エプロンつけててよかったよ
エプロンのポケットの中に帽子もいれてるし。
アンリが言いかけた言葉の意味が気になるところだけど。
はてさて今度はどこに出るのやら。
「…ぐがぼっ!ごひゃっ!?」
ガッタァァン!
何か狭いところの液体の中にでて思わずもがく。
これって!?
もしかしてワイン!?
オレを入れたままの狭い入れ物は、何か転がり落ちながら衝撃ではぜわれる。
う~……飲んだ。
飲んじゃった……
二十歳まではアルコールは取らないっ!
って決めてたのに……
どうやらワインダルの中に今回は出てきたようだ。
「ぐぼっ!ごほほっ!」
むせこみながらもどうにかタル…だと思う。
から開放されて息をつく。
明るく照らされた周囲を見渡すと、まず目に入ったのは働く女性たち。
何か一斉に皆こちらをむいて注目している。
「……あ…あはは……どうも~……」
むせこみつつもひとまず何とか挨拶。
一番近いテーブルの団体客がこちらを指差して何やら叫びだす。
酒場…というかビアホール?
中央には肩を組んで歌う集団がいて、隅の方には一人で飲んでいる男が。
問題はオレをみてにっと笑い、その男は黒いオーラを出しつつ精算を済ませて外にとでている。
ということだ。
つうか、今の人……人間だよね?
オーラの色でこの世界の人間だと一目でわかるし。
だけど他はどうやら魔族の皆さんらしいけど。
「おい。二階からタルをおっこしてきた給士がいぞ?オレたちの飲む酒を減らしやがった。」
「お~!何て衝撃的な格好!って…胸がない!?…ってことは男か!?かわいい顔をしてるのに。」
「男?この店はいつ男の給士を雇ったんだ?まあこんだけ美人だと女でも通用…ん?」
よっぱらいの男連中がまじまじとそんなことをいいながらオレをみている。
はた。
と気がつく。
しまった!
あわててエプロンのポケットから帽子をとりだそうとする。
どうやら手をポケットに突っ込むときちんと帽子はあるようだ。
帽子をとろうとポケットに手を突っ込もうとすると、
「おいおい。兄ちゃん思いきったなぁ。髪を黒く染めるなんてよぉ。
  陛下にあこがれるのもわかけど、熱烈忠誠親衛隊に見つかったら小言じゃすまねぇぞ?
  あいつら本気で陛下命だかんなぁ。」
などといってくる男連中の中の一人さん。
……は?
「…何それ!?親衛隊!?んなのき~たことないよ!?」
思わず帽子を取り出そうとした手がとまってしまう。
……もしかしてオレの知らないところでヤバ目の組織ができてるのか!?
うわ~!
何とかしないとっ!
もはや黒眼黒髪を隠すどころじゃない。
「…ん~?でもこの坊主。ほんとうに男か?女顔だが……」
「そういや。陛下ソフィア様譲りの顔らしいぞ?」
「アレ?オレ酔ったかな?こいつの髪だけじゃなくて瞳も黒に見えるんだが……」
どうやら男たちはよっぱらっていて確実な判断すら出来ないようだ。
男たちが垣根となっていて、他の客たちの視線はどうにか免れているらしい。
運がいいというのか何というのか……
とりあえず。
「あ…あのぉ?ここは?それに親衛隊…って……」
怖いけども問いかける。
「ゾッコンラブ。っていってよ~。って兄ちゃん?ここはそりゃあ見てのとおりの酒場だよ。」
「若いのにかなり飲んだか~?」
そんなことを言ってくる。
「ぞ…ぞっこんらぶ…って……」
そんな彼らの言葉に口をあんぐりさせていると、

「陛下ぁぁ~~!!」
木戸が乱暴に開かれて、髪を振り乱した男が店の中にと駆け入ってくる。
ちらり。
と見えた店の外は強い雨が降っているらしい。
「…って。うわっ!?ギュンター!?」
何でギュンターが?!
って国民の皆様の前で大声で『陛下』なんて呼んだらまずいっしょ!?
「『うわ』とはあんまりなお言葉でございます。
  ああ。こうして再びお会いできただけでも身に余る幸せでありますが…って!?陛下!?
  何というお姿を!?よりによって裸前掛けとはぁぁ~!?」
あ、何か血の気をなくして叫んでいる。
だから…陛下っていうなってば…国民の皆さんいるんだよ…お~い……
「は?あ。いや違うって。海パンはいてるってば。水着をしたに着てるってば。
  今回は海でアルバイト中にひっぱられたしっ!」
オレの叫びを聞いているのかいないのか。
「しかも何ゆえっ!乳つり帯などをにぎっておられるのですか!?」
「は?『乳つり帯』って……何?あ。ああこれ?女の子の水着だよ。
  水着を流されたちゃった子に頼まれてとりにいってたらさぁ……」
長い髪から水滴を撒き散らし、スミレ色の両目を潤ませてオレの手を握って言ってくるギュンターの姿。
まったく。
何気なく振り返る動作だけで、女性のハートをわしづかみ。という容姿の持ち主なのに。
オレのことになると涙と鼻水まみれになってしまう。
過保護にほどがあるって。
見返り超絶美形が台無しだ。

そんな会話をしている中、客たちが口々にささやきはじめる。
『親衛隊だ。親衛隊がきやがった…』
と。
そしてまた。
「陛下。ってまさか?ご本人?」
「ということは。今回はこの店に出てこられた。ってこと?」
「まあ。今後は陛下ご来店の店!とかでもしてみるか!」
…などといっている客らしき人々や従業員らしき人々。
たくましいというか何というか……

「…ってあんたか。正体は……」
親衛隊の正体はどうやらギュンター達らしい。
なんだか体中の力が抜ける。
「ユーリ!」
げほっ!
「って…グレタ!?グレタが何でこんなとこに!?」
いきなり誰かがオレにとタックルしてきて、
みればそこには先日縁あってオレの養女になったグレタの姿が。
いいつつも、そんなグレタの身体を持ち上げる。
綺麗に日や焼けたオリーブの肌。
りりしい眉とまつげ。
この前より少し伸びた赤茶の巻き毛は両耳の上で二つに結わえられている。
親ばかとは思うが非常にかわいい。
「何だ。グレタ。ちょっとみない間にさらにかわいくなってるな。
  さすがオレの娘っ!…って、あ。コンラッド。よっ!ただいま~!!」
ふとグレタを降ろしつつ視線を移せば、木戸の横にコンラッドも立っている。
「お帰りなさい。…といいたいところなんですが……
  ギュンター。陛下に服を。――部屋を借りれるか?」
何やら深刻ソうな顔゛店の人にといっているコンラッドの姿が。
何かコンラッドのオーラをみれば、かなりあせっているのが見てとれる。
どうしてこんなときに…危険なのに……
というオーラがコンラッドからひしひしと感じられる。
いや『危険』って……
「はっ。そうでした。陛下。お召しものをお代えください。」
いってギュンターが服を差し出してくる。
とりあえず、店の人にと断って店の奥にて服を着替えさせてもらう。

「感動の再開…といいたいところなんですが。できるだけ早く安全な場所にお連れしないと。」

オレのエプロンのカナから帽子を見つけて絞ってオレの頭にかぶせ、
真剣そのものの表情でいってくるコンラッド。
「?は?何?だってここはどうやら国内だろ?自分の国なのに安全じゃないってどういうこと?
  あ、また何か急を要する問題がもちあがったんだな?それで急いで呼び出したってわけか。」
そんなオレの言葉に。
「いいえ。陛下。実は…およびしてません。」
ギュンターが申し訳なさそうな声をだす。
「……は?」
「我々がお呼びしたんじゃあありません。
  むしろ我々魔族としては事が収束するまで陛下には安全な場所に留まっていてほしかったんです。
  少なくとも地球ならば危害は及びませんしね。……今はとても危うい状態なので。」
「猊下もそういわれて。
  それでしばらくはあちらからの陛下の来訪を止める。ということになっていたのですが……」
そ~いえば……
「アンリがそういえば、オレが引っ張り込まれる前。何か驚いて叫んでたっけ。
  何かエドさんの力じゃないとか叫びつつオレのほうに泳いできてたけど。」
よく聞こえなかったけど。
「猊下も近くにいらしたのですか?」
「だから。水着を流されちゃったという子のために、取りに海にはいってたの。
  二人でとりに行けば早いじゃん?どうも上下とも流されてたみたいだし。
  アンリは少しはなれたところにいたよ?流される前に近づいてくるのは見えたけど……」
そんなオレの言葉をききつつも、
「とにかく。陛下にはすぐにあちらにお戻り願います。」
「何で!?」
来たばっかりだというのに、すぐに戻ってもらう。
とはどういうことなのか。
オレの叫びに
「実は大シマロンが動きだしたのです。彼らは禁忌の箱を手にいれたとのことで……
  昔この地を滅ぼそうとした創主と呼ばれている存在が封じられている箱です。
  全部で四つあるんですが…そのうちのひとつ。『風の終わり』を手に入れたとこと。」
ギュンターが顔を曇らせつつ説明してくる。
禁忌の箱…って……?
「ひとたび箱を開ければ誰にもとめられない。
  はっきりいってある意味原爆より酷いものです。それを大シマロンは利用しようとしている。」
オレの疑問に答えるかのように、コンラッドがわかりやすく説明してくるけど。
って!
「ちょっとまてっ!原爆より酷い…って!それって大事じゃん!?」
「ええ。最悪です。だからこそそれを利用しようとしているんです。
  自分達ならばうまく力を扱えると信じて。
  けれどそんなことは不可能です。あの力は誰にも操れない。
  できるとすれば……創生神シルケーブルくらいなものです。」
コンラッドが一瞬言葉をきってさらに説明してくるけど。
シル…?
どこかで何か聞いたことがあるような?
とりあえず、そんな説明をうけつつも服を着替え終わる。
と。
服を着替え終え、さらに説明を求めようとしたときに、ふと外のほうから感じる気配が……


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