蒼き水晶の歌姫 第6話
「遅いわねぇ。」
腕時計をみつつ。
時間を気にする洋子。
駅の前にある、噴水の前で待ち合わせ。
「そういや、由香の家って、少しばかり、町から離れているから。
それで遅れているんじゃない?それに、まだ時間あるし。私達が早く着すぎたんだし。」
そういいつつ。
背中にリュックサックのような、朱色の鞄を背負っているのは。
淡い茶色い髪を一つにまとめて結んでいる悦子。
たしかに。
待ち合わせの時間には、まだあと数十分あるのだが。
何しろ、高校に入って。
子供達だけで、どこかにしかも、泊りがけ。
で旅行が許されたのがこれがはじめての経験であるがゆえに。
かなり早く到着しているこの二人。
今、学校というか、世間では。
春先の一般でも、長い休みにと入っている。
その新緑の緑と、暖かな太陽の日差しがまぶしい。
只今、季節は五月。
この五月には。
大型連休が、世間一般でもあるのである。
その連休を利用して。
旅行を計画しているこの二人。
彼女達が待っているのは。
彼女のクラスメートでもあり。
そして。
最近というか、高校に進学してから、仲良くなった、一人の女の子。
その真面目さから、何度か、彼女達の家などに遊びに行ったときなどに。
彼女達の両親というか、主に母親達から。
絶対的な信頼を得ていたりするその彼女。
その、歳に会わない落ち着いた雰囲気などが、安心感を与えるらしく。
今回の旅行もまた。
彼女が一緒なら。いってもいいわよ?
という、何とも安直な意見が戻ってきていたりする、彼女達の実家。
まあこの二人。
よく、中学のころから。
土日を利用して。
とあるアイドル歌手のイベントなどに。
追っかけとして、行動していたりしていたこともあり。
若いときには、いろいろと経験をつんだほうが。
ちゃんとした大人になれる。
という信念のもと。
だけど、周りには迷惑かけないように。
そして、自分の責任の持てる範囲で、行動しなさい。
という信念のもと。
互いに違う他人とはいえ。
その教育方針が似通っている、この二人の家族。
「でも、そーいえば、予定は、ぱっちり?」
ふと。
とあることに気付いて。
横にいる、悦子に話しかける洋子の言葉に。
「もっちろん!」
にっこり笑って、手帳を取り出す。
「ええとね・・。まず、私達がいくここの近く・・にね・・。」
手帳にぎっしりと書かれている、とある文字。
その文字は、とある女性のスケジュールらしきものが書かれている。
彼女のファンサイトでは、その彼女のスケジュールを。
その、所属事務所が公開していることもあり。
彼女のファンにとっては、かなりおいしい事実と成り果てている。
まあ、それも。
ファンクラブに入っている会員に限り。
そのとある、ネットサイトに掲載されているのだが。
そのためか。
周りにも、同じような目的の。
中には、親子つれの姿も多々と見られ。
手帳はパンフレットを片手に。
道を歩いてゆく人々の姿も見受けられていたりする。
二人がそんな会話をしている最中。
ゆら。
その駅の中にある一つの個室にて。
ふと。
その部屋の空気が一瞬揺らめく。
そして。
その空気の揺らめきが、おさまったその後には。
今までいなかったはずの、人物がそこに、佇んでいた。
「うん。周りに人影はなしっ・・と。」
とりあえず、先に確認はしていたものの。
再三確認をとり。
そっと。
その扉を開ける。
駅の中にある、綺麗に整えられた、トイレ。
その一つの個室の中から。
いや、というよりは。
子供がいる母親専用の、台などが設置されている、普通のとは違う小部屋。
そこから。
きょろきょろと、周りを確認しつつ。
一人の少女が、顔をのぞける。
もし、誰かが。
この前にこの場所に来ていれば。
こんな少女が中に入っていったのは、確実に見てないというにも関らず。
彼女はいきなり。
いなかったはずなのに。
そこに出現しているのである。
肩から腰に掛けている、少し大きめの鞄。
それでも。
通学鞄よりは、一回りも二回りも小さいその鞄をもち。
その、薄いピンクの鞄を手に。
そのまま。
がらがらと扉をあけて外に出る。
服装は、いたってシンプル。
春先らしい、青い色彩を主張とした、上下に分かれたワンピース。
その上に薄いレースで編まれたようなカーディガンを羽織り。
きっちりと、その黒く長い髪は、その真ん中で左右に分けられて。
前にたらされるようにきっちりと編まれているみつあみに。
そして、その顔にかけられている眼鏡。
その眉の上でしっかりと整えられた前髪もまた。
その彼女の特徴ではある。
見た目。
どこかの学生の優等生。
そのまんまのその姿。
そのまま。
何事もなかったかのように。
駅の外に向かってゆく。
「ごめん!まった!?悦子!洋子!」
『・・・・え?』
一体、いつの間に?
そうは思うが。
何しろ、彼女達は数十分よりも前から。
ここ、入り口で彼女を待っていたのだから。
聞き覚えのある声と共に。
手を軽くふりつつ、やってくる、二つにみつあみをしている少女の姿を認め。
その少女が駅の中から出てきたのを見てとり。
思わず唖然とした声を発しているこの二人。
「由香?どこかにやってきたの?」
素朴な疑問を投げかける。
「え?ああ、別な入り口から入ったから。」
嘘ではない事実。
事実、この駅には、この入り口のほかには、東口、南口。
などといった入り口が存在している。
今彼女達がいる場所は北口。
だがしかし。
彼女が移動してきた入り口は。
そのどれでもない。
何しろ、何もない空間から、彼女は出現しているのであるからして。
だが、そんなことは、当然のことながら。
彼女達、悦子や洋子は知るはずもなく。
「そうなの?てっきり、こっちから来るとばかり思って。一生懸命捜してたのよ?私達は?」
そういいつつも。
ぽんと彼女の肩に手を置いている洋子に。
「うーん、まだ時間あるけど?どうする?とりあえず、汽車の時間まで・・あと、一時間あるけど?」
ちらりと、その自分達が乗る予定にしている時刻を気にして。
そういっているのは悦子。
「そーいやそうね?
じゃ、今から汽車の中でしばらく、数時間揺られることになるんだし?何か、朝ごはんでも食べとく?」
今、時刻はまだ朝の八時。
朝一で、出発するために。
朝早くに待ち合わせをしていた彼女達。
由香の言葉に。
「賛成!」
思いっきり同意の声を上げている悦子。
「じゃ、何処で何を食べる?」
「近くの喫茶店で軽く何か食べましょ?」
そういいつつ。
駅の近くにずらりと並んでいる喫茶店の数々を指し示す。
「あ、あそこのケーキ、おいしいわよ?」
「じゃ、そこに決定ねv」
いかにも、さすが。
女の子三人が集まっている会話だけのことはある。
そのまま。
彼女達、三人は。
今、ようやく、開いたばかりの、喫茶店の一つ、【キッサアンジュ】にと入ってゆく。
ここの喫茶店は。
その、手作りケーキやプリンといった。
洋菓子で名前が知られ。
ここにあるのも、全国にある支店の一つ。
その、サラダにかかっているドレッシングも。
ヘルシーだと、一部ではかなり評判でもある。
ちなみに。
そのドレッシングと、ケーキなどは。
持ち帰りというか、別売りしているので、持ち帰り可能。
まだ開店したばかりだというのに。
その従業員などが。
開店準備というか、朝の準備に追われている中。
それでも。
すでに、店の中は、殆どその席の半分近くが埋まっていたりする。
何しろ。
中には、開店前から、並んで待っている人々も少なくない。
ここの、一番のお勧めは。
その、手作りケーキにあるのだが。
それを買おうと、並んで待つ人々も少なくないのである。
まあ、手作りということもあり。
時間によって、数が限定されているので。
仕方ないといえば、したかないのかもしれないが。
「三名様ですね?では、こちらにどうぞ?」
ウェイトレスの案内に従い。
窓際の席にと案内される、彼女達三人。
「私は、ハーブティと、それと、イチゴセット。」
由香が、メニューをみつつ。
注文をかけ。
「私は、アップルセットと、紅茶ね?」
「私は、ワッフルセット、モーニングで。」
それぞれ。
メニューから、それぞれに食べたいものを注文し。
「かしこまりました。」
そのメニューを聞き取り。
席の横から立ち去ってゆくウェイトレス。
ここの特徴の一つに。
その果物を使ったセットメニューにも人気はある。
ケーキは当然のこと。
果物をふんだんに使ったそのメニューは。
若い女性でなくてもかなりの指示を受けているのだ。
ぱくり。
「うーん。おいしい♡」
口にケーキを運びつつ。
軽く焼かれたトーストを切り取りながら。
洋子が、満足そうにつぶやく。
「それで?どうする?先に宿屋にチェックインする?」
今回の旅行は。
三泊四日。
ちなみに。
各自由行動ではあるのだが。
そこにさえ行けば。
とある旅行会社企画の。
個人別見学ツアー。
というのが企画されていて。
そのツアーに彼女達もまた申し込みをしているその事実。
何しろ、交通手段を持たない学生などにとっては、そのサービスはありがたい。
一定の金額を払えば。
自分達が行きたい場所に。
一つの車を専属で都合してもらえ、運転手つきでいろいろと回れるという、そのサービス。
ま、そのツアーには、一つ、条件があるのだが。
それは即ち。
いくら自由行動とはいえ。
その肯定に、とある歌手の撮影現場を含む。
というその一つさえクリアしてさえいれば。
何処にいこうが何をしようが自由なのである。
「うーん。とりあえずは。先に、名所とかを見学しない?」
口にとろりとかかった蜂蜜がタップリと乗っている、ワッフルケーキを一口サイズに切り取り。
その上にアイスを軽くのせて、運んで一口食べてから言っている悦子。
ぱくぱくと。
セットメニューに含まれている、イチゴアラモードを食べつつ。
ふと。
そんな言葉に顔を上げ。
「あ、それいいわね。ここの滝とそして、ここの崖から見える景色。かなりの絶景として有名よ?」
そういいつつ。
その席の中心に置かれているパンフレットを示して。
いっているのは、由香。
その、崖にて。
今回の行事の始めに、とある撮影が行われるのである。
彼女達が、のんびりと。
いかにも女の子達らしく。
デザートを食べつつ、会話をしているその最中。
うろうろうろうろ。
「ああああ!本当に百合香はくるんだろうなぁ!!?」
頭を抱えて、うろうろと。
歩き回っている一人の男性。
「社長、バスの中でうろうろと歩き回らないでくださいよ・・・。」
そういって、軽く溜息ついているのは。
山崎優という名前の女性。
「大体!山崎!お前!彼女のマネージャーを何一年近くもやっていて!ちゃんとした連絡先までつかめないんだ!?」
叫んでいるのは、彼女の社長であり、そしてまた。
百合香が所属しているとあるプロダクションの社長。
その本人。
「その言葉、社長にもそっくり返しておきますわ。普通従業員の連絡先の徹底は。当たり前なんじゃないですか?」
にこにこと。
いつものことなので。
さらりとかわす。
その言葉に。
すとんと、席にと座り。
「うう・・・私だって・・彼女の連絡先・・知りたいよ・・・・。
だがしかし、もし・・彼女のイメージダウンになるような事実が判明するかも・・
・・・と思うと、調査員も雇えないし・・。」
そういいつつ、唸る。
そんなことがあるはずもない。
というか。
まず、間違いなく。
彼女のことを調べようとすると。
霧のごとくにその出生などが包まれているのが判明するであろうが。
彼らが知っているのは。
彼女の芸名のみ。
いや、もしかするとそれが本名なのかもしれないが。
それすらも分からない。
ただ一つだけ。
連絡用に使われている、携帯電話の番号一つのみ。
その番号から、身元を割り出そうとしたこともあったが。
それは無駄な努力と成り果てた事実がまたあるのもまた事実。
そんな会話をしつつ。
今回。
彼女が出演する、ドラマの撮影のために。
その撮影地に向かい、移動してゆくロケバスが数台。
その中に。
メインというべき、今や世界的に有名な、アイドル歌手の姿は。
当然のことながら、姿が見えないのであった。
-続くー
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あとがきもどき:
薫:・・・・・あはははは(汗)
こののり・・・・分かる人にはわかりますねぇ。
はいv立花社長とマミのマネージャーの乗りに近いです。
それはそーと・・・。
何、うちのルナ・・・背中で髪の毛でじゃれているんだ?(笑)
んではではv
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