託宣の間から出ると、オレたち三人だけでコンラッドはまだ出てきていないようだ。
何かアンリと話でもしているのかもしれない。
「しかし…生きているうちに、眞王陛下の御魂にお会いできるとは、夢のようです」
オレの横では何やらそんなことをいって、いまだに夢心地のギュンター。
そしてまた。
「確かにな。しかし…本当に僕によくにてたな。
  …あの肖像画どおり、ってことなんだろうけど……けど……」
「?けど。何です?ヴォルフラム?」
「眞王陛下のユーリに対する物言いがきになった」
「そうですね。あれではまるで自らより目上の人に話しかけているかのような……
  でも、そういう話しかたを元々されるおかたなのかもしれませんよ?」
「そうかもしれないけど……」
託宣の間を出て、庭を通り、それから長い廊下を歩くことしばし。
何やら二人してそんな会話をしているギュンターとヴォルフラム。
それはオレも気になった。
だって、あのエドさんの目…
まるでオレが尊敬するメジャーリーガーなどを見るときの目によく似てたし。
何か初対面って感じもしない。
それはまあ、ヴォルフラムによく似ている…からかもしれないけど。
ふと見れば、何やら廊下のいたるところには武装している女の人たちの姿が見て取れる。
おそらく、見回り中なんだろう。
しっかし、本当に見た限りここは女の人の姿しか見当たらない。
窓の外においては、何やら参拝客でにぎわう長蛇の列が見えている場所もあるけども。
だけども、すぐ近く…というか、今オレたちのいる棟のさらに先の棟の辺りらしい。
オレたちが進んでいる廊下には参拝客の欠片の姿も見当たらない。

ものすごく長すぎる廊下を通り、しばらくしてからやっとのことで外にとでる。
時間的に絶対に…かるく十分以上は歩いてたような気がするんだけど……
絶対に気のせいじゃない…と思う……
あまりに動転してて、時計を確認してなかったけど。
「あれ?血盟城がみえる?」
ふと視線をさまよわせると、そこには、確かに見慣れた血盟城の姿が。
「ここは血盟城から見える山の上にありますからね。さ。陛下。陛下の馬も連れてきてあります」
見れば、そこにはオレ専用の馬だという黒馬のアオの姿が。
「あ!アオ!元気だったか!?」
かけより、顔をなでてやると。
何やらとてもうれしそうにいななき、顔をすりよせてくるアオ。
とりあえず、心臓が二つあるらしい。
という以外は普通の馬とかわりはない。
「振り落とされるなよ?へなちょこめ。」
そんなことをいってくるヴォルフラムだけど。
「アオは大人しいよ。また頼むな」
いって、ポンポンと体に触れると。
『ヒヒーンッ!』
甲高く高く一声いななくアオ。
どうやらここと地球の馬の鳴き声は変わりがないようなので、
違和感なく乗ることができているのだけど。
何しろここって猫の鳴き声がメェメェらしいし……
何だかなぁ……の状態だ。
「ああ。陛下にかまってもらえるならば私も馬になりたい……」

何かそんなことをいっているギュンターがヴォルフラムにこづかれている。
「あれ?コンラッド?どうしたの?」
少し遅れて建物から出てきたコンラッドは何やら深刻そうな顔をしている。
オーラの色も少し不安が混じったような、そんな色にとなっている。
「いえ。別に。さ。いきましょう」
そんなオレの心配をかき消すかのように、いつものようににこやかな笑顔でいってくるコンラッド。
「そういえば。今回もあの歓迎お祭りさわぎ…ひょっとしてあるの?」
「当然ですね」
がくっ……
アレ何かなれないんだよなぁ〜……
馬に乗って道を通り血盟城にと向かうオレに投げかけられる歓声とか、紙ふぶきとか……
あとで掃除する人も大変だろうに……
はたまた、仕事中であろう、兵士達や町の人々の手を煩わせているようで、
オレとしては申し訳ない気持ちで一杯だ。
絶対に、ひっそりとしろに戻ったほうが皆のためにも国民の皆様のためにもなる。
とおもうんだけどなぁ……
『国民に元気な姿を見せるのも勤めです』
うんうぬん…とか言われてるけど……
だったらお忍びで城下町とか、他の町にいったりするのも許してくれたっていいだろうに。
ああ、憧れの将軍様のようになる日はいつの日のことか……
そんなことをおもいつつ。
そのまま、アオの手綱をもって、城にと向かって進んでゆく。



相変わらずの大歓迎ぶり。
とりあえず、パレードに参加している有名人の方々よろしく、左右にと手をふりつつも馬を進める。
まさかこんなところで、よくニュースで見ていたパレードの対応が役に立つとは。
普通の高校生ではおもわなかっただろう。
いや、それ以前に、自分が異世界生まれで、しかも魔族の王。
というのは絶対に思いつくわけない…よなぁ……
後ろでは。
「まったく。本当に誰にでも愛想がいいやつめ……」
何やらぶつぶつと不機嫌そうなヴォルフラムの小声が聞こえてくる。
中には警備の兵を押しのけてまで、オレたちを見ようとしている人たちの姿もみてとれる。
……ごめんなさい。
警備の兵隊さん……
オレの為に苦労……というか皆の仕切りをしてもらって……
いつも、唐突なので、事前の準備も何もできるはずもなく。
兵士達だけで人々の整理。
ロープとかも張る時間…ないんだろうなぁ〜……
何のきなしに、そんなことをおもっていると。
ふと。
何やらまとわりつくような視線を感じ、思わずその視線の主を探して視線をさまよわせる。
と。
すっと、屋根の後ろにとひっこむ影一つ。
……えっとぉ……
今の…見間違い…ではないような??
今見えたあの姿…どう表現しても黒尽くめの…忍者、にしか見えなかったんですけど……
そんなことをおもっていると。
やがて、オレたちはそのまま城に続く道にと突入し。
そのまま、城にと向かって進んでゆく。


オレの横にはギュンターが歩き、その後ろにはコンラッドとヴォルフラムが歩いている。
廊下の両端には、ここ血盟城で働いている人たちがずらり、と並んでお辞儀をしてきている。
これで正座のお辞儀だったら、それこそ、時代劇さながらの。
『上様おな〜り〜』とか。『上様のおと〜り〜』である。
オレ的には、自分に対してはお辞儀すらもいらない、とおもうんだけどなぁ?
軽い挨拶の会釈だけでいいとおもうし。
いや、本当に。
友達のような、知りあいのような、そんな軽いもので。
とりあえず。
「ねえねえ?ギュンター?さっき気のせいかもしれないけど。
  忍者をみたんだけど?この国にも忍者っているの?」
日本の伝統ともいえる種族のような気がしなくもないけど。
忍者って……
そんなオレの問いかけに。
「にん……何ですか?」
きょとんとして、オレの言葉に首をかしげているギュンター。
「陛下。この国というかこの世界にもそんなものがいるなんて聞いたことがありませんよ」
そんなオレの問いかけに後ろからコンラッドが答えてくれる。
「そうなの?じゃ。さっき、パレードの最中、屋根の上にいたあの黒尽くめさんたち。
  確か転々といた五・六名の人たちって何なの?
  どうみても忍者、としかいいようがなかったけど?」
しかも。
よくテレビとか、絵本とかに載ってるような、こてこての忍者の姿。
もしくは、忍者でなかったら暗殺者とかのスタイルか?
何しろ全身黒づくめ……
「「…は!?」」
オレの問いかけに、なぜかぴたり、と足を止めるギュンターとヴォルフラム。
そして。
「陛下。あの怪しい者たちに気づかれたのですか。さすがですねぇ。
  彼らは気配を殺していたようでしたのに。よくわかりましたね。しかもかなり離れていたのに」
一人感心しているコンラッド。
どうやらコンラッドも気づいてはいたようだ。
「確かに屋根の上に怪しきものの姿はみえていましたが……」
コンラッドにつづいて、ギュンターも少し戸惑い気味にと答えてくる。
どうやらオレが気づいていた。
とはおもってなかったようだ。
いや、あれは目立つでしょ…真昼だし……
「ちょっとまてっ!どういうことだ!?フォンクライスト卿!ウェラー卿!」
どうやら、一人、ヴォルフラムだけは気づいてなかったらしい。
「何か舐め回すような視線を感じたからね。…んじゃああの人たち何?
  ギュンターが『怪しい』っていっている、ってことは。
  屋根の上から護衛している兵士ってわけでもないよね?」
そんなオレの問いかけに。
「あのものたちについては。
  先ほど城下に怪しいものがいたので探しつつ、警戒を強めるようにはいってあります」
コンラッドがそう説明してくる。
さっき、コンラッドが城の門をくぐってすぐ、兵士に何か言っていたのはそれだったのか……



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