「……?何?この気配……?」
店の外からこちらに向けられてくる気配は・・・あからさまに殺気を含んでいる。
「な!?まさか国内にまで!?」
それに気づいたのか驚きの声をあげるコンラッドに、
「陛下!お急ぎください!グレタもっ!」
同じくそれに気づいたらしく、顔色を変えてギュンターがいってくる。
一位全体何がどうなっているのか。
「この先に教会があります。そこから陛下をあちらにお帰しいたします。
  何もかもが片付いたら必ずお呼びしますから。でもその時に俺が……」
「…って!?コンラッド!?まさか死ぬ気じゃないだろうなっ!?
  そんなの許さないからなっ!」
声の様子で相手が何を言おうとしているのかは大体わかる。
「大丈夫。あなたをおいては逝きませんよ。約束します。」
「急いで!コンラート!陛下っ!」
ギュンターの声にせかされ、裏口から外にとでる。
ギュンターの馬の後ろ…つまりはギュンターの後ろに乗せられ、
コンラッドの後ろにグレタが騎乗する。
そしてそのまま、馬を一気に走らせる。
と。
ゾクリ……
「ギュンター!よけてっ!」
いいようのない殺気がこちらに向けられ、とっさにギュンターにと叫ぶ。
ひゅっ……
それと同時に風が横切る音。
間に合わないっ!
「くっ!!」
ざっ!!
そのままギュンターの身体をつかんで馬の上からジャンピング。
「陛下!?ギュンター!?」
コンラッドがそれに気づき、馬をとめて叫んでくるけど。
だけど。
「動かないで!!誰かがオレ達を狙ってるっ!…っ!ニルファっ!!」
ざっ!!
あからさまな殺気は明らかに俺たちにと向けられている。
オレの声とざっという水音と共に
『うぐっ!!』
何やら数名の男たちのうめき声が。
みれば、水に絡め取られて動けなくなっている男たちの姿が目にはいる。
「陛下っ!ギュンター!」
駆け寄ってくるコンラッドに対し、
「これはっ!?コンラート!早く陛下とグレタを教会へっ!
  わたくしはここで追っ手を防ぎます!」
周囲には飛んできた矢らしきものが散乱している。
「わかった!おふたりとも!はやくこちらへっ!」
「でもっ!」
「ギュンターなら大丈夫です。急いでっ!」
コンラッドに促され、ギュンターをその場に残しオレはコンラッドに手を引かれ、
グレタとともにその場を後に。
だけども…
「ニルファ!ギュンターを守って!」
コンラッドに連れられて走りながら叫んでおく。
雨の中だ。
ニルファの…水の大精霊の力なら、ギュンターの手助けになるはずだ。

オレンジ色の二つの明かりは両の扉の両脇で燃えている松明。
屋根に守られた入り口をそっと押すと、観音開きの戸がきしんで動く。
オレとグレタが建物の中にと入ったあと、コンラッドも入ってきてきつくかんぬきをかけている。
旅人がいつでも休めるようにか、教会の内部は明るく暖かい。
石床に木製のベンチがずらりと並び、燭台には何十本もの蝋燭が。
そして正面には巨大な絵画が。
「グレタを奥に!祭壇の水を絵にかけてくださいっ!」
コンラッドに言われるままグレタを奥のテーブルに隠し、
何か聖杯のような水を手に浸して絵にかける。
「急いでっ!」
ドン!
ドンッ!
何やら扉が蹴破られようとしている。
オレが水をかけると絵がまるで魔境の水面のごとくに……
アンリがよく行っている鏡の移動のときの輝きと同じく光りだす。
「……え?」
戸惑うオレに、
「そこから移動できますからっ!急いでもどってくださいっ!」
「だけど!コンラッドやグレタがっ!」
オレ一人で逃げるなんてわけにはいかない。
ドンっ!
そんなやり取りをしていると、強い音ともに扉が破られ十人以上の追ってが駆け込んでくる。
口々に何か叫んでいるが、語尾が独特で聞き取れない。
全員が同じ格好をしており、マントの下で長い手足が泳いでいる。
全員が赤と緑でくまどったそろいの仮面をつけているため一人として顔はわからない。
だが、この中には人間はもちろん魔族の人もいるというのはオーラからして明らか。
「ユーリ!あとのことは考えずっ!」
「だけどっ!」
二人をおいて逃げるなど。
そんなのオレの中の正義が許さない。
追っ手のうちの数名が、小脇に武器らしきものを抱えている。
何か筒のような大砲のような……
この世界にも大砲ってあるのかな?
と。
ドワンッ!
その筒から炎が発せられ、こちらにむけて放たれてくる。
「っ!」
向かってきた炎をコンラッドが剣で弾き飛ばす。
「いたぞっ!」
「捕まえろっ!」
などといった声が男たちから聞き取れる。
「急いで!ここは俺が食い止めますからっ!」
「でもっ!」
コンラッドが一人彼らにと向かってゆく。
何でどうして?
どうしてこんなことに……
戸惑っていると一人がダッシュをかけてオレの方にとむかってくる。

「ユーリっ!」
ざっ…ん。
コンラッドがオレの前にと立ちふさがり…そして何かが斬られるような鈍い音。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「……え?」
足元に何か異様な感触が。
目の前のコンラッドの姿に違和感が。
オレの横に転がっているのは…紛れもない…見覚えのある左腕。
……え?
「…コンラッド!?」
「いったはずだ。あなたになら手でも胸でもさしあげる。といってください!はやくっ!」
明らかに左腕を消失した状態で、それでもオレをかばいつつ戦い続けようとしているコンラッド。
ふと見れば数名が先ほどの大砲らしきものをオレとコンラッドに向けて構えている。
そして。
どんっ!
再び鈍い音とともに、それから炎が打ち出され……
「はやくっ!」
そういうコンラッドに向かって数名の男たちが飛び掛る。
どくどくどく。
心臓が高鳴る。
以前も……そう。
以前にも同じようなことが……

―――いってください!姉上っ!!

「……っ!!!ヴェルラッド~~~!!!!」

どっん!!!

叫びとともに、巨大な衝撃がその場にと押し寄せる。


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