ゆっくりと目をあける。 どうして忘れていたのか。 それはまだ時期ではないから。 だけども…… 「――我が大切な存在を傷つけることは何人たりとて許しませぬ。 …我が愛し子たちよ。何ゆえに悪事に身をゆだねるのです?」 さらり。 腰より長く伸びたながい髪が動くと揺れる。
「…ユー…リ?」 目を開けたグレタの目に入ったのは…ユーリの顔であるものの、 黒い長い髪の……女の人。
「その穢れた心を清めなさい。」 言ってすっと手をかざすと同時。 仮面の男たちの身体は瞬時に銀色の身体に包まれる。 「―――馬鹿な子……」 目を開き呆然とするコンラッドにそっと触れると失ったはずの腕が瞬く間にと再生する。
「っ!いけないっ!ユーリっ!今のお前の身体ではまだその力はっ!」 コンラッドは理解した。 覚醒…そう、覚醒してしまったのだ。 一番やっかいなことに。 ジュリアから…そして猊下や眞王から聞かされている…ユーリの真実の姿。
「ヴェルラッド。わたくしなら大丈夫です。それよりその子を……」 ヴェル…… 自分のことか? 名前が異なるが何となく判る。 それが自分のことを示している……と。 そういうなり、『ユーリ』の身体は銀の光に包まれる。 その背には四枚の翼が出現する。 正確にいえば左右で八枚の翼なのであるが。 銀の光の奇跡を残し、そのままユーリの姿は天井をつきぬけ上空へと……
どうしていつも同じ過ちを繰り返し、陥るのだろう。 どうして力を欲するのだろう。 今度こそ人々を信じていたのに。 今また四千年前や、それ以前と同じ過ちを繰り返そうとしている人々がいる。 「心なきものの手により、我が愛し子たちを苦しませはいたしません……」 カッ!! つぶやくと同時、『ユーリ』の身体から光がほとばしり、それは銀の光の帯となり、 国中を…いや、世界中にと輪を描くようにして広がってゆく。
各所で銀の炎に包まれてもだえる人々の姿が見受けられてしたりするものの。 だが、それ以外の人々にとっては…とても温かな光。 瀕死であったものですら何ごともなく目覚める。 ――それほどの……力。 そしてまた、理不尽な状況にいやおうなくおかれている人々はひかりに包まれて、 そのまま元いたはずの故郷やそれぞれの場所にと戻ってゆく。 そんな光景が世界中でしばし見受けられてゆく――
何か果てしなく嫌な予感がした。 ユーリを追いかけ…すぐさま巨大な力を感知した。 これは…この力は…… 「ユーリっ!!」 つながっていた絵の道から出てくると、そこはどうやら教会の中らしい。 そして次に目に飛び込んできたのは…床にと転がっている見覚えのある左腕。 そして…銀の光に包まれてもがいている仮面をつけている人々の姿。 そして何よりもこの場に満ちているこの『力』は…… 「馬鹿っ!まだあの身体じゃあシルの力には耐えられないっ!」 気配が強く感じるのは建物の外。 あわてて建物の中から飛び出すと、そこには空を見上げているウェラー卿と、そしてグレタの姿が。 ふと視線をそちらに向ければ見覚えのある姿がすぐさま目に入る。 空には銀の翼を広げて祈りをささげているような…とても懐かしい姿が垣間見えている。 そしてまた、先ほどみたはずのそれが…コンラッドの左腕がきちんとついている姿も。 「――再生させたね……シル……」 ぽつりとつぶやくアンリの声に、はたと気づき。
「猊下!ユーリがっ!」 どうしていいのかわからない。 「このままでは!ユーリの身体が…っ!」 下手をすると……死。 そんなコンラッドの言葉に。 「わかってる!……どうやらウェラー卿が傷ついたことによって…… ……一時的に覚醒しちゃったみたいだね。 シルの力はとめるから!――こうなっては仕方ない!ばれてもねっ!」 バサッ! 言葉と同時にアンリは目をつむり。 次の瞬間。 アンリの背には金色にと輝く翼が出現する。
――銀と金をもつ翼を有するもの――
これは…伝説を知っているものならば、まず誰もがその意味を知っている。
「落ち着いて!シルっ!!まだ君の体は…ユーリの身体は君の力に耐えられないっ!!」 飛び上がり、銀の光に包まれているユーリの側にと移動する。 「……アー…リー?」 「そう!とにかく!おちつけぇ~!ジュリアさん!手伝って!ユーリの意識を表にっ! シルっ!君の力は…まだその身体では危険だっ!!」 話しかけてくるその声に目を開くと姿こそ違えども…自分にとっては大切な親友の姿。 確か…今は村田健として生まれて今の自分…ユリティウスの…しん…ゆう…… ぐらっ。 一瞬ユーリの身体が崩れ落ち、アンリがそれをすかさず受け止める。 「――ダ…メ……」 まだ……私には…やることが…… 遠のく意識の下でユーリはつぶやきをもらす。 「…っ!!」 カッ!! ユーリを抱えたまま…… アンリの姿ともども…二人の姿はまぶしい光とともにその場から掻き消え―― あとには、上空から銀と金に光る羽が町を…あたり一帯に舞いおちてゆく。
「ユーリは…ねえ、ユーリは!?」 「―――…っ!?ユーリ!!猊下ぁぁ~!!」 グレタのさけびと、コンラッドの叫び……
そして……ギュンターもまた、上空に浮ぶ女性らしき人の姿を一瞬捉え、 「……ソフィア…様?……いや…あれは……」 あの羽は……銀の翼。 それは…… ユリティウスが生まれたときにもっていたもの。 相手をしていた…襲ってきていた刺客たちは、みな銀色の炎に包まれ、 もがき苦しんだ後に気絶している。 命には別状はないようだが。 「陛下っ! とにかくコンラートと合流しなければ。 そう思い走り出すギュンターの上空にて……まばゆい光とともに掻き消えてゆく二人の姿が……
「……覚醒……されてしまったか……」 「そんな……陛下…いえ、シルケーブル様が!?」 強大な力は託宣の間にいたウルリーケと、そしてその目の前にいた眞王にも感じ取られる。 「――…箱を回収しないことには……あの方の身が……危険だ。」 「――…そう…ですね。」 こうなってはまえば…一刻を争うかもしれない。 今ので眠っていた【創主】たちをも刺激したはず。 封印も弱まるはずだ。 「――…ウェラー卿をこれへ。一番問題なのは……ダイシマロン……」 「…ですが。それでは――」 「アンリがいるからあの御方は大丈夫だ。 それに…行き先は捉えたところでは…ギルビッド――」 強い力だからこそわかる。 途中で意識を閉じたらしく、確実には捉えられなかったが。
あの力を覚醒させたのだ。 ユリティウスの身体は、しばらく負担を軽くするために……天空人サイドになるはずだ。 そのためにも…天空人の血と魔族の血をもつ御子として誕生したのだから。 彼は…いや、あの御方は……
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