最後の台詞がなければ今もこうして生きては……」
最後の最後に正気にもどり、生きて、子供達と共に…
そういった最後、消える直前のその台詞。
その言葉がなければ、まちがいなく、彼女は自ら命を絶っていた、であろう。
死ぬこともできず、しかしその状態になってしまった原因が自分。
子供達を手放す原因になったのも。
それらの思いが全て重なり、バージニアは正気を失った。
人形を与える…彼女がかつて、これは娘が創ったのよ。
と見せていたのを覚えていた人物がそれを彼女に抱かせたのち、
心が自らを守るために新たな殻を創りだし…そして今のような現状となってしまった。
歪んだ思い出の中、偽りの幻の幸せの中に彼女の精神(こころ)は逃避してしまった。
「どちらにしても、これを読むか読まないかは、お前達の判断による。さて、どうする?」
淡々としたミラの台詞。
「少しは猶予時間をあたえちゃどうだい?あんたも」
そんなミラにたいし、呆れたようにしいながいっているが。
「ふむ。そういうものなのか?」
「…あんた、どういう育ち方したんだい……」
首をかしげるミラにたいし、しいなはあきれせざるを得ない。
人の心の機微がどうもこのミラ、という女性はわかっていないように感じる。
もっとも、育ての親が精霊で、この地にて育ったミラに、そういうものがわかれ、というのもまた難しい。
何しろ精霊マクスウェルのやしないご、という目で誰しもがミラ達をみていた。
名に様づけがされている、というのが何よりの証拠。
マクスウェルがそういったことをおしえられるはずもなく、
また、他のものたちも、養い子とわかっていてなお、注意するような気骨あるものもいなかった。
モスリンが手にしているのは一冊の本。
いまだにリフィルは決意がつかないのか、うつむいている。
「しょうがない。リフィル達が決心つくまで、それ預かっておく、というわけにはいかないかい?」
しいなの提案に、
「それはかまいませんが」
「ロイドに渡し…ああ、あんたはなんかなくしそうだね」
「どういう意味だよ!しいな!」
「あんたに預けてたら、何となく本がぼろぼろになりそうな気がするからだよ。
もしくはどっかに忘れて無くしたりとか」
「うっ。俺はそこまで馬鹿じゃないぞ!」
ロイドがしいなの台詞にくってかかるが、
「…ロイドならやりかねないかも……」
ぽそり、とつぶやくジーニアスにたいし、
「どういう意味だ!」
すかさず反論しているロイドの姿。
「…いえ、見せて頂戴。いえ、私が把握しなければいなけいのだもの。しいな、かしてちょうだい」
いろいろと母にたいし思うところはある。
けど、あの母からなぜ自分達を捨てたのか、という答えは聞けないであろう。
だとすれば、この預けられていたという日記にその答えがあるのかもしれない。
それがどんなにリフィル達にとって残酷なことであろうとも、
自分達は知る権利、また必要性がある。
そうおもうがゆえのリフィルの決意。
「あんた…いいのかい?」
「ええ」
そうはいうが、無意識のうちにリフィルの声は震えている。
モスリンから受け取っていたしいなから、日記とよばれしそれをうけとり、
すっと目をとじ、大きく息をすいこみ、心構えを改め、
そのまま、意をけっし、そっと日記であろう、本をぱらり、とめくってゆく。
異界の扉が開いた。リフィル。ジーニアス。力のない母を許してください。
いかな王立研究院とてシルヴァラントにまでお前達を追いかけてはいきはしないでしょう。
あの薄汚れた牢獄で…一生奴隷のように使われるくらいなら
逃げ落ちて生きて、自由に……
震える声でその日記にと目を通す。
一瞬、息を詰まらせつつも、震える声でその始まりのページに書かれている文字を、
確認するように、反復するようにと声をだして読み上げる。
「!?どういう…こと?」
姉の震える声にて朗読されたその内容は、ジーニアスからしても、
思わず聞き返さずにはいられない内容。
「……どういう、こと、なんですか?」
牢獄、一生奴隷。
何やら今、リフィルがいった台詞には、不穏極まりない台詞が多々とでてきた。
ゆえにロイドもまた戸惑いぎみに、その視線をモスリンにと向けてといかける。
「…リフィル。お前さんはよほど優秀だったのだろう。
王立研究院ではお前さんの頭脳がほしくて仕方がなかったようだ」
しばし思案したのち、言葉を選ぶようにして淡々と語り始めるモスリン。
彼は、彼らを保護したときに、そのことを聞かされている。
「まさか…それでどこにも定住できずに、旅を続けていた、というの…?」
とまどったようなリフィルの声。
今、モスリンが言ったことが正しいのならば、だとすれば。
ずっと母親に、両親に捨てられた、とおもっていた。
けど、しいなから聞かされていたテセアラでのハーフエルフ達の状態。
そして、この日記に書かれている言葉。
「あたしも知ってるよ。今から十一年前のことだけどね。
…マーテル教会から、ひと組の家族を捕らえよ、と手配がかかったことはね。
ちなみに、親の生死はとわないけども、子供を捕らえれば、
一人につき百万ガルド…当時の人々は、その賞金目当てでその家族をおいかけた。とも」
リフィルにかかっていた懸賞金は百万ガルド。
「百万って……俺よりおおい!?」
「驚くところはそこかい!?
…そういや、あんたもディザイアンに懸賞かけられてたね。たしか十万ガルド……」
ロイドの叫びにあきれたようにしいながいい、ふとあることを思い出していってくる。
フォシテスがロイドにかけた手配書には、一応懸賞金も記されていた。
「まあ、当時。その懸賞金のこともあり、誰もがセイジ家族を追いかけておったらしくての。
…結局、異界の扉まで追い詰められたのち、お前達を逃がしたらしいがの」
このままでは、私たちは殺され、あなた達は連れていかれてしまうでしょう。
どうか、伝説の地、シルヴァランドで、どうか、あなた達だけでも幸せに……
震える手で目を通す日記の始まりにはそのようなことが書かれている。
そして。
無事に二人が異界の扉から消えた。
どうか、大樹カーラーンの加護があの子達にありますように。
夫が呼んでいる。まずは、子供達を逃がしたことがわからないように、
追手の目をくらまさなくては。一緒にいかれない私たちをどうか許して。
恨んでくれてもいい、だからどうか、生きて幸せに…
「…っ。お母様っ。お父様っ」
始まりの分だけどうにか震える声で口には出せたが、それ以上は声にはならず。
リフィルはただ、震えつつも日記を抱きしめて嗚咽するしかない。
ずっと、どうして自分達を捨てたのか。
そうおもっていた。
けども、ここに書かれている内容、そしてしいなたちがいうことを総合するとするならば、
「…あいつらは、目的の為ならば他者をも巻き込んで手にいれようとするからね。
…むなくそわるいけどさ。以前なんか子供一人を捕らえるために、
町一つ、壊滅状態にまでしたことがあるからね。…国の命で」
吐き捨てるようなしいなの台詞。
それがまかりとおっているのが今のテセアラの現状。
エルフとハーフエルフを匿っていた、そこに住んでいたのだから、
お前達もしっていたはず、匿っていたな、と難癖をつけ処刑する。
しいなはその理不尽なる事情をも里の民の特性がらよくしっている。
また、研究院でも研究者たち…そこに囚われているハーフエルフ達が、であるが。
そういった彼らからもよく聞かされていた。
日記をだきしめて、ぎゅっと言葉もなく震えているリフィルをみつつ、
「…じゃあ、僕たち…邪魔だから…嫌われてたから捨てられたわけじゃないんだね?」
ジーニアスの戸惑いの声。
死んだ、とおもっていた両親の真実。
でも、本当は捨てられたから死んだ、と姉はいっているんだろう。
そういつのころからかおもっていた。
しかし、現実は。
「そうじゃな。むしろその逆、じゃな。
バージニアとクロイツはその命をもってしてお前さん達をより安全とおもわれる地。
シルヴァランドに逃がそう、と思いついたんじゃろう。
ここ、テセアラではお前さん達はいずれは国につかまってしまう。
ならば、とな。…その後、お前さん達を逃がしたのちも、
二人はさもお前さん達が一緒にいるように振る舞い、何とか国の目を欺いていたらしいが、の」
わざわざリフィルに近い等身大の人形をも手にいれ、
それをクロイツが背負う形でいかにも一緒に逃げています。
というような形をとり国の目をごまかしていた、らしい。
だからこそ、彼らは異界の扉からリフィル達がシルヴァランドに移動した可能性。
それを視野にいれなかった。
「…っ。お母さまっ」
モスリンの台詞をきき、リフィルはもう耐えられない、とばかりにその場に崩れ落ちる。
嫌われていたのではなかった。
ずっと、ずっと自分達が嫌われたのだ、とおもっていた。
だけども、母は、両親は。
「?結局どういうことなんだ?」
「はぁ。あのね。ロイド。つまり、リフィル達の両親は。
目をつれられたテセアラ王家から子供達を逃がすために、
あえて子供達だけを賭博にも近かったんだろうけど、シルヴァランドに送ったんだよ。
二人はそのままこちらに残って、いかにも子供達が共にいるようにみせかけて、ね。
追手の目をめくらます、囮、の役目を子供達の安全を確保するために」
「囮って……」
「いっただろ?子供の安全、そして幸せを願ってあえて手放すこともあるって」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
つまり、何か?
先生とジーニアスを逃がすために、あえて先生達の両親は先生達とわかれて?
「…わけわかんねぇっ」
「はぁ。あんたにはわかんないかねぇ」
「だって、助けたいなら、傍でたすければいいじゃないか。俺ならそうする。最後まで絶対にあきらめない」
「多勢に無勢、でもそれがいえるかい?あいつらは、目的の為ならば、
他者の命なんてどうともおもわないんだよ。…そう、あんたたちのいうディザイアンのように、ね。
特にテセアラではハーフエルフの身分は最下層だ。誰も文句なんかいわないだろうよ」
「んだよ、なんだよ。それ、だって、だって同じ、ヒト、なのに」
「身分制度。それがここ、テセアラでは絶対、なのさ」
そういわれても、ロイドにはよくわからない。
そういう価値観の中で育っていないロイドには理解不能というよりは、理解ができない。
「たった二人の子供を差し出せば、町の人々の命はたすかる。
が、さしださなければ町を破壊する。そういわれたらあんたはどうするんだい?」
「それは…どっちもたす」
「そんな悠長なことが通じる相手じゃない。国が相手、というのはそういうものさ。
そういったとたん、お前も仲間、だな。国への反逆者として処刑する。
それでここ、テセアラでは終わり、さ」
「なんだよ、その理不尽さは!」
「それが、ここテセアラの現状、なのさ。身分制度、ってのはそんなもんさ。
上の連中は下のものがどうなろうとしったこっちゃないんだよ。
下のものの命なんて自分達の玩具、もしくは道具以下としてしかみちゃいない」
「そんなの…間違ってる…間違ってるよ」
「あんただって。いいたくないけど、あのとき。世界とコレット。あんたは、どっちを選んだ?」
「それは……」
世界とコレットと。
世界を選んだ自分のあのときの心。
しいなにぴしゃり、といわれロイドとしては黙り込むしかできない。
「あたしはそれ以外にも方法があるかもしれない。そう、シルフとの契約のときにいったよね?
けど、あんたは。レミエル達のいうがままに、どっちを選んだ?」
たしかに、しいなは可能性のことをいっていた。
二つの世界が搾取し合う状態の突破口になる方法があるかもしれない、と。
「…俺って…偽善者なの…かな」
しかし、それらを考慮することなく、あのときたしかにロイドは世界を選んだ。
それこそレミエルのいうがままを…コレットが犠牲になれば、世界が助かる、その言葉を信じた結果。
それは所詮偽りでしかなかった、というのに。
「さあね。それをきめるのは、あんた自身なんじゃないかい?
すくなくとも、あんたはあのとき、コレットでなく世界を選んだ。
つまり、そういう選択を当時、そのときの人々がしでかす可能性が高かった。
だからこそ、リフィル達の親は二人を別世界に逃がす、という手を思いついたんだろ。
本当にかけ、だったんだろうけどね。けど、それしか方法がなかった」
捕まればそれこそ終わり。
赤ん坊であったというジーニアスなど、マナの実験に使われて生きてなどはいなかったであろう。
テセアラの国…王立となった研究所の裏で行われている実験の被験者、となりて。
「…お母さん達…僕たちを助けよう、としてくれたんだね……」
ジーニアスもそこまでいわれ、何となく理解する。
ぶの悪いかけ、ではあったのであろう。
が、両親はそのかけを実行した。
自分達を…子供である自分達を助けるため、に。
「…この日記は……」
ジーニアスの言葉に、しばし震えるようにして日記をだきしめていたリフィルが、
ゆっくりと顔をあげつつ、モスリンにと問いかける。
「もっていきなさい。それはお前達の母親のものなのだから。
バージニアのことはわしらにまかせておきなさい。
時に、ミラ様、バージニアはきちんと対話に応じたのですかな?」
「うむ。めずらしくきちんと言葉のやり取りができていた」
「ふむ。いつはわしらの言葉すら耳にはいらん状態であるのにですか?」
「そこの娘の問いかけにはきちんと反応していたようだな」
「では、すこしは成果があった、ということですか」
いつも自分達を声をかけてもバージニアにはその声はとどいてすらいないというのに。
だけども、さきほどのリフィルの問いかけは、すぐさま彼女に届いていた。
それは小さいながらも回復ともとれる変化といえるのかもしれない。
もしくは無意識のうちに、子供だ、とわかったがゆえの反応なのか。
それはミラにも、そしてモスリンにもわからない。
「…ありがとうございます。…ごめんなさいね。ジーニアス」
「お母さんのこと?姉さんはわるくないよ」
いきなり姉にあやまられ、ジーニアスはそうとしかいえない。
たしかに、親のことをきき、ずっと死んだ、と聞かされていたが。
事情が事情。
特に、両親の思いが欠片とはいえ判った今では、誰が悪いわけでもないとおもう。
「でも……」
「姉さんが黙っていたのは僕のためにそのほうがいい、とおもってたからだよね?
それくらい、僕にもわかるよ」
「…ありがとう。ジーニアス」
「それはそうと、何でそれをもってるんだ?」
それは素朴なる疑問。
というよりもたしかそれらが開発されたのは、天地戦争時代ではなかったか。
「あの戦争の後、儂のところにこれを封じにきたものがいましてのぉ」
「たしか人間達が天地戦争とかいっていたあれか?」
「然り、ですじゃ。あの当時は人間達の技術力は半端なかったですからの」
「そのせいでかなりマナが消費されまくったがな」
マルタはミュゼ、とかいうものに一応任せているので今はここにはいない。
というより、コレットを一人にしておくわけにもいかず、
かといって、今この地にきている人間達がどうやってやってきたのか、という話題となり、
人がいうところのレアバードに乗って、というのをいったところ、
その機体をみてみたい、とマクスウェルが言いだし今にいたっているこの現状。
すこし意識をロイド達のほうにむけてみれば、
どうやらリフィル達はバージニア、とよばれしものと邂逅を果たしているっぽいが。
今のこの時間率ではこれはまだ開発されていなかったはず。
この後、ラグナログとかいわれる戦争の後、とある国が開発したとある腕輪。
その腕輪の元となりしは、かつてあったものが復刻版として再生されただけのもの。
「今の地上では、これにちかしい、ウィングパックとかいわれてましたかの?そんな代物もあるようですがな」
ほっほっほっ、と笑みを浮かべつつも、その手に一つの腕輪を取り出しいってくる。
「で、まさか、それにこれをいれこむつもりか?」
「然り、ですじゃ。このまま機体をこのまま、というわけにもいかんでしょう」
「まあ、燃料となりしマナを注ぐのは簡単、だが、するつもりはないからな」
それこそそんなことをすれば、なぜ、と疑問におわれるのが関の山。
それより移動するならば、移動手段として誰かを呼び出したほうがはるかに速い。
「あの契約の資格をもちしものに、これを授けて、
ヴォルトの契約の楔を解放してもらおうとおもいましての」
「たしかに、それは手かもしれぬが。あいつはあいかわらず、人嫌いは直ってないようだぞ?」
自分が訪ねていったときですら、あいかわらずであったのを思い出す。
今でもどうやらそうらしく、その力は常に周囲にまき散らされている。
まあそれを別に咎めるつもりもさらさらないが。
「ウンディーネやシルフからの報告では、
あの契約の資格をもちし人間にはそれとなく伝えてあるのですじゃろう?」
何を、とは言ってこないが、言いたいことは理解できる。
「ああ。詳しくはおしえてはいないがな。どうやらミトスとの契約によってマナの循環の有無。
そのあたりまでは予測として組み立てているようだな。
精霊との契約でそのかつての契約が解除されるのではないか、という予測までな」
それはこちらがもくろんでいた通りなので問題はない。
むしろ、センチュリオン達が完全に目覚め、力を取り戻している今。
ミトスがかつて精霊達とかわしたあの契約、
一年ごとのマナの循環という約束は面倒な位置にあるといってよい。
契約があるがゆえに、わざわざマナを循環させたのち、
さらにはセンチュリオン達により、循環…
すなわち、移動させていたマナを、また再び本来あるべき状態にもどしゆいている今の現状。
はっきりいって二度手間もいいところ。
もっともそれができるのは自らがマナをある程度誰に気づかれることなく産みだし、
センチュリン達に託し、センチュリオン達が魔物達にそれらを渡しているから、なのだが。
契約の繋がりをもってしてマナの任意移動は近くにいなくても意識するだけで行える。
それはセンチュリオン達のもつ特性のひとつ。
「ヴォルトはわしらの言うことはききませんからのぉ。聞くとすれば、ラタトスク様」
「はぁ。つまり、俺にあいつに何かいえ、と?いっとくが、俺は強制はしないぞ?」
そういえば、かつてのときは、ヴォルトの契約のときにコリンがどうの、
としいな達がいっていたような気もしなくもないが。
そのあたりのことは詳しくはきいていないので、何があったのかは知らない。
あのとき、ヴェリウスが本来の姿になっていたことを考えれば、
何かのきっかけで、偽りの器、孤鈴と名乗りし、
今、器としてはいりこんでいるあの体が消失したのだろう、という予測はつくが。
「すくなくとも、儂の管轄である四大精霊。
シルフとウンディーネはすでに解放されたようですからの。あとは」
「ノームとイフリート、か」
「然り。かれらだけでもミトスとの契約から解放してもらえれば、
わしとて楽になりますからの。これはほんの付随ですじゃ」
何かいたずらを思いついたようににこやかにいってくるマクスウェル。
「…ふむ。つまり、それをしいなに渡すことで、解放をうながす、と?」
「然り。まあ、儂が儂であることは秘密にしても、ですじゃ」
「そうすると、どうするつものなりだ?」
「何。簡単ですじゃ。ここから地上に降りるにあたり、
その力を借りるにしても、精霊達との契約が必要、とでもいえばよろしかろうて」
嘘ではないが、完全に事実でもない。
「ラタトスク様の許可があれば、この案は実行にうつしますが、いかがですかの?」
「そう、だな……」
たしかに、マクスウェルのいい分にも一理ある。
というか、たしかにあの人間達を動かすいい口実にはなるだろう。
「それで?地上に移動させる、その方法は…」
「それは」
「はいはいはい!」
「私たちが」
「僕らが!」
「「「いたします」」」
ラタトスクがいいかけるとともに、その場に三つの影が出現する。
今、彼らがいる場所は、レアバードが不時着している場所。
つまり、ロイド達がこの地にて不時着した場所、といってよい。
いまだに機体は誰の手に渡ることなくその場に放りっぱなしとなっている。
「セフィー、ユーティス、フィアレス…おまえら……」
現れたのは、シルフ三姉妹。
「シルフ達の力をつかって…か。それはいいかもしれないが。
そうだな。では、彼らを移動させる場所を指定させてもらうか」
「え?ラタトスク様が?」
「それは、それは?」
「なぁに。ちょっとした場所に、な」
視たところ、テセアラの国王は毒を盛られ寝込んでいる。
そしてまた、テセアラの神子はどうもクルシスに協力している節がある。
が、彼の優先すべきが何かは、エミルはかつての出来事もありしっている。
今の彼がどこまでつかんでいるのかはともかくとして。
かつてしいなが愚痴をいっていた。
このときのテセアラの神子…ゼロスは、いろいろな場所に情報を提供していた、と。
つまりそれだけ彼の口も固い、ということに他ならない。
どちらにしても、いざとなれば、妹の体の健康を対価として出せば、
かの人間はおのずとこちらの言うとおりに動くような気がする。
それは勘。
にやり、と笑みを浮かべ、そういえば、
なぜか、目をきらきらさせるユーティスに、ため息のようなものをついているセフィーの姿。
「考えますのぉ。さすがはラタトスク様ですじゃ。
しかし、地上にでられている、というのでわしらの懸念が増えるのですがの」
「まだいうか」
「いいますですじゃ。
そもそも、ラタトスク様の正体がわかれば、愚かなる人間達が何をしでかしてくるか。
下手をすればラタトスク様を殺し、そのコアの膨大なる力をもってして、
などと欲を言いだす恐れすらありますからな」
「この我がそう簡単にやられる、とでも?」
「何ごとも絶対、とはいいきれませんからの」
髭をさすりつつもいってくるマクスウェルの台詞に、なぜかうんうんとうなづいているシルフ達。
みればセンチュリオン達すらもうなづいている光景が目にはいる。
「あのな」
なぜにこのたび、この地では初めて実体化したとはいえ、
ここまで彼らにいわれなければならないのだろうか。
それがラタトスクからしてみれば不思議でたまらない。
これまでの世界、かつてのデリス・カーラーンですら幾度も実体化し、
人間達に紛れる、という方法をとっていたというのにもかかわらず、
センチュリオン達まで同意するのがラタトスクからしてみればはなはだ疑問。
最も、かつての時間軸のことを知っていれば、センチュリオン達はこぞっていうだろう。
やっぱり、と。
事実、まだ目覚めたばかりで力が不完全であったあのとき、
リヒターに殺され、コアに戻されてしまっている事実がある、のだからして。
「こんにちわ。いい天気ですね」
結局のところ、色々とあり、今日はゆっくり休んだほうがいいだろう。
というモスリンの意見のもと。
モスリンの家にて一夜を過ごし、それから今後のことを考えればいいだろう。
という意見もあいまって、今日のところは、ここエグザイアのモスリンの家にて、
一夜を過ごすことにと決まったのはついさきほどのこと。
リフィルとジーニアスは、
先刻、モスリンから預かった…もといもらった彼らの母親の日記をひたすら共に読んでいる。
日記には彼らを逃したのち、
夫婦がここエグザイアにくるまでの日々の出来事がつづられており、
その日記の内容は、ほとんど二人を安否している内容のほうがおおかった。
なぜか長老とかいう人物と一緒に出かけていったっきり、
なかなか戻ってこないエミルに怒りつつも、いつまでも家の中にいてもどうにもならない。
聞けばここは、マナがより濃い、という。
ならばもしかしたら今のコレットの状態もよくなるかもしれない。
そんな意見もあり、ロイドがなら自分が外につれていく、
とコレットを連れ出し、マルタもまたなら自分も、と共に外にでて、
しいなも少し周囲を散策したい、という意見もあいまって。
リフィルとジーニアスを町長の家にと残し外にでたのはつい先ほど。
「おや。こんにちわ。これは珍しいお客さんだね。人間とはめずらしい」
町全体を見渡せる、というちょっとした広場。
山の上に位置するその場所は、ここにやってきたときにみえた、
山の上から流れ落ちている滝の出発点。
周囲に流れ落ちる滝の水が霧状に分散しており、外気温的にはちょっと肌寒い。
「ああ。あんたたちかい?長老様のお客さん、というのは」
「?私たちがお世話になっているのは町長さんのところですけど?」
にこやかにいってくるその女性の台詞にマルタが首をかしげる。
そんなマルタの台詞ににこにこと笑みを浮かべたまま、
「あんたはどっちの住人だい?テセアラかい?シルヴァラントかい?」
「あ、シルヴァラントです」
その台詞から、彼らは世界が二つある、というのは知っているらしい。
マルタもまだ完全に確信がもてているわけではない。
ここがテセアラ側だ、といわれても、ぴん、とこないのが実情。
たしかに飛空都市など、シルヴァラントでそんな話しはきいたことがないので、
テセアラ側、なのだろうが。
しかしみえているものがみえているもの。
ざっと視線を遠くにむければ、そびえたつ救いの塔もみてとれる。
ロイドはといえば、広場のはしっこ。
すなわち、全体がみえるという位置にてコレットとともにいるのがみてとれるが。
「シルヴァラントかい。…あちらでは、ハーフエルフの扱いはどうなんだい?」
「それは……」
差別はある。
中には追い出すような頭の固い人間達すら。
ハーフエルフ、というだけでディザイアンの仲間、と難癖をつけることもあるときく。
いつもあの子もそういえば、大人たち、そして子供達から仲間はずれにされ、
そして時には嫌がらせをうけていた。
それゆえにマルタは言葉につまるしかない。
あの子は今どうしてるんだろう。
そうおもうが、連絡がつかない以上、どうしようもないのもまた事実。
そんなマルタの思いを感じたのか、
「私はこのエグザイアに移り住むまで本当につらい日々をおくっていましてね。
行き場をなくしたハーフエルフはここ、エグザイアを目指すしかないんですよ」
そういって少し悲しそうにほほ笑んでくる。
そして、その視線の先にいる少し若い女性のほうにむけ、
「あの子はここで産まれましてね。…孫も産まれ、ほんとうに。
…テセアラではこんなに安心して暮らせはしなかったでしょう。
…あの子には姉がいましてね。けど…」
そういって言葉をつまらせる。
ここには行人かの家族つれらしきものもきているらしく、
小さな子供も遊んでいるのがみてとれる。
「あら。お母さん。お客様に昔語りですか?」
そんな会話をしている最中、見た目年のころならば二十歳くらいの女性があるいてくるが。
「なあに。事実をいっているだけじゃよ。ここは平和で過ごしやすい、とね。
地上にいればこんなに心安らかにはいられないからね」
「ごめんなさいね。本当にひさかたぶりの人間のお客様みたいなのに。
お母さんはよく誰にでもそういうのよ。
もっとも、産まれたときからここで過ごしている私には
お母さんのいうことはよくわからないんだけどね」
いいつつ首をすくめるその様は、裏をかえせば地上に一度もいったことがない。
ということに他ならない。
「さみしく、ないんですか?ずっとこんなところに」
「あら、ここもいいところよ?そもそもこのエグザイアを探索しよう。
そうおもっても一日やそこらでは無理よ。いくつもの小島があつまって、町を形成しているからね。
そうだわ。ここにきたなら、この街名物の巨大図書館にいってみるのもいいわよ。
図書館は中央の島にあるわ」
いって首をすくめ、
「歴代の町長が地上におりては資料を集めてきてるらしいのよ。
この地が空中に浮遊してからの地上の変遷の様子もどこかにあるといわれてるわ。
もっとも興味はないけどね」
そんな彼女の台詞をききつつも、
「そういえば、ここには教会はないんですか?」
ふときになっていたこと。
ここにくるまでどこにも教会らしきものはみあたらなかった。
「?教会?」
「…ひょっとしてお嬢ちゃんがいうのはマーテル教会、かね?」
首をかしげる女性に、顔をしかめていう初老の女性。
「え、はい」
「マーテル様…ね。この地にはそんなものはないよ。そもそも、マーテル様の理想はともかくとして。
今のマーテル教そのものは、ミトスとその仲間達がねつ造したものでしかないからね」
「それは……」
また、ミトス。
しかも、ねつ造、ときた。
ユアンがいっていた台詞を思い出す。
マーテル教は偽りの宗教にすぎない、と。
第三者たる彼らがそういう、ということは本当にそう、なのだろう。
信じたくはないが、ずっと物ごころついてきたころから信じていたことが、
実は嘘で塗り固められたものでしかない、というのだから。
「まあ、マーテル様が人間達に裏切られ、殺されなければ、こんな世界にもなっていなかったんだろうねぇ。
協定を結んでいたというのに、二つの国がミトス達四人を裏切って、
大いなる実りを独占しようとし、マーテル様を殺した、というのだからね」
「…え?」
その台詞にマルタが思わず息をのむ。
今、彼女は何、といった?
二つの国が裏切った?
「まあ、今をいきる人にいっても意味がないことなんだけどね。
すべてのはじまりは、人間達がミトス、そして精霊様達との協定。
それを破ったことに全ては始まっているんだよ。…いつまでこんな世界がつづく、のかねぇ。
まあ、大樹の精霊様が目覚めれば、どういう道にしろ何かがかわるのだろうけどね」
いいつつ首をすくめてくる。
「大樹の…精霊?」
「ああ。あんたたちはしらないのかい?そうか。
今はもう大樹カーラーンの精霊であり、世界の守護者でもあり、
そして魔物の王である精霊ラタトスク様のことを知っているものは限られているのかねぇ。
私らとて、ここにくるまで詳しくは知らなかったくらいだしね」
「あら。お母さん、それはしかたないわよ。かつての古代戦争時代ですら。
精霊ラタトスク様のことは忘れられていたのでしょう?
たしか、でもラタトスク様はミトス達と盟約を交わした、ときいたけど」
「まあ、ラタトスク様やオリジン様の許可がなければこんな世界。
すなわち、世界を二つに空間をずらして存続させるなんてことはできはしないからね。
そのオリジン様ですらミトスは裏切り、ヒトのマナの檻をもってして封じた、というからね。
本当にどこまで精霊様を裏切ればいいのやら。
クルシスなんてものを産みだして、恐怖と宗教で人の心を操ってまで」
ぶつぶつと何やらものすごく重要なことをいいだしているような気がするのは、マルタの気のせいか。
「それは私も知ったときには唖然としたけども。お母さん、お客人にいうことじゃないでしょう?」
「だねぇ。けど、二つの世界を行き来できるこの子達なら。
今の世界のありようを何とかできるかもしれないじゃないか。
てっとり早く、精霊様達をミトスとの契約の楔から解放だけでもしてくれないかねぇ
このままじゃあ、精霊様達が気のどくすぎるよ。
裏切られているというのに、契約の楔でずっと縛られつづけてね」
いいつつも、その視線を別方向にむけ、
「あの子もあんたたちの連れ、かい?」
いって視線が指し示すのは、ロイドの横にいるコレットの姿。
「翼が生えている人なんて珍しいですよね」
そんなコレットをみて単純にそんなことをいっている娘だ、という女性。
彼女はマーテル教の何たるかをしらない。
が、知っているものは、コレットの姿をみればまちがいなく眉をひそめるであろう。
今のコレットの姿はマーテル教の経典にのっている天使の姿そのものなのだから。
コレットの背に出現しているままの薄い桃色の翼は誰の目にもあきらか。
ここが地上ならば、天使の仮装、とか断言されるであろうが、ここは飛空都市。
迫害され、この地に逃れてきているものたちは、
はっきりいってほとんどのものがマーテル教のおしえそのものを疑問におもっている。
特に今は十数年ほどまえに、それが事実だ、とわかる現象を目の当たりにしている。
それはもう現在進行形で。
そんな人々がマーテル教の経典にある天使の羽をもったコレットをみてどう思うのか。
もっとも、彼らはそういった変化をもったヒトにたいし、
犠牲者、という感覚でしかとある一件より以後抱かなくなっているがゆえ、
コレットにたいしあまり嫌悪した感情をむけなかったのは、あるいみ不幸中の幸い、といえるであろう。
そうでなければ、よく思わない感情をむけられ、コレットが暴走していた可能性すらあるのだから。
そしてまた、マーテル教そのものを知らないものも多少はいる。
それが救いになっているといってもよい。
ここ、エグザイアは空に浮かんでいる都市。
ゆえに話題性があまりない。
今回の来訪はあるいみ、エグザイアの人々にとって格好の話題。
噂はいつのまにか、街全体に広まっていたりする。
まだこの地にやってきて一日もたっていない、というのにもかかわらず、である。
「おまえ、あまりそれをいうんじゃないよ。お前とてしってるだろう?あの十年前の出来事は。
あの子はあれになりえる可能性を秘めているんだよ。
長老様がいうには、昔テセアラが開発した人を使用し、
さらには微精霊達の卵ともいえる精霊石を歪め利用したあげく、
人を生きたまま生体兵器とした結果、産みだされたものらしいけどね」
そういわれ、マルタはとまどわずにはいられない。
生体兵器。
天使化。
やはり、本当なのだろう、とおもう。
天使、というのが天界とかにかかわる聖なる存在などではない、というのは。
「命を何だとおもっているのか。いや、何ともおもってないんだろうね。
私がしる地上世界より今の方がはるかにテセアラは人の命…
特にわたしらみたいな狭間なものの命なんて何ともおもっちゃいなんいだから」
マルタがそんな思いを抱く中、吐き捨てるようにいってくる。
いろいろとこの女性も思うところがあるのであろう。
「あんなに綺麗な羽、なのに。あの子もこの世界の被害者、なんですね」
娘らしき女性がコレットをみて、ぽつり、とつぶやく。
世界の被害者。
たしかにそうであろう。
神子のありかた、とはミトスが産みだした世界の歪みの象徴ともいえる。
世界を成り立たせる上でうみだした、生贄という名の。
「そろそろ日がくれてきたね。あんたたちもはやく山を降りたほうがいいよ。
ここは夜もたしかに景色はいいけどね」
そんな会話をしつつも、どうやらこの親子はもう家にともどる、らしい。
簡単な挨拶をしたのちにその場をあとにしてゆくその母娘。
そんな彼らに別れの挨拶をしたのち、マルタはふと滝のほうへとちかづいてゆく。
流れ落ちてくる滝の音が周囲の全ての音を消し去ってゆく。
ドドドド…
この滝は遥かなる下までおちているらしく、雲すらつきぬけ流れ落ちている。
マーテル教のおしえにある世界再生。
再生の神子。
でも、再生の神子がこんなになるなんて、マルタは思ってもいなかった。
ただ、神子様が世界を救ってくれるんだ、でも、いくら神子様がいるからって、
ディザイアンに襲われないイセリアはずるい、ずっとそうおもっていた。
しかし、リフィルがいうには、コレットは昔から自分が死ぬ、とわかっていた、という。
神子はそのために産まれ、育てられるのだ、とそう聞かされていた、と。
そして救いの塔の中でみた無数の棺の中でねむりし、十代の少女達。
これまでの再生の旅で命を落とした…再生の神子達の…亡骸。
マルタも何が真実なのか、何が正しいのかわからなくなっている。
ただいえるのは、コレットがこんな状態になってまで、
誰かを犠牲にして得られる平和は本当の平和ではない、ということ。
あれほど表情豊かであったコレットは今はものをいわぬ、等身大の人形そのもの。
それが、マルタの心をずきり、と痛ませる。
そして、思う。
自分は何がコレットに対して、できるのか、と。
コレットはあのとき、たしかに自分の命を犠牲にしようとしていた。
物ごころついたころから死ぬことを前提に育てられていた。
――そう、リフィルは、あの施設の中でマルタ達にと説明していた。
ファイドラから旅の前にそう、聞かされた、と。
前回の再生の神子の妹であり、マーテル教からいえば聖女として発言権の高いとされるファイドラ。
そんな彼女がいった、というのだから嘘ではないのであろう。
…まあ、リフィル達がハーフエルフであったことには驚きはしたが。
でも、ただそれだけ。
だから?という思いのほうがつよい。
もっとも、人柄をしらずにいきなりそういわれれば、
ディザイアンの仲間かも、と警戒していたであろう自分の心にも気づかされてしまうが。
今のコレットの状態を、あのユアンとかいう奴らは生きた生体殺戮兵器…そういっていた。
その意味はよくわからないが、しかしろくなことではない、とおもう。
そもそも殺戮、という言葉自体が洒落になっていない。
外にでるのにあたり、あまり人のいるところには近づくな。
と忠告はマルタはうけてはいるが、それがなぜなのかはよく理解できていない。
ちょっとした反応で、今のコレットは問答無用で、攻撃を繰り出す状態になっている、
など夢にもおもっていなかったりする。
「…いろんなことがありすぎて、何が真実なのか、私わかんなくなってきたよ。パパ…ママ……」
それは独り言。
パルマコスタで過ごしていてはきっと、絶対にわからなかった世界のありよう。
信じていたマーテル教そのもの、それが誰かの手により創られた宗教だ、
というのだから、何を信じたらいいのかわからなくなっているのもまた事実。
「…うん。今は悩んでいてもしかたないよね。今は、ともかく、コレットを元にもどす方法をみつけないと」
そのためにテセアラ側とよばれる場所にきたはず、なのだが。
「…でも、ここから地上にいける…のかなぁ?」
のってきた乗り物は燃料がない、としいなはいっていた。
リフィルは雷の力が必要、といっていたが。
「雷の精霊、ヴォルト、か。しいなが契約してたらはやかったんだけどなぁ」
マルタはそうつぶやくが、マルタは知らない。
そのヴォルト絡みでかつて、しいながとある経験をしている、ということを。
精霊ヴォルトの契約によって、しいなの里の民をかなり結果として死なせてしまった。
ということを。
「ところで、その爺さんは?」
目の前にいるみたことのない老人。
ロイドが首をかしげつつといかける。
夕食の時間になり、その場にみたことのない人物がいるのにきづき、どうやら聞いてきたらしい。
「ああ。長老様ですよ」
長い白い髪になぜか異様に大きな帽子。
ついでに眉も長く、その目が眉の毛で隠れているほど。
あごひげと、そして鼻毛すら真っ白で、その髪すら真っ白。
長い白い髪は後ろでひとくくりにされており、つばのおおきな紺色の帽子に、紺色のローブ。
さすがにいつももっている杖はこの場には出現させていない、らしい。
「ほほほ。はじめまして、というべきかのぉ。
ようこそ。ここエグザイアへ。お客人なんて何年ぶりじゃろうのぉ」
白いあごひげをさすりつつ、椅子にすわったままそういってくるその男性に、
「そういえば、お爺ちゃん、マクスウェルって名乗ってるってきいたけど」
ふとマルタが思いだしたようにいってくる。
「いかにも。それがどうかしたのか?」
「どうかしたのか、じゃないよ!マクスウェル、というのは、四大元素の精霊たる長といえる名前だよ!?
おいそれと名乗っていいものじゃないだろう!?」
「何をいう。わしが名乗るのだから問題はなかろう。ほっほっほっ」
マルタの問いにこたえたマクスウェルにたいし、しいなが思わず叫んでいるが。
さらり、とそんなしいなの答えをかわすマクスウェルの姿がみてとれる。
「まあ、長老様ですし」
「そういうお主はどうやら、人工精霊の器をつれているようじゃのお。
しかし、ヴェリウス。お主もいい加減にその偽りの器をぬぎすてんかい?」
「…また、ヴェリウス?僕は孤鈴なんですけど……」
同じ精霊だからこそわかる。
目の前の老人がマクスウェルそのものだ、ということが。
どうやらしいなは気づいていないみたいだけど。
けど、僕のような精霊がそれをいうことはできないし。
そうおもいつつも、コリンが姿をあらわし、首をすくめていってくる。
「まあ、しかたないのぉ。人が生み出せし器に囚われている以上はの。
どうやらだいぶマナも満ちているようじゃしの。
さて、お主、お主はどうやら契約の資格をもつものらしいが」
「だから…って、それがどうかしたのかい?」
ただの人がマクスウェルの名を名乗る。
そんなことが精霊にしられれば、どんな怒りをかうか、この目の前の老人は判っているのだろうか。
しいながおもわず目の前のマクスウェル、となのりし老人に説教をしようとすると、
何やらいきなりそんなことをいわれ、しいなとしてはとまどわずにはいられない。
「お主が今契約しているのは何じゃ?」
「?しいなが今契約してるのは、そこの孤鈴ってやつと。
あとは、ウンディーネとシルフ、だったよな?」
ロイドがその問いかけにふと思い出したようにいってくる。
「ふむ。お主は精霊マクスウェルとの契約に必要な資格。それはわかるかの?」
「?どういうことだい?」
「何、お前さん達もしっておろう?お前さんに精霊と契約を結ぶ意思があるか、ということの確認じゃよ」
「「「!?」」」
マクスウェルの言葉に驚愕の表情をうかべる、しいな、ジーニアス、リフィルの三人。
ロイドとマルタはよく意味がわかっていないらしい。
「何ですって?じやあ、あの伝説といわれていることは。
この地はたしか、マクスウェルの力で浮いている、そう私はききましたけど」
そう問いかけるリフィルの問いに、
「然り」
「たしか、初代村長が契約したとか何とか……」
気分転換に外にでたときに町の人からきいた言葉。
そんなジーニアスの台詞に。
「何でかそんな伝承になっていたらしいのぉ。今では正確なことがつたわっておるが」
そもそもその過ちは彼自信が訂正している。
「マクスウェルはミトスと契約しているんだよ。
…ミトスはかつて、ハーフエルフ達の為にその力をつかい、彼らごと、この島を浮かせた、らしいよ」
かつてのことを思い出し、すこし沈んだ声でエミルが答える。
「エミル。よく知ってるね」
「聞いたから、ね」
あのときのことは今でも鮮明に思いだせる。
話しがまとまらなかったあのとき。
島ごとにすればいいのではないか?とちょとした意見をだしたのもまた自分。
だからこそ思うところはありはする。
「ふむ。その通りじゃ。ミトスは当時、虐げられ、
そしてテセアラ、シルヴァランド両方の国に兵器として使われようとする同胞。
そのためにマクスウェルと契約し、その力を用いた。
契約内容は、全ての命が虐げられなくなる世界になるまで、だったかの」
「…よく御存じですね」
「何。このエグザイアに住まうものならば誰でもしっておる。
で、だ。お主は精霊二柱とも契約して何がしたいんじゃ?」
それは問いかけ。
確認の問いかけ、といってもよい。
そんなマクスウェルの問いかけに、
「あたしは…こんなどちらかの世界が犠牲になるような世界の仕組み。そんなのは間違ってる。とおもう。
精霊達がいっていた。マナの交互利用は契約によるものだって。
その契約ですら一年ごと、という契約がたがえられている。とも。
だったら、その契約を無効にすればすくなくとも、
互いの世界がマナを搾取しあい、犠牲になる世界ではなくなるはず。
そのために、かつてのミトスとの契約を精霊達に破棄してもらって、
方法はまだわからないけど、世界を一つに戻してもらう。
そうすることで、きっと誰もが犠牲にならない世界にできる、とおもうから」
それは本音。
「本当にそんな世界ができる、の?」
「できる、できない。じゃないんだよ。やるんだよ。でなきゃ、あたしはコレットを殺さなきゃいけない。
きちんと方法がある、というのを国に示さないと、まちがいなく国はコレットを殺せ。
そういってくるだろうよ。テセアラで行動するにしても、国の許可は必要だ。
そのためにはきちんとした根拠が必要なんだよ」
ジーニアスの言葉にきっぱりとしいなが答えるが、
「でも、今は完全なる確信はないわ。
でも国の許可が必要、というのには同感ね。あなたが国、という組織から頼まれたのならば。
コレットの体を元に戻すどころか逆に手配されて私たちも殺されかねないもの。
国に許可を取り付ける、というのならば、こういうのはどうかしら?」
それはリフィルの提案。
コレットの体を元に戻す、という案を国に示す。
完全な天使とならなければ、マナの転換はおこりえない。
繁栄世界になることを拒否するようなことをいえば、すくなくとも協力が取り付けられるのではないか、と。
「先生、それって」
「何ごとも嘘は方便、よ、あながち嘘でもないもの」
「…ドワーフの誓い十一番。うそつきは泥棒の始まり、ともいうんだけどな……」
「あら。こういう諺もあるのよ?結果よければすべてよし、とね」
ぽつり、とつぶやくロイドににこやかにきっぱりいいきるリフィルの姿。
「ふむ。ならば、お主はまずは、最低限でも四大元素の精霊。
ノーム、イフリートと契約する必要性があるの。シルフ・イフリート・ウンディーネ、ノーム。
風火水土の四大元素の精霊の証を示したもののみがマクスウェルとみまえる権利をもつ」
それは精霊との契約、としての権利。
「なあ。結局、そのマクスウェルって何なんだ?」
ロイドがよく理解できていないらしく、首をかしげといかける。
「嘘でしょう!?ロイド!」
「ほんとうに情けないわ。いい?ロイド。マクスウェルとは。
四大元素。すなわち、風火水土の精霊を統べる精霊なのよ。
分子とよばれしマナを司る、といわれているわ。
昼間、この街の人々から話しをきくかぎり、
この街もまたマクスウェルの力にて、こうして空中に人知れずことなく浮かんでいるのよ」
こめかみに手をあてつつも、ロイドにわかりやすいように説明をはじめるリフィル。
「うげ。この街全体が、か!?…すごい力なんだな。マクスウェルって」
「それくらいの力がないと四大精霊の長なんていってられないよ。
そもそも精霊達は世界を構成する役目をもってる力をもってるんだよ。
あたしら人間の常識で考えても無駄とおもうけどね」
思わず椅子からのけぞるようにしていうロイドにたいし、首をすくめていうしいな。
「あ。でもさ。姉さん。もししいなが四大精霊と契約したとして。
もし、もしもマクスウェルと契約できるかもしれない、となったら。この街はどうなるのさ?」
「それは……」
「それは問題ないんじゃないかな?契約できたあともそのまま浮かせてもらってればいいし」
ジーニアスの台詞にリフィルが言葉につまり、そんな彼らにあっさりといいはなつエミル。
そんなエミルにたいし、
「ああ。そうだね。もしそうできたらそのほうがいいだろうね。
…皆がハーフエルフを受け入れてくれるまでは。でなきゃ、危険すぎる」
しいなも納得、とばかりにうなづきをみせているが。
「では、お主は、精霊との契約の証。四つの契約の指輪をそろえるんじゃの。
そしてこの街のどこかにある契約の石板にむかうとよいじゃろう」
「あ。でもさ。俺達、どうやってここから地上におりるんだ?」
それはロイドの素朴なる疑問。
「ふむ。おぬしは聞けばシルフと契約しておるのじゃろう?
ならばシルフにたのみ、地上に移動させてもらえばよかろう。
お前達がここにきたのはたしか竜巻に巻き込まれて、じゃったろう?」
「「「それは……」」」
事実なので言葉につまるよりほかにない。
「でも、だったらあのレアバードってのはどうなるの?」
「あ。それなら。ね。マクスウェル」
「うむ。これを」
いって、懐から何かひとつの腕輪らしきものをとりだし、ことん、と机の上においてくる。
そんなマクスウェルの行動に、
「?何これ?エミル?」
首をかしげつつ、それでいて知っていそうなエミルにといかけるジーニアス。
「何でもその中にレアバード、だっけ?それがはいってるんだよ」
「うむ。古につくられた簡易的な物質収納たる装飾品らしいがの。
たしか今は地上でこれではないがウィングパックとよばれしものもあるときくが」
「この中に、昼間、動かなくなったレアバードを入れてるんだよ。
何でもこれだと持ち運びが便利だからって」
「何!?こんな品物などきいたことがないぞ!?」
「そりゃあ、これはたしか地上では天地戦争、とよばれし時代の遺物とよばれしもの。その一つじゃからのぉ」
「そんなものが!?」
ひげをさすりつついうマクスウェルの台詞にリフィルが驚愕の声をあげてくる。
まあ、嘘ではない。
事実、ヒトはそれらを遺物、とよぶ。
「ああ。ママ達がときどきはなす、あの話す剣みたいなものか」
「「何、それ?」」
マルタがぽそり、といえば、首を同時にかしげてといかけるロイドとジーニアス。
彼らはそんな話しはきいたことすらない。
そもそもその伝承は古代大戦とよばれし時代ですら人々は忘れ去っていた。
「古のとある国が開発したものじゃよ。
特殊な方法で精製した精霊石に人の記憶と人格を投射し、意思ある剣を創りだした、という、の」
「人格と…記憶を?そんなことが……」
リフィルがその台詞をきき何やら考え込み始めるが。
「まあ、昔のこと、じゃがの。今では知ってるものはあまりいないだろうて」
事実、ほとんどのものが知らない、といってよい。
「うわ~。お爺ちゃんってものしりなんだね」
「ほっほっ。伊達に長くはいきておらんからのぉ」
「?でもあなたから感じるマナはエルフでもないわ。けど…」
何だろう。
マナを探ろうとしても、よくつかめない。
まるで、まるでそう。
周囲のマナに同化しているかのごとくに。
そんなリフィルの戸惑いを含んだ台詞に対し、
「お主が精霊達と契約をするつもりがあるのなら、これはお主に貸し出そう、どうするかの?」
「どうするかといわれても。いいのかい?こんな貴重なもの」
しいなとしても戸惑わずにはいられない。
古代大戦よりも前にあった、という戦争時代の遺物。
それこそテセアラ側がしれば、こぞって手にいれようとするであろう。
過去の遺物。
あるいみ宝具扱いされても不思議ではない品。
「何。あの場所にレアバードとかいう機体がいくつもころがっていたら、
わしらとて邪魔以外の何ものでもないしの」
その台詞にしいなも、そしてリフィルも苦笑せざるをえない。
たしかに邪魔、であろう。
一機が数メートルも幅のある機体がいくつもころがっていれば。
「シルフを呼び出すのであれば、お前さん達がやってきたあの場所。
あの場所以外にもいくつか、広場があるからの。そこから呼び出して地上にいけばよかろう。
たしか、この都市は明日ごろには首都の上空あたりに差し掛かるはずじゃしの」
この”都市”の軌道はすでに修正してある。
ゆえにマクスウェルの言葉に嘘はない。
もっとも、よもや進路を変えている、など当然ロイド達はしるよしもないのだが。
「さて、小難しい話しはここまでじゃ。ではゆうげにするとするかの」
ぱんばん。
マクスウェルが手をたたくとともに、いくつもの料理が運ばれてくる。
部屋の中、いい匂いが充満しはじめるが。
「今日はお世話になるのもあって、僕がつくったんだよ」
「エミルが?ああ、エミルの料理はおいしいもんね」
ジーニアスが納得、とばかりにうなづきをみせ、
「儂も楽しみなんじゃよ」
以前に聞かされたことはあったが、食べるのは初めて。
ちょっとした話題の中、かつての惑星においてラタトスクが料理をしていた、
というのは、オリジン、そしてマクスウェルは知っている。
それらはセンチュリオンから聞いたこと、なのではあるが。
マナの塊、ともいえるそれらは、当然精霊達の活力となりえるもの。
せっかくなのでつくったいくつかの品を、
センチュリオン達に命じ、精霊達に届けるように、と命じてはいるが。
それはマクスウェルの懇願もあってこそ。
~すきっと~食事の最中~
ロイド「そういえば、ここからみえているあれって、救いの塔、ですか?」
もぐもぐ。
ロイド、食事をしつつ、口にものをいれて話すのはどうかとおもうが。
モスリン「ええ。そうですね」
かちゃかちゃ。
こちらはこちらで、器用にナイフとフォークをつかいつつ、
出したちょっとした品物でつくりしステーキを一口さいずにきりわけながらもいっている。
ジーニアス「あ、それ僕もきになってた。どうして?ここはテセアラでしょう?」
しいな「何今さら当たり前のこといってるんだい。あんたたち。
救いの塔は繁栄世界に出現するんだよ。救いの塔があって当たり前だろ。
そっちだってコレットが神託ってやつをうけて救いの塔が現れたんだろ」
マクスウェル「まあ、あれはそのようにみせかけているだけ、なんじゃがのぉ」
リフィル「そうなんですか?」
マクスウェル「うむ。常にそこにあるのに、特殊な障壁でみえないようにしている。
だけなんじゃよ。それに人間達はだまされている、というわけじゃな」
ジーニアス「…長老様ってときどき人間じゃないみたいな言い方するよね。まるでエミルみたい」
エミル「?」
マクスウェル「ほっほっほっ」
リフィル「二つの世界。二つの塔…ね。一つの世界から二つの世界にわけた、とは聞かされたけども」
マクスウェル「うむ。エターナルソードとよばれしものの力によっての。
ちなみに、二つの世界をつなぐ楔ともなっておるらしい。
わしらからしてみれば、扉だけで十分なのじゃがのぉ」
エミル「何?マクスウェル」
マクスウェル「何。かの地が少し心配でしての」
エミル「問題はないよ」
マクスウェル「ならいいのですがの」
ロイド&ジーニアス「??」
リフィル「?かの地、とは?」
しいな「エミル。あんた、その長老と仲がいいね」
エミル「そう?」
マルタ「む~。私をおいて二人でどこかに出かけたくらいだもんね。うらやましい……」
マルタとコレットをミュゼに任せ、出かけたのは事実。
リフィル「聖地は?マーテル教はたしかこちらにもあるのよね?聖地はやはりカーラーンなの?」
しいな「そうさ。あの救いの塔がある場所が聖地カーラーン。あんたたちの世界と同じだよ」
ジーニアス「あれ?でも聖地カーラーンってのは、古代大戦の停船調印場所だよ?
二つあったらおかしいんじゃない?」
マクスウェル「ほう。今のものたちはそうなっておるのか。
かの地はもともと、大樹カーラーンがあった場所、じゃぞ?」
全員(エミル&マクスウェル&モスリン以外)『え?』
マクスウェル「なげかわしい。そのことすらわすれさってしまっておるのか」
モスリン「そもそも、クルシス、でしたか?かたっぱしから嘘八百をねつ造し、
地上にマーテル教を通じて広めていった結果、でしょうね。四千年は、長いですからね」
マクスウェル「そんなものかのぉ」
マルタ「…おじいちゃん。ボケはじまってない?四千年って…長いよ」
しいな「そっちがまがいものなんじゃないかい?
こっちの博物館には勇者ミトスが二人の古代王を聖地カーラーンに招いて
停戦の調印をしたって資料ものこってるんだよ」
リフィル「あら。こちらにも資料ならあってよ。パルマコスタの学問所に。
調印式でつかわれた道具がのこっているらしいわ」
マクスウェル「まあ、どちらにしても、そうじゃの。モスリン、このものたちに説明を」
モスリン「よろしいのですか?」
マクスウェル「うむ。簡単な説明ならよかろう。かつての地図をもってくるがよい」
モスリン「わかりました」
まあ、たしかに。
あの地図をみせて説明したほうが早いだろうけども。
さて、彼らはどんな反応をしめすことか。
※ ※ ※ ※
眼下にみえるは、きらめく大陸。
「…すげえ灯り……」
ぽつり、とロイドが眼下を見下ろしつつも呟きをもらす。
「あの灯りって……」
空からもはっきりとみえる灯りはどうみても松明程度といったものではないであろう。
「え?ああ、電気かい?首都付近では今では電気系統は一般的、だからね」
もっとも、しいなは知らないが。
「…まあ、あたしがそっちに行く前は、電気も異常をきたしていたけどね」
いって首をすくめる。
トニトルスの目覚めの影響にて、全てなる雷のマナに影響がでていたのは事実。
たかがあの地からでて少しの間であった、というだけのことなのに。
まあ、彼だけかの地においていたのでトニトルスも思うところがあったのかもしれないが。
「電気?」
「そうか。あんたたちのところでは普及してなかったんだったね。
…雷の精霊ヴォルトの力を借りてその力でいろんなものを動かしたり、
あのように灯りをつくったりしてるんだよ」
しいながそう示す先には、大陸の中、くっきりとうかびあがる光の束。
「しかし、あの地図…って、本当にこの世界のもの、だったのか?」
夕食時にみせられた地図。
まあかつての人間達が使っていた地図帳でなかっただけましといえるのか。
たしか、あの戦争に向かう前には、世界地図、というのは一般的であったあの時代。
もっとも、その後戦争が悪化してゆき、そういったものは役に立たなくなっていったが。
消えた大陸や町は一つや二つ、ではない。
ロイド達がしる地図と、まったく異なる世界地図、とよばれしもの。
そこに書かれていた文字はロイド達には意味がわからなかったが。
リフィル曰く、古代エルフ語、であるらしい。
「そういえば、しいな、大丈夫なの?地上にもどるには、
しいながシルフを召喚すればいい、とあの御爺ちゃんがいってたけど」
レアバードが使えない以上、ならばここにきたときと同様に。
今契約している精霊からいうならば、シルフの力を使えば地上に戻れるだろう。
と意見をだしてきたのは、この街の長老だ、というなぜかマクスウェル、と名乗った老人。
彼らは気づいていない。
マクスウェルと名乗ったまま、本当に精霊マクスウェル当事者である、ということに。
「でも、もしあの地図がかつての世界のありようなら…
やっぱり、今の世界…テセアラとシルヴァラントの世界は……」
「だろうね」
一つの世界を二つにわけた。
そう、長老も、そしてモスリン町長もいっていた。
「…信じられねぇ」
「世界を司る精霊が絡んでいるんだ。ありえないことじゃないだろうよ」
ロイドが信じられない、とばかりに首を横にふる。
ロイドの中の価値観では信じられない出来事。
というかそんな力があるものがいるなど、信じられるはずがない。
そもそも、ロイドは精霊を目の当たりにしても、その力の強大さをよく理解していない。
「ソーサラーリングを風属性にしたときにできる技。
あたしらを空気の層でつつんで、そんなあたしらを風で地上に…か」
地上もどるために示された道。
たしかに風の精霊シルフとは契約した。
まさかこんな形で役に立つかもしれない、とは夢にもあのときはおもわなかったが。
「さて。と、あたしはもう寝るよ。
シルフを召喚するんだ。…精神力がたりなくて失敗したら洒落にならないからね」
手をひらひらさせつつも、その場をあとにしてゆく。
今、ロイド達がいるのは、眼下を見下ろすことができる、というちょっとした広場。
娯楽施設があまりないこの地において、一種の観光名所の一つとなっている地。
どういう原理なのかはロイド達にはわからない。
ないが、大地の一部が透けており、そこから地上が見下ろせる、というその地は、
あるいみ高所恐怖症のものならば、まちがいなく気絶してしまうであろう。
まるで、そう空中に立っているかのような錯覚をおこしかねない場所、なのだから。
夕食の最中、地図をみせられ、思わず目を丸くしたのは記憶にあたらしい。
この場の話しをきき、やってきたのは、ロイド、ジーニアス、しいなの三人。
しいなは今自分達がいる場所の確認をこめて。
ロイドは好奇心から、そしてジーニアスもまた今自分達がいる場所の確認をしたいがゆえ。
コレットはあいかわらず反応を示さない。
なぜかエミルが話しかければロイド達とは違い反応を示しているのがロイドからしてみればやりきれない。
なぜ自分の声は届かないのに、エミルは…と。
エミル曰く、今のコレットは自ら望んで自分の心を深層心理に閉じ込めているようなもの。
そうはいっていたが。
なら、今、目の前にいるコレットは?
そういうと、わからないの?と逆に問われてしまい言葉につまった。
微精霊達の集合体の意識が表にでているだけ、なのに。
どうしてそれにロイド達が気付かないのかエミルからしてみれば理解不能。
リフィルやジーニアスですらそれに気づいていないことに呆れざるをえない。
すこしマナを探れば、
今のコレットの気配がまちがいなく、微精霊達のそれ、であることは明白だ、というのに、である。
「…二つの世界、二つの塔…か」
月灯りが周囲を照らし出している。
今日は満月。
ゆえに周囲の景色はくっきりと映し出されている。
空にかかりし月は、こちら側ではシルヴァラント、と呼ばれているらしい。
ロイド達の世界では、テセアラ、と呼ばれている、というのに。
「…コレット、元にもどるといいね」
「…ああ、そう、だな。…俺、今度こそ絶対に間違えない」
ぎゅっと自らの手を握り締め、
決意をこめてぽつり、とジーニアスの言葉につづくようにづふやくロイド。
そういえば、この台詞を幾度いっただろうか。
でも、そのたびに間違えている自分自身。
しいなにいわれ、言葉につまった。
あのとき、あんたはコレットと世界、どっちを選んだ?可能性は示してたよね?
そういわれ、ロイドは言葉につまるしかできなかった。
たしかにそのようなことはいわれていた。
よくよく考えれば、コレットが犠牲になっても世界が助かる、などという根拠は一つもなかった。
けど、昔からおしえられているがままのことを信じた結果…今のコレットになってしまった。
あのままコレットが連れ浚われていたら、どうなったのだろうか。
ユアンとなのりしものがいった通りだとすれば、
コレットが女神マーテルとして復活したら、世界は滅びてしまう。
それが嘘か真実なのかはわからない。
けど、あの口ぶりは彼らはそう信じているように感じられた。
復活、そして精霊達のあの口ぶり、殺された、というあの言葉。
何がどうなっているのか、ロイドにはわからない。
理解しようにもいろいろとありすぎて混乱してしまい、
それでなくても難しいことが考えるのが苦手なロイドでは、
考えるよりも先に行動を起こしてしまう。
その結果、どうなるか、というのを考慮することなく。
あのときですらそう。
イセリアの牧場で見られているはずがないから平気だ、そういったのに。
牧場では周囲を観測する装置のようなものがある、
とはリフィルが授業でいっていたのに、ロイドはそれを覚えてすらいなかった。
自分には関係ない、とばかりに。
もしも知っていれば結果は違っていたであろう。
イセリアの悲劇は防げたはず。
それはもしも、の話し。
が、ロイドはそのもしも、に気づけない。
いろいろとありすぎて、そこまで気がまわっていないといってよい。
「先生がいうように、許可って…とりつけられるのかな?」
うそつきは泥棒のはじまり。
ドワーフの誓いにあるのに、けども、諺の一つとして嘘も方便、という言葉もある、という。
どちらにしろ、コレットをマーテルにさせるわけにはいかない。
だとすれば、コレットを元に戻すのが今優先すべき行動、なのだろう。
それはロイドとて理解できる。
しかしその方法がわからない。
「…王立研究院…か。…クルシスの輝石を研究してるっていうのは……」
ジーニアスもそんなロイドの言葉に何ともいえない表情をするしかない。
自分達が両親に捨てられ…もとい、逃がされることとなる原因となったのは、
元をただせばその王立研究院、というところが自分達…姉の知能を求めたがゆえ。
きけば、かの施設では頭脳を求め、問答無用でハーフエルフ達を徴用、しているらしい。
それこそ周囲の…否、町一つくらいの犠牲すらあえりまえ、といわんばかりに。
それを聞いたとき、ジーニアスは思わず絶句してしまったが。
たった一人を捕まえるために、村、ひいては町の人々すら処刑する、
そんなテセアラ、という国のありように。
研究院、といわれてもロイドはピン、とこない。
そもそも、ロイドはパルマコスタの学問所すらよく理解していなかったほど。
「とにかく、明日から、なんだね」
「ああ。そうだな」
どちらにしても、コレットを元にもどすにしても何にしても。
ここからでなければどうにもならない。
ここはたしかに、何事もなく穏やかに暮らせるであろう。
モスリンと名乗りしこの街の町長がいうには、この街は、外界、すなわち、
地上世界などからマクスウェルの力で隠されている町でもあるらしく、
ここにいればクルシスに見つかることも、地上のものに見つかることもない、という。
ロイド達がここにきたのは、マクスウェルの許可がリフィル達のマナを感じ、
許可がでたからなのでは、そう彼はいっていた。
この地にすまうものの身内、という理由で。
それがどこまで真実なのかロイド達にはわからないが、
すくなくとも、あの竜巻に巻き込まれ、この地にやってきたのは本当。
「そろそろ、もどろうか」
「…うん」
眼下には移動してゆく灯りを保てし大陸。
否、この大陸がそれほどゆっくりとではあるが移動している証拠といえよう。
確実にしたにみえている景色がかわっていっている、のだから。
ロイドの台詞にジーニアスもこくり、とうなづく。
「…何かいろいろとありすぎたなぁ」
「だね。でも、きっと、まだこれからもいろいろとあるよ」
「…うげ。難しいことにならないといいんだけどな」
ジーニアスの台詞に心底面倒、とばかりにつぶやきつつも、
そのままロイドとジーニアスもまた、その場をあとにしてゆく。
後にのこりしは、夜の闇がもたらす静寂のみ。
pixv投稿日:2014年2月8日某日(Hp編集:2018年4月22日(日)
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あとがきもどき:
次回、ゼロス・ワイルダー登場です