「しかし。猊下?本気で大シマロンにいく気ですか?!」
馬を走らせつつも、ヨザックがアンリに問いかけている。
「いかない。っていったら、今のユーリだったら。それこそ無意識にいきかねないし。
  ま、いっても大丈夫だよ。うまくすれば箱を大シマロンから回収できて取り戻せる」
そんなヨザックにこちらもまた馬を操りながらもアンリが答えているけど。
いや…だからその、箱って…何?
「隊長にまかせておいたほうが……」
……隊長って…コンラッドのこと!?
「彼一人だと、自由は奪われるよ。エドから人間のめには髪の色が違って見える魔石を受け取って。
  ウェーラー卿の子供、と偽って入り込むさんだんらしいけど…さ」
え?
「ちょっと!?何それ!?どういうこと!?コンラッドがどうかしたの!?」
オレがしっているのは、目の前でオレをかばってコンラッドが斬られた。
というあのときのことのみ。
あれからどうなったのかは判らない。
アンリがコンラッドは無事だ…とはいっていたようだが。
それでも自分の目でみないと不安でしょうがない。
というのは性格上しかたがない。
「眞王の命をうけ、ウェラー卿は今。大シマロンに潜入してる。
  大シマロンの真意と、そして箱のありかを探るために。ね。
  何しろことはユーリの命にも関わっているからねぇ」
しみじみと、オレの前にてそんなことをいってくるアンリだけど。

「…オレの?……何で?」
きょんとした戸惑いの声をだすそんなオレに多少バツが悪そうに、
「この世界には伝説があるんですよ。へ…いや、ユーリ様。
  あなたを指し示しているのでは…としか思われない、古からの…ね。
  魔族と…しかも、天空人との間に産まれたのは、あなたただ一人だ。
  あながち嘘ともオレは思えなくなってきていますけどね。
  あなたの側にいたら、本当に伝説が伝説でなくなるかもしれない。
  ……誰もが空きラル手板ことを、あなたならば。ってね」
そういうヨザックの言葉に、しばし戸惑い黙っていたフリンさんが唐突に口を開く。
「――地と点と、狭間に生まれし双黒のもの。かのもの創生の女神の意志と意志力を携え、
  治める立場になりてこの地に平和と安定をきづく道しるべとあいならん。
  金と銀の翼の下、この世は真の平和に導かれるであろう――」
「……は?何それ?」
「――古からの言い伝え。よ」
いって再び押し黙り何か考え込みだすフリンさん。
何それ?
金と銀の…翼?
銀の翼…って、まさかねぇ?
おふくろがオレに昔ついてた、とかいう翼がたしか銀とかいってたけど……
ま、伝説、というんだから、あくまでもいいつたえだろう。
そんな会話をしていると、
「猊下!見えてきましたよ!港ですっ!」
会話をさえぎるように、ヨザックの声がオレたちの耳にと聞こえてくる。
みれば、山の下。
つまりオレたちがいる山の眼下に見えるのは、ちょっとしたにぎわう別の港町の姿が――


ざざぁ~ん。
ヨザックが口をきき、どうやってくれたのか判らないが。
オレたちは積荷の羊とともに、船にと乗り込み港を出発。
港から離れてしばらくして、船倉から外にとでる。
潮風がとても気持ちがいい。
周囲には船倉から出された羊の群れと、そしてなぜか手に枷がはめられた人々の姿が。
「……?何で?これって荷物運搬専用…だよね?」
確かそう聞いたけど。
そんなオレのつぶやきに、
「―――…大シマロン…よ。せっかく不思議な力で捕虜になっていた人々は家にもどれたのに。
  戦争するためには戦力がいるから。って……村々を襲い人々を捕らえているのよ。
  小シマロンもよ。小さな国々は抵抗してもどうにもならない。
  せめて抗議するくらいしか……」
「そんな…何でそんな理不尽なことだまってうけいれてんの!?」
それはあまりに理不尽すぎる。
というか止める人はどこにもいないんだろうか?
「受け入れてなんかいないわっ!だから…だから私にはあなたが必要だった。
  ウィンコットの毒でさえ、大シマロンに渡したわ。小シマロンに圧力をかけ、人々を帰してくれる。
  というのを条件に。あれはウィンコット家のものにしか扱えない。だから……」
そう叫ぶフリンさんの台詞に、
「…ウィンコットの毒。…あんなものを……
  フリンさん。あれが何なのかわかってて渡したんですか?あれは……」
それって…何?
どうやらアンリは知っているらしい。
そんなアンリの非難するようなその台詞に、
「私には他に方法がなかったっ!私には…私には何よりもカロリアの民が大事なのっ!」
アンリの言葉に叫んでいるフリンさんだけど。
だけど、…何かがフリンさんは間違っている。
「国民が大事なのはわかるよ。でも方法が間違ってるって。そんなやりかた。
  それで…国民が喜ぶとおもう?フリンさんに感謝するとおもう?」
「そうだね。ユーリの言うとおり。でも判ったことがこれで一つある。
  大シマロンはフリンさんを利用して、ウェラー卿や魔王を意のままにあやつれるという毒。
  それを手にいれ、箱の…創主の意志力を制御しようとしたわけ…か。
  まったくさ。昔のベラールといい、今の大シマロンのベラールといい。
  何考えてるんだろ?あれの力が人に扱えるはずがないのに」
何やらしみじみといっているアンリだし。
…いや、ちょっとまて。
「…意のままにあやつる…って。それより、アンリ?ベラールって…誰?」
何やら知らない名前がでてきたし。
「大シマロンの国王。昔、箱を利用して世界征服をしようとしててね。
  当時、シマロンの地を治めていたウェラー家を滅ぼして、国を乗っ取った人物。
  ウェラー家は鍵の預かり手の一族の一つ。といっても、誰もが鍵となりえるわけじゃない。
  だから監視下において次の鍵が生まれてくるのをまっていたんだよ。
  鍵、とは箱にかけられている封印をとき、封じられた創主を開放するもの。
  それぞれの一族の体の一部が鍵となる」
いや、だからその…箱…って何よ?
「…創主?…それに、ウェラー…って、コンラッド?」
「彼もまた、鍵の持ち主。おそらく国の襲撃は、ウェラー卿とユーリを狙ったものだろう。
  ユーリを今回、こっちに読んだのはエドじゃない。あからさまに邪悪な意志によるものだ。
  ユーリがこっちの世界を気にかけていたから、感応しちゃったんだろうけどね。
  …それと、ユーリの力の大きさで彼等の目論見は少なくとも…少しは緩和されたはず。
  何しろ、ユーリ。こっちに移動してきたとき、眞魔国の外にでただろ?」
「らしかったけど。でもさ。鍵って何?そもそも、箱って……」
どっんっ!
「何?!」
オレが問いかけるのと、船に衝撃が走るのとほぼ同時。
オレがアンリに問いかけたその直後。
いかなり船がぐらりと揺れる。
んな馬鹿な。
ここはもう海面上。
しかもすでにあたりを見渡せど大海原。
何かにぶつかるにしても……くじらとか?
にしては揺れ方が変だ。
「軍艦だ~!!」
「ありゃ、小シマロンの軍艦だ~!!」
何か船の乗組員たちが、海面上のある一点を指差して叫んでいる。
ぐ…軍艦って……
デッキの横にとかけより、見てみれば。
こちらに大砲らしきものをむけて、ドンドンと撃ってきている…数隻の船。
「…何?!」
「ちっ!噂は本当ってかっ!大シマロンや小シマロンに連行されてゆく人々の船を、
  それぞれの国が戦力を増やさないためにするように執拗に狙っているって!
  陛下っ!猊下!ここは危険ですっ!ひとまず海にっ!」
オレの後ろでそんこなとをいってくるヨザック。
「何いってんだよっ!?他にのってるこの船のひとたちは!?」
「お二人の身の安全が最優先ですっ!」
そんなの…そんなの絶対に間違ってるっ!
「ダメだっ!」
叫ぶとともに、体がなぜか熱くなる。
と。
「ユーリっ!…ふぅ。わかったよ。わったから。おちついて。ね?
  今の君の力は不安定だ。僕がやるから。
  ユーリは捕らわれの人たちの手錠でも外してて。君が念じれば外れるから」
体が熱くなり、どくどくと心音が高まリ出すと同時。
アンリがオレの両肩に手をおいて目をひたりと見つめていってくる。
そして、にっと笑い、
「ま。この僕に任せなって♪伊達に大賢者って言われてるわけじゃないんだよ♪」
いってすっとアンリが手を横にする。
毎回、毎回思うけど、どこから取り出しているものか。
不思議な見慣れた杖がアンリの手の中にと出現する。
そして。
「~~~」
何か聞き取れない言葉をアンリが毛さんだかと思うと、
攻撃を仕掛けてきていた船がいきなり波と、そして突風にと翻弄される。
…えっと、つまり、風と水に干渉したのかな?
そんなことを思っていると、
「それじゃ、船ごといってみよ~♪」
『いや。いってみる。って……』
オレとヨザックの声はまったく同時。
と。
ふわっ。
いきなり船が浮き上がる。
「うわっ!?ういた!?デスティニー2!?」
「ユーリ。それナムコのゲーム」
オレの叫びにアンリが即座に突っ込みをいれてくる。
「船ごと空中を滑って移動するよ?近くの大陸にね♪何か船体にも被害でてるみたいだしさ」
何でもないように、さらっとアンリが言い放つとほぼ同時。
ザザザ…
アンリの声と同時、オレたちの乗った船はオレ達ごと、何か風船のような透明なものに包まれて、
空中にとふわりと浮いて海原の上を滑るようにと移動してゆく。
「……えっとぉ……」
「……こ…ん…な……」
戸惑うオレに、横でペタリとしりもちをついているフリンさん。
ま、普通はこの反応だよなぁ。
マーメイドハープとか、はたまたペンダントの力で浮いたりとか。
ゲームの中もこういった感じだったのかもしんない。
当事者たちにとっては……
どこか違うところで感心しつつ、
「ノアの箱舟?みたいなものかな?」
思わずまったく違うつぶやきをもらしてしまう。
何か先ほどの軍艦たちからは、わ~わ~という悲鳴が聞こえてくるけど。
ちらっと見れば、何か巨大イカのようなものに襲われているようにみえるんですけど…?
こちらのことはどうやらそれゆえにまったくもって眼中に入ってないようだ。
…運がいい。
というのかなぁ?
こういうのって……
空を飛ぶ船を見られなかった、ってことは……
「ユーリ。ユーリ。ぼ|としてないで。皆の手かせを外してあげてってば。
  大陸についたらバラバラにならないと危険だし」
杖を空にむけて掲げたままのアンリが何でもないようにといってくる。
「わかったけど。アンリ。こんなことまでできるの?」
始めてしったぞ?
オレ……
ずっと物心ついたころから一緒だったのに…さ。
「別にどうってことないよ。これくらいは。それにちょっとした事情で僕の力も高まってるから…ね。今は」

その事情って何なのさ?
「ともかく。ユーリは皆の手枷を外して。ヨザックは船がついたらすぐに脱出できるように。
  そう皆にもしっかりいっといて。大シマロンも小シマロンもしつこいからね~。
  あと数日もすればユーリを追いかけて応援くるだろうし。それまでガンバ♪」
いってふわり、と杖から手を離すアンリ。
杖はそのまま浮き上がり、中央付近にてとまり、そのまま制止。
「さってと。僕も手枷を外すの、手伝うから。杖は大陸についた勝手に降りて来るから。
  あれで一応この船を包んでいる風船、支えているからね」
…やっぱ、風船なのかい…これは……
「マーメードハープの杖版?」
「あ。いいこというね。ユーリ♪」
そんなアンリとオレの会話に。
「……ま、まあ、猊下でいらっしゃいますしね……」
あ。
どこか遠い目をしながらヨザックがつぶやいてるし。
オレも何かそんな気分……

驚き戸惑い、硬直する人々の手枷を手分けして外してゆく。
アンリが言ったとおり、何でか手枷に触れて念じたら、手枷は床にと落ちてるし。
世の中って信じられないこと…まだまだあるんだなぁ~……


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