リモージュの秘密の大作戦♪ ~第二十八話~
「よお!クラヴィス!」
「……カティスか……」
かちゃり。
と、クラヴィスの私邸に扉から入ってくる、金色の髪の男性一人。
そして。
「クラヴィス様、ちょうど、そこで、カティス様とお会いしまして………」
言いかけるリュミエールに。
「おいおい。もう俺は守護聖でないんだから。様はいらないぞ?」
まあ、呼び名は、今さら、様をつけるのも馬鹿らしい。
というか、俺の流儀でないからしないがな。
などと、思っているその男性の名前は、カティス。
現緑の守護聖、マルセルの前任者で。
このたび、ちょっとしたことが原因で。
そのまま、しばらく再び聖地にと滞在することが決定したカティス。
マルセルなどはかなり喜んでいるが。
「何のようだ?」
クラヴィスの問いかけに。
「いや、なぁに、ちょっと、とある人物から、伝言を預かっててな。
どうやら長…とと。陛下のお力で。彼女達もまたクリスタル一族になっている。
その彼女からの伝言。
『勤めを終えるそのときに、以前のお返事、させていただけますか?』だそうだ。
あのとき、湖に出向かれなかった、返事を…だそうだ。
お前の役目が終わってから、もし、お前がいいんだったら。返事をしたいそうだ。」
「……それは?!」
一瞬、驚いた表情をするクラヴィス。
そんな表情など今まで見たことがなかったリュミエールは少し驚くが。
「まあ、お前は言わなくても分かってるだろうが……
彼女が、あのとき、約束の場所にいかなかった…いや。いけなかったのは……」
カティスの言葉に。
「……まさか……」
まさか、こんな私を待っていてくれる……と?
まさか、そんなことが……
「もう一つの伝言。
『もしまだ自分を必要としてくれているのなら。今度こそ私を必要としてくれている光になりたい。』
だそ~だ。」
その言葉に目を見開く。
記憶の奥底にしまっていた過去の痛み。
彼女はあのとき、宇宙に必要とされていた。
自分だけの光ではない。
彼女に仕えることを誇りにもしていた。
少しでも役にたてることで、彼女の負担が減るのなら……と。
ジュリアスなどには役目の放棄、とよく言われていたが。
夜空をみつつ。
その宇宙のかげりをいち早く見つけ出し。
極力、彼女の負担をなくすべく、誰に知られることもなくこなしていたクラヴィス。
「『ずっと待ってます』だそうだぞ?どうする?クラヴィス?」
「……カティス……お前、楽しんでないか?」
にやにやと笑うカティスをみるクラヴィス。
「そりゃ♪当然♪いやあ、本当に彼女には、昔も今もあのときも驚かされるよな。
恋する女性は強い。とはよくいったものだ。」
くすくす笑って言っているカティス。
彼女が、宇宙を全力で守る。
と決めたのは、愛する彼…クラヴィスがいたからこそ。
それは、カティスには分かっているからして。
分かってなかったのは。
その当時。
ジュリアスと、まだ子供であった数名のみ。
大概が、255代女王の位についた彼女のその心を組んでいた。
そして、彼女の親友であるディアもまた……
その彼女達は今。
現女王、リモージュの手によって。
その力はなくなったとはいえ、そのまま人とは異なる時間率で、生活を送っている。
……思いを伝えたいその人物の役目がまだまだ終わりそうにないからして。
「……そうか……」
アンジェリークが……
― クラヴィス様! ―
― クラヴィス…… ―
候補時代の彼女と、女王になってからの彼女の顔が今でもちらつく。
割り切ったと自分では思っていたものの、やはり割り切れるはずもなく。
その彼女が……
「お、笑ったな。」
我知らず、クラヴィスは、微笑んでいた。
「……それで?それをいいに来たのではあるまい?」
とりあえず、リュミエールを人払いしてから後、静かに語りかけるクラヴィス。
「さすがに勘がいいな。……お前は分かっているんだろう?
今、陛下たちが何をしようとしているのか。
そのことで、お前の意見を聞きたい。と思ってな♪」
軽くいうカティスの言葉に。
「陛下がなさることだ。それが宇宙の意思ならば、それに従うまで。
その先に何があるのかまでは……。ただ、新たなる希望を水晶球は示している。」
ふと。
水晶球を見つめていう。
「お前、だから次の候補生が来るまでには。なるべくその陰気な雰囲気。どうにかしていろよ?
何だったら、俺がこの部屋を花いっぱいにしてやろうか?あと執務室も?」
「……断る。貴様が以前、私の部屋に持ち込んだ植物が何をしでかしたのか忘れたのか?」
にこにこという、カティスをじろりと睨んで言っているクラヴィス。
以前。
カティスがまだ守護聖の任にあったころ。
まだ、前鋼の守護聖、ライがいたころ。
カティスが珍しい植物だから。といって。
各守護聖達の部屋に、とある植物を飾ったことがあった。
珍しい植物なので、ルヴァが興味をもち、調べている最中。
それは、守護聖達のサクリアに反応して大増殖。
という、結構ほほえましいエピソードがあったりしたのだが。
約一日以上かけて。
宮殿の草むしりが開始されたことは……
秘密事項として、聖地の出来事の一つに封印されていたりする。
「まあ、そのことはおいといて……」
そんなクラヴィスの言葉をさらりと交わすカティス。
「でも、楽しみだとは思わないか?今度は、宇宙の意志が、候補者を選ぶそうだぞ?」
まったく。
こいつは変わらないな……
そんなカティスの鷹揚とした態度に苦笑しつつも。
「……確かにな。」
やがて新しく来るであろう、新たなる宇宙の新たなる女王候補生たち。
水晶球を通じ、彼はそのことを知っているが。
別に誰にも聞かれないので…
……というか、リモージュから口止めが入っているから言ってないのだが。
それと。
ジュリアスが、驚く顔がみてみたい。
という理由もあり。
誰にも話していないクラヴィス。
そのまま、窓の側により空を見上げる。
「……新たなる時が動き出す……。未来に向けて……」
空を見上げつぶやくクラヴィス
空は、女王の加護により快晴。
ここ。
聖地の天気も。
女王が、その力をもってして、管理しているがゆえに。
大概は、ここの自然に任せてはいるが、根本的に管理しているのは女王である。
「だろ?ってことで、久しぶりに一杯やらないか?」
いって。
どこに隠し持っていたのか懐からワインを取り出しているカティス。
ふっ。
苦笑しつつ。
「そうだな。久しぶりにつきあうか。」
滅多と見られない笑いをこぼし、クラヴィスはカティスに少し微笑んでいるのであった。
ギャア……
ホギァァァャャヤヤ!!!!!!
「おめでとうございます!元気な女の赤ちゃんです!」
ギャァ……
「まあまあ、元気な女の子だこと。」
間をおかずして。
主星のまったく別々の異なる場所で。
ほんの聖地においては一時もたたないうちに。
二人の女の赤ちゃんが、産声を上げていたりする。
「この子の名前は……」
「この子の名前、何にしましょうか?」
それぞれの、産婦人科と、専属病院の中で。
「レイチェル=ハート。」
「アンジェリーク=コレット。」
今。
二人の産声が上がっていた。
それは、互いに、数ヶ月も間をおかずして。
聖地においては、ほんの数分や数日にも満たない期間……
ーエピローグへー
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