まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

pivixさんに投稿していた話の区切りとは変えてあります。容量的に……

今回、ハスータル(風の封印の守護者)によるあるいみ暴露あり。
まあ、彼らも思うところがある、ということで……
あのシーンはさらり、と流そうとおもって回想にしようかな、
ともおもいましたけど、
ひとまず一部のあたりのみを入れ込んでみました。
あとちらり、とエクスフィアの前の元になったもの(エミルの回想で)がでてきますv
あれ?とおもったひとはわかるかと。
前々からだって『天地戦争』といっているのだから、判るひとにはわかるはずv
この話しの元となったあのエクスフィア開発のきっかけとなった文献。
ええ、当時のそれをよみといた学者達(ハーフエルフ&エルフ)達の手によるものだ、
という何とも無駄ともいえる裏設定。
え?当時開発されていた彼ら?はどうなったか?
だ~~~~いぶさきで、ちらり、とミトスがそれの末路は話す予定。
・・・いつ(何話先)になるんだろう?(謎……
ちなみに、エミルとシルフ三姉妹の会話の台詞。
あれ?とおもった人はいるかと。
はい。ほぼウンディーネとかわした会話と同じです。
精霊達も同じ思いを抱いている、というのがだしたかったので。
(なので翻訳に関してはウンディーネの回にのせているのでこちらにはのせません)


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重なり合う協奏曲~それぞれの契約~

ロイドが偶然にも正解の順番、赤黄緑白青の順番にて風車を回し、
仕掛けを解除したのとほぼ同時。
「これで最後のようね」
「だな」
目の前には最後の石板らしきものがリフィルとクラトスの前にある。
「あたしのほうも他に石板らしきものはなかったよ」
一人のほうが気楽だ、というのでしいなもまたこの施設内を一人で探索していた。
そして、一応調べ終わったがゆえに、たまたまこうしてリフィル達と合流した、のだが。
「まとめてみましょう」
メモに書き記した石板の内容。
それは。
「1、精霊とそれに使えし風。聖印を刻んだ先にあり。
  これは入口からはいって右の突き当たりにあった石板ね」
風によって燭台の炎がともせず、ホーク達に肉の壁となってもらい把握した文字。
「2、世界は巨人なり。赤き左手は神の御座。緑石の右手は神の威光
   白き左足は安息の大地。黄球の右足は豊穣の大地。瑠璃の体は青き風姫なり。
  これは、左側の通路。床から飛び出す針山の仕掛けを解除した先の石板」
どうやら、床から飛び出る仕組みのしかけは、
色違いの石にさえ触れなければ問題ない、というのが、
幾度かの実験…石などを投げて確認した結果わかった、のだが。
そのために幾度か外にでてはそのあたりにころがっている枯れ木などを手にいれ、
長い棒などで空中の移動も反応するかどうか、までリフィル達は確認をとっている。
その結果、空中移動は問題ない、とわかり、
クラトスがその床を飛び越えて、ついでにリフィルが飛び越えられるかわからない。
というので、クラトスがリフィルを抱きかかえ、飛んで移動した形となっているのだが。
クラトスからしてみれば、翼をだしてしまえば楽とはおもうのだが、
彼らに自分が天使としられるわけにはいかず、
それゆえに自力で飛び越えるという手段を取らざるを得ない。
結果として、リフィルとともに石板を調べつくし、そして今に至る。
「そして。これね。
  3、王を讃える聖印は神の御座から豊穣の大地を流れ神の威光から安息の大地をめぐる
  世界の中心で青き風邪姫が誕生せしとき、聖印は完成するものなり。
  これ以外の石板には文字がかかれていなかったから、他の仕掛けを示すものなのでしょう。
  この言葉から察するに最後の文字が封印の仕掛け解除の言葉として。
  神の御座から豊穣の大地、この言葉から、神の御座、とは赤き左手…赤い風車のことね。
  豊穣の大地は黄色。それらを統合すると、赤、黄、緑、白、青。
  この順番であの部屋にある風車を回すことによって封印の仕掛けは解除されるはずよ」
他にも石板があり、
そこには。
【パラクラフは風の民。風とともに産まれ、精霊とともにいき、死して風となる】
【青き風姫が守りしもの。神の御座から豊穣の大地をぬけ
   安息の大地に降り立ち神の威光を仰ぐ】
【神の御座にささげられしもの、神の威光により豊穣の大地を安息の大地たらしめ青き風姫にたどりつく
  これ、巨人の体を時の針が正しくすすむことなり】
「仕掛けはわかったわ。あの部屋にもどりましょう」
「あのこら、大人しくしてくれてればいいんだけどねぇ」
「…一番問題なのは、ロイド。ね。あのこ、すぐに興味をもってはすぐにあきるから」
しいなの言葉にリフィルが苦笑気味に言い放つ。
「…う。すまない」
そんなリフィルの台詞をきき条件反射的にぽつり、と思わず無意識のうちにと謝っているクラトス。
「?何であんたがあやまるのさ」
「そうよ。クラトス。あなたが謝る必要性はないわ。そもそも、あの子をこの五年間、うけもっていて
  あの飽きっぽさをどうにかできなかったのは私の責任でもあるのだもの。
  いくら、あなたがロイドの剣の師のようなものだとしても、ね」
何となくそれだけではないようなリフィルはきがするが。
それが何、なのかいまだにリフィルはわからない。
「ま、とりあえず。石板にかかれている文字の解読はそれで全部なんだろ?」
「ええ。そうよ。でも以外ね。
  あなたは以前、マナの守護塔で、私たちに封印を解放させるわけにはいかない、そういっていたのに」
なのになぜ、このたびは協力的、なのだろうか。
あのときは、ルインの街が襲われていたという理由もあり一緒に行動した、という理由があるが。
ピエトロの治療もできた今、彼女がともにいる理由がリフィルにはわからない。
しいな曰く、あんたたちの仲間になったわけじゃないけど、
あたしも封印の場に用事がある、
そういって結局、ピエトロの完治を見届けたのちも、結局、ここまで一緒にやってきている今現在。


「「「・・・・・・・・・・・・」」」
部屋にもどった三人がみたのは、中央にあったはずの風車がきえている光景。
ぽっかりした黒い穴がそこにはあいている。
「これは、何があったのかしら?」
そこにのこっていたホークの部下だという男性にリフィルが話しかけると、
「それが……」
彼らにも何と説明していいのかわからない。
ともかく、ロイドといわれている子供がひたすらに風車をまわしていると、
いきなり床が動かし、それに子供達までもついていってしまった、と。
「これは…完全に道は閉ざされてる、ね」
そこにあったはずの風車は今はない。
かわりに黒い空間がぽっかりと開いており、
こんこん、とその端にすわりつつも、床を叩いて確認しつつしいながつぶやく。
みれば、床は別の透明なガラス、のようなもので覆われており、
その下にあるであろうぽっかりとひらいている空間にははいれなくなっている。
おそらく何らかの仕掛けが起動し、ここの床は移動した、のであろう。
ざっと天井部分を確認するが、そこに床が移動した形式はない。
だとすれば。
「この床の仕掛けはおそらくエレベーターってところかね」
どうみてもガラスの先にある地下につづいている穴は
ここに元々あった床ごとそのまま地下にむけて移動していっているような感じをうける。
だとすれば、ここの床の仕掛け全体そのものが、移動式の床であった、そう考えるほうがはるかに無難。
「…そのような仕掛けもあったのか?…扉のほうも…開かれてるが」
クラトスが先ほどまでは閉ざされていた扉。
すなわち封印の間にしている場所につづく階段のある扉を開け閉めし、
そこの封印が解除されていることを確認しつつもぽつり、とつぶやく。
そもそも、この地にはもともとこの仕掛けがあり、
かの封印の台座をつくりしあの場所は、かつてのこの国の民が、
王を風の精霊にささげるという祭壇があった場所をクルシスが再利用したに過ぎない。
そのときに入口となりえる場所を細工はしたが、
それ以外はこの遺跡に関してはクルシス側としてはほとんど手をつけていない。
何しろかの祭壇に細工をするだけで精霊の檻が完成したのである。
しかも、その祭壇は空からの移動だけで細工はことたりた。
ゆえにここの遺跡の内部にわたる詳細な仕掛けを把握していなかったといってよい。
事実、クラトスのいうとおり、封印の間につづいている、のであろう。
遺跡のおそらくは屋上につづいているであろう階段が、部屋の先に存在しているのがみてとれる。
「まったく。あの子達は!この私をさしおいて!いまだ見ぬ地下の部屋にいくなど!
  ああ、調べたい、調査したいっ!なぜ私をまたなかった!?」
「いや、問題なのはそこじゃないんじゃないかい?」
「…まあ、子供達を信用しているがゆえ、の台詞なのではないのか?」
どうみてもリフィルはこの先にあるであろう部屋にいけなかった、
というよりは、ロイド達に先を越された、ということに対し憤慨している。
ゆえにしいながあきれまじりにつぶやき、
クラトスはクラトスで、あの羊皮紙にかいてあったのが事実なれば、
この奥にというか地下にあるでろう部屋にいってしまったとおもわれる、
ロイドを心配し、ぽつり、とつぶやく。
この場にのこりし、騎士団達がいうには、あのエミルも一緒に移動した、らしいので、
おそらく魔物の襲撃などといったことはない…とはおもうのだが。
あきらかに魔物達はエミルにたいし、敬意らしきものをもっている。
それはクラトスの勘。
それこそかつて、
アクアやテネブラエ、といったセンチュリオン達に魔物達が従っていたときのあのときの感覚のごとく。


「おお、すげ~!床がうごいたぞ!なあなあ!」
一人、その場にてはしゃいでいるロイド。
「うわ。この仕掛けって…どんどん天井が……」
がこん、という音とともに、いきなり床がしずみはじめた。
みあげれば、たしかに筒状の穴になっているらしく、
先ほどまでいたであろう部屋の天井部分がかろうじて視界の先にとうつりこむ。
「うわ~。なんだかたのしい」
コレットはコレットでそんなことをいっているが。
どうやら床が動く、というのが新鮮、であるらしい。
「この先が、王家の間……」
おそらくは、この先があの羊皮紙にかかれていた、王家の間、なのであろう。
そして目的の首飾りがある、というのもこの先のはず。
「確かパパがいうには試練があるとかいってたけど……」
その試練が何を意味するのか、マルタには意味がわからない。
「もしかして、封印の試練と同じように、魔物と戦う、とか?」
「まさか…そうだとしても、俺がどうにかするさ!」
「そうだよ。ロイドは強いから大丈夫だよ~」
ロイドがきっぱりといいきれば、コレットがにこやかにそんなことをいっている。
「マルタ様、何があるのか危険です。我らからはなれませんように」
ホークがマルタにそんなことをいっているのがききとれるが。
「ホーク達よりエミルのほうが心強いもん!ね。エミル!」
そのままエミルの腕をがしっと絡めるようにつかんで、きっとホークをみつつもいいきっているマルタ。
「うん。エミルつよいもんね~」
コレットがにこにこといい、
「エミルが戦ってるのはあまりみたことないけどね。
  強いのは確かだよね。あの偽の風の精霊すら一刀両断してたし」
ジーニアスまでもがそんなことをいってくる。
「…あの?マルタ?」
「何?エミル?」
「……何で腕をからめてるの?」
エミルからしてみればそちらのほうが理解不能。
「え?もっと強く絡めたほうがよかった?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
なぜそう解釈になるのだろうか。
そういえば、以前もそうだったな。
ふとかつてのマルタの行動を思い出す。
ことあるごとにそういえば、腕をからめてきていたような気がする。
それはもう果てしなく。
「…は~」
深くため息をつくエミルに対し、
「もてる男はつらいね~」
ジーニアスがちゃかすようにそんなことをいってくるが。
「そういえば、エミル様」
「何?」
「この先にはシヴァがいるようですが」
「…シヴァが?」
「「「うわ!?魔物!?」」
自然とその場にいるその生物をみて、叫んでいるマルタにホーク達。
「あ。こいつ、この前の!」
「たしか、テネテブとかいってた」
「テネブラエです!まったく、なぜ誇り高き私の名を間違うのでしょうか?これだから本当にヒトは……」
自然に現れたテネブラエをみてか警戒した様子をみせているホークとよばれし人間と、そのほか二名。
ロイドとジーニアスはそういえば、あの救いの小屋にてテネブラエとはあってたな。
そのことをふとエミルは思い出しつつも、
なぜにロイドはテネブラエの名を間違えているのだろうか。
そんなことをふとおもう。
「うわ~。ワンちゃんだ。精霊さん、なのかなぁ?」
「失礼な。私は犬でも精霊でもありません。セ…むぐぐ」
センチュリオン、といいかけたテネブラエをすばやくはがいじめにし、
まあその前にマルタの手を振りほどいて、ではあるのだが。
「この子のことは気にしないで」
「「「いや、気にしないでって」」」
じたばたとエミルの腕の中であばれている犬もどき。
その姿をみて異口同音に思わず突っ込みをいれているロイド、ジーニアス、マルタの三人。
『テネブラエ。センチュリオン、という単語は禁止だ。
  かの船上にてこの人間達はお前達の名称をきいている。…関連づけない、とはかぎらない』
すばやく耳元にて、テネブラエにと言い放つ。
『たしかに。この人間達にラタトスク様のことを気取られるのは危険ですね』
その言葉をきき、影の中に待機していたルーメンがそんなことをいってくるが。
『なら、私たちが説明するとき、かつての世界でいっていた、守護者、もしくは守護聖でいいんじゃないの?』
精霊ラタトスクの守護者、ととある世界でいわれていたこともあったがゆえのアクアの提案。
そういえば、そんなふうにこいつらを呼んでいたヒトもいたな。
アクアの言葉にかつての、デリス・カーラーンよりも前の世界のことをふと思い出す。
「そのワンちゃんもエミルの友達、なの?」
コレットが首をかしげてといかけてくるが。
「この子達の場合は、友達、というよりは家族、かな?」
そういいつつ、ようやくじたばたともがかなくなったテネブラエを解放する。
「ひとまず御挨拶をしておきますね。私は闇の守護者、テネブラエ。テネブラエとおよびください」
どうやら守護聖、という単語ではなく、守護者、という言葉のほうを選択したらしい。
かるく頭をさげて自己紹介をしているテネブラエ。
「テネブちゃんっていうんだ」
「ですから、テネブラエ、です」
にこにこと笑みを浮かべていうコレットにたいし、すかさずテネブラエが修正をいれているが。
「ねえ。エミル、その子、何?魔物じゃないし。精霊…でもないよね?そんなマナなんて……」
テネブラエのマナのありようは、ジーニアスからしてみればみたことがないもの。
精霊を直接、ウンディーネという水の精霊を直接にみたからこそ確信をもっていえる。
なのに、精霊でも魔物でもない、というのに。
そこに違和感なく、まるで自然と一体化しているかのごとく、どこにも違和感がない不思議なマナ。
それこそそのマナがなくては逆に見てしまえばおかしい、と感じてしまうほどに。
「テネブラエはテネブラエだよ」
「いや、答えになってないから。それ」
首をかしげ、さらり、というエミルの台詞に、ジーニアスがため息まじりにつぶやくが。
と。
ガコン。
突如として固い音とともに、今まで下がっていた床がぴたり、と停止する。
「どうやら到着したようだね」
そんな会話をしている最中、どうやら動いていた床は目的地に到着、したらしい。
まあいきなり姿を現したテネブラエにも言いたいことは山とあるが。
クラトスがここにいないからいいようなものの。
クラトスはテネブラエの姿を見知っている。
アクアの姿にしても然り。
しかし、シヴァが?
デリス・カーラーンよりこの地に移住した数少ない配下のひとり。
ちなみにその種族名を【饕餮とうてつ】といい、
かの世界においては妖怪ともいわれ、魔物とは異なる分野に区別されていた魔物。
事実は魔物なのに、勝手に人がそのように後付け伝承を加え、
その本質を捻じ曲げてつたえていたにすぎない、のだが。
たしかにいても不思議ではない。
たしか彼らにはかつて自らが加護をさずけしかの一族の守護を担っていたはず。
それこそ指輪の契約のもと。
ミトス達の先祖はその指輪を消失させていたゆえに、すでにその傍に饕餮とうてつはいなかったが。
これまでの話しをきくかぎり、
あのブルート、もしくはマルタの母親のどちらかが、契約の指輪をまだ所有している、のであろう。
あのとき、この場にきたとき、
饕餮はすでにギンヌンガ・ガップの中において眠りについていたことを考えると、
まだこの時はかの契約は続行中、と考えるべきか。
「おお!すげぇ!なあなあ、これって地下にきたったことだよな!?」
床がとまったのをうけ、ロイドが上をみあげ、そして周囲を見渡しつつもいってくる。
今ロイド達がいるのはとある通路の中心地。
少し高い位置にと設置してある台座の上に、上からおりてきた床は、
もののみごとに台座としっかりと合わさっているのがみてとれる。
さきほどまでのふわふわとした浮いているような感覚は今はもうそこにはない。
「すごい。ここの壁、ほとんど何かの壁画や文字がかかれてる」
ジーニアスが周囲の壁をみつつそんなことをぽつり、とつぶやく。
事実、この間は壁といわず天井部分にわたり、
各様々な石板がはめ込まれ、中には壁画として物語をつくっているものも。
それは、ここをつくりしヒトが後世に伝えるため、
また、彼らの【王】の功績を【風の王】にささげるために描きおさめしもの。
「ここもすごく風がつよいね」
地下だ、というのに風が吹き荒れており、
いくつか風により小さな竜巻すらも発生している。
「ここにもせり出す壁の罠とかあるのかな?」
ロイドがいうが。
「ないんじゃないのかな」
「何でさ。エミル」
「だって、ここ、たぶん墓標、だよ?」
上の階のこの場にくるまでの場所ならばいざしらず。
よくよくみれば、壁のいくつかの場所にかつてのヒトの遺品、なのだろう。
それらが壁の向こうに埋め込まれているのが視てとれる。
それらの前の壁の石板には、持ち主であろうヒトらしき名が刻まれているっぽいが。
事実、以前、ここにやってきたとき、そういう仕掛けはなかった。
風をとめたり、もしくは道をつくりだすための仕掛けはあったにしろ。
リフィルがこの場にいれば、彼らの背後に刻まれし壁の文字をみて興奮したであろう。
【歴代の王と血筋、ここに眠る】
とかかれしその文字に。
それは、古代パラクラフ象形文字、といわれしもので刻まれし文字。
「しまった。姉さんがもってた地図の内容。頭にいれとくんだった。…間取り、完全に覚えてないよ」
ただ、この部屋らしき間取りの地図の場所はみてはいるが。
ジーニアスが思いだそうとしているらしく、こめかみを押さえているのがみてとれる。
「簡単な間取りなら何となくならわかるよ?」
正確にいえば完全に間取りはわかるが、あえてぼかしていっておく。
「ふむ。では私が確認してきましょうか?」
いまだに姿を現したままのテネブラエがいってくるが。
「テネブラエ。お前がする必要はないだろうが」
「え?なぜですか?」
「そもそも、前にいったことはおわったのか?」
「…そ、それは……」
「まだなんだな?」
下地をつくるのにマナの切り離し、という作業が必要だ、というのに。
特にヒトに関してのみなれど。
「お前だけにいえることではないようだがな」
どうやら他のセンチュリオン達にしても然り、らしい。
ヒトそれぞれがもつ属性にあわせ、マナの切り離しをしたほうが手っとり早い、というのに。
一度、マナを切り離すというか区切って、そこに新たな枷を組み入れる。
それがヒトに対してほどこす楔。
「?エミルとテネブちゃん、何はなしてるの?」
途中から、二人の会話の言葉がコレット達にはわからない。
テネなんとか、と名乗ったそれが私が確認しましょうか、
といったまではわかったが。
それからエミルが発した言葉も、黒い犬もどきが発した言葉も、ロイド達には理解不能。
できれば八大精霊達すべて、ミトスとの契約の枷から外れるその前に、
彼らにそれらを成し遂げていてほしいのだが。
地上にいるヒトの数はたかだかしれている。
かつてのように全ての命から、というわけではないのだから、
その気になればヒトがいう地上時間において一月かそこらもあればどうにかなるであろう。
もし間に合わなかったとしても、かの種子の力を転換させ、
かの力をもってして地上にその力を理、として降り注ぐという手段もあるにはある。
そのあたりのことも、どうやらセンチュリオン達全員にきちんと説明しておく必要があるらしい。
ならば、ここでの彼らの用事がすんだのち、センチュリオン達に指示をだしておくべきであろう。
そう判断し、
「…まあいい。あとでお前達には改めてきちんと説明する」
「お~い?エミル?」
何だろう。
テネなんとかと名乗った黒い犬もどきと話しているらしいエミルの雰囲気が、こう何というべきか。
ロイド達のしる雰囲気と異なっているように感じるのはロイドのきのせいか。
「え?あ、何、ロイド?」
戸惑いを少し含んだようなロイドの言葉にきょとん、としつつも逆にと問いかける。
「何、じゃないだろ。何じゃ。けっきょく、その犬なんなんだ?」
「ロイド、どうみてもそれ、犬じゃないとおもう」
ロイドがテネブラエを指差しつつ首をかしげ、ジーニアスが首をすくめていってくる。
「遠吠えするんだったら犬だとおもうけどな。お前するのか?」
「遠吠え、ですか?しますけど…」
「ほら、やっぱり犬じゃないか。狼って感じじゃないし」
ロイドに問われ、戸惑い気味に答えるテネブラエの返答に、きっぱりといいきっているロイド。
「まあ、あのノイシュですら犬といいきってるロイドだからそうなのかもしれないけどさ~」
ジーニアスはその言葉からロイドの感覚を訂正するのは諦めているっぽい。
「とりあえず、ここにいつまでいてもどうにもならないし。それとも、一度、上にもどる?」
このままこの話題で話していてもおそらく終わりはみえない。
そもそも、テネブラエ達に関してはエミルは詳しく説明する気はさらさらない。
ゆえに、上を指差しつつ提案するエミルはおそらく間違ってはいないであろう。
テネブラエに関してあまり突っ込みをされないがための話題変換であるにしろ。
エミルは間違ったことはいっていない。
「そういえば、エミル。だいたい覚えてるっていってたけど。
  マルタが目的とするであろう品がある場所はわかる?」
ジーニアスがさきほどエミルがいった台詞を思い出したのか、
確認をこめてそんなことをきいてくる。
周囲をざっとみわたしつつ、
「…ここに姉さんつれてきたらそれこそ終わりがなさそうだし……」
などと小さくぽそりとつぶやいているのが気になるが。
「それかどうかはわからないけど。
  この部屋の奥に一つほど、祭壇をかねた台座らしきものの記入はされてたよ?」
ざっと視るかぎり、首飾りとおもわしきものはないが。
おそらくは、かの場に安置されている石碑に何か描かれているのであろう。
そこまで詳しく視る必要もないので確認していないにしろ。
「とにかく、いけるとこまでいってみようぜ」
どうやらロイドの興味はテネブラエから、この場。
すなわちこの階における部屋にうつったらしい。
みればなぜか大人組み三人はいまだに唖然、としているようではあるが。
「エミルが家族っていうんなら、まずは外堀からうめてくべきなのかな?」
ぽそり、とマルタがよく意味のわからないことをつぶやいているのもききとれるが。
何やらしばしそんなことをつぶやき、考え込んでいたかとおもえば、
「よろしくね!えっと、私はマルタ。マルタ・ルアルディだよ」
「これはご丁寧に。闇の守護者、テネブラエと申します。テネブラエとおよびください。マルタさん、ですか」
「マルタでいいよ。エミルが家族っていうのなら、私にとっても…きゃっ」
そこまでいって体をくねらせているマルタをみつつ、
「・・・・・・・・・・・・・・・・もてますね。エミル様」
「あのな」
なぜか意味ありげな言い回しでいってくるテネブラエに何といえばいいのやら。
まだ、マルタを以前のように煽らないだけまし、といえばましなのかもしれないにしろ。
「…エミルって、その犬もどきと話すとき、なんかいつもと口調が違うよね」
「エミルのそっちの声も私すきだよ?なんか低くて落ちつくし」
いつもの声のトーンと異なり、テネブラエと確かに会話しているときのエミルの声は、
いつもよりかなり低めといってよい。
聞いていてあるいみ心地よい、というか何というか。
何ともいえない、という思いがあるにしろ。
そこに少しでも力が加われば、
まちがいなく畏怖という感情に囚われてしまうであろうが。
ジーニアスとコレットがそんなことをいってくる。
「とにかく、探検しようぜ!探検!」
そんな会話をしつつも、どうやら気になっていたらしく、いうなり、だっとその場から駆けだしてゆくロイド。
「ちょっと!ロイド!きをつけないと!どこに罠があるかわかんないんだよ!」
一人駆けだすロイドをあわてておいかけているジーニアス。
「あ、まって~」
そんな二人を追いかけていっているコレット。
まあこの階には危険な罠等はないので大丈夫であろう。
「で、マルタはどうするの?ここに用事があるのはマルタでしょ?」
そんな三人の後ろ姿をみつつも、いまだに体をくねらせているマルタにと問いかける。
「え、あ。うん」
話しかけられようやく我にもどったのか、すこし俯き加減に答えてくる。
「マルタ様。マルタ様は何があっても我らがお守りしますので。
  …マルタ様にかすり傷でもおわせれば、我らのお給料がなくなりますし」
「…そっちの心配か。やっぱり」
ホークの言葉に、マルタが両手をかるく上げつつもわかっていた、とばかりに言い放つ。
…どうやら彼らがマルタを護る云々、といっているのは給料面に関係しているらしい。
「えっと?」
とりあえず確認をこめて後ろにいる別の人物に問いかければ、相手は首をすくめ、
「…ブルート様は、マルタ様がからむと、その。前もマルタ様がすこしこけて怪我されただけで、
  …親衛隊のことごとくの給料が削減されたことが…
  マルタ様が怪我をしたのはそこにころがっている小石が原因だったとか何とか。…よくわからない理由で」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「結局、そのときはマルタ様がそれをしり、猛烈にブルート様に抗議をしてくれて、
  なおかつ、奥さまにもいってくださり事なきをえたのですが」
「つまりブルート様は娘さんがからむと、その、分別がつかないといいますか」
口ぐちに説明してくる二人組。
「まあいいではありませんか。諺にもありますし。親孝行、したいときには親はなし、ともいいますよ」
「それ、あてはまるのか?」
「さあ?」
テネブラエのいい分に思わず突っ込みをいれれば、テネブラエも肩をすくめるのみ。


エミル達が地下、すなわち、パラクラフ王廟の地下五階。
その地においてそんな会話をしている最中。
「ダメだわ」
どうにかして地下、すなわち床が動いたであろうその先に移動できないか。
周囲をかたっぱしから調べてみたが、床を元にもどす仕掛けはみつからない。
「この上にあるんじゃないのかい?」
すでに先ほどまで封じられていた扉は開かれている。
しいなの言葉に、
「可能性はあるわ。けど、問題は上にいくと、おそらくは、封印の守護者と戦闘になる確立が高いのよ。
  以前、マナの守護塔で子供達が封印の間にまでたどり着いたときも、
  子供達に反応して封印の獣がでてきたといっていたしね」
あのときは、エミルがその封印の守護者を撃退したらしいが。
自分とクラトスだけではこころもとない。
しいながどこまで戦力になるかどうかすらリフィルにもわからない。
「他にその地下の部屋にいく道はないのか?」
「この地図には描かれていないわね」
リフィルが手にしている羊皮紙をみつつもいってくる。
「まあ、こういった墓とかなら、非常通路とかもつくってるんじゃないのかい?」
「可能性はなくもないけども。それがどこにあるのか、がわからないわね。
  壁に埋め込まれている細かな石板などを全て解読していけば、
  そのどこかに答えはかかれているのかもしれないけども」
確認した大きな石板だけでなく、壁に直接刻みこまれている石板もどき。
壁につかわれている石なども様々な文字や模様が刻まれているこの場。
そのどれかに答えがかかれていても不思議はない。
「とりあえず、上を確認だけしてみないかい?
  もしかして階段の途中にでも別の入口のヒントがあるかもしれないし」
しいなからしても気にはなる。
彼らの封印解放を手伝う、というわけではないが。
もしも、しいなの考えが正しいとすれば、それはしいなの目的にも必然的に符合する。


先にいきしロイド達を追いかける形にて移動することしばし。
ふと上ほうで動きがあったらしく、そちらのほうに意識をむけていると
「エミル?どうかしたの?」
横をあるくマルタが首をかしげつついってくる。
「え?何でもない」
まったく、ハスタールもいらないことを。
そう思わずにはいられない。
どうやらリフィル達が先に頂上にいったのは視て知っていたが。
現れたハスタールがよもや彼らにいらないことをいうとはおもってもみなかった。
「…ウトェントス」
「ここに」
呼べばすぐさまにその場にとあらわれる風のセンチュリオン・ウェントス。
姿は一応消しているものの、その白き姿はそのまま健在。
「…あいつをとめてこい」
「とめる、とは?」
「いらないことをいっているようだからな」
「御意に」
少し目をつむり、僕(しもべ)の名を紡ぎ、ひとまず優先する命をだしておく。
命をうけ、その場からかききえるウェントスの姿。
直後、この建物の頂き、すなわち今現在、
クラトス、リフィル、しいながいる場所にと移動しているのがみてとれる。
「エミル?どうかしたの?」
ふときづけば、なぜかまた腕をからめて見あげるようにいってくるマルタの姿。
「何でもないよ。マルタ。いこっか。ロイド達先にいっちゃったしね」
どうやらウェントスはハスタールを制止することに成功、しているらしい。
そのことにほっとする。
もっとも、ヴェリウスはかなりの力を取り戻させているからか、
…正確にいえばかなりのマナが満ちているがゆえに取り戻している、というべきか。
どうやらウェトントスのその姿に気づかれているようではあるが。
――まあ、攻撃したいのでしたらとめませんが。
…おい。
そういう問題じゃないっ。
意識をむけていれば、ウェントスまでハスタールにそんなことをいっているのが視てとれる。
「…は~」
「??エミル?」
何をウェントスまでいっているのだろう。
おもわずまたまたコメカミに手をあて…なんだろう。
ここ最近、異様にこういったどうでもいいことで疲れているような気がする。
それはもう果てしなく。
『……どちらもする必要はない。ハスタール』
目をとじ、意識をそちらにむけ、直接にハスタールの心に語りかける。
『…王?』
それとともにきこえてくる、ハスタールのとまどったような声。
『お前の役割も大体は理解している。が、お前が傷つく必要もない。
  …そこの資格をもちしものに、シルフ達の契約を解除させる。
  そのものもおそらくそのつもり、覚悟はできているはずだ』
しいながそれらを考えて悩んでいたことは知っている。
おそらくは、ウンディーネの言葉をきっかけとし、突破口をつかんだ、のであろうことも。
『ウェントス』
名をよべば、こちらもすぐに返事がもどってくる。
なれど。
『クラトスに姿をみせることなかれ』
光の屈折を纏っているがゆえか、クラトスにもまだその姿を認知されていないらしいが、
しかしクラトスがどこにいるか気付けばおそらくその姿は確認できてしまうであろう。
それゆえの台詞。
そもそも、自分の正体を悟られないように、といっているセンチュリオン達が率先し、
気付かれるような行動をしている、というのはどういうことか。
…当人達はそのこと自体に気づいていないようではあるが。
視れば、あらわれたハスタールが攻撃をしかけてくるわけでもなく、
彼らにとっては意味不明な言葉で何やら話しているのに気付いた、のであろう。
戸惑いの表情をうかべているリフィルとしいなの姿がみてとれる。
ヴェリウスである孤鈴コリンは王、という言葉からこちらに気付いたのか、
驚愕の表情を浮かべているのがみてとれるが。
おもいっきり目を見開いている。
まあ、ウェントスにしろ、ハスタールにしろ、鬱憤がたまっているのはよくわかる。
おそらく、あのシルフ三姉妹達も鬱憤があの様子ではたまっているのであろう。
「エミル。頭いたいの?」
「え?あ、うん。平気だよ」
こちらの命にどうやら素直に従うらしく、その場から姿をけしているハスタールの姿を確認する。
それとともに上空から響いてくるような聞き覚えのある声。
監視をどこまでしていたのかはわからないが、
すくなくとも、かの地のやり取りまで監視している、というわけではないであろう。
マルタが心配そうにエミルの顔を見あげてそんな質問をしてくるが。
頭がいたいといえば痛い、といえるのかもしれない。
…特にハスタールの言葉のせいで。
ハスタールの言動で、
リフィル、そしてしいながあからさまに、クラトスにたいし、疑念を抱いているのはみてとれる。
まあ、クラトスが彼女達を始めからある意味ではまた裏切っている…
かつての自分達における裏切りのように、という点では事実なので、クラトスに同情などさらさらしないが。
「本当に大丈夫?熱は…ないみたいだけど」
いって、手を掲げ、エミルの額に手をあてて、逆の手を自らの額にあててそんなことをいってくるマルタだが。
「大丈夫だよ。ありがとう。マルタ。心配してくれて」
「エミルって自分の体調がわるいのに私を気遣ってくれて、やっぱり優しい!さっすが私の王子様!」
そこまでいい、
「…エミルがかがんでくれれば、こう、おでこをひっつけてもっと顔が接近できたのに。
  そして、そのまま二人はしばしみつめあって、そして顔が近づいて、そして二人は…」
「・・・・・・・・・・」
そのまま自分の世界に浸っているらしいマルタの姿がみてとれるが。
これがなければなぁ。
昔も今も、そうおもう。
以前の時ではあるが、無意識にマルタが何を考えているのかわからずに思考を読んでしまったことがあった。
…そういえば、あのときから、かもしれない。
精霊としての自分と、そして偽っていた…とおもっていた自分との区別がよりはっきりとなったのは。
…何しろ、あのときのマルタの想像は…
……なぜタオル一枚の姿で…思いださないようにしよう。
うん。
どうか、今のマルタもそれを考えていませんように。
誰に願うわけでもないが、おもわずマルタに対し、そう願ってしまう。
自分の中でエミルが自己完結をしているそんな中。
「お、ようやく先がみえてきたぞ!」
先のほうからロイドが何やらいっているのがききとれる。
この階にある仕掛けはホーク達の尽力もあり何とかさきほど解除しおえた。
そしてつづいた道なりにすすみ、ようやく奥にとたどりついている今現在。
そんな中での地上での出来事。
ロイド達は地上で今、何がおこっているのかおそらく知るはずもないであろう。
今のハスタールの言い回しで自分が目覚めている、ということを気取られてはいない。
とはおもうが。
まあ、クラトス達が自分を裏切っているのは事実なので何ともいえないのもあるにしろ。
こつこつと石でつくられし遺跡の中の道をすすむことしばし。
やがて視界の先にみえてくる小さな祭壇らしきもの。
「お。あの台座みたいな上にのってるのがマルタの探してるやつか?」
「?でもあれ、首飾りとかじゃないみたいだよ?」
たしか、マルタが探しているのは首飾り、といっていたような。
あの台座の上におかれているのはどうみても何らかの石碑というか石板っぽい。
ロイドの言葉にコレットがそちらを見つつも首をかしげるが。
「とにかく、あれを手にしたらわかるんじゃねえのか?
  それに、あれに何かかいてあるのかもしれないし。ここにくるときの石板みたいにさ」
ここの入口の鍵となっていたのも石板であった。
ならば、マルタが探している、という目的の鍵となる品物の可能性もある。
ロイドがいいつつも、そちらのほうにかけよってゆくが。
「あ、まって!ロイド!そういう古代の遺物にはいきなりちかよったら!」
ジーニアスがあわててそんなロイドに注意を促す。
と。
ゴウッ。
突如として、周囲に立っているほどもやっと、というほどの巨大な風がまきおこる。
――契約の資格をもたぬものよ。墓を荒らすものには制裁を――
どこからともなく響く声。
「な…あ…あれは…」
「…嘘……」
ロイドとジーニアスの目には、みおぼえのある緑色の巨体の姿。
「…い…いやぁ!Gぃぃ!?」
マルタはマルタでその姿をみて、なぜか半狂乱。
「…うそ…なんで……」
コレットの目にうつりしは、自らの姿。
三者三様。
あいかわらずだな、
おもわず彼らの反応をみて、苦笑してしまう。
彼らの目にうつりしは、それぞれが【自らにとって一番怖いもの、もしくは憎悪するもの】
の姿がうつりこんでいることであろう。
それが、シヴァのもつ力のうちの一つ。
ヒトはシヴァの姿をみ、そこに恐怖、というものを感じてしまう。
憎悪、もしくは怖いもの、これまでの人生において記憶から消し去ってしまっていたもの。
など、それは様々。
ゆえに、ヒトは饕餮とうてつの本来の姿にまでたどりつくことはない。
何かを護りしときには、負の力を。
そして、誰かを守護せし守る当事者がいる場合は生の力を。
そちらの場合は、各個人によって一番神聖な姿、としてその姿は認識される。
その姿を一目みて、そしてその声を認知してしまったヒトはそこから逃れるすべはない。
「――久しいな。シヴァ」
完全にもはやロイド達はシヴァの手のうちの中。
ゆえにこちらも隠しておく必要はさらさらない。
完全にシヴァによる幻影に囚われている彼らには、こちらのこと、すなわち外部のことに気付けはしない。
すっと目をとじ、瞳をひらく。
その瞳はいつもとは異なり、深紅。
「――王!?」
驚きの声がその口から発せられる。
目の前にいる獣の姿は、体は牛と羊が半分づつあわさったもの。
頭部には曲がった角に口元には虎の牙、そしてその四肢には人の爪…といっても、
かなり伸ばしている形なので歪にツメがねじれているのがうかがえる。
そして、特徴的なのは、その顔が人のそれ、であることか。
それが目の前の魔物、饕餮とうてつの全体像。
「ふむ。直接にあうのは、この地に降り立ってから後、になるか?」
いつもセンチュリオン達、もしくは分身である蝶を通じ、彼らとは会話をしていた。
彗星にて移動しているときは常に顔をあわせていた、のだが。
「……本当に、こちらの世界でも表にでられたのですか?
  …テネブラエ様から聞かされたときには驚きましたが……」
あきれたような、どこか苦笑じみた声をあげてくる。
「まあな」
「まあ、王がいいのでしたらよいのですが…しかし、なぜ、そこな人間達とともに?」
いまだ、目の前の人間数名は、シヴァの幻影にとらわれ、
それぞれが、中には戦っているもの、自責の念にかられているもの。
そしてその場にへたりこむもの、泣きわめいているもの。
…まあ、マルタに関しては虚空にむけて、おもいっきり攻撃を繰り出しているにしろ。
しかも泣きながら、ゴキきらい、あっちにいって~!といいながら。
どうやら大量のゴキブリが襲ってきている幻影に囚われているっぽい。
ロイドなどは、母さん…とつぶやいており、
みれば、ロイドが失いし過去の光景。
それを今まさに目の当たりにしているっぽい。
母親がエクスフィギュアとなりて、自らにおそいかかってくるその光景を。
コレットは自らとまったく同じ姿の少女が、偽善者だよね。
などとコレットが考えないことにしていた心の本音をつぶさにぶつけられていたりする。
「どうもミトスのやつが、何やらしでかしているようだしな。
  セルシウスがいうには、マーテルの器とか何とかいっていたし。
  …何よりも、今の種子の状態と世界のありようをほうってはおけん。
  このままほうっておけば、まちがいなく魔界との扉がまた新たに開かれかねないしな」
それは本音。
歪みはたまりまくっている。
このままこの歪みをほうっておけば、まちがいなく大地は消滅する。
それをヒトが選らぶ、というのならば仕方ないのかもしれないが。
だがしかし、愚かなヒトのせいで大地にいきる他の命が巻き込まれるのは面白くない。
「お前のほうの契約はまだ施行中、ということか」
「はい。まだ私との契約の指輪は破棄されていませんので。
  ルクレツィアのほうの契約はずいぶんと前に破棄されてましたけどね。
  しかもその役割すら忘れてしまった愚かなエルフ達の手によって」
かの指輪を壊したのは、エルフ達。
その言葉に、天地戦争とよばれし時代にそれは執り行われたことをふと思い出す。
「そうだったな」
今いきるものたちは、ヒトはおそらくそのことすら忘れてしまっているであろうが。
「それで?王?王自らがなぜここにおこしに?
  ここは、我と契約者の証をもつもの、その契約の場でもあるのですが……
  そこの娘は資格をもつものの血筋のようですが、証たる指輪を所持していませんし」
契約には指輪が必須。
どうやらマルタの父親、もしくは母親はその指輪をマルタに渡してはいないっぽい。
「大方、わすれていたのだろう。
  この娘の両親のうちのどちらかが、かの指輪を所持していることは間違いないようであるしな。
  まだかの品をうけつぎしヒトがいたことに我としては驚いたがな」
それは本音。
よくもまあ、破棄せずに今の今まで残っていたものである。
かつてのときはその気配を微塵も感じなかったということは、
今後そのようなきっかけとなる出来事があったということなのか。
しかし、ともおもう。
かつて、魔族達と契約したのがリヒターでよかったのかもしれない、と。
もしもブルートならば、かつての加護の力が残滓としてのこっており、
それを魔族が利用しようとしても不思議ではなかった、と。
まあ、リヒターが魔族と契約したことも喜ばしいことではなかったにしろ。
「この娘は契約の証の品の一つ、首飾りをもとめてここにやってきたに過ぎない。お前がならばもっているのか?」
「然り。首飾りは私がもっております。この幻影にうちかち、なおかつそこの石碑…パラクラフの石碑。
  とヒトはたしか呼んでいましたが。そこにかかれている文字を解読し、
  私との新たなる契約の言葉、すなわち私にあらたな名をつけることにて、
  契約は受け継がれる形となっています。それはあなた様も御存じかとおもいますが」
「たしかに。お前達との契約は、ヒトがお前達にあらたな名をつけることにより。
  そこにあらたな関係がなされるように理をひいているからな」
人をそれは眷属、もしくは使令という。
大樹の加護をうけしもの、その傍らに正邪をあわせもつ聖獣あり。
かつて、デリス・カーラーンにおいてまことしやかに噂されていた言葉。
それはまさに噂ではなく、現実で。
そして、この大地にあって最後の契約をかわせし指輪をもちし存在。
「――お前も解放されたいか?シヴァ」
「いえ。それをきめるのは、ヒトなれば」
彼らの核となりしは、契約の指輪。
それが破壊、もしくは破棄されたとき、彼らはラタトスクの内部にと還りゆく。
そして、問われ、選ぶのだ。
次なる生を。
「…王がともにおられるのならば、まだヒトに完全に絶望しなくてもよいのでしょうか」
「…ヒトは愚かだ。だが、そうでないものもいる。お前もそれはわかっていよう?」
彼らをうみだせしときよりいっているこの言葉。
「そこの娘は、私が仕えるに相応しいとおもわれますか?」
「それを決めるのは我ではない。…お前自身だ」
「…然り」
しばしの沈黙。
「ならば、我は姿をかえ、その娘を身守りましょう。どうも王が気にかけておられる模様ですし」
「?」
どういう意味なのだろうか。
苦笑ぎみにシヴァがいい、
そのまま、つかつかといまだに一人で騒いでいるマルタの元にちかよっていき、
そして、おそらく暴れているときに自らの武器で傷をつけたのであろう。
薄くその手に傷がつき、そこから血がにじみでているのがうかがえる。
その血をそのままぺろり、となめ、
「我、ここに仮の契約をはたさん」
刹那、周囲を淡いような黒と白が入り混じった光が包み込んでゆく。


~おまけ~シヴァ合流のあと;スキット~

シヴァ「ラタトスク様、かつてのディセンダーのときのように表にでられているとは。おどろきました」
テネブラエ「それは我らもです」
センチュリオン達『同じく』
ウンディーネ「それはわたくしもですわ」
アクア「でも、ラタトスク様があの人間の娘に優しい視線をむけるのがゆるせなぃぃ!
     そりゃ、いつも表にでられて人の姿を模されているラタトスク様は。 
     いつもいつもヒトを気にかけておられるけど、けどきにいらないのよぉ!」
ルーメン「・・・まあ、それで勘違いしたヒトに幾度も押し倒されたりしたことが
      かつてありましたからねぇ…ラタトスク様は気づいていませんでしたが」
一同、うなづく。
ウンディーネ「…そ、そんなことがあったのですか?」
シヴァ「ああ。そなたたち精霊はこの地にきてから生み出されたがゆえに知らぬか。
     あったのだ。まったく、御自身のことになると無頓着だからな。あの御方は……」
イグニス「だから、できるだけ我ら、もしくは眷属たる魔物を傍に、というのだが、なかなか…な」
ウンディーネ「・・・・・・・・・・・・・」
グラキエス「ラタトスク様からしてみれば、全ては我が子のようなもの。
       ゆえに信頼しているから、なのでしょうが、ヒトというものは、
       何をしでかしてくるかわかりませんからね」
ウンディーネ「…あの契約のしかくをもちし人間。他の同胞も解放してくれないかしら?
        何か話しをきいている限り、王が外にでられているだけで何となくいろんな意味で危険なような気が……」
テネブラエ「わかってくださいますか!それは我らもいうのですよ!」
アクア「でも、外にでられているときのラタトスク様って。
     めったにみせることのない優しさもむけてくれるから嬉しいんだけどねぇ。
     け、ど!それを私たち以外にむけるのがゆるせないのよぉぉ!」

こいつら、何を話しているんだ。
何を。
…気付かれていない、とおもっているのか?
まったく。
…しかし、なぜ許せない、とアクアはいうのだろうか。
…わからぬ。

※ ※ ※ ※


「大丈夫?」
眩しい光に一瞬目をうばわれ、気づけばそこは先ほどいた場所で。
「え?あれ?」
「私……」
先ほどまでみていた光景がうそのような、遺跡の中。
ひんやりとした空気が先ほどまでの光景が幻であったということを知らしめている。
ロイドからしてみれば、気になるのは別のこと。
忘れていたあの日のできごと。
母親が…目の前にて異形とかしたあの日のこと。
なぜ、あのとき、クラトスの声がしたのだろうか。
しかも、母の名を呼んでいた。
完全に記憶が戻ったわけでなく、その一瞬の光景を幻影として視たがゆえのロイドの戸惑い。
コレットは無言にならざるをえない。
死にたくない。
けど、自分が死ななければロイド達は助けられない。
それでロイドが喜ぶとおもっているの?偽善者。
そう自分自身にいわれ、コレットの胸がちくり、と痛んだ。
考えなかった、というのは嘘になる。
けど、これしか方法がない、そのために自分は産まれてきたのだ。
物ごころついたころからそういわれ、育ってきているコレットに、
それ以外の選択肢を自ら選びとる権利はない、と思い込んでいる。
そんな心の隙をあのとき、現れたもう一人のコレットはここぞとばかりについてきた。
気付けばどうやらそれぞれ、床に倒れていたらしい。
ひんやりとした石畳みが自分達が横になっていたのだ、と今さらながらに理解させられる。
「俺達、いったい?」
「おそらく。姉さんがよくいってた。古代遺跡には魔術的な仕掛けもよくあるって。
  その魔術的な仕掛けに僕ら、おそらく囚われたんじゃないのかな?」
ジーニアスが目にしたのは、かわりはてたマーブルの姿。
あのときの再現。
そして、その後ろにもう一人の自分がいて、こういっていた。
お前がマーブルさんにかかわったから、彼女はこうなったんだ、と。
どうしてあの日、マーブルさんのもとにロイドと一緒にいったんだ、と。
と。
「にゃ~ん」
「へ?うわ、かわいい、かわいい、何、このこ!?」
ふとマルタの足元にすりよってくる小さな子猫。
ちなみに色は黒でその尻尾がなぜか二つに分かれているにしろ。
…なぜに猫の姿を?
おもわずシヴァをあきれてみてしまうエミルは間違ってはいないであろう。
「あれ?この子がつけているこれ……」
子猫の首にまきつけるようにつけられている首飾りらしきものをみて、マルタが目をみひらく。
それは、マルタの家に代々つたわりし紋章と同じ模様が刻まれし首飾り。
「もしかして、目的の首飾りってこれ、なのかな?
  でもこんなかわいい子から奪うのも…そうだ!この子ごとつれていけばいいんだよ。うん。そうしよう!」
どうやら一人、マルタの中で決定が下されたっぽい。
「うわ~、にゃんちゃんだ。えっとね~、猫だから……」
コレットがそのどうみても子猫…ちなみに生後四カ月程度のあたりくらいの大きさ。
そんな姿を子猫にかえたシヴァをみて何やらそんなことをいっているが。
「ニャンってなくから、このこの名はニャ~よ!」
「「いや、それは」」
きっぱりというマルタの台詞になぜかホークとジーニアスの声が同時にかさなる。
「え~?タマちゃんのほうがいいよ?」
「なら、ミヤちゃんは?猫の鳴き声はみゃ~でしょ?」
『・・・・・・・・・・・・』
みれば、この子猫…シヴァの名について、マルタとコレットは話しあい中。
どうやら名をつける、というのは決定事項であるらしい。
「……みゃ~……」
タマにミヤって……
うなだれて、ぽつり、と哀愁ただよわせてシヴァが何やら呟いているが。
『子猫の姿をとったのが原因だとおもうぞ。間違いなく』
「みゃみゃみゃ……」
この娘、どうやら猫が飼いたかったみたいなのでこの姿にしたんですけど……
エミルの言葉にたいし、うなだれつつもそんなことをいってくるシヴァ。
そういえば、かつても一人でかってに未来予想図とかいって、独り言をいっていたときに、
マルタは飼う猫は何匹で、白い家に住んで…とか意味不明な妄想をよく呟いていた。
ふとそのときのことを思い出す。
時代が異なれどもやはりマルタはマルタでしかない、ということなのだろう。
そんな中。
「じゃあ、間をとって、タマミヤ、これできまり!」
「うわ~、かわいい名前!」
「「「タマミヤって……」」
なぜにそうなったのだろう。
ハイタッチをかわしているマルタとコレットをみておもわずつぶやくエミルに続き、
異口同音でジーニアスとロイドまで呟いているのがみてとれる。
「マルタ様?まさかその子猫?をつれていくつおもりですか?」
「だって、おそらくパパがいってたのはこの首飾りでしょ?
  こんなかわいい子猫ちゃんがつけている首飾りを奪うなんてできないし。
  なら、この子ごとつれていけば一石二鳥、ね?」
いいつつ。
「目的が達成されたらパパは絶対に町にいろというから、
  今後どうやってエミルと一緒に旅ができるか考えないと……」
小さく何やら不穏な台詞をいっているのがききとれる。
どうやらその台詞がきこえた、のであろう。
ホーク達三人がおもいっきりため息をついているのがみてとれるが。
「よくわからないけど。けど、マルタの目的ってそれなのか?」
「うん。たぶん。うちの紋章がほられてるし。間違いないかと」
「そっか。マルタは首飾りをもとめて旅に同行してたんだもんね」
なら、これでマルタともお別れなのかな。
さみしいな。
コレットがそんなことをおもいつつも顔をふせる。
そんなコレットの表情に気付いた、のであろう。
「大丈夫!パパをいい含めてでも嫌でも絶対にエミルについていくから!」
きっぱり、拳をにぎりしめ、断言しているマルタの姿が。
「・・・・・・・・・・・・・」
なぜに絶対についていく、といいはるのだろうか。
このマルタは。
ゆえに思わず無言になってしまうエミルはあながち間違ってはいないであろう。
「そこは嘘でもコレットに、というべきじゃないのかなぁ」
きっぱりというマルタにたいし、ジーニアスがあきれまじりにつぶやくが。
「…とりあえず、もどらない?リフィルさん達もきになるし」
まあ、考えていても仕方がない。
なので一応、今ある現実に話題を擦り変えておく。
そんなエミルの問いかけに、
「「「「あ」」」」
どうやら完全にリフィルたち三人のことは失念していたらしく、
コレット、ロイド、ジーニアス、マルタの声が同時に重なる。
本気で忘れていたっぽい。
「まずい。姉さん、絶対に怒ってる…怒ってるよ…」
ジーニアスなどはその両手で体をつつみこみ、がくがくと震えだしていたりする。
「ここにつれてくればそれないんじゃないか?」
「ロイド!ナイス!といいたいけど、こんな姉さんがみたら興奮しまくりの資料もどきがある場所、
  つれてきたら最後、ぜったいに数日はここから姉さんはなれないよ!」
まちがいなく、この場にいりびたる。
それこそ世界再生の旅、ということすら失念して。
まあ、それはそれでいいかもしれないが。
何しろざっとエミルが確認するかぎり、ここには彼らがいうところの天使。
すなわち、かつてテセアラにおいて開発されし生体兵器の真実すらも、
壁に記録、として刻まれていたりする。
ミトスのありようを懸念したのであろう、おそらく当時のヒトが、
この場にクルシス、そしてマーテル教のありかたまで忠告として記載していることに、
エミルからしてみれば苦笑せざるを得ないが。
それらの忠告も後世にきちんと伝わっていないのであれば意味がない。
どうリフィルからのお仕置きを逃れるのか、と話しあいつつ、
それでも遅くれなばなるほどにお仕置きは必然となる。
そういうジーニアスやロイドの意見もあいまって、
一応この場にての用事もすんだこともあり、先ほどの場所にまでひとまず一度戻ることに。

「おそい!おまえたち、勝手に仕掛けを解除するなどもってのほか!」
「うわ!姉さん、ごめんなさい~~!」
青き風車のボタンをおせば、ここにきたときと同じように、
今度は逆に床が上昇していき、そして元の部屋にとたどりつく。
そこでみたのは、仁王立ちしているリフィルの姿。
「せ、先生。この先、先生のすきそうな石板がかなりはめ込まれてたぜ?
  なんか描かれていたっぽいけど俺達にはよくわからなくて、な?」
リフィルの制裁を逃れようと、ロイドがあるいみ地雷ともいえる言葉を紡ぎだす。
「何だと!?」
リフィルの目がきらり、とひかるが。
「…今はそれより、神子が封印を解放するのが先だろう」
クラトスのため息まじりのような声。
「まあ、あたしはあのままでも面白いからいいとおもうけどね~」
始めは、りんとした声が響いていたのみ、であったのに。
…再生の神子?…神子?
などといった声が戸惑い気味に虚空から投げかけられているのだから、
しいなからしてみれば、それはそれであるいみ面白い。
地上の様子などきちんと把握しておらず、なおかつ、封印の守護者が倒された…
そうおもっているっぽいあちら側からしてみれば、声を飛ばしたのにコレットが祈りをささげないことにたいし、
どうやらすこしばかりとまどっているらしい。
事実はその場にコレットがいないから、でしかないのだが。
どうやらそれすらきちんと把握していないもよう。
「あの胡散臭いレミエルの言葉がだんだんと戸惑い含んでいるからね。
  このまま数日放置でもいいんじゃないかい?」
しいなはしいなでそんなことをいっているが。
たしかに放置でも問題はないであろう。
「え?レミエル様の声がしてるんですか?」
しいなの言葉にきょとん、としつつコレットがといかける。
「え?あ、ああ。あんたたちがこの地下?らしき場所にいっちまってただろ?
  だから、どうにかしてあたしらもいけないか、といろいろと探したんだけど…」
しいながいうには、地下にいく仕掛けをさがしたが、それがみつからず。
ゆえに扉の先に仕掛けがあるかもしれない、というので先に扉の先につづく階段。
それを上っていったらしい。
「それで、地上にというかこの遺跡の屋上部分にこの先の階段はつづいていてね。
  その先に精霊の祭壇があったんだけど……」
しいなの口から、そのとき、何があったのか、ロイド達にと語られてゆく。


封じられていた扉の先にある階段。
部屋を探しても、地下につづく道は他にはみつからず。
おそらくは、地下にいってしまったであろう、仕掛けを再び作動させなければこの床は戻ってこない、
そうリフィルが結論づけたのはつい先ほど。
その意見にはどうやらしいなもクラトスも同意であったらしく。
かといって、このままいつもどってくるかわからない子供達をまっているだけ。
というわけにもいかない。
ならばひょっとすれば封印の間に地下の部屋にたどり着くための道がある可能性も否めない。
長い階段をのぼることしばし。
やがて、薄暗かったはずの道の先があかるくなってくる。
「ようやく出口みたいだね」
「ええ。あの部屋にいく道の手がかりがあればいいのだけども。
  まちがいなく、あの仕掛けを起動させたのはロイドね。もどってきたらしっかりと言い聞かせないと。
  私がいないときに勝手に仕掛けを起動させないように、と。
  もし、何か危険な仕掛けとかだったらあの子はどうする気なのかしら、まったく」
子供達が無事なのかどうかもわからないが。
この地図によれば、地下には罠のようなたぐいはないようなので大丈夫、とは思うのだが。
それでも心配なのは心配。
しかも、コレットにジーニアスまでつれていっているのである。
救いは腕がたつであろうエミルが一緒にいる、ということか。
「しいな!」
ふと、警戒したかのようなコリンの声。
それとともに、孤鈴コリンが姿をあらわし、そのふさふさの尻尾をさらにふくらませる。
「マナが・・・っ!」
リフィルもそれに気付いたのか、思わずみがまえる。
階段を抜けた先にとある祭壇。
その祭壇に突如としてマナが収縮していっているのが感じ取られる。
突如として周囲に緑色の光りがはじけ、やがてその光りは一つにまとまり一つの形をなしてゆく。
「これは、風の封印のガーディアン、ハスタールか」
「クラトス、あなた……」
クラトスがその姿をみてぽつり、とつぶやきリフィルがそんなクラトスをじっとみつめる。
あのときもそう。
トリエットの遺跡においても、そしてマナの守護塔においても。
そしてさらに水の封印においても、クラトスは封印の守護者の名を知っていた。
それこそまるで始めからしっていたかのように。
リフィルですら様々な文献などで完全に知らないなのほうが多い、というのに。
『汝らはまだ我らを裏切るつもりか。そこな娘よ』
「え?え?」
脳裏に響いてくる声。
娘、といわれるとすれば自分しかいない。
ゆえにしいなは思わず声をだす。
「あ、あたしかい?」
『しかり。我は風の精霊シルフの守護をせしハスタール。汝は契約の資格をもつもの、とみた。
  汝もまたミトスのように我らを裏切るためにここにきたのか?いかに?』
「また、ミトス……風の精霊もミトスとの契約に縛られている、ということなのかしら?」
ウンディーネがそうたしかにいっていた。
『然り。そのほうたちは知らされているのではないのか?
  そのものとともにいるのだ。知らぬわけはなかろう。
  …クラトス・アウリオン。汝は幾度我らの主、そして精霊達を裏切ればきがすむ?』
「「え?」」
今、目の前のこの封印の守護者であろう魔物はたしかにクラトスの名をいった。
「クラトス?どういうことなのかしら?」
「…人違いだろう」
『愚かな。これだからヒト、という生き物は。なぜお前達のようなものを信じた王が悲しまなければならぬ?
  お前達は王の嘆きを一度でも感じたことがあるのか?お前にしろミトスにしろ。
  マーテルさえいきていればこのようなことにはならなかったではあろうにな』
「マーテル?女神マーテルのことかしら?それに王、とは?」
リフィルの問いかけに、
『女神マーテルなどというものは存在しない』
きっぱりとそんなリフィルの問いを否定する。
「え?どういう……」
その言葉をきき、しいなが思わず問いかけようとするが。
「……ハスタール、いらないことをいってもらってはこまります」
ふと、虚空から別なる声。
きょろきょろと周囲をみわたせど、そこには何の姿もみあたらない。
「あの御方の意図に反します。…気持ちはわかりますが」
「あれは……」
ゆらり、と空中にゆらめいている一つの影。
光の屈折でその姿は認知することは難しいかもしれないが、だけども判る。
精霊だからこそ視える、といってよい。
ゆえにコリンは目を見開かざるをえない。
それは本能でわかる。
風のセンチュリオンである、ということが。
「まあ攻撃したいのでしたらとめませんが。その場合、そこのクラトスだけにしてくださいね。
  そこの娘とその女性はあきらかに被害者でしかありませんし」
声はすれども姿はみえず。
と。
――どちらもする必要はない。ハスタール。
『…王?』
ハスタールの心に直接響いてくる声に思わずつぶやく。
それは魔物達が使用する言葉であるがゆえ、リフィル達にはその意味はわからない。
――お前の役割も大体は理解している。が、お前が傷つく必要もない。
  …そこの資格をもちしものに、シルフ達の契約を解除させる。
  そのものもおそらくそのつもり、覚悟はできているはずだ。
そういえば、ウンディーネもあらたに人の手により、その契約の楔を解き放たれた。
そうセンチリュンオン・ウェントスから連絡をうけている。
王の決定は絶対。
――ウェントス。
「ここに」
――クラトスに姿をみせることなかれ。
光の屈折を纏っているがゆえか、クラトスにもまだその姿を認知されていないらしいが、
しかしクラトスがどこにいるか気付けばおそらくその姿は確認できてしまうであろう。
「…?何がおこってるんだい?」
「わからないわ」
いきなり目の前に異形の魔物が現れた。
それはわかる。
おそらくこの魔物がこの封印をまもりし魔物なのだ、ということも。
が、しかし、この魔物はクラトスの名を…しかもフルネームを知っていた。
気になるのは、我らを裏切りし、そうたしかにそういった。
しかも姿がみえない何かと会話をしはじめ、今は虚空にむけ、
何か言葉…ものすごく聞き覚えのある旋律の何かをたしかに目の前の魔物はいっている。
それは、エミルがよく口にしている言葉。
魔物達にむかってよくいっている旋律の言葉らしきもの。
目の前にて何がおこっているのか、しいなもリフィルも理解不能。
やがて。
「……御心のままに」
その言葉とともに、いきなり目の前の魔物は光となりてはじけとぶ。
「「…え?」」
戦ってもいないのに、いきなりきえる魔物にリフィルもしいなもとまどわずにはいられない。
そして、それとともに。
突如、祭壇から風が噴き出てきて、その風は祭壇をまとわりつくように孤をえがく。
そして台座のようなものが浮き出ててきたかとおもうと、
その中に緑の光りがやがて何かの形をなしたかとおもうとすぐさまそれは緑の光りとなりて、
祭壇の上に光となりてその場にとただよってゆく。
――再生の神子よ。よくここまでたどりついた。さあ祭壇に祈りをささげよ。
それとともに、虚空から、リフィルも聞きなれた声が周囲にと響き渡る。


しいなの回想を交えた説明。
それによれば、地上にでた彼らに封印の守護者たるガーディアンらしき魔物がでてきたが、
なぜか戦闘になることなく、その魔物は姿をけした、ということ。
そして、上では定期的にレミエルの声らしきものが聴こえてきている、ということ。
しいなロイド達に、あの魔物がクラトスの名を知っていたことはあえていっていない。
それはリフィルとのアイコンタクトの結果、子供達には知らせないほうがいい。
そう暗黙の視線を交わしただけの言葉にて互いがきめた事柄。
「それはそうと、マルタ。その子猫は?」
リフィルが先ほどからきになっているらしく、
マルタがしっかりと抱きしめているシヴァをみつついってくる。
「はい!かわいいでしょう?リフィルさん。
  この子が目的の品ものっぽい首飾りをもってるので、この子ごとパパのところにつれていこうかと」
「にゃ~……」
ぴしっとマルタが両手でさしだしたは、生後、三、四か月程度といった大きさの、真っ黒な毛並みの子猫。
その目の色は子猫特有のキトンブルー。
しかし、なぜだろう。
その子猫の尻尾の先が二つにわかれているのは。
しかも、
「…その子、子猫じゃなくて魔物のようだけど?」
マナの在り様からして普通の猫ではない、というのがリフィルにはわかる。
「それでも、まだこんなに子供なんだし!パパにいってかってもらうんだ!」
「…頭がいたいわ」
その台詞に思わずリフィルが再びこめかみをおさえる。
エミルといい、このマルタといい。
エミルのほうはまだいい。
いやよくはないが。
どうも魔物のほうから勝手にエミルによっているところっぽいところがあるにしろ。
が、しかし、マルタは何の魔物の子かもわからないこの猫もどきをきっぱりと飼ってもらう、そういいきっている。
これが頭をいたくせずに何というのだろうか。
「…ここが済んだら一度、パルマコスタに戻りましょう」
「それでしたら、我らの船でパルマコスタまで皆さんをお送りいたします。船で移動すればすぐですので」
ホークがその言葉に反応してか、そんこなとをいってくるが。
「でも、海も危険なんじゃないの?」
パルマコスタの近くには絶海牧場、とよばれていた地があったはず。
それゆえに心配し、そいうジーニアスの言葉に首を横にふり、
「ああ。そうか。皆さまがたは御存じなかったのですね。
  なんでも、絶海牧場の中で捉えられていた人達が反旗を翻したらしく。
  かの地に捉えられていた人々は、どうやったのかしりませんが。
  皆、無事にそのときに生きていた人々は脱出してるんですよ。
  何でも新たにつれてこられたであろう青白っぽいけっこう美人な女性が、彼らを安全に誘導したとか何とかで」
「…牧場の人間たちが、か?」
それはクラトスにしても初耳。
というか、あの海底からどうやって逃げ出した、というのだろうか。
とくにあのロディルがそう簡単に実験体である人間達を逃がす、とはおもえないのだが。
「ええ。おかげで、本来、この場に派遣されていたのは、
第十二中隊のうち、第七中隊まで派遣されていたのですが。
  それをうけ、いろいろと仕事もふえたりしているので、我らのみがここにのこり、
  マルタ様がた、神子様がた一行をお待ちしていたわけで」
「…げ。ということは、パパ。自分の親衛隊の部隊ほとんどをまわしてたの!?」
マルタが心底驚愕したような声をあげ、そして。
「これは、ママにいってしっかりとパパをいさめてもらわないと。パパ、公私混合がはげしすぎるよ……」
何やらぶつぶつとマルタは言い始めていたりする。
ああ、テネブラエのやつが、セルシウスの姿で人々を誘導していたあれか。
エミルはそのことを知っているので別に驚きはしない。
が、
「何ですって?…捉えられていた人々が自ら?それは本当なのかしら?」
リフィル達からしてみればそれは初耳。
ゆえに険しい表情でホークにと問いかけている様がみてとれる。
「え、ええ。詳しくはパルマコスタにいるであろう、脱出した人々からきかなければ我らもしりませんが」
その台詞をきき、しばし考え込みはじめるリフィルの姿。
「よくわかんねぇ。どういう意味なんだ?」
ロイドは意味がわからないらしく、ただただ首をかしげるのみ。
「…あ、私、なら、封印解放してきますね」
そんな彼らの会話をききつつも、ふと自分がすることを今思いだした、
とばかりに、その先にとある階段のほうに視線をむけていっているコレット。
「コレット、でも……」
「私なら大丈夫。それに、今、しいな達がいうには、もう封印の獣はいないんでしょ?
  なら、私がちゃんとお勤めをはたさなきゃ」
ロイドからしてみれば、またコレットが苦しむかもしれない封印の解放。
そんなものはさせたくない。
が、それをしなければ世界は救われない。
何とももどかしい思いを抱くしかできない。
「…そうね。考えるのはいつでもできるわ。コレット。お願いできるかしら」
今考えていても仕方がない。
まず、すべきは精霊の解放。
さきほどきいた、精霊の守護者のクラトスの名、そして裏切る、という言葉。
クラトスは人違い、といっていたがそうではない、とリフィルの勘がつげている。
そう、クラトスが傍にいたら大切な教え子に危険が及ぶのではないか。
そんな本能的な勘がより明確になった、といってもよい。
「はい。先生。それが、私の役目、ですから」
「……くそ」
今度はコレットの身に何がおこるんだ?
リフィルの声に素直にうなづき、階段のほうにむかってゆくコレット。
そんなコレットの後ろ姿をみおくりつつも、誰にともなく悪態をつき、
そのまま近くの壁にとがんっと手をたたきつけているロイド。
もしも、本当にコレットをかつてのような生体兵器するつもり、ならば。次なる変化は目にみえている。
それは、声の消失。
自我を狂わせるための、最終的な天使という名をかりた生体兵器完成の一歩手前。
クラトスはそれを知っているであろうに。
テセアラは率先してかつてかの生体兵器を開発していたのだから。
そして、クラトスもまた今の肉体年齢のときにかの方法…
そのときにはすでにアイオニトスの服用、という手段をもヒトは用いていたが。
本当にどこまで微精霊達を人は貶めればきがすむのであろうか、とつくづくおもったあの当時。
何しろ、彼らに使用されているアイオニトスの元になったもの、
それは、すなわち、ヒトが結晶化…すなわち、微精霊の器の卵とかした後、
そこから無理やりに微精霊達を殺す過程にて石を砕き、それらを粉末にし、
人々にのませていたかのヒトビト。
天地戦争より地上では二千年も経過していない、というのに、ヒトは愚かでしかない。
とつくづくおもったあの当時。
だからこそ、あえて最低限のマナのみで干渉しないようにしていた、のだが。
精霊達がミトスに共感し、その力を貸し与え始めるそのときまで。
ふと目をとじかつてのことを思い出す。
記憶の上書きによって鮮明になっているのもよし悪しだな、ふとそんなことをエミルは思うが。
救いはセンチュリオン達にその記憶の上書きをしていない、ということか。
センチュリオン達にはそんな思いはさせたくない。
あのときより心をセンチュリオン達が痛めていたのをしっているがゆえ。
アクアなども、やはりあのとき、ヒトを滅ぼしておけば、とあのときいっていたほど。
たしかにあのときの命令を撤回しなければ、あのようなことにはならなかったであろう。
それはわかる。
だからこそ、今はあのようなことにはさせない。
させたくはない。


「大地を護り育む女神マーテルよ。御身の力をここに!」
コレットが祈りをささげ、その内部の力を解放する。
ふわり、とコレットの背に淡い桃色の薄い翼が出現しそのばにゆっくりと上昇する。
それとともに、祭壇の上にと漂っていた淡い光が四方へとはじけ消える。
上空からあらわれる淡き白い光。
毎回思うが、なぜにわざわざ魔科学での転送を?
そのだひに周囲のマナがあきらかに乱されているのがエミルからしてみれば不快極まりない。
思わずため息をつきつつも、すばやく乱れたマナを修正する。
本当に、ヒトとはろくなことをしない生き物でもあるな。
そうつくづくおもわずにはいられない。
あのときもそう。
天地戦争、とヒトが呼び称したあのときですら。
精霊石を使用し、ヒトは今とはことなる兵器を生み出した。
それこそ、高密度に精霊石達を凝縮し…しかもそれに宿りし微精霊達を殺して。
反する力を高密度にぶつけることにより、微精霊達をころし、
そこに微精霊達の残滓がのこりし石をうみだし、
あげくはそこにヒトの記憶や人格を投射し意思ある石を生み出した。
あのときは、その投射された人格と当事者が互いの人格が引き合い、
崩壊する可能性、そしてまた、適合者以外が使用できない、
しかもつくるためのリスクも高く時間がかかる、
という理由で一般的に普及しなかったにしろ。
その延長上にできたのが、テセアラが開発せし、エクスフィギュアとよばれしもの。
歪められし精霊石達。
そしてこの儀式の真偽すら疑っているであろうに、止めようとしない彼らにも。
一番の問題はコレット、であろう。
あれほどきちんと内部において、微精霊達が忠告している、というのに。
それが自分の役目だから、と
かたくなにそれが間違っている、ということを認めようとしていない。
光の球らしきものがあらわれ、といってもこれも全ては魔科学による、幻影を扱った映像、でしかないのだが。
いかにもその光りの中からあらわれました、とばかりに光りがはじけ、その中から一つの影が出現する。
ふわふわとうかびし、マーテル教の祭司服だという服をまといしその男性。
背の白き翼は天使化においてきちんとマナの調整ができなかった証。
そもそもヒトがマナをきちんと扱おう、とおもうのが間違っている。
簡単にできる、となぜ人はおもいこんでしまうのだろうか。
その力を自分達で制御できるそうおもいこんで。
そして、手をだし、制御不能となってもなお、その力を手放そうとしない。
「でたよ。うさんくさいやつが」
その姿をみてしいながぽつり、というが。
「うん。その言葉には僕も賛成」
というか、胡散臭い、というよりはおもいっきり嘘でぬりかためてるし、あれ。
しいなの台詞にしいなの横にてこくり、とうなづくエミル。
ちらり、とリフィルがそんなエミルとしいなをみてくるが、
どうやら何かいおうとしたようだが、その言葉はあえてのみこんだ、らしい。
やがて、目をつむっていたであろう、目の前の男性…
たしか、レミエルとかいったか。
そのレミエルがゆっくりと目をひらき、そして。
「――長きみちのりだった。よくここまで旅をつづけたな。神子コレットよ!」
しばしの沈黙ののち、目の前にコレットの姿を捕らえた、のであろう。
淡々とあいかわらず感情のこもらない声にてそんなことをいってくる。
というか、普通の転送はできないのだろうか。
こいつらは。
つくづくあきれ果ててしまう。
マナを分解し、再構築…マナを消費しなくてもすむ方法がある、というのに。
それこそ、空間同士をつなげてしまえばそこにて消費するマナは極力ないといってよい。
「…はい。レミエル様」
「我らからそなたに祝福をあたえよう」
「……はい」
レミエルの言葉に対し、コレットは感情のこちらもまたこもらない声にて返事をかえす。
やっぱり違う。
以前に感じた違和感。
なら、私の本当のお父様は?
そんな思いがコレットの中にふとよぎる。
養父フランクが、本当の父親ならいいのに、ずっと幼心におもっていたこと。
フランクもまた、お前が本当の娘ならば、どんなに…そういっていたことを、
よもや彼もコレットが聞いていたとは思ってもいないであろう。
エミルは目の前のレミエルがハーフエルフだ、そういっていた。
ハーフエルフの子なれば、必ずそこに何らかの証明がでるはず。
リフィル達いわく、マナの流れをエルフの血をひくものはわかるのだ、そういっていた。
しかし、コレットにはそれがわからない。
だからこそ、わからない。
それに、とおもう。
もし、エミルが以前いっていたことが自分におこったのだとすれば、それは…
育ててくれた両親が実の親以外の何ものでもない、ということ。
でも、祖母も、義父もまったくそんなことはいわなかった。
おまえは天使の子なのだよ、そういいきかされてそだった、のだから。
「うかない顔だな。また一歩天使に近づいたというのに」
「いえ。とてもうれしいです」
本当はうれしくない。
けど、神子としてそうこたえる以外コレットにすべはない。
「ふむ?まあよい。しかし、神子よ。そなたの旅もようやく終わりをむかえようとしている。
  喜ぶがいい。今こそ救いの塔への道はひらかれる!
  救いの塔をめざせ!そこで再生の祈りをささげるのだ!
  その時、神子は天への階(きざはし)に足をのせるであろう」
「…救いの塔へ!?」
レミエルの言葉をきき、驚いたようにロイドが顔をはっとあげて、レミエルの顔とコレットの後ろ姿を見比べる。
「いよいよ世界再生なんだね」
ジーニアスもどことなく興奮気味にそんなことをいっているが。
「…本当に再生されちまうのか……」
しいなはしいなで表情を曇らせ、それでいて少し考え込んでいるのがみてとれる。
「世界再生…か。でも、あいつなんか胡散臭い」
マルタが素直な感想をぽそり、とつぶやけば、
「マルタ様!?」
そんなマルタをあせったように止めようとしているホークの姿もみてとれる。
「レミエル様のお心のままに」
「最後の封印でまっている。我が娘、コレットよ。そこでそなたは我らと同じ天使となるのだ」
それだけいいつつ、言いたいことはおわった、とばかりに、
再び現れたときと同じく、レミエルの姿はその場からかききえる。
レミエルの姿が消えてゆくのを確認したかのように、
「ようやく終わりがみえたな。救いの塔へむかおう」
たんたんとクラトスがくるり、と向きをかえてそんなことをいってくるが。
「……本当にいいの?コレット」
リフィルからしてみれば、疑念が大きくなっている以上、コレットに再生をさせたくない、というのもある。
どうもこの旅には裏がある。
再生の旅、再生の儀式、それ自体に。
それはもう、直感というよりは、確信といってよい。
その裏が何か、はわからない。
が、あの封印の獣ハスタールは、女神マーテルなどというものはいない。
たしかにそういいきっていた。
それはすなわち、根柢からくつがえる世界…否、信じていたはずの歴史の否定。
「……はい。大丈夫です」
「…くそっ」
コレットがリフィルの言葉にうなづいたのをみて、ロイドが手を握り締める。
これまでの旅で幾度もヒントをそれとなくあたえている、というのに。
いまだにこの人間達は真実にたどり着いてすらいないらしい。
「とりあえず、外に……」
リフィルがそういいかけるが、
「なあ、ちょっといいかい?」
今までだまっていたしいなが口をひらく。
「?どうしたの?しいな?」
階段にもどりかけていたマルタが首をかしげつつしいなにといかける。
その言葉に全員が足をとめ、クラトスもまた、
階段を降りかけていたその足をとめているのがうかがえる。
「今後のこともあるしね。どうしてあたしが神子の命を狙っていたのか。話しておきたいんだよ」
しいなのその言葉に。
「ええ!?しいなって、コレットの命ねらってたの!?」
マルタがおもいっきり大きな声をあげ、その場から飛びのく勢いで目をまるくして言い放つ。
「…あ。そういや、マルタには話してなかったっけ?」
「だね」
今さらながら、それをマルタに教えていなかったことにきづき、
ロイドとジーニアスが顔をみあわせてそんなことをいっているが。
マルタからしてみれば、それは青天の霹靂、といってもいいほどに驚愕する事実。
ホークなどは目をみひらき、そしてその手を腰にさしている武器にそえていたりする。
いざ、というときにはすぐに臨戦態勢をとれるように、との思いかららしいが。
「どうして今ここで、と問いかけたい所だけども。
  ききましょう。この世界には存在しないあなたの国のことを」
リフィルが少し考えたのち、しかしこのタイミングでいってくる。
それには必ず何かしいなにも意味があるのだろう。
そう判断し、あらためてしいなにと問いかける。
「しってたのかい!?あんたは!?」
何となく、このエミルって子はわかってそうな気がしなくもないんだけど。
そんなことをおもいつつ、リフィルの声に驚きの声をだすしいなであるが。
エミルがすこし意識をむけてみれば、こちらの監視はどうやらすでになされていないらしい。
それでも念のために、ここでの会話、やりとりをあちらに気取られないように、
こちらを監視しているであろう装置に少しばかり干渉を加えておく。
こうすることにより、彼らはすでに一行はこの場を立ち去った。
そう認識するであろう。
直接にこちらにでむき、確認してこない限りは。
「いいえ。でも、あなたが以前いったのよ?シルヴァラントは救われるって。
  それなら、あなたはシルヴァラントの人間ではないってことでしょう?」
あのときだけでもなく、しいなはよく、こっち、だの向こう、だの。
そういう言い回しをしていた。
それで気づかないほうがどうかしている。
まあそれでもロイドもジーニアスもまったくもって気付いていなかったようではあるが。
ちらり、とクラトスをみてみれば、クラトスは手を握り締めているもよう。
止めるかとめざるか、判断にまよっているらしい。
そもそも、今この場にてしいなの言葉をさえぎるのはあきらかに不自然。
かといって、おそらくしいなのこの台詞は、クラトスにとって…
否、ミトスにとって不都合極まりないであろうことは容易に予測がつく。
「ああ。…あんたは本当にシルヴァラントにはもったいない頭脳をもってるんだね」
しいながそういうが、そもそもリフィルがうまれしは、ヘイムダールとよばれしエルフの里。
しいな達がいうところのヒトの世界でいうなれば、テセアラ産まれ。
だからこそ、まあ王立研究院とかいうところの輩に目をつけられていたっぽいのだが。
それは以前の旅の中で、ふとしたときに話題となり、ジーニアスからみせてもらったリフィル達の母の日記。
それからエミルはそのことをしっている。
リフィルの言葉に肩をすくめ、
「その通りさ。あたしの国はここにはない。ここ、シルヴァラントには」
そこまでいい、一息つき、そして
「あたしの国はテセアラ。そう呼ばれている」
しいなの言葉に。
「テセアラ?テセアラって月のこと?」
ジーニアスが首をかしげ。
「たしか、世界の童話シリーズの中で。
  【我らはこの大地を離れよう。この世界に争いをもたらした償いをするために】
  とかいって勇者ミトスが女神マーテル様の力でたてた救いの塔をつたって、
  天にかがやく月に移住した、とかいうあのテセアラ?」
マルタが思うところがあるらしく、こちらもまた首をかしげてといかける。
「うわ~。マルタ、詳しいねぇ」
「世界の童話シリーズ。私好きなんだ。よくママに子供のころよんでもらったんだ。
  幾度も幾度もきいたからか、なぜか暗記しちゃってるんだよね。
  世界の童話シリーズ、天使編。第四巻全部」
マルタのその言い回しにコレットが感心したようにいえば、マルタはマルタで首をすくめそんなことをいってくる。
そんなものがあるのか。
世界の童話シリーズ?ってなんだ?
エミルはそうおもうが、まあ後からそれはきけばいいことだと今は聞かないでおく。
「まさか。あたしの国はたしかに地上にあるよ。というか、その世界の童話シリーズだっけ?
  あたしらのところでは、シルヴァラントの王が民とともに月に移住した。
  そうなってるけど……ついでに黄泉の国ともいわれてるけどさ」
そこまでいい、
「…二つの世界に同じような童話?…なんか本当にできすぎてるだろ」
ぶつぶつと小さく何やらつぶやいているのがみてとれるが。
「「「「?」」」」
そのしいなの言葉の意味は、コレット、ジーニアス、ロイド、マルタにはわからない。
ゆえに首をかしげる四人の姿。
もののみごとに同時に首をちょこん、とかしげているのが
エミルからしてみれば何ともいえない。
「まあ、童話の真偽はともかくとして。あたしにだって詳しいことはわからないんだ。
  でも、このシルヴァラントには光と影のように寄り添いあうもう一つの世界がある。
  それが、テセアラ。つまりあたしの世界さ」
今、童話の内容を考えていてもしかたがない。
今は真実のこの世界の仕組みを彼らに理解してもらうことが先決。
そんなしいなの言い回しに、
「よりそいあう、ふたつの…世界?」
リフィルがすこし思案しつつしいなにと問いかける。
リフィルの記憶にある、テセアラという言葉とシルヴァラントという言葉。
ジーニアスを育ててゆく最中で月がテセアラだ、としったときのあの違和感。
たしか、月の名はシルヴァラントであったはず、なのに。
どこかで、リフィルの中で、かちり、と何かがかみあうような、そんな感覚。
「よりそいあう、二つの世界?」
そういわれてもジーニアスには意味がわからない。
そもそも世界が二つあるなど何の冗談、という思いがある。
ゆえに首をかしげ、しいなの言葉に疑問を投げかけている様子がありありとわかる。
「学者達がいうには、二つの世界は常に隣り合って存在しているんだと。
  空間がずれてるとか何とかいってるけどね。そのためにただ視えないだけだって」
そこまでいい、首を横にふり、
「とにかく、二つの世界はみることもふれることもできないけれど、
  たしかに、すぐ隣に存在して干渉しあっているってわけさ」
そこまでしいながいうと、ロイドもようやく何となく意味がわかってきたのか、
「?干渉しあうってどういうことだ?」
干渉する、というのに何となく違和感を感じ、といかける。
「マナを搾取しあっている」
搾取。
その言葉に思わずロイド、そしてリフィルも思わず声を詰まらせる。
マナを搾取し使用している、といわれているのはディザイアン。
だが、今、しいながいったことは、彼らが信じていたことを覆すもの。
そんな息をのんだリフィル、ジーニアスの反応は想定内とばかり、
「片方の世界が衰退するとき、その世界に存在するマナはすべてもう片方の世界へ流れ込む。
  その結果、常に片方の世界は繁栄し、片方の世界は衰退する。まるで砂時計みたいにね」
目をつむり、淡々と真実をつむぎだすしいなの姿がみてとれる。
本来はその仕組みは地上時間において一年ごとの循環であったはず、なのに。
それは、彗星ネオ・デリス・カーラーンが接近するまでの簡易的な処置として。
今ある全ての地上の命を生きながらえさせるためにミトスが提案し、
オリジンも賛成したがゆえに、ラタトスクも力をかすことにしたかつての盟約。
ミトス達とかわしたかつての約束は、たがえられ、
地上ではあれから四千年という年月が経過している今現在。
「まってよ。それじゃあ、今のシルヴァラントは……」
ごくり、と息をのみこみつつも、乾いた声を上げるジーニアス。
どうやら今のしいなの説明に真実にきづいた、らしい。
「そう。あんたたちが今おもってるとおりさ。シルヴァラントのマナはテセアラに注がれている。
  だからシルヴァラントは衰退する。マナがなくては作物はそだたないし、魔法もつかえなくなっていく。
  女神マーテルとともに世界を守護する精霊もマナがないからシルヴァラントでは暮らせない。
  結果、世界はますます滅亡への坂道をころがりおちる」
マルタが息をのみ、口元に手をあてているのがみてとれる。
ホーク達などは、唖然とし、目を見開いており、
嘘か本当かつかみかねない、というような表情をうかべていたりする。
彼らにとっては突拍子もない内容ゆえに、
世界が二つある、といわれても信じることができないらしい。
「じゃあ、神子による世界再生はマナの流れを逆転させる作業なの?」
そうといかけるジーニアスの声はかすれ、震えている。
これまで信じていたこと、それがしいなの言葉によって根柢から覆されている。
マーテル教の教えとはまったく異なるその真実。
「そういうことだね。神子が封印を解放すると、マナの流れが逆転して、
  封印を司る精霊が目をさます。あたしはこの世界再生を阻止するために送られてきた。
  ……こえられないはずの空間の亀裂をつきぬけて、テセアラを護るために」
レネゲード、となのりしものたちの力をかりて。
王家の決定のもと、しいなはこの地に派遣された。
二つの世界で暗躍しているものがいると認識し、
そのあたりはセンチュリオン達に命じているのでエミルはそれを知っている。
そしてそれを率いているのがあのユアン・カーフェイであることも。
たしかマーテルの夫のはずの彼がなぜ?という思いはぬぐいきれないが。
そもそも、かつてのときですら、世界樹ユグドラシルの守り人となりて、結局は人の手により殺されたユアン。
まあ、彼が動くたびに面倒なことにばかりなっていたのでエミルからしてみれば何ともいえないが。
そもそもたしか、アステル達に自分のことを示唆したのも確か彼であったはず。
ゆえに何ともいえない思いがあるのもまた事実。
「それはシルヴァラントを見殺しにするってことか?!」
いくらロイドでも、世界再生を阻止する、までいわれ、完全に理解できないまでも理解する。
それはすなわち、自分達の世界、シルヴァラントを見殺しにしている、ということに。
だからこそ強い口調でしいなにたいし、抗議の声をあげるものの、
「そういうけど、あんたたちだって再生をおこなうことによって
  たしかに存在しているテセアラを滅亡させようとしてるんだ。やってることは同じだよ!」
きっと仇をみるような目でみつめられ、一瞬ひるむが、そんな視線にはしいなは慣れている。
慣れたくて慣れたわけではないが、
もっとあからさまの視線をしいなは身に受けて育っている。
だからこそひるまない。
それにしいなのいっていることも一理ある。
特に豊かさになれまくまっているテセアラ側では少しでもマナが少なくなれば、
まちがいなく絶えることすらできないであろう。
人はなぜか豊かさになれればその豊かさを手放そうとしない。
たとえそれが自分達の首を…自分達がいきるための大地を殺すことになろうとも。
かつてのデリス・カーラーンにおいてもそうだった。
きちんと共存できている世界もあるというのに、ある一定の時間が経過すると、
なぜヒトはいつも欲にかられた道を突き進んでいくのだろうか。
それは毎回、毎回、様々な世界を生み出せしたびにおもうこと。
しいなの台詞をエミルは少し離れた場所にて目をつむり静かにきいている。
「信じられないわ」
「でも、マーテル教の教えでは、テセアラの民は月に移住したって……」
マルタも信じられないらしく、そんなことをつぶやいている。
よくもまあ、ここまで人心の心をミトスは歪めたものである。
たしかに宗教、というものは人の心を操るのにはうってつけである、
という事実は否めないが。
「あたしが証人だ。あたしはこの世界では失われた召喚の技術をもっている」
「…じゃあ、しいなは。テセアラの人達を助けるために。
  だから?でも、私、テセアラの人達を傷つけるつもりは……」
自分がしようとしていることで、誰かが犠牲になる。
犠牲になるのは自分一人だけ、とおもっていたコレットにとって、それは衝撃の告白。
「…そんな目でみないでくれ。コレット。あんたがそんなつもりじゃないことはわかってるよ」
なし崩し的とはいえ彼らとともに旅をしていて、
このコレットが底抜けにお人よしであることは、しいなもわかっている。
コレットは誰かを犠牲にするくらいならば、自らの身を迷うことなく差し出すであろう。
「…あたしだって、あんたたちといて、どうしていいのかわからなくなってたさ。
  テセアラを護るためにあんたを暗殺しにきたけど。けど、この世界は貧しくて、皆苦しんでいてさ。
  でも、あたしが世界再生を許してしまったらテセアラがここと同じようになってしまう」
ディザイアンの伝承は、テセアラにも残っている。
だからこそ、毎年、かかさず再生の神子の儀式は執り行われている。
諸悪の根源、といわれているディザイアンが復活しないために。
形式にのっとって。
「けど、しいなは。今は僕たちに協力してくれてるよね?」
今にしてもそう。
マナの守護塔のときにはしいなは邪魔してきそうになったが、
それでも、あのディザイアン達の一件のあと、しいなは協力してきていた。
ピエトロを治すまで、と当人はいっていたが、結局ここまでしいなはともにいる。
だからこそのジーニアスの問いかけ。
しいなの言葉が嘘だ、といいたいが、ここで嘘をつく必要もなければ、
また、こんな状況で彼女が嘘をいう、ともジーニアスは思えない。
それによくよく考えれば、たしかにしいなはそんな言動をよくしていた。
エレメンタなんとかというわけのわからない言葉をいったり、あっちだのこっちだの。
言葉のはしはしにそれを思わせるヒントはこれまでにも多々とあった。
ゆえに、しいなが嘘をついていない、とジーニアスは直感的に悟ってしまう。
否、悟らざるをえない、というべきか。
「だからって、テセアラを身捨てることなんてできはしないよ。
  あたしにもわからなかった。他に道はないのかって。
  シルヴァラントもテセアラも、そしてコレットも幸せになれる道はないのかって」
コレットが感覚を失っている、ときづいたあのときから、その思いは強くなっている。
誰かの犠牲の上になりたつまやかしの幸せ、平和など…それは平和、といえるのだろうか。
「そんなのがあれば俺だって知りたいよ!」
ロイドもまた、その思いに関してはしいなと同じ思いを抱いている。
とくに、コレットの状態をしっていればこそなおさらに。
しいなと先生はコレットの状態をしっているはずだけども、
マルタやジーニアスはそのことに気付いているのかいないのか。
それでも、ロイドはコレットにつらいおもいをさせたくはない。
だからこそおもわず反射的に叫び返す。
「そんな都合のいいものは現実にはないのではなくて?」
リフィルのいい分はある意味では現実的。
そう、真実にたどりつけていない、この仕組みに気づいていない限り、
間違いなくヒトはそのように選択する、であろう。
一つの犠牲で百の命がたすかるのならば、そのために他者を犠牲にしてでも、
自分達の周囲が助かるのならば、と。
そんなしいなの言い回しに、
「……今、我々にできる最善のことは、今危機に瀕しているシルヴァラントを救うことだ」
これまでだまっていたクラトスが口をはさんでくる。
「たとえば。世界を再生しないでディザイアンだけ倒したらどうかな?」
ロイドがふと思いついたようにいってくるが、
「たしかに牧場はは階してきた。しかし、ディザシアン全員を倒したわけではない。
  そして全員を滅ぼせるわけでもない。マナもやがて涸渇する」
ユアンのいうとおりならば、それはまちがいなく。
数値では年々とマナの供給値が減っていることをクラトスは知っている。
ユアンが危惧していたとおりになっているのかもしれない。
マーテルが目覚めれば、否、このままではマーテルのエクスフィアに、
大いなる実りのマナが喰い尽くされてしまい、大いなる実りは消滅してしまう、と。
そこにいくらデリス・カーラーンのマナを注ぎ込んでいたとしても、である。
「…なあ、よくわかんないんだけど。マナってそんなに大事なものなのか?」
ロイドが戸惑いながらも顔をふせいってくる。
話しのたびにでてくるマナ。
この再生の旅もマナを復活させる旅、という。
なぜそこまでしてマナを、というのかがロイドにはわからない。
「魔法使いや学者以外にはあくりきにしたこともないかもね。
  命にとってマナは水よりも大切なものなんだよ。
  それがなければ大地は死ぬんだ。全てを構成する源がマナなんだよ。僕はそう学んだ」
あのとき、この地は瘴気にみたされ、今にもこの惑星のそもものの命が尽きかけていた。
その声をきき、手助けしたのはきっかけにすぎなかったが。
彗星での移動の最中、彼らがこの惑星に移住をきめる、とはおもわなかったあの当時。
たしかに自分が手を加えてはいた。
彼らが住まうに問題ないほどにはこの惑星は回復していた。
そこにすまいし、瘴気に適応してしまっていた魔族、とよばれし、
その器を脱ぎ捨てて、精神生命体となりはてた彼らの問題以外には。
少しづつマナを満ちさせ、そしてこの惑星に大樹を芽吹かせることにより、
瘴気に満ちた海でしかなかった大地は形をえ、
そして時をえて自然あふれる世界となった。
それこそ、この惑星が本来、かつてもっていた姿、そのままに。
もっとも、変質してしまっていた魔族とよばれしものたちは、
それを認めることができなかったようではあるが。
この大地をあのような瘴気の塊という惑星にしてしまったのも彼らの先祖。
すなわち…元、人間達。
それでも生きることをあきらめず、彼らはその器を脱ぎ捨てることを選択した。
その力の源を、瘴気に属するものとすることによって。
それは、進化、とうべきなのかどうか、それは人それぞれ、であろう。
ラタトスクにとってはそれもひとつの進化でしかない、とはおもうが、
人によれば、それは退化、もしくは滅びへのいざない、と捉えるであろう。
ジーニアスの言葉にこの大地に降り立つ直後、もしくはその前後のことを思い出す。
なのに、あのときの思いもわすれ、今のエルフ達は当時の誓いすらも破っている。
そして、かつてのあの世界においては。
すべての命における、大地における命をマナの構造から切り離し、マナなくしても生活できるように、
その構成を元素…すなわち、原子、分子の世界。
マクスウェルの直属の管轄にした、というのに。
それでもヒトは同じ過ちを繰り返した。
扉の封印をマナにて構成していたことをきちんと彼らは知っていたはずなのに。
いつのころからかそれすらもわすれ。
再び、自分達の欲のままに。
そして…嘆くばかりで何もしようとしなかったマーテル。
あれが初めてではなかったというのに。
マーテルも理解していたはずである。
かのラグナログ、とよばれたあの戦いにおいて。
ユアンやロイド達が命をおとすきっかけとなった、
ヒトが愚かにも魔界とつうじ、世界を魔界の瘴気の海となしかけたあのときに。
それでも、彼女は変わろうとしなかった。
世界を護る、というその心に決定心が欠けていたといってよい。
だから、任すことはできない。
いくら彼女がそのとき、突発的にそのようなことを望んだとしても。
世界そのものを任せるわけにはいかない。
彼女には、世界を担っていく、という覚悟がない。
あのときも最後まで覚悟は芽生えなかった。
「そういうこと、ね。常々私も疑問におもっていたわ。
  精霊を解放しただけでマナが安定するものか。再生の旅とは何か、と
  ならば精霊が封印されている間、マナはどこにいっているのか。
  そんな疑問はあなたのいうとおりならば、つじつまはあうわね」
そして、ファイドラの口から語られた、世界再生の真実。
神子の命がマナとなり、世界を救う。
その言葉。
それこそまるで勇者ミトスの英雄物語のごとくに。
でも、不思議におもっていたのは事実。
たかが一人の命で世界を覆うほどのマナが満たされるのか、と。
「……お伽噺のようにマナを生み出す大樹はもうこの世のどこにもない。
  私たちは限られたマナを切り崩していきているのよ。ロイド。
  かつての魔科学がどうして失われたとおもう?」
そんなリフィルの問いかけに、
「たしか、パパがいってたけど、マナがなくなってきてるからだって……」
マルタが少し考え込みつつも、リフィルの問いに答えをかえす。
「そう。魔科学はマナを大量に消費するの。
  マナを無限に生み出す樹。大樹カーラーンが枯れたのもそのせいだ、といわれているわ。
  このままではシルヴァラントもいずれ魔科学と同様、マナを失って消滅するわ。
  もしもあなたの国…テセアラだったかしら?
  魔科学をつかっているのなら、あなたの国もいずれは…ね」
「それは……」
無意味にたしかに使用しまくっている。
最近では魔科学にかわる力としてエクスフィアが主流になってきているが。
だからこそしいなもおもわず言葉につまる。
そのエクスフィアもまた人の命を糧として生み出されているものだった。
ただの便利な道具、とおもっていたかつての自分を殴りたいほどに、
その事実はしいになとっても衝撃的ではあった。
つまり、テセアラの民はしらずしらずにマナだけでなく、
シルヴァラント人の命すらふみにじり、ときにはうちすてて生活している、ということに他ならないのだから。
「わ、私。レミエル様にお願いしてみる。
  しいなが嘘をついているようにはみえないもん。二つの世界を救う方法はないかって」
「はん。あったら四千年もこんな状態になってないだろうよ。
  古代大戦、とよばれた時代からいくら時がたってるとおもうんだい?」
「それは……」
しいなの言葉にコレットも言葉をつまらせる。
「それに、あの胡散臭いやつがいうことを素直にきくとおもうかい?
  あたしは逆にあんたを利用しようとしているような気がしてならないよ」
そんなしいなのいい分に、
「じゃあ、しいなはどうするっていうのさ!」
「まさか、コレットを!?」
ロイドがいいつつ、コレットをかばうようにしてコレットの前に一歩でるが、
「あんた。さっきいったよね?そんな方法があるなら自分も知りたいって」
「いったけど、それが何だというんだよ!」
「リフィル。あんたは?」
「そうそう都合のいい方法がある、ともおもえないけども……
  まって、まさか……あのとき、ウンディーネがいっていたあの台詞。
  あの一年ごとの循環…それがもし…いえ、そんなまさか……」
ここにいたり、リフィルもその可能性にようやく思い当たった、らしい。
「さすがリフィルだ。あたしもその可能性を考えた。だから、あんたたちにはもう少しつきあってもらうよ!
  どちらの世界も…互いの世界を犠牲にしない世界にするために!」
「どういう……」
「しいな?」
しいなが力つよくいいはなつが、その意味はロイドにもジーニアスにもわからない。
「え?」
戸惑いの表情を浮かべているマルタ。
だが、それよりも前に、しいなが一歩、前にでる。
それこそ目の前にありし精霊の祭壇、とよばれしその前に。
そして。
「我が名はしいな!風の精霊、シルフとの契約を望むもの!」
凜、としたしいなの声が周囲にと響き渡る。
直後。
「これは…マナが!?」
ジーニアスが驚愕したような声をあげ、祭壇の上に緑の光りがいくつも出現し、
それはやがて形をなすかのごとくにまばゆき光を発っしてゆく。


光がはじけたその場所にみえるは、三つの影。
そこには、羽のはえた小さな人間のようなものがふわふわとういているのがみてとれる。
始めは一人であったその姿は、
まるで分離するかのごとくに左右に分かれ、合計三人の翼をもった人の姿を形とる。
「あなたは召喚士ですね?私たち三姉妹はすでにミトスと契約をかわしています」
目の前にはふわふわとうかびし羽を生やした少女達の姿がみっつ。
中央にいる少女は、緑の髪に鳥の翼らしき四枚の翼。
その服は緑の上と下一体式のスカート、いわばワンピースのようなものをきており、その手足手袋のブーツは青。
その腰には剣らしきものを携えているのがみてとれる。
そしてその右側にいる少女は、薄紫色の髪をし、その翼も
一般的によく知られている蝶のような薄紫色の羽をもちし少女。
手袋とブーツの色もこれまた紫で、頭につけた青いリボンで長い髪をまとめているもよう。
こちらはその背に弓らしきものを背負っているのがみてとれる。
そして、残りの一人。
橙色のベレー帽をかぶりし、六枚の薄い羽をもちし、
色彩的には淡い桃色から色が羽の先において濃くなっている。
その髪の色もまた桃色で、羽と同じ色彩をもっているのがうかがえる。
これこそが、シルフ三姉妹、といわれし彼ら風の精霊シルフ達の物質形状。
時とともにその姿の認識はヒトビトの間に誤って認識されているようではあるにしろ。

「嘘…まさか、あれが風の精霊シルフ?でも壁画とまったく違う……どうみても蝶なんだけど……」
マルタがその姿をみてかしみじみと
つぶやくようにそんなことをいっているのが聞き取れるが。
まあたしかに、彼ら三姉妹の背には蝶の羽をかたどったものがあるにしろ。
なぜか彼女達はラタトスクの分身体が蝶だから、という理由でこの姿を選択している。
彼女達いわく、自分達はラタトスク様の子どもでもあるから!という、
ラタトスクからしてみれば、よくわからない理由にて。
中央にいる鳥の翼にも近い、それでも蝶の羽にもみえなくもない、
薄黄色の二対の翼をもつ青い髪に緑の服、そして手袋と長きブーツは青。
中央にただよいしシルフらしきそれから言葉が紡がれる。
その言葉をきき、マルタは絶句せざるをえない。
それはホーク達にしても然り。
よもや伝説、といわれている精霊を目の当たりにするなど、いったい誰が想像していたであろう。
マルタはウンディーネに続き二度目、とはいえやはり圧倒的な感じをうけてしまう。
「……セフィー」
おそらく長女、として代表していったのであろう。
セフィーの説明に思わずぽつり、とその名をつぶやくエミル。
そんなちいさく呟いたエミルの声に気付いたのはコレットとクラトスのみ。
クラトスの眉がびくり、と反応する。
精霊の名を知っている、など普通ではありえないがゆえのクラトスの反応。
「…精霊研究所でいわれてたとおり、本当に三姉妹だよ……と、ともかく…
  我はしいな!シルフがミトスとの契約を破棄し我と契約することを望む!」
どうやらしいなはシルフ達が三姉妹であることをあらかじめ聞かされていたらしい。
三人いる、というのにあまりどうしている様子がないことからも、
知っていたことが事実だとうかがわせる。
だとすれば、かの地にシルフ達、もしくは精霊達の容姿の手がかりになる何か、
がのこっている、ということなのだろう。
「へぇ。なるほどねぇ。ようやく次の契約者ってわけか」
次女にあたる薄紫の神に薄紫の蝶の羽をもちしシルフ三姉妹のうちの次女。
ユーティスの言葉につづき、
「よくいきのびてたよね?ミトスのやつ、あれから自分の契約を破棄されないようにって。
  契約の血筋をもつものを片っ端から殺してたのに」
しみじみと何やらそんなことをいってくるのは、
桃色の髪をもちし、三人の中では唯一ベレー帽をかぶりし、
体全体を橙色でほぼ統一している三姉妹のうちの末っ子、フィアレス。
「…何?」
そんなフィアレスの台詞にぴくり、とおもわずエミルは反応してしまう。
「……ウス ウティ ティディオン?」
――……それは、本当か?
それは問いかけ。
まさか、とはおもっていたが、しかしそこまで堕ちてはいないだろう。
そう信じたかった、というのもある。
あるが、しかし、彼女達の口から語られたのは、エミルにとっては信じたくないもの。
そこまでミトスは堕ちてしまっている、という現実を知らしめらされたといってもよい。
「ウティ イブティエウストゥス エムブ ウス ティアン?ルウン?プイススウブルヤ?」
――え?うそ?…もしかして?
「イア~。アン ウス エ クウムグ ティディオルヤ!?」
――うわ~。本当に王様!?」
「「「……スアン ウス ブンエオティヤ」」」
――…美人ですね
しみじみとおもわず目の前の姿をみて三人が声をそろえて言い放つ。
地上にでている、というのはたしかにセンチュリオン・ウェントスの報告で知ってはいたが。
しかし現実を目の当たりにすれば話しは別。
ふわっふわの長い金髪に、その横をみつあみにして、かるくたばねられ、
長い髪をのばしたのまま、左右の横髪をみつあみで整えているその姿は、
ぱっとみて、どこからどうみても美人その一言につきる。
それが男性体であろうが女性体であろうが関係なしに。
まあなぜその顔達なのか、というのはシルフ達にもわからないにしろ。
そもそも、王がすることを自分達がわかるはずもない。
それゆえにそんなものなのだ、と割り切っていたりする。
何しろ現実に目の前にこうして、初めて王、
……精霊ラタトスクがなぜか人の姿を模して、自分達の目の前にいる、のだから。
原初たる精霊原語をいわれなければ、そしてその傍にセンチュリオン達の気配がなければ、
まちがいなく王に気づかなかった、そう確信をもっていえるほどに、王の気配はヒトのそれとかわりがない。
「…あのな」
おもわず、がくり、と肩をおとすエミルは間違っていないであろう。
なぜ異口同音でセフィー、ユーティス、フィアレスが同じことをいってくるのだろう。
ゆえにがくり、とエミルとしてはうなだれてしまう。
しかも影の中から、
『それには我らも同意します』
などとセンチュリオン達の同意の声があがっているのだからなおさらに脱力してしまう。
そんなエミル、そしてシルフ達を交互にみやり、
「エミル?あんた?」
たしかに、エミルはまた、あのときと同じ。
ウンディーネのときと同じ。
目の前のシルフ達とたしかに何かを会話していた。
その内容はわからないが。
戸惑いぎみにしいながエミルにと問いかける。
また、という思いもある。
まるで、そう。
このエミルはまるで精霊達とこれでは知り合い、というような感じではないか。
そんなことはありえない。
が、ありえないことはありえない。
それはしいながよくしっている精霊研究院に所属しているとある研究者の台詞。
そこまでおもいだし、
あれ?
何かひっかかる感じをうけるが、しいなにはそれが何なのかいまだわからない。
よもやその顔がそっくりだから、という理由でひっかかっている、
ということにしいなはまだ気づけない。
エミルが語りかけしは原初ともいえる言葉。
ゆえにシルフ達もまたその言葉で返したにすぎず、
ゆえにリフィルやしいなたちヒトにはその意味はわからない。
唯一理解できるコリンはその言葉をきき、なぜか固まっているにしろ。
「ヤイム アエヌン ワイトゥン イオティ ティイ ティエブルン、
  ボティ エディン ヤイム ワエルトゥ?」
――でも、表にでられてて平気なのですか?
すこし首をかしげて問いかけてくるセフィーの台詞にたいし、
『問題はない。我が地上にいることで大樹のかわりにはなっている』
『「「問題ありまくりのような気がします(が)(けど)」」』
目をつむりつつ、彼らに直接念話にて語りかける。
そんなエミルの台詞にこれまた異口同音ですかさず念話にていってくるシルフ達。
そしてしばし三人で顔を見合わせたのち、顔をみあわせうなづいたのち、
その視線をしいなに再びむきなおし、
「とりあえず、ミトスとの契約の破棄、その誓いは認めましょう。
  しかし、あなたはなぜ、私たちとの契約を望むのですか?契約の資格をもちしものよ」
警戒したような視線にて、しいなにと問いかける
中央にいるふわふわとうかびし女性の姿をした、その背に羽をもちしシルフのうちの一体。
「あたしは、二つの世界がマナを搾取しあい、どちらかの世界が犠牲になる。
  こんな世界をなくしたい。そのためにシルフ、あんたたちの力をかしてほしい。
  一年ごとのマナの循環、という契約だった、そうきいた。
  なら、前の契約者のミトスってやつはそれをたがえているってこと」
「たしかに。ミトスはその契約をたがえていますが。それを誰から?」
「センチュリオン様達から…というわけでもないよね?」
「「セ?」」
またその台詞。
たしかあのアイフリードの船上できいたその名。
精霊ラタトスクに仕えている、というセンチュリオン。
その詳しい意味はロイド達はアイフリードに聞いても彼らもよくわかっていなかったが。
あるいみそれはエミルにとっては不幸中の幸い、といえるであろう。
まさかその名が精霊の口からでてくるとは。
ちらり、となぜか三姉妹が三姉妹ともエミルをみてくるが、エミルはしずかに首を横にふる。
どうやら自分がいったか、と思われてたらしい。
エミルが小さく首を横にふったのをみて、王、すなわちラタトスクが言ったのではない。
そうシルフ達は確信する。
「よいでしょう。そもそも、マナの交互利用という案は地上の命全てを助けるため、
  という約束のもと、でしたのに。ミトスはそれすらも裏切っています。
  そしてもうひとつの契約の約束も。あらたな契約者、しいなといいましたね。
  あなたとの契約をみとめましょう。ですが、あなたたちの力は試させてもらいます」
王が傍にいるというのとそれとこれとは話しが別。
まあ傍にいる、ということはこの契約の資格をもちしヒトをつかい、
自分達精霊からミトスの契約の楔という枷をなくすつもりなのかもしれないが。
「じゃあ、あなた達の力をためさせてもらうね。あ、人数はできれば四人までだからね」
続いて桃色の髪をしている残されたもう一体のシルフが続きざまにいってくるが。
そして、さらに続き、
「だって、ヒトは空をとべないでしょ?制限つけないと、
  人数おおくてこの足場から戦いの最中におっこちてもしらないよ?
  みたところ、一、二…かなり人数がいるみたいだし?」
たしかに、この場はあるいみで高い位置にとある。
遺跡の中でもおそらくは一番頂上、なのであろう。
たしかにシルフの言い分は一理ある。
あるが……人数を制限してくる、というのはどういう意図があるのか、
しいなにはわからない。
「ちなみにミトス達も四人で挑戦したよ?」
「あの当時はまだミトスもマーテルも空はとべなかったもんねぇ」
「「「え?」」」
ふと何やら重要なことをさらり、と聞いたような気がする。
シルフ達の会話におもわず顔をみあわせるリフィルとしいな。
ちなみにロイドもジーニアスもその意味がわかっていないらしい。
たしかに、ミトスとマーテルが天使化したのは、自分のもとにきてから後。
つまりは、リビングアーマー達を封じた後。
シルフと契約せしときは、たしかユアンがくっついて移動していた最中の出来事。
そう報告をうけていたような気がする。
「精霊との契約にはその覚悟のほどをとわれる戦闘になる。
  というわけで、あんたたちにも手伝ってもらうよ!」
「だから、何でというわけなんだよ!説明してくれよ!しいな!」
ロイドはいまだに理解不能であるらしく、何やら叫んでいるが。
「まさか。一年ごとのマナの循環…精霊がマナの封印をまもる…それも契約、というのなら。
  この仕組みをうみだしたのは…まさか、あなた達の契約者のミトスだ、というの?」
リフィルが思いついたらしく、シルフ達にといかけるが。
「ほんっとうに何もきかされてないんだ」
「ほんと。どこまで私たち精霊をも裏切ればきがすむんだろ」
その冷たい視線はクラトスにむけて。
「何で…何で、あの子を…マーテルが殺されたときあの子が決めたあのことを。
  あのときにとめてくれなかったのさ!」
感極まっていた、のであろう。
フィアレスがクラトスにむけて叫ぶように言い放つ。
「「え?」」
今、たしかにシルフのうちの一人は、マーテルが殺されたとき、そういった。
「まって。マーテルって、女神マーテル様のこと?殺されたって…どういうこと?」
コレットもその内容についていけない。
「私たちは結果としてミトスとその仲間達に裏切られています。
  あなた達がまた私たちを裏切らない。その覚悟のほどをみせてもらいます。いきます!」
そんなコレット達の戸惑いの台詞をさっぱりと無視し、
そのままセフィー達が問答無用で武器を構え臨戦態勢をとってくる。
「くるよ!」
「だぁ!なんでまた精霊とたたかわないといけないんだよ!?」
ロイドの戸惑いの声は何のその。
そのままその場を取り囲むようにしてシルフ達はいつもの体勢。
すなわち、攻撃するときによくとる形態をその場にと形成する。

「え?え?」
「マルタ達はこっちに」
そのまま、とまどうマルタをぐいっとそのまま階段のほうへとおしやっておく。
それにより、マルタとホーク達以外は遺跡の屋上に取り残された形となり、
マルタとホークはエミルにおしやられ、
建物の中へとつづく階段に移動しているがゆえに、よくよくみなければ、
上で何がおこなわれるのか理解すらできないであろう。
ちなみにノイシュはさきほどの部屋で留守番をしているのでここにはいない。
「でも、エミル、私は、精霊の試練って……」
「マルタはもうここでの役目はおえたんでしょ?これはロイド達の試練なんだよ」
「いったい、あのものたちは、何を……」
ホークはいまだに、何がおこっているのか理解できていないらしい。
「精霊との契約」
「え?」
エミルにいわれても、マルタ、そしてホーク達にもよく理解ができていない。
そもそもなぜいきなり精霊との契約、など、
お伽噺の出来事のようなことが実際におこっているのかすら。
「彼らは今から、風の精霊、シルフとの契約に臨むんだよ。
  精霊との契約に必要なのは、覚悟と、そしてその誓約の誓い。
  覚悟とは精霊を使役するに、精霊達が力を貸すに相応しいのか。
  その心の強さ、心だけでなく心身ともにその力があるのか、それをみきわめるため」
ともあれ、しいなによって、シルフとミトスとの契約の楔は今、断ち切られた。
しいなが願うことによって、ミトスとの契約が破棄された。
自分が目覚めている以上、彼らが契約が破棄されたというのに、
あえてマナの循環を担う必要性はどこにもない。
自らが、そしてセンチュリオン達が目覚めていなければ、
契約が破棄されていても、マナを循環させ、大地の存続のために動く必要があったかもしれないが。
それはおそらくは、かつてのときはそうだったのだろう。
自分が…大樹カーラーンに魔導砲をぶっばなされ、絆が断ち切られ、その衝撃で目覚めたあのときは。
だからこそ…加護をもたない大樹は暴走してしまった。
大樹の膨大なる力を制御するものがいないままにヒトが…ロイド達が目覚めさてしまったがゆえに。
エミルがホーク達に説明をしているそんな中。

「まあ、四人以上で挑んでくる、というのならそれはそれでよし、だけどさ」
「これまでの鬱憤、今ここで晴らさせてもらうからね!」
「・・・・・・・・」
何やらフィアレスが不穏きわまりないことをいっているのが聞き取れる。
「…はぁ」
どうやら彼女達にも忠告をほどこしておく必要性があるらしい。
ゆえに。
「エルティアイオグア エ フンルウムグ ウス クアイパム。
  エ ディンエスイム バウル ムイティ ブン ウフ ウティ クウルス
  ワルンエディ エムヤトゥイディン」
「エミル?」
この旋律はたしか、ウンディーネのもとにてエミルが呟いていた。
ゆえにマルタが首をかしげつつもエミルをみやる。
エミルからしてみれば、気持ちはわかるが、殺せば理由が分からなくなるから。
そういって、シルフ達に忠告をしているにすぎない。
そして、先ほども。
同じような似た旋律。
まちがいなくこれは何かの言葉。
それが何なのかいまだに理解はできないが。
「アイバンヌンディ」
とまどったようなセフィーの言葉に続き、
「ティアンヤ ブンティ ディエヤンド オス!」
きっとクラトスをみすえつつも、いってくるフィアレスの姿。
なぜにウンディーネと同じことをいうのだろうか、ともおもうが。
おそらくそれが精霊達がおもいし共通の思い、なのだろう。
だからこそ。
「…スンルフ ウス オスンホル エムド アン バドエス ティアドトゥ
  ティ ワイトゥプンムスエティン エイディ ウディ」
ウンディーネにもいった、
彼らには生きてつぐなわせるつもりであることをシルフ達にも伝えておく。
ウェントスのやつはそのことを伝えていなかったのか?
そうおもうが、彼女達の様子からしてどうやらそのことは伝えられてはいなかったらしい。
「……ウ オムドンディスティエムド」
セフィーがかるくうなだれつつ答え、
「……わかりました」
フィアレスはぎゅっと手をにぎりしめつつ答えてくる。
どうやら感情が高ぶっているせいか、原初たる言葉でなく、
ロイド達にもわかる原語でいっているのが気にかかるが。
「ティザ ティアン プエススエグン イフ アウス スティエティントゥンムティ」
仰せの通りに、そういってかるく頭をさげてくるユーティス。
この調子では、他の精霊達もクラトスの姿をみたら同じような反応をしかねない。
まあクラトスがいつまでこの一行についてくるのか、という疑問はあれど。
『センチュリオン共』
『ここに』
目をつむり、意識をむければ、すぐさまに八つの声が返ってくる。
『念のために精霊達に繋ぎを。
  我が彼らを…ミトス達の裏切りを、生きてつぐなわせるつもりだ。と。そのことを伝えてこい』
『よろしいのですか?しかし、あのものたちは…』
『これは決定だ。…自分達がしでかしたことは自分達の手で後始末をさせる』
今の世界のありようは、まちがいなくミトス達がつくりだしたもの。
ならば、その後の後始末も彼らがすべきこと。
人々の心を偽の宗教などというものをつくってまで歪めているのだから、それくらいはしてもらう必要がある。
否、させる必要があるといってよい。
そこに自分達精霊は一切かかわらない方針で。
「どういうことなんだよ!先生!それにしいな!?」
ロイドは何が何だかわからずに叫ばずにはいられない。
「これは想像でしかないわ。けど、しいな。あなたがシルフと…いえ、精霊と契約をむすぶことによって。
  あなたがさきほどいっていた、マナを搾取しあう二つの世界のありよう。
  それを何とかできるという確信があってのことなのではなくて?」
リフィルもすでに臨戦態勢。
というよりは、フィールドバリア―をはりつつ…これもユニコーンホーンを手にし、得られた新たなる法術の力。
自分のいる場所からある一定範囲内の味方に対し、術などにおける耐性を強化させる癒しの術。
「確証はないけどね。けど、ウンディーネのいっていた。一年ごとのマナの循環、という約束をたがえられている。
  そして、シルフもミトスとの契約。…精霊は、マナの封印をまもる楔。ならば、可能性としてはなくはないだろ!」
「たしかに、ね。協力するわ」
「だから!つまりどういうことなんだよ!」
いまだ理解できないらしいロイドにかわり、
「僕もよくわかんないけど。もしかしたら。
  さっきいってたロイドもいってたでしょ。二つの世界がすくえる方法。
  もしかしたらこの精霊と契約することで視えてくるものがあるのかもしれない」
ジーニアスもさすがにそこまでいわれて気付いたらしい。
一年ごとのマナの循環。
それが何を意味するのか。
さきほどしいながいった、すなどけいのようなマナの交互利用。
でも、実際は八百年もそのマナは偏っている。
精霊がいっていた、契約をたがえられている、と。
「くるよ!」
しいなの言葉をかわきりに、
「エアスラスト!!!」
どうやら一番鬱憤がたまっていたのであろう、即座にフィアレスによる、
風の術が炸裂する。
…主にクラトスにむかって。
どうやら、殺すなかれ、という命は納得したものの、だからといって許すつもりはさらさらないらしい。
殺すつもりで攻撃しているようではないので別に問題はまったくないが。
「ウィンドカッター!」
セフィーの口より新たな風の術が紡ぎだされ、どうやら本格的に試練の戦いは始まった、らしい。
本来、ヒトが精霊術を使用するときには、力ある言葉のまえに、
契約の言葉、すなわち混沌の言葉カオスワーズが必要となる。
が、世界の一部である精霊にはそれは必要ない。
力ある言葉のみで術は発動する。
特に彼女達は風を司る精霊なれば、その威力もまた彼らのおもうがまま。
その気になれば、彼女達はこの地上全ての風を操ることが可能なのだから。
それは他の精霊達。
すなわち八大精霊達全てにおいても、それぞれが司る属性の力なればこそいえること。
「これはいったい……」
階段があるので上のほうの状況はわからないにしろ、何か戦っている音は嫌でもわかる。
というか、ものすごいまでの爆音などがしているのに気付かないほうがどうかしている。
階段の途中にてホークの戸惑ったような声がつぶやかれているが。
「とりあえず、僕らは先に下でまってようか」
「え?でも…コレット達は?」
「すぐにあの子達ももどってくるよ」
あの調子ではおそらく、シルフ達もまたしいなと契約を結ぶであろう。
それこそ直接ミトスに文句をいわんがために。
いまだ何か戸惑い、何かいいかけるマルタをそのままに、そのまますたすたと階段をおりてゆく。
しばし、マルタは上のほうと、そしてエミルの降りて行った階段のほうをみやり、
「まってよ~!エミル!」
すでに戦闘が始まっているらしい彼らの中にはいって邪魔をするよりは、
エミルのように信じて彼らをまつことにマルタもまたきめた、らしい。


「いいのかなぁ。コレット達をあの場にのこしてて」
マルタが階段を降り切ったのち、今さらながらにそんなことをいってくる。
というかあるいみではマルタは関係ないのだからかかわる必要はないとおもう。
そもそも、クラトスは当事者であるし、ロイドはその息子。
コレットはミトスに利用されている被害者で、そのコレットの護衛としてリフィル達は旅にでている、といっていた。
マルタの目的は、ここにあるという首飾りを手にいれること。
すなわち、精霊達とはあるいみではかかわりがないといえる。
「あのまま、あそこにいても、皆の邪魔になるとおもうよ?実際、あそこの足場、狭かったし」
おそらく全員が全員、あの場にのぼってしまえば、動くのも自由に動けないであろう。
祭壇が屋上をほとんど埋め尽くしていた以上、自由に動ける空間、というのは限られている。
『あの場はかつては、風葬の場だったのですがね』
「風葬?ああ、それであの場にあったあの石板の文字、か。パラクラフは風の民…ね」
ここからでて少しいったさきの階段の下の石板にたしかにそう書かれていた。
その文字事態は知らなくても、きざまこまれたその念を読み取ることなど、エミル、
否、ラタトスクにとってはたやすいこと。
なぜかマルタが頭の上にのせているシヴァがそんなことをいってくるが。
どうやらあの場はもともと、この地に埋葬するものを風葬として祀る場、としてつくられていたらしい。
だとすれば。
「ふむ。そのでは風葬のものたちは」
『はい。あるいみで私への供物ですね』
シヴァは雑食ではあるが、ヒトの血肉をも好む。
饕餮とうてつの特性を一族が伝えていたのかどうかはわからないが、
それらの伝承や言い伝えなどが彎曲し、混ざったゆえにそのようになったのかもしれない。
まあそこまで興味があるわけではないので詳しく知ろうともおもわないが。
はたからきけば、にゃーにゃー、となくシヴァ、もとい、
コレット、マルタ命名【タマミヤ】とエミルが何かいっている、
というよりは、エミルがにゃ~にゃ~となく猫の言葉に相槌をうっている。
というようにしかうつらない。
簡単にいえばエミルが猫の声にあわせ独り言をいっているようにみてとれる。
「?えっと、エミルさん、でしたよね?」
「何猫とはなしもどきをされてるんですか?」
どうやらその光景はホーク達にとっては奇怪なものにうつったらしい。
何やら生温かい視線がエミルにとむけられる。
「猫と戯れる。エミル…いい、なんか!」
マルタはマルタでそんなことをいってなぜかまた体をくねらせているが。
「とりあえず、ホークさん達がさっきいってましたけど。
  このあと、ならあなた達の船でパルマコスタ、でいいんですかね?」
おそらくリフィル達は先ほどの真偽。
すなわち、絶海牧場とよばれしところから人々が逃げ出している。
その真偽の有無を確かめるためにもパルマコスタにいくことを選ぶであろう。
まあ、リフィルが船の旅を了承するかはともかくとして。

ここから徒歩でパルマコスタにもどるにしろ、救いの小屋にいくにしろ。
船でパルマコスタに移動したほうがはるかに速い。
レミエルのいうように次なる目的地、もと大樹がありし場所。
救いの塔とかよばれているかの場所にいくとすれば、それこそハイマからが近いのかもしれないが。
かつてヒトがラタトスクの間とよんでいた、大樹の間まで気づかれていない。
というのがあの塔をざっと確認したときにおもったこと。
かの地が気付かれていたらそれこそ厄介であったとおもう。
すでにセンチュリオン達の力も満ちたがゆえに、
あの場所は移動させ、より彼らに気取られるようなことはしていないが。
何しろこの大地の要となる生命の場とよばれし場所に通じている場所。
この大地を生み出せしときに、いつものようにそういった場は創りだしている。
かつての惑星においては、そのように呼ばれていた場所は、今では世界樹の間、とよばれているらしいが。
何でも大樹だと自分とかぶるから、という理由で、人々があらたな精霊ノルンがやどりし大樹につけた名。
まあ世界樹でも大樹でも呼び名はどちらでもいいにしろ。
そもそも、大いなる実り単体からうみだせしときは、
だいたいヒトは自らの分身である樹のことを世界樹、とよんでいた。
かつてのカーラーンにおいてもそうだったのに、
いつのまにか呼び名が大樹、に変化してしまっていただけのこと。
「そうですね。マルタ様のこともありますし。
  それに…さきほどの天使?ですか。そのものの言葉も伝える必要がありますし」
再生の神子達は、救いの塔を目指す。
たしかにそう、あの天使らしき男性はそういっていた。
救いの塔への道は開かれる、と。
それを聞いた以上、つたえるのが義務、とホークはおもっているがゆえの台詞。
その後にきいた、一年ごとのマナの循環とかよくわからない出来事もあったが。
そもそも、月の世界からきた?ばかげている。
マナを搾取し合う世界?そんなものがあるのか?
そうはおもうが、精霊もそのような似たようなことをいっていた以上、
上司たるブルートには報告する義務があるであろう。
「では、ホーク殿。我らはその旨を待機している船員達に報告してきます」
「ああ。たのむ」
ホークの言葉をうけ、他にいた二名がその場からたちさってゆく。
どうやら待機している船にその伝令をつたえにいく、らしい。
「ノイシュ。お留守番御苦労さま」
「くう~ん……」
エミルになでられ、されるがままのノイシュ。
ここで一人で静かにまっているのがすこしばかりさみしかったらしい。
「パパの許可をもぎとるために、いい理由を考えないと……」
マルタはマルタで何やら一人、考え込み始めているが。
というか、パルマコスタで大人しくしておく、という選択はないのだろうか。
このマルタは。
それでなくても、まちがいなくコレットはあの現象を受け入れていたっぽい。
それが無意識からくる行動であるにしろ。
あとすこしたてば、コレットは自ら声を声として発することができなくなるであろう。
それこそ、声帯に異変がおこり、
その場が結晶化してしまい、震わせて声をだす、という行為ができなくなってしまうがゆえに。
それでも、心の声をきちんと聞けるのであれば意思疎通には何ら問題はない、のだが。
今の人間達は心で会話する、ということ自体すら失念してしまっている。
それはエルフ達にしても然り。
かつては心同士で心通わせることなど、たやすく誰でもおこなえていたというのに。
それこそこの惑星におりたったその直後のころは。
「…たぶん、今日もまたここで野宿…かな?」
本当に、なぜに偽り、と疑い初めているのに受け入れるのだろうか。
ヒトのこころはいつの時代も不可思議でしかない。
「たしかに、そういえば、外にでたときもう太陽がかなりかたむいてたね」
マルタがふと思い出したようにいってくる。
実際、今現在、ロイド達がシルフ達の試練をうけている場にでたとき、
すでに太陽は上空からかたむき、あと数刻もすれば夕焼け色に世界は染まる。
「う~、ホークがいなかったら、エミルとふたりっきりだったのに……」
「にゃ~」
「あ、タマミヤもいるか」
「…ミャ~……」
もしかしてその名は決定事項?
そうといかけつつも、その視線はなぜか救いをもとめるようにエミルにとむけられる。
「ねえ。マルタ?その、名前もう少し考えてあげない?」
「え?かわいいでしょ?タマミヤって」
「そうかもしれないけど……」
当人が嫌がってるんだけど。
エミルからしてみればそうとしかいえないが。
「ん…じゃあ、黒だからク~ちゃんとか?」
がくり。
あ、おちた。
その言葉にマルタの頭の上からすべりおちているシヴァ。
「…せめて、傍におくんだったら家族の人と話しあったほうがいいよ、うん」
マルタのネーミングセンスのなさは、かつてのときにしっている。
そもそもエミルが名をつけ…あれはエミルが本能的にあのとき、魔物の名を読み取っていただけ、なのだが。
ともかくそのときですらそんな名よりこれがいいよ、といって、
変な名をつけようとしいてたマルタだからこそ。
エミルからしてみればシヴァにあまり変な名をつけてほしくない、という思いもある。
かといってシヴァの名は、あるいみで伝承にものこっている可能性もある。
それらもミトスが破棄していればどうなっているかわからないが。
すくなくとも、エルフの里にはかの名はつたわっているはずである。
何しろ彼らエルフ達とともにこの大地に降り立った数すくない一員、なのだから。




pixv投稿日:2014年2月8日某日(Hp編集:2018年4月22日(日)

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あとがきもどき:

きりがいので今回はここまで~