まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
pivixさんに投稿していた話の区切りとは変えてあります。容量的に……
ちなみに、飛行都市(空中都市)エグザイアの町並みの感じ。
ゲームとは少し違う形にしてあります。
例をあげれば、クロノトリガーの魔法庭園?みたいな感覚で。
あちらは転送陣によっての島への移動、でしたけど。
そういえば、王廟跡地以降ほとんどシヴァ(子猫)だしてなかったなぁ。
とふとおもったり。
いるにはいるけど、子猫、なので戦力外(でもじつは強い)なので、描写してなかったからなぁ…
というわけで、それに関してのスキットをばいれてみましたv(まて)
さて、そろそろラタ様の過去の回想が、
かつての出来事よりも前。
ミトス達すらしらない過去の出来事にまでさかのぼってきてたり。
いろんなことがあり、また記憶の上書きもあって、
デリス・カーラーンよりも前のことを思い出しやすくなっているのも一つの原因。
…今回にて、なぜ、ラタトスクが前回の時間軸において(滅んだTOP時間軸)
トゥルエンドにいかなかったのか?その理由がちらり、とでてきたり。
ちなみにそれもこの話しの裏設定v
判る人にはわかるかと。
なぜ、ラタトスクがマルタに無意識とはいえ、邪剣にせずに惹かれた?理由。
ヒント。
マイソロジーシリーズのカノンノ(こらこらこら)←判る人にはわかります
記憶の因子って…強いですよね(まて)
ラタトスクは無意識のうちにそれをもっているかもしれない、という可能性を否定してますけど。
過去が過去・・・であったとおもってくださいな(だからまて)
え?そのときの過去話?当然でてきませんよ?
だってこの物語には関係ないですからv
あと、この正規打ち込みでは、パターンをマクスウェルが住んでいるパターンにしましたが。
こちらのパターンにおいてはマルタとエミルとの絡みがちょっぴり申し訳ない程度、
他のパターンより増えてたりする、というところもありますけども。
でも大まかストーリーにはまったく関係なかったりする、という。
他のパターンではエミルがそのまま、マクスウェルのいる石碑のところにいって、
話しこんでるパターンだったりしましたからね。
(ちなみにそのパターンはエミルインイセリアでのパターンと同じだったという)
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重なり合う協奏曲~真実を求めて~
空を飛ぶ乗り物、などきいたことすらない。
本当にディザイアンではない、というのだろうか。
しかし、あの場から助けだされたのは本当。
圧倒的なまでの力。
しかも、あの青年もまたハーフエルフの感覚をうけた。
その感覚はかなり小さいものであったにしろ、同胞の気配を間違えるはずもない。
「コレット……」
手をつないだままのコレットはまったくびどうだにしていない。
今のコレットは、乗り物の翼部分の上にふわふわとういているのみ。
ジーニアスがしっかりと手をつないでいるので離れることはにいなしろ、
このままジーニアスが手をはなせば、まちがいなくコレットは空中にて置き去りにされてしまうであろう。
彼女は自分からどうみても行動しようとしていない。
生きた人形、とはよくいったものだ、とおもう。
誰かが介錯しなければコレットは動くことすらままならない、というのだろうか。
「今の神子は本能から周囲に破壊をまき散らす破壊兵器のようなものだ」
前にとのっているディザイアンの鎧をきこんだ男性がそんなことをいってくる。
気配からしてまたこの人物もまたハーフエルフ。
「…ねえ、僕は間違っていた、のかな…コレットをこんな目にあわせて……」
コレットが天使になっていくのにどうなるのかな?
次はどうなるのかな?
無邪気にあのとき、いっていた自分をなぐりたい。
角が生えるのかな?などとコレットに翼が出現したあの日の夜。
無邪気にいっていた自分自身。
何もわかっていなかったのだ、とおもう。
コレットがつらい目にあっているなどとまったくおもってすらいなかった。
そして、コレットの体にどんな異変がおこっているのか、すら。
「――しかたあるまい。ユグドラシルは四千年にわたり、
テセアラ、そしてシルヴァラントにその意識も、そしてその価値観も
調律、調教させられてきているのだからな。
彼らは世界の仕組みに疑念を抱くものがいれば、天界の名をかり、
天使の名をもってこれまでも延々と神の名のもとに粛清を繰り返してきた。
…人を本来ならば自由にするはずの宗教、というものを枷、としてな」
「…さっきの、あの台詞は…じゃあ……」
「クルシスとディザイアンは同じ組織…ディザイアンはクルシスの末端組織だ。
飴と鞭、そういえばお前にはわかるだろう。同胞たるお前ならば、な」
「僕は……」
違う、といいたい。
僕はエルフだ、と。
けど今はそんな言い返す気力すらない。
なら、マーテル教の教えは…ずっと、物ごころついて教えられてきていたことは。
全て…嘘?偽り?
「…もう、何が真実なのかわからないよ……姉さん……」
「お前の姉にはボータ様がついている。…目的地につけば合流できるだろう」
目の前にはロイドがのっているであろう乗り物…
彼らはレアバード、とこの乗りもののことをいっていた。
そんな乗り物があるなど、ジーニアスはきいたことすらない。
が、実際に今こうしてのっている以上、現実であるのもまた事実。
強くならなくちゃ。
そうおもっていた。
けど、実際は僕は強くなってない。
マナの守護塔でエミルがいっていた台詞。
あのとき、エミルは何を馬鹿いってるの?
とあきらかにエミルが何か馬鹿なことをいってるな、という認識でしかなかった。
しかし、その結果は?
何も知らなかったのは自分。
ジーニアス自身。
世界の仕組みについてもまた然り。
しいなが説明したときに、そんなことはありえない、そう、おもっていた。
しかし、精霊もテセアラという世界のことを知っており、つまり、何もしらなかったのはジーニアス自身であり、
無意識のうちに馬鹿なことをこの人達いってるな、と見下していた自分の心にも気づかされた。
その結果が…コレットの今のありよう。
声をかけても反応しない。
感情をいつもあらわしていたコレットの瞳はまるでガラス玉のよう。
人の体をしている、というだけで人形、といっても差し支えはない。
まるで…そう、生きる屍。
「そろそろつくぞ」
そういわれ、ふと周囲がだんだんと熱くなっていることにきづく。
「…え?」
いつのまにか、眼下にみえるは砂漠地帯。
砂漠、で思い出すのは…
「まさか……」
砂漠にあるディザイアンの…彼らは違う、といっていたが。
思いだすのは一つ、しかない。
トリエットにて、ロイドが連れ浚われたあの施設。
「目的地は我らが拠点の一つとしているシルヴァラントベース、だ」
眼下にみえるは、砂漠地帯。
その一角にレアバード、とよばれしものは降下してゆく……
トリエット砂漠。
それは、出発点、この再生の旅の始まりの地といってよい。
かのトリエット遺跡においてコレットが祈りをささげ、天使の羽を得た場所。
そしてまた、コレットをおいかけてイセリアからでたジーニアスとロイドが合流した地。
「あんたたちは、やっぱりレネゲードかい」
目の前にて操縦をにぎっている人物にと声をかけるしいな。
「そうだ」
そんなしいなにと淡々と答えられたくるその声。
うすうすそうではないか、とおもっていたが。
「なら、今むかってるのは?」
「みずほの里のしいな、お前がこの地にやってきたあの場所だ」
「そういう、ことかい」
あのとき、彼らの協力もありこの地にやってきた。
ふとあのときのことを思い出す。
翼を開いたような鳥の形をした乗り物にのり、移動してきた。
どこかの施設…あとからそこが発着場だ、とはきいたが。
周囲をとりかこみしは、鎧をきこんだ男たち。
ここが本当にシルヴァラントなのか、ともおもったが。
しかし、ここにくるまでにみた景色は見慣れたものではなかった。
そもそも、テセアラには砂漠、などといったものは存在していない。
砂漠の中にあるとある施設の中にこの乗り物は自動操縦になっているのか、
そのままはいりこんでいった。
どうすればいいのかわからずに、たったままでしばらく硬直している最中、
青い髪をした男性が近づいてきて、それにあわせ、
彼女がのっていた機体をとりかこんでいた兵士?らしきものたちがさっと道をあけるのがみてとれる。
その光景からおそらくは、彼らの上司にあたるものなのだろう、と推測するが。
「ようやくの到着か」
かけられた声が自分にむけてだ、ときづき、あわてて姿勢をただし、
「…藤林しいなだ。テセアラ十八世陛下の命をうけみずほの里より参上した」
いいつつも、相手を見下ろすような格好では相手に失礼。
それゆえに飛び降りたのちに向上を述べる。
おそらく間違いなく彼らには話しがつたわっているはず。
そもそも、彼らの協力がなければ世界の壁をこえる、などできはしなかったのだから。
こいつが、こいつたちがいらない真実を彼らにつたえたから。
そうおもわずにはいられない。
それまで、二つの世界の関係、など誰もしらなかった。
真実をおしえたのは…彼ら。
レネゲード、とよばれしもの。
無碍にできなかったのは彼らからエクスフィアがかなり流通させられており、
また王家や貴族達にもそれらが無償で提供されたから、とそうしいなはきいている。
「次元転移の感想はどうだ?」
こいつはそれをわかってるのだろうか。
鼻にかけたようなものいいが癪にさわる。
「――そんな御託をきくためにあたしを呼寄せたわけじゃないだろ?」
神子を、殺す。
暗殺せよ。
それが彼女…しいなにかせられた命。
何としても世界再生を成功させるな。
このテセアラが彼らのいう衰退世界となり滅びることはさけなければならない。
藤林しいな、よもやかつてのように仲間を身捨てる、ような選択はしないだろう?
かつての契約の失敗をあの狒狒爺の教皇にもちだされ、しいなは言葉を詰まらせることしかできなかった。
「暗殺者殿は決起さかんとみえる。たのもしいな」
鼻であざらわうようなその声。
それがよりいっそう癪にさわる。
「うるさいよ。それより神子はどこにいる」
「そうか。一刻もはやく神子を始末してテセアラに繁栄をもたらせたいか」
そのものいいにぎりっと歯をくいしばる。
なぜ、どちらかが犠牲にならなければいけない?
女神マーテルとはいったい?
疑問におもったのは、その世界のありようをきいたとき。
そのときからずっと。
そしてまた、自分が実験体…モルモットの扱いを受け始めたあのときから。
仕方がない、とおもっていた。
それでも、祖父の力になれるのならば、そうおもっていた、のに。
なのに、その結果、里の民を殺してしまった自責の念。
しいなに与えられた使命…それは、シルヴァラントの神子の暗殺命令。
みずほの里はしのびの里。
どんな依頼でも…ほとんどが裏に関するもの、なれど、それを遂行するのが使命。
「人間とは愚かなものだな。…いつの時代もかわりはしない」
冷笑したような青い髪の人物の言葉。
しいなとてそれはわかっている。
テセアラは…自分の祖国は、自分達の繁栄のため、シルヴァラントを生贄として差し出す。
それを決定した、のだから。
これまでも八百年にわたり、彼らの犠牲の上になりたっている繁栄。
その繁栄をこれからもずっと続けてゆくために。
自らの利の為ならば他人の不幸など関係ない。
そんな考えのもと。
しいなはその考えがどうしても理解できない。
自分が他者を不幸にしてしまった、という経緯があるがゆえ、なのかもしれない。
誰かを犠牲にしてえる幸福に…何の意味がある、というのだろうか。
「…資料はそろえてある。詳しい話しはそこのボータからきくのだな」
そういって背をむけてゆくその人物。
そういえば。
あのとき、自分に説明をしたあのボータという人物。
彼はあのとき、アスカード牧場にて出会った人物ではなかったか。
今さらながらにふとしいなはそのときのことを思い出す。
どこかでみたような、そうおもっていたが。
クルシスに反抗している、という彼らがあの場にいた理由。
答えは…おのずとみえている。
幾度かいったはずだ。我らはディザイアンではない。
レネゲード、と彼らはいった。
「…状況を整理してみましょう」
武器を取り上げられているわけでもない。
彼らが何をしたいのかわからない。
けども、連れてこられたこの場所は、かつてロイドが囚われていた地に他ならない。
いまだロイドは目をさまさない、が。
打ちどころが悪かったのかもしれないのであまり動かさないほうがいいだろう。
鎧をきた一人の意見に従い、ロイドは部屋にあるベットに今は横たえられている。
結局のところ、リフィルが一度、ハイマにともどり、エミルと合流し、
この場にボータ達とともにやってきたのはつい先刻。
この地にやってきたときにはリフィルとしても驚きを隠しきれなかったが。
旅の始まりのころ、ロイドがつかまった、といわれていたディザイアンの施設。
まさかこの施設に再び入ることになろうとは。
ボータは隣を平行して飛んでいるエミルがいうには、かのワイバーンの種族は、
ワイバーンロード、という種族であったらしい。
ワイバーンの古代種、としてその名をかつて文献でみたことはあったが。
すでに絶滅した、といわれていた古代種。
今いる全てのワイバーンの祖となったといわれている魔物。
「しいな、あなたはここにやってきた、それは間違いないわね」
「ああ。そうさ。そもそも、あたしたちの所にシルヴァラント。
すなわち、世界再生の真実…マナの交互使用をおしえたのはこいつら。レネゲードだ、と名乗っていた」
胡散臭い、とおもったが、しかしテセアラでなぜか発言権をもつ…らしい、
あの教皇ですら口出しができないという人物の口添えによって。
「信じなれなかったけど、こいつらがこっちの世界に代表者をつれてきて、
そして納得させたらしいよ。でもって、こいつらが大量のエクスフィアを手土産にし。
しかも、理由をきけば、このままではテセアラが滅ぶようになるから教えてやった。
のような上目線でいってきたらしいよ」
吐き捨てるようなしいなの台詞。
彼らがそれをいわなければ、何もしらないままでいられたであろうに。
だけども、それでは何もしらないまま、いつのまにか救いがなくなった、そう捉えられたであろう。
そして…その矛先はまちがいなく当代の神子にむけられる。
それほどまでに彼の上層部達の受けは…わるい。
まあ日ごろの行いが行いであるから自業自得、といえばそれまでにしろ。
「問題は、彼らの意図、よ」
彼らはコレットのことを生体兵器そのものになっている、そういった。
リフィルがまさか、とおもいかつての遺跡にて知ったことをいえば、よく知っているな。
と肯定すらされた。
それらの事実が描かれている遺跡はユグドラシルの命によってことごとく、
この四千年の間に破壊されていたはず、なのに、とも。
その台詞にリフィルの中でこれまで不思議であった疑問がかちり、とあわさった。
なぜ、古代大戦より前の遺跡が残っていないのか。
何か人為的な力によってその遺跡などは消されたのではないか。
まことしやかにいわれていたこと。
それでも組織だって研究していない以上、それはそれぞれの研究者達で語られていたにすぎない。
が、そういった案を唱えた研究者達はことごとくディザイアンにと捕まったときく。
それらのことを振り返ってみれば、納得もいく。
納得せざるをえない。
不穏分子、とクルシスに勘繰られ、ディザイアン達に命じ、
そんな彼らは始末されていっていたのであろう。
しかし、彼らレネゲード、となのりしものの意図がつかめない。
「そういや、エミルは?」
「あれ?いつのまに…?」
先ほどまで一緒にいた、はずなのに。
いつのまにかエミルの姿がそこにはない。
ついでにいえばノイシュの姿も。
「ノイシュを散歩に連れ出したんじゃないの?」
マルタの言葉に、納得せざるをえない。
たしかに自分達ならば部屋にある備え付けの設備をつかえば生理現象は何とかなるが、
ノイシュのほうはそうはいかない。
マルタのいい分は一理ある。
マルタとて一気にいろいろとあったので現状が理解できていない、といってよい。
物ごころつくころから信じてきていたマーテル教。
天界クルシス。
が、あのクルシスの指導者…のような台詞をいっていたあの青年は、
クルシスとディザイアンを統べている、そういった。
つまり、自分達がディザイアンによってつらい目にあっていたのも、
すべては天界の意向であった、ということに他ならない。
いくら詳しい事情をしらないマルタでもそれくらいは理解できる。
理解せざるを得ない。
少し考えてみればわかること。
女神マーテルの教えと根本的に異なっている。
女神マーテルの教えは、全ての命に愛を、というはず、であるはずなのに。
そもそも、女神マーテルなんてものが本当にいるのか?
そんな疑問すら浮かんできてしまう。
ディザイアンなんてものをのさばらしている彼らが様をつけるような人物が、
教えにあるような慈愛にあふれた女神だなんて到底思えない。
それこそ残虐非道な…
いうなれば、お伽噺の中にでてくる魔王のごとくであっても不思議ではない。
勇者ミトスの英雄譚の中には、ディザイアンを全ていたのは魔王とよばれしものだ。
という伝承もある。
勇者ミトスは魔王を倒し、ディザイアンを封じたのだ、と。
どこまでが嘘で、どこまでが真実なのか。
ただ、エミルの傍にいたかったから、理屈をつけて再生の旅についてきた。
父や家族を説得するのは、父達がいうようにこの世界、
シルヴァラントの王族ならば、それをきちんと知るべきだ。
そう理屈をつけて。
父がよくいう、民が傷つくのは上にたつものの責任。
世界再生も元は世界をこのようにしてしまった自分達の先祖に原因があるのだから、と。
女神マーテルを眠らせてしまった自分達の先祖に原因があるから、と。
だが、この旅の中で知った事実というか現実はどうだろうか。
女神マーテルの力にて封じられたというはずのディザイアンは、
クルシスの責任者が統べている…すなわち、クルシスが糸をひいていた。
そうたしかにあのとき、あのユグドラ何とかという男性はそういった。
彼らの背にあったのは、まごうことなきマーテル教の経典にある天使の翼そのもの。
女神マーテルに仕えている、という本来の天使の翼のありよう。
エミルの話題となり、なるべく考えないようにしよう、とおもっていた事柄。
それが再びマルタの脳裏にてめぐりはじめる。
と。
「う……」
「「ロイド!?」」
横にしているロイドがうめき声をあげみじろぎする。
それにきづき、ジーニアスとしいながロイドのもとにとかけよってゆく。
と、
「…っ!」
跳ね起きるようにベットから起き上がるロイドの姿。
「よかった。ロイド、やっと目がさめたんだね。どこか痛いところとかない?」
ロイドだけずっと目がさめなかったので、打ちどころが悪かったのではないか。
と気が気ではなかった。
上半身をベットから起こしたロイドにたいし、ほっとしたようにジーニアスが話しかける。
「ここは…コレットは!?」
何かなつかしい夢をみていた。
教室で、授業をうけていた夢。
そして、そんな自分にコレットがほほえみ…
そこまでおもい、はっとして視線をさまよわせ、コレットの姿を探し求める。
コレットはマルタの横にたつように、壁際におかれているソファーの隙間にとたっている。
しかしその表情は失われ、微動だにしていない。
まばたきすらしていない、まるでいうなれば人形そのもの。
「…結局、心を失ったままなんだよ。あたしらが何をいっても反応しないんだ。
唯一の例外はエミルが何かいったときくらい微々たる変化がみられるくらいで」
ちらり、とコレットをみつつ、しいながぼつり、と誰に説明するともなく言い放つ。
エミルだけ、というのがきにかかる。
エミルには何かがある。
それは何か、しいなにはわからないが。
「エミル?コレット!?…くそっ。…で、そのエミルは?」
コレットの傍にかけより、コレットの肩をつかむが、コレットは無反応。
そのガラスのような目にはどうやらロイドの姿すら映り込んではいない、らしい。
たしかにその姿はうつっている、というのに。
まったく反応すらしてこない。
微動だにしない、とはまさにこのこと。
さきほどまで夢にみていた表情豊かなコレットと、今のコレット。
その差にロイドは愕然とせざるを得ない。
ふと周囲をみてみれば、この場にいるのはジーニアス、しいな。
そしてマルタにリフィル、その話題となっているエミルの姿がみあたらない。
そんなロイドの問いかけに、
「ノイシュをつれて多分そとに。…散歩じゃないかな?」
「散歩?こんなときに?」
首をすくめていうジーニアスの台詞に、ロイドが表情を歪めるが。
こんなときに散歩なんて、そう思わざるをえない。
というか、ノイシュもここにいるのか?
あれ?でもノイシュはたしか、ハイマで留守番させていたはず。
なら、ノイシュもあれから一緒に誰かがつれてきた、ということか?
その台詞に思わずロイドが腕をくみ考え始めるが、
「こんなときでも、生理現象はいくら何でもノイシュもあるでしょう?」
「…部屋の中でしてもらうわけにはいかないでしょ」
リフィルとジーニアスにそこまでいわれ、なぜ散歩などといっているのか、というのに思い当たる。
たしかに、今までのように外ならばあまり問題はなかった、であろう。
あるいみで納得いく答え、ではある。
ノイシュがここにいる、というのがきになるが。
というか、それよりも。
ここはどこ、なのだろう。
どこかの部屋、らしいのだが。
なぜ自分、そして皆がこんなところにいるのか。
ロイドか覚えているのはあのユグなんとか、という人物が放ったであろう、
衝撃派によって吹き飛ばされ、何かにぶつかった。
そこまでしか覚えていない。
それから何があったのか、ロイドは知らない。
「…ここは?いったい……なんで、俺達…皆もこんなところに……」
どうみても救いの小屋、ではない。
簡単な天蓋つきのベットが二つ。
どうやらそのうちの一つにロイドは寝ていた、らしい。
そして丸い机、壁際にある本棚。
そしてソファー。
ベットとベットの間には、観葉植物…とたしかリフィルから聞いた覚えがある、
壺にはいった植物が小さな台の上にと置かれている。
壁には緑色っぽい布のようなものが何箇所かかけられている。
「…ロイド。ここを覚えていて?ここはトリエット砂漠なの。
ほら、あなたが以前、敵につかまってしまった、あの基地よ」
ロイドの様子からしてどこかぶつけた後遺症とかある、という様子がないことにほっとしつつ、
リフィルがコレットの傍にとかけよったロイドにと説明する。
「トリエット……ディザイアンの基地かっ!」
トリエット、といわれ、思い出す。
イセリアからでて、自分がつかまってしまったあの施設のことを。
今、自分達はそこにいる、とリフィルはたしかにそういった。
ゆえに思わず声をあらげるロイドはおそらく間違ってはいないであろう。
「あ、あのさ。ここの連中は…ディザイアンじゃないんだよ」
しいなはそのことをしっている。
彼らがこの組織のことをディザイアンだ、とおもっていたことにしいなは驚いたが。
てっきり、敵対している、というのを知っている、とばかりおもっていたのに。
まあ、施設にいたボータをみてもディザイアンの仲間、そうおもっていたしいなも何ともいえないが。
施設内にいたのだから、という思いこみが真実から遠ざけていたといってよい。
「は?しいな、おまえ、突然何をいってるんだ?」
「一変にいろいろあったから混乱しちゃうよね。僕もそうだもん……」
「うん。ほんと、いろいろ…」
ジーニアスの言葉にマルタが顔をふせる。
マルタはコレットが心配らしく、常に傍にと寄り添っている。
神子をこんな目にあわすなんてしらなかった。
再生の旅のその真実。
神子の命をささげる、など。
よく父がいっていた。
誰かを強制的に犠牲にしたうえでの平和など絶対に長くは続かない、と。
だからこそ共に平和にむけて努力する必要があるのだ、と。
「そうね。ちょっと長くなるけれどざっと今の状況を整理してみましょうか。
まず、私たちの状況ね。私たちは救いの塔で殺されるところを
この基地のディザイアンによく似た集団に助けられたの」
そんなリフィルのこれまでの状況を客観的に捕らえるための説明に、
「でも、リフィルさん。あのとき、なんかあのひょろっとした人、なんかいいあってましたよね?剣っぽいのと」
ふとマルタが思い出し、そんなことをいってくる。
たしかに、何かいいあっていた。
あの声が自分達のものでもない以上、あの声の主はありえないが、剣である、といってよい。
家系の伝承にかつては話す剣があった、というのだからそういうのがあっても不思議はない。
そうマルタはおもっていたりする。
「そうね。あの剣の感覚からして、あの剣もまた精霊、とおもうわ。
契約がどうとか…いっていたから、そのあたりのこと、なんでしょう」
あのとき、たしかにユグドラシル、となのったものと、あの床から現れた剣は反発していた。
それにたいし、ユグドラシルが命令口調でいっていたのをリフィルもまた聞いている。
おそらく、彼が攻撃しようとしたあの余波を防いだのは、
なぜかはわからないが、あの剣のようにみえた精霊、のような気がする。
それはなぜ、なのかリフィル達にはわからないにしろ。
よもやそこにエミルが…ラタトスクがいたから、という事実に思い当たるはずもない。
「話しがそれたわね。ともかく。彼らは自分達をレネゲード、と呼んでいるわ」
リフィルの説明に何だかロイドは頭がくらくらしてくる。
おもわずそのまま、近くにあるソファーにと腰をおろす。
まだ頭がくらくらするのは、難しい説明をうけているからなのか、
あるいは強く頭をあのときぶつけた、からなのか。
「よくわかんねぇ。なんか混乱する話しだな」
「だよね」
ロイドの呟きにジーニアスはそういうよりほかにない。
なにしろあのとき、現れたボータという人物は、イセリアの村で、
コレットを狙ってきてイセリアの聖堂に襲撃してきたうちの一人、なのだから。
そういえば、とおもう。
あのとき、あのあと、イセリア牧場の主となのるものが村にやってきたとき、あいつらとかいっていたような。
ふとあのときの彼らの台詞を思い出す。
だとすれば、あの聖堂で襲ってきたのは、ディザイアンではなくて、レネゲード達だった、というのだろうか。
それにしては自分達を助けてくれた意味がジーニアスにはわからない。
ゆえに余計に混乱してしまう。
もしもそうだとしたら、あのときたしかに命を狙っていたはず、なのに。
あの場から助けだすようにここに自分達を連れてきた意味がジーニアスですら思いつかない。
「とにかく。よくわかんねぇけど。ここに俺達をつれてきたっぽいという連中は、
ディザイアンじゃなくてレネゲードっていうんだな?ま、どっちでもいいけどよ」
頭をかかえつつも、とりあえず自分なりに状況を整理しようとする。
難しく考えればどんどん頭がいたくなってくる。
なら、簡単に考えるしかない。
深くかんがえず、客観的、すなわち、ディザイアン達とは違う。
それだけ考えればいいか、そんな考えにたどり着き、そんなことをいっているロイド。
「どうやらレネゲードとはディザイアンと対立しているようね。
わざとよく似た姿をしているのにも理由があるのでしょう」
「たぶん、潜入捜査とかするのに便利だから、という理由のような気がするけどね。あたしは。
あのとき、隠し通路がなければあたしもその方法をとっただろうし。ディザイアンの鎧をもぎとって、ね」
リフィルの言葉にしいなが首をすくめていってくる。
あのとき、とはアスカード牧場に潜入するときのこと。
「そうね。その方法もあったわね。あのときはとらなかったけど」
「??あのときって何?」
マルタにはその意味がわからない。
ゆえにリフィルとしいなのやり取りに首をかしげざるを得ない。
「ああ。そうか、あんたはしらなかったんだよね。以前、アスカード牧場に潜入するときに、ちょっと、ね」
「そういえば、神子様一行が牧場の人達を助けた、ときいたけど、そのときのこと?」
首をかしげるマルタの言葉に、こくり、とうなづくしいな。
「…分かった。難しいことはわかんねぇけど。
ともかく。俺達はディザイアンによく似たレネゲードに助けられた。
それはそれでいいとして、あのユグなんとかっていう天使は何者なんだ?」
だんだんとあのときの記憶がはっきりしてきた。
それとともに、信じがたい、否、信じたくない事実も。
ソファーに腰をおろしつつ、顔を覆うようにしてつぶやくロイドの台詞に、
「…ロイド、ユグドラシル。だよ。マーテル教の経典にもでてくるでしょう?
…女神マーテル様に仕えている側近…のはずの天使の名。それがユグドラシル、だよ」
ジーニアスも信じたくはない。
ずっと物ごころついたころから信じていたことが、今まさに崩れていっているのだから。
「何が女神マーテルだっ!…でも、それに…クラトスは……」
その言葉に思わずたちあがり、だんっとソファーをたたきつけるロイド。
何かにこの憤りをぶつけなければやっていられない。
信じたくない。
あのクラトスが…敵、だなど。
たしかに、精霊シルフとなのったものは、あのとき、裏切り者、と呼んでいた。
それがクラトスのことだ、というのを無意識に考えないようにしていたのは、
他らなぬロイド自身。
「そのことなんだけど……ユグドラシルが残した言葉を覚えていて?
これはあくまでも推測でしかないけれど、でも間違いないわ。
おそらく、マーテル教会が進行する神の機関【クルシス】は【ディザイアン】と同じ組織ではないかしら」
ずっと疑問におもっていた。
けど、信じたかった。
ロイドにむけていたあのクラトスの視線が嘘だ、とは思いたくなかった。
あのタイミングであの聖堂にやってきたあのときから。
胡散臭い、とおもっていたが。
旅の最中、あれほどの腕をもつ傭兵の話し、クラトスの名などきいたことすらなかった。
だから時折、なぜ神子の護衛を?とといかけていた。
さらり、と受け流されていたが。
エミルのほうは…まあわからなくはない。
あの能力、魔物を使役できるらしきあの能力。
たしか魔物の中には人の記憶を操作できるものもいる、ときく。
もしもリフィルがおもっているとおり、魔物達がエミルのために動く、のならば。
魔物達がエミルとかかわって、疑念におもったり、利用したりしようとした人々の記憶。
その記憶をいじっている可能性がはるかに高い。
それをエミルが命じたのかどうかは別として。
「ま、まってくれよ!先生!わけがわかんねぇよ!」
いきなりそういわれ、ロイドはとまどわずにはいられない。
それでなくてもいっぱいいっぱいだ、というのに。
まだこれ以上、何がある、というのだろうか。
そんなロイドの叫びに、
「落ちついて。ロイド。ディザイアンがクルシスの一部。あるいは手先だと考えればつじつまは合うの」
そう、全てのピースがあわさるようにしっかりと。
精霊達の言葉も、すべて。
そして、もし、リフィルの推測が正しい、とするならば、
あのユグドラシル当人、もしくはそれに順するものが、おそらくは……
「…ディザイアン五聖刃もユグドラシルがボスだって前にいってたよ。僕覚えてる」
「そして、私たちの目の前に現れたユグドラシルもいっていたわ。
自分は、クルシスとディザイアンを統べるものだ、と」
ジーニアスとリフィルの交互の言葉に、
「ディザイアンとクルシスが同じ組織?…マーテル様のじゃあ、教えは……
だって、女神マーテル様の力でディザイアンを封じたって…ぐるだってこと?」
マルタの戸惑いの声。
あらためて説明されれば、そう、としかおもえない。
天使の翼がなによりの証明、であった。
信じていたマーテル教のおしえが根柢から崩れてゆくその感覚。
「ディザイアンとクルシスが同じ組織?じゃあ、クラトスは……
ユグドラシルとかってやつに頭をさげていたあいつは、本当に……」
イフリートの試練のときには的確な指示をくれ、
これまでもずっと剣の稽古につきあってくれていた。
あのクラトスが…敵?
クラトスに褒められるとなぜか無償にうれしかったことを思い出す。
それはなぜなのか、はロイドにはわからないが。
何となく認められた、そんな思いがわき起こっていたことは疑いようのない事実。
それを口にだしたことはないにしろ。
「ああ。敵だったんだよ!あたしたちを裏切ってたのさ!
忘れたのかい?あいつは自分で名乗ったんだよ!クルシスの四大天使だってさ!」
それは、女神マーテルに直接仕えている、という天使達の名称。
マーテル教の経典にもその名は時折でてくるその呼び名。
しいなの吐き捨てるようなその声は、信じたくない、という思いもあるが、
それ以上に一緒に旅をしていた仲間を彼が裏切っていた、その思いのほうがはるかに強い。
裏切りものには…制裁を。
それが…彼女が育ったみずほの里の掟。
その制裁が、しのび、として時として死に直結するにしろ。
「おそらくクラトスはユグドラシルの部下なのよ。
コレットが世界再生の旅から逃げないように監視でもしていたんでしょう。
前回の旅が、祭司様とともに旅にでても、神子アイドラ様は失敗した、ときくわ。
その失敗をかねて送りこまれた、そんなところでしょうね」
「…俺達は、ずっと最初からだまされていたってわけか……」
がくり、と力をおとし、そのまま崩れるように再びソファーにと腰をおろす。
信じていた。
否、まだ信じていたい。
しかし、現実は現実。
クラトスは知っていてあんなことをいったのだろうか。
とりかえしがつけば、などと。
コレットが死ぬ、とわかっていながら、なお。
「…そういえば、あのとき、あのボータとかいう奴がいってたよね。
【まさか、貴様が現れるとは、な】って。あのときは深く考えなかったけど……」
「…レミエルにも、クルシスにも…クラトスにもっ!俺は何を信じたらいいんだよっ!」
マーテル教のおしえそのものが根柢から崩れている。
熱心な信者でないにしろ、ある程度はロイドとてそのおしえにそまっている。
もしもロイドがダイクのもとで人とかかわらずに過ごしていれば、
そこまでマーテル教の偽りのおしえに染まってはいなかった、であろう。
が、ダイクはロイドが人とかかわらない、という道をとらなかった。
あえて、ロイドをつれてイセリアにと出向いていた。
親を失った子には、というよりドワーフである自分は人としての常識。
それをおしえられない、とおもったからこそ。
人と人の繋がりが何よりも大切だ、とおもったがゆえに。
「…クラトスさん…最初から僕たちをだましてたんだね……」
ロイドの叫びにジーニアスもまた顔をふせ、ぽつり、とつぶやく。
「そうね。…どこかおかしいとはおもっていたけども…
でも…結局は視過ごしてしまった…私の罪、ね。愚かしい自分が嫌になるわ」
「先生はわるくない!ちっくしょう…クラトスの野郎…絶対ゆるせねえ!
あのときの台詞は嘘だったのかよ!あのアスカード牧場をでたあのときの言葉はっ」
命の大切さ。
その重さ。
それらをおしえてくれたのもまたクラトスだった、というのに。
「…ロイド……」
ロイドはクラトスになぜかなついていた。
何というか雰囲気が似ている、というかそのあたりにあるのかもしれない。
そうジーニアスはおもうが。
しかし、気になるのは他にもある。
気のせい、だろうか。
まさか、クラトスのマナとロイドのマナが似通っている、というように感じた、のは。
もっとあのとき、詳しく聞けばよかった、とおもう。
風邪の精霊ハスタール、となのりしものが、たしかに、きっぱりと。
クラトスを裏切りもの、そういっていた、のだから。
『クラトス・アウリオン。汝は幾度我らの主、そして精霊達を裏切れば気がすむ?』
と。
クラトスはそのとき、ヒト違いだろう、と逃げていたが。
ここにいたり、精霊達、そして守護獣ハスタール達のいていた台詞が理解できる。
できてしまう。
真実を知らなかったのは自分達だったのだ、ということに。
「クラトスさんが裏切りもの…
そういえば、やっぱりあのユグドラシルって人がクルシスの一番偉い人なのかな?」
マルタも自分の中で整理をつけたい。
ただ、エミルの傍にいたいからといって無理やりに用事も済んだのち、
再び同行してきたが、こんなことになるなどマルタは夢にもおもっていなかった。
両親を説得するのに、
『王家の血をひいている、という自分は、真実をきちんと見極め知る必要があるとおもうの、
パパ達は動けないでしょ?ね。パパ。だから』
あのとき、言葉巧みに父ブルートを説得した言葉がまさかここで真実味を帯びるなど。
マルタは夢にもおもっていなかった。
「そうね。おそらく、眠っている、というマーテルが象徴的な存在で
ユグドラシルがその計画を遂行しているのでしょうね」
「けど、前、精霊達もいってたよね。マーテルが殺されたって…それが眠っている?」
リフィルの台詞にしいながふと思い出したようにいい首をかしげる。
たしかに精霊達はそんなことをいっていた。
「そのあたりはわからないわ。けど、おそらくはその殺された、という台詞にも意味があるとおもうの」
あのとき、風の精霊はこういった。
『何で、何で、あの子を、マーテルが殺されたときあの子が決めたあのことを。
あのときにとめてくれなかったのさ!』
風の精霊、三姉妹…となのりし彼らのうちの一体がいったその台詞。
そこに全ての鍵はある。
たしかに、精霊は殺された、そういった。
精霊は嘘はつけない。
だとすれば、マーテル、という名をもつものが殺されたのは事実、なのだろう。
それが女神マーテル、といわれているものと同一なのかはともかくとして。
リフィルがあのときのことを思い出しつつぽつりというそんな台詞に、
「…クラトスさんは…あのユグドラシルってやつの部下だったんだね」
ジーニアスも認めざるをえない。
そんなジーニアスの台詞に、
「…あいつ、コレットをマーテルにしてどうしようっていうんだ?」
微動だにしないコレットをみつつ、ロイドがつぶやく。
あいかわらずコレットはそのばにつったっているまま。
「それよりも、マーテルがどうして器となる体を必要としているかが気になるわ」
「そうか。それってつまり、体がないってことだもんね」
たしかに姉のいうとおり。
器を必要としている、ということは器となりし体がない、ということ。
何かの文献でよんだが、たしか人の体、とは魂の器にすぎない。
とジーニアスはそう記憶している。
「なあ、よくわかんないけど。体がなくてその…心だけっていう存在になってもいきていられるもんなのか?」
ロイドの素朴なる疑問。
「現にコレットは、心をうしなっても生きているわ。逆もありえるのでしょうね」
「まさか、マーテル様…幽霊になってる…とか?」
おそるおそる口にするマルタ。
幽霊、というのもはあまり好きではない。
昔、それによって怖い思いをしたことがあるがゆえなおさらに。
母につれられていったあの神殿跡であんな目にあうなどとは。
誰しもその体が崩れたような内臓が飛び出したような姿…しかも姿がすけている。
そんなものに追いかけられればトラウマになる、というもの。
「げ。それって憑依ってやつかい?
たしかに幽体は生者にとりついて、その体を奪うことがある、といわれてるけどさ」
しいながおもわずあとずさる。
みずほの里でもそのことはいわれている。
というより、それを武器とする技もあるほど。
他者の霊体をその体に依代、として憑依させ攻撃する技。
その技に失敗すれば心…すなわち精神が壊れる、とまでいわれている術。
「幽霊…つまり、精神体ね」
しいなの台詞にこくり、とうなづきつつリフィルが答える。
「うげ!俺、怖い話し苦手なんだよなぁ」
ロイドが嫌そうな表情をしておもわずうめくが。
「女神マーテルというのが、精霊達のいったマーテルと同一ならば。
殺された、それで器がなくなっている。けど精神体は眠っている。
…つまり、まだ成仏…昇天していない、そんなところかしら?
どうしてマーテルが体を失ったのかそのあたりの詳しいことがわかれば、
ユグドラシルが何をしようとしているのかもわかるかもしれないわね」
これまで、いろいろと見聞きした情報をまとめるとすれば、おそらくそこに全ての鍵はある。
「可能性として、おそらくは、コレットの体にその精神体を憑依させ、
そして生き返らせるってとこ、なのかねぇ」
「その可能性が高いかもしれないわね」
そんなリフィルとしいなのやり取りをききつつ、
「そんなことのために…くそっ!」
そんなことのために、コレットは…コレットだけではない。
あの場でみた全てのこれまでの神子達…なのであろう。
あの少女達は皆、殺された、というのか?
そんな…昔に死んだはずのマーテルとかいうやつのためにっ!
思いのまま再びぼすっとソファーをなぐりつけるロイドであるが。
「幽霊…かぁ。たしか他人をのろったり殺したりするようなものもいるってママがいってた」
「いるわね。そしてその思いが強ければつよいほど、その強き思いの魂は魔物になる、ともいわれているわ。
いい例が、クロスボーンとかいわれている魔物ね。
多くの血が流れたという戦場に出没するという戦いの本能のみで動くという亡者。
あとはデュラハン、かしら。強い負の感情を残し死んでしまったがゆえ、
成仏することなく、首のない状態でさ迷い歩くといわれている魔物」
人の死とかかわりがある、とされている魔物はいくつもいる。
「もっとも…エミルがいたらもっと詳しいことがわかるかもしれないけど。
あの子、なぜか魔物に関しては詳しいみたいだから」
そもそも、古代種ともいわれているワイバーンロードすら呼びだすようなエミルである。
おそらく勘ではあるがエミルに魔物のことをきけば
間違いなく正確な答えが得られるであろう。
それは勘。
と。
ヴッン。
そんな会話をしている最中、部屋の扉、であろう自動式であるらしき扉が開く音がする。
思わずはっと身構え、ロイドもまたソファーから立ち上がり、そちらのほうを睨みつける。
警戒態勢をとるロイド達の視線にはいったのは、やはりディザイアン達と同じような格好をしている人物。
その兜によりその表情はわからない。
が、その部屋にはいってきた人物は自らの胸の前にて手を掲げ…
かるく敬礼、のような姿勢をとったのち、ぴしり、と体の体勢も整え、
「御目覚めですか?それでしたら隣の部屋へどうぞ。我々のリーダーがおまちです」
ロイド達にむけてそんなことをいってくる。
どうやら先ほどからロイドが叫んだり、また会話をしていることから、
ロイドが目覚めたことにきづいて、伝令兵らしきものが使わされたらしい。
「どうする?先生?」
「…いきましょう。詳しい話しを聞く必要があるわ」
「たしかに。ここでこのままここにいても仕方がないしね。あ、でも、エミルが……」
「隣の部屋っていうんだから問題ないんじゃないのかい?それか、メモにでもかいとけば」
みれば、机の上にメモ帳にしているのであろう、紙の束のようなものがみてとれる。
その横には羽ペンも。
「そうね。じゃあ……」
そこに、さららさと、隣の部屋にいっています、リフィルがそう記す。
「リーダーがおまちです」
いいつつも、伝令兵らしきものがロイド達をうながしてくる。
そのまま、こくり、とうなづき。
それでも何かあればすぐに対処できるように、
コレットとマルタを中央に挟むような格好。
ロイドとジーニアスが前にでて、マルタとコレットがその中心。
そしてその後ろにリフィル。
これはコレットはそのままにしておけば自分一人では移動できないがゆえ、
マルタが手をひいているからに他ならない。
伝令兵らしき人物に案内され、ロイド達はこれまでいた部屋を後にしてゆく。
隣の部屋に案内されると、そこはロイドにはみおぼえのある部屋。
誰かの執務室、なのであろう。
机と、そして整理された本棚がみてとれる。
そしてその執務机らしきその前に、青い髪にマントをはおった男性と、
幾度か見た記憶のあるボータ、という男性がむかいあっているのがみてとれる。
「…ようやく目覚めたか」
「…お前らがレネゲード、なのか」
以前、ロイドは青い髪の男性とはあったことがある。
この施設に囚われていたとき、牢から逃げ出して入り込んだ部屋。
どうやらこの部屋はあのときの部屋、であるらしいが。
しかし、ボータと名乗っていた人物はあきらかに、イセリアの聖堂にて、コレットを狙ってきていたもの。
ゆえにロイドとて警戒はおこたらない。
「そう、我々はディザイアンに…いや、クルシスに対抗するための地下組織だ」
案内してきた兵らしき人物は、扉の前で別れており、この部屋の中にはいってきたのはロイド達のみ。
ロイド達がはいってきたのに気付いた、のであろう。
何やら話していた彼らがむきなおり、ロイドの台詞に淡々とそんなことをいってくる。
「じゃあ、クルシスとディザイアンは本当に同じ組織なのか!?」
「そんな……」
ロイドの叫びとマルタの茫然とした呟きはほぼ同時。
つまり、これまでつらい目にあっていたのは、全てはクルシス…天界によるものだ。
と彼らの口から証明されたようなもの。
どれほどパルマコスタの人々がディザイアンによって苦しめられていたのか。
マルタはおもわずぎゅっとその手を握りこぶしにし握りしめる。
「その通りだ。クルシスは表ではマーテル教をあやつり、
裏ではディザイアンを統べている。ディザイアンはクルシス下位組織なのだ」
そんな彼らの様子など気にかけるわけでなく、
淡々と彼らにとっては衝撃的な…あるいみでいまさら、ともいえる説明をしているその男性。
「マーテル教はクルシスが世界を支配するために生み出した方便にすぎない。
天使とは名乗っているが、奴らはクルシスの輝石と名がついた、
特殊なハイエクスフィアを用いて無機生命体化として進化したハーフエルフなのだ。
当然、神なのではない。もっとも、マーテル教会も神子もそんなこととは知らないはずだがな」
どこか自嘲じみたような笑みをうかべたのに気付いたのは、リフィルとしいなのみ。
ロイドやジーニアス、そしてマルタは驚きによってそこまで表情の変化には気づけない。
しいなはその事情ゆえに人の表情には敏感になっているが故に気づいたといってよい。
「あいつらもハーフエルフなのかい?」
しいながといかけるあいつら、とはいうまでもなくクルシスに所属しているものたちのこと。
ディザイアン達はシルヴァラントでハーフエルフ達の集団だ、ときいていたので、
今さら問いかけて確認する必要もない。
「ああ。ディザイアンの一部も、クルシスも、そして我々もハーフエルフだ」
そんなしいなの問いかけに答えるはボータ。
この地にやってきて説明をうけたときに出会っている人物。
どこかであったような、とはおもっていたが、
先入観が邪魔をして、ずっとディザイアンの一味だ、とおもっていた。
もしくは世の中には似た人間は三人はいる、というのでそっくりさんか。
また、誰かの顔を複製し変装しているのかもしれない、ともおもっていたが、
どうやらそうではなかった、らしい。
「ハーフエルフ…ね。まあテセアラではあれほど狒狒爺のやつが非情な法律強行してるから
それに反発した組織とかできてもおかしくはないけどさ……」
首をすくめつつそんなことをいっているしいな。
もしかして、彼らがシルヴァラントのことをいったのは、あの狒狒爺へのあてつけじゃあ?
そんなことすらしいなはふとおもってしまう。
クルシスとディザイアンがグルならば、マーテル教の教皇の位置にいる彼がそのことを知らないはずもない。
今、目の前の青い髪の男性は知らないはずだ、とはいうが、
おそらくある程度の地位にいるものは知っていてもおかしはくない、とすらおもう。
「…クルシスは、何が目的なんだ?世界を支配するためだけにこんなことをしているのか?」
「全て我々にきくつもりか?あいつの息子とはおもえんな。
いや、ドワーフに育てられたから、か?少しは自分の頭で考えたらどうだ?」
「何だと?!親父を馬鹿にするな!」
その台詞にロイドが思わず怒鳴り返すが。
その言葉の意味にこめられた内容にはどうやら気付いていない、らしい。
もう少し冷静に考えれば、疑問におもったであろうに。
あいつの息子とはおもえんな。
その台詞に。
「あいつの…?…まさか……」
その台詞にリフィルが何かおもいあたったらしく、はっとした表情を浮かべる。
もし、リフィルが予想していることが正しいとすれば。
それはロイドにとって何と酷なのだろうか。
しかし今はそれを追求する時、ではない。
何よりもロイドには聞かせられない。
生きているかもしれない実の父親がよりによって…ということは。
ゆえにかるく首を横にふりつつもすっと目をとじ、そしてゆっくりと目をひらき、
「女神マーテルの復活、かしら?
マナの血族に神託を下し、その血筋を管理して器となる神子を作り上げている。
かなりまだるっこしいやり方なのがきになるけれど。
おそらくはマーテルにより近いマナの器を創りだすため、違ってかしら?」
もしもそうだとすれば、ロイドにとっては酷といえる。
ゆえにその考えを自分の胸の中のみにしまいこみ、考えていたことを口にする。
マーテルの器。
それがもし死したマーテルを蘇らせるためのもの、なのならば。
精神体を憑依させるために、かつての生前の体にちかしいもの。
それを用意しようとし、それによって産まれたのがおそらくはマナの血族。
そうよばれしもの。
天使が生み出した云々、というのはマーテル教、という宗教の概念に入れ込むため。
血筋を管理し、よりかつての体と近しい人を創りだす。
そんな考えをおもいつき、実行しているそのことに旋律を覚えざるを得ないが。
「ほう。見事ですな」
リフィルの指摘に感心したような声をあげているボータ。
この点に関しては、リフィルの聡明なる見通しに本気でどうやら感心しているらしい。
「…あいつはそんな他者を犠牲にするようなことは望んでいなかった、というのにな。
…ともかく、シルヴァラントには互いにマナを搾取しあうもう一つの世界がある」
どこか遠くをみるような青い髪の青年…ユアンの台詞。
「あいつ、って?」
どこか悲しみを込めたような視線だ、とおもう。
おもわずといかけるジーニアスであるがそれにたいする返事はないまま。
「テセアラ、だな」
ロイドはどうやらあいつ云々、という言葉はあまり気にしていないらしい。
ロイドが気になっているのは、搾取し合うもう一つの世界、という部分。
パラクラフ王廟のあの封印の間にてしいなから聞かされたその言葉のままに、
今、目の前のこの青い髪の人物もそれを肯定するような発言をしている。
「そうだ」
「ジーニアスの問いには無視かい」
どうやらジーニアスの質問は意図的に答えるつもりはないらしい。
ゆえにしいながおもわず首をすくめつつぽつり、とつぶやくが。
そんなしいなの台詞もさらり、と無視し、
「そしてこのいびつな二つの世界をつくりあげたのが、クルシスの指導者ユグドラシル、だ」
「「「「なっ!?」」」」
次にその口から語られたのは、彼らにとっては衝撃的な台詞。
二つの世界を作り上げた。
それは彼らの感覚からしてみれば到底信じられないもの。
そんな彼らの様子をとある場所で視つつ、
あいつはあの時、我らですら思わなかったことを提案してきたからな。
そんなことをふと思うエミル。
今現在、エミルはこの施設の管制室にと出向いており、
周囲にはくたり、と倒れ伏した兵らしきものの姿がみてとれる。
ちなみに全員、眠っているだけ、なのだが。
当然、そんなエミルが何をしているかなど、ロイド達はしるよしもない。
知ることができない。
「世界を…つくる!?ばかばかしい!そんなことできるわけがないよ!」
すかさずジーニアスが反論し、ありえない、とばかりに言い放つが。
「そう想うのならここでこの話しはおわりだ」
いって、そのままきびすをかえそうとし、この場から立ち去ろうとするユアンにたいし、
「いえ。まさか…まさか、そういう、ことなの?あの伝承は…」
「姉さん?」
「堕ちた勇者。…オリジンの加護をうけつつも堕ちた勇者ミトス、まさか……」
幼き日。
いくらリフィルが詳しい話しを聞かされていなかった、とはいえ。
外にでていたときに大人たちが口さがなく噂していたちょっとしたことくらいは耳にしている。
オリジンの加護を受けながら、精霊を裏切ったもの、と。
それは、リフィルがふとしたはずみで勇者ミトスの話題をだし、強く大人たちにいわれたときのこと。
そのとき、周囲にいた別の大人が確かにそんなことをいっていた。
すっかりこれまで忘れていたが。
あの石碑をみて、かつての出来事を思いだした。
忘れていたのは、ここ、シルヴァラントに流されたのち、生きてゆくのに必死だったから。
まだ幼い一歳にも満たないジーニアスをかかえ、生きてゆくのに必死だったがゆえ。
「そうか。お前はしっているか。まあ十ばかりかの地で過ごしていれば知っているか。
そう、ユグドラシルはオリジンから授かった力を利用し、
…そのときに交わした契約すら裏切り、この世界を存続している。それもこんな形で、な」
ユアンも一応は、かの地でおこった騒乱のことは把握している。
これでもユアンはテセアラの管制官という役目をおっている。
そして常にどちらの世界にも手勢のものを配置している。
何かがあればすぐに連絡、情報が手にはいるように。
だからこそ、かつてヘイムダールでおこった騒ぎをユアンは知っている。
「どういう、ことだ?それより、この世界をつくったのがユグドラシル?
なら、お前達はそんな連中相手に何をしようとしてるんだ?
それだけじゃ、ない。お前達はコレットの命を狙ってた。俺のことも、だ。
到底味方とはおもえない。それなのにどうして俺達をたすけたんだ?」
その言葉で通じるのは、この場においてはリフィルとユアン達のみ。
ロイド達には理解不能。
ついでにいえばかの里を負われたとき、ジーニアスはまだ産まれたばかりであったので、
当然ジーニアスも姉リフィルが何をいっているのか理解ができない。
しかし、リフィルと目の前の青い髪の男とのやりとの意味はわからないにしろ、
一つだけはっきりしたことがある。
それは、あのユグなんとか、となのった人物が世界を二つにわけた。
つまり、こんなどちらかが犠牲になるような世界にしたのは、あの男なのだ、と。
なら、そんなとてつもない力をもつもの…本当か嘘か、はわからないが。
しかし、精霊達の言葉もある。
あながち完全に嘘、とはいいきれない。
そんな力をもつものにこのレネゲードとかなのっている彼らは一体何をしようとしているのだろうか。
それに、自分を狙っていた意味もきにかかる。
あのとき、すぐに殺すこともできたであろうに、牢に入れられていたあのとき。
抵抗しようとすれば何か痺れるような感じをうけその場にと気絶した。
傷もほとんどおっていなかった。
攻撃をうけた、という感じすらなかった。
…イセリアの聖堂では完全に殺すつもりでかかってきていた、というのに。
まるで、自分がロイド・アーヴィングだ、とわかったとたん、手の平をかえしたように、
命を狙うわけではない、どちらかといえば生きて捉えようとしているような気がする。
それはロイドの勘でしかないが。
あるいみロイドの本能的…すなわち動物的な勘が働いているといってよい。
「……まんざら馬鹿、というわけではないらしい」
「何!?」
どうもさっきから馬鹿にされているような気がする。
たしかにジーニアス達から馬鹿とよく言われているが、
ほとんど知らない相手にいわれる筋合いではない。
むっとした表情できっとユアンを睨みつけるが、そんなロイドの視線をあっさりとうけとめ、
正確にいえば気にとめるわけでなく、
そのままつかつかと部屋にある机の方にと向かっていき、
背後に机をちょうど背もたれのような形としたのち、腕をくみ、
「我々の目的はマーテル復活の阻止。マーテルが復活すれば世界が滅ぶ」
「「「「「!?」」」」」
滅ぶ。
確かに今、この青い髪の男はそういった。
ゆえにロイド、マルタ、リフィル、そしてジーニアス、しいなが言葉を詰まらせる。
「その為には、マーテルの器となる神子が邪魔だったのだ」
ユアンに続き、淡々といってくるボータの姿。
「滅ぶって…どういう…こと?」
問いかけるジーニアスの声は震えている。
「マーテル様が目覚めれば、世界が救われるって……」
マルタに関しても然り。
女神マーテルが目覚めれば世界は救われる。
そのようにずっとおしえられてきた。
が、今、彼らがいうのが事実だとすれば、救われるのではなく滅ぶ。
たしかにそういった。
「…たしかに救われる、だろうな。彼女の復活とともに失われるマナ。
そのマナの涸渇による世界全ての命の死、という意味をもって」
「「「な!?」」」
死は確かに救いでもある。
全てのしがらみから解放される、のだから。
思いがつよいとその念が世界に残されてしまうことも多々とあるにしろ。
器から解放される、という点ではあるいみで救い、なのかもしれない。
そのときの器に関して発生した様々な事柄から解き放たれる、という意味合いでは。
その感覚は人によりけりではあろうが。
世界全ての命の死。
その言葉はさらにロイド達五人をさらに絶句させてしまう。
「だからこそ、器となる神子を阻止したかったのだが……もっとも、神子は完全天使化してしまった。
今の神子は防衛本能に基づき、殺戮する兵器のようなもの。うかつに手だしはできん」
その台詞におもわずコレットのほうを振り向くジーニアス達。
ロイドのみは動揺しつつも、青い髪の男性をじっとみつめているが。
目の前の男たちがいっていることは信じられないことばかり。
自分達を翻弄するために嘘をいってるんじゃあ?という思いがどうしてもぬぐい捨て切れない。
そもそも、女神マーテルが復活すれば世界が再生される。
それが世界にとっての人々の常識。
「殺戮兵器……」
かの遺跡でみた石碑とおなじことを目の前の同胞たる男はいっている。
同胞、なのだろうとはおもう。
そのマナがなぜか微弱にしか感じ取れないが。
どこかでこのようなマナを感じた覚えがあるが、
あるいみ動揺しているリフィルはそれに気づけない。
それは救いの塔でミトス…ユグドラシルから感じたマナのそれと同質である、ということに。
そんなリフィルの戸惑いを感じとっているのかいないのか、
「しかし、マーテル復活の阻止、という我々の目的を果たすために最も重要、なものは」
すでに、我らが手中にある。もう、神子など…必要ない!」
その言葉とともに、机の上にある何かのベルらしきものをチリン、と鳴らす。
刹那。
それが合図であったのであろう。
幾人かの武装している人物が部屋の中にはいってきて、あっという間にロイド達を取り囲む。
「な、何だ!?」
いきなりのことに狼狽するロイド達に対し、
「我々に必要なのは、きさまだ!ロイド・アーヴィング!」
きっぱりと青い髪の男性がロイドをみつつも言い放つ。
「…俺!?俺がいったい何だっていうんだ……」
そういえば、とおもう。
あのユグドラシルとか名乗っていた人物も自分になぜか執着していたようにみえた。
たしかに面影はあるな、とかいっていた台詞が気になるが。
「貴様が知る必要はない。ロイドを捕らえろ!
が、殺すな!怪我もさすな!生きてとらえるんだ!五体満足でな!でなければ奴をうごかせん!
仲間も同様だ。仲間をうしない、自慰行為で自殺されてはたまらないからな!
ロイド…きさまが、全ての鍵、だ!」
つまり彼らはロイドを殺す気はない、らしい。
というか、奴を動かす。
その言葉でリフィルの中で芽生えていた懸念がよりいっそう信憑性を増してゆく。
封じられた、というオリジン。
あの石板に書かれていた内容。
人がおこしたことは人である自分が云々、のようなことが書かれていた。
かの石碑を残した人物は、かの人物とどうやら交流があった、らしい。
高らかに言い放つユアンの姿。
「大人しく我らに従え」
「誰がっ!」
勢いのまま、ユアンが差し出した手を彼の体を突き飛ばすようにしてはねのける。
と。
「くっ!」
さほど強く力を入れたわけでもない、というのに、その場にとうづくまる。
「ユアン様!?」
「いかん!ハイマでの傷が開いたか!いかなユアン様とてまだ完治していないというのに」
兵士達らしきものの声と、ボータの声。
ロイド達もここにいたり、この青い髪の男性の名がユアンであると改めて知る。
あえていえば、ロイド達の名は知られていたのに、ロイド達は彼らの名を知らなかった、といってよい。
「…くっ。クラトスめ。どこまでも私の邪魔をするっ!」
じわり、とにじむ血は完全天使化しているとはいえ、その治癒がまだ完全に治っていない証拠。
力まかせに振り下ろされたハイマでの攻撃は…振り向きざまに、
それこそ相手が誰かわからないままに降りきったクラトスの剣の攻撃は、
ユアンにかなりのダメージを与えていた。
それこそ普通の生き物ならばそのまま致命傷となり命を落としていたであろう。
もっとも咄嗟的に身をよじり、
致命傷になりえる傷を回避したユアンの咄嗟的な判断もあって、といえなくもないのだが。
「ハイマでの、傷、だと?まさか、あのときクラトスを襲ったのは……」
その台詞にハイマでのことを思い出す。
ハイマにとたどりつき、しいなとともにノイシュのもとにむかったあのときのことを。
あのとき、たしかにクラトスに誰かが攻撃しようとしていた。
そのときの人物…クラトスは暗殺者だろう、といっていたが。
「どうりで他でもどこかでみたような覚えがあったとおもったよ。とにかく、逃げるよ!」
その言葉とともにしいながいつのまにか用意していた小さないくつもの玉をその場に放り投げ、
その球は床にぶつかるとともに、
ぼふんっ!
「な、めくらましか!?」
しいなが投げつけた玉により、部屋の中が煙にと満たされる。
「煙幕、かっ!」
部屋全体を煙が包み込み、視界が一瞬遮られる。
「逃げるよ!」
たしかにしいなのいうとおり。
このままここにいてもどうにもならない。
まずはこの場から逃げ出すことが先決。
「く。逃がすな!」
「だめです。なぜか扉が…っ」
扉をくぐった先にて、何やらそんな声がロイド達の耳にと聞こえてくるが。
ロイド達を追いかけようとするが、自動扉になっているはずの扉がまったく動かない。
まるで電源がおちたか、
もしくはその認識装置がタイミングよく故障してしまったかのごとくに。
「…さて、と」
タッン。
ロイド達があの部屋からでてゆくところを見届けた。
その直後、あの部屋の扉に鍵をかけた。
彼らがあの部屋にと設置されている隠し通路を通り外に出ない限り、
ロイド達はしばらくの間彼らに追われることはない。
「それで、どうなさるのですか?ラタトスク様?」
いつのまにか背後には八柱達の姿が。
「レアバード、だったか?あれをつかい、ロイド達はおそらく、テセアラにいこうとするだろう。――シルフ」
「「「は~いっ」」」
目の前にはいくつもの画面が連なっている装置。
ここはこの設備の管制室。
ゆえにこの場からどの部屋をもみわたせる。
そしてロイド達がどこにいるのか、すら。
というか彼らはあの場から逃げただけで見つからない、とおもっているのだろうか。
自分がここ、制御室でもある管制室を把握しているからいいものの。
「それとなく扉をひらき、彼らをかの地に誘導する。…そのとき、突風にて、彼らをあの地…エグザイアへ」
「では、マクスウェルと?」
「まだあのしいなという娘は四大精霊とは契約をかわしていないがな。
しかし、テセアラにいくのであれば、先に知っておくべきことがあるゆえな」
ロイド達はまだ、リフィルとジーニアスがハーフエルフだ、とは知らない。
あちらにいったのちにそれを知ってしまい、面倒なことになるのは極力避けたい。
それに、とおもう。
リフィルには知ってもらいたい、とおもう。
あのとき、あの扉を開いたのは、切実に子供を思う心が流れ込んできたがゆえ。
――そうでなければ、そう簡単には扉はいくらまどろんでいたとはいえ開きはしない。
「くそ。レネゲードの連中め。敵なのか味方なのかはっきりしやがれってんだ!」
追手の姿がないのを確認し、とりあえず一つの部屋、どうやら倉庫らしい、その部屋にと入り込んだ。
周囲にはなぜか敵の姿はみあたらない。
そのことに余計に不信感を抱かざるをえないが。
まるで、そう、牧場に潜入したあのときのように、敵の姿がまったくないのはこれいかに。
「ねえ。これからどうするの?」
これからどうするのか。
再生の旅はまだ途中。
というか、もし先ほどユアン、となのった人物がいうとおり、ならば。
再生を果たしたのち、コレットが死ぬだけでなく、全てが死滅する。
冗談じゃない、とおもう。
自分達はコレットを、そして世界を犠牲にするために旅をしていたわけではない。
コレットも間違いなくそれを望まないであろう。
自分の命を犠牲にして全てが救われる、そう信じていたっぽいのだから。
そんなジーニアスの問いかけに、
「…そうだな。何とかしてコレットを助けよう。マーテルの器にされちまったらコレットが死んじまう」
「それどころか世界が破滅するってさっきのユアンってやついってたよね」
ロイドの台詞にマルタが顔をふせつつも、ぎゅっとコレットの手を握り締めていってくる。
コレットの手はほんのりと冷たいようで暖かい。
そのぬくもりがまだコレットは生きているのだ、と実感できる。
本当に死んでいればもっと冷たくなっているはず、なのに。
コレットの心臓の鼓動もゆっくり…とではあるが感じ取れる。
ただ、そこに意識が宿っていない、すなわち心が存在していない、というのを除けば。
「でも、ならどうするの?」
そんなジーニアスの問いかけは、これからのことを心配してといってよい。
このままでは、自分達はレネゲード、という彼らにつかまってしまうであろう。
殺すな、といっていたがその言葉がどこまで真実なのかジーニアスには判らない。
ロイドが鍵、といっていたが、ロイドがもつエクスフィア。
あれがいったいどんな意味をもつ、というのだろうか。
エンジェルス計画の結晶
…そう、アスカード牧場でクヴァルというディザイアンはいっていた。
エンジェルス計画。
つまり、言い換えてみればエンジェルスとは天使言語で天使を意味する言葉。
すなわち、天使化計画といってよい。
その集大成…ロイドのもつエクスフィアもコレットのような状態にするもの、なのだろうか。
そんな不安がふとジーニアスの脳裏をよぎる。
「そうだわ。しいな、あなたのエクスフィアはどこで手にいれたものなの?」
いつまでもここに隠れているわけにもいかない。
というか、おそらくこういった施設ならば、まちがいなく管制室、
すなわち制御室のようなものが存在しているはず。
そこで確認すれば自分達の位置などすぐにわかり再び捉えられてしまうであろう。
エミルのほうは…まあ心配していない。
というより、絶対にエミルには手だしができないのでは?
というような思いがリフィルの中にはある。
それは確信。
なぜ、といわれれば何となく、としか答えようがないにしろ。
これからどうすべきか。
そのことを考えている最中、ふとしいなが手にしているエクスフィアに目がとまる。
たしか、テセアラではしいなはクルシスの輝石を研究している、とかいわなかったか。
だとすれば…
「な、何だよ。急に。これはこっちにくるとき王立研究院でつけられたんだよ」
いきなりといえばいきなりのリフィルの問いかけ。
あるいみ脈略も何もない問いかけ。
ゆえに戸惑いつつも、しかし偽る必要もないがゆえに素直にこたえるしいなの姿。
今現在、彼らはこの部屋にある箱のようなものの隙間に身をひそめ、
ちょうど全員がすっぽりと入れるくらいの空間を箱を押して空間をつくりだし、
その中に身をひそめているといってよい。
「テセアラではエクスフィアを装備するのが当たり前なのかしら?」
テセアラのことを聞いてから、しいなが身につけているエクスフィアをみてから。
気になっていたこと。
「そんなことはないよ。もともとはレネゲードからもたらされた技術なんだ。
それを研究して今じゃ、機械にエクスフィアをつけたりするのが一般的、だよ」
そういいつつ、しいなが顔をふせる。
使いものにならない、といって捨てられてゆくエクスフィアが多いのも知っている。
そのエクスフィアが何でもって生成されたのか、真実をしれば、
それは命をそのまま破棄している、ということに他ならない。
昔、祖父がいっていた。
人とは命を犠牲にし、その命の犠牲の上にいきている生き物なのだ、と。
今食べている全てのものに命があり、その命を自分達はもらっていきているのだ、と。
しかし、エクスフィアとされた、彼らは…シルヴァラントの人々は…
繁栄していた自分達テセアラの裏で行われていた真実。
目をそむけることのできない真実。
が、その真実を知ってもなお、おそらく王家はそれを何ともおもわないだろう。
それこそ、…衰退世界の人間の命などいくら死んでもかまわない。
そういいそうな気がする。
でなければあんな非道なる実験を王立研究院にさせているはずがない。
みずほの里の情報もうでしったとある実験。
それは…許せるものではない。
「ん?ちょっとまて。じゃあ、テセアラとレネゲードは仲間、なのか?」
レネゲードから提供された、今、しいなはそういった。
ならば、テセアラとレネゲードも仲間、ということなのだろうか。
クルシスとディザイアンが同じ組織であるように。
そんなロイドの問いかけに、
「仲間…かどうかはしらないよ。
ただ、二つの世界の仕組みについて情報をもたらしたのはレネゲードだったんだ。
神子の暗殺計画も彼らの提案だ、あたしはそう聞いている」
もっともそれは可能性の一つ、として彼らが上げた、のだが。
まさか本当にそれをあの国が実行するかどうかは、あるいみユアンのかけでもあった。
かつて、マーテルが信じた人の心の温かさがまだ残っているのかどうか、の。
もっとも、あの生体兵器を開発したテセアラならば、そして今でも、
人の命を命ともおもわない政策…身分によって人をごみのごとくに扱うあの国ならば、
それを決定するだろう、という思いもあったにしろ。
「あいつらが陛下と教皇に吹き込んだんだ。あのユアンってやつ、
昔からなんでか教皇、そして王家には融通がきくんだ」
しいなはしらないが、それこそ四千年にわたり。
テセアラの管制官、として地上に降り立つこともあった。
それゆえにクルシスから特別監査官のような名目にて自由が許されているといってよい。
それはクラトスにしても同じこと。
「あいつらが、こう吹き込んだってあたしはきいた。
テセアラの繁栄を望むのならば、シルヴァラントの神子を殺せ。ってね」
「…ひどいっ…」
ジーニアスがそんなしいなの言葉に反応するが。
「コレットを?そんな……そういえば、しいなって……」
「ま、こうなっちまってるけどね」
マルタはふと、しいながコレットを暗殺しようとしていた、という言葉を思い出す。
共にいるのですっかりそれを失念していたが。
「あたしはそのためにここ、シルヴァラントに派遣されたようなものだしね。
テセアラを衰退させないために、シルヴァラントの神子を殺すために。
もっとも…あのユアンってやつがいうとおりなら。
…コレットがマーテルの器として、マーテルになったら……どっちの世界も終わりなんだろうけどさ」
全ての命の死という救いをもってして。
そう、ユアンはたしかに先ほどそういった。
つまり、それは世界からマナが失われる、ということに他ならない。
なぜマーテルが復活すればマナが失われてしまう、のかはわからないが。
そんなしいなの説明をきき、しばし考え込むようにしてその手をあごにあてたのち、
「ロイド、私はテセアラにいくことを提案するわ」
「?姉さん?どうしてテセアラ、なの?」
「ユアンと呼ばれていた彼がいっていたじゃない。
天使とは、クルシスの輝石という特殊なエクスフィアで進化したハーフエルフだって。
そして、しいな、あなたは以前こうもいっていたわね。
あなたの国ではクルシスの輝石の研究がされている、と」
「あ、ああ。たしかに」
たしかに、あのとき、風の精霊との契約のときに、たしかにしいなはそういった。
「…そうか!コレットのこの状態もクルシスの輝石のせいか!」
「そっか。あのとき、しいながいってたよね?テセアラなら、もしかしたら!」
もしかしたら、コレットを治せるかもしれない。
それは希望。
あれからいろいろとありすっかり忘れてしまっていたが。
たしかに希望といえる光はそこにある。
「エクスフィアとクルシスの輝石の研究をしているテセアラなら、
コレットのこの症状についてもわかるかもしれない……」
ロイドとジーニアスの交互の台詞に、こくり、とうなづきつつもリフィルがいうと、
「ああ。そいつはたしかに。ものすごくいい考えだ。
たしか王立研究院ではテセアラの神子がもっているクルシスの輝石を研究していたはずだよ」
「え?やっぱりテセアラにも神子がいるの!?」
驚いたようなジーニアスの台詞。
「…きかないどくれ。ともあれ、あたりまえさ。
世界再生の儀式はテセアラでも行われている儀式だ。テセアラにもマーテル教はある」
いいつつも少しばかり首をすくめるしいな。
たしか、以前、恥だとか何とかいっていたような?
ふとロイドはそのときのしいなの言葉を思い出すが。
「あれ?」
「どうかしたの?ロイド?」
「いや、ふと思ったんだけどさ。どうしてそんなに再生を繰り返してるのに。
マーテルの器ってやつは完成しなかったんだ?」
それは素朴なる疑問。
「ロイド!ロイドにしては珍しくいい着眼点だわ。あなたのその考えが、
どうして勉強方面には向かわないのかしら……」
「それについては私も疑問でしかないけども。おそらく、あの救いの塔に並んでいた死体は…」
「……これまでの再生の旅で命を落とした神子様達…なんですよね。あの少女達は…」
マルタがあの光景を思い出し、思わずぎゅっと自らの体を抱きしめるようにいってくる。
「…あれ、か。…あの中にコレットを加えるわけにはいかない」
「そう、だね。でもわからないことだらけ、だよね」
何が真実で何が偽りなのか。
マルタにもわからない。
理解するための材料がとぼしい。
あのユアンと名乗っていた人物がいっていたことが正しいのか、それとも偽りなのか。
それとも彼らの中では、マーテルが復活すれば世界が滅ぶ。
だから神子の命を狙うことが最善である、とおもっているのだろうか。
否、思っている、のだろう。
が、きになるのは。
神子などどうでもいい、と彼がいったあの台詞。
ロイド・アーヴィング。
このロイドに何があるっていうの?
マルタにはそれがわからない。
どこか自分の感情のままにうごいて後先考えないような感じをうけるこのロイドが、
いったい何の鍵、だというのだろうか。
たしかに、あのユアンは、ロイドを鍵だ、そういっていた。
「そうだな。それでなくてもわからないことだらけなんだよな。
クルシスの目的も、レネゲードのことも、コレットを救う方法も。だから、できることからはじめようぜ」
難しく考えていても答えはわからない。
わかっているのは、コレットを救う方法が見出せた、ただそれだけ。
ならばそれにむかって進んでいけばよい。
難しいことは考えていても自分ではわからないのだから、
そのときそのときに状況によって動いていけばいい。
そんなことをおもいつつもいうロイド。
が、ロイドは気づいていない。
その時その時、では時として手遅れになる、ということもあるのだ、ということを。
それでなくてもこの状態に至るまで、幾度かエミルがヒントを与えていた、というのに、
先を考えることなく、目先のことだけを考えた結果、
コレットは今の状況になっているのだ、ということにロイドは気づいてすらいない。
気付くことができない、というべきか。
深く考えることが苦手ゆえの障害。
もっとも幼きころから培われてきた価値観、というのは少しばかりの第三者の意見で、
そう簡単にかわるはずもないのであるいみで仕方ないといえば仕方ないのだが。
しかし、その仕方ない、でコレットが命を落とすところであったのもまた事実。
そして今のような状態になったのも。
ロイド達が無意識、無自覚ながらコレットにすがっていた結果、
今のコレットのありようになっている、といってよい。
そしてコレット。
そのように産まれた、と思いこみ、否、思いこまされ、
死ぬために生かされてきたんだ、そうおもっていたがゆえに、
別の道などおもいつかなかったがゆえの障害。
「あなたにしてはまともな意見ね。でもそれには賛成よ」
「じゃあ、テセアラのいくんだね」
「ああ。今はそれしか道がない。それに今度こそ、俺は俺の責任を果たしたいんだ。
もうコレットに全てを押し付けたりするもんか」
「まってよ。盛り上がってるけど、テセアラにはどうやっていくのさ?」
「それは、しいながしっているでしょう?」
「テセアラへいくには次元のひずみを飛び越えるらしいんだ。
あたしが知る限り、それができるのはレアバードと、
そして王立研究院でいまだに研究されている異界の扉っていうところから、だね」
「レアバード…って、私たちがここにやってきたときにのってきた、あの鳥をかたどった空をとぶ乗り物?」
たしか、彼らはあの乗り物のことをそう呼んでいたはず。
「ああ、あたしはあれにのってこの地にやってきたから間違いないよ」
「?それはどこにあるんだ?」
あのとき、気絶していたロイドはその発着場を知らない。
というか、この場に連れてこられた経緯をロイドは詳しくしらない。
ロイド以外はどのようにしてこの場にやってきたのか、
あの空の旅の中で一緒にのっていた武装しているものたちに、
少しばかりのことを聞かされてはいる、のだが。
「たしか、発着場があるはずだよ。あたしたちもそれにのってここにやってきたんだし。
でも、あの部屋につれていかれるまでは、目隠しされちまったからね」
首をすくめつついうしいなにたいし、
「しいな!みつけたよ!」
ぽふん。
何ともいいタイミングで、しいなの前に煙がぽふん、とたちのぼり、
そのふさふさの尻尾をゆらしつつ、コリンがあらわれそんなことをいってくる。
「コリン?そう、その子に探索させていたのね?」
「ああ。目隠しされた時点でね。ところで、エミルをみなかったかい?」
「え?…あ、うん。えっと……」
もう、疑いようがない。
あのとき、あの傍にいたのはまちがいなくセンチュリオン。
精霊ラタトスクに使えし世界の要ともいえる存在。
だとすれば、あのエミル、となのっている存在の正体は…おのずとみえてくる。
まちがいなく、精霊ラタトスクの関係者。
もしくは、信じがたいが、まさかのまさかで……
エミルから感じるのはまちがいなく全ての命の源ともいえる大樹の気配のそれ、なのだから。
「さっき、この設備の制御室にいたよ?何か調べてたみたいだけど…
あ、そういえば、しいなたちが扉からでたあと、何か装置いじってたけど」
「「・・・・・・・・・・・・・そういうこと(かい)」」
なぜ、あの場所から自分達を彼らがおいかけてこなかったのか。
孤鈴の言葉で判明した。
まちがいなく、エミルが管制室で彼らを閉じ込めるために何か、をしたのであろう。
なぜエミルが制御室なんてものにいっていたのか、はきになるにしろ。
しいなとリフィルの声が重なるが、その意味はロイドにはわからない。
「そうよ、エミル、エミルを探さないと!」
「そうね。…とにかく、エミルがいた場所に案内してくれるかしら?
制御室にいけば、レアバードの発着場もわかるはず、ですものね」
やみくもに探し回るよりは、確実に位置がわかったほうが計画も立てやすい、というもの。
「うん、わかった、こっちだよ!」
いいつつ、先導するように動くコリンの後ろ姿をみつめつつ、
「これからテセアラに移動する。皆もそれでよろしくて?」
確認を込めたリフィルの問いかけ。
「今さら、だよ、姉さん」
「コレットを治せるかもしれないんでしょ?あたしはいく」
「俺一人でもテセアラにいってコレットを治してみせる」
「なら、きまり、ね。しいな、あなたは?」
「まあ、あたしも依存はないさ」
「じゃあ、きまりね」
それぞれがリフィルの問いかけに、こくり、とうなづき。
そのまま孤鈴のあとを追いかけて、隠れていた倉庫らしき部屋から外にとでむく。
目指すはテセアラ。
その前に、まずはこの施設内にあるという管制室にむけて――
「…何、これ?」
部屋からでて外にでてみれば、
所々に倒れているディザイアンの格好をしているものたちの姿が嫌でも目にはいる。
そしてまた、
「…何、これ?」
先ほどまではなかったような気がするのに、何だろう。
何かの小さな胞子?のようなものが至るところにふわふわと飛んでいる光景。
胞子、とおもったのはそのマナの在り様から。
ジーニアスが疑問に思い、空気中にあるそれにと手をのばせば、
それははじけるようにと手が触れた刹那消えてゆく。
孤鈴の先導により、進むことしばし。
奥へ向かうにつれ、そんなレネゲードの一員らしきものたちが、
床にそのまま無防備に倒れているのがみてとれる。
近寄って念のために確認してみるが、どうやら死んでいる、というわけでなく、
全員が気絶、もしくはただ眠っているだけであるらしい。
「何が……」
ロイドにもその光景は理解不能。
まあ、襲いかかられない、という点では確かに助かる、が。
「あれ?リフィルさん?それに皆?」
ふと、とある通路を曲がった時点でリフィル達にとっては聞き覚えのある声が。
「エミル!」
ぱっとその姿をみて目を輝かすマルタであるが、
「……エミル?えっと…その、隣の……」
「え?この子?サツキだよ」
「「「いや、そうじゃなくて」」」
どうみてもひょろり、とした人型のようにみえるそれは、しかしその体全体は緑色。
その頭になぜか華の蕾のようなものがみてとれる。
名らしきものをいうエミルの台詞に思わず突っ込みをいれている、ジーニアス、しいな、ロイドの三人。
「はぁ。また、魔物、なのね?その特性からして、その子はマンドラゴラ、かしら?」
マンドラゴラ。
それは地属性の魔物、といわれ、普段は土に埋まっているが、
その魔物を…土の上にでている花目当てに引っこ抜いたりすると、死にいたる。
とまでいわれている種類の魔物。
似た系統の魔物はいくつか確認されており、その中の一つの種族、ともいわれている。
「え。あ、はい。マンドラゴラのサツキです」
ぺこり。
エミルの言葉にあわせ、ちょこんと頭をさげてくる、サツキ、と紹介されたそれ。
たしか、その魔物の特性に、その花から解き放った胞子によって、
周囲の敵を眠らせたり、また麻痺させる力がある、といわれていなかったか。
だとすれば。
「…エミル。まさか、これはあなたの仕業、なのかしら?」
これ、とはまさに今のありよう。
そのあたりにころがっているレネゲードの一員らしき者達の姿。
そんなリフィルの問いかけに、
「僕はただ、この子にお願いしただけですよ?ちょっとここに元々いた人達を行動不能にしてもらえないかなって」
「「行動不能って……」」
さらり、というエミルの台詞に異口同音でつぶやいているマルタとジーニアス。
みれば、しいなとリフィルにいたっては、なぜかコメカミを抑えているのがみてとれる。
「…頭がいたいわ」
「こればかりはあたしもリフィルに同感」
何やらそんなことをいっているリフィルとしいなであるが。
「?よくわかんねぇけど。こいつらが寝てるの、その魔物の技か何かなのか?」
ロイドはよく理解ができていないらしい。
わかったのは、今のやり取りで、どうやらエミルがつれている、
その緑色の人型をした魔物が何かをしたのであろう、ということのみ。
ロイドは実際、マンドラゴラという魔物をみたことがないのでその実体は知らない。
ジーニアスとて文献でしっているのみ。
噂ではイセリアのディザイアン牧場の周囲に自生しているとか何とか、
そんな話題もあるにしろ、真実を確かめているものはほぼ皆無。
ゆえにロイドの疑問は至極もっとも。
そもそも、魔物が使用する技や術をきちんと把握しているものなど、
しいなが知っている研究室の魔物部門ですらそこまで把握しているかどうか。
「うん。そうだよ。この子達がもつ胞子は
特定のものに対し、彼らが敵と判断したものに対してのみ麻痺、もしくは眠り状態にすることができるからね」
マンドラゴラのサツキより放たれた胞子は、
施設内に張り巡らされている通気口によってこの施設内全てにすでに行き渡っている。
通気口によって行き渡った胞子は、敵とみなしたもののみに反応を示す。
シルフの協力もあり微弱なる風にのって全ての部屋にゆきわたっているがゆえに。
とんでいるこの【何か】に触れると睡魔が襲ってくる、と気付いたユアンが、
その睡眠機能を停止し正気を保った以外、すべてのものは眠りについているといってよい。
レネゲードの人員の中で、天使化しているのはユアンのみ。
ほとんどのものは天使化する手前のハーフエルフ達、
すなわち、クルシスでいうならばディザイアン階級の存在達であることが、
ここにきてあるいみレネゲードにとっては禍しているといってよい。
逆をいえば、眠ったゆえに何の危害も加えられていないのであるいみ幸運、ともいえるのだが。
何しろ他の施設…人間牧場などにいた他のディザイアンとよばれし存在達は、
ことごとくその存在ごと消されて…文字通り、【消滅】させられている、のだから。
ロイドの台詞ににこやかに答えるエミルではあるが、
リフィル達からしてみれば、にこやかにいう台詞じゃない、
そうそれぞれ心の中で思ってしまう。
その思いは、ジーニアス、リフィル、しいながものの見事に一致していたりする。
「さすがエミル!よくわかんないけど!」
マルタはマルタでよく意味がわからないままに、エミルって素敵、
などまたまた自分の都合のいいように解釈しているらしく、嬉々とした声をあげているのがみてとれるが。
マルタにとってエミルが何をしても、全てがすばらしいことにどうやらまだ見えているらしい。
かつてのときもそういえば美化しまくってたな、とエミルはふと思うが。
どうやら今もそのあたりはマルタは変わらない、らしい。
「まあ、後で詳しいことはきくとして。
ところで、エミル、コリンがいうには、あなた、制御室にいっていたそうだけど?」
「え。はい。彼らの目的もわかりませんでしたし。
とりあえず、脱出方法などを探すのなら、制御室を探すほうが早いかな、とおもいまして」
目的はそれだけ、ではないのだが。
一応その目的もあったので嘘ではない。
「なんかいろいろといじってたらリフィルさん達が襲われそうになってたので扉に鍵をかけましたけど……」
「あ。それであのとき、あそこから誰もおいかけてこなかったんだ」
ジーニアスもようやくエミルの台詞をきき、
なぜあの部屋からだれも追いかけてこなかったのかといまさらながらに理解する。
「ここから出るにしても、その退路にあたる道の扉などのパスワード。それらも一応調べてみましたけど」
場所によってはバスワードを入力し、扉を開く設備となっている。
まあ、べつに調べなくてもわかるが、一応、ざっと目を通したということには違いない。
もっとも、ここのメインコンピューターの内部を視て知ったのであり、
わざわざプログラムそのものを呼び出して、というわけではないにしろ。
「そう、なの」
なぜエミルが機械に詳しいのか、という疑問はある。
そもそも普通に生活していれば、機械にふれるようなことはまずない、はず。
もっとも遺跡などに出向き、そこにある古代の遺跡の機械などに触れたりしていれば別。
マナの守護塔のいいまわしからして、おそらくはどこかの遺跡でそのような古代設備。
それらをエミルは経験しているのであろう、そう自らの中で推測をたてたのち、
「…ともかく。それはたすかるわ。エミルとノイシュも合流できたことだし。まずは、発着場にむかいましょう」
「だね。コリン、あんた道はわかるよね?」
「うん!しいなにいわれ、念のために発着場からしいなたちがいる部屋までの道のりは。きちんと調べてるよ!」
ちなみに精霊であるがゆえに、コリンには扉などといった物質的なものは関係ない。
そのままそれらを素通りできるので、扉や壁などは無意味といってよい。
「あ、発着場にいくなら、途中のいくつかの施設がみたところ、
エネルギー不足、とでてたので、途中にあるらしい力の場で、
ソーサラーリングの属性を雷にしてエネルギーを補充しないと道が開かないかも」
「…うげ!?あれか!」
以前、この場につかまっていたときのことを思い出し、ロイドがうんざりした声をあげる。
あのときロイドは一人だけであったので、仕掛けらしきものをなかなか解除できなかった。
「なるほど。機械の電力となるのは雷の力…ヴォルトの力ね。
アスカード牧場でもにた仕掛けはたしかあったわね」
リフィルが少し思い出しつつもそんなことをいってくる。
ついこの前のことなのに、ずいぶんと前のことのような気がしなくもない。
「とにかく、先にすすみましょう。…皆が起きないうちに」
今は寝ている彼らがおきてしまっては脱出するのもできなくなってしまう。
そんなリフィルの言葉にこくり、とうなづきつつ、
「じゃあ、いきましょう」
「だね。コリン、案内をたのむよ」
「まかせて!しいな!」
互いに互いの顔をみあわせつつも、そのままコリンの案内のもと、
レアバードの発着場がある、という部屋に向かってゆくことに。
とある部屋にとある力の場ともいえる装置にて、
ロイドが手にしているソーサラーリングの属性を雷にとかえ、
それぞれのコルクに電力を充電し、道を切り開いてゆくことしばし。
仕掛けを解除し、地下へと続く階段を出現させ、床に倒れているレネゲード達。
『ロイド・アーヴィング達を捕らえろ!』
どこからともなくユアン、と呼ばれていた人物の声が、天井付近から聞こえてきているが。
ユアンは知らない。
施設の中にいる全ての一員が全員眠ってしまっている、ということに。
だからこそ、そのような命令を下している、のだが。
スピーカーからもれるその声をきいているのは、おきているロイド達のみ。
「この先だよ!」
「…どうやらあいつは皆が寝ているのに気付いてない、みたいだね」
スピーカーらしきものから聞こえてきている声。
首をすくめつつそうつぶやき、
「今のうちにレアバードを手にいれよう」
追手達がこない、というのは助かるが、しかし油断は禁物。
コリンがいう発着場がある、という部屋の前。
おそらくは見張り、なのだろう、二人の鎧を着込んでいるレネゲードの一員、
とおもわしきものがその場にて倒れているのがみてとれる。
そっと確認してみれば、やはり彼らもまた眠っている模様。
「いきましょう」
しいなの言葉に、リフィルもうなづき、コリンのいう部屋の奥へ。
格納庫、兼発着場になっているその部屋は、設備の地下にと位置している。
扉の前には小さな箱、らしきものがあり、その箱には文字らしきものが。
「これは、パスワード、ね。エミル、わかるかしら?」
「え?あ、はい」
リフィルにいわれ、エミルがその文字盤を入力するとともに、
シュイン。
目の前の扉が開かれる。
部屋にはいるとすぐ目の前に大きな画面がいくつかみえ、
そしてその前におそらくはコントロールパネル、なのであろう。
壁際にも機械がさまざま設置されており、
部屋にはいって左側の壁はほぼ一面が何かのスクリーンのようにとなっている。
「おそらく、これね」
ディスプレー表示に表示されているのは、先ほどのってきた乗りものの姿。
リフィルがそれをみつつ、その前にとたち、
「間違いないよ。リフィル、あんたはそっちを頼むよ」
「まかせて」
どうやら一か所、ではなく同時に二か所で操作する必要性、があるらしい。
しいなとリフィル、二人してそれぞれパネルを操作するとともに、
ロイド達の目の前の床が開き、その下から何か、がせり上がってくる。
それとともに、目の前の壁が開かれ、先につづく道が出来上がる。
おそらくは滑走路替わり、なのであろう。
障害物も何もない道。
せり上がってきた乗りものは、翼を閉じた状態であり、いうなれば、鳥が翼を休めているかのごとく。
「こいつが…レアバード?」
ロイドがそれをみてぽつり、とつぶやく。
「そっか。ロイドは気絶してたからこれをみたことがないんだよね」
ジーニアスがふと気付いたようにいってくる。
「ここまで、この乗り物で私たちつれてこられたんだよ?」
そんなジーニアスにつづき、マルタもそんなことをいってくる。
「どうやら、二人は乗れる、みたいね。コレットをどうするか、だけども……」
「ノイシュもだよ。姉さん。どうする?」
ざっと確認したところ、どうやらこのレアバード、という乗りものは、
基本、一人から二人乗り、であるらしい。
コレットの今の状態では、コレットがこれに乗れるはずもない。
「目的地設定はこっちでどうやら自動操縦にできるみたいだし。…よし、目的地、テセアラのメルトキオ。
これであんたたちがわざわざ操縦桿で操作しなくても、
乗り込めば勝手に目的地にこれがつれていってくれるはずだよ」
しいなが、壁際にあるコントロールパネルをぱちぱちと操作しつつ、レアバードの設定をざっと変更する。
手動から自動操縦へ。
リフィルならばいざしらず、おそらくロイド達は操縦の仕方がわからないであろう。
それゆえのしいなの行動。
「今、私たちは、私にしいな、ジーニアスにロイド、マルタにエミル。
そしてコレット、さらにはノイシュ、だとすれば、四機が無難ね」
「空を移動するのだから、ノイシュとロイドは一緒のほうがいいでしょう。
ノイシュがパニックになって乗り物から落ちないように」
「…しょうがないなぁ。…こいつ、たしかに怖がり、だしな」
リフィルの台詞にロイドが頭をかきつつも、素直にうなづく。
たしかにノイシュに慣れていなければ、パニックになったノイシュをおとなしくさせる、
それは難しいであろう。
下手をすればノイシュの巻き添えをくらい、空からおちたりしたら洒落にならない。
「でも、しいなが自動操縦設定にしてくれたのなら。他は一人一台、でもいいかもしれないわね」
「あ、私はエミルと一緒にのる!絶対にのる!」
マルタがすかさずそんな意見をいってくるが。
「コレットは私が連れていきます。じゃあ……」
ロイドとノイシュ。
マルタとエミル。
リフィルとコレット。
そしてしいなとジーニアスはそれぞれ一機づつ。
「五機、でいいわね」
ぴぴっとリフィルが操作するとともに。
ぴっ。
【入力を確認しました。機体を五機、それぞれ乗員は位置についてください】
ぴ~、ぴ~
【レアバードが発射します。レアバードが発射します。
対象の場にいるものはすみやかに退避してください。繰り返します…】
無機質な機械音がその場にと響き渡る。
「なら、先にロイド、あなたがノイシュとともにいきなさい」
「あ、ああ。よっしゃ、まってろよ、テセアラ!!」
尻ごみしているノイシュを何とか機体にのせたのち、
ロイドもあらためて機体にのりこみ操縦桿を握り締める。
それとともに、閉じられていた翼が開き、
シュイイン…音とともに、一気にレアバードの機体そのものが加速する。
通路を滑べり、滑走路を兼ねている道を通り抜け、機体はそのまま勢いのまま外にと飛び出してゆく。
「私たちもいきましょう」
ロイド達がのった機体が完全に外にでるとともに、再び別の機体がせり上がってくる。
それは安全装置。
万が一、ぶつかったりして事故がおきないように、
完全に外にでたのを確認し、次なる機体が格納庫からせり上がってくるように設計されているらしい。
リフィルの言葉をうけ、それぞれがせり上がった機体にと乗り込んでゆく。
外にでると砂漠特有の熱さが感じられるもののそれはほんの一瞬のこと。
「五機全部がそろったら移動するように設定してるから…あれが次元の扉、だよ!」
みればロイドの背後にそろった他の四機なるレアバード。
しいなが叫ぶその先には、青い空にぽっかりと開いた黒い穴。
黒い穴の先の空間は何ともいえない空間。
右も左も、そして上下すらもわからない空間。
強いていうならば、まるでそれは深い海の中のようなそんな空間。
時折、バチバチとした雷のようなもの、なのだろうか。
真っ暗な空間の中、いくつかの稲妻らしきものが走っているのがみてとれる。
やがて、その先に明るい穴のようなものがみえてきて、
レアバードはそのままいっきにその穴にむかって突進する。
「ぬけたっ!」
「うわっ、サムっ!!」
抜けるとともに感じる冷たい風。
おもわずジーニアスがそのあまりの外気の冷たさに叫んでいたりするものの、
「…え?…雪?」
マルタがエミルにしがみつきつつも…下を見下ろしつつも茫然とつぶやく。
先ほどまでたしかに砂漠地帯にいた、はず、なのに。
眼下にみえる景色は一面、雪景色。
「無事にフラノール地方についたみたいだよ」
しいながそんなジーニアスの横を平行して飛びながらそんなことをいってくる。
「…フラノール?」
そんな地名はジーニアスは聞いたことがない。
「フラノール?たしか、かつて呼んだ文献に…ひっかり蛙の生息地。とよんだ記憶があるけども……」
そんなしいなの台詞がきこえたらしく、リフィルがそんなことを呟くが。
「…なあ、そんなことより」
ロイドがふと目の前にありえないものをみつけ、ぽつり、とつぶやく。
「何?ロイド?」
「…俺の気のせい、かなぁ?あれ?」
どうみても海の上に…水が渦をまいている。
「た、竜巻ぃぃぃ!?」
「お~、あれが竜巻っていうやつなのか」
ロイドの言葉にジーニアスもそれ、にきづいたらしい。
みれば、いくつもの風の渦が海面から上空にむけて、否、上空から海面にむけて、というべきか。
ともかくいくつもの風と水を含んだ柱らしきものが彼らのゆくてを阻んでいる。
「ロイド!何のんきなことをあんたはいってるのさ!」
そんなロイドにたいし、しいなが思わず突っ込みをいれているが。
あるいみでしいなもまた混乱しているらしい。
「ちょっとまって。しいな、これ自動操縦になってる、といってたけど……」
「このままじゃ、この機体はあのままあの竜巻につっこんじまうよ!」
「手動にきりかえなさい!」
リフィルとしいなのやり取りをうけ、
「切り替えるって、姉さんっ!」
ジーニアスが叫ぶが、どうすればいいのか、という指示もなければ、
みたこともない機械のようなものをどうにかしろ。
といわれてはいそうですか、とすぐにできるはずもない。
そうこうしている最中も、レアバードはそのまま竜巻に向かっていき、
そして。
『うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』
そのまま翻弄されるかのように、機体はそのまま竜巻の中にと吸い込まれてしまう。
竜巻とともにみれば、なぜか晴れている、というのにも稲妻が周囲に発生している。
「メーターが!?」
しいなのあせったような声。
「いけない!おそらくは、雷の影響で機械が狂ったんだわ!」
リフィルもそれにきづき、機械を操作しようとするが、
全てのメーターはぐるぐるとまわっており意味をなさない。
また、操作すらもうけつけない。
「ってどうなるのさ!?」
ジーニアスの焦ったような声。
「皆、しっかり操縦桿を握ってなさいっ!」
『って、うわぁぁ!?』
リフィルが叫ぶのとほぼ同時。
エミル以外の全員の叫び声が同時に重なり、
レアバード五機の機体は、そのまま竜巻の中に吸い込まれるようにと消えてゆく。
「…ってえ。どうにかたすかった…のか?」
「ここ…どこ?」
空気が冷たい。
「・・・ねえ。気のせい…かな?…なんか下に……」
ふと気付けば、どうやら竜巻に巻き込まれ、どこかに不時着、したらしい。
ざっと周囲をみれば、五機のレアバードが墜落、したのか。
その場に放り出されているのがみてとれる。
そしてその衝撃で放り出されたのであろう、皆の姿が周囲に横たわっている姿すら。
頭をふりかぶりつつも起き上がりつぶやくロイドにたいし、
マルタが茫然と、何かに気付いたらしくそんなことをいっているが。
「…燃料数値がゼロになってるよ……」
同じく頭をふりかぶりつつ、目覚めたしいなが着陸しているレアバードにと近づき、
その機体を確かめ初めているのがみてとれる。
「って、燃料がなければとべないじゃん!」
しいなの台詞にジーニアスが思わず突っ込みを入れざるを得ない。
燃料がなければどうにもならない。
ジーニアスにもここがどこかもわからない、というのに。
「?燃料って、石炭、か?」
ロイドが首をかしげつつつぶやけば、
「っててて。あのねぇ。あんたたち。そんな古くさいものこっちじゃ使ってないよ」
あきれたようなしいなの台詞。
他の機体ならば、とおもい確認してみるが、
どうやら他の機体の燃料の数値も全てがゼロ、になっている。
おそらくは竜巻に巻き込まれた衝撃か、
はたまた竜巻とともにあった落雷の影響か、それはしいなにはわからないが。
電源をいれてみるがうんともすんともいわないことから、
下手をすれば内部の機械そのものが感電し壊れてしまっている可能性も否めない。
「それなら魔力ね。雷のヴォルトが生み出す雷のマナかしら」
「じゃあ、しいながヴォルトを呼び出せばいいんじゃないの?」
「あ、あたしは…ヴォルトとは契約してないから……」
「そうか。とりあえずじゃあ、これはここにおいとくしかないか」
「みたところ、壊れてはいないよう、ですものね。…それにしても、ここは……」
「ええ!?姉さん!?ここ、かなり高い位置にあるみたいだよ!?
眼下に雲らしきものがみえる!?それに…あれは…海?」
ここがどこなのかきになり、周囲をざっとみてみれば、
端っこのほうにいくと崖のようなものになっており、その先の足場はない。
ゆえにそっと覗きこむようにしたジーニアスが驚愕の声をあげる。
「嘘…だろ?」
ロイドも気付いた、らしい。
視界の先にうつる、途切れた足場の先にみえる青い何か。
それが海である、ということに。
冷たい風がふきぬける。
自分達の足元をすりぬけてゆく白い何か。
霧のようなそれ。
そして、すぐ手を伸ばせば手がとどくほどの位置にもみえる白い塊。
さらに、視線を周囲にむけてみれば、自分達がいる場所と並行し、
どこぞでみたような何かがういて、いるのがみてとれる。
あるはずのものがそこにはない。
普通ならば、どこまでもつづく大地か、もしくは海、のようなものがみえるはず、なのに。
ジーニアスの呟きに、ロイドもまた自分達が今いるその場所の端っこにとむかってゆく。
ひゅう。
風が吹き抜ける。
おもわず、ごくり、とノドを鳴らしてしまうのは、おそらく気のせいではないであろう。
「珍しい。お客さん?」
ふと、少女のような声がきこえ、思わず振り向くロイド達。
そこには金の髪の少女の姿がみてとれる。
「うちの爺様にいわれてきたみたら、本当にいたよ」
何やらそんなことをいってくるが。
金の髪に紫いろっぽい赤みをおびたその瞳。
服装は胸元、そして腰に布らしきものがあり、
それらを皮のベルトのようなものでつないでおり、
首には青い宝石のようなものがはめられた皮のそ装飾品をつけている。
きりっとしたような顔立ちは、一瞬、呆けてしまうほど。
その腰には剣のようなものを携えており、おそらくは少女の獲物、なのであろう。
布のようなものでつくられた靴はロイド達にはみたことのないもの。
年のころは二十歳前後、といったところか。
そういえば、センチュリオン達にマクスウェルと繋ぎをとったとき、今、ヒトの子を育てているとかいってたな。
ふとエミルはそんなことを思い出すが。
気配は人のそれ。
が、微弱ながらマクスウェルのマナを感じる、正確にいえばマクスウェルの加護の力を。
「あ、あの、ここは…」
マルタの問いかけに、
「?しらないのか?ここは、わすられた地。エグザイア。飛空都市、とも呼ばれている」
「え?それって、たしか伝説の……」
その少女の台詞にしいなが一瞬絶句する。
それはまことしやかに噂され、テセアラでも力をいれて探している地の名前。
「まさか、ここは伝説の飛空都市エグザイアかい!?」
驚愕したようなしいなの台詞。
「?何それ?」
ジーニアスにはその言葉の意味はわからない。
「伝説の一つだよ。世界のどこかを漂っている、といわれている。最後の楽園、飛空都市エグザイア」
そんなジーニアスに答えるしいな。
「珍しいな。人とハーフエルフ。それに…?」
加護をうけているがゆえに、エミルの気配に気づき、思わず首をかしげてしまう。
彼らのやり取りをききつつも、
ざっとその場にいる人間達を見渡しそんなことをいってくる。
「?ハーフエルフ?何いってんだ。ここにはそんな奴いないぞ?」
その台詞にロイドが首をかしげ思わず突っ込みをいれるものの、
「何をいう。そこの人間は。そこの姉弟、だろう?よく似てるからな。
そのものたちはどうみてもハーフエルフだろうが」
淡々といわれる少女の台詞。
「ち、違う、僕たちは…っ!」
あせったようなジーニアスの台詞。
「?ジーニアス?」
「――そうよ」
「姉さん!?」
姉が肯定したのをうけ、ジーニアスが驚愕の声をあげる。
もし、ここがエグザイアだ、とするならば。
かつて母からきいたことがある。
ハーフエルフ達にとっての最後の楽園。
安住の地、と。
「先生?」
ロイドはリフィルが何をいっているのかわからない。
「あんた…リフィル。まさか、とはおもってたけど、あんたたち、やっぱり……」
しいなの戸惑いの声。
「今さら隠していても仕方のないことだわ。いずれは判ることですもの」
「でもっ!」
「…嘘、だろ?だって、先生とジーニアスはエルフだって……」
ロイドの戸惑いの声。
そしてはっときづく。
これまで、ジーニアスとのやり取りで、
ハーフエルフの話題になったとき、ジーニアスはあきらかに動揺していなかったか?
だとすれば、本当に?
ロイドの中で不安がよぎる。
ハーフエルフ、そう聞いただけで、一瞬身がまえそうになってしまう自分自身。
けどそれは間違っている。
いつも自分がそういってるじゃないか。
そう自分自身に言い聞かせる。
いつも口では関係ないようなことをいっておきながら、
いざ自分にかかわってくると、俺って本当にダメなんだな。
そんな自覚を嫌でも認識させられてしまう。
ジーニアスとリフィルの態度からそれは間違いのない事実、なのだろう。
二人がハーフエルフ。
名も知らぬ少女から告げられた、ロイドにとっては衝撃的な事実。
何をいえばいいのかわからない。
ゆえにことばにつまるロイドとは裏腹に、
「そっか。リフィルさんとジーニアスってハーフエルフだったんだ」
「?マルタは驚かないのかい?」
さらり、という台詞にしいながマルタにと問いかけるが、
「何で?だって種族とか関係ないでしょ?それに、私の親友もハーフエルフだし。…無事ならいいけど。
前、旅業にでたっきり連絡がつかないんだ……」
沈んだようなマルタの台詞。
マルタが家族と旅にいくその少し前、家族と旅にでる、といった彼女。
それからずっと彼女とは連絡が途絶えている。
「ママもよくいってるし。心に色はない。差別をうむのは人の心だ、ってね」
人に直接裏切られたり、周囲に守られて生きているがゆえのまっすぐなマルタの心。
エミルは知らないが、かつてのマルタはその心は、
大樹の暴走によって母が死んだことにより、その決いは歪められている。
差別をするのは人の心。
その考えを否定していたわけではないが、しかしロイド達を許せなかったのも事実。
神子が再生の旅から逃げ出したからそのようになった、そう聞かされていたがゆえ。
そして、パルマコスタのロイド…それはデクスによるソルムの幻影を纏った襲撃。
であったが、ロイドの血の粛清、により当時のマルタの再生の神子一行に対する思い。
彼らに直接会うまでは最悪だった、といってよい。
しかし、今のマルタはそのような経験はしていない。
マルタの言葉にロイドもはっと我にもどる。
そうだよ。
先生とジーニアスがハーフエルフだからって。
それがどうしたっていうんだ?
先生は先生、ジーニアスはジーニアスだろ?
俺って…少しでも動揺したのは馬鹿だよな。
ロイドがそんなことを思うのとほぼ同時、
「そうかい。たしかに。ね。世の中で一番怖いのは人の心…だよね。
しかし…あんたたちがそうなら、絶対にこの国の存在達に気づかれるんじゃないよ?
いいかい?気付かれたら最後、あんたたちは間違いなく処刑…もしくは捕らえられちまうからね。
あんたたちとともにいるロイド、あんたたちもだよ」
しいなの忠告。
テセアラではハーフエルフとともにいた、また匿っていた、というだけで罪となり、処刑となりえる。
それゆえの忠告。
しいなもハーフエルフに嫌悪感を抱いている、わけではない。
むしろ、しいなが召喚の術をもっている、そう知り、他のものはしいなを避けるようにしたというのに、
あの地にいたハーフエルフ達はそうではなかった。
まだ子供であったしいなにとてもよくしてくれていた。
ゆえにしいなの中にはハーフエルフだから、という嫌悪感はないといってよい。
「愚かだな。人とは。まあいい、爺様がお前達がやってきたのにきづいて、
ひとまず町長のところにつれていけ、といわれてたからな」
そんな彼らのやり取りを冷めたような視線でみつつ、淡々といってくる金髪の女性。
年のころはおそらくは二十歳よりも前。
身長は百七十よりも少しした、といったところか。
腰に片手をあて、何かあってもすぐに対処できるように、であろう。
もう片方の手はつねに剣にと添えられている。
「何だよ。それ」
しいなの台詞に思わずロイドがくってかかるが。
「前にもいったとおもうけど。あんたらのシルヴァラントとテセアラは違うんだよ。
こっちじゃ、ハーフエルフは身分制度の最下層。ハーフエルフの罪人は例外なく死刑。
またハーフエルフってだけ、でも国に捕らえられる。
そして、適合検査をうけてその結果、仕えそうなハーフエルフ達は、
王立研究院に死ぬまで、実験体、として拘束されるのさ」
吐き捨てるようなしいなの台詞。
「何だよ…何だよ。それ!先生は先生、ジーニアスはジーニアスでしかないのに。
何だよ、それ、ハーフエルフというだけで…ふざけてるだろ!それ!」
「あんた、前にもいったよね。そんなこと。ああ、そうさ。ふざけまくってる。
けどそんなふざけた法律が、あたしの国…テセアラではまかり通ってるのさ」
そしてそれを国王自らが認めてしまっている。
まあ、あの国王のこと。
自らの娘を禁忌だから、といって海に捨てるような父親、である。
人の情とかあるのか、とそういいたい。
しいなとて、その事実をしったとき…みずほの里に所属していたがゆえにしったというか、
かの施設の中でそれを知りえたときには唖然としたものである。
なぜ、産まれたばかりの子供を海に捨てる、などしたのか。
まだ他の場所、しいなのように森の中、とかならば、
誰かに拾ってもらって助かっていた可能性もあった、であろうに。
「愚かな。法とは所詮人がつくりだせしもの。
愚かな人がつくりだせし法律に振り回される民草もまた哀れとかいうしかないな。
そのものたちはどうやらハーフエルフではなくエルフだ、と偽っていたようだが。
おそらくは、そんな人間達に迫害されないための方便、だろう」
人はいつの時代も自分達の都合のいいように法律、という楔をつくりだす。
そしてそれがいくら間違っている、とおもえども、
法律だから、という理不尽な理由にて、反発したものが罪にとわれる。
何とも愚か、としかいいようがない。
淡々という金髪の女性の言葉におもわず同意するようにうなづくエミル。
「そういえば、あんたは?何かさっきあたしらを迎えにきたようなことをいってたけど」
これ以上、ロイドにいってもこの子はおそらく理解できないんだろうね。
そんなことをおもいつつも、しいなは話題を目の前の女性にふる。
「これは申し遅れたな。私はミラ。ミラ・マクスウェル」
「…マクスウェル!?それって四大元素を統べる精霊の名じゃないかい!?」
さらり、と名乗った金髪の少女の名。
その名…ファミリーネームにしいなが驚愕の声をあげるが。
「私にいうな。文句があるならうちの爺様にいえ。
じい様は自分が名乗るのだから問題ない、といって堂々とその名を名乗っている」
しいなの驚愕の叫びに淡々とこたえる、ミラ、となのったその女性。
まああるいみで当事者なので問題はたしかにない、ないが。
…マクスウェル、養い子にもその名を名乗らせてるんだ。
思わずエミルはその台詞をきき遠い目をしてしまう。
そういえば、ミトスと契約したのち、
ミトスに孫になってみるか?とかいっていたような気がひしひしと……
ウンディーネやシルフがこぞって反対していて、拗ねていた光景をふと思い出す。
しかも、反対されたのなら、せめて呼び名を、といって、
…ミトスには諦めきれなかったのかマクスウェル爺ちゃん、と呼ばせていた。
…ああ、諦めてなかったのか。あいつは。
思わずそんなことを思い出し、ため息をつくエミルは間違っていない、であろう。
「ミラっていうんだ。私はマルタ。マルタ・ルアルディだよ。よろしく」
「うむ。よろしくされた」
いいつつも、なぜかしっかりと手を握り合っているマルタとミラの姿がそこにある。
そんな彼ら…マルタ、ミラ、しいなの姿とは対照的に、
「先生…ジーニアス?」
ふとロイドが二人が黙っているのがきにかかり、思わず声をかけるが。
「…そう。だよ。僕と姉さんはハーフエルフさ」
うなだれたようなジーニアスの表情はロイドの目からはみえない。
その長い髪がジーニアスの顔をおおいつくし、その表情の変化はみえない。
「何で、嘘をついてたんだ?」
イセリアの人々も彼らをエルフ、そう信じこんでいる。
今の今までロイドとてそうだった。
それとなくこれまでの旅でエミルがそのようなことをにおわせていた発言にも、
ロイドは自分には関係ない、とばかり気にかけてもいなかった。
あるいみで、自分に関係ないことは綺麗に忘れる。
それはロイドの特技、というか悪い欠点。
何しろその特技もどきは勉学にも影響、しているのだから。
「…その、ミラっていう人のいうとおりさ。迫害されたくなかったんだ。ロイドはわからないでしょ!?
それまで仲良くしてたひとも、ハーフエルフだ、とわかっただけでそれだけで追い出され!
嫌悪される僕らハーフエルフの気持ちは!僕も姉さんも、ずっと安住の地なんてなかった!
だから…だから…せっかく仲良くなれたロイド達に…
……僕は自分がハーフエルフだ、と知られて嫌われるのが怖かったんだ!」
迫害されるのはもう、しかたがない。
けど、仲良くなった子に差別的な視線を向けられるのは、ジーニアスにはもう耐えられなかった。
だからこそ、姉のいうように、エルフだ、とそう偽った。
「僕が、ハーフエルフだってわかったら軽蔑される、そうおもって、それで……
なくしたくなかった。暖かな場所を。だからっ…っ」
これまでもそう、だったのだから。
どんなに仲良くなっていた子達ですら。
よくよくみればジーニアスの体は震えている。
まさかここで自分達の正体が暴露される、とは思っていなかったらしい。
「…だから、嘘をついてたのか?……ドワーフの誓い、十一番。うそつきは泥棒の始まり」
ぴくり。
ロイドの台詞にジーニアスが肩を震わせる。
けど、
「……たしかにシルヴァラントじゃハーフエルフは嫌われてる」
その理由は、ディザイアンにある。
彼らがハーフエルフだ、という理由と、マーテル教のおしえにある愚かなるもの。
それがハーフエルフという存在達だ、といっているがゆえ。
マーテル教のおしえにどっぷりとつかった人々は、
それだけでハーフエルフだ、というだけで忌諱してしまう。
そうでないものもいるにはいるが、それを表だって口にすれば、
マーテル教によって異端、とされ捕らえられ、もしくはその地からの追放処分を下される。
びくっ。
ロイドの言葉にジーニアスの体が再び二度目の震えを伴う。
「俺だって…ディザイアンは母さんの仇。
そう聞かされて、ずっと許せない、そうおもってる。仇をうった今、でも。
…ディザイアン達みたいなハーフエルフなんて大っきらいだ」
現況となったクヴァルと名乗りしディザイアンは殺したが、
しかし、だからといって許せるか、といえば答えは否。
何よりも許せないのはロイドにとっては自分自身。
彼のいうのが本当だとして、まだ幼かった自分が母を追い詰めてしまったようなものなのだから。
自分が人質に取られてしまったがゆえに、母は…そして、父ですら、
誰も好きこのんで大切な人を手にかけたい…殺したい、などとは思わないはず。
母とて、そう。
自分を殺そうとした、そうあのクヴァルはいった。
怪物になり、子供を食い殺そうとした、と。
そのことを思い出し、顔をふせるロイドをみて、
ああ、やっばり。
ロイドの台詞をきき、ジーニアスは絶望感に囚われる。
ジーニアスはよもやロイドが母達のこと、クヴァルにいわれたことを思いだしている、
そうとは夢にはおもわない。
自分のことを考えている、そう捉えてしまう。
ロイドもやっぱり口では種族とか関係ないようなことを他人にはよくいっていたけど、
やっぱり皆と同じ…他の人間達とかわらなかったんだ。
そんな絶望感。
ロイドなら受け入れてくれる。
そう思っていた。
けど。
やっぱり…ジーニアスがそう自分の中で絶望しかけたその刹那、
「でも…先生は俺の先生で、ジーニアスは俺の親友だ。
奴ら…ディザイアン達や、あのユグ何とかって名乗った奴らとは違う。
ハーフエルフとか…そう、種族とか関係ないさ。差別するのは人の心。
エミルやそこのマルタ達のいうとおりさ。種族で人を差別するのは間違ってる。そんなの…
劣悪種とか何とかいって人を見下してあげくは実験体にしてるディザイアン達と何もかわらないっ!」
自分を見直しておもった。
自分に直接かかわる出来事が起き、今ならば理解できる。
だからこそのロイドの台詞。
口先だけではなく、きちんと心から、今度はそういえる。
これまでいっていたのは口先だけでしかなかったのだ、ということすら。
本当にいつも俺って間違えてばかりだったよな。とも。
コレットを守る、といっていたのにそれは口先だけで。
コレットにすがった結果、よく考えずに進んでいった結果が今のコレットの在り様。
もう、間違えたくない。
だからこそ間違えないために、確認をこめてロイドは叫ぶ。
叫ばずにはいられない。
ジーニアスと先生は彼ら…ディザイアン達のような輩とは違うのだ、と。
そして自分自身に活をいれるためにも。
「人間は、自分の知らないことに対し、それを排除しようとする、からね。
それこそどんな理由をつけてでも。差別だけじゃない、迫害、削除。
…そして、全て自分達と違うんだから、彼らが全ての諸悪の原因だ。
と勝手にその責任をおしつけて、彼らに責任を負わそうとする。
…かつての魔女狩りでもそう。あれはそれにあわせた権力の亡者達がしでかしたことだけどもね」
自分達が手にいれたい存在にたいし、異端扱いをし、おもいっきりねつ造した異端尋問。
とは名ばかりの、刺せばたとえば先がへこむ針などをつかい、
傷がつかなったからこいつは魔女だ、悪魔だ、などといって処刑していた人々。
あまりにあの光景がひどかったので、とある病気をはやらせ、
そしてまた、あまりにひどい場所は海にと沈めたかつての記憶。
そういえば。
この姿の元となりしアステル・レイカー。
彼もまた、そんな自分とは違うものが認められない人間達のあるいみで被害者であった。
と今では思う。
何しろ実の両親にすら研究室に売られた形にて、彼は王立研究院に所属するようになった、というのだから。
かつてリヒターがいっていたのは、
優秀すぎる頭脳から父親が母親の不義を疑い、そして母親は、この子は自分の子ではない。
ぽつり、とかつてアステルがたまたまよったときに、そうもらしたことがある。
とあの千年の間にてリヒターから聞かされた。
ぽつり、とつぶやくエミルのその意味を正確に捕らえられるものはこの場にはいない。
強いていうならば、エミルの横にいるセンチュリオン達のみといってよい。
すでにクラトスがいないがゆえに、姿を消した状態で、常にテネブラエが今現在、その横に控えていたりする。
そんなエミルの言葉に思うところがあった、のであろう。
「どれだれ高尚な道、その決意、というものを説いたところで人はかわらない。
それはうちの爺様のくちぐせではあるけどな。
おそらく、お前がいいたいのはそういうこと、なのだろう?」
エミルの台詞に追加するようにミラがいってくる。
何だろう。
見たこともない気配のものが傍にいる。
精霊でも魔物でもない。
が、しかし、何となく判る。
彼らは自然になくてはならない存在なのだ、と。
それに気のせいか。
目の前の金髪の少年からは濃いマナを感じる。
いくらこの地がマクスウェルのマナに満ちている、といえど、それよりも異なる濃いマナを感じるなどとは。
ミラはとまどわずにはいられない。
この地はマクスウェルの加護地であり、またマクスウェルの力にて、空中に浮かんでいる地。
ゆえにこの飛空都市全てにおいてマクスウェルのマナが満ちている、といってよい。
慣れないものならば、マナがあふれていることから、
そこに別なるマナがあったとしても、その気配と混合してしまい、
正確な気配を察知することすら難しいであろう。
それこそこうして直接対面してですら。
「ロイド……」
そんなロイドの言葉にはっとしてジーニアスが顔をあげる。
その目には気のせいではなく涙が浮かんでいる。
しかしその涙は先ほどの絶望からくるもの、ではなくむしろ今では喜びの涙。
「あ…あれ?変だな…僕、ロイドの言葉が嬉しい、はず、なのに……」
ぽろぼろと涙がこぼれてきて、ジーニアスは自分で自分がわからなくなってしまう。
「わわ!?ジーニアス!?俺、なんか変なこといったか?」
いきなり泣きだしたジーニアスをみてあわてるロイド。
「馬鹿ロイド!…でも、やっぱりロイドはロイド、だよね」
「?何いってんだ?ジーニアス?」
「へへ。何でもない」
ごしごしと服の袖で涙をぬぐうジーニアスをみつつ首をかしげたのち、
「それにさ。何というか、俺も親父に育てられてたしな。よくイセリアの村長によそものが、といわれてたし。
ドワーフなんかに育てられているものが口出しするな、とよくいわれてたし。
それもあるから、かな?何となく・・・ジーニアス達の気持ちもわからなくはないよ」
事実、あの村長にロイドはよくそういうことをいわれていた。
ファイドラ様の意見がなければお前など村にいれたくもない。
そうかつてはいわれたことすらある。
今では、あの一件のち、追放処分、という命を下されてしまっているが。
「馬鹿ロイド!ドワーフとハーフエルフじゃ全然違うよ!」
「む。何だと!馬鹿っていうな!」
何やらじゃれあいはじめるジーニアスとロイドの姿をみつつ、
こほん。
一つ咳払いをし、
「どうやら話しはまとまった、のか?お前達をいつまでもここにおいておくわけにはいかない。
私もとっとと面倒ごとは済ませておきたいからな」
淡々といってくるミラとなのったその女性の台詞に、
「え?あ、ごめんなさい。えっと、改めて。僕はジーニアス」
「リフィルよ。リフィル・セイジ」
まさかあっさりと受け入れられたことに対し、リフィルはとまどわずにはいられないが。
まあ、ロイドは難しいことを考えるのが苦手な子だから仕方ないとして。
しいな、そしてマルタに関しては以外だったわ。
そんなことをおもいつつ、ミラ、となのった女性に自己紹介をするリフィル。
「セイジ?…そうか、あなたは、あのバージニアの……」
どうりで、どこかでみたような感じがしたはずだ。
そう小さくつぶやくミラの台詞はリフィルにとっては衝撃的な言葉。
「!?」
バージニア。
その名をきき、リフィルが思わず反応を示す。
「母を…母を知ってるの!?」
叫ぶようなリフィルの台詞。
「今はともかく。お前達を町長の家へ案内するのが先だ」
その台詞に少し顔をしかめるものの、くるり、と向きをかえ、
促すように先を歩きだそうとするそんなミラに対し、
「お願い!おしえて!母は…母はまさかここにいるの!?」
「姉さん?…お母さんって……」
母は死んだ。
そう姉はいっていたはず、なのに。
ジーニアスの戸惑いは当然ともいえる。
が、リフィルの反応をみるかぎり、どうやらそう、ではなかったというのだろうか。
わからない。
「…あっても無駄だろう」
そう、としかいえない。
あのとき、まだミラは幼かったが、今でも覚えている。
悲痛なる彼女の叫びは。
「いるのね!?母は、ここにっ!」
「無駄?それってどういう……」
「あのバージニアは夫というクロイツが死んだのち、心を失っている」
「「?!」」
心を失っている。
おもわずコレットをはっとみるジーニアスとマルタ。
今のコレットのありようは、まさに心を失っている、といってよい。
「どういう、ことなんだ?」
思わずといかけるロイドの台詞に対し、
「私にきくな。当時、私もまだ子供だったからな。あれは、十年ほど前、だったか?」
ミラが少し考え込みつつそんなことを言い始めるが、
「あの?いつまでもここで立ち話するのも何ですし。どこかに移動してから、にしませんか?」
「そう、だね。風が冷たいから風邪ひいちゃいそうだし。…っくしゅん」
エミルの言葉にマルタがうなづき、その言葉を言い放つと同時、盛大にくしゃみをする。
たしかに風は冷たい。
この地は雲の高度とかわりない。
ゆえに外気温は地上とくらべかなり低い、といってよい。
「たしかに。この地の気温は地表と比べては低いからな。気温、マイナス五度移動が平均温度だ」
淡々といってくるミラの説明。
ちなみに、周囲というかこの地の真下にみえている雲は層積雲、とよばれしもの。
地表からは約二千メートルほどの高さに位置しているこの地。
雲にはばまれ、否、この飛空都市の真下には、
固まった雲があり、地表からは固まった雲の塊、としか認識されない。
ゆえに今まで伝説、といわれていた所以。
何しろ空からでなければこの地はなかなかみつけることがかなわない、のだから。
「ほう。お前は今十九、なのか。私とでは一つ違いだな」
燃料を失っているレアバードはどうにもならない。
だからといって、重い機体を動かそうにもそれは無理、というもの。
何かの補助的なるものがあればともかくとして。
エミルからしてみれば、それは簡単、ではあるが、わざわざそれをするつもりもない。
数十キロ以上あるものを軽々と動かせば、それこそ怪訝に思われてしまう。
今、ここ、エグザイアが浮遊しているのはフラノール付近。
ゆっくりと移動していることから視界の先では雪景色が遠くなっていっているが。
下からみれば雲にてこの飛空都市そのものはみえないが、
しかし、飛空都市から下をみるにあたっては、島全体を隠している雲は、
マクスウェルの力にて、完全に雲の下の景色がみえるようになっている。
正確にいえば外からはみえないが内からは見える、雲もどきにて、
この大陸そのものが隠されている、といってよい。
丸い円形状の足場の先にいって下を覗き込んでみれば、
この島そのものが完全に浮いている、というのが嫌でもわかる。
島と島同士をつないでいる足場となっている階段。
それを通る最中、島の下についている大きなプロペラらしきものがみてとれるが。
ちなみにこの島そのものは、それぞれの島の下にとついている、
プロペラの生み出す力によってある程度浮遊の力が補佐されている。
もともとこの島そのものは、とある海域にあったのだが。
それらの島をマクスウェルの力でもってして空に浮かせたといってよい。
もっともそれをするときに、一応許可を願う提案があるにはあったが。
報告してきたのはアクアとウェントス。
生態系に影響を与えないように、という忠告のもと、それを許可したのは、
たしか人々の間で戦争がより活性化している最中。
ミトス達が戦争を止めようと動き出して
いくばくかの日がたったときだったような気がする。
あのリビングアーマー達の一件とほぼ同時期に近かったような気もしなくもないが。
そこまであまり気にしてもいなかったのでどうだったのかまでは詳しくは覚えていない。
というか、たかが地上での数年単位の誤差ならば、ラタトスクにとっては、
つい昨日のことのようなものであり、ゆえにその誤差にあまり違和感がもてない、という事実があるにしろ。
「ってことは、あんたは今」
「うむ。私は今、爺様がいうには、十八、だそうだ」
そうか、このものが。
かつて、地上でヴォルトと契約をしようとし、失敗した人間の娘か。
しみじみとしいな、となのりし人物をまじまじとみつめるミラ。
「でもそうすると、ここにいるのって、リフィルさん以外ほとんど十代、だよね。私は今、十四だし。ジーニアスは…」
「僕、今十二だよ。ロイドは十七。コレットは十六。そういえば、エミルは?」
マルタの台詞にジーニアスが答え、そしてその話題をエミルにとふってくる。
「え?…さあ?」
そんな質問にエミルからしてみれば首をかしげざるを得ない。
「「「さあ、って……」」」
「気にしたことないからね」
それでなくても自我を自分がもったと認識してからならば、
それこそもう気が遠くなるほどの時間が経過している。
ざっと見直しただけでかるく百三十八億年はゆうに経過している。
おそらくは、一万億年くらいはたっているのではないだろうか。
もっとも、この体の元となった、オリジナルであるアステル・レイカー。
そして名を結果的に借りることとなったエミル・キャスタニエという人物達。
それらの年齢があるにはあるにしろ。
かつてのときはエミル、という人物の年齢が示すように、十六、と名乗っていたが。
アステルもたしか十六、であったはず。
リリアナがいうには、であるが。
九歳のころから研究院に所属していた、というアステルは、
かつてラタトスクがその感情のまま、いらだちのままに殺してしまった人間。
この地上に降り立ってから、となればそれこそかるく一万年以上。
自分がいまいくつか、なんて考えたことすらない。
そもそも、その惑星ごとによって時間率は異なっており、
惑星の規模や大きさによって一日辺りの時間帯すら異なっている。
そろそろ本格的にどこか拠点を添えて、
分霊、として世界を身守る方法もいいかもしれないな、とはおもっているが。
「そういえば、エミルって魔物に育てられてる疑惑とか、記憶を失っている疑惑はそのままなんだったよね……」
それは勝手にジーニアス達が思っている、だけ、なのだが。
それに関してエミルは否定も肯定もしていない。
勝手にジーニアスやリフィルがそう思い込んでいるだけ。
わざわざ訂正する必要性もないのでエミルからしてみれば放っておいているだけ、なのだが。
そんな会話をしている最中。
「あ。ミラ様だぁ。めずらしい。お客さん?」
「うむ。どうやら海上の竜巻にうちの爺様がいうには巻き込まれた輩がいるので。
迎えにいけ、といわれてな」
ここが完全に空中である、というのをロイド達が実感するのはさして時間はかからない。
そもそも、眼下にみえている大地らしきもの、そして雲。
さらには自分達の足元や体をすり抜けてゆく白い霧のような何か。
見下ろした先に川や大地がみえたり、海が見えたりする以上、
それはまるで高い山脈から眼下を見下ろしたときのごとくのように。
おそらくは、ハイマなどの山よりも高い位置、なのだろう。
大地にみえている川そのものがとても小さく見えている以上、
そしてこの浮いている大地の下に雲がみえていることから、
その高度は少し考えれば、否、考えなくてもわかること。
たしか、ハイマの山の頂上も眼下に雲海が視えていた、が。
この浮き島はそれと同じか、それよりも高い位置にどうやら位置している、らしい。
そうジーニアスは周囲をざっと確認し確信をもっている。
もっとも、今のジーニアスにとっては、さきほどの台詞。
母、といった姉リフィルの言葉がひっかかっており、
この地に関して深く考える思考をほぼ失っている状態といって過言ではないのだが。
レアバードをおいてきた浮島らしきものの一つ。
その島から島同士を結んでいる、のであろう。
石の階段…コケがかなりついており、気をぬけば足をすべらしてしまいそうな階段をとおり、
その先にとある別の浮き島らしきものにと移動する。
ふと、その浮島にいた小さな子供が、一行にきづき声をかけてくる。
ざっと視線をその先にむければ、今通ってきたときよりも長い階段、があり、
その階段の前に門、らしきものが石によってできているのがみてとれる。
「これはミラ様。ごきげんうるわしく。しかし、お客様とは、珍しいですね」
「だな」
先ほどの少年の母親、なのであろう。
話しかけてきた子供によくた女性が、ミラにきづいて声をかけてきて、
そしてにっこりとリフィル達にむかい頬笑みかけ、
「ようこそ。エグザイアへ。ここエグザイアは
私たちハーフエルフにとって最後に残された安息の地。
でも、ここにこれた、ということは許可を得る資格がある、ということ。歓迎いたしますわ」
「「「?」」」
許可をえる資格。
そういわれてもロイド達には意味がわからない。
ゆえに思わず顔をみあわせ、首をかしげるマルタ、しいな、ロイドの三人。
「え?ハーフエルフにとっての…?」
しかし、今この女性はそんなことをいわなかったか。
ゆえにマルタが首をかしげるものの。
「ええ。そうよ。ここにいるから私もあの子を安心して育てられる」
それはとても心底ほっとしたような表情。
その言葉にしいなが一瞬顔をふせる。
彼女がいわんことがわかってしまったがゆえに。
「その門をくぐった先が、エグザイアの街の始まりよ。でも、あなた……いえ、何でもないわ」
ふとその視線がリフィルにむけられ、しかし首をかるく横にふる。
そっくりであることから疑いようがない。
感じるマナの気配からしても。
しかし、彼女達にその事実を告げるのは酷、というもの。
この地に住まうものですら、あのときのことはいまだに悲劇、として記憶に新しいのだから。
「何をしている。いくぞ」
ミラがいいつつも、先をすすむ。
「この地はけっこう入り組んでいたりするから、迷子にならないように気をつけてね。お客さん達」
そんなミラをあわてて追いかけるロイド達にむけて、にこやかに声をなげかけてくるその母親。
そんな彼らにかるく頭をさげたのち、ミラの後をついてゆくリフィルの姿。
リフィルの表情はさきほどからとても固い。
母バージニアの名はそれほどまでにリフィルにとって衝撃をもたらしている。
その名がでてきた、ということは彼らは母を知っている、ということ。
リフィルとて自覚している。
成長とともに自分が母親そっくりに成長している、ということは。
長い階段を上った先は、どうやら集落、になっているらしい。
それでも、いくつもの浮き島があわさってできている都市だけのことはあり、
一つの浮き島にある建物の数はほんの数えるほど。
「こんにちわ!」
「おや。こんにちわ。と。これはミラ様。めずらしいですね。
ミラ様が他人と一緒におられるなどと。お客様のお出迎えですか?」
「爺様にいわれてな」
「ああ。長老様に。それは御苦労さまです」
マルタがその先にたっている人物にきづき、元気よく挨拶をするとともに、
その人物もこちらにきづいたらしく、そんなことをいってくるが、
一行の中にミラの姿をみとめ何やらミラとそんな会話をしはじめる。
「どうやら、この子。その長老って人にいわれてあたしたちを迎えにきた、みたいだね」
これまでの話しをまとめると、ミラがいう爺様、というのと、
今、彼がいってきた長老、というのはおそらくは同一人物。
しいなが、ふむ、と考えこむようにしてその手をあごにあててちいさくつぶやく。
「少しきいてもいいかい?」
「何でしょうか?」
「ここは…あんたたちにっては…すごしやすいかい?」
しいなにとってそれが気になる。
だからこその問いかけ。
「……たしかに、ここでは迫害されることもなく穏やかな日々をすごせる。
けど、それだけ、ですよ。何もかわらない。でも…
地上におりれば、確実に命を落とす。どちらがいい、ともいえませんよね。
命をかけての自由をとるか、それとも穏やかに過ごすのを選ぶかは。
人それぞれ、ではないでしょうか?」
――絶望するのなら、隠れて穏やかに過ごしましょう。
ふと、かつてマーテルがいっていた台詞を思い出す。
マーテルはあの旅の中、よくミトスにその台詞を幾度もいっていた。
ミトスが諦めそうになったり、くじけそうになったりしたときに。
「人の幸せとは、人それぞれ…か」
ゆえにおもわずぽつり、とつぶやくエミルの姿。
人によっての幸せ、とは様々。
しかしその幸せは時として他者を傷つけて得られるものであったりするのだから、
ヒト、というのは本当に理解し難い。
理解し難いがゆえに…捨てがたい。
自分達のような精霊…世界を創りし、またかかわりしものですら、
予測付かないような行動をしてくる、のだから。
「しかし、ここ。空中、なのに木々がはえてるんだな……」
ロイドが周囲をみつついってくる。
たしかに、木々はしっかりと生えている。
ちょっとした森すらも存在しているこの地。
そもそも、小島の群れをそのまま空中に浮かばせている以上、
ちょっとした山などもそのまま空中に移動していたりするこの地。
この飛空都市全体にマクスウェルの結界が張られているがゆえ、
木々もまた高度が高いが問題なく成長している今現在。
「おや?これはミラ様。お客様ですか。ようこそ。エグザイアへ。
せっかくですから、このエグザイアの成り立ちをご説明しましょう。
このエグザイアは初代村長がマクスウェルと契約し、空を漂いつづける空中都市になったそうですよ。
…と約二十年くらい前まではいわれてたけど。
四千年の年月の間でかわっていく伝承って、何だかこわいですよね」
「うむ。うちの爺様も人とはよくもわるくも勝手にねつ造、または話しに尾ヒレをつける。
つくづくよくいっているからな」
この場の近くにいた別の人物が、ロイド達にきづき、そんなことをいってくるが。
その男性の台詞にしみじみうなづきつつも同意をしめしているミラの姿がそこにある。
「ではな」
「ミラ様。長老様によろしくお伝えくださいな」
「ああ。わかってる。というかお前達も爺様に意見くらいいえ」
「そんな。長老様に畏れ多い。意見をいえるのはミラ様くらいですよ」
「…どうみても、あの爺様は意見しないとつけあがるぞ?」
呆れたようなミラの台詞に言われた人物は首をすくめるのみ。
「様づけされてる、ってことは、このミラって人、えらいひとなのかな?」
「おそらく、長老とか話しができてるし。長老の孫娘ってところじゃないのかい?」
そんな会話をききつつも、マルタとしいながそんな会話をしていたりする。
あたらずとも遠からず。
そういえば、この子に関しては詳しい報告をまだ受けてないな。
拾った、というのはセンチュリオン達が簡単な報告を彼らに繋ぎを取らせにいったときに
そんな報告をしてきていたにしろ。
詳しい理由はまだ聞いていない。
一度、きちんと聞くべきか?
精霊が人の子を育てる。
しかも加護まであたえて。
この地にいる限り、その力を利用しようとする輩はいない、だろうが。
それでも、中には欲を出すものも長い年月の中現れかねない。
そう、かつてのエルフ達の中でそのようなものがでてきたように。
デリス・カーラーンにおいても、また然り。
人とは、いつの時代においても、いつの世界においても、欲をかけば限りがない、のだから。
~スキット~エグザイアの長い階段を上る最中の出来事~
ロイド「そういえば、結局、あれからずっと、お前それ、つれてきてるんだな」
シヴァ「にゃ?」
それ、とは、あいかわらずというか。
マルタの頭の上にちょこん、とのっかっているシヴァのこと。
パラクラフ王廟からこのかたずっと、目立たないにしろ、
マルタはずっとシヴァを共に連れていたりする。
これまでも時折ノイシュの頭にのっかっていたりしていたりしたのだが。
名はやはりそのまま、タマミヤ、で決定してしまった、らしい。
しいな「そういや、ノイシュだったっけ?そいつあの竜巻の中でも平気だったのかい?」
しいながふときになったらしくロイドにと問いかける。
しいなですら目が回るほどの風の渦に巻き込まれた。
他の機体を確認しようにも必死に操縦桿を握っていたのがやっと。
ロイド「うっ。あの狭い中でノイシュが騒いで大変だったんだぜ!」
しいな「ああ。やっぱしかい」
ジーニアス「姉さん。コレットのほうはどうだったの?」
リフィル「強い風でコレットがそのまま飛ばされそうになってしまっててね。
片手でコレットをしっかりとつかんで、片手で操縦桿を握っていたわ」
どこか遠い目をしながらいうリフィル。
マルタ「でも、よく皆無事だったよね。竜巻にまきこまれて」
ロイド「ドワーフの誓い。第十六番。なぜばなる」
ジーニアス「…ロイド、何いきなりそんなこといってるのさ?」
ロイド「いや。あのときさ。これでのってる先生がいってた操縦桿?
とかいうのでむすんでノイシュをおちつかせようとしてたからさ」
マルタ「そういえば、ロイドって何でそんなひらひらみたいなのつけてるの?」
二つにわかれたまるで何かのハネ?っぽいような。
マルタ「しかも、真赤だし」
ロイド「何いってんだよ。マルタ。正義は赤ってきまってるんだぜ!」
マルタ「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ジーニアス「マルタ。ロイドに何いっても無駄だって」
マルタ「…ああ。そういえば、ママが時折いってたな。馬鹿な子ほどかわいいって。
…コレットもそれでロイドにほだされてるのかなぁ…
まあ、ライバルが少ないにこしたことはないけど、ロイドはない、とおもうな
コレットにはもっとたよりになる人がいいような気がする……」
ミラ「お前達、何わけのわからん会話をしている。とにかくいくぞ」
エミル「ま、彼らだし」
ミラ「しかし、あの娘のあの症状は……もしや古にあったという生体兵器、か?」
エミル「あれ?知ってるの?」
ミラ「うむ。爺様がよくいっていた。人がかつて愚かなことをしでかした、とな。
それに、かのものが死んだ原因も…いや、これは…いうことではないな」
エミル「?何かあったの?」
ミラ「うむ。…少し、な」
エミル「・・・・・・・・・・」
エミル「(後でマクスウェルにそれも確認する必要があるな)」
ミラ「しかし、お前は不思議だな?何というかうちの爺様達に近しい感じがする」
そんなミラの台詞にエミルはにっこりとほほ笑むのみ。
マルタ「うわぁぁ!」
エミル「マルタ。どうかしたの?」
マルタ「みてまて!すごいよ!あれ!」
あれ、といいつつ指差すは、階段の上にみえてきた街並みの姿。
ジーニアス「…うわ。ほんとうだ」
雲の合間に位置しているちょっとした山。
そこから流れ落ちている滝。
きらきらとその滝が周囲におちて巨大な虹をつくりだしているのがみてとれる。
まだ階段はつづいているが、それらの光景はここからでもみてとれる。
しいな「これが、伝説の地、楽園エグザイア……桃源郷、か」
しいながそれをみて何やらぽつり、といっている。
エミル「?しいな、桃源郷って?」
しいな「伝説の一つさ。エグザイアにたどり着けたものは不老不死になれるってね」
エミル「不老?まるで天使化した人間達のようなことを……」
マルタ&ジーニアス&しいな「「「え?」」」
エミル「何でもない」
しいな「まあ、さっきの言葉を聞く限り、ハーフエルフ達が住んでるんなら。
あたしたち人間からみればそうみえたのかもしれないね。
エルフでも昔は不老不死、と人間達はおもってたみたいだし」
エミル「まあ、エルフにしろハーフエルフにしろ。
ある一定の年齢からは肉体の衰えがゆっくりになるからね」
しいな「そうらしいね。ってあんた詳しいねぇ」
エミル「そう?…昔は、エルフ達も幼いころからそう、だったんだけどね」
それこそ、時間率が人のそれと比べ、×五倍ほどおおまかに違っていた。
つまり、エルフ達にとっての五年が一つ年をとる、という感じであったのだが。
この地におりたち、彼らのそういった特性は今ではほとんど失われてしまっている。
テネブラエ『ラタトスク様。不用意な発言にはご注意ください』
エミル『あのな』
横からテネブラエが忠告らしきものをいってくるが。
ミラ「しかし、その犬のような何かは不思議だな」
マクスウェルの加護をうけているがゆえ、どうやらこの女性には、
姿を消しているだけのセンチュリオンの姿は視えている、らしい。
もっとも、彼らが今会話したであろうその言葉はミラには判らない。
まああまりそのことに関して突っ込みをしてこないのは助かるといえば助かるが。
エミル「まあ、彼らにはみえてませんけどね」
ミラ「そのようだな」
マルタ&しいな「「??」」
ロイドとジーニアスは、目の前に広がる光景をみて、何やらはしゃいで会話を交わしている。
ゆえにこちら側の会話には気づいていない、らしい。
※ ※ ※ ※
pixv投稿日:2014年2月8日某日(Hp編集:2018年4月22日(日)
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あとがきもどき:
次回はマクスウェル登場と、バージニア(セイジ姉弟の母親)登場です