「うわぁ。つよいんだね」
「ふむ。僕も気にいったよ。約一名、気にいらないものがいるけど」
さらり、と毒を吐いているのはいかにもユーティスらしいというか何というか。
その視線はちらり、とクラトスにむけて。
「二人とも。口をつつしみなさい。いいでしょう。さあ、誓いをたてなさい」
そんな妹達の台詞にため息をはきつつも、淡々といっているセフィー。
「あ。ああ。二つの世界がお互いに犠牲にしなくてもいい世界をつくりたい」
誓いの言葉を、といわれ、とまどいつつもしいなが言葉を発する。
そもそも、戦い、といっていたが、その攻撃のほとんどといってもよい。
もののみごとに三人が三人ともクラトスにばかりにむて攻撃をくりだしていたのは、
それはどういう意味なのか。
さきほどの守護者の言葉もあいまって、しいなの中、
さらにはリフィルの中でクラトスにたいし警戒がより一層つよくなる。
戸惑いを含んだしいなの台詞に、
「わかりました。どうかあなたは、あなた達は私たちを裏切らないでくださいね」
ふわふわとうきつつも同意の言葉を示しているセフィー。
「裏切り者といっしょにいるからって裏切らないでよ~」
「フィアレス!」
そんなセフィーにつづき、フィアレスがこれみよがしにクラトスをみつつ、
そんなことを言い放つが、その言葉はセフィーによって遮られる。
「…は~い、セフィー姉様。でもこれでようやく自由になれる。
ほんと、あのこをだれかさんがとめてくれなかったせいでね~」
「フィアレス。気持ちはわかるけどさ。ほんと。
あのときの純粋だったミトスはもういないと信じたくはないよね」
しみじみいうフィアレスにつづき、ユーティスまでもそんなことをいっているが。
「なんだよね~。マーテルさえ人間達が裏切って殺したりしなきゃ、こんなことに…」
『え?』
また、マーテル。
マーテルが殺された、たしかにそうまた彼らはいった。
精霊達は嘘がつけない、という。
女神マーテルを人が?しかし、守護者である魔物は女神マーテルなどは存在しない、と。
そういった。
もう、何が真実なのかリフィルの中でもよくわからなくなっている。
ぐらぐらとマーテル教の教え、世界の成り立ちがゆらいでいる、といってもよい。
「しかもだれかさんが牧場をつくったときですらとめることしなかったしね~」
ぐさぐさとフィアレスがいっているが、どうやらかなり鬱憤がたまっているっぽい。
――三人とも?
とりあえず、これ以上いらないことをいいかねない。
ゆえに、彼らに念話にて言葉を飛ばすエミルは間違ってはいないであろう。
エミルは今はこの場にはおらず、すでに下におりているといっても、
この場の光景は手にとるように視てとれている。
それゆえの言葉。
「いっておきますが、私たちの契約。それは世界が一つにもどりしそのときまで。それでいいですね?」
「え?あ。ああ、ならやっぱりせかいを一つに、ということが可能ってことなんだね?」
そのしいなのことばにセフィー、ユーティス、フィアレスは顔をみあわせ。
「まだそこまでの真実にはたどりついてないんだ」
「では、あなた達の力でその真実にまでたどりついてみなさい」
「答えだけあたえたんじゃ、意味がないからね~、それじゃあね~」
言いたいことだけ言い放ち、その言葉とともに、彼らの姿は光となりてはじけとぶ。
ふわり、としいなの手の内にとおちてくるひとつの指輪。
精霊との契約の証であるオパールの指輪。
「さて、精霊との契約も無事にすんだことだし。クラトス。話しをきかせてもらえるかしら?」
確実にこのクラトスは何かをしっている。
精霊達のあの態度からしてもそれはもう間違いはない。
ゆえにクラトスにつめよるリフィルは間違ってはいないであろう。
前々からおかしい、とはおもっていた。
それがここにきてより疑念が強くなったといってよい。
なぜ神子の護衛を引き受けたのか。
精霊達はなぜクラトスをしっており、あげくは裏切りもの、というような言い回しをしているのか。
精霊は再生の儀式でなければあうことすらないはずなのに。
リフィルがクラトスを険しい表情でみつつ尋問しようとするとほぼ同時。
「すご~い、しいな、おめでとう…あ、あれ?」
がくっん。
「「「コレット!?」」」
しいながシルフと契約したのをうけ、コレットがしいなの前にあゆみでて、
コレットが祝いの言葉をおくるとともに、コレットの体からするり、と力が抜けてゆく。
その場に崩れ落ちるようになるコレットにきづき、
あわててしいながそんなコレットを抱きとめる。
ちょうどしいなの目の前にコレットがやってきていた状態であったがゆえに、
ロイド達はコレットの後ろにいたので間に合わなかったにすぎないのだが。
「・・・、・・・・」
平気、大丈夫。
そう声をだそうとし、コレットははっとする。
声が、でない。
「……?……!」
声が?…嘘!
声にならない声がコレットの表情から発せられる。
「コレット?あんた、どうしたんだい?コレット!?」
しいながコレットをだきしめつつもその異変にきづき声をかける。
その声はどこか焦りを含ませている。
もしかして、今の精霊との戦闘で何かがあったのではないか、というあせり。
「・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・、・・・?」
しいな。あのね。あのね。声がでないの、どうして、どうして?
戸惑いを含んだコレットの視線。
口をぱくぱくさせるが、声にならない。
しかもコレットはきのせい、とおもいたいが呼吸をするのも苦しく感じる。
「コレット?先生、またコレットの天使疾患が!」
その様子からただごとではない、とロイドもすぐさまに反応する。
コレットの息が、あらい。
視線もあきらかに泳いでいるのがみてとれ、口をぱくぱくさせているのがみてとれる。
「わかりました。今日はここでやすみましょう。コレット、ここの遺跡からでるまではもちそうかしら?」
「・・・・。・・・・」
先生。それは大丈夫です
そういいたいのに声がでない。
口をぱくぱくさせ、そしてゆっくりと片手をノドにとあてる。
息を大きくすいこもうとしても、それができない。
それどころか苦しい。
息がひゅ~ひゅ~と漏れ出す音のみがコレットの聴力がよくなった耳にと聞こえるのみ。
「コレット?あんた、まさか……」
しいながそんなコレットの様子にきづき、戸惑いの声をあげる。
崩れるようにして倒れそうになってから後のコレットは一言も発していない。
「コレット?どうしたの?」
そんなコレットの異変に気付いた、のであろう。
ジーニアスもまたコレットにちかづいて、コレットの顔をのぞきこむ。
今のコレットはしいなにあるいみもたれかかるように抱きかかえられている状態。
いまだ体勢を元にもどしてはいない。
「コレット?」
ロイドもその異変に気付き、声を震わせる。
「……声を失ったのではないか?」
そんな光景をみつつ、クラトスが淡々と言葉を紡ぎだす。
「「「!?」」」
その言葉に息をのむ、ロイド、ジーニアス、しいなの三人。
リフィルもまたぎゅっと手を握り締めている。
「そんな…嘘でしょう。コレット!?」
「あんた……え?」
だ・い・じょ、う・ぶ?
声にはならないがゆっくりと口をひらき、一言ひとことを紡ぐ形を紡ぎだす。
「大丈夫って…コレット!?」
そのままゆっくりとコレットの意識は閉ざされ、
がくん、とそのままコレットの体はしいなに託されるような形で意識をうしなう。
「コレット!?」
「まずいわね。…ともかく。いそいでコレットを休ませないと。
この先のあの部屋のほうがいいかもしれないわ。
あの場所ならば冷たい外の空気もないでしょうし」
それに、とおもう。
「階段さえあけておけば、火をたいても問題はない、とおもうわ」
空気の通り道さえつけておけば、さほど煙が充満するこはないだろう、たぶん。
「おかえりなさい。あれ?コレット、どうかしたの?」
今のコレットはロイドにもたれかかるようにして背負われている。
クラトスが自分が、といったが、それをロイドは自分が背負う、といってきかなかった。
いつもならば、リフィルもクラトスにませかたほうがいい、というのだが、
精霊達の言葉もあり、リフィルは今はクラトスをおもいっきり警戒している。
精霊達はあきらかに、クラトスをみて裏切り者、そういっていた。
その意味はわからないが、だがしかし。
考えればクラトスに関してはおかしいところが多々とありすぎた。
あのイセリアの聖殿においてタイミングよくあらわれたときも。
ディザイアン達がクラトスのことをしっていたような口ぶりも。
さらにとどめは、精霊達がクラトスをしっているようなあの口ぶり。
しかも、裏切り、という言葉をもってして。
これで信用しろ、というほうがどうかしているといってよい。
ロイドに背おわれているコレットにきづき、マルタが座り込んでいた状態から立ち上がり、
といっても、あいわからずエミルにまとわりつくようにして座り込んでいたのだが。
ロイドの前に移動して、コレットの顔を覗き込むようにしていってくる。
「…コレットが倒れたんだ」
「え!?コレットが!?…嘘…」
ジーニアスの台詞にマルタが息をつまらせる。
「…くそ。何がマーテルだ!これのどこが試練だっていうんだっ!
…身体の感覚につづいて、ついには声もまでも…馬鹿にしてるっ!」
ロイドがゆっくりとコレットをノイシュの背に預けるようにし…
床にそのままおくよりは、ノイシュの背とその尻尾を利用したほうがいいだろう。
そう判断し、ノイシュを布団がわりにし、コレットの体をノイシュにあずけつつも言い放つ。
「この世界再生って本当にただしいの?」
ジーニアスがぽつり、とつぶやく。
マーテル教の教えでは、神子がこんなことになる、など触れてもいなかった。
レミエルは試練、だといっていたが。
しかし、女神マーテルなどというものは存在しない。
ユニコーンにしろ、あの魔物にしろ。
たしかに、彼らはそういった。
しいながいっていることが真実…おそらく真実、なのだろう。
精霊達ですら肯定していたではないか。
本来の約束は、一年ごとにマナを循環させるものであった、と。
それはすなわち、女神マーテルを目覚めさせる云々、
そのマーテル教の教えの根柢から異なっているといってよい。
「そうだな。俺だってだんだんわからなくなってきた。この世界再生が正しいのかどうか、ということが。
というか、そもそも、女神マーテルを目覚めさせるとかいうのが嘘なんじゃあ?」
「精霊達がいっていたわね。本来は一年ごとにマナを循環させるはずだった。と。
そこにマーテルのマの字もでてこなかったわ。でてきたのは……」
でてきたのは、人にマーテルが殺された、そういった衝撃的な言葉。
ロイドのつぶやきにリフィルがこたえつつ、
そこにおいていた荷物の中からそっとコレットに毛布をかけてやる。
「というか、リフィルさん。あいかわらずその大荷物もったままですよね」
聞けばイセリアからこのリフィルの大荷物はずっともっているまま、らしいが。
よくもまあ、背負う形でこの荷物全てを持ち運んでいる、ともおもう。
あるいみで場違いな言葉かもしれないが、きになっていることにはかわりない。
マルタは心配そうにコレットの顔を覗き込んでおり、何がおこったのか理解ができていないらしい。
そんなあるいみ今問いかけるような内容ではないようなエミルの問いかけに、
「これは大事なものだからね。とりあえず、エミル。マルタ。それに他の皆も。
今夜はここで一夜をあかすことにしましたからね。ここならば、雨風もしのげるから」
魔物もいない、この部屋にあるのは五色の色をやどせし風車のみ。
仕掛けがあるらしいが、だからといって、休むのには問題はない。
逆に罠をぬけ外にでたとしても、今の状態のコレットを雨風にさらすのはいただけない。
雨がふるかどうかは別にしろ、
外の空気はこのあたりの夜はたしか山間、ということもあり冷えるはず。
ならばまだ、建物の中で暖かくして安静にさせておいたほうがいい。
それがリフィルの結論。
その決定にロイド達は意義はないらしく、こくり、とうなづいているのがみてとれる。
「そうなんですか?なら、僕、薪でもひろいにいってきますね」
いいつつ立ち上がるエミルにたいし、
「あ、エミル。僕たちも……」
ジーニアスがエミルの声に反応していってくるが、
「ジーニアス達はコレットの傍についていてあげて?
目がさめたときコレットが不安にならないように。
詳しいことはまだ説明うけてないけど、また何かあったんでしょう?」
たしかにエミルは表て向きは何もしらない。
知っているはずがない。
視て何がおこったのか、何が起こるのかを知っていたとしても、それらをリフィル達がしるよしもない。
「そう、ね。…一時的なもの…であればいいのだけど、でも……」
リフィルのその言い回しの言葉もどこか暗い。
「?リフィルさん?コレット、何かあったの?」
マルタは上で何があったのか知らない。
しらないがゆえに首をかしげるしかできない。
きいたのは、コレットが倒れた、そして現実に目をつむっているコレットの姿がそこにある。
その事実しかマルタは知らない。
「この子…声がでなくなってるんだよ」
しいながぎゅっと自らの手をにぎりしめつつ
何ともいえない気持ちをこめて言葉を紡ぎだす。
「え?声が!?…風邪?」
「そんな…そんな生やさしいもんじゃないっ!!!」
風邪をひき、声がでなくなる、というのはよくあること。
マルタの素朴なものいいに、ロイドがおもわずどなりちらす。
「わめくな。わめいてもどうにもならんだろう。
…神子が声を失ったのがそんなに衝撃的だったのか?」
そんなロイドに淡々と、壁にもたれかかれつつもいっているクラトスの姿。
階段から降りてすぐの横の壁にクラトスは今現在もたれかかるようにしてそこにたっている。
「お前は…っ!お前は何もかんじないのか!?」
そんな淡々としたクラトスのものいいに、ロイドがかっとなりくってかかるが。
「…神子は天使になって世界を再生する。今の状況は天使になるための試練だ、とレミエルもいっていた」
クラトスがいっているのは、表面上だけの言葉。
レミエルがいっていたのは本当。
だが、それは嘘の言葉。
それが嘘だ、というのをクラトスはいっていないだけ。
「それじゃあ、同じ天使って存在なのに、コレットとレミエルはどうしてこんな風にちがうんだ!
羽にしてもそうだ!コレットの翼はすきとおってるけど、あいつのは鳥のそれだし!」
そもそも、あの翼はマナの調整が不安定で、そのまま飛行する、という形にて、
マナが固定化されてしまったがゆえにあのような翼となっているにすぎない。
ロイドはまだどうやらそのことを知らないらしいが。
さきほどいったあの場所にあるとある石板にかかれし文字を解読できていたならば、
彼らがいうところの天使の真実に気付いた、であろうに。
そういえば、とおもう。
あの場には、記憶を…かつての製法で閉じ込めてある人格をやどせし石が、
とある場所の奥に封じられているっぽかったが。
たしかあれは、エクスフィアの開発にたずさわったものの、
その非道なる結果に自分を悔いてあの開発施設の中から逃げ出した、
といわれていたヒトのそれではなかったか?
しかも、あの天地戦争時代のあれを開発した子孫でもあったはず。
ふとそのことを思い出すが、しかしそれを今ここでいうことでもなければ、
別にだからといってどうというわけでもない。
そもそも、ロイド達が気付いていないのにエミルから説明する理由はまったくない。
「翼については、コレットのほうが完全なのではないか?
マーテル教の祭典にある天使の姿の羽もコレットの天使の翼でかかれている。
今のコレットの状態はおそらく、まだ不完全な天使だからだろう」
ロイドの叫びに淡々とこたえているクラトス。
それでも、翼については訂正をいれていることから、
クラトスもまた、彼らがマナの調整がきちんとできていない、というのに思うところがあるのであろう。
たしか、ざっと今現在を確認し視たところ、完全な天使化を果たしている、
といえるのは、いまだにクラトス達四人のみ、であるらしく、
あれいご、ミトスの手により完全天使化となりし存在はいない、らしい。
「…完全な天使になればコレットは元にもどるのか?」
ロイドはどうやらさきほどシルフ達のいっていた裏切り、
その言葉を深く考えてはいないらしい。
まあ本能的に親、とわかっているがゆえに疑うことがない、というべきか。
当人はその自覚はまったくないにしろ。
親であるがゆえにロイドは無自覚ながらにクラトスにとなついている。
「さあな」
「おまえな!」
「私にあたってもどうにもなるまい。ならば神子に再生の旅をやめさせるか?
シルヴァラントの全ての命を犠牲にして」
「…わかってる。わかってるよ。そんなことはできないんだ。でも、助けてやりたいんだよ」
淡々というクラトスの言葉にロイドはただ視線をそらすしかできない。
その視線の先ではコレットが真っ白な顔をして静かにノイシュを枕とし横になっているのがみてとれる。
「あたしとしては、この子が旅をやめてくれるのは賛成なんだけどね」
そんな二人の会話をききつつ、
このロイドって子、さっき精霊がいってた裏切り云々の言葉、深く考えてないみたいだね。
心の中でそんなことをおもいつつ、首をすくめてさらり、といっているしいなの姿。
「お前はこの世界の人達を見殺しにするっていうのかよ!」
そんなしいなの言葉にロイドが深く考えずにおもったままのことを口にする。
世界再生という儀式を疑問に思い始めているとはいえ、
物ごころついたころからそのように教えられている以上、
そうそうその認識はヒトというものはかわりはしない。
それこそ自ら、その偽りに与えられた【一般常識】ともいわれる殻をやぶらないかぎり。
エミルからしてみれば、その常識はどこが常識なんだ、といいたいが。
そもそも、ヒトが常識、というのはそれはヒトがかってに設定したことであり、
世界からみれば何とも愚かしいことでしかない。
「すくなくとも。あたしの世界はたすかる」
「おまえな!」
しいなのいい分はまさに一理ある。
というか、もともとしいなはそのためにこちらにやってきた。
ゆえにしいなの言葉に嘘はない。
ないが、その言葉の裏の意味を考えずに言葉を発するロイドは何というか。
深くものごとを考えなさすぎる、というか。
猪突猛進、というべきか。
「あ~、うるさいねぇ。何のためにあたしが精霊と契約しようとしてるとおもってるのさ?」
「…え?」
ため息まじりにしいなにいわれ、ロイドはとまどわずにはいられない。
頭に血がのぼってそこまで考えていなかったのがまるわかり。
「あんただってしっているはずだろ?マナの封印を司るのは?」
「…精霊」
「じゃあ、精霊達がいっていた、彼らの役割は?」
「?」
いわれ、ロイドは腕をくみその場にて考え込む。
どうやら本当に理解がいまだにできていないらしい。
そういえばあのときも。
マーテルにいわれ、その行為の意味すらも深く考えずにこいつは行動していたな。
ふとエミル…否、ラタトスクはそうおもう。
自分をコアにもどし扉の封印にすれば問題ない、とマーテルはいったらしいが。
というか、マナの調整もできないやつが何をほざく、そういいたかったが。
ついでにいえば、あのときリヒターのせいで扉の古の封印の理も歪んでいたので、
ロイドがマーテルにいわれるまま、センチュリオン達のコアとみずからのコア。
それを扉にはめたとしても、世界は百年にもみたないうちに、まちがいなく瘴気に覆われていたであろう。
もっともその前に自分がくだした魔物達への命。
人間を駆逐しろ、という命令が実行されていたであろうが。
そして魔物を駆逐したとしても、マナの調停を担うのは魔物であり、マーテルにその力はなかった。
つまり、あの時点でヒトは詰んでいたといってよい。
その後におこることを考えずにロイドが行動した結果、そうなる。
そのことにロイドは結局気付くことすらしていなかった。
「ロイド、まだよく理解できてないの?しいながいいたいのは、精霊達がおそらくマナの循環。
その役割を、契約でもってして施行していたにすぎない。しいなはそういいたいんでしょ?」
首をすくめつつ、あきれたようにいっているジーニアス。
ジーニアスのほうはどうやら理解ができているっぽいが。
「そういうこと。リフィルもだけど、弟のあんたも頭がいいねぇ。
ここ、シルヴァラントにはもったいないくらいだ。
あたしらの国だったら、まちがいなく王立研究院からおよびがかかるとおもうよ」
そこまでいい。
「…もっとも、あんたたちがもしハーフエルフなら王国は問答無用で、
あんたたちの身近にいるものを殺してでも研究室につれていく、だろうけどね」
「「!?」」
顔をふせてぽそり、というしいなの言葉にリフィルとジーニアスは思わず声をつまらせる。
「どういう、ことなの?」
リフィルの問いかけるその声は震えている。
「うちの教皇…っていってもわかんないか。
マーテル教の最高指導者でもあるマーテル教教皇のやつが、
ハーフエルフ法なんてものを発動させててね。…十数年前に。
その結果、あたしらの世界では、ハーフエルフは最下層。
下手したら奴隷以下という扱いになってるのさ。
ハーフエルフは人にあらず。だからどんな扱いをしてもいってね」
「何…それ」
「何だよ。それ」
かすれるジーニアスの声と、戸惑い、怒りを少し含んだロイドの声。
「ハーフエルフ…っていうだけで?」
マルタもきになるらしくといかけてくる。
「ああ。そうさ。むなくそわるいったら。
たしかに、伝説ではディザイアン達はハーフエルフだっていうけどさ。
けど、全部が全部そういうヒトばかりじゃないってのに。
しかも、あの教皇のやつは自分の娘がハーフエルフで、
自分もエルフとの間に子供をつくったってのに、
そんなハーフエルフを虐げる法をつくって、しかもそれを押し通してるのさ。
おかげで、今、あたしらの国、テセアラでは、常にハーフエルフ狩り、というのがおこなわれてる。
つかまったハーフエルフ達は奴隷のように閉じ込められ、
それこそ道具、として扱われるのさ。…一生、ね」
「何だよ…何だよ、それ!
それじゃ、やってることはほとんどディザイアン達とかわらないじゃないか!」
ロイドが叫ぶ。
ディザイアン達は人をとらえ、エクスフィアの苗床にしていた。
「ヒトとは愚かにもどこまでも残酷になれる生き物だからね。いい例が子供のころ。
善悪の区別がつかない子供は生きたままの虫達をつかまえたらどうするとおもう?」
ロイドはいうが、ヒトとはもともとそういうところがある生き物だ。
それをロイドは失念している。
ゆえにぽそりとつぶやくエミルに対し、
「え?」
「いきたままのたとえばトンボの足や首をもいでいくんだよ。
彼らも一つの命だというのに、それこそただの遊び心で。
大人になってからそれらをおこなうのはもっとひどい。
勝手にヒトの間でつくりし大義名分?とかいうものを掲げて、
何の抵抗もない命を狩りつくしていく。法律とかいうのにしても然り。
それをつくったのはヒトでしかない、というのに。
そこにいくら理不尽なことがあってもそれが法律、決まりだから、
という理由で他者を…他の命をないがしろにしていくんだよ。
…ヒトとはそういうものでしょう?
そしてそれに逆らえば、そのものが間違っている、と断罪されてしまう。
それこそみせしめ、とばかりに何の罪もない赤ん坊の手足などをもぎとって、
それをさらしものにしたりとか、ね。
野生生物とかでもそんなことはしないのに。彼らがするのにはナワバリを示すため。
でも、ヒトはそれらを自分達の感情のまま、意味のないままにそれを実行する。
…本当に、ヒトは愚かでしかない。
笑いながら他者を傷つけたりするのはヒトくらいしかいないよ。ほんとうに」
どこまでも残虐になれるもの。
それが人。
あの魔族達でもそう。
元が人の精神体から発生している精神生命体であるせいか、
どこまでも残虐非道な行いを平気で行う。
野生生物においてもそこまで命を粗末にするようなこと、無意味なことはほぼしない、
というのに。
「お前は…まるでみてきたようにいう、のだな。
今のこの世界でそのようなことが行われているときはかない。
かつての、古代大戦、さらには天地戦争とよばれし時代にはよくあったらしいがな」
そんな彼らの会話をききつつ、クラトスがぽつり、という。
クラトスもかつて目の当たりにしている。
そもそもクラトスはどちらかといえば行いをするほう側でかつてはあった。
それでもヒトがつくりし法にのっとり一応は取り締まっていたよう、ではあるが。
そのあたりまで詳しくは視てもいないし、
あの当時、愚かなヒトがすることに辟易していたのであまり注意もしていなかった。
興味がでたのは、精霊達がミトスと契約をかわしはじめてからのち。
それまで、ヒトなどもうどうにでもなれ、一度痛い目を…
かつてのように、生命がほとんど死に絶える寸前までいかなければ気付かないだろう。
そう傍観していたあの当時。
「…古代の歴史では、エルフ狩り、というのも行われていたらしいわ。
子供のころに聞かされた言葉だけど」
リフィルが幼き日にきいた言葉をおもいだし、顔をうつむかせる。
「ヒトは、自分と異なる力をもつもの、また容姿をもつものを認めようとしない。
認めることができるのに、それを拒絶し、排除しようとする。
その結果、それによってうまれた様々な負の感情がさらなる悪循環をもたらしている。
それすらにきづくことなく、ね。どちらにしても、彼らも大地がなければいきていかれない。
元をただせば、全ては大地の申し子、なのに…それすら忘れてしまっている」
「?エミルって、なんかヒトでない言い回しをするんだね?でもそんな哲学者っぽいエミルも素敵!」
笑いながら、力なき子供達を殺しつくしていっていたヒト。
これまでの幾多の世界でも行われていた…ヒトによる他者への虐殺。
それは同じ種族、ヒト、という種族だけではあらず。
狩りつくし、意味のない狩りをし命を奪い、幾多の種族をヒトは絶滅させていったであろうか。
その種族がいなくなることにより、ヒトもまた不利益を被る、というのに。
そのことにすら気づかず、否、きづいていてもそれをやめようとしなかったヒト。
しようとしないヒト。
きちんときづき、命を正確にとらえれば、彼らもまた世界の一部、
としての役割、すなわち循環させてゆく、という役割をはたせる、であろうに。
ヒトはあるいみ、ヒトがいうところの潤滑油に近い役割を果たすことができる。
そのために、光と闇の力をあわせもたせてある。
だというのに。
そんなエミルの独白にもちかい言葉をきき、マルタが首をかしげつついってくる。
「とりあえず、僕、外で薪をあつめてきますね」
これ以上、彼らに話していても仕方がない。
ゆえにそのまま、踵をかえし、部屋からでてゆく階段へ。
「あ、エミル、ま…いっちゃった。もう!エミル、はやすぎ~」
そのまま階段をおりてゆくエミルをあわててマルタもまた追いかけるが、
いつのまに移動したのであろう、階段の先にエミルの姿はみあたらない。
それになぜか階段の下付近に魔物がたくさんおり、
襲ってこない、という確証もないがゆえにマルタはおもわずその場にてたちどまり、
そのままエミルを追いかけることを断念し再び部屋の中へともどってゆく。
そんなマルタの様子とはうらはらに、
「…テセアラでも…ハーフエルフは……」
「こっちのほうがあるいみですごしやすいかもしれないね。
あっちではハーフエルフを匿った、もしくは一緒にすんでた。
というだけで連帯責任で死刑、とまでなっちまってるし。
あのアスカードのハーレイみたいに町に住むなんて不可能なのさ。
いたとしても国民が密告すればお金が手にはいるからって売り飛ばすしね」
どうやらこちらの話しはまだ続いていた、らしい。
ジーニアスの呟きに、しいなが答えているのが視てとれる。
「何だよ…何だよ。それ。いくらハーフエルフだからって、それはないだろ!
人間の中にもいいやつもいれば悪いやつもいる!ハーフエルフだって!」
ロイドがそんな会話をききつつ、思わず叫ぶが、
「ふ。かわったな」
「む。クラトス。何がおかしいんだよ!」
そんなロイドの台詞をききつつも、クラトスがかるく口元を歪め、ぽつり、とつぶやく。
その顔はロイドの気のせいか少しばかり笑っているようにもみえなくもないが。
それがロイドからみれば馬鹿にされているようで、むかむかしてしまう。
「旅を始めたばかりのお前ならば、
ハーフエルフというだけで問答無用で悪だ、敵だ。そういいきっていただろうに。
それこそ他の人間達やエルフ達がハーフエルフを、そしてハーフエルフ達が自ら以外を憎むように、な」
「それは……」
クラトスの台詞にロイドは言葉をつまらせる。
ヒトなのにディザイアンにくみしていたドア。
ヒトなのに旅人などをディザイアン達に売り飛ばしていたあの男たち。
そして、知り合いを助けようとし遺跡を吹き飛ばそうとしたハーフエルフ。
どちらが悪か、といえば答えは前者。
だけども、あのとき、真実をしらなければ、遺跡を壊そうとした彼がハーフエルフだ、
ただそれだけで非難していた可能性もありえる。
事実、あの街の人々はハーレイについてあまりいい印象をもっていなかった。
アイーシャが生贄にえらばれたのは、ハーフエルフとつきあっているからだ。
と断言している町の人もいた始末。
それをロイドは知っている。
「パパやママが常にいってる。一番怖いのはヒトの心だって。
ママはこうもいってる。種族に心の色はないんだって。
皆、この大地の子供なんだから同じ兄弟、家族なんだって」
クラトスの言葉にロイドが言葉をつまらせ、マルタが思いだしたようにいってくる。
マルタにはそれがよくわかる。
かつて、ハーフエルフの友達がいて、それこそハーフエルフだ、というだけで町をおわれた友達が。
その思いはいまだにマルタの中でしこりとなって残っている。
「まあ、ここでいってもしょうがないけどね。
ともかく、あたしはコレットを殺さなくてもすむかもしれない方法を見いだしたかもしれないんだ。
世界が二つあるから、マナを奪い合う世界になる。
でも、精霊達が道をしめした。世界が一つになるまで。ってね。
ってことは、テセアラとシルヴァラント。世界を一つにもどす方法があるってことだろ?
あたしは…それをあきらめたくない。そうすれば、どちらの世界も、コレットも殺さなくてすむし」
ウンディーネだけではない、シルフの言葉で確信した。
どちらにしてもこのままだと、どちらの世界も滅亡し、
やがては下手をすればひこずられるように両方の世界が滅亡する。
それこそ片方のマナが失われてしまえば、隣接しているテセアラもまた無事ではすまない、
そう学者の一部のものは唱えている。
そんなことはありえない。と教皇は叫んでいるらしいが。
しいなはそれを精霊研究所にて聞かされている。
「そんな都合のいい方法がすぐにみつかるとおもって?」
リフィルからしてみても、コレットを犠牲にしなくて世界が助かるのならば、
その方法を選びたい。
だけども、すぐにそんな都合のいい方法がみつかる、とはおもえない。
それこそ日々、シルヴァラントは滅亡への道をたどってゆくであろう。
それまでどれほどの命が犠牲になるのかわからない。
「わかんないよ。けど、やってみる価値はある」
そのためにはうちの国王に許可をもらう必要があるかもしれないけど。
そう内心ではおもいつつ、今はしかしそれを口にはしない。
そんなしいなの決心をきき、
「そうだ。救いの塔であのレミエルってやつにきくとかは?」
「教えてくれる、とはおもえないわね」
ぽん、と手をうちいうジーニアスの言葉にリフィルが首を横にふる。
女神マーテルは存在しない、という彼らの台詞。
そしてまた、マナの循環という契約。
すべてがマーテル教の根柢、世界のなりたちの教えに矛盾しているこの事実。
「でも…確認してみる必要はある、わね」
「救いの塔、か」
しいなからしてみればコレットを天使にさせるわけにはいかない。
が、次なる目的地は救いの塔だという。
それにしいなも確認したいことがある。
もしも、マナの循環の切り替えだけ、が再生の旅、すなわち儀式の役目なら、
ならばどうしてこれまで旅にでたという神子が一人も戻ってきていないのか。
繁栄世界の形だけの儀式ではなく、これまでの旅で神子がもどった。
という話しはきいたことがない。
それに気になるのは、精霊がいっていた、マーテルが殺された。
その台詞。
女神が殺された?
しかもその前の封印の獣においては女神マーテルなどというものは存在しない。
そうまできっぱりといいきっていた。
さらにいえば、ユニコーンなどは、マーテルの病気を治すために生かされていた。
そんなようなことすらいっていた。
神、ともあろうものが病気になるなんて胡散臭いこと極まりない。
それこそ、世界を生み出したという神ならばそんなことはありえないであろうに。
「…一度、精霊研究所にもどれていろいろときければ手っとりはやいんだけどね」
おそらくリリーナ達ならばそのあたりはしっているかもしれない。
たしか、誰かと組んで精霊の研究を彼女達はしていたはず。
そんなしいなの呟きに、
「そういえば、あなた、研究所がどうの、といっていたわね。
あなたの国…テセアラにはそういう機関があるの?」
ふとリフィルがきになるらしく問いかけてくる。
ウンディーネとの契約のときも、たしかにしいなはいっていた。
研究機関ではこんなことは習わなかった、と。
だとすれば、しいなはそういった機関にかかわりがある、ということに他ならない。
こちら側、シルヴァラントにはないそういう組織が。
「ああ、国立、つまり国が運営している機関がね。
様々な分野を研究してるよ。まとめて王立研究院ってよばれてる。
それこそ、研究材料は様々さ。精霊から魔物、天候、もしくは伝承、などといったこともね。
あたしは、そこの中のおもに精霊研究所の機関に協力という形で携わってた。
この子、コリンもそこで知り合った子さ」
研究施設の中にて介殺しになっていた精霊の子。
彼らは実験体E-α、そうとしか呼んでいなかったあの当時。
それこそ、牧場内できいた、ロイドの母親という女性の実験体の番号体、
その記号のごとくに。
「そう。こちらの国はディザイアン達に滅ぼされてしまったけども、
でもそちらにはまだ国があるのね。国の名は月と同じテセアラ、かしら?」
もしかしたら、こちらのシルヴァラントがそのような世界であったかもしれない。
砂時計の関係、としいなはいったが、目の当たりにしたわけではないが、
しかし精霊達の言葉もある。
世界が二つあり、マナを搾取しあい循環しているのは間違いようのない事実なのだろう。
そして、この世界再生はマナを転換させるための儀式。
そこに女神マーテルを目覚めさせる、というような内容は含まれていない。
にも関わらず、リフィルはファイドラ達から神子はその命をマナにかえ、
その命をもって封印をなす、そうきかされた。
ファイドラ達が嘘をついていたとはおもえない。
だとすれば、ファイドラ達も…マナの血族も真実を知らない、ということに他ならない。
これまで、旅にでた神子が一人も帰ってこなかった、ということも気にかかる。
「ああ。そうなるね。ちなみに首都はメルトキオってところだよ」
しいなもここ、シルヴァラントをいろいろと廻ったわけではないが、
メルトキオやフラノールの規模の大きさの街はみかけなかった。
唯一近い町はパルマコスタ、とよばれしあの地くらいであろう。
それでも、蒸気機関の船が最新式、といっていたことから、
こちら側の技術力はかなりテセアラ側と比べて遅れている、といってもよい。
あのアイフリードとかいう輩がもっていた船は旧式なれど、かなりの技術を使ってつくられていた。
それこそ失われたというドワーフの技術をふんだんにつかっているらしい。
イセリア…マナの血筋がすむという聖なる村の近くにドワーフが住んでおり、
そこのドワーフに特注しつくってもらった、しいなはあの船の上でそうきいた。
もっとも、その後、リフィル達からそのドワーフがロイドの育ての親だ、
と聞かされて世の中って狭い、とふとおもったのはおいとくとして。
「国…かぁ。パパ、でも本気で国の再興なんかするつもりなのかなぁ?
とりあえず、パパが首飾りを、というから私がきたけど」
「にゃ?」
シヴァを両手ですこし抱き上げつつも、その首にかけられている首ををみて、
二人の会話をききつつマルタが首をかしげる。
「でも、あたしはいいとおもうよ。うまくいくかどうかはわからないけど。世界が一つになったとき。
こちらに国というかそういう組織がなかったら、何となくうちのとこの国の…
とくに上層部の王族やら貴族やら。そういった連中が何をいいだすことやら」
想像したくないが、簡単に想像できてしまう。
まちがいなく、見下す。
それはもう確信。
今ですら、自分達以外のものは下で、何をしても罪にはとわれない。
そんな感覚の上層部達しかほとんどいないあの国ならば。
「たしかに一理あるわね。それどころか、国もない、きまった法律もない。
そんな私たちの世界を野蛮、とさげずんで、奴隷のような扱いをしかねない。そういう可能性もあるわね」
「まさか、そんな…いや、でもありえる、か?」
しいなはしいなで、リフィルの言葉にしばし考え込んでしまう。
「マルタ。あなたは町にもどったら、あなたの両親。イセリアのファイドラ様にあうように進言したほうがいいわ」
マナの血筋で今現在、もっとも発言力をもつのがファイドラ。
前回の神子の妹だ、といい、そしてコレットの祖母でもある女性。
おそらく間違いなく、世界がもう一つあるなど、ファイドラ達もしらない。
知っているのとしらないのとでは、いざとなったときの対処の仕方が異なる。
「イセリアってたしか神子様がうまれる聖地だよね?」
コレットをちらりとみつついうマルタに対し、
「ええ。そうよ」
「たしか、ディザイアンと不可侵条約を結んでいるとかいう場所だよね。
…ずるいよね。他の街や村はいつもディザイアンにおびえてるのにさ」
「でも、やつらはその契約を裏切った。聖堂に攻め込んできやがった」
「そうね。そして祭司長様をはじめとした祭司様方が殺されてしまって。
だから私たちがコレットの旅についていくことになったのだもの」
「…結局、やつらディザイアンは約束を守ることなんてしないってことなんだよ」
吐き捨てるようにいっているジーニアス。
マルタは契約を結んでいるからまったく被害がないからずるい。
そうおもっていたが、どうやらその認識は間違っていたらしい。
そのものいいからすれば、どうやらコレットを護るため、
マーテル教の祭司達がディザイアン達に殺されているっぽい。
それに気づき、しばし何ともいえない沈黙が、部屋の中に満ちてゆく……
「ったく、あのまとわりつくのはどうにかならないか」
追いかけてくる気配を察知したがゆえに、すばやく気配を隠し、
さらにいえばその場から外にと直接、闇を介し移動した。
「でもかわいいものじゃないですか。ラタトスク様を慕う人間、ですか」
「あのな」
周囲に誰もいないがゆえか、姿を現したテネブラエがそんなことをいってくる。
「…あいつもそう、だったのにな…あれほどしつこく尋ねてきては……」
「……ラタトスク様……」
そのあいつ、というのが誰をさしているのかわかるがゆえに、テネブラエは言葉をつまらせるしかない。
「ともあれ、ウンディーネ。シルフ」
「はい」「はいなっ」「はいはいは~い」
「お呼びですか?」
呟くとともに、目の前の空間がゆらり、とはじけ、目の前に水の精霊と風の精霊が出現する。
「…元気だな。あいかわらずフィアレス。お前は」
「えへへ」
ちなみに、今の返事は上からセフィー、ユーティス、フィアレスが発した言葉であり、
ウンディーネはいつもの平常通り。
「ミトスとの契約の枷がなくなった以上、
これまでのように世界の属性の管理はお前達の元に再び戻る。依存はないな?」
腕をくみ、あらわれた精霊に対しそういい放つエミルの雰囲気はエミルであらず。
その緑の瞳は深紅となりて、雰囲気もエミルとして纏っていた雰囲気のそれではない。
威圧感すらかんじ、視ているだけで何というか畏縮し、
その場にひざまづき、ひれふしてしまいそうな雰囲気をかもしだしている。
「アクア。ウェントス」
「「ここに」」
その言葉とともに、センチュリオン二柱がゆらり、と姿を出現させる。
「二属性がミトスとの契約の楔から解放されたゆえに、お前達もまたかつてのような役目にもどれ」
「質問!ラタトスク様!」
「何だ?ユーティス?」
元気よく、手をあげて…わざわざあげなくてもいいとおもうが、
とにかく手をあげて声をあげてくるシルフ次女たるユーティス。
「大樹が今はない状態だけど、マナはどうするの?」
かつては大樹をつうじ、世界を安定させるマナを生み出していた。
それとともに世界にみちる負もまた大樹によって浄化していた。
が、今、その大樹…世界の楔ともいえるそれがない。
根は残っているのは知ってはいるが。
「たしか、さきほど、自らがこの場にいることにおいてとかいわれていましたが」
ユーティスにつづき、困惑したようにセフィーもまた問いかけてくる。
「ああ。そのことか。この地ではしたことがなかったがゆえにお前達精霊達はしらないか。
以前もよく愚かなヒトが樹を枯らそうとしたことが、これまでにも幾度もあったゆえにな。
そういうときにはあえて樹をそのままにし、我がその変わりとして地上にでていた。
最低限の大地の存続ができる程度のマナの生成と、あとは世界のありようを見極めるためにな」
「ちなみに。さすがにそのときには、ラタトスク様だ。と人に知られるわけにはいきませんでしたので。
我らはこのように呼んでいました。大樹の分身、ディセンダー、と」
そんなラタトスクの言葉にテネブラエが二柱の精霊達にむかって説明をしているが。
「「「「ディセンダー?」」」」
「自由の灯、見極めるもの、などという意味がある言葉ですよ」
その言葉は、前の世界だけではない、かなり以前より使用している。
それこそ世界を…否、この宇宙空間における様々な惑星を産み始めたそのころから。
もっともラタトスクからしてみればそこまで説明する気はさらさらない。
それゆえにそこまで詳しくは説明しなければ、センチュリオン達もまた、
説明する必要がない、とおもってるがゆえに詳しくそこまで説明はしない。
ただ、この世界においてはその方法を使用していなかっただけ。
「まあどうでもいいが」
いや、よくないとおもうのですが。
さらり、といわれ、精霊達からすれば困惑ぎみ。
というより、王が、精霊ラタトスクが地上にでている、というだけでも困惑、なのに。
気配を解放していれば、やはり王であることは一目瞭然。
なのに普段、あの人間達といるときの気配は人のそれでしかなく、
まちがいなくセンチュリオン達が傍にいなければ気付くことができなかった。
そうシルフ達もウンディーネ達もまた確信をもててしまう。
もっともその台詞はノームやシャドウ、セルシウスにもラタトスクは言われているのだが。
ちなみにセンチュリオン達からすらも。
「ゆっくりと大地は移動させていく。本来の姿にもどしたとき違和感がないようにするつもりだ。
ウンディーネ。お前は水の聖獣シャオルーンにアクアとともに繋ぎを。
どうもまだ火の聖獣以外は眠っているようだしな」
彼らは人の負の思念に敏感でもある。
ゆえに大体争いが絶えないときには彼らは眠りについている。
彼ら聖獣が負に侵され、それこそ狂ってしまわなうように、という自衛手段。
ミトスが聖獣たちの存在にきづかなかったのはそこに理由がある。
何しろあのとき、戦争が激化しており、彼ら聖獣はヒトの目にふれるようなことはまずなかった、のだから。
「ちなみに、移動はこのようにする」
くるり、とラタトスクがかるく腕を前につきだしふるとともに、
ゆらり、と目の前の空間に今の二つの世界のありよう。
構成されている二つの大陸の姿が、虚空にと映し出される。
それはラタトスクの合図とともに、ゆっくりと移動してゆき、やがて一つの形をなしてゆく。
「これは…かつての大陸にではもどす、ということですか?」
それは、世界が二つに分けられる前の大陸の様子。
「そうだ。その前にあの人間に最低でもノームとイフリートと契約を結ばせるか、
もしくはミトスとの契約破棄だけでも誓わせられればいいのだがな」
ともあれ、水、そして風の精霊は、ヒトによる契約の楔。
たしかにしいなと彼らは契約をはたしたが、しかしそれは世界を二つに戻す、という前提の契約。
そのためにどうこうする、という契約ではないがゆえに基本自由といってよい。
ミトスの契約は、その契約の誓いの上書きでマナを循環させる、
という役目を担っていたのであの場、
すならちセンチュリオン達の祭壇がある地から離れることすらできなかったようだが。
「我らの力…センチュリオン達の力も今現在は満ちている。
必要最低限のマナは我自身が生み出すがゆえに問題はないはずだ。
問題があるとすれば、ヒトがおこないしことくらいか。
できれば、世界にある精霊石達によびかけ、微精霊として孵化させておけ。
お前達の力もアクア、ウェントスの力が満ちた以上、それらが可能となっているはず」
そしてそれは他の精霊達にもいえること。
微精霊達はその属性ごとの司りしものの配下といえる存在達。
ゆえにラタトスクやセンチュリオン達だけでなく、八大精霊達にも孵化は可能。
マクスウェルのほうはどうやらミトスとの契約を交わしてはいるが、
かといって囚われている、というわけではないゆえに、
かつての精霊としての役目を今現在も果たしているらしいので問題はない。
役目が果たせていないのは、囚われた精霊達。
それでもかの地に囚われたのがルナであったことから、
光の属性に関しては問題なく世界に普及している。
「まあ、大地の移動によって大陸では地震がおこるだろうが。
それによる海の変動などの調整もウンディーネ、アクア。お前達の役目でもある。
あまり大津波を起こさない程度、じわじわと大陸移動をさせるつもりではあるがな」
それこそ一気に移動させれば、今ある大陸のほとんどは、津波によってかききえる。
それこそ、かつてしようとしていた大地の一斉浄化、のごとくに。
精霊は本来、一か所にとどまるものではない。
強いていえば、世界そのもの、どこにでも全ている、といってよい。
意識をむければその場にとすぐさま実体化が可能。
それこそマナがあるかぎり。
ラタトスクにしても然り。
なれど今の彼はコア、すなわち本体を軸に実体化しているがゆえ、
すこしばかりの制約があるにすぎない。
第三者の視点からみればその制約もあってないようなもの、としかいいようがないが。
「ところで。ラタトスク様。いつまであのものたちとともにおられるおつもりですか?」
ウンディーネからしてみればそれが気がかり。
ちょっとしたことをセンチュリオン達との対話にて知ってしまったがゆえの懸念。
「まずはミトスが何をしようとしているのか見極めること。
そして、できればレインとミトスの契約の破棄だな。
レインの力において彗星もこの場にとどめ置いているようだが…
しかし…あれをとどめ置いていることで他の場所にも…いや、まあいいが」
かの彗星においてマナを振りまいていたのは何もここだけ、ではない。
定期的にあの彗星を通じ、惑星デリス・カーラーンの様子も視れていたというのに。
「次なる目的地があの場というのなら。レインとも邂逅できるしな」
あの地にレインがいるのはもはやわかっている。
彼らとともにいれば、すくなくとも、レインの前にはいけるであろう。
そこでレインの考えをきいてみるつもりでもある。
彼の反応によっては、新たに契約の指輪というものを作成する必要があるであろう。
ざっと世界を視るかぎり、もともとあったかの契約の指輪は壊されているっぽく、
その気配すらつかめなかったのだから。
「「「「?」」」」
ラタトスクがいいかけた、言葉の意味は、ウンディーネにもシルフ達にもわからない。
ゆえにそれぞれが思わず首をかしげるのみ。
パチパチ、薪がハゼ割れる音が部屋の中にとこだまする。
とりあえず、全員が疲れているであろう、ということもあり、今夜は簡単なスープにしてふるまった、のだが。
それぞれが思うところがあるらしく、いつもより食事の量もそこそこで。
今にいたってはそれぞれ完全に眠りについている。
まあ、飲み物に睡眠効果のあるものをもってきたゆえに全員があるいみ爆睡している、
というのが正しいのだが。
「……?」
あれ?
ゆっくりと目をひらくと、まだ建物の中で。
しかも壁の近くにて焚火をしているらしく、ゆらゆらと赤い炎がもえているのがみてとれる。
きょろきょろとコレットが周囲をみわたせば、コレットの後ろにはノイシュがおり、
そして入口付近にクラトスの姿。
そしてリフィルは屋上につづく扉の前のあたりにいるのがみてとれる。
いつもは起きているであろうクラトスまで目をつむっていることに
コレットからしてみれば驚かずにはいられない。
「・・・・・・・・・・・。・・・・・」
ノイシュ、お布団替わりになってくれてたんだ。ありがとうね。
声にならない声を紡ぎだし、口をぱくぱくさせてノイシュにお礼をいう。
「あ、コレット。おきた?」
ふとみれば、火の傍にいたエミルがきづいたのか、そんなコレットにと声をかけてくる。
「・・・・。・・・?」
あ、うん。皆は?
疲れてたのかな?
みれば、ロイドもリフィルも全員すやすやと眠りについている。
やはり目がさめても声はでそうにない。
それにきづきコレットはため息をつかざるをえないが。
「というか、なんでコレット、わざわざ意味のないことを自分から受け入れるの?」
「・・・・・・・・」
意味のないって。
コレットからしてみれば、エミルが何をいっているのかわからない。
これは天使になるための試練、そういわれているから従っているだけ。
自分がそうしなければ、ロイドのすむこの世界を救えない。
エミルからしてみれば、なぜ無駄というか意味のないことだ、
と少し考えればわかるであろうに、あえて受け入れているコレットが理解不能。
それゆえの問いかけ。
それこそ、微精霊達がコレットに問いかけているであろうに。
その深層心理の内部において。
「…はぁ。まあ、そう信じ込まされてるとはいえね。
コレット。もうすこしきちんと自分で考えたほうがいいよ?
というか、ミトスのやつも何を考えてるんだか……」
「・・・?」
え?
首をかしげるコレットにたいし、ぽつり、と険しい表情でつぶやくエミルの台詞に、
コレットからしてみればとまどわずにはいられない。
「ともかく。君の中で微精霊達との盟約が成立してしまっている以上。
コレット、君がきちんとそれらを自分なりにきちんと解除するなり破棄するなりしないと。
あの子達も君がそう盟約した以上、手だしはできないんだからね」
「・・・・・・・?」
あの子達?
「…声がコレットにもきちとん届いているはずなんだけど。
もしかして無意識にそれをきいてない、とおもいこもうとしてるとか?
まあ、どちらにしても君たち人がきめること。とりあえず、何かのむ?」
「・・・・?」
人がきめるって?
エミルのいっている言葉の意味は、コレットにはわからない。
今はまだ様子をみている微精霊達ではあるが、
コレットがこのままの姿勢を貫くのであれば、彼らもまた孵化を望むであろう。
そうなれば、今のコレットの体における結晶化の進行を止めるものはまずいなくなる。
それをこのコレットはわかっているのかいないのか。
ヒトの身に精霊石は多大な負荷をあたえてしまう。
だからこその要の紋とよばれし品がかつて開発された。
それをこのコレットは身につけていない。
すなわち、そのまま器である体そのものが精霊石にひっぱられていくといってよい。
特にコレットが身につけているそれは、微精霊は微精霊でも中級精霊達が宿りし卵。
普通の精霊石より密度も濃い。
そこいらに漂う微精霊達の卵といえる普通の精霊石ならば、
要の紋をつけていなかったとしても、体内のマナを狂わせ、異形とかす。
その程度の変化ですむ、が、中級精霊達以上はそうではない。
それこそ問答無用で体全てが卵と同じ状態。
すなわち精霊石と化してしまう。
しかも今現在、むりやりに精霊達を穢し、その進行をあえて促進していることからも、
その手前にておこる現象。
すなわち、その力にのまれ、ヒトの心、
すなわち精神体の消滅をもくろんでいるのかもしれない。
強大なる力に耐えられず、ヒトはもろくもその心をたやすく壊す。
…ミトスがそうしている、とおもいたくもない。
ないが、目の前にこうしてそのようにさせられかけているコレットがいる、というのもまた事実。
次なる救いの塔とよばれし場所でその予測は確実に決定つけられるであろうが。
それで苦しむことになるのは、コレット当人。
なのにその当人はそれが当たり前、とおもって受け入れている。
当たり前でも何でもなく、それをしたからといってどうにかなるものでもないというのに。
「これだけはいっておくよ。たかがヒトツのしかもヒトの命程度で。
たかがヒトの命程度で世界にマナが満たされる、なんて思わないことだよ。
そもそも、あのマーテル教とかいうあの教え?とかにあるあれ。あれもまったくの嘘だし」
「・・・・?」
え?
今、きっぱりと、エミルは嘘、そう断言した。
ゆえにコレットからしてみれば困惑せざるを得ない。
「ま、明日も早いし、寝たほうがいいよ?」
「・・・?・・・・」
――エミルは?私はなんだか目がさえて……
「生体兵器、天使化への兆候の結果、か。ほんとうにヒトは…
まあ、問題はないとおもうよ。あのクラトスですらきいてるし。はい」
「??」
生体兵器?天使化?
それに何でクラトスさんの名が?
とまどうコレットの手にもたされたのは、一つのコップ。
どうやら中には何かの液体がはいっているらしい。
ほのかに湯気がたっていることから暖かい飲み物、だとはおもうが。
匂いも感じられなくなっているコレットにはこれが何なのかはわからない。
それでも色からして時折エミルがこれまでの旅の中でもだしてきた、
ミックスハーブティーとかいうものなのだろう。
そう予測する。
「・・・・・。・・・・」
よくわからないけど。とりあえずありがとう。エミル。
「どういたしまして」
こくり、と口にふくめば口にひろがる淡い味。
おいしい。
そこまでおもい、…あれ?
そういえば、今、私、声にだしていなかったのにエミルと会話が通じていたような?
今さらながらにふとおもう。
「のみきったら横になればいいよ。…もう一度よく自らの心と彼らと会話すべきだろうしね」
それはどういう…
そうおもうが、口にふくむたびに、体がきのせいかふわり、としたような感覚となり、
これまで重かったような感覚が一気に取り除かれてゆく。
それとともに倦怠感、ともいえるなぜか睡魔に襲われる。
「…おやすみ。コレット。お前達もよくその子と話してみるように」
最後の言葉は、コレットの内部にむりやりにいれこまれようとしている微精霊達にむけて。
本当に孵化するまでのマナが満ちていない微精霊をどうして利用しようとするのだろうか。
ミトスも仕組みをしっていたはず、なのに。
まだ魔界との契約をしていない、というだけでもうぎりぎりのところまで堕ちている、とみるべきか。
コレットがそのまま寝息をたてはじめるのとほぼ同時
「エミル?」
「リフィルさん。目がさめたんですか?」
ふと声がしてそちらを振り向いてみれば、
疲れがたまっているだろうから、より睡眠効果は強くしていたはず、なのに。
なぜか目をさましているリフィルの姿がそこにある。
特にクラトスにわたしたものはそう簡単には目覚めないようにしてあったりする。
それこそ無機生物である石の意識ですら眠りにつけるほどに。
「ええ。何か目がさえてしまって…食事のあとねむくなったはず、なのだけども」
なぜかふと眠気を覚え、いつのまにか眠ってしまっていた、らしい。
どうしてかしら?そんなことを思いつつも、
「クラトスも寝ている…のね」
いつも彼が寝ているところなどみたことがない、というのに。
だとすれば、やはり原因は、食事のあとだされた飲み物である、とみるべきか。
ちらり、とクラトスをみやり、その思考をさきほどの食事のそれにと切り替える。
この場でざっとみるかぎり、どうやらおきているのはエミルだけ、らしい。
マルタはノイシュにもたれかかるように完全に寝入っている。
静かな石の間取りの空間の中、からからとかるく回る風車の音と、
焚火の薪がハゼ割れる音のみがときたまひびいているのがききとれる。
ジーニアスもどうやら完全に眠っているもよう。
「何かのみます?」
「いえ、いいわ。それより、エミル」
「はい?」
「聞きたいことがあるのだけども。あなたは、誰なの?」
誰、ときくのはおかしいかもしれない。
けども、精霊とのあの理解不能な会話、といい。
エミルにはたしかに何か、がある。
「おかしなことをいう人間ですね。エミル様はエミル様でしかないのに」
ひんやり、とした空気が周囲にみちる。
「…グラキエスか」
「はい」
はっとリフィルが身構えれば、エミルの背後に白い服をきているような女性?
…いや、女性のようにみえるが、よくよくみれば、白い服、とみえたそれは服のようで服にはあらず。
繋ぎ目もまったくみてとれなければ、その容姿の肌の色も透き通るほどに白い。
「あなたは……」
船上でみたアクアとかいう少女らしきものと同じマナ。
その感覚は多少ことなれど、感じる感覚はまさに同じもの。
しかし、あのときは船上であったがゆえにリフィルは気付かなかったが、ここならば別。
この場にあるべきのないはずのマナが目の前の白い女性のようなそれから感じられる。
それは、氷のマナ。
「何の用だ?」
「一応、御報告を、とおもいまして。何事もなく無事に」
「…わざわざ姿を現してまでそれ、か」
例の件とはいうまでもなく、セルシウスのことであろう。
少し意識をむければかの施設はもののみごとに綺麗さっぱりと消滅しているらしい。
少しばかり配下のものだけでなくグラキエスも何かしでかしているようではあるが。
命を命とおもわない実験をしていたヒトが悪いのでそれは別に問題ないのだが。
なぜにわざわざ姿を現してきてまで報告する必要があるのか、とそう問いたい。
いつもの念話で事足りるであろうに。
『クラトスが余計なことをしたときの為です。
どうやらフィアレス達が余計なことをいった模様ですので』
「・・・・・・・・・・」
わざわざ姿を現したのは先ほどのシルフ達三姉妹の会話に起因、しているらしい。
心配性というか何というか。
そこまで心配しなくても大丈夫だ、というのに。
おそらく確実にクラトスはロイドの前で自分が天使化している、
ということはいわないであろう。
それこそ何かのきっかけがないかぎりは。
エミル?
いつも自分達と接しているときのエミルと
あきらかにその白き女性もどきと話しているエミルの様子が異なっている。
いつもエミルはどこか腰が低いような感じをうける話し方を常にしている、というのに。
常に相手を気遣っているようなものいい、ではあきらかにない。
そんなエミルの様子を怪訝そうに見つめるしかないリフィル。
この魔物のようで精霊でもない存在は何なのか。
リフィルも地下にいっていれば、テネブラエ達に出会っていたであろうが、
リフィルはあのとき別行動。
ゆえに彼らの姿はみていない。
だからこそとまどわずにはいられない。
エミルの様子からしてどうやらこの女性のような何かもまた、
エミルの関係者というか知り合いらしい様子、ではあるにしろ。
今さらながらにエミルのことは何もしらないのだ、とリフィルは思い知らされる。
パルマコスタで出会った旅の子供。
なぜか魔物を呼び出すことができ、あげくはいうことすら聞かせられる…
これはリフィルの想像でしかないが、あのルインの街で、
ディザイアンを襲っていた魔物はエミルが何らかの指示をしたからではないのか、と。
それをエミルに面とむかってきいたことはないにしろ。
「…まあ、いいけどね」
クラトスはマナを感じとることができない。
ゆえにグラキエスがこの場にいても、よもやセンチュリオンだ、とは気付かないであろう。
そもそも顔見知りであるアクアやテネブラエが姿を現さなかっただけましといえる。
朝方まで確実クラトスが目を覚まさないのは確実であることから問題はない。
そもそもグラキエスはクラトス達と出会ったことすらない。
正確には姿をみせたことがない、といってよい。
ミトスにしても然り。
とりあえず、心配性のその特性を発揮して出てきたであろうグラキエスはおいとくとして
「そういえば、さっきホークさん達が報告してきてましたけど。
朝方、船でパルマコスタにマルタを送ってくれるそうですよ?
リフィルさん達もひとまずパルマコスタに、といってましたけど」
「ええ。たしかにいっていたけど……」
ヒト、ではない。
でも魔物でもない、ましてや精霊でも。
しかしそこにそのマナがあるのが自然、というかなくてはおかしい、というようなマナをもちし存在。
漠然とそれが当たり前、となぜか確信をもってしまう。
おそらくは、これは自分の中に流れている血がそう確信させている、ということ。
ならば、この前のこれは?
リフィルの戸惑いは何のその、
「そういえば、この地下のあれはどうなさいますか?」
「放っておいても問題はないだろ」
別に何か危害がある、というわけでもない。
エミルとグラ何とかとよばれたそれは何やら会話をしている模様。
しかし、地下、といわれ、リフィルははっとあることを思い出す。
「地下?は!?そういえば、この下にはまだ見ぬ遺跡が!?いやでも……」
いろいろとありどうやらこの地下室というかこの下の隠し部屋のことは失念していたらしい。
「?気になるんでしたら、リフィルさん、調べにいってきては?まだ夜は長いですし」
「いや、でも…しかし……」
「何かこの地下にはいろいろと石板らしきものがありましたよ?
古代パラクラフ文字、とかですか?何かいろいろと文字らしきものもかかれてましたし。
リフィルさん達のいうところの天使らしきものの絵がかかれているものもありましたよ。
それらの下にはぴっしりと文字がかかれていましたけど」
それは嘘ではない。
古代のマルタ達の先祖が、ミトスの行為に危機感をおもったのか、
天使の真実がそこに少しではあるが刻まれていた。
まあその背後にとある品が隠されているのだが。
それにリフィルが気づくかどうかは別として。
かつて自分がミトスに提案した、かの記憶を…魂をわけること。
が、あれは、その時の記憶のみをかの石にと閉じ込めている品。
よくもまあ作りだしたものだ、とつくづくおもうが。
すでに失われているはずの製法でつくられたそれは、
かなりの数の微精霊がやはり犠牲のうえに創られているらしいが。
「何ですって!?」
エミルの言葉に目を見開くリフィル。
これは勘でしかないが、この先にもしかしたら、疑問におもっている答えの一部。
答えでなくても何かのヒントにつながる手掛かりがあるかもしれない。
だけども、あやしい、あからさまに疑問をおもったクラトスとともに、
子供達だけのこして調べにいく、というのも気がひける。
自分はどうすべきなのか。
エミルのことも気になるが、エミルはおそらく、彼自らがロイド達の危害になるようなことはしないであろう、
そう変な確信があるのもまた事実。
しばしその場において考え込むリフィルの姿が見受けられてゆく……
~スキット~パラクラフ王廟からパルマコスタに向かう船の中にて~
ロイド「…女神マーテルなんてなんなんだよ」
しいな「さあねぇ。でもすくなくとも。何か裏があるってことは確かなんじゃないかい?」
ロイド「裏ってなにさ?」
ジーニアス「…ユニコーンの台詞に、精霊達の言葉。さらには精霊の守護獣とかいうものの言葉。
あれどういう意味なんだろう?女神マーテルなどというものは存在しない。
それに、ユニコーンがいっていた、弟」
しいな「ああ。そこに絶対に何かがあるはず、なんだよ」
ロイド「先生ならわかんないかなぁ?」
ジーニアス「そういえば、姉さん、パラグラフ王廟からでてからずっと何か考えこんでるんだよね」
ロイド「エミル。お前何かしらないか?」
エミル「?何で僕にきくの?」
ロイド「いや、何となく」
エミル「ロイドもなら、リフィルさんに古代文字をならえば?」
ロイド「何でそうなるんだよ!」
エミル「リフィルさんが考え込んでるのは、あの地下にかかれていた文字。
それらを解読したからだとおもうよ?」
ロイド&しいな&ジーニアス
「それはいったい?」
エミル「それは君たち自信が見極めること。僕がいうことじゃないとおもうしね」
しいな「またそれかい。あんた、ときどき傍観してるようだっていわれないかい?」
エミル「あ、それはよくいわれてたよ」
事実、あの地にて地上を常に視ていたとき、たしかに直接にあまり干渉しなかった。
このたびは傍観者に徹するのですか?とはよくセンチュリオン達からいわれていた台詞。
この地におりたってからこのかた。
マーテルの誕生以後はそれ談ではなくなってしまったにしろ。
しいな「やっぱりかい」
孤鈴「……」
しいな「?コリン?」
エミル「うん。大分力がみちてきたみたい。…あと少しだね」
しいな「?」
なぜ孤鈴(コリン)が姿をあらわして、じっとエミルをみているのだろうか。
それがしいなにはわからない。
そしてエミルのその言葉の意味も。
あとはその偽りの器を捨て去れば、確実にヴェリウスは覚醒を果たす。
今のヴェリウスの器とせし孤鈴(コリン)とよばれしそれは、
人がつくりし人工的な器、でしかない以上、
真の精霊、として力を発揮することなどできはしないのだから。
※ ※ ※ ※
ぼ~。
汽笛の音がこだまする。
「すご~い!はやい!」
「がはは!これぞパルマコスタがほこる蒸気船だ!」
「…パパ…公私混合しすぎ……」
はしゃぐジーニアスに頭をかかえているマルタ。
朝になり、船の用意ができた、というので、接岸しているという場所にまで移動した一行が目にしたは、
以前、パルマコスタに上陸したときにみた蒸気船。
ロイドがイセリアの聖堂くらいあるんじゃないのか?
といっていた船がそこにはあり、ロイドやジーニアスが思わず唖然としたのはつい先ほど。
リフィルは結局、昨夜、風車の仕掛けを超えて地下にといき、
戻ってきてからずっと何やら考え込んでいるのがみてとれる。
かの遺跡に書かれていたのは、かつての古代大戦で開発された、という天使の実情。
ハイエクスフィアというものをもちい、ヒトを無機生命体化し、
天使化、とよばれし生体兵器を生み出した、という代物。
そこにかかれしは、それこそマーテル教の祭典の中にかかれている、
まさに天使そのものの姿でもあった。
石板の様子からまちがいなく四千年かそれあたりに書かれたものだろう。
リフィルとてそれくらいの時代背景はみてとれる。
それこそ石のマナのありようで何となく理解ができるといってよい。
だからこそ考え込まずにはいられない。
マナの守護塔でエミルがいっていたこととあきらかに一致していた石板の内容。
なら、天界、女神マーテルにつかえている天使、とは?
何が真実なので何が偽りなのか。
ふと、もしかして偽りの真実を信じ込まされているのでは。
何か大きな力をもちしものに。
そんな疑念がリフィルの中で沸き起こっている今現在。
そんな中でこのままコレットに再生の儀式を行わせていいのか。
リフィルもまた判らなくなってくる。
それこそ昨夜のロイド達がいっていた、
この世界再生の旅が正しいのかどうか、そんな疑問が改めて浮かんでいるといってよい。
そのまま救いの塔、ではなくパルマコスタに戻れる、というのは
リフィルにとっても都合がよい、といってよい。
少なくとも考える時間が多く与えられた、ということ。
深く考え込んでいるがゆえ、いつもならば船の移動、というので拒否反応を示すところだが、
やってきた船が船。
イズールドからパルマコスタにわたったときのような小さな漁船ではない。
ゆえに安心して乗っていられる、ということも起因して、
リフィルは今現在、思考の渦に囚われている。
「これで早いって…水上カーとかのったらこいつらどんな反応するんだか」
しいながはしゃいでいるジーニアスをみて首をすくめてそんなことをいっているが。
パラクラフ王廟後がある小島から、船を使えばパルマコスタは近いといえば近い。
その途中にソダ島がある海域を通り抜け、パルマコスタはその先となる。
陸路ならば峠を越える必要があるが、海路ならばそれもない。
近くにある絶海牧場、とよばれし海の人間牧場にいつもならば警戒しなければならないが。
その地に囚われていた人々が逃げだしてきている今現在、
牧場内部で何かがおこっている、と考えるのがヒトからしてみれば自然な行為。
それでもロイド達のようにこの機会に牧場がある場所を破壊しよう、
という考えをもってくる人間はいまだにいないようではあるが。
そもそも、どこに牧場があるのかいまだヒトは確定できていない。
入口となっているのは海にとある小さな小島。
それ以外の出入り口はなく、完全に海底にとつくられている施設。
「でも、姉さんどうしたんだろう?」
朝から姉であるリフィルはずっと何か考え込んでいるまま。
しかも常にその視線はクラトスにとむけられている。
たしかにクラトスさんはあやしいというか、なんで精霊達があんなことをいったのか。
そんな疑問もたしかにジーニアスの中にはある。
あるが、船旅だというのに水を怖がるでもなく、
常に考え込んでいる姉の様子をみていれば不安にならないほうがどうかしている。
結局、港がみえるそのときまで、姉はずっとひたすらに何か考え込んでいる。
ジーニアスが何かといかけてもうわのそらで。
一夜あけてもコレットの声は元にもどらず、何ともいえない気持ちをジーニアスは抱いている。
昨日、ロイドがいったこの再生の旅が本当に正しいのか、それすらも疑っている自分。
そんなのはよくない。
女神マーテル様を疑うなんて、とおもう。
でも、本当に女神マーテル様がいるならどうして自分達のようなものを助けてくれないの?
とも。
ただ、ヒトとは異なる種族だけだ、というだけで迫害される。
しいながいうには、あちらの世界だという、月の名でもあるテセアラ側はもっとひどい。
とある場所に閉じ込め、幽閉したような形で死ぬまで何かをさせられる。
そんなのはごめんだ、とおもう。
そもそも、ハーフエルフを匿っただけで死刑なんていう法律がある。
そのこと自体がジーニアスからしてみれば理解不能。
エミルが前にいっていたことが今さらながらに理解ができる。
ヒトが規律を求めるために決まりをつくってもその決まりは所詮ヒトがつくりしものだ、と。
そのときは意味がわからなかったが、今ならば判りたくないがわかってしまう。
所詮、ヒトはヒトでしかないのだ、と。
いくらそうでないヒトがいようとも、上にたったものがそのような考えにならない限り、
下のものたちはそれに従うしかないのだ、と。
「ねえ。エミル」
「何?」
「姉さんどうしたのかな?」
「さあ?昨日の夜、あの地下室にいってからああみたいだけど」
理由はわかる。
でもそれをリフィルからきいてもいないのに知っているのはあきらかに不自然。
ゆえに少しばかり首をかしげ、
「とりあえず、パルマコスタでコレットがゆっくり休めたらいいね」
「…できるかなぁ…ルインの街でもそうだったけど。
ここの街の人達、コレットのことを知っているし……」
何しろ広場で大立ち回りをし、あげくはパルマコスタ牧場まで壊滅させた。
あのとき広場にいた人達はコレットが神子だ、と知っているであろう。
声がでなくなっているコレットがそんな人々に言い寄られ、
何かいってください、といって声をださなくて神子さまは自分達に声もかけてくれないのか。
とヒトによる不快極まりない台詞がでてこない、とも限らない。
「あまりしたくはないけど、今、コレットは天使への試練で、
一切の言葉が話せなくなっている、って町の人達にも伝達させるべきだろうね」
「でも、それは、しいな!」
しいなの言葉にジーニアスが反論するが、
「じゃあ、何かい?この子はまちがいなく、よってくる人にたいし、
何か行動をしようとするだろうけど。それを他人がどうみるとおもう?」
「……くそ。何が女神マーテルの試練だ……」
しいなの至極もっともな指摘に、ロイドが手を握り締めて呟くように言い放つ。
それでも、コレットに旅をやめろ、とまではいっていない。
これまでの精霊達などの言動で、この旅そのものがあやしい、
と大体判ってきているであろうに。
「あらかじめしっていて、それでもコレットにたいし非難した声をあげるような人がいるとすれば。
ヒトはその程度でしかないってことでしょ」
そこに救いも何もない。
「…エミルってときどきずばっときついことをいうよね」
「でも事実でしょ?」
まだ救いがあるようなヒトがいるからヒトを駆逐しろ、という命令は出していない。
それでも、とあまりに愚かな人をみるたびに、思うところもあるにはある。
心清きもの以外、魔物達はその器にやどりし歪み、すなわち負も見極められる。
その負におかされたものを駆逐しろ、と命ずれば、
おそらく今いるヒトの半数以上はあっというまに消えてしまうであろうことも。
それほどまで、今の世界のヒトは自分達のことしか考えていない。
…特にテセアラの上層部とかいわれている存在達は。
「港についたぞ~!」
そんな会話をしている最中、どうやら船はいつのまにか港についた、らしい。
甲板の先により、みてみれば、たしかにみおぼえのある港がみてとれる。
きになるのは、ずらり、と町の人々や教会関係者らしきもの、
さらには総督府の関係者、であろうか、そういった人々が港にて待ち構えているのがみてとれる。
「あれって、コレットの出向かえ、かな?」
「それか、マルタの、だね」
「…パパ。あとでなぐる。絶対になぐる!」
その光景をみてマルタが何やらいっているが。
よくよくみれば、その一団の中に布らしきものをもっている集団が。
そこには、
【おかえりなさいませ。マルタ様!】
と布にでっかくかかれている文字が。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
皆が皆同じような服装であること、ホーク達と同じ服装であることから、
どうやらその帰還幕らしきものをもっている存在達もまた、
マルタの父の親衛隊の一部、であるらしい。
その文字がみえた、のであろう、何ともいえない表情で、
じ~とマルタをみているロイド、ジーニアス、しいなの三人。
やがて、ぽん、としいながマルタの肩に手をおいているのがみてとれるが。
「…愛されてるのも大変だねぇ」
ジーニアスもしみじみ、マルタの背中をぽんぽんと叩いて何やらそんなことをいっているが。
「うう、パパの馬鹿ぁぁ!」
馬鹿~、ばかぁ~……
マルタの叫び声が、港、さらには大気を通じ周囲にと広がってゆく……
『神子様神子様!万歳!』
船を下りれば、歓迎の街の人々で港は覆い尽くされており、
何やらそんな声がいたるところからきこえてきているのがみてとれる。
そんな中。
「これは神子様。御無事で何よりです」
みおぼえのある人物。
祭司服に身をつつんだ人物が一歩前にでてきて頭をさげてくるが。
「マーチ祭司長様」
一歩前にでてきた祭司にたいしリフィルがコレットのかわりに声をかける。
出てきたのは、ここパルマコスタの教会の祭司長をつとめしマーチとよばれしヒト。
「神子様?」
そんな彼にたいし、コレットはかるくぺこり、と頭をさげるのみ。
「よもや、声が?何とすばらしい!」
その様子をみて、いつもの神子ならば声をすぐにかけてくるのに、
声をかけてこない、ということをみると、ある事実におもいあたり、
興奮したようにいきなりそんなことをいいはなつマーチの姿。
「な!どこがすばらしいんだよ!コレットの声がでなくなってるっていうのに!」
祭司長の台詞にロイドがおもわずかっとなりくってかかるが、
「そうか。あなた方はしらないのですね。では無理もない。天使化するにあたり、天使への試練。
その最終段階が声を失う試練だ、と我ら祭司は聞かされております。
とすれば、封印は残すは最後のみ、すなわち救いの塔のみ、ということですね?」
イセリアの修業時代を得て、祭司の資格をえたものは、その天使化の過程をきかされる。
それこそ再生の旅にて神子の手助け…もとい監視役となれるように。
しかしその変化は神子には伝えないことになっている。
始めからしっていればそれは試練にはならない、という理由から。
その事実は祭司の試練をこえたものしかしらない事実であり、
当然のことながらそんな事情はエミルもまたしるよしもない。
そんな彼のものいいから、どうやら彼らはコレットの変化のことを何らかの形で知っているらしい。
そう予測をつけエミルは何ともいえない気持ちにとらわれる。
つまり、彼らヒトは知っていてコレットをその状態に何の事前情報もなく放り込んでいる。
ということに他ならない。
これだからヒトというものは。
つくづくそんなヒトの心の愚かさに嫌気がさしてしまう。
本当に、ヒトというものは。
「あんたは何でそんなに平気でいられるんだよ!?
そんなロイドのいい分に、
「これは異なことを。いいですか?神子様が儀式によって試練をうける。
それはすなわち、世界の人々がディザイアンによってうけている苦しみを、
神子様がその身にてうけとめ、ディザイアン達を封じる為の楔となるのですよ?
神子様が試練を受け、その身に異変をうけとめてゆくことにより、この世界は救われるのです」
「…なっ!」
にこにこときっぱりいいきるマーチの台詞にロイドがおもわずつかみかかろうとするが。
「ロイド。やめなさい」
「でも、先生!」
そんなロイドを押しとどめているリフィルの姿。
「……それがマーテル教の教え、なのよ」
だからこそ、神子の旅には祭司が常に同行することとなる。
本来ならば。
リフィルはそうファイドラから聞かされた。
コレットがすでに眠ったそのあとで。
それらの教えもあり祭司における修業ではその大多数が挫折する、とも。
「…くそっ。何がマーテルだよ…何がマーテルの試練だよっ!
何でコレットがつらい目にあわないといけないんだよ!」
「神子として産まれた以上、それが神子コレット様の試練であり宿命です。
あなたはどうやらマーテル教の経典を詳しく理解してないようですね?
やはり、今からでも我ら祭司が神子様のおともについたほうが……」
そういう人間らしい感情をもつものが傍にいれば再生の旅は失敗する。
それこそかつてのイフリートの業火、トリエットの悲劇、といわれている旅のときのように。
そう祭司達は教え込まれている。
そんな祭司長マーチの台詞は
「いや。問題はない。残りは救いの塔のみ。
できれば救いの塔にいくために、ハイマまでの足を頼みたい」
淡々としたクラトスの台詞によって遮られせる。
「しかし……」
「旅の同行者が途中でかわったとき、何がおこるか、貴殿達もしっていよう」
「……わかりました」
「?どういうことさ」
しいなはそんなクラトスのものいいに首をかしげるのみ。
「…私も話しでしかしらないがな。以前の再生の旅が失敗したのは。
前回の神子アイドラが旅の途中で助けた子供が神子を助けようとし失敗した。そう聞いている」
あのとき、あの場所で、集められみせられたあの光景。
子供をまもり、すでに心を失いかけていたあの少女は命をおとした。
まるで、あのときのマーテルのように。
「それは初耳なのだけども?」
リフィルの険しい視線がクラトスに向けられるが。
「では、我らはハイマまでの足を確保してまいります。
今日のところはこの街にてごゆっくりしてくださいませ。
ニール殿、ブルート殿。あなた方もそれでよろしいかな?」
みれば、総督府のニールもまたこの場にやってきているらしい。
「祭司長がそういうのでしたら」
「あ。そうだ。エミルさん、クララ夫人がぜひにお礼を、といっていましたので。
あとからでも顔をだしてくださいね。
あなた達がこちらに一度戻られる、ときいて夫人もここにこられる、そういったのですが……」
施設から逃げ出したものたちの証言で、クララはかの施設につかまってはいなかった。
ならどこにいた?
そんな疑問がゆっくりと広まっている今現在。
それでなくてもドアのこともあり、万全をきして今回は待機という形をとっている。
「とりあえず。神子をゆっくりと休ませてあげたいのだけども」
クラトスがいう、そんな話しなどリフィルはきいたことすらない。
というか噂でもそんな話しはきいたことがないといってよい。
イセリアにたどりつくまでの間、伊達にジーニアスとともに放浪していたわけではない。
しかし今ここでクラトスにつめよってもどうにもならないのもまた事実。
興奮しているっぽい町の人々からコレットの身の安全を確保するのが最優先。
そんなリフィルのものいいに、
「あ。はい。わかりました。では、皆さまを御案内いたしますね。
この旅は迎賓館にてとまっていただくようになります」
使うことなど滅多とない眼上のものなどがやってきたときに使用する建物。
何でもその建物は、かつて王国があったころの名残で必ず作られる、という形として残っている、らしい。
本来は、他者の国などからの使者を迎え入れしための建物。
いまだに納得していないらしく、手を強くにぎりしめているロイドの手からは、当人も気づいていない、のであろう。
血が滴りおちていたりする。
「ロイド、手……」
「・・・・。・・・・・・」
それにジーニアスがきづき、コレットがはっとして、ロイドの手をつかみ、その視線をリフィルにむける。
その表情はかなしそうであるのに、涙のいってきも浮かんでいない。
今のコレットは涙を流す器官もまた涙腺そのものが無機化しその機能がとまっている。
「何をやっているの。ロイド」
「…あ」
自分の行動がコレットをさらに悲しませる結果となっていることにようやく気付き、
思わず顔をそむけるロイド。
俺って…ほんとうに、ダメだな。
コレットを守る、と誓ったっていうのに、逆にコレットに心配ばかりかけてる…
「ファーストエイド」
ロイドの手をつかみ、リフィルが術を発するとともに、淡い光がロイドの手をつつみこみ、
ツメが喰い込んでできた傷は瞬く間にとふさがれてゆく。
「…とにかく。今日はあなたたちもゆっくりと休みなさい」
「姉さんはどうするの?」
「しいな。すこしつきあってもらえるかしら?」
「え?あ、あたしかい?」
「ええ。あなたの意見をすこし参考にしたいことがあるからね」
あの地下にてみたあの内容。
しいなたちの世界でもその内容があるのならば、それは。
エミルがいっていた、今は知られていないのか。
あの台詞。
あの石板に書かれていた内容がエミルがいっていたそれ、ならば。
これまでのエミルの態度もつじつまがあう。
あってしまう。
それこそ、世界の成り立ちを謳ったマーテル教の教えを根本から覆すほどに。
否、確実に覆している。
マーテル教そのものは信じていなかったとはいえ。
信じていたものが異なるかもしれない。
そもそも、あのエルフの里でも大人たちは誰もマーテル教のことなど口にはしておらず、
逆にその名を口にするな、と怒られていたではないか。
今さらながらにそのことを思い出す。
どうして、と問いかけたとき、母はその名はこのエルフの里では禁忌なのよ。
そういっていた。
たしか父も母からきいたときは自分もかなり考え込んだから気にしなくてもいい。
そういっていたあの当時。
あのとき、どうして自分はもっと父から詳しくきかなかったのだろう。
今さらながらのリフィルの後悔。
が、今ここでそれを教えてくれるのもはいない。
エミルにきいてもおそらくは、はぐらかされるであろう。
それは何となくの勘、でしかないが、確実にそうだ、と断言できる。
それはなぜか、はわからないにしろ。
ずし~ん、ずし~ん。
一歩すすんでゆくたびに周囲にちよっとした振動がひびきゆく。
「うえ~、コレットがいってたのはこれかよ…」
うんざりしたようなロイドの台詞。
「これが竜車か…」
「エミルはよく平気だよね?」
竜の中でもとびきり早くすすめるものを用意しました。
そういって、パルマコスタの教会と総督府が救いの塔へいくために用意したのが、
一般的な乗り物、として使用されている竜車。
しかも、竜車によってつながれている馬車、とかではなく直接竜にのりこむもの。
ロイド、ジーニアス、コレット、リフィル、クラトス、しいな、エミル。
さらにはなぜかブルートをいい含めたらしいマルタもくわわって。
計八人とプラス、ノイシュ一体、という旅の一行。
かなり奮発…竜車は基本、その大きさによってその料金も異なっている。
この竜はどうやら家族連れ対象のそれであるらしく、一体において三人から四人はかるくのれる個体。
ちらり、ともう一体のほうに乗っているエミルをみてジーニアスがため息をつく。
結局のところ、コレットの体に何かあったときにすぐに対処できるように、
ということで、コレットとともにしいなとリフィルが一緒にのることとなり、
クラトスがコレットとともに乗る、と申し出てきたが、リフィルがそれよりは、
ロイド達のほうが心配だからそっちに、といい、エミルに申し出て、
なら、エミルがそっちにのるのなら、私もそっちにのる。
とマルタがいい、一体の竜車に
コレット、リフィル、しいな、マルタ、エミルが乗り込んでいる今現在。
否、乗り込んでいる、というよりはその背に乗っている、というべきか。
もっも、ロイド達はしるよしもないが。
どうもこの手の乗り物は、なぜか平衡感覚を狂わせ酔う存在がいる…特に誰、とはいわないが。
そのために、彼女達のお尻の下にちょとしたものがエミルから配られていたりする。
曰く、クロウラーの絹糸でつくったというそれは、ちょとしたエアクッション。
いつもは空気がはいっていないので小さく持ち運びが可能なれど、
利用するときにはその中に空気をいれ、その先を縛れば簡易クッションの出来上がり。
結び目は普通にくるり、と固い結びするだけでよい。
リフィルがこれは何か、ときけば、何でもニューロティカが吐きだす、繭をつくるための糸、らしい。
しいながそれをきいたとき、それってたしか、畑の神とあ崇められているとかいう、
魔物の名じゃあ…といって呆れていた事実があるにしろ。
「コレット…最終的にはどうなっちゃうのかな?次が救いの塔、なんでしょう?」
「…さあな。くそっ」
竜の背にゆられつつ、前をゆくコレット達ののっている竜をみやり、
つぶやくジーニアスにたいし、ロイドは自らの手を握り締めるよりほかにない。
「……本当。最終的にはどうなっちまうっていうんだ……
感覚の欠如、そして…声までうばって…これのどこが試練だっていうんだよ」
「わめくな。試練も次でおわるのだからな」
「お前は!何もおもわないのか!」
「では、前にもいったが、神子に旅をやめさせるか?」
竜の背にのっているのは、ジーニアス、クラトス、ロイドの三人。
ノイシュは竜の横で並走するように走ってついてきているのがみてとれる。
ノイシュってあそこまではやく走れたんだ、とはロイドが新たに発見した事実なれど。
大地を駆けるといわれているアーシスの種族となっている今のノイシュならば、
それくらい早く駆けることなどたやすい、のだが。
ロイドはそのように疾走しているノイシュをみたことがなかったがゆえに、
そこまではやく走れる、ということを知らなかったにすぎない。
「でも…コレット。世界を再生したあとは、世界でたった一人の天使になっちゃうんだよね」
「でも、どんな形になってもコレットはコレットだ。そうだろ?」
「うん。そうだね……」
「…そろそろ、ハイマにつくな」
みれば、たしかに視線の先にはみおぼえのある光景。
相変わらず、緑につつまれた山がそこにはあるが。
というか。
「…なあ。気のせいか?」
「…きのせいじゃないんじゃない?」
なぜ先日きたときよりも、草木がより多く生えているのだろうか。
あれからさほど日にちは経過していない、というのに。
それこそ一月くらい経過していたとしても、草花ならばともかく、
なぜに普通の木々が成長している、のだろうか。
赤茶けただけであった岩肌には、これみよがしに今では木々がはえてきているのがみてとれる。
それをみて唖然とつぶやくロイドとジーニアス。
「…これはいったい……」
クラトスもこの現象が信じられないらしく、唖然として呟いているが。
ロイド達が二体の竜のうちの一体のそのうえにてそんな会話をしている最中。
「この現象にはものすごく興味があるわ」
「というか、いくらマナが少しばかり増えたにしてもこれはないだろ?」
リフィルが周囲をみわたしつついい、しいなが唖然としていっている。
常識では計り知れない何か、がたしかにここハイマを中心におこっている。
「……え、えっと。とりあえず、今日はハイマで休む、でいいんですか?」
まさか少し前、この地にて気配とマナを解放したことがここまで響いているとは。
というか、木々も嬉々として成長するな、そういいたい。
あの瘴気を浄化するのに解放した『力』が、今ここにきてまださらに大地の活性化を促進しているらしい。
それがわかるがゆえに、エミルからしてみれば、どうにか話題をかえてしまいたい。
切実に。
彼らの記憶をあの一瞬、抜いたとはいえいつなんどき、
何のきっかけで何なくでも疑念を抱かない、とはいいきれない。
彼らがのりし竜の前には、先導するかのように別の個体の竜がおり、そこには従者がのっている。
この竜達は基本、群れをつくる習性があり、その本能を利用して、
群れのリーダーとなる個体を手なづけることにより、
目的地に問題なくたどり着けるようにしている、それが竜車とよばれし乗り物の本質。
「そうね。おそらくは……」
リフィルがエミルの言葉に反応し、答えを返そうとしたその直後。
「よ~し、とまれ~」
前のほうからきこえてくる従者の声。
その声とともに先頭をあるく竜が足をとめ、その後ろにつづくエミル達がのりし竜もまた
その足並みをとめその場にと立ち止まる。
「竜車で移動できるのはここまでだ。
神子様がた一行は申し訳ありませんがここからは徒歩でいってもらうことになります」
従者とともにのっていた一人の男性が竜の背よりおりたち、
エミル達ののっている竜の足元にきつつ声をかけてくる。
とまると同時、竜達はその場にと足をおっており、
それにあわせ、声をかけた人物は、竜の背と地上とを結ぶハシゴ。
竜の脇にとくくりつけていたそれをときはなち、
竜の背と大地とをつなぎ合わせるためにと設置しはじめているのがみてとれる。
飛び降りるにしても距離があり、
基本、竜車での移動というかその背への移動は梯子によって移動することとなる。
きちんとした乗り場がある場所は竜の背の高さにあわせ、
そこに乗り場、として台場が組まれている場もあるにしろ。
このご時世、そういった台場があればすぐさまにディザイアン達に襲撃をうけるらしく、
今ではもっぱら梯子での移動が当たり前となっている、とのことらしい。
エミルがかつて旅をしたあのときは、台場がある程度の街や村に、
そことなく設置されていたが、あれはどうやら二年の間に設置されていたものであるらしい。
今はそれらがない、ということはおそらくそういうこと、なのだろう。
「いえ。かまわないわ。ありがとう」
リフィルが声のでないコレットの変わりに従者にとお礼をいうと、
「いえ。こちらこそ。神子様のお役にたてて嬉しいです。これから救いの塔へむかわれるとか。
これで世界は再生され、我らはこの苦しみから救われるのですね」
それを信じて疑わない人々。
たかが、マナが復活しただけですぐに自分達が救われる、と思い込んでいる人々の姿がそこにはある。
マナがいくら蘇ったとしても、ヒトが努力をしなければ、どうにもならないこともある、というのに。
「コレット。あなた、本当にいいの」
リフィルのといかけに、コレットはうなづくのみ。
「でも……」
リフィルとしては何ともいえない。
あの遺跡でみた、天使という名でよばれていたあのことは。
それが事実だとすれば、だとすれば、自分達が信じ、そして今行おうとしていることは。
より優しいコレットをそれこそ誰かをあやめるための道具にしてしまいかねない。
だからといって、それを口にだすわけにはいかない。
もしもそうならば、嫌というほどにつじつまがあってしまうのだから。
あの壁に刻まれし…世界を変えたという四人の名。
そのうちの一つの名が…見知っている存在と同じであり、
なおかつ、精霊達がいっていた裏切り者、のその意味が。
「お待ちしていました」
ふとみれば、何やらみおぼえのある人間達が。
「あれ?たしか、あなた達は……」
エミルがふとその人間達にみおぼえがあるがゆえに声をあげる。
「ああ、あんたは!そうか、君たちが再生の神子様一行だったのか。
なら、うちの飛竜達をおとなしくさせてくれたのもうなづけるってもんだな」
何やらうんうんとうなづいているのは、先日この地にやってきたときに、
飛竜達の興奮を収めようと冬虫夏草をとりにいこうとしていたとある人物。
エミルの姿を確認し、何やらしみじみとうなづくようにいいはなち、
「すでに話しはついています。いや、伝書鳩がきたときには何ごとか、とおもいましたけど。
再生の神子様一行からお金はとれません。準備ができましたらいつでも声をかけてくださいませ」
いいつつも、
「ただ……」
「ただ、なんだよ?やっぱりお金をとるとかいうのか?」
口ごもる男性にたいし、ロイドがむっとしつつもといかける。
すでにロイド達も竜の背からおりており、全員が大地に足を直接つけている今現在。
「いえ。ただ、救いの塔周辺は危険だ、ときいておりますので。その、我らの竜達は…」
「わかっています。私たちが救いの塔につけば、竜達はあなたのところに戻します。
皆もそれでよろしくて?」
何をいいたいのか察知し、リフィルがざっと全員を見渡しといかけてくるが、
「かまわんだろう」
そんなリフィルの問いかけにすかさずクラトスが賛成の意を示し、
「ああ。帰りのことはその時に考えようぜ」
「いざとなればエミル、お願いね」
「え?別にいいけど」
ロイドがあっけらかん、といい、
ジーニアスがエミルの背をかるくたたきつついってくる台詞に対し、
きょとん、としつつもそんなジーニアスにと返事をかえすエミルの姿。
「…本当ならば、エミルに頼めば早いのだけどね、でも……」
もしも、クラトスがあれにかかれているそう、なのだとすれば。
これ以上、エミルの力を使わせるわけにはいかない。
それでなくても、もしかしたらクラトスはエミルを狙いかねない。
否、クラトス、というよりクルシスが、というべきか。
まだ、エミルが神鳥シムルグを呼び出せる、ということを知っているものは他にはいない。
この旅の一行に限られている。
下手にエミルがかの存在を呼び出せる、など知られるわけにはいかない。
それゆえのリフィルの台詞。
「ありがとうございます。それでは準備ができましたら、
我らが竜舎、もしくは頂上にいる係りのものの所までご連絡くださいませ」
いいつつかるく礼をとりながらも、おそらくは連絡にもどる、のであろう。
きびすをかえし立ち去ってゆく数名の男たち。
そんな彼らの後ろ姿を見送りつつ、
「とうとう、最後の封印を残すのみ…か」
ロイドがこれからまたあの山を登るのか。
うんざりした口調なれど、ついに最後の封印の解放。
旅の終着点ということもあり、感慨深げにぽつり、とつぶやく。
「もっと長い時間がかかる、とおもったけど…そうでもなかったね。
一番の時間短縮はやっぱりエミルにあるとおもうけど」
本来ならば、普通に陸路や海路を通っていたとしても、たかが数カ月にもみたない期間。
そもそも異例、ともいえる。
日にちを考えてみれば、イセリアからでてまだほんの二、三か月もたっていない。
本来ならば一年はかかるであろう旅路は空での移動、という手段をもってして、
尋常ならざる時間にて封印解放がなされているこの実情。
ジーニアスがこれまでのことを思い出し、ぽつり、とつぶやく。
全ては、あのとき、パルマコスタでエミルと出会い、
牧場にてコレットがエミルも一緒にいこうよ、そういったときから、
あのときから、そういえば魔物による襲撃もぱたり、とやんだ。
それまでは常に魔物の襲撃をうけていた、というのに。
そして、神鳥シムルグを使役している、としかおもえないエミル。
女神マーテルにつかえし神の鳥、とよばれし鳥を呼び出せるエミル。
しかし、その神鳥、とよばれし当事者もそんなマーテルなんてものに仕えたことはない。
といいきり、あげくは女神マーテルなんていない、とも。
何が真実なのかはわからない。
だけどもわかるのは、救いの塔にいけば世界が再生される、ということ。
きになるのは、しいなのいったテセアラの存在。
本当にそんなものがあるのかはわからないにしろ。
しかし精霊達のあの口調から察するに間違いなくある、のだろう。
それこそ月に移住している世界、というわけでなく。
二つの世界、そういわれてもいまだにピン、とこない。
でも、ともおもう。
もしもしいなのいうように、世界が二つにわかれており、
そして一つの世界に戻せるのならば、その先に自分達のような狭間の存在。
そういった存在達が気にせずに暮らせる世界があるのではないか、と。
たしかに再生の神子の旅は終わりなのかもしれないが、
これが自分にとっては始まりなのかもしれない、とも。
「今日は自由行動にしましょう。ただし、村の外にはでないこと。よろしい?明日、救いの塔に向かいましょう」
ジーニアスがそんなことを思っている最中、リフィルがそう提案してくる。
「わかったよ。…救いの塔、ねぇ。
あのレミエルってやつに聞けば何かわかるかもしれない。まあ、教えてくれるともおもえないけど」
しいながそんなリフィルの台詞に肩をすくめつついってくる。
「では、明日の朝に出発ということか」
「そうね。今日はゆっくりと体をやすめましょう。
竜車での移動は体に負担がかかっているかもしれないもの」
「でも、エミルがくれたクッションであまり揺れなくてたすかった~」
「え?何それ?」
「何だよ、それ?」
「え?クロウラーの糸でつくられた簡単な敷物だよ。
袋みたいになってて空気などをいれこむことができるんだけど」
かつてはよく使われていた品。
というか、クロウラーたちとともに生きる人々は、クロウラーの絹糸にて様々なものを編み上げていた。
どうやら今の人々はそのことすら忘れているようではあるが。
唯一それを実戦しているのは、エルフ達くらいであろう。
かの糸は丈夫で耐久性や耐熱性にも優れている、というのに。
人々は魔物、というだけで彼らクロウラー達をも駆逐していっている。
彼らは大地を耕し、豊かにする力をもっているというのに。
ただ魔物、というだけで。
こちら側の世界、シルヴァラントが大地が疲弊している、というのは、
人々がそんな魔物達の特性を理解しようともせずに魔物を駆逐しているからに他ならない。
あるいみで自業自得。
にこやかにいうマルタの言葉に、きょとん、とした声をだすジーニアスとロイド。
そんな彼らにきょとんとしつつもさらり、といいはなっているエミル。
「というか、それは、テセアラでは最高級品、といわれている絹糸なんだけどねぇ」
その効果にきづいたのは王立研究院の魔物を研究する部署。
その絹の効果が解明され、ならばかの魔物をかいならせれば。
そういったこともあり、テセアラではとある区域によって、
実験的にクロウラー達を畑に解放しその効果のほどを実験している場所もある。
エミルがそれを取り出したとき、何でこれはつくられているのか、
しいながそれをきき、あきれたのはいうまでもない。
テセアラではかの糸でつくられしものは、それこそ貴族等といった存在でしか、
いまだに手にいれることができないほどに貴重なる品。
それをほん、としかも座布団替わりにする、などと。
どうやって手にいれたか、ときけば、ニューロティカに糸を吐きだしてもらった。
という何とも完結なる返答をもらい、しいなとしては唖然とするほかなかったが。
そもそも、その魔物の名は、畑の守り神、などとかつていわれていた魔物の名。
玄武とよばれし聖獣…みずほの里につたわりし聖神の眷属ともいわれている魔物の名。
「とにかく、町にむかいましょう。今日は皆、ゆっくり体をやすめなさい。
…明日は何があるのかわからないのだから。……コレット、本当にいいの?」
聞きたいのはそうではない。
本当にこれでいいのか。
リフィルにもわからない。
しかし、おそらく止めてもこの子はいくでしょうね。
それがわかっていて、しかもこの旅に意味がないかもしれない。
そう疑問がわいてきている中で何がこれからおこるのか。
それがわかっていて彼女をむかわせるのは、コレットの担任としてやりきれない。
もしも、あれにかかれていることが真実ならば。
ならば、なぜ、命がマナになる、などという教えがマーテル教の中にあるのだろうか。
その懸念。
あれには、こうもかかれていた。
ディザイアンなるものは、本来ならば存在していなかった、と。
それも、かの教えを広めるため、敵がいたほうが都合がいいから、
という形で生み出された組織でしかない、と。
どこまでが嘘で何が真実で偽りなのか。
偽りの真実を信じ込まされて。
かつて、エミルがいっていた言葉が常にリフィルの脳裏にて反復している。
あの地下にてみた石板にかかれている台詞をみてからなおさらに。
そんなリフィルの思いをしってかしらずか、コレットはこくり、とうなづく。
リフィルからしてみれば、首を横にふってほしい。
が、この子はそれを認めない、であろう。
ファイドラ曰く、この子は物ごころついたころに、
自分の役割…神子として死ぬ、ということを祭司達に教えられている。
そう聞かされていればなおさらに。
~クラトスサイドの心情~
ハイマ。
本来ならば赤茶土色の大地が露出しており、何のとりえもないとまでいわれていた町。
冒険者の街、とまでいわれたのは、このハイマからは救いの塔が一望でき、
またこの付近には多種類の魔物が豊富になぜかよく存在しており、
それらの魔物目当てに冒険者たちがつどっているから、ともいわれている。
このハイマからみえるその先の救いの塔がある先は、ひたすらに山脈がつづいており、
この奥地に足を踏み入れたものは、滅多としてもどってくるものがいない。
とまでいわれている地。
が、しかし今は柔らかな新緑の匂いが風にのり、周囲にとただよっている。
前回きたときよりもなぜにたかが一月もたっていない、というのに、
木々が生えてしかも成長し初めているのか理解不能。
いや、この現象を説明するとすれば、マナが活性化している。
そうとしかとれない。
が、大地を守護している精霊ノームはまだミトスとの契約の楔によって、あの地から動けないはず。
だとすれば、可能性として…
「…まさか…センチュリオンが…目覚めている?」
信じたくはないが、他にマナを扱えるもの、といえばそれくらいしかクラトスはわからない。
もしもセンチュリオンが目覚めているとするならば、大樹の精霊もまた目覚めている可能性がありえる。
もしそうならば、自分達が約束を裏切っていることに気付くであろう。
このまま神子コレットを連れていったとして、その先にまっているものは…
考えていても仕方がない。
それゆえにその考えを振り払うかのように首を横にふる。
ハイマは救いの塔からもっとも近い町、として知られている。
シルヴァラントの地において世界再生がなされるとき、毎回この地が終着の街となる。
シルヴァラントの管制官という役割を与えられているがゆえに、
そのあたりのことに関してはクラトスは詳しい。
結局、伝令兵がやってきたときもエミルのことはいわなかった。
あまりにも世界再生が早いのでは、という懸念をユアンが抱いている、
そう聞かされたときには、飛竜をつかうことができたから、
とあながち嘘ではないことをつたえてある。
わざわざ地上において戦闘しなければならない旨をシルヴァラント、
特に神子達に知られるわけにはいかないゆえに空の移動を拒否できなかった、とも。
ユアンがどういう行動にでてくるかはわからない。
ないが、まちがいなく止めようとしてくるであろう。
「お前は気づいている、のだろうな」
この世界において初めて生み出された、というプロトゾーン。
あのとき、あきらめたあの決意を再び抱くことになろうとは。
おそらくはミトスも気づいていなかっただろう、とそうおもう。
でなければ、自分をイセリアにむかわせるなどはしなかったであろう。
「また、お前につらい役目を押し付けることになるな……」
「クゥーン、クウゥーン……」
その言葉をきき、悲しそうな声をあげるノイシュ。
自分がこのまま傍にいればまちがいなく、ミトスはロイド達を殺しにくる。
それだけは。
ミトスを説得する材料はあるにはあるが、今のミトスが聞き入れてくれるか否か。
ロイドのあれは、ハイエクスフィアはやはりどこか普通のそれとは違っている。
本来、あるべきはずの兆候がまったくない、のである。
それはアンナの中で誕生したそのときからその波動をうけていたから、なのか。
それはわからないが。
産まれたとき、たしかにロイドのその背には、自分達と同じ、青く輝く翼があった、というのに。
その翼もそのうちにと現れなくなったかつてのこと。
ロイドはそれすらも覚えていないであろう。
「私には、やらなければならないことがある。私のかわりに……」
「クラトス、危ない!」
宿をひとまず確保し、ノイシュに言いたいことがあるがゆえにそっと出てきている今現在。
宿舎にいるノイシュのもとにて今後のロイドのことを頼もうとやってきていたクラトスだが、
ふと背後からきこえるはロイドの声。
条件反射的に剣を振り向きざまに振り下ろす。
「ぐうっ」
ふと顔をあげてみれば、みおぼえのある姿がそこにある。
あわてて剣を止めようとするが、すでに力まかせに振り下ろした剣は、そうそう簡単に止まるものではない。
「…ユ…」
ユアン、そうクラトスがいいかけるが、しかし、傷口をおさえながら、
はっとしたように背後をふりむき、
そのままその襲撃者?は傷口をおさえながら岩の向こうへつづく崖下のほうへ、そのまま姿をけしてゆく。
いくら天使化しているとはいえ、傷は傷。
きちんと確認しなかった自分に嫌気がさす。
危ない、という声に条件反射的に剣を振り下ろしたことが、仲間を傷つけることになろうとは。
「大丈夫か!?クラトス!」
気配に気づかなかったというのにも驚きだが。
どうやら自分の心はそれほどまでに迷っているらしい。
少し前までならば、ロイドが背後にたっただけで迷わずに剣を突き付けていた、というのに。
駆けよってくるロイドの姿をみつつ、剣を納める。
やはり剣にはすこしばかりの血がついており、それが逆に彼を傷つけたのだ、と理解せざるをえない。
かるく剣を降り、血のりをおとす。
ほんの少し前ならば、間合いに誰かがはいってくれば、躊躇なく剣を抜いていたというのに。
ロイドのことだけではない、エミルのこと…もしかしたら、という思いもあり、
どうやら自分の心はクラトスが思っている以上に乱れている、らしい。
そうおもい自らを自嘲する。
駆けよってくるロイドにたいし、
「あ。ああ。ロイドか。たすかった」
みれば、ロイドのうしろにはしいなの姿も。
「いや、そんなのはいいけどよ」
「ん?なんだい、これ?」
「?何だろ?」
ふとしいなが地面におちている小さなものにきづきそれを拾い上げる。
きらり、としたそれはどうやら指輪、であるらしい。
「…指輪?」
「ゆび…わ?」
彼がもっている指輪といえば、一つしかない。
今の一撃で落させてしまったのだろうか。
大切にいつも彼がその指輪を首飾りにして持ち歩いているのは、クラトスはよくしっている。
「しかし、今のは何ものなんだ?」
「おそらく、例の暗殺者だろう。深手は負わせたはずだが逃げられてしまったな」
「あたしの他にも暗殺者がいるのかい?」
「いても不思議はないだろう。ディザイアンもいることだしな」
「でもさ。今のやつ、あたし、なんかみおぼえがあるような気がするんだけど」
「しいなもか?俺もなんだけど」
「「う~ん……」」
ふたりして、さきほどの青い髪の人物について考え始める。
「この指輪、何かきざんであるよ?」
「どれ?どうやら古代文字みたいだね。リフィルにいえばわかるんじゃないかい?」
「そうだな。あとで先生にみてもらおう」
いいつつもポケットにそれをしまいこむ。
そんなロイドをみつつ、
「何か用でもあったのか?」
「あ、いや。ノイシュがきになって」
「あたしはたまたまだよ。すこしハイマを散策しようとおもってね」
ロイドがいい、しいなが肩をすくめつつ。
「…ついに救いの塔、なんだよね」
ぽつり、とつぶやくしいなに対し、
「ああ。…この旅ももうすぐおわる」
淡々というクラトスにたいし、
「…こんな終わりを望んでいたわけじゃない。
コレットがつらい目にあうなんて…最後の試練であいつはどうなっちまうんだよ」
ロイドがその心情をぽつり、ともらす。
「そうか?神子にすがって始まったお前の旅だ。当然の結末だろう」
「神子に…すがった?」
クラトスのそのいい方がロイドには理解不能。
「覚えていないのか?お前はこういったのだ。
自分達には神子がついている。世界を再生する救世主が、と。あのパルマコスタでな」
「あ…ああ。そうだ。そういった、だから神子を守るって……」
あのときだけではない。
事あるごとにロイドはそのようなことをいっていた。
「一番大切なところで神子の力にたよりすがることが守るというのならば。
私の知らない間に言葉とはずいぶんと様変わりしたものだな。
そしてあの神子は自らが犠牲になることで全てを解決しようとしている」
「クラトス…あんた、何がいいたいんだ?」
その言葉ではっとする。
もしかしたら今のコレットの状態は自分の言葉にも原因があるのでは。
と今さらながらにロイドはそんな予測をたてて言葉につまる。
本当に今さら、としかいいようがないが。
ロイドはまったくその可能性に気づいてすらいなかったらしい。
うすうすは感じていたのであろうが考えないようにしていた、というべきか。
それを口にだせば今のコレットの症状も変化があったであろうに。
「…お前は、間違えるな」
「よくわかんねぇけど…わかったよ」
「いや、あんたわかってないだろ。間違いなく」
わかっていないようでもうなづくロイドにたいし、すかさずしいなが突っ込みをいれる。
「何だよ。しいなもクラトスも。でもさ。間違えたならやり直せばいいんじゃないのかな」
「…ふ。やりなおす。か。やり直せるものならばそうするがいい」
「…世の中にはやり直しがきかないこともあるんだけどねぇ」
クラトスがいい、しいながぽつり、とつぶやく。
しいなが思うのは過去のこと。
あのとき、あの契約の儀式。
やり直せるのならばあの時間にもどりたい。
言葉が通じない、というだけでパニックになった自分。
そして、倒れていく里の人々。
そして……
「でも、明日で一応こっちは救われるんだよねぇ」
過去のことを思い出し、おもわずその思考を振り払うかのようにかるく頭をふりつつも、
ぽつり、と今思っていることを口にする。
シルヴァラントの再生を止めるためにきたはず、なのに。
いつのまにか彼らに協力する立場になっている自分。
精霊との契約。
まさか成功するとはおもわなかったが。
それで活路が見出せているのか、いまだに迷路の中に囚われているかのごとく。
精霊と契約をしたことにより、テセアラ側のマナがどうなっているのか。
しいなにはそれはわからない。
「そういえば、しいな。お前はどうするんだ?」
そういえば、こいつシルヴァラントの再生を止めるためにきた。
とかいってたような。
今さらながらにそれをおもいだし、首をかしげといかけるロイドに対し、
「さあねぇ。神子を信じるしかないよ。こっちの神子は信用できそうだし」
「何だよ。それ、信用できない神子なんているのか?」
「テセアラの神子だよ。いけすかないやつでねぇ」
「そうか。そういえば、テセアラにも神子はいるんだよな」
いまだに世界がもう一つある、精霊達にもいわれ、しいなにもいわれ、
いわれているにもかかわらず、ロイドとしては実感があまりないが。
実際に目にしていないのだから信じ切れていない、というべきか。
人は自らの目でみたものしか信じない傾向がある。
それこそ無意識のうちに。
信じている、といっても所詮はうわべのみ。
完全に信じ切れていない何よりの証拠。
「二つの世界。二人の神子。
…ああ、神さまなんてものが本当にいるのなら。どうしてこんな世界をつくったのかねぇ」
「そうだな。ぶっとばしてやりたいよな」
「あはは!本当にねぇ。…本当にドツイテやりたいよ」
「……何か理由があったのだろう」
そう。
世界を二つにわけたには理由があった。
あのままでは、地表のほとんどが消滅し、
それにともない人類…否、地表の生命もことごとく死に絶えていただろう。
それを知っているがゆえのクラトスの台詞。
「理由?どんな理由だっていうんだよ」
むっとしたようなロイドのいい分に。
「さあな。私にきいてもしかたなかろう」
今それを彼らにいっても理解しないであろう。
マナの重要性をロイドは判っていない。
マナがなくなりかけていたので、世界を二つにわけた、といっても。
そんなことをしたから世界が互いの世界が苦しむことになってるじゃないか。
そう間違いなく反論してくる。
そうしなければどうなるか、先をみていうことなく。
その場かぎりの感情論で。
ゆえに。
「……ロイド」
「何だよ」
「死ぬなよ」
「はぁ?」
脈絡がない、というのはこういうことをいうのかな。
そんなことをロイドはふとおもう。
どうすれば今の会話の流れでそんな言葉がでてくるのやら。
「は?何だよ、急に」
いわずにはおられない。
この先、ロイドの身に待ち受けているのは過酷なる現実。
それでも、ロイドは迷うことなく自らが信じた道をゆく、であろう。
そう、かつてのミトスのその心のままに。
どんな困難があっても決してあきめらない、その心のままに。
ロイドはミトスの鏡ともいえる。
マーテルが殺されることがなければ、まちがいなくミトスは使命をなしとげていた。
大切な人が害される前のミトスの姿。
それがロイド。
…まあ、ロイドはミトスのように教養もなければ学もないようだが。
かつてのミトスならば、似ている、といえば、
僕こんなに馬鹿じゃない!とすかさず反論してきたであろうな。
とおもうほどに。
そのまっすぐなところはよく似ている、とつくづくおもう。
「…きにするな」
「おもいっきりきになるっつうの」
「あ。あんた、どこに」
「すこし、周囲を見回ってくる。さきほどの暗殺者のこともあるしな」
それだけいい、そのまま二人の前から離れてゆくクラトスの姿。
そんな彼の後ろ姿をみおくりつつ、
「何だっていうんだ?あいつ?」
「さあね?けど、ロイド」
「何だよ」
「…世の中には、やり直しのきかないことだってあるんだよ。
あのとき、こうしておけば、とおもうのと、その事前にわかているのとでは。
覚悟のほどが違うっていうのは頭にいれといたほうがいいよ」
「何だよ。それ。お前にしろクラトスにしろわけわかんねぇ!」
しいなの言いたいことはロイドにはわからない。
理解できない、というほうが正しい。
しかし、事がおこり、理解したとき、それはすでに手遅れでしかない。
それをしいなはしっている。
それゆえの台詞。
胡散臭いとしかいいようのない天界の世界だというクルシス。
精霊達の台詞、女神マーテルなどというものは存在しない、というあの言葉。
世界が元々一つであったという精霊達のいいよう。
マナの循環。
一年ごとのマナの契約。
そこに全ての鍵がある。
おそらく答えは…かつての大戦。
勇者ミトス。そこにある。
が、そこまでわかっても、それから先がしいなにはわからない。
何もかも情報がたりなすぎる。
御爺ちゃんならしってるのかもしれないな。
みずほの民の頭領たる彼ならば。
今の世界のありようの真実をしっているのかもしれない。
エルフの民とも交流があったという祖父イガグリならば。
pixv投稿日:2014年2月8日某日(Hp編集:2018年4月22日(日)
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あとがきもどき:
ようやくハイマ~。投稿分では、このシルヴァラント編は30話だったけど、
この調子ではもう少し短くできそうです。一話、一話の容量が…ねぇ?