蒼き水晶の歌姫  第5話




「百合香ちゃぁん、一緒にいかないの?」
情けない声を出しているのは。
彼女が所属する事務所の社長。
「ちゃんと合流しますから。」
そうにっこり微笑み。
「それでは、お疲れ様でした♡」
荷物をまとめ。
小さな鞄一つをもって、部屋から出てゆくストレートの長髪少女。
とりあえず、今日の仕事が終わり。
彼女が所属する事務所によって。
社長に、自らが作成した、新しい新曲と、詩を手渡してからの会話。
彼女が持っている歌の全て。
その、旋律から何から何まで。
彼女自身が作っている歌や曲、あるいは旋律なのである。
そんな彼女の作詞風景や作曲風景を、取材したいとかいう記者などもいたりするが。
そのたびに見事に交わしている彼女【百合香】。
未だに、その本名も、また住所も不明。
唯一分かっているのは、
伝説の一つとして挙げられている、蓬莱の町に関りがあるらしい。
という不確定な事柄と。
今、彼女が16歳であること。
そして。
本人との連絡に使っている、いつも留守電となっているが、一台の携帯電話。
ただそれのみ。
未だに、彼女がアイドル歌手となって、一年が経過するというのにも関らず。
その正体は以前として謎。
それが、彼女の人気に拍車をかけているのだ。

今日は、土曜日ということもあり。
学校がないというのもあって。
今まで仕事をこなし。
今、すでに時間は、午後の三時過ぎ。
挨拶を済ませ。
部屋から外にと出る。

きょろ。
周りには、常に、彼女の正体を知ろうと。
記者などが、たまぁによく、事務所の中まで入り込んでいたりもするが。
今日はそんな気配はない。
そのまま、地下に降り。
従業員の出入り口より外に出る。
そのまま、事務所の後ろにある、小さな森にと入り込み。
やはり、いつものように、事務所から出ると。
しつこい記者などがどうにかして、彼女の正体を知ろうと。
いつものごとくに張り付いていたりもするが。
そのまま、森にとはいっていく百合香の姿。
小さいながらも、木々が欝蒼と生い茂り。
そんな中に紛れ込むように、百合香を追いかけていた記者たちは。
ふと、茂みの中に、百合香の姿を見失い。
「どこだ!?」
「さがせ!」
「また逃げられたか!?」
などと、視界の下で騒ぐ声。
「くすくすくす。」
そんな様子を。
木の上の枝に座り。
くすくすと笑いながら見ている百合香。
ほんの一瞬の間に。
数十メートルはあろうかという、その木の枝の上に。
地上から百合香は移動しているのである。
未だに下の方では、百合香の姿を躍起になって捜している記者たち。
まさか、ほんの一瞬の間に。
よもや木の上に移動しているなどとは、一体誰が想像できようか。
「くすくすくす。さて・・と。」
やがて、その場にいないと判断したのか。
まったく見当違いの方向に、彼女を捜して移動してゆく記者たちを見送り。
ぷらぷらと、木の枝に座ったまま。
鞄の中から、櫛と、ゴムを取り出す百合香。
「服は別に変えなくてもいいわよねv」
そういいつつも。
櫛で髪の毛をとき。
上手に、真ん中で二つに分けて。
あみあみあみ。
そのまま、二つに分けた髪の束を。
みつあみにしていき、取り出したへアゴムで止める。
髪を結んだだけなのに。
まるで別人のように見えるのは。
それは、女の子の特権の一つであるといえよう。
「待ち合わせ時間に遅れちゃうわ。」
そういって。
がさり。
ピョン。
トットットッ!
軽やかに、木と木を飛びつつ。
トン!
まるで重さを感じさせないようにと、木々の頂上を飛びつつ移動して。
森の端まで移動している百合香。
そして、数十メートル以上はあろうかという、木の頂上から。
ふわりと。
まるで身を躍らせるようにと地面にと降り立っている百合香だが。
まるで背中に羽が生えているかのごとくに軽やかに。
「さってと。急ぎますか♡」
すちゃり。
鞄の中から、今度は眼鏡を取り出して顔にとかける。
眼鏡を掛けて、髪を結んだだけだというのに。
・・・この女の子が、まさか、百合香本人だとは。
見た目からもまったくといっていいほどに分からないほどの、代わりよう。

「いたか!?」
「いや!」
「ああああ!また撒かれたか!?」

くすくすくす。
道でわめいている数名の記者たちの横を何ごともなくすり抜ける。
彼らもまさか、今すれ違った、どこかの学生が。
まさか、百合香本人だとは。
まったくといっていほどに気付いてもいないのであった。


そのまま、しばらく進むと。
やがて、待ち合わせの巨大な時計台が目に飛び込んでくる。
「あ、来たきた!由香!ここここ!」
ぶんぶんと手を振る、
黒い髪をおかっぱより短めにしている女の子。
「やっほー!由香、ここここよ!」
そういって、両手を振っているのは。
淡い茶色い髪をしている女の子。
「あ、ごめん、洋子、悦子、待った?」
そんな二人に手を振って答えている由香子。
「そうでもないわよ?まだ待ち合わせの時間の十分より前だし。」
「ちょっと早くきて、プロダクションの近くをうろうろしてたのよ。私達。」
「そ・・そう。」
・・・見つからなくてよかった。
その言葉に内心ホットする由香子。
みつあみを二つに束ねた少女、由香子をまっていたのは。
黒い髪をおかっぱより短めにしている女の子。
彼女の名前を姫野洋子。
そして、もう一人は。
淡い茶色い髪を肩より少し伸ばしている少女。
彼女の名前は木野悦子。
この悦子と洋子。
彼女 ― 由香子のクラスメートである。
「とりあえず、来週の旅行の買い物、早くすませよ!」
「後から、どこかによって遊ぼうよ!」
「了解!」
学生らしく。
この、来週にある、連休で。
彼女達三人だけで旅行をすることが決まっている彼女達。
その旅行の買い物をするために。
こうして今日は。
待ち合わせて、いろいろと買い物をする。
というので外で待ち合わせて現地集合。
という形を、百合香、洋子、悦子達三人は取ったのである。
まあ、由香子としては、その方がかなり都合がよかったが。
何しろ、待ち合わせ場所は。
自らが所属している事務所の近くであったからして。
まあ、悦子と洋子が、もしかすると、姿が見れるかも♡
という淡い期待を込めて、百合香の事務所の近くに、待ち合わせ場所を指定したのだが。
結局、【アイドル歌手・星空百合香】には会えることなく。
しかたなく、早めに待ち合わせ場所にたどり着き。
由香が来るのをまっていたこの二人。
「とりあえず、寝間着とか新しいの買うわよ、私は。」
「私は、来て行く服!」
「必要なものだけ買うわ。私は。」
そう和気藹々と話しつつ。
三人は合流し。
町の中を練り歩きはじめてゆくのであった。



女の子と同士の買い物は。
時間がかかるものという観念のそのままに。
きゃいきゃいと。
騒ぎつつ、和やかに時間は過ぎてゆく。



「うーん、買いすぎた?」
どさり。
両手に持ちきれないくらいに紙袋を持っている洋子。
「とりあえず、いらないものはまとめて、軽くしたほうがよくない?」
無造作にある紙袋の数。
そういって、大きめの袋を百円で購入し。
その中に持ちきれないほどあった、袋の中身を移動させてゆく悦子。
「何だったら、この圧縮袋使う?」
そういって、由香が取り出したのは。
少し高いが、重宝する、携帯式の圧縮袋。
その原理は未だに一般企業でも解明されてないが。
何しろ、その袋の中に入れれば。
靴であろうが、何であろうが真空状態に圧縮し。
大きさをかなり小さくし。
逆に、袋を開いて空気を入れたら元の姿に、何の不都合もなく戻るという代物。
その製品を作っている会社の本部は。
蓬莱の町と言われているその場所に位置していることを。
今では、世間に疎いといわれている人々の耳にも入るほど。
「ちょっと!由香!それ、かなり高いのに!何、そんなに十数枚ももってるのよ!?」
ごそごそと鞄から取り出した由香子の手にしているそれをみて。
思わず叫んでいる洋子。
彼女が知る限り。
この袋は、確か。
五枚セットで軽く数万台を突破する。
それが分かっているからなおさらに。
「便利だから、活用してるのよv」  
そうきっぱり言い切る由香子に。
「・・・よくお金があったわねぇ。」
しみじみ感心の声を漏らしている悦子。
「だって、使うようなことないし。」
あっさりという由香子の言葉に。
「そーいえば、由香子って、いつも休日でもどこかに遊びにいくとか。してないとかいってたわよね。」
「そんなのもったいないわよ!青春は一度しかないのよ!」
「・・えっえっえっ?」
ぐい。
そう二人同時に叫び。
そのまま、ぐいぐいと由香子の手を引っ張り。
「今日は、由香に若い子の楽しみを教えてみよう!」
「ラジャー!」
ずるずるずる。
「ちょ・・ちよっとぉぉぉぉ!?」
二人に両脇から、腕を掴まれて。
ずるずるひこずられて行く由香子の姿。

圧縮袋に品物などは詰めたので。
前ほど、かさばるほどに荷物もなく。
数個の袋にまとまった荷物をもって。
悦子と洋子は。
あまり遊んでいそうにない、由香子をつれて。
問答無用で、とある場所にと引っ張ってゆく。


「はい。三名さまですね?時間はどうされますか?」
カウンターにいる女性が三人にと聞いてくる。
「ええと。二時間でお願いします。」
こそ。
がし。
カウンターの女性と話している洋子をそのままに。
こっそりとその場から逃げようとしている由香子。
「だぁめv由香、ここまで来たんだからvカラオケくらいつきあいなさいv」
「そうそうvカラオケも結構楽しいのよv」
そんな逃げようとする由香の服を掴み。
にっこりと同時に笑う洋子と悦子。
二人が由香子を引っ張ってきたのは。
とあるカラオケボックス。
大声を気兼ねなく出せたりするのは、ストレス解消にもなる。
というので、年配層から、若年層まで、その指示の幅が広い、一般的な遊びではある。
「いや・・その・・・ああぁぁぁぁぁ!」
「はい。では、お部屋は、712号室です。」
「ご案内させていただきます。」
逃げようとする由香をしっかりと捕まえて。
手続きを済ませて。
部屋を取っている洋子たち。
そんな彼女達に、従業員の一人が。
部屋に案内するために、片手にバスケットをもち。
彼女達を部屋にと案内するために、彼女達の前を歩き始める。
「ほらほら、由香はもしかして、カラオケも初めて?」
「大丈夫だってv由香、声、綺麗だし♡」
そ・・・・そういうもんだいじゃないのよぉぉ!
ずるずるずる・・・・。
由香の心の叫びもむなしく。
二人にひこずられ。


― バタン。


唖然・・・・。
なし崩し的に、カラオケルームにと由香子は足を踏み入れていた。

・・・と・・とりあえず。
歌さえ歌わなければ・・・ばれないわよね?(汗)
かなり、内心冷や汗を流している由香子だが。
「あ、ここ、全国採点がある!」
「じゃ、採点やろ!採点!」
「当然!」
そんなことを思っている由香子とは対照的に。
ケーブルを利用した、全国的な歌の採点システムが、ここには備わっているのを見つけて。
その採点システムを起動させている二人の姿。



「ほら、由香も何か歌いなさいよ!」
「わ・・私はいいわよ。それより、洋子たちが歌って?ね?」
由香子に勧める洋子の言葉に。
手を前にだして、やんわれと断っている由香子。
「そういうけどさ。二人で交互って疲れるのよ。はい。由香v勝手に入れといたからv」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ええええええええ!?」
にっこり笑って。
洋子がマイクを由香に手渡す。
・・・・呆然。
・・・・どうしよ?
困惑する由香子を前に。


横では、かなり乗りまくり。
歌を歌っている洋子たち。

「あ、次、由香の番よ。」
そういわれて。
「・・・いったい、何をいれ・・・・・・・・。」
・・・・・ぴしり。
そのまま、由香はしばらくその場にと固まっていたりする。

チャラン、チャラルラリンルラ♪
彼女の耳に聞こえてきたのは、聞き覚えのある旋律。

「歌はもちろん!星空百合香の『漣の追憶(セレナーデ)!』」
そういえば。
二人が歌っていたのは、殆ど百合香の曲ばかりのようだった気が・・。
そんなことをふと思う由香子だが。

モニターから流れてくる旋律と前奏。
やがて、前奏が終わり。
前ぶりの辺りにと曲が差し掛かる。
スチャ。
その瞬間。
マイクをしっかりと握らしめ。
「彼方より続く永遠の柱 蒼き空に果てに夢見る追憶の彼方・・。」

条件反射とはよくいったもの。
ついつい。
マイクを握らされ。
しかも、聞こえてくる曲は。
当然のことながら、由香子・・・いや、百合香の持ち歌の一つ。
しかも、この歌も。作詞、作曲は全て由香子が作っているもの。

「彼方の果てに夢に見る夢の端々、虹色の記憶の片隅に 欠片の端に残るものはそれはセピアの追憶・・。」

・・・・・・・ぽかん。
その透き通るような声。
それは、まるで、百合香本人が歌うような不思議な旋律。
心に浸透してくるようなじんと何かが来る声。
思わずその歌声に聞きほれる。
しかも。
まったくモニター画面を見ないで、由香子は歌っているのだ。


思わずしぃんとして、聞きほれる中。
やがて。
最後の節も終わり。
最後の伴奏が鳴り響く。


・・・・シィィン。
・・・・・・・・・はっ!しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!
思わず、ついつい歌っちゃったぁぁぁぁぁ!
思わず内心絶叫を上げる由香子。
見れば。
その歌声に惹きつけられて。
いつのまにか、部屋の入り口に人だかりが出来ていたりする。

しばし、その歌声の余韻に浸っている由香子以外の人々であるが。


・・・・ダダダダダ。
曲が終わり、採点の画面にと切り替わる音がする。
そして。
『パンパカパァァン!』
盛大なトランペットの音が、画面より鳴り響き。

・・・・画面に表示されているその記録は。
全てにおいて、満点を獲得している由香子であった。


本人なのだから当然といえば当然なのだが・・。


『す・・・・・すっごぉぉぉぉぃ!由香!まるで百合香そっくりぃぃぃぃ!』
思わず、はっとその音に我に戻り。
二人同時に叫んでいる洋子と悦子。
「あ・・・あはは。ありがと。」
ジリリリリ!
そんな会話をしていると。
彼女達の部屋の電話が鳴り響く。
「はい。」
その電話に出ると。
『今、そちらで満点が出たようですけど。
   その件で、とあるプロダクションからお電話が入ってますが。いかがいたしますか?』
受付よりそんな電話がかかってくる。
「・・だって。」
受話器を片手で押さえつけ。
由香に言っている悦子。
ぶんぶんと首を横にふる由香。
「そんな大事じゃないからいい!」
冗談じゃない。
こんなことで正体がバレでもしたら、面倒だし。
などと思っている由香子なのだが。
「ええと。本人、その気がないようですので。」
とりあえず、そんな由香の代わりに答えると。
『分かりました。でも一応、登録はされるようですから。』
それだけいって電話はキレる。
この、全国的な採点システム。
実は、実力のあるダイヤの原石を見つけ出すためのものともいえる物。
各プロダクションなどの共同開発によって。
これは採点システムが組まれているのである。
つまり。
この採点で、満点、もしくは、高得点を獲得した人には。
それなりのところから、スカウトの電話が入ってくる仕組みとなっているのだ。
「・・・ほう。」
電話が切れたのに、ほっと軽く胸をなでおろす。
「ずるいわよ!由香!どうしてそんなに上手なのに!今まで黙ってたのよ!」
そんな由香に詰め寄る洋子に。
「・・・・・というか、今の強弱とか、歌から受ける印象とか。百合香本人のものそれだったけど・・・。」
・・・・ぎくっ!
「あ・・・・あはは。偶然って怖いわねぇ♡」
そういって話しをはぐらかしている由香。
入り口の当たりに集まってきていた人々は。
中にいる女の子三人をみて。
歌というか声が。
完全に『百合香』そのものだったので。
もしかして?
という、ありえない期待をもって、窓から中を覗いていたのだが。
中にいるのは、学生風の女の子が三人のみ。
「・・あ、私、ちょっと。」
そういって席を立ち。
パタン。
部屋の中に設置されているとある個室にと入ってゆく。
「うーん、由香、あんなに歌・・上手だったんだ・・。」
「というか・・・私、今由香が歌っている姿。 百合香ちゃんが歌っている姿と姿がだぶったけど?」
「あ、私も。」
そんな会話をしている洋子と悦子であった。

「・・・・ついつい、やっちゃった・・・・・。」
そういって、軽く舌をぺろりと出す。
「・・・・気をつけましょ。」
その独特な歌声から、いつ本人と気付かれるか分からない。
いや、別に気づかれても問題はないとは思うのだが。
やはり、学園や町に迷惑がかかりかねない。
― 下手をすると。
それだけでない由香子の正体まで探り出されかねない。
カチャリ。
そう、鏡の前で、眼鏡を外し。
ぱらりと。
みつあみにしている髪を解く。
鏡の中には。
そこには、アイドル、星空百合香。
その本人が映りこんでいた。

とりあえず、髪をときなおし。
きっちりと元通りにみつあみして。
度の入っていない眼鏡を掛けて。
個室から出てゆく由香。
「あ、私、友達同士だし。アニメメドレー挑戦してみたい!」
とりあえず。
また、自分の持ち歌を歌わされては。
今度はばれかねないので。
一番無難な選択をしている由香子であった。


和気藹々と。
二時間。
カラオケを楽しむ由香子達三人の姿が。
そのカラオケボックスで見受けられてゆくのであった。



                                     -続くー

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  あとがきもどき:
       薫:・・・ちなみに、私の最高点数は・・・。
         カラオケのあの表示・・。
         68点でした(爆!)
         友達同士でやりません?アニメの歌・・(笑)
         いやぁ、あの画面とかが笑えるのが多くて・・・(爆!)
         ここ、一年以上・・いってないなぁ・・カラオケ・・・ふっ・・・・。


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