「夏だ!青い海!輝く太陽っ!」 横では夏休みにせっかくだから…と、カラーマニュキュアで金髪染め、 ご丁寧に青いカラーコンタクトでイメチェンを計っているアンリの姿が。 それギュンター達が見たら卒倒すると思うなぁ…… 「……クラゲ……」 「大胆水着。リゾート地での開放感っ!」 「……フジツボ……」 「海水浴場で出会う男は皆かっこよくみえる。なぜなならサングラスで顔が隠れているから!」 「…アンリィ。それは冬場のゲレンデ特定じゃん?」 駐車場方面にとある自動販売機の補充のために移動しながら、砂に脚を取られながら抗議する。 まったく…… 「そもそも!いい話がある。海辺のリゾートで女の子との出会いもあるアルバイト! ってお前いってただろ!?どこが出会いだ!どこがっ!? 実際には日中はずっとほとんど海の家の仕事っ!夜は夜でペンションの手伝いなんてっ! これでどこで女の子をゲットしろと!?」 「何いってるんだよ。ユーリ。情熱さえあれば時間なんて関係ないよ。」 「つうかっ!何でオレまで手伝いにかりだされるんだよ!? そもそもペンションM一族はお前の親戚が経営してるとこじゃん!?」 オレの叫びは何のその。 「いいじゃん。ジェニファーさんやスピカちゃんは喜んでるよ?」 「…あのね……」 もはや言い返す気力もない。 村田健ことアンリが八月に入ってすぐにアルバイトしない? といってきた。 今年はまだ海にもいっていなかったし、おふくろがすぐさまに乗り気になって…結果。 兄貴は大学の研究があるとかいって逃げたけど。 オレとおふくろと、そして妹のスピカとでアンリの親類が経営するペンションに、 三泊四日お世話になることに。 …結果としてオレもアンリの家の人…というか親戚だという人たちにこき使われていたりする。 「そもそもお前さ…わざわざ髪をカラーマニキュアで染めて。それで彼女ができるとでも?」 「たまには僕だって気分転換しないとさ~。ほら、あっちも落ち着いたようだし。」 「まね。」 目を覚ましたゲーゲンヒューバーの奥さんであるニコラは、 ちょっとはやめに産まれた赤ん坊とともに、グリーセラ家にともどっている。 その後、生誕祭というのがあったりもしたけど。 オレはコンラッド達から信じられない誕生日プレゼントを作っているのをみてかなり感激気味だ。 その感激はいまだにさめていないけど。 数ヶ月ほどあちらに滞在していたので、オレの体にかかっているとかいう負担をなくすために、 あえてしばらくあちらの世界に行くのはやめている。 行こうと思えばアンリがいる限りいつでもいけるし。 皆元気かな? 不思議なものでこっちにいるとあちらが懐かしく、あちらにいたらこちらが懐かしい。 グレタはオレがこっちに戻るとき、『一緒に来る!』とかいって駄々をこねていたけど。 そのあたりがスピカとよ~く似てる。 「どっちにしろ。いいじゃん。どうせ家にいたってさ。 今はチームの皆も里帰り中とかでメンバーがそろわないし だったら太陽の光を浴びてビーチで健康的に働いたほうがチームの必要経費も稼げるし。 それに散々気にしていたユニフォーム焼けも解消できるじゃん?」 アンリがそんなことをいってくるけど。 「でもだからって。この格好はないだろ!?何で水着にエプロン!?」 「あ。あっちの黒ヒモパンのほうがよかった?」 「あのねっ!」 言いかえそうとしてやめておく。 どなったらそれこそさらに体力を使ってしまう。 それでなくても、はっきりいってこんな炎天下でこれ以上の体力消耗は避けたいところ。 ガコン、ガコン…… 汗を流しつつも飲料水を自動販売機に補充する。 生まれて始めての裸エプロンもどきが、よりよにってアンリとは。 オレなんか、道ゆく人から、 『嘘!?あの子かわいいのに男!?』 とかいわれてるし…… 中には、 『勇気あるぅ!トップレスよっ!』 とかいっている人も…… 完全に女の子と勘違いされてるし…… 「日にしっかりと焼ければ女の子と間違われることもすくなくなるて。」 「そっかなぁ?」 ビーチに野球帽。 しかも水着にエプロン…という格好のオレ。 いつもの石は首にとさげている。 「それにさ。若い頃はいろいろな経験をしておいたほうがいいって 特にユーリは王様なんだしさ。知識や経験ってすっごく役に立つよ~♪」 「…そりゃお前は、四千年余りの記憶をもってりゃ役立つだろうけど……」 そんな会話をしつつ、 補充し終わった自販機から台車をひきつつ二人してペンションにともどってゆく。 と。
「ねえ?あなたたち。あそこの紅いペンションの人よね?」 ぼ~と視線を彷徨わせて進んでいたオレはそんな困惑したような声にと思わず顔をあげる。 オレ達より少し年上。 おそらく女子大生であろう女の子三人組みが肩を抱き合うようにくっついて、 半なき状態でこちらにと近づいてくる。 「そうですけど。どうかしましたか?クラゲにでもさされましたか?」 アンリが横でそんな彼女たちににこやかに話しかけるけど。 女の子のうちの一人はバスタオルを体に巻いて今にもなきそうだ。 「あっちの洞窟の近くで水着を流されちゃったの。 見えるところにひっかってるんだけど……あたし達じゃあとりにいけなくて……」 紺に細い赤線の横じまと両脇がヒになっているレモンイエロー。 どうやら彼女たちはおそろいのビキニを買って遊んでいたらしい。 …ヒモビキニは危険だってば…… 「大丈夫だよ。ね。この子達が取ってきてくれるってさ。」 「「…え!?」」 へそピアスをしているおね~さんの言葉にオレもアンリも同じく異口同音で声を上げる。 ちょっとまて。 とる…とはいってない…けど。 「……はぁ~……困っている人を放ってはおけない…か。」 がっくしと肩を落としてつぶやくオレに、 「……だね。」 いってアンリともども盛大にため息をつく。 結局。 断るわけもいかず、流されたという水着を取りにいくことに。
問題の洞窟は、思ったより大規模でいきにもデートスポットという薄暗さだ。 今は腰の辺りまで水位が上がり、少しばかり濡れないと洞窟まで行き着けないが。 潮さえひけば歩いてわたれるだろう。 ごつごつしたいわばの向こう側と、洞窟の入り口付近に何か布がひっかかっている。 二つかぁ…って…二つ!? 上下とも流されちゃったわけ!? ……うわ~…… 聞けばとりあえず服をきたのの、水着は彼氏にもらったものだから…とか。 一人恥ずかしがる彼女に合わせて友達二人も合わせて同じ水着を買い、 そして女の子三人で泳ぎにきたらしい。 ま…まあ、そういう事情はともかくとして。 ……問題は、現場より手前の海面に赤い旗がのどかに浮かんでいることだ。 「君達ぃ~……、ここ遊泳禁止だよ?」 「危ないよ?こういう危険なところで密会とかしたら。」 オレとアンリのあきれた口調。 おそらく水着を流された… ということは、あの洞窟で彼氏と落ち合う手はずにでもなっていたのだろう。 「……下見にいったの…そしたら……」 とかいいながらしょんぼりなっている女の子。 あらら…つまり、彼氏はまだ来ていない、ってことですか? 「う~ん……二十メートル…くらいかな?泳げる?ユーリ?」 「オレ?でも遊泳禁止だぞ?」 「上下とも別々の場所に流されてる。二人で別々に取りにいったほうが早いよ。」 「……ま、確かに……」 とりあえず、困っている人たちを放っては置けないので、 アンリと二人水着を取るためと海の中へと入る。 元々エプロンの下は水着であるから問題ないけど。 念のため、エプロンはつけたままにしておいた。 いつもは上にTシャツを羽織って海に入るし。
ジャブジャブと海の中を進んでゆくと、どんどん水位が深くなる。 岸からはおね~さんたちの声援がとんでくるけど。 「アンリ。洞窟のほうをおねがい。オレ、あっちのをとりにいくわ。」 「OK。気をつけて。」 そんなやり取りをしつつも、途中で二手に分かれる。 しばらく進むともはやたっていられなくなり、泳ぎに切り替える。 問題の水着は流されて少し先の岩場にひっかかっていたりする。 「生涯初の生ビキニ!」 思わず叫びつつ意を決してそれをつかむ。 どうやらこっちは上のほうらしい。 「ユーリ。こっちはとったよ~?」 「こっちも。今そっちに…って…わっ!?」 わぷっ! いきなり何かにひっぱられ、思わず海中にと沈んでしまう。 「って!?うわっ!?何かに足つかまれたっ!…いや、これってまさか~!?」 いきなり足元に巨大な渦が出現し、そのまま海中にと引きずり込まれてしまう。 まさかこんなところで呼ばれる…ってか!? 「まさか!?エドの力じゃないよ!?これはっ!!…って!ユーリっ!!」 アンリが何やら叫びつつ、顔色を変えてこちらに向かってきている。 「って…エドさんの力じゃない…って…ど~いうこと!?」 ずぼっ! 叫びとともに、そのままオレは渦の中にと引きずり込まれる。 何か女の子たちの悲鳴が遠くに聞こえている。 「ユーリっ!まさこかこれはっ!創…っ!!」 アンリが近づいてきながら何か叫んでいる。 そんなアンリの声などをききながら。 …もう後は通いなれた道のりだ。
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