ガタガタガタ……

何で揺れているんだろう?
ぼんやりと目を開く。
「……あれ?……アンリ?」
何でか目線上にアンリの姿というか顔が。
「気がついた?ユーリ?」
「……オレ…?」
どうやら気づいてみればオレはアンリに膝枕状態にされているらしい。
しかも、何やらここはどうやら乗り物の中っぽい。
「……オレ?…ここは?……それに……」
何かコンラッドが側にいて、オレの名前を呼んだような気がしたのに……
視線を泳がせてみても、いるのはフリンさんとオレとアンリのみ。
「あんまり心配させるなって。ユーリ。あ、ちなみにここは馬車の中だよ」
馬車の中…って……
「大シマロンだけでなく、小シマロンまででてきたからね。
  ひとまず、あのノーマンさんには実体化できるほどの力を与えて館に残ってもらってる。
  執事さんと一緒にね。声は僕が治した。ということにすればまず彼等は手出し出来ないはずだしね。
  で、僕達は今から大シマロンに向かうところでここは、その馬車の中」
…あのノーマンさん…って……
「って、あのゆ~れいさん?!…って、何で大シマロン?」
どうも話が飲み込めない。
まあ、アンリがあの幽霊さんに力を与えて実体化できるようにした。
というのはかろうじて飲み込めたけど。
「…先日。大シマロンに捉えられていた捕虜たちが一斉に戻ってきたの。
  それはとても喜ばしいことなんだけど……大シマロンがこのままで済ますとはおもわない。
  小シマロンに捕まっていた人たちももどってきたわ。
  これ以上、またわが国カロリアから人々が連れて行かれないように、交渉しようとおもって……
  ユリアナさん。あなたはそのために必要なのよ」
オレの前に座っているフリンさんがいってくる。
「…?オレが?」
「ええ。ウィンコット家の血をひくあなたの力が」
「……あの~?」
話がまったくの見込めない。
そんな戸惑うオレをみて苦笑しつつ、
「僕から説明するよ。ユーリ。ここカロリアの地は元々中立地帯だったんだ。
  なのに最近戦争を始めるからとかで無理やりに小シマロンの属国にされてね。
  そして若い人たちは有無を言わさず次々と捕らえられて連行されていったらしいんだ。
  最近…というか、数年前からね。それがここ最近だんだん酷くなって。
  で、このカリロアの地を夫の変わりに治めていたフリンさんは人々を助けるために。
  大シマロンに懇願したらしいんだ」
…つまり、強制送還のようなものですか?
送還、という響きは当てはまらないから、強制連行?
「?でも、何で戦争なんて…いったい……なんで……」
そんなオレの疑問に、
「眞魔国との戦争のためによ」
・・・・・・・・・・・・・
「って。ええぇ~!?というか何それ!?そんなの絶対にダメだって!
  わかった!フリンさん!そういうことならオレも喜んで協力するよ!
  大シマロンの王様とかにきちんとあって、そしてきちんと話をすれば絶対に判ってくれるはずっ!
  眞魔国は誰とも戦争する気なんてないし。また、ぜったぃぃっにそんなことはさせないしっ!」
誤解からこの前もガウァルケードが眞魔国に戦いを挑もうとしていたことがあったけど。
あれも完全なる誤解からであって、今では友好条約結べたし。
「あなたがそういっても。…そりゃぁ、ウィンコット家は由緒ある家柄でしょうけど。
  でも、魔族には人の生き血を吸う恐怖の王がいるのよ?
  その王を亡き者にしないと、私達人間が危ない。っていわれてる」
「…って、それこそまってよっ!?何それ!?それこそ何!?
  へなちょこっていわれることはあっても、そんなこといわれるの始めてだよっ!?」
以前、カヴァルケード王も似たようなことをいっていたけど、あれは誤解はとけたのに。
というか…この世界の魔族に対する認識って……かなり根深いみたいだなぁ。
互いに互いが恐怖しあい、その恐怖がさらに増大し、にっちもさっちもいかなくなっている状態。
しかも、それを今まで誰も訂正しようとしていなかった。
というのだから、何とも始末が悪い。
「…始めて…って……」
「ユーリ。…ユーリ。おちついてってば」
オレの叫びに戸惑い気味のフリンさん。
そしてそんなオレをなだめてくるアンリ。
「でもさ!だってアンリ!人間達の世界になんでそんな噂が流れているのかなんてオレ知らないよ!?
  は!?もしかしてそれでスヴェレラの王様とか、オレがいくら援助とか申し出ても却下してきたの!?
  うわ~!何でそんな噂がまかりとおってるの!?」
叫ぶしかない。
というのはまさにこのこと。
「噂って理不尽だよね。それに踊らされる民はもっと気の毒だ。それを守るのも君の役目。…だろ?」
そんなオレをたしなめてくるアンリ。
言いたいことはわかる。
わかるけど。
「そりさ。オレ、自分ではっきりと判ってるけど。王様らしいことなんて何もしてないよ。
  文字もろくにかけなければ読めもしないし。
  この国…いや、この惑星の世界情勢とかも知らないしさ。だけど。
  この世界から争いをなくしたい!人種差別をなくしたいっ!って思ってるのに……
  そんなうわさがまだ人間の世界に流れてるなんてさ……ど~りで、
  ギュンター達に手伝ってもらって、いろんな国に親書とか送っても、なしのつぶてのわけだ……
  そんな噂なんてどうくつがえせばいいのよ!?オレだって、普通魔王とかいったら。
  諸悪の根源!って率直に思うのはまあ判るとしてもっ!
  実際はオレみたいなへなちょこだしさぁ。噂とか、人の心理とかってなかなか訂正きかないよ!?」
「……ユ~リ~……ばらしてどうするんだよ……はぁ~……」
あ、アンリが何かため息つきながら、顔を手で覆ってる。
…?
何か変なこといったっけ?
「…王…って…え?ユリアナ卿?…あなた……」
ため息を盛大についているアンリとは裏腹に、戸惑っているフリンさん。
「ぼっ………ユーリ様ぁ~。自分からばらしてどうすんですか。まったく、あなたというひとは……」

何か前のほうから聞きなれた声。
「って!?ヨザック!?」
見れば、馬車を操っているのは変装しているヨザックだ。
「?でもさ。やっぱり。皆がなんでか止めてきてるけど。
  ちゃんと各国に出向いていって話し合いの場を持ったほうがいいよな。
  オレ、堅苦しいことは苦手だけどさ。カヴァルケード王みたいに話せば皆わかってくれるだろうし……」
よし、きめた。
誰が何といってもそうしよう。
うん。
ぶつぶつと座りなおしてつぶやくオレに、なぜかフリンさんは戸惑い顔。
『シル様。アーリー様。追っ手がみえています』
そんなとき。
すうっと風邪が馬車内にとふきぬけて、それと同時にシーラの声がそう伝えてくる。
「ヨザック!追っ手がきているらしいよ!抜け道わかる!?」
シーラの声をうけ、馬車を操るヨザックにと声をかけるアンリの言葉に、
「お任せください。猊下。
  とりあえず追っ手の目をくらますために馬車を谷底に落として馬で移動しましょうや」
いいつつも、馬車をしばし走らせながらそういってくるヨザック。
「なるほど。馬車の馬は二頭だったよね。それじゃ、ヨザックはフリンさんを頼むよ。僕はユーリを」
いやあの…オレ抜きで何か話がどんどんと進んでない?
馬が一声いななき、森らしき場所にて馬車が止まる。
「あなたたち…いえ。もしかしてユリアナさん…って……」
「ユーリでいいよ。フリンさん。その名前、本当の今のオレの名前じゃないし。
  ユーリは本当の名前だけど。って、シーラ。追っ手の数ってわかる?」
『十五名ほどです』
オレの問いかけに、風の中からシーラが答えてくる。
ふむ。
「シーラ。ニルファと協力して、霧を出して。それで追っ手の目をくらまして。
  その間にフレイは馬車を燃やして。あ、でも森に被害はでないようにね。
  ぶつかったか、おちたか…に見せかけて。アスラは土の塊で僕らや馬の死体のフェイクを」
馬車からおりて、テキパキと何もない空間に向かって指示をだしているアンリ。
アンリの声とともに、その場に四つの人影が出現し。
それぞれオレとアンリにお辞儀をし、再び空気の中にと解け消える。
えっとぉ。
「……なんつ~か。だから何で?毎回思うけど。
  何で大精霊っていう存在が、あっさりと協力してくれるの?ねえ?アンリ?」
常々疑問に思っていることをアンリにと問いかける。
「…だい…せいれい…って……」
フリンさんが何やら声を詰まらせてつぶやいているみたいだけど。
「そりゃ、ユーリを守るためだしね。とにかく急ごう。
  小シマロン側にあのアーダルベルトがいたのが気がかりだ。
  彼からユーリのことが知られていない。とも限らないからね。
  ――まったく…本気で懲らしめたほうがいいのかなぁ?
  元婚約者であったユーリを、たとえ生まれ変わりだとしてもさ。認めずに付け狙うなんて……」
ぶつぶつアンリがいってるけど。
何かそんなことをきいたような気もしなくもないけど……
オレはまったくもって覚えてないけどね。
「ジュリアさんの思いというか。オレが以前みた魔境の過去では。
  あのアーダルベルトとかいう人って、頑固で融通が利かなくて。
  正しいことにでもわかってても、間違っていることに対して目を瞑って突き進む。
  ってみたいなところがあったみたいだしね。だから放っておけなかったようだし。
  彼はまあ悲しみに捕らわれて、回りが見えなくなっているだけだって。何となくだけどそうおもうし」
ぶつぶつつぶやくアンリに苦笑しながらも答え。
ひとまず、なぜか戸惑い顔をしているフリンさんをヨザックの後ろにのせて、
オレはアンリの後ろにとのり、二頭の馬を走らせる。


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