まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

中国、韓国の人々の名前、読み方があるのでタグさんやってますけどさ。
面倒!の一言につきます(汗
面倒なのでそのうちにカタカナトウイツするかも、です。
諸外国さんの名前さんは……
今回は、かぁぁぁぁぁぁぁなり初期にでてきた棋士もどきさんと、あとは伊角さんの新初段戦。
その二点ガメイン、ですv
何はともあれゆくのですv

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「若先生、どうしてる?何か最近あまりみないな」
十二月にはいり、最近あまり顔をみなくなったがゆえのといかけ。
「今日は中国語教室の帰りによるっていってたわよ?」
「中国語~?」
「中国語だけじゃないわ。韓国碁もやってるのよ。あら、噂をすれば…」
「え?」
それと同時にお店にはいってくるアキラの姿。
「いらっしゃい。明君。今、コーヒーいれるわね」
「ありがとう。市川さん」
忙しい中、こうして常に顔をだすのはアキラの優しさともいえるであろう。
「若先生。中国語をならってるんですって?」
「あはは。はじめたばかりで頭が混乱して大変ですよ」
そんな質問ににこやかに返すアキラであるが、
「いやぁ。さすがだ。たいしたもんだ」
「今度の日中韓Jr団体戦のためですか?」
「いえ。後々必要になるとおもって。北斗杯は五月でしょ?まだ使いものになってませんよ」
ある程度は認識はできているではあろうが。
やるからには完璧を。
それがアキラの性格。
「北斗杯、といえば残り二名は予選で決定ですかね?」
「らしい、ですね。僕としては是非進藤と一緒にしたいんですけど……」
彼と一緒ならばきっととても楽しくなるとおもうから。
「そういえば、今週の木曜。。進藤君、七段相手の手合いがあるな。お手並み拝見だな」
「けっ。お手並みも何も。一柳棋聖にもかった若先生とは比べ物にならんさ!」
「北島さんはアキラくんビイキがすぎるわね」
「ふんっ!」
くすくす。
そんなやり取りがどこか心地よい。
「だけど、進藤のやつ、中国の王星ワンシンにネットで勝ってますしね……
  その彼のことすら進藤のやつ知らなくて。説明するのに疲れましたけど……」
和谷にきいても教えてもらえなかったのでヒカルがアキラに聞いて。
そのときちょうどお茶をふくんでいたアキラがむせかえったのは…いうまでもない。
「今後は彼には海外のこともおしえとかないと……」
そうぶつぶつつぶやくアキラの言葉をききながら。
「…進藤君、あいかわらず無知差ぶりは…健在なのね……」
おもわずあきれてつぶやく市川。
…どうやら、ヒカルの無知具合ぶりは、昔も今も形をかえて健在、らしい……

星の道しるべ   ~再戦と…~

十二月九日。
木曜日。
「…おまえ、まじめだなぁ~」
「君もやる?」
「あ~。パス」
五月に決定した北斗杯にむけてアキラは中国語、韓国語を習い始めた。
「というか。お前受験勉強は?」
「まあ、そこそこ。君は?」
「う~ん。なかなか英語がのびなくてさ~。あ~あ。理数系とかなら文句なしに楽なのにっ!」
「というか、他は百点なのに英語だけ八十点代だよね。君っていつも」
全国実力テストの模擬結果。
どんな中学であれ全国的な結果はあらわれる。
中には順位公表がやれ差別だ何だ、という大人もいるが子供からすれば、
自分がいまどの位置にいるのかわかって受験生にとってはありがたい。
「そういうお前はほぼ九十点代か~」
どうでもいいが、木曜日の手合いの間にはいるまえの休憩室で交わす会話ではない。
絶対に。
「やあ。進藤君。塔矢君。おはよう」
そんな二人に声をかけてくる人物が一人。
「あ、白川先生。おはようございます」
「あ、白川さん。どうも」
ふとみれば、ヒカルもアキラもよくしる人物が一人。
「模擬テスト?」
「え。あ。はい」
「アハハ。なるほど。…でも周りの人、ひいてるから気をつけようね」
そもそも木曜日の手合いの前に、碁に管けいない会話をしているのはこの二人くらいなものであろう。
「そういえば。進藤君。今日は高段者との対局、始めてだったよね?」
白川の言葉に一瞬のうちにヒカルの表情が一変する。
「…あいつには、まけませんっ!」
ぞくっ。
その刹那、ヒカルから何ともいえない威圧感のようなものが発せられ、
周囲の空気が一瞬のうちにと凍りつく。
その場にいた誰もが鳥肌をたてるような、それでいて息苦しくなるような、そんな空気。
いてはいけない場所にはいりこんでしまったかのごとくの…圧迫感。
四段以下と戦い一次予選を勝ち抜いた二次予選。
その、ヒカルの初の対局相手がよもや……
「……虎次郎を汚したあいつだけは…ゆるせない…」
あのとき以上に。
「…そういえば、そんなことがあった、らしいね……」
アキラは父、行洋がそのときの大会運営者から何があったのか聞かされたらしく一応把握はしている。
「塔矢君?」
ヒカルのこの代わり用にごくりと唾をのみこみつつも、理由をしっているらしきアキラにとといかける。
「進藤の相手の……」
ヒカルにかわり、アキラは理由を白川にと説明を開始する。
そう。
まけられない。
まけられないんだ。
こいつ、だけには絶対に…!

「そう、楽しみにしていた初戦の相手が…あんただったなんて、な」
「!?」
目の前にあらわれた進藤とかいう新初段の顔をみて驚愕する。
「御器曽七段…七段、とはおもわなかったぜ」
いいつつも、きっと相手をにらみつけるヒカルの姿を驚愕しながらも眺め、
「お、お前、三年前の…!プロになってたのか!?」
驚愕するよりほかにない。
まさか、あの子供がプロになっていた…なんて……
だがしかし。
「ふ…ふん。あのときはつい不様にまけちまったが。アレはお前をただのガキとおもってなめてかかったからだ。
 オレの実力だとおもわないほうがいいぜ?進藤初段」
実力があるならばもう二段に昇格していてもおかしくない。
つまり目の前の子どもは実力はあまりない、ということ。
彼は知らない。
ヒカルが入院して昇段点を逃している、ということを。
しかも囲碁新聞や碁のことがかかれた雑誌類などをみて勉強したりもしない。
ゆえにこそヒカルのことを全然知らない。
「七段だって強いとはかぎらねぇ。どんなに力がおちたって。どんなにまけてばかりだって。
  段位はさがったりしないからな」
ぎりっ。
「口を慎め!目上を敬う気持ちがないのか!?キサマ」
たしかに最近負け続け。
それでも子供にいわれたくはない。
「アンタを敬え、だって!?冗談じゃない!あんなことをしておいてっ!」
ぞわっ。
ヒカルの声と同時に対局場の空気そのものが一瞬のうちにまたまた下がる。
いくら十二月、とはいえ全員が服を着たまま鳥肌がたつ…など普通は…ありえない。
「フフン。秀策の偽の字はよくみやぶったな」
その言葉にさらに驚愕し目を見開く。
「まさか…今でも、おなじことを……」
「さぁてね」
その口調はからかっているのか、それともまだやっているのか・・・
「……あんたにだけは、まけねぇ!!」
ぎゅっと手にした扇を握りしめる。
「黙れ!ガキ。えらそうに。喧嘩うるなら盤上でうれ。買うぜ」
び~。
それと同時、開始の合図が洗心の間にと響き渡ってゆく。


「室長。わが社主催のこの北斗杯、ですけど。上場記念の大事な企画、なんでしょう?
  囲碁ってじみだしみんな興味もってくれるかしら?」
たしかに、囲碁のイメージは一般的にそんなもの。
「まず囲碁ファンしか関心を持たない、だろうね。個人戦、ならば。だから団体戦にしたんだよ。
  日本対中国、日本対韓国となれば一般の人血も少しは注目するだろう?」
北斗通信システムのとある部屋。
そこにてそんな会話がなされていたりする。
「なるほど!そうですよね!国対九にってオリンピックみたいで燃えますもんね!
  日本、チャチャチャって!」
何だかきゃいきゃいとはしゃぐ部下にたいし、
「日本が勝つ必要はないんだよ。いや、むしろ勝たないほうがいいくらいかな。
  アジアの進出を考えるわが社に大事なのはまずアジアとのコネクションを強化すること。
  囲碁は日本ではマイナーだがしかし、中国、韓国ではメジャーな人気競技。
  囲碁の国際棋戦は一般のメディアでも大きくとりあつかわれる。スポンサーになったのはそういうわけだ」
そう、勝敗などはどうでもいい。
ようはアジア各国に会社の名前を印象づけること。
それにつきる。
ただ、それだけ。
「悪いが。囲碁にも勝敗にも興味はないよ。社長も。実行委員の私もね」
「・・・あらまぁ……」
何とも覚めたいいようである。
それゆえに何か釈然としないものを感じるのは仕方がない。
「さて。時間だ。いくとするか」
今日は、開催予定のホテルと打ち合わせの日。

「大盤解説の会場はモニター三台。椅子二百台設置。北斗杯参加チームの各控え室には……
  はい。こちらでおこのみのものをご用意いたします」
すでに計画はに詰まっているのでホテル側と最終確認。
ホテルとしてもいくら五月の連休、だとてこのあたりには人があつまるような名所はない。
ゆえにありがたい申し出、ではある。
「そして、中国、韓国チーム。選手及び関係者の宿泊される部屋のご希望は……」
「静かな部屋をお願いします。エレベーターの付近などは避けてください」
ホテルのロビーにおいての話しあい。
ホテルからしても大量の客がみこめる、こともあり全面協力である。
「選手たちは物見遊山にくるわけではありませんから」
観客は違うであろうが。
「承知しました」
「それから、大会前日のレセプションですが……」
いいつつも細かいことをつめてゆくことしばし。
「では、よろしくお願いします」
「また、何か変更などがございましたら……」
いって最後の挨拶を交わす。
「かかわってくると熱く燃えてまきせんか~?日本チームがんばってほしいですよね!」
そんなホテルの実行委員というか今回の大会の責任者ににこやかに話しかける。
「いいえ。私共は日・中・韓。すべての皆様への心配りが仕事。特定チームの応援はいたしません」
まあ、仕事なのだから当たり前。
「あら」
そういわれてさらに多少さみしい思いになってしまう。
仕事、というのをどうやらこの女性はよくわかってないのかも、しれない……
「あ~!もう!室長といい、今の人といいつまんないんだから!」
それは本音。
ホテルからの帰り道、おもわずぼやく。
「でも、私は日本チームを応援しますよ!塔矢明君を!」
そうはいっても彼女は父親のことすらしらない。
つまりは、完全なミーハー気分での応援、である。
「ほぉ。君が棋士の名前をしっているとは以外だね」
ものすごく以外すぎる。
「昨日、警備員のおじさんたちが話していたんですよ。塔矢明はやってくれるぞ~って。
  写真みせてもらったらものすごくかわいくてかっこいい子だったし!
  でも塔矢君のほかに中国や韓国に勝てそうな子はよくわからない、って。
  あと、一人ほど進藤ヒカルってこにも期待したい!っていってましたけど。
  その子ってまだ初段なんですって。何だかな~。やっぱりリーグ入りしてるということと、
  塔矢明君だけなのかな?団体戦だから強い子が一人いるだけじゃどうしようもないんですよねぇ」
やはり、初段、三段、とくればおのずと段位でひとは差別する、というもの。
棋士の昇段の仕組みをしらなければなおさらに。
「もう一人、いるよ」
めずらしい室長の言葉。
「え?!本当ですか!?それなら日本も!」
その言葉にぱっと眼を輝かす。
が。
「と、いっても周りが期待している、というだけでその子のプロでの実績はゼロだ」
「は?ゼロ?え?どういう子なんです?」
期待されているのに実績がないなんてどういうことか彼女にはわからない。
「関西棋院でプロになった子だ。まだプロとしてスタートを切ってない」
「へ~。室長、お詳しいんですね」
というか、関西棋院、何それ?
である。
彼女の感覚からすれば。
彼女は楽しみにしている、といっているわりにまったく囲碁界のことを知らない。
ただ、自分が勤める会社が国際競技に参加する。
そのことで舞い上がっているのにすぎないのだから。
「関西棋院の人が、この前電話でいっていたんだ。こちらは別に知りたくもないがね」
棋院関係者とも大会を行うにあたりいろいろと話しあうことがある。
その中で相手側がいってきたにすぎない。
「室長!もう、ほんっとにそっけないんだから」
おもわずその言葉にぷ~とむくれてしまう。
「君も日本びいきで熱くならないように。大会当日もいろいろとあるんだから」
「は~い」
そういわれても、楽しみなものはたのしみ、なのである。
そんな会話をしつつも、彼らは会社へと戻ってゆく……


「…く……」
「中央の薄みを補わずに地に走ったのがあんたの敗因」
圧倒的なまでの力の差を感じたがゆえに地を確実にとろうとした。
その結果が…これ。
「ふ…ふふ…若いやつにふみつけられてゆくのは慣れっこだが……
  ……初段にここまでやられるとは……オレもおちたもんだぜ……」
しかもあまり強くないであろう相手に、である。
強いのならばもう二段にのぼっていなければおかしいのだから。
気付けばどこに打っても圧倒的に黒が有利の局面。
白にいきる道はない。
「これまで……だな……」
負けました。
とはいいたくない。
あのときのあの大会のときの一局が脳裏をかすめる。
あの時、三年前に自分の邪魔をしまくってくれた子供は今、プロとして目の前にいる。
あれからケチの付けはじめだった。
碁盤屋で偽物取引でもうけていたのに、あれいご、あの碁盤屋は大会などの取引がなくなり…
自分は自分で株で失敗続き。
何をやってもうまくいかない。
すべては、あのとき、から……
あのときは、自分が子供だからあなどった。
そう、おもっていた。
いや、思いたかった。
だが…今感じたのは、何よりも相手の威圧感にのまれたのもあるにはあるが……
若いくせにじっくりと腰のすわった碁。
さらには圧倒的なまでの棋力。
自分との力、器の差を、違いをさまざまと見せつけられた。
そんなヒカルたちの背後においては、
「まけました」
「ありがとうございました」
対局がおわり、挨拶をかわしているアキラの姿。
ふとみれば、うつむく御器曽の姿が目にはいる。
「…秀策に、詳しいようだな。秀策の棋譜をよくならべたりするのか?」
消え入りそうにといかける。
「ああ。毎日、ね。アンタはもうずっと碁の勉強なんかしたことないだろ。
  二度と、あんなことしたら…今度は俺も本当にだまっていない」
つまりそれは公的手段に訴えても構わない。
と言外にいっているのとおなじ。
そうなれば彼に勝ち目は…ない。
「ふんっ!」
がしゃ。
そのまま碁笥をおいてその場を立ち去る御器曽の姿。
「進藤。おわったのか?」
「ああ」
声をかけてはみるがいまだにヒカルの表情は険しい。
「…どうでもいいけど。君。まだ顔がこわいよ?」
「え?あ?そう?何かか~ときてさ~」
「…気持ちはわかるけど……」
御器曽がでていったことにより、先心の間にただよっていた張り詰めたような空気は無産する。
すべてはヒカルの怒りよりその霊力に反応して空気自体が痛くなっていたのだが。
アキラは以前、あのカレが何をしでかしたのか、きかされているがゆえに気持ちはわからなくはない。
それでなくてもヒカルは本因坊秀策にはかなりのこだわりをもっていることを知っていればなおさらに。
その理由まではまだアキラは知らないが。
「気持ちを落ち着けるのに一局うたないか?」
「そうだな~」
そんな会話をしつつ二人して対局表にと勝敗をつけて先心の間をあとにしてゆくヒカルとアキラ。
…どうでもいいが、他の対局者たちはまだ対局中、である……

一月。
「…金子さん。今日も三谷君の勉強みてる」
ヒカルのクラスをのぞいてふとおもう。
一流高校に推薦で合格がきまってるんだよね。
金子さんって。
すごいなぁ、それにくらべて私は…
何だかたしょういじけてしまいそうになってしまう。
「ん?あら、藤崎さん。進藤をさがしにきたの?」
ふと教室の外にいるアキリに気づいて声をかけてくる金子の姿。
「え?あ、その!」
おもわずあわてていいわけを探すが、絶対に見透かされているとおもう。
「進藤。お休みよ。今日」
「え?休み?今日も?この間もやすんだよね?」
というか学校にくるときまでは一緒だったような気もするのだが。
そういえば制服でなくて私服だったことを思い出す。
「うん。…はい。メモにつけたとこやり直し。休むことが多くなってるよ。あいつ。
  何とか棋戦とかの手合いが詰まってきてるんだって」
すべての棋戦などにおいて二次予選以上に絡んでくればなおさらに。
「まあ、あいつもいろいろとあるんでしょ」
それはわかるが、別に学校にくる道すがらそんな会話はまったくしていない。
まあ、アカリもこのご時世なのでヒカルが心配してついてきてくれている。
ということくらいは薄々わかってはいる。
いるが何だかくすぐったくもあり、そしてまたヒカルとの時間が少しでもあるのがうれしい。
「ヒカルも海王の推薦、うけたもんね」
はじめは試験を受ける、とアキラと互いにいっていたヒカルであるが…
手合い日がどうしても試験の日に都合がつきそうにない。
ゆえに推薦を受けることにした、とアカリはきかされている。
「…みんな。バラバラになっちゃうのか~……」
アカリとしてもヒカルとおなじ高校にいく!
といいたいが、海王高校は有名な進学校。
アカリの成績では無理、と担任にきっぱりいわれればあきらめるしかない。
これ、といっていきたい場所。
やりたいモノがまだアカリはヒカルのようにみつけていない。
それでも何か囲碁関係の仕事につきたいな。
とおもうのは少しでもヒカルとつながりを持っているとおもいたいがゆえ。
「進藤の家は隣なんでしょ?藤崎さん大丈夫よ。きっと時々はあえるから」
「べ、別に私は!」
まさか、夜、おしかけてます。
とは雰囲気的にいいにくい。
と。
「朱里~!急がないと塾におくれちゃうわよ~!」
「あ、ごめんごめん!」
同じ塾に通う女生徒がそんなアカリにと声をかけてくる。
「お~い、金子…できたぞ~……」
「ハイハイ」
そんな会話をしている最中、金子が用意していた問題を三谷が書き込みぐったりとしつつもいってくる。
すべてはかわってゆく。
川の流れのように、ゆっくりと。
一人残されていた小池の囲碁部も二人入部して今は三人。
加賀の一声で将棋部だった岡村と矢部という人物がそちらから移籍してきたのは、夏も終わりのころ。
アカリたち三年生はただいま受験シーズンまっただ中。
それゆえにアカリもまた、入試のための塾通いの毎日、である。

「よし。時間だ。ここまでにしよう。公立の入試までまだ一か月はある。大丈夫!
  さあ、みんな一斉にファイト!」
塾がおわり、いつものことながらかなり疲れる。
「バイバイ」
「さよなら」
すでに外は薄暗い。
このご時世ということもありほとんどの親などが迎えにきているのでそちらに子供たちはむかってゆく。
「う~」
「腹へった~」
そんな会話もきこえてくる。
一月、ということで夜の空気は肌寒い。
ひのき真学塾。
そのまま塾の講座がおわり外にとでる。
「あと一か月、がんばろうね!」
「も、なきそ~だよ~。頭に何もはいんない~」
おもわず泣きごとをいってしまうのは仕方ないであろう。
「あ。おい。アカリ!」
「あ。私はお邪魔だね~。じゃ、また明日。朱里」
ふとその声の主に目をやりにこっとほほ笑み駅のほうへとむかってゆく同級生。
「あ、ちょっと!」
みれば塾の前でのんびりと壁にもたれかかっている男の子が一人。
「…って、ヒカル。今日も迎えにきてくれたの?」
「ん?あ。と、ほら。トイレの電球がきれちゃってさ~。買い物がてらによっただけ!ほら、かえるぞ!」
そうはいうが電球ならば家の近くのコンビニでも十分間に合う。
ポスっ。
いってアカリにマフラーをかぶせてそのままスタスタと歩き出す。
アカリが塾に通い始めてから遅くなる日は必ず欠かさずヒカルはアカリを迎えにきている。
そう。
いつもいつも用事があるはずないじゃない。
そうおもうが、それはきっとヒカルの優しさの表れなのだ。
とアカリも理解しているのでつっこまない。
「そういえば、ヒカル。今日の塾でさ~」
「またかよ~。お前、数学、うとすぎ」
「ヒカルがすごすぎるの!」
そもそも大学レベルの問題でもすらすら解けるヒカルのほうがどうかしている。
帰り道、ヒカルのわからないところを聞きながら帰路につくのがアカリの日華ともなっている。
このご時世、女の子の一人歩きというか子供の一人歩きはかなり不安。
かといって藤崎朱里の母は車の免許をもっていない。
ゆえにヒカルがかわりにアカリを毎日のように迎えにいっているのだが。
何もしないで後悔なんてもう、二度としたく、ないから。
「お前、そんなんだから第一志望、ギリギリだっていわれるんだぞ?
  昔から数学とかお前いつも俺のをうつしてたし……」
「もう!それいわないでよ~!」
「あ。そういえばさ。この金曜日。伊角さんの新初段シリーズがあるんだぜ?相手は桑原のじ~ちゃんと」
「イスミ?ああ、ヒカルの前にずっと院生とかいうところの一位だったっていう人の?」
「うん。それでさ~。今年はなかなか次期がきまんなかったらしくてさ~」
よかった、とおもう。
ヒカルがふっきれて元気になってる、と。
何があったのかはわからないが、七月、八月ごろのヒカルはみていられなかった。
だけども今はだいぶ落ち着いている。
たわいのない会話がこれほどまでにうれしく感じるのは相手がヒカル、だからであろう。
そんなたわいのない会話をしつつも二人して帰路にヒカルとアカリはついてゆく……


新初段シリーズのトップバッターが一月、というのも珍しい。
最近は一番手が年明け前に連続してあったがゆえになおさらに。
「はい!お二人とも!そのへんでおねがいします!」
かしゃ、カシャ。
「う、うわっ」
カメラを向けられ緊張してしまう。
「どうした?カタクなっておるようじゃの」
そんな伊角に横からひょうひょうとした声をかけているのは現代の本因坊タイトル所持者、
桑原本因坊、である。
「新初段シリーズのトップバッターだからって緊張しないで。伊角くん、リラックス、リラックス!」
そういわれても緊張してしまうのは仕方がない。
そもそも伊角は目立ちたいタイプではない。
ゆえに余計に。
「カメラが苦手、かの?今どきの若いもんにしてはめずらしいの~」
カシャ。
緊張しまくる初々しい新人にとそんなことをいってくる。
「まあ、しかし多少緊張したところで君にかかればワシなんぞひとひねりじゃろうて。
  何しろプロ試験を全勝で合格した才能あふれる棋士じゃからのぉ」
「そ、そそそんなっ!」
伊角からすれば桑原などは雲の上の棋士、である。
ゆえに緊張するな、というほうがどうかしている。
…緊張しないヒカルが特別、なのである。
うわ~。
桑原先生、もうプレッシャ~かけてるよ。
そんな光景をみつつおもわず内心つっこむ出版部の古瀬村。
「細いようにみえていいからだしとるの。何かスポーツでもやっておるのか?」
「い、いえっ!」
「いきんの。棋士には体力も必要じゃよ。ワシのゴルフにつきあってキャディをやれ。鍛えられるぞ」
「は、はいっ!え!?あ、いえっ!」
何をいわれているのかすら緊張してよく聞き取れない。
ついつい返事をしてあわてて訂正をいれる伊角。
そんな二人をみつつも、
あ~あ…完全に桑原ペース…だ。
古瀬村とて桑原の性格は知っているつもりである。
彼はこのような心理戦をももってくる。
それは慣れていない新人棋士にとってはかなりのプレッシャーになるであろう。

市々谷駅前。
地下横断歩道をとおり、反対側へ。
「伊角さんの新初段戦は桑原のじ~ちゃんが相手か。たのしみだな。和谷達、もうきてるかな?」
そんなことをおもいつつも棋院にむかってあるいてゆく。
と。
「…あれは…お~い。進藤君」
ふと名前を呼ばれてふりむくと、そこには見覚えのある人物が一人。
「君も伊角の対局をみにきたのか?」
そう声をかけてくる人物は……
「あ、門脇さん」
「へぇ。オレの名前をしってるなんてうれしいねぇ。そうか、週刊碁でみたのか」
「はい。プロ試験合格者の顔写真みたときには驚きました。
  俺が院生のとき通り過がりで一度うったあの人だ。って……」
さくっと佐為はあのとき片づけたが。
「…覚えていてくれたとは光栄、だね」
それだけでも救われる、というもの。
彼にとってヒカルは転機、だった。
そう、いろいろな意味で。
だからこそ覚えていてくれたことに救われた思いがしてしまう。
「本当はオレ、君とおなじ年にプロ試験をうけるつもりでいたんだぜ?」
「え?」
いきなりそんなことをいわれてきょとん、とした声をだす。
「あのときは、その肩慣らしのつもりで君に声をかけて一局うってもらったんだ」
完全に勝てる。
ただの肩慣らし、すこし遊ぶつもりで。
「ところが…だ。院生の君にコテンパン。自分の甘さに気がついて、一年。のばしたんだぜ?
  今のままじゃ、だめだ。…ってね。合格する自信はあっても君のような棋士を相手にしてゆく自信はない。
  もっと上を目指さなきゃ。高い目標をもつんだ。ってね」
あの一局が本当の人生の転機だった。
「自身家のオレにそう思わせたほど、あのときの君はつよかった」
「・・・・・・・・・・・・・」
佐為。
お前の一局が。
あのときの一局がこの人の中で確かに何かを変えたみたいだぞ。
佐為が聞けば喜ぶだろうに……
ふとそう思いとかなしくなる。
それゆえに返事を返せずにすこしばかりほほ笑むしかできないヒカルである。
あのとき。
門脇と一局うったのは佐為。
暗くなる前に帰りたい、というヒカルの願いをきいてさくっと相手を片づけた。
それも指導碁のような形をとって。
「ところが。だ。そんな君の新初段シリーズは何ともいえない一局。
  さらにはプロになったら不戦敗の連続…どうしたのか、とおもったよ」
憧れて自分をかえた人物が、なぜ?
そんな思いを抱きつつ受けたプロ試験。
それでも、院生の受験生が彼のことを噂していた。
【進藤。退院、したんだって?】
【うん。二十日にしたらしいよ?】
そんな会話を耳にした。
念のためにその院生の受験生にときけば、進藤光は五月から六月の終わりまで入院していたのとのこと。
しかし、それは知っているものに聞いたからこそわかることであって、
手合い結果をみるかぎりはまるでさぼっていたかのようにみえたのも事実。
「……いろいろ、あって……」
そう。
いろいろあった。
まさか佐為がいきなり消えるなんておもってもみなかった。
そんな信じられない現実がヒカルにと襲いかかった。
「ま、病気だったのはしょうがない。よな。しかし塔矢名人との新初段シリーズ。
  あれがどうしてもわからない。子供だから力んだのかともおもったが。
  君の強さはそんなレベルじゃなかったもんな」
直接、うったからこそわかる。
まるで悠久の時を打ちこんでいるかのごとくの力強い碁であった。
それこそまるで完成された。
完全といえるべき打ち方。
それが…あのとき、たしかにあった。
「あのときの一局でオレはひとまわりほども歳の離れたキミに尊敬とあこがれをいだいたんだぜ?笑うか?」
「ううん」
それはヒカルとて同じこと。
ずっとそばにいる。
そうおもっていた。
自分が年をとり、死してもなお佐為はずっといるのだ、と。
憧れてもいた。
尊敬も。
でもそれは囲碁に関してのみ、で他は時代錯誤でわがままで……互いにゆずらずによく言いあった。
なのに……
「だが。今はアレは夢かまぼろしだったような気さえするんだ。
  君に抱いていたまっすぐな期待。…持ち続けてもいいのかな?今の君にも」
復帰してからのヒカルはたしかにどの手合いも全勝している。
「…それは……」
まだまだだ。
とおもう。
こういうとき、佐為にはかなわないって。
ヒカルとて佐為の強さを…自らの碁の中にいる佐為の碁を…追い求めているのだから。
「おっと。足をとめさせてわるかった。いこいか。伊角の新初段戦はとっくにはじまってるぜ」
いって歩き始めた門脇をしばしみつめ、決意し。
「…門脇さん」
「ん?」
「――俺、と。打ってみますか?今から」
あのとき、彼とうったのは佐為。
もう、佐為はいない、いないけど……
あの一局をまぼろしだった。
とおもってほしくない。
佐為は、たしかにいたのだから。

「進藤。遅いな。伊角さんの新初段戦は見に来るっていってたのに」
くるはずのヒカルがなかなかこない。
「門脇さんもまだだしな」
彼もまたくる、とはいっていたのにこない。
「本田さんってさぁ。プロ試験、六敗、でしょ?よくそんな成績で合格できたよね」
そんな本田に呆れたようにといかけている越智。
院生つながりで彼らは伊角の対局をみにきているのである。
「こ、今年は伊角さんが全勝で、門脇さんはその伊角さんに一敗しただけ!
  今年は白星をこの二人が全部もってっちゃって、あとは悲惨な喰いあいだっだんだよ!」
おもわず説明してしまう本田、である。
実際にプレーオフにもつれこみながらも本田が合格にきまったのはだいぶたってから。
「こないなぁ……」
いいつつも記者室兼検討室から顔をのぞけて外をみる。
と、ふとその視界に北斗杯のポスターがとびこんでくる。
「ああ。そういえば北斗杯って塔矢はもう代表決定、だったよな」
そんなことをいいつつも部屋の中に戻る和谷。
「実績考慮なら僕だってまけてないのに」
「へ。オレに負けたくせに」
「あ、あれは不本意な伊局だ!本因坊戦は二次予選にいったぞ!」
「進藤も本因坊、棋聖、名人…と全部二次予選に勝ちあがってるけどな。
  七月より前にあったタイトルの王座戦予選は逃してるけど」
入院していたので予選がうけられなかった。
それゆえにそれはそれで仕方がないといえば仕方がない。
「ま、ぶっちゃけ十八歳以下じゃ、実績少なくて差別化は難しいだろ」
「だよな。今年からプロの本田さんや他の棋院の十八歳以下も対象っていうし」
日本棋院の中央、関西本部、そして関西棋院。
すべての棋院が対象となるらしい。
「今年からプロで他の棋院っていったら、関西棋院に有望なのがいるってさ」
「関西棋院に?」
それは初耳である。
「そっか。関西棋院や日本棋院の中央総本部や関西支部からもくるんだ」
そのことにふとおもいあたりつぶやく和谷。
「予選は一堂にあつまってやんのかな?」
「ま、とにかく楽しみだけど」
そんな会話をしている最中、モニターに一手が示される。
「あ。伊角さんが打った。はじまったぞ」
どうやら新初段戦はスタートらしい。
「伊角さん、大丈夫かな?緊張してないかな?」
「桑原先生が相手、だしね。とりあえず伊角さん。一手目はすぐにうったけど……」
「去年の進藤とはえらい違いだな。あいつ初手に二十分もかけやがったからな。
  それにしてもどうしたのかな?進藤のやつ。門脇さんもこないし。
  まさか進藤のやつ、また五月のときのようにいきなり倒れたとか…いや、まさか…
  それとも門脇さんと二人で遊んでるとか…まさか、な。知りあいじゃあるまいし」
  じゃあ、もしかしたらまた具合が……」
前科があるだけに心配になるのは仕方がない。
「!…知り合い?」
そんな和谷の言葉にはっとする本田。
「知り合いじゃない。っていったんだよ」
そんな和谷の言葉に続いて、
「いや、もしかしたら、そういえば…もしかしたら二人は知り合い…かも…」
「「え?」」
本田のつぶやきに思わず顔をみあわせて本田を見つめる和谷と越智。
「いやさ。プロ試験予選でさ。フクと奈瀬が聞かれたらしいんだ」
本田は予選免除だったのだが。
「何を?」
「二人が進藤のことを話してたら……」
  君たち!今…今はなしてたの、もしかして去年合格した進藤光初段のこと!?…って」
「で?」
「五月から入院してたって話したら何かびっくりしてた。って」
それはそうであろう。
「そうか・・・入院…それで長く不戦敗……それで、病状は!?
  ってつぶやくようにいったあとにきいてくるから六月二十日に退院した。
  今は自宅療養中ですよ~って答えたって」
それもかなり必至にきいてきたらしい。
「何かひどく必至に聞いてきたから知りあいなのかな~?って奈瀬が首をかしげてた」
結局ヒカルに確認するヒマがなかったので今までしていないが。
「でも、進藤。門脇さんとはまったく面識ないだろ?」
事実、越智達ですら顔を知らなかったくらいである。
あの無知で有名であった進藤光が知っているはずがない。
それは絶対に確信できる。
「・・・まてよ?もしかしたら……」
ふと今の会話をきいて思い当たり思わずつぶやく。
「?和谷?何かしってるのか?」
「いや。門脇さんがプロ試験の受験を一年伸ばしたっていう噂をネットでみたことがあるんだ。
  ずっと前だけど。その理由がたしか…子供に負けたこと、らしいんだ。
  勉強不足を恥じて一年、鍛えなおすことにしたんだって」
たしか自分たちが試験をうける前のはずだったはずである。
「あ~…進藤ならやりかねないな~……」
「と。いうか。そのときの院生で学生三冠の門脇を負かすとしたら、伊角さんと進藤くらいだろ」
院生時代でもヒカルは一度も負けたことはない。
「その時の僕だって勝てたにきまってる!!」
「無理だろ」
越智の叫びに和谷の即答。
「進藤より僕のほうが勝率はたかいんだぞ!」
「そりゃ、あいつ二か月も病気で不戦敗つづいてるし」
それゆえにどうしてもそれがひびいてしまっているのも事実である。
ガチャ。
「あ!」
「あ、進藤。今、越智が~」
「べ、別に!僕はお前の力をみとめていないんじゃなくて…って……」
てっきりヒカルが入ってきたのかとおもったのにはいってきたのは別の女性。
「なんだ。桜野さんか」
「何だ、とは何よ!何だとは!義ちゃん!!」
「って、わ~!!すいません~~!!」
「…伊角さんと桜野さんは九星会つながりだったっけ?たしか?」
「たしか、ね」
桜野にヘッドロックをかまされ、あやまっている和谷の姿をみつつ、
さわらぬ神にたたりなし。
とばかりに見て見ぬふりをしている本田と越智であった……

「一階の改装工事はいつおわるんだろうなぁ?」
今、棋院の一階は改装工事中である。
何でも喫茶店とかいろいろと作るらしい。
今、ヒカルたちがやってきているのは棋院の二階にある一般の対局室。
「ちょっと打たせてもらうね」
「はい。どうぞ」
棋院の中ではヒカルはアキラと仲のよいこともあり結構有名。
しかもよくアキラとここを利用するのでほぼ顔パス状態である。
「一階にあった売店もこっちにうつって。二階の一般対局室も一年前と少しばかり様変わり、か」
すべてはかわってゆく。
それでもあのモニター水槽がなくならない、ときいたときヒカルはかなりありがたかったが。
あの水槽には佐為の想いでが詰まっているのだから……
毎回きても、佐為はあの水槽に興味をひかれていた。
佐為が確かにいた、という証でもあの水槽はあるのだ。
「邪魔されないようにあっちの隅でうとうぜ」
いいつつも隅のほうにあるいてゆくと、ヒカルの様子が何だかおかしい。
「?どうした?進藤君?」
何だか考えているようにもみえなくもない。
「…大変な、一局だなっておもってさ」
「なぜ?」
「あのときと、今の俺が比べられるから」

いっている意味がよくわからない。
ないが、
「オレはぜひとも以前のオレとぜひ比べてほしいね。まちがいなく君との差はつめてるつもりだ。
  聞いておどろくなよ?オレのプロ試験の成績は…あ、週刊碁で知ってるかな?」
「うん。伊角さんに負けてる」
「ぐっ!伊角!!いや!そりゃ!伊角にはまけたが!」
「うん。たったの一敗、だったね」
「・・・・・・・・・・」
目の前のヒカルもまた全勝合格者だったな、と門脇はふと思い出す。
…自分たちより一年前の、だが。
「・・・あの一敗で伊角にカブトをぬいだわけじゃねえぜ?
  あいつにリベンジするのもプロになった楽しみの一つだ!
  …そして、もう一つの楽しみだったのは君との対局。さ。ずいぶん早く望みがかなった」
門脇にとってヒカルはそれほど羨望のまなざしともいえる存在になっていたのだ。
あの一局で。
だが、彼は知らない。
そのときうったのはヒカルではなくて、佐為であった、ということを。
「…お願いします」
「おねがいします」
しずかに二人の対局は幕をあけてゆく。

…三連星、できたか。
早目にからんでみるか?
一年半前のように。
あのときは、もてあそばれたが、今のオレはそうはさせん。
その自信はある。
あるが……いや、そうじゃない。
もてあそばれたいのかもしれない。
誰にも負けたくない、と思う一方で自分などとは遠く及ばない力にあこがれるのは。
そいつが歩いてゆく先をみてみたいから。
自分をはるかにこえてゆく、その先を……

「千、五十円になります」
二階の販売コーナーで買い物をしてレジをすます。
「?あそこで打っている二人、みたことあるなぁ?」
こういう場所にくる人間なので囲碁関係雑誌などには目をよくとおしている。
ゆえに見覚えがあっても不思議ではない。
「進藤初段ともう一人は門脇新初段だったとおもいますよ?」
そんなお客にレジ係りの女性が説明してくる。
「ああ。あの!院生初快挙の!それに門脇!昔、学生の大会で有名だったな~」
名前をいわれて思い出す。
「ちょっと、のぞかせてもらおうか」
プロ同士の対局を観戦できる機会などは…そうはない。
それゆえにそちらに近づく男性の姿。
「ありがとうございました」
声を背後にききながらヒカルたちのほうにとあるいてゆくものの、気がるに立ち入られる雰囲気ではない。
何だか近づいてゆくのにすら息がくるしくなってくる。
「こ…こわいな…やめとこ」
どうやら興味半分でのぞいていい対局ではなさそうである。
プロ同士の対局の集中力。
それを目の当たりにしたような、何ともいえない不思議な感覚。
それゆえに観戦はあきらめて男性は用事もすんだこともあり戻ることに。

あのとき。
佐為は自分以外とは本当の意味で久しぶりの対局だったのに、とおもう。
早く帰りたいなどといわずにどうして佐為の気のすむままに打たせてやらなかったのだろう、と。
佐為のきのすむままに遊ばせてやればよかった…と。
後悔してもあとのまつりで。
あのときは、まさか佐為がいなくなるなんて夢にもおもっていなかった。
そう、おもっていなかったのだ。
今の彼の力を知ることで佐為にあのときの…少しでも罪滅ぼしができるのならば……
…?
あの時と碁からうける感じが違う。
だけども…強い。
手も足も…でないのは…昔も、今も変わらない。

「・・・ふ…ん。名は何といったかの?」
「「!?」」
聞かれても伊角の意識は盤面に一点集中。
「伊角君です。伊角慎一郎」
それゆえに代わりに記録係のものが桑原にと説明する。
「伊角、のぉ。覚えてやるか。しばらく新人がだらしなかったが。
  塔矢の小倅がでてきて以来、ポツポツとおもしろそうなのが現れはじめたの。
  囲碁界に居座りつづけてきた甲斐があったわ。
  特に…あやつの真価はまだ直接、問うておらんしの」
これはカン。
あの小僧は唯一…自らからタイトルを奪うやもしれん。
という第六感。
パチッ。
「ム…ウ」
伊角の一手にしばしうなる桑原の姿が見られてゆく。

「…負けました…」
圧倒的なまでの力の差の前に惨敗。
それは悔いはない。
まだまだだ、とおもう。
これからの励みともなる一局でもある。
だが、何かこう……
「前半までの形勢はどうおもってた?」
「ちょっとゆっくりとした碁だな。って。だから合わせてたんですけど」
「…なるほど……」
ヒカルの言葉におもわず唸る。
自分はまだまだだ。
と改めて思い知らされる。
が。
「…あのときは…最後までいけなかったから……」
打たせてやればよかった、とおもう。
どうして早くかえることをあのとき、優先したんだろう?
「……門脇さんとは、最後までうちきりたかったんです」
「・・・・・・・・・・・」
それが意味している言葉の意味はわからない。
しかし馬鹿にしているような口調、ではない。
逆に何か口を挟めない強い思いのようなものを感じるのは気のせいか。
「……ありがとう。打ててよかった。君のような棋士がいるとおもうとプロの道を選んだかいがある」
いいつつも碁石をかたづける。
「――門脇さん、本当はどう、おもったの?」
「え?」
いきなり図星なといかけ、である。
「本当はどう、おもったの?俺とうててよかった、っていったけど、本当のところは?」
おそらく、彼は気づいた、であろう。
いや、気づいてほしい。
あのときと今の…落差を。
「…ほ、ほんとうさ!君はつよい!さっきの言葉はオレの本音、だ!」
そう、彼は強い。
それはかわらない。
だけど、それでも……
「他、には?それだけじゃ、ないよね?」
ごくっ。
おもわずつばを飲み込んでしまう。
「…や…まぁ…その…何だ…以前の君のほうが…打ち方といい…それでもやっぱり強かったような・・・とは……
  い、いやすまん!気にしないでくれ!」
それでもヒカルが圧倒的に強いことにはかわりがない。
だがしかし、あのときの、あの一局は……
桁違いにさらなる高みに到達していた、とおもえるのも事実である。
「ううん。ありがとう。門脇さん。俺もそうおもう。…あ!伊角さんの対局、わすれてた!いそがないと!」
にっこりわらっていいきられ思わず絶句。
石を片づけエレベーターにむかってゆくヒカルをみつつ、
「…俺もそうおもう?…前の自分のほうが強かった。って笑っていってちゃだめだろ…お~い……
  …あいつ、すごいのか何なのかわからなくなってきた」
それでも長期入院の前とあとで何かがあったのだろうか?
それでも…自分よりはるかに高い位置に彼がいることには…変わりが…ない。

ガチャ。
「!」
「進藤!」
扉をあけるとほぼ同時。
「あ、和谷。終わったの?伊角さん、どうなったの?」
ちょうど部屋からでてきた和谷にと問いかけるヒカルに対し、
「慎ちゃんの六目半勝ちよ。今から検討」
変わりに桜野がヒカルにと答えてくる。
「六目半勝ち!?やった!」
無邪気に喜ぶヒカルに対し、
「お前、何してたんだよ。遅かったな。また倒れてないか心配したんだぞ?」
「ごめん。来る時、門脇さんとあってさ。今まで二階でうってたんだ」
「え?」
「お、おいっ!」
ヒカルに深く問いただそうとしたその刹那。
「お。終局したのか」
「門脇さん」
ふとエレベーターから降りてきた門脇もまた顔をみせる。
「どうなった?」
「伊角さんが勝ちました。六目半、で。あの、門脇さん?進藤と知り合い、なんですか?」
気になっていたこと。
それゆえに問いかける。
「知り合い?うん。まあ、知り合いっていうか。前に一度打ったことがあるんだよ」
「え?」
「一年半前くらい、院生だった彼を呼びとめて。その時は彼にあっさりとやられてしまったよ」
どうやらさきほどの和谷の想像は間違っていなかったらしい。
さっき話していた子どもはやっぱり進藤か!
そう和谷、越智、本田が心で思うものの、
「でも。今日。彼と実際に打ってみたんだが…どうも前のほうが強かったような気がするんだよな……」
「へ?そう?」
「いや、よくわかんない」
「というか院生時代、あいつにかてたやつ一人もいないしな」
門脇にそういわれてもヒカルは当時から強かったので和谷達にもよくわからない。
「その上、俺もそう思う。って笑ってるし。わからん。あいつが」
・・・・・・・・・・・・・・・・
それはたしかに混乱する。
「…オレもよくわかんねぇ!混乱してきた!」
「進藤なんか気にするな!無駄だ!」
「だな!あいつの常識のなさは院生時代で実証済みだ!」
桁はずれに強いのに何も知らない子供。
ヒカルの知識のなさは院生の中でかなりあきられもしたものである。
それでも、強いことにはかわりがない、のだから……
「何してんの~?あんたたち~」
そんな彼らにと幽玄の間から顔をだし声をかけてくる桜野姿がしばし見受けられてゆく――


                                -第68話へー

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あとがきもどき:
薫:ようやく!!ようやく次回から北斗杯編に突入です!!!
  佐為、復活&スミレちゃん再登場まであとわずかっ!(まて
  まあ、復帰(?)した佐為はその霊力つかって自力で石をもつこと可能になってるし(こらこら
  (ある外国映画でそーいうのがありましたv)
  しばらくヒカルは気が気でない状態がつづきますけどね。
  またきづいたらきえてるんじゃ!?と。
  ですけど大会前日だし、まだまだ佐為復活は当分さきだ!
  さらにいえば佐為の転生はまだまだだ~(汗
  先はながいぞ、はてしなく~
  100話までにおさまるかな?
  そんなことをおもいつつ、ではまた次回にいくのですv
  ではでは~♪

2008年9月20日(土)某日

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